
23万2,100円(税込) / 58.71平米
山手線「恵比寿」駅 徒歩9分
□賃料下がりました!
1970年代にオーナーが自らデザインした建物。高い天井と美しいアールの壁に心奪われる空間です。
建築当初は外国人向けの賃貸住宅として設計され、天井高が約2.87mもあるこの物件。
きれいに並んだ縦長の窓や木製の枠、レトロなガラス照明など、どこか洗練され ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
コロナ禍の日本で“おうち時間”を大切にするなどの価値観やライフスタイルの変化があるなか、ベランダ菜園などがちょっとしたブームとなっている。筆者が住むドイツでも同様だが、その動きは少し異なる。コミュニケーションのきっかけづくりを目的に、農園や園芸活動を通して、時間や想いの共有を図ろうという気運が高まっているのだ。その様子をお伝えする。
1. コロナ禍でのドイツでは園芸が生活の楽しみに
“ハムスターの買い物”(Hamsterkauf)。「食べ物が品切れになるかも……」という不安から、人々が食料品/生活用品に買いだめに走る様子を、ドイツ語でそう呼ぶ。コロナ禍、ロックダウン中のドイツにて、最も売れ行きが伸びた商品は、第1位がトイレットペーパー、第2位が園芸用土という。
ベルリンのコミュニティ農園のひとつ、プリンツェシンネン庭園 (写真撮影/Shinji Minegishi)
ドイツの自然食品チェーンであるBIO COMPANYのイベントマネジメントリーダーのアニカ・ヴィルケ(Anika Wilke)さんは「園芸用土の売れ行きは25パーセントほどアップしました。ロックダウン中、皆さん、庭作業をする時間とゆとりがあったからでしょうね。あるいは、バルコニーで野菜を育てたり。花のタネはもちろん、果物のタネも沢山売れましたよ」と語る。
自宅待機の人にできることは日本もドイツも変わらない。ただ、クラインガルテン発祥の地・ドイツでは、園芸が人々にとって日本よりも身近な存在 だ。(クラインガルテンとは貸し農地のことで、なかには滞在可能な小屋付きのものも。日本では2019年時点で市民農園は2750、”クラインガルテン”などと呼ばれる宿泊可能な滞在型市民農園は66ある(農林水産省HPより))
それに加えてコロナ禍、ベルリンのロックダウン中の行動規制では、飲食店の営業や演劇/音楽活動の制限は厳しかったものの、園芸活動は規制対象に含まれなかった。これらが、園芸用土や果実のタネの売り上げ増の背景となったようだ。
ベルリンの人気地区ノイケルンの住宅街に位置するプリンツェシンネン庭園は、市民公園のように無料開放され、近所の人がふらりと訪れて農作業に参加することができる (写真撮影/Shinji Minegishi)
コミュニティ農園はビギナー向けの共同農作業デーや養蜂ワークショップ、収穫した野菜を用いた野外ディナーなどのさまざまなイベントも企画・運営し、多くの人が集いにぎわう。コミュニティ農園は、自宅に庭を持たない人々に、趣味としての園芸活動を提供する場所であるが、その他にも園芸を行える選択肢が、ドイツにはふんだんに用意されている。
農家が経営する畑に、一般の人々が参加費を支払いつつ、農家と消費者の垣根なくみんな一緒に土にまみれ、農園で発生するさまざまな問題もみんなで解決する、共同農園もその一つ。これは、趣味的な園芸だけでなく、より自然と触れ合え、かつ食品の自給自足ができるスタイルだ。
2. 自分で野菜をつくり、人とのつながりも広がる突然だが筆者が所属する会社ASOBU GmbHはドイツでの建築設計に携わっているが、庭などの共用スペースを設計する場合、アスファルトでできた鑑賞用の庭よりも、野菜をつくれる「アクティブな庭」をつくることの方が好まれる。先に書いた共同農園のように、アクティブな庭において育まれる近所付き合いやコミュニティが尊重されているからだ。
誰でも立ち寄れるコミュニティ農園では、物心つかないうちから虫や草花に触れ合う貴重な経験ができる (写真撮影/Shinji Minegishi)
さて、ドイツに住む人々は具体的に、農園とどのように親しんでいるのだろうか? その事例をいくつかご紹介したいと思う。例えば、共同農園に参加する筆者の友人は、農園でのアブラムシ対策にさんざん苦労した。そして害虫問題の解決のため、てんとう虫の幼虫を購入したという。
「薬品を使わないアブラムシ対策をいろいろ試したのですが、効果がなかったのです。そこで、生物農薬としての益虫販売サイトを探して、てんとう虫の幼虫を買いました。効果は抜群でした」
農園のてんとう虫 (写真提供:Natur Pur)
ドイツでは、てんとう虫がインターネット販売されているのだ。化学農薬の利用の拒否感から、生物農薬の購入を決めた。さらには、生態系保護のために、どのてんとう虫を購入すべきか、という点にも十分配慮し、議論したという。
「生態系の保護は、生物多様性を守ることだと思います。てんとう虫を買うといっても、てんとう虫であればなんでもいいわけではないのです。今、ドイツ国内でも、従来は日本とアジアに自生していたナミテントウが外来種として拡大しており、問題になっています。
そのため、ナナホシテントウの幼虫の購入を決めました。ナナホシテントウは、古くからヨーロッパに広く分布しているからです」
木の上にある蜜蜂の巣。近年、蜜蜂の数が少なくなっていることが世界中で問題となっており、自然な状態を維持したまま飼育する工夫が行われている (写真撮影/Shinji Minegishi)
さらに友人は、自宅の庭でも生物多様性を守るために、さまざまな工夫を凝らしているという。
「てんとう虫をはじめとして、いろんな生物や植物が暮らしたり、冬を越したりできるようにしています。前の自宅の所有者は、庭に砂利を敷き詰めて、石庭と芝生の構成にしていました。まさに、観賞用のお庭ですね。
これを土と、地域に自生する植物に戻したことで、鳥が地面で餌を見つけやすくなりました。こうした鳥が、また一部の害虫を減らすことにもつながります。
「私の子どもが大きくなった時代にも、豊かな自然環境を残したい。多様な生き物の営みが感じられる農園を一緒につくり、楽しみ、大切にする経験から、その目的を理解できる子どもたちが増えると思うのです。この環境で育った子どもたちは、虫を怖がったり気持ち悪がったりしないでしょう」
収穫された野菜に興味津々の子どもたち (写真撮影/Shinji Minegishi)
3.”脱サラ”して農業を始めたドイツ人男性も人の価値観も変えるアクティブな農園。こうしたドイツの農園を起点としたコミュニティーに魅せられ、他の仕事を辞めて、実際に農業を始めてしまう人もいる。
日本人観光客にとってドイツ観光の定番コースの一つ、ロマンチック街道の起点となるヴュルツブルクから西に40kmほど離れたカールバッハという街で、Natur Purという農家を営むトーマス・ガロス(Thomas Garos)さんもその一人だ。
Natur PurのFacebookページ (画像提供/Natur Pur)
ガロスさんは平日、土にまみれて農園で野菜を育てる。そして週末には、その野菜たちや自然食品を屋台(Hofladen)に積み込んで車で近郊の街に出向き、販売して生計を立てている。
そんなガロスさんは、農業を始めたきっかけや、その魅力をこう語る。
ガロスさんの屋台に積み込まれた野菜たち (写真提供/Natur Pur)
「私が住んでいる地域では、野菜を有機栽培する農家が少なかったのです。ですので、自分自身で栽培することに決めました。インターネットやフォーラムで勉強してから、とにかく、始めてしまったのです」とガロスさん。
「農業を営むことの一番の喜びは、自然との一体感ですね。それと、有機野菜を育て、販売する過程で、同じ価値観を持つ人々とのネットワークができたこと。この地球と自然を愛している人たちとのつながりです」
ガロスさんの農園で、野菜づくりに参加する子どもたち (写真提供/Natur Pur)
しかし、実際に農業を本業とするのは、そんなに簡単ではないだろう。例えば、野菜を海外から輸入し、どんな季節でも豊富な品ぞろえを誇るスーパーマーケットの野菜売り場などは、ガロスさんの商売の競合のはず。だが、この点については、うまく棲み分けができているようだ。
「曲がった野菜、完璧には見えない野菜をお客さんに買っていただいた経験が、私にはあります。私の農園とお店に来る人々は、食べ物を台無しにしたくない人たちですから」
野菜をつくるプロセスや、野菜を販売するマーケットで人々が交わり、有機野菜や環境に関する考え方、価値観を共有できる場所がつくられていることが分かる。
プリンツェシンネン庭園にはカフェが併設され、散歩で訪れた人もおしゃべりを楽しみながら、時間を過ごすことができる(写真撮影/Shinji Minegishi)
4. コロナ禍だからこそ農業が人と人をつなぐドイツの農園は人と人をつなぐ。このことは、コロナ禍にも顕著に示された。
ロックダウン状況下、ドイツでも多くのコンサート会場は閉鎖されていたが、記事冒頭で登場したBIO COMPANYのヴィルケさんは、チェーン店各店のビストロ・エリアにて、5月初旬から店内コンサートを実施した。「厳しいロックダウン状況だからこそ、お客様に幸せな気持ちと、コミュニティー感覚を体験できる機会を、少しでも提供したかったのです」と、ヴィルケさんは語る。
Natur Purのガロスさんも同様に、屋台販売するマーケットおよび農園で、6月ベルリンからミュージシャンを招いてコンサートを開催した。自分の野菜を楽しみにしてくれる人たちのために、ロックダウン状況におけるコミュニケーション閉塞感を、いち早く打ち破ろうとした。
ガロスさんが参加するマーケットでのコンサートの様子_(写真提供/Natur Pur)
ドイツでもコロナ禍をきっかけに変化したライフスタイルにおいて、住居を中心としたコンパクトな生活圏、「働く・暮らす・半自給型の生活」へのリビングシフトが加速していくのではないかと考えている。アクティブな庭は、“箱庭”としての農園を用意すれば事足りるものではない。アクティブな人と人とのつながり、小さなコミュニケーションの積み重ね、そして価値観を共有できるコミュニティーがアクティブな庭をつくる。
今回紹介したガロスさんは、有機栽培の野菜がないから自分でつくろう、というシンプルな動機から出発し、同じ想いを持つ人々とつながることで農業を自分の仕事にした。このように、個人で農園をコミュニティの場所にしてしまう人も、ドイツでは少なくない。
●取材協力前回に続き今回もヘアアーティストのマサトさん(夫)とアクセサリーデザイナーのユキコさん(妻)の住むセカンドハウス<ウィークエンド・ハウス>のアトリエやお庭での生活などをご紹介します。連載名:パリの暮らしとインテリア
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。母屋の裏庭もコーナーごとにくつろげる工夫が
母屋の裏には、購入の決め手となった”自分で芝刈りができるぐらいの手ごろな広さの庭”があります。撮影しに伺った時もお友達ご夫妻が泊まりがけでパリからいらしていて、お友達がランチをつくって庭のテーブルで食事をいただきました。都会で暮らしている者にとって、なんとも贅沢なガーデン・ライフです。
外で食べるランチは最高! 5月から9月のお天気の良い日はほとんど外で食べるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「田舎暮らしの魅力は、家の敷地内ですべてが満たされるということ」とユキコさん。庭の芝生の上にテーブルとパラソルを立て、友達とのランチは開放感と共にゆったりとした時間が流れます。食後は各自庭の好きな場所で、例えば木陰の長椅子で静かに読書したりお昼寝をしたりします。夕方になれば、母屋のテラスでこの季節ならよく冷えたシャンパンでアペリティフ。大勢人が集まるときは庭の一番奥にあるテラスでバーベキュー。<ウィークエンドハウス>の裏庭でいろいろな過ごし方ができるのは、マサトさんとユキコさんお得意のコーナーづくりによるものです。
そして、すべてが芝生ではなく母屋から出てすぐの地面はコンクリートでそこがテラスになっていたり、バーべキューコーナーは煉瓦と石のブロックで囲まれた石の平らな地面になっていたりとさまざまで、これによってコーナーごとのメリハリがついています。
庭を見ながら過ごせる母屋のテラス(写真撮影/Manabu Matsunaga)
庭に長椅子は必須アイテムと考えている太陽が大好きなフランス人は多いそう。長椅子の奥の木陰にバーベキューコーナーがある(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「もともとあった桃の木からは食べられないほど桃を収穫できました」とユキコさん。野菜づくりは不在時に枯れてしまうことも多いですが、今年はここで生活する時間が多かったのでトマト、ナス、きゅうりも収穫できたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
庭の一角には道具をしまう小屋があって、愛犬のルーはこの一角の木陰が好き(写真撮影/Manabu Matsunaga)
陶芸に没頭するあまりに元ガレージをアトリエに陶芸はマサトさんが今一番情熱をかけていること。パリで学生時代に出会った勝俣千恵子さんから陶芸の魅力を教わったそう。彼女は今では陶芸家として京都で暮らし、作品はパリのギメ東洋美術館にも収納されているなど、活躍している作家です。
母屋の離れにはトラクターなどを入れていたガレージがあり、そこの1部屋をアトリエとして使っています。「陶芸をやっている者にとって、アトリエは欲しくてしょうがないもの。もちろんかつて持っていた1軒目の田舎の家にもありました」とマサトさん。完全な趣味ではあるけれど、ウィークエンド・ハウスにはなくてはならない場所だという。
