
27万5,000円(税込) / 78.4平米
中央線「飯田橋」駅 徒歩3分
急いでください! とにかく時間がありません。
5年ほど前に仲介させてもらったこのオフィスは、ご覧の通り、とびきり格好よく仕上がっているのですが、7月の退去を前に、原状回復工事までのカウントダウンが始まってしまいました。
このすてきなオフィスを元に戻すことの意味って?
誰のハッ ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
ここ数カ月の急速なテレワークの広がりなどを受け、「生活拠点を地方に移す」ことを検討した人も少なくないのでは。一方で、地方移住にはいくつかのハードルがあり、そのうちの一つが“仕事”だと言われている。そんななか、都市部に暮らしながら移住せずに副業・複業・兼業するという地域との新しい関わり方が注目されているようだ。2020年の働き方のトレンドとして「ふるさと副業」を提唱したリクルートキャリアの広報部でもある、藤井薫HR統括編集長に話を伺った。
「終身成長」を求める個人と、「変革人材」を求める地方企業のニーズが合致
「ふるさと副業」とは、都市部で働く人材が、地方企業の仕事に月1回~数回のペースで関わる新しい働き方のこと。自身の出身地の仕事に関わる方もいれば、これまで全くゆかりのなかった地域の仕事に関わるケースもあるという。地方での「仕事」や「人間関係」を構築していく方法へのヒントがありそうだ。
藤井 薫HR統括編集長
藤井編集長いわく、いま「ふるさと副業」が広がっているのは3つの要因があるという。
一つ目は働く個人の変化。働き方改革の影響を受け、近年、労働時間は減り続けており、2013年から2018年の5年間で平均年間就業時間は63.6時間も減少している。生産性向上の意識が高まり、残業が減ったことで、余剰時間が生まれるようになった。その時間を「学び直し」や副業など自身のキャリア成長のために充てたい、という方が増えているのだ。
背景には、「『終身雇用』が約束されなくなり、『終身成長』意識が高まったこと」があるという。企業の平均寿命(開業~廃業までの年数)は年々短くなっており、現在では約20年と言われている。一方、職業寿命(個人が働き続ける期間)はどんどん長くなっており、今は60年ほどの予想だ。つまり、一生の間に2回、3回と働く場所を変えていく必要がある。「そのため、市場の中でいつでも声がかかるように腕を磨きたいという人が増えています」(藤井編集長)
市場の中で成長したい意欲を持つ個人にとって、地方か首都圏かは関係ない。「成長の機会があるならば」と、地方で月数回働くことに興味を示している求職者は51%と約半数を超える(日本人材機構「首都圏高度人材意識調査」より)。特にオンライン中心で対応できる仕事は人気を集めており、「ふるさと副業」に関するイベント参加者も増加傾向にあるとのこと。
二つ目の要因が、地方企業の人材ニーズだ。企業は常に人材不足の問題を抱えているが、特に地方中小企業は顕著で、なかでも新規事業創造のための変革人材がいないことが大きな問題だという。
そうした人材を獲得する手段として、これまでは転職やヘッドハンティングしか無かったところに、新たに副業という手段が加わった。「これは地方企業にとってチャンス」と藤井編集長は語る。事実、プロフェッショナル人材と企業をジョブ単位でマッチングするサービス「BizGROWTH」では、2018年から2019年の1年間で求人数が13.38倍に。
「大企業に勤めていても、社長直下の部隊や新規事業開発セクションにいないと、企業変革に関わる機会がなかったりする。自身の成長を考えると今の仕事だけでは足りないと、大企業に勤める方々が地方企業の次世代開発などに参画しているケースも多いんです」(藤井編集長)
“本業”側の企業の変化も追い風だ。
「副業容認・テレワーク導入など、個人の生活パターンに寄り添った柔軟な働き方を提供できないと人材が定着しない時代になっています。企業と対話し、生活に合わせた働き方を実現する『ライフフィット転職』という考え方も広がってきている。また、政府も『関係人口の創出・拡大』を掲げて地方副業者を支援する動きがある。こうした要素も後押しになっていると思います」(藤井編集長)
三つ目の要因は、個人と企業を結ぶ手段の変化だ。これまでは「職住接近」が原則で、住む場所と働く場所が近接していないと関与することが難しかった。しかし今はテレワークが広がり、遠隔でのコミュニケーションを円滑にするさまざまなツールも整ってきている。「仕事と住居が遠くても、まるで接しているように共創することができる。これからは『職住接遠』の時代になっていくでしょうね」と藤井編集長は語る。
ツールの充実により、ハードルが低くなったテレワーク(画像/PIXTA)
“ゼロイチ”を生みだせる人が活躍。「ポータブルスキル」を重視するプロジェクトも地方企業と働く個人の出会い方も変化している。知り合いから声がかかるケースだけでなく、「BizGROWTH」「ふるさと兼業」「SkillShift」などのマッチングサイトが充実してきたほか、地方副業に特化しない「ビザスク」や「ランサーズ」のようなスキルマッチングサイトを通した出会いも増えている。
特にマッチングしやすいのは「ゼロイチで新しいものを生みだせる人、不確実なものに挑戦するときにスキルを発揮できる人」だと藤井編集長は語る。
岐阜県のお酒や米を入れる桝をつくる企業・大橋量器の事例では、新たな販路開拓にあたり、ブランディングを一緒に考えてくれる人材を募集していた。そこに、東京からブランディングのプロフェッショナルが参画。商品の強みの言語化やWEBサイトのコンセプト立案などでスキルを提供した。
新規販路開拓に向けた、商品ブランディングを実行。強みの言語化やWEBサイトのコンセプト決定などでスキルを発揮した(写真提供/大橋量器)
地方企業の中には、経営企画はできても、「マーケティング」「デザイン」「PR」「販路開拓」といった特定の分野に強みを持つ人がいないケースも多い。
これまでは高額の報酬を払わなければプロフェッショナルを呼ぶことは難しく、地方中小企業にとってハードルが高かった。しかし今は、「思いがあるなら手伝いたい」と、少額や無償でサポートする個人が増えているという。金銭報酬より成長報酬・関係報酬を求める方に価値観が変わってきているのだ。
一方、前述したような特別な知識やスキルがないと「ふるさと副業」は難しいのかというと、必ずしもそうではないらしい。
「前提として、仕事の成果を出すには、『専門知識・スキル』と『ポータブルスキル』、2つのスキルのどちらかが求められます。ポータブル・スキルは、業界を越境して活用できる筋肉のようなスキルのことで、『仕事の仕方』と『人との関わり方』で成り立っています」(藤井編集長)
例えば、コロナ禍で、飲食店が新サービスを立ち上げるプロジェクトがあったとする。そこでは、業務ごとに以下のようなスキルが求められるだろう。
aが得意な人もいれば、dが得意な人もいる。副業人材を求めるプロジェクトの種類によっては「専門知識・スキル」を重視するものだけでなく、このような「ポータブルスキル」がより必要とされるものもあるのだという。
「関心がある方は、まずふるさと副業サイトやイベントをのぞいてみることをお勧めします」(藤井編集長)
働き方・暮らし方はますます多様に。「関係の質」も変化スキルアップのためだけでなく、「副業をきっかけに地元と関係を持ちたい、戻りたい」という理由で取り組んでいる人もいる。複数の地域で副業に取り組むケース、国外から取り組むケース、狭域内の二拠点で活動を行うケースなど、藤井編集長いわく、「100人100色のパターンがある」のだそう。
石川県にあるホテル海望の事例では、外国人旅行者向けの宿泊プランづくりにカリフォルニア在住の日本人女性が参画。契約終了後も、アイデアを思いつくたびに連絡しているそうだ。社外サポーターのような関係性を築いており、「カリフォルニアと石川の『心の二拠点居住』と言えるような状態」になっているという。
ホテル海望(写真提供/ホテル海望)
イメージ(画像/PIXTA)
一方、静岡県郊外に位置する企業・TUMUGUの事例では、県内の都市部で本業を持つ女性がマーケティングを支援。このように同じ県内や隣接地域など狭域での二拠点居住・二拠点ワークも増えている。「働き方・暮らし方は、企業が決める時代から個人が決める時代になります。在り方ややり方を決める主権が個人に移動するこれからは、さらに多様になっていくでしょう」と藤井編集長は予測する。さらに、こうした働き方・暮らし方の変化を考える上での重要なポイントとして“関係の質”があるという。
「広義の二拠点・多拠点居住で言うと、例えば軽井沢に別荘を持っていて月に1-2度訪れるが、軽井沢での人間関係は無い、というケースもよくあると思います。
また、働き方は従来、会社と個人の結びつきは強いがゴール設定は曖昧な『メンバーシップ型』と、「ゴールは明確だけど人間関係は無味乾燥な『ジョブ型』の二択と言われてきましたが、ふるさと副業の場合はその2つが合わさった、新しい働き方が生まれているように思います。
ゴールは明確にありながらも、社外サポーターのような形で、企業や地域と継続的な関係性が築かれているケースが多いのです。
“関係人口”という言葉がありますが、単に仕事とスキルの交換ではなく、その事業やその先にある地域を、未来に向かってより良くしたいという同じ想いを抱いたもの同士の関わりこそ、“関係人口”の本質だと思います。そうした“関係の質”を高めやすいのが“ふるさと副業”なのではないかと思います」(藤井編集長)
また、現代のように急速に社会が変化し、先行きを予測しづらい時代において、「会社以外のコミュニティを持つ個人は強い」と藤井編集長は続ける。
「今後も、急な変化が非連続で訪れることが予測されます。そのなかで、企業も個人も、働き方をいかに柔軟かつ安全なものにできるかが問われている。変化が激しいときほど、クモのように、『やわらかい糸をいくつも張っておくこと』が大切です。
あるマルチキャリアに関する調査では、3つ以上のコミュニティに自主的に参加している人は、未来に対して明るい展望を持ちやすいそうです。一方でひとつのコミュニティしか持たない人は、『このロープが切れたらおしまいだ』と悲観的になりやすく、今のコミュニティにしがみついてしまう傾向にあります」(藤井編集長)
(画像/PIXTA)
「これからは、物理的な場所がどこか、ということの意味がどんどん薄れていくのだと思います。『首都圏』や『地方』という言葉も使われなくなっていくかもしれません。首都圏にお住まいの方が地方のプロジェクトに参画することがあれば、その逆もありますし、日本語が堪能な海外の方が地方のプロジェクトに参画することもある。
例えばある地域において、物理的に近くに暮らしている人にしか担えなかった仕事に、国内外どこからでも参加できるようになる。その地域で働く個人にとっては“競合相手”が増え仕事を失う可能性がある一方で、別の地域に目を向けることで、隠れた才能が賞賛される可能性もある。この変化を機会として活かすことで、個々人の未来はより豊かなものになっていくのではないでしょうか」(藤井編集長)
「ふるさと副業」は、新しい暮らし方を見つけるチャンスでもある働く上で、「物理的な場所がどこか」ということが意味を持たなくなるかもしれない。どこに暮らしても、好きな仕事や成長の機会を手に入れることができるようになれば、暮らす場所はもっと自由に選べるだろう。
地方との関係の持ち方も、いきなり「暮らす」「働く」のすべてを特定の地域に固定する必要がなくなる。気になる地域やそこに暮らす人たちと、副業という機会を通じて少しずつ関係をつくっていくことができる。取材を通して、「ふるさと副業」は、新しい暮らし方を見つけるチャンスになりうると感じた。
次回は、今まさに「ふるさと副業」にトライしている、実践者たちの声を紹介したい。
●取材協力リクルート住まいカンパニーでは、2019年11月に引き続き、今回は「緊急事態宣言」真っただ中の2020年4月(17日~20日)にテレワークの実態調査をWebで実施した。その結果、テレワークの実施者が増加し、住まいの意識についても変化が現れたことが分かった。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態」調査を発表/リクルート住まいカンパニーテレワークとリモートワークは同じ?緊急事態宣言でどう変わった?
最近は、「テレワーク」のほかにも、「リモートワーク」や「在宅勤務」など、さまざまな言葉が使われているので、最初にこれらの言葉について、確認しておこう。
一般社団法人日本テレワーク協会によると、テレワークとは「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語だという。働く場所によって、自宅=「在宅勤務」、顧客先や移動中=「モバイルワーク」、施設=「サテライトオフィス勤務など」の3タイプに分かれる。
一方、リモートワークは、「リモート=遠隔」「work = 働く」なので、テレワークとリモートワークは、ほぼ同じと考えてよいだろう。
リクルート住まいカンパニーでは、テレワークについて、2回の調査(スクリーニング調査・本調査)を行い、その実態を調べた。最初のスクリーニング調査は、関東地方・長野県・山梨県に居住する20~64歳までの会社員・公務員を対象とし、テレワークを少しでも実施していると回答した人を「テレワーク実施者」と定義、さらにテレワーク実施者のうち「実施率が10%以上」の人を「テレワーカー」と定義した。2回目の本調査は、このテレワーカーを対象に行った。これを前提に、調査結果を詳しく見ていくことにしよう。
まず、スクリーニング調査によるテレワーク実施率(対象は会社員・公務員のみ)は、前回の17%に対して、今回は47%と30ポイントも増加した。このテレワーク実施率は、年代別や世帯構成別よりも、企業規模別のほうがその差が大きく、企業の規模が大きくなるほど実施率が高くなっている。しかし、それ以上に差が大きいのが、職種別だ。
「企画/マーケティング」「web/クリエイティブ系」「営業」「エンジニア」など、職場に行かなくても働ける業務が多い職種での実施率が高く、すべての職種で前回調査より増加している。
職種別テレワーク実施率 (スクリーニング調査/会社員・公務員のみ/単数回答)(出典/リクルート住まいカンパニー「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態」調査)
この傾向は、東京都が実施した「テレワーク導入率緊急調査結果」とも合致している。東京都内の従業員30人以上の企業では、「テレワーク導入率」は3月時点で24.0%だったが、4月時点では62.7%に増加し、特に従業員規模別で企業規模が大きいほど導入率も高くなった。さらに導入率を業種別で見ると、事務・営業職などが中心の業種で約34ポイント増の76.2%に、現場作業・対人サービス業務などが中心の業種で約40ポイント増の55.0%に達し、いずれも3月より4月で増加している。
このことから見ても、テレワークを導入する企業が確実に増加しているのは、間違いないようだ。
次に、リクルート住まいカンパニーの調査結果から、テレワーク実施者の実施時間を見ると、その時間も長くなっている。テレワーク実施者の29%が業務実施時間の90%以上でテレワークを実施しており、前回は実施者の48%が実施時間割合10%未満だったことと比べると、実施している人数だけでなく、実施している人の業務時間内に占める割合も拡大していることが分かる。
テレワーク実施割合 (スクリーニング調査/会社員・公務員かつテレワーク実施者のみ/単数回答)(出典/リクルート住まいカンパニー「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態」調査)
注目したいのは、本調査のテレワーカー(仕事時間の10%以上をテレワークで実施している人)のうち71%が、「コロナの影響でテレワーク(リモートワーク)を始めた」と回答していることだ。「緊急事態宣言」によるテレワークの推進が、働き方を大きく変えていることがうかがえる結果だ。
テレワークの拡大で、マイホームのどこに不満を感じる?新型コロナウイルスの影響によるテレワークで最も増えているのが、在宅勤務だろう。これまで仕事をする場所ではなかった自宅が、いきなり職場に変わって戸惑っている人も多いことだろう。
本調査でテレワーカーに不満を聞いたところ、不満/不便を感じる項目として最も高いのは、「オンオフの切り替えがしづらい」で35%だった。次いで「仕事専用のスペースがない」「仕事用のデスク/椅子がない」などが続いた。
テレワークに際する不満 (本調査/全体/複数回答)(出典/リクルート住まいカンパニー「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態」調査)
ただし、家族構成が「既婚で6歳以下の子どもと同居する」人に限定すると、半数近くの46%が「子どもを見つつ仕事可能な環境(部屋・スペース)がない」に不満が集まった。小さい子どもからは目が離せない一方で、仕事にも集中しなくてはならないというジレンマがあるのだろう。
また、テレワークをしている場所を聞くと、過半数の55%が「リビングダイニング(ダイニングテーブル)」と回答しており、家族構成が「既婚で6歳以下の子どもと同居する」人に限定するとその割合は71%にまで上がる。
なお、テレワークをしている場所としては、新型コロナウイルスの影響で、移動や3密が発生する「カフェ」や「コワーキングスペース」「サテライトオフィス」などは前回調査と比べると減っている。
今後もテレワークを継続したい!自宅の間取り変更や住み替えも検討?では、コロナ禍終息後も、テレワークを続ける意向はあるのだろうか?
