〈ミラノサローネ2019〉インテリアデザインも職人技からAI技術まで!世界の感性が集結

2019年4月9日~14日のMilan Design Week(イタリア・ミラノ)は、インテリア世界最大の見本市「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)を核に、街中がデザインの祭典に沸いた。レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年のオマージュ企画から、最先端のテクノロジーとデザインの融合も見られた刺激的な1週間となった。
デザイン都市ミラノ、イタリアオペラの殿堂「スカラ座」とも共演

今年2418の出展数となったミラノサローネ見本市会場には、181カ国から38万6236人が来場。加えて街中でのイベントが1,350カ所もあり、その一つTortona地区にあるSurperStudioでも8万人が来場とのこと。総勢50万人を超えるデザイン・コンシャスな人々であふれた、Milan Design Weekとなった。

ミラノは世界一の“デザイン・シティ”を目指し、国を挙げて産業界を盛り上げている。今年から、芸術の中心であるミラノ・スカラ座財団とのパートナーシップを結び、デザインとアートの融合も強化。そのスカラ座でミラノサローネ前夜祭が開催された。

スカラ座音楽総監督リッカルド・シャイーによる前夜祭のコンサート。筆者もバルコニーから鑑賞(写真撮影/藤井繁子)

スカラ座音楽総監督リッカルド・シャイーによる前夜祭のコンサート。筆者もバルコニーから鑑賞(写真撮影/藤井繁子)

驚かされたのは、その後のディナー。なんと、オーケストラがはけた、舞台上にテーブルがセットされていた!

別室でアペリティーボ(食前酒)を楽しんでいる間に、約300名のテーブルがステージ上で完璧にセッティング!? スゴイ技(写真撮影/藤井繁子)

別室でアペリティーボ(食前酒)を楽しんでいる間に、約300名のテーブルがステージ上で完璧にセッティング!? スゴイ技(写真撮影/藤井繁子)

スカラ座ディナーでも椅子は、Kartell社『MASTERS』のゴールド・バージョン! 樹脂製で軽く、スタッキング可能という特性が、このような場でも活かされている。

さて、翌日からミラノサローネが開幕。見本市フィエラ会場でも、そのKartell社が朝一注目を集めていた。

世界のメディアを前に登場したのは、やはりこの方。御歳70歳のP.スタルク氏がプレゼンテーション(写真撮影/藤井繁子)

世界のメディアを前に登場したのは、やはりこの方。御歳70歳のP.スタルク氏がプレゼンテーション(写真撮影/藤井繁子)

実は今年、Kartell社は創業70周年記念(スタルクと同い年!)。ここで発表されたのは、「世界初のAI(人工知能)によって創られた椅子」。基本AIが描き出したデザインに、スタルクがアングルなどの注文を付けただけというプロセスが動画で紹介され、会場の目が釘付けになった(動画は記事末にて掲載)。

『AIデザインの椅子』3D 技術を使ったデザイン・設計ソフトのAUTODESK社(米国)とコラボ(写真撮影/藤井繁子)

『AIデザインの椅子』3D 技術を使ったデザイン・設計ソフトのAUTODESK社(米国)とコラボ(写真撮影/藤井繁子)

スタルクは「デザイナーの仕事も無くなる? そうじゃない、素晴らしい友ができたって気分だ!」とAIとの協働を楽しんでいた。

また、Kartell社70周年を記念した特別展〈The Art side of KARTELL〉は、Palazzo Reale(王宮) Museumで開催された。

夜のパーティーは家具・照明から食器・花器までKartellずくし。王宮の階段にも、充電式のランプ『BATTERY』が並んでお出迎え。大理石の床に放たれた光模様の美しいこと!(写真撮影/藤井繁子)

夜のパーティーは家具・照明から食器・花器までKartellずくし。王宮の階段にも、充電式のランプ『BATTERY』が並んでお出迎え。大理石の床に放たれた光模様の美しいこと!(写真撮影/藤井繁子)