一人娘のアリスさんも同じ趣味を持っているので、親子の時間をここで過ごすことも多いそう。
そして、陶芸は土をこね、形をつくり、乾かし、焼き、色をつけ、また焼き……という工程を経るので、このように専用のスペースがあるのが理想的なのだとか。
皿や椀などの食器が陶器の作品としては一般的ですが、マサトさんの作品は<飾る>がテーマ。例えば、日本では日常的ではない<蝋燭台>もマサトさんの進行中の作品に何台もあり、実際蝋燭を灯すことも多いそう。そして、庭の花を飾るための<一輪挿し>もたくさん制作中。
母屋の横にある離れのガレージを陶芸アトリエに(写真撮影/Manabu Matsunaga)
乾き具合をチェック(写真撮影/Manabu Matsunaga)
乾燥を待つ陶器たち(写真撮影/Manabu Matsunaga)
マサトさんは作品を古い鏡と一緒に母屋の浴室のコーナーに飾りました(写真撮影/Manabu Matsunaga)
ガレージを部屋のように使うアイデア「夏の家」離れの陶芸アトリエの横にもう一部屋あり、そこに夏の日に過ごす部屋をつくりました。「冬は寒くてここは無理だけれど、夏だったら気持ちよく過ごせるかも?」と家具を運び込んだそう。見ての通りドアがないのでそこは今後の課題だそう。
ここに置かれている家具や小物は、蚤の市や古道具屋で見つけてきたものや、母屋で使わなくなった家具とのこと。「扉がない吹きっさらしの部屋なので、惜しげも無く使えるものでないと」とユキコさん。隔てる壁や扉がないので、風が吹き当たるし嵐のときや横殴りの雨のときは室内に入ってきてしまう。使い込まれたものばかりで、ナチュラルな雰囲気は母屋とはまた別。
ただのガレージを機能的なアトリエにし、その横に土足のままでくつろげる「夏の家」をつくった。このふた部屋は、またとない個性的で魅力的な過ごしやすい場所となった。
陶芸アトリエと「夏の家」の上には、まだ手つかずの小部屋があり、そのうちアリスさんの部屋をつくろうかと計画中だとか。まだまだやることがたくさんある<ウィークエンド・ハウス>の進化が楽しみです。
母屋の隣にある元ガレージ小屋。左がマサトさんの陶芸アトリエ、右が壁も扉もまだない「夏の家」、そして二階が今後アリスさんの部屋にしようと計画中の物置部屋(写真撮影/Manabu Matsunaga)
ゆかも壁もガレージの時のまま。この土壁と使い込まれたインテリアがとても合っている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
近所のゴルフ場や川や森は近くの人々の憩いの場<ウィークエンド・ハウス>から車で5分、マサトさんが毎週のように通うのが近所のゴルフ場。「このあたりにはゴルフ場と乗馬クラブが多いので、子どもに乗馬をさせたい家族や、ゴルフ好きの夫婦が引退後に移り住んできたりしています」とマサトさん。
シャトーの門のようなゴルフ場の入り口(写真撮影/Manabu Matsunaga)
コースを囲む建物もシャトーホテルなのでとても素敵(写真撮影/Manabu Matsunaga)
このゴルフ場には、シャトーホテルがついているので、レストラン、スパ、ショコラトリーなどもあってとても気に入っているそう。ゴルフの後にレストランで食事を楽しむこともあるのだとか。
ゴルフ場の周りは、散歩もできるようになっているので家族連れや犬の散歩、ジョギングをする人を多く見かけました。特に週末や2カ月に一度ある2週間の子どもたちの休みの時は、たくさんの人が集まります。
森と川のあるこの辺りは、週末はいろいろなところから人が集まります(写真撮影/Manabu Matsunaga)
マサトさんとユキコさんが描く今後マサトさんは裏庭のさらに奥に手付かずの鶏小屋があるので、そこを整備して鶏を飼うのが近い将来の夢。そして、「夏の家」の扉をつけること。「パリとこちらと二カ所で生活していますが、都会との違いを体験して、ここはなくてはならない場所だと感じます」と力説します。
ユキコさんは常に引越しを気にかけて物件を探しているそう。「私の夢は夕日の見える高台に住むことなんです。でもなかなか良い物件に出会いませんね」と話しますが、今の生活が不満なわけではないそう。
そして「パリとの二拠点生活は今だからできると考えているんです。田舎暮らしは足腰が勝負。年を取り、一人暮らしになったとしたら、生活を楽しめるのはパリだと思うから」とユキコさん。パリを捨てることはないと断言していました。
コロナ以降、フランスでも家を選ぶときの基準が大きく変わり、選択肢が増えました。特に若い人、パリから離れて生きていこうとする人が多いと聞きます。田舎の不動産も高騰しているようです。今後もテレワークで仕事をする人が増えていくと想像すると、都会にいてストレスのある生活よりも、良い空気を吸って広い家に住むことができる田舎暮らしにも魅力を感じます。
お二人のようにパリと<ウィークエンド・ハウス>の二つの生活は、理想的です。しかし両方を持つことはとても難しい。どちらか一つを選ぶなら、<ウィークエンド・ハウス>のように田舎暮らしを選ぶのが時代の流れなのかもしれません。
〈文/松永麻衣子〉
国土交通省では、5年ごとに大規模な「住生活総合調査」を実施している。このたび、2018年(平成30年)の詳細な結果(確報)が公表された。そこで今回は、この中から注目したいポイントをいくつか紹介しよう。【今週の住活トピック】
「平成30年住生活総合調査の調査結果」(確報)を公表/国土交通省住宅への不満は減りつつあるものの、賃貸では持ち家より不満率が高い
持ち家、賃貸のそれぞれに住宅に対する評価(満足か不満か)を聞いたところ、いずれも経年(5年)ごとに住宅の満足度が上がっている。しかし、現在の居住形態が賃貸と持ち家の人で違いが見られた。「多少不満」と「非常に不満」を合わせた『不満率』を見ると、持ち家は18.8%であるのに対して、賃貸は33.1%となり、賃貸に居住している人のほうが不満率が高く、その差は意外に大きいことが分かる。
その理由は調査結果では分からないが、一般的に持ち家と賃貸の住宅の性能には差があると言われている。それは、長く住む前提で売買される分譲住宅などでは、住宅の性能を法規制よりも引き上げて販売し、住宅への投資を賃料で回収したうえで収益を上げる賃貸住宅では、性能を法規制通りのレベルにすることが多いからだろう。こうした性能の違いが、不満率などの結果に表れていると考えてよいだろう。
持ち家・借家別の住宅に対する評価(出典:国土交通省「平成30年住生活総合調査の調査結果」(確報))
では、住宅の評価で『不満率』が高いのは、どういった項目だろう。
不満率の高い上位5項目を見ると、「高齢者への配慮(段差がない等)」が 47.2%と最も高く、「地震時の安全性」(43.6%)、「遮音性」(42.9%)、「台風時の安全性」(38.8%)、「断熱性」(38.6%)の順に続いている。ほとんどの項目で、不満率は経年(5年)ごとにおおむね減少しているが、遮音性などあまり経年変化がない項目もある。
住宅の個別要素に対する不満率(出典:国土交通省「平成30年住生活総合調査の調査結果」(確報))
なにがなんでも「持ち家」「新築」志向は過去のもの?賃貸のほうが持ち家より不満率は高かったが、今後の住み替え先として「持ち家への住み替え」を志向する人は、経年(5年)で見ると減っている。現在持ち家の世帯では、「こだわらない」が増えているが、現在借家の世帯では、「借家への住み替え」が増えている。
今後の居住形態(持ち家・借家)に関する意向(出典:国土交通省「平成30年住生活総合調査の調査結果」(確報))
持ち家への住み替え後の住宅について「新築か中古か」を聞くと、比率自体は小さいものの「中古住宅」が経年(5年)ごとに増えている点に注目したい。「こだわらない」も平成25年・30年の調査では3割を超えており、「新築住宅」志向にかげりが見られるようだ。
持ち家への住み替え後の居住形態(新築住宅・中古住宅別)(出典:国土交通省「平成30年住生活総合調査の調査結果」(確報))
親は、親子の住まいの距離感にあまりこだわりはない?最後に、親世帯が子世帯にどういった住まい方の距離感を望んでいるか、見ていこう。
高齢期になって「子と同居する」ことを希望するのは、経年(5年)ごとに減少傾向にあり、平成30年では11.6%になっている。「子と同じ敷地内の別の住宅に住む、または同じ住棟内の別の住戸に住む」(7.0%)と「徒歩5分程度の場所に住む」(6.6%)の、子世帯のすぐ近くに住むことを希望するのは合わせて13.6%。最も多いのは「特にこだわりはない」の33.5%だった。
高齢期における子との住まい方(距離)の希望(出典:国土交通省「平成30年住生活総合調査の調査結果」(確報))
互いに行き来しやすい距離感を望むものの、それぞれのライフスタイルがあるので、親子間の距離感にこだわりはないという人が増えていると見ていいだろう。
さて、「住生活総合調査」は5年ごとに調査を実施しているので、次の実施は2023年(令和5年)になる。近年は甚大な災害が増えていたり、コロナ禍という事態も起きたりしているので、住宅に望むことや親子間の距離についても考え方が変わっていくだろう。次の調査ではどういった結果になるのか、予測するのが難しい社会になっている。
本来なら思う存分にリゾートなどで休暇を楽しみたい季節ですが、そうもいかないこの時世。おうちでの快適な時間の過ごし方には、ますます注目が集まっており、SUUMOジャーナルで7月に公開した記事でも「『お店部屋』のすごい世界。超本格ゲーセン、サイゼリヤを家で再現する人々」「狭くても快適テレワーク! 暮らし系YouTuberに学ぶ『集中できる部屋』のつくり方」などが人気TOP10入りしました。詳しく紹介します。
2020年7月の人気記事ランキングTOP10はこちら!
1位 「お店部屋」のすごい世界。超本格ゲーセン、サイゼリヤを家で再現する人々
2位 3カ月、駐車場に住んだバンライファー夫妻。40代後半で退職、家を売却した理由【バンライフの日々1】
3位 狭くても快適テレワーク! 暮らし系YouTuberに学ぶ「集中できる部屋」のつくり方
4位 2畳だけでも個室がほしい!コロナ禍で変わる、間取り意識
5位 駅距離よりも家の広さが欲しい?コロナ禍で変わる住まい選び
6位 想定外だらけから生まれた、都心の新しい商店街「BONUS TRACK」
7位 石川次郎さんが自宅にオフィスを移転!“豊かな隠居生活”とは? あの人のお宅拝見[16]
8位 都内37平米+三浦半島の11平米の小屋。親子3人の二拠点生活、コンパクトに暮らすコツは?
9位 「物件は水害ハザードマップのここです。」不動産取引の際に不動産会社による説明を義務化
10位 ”空き”公共施設をホテルやシェアオフィスにマッチング?「公共空間逆プロポーザル」がおもしろい
※対象記事:2020年7月1日~2020年7月31日までに公開された記事
※集計期間:2020年7月1日~2020年7月31日のPV数の多い順
1位 「お店部屋」のすごい世界。超本格ゲーセン、サイゼリヤを家で再現する人々
(写真撮影/戸矢孝一、千葉真理)
新型コロナウイルスの影響で、家で過ごす時間をいかに充実させるかが注目を集めています。「おうち時間」のこだわりが高じて、自宅に大好きなゲームセンターをつくり上げたり、部屋にサイゼリヤや駄菓子屋の店内を再現したり。“夢”を実現させた人々に、こだわりポイントを聞きました。
2位 3カ月、駐車場に住んだバンライファー夫妻。40代後半で退職、家を売却した理由【バンライフの日々1】
(写真撮影/中川生馬)
バンを自宅やオフィスのようにして暮らす「バンライフ」の連載。今回は、1月からバンライフを始めた夫妻です。旅立ち直後に新型コロナウイルスがまん延、行き場を失ってしまうことに。災害時にも有用だといわれているバンライフの課題もみえてきました。
3位 狭くても快適テレワーク! 暮らし系YouTuberに学ぶ「集中できる部屋」のつくり方
(写真提供/奥平眞司さん)
突然始まったテレワーク勤務で、オンとオフの切り替えができなかったり、作業スペースの捻出に戸惑ったりした人は多いのでは。暮らし動画を配信する人気ユーチューバー奥平眞司さんに、狭い部屋でも集中できる部屋づくりの秘訣を聞きました。
4位 2畳だけでも個室がほしい!コロナ禍で変わる、間取り意識
(写真/PIXTA)
コロナ禍における住まいの意識調査によると、間取りの希望に変化が見られました。仕事に適した部屋や家具がないという課題から、最小限のスペースでもいいから集中できる個室の要望がみられました。
5位 駅距離よりも家の広さが欲しい?コロナ禍で変わる住まい選び
(写真/PIXTA)
緊急事態宣言発令以降に住宅の購入やリフォームを検討した人を対象に実施した調査結果から見えた、コロナ禍による住まい探しへの影響を分析。テレワークを経験したことで、仕事専用のスペースを確保したり、通風や遮音性などの住宅の快適性をより重視したり、という傾向がうかがえました。
6位 想定外だらけから生まれた、都心の新しい商店街「BONUS TRACK」
(写真撮影/藤原慶)
人気の街・下北沢で、コロナ禍の真っただ中に誕生した商店街「BONUS TRACK」は、シモキタらしさをテーマに、個性的なお店がそろっています。一時は開業の延期も検討されましたが、日用品の買い物や散歩といった最低限の行動の中でもできるだけ豊かに過ごせるようにとの思いから、予定通りオープン。そんな思いもお聞きしました。
7位 石川次郎さんが自宅にオフィスを移転!“豊かな隠居生活”とは? あの人のお宅拝見[16]
(写真撮影/片山貴博)
雑誌編集界の大御所、石川次郎さんが、代官山に置いていた事務所を自宅に移転。出版業界でもテレワークが進み、海外取材も延期や中止になってしまったことがきっかけで、仕事をダウンサイジング。しかしその自宅兼事務所には、石川さんのこれまでの仕事がつまっていました。
8位 都内37平米+三浦半島の11平米の小屋。親子3人の二拠点生活、コンパクトに暮らすコツは?