「テレワークを継続したい」人の割合は全体で84%と高く、そのうち「働いている時間の10%~70%で実施したい」人が59%(10%~30%で実施したい:19%、30%~50%で実施したい:22%、50%~70%で実施したい:17%)だった。
「今後もテレワークを行う場合、自宅の間取りを変更したいか」を聞くと、「変更したいことはない」が52%を占める反面、「仕事専用の小さな独立空間が欲しい」(31%)、「リビングの一角を間仕切り可能な仕事スペースにしたい」(13%)など、仕事に集中できるような間取り変更を希望する人も多い。
さらに、「今後も引き続きテレワークを行う場合、今の家から住み替えを検討するか」を聞くと、24%に住み替え意向があり、住み替える家の希望条件として、「今より部屋数の多い家に住み替えたい」 (40%)や「今よりリビングは広くしたい、かつ個室数も確保したい(ただし個室は狭くてもよい)」(27%)など、間取りに関する希望が挙がった。また、「通勤利便性より周辺環境重視で住み替えたい」(26%)や「周辺に大きな公園や緑地があるところに住み替えたい」(13%)など、立地に関する希望も挙がっている。
今後住み替えたい住宅への希望 (本調査/住み替え意向あり/複数回答)(出典/リクルート住まいカンパニー「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態」調査)
最後に、SUUMO編集長の池本洋一さんが、「在宅ワークを快適にするための住まいでできる3つの工夫」を紹介している。参考にしてほしい。
在宅ワークを快適にするための住まいでできる3つの工夫(出典/リクルート住まいカンパニー「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態」調査)
さて、新型コロナ禍を契機に、終息後もテレワークが拡大することが見込まれる。そうなると、自宅と職場の垣根が薄れる一方、通勤や満員電車から解放されることもあり、立地や間取りなど住まい選びの考え方にも大きな変化が生じそうだ。今後の住まいのあり方に注目していきたい。
赤い屋根のお家と、そこで暮らす動物の家族たち。小さいけど精巧で、愛らしくて、大人も夢中になって遊んでしまう。そんな魅力を持つのが、今年で発売から35周年を迎える「シルバニアファミリー」(エポック社)です。今回は、家で過ごす時間を豊かで楽しくしてくれる、動物たちの世界とその進化をご紹介します。
人形の累計出荷数は2億2000万体以上。世界で愛されるおもちゃ
発売当初の「赤い屋根の大きなお家」。このログハウス風の住まい、味わいがあっていいですよねえ(写真提供:エポック社)
「シルバニアファミリー」と聞いてピンと来ない人でも、この家と人形の写真を見れば、「知ってる!」「友だちの家で遊んだ~」などと懐かしく思い出す人もいるのではないでしょうか。1985年、エポック社から発売された「シルバニアファミリー」は、現在60以上の国・地域で販売されていて、実に人形の累計出荷数は2億2000万体以上、ハウスほか大型商品累計出荷数は3000万棟・個以上にものぼるそう。ちょっと規模がすごすぎてピンときませんが、言われてみれば家とウサギやクマの動物のモチーフって、国境や言語に左右されず、世界共通ですものね。現在では日本のみならず、世界中で愛されているおもちゃなのです。
懐かしの初代の人形たち(写真提供:エポック社)
ちなみに、日本の次に歴史の長いイギリスでは認知度も高く、「英国の玩具」であると認識されているとか。では、あのシンボリックな「赤い家」はどこかモデルがあるのでしょうか。英国というより、どちらかというと米国のカントリー調のように見えますが……?
「赤い屋根の住まいは、1900年代初頭のアーリーアメリカンをイメージしてデザインされたものです。お家、家具、人形のサイズ感は発売当初から変わっていません。お母さんが子どものころに遊んでいたものとミックスして、親子2代で遊ばれる方も増えています」(エポック社)
時代に左右されず、ずっと愛さるのは本物のおもちゃの証ですよね。また、発売当時から現在までいちばん定番で人気なのがあの「赤い屋根の大きなお家」確かにシルバニアファミリーといえばあの赤い屋根のお家のイメージがあります。
カーテンや照明、壁紙もカスタマイズOK! 細部も緻密にできているSUUMOジャーナル的には、やはり気になるのは家のこと。人形たちにオリジナルの洋服をつくっている人はいるようですが、もしかして、家もリフォームというか、リノベできたりするのでしょうか。
「カーテンや天井付の室内灯を取り付けてアレンジを楽しむことができます。また、シルバニアファミリーの専門店、『シルバニアファミリー森のお家』では、カスタマイズ用の壁紙の取り扱いがあります」(エポック社)
なんと、照明や家具だけでなく、壁紙を張り替えられるとは。やっぱり家ってリフォーム・カスタマイズするとそれだけ愛着がわきますよね。あと、シルバニアファミリーの家は腰壁(床から腰高程度に張る別仕上げの壁)がかわいいし、窓のデザインもドラマチックというかすごく素敵な印象です。
窓まわりや壁・床もリアルで見ていてあきません(写真提供:エポック社)
「シルバニアのお家は、美しい外観や間取りと、おもちゃとしての遊びやすさや安全性の両立を常に意識して開発に取り組んでいます。また、お子様はもちろん、大人が見ても納得するリアルさを追求しています。例えば、キッチンの流し台や洗面台の下の扉を開くと、本物と同じように配管があります。見えないところにもこだわるシルバニアファミリーの家具の象徴と言えるでしょう」(エポック社)
まさか配管があるとは……。今度、シルバニアのお住まいにお邪魔したら、ぜひ洗面台下をのぞいてみたいと思います。
写真左/製氷機付きから実際に氷が出てくる、切ることができるアップルパイなどもめちゃくちゃリアル(写真提供:エポック社)
トイレも蛇口も水が出てきたりと自然なリアル感があります(写真提供:エポック社)
また、子どもたちが遊んで違和感がないよう、家具や家電は現代風に進化しているそう。
「例えば洗濯機であれば昔は二層式洗濯機でしたが、現在販売されているのは、ドラム式洗濯機です。また、掃除機や冷蔵庫なども、現代の子どもたちが生活の中で触れている仕様に合わせた形になっています」(エポック社)
そりゃあ、今のお子さんたち、二槽式洗濯機なんて見てもなんだか分からないですよね……。小さくても説得力があるよう、たゆまぬ改良を重ねているのが分かります。
SNS人気を支えているのは大人のファン。大人が家遊びしても楽しい!ちなみに、2020年には35周年を記念してシルバニアファミリー総選挙を実施しています。先日5月1日には中間発表がありましたが、TOP3には筆者の予想を裏切るキャラクターがランクインしていました。定番のショコラウサギファミリーやネコファミリー、カワウソファミリーが強いと思っていたのに……。もちろん最後まで結果は分かりませんが、これだけでもファン層の幅広さが伺えます。
「今回の総選挙はグローバルでの展開となり、各国のSNSアカウントでも告知をしていることもあり、想定以上の反響と投票数をいただいております」というので、エポック社さん自身も予想していなかったのかもしれません。
キャラクターが大集合したところ。パンダ、コアラ、ハリネズミ、リス……。どの家族もかわいい(写真提供:エポック社)
また、予想していなかったといえば、SNSでの活躍です。インスタグラムやTwitterでは、日常のあるあるを再現した(はかどらない大掃除とか、お酒を飲んでいるとか)シルバニアファミリーの人形たちの写真・動画がバズっていることもありますよね。エポック社さんはご存じなのでしょうか……?
「今は子どもや親子だけでなく、SNSでの人気を支えているのが特に大人のファン層です。シルバニアファミリーの世界観は、写真映えすることも功を奏し、日々の生活の中での、ちょっとした癒やし効果にもなっているのではないでしょうか」(エポック社坂井さん)
分かります、すごく……。特に連日の新型コロナ騒動で、気分が詰まるというか、情報で疲れていると、SNSに流れてくるシルバニアの人形たちの写真ってすごーく癒やされるというか、ピュア(死語)な気持ちになるのです。
本来、「家で遊ぶ」「家のことを考える」のは、とても豊かなこと。SNSで検索するのも楽しいですが、いろんな端末の電源・スイッチをオフにして、今度は本物のシルバニアのお家で人形たちと遊んできたいと思います。
●取材協力新型コロナウイルスのまん延により、経済活動への影響も深刻になっています。生活に直撃するダメージの軽減は、誰もが気になるところ。SUUMOジャーナルで4月に公開した記事でも、住まいに関する救済措置の記事がよく読まれました。人気TOP10の記事を詳しく紹介します。
2020年4月の人気記事ランキングTOP10はこちら!
1位 家賃が払えない!など新型コロナ影響に、国の「救済」続々と!知っておくべきこと速報
2位 【新型コロナ影響】住宅ローンが払えなくなった人への救済策は?
3位 民家の駐車場に“住める”!? 「バンライフ・ステーション」って?
4位 台湾の家と暮らし[4] 台南の歴史地区・安平の古民家に暮らし、アートで高齢者と若者をつなぐ活動も
5位 通勤できない精神障がい者に、テレワークで広がる働く機会。在宅雇用支援サービスのいま
6位 これがミニチュア!? Mozuがつくるコンセントの向こうの「小さな暮らし」
7位 ”痛み”とともに働く――精神障がい者がテレワークで得た変化
8位 若宮正子さん「これからの高齢者に必要なのは“デジタル”」。日本人の意識に課題も
9位 東京都心に残る宿場町「板橋宿」。歴史的”空き家”を活かし魅力再生
10位 老・病・死をタブーにしない。福島県いわき市のメディア『igoku(いごく)』の挑戦
※対象記事:2020年4月1日~2020年4月30日までに公開された記事
※集計期間:2020年4月1日~2020年4月30日のPV数の多い順
1位 家賃が払えない!など新型コロナ影響に、国の「救済」続々と!知っておくべきこと速報
(画像提供/写真撮影:PIXTA)
新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動へのダメージで、生活に困窮するひとが大きな問題になっています。家賃が払えなくなった人への給付金や、所得が少なくても借りられるセーフティーネット住宅など、住まいへの救済措置はどんなものがあるのかを紹介しています。
2位 【新型コロナ影響】住宅ローンが払えなくなった人への救済策は?
(写真/PIXTA)
1位と同じく新型コロナウイルスによる影響で、せっかく買った持ち家のローンの返済に困る人も多いはず。【フラット35】は返済期間の延長の特例措置や返済額軽減など、変更が可能。最後の手段であるマイホーム売却まで、さまざまな“打ち手”を解説しています。
3位 民家の駐車場に“住める”!? 「バンライフ・ステーション」って?
(写真撮影/中川生馬)
「バン」などの車中泊仕様の車を生活拠点にするライフスタイル、バンライフを営むバンライファーが昨年末、石川県の古民家を改装してオープンした、日本初の長期間“住める”民家の駐車場「バンライフ・ステーション」。バンライフの魅力を、ステーション利用者の声をまじえてリポートします。
4位 台湾の家と暮らし[4] 台南の歴史地区・安平の古民家に暮らし、アートで高齢者と若者をつなぐ活動も
(写真撮影/KRIS KANG)
台湾をこよなく愛するエッセイスト・柳沢小実さんが台湾の家を訪れる連載の今回の舞台は、台湾南部の古都・台南市の小さな港町・安平。台湾では近年、古い町が若い人にも人気。築80年の一軒屋での暮らしや、まちおこし活動とともに、台湾の不動産問題にも触れています。
5位 通勤できない精神障がい者に、テレワークで広がる働く機会。在宅雇用支援サービスのいま
(写真/PIXTA)
障がい者の雇用数は過去最高を更新していますが、職場になじめなかったり、雇用したくても企業側の環境が整わなかったりというミスマッチはいまだに大きな課題になっています。テレワークを活用して障がい者雇用を促進するサービスを展開している会社の実例からは、課題解決の糸口がみえてきました。
6位 これがミニチュア!? Mozuがつくるコンセントの向こうの「小さな暮らし」
(写真提供/MOZU STUDIOS)
一見何の変哲もないコンセントを開けると広がる、小さなお部屋の動画「こびとシリーズ」。高校生が住んでいそうなリアル感が受け、バズった、同シリーズを手掛けたミニチュアアニメクリエイター・Mozuさんが、創作のこだわりなどを教えてくれました。
7位 ”痛み”とともに働く――精神障がい者がテレワークで得た変化
(撮影/片山貴博)
障がいのため外出が難しくとも、テレワークでならば勤労は可能。支援サービスを利用し、最もリラックスできる自宅という環境でテレワーカーとして働くことで自信を取り戻し、障がいの症状の軽減にもつながった女性の、就職活動や日々の生活を聞きました。
8位 若宮正子さん「これからの高齢者に必要なのは“デジタル”」。日本人の意識に課題も
(写真撮影/片山貴博)
超高齢化社会を迎える日本で、シニアが快適に生活するために必要なことは何か。81歳でシニア向けのアプリを開発したICTエバンジェリストの若宮正子さん(現在85歳)が期待するのはAIスピーカー機器だそうです。そして、シニアがデジタル機器に親しみやすくなるための心持ちとは。
9位 東京都心に残る宿場町「板橋宿」。歴史的”空き家”を活かし魅力再生
(画像提供/向こう三軒両隣 撮影/浅田美浩)
東京23区内でありながら、大正や昭和初期の風情を残す板橋区本町エリア。ここ10年ほどはマンション開発の荒波を受けながらも、趣ある空き家をリノベーションした街づくりで、地域を活性化しています。
10位 老・病・死をタブーにしない。福島県いわき市のメディア『igoku(いごく)』の挑戦
(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
誰もが行く道でありながら「縁起でもない」と敬遠されがちな老いや死を“エモく”取り上げ、話題の福島県いわき市役所。活動の根本にあるのは、「自分が望む場所で最期まで暮らせる選択肢がある社会に」という想いでした。
新型コロナウイルスのまん延により「テレワーク」という単語を耳にしない日の方が珍しくなりました。ランキングからは、通常勤務の代替であるだけでなく、テレワークという働き方による可能性の大きさにも注目が集まりつつあるように感じられます。一過性の流行りで終わるのではなく、コロナというピンチが、働き方改革の本当のチャンスになるよう、祈りたいものです。
リクルート住まいカンパニー(本社:東京都港区 代表取締役社長:淺野 健)は、関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象にインターネットによるアンケート調査を実施。「SUUMO住みたい街ランキング2020関西版」を発表した。果たして、どんな結果となったのだろう。
トップ4の順位は、3年連続1位「西宮北口」、2位「梅田」、3位「神戸三宮」、4位「なんば」
住みたい街(駅)ランキング トップ10(出典:リクルート住まいカンパニー)
※複数路線が乗り入れしている駅の「代表的な沿線名」は、回答時に選択された路線のうち最も多い得点を獲得した路線を記載
SUUMO「住みたい街(駅)ランキング2020 関西版」の結果は、1位「西宮北口」、2位「梅田」、3位「神戸三宮」、4位「なんば」と、3年連続でトップ4の順位に変動は無かった。
順位に変化はなかったが、得点を見ると「西宮北口」はこの3年で着々と伸ばし続けており、人気の高さは、さらに盤石なものとなっている。年代別「住みたい街(駅)ランキング」においても、20代から40代すべての年代で1位となっており、幅広い世代から支持されているのが分かる。西宮北口は大阪と神戸三宮のあいだに位置し、2018年11月に「阪急西宮ガーデンズ」が大規模な増床を果たしたことで一層「商業の集積地」という印象を強くした。交通利便と商業利便が合致した最たる場所と言える。
住みたい街(駅)年代別ランキング トップ10(出典:リクルート住まいカンパニー)
西宮北口ブランドの威光は、周辺駅にまで及んでいる。「穴場だと思う駅ランキング」では、ひとつ隣の駅「武庫之荘」が12位から4位へ躍り出た。まさに「人気の西宮北口に最も早くアクセスできる穴場駅」だ。
4位「なんば」は前年からポイントアップ。大阪を縦に貫く「なにわ筋線」への期待値か(写真/PIXTA)
西宮北口同様、前年より得点を伸ばしたという点で4位の「なんば」にも注目したい。
確かに、このところのなんばには目を見張る動きがある。なんばと将来「うめきた」エリアに誕生する新駅を結ぶ鉄道路線「なにわ筋線」が2020年2月28日に工事施行を認可されたのだ。ミナミとキタを新しい鉄道路線が縦貫するとなれば、関西の鉄道ネットワークの歴史は大きく変わる。関西国際空港や新大阪駅へのアクセス性が向上するなど、なんばの交通利便性はさらに価値が高いものとなるはずだ。
西宮北口と同じく交通利便と商業利便が絶妙にマッチしており、なにわ筋線の開通により、今後さらに「使えるエリアになる」と将来性が見込まれる。その点も評価されて得点を伸ばしたのではないだろうか。
5位以下を見てみると、2019年から順位を上げたのが8位から5位に上がった「天王寺」、10位から7位の「千里中央」、9位から7位(千里中央と同率)の「江坂」。
初のトップ5入りを果たした「天王寺」は、2015年に幕を開けた駅北側の再開発が引き続き進み、緑地が多くなって風景ががらりと変わった印象がある。近鉄不動産と大阪市が共同で取り組む「天王寺動物園ゲートエリア魅力向上事業」の一環として、天王寺動物園の退園口に2019年11月、約5000平方メートルの広さを擁する「てんしば i:na(イーナ)」がオープン。バーベキューが楽しめるなど、天王寺北側は都会のオアシス的な存在となっている。ライフステージ別の住みたい街ランキングでも夫婦+子ども部門で15位から8位へ急上昇しており、ファミリー層からの支持率がひときわ上がった街だと言えるだろう。
天王寺駅(写真/PIXTA)
「千里中央」「江坂」が躍進! 北大阪急行の延伸で大阪北部に注目が集まる千里中央の街並み(写真/PIXTA)
