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人口減少や高齢化によって、地方の公共交通機関が危機に瀕しているのは周知の事実。当然、さまざまな施策で「住民の足の確保」に取り組んでいるのですが、そんななかで今、富山県朝日町の実証実験に注目が集まっています。一体どんな仕組みなのでしょう? 同町の寺崎壮さんに話を伺いました。
よくある地方の課題に、新しい乗合サービスで挑む
新潟県との境にある富山県朝日町。東京23区の面積の約1/3ほどに、ヒスイの取れる海岸から北アルプスの標高3000m級の山々まである町です。現在約1万1200人が美しい自然に囲まれて暮らしていますが、ご多分に漏れず、人口の減少や高齢化によって公共交通の維持管理が難しい局面に立たされています。そこで同町は2020年8月3日から「ノッカルあさひまち」という新しい公共交通の実証実験を開始しました。
市街地から離れた里山の風景(写真提供/富山県朝日町)
街の中の様子(写真提供/富山県朝日町)
その仕組みは、分かりやすくいえばUberやグラブなどに代表されるようなライドシェアに似ています。ライドシェアとは車を持っている人が移動する際に、他の人を乗せてあげるというサービスのこと。日本では規制があり、あまり普及していませんが、既に欧米や中国、東南アジアなど海外では多くの人々に利用されています。
「ノッカルあさひまち」がUberやグラブと大きく異なるのは、民間企業ではなく同町が運営主体だということ。つまりちょっとした自治体が運営する乗合サービス、というわけです。サービスの開発にあたっての実証実験は、朝日町・スズキ株式会社・株式会社博報堂が参画する協議会のもと運営されています。「町では公共交通についてさまざまな角度で検討していたのですが、その折に地方の移動問題の解決に取り組んでいる博報堂さんとスズキさんに、今回ご協力を頂く機会を得たのです」(寺崎さん)。博報堂とスズキは日本各地の地方部で地域活性化に貢献したいという思いを共有しており、このサービスを今後ほかの地域でも活用したいと考えているとのことです。特に、地方部においては自動車の販売台数全体に占める軽自動車の割合が高く、軽自動車やコンパクトカーを主に販売しているスズキ株式会社にとって地方部が元気であることは非常に重要です。
「ノッカルあさひまち」の仕組み(画像提供/富山県朝日町)
「ノッカルあさひまち」が行われる以前から、そして現在も町のコミュニティバスが1日40便運行されています。それでも“住民の足の確保”という観点からすれば、多くの課題を抱えていました。例えば地区によっては次のバスまで4~5時間空いてしまいます。
だからといってバスの本数を増やそうとなると、車両もドライバーも必要になりますが、30人乗りなら1台につき購入費が約2000万円、8人程度が乗れるワンボックスタイプでも約500万円が必要になります。またドライバーなどの人件費や燃料費、整備費用等維持費は1台あたり年間でざっと1000万円という計算です。
ほかにも、高齢者にとっては自宅や目的地からのバス停までの距離があり、歩くのが大変というケースもあります。また山間部の道路は通常のバスはもちろん、ワンボックスタイプ(実際に導入済み)でも通行が難しい場所もあり、ルート設定にも制限があります。
集落のなかにはバスが運行できないところも(画像提供/富山県朝日町)
朝日町のコミュニティバス(写真提供/富山県朝日町)
ワンボックスタイプのバス(写真提供/富山県朝日町)
こうした状況もあって同町では、近隣同士で「よかったら乗っていく?」「ありがとう、じゃあお願い」と乗り合いをすること自体、以前から珍しくはなかったそう。そこで「町が仕組みをつくることで『乗せてもいい』『乗りたい』を顕在化させ、公共交通の補足として活用できないかと考えたのです」
安心して『乗せてもいい』『乗りたい』といえる仕組みにノッカルあさひまちは、海外にあるような既存のライドシェアサービスとは運用面で異なる点がたくさんあります。
まずは町民が町民のために運行するということ。ドライバーを町民に担ってもらい、町民の移動の手助けをしてもらう、助け合いの精神が前提になっています。
一般ドライバー運行時の車両イメージ(写真提供/富山県朝日町)
しかし、町民なら誰でもドライバーになれるのかと言えば、そうではありません。「海外のライドシェアサービスと違い、無料の実証実験を経た後は、われわれは『自家用有償旅客運送』という道路輸送法に基づいた制度を活用して、有料で運行することを目指しています」
自家用有償旅客運送とは「既存のバス・タクシー事業者による輸送サービスの提供が困難な場合」に自治体やNPO法人などが、自家用車を用いて提供する運送サービスのこと。そのためドライバーも、タクシードライバーのように第二種免許を持っている人か、国の定めた講習を受講した人に限られます。これなら運転に不安のあるような人がドライバーとなることがなくなります(ただし「有償」の文字の通り、サービスが有料の場合。無料の実証実験等は除く)。
さらに海外のライドシェアでは、ドライバーと利用者とのトラブル(暴力や強盗など)という話もよく耳にしますが、例えば協議会が問題のある人物だと判断したら、採用時にふるいにかけて落とすこともできます。万が一トラブルが起こったとしたら、ドライバーと利用者とで直接解決するのではなく、朝日町が主体となってトラブル解決に当たります。このように利用者は安心して利用することができます。
もう一つ「ノッカルあさひまち」ならではの、既存サービスとの違いがあります。それは地元タクシー会社とタッグを組んで行うサービスだということ。実証実験段階では地元のタクシー会社に「ノッカルあさひまち」の予約受付や配車の実務が委託されていますが、町では将来的に運営サービスそのものを委託しようと考えています。
実証実験の様子(写真提供/富山県朝日町)
国は、交通事業者が実施主体に参画し、運行業務の委託を受けることで地域の交通事業者の合意形成手続きを簡素化することを目的とした「交通事業者協力型自家用有償旅客運送制度」を含む法律を2020年5月27日に成立させ、2020年6月3日に公布しました。
朝日町は、この制度をいち早く活用し、地元のタクシー会社と協力し地域一体となって自家用有償旅客運送を行うこととしたのです。
ライドシェアサービスは、タクシーと乗客を取り合いになるとして海外では問題になっています。日本でもそのような意見もあり、自家用車を活用した乗合サービスがなかなか普及しない理由のひとつになっていますが、なぜ朝日町ではタクシー会社が協力してくれるのでしょうか。
「もともと朝日町にはタクシー会社は1社しかなく、人口減の問題は、タクシー会社としても町と同じ危機感を持っています」。このまま町の人口が減り、交通網が少なくなっていくのを黙って見ているのではなく、町の人が気軽に乗れる新しい交通サービスをつくり出して、町に貢献するとともに、新しい仕事に進出することで企業の存続を図ろうと「ノッカルあさひまち」に協力しているというわけです。
実際、先述した町のコミュニティバスの運営は、既に同じタクシー会社が請け負っています。またヒスイの取れる美しい海岸や北アルプス登山など観光資源のある朝日町は、北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅から予約制のバスを運行していますが、このバスも同社が業務委託されています。
春の朝日町の風景(写真提供/富山県朝日町)
実証実験の第一段階で見えて来たいくつかの課題こうしてみると、既存のライドシェアサービスよりも安心して利用でき、タクシー会社とも協力的なため、万事が上手くいきそうな「ノッカルあさひまち」なのですが、やはりそうは簡単にいかないようです。
2020年8月3日から9月末にかけて、まずスズキが提供してくれた3台の軽自動車を使い、町の職員がドライバーになって実証実験が行われました。同年10月26日からは、町民ドライバー+自家用車による運行という無料の実証実験で、より本来のサービスに近い内容で第二段階の実験がスタートしました。さらに来年2021年1月からは第三段階として有料による実証実験を行うことを想定しています。
(写真提供/富山県朝日町)
これらのスケジュールは今のところ予定通りですが、9月末までの実証実験ですでにいくつかの課題が見つかりました。
「まず予約の取り方です。当初はインターネットを活用してスマートフォンによる予約を主に想定していましたが、高齢者の方ほどスマートフォンの操作に不慣れなため、結局は電話による予約が大半を占めました」
電話による予約となると、車両手配のオペレーション上、どうしても利用前日の午前中までに予約しないとなりません。「利用者からはそれが面倒、不便というご意見をいただきました」。特に通院の場合、行きはまだいいのですが、帰りは診療次第で時間が変わるので予約できない=利用できないのです。
「ノッカルあさひまち」実証実験で使用されている車両。実証実験後は各家庭の自家用車が使用される予定(写真提供/富山県朝日町)
予約ページとドライバー紹介ページ
これはドライバー側も同じで、「車で通院するから誰か乗りますか?」という場合、何月何日はこの時間・ルートでと、事前に登録できますが、帰りの時間を事前登録できません。
また現在は12月までは無料サービスによる実証実験ですが「有料の場合、いくらが適正なのかを決めないとなりません。現在アンケート集計も合わせて行っていて、おそらくバスよりも高く、タクシーより安いというレベルになるとは思いますが……」
寺崎さんの歯切れが悪いのは、「どのような仕組みにすれば事業の持続性が保てるのか」という点です。自家用車で町民を乗せてくれるドライバーにも報酬は必要か、その場合いくらが適切で、そのためには料金をどうすればいいか。さらに保険など運用するための経費も考慮する必要があります。
こうした予約・ドライバーの事前登録のあり方や、料金設定が今のところ見えてきた主な課題です。
商業の活性化や旅行者、移住者の増加に繋がれ!一方、9月末までの実証実験(ドライバーは町の職員)における利用者、つまり乗る側の反応はどうでしょうか。第一段階での利用者数は1週間で5~6人。「バスだとあちこちのバス停を回ってから、ようやく目的地に着くけれど、これならまっすぐ向かえるので助かる」「タクシーより安い料金なら利用したい」という声のほか「ドライバーとおしゃべりをしながら外へ出掛けられるのは楽しい」、高齢者から「久しぶりに外出するきっかけになった」という声もあったそう。利便性の向上とは別の、うれしい成果も見つかりました。
協議会メンバーによる仕組みづくり会議の様子(写真提供/富山県朝日町)
また、先述の通り通院ニーズに対しては課題が浮かび上がりましたが、ドライバー・利用者とも買い物ニーズについては概ね好評で、今後は「ノッカルあさひまちのドライバーや利用者がお買い物の際におトクになるような仕組みを考え、それによる町の商業施設や商店街などが潤う施策も考えられます」
このように「ノッカルあさひまち」は、全国の高齢化や過疎化に悩む地方に先駆けて、自治体が主導する自家用車を活用した乗合サービスを公共交通の補足として使えないかと、船出をしたばかり。今後の実証実験の第二、第三段階で、さらに課題が見つかることもあるでしょうが、そもそもライドシェアサービスは、世界中で利用されているほど成功しているビジネスモデル。しかも以前から近隣同士では「よかったら乗っていく?」「ありがとう、じゃあお願い」という土壌のあった朝日町です。そうした地方ならではの強いコミュニティが存在しているのですから、自治体が主導する乗合サービスが成功する可能性は大いにありそうです。
また冒頭でお話したように観光資源の豊かな朝日町ですから、「ノッカルあさひまち」による観光事業の活用も考えられます。さらに昨今のコロナ禍で、地方への移住が注目されていますが“高齢になっても移動の自由が見込める朝日町”になれば、移住先の候補に入っても不思議ではありません。こうした旅行者や移住者の増加は、もちろん町の活性化に繋がります。そんな可能性を秘めた「ノッカルあさひまち」。今後も目が離せません。
●取材協力新型コロナウイルスの影響で、「ベランピング」「おうちキャンプ」などの言葉が普及し、実際に暮らしにキャンプのエッセンスを取り入れた人も多いのではないでしょうか。今、住まいとアウトドアがかつてなく近づいているようです。それでは、どんな住まいや住まい方が登場しているのでしょうか、アウトドアブランドとハウスメーカーに聞いてみました。
暮らしにアウトドアを取り入れる人が急増!
