
15万6,000円 / 38.31平米
東急東横線「新丸子」駅 徒歩9分
多摩川にかかる丸子橋のすぐ側に立つ、リバーサイド物件。
物件は8階建ての最上階で、7階に玄関があるメゾネットタイプです。本当に目の前が多摩川なので、視線の先に建物がなく、とても開放的。
間取りは下階に広めのリビングダイニング、キッチン、水回り。上階は居室と収納になっています。 ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
渋谷ストリームに渋谷パルコ、渋谷駅構内……続々と再開発の産声があがり、近ごろ勢いにのっている渋谷。そんな渋谷に公園×商業施設×ホテルが一体となった「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」がオープンしました。そこで、ミヤシタパークがどういう背景を持ってリニューアルしたのか。関係者に話を聞きながら、施設の印象や渋谷の新たな魅力などをお伝えしたいと思います。
全長約330mの“低層複合施設”に。生まれ変わったミヤシタパークとは?
渋谷の象徴的スポットでもあった宮下公園をリニューアルし、ショッピングに食べ歩き、スポーツまで、世界中から訪れてもらうことを目指した最新のカルチャースポットに生まれ変わったミヤシタパーク。出店する商業施設はなんと約90店舗! なかでも日本初出店が7店舗、商業施設に初めて出店するのは32店舗と今までになかったお店も多くあります。
(画像提供/MIYASHITA PARK)
(画像提供/MIYASHITA PARK)
(画像提供/MIYASHITA PARK)
原宿方面へつながる北街区には、ラグジュアリーをはじめファッションブランドのお店が中心。南街区はカフェやファッションなど、さまざまなジャンルの店舗が集合しています。また、お酒好きには「渋谷横丁」は見逃せません。全国各地のご当地料理を楽しみながら楽しいひとときが味わえます。
(画像提供/MIYASHITA PARK)
(画像提供/MIYASHITA PARK)
(画像提供/MIYASHITA PARK)
憩いスポットである屋上の公園スペースは、渋谷ストリートの象徴として親しまれてきたスケート場やボルダリングウォールに加え、サンドコート仕様の多目的運動施設を新設。その反対側には渋谷の空を横切る約1000平米の芝生ひろばが広がっており、自由気ままにくつろげる憩いの場として、誰もが活用できるレジャースポットになっています。都会のど真ん中ながら、緑に囲まれた屋外でくつろいだり、スポーツを楽しめるなんてあまりないですよね!
「スターバックス コーヒーMIYASHITA PARK店」。海外のガソリンスタンドからインスパイアされたデザインだとか(写真撮影/竹治昭宏)
渋谷のカルチャーを支えた、リニューアル前の宮下公園1970年代からずっと若者文化の中心地であり続けた渋谷。渋谷といえば、若者文化と消費文化のまちといったイメージです。特に1990年代には「渋谷系」と呼ばれる若者文化や109を中心としたギャル文化が花開くことになり、ファッションや音楽などのトレンド発信地として憧れだった人も多いのではないでしょうか。そのなかで宮下公園はヒップホップやサブカルチャーの発信地でもありました。
「リニューアル前の宮下公園は1階に駐車場があり、2階に公園がありましたが、建築基準法が改正される前の1967年に建築されているので、もともと耐震上に課題があり、かつ樹木が成長して年々悪化する状況にありました。このことを改善する必要があったんです」と話すのは、公園を管理する渋谷区土木部公園課の明石真幸さんです。
改修前の宮下公園(画像提供/PIXTA)
リニューアルにあたって目指したのは、幅広い層を呼び込むことこうした宮下公園の負のイメージを払拭しようと渋谷区とタッグを組んだのが、日本橋再生計画や東京ミッドタウン、柏の葉スマートシティなど、全国でさまざまな街づくりを行ってきた三井不動産です。商業施設本部アーバン事業部の芦塚弘子さんはこのプロジェクトで目指したことを次のように語ります。
「20~30代をメインターゲットに、30~40代の渋谷カムバック層を取り込むことを考えました。公園と連動したスポーツショップや飲食店を中心に、トレンド最先端のラグジュアリーブランドから日本の流行を世界に発信するような店舗、フードホールや横丁型飲食店舗など、ここでしか体験できないような時間消費型空間の提供を目指しました」(芦塚さん)
実際、改修後は公園のイメージが一新! これまで存在したスケートカルチャーや公園ならではのコミュニケーションポイントをうまく発展させ、世界に誇れるような公園になったといっても過言ではありません。
渋谷駅方面の入口。その前に置かれた彫刻『きゅうちゃん』は渋谷駅前に鎮座する『忠犬ハチ公』の遠い親戚です(写真撮影/竹治昭宏)
リニューアルで増す、ミヤシタパークの存在感従来のイメージを払拭し、“発信力を持った公園”へと進化を遂げたミヤシタパーク。訪れる人が思い思いに過ごせ、楽しさを発見できるような“にぎわいの場所”を目指しているといいます。
その言葉どおり、「ショッピング利用はもちろん、屋上のボルダリングウォールやスケート場の利用など、オープンしたばかりですが、以前より確実に来園者は増えています」(明石さん)とのこと。
確かに屋上のプレイスポットは言うまでもなく、ニューヨーク発のストア「KITH(キス)」の日本初となる旗艦店をはじめとするショッピングスポットの数々。またショッピングだけでなく、全国のご当地グルメが楽しめる横丁や三井不動産グループの次世代型ライフスタイルホテル「sequence(シークエンス)」など、目新しいだけでなく、遊ぶ、買う、食べる、の3拍子がそろった新たなカルチャーは大人が楽しめる“遊び場”として申し分なしでしょう。
ミヤシタパークは都心にありながら、緑が感じられる環境。と同時に、ラグジュアリーブランドが立ち並び、若者カルチャーを発信するショップがあり、異なる文化がぶつかる刺激的かつ稀有(けう)な場所と言えます。それは本来持っていた宮下公園の本質に他ならないのでは? 当時青春時代を過ごしていた人はもちろんのこと、新世代の若者にとっても楽しめる、そんな場所になったのではないでしょうか。
北は北海道、南は沖縄まで、日本全国の産直食材や郷土料理、B級グルメ、ソウルフード、ご当地ラーメン、餃子、空揚げや元力士がつくる力士めしが楽しめる全19店!流しやDJなどのイベント、全国のご当地ママが登場する喫茶スナックなど、毎日がフェスのエンタメ横丁(画像提供/渋谷横丁)
公園の利用者にも話を聞いてみました。
「ファッションや飲食はもちろん、それにプラスして、屋上にはスタバがあり、スケボーやビーチバレー、ボルダリングなどを楽しめる開放的な広場が広がっていて、とても気持ち良さそうです。1階の横丁はいろいろなエリアの飲食が楽しめるというので、コロナ禍が落ち着いたらハシゴ酒を楽しみたいですね」(来訪者の声)
筆者自身もリニューアル前は、「また同じような商業施設ができるなんてつまらない……」そんなふうに思っていました。昔の温度感のある公園がなくなってしまったのは残念で、やはり均一化されてしまったなぁという印象はあるものの、入っているテナント等にひねりがあって「昔のカルチャーをバックボーンに持ちながら、すごくイマドキな感じのスタイルを追求しているな」と感じました。
公園と街づくりというと、2016年4月に全面リニューアルした南池袋公園も公園の再開発で街が大きく変わった事例といえるでしょう。開放された緑の芝生広場を開放し、公園施設の一部にはおしゃれなカフェレストランを併設。開園当初から多くの人を引き付け、園内ではマルシェなど各種イベントも頻繁に開催されているといいます。
家族のくつろぎや地域交流といったイメージからほど遠かった池袋が変わったように、ミヤシタパークのオープンとともに渋谷の街も、今まで以上に大人が楽しめる“遊び場”として今後も盛り上がりを見せていくに違いないでしょう。若者の街から全方向へとターゲットを広げた渋谷の街。今後どのようにしてさらなる街の発展を目指すのか、ますます目が離せません。
●取材協力・三井不動産
・渋谷区土木部公園課
コロナ禍で例年のようなレジャーや遠出が難しい昨今。在宅勤務を続ける会社もあり、家にいる人数と時間はいつもより増え、必然的に家事も増える……。つい、イライラする人もいるのでは。筆者もその1人だ。そこでこの時期を「家での過ごし方を見直す機会」と捉えて、家族で家事シェアについて考えてみてはいかが。筆者も実践してみた。
コロナ禍であらわになった、夫婦間や家庭内の問題
まず、家族が仲良くなければ、家事シェアは成り立たない。コロナ禍で気をつけるべき家庭内のストレスについて、社会心理学や精神保健福祉を専門とする大手前大学准教授の武藤麻美先生に聞いた。
夫婦ともに自宅にいる時間が増加したコロナ禍では、「コロナ離婚」や「コロナDV」といった問題もメディアで取り上げられていますが……。
「『コロナ離婚』について先に注意しておきたいことは、コロナはあくまできっかけであって、これが原因で離婚になるのではないということです。何らかの形ですでに存在していた夫婦間の問題が、在宅勤務の増加や休校、外出自粛などによって浮き彫りになってきたと考えられます」
ドキリとするお話だ。そして、この「夫婦間の問題」があらわになった原因として、次の2点が考えられるという。
「1点目は、在宅勤務が増えたことで、夫婦によっては家事シェアの配分がもともと対等でなくうまくバランスが取れていなかったところに、さらに片方に家事の負担が集中し、精神的な不満や体力的な限界などの問題が深刻化したという点です。特に共働き家庭の女性においては、家事と仕事 (テレワーク) のほかに、休校で子どもが日中も家にいることから増えた育児や、場合によっては夫の分の食事づくりなどまで行うことになり、いっそう負担がかかることになりがちです。ここで以前から夫婦でよく話し合っていて、家事のシェア配分が対等であったり、うまくバランスが取れていたりするカップルは、基本的にはそう大きく関係性が変わらず、逆に互いに補い合って、不安や緊張をほぐし合うことも可能です。
2点目は、各自がパーソナルスペース (心理的な縄張り) を思うように確保できないことから、フラストレーションがたまっていることが挙げられます。例えば、テレワークを行う自分専用の部屋やスペースがないことや、オンとオフの切り替えがうまくできないこと、周囲の音が気になって仕事に集中できないといったことなどから、男女ともに在宅勤務によるストレスを感じてしまうということが考えられます。
大手前大学現代社会学部心理学専攻准教授、武藤麻美先生。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士 (人間科学)。専門は社会心理学と精神保健福祉。公認心理師や精神保健福祉士、社会福祉士の国家資格も持つ(写真提供/武藤先生)