アジアン・デザイナーがラグジュアリーブランドで活躍

日本でも人気のイタリア・ラグジュアリーファニチャーブランドのMinotti社。
昨年、日本のデザイナーnendo(佐藤オオキ)などを起用し話題を集めたが、今年は更に斬新なプロダクト&展示に驚かされた。

このゼブラ柄ファーが空間のアクセントにたくさん使われていた。ほかにもパープルのファーやガラス使いなども素敵だった。ソファはR.ドルドーニによる新作『LAWSON』、アームで抱かれるようなデザイン(写真撮影/藤井繁子)

このゼブラ柄ファーが空間のアクセントにたくさん使われていた。ほかにもパープルのファーやガラス使いなども素敵だった。ソファはR.ドルドーニによる新作『LAWSON』、アームで抱かれるようなデザイン(写真撮影/藤井繁子)

そして、nendoによるアウトドア家具『TAPE CORD OUTDOOR』シリーズが発表された。

Minotti社で遭遇した佐藤オオキ氏。昨年リリースの家具『TAPE』が、翌年アウトドアラインとして追加されるとは……評判が良かったに違いない(写真撮影/藤井繁子)

Minotti社で遭遇した佐藤オオキ氏。昨年リリースの家具『TAPE』が、翌年アウトドアラインとして追加されるとは……評判が良かったに違いない(写真撮影/藤井繁子)

アウトドア家具としては小ぶりにデザインされていて、日本の住宅にもフィットするサイズ感。

このデイベッド、バルコニーや中庭に置けば、日常が非日常になること間違いなし(写真撮影/藤井繁子)

このデイベッド、バルコニーや中庭に置けば、日常が非日常になること間違いなし(写真撮影/藤井繁子)

一方、同じく歴史あるラグジュアリーブランドMolteni&C社で見られたのは、初めてアジア人としてデザイナーに起用されたNeri&Hu(中国)のベッドルーム。

『TWELVE A.M.』ベッドとサイドベンチ。Neri&Huは世界で活躍する男女のユニット。シンプルでプラクティカルな上品さに共感する(写真撮影/藤井繁子)

『TWELVE A.M.』ベッドとサイドベンチ。Neri&Huは世界で活躍する男女のユニット。シンプルでプラクティカルな上品さに共感する(写真撮影/藤井繁子)

話題を呼んだ新企画パビリオン〈S.Project〉、日本のMaruniも登場

〈S.Project〉と名付けられた新企画のパビリオン。従来のカテゴリーにとらわれず、家具・水まわり・照明などブランド横断で空間展示を行うなど多目的な場が見本市会場に用意され87社が出展した。

ここで4000平米もの巨大ブースで注目を集めていたのが、家具のB&B Italia社、照明のFlos社 ・Louis Poulsen社の合同展示(Design Holdingグループ)。B&B Italia社が久しぶりに見本市会場へ出展することもあって、来場者が押し寄せていた。
面白かったのは、ブースの壁にイラストで描かれた著名デザイナーたちと3社の代表作品。センサーを感知すると、デザイナーたちが動いてウィットのあるリアクションを見せてくれる。

黄色の丸ゾーンに手を置くと、センサーで動き出すデザイナー。インタラクティブなプレゼンテーションが今っぽい(写真撮影/藤井繁子)

黄色の丸ゾーンに手を置くと、センサーで動き出すデザイナー。インタラクティブなプレゼンテーションが今っぽい(写真撮影/藤井繁子)

P.ウルキオラ女史(B&B Italia社)は、あまり似てないが……nendo佐藤くん(Flos社)はよく似てる!(写真撮影/藤井繁子)

P.ウルキオラ女史(B&B Italia社)は、あまり似てないが……nendo佐藤くん(Flos社)はよく似てる!(写真撮影/藤井繁子)

外で遊んでから中の展示へ。B&B Italia社の家具を分解し構造を見せることで、クオリティの高さを解説するゾーンが興味深かった。

V.V.デュイセンによる新作チェア『Pablo』も一枚の革で構成されているのが分かる(写真撮影/藤井繁子)

