桜が告げる水都の春。豊かな水辺に続く約4,800本もの桜並木。[毛馬桜之宮公園/大阪府大阪市]

大都市にありながらも静かな水辺に桜の花が彩りを添える、美しく穏やかな風景が広がります。

大阪府大阪市名実ともに桜の名所。憩いの場として整備されたリバーサイドパーク。

江戸時代より桜の名所として知られ、天照大神(あまてらすおおみかみ)を祀る『桜宮神社』があることから名づけられたと伝えられる桜宮地区。その西側を流れる『大川(旧淀川)』の両岸、上流の『毛馬洗堰(けまあらいぜき)』から下流の『天満橋(てんまばし)』まで、約4.2kmにわたり整備された『毛馬桜之宮公園』は、1923年に開園した歴史ある憩いの場です。

左岸の遊歩道沿いには「ソメイヨシノ」や「ヤエザクラ」、「サトザクラ」など、約4,800本もの桜が植えられており、3月下旬から4月上旬にかけて見頃を迎えます。また右岸にある『造幣局』では、桜の見頃に合わせて1週間限定で構内を一般開放する「桜の通り抜け」を開催。ヤエザクラを中心に約130種、350本もの桜が可憐に花を咲かせます。かつては大川の一部の湾曲した場所を「青湾(せいわん)」と呼び、人々はそこの水を茶湯用として愛飲したのだとか。現在は水をそのまま飲料として活用することはないものの、水都・大阪ならではの豊かな水辺は健在。そこには川と桜が共演する穏やかな時間が流れています。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所 : 大阪府大阪市北区天満 他 MAP
アクセス : 阪神高速道路12号守口線長塚出口より車で約3分/JR西日本大阪環状線桜ノ宮駅から徒歩約5分

国内指折りの霊場に咲く桜に、大いなる自然を敬い、感謝の念を託す。[熊野那智大社/和歌山県東牟婁郡]

那智四十八滝の中で最も落差のある那智の瀧。上流の二の滝、三の滝と総称される『那智の大滝』は国指定の名勝でもあります。

和歌山県東牟婁郡堂々と立つ一本桜や山肌を染めるヤマザクラ。世界遺産の地で桜を愛でる。

自然を敬い、寄り添いながら独自の文化を築き上げてきた国内屈指の霊場、熊野。熊野三山のひとつであり、神日本磐余彦命(かむやまといわれひこのみこと)(後の神武天皇)の東征を起源に、317年、仁徳天皇により社殿が設けられたという『熊野那智大社』や、その別宮『飛瀧神社』の御神体として祀られている『那智の瀧』など、霊験あらたかな場所が数多く存在します。2004年には熊野三山へ参詣するための『熊野古道』を含めた周辺一帯が「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産にも登録されました。落差133m、水量毎秒1tと、ともに日本一を誇る名瀑・那智の瀧は、厳かな佇まい。春には桜とともにその姿を拝むことができます。また熊野那智大社では県指定の文化財である「秀衡桜(ひでひらざくら)」や「枝垂桜」をはじめ、「シダレザクラ」や「ヤエザクラ」、「ヤマザクラ」など約50本が開花。見頃は3月下旬から4月下旬で、毎年4月14日には桜に自然の恵みへの感謝の念を託し、五穀豊穣を願う「桜花祭」が行われ、巫女による神楽が奉奏されます。(文中には諸説ある中の一節もございます)

DATA

住所:和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山1 MAP
アクセス:熊野尾鷲道路熊野大泊ICより車で約1時間15分/紀勢自動車道すさみ南インターより車で約1時間30分/JR西日本紀勢本線紀伊勝浦駅より熊野交通バス乗車、バス停・那智山バス停下車、乗車時間約30分

日本古来の美意識を見事に体現した、白亜の城と桜の共演。[姫路公園/兵庫県姫路市]

「三の丸広場」は絶好のビューポイント。「平成の大修理」を経て生まれ変わった姫路城と桜の見事な共演をお楽しみください。

兵庫県姫路市姫路城を背景に、都市公園ならではの多彩な春の景色を楽しむ。

舞い立つ白鷺を彷彿とさせる白亜の城と、可憐な桜の花による美しい風景が目を楽しませてくれる春の『姫路公園』。南北朝時代、播磨国の守護・赤松則村(のりむら)が砦を築いて以来、13氏、48代が城主を務めた『姫路城』周辺の約55.2haが整備され誕生した公園で、姫路市の歴史的・文化的拠点として地元の人に親しまれています。

園内には城を中心に5つの広場や壕、石垣といった史跡や、動物園や美術館などの教養施設が点在し、水と緑が豊かな都市空間を形成しています。園内には「ソメイヨシノ」や「シダレザクラ」を中心に約1,000本の桜が植えられ、見頃となる4月上旬には多くの人で賑わいます。桜並木が続く「三の丸広場」や「西の丸庭園」、水辺に整備された散策路に桜の花びらが舞い散る「千姫の小径(こみち)」、9つの日本庭園を有する「好古園」など、様々な春の風景を楽しめるのも、広大な面積を有する都市公園ならでは。城を背景に咲く満開の桜は、日本の美意識を体現しているかのよう。多彩な美が共演した風景には、尊さをも感じます。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所 : 兵庫県姫路市本町68 MAP
アクセス : 山陽自動車道東ICより車で約20分/JR西日本姫路駅より神姫バス乗車、バス停・大手門前下車、乗車時間約3分/JR西日本姫路駅または山陽電気鉄道本線姫路駅より徒歩約20分

夜桜と花火を一度に楽しめる贅沢なお花見。[辰ノ口さくら祭り/茨城県常陸大宮市]

野村花火工業さんの質の良い花火が楽しめます。

茨城県常陸大宮市全長約1,300mにわたる桜のライトアップ。

2018年に第9回目を迎える『辰ノ口さくら祭り』は、茨城県常陸大宮市辰ノ口地区にて開催されます。辰ノ口親水公園をメイン会場として久慈川堤防桜づつみに全長約1,300mにわたり見事な桜が咲き誇ります。桜の下には菜の花も植えられており、青空の水色、桜のピンク色、菜の花の黄色のコントラストが春の訪れを感じさせてくれます。夜になれば行灯(あんどん)が灯り夜桜をよりいっそう美しく幻想的に照らします。

会場では昼間はイベント夜は花火がゆったりと楽しめます。

夜になると行灯(あんどん)が灯り桜並木はライトアップされます。

茨城県常陸大宮市日本を代表する煙火店の花火をゆったりと。

『辰ノ口さくら祭り』を担当されているのは地元茨城県の野村花火工業さんです。
野村花火工業さんといえば花火に少し詳しい人なら誰もが知っている日本を代表する煙火店です。

創業は1875(明治8)年。これまで多くの花火競技大会での優勝歴を誇り、全国的にも有名な「大曲の花火」や「土浦全国花火競技大会」などの競技大会では何度も内閣総理大臣賞に輝いています。

老舗の伝統を守りながらも常に花火業界のトップをリードする一員としての実力を兼ね備えている煙火店の花火を、比較的混雑の少ない場所でゆったりと鑑賞できる。そんな『辰ノ口さくら祭り』はなんとも贅沢な花火大会なのです。メイン会場からは川を挟んで対岸の筒場(花火打上場所)が見え、花火師さんたちの準備風景を見ることもできます。

全長約1300mにも及ぶ菜の花と桜並木。

茨城県常陸大宮市居心地の良い公園で昼間から楽しめる。

花火大会の行われる日は午前中からイベントが行われます。スタンプラリーや様々なステージイベントも楽しめます。また各種模擬店の出店もあり、蕗の薹やタラの芽の天ぷらなど、春ならではの食を味わうこともできます。そば処では名物そばいなりの販売も行われ人気となっています。

これらのイベントが開催されるメイン会場の辰ノ口親水公園は目の前に久慈川が流れ、公園の芝も気持ちよく、鶯の声もあちこちから聞こえてくる居心地の良い場所です。芝生に座って穏やかな春の風を感じるも良し、桜並木をお散歩するのも良いでしょう。

八方咲花火が夜桜に映えて綺麗でした。 

Data

日時:2018年4月2日(月)〜4月18日(日)
場所:辰ノ口親水公園、久慈川堤防桜づつみ MAP
茨城県常陸大宮市辰ノ口1339-2
常陸大宮市観光HP

http://www.city.hitachiomiya.lg.jp/page/dir003573.html

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1963年神奈川県横浜市生まれ。写真の技術を独学で学び30歳で写真家として独立。打ち上げ花火を独自の手法で撮り続けている。写真展、イベント、雑誌、メディアでの発表を続け、近年では花火の解説や講演会の依頼、写真教室での指導が増えている。
ムック本「超 花火撮影術」 電子書籍でも発売中。
http://www.astroarts.co.jp/kachoufugetsu-fun/products/hanabi/index-j.shtml
DVD「デジタルカメラ 花火撮影術」 Amazonにて発売中。
https://goo.gl/1rNY56
書籍「眺望絶佳の打ち上げ花火」発売中。
http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=13751

箱根で出会う、東洋の美と珠玉のショコラ。[岡田美術館/神奈川県足柄下郡]

建物は海外のホテルなどを手がける建築家・三浦 慎氏の設計。(撮影:太田拓実)

神奈川県足柄下郡湯の街であり、美の街。愛好家が訪れる美術館とは。

言わずと知れた温泉地・箱根。実は温泉以外にも多数の美術館が点在しており、アートの街としても知られています。そのうちのひとつ『岡田美術館』は、優れたコレクションはさることながら「あるもの」がファンの間で人気。その芸術性豊かな展示やロケーション、そして創業者の並々ならぬ「一流へのこだわり」など、美術館の魅力についてじっくりとご紹介します。

1階展示室。目に入るのは唐時代の中国の三彩。韓国の陶磁器、工芸も並ぶ。(撮影:太田拓実)

神奈川県足柄下郡5層の空間に日本・東洋の美術約450点を展示。

2013年、小涌谷にオープンした『岡田美術館』。傾斜地に抱かれるように佇む5階建て5000㎡の展示室内に、日本・東洋の美術品や考古遺品など常時約450点を展示。開館5年ながら遠方からの観光客をはじめ首都圏からも多くの人が訪れ、箱根の「美の殿堂」として定着しつつあります。
そのコレクションは実に見事。ゆとりある展示スペースに縄文土器から陶磁器、日本画、江戸時代のガラス、仏像まで幅広いジャンルの美術品が暗闇に浮かび上がるよう照らし出され、一日中鑑賞しても飽きない美術館として愛好家の間では高評価です。

2階には日本の磁器や江戸時代のガラスを展示。

神奈川県足柄下郡観光地ならではのホスピタリティがそこかしこに。

葛飾北斎や伊藤若冲といった有名画家による作品も多く、液晶タッチパネルによる日・英・中・韓の言語対応の作品解説では通常では見られない作品の裏面や内側もビジュアルで紹介。子供向けのわかりやすい解説もあり、国籍や年齢、美術の知識の有無を問わず作品への理解を深めてくれます。

3階は屏風をはじめ、若冲や円山応挙など日本画の人気作も。

神奈川県足柄下郡4月1日まで「仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―」を開催。

1階は「中国陶磁・青銅器、韓国陶磁」、2階は「日本陶磁、江戸ガラス」、3階は「日本絵画~屏風を中心に~」、4階は「日本絵画・書跡」、5階は「仏教美術」。年に数回の特別展も美術館独自の視点でテーマを設け、あまり知られていない作家の共通点を取り上げるなど新たな発見のある内容となっています。ちなみに現在開催されているのは『仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―』(4月1日まで)で、京焼の祖ともいわれる野々村仁清と、絵画とやきものを融合させた尾形乾山の器と併せて、乾山の兄・光琳や若冲の絵画などを展示しています。

尾形乾山『色絵立葵図香合』江戸時代 岡田美術館蔵

尾形光琳・尾形乾山『銹絵白梅図角皿』江戸時代 岡田美術館蔵

神奈川県足柄下郡「美と出合う楽しさを分かち合い、次世代に伝え遺したい」との願いから。

創業者の壮大な夢を凝縮させた岡田美術館は、岡田和生氏が蒐集した日本・東洋美術コレクションを展示するために設立されました。尾形光琳の『雪松群禽図屏風』と出合ったことがきっかけで日本画や東洋美術を蒐集し始め、多くの人に鑑賞してもらおうと美術館を設立。館が建てられているのは明治時代のホテル「開化亭」跡地の約7700㎡もの広大な場所で、建物裏には約15000㎡の庭園が広がり、自然と一体化した美術館として温泉街・観光地ならではのロケーションを誇っています。

弟・乾山の器越しに兄・光琳の屏風を望める展示もこの企画展ならでは(~4/1まで展示)。

岡田美術館開館のルーツとなった尾形光琳の『雪松群禽図屏風』。

神奈川県足柄下郡『岡田美術館』でしか買えない「幻のチョコレート」とは。

『岡田美術館』が人気な理由は、優れた展示品はさることながらミュージアムショップで販売しているスーベニアのクオリティの高さにもあります。その最たるものが、チョコレート。なんと『岡田美術館』には専属のショコラティエがおり、美術館でしか手に入らない「岡田美術館チョコレート」を販売しているのです。

ショコラティエを務めるのは三浦直樹氏。フランスでの修業経験を持ち、代官山『デカダンス・ドュ・ショコラ』のオープニングシェフや『ブルガリ イル・チョコラート』の初代マスターショコラティエを歴任した実績があります。ドラマ『失恋ショコラティエ』でも技術指導とチョコレート製作を担当したショコラのスペシャリストです。

チョコレートバー(1800円)などここでしか手に入らない「岡田美術館チョコレート」。

神奈川県足柄下郡扱うものは全て一流のものを、というプライド。

なぜ美術館に専属のショコラティエがいるのでしょうか。それは、岡田氏が「全て一流のものを」という高い志のもとにこの美術館を開いたからです。収蔵品だけでなく、その器である建物、そしてロケーション、更には館を訪れた人がその感動を持ち帰ることのできるスーベニアにいたるまで「最高級のものであること」を徹底しています。視覚だけでなく味覚にも芸術性の高さを追求し、この唯一無二の「岡田美術館チョコレート」に行き着いたのです。

神坂雪佳の『燕子花図屏風』をモチーフにした『雪佳・燕子花』(2800円)。

金色に菊の花が映える尾形光琳の作品をモチーフにした『光琳・菊』(2800円)。

8粒のショコラを詰め合わせた『歌麿・深川の雪』(4800円)も人気商品。

神奈川県足柄下郡美術館らしい芸術性を兼ね備えたチョコレートに。

三浦氏はこのチョコレート制作の話を岡田氏から持ちかけられた時、「美術館のオリジナリティをどう出すか」で悩んだといいます。自身が得意とするのは、味の異なるショコラ同士を組み合わせる「フレーバーのマリアージュ」。しかしその手法だけでは「岡田美術館らしさ」が出ません。そこで考えたのが、作品そのものをチョコレートで表現する「アートなチョコレート」だったのです。

そうして2015年の『光琳・菊』を皮切りに、『雪佳・燕子花』、『歌麿・深川の雪』など作品そのものを描いた芸術性の高いチョコレートを特別展に合わせて発表しました。1粒1粒に全神経を集中させて絵柄を施すチョコレートへの描画は、単に「スイーツを作る」という作業にはない精神力と緻密さを要するものです。そうした見た目の完成度に加えて、味も極上の素材を選び抜き、それを美味しくするための手間を惜しまず作り込みました。

例えば「ピスタチオ×シナモン」は、風味の強いシチリア産ピスタチオを使ったガナッシュに、ほんのりシナモンが香るガナッシュを合わせ、ピスタチオの粒を残してサクサクした食感を出しました。また「ゴルゴンゾーラチーズ×ベーコンチップ」は、ペッパーを利かせてまるでカルボナーラスパゲッティを食べているような味わいに。他にも「白トリュフ×南瓜」「柚子×マスカルポーネ」など、これまで開発してきた100種以上ものレパートリーを生かし、1セットで全て違う味のマリアージュを楽しめるよう工夫しています。「岡田美術館チョコレート」は、基本的にここでしか買えませんが、今年まで4年連続で『日本橋三越本店』の「スイーツコレクション」に出店。バレンタイン時期限定のチョコレートが多くの女性の心を掴んでいます。

大壁画向かいにある100%源泉かけ流しの足湯カフェ。(太田拓実撮影)

神奈川県足柄下郡美に触れ、美を味わい、心に安らぎを。

チョコレート以外にも、敷地内のレストラン『開化亭』で日本庭園の四季を愛でながら「豆アジ天うどん」といった名物料理を頂けたり、風神雷神をモチーフにした12m×30mの大壁画を目の前にして足湯を楽しめたりと、訪れる人を飽きさせない仕掛けがいっぱいです。入館料は2800円と一般的な美術館に比べてやや高めですが、ここで得る体験の価値から鑑みると、決して高い金額ではありません。

自然豊かな日本庭園に囲まれた『開化亭』。食事、喫茶のみの利用も可能。

神奈川県足柄下郡4月6日からは田中一村の絵画を一挙公開。

『仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―』の後は、4月6日から9月24日まで特別展『初公開 田中一村の絵画ー奄美を愛した孤高の画家ー』を開催します。同館収蔵の田中一村の作品すべてが初公開されるとともに、最高傑作と名高い『アダンの海辺』(個人蔵)も期間限定(8/24~9/24)で展示されるので、ぜひ芸術と自然を訪ねて足を運んでみてください。
(写真提供:岡田美術館、一部筆者撮影)

田中一村『熱帯魚三種』昭和48 年(1973) 岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama

Data

住所:神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1 MAP
電話:0460-87-3931
営業時間:9:00~17:00(入館は~16:30)
※ミュージアムショップは9:00~17:00
休日:無休(年末年始、展示替えによる臨時休館あり)
アクセス:伊豆箱根バス・箱根登山バス「小涌園」徒歩すぐ
料金:大人2,800円、小中高生1,800円
※特別展
『仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―』
2017年11月3日(金・祝)~2018年4月1日(日)
『田中一村の絵画―奄美を愛した孤高の画家―』
2018年4月6日(金)~2018年9月24日(月・祝)
http://www.okada-museum.com

