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全国で“シャッター商店街”が増え続ける一方、さまざまな工夫により再生し、注目を集める商店街もある。福岡県北九州市黒崎の「寿通り商店街」でも、“ニューノーマルの商店街”を目指す新たなプロジェクトが始まった。商店街を“百家店”に、を掲げる「寿百家店」プロジェクトだ。商店街の一部区画をフルリノベーションし、店舗とシェアハウスに生まれ変わらせるという。取り組みの詳細を伺った。
シャッター通りを、店舗+シェアハウスにリノベーション
黒崎は、北九州市内でも小倉に続く中心街だ。しかし、2020年7月には駅前の百貨店「井筒屋」が閉店。まちのにぎわいに陰りが出ている。
寿通り商店街は、そんな黒崎駅からほど近くにあり、戦後間もないころから続いている。長らく地元の人々の暮らしを支えてきたが、2016年時点では13店舗中8店舗が空き店舗となり、シャッター通りと化していた。
そんな寿通り商店街の“ニューノーマル”をつくろうと2020年5月から始まったのが、「寿百家店」プロジェクトだ。
商店街の一角にある3物件、合計174.83平米(52.88坪)の1階部分をテナント11区画に、2階部分を4室+LDKのアーケードシェアハウスへと変化させる、という。シェアハウスの住民と商店街の人々が相互に関わり合い、まちを活性化させることを目指す。計画はコロナ禍以前から始まっていたが、オンラインマーケットの構想もあり、注目を集めている。
寿通り商店街(写真撮影/加藤淳史)
完成予想図。1階が店舗、2階がシェアハウス(画像提供/株式会社寿百家店)
テナント誘致には“起爆剤”がいるプロジェクトをリードするのは、PR・企画会社「三角形」代表の福岡佐知子さんと、建築事務所「タムタムデザイン」代表の田村晟一朗さん。二人とも、寿通り商店街との付き合いは長い。
福岡佐知子さん(写真撮影/加藤淳史)
はじまりは、福岡さんのもとへ当時の商店街の組合長から「寿通り商店街を活性化したい」という依頼があったことだ。当初はイベントの企画・運営などを行っていたが、「イベントをやっても、一時的に盛り上がるだけで終わってしまう」ことに課題を感じていたという。
「本格的な活性化に取り組むためには、“中心人物”が必要です。でも、当時の商店街は高齢の方も多く、なかなか先頭に立って進められる方がいなかった。ならば自分がと思い、商店街に事務所を移転することにしたんです」(福岡さん)
その後、商店街に、自身でワインバー「TRANSIT」や総菜店「コトブキッチン」をオープン。それまで飲食店経営の経験はなかったというから驚きだ。
「飲食店があることで、さまざまな人が集まって言葉を交わしたり、お金を落としてもらったりすることができる。“まちづくり”に興味を持つ方は限られますが、飲食店を介してなら、多くの方に自然な形で“まちづくり”に参加してもらうことができると思うんです」(福岡さん)
旬の素材を使った総菜が並ぶコトブキッチン。取材当日も、常連客が次々とやってきた(写真撮影/加藤淳史)
さらに、まちの人たちを巻き込み、空き店舗のシャッターを塗り替える「トム・ソーヤ大作戦」などさまざまなプロジェクトも仕掛けていった。
並行し、テナントを誘致する活動も行ってきたが、「このままでは限界がある」と感じるようになったという。
「家賃が安いからと見に来てくれた方がいても、シャッターを開けてボロボロの建物を目にすると、すっと引いていってしまう。このままの状態で待つのではなく、こちらで場を整えて待つ必要がある、何か起爆剤がいる、と考えるようになりました」(福岡さん)
シャッターの色を塗り替え、空き店舗の暗い印象を変えたトム・ソーヤ大作戦(画像提供/株式会社寿百家店)
商店街と住宅の共存関係をつくる「TRANSIT」の常連客として福岡さんと知り合い、「コトブキッチン」の設計を担当したのが田村さんだ。
二人が会話を重ねる中で、「寿百家店」の構想は生まれた。
田村晟一朗さん(写真撮影/加藤淳史)
2階をシェアハウスに、というのは田村さんのアイデアだ。実は、田村さん自身が手掛けた先行事例が福岡県行橋市に存在する。「アーケードハウス」と呼ばれるその住まいは、同じく衰退していた商店街に灯りをともした。テナント入居のポテンシャルを失った空き店舗の優れた利活用方法として、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016で総合グランプリを受賞している。
「暗いシャッター街に、街灯ではなく住宅の灯りがあることで、安心感が生まれます。寿通り商店街でも、商店街と住宅の共存関係をつくっていきたいんです」(田村さん)
行橋市のアーケードハウス。2階部分が住まい(画像提供/タムタムデザイン)
寿百家店、2階シェアハウス部分のスケッチ(画像提供/タムタムデザイン)
住んでもらいたいのは「1階の店主やまちづくりに関心がある方など、一緒にプロジェクトに関わってくれる方」、そして「学生や若い世代」という。
「大人が頑張っている姿を間近で見て、『このまちって面白いな』と思ってもらえたら理想ですよね。それは将来的なUターンにもつながると思うんです」(田村さん)
田村さん自身は、実は高知県の出身だ。
「自分は若いころにふるさとの魅力に気づけず、北九州で事務所を立ち上げました。北九州のまちがすごく気に入ったからですし、後悔もしていません。ですが、地域にとって理想は、若い方が地元の魅力に気づいた上で一度外に出て、地元に無いものを持ち帰ってくることだと思うんです」(田村さん)
寿百家店2階のシェアハウス。既存の建物を活かしながら、新たに窓を設けることで明るさを足した(写真撮影/加藤淳史)
シェアハウスからの風景(写真撮影/加藤淳史)
1物件につき3店舗のテナントが入れるようコンパクトに区切り、さまざまな店舗を誘致するアイデアは福岡さんから生まれた。1店舗ずつのスペースをコンパクトにして水まわりなどを共有することで家賃を抑え、入居ハードルを下げている。
誘致する店子についても、二人には明確なイメージがあった。
「自分で生み出せる方。自身で技術を持っている方、自身で表現ができる方。誰にでもできる商売ではなく、専門性を持った店・人があつまることで、商店街全体の価値が上がる。ここでしか得られない体験をつくることが重要だと考えています」(田村さん)
1階部分のスケッチ。入居店舗のイメージも記載されている(画像提供/株式会社寿百家店)
一人ではできない「面白いこと」を、一緒に現在、2021年5月までの全店オープンを目指し準備を進めている。シェアハウスの入居者は募集中だが、1階は約半年で全テナントが決定したという。
「ネイルサロン」「ガラス細工のお店」「アートギャラリー」「地元野菜を売る八百屋」「地元の飲食店に役立つ本屋」「アパレル販売店」「ラーメンと甘味の店」、そしてドライヘッドスパとハーブティの販売をする「To me…」が開業予定だ。
「To me…」店主の豊東久美子さんは、これまで店舗を持った経験がない。地元の北九州で店を開きたいと考え、物件を探していたときに、たまたま寿百家店のことを知った。入居説明会を聞き、即決したという。
「福岡さんと田村さん、お二人の話を聞いて、『北九州で、こんな面白いことができるのか!』とわくわくしました。
一人で『面白いこと』を仕掛けるには、アイデアの面でも費用の面でも限界があります。新規開業ということもあり、孤独感、不安感もありました。この場所なら、一緒に面白いことを仕掛けていけるのではないかと思ったんです」と語る。
ドライヘッドスパをもっと身近なものにしたい、という思いにもマッチする場所だった。
「仕事の合間や買い物のついで、家事育児の合間に寄れるような場所にしたいんです。この場所なら、美容室や飲食店、いろんなお店のついでに立ち寄ってもらえるのではないかと思いました」(豊東さん)