7位の「千里中央」は「穴場だと思う街(駅)ランキング」でも13位から3位へ華々しくジャンプアップ。男女別の住みたい街ランキングでは、女性部門で14位から6位へ、年代別のランキングでは、20代で13位から10位へと駆けあがるなど、千里中央はいま関西でもっとも熱い視線が注がれる駅のひとつだと言っても過言ではないだろう。老朽化した駅前複合ショッピングセンター「千里セルシー」を解体し、隣接する「千里阪急」とともに巨大商業施設の建設が計画されている点も人気上昇の追い風になりそうだ。昭和の時代に「日本初のニュータウン」として庶民から羨望の視線を浴びた“センチュー”が、令和に再びニュータウンとして甦ろうとしている。
もうひとつ、千里中央の順位が上昇することとなった発端と考えられるのが、「北大阪急行電鉄の延伸」だ。昭和の大阪万博と同じ年に開業し、 50 周年を迎えた北大阪急行。2023年度に、これまでは始発/終着駅だった「千里中央」から大阪府の箕面(みのお)市まで延伸開業する予定だ。新しく敷かれる鉄道の沿線には大阪大学の新キャンパスをはじめ、「子育て」を核とした複合公共施設などの建設が進んでいる。完成すれば、千里中央には今後より多くの人口流入が見込まれるだろう。
Osaka Metro御堂筋線の北部の始発/終着駅である「江坂」の順位があがっているのも、北大阪急行延伸の影響が強いと考えられる。江坂はOsaka Metroと北大阪急行との相互乗り入れ駅でもあり、今後は交通利便性アップの恩恵をさらに受けることとなる。北大阪急行の延伸は江坂にとって大型複合商業施設「みのおキューズモール」と直結するという商業利便という面においてもメリットが大きい。Osaka Metro御堂筋線は終電時間の延長も計画されている。実施されれば終着駅である江坂はますます住みやすい駅になるはずだ。
江坂駅周辺の風景(写真/PIXTA)
「穴場だと思う街(駅)ランキング」は、尼崎市の街が4つランクイン!「穴場だと思う街(駅)ランキング」の1位は、前年と同じく「尼崎」。順位は変わらないが得点は21ポイント増えており、「穴場な街といえば尼崎」という印象がさらに強化された感がある。阪神本線の駅としてランクインしているが、麒麟麦酒工場跡地が再開発されて以来、阪神のみならずJRも含めた尼崎圏全体のイメージそのものがクリーンアップされたのだろう。駅近なマンションの供給も増えつつ、それでいて価格は比較的抑えられているのも魅力的だ。
穴場だと思う街(駅)ランキング トップ10(出典:リクルート住まいカンパニー)
2位の「塚口」、12位から4位へ跳ね上がった「武庫之荘」、圏外から一気に8位へ票を伸ばした「園田」も尼崎市の街(駅)だ。2019年に発表された人口動態調査によると尼崎市は9年ぶりに人口が増加している。また、平成最後に「尼崎城」が築城されるなど、話題に事欠かない。今後は「穴場な街(駅)」の尼崎が、「住みたい街(駅)ランキング」へとステージを移していくのか注目したい。
13位から7位へランクアップしたのは、桂離宮など歴史遺産が数多く遺る京都西部の玄関口「桂」。阪急京都線と嵐山線の2路線が乗り入れており、京都河原町まで10分、大阪梅田まで特急で34分でアクセス可能。交通利便性が高い街でありながら、「碁盤の目」と呼ばれる家賃が下がりにくいエリアから微妙に外れており、繁華街に近いにもかかわらず比較的住宅開発が進んでいるのも、好感をいだかれた要因だろう。
昨年の圏外から8位へ急上昇したのが兵庫県の「明石」。子育て世代への施策を打ち出し、先ごろは紙おむつや粉ミルクなどを無料宅配する支援制度の予算案が可決されるなど、ファミリー層を魅了する点が多い街だ。ライフステージ別の「住みたい街(駅)ランキング」でも、夫婦+子ども部門で26位から18位へ順位をあげており、子育て支援の取り組みは如実に功を奏しているのが分かる。JR新快速で三ノ宮まで15分、大阪まで37分という交通利便性があり、海や山など自然に囲まれながらも駅前再開発により商業利便性も十分。家賃も阪神間と比較すると安い。2013年から明石市の人口が増え続けているのもそのためだろう。
「SUUMO住みたい街ランキング2020 関西版」の結果をひもといてみると、夙川や岡本、御影など以前から人気でブランドイメージが強い街がランクをやや下げているのに対して、天王寺や千里中央のように交通利便性と商業利便性があり、安価で家族で楽しめる緑地帯がある実利性が高い街の人気があがっているように感じた。来年の結果はどうなるのだろう。引き続き、注目していきたい。
東京カンテイが毎月発生する管理費や修繕積立金などのランニング・コストを分析した。それによると、「管理費・修繕積立金は新築マンションの価格とほぼ連動して上昇している」という。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「マンションのランニング・コスト最新動向」を発表/東京カンテイ新築マンションの管理費・修繕積立金は地域差があり、マンション価格と連動している
マンションの管理費は、日常の管理を円滑に進めるためのもので、管理会社への委託費、共用部の清掃費や水道光熱費、共用設備の点検などに使われる。一方、修繕積立金は、主に12年周期などで実施される大規模修繕工事を実施するために積み立てられるもの。
東京カンテイでは2010年~2019年の首都圏・中部圏・近畿圏の1戸当たりの管理費と修繕積立金を「専有面積70平米換算」にして分析している。2019年と10年前の2010年の月額の平均額は、次のようになる。
三大都市圏 管理費・修繕積立金(70平米換算 単位:円/月)(出典/東京カンテイ「マンションのランニング・コスト最新動向」より抜粋して筆者が作成)
三大都市圏で地域差があり、この10年間でいずれのエリアも上昇している。東京カンテイによると、管理費・修繕積立金は新築マンションの価格と連動しているという。
一般的に、高額なマンションほど、その設備仕様や管理サービスの水準が高くなる。近年、新築マンションの供給量が絞られる中、こうした「ハイグレードマンション」を主力とする大手デベロッパーの供給シェアが高まることが、新築マンションの平均価格を引き上げる一因になっている。ハイグレードマンションは、維持管理や建物の修繕にかかる費用も高くなる傾向があるため、連動性が生まれることになる。
また、新築マンションの価格上昇の背景として、近年の建設業界の人手不足による人件費の高騰や建築資材の高騰などがあげられる。同じように、管理業界の人手不足による人件費の高騰や建物の大規模修繕工事の費用の値上がりなども、新築マンションの価格と連動性が生まれる要因になる。
これから新築マンションの購入を考えている人は、地域別の平均額やこういった背景を押さえて、マンションのランニング・コストを考えるとよいだろう。
タワーマンションは、管理費や修繕積立金が高い!?次に、新築マンションの管理費・修繕積立金を最高階数別に見ていこう。
一般的に、20階以上を超高層=タワーマンションというが、20階未満の非タワーマンションと20階以上のタワーマンションでは、管理費と修繕積立金に開きが見られた。
三大都市圏 最高階数別 管理費・修繕積立金(70平米換算 単位:円/月)(出典/東京カンテイ「マンションのランニング・コスト最新動向」より抜粋して筆者が作成)
これは、タワーマンションには多様な共用施設が備えられ、24時間常勤管理・コンシェルジュサービスなど、充実した管理サービスが提供されることが多いこと、タワーマンションの大規模修繕工事は一般のマンションと違って施工方法が特殊になることなどにより、管理費や修繕積立金が高くなる傾向が見られるからだ。
→ 参考記事:「タワーマンションの大規模修繕、一般的なマンションとどう違う?」
タワーマンションそれぞれの事情によって実際の金額は異なるだろうが、おおむね非タワーマンションよりはランニング・コストがかかるといえそうだ。
中古マンションのランニング・コストの傾向は?東京カンテイでは、中古マンションの東京23区・大阪市・名古屋市における管理費・修繕積立金についても分析している。築年帯別の月額平均は、管理費と修繕積立金で傾向が大きく異なることが分かるので、その傾向について見ていこう。
まず、管理費についてはおおむね、金額が高くなる2つの大きな山が見られる。築年の新しい時期が第一の山で、これは分譲時の管理費が年々上昇した(首都圏・近畿圏)ことや流通量に占めるタワーマンションの比率が高くなった(中部圏)ことに起因する。第二の山がバブル期に分譲されたマンションで、バブル期特有の豪華な設備仕様・サービスによって高くなることに起因する。2つの大山を除くとおおむね安定している。
一方、修繕積立金については、逆に築年の新しい時期のほうが金額が低い。築5年から上昇が顕著になり、築10年を超えると緩やかに上昇するといった上昇傾向が続く。
修繕積立金が築年に連れて上昇する理由は、分譲時にマンションの修繕積立金を抑えて販売する背景がある。かつては、売りやすさを優先して、分譲時に設定された修繕積立金では第2回・第3回の大規模修繕工事に積立金が不足する形になっていた。そのため、不足を補うためには、マンションの管理組合で修繕積立金の値上げをする必要があった。
その反省を受けて、近年では分譲当初から大規模修繕工事に不足しない金額を設定するようになったが、その多くは「段階的に修繕積立金を値上げする」方式を取っている。そのため、分譲当初の修繕積立金の額は低いが、数年後の値上げで金額が高くなる。いずれの場合も、後になるほど修繕積立金が増額になるので、築年数が経つほど修繕積立金の平均額も上昇することになる。
住宅ローンの返済と合わせて支払うことになるマンションのランニング・コストは、低い額であるほど家計の負担は少なくなる。だからといって、管理サービスのレベルが低かったり、将来の大規模修繕工事で資金が不足して、追加費用を求められたりするのは避けたいものだ。
そのためには、平均額を参考にしたり、金額が増減する背景を押さえたりして、適切な金額かどうか確かめるようにしよう。マンションの資産価値を維持向上させるには、それ相応のお金も必要なのだ。
電気街として発展し、やがてアニメやゲームなどのサブカルチャーの街として名をとどろかせてきた秋葉原。近年はオフィスビルも増え、JR各線に東京メトロ日比谷線、つくばエクスプレスが利用できる交通の便のよさもあってオフィス街としても知られるように。今回は、そんな秋葉原駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場をランキング。専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」、それぞれの価格相場が安い駅トップ10はこちら!●秋葉原駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP10
【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/秋葉原駅までの所要時間)
1位 金町 2099万円(JR常磐線/東京都葛飾区/23分)
2位 板橋本町 2494.5万円(都営三田線/東京都板橋区/27分)
3位 亀戸 2599万円(JR総武線/東京都江東区/10分)
4位 新板橋 2630万円(都営三田線/東京都板橋区/23分)
5位 板橋 2640万円(JR埼京線/東京都板橋区/26分)
6位 王子 2680万円(JR京浜東北・根岸線/東京都北区/17分)
7位 蒲田 2698万円(JR京浜東北・根岸線/東京都大田区/28分)
8位 代田橋 2748万円(京王線/東京都世田谷区/27分)
9位 南千住 2790万円(つくばエクスプレス/東京都荒川区/8分)
10位 梅島 2799万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/20分)
【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/秋葉原駅までの所要時間)
1位 上本郷 1880万円(新京成電鉄線/千葉県松戸市/28分)
2位 新田 1990万円(東武伊勢崎線/埼玉県草加市/30分)
3位 谷塚 2270万円(東武伊勢崎線/埼玉県草加市/25分)
4位 獨協大学前 2375万円(東武伊勢崎線/埼玉県草加市/28分)
5位 竹ノ塚 2400万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/22分)
6位 東船橋 2585万円(JR総武線/千葉県船橋市/30分)
7位 小菅 2620万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/16分)
8位 柏 2650万円(JR常磐線/千葉県柏市/30分)
9位 草加 2730万円(東武伊勢崎線/埼玉県草加市/25分)
10位 大師前 2780万円(東武大師線/東京都足立区/26分)
秋葉原駅まで30分圏内にある駅の中古マンションの価格相場を調査したところ、シングル向けはJR常磐線・金町(かなまち)駅、カップル・ファミリー向けは新京成電鉄線・上本郷駅が最も安かった。
金町駅(写真/PIXTA)
シングル向け1位のJR常磐線・金町駅は東京都葛飾区で最北端にある駅で、駅の東方を流れる江戸川を渡れば千葉県松戸市というロケーション。東京メトロ千代田線直通のJR常磐線に乗れば、大手町駅や赤坂駅、表参道駅へも乗り換えせずに行くことができる。駅南口広場の先にある京成金町線・京成金町駅が利用できる点も便利。駅北側には東急ストアやイトーヨーカドー、南側にはスーパーや100円ショップなどの商業施設に区立図書館、分譲マンションからなる複合施設「ヴィナシス金町」がある。
金町駅周辺は近年、再開発が盛んに進められており、現在も南口駅前で再開発が進行中。2021年には商業施設や公共施設、住居からなる地上21階・地下1階建ての「プラウドタワー金町」が完成予定だ。どんどんと住みやすさが増している、注目エリアといえるだろう。
カップル・ファミリー向け1位の新京成電鉄線・上本郷駅は、金町駅から直線距離で5km弱の千葉県松戸市に位置。駅から北へ約5分歩くと松戸市最古といわれ、250年以上の歴史がある「風早神社」がたたずみ、その向かい側には小学校がある。買い物をするなら商店街やコンビニ、スーパーがある駅南側へ。さらに電車で1駅の松戸駅に行けば、大型商業施設もそろっている。
今回の調査ではランク外だった松戸駅のカップル・ファミリー向け中古マンションの価格相場は2880万円。そこから1駅隣りの1位・上本郷駅の価格相場は1880万円と、松戸駅よりも1000万円も相場がダウン! 街の発展度合いでは松戸駅に軍配が上がるものの、これほど価格相場が下がるならば上本郷駅にも興味が惹かれるだろう。
カップル・ファミリー向け物件は東武伊勢崎線沿線が狙い目2位以下を見ていこう。シングル向けのトップ10には東京都内の駅が並んでいる。そのうち秋葉原駅まで乗り換えせずに行けるのは、JR総武線の亀戸駅(3位)、ともにJR京浜東北・根岸線の王子駅(6位)と蒲田駅(7位)、つくばエクスプレスの南千住駅(9位)。なかでも9位・南千住駅は秋葉原駅まで約8分という近さだ。
南千住駅(写真/PIXTA)
シングル向け9位・南千住駅はつくばエクスプレスのほか、東京メトロ日比谷線、JR常磐線(快速)も通っている。駅周辺にはスーパーやコンビニのほか、ドラッグストアや飲食店などのテナントを抱える複合商業施設「BiVi南千住」と「LaLaテラス 南千住」、さらに品ぞろえ豊富なホームセンターもあり、ひとり暮らしの買い出しには十分な環境が整った街だ。東京メトロ日比谷線に乗ると秋葉原駅のほかに銀座駅や霞ケ関駅、六本木駅、恵比寿駅までも1本なので、これらの駅近辺で働く人にとっても南千住駅は住まいの選択肢としてアリだろう。
カップル・ファミリー向けランキングの2位以下には、埼玉県や東京都、千葉県の駅が入り混じっている。しかしトップ10のうち、2位~5位と7位と9位の計6駅は東武伊勢崎線の沿線という結果に。いずれの駅からも東京メトロ日比谷線直通の東武伊勢崎線に乗れば、1本で秋葉原駅まで行くことができる。近年は東武伊勢崎線と東京メトロ日比谷線のように、複数路線間の直通運転も増えている。住まい選びの際は物件の最寄駅の路線だけでなく、その路線の直通運転の有無もチェックするといいだろう。
さて、トップ10入りした東武伊勢崎線の駅のなかでも9位・草加駅は、埼玉県草加市を代表する駅で街もにぎわっている。駅ビル「草加ヴァリエ」をはじめ駅周辺には大型商業施設が多数。駅を囲むようにして小中学校や幼稚園、保育園も点在し、子育て世代もたくさん住んでいることが分かる。ここから都心方面へ通勤する人も多いため、朝の電車の混雑が激しい点は少々気になるところ。満員電車にもまれるのを避けたいなら、2駅都内寄りの5位・竹ノ塚駅でいったん降り、竹ノ塚駅始発の東京メトロ日比谷線直通列車に乗り換えて悠々と座って通勤するという手もある。
草加駅(写真/PIXTA)
東京メトロ日比谷線直通の始発列車もある5位・竹ノ塚駅は東京都足立区に位置。駅東口にはロータリーを囲んでURの団地がそびえ、その1階部分では飲食店や書店が並ぶ「駅前名店街」やスーパーが営業中。「カリンロード商店街」と呼ばれる商店街もあり、庶民的で親しみやすい街並みだ。公園も点在し、子どもの遊び場所にも困らないだろう。また、現在は竹ノ塚駅の高架化工事中で、2022年春には新駅舎が使用開始予定。今後も楽しみな街といえる。
さて、今回のランキングを改めて見ると、シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)とカップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)のトップ10の価格相場が大差ない結果となっている。「秋葉原駅まで30分圏内」という同じ条件下なら、専有面積が狭いシングル向け物件のほうが価格相場は安そうなのに、調査結果は予想外のものだったわけだ。
「物件は広いほうがいい」とは限らないが、ひとり暮らしだからといって面積を絞る必要もない。物件探しをする際は視野を狭くせずに、「面積で絞る」「立地で絞る」「価格で絞る」などいろいろと試したほうがいいかもしれない。
●調査概要駅を中心とした鉄道高架下スペース「駅下」に、今まで以上に注目が集まっている。これまでにも飲食店などはあったが、賃貸住宅やホテル、保育園などにも利用されるようになり、“街”と言ってもいいほどの充実ぶりだ。なぜ今、高架下なのか。最近の高架下はどんなふうになっているのか。そして、今後はどのような方向へと進んでいくのか。高架下の今とこれからを展望してみた。
