
5,280万円 / 120.27平米(建物) 159.37平米(敷地)
小田急線「生田」駅 徒歩13分
窓面いっぱいに、あふれんばかりの緑がモサモサと。ダイニングに腰掛けて会話を楽しんでいると、まるで山奥のロッジに来ているかのような気分です。
まず立地ですが、木々が茂る山を背にして、緑あふれる好ポジション。オーナーが四季を楽しめるように、モミジやミモザ、アジサイ等の植物を地植えし ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
自然の営みを慈しみ、しなやかに自分らしく暮らす。肩の力を抜いて気持ちよく暮らすコツを少しずつ増やしているモデル・高山都さんの住まい、暮らし、生き方を紹介しよう
――取り繕っても本当の姿は透けて見えてしまうから無理はしません――
頑張れない日も自然体で受け入れる
日々のライフスタイルをつづった著書やインスタグラムが人気の高山都さん。毎日更新しているインスタのフォロワーは17万人を超え、料理している過程をライブで流すこともしばしばだ。
SNSなどで自ら発信するようになって感じているのは、取り繕った自分はいつの間にか透けて見えてしまうということだ。
「言葉を着飾って背伸びした写真を撮っても、どこかに内側まで出てしまうから、スケルトンであることと上手に付き合おうと思いました。すてきなものに出合ったら写真に切り取って載せたいし、失敗した料理もそのまま見せちゃえと。その方が自分らしいし、無理がないから、続けられます」。
生活していればいいことも悪いこともあるし、料理を頑張りたい日も頑張れない日もある。そんな自分も自然体で受け入れる。
高山さんも、20代はどこか無理をしていたという。30歳を過ぎてから、焦っても仕方がない、何かを少しずつ時間をかけて完成させていけばいい、そんなふうに思えるようになったのだそう。肩の力を抜いてもきれい。それが高山さんの考える理想の美しさだ。
「今だってへこんだり、もんもんとするときはありますが、そんなときは自分のために好きな花を飾ったりして、自分で自分のご機嫌を取ってあげるんです」
――窓から差し込むたっぷりの光を見てここをベースに生きようと思えたんです――テーブルにはいつも何かしら花を飾っている。この日は明るいパワーが欲しくて、黄色のラナンキュラスを中心に、ユーカリなどを花束のように飾った。「最近は同色でまとめるのがお気に入り」
光が心地よい住まいを自分の色に整える
3年前、引っ越しをしようと決めて、高山さんが選んだのは築35年のマンションだ。駅からは少し距離があるが、「買い物の道すがらや駅まで歩くとき、季節の変化も感じられます。そんな小さな楽しみとか喜びを見つけられると、なんてことのない日常の幸福度数が上がる気がするんです」
内覧したときは、まさに内装工事中。「自然光が差し込む大きな窓と広いキッチンをひと目で気に入って即決。キッチンは食器棚をパーティションにして、アトリエのように使いたいとイメージが膨らんで、ここをベースに生きようと思えたんです」
壁は一面だけブルーグレーに塗ってもらった。白よりトーンが落ちたグレーは、花の鮮やかさを引き立ててくれる。朝ブラインドを上げると大きな窓から明るい日差しが一気に入り込む。ブラインドを下げれば周囲の目線を程よく遮るから、窓を開けて風を感じて過ごせる。
古材を使ったダイニングテーブルで、写真集を見ながら、料理の盛り付けのヒントにしたり、日々のことをつづったり、友達を呼んでホームパーティーを開いたり。1人の時間も誰かと過ごす時間も気持ちよい場所だ。
ここで暮らすようになって、ダイニングテーブルやキッチンの窓辺には、何かしら花を飾るようになったそう。朝、LDKに入ると柔らかな日差しと花や緑が迎えてくれる。起きて一番に目にするその景色がとても気持ちいいから、「花を飾るようになって、部屋を片付けておくようになりました。花に似合う空間をつくろうと思うからですね、きっと」
出掛けられない時間、誰にも会えない週末も、丁寧な暮らしで家時間を豊かにしている。
――毎日を気持ちよく過ごす“コツ”が少しずつ増えていきました――前の住まいから使い続けている食器棚は愛着があって、「暮らしの一部になっている」そう。少しずつ集めているお気に入りの食器を置いて見せる収納にした
好きなことに対してクリアな感性をもち続ける
高山さんはフルマラソンで3時間台の完走記録をもつランナーだ。走ることを始めたのは10年前。1カ月100kmを走っている。
「長く走る日もあれば、少しだけ走って終了の日もあります。好きなときに走って目標はキープする。私にとって無理なくやれるバランスです」
昨日より今日はいい自分でいたいけれど、料理も走ることも一気にはうまくはならない。「続けるうちに習慣になり、自分自身になっていくのだから、積み重ねながら変わっていけばいいと考えたら、日々を気持ちよく過ごす”コツ”が少しずつ増えていきました」
「流れる水は濁らないから、好きなことにいつもクリアな気持ちでいるためにも、滞留せず変化も自然体で楽しんでいきたいですね」
素通しだった窓にフィルムを張って、いろいろな花を小さな瓶に一輪ずつ飾って楽しんでいる
白い壁にはドライフラワーを飾って。「もらってうれしかった思い出をそのまま残したくて」手づくりしたもの。室内のグリーンは、様子を見ながら窓辺に移動して日に当ててあげる
去年の秋と冬に訪れたパリの蚤の市で買ったアンティークの食器たち。シルバーのカトラリーは休みの日に磨くことも。料理との相性を考えながら、その日使う器を選ぶ。「意識しているのは余白をつくった盛り付けにすること」。海外のアートブックを見て参考にすることも
自然体でしなやかに暮らしを楽しんでいる高山さんは、すてきな暮らしを送るための知恵をたくさん教えてくれた。自分が気持ちよく過ごせるように空間を整える、そうしてできたホームベースがあるからこそ、自然体のままでどんな変化も楽しんでいけるのかもしれない。
構成・取材・文/中城邦子 撮影/藤本薫
Miyako Takayama『高山都の美 食 姿 2 「日々のコツコツ」続いてます。』(双葉社)
暮らしを楽しむヒントを自身の言葉でつづった著書『高山都の「美 食 姿」』が大好評を博し、第2弾を18年に上梓。現在、第3弾を執筆中
新型コロナウイルス対策下、自宅で過ごす時間が増え、家の掃除をしたり生活を見直したりする機会が増えているようです。また7月からはレジ袋の全面有料化が始まるので、改めてごみやリサイクルに対する知識をつけておきたいところですね。
そこで今回は、リサイクルの現場やごみの正しい出し方について、モノファクトリーの河西桃子さんにお話を聞きました。モノファクトリーでは、グループ会社の産業廃棄物処理業者であるナカダイに運びこまれた廃棄物を、ユニークな方法で利活用しているそうです! どんな方法があるのでしょうか?
コロナの影響で、家庭ごみが増えている!
産業廃棄物の新たな使い方を提案するモノファクトリーの品川のショールーム(写真/モノファクトリー)
自宅にいる時間が増えると、家の中のいろいろなところが気になります。私も3月以降、これまで使っていた照明器具を買いかえたり、家の中の汚れが気になって頻繁に掃除をしたりするようになりました。
「コロナの影響は、ごみにおいてもさまざまなところで変化を与えています。まず、自宅でジュースやお酒などを飲む機会が増えたことで、アルミ缶がごみとして出される量が確実に増えました。また、資源ごみや粗大ごみの回収量も増えているといいます。
さらに、私たちの気持ちの変化も大きいでしょう。近年、ごみを減らすために、エコバックをはじめとしてものを繰り返し使うことや、一つのものをシェアするなど、ものの有効活用の意識が少しずつ浸透してきたと感じます。けれども、今回のコロナ対策下では、衛生面に配慮して感染リスクを避けることが最優先になりました。これもこの数カ月でごみが増えている原因の一つと言えるでしょう」(河西さん、以下同)
衛生面を第一に考えれば「使い捨て」が増え、ごみも増える(写真/PIXTA)
実は、日本のごみ処理は危機的な状況に!?やはり、家庭ごみの量が増えているんですね。全国で同じようなことが起こっていそうで心配です……。
「コロナ対策の前から、廃棄物は国内でだぶつき始めています。実は、一昨年くらい前から中国が資源ごみの輸入をストップしていて、このニュースは業界内では話題になりました。それまで日本は中国にお金を払って資源ごみを処理やリサイクルしてもらっていたわけですが、以来、ごみの出し先がない状況です。私たち廃棄物処理業に携わる者は、そう遠くないタイミングで『捨てられない時代』になるのでは、と危機感を持っています。一般の家庭に影響が出ていないのが不思議なくらいなんです」
資源ごみの出し先となっていた中国が資源ごみの輸入をストップし、日本国内のごみ問題は深刻な状況(写真/PIXTA)
コロナの影響にかかわらず、すでに日本のごみ事情はかなり切迫している状況だったんですね。このような危機的な状況を回避するためにも、私たちが家庭でごみを出すときに気をつけることなどはありますか?
「まず、ご家庭でごみを出すときのベストな方法は、当たり前のようですが、本当に『自治体が指定する通りの方法で出すこと』なんです。自治体によってごみの処理方法は異なります。例えば、燃えるごみにプラスチックを入れていいかどうかが自治体によって異なりますが、それは各自治体がもっている焼却炉のスペックが異なるからです。つまり、プラスチックを焼却する際に発生する有毒ガスを浄化できる機能を持った焼却炉があれば、プラスチックも燃えるごみとして出すことができます。自治体の提示するごみの出し方は、それぞれ最も効率よくごみを利活用または処理できる方法になっているので、ぜひその通りに出してください」
資源ごみのさまざまな疑問・質問に回答!やはり、ごみの出し方の指定にもそうすべき理由があるんですね。
私もここ最近、自治体から配布されているごみの捨て方の冊子を開いてみたんですが、一つひとつ確認しながらその通りに出すのは結構大変です。これだけ労力を使うと、ごみが一体どのように活用されているのかが気になります……。そこで、河西さんにいくつかの質問を投げかけて、答えてもらえました。
●資源ごみとして紙を出すとき、縛る「ひも」も、紙のひもでないとダメ?
「基本的にはガムテープでもビニール紐でも大丈夫なはずです。紙はリサイクルの過程で一度水に溶かして不純物はすくい取ってしまうので、別の素材で縛ってもそれほど大きな問題になりません。ただ、リサイクルする機械のスペックにもよるので、最終的には住んでいる自治体に確認をしましょう」
河西さんによると、ナカダイで回収している古紙を縛る「ひも」の素材は必ずしも紙である必要はないそうだ(写真/PIXTA)
●蛍光灯は資源ごみ? どんな形でリサイクルされるの?
「蛍光灯はちゃんと分解すれば100%リサイクルができます。ガラスの部分はグラスウールに、両端の金属部分はアルミとして、中の水銀もリサイクルされます。ただし、蛍光灯が割れると水銀の取り扱い上、資源ごみとして出せなくなるので、割らないように注意してください」
蛍光灯は割らずに分解できれば100%リサイクル可能な素材でできている(写真/PIXTA)
●古着の回収があるが、どのように使われるの?
「素材や服として再利用できるものは、国内の寄付団体などを通じて、海外へ輸出されることが多いようです。また、綿100%の衣類は国内でもウェス(油や汚れなどを拭き取るための布)として工場や工事現場などで利用されています」
古着などの布類は、工場や工事現場などで油や汚れを拭き取るウェスとして再利用される(写真/PIXTA)
「発想はモノから生まれる」モノファクトリーの取り組みごみの行き先や使い道を教えてもらったことで、俄然、ごみやリサイクルに興味が湧いてきました! モノファクトリーさんでは、近年の社会的なニーズの高まりに応じて産業廃棄物を利活用されているそうですが、その取り組みについても詳しく教えてください。
「当社グループ会社のナカダイが、産業廃棄物処理業者です。産業廃棄物は大きく4つのルートを辿ります。1つはマテリアルリサイクルと呼ばれるもので、単一の素材にして資源として再利用します。代表的なものには鉄やペットボトルをイメージしていただくと分かりやすいでしょう。2つ目はサーマルリサイクルと言って、リサイクルできないものがある場合に、燃やして灰にするだけでなく、燃料等に加工して熱源などに活用します。3つ目は家具や家電など、まだ使えるものをリユースすること、そして最後は焼却などの適切な方法で処理して埋め立て処分等することです」
プラスチック製品の原料になる「ペレット」などもモノファクトリーのショールームで購入できる(写真提供/モノファクトリー)
ナカダイで産業廃棄物として回収したものを、モノファクトリーで加工したり、活用している、ということでしょうか?
「モノファクトリーでは、『捨て方のデザイン』と『使い方の創造』を提案しています。捨て方のデザインについては、主に企業向けに大量に出る産業廃棄物をどのように回収すれば有効な資源として使えるか、コンサルティングやアドバイスを行っています。使い方の創造については、リサイクルの過程で出た素材を仕入れ、大量に集めて展示・販売しています。私たちは『発想はモノから生まれる』ことを伝えていますが、素材をいろいろ触ってみた結果、これに使えるかも、というアイデアが出ることを面白がっていただきたいのです」
「自由な発想」でモノが新しい価値を生むどのような素材がどのように活用できるのか、素人にはなかなかすぐにイメージしづらいのですが、具体的に面白い事例があれば、ぜひご紹介ください!
「まずは、隈研吾さんが設計した三鷹駅前の『ハモニカ横丁ミタカ』です。放置自転車360台分の前輪を、外装や店舗什器に使用しています。素材を単品で考えるだけでなく、同じものがたくさん並ぶ、ということによってとてもインパクトのあるものになりますよね。特にインテリアやDIYなどが好きな人は、同じものを並べてディスプレイするなど、自由な発想で楽しんでいただきたいです」
隈研吾さん設計の「ハモニカ横丁ミタカ」。放置自転車360台分の前輪を並べた外観はインパクト大!(写真提供/モノファクトリー)
さすが日本を代表する建築家の隈さんならではの活用法ですね。私たちが普段の生活に簡単に活かせるようなアイデアもありますか?