コロナ禍以前は、共働きまたは片働きをしていたことで、夫婦が子どもも含め、自然に適度な心理的距離を取ることができていました。日中は別々の空間や時間を過ごし、自分のペースやリズムを確保し、精神的な安定やバランスを取ることができました。しかし、コロナの問題により、急激な生活環境の変化が起きて、一つの場所・環境を皆で共有せざるを得なくなりました。各自がパーソナルスペースを確保できず、時間のリズムも狂うことになり、フラストレーションがたまって、喧嘩などを引き起こしてしまうのではないでしょうか」
(写真/PIXTA)
「Iメッセージ」で素直な気持ちを伝えようでは、家事の負担が家庭内で偏りがちな場合、バランスを取り直すにはどんな心がけが必要なのだろう。
「テレワークが増えたことで、家庭内の家事シェアのあり方を再考する機会にもなるのでは。これを機に、今後の家事・育児のシェアの配分について話し合うことも対策となるでしょう。これは夫婦だけでなく、子どもも良い意味で巻き込み、話し合うといいと思います」と武藤先生。
家族間での話し合いにあたり、ポイントを教えていただいた。
「自分の考えや意見を伝える際には、YOUメッセージではなくIメッセージを使用するといいですね。 『あなたは~をしてくれない!』と伝えるのではなく、『私は~をしてくれたらうれしい』『私は~を協力してくれたらすごく助かる』などと伝えると、相手が受け取る印象も大きく変わります。もちろん、パートナーだけでなくほかの家族、子どもに対しても、自分の考えや意見を伝える際に応用できますので、実践してみてください」
相手への非難や攻撃的な言い方になってしまいがちなYOUメッセージに対して、Iメッセージでは発信者目線の素直な気持ちを伝えることができるのだ。
「また、例えば子どもがお手伝いをしてくれた場合に、感謝を伝えるなどのポジティブな声かけを積極的に行うことで、子どもは自分の行動が人の役に立ち、喜んでもらえるという貴重な体験をすることになります。これは自己肯定感(自分のあり方や存在意義を肯定する感情)や自己効力感(ある状況下で自分は必要な行動がうまくできるという予期や自信)を育むことにも繋がりますから、ぜひお子さんとコミュニケーションを取りながら、家事シェアをされるといいのでは」
普段からよく手伝いをしてくれる、筆者の10歳の娘。娘専用のスポンジを買い、久しぶりに並んで洗い物をしてみたら、「家事シェアって楽しいね」とご機嫌に(写真撮影/倉畑桐子)
ほかにも、コロナ禍で長くなる家族の時間を心地よくするために、大切な考え方や取り組みを聞いてみた。
「家族全員におすすめのリフレッシュ対策としては、少しでもいいので、各々が自分の空間と時間を確保することです。例えば、一つの部屋に皆でとどまり過ぎないことや、時間を決めてリビングやダイニングに集まり、そのほかは自分の部屋で過ごしたり、社会的距離を保ったうえでの散歩や買い出し、ベランダやバルコニーで日光に当たること、目を閉じてゆっくり深呼吸する時間を設けることなどが効果的です。また、イヤフォンをして音楽を聴いたり映画やドラマを見たりして、自分だけの世界を確保することも効果があると考えられます」
「現状のコロナ禍に、家族間でよく話し合う姿勢を身につけることができれば、より良いパートナシップの構築につながるはずです。また、きちんと説明してあげるのであれば、テレワークは、子どもにとっては親が日ごろどのような仕事をしているのかを間近で見ることができる好機ともいえます。そして、親が家族のためにどのような家事をしているのかも、一緒に経験できる貴重な機会といえるでしょう」
コロナ禍での家庭内の問題は、家事シェアで家の中を快適にすることでカバーできる面も多いのかもしれない。
まずは家事の全体像を見せて「相談」を具体的な家事シェアの方法を、「知的家事プロデューサー」として、妻と夫、それぞれの立場からの意見を聞くことも多い本間朝子先生に取材した。
「ウィズコロナで、家族が長時間家にいるので、家は汚れるし料理の回数は多くなり、家事は増えますよね。一方で、みんなが家にいることで『自然と家事シェアが進んでいる』という話も聞きます。『在宅ワークになった夫が家の中のことに興味を持った』という話や、『給付金で家の中を過ごしやすくプチリフォームをした』というも聞くので、今は家族で家事シェアがしやすい状況だとも言えます」
確かに、ステイホーム中に家族で大掃除をした家も多いはず。
自身が仕事と家事の両立に苦労した経験から、時間と無駄な労力を省く家事メソッド「知的家事」を考案。TVや雑誌、セミナーや著書を通じて、時短家事のアイデアを伝えている本間朝子先生(写真提供/本間先生)
「とはいえ、いきなり大きく家事の割合を変えるのは難しいかもしれません。そんなときは掃除や洗濯、食事の支度といった家事以外に、ストレスの元となる『名もなき家事』の解決策から始めてもいいですね。『名もなき家事』は大和ハウス工業さんが名付けたものですが、例えば、話を聞いていると『僕はゴミ捨てを担当している』と言いつつ、すでにゴミをまとめたゴミ袋を回収場所まで運ぶだけしかしていない夫が多くいます。でも担当するなら、各部屋にあるゴミを集めて、空になったゴミ箱に袋をかけるところまでやってください。『捨てに行く』のはゴミ捨てのほんの一部です」
本間先生はこれまでも、「家事を積極的にやる意思があるか」「基本的なスキルを持っているのかどうか」など、パートナーの資質を見極めて、名もなき家事の負担を軽減するよう提案している。
「年代によって、パートナーがどのカテゴリーに当てはまるかによっても状況が変わってきます。現在30代半ばくらいのミレニアル世代であれば、共働きは当たり前に考えていて、家事シェアも自然にできているケースも多いのです」
ここはミレニアル世代以上に向けたお話をお聞きすることに。
本間先生が制作した「家事シェアリスト」を見せてもらった。これは最初の家事シェア会議にオススメだ。
家庭ごとに項目をカスタマイズしてつくってみたい「家事シェアリスト」の例。家事の全体像をお互いに把握し、歩み寄って、理想の割合に近づけていく(画像提供/本間先生)
「特に男性は家事の全体像が見えていないことが多いので、全体像を見せるということが大切です。現状、女性の方が家事の比重が多いのであれば、今お互いが担当している家事を書き出して『こんな風に、自分の方が多くて辛い』と現実の姿を見せること。セミナーの参加者さんに聞くと、男性は7対3の3くらい家事ができていると思っているけれど、女性に聞くと9対1で自分が9だという話をよく聞きます。それを5対5にするのはパートナーも抵抗があるかもしれませんが、8対2や7対3の割合にできたら自分がラクになりますよね」
「多くの男性は、女性に喜んでほしいと思っています。また、褒められる機会が少ないので、女性が思う以上に、褒められたり、感謝されたりすることに喜びを感じます」と本間先生。だから、例えばパートナーの男性が掃除してくれたなら「すごくキレイになったね!」「ありがとう!」などと伝えるといいそう。
そして本間先生は、男性からの意見として、「家事を褒める以前に怒らないで」という声があると話す。
「男性は、せっかく取り組んだ家事を見て、女性からがっかりされると傷つきます。また、そばで見ていられると監視されるような気分になる人もいます。だから『買い物に行ってくるから、その間にここを掃除しておいて』などと任せると、『出かけている間にキレイにしてやろう』と張り切ってくれる人も多いですよ」とのこと。
料理の時短ができ、掃除がしやすい道具の配置になっている本間先生宅のキッチン。道具の置き場所を家族と話し合って決めているため、シェアしやすい(写真提供/本間先生)
本間先生宅の冷蔵庫の脇にはスプレーモップが。「キッチンの床が汚れたらひと拭き。ボトルから水が出るので、夫も水鉄砲感覚で楽しみながら床掃除をしてくれます」という。家族のテンションが上がる道具を用意することも大事(写真提供/本間先生)
筆者の家でも、娘が掃除しているといつも乱入する息子用に、キャラクター付きのフロアモップを購入したところ、張り切った(写真撮影/倉畑桐子)
家族への思いやりを家事シェアの前提に本間先生のセミナーでは、グループワークで参加者と家事アイデアを共有している。
パートナーとの家事シェアで気をつける点として、以下のことを挙げてくれた。
・「なぜやらないの?」のYOUメッセージではなく、「私はこうしてほしい」のIメッセージで(前出の武藤先生のお話と同様)
・家事のやり方を直してほしいときは、「やり方が違う」ではなく「惜しい!」と伝える。そのあとに「こうしてくれたら、次は120点」などと明るく足りない点を伝える
・ケンカの元を避けるため、自分のこだわりがある家事は相手に頼まない
・素直に褒め言葉や感謝の気持ちが言えないときは、「ナイスサポート!」などの声掛けから始める
疲れていたり自分の心に余裕がなかったりして、感謝の言葉を口に出せないときでも、スポーツの「ナイスボール!」の感覚なら相手に伝えられそう。どれも子どもに対しても応用できそうだ。
「ただそれらも、パートナーがテレワークになるなどで、家事シェアがしやすい環境であることが前提です。そもそもハードな仕事であるとか、帰宅が遅い、単身赴任をしているなど、家事への参加が難しいケースもあると思います。また、家事スキルが低いパートナーもいます。その場合は『今のままでは大変だから、便利な家電やキットを取り入れたい』と相談してみては」
自動調理の電気鍋やロボット掃除機、食材とレシピがセットで配達されるミールキットなども、家事をかなり助けてくれるので検討しよう。
また、「共働きにも色々な状況があるので、踏まえておきたいことがあります」と本間先生。
「どちらかが家計を、半々ではなくメインで支えているという場合、やはり重責は一家の大黒柱の方にかかってきます。仕事でプレッシャーを抱えて働いてきた人たちが、『帰ってすぐに家事をするというのは辛く感じる』という声も耳にします。共働き=家事を半々ではなく、お互いが歩み寄り、納得いく形にするということが大切。家事シェア表もそのためにあるので、『自分はこれだけやっている!』と主張するのではなく、『今はこうだけど、もう少しこうできない?』と相談から始めてください」
子どもたちの自立と、未来のパートナーのためにも次に、子どもやパートナーと一緒に取り組む家事シェアのアイデアと、子どもの年代によってオススメの家事をご紹介。「子どもと家事シェアすることは、本人の自立のためでもあるし、その子の未来のパートナーのためにもなります」と本間先生。
「給食当番表のような家事当番表をつくってローテーションをすると、家族で飽きずに家事シェアできますよ。頑張った人には特典があったり、1週間の家事が済んだらみんなにご褒美を用意したりするのも楽しいと思います。子どもには最初は教える必要があるので、やはり大変ですが、だんだん任せる範囲を広げていき、家庭内でやりやすいような形に合わせていってください」