JR中央線高架下の学生向け賃貸住宅への入居が始まった
2020年3月、JR中央線東小金井駅―武蔵小金井駅間の高架下に学生向け賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」が完成した。JR中央線の高架下を敷地としており、専用カフェテリアでの食事と管理員付き、3人の建築家が各人のコンセプトのもとに各棟の設計を担当するというデザイン性が話題となったこの物件。現在、学生たちが、入居を開始している。
契約者は、近隣や多摩地区にある大学や専門学校の学生で、中央線沿線であることから、都心部に通学する学生も少なくないという。高架下と聞くと、電車の走行に伴う騒音や振動が心配になるが、今の所、入居者からそういった不満の声は上がっていないということだ。
「この物件のように、中央線沿線で新築、かつ食事が付いた賃貸物件は珍しいので、その点に魅力を感じている契約者が多いようです」(JR中央ラインモール開発本部マネージャー関口淳さん)。
高架下に誕生したスタイリッシュな賃貸住宅は周辺に住む人々の目を引き、入居学生専用のカフェテリアには、「入居者以外でも利用できませんか?」という声もあるそうだ。
中央ラインハウス小金井C棟の部屋の一例。専有面積15.94平米、ロフト面積4.93平米で、月額賃料7万円、共益費1.5万円/月。ロフトやワークデスク、本棚に加えて、乾燥機付きのバスルームもある(写真提供/JR中央ラインモール)
L棟の部屋の一例。キッチンやライブラリー、ランドリーなどのコモンスペースが充実しているL棟では、10平米台というコンパクトな専有スペースに家具を機能的に配置している(写真提供/JR中央ラインモール)
C棟のコモンスペースである「アウトサイド・コモン」。C棟には共用設備として宅配Box、オートロック、防犯カメラ(外部)などもある(写真提供/JR中央ラインモール)
敷地の中心に位置する専用カフェテリアでは、平日の朝・夕2回、入居者に食事が提供される(写真提供/JR中央ラインモール)
JR中央線の東小金井駅から徒歩7分、武蔵小金井駅からは徒歩11分と、両駅が利用可能。両駅間の高架下にはすでにショッピングモールや保育園がある(写真提供/JR中央ラインモール)
鉄道の連続立体交差事業が高架下スペースを生み出しているこれまで高架下には、飲食店などの店舗はあっても、住宅が建てられることはなかなかなかった。中央ラインハウス小金井のような「高架下住宅」が誕生したのはなぜか。その背景には、敷地の大半が住居専用の用途地域(第一種低層住居専用地域)であったことがある。そして、その敷地は、中央線三鷹駅~立川駅間の線路高架化に伴って生じたものだ。高架化によって、全長9kmにも及ぶ高架下空間が生み出されたのである。
このような鉄道の高架化は、都市部を中心に、全国で進められている。開かずの踏切による交通渋滞の解消、複々線化による鉄道輸送力の増強などを目的とした連続立体交差事業が実施されているからだ。
高架化によって、それまで線路や踏切だった土地が別の用途に転用されるようになったことが、駅周辺の再開発や、高架下スペースの有効活用を促している。ここ最近、高架下が活発に開発されているのは、そうした背景によるものなのだ。
連続立体交差事業の例(東武スカイツリーライン竹ノ塚駅付近)。事業主である足立区は、新たに生まれる高架下スペースの利用方法について、区民にアンケートを実施している(画像/PIXTA)
沿線ごとの個性を活かした商業施設が次々にオープンJR東日本グループのディベロッパーである株式会社ジェイアール東日本都市開発では、「高架下から未来のまちづくりを」という理念のもと、高架下を起点に都市開発を行っている。同社が取り組むのは、駅と駅の間の空間の魅力づくりであり、今まで気づかれていなかった沿線の価値を引き出すことを意図して、沿線別にテーマ性を持って高架下の開発を進めている。
例えば、JR秋葉原駅―御徒町駅間の高架下では、“こだわりの日本”という大きなテーマに沿って、個々の開発が行われている。「CHABARA」は、神田青果市場跡という立地特性に沿った“食へのこだわり”というコンセプトに基づいており、「SEEKBASE」は“日本の技術”、「2k540」は“日本のものづくり”、「御徒町ラーメン横丁」は“日本のソウルフード”といった具合だ。
また、JR阿佐ヶ谷駅-高円寺駅間では、“歩きたくなる高架下”というテーマに沿って、「Beans阿佐ヶ谷」「alːku阿佐ヶ谷」を展開している。
加えて、2020年6月下旬には、JR有楽町駅―新橋駅間に「日比谷OKUROJI」が開業予定。都心立地にふさわしい、大人向けの飲食、ファッション、雑貨などの店舗がそろうことになっている。
JR秋葉原駅と御徒町駅の間の高架下にある「SEEKBASE」の館内。「日本の技術」をテーマに、オーディオやカメラ、模型店などの個性的な店舗がそろっている(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)
「SEEKBASE」の外観。ホビー系の店舗以外に、飲食店や「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA」というホテルもある(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)
学童やプリスクール、体操教室に加えて、カフェなど親子で過ごせるショップが集まる「alːku阿佐ヶ谷」。広々とした中央通路に、「歩きたくなる高架下」というコンセプトが現れている(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)
「日比谷OKUROJI」の完成予想図。東京の中心地である日比谷・銀座の「奥」にあることに加え、高架下通路の秘めたムードを「路地」という言葉に置き換えることで、「オクロジ」と命名されたのだとか(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)
「日比谷OKUROJI」の館内予想図。バーの文化が根付くエリアであることから、さまざまなスタイルのバーもそろう予定(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)
保育園やホテル、学びの場など多彩な事業も展開ショッピングモールの開発が目を引く高架下活用だが、その用途は商業施設にとどまらない。前述の中央ラインハウス小金井に加えて、さまざまな事業が展開している。
例えば、保育園。JR東日本による子育て支援事業「HAPPY CHILD PROJECT」の一環として高架下に設けられた保育園は複数あり、駅近という立地も手伝って好評だ。騒音被害を心配した周辺住民からの反対などがない点でも、保育園はある意味、高架下向きなのだろう。
また、前出の「SEEKBASE」内「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA」、JR京葉線舞浜駅高架下の「ホテルドリームゲート舞浜」、京浜急行線日の出町駅-黄金町駅高架下のホステル「Tinys Yokohama Hinodecho」など、宿泊施設も登場している。
中央線の高架下では、2019年4月にさまざまなジャンルのワークショップが「nonowaラボ」として企画され、生活をより楽しく豊かにするヒントが詰まった、子どもから大人まで全世代が利用できる学びの場が提供されている。中央線沿線に住む人々を中心として、『「豊かな暮らし」の実現』をコンセプトに、生活をより楽しく豊かにするヒントが詰まったワークショップが選りすぐられているのが特徴だ。
高架下施設の建設については、電車走行時の振動を建物内に伝わりにくくする工法も開発されている。新たな技術によって高架下スペースの居心地が良くなることで、さらなる可能性も開けていきそうだ。
「nonowaラボ」では、中央線沿線にある4つの教室で毎月約10講座を実施中。写真は、その教室のうちのひとつである「プログラボ国立」。中央線国立駅と立川駅の間の高架下に位置している(写真提供/JR中央ラインモール)
●参考家事は日々の生活を支える大事な作業。とはいえ、面倒だし、忙しい中で時間をかけたくない……。できればムダは省きつつ、ラクして家事のクオリティを上げたい。
そんなシンプルな家事を実現するため、今までの家事に対する固定観念を捨てて忙しい毎日が変わるヒントを、分野の異なる4人の専門家に聞いた。
ヒント1 “ムダはやめる!”
(画像提供/PIXTA)
「やらなくていいことはしない」と
きっぱり決めるとゆとりができる
「今までは『料理が好き』『片付けが好き』という人が理想の主婦として、注目される時代だったと思います。主婦たるもの『家事がキライ』と声を大にして言ってはいけない雰囲気さえありました。でも、私は家事が苦手だから、やらなくていいことはしません。ムダなことに時間をかけるくらいなら昼寝をしたい(笑)」
シンプルライフ研究家のマキさんは「家事をしなければいけない」という思い込みをなくし、家事嫌いでも快適に暮らすため家事の工程を省いてシンプル化。「例えば、洋服はハンガーに干して畳まずにしまうなど、やらなくていいことは“しない”と決めるとゆとりができ、家族と楽しく過ごす時間が生まれますよ」
(画像提供/PIXTA)
家事が自然とできるような
仕掛けをつくる
誰でも家事を無駄なくできるヒントが、大阪大学の松村真宏教授が提唱する『仕掛学』に潜んでいる。
「日常生活で面倒や不便を感じることに、違う目的や選択肢を与えて、強制ではなく、ついやりたくなるように変える。それが仕掛学です。例えば、自転車の駐輪場に斜めの線が引いてあれば、自然と斜めに自転車を停めたくなるでしょう」
仕掛学は家事にも取り入れられそう。
「家事をゲームや運動として捉え、『食器洗いで○カロリーを消費』などとグラフで可視化するとか。数字が増えると達成感があり、無理なく家事ができます」
遊びの要素を取り入れれば、パパや子どもも自然と家事に参加したくなるかも。
(画像提供/PIXTA)
家事をみんなでシェアしながら
“チーム”として運営する
妻目線で語られがちな家事だが、夫こそが自発的に行うべき、と語るのは家事シェア研究家の三木智有さんだ。
「これまでは家庭の中で妻が家事を担う前提で、それを夫がどう手伝うかという考えが主流でした。でも、共働き世帯が半数を超えた今、妻だけが家事を負担するのは無理があります。家事シェアでは家事をみんなの家族ゴトとして捉えて、“チーム”として運営していきます」
家事をシェアするにはどうすれば?
「例えば、妻が掃除機をかけている際に夫は風呂掃除をするなど、夫婦が同時進行で家事をする『パラレル家事』でチーム感を高める。2人の受け持ちをパターン化するとシェアしやすくなります」
(画像提供/PIXTA)
自分の暮らしに合わせて
家を合理的に編集する
家事をラクに行うためには家から変えるべきと、ブルースタジオの石井 健さん。「今までの日本では決められた家に人が合わせて住むのが当たり前でした。これらの家の多くはみんなが満足する最大公約数的な観点でつくられており、個人にマッチするとは限りません。今の間取りを疑ってもいいし、空間の役割にとらわれる必要はありません。自分の暮らしを見つめ直してそれに家を合わせるんです」
では家事をシンプルに行うためには?
「共働き世帯やテレワークの方など、マルチタスクでさまざまな家事や作業を行うことが増えています。複数の家事を同時にできるよう動線を変えるなど、家を合理的に編集するのがオススメです」
4つのヒントを見てきてわかるのは、家事の在り方が時代とともに大きく変わりつつあるということだ。現代の暮らしに合わせて、きっぱりやらないと決めたり、進んで家事をしたくなる仕掛けをつくったり、あるいは家族を巻き込み作業の手を増やしたり、または家事動線から変えてしまったり。家事も合理的に判断してやっていくのが良さそうだ。
構成・取材・文/藤井たかの
京都駅からひと駅。JR「梅小路京都西駅」の誕生もあり、京都で注目を集める京都駅西部エリア。早朝には京都市中央卸売市場で働く人々の活気ある声でにぎわうが、昼になると閑散。他の町とは時間軸が異なる、とても特殊なエリアだ。その場外市場に入っていくと、大きなアイアン×ガラスドアの無機質な建物が出現する。それが、KAGANHOTEL。築45年、5階建て青果卸売会社の社員寮兼倉庫をリノベーション。若手現代作家が住まいながら創作に励むことができる、コミュニティ型アーティストレジデンスであり、アートホテルでもあり。
「ネタ帳に「こういうものがあったらいいよね」を書き留めておく。そして、人生のタイムライン上、タイミングが合ったときに実行するようにしています」扇沢さん(写真撮影/中島光行)
早朝の市場の街に、新しい人の営みを「ここは、まだ真っ暗な朝3時から動く町。トラックが動いて競りが始まり、朝10時には終わって、人がいなくなる。制作音が出る作品づくりなら、生活時間が重ならなくて、好都合じゃないかと」。そう語るのは、代表の扇沢友樹さんだ。市場で働く人から、アーティストに、生活のバトンタッチがグラデーションとなり、この街を彩る。「アーティストがホテルで働いてお金をかせぎながら、創作活動と同時に発表もできる、職住一体型アーティストレジデンスです。ホテルという同じ場所で流動的な人の流れとアートをマッチング。宿泊者とアーティストの新たな関係性を日常的に生み出します」
まず、KAGANHOTELの中を案内しよう。
エントランスを入ると、突如地下への階段が現れる。「創作するなら、その作品を出し入れしやすいことが必須。それなら、大きな動線が必要だろうと、もとは青果を保存していた地下倉庫につながるこの『落とし穴』ありきで、リノベーションを進めました」と扇沢さん。地下にはギャラリーとブースに仕切られたスタジオがあり、各アーティストに振り分けられている。
玄関を入るとすぐに地下へとつながる階段(写真撮影/中島光行)
ギャラリースペース。ベッドに映像が映し出されるインスタレーション(写真撮影/中島光行)
1階は、ホテル受付&イベントスペース&カフェバー。和室のふすまのような引戸で4つに間仕切られているので、必要に応じて空間を拡大、縮小。空間をスマートに使い分けることができる「和」を意識したスペース。古い梁や柱はグレーの構造体そのまま、手を加えたふすま部分はホワイトにペイントし、レイヤーを分けることで、元の建物の存在感と、新たに加えたものの役割やこだわりがうまく共存し、多面的な空間をつくり上げている。
ガラス戸の向こうに広がるのが場外市場。ホテルの開口部を大きく、外側に垂れ壁をつくることで、1階と町がつながる工夫を施した(写真撮影/中島光行)
カフェバースペース。前のビルと手を加えた部分がレイヤーになっているのがよくわかる。倉庫として使う地下へ1階から青果を運んでいたのはベルトコンベア、カウンターのガラスの下を支える土台としてリノベ後も活躍(写真撮影/中島光行)
2階は団体で宿泊できるドミトリー、3階はアーティストの住まい、4階は創作活動のために作家が中期的に滞在するホステル、5階はプレミアムホテルとして、一般客が宿泊できる。客室内はアーティストがプレゼンテーションする場でもあり、作品が壁に展示されていたり、作品をモチーフにしたベッドカバーなどが使われており、室内にあるタブレットには作品リストやコンセプトを紹介している。宿泊前にホテルのホームページでリストから好きな作品やアーティストをピックアップしておけば、それらの作品を、宿泊する部屋のモダンな床の間に飾るといったこともオーダーできるのだ。
団体が勉強合宿などを行う2階。アーティストがDIY中(写真撮影/中島光行)
4階中期滞在用ホテル。Rの窓が船舶みたいで面白い。建築当時の流行とか(写真撮影/中島光行)
高低差が面白い5階ホテル。自分で選んだアーティストの作品を床の間で鑑賞できる(写真撮影/中島光行)
アーティストには創作拠点、滞在者にはアートとの関わりを提供現在、KAGANHOTELのアーティストとして創作活動に励み、スタッフとして働くひとりが、現代アート作家のキース・スペンサーさん。アメリカから来日、福島と京都で暮らした経験があり、「アートに集中したい」と、日本での滞在型アーティストプログラムを探したところ、辿り着いたのが、このKAGANHOTELだった。「アーティストとして活動するなら京都がいいと思っていたので、住むことが出来て感激しています」
ギャラリーに展示されている作品「All our maps have failed」(18年作)の前で語るキース・スペンサー(写真撮影/中島光行)
彼のとある1日は、こうだ。8時半から17時半までホテルで仕事に従事、現在は2階の工事仕事を担当している。実はこのホテル、地下+1階と5階は工務店による施工で完成しているが、2~4階はスタッフの手によるDIY。まだ、作業中の階も多く、アーティストがみずからDIYするのだ。今後は、工事だけでなくフロントやカフェなどほかのホテル業務も手伝っていく予定とのことだ。
創作活動は19時から毎日3時間。「階段を降りるとスタジオがあるのは贅沢なこと。心の中にある福島の風景をメインに、ドローイングや風景画、抽象画を手掛けています。作品も大きなものから小さなものまでありますね。ここは、アーティストのコミュニティ。アーティストと一緒に住むことで、作品のことなど、悩みを互いに理解できるのがいいですね。まだオープンして数カ月なので、宿泊者との交流とまではいかないですが、今後は反応も楽しみ。このホテルを出発点に、京都に、関西に作品を届けていきたいです」
地下のスタジオはアーティストごとにブースで仕切られている(写真撮影/中島光行)
「このホテルは、長期滞在者、中期滞在者、ワンデイステイと、いろんな使い方があり、世界を旅する客船のようでもあります」と扇沢さん。「作家の作品を買ったことがない宿泊者は、泊まっている間、身近にアートのある暮らしをすることで、コレクターの疑似体験ができます。京都に来た作家さんは1週間~1カ月、ここで創作活動ができます。数十名単位の学生が合宿し、勉強会も開催できます」。職住一体型コミュニティという完結したサイクルに、いろんなスパンの滞在者がスパイラルに関わり合いながら、アーティストをサポート。そんな仕掛けづくりが見事!