商店街ならではの、「お隣さん」との関係も魅力と語る。かつて商業施設内のテナントに勤めていたこともあるが、近隣店舗との交流はほとんど無かったという。
「既に田村さんや福岡さん、学生スタッフの方々にもたくさんサポートしていただいています。
先日も1日限定のマルシェに参加しましたが、その時も商店街の方はじめ、たくさんの方とつないでいただきました」(豊東さん)
オープン後は、アロマやハーブを使ったワークショップもやりたい、と意気込みを語る豊東さん。
「大人だけでなく、例えば夏休みの宿題に合わせたものなど、子どもたち向けのイベントもやりたいと考えています。地域に根差していけたら」(豊東さん)
豊東久美子さん(写真撮影/加藤淳史)
オフラインとオンラインが同居する商店街へ寿通り商店街の目指す姿について、田村さん、福岡さんはこう語る。
「『あそこに行ったら何かやっている』という期待感がないと、人は集まらないですよね。昭和40年代~50年代は、商店街がそういう場所だったと思うんです。それが無くなったから衰退している。ワクワク感、期待感をつくっていくことが大切だと考えています」(田村さん)
「用事がなくても行ってみよう、ちょっと遠回りして帰ろう、と思ってもらえるような場所にしていきたいですね」(福岡さん)
コロナ禍の影響で、当初の計画に狂いも出た。しかし、田村さんはこう語る。
「前提として、寿通り商店街はロケーションが良いです。換気も良いし、アーケードだから雨が降っても大丈夫。内でもあり外でもある、特別な空間です。それはコロナ禍においても武器になるはず」
さらにコロナ禍において特に中国で活発になった、ライブ動画を見ながら商品を購入できるライブコマースからもヒントを得た。5月の全店オープンに合わせ、オンラインマーケットのオープンも準備中だ。
「オンラインで買い物する場合も、リアルと同じように店主と会話したり、他の客と店主の話を聞いたりできるよう、システムを整えていく予定です。海外のお客さんにも来てもらえるように、ゆくゆくは店主の皆さんに英語を習得してもらう必要もありますね」(田村さん)
寿百家店は、商店街の11区画中3区画を使用したプロジェクトだ。今後、残りの区画にも着手していくのだろうか。
「まずは今の区画でモデルケースをつくるつもりです。それをもとに、寿通り商店街内だけでなく、全国に広めていけたら、と考えています。
『前例』がないので、テナントやシェアハウス入居者の集め方、オープン後の集客の仕方も、自分たちでイチから試さなければいけない。それはとても苦労している点ですが、周囲の方々がさまざまな形で後押ししてくれていますし、ここで事例をつくれたら、全国の同じような商店街の方々にとっても意味があると思うんです」(田村さん)
寿通り商店街にて(写真撮影/加藤淳史)
全国へと広がる商店街の“ニューノーマル”になるかシェアハウスと店舗が共存する商店街。ただでさえ前例のないプロジェクトに、コロナ禍が重なり、難易度は増した。苦労を重ねる一方で、オンラインが広く浸透したこの時勢を、二人はチャンスとも捉えている。
寿百家店の取り組みは、全国の商店街に展開できる“ニューノーマル”となるか。5月のオープンを、楽しみに待ちたい。
宮城県石巻市で、空き家を新たな発想で活用する取り組みを行ってきたクリエイティブチーム「巻組」。2020年6月、コロナ禍で困窮したクリエイターに住む場所と発表の場を提供し、地域とつながりながら「お互いさま」の関係をつくるプロジェクト「Creative Hub(クリエイティブハブ)」をスタートさせた。その取り組みは、単なる空き家問題解消にとどまらず、地域の活性化にも大きな影響を与えている。
震災ボランティアの住まいを確保するために立ち上げた「巻組」
東日本大震災の津波被害が大きかった宮城県石巻市で「Creative Hub」を企画、運営する「巻組」を立ち上げた、渡邊享子(きょうこ)さんに話を聞いた。
合同会社巻組代表の渡邊享子さん(写真提供/渡邊享子さん)
2011年、埼玉県出身の渡邊さんは学生ボランティアとして石巻市を訪れた。石巻市は住宅地が津波に飲み込まれ、2万2000戸の家屋が全壊。もともと賃貸物件は少ないが、既存の賃貸物件は被災者や復興需要で埋まり、ボランティアが住む場所が足りなかった。
渡邊さんは、仲間のボランティアが石巻市に残って支援を続けられるように、空き家を探し、住めるようにリノベーションをして貸し出そうと考えた。2012年から始めて何軒か手掛けるうちに、事業化できるのではと思い始めた。当時、渡邊さんは東京で就職活動をしていたが、震災不況で決まらず、「やることがある所に住もう」と移住した。
「2018年の住宅土地統計調査によると、石巻市内の空き家は1万3000戸、全家屋の約20%です。賃貸物件は、一般的にPLACE(立地)、PRICE(家賃)、PLAN(間取り・設備)の『3P』を基準に選ばれますが、私たちが扱うのは『3P』が絶望的な空き家です。敷地が公道に接していない立地や、給水設備が未整備のもの、築60年を超える廃屋など、持ち主が“ただでももらってほしい”という空き家、不動産会社も扱いづらく困っているような建物を買い上げています」(渡邊さん、以下同様)
空き家を買い上げてリノベーションした巻組の賃貸住宅。古さや傷も味わいになっている(写真提供/巻組)
「リノベーションで苦心しているのは、予算内でどこまでできるか。素材などお金をかけるべきところにはかけますが、できるだけ物件の持ち味を活かし、住む人自身が自らカスタマイズする余地を大事にしています」
巻組は、この空き家を活用した住宅支援や事業開発プログラムの提供などを行い、2015年に3人のメンバーで合同会社として法人化。これまで、空き家を買い上げて自社で改修した物件が35軒、そのうち、自ら運営するシェアハウスや賃貸住宅、民泊が11軒、すでにのべ約100人が居住した。
クリエイティブ人材を活用した「Creative Hub」のスタート「不動産会社が扱いにくい廃屋、一般的には絶望的な条件も、視点を変えてプラスの価値に転換する、大量生産、大量消費とは真逆の価値観です。悪条件も、ものづくりや芸術活動などのクリエイティブな活動をする人は『かえっていいね』『おもしろい』とポジティブに受け止めてくれました。
例えば、音を出してパフォーマンスしたい人は、静かな環境で思いきり声を出すことができるし、ものづくりをするために壁や床を汚してしまう、壊してしまう恐れがあるという人には、自由に創作できるキャンバスのようなものになります。また、都会では難しい広いアトリエや作品を保管する倉庫が確保できます。
狩猟用の猟銃を所持している場合、賃貸物件を借りるときは大家さんの許可が必要で、嫌がられる場合があります。そういった、一般の賃貸住宅を借りにくい住宅難民、規格におさまりきらないニーズを持った人が喜んで使ってくれるのです」
都会にはない広さや広縁を利用したリノベーションした賃貸住宅。障子のデザインもアートごころを刺激。レトロな雰囲気が若い人には新鮮に感じられる(画像提供/巻組)
水まわりを中心に改修した民泊はノスタルジックな趣。ワーケーションなどを目的に石巻に来た人に使われている(画像提供/巻組)
2020年はコロナウイルスの感染が拡大するなか、活動や発表の場を奪われたアーティストが増えた。「アーティスト活動ができず、生活費を稼ぐためのアルバイトすらできなくなったクリエイターを支えたい。クリエイティブ系の人材を石巻に集めたら、使われていない地方の資源を活用できるのではないか」と、巻組は「Creative Hub(クリエイティブハブ)」プロジェクトを計画。クラウドファンディングで応援してくれる人を募り、倉庫のリノベーションなどの準備費用の寄付・協力を呼びかけた。