ネット上のアイデアを参考につくった我が家の家事当番表。「弟も読めるように」と、娘がひらがなで家事の内容を書いた。子どもたちはまだ全部はできないので、「当番の週は親のサポート」でもOKに(写真撮影/倉畑桐子)
家事シェアのアイデア
1)家事の候補を提示し、選択してもらう
「これをやって」ではなく、「洗濯物を干すのと洗うのではどちらがいい?」のように選んでもらうと、「自分はラクな方を選んだからいいか」「1/2個ならやろう」と納得してくれるもの。
2)制限時間を伝える
「4時までに床を拭いておいて」のように時間を伝えると、相手も自分の好きなタイミングで取りかかることができる。本間先生より、「相手がすぐ取り掛かってくれると思うのは間違い」とのこと。また、制限時間を過ぎたときには注意もしやすい。
3)肩書き制度を導入
子どもに「洗濯マイスター」「秘書さん」(パートナーには「チャーハンの匠」)などの肩書きを与えることで、本人もノリノリで家事に参加できる。肩書きのおかげでお願いもしやすくなります」と本間先生。
夏場は大量になりやすい、ペットボトルのラベルを剥がす作業。姉弟に「どっちが早いか競争。用意、スタート!」と声を掛けると、あっという間に終わった(写真撮影/倉畑桐子)
未就学児にオススメの家事
・箸を並べる
・食器を選ぶ
・料理の盛り付けの手伝い
・タオルをたたむ
・植物の水やり
・フロアモップで拭き掃除をする
・ペットボトルのラベルを剥がす
小学生からオススメの家事
・テーブルを拭く
・配膳の手伝い
・水出し麦茶をつくる
・料理のサポート
・ご飯を炊いて味噌汁をつくる
・使った食器を食洗機に入れる
・食器を洗う
・洗濯物を畳んで仕舞う
・床や窓を拭く
・自動掃除機が通る場所を片付ける
・ゴミ箱からゴミを集め、新しいゴミ袋をかける
・スプレーするだけの洗剤を使ってお風呂の浴槽洗い
タオルを畳む息子。バスタオルはまだ荷が重いのか、「小さいのだけ」と言ってカゴから選び、予想より丁寧に畳んだ(写真撮影/倉畑桐子)
「子どもに好きなスポンジを選んでもらい、親子で一緒に食器洗いをしてもいいですね。並んで家事をするとコミュニケーションの時間にもなります。未就学児なら、割れない食器を子どもの手が届くところに配置するなど、家事シェアしやすい環境づくりも大切です。いきなり難度が高い家事をシェアするとトラブルの元なので、本人ができることや、得意なことから始めましょう」
家族でホットプレートを使って料理するのもオススメだという。
「普段はお好み焼きなどをつくることが多いと思いますが、チャーハンや野菜炒めもホットプレートでつくりましょう。そこから、パートナーや子どもがキッチンでもつくりやすい流れができます」
3歳によるダイナミックなホットケーキづくり。生地を混ぜてホットプレートに落とすところまで自分でできた(写真撮影/倉畑桐子)
前出の「家事シェア表」を子どもに見せるのも効果的だそう。
「子どもにも全体像を把握してもらうことで、『家族の健康のために、大人はこれだけのことをしてくれている』、『これから自分はこの部分に貢献するんだな』という意識を持ってもらう。これは、ウィズコロナの今だからこそ、より必要なことだと思います」
また、「家事シェア以前に、できるだけ家事を減らすことも考えてみてください」と本間先生。「その家事は必要なのか、みんなの取り組みで減らせないのかと見直すことも大切です。家事シェアの方法も、日々の中で少しずつ振り分けていくのか、週末に家族全員で取り組むのか、自分のことは自分で担当するのか。どのやり方が合うのかを模索しながら、家族に合う方法を見つけてください」とのことだ。
ホットケーキと一緒にソーセージも焼いて、ラクして楽しいランチに。ホットプレートは今後も家事シェアに活用していきたい(写真撮影/倉畑桐子)
「ゴール設定が家事シェアではないですよね」と本間先生はにこやかに話した。そう、ゴールは家族が健康で楽しく、仲良く暮らすことだ。
2人の先生に共通して教わったのは、コロナ禍は家事シェアのタイミングでもあるということ。これを機に家族が一丸のチームとして「一緒に乗り越えよう!」という気持ちになることで、絆はより深まるはず。
私と子どもが「家事当番表」をつくっていたら、夫はスッと立って食器を洗い始めた。普段からシーツを洗って干すなど大物の家事を担当してくれるが、これを機に「名もなき家事」にも目を向けてくれるとよりうれしい。
今回、「あれもこれも自分でやらなくては」という思い込みを手放すと、思ったより家事シェアが進むことに気がついた。そこには、孤独な家事の反対側にある、家族と一緒に取り組む楽しさが、もれなくついてきた。
●取材協力リクルート住まいカンパニーが「2019年度 賃貸契約者動向調査」(2019年度に首都圏で賃貸物件を契約した人が対象)の結果を発表した。近年増加傾向にあった、敷金・礼金ゼロ物件が減少に転じたという。賃貸の部屋探しの現場は、今どうなっているのだろう?【今週の住活トピック】
「2019年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)」を発表/リクルート住まいカンパニー敷金ゼロ・礼金ゼロの物件が増加から減少へ
調査結果から敷金と礼金の2019年度の平均額を確認しよう。
・敷金の平均額: 1.0カ月
・礼金の平均額: 0.7カ月
敷金は、10年前の2009年度では平均額が1.5カ月だったが、前年度(2018年度)には0.9カ月まで減少し、2019年度に1.0カ月となった。2013年度以降は1.1~0.9カ月で推移し、おおむね1カ月という状態が続いている。一方礼金は、10年前の2009年度では平均額が0.8カ月だったが、2017年度以降は0.7カ月が続いており、ここ10年で大きな変化は見られない。
敷金と礼金の平均額に大きな影響を与えているのが、「ゼロ物件」の割合だ。2019年度の結果を確認しよう。
・敷金ゼロ物件の契約割合: 25.5% (前年度28.1%)
・礼金ゼロ物件の契約割合: 40.2% (前年度43.5%)
敷金ゼロ物件の契約割合は、前年度の28.1%から下がったが、それでも4件に1件は敷金ゼロ物件を契約していることになる。一方礼金ゼロ物件の契約割合は、敷金ゼロ物件よりも多い。こちらも前年度の43.5%から下がったが、8年連続で4割超えが続いている。
敷金0カ月物件の契約割合(実数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2019年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)」より転載)
礼金0カ月物件の契約割合(実数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2019年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)」より転載)
つまり、ゼロ物件の比率の違いによって平均額に差が出ているが、ゼロではない場合は、「敷金1カ月、礼金1カ月」がスタンダードと考えてよいのだろう。
敷金・礼金は何に使われる?なぜゼロにできる?では、敷金・礼金は何に使われるものなのだろうか。
「敷金」は、家賃の滞納や補修などに使われる、いわば保証金のようなもの。保証として貸主が預かるものなので、原則として返還されるものだ。ただし、借主には賃貸住宅の原状回復義務があるので、居住中に損傷した部分の補修費用などをのぞいた額が返金されるのが一般的だ。
注:ただし、地域によっては「敷引き」と言われる商慣習が残っていて、あらかじめ一定額を差し引いて返金するという契約の場合もある。
「礼金」はその名の通り、貸主に謝意を表すものとして差し上げるもの。お礼なので返還されることはない。とはいえ、近年は不動産会社が介在することで、大家さんと入居者との関係性は薄れているので、礼金の意味合いも失われてきている。
敷金については、家賃の滞納発覚からその回収まで2カ月程度かかることから、かつては敷金2カ月、礼金1カ月といった時代もあった。近年では、保証料を払って家賃保証会社に保証してもらうスタイルが増えているので、滞納や補修に関する貸主のリスクも減っている。
一方、借主にとっては、敷金・礼金を含む初期費用が高くなると、住み替え自体が難しくなってしまう。この調査結果でも「部屋探しで決め手となった項目」として、30.9%の人が「初期費用<礼金・敷金・仲介手数料など>」を挙げている。家余りの今は借主が有利な市場なので、敷金・礼金を引き下げる傾向が続いている。その結果、敷金や礼金がゼロの物件が市場に多いというわけだ。
原状回復費用に伴う敷金返還トラブルが多いのはなぜ?さて、敷金の役割からいって、退去時に何もなければ全額返還されるはずだ。しかし、現実にはそうはいかない。退去後に敷金が戻らないとか、敷金で不足する多額の原状回復費用を請求されたといったトラブルも多い。2020年4月の民法改正では、敷金が定義され、原状回復義務の範囲に関しても明文化された。それだけ、敷金返還のトラブルは多かったということだ。
借主に責任のない、通常の使用による損耗や経年劣化などについては、借主に原状回復義務がない。例えば、長く暮らせば畳が日焼けしたりするが、それは経年劣化なので、次の入居者のために畳を張り替えるのは貸主が負担すべきもの。家具を設置したら床に跡が付くのは通常の使用によるものなので、床の張り替え費用は貸主が負担すべきもの。といったことだ。
こうした費用まで借主に請求することで、トラブルになるケースが多いので、注意が必要だ。詳しくは、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公開しているので、ぜひ確認してほしい。
●国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
さて、「敷金・礼金がゼロゼロなら初期費用が安くて助かる」と思う人も多いだろう。ただし、敷金の代わりに退去時のハウスクリーニング費用という形で負担を求めていたり、賃料に少しずつ上乗せされていたりする場合もある。広告に大きく表示されている費用だけでなく、最終的にいついくら支払うかの総費用を確認して、そのうえで部屋を決めるようにしてほしい。
カレーを食べながら交流する、会員限定の“コミュニティキッチン”があるって知っていますか?職業や肩書きにとらわれず、さまざまなメンバーがMIXされるユニークなイベントが、リアル店舗とオンライン上で日夜繰り広げられています。連載名:全国に広がるサードコミュニティ
自宅や学校、職場でもなく、はたまた自治会や青年会など地域にもともとある団体でもない。加入も退会もしやすくて、地域のしがらみが比較的少ない「第三のコミュニティ」のありかを、『ローカルメディアのつくりかた』などの著書で知られる編集者の影山裕樹さんが探ります。6curryとは?