扇沢さんは、学生のころから起業を目指し、経験を積むために一度は就職活動も行ったものの、やはりすぐにでも始めようと、大学卒業後すぐ不動産会社を立ち上げたという異色の経歴。「ずっと京都にいる20代30代の若者向けの職住一体型住居を企画・運営してきました。そもそも京都には、下で商売をして上で暮らす職住一体型の京町家というスタイルが存在していたのですが、この社員寮や商店の多く残っているエリアで職住一体型というのはすごく意味があると思っています」と扇沢さん。このKAGANHOTELも、町家のように、上は住居スペース、下はイベントを開催したり、飲食経営したり、まさにチャレンジハウス。
このKAGANHOTELがアートとアーティストがテーマなのに対し、クラフトやクラフトマン、つまり職人をテーマとしたスペースがある。KAGANHOTELのすぐそば、扇沢さんが先に手掛けたREDIY(リディ)というスペースだ。「場外市場というエリアに出会ったのは5年前。まずはKAGANHOTELとなる社員寮よりもう少し規模の小さいREDIY(リディ)から始めました」
乾物屋のビルをリノベーションしたREDIY(リディ)。1階はレーザーカッターや3Dプリンタが使えるスペースになっている(写真撮影/中島光行)
ここは元乾物屋のビルで、建築・クラフトマンのための、工房・シェアハウス・オフィスを併設する、職住一体型クリエイティブセンター。2階には木工や溶接までできる工房があり、建築設計、グラフィック、写真、家具造り、鉄鋼、彫刻をする人々が集まった。扇沢さんはこのセミクローズドの完結した環境で同年代のクラフトマンと自ら共同生活をしつつ、職住コミュニティの可能性を模索した。
2階の工房は、溶接や木工作業ができるよう工具がそろっている(写真撮影/中島光行)
「サラリーマンとクラフトマンの二足のわらじの人も。それぞれのライフプランに合った生活をしてほしい」
ここに住み、創作活動をしている高橋夫妻は、まさにそんな例だ。もともとレザー小物の製造販売会社で制作や販売を担当していた紗帆さんは、その後独立。「当時、家で作業するには音問題もあり、気を使いながらの作業ではストレスもたまりました」(紗帆さん)。そんな時、大輔さんがフェイスブックでREDIY(リディ)を見つけて、このシェアハウスに飛びついた。
アクセサリー作家の高橋紗帆さん、ご主人の大輔さん(写真撮影/中島光行)
REDIY(リディ)の面白いところは、住まいや工房の借り方が自在なところ。ちなみに高橋さんは、最初は夫婦別々に2部屋借りていたところから、大きな1部屋にチェンジ+工房1ブース、その後工房が2ブースになり、さらに工房を3ブースと、道具や材料が増えるにつれて、工房のスペースが広くなっていった。これぞ、REDIY(リディ)の拡張の法則。紗帆さんは今ではレザーと金属を使ったアクセサリーをつくる作家さん。大輔さんは現在は紗帆さんを手伝いながら、勤めていた会社をやめ、次のステップの準備中だ。
現在は3ブースレンタルしている工房風景。なんとロフトは自作!(写真撮影/中島光行)
「将来的にものづくりを生業にしたいという思いを応援してくれる環境がそろっているのですごくやりやすい。何かをつくりたいと思ったら近くに道具があるし、制作中の騒音や匂いを気にする必要が無くなるような環境・設備があるのでフットワークも軽くなりますね。普通だと工房を借りようと思うと、家賃+α必要ですが、ここなら簡単にそういう環境が手に入る。徐々に仕事が増えていくと、自分たちの暮らし方や、仕事の幅、収入によって、住まい+工房のカタチを変化させることができるのも魅力的です。京都駅に近いので便利ですし、友達も増えて、すごく楽しいです。私たちが職住をここで行っているの見て、好きなことを仕事にしたいと挑戦する仲間が増えてきたこともうれしいですね」
京都に根付く職住一体の暮らしから、若い世代を応援扇沢さんがライフワークとして活動したREDIY(リディ)には、住む、つくる、環境、コミュニティ、関係性。そんなキーワードが見える。「こうあったらいいな、ということを一つ一つ実現していき、それが一段落したとき、この職住システムをマクロに発展させる必要があるなと。事業としてやるということを意識し始めたんです」。そして、覚悟を決めて挑戦したのが、KAGANHOTEL。ほど近い場外市場で、REDIY(リディ)で出会った建築家さんたちと一緒につくりあげた。不動産の専門家としての立場から、美術家にとってどんな環境が必要かアウトプット。レジデンスに住まうアーティストの選考は、京都芸術大学教授の椿昇さんはじめとする現代作家の方3名にアドバイザーを依頼し、クオリティを担保したのも事業家としての責任感と思いからだ。
働き方より暮らし方。建物だけではなく、そこに生まれる関係性の価値を事業化してきた扇沢さん。今後の展望は?
「下で働いて上で暮らすグラデーションのある生き方ができる職住一体型は、特に京都で意味があると思っています。京都は人口の1割約13万人と学生が多く、『キャリアどうする?』と考えている人が大勢いるポテンシャルの都市。そんな 20代30代のために、キャリアを確立するための準備期間として住環境提供していきたいと。そのために、自分たちの作品やプロダクトを持っているクラフトマンやアーティストで始めたのが、REDIY(リディ)であり、KAGANHOTEL。将来的にはまだ手に職を持っていない若者に向けてもキャリア型学生寮ができればいいなと思っています」
伝統的なもの、格式高いものを大切にする京都の中では、扇沢さんがつくろうとしている若い作家が刺激をしあう場や、テーマである現代芸術に対し、理解が得にくい場面もあるそうだ。しかし、扇沢さんが目指していることは、昔から続く京町家がそうであったように、暮らすことと、働くことが一体、職住一体であること。生活の中の視点から新しい芸術が生み出され、それを求めて人が訪れること、実は何も変わらない。かつては、どの街も働く音や生活音に溢れていた。朝しか活気のなかったこの市場の街が、アーティストやクラフトマンの創作の音、作品や創作活動を通じて訪れる人とで、新しい一面を生み出しつつある。新型コロナウィルスの影響で、扇沢さんが理想とする、アートを通じた人の交流は、今この瞬間は厳しい環境に立たされている。事務所費用の負担が大きいアーティスト、事業主にマンスリーオフィスやワークスペースとして貸し出すことも始めた。この苦難を乗り越え、美しいものをずっと守ってきた京都に、新たな創作が続いていくことを応援していきたい。
暮らしや旅のエッセイスト・柳沢小実が台湾の家を訪れる本連載。2020年、2軒目におじゃましたのは、吳佳濃さんと翁綉恵さんが住む、高雄市・左営にある「眷村」の平屋です。お二人の暮らしと、高雄市が市民とともに取り組む古い住宅の保全プロジェクトについて、お話を伺いました。連載名:台湾の家と暮らし
雑誌や書籍、新聞などで連載を持つ暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんは、年4回は台湾に通い、台湾についての書籍も手掛けています。そんな柳沢さんは、「台湾の人の暮らしは、日本人と似ているようでかなり違って面白い」と言います。2019年に続き柳沢さんが、自分らしく暮らす方々の住まいへお邪魔しました。台湾南部の街、高雄市へ
南北に長い台湾の南西部に高雄市があります。台湾の北部は亜熱帯気候で、南部は熱帯気候。そのために高雄は特に暑さが厳しいですが、海が近いおかげで風が抜けて、過ごしやすく感じます。また、海産物や果物もとびきり美味しく、豊かな食文化が育まれています。
道ばたや家の庭でバナナやマンゴー、ドラゴンフルーツなどがたわわに実っていて羨ましい(写真撮影/KRIS KANG)
高雄は台湾最大規模の貿易港を有する、台湾で2番目の経済圏。人口も台湾内で第3位の近代都市です。その実、一本道を入ると古い商店街やさまざまな老舗専門店がしっかりと根を張っていて、歩けば歩くほど味わいが増す街です。
台北市や台南市などの各都市とは、高鐵(新幹線)でつながっています。今回訪れたのは、高鐵・左営駅にほど近い、左営エリア。高雄市中心部から少し離れたのどかな地域に、「眷村(けんそん)」と呼ばれる、庭付きの古い平屋群があります。これらは中国から渡ってきた軍人とその家族が住むために建てられた住宅で、台北の四四南村や台中の彩虹眷村をはじめ、台南や高雄など台湾全土に数カ所あります。
1軒あたりの敷地も家も大きい平屋群。道幅も広くとってあります(写真撮影/KRIS KANG)
70年前に軍人のために建てられた住宅群「眷村」ここ左営の眷村は、海軍の軍人と家族のために1949年に建設されたもの。道が広く、たっぷりとられた敷地に似たような平屋がたくさん建っているため、郊外の新興住宅地のような印象です。通りには1-12の番地があり、数字が大きくなるほど家も大きくなります。偉い人ほど大きい家に住んでいたそうです。
(写真撮影/KRIS KANG)
眷村内では小規模な宿泊施設を営んでいる人も。玄関まわりには台湾ではおなじみの、邪気を払い福を呼ぶ「春聯」と「横披」が貼られています(写真撮影/KRIS KANG)
5~10年くらい空き家だった家もあれば、ずっと住人がいた家もあり、老朽化のためにまとめて壊す話も出ましたが、高雄市文化局によって歴史的建造物を保全し活用するプロジェクトが2014年に立ち上がりました。
倍率10倍の眷村保全プロジェクトに応募して入居。条件は……この家に住むのは、金工作家の吳佳濃さんと革細工作家の翁綉恵さん。二人で高雄市内にある古い日本家屋を用いたギャラリー、「田町河川」の運営もしています。彼女たちは大学の先輩と後輩で、二人とももともと古いものが好き。秤や船の照明などの古道具を集めたりしていました。気が合って以前から高雄市内のマンションで同居していましたが、都会ならではの希薄な人間関係を少し寂しく感じていたところに、眷村との出合いがありました。
革細工作家の翁綉恵さん(左)と、金工作家の吳佳濃さん(右)。大学時代から仲のいいお二人(写真撮影/KRIS KANG)
ご自宅の外観。一緒に暮らす猫ものびのびと(写真撮影/KRIS KANG)
広々とした空間に、お二人が好きな古道具が置かれています。籐と金属のベンチはミシンの椅子だそう。床のタイルがかわいい(写真撮影/KRIS KANG)
彼女たちは眷村高雄市文化局のWEBサイトで、「住人が建物を修繕する代わりに、最長5年間は家賃不要」という眷村保全プロジェクトを知りました。もちろん居住希望者は多く、十数件の募集に対して500件の応募があったそう。条件は眷村に住むことで、ビジネスだけの用途は不可。眷村に住みたい動機や、二人が考えた間取図など、かなり詳細な企画書を提出し、選ばれた十数名とともに契約しました。
この家の敷地は、土地は121坪、家は43坪。かなり大きな建物です。
間取り中央にある寝室の下にあるのが、お二人のアトリエ(イラスト/Rosy Chang)
ここを、友達と4人で8カ月かけて修繕しました。費用は文化局から少し出してもらえますが、屋根、レンガ壁、ドア、窓はこれまでと同じ素材で、という注文も。お金がなかったため、この近所や友達の実家などの廃材や古い設備をもらってきました。シミがあった壁ははがしてレンガの土台に白いペンキを塗り、床のタイルはそのまま利用しました。
天井の高さが伝わるでしょうか。二階分くらいの高さがあります(写真撮影/KRIS KANG)
陽光がたっぷり注ぐ寝室。ロフト状になっていて、階段の上にも寝室が(写真撮影/KRIS KANG)
窓がたくさんのキッチン。キッチン設備も古い家からもらってきたものだそうで、使いやすく整えられていました(写真撮影/KRIS KANG)
二階建ての家くらいの高い天井のゆったりとした空間です。ちなみに、眷村の家の下水は日本のシステムを利用していて、台風のときも溢れたりしないそうです。
ワークショップ等で訪れた人に向けて、この家の修復の過程を追った写真を飾っています(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
古民家を自宅兼アトリエにアーティストの二人はここが自宅兼アトリエです。近所の住人は学校の先生や芸術家、書道家など。もちろんアーティストだけでなく、「親がここに住みたがっている」「ここで子どもを育てたい」という人もいます。みんなが仲良しで、気軽にノックしておかずなどをおすそ分けしたり、一緒にごはんをつくったりしているそうです。
平屋の一室をアトリエにしています(写真撮影/KRIS KANG)
ミシンを踏む翁綉恵さん(写真撮影/KRIS KANG)
吳佳濃さんの金工作品(写真撮影/KRIS KANG)
彼女たちは、建物の保全だけでなく、一般の人に向けて眷村を宣伝する役割も担っています。年に1~2回、それぞれ1カ月間ほど公開期間を設けていて、住民はその期間内の数日で自由に家を公開したり、ワークショップの開催などもできます。彼女たちはここで味噌づくりなどのワークショップもしています。
二人は昼間はバラバラに行動していて、翁綉恵さんはギャラリー「田町河川」で革細工のワークショップを行い、吳佳濃さんは自宅のアトリエで金工の作品制作をしています。感覚が合うので今は一緒に住んでいますが、それぞれパートナーができたら別々に住むようになるかもとのこと。
古い建物の活用とアーティスト活動のサポートを同時に実現した、高雄の眷村保全プログラムは、日本の古い住宅の再生や活用にも大いに参考になりそうです。
(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
●関連サイト外出自粛やスティホーム週間によって、自宅にいる時間が長くなったという人は多い。大掃除や部屋の模様替えなどに取り組む人もいると聞く。家の片づけで困るのは収納不足だ。トランクルームや収納に関する調査結果から、収納について考えてみよう。【今週の住活トピック】
「トランクルームや収納に関する調査」結果を公表/加瀬トランクサービス「一定期間しか使わないが、必ず使うもの」を預けるのがおススメ
加瀬トランクサービスの調査によると、トランクルームユーザーに利用する理由やきっかけを聞いたところ、「引越した後、住居が狭くなった」(24.4%)が最多で、「趣味の収集品が増えた」13.2%、「荷物が増えて収納しきれない、不用品を整理したくなった」11.2%、「仕事の書類や仕事関連品が増えた」10.2%が続く結果となった。
では、具体的にトランクルームに何を収納するのだろう?
トランクルームに収納したいもの(複数回答)として挙がったのは、「書籍・雑誌類」(40.7%)が最も多く、2番目に「季節の衣類」(28.4%)、3番目に「季節家電」(23.7%)と続いた。また、「スーツケース」(23.4%)が5番目に食い込んだ。
(出典:株式会社加瀬トランクサービス「トランクルームや収納に関する調査」)
たしかに、書籍や雑誌、音楽・映像・ゲームメディアといった「趣味の収集品」が上位に挙がるが、それと同様に目立つのが、「一定期間しか利用しないもの」だ。季節の衣類、季節家電、長期旅行で使うスーツケースなどが該当する。ほかに、布団類(来客用や夏・冬用など)やスキー用品、アウトドアレジャー用品なども該当するだろう。
調査結果のリリースを見ると、トランクルームを利用する理由の質問へのフリーコメントで、「出張時に使用する荷物」「単身赴任時に使用する荷物」「会社帰りのランニングで保管する荷物」などが挙がったというが、それも同じ発想だろう。
このように「一定期間しか使わないが、必ず使うもの」を預けるのが、トランクルームを利用する適切な方法だろう。必要なときに取り出したり、入れ替えたりして使い、不要時には預けるのは、住宅の収納不足を解消する賢い利用方法だと思う。定期的に取り出して使うものでないと、預けたまま忘れてしまいがちだからだ。
増えた荷物を適切に整理するチャンス到来日本の住宅事情を考えると、収納不足を外部の収納で解消する方法も選択肢ではあるが、反面、「荷物が増えて収納しきれないのでトランクルームを利用する」という利用目的も多い。荷物が増えた理由としては、趣味や仕事の荷物の増加、大掃除や模様替えで出た不用品、同居や結婚・出産など家族が増えたことによる荷物などさまざまなのだが、増えた荷物は整理しなければ減らない。
「たぶん使わない」「使用頻度が低い」のであれば、「いずれ誰かが使うかもしれない」と保管するのではなく、思い切って断捨離することも必要だ。
同じ調査で、収納やモノに関する意識・価値観として、「まだ使える不用品は極力売りたい」(62.9%)、「モノは壊れたら修理するなど、できるだけ長く使いたい」(57.6%)、「不用品は捨てるぐらいなら、人にあげるほうが環境にも良いと思う」(50.7%)などに当てはまると回答した、環境に優しい意識をもつ人は多い。不要なものは、フリーマーケットやリサイクルショップで売る、ボランティアで提供するなど、単に捨てる以外の方法もあるだろう。
また、「家族との思い出の品は大事に保管したい」(75.5%)は4人に3人が、「子どもの作品や教材等、成長の証を大事に保管したい」(51.5%)も2人に1人が当てはまると回答している。家族の思い出や成長の証を大切にすることは、とても素敵なことだ。しかし、仕舞い込んでいたら思い出す機会は減ってしまう。それらを撮影するなどコンパクトな形で保管したり、大切な思い出の品に絞り込んで手元に残したりして、いつでも見られるように収納するのも一つの方法だろう。
さて、在宅時間が長い今、家の中の荷物の整理や不用品の洗い出しをした家庭が多いのだろう。家庭からのゴミの量が増えているという。とはいえ、今は大量にモノを捨てて清掃事業者の負担を増やすのは適切ではない。家にいる時間を使って不用品を洗い出し、処分する方法や時期を決めたうえで、一定期間だけトランクルームに預けるという方法はありだろう。
トランクルームを賢く利用することと、トランクルームになんとなく預けておくこととでは、同じ利用料金を支払ってもその価値は異なると思う。チャンス到来と考えて、増えた荷物の整理を検討してはいかがだろう。
筆者は分譲マンションに住んでいる。そして、今、管理組合の役員をしている。外出自粛、3密回避のなかで新型コロナウイルスの感染対策はどうしたらよいのか、例年5月に開催される管理組合の総会をどうするか、いろいろ気になることばかりだ。ほかのマンションはどうしているのだろう?