V.V.デュイセンによる新作チェア『Pablo』も一枚の革で構成されているのが分かる(写真撮影/藤井繁子)

A.チッテリオがデザインしたダイニングも、M.アナスタシアデスがデザインした照明(Flos社)と合わせることで、また違った空間が生まれる。

テーブル『Astrum』とチェア『Fulgens』はチッテリオ氏、照明『Arrangements』はアナスタシアデス氏の共演(写真撮影/藤井繁子)

テーブル『Astrum』とチェア『Fulgens』はチッテリオ氏、照明『Arrangements』はアナスタシアデス氏の共演(写真撮影/藤井繁子)

M.アナスタシアデスの今年の新作照明(Flos社)も素晴らしかった。

『Coordinates』=座標、と言う名のとおり縦横3次元の軸が交差するデザイン。ニューヨークのホテルFour Seasonsのレストラン用にデザインしたものを商品化(写真撮影/藤井繁子)

『Coordinates』=座標、と言う名のとおり縦横3次元の軸が交差するデザイン。ニューヨークのホテルFour Seasonsのレストラン用にデザインしたものを商品化(写真撮影/藤井繁子)

次も人気グループの出展、キッチンやバスルームなど水まわりの老舗ブランドBoffi社を中心に、家具の人気ブランドDePadova社などグループ4社で〈S.Project〉に出展。
メインデザイナーのP.Lissoniが、大きな池の上に建つようなブースをデザインした。

Boffi社の新作『Round Fisher』かなり大きい丸のバスタブ(高さ45×直径190cm)コーリアン人工大理石コーリアン®製。シャワーはM.ワンダースのデザイン(写真撮影/藤井繁子)

Boffi社の新作『Round Fisher』かなり大きい丸のバスタブ(高さ45×直径190cm)コーリアン人工大理石コーリアン®製。シャワーはM.ワンダースのデザイン(写真撮影/藤井繁子)

DePadova社でも、リッソーニ氏デザインの丸いテーブル。今年は丸く収めたい?

新作テーブル『FRENCH CONCESSION』(高さ73×直径250cm)リッソーニ氏は「花が咲くように」と表現。照明は人気の女性建築家E. オッシノによる『ELEMENTI』(写真撮影/藤井繁子)

新作テーブル『FRENCH CONCESSION』(高さ73×直径250cm)リッソーニ氏は「花が咲くように」と表現。照明は人気の女性建築家E. オッシノによる『ELEMENTI』(写真撮影/藤井繁子)

そんな世界的なトップブランドが居並ぶ〈S.Project〉に、日本のMaruni(マルニ木工)も出展。

昨年までのパビリオンから〈S.Project〉へ移動し、スペースも約2倍に拡大したMaruniの挑戦。深澤直人氏(右)デザインの『Roundish』アームチェアにクッションシートが登場(写真撮影/藤井繁子)

昨年までのパビリオンから〈S.Project〉へ移動し、スペースも約2倍に拡大したMaruniの挑戦。深澤直人氏(右)デザインの『Roundish』アームチェアにクッションシートが登場(写真撮影/藤井繁子)

AI(人工知能)と、人・暮らしの関わり方を探るプロジェクトも

市内の展示(フオリ・サローネ)で筆者が興味をもったのは、Google社の体験型インスタレーション。
デザインが感情や健康に、どう影響するのかを探求するプロジェクトだ。Google Design Studioが建築事務所Reddymade Architecture、デンマークの家具ブランドMuuto社、そして米国のJohns Hopkins Universityと組んだ企画。

心拍数、皮膚温、運動、皮膚伝導性などのデータを測定するセンサーを備えたリストバンドを巻いて、10人1グループで入場。3つのインテリアデザインが異なる部屋に5分ずつ滞在する。

3つの部屋で参加者が感じた快適性や感情を、biological(生物学)データを分析して“最も心地よい”と感じた部屋を教えてくれる。(意外と自分が感じた部屋の印象と、データに現れた生理反応が違うことも多いそう。頭と体の反応が違うってこと?)