(イラスト/ぼんやりウィークエンド)
東京都内の37平米の賃貸と、三浦半島にある自分たちで建てた11平米の小屋を行き来して暮らすご夫妻に聞いた二拠点生活。広さよりもコンパクトにこだわり、「ないならつくろう」と建てた小屋で得たものは「自信」だったそう。小屋づくりを通してご夫妻の軸が共有できていたため、コロナ禍でも揺らぐことがはなかったそうです。
9位 「物件は水害ハザードマップのここです。」不動産取引の際に不動産会社による説明を義務化
(写真/PIXTA)
不動産取引時に、水害ハザードマップを活用し物件の所在地がどこかの説明を義務付けるよう法改正されました。その内容を解説するとともに、物件購入の検討段階で把握するべき情報や、注意点も紹介します。
10位 ”空き”公共施設をホテルやシェアオフィスにマッチング?「公共空間逆プロポーザル」がおもしろい
(写真提供/公共R不動産)
小・中学校や自治体の庁舎、電柱、ごみ処理施設といった公共施設の老朽化や維持管理コストによる財政圧迫が、全国で大きな社会問題になっています。そういった公共施設の活用方法を、民間事業者がプレゼン形式で提案し、そのアイデアに賛同する自治体とマッチングする「公共空間逆プロポーザル」。良品計画と茨城県常総市がマッチングし市営住宅の活用に関するプロジェクトが始動するなど、新しい試みが広がっています。
家にこもらざるを得ないなら、いかに快適にするかの工夫の仕方を求めるとともに、長期的な目でも在宅仕事が続くならどうするべきかを考えている人が増えていることがうかがえるランキングでした。家の快適性の向上は生活自体の向上でもあるはず。新しいライフスタイルを、生活の潤いとして取り入れていきたいものです。
昨年11月に「渋谷フクラス」と「渋谷スクランブルスクエア(東棟)」が誕生するなど、再開発が進められている渋谷駅。今後も大規模商業施設のオープンが控えており、まだまだ目が離せない街だ。交通の面でも充実しており、JR各線に加え東急東横線や東急田園都市線、京王井の頭線、さらに東京メトロの銀座線、半蔵門線、副都心線……と多彩な路線が通っている。今回はそんな渋谷駅まで30分圏内にある駅の、中古マンション価格相場を調査した。専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」、それぞれの価格相場が安い駅トップ20を見ていこう。●渋谷駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP20
【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/渋谷駅までの所要時間)
1位 尾久 1990万円(JR東北本線/東京都北区/27分)
2位 川口 2305万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/26分)
3位 馬込 2335万円(都営浅草線/東京都大田区/19分)
4位 川崎 2360万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市/24分)
5位 十条 2390万円(JR埼京線/東京都北区/17分)
6位 板橋本町 2399万円(都営三田線/東京都板橋区/27分)
7位 平和島 2450万円(京急本線/東京都大田区/24分)
8位 新板橋 2480万円(都営三田線/東京都板橋区/22分)
8位 下板橋 2480万円(東武東上線/東京都豊島区/19分)
10位 大山 2499万円(東武東上線/東京都板橋区/22分)
11位 板橋区役所前 2500万円(都営三田線/東京都板橋区/25分)
11位 板橋 2500万円(JR埼京線/東京都板橋区/14分)
13位 ときわ台 2640万円(東武東上線/東京都板橋区/28分)
13位 王子 2640万円(JR京浜東北・根岸線/東京都北区/28分)
15位 野方 2680万円(西武新宿線/東京都中野区/28分)
15位 上野毛 2680万円(東急大井町線/東京都世田谷区/19分)
15位 落合 2680万円(東京メトロ東西線/東京都新宿区/19分)
15位 横浜 2680万円(東急東横線/神奈川県横浜市/27分)
19位 蒲田 2700万円(JR京浜東北・根岸線/東京都大田区/23分)
20位 西荻窪 2715万円(JR中央線/東京都杉並区/25分)
【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/渋谷駅までの所要時間)
1位 生田 2380万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/28分)
2位 読売ランド前 2740万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/30分)
3位 久地 2889万円(JR南武線/神奈川県川崎市/23分)
4位 戸田公園 3180万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/29分)
5位 津田山 3199.5万円(JR南武線/神奈川県川崎市/22分)
6位 宮崎台 3239.5万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市/25分)
7位 鷺沼 3339万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市/21分)
8位 川口 3390万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/26分)
9位 向ヶ丘遊園 3480万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/23分)
10位 登戸 3490万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/22分)
11位 本蓮沼 3535万円(都営三田線/東京都板橋区/29分)
12位 ときわ台 3580万円(東武東上線/東京都板橋区/28分)
12位 梶が谷 3580万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市/22分)
12位 成増 3580万円(東武東上線/東京都板橋区/29分)
12位 中板橋 3580万円(東武東上線/東京都板橋区/24分)
16位 地下鉄成増 3585万円(東京メトロ有楽町線/東京都板橋区/27分)
17位 都立家政 3590万円(西武新宿線/東京都中野区/30分)
18位 浮間舟渡 3599万円(JR埼京線/東京都北区/26分)
19位 日吉 3610万円(東急東横線/神奈川県横浜市/20分)
20位 尾久 3630万円(JR高崎線/東京都北区/27分)
中古マンションの価格相場が最も安かった駅は、シングル向け物件(専有面積20平米以上~50平米未満)はJR高崎線・尾久(おく)駅、カップル・ファミリー向け物件(専有面積50平米以上~80平米未満)は小田急小田原線・生田(いくた)駅という結果だった。
尾久駅(写真/PIXTA)
シングル向け1位のJR高崎線・尾久駅は東京都北区に位置し、東京23区内にあるJR駅の中では利用客が少ない部類だ。乗り入れ路線はJRの東北本線(宇都宮線)と高崎線、上野東京ラインのみだが、駅改札口と反対側の西南方面には線路がずらりと連なっている。その正体はJRの車両基地「尾久車両センター」で、さまざまな車両が見られるため鉄道ファンには知られた名所でもある。渋谷までは27分。さらに上野駅までは1駅・約5分、上野東京ラインを利用すれば東京駅まで2駅・約15分と好アクセスな駅だ。
尾久駅を出ると明治通り沿いに飲食店が並び、通りを越えるとと住宅街が広がる。スーパーやコンビニも点在し、日々の買い物には困らないだろう。また、尾久駅から北に約10分歩くと都電荒川線・荒川遊園地前駅があり、尾久駅から車両基地を横断する地下道を通って西へ向かうとJR京浜東北線・上中里駅に行くことも可能。行き先によって路線の使い分けができ、渋谷駅や東京駅へのアクセスもいいわりには価格相場がシングル向けランキング唯一の1000万円台と、なかなか穴場の駅と言える。カップル・ファミリー向けランキングでも20位に入っている。
カップル・ファミリー向け1位となった生田駅は、神奈川県川崎市にある小田急小田原線の駅。同じくカップル・ファミリー向け2位の読売ランド前駅と、9位の向ヶ丘遊園駅の間に位置している。生田駅からは渋谷駅まで28分で行けるほか、小田急小田原線の各駅停車と快速急行を乗り継ぐと新宿駅に約25分で到着できる。駅北口側にはスーパーと100円ショップを備えたショッピングビルがあり、駅から帰宅ついでに買い物ができて便利。駅南口側にもスーパーやコンビニが点在し、明治大学のキャンパスがあるため学生向けのリーズナブルな飲食店も。駅周辺には市立の小中学校や幼稚園に保育園、学習塾も点在し、子育て世代のファミリーも多く住んでいるようだ。
よみうりランド(写真/PIXTA)
生田駅に隣接するカップル・ファミリー向け2位の読売ランド前駅は、駅南口側にスーパーや100円ショップがあるほか、ソーセージが評判の精肉店や喫茶コーナーも備えた洋菓子店などが並ぶ商店街も広がる。この商店街や、1位・生田駅前の商店街にある協賛店では、妊娠中または18歳未満の子どもがいる川崎市多摩区住民に発行される「多摩区子育て支援パスポート」のサービスが受けられる点も子育て世代には魅力的だろう。駅北口側の様子はというと、丘陵地に広がる日本女子大学のキャンパスが大きな面積を占めており、商店や住宅は少なめ。駅からバスに約10分乗ると、駅名にもなっている「よみうりランド」に到着。一帯には遊園地をはじめ、バーベキュー施設や日帰り温泉、今年3月にオープンしたフラワーパークもあり、家族みんなで楽しい休日が過ごせそう。
シングル向けランキングに戻ると、2位にはJR京浜東北・根岸線の川口駅がランクイン。川口駅は埼玉県川口市の中心的な駅であり、駅周辺には市役所や行政センター、市立図書館など市の主要施設が点在している。各種商業施設やショッピングビルも建ち並ぶ一方、駅西側には緑豊かな「川口西公園」があり、地域の憩いの場になっている。住所は埼玉県だが、駅南側を流れる荒川を渡ると東京都北区というロケーション。渋谷駅までは、1駅隣りの赤羽駅からJR埼京線に乗り換えて26分。JR京浜東北・根岸線で乗り換えせずに東京駅へも約25分で行くことができ、都内で働く人のベッドタウンとしても人気を集めている。カップル・ファミリー向けランキングでも8位にランクインしているので、シングル層に限らず渋谷へのアクセスがいいお得な住まいを探す際は要チェックの街だろう。
川口西公園(写真/PIXTA)
渋谷駅まで14分、再開発進行中で注目株の板橋駅もランクイン今回のランキングでは「渋谷駅まで30分以内」の駅に限定して調査したが、ランクインしたなかでも所要時間が短かった駅はシングル向け11位のJR埼京線・板橋駅。渋谷駅まではJR埼京線で1本、14分で到着できる。以前の渋谷駅のJR埼京線ホームは山手線ホームやハチ公改札から遠く離れていて不便だったが、今年6月に山手線ホームの隣に引越しが完了。JR埼京線と他の路線との乗り換えがしやすくなったと話題になった。
板橋駅では今年7月、東口に直結して「JR板橋東口ビル」が開業した。1階ではベーカリー、2階では歯科医院とヘアカット専門店が営業中。当初予定から遅れて10月には、3階~5階にフィットネスジムもオープンする予定だそう。また、板橋駅の西口エリアでは再開発が進行中。2024年の完成を目指し、住宅や商業施設からなる地上35階・地下3階建ての複合ビルの工事が今年10月に着手される予定だ。さらにその隣接エリアにも、住宅や子育て支援施設、商業施設を備えた地上38階・地下2階建てのビルと、店舗や事務所が入る地上6階建てのビルが2024年度内に竣工予定。こうした再開発にともなって、今後はさらに街が発展し、人気も上昇していきそうだ。
慶応義塾大学日吉(写真/PIXTA)
カップル・ファミリー向けランキングのトップ20のうち、渋谷駅までの所要時間が最短だったのは19位の東急東横線・日吉駅。渋谷駅までは1本、通勤特急に乗ると3駅・約20分で到着する。日吉駅の東側には慶応義塾大学のキャンパスが広がり、駅から同大学の日吉記念館へ向けてまっすぐ伸びる銀杏並木が黄金色に染まる風景は秋の風物詩だ。商店や住宅は駅西側に多く、学生の街だけあって日常使いしやすい飲食店も豊富。駅真上には食品からアパレル、生活雑貨のショップまでがそろう3階建ての「日吉東急アベニュー」もあり、あちこち行かずとも駅周辺でひと通りの買い物を済ませられそうだ。
さて、今回の調査起点駅とした渋谷駅は、再開発で注目度が高まっているだけあって駅から徒歩15分圏内にある中古マンションの価格相場も高め。シングル向けは4590万円、カップル・ファミリー向けは8490万円だった。ランキングトップ20の駅と比べると、その高さが際立って見える。特にカップル・ファミリー向けでトップ20にランクインした駅との価格の開きが大きく、渋谷駅の価格相場は1位・生田駅の3.5倍以上で6110万円差、20位・尾久駅と比べても2.3倍以上で4860万円差となっている。つまりこれは、人気エリア・渋谷駅であっても電車で30分圏内にまで選択肢を広げて物件を探せば、ぐっと価格相場はダウンすることを示したランキング結果とも言える。
ランクインした駅を見ると、渋谷駅を基点に物件探しをする場合でも、渋谷駅を通る路線にこだわる必要がないことも分かる。トップ20には京急本線や小田急小田原線など、多彩な路線の駅が入っている。シングル向け8位の都営三田線・新板橋駅のように、駅から徒歩で約10分の板橋駅まで向かい、そこからJR埼京線で約15分の渋谷駅へ……とアクセス方法次第で渋谷駅までの所要時間を短縮できる駅も見逃せない。こうした裏技的な駅や路線も視野に入れつつ、物件探しをするのもおもしろそうだ。
●調査概要電車やバス、飛行機、そしてタクシーといった公共交通機関をシームレスにつなぐ次世代モビリティサービス「MaaS(Mobility as a Service)」などモビリティの進化が目覚ましい。なかでもタクシーは、このコロナ禍で3密を避けられると需要が高まっているほか、今後の高齢化社会の移動手段としても注目されている。そこでAIの導入によってさらに便利になったタクシーの最新事情について、AI配車システムの開発などを行う、株式会社未来シェアの代表取締役 松舘渉さんに話を聞いた。
「移動困難者をなくしたい」という想いが原点
松舘渉さん(画像提供/株式会社未来シェア)
株式会社未来シェアは「移動困難者をなくしたい」という想いのもと、独自のAI配車システム「SAVS(Smart Access Vehicle Service)」を開発し、プラットフォームを提供している企業だ。
アプリを使い他の乗客と一緒に同乗する「相乗りタクシー」、AIによる「タクシー配車計算」、「予約ができるバス」としてドアtoドアの送迎ができる「オンデマンド(需要)バス」など、移動交通の効率化を実現している。
SAVSの全体的なシステム概要(画像提供/株式会社未来シェア)
松舘さんによると、5年ほど前までは、バスのように乗り合いができ、タクシーのように移動先が指定できる「オンデマンド交通」の概要は、一般的な公共交通の活用法とは異なっていたため、なかなか理解してもらえなかったそうだ。スマートフォンが普及し、AIへの注目度が高まるにつれて認知度が増していったという。
現在は岡山県久米南町、岩手県紫波町、長野県伊那市、群馬県太田市で運用され、介護業界や観光地でも利用されている。そのほか、企業にライセンス提供を行い「AI運行バス」(NTTドコモ)という名称でさまざまな自治体などで活用されている。
住まいが駅から遠く、自家用車を持たない世帯にとって、タクシーやバスは生活に密着した大切な移動手段だ。特にドアtoドアで移動できるタクシーは高齢化社会にともない需要は高まっているが、タクシーの運転者数は年々減り続けている現実がある。需要はあるもののなり手が少ないため、いかに効率的な配車計算を行うかが、タクシー業界の課題を解決するカギとなっている。
「タクシーにAI配車を導入すると、効率的な配車計画が可能となります。地域住民にとってはタクシーの利便性が上がり、事業主には効率化によるコスト削減が可能となるのです」(松舘さん)
効率的な配車計算は運転手にとってもメリットになる。長時間労働をしていた運転手が、AIによる配車システムにより短時間でより大勢のお客さんを送迎し、無駄な時間が無くなることで効率の良い働き方ができるため、働き方改革につながっているという。
では実際に、オンデマンド交通を取り入れたことで、住民の暮らしがどう変化したのだろうか。
高齢化進む岡山県久米南町、新たな足とコミュニケーションの場に町内風景(画像提供/久米南町役場)
岡山県久米南町は、岡山県中央部に位置し、総人口4737人、世帯数2249世帯(2020年6月30日現在)の小さな町だ。
2020年から株式会社未来シェアのAI配車プラットフォーム「SAVS」を導入し、その運行エリアは、町内全域に及ぶ。
カッピーのりあい号(画像提供/久米南町役場)
町内では『カッピーのりあい号』と呼ばれる乗用車が4台(ほかに予備車両1台)用意され、スマートフォン(Web)や電話で予約をすると、1人1回300円(割引制度あり)で指定の時間に迎えに来てくれるうえ、町内どこでも移動できる。運行時間は年末年始を除く、平日の8時15分から17時。乗り合いのため、住民同士のコミュニケーションがはかれるサービスだ。
「完全に町内どこでもいつでも、ドアtoドアで移動できるサービスを『交通空白地帯』と言われる地域で実現したのです」と松舘さんが話すとおり、住民からも好評のようだ。「病院や美容室などの時間が読めないときも、呼べばすぐ来てくれるので便利。時間を気にせず安心して利用できるようになった」との声も。
カッピーのりあい号の利用者数を比較したところ、2019年は644名(20日間)だが、翌年は928名(22日間)で、1年の間に月284名の増加(1日当たり約10名増)。地域を支える「足」として認知されてきている様子がうかがえる。
さらに今年の6月からは、宅配サービスもスタートしたという。
カッピーのりあい号の「宅配サービス」(画像提供/久米南町役場)
人と共に荷物も運ぶ「貨客混載」型のサービスで、現在のところ宅配時間は、運行時間と同様。配送料1ケースにつき300円(5kg以内)で利用できる。
スマホからの予約画面。人と荷物をのせる場合も簡単に予約可能だ(画像提供/久米南町役場)
6月にはさっそく4件の利用があった。宅配サービスはスタートしたばかりのため今後さらに周知がされれば、より利用者も増えていくだろう。
「オンデマンド交通という新しいサービスを取り入れることで、新型コロナなどの影響により経済的ダメージを受けたお店にも、『宅配サービス』という形で町の活性化に繋がるチャンスが生まれている」と松舘さん。
完了時刻を基準にした曜日毎の時間帯別トリップ集計表(画像提供/久米南町役場)
また上の集計表にあるように、利用可能時刻のすべてが満遍なく埋まっている点も興味深い。毎日、何らかの予約が入り、地域住民に愛されているサービスであることが読み取れる。
松舘さんによると既存のバスをやめて、オンデマンド型交通に置き換えることで利便性が高まり、どんどん利用者が増えている地域もあるという。需要があるから予約をしてタクシーのように利用できるが、価格はバスのような価格(300円※)とあれば、それは利用増となるだろう。高齢化が進む地域ならばなおさら、重宝される移動手段だ。
※乗車価格等は、自治体などにより異なる
今後増えるかも!? 便利な相乗り通勤タクシーサービスオンデマンド相乗り通勤タクシーの全体イメージ(画像提供/KDDI株式会社)
「この事例は、満員電車から解放され、新型コロナウィルス対策にもなるサービスであるため、今後増えていくと思います」と松舘さんが教えてくれたのは、延べ約2000人のKDDI社員を対象として実施された「オンデマンド相乗り通勤タクシーサービス」の実証実験(2020年7月13日~8月7日)だ。
相乗り走行ルート一例(画像提供/株式会社未来シェア)
サービス範囲は、都内の一部エリアから飯田橋、新宿、虎ノ門エリアにあるKDDI事業所の間で行われた。出勤時は希望する場所で社員をピックアップし、会社周辺まで送迎。退勤時も同様で、事務所からエリア内の自宅周辺まで送迎してくれる。出勤時の送迎予約は前日の夜、退勤時は当日の昼までにアプリで行う。乗降場所や時刻などが指定でき、コンビニなどの乗降場所も指定可能だ。
もちろん車両は、徹底したコロナ対策を行っている。車には運転席と乗車席の間に「飛沫防止ビニールカーテン」を設置し、3密対策として、少人数での移動(非密集)やソーシャルディスタンスを意識した座席設定(非密接)、常時の換気実施(非密閉)、送迎後のアルコール消毒、ドライバーおよび乗客の事前検温、マスク着用も行っている。
さらにこのサービスは、すべてITで管理されているため、「いつ誰がどの車両を、どこまで利用したか」がしっかりと把握できる。感染症の封じ込めも即座に対応しやすいというメリットがあるそうだ。
地域住民のニーズと共に、今後も移動困難者を減らしていきたい政府は今年度中に相乗りタクシーの解禁にむけ法改正を進めているが、「バスのように乗り合いができ、タクシーのように予約や乗降場所が指定できる」オンデマンド交通は、未だ厳密なルール化はされていない。現行の法律は「乗り合いは、バス」「タクシーは貸し切り」という認識のままなのだという。
「地域のニーズとして実証実験などを繰り返して普及させ、追随するかたちで認めてもらっている現状があります」(松舘さん)。逆に言えば、地域の移動交通を進化させているのは、「そこに住む人々のニーズ」ということになる。それが行政をも動かしているのだ。
「私たちは今後も、移動困難者をなくす活動を続けていきたいですね。そしてほかのさまざまな地域や技術と連携しながら、MaaSの1技術として発展に参加していきます」と松舘さんは言葉に力を込めた。
AIなどで進化を続けるタクシーをはじめとする公共交通機関は、高齢化社会における人々の「足」として、そして交通渋滞の緩和や新型コロナ対策として、今後も、さらに多くの人の生活を支え続けるだろう。これからの展開にも注目したい。
●取材協力在宅勤務が増えた人も多いだろうが、そうなると気になるのが今年の夏の冷房費。さらに今冬の暖房費もきっと……? そんななか、山形県が2018年に、鳥取県が2020年に国の省エネ基準のほぼ倍となる厳しい断熱基準を打ち出し、それに適合する省エネ住宅を推進している。なぜ国より厳しい基準を設けたのか、家を建てる私たちにどんなメリットがあるのか? 各県の担当者に話を聞いた。
ヒートショックによる死亡者数が交通事故の約4倍!?