老若男女が出会い支え合う場をつくる2020年6月に立ち上げたこのプロジェクトは、どんな仕組みなのか。
活動の場、働く場を失ったアーティストの卵に、巻組が運営するシェアハウスやアトリエ倉庫を一定期間無償で提供する。食料や家電など、生活に必要なものは、寄付で集めた「ギフト」をギフトバンクに集め、入居者にマッチするものを提供する。
生活の拠点と生活資材の提供を受けたアーティストは、クリエイティブな活動に集中しながら、次へのステップの準備ができる。そしてギフトのお返しとして、製作のプロセスや製作物を地域の方に公開する。また、ギフトバンクに届いた「掃除や草取り、雪かきを手伝ってほしい」「農作業の一部を手伝ってほしい」といった「ちょっとした手伝いのSOS」に対して、労働力などのお金以外の形でお返しをする。こうして、アーティストと地域住民のコミュニケーションが生まれる。
昭和以前の田舎にあった「助け合い」「おすそ分け」「お互いさま」のような関係性を再構築したのだ。
また巻組は、アーティストと地域住民の交流の場として、石巻市と連携し月1回、第4日曜日に「物々交換市」を開催している。「Creative Hub」の倉庫などを利用して、アーティストが制作物を出品したり、パフォーマンスをしたりする。地域住民は、出店するものが気に入れば、持ち寄ったものと交換したり、投げ銭などを行う。ワークショップブースでは、絵の具や木材などを使って、アーティストと一緒に制作活動が楽しめる。「物々交換市」は、3カ月間で、のべ120名が参加、約280人が市外から寄付などを通してこの仕組みを応援している。
物々交換市では、ユニークなものが出品され、思いがけない発見や出会いが生まれている(画像提供/巻組)
「石巻ではアートのイベントを頻繁に行っていますが、地域にアーティストが定着するためには参加者も双方向的な仕組みをつくれると良いと思いました。アーティストの作品を見に来てください、と誘うとハードルが高くなりますが、物々交換なら地域の高齢者が楽しみに来てくれますし、若い人の役に立ちたいと、家にある食器類、古着、端材、農産物などを持ってきてくれます。アーティストにとっては、作品が売れたり、人の目に触れて反響があったり、応援してもらうことはとても大事なこと。首都圏のアーティストは孤立しがちですが、ここで共同生活をすることで他の人から刺激を受けることも、力になると思います。
一方で、地域の高齢者は、人の役に立つことで自己肯定感が高まります。マンション住まいの子どもたちは、家ではできないような絵の具を使って壁に絵を描いたりして、クリエイティビティな感性が育ちます。子どもから高齢者までがリアルに触れ合い、支え合い、元気になれるコミュニティがつくられる、それが重要だと思っています」。市の来場者アンケートによると「新しい人と出会えた」という意見が多く寄せられるという。
「Creative Hub」に参加して「人のための演劇」にシフトここで「Creative Hub」の入居者の声を紹介する。よしだめぐみさんは、東京都出身のパフォーミングアーティスト。東日本大震災のときは中学2年生、高校時代に東北を訪れる機会があったが、まさか東北に住むとは思っていなかったという。
よしだめぐみさん(写真提供/巻組、写真撮影/Furusato Hiromi)
小学生のときから児童劇団に所属し、演劇を続け、多摩美術大学の演劇舞踊デザイン学科に進んだが、他の世界を知らないことが不安になり、大学2年生のときに中退。さまざまな仕事を経験し、石巻市の食・アート・音楽の総合芸術祭「REBORN ART FESTIVAL(リボーンアート・フェスティバル)」でアルバイト運営スタッフとして働く。そのときに演劇をつくれるスキルを現地に滞在し制作するアーティストに面白いと言われて、演劇を再開しようと決意。
「2020年は都内でイベントの仕事をする予定でしたが、コロナの影響でイベントはできず、制作費を稼ぐのも大変になってきました。東京にいる理由がなくなり、自分を求めてくれる人、味方になってくれる人がたくさんいる石巻で活動することにしました」
住むところがなかったよしださんは、巻組を紹介され、5月からシェアハウスに入居。まもなく「Creative Hub」が始まった。
「家賃なしでクリエイターに住まいを提供してくれる、全国でもない取り組みです。全国から集まる入居者、街の人たちとも仲良くなりました。
外に出れば出会い、発見があります。街の人はお米や牡蠣、飲み物などをくれて『ちゃんと食べなさい』と言ってくれる。大きなファミリーに見守られている感じで、都会とは違った人のつながりがありますね。関係が濃密なので、人が好きな人には合っているし、やりたいことがある人には、やりやすい場所だと思います」
CheativeHubの倉庫の一角、制作した作品の中でパフォーマンスをするよしださん(写真提供/巻組、写真撮影/Furusato Hiromi)
演劇の脚本を書き、演じ、演出もする。福祉施設のコミュニケーション教育のワークショップや高校の演劇部の指導、イベントや撮影のアシスタントも。さらに石巻、仙台、女川など、宮城県の地域のイベントやアーティストのマネジメントと、仕事の幅を広げている。
「『Creative Hub』に参加して、知らない世界を知る人たちに出会い、影響を受けました。東京にいたときは、自分ががむしゃらに演劇をやりたいと思ってきましたが、ここに来て『誰から、どんなニーズがあるから、こういう演劇をつくりたい』と、自己満足ではなく、仕事にする方向で演劇を考えられるようになりました。人のために自分のスキルを活用したいと考え、視野が広がりました。
ここを原点に、いずれは拠点を選ばずに演劇活動ができるように、発展させていきたい。石巻で必要とされなくなるまで活動していきたい」と声を弾ませる。
創作意欲が高まり、日々出会いがある次に紹介するのは、「みち草工房」の菅原賀子(よしこ)さんと、阿部史枝(ふみえ)さん。巻組の賃貸物件を工房として借りて2人でシェアしている。菅原さんは、大阪府大阪市出身で、神戸の木材の会社に勤めていたが、交際相手が住んでいる宮城県へ移住したことをきっかけに、石巻に惹かれた。コワーキングスペースをもつ石巻のカフェを訪れ、そこで働く阿部さんと出会った。
木を使ってモノづくりをしていた菅原さん、布を使って洋服の直しやオーダーメイドを請け負っていた阿部さんは、お互いの取り組みを面白いと感じた。そして一緒に活動するべく借りたシェアオフィスが手狭になり、いったん解散しようと思ったが、巻組のシェアハウスが気に入り、作業場として二人で借りた。
「石巻のまちなかにありながら、山際に立ち、植物に囲まれ、まるで山奥にいるよう。魅力的な物件です」と菅原さん。
「ここは広いので、たくさんの端材を置けるし、庭で植物を育てたりして、家ではできないことができます。
家とは別の空間を持つ面白さもあり、癒しの場所でもあります。また、ここは誰でも気軽に立ち寄れるオープンな物件なので、巻組が連れてくる見学者、デザイナー、アーティストなど、いろいろな人が遊びに来るのも楽しい」
菅原さんと阿部さんが借りている平屋木造住宅。住居兼アトリエみたいな場所(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)
「釘を打ったり、棚をつけたりとDIYをすることは賃貸では難しいですが、ここは自分たちの好きなように自由に変えられるし、原状回復も必要ありません。この場所にいるだけで、何かをつくりたくなるような気持ちになりました。
『どうしてそんな目立たない所に引越したの?』と言う人もいましたが、一度遊びに来た人は『隠れ家みたい』と気に入って、何度も気軽に来てくれます。今は震災に関係なくここの取り組みに惹かれて移住した人が増えている感じがします」と阿部さん。