左/3部屋から退出後、リストバンドを計測モニターに置くと、3部屋での反応データが現れる。筆者は真ん中の部屋が心地よく反応したと出た。インテリアの色や素材、デザインだけでなく、香りや音楽も影響している。右/一人一人の結果データを即、カードにプリントアウトし解説してくれる。その手際良さにも、IT企業らしさを実感し感動(笑)(写真撮影/藤井繁子)

左/3部屋から退出後、リストバンドを計測モニターに置くと、3部屋での反応データが現れる。筆者は真ん中の部屋が心地よく反応したと出た。インテリアの色や素材、デザインだけでなく、香りや音楽も影響している。右/一人一人の結果データを即、カードにプリントアウトし解説してくれる。その手際良さにも、IT企業らしさを実感し感動(笑)(写真撮影/藤井繁子)

Googleとしては、デザインの影響を可視化することで、さらに感性デザインを深く追求する事に役立てたいということだ。

Sonyは昨年同様、Tortona地区で企画展示。
〈Affinity in Autonomy -共生するロボティクスー〉というテーマで、人とロボティクスの関係性についての新しいビジョンを提案した。5つのセクションで構成された展示を進むと、センサーによって人を感知したロボットが反応する様々な形を体験できる。

生命感をそなえたロボティクス『aibo』。名前を呼ぶと反応し、撫でると喜ぶ。ここでは感情が下のモニターに色彩で現れる、赤くなっているのは怒っているらしい(写真撮影/藤井繁子)

生命感をそなえたロボティクス『aibo』。名前を呼ぶと反応し、撫でると喜ぶ。ここでは感情が下のモニターに色彩で現れる、赤くなっているのは怒っているらしい(写真撮影/藤井繁子)

最後のセクションでは、ロボティクスが来場者に今回の展示に関するフィードバックを尋ねる。

記入台が自動で人に寄ってきて、身長に合わせて台の高さが変わる(写真撮影/藤井繁子)

記入台が自動で人に寄ってきて、身長に合わせて台の高さが変わる(写真撮影/藤井繁子)

人とロボティクスの共演を、エンターテインメントで魅せたのがLEXUSのインスタレーション。
日本のテクノロジーアーティスト集団ライゾマティクス(Rhizomatiks)を起用(リオ五輪の閉会式や紅白歌合戦のPerfumeも手掛けた)。
暗闇で一人のダンサーと一緒に踊るのは……4輪の付いたパーテーションのようなロボットたち!?

〈LEADING WITH LIGHT〉@Tortona地区Superstudio Piu会場。ダンサーの後ろを付いて回ったりするパーテーション・ロボット。そこにも光が投影され、空間にリズムが出る( 写真撮影/藤井繁子)

〈LEADING WITH LIGHT〉@Tortona地区Superstudio Piu会場。ダンサーの後ろを付いて回ったりするパーテーション・ロボット。そこにも光が投影され、空間にリズムが出る( 写真撮影/藤井繁子)

ダンス・ショーが終わると観客に光るボールが渡されて、照明にかざしてみる。照明が光るボールを追随するセンサーシステムを体験。

センサー技術によって人の動きにリアクションする、インタラクティブな体験型イベント展示が増えてきた。インスタレーションも“見て感動する”から、”やって見て感動する“時代になった。

日本からはインテリア以外の企業の参加も増えている。ダイキン工業がnendoと個展を行ったり、AGCやグランドセイコーは継続して出展、YAMAHAやLIXIL(INAX)が復活出展、住友林業は初出展など世界に向けたブランディングをミラノで行った。

年々、出展者・来場者共に増加し、世界のメディアが注目するMilan Design Week。
来年のミラノサローネは、2020年4月21日(火)~26日(日)と今年より遅い開催スケジュールと発表された。キッチン・バス見本市が併催の年。さらなる技術革新や新たなタレントと会えるのを楽しみに。Chao!