恵比寿と渋谷に、カレーを食べながら会員同士で交流する、招待制・会員制のコミュニティキッチン「6curry」があります。月額3980円で、1日1杯のカレーが無料で食べられるほか、キッチンを使って1日店長になれる権利が与えられたり、日々、キッチンで開催される会員限定イベントに参加することができます。コロナの影響もあり、6curryのウェブショップで買えるレトルトカレーをお得にもらえる、キッチンに行けない人向けのホームデリバリープランも最近スタートしました。
カレーというのはあくまで人が集まるための口実に過ぎず、6curryでは会員がはじめたさまざまな“部活”が繰り広げられています。カレーをみんなでつくって競い合うカレーバトルや、コロナ以降は週に1度オンライン上で集まって、喋りながらパンを焼くパン部も生まれました。会員が企業ブランドとコラボして商品を開発する、なんてことも。現在、会員は約400名。飲食店ともコワーキングスペースともちょっと違う、不思議なコミュニティスペースに成長しています。
6curry恵比寿店(写真提供/6curry)
6curryが生まれたのは、SNS上での何気ないやりとりからでした。現在の株式会社6curry代表の高木新平さんが「カレーを使って何か面白いことはじめませんか?」と自身のFacebookでつぶやいたのをきっかけに、ただただカレーが好きな人たちがゆるく集まって議論を交わす日々が続きました。
店舗を持たないゴーストレストランとしてスタートそんななか、ある女性が、「カロリーを気にせず、またスパイスの香りが服につくのを気にせず食べられるカレーがほしい」と提案したことをきっかけに、カップ入りのカレーの開発をスタート。野菜がたくさん乗っていて糖質的にも安心なカレーが生まれました。こうして出来上がった商品をUberEATSで販売するゴーストレストランをオープン。店舗を持たないカレー屋さんとして、オープン当時は各種メディアに取り上げられるなど話題となり、事業として上々のスタートを切ることができました。
6curryがプロデュースしたカップカレー(写真提供/6curry)
その後、リアル店舗のオープンを目指しクラウドファンディングをスタート。無事に資金が集まり、1店舗目の恵比寿店をオープン。こうして現在の会員制コミュニティキッチンのかたちが出来上がります。現在、6curryブランドプロデューサーを務めるもりゆかさんは、当時を振り返りこう語ります。
「カレーを考案する6curryLAB(ラボ)というのを立ち上げて、みんなで議論しながらカップカレーを開発したのですが、数を販売することよりも、カレー好きな人たちがラボというかたちでゆるく集まり、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながらつくる“プロセス”のほうが楽しかったと気づいたんです。そこでUberEATSでの販売を停止して、カレーをきっかけにみんなで語り合える場所をつくろうと実店舗のオープンに踏み切りました」(もりゆかさん)
カレーを開発するプロセスこそが重要だと気づいたもりゆかさん自身、クラウドファンディングの時期から関わり始め、プロジェクトページのテキストの編集だけでなく、運営の仕組みづくりなどにも関わるようになって、いつの間にかコアメンバーになってしまったそうです。「6curryをつくっていく過程が私自身、すごく楽しかった」ともりゆかさんは語ります。
6curryブランドプロデューサーのもりゆかさん(写真提供/6curry)
それもそのはず、6curryは会員と運営という関係がシームレスで、ともに6curryというプロジェクトをつくり上げる“メンバー”なのです。実際、6curryのnoteの記事を書いたり、キッチンのコミュニケーションをどうするかという、実質的な運営会議でもある「6curryLAB」に参加して「ソフトドリンクを普及させるにはどうしたらいいだろう」と議論したり、「ノンアル派向けのラインナップを増やすにはどうすればいいだろう」ということを考えるラボに参加したりなど、より深く運営サイドにコミットする会員もいます。ある意味、“生徒会”のような場所が用意されているのです。
6curryの現在の社員は代表の高木さんを除いてたった4名。恵比寿と渋谷のそれぞれの店舗に、コミュニティメンバーとフロントで関係づくりを行う「コミュニティクリエイター」と、6curryのカレーを全てプロデュースする「カレープロデューサー」、ブランドのクリエイティブ全般に関わる「ブランドデザイナー」、そしてコミュニティ運営周りを一手に担う「ブランドプロデューサー」のもりゆかさんです。「会員の方が主体的に関わってくださるので、4人で運営している感覚はないですね」ともりゆかさん。
「カウンターのはしっこ」が生み出すコミュニティコロナの影響もあってか、現在はオンラインでの交流がメインの活動になっています。しかし、オンラインでのコミュニティ運営には難しさもあります。対面で積極的に話したいメンバーと、顔を見せたくない、発言もしたくないメンバーと、ニーズに濃淡があります。そこで6curryではDiscordというアプリを導入しています。
「もともとはZoomでオンラインキッチンを試したんですが、Zoomだと全員がおしゃべりの最前線に出ちゃうじゃないですか。“自分の関わりたい関わり方”を提供するにはどうすればいいかという課題があって。Discordなら音声だけ、テキストだけで参加します、ということもできる。参加の仕方を選べるのがいいなと思っています」(もりゆかさん)
カウンターのはしっこがつながりを促進する※画像はDiscordの様子(写真提供/6curry)
6curryのDiscordには複数のチャンネルがあって、「カウンターのはしっこ」というチャンネルがあります。これは実店舗でもそうなのですが、イベントに顔を出して積極的に人と話すことは苦手だけど、カウンターのはしっこに座ってたまたま隣になった人となら話せる人もいる。そういう場所をつくりたいという思いからスタートしたそうです。すると実店舗で一度も会ったことのない人たちが毎晩22時ごろに10人くらいで集まって、恋話の進捗報告をするなど、密かな盛り上がりを見せているそうです。
複数の職を掛け持ちする“スラッシャー”がかき混ぜる実店舗自体も、カレーを食べにくるだけの場所ではありません。カレーは10分や20分で食べ切ることができるので、食べるだけではコミュニティは生まれません。そこで6curryでは、初めての人がひとりぼっちにならないために、招待制を取っています。すでにコミュニティに馴染んだメンバーに連れられていけば、既存の会員と溶け込みやすいからです。招待制を取ることで、場を乱す「クラッシャー」もやってこないというメリットもあるそうです。当然、会員の中には、コミュニケーションが得意な人と不得意な人がいます。また、恵比寿・渋谷という場所柄か複数の職業を掛け持ちしている会員が多いのが6curryコミュニティの特徴です。
「肩書きにスラッシュ(/)が入るという意味で私たちは『スラッシャー』と呼んでいます。会社員かつダンサー、デザイナー兼イラストレーターとか。そういう人たちは会員同士のスキルをつなげるのも得意。今度お店をオープンするという人がいたら、ウェブサイトをつくれる人がいますよ、と紹介したり。実際、そのお店がオープンすると、私たちの会員でいっぱいになったということもありました」(もりゆかさん)
ファッションブランド「LEBECCA boutique」と6curryのコラボ企画(写真提供/6curry)
そんなカレーを通じたコミュニティづくりをミッションにする6curryでは、企業に出向いてカレーをつくるイベントなども請け負っています。最近では、6curryのメンバーと「LEBECCA boutique」がコラボし、オリジナルのワンピースを販売したのをきっかけに、ファッションブランド「LEBECCA boutique」のスタッフと一緒にカレーワークショップを開いたことも。これも、「スラッシャー」が多い6curryコミュニティの強みなのかもしれません。
離脱率0パーセントは正解じゃないスラッシャーの人たちは、「自分の生き方を自分で選んでいる人」でもあると言えます。渋谷や恵比寿周辺で仕事をしている会社員の方が6curryの会員になって、「普通の会社で普通に生きてきたけど、ここで色んな生き方の人たちに会って、もっと自分の人生を生きてみたいと思いました」と言われたことが、いままでで一番うれしかった、ともりゆかさんは話します。
「代表の高木の言葉ですが、『新しい生き方を選んだ人が、孤独にならなくて済む場所をつくりたい』と。そういうコミュニティをつくりたくて6curryがスタートしたところもあります。リアルな場や集まりよりも、人と人の関係性にフォーカスしているのが私たちの事業の特徴だと思います」(もりゆかさん)
6curry渋谷店(写真提供/6curry)
6curryは渋谷・恵比寿という実店舗を持つ関係から、さいたまなど少し離れた会員はどうしてもリアルでの交流が難しい面もあります。現在はコロナの影響もあって、実店舗でも一日20名限定にしているということもあり、リアル・オンラインを併用したコミュニティ運営は重要な課題です。また、最近、オンラインサロンやサブスクモデルのシェアサービスが増えつつありますが、会員の離脱率も事業を成り立たせるうえで死活問題だと言えます。
「とはいえ、離脱率が0%なのもよくないと思います。『皆で、皆が主人公になる場をつくる』というビジョンを掲げているので、最終的に、自分の人生の主人公として一歩踏み出すことができたら、卒業するのもありなんじゃないかと。むしろ居心地良すぎて、ずっと同じところで停滞するほうが良くない。もちろん皆さんにいていただきたい気持ちはありますけど、流動性は生み出していきたいです」(もりゆかさん)
コミュニティ運営には、その拠点がある地域との関係性は重要なファクターの一つだと思います。6curryも渋谷・恵比寿に店舗を構えていることもあって、今後は、周辺の地域に暮らす人々に開かれたサービスも展開したいと考えているそうです。
僕自身、自社で運営しているWEBマガジン「EDIT LOCAL」の新サービスとして、「EDIT LOCAL LABORATORY」というオンラインコミュニティを昨年から始めたのですが、テーマが「ローカル」というのもあって、結局は顔を合わせてのリアルなコミュニケーションが、コミュニティを推進する重要なポイントだということを日々感じています。コロナウイルスの影響で、リアルでの交流が難しい現在、場に縛られないコミュニティ運営のノウハウは、新しく事業を始める人や企業にとって、重要なテーマだと思います。コロナを経ても活発に会員同士の交流から活動を生み出す6curryから、私たちが学べることは多いのではないでしょうか。
●取材協力今、JR東日本が無人駅を使って地域を活性化する取り組みを進めている。今年の2月には、上越線土合駅(群馬県みなかみ町)にサウナやグランピング施設などを設置した取り組みが話題になった。JR東日本グループはなぜ無人駅の活用に積極的に取り組んでいるのか? その狙いと効果について、JR東日本スタートアップの隈本伸一さんと佐々木純さんにお話を伺った。
4つの無人駅活用プロジェクトが進行中
JR東日本管内には約1600の駅があり、そのうちの約4割を無人駅が占める。JR東日本にとっては“遊休資産”とも呼べる無人駅。清掃や駅舎の修繕など維持管理費はかなりの額に上るが、JR東日本スタートアップの隈本さんによると、問題はコストだけではないそうだ。
「無人駅の周りには、往々にして地域のにぎわいがありません。せっかく空いているスペースや躯体があるので、これらを活用して地域のためになる活動をしたい思いは、以前からありました」
JR東日本グループが進行している無人駅活性化プロジェクトは現在、全部で4つ。それらは全て、オープンイノベーションの推進を目的とした「JR東日本スタートアッププログラム」から生まれたものだ。つまり、JR東日本グループの単体ではなく、ベンチャー企業などとのコラボレーションによって進められている。
「無人駅の活用に関しては、ベンチャー企業から提案を受けたり、逆に我々から提案することもありました。プロジェクトの選定基準は、『JR東日本グループとのシナジーが生み出せるか』『新規性があるか』『事業継続性があるか』の3点です。今取り組んでいる4つの事例はこれらを満たし、加えて地域のためにやるべきと判断されて実施にいたりました」
それでは4つの事例を順番に見ていこう。
1 山田線上米内駅(岩手県盛岡市)×漆
漆の産地として知られる盛岡市。地元の一般社団法人次世代漆協会と連携し、駅舎を漆をテーマにした施設にリニューアルした。カフェスペースや漆器の販売施設、作業のできる工房などを設置して今年の4月29日にオープン。資金はCAMPFIREと連携しクラウドファンディングより募った。
(写真提供/JR東日本スタートアップ)