庭仕事をしている阿部さん(左)と菅原さん(右)。クリエイティブな作業に最適な環境だ(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)
2人のコラボ作品の第一弾は、猫用のハンモック「にゃんもっく」。「物々交換市」では、住民が持ってきたものと交換、または投げ銭で物を交換する「クルクルフリマ」という物々交換の店を出している。「普通のマーケットと違って、パフォーマンスもあり、活気があります。幅広い年齢層の方がのぞいてくれますね」(阿部さん)
2人がコラボしてつくった「にゃんもっく」(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)
「最先端の考え方をする人が集まってきて、もともとの住民と移住した人、古さと新しさが同居する面白いまちになっていると思います」(菅原さん)
アーティストの支援にとどまらない、社会の課題解決のモデルとして巻組は、2020年12月、築70年の古民家を改築した「OGAWA(おがわ)」を開設。密集を避けて仕事をしたい人のためのワーケーションの拠点として、都心などから人を呼び込み、石巻と関わる「関係人口」を増やすことが目的だ。
「少子高齢化、人口の減少、孤立化などは全国的な問題。空き家問題が進む地域にアイデアとして何か転化していければと思います。空き家を活用して、ただカッコいい場所をつくろうとか、クリエイティブ人材を市内外から連れてくるだけでもありません。
現在の取り組みは、反響もありますが、こういう形がどれだけ広がり、一般化していくか、課題と制約のなかで、いかに価値を出すかが、クリエイティブやアートにとって大事なところだと思います。そして、アーティストがこういう場所で生み出したものを、どう売り出していくかを考えて、形として見えやすいものにしていく必要があると思います。見逃されがちなものを、空き家を活用して、さまざまな問題にどうコミットできるかを考えていきたいです」(渡邊さん)
若いアーティスト人材の居場所をつくり、呼び込んで育てながら、地域を活性化する、巻組の取り組み。多世代のコミュニケーションが生まれ、誰も孤立させずみんなで幸せになる地域社会をつくる。人材、資材を活用しアイデアを加える、人も経済も元気になる「良循環」といえるだろう。
震災後、外から多くのアーティストやクリエイター、ボランティアなど優れた人材が出入りしたことも変化につながった。都会の便利さはない田舎だからこその懐の大きさとポテンシャルの高さ。豊かな人材、資材、アイデアが流入して変化していく石巻は面白いまちだ。
●取材協力2020年9月に、全国の住宅展示場に来場した人に対して、住宅展示場協議会が調査を実施した。「総合住宅展示場の魅力と新しい生活への対応、災害意識の変化」と題した調査報告書を見ると、在宅勤務・テレワークによる住宅計画への影響や、東日本大震災から10年を迎え、自然災害に対応する住宅への考え方の変化についても触れられている。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「総合住宅展示場来場者アンケート 2020調査報告書」を公表/住宅生産振興財団・住宅展示場協議会コロナ禍で在宅勤務・テレワークを意識した家づくりへの関心が高まる
最初の緊急事態宣言(2020年4~5月)による住宅計画の変更について聞くと、「見直したものの変更はなかった」が最多の63.8%で、着工時期や予算などを見直した人は限定的だった。次に、在宅勤務・テレワークを意識した家づくりへの関心度を聞くと、関心がある(関心+やや関心)は35.0%だったが、在宅・テレワークの実施経験別で見ると、緊急事態宣言以前から実施していた人ほど関心が高いことが分かった。
出典:住宅展示場協議会「総合住宅展示場来場者アンケート 2020調査報告書」
具体的に検討したい家づくりを聞くと、「仕事ができる空間・部屋」が最多の66.1%で、次いで「状況に応じて仕事部屋や子供部屋などいろいろな用途に使える部屋」(32.5%)、「電話・テレビ会議などがしやすい遮音性の高い部屋」(31.7%)が続いた。
自然災害を意識した家づくりへの関心は高く、耐震性能の高い住宅への意識も高いさて、東日本大震災から10年が経ち、この間も地震や豪雨・台風などによる災害が頻発している。恐ろしい力を持つ自然災害を目の当たりにして、災害への意識は変わったのだろうか?
「自然災害を意識した家づくりへの関心度(関心+やや関心)」を聞くと、地震は98.7%、台風は93.8%、豪雨は93.4%といずれの災害にも高い関心を示した。なかでも、2016年の熊本地震や2017年7月の九州北部豪雨、2018年7月の西日本豪雨、2020年7月の熊本豪雨など、甚大な被害に遭った九州・四国地方での関心度が高い傾向がうかがえた。
では、自然災害を踏まえた住宅計画として、どういったことを意識しているのだろうか?
意識や導入意向が強い(非常に強い+少し強い)のスコアの高い順に上位5つをみると次のようになる。
1:住宅(建物)の選定にあたっては耐震性能重視という意識(87.0%)
2:住宅建築にあたっては、地盤調査をしっかり行いたいという意識(86.7%)
3:多少建築費(価格)がアップしても安全・安心な住宅を取得したいという意識(81.8%)
4:省エネルギー設備の導入意向(74.5%)
5:耐震性能については公的機関の証明付き住宅を、という意識(73.3%)
出典:住宅展示場協議会「総合住宅展示場来場者アンケート 2020調査報告書」
同協議会では、東日本大震災直後に行った同様の調査結果と比較しても、大きな変化が見られないことから「震災から約10年たった現在でも、自然災害への意識は根深く残っていることが分かる」と分析している。
さて、コロナ禍で以前よりも在宅時間が長くなっている。コロナ終息後も、テレワークやオンライン授業などがある程度は継続される、とも見られている。自然災害はいつ起こるか分からない。家にいるときに被災する可能性も高いだろう。
となると、ハザードマップなどで災害リスクの程度を把握して、多少コストがかかったとしても、安心・安全な住まいで暮らすことの重要性を考えてほしい。
今年の新春ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』では、IT企業に勤める星野源演じる平匡さんが男性育児休暇を取るくだりがあり、大きな話題に。しかし、厚生労働省の2019年度調査によると、男性育児休暇取得率は7.48%と1割にも満たないのが実情だ。今回はフルリモート勤務という特性を活かして、「育児休暇。たまに仕事」という方法を選んだエンジニア、土屋貴裕さんにインタビュー。連載名:私のクラシゴト改革
テレワークや副業の普及など働き方の変化により、「暮らし」や「働き方(仕事)」を柔軟に変え、より豊かな生き方を選ぶ人が増えています。職場へのアクセスの良さではなく趣味や社会活動など、自分のやりたいことにあわせて住む場所や仕事を選んだり、時間の使い方を変えたりなど、無理せず自分らしい選択。今私たちはそれを「クラシゴト改革」と名付けました。この連載では、クラシゴト改革の実践者をご紹介します。
Web開発などを担当するエンジニアという仕事柄、在宅ワークが可能な土屋さん。フルリモートで働ける企業「キャスター」に転職したのが2年前。偶然にも転職の内定を承諾した翌日に妻の妊娠が判明。新しい職場で育児休暇を取るのは自然な流れだったそう。
「フルリモートをはじめ、もともと自由な働き方を応援している企業。男性の育児休暇も自然な流れでした。”予定日は8月下旬なので9月1日より育児休暇を取りたいんです”と、伝えたら、”おめでとう。了解しました”というリアクションでした」
実際、キャスターでは、自由な働き方を実現することを企業ミッションやビジョンに掲げていることもあり、男性が育児を取ることは特別視されないという。