国民が健康的な生活を送れるようにと定められているのが、省エネルギー基準(以降、省エネ基準)だ。この省エネ基準をクリアすることは家を建てる際の義務ではないが、例えば金利の優遇を受けられ【フラット35】S 金利Bプランの利用条件の1つに、「断熱等性能等級4」がある。これは現在の国の省エネ基準に相当する。また住宅ローン控除や固定資産税優遇制度などが受けられる長期優良住宅の「省エネルギー対策」も断熱等性能等級4が条件となる。
このように省エネ基準を満たす家づくりが推奨されている中、山形県は国の基準よりも高い「やまがた健康住宅基準」を2018年に定めた。これには同県ならではの切実な理由があった。
(写真/PIXTA)
「実は山形県でヒートショックによる死亡者数の推計値は年間200名以上。これは交通事故による死亡者数の4倍にもなります」と山形県県土整備部建築住宅課の永井智子さん。しかも山形県といえば寒い東北地方、というイメージだが、実は山形市や米沢市は盆地にあり、寒い地方だけれど夏は暑いという、寒暖差の大きい地域。大きな寒暖差は、体に悪影響を与える。ちなみに2007年に岐阜県多治見市に抜かれるまでは、74年間も1933年に山形市が記録した40.8度が日本一の最高気温だった(現在は2018年に記録した埼玉県熊谷市の41.1度が最高)。
では「やまがた健康住宅基準」が国の基準と比べてどれくらい高いのか。比較したのが下記図だ。
「やまがた健康住宅基準」と国の省エネ基準やZEHの基準との比較(編集部作成)
※「国の地域区分」…国が省エネ基準を定める際、地域の気候に合った基準を定めるために全国を8つの地域に分けた区分のこと
※「UA値(外皮平均熱貫流率)」…住宅の断熱性能を示す。1平米あたりどれだけの熱が中から外へ逃げるのかを示しており、数値が低いほど断熱性能は高い
※「相当隙間面積(C値)」…住宅の隙間がどれだけあるかを示すもので、これも数値が低いほど気密性が高いことを示す
表内の「地域区分」は市区町村単位で決められていて、山形県の場合、地域区分は3~5に分かれているが、「やまがた健康住宅基準」は地域区分ごとに断熱性能の高低レベルとしてI~IIIの3つを設定している。一番低いレベルIIIでも、国の基準はもとより、ZEH(年間の一次エネルギー消費量がゼロ以下)の基準をも上回る。一番高いレベルIは、ZEHの約2倍という高い数値だ。
暖房を切って寝ても翌朝室温10度を下回らない家もともと山形県は省エネ活動に積極的で、以前から学識経験者や県内の住宅関係者、環境や森林部門など各部署の人々から成る「山形県省エネ木造住宅推進協議会」を設けていた。この協議会の会長で、省エネ住宅に詳しい山形県東北芸術工科大学の三浦教授をはじめたとした学識経験者の方々に意見をうかがいながら「HEAT20」の基準を参考に「やまがた健康住宅基準」を定めることにしたのだという。
「HEAT20」が推奨するUA値は3つのレベルがあり、それが下記の数値だ。一番低いレベルの「G1」の数値を見ると、地域区分3では0.38、4なら0.46、5は0.48(いずれも単位はW/m2・k)。そう、山形県のレベルI~IIIの基準値と同じなのだ。
HEAT20の断熱性能推奨水準と国の基準との比較(編集部作成)。ちなみに「HEAT20」とは地球温暖化やエネルギー問題に対応するため2009年に発足した「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」の略称。住宅の省エネルギー化を図るため、研究者や住宅・建材生産者団体の有志によって構成されている
ちなみに「HEAT20」では、「G1」レベルの家で地域区分3~5(山形県の全域が該当)の場合、冬の最低の体感温度が概ね10度を下回らない断熱性能があるとしている。「ヒートショックを防ぐためには、最も寒い時期でも就寝前に暖房を切り、翌朝室温が10度を下回らないように」(永井さん)という断熱の目的に合致した基準というわけだ。
「やまがた健康住宅基準」と認定された住宅を建てた場合は、県による「山形の家づくり利子補給制度」の「寒さ対策・断熱化型(やまがた健康住宅)」として補助金を受け取ることができる。
令和2年度 山形県の家づくり利子補給制度。所得1200万円以下の県内在住者を対象に、住宅ローンの当初10年間が対象。年度末に利子補給金が1年分振り込まれ、10年間で最大約80万円が交付される
上記表の「寒さ対策・断熱化型(やまがた健康住宅)」は「やまがた健康住宅基準」の認証を受けることが条件だが、認証制度を開始した2018年度で21件、2019年度で35件と着実に伸びている。「やはり暑さ寒さが身に染みている県民だからこそ、多少初期費用が高くても断熱性能の高い家を求めるのではないでしょうか」と永井さんは分析する。
(写真提供/山形県)
鳥取県は山形県よりもヒートショックの危険が高い!?一方、同じ日本海側とはいえ山形県よりずっと西に位置する鳥取県も、同様に国の基準より高い「HEAT20」の基準を参考に、「とっとり健康省エネ住宅性能基準」を定めた。西の方だからさほど寒くないのでは?と思いがちだが、同県のシンボルの一つである大山(だいせん)にはスキー場もあるなど、冬になれば雪が積もる。鳥取県住まいまちづくり課の槇原章二さんによれば「国のスマートウェルネス事業にも携わっている慶応大学の伊香賀先生の調査によれば、鳥取県は全国の冬季の死亡率割合がワースト16位だったんです」という。
慶応大学の伊香賀教授が、厚生労働省の2014年人口動態統計に基づいて月平均死亡者数を比較し、冬季(12月~3月)死亡増加率を算出したもの(出典/慶應義塾大学伊香賀研究室提供資料)
大山鏡ヶ成の雪景色(写真/PIXTA)
すべての死因がヒートショックによるものかどうかまで精査するのは難しいが、冬の心疾患や脳血管疾患といえば、ヒートショックにより引き起こされる疾患の代表格。その数が寒冷な北海道や青森県よりずっと多いのだ。また上記グラフをよくみれば、死亡増加率の高い県は、意外と比較的温暖な地域がずらりと並んでいることに気づくだろう。「ヒートショックは寒い時期に起こりやすい→だから寒くない地域はそこまで心配する必要はない」という油断が、この結果を招いているのだと思われる。
一方で、上記の考え方に沿えば「寒い地域だからこそ、家の断熱性は高くしよう、家を暖かくしよう」と考える人が多いからこそ、寒冷な地域は数が少ないのかもしれない。とはいえ、上記表でベスト9位という山形県でも、先述の通り交通事故の4倍がヒートショックで亡くなっている。そう考えると東西南北を問わず、日本全体がヒートショックの危機にさらされているということになる。
(写真/PIXTA)
そもそも日本は昔から高気密高断熱の真逆、通気性を重視する家づくりが盛んだった。吉田兼好は「家つくりやうは、夏をむねと すべし」と、夏のジメジメした気候に合う、通気性のよい家づくりをと、徒然草に書いたほどだ。日本人の多くは、断熱性の低い住まいが当たり前だったことから、室内温度は外気に左右されやすいもので、家にいても「夏は暑い、冬は寒い」「北は寒い、南は暖かい」のは当たり前、という考えが根付いたのだと思われる。なにしろ高気密高断熱の住宅という考えが日本に知られるようになったのは、西洋風の住宅が広まりだした1960~70年あたりからと、日本の歴史から見れば、つい最近の話なのだ。
全館空調システムを導入しても採算が取れる家もともと県内で健康省エネ住宅の普及に取り組んできた民間団体であるとっとり健康省エネ住宅推進協議会(代表理事 谷野利宏)に県としても参加し、協議会で話し合いを重ねる中で、健康省エネ住宅の普及に向けて県としての省エネ住宅のモノサシをつくろうということになったという。
とっとり健康省エネ住宅普及事業のホームページより。ちなみに鳥取県のほとんどは国の定めた地域区分では、比較的温暖な地域の6にあたるが、同一市町村内でも標高差が大きい鳥取県では国の定めた地域区分も「実態に則していない」「消費者にとってわかりづらい」という課題があった(出典/鳥取県庁公式ホームページ「とりネット」)
「ヒートショックを防ぐためには、廊下も含めて住宅の隅々まで同じ温度であることが必要になります。そうなると全館空調システムは必須。では全館空調システムの効果を高めるためには、住宅の断熱性能がどの水準にあればいいのか、光熱費の削減率や高気密高断熱住宅を建てるコストはいくらほどになるのか、をシミュレーションすることから始めました」と、鳥取県住まいまちづくり課長の遠藤淳さん。
その際に、山形県同様「HEAT20」の断熱基準を元にシミュレーションしてみたのだという。「HEAT20」の基準を元に計算した理由は、遠藤さんは以前から日本の基準がヨーロッパなど世界と比べ低いことに課題感を持っていて「HEAT20」の基準が欧米で義務化されている水準であることからだそうだ。
シミュレーションの結果「初期投資があまり高くなりすぎず、全館空調の効果を高める断熱性能の基準がUA値0.48であることがわかりました。UA値0.48は「HEAT20」の基準で地域区分が5のG1に相当します。鳥取県はほとんどが地域区分6ですが、県全体の共通基準としてシンプルに示すため地域区分5のUA値を採用しました」(槇原さん)。それが上記表の「とっとり健康省エネ住宅性能基準」の「T-G1」にあたり、国の基準値で建てた場合と比べると、光熱費を約30%削減できるというシミュレーションの結果となった。さらに断熱性能の高い「T-G2」や「T-G3」であれば、それぞれ約50%、約70%の削減に繋がる。「T-G2なら15年で初期費用の増額分を回収できるくらいの光熱費削減効果があります」と槇原さんはいう。やはり断熱性能が高ければ、光熱費を大幅に削減できるのだ。
「高断熱性能を実現するために最重要」と槇原さんが語るトリプルガラス(写真/PIXTA)
始まったばかりだが、省エネ住宅を建てられる施工会社は多い先述のシミュレーション結果をもとに策定した健康省エネ住宅性能基準を軸に、鳥取県では令和2年(2020年)度から「とっとり健康省エネ住宅普及事業」をスタートさせた。上記表の通り、補助金制度も用意したが、まだその詳細が決まっていないころの2019年の年末の仕事納めの日に、遠藤さんたちは知事にこれらの事業について報告。さあ、年が明けたら忙しくなるぞ、と思っていたら知事が年頭の挨拶でこの「とっとり健康省エネ住宅普及事業」について発言したため、正月から各メディアに取り上げてもらえたという、うれしいサプライズがあった。
知事による発言の効果もあったのだろう、2月に行った施工会社等事業者向けの説明会には、想定を超える200名以上が参加。5月から6月にかけて事業者向けの技術研修にも271名もの参加者があったという。
この技術研修の最後に、平たくいえば試験が行われ、そこで合格した人が「とっとり健康省エネ住宅普及事業」の登録事業者になる。登録事業者が建てて、とっとり健康省エネ住宅性能基準を満たした住宅が「とっとり健康省エネ住宅」と認定される。7月末時点で登録事業者は設計が121人、施工が104人(両方取得した人もいる)。スタートしたばかりにも関わらず、いずれも想定以上の人数で、業界をあげて事業に積極的であることが伺える。
この状況に対して遠藤さんは「年頭の知事の発言で『県が本腰を入れて取り組む事業』と周知されたことで注目を集めたことと、事前説明会で、日本の基準が世界と比べてかなり低いということ、思いのほか無理のない費用で高気密高断熱の住宅が建てられること、光熱費の削減効果でゆくゆくは初期費用の増加分のもとが取れることを伝えたことで、事業者の方々にも魅力を感じていただけたのだと思います」
さらに「2021年から新築住宅に対して施主への省エネ基準の説明が義務化されたことも大きいのでは」と遠藤さんは指摘する。
実は、事前説明会に参加した事業者の約6割が、これまで建てた家のUA値を把握していなかったという。だとすれば、「とっとり健康省エネ住宅」の認定住宅を建てれば、この説明義務も果たせるし、商品として魅力的に映ると考えてもおかしくはない。
もちろん家を建てる側からすれば、難しい数字で説明されるより「国よりも厳しい基準の省エネ住宅で、T-G2というレベルなら15年で初期費用の増額分を回収できる」のほうが分かりやすく、しかも光熱費の削減の具体的な数字が見えるのはうれしい。
地方発の断熱性能向上革命は、成功するのか!?先述のように、「とっとり健康省エネ住宅普及事業」は今年度に始まった事業で、事業者への研修も6月末でようやく終わったばかり。しかし、実は以前から「とっとり健康省エネ住宅性能基準」をクリアするほどの省エネ住宅を既に手がけている事業者もいるという。もちろん既に建てられた家は事業開始前ゆえ、補助金は支給されないのだが、中には「それでもいいから、認定だけ欲しい」という施主もいるという。
山形県同様、それだけ暑さ寒さが身に染みていた県民がいたという証でもある。そのなかで「T-G2」(経済的で快適に生活できる推奨レベル)のUA値0.34を超える0.32の家を建てたKさんは「冬の寒い時期の、2月に福山建築さんの見学会に参加したのですが、エアコンが1台しかないのに、家中どこでも暖かくて驚きました。住むならこんな断熱性能の高い家がいいと、お願いしました」という。同社は県の事業が始まる前から、積極的に高気密高断熱の家を手がけてきた地元の施工会社の一つだ。
施工は鳥取県の福山建築。UA値は0.32、C値は0.13(写真提供/福山建築)
(写真提供/福山建築)
実際に住んでみると「冬でも毛布1枚で眠れますし、日中はTシャツ1枚でも十分です。こたつなどの暖房器具を出す手間も減りました」とKさん。UA値やC値といった数字では、なかなか「暖かい」「涼しい」が見えないため、こうした“体験談”の口コミは貴重だ。