このところキャンプブームが続いていましたが、住まいの世界でも「キャンプのようなインテリア」「アウトドアっぽい暮らし」は、ひとつのトレンドとなっていました。ところが今年に入り、新型コロナウイルスの影響でその流れは一気に加速。外出自粛しながらも家でも外遊びがしたいと、「おうちキャンプ」「ベランピング」などを取り入れる人がぐっと増えているようです。
アウトドア総合メーカーのスノーピークのアーバンアウトドア事業担当・王治菜穂子さんによると、「世間では『メスティン』レシピが話題になっていますが、同社でも、1~2人を対象にしたミニサイズのダッチオーブン『コロダッチ』や、コンパクトに収納できて家使いでも重宝する『HOME&CAMPクッカー』、チタン製のマグカップといったテーブルウェアの売れ行きが大変好調です」といいます。
「HOME&CAMPクッカー」は2020年度グッドデザイン賞で「グッドデザイン・ベスト100」にも選出(写真提供/スノーピーク)
「外出自粛期間中は店舗を閉めておりましたが、その後営業再開してからは、かなりのスピードで売上が回復。キャンプビギナーから、根っからのキャンパーまで、おうちのなかでもキャンプを楽しみたい! という動きを肌で感じています」(王治さん)と話します。
ハウスメーカーとアウトドアのコラボは反響大!ハウスメーカーでも同様の手応えがあるようです。ヘーベルハウス(旭化成ホームズ)では、アウトドアな暮らしを提案していますが、資料請求数が前年同期比5割増になっているといいます。キャンプ道具はインテリアアイテムとしても優秀なので、今、流行している「男前インテリア」の影響もあるかもしれません。
バルコニーを有効活用する暮らし方を提案(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))
(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))
注文住宅に留まらず、新築の完成物件でもアウトドアを取り入れた住まいは好調のようです。例えば、中央住宅とアウトドア家具ブランド「INOUT(イナウト)」とコラボしたモデルハウスは、新型コロナウイルスの影響が深刻だった今年5月に販売を開始しましたが、全14棟完売したそう。
(写真提供/中央住宅)
写真を見ても分かる通り、リビングとデッキがひとつづきになっていて、家の中と外がゆるくつながっています。シェードがあるので、いつでもキャンプ気分が楽しめる住まいと言えるでしょう。
実はスノーピークも2018年、地元・新潟の工務店などとコラボした「天野エルカール」という住宅街の開発に取り組んでいて、当時も大変好調だったといいます。
「地元工務店、ハウスメーカー、全10社とコラボした企画でしたが、計画中はどこまで反響があるか分からず、手探りだったのです。3週連続、週末に住宅展を開催したときは計7日間で1200組以上の方にご来場をいただき、関心の高さに驚かされました」(王治さん)と話します。
コロナ前からあったアウトドアな住まいですが、ブームで終わるとは考えにくく、今後、加速して一大ムーブメントとなっていくかもしれません。
家でもキャンプの楽しさを! アウトドアな住まいの良さとはでは、アウトドアな住まいの特徴や魅力は、どこにあるのでしょうか。
「うちと外がゆるやかにつながり、自然を感じられる工夫がされている点でしょうか。『天野エルカール』では、キッチン・リビングにつづいた土間やデッキをマストで設置しました。すると、窓をあければすぐに外の空気が感じられるのです。また、住まいにシェードを張りつけました。これだとすぐにシェードを張ることができ、さっと設営して、すぐにキャンプ気分が楽しめます」と王治さん。
スノーピーク 企画開発エグゼクティブクリエイター佐藤さんの自宅にもウッドデッキが。「自宅でのテレワークの際、晴れて気持ちいい天気のときは、ウッドデッキにさっとテーブルとチェアを持ち出します。休憩中はアウトドアギアを使ってコーヒーを豆から挽いて気分転換しています」(佐藤さん)
シェードを張ると、キャンプ気分がアップ(写真提供/スノーピーク)
とはいえ、家づくりからというと、なかなかハードルが高くなるもの。今すぐにできる「おうちキャンプの楽しみ方」を教えてもらいました。
「アウトドアグッズの良さは、収納してコンパクトに持ち運べ、使わないときにはしまっておける点があります。例えば、テレワークだと気分転換が難しいですが、アウトドアグッズがあると気分転換も自宅でも容易にできます。弊社の社員では、おうちのバルコニーに机と椅子を置いて、テレワークする人もいます。リビングで仕事をするより、気分も変わって良いですよ」といいます。
なるほど、おうちアウトドアをチェアと机からはじめられるというのは、手軽ですね。
スノーピークビジネスソリューションズ HRS事業部オフィスディレクションチーム 神原さんのご自宅。「在宅ワークでは気分転換が重要。集中したいときはリビングで、Webミーティングはテラスのお気に入りローチェアで。家の中でも場所を変えるだけで、気分も変わって生産性をアップできます」(神原さん)(写真提供/スノーピーク)
もう一つ、アウトドアな住まいの良さとして、王治さんが教えてくれたのは、コミュニティを円滑にしてくれる点です。
「焚き火や火の匂いを敬遠する人もいるなか、やっぱりキャンプに憧れる人たち、してみたいなという人たちは一定数いるのだと思います。弊社では都心の新築マンションに住まわれる方でも、気軽に野遊びやキャンプを楽しめるための提案を行ってきましたが、実際にイベントをしてみると、やはりみなさんとてもうれしそうなんですね。焚き火を囲んで、会話がはずみ、打ち解けるきっかけになります」と王治さん。
住んでいる場所は大都会でも郊外でも、風や光、緑を感じたい、というのはいつも変わらぬ願いかもしれません。アウトドアな暮らし、これからはブームではなく、定番となっていくのではないでしょうか。
●取材協力コロナ禍で在宅勤務などを経験して、夫婦ともに自宅にいる時間が長くなったという人も多いだろう。ただでさえ、家庭内のこまごまとした家事で大変なのに、「家族の在宅時間が長くなると新たな家事も増える」ということをリンナイの調査が浮き彫りにした。どういった家事が増えて、誰が担当しているのだろう?【今週の住活トピック】
「夫婦の育児・家事」に関する意識調査を公表/リンナイ家事・育児に積極的に参加する男性が増加!といえども…
まずリンナイの調査で、「コロナウイルスの影響で在宅勤務、在宅時間が増えたか」を聞いたところ、過半数の53.7%が増えた(とても増えた+やや増えた)と回答した。男性に限ってみると、増えたという回答は57.0%に達する。
増えたと回答した男性に、「コロナ前と比べて、育児・家事に対する参加度合いはどのように変化したか」を聞くと、61.1%が「積極的に家事・育児に参加するようになった」と答えた。女性である筆者から見ると、喜ばしいことだ。
で、実際の家事や育児の時間はどうかというと、全体では次のような変化が見られた。
Q.コロナ前後でのあなたの育児時間・家事時間について、1日あたりの平均時間をそれぞれお答えください(出典/リンナイ「『夫婦の育児・家事』に関する意識調査」のリリースより転載)
男性の家事・育児の時間がコロナ前より長くなっているが、女性もやはり長くなっているので、女性に負担がかかっているという状況は実はさほど変わっていない。とはいえ、意識の変化は今後のカギになるだろう。
「コロナウイルスの影響で在宅勤務、在宅時間が増えた」人を対象に、「コロナ以前よりもパートナーと家事の分担をするようになったか」を聞いたところ、男性では70.3%、女性では48.5%が分担するようになったと感じる(とてもそう感じる+ややそう感じる)と回答した。分担の実感に男女差はあるにせよ、コロナ禍が家事分担を意識するきっかけになったのは確かなようだ。在宅時間が増えたのは男性が多いので、こうした流れや男性の意識が今後も拡大していくことを期待したい。
約4割が、コロナ前と比べて家事の量や頻度が増えたコロナ禍では、例えば「マスクを毎日手洗い」したり、「手洗い用の石鹸を補充」したり、「消毒液や除菌シートの在庫を確認」したり、ネットで購入した宅配物の「段ボールや箱をつぶして捨てる」といったことが、新たな家事に加わったり、以前より増えたりしたのではないだろうか?
リンナイの調査で、「コロナ禍での家事の量や頻度について」聞いたところ、「コロナ前と比べて家事の量や頻度が増えた」(とても増えたと感じる+やや増えたと感じる)という回答が43.9%に達した。
家事の量や頻度が増えたと回答した人に、増えた家事や育児について聞くと、男女別にやや違いが見られた。
Q. コロナ禍によって育児・家事で時間が増えたと思うものをすべてお選びください(出典/リンナイ「『夫婦の育児・家事』に関する意識調査」のリリースより転載)
女性は圧倒的に「料理」が増えたと回答しており、家族が長く在宅することで料理をつくる頻度や量が増えたからだろう。「掃除」「育児」「片付け・収納」は男女ともに増えているが、「食料品・日用品の買い出し」については男性のほうがより増えたようだ。
次に、コロナ禍によって新たに増えた家事や育児を聞くと、「マスクの手洗い・洗濯」と「除菌、手洗いうがいの呼びかけ」は、半数近くの人が新たに増えたと感じていることが分かった。下図を見ると、コロナウイルスから家族を守ろうと、こまめに作業している様子がうかがえる。
Q. コロナ禍によって、新たに増えたと感じる育児・家事は何ですか(複数回答)(出典/リンナイ「『夫婦の育児・家事』に関する意識調査」のリリースより転載)
家事・育児の分担や男性の参加で子どもの数は…?さて、明治安田生命の「子育てに関するアンケート調査」では、「子どもをさらに欲しい」という回答が30.5%になり、過去最多になった。その理由として、幼児教育・保育の無償化による「家計負担の軽減」や、テレワークの普及などによる「子育てと仕事の両立のしやすさの向上」などが影響していると分析している。また、ステイホーム期間中に子どもといる時間が長くなり、子どもの世話をすることで絆が深まるなど、子育てにプラスの影響があったことも要因とみている。
一方で、厚生労働省が発表した全国の妊娠届の件数が5月~7月で前年より下回り、産み控えも懸念されている。妊娠届の件数はこの先の出生数の目安になることから、2021年の出生数が注目される事態となっている。
コロナウイルスという禍の中で、予防に苦慮する日々が続いている。収入が大きく減少したという人もいるだろう。こうしたマイナスな側面も多いが、在宅時間が長くなることで、パートナーや子どもと話す機会が増えて、新たな面に気づいたり、いとおしさが増したりといったこともあったのではないか。
リンナイの調査結果を見ると、いまなお女性の負担が大きいものの、男性の家事・育児の参加が増加したことが分かる。テレワークの普及ともあいまって、仕事と子育てが両立しやすくなるといった変化もあり、この事態が夫婦や親子の関係性について再認識する機会になればよいと願う。
空き家増加が日本の社会問題として取り上げられる一方、高齢者、障がい者、低額所得者など、住宅の確保が困難な人たちが増加しています。これら2つの問題を一緒に解決する方策として豊島区で市民有志が立ち上げたのが「としま・まちごと福祉支援プロジェクト」です。
一体どんなプロジェクトなのか、企画・運営する一般社団法人コミュニティネットワーク協会の理事長、渥美京子さんにお話を聞きました。
コロナで高齢者の居場所がなくなった!2020年4月の緊急事態宣言以降、休校・休園、自宅待機、店舗の営業自粛など、多くの人が行動制限されました。それは若い世代、子育て世代のみならず、高齢者や障がいをもつ人も一緒です。渥美さんによると「それまで高齢者のお出かけ先となっていた百貨店や大型電機店などの商業施設、地域センターなどの公共施設に行きづらくなり、自宅に引きこもる高齢者が増えた」と言います。
池袋駅前の大型電器店などは、豊島区の高齢者にとって憩いの場でもあった(画像/PIXTA)
「特に定年退社まで仕事一筋で頑張ってきた男性は、仕事以外に趣味がない、会社関係以外の人づき合いが少なく、歳をとると同時に引きこもりがちになる傾向があります。
そうでなくても高齢者の多くの人、特に一人暮らしをしている人は『将来介護が必要になったらどうしよう』『孤独死したらどうしよう』という不安を抱えています。それでも『住み慣れた街を離れたくない』『都心は家賃が高いが住み続けたい』という人が多いのです」(渥美さん、以下同)
一般社団法人コミュニティネットワーク協会の渥美京子さん(撮影/片山貴博)
空き家を福祉に活用「としま・まちごと福祉支援プロジェクト」そのような高齢者や障がいをもつ人、生活困窮者に住まいと居場所、就労できる場所を提供する目的で始められたのが「としま・まちごと福祉支援プロジェクト」です。
「豊島区の空き家率は2018年で13.3%と23区内で最も高い数字です。一方で高齢者等への大家さんの入居拒否感は根強く、日本賃貸住宅管理協会の調査では、高齢者世帯の入居に拒否感がある大家さんが70.2%、障がい者がいる世帯の入居に対しては74.2%にものぼります。空き家と住宅確保が困難な人びとをマッチングすることで、双方が抱える問題を一緒に解決できないかと考えたのです」
豊島区の空き家率は2018年で13.3%と23区内で最も高く、約9割が賃貸用(画像提供/豊島区住宅課)
「としま・まちごと福祉支援プロジェクト」は空き家を活用したセーフティーネット住宅を中心に、見守り拠点・交流拠点を通じて地域住民と福祉支援を行う(画像提供/一般社団法人コミュニティネットワーク協会)
プロジェクトのポイントの1つ、空き家を活用した共生ハウス西池袋では、2017年にできた住宅セーフティーネット制度をもとにした豊島区の家賃補助制度が利用できます。家賃補助を受けることで家賃月額4万9000円で住むことも可能です(水道・光熱費等を含む共益費は別途1万円)。
「加えて共生ハウスから徒歩圏内に『共生サロン南池袋』という地域交流・見守り拠点を設けています。新型コロナウイルスの感染防止対策をしながら、日がわりで健康講座やスマホ・パソコン講座、卓球、麻雀カフェなどを企画運営することで、入居者や地域の人々が交流・相談・学習できる居場所づくりを目指しています。お酒がないとなかなか外に出ない男性たちが交流できるようにお酒や料理を持ち寄って『おたがいさま酒場』なども開催しているんですよ」
「共生サロン南池袋」で行われるスマホ・パソコン講座の様子(画像提供/一般社団法人コミュニティネットワーク協会)
夜には地域の人びとが日がわり店長として「おたがいさまサロン」や「おたがいさま酒場」を開催(画像提供/一般社団法人コミュニティネットワーク協会)
「共生ハウス西池袋」から徒歩圏内に、「共生サロン南池袋」がある(画像提供/一般社団法人コミュニティネットワーク協会)
人と人とのつながりが、不可能を可能に空き家の福祉への活用は、全国のさまざまな自治体で試みられていますが、まだまだ本当に成功事例といえるものが少なく、採算性をはじめとして多くの問題を抱えているようです。共生ハウス西池袋ができるまでにも、いろいろな困難があったのではないでしょうか。
「最も難関だったのが、空き家を貸してくださる方と出会えるかということでした。実は今回のプロジェクトは物件が決まるより前に国土交通省の令和元年度・住まい環境整備モデル事業に認定されたのですが、事業モデルをつくったものの、実際に活用できる空き家がなかなか見つからずに困っていたとき、力を貸してくださったのが民間の不動産会社の人たちでした」
空き家を見つけるのに苦労していたとき、協力して物件を探してくれたのが地域の不動産業界の人々だった(画像提供/一般社団法人コミュニティネットワーク協会)
協会の主催するセミナーに講師として登壇した不動産会社の人が、地元の不動産会社に声をかけて見つかった空き家が今回の物件でした。
「もともとは夫をなくされてお一人になった高齢者女性のご自宅でした。ご本人が介護施設に入居されてからは甥御さんが管理をされ、ファミリー向けに賃貸に出す方向で検討されていたそうです。その矢先に今回の『高齢になっても住み慣れた池袋で安心して暮らし続けられるようにする』というプロジェクトの趣旨に共感し、ぜひ協力したいと言ってくださったのです」
築35年の空き家が『共生ハウス西池袋』としてシェアハウスに生まれ変わった(撮影/片山貴博)
高齢者や障がいをもつ人にも配慮してリフォーム7年間、住む人がいなかった空き家がリフォームを経て、シェアハウス型のセーフティネット専用住宅(高齢者、障がい者、低額所得者など、住宅確保が困難な人の入居を拒まない賃貸住宅)に生まれ変わりました。高齢者や障がいをもつ人が住むことを想定しているので、リフォームをするときも細やかに配慮されたそうです。
「前回の介護保険の改正で、要支援1、2は介護給付から予防給付に代わり、住民による自助努力が強化されました。また、介護認定は厳しくなる方向にあり、今後も介護予防に比重がおかれていくといわれています。『共生ハウス西池袋』では、そのような人が入居できるように配慮してリフォームを行いました。例えば、居室の入口は開け閉めがしやすいようにすべて引き戸に。1階と2階を行き来する階段やお風呂、トイレには手すりを取り付けています」
「共生ハウス西池袋」はシェアハウス型で居室は4つ。豊島区の家賃低廉化補助制度の対象者は、家賃4万8000円~4万9000円で入居できる(画像提供/一般社団法人コミュニティネットワーク協会)
4つある居室の入口はすべて、出入りがしやすくプライバシーを守る鍵付きの引き戸になっている(撮影/片山貴博)
階段やお風呂、トイレには入居者の安全を守る手すりが取り付けられている(撮影/片山貴博)
実際に筆者も「共生ハウス西池袋」の中を見学させてもらいました! 新築同様にリフォームされた各居室はすべて二面採光でとても明るい雰囲気、クローゼットやベッドの下などに収納もしっかり確保されています。高齢者や障がいのある人だけではなく、若い単身世帯にもこの家賃は十分に魅力的です。
「家賃低廉化補助制度は、豊島区に引き続き1年以上居住、月額所得15万8000円以下などの条件を満たせば、若い単身世帯の人も活用できます。特定の人たちだけではなく、健康な若い世代も共生ハウスに入居することで、多世代交流など多くの区民に開かれた場所になれば、と考えています」
各居室はすべて二面採光で明るく清潔な印象。収納付きのベッドが既に備え付けられている(撮影/片山貴博)
住民の交流の場にもなる共用部、キッチン・ダイニング(撮影/片山貴博)
地域包括ケアと「福祉×福祉」の取り組みへ住まい(セーフティネット住宅)と地域交流拠点(共生サロン)の整備がセットになったこのプロジェクト。ところが、渥美さんたちの構想はそれだけにとどまりません。
「これから先、少子高齢化が“待ったなし”で進み、介護保険財政は厳しくなると言われています。障がい者事業には民間の株式会社などの参入が相次いでおり、補助金頼みの展開は厳しくなることが予想されます。
こうしたなかで、持続可能な仕組みをつくるために考えているのが、『福×福』連携です。具体的には、介護事業と障がい者の就労支援事業を組み合わせます。例えば『農福連携』は『農産物の加工を施設を利用する障がい者が担う』ことですが、『介護保険事業(福祉)』と『障がい者の就労支援事業(福祉)』を掛け合わせたのが『福福連携』です。例えば、デイサービスの利用者が共生サロンのプログラムを楽しむときに、就労支援B型の利用者が準備や掃除、ときには卓球コーチなどをする。これによって、賃金を得るシステムを新たに取り入れたいと考えています。福祉の問題を本質的に解決していくためには、このようないくつもの横の連携が必須なはずです」
高齢者や障がいをもつ人が安心・安全に住み続けるためには、住まいそのものだけではなく、医療・介護などの付帯サービスが欠かせない(写真/PIXTA)
これまでサービス付き高齢者向け住宅である「ゆいま~る」シリーズの展開をはじめ、全国で高齢者や障がい者の支援を行ってきた協会だからこそできたこともあるのでしょう。渥美さんたちは現在、栃木県那須町でも廃校を活用し、高齢者の居住・介護・交流を目的とした複数の施設を有するまちづくりを行っているそうです。
一般社団法人コミュニティネットワーク協会の那須支所が取り組む「小学校校舎を活用した、那須まちづくり広場プロジェクト」(画像提供/那須まちづくり株式会社)
自身の親のことや、また自分が歳をとって1人になったり、障がいをもったりする可能性を考えたときに、住み慣れた地域で、地域の人とともに住み続けられる支援策があればとても心強く感じることでしょう。
このプロジェクトでは、資金調達においても多くの市民の力を借りようと11月27日までクラウドファンディングを行っているそうです(「共生サロン南池袋」のキッチン設置が資金の用途)。サロンや酒場の名前の通り「おたがいさま」の気持ちで地域の人びとが支え合い、つながり続ける社会のモデルとして、このプロジェクトの成功を願わずにいられません。
●取材協力風が冷たくなり、気候の急激な変化を感じる季節。新型コロナウイルスの影響による強制的な自粛ではなく、家で過ごす暖かな時間が愛しく感じられるようになってきました。SUUMOジャーナルで9月に公開した記事では、「ウィズ・コロナでテレワークを意識した新築マンションが続々登場」「【賃貸】敷金・礼金ゼロ物件の増加傾向、減少に一転。そもそも敷金と礼金はなぜ必要?」などが人気TOP10入りしました。詳しく紹介します。
2020年9月の人気記事ランキングTOP10はこちら!