同施設は地元メディアに大きく取り上げられ、4~5月は100人が訪れる日もあったそう。桜の名所の近さも幸いし、4~7月の3カ月間で約2865名もの人が来訪し、大きなにぎわいを見せた。現在も営業中だ。
リニューアル前(写真提供/JR東日本スタートアップ)
リニューアル後(写真提供/JR東日本スタートアップ)
一般社団法人次世代漆協会代表理事の細越確太さんによると、市内・市外問わず多くの方が訪れ、中には繰り返し訪れる方もいるという。
「この取り組みを始めてから、わざわざ上米内に来てくださる方が増えました。地域活性化を課題に感じている人のなかには、駅を利用した活動に共感してくださる方も多く、新たな連携の芽が生まれつつあると感じます」
本プロジェクトを担当した隈本さんは、「別の建物ではなく、駅でやることに意味があった」と振り返る。
「地元の方と話す中で、駅は地域の人にとって想像以上にシンボリックな存在だと分かりました。電車の乗り降りを繰り返し、思い入れのある場所になっていくのだと思います。地域活性化に無人駅を使うメリットは単なるコスト抑制だけではなく、自然と人が集まる点や、地域の人たちの協力を得やすい点にあると感じました」
上米内の漆器(写真提供/JR東日本スタートアップ)
こうした地域活性化のプロジェクトは、地元の人たちの理解が欠かせないと、隈本さんは続ける。
「今回のプロジェクトは、地域住民の方に『自分たちの住む地域は漆が有名』だと若い人たちに知ってもらう目的もありました。地域の人たちに働きかけるのに、駅という場所はぴったりです。地域活性化を大きな流れにするためにも、いかに地域住民の方にアピールするかが重要だと思います」
2 上越線土合駅(群馬県みなかみ町)×グランピング
上りホーム改札のある駅舎から下りホームまで、地下に462段の階段が続き、「日本一のモグラ駅」として知られる土合駅。グランピング施設の運営などを手がけるVILLAGE INC.と連携し、土合駅を地域の情報発信拠点にする試みを行った。
(写真/PIXTA)
駅前の空きスペースにサウナやグランピング場、宿泊施設を設け、駅舎内には切符売り場を改装しカフェを設置。クラフトビールの提供や工芸品づくりワークショップ開催など、地元企業との連携も実現。今年の2~3月にかけて行った実証実験では宿泊予約が満席となり、現在は秋の正式オープンを目指して準備を進めている。
宿泊施設「モグラハウス」(写真提供/JR東日本スタートアップ)
(写真提供/JR東日本スタートアップ)
グランピング場(写真提供/JR東日本スタートアップ)
カフェは2020年8月8日に正式オープンした(写真提供/JR東日本スタートアップ)
3 常磐線小高駅(福島県南相馬市)×地域コーディネーター
地方創生プロジェクトを数多く手がける一般社団法人Next Commons Lab(NCL)と協業し、小高駅舎を改装してコミュニティの場を創出するプロジェクト。地域の課題を解決する創造的人材を育成するとともに、旅をしながら地域で仕事ができるインフラや環境を構築して、関係人口の創出・拡大につなげるのが狙いだ。
駅員が使用していたスペースを改装し、都市と地域の起業家や起業をサポートする人が集まる場や、小高駅を利用する学生の交流の場をつくる予定。小高駅に駐在しコーディネーターとして活動する「民間駅長」を現在募集している。
常磐線小高駅の駅舎内の待合スペース(リニューアル後)(写真提供/JR東日本スタートアップ)
4 信越本線帯織駅(新潟県三条市)×ものづくり
洋食器や金属加工など、ものづくりの街として知られる燕三条地域に位置する帯織駅を、ものづくり交流拠点「EkiLab(エキラボ)帯織」としてリニューアルするプロジェクト。町工場と連携して“ものづくりのアイディアを形にできる場所”を目指している。クラウドファンディングを手がけるベンチャー企業CAMPFIREとの連携により、この場をクリエイターとして利用する会員や資金を募るなどした。
駅舎横の駐車場に新設する工場には、CADを使えるパソコンや3Dプリンターなどを設置。会員は基本施設を自由に利用できるほか、デザイン・設計ソフトのオンラインセミナーやワークショップを受講できる。ものづくりの相談窓口として、燕三条地域の職人や企業の紹介・マッチングにも対応していく。今年10月開業を目標に現在準備中。
EkiLab帯織 施設(イメージ)(写真/CAMPFIREのプロジェクトページより)
EkiLab帯織でできること(イメージ)(写真/CAMPFIREのプロジェクトページより)
無人駅活用のバリエーションは無限大グランピングからものづくり拠点まで、プロジェクトのバリエーションが富んでいるのは、ベンチャー企業や地元企業などの協業相手のおかげだと、佐々木さんは振り返る。
「無人駅活用の取り組みをJR東日本単体でやろうとすると、どうしてもアイデアが出てこなかったり、偏ったりすると思います。でも今回は、秘境地域を宿泊施設に変えるのが得意なVILLAGEさん、コミュニティづくりに長けたNCLさん、クラウドファンディングで働きかけるのが上手いCAMPFIREさん、地元の企業・団体の方々など、色々な得意分野のある方たちと組めたおかげで、これだけの多様性が生まれました。無人駅の活用バリエーションは、本当に無限だと思います」
面白いアイデアを実現するために大切なポイント。それは「協業先の良さを最大限に生かすこと」だと、隈本さんは言う。
「弊社の役割は、JR東日本側と協業先の橋渡しです。相手がベンチャー企業さんの場合にはできるだけ自由にやっていただきたいと思っています。JRと組む上でいろいろ我慢されてしまうと、せっかくの個性が消えてつまらないアイデアになってしまいますから」
JR東日本グループ内は、新たな取り組みを始めやすい空気になりつつあるという。
「当社ではスタートアッププログラムを開始して今年で4年目なので、ベンチャー企業との協業が社内にも浸透してきました。無人駅以外のプロジェクトも年間で20個ほど走っています。今後も無人駅が関わるものもそうでないものも含めて、新しい取り組みがどんどん生まれてくると思います」
最後に今後の方針について聞くと、2人とも「無人駅活用の事例を蓄積して、社内外に広めていきたい」と話してくれた。自分たちの事例を参考に、無人駅を活用して地域活性化をしようと考えるプレーヤーが増えてくれたら。そんな思いとともに、今も一つひとつのプロジェクトを丁寧に形にしている。
上米内駅の事例では、駅舎を使ったことで「地域で新たな連携の芽が生まれた」との声が聞かれたように、駅は単なる「電車を乗り降りする場所」以上の意味を持つようだ 。その価値に気づいたいま、これからも想像を超える地域活性化の取り組みが無人駅から生まれることを、期待せずにはいられない。
●取材協力ポルシェがスポーツカーの「電気自動車」を販売するほど、乗りものが地球に優しくなっていくなか、2018年度から、国土交通省は特定の電気自動車を使った自治体への支援事業を開始している。その目的は? 反響は? 国土交通省総合政策局環境政策課の多田佐和子さんに話を伺った。
「グリーンスローモビリティ」とは?
今年100歳を迎えたおばあさんをはじめ、高齢者たちの楽しそうな声が聞こえてくる。7人乗りの「グリーンスローモビリティ」からだ。高齢者の交通手段や地域活動への参加等を目的に、2019年の10月末から11月末までの約1カ月間にかけて、国土交通省から千葉県松戸市へ無償貸与された、この見慣れない乗りもの。窓がなく、電気自動車だからエンジン音もしないため、乗員の笑い声のほうがよく響く。20km/h未満の低速で、のんびりと、友人とのおしゃべりを楽しみながら街を幾度も移動した。
松戸市の実証実験で使用したのはヤマハ製の7人乗りカート。今年度100歳を迎えられた百寿者(センテナリアン)が乗車した際の記念写真(写真提供/千葉県松戸市)
たった1カ月間の実証運行だったにも関わらず、地元ではこの乗りものを讃えるオリジナルソング『グリスロ賛歌』が生まれ、地域の方々が合唱して、新聞をはじめとしたマスコミに取り上げられた。昔は「オラが村に鉄道が通った!」と、初開通の折には村を挙げて踊りや歌を披露した自治体がよくあったが、それに近い感情なのかもしれない。
国土交通省では、2018年度から「グリーンスローモビリティの活用検討に向けた実証調査支援事業」を行っている。グリーンスローモビリティ(以下グリスロ)とは「20km/h未満で公道を走る4人乗り以上の電動パブリックモビリティ」のこと。電気自動車の技術が急速に進んだことで生まれた、新しい乗りものだ。2020年の6月17日現在で、55地域でグリスロの走行実績がある。
電気自動車なので環境に優しいのはもちろん、自動車より低速だから、万が一何かにぶつかっても大きな事故になりにくく、小型車両のため狭い道もスイスイと走れる。高齢者がよく利用している1人乗りのハンドル付き電動車いす(シニアカー)と比べて、多人数で移動できるほか、シニアカーと同様に窓ガラスやシートベルトがなくてもいいから、オープンカーのように開放感がある。
国土交通省の実証実験では、「ゴルフカート(定員:4人もしくは7人):最大2台」または「eCOM‐8(定員:10人):最大1台」のグリスロ車両が用意されている。先述の松戸市は上記「小型自動車」の7人乗りを使用(写真提供/国土交通省)
一方で普通の自動車と比べてデメリットとなるのが、窓がないため、雨の日はエンクロージャー(ビニール製シートなどの囲い込むもの)が必要なことや、エアコンが使えないこと。厳冬下では膝掛けなど対策が必要だ。またスピードが遅く、1回の充電で走れる距離が短い電気自動車だから、長距離輸送には向かない。だから単純に「廃止された路線バスの代わりに」というわけにはいかないのだ。
「低速」で道路を走るなら、他の車の邪魔になるなど、交通の妨げになるのではないか?と国土交通省の担当者である多田さんに意地悪な質問をぶつけてみたが「一人ひとりが一台ずつ車やシニアカーに乗るのと比べ、多人数乗車によって交通量を抑えやすくなりますし、運転手に“安全に他車に追い抜かれる方法”など安全な運転技術を、講習でレクチャーしています。運行主体も、なるべく交通の妨げにならないような運行ルートを検討していますし、ルートは事前に警察等に連絡するなどしていることもあり、今のところ事故は一度もありません」という。
(写真提供/国土交通省)
そもそも、こうしたメリット・デメリットを踏まえた上で、「既存の交通機関を補完する新たな輸送サービスとして、地域住民のラスト/ファーストワンマイル(※)や観光客向けの新しいモビリティ、地域のにぎわい創出などの活用」の可能性を調査するべく、グリスロの支援事業は始まった。簡単にいえば、既存の乗りものに、グリスロが加わることで、地域にどんなうれしい変化を起こせるのかを探るためだ。
(※)鉄道の駅やバス停などから目的地への最終移動、またその逆で自宅からの移動
「支援の申請は各自治体が行います。それぞれの地域でグリスロにはどんな活用法が期待できるか、車両を購入する前に無料で借りてテストすることで、今後事業化する際にどんなニーズや課題があるのかなどを考察することができます」と多田さん。
グリスロなら、もしかしたら自分たちの地域の課題を解決できるのではないか。そう考えた各自治体が応募し、2018年度は5地域、2019年度は先述の松戸市を含む7地域が選ばれた。
グリスロは、高齢者の生きがいに繋がる?では応募した自治体は、どんなグリスロの活用方法を検証したのだろう。先述の松戸市の場合「加齢などにより移動に不自由を感じている方々の社会参加を促進し、それにより地域活動がより活性化できるか」をテーマに実証を調査したという。その結果が先述の通り。オリジナルソングまで生まれて合唱まで行ったのだから、「社会参加」や「地域活動の活性化」については一定の効果があることが分かったといえそうだ。
東京都町田市では4人乗りのゴルフカート型グリスロを2台使って事業化がスタート。地域住民らでつくる「鶴川団地地域支えあい連絡会」への事前登録が必要(登録料は年間500円)(写真提供/モビリティワークス)
実証実験を終え、既に事業化をスタートしている例もある。東京都町田市では、社会福祉法人悠々会が運行団体となって2019年12月から自家用有償旅客運送として運用をスタート。4人乗りのゴルフカート型の2台のグリスロが、多摩丘陵に位置する鶴川団地と、丘の下の商店街とを結ぶ。利用料金は年間500円。一見、グリスロによって高齢者が坂の上り下りをしなくても買い物に行ける、と思いがちだが、「実は利用する高齢の方々はあまり買い物に困ってはいませんでした。今ならスーパーの配送サービスをはじめ、買い物にはいろんな手段があるからでしょう」と多田さん。