頼りにしたい管理会社はどこまでしてくれる?
新型コロナウイルスに関して、管理会社はどう対応するのだろうか?マンションの管理会社の業界団体である「一般社団法人マンション管理業協会」に聞いた。
マンション管理業協会では「マンション管理会社の感染症等流行時対応ガイドライン」を出している。それによると、管理会社は業務をするうえで法令順守が求められるが、「マンション居住者の安全を確保することを最優先として業務を行う」ことが望まれる、としている。管理組合に対する業務については、緊急時には定められた業務を行えない場合もあること、管理員の安全を確保する必要もあるので、マンションのライフラインを維持するための必要最小限の業務に絞る(勤務時間を短縮する)場合もあることなども、管理組合に対して事前に協議しておくようにといった方針を打ち出している。
また、政府の「緊急事態宣言」により交通の遮断が発令された場合は、管理会社の社員なども動けなくなるので、マンションのライフライン維持の対応について事前に管理組合と協議しておくように促している。
たしかにうちのマンションでも、緊急事態宣言で交通が遮断されたら、誰もマンションまで来られないので、各戸でゴミ出しをするようにといった書面が管理会社から来ていた。
新型コロナウイルスの感染予防策は?次に、感染予防策について考えてみよう。感染予防対策の原則は、各家庭において手洗いなどの予防対策をしっかり行ってもらうことだ。そのうえで、密閉空間の換気の問題や共用で使用する部分の消毒などの対策が考えられる。
うちのマンションは小規模なので、理事会から管理会社に、エレベーターの換気扇を稼働させること、エントランス扉の取っ手やエレベーターの操作盤を乾拭きではなく消毒液(消毒液は備蓄していないので次亜塩素酸水)で拭くことを依頼した。
ほかのマンションはどうしているのだろう?マンション管理組合の理事長や防災委員などの経験者でつくる情報交換を目的としたネットワークに話を聞いた。規模が大きいマンションでは、集会室などの共用施設もあるので、そうした施設の閉鎖なども行っていた。
また、いくつかのマンションでは、エントランスなどに消毒液を用意したり、感染予防に関する情報を掲示版などに掲示したりしていた。掲示する情報は、日々状況が変わるので頻繁にアップデートしたり、「新型コロナウイルス詐欺への注意喚起」「テイクアウトをしているご近所のショップ」などの情報まで提供しているマンションもあった。
このようにスピーディに予防対策に動けているマンションは、平時から防災委員会などが活発に稼働している傾向があるように感じた。なかには、大型台風で被災した経験から、備蓄した消毒液が今回活用できたという事例もあった。日ごろから緊急時の体制が整っているかどうかが、大きなカギになるのだろう。
マンション内で新型コロナウイルスの感染者が発生したときどうする?うちのマンションでは、実は「感染者が発生したとき」の対応策については、まったく考えていなかった。そうしたときに頼りにする管理会社は、どんな対応をしてくれるのだろう?マンション管理業協会に聞いた。
まず、感染が判明した段階で当人は病院に入院したり宿泊療養施設に移ったりしてマンションにはいないことや、管理組合や管理会社への報告義務もないので、状況を把握することは難しい。その後の保健所からの指導に従うことになるという。消毒を指示されたら、保健所の助言を得て消毒事業者を手配するといったことが考えられる。
この際に最も注意したいのは、プライバシーの保護だという。マンション内で感染者探しが始まったり、バッシングが起きたりといったことにならないように、個人情報を保護することが大切。理事がうっかり部屋番号を言ってしまう、ということはあってはならない。うちのマンションも、理事会で心構えだけでもしておきたいものだ。
さて、ネットワークで話を聞いたなかに、かなり先進的に事前準備をしているマンションがあった。「パークシティ溝の口」がその事例だが、どういった準備をしているのかを紹介しよう。
しかしその前に、このマンションの特殊性について触れる必要がある。「数戸数1000戸超の大規模マンションで、管理組合と自治会が並行して活動していること」、「築年数が経過しているため、高齢者が多いこと」といった特殊性を前提に見てほしい。
出典:全戸に配布された「コロナ対策のしおり」(パークシティ溝の口)
このマンションでは、緊急事態宣言の発令を受けて、
・対策本部の立ち上げ
・注意事項等の掲示
・手指洗浄液、消毒液設置
などを行った。
さらに、感染者が発生した場合、
・本人または家族に感染したことの連絡を要請
・感染者が発生したことを居住者に通知
・共用部の消毒のための事業者の手配
・感染者・濃厚接触家族への生活支援
などの準備をしており、担当表(管理組合・自治会・管理会社)の作成などもしているところだ。
感染したことを管理組合に知らせる義務はないが、単身や夫婦のみの高齢者も多いことから、自宅待機の場合に食料品や日用品を各戸の玄関まで届けたいと考えており、そのために本人や家族から連絡をもらって、居住者による支援体制を整えようしている。そのために、本人の同意を得て自宅待機者を把握しておくという考え方だ。
また、消毒事業者がオーバーフローして、保健所から紹介された事業者がすぐには消毒作業を行えない場合も多い。そのため事前に、依頼できる消毒事業者を管理会社と一緒に探しているという。
ここで課題になるのは、分譲マンションに賃貸で住んでいる居住者だ。管理組合は、区分所有者で組織し運営するものなので、賃借人には及ばない。このマンションでは、管理組合(組合員=区分所有者を対象)と自治会(自治会員=居住者を対象)が連携しているので、賃借人も対象として一律の対応ができるのだ。
ここまでできるマンションはまれだと思うが、どういったことが起きるのか、事前に準備できることはないか、などを感染者が発生する前に考えておくことは大切なことだ。
年に一度の管理組合の総会はどうする?さて、マンションの管理組合の総会が開催されるのは、例年5月が最も多いという。総会と言えば、大きな会議室に大勢が集まることになり、まさに3密状態になる。そのため、今年は総会を開催するかどうかが一つの問題になっている。
区分所有法で「管理者(理事長)は、少なくとも毎年一回集会を招集しなければならない」と定められている。マンションの管理規約に「理事長は、通常総会を毎年1回新会計年度開始以後2カ月以内に招集しなければならない」(標準管理規約第42条第3項)といった規定を置く管理組合も多い。
そこで(公財)マンション管理センターでは、「新型コロナウイルス感染拡大における通常総会開催に関する Q&A」を提示している。
通常総会の開催については、法務省が「今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、前年の集会の開催から1年以内に区分所有法上の集会の開催をすることができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後、本年中に集会を招集し、集会において必要な報告をすれば足りる」という見解を示している。つまりいったん延期して、収束してから総会を開催してもよいということだ。
ただし、すでに総会を延期したものの延期日に開催できる状況ではない、というマンションも出ている。マンション管理センターのQ&Aでは、通常総会を延期した場合の手続きや注意点に加え、総会会場に来場することなく、議決権行使書または委任状により、議決権を行使してもらうことを勧める方法も推奨している。
ちなみにうちのマンションでは、できる限り書面による議決権行使をするようお願いし、総会を開催することとした。
朝のテレビ番組で、実際にマンションで感染者が発生した事例を取り上げていた。消毒作業について、管理会社は作業をしないし、費用も負担しないといったコメントがあったが、管理会社が何でもやってくれるわけではない。
管理組合と管理会社は「管理業務委託契約」を交わし、それに基づいて管理業務を行っている。感染症対策などは、通常の管理業務の範囲を超えたものになるので、それぞれのマンションで管理会社がどこまで担当してくれるのか、費用負担はどう考えたらよいかを事前に協議しておく必要がある。
だからこそ、あらかじめ感染症対策について、管理組合と管理会社の対応範囲を決めておき、必要な準備をしておくことが大切になるのだ。さて皆さんのマンションは、どうされていますか。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の範囲が7都府県から全国に拡大されました。さまざまな業界が自粛の影響を受け大変な状況になっていますが、今後、不動産市場にはどのような影響が出てくると考えられるでしょうか。さくら事務所会長の長嶋氏に伺いました。
分野別にみる、今後の不動産状況
新型コロナウイルスはあっという間に世界中を席捲。人の流れも経済も大きく滞り、2万4000円水準だった日経平均株価は大幅下落。各種経済指標は急速に悪化しています。政府による緊急事態宣言の影響でとりわけ東京・大阪など主要都市は人通りも少なく、不動産取引にも大きな影響を及ぼしそうです。分野別にその状況を検証するとともに、今後の見通しを占ってみましょう。
●新築マンション
新型コロナウイルスが日本に上陸して以降、新築マンションモデルルームへの来場者は大幅に減少。来場者数は半減どころか80~90%減といったところが続出しました。当初は来場者同士の感染を避けるために時間を区切って案内するといった対応をとるところが多かったのですが、現在では多くのモデルルームが閉鎖に追い込まれています。東京オリンピック・パラリンピックの選手村跡地の新築マンション「晴海フラッグ」も販売を延期、電話による問い合わせすら休止しています。こうなると当然発売戸数は減り、成約数も大きく滞ることになります。
2008年のリーマン・ショック時にはやはり取引急減。中小マンションデベロッパーによる20~30%ディスカウントの投げ売りが出て、それでも持ちこたえることができず多くのデベロッパーが破綻しました。さらに2011年には東日本大震災が発生、他先進国が株式市場や不動産市場を回復させていく中で再び足踏みを余儀なくされることとなります。局面が転換したのは2012年末の、民主党から自民党への政権交代。以降「アベノミクス」「黒田バズーカ」といった金融・財政政策で株価は7000~8000円台から急転換、不動産市場も大きな上昇局面を迎えました。
今回はリーマン・ショックのように金融システムが破綻したわけではなく、株価が半減したわけでもありません。またリーマン以前と大きく異なるのは、市場の「大手寡占化」が進んでいることです。かつて「メジャーセブン」と呼ばれる大手マンションデベロッパーの市場占有率は25~30%、言い換えれば大半は中小デベロッパーによるものであり、市場が急変すると多くの投げ売りが出て市場は混乱、崩壊しましたが、今回はそのようなことが起こる可能性は低いでしょう。もちろん多数の在庫を抱え続けるのは大手マンションデベロッパーにとっても重荷となるため、局地的に値引き販売は起きるはずで、価格下落圧力は大いにあります。
●中古マンション
2008年のリーマン・ショック後、数カ月~半年程度で回復に向かったのが中古マンション市場。新築マンションの発売が滞る中で中古マンション市場に流れる向きが増えました。また中古マンション売主はそのほとんどが事業者ではなく個人であるため、市場が上向きであっても下向きであっても転勤や子どもの学校の都合など、各家庭や個人の内部要因によって一定の取引は発生します。とりわけ東京都心7区(千代田・港・中央・新宿・渋谷・目黒・品川区)あたりの中古マンション成約平米単価は日経平均株価の推移と見事に連動しており、相場としては最も分かりやすいものです。現行の都心中古マンション成約平米単価は日経平均株価と同様、2万4000円程度であり、仮に今後も日経平均株価が1万9000円程度で推移するなら、都心中古マンション成約単価は15~20%マイナスで推移するでしょう。
東京都心以外のマンションはどうでしょうか。東京の都心以外や神奈川・埼玉・千葉といった地域では、アベノミクスによる価格上昇は20~30%と、都心部が70%程度上昇したのに比べれば限りなく限定的。現行程度の株価ではやや下落するといった程度にとどまるはずです。
ただし10年前と現在で大きく異なるのは「より駅近を望む傾向が高まったこと」。自動車保有比率の圧倒的な低下や共働き世帯の増加で、通勤をはじめ買い物や病院といった日常生活における利便性の追求が進行していることです。
新型コロナによって働き方に変化が生じ「リモートワーク」(在宅勤務)の比率が高まるとしても、通勤が完全にゼロになることはありません。また通勤以外の日常における生活利便性を考慮すれば、駅近を志向する傾向は今後も変わらないでしょう。
「自動運転が普及すれば必ずしも駅近である必要はなくなる」といった意見もあります。それは個人としてはもちろんその通りなのですが、そうなると今度は自治体の経営が立ち行かなくなります。上下水道や道路の修繕や、ゴミ収集・除雪をはじめとする行政サービス効率を考えればどうしても駅前や駅近といった立地を中心に街をコンパクトにせざるを得ないのです。「都心や駅近を離れ、地方や駅から遠いところに移動する」といった動きは一定程度起こりそうですが、それは限りなく限定的で、市場に大きな変化は与えないはずです。
新型コロナウイルスの蔓延が止まらない、変種やさらなる新種が発生し、人が集まること自体がリスクであるといった状況になればまた異なるシナリオは考えられます。
●新築・中古一戸建て
最も影響を受けにくいのが一戸建て市場です。というのも、アベノミクス以降も価格動向にさしたる変化はないからです。とはいえどんな市場も、景気後退が長引けば、あるいはコロナ騒動が長引けば、販売動向や価格動向に一定の影響が出るのは避けられません。
不動産市場について、何より気になるのが「金利動向」。現在の住宅市場は多分に低金利に支えられており、金利が上昇するほど取引はしぼみます。日銀の現行政策が続く限り、金利が大きく上昇する可能性は低いはずです。
以上、住宅市場についてざっと概観してきましたが、結局すべては今後の新型コロナ騒動が、いつ、どの程度で終息するかにかかっています。比較的短期で終息するなら、たまっていた需要が吹き返す展開となり、長期化するようならじわじわと下落する局面となるでしょう。
とはいえ、株式投資などと異なり、住宅は「上がっているから買わない」「下がっているから買う」といった性質のものではありません。首尾よく住まいをサーフィンするような動きは、この市場においては限定的です。市場動向に大きく左右されるより、あくまで自身や家族の生活イベントに合わせて売る、支払いに無理がなければ買う、といったスタンスでよいのではないでしょうか。
東京オリンピック・パラリンピックに向けて再開発され、選手村として活用される予定の東京・湾岸エリアのマンション群。実施の延期は決まったものの、オリンピック・パラリンピック以降、このエリアに新しい住民がどっと押し寄せることが見込まれるなか、防災の観点からも新住民と旧住民をつなぐ仕組みづくりが求められています。
「第三のコミュニティ」のありかを探る連載第2回目は、タワーマンション同士でつながるコミュニティを紹介します。連載名:全国に広がるサードコミュニティ
自宅や学校、職場でもなく、はたまた自治会や青年会など地域にもともとある団体でもない。加入も退会もしやすくて、地域のしがらみが比較的少ない「第三のコミュニティ」のありかを、『ローカルメディアのつくりかた』などの著書で知られる編集者の影山裕樹さんが探ります。 湾岸エリアのタワーマンションの横のつながりをつくろう
築地から移転してきた豊洲市場を擁し、ららぽーと豊洲など大型のショッピングモールもあり、東京の新たな居住エリアとして人気を集めている中央区、江東区の湾岸エリア。タワーマンションが多数立ち並び、オリンピック・パラリンピック以降に多数の住人が押し寄せることが見込まれます。
一方で、新住民と旧住民とのつながり、新住民同士のつながりがまったくないところで生活がスタートすることは、防災や防犯の面からも問題だと思われます。そんななか、マンションとマンションをつなぎ、湾岸エリアに暮らす子育て世代をターゲットとした「マンション対抗フットサル大会」などスポーツイベントを開催する有志のグループがあります。それが「湾岸ネットワーク」です。
マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)
タワーマンションが立ち並ぶ湾岸エリア(画像提供/湾岸ネットワーク)
湾岸ネットワークを立ち上げたのは、ITコンサルを専門とする会社を経営する浅見純一郎さん、普段は外資系銀行で働くサラリーマンの石原よしのりさん、スポーツ関係の会社を経営をする星川太輔さんの3名の住民たち。それぞれ40代で、家族を養う働き盛りの世代。
メンバーの浅見さんは2008年に浦安から豊洲に移住し、パークシティ豊洲の自治会長や近隣の小学校のPTA会長などを兼任。地域コミュニティに深く関わっています。星川さんも自宅のある有明のブリリアマーレ有明の管理組合理事長を、有明自治会の自治会長をそれぞれ5年ほど務めていました。当時、湾岸エリアで先進的な活動をしていた自治会の自治会長だった浅見さんと星川さんに、2014年に晴海のタワーマンションに移住してマンションの自治会長を務めていた石原さんが声をかけたのがきっかけ。