1位 ウィズ・コロナでテレワークを意識した新築マンションが続々登場
2位 【賃貸】敷金・礼金ゼロ物件の増加傾向、減少に一転。そもそも敷金と礼金はなぜ必要?
3位 空室化進む“賃貸アパート”でまちづくり?「モクチン企画」の取り組み
4位 無印良品の“日常”にある防災、「いつものもしも」とは
5位 無人駅で地域活性! グランピング施設、カフェ、クラフト工房などへ
6位 宮下公園が生まれ変わった! 進化する渋谷の新たな魅力を探ってみた
7位 漫画の聖地「トキワ荘」復活! “ 消滅可能性都市” 豊島区がカルチャーなまちへ
8位 移住や二拠点生活は“コワーキングスペース”がカギ! 地域コミュニティづくりの拠点に
9位 エコな移動が地域を救う? グリーンスローモビリティ全国で広まる
10位 マンションもSDGsの時代。旧耐震マンションが、リファイニング建築でよみがえる?
※対象記事:2020年9月1日~2020年9月30日までに公開された記事
※集計期間:2020年9月1日~2020年9月30日のPV数の多い順
1位 ウィズ・コロナでテレワークを意識した新築マンションが続々登場
(画像提供:PIXTA)
テレワークに対応した建築は注文住宅で先行していましたが、新築マンションにも広がってきました。音の反響を減らす防音設備を取り入れた入居者専用シェアオフィスルームなど、共用部にテレワーク環境を整備したコワーキングスペースを備えた建物が増えています。
2位 【賃貸】敷金・礼金ゼロ物件の増加傾向、減少に一転。そもそも敷金と礼金はなぜ必要?
(写真:PIXTA)
リクルート住まいカンパニーによる「2019年度 賃貸契約者動向調査」によると、敷金ゼロ物件の契約割合は25.5%、同礼金ゼロ物件は40.2%で、前年度より減っています。敷金、礼金が何に使われるかの解説とともに、原状回復費用に伴う敷金返還トラブルの注意点も説明します。
3位 空室化進む“賃貸アパート”でまちづくり?「モクチン企画」の取り組み
(写真提供/モクチン企画)
空き家の増加が問題化している築古賃貸物件の改修やリフォームに取り組むNPO法人モクチン企画。人口減による物件供給過多には、さまざまな用途に対応可能な空間や物件を提供していく必要がありますが、築古賃貸アパートは、NPOやスタートアップなどが新しいことを始めるのにぴったりだと話しています。
4位 無印良品の“日常”にある防災、「いつものもしも」とは
(写真撮影/飯田照明)
9月1日の防災の日にあわせて防災セットを発売した無印良品。特別なものを用意するのではなく、普段使っているものをそのまま防災用品とする提案から、防災意識の向上を呼び掛けています。広範囲の品ぞろえを持つ無印良品ならではの、日常に軸足を置いた取り組みを伺いました。
5位 無人駅で地域活性! グランピング施設、カフェ、クラフト工房などへ
(写真提供/JR東日本スタートアップ)
JR東日本は、管内の約4割を占める無人駅を活用した地域活性化に取り組んでいます。ベンチャー企業などと協同し、地場産業を見学できる工房や、地元企業との連携などを行っている4例を紹介。地域住民にとっても、電車の乗り降りだけでない意味が生まれているようです。
6位 宮下公園が生まれ変わった! 進化する渋谷の新たな魅力を探ってみた
(画像提供/MIYASHITA PARK)
再開発が進む渋谷に新しくオープンした「ミヤシタパーク」は、公園と商業施設、ホテルが一体になったカルチャースポット。日本初出店となるブランドやプレイスポットを備えており、渋谷のイメージでもある若者だけでなく、幅広い層を街に呼び込むようイメージが一新されています。
7位 漫画の聖地「トキワ荘」復活! “ 消滅可能性都市” 豊島区がカルチャーなまちへ
2020年7月にオープンした「トキワ荘マンガミュージアム」(撮影/西村まさゆき)
マンガ家の手塚治虫氏らが暮らした「トキワ荘」を再現し、話題の施設「トキワ荘マンガミュージアム」の内部と、トキワ荘の歴史を紹介。マンガ文化をフックにした街づくりに取り組む豊島区は、こうした活動の目的には「文化継承の拠点」もあると話しています。
8位 移住や二拠点生活は“コワーキングスペース”がカギ! 地域コミュニティづくりの拠点に
(画像提供/津田賀央さん)
コロナ禍での生活で注目を集めるコワーキングスペース。地方では、働く場所としてだけでなく、地域コミュニティの拠点や移住相談の場としての側面もあるようです。地方は「働く場と生活の場が同じ」だからこそ、関係性が育ちやすいよう。長野県にある「富士見 森のオフィス」の例を紹介します。
9位 エコな移動が地域を救う? グリーンスローモビリティ全国で広まる
(写真提供/岡山県笠岡市)
国土交通省が2018年度から行っている、特定の電気自動車を使った自治体への支援事業。環境に優しく、自動車より低速のため万が一の際にも大きな事故になりにくいうえ、多人数で乗車できるため、高齢者らの移動の足だけでなく、地域の活性化にも成果を出しています。
10位 マンションもSDGsの時代。旧耐震マンションが、リファイニング建築でよみがえる?
リファイニング建築「ヴァロータ氷川台」外観(筆者撮影)
旧耐震物件でも解体することなく、新築なみに再生できる「リファイニング建築」。三井不動産と青木茂建築工房が手掛けた完成事例の見学会のもようから、建て替えでも大規模改修でもない、持続可能な建築物の再生について考えます。
宮下公園やトキワ荘など、その街の文化を象徴する側面をもつ施設の紹介に注目が集まった9月のランキング。新しい施設は内容そのものも気になるものですが、時にはその存在により街の雰囲気にも影響を与えうるもの。渋谷や池袋がどのように変化するかも、楽しみになりそうです。
「サラリーマンの聖地」のフレーズでおなじみの新橋は、日本有数のビジネス街であるとともに、リーズナブルな飲食店が連なり、ビジネスパーソンにとっては親しみのあるエリア。近年は、JR九州が運営するホテル「THE BLOSSOM HIBIYA.」などの入った複合施設「アーバンネット内幸町ビル」が新しくオープンするなど、再開発も進んでいる。そんな新橋駅へ電車で30分以内で行ける、ワンルーム・1K・1DKを対象にした家賃相場が安い駅ランキングを紹介。狙い目の場所を探してみよう。●新橋駅まで電車で30分以内、家賃相場の安い駅TOP13駅
順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅の所在地/新橋駅までの所要時間(乗り換え時間を含む)/乗り換え回数)
1位 葛西臨海公園 6万円(JR京葉線/東京都江戸川区/26分/1回)
2位 弁天橋 6.05万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市鶴見区/29分/2回)
3位 お花茶屋 6.4万円(京成本線/東京都葛飾区/29分/1回)
4位 京急新子安 6.5万円(京急本線/神奈川県横浜市神奈川区/30分/1回)
4位 小菅 6.5万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1回)
4位 新子安 6.5万円(JR京浜東北線/神奈川県横浜市神奈川区/25分/1回)
4位 小岩 6. 5万円(JR総武線/東京都江戸川区/24分/1回)
8位 四ツ木 6.6万円(京成押上線/東京都葛飾区/24分/0回)
8位 鶴見小野 6.6万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市鶴見区/29分/2回)
8位 鹿島田 6.6万円(JR南武線/神奈川県川崎市幸区/25分/1回)
11位 六町 6.7万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/30分/1回)
11位 青井 6.7万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/28分/1回)
11位 新川崎 6.7万円(JR横須賀線・湘南新宿ライン/神奈川県川崎市幸区/18分/0回)
日本の鉄道の発祥の地は新橋駅。駅のシンボルであり、待ち合わせの目印としても親しまれるSLはその象徴だ。現在も交通の要所であるが、ランキング入りしたのは東京23区内と神奈川県の駅が占めた。
1位の葛西臨海公園駅は、JR京葉線の沿線駅。京葉線は東京駅か八丁堀駅で乗り換えが必要になるが、東京駅で乗り換える場合、同線は東京駅の中でもプラットホームへの移動に少し距離があり、所要時間26分のうち、乗り換えのための移動時間が10分以上かかる。乗り換え時間にはその考慮と注意が必要だ。
葛西臨海公園(写真/PIXTA)
葛西臨海公園駅のすぐそばには、駅と同名の大きな公園がある。緑と水と人とのふれあいがテーマになっており、鳥類園や水族園ゾーンでは、小動物とふれあえるほか、観覧車なども備えている。葛西海浜公園にも隣接しており、湾岸リゾートの雰囲気があふれる。ほかにも公園が多く、緑と身近にふれあえる地域だ。
2位は横浜市鶴見区の弁天橋駅。横浜市は坂道が多いことで知られ、自転車での移動が大変、などと言われるが、弁天橋付近は比較的平坦な場所が多い。
沿線であるJR鶴見線は京浜工業地帯を走る路線であり、弁天橋駅もすぐ目の前にJFEエンジニアリングの鶴見製作所などがあるが、駅から少し行くと住宅街が広がる。徒歩10分ほどにある「仲通り商店街」は、沖縄料理店や食材店が充実しており、「沖縄タウン」として知られている。立ち飲み屋やブラジル料理店などもあり、自炊の手間を省きたい単身者や、さまざまな食を楽しみたい人にとっては、楽しくも心強い味方だろう。
レトロな下町の雰囲気を満喫しつつ、再開発に期待同率4位には4駅がランクイン。所要時間の一番短い小岩駅は総武線の各駅停車駅だが、東京駅まで約17分、新宿へも約30分で、交通利便性は十分高い。
駅前には昭和レトロな風情のある「フラワーロード」「昭和通り商店街」「サンロード」の3つの大きな商店街があり、それぞれをつなぐ形で小さな商店街も数多く展開。なかでも「フラワーロード」は約1.7kmもの長さに、名前の通り愛らしい花壇が並び、地域の人たちのうるおいになっている。
小岩駅の駅前の風景(写真/PIXTA)
やや雑多なイメージもある小岩だが、現在再開発が進行中で、道路幅の拡張や整備、無電柱化などに加え、商業施設などの開業が予定されている。「フラワーロード」をはじめとする商店街も、店舗の移転はありつつも、敷地内の整備が行われる予定だ。。人情味あふれる商店街が存在する魅力はそのままに、より快適な生活を送れるようになりそう。今後への期待も込めて注目したいエリアだ。
同率8位には3駅がランクインしている。その中で所要時間が最短なのは、四ツ木駅だ。
普通列車のみの停車駅だが、京成線の沿線だけに、羽田空港と成田空港に乗り換えなしでも行くことができる。全国各地への出張が多い人や、旅行が趣味の人にとっては、大きな利点だろう。駅前は落ち着いた下町の住宅街で、戸建て住宅も多い。飲食店などは多いとはいえないが、少し移動すれば大型スーパーもあり、日用品には困らなさそう。
四ツ木は人気サッカー漫画『キャプテン翼』の作者、高橋陽一氏の出身地。そのため、駅構内などで同漫画のキャラクターとコラボレーションしていたり、近辺の公園にキャラクターの銅像が立てられていたりもする。日本の漫画には海外のファンも多いが、四ツ木でも海を越えてキャプテン翼ファンが遊びにきている姿を目にすることも度々だ。
ランキング中、唯一所要時間が20分を切るのは、同率11位の新川崎駅。横浜駅とは隣駅で、東京駅まで約20分、品川駅へも約15分で乗り換えなしで行くことができる。
新川崎駅前(写真/PIXTA)
駅と直結の大型商業施設「新川崎スクエア」があり、買い物に困ることはない。歩行者用デッキでJR南武線の鹿島田駅とつながっており、川崎や立川方面へ行く際には同線も利用できる。
時代は令和になったとはいえ、日本のビジネスシーンではいまだに「飲みニケーション」は有効で、大切な親睦手段。新型コロナ禍ではしばし縁遠くなってはいるものの、新橋駅は、そんな飲みニケーションと切り離せない場所でもある。本格的に楽しむのはコロナ禍が去った後になってはしまうが、楽しく飲んだ余韻を満喫するためにも、帰りの“足”の身軽さを確保するのは有効な手段といえるかもしれない。
●調査概要国土交通省では、日立東大ラボと共同し、新型コロナ危機を踏まえた今後のまちづくりを検討するために、全国WEBアンケート調査を8月3日~25日に実施した。速報結果によると、「お出かけは宣言解除後も自宅周辺が増加している」ことなどが分かったという。注目ポイントをいくつか紹介しよう。【今週の住活トピック】
全国アンケート調査「新型コロナ生活行動調査(速報版)」を公表/国土交通省緊急事態宣言以降は、自宅での仕事と余暇時間が増加
新型コロナの影響で、外出を控えるようになり、自宅にいる時間が長くなった。では、自宅での活動時間で、どんな時間が増えたのだろうか?