「先日、ショールームにいらした親子連れのお母さんが素材を見て口にしたひと言が印象に残っています。ゴムの細長い素材を見て『このゴムを使えば引き戸のドアがいつもバタンと大きな音を立てて閉まるのを防げるかも』と言って買っていかれたんです(笑)」
なるほど! まさに「発想はモノから生まれる」ですね。
モノファクトリーのショールームで展示・販売しているさまざまな形状・色とりどりの素材。見ているだけで心が弾む。写真は前橋市のショール―ムの様子(写真提供/モノファクトリー)
快適で持続可能な生活のために、私たちがこれからできることは?本日のお話を聞いて、楽しみながらごみをリサイクルしてまた活用する、という流れができるといいなと思いました。
「その通りです。近年、海外の商品を安く手軽に購入できるようになりました。将来的にごみが捨てられない状況になれば、国内で再利用する仕組みを考えていくほかありません。そのとき、ごみを処理するためにかかる費用は、税金やそのほかの形で一層私たちにのしかかってくることになるでしょう。本当は、商品をつくって販売する会社が責任をもって、商品を買った人からごみを回収して再活用する、という『循環』の体制ができればベストです。私たちもごみを扱う会社として、有効にごみをリサイクルできる方法を各企業に提案しています。
また、そのような事業を行っている会社を応援する意味でも、自分が消費者として購入する場合には、値段だけではなく、販売したものを循環させる仕組みや体制があるかどうかなど、各企業の取り込みにも興味を持って購入してほしいと思います」
ごみを捨てるときだけでなく、購入を検討するときからリサイクルは始まっているのかもしれない(写真/PIXTA)
河西さんのお話によれば「ごみは単一の素材として分類されていればリサイクルができる」といいます。その素材が複雑に絡み合っていたり、汚れたりしていると、きれいな単一の素材にするために分解をしたり、洗浄したり、といった作業が必要になるのだそうです。その作業費が膨れ上がれば、最後は私たちが税金やそのほかの形でその負担をすることになるわけです。
日々、商品の購入から使用、ごみの廃棄までちょっとしたケアをすることで、無駄なごみや無駄な費用を抑制できることが分かりました! 私たちの生活が快適で持続可能なものになるよう、商品の選び方やごみの捨て方にも意識して取り組みたいですね。
●取材協力法務省の調べによると、2019年の在留外国人は約283万人となり、過去最大となった。約283万人の外国人が居住する一方で、未だ外国人であるという理由で賃貸契約が結べないというケースが多いといわれる。そんな不を解消するためにどのような取り組みがあるのか、外国人の入居をサポートしている不動産会社とNPO法人に話を聞いた。
トラブルや心配ごとを一挙に引き受ける窓口不在の問題
神奈川県川崎市で40年以上不動産業を営む石川商事の会長・石川弘行さんは、「日本人が外国人に対して賃貸契約を結ぶことに難色を示す理由は、コミュニケーションが取れないことへの不安からだ」と話す。石川商事は、外国人の入居を積極的に仲介する不動産会社として、神奈川県・横浜市にあるNPO法人「かながわ 外国人すまいサポートセンター」に登録している不動産会社のうちの一社で、石川さん自身、同NPOの理事を務めたことがある。20年以上こうした支援に関わる中で、石川さんが痛感してきたのは「民間(企業)と行政が一体となって、外国人の住宅を支援するスキームが必要だ」ということだと言う。
「外国人が日本で生活するために、言語や教育、医療についての情報提供や相談を一括して行える窓口を整備する必要がある」と断言する石川さんは、本来であれば、日本が国として外国人労働者の受け入れを進める以上、外国政府を絡め、国と国の取り決めとして進めていくべきことだと実感しているそう。そうすれば、悪徳な受け入れ企業の問題も減る上に、送りだす国側のブローカー問題などを回避できるに違いないからだ。
外国人は長期滞納が少ないケースが多いこれまでにも石川さんは一部の大家から、「外国人が入居することに不安がある」という声を聞いてきたという。理由は、言葉が通じない、家賃の滞納、賃貸契約をした人以外に、複数の人が同居してしまうのではないかという心配、又貸しの問題などが挙げられる。しかし、現在外国人向けの家賃保証を行う「全保連」や「カーサ」といった保証会社を通すことで、大家にとって一番の懸念事項である「家賃未払い」は防ぐことができるという。また職場を保証人にすることでも、問題を回避することはできる。
石川商事の会長・石川弘行さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
石川さんは経験から、「外国人は大家とのトラブルを避ける傾向が強い」と話す。実際、長期滞納をする人は少なく、また滞納や問題が発覚した場合、弁護士を通じて話し合いを申し出ると、もめることなく自ら退去するケースがほとんだという。「外国人だから、日本人だから、ではなく、トラブルを起こすかどうかは人によるんですよ」
また、外国人は短期間で借家を探している人も多いため、日本人には敬遠されがちな「一定の時期に取り壊しや改装を予定している物件」や、「少し古くても、低価格な物件」といった条件付きの物件でも、借りたいという人がいるのだという。これは、なかなか借り手がつかない物件を貸したい、空き物件を減らしたいという大家にとっては、好都合の条件だ。
「法整備さえしっかりすれば、日本人、外国人に限らず、不動産賃貸はもっとスムーズに行えるだろう」と話す石川さん。セーフガードとしての法律や条例の制定が、こうした外国人への不動産賃貸問題をなくす一番の早道になりそうだ。
外国人の賃貸契約の実情(神奈川県の場合)神奈川県は、全国の中でも市民運動やNGO活動が盛んな地域で、特に当事者に寄り添った活動が活発なことで知られている。そうした背景から、日本で唯一の外国人の「居住支援」を目的とした「NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター(以下すまセン)」が存在する。2001年に設立されて以来、住居探しだけでなく、住まいにまつわる通訳や翻訳を含め、年間約1600件に上る支援を行う。現在では、外国人だけでなく、日本人の住宅支援も行っているという同NPOの理事長を務める、裵安(ぺい あん)さんに、日本における外国人の賃貸契約の実態について話を聞いた。
NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンターの理事長を務める、裵安(ぺい あん)さん (画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)
当事者に寄り添った文化がつくりあげた支援センター裵さんは、同センターが設立される以前から、在日コリアンをはじめ外国籍の県民が住民として当たり前に生活するための支援活動に携わってきたという。1998年に「外国籍県民かながわ会議」や「NGOかながわ国際協力会議」といった会議の中で、住宅問題が重要課題とされた背景から、このセンターは設立された。
なぜここ神奈川県で、こうした支援センターが設立されることになったかという背景について、裵さんは「神奈川県には、障がい者や海外協力を行う団体をはじめ、昔から問題に直面した当事者が声を上げ、さまざまなリサーチを行った上で、適切な支援の方法を熟考し、関わり方を探りながら、当事者の声を非常に大事にする文化が育ってきたからだ」と語る。
「当時すでに外国語で話せるスタッフや資料を用意するといった支援はあったものの、外国人の求める本当の生活支援になっていないという問題が起きていた。こうしたなかで、当時の神奈川県知事たちが、住民同士の助け合いを促進する精神のもとに、『外国籍県民かながわ会議』をはじめとした外国人会議やNGO会議など、さまざまな会議を立ち上げてきた背景がある」と続ける。
住まいに関する情報を提供しているすまいサポートセンターでは、随時多言語の資料が掲示されている(資料提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)
親しい「住まいサポート店」との連携がニーズにあった家探し成功のカギ現在、神奈川県の国際課では、来県外国人や外国籍県民に対して「多言語支援センターかながわ」を設置すると同時に、住宅支援システムについてはこのすまセンが全面的に責務を担っている。また、「外国人すまいサポート店」として登録した不動産会社のリストを公開。現在、184件(2020年4月現在)の不動産会社が登録している。
こうしたサポート店登録に至るまでの道のりは、平坦ではなかったという。「神奈川県の多文化共生施策を実践することの一環として、外国籍県民(当事者)、不動産業業界団体、外国人支援団体や個人などが一堂に会し、議論し合いながら3年ほどの時間をかけた」と裵さん。話し合いの中で見えてきたことは、不動産会社側は外国人への漠然とした不安を抱えているが、「空き家が埋まること」を望んでいる上、問題となっていた又貸しや、ゴミ出しなどのルールを守ってくれさえすれば、貸す気持ちがあるということだった。結局、外国人が借りられる住宅が不足しているのは、外国籍県民側への住宅ルールの説明不足や、そもそもの貸し渋りが原因にあることが、お互いに分かったという。
こうして「何が必要で、何が足りていないか」が見えてきた中で、県がマニュアルの多言語化や外国人すまいサポート店の登録の仕組みを不動産の業界団体と協力して設置することと並行し、このすまセンが発足され活動を開始した。
しかし、裵さんによると実際にすまセンが住まい探しで頼りにできる不動産会社は、登録店、全てを利用できるわけではない。その代わり、地域やケースに合わせて、強い協力関係のある不動産会社と、しっかりした連携を取っているという。すまセン不動産会社として登録され、実際に協力を仰げる不動産会社について、「こちらのニーズをきちんと理解し、対応してくれる不動産会社を通じて、外国人を入居させられていることが、とても重要だ」と話す。
神奈川県がつくった、「賃貸住宅への入居・退居にまつわるマニュアル」はすまセンでは重要な資料(画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)
同じ住民としての目線で問題解決を目指してすまセンに相談される案件の中には、生活面で経済的困窮を抱えつつ住居を探しているといったケースもあるという。生活保護をはじめとする役所などでの手続きが必要なケースも出てくるのが現実だ。そういう場合は、通訳やコーディネーターとしてスタッフが寄り添い、市役所などで必要な手続きを事前に行った上で、不動産会社に話を進めるというステップを踏んでいるという。「私たちの仕事は、単純に手続きを行うのではなく、手続きなどをするために<誰>に協力を求め、どこで手続きを踏むかといったコーディネートを行い、きっちりと連携した上で、寄り添って入居につなげること」と裵さんは語る。
「多くの来日外国人は、マイノリティゆえの悩みを抱えている。彼らとしても、帰国したい思いを持ちながら、日本に出稼ぎに来ざるを得ない事情を抱えていることを理解してもらえたら。現実的に外国人の労働なしには、コンビニも回らないし、物流センターが回らなければ宅配便さえ使えない。彼らの労働力なしに、日本という国はすでに回らなくなっていることを改めて考えて欲しい。同じ住民として、さまざまな問題の解決にともに交わり、一緒に考えていくべきなのではないか」と続ける。
また騒音問題など、外国人がトラブルを起こすケースは、大方「知らないでやってしまった」ということが多いと裵さんは話す。そういうときは、彼らに日本の生活習慣における状況を説明した上で注意をすれば、問題は解決することがほとんどだという。「外国人労働者が、多くの高度人材の外国人たちと違うのは、日本の文化を学んでから日本にやってきたりする余裕がないということ。彼らは働いて稼ぐことを第一に移り住んできているため、日本でどのような生活を送らなくてはいけないか、ということに対する情報と知識が不足している場合が多い」と話す。
今後も日本に住む外国人は増えていくことが予想される。賃貸オーナーや不動産会社は、外国人は騒音問題などのトラブルを起こすから、言葉が通じないから……と敬遠するのではなく、歩み寄ることが大切になるだろう。
裵さんは外国人だけでなく生活困窮者自立支援にも携わっている。もともと困窮状態に置かれてきた人たちが新型コロナ発生を機に、更に生活に困窮することも多い。暮らしに困るのは外国人も日本人も同じ。窮地に追いやられている人たちの支援に手を貸しているという。コミュニケーションを大切に、一人ひとりの支援を大切に行うすまセンの活動が、漠然とした不安や無知、先入観により起きている「貸せない」という外国人賃貸問題の解決の糸口になることを切に願う。
(画像/PIXTA)
●取材協力東京有数のビジネス街とベッドタウンとを結ぶ、東京メトロ東西線。東京の地下鉄全13路線のうち、副都心線以外の12路線と接続し、1日の平均輸送人数は東京メトロで最多(2018年度時点)の、東京の主要な通勤路線のひとつでもある。利便性の高さは間違いなしの東京メトロ東西線に住むなら、ねらい目の駅はどこだろうか。全23駅の最新の家賃相場をリサーチし、ワンルーム・1K・1DKの物(10平米以上~40平米未満)を対象に考えてみた。●東京メトロ東西線23駅の家賃相場が安い駅ランキング
順位/駅名/家賃相場/(駅所在地)
1位 南行徳 6.30万円(千葉県市川市)
2位 行徳 6.50万円(千葉県市川市)
3位 原木中山 6.60万円(千葉県船橋市)
4位 妙典 6.70万円(千葉県市川市)
5位 葛西 6.80万円(東京都江戸川区)
6位 西船橋 7.00万円(千葉県船橋市)
6位 西葛西 7.00万円(東京都江戸川区)
8位 浦安 7.10万円(千葉県浦安市)
9位 中野 8.10万円(東京都中野区)
10位 落合 8.20万円(東京都新宿区)
11位 南砂町 8.60万円(東京都江東区)
12位 高田馬場 8.70万円(東京都新宿区)
13位 早稲田 9.50万円(東京都新宿区)
14位 東陽町 10.05万円(東京都江東区)
15位 木場 10.25万円(東京都江東区)
16位 神楽坂 11.25万円(東京都新宿区)
17位 門前仲町 11.35万円(東京都江東区)
18位 日本橋 11.50万円(東京都中央区)
18位 茅場町 11.50万円(東京都中央区)
20位 九段下 12.10万円(東京都千代田区)
21位 飯田橋 12.15万円(東京都千代田区)
22位 大手町 12.60万円(東京都千代田区)
23位 竹橋 12.65万円(東京都千代田区)
東西線はその名の通り、東京都心部から千葉県船橋市までを東西に走る。快速列車は、東陽町、浦安間と、浦安、西船橋間を通過、通勤快速は浦安、西船橋間を通過する。ランキング1位の南行徳駅は、各駅列車のみの停車駅だ。
駅の高架下には「南行徳メトログルメ・ショッピングセンター」、付近にも飲食店やスーパーなどがそろい、少し行くと住宅街が広がる。近くには広々とした「南行徳公園」があり、落ち着いた雰囲気だ。
行徳近郊緑地(写真/PIXTA)
駅からやや距離はあるが、車で10分ほどの場所にある「行徳近郊緑地」は、都市部では貴重な野鳥や自然とふれあえる憩いの場所。東京湾の埋め立て工事で失われつつある野鳥の生息地を守るために造成された湿地帯で、冬場になれば遠くシベリアからカモなども飛来し、「野鳥の楽園」の愛称でも親しまれている。折に触れさまざまなイベントも行われているため、子どもたちに自然を身近に感じさせる体験の場として心に留めておいてもいいだろう。
家賃は一般的に都心部から離れるほど安くなるため、千葉県の駅はランキング上位に集中するが、その中でいちばん“お高い”のは浦安駅。快速と通勤快速も停車する。
浦安駅(写真/PIXTA)
浦安、という地名で連想するのは、“夢の国”こと東京ディズニーランド、東京ディズニーシーの東京ディズニーリゾート。最寄駅はJR京葉線の舞浜駅で、浦安駅からは約5キロあり、バスを利用する必要があるが、場所によっては浦安駅エリアからディズニーリゾートの花火が見えることも。舞浜駅に比べると浦安駅周辺はスーパーなどの生活施設が充実しており、夢と日常生活の両立が現実のものになる駅といえるかもしれない。
一方で、2011年の東日本大震災による土地の液状化の被害の大きさが記憶に残る人も多いだろう。浦安市は液状化対策や地盤改良工事をすすめており、首都直下地震のようなレベル2の地震動(ごくまれに発生する規模で、発生すれば甚大な被害をもたらすおそれがある地震によって発生する揺れのこと)であっても建物の沈下量は軽減できるようになっていると発表している。
かつては漁師町であり、山本周五郎の小説『青べか物語』の舞台となった街でもある。江戸時代から漁業を営んでいた大塚家の古民家で、県指定有形文化財の「旧大塚家住宅」などの古い建造物が街のあちこちにあり、歴史を感じ取ることができる一面も持つ。
東京メトロ東西線の起点駅である中野駅は9位にランクインしている。サブカルチャーの聖地として知られる「中野ブロードウェイ」があり、趣味を満喫したい人にはとってはたまらない街だ。
その中野ブロードウェイまで、駅から「中野サンモール商店街」がつながっている。約200メートルのアーケード街で、飲食店のほかファストファッション店やドラッグストアなどが並ぶ。また中野マルイや‘ホームズ中野本店など百貨店やホームセンターもあり、買い物にもとても便利だ。
中野サンモール商店街(写真/PIXTA)
近年は駅北口の再開発が進み、早稲田大学や明治大学の新キャンパスができたほか、2022年には南口の大規模再開発も竣工予定。変化していく街の様子を眺められるのも魅力のひとつといえそうだ。
パリの雰囲気、江戸情緒……どちらも捨てがたい16位の神楽坂駅は、「東京のパリ」とも呼ばれるおしゃれな街。その理由は、フランス料理やスイーツのお店が充実しているということもあるが、フランス語のインターナショナルスクールがあることやフランス政府の公式機関である語学学校「アンスティチュ・フランセ東京(旧東京日仏学院)」が存在することにある。語学教室以外にも映画館や図書館、カフェなども併設しており、自由に見学も可能だ。
スーパーマーケットのほか、生鮮食品を扱う商店やお手ごろ価格の洋品店などが点在している。そうしたお店を一軒一軒回ってのんびり買い物、というライフスタイルをあえて満喫、というのも楽しそう。また、道を1本奥に入ればひっそりと昭和レトロな銭湯があったりするなど、意外な発見ができる場所でもある。
17位の門前仲町駅は、富岡八幡宮や深川不動尊など寺社があることから、下町情緒が残る場所として人気だ。江戸時代の代表的な歌舞伎作者である四世鶴屋南北の住居跡や、伊能忠敬の住居跡など、そこかしこで江戸の息吹が感じられる。また個性的な店員と入店ルールで有名な大衆酒場の「魚三酒場」など、リーズナブルでおいしい飲食店が豊富なことでも知られる。
富岡八幡宮(写真/PIXTA)
駅前は夜10時まで営業しているスーパーのほか、少し行けばホームセンターのコーナンもある。15位の木場とは徒歩でも10分程度だが、木場駅前には大きなイトーヨーカドーがあり、日常生活に必要な買い物にも便利。また、門前仲町駅で接続する都営大江戸線で隣駅の月島駅も、歩いて20分程度。散歩がてら名物のもんじゃ焼きを食べに、といった下町の雰囲気を満喫できる。
東京メトロ東西線の人気の理由は通勤、通学への利便性が大きいが、どの駅も、さまざまな魅力にあふれている。自分のライフスタイルに合った最適の部屋がきっと見つかる。そんな期待をかきたてるのも、東西線が人気の理由のひとつなのだろう。
●調査概要2022年の高等学校学習指導要領改訂に向けて、全国の中学・高校で導入され始めた「探究学習」。
未来子どもたちには、自身で課題を発見し、解決する力が求められるようになるだろう。
今回は、自身の探究力を開花させた研究者たちへ、幼少期の住まいについてインタビューした。
子どもたちの問いをはぐくみ、探究力を伸ばす家の秘密をひもといていこう。
●研究テーマ:ヒトはなぜ大人になるのか?