先述した山形県でも“体験型”による省エネ住宅の普及が期待されている。同県の飯豊町では2019年11月から、やまがた健康住宅基準の中で2番目に高い基準の、レベルIIの認証住宅を建てることを条件に分譲地を販売しているが、この一角に「6月5日にモデル住宅が完成し、今後は体験宿泊も検討されています」(山形県県土整備部建築住宅課 永井智子さん)。
エコタウン椿(写真提供/山形県)
(写真提供/山形県)
エコタウン椿 近景パース(写真提供/山形県)
徒然草に書かれるほど、2000年近くも高気密高断熱の家とは無縁の生活を送ってきた日本人。そこから障子や欄間など日本固有の文化が生まれたのは確かだが、しかし「残念ながら日本の現在の省エネ基準でも、健康的に暮らせるレベルではありません」と槙原さん。とっとり健康省エネ住宅普及事業のホームページに掲げた、上記の「とっとり健康省エネ住宅性能基準」のグラフに、敢えて欧米の省エネ基準が併記されているのもその強い想いの表れだろう。では、本当に山形県や鳥取県のいう省エネ住宅なら、健康的に快適に暮らせるのか? 長年「夏は暑い、冬は寒いのは当たり前」という意識が身に染みている人にとってみれば、Kさんの「冬でもTシャツ」は本当なのか、Tシャツで「快適」と本気で思えるのか、と疑問も湧くだろうが、まずは山形県や鳥取県の省エネ基準をクリアした家の、見学会や宿泊を通して、身をもって体験してみるといいだろう。
●取材協力暮らしや旅のエッセイスト・柳沢小実が台湾の家を訪れる本連載。2020年、4軒目におじゃましたのは、カスタム自転車のショップを営む葉士豪さんが住む、台北郊外の古くて大きい一軒家です。
便利でにぎやかな台北市内を離れて、自然に満ちた山の上に構えた自分たちらしい住まい。新型コロナウイルスによる家ごもり期間を経て、これからの暮らし方についてもオンラインでお話を伺いました。連載名:台湾の家と暮らし
雑誌や書籍、新聞などで連載を持つ暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんは、年4回は台湾に通い、台湾についての書籍も手掛けています。そんな柳沢さんは、「台湾の人の暮らしは、日本人と似ているようでかなり違って面白い」と言います。2019年に続き柳沢さんが、自分らしく暮らす方々の住まいへお邪魔しました。台北市の北にある、北投へ
台北駅からMRT(地下鉄)の信義淡水線で北へ22分、車では市内から約30分。台北市北投区は、1894年にドイツ人によって温泉が発見されて以来、台湾有数の湯治場として親しまれています。温泉宿には国内外から観光客が集まり、地元の人たちは公衆足湯で何時間もおしゃべり。泉質は天然ラジウム泉で、街のそこかしこにうっすら硫黄のにおいが漂います。
(写真撮影/KRIS KANG)
台北市内と北投は、東京と箱根のような位置関係。台北っ子がハイキングにいそしむ陽明山のふもとで自然が多いため、ゆったりとした空気が流れています。
カスタムバイククリエイターの葉士豪さん(写真撮影/KRIS KANG)
この北投の山の上に住むのは、カスタム自転車をつくっている葉士豪さん。葉さんは、12年前からオーダーを受けて自身でカスタムした自転車を販売しており、ワークショップも開催しています。
昨年まで台湾のランドマークである超高層ビル、台北101の近くでショップ「SENSE30」を開いていたため、これまで台北市内の中心部の賃貸住宅に何軒も住んできました。でも、にぎやかな繁華街にあるショップ兼アトリエは、自転車好きならば必ず知っている人気店だったこともあって、お客さんが来るたびに作業の手を止めざるを得ませんでした。自転車づくりは集中力が必要なため、果たしてショップが必要なのだろうか……といつしか疑問を抱くように。そして、昨年の3月にお店を閉めて、北投の住居兼アトリエ「Light-House」に移り住みました。
道は細く、低層の家が連なっています(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
約200坪もある広大な敷地に建つ、平屋の一軒家。どことなく洋風なたたずまい(写真撮影/KRIS KANG)
一年前に出合った北投の家は、人が住めないほどボロボロで、廃墟さながらでした。外壁や窓はそのままですが、建物の基本構造や屋根の防水処理、水まわりの配管など家の8割は葉さん夫妻が自身で修繕。この建物、築年数約50年の大きな平屋の一戸建てで、かつては台湾の政治家やアメリカの軍人が住んでいたのだとか。庭にはアトリエとして使っている小屋もあり、母屋の建坪は50坪、敷地面積は200坪にも及びます。
リノベーションで生まれ変わった家山の上にあるこの家を借りたことで、自宅とアトリエを兼ねるようになり、通勤がなくなったのが良いところだそう。家族ともずっと一緒にいられて、悪いところはありません。ちなみに、葉さん夫妻は新北市林口区(桃園空港と台北市の間のエリア)にも家があって、この北投の家とそちらを行き来しています。
間取り(イラスト/Rosy Chang)
母屋の建物は、かつては部屋数が多く、壁で細かく仕切られていましたが、空間をたっぷり取れるようにリノベーションしてひとつの部屋にしました。それを、料理をする場所、食事をする場所というように、ひとつの空間を「ゾーン」でゆるやかに分けています。ちなみに、壁は可動式のガラス扉のため開放感があり、移動することで区切り方を変えることができます。そして、庭にある小屋を自転車づくりの作業場(アトリエ)として使っているため、住まいのスペースと仕事のスペースはきちんと区切りをつけられています。
間仕切りのない開放感ある空間、キッチンもオープンに(写真撮影/KRIS KANG)
壁はないものの、ゆるやかにエリア分けされています(写真撮影/KRIS KANG)
壁の代わりにガラス扉で空間を区切って(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
味のある木製の家具がしっくり馴染んでいます(写真撮影/KRIS KANG)
リスクに強い働き方と暮らし方取材は2020年春の自粛期間中に、オンラインで行いました。葉さんによると、北投の家での生活はコロナウイルスの影響はほとんどなかったそうです。その理由は、家が台北市内から離れていて人が少ない安全なエリアだったのと、仕事面では自転車をオンラインショップがあるため販売経路を確保できており、店舗の家賃を払う必要もなかったから。また、自宅アトリエでのワークショップに来るのは知り合いだけで、不特定多数と接することもなく、安心して過ごせました。つまり、自粛期間中も収入は変わらずありながら支出は少なく、安全も確保されているという、理想的な状況だったようです。
結果的にリスクに強い働き方と暮らし方となりました。
庭にある葉さんのアトリエでは、お客様の要望に合わせてパーツをつくることも。ワークショップもここで行われます(写真撮影/KRIS KANG)
とはいえ、将来は台湾・台東に移住したいと考えていて、今はその準備期間なのだそうです。花蓮出身の葉さん、ゆくゆくは「台東と花蓮の間にあるものすごい田舎の長浜という土地」に住みたいのだとか。台湾の東側には新幹線が通っておらず、交通手段は電車や車、バスくらい。ビジネスをするには不利と思われる辺鄙な場所に、ワークショップやオーダーのためにわざわざお客さんが来てくれるだろうかという不安はありますが、自然が好きで、長浜には友達がたくさんいます。台北から北投に移住したのは、台東よりは栄えている北投にまず移って、どうしたらビジネスとして成り立つかを調査するためでもあるそうです。
(写真撮影/KRIS KANG)
室内に、光がさんさんと降り注ぐ(写真撮影/KRIS KANG)
コロナウイルスの流行により、これまでの価値観や、暮らし方と働き方についての考えが大きく変わった人は少なくないはずです。日本でも、郊外や地方に移住したい、複数の拠点を持ちたいといった需要が増えているようです。これからますます暮らしや仕事が多様化していくなかで、葉さんの暮らし方と働き方は、一つのモデルケースになるように思えました。
そして、昨年と今年で計7軒の台湾の家と暮らしを取材させていただきましたが、誰もが自分らしいオリジナルな生き方を力強く模索していました。みなさんの「新しい暮らし」のヒントになれば幸いです。
葉さん作のオーダーメイド自転車(写真撮影/KRIS KANG)
(写真撮影/KRIS KANG)
住宅ローンの中でも、全期間固定金利型ローンの代表格といわれる【フラット35】。2019年度(2019年4月~2020年3月)の利用者の実態は、わずかながらこれまでとの違いが見られるようだ。具体的に見ていこう。【今週の住活トピック】
「2019年度 フラット35利用者調査」を公表/住宅金融支援機構【フラット35】の金利は7・8月で僅かに上昇
まず、【フラット35】についておさらいしておこう。
住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して、ユーザーに提供している住宅ローンで、35年などの長期間にわたって金利が変わらないのが特徴だ。提携先の民間金融機関によって、実際に借りるときに適用される金利や融資手数料が異なることに留意したい。
2020年8月の金利を見ると、借入期間21年以上35年以下(融資率9割以下)の最頻金利で、1.31%となっている。7月は1.30%、6月は1.29%だったので、2カ月続けて0.01%ずつ上昇したことになる。そうはいっても、ここ5カ月は1.30%前後で推移しているので、超低金利であることに変わりはない。
コロナ禍の影響を受け、【フラット35】も2020年4月~6月の利用申請戸数が2万7501戸、対前年期比89%と減少している。住宅事業者が緊急事態宣言下で営業を自粛したことが大きな要因だろう。
所要資金、年収倍率、住宅面積で【フラット35】利用者にわずかな違いさて、2019年度の【フラット35】利用者の調査結果が公表された。
【フラット35】を利用したのは、「注文住宅(土地の同時取得ありも含む)」41.9%、「新築分譲建売住宅」24.1%、「中古マンション」13.8%、「新築分譲マンション」10.4%、「中古一戸建て」9.9%の順となっている。利用者の平均年齢は40.2歳、平均世帯年収は607万円だ。
注目したいのは、まず、所要資金※の増加傾向が続いていることだ。
※所要資金:注文住宅は予定建設費、土地付注文住宅は予定建設費+土地取得費、新築および中古住宅は購入価格
所要資金(融資区分別・全国)(出典/住宅金融支援機構「2019年度 フラット35利用者調査」より転載)
【フラット35】利用者の所要資金が最も高いのは、近年の価格上昇の影響を受けた新築マンションで、年々増加を続けている。その新築マンションに引っ張られるように、中古マンションも増加を続け、加えて、土地付注文住宅と注文住宅も増加を続けている。一方、新築の建売住宅の所要資金は、安定しているのが大きな特徴だ。
所要資金が増加しているのに対して、世帯年収の平均額はそれほど上昇していないことから、所要資金に対する世帯年収の割合(年収倍率=所要資金/世帯年収)が上昇している。
年収倍率(融資区分別・全国)(融資区分別・全国)(出典/住宅金融支援機構「2019年度 フラット35利用者調査」より転載)
年収倍率が最も高いのは「土地付注文住宅」の7.3倍。次いで、新築マンションの7.1倍となる。所要資金の場合と順位が入れ替わるのは、新築マンションでは都心部での供給が多いこともあって、世帯年収の平均が763万円と最も高いのに対し、土地付注文住宅の平均が628万円と新築マンションより低いことにある。一方、年収倍率が低いのは、中古住宅(マンション・一戸建て)だが、それでも5倍を超える倍率となっている。
所要資金も年収倍率も増加を続けているが、減少しているものもある。それは「住宅面積」だ。
住宅面積(融資区分別・全国)(出典/住宅金融支援機構「2019年度 フラット35利用者調査」より転載)
全体的に横ばいの傾向にあるが、注文住宅、土地付注文住宅、新築マンションでは前年より住宅面積が縮小している。また、一戸建て系とマンション系で、住宅面積に大きな開きがあることも分かる。
中古住宅の築年数は年々高経年化する傾向次に、中古住宅に注目して見ていこう。【フラット35】利用者が購入した中古住宅では、平均築年数の高経年化(長期化)が進んでいる。
中古一戸建ての2019年度の平均築年数は19.6年。築21年以上の割合は全体の46.7%を占める。2011年度(平均築年数15.6年)以降9年続けて高経年化している。
中古マンションの平均築年数は中古一戸建てよりさらに長い23.7年。築21年以上の割合は全体の56.3%を占める。こちらも2011年度(平均築年数15.0年)以降9年続けて高経年化している。
マンションに比べると一戸建てのほうが建物の寿命は短いが、住宅の性能が上がっていき、リノベーションの技術も向上していることから、高経年化したものも流通するようになっているので、今後も高経年化が続くのではないかと思われる。
申請戸数の減少に見られるように、コロナ禍は住宅取得においても影を落としている。低金利はまだしばらく続くと思うが、世帯年収の変動が懸念される。無理な住宅ローンを組む時代ではないので、予算や希望条件の見直しなどが行われる可能性もあるだろう。マイホームを取得する人がどういった選択をするのか、注目していきたい。
コロナ禍のまっただ中の2020年5月27日、参院本会議で可決された「スーパーシティ法案」。これによって、今後の日本の各地でA I(人工知能)やビッグデータを活用して生活全般をよりスマート化させる技術を実装した街が、本格的に登場することになる。未来の街なんてまだピンと来ない……というわけで、すでにそんなテクノロジーを駆使した「まちづくり事業」の展開を目指すパナソニックとトヨタが今年設立した合弁会社「プライム ライフ テクノロジーズ(以下P L T)」に、未来を見据えたまちづくりとはどのようなものか詳しい話を聞いた。
「あたりまえを変えていく」まちづくりとは?