後醍醐天皇が賞賛した逸話から名づけられたという、稀代の一本桜。[醍醐桜/岡山県真庭市]

桜の開花時期には日没から21時までライトアップを実施。暗闇の中に浮かび上がる巨大な桜は、思わず息を呑むほどのスケールです。

岡山県真庭市豪快な枝ぶりとは対照的な、小ぶりで可憐な花。樹齢1000年ともいわれる巨木。

岡山県北部、山々に囲まれた里山にただ1本、空に向かってそびえ立ち、その堂々とした姿が見る者を圧倒する『醍醐桜』。鎌倉時代後期の1332年、「元弘の乱(笠置山・赤坂城の戦い)」にて隠岐(おき)へと島流しになった後醍醐天皇が、この一本桜を賞賛したという逸話から名づけられたとされており、樹高は約18m、枝張りは東西南北約20m、根元の周囲は約9.2mと、県下一の大きさを誇ります。樹齢は700年とも1000年ともいわれ、種類は「ヒガンザクラ」の一種「アズマヒガン」で、立派な幹や枝とは対照的に、小ぶりで可憐な花を咲かせます。

「新日本名木100選」と岡山県の天然記念物にも指定されており、見頃は毎年4月10日前後。桜の周りを囲む遊歩道からじっくりと観賞するのも良いですが、周囲は開けた地形のため、少し離れた場所から眺めるのもまた、情緒があってお勧めです。悠久の時間がつくり上げた稀代の桜から溢れる生命力と美しさを、ぜひ間近でご体感ください。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所 : 岡山県真庭市落合垂水1901-5 MAP
アクセス : 中国自動車道落合ICより車で約3分/JR西日本姫新線美作落合駅より車で約40分

地元に根差したものづくりで、ブランドと地域の未来を切り拓く。[OLDMAN’S TAILOR/山梨県富士吉田市]

織物の街、富士吉田市で生まれ育ったしむら夫妻。

山梨県富士吉田市

富士山の麓に位置し、織物の産地として名高い山梨県富士吉田市。この地に拠点を置くのが、リネン製品を中心としたブランド『R&D.M.Co-』を展開する会社『オールドマンズテーラー』です。2014年にはアトリエ近くにコンセプトストア『THE DEARGROUND』もオープン。後編では代表兼デザイナーのしむら祐次・とく夫妻に、富士吉田市と織物業の関係性や、『オールドマンズテーラー』の歴史、地域との関わりについてうかがいました。

街のどこからでも富士山が望める富士吉田市。

山梨県富士吉田市1000年の歴史ある織物産地、富士吉田市の栄枯盛衰の果てに。

富士山を間近に望む山梨県富士吉田市は、1000年以上前から織物産地として栄えてきた地。富士吉田市や西桂町をひとくくりにした地域『郡内』で作られた織物は、『郡内織物』や『甲斐絹』として人々に親しまれてきました。

戦時中は一時衰退したものの、終戦後は再び息を吹き返し、生地を織れば飛ぶように売れる『ガチャマン』時代が到来。当時は「ガチャッとひと織りすれば1万円儲かる」と言われるほど景気が良く、全国から織物が集まってくるため、人口に見合わないほど大規模な、全国屈指の繁華街も生まれたといいます。

しかし、そんな時代も長くは続きませんでした。昭和の終盤に差しかかると、安い外国産の織物に押され、国産の織物は徐々に衰退。それでも現在、機織業を継いだ2代目、3代目の職人たちが危機感を覚え、伝統を守りつつ更に発展させようと奮闘しています。

富士山へと向かう道には、立派な大鳥居も。

自然の恵み、富士山の天然水が色鮮やかな染色を実現。

コンセプトストアに展示されている、歴史を伝える古い織機。

山梨県富士吉田市『オールドマンズテーラー』の始まりは、オリジナルのネクタイ作り。

『オールドマンズテーラー』を率いるとく氏の実家は、祖父の時代から続くネクタイ生地を中心とした絹織物店。祖父から父へと代替わりし、その仕事をとく氏も手伝っていたところに祐次氏も加わり、しばらくはふたりでネクタイ生地を作っていました。しかし、近年の織物業の衰退、ネクタイ市場の縮小に伴い、ネクタイ生地の製造だけでは限界があると感じたふたり。そこで、自らの手で企画・デザインから行う、オリジナルのネクタイ作りに乗り出しました。営業活動も精力的に行うことで、1~2年の内に百貨店にも卸すように。そして2001年、自分たちの会社『オールドマンズテーラー』を設立したのです。

「でも、ネクタイって結局はひとつの決まった形しかない。やれることが限られていて、そこで勝負をするには厳しかったです」と祐次氏。百貨店との付き合いが増えていく中でネクタイに似合うスタイルの提案も求められましたが、シャツやスーツまで手がける気にはなれなかったそうです。それでも、このままネクタイひと筋でやっていくのは難しいという状況で、改めて自分たちのやりたいことを見直します。「よく考えると、普段自分は動きやすい服装で仕事をしているわけで、ネクタイを締める格好なんてほとんどしてないなと思って。作ってはいるけれど、決して身近なものではなかったんですよね。そこに違和感を持って、もっと自分のライフスタイルに合った、等身大でできるものづくりをしたいなと思いました」と祐次氏は話します。

そんな時に目に留まったのが、かねてからとく氏が集めていたリネンの生地。「私はヨーロッパの古いものが大好きで、よく現地に行っては食器や雑貨を買い集めていました。その中に、アンティークのリネンクロスもあって。独特の風合いを彼も気に入って、こんなクロスを作れたら良いねという話になったんです」ととく氏。こうして、お互いの身近なもの、好きなものを作ることを最優先に考え、新たな『オールドマンズテーラー』のものづくりが動き出したのです。

祖父が創業した絹織物店で生まれ育ったとく氏。

とく氏と知り合い、織物業の世界へと導かれた祐次氏。

山梨県富士吉田市ふたりが好きなことを追い求め走り出した、リネン中心の新ブランド。

シルクのネクタイからリネンクロスの製造へと徐々にシフトしていったしむら夫妻。これまでとは全く違うものづくりゆえに、しばらくは試行錯誤の日々が続いたといいます。「アイデアはどんどん出てくるけれど、実際にやってみると全然上手くいかないんですよね。でも、やっぱり一番好きなこと=一番得意なことであるのは間違いないし、自信を持ってやっていけるはず。そう信じて挑戦し続けました。その裏には、もう好きなことをやってダメならしょうがない!という諦めもあって(笑)。これが最後の手段ぐらいに思って、崖っぷちに立ってやったような感じもありました」と祐次氏は笑います。

そうして2年かけてなんとか出来上がったリネン100%のキッチンクロスは、どこへ持って行っても評判が良かったといいます。「それまで、よく皆さんが想像する、ちょっとベージュがかった無地のリネンならどこにでもありました。でも、私たちが作ったのは、ブランドマークが入っていたり、イニシャルが刺繍してあったりする、リネンのキッチンクロスだったんです。新品だけど、ヨーロッパのアンティークっぽい匂いがするようなもの。それで、『これどこの? ヨーロッパで買いつけてきたの?』と聞かれて、『いや、自分たちで作ったんです』と。それがとても新鮮に映って、印象にも残ったのだと思います」ととく氏。

こうして『オールドマンズテーラー』設立から3年後の2004年、新たにリネン製品を中心とするブランド『R&D.M.Co-』を立ち上げたのです。キッチンクロスから始まり、今やインテリアからファッションまで、多彩なアイテムを展開しています。

オリジナルのリネンタオルは今も定番人気。

刺繍や色柄にこのブランドのセンスが光る。

シャツやワンピース、バッグなど幅広く展開。

2014年には再びテーラリングを取り入れたメンズラインも始動。

山梨県富士吉田市ものづくりの姿勢や世界観を伝え、地域を盛り上げるコンセプトストア。

2014年、しむら夫妻が新たな試みとしてオープンしたのが、アトリエ近くにある『オールドマンズテーラー』のコンセプトストア『THE DEARGROUND』。オリジナルブランドの立ち上げから10年の節目に、今後やりたいことを考えて浮かんだのが、この店づくりだったといいます。

「私たちが若い頃に比べて、街にどんどん活気がなくなっているなと思って。昔から田舎なのは変わりませんが、遊ぶ場所やお店も減って、若い人はどんどん都会へ出て行く。そんな中で、何か楽しい場所、活気を感じてもらえる場所を作りたいなという思いが芽生えました」と祐次氏。「それと、ブランドが有名になっていくことで、メディアに取り上げられる機会も増えました。そうなると、自分たちの想いとはちょっと違うような紹介をされることも多くなって。これ以上発展すると、自分たちは世間からいったいどういう風に思われるんだろう(笑)?と思い、きちんと自分たちで発信する場所を設けることが大切なのではないかと考えました。それは、ホームページやSNSなどではなくて、自分たちのものづくりのスタイルを感じてもらえる場所を作るという意味で」と祐次氏は当時を振り返りながら話してくれました。

ちょうどその頃、知人の紹介で、サンフランシスコ・バークレーの紅茶『Far Leaves』の輸入代理店も務めることになったしむら夫妻。そして、カフェとギャラリー兼ショップができるスペースを探し、現在のビルを見つけました。昭和40年代に建てられたという古いビルですが、3年かけて自分たちの手でリノベーション。街の中でもひときわお洒落なスポットとして生まれ変わったのです。

『Far Leaves』の紅茶やスイーツが楽しめるカフェ。

70~80種類の紅茶の中から日本人に合うものをセレクト。

窓の外に富士山を望む最高のロケーション。

地元に根差し、自分たちの想いを発信するしむら夫妻。

山梨県富士吉田市ものづくりの拠点であり地元である、富士吉田市の未来に向けて。

地元である富士吉田市でものづくりを始めて20年弱。改めてこの地で創作活動を行う魅力について、祐次氏はこう語ります。「ここにいると、周りとか時代の波に流されなくて良いんじゃないかなと思います。自分たちの考えの中で、ゆっくりと時間が動いている感じがするんですよね。流れは感じつつも、その流れを気にしないで、自分たちのペースでできるというか」。とく氏も「時代の最先端に触れたくなったら、東京に行けば良いですし。ここからなら1時間半程度で行ける、その距離感も良いなと思います。窓の外にいつも富士山が見えて、守られている感じも心地良いんです」と笑顔で話します。

『THE DEARGROUND』もオープンして4年が経ち、地元での認知度や存在感もアップ。当初は来店者の大半が遠方から訪れるブランドのファンの方々だったものの、最近では地元の方もちらほらと顔を出してくれるようになったそうです。とく氏曰く、「ビルの2階と3階なので外から中が見えないということもあり、ちょっと緊張感があるみたいで……。最初はなかなか足を踏み入れてもらえなかったのですが、最近ではSNSでもけっこう発信されているみたいで、印象が変わってきているようです。ブランドを知らない方でも、観光や富士山の登山帰りに、普通にお茶できるスポットとして立ち寄ってくださる方も増えていますよ」とのこと。

祐次氏は、「まだまだこの街には閉鎖的な考え方をする人もたくさんいますが、新しいものを受け入れていこうという人たちも少しずつ増えています。だから、私たちのお店が盛り上がることで、『あそこに色々なお客さんが来るから、うちもちょっと近くに店を出してみようか』とか、見よう見まねでも良いので、少しでも何か前向きに動き出してくれる人が増えたら嬉しいですね。私たちの店を通してそういう道が開かれていって、長い年月を経た先に、ここが色々なお店で賑わう楽しい街になっていれば最高です」と夢を語ります。

とく氏も、「若い人も東京に行ってしまわないで地元で何かやってみようとか、東京に行ってしまってもまた帰ってきて地元で何か発信してみようと思ってくれる人が増えたら嬉しいです。東京じゃなくても、地元でもできるんだっていうことは、私たちが証明できていると思いますし。色々やりたい人はたくさんいると思うので、その熱が広がっていけば良いなと思います」と今後の期待を込めて語ってくれました。

これからの『オールドマンズテーラー』のものづくりはもちろん、しむら夫妻の取り組みを通して富士吉田市の街はどう変わるのでしょうか。ますます期待が高まります。

Data

住所:山梨県富士吉田市下吉田6-18-46 2F・3F MAP
電話:0555-73-8845
営業時間:11㨀~19㨀
定休日:火曜・水曜・木曜

山梨県富士吉田市生まれ。高校卒業後、東京の専門学校へ進学しUターン。ふたりでとく氏の実家の家業であるネクタイ生地作りを手伝い始めたことをきっかけに、2001年に『オールドマンズテーラー』を設立。2004年にはオリジナルブランド『R&D.M.Co-』を立ち上げた。2014年にはアトリエ近くにコンセプトストア『THE DEARGROUND』をオープンし、新ライン『OLDMAN’S TAILOR』も展開。創作の幅を広げている。

地元に根差したものづくりで、ブランドと地域の未来を切り拓く。[OLDMAN’S TAILOR/山梨県富士吉田市]

織物の街、富士吉田市で生まれ育ったしむら夫妻。

山梨県富士吉田市

富士山の麓に位置し、織物の産地として名高い山梨県富士吉田市。この地に拠点を置くのが、リネン製品を中心としたブランド『R&D.M.Co-』を展開する会社『オールドマンズテーラー』です。2014年にはアトリエ近くにコンセプトストア『THE DEARGROUND』もオープン。後編では代表兼デザイナーのしむら祐次・とく夫妻に、富士吉田市と織物業の関係性や、『オールドマンズテーラー』の歴史、地域との関わりについてうかがいました。

街のどこからでも富士山が望める富士吉田市。

山梨県富士吉田市1000年の歴史ある織物産地、富士吉田市の栄枯盛衰の果てに。

富士山を間近に望む山梨県富士吉田市は、1000年以上前から織物産地として栄えてきた地。富士吉田市や西桂町をひとくくりにした地域『郡内』で作られた織物は、『郡内織物』や『甲斐絹』として人々に親しまれてきました。

戦時中は一時衰退したものの、終戦後は再び息を吹き返し、生地を織れば飛ぶように売れる『ガチャマン』時代が到来。当時は「ガチャッとひと織りすれば1万円儲かる」と言われるほど景気が良く、全国から織物が集まってくるため、人口に見合わないほど大規模な、全国屈指の繁華街も生まれたといいます。

しかし、そんな時代も長くは続きませんでした。昭和の終盤に差しかかると、安い外国産の織物に押され、国産の織物は徐々に衰退。それでも現在、機織業を継いだ2代目、3代目の職人たちが危機感を覚え、伝統を守りつつ更に発展させようと奮闘しています。

富士山へと向かう道には、立派な大鳥居も。

自然の恵み、富士山の天然水が色鮮やかな染色を実現。

コンセプトストアに展示されている、歴史を伝える古い織機。

山梨県富士吉田市『オールドマンズテーラー』の始まりは、オリジナルのネクタイ作り。

『オールドマンズテーラー』を率いるとく氏の実家は、祖父の時代から続くネクタイ生地を中心とした絹織物店。祖父から父へと代替わりし、その仕事をとく氏も手伝っていたところに祐次氏も加わり、しばらくはふたりでネクタイ生地を作っていました。しかし、近年の織物業の衰退、ネクタイ市場の縮小に伴い、ネクタイ生地の製造だけでは限界があると感じたふたり。そこで、自らの手で企画・デザインから行う、オリジナルのネクタイ作りに乗り出しました。営業活動も精力的に行うことで、1~2年の内に百貨店にも卸すように。そして2001年、自分たちの会社『オールドマンズテーラー』を設立したのです。

「でも、ネクタイって結局はひとつの決まった形しかない。やれることが限られていて、そこで勝負をするには厳しかったです」と祐次氏。百貨店との付き合いが増えていく中でネクタイに似合うスタイルの提案も求められましたが、シャツやスーツまで手がける気にはなれなかったそうです。それでも、このままネクタイひと筋でやっていくのは難しいという状況で、改めて自分たちのやりたいことを見直します。「よく考えると、普段自分は動きやすい服装で仕事をしているわけで、ネクタイを締める格好なんてほとんどしてないなと思って。作ってはいるけれど、決して身近なものではなかったんですよね。そこに違和感を持って、もっと自分のライフスタイルに合った、等身大でできるものづくりをしたいなと思いました」と祐次氏は話します。

そんな時に目に留まったのが、かねてからとく氏が集めていたリネンの生地。「私はヨーロッパの古いものが大好きで、よく現地に行っては食器や雑貨を買い集めていました。その中に、アンティークのリネンクロスもあって。独特の風合いを彼も気に入って、こんなクロスを作れたら良いねという話になったんです」ととく氏。こうして、お互いの身近なもの、好きなものを作ることを最優先に考え、新たな『オールドマンズテーラー』のものづくりが動き出したのです。

祖父が創業した絹織物店で生まれ育ったとく氏。

とく氏と知り合い、織物業の世界へと導かれた祐次氏。

山梨県富士吉田市ふたりが好きなことを追い求め走り出した、リネン中心の新ブランド。

シルクのネクタイからリネンクロスの製造へと徐々にシフトしていったしむら夫妻。これまでとは全く違うものづくりゆえに、しばらくは試行錯誤の日々が続いたといいます。「アイデアはどんどん出てくるけれど、実際にやってみると全然上手くいかないんですよね。でも、やっぱり一番好きなこと=一番得意なことであるのは間違いないし、自信を持ってやっていけるはず。そう信じて挑戦し続けました。その裏には、もう好きなことをやってダメならしょうがない!という諦めもあって(笑)。これが最後の手段ぐらいに思って、崖っぷちに立ってやったような感じもありました」と祐次氏は笑います。

そうして2年かけてなんとか出来上がったリネン100%のキッチンクロスは、どこへ持って行っても評判が良かったといいます。「それまで、よく皆さんが想像する、ちょっとベージュがかった無地のリネンならどこにでもありました。でも、私たちが作ったのは、ブランドマークが入っていたり、イニシャルが刺繍してあったりする、リネンのキッチンクロスだったんです。新品だけど、ヨーロッパのアンティークっぽい匂いがするようなもの。それで、『これどこの? ヨーロッパで買いつけてきたの?』と聞かれて、『いや、自分たちで作ったんです』と。それがとても新鮮に映って、印象にも残ったのだと思います」ととく氏。