みなさんも経験している思春期。実は、ヒトの思春期は他の動物に比べるととても長いことが分かっています。私はヒトの思春期がいつ始まり、いつ終わりを迎えるか、つまりヒトがいつ大人になるのかを研究しています。子どものころに読んで憧れたドリトル先生のように前人未到の地に足を踏み入れたいと考え、チンパンジーをはじめ、世界中の動物たちの研究をしてきました。そこでヒトの思春期の不思議にたどり着き、現在に至っています。
長谷川さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 豊かな自然がいつも身近にある環境でした
3歳から5歳ぐらいまで、和歌山県田辺市にある古い町家に住んでいました。近くには海があったので、よく遊びに行っていました。今のようにテトラポッドで遮られておらず、海に棲息するイソギンチャクや貝殻を手にすることができて、生物に関心をもつようになりました。これが私の原風景です。
その後、8歳の時に小金井市の一軒家に引越します。当時の小金井市には自然がたくさんあって、家から少し離れると畑も多く、牛がのんびりと歩いていたほどです。この家には、広い庭を見渡すことのできるリビングがあり、家のなかにいても緑を間近に感じられる環境でした。庭では父の芝刈りを手伝って、雑草取りをするのが私の役割。抜いた雑草を眺めては、「これは何という植物なのだろう」と、自分の部屋に持ち帰り、図鑑で調べて名前を覚えたりしていました。毎日が生き物に対する発見の連続でしたね。
広い庭を見渡すことのできるリビングで、家の中でも緑を間近に感じることができる(イラスト/3rdeye)
Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 書斎からまだ見ぬ風景に思いを馳せていました
北側にある父の書斎が涼しかったので、夏休みによく忍び込んで、目についた本を読んでいました。並んでいたのは志賀直哉や芥川龍之介など。訳も分からず目を通していましたね。大人の本ばかり読んでいたのを父が見かねて、『少年少女世界文学全集』を買ってくれました。毎月1巻ずつ家へ届けられるお話の数々に、私はワクワクしていました。そこで出合ったのが、『ドリトル先生航海記』です。あの本を読んで、私もドリトル先生みたいに前人未到の地を旅してみたい、と思うようになったのです。
Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 自分だけの世界観がはぐくめる場所を設けたい
私は一人っ子でしたので部屋をもらうことができましたが、今の住環境ではなかなか難しいかもしれないので、この部屋の一角はあなただけの場所、というところを設けたいですね。そのような場所があると、自分だけの世界観と責任感をはぐくむことができます。あまり汚くしていたら、時には叱ることも必要だとは思いますが、親の許容度が何よりも大切です。こうした住環境のもと、公園でも何でもいいので、自然を見られたり、触れられたりする場所がお住まいの近くにあってほしいと思います。
長谷川さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)『ドリトル先生航海記』はじめ、読書は冒険への入口。物語を通じて、田辺で見た海の向こうに広がる世界を想像していたという(右)家の近くの小川に棲息する生物を捕まえ観察するなかで、どこまで足を踏み入れると川が深くなるかなどを体感的に学んでいったそう(イラスト/3rdeye)
長谷川さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
好奇心の種は公園や学校など、大抵外に転がっています。興味をもったものを持ち帰って調べたり、深めたりするのが「家」の役割。ぜひ外で「本物」を見てみてください。そして、ご両親にお願いして家でじっくり外での発見を味わってみましょう。そうすることであなたの世界が広がります。
●研究テーマ:モノがなぜメディアになるのか?
私は社会のなかでメディアがどう形づくられ、どんな役割をもつのかを研究しています。新聞、雑誌、テレビといった従来のメディアはもちろん、現代はスマホや通信アプリ、SNSなど、インターネットを活用するメディアが増えました。一方で、例えばテーマパークやフェスなどの場、人、展示物やガンプラなどのキャラクターグッズといったモノも、メディアと捉える見方が登場しました。ポップカルチャーと親和性の高いこの分野を探究しています。
松井さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 駅や商店街に近い下町の、古い家に住んでいました
都会でも田舎でもない下町で暮らしていました。家のすぐ横を近鉄とJRが走っていたので、常に電車の音が聞こえ、隣家はカラオケ店、その横は酒屋さん、さらに隣は駄菓子屋さんという、電車や人の往来が多い場所でした。妙に古い木造の一軒家に両親と妹と住んでいて、庭には物置になっていた離れがあり、よく探検しました。いつ誰が使っていたのか分からない昔の物や本が出てくるので、埃まみれなんですが、宝探しのようで本当に面白かったです。
家のなかで特徴的なのは、滑り台。なぜだかリビングに、小学生でも滑れるくらいしっかりした滑り台があったんです。これがあるので幼稚園や学校帰りに友達が立ち寄り、滑りながらビデオデッキでアニメを観たり、連れ立って駄菓子屋さんに行ったりしました。リビングの滑り台が我が家の象徴となり、人と人をつなぐメディアになっていたわけですね。
リビングの滑り台が象徴となっていた松井さんのご自宅の間取り(イラスト/3rdeye)
Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 予期せぬ出合いで興味の幅を広げてくれました
離れの物置空間は、「世の中には自分の知らないものが存在している」と実感できる場所でした。この空間が歴史に興味をもつきっかけとなり、今の研究にも役立っています。また当時、家にビデオの宅配業者が毎週7本ほど映画やアニメを持ってきていたので、よく観ました。開封して、観た分の料金を後日支払う仕組みでした。レンタルショップと違って観たいものが選べず、好みではない作品もセレクトされているのですが、あるとつい観てしまう。選り好みしないで幅広く興味をもつようになりました。
Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. パブリックとプライベートが両方備わった家
私の経験則から、子どもにはある程度の刺激が欲しいと思います。問いやアイデアは人とのコミュニケーションから生まれやすいので、滑り台じゃなくても庭にビニールプールを置くとか、リビングが広くて人を招きやすいとか、人とのつながりをはぐくむきっかけや開放性があるといいですね。ただし、物事を探究するときは、自分自身と向き合うことが必要です。他との交わりを断って内にこもるような、秘密をもてることは大事です。開放性と閉鎖性、どちらが欠けてもいけないと思います。
松井さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)タイムカプセルのような離れの物置を探検。江戸川乱歩の小説や、ブリキのおもちゃなどを発掘しては、自室に持ち帰り楽しんだ(右)考えた物語を妹に伝え、リカちゃんや怪獣のおもちゃで小さな劇団ごっこをして遊んだ。妹にはお兄ちゃん風を吹かせていたそう(イラスト/3rdeye)
松井さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
好奇心を養い、問いを見つけるには、人と交流したり刺激を受けたりするような、遊び心のある空間は大事です。しかしそれだけでは、人の顔を見て右往左往する、世の中の関心事に引っ張られるような人になってしまう恐れが。時には外からの刺激を遮断してみると、安心できますよ。
●研究テーマ:日常生活に溶け込む、やわらかいロボットとは?
日常生活や自然環境で活躍する「ソフトロボット」の開発に取り組んでいます。ロボットというと硬い金属製のイメージがあると思いますが、“やわらかい材料”を用いることで、安全かつ自然に生活環境に溶け込めるのではないかと考えています。筋肉や皮膚をどんな素材でつくるか、ロボットをどう自律的に動かすか、ハードウェア、ソフトウェアの両面から研究を重ねています。私が開発した「イモムシ型ロボット」は学習塾で教育用キットとしても活用されています。
梅舘さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 母屋の向かいに工場があり、そこが遊び場でした
子どものころに暮らしていたのは、田舎の古い一軒家でした。1階で曽祖父母が、2階で僕ら家族が生活していましたね。2階には4つ部屋がありましたが、ふすまを開けると全部つながるんです。だから、プラレールの線路で全部屋を結ぶなど、空間をフルに使って遊んでいましたよ。また、母屋から道路を挟んだ向かい側には、祖父母が営む製材工場がありました。空き地と隣り合っていて、そこでもよく友達と遊びましたが、工場自体もよい遊び場でしたね。
流行りのおもちゃをほとんど買ってもらえない家だったので、欲しいものは工場で手づくりするんです。転がっている端材を使って、磁石で走る車とか、天体観測用のキットなんかをつくったのを覚えています。今思えば、おもちゃを買ってくれなかったのは、母の教育方針だったのかもしれませんね。自分で創意工夫する力を育てようとしてくれていたのだと思います。
ふすまで全室をつなげて、プラレールなどを楽しむことができる間取り(イラスト/3rdeye)
Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 学んで成功に近づく面白さに気付きました
欲しいものを自作したといっても、実際は失敗だらけ。頭にある完成形の4~6割くらいのものしかつくれませんでした。でも、そこで満足できなかったからこそ、新たに知識を得て完成度を引き上げていく楽しさに気付けたんじゃないでしょうか。思い出深いのは、小学生の時に母に連れて行かれた近所の電機メーカーのワークショップ。イチからスピーカーを組みました。自分がつくったものから音が出ることに感動し、将来は「もっとすごい何かをつくりたい」と思えた、大きな出来事でしたね。
Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 試行錯誤してモノづくりができる空間を
僕でいう資材工場にあたる場所は与えてあげたい。それも、家族で何かをつくるスペースがいいですね。ガレージに作業場を設け、みんなで囲む机を置きたいです。そして、そこで子どもたちと遊びたい。僕には3人の子どもがいて、今の家でも色々とつくっていますよ。小2の息子はCADソフトで図面を引いて、3Dプリンターでおもちゃをつくっています。何でも簡単に手に入れるのではなく、まずは自分で試行錯誤する人になってほしい。そんな願いどおりに育ってくれているのかなと思います。
梅舘さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)小学校低学年からは資材工場に入りびたり、ものづくりに没頭。不要になった電気製品などを分解するのも好きだった(右)土間の上に釜が置かれた昔ながらの台所では、曽祖父母たちと餅をつくなど、多世代に渡る交流を楽しんでいた(イラスト/3rdeye)
梅舘さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
大事なのは、何でもまず自分でやってみることです。例えば自転車がパンクしたら、すぐ修理に出さず自分で直してみる。うまくいかなくても、そこで構造や仕組みを覚えることで好奇心が刺激されますし、得意なこと、好きなことが見つかるきっかけになるんじゃないでしょうか。
●研究テーマ:作品をつくるとはどういうことか?
作品と聞いて何を思い浮かべますか?一般的に作品とは広く「work」を指しますが、芸術作品ばかりでなく、研究、仕事、手仕事など、区切りのある仕事や作品の一切を「work≒仕事≒作品」として、“作品をつくるとはどういうことか”を根本的に問い直しています。広い意味で「work」の哲学を考えているのです。そして、「作品をつくる」「仕事を完了させる」「形にする」ための哲学、方法を探究し、シェアすることで、「つくり方を哲学する方法論」を民主化したいと考えています。
千葉さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 離れにあった「パパのアトリエ」がお気に入りでした
8歳まで住んでいたのは、2階建ての古い家。そこに祖父母と両親、僕と妹が生活していました。遊び場だったリビングには図鑑がたくさんありましたね。親戚のおじさんがお年玉代わりに、生物の図鑑などをプレゼントしてくれたのを覚えています。
当時、自分の部屋はありませんでしたが、「離れ」があって、そこでよく遊んでいました。多趣味な父親の隠れ家、遊び場のようなところで、母屋2階のベランダから階段で入れるようになっていたんです。オーディオマニアの父は壁にJBLのスピーカーを埋め込んで、部屋の音響にもこだわっていました。ほかにも、ラジコンや電子工作など色々な遊びを教えてもらいましたよ。「パパのアトリエ」と呼んでいたその空間で父親と同じ趣味を共有する。「アンプの真空管を変えたら音がどう変わるか」みたいなことを教わるのがとにかく楽しくて。素敵な時間でしたね。
お気に入りの「パパのアトリエ」でよく遊んでいた幼少期の千葉さん宅(イラスト/3rdeye)
Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 両親を見て「本気で遊ぶ」楽しさを知りました
そんなふうに親が趣味に没頭する姿を間近で見て育ちました。母親も絵が好きで、自作の絵を部屋に飾ったりしていましたからね。僕の両親は子どもと「遊んであげる」のではなく、子どもを自分の遊びのプロジェクトに巻き込んでいるところがあった。
改めて振り返ると、僕もそんな両親に感化されましたね。父の姿を見て、僕も本気で遊ぶ大人になろうと思ったし、母の影響で僕も描いた絵を飾るようになった。大人の本気に圧倒されるなかで、自分の価値観や創造性が育っていった気がします。
Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 親子で一緒に没頭できる空間がある家
遊びが大事とはいえ、個室で一人黙々と趣味に勤しむだけでは、クリエイティブな展開につながりづらいのではないかと思います。ですから僕にとっての「パパのアトリエ」や母親と絵を描いたリビングなど、誰かと一緒に何かをやる空間があるといいですよね。
そして、親はそこで子どもが興味をもったこと、何かを集めたり、うんちくを語ったりしているのを受け止めてあげることが大事。そんなコミュニケーションが、子どもの探究力をさらに伸ばすカギになるのではないでしょうか。
千葉さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)男の子が憧れそうなものは何でもあったという離れのアトリエ。帰りの遅い父親を待って、ここで一緒に遊ぶのが何よりの楽しみだった(右)中学からはMacが一番のおもちゃに。プログラミングなどをして遊んだ。創造性を育む道具は惜しみなく与えてくれる両親だったそう(イラスト/3rdeye)
千葉さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
よく遊んでほしいです。家に自分の部屋がないなら「空間を遊び場化」させればいい。家にあるものを障害物に見立て「シューティングゲームごっこ」をしたりね。遊び場がない、ゲームを買ってもらえない。そんな状況でこそ、想像力を働かせてほしいです。
第一線で活躍する研究者のインタビューを通じて「身近に想像力を刺激するものがある」「多くの人と接する」
「自分だけの空間をもつ」など、子どもの探究力を伸ばす家の共通点が浮かんできた。家探しの参考にしてほしい。
本棚ならぬ“本壁”がある
壁一面の本棚で、絵本や図鑑、文学、写真集など、さまざまな本を家族で共有しよう。本を通じた意外な出合いが子どもの好奇心や想像力につながる。難しければ、図書館の近くに住むのもひとつの手(画像提供/@morningsun3480)
秘密基地がある
好奇心のタネを、子どもがひとり熟成できる場所を用意したい。一部屋でなくても、ロフトや屋根裏、屋内テントを設置するのもいいだろう(画像提供/@lokki__talo)
おうち美術館を開く
子どもの描いた絵や工作を部屋に飾ってみよう。できれば専用の場所を設けるといい。子どもの創作意欲を刺激し、自己肯定感をはぐくむ(画像提供/@uk__502)
自然と身近に触れ合う
山や海に近い環境は理想的だが、利便性との両立が難しい場合も。庭付きの家や、自然公園の近くに住めば、日常生活のなかで自然と触れ合いやすい(画像提供/@589littlegarden)
おうちオフィスを構える
大人が本気で取り組む姿を子どもに見せるのに、自宅ワークスペースは最適。最近は共用施設にスタディールームを持つマンションもある(画像提供/Unsplash)
庭を開いてみる
色々な人とかかわりをもつのに、庭を交流空間として開放するのも一案。マンションなら敷地内公園やキッズルームがある物件もあるので活用して(画像提供/PIXTA)