ロボットが重い荷物を家の中まで運んでくれたり、健康診断を自宅にいながら受けることができたり、自動運転の車で外出ができる――。そんな今私たちが想像できるものを遥かに超える、次世代の人々の暮らし。
私たちの生活にガスや電気が当たり前になったように、これからは先端テクノロジーが生活をサポートすることで、暮らしの「あたりまえ」が変わろうとしている。
そんなまちづくりを進めるPLTを設立したのは、パナソニックとトヨタの2社。
パナソニックは、パナソニック ホームズなどと世界に先駆けて取り組んだスマートシティ「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」(神奈川県藤沢市)が今年で丸5年を迎えた。地域課題を解決するために、エネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティの5つの分野を横断するサービスを提供。例えばコミュニティ内にある高齢者施設の部屋の温度・湿度や居住者の生活リズムを、同社製のエアコンとセンサーを用いることで、見守りを可能にしている。
Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(写真提供/パナソニック ホームズ)
一方でトヨタは今年、モノやサービスがつながる「コネクテッド・シティ」を推進することを発表した。「コネクテッド・シティ」は、人々が生活を送るリアルな環境のもと、自動運転やパーソナルモビリティといった進化した乗り物や、ロボット、スマートホーム技術に人工知能(AI)技術など、最先端テクノロジーを導入した実証都市。ゼロエミッションのモビリティと歩行者が歩く道が血管のように編み巡らされたまちから、「ウーブン・シティ」と名付けられた。実際に、2021年に静岡県裾野市にあるトヨタ工場跡地で着工予定だ。
PLTは、そんな2社のほか、関連会社であったパナソニック ホームズ、トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニック建設エンジニアリング、松村組の5社との間で家や街づくりに関するノウハウを共有し、まちづくりに活かしていく。
PLTとしての共同まちづくりプロジェクトは、すでに全国で13ケースが予定されている。
「少子高齢化の影響による空き家の増加であったり、建築業界における就労人口の減少といったさまざまな社会課題を抱えているのが今の日本です。また暮らしの面では、AIやIoTの高度化、5Gの出現などで、現在はダイナミックな暮らしの変化が起きる目前。こうした大きな環境変化が想定される中で、全く新しい価値をもった、次世代の街を提供する必要があると考えました」と同社グループ戦略部主任 佐野遥香さん。
今ある技術やこれから生まれてくる最先端技術を使って、私たちが直面する社会課題に正面から取り組み、より良い生活を目指すまちづくりに期待が膨らむ。
同社まちづくり事業企画部 担当課長の粂田(くめだ)和伸さんは、「想像を超えた暮らしを実現したい」と語る。
「これまでは家を建てて売るということを事業の中心として行ってきましたが、今後は“くらしサービス事業者”として街全体をプロデュースしていきたいです」(粂田さん)
生活を支えながら、技術で社会課題も解決具体的にはどのような街をつくろうとしているのだろうか。それを語るに欠かせないのが、トヨタのモビリティ技術、パナソニックのAIや先進デジタル技術を中心とした、グループ会社5社のノウハウによる家づくりだ。
「これまで1社だけで活用していた技術を、PLTではグループ各社と分け合っていけることが強みなんです」と話すのは、同社技術企画推進部 担当部長の小島昌幸さん。
左から、PLTまちづくり事業企画部担当課長の粂田和伸さん、PLT技術企画推進部担当部長の小島昌幸さん(写真提供/プライム ライフ テクノロジーズ)
例えば地震が起きたとき、ミサワホームが開発した「GAINET (ガイネット)」という、外出先からも瞬時に建物の被災度が分かる技術を、今後はパナソニック ホームズやトヨタホームが提供する住宅にも導入を検討しているという。このサービスは、万一の時には、被災した家の復旧支援を一早く提供することを可能にした技術でもある。
建物の被災度が瞬時に分かるミサワホームの「GAINET(ガイネット)」は、今後P L T各社の新築物件でも導入できるよう検討中だという(写真提供/ミサワホーム)
また、近ごろ頻発している自然災害による長時間の停電対策として、トヨタ自動車からの技術支援を受け、一般的に広まっているハイブリッド車・プラグインハイブリット車の車載蓄電池からAC100V・1500W電力供給機能を住宅・建設物につなぐことで、安全な非常用電源として使えるようトヨタホームが研究開発中だという。この技術は、ミサワホーム、パナソニック ホームズが提供する住宅への展開も予定しているのだとか。
災害の多い日本では、災害対策された住まいへのニーズも高まっている。オンラインでつながることによる復旧支援の早期対応や、車載蓄電池を用いた電源確保といった先端テクノロジーを活かした家づくりへの期待は大きい(写真提供/トヨタホーム)
「技術を活用していくことで、人々の生活を支えながら、社会課題も解決していくことができると思っています」と小島さんは話す。
一方、AIやビッグデータを暮らしに導入することについて、プライバシーや個人情報の扱いなどについての側面から、一部で懸念する声もある。「技術はあくまでも、問題解決の手法。その一面だけを切り取るのではなく、問題解決のための必要ツールとして導入についての理解を得た上で、(セキュリティ面を含め)きちんと運用していくことが大切だと思っています」(小島)
防災対策万全な未来型都市「愛知県みよし市」PLT設立後の最初の大型プロジェクトとして進行中なのが、愛知県みよし市にある大型分譲地「TENKUU no MORIZONO MIYOSHI MIRAITO(てんくうのもりぞの みよしみらいと)」だ。2020年6月13日から販売が開始されたこの戸建分譲地は、もともとトヨタホームが2018年に着手したプロジェクトで、PLTが掲げる”人と社会がつながるまちづくり“というビジョンに沿って展開した形だ。
TENKUU no MORIZONO MIYOSHI MIRAITOの顔とも言える「MORIZONO HOUSE(もりぞの はうす)」(写真提供/トヨタホーム)
この分譲地の特徴の一つが、町の中心部にある集会所として機能する、「MORIZONO HOUSE」。スマート防災コミュニティセンターである一方で、先進テクノロジーを用いて、停電時や災害時に一定期間、エネルギーを自給できる自立型の防災センターとして機能するようにつくられるという。さらに、非常用電源として、駆動用バッテリーから電力を取り出すことができるV2H(ヴィークル・トウ・ホーム)スタンド、防災水槽、使用済み車載バッテリーを再利用した、世界初の定置型蓄電システムであるスマートグリーンバッテリー、防災備蓄庫なども設置される。
そのほかに、電動自転車のシェアサイクルや、「次世代型電気自動車(E V)」の導入といったこともすでに予定されている上、先述のMORIZONO HOUSEでは、カルチャースペースや、コミュニティ・ラウンジ・キッチンを設備。コミュニティ内の住民同士の交流を図るパーティーやイベントなどを開催することも想定済みだ。
(写真提供/トヨタホーム)
(写真提供/トヨタホーム)
「例えば複数の企業のサテライトオフィスを街の共有スペースとして利用したり次世代モビリティが自動運転で街の中を自由かつ安全に走行し、高齢者やお子さんの移動手段となっていたり、住宅内のセンサーを設置して音や光を感知するセンシング技術と連携することで、住まいの不具合が生じた際に駆けつけサービスを行うといったことが、近い将来実現できるのではないかと考えています。また、お店に人がモノを買いに行くのではなく、お店を“可動”にすることでモノを欲しいと思っている人のところへお店の方からやってくる、といったこともできるようになるかもしれません。高齢化、ライフスタイルの変化、そしてこのコロナ禍での価値観の変化など、さまざまな暮らしの変化が起きています。でも、最先端の技術を最大限活かすことで、そんな変化に対応した、どんな人にとっても心地よい住まいや街をつくることができると思います」(粂田さん)
PLTには、7社(トヨタ、パナソニック含む)から、それぞれ異なる背景を持った社員が集まってまちづくりに取り組んでいる。小島さんが「この半年は、驚きと勉強の日々だった」というように、ビジネス習慣から持っている技術や知識についても違いがある中で、手を取り合って進めていく道は決して平坦ではないはずだ。だが同時に、社員の士気は高いという。
多様性あるアイデアやソリューションが集まるP L Tが提供する未来型都市が、世界に先駆けて超高齢社会という大きな問題を抱える日本が誇れる社会課題型ソリューションになることを期待したい。
●取材協力パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送るパリジャン・パリジェンヌのおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。今回はパリ在住45年のマサトさん(夫)とユキコさん(妻)の住むパリから80km離れたセカンドハウス<ウィークエンドハウス>を訪れました。連載名:パリの暮らしとインテリア
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。森と川、自然に囲まれたパリから80km離れた村へ
パリ在住のマサトさんはパリにヘアサロンを3店舗、日本では2店舗を持つ有名ヘアアーティスト、ユキコさんはアクセサリーデザイナー、独り立ちした娘のアリスさんはグラフィックデザイナー。パリではアパルトマンを5回引越しをし、今は145平米4部屋ある6区の住宅街に住んでいます。今回はそんな家族が週末ごとに集まる、パリから80km離れたButhiers(ビュテイエール)という村にある<ウィークエンドハウス>(とお二人が呼ぶ)まで足を延ばしました。パリ番外編です。
パリからウィークエンドハウスへ向かう間の村。パリから少し離れただけで、アパルトマンではなく一戸建てばかりの町並みに(写真撮影/Manabu Matsunaga)
パリからの道中にある有名なクーランス城(写真撮影/Manabu Matsunaga)
<ウィークエンドハウス>がある村ビュテイエールは、パリからフォンテーヌブローの森を抜け、ジャン・コクトーが住んでいたことでも有名なミリ=ラ=フォレを過ぎたところにあります。
「周りには森があったり小川や沼があったり愛犬のルーの散歩には絶好のロケーションなんです。この村には友達が住んでいて様子が分かっていたので安心して家を買うことができたのです」とマサトさん。毎日パリへ通勤できる距離でもあり、マサト夫妻のように週末ごとに通ってくる人も多くいます。
普段はパリのアパルトマンから仕事場へ通い、土曜日の夕方から火曜日の夕方まで<ウィークエンドハウス>で過ごすそうです。「ここは2軒目なんです。28年ぐらい前に娘のために購入した1軒目は、ここよりさらにパリから遠く100km離れたシオワという村でした」と購入のきっかけは良い空気を吸わせたいという思いから。
しかし、その家は広大な土地だったので芝刈りも庭師を頼まないとならないほど、そこでもう少しコンパクトで自分たちで全てできるような家を探し始めたのが7年前。そして巡り合ったのが元農家の家の<ウィークエンドハウス>だったそう。
アスファルトを叩いて剥がし少しずつ木を植えたりしているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
敷地は2800平米あり母屋は220平米。母屋の奥の裏庭は自分で草刈りできる程度の理想の広さだとか。農家時代に使用していたものをまだ着手できていないという場所もあるそう。通りから入るとアスファルトの広いスペースがあり、お二人ともここが気に入らない部分だとか(トラクターを乗り入れるためにしょうがなかったのだろうと想像)。正面に2階建ての母屋があり、まずそこを大々的に改装。右隣のトラクターなどの重機を駐車していたガレージの上には小部屋があり、裏庭の先の小高い丘にもまだ手つかずのにわとり小屋がある。
6カ月かけた農家の家の改装はマサトさん自らが設計この元農家の家はお向かいのおばあちゃんが言うには築200年ぐらい。なんと彼女はこの家の2階で生まれたのだそう。「セカンドハウスというより不自由のない家づくりを目指したので、改装費に購入した金額の3割ぐらいをかけました」とマサトさん。
母屋の内部はマサトさん自ら設計をして、まずは壁などを壊して一部の木床を残し、仕切り直し、パリから業者を呼び寄せ住み込みで半年以上もかけて工事をするという徹底ぶり。
仕切りを外して一室にした大きなサロン。窓の外は芝生の広がる裏庭(写真撮影/Manabu Matsunaga)
サロンの一角にある暖炉の周りはくつろぎのスペース。左の壁にはアフリカのマリ人アーティストのAMADOU SANOGO(アマドゥ・サノゴ)の2016年の作品が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
50年代を意識したインテリアはル・コルビュジエやイームズ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
アメリカンなコーナーには蚤の市で見つけた農業用のフォーク、アメリカから持ち帰った角が飾られてる(写真撮影/Manabu Matsunaga)
マサトさんが設計するにあたってまず着手したのは1階の<大きなサロン>だったそう。「そこにいろいろなスタイルの空間をつくりたいと考えていたんです」とマサトさん。改装後、大きなサロンは三つに分けられ、グレーの暖炉スペース、赤が基調のミッドセンチュリーモダンの家具のスペース、そしてアメリカンなスペース。どこで過ごしても居心地が良さそうだ。
「元農家の家は窓も小さく暗い印象だったので、明かりとりの小窓をつくったらどうか?と考えたんです」とマサトさん。その効果があって、大きなサロンのどこでくつろいでも穏やかな光に包まれる。
お二人の趣味は全く同じではなくユキコさんはシックなバロック風が好き、マサトさんはナチュラルなアフリカものが好きなのだそう。マサトさんは撮影旅行であらゆるところに行き、そのたびにその土地ならではのものが欲しくなってしまうのだとか。この部分はユキコさんとも共通している。
旅した土地で必ず蚤の市やアンティークショップに寄り、古いものからインスピレーションを受けることも多いと二人は話す。今つくられたものより古いものに惹かれるというのも同じ。
しかし「長年一緒に住んでいても趣味が違うのは仕方がないと思うんです。そこで部屋のコーナーごとにテーマ性をもたせて飾ることを思いついたんです」とユキコさん。家全体で見てみると、お二人の趣味が調和され、より魅力的な空間になっていることが分かる。
藤で編んだサボテンのオブジェはスペインを旅した時に、藁で編んだ馬は南仏のカマルグで、旅で出会って家に飾るというのがお二人のスタイル(写真撮影/Manabu Matsunaga)
イームズの棚には旅各地の蚤の市で見つけたものが飾られている。肖像画はalexis kaloeffのサイン入り。ジャン・コクトーのお皿は近くの蚤の市で購入。かなり古いものらしい(写真撮影/Manabu Matsunaga)
1階は大きなサロンのほかにキッチンとダイニングがあり、サロンとの仕切りの壁にも小窓をつくり、クリスタルの食器や陶器の果物が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
<食>にちなんでダイニングの食器戸棚の上には、テリーヌポットとテーブル静物画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
チェストの上はユキコさんの好きなバロック風。ガラスドームの中のアンティークのオブジェは昔の流行の結婚式の引き出物のスタイル、ミリ=ラ=フォレの蚤の市で購入(写真撮影/Manabu Matsunaga)
好きなものだけを家に置く、という徹底したスタイルでこれらのコーナーは何年もかけて築き上げられたもの。「このウィークエンドハウスは飾ることを楽しめる家」とマサトさん。まだまだ進化していく途中と楽しそうに話してくれました。インテリアのへのそんな情熱はどこから湧き上がってくるのでしょうか?
インテリアのヒントは、旅の度に訪れる公開されている著名人の家から「私たちはインテリア好きで、旅行先でも人の家(一般公開されている著名人の家)を見ることが共通な趣味なんです」とユキコさん。家を見て回るのはその人となりのスタイルが垣間見れ、この空間で彼らが暮らしていたのかーと想いを馳せることがとても興味深いのだとか。
「例えばアメリカ縦断の旅(3週間)でエルヴィス・プレスリーの家を見に行きました。大きくはない家でしたが家を挟んだ通りの向こうには専用飛行場があって驚きました」とお二人。
「建築家フランク・ロイド・ライトの家も感銘受けました。何もないところにひっそりと立つ姿には感動です」とマサトさん。
「この近くの村ミリ=ラ=フォレにはジャン・コクトーの家も公開されているのですよ。家だけではなく彼の庭づくりも参考になりおすすめです」とユキコさん。
このように、お二人が熱く語る著名人の家の数々からヒントを得て、”人となりの現れる<家>”という捉え方を常に意識しながら家づくりに励んでいるのだそう。どこかで見たヒントから自分らしい家づくりが生まれてくるとも。
階段下の廊下の壁には額がたくさん飾られています。額装された鏡と旅で見つけた田舎の風景画をミックスするのがマサトさん風(写真撮影/Manabu Matsunaga)
コロナ外出規制時の一番大掛かりなDIYは寝室の壁の塗り替え1階には大きなサロンとキッチンとダイニング、2階にはご夫婦の寝室とは別に3部屋の客室があります。2階の一番奥にあるお二人の寝室も新たに設計し改装したそうです。
「寝るための寝室というよりは、ここでもくつろげるスペースをつくりたかったので、かなり広く設計しました」とマサトさん。ベッドのほかに椅子とテーブルを窓辺に設置。庭を見下ろす形に窓が配置され、ここでも明かり取りの小窓が空間を個性的に照らしています。
コロナによる外出規制の時に、壁の一面だけをブルーに塗り直したお二人の寝室(写真撮影/Manabu Matsunaga)
塗り直した壁には額装した京都の着物の生地の原画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
映画運動・ヌーヴェヴァーバーグの象徴とも言える赤のソファー。天窓があり、とても明るい室内(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「客室3室は壁紙が素敵だったので、一部を残してほかは白のペンキで仕上げました」とゆきこさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「ウィークエンドハウスに欠かせないのは客室」とお二人。友達が遠くから来てくれて日帰りというのは実に味気ないとか。パリとは違ってゆっくりとした時間、良い空気、自然を身近に感じられる魅力を友達にも味わってほしいからだそう。
コロナの外出規制の時にパリではなく<ウィークエンドハウス>で2カ月以上生活をしていたお二人。この時ばかりと壁のペンキ塗りをしたり、家の細々したことに手間をかけることができた貴重な時間だったと振り返ります。
庭があることで外出制限の息苦しさを感じることなく過ごせたそう。確かにパリのマンションで家族全員が顔を合わせ、必要な買い物も1時間以内、歩き回れるのも直径100m以内という一番厳しい規制があった時には、この家はパラダイスだったはずです。
次回はそんな庭での過ごし方、マサトさんの陶芸アトリエ、夏の部屋などをご紹介していきます。
(文/松永麻衣子)
新型コロナの影響で国内・海外経済は大きく停滞し、各種経済指標も大幅に悪化しています。不動産市場においては一時的に住宅取引数が50~80%減と大幅にストップするなど暗雲が立ち込めましたが、結論を言うと住宅市場は、すっかりコロナ前に戻っているどころか、たまっていた需要が噴き出し活況を呈しています。
リーマンショック時との違い
もちろんインバウンド需要を見込んだホテルや、人が多く集まる会議室、レストランが入る建物などは大打撃で回復の兆しも全く見えない状況です。一方で住宅市場は、新築マンションについては首都圏の取引数85%減、中古市場についてはおよそ半減といった状況に陥ったものの、価格は全く下落していないのです。その理由は明白で、2008年のリーマンショック時のような金融システムが破綻したわけではなく、積極的な財政出動や無制限金融緩和、金融機関による無利子融資などによって、手元資金が潤沢であるためです。また、当時と違ってマンションデベロッパーの大手寡占化が進んだことで、比較的に資金体力があるといったことも一因です。リーマンショック時には抱えきれない在庫の投げ売りが起き、数千万円の値引きは当たり前といった底なしの市場となり、ほどなく多くのデベロッパーが破綻していきました。
当時と決定的に異なるのは、今回のコロナによる自粛期間中は、売主・買主ともにひたすら様子見といった状況にあり、緊急事態宣言解除後はすっかり元に戻ったどころか、まだデータには表れていないものの、新築・中古ともその動きは非常に活発で成約も順調に進んでいるようです。東京都内を中心に新築住宅を供給する会社や埼玉県を中心に新築住宅を供給する企業は、単月で過去最高を更新しそうだといいます。中古住宅など不動産仲介の市場も、好調のところが多いようです。
(画像/PIXTA)
また、リモートワーク(在宅勤務)の進展による「都心・駅近ニーズの減退」「郊外や地方移住が増える」といった予想も、結論を言うと大外れで、そうしたニーズは限りなく限定的。むしろ「電車など公共交通機関利用による密を避けたい」「通勤時間というものがいかに無駄かを実感した」といった向きが多く、より都心に、より駅近にといったニーズが強くなったように思われます。
以上はあくまで筆者による各所へのヒアリングに基づくものですが、結果は数カ月後のデータとなって表れるはずです。
結局は日経平均株価がほぼコロナ前に戻ったことが大きいでしょう。日米欧が協調し無制限の金融緩和措置をとることで金融システムが維持され、各国や各企業の資金繰り懸念がおさまり、現在ではむしろ市場にマネーが大幅に余剰した状態で、株価はもちろんゴールド(金)や債券、仮想通貨などのあらゆる資産価格は高止まりしています。同様に不動産市場は一部を除いて変化がないどころか需要超過といった状態です。
出典:東日本不動産流通機構(都心3区は千代田区・中央区・港区)
また例えば中古マンション市場は、新規の売り出しが控えられたため在庫は減少しており、この事は取引価格維持の方向に働きます。
(出典:東日本不動産流通機構)
不動産市場の今後は?「ホテル需要がなくなると、新築マンション価格にも影響が出るのではないか」といった声もありますが、それも限定的でしょう。というのも、これまでホテル用地取得で優位だったホテル需要がなくなっても、新築マンション需要が控えているからです。ここ数年新築マンション発売戸数が年々減少してきたのは、都心・駅近を主な条件とするホテル用地取得と競合してきたからという側面も大きかったのです。
もちろん今後、コロナの第2波や新種や変種が登場する、台風や線状降水帯といった水害や大地震などの天災地変、世界情勢における地政学的なリスクなどが重なるようなことがあればこの限りではないでしょう。変化の兆しは金利上昇に現れるはずですが、現在のところそうした予兆は見られません。
むろん住宅市場は、特に都心部・都市部において、2012年の民主党から自民党への政権交代以降一本調子で上昇し続けてきたところ、その勢いに陰りが見られはじめたタイミングでしたので、ここから再び大きく上昇するという状況でもありません。
ただし、これだけ世界の金融市場にマネーがあふれると、それはどこかに向かうでしょうか。30年前のバブルと状況は酷似していて、景気は目立って回復していないのに株や不動産などの価格が上昇する「資産バブル」とでもいった状況が再来してもおかしくありません。そうならない場合は、じわじわデフレが続く、ないしはインフレにも景気回復にもならず、不動産をはじめ各資産価格も頭打ち、といった状況が続くでしょう。
いずれにしても不動産市場は引き続き
(1)価値を維持する、あるいは価値が上がる不動産
(2)なだらかに下落し続ける不動産
(3)限りなく無価値になる、あるいはマイナス価値となる不動産
といった「三極化」の途上にあるといえるでしょう。
リモートワークが取り入れられるなど、コロナ禍で私たちの仕事環境が変化したように、子どもたちを取り巻く状況も刻々と変わりつつある。休校期間を機に、オンライン授業を取り入れた塾や学校もあり、家庭での学習スペースについては頭を悩ませるところだ。そこで、子どもの学習環境についてあらためて考えてみた。
トレンドのオンライン授業、親が見守る? あえて覗かない?