「育児休暇を取るのは自然なことでした。制度としてあるなら取らないのはもったいないですから」
ただし仕事を100%休みにせず、緊急時には対応するなど、臨時的に仕事をすることも。「とはいえ、ほとんど育休でしたよ。”半育休”という表現もありますが、育休中に仕事をするのは本来推奨されないことですし。僕自身が仕事をしたいと望んだことも大きかったです」
どうして土屋さんは完全に仕事をシャットアウトせず、仕事をする余地を残しておいたのだろうか。
「入社して半年で、仕事が面白くなってきたフェーズだったんですよね。チャットだけでもいいので内部の様子を共有しながら育休とりたかったんです。ずっとベンチャーのエンジニアをしていて、トレンドの流れが早い業界。完全に離れると勘がにぶる恐れもありました」
現在は仕事復帰し、自宅でリモートワーク中。スタンディングで仕事をするのは集中力が増すので効率的だそう(画像提供/土屋さん)
怒涛の新生児育児、2人が担い手になることで乗り切るそして2019年8月予定日ぴったりに第一子誕生。9月から11カ月間の育児休暇を取得した。
「育児休暇を妻と同時に取ったのは、オムツ替えもミルクも寝かしつけも最初から夫婦2人で子育てをしたかったから。育休も妻→僕の順番になると、僕が教わる立場になり、妻が育児のメインの担い手になってしまうでしょう。そうしたら、僕が甘えてしまいそう。どちらか仕事で不在でも育児がまわっていけるようにしたかったんです」
とはいえ、最初からすべてがスムーズだったわけではない。最初のうちは、夜中に子どもが泣いてもどうしても起きることができず、夜中の3時間おきのミルクは100%妻担当に。当然、叱られた。
「二人で育児をするんだ! と意気込んでいたけれど、やはり当初はどこかで当事者意識が足りなかったと反省しています」
新生児のころ。ドラム式洗濯乾燥機、お掃除ロボット、食器洗浄乾燥機など、家事時短の家電に投資。「特に、ミルクづくりにウォーターサーバーは本当に便利。みんなにオススメしています」(画像提供/土屋さん)
育児は大変だったが、我が子との時間は宝物に。「毎日、いろいろな成長がみられました。仕事をしていたら、毎日数時間しか触れ合う時間がなかったと思うので、育休を取って良かったと思います」
ママじゃなきゃダメ、ということがない土屋さんファミリー。過ごしてきた時間の長さゆえに息子との絆は強い(画像提供/土屋さん)
育児ストレスが仕事をすることで解消されるメリット育休中の試行錯誤の育児の苦労の中、「仕事がいい気分転換になった」という土屋さん。
「結局仕事が好きなんですよね。自分がずっと関わってきたプロジェクトに思い入れも強かったですし」
土屋さんだけでなく、妻もたまにヘルプで職場に呼ばれることがあったが、むしろ仕事に行ってリフレッシュした顔をして帰ってきたとか。
昨年秋には、子どもを保育園に預け、夫婦ともに仕事復帰。夫婦2人で仕事と育児を両立させる生活がスタート。「育児休暇中も同僚と情報共有していたので、復帰はスムーズ。いわゆる育休明けに感じる”疎外感”とも無縁でした」
仕事を再開してからも、育児も家事も2人で、が大原則。「育児・家事の役割分担も細かく決めず、片方が朝ごはんをつくったから、片方が晩御飯をつくる。片方が寝かしつけをしてるから、片方がお風呂掃除するなど、自然な流れで、負担を分散するようにしています」
そのため、使えるICT(情報通信技術)はフル活用。新生児のころのミルクや睡眠時間はアプリ「ぴよログ」、復帰後の仕事や休みなどお互いのスケジュールはGoogle カレンダー、ちょっとした情報共有はSlackを活用するといった具合だ。
育児休暇中に料理の腕が上がったとか。「もともと凝り性なので、カレーは彼のほうが上手。鯛めし、蛸めしも美味しいですよ」と妻(写真提供/土屋さん)
積雪の日の外遊び。今は岐阜市在住。都会の名古屋へも実は車で30分圏内。かつ自然豊かな環境も身近で、子育てしやすい(画像提供/土屋さん)
「育児は、母親の私がメイン、夫はサブ。そんな関係にならなくてすんだ」と妻も証言ここまで、土屋さんの奮闘ぶりについてお話を伺ったが、妻の立場からはどう見えていたのか、土屋さんの妻にもお話を伺った。
「最初から一緒に育児スキルを上げていったので、私が教える手間がなかったのはとてもありがたかったです。もちろん完璧じゃなくて、実は彼、子どもと遊ぶのは苦手なほうだったと思うんですよ。子どもの面倒を見るってテレビを観せることじゃないよって正直思ったこともあります(笑)。でも、今では外遊びは彼のほうが得意。息子と楽しそうです。特に生まれてすぐのときは私が赤ちゃんの世話でいっぱいいっぱいで、夫が家事全般をやってくれたのは助かりました」(妻)
現在新居を建築中。新生活も間近(画像提供/土屋さん)
ママ友や友人と話していて、「あ、ウチとは違うな」と思うことはあるだろうか。
「みなさん、パパの帰りが遅く、ほとんど平日には子どもと触れ合えない家庭が多いよう。だから、寝かしつけがママじゃないとだめだったり、ママへの後追いがひどいという話を聞くと、ウチとはずいぶん違うなと思います。子どもが病気のときも当然母親の方が休むものと思われていることも多いですが、ウチは2人で調整しています。そうそう、保育園の抽選のとき父親は夫1人で、周囲は母親ばかりで“完全アウェイだったよ”と聞いたときは笑いました」(妻)
確かに土屋さんの勤務先は男性育休を取りやすい雰囲気があり、フルリモートで受け入れられやすかったのも事実だ。恵まれていると感じる人もいるだろう。しかし、自分も育休を取りたいと考えているパパとその予備軍はもっともっと多いはずだと考えた土屋さん。自分自身の育休体験を基にした書籍を、友人と共著で自主出版した。
『迷ったら読みたい 育休はじめてガイド』。現在は電子書籍版を販売している。そもそもの制度の話から、実践編までリアルな話が満載だ(画像提供/土屋さん)
「もともとエンジニア界隈で技術やマネジメントに関する本を出すのが流行っていて、僕も年に1回のペースで出していました。そんななか、学びの多い育休を、何かの形でアウトプットしたいと考えたんです。自分たち自身が育休を取得して良かったと実感しているから、迷っている方の背中を押したいと思いました」
Twitterで反響になり、取材を受けることも。そのなかで感じたのは、男性の育児休暇の取得が少ない理由のひとつが、単純に「前例がないから」ということ。「こうした実例があるよ、という情報発信を僕がしていくだけで、育児休暇を取るという選択をする人が増え、雇用者側も対応しやすくなることもあるのかなと思っています。育児休暇中に雇用者に支払われるお金は雇用保険から。雇用主側が負担するものではないんです。そのことから勘違いしている人も多いと実感しました」
コロナ禍で男女ともにテレワークをする人が増え、通勤時間に縛られにくくなる中で、男性も育児休暇を取るというケースは今後増えるかもしれない。土屋さん自身は、“半育休=在宅だから育児もしながら仕事できるでしょう”と雇用主側が拡大解釈をすることには警鐘を鳴らしつつ、育児に軸足をおいて、「たまに」仕事をするスタイルが、男女どちらにも、メリットの多い働き方であると実感している。
また、コロナ禍で里帰り出産や親が手伝いにやってくるといったケースが難しく、はじめての育児を女性1人がワンオペで担うのは本当に大変だ。男性の育児休暇取得率の増加に期待したい。
近年、地方移住に関心を持つ人が増えるなか、コロナ禍がさらにその後押しとなっている。地域の選択肢は多数あるが、どう選んでいくのがよいのだろうか。
「2021年版 第9回 住みたい田舎ベストランキング」を発表した情報誌『田舎暮らしの本』柳順一編集長に、上位にランクインしているまちの特徴や、移住先を考える際のポイントについて聞いてみた。あわせて、同ランキングで9年連続ベスト3入りし、移住・定住支援施策に力を入れる豊後高田市の担当者と、実際の移住者からも話を聞いた。