こうして『オールドマンズテーラー』設立から3年後の2004年、新たにリネン製品を中心とするブランド『R&D.M.Co-』を立ち上げたのです。キッチンクロスから始まり、今やインテリアからファッションまで、多彩なアイテムを展開しています。

オリジナルのリネンタオルは今も定番人気。

刺繍や色柄にこのブランドのセンスが光る。

シャツやワンピース、バッグなど幅広く展開。

2014年には再びテーラリングを取り入れたメンズラインも始動。

山梨県富士吉田市ものづくりの姿勢や世界観を伝え、地域を盛り上げるコンセプトストア。

2014年、しむら夫妻が新たな試みとしてオープンしたのが、アトリエ近くにある『オールドマンズテーラー』のコンセプトストア『THE DEARGROUND』。オリジナルブランドの立ち上げから10年の節目に、今後やりたいことを考えて浮かんだのが、この店づくりだったといいます。

「私たちが若い頃に比べて、街にどんどん活気がなくなっているなと思って。昔から田舎なのは変わりませんが、遊ぶ場所やお店も減って、若い人はどんどん都会へ出て行く。そんな中で、何か楽しい場所、活気を感じてもらえる場所を作りたいなという思いが芽生えました」と祐次氏。「それと、ブランドが有名になっていくことで、メディアに取り上げられる機会も増えました。そうなると、自分たちの想いとはちょっと違うような紹介をされることも多くなって。これ以上発展すると、自分たちは世間からいったいどういう風に思われるんだろう(笑)?と思い、きちんと自分たちで発信する場所を設けることが大切なのではないかと考えました。それは、ホームページやSNSなどではなくて、自分たちのものづくりのスタイルを感じてもらえる場所を作るという意味で」と祐次氏は当時を振り返りながら話してくれました。

ちょうどその頃、知人の紹介で、サンフランシスコ・バークレーの紅茶『Far Leaves』の輸入代理店も務めることになったしむら夫妻。そして、カフェとギャラリー兼ショップができるスペースを探し、現在のビルを見つけました。昭和40年代に建てられたという古いビルですが、3年かけて自分たちの手でリノベーション。街の中でもひときわお洒落なスポットとして生まれ変わったのです。

『Far Leaves』の紅茶やスイーツが楽しめるカフェ。

70~80種類の紅茶の中から日本人に合うものをセレクト。

窓の外に富士山を望む最高のロケーション。

地元に根差し、自分たちの想いを発信するしむら夫妻。

山梨県富士吉田市ものづくりの拠点であり地元である、富士吉田市の未来に向けて。

地元である富士吉田市でものづくりを始めて20年弱。改めてこの地で創作活動を行う魅力について、祐次氏はこう語ります。「ここにいると、周りとか時代の波に流されなくて良いんじゃないかなと思います。自分たちの考えの中で、ゆっくりと時間が動いている感じがするんですよね。流れは感じつつも、その流れを気にしないで、自分たちのペースでできるというか」。とく氏も「時代の最先端に触れたくなったら、東京に行けば良いですし。ここからなら1時間半程度で行ける、その距離感も良いなと思います。窓の外にいつも富士山が見えて、守られている感じも心地良いんです」と笑顔で話します。

『THE DEARGROUND』もオープンして4年が経ち、地元での認知度や存在感もアップ。当初は来店者の大半が遠方から訪れるブランドのファンの方々だったものの、最近では地元の方もちらほらと顔を出してくれるようになったそうです。とく氏曰く、「ビルの2階と3階なので外から中が見えないということもあり、ちょっと緊張感があるみたいで……。最初はなかなか足を踏み入れてもらえなかったのですが、最近ではSNSでもけっこう発信されているみたいで、印象が変わってきているようです。ブランドを知らない方でも、観光や富士山の登山帰りに、普通にお茶できるスポットとして立ち寄ってくださる方も増えていますよ」とのこと。

祐次氏は、「まだまだこの街には閉鎖的な考え方をする人もたくさんいますが、新しいものを受け入れていこうという人たちも少しずつ増えています。だから、私たちのお店が盛り上がることで、『あそこに色々なお客さんが来るから、うちもちょっと近くに店を出してみようか』とか、見よう見まねでも良いので、少しでも何か前向きに動き出してくれる人が増えたら嬉しいですね。私たちの店を通してそういう道が開かれていって、長い年月を経た先に、ここが色々なお店で賑わう楽しい街になっていれば最高です」と夢を語ります。

とく氏も、「若い人も東京に行ってしまわないで地元で何かやってみようとか、東京に行ってしまってもまた帰ってきて地元で何か発信してみようと思ってくれる人が増えたら嬉しいです。東京じゃなくても、地元でもできるんだっていうことは、私たちが証明できていると思いますし。色々やりたい人はたくさんいると思うので、その熱が広がっていけば良いなと思います」と今後の期待を込めて語ってくれました。

これからの『オールドマンズテーラー』のものづくりはもちろん、しむら夫妻の取り組みを通して富士吉田市の街はどう変わるのでしょうか。ますます期待が高まります。

Data

住所:山梨県富士吉田市下吉田6-18-46 2F・3F MAP
電話:0555-73-8845
営業時間:11㨀~19㨀
定休日:火曜・水曜・木曜

山梨県富士吉田市生まれ。高校卒業後、東京の専門学校へ進学しUターン。ふたりでとく氏の実家の家業であるネクタイ生地作りを手伝い始めたことをきっかけに、2001年に『オールドマンズテーラー』を設立。2004年にはオリジナルブランド『R&D.M.Co-』を立ち上げた。2014年にはアトリエ近くにコンセプトストア『THE DEARGROUND』をオープンし、新ライン『OLDMAN’S TAILOR』も展開。創作の幅を広げている。

穏やかな瀬戸内海や下関市内を眼下に、桜咲く圧巻のパノラマビュー。[火の山公園/山口県下関市]

関門海峡に架かるトラス吊り橋『関門橋』を背景に咲くソメイヨシノ。他にも園内のいたる所で美しい桜と出会えます。

山口県下関市ソメイヨシノにヤマザクラ。山麓から山頂まで約1,000本の桜が楽しめる。

その昔、敵の襲来を知らせるための狼煙(のろし)台が設けられていたことから名づけられたという標高約286mの『火の山』。重要な軍事拠点として1890年に砲台が設置され、第二次世界大戦後までは入山が禁止されていたというその山頂にあるのが、『瀬戸内海国立公園』の一角にある『火の山公園』です。関門海峡や響灘、下関市内を見渡せる風光明媚な場所として知られ、4月上旬から中旬には山麓、山頂合わせて約1,000本もの「ソメイヨシノ」や「ヤマザクラ」が見頃を迎えます。

桜は山麓から山頂まで広く分布しており、ノスタルジックな雰囲気を味わえる『火の山ロープウェイ』に乗り込めば、桜色に包まれた下関の春の姿を楽しめる他、4月上旬には約4万球のチューリップも花開き、桜の開花と重なるといっそう華やかな景色が広がります。加えて、「日本夜景遺産」に認定され、1,000万ドルの価値があるといわれる夜景と桜のコラボレーションも必見です。穏やかな海に人々の営み、そして咲き誇る桜の息吹を感じながら、爽快な景色が楽しめます。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所:山口県下関市みもすそ川町 MAP
アクセス:中国自動車道・関門自動車道下関ICより車で約15分/JR西日本・JR九州山陽本線下関駅より火の山行きバス乗車、バス停・火の山ロープウエイ下車、乗車時間約15分、バス停より徒歩約30分

小高い山の頂に、「日本三大桜」の子孫樹や希少種が約20種、1,500本も咲く。[千光寺公園/広島県尾道市]

園内には千光寺の本堂をはじめ、文学記念室や美術館、ふれあい広場にレストランまで、様々な施設が。写真中央の塔は「サル山」。

広島県尾道市尾道ゆかりの詩や美術に触れながら、昼も夜も、情緒ある桜の景色が楽しめる。

山陽本線『尾道駅』からほど近い標高144.2mの『千光寺山』、その中腹から頂上にかけて広がる『千光寺公園』は、1894年に『千光寺』の当時の住職が中心となって計画を進め、整備された公園です。現在は尾道ゆかりの作家の作品に触れられる『文学のこみち』や『尾道市立美術館』、尾道市内や瀬戸内に浮かぶ島々を見渡せる展望台を有する他、園内には1,500本もの桜があり、「さくらの名所100選」にも選ばれています。園内をぐるりと囲む桜並木は、「ソメイヨシノ」、「ヤエザクラ」、「カンザクラ」といったメジャーどころから、黄色い花を咲かせる「ウコンザクラ」や「ギョイコウ」など約20種類を数えます。

さらに、「三春滝桜(みはるたきざくら)」、「神代桜(じんだいざくら)」、「淡墨桜(うすずみざくら)」といった「日本三大桜」の子孫樹が園内に揃う、数少ない場所としても有名です。見頃となる3月下旬〜4月中旬にはライトアップも実施され、「新日本三大夜景・夜景100選」にも選定された夜景とともに、柔らかな光の中に浮かび上がる夜桜が、訪れる人の目を楽しませます。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所:広島県尾道市西土堂町19 MAP
アクセス:山陽自動車道福山西ICもしくは尾道ICより車で約15分/JR西日本山陽本線尾道駅より車で約10分/JR西日本山陽新幹線新尾道駅よりおのみちバス尾道駅行き(長江経由)乗車、バス停・長江口下車。バス停からロープウェイ山麓駅まで徒歩1分、ロープウェイの乗車時間約3分

小高い山の頂に、「日本三大桜」の子孫樹や希少種が約20種、1,500本も咲く。[千光寺公園/広島県尾道市]

園内には千光寺の本堂をはじめ、文学記念室や美術館、ふれあい広場にレストランまで、様々な施設が。写真中央の塔は「サル山」。

広島県尾道市尾道ゆかりの詩や美術に触れながら、昼も夜も、情緒ある桜の景色が楽しめる。

山陽本線『尾道駅』からほど近い標高144.2mの『千光寺山』、その中腹から頂上にかけて広がる『千光寺公園』は、1894年に『千光寺』の当時の住職が中心となって計画を進め、整備された公園です。現在は尾道ゆかりの作家の作品に触れられる『文学のこみち』や『尾道市立美術館』、尾道市内や瀬戸内に浮かぶ島々を見渡せる展望台を有する他、園内には1,500本もの桜があり、「さくらの名所100選」にも選ばれています。園内をぐるりと囲む桜並木は、「ソメイヨシノ」、「ヤエザクラ」、「カンザクラ」といったメジャーどころから、黄色い花を咲かせる「ウコンザクラ」や「ギョイコウ」など約20種類を数えます。

さらに、「三春滝桜(みはるたきざくら)」、「神代桜(じんだいざくら)」、「淡墨桜(うすずみざくら)」といった「日本三大桜」の子孫樹が園内に揃う、数少ない場所としても有名です。見頃となる3月下旬〜4月中旬にはライトアップも実施され、「新日本三大夜景・夜景100選」にも選定された夜景とともに、柔らかな光の中に浮かび上がる夜桜が、訪れる人の目を楽しませます。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所:広島県尾道市西土堂町19 MAP
アクセス:山陽自動車道福山西ICもしくは尾道ICより車で約15分/JR西日本山陽本線尾道駅より車で約10分/JR西日本山陽新幹線新尾道駅よりおのみちバス尾道駅行き(長江経由)乗車、バス停・長江口下車。バス停からロープウェイ山麓駅まで徒歩1分、ロープウェイの乗車時間約3分

国宝・松江城を望みながら、歴史と文化、自然に寄り添うお花見を。[松江城山公園/島根県松江市]

日本で唯一の「現存正統天守閣」を間近に望む本丸には、祭りの期間中は特設ステージが設けられ多くの人で賑わいます。

島根県松江市県下初の歴史公園として誕生。桜とイベントが満載の「お城まつり」も必見。

出雲松江藩の初代藩主として活躍した堀尾忠氏とその父、堀尾吉晴により築城された『松江城』の天守を中心に、「城山」と呼び慣わされる標高28mの台地に広がる『松江城山公園』は、明治維新後に一般開放されて以来、県民の憩いの場として親しまれています。開園当初に植えられた桜の苗木が成長し、現在は「日本さくら名所100選」に選定されており、3月下旬から4月上旬には「ソメイヨシノ」を中心に約360本の桜が見頃を迎え、同時期に「お城まつり」も開催されます。祭りでは特設ステージでのパフォーマンスの他、島根県安来(やすぎ)市の民謡「安来節」の歌唱コンクールや「松江武者行列」など、様々なイベントを実施。

ライトアップされた天守と桜、それを彩る約250ものぼんぼりを眺めながら楽しむ夜のお花見も、風情たっぷりです。周辺には徳川家康や堀尾吉晴を祀る『松江神社』や、島根県指定有形文化財の迎賓館『興雲閣』、鎮守の森一帯に約4200本のヤブツバキが群生する「城山のヤブツバキ」など、見所も多数。島根が誇る歴史と文化、自然に触れられる貴重な時間をお過ごしください。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所 : 島根県松江市殿町城山 MAP
アクセス : 安来道路米子西ICより車で約25分/JR松江駅から一畑バスまたはレイクラインバス乗車、バス停・県庁前(レイクラインバスは松江城(大手前))下車、乗車時間約10分、バス停より徒歩約5分

国宝・松江城を望みながら、歴史と文化、自然に寄り添うお花見を。[松江城山公園/島根県松江市]

日本で唯一の「現存正統天守閣」を間近に望む本丸には、祭りの期間中は特設ステージが設けられ多くの人で賑わいます。

島根県松江市県下初の歴史公園として誕生。桜とイベントが満載の「お城まつり」も必見。

出雲松江藩の初代藩主として活躍した堀尾忠氏とその父、堀尾吉晴により築城された『松江城』の天守を中心に、「城山」と呼び慣わされる標高28mの台地に広がる『松江城山公園』は、明治維新後に一般開放されて以来、県民の憩いの場として親しまれています。開園当初に植えられた桜の苗木が成長し、現在は「日本さくら名所100選」に選定されており、3月下旬から4月上旬には「ソメイヨシノ」を中心に約360本の桜が見頃を迎え、同時期に「お城まつり」も開催されます。祭りでは特設ステージでのパフォーマンスの他、島根県安来(やすぎ)市の民謡「安来節」の歌唱コンクールや「松江武者行列」など、様々なイベントを実施。

ライトアップされた天守と桜、それを彩る約250ものぼんぼりを眺めながら楽しむ夜のお花見も、風情たっぷりです。周辺には徳川家康や堀尾吉晴を祀る『松江神社』や、島根県指定有形文化財の迎賓館『興雲閣』、鎮守の森一帯に約4200本のヤブツバキが群生する「城山のヤブツバキ」など、見所も多数。島根が誇る歴史と文化、自然に触れられる貴重な時間をお過ごしください。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所 : 島根県松江市殿町城山 MAP
アクセス : 安来道路米子西ICより車で約25分/JR松江駅から一畑バスまたはレイクラインバス乗車、バス停・県庁前(レイクラインバスは松江城(大手前))下車、乗車時間約10分、バス停より徒歩約5分

豊潤な堀の水面に映り、散る桜。城跡ならではの風情ある光景にため息。[鹿野城跡公園/鳥取県鳥取市]

夕暮れ時、ライトアップされ内堀の水面に映り込む桜並木は、思わず写真を撮りたくなる美しさです。

鳥取県鳥取市戦国の世に栄華を極めた城と城下町。歴史を今に伝える遺産が点在。

戦国時代、『鳥取城』の攻略で戦功を収め、豊臣秀吉の命により因幡鹿野藩の初代藩主となった亀井茲矩(これのり)の居城であった『鹿野城』。『妙見山(みょうけんざん)』の頂に建てられた城の築城時期は不明ながら、亀井茲矩の時代に大幅な改築がなされ、周囲の城下町とともに華やかな時代を築き上げました。そして時を経て城跡を整備された『鹿野城跡公園』には、今もなお立派な内堀や外堀が遺され、水辺に近く静謐な雰囲気が、訪れる者を穏やかな気持ちにしてくれます。春には園内に植えられた約500本の「ソメイヨシノ」が開花し、堀の水面に映る桜色の色彩は格別の美しさです。

春爛漫の3月下旬から4月中旬には「鹿野桜まつり」が開催され、桜のライトアップも実施。昼とは異なる幻想的な桜を存分に楽しめます。観光の際はぜひ、城跡と合わせて「鹿野往来」と呼ばれる城下町へ。風情ある地蔵小道や、亀井氏が整備したとされる水路、商家造りの古民家などを巡り、約400年前の人々の営みを体感してみてください。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所:鳥取県鳥取市鹿野町鹿野 MAP
アクセス:山陰自動車道鳥取西ICより車で約20分/JR西日本山陰本線鳥取駅より車で約30分/JR西日本山陰本線浜村駅より鳥取市コミュニティバス乗車、バス停・鹿野町総合支所前下車、乗車時間約25分、バス停から徒歩約10分

舞台は人間国宝第一号の富本憲吉氏の生家。陶芸家を育てた空間にただ浸る、贅沢な時間。[うぶすなの郷 TOMIMOTO/奈良県生駒郡]

奈良県生駒郡OVERVIEW

『うぶすなの郷 TOMIMOTO』の取材に訪れたのは、小雪が舞う冬の日でした。気温は氷点下。凍える取材班を、この宿は温かく迎え入れてくれました。建物、サービス、料理、全てに満ち満ちている温もり。それが際立って見えたのは、何も寒さばかりのせいではないでしょう。名宿は人の心を溶かす――ここで時を過ごすにつれて、そんな言葉が思い出されます。

ここ『うぶすなの郷 TOMIMOTO』は、陶芸家・富本憲吉氏の生家であり、2012年まで富本憲吉記念館として使われていた建物を改装してできた宿です。もちろん、ゲストがこの宿に向ける興味の先には、人間国宝第一号でもある偉大な陶芸家の存在があることでしょう。巨匠の人生に触れ、その創作意欲を育んだ空間に身を置くことは、ファンならずとも有意義な体験に違いありません。

しかし、この宿に滞在し心を溶かす時間を過ごした後では、ゲストにとって富本憲吉氏の生家であるという情報は、この宿の一側面に過ぎないものとなっているはず。それほどまでに、多彩な魅力が潜んでいるのです。著名人の知名度にあやかった「出オチ」の宿ではなく、十分な魅力と実力を兼ね備えた名宿。その魅力をひとつずつ紐解いてみましょう。