ではなぜ高齢者はグリスロに乗るのだろう。「グリスロで出掛けること自体に意味があるようです」。グリスロに乗って出掛ければ、顔なじみの運転手さんやお客さんに会える。窓のない開放的な車内でみんなとおしゃべりを楽しみ、笑顔を咲かせる。用事を済ませて、また楽しく皆で戻る。また明日、晴れたら。そんな感じのコミュニティの場として、グリスロがあるようだ。「島根県松江市のほうでも、同様の事業化が2020年4月から始まりました。こちらは当初運賃が無料だったのですが、利用者のほうから『無料では申し訳ない』と申し出があり、結局午後の運行のみ1日100円となりました」
さらにグリスロは、普通の車よりも運転が簡単で速度も出ないため、正しい研修を受ければ、地域のシニアボランティアや障害をもつ人が運転手になることもできる。そうなれば地域の担い手としての生きがいにも繋がる。
(写真提供/社会福祉法人 みずうみ)
世界中で高齢化が進んでいるが、中でも日本の高齢化率は、現在世界一だ(65歳以上の人口比率が世界で最も高い)。高齢によって足腰が弱ると、どうしても外に出るのが億劫になりがちだし、一人暮らしともなればなおさらだ。だからといって外に出ないとさらに筋肉が衰えて、ますます出不精になり……と悪循環に陥ってしまう。この負のサイクルを断ち切る方法の1つに、グリスロがなれるのではないだろうか。グリスロが、地域住民の健康寿命を延ばす仕掛けになれるのでは? ちなみに紹介した町田市も松江市も、運営主体は社会福祉法人。地域の高齢者事情をよく分かっている人々だからこそ、グリスロのこうした利用価値に気づいたのだろう。
観光による町おこしやスマートシティのパーツとして?(写真提供/広島県福山市)
もう1つ、グリスロの事業化例として紹介したいのが、広島県福山市だ。同市には景勝地として有名な「鞆の浦」や「福山城」などがある。一方で、瀬戸内海に面した同市は狭い道や急峻な坂道が多い。だから「小型」「低速=ゆっくり」「開放的」なグリスロは、「観光地をゆっくりと風景を眺めながら巡る乗りもの」としては通常のタクシーよりも適している、というわけだ。
(写真提供/広島県福山市)
運行しているのは地元のタクシー会社で、料金は通常のタクシーと同じ。通常のセダン型やワゴン型タクシーとともに、4人乗りのゴルフカート型グリスロを用意している。こちらは2019年4月から運用が始まった。グリスロでたくさんの観光客に喜んでもらえれば、観光地としての人気が高まるかもしれない。それは福山市の地域活性化にも繋がる。
さらに、このグリスロの実証調査支援事業には、環境省も支援するケースがある。1つは「IoT技術等を活用したグリーンスローモビリティの効果的導入実証事業」であり、もう1つは「グリーンスローモビリティ導入促進事業(車両購入費補助)」というものだ。簡単に言えば、グリスロと最先端技術を組みあわせ、例えばいつ・どんな時に・どんな人が・どれだけ移動したか、といったデータを取ることで、バスなども含めた公共交通機関の構築に役立てたり……と、さまざまな“未来の街”の検証に、グリスロを活用するというものだ。
実際、福島県いわき市では地元企業や大手通信会社、広告代理店などと連携した「次世代交通システム」の実証実験が、つい先日から始まった。グリスロをスマホから予約できるほか、AIを使って予約状況に応じた最適なルートを運行したり、地域内で使える電子クーポンをグリスロの車内で発行し、地域商店街の活性に役立てる……といった、いわばスマートシティの実証実験を行っている。
地域内に設置されている23カ所の乗降ポイントの中から、乗車したい地点と降りたい地点、日時と人数を入力して予約する。予約状況に応じて、当日でも可能。
地域の課題を解決するためのワンピース「グリーンスローモビリティの活用検討に向けた実証調査支援事業」は、先述したように2018年度から始まったばかり。そのため、本来はもっと多くの実証調査の結果を集めてから課題を整理すべきだろうが、今の時点で挙げるとすれば「事業化に向けた収支をどうするか」だろう。
福山市の事業例のように、通常のタクシー料金と同じであればまだしも、町田市や松江市のように「年間500円」や「1日100円」といった運賃だけでは、事業としては成り立たない。持続可能な事業にするためには、運賃以外の広告費等の収入や、有志から駐車場の無償提供を受けるなど固定費の抑制が必要だ。
といってもこの「収支」の問題は、赤字の鉄道やバス路線の撤退が進んでいるように、既存の公共交通機関も同じこと。グリスロだけでなく、バスやタクシー、鉄道も含めて、地域の交通をどうしていくのか。各地域は今回のグリスロの無償貸与を通して、地域交通の課題を洗い出し、可能性を探るためのトライ&エラーがしやすいはずだ。実際見てきたように、グリスロには「地域のコミュニティの場」としての価値や、「観光による町おこし」という既存の交通機関にはない新しい価値が見えつつある。
(写真提供/社会福祉法人 みずうみ)
何しろ100歳のおばあちゃんが笑顔になれるグリスロだ。課題の多い地域交通状況を、もしも多くの公共交通機関の組み合わせというパズルで解決するなら、そのワンピースになる魅力は十分にありそうだ。
●取材協力日本のマンガ文化を大きく発展させた、手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫などが暮らした「トキワ荘」が、東京都豊島区南長崎の南長崎花咲公園に再現施設として復活し、話題となっている。
池袋乙女ロードや、東京芸術劇場などの文化施設が多い豊島区は、こういったカルチャーをフックとしたまちづくり「豊島区国際アート・カルチャー都市構想」をすすめているという。豊島区のすすめるまちづくりにおいて、「トキワ荘マンガミュージアム」の誕生はどんな意味をもつのだろうか。
トキワ荘は1952年(昭和27)12月に、豊島区椎名町5丁目に完成した木造2階建てのアパートだ。現在の住所でいうと豊島区南長崎三丁目で、日本加除出版という出版社の社屋と民家になっている。実物大のトキワ荘マンガミュージアムは、その場所から少し離れた南長崎花咲公園の敷地内に建設された。
正面玄関は、シュロの木とバルコニーがコロニアルスタイルを連想させるおもしろいつくりになっている。当時としてはかなりおしゃれなファサードだったのではないか。
マンガ家たちが住んだ当時のトキワ荘は、四畳半と押入れのみの部屋が、2階に10部屋存在し、共同の炊事場とトイレがそれぞれの階にあった。家賃は1部屋3000円/月だったという。大卒初任給が9000円、うどん一杯30円、電車の初乗り運賃10円ほどの時代だ。
高度経済成長の直前、日本各地から「金のタマゴ」と呼ばれた中卒の若者が、職を求めて東京に続々と上京していたころ。東京の各地に、このようなトイレ共同の木造アパートが、たくさん建てられていた。
再現されたトキワ荘の1階はミュージアムとなっており、内部の再現は2階部分である。
2階部分は、部屋の再現だけでなく、調度品の再現もすごい。トイレなどのエイジング処理(汚し処理)は、今にもにおいが伝わってきそうなほどのリアルさだ(においは再現していません)。
新築のミュージアムとは思えないエイジング処理(撮影/西村まさゆき)
2階炊事場の再現、昭和中ごろの単身者向けアパートでの様子がよく伝わってくる(撮影/西村まさゆき)
各部屋の再現も力が入っている。実際に住んでいたマンガ家や関係者に聞き取り調査を行い、どの部屋が誰の部屋で、どんなものが置いてあったのかまで、詳細に調べ上げてある。例えば、鈴木伸一、森安なおや、よこたとくお等が暮らした20号室には、年代物のテレビやステレオセットとともに火鉢があるなど、当時のマンガ家たちの暮らしから、昭和時代の生活の雰囲気を感じることができる。
テレビ、ステレオと火鉢が同居している昭和の雰囲気(撮影/西村まさゆき)
手塚に続きぞくぞくあつまる漫画界のスタートキワ荘にマンガ家が集うきっかけになったひとつは、手塚治虫がトキワ荘に部屋を借りたからだ。1953年、トキワ荘に部屋を借りた手塚は、当時すでに売れっ子マンガ家となっており、関西の長者番付に名を連ねるほどの存在だった。そのため、大阪と東京を行き来する生活をしており、トキワ荘に起居するということはあまりなく、週に数回帰ってきて、仕事をする場所だったという。
手塚がこの地に仕事場としてトキワ荘を借りたのは、当時描いていた出版社のある江戸川橋や飯田橋へ、バスでのアクセスが良かったためと言われている。
トキワ荘の完成とほぼ同時に部屋を借りた手塚は、2年ほど借りたのち、敷金の3万円と机を、富山県の高岡から上京してきた二人の青年に譲って転居する。この二人の青年こそが、のちの藤子不二雄(安孫子素雄=藤子不二雄A、藤本弘=藤子・F・不二雄)だ。
トキワ荘を引き払った手塚は同じ豊島区内の雑司が谷にあるアパート「並木ハウス」に引越した。並木ハウスは現在も存在しており、2018年に国の登録有形文化財に指定された
手塚の住んだ部屋には安孫子が住み、机も安孫子がひきついだ。なおその机は現在、安孫子の実家である光禅寺(富山県氷見市)に保存展示されている(撮影/西村まさゆき)
手塚に続いてトキワ荘には、寺田ヒロオ(『スポーツマン金太郎』などの著作がある)、藤子・F・不二雄、藤子不二雄A、鈴木伸一(小池さんのモデルになったアニメーター)、森安なおや(『赤い自転車』などの著作がある)、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、水野英子、よこたとくお、山内ジョージなどのマンガ家が続々と入居する。トキワ荘に集うマンガ家ら(寺田、藤子、鈴木、森安、石ノ森、赤塚に加え、つのだじろう、園山俊二)が中心となって「新漫画党」を名乗り、当時の「子ども向け」マンガ文化の大きな流れをつくっていく。
寺田ヒロオ、藤子・F・不二雄、藤子不二雄A以降のマンガ家たちは、トキワ荘に概ね6年~7年ほど居住し、切磋琢磨しあった。しかしその後、彼らとは異なる画風の劇画漫画が流行りだし、世の中のマンガ文化の潮流が、トキワ荘のマンガ家たちだけのものではなくなっていく。
1961年ごろになると、マンガ家たちはトキワ荘からほぼ退去してしまったが、赤塚不二夫や石ノ森章太郎など、トキワ荘周辺、南長崎の町に仕事場を借りたり、住んだりした者もいた。
1982年、トキワ荘は築30年が経過し、設備も老朽化したため、建て替えることになった。当時第一線で活躍するマンガ家たちが若いころを過ごしたアパートであることは、マンガファンの間では知られていたものの、一般的な知名度はなかった。一部で惜しむ声はあったものの、トキワ荘は1982年12月2日に解体された。解体される際に保存されたふすまには、後日、トキワ荘に住んだマンガ家たちがマンガとサインを描きいれた。そのふすまは現在、トキワ荘ミュージアムに展示してある。
トキワ荘は、解体されたことによってより知名度が上がったのは皮肉なことである。解体の数年前から、テレビ番組や映像作品などで特集が組まれ、実際に住んだマンガ家たちの手による回顧録のマンガや書籍の出版など、多くのものが世にでていった。
それに合わせ、トキワ荘だけでなくマンガ家たちが暮らした南長崎の町自体にマンガ家ゆかりの地としての存在感がでてきた。新しいアパートに建て替えられたトキワ荘などは、観光バスのルートに入るほど(丸山昭『トキワ荘実録』)であったらしい。さらに時代が平成に入り、トキワ荘のマンガ家たちが鬼籍に入り始めると、いっそう南長崎の町は「マンガの聖地」として注目されるようになっていく。
『まんが道』(藤子不二雄A)などにたびたび登場していたラーメン店「松葉」を訪れるファンはいまだに多い(撮影/西村まさゆき)
2012年(平成24)、トキワ荘の跡地にモニュメントが完成するなど、近年は南長崎の町を「マンガの聖地」として広く知ってもらおうという豊島区のバックアップもあり「トキワ荘通りお休み処」(2013年)がオープン。そして、トキワ荘の再現施設「トキワ荘ミュージアム」が今年(2020年)に完成した、というわけである。
トキワ荘に関連する書籍や漫画が読める「トキワ荘マンガステーション」(撮影/西村まさゆき)
「トキワ荘」再現のきっかけとこれから豊島区には、南長崎だけでなく、池袋の「乙女ロード」など、カルチャーに関するスポットが存在し、それらを中心としたまちづくりを積極的に行っている。今回の「トキワ荘マンガミュージアム」の完成は、そんなまちづくりにおいて象徴的な出来事といえる。カルチャーを中心としたまちづくりはどのように始まり、どんなことが行われているのか、豊島区に聞いてみた。
豊島区トキワ荘マンガミュージアム担当課長 熊谷崇之さん(撮影/西村まさゆき)
――最初に、いちファンとして、(トキワ荘の再現が)よくできたなというのが素直な感想です。あの『まんが道』に出てたトキワ荘が……という感動は名状しがたいものがありました……。
豊島区トキワ荘マンガミュージアム担当課長 熊谷崇之さん「そうですよね、私も『まんが道』を読んでいて、ファンなのでよく分かります」
――豊島区でマンガ・アニメによるまちづくり、まずはトキワ荘に関しては、近年さまざまな施設が相次いでオープンしましたけども、トキワ荘の再現というのはどのような経緯だったんでしょう?