国土交通省が公表した調査結果のうち、特に影響が大きかったと思われる「特定警戒都道府県」の結果を見てみよう(画像1)。緊急事態宣言中では、明らかに外出を控えて、自宅にいたことが分かる。一方、宣言解除後の7月末では、外出率は流行前に近づいているものの流行前と同じまでは戻らず、なおも外出を控える傾向がうかがえる。
自宅にいる時間が長くなったなかでも、自宅の活動時間として増えたのは、「仕事」の時間はもちろんのこと、「余暇」の時間も増えたのが興味深い点だ。
(画像1)自宅での活動時間(平均活動時間)と外出率※特定警戒都道府県を抜粋(出典:国土交通省「新型コロナ生活行動調査(速報版)」)
外食や趣味・娯楽で訪れる場所は、都心や中心市街地から自宅周辺へシフト次に活動別の外出頻度を聞くと、流行前と調査時点(2020年8月)を比べると、「勤務先への仕事」への外出が減っていたが、「外食」や「食料品・日用品の買い物」への外出も減っていた(画像2)。では、外食や買い物などで訪れた場所は、どこだったのだろうか?
(画像2)活動別の外出頻度(週あたり外出日数)(出典:国土交通省「新型コロナ生活行動調査(速報版)」)
いずれの外出でも訪れた場所は、自宅から離れた「都心・中心市街地」から「自宅周辺」にシフトしていた(画像3)。なかでも、「外食」と「趣味・娯楽」で、中心部から自宅周辺へと大きくシフトしていたことが分かった。
(画像3)活動別の最も頻繁に訪れた場所(新型コロナ流行前から調査時点(2020年8月)への変化)(出典:国土交通省「新型コロナ生活行動調査(速報版)」)
新型コロナの影響で、自宅にいる時間が長くなり、余暇時間も増えたので、自宅周辺のお店や施設を訪れるようになったという構図だが、これまで以上に自宅周辺地域に関心が高まったと考えてよいだろう。
「ゆとりある屋外空間を充実させてほしい」と半数近くが希望リモートワークなどで自宅での活動が増えるとした場合、自宅や自宅周辺の居住環境で望むことを聞いたところ、「望む」という回答が多かったのは「自宅のオンライン環境の強化」(強く望む12.3%、やや望む21.5%)と「自宅周辺における余暇や気分転換、運動をするための近場の公園や緑地の充実」(強く望む8.6%、やや望む21.9%)だった。
また、新型コロナの影響で、移動手段の利用に対する意識の変化について聞くと、鉄道やバスなどの公共交通機関については利用を減らしたい意向が強く、徒歩や自転車、自家用車については利用を増やしたい意向が強く出た。
最後に、都市空間でどのような取り組みを充実すべきかを聞いたところ、「公園、広場、テラスなどゆとりある屋外空間の充実」(46%)や「自転車や徒歩で回遊できる空間の充実」(37%)などのニーズが高いことが分かった(画像4)。
(画像4)都市空間に対する意識(充実してほしい空間)(出典:国土交通省「新型コロナ生活行動調査(速報版)」)
こうして見ていくと、キーワードとなるのは、余暇や気分転換、運動をするための「公園などの空間」や「徒歩や自転車で回遊できる空間」だ。商業施設の充実も重視されるが、快適な屋外空間のある街というのも、今後はニーズが高まっていくだろう。
さて、緊急事態宣言中は、本人の運動不足や子どもの外遊びの機会減少などを気にした家庭も多かったと思う。筆者も、それまでしたことがなかった「わが街歩き」をやった。新しい風景に数多く出会えたが、方向音痴であることや蚊に刺されやすいことなどもあって続かなかった。一方で自分には、商店街歩きのほうが合っているということにも気づいた。
働き方や暮らし方、家族構成など、家庭それぞれの事情によって、住まい周辺の“街”に対する考え方も異なるものだ。この機会に、それぞれの“わが街選び”の基準を再確認してはいかがだろう。
瀬戸内の魅力を発信しようと、岡山在住の有志の声がけからスタートした「瀬戸内かわいい部」。岡山名物であるデニムのB反(生産過程でついたわずかな傷やほつれが原因で市場に流通されない生地) を使ったピクニックシートの開発・販売など、瀬戸内をキーワードに、部活的な活動の枠を超えた広がりを見せています。連載名:全国に広がるサードコミュニティ
自宅や学校、職場でもなく、はたまた自治会や町内会など地域にもともとある団体でもない。加入も退会もしやすくて、地域のしがらみが比較的少ない「第三のコミュニティ」のありかを、『ローカルメディアのつくりかた』などの著書で知られる編集者の影山裕樹さんが探ります。瀬戸内かわいい部とは?
瀬戸内の魅力的な風景やお店、出来事を発信し、内外に瀬戸内のファンを生み出そうとSNS上で始まった瀬戸内かわいい部という活動があります。「かわいい」という切り口を立てることで主に女性から共感を集め、現在 #瀬戸内かわいい部 が付けられたInstagramの投稿は1000を超えます。2年間で開催したリアルイベントで出会った約300名のうち50人程度は県外の人で、瀬戸内かわいい部のイベント目当てに今も頻繁に瀬戸内にやってきます。
特に明確なメンバーの条件があるわけではなく、主にSNS上でハッシュタグ#瀬戸内かわいい部をつけて写真を投稿する参加者もいれば、Slack上のコミュニティ運営やイベントの企画を行うコアメンバーまでその関わり方はさまざまです。
きっかけは2018年の西日本豪雨により、被災地に近い観光地・倉敷美観地区(倉敷市内の町並保存地区・観光地区)への観光客が激減したことにショックを受けた地元在住のデザイナー・やすかさんが、美観地区の魅力を発信する動画を制作し、SNSに投稿したことから。それを見て「観光地の復興支援になれば」と訪ねてきてくれた人たちに、岡山のおすすめスポットを案内して回ったのが、そもそもの始まりでした。
「その時までは正直、地元が好きじゃなかったんですが、外から訪れる人が岡山の桃のジュースの美味しさや、岡山のカフェのゆったりした雰囲気を率直に褒めてくれたのがうれしくて。もっと地元の魅力を発信したいと思って、まずは個人のSNSでハッシュタグをつけて写真をアップしようと考えました。でも、岡山だけだと狭いから、#瀬戸内かわいい部にしようと」(やすかさん)
瀬戸内かわいい部メンバーでシーグラスを探しに(画像提供/瀬戸内かわいい部)
最初はハッシュタグだけの活動でしたが、次第に仲間どうしでカメラを持って尾道に行ったりとワンデーイベントを不定期で開催するようになります。そんななか、岡山出身で東京在住、現在はフリーランスでPRの仕事をしているみなみさんが参画し、瀬戸内かわいい部のホームページを立ち上げようと提案しました。
瀬戸内かわいい部のメンバー(画像提供/瀬戸内かわいい部)
「ホームページをつくるにあたって、活動の柱を三つつくりました。一つはSNS発信。もう一つが撮影会や交流会などリアルイベントの開催。三つ目がプロジェクトです。単発ではなく、長期的に進められるプロジェクトがあったほうがいいんじゃないかと。私が東京にいて、なかなかイベントに参加できないので幽霊部員になっちゃうな……という思いもありました。デザインだったり記事を書いたりなど、離れているメンバーの関わりシロのある場所にしたかった」(みなみさん)
2019年4月開催/和菓子さんぽin倉敷美観地区(画像提供/瀬戸内かわいい部)
EVERY DENIMとの出会いその後しばらくして、やすかさんは瀬戸内発・兄弟デニムブランドEVERY DENIMの島田舜介さんに出会います。そこで島田さんから「デニムの生地を生産する過程でわずかな傷が入り廃棄されるB反のデニムがある。そういうB反デニムから小物なんかつくったら面白いかもしれない」と言われ、メンバーに報告。するとメンバーから「だったらそれをプロジェクトにしませんか」と提案されます。こうして、瀬戸内かわいい部としてデニム生地を使った小物を企画開発するプロジェクトを立ち上げることがきまりました。
ホームページをつくるため、一度自分たちの活動の方向性を整理したのが功を奏し、第三の柱であるプロジェクトが動き始めます。最初は、瀬戸内が好きな人たちで気軽にハッシュタグを共有するゆるやかなコミュニティだったのが、より積極的な活動を行う集団として踏み出した瞬間でした。
ちなみに、プロジェクトで企画開発した商品は「ピクニックシート」。紆余曲折のうえピクニックシートに落ち着いた理由について、やすかさんはこう語ります。
「まず、瀬戸内と言えば青だよね、と。波の穏やかな海の青さ。次に、どこにでも連れていけて、使えば使うほど自分の色に馴染んでいくデニムの“相棒感”みたいなものを伝えたい。そして、出来上がった商品を持っている人同士が繋がって、瀬戸内好きな人の輪が広がってほしいな、という思い。これらを総合してピクニックシートに落ち着いたんです」(やすかさん)
(画像提供/瀬戸内かわいい部)
離れたメンバー同士のやりがいをつくるには?ところが、ここからが大変でした。離れたメンバーもいるコミュニティ内で意思疎通を図るために、主にSlackを使って交流していたのですが、いざ商品を開発しようとなると、納期や定価、販売方法など決めなければいけないことが盛りだくさん。ただ瀬戸内かわいい部は企業じゃなくてコミュニティ。「企業の商品開発ならまず納期や予算から逆算して考えるけれど、そういう条件や制約はいったん抜きにして、まずは自分たちが本当につくりたいものを考えてみてほしい」とスタートしたつもりでしたが、商売となるとメンバーからシビアな長文のコメントがバンバン投稿されて、やすかさんたちが驚くことも。
それもそのはず、瀬戸内かわいい部自体が実社会でそれぞれのスキルを持って活動するフリーランスや仕事人の集まりです。自分が関わるプロジェクトであるならばなおさら、妥協したくないという思いがみんなにあったことに気づかされました。こうしてオンラインのコミュニケーションの限界に気づいた運営メンバーは、可能な限りメンバーに直接会いに行って話すことにしました。
「個人的な話は目的が決まっているオンライングループ上では言い出しづらい。ある日、東京に住む同じ世代の女性メンバーと一回会って話してみたら、瀬戸内に関わりもなく、ものづくりのスキルもないので……と引っ込みがちだったんだけれど、保育士の仕事をされていて、アクティブラーニングに強い関心があり、熱心にお話ししてくれたのが印象的で。この熱量を発揮できるきっかけさえあればもっとおもしろくなる、そのために個人の関心やスキルをもっと活かしてもらえばいいんじゃないか、とその時思ったんです」(みなみさん)
商品のリリースに先立って、一泊二日の合宿を敢行。ここで普段出会えないメンバーの意見をすり合わせたそう(画像提供/瀬戸内かわいい部)
メンバーそれぞれの想いが乗ったデニムプロジェクト。ピクニックシートを複数つなげるというコンセプトはみんなで共有していたけれど、デザイン一つとっても、例えばフリンジをつけたいとか、中綿を入れたいとか、角にはハトメかリボンか……などさまざまな意見がありました。そこで、サンプルお披露目会の直前に一泊二日の合宿を敢行。バチバチとした空気も流れたそうですが、徹底的に話し合うことで方向性が一つにまとまり、ようやく販売に踏み切ることができました。
スキルを活かしたギルド的集団に2019年に香川県高松市に家族でUターンしてきたまみこさんは現在、瀬戸内かわいい部の「スポ根」担当。お二人のお子さんを抱えながら、フリーランスでWebコンテンツのディレクションやデザインをしています。ちょうど移住したころに瀬戸内かわいい部に参画しました。
「もともと、つまらないと思って地元を離れた自分が瀬戸内を知れる場所を探していたんです。入ってみれば、結婚しても、子どもがいても、仕事があっても、挑戦していいんだと思える場所でした。絶対的に強いパワーを持った人がいなくて、みんな平等という感覚が共有されていたのも大きくて。私にも協力できることがある、それを認めて受け入れてくれるのはとてもうれしかったです」(まみこさん)
まみこさんはピクニックシートをつくるにあたって広報スケジュールを設定したり、ターゲットは誰なのか?を決めるペルソナ会議をファシリテートしたりとプロジェクトが前進するためにご自身の経験やスキルを存分に活かすことができたと言います。デザイナーなので、急遽つくらなければならないWEB用バナー広告などのデザインも担当しました。
(画像提供/瀬戸内かわいい部)
一方、やすかさんも本業はデザイナーなのでオンラインイベント用の動画 の制作はやすかさんが。他にもアパレルの仕事をしていて工場とのやりとり経験のあるメンバーがいて、仕様書をつくったり、実際の発注作業はその人が担当することに。情報発信が得意なメンバーは、瀬戸内かわいい部のnote担当、LINE @担当と、それぞれの役割が増えていき、さながらギルドのような集団になってきました。ただ、瀬戸内かわいい部はあくまで部活。商品をつくるのが目的ではなく、みんなで合宿したり、お互いのことを知ったり、瀬戸内を好きになっていくプロセスこそが重要、とやすかさんは語ります。
「みんなの居心地のいい場所にしたい、というのが一番。利益を追求するような活動でもないし、商品を完売させなければというミッションもない。一緒につくる過程そのものが楽しい時間であってほしいし、コミュニティに参加していることが誇りになるような、そんな場所にしていきたいです」(やすかさん)
移住フェアの様子(画像提供/瀬戸内かわいい部)
(画像提供/瀬戸内かわいい部)
瀬戸内かわいい部は、大人の文化祭仕事とプライベートの中間に、部活的な活動が一つある生活ってわくわくしませんか? 三人が口をそろえて言うのが「文化祭」というキーワード。デニムプロジェクトは瀬戸内かわいい部にとって、いわば「大人の文化祭」でした。年に一度ガッと集中してものづくりに打ち込む。メンバーそれぞれがそれぞれの道のプロであるからこそ、つくるもののクオリティに妥協はしません。
「でも、最初に疲れちゃったらダメだよってアドバイスされて。その人は別のコミュニティを運営していて、デザインも頑張って、noteでの発信も頑張って、すごくクオリティ高いコミュニティだったんだけれど、疲れて辞めちゃったそうです。みんなお仕事や家庭がある中で、毎日大量のSlackが続くとさすがに辛い。楽しい気持ちを維持しながら全力を注げるようにしたいです」(みなみさん)
そこで、デニムプロジェクトが1年間の活動期間を終えてひと段落したことを機に、少しのあいだ充電期間をとることにしました。デニムプロジェクトの広まりを受けて、自治体が主催する移住フェアにも呼ばれるようになった瀬戸内かわいい部。瀬戸内内外のメンバーがいるコミュニティ自体に興味を持ってもらい、コミュニティ運営に関するトークショーに呼ばれることも増えてきました。しかし、周囲の期待に過度に応えすぎないことも重要です。次のプロジェクトに全力で取り掛かるため、休めるときはしっかり休む。それくらい緩急があったほうが、コミュニティは持続しやすいのかもしれません。
(画像提供/瀬戸内かわいい部)
地域の魅力を発信するためのコミュニティというと、コミュニティビジネスとはどう違うの? という疑問も湧いてきます。NPO法人コミュニティビジネスサポートセンターのホームページによると、コミュニティビジネスとは「市民が主体となって、地域が抱える課題をビジネスの手法により解決する事業」と定義づけられています。コミュニティビジネスはあくまでビジネスであって、地域の経済的課題を解決することに重点が置かれています。
瀬戸内かわいい部はビジネスというよりは親睦団体であり、メンバー各々の自己実現、楽しいことをしたいという自発性が最も大事なポイントです。でも、地域を元気にしたり、盛り上げるのは必ずしもお金だけではないと思うんですよね。楽しそうにしている人たちのところには自然とモノ・コト・人が集まってくる。スタートして3年、まだまだ始まったばかりのコミュニティですが、瀬戸内かわいい部から地域の課題をあっと驚く方法で解決するアイデアや商品が生まれるのも、そんなに遠い未来の話ではないかもしれません。
●取材協力東京都新宿区から神奈川県葉山町に3年前に家族で引越した会社員の最上紘太さん。ライフシフトの見直しをきっかけに移住を決意。そして、このコロナ禍でテレワーク中心となり、生活スタイルにさらに変化が訪れた。コロナで苦しむ学生アスリートを支援するため、一般社団法人「スポーツを止めるな」を仲間と立ち上げるなど活動を広げている。移住、テレワークで最上さんの暮らしはどう変わったのだろうか。
葉山でネットと波を乗りこなすダブルサーフィン生活を手に入れた