『田舎暮らしの本』は1987年に創刊。現在に至るまでの約34年で、「田舎暮らし」を志向する層、受け入れる自治体側ともに大きく変化してきたという。
「1990年代まで、『田舎暮らし』と言えば『老後に悠々自適の暮らしをしたい』シニアの方がほとんどでした。自治体側の受け入れ体制も整備されていませんでしたが、2000年代に入り、地域おこし協力隊や空き家バンクなどの制度が登場しています。同時に、2008年のリーマンショックの影響など、価値観の変化もあったのでしょう。若い方が『田舎暮らし』『地方移住』に反応し始め、今では幅広い世代の方が関心を持つようになっています。また、このコロナ禍で弊誌の反響も高まっており、その傾向が顕著になっていると感じています」(柳編集長)
『田舎暮らしの本』編集長 柳 順一氏(画像提供/宝島社)
コロナ禍で、具体的に行動を起こす人が増えた『田舎暮らしの本』では毎年、全国の自治体を調査し、移住・定住に関する施策への取り組み状況を基に「住みたい田舎ベストランキング」を発表している。
2021年版の調査は645市町村を対象とし、「移住者歓迎度」「住宅支援」「交通」「日常生活」などさまざまな観点から、272項目に及ぶアンケートを実施。例えば「移住者歓迎度」は「首長が定住促進を公約にしている」「土日や祝日にも移住相談を受け付ける窓口を常設している」「区費やゴミ処理の方法など地域のルールを移住相談者に知らせて、トラブルを未然に防ぐよう努めている」など22項目で測る。
2013年から続くランキングだが、コロナ禍による変化はあったのだろうか。
「2021年版の調査は2020年4月~10月の実績を基に回答いただいており、まさにコロナの影響を大きく受けた期間。そのなかで、『前年に比べ移住者数が増えている』と回答した自治体が27%、『同程度』が43%、『減っている』が20%。移住相談件数に関しては『増えている』38%、『同程度』39%、『減っている』19%。
移住に関心を持ち、実際にアクションを起こす方が増えているようです。
『20代からの問い合わせ』『県外や遠方の検討者』『相談内容が具体的で、真剣に考えている検討者』が増えたという声もありました」と柳編集長は語る。
『田舎暮らしの本』2021年2月号(画像提供/宝島社)
デジタルに強い自治体へ注目集まる一方、コロナ禍で地域間の移動が難しくなるなか、移住支援施策にもオンライン化が求められている。
「今回の調査では、移住相談会や就職相談会など移住関連施策のオンライン対応実施有無もアンケート項目に追加しました。ランキング上位に入った自治体は、オンライン化にしっかり対応できているところがほとんどです。相談を受けるだけでなく、空き家見学などもオンラインでできるようにしている。こうした背景を受け、現地に行かずに移住を決定するケースも出てきています」(柳編集長)
デジタル活用で注目される自治体の筆頭が長崎県五島市だ。離島ということもあり、以前から遠隔医療・ドローン・IOTなど技術活用が進んでいる。近年、新たな事業や雇用が生まれ続けており、5年間で672人が移住、うち7割以上が30代以下だという。
現在、常設のオンライン移住相談を月3回開催しており、XRを活用した移住イベントも予定している。
長崎県五島市(画像提供/五島市)
「大きな市(人口10万人以上)」で1位を獲得した愛媛県西条市もデジタル活用が盛んなまちだ。児童数の少ない学校同士をつないでオンラインで共同ホームルームを行うなど、先進的な取り組みを実施してきた。シェアオフィス活用やローカルベンチャー育成にも積極的で、新たに移住検討を始めた働き盛りの世代からも支持される素地がある。2020年4月~10月の移住相談件数は前年同時期の5倍という。
西条市のコワーキングスペース「紺屋町dein」(画像提供/西条市)
「もともと上位の自治体は、新しいことにどんどん取り組むマインドがあります。
デジタルに強くて順位が上がった自治体もありますが、どちらかというと『移住・定住に真剣に取り組んできた自治体は、デジタルへの対応も早い』という印象です」(柳編集長)
同ランキングで9年連続ベスト3入りし、今回は「小さな市(人口10万人未満)」で1位になった大分県豊後高田市を例に、移住対策が評価されている自治体の取り組みを具体的に見てみよう。
柳編集長は「自治体主導で『赤ちゃんから高齢者まで暮らしやすいまちづくり』に本気で取り組んでいる。施策を常に見直し、アップデートし続け、広く伝えることを怠らない」と評する。
豊後高田市では現在168項目におよぶ移住・定住支援策を準備しており、同ランキングでは「総合」「若者世代」「子育て世代」「シニア世代」の全4部門でトップに輝いた。
0~5歳児の保育料・幼稚園授業料、中学生までの給食費、高校生までの医療費は全て無料。さらに無料の市営塾「学びの21世紀塾」を開設するなど手厚い子育て支援のほか、シニア世代のニーズにあった商品販売やイベント開催・気軽に集える場の創出に取り組む「玉津プラチナ通り」など、シニア世代が楽しく暮らせるまちづくりにも力を入れている。
玉津プラチナ通りでおこなわれた寄席(画像提供/豊後高田市)
成功理由は「20年の積み重ね」豊後高田市 地域活力創造課の大塚さんは9年連続高評価の要因を「20年ほど前から『暮らしやすいまちづくり』に取り組んできたこと」と分析する。
「例えば『学びの21世紀塾』は、学校が週5日制になった際、学力低下を懸念し始めたことがきっかけです。市内数カ所の拠点からスタートし、今は各小中学校で実施、対象年齢も広げていきました。
都市部に比べると個人年収が低いからこそ、共働きを前提に仕事と子育てを両立しやすい環境づくりにも早くから取り組んできました」(大塚さん)
市が運営する「学びの21世紀塾」(画像提供/豊後高田市)
今では全国に広がる「空き家バンク」への取り組みも早かった。しかし2006年の開始当初は登録数も利用も少なかったという。
「紹介できる空き家がなければ利用も増えません。大家さんの中には『荷物があるから』『リフォームが必要だから』などの理由で登録を躊躇されている方も多いです。そうした方々と対話を重ね、例えばリフォームの補助金を用意するなど、登録のハードルを下げていきました」(大塚さん)
結果、登録数は大幅に増え、今では多くの移住者が空き家バンクを活用している。さらに空き家活用だけでなく、新築という選択もしやすいよう、土地代無償の宅地の提供も開始した。
土地代無償の宅地を42区画用意(画像提供/豊後高田市)
時勢を踏まえた新しい取り組みにも積極的だ。2020年には市が運営する「長崎鼻ビーチリゾート」で「ビーチ・ワーケーションプラン」の提供を開始した。ビーチに面した施設等で、景色を楽しみながら仕事ができる環境を整えている。
ワーケーション環境を整えた長崎鼻ビーチリゾート(画像提供/豊後高田市)
「最初から大きな成果が出たものはありません。20年間、トライ&エラーで少しずつ施策を改善・充実させていった結果、注目頂く機会が増えたと感じます」と大塚さん。
『田舎暮らしの本』の柳編集長も、「豊後高田市の成功理由は、仕事づくりや教育の充実など『既に暮らしている人にとって住みよい街づくり』という基盤をつくった上で、移住支援施策をはじめたこと」と語る。
最近では、IターンだけでなくUターンも増えているという。
「『学びの21世紀塾』に通っていた子どもたちが成長して戻ってきて、今は講師としてサポートしてくれたり、子育て支援施設を活用していた方々が今度はスタッフ側で働いてくれたりと、循環が生まれ始めています。今後は『子どもたちが残れる環境づくり』も考えていきたいですね」(大塚さん)