「6年前のことです。僕が暮らすマンションの管理会社の人に、管理会社の横の繋がりで、豊洲のタワーマンションの自治会長を紹介してくださいとお願いしたんです。そこで紹介されたのが浅見さんでした。その後星川さんとも出会い、3人ともタワーマンションに暮らす同世代で、自治会活動の中でマンション同士の横のつながりの必要性を感じていたので、すぐに意気投合しました」(石原さん)
マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)
子育て世代が多いからこそできる、親子で楽しむ運動会最初は湾岸ネットワーク立ち上げメンバーの3人を中心に他の湾岸マンションとの親睦会を重ねていたのですが、ネットワークをより形あるものに発展させようとの思いから、「マンション対抗シリーズ」(最初はフットサル大会)を始めました。スポーツをキーワードとした理由は、子育て世代が多いこと、未就学児のお子さんがいる親御さんも午前中に気軽に参加して帰れること、など。また、マンション対抗とすることで競争意識が芽生え、かつ同じマンションの住人同士の結束が高まると考えたからです。実際、午前中のスポーツイベントから帰り、マンション内のパーティルームで参加メンバー同士で親睦会を行う人たちもいるそう。
今年は新型コロナウィルス感染症の影響で中止がよぎなくされていますが、具体的には毎年5月に開催する「湾岸マンション対抗フットサル大会」、9月開催の「湾岸マンション対抗親子大運動会 湾岸ピック」、そして11月には「湾岸マンション対抗マイルリレー大会」を開催しています。
マンション対抗フットサル大会の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)
湾岸エリアにも当然、幼稚園や小学校などがあり、PTAなどの親御さん同士のつながりももちろんあります。ただ、それも幼稚園や小学校といった括りでしかつながることができないので、マンション住人同士の子育て世代がつながる機会は現状、なかなかありません。そのなかで、湾岸ネットワークは一つの選択肢になると浅見さんは言います。
「私個人もそうなんですけれど、みなさんマンションを購入して、地域に何かしら貢献したいと思っている人は多い。けれど仕事が忙しくてなかなか地域活動に参加できないんですね。私たちとしては、地域に関わりたいけれどどうすればいいか分からない住民の方に、なるべく敷居を低くして関わっていただけるといいなと思っています」(浅見さん)
「従来の町内会などの自治会だと、年1回のお祭りを本気でやる、みんなで一生懸命つくる、というところが多い。でもそこまでコミットするのは働き盛りの世代にはなかなか難しい。そういった方々が気軽に参加できて、体験できるイベントが必要だと考えたんです」(星川さん)
給水所のカギをもらえない? 顕在化するタワマンの脆弱さ既存の自治会の問題というのは、とにもかくにも高齢化。さらには、江東区、中央区と行政区ごとに分かれていて、タワーマンションが同じ課題を抱えていても、住人同士が関わることが少ない、という課題がありました。
「区内の自治会長たちの集まりに行くとご高齢の方が多い。また、それぞれ独自の運営をしているケースがありそうで、なかなか新しい人が入っていくのに抵抗があるのではないかと思われます」(浅見さん)
一方で、タワーマンションに移り住んでくるのは30~40代の若い世代が中心。再開発によってまちに暮らす新旧住人の割合が大きく変わる中、旧住人の代表である既存の自治会と、タワーマンションに暮らす新住人のニーズとはかけ離れていくばかりです。
左から石原さん、浅見さん、星川さん(画像提供/湾岸ネットワーク)
ちなみに、タワーマンションはチラシ投函が禁止されているところがほとんで新聞購読率も20%程度という話は聞いたことありますか? そうなると当然近隣のイベント情報がなかなか入ってこない。子育て世代が多いのにこれでは致命的でしょう。
「自治会って、つくる義務はないんです。自治会のないタワーマンションも多い。だから自治会がないタワーマンションは情報が行き届かない。僕も経験したのでよく分かりますけど。防災とか子育ての情報に関して、タワーマンションに住んでいる人と従来から住んでいる人との間には格差がある」(石原さん)
「有明にはそもそも自治会がなかったんですけれど、つくって分かったことがあります。お台場の水の博物館近くに給水所があるんですけれど、給水所の存在とそこの鍵の暗証番号を自治会をつくったことによって行政から連絡が来て初めて教えてもらえたんです。役所の方に聞いたらそういう仕組になっていると。自治会をつくらないと給水所が使えないって、災害時のときに住民は大変困りますよね」(星川さん)
防災といえばバケツリレーなどのイベントが開催されることが多いですが、タワーマンションでバケツリレーをしても意味がない。ポンプ車での放水訓練もマンションでは現実的ではない。行政にタワマンの防災ナレッジがないため、もしマンションで火事が起きたら大変。大きな台風が来てマンションの電源が喪失してしまった場合、どうすれば電力を確保ことができるか、などのノウハウ共有も大切です。
現時点で導入可能な非常時の電源確保手段として、水路を使った重油共有ネットワークやEV(電気自動車)の電池を使ったエレベーター稼働のしくみ、LPガスを動力とした非常用発電機など、それぞれの企業から専門家を呼んで、各マンションの防災担当者向けの講演会を開催しました。
「防災行政は従来の戸建てが並ぶ街の防災拠点を想定して、防災訓練を行っていますが、タワーマンションの住民は自宅待機での「自助・共助」が推奨されています。しかし、従来の防災訓練はタワーマンション住民の火災時の行動をミスリードする恐れがあり、現在多くのタワーマンションではそれぞれの環境に合った防災訓練を独自に行い、行政との連携については試行錯誤している段階です」(石原さん)
新旧住民の情報格差を解消するには?マンション同士のノウハウ共有が課題(画像提供/湾岸ネットワーク)
マンション対抗スポーツ大会などの敷居の低いイベントが、潜在的に地域に関わりたい人の接点を生み出すことも重要ですが、このように、タワーマンションならではの課題を解決するための機能も果たしているように思います。例えば、資源ゴミの回収ルールはマンションごとに決まっていて、委託業者の言い値で決められているところが多いそう。しかし、異なるマンションの管理組合の人どうしで、「資源ごみ回収はどの会社に委託している?」という会話が生まれることで、買取価格が3倍以上になったエピソードもあるそう。そこで増えた収入は他の住人向けイベントに回すこともできます。
他にも自宅をAirbnbに使った場合、法的にどんな問題があるか? を学び合ったり、管理組合の財務的なコストダウンの方法を話し合ったりなど、マンション同士のつながりがあることで享受できるメリットは多数あります。セキュリティがしっかりしているからこそ、住人同士のつながりが薄いマンションにおいて、住人同士のつながりをつくっていく団体の役割は大きいと感じました。
「現在はあくまで任意団体として活動していて、加盟金も徴収しておらず、有志のメンバーで続けています。、しかしイベントの規模が徐々に大きくなり、参加世帯数が増えスポンサーからの協力を得られやすくなった半面、リソース不足等の問題にも直面しています。湾岸地区の発展に追いつくために、団体をより一層成長させるべく法人格の取得を検討しています。でも、参加を強制するのではなく、参加したいから参加する、というイベントであることは守っていきたいと思います。街と住民自身が一緒に成長していく、そんな過程を共有できる地域は他にはなかなかないと思います。湾岸に住む大きな価値の一つだと思います」(石原さん)
今回のインタビューで、タワーマンションに対する見方が変わりました。便利で快適というイメージがあるタワマンも、既存コミュニティとの情報格差が存在するということが分かりました。その理由は、自治会のないタワマンと行政が接点を持つ仕組みが、まだまだ未発達だから。または、新しい場所に移住してくる人たちの多くが、ご近所付き合いの面倒臭さを避けてしまうことも大きいかもしれません。「しがらみがなさそうだからタワマンに入居した」という人もいることでしょう。
ですがやっぱり、災害が起きたときに、地域のつながりがなければ混乱が生じるのは明白です。可能な範囲で住人同士、そして住人と行政のつながりを維持していくことは不可欠。もちろん、しがらみがないからこそ、自分たちで街の未来をつくっていく醍醐味を味わうことができます。変化が日常である湾岸エリアでは、そこで育つ子どもたちが「ふるさと」と感じられるような風景が残らない代わりに、「コミュニティ」のつながりこそが唯一の「ふるさと」になりうるのかもしれません。
実際、マンション対抗フットサル大会を通じマンション内にフットサルクラブが発足し、マンションフットサルクラブ同士の交流戦が行われるなど、湾岸ネットワークから派生した新たなコミュニティが育ちつつあります。ゆるやかに参加でき、強制力がない有志のつながりこそが、再開発され新住民であふれる「新しいまち」には必要なのかもしれません。
●取材協力学校や幼稚園・保育園が休みになり、子どものめんどうを見ながらのテレワーク。1日3回の食事の準備と後片付け、片付かない部屋と、気持ちがめいっていませんか(筆者のことです)。そんななか、家でもお出かけ気分が味わえると、テントやアウトドア用品が売れているといいます。わが家も子ども用テントが出しっぱなしですが、どう活用するとよいのでしょうか。スウェーデン発の家具量販店「イケア」と登山・アウトドアショップ「好日山荘」に聞いてみました。
わが家を楽しく快適に! お手軽アウトドアで気分を変えよう
外出自粛が呼びかけられて早2カ月。今、キャンプ用のテントやアウトドアグッズがじわじわと売れているといいます。アウトドア用品店の好日山荘の広報担当の菰下さんによると、「ネットショップが中心ですが、登山用品全般、初心者向けアウトドアグッズは例年通りに売れています」。外出も登山もできない現在の状況を考えると、一見、使い道がないように思えますが、そのアウトドアグッズやテント、どのように使っているのでしょうか。
菰下さんによると「テレワーク部屋として集中したい時」「子どもの昼寝用」というではありませんか。なるほど、今ならではの使い方ですね! ちなみにテントは、部屋の大きさに合っていて、テント内の高さのあるものが使いやすくおすすめとのこと。子どものお昼寝であれば、ポップアップテントでも十分かもしれません。さっそくわが家でもチャレンジしたところ、子どもたちが大はしゃぎ。「今日、何して遊ぼうかな」という方にぜひおすすめしたい使い方です。
(写真撮影/嘉屋恭子)
子どもの声が周囲に響かないよう、注意しつつ、自宅ベランダにテントを設置したところ。生活感のある写真で恐縮ですが、子どもたちはテントが気に入り、出てきません。煮込んだカレーを持ち込み、食べるだけで大満足です(写真撮影/嘉屋恭子)
夜になると明かりをともして、キャンプらしい雰囲気に。息子はテントのなかで寝袋にくるまって一晩、眠りました(写真撮影/嘉屋恭子)
アウトドア用品だけでなく、イケアでも屋内用のテントは好調だといいます。
「現在、好評いただいているのが、(1)テレワーク用アイテム、(2)子ども向けテントやマット、(3)収納用品です。特にお手軽・簡単に取り入れられるアイデア、それを実現できる機能的でスタイリッシュな商品が人気です」(イケア広報)
対象年齢:18カ月以上
イケア・ジャパン
わが家にあるのは、かなり前のイケアの子ども用テントですが、確かに子どもが大好きなスペースです。カラーボールを入れて、なんちゃってボールプール風にするのが定番の楽しみ方。一人が楽しく遊んでいると、もうひとりが違う遊び方がしたいとケンカがはじまるという黄金コースではありますが……。
イケアのだいぶ前の子ども用テント。子ども部屋に出しているので、子どもたちが思い思い、遊んでいます(写真撮影/嘉屋恭子)
イケアおすすめ! 家にいながら「外を感じる」工夫また、イケアでは家のなかでも外を感じる場所として、「ベランダ」「バルコニー」の活用を提案しています。
「日本では、ベランダは洗濯物を干す場所、植物を育てる場所になっていますが、アイデア次第で『セカンドリビング』になります。食事やコーヒーを飲んだり、仕事をしたり、読書やゲームをしたり、屋内とは少し違う雰囲気で、楽しく快適な時間を屋外で過ごしていただければと思います」(イケア広報)
イケア・ジャパン
イケアが提案しているのは、フロアタイルや屋外用ラグなどを敷いて椅子を置く、オープンカフェのようなスタイル。さらにクッションやひざ掛けなどのテキスタイル、照明やキャンドル、ランタンなどを活用することで、よりロマンチックな空間に演出できるとのこと。
欧米、特に家で長い冬をすごす北欧の人たちは、家でリフレッシュをするのがすごく上手な印象です。照明やファブリックに手を加えて、模様替えをすることでマンネリ化を防ぎ、今の自分の気分に合うよう、家の居心地をよくなるようアップデートするとともに、ストレスを解消しているのでしょう。これは、在宅時間が増える今こそ、見習いたい知恵なのですね。
またイケアでは、「空気清浄カーテン」という機能性カーテンが登場しています。なんでも自然光のエネルギーを利用して、室内の空気を浄化する鉱物ベースの処理を施しているそう。日本ではカーテンも引越しなどがないとあまり買い替えない印象ですが、窓まわりがかわると気分も変わるもの。この機会に一新してみると部屋の空気も気分も変わるかもしれません。
イケア・ジャパン
ランタンや寝袋などで「ちょいアウトドア気分」がおすすめ一方、好日山荘のホームページでは、家でアウトドアグッズを使って楽しむ写真をシェアする「OUTiDOOR(おうちドア)グランプリ」という取り組みがされています(4/17~5/10)。家にいながらにしてアウトドアを取り入れることで、「非日常感」が楽しめるとのこと。
例えば、寝袋(顔だけ出して寝るタイプ)で、リビングで眠ってみる、またガスなどを使ったランタンを灯してみるなど。家にいながらにして、いつもと違う場所やことをしてみることで、違った風景が見えてくるそうです。
好日山荘
また、ナイフ類を使ってみたり、山ごはんをつくってみたりすると、普通の家事とは違った心持ちで取り組めるとのこと。山ごはんは調理器具と食器を兼用できるので、洗い物もラク(これは重要)ですし、家族のコミュニケーションになるといいます。ランタンもバーナーも同じく換気には要注意ですし、小さなお子さんがいると難しいかもしれませんが、火を使ったごはんやぬくもりを感じる優しい灯りってやっぱりときめきますよね。
ほかにも、今やおしゃれインテリアとしてファンが多い「ハンモック」を設置したり、カセットコンロで燻製・干物をつくったりという楽しみ方もよいとか。確かにこの2つはこれからの季節的にもぴったりですよね。燻製はフライパンでもできますし、手軽~本格派までいろいろなタイプがあって個人的にも大好きです(ただし酒量が増えるので要注意)。
こうしてみると、家での過ごし方は、まだまだ工夫できそうですね。この度の「おうちにいましょうウィーク」、ランタンひとつ、寝袋で眠る「ちょいアウトドア」にチャレンジしてみたいと思います。
●取材協力今年3月で「渋谷区パートナーシップ証明」を含む条例が施行され5年目を迎えた。それまでもLGBTQの人権について取り上げた男女共同参画条例は他の自治体でも施行されていたが、日本初の「パートナーシップ証明」を生み出した渋谷区の取り組みは、以後のLGBTQをめぐる動きに大きな影響を与えた。
「渋谷区パートナーシップ証明」に法的な拘束力はない。しかし現在42組のカップルが取得し、現在も区の「にじいろパートナーシップ法律相談(無料)」には、多くのカップルがライフプランニングの相談に訪れている。申請が増え続ける中、この秋から取得費用の助成制度もスタートする。こうした新しい制度を導入した渋谷区で、同性カップルにとっての住宅に関わる実態はどのような状況になっているのか。渋谷区役所で男女平等・ダイバーシティ推進担当課長として働く永田龍太郎さんに詳しい話を聞いた。
同性カップルの住まい探しの壁とは
LGBTQとは、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)、Q(クエッション)に代表される、セクシュアル・マイノリティな人たちの総称だ。そして彼らは、社会的なマイノリティとして、さまざまな問題を抱えている。そのひとつが住まい探しだ。
永田龍太郎さん(写真提供/永田さん)
LGBTを自認している20~59歳の全国の男女に対して行われたアンケート調査(SUUMO『LGBTの住まい・暮らし実態調査2018』)によると、住まい探しで「居心地の悪さを感じた経験がある」人は「賃貸住宅探し」で28.7%、「住宅購入」で31.1%にのぼるという。その背景には、「同性カップルで住まい探しをしていて、同性同士の入居を不審がられた」や「不動産会社や大家に偏見の目で見られた」などの理由がある。
実際、永田さんによると同性カップルから、「他の地域で家を借りられず、渋谷区でようやく住める家が見つかった」と話す声を聞いたことがあるという。永田さんは、「この渋谷区パートナーシップ証明は、区長印のある証明書を発行することで、こうしたハードルを乗り越える後押しをしたいという、渋谷区の思いが詰まったものだ」と続ける。
この渋谷区の条例と証明の発行がきっかけとなり、2020年4月20日現在で、都内8区を含む、国内47の自治体が「同性パートナーシップ証明制度」を導入し、計945組が認知されている(2020年4月20日 虹色ダイバーシティ調べ)。さらに導入を検討している自治体も数多いという。