今回、早稲田大学人間科学学術院准教授であり、環境心理学や建築計画学、こども環境学を専門として、2児の父でもある佐藤将之先生にお話を聞いた。
ちなみに筆者の小学4年生の娘は、休校中から大手塾の無料サービスであるオンデマンド型のオンライン講座を受講中だ。開口一番、知りたかった疑問を佐藤先生に投げかけた。
それは、双方向ではなく一方向の、オンデマンド型のオンライン授業は、保護者が見ている中で受けさせるべきか、離れて一人にしてあげた方が集中できるのか、という問いだ。講師からこちらの様子も見られる双方向型であれば、親は席を外そうなどと考えますが、一方向型の場合はどうなのでしょう、佐藤先生!?
「それは、子どもによります。ひらけた環境で、元気いっぱいに盛り上がりながら学習したい子もいれば、静かな環境の中、一人で学習したい子もいます。大事なのは親が一方的に決めるのではなく、その子が成長に応じて発するシグナルをキャッチして、柔軟に考えていくことです」
親が見守るor見守らないという二択の答えしか考えていなかった筆者は、目からウロコが落ちるのを感じた。
幼児や子どもが過ごす環境や建築に関する研究も行う佐藤将之先生。2020年8月19日に著書『思いと環境をつなぐ 保育の空間デザイン 心を育てる保育環境(小学館)』が発行(写真提供/佐藤先生)
ウィズコロナの今だからこそ、親子で話し合い、特別感を楽しむ「ウィズコロナの今を、問題を考える機会だと捉えてほしいですね」と佐藤先生はいう。
「学習スペースに関しても、子どもの意思を大切にするのであれば話し合いが重要です。普段、塾や学校でどんな発言をしているかにもよりますが、日常の勉強場所はリビングだとしても、『発言を親に見られるのは恥ずかしい』『親に見られにくい場所で生中継のオンライン講義に没頭したい』という子がいるかもしれません。そうであれば、積極性を大切にするため、親から見られない勉強場所が必要かもしれません。また、子ども部屋を与えていたがそこで勉強はしていなかったという場合は、逆に親の側のリビングでオンライン授業を受けると、緊張感を持って学習を続けられるケースもあり得ます。これを機に、勉強場所の移動について検討していただきたいですね」
また、佐藤先生は「ウィズコロナで、普段はできない特別感を楽しんでみては」とも。
「子どもたちには、『オンライン授業を受けなければ……』というやらされ感で失望するのではなく、新しい勉強方法を試す機会と考えてほしいですね。例えば、タブレット端末の小さな画面で見づらさを我慢するのではなく、テレビと接続してリビングの大画面で授業を観るなど、普段はできない特別感を味わって。非日常感を許容し、親子で前向きに楽しんでいただきたいと思います」
我が子がにぎやかに勉強したいタイプなら、親子一緒にオンライン授業を受けて『難しい問題だったね』『あの先生って面白い!』などとコンテンツを共有するのも、コミュニケーションに一役買いそうだ。
自分が育った環境を押し付けないように配慮を「親は、自分が育ったのと同じような環境を与えがちです。でも子どもの個性は十人十色で、きょうだいであっても性格や成長の度合いが違いますから、一人ひとりに合った環境を考えてあげないと」と佐藤先生は話す。
親が早くから個室を与えてもらって育ったなら、自分の子どもにもそうしてあげるべきだと考えるだろうし、きょうだいと同室だったり、個室がなくても不便を感じなかったりしたら「勉強はどこでもできる!」とその価値観を押し付けてしまいがちということだ。
「子どもは、小さいうちは親の目が届くところにいたがるものです。ダイニングやリビングのテーブルなどで勉強するいわゆる『リビング学習』が増え、それを受けるように住宅業界では2000年代初頭に、リビングの中に子どもの学習スペースを設けるブームが起きました。多くのハウスメーカーがリビング学習に対応した商品を共有していたのですが、2015年ごろに検証した結果、中高生になってもリビングのその居場所を活用する子どもたちの様子が確認できました。それでも成長するにつれ、子どもは一人で勉強したり遊んだりするスペースが欲しくなることがあります。中学生くらいになると、個室が欲しいと考える子もいます。各家庭の事情はあるでしょうが、学習スペースにカーテンをつけて区切っただけでも本人が満足したという例もありますから、子どもの特徴や主張に合わせて調整していくことが、『ちょうどよい』と思える親子関係をもたらすと思います」
ちなみに、自宅のスペースに限りがあるとしても、学習机のように勉強道具を常設できる場所は用意した方がいいようだ。
「近年は『教科センター方式』といって、国語や社会、英語などの教科ごとの専用教室に生徒が向かうスタイルが、公立の中学校であっても再普及していますが、それでも、自分のホームとなるスペースは必要だと考えられています」
成長に応じて、学習スペースは柔軟に変化させる現在、中学1年生と小学5年生の父である、佐藤先生のご自宅の例を紹介しよう。
「長男が小学生になったタイミングで話し合い、3階建の3階にそれぞれの子ども部屋を設けていたのですが、まだ個室では勉強をしたくないということだったので、子ども部屋は『寝る』部屋に。学習机は2階のリビングに運び、子どものスペースを『寝る』と『勉強する』の2拠点にしました」
すると、あちこちで散らかりがちだったおもちゃも、二人が子ども部屋から好きなものを選び、リビングに持ち込んで入れ替えるようになったので、リビングの子どものスペースを整理整頓する習慣が身についたのだとか。
2014年、小1の長男が登校前に2階のリビングで勉強する様子(写真提供/佐藤先生)
2017年、2階リビングの一角に学習机を並べてつくった子どものスペース(写真提供/佐藤先生)
上の写真と同時期。机の左右を入れ替えることによって離れて座ることもできたが、兄が弟に勉強を教えるなど2人が「近づきたい」ということで、互いが近いこの配置に(写真提供/佐藤先生)
長男が中学生になったタイミングで再度話し合ったところ、「個室で塾のオンライン授業を受けたい」とのことだったので、新たに長男の机を個室に配置。リビングにあった机には母親が本などを置き、個人のスペースをつくることができた。
「中1の長男は勉強時には個室で過ごしていますが、小5の次男は今も、リビングにある学習机やテーブルで勉強していますね。長男と同様に、次男にも個室に机を置くことを聞きましたが、それは不要だと、本人がリビングで勉強することを選びました」
2020年6月、長男の部屋。長男のみ学習机を3階の個室に移動した。塾のオンライン授業には長男が個室で、次男はリビングで打ち込む(写真提供/佐藤先生)
学習スペースに関しては、親が「この学習環境でいいよね」と誘導するのではなく、「ウチではこれとこれができるけど、どこで勉強したい?」と選択肢を用意して、本人に選ばせることが大事だという。
「自分が『この環境で頑張ろう』と決めることで、本人のやる気も明確になります」
限りある間取りや空間を、アイデア次第で住みやすくウィズコロナ時代に活用できそうだと編集部が注目した空間が、三菱地所と三菱地所レジデンスが開発した『箱の間』だ。国産の無垢材を使用した、家具デザイナーによる“建築と家具の間”という商品で、居室内の間取りや空間に新しい居場所をつくることができる。2017年にはグッドデザイン賞を受賞した。
まず、コロナ禍前後で、住まいのニーズに変化はあったのか。三菱地所広報部の益和江さんに聞いた。
「コロナ禍において、テレワークとなった親御さんも少なくなく、その場合、お子さまと同じスペースでお仕事をされるといったケースも多かったようです。その中で、常にお子さまの気配を感じていたいというニーズを、多くの方から感じています」
可能なのであれば、子どもの側で仕事をしていたい。その気持ちはよく分かる。
オンライン授業を想定した子どもの学習スペースとして、『箱の間』のおすすめの使い方はありますか?