Data

住所: 〒639-1061 奈良県生駒郡安堵町大字東安堵1442番地 MAP
電話:0743-56-3855 

滞在の目的は“何もしないこと”。ただ空間に浸り、心静かに過ごす贅沢。[うぶすなの郷TOMIMOTO/奈良県生駒郡]

客室「日新」の和室。窓の向こうには手入れの行き届いた日本庭園が広がる。

奈良県生駒郡重厚な古民家に心を込めて手を入れることで、温かい宿として蘇る。

奈良駅から車で30分ほど。安堵町というなんとも穏やかな名前の町に入り、細い路地をしばし走ると、住宅街の一角に突如、豪壮な門構えが見えてきました。ここが『うぶすなの郷 TOMIMOTO』。「富本憲吉氏の生家」という事前情報から想像していたよりも、ずっと大規模な建物です。外から眺めた限りでは、圧倒されるような存在感がある印象でした。

ところが門をくぐると、ふっと空気が変わります。建物自体の重々しい存在感は変わらないものの、どこか両手を広げて来客を迎えるような温かさが感じられたのです。その温かさの源を探しつつ、中へと足を進めました。

まずは入口右手の建物へ。ここは、記念館時代は本館として使われていた大正時代築の建物。現在は柱や梁を残しつつ、床を板張りに変えてレストランとして使っています。窓には千鳥格子、行灯(あんどん)風の柔らかな照明、正面にある窓の外には手入れの行き届いた日本庭園。一見すると、凛とした佇まいです。

しかし、もっとクローズアップして見るとどうでしょう。柱には使い込まれた傷があえて残されています。庭園には庭師の遊び心なのか、瓦で描いた花模様が埋め込まれています。生けられている花は、庭に咲く野草でしょうか。設えの一つひとつに人の営みの痕跡があること、もてなしの心が込められていること。そう、それらがこの古民家を、ただの「箱」ではなく、生きた「宿」に変えているのです。

地面に瓦で描いた花模様。ただ整備するだけではない「人の息吹」が温もりを添える。

かつての母屋はレストランに。一般客の利用の他、宿泊者の朝食の会場ともなる。

奈良県生駒郡落ち着きと快適さを両立する和モダンスタイルの客室。

客室は2室。元が民家のため趣は異なりますが、それぞれが魅力を放っています。
まずは「日新」と名づけられた二間続きの客室。母屋から続く離れのような位置にあり、手前の和室はかつて富本憲吉氏の居室だったといいます。床の間、飾り障子、縁側、窓の向こうの日本庭園。極めてシンプルな和室ですが、アイデアを練る本丸として、そして工房として人間国宝の創作を支えたこの部屋。ファンならずとも、何か感じるものがあるに違いありません。なお、襖の絵は、富本憲吉氏の直筆画です。美術館でガラスケースに入れられてもおかしくないような名画が、そのままにされているというのは、なんとも贅沢な話です。

一方、奥のベッドルームは宿のオープンに当たって設えられた洋室。ゆったりとした時間を過ごすのは古式ゆかしい和室、しっかりと身体を休めるのは近代的な洋室。この2部屋の使い分けは、落ち着きと快適性を両立するための英断といえそうです。ベッドルームの奥には、日本庭園を臨む陶板の半露天風呂が設えられています。

もうひとつの客室の名は「竹林月夜」。大正時代の蔵を改装したメゾネットタイプで、モダンなリビングルームの他、和室、ツインとセミダブルのベッドルーム、そして檜が香る半露天風呂が設えられています。洋室でありながらどことなく漂う和の風情、モダンな中に垣間見える蔵の面影。和洋新旧が混在しながら、独特な穏やかさを醸し出しているのがこの部屋の魅力です。窓の外には育ち始めたばかりの竹林。決して過剰ではないものの、必要なものはすべて揃う。そんな絶妙なさじ加減が、この特異性を生んでいるのかもしれません。

「年に一度だけ揃うというご家族がこの部屋をご利用になった時、滞在中一歩もこの部屋からお出になりませんでした。我が家のような寛ぎを感じて頂けたのでしょうか」と話すマネージャーの巽千加代氏の言葉が印象的でした。

「日新」のベッドルーム。奥には陶板で作られた半露天風呂がある。

「竹林月夜」のリビングルーム。名前のとおり、窓の外には育ち始めたばかりの竹林が広がる。

檜が香る半露天風呂にはゲストの到着に合わせて湯が満たされる。

奈良県生駒郡木々に囲まれ、偉大な陶芸家の思考をたどる静かな時間。

隣町に法隆寺や太子道(たいしみち)がありますが、それ以外には目立った観光地もないエリア。600坪以上ある敷地内にも、あえて余計な施設は造られていません。「ここ自体を目的地としてもらうこと。旅の途中に身体を休める宿ではなく、“何もしない”時間そのものを楽しんで頂く旅です」と巽氏。

考えてみると「何もしない」という選択は、そう簡単ではありません。特に都会で生きる人にとっては、2~3日の旅行で急に生活のペースを変えることは難しいことでしょう。観光地を巡り、名産品を食べ、そうして短い旅行を少しでも充実させようと思うのが人情です。時には宿に滞在しながら、インターネットやメールをチェックしてしまうことだってあるでしょう。それでも山下支配人は、あえて「何もしない」時間を提案します。ただ和室に佇み、窓の外を眺める。何も考えずに湯に浸かり、心の垢を落とす。そんな贅沢な時間の使い方こそが、ここ『うぶすなの郷 TOMIMOTO』の真骨頂なのです。

今は裸の枝垂れ桜ですが、見事な枝振りが春の姿を想像させます。庭の大くすのきには、富本憲吉氏の代表的な創作モチーフであるテイカカヅラが絡みついています。慌ただしく過ごすとつい見過ごしてしまいそうな光景が、この宿の随所にきっと潜んでいます。気付けば窓際に座っていて、かなり時間が経ったような気がします。そもそも部屋に時計が置かれていないことに気付いたのは、部屋に入ってもうずいぶん経ってからでした。

庭の大くすのきには、テイカカヅラが絡む。富本憲吉氏の創作意欲を刺激した光景。

石碑には「樹を楽しむ 陶器を見るに似たり」という富本憲吉氏の言葉が刻まれる。

Data

住所:〒639-1061 奈良県生駒郡安堵町大字東安堵1442番地 MAP
電話: 0743-56-3855

麗らかな春の陽射しの中で、瀬戸内の多島美と桜との見事な調和を楽しむ。[開山公園/愛媛県今治市]

四国山地、中国山地を背景に、波穏やかな瀬戸内海に浮かぶ島々とそこに架かる3本の橋が美しい、展望台からの風景。

愛媛県今治市瀬戸内海に面した展望台から、風光明媚な島々や橋、桜を眺める。

瀬戸内海西部に位置する『芸予諸島』の中で最も小さく、『瀬戸内しまなみ海道』によって本州、四国と陸続きとなっている『伯方島(はかたじま)』。その北側に位置する標高149mの『開山(ひらきやま)』にある『開山(ひらきやま)公園』は、春になると「ソメイヨシノ」を中心に約1,000本の桜が楽しめます。園内には『多々羅大橋』、『大三島橋』、『伯方大島大橋』という3本の橋を同時に望むことができる木製の展望台があり、眼下に広がる瀬戸内海に浮かぶ島々とそこに架かる橋、美しく花開いた桜の共演はまさに風光明媚。麗らかな春の陽射しを浴びながら、ゆったりとしたひと時をお過ごしください。他にも三十三観音の石仏や遊歩道、遊具なども揃い、幅広い世代が楽しめる点も魅力です。(文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所:愛媛県今治市伯方町伊方 MAP
アクセス:西瀬戸自動車道(しまなみ海道)伯方島ICより車で約10分/今治駅前よりしまなみライナー乗車、バス停・伯方で下車し、島内バス伯方島循環線(北浦廻り)乗り換え、バス停・熊口下車、乗車時間合計約30分、バス停より徒歩約20分

のどかな山間のドライブロードに、古木のシダレザクラが迫る。[川井峠のシダレザクラ/徳島県美馬市]

国道438号、名西郡神山町と美馬市木屋平を結ぶ川井峠のドライブロードに迫る、古木のシダレザクラ。

徳島県美馬市枝を垂れ、満開となった淡紅色の花びらが、緑萌える山肌に散る。

徳島県最高峰の『剣山(つるぎさん)』を遠くに望む、標高約700mの『川井峠』では、春になると山の斜面にある約20本の「シダレザクラ」が花を咲かせます。高地のため平野部より1週間ほど遅咲きで、4月上旬から中旬が見頃というこちらの桜は、枝を垂れ、淡紅色の花びらが緑萌える山肌へと静かに散る、凛として美しい日本の春を体現しています。これらは主に峠のすぐ傍と『川井トンネル』付近で見ることができます。あわせて、推定樹齢500〜600年、高さ約13m、枝張り東西約15.6m、南北約9mを誇る「川井のエドヒガン」に立ち寄ったり、茅葺き屋根と数寄屋(すきや)造りが印象的な徳島県下最古の民家『三木家住宅』などの観光スポットでゆったりと過ごすのもお勧めです。多くの桜が個人の所有地に位置するため、宅地や畑への立ち入りはしない、ゴミは持ち帰るなど、最低限のマナーを守ってお楽しみください。(文中には諸説ある中の一節もございます)

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住所:徳島県美馬市木屋平字大北 川井峠トンネル付近 MAP
アクセス:徳島自動車道脇町ICより車で約50分

秀峰と名高い溶岩台地を埋め尽くす、ヤマザクラの花霞。[屋島/香川県高松市]

『瀬戸内海国立公園』の中心地として豊かな自然を有する屋島。文豪・菊池 寛氏も、屋島から見る瀬戸内海を賞賛したといいます。

香川県高松市ドライブウェイに展望台、風光明媚な台地の海岸林。

香川県高松市の東部に位置し、瀬戸内海に突き出るように広がる『屋島』は、火山の溶岩流により形成された台地で、国の天然記念物にも指定されている海岸林です。「メサ」と呼ばれる起伏のゆるやかな台地状の形が美しく、地学上でも秀峰とされており、北嶺約282m、南嶺約292mの林内には、ナラやカシ、マツなどの樹木をはじめ、多くの「ヤマザクラ」が自生しています。普段は青々とした風貌の屋島ですが、ヤマザクラが見頃になる3月下旬から4月中旬にかけては山肌が淡い花霞に包まれ、幻想的な雰囲気を醸し出します。

他にも、高松藩家老・松平半左衛門可正(まつだいらはんざえもんよしまさ)が植えたと伝えられる『可正桜(よしまさざくら)』や、展望台『獅子の霊巌(れいがん)』の傍にある一本桜、源平の古戦場『壇ノ浦』を見下ろす『談古嶺(だんこりょう)』の桜など、いたる所でお花見を楽しむことができます。島内には有料道路『屋島ドライブウェイ』も整備。道路の両側にヤマザクラが迫るドライブウェイを颯爽と車で駆け抜ける、ひと味違ったお花見もお勧めです。(文中には諸説ある中の一節もございます)

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住所:香川県高松市屋島 MAP
アクセス:高松自動車道高松中央ICより車で約30分/JR高徳線屋島駅または琴電屋島駅より、車もしくは屋島山上シャトルバス乗車、約10分

日本植物分類学の基礎を築いた、牧野富太郎氏ゆかりの桜と出会う。[牧野公園/高知県高岡郡]

園内には「オオシマザクラ」、「センダイヤザクラ」、「ワカキノサクラ」など、牧野氏が命名した品種も植栽されています。

高知県高岡郡古城山の城跡を中心に、24種もの桜の花が山肌を埋め尽くす。

94年の生涯において約40万点もの植物標本を収集し、新種や新品種など1,500種類以上の植物を命名、日本植物分類学の基礎を築いたとされる植物学者・牧野富太郎氏。その故郷である高知県高岡郡佐川町にあり、牧野氏の名を冠した『牧野公園』は、氏が東京・染井で見つけ寄贈した「ソメイヨシノ」の苗が植えられたことをきっかけに整備されました。

頂上に『佐川城跡』が残る標高200.7mの古城山、その山腹一帯が公園の敷地であり、公園内には牧野氏の墓標も立てられています。植栽された桜の種類は現在24種類ほどあり、3月上旬から4月中旬にかけて次々と開花し、長い期間お花見が楽しめるのも特徴です。1958年の開園より歴史を重ねた桜の一部は老木化が進み、2008年からは古木の伐採と再生事業を行うなど、リニューアルも進められています。毎年3月下旬から4月上旬にかけては「牧野公園さくらまつり」も開催され、売店や座敷、夜間のライトアップが行われます。数ある植物の中でも特に桜を好んだという牧野氏の偉業を感じながら、美しい桜をお楽しみください。 (文中には諸説ある中の一節もございます)

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住所:高知県高岡郡佐川町甲(奥の土居) MAP
アクセス:高知自動車道伊野ICより車で約30分/JR四国土讃線佐川駅より徒歩約10分

食を通して世界と繋がる。料理を維新する饗宴が遂に開幕。[CUISINE SAGA VOL.00/佐賀県佐賀市]

料理と書という異色の共演は、感性のままに書かれる中塚翠涛氏の書を一枚の皿に見立て、渥美創太氏がアペリティフを盛り付けるパフォーマンスで幕を開けた。

佐賀県佐賀市古から日本の食を先導していた佐賀。その街に国内外のトップシェフが集結する。

2018年は明治維新から数えて150年目にあたる節目の年。
「薩長土肥」の一翼として維新の鍵を握っていた“肥前=佐賀”では、3月17日(土曜)から県内各地で佐賀の歴史や文化、アート、そして食を楽しむ「肥前さが幕末維新博覧会」が開幕します。

佐賀は古から海外との交流の拠点として、日本最古の水田や唐津焼・有田焼などの窯業の里を有するなど、食周りの文化と所縁の深い土地。博覧会でも、〝美術館(MUSEUM)に飾るような器を使って(USE)佐賀の食材をふんだんに使った料理を楽しむ維新(これあらた)なるレストラン〟をコンセプトとした「USEUM SAGA」が開催されます。

なかでも毎月、国内外のトップシェフを招き、地元の食材や器作家と共演して特別なコースを創り上げる「CUISINE SAGA」 は、佐賀の歴史と食の遺産をまるごと味わうプレミアムなレストランです。3月17日の正式な開幕に先駆け、そのVOL.00と位置付ける饗宴が2月17日と18日の2日間、行われました。

舞台となったのは、明治20年に警察部庁舎として建設された「さがレトロ館」。3月17日からの正式開幕後も国内外のスターシェフをここに招聘する。

「肥前さが幕末維新博覧会」を象徴する言葉〝技〟〝人〟〝志〟。中塚氏の手によるもの。

自店でのサービスを務めながら、全国各地の食のイベントのディレクションも手がける大橋直誉氏がMCを担当。

佐賀県佐賀市パリをキーワードに、気鋭のシェフと書道家のクリエイティブが交わる。

今回、イベントの先陣を切るシェフとして白羽の矢が立ったのは、フランス・パリで活躍する渥美創太シェフ。渥美氏といえば2016年、佐賀の地で行われた「DINING OUT ARITA&」でクリエイティブな料理を作り上げたことも記憶に新しいシェフです。料理人がイメージする料理を最大限引き立てるために、唐津や有田の陶芸家とともに一夜限りの器を誂える。そんなある意味酔狂ともいえる取り組みを行い、「DINING OUT」史上においてもエポックともいえるプレミアムな野外レストランを創り上げたシェフだけに、ただ単純に〝美味しい料理〟だけで終わる筈はありません。

そして今回、渥美氏とともに饗宴を盛り上げたのが、書道家として国内外で評価の高い中塚翠涛氏です。中塚氏はゲストを迎えるウェルカムホールやダイニングに飾る書やカリグラフィをしたためただけでなく、さまざまなアプローチで料理と書のコラボレーションに挑みました。

キックオフともいえるVOL.00で、渥美氏と中塚氏がキャスティングされたのは、佐賀とフランスが重ねた歴史にも由縁します。今年は明治維新150年であると同時に、フランスとの国交が締結されて150年目を迎える記念の年。そして実は、佐賀はそれ以前の江戸期においても、ヨーロッパで国際博覧会が行われる際には江戸幕府とは別に藩として出展していたほど、欧州との関わりは深い土地柄です。そんなフランス・パリを舞台に活躍する渥美シェフ。そして2016年、ルーブル美術館「Carrousel Du Louvre」で開催した書の個展が、設立150年を誇るフランス国民美術協会(ソシエテ・ナショナル・デ・ボザール)において、金賞と審査員賞金賞をダブル受賞した中塚氏が競演することは必然だったのかもしれません。

「CUISINE SAGA」舞台となったのは、佐賀城本丸跡のお膝元に明治期に建てられた「さがレトロ館」。文明開化の息吹を体現したかのような瀟洒な建物で、維新(これあらた)なレストランの幕が開けました。

フォトジェニックなアペリティフにゲストの期待も高まる。

「渥美さんや佐賀県のさまざまな生産者、そして来ていただいたゲストの方と一期一会の縁に思いを馳せて〝つながる〟と書きました」と語った中塚氏。

調理は県内の実力店のシェフや料理人がサポート。東京の人気店「organ」のオーナー・紺野真氏(右)が来佐したのも渥美氏の人柄ゆえ。

鋭い眼差しで盛り付けた料理をチェックする渥美氏。

佐賀県佐賀市料理という瞬間芸術に、漆黒の景色を描く。

ゲストがまず案内されたのは中塚氏によるリトグラグが飾られたウェルカムホール。今回のホスト役は、世界最速でミシュラン一つ星を獲得したことでも知られる東京白金台「TIRPSE」のオーナーであり、フードキュレーターでもある大橋直誉氏が務めます。曰く「渥美氏は昔からライバルのような存在」で、シェフの技術も性格も勝手知ったる大橋氏ならではの、友人のパーティーに招かれたかのような肩に力を入れすぎないMCが和やかな空気を醸し出していました。