「老後に葉山を拠点にして生活することは、学生時代から思い描いていました」と語る最上さん。最上さんの高祖父にあたる明治の文化人、陸 羯南(くが かつなん)氏が葉山に移り住んで以降、そこは最上さんや、親戚みんなの憧れの地となる。小さいころから訪れていた葉山は、中学時代からラグビーに打ち込んできたスポーツマンの最上さんにとって、都会から遠くないのに、自然の中でワークアウトをしたり、スポーツを楽しめたりする理想の場所という印象が強かった。
「東京での仕事が忙しくなる一方、世間では働き方の見直しが議論を呼び、“人生100年時代”が叫ばれるようになりました。都会のド真ん中に住んで、マンションと会社を往復する生活がベストな生き方なのか、4年ほど前から真剣に考え始めたんです」と話す。
幼少期からの憧れの地・葉山への移住を自然と考えるようになっていくうちに、富士山も海も見える今の家が立つ土地を見つけ、迷わず購入。地の利を最大限に活かし、環境にも配慮した理想の家を1年かけて建てた。以来、休みの日には海でスタンドアップパドル(SUP)を楽しんだり、家族で磯遊びをしたりと、海の側での生活を満喫しているという。
最上さん宅から望む富士山(画像撮影・提供/最上紘太)
コロナ禍で、理想のテレワークのある暮らしを実現家を建てたころは、仕事は都内のオフィス勤務がメインだった。勤務先では、テレワークは今ほど浸透していなかったというが、最上さんはすでに「将来的にはテレワークを基本とした暮らしをすること」を理想に、日当たりもいい、お気に入りのスポットに書斎をつくっていた。
そんな最上さんのテレワークが本格的に始まったのは、新型コロナウイルスによる自粛生活が始まったこの3月。毎日都内へ通勤する生活からフルリモート生活に一変した。
以前は休日の朝5時から海に走りに行っていたが、出勤時間がなくなった分、始業時間前を利用した毎日の習慣に。地元のランニングコースを開拓する余裕もでき、葉山は海だけでなく山々やハイキングコースが充実していることにも気がつけたという。
こうして毎日気分に合わせて海や山などさまざまなコースを走ることで、「コロナ禍でも気分転換と健康維持が可能になりました」と続ける。さらに、家族で山登りに行ったり、海で朝食や夕食をピクニックで楽しんだりと、バケーション気分を日常に取り入れられるようになった。このことで、仕事における集中力も格段に高まったという。
「地元で過ごす時間が圧倒的に増えたことで、これまで以上に家事に関わり、自分時間も確保できています。ご近所付き合いも増え、葉山への愛着が一層深まりました」
葉山に点在するハイキングコースは、うっそうと繁る木々に囲まれ、清々しい空気が漂う。早朝はほぼ人がいないので集中して走り込めるという(画像撮影・提供/寺町幸枝)
地産地消の食卓がかなうのが三浦半島の魅力最上さんにとって、葉山生活の魅力の一つは食だ。「朝採れ野菜をはじめとする食が豊か」と最上さん。
特に「葉山しらす」は、初めて食べて以来、冷蔵庫に欠かせなくなった。朝に漁港にあがる釜揚げしらすは、新鮮かつ手ごろな値段で手に入れられる。佐島や横須賀などへ少し車を走らせればその日に水揚げされたばかりの旬の魚が手に入る。漁港まで行かなくても、地元の魚屋には朝獲れ鮮魚がたくさん並ぶ。
葉山しらすを使ったピザ(画像撮影・提供/最上紘太)
ほかにも、野菜や、養鶏場や養豚場で育てられた肉、ブランドの「葉山牛」など、三浦半島にいるだけで、豊かな食を手軽に得られるようになった。「都内に住んでいたころより、ずっと質の良い食材を手ごろに入手できるようになりました。おかげで、子どもに旬のものを感じて食事を楽しむことを教えられるし、これまで料理をしたことがなかった自分が庭でバーベキューするようになり、料理にも興味を持つようになりました」と話す。自粛期間で外食もしづらくなり、時間の余裕もできてからは、おいしいと耳にした調理法を試して、おつまみをつくり、オンライン飲み会で披露するということもできるようになったとのこと。
海では、バーベキューだけでなく、ホットサンドやホットドックをつくって朝食にしたり、近くのレストランのテイクアウトを利用して、海ディナーを楽しむこともあるという(画像撮影・提供/寺町幸枝)
(画像撮影・提供/寺町幸枝)
テレワークだからこそできた、スピード感ある動きテレワークで生まれた時間は、ボランティア活動にも活かされている。最上さんが一般社団法人「スポーツを止めるな」の共同代表理事に就任したのも、コロナ禍の最中のことだ。大学卒業後も、学生時代のラグビー仲間たちと公私共に交流が深い最上さんは、本業で培ったスポーツ分野での広報活動への造詣の深さから、コミュニケーションプロデューサーとして、立ち上げから組織運営に関わってきた。
同組織は、新型コロナによるさまざまな自粛で進学や就職問題に直面している学生たちを、トップアスリートたちが協力して支援する活動だ。その活動は、社会貢献と期待され、多くのメディアや企業から注目を集めている。
引退試合を逃した中高生ラガーマンたちのために、日本ラグビーフットボール選手会に所属するトップアスリートによる過去の試合への「解説」をつけたビデオ制作を行う「青春の宝」プロジェクトはその一つの活動だ。プロジェクト運営に必要な人選や手配、重要となるメディアへのPRなど、代表理事の3人がスピード感を持って手分けしてこなす必要が求められているというこの活動。共同理事全員が本業を持つ中で、「テレワークなくしては、この組織運営は実現しなかったと思います」と最上さんは話す。
「以前なら、全国を視野に入れた活動となると、“東京”を拠点にせざるを得なかったと思いますし、専業である必要もあったでしょう。しかし多くの動きがリモートでこなせるようになった今、世界を飛び回るトップアスリートから、全国各地で活躍するスポーツ関係者たちとパッとオンラインで繋がり、必要に応じた動きをするというやり方で、十分に日本全国を巻き込む活動は可能だと感じています」と続ける。
グッズ活用で仕事の効率もアップ本業に、ボランティアにと多忙極める最上さんが、仕事をこなす上で役立っているのが、テレワークのために購入したパソコン周辺機器やガジェットだ。
「毎日少なくとも、5、6本のオンラインミーティングをこなしているのですが、ノートパソコンとひたすら向き合っていると、思った以上に疲れることに気がつきました」と3月以来、少しずつテレワークグッズを取り入れるようになった。
例えば大型のパソコンワイドモニターとワイヤレスキーボード。オンラインミーティングで複数の資料を確認しながら打ち合わせを進めることも多く、ノートパソコンの画面ではとても管理しきれない。ノートパソコンと同期させた巨大モニターを持つことで、より効率的にミーティングをこなせるようになったという。長い日は1日10時間以上パソコンの前に座りっぱなしになる最上さんにとって、ノートパソコンスタンドやタブレットスタンド、グリーンスクリーンなどは、今や手放せないアイテムだ。
テレワークのお役立ちグッズが充実する、最上さんのデスク周り(画像撮影・提供/最上紘太)
最上さんはテレワークが始まったことで、多くの地元の仲間との繋がりが強固になり、葉山生活が充実したと感じている。その様子は東京の仲間にも伝わり、都心から引越ししたいと相談を受けることも増えているのだとか。
「コロナ禍では、いろいろなものが分断されたと言われていますが、地域のまとまりや、新たな繋がりが生まれつつあると実感しています」(最上さん)
このコロナ禍を通じてテレワークが定着した人も多い。今後このような人たちがプライベートを充実させ、仕事でもさらに活躍することで、その魅力はどんどん波及していくに違いない。一瞬欲張りに映る生活だが、これからの「ニューノーマル」になる、取材を通じてそんな期待が思わず膨らんだ。
●取材協力新型コロナウイルス禍により、旅行に少し躊躇してしまう日々が続いています。それならば、この機会に地元の街をめぐってみましょう。「う~ん。うちのジモト、面白い場所がないんだよな~」。そんなふうに嘆いているあなた、いま話題のミニコミ誌「金沢民景(かなざわ・みんけい)」を読んでみませんか。街の見方が変わって、フレッシュな気持ちでジモト旅を楽しめますよ。
なんと1冊わずか100円。街の見方が変わるミニコミ誌が話題
「金沢民景」とは、石川県金沢市の住民がつくりだした風景を撮影し、テーマごとに一冊にまとめたミニコミ誌のこと。
金沢の風景をテーマごとに一冊にまとめた「金沢民景」(撮影/吉村智樹)
2017年9月に第一号が発行され、現在までに17号を数えます。カラー16ページ。一冊なんと100円(税込)! という驚きのお値打ち価格。手のひらにすっぽりおさまる愛らしいA6サイズ(105×148ミリ)。街歩きのお供にピッタリです。
ポケットに入れて街歩きしやすいハンディサイズ(撮影/吉村智樹)
この「金沢民景」は、一冊ごとに「たぬき」「バス待合所」など、ひとつの視点に絞って編集されているのが特徴。
「金沢民景」……石川県金沢市の住民がつくり出した風景を収集し、テーマごとに一冊にまとめたミニコミ誌。「言われてみれば確かに不思議な光景」が豊富に収められ、物件の持ち主に取材をし、なぜこのような状態になったのか解説している(撮影/吉村智樹)
かつて陶器店の軒先に立っていた看板「たぬき」が現在は警察署に集められたという何ともユニークな光景(「たぬき」の巻より、画像提供/金沢民景)
どのテーマも暮らしに根を張っており、地元の人には見慣れた風景。それゆえに気にしなければ通り過ぎてしまうものばかりです。「妻壁(つまかべ)」「ひな壇造成」など耳慣れぬ建築用語がテーマの号があるかと思えば、「バーティカル屋根」などページを開くまで「それがなにを指しているのか分からない」謎めいた物件まで、多種多彩。
建物の短辺部分が屋根によって三角形に切り取られた外壁を「妻壁」と呼ぶ(「妻壁」の巻より画像提供/金沢民景)
金沢の地形は起伏に富んでおり斜面に沿うよう町が形成されている「ひな壇造成」と呼ばれるもの(「ひな壇造成」の巻より、画像提供/金沢民景さん)
発行しているのは金沢で設計事務所を営んでいる建築士の山本周さん(35)。
ほかにも金沢に住んでいたり、お勤めだったり、なおかつ街歩きが好きな人たちが集まって編集しているのです。
「民景」って、いったいなに? 私たちが住む街でも民景は見つけることができるの? そして民景が私たちに語りかけてくるものとは? 代表の山本周さんにお話をうかがいました。
「金沢民景」発行人の山本周さん(写真撮影/吉村智樹)
暮らしのなかから生まれたデザイン、それが「民景」――「金沢民景」をとても楽しく拝読しました。巻数の多さと、観察力に圧倒されました。金沢の街への愛情が伝わってきます。「民景」は、もともとある言葉なのですか。
山本:「 “民景”は造語です。『住民がつくった風景』の略なんです。街に住んでいる人が、暮らしのなかで必要になって生まれたデザイン、それを民景と呼んでいます。実用性と街の人々の美意識が重なってつくられた風景を誰かが評価しなければ、という気持ちで、この言葉をつくりました」
まるで用水路の上を浮かんでいるように見えるロッカー。山本さんは暮らしが生んだデザインを「民景」と呼び採集している(写真撮影/吉村智樹)
――「金沢民景」に掲載された画像を観ていると、確かに暮らしから生まれたデザインだと感じます。やむにやまれず生まれたアートというか。
山本:「いろんな格闘の跡が見えますよね。そこが人間らしくていいなと感じたんです」
強風から家を守るために玄関に設置された「風除室」(「風除室」の巻より、画像提供/金沢民景)
「金沢の街並みが大好き」――「金沢民景」の発行人である山本さんは、ご出身も金沢なのですか。
山本:「実は生まれは新潟なんです。その後、日本の各地を転々としました。幼少期は埼玉。小学校から高校時代までを神戸で過ごし、金沢美術工芸大学への進学のために金沢にやってきました。大学・大学院と、金沢には計6年いました。それから関東で就職したんですが、4年前に金沢に戻ってきました。金沢の街並みが好きで、自分に合うんです」
さまざまな時代の建物が混在する金沢――「民景」を意識するようになったのは、いつからですか。
山本:「やっぱり大学進学のために金沢に来てからですね。金沢の景色や建物を初めて見て、びっくりしたんです。金沢は戦災に遭いませんでした。なので、100年以上も前の建物がたくさん遺っています。しかも有名な建築だけじゃなくて、一般のお宅も。現在も誰かがちゃんと住んでいるんです。明治、大正、昭和、いろんな時代の建物がごっちゃに混ざっている。そのなかで生活が営まれているのが面白かったですね」
柵が取り払われたため「門柱」だけが残った。時代の経過を感じられて味わい深い(画像提供/金沢民景)
雪から車を守るため家を建てたあとに設置された「カーポート」。猫除けネットや所せましと並ぶ植木鉢など時間の経過とともに生活色に彩られていった(画像提供/金沢民景)
古民家の一階部分を鉄骨で補強し、大胆に「ピロティ」(一階に壁がなく開放空間とした建築形式)に変えてしまった(画像提供/金沢民景)
――確かにこちらのオフィスへうかがう途中の風景は、古い建物と新しい建物が混在していました。バラエティに富んでいて、きょろきょろしてしまいました。
山本:「ここ(オフィス)のまわりは武家屋敷が並んでいます。江戸時代からの風景が残っているんです。そのすぐ隣には、昭和な雰囲気の通りがあります。さらにその向こうは平成生まれのオフィス街。歩いているだけで、いろんな時代を通り過ぎることができます」
さまざまな時代の建物が混在する金沢の街をバルコニーから眺めるのが好きだという山本さん(写真撮影/吉村智樹)
――金沢はやっぱり素敵な街ですね。とはいえ山本さんは関東で就職していたんですよね。そこを捨ててまで、金沢への転居を決めたきっかけはなんですか。
山本:「北陸新幹線の長野~金沢間が開業したのが2015年。新幹線が初めて金沢に停車した日が僕の誕生日だったんです。それで勝手に金沢にご縁を感じて。『こりゃ戻らなきゃいけない』って。大学時代に『いいな』と思っていた街なみや、古くていい感じの通りが新幹線の開通とともに整備されて公園になっていたのはとても残念でしたが、時代の変わり目に立ち会えたのは貴重な経験だったと思います」
新幹線開通とともに整備された金沢駅周辺(写真撮影/吉村智樹)
「金沢民景」はサークルではなく“町内会”――「金沢民景」は山本さんひとりではなく同好の人たちが集まってつくっているそうですね。メンバーはどういう方々なのですか。
山本:「メンバーのほとんどが金沢在住です。現在は7~8人でやっています。年齢も職業もバラバラです。僕はサークルというより、町内会だと思っています。町内会って会員の世代がさまざまだし、メンバーがしょっちゅう会わないじゃないですか。けれども、なにかをつくるときには一致団結する。そういう点で町内会に近いですね。そして民景の画像は町内会の共有財産という感覚です」
――「共有財産」! 景色が財産とは、いい言葉ですね。どうやってメンバーから「あそこにいい民景がある」という情報を集めているんですか。
山本:「金沢民景のグループLINEがあるんです。それぞれ自分が撮った画像をLINE上のざっくりしたフォルダへ納めていく。そうやって情報を共有しています。みんな生活がありますから、リアルではほとんど会えません」
まるで帯を巻いているかのような見事な「腰壁」。山本さん曰く「町内会」のメンバーから情報が届く(画像提供/金沢民景さん)
――あちこちから新情報が届いて、楽しそうですね。「金沢民景」はテーマごとに一冊にまとめておられますが、最初から毎号ひとつの視点でミニコミ誌にまとめる計画だったのですか。
山本:「いやあ、はじめのころは、そこまで強い気持ちはなかったですね。ミニコミ誌にする予定すらなかったんです。特にテーマは設けず面白い物件があったらカメラにおさめ、みんなでコメントをしあっていただけでした。『この屋根、いいよね』『この柱、味があるね』って。そのうち、例えばカーポートの写真が溜まってくるなど自然に“分野分け”ができだしたんです。メンバーにひとり、ミニコミ誌制作や製本に詳しい人がいたので、『では分野ごとに一冊にまとめましょう』と。そういうふうに進んでいきました」
「曲線が美しいカーポートがある」など情報が集まってくる(画像提供/金沢民景さん)
夫が編集し、妻がデザイン。一冊ずつ手づくりで発刊――どうやって次号のテーマを決めているのですか。
山本:「傾向が近い風景がLINEグループのフォルダのなかにおよそ50枚~100枚が集まって、『この分野、おもしろそうだな』と思ったら、ですね。いい情報がたくさん集まったら一冊にまとめる、そんな流れです。ですので発行は完全に不定期です。発行しなきゃいけない日はあんまり決めずに、気が向いたら」