子育て支援施設「花っこルーム」。過去の利用者が今はスタッフとして参加(画像提供/豊後高田市)
支援施策を活用し、「夢の暮らし」を手に入れた2019年、福岡県から豊後高田市に移住した橋本早織さんは、7歳・5歳・2歳の子どもと夫の5人家族だ。漠然と「自然豊かなところで子育てがしたい」と考えていたなか、テレビ番組で豊後高田市の移住支援施策を知った。その後すぐに同市の空き家バンクツアーに参加。「憧れだけでなく、大変なことや不便なことも理解した上で判断しました」と語る。
他の自治体もいくつか比較検討したが、豊後高田市の支援策がとびぬけて魅力的に思えたという。
「保育料で給料が飛んでいく状況だったので、保育料や給食が無料というのはありがたかったです。空き家バンクの登録数が多く、住まいを選べることも大きかったですね」(橋本さん)
移住後、橋本さんは市内で転職、夫はしばらく福岡との二拠点生活を送っていたが、その後リモートワークができるようになり、完全移住。今は市内の会社に転職している。
現在の住まいは空き家バンクで見つけた物件だ。「大家さんは売却を希望されていましたが、市の担当者を通して相談し、まずは賃貸で住んでいます。気に入ったので、今後購入させていただく予定です」と橋本さん。
「こちらに来て、子どもの遊び場がビルやマンションに囲まれた公園から海や山、川、田んぼになりました。自然豊かな場所で子育てを、という夢が叶ったと同時に、親である私たちもその環境に癒やされています。今の暮らしにとても満足しています」(橋本さん)
豊後高田市での暮らしを楽しむ橋本さんご家族(画像提供/橋本早織さん)
心が動かなければ、住民票は動かない柳編集長は、移住先の選び方についてこう語る。
「ランキングというある種の判断材料と矛盾するかもしれませんが、移住を決断できるかどうかは『心が動くかどうか』。心が動かなければ、住民票は動きません。
そして多くの移住者は、『人との出会い』に心を動かされたと話します。先輩移住者や役場担当者、地域の方など、『話が合う』『頼りになる』『落ち着く』と感じる方に出会えたら、そのまちが第一候補になりうると思います。
良いまちは全国にたくさんあります。私たちのランキングは『移住定住に熱心なまちは取り組み施策数も多い』前提で作成していますが、上位のまちはあくまで『いろんな方に薦められる』ということ。施策の『数が多い』ことが、必ずしも個々人にとって良い訳ではないですよね。
今は実際にまちを訪れることも難しいですが、逆にオンラインだからこそ、家族そろって気軽に自治体に相談することもできます。そのなかで、『話が合う人』を見つけられるかもしれません。
そうして興味を持ったまちがあれば、そこではじめて支援制度などを確認するのが良いと思います。
『こんな支援をしてくれるなら移住する』という『お客様気分』だと失敗しやすい。『移住大歓迎』なまちでも、『行ってやる』意識でいるのは間違いです。例えば特にこの時勢であれば、窓口を訪れる前にアポを入れる、オンラインで相談するなど先方への配慮も当然必要でしょう。
自治体は『自分たちの仲間になってくれる人』を探しています。そんな人なら、喜んでサポートしてくれると思いますよ」
オンラインの移住相談風景(画像提供/豊後高田市)
まちと自分の「相性」を試し、良い選択を都市圏一極集中への懸念が生まれ、働き方が変わり、暮らす場所の選択肢が広がった。まちにはそれぞれ特性があり、人とまちには相性がある。時勢を受け、オンラインでの相談対応等を行うまちも増えている。今は難しいかもしれないが、お試し移住やワーケーションなど、気軽に「相性」を試せる機会も増えている。地方移住に関心を持ったなら、まずはそうした場を利用することから始めてみてはいかがだろう。
●取材協力リフォームのトレンドは年々変化している。
その中で自分らしく過ごせる心地よいLDKをつくるにはどうしたらいいのか。
空間デザイナーの坂田夏水さんにSUUMO編集長の池本洋一が聞いた。
池本 LDKというと、対面式キッチンの近くに4人掛けのダイニングテーブルがあり、リビング側はテレビを中心にソファやローテーブルを置くのが王道ですよね。でも、最近、変わってきたと思いませんか?
坂田 そうですね。私のところは王道より、自分のライフスタイルを基に依頼してくる人がほとんど。SNSにある海外のすてきな家の画像を参考にする人も増えました。
池本 近ごろはLDKの役割も勉強や趣味のスペースなど多機能化していますしね。家族みんなでテレビを見るよりも、タブレットやスマホなどで、個々に見たいものを見る家庭が増えていますから。
坂田 もはやテレビ中心のLDKは、求められてないですよね。テレビを隠せるようにしたり、置かないケースも増えています。
池本 そうすれば、LDKの自由度は高くなりますよね。
坂田 LDKでいうと、コロナ禍で在宅勤務が増えていることから、ワークスペースをつくりたいという依頼が多くなっています。
池本 LDKにワークスペースをつくるには大きく二つの方法がありますよね。LDの一角に机を設置するオープンスタイルと、壁をつくってLDから独立させるクローズド。どう選んだらいいんでしょうか?
坂田 仕事のスタイルや好み、それにLDの広さもポイントですね。クローズドにする場合、LDは12畳以上欲しい。そのうち2畳分をワークスペースにしても、LDは十分な広さを確保できるので。
池本 なるほど。クローズドは音の問題を解消できるのがメリットですよね。ただ、暗さや閉塞感が気になる。工夫の仕方ってありますか?
坂田 デスクの前の壁に室内窓を設置するといいですよ。リビングの様子が見えるので、家族との緩やかなつながりも保てる。リビングにいる家族も仕事をしている様子が見えるので、「会議中だから静かにしよう」と気配りができるんです。
池本 それはありがたいですね。一方、オープンスタイルはリビングにいる家族と一緒に過ごせるのがメリットですが、設置する際に何か良いアイデアはありますか。
坂田 デスクを細長いカウンターにすると、家族で横並びに作業ができて便利ですよ。あと、柱などの出っ張りでできたデッドスペースや階段の下を活用してもいいですし。
池本 オープンスタイルの場合、仕事の道具をどこに置くかという問題も出てきますけど。
坂田 収納棚は場所を取るので、壁付けできる小型の収納ボックスをお薦めしています。扉付きならごちゃごちゃ感も隠せますよ。
池本 ワークスペース以外に進化を感じる部分はありますか?
坂田 それでいうと、キッチンが変わってきていますね。対面式カウンターでも、従来のつり戸棚をやめて、そこにワインや植物などを飾れるスペースをつくるとか。
池本 最近はLDとは別の空間にキッチンをつくる独立型も人気があるみたいですね。
坂田 じわじわきてますね。そもそも海外のキッチンは独立型が主流。それをSNSなどで見た人が、独立型に流れているようです。
池本 キッチンの設備もここ数年で様変わりしてますね。先日、ショールームを見学したら、天板(てんばん)や面材に黒やグレーなどいろいろな色・柄があって驚きました。
坂田 世界基準では黒やグレーは当たり前。日本でも選択肢の一つになってきました。
池本 キッチンとともに、ダイニングも変わっていますよね。
坂田 そうですね。今までは効率重視でキッチンの近くにダイニングテーブルを置くスタイルが主流でしたが、最近はあえてキッチンから離して置きたいという人が増えています。そのほうが食事の時間をゆったり楽しめるからなんですね。
池本 海外の情報が手軽に入るようになった今、リフォームは今後どう進化していくと思いますか?
坂田 世界では美しさやエコなどの観点から、畳や襖(ふすま)といった日本の伝統的な住宅様式に目が向けられています。日本でもおしゃれに提案するリフォーム会社があれば、見直す動きは出てくるかなと。
池本 例えば、どういう空間?