今宵の創作コース料理は全10皿。
アペリティフとして供されたのは2種類のフィンガーフード。それを盛るのは中塚氏の書の上。テーブルに広げられた大きな和紙の上で中塚氏の筆が自由に踊り、その傍らに渥美氏が阿吽の呼吸でフィンガーフードを置いていきます。
その筆致はあたかも水面を進む船の航跡波のよう。
「渥美さんのフィンガーフードがまるで船のような形だったので、書もそのインスピレーションに委ねました」

シェフの料理と書道家の書の化学反応としてもっとも白眉だったのが、5皿目に登場したイカ墨のパンペルジュです。
イカの身とイカ墨をぶつ切りにして炒め、香味野菜や富士酢の10年熟成させた赤酢、そしてトマトと水を加えて8時間煮詰めてソースに。そのソースはブリオッシュに染み込ませ焼き上げるほか、さらに煮詰めて驚きの使い方に。なんと墨ならぬイカ墨で一皿ずつ書を描き、〝食べられる書〟にするという趣向です。
「普段から書に用いるのは墨だけにこだわっていない」という中塚氏ですが、さすがにイカ墨は初めて。何を描くかは事前にまったく決めていなかったそう。
「ひと筆置いたときの固さや湿度、そしてお客さんの反応などその場の空気感に身を任せてみようと」。
最初はシンプルな円相だった模様が、皿がすすむごとに筆がのってきて後半は皿の上で筆が躍動。塩水で〆た満月のような卵黄も相まって生み出された、まさしく一期一会の景色。ゲストも書の変化に見とれ、そして同じテーブルでも皿ごとに違う景色を楽しんでいました。

昨今、何かと目にすることの多い食とアートのコラボレーションですが、「この一皿は一緒に作る必然性があるね」という声が多くのゲストからも漏れ聞こえました。

イカ墨のソースで皿に書を描く中塚氏。その様子を楽しそうに見つめる渥美シェフの笑顔が印象的。

黄身の微妙な配置の違いでも、料理が映える書は変わる。ひとつの〝解〟を見つけたら、それをさらに発展させていく。

集まったゲストは器職人や気鋭の料理人、佐賀の老舗酒蔵当主までさまざま。初見でも会話に花が咲くアットホームな雰囲気。

佐賀県佐賀市信頼できる生産者の存在が、パリと佐賀の距離を埋める。

今回のイベントで佐賀を訪れた大橋氏が驚いたのが、渥美氏が佐賀の生産者や器作家、そしてイベントに携わる人たちと友達のように親しげに話しているところ。それもそのはず、前回の「DINING OUT ARITA&」でダイニングシーンを引き立てる食材や器を追い求めた渥美氏にとって、生産者や器作家はいわば〝戦友〟のような存在。
「佐賀の優れている食材や生産者はほとんど頭に入っています」と渥美氏。例えば前回、農薬や化学肥料を使わない自然薯作りに惚れ込んだ唐津の「ささき農園」では、今回も山芋のように巨大なゴボウやむかごを手に入れ、それをコースのキーとなる食材として使用しました。

コースはコンテチーズのタルトと、スイス産の生ハム&ポレンタチップスでスタート。

明治期に流行した絵柄を写したカップに注がれるのは、佐賀が誇る銘柄鶏「ありたどり」を合計16時間かけて煮出したコンソメスープ。クリアで芳醇な味。

3品目は玄海産のウニやうちわ海老などの魚介の盛り合わせ。玉ねぎを炭火で丸焦げにしたものをパウダー状にしてまぶすなど、趣向を凝らした香りづけでアクセントを。器は有田の原田耕三郎氏が、窯内に眠る大きな盛り込み皿をこの饗宴のために見立てたもの。

4品目はアンチョビペースト入りの生クリームをのせた「子牛のタルタル」。器は中塚氏が李荘窯の寺内信二氏のもとで手掛けた作品。白磁のなかに中塚氏が施した書がうっすらと浮かび上がり、わずかな陰影が景色となる。

「イカ墨のパンペルデュ」には、前回の「DINING OUT ARITA&」の際に出会った唐津「みのり農園」の放し飼いの自然卵の、卵黄の塩水漬けを添えて。器は、水面のようにフラットでシンプルな形状が料理を描くキャンバスとして好評で、これまで数多くのシェフイベントでも使われてきたもので、寺内信二氏の作品。

「ささき農園」のむかごを散らした「白子チャウダーにむかごのコンフィ」。瑠璃色が印象的な器は有田の瑞峯窯の原田耕三郎氏に特注したもの。

7品目は「佐賀牛の温製カルパッチョに菊芋のソース」。あっさりとした赤身肉と菊芋のジュースを煮詰めたクセのあるソースが好相性。ヨーロッパのアンティークにも見えるオーバル皿は、伊万里の文祥窯、馬場光二郎氏の作品。

「パスタ、イノシシの頭のラグーを添えて」には、パリから持参したスパイスミックスを加え、薬膳的な香り漂う一品に。器は、in blue 暁の百田暁生氏に特注したもの。確かなロクロの技で1点1点仕上げられた白磁のクルーズはシャープで有機的なフォルムの美しさに渥美氏も絶賛。

デセールは「チョコレートブリュレと抹茶のアイス」。7品目のオーバル皿とともに、器は伊万里で古来の有田焼製法に挑む馬場光二郎氏のもの。有田焼の原点である泉山陶石では、その性質上大変難しい水平リムの器に果敢にチャレンジし、数多くの試作を繰り返しようやく完成させた作品。

コースを締めくくる「柑橘のパブロバと干し柿パイ」。デセールは渥美氏が信頼を寄せるパティシエ・小林里佳子氏が担当。

佐賀県佐賀市日本茶の存在を維新する2人がビバレッジを担当。

さらに、渥美氏の盟友である2人も参加。
一人は料理に合わせノンアルコールのペアリングとしてお茶を供した、嬉野の鬼才・松尾俊一氏。そして松尾氏のサポートとしてお茶を淹れたのが、前回の「DINING OUT ARITA&」でクリエイティヴ・プロデューサーを務めた「丸若屋」の丸若裕俊氏です。

カボスと炭酸を加えお茶をルージュ色に染めた松尾氏のシグネチャードリンクにはじまり、全8種類。
子牛のタルタルには杉のチップでスモークをかけた清涼感のある釜炒り茶を合わせたり、武雄産のレモングラスに低脂肪乳とガラムマサラを加えて白子のクラムチャウダーのクリーミーさと同調させたレモングラスのほうじ茶ラテなど、渥美氏の料理を知る松尾氏が「直前まで悩み抜いた」という会心のペアリング。その意外性と組み合わせの妙に、ゲストからも感嘆の声があがっていました。

アルコールはフランスや国産ワイン、そして佐賀の銘酒「鍋島」など縦横無尽にセレクト。ビバレッジともにゲストを愉しませた。

渋谷のお茶葉屋「幻幻庵」では、松尾氏とパートナーを組む丸若氏もお茶の抽出をサポートした。

佐賀県佐賀市佐賀が誇るものづくりの「技」と鮮烈な感性が共演。

そしてこの宴でも佐賀らしさの演出に一役かっていたのが有田焼です。今回もこの2夜限りのために新たに制作した器をはじめ、古陶磁や明治期に流行した絵柄を再現したカップ、黎明期の有田焼にヒントを得た作り手の気配まで感じるリム皿などさまざまな器が登場。

ここでも中塚氏は書道家として、旧知の仲である李荘窯の寺内信二氏のもとで器づくりに参加しました。
それは素焼の生地にマスキング用のロウで1枚ずつ書を描き、それ以外の余白を丁寧に薄く削り焼成することで書が浮かびあがって見えるというシンプルな白い皿。
「『書道家だから字が読めないとダメ』という意識はなくて、やっぱり器は料理を盛り付けたときに映えてこそ。書の痕跡はうっすらとしていても、書いたときの空気感は残ると思うので」と中塚氏は語ります。

料理人と書道家。
フィールドは違えど渥美氏、中塚氏に共通するのは、ともに古典的、伝統的な技法を習得しつつも、それを自在に崩しその場の空気にフィットした作品を創り出すことができるところ。

中塚氏はイベントを振り返り「書は一気呵成に書き上げるアートですが、料理は届けて一瞬でなくなる瞬間芸術の最高峰。一刻で消える儚さはありますが、渥美さんがその先にあるお客様同士の会話だったり、笑顔だったりをつくることに力を注いでいるところが自分と重なるなと思いました」。

世界を舞台に活躍するミュージシャン・日山豪氏がDJを担当。米粒や器、竹笹や日本酒などさまざまな佐賀の素材を使って心地よい音楽を生み出した。

イベントには渥美氏の奥様であり、自身のアトリエで中塚氏のリトグラフ制作にも協力した明子氏も参加。愛息子に頰をゆるませる渥美氏にゲストたちも和む。

閉幕の挨拶をする茶師の松尾氏。佐賀に所縁のあるさまざまなプロフェッショナルが集結し、唯一無二のディナーが完成した。

佐賀県佐賀市3月17日。遂に「CUISINE SAGA」が正式に開幕。

佐賀と国内外で活躍するクリエーターが一堂に会した、プレミアムな夜会第一幕はこれにて閉幕。
3月17日(土曜)からは「CUISINE SAGA」が正式に始まります。次回は古賀純二氏、吉武広樹氏、小岸明寛氏、弓削敬太氏という佐賀が誇る4人のシェフが結集し、夢の共演を果たします。
佐賀に精通したシェフたちがどのようなコース料理を創り出すのか。今から楽しみでなりません。

千葉県生まれ。辻調理師専門学校フランス校を卒業後、ロアンヌの『メゾン・トロワグロ』、パリの『ステラ・マリス』、ジョエル・ロブション研究所、『レストラン・トヨ』を経て、2012年より「ヴィヴァン・ターブル」シェフに就任。2014年5月、老舗『CLOWN BAR』を自然派ワインで人気のレストラン「サチュルヌ」が買い取り再オープンした際に、シェフに抜擢される。フランスのレストランガイドとして大きな影響力を誇る『ル・フーディング』の、2015年全仏最優秀ビストロ賞を受賞。2017年12月に『CLOWN BAR』を抜け、2018年夏にパリ11区に自分の店を出す予定。

岡山県倉敷市出身。東京都在住。4歳から書に親しむ。古典的な書をもとに、様々なジャンルの題字やロゴ制作に携わる。創作活動と同時に、多くの方に手書きを楽しんでいただきたいという想いから、ペン字練習帳等の出版も多数。著書『30日できれいな字が書けるペン字練習帳』シリーズは、累計366万部を突破。テレビ朝日系「中居正広のミになる図書館」では「美文字大辞典」の講師として出演。手がけた題字は、ユネスコ「富士山世界遺産」、松竹映画「武士の献立」など多数。TBSドラマ「SPEC」では書道監修を務める。フランスで150年を超える歴史を持つソシエテ・ナショナル・デ・ボザールにて、2016年に「金賞」「審査員賞金賞」をダブル受賞。

霊山・土器山を背景に花開き、枝を垂れるヒメシダレザクラ。[宝珠寺のヒメシダレ桜/佐賀県神埼市]

可憐に咲き、四方に枝を垂らすヒメシダレザクラが、静かな田園風景を艶やかに彩ります。

佐賀県神埼市樹齢約100年。静かな山里にひっそりと佇む禅寺の一本桜。

『吉野ヶ里遺跡』や『九年庵』など、歴史を感じられる史跡や自然に囲まれた佐賀県神埼市。その山あいにひっそりと佇む禅寺『宝珠寺』には、3月になると華やかな桜の花が咲き誇ります。中でも境内にある一本桜は『宝珠寺のヒメシダレ桜』と呼ばれ、樹齢は約100年、高さ約8m、枝張り約15mで、佐賀県の「名木古木100選」にも選定されています。背後にそびえる霊山『土器山(どきやま)』や、青々とした麦田が広がる里山の景色に映える薄桃色の花は、満開時には白色へと変化するといわれ、その淡い色もまた、シダレザクラの魅力といえます。

たくさんの桜に囲まれながらの賑やかなお花見も楽しいですが、山里の小さなお寺でゆったりと観賞する桜もまた良いもの。見頃は例年3月20日前後、「ソメイヨシノ」よりは少し早めの開花となることが多いため、開花情報を事前に確認してからお出かけください。 (文中には諸説ある中の一節もございます)

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住所:佐賀県神埼市神埼町的908 MAP
アクセス:長崎自動車道東脊振ICより車で約10分/JR九州長崎本線神埼駅より昭和バス三瀬線に乗車、バス停・小渕下車、乗車時間約10分、バス停より徒歩約5分

戦国の世に散った武将を偲ぶ菩提樹。子孫代々守り続けてきた見事な山桜。[一心行の大桜/熊本県南阿蘇村]

大桜の周辺は公園やパークゴルフ場などが整備され、住民や観光客の憩いの場となっています。

熊本県南阿蘇村天変地異に耐え約400年。歴史と絆がつないだ生命が、堂々と咲き誇る。

豊富な自然に囲まれた熊本県阿蘇郡南阿蘇村に立つ山桜『一心行の桜』は、戦国時代、この地にあった『鶴翼城(かくよくじょう)』の城主であった中村伯耆守惟冬(なかむらほうきのかみこれふゆ)が、城主を兼任していた『矢崎城』(現熊本県宇城市)で戦火に散り、その後、ひっそりと戻ってきた妻子によって、惟冬公と家臣たちの御霊(みたま)を弔うための菩提樹として植えられました。一心行とは弔いのために一心に行をおさめたという妻子の姿から名づけられたといわれ、1849年の山津波や1953年の大水害などの天変地異においても朽ちることなく、約400年の時を経て、国内でも最大級の大きさへと成長しました。

昭和初期には落雷により幹が6本に裂けたものの、そのことが現在の美しい樹形を形作ったとされています。枝の差し渡しは東西21.3m、南北26m、樹高は14mで、3月下旬から4月上旬に見頃を迎えます。今もなお、惟冬公の直系の子孫によって守られているという大桜、歴史と絆がつないだ堂々たる姿を、ぜひご覧ください。(文中には諸説ある中の一節もございます)

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住所 : 熊本県南阿蘇村大字中松3226-1(一心行公園パークゴルフ場) MAP
アクセス : JR九州熊本駅より車で約1時間10分/南阿蘇鉄道高森線中松駅より徒歩約15分

土地が紡いできた伝統と技術に、ふたりらしさを織り込んで。[OLDMAN’S TAILOR/山梨県富士吉田市]

『オールドマンズテーラー』を率いるしむら夫妻。

山梨県富士吉田市

富士山の麓に位置し、織物の産地として名高い山梨県富士吉田市。この地に拠点を置くのが、リネン製品を中心としたブランド『R&D.M.Co-』を展開する会社『オールドマンズテーラー』です。2014年にはアトリエ近くにコンセプトストア『THE DEARGROUND』もオープン。前編では代表兼デザイナーのしむら祐次・とく夫妻に、『オールドマンズテーラー』の取り組みについてうかがいました。

コンセプトストア『THE DEARGROUND』。

山梨県富士吉田市山梨県から全国へ。富士山の御膝元で生まれた人気ブランド。

富士急行の富士山駅から徒歩約15分。観光地からは少し外れた富士吉田市の住宅街の一角に、ひときわお洒落な雰囲気を醸し出す白いビルが佇んでいます。このビルの2フロアにまたがり展開されているのが、『オールドマンズテーラー』のコンセプトストア『THE DEARGROUND』。2階は紅茶とスイーツが楽しめるカフェ、3階はオリジナルブランドのショップとなっています。

『オールドマンズテーラー』は、富士吉田市出身のしむら夫妻が2001年に設立した会社。当初はとく氏の実家の家業をサポートする形でオリジナルのネクタイ作りからスタートしたものの、時代の流れや夫妻の思い入れにより、徐々にリネンを中心とした製品の企画・製造へとシフトさせました。そして、2004年に立ち上げたオリジナルブランド『R&D.M.Co-』では、レディスとメンズそれぞれの洋服やバッグ、クロス、エプロンなど様々な商品を幅広く展開。高いデザイン性と実用性を兼ね備えたメイド・イン・ジャパンのアイテムの数々は多くのファンを生み、今では全国のセレクトショップ60店舗以上で扱われるほどの人気を誇っています。

雄大な富士山を間近に望む、富士吉田市の住宅街。

2階と3階が『THE DEARGROUND』のフロア。

2階は雑貨の販売とカフェスペースに。

カフェでは、スコーンなどの手作りスイーツと紅茶を提供。

3階はオリジナルブランドのショップ。唯一の直営店で、ほぼ全ラインが揃う。

山梨県富士吉田市製品の中心を担う、しむら夫妻が惹かれたリネンの魅力。

数ある素材の中でも、特にリネンを愛するしむら夫妻。とく氏曰く「織物業に関わる以前から、リネンが持つどこか大人っぽい雰囲気が好きで。色々な素材の商品が並んでいても、選ぶのはいつもリネンが入った素材の商品でした。無意識なのですが、つい手に取ってしまう魅力があるんですよね」とのこと。祐次氏も「コットンなどの主流な素材と比べると、やはりリネンは特別感があると思います。もちろん、コットンも一般的なものから上質なものまで色々あって、それはそれで触ってみるとすごく良いなと思いますが、その良さとはまたちょっと違う。自分たちでリネンを扱い始めて、素材が持つ独特の雰囲気もそうですが、やはり質感が唯一無二で面白いなと感じています」と言います。

織りたての状態から、一旦水洗いをした後に見られる変化や、アイロンをかけた後の表情、長く使い続けるうちにだんだんと変わっていく風合いなどから、「リネンって楽しい!」と口を揃えるしむら夫妻。また、吸水性が高いだけでなく速乾性もあり、 更に耐久性にも優れているのがリネンの特長です。初めは硬い肌触りでも使い込むほどに肌になじみ、風合いが増す。そんな使い勝手の良さも、リネンの魅力といえます。

強くしなやかで、洗うほどに風合いが変わるリネン。

使い込むほどに味わいが深くなるリネン製品が揃う。

山梨県富士吉田市この地に息づく機織りの伝統を絶やさぬよう、育み続ける。

『オールドマンズテーラー』のものづくりは、糸や生地の製造からデザイン、仕立てにいたるまで一貫して自分たちで手がけるスタイル。しむら夫妻が企画・デザインを行い、柄やイラストもオリジナルで書き起こします。糸は、フランスやベルギーなどから仕入れたものを、地元の染色業者に依頼してイメージどおりの色に。その糸を使い、工場で生地を織り、仕立てます。