――ゆるそうに聞こえますが、「気が向いたら」で、3年で17冊はすごいです。そして判型が小さくて、かわいいです。
山本:「学生のころからカラーブックス(※)が好きだったんです。種類がたくさんあって、集めていくうちにひとつの世界ができあがる、あの感じが好きでした。『カラーブックスのような小さなサイズの図鑑をつくりたい』、そんな気持ちはずっとありました」
※カラーブックス……出版社「保育社」から発売されていたカラーページが豊富な文庫本のシリーズ。1962年に創刊。37年に亘り909点が刊行され、コレクターズアイテムとなっている(写真撮影/吉村智樹)
――それに温かな手づくり感が伝わってきます。
山本:「装丁はデザイナーの妻がやっていて、一冊ずつがハンドメイドなんです。なので、あんまり大量にはつくれません」
「民景」を見つけると街の特徴が浮かび上がってくる――それにしても、路上観察系のミニコミ誌で、ここまで細かくテーマ分けされたものは初めて見ました。
山本:「分野で分けると、地域の特徴が見えてきます。例えば“バルコニー”。歩いているうちに、なぜか広いバルコニーを設けている家がたくさん集まっているエリアに出くわしました。調べてみると町割(まちわり/一定範囲の土地に複数の街路や水路を整備し、それによって土地を区画整備すること)が細かくて、お庭が造りにくいのだとわかったんです。なので皆さん、バルコニーをお庭のように使って楽しんでいる。バルコニーという視点から街の特徴が分かってくる。そういう逆の発見があるんだって気がついたんです」
我が町の当たり前が通用しない。地域によって「民景」は異なる――街の景色がテーマごとに一冊にまとまると、こんなにクリエイティブな世界だったんだと驚かされます。例えば街で石臼がこんなにも再利用されているって、気がつきませんでした。
山本:「自宅で蕎麦やうどんを打っていたり、大豆をすりつぶしていたり、石臼は、かつてはどこのご家庭にもありました。生活習慣が変わって石臼を使わなくなり、捨てるわけにもいかず、再利用しているようなんです。地域によっては石臼を供養する塚があるんですよ」
植木鉢の台座になっている石臼。蕎麦を打つ習慣があった街では石臼の再利用(?)が見受けられる(「石臼」の巻より、画像提供/金沢民景さん)
――読んでいて「これはまさに金沢民景だな」と感じるテーマもありました。とりわけ「風除室(ふうじょしつ)」は、私が住む京都市内では見たことがないです。
山本:「風除室は、海風を遮ったり、山の方だと雪で玄関の開け閉めができなくなるのを防いだりするために設けてあるんです。『雪吊り』も北陸や新潟にあります。雪が少ない地方だと、ないかもしれませんね」
玄関の前にもう一室が誕生する「風除室」(「風除室」の巻より、画像提供/金沢民景)
北陸特有の水分が多く重い雪から木の枝を守るために吊るされた「雪吊り」は雪深い地方ならではの民景(「雪吊り」の巻より、画像提供/金沢民景)
民景は「境目」をつなぐ工夫のなかから生まれる――民景を見つけるコツはありますか。
山本:「“境目”ですね。なにかとなにかの変わり目を見ていく。すると、そこにいいデザインが現れる場合が多いです。川と住宅地の境目、お家とお家の境目、道路と家の境目、時代と時代の境目。そういった境界線付近を見ていくと、そこにはなにかしらの工夫がされている」
――つまり、工夫を見つけるのが大事なんですね。
山本:「 “工夫”に感心する、それが民景の面白さのひとつだと思います。斜面と平地の境目には、きっと困っている人がいる。そして、そこには悩みを解消するための工夫が生まれる」
――先ほどおっしゃった「いろんな格闘の跡」ですね。でも民景って、どこにあるのかが、分からないですよね。「ここに注目」って地図に載っているわけではないですものね。
山本:「地図に載っていれば見つけるのがラクですよね。ただ、それでも地図は見たほうがいいんです。地図を見ていると、新しい街はだいたいグリット(罫線)のようにきれいに整備されています。ところがときどき、なかにごちゃごちゃっとして整理されていない、細い路地が集まっている場所があるんです。『ん? ここはなんかあるぞ』とピンとくるんですよ。そういう場所を実際に歩いてみると、いい民景がたくさん見つかる場合が多いです」
「民景」を発見すると「なぜ、こうなったのか。理由を知りたくなる」という(写真撮影/吉村智樹)
掲載する際は撮影許可を取る。そこにドラマがある――一冊にまとめる際は、LINEグループのフォルダに集まった画像を掲載しているのですか。
山本:「いいえ。集まった情報をもとに物件がある場所を訪れ、掲載許可の取得を兼ねて、可能な限りインタビューしています。そして、どういう経緯でこの物件ができたのか、誰がなぜこの色にしたのか、風除室はなぜつくったのかなど、お話をうかがいます。そして一眼レフで撮りなおして掲載しています。残念ながら許可が取れず載せられない物件もありました。やっぱり気持ち悪いじゃないですか。突然『この屋根は何のためにあるんですか?』って訊いてこられたら。『わ、やべーやつ来た!』って思いますよね」
――取材をする側の度胸が必要ですね。
山本:「そうですね。でも、掲載許可をいただくために物件の持ち主を取材する、その行為自体はとても楽しいんですよ。例えば屋根の上に、手すりがまるで蛇のような形状のバルコニーがあったんです。それが気になって、勇気を出してバルコニーがあるお宅のインターフォンを押してみました。すると、お母さんが対応してくれて。それから2時間くらい、ずっとお母さんといろんな話をして、最後には人生相談にまで発展しました(笑)。その体験がすごく楽しくて」
――民景にはドラマがあるんですね。
山本:「お母さんは植物を育てるのが大好きだったんです。そしてお父さんが、たまたま日曜大工が趣味でした。そんなお父さんが屋根の上に陽(ひ)がよくあたっているのに気がついて。それでお父さんがお母さんのために植物を育てられるバルコニーをどんどんどんどんつくっていったそうなんです。つまり、お母さんのためだったんです。謎のバルコニーには、そういうストーリーが背景にあるんだって分かって。その分かっていく過程が面白くて。『民景には物語があるんだ。逸話をみんな聞いてやろう』と思って、それからインターフォンを押すようになりました」
手すりがうねるようなバルコニー。そこには夫婦の情愛の物語があった(画像提供/金沢民景)
今後一冊にまとめたいテーマは「雪除け屋根」――今後、刊行したいテーマはありますか。
山本:「いま気になっているのが、『雪除け屋根』。冬になるとお寺の境内に現れる三角形の屋根です。お寺の屋根に雪が積もると、塊になって下にばーっと落ちてきて危ないじゃないですか。手を合わせている人に雪の塊が当たると怪我をしかねない。そういった事故を防ぐために、三角形のトンネルのようなものを設置します。落ちてきた雪が三角屋根に当たると左右に飛び散るんです」
屋根から落ちてきた雪から通路を保護する「雪除け屋根」(画像提供/金沢民景)
――雪国特有の造形物でしょうか。初めて見ました。見た目のインパクトが強いですね。
山本:「パワーが集まってきそうですよね(笑)。この三角屋根の物件は僕も金沢に来て初めて見ました。金沢のいろんな場所にあります。ただ冬にしか登場しないのが難点で。いつか一冊にまとめたいのですが、かなり時間がかかるだろうなと思います」
――民景を見つけて画像や冊子にして保存する行為は、郷土史という観点でも民俗学としても重要なことだと感じました。
山本:「ぜひ、『民景』という言葉も皆さんに使っていただいて、ご自身の街をみていただければ」
民景とは、人々がそこで暮らした証しなんですね。取材を終えて金沢駅へ向かう道すがらの光景は、行きがけよりもさらに尊い輝きを放って見えました。
新型コロナウイルスの影響で遠出がしづらい今だからこそ、ご近所を散歩してみませんか。歩いた経験がない路地をめぐってみましょう。自宅周辺の民景をさがすことで地域の再評価へもつながります。日本各地からさまざまな表情を見せる民景が見つかれば、通り過ぎていた価値が見直され、街への愛情が生まれ、日本が元気を取り戻せる。そんな気がした一日でした。
金沢民景 Webサイト/Instagram/Twitter
明治維新後、東京と横浜を結ぶ日本初の鉄道の基点駅として生まれた新橋駅。当時から場所が移動した現在も東京を代表する駅であることは変わらず、周囲にビジネス街が広がるサラリーマンの街としても知られている。今年9月には新橋駅~有楽町駅間の高架下に、明治期に建設されたレンガアーチを活かした商業エリア「日比谷OKUROJI」が誕生するなど、いまなお進化し続けている街だ。交通面ではJR各線に加え、東京メトロ銀座線、都営地下鉄浅草線、そしてお台場方面へ向かうゆりかもめ線が乗り入れている。
そんな新橋駅の30分圏内にある駅の、中古マンションの価格相場を調査。専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」、それぞれの価格相場が安い駅トップ10を紹介しよう。
●新橋駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP10
【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新橋駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 鶴見 1530万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市鶴見区/21分/1回)
2位 京急鶴見 1580万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市鶴見区/27分/1回)
3位 西川口 2215万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/30分/1回)
4位 京急川崎 2230万円(京浜急行本線/神奈川県川崎市川崎区/25分/1回)
5位 川口 2305万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/27分/1回)
6位 川崎 2360万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市川崎区/15分/0回)
7位 大森町 2424.5万円(京浜急行本線/東京都大田区/23分/1回)
8位 十条 2440万円(JR埼京線/東京都北区/27分/1回)
9位 馬込 2480万円(都営浅草線/東京都大田区/17分/0回)
9位 町屋 2480万円(京成本線/東京都荒川区/23分/1回)
【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新橋駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 鶴見小野 2230万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市鶴見区/29分/2回)
2位 小菅 2550万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1回)
3位 京成高砂 2780万円(京成本線/東京都葛飾区/26分/0回)
3位 四ツ木 2780万円(京成押上線/東京都葛飾区/24分/0回)
5位 青井 2855万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/28分/1回)
6位 国道 2930万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市鶴見区/27分/2回)
7位 京成立石 2935万円(京成押上線/東京都葛飾区/26分/0回)
8位 六町 2980万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/30分/1回)
8位 お花茶屋 2980万円(京成本線/東京都葛飾区/29分/1回)
8位 西川口 2980万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/30分/1回)
まずはシングル向けランキングを見ていこう。1位にはJR京浜東北・根岸線の鶴見駅、2位には京浜急行本線・京急鶴見駅がランクイン。この2つの駅は駅前広場をはさんで位置しており、路線こそ違えどほぼ同じ場所にある。JRの駅に直結して駅ビル「CIAL鶴見」が、京浜急行の駅にはショッピングモール「ウィングキッチン京急鶴見」がある。どちらも食品や雑貨のショップからレストランまでそろい、仕事で疲れた帰り道も電車を降りてすぐに買い物や飲食ができるのがうれしい。1位・鶴見駅からJR京浜東北・根岸線に乗れば約10分で横浜駅に行くこともできる。
鶴見駅前(写真/PIXTA)
3位はJR京浜東北・根岸線の西川口駅。駅を出ると、東口のロータリーに面して5階建ての「西川口フェスト」が見える。この商業ビルには居酒屋やネットカフェ、カラオケ店などが入っており、仕事帰りや休日の憩いの場として活躍しそう。食品や日用品の買い出しには、東口から真っすぐ伸びる通りを中心にさまざまな店舗が集まる「合格通り商店会」が役に立つ。駅西口側も多彩な商店が並び、居酒屋も多く夜までにぎやかだ。そんな西川口駅から電車で約3分、1駅ぶん東京方面へ進むと埼玉県を代表する駅の一つと言える5位・川口駅に到着する。
4位は京浜急行本線・京急川崎駅。この駅と6位のJR東海道本線・川崎駅は、1位・鶴見駅と2位・京急鶴見駅の関係性に似ている。京急川崎駅と川崎駅は、地上または地下通路を10分も歩けば乗り換えられる位置にあるのだ。川崎市を代表する駅の周辺は以前からにぎわっていたが、2000年代に入り再開発が進んでさらに発展。東急ハンズや映画館などがある「川崎DICE」、複合商業施設「ラ チッタデッラ」「ラゾーナ川崎プラザ」など大型商業施設が林立している。
また2021年春には、JR川崎駅西口側の再開発エリアに「KAWASAKI DELTA」が全体完成を迎える。同エリアには「ホテルメトロポリタン 川崎」が今年5月に先行開業したほか、来年4月には地上29階・地下2階建のオフィス棟、地上5階・地下1階にカフェレストランやフィットネス施設が入る商業棟が誕生予定だ。
川崎駅前(写真/PIXTA)
カップル・ファミリー向けトップ10には都内の駅も多数ランクイン続いてカップル・ファミリー向けランキングをチェック。1位はJR鶴見線・鶴見小野駅。駅員がいない小さな駅で、駅の西側~南側は横浜市立の高校・中学や工場が大きな面積を占めており、さらに南に行くと鶴見川が流れ込む東京湾が広がる。住宅街があるのは北側~東側。駅から直線距離で約500m圏内にスーパーやドラッグストア、コンビニ、飲食店もあるが、商業施設はあまり多くない。本格的な買い物は、2駅離れたシングル向け1位の鶴見駅まで足を延ばすといいだろう。
シングル向けランキングはトップ6まで神奈川県や埼玉県の駅だったが、カップル・ファミリー向けランキングは東京の駅も上位にランクインしている。2位は東京都足立区にある東武伊勢崎線・小菅駅、3位は東京都葛飾区の京成本線・京成高砂駅という結果になった。
3位の京成高砂駅は京成電鉄の本線のほかに金町線と成田線、そして北総電鉄が乗り入れている。いずれの路線も今回の基点駅とした新橋駅を通っていないものの、乗り換え回数「0回」で新橋駅に行くことができる。それは新橋駅を通る都営浅草線と、京成電鉄が直通運転を行っているため。京成高砂駅から京成本線に乗車すると、そのまま京成押上線~都営浅草線といつの間にか路線を変えつつ新橋駅まで1本で到着するのだ。そんな京成高砂駅は、北側に「リブレ京成 セルカ高砂」、南側には「イトーヨーカドー高砂店」と、駅両サイドにスーパーがある便利な環境。
直通運転のおかげで乗り換えせずに新橋駅まで行けるのは、京成立石駅と同額3位だった四ツ木駅と、7位の京成立石駅も同様。この2駅は隣接しており、新橋駅に停車する都営浅草線との直通運転がある京成押上線が通っている。