■「世界初のAI(人工知能)によって創られた椅子」Kartell社発表会の様子

【Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)】
 来年の会期:2020年4月21日(火)~26日(日)
>ミラノサローネ・オフィシャルサイト
>日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

日本に「オープンカフェ」が少ない理由って?“住みたい街”の条件が見えてきた

「エリアマネジメントの実践」や「パブリックスペースの重要性」なんて言葉にはピンとこない人も「オープンカフェのある街っていいな」「ご近所にいい感じのカフェや公園があったら」なんて考えたことはあるのでは。
これこそ、「パブリックスペース」であり、それを実現する仕組みが「エリアマネジメント」なんです。でも、ヨーロッパではよく見かけるオープンカフェは、日本には少ないもの。その理由を深堀りしていくと、その価値や今後の課題がおのずと見えてくるはず。
今回は、エリアマネジメントやパブリックスペースの社会実験の専門家であり、こうした活動の情報発信をするWEBメディア『ソトノバ』編集長の泉山さんにインタビューしました。
お話を伺った『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん(写真提供/泉山塁威さん)

お話を伺った『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん(写真提供/泉山塁威さん)

日本は路上を使うのはハードルが高いもの

――海外に旅すると、街のあちこちにオープンカフェがありますが、日本は、こうしたオープンカフェって少ないですよね。どうしてなんでしょう。

まず、日本のオープンカフェは民間の敷地内にあることがほとんどですが、海外では加えて公道に展開されていることをよく見かけます。
日本の場合、道路を使うには行政や警察への申請が必要で、これが、けっこう大変。まず、申請者は、個人やお店は基本的にはダメで、商店会やNPOなど地域団体に限られるのが実情です。一方、先日、研究のためにオーストラリアの都市のメルボルンとアデレードに行きましたが、実にオープンカフェが多いんですよ。というのも、オーストラリアはカフェやバーなどのお店からの申請がOKで、使用料は必要ですが、あまりNGにされることはないようです。

――その違いって何なんでしょうか。

まず、日本では、路上が「公共の場」(=行政の場所)という意識が強いからでしょうか。何かしら問題があったときに、行政や警察に連絡がきて対応を求められてしまうので、避けたい意識が働くのでしょう。だから規制することになる。
また、海外では、路上でアルコール販売は禁止なので、公共の場では、お店で提供するしかない点も関係あるでしょう。

――それは残念。オープンカフェ、あったらいいですよね。公共のものだから制限を設けるのか、公共のものだからみんなのために活用すべきなのか、その考え方の違いが根本にあるのですね。

ただ、小泉政権(2001-2006年)以降の規制緩和によって、少しずつではありますが、行政が民間の力を借りて、バブリックスペースを魅力的にしようという動きはあります。

パブリックスペースの充実が街の魅力を上げていく

――私たちは「パブリックスペース」というと公園や駅前広場などをイメージしますが、路上もバブリックスペース。海外で見かけるようなオープンカフェもそうですね。

はい。やはり「ソトで過ごす」時間を考えると飲食できる場は重要なファクターです。
住んでいる街のあちこちに、まるでリビングのようにくつろげる場所があるでしょう。私たちはそんな場所やライフスタイルを「PUBLIC LIFE(パブリック・ライフ)」と呼んでいます。

泉山さんがよくパブリック・ライフの例に挙げるパブリックスペース、ニューヨークのブライアントパーク。「図書館と公園、カフェがあり、まさに理想形です」(写真提供/泉山塁威さん・Shutterstock)

泉山さんがよくパブリック・ライフの例に挙げるパブリックスペース、ニューヨークのブライアントパーク。「図書館と公園、カフェがあり、まさに理想形です」(写真提供/泉山塁威さん・Shutterstock)