『THE DEARGROUND』から車で5分ほどの場所にある工房には、シャトル織機やジャガード織機など旧式の織機も多数。「それほど古い織機にこだわっているわけではないのですが、理想を追い求めた結果、たどりついたのがこういった織機でした。古いシャトル織機は糸の動き、機械の速度がゆっくり。だから、糸自体にあまりテンションがかからないんです。糸に張りがないので、とても風合いの良い生地ができます」と祐次氏。低速で空気を含みながらふんわり柔らかく織られた生地は、新型の量産用の高速織機では実現できない、旧式の織機ならではの産物なのです。

また、祐次氏はこうも語ります。「この地域は昔から織物業が盛んなので、古い織機も比較的たくさん残っています。ただ、近年は織物業がどんどん衰退していることに伴い、その数も急激に減っていて。廃業して一旦織機が壊されたりばらされたりしてしまうと、もう終わりなんですよね。改めて組み立てることができる職人さんも、ほとんどいないような状況なので。だから、私たちがそういった織機を受け継いで、残していけたら良いなという思いもあります。時代に逆行するようなものづくりですが、そういうことも大切だなと」。

地元が育んできた昔ながらの技術を守り、丁寧なものづくりを続けるしむら夫妻。ゆえに、『R&D.M.Co-』のアイテムはシンプルな中にもこだわりが感じられると評判です。例えば、生地が柔らかく使い込むほどに風合いが変わるリネンの服は、着用者の動きに合わせて柔軟に伸縮するという、抜群の着心地の良さが人気。一見何の変哲もないシャツが、袖を通すたびに身体になじんでいくと、多くの人を虜にしているのです。

大切に譲り受けた古い織機が多くならぶ工房。

耳つき生地に仕上げられる織機はリネンクロスに最適。

生地は全て独自に製造や発注をしたオリジナルのもの。

個性的なプリントは全て自社で手掛けています。

山梨県富士吉田市似た者夫婦ならではの、気負わない等身大のものづくり。

着心地の良さ、使い勝手に定評のある『R&D.M.Co-』のアイテムですが、そのデザイン性も注目の的。「コンセプトは、トラディショナルでしょうか。私たちはふたりとも、もともとヨーロッパの古いものが好きで、アンティークに見られる古いモチーフの柄や、古き良き昔の風景などからインスピレーションを得ることが多いです」ととく氏。祐次氏も「ヨーロッパのトラディショナルをベースに、自分たちのアイデアや今の空気感を加えているというか。どこか懐かしさを感じられたり、古いモチーフだけど今見てもかわいらしいと思えたりするものからヒントを得て創作しています」と語ります。年に2回はヨーロッパに出向き、あても無く街を散策することで、さまざまなものから刺激を受けているそうです。

そんなしむら夫婦の間では昔から特に役割分担はなく、いつもふたりで企画やデザインを考えているとのこと。「旅に出た時だけではなく、日常的に気になったものを頭の中の引き出しに入れておいて、必要な時に取り出していますね。今度は何を作ろうか? となった時に、『前に見たあれが良いんじゃない?』『あぁ、良いね!』と、掘り出すような感じで思い起こして。やっぱり、四六時中ずっと一緒にいて同じものを見たり感じたりしていると、好きなものだったり、良いなと感じる感覚ってどんどん似てくるものです」と祐次氏。とく氏も「普段から、何か目に留まれば、あの柄や配色は良いねとか、このデザインかわいいねなどと話していて、それが自然にストックされていくというか。だから、次のシーズンに向けて新作を、となった時にも、改まって打ち合わせをするようなこともありません(笑)。テーマも何もないし、日々の延長で、ふたりが好きなもの、作りたいものを作っているだけです」と話します。

常日頃から同じ感度のアンテナを張り巡らし、日常会話がそのままミーティングになってしまうようなものづくり、以前に訪れた場所、見聞きしたこと、触れたものが、ある時ふと蘇り形になるようなものづくりは、しむら夫妻ならではのもの。ふと浮かんだアイデアをそのまま口に出して伝えることも多く「書き留めなかったせいで、後から『あれ何だっけ?』『何話したっけ?』ってなることもしょっちゅうですけど」と笑います。ふたりにしか通じない何かが、唯一無二のブランドを作り上げているのです。

好きなもの、かわいいと思うところのツボが一緒というふたり。

旅の道中で見つけて気に入った雑貨も販売しています。

同じく海外で買い付けた素敵なキッチン雑貨も充実。

前世は双子だったのでは?と言うほど似た者同士。

山梨県富士吉田市現状に留まらず、色々な素材を使い、多彩なアイテムを展開していく。

リネン製品から始まった『R&D.M.Co-』も、現在はコットンやシルク、ウールなど、さまざまな素材のアイテムを展開。「そもそもリネンしか使わない!と決めていたわけではないので。それだとどうしても一辺倒になってしまいますし、リネンが中心ではありますが、色々な素材を触ってもらうことで、それぞれの風合いの違いや良さを知ってほしいですね。地元で織られている良い生地は素材にこだわらず使いたいとも思いますし、求める生地が地元で織れないとなれば遠方の工房まで発注することもあります」と祐次氏。

また、2014年からはメンズに特化しテーラーリング要素を取り入れたライン『OLDMAN’S TAILOR』もスタート。ネクタイ作りからスタートした同社のブランドらしく、テーラー概念を落とし込みつつも、今まで培ってきたリネンの技術をベースに、新たなアイテムを生み出しています。
次回の後編では、富士吉田市と織物業の関係性や、この地で育まれた『オールドマンズテーラー』の歴史、地域との関わりについて紹介します。

Data

住所:山梨県富士吉田市下吉田6-18-46 2F・3F MAP
電話:0555-73-8845
営業時間:11㨀~19㨀
定休日:火曜・水曜・木曜

山梨県富士吉田市生まれ。高校卒業後、東京の専門学校へ進学しUターン。ふたりでとく氏の実家の家業であるネクタイ生地作りを手伝い始めたことをきっかけに、2001年に『オールドマンズテーラー』を設立。2004年にはオリジナルブランド『R&D.M.Co-』を立ち上げた。2014年にはアトリエ近くにコンセプトストア『THE DEARGROUND』をオープンし、新ライン『OLDMAN’S TAILOR』も展開。創作の幅を広げている。

豪快な渦潮と美しいアーチ橋を背景に、満開の桜を愛でる。[西海橋公園/長崎県佐世保市]

1955年竣工の西海橋は、当時の固定アーチ橋としては世界で3番目の長さでした。その堂々とした美しい佇まいは今も健在です。

長崎県佐世保市総面積約36.8haの広大な公園。桜と多彩なイベントで楽しい憩いの時間を。

長崎県佐世保市と長崎県西海市にまたがり、入り組んだリアス式海岸により生まれた幅約300mの狭い海峡が生み出す急潮と渦潮が有名な『伊ノ浦瀬戸』(針尾瀬戸)。その海峡を見下ろすように架けられた『西海橋(さいかいばし)』を中心に整備された『西海橋公園』では、春に約1,000本の「ソメイヨシノ」が見られることでも知られています。潮の流れが速くなる春は特に渦潮も大きくなる時季といわれ、日本三大急潮のひとつに数えられるダイナミックな渦潮と、アーチの美しい西海橋、そして満開の桜の共演は、この時季だけの絶景です。

桜が見頃となる3月中旬から4月中旬には「西海橋 春のうず潮まつり」が開催され、屋台や花の苗のプレゼント、ストリートパフォーマンスショーにふれあい動物園など、多彩なイベントを実施。豪快に渦巻く急潮を眺めつつ、満開の桜の下、家族や仲間と一緒に楽しめる催しが、長崎の春を更に盛り上げます。(文中には諸説ある中の一節もございます)

DATA

住所:長崎県佐世保市針尾東町2678 MAP
アクセス:西九州自動車道佐世保大塔ICより車で約20分/西彼杵道路西海パールライン小迎ICより車で約3分/JR九州・松浦鉄道佐世保駅より西肥バス乗車、バス停・西海橋西口もしくは西海橋東口下車、乗車時間約50分、バス停より徒歩すぐ

丸山池を中心に、約4,000本のソメイヨシノが咲き誇る。[甘木公園/福岡県朝倉市]

丸山池の周辺には散策路が整備されており、大きな桜のアーチが迎えてくれます。

福岡県朝倉市丸山池を中心に、約4,000本のソメイヨシノが咲き誇る。

健康文化都市の創造をスローガンに、豊富な水源や文化行事など、魅力溢れる都市計画を進める福岡県朝倉市。その中心部に位置する『甘木公園』は、ほぼ中央に『丸山池』を有することから「丸山公園」とも呼ばれ、近隣住民のオアシスとして親しまれています。県下指折りの桜の名所としても知られ、丸山池のほとりを中心に、約4,000本の「ソメイヨシノ」が植えられており、3月末頃から4月上旬にかけて満開となる園内は、まさに桜の楽園。

丸山池に架かる、朱塗りの欄干が印象的な『昭栄橋』と桜が共演した風景も、雅な風情がありお勧めです。視界を埋め尽くすほどの桜に囲まれながらのお花見はもちろん、芝生広場やバーベキュー広場でアクティブに楽しむのも、心身ともに活動的になる春ならでは。思い思いのお花見がかなうのも、大型都市公園ならではの魅力です。 (文中には諸説ある中の一節もございます)

Data

住所 : 福岡県朝倉市菩提寺79 MAP
アクセス:大分自動車道甘木ICより車で約10分/甘木鉄道甘木線甘木駅または西日本鉄道甘木線西鉄甘木駅より車で約10分

「一麹、二麹、三麹」「寝ても覚めても麹」。本醸造酒を味わい、身に染みる農口尚彦氏の言葉。[農口尚彦研究所/石川県小松市]

2月上旬、取材班が『農口尚彦研究所』へ足を運ぶべく、羽田空港へと向かう朝に嫌なニュースが飛び込んできました。搭乗を予定していた飛行機が降雪のため欠航となったのです。となれば、スケジュールを組み直す必要が出てきました。しかし、取材班には、どうしてもこの日に小松へと向かわなければいけない理由がありました。 というのも、この日は『農口尚彦研究所』で醸された山廃吟醸酒が搾られる予定日だったのです。前回の...

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里山の景色を眺め、そして五感で楽しむ、日本酒の極みがここに。[農口尚彦研究所/石川県小松市]

取材班が『農口尚彦研究所』を訪れた2月上旬。酒造りの仕込みが最盛期を迎え、農口尚彦氏と7人の蔵人が慌ただしく酒蔵を駆け巡る傍らで、研究所に併設された『杜庵(とうあん)』でも3月のグランドオープンに向けた準備が着々と進められていました。 ここ『杜庵(とうあん)』は、『農口尚彦研究所』のテイスティングルームという位置づけ。しかし、それだけではなく、農口氏という杜氏(とうじ)の歴史や、農口氏の生き様を...

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咲き誇る桜と菜の花に青い空。豊かな色彩のコントラストで魅了する。[西都原古墳群 御陵墓前広場/宮崎県西都市]

総面積約68.5haの中に311基の古墳が点在する『西都原古墳群』は、古墳時代前期に造られたと思われる「柄鏡形類型」の前方後円墳や、ほぼ同時期に形成されたとみられる「前方後円墳」など、特徴的な古墳を数多く有し、日本で初めて本格的な学術調査が行われた地としても知られています。中でも古墳群の西側に位置する「男狭穂塚(おさほづか)」、「女狭穂塚(めさほづか)」は中心的な存在であり、その周辺に整備された「...

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やんばるの地を見守る城跡を背景に、南国の太陽に照らされた桜が輝く。[今帰仁城跡/沖縄県国頭郡]

春の息吹を引き連れて、季節の歩みとともに北上する桜前線が、沖縄に限っては南下する、ということをご存知でしょうか。桜の開花には一定の寒さが必要となるためで、南北約100kmと縦に長い沖縄では、高緯度の北部が南部よりも早く気温が下がり、桜の休眠打破を引き起こすから、とされています。沖縄で主に見られるのは、濃い桃色の花弁が下向きに咲く「カンヒザクラ」で、「ソメイヨシノ」の休眠打破が5℃前後なのに対し、カ...

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薄紅色や淡黄色、緑色など、色とりどりのヤエザクラが埋め尽くす「桜の雲海」。[不動尊一心寺/大分県大分市]

色とりどりの「ヤエザクラ」に埋め尽くされる春の『不動尊一心寺』は、山あいの谷間に位置し、高台の参道から敷地を望むとまるで「桜の雲海」のように見えることから、その絶景を求め、毎年多くの人が訪れます。初代住職が病気がちな奥様の快気を願い植樹したのが始まりとされ、そんな温かな思いを体現するかのように、境内には可憐な「関山(かんざん)」や大輪の「普賢象(ふげんぞう)」、薄紅色が美しい「紅豊(べにゆたか)」...

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県のシンボル『桜島』を背景に、多彩な桜が次々に開花。[吉野公園/鹿児島県鹿児島市]

鹿児島市の中心部より約8km、県のシンボル『桜島』を望む標高234mの高台に位置し、『鹿児島湾(錦江湾 きんこうわん)』を眼下に、爽快な景色が広がる『吉野公園』。県民の憩いの場所として1970年に開園し、1989年には「都市公園100選」のひとつに選定されました。約30haにも及ぶ広大な芝生の敷地には、約140種、7万本以上の花木が植えられ、四季折々、様々な植物が咲き誇ります。 桜も例外でなく、...

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心に浸透する理屈を超えた場所。究極の聖域、鎮守の森。[櫛山古墳・崇神天皇陵/奈良県天理市]

奈良県の北西部に位置する奈良盆地は、「大和盆地」「大和平野」とも呼ばれています。「大和平野」は大和政権が築かれた地であり、日本国誕生のベースとなった場所。仏教や神道、寺社などが集まっており、様々な伝説も残っています。日本国内には各地に何千何万という古墳があり、規模が大きなものは主に九州、四国、大阪、そしてこの「大和平野」に数多く点在しています。大阪府堺市にある世界一大きな古墳「仁徳天皇陵古墳」もそ...

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古い建物を守るのは、街の熱意とコミュニティだ。[箱バル不動産/北海道函館市]

あるホームページを見るとこんな文言が書かれています。「来々軒・歴史的街並みの後継者求ム」「海の見える丘」「裏山は函館山」。いったいこれは何?と思いきや、なんと不動産物件の紹介! 運営しているのは『箱バル不動産』という会社。一見、遊びのように思えてしまいますが、函館市西部地区の歴史ある建物を保存し活用しようと、真剣に取り組んでいる合同会社です。 『箱バル不動産』は、宅建士の資格を持つ代表の蒲生寛之...

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惚れ込んで惚れ抜いた近江牛の美味しさを伝えるため、全身全霊をかけて肉を焼く。[le 14e/京都府京都市]

今でこそ、「肉ビストロ」といったジャンルが確立されつつありますが、数年前までは、「肉」に執着したビストロは東京にもほとんど存在しませんでした。ところが2010年頃から、「六本木にやたらと旨い肉を食わせる店がある」と、口コミで評判の店が現れました。その名は『祥瑞(しょんずい)』。 ナチュラルワイン業界で「ドン」と呼ばれる、勝山晋作氏が営むビストロです。当時すでに、ワイン愛好家の間で『祥瑞(しょんず...

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肉を生かすも殺すも秒単位。『le 14e』のステーキは、木下牛との出会いから始まった。[le 14e/京都府京都市]

『le 14e(ル・キャトーズィエム)』で供される料理は、ステーキの他はごくわずか。サラダ、チーズ、それ以外は2、3品の「ステーキ以外の肉料理」がある程度です。なんとも直球な「肉ビストロ」、迷いがありません。しかしその真の理由は、迷いがないからではなく、「肉を焼くことで一杯いっぱいだから」と茂野眞氏は言います。 かつての六本木『祥瑞(しょんずい)』時代は、肉はもちろんですが、魚や野菜料理、ケーク...

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京都で出合い、つながったかけがえのない財産を、掛け値なしに伝える。[le 14e/京都府京都市]

今回の取材では、茂野 眞氏が運命的な出合いと感じている『木下牛』を育てている生産者、滋賀県・近江八幡の『木下牧場』にも足を運びました。 『木下牧場』は家族経営の飼育農家で、近江牛を育てています。しかしそれは、いわゆる一般的なイメージの最高級A5ランクの霜降り肉とはかけ離れた、牛1頭1頭の個性や性格に合わせて育てられた牛なのです。与える飼料も自分たちで配合し、牧草も牧場内で育てて、乾燥・発酵を行っ...

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心に描くフランスを京都に感じ、呼び寄せられるように今の地へ。[le 14e/京都府京都市]

京都・河原町丸太町の交差点からすぐの所に位置する『le 14e(ル・キャトーズィエム)』。河原町通りに面した建物の2階にある店舗には、大きな半円形のくり抜き窓があり、そこから漏れるオレンジ色の光が、とても温かいのです。店内ではほとんど見えないのですが、表通りから見上げると、左の壁に自転車が架けられているのがわかります。それは茂野 眞氏愛用の自転車で、普段はロードバイクが中心だそうです。 けれど取...

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ゲストも、生産者も、働く人も大事に。[島宿真里/香川県小豆郡]

美味しい料理と、極上のリラクゼーション。絶景、あたたかなもてなし。宿を訪れた人が期待どおりのサービスと満足感を得られるのは、今はどこでも当たり前かもしれません。しかし、多くの宿の中で、本当に自分の心に沁みるような安らぎを得られる体験はいくつあるでしょう。「一度泊まればいいか」と思う宿と、「また泊まりたい」と思って再訪したくなる宿。その違いは、やはり「人」にあるのかもしれません。今回ご紹介する『島宿...

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世界に誇れるジャパニーズウイスキーを造る。[厚岸蒸溜所/北海道厚岸郡]

NHK朝の連続テレビ小説やハイボール人気などの影響を受け、近年、日本ではウイスキーブームが巻き起こっています。そんな中、かねてより国産ウイスキーの輸出を行っていた堅展実業(けんてんじつぎょう)が、自ら本格的な国産ウイスキー造りに取り組むべく、北海道の南東部に新たな拠点を設けました。 その名は『厚岸蒸溜所(あっけしじょうりゅうしょ)』。「ウイスキーの聖地」として名高いスコットランドのアイラ島に似た...