7位・京成立石駅の周辺は「立石仲見世商店街」や「呑んべ横丁」がかもし出す昭和レトロな風情が魅力。コンビニやスーパーもあるけれど、好きな刺身を組み合わせて買う「お刺身バイキング」が人気の鮮魚店や、餃子や揚げ物などの惣菜店、多彩な居酒屋といった個性豊かな個人商店をめぐるのも楽しいだろう。また現在、2023年春の完成を目指して駅の高架化工事が進められており、完成後は高架下の有効活用も図られる予定だとか。工事にともなってすでに街並みが変化しており、今後の発展にも期待が高まる。
呑んべ横丁(写真/PIXTA)
今回のランキングを振り返ると、新橋駅までのアクセスのよさと価格のリーズナブルさを兼ね備えた中古マンションを探す場合、シングル向けはまず神奈川県の横浜市「鶴見駅(京急鶴見駅)」か川崎市「京急川崎駅(川崎駅)」、埼玉県川口市の「西川口駅」「川口駅」という大別して3つのエリアをチェックするとよいことが判明。一方で同じ条件を希望していてもカップル・ファミリー向け物件なら、都内の足立区や葛飾区でも見つかるもよう。「どうせ都内は高いだろう」と最初からあきらめないほうがよさそうだ。
また、「新橋駅まで30分以内で、乗り換えなし」という条件で探す際、新橋駅を沿線に持つ路線に限定してしまうのはもったいないことも今回の調査から分かる。カップル・ファミリー向けランキングで紹介した京成本線や京成押上線のように、新橋駅を通る路線と直通運転が行われている路線の沿線駅も「新橋駅まで乗り換えなし」と言えるからだ。
新橋駅への直通運転がある路線を自力で探すのも楽しいけれど、さらにそこから価格相場が安い駅を探すのはなかなか困難でもある。新橋駅へのアクセス重視で物件探しを検討している人は、ぜひ今回のランキングも参考にしてほしい。
●調査概要住宅ローンを借りる際、「団体信用生命保険」という保険に加入するのが条件となっていることが多いのをご存じだろうか?住宅ローンを利用していながら、このことを知らないという人が3割近くもいるという。それで問題はないのだろうか?【今週の住活トピック】
「生命保険に対する消費者意識調査」結果を公開/MFS(モゲチェック)3割近くが住宅ローンに付帯される「団体信用生命保険」を知らない
オンライン住宅ローンサービスを運用するMFSが生命保険について調査を実施した。この「生命保険に対する消費者意識調査」の中で、住宅ローンを利用する際に加入が条件となる「団体信用生命保険」について調査した項目がある。
まず、住宅ローン利用者に対して、「住宅ローンに団体信用生命保険が付帯していることを知っているか」聞くと、知っていて当然であってほしいところだが、「知らない」が26.1%もいた。
次に、「団体信用生命保険の内容を踏まえて住宅ローンを選んだか」聞くと、「選んでいない」が38.8%だった。知らない人はもちろんのこと、知っている人の中にも団体信用生命保険の内容について無関心だった人が多いことが分かる結果だ。
住宅ローンと団体信用生命保険について(出典/MFS「生命保険に対する消費者意識調査」より転載)
団体信用生命保険にはさまざまな特約が付帯できる「団体信用生命保険」とは、住宅ローンを借りた人に万一のことがあったときに、残りのローンの全額を保険で弁済する保障制度。略して「団信」と言われるものだ。借りた人がローンを返せない状態のときに、家族がそのままローンを抱えることのないように、金融機関に保険金が支払われる。その保険料は、一般的に住宅ローンの金利に含まれている。
なお、持病があるなど健康上の理由で団体信用生命保険に加入できない場合には、「ワイド団信」を用意している金融機関もある。一般の団信より加入条件を緩和したものなので、持病などによってはワイド団信に加入できる場合があるが、その際に適用される金利は高くなる。
さて、問題となるのは、この「万一のことがあったとき」とはどういった状況のことか、ということだ。通常の団体信用生命保険では、住宅ローンの契約者が「死亡または高度障害の状態になったとき」が対象となる。高度障害の状態とは、例えば病気やケガによって、両眼の視力を失ったり、精神や臓器に著しい障害が残ったり、両手足を失ったりなどの場合をいう。
「生命保険(死亡保険)」が同じ内容をカバーするので、住宅ローンを借りて団体信用生命保険に加入したら生命保険を見直して、団信と重複する分だけ生命保険を減額するという人は多い。
しかし、団体信用生命保険や一般の生命保険では、高度障害に至らない病気やケガまでは保障されない。特に、日本人の2人に1人がかかるといわれる「がん」の治療では、高額な費用がかかることもある。そこで、別に「がん保険」や「医療保険」に加入して、万一に備える方法がある。
がんのリスクを考慮して、住宅ローンの団体信用生命保険に「がん特約」を付帯できる住宅ローンは多い。最近では、「3大疾病特約」を付帯して、3大疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞)で所定の状態になったときにも、保障できるようにする金融機関も増えてきた。3大疾病特約の人気が高まったので、5大疾病や8大疾病、全疾病などバリエーションが増えてきたというのが、今の実態だ。これらの特約を付帯すると、保険料を支払う必要があるが、金利に一定率が上乗せされる場合と保険料を別途支払う場合がある。
団体信用生命保険の内容を知って、どこまで保障されるか確認では、特約として多くの疾病を保障するものがよいかというと、そういうわけでもない。その病気にかかれば保障されると思いがちだが、一定期間以上所定の状態が継続したときなどの条件が付いていたり免責期間があったりなど、それぞれの細かい条件を満たす必要がある。
MFSでは、この調査結果を記者向けに発表するオンライン勉強会を実施した。その資料の中に、団体信用生命保険の全体の傾向を分かりやすく整理したものがあったので、それを使って説明しよう。
団体信用生命保険の種類と保険金の支払事由(出典/MFS「『団体信用生命保険』記者勉強会」資料より転載)
図のように、一般団信やワイド団信のほかに、さまざまな特約を付けられる保険商品がある。3大疾病のうち、脳卒中と急性心筋梗塞では、一定の症状が60日以上継続したり手術を受けたりしないと保障対象にならない。また、その他の疾病を保障するものでは、病気にかかると一年間返済が免除され、働けない状態が長く続いた場合に限ってローン残高が保険金でカバーされるといったものが多い。
ここではおおよその傾向を説明したが、実際には同じような名称でも保障の内容に違いがあることも多い。例えば、一般団信でも【フラット35】に付帯する「新機構団信」では、高度障害保障が身体障害保障に拡大され、介護保障が加わるなどの違いがある。具体的に、どういった場合にどういった保障が受けられるのか、付帯する保険商品の内容をよく調べる必要がある。
団体信用生命保険の特約は本当に必要?また、団体信用生命保険の保険料の総額は、ローンの借入額や返済年数によって大きく変わる。特約を付帯したときの保険料は、金利に上乗せされることが多いが、例えば金利が0.3%上乗せになった場合に、保険料の総額がいくらになるかを試算しておこう。後から付帯することができないこと、金利上乗せタイプなら途中解約ができないことなども注意点だ。
一方、一般の生命保険や医療保険などは、加入する人の年齢や健康状態などによって保険料が変わり、保険商品の種類も多い。こうしたものと比較して、保障が重ならないように考慮し、支払う保険料と必要な保障のバランスを見て保険商品を選択することが大切だ。
今後の人生で、どんな病気にかかるかを予想することは難しい。だからといって、やみくもに保障の範囲を広げると、高い保険料を支払うことになる。健康状態やライフスタイル、貯蓄の有無などを考慮して、何を保険で備えるのがよいかを検討してほしい。
また、住宅ローンは長期間返済し続けるものなので、まずは、長期固定か変動するかなどの金利タイプと適用される金利を第一に考えて、そのうえで団体信用生命保険に特約を付帯するかどうか考えるのがよいだろう。
東京駅といえば、日本を代表するターミナル駅。東京の玄関口であり、ビジネスや観光、また全国各地への移動の窓口として欠かせない存在だ。住まいを選ぶ際も、東京駅へのアクセスをフックにする人も多いだろう。その東京駅への移動が便利で、ねらい目の駅はどこだろうか。シングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)を対象にした最新版の家賃相場ランキングから探ってみた。●東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅TOP15駅
順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間(乗り換え時間・駅から駅への徒歩移動時間を含む)/乗り換え回数)
1位 南船橋 5.50万円(JR京葉線など/千葉県船橋市/29分/0回)
2位 東船橋 6.00万円(JR総武線/千葉県船橋市/30分/1回)
2位 松戸 6.00万円(JR常磐線・新京成線/千葉県松戸市/27分/0回)
2位 葛西臨海公園 6.00万円(JR京葉線/東京都江戸川区/13分/0回)
5位 一之江 6.38万円(都営新宿線/東京都江戸川区/27分/1回)
6位 お花茶屋 6.40万円(京成本線/東京都葛飾区/30分/2回)
6位 堀切菖蒲園 6.40万円(京成本線/東京都葛飾区/28分/2回)
8位 亀有 6.50万円(JR常磐線/東京都葛飾区/29分/1回)
8位 小岩 6.50万円(JR総武線/東京都江戸川区/19分/1回)
8位 小菅 6.50万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/25分/1回)
8位 戸田公園 6.50万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/30分/1回)
8位 新子安 6.50万円(JR京浜東北線/神奈川県横浜市/29分/1回)
8位 新浦安 6.50万円(JR京葉線/千葉県浦安市/20分/0回)
8位 津田沼 6.50万円(JR総武線/千葉県習志野市/30分/0回)
8位 蕨 6.50万円(JR京浜東北線/埼玉県蕨市/29分/1回)
トップ3は、千葉県の駅が占めた。1位は千葉県船橋市の南船橋駅。JR京葉線の快速が停車する。駅の南側は工場地帯だが、スウェーデン発祥の人気家具店IKEAの日本1号店である「IKEA Tokyo-Bay」や、ショッピングモールの「ららぽーとTOKYO-BAY」など、買い物する場所は充実。家賃を抑えた分、内装やインテリアにとことんこだわる、という楽しみ方ができそうだ。
2位の松戸駅は、同率2位の東船橋や1位の南船橋より東京寄り。江戸川をはさんだ先は葛飾区になる。JR常磐線と新京成線の駅だが、特にJR常磐線は東京メトロ千代田線と直通しているため、東京駅だけでなく、大手町や日比谷などのビジネス街や、表参道や原宿(明治神宮前)など人気の繁華街へも乗り換えなしで利用することができる。
松戸駅前(写真/PIXTA)
駅周辺は大型商業施設が充実していて、駅に直結したショッピングモールの「アトレ松戸」や「プラーレ松戸」などがあり、買い物にはとても便利だ。非常ににぎやかなため、雑多な印象も受けるが、駅から徒歩10分ほど歩けば「日本の歴史公園100選」に選ばれている約2.3haもの広大な「戸定が丘歴史公園」、江戸川沿いには約3kmにわたって桜並木が続く「常盤平さくら通り」など、便利さと緑豊かでのんびりした雰囲気の両方が味わえる環境と言えそうだ。
子どもを持つ家庭に優しい葛飾区6~8位には葛飾区の駅が集中した。人気映画シリーズ『男はつらいよ』などのイメージが強い葛飾区は、日経DUALと日本経済新聞社による共同調査「共働き子育てしやすい街ランキング2019」で1位になっている(ちなみに2位は、このランキングでも2位の松戸市)。待機児童の解消や産後のケアなどに取り組んでおり、小さな子どもがいる家庭に優しい街という側面も持っている。単身者にとっても、小さな子どもが健やかに過ごせる地域は、安心して住める環境と言えるだろう。
中川とスカイツリー(葛飾区)(写真/PIXTA)
8位の亀有駅は、松戸駅と同じくJR常磐線の沿線で、通勤にも遊びにも交通の利便性は抜群。人気漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の舞台となった場所で、その印象から下町を連想してしまいそうだが、整備された街並みは、良い意味で裏切ってくれる。
駅付近には家電量販店やスポーツジムも入る大規模商業施設があり、子ども向けのイベントが開催されることも。駅からすぐにある「かめありリリオホール」では、クラシック音楽のコンサートや落語などだけでなく、渋谷などで行われる話題の演劇作品の別日程公演が上演されることもある。
国際色豊かなエリアもランクイン同じく8位の蕨駅がある埼玉県蕨市は、外国人の住民が増えている国際色豊かな街として認識されている。毎年3月には、在住クルド人たちのよるお祭りなども開かれるほか、珍しい外国の食材が手に入るお店もあり、日本にいながら異文化交流をすることができる。
蕨駅前(写真/PIXTA)
また蕨市は、面積が5.11平方kmと全国で一番小さな市として知られており、端から端までは約4kmのコンパクトさ。近年、都市機能の活性化をかかげた「コンパクトシティ」が推奨されているが、蕨市は、この小さな地域の中に40以上の医療機関や13園以上の保育園、5館以上の児童館などが凝縮。時代の先端を行く地域、とも言えるかもしれない。
東京駅は巨大ターミナルであるがゆえに、都内から千葉、埼玉まで、各方面が比較的バランスよくランクインした。どこに住むか迷ってしまうが、それも住まい探しの醍醐味でもある。生活の中で何を重視するかをしっかり見極めて、素敵な部屋探しにつなげたいものだ。
●調査概要2020年7月にSNSなどで話題をさらった東京・渋谷区の「透明トイレ」。この公共トイレは、渋谷区内17の公共トイレが生まれ変わる「THE TOKYO TOILET」プロジェクトのひとつ。2021年の夏までにすべての公共トイレが設置予定で、そのうち、7カ所が今年の夏に完成した。安藤忠雄、伊東豊雄、隈研吾、槇文彦ら16人の著名クリエイターによる、トイレの常識を覆すデザインには、性別、年齢、障害を問わず快適に過ごせる工夫がなされている。プロジェクトを企画した日本財団に詳しい話を聞いた。
16人のクリエイターの斬新なトイレ、デザインの狙いとは
渋谷区のはるのおがわコミュニティパークに完成した「透明トイレ」は、完成するやいなや、近隣に住む男性が発信したツイッターで拡散。6.8万リツイート、25万いいね(2020年10月2日現在)を集め、ニュースは、「トイレ技術の最先端」として、世界にも発信された。注目されたのは、トイレの壁が透明であること。利用者がトイレに入るとガラス製の壁が不透明になり、中が見えなくなる仕組みだ。「そんな技術があったのか!」「利用時に本当に見えないのか不安になる」と話題になった。
SNSで話題を集めたはるのおがわコミュニティパークトイレ。デザインは建築家の坂茂さん(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)
「関心を持ってもらったのはうれしかったのですが、プロジェクトの公式発表前だったこともあり、驚きました。インパクトのある見た目だけが注目されないよう、プロジェクトの目的をしっかり伝えていこうと気持ちを引き締めました」と日本財団経営企画広報部の佐治香奈(さじ・かな)さんは語る。
「もともと、日本財団では、障がい者支援などを通じ、多様性を受け入れる社会づくりを目指してきました。公共トイレに着目したのは、さまざまな人が利用するトイレに問題意識を持ってもらい、障がい者・LGBTQ・子どもなどへの意識を変えるきっかけになればという思いからです」
日本財団と渋谷区は、社会変革により、社会課題の解決を図るソーシャルイノベーションに関する包括連携協定を結んでいる。公共トイレの事業も、日本財団が、先駆的な取組みのひとつとして、渋谷区に企画を提案し、渋谷区はこれを快諾。オリンピック、パラリンピックに合わせて、渋谷区内17の公共トイレを改装する「THE TOKYO TOILET」プロジェクトが始動した。
クリエイティブの力でトイレの常識をひっくり返す世界や日本各地からさまざまな人が集まる渋谷区のキャッチコピーは、「ちがいをちからに変える街」。日本財団と渋谷区が共に目指しているのは、障害やLGBTQ、子どもなどを受け入れる多様性や思いやりのある社会をつくること。障がい者支援でトイレの改善に取り組んだこともある日本財団は、訪れる人の多くが利用する公共トイレを起爆剤にして街に変化を起こしたいと考えた。