相棒と暮らす
ペットと一緒に暮らすことで、動物たちの豊かな感情表現が感受性をはぐくみ、子どもに命の尊さを教えてくれる。マンションの場合、ペットの飼育が可能か事前に確認しよう(画像提供/@mattam_interior(ICHIMIRI))
研究者たちの幼少期の住まいや暮らしぶりから、育った環境がその後の成長に大きな影響を与えていることがわかります。人とのつながりをはぐくむリビングや、両親と一緒にものづくりができるアトリエなど子どもの好奇心をかきたてるような住環境に加えて、その好奇心を受け止める家族の存在がより“子どもの探究力”を伸ばすのかもしれません。
●スタディサプリ
・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(1)人間を究める
・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(2)社会を究める
・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(3)生命を究める
取材・文/小野雅彦(長谷川眞理子さん)、寺井真理(松井広志さん)、やじろべえ榎並紀行(梅舘拓也さん、千葉雅也さん)
※この記事はSUUMOマガジン2020年5月27日発売号からの提供記事です
旭化成ホームズのくらしノベーション研究所が、在宅ワークにおけるくらしの現状について調査を行った。在宅ワークを行う場所は、一戸建て(持ち家)では個室派が5割強、集合住宅(賃貸)ではLD派が約7割となり、自宅のどこで仕事をするかが分かれたという。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「在宅ワークに関するくらしの変化についての調査結果」を公表/旭化成ホームズくらし方モデルが「令和在宅ワークモデル」へ移行
くらしノベーション研究所では、令和の現在は、新型コロナウイルスの世界的感染拡大への対策として在宅ワークが急速に普及しており、「令和在宅ワークモデル」が求められると見ている。過去の「戦後昭和専業主婦モデル」から「平成共働きモデル」へと移行し、在宅ワークが普及する令和は、「職住融合」の暮らし方に変化を遂げつつあるという。
時代と共に変化してきたくらし方モデル(出典/旭化成ホームズ「在宅ワークに関するくらしの変化についての調査結果」リリースから転載)
同研究所では、コロナ禍終息後も在宅ワークが一定数定着すると見て、在宅ワークスペースの現状と暮らしの在り方を探る目的で、2020年4月に週7時間以上働く男女で、在宅ワーク実施者・希望者に調査を行った。
「家族時間」や「自分時間」が増加し、子どもとの夕食開始時間が早まった一般的に「テレワーク」は、自宅のほかに通勤中やサードプレイスで仕事をすることも含むが、この調査では家で仕事をする行為を「在宅ワーク」と定義している。
まず、在宅ワークによる暮らしの変化を聞いたところ、一戸建て(持ち家)では「家族と過ごす時間が増えた」(79%)、「子どもと過ごす時間が増えた」(72%)、「家族とのコミュニケーションが増えた」(64%)と家族との交流に関する項目が上位に挙がった。
次いで、「自分の自由に使える時間が増えた」(51%)、「睡眠時間が増えた」(44%)など、個人の時間の増加も上位に挙がっている。
また、小学生以下の子どもがいる世帯では、オフィス通勤のときと比べると在宅ワークによって夕食(開始)時間が74分も早まり、夕食時間の平均は19時19分となった。ちなみに、就寝時間はあまり変わっていない。
仕事をする場所は、一戸建てで個室派が5割強、集合住宅でLD派が7割次に、在宅ワークをする場所について、個室派(家族共用個室含む)か、LD派(ダイニングテーブル、LDのカウンターやローテブル等を含む)かの結果を見よう。一戸建て(持ち家)では、個室派が54%と過半数に達し、LD派は41%だった。一方、集合住宅(賃貸)では、LD派が71%に達し、個室派は27%に留まった。
時代と共に変化してきたくらし方モデル(出典/旭化成ホームズ「在宅ワークに関するくらしの変化についての調査結果」リリースから転載)
この違いは、一戸建てか集合住宅かによるものというより、広さや間取りの影響を受けると考えられる。一般的に広さや部屋数が確保しやすい一戸建て(持ち家)では、間取りを4LDK以下に限るとLD派が増加し、賃貸集合住宅でも、個室数が少ないほどLD派が増加するという。つまり、仕事用に個室が確保しやすいかどうか、確保できる個室で仕事ができるかどうか、がカギになるのだろう。納戸のような窓のない、あるいは窓の小さい個室だと仕事がしづらいといったことがあるだろう。
一方で、個室の確保の有無に限らず、「キッチンなどと近く家事と両立しやすい」「家族とコミュニケーションが取れて育児と両立できる」「開放的な空間だから」といった理由で、LDで仕事をする人もいる。特に、一戸建て(持ち家)で子どもがいる女性に限ると、LD派が72%まで増加するという。
仕事をするためのデスクや椅子、パソコン置場といったことだけでなく、仕事に集中しやすい、生活音が気にならないなどを重視すると有利になる個室か、家族の様子が分かるなどを重視すると有利になるLDかといった選び方もあるようだ。
在宅ワークの困りごとは、日常生活との切り替え在宅ワークを実施して困ったことを聞くと、最大の困りごとは「日常生活との切り替えがしにくい」になる。家事や育児を担う時間が長いからか、特に女性のほうが切り替えがしにくいと回答している。
在宅ワークの困りごと((出典/旭化成ホームズ「在宅ワークに関するくらしの変化についての調査結果」リリースから転載)
オンオフの切り替えは、スペースの問題もあるが、気持ちの面での切り替えができるかが大きいだろう。
まずは仕事するスペースを明確に決めて、そこは仕事に専念する場とイメージすること。朝食を食べた流れのままデスクに向かうといったことのないように、着替えをしたり、飲み物や軽い運動などで気持ちを切り替えたり、といった個々人の工夫で乗り切ってほしい。
ちなみに筆者は、朝食後仕事に向かう前にラジオ体操を、昼食後にはヨガなどのエクササイズを、おやつの後には胸を広げる運動をしている。「食べた後に運動をしているだけじゃないか」と思う人も多いだろうが、意外に体を動かした後のほうがすっきりして仕事に集中できるものだ。
さて、在宅ワークは、コロナ禍終息後も普及していくことが予想される。それを見越して、住宅を供給する側も仕事がしやすい家づくりに知恵を絞るだろう。一方で、住む側も仕事がしやすい、あるいは家族時間や自分時間が充実するといった観点で、住まいを選ぶようになるだろう。これからのマイホームの変化にも注目していきたい。
「異彩を、放て。」をミッションに、知的障害のある方のアート作品を、さまざまなアプローチでモノ・コト・バショに展開する福祉実験ユニット「ヘラルボニー」。出発点は自閉症の兄だったという、双子の松田文登さん・崇弥さんに、会社を立ち上げた経緯や、現在の事業展開、今後挑戦してみたいこと、そして「”障害”という言葉のイメージを取り払いたい」という想いについて、お話を伺いました。
障害のあるアーティストの作品を身近なプロダクトに
「ヘラルボニー」では、全国の福祉施設とマネジメント契約を結び、知的障害のある方々が手掛けたアートを使ったプロダクト、プロジェクトを手掛けている。それらは、職人技を駆使したアパレル、工事現場の仮囲いや駅舎を使ったソーシャル美術館、アートと福祉をつなげるワークショップなど多岐にわたる。
最初に手掛けた「ART NECKTIE」。すべてアーティストの名前を冠し、創業明治の紳士洋品の老舗「銀座田屋」の自社工房で織られたもの(写真提供/ヘラルボニー)
普段、なにげなく目にすることが多い建設現場の仮囲いを、期間限定の「ミュージアム」として捉え直す試み「全日本仮囲いアートミュージアム」(写真提供/ヘラルボニー)
茨城県つくば市の福祉施設「自然生クラブ」とコラボし、南青山の「NORA HAIR SALON」を丸ごとギャラリーにしてしまうプロジェクト(写真提供/ヘラルボニー)
知的障害がアートの絵筆になる。そこに弱者のイメージはない活動内容のすべてに共通するのは、福祉×クリエイティブ。「アート」を入り口に、知的障害のある人のイメージを変えたい想いだ。
「どうしても知的障害の話って重くなるでしょう。講演会なんかでも、”これから重い話が始まるぞ~”と身構えられてしまう。僕たちには、先天性の自閉症の兄がいて、こうした障害に対する可哀想とか大変といったネガタィブな世間のイメージにずっと違和感があるんですよね。彼らが描いた作品には、突き抜けたパワーがある。そこからリスペクトが生まれる。彼らのアートを身近なものに落とし込むことで、世間のネガティブな目線を少しずつ変容させていきたいんです」(文登さん)
実際、知的障害のある方たちの作品は特長的だ。何度も現れるモチーフ、驚くほどの集中力で描いたと思われる緻密さ、自由な発想、独特な世界観。絵のモチーフやタッチを見れば、〇〇さんの作品と分かる。そこにあるのは、“障がい者”とひと括りされがちな人たちの、1人1人の強烈な個性だ。
「多くの自閉症やダウン症の方々に見られる共通項として挙げられる、強いこだわりは、日々のルーティンとなり、それがアートになると、ずっと丸や四角を描くなど、繰り返しの表現に。それは唯一無二の個性になるんです。つまり、”障害”があるからこそ描ける世界があると思います」(崇弥さん)
もちろん創作活動をするのは知的障害のある一部の人たち。急に描くのを辞める人もいれば、突然描き始める人もいる。描く世界が突然変わってしまうこともあるそうだ (写真提供/ヘラルボニー)
(写真提供/ヘラルボニー)
(写真提供/ヘラルボニー)
最初は社会的実験からスタート。高品質に振り切ったプロダクトで勝負ヘラルボニー設立の直接のきっかけは、崇弥さんが故郷の岩手に帰省した際に立ち寄った「るんびにい美術館」。知的障害や精神障害のある作者のアート作品を多く展示している美術館だ。「ものすごい衝撃を受けました。こういう世界があるんだ、僕のやりたいことはこれじゃないかと、興奮気味に文登に電話したことを覚えています」(崇弥さん)
岩手県花巻市にある「るんびにい美術館」で撮影した写真。アトリエも併設され、作品の制作現場を実際に見て、アーティストたちと交流することもできる(写真提供/ヘラルボニー)
(写真提供/ヘラルボニー)
当時、文登さんはゼネコン、崇弥さんは広告代理店勤務。会社員生活をしつつ、お互い貯金を出しあって(「といっても、8割は僕ですよ(笑)」と文登さん)、始めたのが、前出のシルクのネクタイ制作だ。価格は2万円超えと決して安くはないが、細い絹糸を高密度で織り上げたネクタイは、その質感、艶、緻密さは、まるでアート作品のよう。
ネクタイは、通常の倍の密度で織り込まれたシルク100%のもの。これを持つことで、ちょっと背筋が伸びるような特別感のある品だ (写真提供/ヘラルボニー)
「気軽に手を出せない価格でも、最高品質のもの。障害うんぬんを外しても、純粋にほしいと思ってもらえるものをつくってみようと考えていました。例えば、福祉施設で障害のある方が5時間かけてつくったレザークラフト作品が500円で売られていたんです。それでは、材料費の方が高くなってしまう。やはり福祉だけの文脈ではなく、”ビジネス”の枠組みが必要だと感じていました」(崇弥さん)
とはいえ、最初は不安も。「銀行員の父からは”見通しが甘い”と言われてしまいました(笑)。でもこれは、福祉の現場から発信したらどうなるのか、意義のある社会的実験と考えればいいとも。もちろんビジネスとして成り立つことは大切だけれど、自分たちがワクワクしたいから、を軸に考えていましたね」(文登さん)
しかしリリースされてみると、メディアの各媒体に取り上げられ、思っていた以上に反響は大きかった。「本当にびっくりしました。もしかしたら、世の中がこういうのを求めていたのかもしれないと思いました」(文登さん)
ヘラルボニーの挑戦は、自閉症の兄の存在抜きには語れないアクティブな両親のもと、物心付いたころから、療育の場や福祉の集まりに毎週のように出かけていたふたり。福祉はずっと身近な世界だ。「親以外の大人に遊んでもらって、けっこう楽しかったんですよね。小学校の卒業文集に、“将来の夢は特別支援学級の先生”って書いていましたから。小さな小学校で、僕たちが友達と遊ぶときも兄も一緒で。特に障害とかを大きく意識したことはなかったんです」(崇弥さん)
しかし、中学に入学すると状況は変わった。複数の小学校の学区からなるマンモス中学校で、兄のことを馬鹿にする同級生もいた。「正直、自分の弱さから、中学のときは兄の事を隠していた時期もありました。その時の想いは、今もずっと自分の中で残っています」(文登さん)
子どものころの松田三兄弟。小学生時代はどこへ行くにも一緒だったとか。今もお兄さんの話をするおふたりは楽しそう(写真提供/松田さん)
その時の世間の目線への違和感は、現在2人の活動の原動力のひとつといえる。「できないこと」を「できる」ようにするのではなく、障害を「特性」ととらえ、社会が順応していく。それが彼らの願いだ。
「僕たちは双子なので、障害のある兄弟がいることで我慢を強いられることの多い”きょうだい児”の悩みとは、わりと無縁でいられたんです。なんでも2人でシェアしているからでしょうか。僕は就職後も、なにかしら福祉に関わる仕事をするつもりだったし、やるなら文登と2人でと考えていました」(崇弥さん)
会社名となった「ヘラルボニー」は、お兄さんの翔太さんが子どものころ自由帳に書いていた言葉。ネット検索にもひっかからないナゾの言葉は、なぜか何度も登場する(写真提供/松田さん)
「障害=不幸ではない」出産を決めた妊婦さんもヘラルボニーへの反響は松田兄弟のモチベーションとなっている。
例えば「ヘラルボニーのネクタイを買ったから、作者に会いたくて、るんびにい美術館に行ってきました」という人がいる。常に応援してくれる福祉の現場のスタッフや熱狂的なファンでいてくれる自閉症を持つ親御さんたちの声も後押しになる。初めての講演会は、子どものころ兄や母と通った岩手の福祉協会。「”あの、翔太くんの双子の弟くんたちが大人になって帰ってきてくれました~”と紹介されました。まさにホームでしたね(笑)」(崇弥さん)。
なかでも、印象的だったのは、出生前診断でおなかの中の赤ちゃんにダウン症の可能性が分かった妊婦さん。「僕たちが取り上げられたテレビのニュースを見て、”この子を産んだら不幸になると考えていたけれど、こんな楽しい未来、素敵な出会いがあるのかもしれない。障害=悲しいことではなかった” という長文のメールをいただきました。産むことを決めた、とおっしゃっていました」(文登さん)
アートワーク「まちといろのワークショップ in 軽井沢」開催時の写真(写真提供/ヘラルボニー)
いつか実現したいのは、“できない”前提の「変わったホテル」現在は、コロナ禍でも新しいアートの体験ができるようにと、ZOOMを利用した双方向型のオンライン美術館を企画したほか、9月にはクラウドファンディングで高品質なマスクを販売する予定だ。2021年には岩手県盛岡市で、初のソーシャルホテルをプロデュースする事業も進んでいる。さらに、家で過ごす時間の増加とともに、「おうち消費」に注目。カトラリー、クッション、壁紙など、生活にアートをしのばせる「アートライフブランド」ヘシフトしていこうと計画中だ。“福祉×アート”がより身近になる。
「今後、マスクは眼鏡のように日常生活に不可欠なものになるはず。もっとお洒落になってもいいんじゃないかと考えました」。クラウドファンディングで資金を集めて実現(写真提供/ヘラルボニー)
少しでも接点をつくりたいと、アート作品をネット解説する「オンライン美術館」を開催。参加者は延べ1000名と大好評。定期的なコンテンツとする予定(写真提供/ヘラルボニー)
無機質だった建設現場を彩る“仮囲いアート”を、リサイクルならぬアップサイクルしてトートバッグとして生まれ変わらせる(写真提供/ヘラルボニー)
そして、「いつかは、自分たちで福祉施設を手掛けてみたい」と考えているそう。
「イメージは、『注文をまちがえる料理店』(※)のホテル版。例えば、”ウチのフロントマンはあいさつができないんです”と言い切ってしまい、ゲストに“あ、本当にあいさつはしないんだ(笑)“って体験してもらうのもおもしろいかなぁって。その代わり、ベッドメイキングや掃除が本当にていねいな人もいる。最初にエクスキューズを入れておくことで、寛容な場となれば、1人1人の個性に合った、就労の形が実現できるんじゃないかと思っています」(崇弥さん)。
※「注文をまちがえる料理店」注文を取るスタッフが、みんな認知症で、頼んだ料理と違うメニューが届くこともある料理店
最後に「今、感じている課題は?」という問いに、迷いながら、「社会貢献がすばらしいと、称賛され過ぎてしまっていることに、とうしてもギャップを感じてしまう」と答えた文登さん。「それは、どうしても障がい者が社会的弱者という目線がぬぐいきれていないからかもしれません。その文脈から脱していくことも、ある意味、僕らの課題といえますね」(文登さん)
「”福祉”というと、どうしても”支援”というイメージが強いかもしれませんが、僕たちと障害をもっているアーティストたちはビジネスの対等なパートナー。今の福祉という場にプロデュースする機能がないゆえに埋もれてしまっているすごい才能に、対価を得る機会を提供するのが僕たちの役目。そのために、社会福祉法人やNPO法人ではなく、”株式会社”という形にこだわっています。福祉の世界でも、きちんと売り上げを上げていくことからできたら最高じゃないですか」(崇弥さん)