熊谷さん「トキワ荘は、1982年に残念ながら解体されてしまったんです。そのころはまだマンガ文化の存在があまり重要なものとされてなかったんですね。ですが、平成に入ってから1999年に、区議会にトキワ荘復元の署名が提出されました。最初は2000名だったのが最終的には4000名を超える署名が集まりました。それがきっかけのひとつではありますね」
区民だけではない、漫画ファンなどの広い支持があったのは、寄付が約4億3000円も集まったということからも分かるだろう。トキワ荘の再現には約9億8000円の費用がかかっているが、その費用は寄付金からも一部充てられた。
――署名が提出されたのが1999年と伺いましたが、高野区長が豊島区長に当選したのも1999年ですね。高野区長はもともと古書店を経営されていたそうですが、やはりその存在も大きかったのかな、と思いますがどうでしょう?
熊谷さん「うーん、それはどうでしょう。よく分かりませんが(笑)高野区長が言うには、(世界で高い評価を受けている)アニメも、そのルーツはマンガにあるし、さらにその原点でもある場所のトキワ荘などをしっかりと支援していくことは、大切なことだと―マンガステーションなどに収蔵するための資料のマンガの買付けなど、区長自ら赴いてます」
――さすが、古書店の店主だから、そのへんはプロですよね。
熊谷さん「こういった文化施策は、豊島区にある文化を知ってほしいというのももちろんあるんですけど、さらに文化継承の拠点としたいという目論見もあるんです」
――文化継承ですか?
熊谷さん「トキワ荘関連で言えば、『紫雲荘(しうんそう)活用プロジェクト』というのもそのひとつなんです」
紫雲荘とは、赤塚不二夫が住居兼仕事場として借りていたトキワ荘隣のアパートで、現在も当時のまま現存している。この紫雲荘に、マンガ家志望の若者に住んでもらい、家賃などを補助してまちぐるみで支援する、というプロジェクトのことだ。
その町に住む人を支援する取り組みはよく見かけるが、豊島区はマンガ家志望の若者と限定しているところがユニークだ。
紫雲荘は赤塚不二夫が借りていた当時のまま残っており、彼が仕事をした部屋も再現してある(写真提供/豊島区)
――豊島区には乙女ロードなどのアニメ関連の聖地がありますが、東京には秋葉原や中野など、マンガやアニメなどのサブカルチャーを中心に据えた町がいくつかあります。そういった町との差別化というのはしていますか。
熊谷さん「乙女ロードは、その名の通り女性の比率が高いというのはご存じだと思います。豊島区ではいま、南池袋公園の整備や、旧豊島区役所跡に建設した劇場施設『HAREZA池袋』など、ファミリー層や女性が住みたくなるような、女性にやさしいまちづくりを進めているんです」
――なぜ急に「女性にやさしいまちづくり」がはじまったのでしょう?
熊谷さん「2014年に発表された『消滅可能性都市』に、東京23区の中で唯一、豊島区が含まれた……というのが、衝撃が大きかったですね」
消滅可能性都市とは「少子化や人口移動などが原因で、将来消滅する可能性がある自治体」のことだ。定義を厳密に言うと「2010年から2040年にかけて、20 ~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村」というものである。
女性の人口がある一定以下まで減ってしまうと、次世代を担う子どもが増えなくなってしまうというわけだ。
人口約29万を擁し、池袋という巨大ターミナル駅を抱える豊島区が消滅するとは、にわかには信じがたい。しかし、もともと、豊島区の人口比率には「転出入が多く、定住率が低い」「単身世帯が多く、その半数が若年世代」という特徴がある。
実際、豊島区は昔からそういった単身者向けのアパートが非常に多い区ではあった。トキワ荘もまた、若年層の単身者向けアパート、これも、象徴的な話かもしれない。
熊谷さん「街づくりの一つとして公園の整備も進めており、大きな公園ではマーケットを開催したり、小さな公園でも、トイレを清潔で使いやすいものにする……など、細かなところから少しずつ進めているんです」
ミュージアムなど大きな施設の整備だけでなく、公園のトイレの整備など、小さなことの積み重ねを行っている(写真提供/豊島区)
こういった細かな努力が実ったのか、豊島区の人口は増え続け、2008年の約24万人から、2020年には約29万人と5万人も増加している。増加に伴い、女性や子どものいるファミリー層の人口も増えているという。
区内に存在した文化遺産で、観光の目玉をつくって終わり……という安直なものではなく、次世代への「文化の継承」も見据えた支援を豊島区は続けている。また、マンガ・アニメを中心とした文化施策が、意外にも女性やファミリー層を意識したものであることが分かった。
「文化の継承」を行うにも、若い世代が育たなければ、そこに施設をつくって終わりとなってしまうだろう。「カルチャーでのまちづくり」と、「女性にやさしいまちづくり」というのは、車の両輪のように一体となって進めることこそが、豊島区が“消滅”しないための戦略なのかもしれない。
●取材協力新型コロナウイルスの感染予防対策として、テレワークが急速に普及している。アフターコロナにおいても、テレワークが定着することが予想されるが、新築のマンションでもテレワークを意識したものが続々と登場している。そのいくつかの事例を紹介しよう。【今週の住活トピック】
入居者専用シェアオフィスルームがある分譲マンション/日鉄興和不動産株式会社
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ニューノーマル時代のくらしの多様性に応える商品を発表/三井不動産レジデンシャルほか
コワーキングスペースを併設した住まいで、ポスト・コロナ時代の新たなライフスタイルを提供/三菱地所レジデンス
新築分譲マンションの自由な住まいの新提案「DOMA-STYLE」×「 つながROOM」/野村不動産個別ニーズへの対応が難しいマンションでも、テレワークスペースがカギに
コロナ禍の新しい生活様式に対応したプランについては、実は、注文住宅が先行していた。その名の通り注文住宅は、施主の家庭個々のニーズに応じた間取り・設備をプランニングするものだからだ。なので、テレワークに対応した間取り、ウイルスを室内に持ち込まない動線・設備などを各ハウスメーカーが積極的に発信している。
一方マンションでは、デベロッパーが購入想定層向けに、あらかじめ広さや間取り、設備などのプランを決めてから集客をする。個々の家庭のニーズに細かく対応することは、難しいビジネスモデルなのだ。したがって、マンションにおいては、「共用部にテレワークができるスペースを設けるマンションが増えるだろう」と予想していた。
これまでも「スタディルーム」や「ライブラリールーム」などの名称で、書斎として使えるスペースを共用部に設ける新築分譲マンションはあった。しかしテレワークが普及すると、これまで以上に、集中して仕事ができる空間やWEB会議に利用できる音に配慮した空間、プリンターなどPC周辺環境が整った空間などのニーズが高まっている。
こうした状況を受けて、テレワークの環境を整備したコワーキングスペースを設ける、新築のマンションが続々と登場している。
新築のマンションでは、共用部にテレワーク対応のスペース事例が多い日鉄興和不動産では、共用部に入居者専用シェアオフィスルームを設けた新築分譲マンション「リビオ成増ブライトエア・フォレストエア」を販売する。シェアオフィスルームの特徴は、Wi-Fiやオフィスと同等の照明の明度設定、座席のバリエーション(モニター付きの座席あり)、複合型ネットワークプリンタなどを完備していること。
最も注目したのは「TELECUBE by OKAMURA(テレキューブ by オカムラ)」を採用したことで、分譲マンションでは初の事例だという。テレキューブは、音の反響を減らした防音ブースで、ブース内にはテーブル、イス、電源コンセントなどを備え、換気ファンも設置されている。電話やWEB会議、特に集中したい作業などに効果を発揮する空間だ。
「リビオ成増ブライトエア」のシェアオフィスルーム完成予想 CGと「TELECUBE by OKAMURA」(画像提供:日鉄興和不動産)
ほかに、三井不動産レジデンシャルほかが分譲する「パークタワー勝どきミッド/サウス」でも、共用部にWi-Fi、コピー機、電話ブース、自動販売機等を設置したリモートワークスペースを設けている。大規模マンションならではの約300平米の広さを確保し、LAN ケーブルや電源、大型モニターを完備した個室ブースのほか、会議室が6部屋も設置されている。
さらに、敷地内の外構エリアにアウトドアテーブルを設置したビッグテーブル、2階のテラスラウンジ、53階のスカイデッキなどの共用施設にもWi-Fi 環境を整備し、ワーケーション(ワークとバケーションを組み合わせた造語)のような感覚でテレワークができるのも特徴だ。
「パークタワー勝どきミッド/サウス」のコワーキングスペース全体完成予想イラストとスカイデッキ(画像提供:三井不動産レジデンシャル)
こうしたプランニングは新築分譲マンションに留まらない。新築の賃貸マンションでも、共用部にコワーキングスペースを併設するのが、三菱地所レジデンスの賃貸マンション「The Parkhabio SOHO 大手町」だ。
賃貸マンションの1階に、専用のインターネットを完備したコワーキングスペース(約60平米)を設置し、オフィス家具等を配置。個室タイプの集中ブースも用意するほか、会議室を設けている。なお、居住者は無料で利用できるが、居住者以外も有料で利用可能としており、地域に開かれたコワーキングスペースになっている。The Parkhabio SOHOシリーズ第一弾となるのが大手町(内神田住所)は、公共交通機関をできるだけ使わない職住融合が可能だという。
「The Parkhabio SOHO 大手町」のコワーキングスペース完成予想 CG(画像提供:三菱地所レジデンス)
マンションの住戸内でもテレワークに対応した間取り事例マンションの共用部にばかりでなく、住戸内にも積極的にテレワークを意識した提案がなされている。野村不動産は「DOMA-STYLE(ドマスタイル)」×「つながROOM」という間取り提案を新築分譲マンション「プラウド湘南藤沢ガーデン」で導入した。
「DOMA-STYLE」×「つながROOM」の間取りイメージ(画像提供:野村不動産)
「つながROOM」の特徴は、2つの洋室の間に約2畳の空間を設けて可変性のある間取りを実現していること。約2畳の空間の両側の引き戸を開ければ大きな空間となるが、閉じれば小さな個室として利用することができ、可動棚やコンセント、ダウンライト等を完備しているので、在宅勤務の際に仕事部屋として使うことも可能。もちろん、仕事部屋に限らず、ニーズに応じて趣味の部屋や収納スペースなどにすることもできる。
一方「ドマスタイル」は、玄関の一角には窓付き・タイル貼りの土間スペースを確保したもの。ベビーカーの置き場所、濡れたものの一時的な置き場所になるほか、土間から洗面室へ直接出入りできる間取りなので、部屋に入る前に手洗いや泥汚れを落としたりできる。玄関の使い勝手向上だけでなく、感染予防対策としても効果を発揮するだろう。
「DOMA-STYLE」の間取りイメージ(画像提供:野村不動産)
さて、テレワークについては、複数の調査結果を見ても「今後もテレワークを継続したい」という意向率が高い。コロナ禍と頻度は違っても、なんらかの形でテレワークという働き方は今後も続いていくだろう。テレワークに対応した住まいは、子どもたちのオンライン授業などでも利用できる。新築マンションのプランとして、これからもテレワーク対応がキーワードになっていくだろう。