公共トイレは、公共という名がついていながら、汚い、臭い、暗い、怖いというイメージがあり、利用者が限られているという実態がある。
今までのイメージをくつがえすトイレをつくるために協力を仰いだのが、安藤忠雄、伊東豊雄、隈研吾、槇文彦ら16人のクリエイターだった。トイレの設計施工には大和ハウス工業、トイレの現状調査や設置機器の提案にはTOTOが参加した。
「透明トイレ」で新しいのは見た目だけではない。建築家の坂茂さんがデザインした、外壁が透明なトイレには、トイレに入る前に、中が綺麗かどうか、誰も隠れていないかを確認できるという衛生上、防犯上の狙いがある。
「透明トイレ」のほかにも、西原一丁目公園には夜になると光る「行燈トイレ」、タコの遊具によってタコ公園と呼ばれている恵比寿東公園には「イカトイレ」など、今までにない斬新なトイレが完成している。
暗かった夜の西原一丁目公園を明るく照らす坂倉竹之助さんの「行燈トイレ」(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)
タコの遊具があり、「タコ公園」と呼ばれている恵比寿東公園に完成した槇文彦さんの「イカトイレ(写真奥の白い建物)」(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)
「行燈トイレ」は、もともと薄暗く、夜になると物騒な雰囲気すらあった西原一丁目公園を明るくする目的があった。子どもが訪れることが多い恵比寿東公園の「イカトイレ」は建物の影に人が潜まないように裏のないデザインになっている。
田村奈穂さんによる東三丁目公衆トイレではプライバシーを守れるように、さっと入ってさっと出られるように外壁をデザイン(写真撮影/エスエス 北條裕子)
すべてのトイレに多目的トイレを設置している(写真撮影/片山貴博)
「利用者の方から、子どもが安心して遊べるようになった、夜も安全に歩けるようになったという声が寄せられています。完成した7つのトイレを巡る人もいるそうです。トイレについて皆で語ろうという機運をつくれたのではないでしょうか」と佐治さん。
「トイレは宝石箱、利用者は宝石」と語る安藤忠雄さんのトイレを訪ねた大きな屋根の庇の下は、コンクリートのたたきになっており、軒下でひと息つける空間になっている(写真撮影/片山貴博)
2020年9月15日に、安藤忠雄さんがデザインした神宮通公園トイレが、報道陣に公開された。まわりはビルが立ち並ぶが、公園内には緑が多い。木立の間にたたずむのは、「小さなあずまや」をイメージしてつくられたトイレだ。大きくせり出しているトイレの屋根の庇(ひさし)は、雨宿りのできる軒先をつくる目的がある。トイレとして利用するだけでなく、ちょっと休憩ができるような、パブリックな価値を持たせた。
「依頼を受けて、思い切ったプロジェクトだなというのが第一印象。クリエイターの名前を見て、刺激されました。完成した他のクリエイターのトイレを見て、みんな小さい建物にも全力投球するものだなと思いましたね。トイレは小さいけど、大きな発信力がある。私はこのトイレをデザインするにあたって、トイレは宝石箱、入る人は宝石だと考えました。公園全体を輝かせるものであるようにと願っています」と安藤忠雄さん。
「完成したのはまだ7カ所だけですが、インド、中国、ヨーロッパ各国から、完成したトイレと同じものをそのままつくってほしいというオファーが日本財団に届いています。しかし、維持管理の問題もあるので、形だけ輸出するのは慎重でありたい」と笹川順平常務理事は言う。
完成して終わりではなく、5年後、10年後にも「いいトイレだね」と使ってもらえることをプロジェクトのゴールにしているからだ。
「私のつくったトイレはUFOだとか言われている。渋谷の街に新しいものが舞い降りてきた。そんなイメージを持ってもらえたらいいですね」と安藤さん(写真撮影/片山貴博)
外壁は風と光を通す縦格子になっている(写真撮影/片山貴博)
メンテナンスでつなげる、次に使う人への思いやり全17カ所のトイレの維持管理は、日本財団・渋谷区・一般財団法人渋谷区観光協会が三者協定を結び、実施している。「THE TOKYO TOILET」では、完成した後のメンテナンスについても、今までの常識にとらわれない方法を取り入れた。トイレの清掃員が着用するユニフォームは、若者に人気のファッションデザイナーNIGO®さんが監修したもの。清掃する側のモチベーションを高めようと依頼した。今後は、トイレの維持管理状況を特設ウェブサイトで随時更新する予定もある。
軒先の空間で取材に答える安藤さんと日本財団の笹川常務理事。笹川常務理事が着ているのが清掃員のユニフォームだ(写真撮影/片山貴博)
赤い印がすでに完成したトイレ。渋谷に行く際は、最寄りのトイレを訪ねてみては(画像提供/日本財団パンフレットより)
清掃員が、ユニフォームを着て清掃していると、「ありがとう」「きれいに使いますね」と声をかけてくれる人が増えたという。日本財団、渋谷区の思いを形にしたクリエイター、TOTO、大和ハウス工業、未来に引き継ぐための維持管理。そして、利用者自身が次に使う誰かに思いやりのバトンをつなぐ。小さな問題意識から変わっていく街。それこそが、多様な人を受け入れるまちづくりの一歩なのではないだろうか。
●取材協力ワークスペースで根を詰めて仕事をしてから、30秒後には湯船でリフレッシュ――。そんな夢のような空間がある。舞台は若者に人気の街、東京・高円寺。昭和8年創業の人気銭湯、小杉湯の隣に誕生した「小杉湯となり」。
その狙いは? 利用料金は? 銭湯以外の売りは? ここを運営する株式会社銭湯ぐらしの代表・加藤優一さんに聞いた。
2階のワークスペースでガチの原稿を書く
小杉湯は高円寺駅北口から徒歩5分。
庚申通りを途中で左折します(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
1日の平均利用客数は約300人。「終電で帰ってきた人にも利用してほしい」という思いから、営業時間は深夜1時45分までだ。
レトロな唐破風屋根が存在感を放つ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
そして、その隣にあるのが一転モダンな外観の「小杉湯となり」。1階はカフェ、2階はワークスペース、3階は貸しスペースだ。2階の一角をちょいとお借りして、締め切りを過ぎたガチの原稿を書く。
建主は小杉湯、建築設計はT/Hが担当した(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
2階では皆さん、黙々と仕事をしていらっしゃる。
これは……集中できるぞ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
原稿終了。合宿所のような雰囲気のおかげか、なかなかのものが出来上がった気がする。
番台の看板娘に470円を払って、いざ入浴お次は、いよいよ銭湯タイムだ。下駄箱に靴を預けると、番台の看板娘に470円を払う。仕事道具以外は持ってきていないが、無料のレンタルタオルがあった。
「はーい、ごゆっくり」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
小杉湯には名物のミルク風呂、週替わり風呂、日替わり風呂、水風呂と温度と香りの違う4つの浴槽があり、わざわざ電車やバスに乗って遠方から訪れる客も多い。
「温冷交互浴」は小杉湯の代名詞(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
入浴後はロビーでくつろぐ。風呂上がりといえばビールだろう。
クラフトビールの品ぞろえがすごい……(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
迷った末に大森山王ブルワリーの小杉湯限定ボトルにした。代表の町田佳路さんが自ら醸造している。
最高やないか……(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
物語はここに建っていた風呂なしアパートから始まるさて、時計の針をちょっと戻して「小杉湯となり」の話に戻す。
物語はもともとこの場所に建っていた風呂なしアパートから始まる。老朽化のために取り壊しが決まり、住民は次々に退去。それを機に「銭湯ぐらし」というプロジェクトがスタートした。
発起人は現・株式会社銭湯ぐらし代表の加藤優一さん(33歳)。あの「東京R不動産」の発起人がつくった設計事務所Open Aの社員でもあり、そこでは空き家の活用や全国の衰退したまちの再生などの仕事に携わっている。
小杉湯が好きすぎて、いまだに近所にある家賃3万円の風呂なしアパートに住んでいる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「取り壊しまで約1年。空き家にしておくのももったいないということで、小杉湯3代目の平松佑介さんに相談しました。最終的には、高円寺のクリエイターたちに声をかけることに。家賃0円で住める代わりに、銭湯に寄与する創作活動をしてもらうというプロジェクトを始めました」
こちらが在りし日の風呂なしアパート(写真提供/小杉湯となり)
「銭湯ぐらし」ではクリエイター同士による付かず離れずのコミュニティが生まれた。
共通点は「銭湯のある暮らし」を楽しんでいること(写真提供/小杉湯となり)
コロナ禍の直前にプレオープンを果たすも……アパート解体後も当時のメンバーらが中心になって、“銭湯込みでホッとできる開かれた場所づくり“を模索。その活動が2020年3月にプレオープンを果たした「小杉湯となり」として結実する。
1階はカフェ、2階はワークスペース、3階は貸しスペースになっている。
「スーパー銭湯はひとつの施設ですべてを完結させようとしています。でも、ここはあくまでも“拠点”。1日に1回、湯上りに小杉湯となりでリラックスしてそのあとちょっと飲みに行くとか。街に暮らすようなライフスタイルを定着させる場をつくりたいという思いがありました」
銭湯のような光が入る設計(写真提供/小杉湯となり)
しかし、すぐにコロナ禍が到来。4月、5月は施設内営業をやめて、デリバリーとテイクアウトのみで対応した。
高円寺の飲食店とコラボした企画の一例(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
また、外出を控えている人たちのためにEC事業で「銭湯のあるくらし便」も始めた。「米ぬかやハーブなどの入浴セットで銭湯気分を味わってほしい」という試みだ。
捨ててしまう米ぬかなどを活用したお風呂のもとをお届け(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
自粛期間が終わったあとも、加藤さんはホッとできる場所をどうやって守っていくか悩んだ末、当面は会員制にして7月から再始動させることにした。月額2万円で各設備を使い放題というシステムだ(コロナが収束した後の運営方法や料金については、スタッフや会員と相談しながら決めていく予定)。
募集をかけると40名の枠はすぐに埋まった。現在は60名で運用している。1階はキッチン付きのカウンターとテーブル席、2階は畳を敷いた小上がりのワークスペース、3階はトイレ・シャワー完備の6畳間だ。
こちらは徐々に稼働を始めたころの1階の様子(写真提供/小杉湯となり)
「最初は一人暮らしでフリーランスの人が集まるイメージ。でも、実際は夫婦ともにリモートワークになって家の中での居場所づくりが難しい方や、在宅育児等で息が詰まって気分転換をしたい女性などからも応募がありました」
男女比は半々ぐらい。純粋なコワーキングスペースというよりは、シェアキッチンでご飯をつくりに来る人や、風呂に入った後に昼寝して帰る人など、使い方は自由だ。加藤さんはここを「街の中にある、もう一つの家」と呼ぶ。
会員たちにも話を聞いてみよう。1階ではフリーランスデザイナーの男女が仕事をしていた。
スタバ感覚でコーヒーを飲みながら働いている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
男性(20代)が言う。
「ここを利用するのは気分転換ですね。拡張リビングというか。集中するときは2階、音を聞きながらの作業は1階と使い分けています。小杉湯ですか? 週に4、5回は入るかな。家にお風呂はありますけど(笑)」
会員の女性が手づくりのバスクチーズケーキを振る舞うその時、キッチンから「バスクチーズケーキ食べたい人~?」という声。ほぼ全員が手を上げる。
スペインのバルが発祥のチーズケーキなんだそうですよ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
彼女はイラストレーターのハラユキさんで、やはりここの会員。9月初旬から10月中旬にかけて小杉湯でスペインをテーマにしたイベントを開催するため、現地の料理を研究していた。
8月に『オラ、スペイン旅ごはん』を出版したばかり(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
1階には駄菓子屋もあった。本当です。アルバイトのみずきさんが“経営”する「みずき屋」だ。
あ、伝説の「ペペロンチーノ」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「小杉湯に通っていたら、加藤さんに声をかけてもらって銭湯ぐらしに参加させてもらいました。駄菓子屋を開くのがずっと夢だったので、めっちゃ楽しい。今、大学3年生なんですが、コロナ禍で学科の実習ができないから、最近は主にここにいます(笑)」
今日は屋内のみだが、週末は軒下でマルシェを開催。ほかにもスタッフが自主開催するテイクアウトのカフェも人気だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
掲示板で情報交換、ランチのおすすめマップもさらに、屋内をもっと見て回ろう。加藤さんにあらためて案内してもらった。
掲示板では会員同士が情報交換(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「平日ランチおすすめマップ」もうれしい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「2階には本棚を置きました。小杉湯関係者や高円寺の飲食店の人などが、それぞれの趣味のコーナーをつくっています」
中には銭湯ぐらしメンバーのお子さん「なっちゃん」の本棚も(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
銭湯のような“ゆるっ”としたコミュニティをつくりたい最後に3階へ。ここは貸しスペースとして利用されている。
2階と比べて眺望が一段広がる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
この辺りはそれほど高いビルがないので、抜け感が楽しめる。
「テラスにハンモックを入れたんですよ」とうれしそうな加藤さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
小杉湯の屋根越しに高円寺駅方面を望む(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「まずは会員制にして利用者にとって安心安全な場所をつくる。コロナが終息したら、どのように高円寺というまちに開いていくかをみんなで考えたいと思います」
芝生の養生が済んだら多目的に使える中庭(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
小杉湯に入って印象的だったのは、脱衣場でも、洗い場でも、そして浴槽でも、利用客同士が細やかな互いへの気遣いを見せていたこと。銭湯は年代を超えた人々が集まる学校のようなものなのかもしれない。
「そうなんですよ。銭湯は顔は見たことがあるけど名前は知らないという関係性がある場所。あれぐらいの距離感を目指して、“ゆるっ”としたつながりのある場所をつくりたいです」
ほどよい距離感が心地いい。しかも、すぐ隣に皆さんが大好きな銭湯。芝生の養生が終わるころには“いつもの日々”が戻っていてくれますように。
●取材協力