昨年夏には、日本の次世代を担う30歳未満のイノベーター「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」に選出されるなど、注目を集めているお二人。その注目のされ方にも戸惑いつつ、常に「ああ、楽しそう」「それ、ワクワクするね」と何度も質問に答えていた様子が印象的。穏やかで、ポジティブで、信念がある。彼ら「ヘラルボニー」の今後の展開に注目したい。
主にクリエイティブは広告代理店出身の崇弥(左)さん、営業や事業計画などビジネス面はゼネコン出身の文登さん(右)と役割分担
●取材協力新型コロナウイルスの影響によって仕事や買い物など、さまざまな場面で「新しい生活様式」が広がりつつある。バーチャル画面を使ったモデルルーム見学やオンラインによる住まい選びセミナーなど、住まい選びにもそうした新しい動きが出始めているようだ。国や業界の対応、各企業の現状を取材した。
賃貸取引に続き売買取引でもIT重説の社会実験スタート
不動産業界では国が音頭をとり、コロナ以前から「重説のIT化」が進められていた。重説とは重要事項説明のことで、宅地建物取引業法では賃貸や売買の契約時に宅地建物取引士による説明が義務付けられている。
これまでは重要事項説明書という書面を使い、借主や買主に対して対面で重説が行われてきた。それがコロナ禍をきっかけに、IT化、つまりオンラインによるリモート化が一気に進みそうな状況なのだ。
重説のIT化はまず、賃貸取引で始まった。2015年8月から2017年1月まで、賃貸取引と法人間売買取引について社会実験が行われ、事前に登録した不動産会社が実際の業務でテレビ会議システムなどによる重説を実施。2017年10月からは賃貸取引での本格運用がスタートし、すべての不動産会社がIT重説を実施できるようになっている。
(写真/PIXTA)
さらに2019年10月からは、個人を含む売買取引についても社会実験が開始された。賃貸取引と同様に事前登録した不動産会社が実験に参加する形で、2020年9月30日まで実施される予定だ。参加事業者の募集は当初は2020年5月中旬までの予定だったが、コロナ禍を受けて門戸を広げる意味で当面の間延長されることとなった。
売買取引でのIT重説では、事前に不動産会社が売主と買主の双方に同意を得る必要がある。買主には重要事項説明書などの資料が郵便などで送付されるので、事前に目を通しておくことが可能だ。IT重説を実施するときには通常の重説と同様に不動産会社側から宅地建物取引士証が提示され、説明の様子が録画・録音される。また説明後は買主にもアンケート調査が行われ、国土交通省に提出することになっている。
社会実験に参加している不動産会社は売主の同意があれば、物件広告にIT重説が可能なことをPRでき、国が指定したロゴマークも表示できる。IT重説が受けられる物件かどうか知りたい場合は、ロゴマークで確認するといいだろう。
売買取引の社会実験に登録している不動産会社は、2020年5月29日時点で475社となっており、今後も増えることが予測される。また賃貸取引については重要事項説明書などの書面を電子化する社会実験も2019年に実施された。今後も重説のIT化が進めば、自宅に居ながら簡単に住まいの契約がしやすくなりそうだ。
国や業界団体が感染予防対策のガイドラインを策定重説のIT化が進められる一方で、不動産・住宅業界ではコロナ禍に対応した新しい接客方法などを模索する動きも出ている。緊急事態宣言の期間中は営業を自粛する店舗やモデルルームも多かったが、宣言が解除されたことで徐々に営業が再開され、客足も戻りつつあるようだ。
そんななか、国土交通省は不動産業界向けに感染予防対策ガイドラインを作成した。従業員の健康確保やテレワーク・時差出勤などの検討、勤務中のマスク着用の推奨といった基本的な対策をまとめたものだ。
(写真/PIXTA)
店舗などでの接客については、来店やモデルルームへの来場はできる限り予約制とし、少人数での来店・来場を依頼するとしている。また仲介時の売買活動に関する報告は、対面ではなく電話などでも可能とするといった内容だ。
住宅業界の団体である住宅生産団体連合会も同様に、住宅業界向けの感染予防ガイドラインを策定。顧客との打ち合わせや商談はできる限り電話やメール、オンラインで行い、対面で行う場合はできる限り2m(最低1m)の間隔をとり、お茶などはペットボトルや紙コップで出すといったきめ細かな対策をまとめている。
不動産・住宅業界では感染予防に注意を払いつつ、早期の景気回復や市場活性化に向けた経済対策を自治体や国に要望しているところだ。
VRでの住まいづくりが体験できるセットが好評住宅メーカーやリフォーム会社など、個々の企業でもオンラインを活用した対応が進んでいる。どのような対策に取り組んでいるのか、具体例を紹介しよう。
在宅で住まいづくりの相談ができる「おうちで住まいづくり」を4月から展開しているのが積水ハウスだ。希望の日時を予約すると、間取りや土地探し、資金などについて電話やWEBで担当者と相談できる。またVR(バーチャル・リアリティ)を使ってプランニング例などを体験できる「住まいづくり」体験セットを、希望者に無料で送付するサービスも行っている。
「おうちで住まいづくり」(写真提供/積水ハウス)
同社によると、住まいづくり体験セットは特に好評で、4月の資料請求は前年比で約2倍、5月はエリアによって5倍以上の引き合いがあったという。またリモートによる相談は当初は申し込みが少なかったが、企業でのリモートワークなどが普及するにつれて徐々に増えてきているそうだ。さらに6月には同社社員の自邸を動画で紹介するコンテンツをHP上で公開したり、今後は営業が分譲地や建売物件をライブ配信するなど、オンラインを活用したサービスを予定している。
リフォームのオンラインセミナー・相談会で集客増東京・横浜を拠点にリフォームを手がけるスタイル工房では、以前からセミナーや相談会を行っていたが、コロナ禍を受けてオンラインでの対応に力をいれている。これまでは月2回の店舗セミナーでそれぞれ3~4組程度の参加だったが、オンライン化によって月に十数組の申し込みが入っているという。またオンライン相談会も新規の申し込みが月に30件程度と好調だ。
オンライン相談会のイメージ(写真提供/スタイル工房)
「オンラインでの打ち合わせやセミナーはお互いに時間調整がしやすく、進めやすいと言えます。また事前に質問事項や要望を整理するなど、しっかり準備して参加されるお客様が多く、こちらからのプラン提案などもスムーズです。ただ、工事の詳細を決める打ち合わせなどは、対面のほうが素材感などを直接感じられてよいという感想も聞かれました」と、同社の担当者は話している。
また現状ならではの要望として、オンライン授業用に子ども部屋をリフォームしたいといった相談もあったという。同社では今後もオンライン化を進め、モデルルームのライブ見学会なども検討しているそうだ。
(写真/PIXTA)
このほか、新築マンションでもモデルルーム見学や商談などをオンラインで可能にする取り組みが広がっている。なかには情報収集や見学、契約から引き渡しまで、マンション購入のほぼすべての手続きをオンラインや郵送などでリモート化できるケースもある。
国や業界団体、各企業の取り組みが進むことにより、極力外出しなくても住まい選びが完結できるようになるかもしれない。不動産会社とオンラインで相談や打ち合わせをすれば、対面よりも効率的で内容の濃い話ができる場合もあるだろう。とはいえ、採光や眺望、室内空間や内装の素材、周辺環境などは、実物を見ないとイメージしにくい面はある。アフターコロナ時代には、手続きなど可能な部分はオンラインを活用しつつ、必要に応じて現地を確認することで、間違いのない住まい選びを実現するようにしたい。
●取材協力新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除されました。まだまだ予断を許しませんが、前向きにウィズコロナ、アフターコロナ時代を見据えていきたいもの。SUUMOジャーナルで5月に公開した記事でも、この事態をどんな教訓にするべきか、どうポジティブに乗り切るかの参考になりそうな記事が人気TOP10入りしました。詳しく紹介します。
2020年5月の人気記事ランキングTOP10はこちら!
1位 新型コロナウイルスによる不動産市場の動向は?
2位 新型コロナウイルス感染、マンションの管理組合はどう備える
3位 図書館なのに“貸さない”“農業支援”!? 地域を盛り上げるユニークな最新事情
4位 2020年「SUUMO住みたい街ランキング」関西版発表! 1位「西宮北口」の人気はさらに強固に
5位 テレワーク導入率は47%に増加。在宅ワーク継続による住まいのニーズ変化も。
6位 高架下スペースに“賃貸住居”や“ホテル”!? 新たな街づくりが加速中
7位 外出自粛でテントのニーズ急増中!?快適な在宅生活のための知恵をプロに聞いた!
8位 住んで、創作して、働いて、プレゼンする。職住一体型アーティストレジデンス&アートホテル「KAGANHOTEL」
9位 マンションの管理費・修繕積立金、平均額はいくら?階数や築年で変わる?
10位 台湾の家と暮らし[5] 革細工作家と金工作家が住む、高雄・眷村の庭付き平屋
※対象記事:2020年5月1日~2020年5月31日までに公開された記事
※集計期間:2020年5月1日~2020年5月31日のPV数の多い順
1位 新型コロナウイルスによる不動産市場の動向は?
(写真/PIXTA)
自粛要請により経済活動へ著しく影響を及ぼした新型コロナウイルスは、不動産取引にはどう響いてくるのか。新築マンションは局地的な値引き販売、中古マンションも都心の成約単価は15~20%マイナス推移しそう。一方で、戸建てへの影響はあまりなさそうです。これらの状況は、どのように捉えるとよいのでしょうか。
2位 新型コロナウイルス感染、マンションの管理組合はどう備える
(写真/PIXTA)
マンション生活のライフラインや快適さを守る管理組合や管理会社は、外出自粛のなかでどう機能を保つのか。また、管理組合が行う感染対策は? 先進的な事前準備を行っている大規模マンションの事例を紹介しながら、感染症対策の準備の心得を考えます。
3位 図書館なのに“貸さない”“農業支援”!? 地域を盛り上げるユニークな最新事情
(画像提供/株式会社図書館流通センター)
近年、在り方の多様化が進む図書館は、地域のつながりをつくる場所としての存在感を強めています。そのきっかけになったのが、佐賀県の「武雄市図書館・歴史資料館」。文化複合施設型や“本を貸さない図書館”など、最近の図書館事情について紹介します。
4位 2020年「SUUMO住みたい街ランキング」関西版発表! 1位「西宮北口」の人気はさらに強固に
(写真/PIXTA)
恒例の「SUUMO住みたい街ランキング2020関西版」が発表になりました。1位の「西宮北口」は年代別調査でもすべての年代で1位になり、その人気は周辺駅にも影響をおよぼすほど。また、再開発が進みファミリー層の支持を得た「天王寺」が、初のトップ5入りを果たしました。
5位 テレワーク導入率は47%に増加。在宅ワーク継続による住まいのニーズ変化も。
(写真/PIXTA)
新型コロナ対策で急速にテレワークが推奨されました。その実態はどうなのかを調査した結果を詳しく紹介。「営業」や「エンジニア」など職種を問わずテレワークの実施者数や実施時間が増加し、コロナ終息後もテレワークの継続を望む人は80%超に。また4分の1の人が、その際は住み替えを希望するなど、住まいの意識についても変化が現れたことが分かりました。
6位 高架下スペースに“賃貸住居”や“ホテル”!? 新たな街づくりが加速中
(写真提供/JR中央ラインモール)
賃貸住宅やホテル、保育園など、さまざまな活用が注目を集める、鉄道高架下スペース「駅下」。その背景には、全国的に鉄道の高架化が進み、空いた空間の有効利用が促されていることがあります。今後も、JR有楽町駅―新橋駅間に「日比谷OKUROJI」が開業予定で、高架下の今やこれからの展望を分析しました。
7位 外出自粛でテントのニーズ急増中!?快適な在宅生活のための知恵をプロに聞いた!
(画像/PIXTA)
休校や休園で家にいる小さな子どもの面倒をみながらのテレワークに奮闘する親御さんの間で話題になった、テント。実際に、「テレワーク部屋として」「子どもの昼寝用」などの用途に、売り上げが伸びているようです。寝袋やランタンなどのアウトドア用品で非日常を演出すれば、おうち時間を楽しく乗り切ることができそうです。
8位 住んで、創作して、働いて、プレゼンする。職住一体型アーティストレジデンス&アートホテル「KAGANHOTEL」
(写真撮影/中島光行)
京都駅西部エリアにある、青果卸売会社の社員寮兼倉庫をリノベーションしたKAGANHOTELは若手現代作家が住まいながら創作に励むことができる、コミュニティ型アーティストレジデンス。伝統的なものを大切にする京都では、若い作家が刺激しあう場や現代芸術に対して理解が得にくい面も。しかし職住一体型の環境は、実は古来の京町家のスタイルそのものでもあります。その様子とは?
9位 マンションの管理費・修繕積立金、平均額はいくら?階数や築年で変わる?
(写真/PIXTA)
マンションに住む際に毎月発生する管理費や修繕積立金などのランニングコストの分析結果を紹介。その金額は新築マンションの価格と連動しており、設備の多様なタワーマンションでは高くなる傾向に。中古では築年帯別で、管理費と修繕積立金で傾向が大きく異なります。その内容を詳しく解説します。
10位 台湾の家と暮らし[5] 革細工作家と金工作家が住む、高雄・眷村の庭付き平屋
(写真撮影/KRIS KANG)
台湾をこよなく愛するエッセイスト・柳沢小実さんが台湾の家を訪れる連載の今回の舞台は高雄市・左営の「眷村」。かつて中国から渡ってきた軍人のために建てられた庭付きの古い平屋群で、そこに住み建物を修繕するかわりに最長5年は家賃が不要という、保全プロジェクトが行われています。
新型コロナウイルスによる外出自粛は生活に大きな変化を及ぼしましたが、一方で、人や地域とのつながりの大切さを、改めて感じる機会になったように思います。同じ目標をもつ仲間との生活や近所に住む人との関わりなどを扱ったランキングの記事でも、それを実感できました。
梅雨入りして雨が降る日が多くなるが、近年は異常気象により、集中豪雨や大型台風による土砂災害や浸水の甚大な被害が増加している。最近で言えば、2019年の東日本台風による長野県の千曲川の浸水被害、2018年の豪雨による岡山県小田川の浸水被害などは記憶に新しいところだ。こうした水害に備えるにはどうしたらよいのだろうか?【今週の住活トピック】
「土砂災害警戒区域に関する基礎調査の実施目標」を達成/国土交通省23%の世帯は、土砂災害や浸水被害の想定地域に居住!?
国土交通省は、2014年の豪雨による広島県の土砂災害を受けて、5年程度を目標に土砂災害警戒区域にかかる基礎調査を行うこととし、2020年3月までに目標通り基礎調査が完了したと発表した。この基礎調査は各都道府県のホームぺージなどで公表され、これを基に「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」が指定される。
土砂災害警戒区域などに指定されると、警戒避難体制の整備や土砂災害ハザードマップによる周知などが行われる。加えて、区域内(土砂災害警戒区域や災害危険区域など)の土地や建物の売買では、重要事項説明として宅地建物取引士がその旨を説明することになっている。
一方、国土交通省の社会資本整備審議会住宅宅地分科会で5月28日に開催したオンライン会議の資料によると、「土砂災害警戒区域」などに居住する世帯数は、約157万世帯で総世帯の3.0%を占める。「津波浸水想定地域」に居住する世帯数は約123万世帯で総世帯数の4.6%を占め、「浸水想定地域」に居住する世帯数は約992万世帯で総世帯数の19.1%を占める。
このいずれかの災害リスク地域に居住する世帯数は、約1203万世帯で総世帯数の23.1%に達すると想定した。4世帯に1世帯近くが、土砂災害や浸水などのいずれかのリスクが想定される地域に居住していることになる。
まずはハザードマップを確認。リスクを知って、避難の備えを水害リスクと地形には、どのような関係があるのだろうか?ジャパンホームシールドが開催した「ハザードマップで学ぶ水害対策~異常気象と浸水する地形条件~」と題するオンラインセミナーに参加してみた。地形図を見ると浸水リスクの有無が分かるという。例えば、長野県の千曲川の浸水被害を見ると、千曲川の川幅は立ヶ花周辺で急激に狭くなり、ボトルネックとなってその上流で水嵩が増すが、微高地が排水の出口を塞ぐように横たわることで、洪水が発生したという。
とはいえ、一般の人が地形図を読み解くのは難しい。そこで、確認したいのが「ハザードマップ」だ。各自治体が公表する各種のハザードマップや国土交通省の「ハザートマップポータルサイト」などで、土砂災害警戒区域や浸水想定区域、洪水ハザードマップなどを調べ、避難経路を確保するために道路冠水想定箇所、事前通行規制区間などを確認しておくことで、リスクの程度や避難経路の想定をしておくことができる。
〇ハザードマップポータルサイト
水害リスクなどがある地域だとしたら、どういった対策がとれるのだろう?