渋谷区が発行するパートナーシップ証明の取得には、全国にある公証役場で作成できる契約書「公正証書」が必要となる。つまり、日本の法律の制度にのっとってお互いへの愛情と責任を形にできるだけでなく、「後見人」という形でお互いの信頼関係を社会に示すことができるということ。婚姻関係と同様の状態にあるというエビデンス(証拠)づくりに、公正証書を活用しているのだ。
渋谷区パートナーシップ証明書(サンプル)(画像提供/渋谷区役所)
渋谷区は「証明書」を発行している点が他の自治体と大きく異なる。渋谷区のパートナーシップ証明書発行に必要な公正証書が、同性カップルが婚姻関係と同等の状態にあると認めるツールとして多くの民間企業に認められ、冠婚葬祭時の休暇といった福利厚生適用の条件として、利用されたりしているという。
渋谷区では70代のシニアを含めた幅広い年齢層の同性カップルからの申請がある。「(この証明書は)万が一の病気や事故というリスクを想定して、取得を思い立ったカップルが多いという、(法律婚をする異性カップルと比較して)とても切ない側面がある」と永田さんは話す。だが、共同生活を行うタイミングで、お互いの人生に対する考えや姿勢について、公正証書を読み合わせする中で明確化することは、その後の関係をより深いものにし、プラスになっているという声も多く聞かれるという。
東京オリンピック・パラリンピック開催が契機に永田さんは「渋谷区内に限らず、多くの企業が、この証明書の誕生をきっかけにして、福利厚生などでパートナーに対して『家族扱い』を認める後押しになった」と話す。携帯電話の家族割の適用や、飛行機のマイル共有、保険加入などがその例にあたる。契約にあたって事実婚をしているだけではNGとなるケースでも、渋谷区パートナーシップ証明(相当の公正証書)があればOK、というケースも実際に発生している。
住宅購入関連では、みずほ銀行が他行に先駆けて「住宅ローンの商品改定」を2017年に行っており、渋谷区パートナーシップ証明書及び、同証明書発行に必要な内容を満たした公正証書を持ってすれば、住宅ローンを組めるようになった。
また、多くの企業や行政でもLGBTQの施策を設けるようになっている。その背景にあるのが、「東京2020オリンピック・パラリンピック大会」開催だ。
東京2020大会に関係する、物品やサービスなどを「どこから調達するか」というガイドラインに当たる<調達コード>には、「性的指向による差別の禁止」が明記されている。そのため組織委員会は、性的指向や性自認による差別やハラスメントを禁止している企業を採用する必要があり、すでに同大会のスポンサーであるパナソニックをはじめ、LGBTQの人々に対して、企業として課題解決へ力を入れる企業が増えつつあるという。
日本最大級のLGBTQイベント「東京レインボープライド」に出展したときの写真(画像提供/渋谷区役所)
見えないものをどうやって可視化するかしかし住宅関係においては、いまだにLGBTQは、外国人や高齢者と同様に「住まい弱者」であることに変わりない。「LGBTQの人たちの中には、希望する住まいに住めない人も少なくありません。LGBTQだからといって必ずしも身体的な困難や経済的な困難を抱えているわけではないのに」というのだ。しかしこうした問題が発生する理由は、「渋谷区でさえ、LGBTQの人たちを見たことも、会ったこともないと話す方がいる」という永田さんの言葉に尽きる。本当は隣にいるのに見えていない人の問題を、身近な問題として考えることは確かに難しいことだ。
「こうした状況を打破するには、どれだけコミュニティの存在を『可視化』し、LGBTQの隣人が当たり前の意識を地域でつくれるかどうかが、今後問題の解決のカギになる。それにはいろいろな人たちが手を取り合ってコラボレーションしながら、地域というものを、(LGBTQに)もう少し開いていくことで、住まいに関する課題も解決していけるのではないでしょうか」と永田さんは続ける。ただこの可視化は、当事者が地域においてカミングアウトすることが現実的に難しい中、簡単な話ではないとも話す。
「差し迫っている課題としては、今後渋谷区で子育てをする同性カップルが増えたり、トランスジェンダー傾向にある子どもが入園・入学する状況に際して、“地域”がどのように理解し、変われるかがとても大事になっています」と話す永田さん。例えば、「パパママ学級」と言った表記に対して、子育てをする同性カップルが疎外された気持ちになりかねない、といったものをはじめ、さまざまな問題を、地域がどう”自分ごと“として気づいて一つ一つ変えて行けるか、渋谷区という地方自治体に関わる立場として、今一番頭を悩ませているのだという。
「渋谷男女平等・ダイバーシティセンターでは、渋谷区への転入を検討中の性的マイノリティの方など、広くご相談を受け入れています。困りごとがあるときにはお一人で悩まず、まずお気軽にご相談いただければと思います」(永田さん)
(画像/PIXTA)
昨年6月、長谷部健 渋谷区長と共に「NYCプライド2019」に視察に行ったという永田さんは、「日本とのあまりもの違いにショックを受けた」という。まちづくりで活躍している人たちの中に、LGBTQの人々や、LGBTQを支援する人々が、当たり前のように存在していた。「日本の取り組みでは、“LGBTQは支援される側”という認識が色濃いのに対して、ニューヨークではまちづくりの担い手としてLGBTQも関わっていたんです。多様な人たちが安心して暮らせる空間をつくろうという取り組みにおいて、担い手の多様性も実現されているというのは、本当に意義深いことだと感じました」と、インクルージョン視点の大切さを改めて感じたのだそうだ。
(画像提供/渋谷区役所)
(画像提供/渋谷区役所)
(画像提供/渋谷区役所)
(画像提供/渋谷区役所)
「見えないものを、どう見えるものにしていくか。見えないと認知も権利の獲得も進まないが、見られたくないという人もいる。そのジレンマの中で、どうやって実現するか。今行政としてクリエイティビティが要求されていると感じています」と話す永田さん。LGBTQへの各自治体の取り組みが広まる一方で、住む場所に関係なく、LGBTQを広く受け入れられる社会になるまで、まだしばらくかかりそうだ。
●取材協力みなさんは図書館についてどのようなイメージを持っているだろうか? 近年、さまざまなタイプの図書館が増え、家でも仕事場でもない第三の居場所「サードプレイス」としても注目されている。おしゃれなカフェを併設したり、毎日イベントを開催したり、訪れる人が楽しめる取り組みを行っている図書館も多い。従来の図書館のように”本を借りる場所”としてだけでなく、“地域のつながりをつくる場所”としての役割を担うようになってきた。
『これからの図書館』(平凡社)の著者であり、図書館流通センターの取締役・谷一文子さんに、図書館の最新事情とこれからの姿について話を伺った。
※新型コロナウイルスの影響で多くの図書館が休館中となっている。開館状況については各ホームページなどでチェックを
芸術×図書館など「複合化」がキーワード全国のさまざまな図書館を見てきた谷一さんから見て、近年の図書館はどう映っているのだろうか。
「以前の図書館は本を貸し出す場所という”図書館” 単体として存在していましたが、今は複合化の傾向にあります。2003年、民間が図書館の管理・運営を行える「指定管理者制度」が生まれたことにより、民間企業と行政機関が協力しあい、今までとは違う図書館が登場するようになってきたのです」
谷一文子さん(画像提供/株式会社図書館流通センター)
特に2013年にリニューアルオープンした「武雄市図書館・歴史資料館」(佐賀県)の存在は大きいと谷一さんは語る。
武雄市図書館(写真提供/カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)
(写真提供/カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)
武雄市図書館は、施設内に蔦屋書店やスターバックスコーヒーが併設されているなどの従来の図書館のイメージを覆すおしゃれな内容で話題となった、複合型図書館だ。開館した2013年度の入館者数は923,036人。2019年2月16日には、累計入館者数500万人到達という人気ぶり。
「開館当初は衝撃を受けましたね。これ以後全国の自治体も図書館に注目するようになり、新しいタイプの図書館が各地にできるきっかけになったと感じます」(谷一さん)
ここ5年ほどで一気に進んだ図書館事情。谷一さんが特に注目している、最新の図書館について教えてもらった。
地域をつなげる注目の図書館3つ赤ちゃんから高齢者まで楽しめる
大和市文化創造拠点「シリウス」(神奈川県大和市)
大和市文化創造拠点「シリウス」(画像提供/株式会社図書館流通センター)
大和市長自ら「全館“まるごと図書館”」と発言するほど、市の肝入りプロジェクトとして2016年11月に誕生した文化複合施設。
ガラスを多用した近代的な外観。6階建ての建物の中には、図書館のほかにも、芸術文化ホールや公民館をはじめ、屋内こども広場、スターバックスコーヒーなど、さまざまな施設が入っている。
開館1周年には累計来館者数300万人を達成。3年続けて年間300万人以上の来館者があり、2020年1月21日には、累計来館者数が1000万人を突破した。
「館内のどこで本を読んでも構いません。そういう意味では、市長さんの『全館“まるごと図書館”』という言葉も的を射ていて、成功した例ではないでしょうか。また、毎日図書館でイベントを開催していることが、シリウスの大きなポイントです。いつ行っても楽しく、いつ行っても違う刺激が得られる。そういう図書館が街にあれば、行ってみたいと思いますよね。仕掛けが人の流れ、街自体にも変化を与えています」(谷一さん)
1Fロビー(画像提供/株式会社図書館流通センター)
子ども連れに人気の「屋内こども広場」。子どもたちは大はしゃぎした後、本を読んだり、借りたりして楽しんでいるという(画像提供/株式会社図書館流通センター)
「健康度見える化コーナー」(4階)には骨健康度測定器、血管年齢測定器、脳年齢測定器などがあり、自由に測定できる。保健師や栄養管理士などから専門的なアドバイスも受けられ、高齢者からも人気が高い(画像提供/株式会社図書館流通センター)
オープンな講座スペース「健康テラス」では健康に関する講座のほか健康体操なども実施しており、毎日通う人も。介護ロボットの展示もされている(画像提供/株式会社図書館流通センター)
シリウスができたことで街の印象もすっかり変わり、自然と周りにも飲食店などのお店ができはじめ、人の流れも変化してきているという。
また、10代の子どもたちの利用を増やし、地域の子どもたちの図書館の楽しみかたを変えたという「武蔵野プレイス(武蔵野市立図書館)」(東京都武蔵野市)もおもしろい。19歳以下(20歳を迎える年度末まで)の青少年のみが楽しめる「スタジオラウンジ」を設けているのだ。
「中高生の居場所を意識した図書館というのは、実はあまりありませんでした。ただ自習する場所ではなく、イベントなどを開催してわいわい集まれるといったこともできます」(谷一さん)
“あそこにいけば、誰かがいる”という居場所といえばカフェや飲み屋が思い浮かぶが、その役目を「図書館」が担うようになっているのだ。
本を貸し出さない!?「課題解決型」図書館
札幌市図書・情報館(北海道・札幌市)
お茶を飲みながら調べものをしたり、グループで使える会議室もある(画像提供/札幌市図書・情報館)
2018年10月にオープンした「本を貸さない図書館」。ジャンルをWork、Life、Artとし、「はたらくをらくにする」というコンセプトの中、多くのビジネスパーソンが来館している。ピアノジャズの名盤が流れる明るい雰囲気の中、会話も可能、飲み物の持ち込みもOK。また、ビジネスの専門家による無料相談も毎週開かれ、知的関心を満たすセミナーも年に20回以上開かれるなど、先進的な取り組みが評価され「Library of the Year 2019」で大賞とオーディエンス賞をダブル受賞。多くの人に注目されている施設だ。
(画像提供/札幌市図書・情報館)
「貸出をしない代わりに、”いつでも最新の本が読める、使える”のです。プラン時にこれを聞いた時には意外に思いましたが、実際にやってみると市民からの評判が良かったようです」(谷一さん)
谷一さんは、女子高生が「こんな素敵なところ知らなかった。教えてくれてありがとう!」と友達に話している様子を偶然見かけ、図書館が地域の人たちに愛され、根付いている様子を実感したと話してくれた。
また、谷一さんが訪れた時はちょうど吹雪の日で、施設が地下鉄の大通駅から直結しているため、とてもありがたく感じたそうだ。屋外に出ることなく図書館に行けるという立地も、冬が寒い北海道では地域の人々にも特に喜ばれるポイントだろう。
農産物の市場価格をデジタル表示!商業施設内に誕生した図書館
つがる市立図書館(青森県つがる市)
つがる市立図書館はイオンモール内にある(画像提供/株式会社図書館流通センター)
つがる市立図書館の入り口(画像提供/株式会社図書館流通センター)
館内にはタリーズコーヒーが併設され、図書館内での飲食もできる(画像提供/株式会社図書館流通センター)
谷一さんが「地域に根付いた図書館」として紹介してくれたのが、2016年7月、映画館なども入るイオンモールつがる柏内に誕生したこちら。赤ちゃんルーム(授乳室)を併設しているほか、小中学生のための学習支援としてデジタル学習教材を導入している。
「自動貸出機を導入しているのですが、高齢者の方も『最近の図書館はすごいね』と楽しそうに自動貸出機を利用してくれています。高齢の方も新しい取り組みに馴染んでくださったのでうれしかったですね」(谷一さん)
青森県初導入の書籍消毒機も採用している(画像提供/株式会社図書館流通センター)
また、「商業施設の中につくられたというのもポイントです」と谷一さん。
これまで地方の図書館は、公共交通機関が近くにない場合、車を持っていない世帯や学生、高齢者などが足を運びにくいという問題点があったが、イオンモールつがる柏では無料シャトルバスを運行しているため、気軽に図書館に行きつつ、買い物をしたい人もアクセスしやすいという。
また、図書館が「農業支援」を行っている点もおもしろい。つがる市でつくられている主要な農作物の価格を毎日、デジタルサイネージに表示している。つがる市の名産品8品目の市場価格がひと目で分かるようになっているのだ。
市場価格が表示されているデジタルサイネージ(画像提供/株式会社図書館流通センター)
地方都市における図書館のあり方を問い直し、地域の人々にどう使ってほしいかが伝わってくる施設と言えるだろう。
従来の図書館も、使い方と見方次第で「発見」につながる上では図書館の最新事例を紹介してもらったが、「従来の図書館も、使い方や見方を変えると“街や自分自身のことを知るブレイン”にもなりますし、“暮らしを変えるハブ”にもなります」と谷一さん。
例えば、その土地の歴史や、地域の人々の家系のルーツを調べるといったこともできるし、待機児童の状況や自治体の制度をふまえた保育園選びのアドバイスを司書さんに聞く、といった使い方もできるそうだ。「図書館を使った調べる学習コンクール」(主催:公益財団法人「図書館振興財団」)の地域コンクールに参加する図書館では、古文書や地域の歴史などに興味を持った子どもたちが資料などを読み解くために、図書館司書がそのお手伝いをしているという。
「自力で調べることが難しいことでも、相談ができたり、やり方を工夫すれば、興味があることを深掘りしていけるんですよね。そういう子どもや大人が増えていけば、世の中も変わっていくと思っています。自分で考え、調べ、結論を出す。とても大事なことですよね」(谷一さん)
また、図書館は「男性の育児参加を促進させる場にもなり得ます」と谷一さんは話す。
「図書館流通センターの関西支社には、絵本の読み聞かせをする男性司書たちのグループ、通称『読みメン隊』がいるのですが、いま参加メンバーがかなり拡大しています。今後は司書だけでなく一般の方にも混ざってもらいたいと強く思っています。
読みメン隊(画像提供/株式会社図書館流通センター)
明石市の図書館では、読みメン隊が読み聞かせを行うとお父さんが子どもを連れてきてくれるんですが、お父さん自身も読み聞かせをしてくれたりするんですよ。いま休日の図書館ではお子さん連れのお父さんたちもとても多くなってきていますが、読み聞かせへの一般男性の参加者が増えれば、より『育児参加』につながるのではないでしょうか」
これからの図書館はどうなる?これからの図書館はどのように変わっていくのだろうか?
「新型コロナウイルスの影響で、ここ数カ月で『デジタルの価値』が高まってきています。私は、オンライン上で本を選び、電子書籍で貸し出す“電子図書館”がさらに浸透していくと予想しています。
一方で、人は集う場所を持っていたいと思うものです。これからも図書館は地域の人たちの『居場所』としても機能し続けると思います。
デジタルとリアルの場としての図書館、この二極化が進んでいくのではないでしょうか」
従来の図書館は、読みたい本や調べものなど「目的があるから行く場所」であった。だが先進の図書館は、読みたい本や調べものは特になくても訪れたい、まさに「居場所としての図書館」として機能している。このような図書館が増えれば、地域の人の流れもより活性化していくだろう。図書館がどのように進化し、街が変わっていくのか今後も注目したい。
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