例えば、このニューヨークのマンハッタンにあるブライアントパーク。公園と図書館があるだけでは、単に「空間」ですが、可動式のベンチやテーブルを置き、「場」を提供することで、ここで食事したり、本を読んだり、子どもと遊んだり、昼寝したり、「人」が主役となります。街で、それぞれが思い思いに過ごすことができ。多様な目的とアクティビティが存在することが日常の風景になる。気づけば長い滞在時間、そこで過ごすようになる。そんな形が理想的。

例えば、ビアガーデンに行く人の目的は飲食で、それが達成すれば帰ってしまうでしょう。一方で、パブリックライフのある場所は、食事をした後に、運動をしたり、昼寝をしたり、はたまた読書をしたりと、いろんな目的がある。多様な行動ができるということは多様な人が使える。こうしたパブリックスペースが自分の街にあれば、暮らしが豊かになるはずです。

――確かに。そういうパブリックスペースがあることが、街の魅力につながり、住み替えるときに街選びの基準にもなりますよね。
泉山さんが手掛けられた既存の街のパブリックスペースを魅力的に変えた事例を教えていただけないでしょうか。

2014・2015年に行った、池袋駅東口グリーン大通りオープンカフェ社会実験ですね。ここはオフィス街で、とても広い歩道沿いにチェーンの飲食店が並んでいました。こうしたチェーン店の協力のもと、期間限定でテイクアウトスペースをつくり、オープンカフェやマルシェを開きました。「何をしているんだろう」と、道行く人が足を止め、食事をしたり、お店の人とおしゃべりしたり、日常的なアクティビティが一時的に行われました。

池袋駅東口グリーン大通りのブロジェクト(2014-2015)。(左)普段は広い歩道が続く通りだが、(右)期間中はイスやテーブルを置いて飲食できるスペースに(写真提供/泉山塁威さん)

池袋駅東口グリーン大通りのブロジェクト(2014-2015)。(左)普段は広い歩道が続く通りだが、(右)期間中はイスやテーブルを置いて飲食できるスペースに(写真提供/泉山塁威さん)

また、2018年には、さいたま新都心周辺で「パブリックライフフェスさいたま新都心2018」を行いました。もともと歩車分離の高質な歩行者デッキがあり、地域の企業と一緒に、ゾーンごとに、ガーデンのような場所や、60mのロングテーブルとイス200脚程度、インスタ映えするチャンネル文字を置くなどして、通り過ぎるだけの場所から、くつろげるスペースに変えました。特に日陰のリラックスチェアは大人気。普段使えない場所も出店者を集めたり、ビル風を風力発電のスマホ充電に利用したり、いろいろ仕掛けを実験し、課題や可能性を抽出するためのデータ分析も行っています。

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ。「元々あった公共施設を使い倒そうと仕掛けました」(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ。「元々あった公共施設を使い倒そうと仕掛けました」(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ(写真提供/泉山塁威さん)

――どちらもとても楽しそうですし、こうしたイベントは、自分たちが働く、もしくは暮らす街に愛着がもてるきっかけになりますね。

実験に終わらせない。継続させるために必要なこと

――どちらも期間限定ですが、継続的に行うことは難しいのでしょうか?

元々、どちらも社会実験のひとつとしてスタートしたことが大きいです。また、期間限定だからこそ協力を得られた部分もあり、同じことをそのまま継続するには、マンパワー的に難しいのが実情です。今かかわっているさいたま新都心では、実験のコンテンツ自体は好評のものは多く、常設化や継続できるものはないか、今後の方向性を検討中です。

現在、都心のバブリックスペースで日常的に使われている例として思い浮かぶのは、東京の丸の内や六本木界隈、中野セントラルパーク。新しいところでは、虎ノ門ヒルズ周辺の新虎通り、渋谷ストリームですが、どれも企業のパワーか、企業と地域が連携して実施しています。