対策はハード面とソフト面があり、すでに家が建っている場合は、リスクの程度を事前に把握して、避難場所や経路を確認しておくソフト対策がとれる。
ソフト対策(出典:ジャパンホームシールド「ハザードマップで学ぶ水害対策~異常気象と浸水する地形条件~」セミナー資料より転載)
前に説明したハザードマップを活用して、リスクの把握だけでなく、実際に避難しようとしたときに道路が冠水して通行ができないということのないように、避難ルートや想定される浸水の高さを確認しておくことがポイントだ。一方で、浸水リスクが高いなら、被災後に備えて保険に加入しておくことも対策になる。建物や家財なら火災保険の「水災補償」、車なら自動車保険でカバーしておきたい。
住宅の建築前なら、被害を抑えるハード対策も可能建物を建築する前であれば、ハード面の対策がとれる。ジャパンホームシールドによると、おおむね次の5つの対策が考えられるという。
ハード対策(出典:ジャパンホームシールド「ハザードマップで学ぶ水害対策~異常気象と浸水する地形条件~」セミナー資料より転載)
(1)「建物のかさ上げ」は、基礎部分を通常よりも高く構造にして、想定される水位よりも床を高くすること。(2)「地盤のかさ上げ」は、敷地全体に盛り土をして周辺よりも地盤を高くすること。
(3)土嚢は建築後でも設置できるが、かなり重いものを数十個も積み上げていくのはかなりの体力を要するので、人や車が出入りする玄関まわりや車庫まわりに「止水板など」で壁をつくる対策も有効。
(4)浸水した水の浮力で建物が浮き上がらないように、「基礎と杭の接合」を強化する必要も。
(5)住宅の設備機器を守るには、エアコンの室外機や屋内のコンセントをできるだけ高い位置に設置。
水害リスクがある土地であれば、建築費用が増加しても可能な対策を施しておくほうがよいだろう。建築会社などとよく相談して検討したい。
さて、梅雨の長雨や台風が発生する時期になってきた。異常気象による集中豪雨や海水面の上昇により、洪水や土砂災害などの災害リスクも高まる。水害に対しては、事前の備えと早めの避難が基本だ。とはいえ、コロナ禍で3密を避けたいという事情もある。指定された避難所だけでなく、水害リスクの低い親類や知人の家、建物の上階などを避難先とすることも視野に、万一に備えてほしい。
東京都中野区・中野駅~千葉県船橋市・西船橋駅の全23駅を結ぶ東京メトロ東西線。名前通り都内を東西に横断しつつ、その先の千葉県にも駅があり、大半の駅が都内にある東京の地下鉄路線としては珍しい路線だ。また、全13路線ある東京の地下鉄のうち12路線に沿線で接続している、便利な路線でもある。そんな東京メトロ東西線沿線の中古マンションの価格相場を調べてみた。駅から徒歩約15分圏内にある、専有面積50平米以上~80平米未満の中古マンションの価格相場が安い駅ランキングはこちら!●東京メトロ東西線の価格相場が安い駅ランキング
順位/駅名/価格相場(所在地)
1位 西船橋 2660万円(千葉県船橋市)
2位 原木中山 2690万円(千葉県船橋市)
3位 行徳 2780万円(千葉県市川市)
4位 南行徳 2789万円(千葉県市川市)
5位 浦安 2965万円(千葉県浦安市)
6位 妙典 2980万円(千葉県市川市)
7位 葛西 3490万円(東京都江戸川区)
8位 西葛西 3880万円(東京都江戸川区)
9位 南砂町 3989.5万円(東京都江東区)
10位 東陽町 4080万円(東京都江東区)
11位 木場 4640万円(東京都江東区)
12位 門前仲町 4780万円(東京都江東区)
13位 落合 5680万円(東京都新宿区)
14位 中野 5980万円(東京都中野区)
14位 早稲田 5980万円(東京都新宿区)
14位 高田馬場 5980万円(東京都新宿区)
17位 茅場町 5985万円(東京都中央区)
18位 神楽坂 6680万円(東京都新宿区)
18位 飯田橋 6680万円(東京都千代田区)
※九段下駅、竹橋駅、大手町駅、日本橋駅は調査条件に満たないため除外
中古マンションの価格相場が最も安かったのは、千葉県船橋市・西船橋駅で2660万円。東京メトロ東西線の東端に位置する駅だ。東葉高速鉄道とJRの総武線(各駅停車)・武蔵野線・京葉線が乗り入れており、JR総武線(各駅停車)とは直通運転も行われている。
西船橋駅(写真/PIXTA)
1位・西船橋駅は千葉県内にあるJRの駅では最も乗車人員が多い駅であり(2018年度時点)、駅周辺もさまざまな商業施設でにぎわっている。JR線の駅直結のショッピングセンター「ペリエ西船橋」をはじめ、スーパーやドラッグストア、飲食店が複数点在し、100円ショップや「ドン・キホーテ」も徒歩10分圏内にある。
西船橋駅周辺は商業施設ばかりかというとそうではなく、駅のそばには住宅街が広がり、「西船近隣公園」のような憩いの場もあって暮らしやすい環境だ。乗車人員の多さから分かる通り混雑はネックだが、西船橋駅始発の便なら座ることも可能。そのまま東京都心の大手町駅まで普通列車や通勤快速利用で約35分、快速利用なら約25分で到着できる。
西船近隣公園(写真/PIXTA)
続く2位以下、6位までは千葉県内の駅がランクイン。この上位6つの千葉県内の駅は中古マンションの価格相場が2000万円台、7位以下に並ぶ東京都内の駅は3000万円以上、とくっきり分かれたのも興味深い。
価格相場が2980万円だった6位・妙典(みょうでん)駅は千葉県市川市に位置。5位・浦安駅に比べると知名度は高くなく、浦安駅とは違って通勤快速・快速の通過駅でもある。千葉県内の駅では価格相場が最高値という結果は少々意外にも思える。その理由を探ってみよう。
妙典駅は2000年に開業した比較的新しい駅で、駅開業と歩調を合わせて周辺が宅地開発されてきた。そのため駅周辺は整然とし、住宅も新しいものが多い。駅改札外にはコンビニやドラッグストア、飲食店が並ぶ「M’av みょうでん」が広がるほか、駅前にある映画館も備えた「イオン市川妙典店」が住民の暮らしを支えている。また、駅から5分も歩けば江戸川の河川敷でのんびり寛ぐこともできる。こうした環境が、物件の価格相場に反映しているのだろう。
妙典駅前(写真/PIXTA)
JRとの直通運転や地下鉄各線への乗り換えやすさが魅力7位以下に並んだ東京都内の駅のうち中古マンションの価格相場が最も安かったのは、7位の東京都江戸川区・葛西駅で3490万円。都内の駅では最も東側でもあり、隣の駅は千葉県の浦安駅でこちらは5位だ。
さて「東京メトロ」というと地下鉄のイメージだが、東西線の南砂町駅~西船橋駅間は地上を走っており、葛西駅もその区間内。そして地上にある葛西駅の高架下は71の商店・施設が連なる「西葛西メトログルメ・ショッピングセンター」になっている。その顔ぶれは飲食店から雑貨店、保育所まで多彩。駅周辺にはスーパーが複数あり、住民の多さを物語っているようだ。
そして、東京メトロ東西線の駅のうち最も中古マンションの価格相場が高かったのは、6680万円で同額18位となった神楽坂駅と飯田橋駅。どちらも東京都新宿区に位置する隣り合う駅だ。同じ路線でありながら、1位・西船橋駅と比べると価格相場が4000万円以上も高い結果となった。
冒頭で「東西線は東京の地下鉄のうち12路線に沿線で接続している」と書いたが、18位・飯田橋駅では東京メトロ有楽町線と南北線、都営大江戸線の3路線に接続。加えてJR総武線(各駅停車)も通っており、飯田橋駅からは東西南北のさまざまな方面へ向かうことができる。
飯田橋駅はかつて江戸城だった皇居の外濠に面しており、一帯は古くから栄えていた。日本歯科大学や東京理科大学、法政大学のキャンパスの最寄駅でもあるため学生の姿も多い。駅の北東には小石川後楽園、西南には外濠公園が広がり、都心でありながらほっとできる空間も。外濠公園に面したJR駅西口エリアには、2014年にオフィスと商業施設からなる地上30階・地下2階建ての複合ビル「飯田橋グラン・ブルーム」と、地上40階・地下2階建の住居棟が誕生。さらに現在はJR西口駅舎の建て替え工事やホーム移設工事、駅前広場の整備が行われており、2020年中の完成を目指している。
飯田橋駅前(写真/PIXTA)
東京メトロ東西線の東端にある1位・西船橋駅は「JR総武線(各駅停車)との直通運転がある」と前述したが、西端に位置する14位・中野駅ではJR中央線(各駅停車)との直通運転が行われている。つまり東西線にはJR総武線(各駅停車)やJR中央線(各駅停車)の乗客も流入し、さらには都内を走る12の地下鉄とも接続しているわけだ。こうした状況もあってか、東西線は1日あたりの平均輸送人員数が国内の地下鉄で最多を記録し続けている(2018年度時点)。
これは平たく言うと「東京メトロ東西線は混雑が激しい」ということになるが、一方で「さまざまな路線に乗り継ぎやすい便利な路線」とも言える。最も都心部から離れた西船橋駅でも、大手町駅までは約25分~35分前後。混雑を避けた時間帯に通勤・通学したり始発列車が出る駅を狙ったりと、上手に混雑と付き合う方法を探れば、東西線沿線に住むのはアクセス面において非常に魅力的と言えるだろう。
●調査概要暮らしや旅のエッセイスト・柳沢小実が台湾の家を訪れる本連載。2020年、3軒目におじゃましたのは、ジョー(張軒豪)さんが住む、台北市の中心部・南京復興エリアのマンションです。ジョーさんの暮らしと、台湾の賃貸物件のリノベーションについて、お話を伺いました。連載名:台湾の家と暮らし
雑誌や書籍、新聞などで連載を持つ暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんは、年4回は台湾に通い、台湾についての書籍も手掛けています。そんな柳沢さんは、「台湾の人の暮らしは、日本人と似ているようでかなり違って面白い」と言います。2019年に続き柳沢さんが、自分らしく暮らす方々の住まいへお邪魔しました。ジョーさんが住むのは台北中心部の賃貸物件
台湾は、都心でも仕事と暮らしの距離感が密接(写真撮影/KRIS KANG)
台北市の中心に位置する、南京復興駅。地下鉄が2線通っているため利便性が高く、会社やお洒落なレストランなども多いエリアです。フォントデザイナーのジョーさんの住居兼オフィスは、昨年取材した方々と同様、台北ではごく一般的な築40年の4階建て低層マンション。エレベーターはなく、階段で部屋まで上がっていきます。
ジョーさんが暮らすマンション。1階は友人のデザイン会社(写真撮影/KRIS KANG)
明るい光がたっぷりと差し込む窓辺(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
ジョーさんにとってこの住まいは、オランダ留学などを経て5軒目。「台湾で、いい部屋を探すのは難しい」と、ジョーさんもこれまで取材した人たちも口をそろえて言います。1階にあるデザイン会社の人から紹介されてこの賃貸マンションと出合い、入居したのは3年前。ここはジョーさんにとって、生活と仕事の空間です。
台湾では賃貸物件でもリノベーションできる場合もこの部屋を借りようと思った決め手は、ガラスや柵などの古いディティールでした。台湾では、大家さんとの交渉次第で、賃貸物件でもリノベーションが可能な場合もあります。ジョーさんはインテリアデザインの会社に依頼して、2カ月間くらいかけて縦長の3部屋をワンルームにしました。
台湾のマンションは、持ち家であればベランダやサッシ、玄関ドアなど、日本では共有部分とみなされる部分もリフォームできます。そのため、持ち家の人はベランダ部分をサンルームにしたり、さらに外側に拡張させたりと、自由に手を加えています。
台北は、5階建てくらいの低層マンションが多くみられる(写真撮影/KRIS KANG)
交渉次第では賃貸でもリノベーション可能と書きましたが、賃貸契約は大家さん側の権利が強く、それゆえのトラブルも多々あります。例えば住人が費用を負担してリノベーションやリフォームをした後に、すぐに住人を追い出して、さらに高い家賃で他の人に貸す悪徳家主も少なくないそう。このような理由で、人気のお店も移転や閉店せざるを得ないこともあります。台湾の不動産事情の問題点のひとつだと聞きました。
ジョーさんの住まいは、約59平米のワンルーム(イラスト/Rosy Chang)
玄関は、日本の金沢市(石川県)で見たというギャラリーのデザインを参考に。玄関横のデッドスペースには土間のようにしたベースの上に石を敷いて、靴置き場にしました。おかげで生活感が消えて、ギャラリーのようにお客さんを迎えやすい空間に生まれ変わりました。また、古いものも好きなので、他の人の家で使っていた古い床材を譲ってもらって、色を塗って床に貼っています。天井はもともと高かったため、手を加えずにそのまま利用しているそうです。
玄関まわりに石を敷くアイデアは真似しやすそう(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
リノベーション前に壁紙をはがしたら、味のある壁が出てきた。アクリル板で覆ってデザインを活かしました(写真撮影/KRIS KANG)
海外での生活経験があるジョーさんは、ヨーロッパのAirbnbの住宅で使われているインテリアを見るのが趣味。オランダ留学時代に、現地のオランダ人の家に遊びにいったことも参考になっているそうです。また、台湾でデザイナーをしている人の家もアイデアソースに。知識やセンスが蓄積されていたおかげで、リノベーションで自分らしい空間が手に入りました。
ジョーさんの作品(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
ゾーニングと収納の達人ジョーさんが空間をアレンジしやすいからという理由で選んだ細長い部屋。日当たりのいい窓際には仕事道具のパソコンと、時々開催しているカリグラフィーのワークショップもできる大きなテーブルを置き、奥には生活感の出やすいベッドやクローゼットを配置してパーテーションで目隠しするなど、空間をさりげなくゾーン分けしています。
キッチンとクローゼットの収納は無印良品のもの。厳選した持ち物をすっきりと収納しています。クローゼットは、壁側に無印良品のシェルフを置き、天井にレールを取り付けてスライドドアを後付けしています。わざわざクローゼットを設置するよりもこのほうが断然使いやすく、コストもかかりません。また、テレビはベッドの足側に置いてあり、パーテーションの陰に隠れているため来客からは死角になっています。
質のいい睡眠が得られそうな、ベッドスペース。クローゼットの扉は1枚のみで半分は常に開けてあるため通気性がいい(写真撮影/KRIS KANG)
シェルフにボックスを置いて、ごちゃっと見えない工夫を(写真撮影/KRIS KANG)
キッチンはコンロが無くシンクのみというのも、日本人的には目からうろこです。調理用にはカセットコンロが置いてあるだけ。そのシンプルな設備で、週3~4日、スープなどをつくっているそう。そして、デザインが気に入った無印良品の冷蔵庫は、日本からわざわざ取り寄せました。
シンクと作業台だけのキッチン。使いやすそう(写真撮影/KRIS KANG)
デザイナーという職業柄、インテリアのセンスも抜群なジョーさん。家具は無印良品やイケアのもので統一し、テーブルや棚は自分でデザインしてDIYしたものです。DIYの材料はWEBショップから購入しました。パソコンを棚に置いて立って仕事をしていて、場所を取るパソコンデスクがないおかげで、空間を有効に使えています。また、来客が多いため、紙製の折りたたみスツールも大活躍。広くない家だから、植物の多くは床置きせずに吊るしているそうです。
ジョーさんのワークスペース。台湾の人は見せる収納がとても上手(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
デザイン作業は立ってやっているそう。すぐ横に音楽を楽しめるようスピーカーを置いて快適な環境づくりを(写真撮影/KRIS KANG)
台湾の人たちの多くは家の外で過ごす文化がある台湾の人は外に出かけるのが好きで、家には寝に帰るだけというライフスタイルの人も多いよう。ジョーさんも現在の部屋に住む前はカフェに行って仕事をしていましたが、ここに越してきて家にいる時間が長くなったそうです。リノベーションした部屋に住む魅力は、自分のニーズに合った、住みたい空間がつくれること。便利な立地のため、夜は友人たちが来て家で飲み会をすることもあるのだとか。
ジョーさんの自宅から歩いて10分ほど、興安公園の向かいにある地元っ子に大人気の香港料理店「家鴻焼鵝・興安店」。ロースト肉に行列ができる。お昼すぎると売り切れることも(写真撮影/KRIS KANG)
皮がさくっとしていて身もジューシーなのにしつこくない。これまで私が食べた焼鵝の中でも上位に入る味(写真撮影/KRIS KANG)
もう一軒のジョーさんの行きつけは、近所のアートギャラリー「森3 SUN SUN MUSEUM」。奥には山小屋のような小さなカフェスペース「森3BAR」があり、阿里山産のコーヒーが楽しめます(写真撮影/KRIS KANG)