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十人の才人の心と技が創り出す、十のおもてなしを提供。[四季十楽/京都府京都市]

京都御所の西に位置する閑静な住宅街に、十軒の町家がゆるやかに連なりながら佇んでいる光景があります。築100年もの時を経た町家を、それぞれの良さを引き継ぎながらリノベーションした一群。京町家ホテル『四季十楽』と名づけられ、町家泊の新しい粋と楽しみを提供しています。   十軒は、それぞれが独立した建物となっており、「1棟貸し」の形式で宿泊することができます。全棟2階建ての広々とした空間を占有...

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景勝地であり霊場。象牙色の奇岩に様々な仏様の姿を重ねる。[仏ヶ浦/青森県下北郡]

『恐山(おそれざん)霊場』を中心に、古くより信仰の厚い地域として知られる『下北半島』にあって、まるで様々な仏様が鎮座しているように見えることから名づけられたという『仏ヶ浦』。恐山から見て浄土の方角とされる西に位置し、周辺地域は陸路での到達が難しい陸の孤島であったことから、現世と極楽浄土が交差する場所とされ、地元の人々を中心に信仰の対象となりました。津軽海峡の荒波によって削られ、形成された奇岩の数々...

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朽ちながらもなお凛と立ち、湖の中に沈んでは現れる「幻の橋」。[タウシュベツ川橋梁/北海道河東郡]

1939年、『日本国有鉄道士幌線』開通の際、十勝地方を流れる『音更(おとふけ)川』の支流である『タウシュベツ川』に架けられた『タウシュベツ川橋梁』は、近辺に『糠平(ぬかびら)ダム』及びその貯水湖である『糠平湖(ぬかびらこ)』が造成されるまで、16年にわたり利用されました。その後、撤去されずに残され、湖の水位によって沈んだり、現れたりを繰り返しながら、周囲を取り囲む大原生林がもたらす深緑の景色ととも...

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夏を先取り!大花火と音楽のイリュージョン![琉球海炎祭/沖縄県宜野湾市]

日本列島を桜前線が北上している真っ只中であり、まだ多少の肌寒さを感じる4月中旬、沖縄県宜野湾市にある宜野湾トロピカルビーチで「日本で一番早い夏の大花火 10,000発の花火と音楽のコラボレーション」として開催されるのが琉球海炎祭です。4月ではありますがこの時期の沖縄県は既に夏の雰囲気が漂い潮風も心地よく、日中は半袖でも快適に過ごすことが出来ます。 しかしながら花火はビーチで開催されるため、花火が...

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日本の中心から、全国そして世界へ広がる播州織の未来。[tamaki niime/兵庫県西脇市]

神戸から電車で約1時間半、北播磨地域に位置する兵庫県西脇市。その静かな山間に、地場産業である播州織の手法を使い、独自の作品を生み出しているブランド『tamaki niime』のShop&Labがあります。後編では、デザイナー兼代表の玉木新雌(たまきにいめ)氏が思う西脇市や播州織の歴史と魅力、地域との関わりについて話してもらいました。『tamaki niime』の拠点があるのは、兵庫県中央部...

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蒸留家への転身。これは僕ひとりのプロジェクトではなく、家族のプロジェクト。[mitosaya 薬草蒸留所/千葉県夷隅郡]

日本のブックカルチャーを形成したともいえる名店、『UTRECHT(ユトレヒト)』を経て、現在は蒸留家を目指す江口氏。その活動の拠点は、千葉県大多喜町に位置する『千葉県立薬草園』。 「元」とつけたのは、2015年にその役目を終え、閉園を迎えているからです。江口氏は、この場所を2017年に引き継ぎ、果樹や植物を原料に用いたボタニカルブランデーを造るため、現在『mitosaya 薬草蒸留所』を設立中。...

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書店主から蒸留家を目指す、人生の挑戦。その1本ができるまでを完全密着。[mitosaya 薬草蒸留所/千葉県夷隅郡]

今(2018年)から遡ること16年。 現在のように個性的で小さな本屋がまだなかった時代に誕生したブックストアがあります。 それが『UTRECHT(ユトレヒト)』です。 オンラインショップから始まり、代官山に店舗をオープン。その後、中目黒に場所を移し、予約制の本屋というスタイルを経て、2014年、現在の渋谷に。 時代と呼応しながら着々と成長する『UTRECHT』を手がけていたのは、今回の主人公、...

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雪国に伝わる小正月行事「かまくら」。美しい民俗文化を現代に受け継ぐ。[横手のかまくら/秋田県横手市]

雪が積もれば外に出て思わず作ってしまう、なぜか心を引きつける不思議な魅力を持つ「かまくら」。その起源は秋田県や新潟県といった雪深い地域の小正月行事といわれ、地域ごとに雪室を作り、子供の無事や成長を祈って鎌倉大明神を祀り、良い水に恵まれるようにと水神様に祈る神事や、子供たちによる雪遊びなどが混ざり合いながら、受け継がれてきました。中でも約450年の歴史を持つという秋田県南部の横手市では、現在は観光事...

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奇岩に甌穴、絶壁に滝。様々な自然美を凝縮した厳冬の渓谷。[厳美渓(げんびけい)/岩手県一関市]

岩手、宮城、秋田の3県にまたがる『栗駒山』を水源とする『磐井川』の中流、約2kmの間にあらゆる自然美が凝縮された『厳美渓(げんびけい)』は、栗駒山の噴火により堆積した凝灰岩が川の流れで浸食され、長い時間をかけて形成された奇岩や絶壁、滝が壮観な景色を生み出しています。四季折々で色調を変える渓谷は、かつてこの地を治めた伊達政宗の審美眼にもかない、「松島と厳美がわが領地の二大景勝地」としてたびたび足を運...

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大群に希少種まで、多彩な渡り鳥が集結するバードウォッチングの聖地。[伊豆沼/宮城県栗原市]

東北の比較的南側に位置し、冬季でも降雪量が少なく全面凍結しない『伊豆沼』は、最大深度が1.4mと浅く、多彩な植物や魚、昆虫が生息する豊かな自然環境にあり、時に2万から3万羽の水鳥の大群が繁殖と越冬のために集結します。面積は東北地方最大となる約387ha、国内で一、二を争う渡り鳥の飛来地であり、1967年には「国の天然記念物」に、1985年には隣接する『内沼』と合わせて、国際的に重要な湿地を保全する...

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他に類を見ない独自のデザインで、播州織に新風を吹き込む。[tamaki niime/兵庫県西脇市]

神戸から電車で約1時間半、北播磨地域に位置する兵庫県西脇市。その静かな山間に、地場産業である播州織の手法を使い、独自の作品を生み出しているブランド『tamaki niime』のShop & Labがあります。前編では、デザイナー兼代表の玉木新雌(たまきにいめ)氏に、ブランド立ち上げの経緯やオリジナルのもの作りについて話を聞きました。もとは播州織の染工場だった建物をリノベーションし、2016...

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日本屈指の圧倒的なスケール。高さ120mの滝が凍りつく「氷瀑」。[袋田の滝/茨城県久慈郡]

高さ120m、幅73mの大きさを誇り、「日本三名瀑」のひとつに数えられる『袋田の滝』。別名「四度(よど)の滝」とも呼ばれ、その由来は4段の岩壁を有することからとも、平安時代の歌僧・西行法師が「この滝は四季に一度ずつ来てみなければ真の風趣は味わえない」とその素晴らしさを称えたことからともいわれています。 その圧巻の風景に、西行法師をはじめ、徳川光圀や徳川斉昭(なりあき)といった常陸国水戸藩に縁の深...

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美しく、力強く。山々の間を縫うように進むローカル鉄道。[JR只見線 第一只見川橋梁/福島県大沼郡]

福島県、新潟県、群馬県の3県にまたがる高地『尾瀬』を源流とする阿賀野川水系最大の支流、『只見川(ただみがわ)』に沿うように、福島県の会津若松から新潟県の小出まで、約135kmの距離を結ぶローカル鉄道『JR只見線』。 奥会津の自然と人工物の共演が織り成す景色は素晴らしく、鉄道ファンのみならず多くの観光客が訪れています。山々の豊かな自然を車窓から眺めるのも良いのですが、少し遠くから望む鉄道風景もまた...

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木々に滝、不動堂。純白に包まれた山々を裂くように流れる最上川を行く。[最上峡/山形県最上郡]

古くより農業用水や交通路として活用され、暮らしに欠かせない「母なる川」として地域の人々に親しまれてきた『最上川』。流域面積は7,040k㎡、山形県の面積の約76%を占めるといわれ、『吾妻山』付近の源流から『日本海』へと流れ出る河口まで、約229kmにわたる流域には、豊潤な水の恵みがもたらす、多彩な自然の姿を見ることができます。 中でも中流に位置する『最上峡』は特に美しく、桜、新緑、紅葉、雪と、春...

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次元の違う役者ぶりで歌舞伎を凌ぐ、下町の大衆演劇。[浪速クラブ/大阪府大阪市]

大阪府大阪市の南に位置する「新世界」は、シンボルである「通天閣」に串カツ屋、どて焼き屋、囲碁将棋クラブなどが軒を連ねる「ジャンジャン横丁」で有名な繁華街です。活気溢れる下町には大衆演劇の劇場が3つほどあります。その中でも、私が頻繁に足を運ぶのが『浪速クラブ』。「日本一、粗末な建物で」「日本一、安い入場料で」「日本一、入場者が多く」「出演する役者の熱心な芸が当館の誇りである」と謳う、いかにも大阪らし...

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次元の違う役者ぶりで歌舞伎を凌ぐ、下町の大衆演劇。[浪速クラブ/大阪府大阪市]

大阪府大阪市の南に位置する「新世界」は、シンボルである「通天閣」に串カツ屋、どて焼き屋、囲碁将棋クラブなどが軒を連ねる「ジャンジャン横丁」で有名な繁華街です。活気溢れる下町には大衆演劇の劇場が3つほどあります。その中でも、私が頻繁に足を運ぶのが『浪速クラブ』。「日本一、粗末な建物で」「日本一、安い入場料で」「日本一、入場者が多く」「出演する役者の熱心な芸が当館の誇りである」と謳う、いかにも大阪らし...

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125年続く醸酢所の5代目が、食の未来アカデミアに登壇! 自身の経験を伝えることで、届けたい思いとは?[食の未来アカデミア/東京都港区]

参加者同士の意見交換を通して、新たな食の潮流を創出する。食を通して、世の中を、未来をより良くするために――そんな壮大なミッションを掲げて誕生した『食の未来アカデミア』。毎回のセッションにはゲストスピーカーとして、食品業界に足跡を残す起業家や食品業界のリーダーが登場します。 ▶『食の未来アカデミア」についてはこちら。 そして2018年度のセッションに、京都丹後の醸酢所『富士酢 飯尾醸造』5代目当主...

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極上の京都を知る旅の、始まり。[ART MON ZEN KYOTO/京都府京都市]

瀟洒(しょうしゃ)なガラス張りのエントランスを入るとシンプルなフロントデスク。その背後には大胆な水墨画。客室は15室と少なめで、なんと全ての部屋に本物の美術品が設えられています。まるでここは、美術館。『ART MON ZEN KYOTO(アート モン ゼン キョウト)』は京都の老舗美術商「中西松豊軒」が手がけた、まさに「美術館にいるような気分を味わえるホテル」なのです。 スタイリッシュながら緑を取...

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お茶の楽しみ方を伝えるプラットフォームづくりに向けての、新たなる試み。[幻幻庵/東京都渋谷区]

『幻幻庵』があるのは、様々なファッションや音楽のムーブメントを形成してきた渋谷区宇田川町の一角。店内はコンクリートやレンガタイル、そして壁一面のカセットテープに囲まれ、レトロなラジカセからはブラックミュージックなどが流れています。そんなストリートカルチャー然とした空間ながら、ここは茶葉の販売店。2017年4月のオープンから、煎茶やほうじ茶を頂けるティースタンドとしてだけでなく、道具の使い方、抽出の...

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ホテルから、旅の目的となるオーベルジュを目指して…。[オテル グレージュ/福岡県宗像市]

結論からいえば、2日間滞在した『オテル グレージュ』の取材では、晴れ間が出ることはありませんでした。だからといって、今回の取材が失敗だったかといえばそうではありません。そう思わせてくれた大きな要因は、ホテル内にあるレストラン『ロルキデ・ブランシュ』の存在でした。 『ロルキデ・ブランシュ』のシェフを務める兵頭賢馬氏は、シャンパーニュの3つ星レストランなどで研鑽(けんさん)を積んだ実力派。そればかり...

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雲の隙間から届く僅かな陽射しに、サントリーニ島の片鱗を見せる。[オテル グレージュ/福岡県宗像市]

『オテル グレージュ』があるのは福岡県宗像(むなかた)市の西岸。といっても、地理的にピンとこない人も多いかもしれません。宗像(むなかた)市は福岡市の北東、北九州市から見れば西に位置し、2017年の夏には世界遺産にも認定された「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」でも注目を集めるエリア。『オテル グレージュ』はその西端、玄界灘に臨む勝浦浜沿いの小高い丘の上にあります。 福岡空港からは車で50分ほ...

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玄界灘に臨む白亜の館。その風景はまるでエーゲ海のサントリーニ島。[オテル グレージュ/福岡県宗像市]

「日本の地中海」というと、瀬戸内海のイメージが強いでしょう。しかし、「日本の地中海」は、ここ福岡県宗像(むなかた)市にもあったのです。紺碧の海に、白亜の館、美しいブルーのグラデーションを描く空。あまりに安易な表現ではありますが、そこに広がっていたのはまさしく地中海のサントリーニ島を彷彿とさせるものでした……。 福岡空港から車を走らせ、1時間ほど。国道495号から脇道へ...

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髪の毛1本落とさない。世界的デザイナー&ブランドによる美しき空間。[オテル グレージュ/福岡県宗像市]

オーナーが玄界灘に臨むロケーションに一目惚れして造り上げたホテルだからこそ、『オテル グレージュ』は建物自体の美しさも追求しました。その要となるのがホテルのプロデュース。手がけたのは、1993年にブランドを設立し、「ニューミニマリズム」という独自の世界観を発信した、世界的なインテリアデザイナーのカトリーヌ・メミ氏です。実は彼女が日本のホテルをプロデュースするのは、ここが初めてのことで、「開業当初は...

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常に変化し続ける天然の造形。厳冬の奥秩父で創造されるダイナミックな氷柱。[三十槌の氷柱/埼玉県秩父市]

秩父市の中心市街地より南へ約23km、大滝地域を流れる『荒川』沿いで冬季に見られる『三十槌の氷柱(みそつちのつらら)』は、厳しい寒さに見舞われる奥秩父ならではの冬の風物詩として知られています。一般的な氷柱が建物の軒下や岩場などから伸びて形成されるものであるのに対し、三十槌の氷柱は山の斜面から染み出した清水が少しずつ、時間をかけて形成されていきます。 その大きさは最大で幅約50m、高さ約10mにも...

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氷結した湖面に現れる流麗な波模様。静寂と神秘に包まれた奥日光の秘境。[湯の湖/栃木県日光市]

流麗な波模様や縞模様。氷結した湖面に現れる、水墨画のような世界。神秘的なスポットが数多く存在する奥日光にあって、周囲を山々に囲まれ、凛とした風情を見せる『湯の湖』の冬は、厳しくも美しい、自然の芸術と呼ぶにふさわしい情緒を湛えています。 『日光連山』のひとつ、『三岳』の噴火により『湯川』がせき止められてできた周囲約3kmの湖で、『日光白根山』から流れる水や、湖の北側に位置する日光湯元温泉から流れ込...

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双耳峰の稜線に断崖絶壁。山の厳しさと楽しさ、両方を持ち合わせる。[谷川岳/群馬県利根郡]

群馬県と新潟県の県境にまたがる『三国山脈』の中でも、とりわけ開発整備が進み、登山などが盛んな『谷川岳』。山頂部がふたつあり、それがまるで猫の耳のように見える双耳峰(そうじほう)であることから、それぞれ『トマの耳』、『オキの耳』と呼ばれています。標高はともに2,000m弱であるものの、局地気象や峻険な岩壁、複雑な地形を有する難所として知られ、よほどの上級者でない限りは、山麓から中腹までの約2,400...

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カラフルな熱気球と花火の競演が冬の夜空を彩る。[おぢや風船一揆/新潟県小千谷市]

毎年2月下旬の2日間、新潟県小千谷市で開催される『白と光の祭典 おぢや風船一揆』は、一揆という言葉とは裏腹に優雅で美しいお祭りです。ここでいう風船とは熱気球のことです。大空を優雅に飛ぶ色とりどりの熱気球は青空に美しく映えます。このお祭りは「日本海カップクロスカントリー選手権」の競技大会として行われ、主催者の熱気球が先に飛び立ち、その熱気球を追いかけて他の熱気球も飛び立って、設置されている目標物に上...

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産地全体を客観視することで町に必要なことが見えてくる。[NOTA&design/滋賀県甲賀市]

日本六古窯のひとつとして知られる信楽焼の故郷であり、滋賀県の最南端に位置する甲賀市信楽町。 『NOTA_SHOP』は、陶器のデザインから製作、販売まで行う『NOTA&design』が2017年夏にオープンさせた、新しいスタイルのショップです。後編ではこの地で生まれたオーナーの加藤駿介氏が考える、信楽町や信楽焼についての課題やこれからのことについてお話しして頂きました。信楽焼の産地は、10...

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「日本で一番夕日が綺麗な小学校」を酒蔵として再生。[学校蔵/新潟県佐渡市]

年々進む少子化と過疎化。それに伴って、全国各地で廃校となる学校も増えています。「多くの想い出が詰まった懐かしい学び舎を残したい」「味わい深い建物とロケーションを生かしたい」といった想いから、そうした廃校の活用を目指した様々なプロジェクトが立ち上がっていますが、その中でも特に斬新な取り組みが新潟県の佐渡島で行われています。 『学校蔵』。シンプルかつ端的なネーミングですが、郷愁とともに「どんなことが...