レトロな味わいのある木造賃貸アパートをはじめとする築古の賃貸物件には、老朽化が進み、空き家化が問題になるケースも増えてきている。そんななか、それらの価値を認め、「モクチンレシピ」という名で改修・リフォーム例をウェブサイトで公開することにより、日本の不動産・建築業界における“スクラップ&ビルド”一辺倒の流れに一石を投じている人物がいる。NPO法人モクチン企画の代表を務める、建築家の連 勇太朗(むらじ ゆうたろう)さんだ。賃貸アパートは今後どうなっていくのか? また、賃貸アパートを活用したまちづくりについても話を聞いた。
空室化問題救済のキーワードは「距離感」
NPO法人モクチン企画の事業は多岐に渡る。リフォーム例「モクチンレシピ」を通じて、賃貸物件の改修案を公開・提供しつつ、改修事業を手掛けることや「モクチンスクール」と銘打った空き家対策を目的としたデザイン学校の開校、「LIXIL」のような建築資材メーカーのリサーチや商品開発を請け負うこともあるという。築古の賃貸物件を切り口に、これからの縮小化社会に必要とされるさまざまなプロジェクトを展開している。
レシピ「広がり建具」は、襖を透過性のある木製建具に交換することで、部屋を広く明るくみせるアイデア。モクチンレシピは、会員になると図面や品番が書かれた「概要書」や「仕様書」がダウンロード可能に(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)
Before(写真提供/モクチン企画)
After。レシピ「広がり建具」を使用(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)
「私は一概に“木造賃貸アパートなどの古い物件を保存しよう”と言っているわけではありません」と話す連さん。モクチン企画の提供する会員プログラム/コミュニティである「メンバーズ会員」や「パートナーズ会員」に入っている物件オーナーや不動産屋さんとともに、「まちにおける価値」を総体的に考えた上で、それぞれの物件に合わせた対応をしているという。そのため必要に応じてて、建て替えを勧める場合もある。「適正なタイミングで住居の更新や循環が行われ、そのことでまちの魅力が生み出されていくようなサービスを提供すること」が、モクチン企画の存在価値と言ってもいいだろう。
蒲田にある木造賃貸物件にあるモクチン企画オフィスで取材に応じていただいたNPO法人モクチン企画代表の連勇太朗さん(筆者撮影)
木造建築(木造在来工法)に代表的される“築古”と呼ばれる賃貸アパートに対し、壁が薄くて騒音が心配、古い、夏暑く・冬寒い、といったデメリットをイメージに挙げる人も多い。一方でタワーマンションなどと違い、低階層の建物が多く、密集して建っているため、まちのなかで暮らしている感覚が味わえるといったことや、「木造の建物は、柱・梁の軸組構造でできているからこそ、自分たちで手を入れたり、改修が行いやすい」というメリットを連さんは挙げる。
逆にデメリットになっている部分は、防音性能や断熱性能を上げたり、耐震補強を加えるといったリフォームにより、「チューニングが可能」だと話す。そうすることで、住居のある街とのいい距離感が保てるのだという。この「距離感」こそ、都心部でも賃貸物件の空室率が上がっているといわれている現在、魅力的な賃貸物件を運用する際のキーワードになりそうだ。
築古賃貸アパートは新しいことを始めるのにぴったり東京都内23区には、1960年~90年代に建てられた木造の民営アパートだけでも20万戸以上あると言われる。
「人口が増えている時代は、部屋をつくれば入居者が決まるという方程式が成り立っていました。しかし今はそれが全然効かなくなっています。物件オーナーや不動産会社が、単に部屋をつくるということ以上に、『物件にどういった価値をつくっていけるか』を真剣に考えなくてはならない時代に突入しています」と連さんは言う。
「人口が減ることによる賃貸物件の供給過多において、これからはもっと『さまざまな用途に対応可能な空間や物件』を提供していく必要があると言えます。また住民は、そのアパートに住むだけでなく、その街に住むという総合的視点から住居を選択する。そう考えると、物件を管理する人は必然的に街に関する視点や、周囲にどんな人が住んでいるか、関わりを持つ不動産会社や物件オーナーがどんな人か、と言ったことが重要になってくると思います」(連さん)
築60年近い木造の戸建てを改修したモクチン企画の事務所(写真提供/モクチン企画)
木造建築は、壁や床を改造することが簡単にでき、見栄えを良くしたり補強がしやすい(写真提供/モクチン企画)
こうした築古のアパートやマンションは、借りる側の視点で考えると、ロケーションに関係なく「家賃が低め」という大きな魅力がある。「私たちのようなNPOや、スタートアップといった何か新しいことをはじめようと考えている人たちにもってこいの物件が結構たくさんあります」と連さん。実際、福祉系のNPOや、地域の貧困家庭向けに無料あるいは安価で食事を提供する「子ども食堂」、地域密着のローカルビジネスのための場として、雑居ビルに事務所を構えるより、地域の人との関係を構築できるチャンスがある木造アパートはさまざまな可能性を持っていると言う。
空室化を食い止める総合的な手段として「モクチンレシピ」は、当初は木造アパート向けを想定してつくられたリフォーム例だった。だが現在では、住宅メーカーが大量生産した「軽量鉄骨」でできたアパートや、ワンルーム型のマンションでも、モクチンレシピは積極的に利用されるようになった。理由は、最小限の手数で最大の魅力を引き出す「コスパ」のよいリフォーム例であること。さらに部分別に紹介されているため、導入しやすいことからだ。こうした流れから「レシピの内容も、木造に拘らずに、ある程度汎用性があるアイデアを意識的につくっています」と連さんは話す。
モクチン企画は、連さんが提唱する「物件オーナーが建物や街の価値をつくる」という考えに賛同する人たちを「メンバーズ会員」と呼びコミュニティ化し、レシピを使ったリフォームの個別のコンサルティングや、問題や解決方法を積極的に共有することで、手ごろな投資による「空室化対策」のノウハウを学びあっている。実際に、リフォームを通じてこれまでとは違う入居者を募ることに成功してきた例が、サイト内には並ぶ。
例えば、モクチンが2017年に監修した、神奈川県横浜市青葉区にある「ピン!ひらはらばし」の物件は、築47年の木造賃貸アパート。2階建4戸の賃貸アパートはリフォームを手掛けた当時は空室だった。リフォーム後、物件数は3戸に減らしたものの、現在公表されている家賃は、1DK57.55平米の1部屋で9.3万円だ。(現在全戸入居済み)
同アパートにおいて、最も斬新なリフォーム箇所は共用部に採用された「くりぬき土間」レシピだ。居室と廊下に適度な距離をつくることにより、廊下側の壁の耐震補強のために窓をつぶしても、プライバシーを確保しながら開口部をつくることも可能だ。
実際、レシピ上でも掲載されている「くりぬき土間」の実例(左がリフォーム前、右がレシピを使ったリフォーム後)(写真提供(左)/モクチン企画、撮影(右)/kentahasegawa)
一方20数社と連携している「パートナーズ会員」と呼ばれる不動産会社とは、さらにエリア全体の街づくりに繋がるプロジェクトを通じて、木造アパートに限らず、賃貸物件全体の可能性を共に探っている状態だという。
神奈川県相模原市淵野辺にある入居者向け食堂の「トーコーキッチン」は、モクチン企画がデザインから協力したプロジェクトの一つ。不動産会社・東郊住宅社はモクチン企画のパートナーズ会員の古参だが、同社が管理する1600室の入居者が利用できる食堂をつくることで、「ここに住みたい!」、「この街に住みたい!」と思わせる物件提供を可能にした例として、広く知られている。
モクチン企画が参画したプロジェクト「トーコーキッチン」(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)
また、埼玉県戸田市で不動産会社の平和建設とともに手掛けているプロジェクト「トダピース」は、最新事例の一つだ。賃貸物件(木造に限らず)を通じて、空室対策を兼ねたまちづくりを目指すもので、モクチンレシピを取り入れて低価格でリノベをした物件に、個性を持たせた部屋を増やすことで人を集め、戸田市そのものの街の価値を高めることが目的だ。すでに戸田市内で、17戸の賃貸物件をリノベでリースしていることに加え、今年始めには、モクチン企画とともに、新築の木造アパート「はねとくも」を生み出した。「はねとくも」はアトリエ付きの賃貸アパートであり、そこで小商いや制作環境が生まれることで、住む人がまちの価値になっていくような循環を目指すと言う。
連さんとともにプロジェクトを進めるのは、トダピース/平和建設の河邉政明さん。アトリエ付き住居「はねとくも」は、まちにひらかれた賃貸物件だ(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)
連さんらの取り組みはトーコーキッチンに代表されるように賃貸物件そのものの価値向上だけでなく、まちの魅力や価値に影響を与えるようなアイデアにつながっている。モクチン企画への共感やプロジェクトは全国的に広がりを見せている。
“ニューノーマル”における賃貸物件の可能性新型コロナ禍で、社会動向や情勢が刻一刻と変化しつつある今、賃貸物件全般に何か新たな変化は待ち受けているのだろうか。2020年6月5日、モクチン企画が主催した物件オーナーや不動産会社向けのオンラインイベントでは、「モクチン企画」の理事やメンバーである建築や不動産のエキスパートたちが顔をそろえ、ニューノーマルな時代の不動産賃貸について議論が交わされた。
その中では、リモートワークの推奨と増加により、共通認識としてこれまで分けて考えられてきた「働く場と寝る場」に変化が訪れ、いわゆる「ベッドタウン」と呼ばれている住宅地での生活時間が増えることによって、地域ごとの暮らしにあった「ビジネスニーズ」が出てくる兆しが見えたという。
さらに、自粛生活の影響で「孤独」を味わう人たちが増えるなか、「共同住宅を通じて得られる<ゆるいつながり(=ちょっと)>のニーズも出てくる可能性がある」と、アジアの住宅市場や暮らし方について研究しさまざまなプロジェクトを展開してきた土谷貞雄さんは話す。
一方ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保つことが社会的共通認識となった中で、これまで東日本大震災以来のキーワードとなっていた「絆」から連想される「密な」距離感から、これからは少し距離を取らざるを得ない社会環境に置かれるだろう。それにより、他者の“存在”は感じつつも、それほど密接ではない「点在」という概念が、住環境を語る上でもキーワードになると、このパネルディスカッションは締め括られた。
6月5日のオンラインセミナーのパネリストの一人で、モクチン企画のメンバーである、「しぇあハウスよこはま」のオーナー、荒井聖輝さんが提案する3つのキーワード(撮影/筆者)
「今後は空室対策だけではなく、パートナーズ会員である不動産会社とともに、賃貸アパートの改修だけに限らず、まち自体を魅力的にするような仕掛けをつくれるような取り組みを積極的に増やしていきたい」と話す連さんたち。「ニューノーマル」の世界では、これまで空室化問題の筆頭になりそうな、駅から遠い、都会への距離が遠いといったロケーション的に不利な場所でも、リノベによるプレゼンテーション一つで価値が生まれ、入居者が絶えない物件が増えてくる可能性がある。
彼らの活動がさらに広まることで、借りる人それぞれの生き方の選択の幅がさらに広がることを楽しみにしたい。
●取材協力