おわりに2020年、私たちはこれまでとは違った働き方や暮らし方を模索しています。今後は働き方も確実に変わりますし、その変化にともなって、住まい方も変わっていくのではないでしょうか。ジョーさんのように、住まいが仕事場でもある人の家づくりには、たくさんのヒントがあります。この記事が、新しい時代を生き抜くための参考になれば幸いです。
(写真撮影/KRIS KANG)
●取材協力ここ数年、ブランディングの一環として、「香り」を取り入れる企業が増えている。創り上げたい空間イメージに合わせた香りのデザインも広まりつつある。香りを演出するニーズが高まった背景、さらに自宅で香りを楽しむ際のポイントなどについて、香りのトータルサービスを提供する「アットアロマ」で、企業広報兼アロマ空間デザイナーとして、香り制作を手掛ける武石紗和子さんに伺った。
記憶とコミュニケーションづくりにつながる「香り」
日本で香りを日常に取り入れる機会が増えてきたのは、2000年ごろ。病院でアロマセラピーの効果効能を活用したり、ブライダルなどで非日常空間を演出したりと、さまざまな場面で香りが使われるようになった。その後も、天然アロマを活用した空間演出への需要は拡大しつつある。「現在はホテルや店舗・ショールームでのニーズが多く、香りを使った“プラスαのおもてなし”が求められています」と武石さんは分析する。
空間デザインにおいて、色や形などの視覚、そして音楽などの聴覚を使った工夫は従来からされてきた。しかし嗅覚に働きかける香りのデザインは、これから開拓の余地が大いにある。
イメージづくりにおいて「香り」が重要なのはなぜか。まずは、香りの持つさまざまな機能があげられる。天然の植物から抽出されるエッセンシャルオイルにはリラックスやリフレッシュなどの効果が期待でき、おもてなしの気持ちを嗅覚からも伝えることができる。また、近くの飲食店のにおいの影響を受けたり、においがこもりがちだったりする場所では、それを解消することがその場所の印象の改善につながる。また、香りが企業のブランディングと結びついて、記憶に残る効果もある。
「ANA」の全国14カ所の空港ラウンジ。ANAオリジナルの香りでの空間演出を行い、機内サービスでも香りのついたおしぼりをサービスしたり、ハンドソープを設置したりと香りを活用している(画像提供/ANA)
香り演出の需要は、ショップやオフィス、マンションのエントランスでも増えているという。アットアロマでは、100%天然のエッセンシャルオイルを使用し、全世界で3000カ所以上の施設でアロマ空間デザイン導入事例がある。そのひとつ、セレクトショップ「SHIPS」では、販売員とお客さんとの会話が「いい香りですね」から始まることも。空間デザインの一要素としてだけでなく、コミュニケーションのきっかけとしても、香りの果たす役割は大きい。
利用者に配慮しながら企業イメージを香りで表現多くの企業が注目している、香りのデザイン。実際、企業と香りを共同開発する際に、どのようなステップでオリジナルの香りが生み出されていくのか尋ねた。
「企業からの要望は、ブランディングを目的として、企業イメージを香りに置き換えたいというニーズが多いです。なぜオリジナルの香りを取り入れたいのか、どのように活用したいのかなどを伺いながら、その用途やイメージに合った香りを提案していきます」(武石さん)
おもてなしを大切にしたいという場合はリラックスできる香り、利用者の記憶に残したいという場合はデザイン性の高い個性的な香りなど、企業からの要望に合わせて香りの方向性を決めていく。
「特に不特定多数の方がいらっしゃるような空間では、生活の中で馴染みがあり、好みが分かれにくい柑橘系の香りを取り入れる場合が多いです」(武石さん)
使用している天然のエッセンシャルオイルの香りは、人工的な香りと比較すると自然な香り立ちで好まれやすいが、演出の際には弱めの濃度設定から試していくなど、さまざまな利用者に配慮。導入後も定期的に、現場の意見を確認しながら演出方法や濃度を見直し、最適な演出となるように調整をしているという。
そして具体的な香りについては、“明るい”や“落ち着き”といった単語、または色や画像などで、企業とイメージを共有していく。阪急阪神不動産の分譲マンション「ジオ」のイメージ戦略の一環で、モデルルームを演出する香りを共同開発した際は、ブランドコンセプトである「品と質。その、頂へ。」、そして土地に長く根付くイメージなどから調香。モダンなウッドの香りを基調に、柑橘など10種類のアロマを混ぜて、上質な落ち着きをもたらす高級感が漂う香りに仕上げた。
「ジオ」のモデルルームなどで演出に使われているオリジナルアロマは評判で、アロマの購入を望む声が多くあったため商品化。2020年5月から販売を開始した(画像提供/阪急阪神不動産)
気分に合わせてアロマでセルフケア空間の印象を決めるだけでなく、香りには心身を癒やす効果もある。ハーブなどの植物から抽出したエッセンシャルオイル(精油)を使って心身の健康維持を目指すのがアロマセラピーだ。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除されたとはいえ、以前のようにリフレッシュできない・在宅勤務でオンオフの区別がつけにくいといった悩みを抱えている方も多いだろう。自宅に居ながら気軽に気分を変えたり、自律神経を整えたりする際に役立つ、エッセンシャルオイル選びの情報を紹介しよう。
オイルの種類は、オレンジやグレープフルーツなどの「果実」、カモミールやイランイランなどの「花」、ペパーミントやユーカリなどの「葉」、ヒノキやサイプレスなどの「木」の4つに分類される。「果実」と「花」は、甘く魅惑的なリラックスの香りが多く、「葉」と「木」はスーッとした爽やかな香りで抗菌作用などを持つものが多い。男性には落ち着きのあるウッド(木)系、女性には気分を明るくしてくれる花系の香りが好まれやすいという。
まず、どことなく気分が落ち込んだり不安を感じる方には、サンダルウッドやシダーウッドなど、落ち着きと自信をもたらずウッド系の香りがおすすめだ。しっかりと地に根を張る木。その姿の通り、落ち着きと自信をもたらしてくれる香りで、本来の自分らしさを取り戻したいときに試してみよう。
生活リズムが狂うなどで、眠りが浅くなっている方には、ラベンダーやイランイランが心身に安らぎと落ち着きをもたらしてくれる。就寝前に香りをかいだり、寝室に香りを漂わせるのがおすすめだ。
在宅勤務の際など、ONモードへの切替えに適しているのが、ローズマリー、レモン、ユーカリ。頭をシャキっと目覚めさせる香りで、記憶力や集中力を高める作用などが期待できる。
直営店舗では、機能や効果を高めるようにブレンドしたオイルの購入だけでなく、アロマオイルブレンダーでオリジナルアロマを制作できる。WEBでもサービスが受けられるが、直営ストアではその場で香りを試すことができる(画像提供/アットアロマ)
アットアロマでの売れ筋を尋ねたところ、最近はやはり新型コロナウイルスの影響もあり、抗菌・抗ウイルス作用の期待できるアイテムに反響があるという。「C02 クリーンミント」は、スッとするミントの香りで気分をリフレッシュできるだけでなく、空気中の浮遊菌・ウイルスに対する抑制効果を持つことが試験で確認されている。
また、安眠に特化した「スリープシープ」シリーズも、快眠セラピストが監修した香りが好評。天然の羊毛フェルト素材でつくられた羊型のボトルディフューザーのかわいらしさも心をときめかせてくれる。
「C02 クリーンミント」(左)と「スリープシープ」シリーズ(画像提供/アットアロマ)
ディフューザーがなくてもOK! 自宅で簡単にできるアロマ活用法アロマセラピーではディフューザーを用意しないといけないと思いがちだが、オイルだけでも活用できるという。「扇子やうちわにオイルを付けて風を仰ぐのもいいですし、ティッシュにオイルを少し垂らして、枕元に置いて寝るとリラックスできます。また、ミストタイプならシャワーの前に浴室に吹きかけると、蒸気と一緒に香りが広がります」と武石さんが教えてくれた。
ちなみに、武石さんに好きな香りを伺ったところ、ユーカリという答えが。「シンプルな香りが気持ちをフラットにしてくれますし、抗菌・抗ウイルス作用に優れるので、マスクに付けて使ったりしています」(武石さん)
もちろんディフューザーを使えば、空間全体に香りを漂わせてリラックスすることができる。子どもがいる際には、まずはほのかに香らせる程度の薄い濃度設定からスタートしよう。触れて倒してしまったりする事が無いよう置き場所についても注意が必要だ。また、ペットがいる場合、香りの種類によってはペットにとってストレスになることがある。念のためかかりつけの獣医に相談しよう。
空間イメージを演出したり、気分や体調を整えたりと、香りにはさまざまな効能がある。コロナ影響により、在宅時間が長くなり気分転換もしづらい日が続いているが、インテリアの模様替えと同様に、自宅の香りを選ぶことで、住まいをさらに快適な空間に変えることができるかもしれない。
●取材協力住まいづくりナビセンターが行ったアンケートによると、3人に1人が「性能向上リフォームを今後実施したい」と回答したという。アンケートの実施時期は昨年の秋なのだが、コロナ禍でステイホームが長く続いた今、住まいの性能向上リフォームの必要性を感じている人も多いのではないだろうか。詳しく説明していこう。【今週の住活トピック】
「性能向上リフォーム等に関するユーザーアンケート」結果を発表/(一財)住まいづくりナビセンター最優先でリフォームするのは不便を感じる箇所?
住まいづくりナビセンターの調査は、同法人が運営する「リフォーム評価ナビ」の利用者でリフォーム検討経験のある人を対象に、リフォームの実施実態やニーズ等についてアンケートを行ったもの。この調査では、「バリアフリーリフォーム」「省エネリフォーム」「耐震リフォーム」を性能向上リフォームと定義している。いずれも、住宅の安全性や快適性に影響を及ぼす基本性能だ。
リフォームの実施実態を見ると、実際にリフォームをする内容は、その多くが住宅の老朽化対策や使い勝手の改善などだ。アンケート調査結果では、「老朽化している設備や機器の交換、グレードアップ」が最多で64.7%を占め、次いで「間取りや水まわりなど、住まいの使い勝手の改善」が42.5%を占めている。暮らしに不便を感じることで、リフォームを思い立つからだろう。
一方、性能向上リフォームの実施状況は、バリアフリーリフォームが12.5%、省エネリフォームが11.6%、耐震が7.2%で、性能向上リフォームのいずれかを行ったのは全体の25.6%だという。
実施したリフォーム内容(出典:住まいづくりナビセンター「性能向上リフォーム等に関するユーザーアンケート」調査結果より転載)
性能向上リフォームを実施しない理由は、バリアフリーリフォーム、省エネリフォーム、耐震リフォームのいずれも「現在の生活に支障がなく、問題を感じなかった」が最も多く、過半数を占めている。
性能向上リフォームを実施しなかった人も、その必要性は認識一方、性能向上リフォームを実施した理由は、リフォーム内容によって少し異なり、バリアフリーリフォームと耐震リフォームでは、「住宅の性能面で、今後の生活に対する不安を感じた」が最も多いが、省エネリフォームでは、「ランニングコストの節約など、経済的メリットがあることが分かった」が最も多くなっている。また、2番目に多い理由はいずれのリフォームも同じで、「自分でリフォーム情報を収集して、必要なリフォームだと思った」だった。生活に不便があるというよりは、将来の不安解消や必要性を認識したという人が多いのが、性能向上リフォームの特徴のようだ。
性能向上リフォームを実施した理由(出典:住まいづくりナビセンター「性能向上リフォーム等に関するユーザーアンケート」調査結果より転載)
性能向上リフォームを行わなかった人に、今後の実施意向を質問したところ、バリアフリーリフォーム、省エネリフォーム、耐震リフォームのいずれも「3年以内に行いたい」(1.3%)と「いずれ行いたい」(37.5%)を合わせると38.8%を占めた。やらなかったものの必要性を認識している、という人は多いのかもしれない。
ステイホームで実感するようになった?マイホームの住み心地さて、ステイホームでテレワークが進み、自宅で仕事をする日が増えた人も多いことだろう。自宅が仕事場になったことはもちろんだが、これまで以上に自宅で長い時間を過ごすこと、パートナーや子どもたちなど家族と触れ合う時間が増えたことから、これまで気づかなかった不便さや、新たに必要な機能などを感じたこともあるのではないだろうか?
仕事場を兼ねることで求められる機能として、仕事に集中できるスペースの確保と環境の整備などは、よく話題にのぼっている。が、長い時間を過ごすことで建物の断熱性やサッシまわりの省エネ性、防音性が気になったり、子どもと室内で遊ぶことで子どもにとって危険なところに気づいたりということもあるだろう。
終息に至るにはまだ時間がかかることを考えると、自宅で仕事をするテレワークが継続したり、再び緊急事態宣言が出されたりの可能性はある。今すぐリフォームに着手するのは難しいかもしれないが、安全に快適に長く過ごすためにも、マイホームの性能について見直す良いタイミングといえるだろう。
実は多い、性能向上リフォームの優遇制度巨大地震が懸念されるなか、住宅、なかでも旧耐震基準といわれる1981年5月末日以前に建てられた住宅(※)の耐震性の向上が急務になっている。また、地球温暖化などの対策として、住宅についても省エネ性能の向上が求められている。さらに、日本では高齢化が急速に進んでいることから、住宅についてもバリアフリー化が課題となっている。
つまり、ここでいう性能向上リフォームは、政策としても重要な課題となっているので、リフォームを促進するための優遇制度が多く用意されているわけだ。先ほどの調査の性能向上リフォームを実施した理由の結果でも、「補助金や税制優遇等が受けられることが分かった」が挙がっている。なお、耐震リフォームで優遇制度を理由とする比率が低いのは、旧耐震基準の住宅に限定されていることによるものだろう。
優遇制度についていくつか紹介すると、まずは「減税制度」がある。定められた性能向上リフォームをすると、所得税や固定資産税が減税される。所得税の減税については、返済期間5年以上のローンを利用した場合とローンを利用しなかった場合で、それぞれ減税制度があり、2021年までの最大控除額は次のようになる。
〇ローンを利用せずに、一定の耐震・省エネ・バリアフリーをした場合
※工事費等の10%を所得税額から控除できる特例措置
※()内は省エネ改修工事と併せて、太陽光発電装置を設置する場合
〇ローンを利用して、一定の省エネ・バリアフリーをした場合
※ローン残高の一定割合を所得税額から控除できる特例措置
なお、これらの減税制度は、同居対応型リフォームをした場合、長期優良住宅の認定を受けるリフォームをした場合にも利用できる。また、ローンを利用した場合の耐震リフォームは減税対象の工事外となるが、10年以上の住宅ローンを利用して100万円以上の工事をした場合などでは、いわゆる「住宅ローン減税」(10年間にわたって住宅ローンの年末残高の1%を所得税などから控除でき、消費税率10%の工事では3年間延長可能)が利用でき、この場合は旧耐震基準に限定されない。
次に、補助金制度がある。特定の条件を満たせば、国が行う「長期優良住宅化リフォーム推進事業」や「地域型住宅グリーン化事業(省エネ改修型)」などを受けられる場合があるが、むしろバリエーションが多いのは、それぞれの自治体の補助金制度だろう。
自治体ごとにそれぞれ課題があり、独自の補助金制度を多様に設けている。とはいえ、耐震化や省エネ化はどの自治体にとっても共通の課題であるので、補助金制度を用意している自治体が多い。どういった制度があるかは、「地方公共団体における住宅リフォームに係わる支援制度検索サイト」で検索できるので、調べてみるとよいだろう。
ただし、補助金制度の多くは、年度ごとに予算を確保して実施しているもので、2020年度の募集がすでに始まっている。予算枠を消化して受付を終了している場合もあるし、同じ補助金制度が毎年用意されているとも限らない点に注意が必要だ。
一方、バリアフリーリフォームについては、介護保険法にもとづく住宅改修費の支給もある。要介護・要支援と認定された場合に限られるが、20万円まで(一部自己負担あり)支給される。
住宅の性能を向上させることは、耐震化、あるいは高齢者や小さな子どもも動きやすいバリアフリー化による安全の確保、外の暖気や冷気を取り込みにくくして、エアコンのコスト削減もできる省エネ化など、暮らしの安全性や快適性に大きく影響する。家での日々の生活に不便さを感じないからといって、おろそかにすべきではない。在宅時間が長くなった今こそ、見直してみてはいかがだろう?