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人が流れ、縦横無尽に交わる水路のような場所を目指して。[萩ゲストハウスruco/山口県萩市]

江戸時代に長州藩の拠点として栄え、毛利氏が治める城下町として名をはせていた萩。古い歴史と萩焼に代表される雅な茶文化などが注目されがちですが、実際に街を歩くことで初めて見えてくる情緒ある風景や、今の萩に生きる人々が織り成すストーリーも見逃せません。 そんな知られざる萩の魅力を広く知ってもらいたい。萩の街中を縦横無尽に流れる水路のように、訪れる人と萩の日常とをつなぐ場所にしたい――そんな願いを込めて...

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シーズン中1,000羽近くが飛来。人と白鳥の交流が花開く田園の冬。[白鳥の郷/千葉県印西市]

青い空に真っ白の羽を翻し、優美に飛び立つ野生の白鳥に出会えるという『白鳥の郷』、その場所は、自然に囲まれ、のどかな景色が広がる千葉県印西(いんざい)市、旧本埜(もとの)村にあります。舞台は湖、ではなくなんと水田! その始まりは偶然だったといい、1994年、農業用排水路の工事のために一時的に水を溜めていたところ数羽の白鳥が舞い降りました。それを見た近隣住民の鳥獣保護員、出山光男氏による手厚い餌づけ...

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豊潤なカルデラ湖に富士の山。澄みきった空気に映える雪化粧。[芦ノ湖/神奈川県足柄下郡]

今から約3100年前、箱根山の最高峰『神山(かみやま)』の水蒸気爆発により、崩れた土石流が川をせき止めたことで誕生したといわれている『芦ノ湖』。火山の中にできたカルデラ湖であり、主な水源である雨水を豊富に湛えた湖は、古くは鎌倉時代中期にその存在が記録されており、近代では1966年、芦ノ湖温泉の開業に伴い、『富士山』を望む湖の景観と、避暑地としての魅力が相まって、関東を代表する観光地となりました。湖...

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神々が集いし島の天上に輝く、冬の星座と天の川。[神津島/東京都神津島村]

都心から南へ約180km、伊豆諸島のほぼ中間部に位置する『神津島(こうづしま)』は、美しい海に白い砂浜、四季の花々に野草など、様々な自然に囲まれ、年間を通じて比較的温暖なことから、東京随一の楽園として知られている場所です。神話の世界では神々が集まる島として創られたとされ、社寺や霊場といったパワースポットも多く点在しています。また島の中央にそびえ、標高572mながらも日本アルプスのように豊かな表情を...

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陶器だけにとらわれないもの作りの町としての可能性を探る。[NOTA&design/滋賀県甲賀市]

日本六古窯のひとつとして知られる信楽焼の故郷であり、滋賀県の最南端に位置する甲賀市信楽町。 『NOTA_SHOP』は、陶器のデザインから製作、販売までを行う『NOTA&design』が2017年夏にオープンさせた、新しいスタイルのショップです。前編ではこの地で生まれたオーナーの加藤駿介氏に、『NOTA&design』で取り組んでいることを中心にお話をうかがってきました。2両編成の信...

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食材、料理人、工芸が三位一体となったローカルガストロノミー。[Restaurant UOZEN/新潟県三条市]

「三条にいらっしゃるなら、どうしてもお連れしたい所があります」 『UOZEN』に取材を依頼すると、井上氏はそう言っていくつかの場所を紹介してくれました。三条は、古く江戸時代からものづくりが根付いている地域。刃物をはじめとする調理器具や器など、昔ながらの技法で作られる暮らしの道具が数多くあります。ここ数年、「クラフト」をキーワードに、伝統工芸が見直され、新進の作家の作品が脚光を浴びる流れが顕著です...

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狩猟の世界から広げ、深めた、地元食材への探求。[Restaurant UOZEN/新潟県三条市]

「昨日まで50cm以上の雪が積もっていたのですが、昨日今日の暖かさで一気に雪が解けてしまいました。まあ、相手は自然ですから。“予測”はたいして意味をなさないんですよね」。 井上和洋氏はそう話します。取材の初日、日中は15℃を超えるポカポカ陽気で、12月としては異例の暖かさ。念には念をと防寒の限りを尽くして来た取材班は、うっすら汗ばむほどの気候でした。その前日まで、やはり「...

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東京で支持された「ヘルシー志向」から、三条で、真に地に根ざす味へ。[Restaurant UOZEN/新潟県三条市]

新潟県のほぼ真ん中、越後平野に位置する三条市。県内ではさほど雪の多くないエリアで、積雪量は多い時期で50cm程度。幹線道路の脇に大手資本のスーパーや全国チェーンの飲食店が並ぶ様子は、どこにでもある地方都市の風景です。『Restaurant UOZEN』があるのは、市街地からやや外れた田園地帯のただ中。雪解け水をたたえた田んぼの中に浮かび上がる店構えは、「レストラン」のイメージからは遠い、純和風の建...

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LOHASブームの東京から新潟・三条市へ。海から、大地から掴み取った味を届ける[Restaurant UOZEN/新潟県三条市]

「顔が見える生産者が育てる野菜で作る料理」「野菜がたっぷりの身体に重くないフレンチ」。今のグルメシーンではスタンダードになりつつあるヘルスコンシャスな料理を10年以上前から提唱し話題を集めた池尻大橋『HOKU』。ところが開店から7年目、人気絶頂のさなかに突如、店を閉め、東京から姿を消してしまいます。 オーナーシェフ・井上和洋氏がたどりついた新天地が、新潟県三条市。2013年にオープンした『Res...

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漁港の守り神として信仰されてきた、藍色の海に浮かぶ神の島。[唐島/富山県氷見市]

深さ1,000mもの海底谷による藍色の海が、地元では「藍瓶(あいがめ)」とも呼ばれる『富山湾』。その西側に位置する『氷見漁港』は、能登半島からの暖流と深海の寒流が混ざり合う好漁場として、富山県の水産業の一翼を担っています。その沖合約300mにあり、古くより氷見漁港の守り神として信仰されてきたのが『唐島』です。氷見市内にある『曹洞宗光禅寺』の創建者、素哲禅師が、この地に居ながら唐(中国)・経山の大火...

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堂々たる松の枝ぶりを守るための叡智。「雪吊り」が告げる北陸の冬。[兼六園/石川県金沢市]

「加賀百万石」と称され、戦国時代から江戸時代にかけて栄華を極めた加賀藩。その5代藩主、前田綱紀(つなのり)により作庭が始められたとされる『兼六園』は、その後歴代藩主によって拡張、造成を重ね、13代藩主前田斉泰(なりやす)により、1851年に完成したとされています。指定面積は100,740㎡、「廻遊式」の要素を取り入れ、複数の池にそれらを結ぶ曲水、掘り出した土で築いた山、植栽された樹木の数々、これら...

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山間に広がる棚田の冬。粛々と春の訪れを待つ大地の「静」の姿。[十日町の棚田/新潟県十日町市]

山々の間に階段状に作られた水田「棚田」が、国内有数の規模で点在する新潟県十日町市。豊かな自然が織り成す美しい景観が受け継がれていることから「にほんの里100選」にも選ばれ、安らぎを感じる風景が多くの人々に愛されています。現在市内には12ヵ所の棚田があり、大きさや眺望も様々ですが、中でも約200枚の棚田が魚の鱗のように山の斜面に広がる『星峠(ほしとうげ)の棚田』は、2009年に放送された大河ドラマの...

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雪原が鮮やかな花火色に輝く。[昭和村ウインターフェスティバル/群馬県利根郡]

日本で最も美しい村連合に加盟している群馬県利根郡昭和村の「長者の原 結婚の森」で毎年2月に開催されているのが昭和村ウインターフェスティバルです。テーマは「子供たちに夢と思い出を」。村のお父さんたち(昭和に花火を上げる会)が中心となって運営しています。昨年(2017年)より会場を移し、よりワイド感のある花火が打ち上げられるようになりました。打ち上げを担当されているのは地元群馬県の上州花火工房(有限会...

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サトウキビの常識を超え、市場に切り込んだ男。[オルタナティブファーム宮古/沖縄県宮古島市]

沖縄と奄美群島を中心に栽培されている「サトウキビ」。黒砂糖や黒蜜の原料として使われることが多いサトウキビですが、「野菜などと同じ生鮮食品」であるということはあまり意識されていないかもしれません。今回ご紹介する『オルタナティブファーム宮古』では、サトウキビを私たちと同じ「生き物」と考え、なるべくあるがままの自然の環境を整え、いっさいの農薬・化学肥料を使わず、厳しく、優しく、丁寧に育てています。そうし...

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花街の伝統的文化財が草間彌生の「水玉模様」で彩られる。[フォーエバー現代美術館 祗園京都/京都府京都市]

京都の花街・祇園の『花見小路』。春の『都をどり』の時季には芸舞妓さんの華やかな色香に包まれる『祗園甲部歌舞練場』。そこに、突如あの“カボチャ”が現れました。誰もがよく知っている、黄色に黒の斑点が浮かぶ草間彌生氏の作品『南瓜』です。思わず二度見してしまう人もいるほどです。しかし、この『祗園甲部歌舞練場』内の建物に入ったあなたは、よりファンタスティックな「水玉模様」の世界に引き...

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食べたら島に行きたくなる、豆腐屋のバターとは。 [山下商店/鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市]

鹿児島県の甑島。今まであまりメディアに取り上げられることのなかった小さな島が、最近全国的に名前を知られるようになりました。そのきっかけを作っているのが「東シナ海の小さな島ブランド株式会社」という会社。事業内容は、豆腐屋だったり、農業だったり、民宿だったり……。知れば知るほど興味深く、魅力的な活動を行っている会社の代表・山下賢太氏に話を聞いてみました。後編では、一度は食べ...

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食べたら島に行きたくなる、豆腐屋のバターとは。 [山下商店/鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市]

鹿児島県の甑島。今まであまりメディアに取り上げられることのなかった小さな島が、最近全国的に名前を知られるようになりました。そのきっかけを作っているのが「東シナ海の小さな島ブランド株式会社」という会社。事業内容は、豆腐屋だったり、農業だったり、民宿だったり……。知れば知るほど興味深く、魅力的な活動を行っている会社の代表・山下賢太氏に話を聞いてみました。後編では、一度は食べ...

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この島の日常は、未来へつながる「財産」だ。[山下商店/鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市]

鹿児島県の甑島(こしきしま)。今まであまりメディアに取り上げられることのなかった小さな島が、最近全国的に名前を知られるようになりました。そのきっかけをつくっているのが『東シナ海の小さな島ブランド株式会社』という会社。事業内容は、豆腐屋だったり、農業だったり、民宿だったり……。知れば知るほど興味深く、魅力的な活動を行っている会社の代表・山下賢太氏に話を聞いてみました。前編...

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氷結した湖面が音を立ててせり上がる。神様の恋の伝説が宿る「御神渡り」。[諏訪湖/長野県諏訪市]

厳冬で全面凍りつき厚くなった湖の氷が、昼夜の寒暖差により膨張と収縮を繰り返すことでせり上がって現れる氷の道……信州最大の規模を誇る『諏訪湖』において、主に1月下旬から2月中旬にかけて見られるのが、「御神渡り」と呼ばれる自然現象です。大きなものでは約1.8mの高さになるといい、その神秘的かつダイナミックな姿に、『諏訪大社』の上社の男神が下社の女神のもとへと渡るための恋の道...

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火山の営みがもたらした、氷の芸術、地中の美術館。[富岳風穴・鳴沢氷穴/山梨県南都留郡]

その昔、『富士山』やその側火山の噴火により発生した溶岩流により、麓の『青木ヶ原樹海』には多数の洞窟が生まれました。その中でも最大級の規模であり、ともに国の天然記念物に指定されているふたつの洞窟では、平均気温3℃という環境の中、天井から染み出した水滴が凍ってできる大きな氷柱をはじめ、自然が造り上げた氷の芸術を見ることができます。総延長201m、高さ約8.7mもの横穴が続く『富岳風穴(ふがくふうけつ)...

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過酷な寒さの中で凛と生きる。海岸に白く映え、甘く香る水仙の花。[越前海岸/福井県丹生郡]

厳しい寒さに耐えながらも凛と咲く姿が日本人の美学に通じると、芸術や文化、生活まで様々なシーンで親しまれてきた「日本水仙」は、数ある品種の中でも特に早咲きとされ、12月から1月末頃にかけて見頃を迎えます。福井県の日本海側に位置する『越前海岸』は、『淡路島』、『房総半島』とともに日本水仙の三大群生地のひとつに数えられる場所ですが、この時季は特段、寒さから身を守るように寄り添って咲く水仙の清らかな白色で...

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しなやかな自然体で伝統を受け継ぐ。[仐日和/岐阜県岐阜市]

国土の大半が温暖湿潤な気候に属し、豊かな水に恵まれた日本では、雨はなじみ深いもの。土地や人々に潤いをもたらすだけでなく、四季折々の豊かな風情までも感じさせてくれます。 そんな気候と風土に育まれた伝統工芸品が、日本古来の『和傘』です。骨組みを作る『つなぎ』、骨の間隔を均等に調整する『まくわり』、本体の和紙を張る『張り』など、その工程の全てが手作業なのです。更に竹・木・柿渋・和紙などの自然素材を主な...

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統括編集長・倉持裕一が振り返る、2017年の『ONESTORY』。

この数の人と出会い、この数の場所を訪れ、様々なことを我々自身が体感し、刺激を受けてきました。 『ONESTORY』は2016年4月に産声を上げ、2017年4月にメディアとしても本格的に始動。『DINING OUT』に始まった『ONESTORY』は、表現するフィールドを広げ、「ジャパン クリエイティヴを世界へ」伝える指針のもと、「日本に眠る愉しみをもっと。」を探してきました。そこにはそれぞれの「O...

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幻の名店『Sola』の味を完全再現する、聖なる夜のプレミアムディナー。[INTERSECT BY LEXUS Christmas Dinner with Sola Tokyo/東京都港区]

2011年、パリ5区にオープンした日本人シェフ・吉武広樹氏が手がけるフランス料理店『Sola』。古典的フランス料理を踏襲しつつ軽やかな味わいに仕上げた料理は瞬く間にフランスのグルマンを魅了し、店はオープンからわずか1年少々でミシュランの星を獲得しました。ところが次なるステップを目指す吉武シェフの構想により、『Sola』は人気も絶頂の2016年、突如閉店。その料理は、いまや幻となってしまったのです。...

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竹田、有田、宮崎、そして内子のキーパーソンと語る「DINING OUT」の効用。[DINING OUT UCHIKO with LEXUS/愛媛県内子町]

大類 今回「DINING OUT UCHIKO with LEXUS」の準備のために内子に何度も足を運んでいるうちに、地元の方々の「日々の暮らし」が素敵だなって思いました。竹材業を営んでいた方が、趣味が講じて、今や有名な版画家になっていたり、地元の人達が内子座で行う演劇の台本を役場の職員の方が書いていたり、大西さんだって、議員の努めを果たす一方、町並みを活かした古民家で宿泊施設やカフェをされてたり...

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本当の幸せとは何かを問い、この土地とともに生きていきたい。[FIL/熊本県阿蘇郡]

阿蘇外輪山の北側に位置する熊本県の南小国町は、黒川温泉などの温泉郷で知られています。自然に囲まれた田園風景が広がるこの町で、2017年の夏に突如オープンしたのがインテリア・ライフスタイルブランド『FIL』の旗艦店『FIL STORE』です。この新ブランドを立ち上げたのは、南小国町で林業に携わっている穴井俊輔氏。後編では南小国町での暮らしについて、穴井氏の想いに迫ります。「熊本緑の百景」第1位に選ば...

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ずっと探していた。いつかは自分だけの「ブックラック」が欲しかった。[高山英樹/栃木県芳賀郡]

写真家、映画監督、作家として活躍する傍ら、出版社「Youngtree Press」を自ら主宰し、地元浜松でも「BOOKS AND PRINTS」を営む。一見様々な表現をしているようにも見えますが、「全て同じ」。そう話すのは、若木信吾氏です。 そんな若木氏が今回紹介してくれたのは、「ブックラック」です。当然、「ブックラック」は本を置くモノですが、ただのモノではない機能を超えられるかどうかは使い手次...

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豊かな自然と地域の努力が結実した、見渡す限りの「菜の花畑」。[渥美半島/愛知県田原市]

愛知県南部に位置し、太平洋、三河湾、伊勢湾と、3つの海に囲まれた『渥美半島』。黒潮がもたらす豊富な海の幸と、景勝地も多い地域で、中でも半島の中部から南部に位置する『田原市』は、市域の約90%が『三河湾国定公園』や『渥美半島県立自然公園』に指定される、風光明媚な田園都市です。「常春(とこはる)」と呼ばれるほど温暖な気候で、春夏秋冬、気持ちの良い風景が広がりますが、1月初旬から3月にかけて、半島南部を...

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豪雪地帯だからこそ生まれ、遺された、日本古来の心のふるさと。[白川郷/岐阜県大野郡]

昔ながらの茅葺き屋根を、手のひらを合わせた形に設置したことから名付けられたという「合掌造り」の建築物が数多く遺る『白川郷』。合掌造りの全ては『白川村』のやや北側に位置する萩野地区にあり、1995年、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」としてユネスコの世界遺産に登録されました。国内有数の豪雪地帯、そして陸の孤島と呼ばれる隔絶した立地であったために、日本古来の方法で建てられた建築物にも関わらず比較的良い状...

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自然の大パノラマに描かれる幽玄の美。雲海と富士山が織り成す絵画のような風景。[清水吉原/静岡県静岡市]

山肌に沿うよう段々に並ぶ茶畑に、茶葉の緑が萌える静岡市清水区。のどかな景色が広がる山間の中でも、標高約500mと比較的低地ながら、幽玄な景色が見られると話題なのが、「清水吉原」と呼ばれる吉原地区です。早朝、山々が重なる谷を埋め尽くすのは雲海。その先には見事な稜線をたたえる『富士山』の堂々とした姿があり、まるで絵画のように美しい景色が広がります。シーズンは冬、雨が降った翌日の快晴の早朝がベストといわ...

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