東京は再開発ビルのオープンスペース(公開空地)を活用できる場所が多く、デベロッパーや企業が主導的にかかわっていくことは、資産価値やテナントへの訴求力につながりやすい。一方で、道路や公園になると、地域や行政との連携を密に行っていかなければならない。いずれにしても、世界の各都市と競争する東京ならではのやり方です。東京以外では、違う状況や方法で考えていかなければなりません。

――継続的に行うためには何が必要でしょうか。

ひとつのヒントになりそうな海外事例があります。
メルボルンから電車で30分の街、ポイントクックという街で、期間限定の公園「ポップアップパーク」が行われていました。去年と今年2月~4月の3カ月間、街の中心地であるショッピングモールのメインストリートに人口芝生を敷いて、みんながくつろげるスペースがありました。

オーストラリアのポイントクックの事例(写真提供/泉山塁威さん)

オーストラリアのポイントクックの事例(写真提供/泉山塁威さん)

この街は急激に郊外開発が進み、住宅がどんどん増えて人が移り住んできたベッドタウンで、コミュニティが希薄だったんです。そこで、「自分の街に住んでいる人を誰も知らないなんて嫌」と思った主婦2人が始めたのがきっかけ。元々は彼女たちが、仲間を募って始めたものなんです。今年はスポンサーもつき、法人化し、プロジェクトが発展しています。

この事例がすごいのは、主催する側のホストと、参加する側のゲストの境目があいまいなこと。「ヨガを教えたい」「ライブをやりたい」など、遊びに来た人が、今度は仕掛ける側にまわっていく。
FacebookなどSNSのツールを駆使して、共感や仲間を集めています。企画をやりたい人が集まってきたり、あるいは人同士をつなげることで、勝手に企画が始まる。ゲストの立場だけなら、数回足を運んで「楽しかったね」で終わりますが、ホストの立場も兼ねるなら、そのつながりは強くなります。

人工芝を敷き、ベンチ、パラソルを各自で持ち寄った。随時、さまざまなイベント情報がFacebookで紹介されている(POINT COOK POP UP PARK FACEBOOK)

人工芝を敷き、ベンチ、パラソルを各自で持ち寄った。随時、さまざまなイベント情報がFacebookで紹介されている(POINT COOK POP UP PARK FACEBOOK)

――確かに、イベントでは遠方からくるゲストと地元に暮らすホストは明確な境目がありますが、みんな同じ街に暮らすコミュニティが前提なら継続的になっていく可能性は高まりますね。

「パブリックスペース」が使えるという事例が増えてきているなかで、人が歩いている街で、人が休んだり、出会ったりする場所が大事だと思っています。そのためには、イベントのように、人を呼んで楽しませて終わり、ではなく、日常的にくつろげたり、楽しめたり、継続的に取り組む必要性があります。
前出の、オーストラリアのポイントクックの主婦の方もスキルのある「当事者市民」です。今後は行政も、民間企業だけでなく、当事者意識の高い市民を巻き込みながら、街を盛り上げてほしいですね。

ポイントクックの活動を始めた主婦2人と泉山さん。日本ではなかなか難しいストリートミューラル(横断歩道のカラフルなペイント)も、イベント時に「後で黒く塗って原状回復する」として街の風景に。日本では考えられない大らかさと交渉力だ(写真提供/泉山塁威さん)

ポイントクックの活動を始めた主婦2人と泉山さん。日本ではなかなか難しいストリートミューラル(横断歩道のカラフルなペイント)も、イベント時に「後で黒く塗って原状回復する」として街の風景に。日本では考えられない大らかさと交渉力だ(写真提供/泉山塁威さん)

●取材協力
『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん
東京大学先端科学技術研究センター 助教/ソトノバ編集長/博士(工学)/認定准都市プランナー/タクティカル・アーバニスト/アーバンデザインセンター大宮|UDCO ディレクターほか/1984年札幌市生まれ/明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。エリアマネジメントやパブリックスペース利活用及び規制緩和制度、社会実験やアクティビティ調査、タクティカル・アーバニズムの研究及び実践にかかわる
>ソトノバ