(※)6月1日より前に建築確認の通知書が発行されている住宅
初めてのリフォーム。不安で動きだせないのはわからないことが多いから。事前に下調べして、つまずきそうなポイントを把握しておけば、安心して進められるはず。経験者の声を参考に、リフォームの”想定外”をつぶしておこう。
1 準備や工事期間中の”想定外”
(画像提供/PIXTA)
狭い空間、荷物の移動にヘトヘト 思った以上にストレスがたまる
準備や工事期間中に多いのは、仮住まいや住みながらの工事にまつわる想定外。在宅での工事は一見、引越し不要で楽に思えるが、狭い空間で家族のプライバシーがなくなったり、水まわりが使えず、コインランドリーや銭湯通いなどの不便を強いられることも
▽▽▽経験者のつまずきポイント▽▽▽
扉やブルーシートでリフォームする部屋を区切っていたけれど、工事期間中はリフォームしない部屋もホコリっぽい状態に。住みながらのリフォームだったので、仕事から帰宅して毎日掃除をするのが大変だったこれで解決!>>計画的に準備 短期の賃貸利用も視野に
リフォームは長年ため込んだ持ち物を見直し、整理する良い機会。不用品の処分などはプランの相談と並行して、少しずつ整理を進めよう。短期間のリフォームでもホテルや短期賃貸マンションを利用すれば、リフレッシュできてストレスになりにくい。
2 お金にまつわる”想定外”(画像提供/PIXTA)
「この際だから」で気付いたときは予算オーバー
何にいくらかかるかは始めてみないとわからないことも多い。大きなお金が絡むので、相談しているうちに感覚がまひしてくることも。「せっかくやるならついでにここも」「どうせ変えるならハイスペックな設備に」など、積もり積もって予算オーバーになる危険性あり
▽▽▽経験者のつまずきポイント▽▽▽
太陽光発電、オール電化……やりたいことをどんどん追加していったら、あっという間に予算オーバー。「一生に一度のリフォーム」という思いもあり、どれも削ることができなかったこれで解決!>>予算を正直に伝え冷静にコスト調整を
予算オーバーは不安だが、それを恐れて最初に伝える予算を低くし過ぎても、期待どおりのプランにならない可能性も。リフォーム会社には、最初にここまでが上限という予算を正直に伝え、どこに重点的に予算を割くか、設備、材料の選び方の相談に乗ってもらおう。
3 会社選びの”想定外”(画像提供/PIXTA)
どれも同じ?リサーチ不足で決められない
簡単に決められるようで、みんな意外にてこずっている会社選び。ネットのクチコミが気になってそこから先の一歩が踏み出せない人、選択肢があり過ぎて何を基準に選べばいいのかわからないという人、どの会社も同じに見えて決められないという人も
▽▽▽経験者のつまずきポイント▽▽▽
工事の実績や提案プランの内容など、どの会社もいいところがあり、迷ってなかなかきめられなかったこれで解決!>>タイプの違う会社で比較 相性も見極めて
規模や運営母体の違う3社程度でプランと相見積もりを取ると特徴や違いがわかりやすい。気になる会社があったら資料をもらって会ってみよう。また、会社選びでは担当者との相性も重要。プランの説明をじっくり聞いて、自分と合う会社を見つけよう。
4 プラン検討中の”想定外”(画像提供/PIXTA)
動かせない壁、窓、配管 思ったプランにできない!?
プランの想定外といえば、やりたいプランができないと言われること。建物の工法や構造上の制限で希望の間取りにできなかったり、建築基準法やマンションの規約など、法的な制限で希望の設備や材料が使えないといった想定外もある
▽▽▽経験者のつまずきポイント▽▽▽
キッチンを移動させて、リビングをもっと広く開放的にしたかったが、排気口や配管の位置は動かせないことを後から知り、希望する間取りにできなかった。マンションのリフォームはいろいろ制約があって難しいと感じたこれで解決!>>現場調査がポイント プロの力を借りよう
間取り変更や設備・素材選びで希望がかなうか、土壇場で想定外が起きないようにするには、最初の現場調査がポイントになる。家の状態を正確に調査してくれる会社にお願いしよう。また、技術レベルのしっかりした会社を選ぶことも基本。施工実績を確認しよう。
ここまで4つのリフォームの想定外あるあると、その回避方法を学んできた。せっかくリフォームで理想の暮らしや家を実現するのに、その途中で疲れてしまったら本末転倒。ストレスなく、後悔なくリフォームを進めたいなら、想定外に備えておくのが賢明なようだ。
構成・取材・文/木村寿賀子
地方と関わる新しい形、「ふるさと副業」が広がっている。都市部で働く人材が地方の企業や団体・自治体などの仕事に関わる働き方だ。前回(「地方に副業を持つ『ふるさと副業』が拡大中!地域とゆるやかにつながるきっかけを」)に続き、今回は実際の取り組み事例を、働き手と受け入れ側、双方の視点から紹介する。
自治体ながら民間の転職サイトを通じて「ふるさと副業」の求人を行った福井県 地域戦略部副部長の藤丸伸和さんと未来戦略課主査の岩井渉さん、「未来戦略アドバイザー(以下『アドバイザー』)」3名に話を聞いた。
プロの力を借りると同時に、関係人口増加を狙った
2019年9月、福井県では副業・兼業限定で「未来戦略アドバイザー」を公募した。業務内容は「県が策定を進める長期ビジョンを、県民に分かりやすく伝えるための広報戦略立案・実行」。勤務は月2回程度、うち1回は福井県を訪問することが条件で、1回の勤務あたり2万5000円が支払われる。
福井県 地域戦略部 の藤丸さん(左)と岩井さん(右)(画像提供/福井県)
募集の背景には、2023年春に北陸新幹線が福井県敦賀市まで延伸されることがあるという。
「リニア中央新幹線の全線開業なども含め、福井を取り巻く交通ネットワークの整備が進み、来福者の増加が予測されます。⼀⽅で、他の地方同様、福井県も人口減少や高齢化の課題を抱えています。先を見越して働き方や暮らし方を考えていく必要がある。そうした背景から、20年先を見据えた長期ビジョンづくりを進めています」(藤丸副部長)
しかし、「県庁が決めたビジョンを発表する」という従来のコミュニケーションでは不十分と考えたという。
「県民の方に、ビジョンをいかに『自分ごと化』し、具体的な行動に移していただくかが重要です。しかし、県庁職員の未来戦略課のメンバーだけでは、『どのターゲットを巻き込むために、どのような手法・メッセージングが適切か』といった視点やスキルが不足していると感じていました」(岩井さん)
そこで、広報・マーケティングなど「伝える」ことに関するプロ人材を外部から募集することにしたという。
「兼業・副業限定で募集したのは、他の自治体において、この形式で数多くの応募があったことを知っていたからです。また、できるだけ多くの方に一定期間、何らかの形で地域に関わってもらうことが関係人口増加のためにも大切だと考えており、この形式を選びました」(藤丸さん)
当初は応募があるか不安視していたというが、蓋を開けてみれば想像をはるかに上回る421名の応募があった。スキルの高さと福井県に対する思いの強さ、最終選考でのプレゼン内容を基準に4名を選出。2019年11月より、実務にあたっている。
県外出身者も選出。県庁職員への好影響も任用されたアドバイザーの4名。左から大宮千絵さん、坂井美帆さん、瀬戸久美子さん、太田誠二郎さん(画像提供/大宮千絵さん)
今回話を聞いたアドバイザー3名のうち、大宮千絵さん、坂井美帆さんは福井県出身、瀬戸久美子さんは東京都出身だ。
坂井さんは、同県の高校卒業後、進学を機に上京して都内の大手PR会社や投資ファンドで10年以上にわたり広報・PRのキャリアを積んできた。応募したのは、「これまではふるさと納税をするくらいしか故郷に関与できなかった。自身が培ってきたスキルで貢献できる絶好のチャンス」という思いから。
同じく福井県出身の大宮さんは、大手自動車メーカーでマーケティングの経験を積んだ後、現在、開発途上国における飢餓や栄養失調問題に取り組むNPO法⼈TABLE FOR TWO InternationalのCMOを務めている。本業でも福井県から協賛を受けており、「恩返しの形を模索していた」中での応募だった。
一方、東京都出身の瀬戸さんは、『日経WOMAN』『日経トレンディ』の副編集長などを経て現在フリーランスで活動しており、これまではまったく福井と縁がなかったというが、「『福井モデル』(文藝春秋)という本を読み、幸福度や世帯年収が高く、社長輩出数も随一という福井県の特殊性に興味を持った」ことから応募に至ったそうだ。
任命後は、「広報・PR」「マーケティング」「編集」とそれぞれの強みを活かす形で活動している。
大宮さんは、福井県民自身がそれぞれの友人や仲間に声をかけて、未来について語り、発信する場を主催する取り組み「FUKUI未来トーク」を企画・実施。
坂井さんは「長期ビジョン」を県民が考えるきっかけとなるような各分野の第一人者を招いたセミナーを企画。県民がコンテンツに興味を持てるよう、福井県庁の方が主体となったSNSでの情報発信を行った。
瀬戸さんは長期ビジョンの方向性を、県民に伝わりやすいビジュアルデザインに落とし込んだり、Facebookやnoteを活用したメッセージ発信を行っている。県庁職員などに対して「伝え方講座」の実施も計画中だ。
アドバイザーたちの仕事に、県庁職員も良い影響を受けているという。
「私たちだけでは思い浮かばなかったアイデアをいただいたり、作成した案内チラシやSNSを見て『こう表現したら伝わるのか!』と学んだり。皆さんの仕事に刺激を受けて、職員のスキルレベルも上がっていると感じます」(藤丸さん)
アドバイザー任命後、初打ち合わせの様子(画像提供/福井県)
中学1年生向けに実施した福井県長期ビジョンについての出前講座の様子(画像提供/福井県)
副業で携わるアドバイザーの稼働時間は限られている。月2回程度、さらに現地を訪れるのは月1回という勤務体系の中で成果を生むために、各プロジェクトは県庁職員とアドバイザーでチームを組んで進めているという。
「アイデアの発想や企画はアドバイザーの皆さんが、事務作業や地域での交渉は県庁職員が得意とするところ。お互いの得意分野を活かして仕事を仕切っています」(岩井さん)
非出身者ならではの悩みも非出身者である瀬戸さんは、「外から地域に入る」難しさを感じたこともあったという。
「『東京都の出身で、福井を知らない人に何ができるのか』と思う方もいると思いますし、指摘されたこともあります。それはどこの地域でも多少は起こり得るものですよね」(瀬戸さん)
「よそ者だからこそ持ちうる視点や、キャリアから来る強みを明確にして、具体的なアウトプットに落とし込もう!」と自分を奮い立たせたという瀬戸さん。その中で、本業で培った「聞く力」が役立ったと語る。
「自己アピールをするのではなく、相手のこと、地域のことを知って理解しようとする姿勢を示すことで、心を開いていただける。都市部に住んでいるからこそ感じられる福井の良さや、相手に対するリスペクトを言葉にすることも大切だと感じています。
福井を深く理解している方のほうが適している仕事は他のアドバイザーの方にお任せし、私は私にできることを最大限務めよう、と考えています」(瀬戸さん)
福井県(画像/PIXTA)
また、「ふるさと副業」のなかにはリモート業務だけで完結できるものもあるが、この福井県の未来戦略アドバイザーの場合は、月に1回現場に通う故の課題もある。3者とも、体調管理やタイムマネジメントは苦労したようだ。
「福井まで片道4時間ほどかかるので、長距離移動による体の負担はどうしてもあります。月曜夜に福井に帰って、火曜に県庁のお仕事をして、火曜の夜に東京に戻って水曜から本業…という2拠点生活にしばらくは慣れなくて、体調を崩したりもしました」(坂井さん)
瀬戸さんも、時間の使い方に工夫が必要と語る。
「実際に福井県に行く1日に人と会う予定を固めてしっかりインプットして、残りの1日分で一気にアウトプットしています。とはいえ、企画の仕事は明確にオンとオフを分けられるものではないので、常に頭の片隅にはある感じですね」(瀬戸さん)
2児の母である大宮さんも「自分の時間も体力も有限なので……さまざまなサービスを活用して家事を短縮するなど工夫はいりますね」と2人の意見に頷く。
また、会社勤めである坂井さんと大宮さんは「本業からの理解を得ることも大切」と口をそろえる。
「あらかじめ、どんな思いで福井県の仕事に取り組んでいるのか、本業側の仲間にも共有しています。結果として応援してもらうことができ、とてもありがたく感じています」(大宮さん)
アドバイザーと福井県出身の東京都在住者との座談会の様子(画像提供/福井県)
仕事を通して得た人のつながりは、一生もの課題はたくさんあったが、それでも「福井での仕事を通して得ているものの方がずっと大きい」というのが3人の共通見解だ。
「福井県に顔の見えるつながりができたことは自分にとってすごく大きな価値。顔の見えるつながりができると、その地域への興味関心がぐっと高まりますよね。福井県で起こるニュースが他人ごとではなくなって、自分ごととして捉えられるようになりました。
両親が福井に行きたいと言っているので、落ち着いたら福井旅行も計画したいと思っています」(瀬戸さん)
「福井の良い面を改めて知ることができました。学生時代の友人やこの仕事を通じて知り合った福井の方々と、福井の未来について話すことができたり、実家の家族とも定期的に会える機会ができて、福井の大切な人とのつながりを以前よりも密に感じます。自分の気持ちの豊かさも増していると感じますね。
ともに働くアドバイザーや県庁職員の方からも刺激を受けて、自分のキャリアを考える中でも大切な機会になりました」(大宮さん)
「アドバイザーの活動を、SNSを通して知った本業の仕事関係の方から、『福井つながりで』と人を紹介して頂いたことが何件かありました。アドバイザーの仕事で出会う方々だけでなく、こうした機会を通じて人のつながりがより一層広がっていっていると感じます。
東京にいる本業の同僚たちも興味を示してくれて、福井に全然ゆかりのない先輩や同僚も『福井通』になってくれているんですよ。そのこともとてもうれしく思っています」(坂井さん)
この仕事を通じてできた仲間や人脈が何よりの宝。契約期間終了後も、福井とのつながりを大切にしていきたい――3人は笑顔でそう語ってくれた。
福井県(画像/PIXTA)
「今回の取り組みは、福井県庁にとってトライアル的なもの」と藤丸さんは語る。
「今回のケースをきっかけに、他の部や課にも外部のプロフェッショナル人材を招いたプロジェクトを展開できるのではないかと考えています。また、アドバイザーの皆さんのスキルを、未来戦略課以外の部や課で活かすこともできるのではないかと。
私たちが最終的に目指しているのは、福井県内の中小企業と都市部のプロフェッショナル人材をマッチングさせる仕組みをつくることです。地域に根差した中小企業の力と、優れたスキルやノウハウを持った方々の力をコラボレーションさせることで、福井の産業をさらに発展させられると確信しています。今回の取り組みは、その構想を実現させる第一歩ですね」(藤丸さん)
“仕事”を通すからこそ生まれる「信頼関係」「地域との絆」自身の故郷や関心のある地域と関係を持つ方法として、ふるさと納税、観光、移住といった選択肢は今までもあった。「ふるさと副業」の特徴は、「仕事」という機会を通しているからこそ、地域での人間関係の基盤となる「信頼」や、「地域との絆」と呼べるような愛着が生まれている、という点ではないだろうか。
地方副業のマッチングサイトをのぞいてみると、本当にさまざまな仕事がある。今回のようにキャリアを積んだプロフェッショナル人材を求めるケースもあれば、学生向けの募集なども存在する。
「移住」よりはハードルが低く、「ふるさと納税」や「観光」より深いつながりを生みだす新しい選択肢として。「ふるさと副業」は今後も広がっていきそうだ。
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