「『箱の間』を、ダイニングの周囲から見える場所に置くといいのでは。オンライン授業中も、お子さまとしては独立したスペースにいるようにも感じられますし、親御さんからは様子が見えています。緩やかに繋がりつつ独立している『箱の間』は、オンライン学習に有効に活用できると思います」
ほかに、対面キッチンの前に『箱の間』を置いて、ダイニングテーブル兼子どものスタディコーナーとして使っている事例もあるそう。
対面キッチンの前に『箱の間』を置いた実際の事例。隠れたり潜ったり、子どもたちの遊び場としても活躍(写真提供/三菱地所)
「常にお子さまの気配を感じていられる活用法です。お客さまからは『対面に座って宿題を見てあげることができたり、座面下の収納に学習用具をまとめて収納できたりと使い勝手がよく、親子共に気に入っています』と言っていただいています」と益さん。
半面、子ども部屋としての独立性にこだわりたいときは、リビングダイニングやキッチンに背を向けて配置するといいそう。限られた間取りや空間でも、一人ひとりの好みに合わせてアレンジして、住みやすくしていくことは可能なのだ。
空間を仕切るように『箱の間』を使用した、リノベーションマンションのモデルケース(写真提供/三菱地所)
コロナ禍で、小さな口にマスクをして登校する子どもたちの息苦しさを、私たち大人は知らない。皆元気に明るく振る舞っているけれど、本当は思いっきり友達とじゃれあったり、おしゃべりしたりしたいはずだ。
だからせめて、家の中では笑っていてほしい。そして、学校でも塾でもオンライン授業でも、「勉強って楽しい!」と思う瞬間が訪れることを願う。そのために親ができることは、子どもの主張に耳を傾けて、一緒に考え、サポートしていくことなのだと改めて感じた。
筆者は娘と机を並べている。オンライン授業について親子で話したところ、「ママに見られるのはちょっとイヤだった」とのこと……。オンライン授業中、私は席を離れ、娘はヘッドフォンを使うことで今回は一件落着。これからも定期的に話し合い、見直していこうと思う。
●取材協力新型コロナウイルスの感染リスクを低減しつつ、街のにぎわいを生み出すにはどうしたらいいのか、テラス席を設置して活用するなど、屋外を有効利用しようという試みが世界中ではじめられています。今回は都市部にある遊休地を活用して、半屋外・風通しのよい環境でにぎわいを生み出す取り組みをご紹介します。
高架下・建設予定地・空き店舗など、都市部には遊休地がいっぱい
遊休地とは、利用されていない土地のこと。地価が高く、土地の高度利用が進んでいる都市部ですが、鉄道や高速道路の高架下、建設予定地、空き店舗など、実は使われていない土地=遊休地は意外にたくさんあるもの。しかも空き家問題が進んでいることから、遊休地が増えているといいます。また、2020年の新型コロナウイルスの影響で、再開発事業などもストップし、一時的に塩漬けになっている土地もあるとか。
遊休地は一見するとなにも問題ないように見えますが、街のにぎわいが損なわれますし、放置されて不法投棄などがされれば、治安や景観にマイナスとなります。
「私自身、まちづくりや都市開発に14年ほど携わってきましたが、空き地や空き店舗など都市部の空洞化、スポンジ化が大きな課題のひとつでした。遊休地や空き家・空き地は街の活力を奪い、心理的にも視覚的にも大きなデメリットになっているんです」と話すのは、遊休地に屋台を並べて新しいにぎわいを創出している「Replace」の中谷タスク(なかたに たすく)さん。
写真最左が中谷 タスクさん(写真提供/Replace)
課題となっている遊休地でなにかできないか、中谷さんが考えだしたのが「屋台」という手法です。飲食店は店舗を構えるとなると1000万円以上の費用が必要になり、それが経営の大きな負担になっています。ただ、屋台であれば初期費用が店舗と比較して1/20以下、キッチンカーと比べても1/6以下で済み、利益を生みやすくなります。
また、土地の所有者からすると、活用しかねていた土地を貸すことによる賃料収入を得ることができ、街ににぎわいも創出できるというメリットがあります。
京都府京都市の「梅小路京都西駅」の廃線跡の「梅小路ハイライン」に小籠包やクラフトビール、おでんなどの屋台が並ぶ様子。屋台って並んでいるとやっぱりワクワクしますよね……。8月7日からエリアを拡大してリニューアルオープンするとのこと(写真提供/Replace)
「今までにぎわい創出を目的として、土地所有者、例えば鉄道事業者などがイベント開催費用を負担していましたが、この仕組みでは反対に賃料収入を得られる。何よりにぎわいも生み出せて、地域のブランド力の向上につながると考えています」(中谷さん)。
また、屋台そのもののデザイン性を向上させ、スタイリッシュな印象にしているのも印象的です。
実際、以前は不法投棄や違法駐輪でいっぱいだった大阪環状線天満駅の遊休地で中谷さんが実施した「ほんまのYATAI天満」では、駅の印象を大きく変えただけでなく、「この場所に来たい」と屋台を目当てに訪れる人も増えているとか。遊休地が資産になっている好例といえるでしょう。
「ほんまのYATAI天満」には焼き鳥、台湾料理、沖縄料理などの幅広い種類の飲食店の屋台がならぶ(写真提供/Replace)
屋台は半屋外で風通しのよさは抜群。でも人との距離が近い…新型コロナウイルスの対策でいうと、屋台は「屋外」になるので、「密閉」にはなりませんし、お弁当やテイクアウトなどの業態とも親和性が高く、時流にあわせて業態を変えられるのも大きな魅力です。
「ただ、屋台では店主と客、客同士、つまり人との距離が近いことがあるんです。ここで会話がうまれて、新しい交流がうまれる。一方で、アルコールが入ることも多く、『密接』に近くなることも。そこはマスクや消毒など対策を徹底しつつ、取り組んでいます」と話します。
現在、Replaceには廃線跡や高架下、公開空地などに出店しないかという引き合いも多いといいます。
「屋台を始めたいという飲食店側、土地の所有者、それぞれからの問い合わせが増えています。街のにぎわいを絵に描くだけでなく、実際につくりだしていけたらと思っています」(中谷さん)
遊休地の活用法は飲食店だけではありません。「Tinys Yokohama Hinodecho(タイニーズ横浜日ノ出町)」(神奈川県横浜市)は、鉄道の高架下に複数のタイニーハウス(小型の移動できる住まい)を設置して「Tinys Hostel (タイニーズホステル)」とイベント・飲食スペース「Tinys Living Hub(タイニーズリビングハブ)」のほか、目の前を流れる大岡川で水上スポーツ「SUP(スタンドアップパドルボード)」などが体験できる「Paddlers+(パドラーズプラス)」からなる複合施設です。可動式の5台のタイニーハウスを設置することで、食べるだけでなく、遊ぶ、集うということも可能です。この「Tinys Yokohama Hinodecho」を運営する川口直人さんは、高架下の遊休地の可能性についてこう話します。
鉄道の高架下に可動式のタイニーハウスを並べてできた「Tinys Yokohama Hinodecho」(写真提供/YADOKARI)
「Tinys Yokohama Hinodecho」にはタイニーズホステルがあり、宿泊も可能に(写真提供/YADOKARI)
高架下は半屋外なので換気は良好。密を避けるにはぴったりの環境だ(写真提供/YADOKARI)
「遊休地は土地の所有者が今後、どうするか決めかねているということも多いもの。建築物は一度、つくってしまうと動かせませんが、可動式の施設を使うというのは、相性がいいのかもしれません。このスタイルだと、一時的にお試し・実験的に事業をすることも可能です。また、今回の新型コロナ対策のように大きな変化があっても、柔軟に対応することができます」と川口さん。
ちなみに「Tinys Yokohama Hinodecho」ができたのは2018年。もともとは違法風俗店が立ち並んでいたエリアでしたが、アートによるまちづくり、「Tinys Yokohama Hinodecho」などの努力によって、街の雰囲気が大きく変わりつつあった矢先、今回の新型コロナ騒動がおきました。今後のにぎわいについてどのように考えているのでしょうか。
「高架下は屋根や壁がなく、半屋外になるため実は換気が抜群なんです。また、タイニーズ横浜日ノ出町では基本的には外から何をしているのか見えるデザインになっています。ウィズコロナでは外から何をしているのか、にぎわいが可視化されて、不安を取り除けることがとても大切だと考えています」(川口さん)
大岡川から川を下れば、みなとみらいの風景を眺めながら水上スポーツ「SUP(スタンドアップパドルボード)ができる(写真提供/YADOKARI @横浜SUP倶楽部)
さすがに密接・密集になるようなイベントはできませんが、それでもにぎわいを取り戻すための取り組みは続けています。
「街のにぎわいは、人が集まり、交流からうまれます。人が集まって語らうことは、街を守ることにもつながります。感染を恐れるあまりネガティブになりすぎるのではなく、気をつけながら街が少しずつ回復していくことを願っています」と川口さん。
「遊休地」を単なる「困った場所」ではなく、新しいにぎわいの場所とするために、試行錯誤はまだまだ続きそうです。
●取材協力在宅勤務で通勤の負担は減ったけれど、何だか夜ぐっすり眠れない……。そんな人が増えている。
新しい生活様式には慣れても、睡眠環境が整っていなければ、知らぬ間にストレスを溜め込んでしまっているのかもしれない。一体どうすれば快適な睡眠を取り戻せるのだろうか?今回はこれまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきた快眠セラピストの三橋美穂さんに、快眠スペースのつくり方や睡眠の質を上げる方法を伺った。
自覚のない睡眠不足はこんなサインに気をつけて最近何だか眠りが浅い気がするのは、気のせいではなさそうだ。
過去の調査では、災害に遭った人には睡眠の問題が生じやすいと言われている。1995年の阪神淡路大震災では被災地住民の60%、1999年の台湾地震では69.1%に不眠症状がみられた(※1)。
今回の新型コロナも例外とは言えそうにない。実際に、メンタルヘルスの悪化を示唆するSNS投稿が1月から4月にかけて80倍以上に急増したとの調査結果が出ており(※2)、在宅勤務へ移行したことによって睡眠時間は伸びたものの、睡眠の質は全体的に下がったことが明らかになっている(※3)。
新型コロナウイルスが睡眠に与えた変化(株式会社ブレインスリープ調べ)
コロナ禍による生活スタイルの変化が睡眠に及ぼす悪影響を、快眠セラピストの三橋さんは次のように指摘する。
「在宅勤務になると、就寝・起床時刻や食事の時間が日によってまちまちになったり、朝日を浴びないまま仕事を始めてしまったりする人は多いのではないでしょうか。夕方以降のうたた寝で夜眠れなくなり、深夜まで仕事をしてしまっている人もいるかもしれません。こうした生活を続けると、体内のリズムが乱れ、睡眠の質が落ちてしまいます」
在宅勤務をしたことのある方なら、一つは思い当たる節があるのではないだろうか?
「毎日6時間は寝ているので、睡眠不足の自覚はない」という方もいるかもしれないが、三橋さんによると、個人差はあるものの大人に必要な睡眠時間は7~8時間。睡眠不足のサインは日常のあらゆる場面に現れているらしい。
「睡眠不足になると、感情のコントロールが上手にできなくなると言われています。例えば、ちょっとしたことでイライラしたり、逆に落ち込みやすくなってしまうことも。睡眠不足のカップルは喧嘩しやすいという報告もされています。最近子どもやパートナーに当たってしまうことが増えたと感じたら、すぐに睡眠を見直しましょう」
十分な睡眠が取れない日が続くと、自律神経が乱れ、身体機能を正常に維持できなくなる。感情だけでなく、食欲もコントロールできなくなり、つい食べ過ぎてしまうことも。高血圧や低血圧にもなりやすく、糖尿病やがん、うつ、脳卒中のリスクも高まるという。
決して軽く見ることのできない睡眠不足。一体どうすれば、私たちはぐっすり眠れる日々を取り戻せるのだろうか?
快眠スペースをつくる5つの条件(写真/PEXELS)
三橋さんによると、自宅で快眠スペースをつくるために大切なのは「明るさ」「温度」「湿度」「音」「寝具」の5つの要素だという。順番に解説してもらった。
1.明るさ
「部屋の明るさは0.3ルクス以下にして寝ることが推奨されています。これは暗闇に近い状態。豆電球は明るすぎるので、寝るときは全て消灯するようにしましょう」
部屋を真っ暗にすると怖くて眠れない人はどうすれば良いのだろう?
「フットライトを使うようにしてください。目に直接当たらないところからほのかに照らす程度であれば、豆電球よりは光の刺激を抑えられます」
2.温度
「冬は18度以上、夏は28度以下がよく眠れる温度です。外気温と温度差がありすぎると体の負担になるので、夏は26~8度ぐらいの間でエアコンを設定するようにしてください。ただ、寝具や服、体質によって、適切な設定温度は変わります。いろいろ試しながら、自分がぐっすり眠れる温度を見つけてみてください」
3.湿度
「湿度の基準は季節問わず40~60%です。夏は湿度が高くなりますが、冷房をつければ下がります。現代の夏はエアコンなしには眠れない日も多いと思います。暑さで寝苦しくて途中で目が覚めてしまう方は、エアコンは朝までしっかりつけておくようにしましょう」
4.音
真っ暗な部屋のほうがよく眠れるように、無音の部屋のほうが熟睡できる、というわけではないらしい。
「無音状態だと不安な気持ちになって、かえって眠れなくなってしまいます。ただ普通、無音状態はつくれませんから、こだわりすぎる必要はありません。静かな図書館ぐらいの静けさが目安です。もし、エアコンや冷蔵庫の音などが気になって眠れないようであれば、耳栓を使うのがお勧めです。耳に入る雑音のレベルが下がるだけで、こんなにぐっすり眠れるんだってびっくりすると思いますよ」
耳栓で何も聞こえなくなると、朝の目覚ましも聞こえなくなってしまうのでは?
「耳栓をしても完全に無音になるわけではありませんから、目覚ましの音はちゃんと聞こえます。不安な方は休日に一度試してみてくださいね」
5.寝具
「ベッドは一人一台がベストです。相手がいることによって寝返りが制限されると、睡眠が浅くなってしまうので。それでもパートナーや子どもと一緒に寝たい人は、ベッドを組み合わせれば、将来の生活の変化にも対応できますよ。ベッドを置く位置は、部屋の入り口から遠いところに頭が来るように配置するようにしましょう。ドアに近いところに頭があると、人が入って来るかもしれないと不安になり、眠りが浅くなってしまいます」
子ども部屋、カップル、一人暮らし……生活スタイル別の快眠のコツは?(写真/PEXELS)
1.子ども部屋
「子どもが朝なかなか起きないと悩みを抱える親御さんは多いと思います。子どもの寝起きを良くするためにおすすめなのは、子ども部屋のカーテンを少しだけ開けておくこと。朝になると日光が入ってくるので、目覚めやすくなりますよ」
部屋の向きによって入ってくる光の量が異なるため、「起きにくい部屋」と「起きやすい部屋」が存在するという。
「西向きの部屋は日光が少ないので、一般的に起きにくい部屋です。その場合は、カーテンを半分ぐらい開けて寝るといいですね。難しい場合は、起床時刻の30分前ぐらいから徐々に明るくなる照明を利用してみるのもお勧めです」
子どもの睡眠の質を高めるためには、「朝だけでなく夜の照明にも気をつけた方がいい」とのアドバイスも。
「子どもの目の水晶体はクリアなので、大人よりも光の影響を受けやすいんです。そのため遅い時間まで強い昼白灯の中にいると、なかなか眠くなりません。夜は暖色系の明かりに切り替えて生活するようにしましょう。今は昼白色と電球色を簡単に切り替えられる照明も多いので、特にお子さんがいる家庭では積極的に利用してみてください」
2.カップル
暑がりさんと寒がりさんが一緒に寝る場合、どちらかが寝苦しい思いをしてしまいがちだ。エアコンのリモコンの奪い合いは日常茶飯事……なんてカップルもいるかもしれない。
「そういう方は多いんですよ(笑)。その場合は、暑がりさんにエアコンの設定温度を合わせて、寒がりさんは寝具か衣服で調節してみてください。もし、寒がりさんが夏だからといってTシャツ短パンで寝ているのなら、それを長袖長ズボンに変えてみるんです。ちゃんと体の周りが覆われていれば寝冷えしませんし、薄着のときより朝起きたときによく眠れた実感があると思いますよ」
3.一人暮らし
寝室には何も置かない方がいいと言われている。ものが目に入ると気になってしまい、熟睡の妨げになるからだ。ただ、ワンルームで一人暮らしをしている人などは、視界からものを排除するのはなかなか難しい。雑然としたスペースで眠らざるを得ない場合、何かできることはあるのだろうか?
「最低限、ベッドの上には何も置かないようにしてください。携帯が枕元にあると、どうしても睡眠に集中することができません」
「たとえスマホが視界に入っていなかったとしても、近くにあるとどうしても見たくなってしまうんですよね。私のおすすめは、目覚ましをかけたスマホをできるだけ遠くに置いて寝ることです。熟睡できる上に、朝もスマホを取りに行くついでに起きられて、一石二鳥です」
たっぷり眠ると時間に余裕が生まれるワケ(写真/PEXELS)
忙しい人の中には、「たっぷり寝たいけれど、どうしてもそんな時間が取れない。多少我慢して睡眠時間を削るしかない」と考えている人もいるかもしれない。しかし実際は、「たくさん寝た方が昼間の活動効率は上がる」と三橋さんは言う。
「しっかり眠ると、体感の活動時間は伸びるんです。6時間しか寝ていないことによって日中のパフォーマンスを80%に落としているとしたら実質活動時間は14.4時間、8時間寝て残りの時間を100%活動したら実質活動時間は16時間です。たっぷり睡眠をとると時間に余裕を感じるのは、気のせいではなく本当なんですよ」
眠い目を擦って夜中まで働いても、しっかり寝て短時間働く方がパフォーマンスが上がるのなら、睡眠時間を削ってまで頑張る必要はもはやないだろう。
最後に、すでに体内時計が乱れていてなかなか眠れなくなってしまっている人のために、今日から実践できる入眠法を三橋さんに教えてもらった。
「『4 – 7 – 8呼吸法』を試してみてください。完全に息を吐ききったら、4カウントで鼻から吸って、7カウント息を止め、8カウントで口から吐く。寝るときにお布団の中で、これを4~10回繰り返すだけです。寝初めに呼吸が深くなると寝つきが良くなるだけでなく、睡眠中の呼吸も深まって疲れが取れやすくなります。最近中学生たちにこの方法を教えたのですが、『普段なかなか眠れなかったけど、この呼吸法をやっただけですごくよく眠れた』と好評でした。もちろん大人にも効果はあるので、ぜひ試してみてください」
それでも眠れないときは、一度ベッドから出て、また眠くなるのを待つのが良いという。
「眠れないときはベッドから出て、単調な作業をするようにしましょう。暖色系の明かりを暗めにつけてアイロンがけをしたり、読書をするのもいいですね。それも簡単なものではなく、難しい本がいいです。興味はあるけれども、なかなか読み進められないような本を開くと、あっさり眠りにつけると思いますよ」
今は先の見えない生活にストレスを抱えている人も多いはず。睡眠環境を見直すだけで、体の問題も心の問題も解決に向かうなら、今日から実践しない手はなさそうだ。
『眠トレ! ―ぐっすり眠ってすっきり目覚める66の新習慣』(三笠書房)
睡眠を正しく理解し、その効果を最大限にする睡眠トレーニングメソッド「眠トレ」。「睡眠の質を高める」「戦略的に眠る」「眠りの悩みを解決する」といったテーマ別に、66のメソッドを紹介する。
参考:
※1,※2 三島和夫「睡眠の都市伝説を斬る 第114回 新型コロナがむしばむ睡眠やメンタルヘルスの深刻度」Webナショジオ,2020年5月14日
※3 参考:「~新型コロナウイルスの影響による働き方の変更に伴う実態を調査~ 睡眠専門医西野精治から免疫力アップのアドバイスをYouTubeチャンネルにて独占取材」株式会社ブレインスリープ, 2020年4月27日