坂田 リビングの一角に畳の小上がりをつくるとか。すでに若い世代には注目されつつあります。また、壁を和紙の壁紙や漆喰(しっくい)にするだけで、雰囲気も空気も変わりますよ。
池本 そういう変化を踏まえて、自分らしいLDKをつくるためのヒントを教えてください。
坂田 リビングのつくり方というと難しく思えるけれど、自分に似合う洋服なら見つけられるはず。その感覚で家族に似合う色、心地いい柄を考えるのが第一歩じゃないかなと思いますね。
池本 趣味や大切にしている小物から、LDKを考えるのも一つの方法ですよね。僕の妻は北欧の家具や小物が大好きで、フィンランドまで椅子をオーダーしに行きました(笑)
坂田 そうそう。そんなこだわりが自分らしい空間づくりにはすごく大切ですね。
空間と住まいのプロ、それぞれの視点から今のリフォームのトレンドが見えてきた。これまで一般的、王道とされてきたLDKの型のようなものはなくなり、住まい手発信での自己流の最適解を見つける時代になってきたのかもしれない。LDKは自身のライフスタイルを中心として、もっと自己流に自分本位につくっていくことが重要そうだ。
構成・取材・文/上島寿子 撮影/一井りょう
空間デザイナー 坂田夏水さんコロナ禍の影響を受けた2020年の住宅市場の動向が、相次いで公表されている。そこで今回は、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が公表した、首都圏の中古住宅(マンション・一戸建て)の動向について、詳しく見ていくことにしよう。【今週の住活トピック】
「首都圏不動産流通市場の動向(2020年)」を公表/(公財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)東日本レインズの市場動向は、どんなデータを使っている?
まず、レインズ(REINS)とは何かについて説明しよう。「Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)」の略称で、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステムのことだ。東日本を担当しているのが東日本不動産流通機構(通称東日本レインズ)だ。不動産を仲介する事業者は、このネットワークに登録された物件情報を活用して、物件の売買を仲介している。
今回東日本レインズが公表した市場動向は、首都圏の中古マンション、中古一戸建て、新築一戸建て、土地について、それぞれ成約物件と新規登録物件について分析している。
○成約物件:レインズに契約が成立したと報告された物件
○新規登録物件:レインズに新たに登録された物件
ここでは、中古住宅(マンション・一戸建て)に絞って、市場動向を見ていこう。
中古マンションは2020年に成約件数減少、成約価格上昇コロナ禍に見舞われた2020年は、好調だった中古マンション市場にも影を落とした。首都圏では2016年を機に、新築マンションよりも中古マンションのほうが売買の件数が上回る状況が続き、中古マンションの成約件数は上昇トレンドにあったのだが、2020年は首都圏のすべてのエリアで前年を下回る結果となった。
2020年を月次で見ると、緊急事態宣言中の4月と5月の成約件数が対前年同月の5割減、4割減まで減少したことが、年間の結果に大きく影響した形だ。
一方で、中古マンションの成約物件の価格は1平米当たりの単価(首都圏平均55.17万円)でも、成約価格(首都圏平均3599万円)でも、全てのエリアで上昇となった。中古マンション市場では、人の動きが止まる緊急事態宣言中は取引が減少したものの、人の動きが戻れば取引が活発化し、価格が下がらないという構図になったようだ。
中古マンションの成約状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2020年)」より転載)
中古マンションが人気となる要因に、新築マンションの供給数減少と価格高止まりが挙げられる。中古マンションの価格帯別成約件数を見ると、最も多く成約したのは「3000万円~5000万円」の価格帯(32%)だ。また、3000万円以下の成約件数が減少するのに対して、5000万円を超える価格帯の成約件数は増えている。2020年の新築マンションの平均価格が6084万円だったことを考えると、新築マンションに手が届かない層が中古マンションに目を向けたという様子がうかがえる。
中古一戸建ては2020年に成約件数は微増、成約価格は微減一方、2020年の中古一戸建ては、中古マンションとは異なる動きを見せた。成約件数は前年を上回り、過去最高を更新したが、成約物件の価格(首都圏平均3110万円)は前年を下回った。
中古一戸建ての成約状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2020年)」より転載)
この結果は、中古一戸建て市場が安定していることを映したと見るのがよいだろう。成約件数は微増、平均価格は微減といえる範囲だ。例えば、中古マンションの平均価格を8年前の2012年と比べると、8年間で44.0%も上昇しているが、中古一戸建ての平均価格は8年間で6.6%しか上昇していない。
また、コロナ禍の影響が小さかった要因に、在宅勤務の普及で仕事スペースを確保するための広さを求め、一戸建てニーズが高まっていることも挙げられる。SUUMOの「第2回コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査」の結果では、マンションか一戸建てかの選択で、一戸建て派がコロナ流行前の56%から9月時調査では61%とさらに多くなった。
中古一戸建ての成約件数を2020年の月次で見ると、緊急事態宣言中の4月と5月の成約件数が対前年同月の4割減、2割減と大きく減少し、平均価格も下落したが、10月と11月になると対前年同月の4割増、2割増と大きく伸び、平均価格も上昇トレンドに変わった。コロナ禍の一戸建て人気が押し上げたと見ることもできるだろう。
中古市場は新たに売り出される物件が激減している!?もう一つ注目してほしいのが、新規登録件数が減少していることだ。中古マンション、中古一戸建てともに、対前年の1割減となった。新型コロナウイルス感染の影響は、買う人の需要を減らす方向よりも、売る人の意欲を奪う方向に動いたようだ。
中古マンションおよび中古一戸建ての新規登録状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2020年)」より転載)
買う側の需要が縮小していないのに、市場に新たに売り出される物件が減れば、売り出し中の在庫が減る。ただし、買う側がほしいと思える物件が市場になくなるとマッチングしなくなるので、売買が成立しづらくなる可能性も生じる。したがって、首都圏の中古住宅の市場にとってリスクとなるのは、売り出し物件が今後も減ってしまうことだろう。
在宅のまま自宅を売り出す場合、コロナ禍で人に出入りされるのはいやだという人もいるだろう。しかし、条件の良い住宅であれば、競争相手が少ない今は高く売れるチャンスでもある。市場の動向をきちんと把握したうえで、それぞれが判断してほしい。
テレワーク(リモートワーク)が昨年から急激に広まったことで、「通勤に便利な都市部」という立地にこだわらない住まい探しをする人も増えている様子。そこで今回は横浜駅まで「60分圏内」にある、一戸建ての価格相場を紹介したい。横浜駅まで30分圏内ではなく60分圏内という区切りだと、「職場までちょっと遠いかな……」とこれまで注目していなかった街もあるはず。しかしそうしたエリアにも、自分好みの街があるかもしれない。さっそく築1年未満の「新築編」と築1年以上・築15年未満の「中古編」、それぞれの価格相場が安い駅TOP10をチェックしていこう。●横浜駅まで60分以内の価格相場が安い駅TOP10
【新築一戸建て編】
順位/駅名/価格相場/土地面積中央値/建物面積中央値
(沿線/所在地/横浜駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 入谷 2480万円 土地100.32平米 建物95.58平米
(JR相模線/神奈川県座間市/39分/1回)
2位 衣笠 2890万円 土地109.61平米 建物96.05平米
(JR横須賀線/神奈川県横須賀市/48分/0回)
3位 寒川 2930万円 土地108.54平米 建物95.33平米
(JR相模線/神奈川県寒川町/39分/1回)
3位 香川 2930万円 土地106.44平米 建物94.39平米
(JR相模線/神奈川県茅ヶ崎市/36分/1回)
5位 かしわ台 3180万円 土地103.69平米 建物96.39平米
(相鉄本線/神奈川県海老名市/29分/1回)
5位 三浦海岸 3180万円 土地116.92平米 建物99.35平米
(京急久里浜線/神奈川県三浦市/45分/0回)
7位 宮山 3235万円 土地169.78平米 建物102.05平米
(JR相模線/神奈川県寒川町/42分/1回)
8位 桜ヶ丘 3280万円 土地100.11平米 建物93.98平米
(小田急江ノ島線/神奈川県大和市/26分/1回)
9位 座間 3285万円 土地121.70平米 建物99.34平米
(小田急小田原線/神奈川県座間市/36分/1回)
10位 さがみ野 3480万円 土地100.12平米 建物98.53平米
(相鉄本線/神奈川県海老名市/26分/1回)
【中古一戸建て編】
順位/駅名/価格相場/土地面積中央値/建物面積中央値
(沿線/所在地/横浜駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 かしわ台 3030万円 土地104.93平米 建物96.13平米
(相鉄本線/神奈川県海老名市/29分/1回)
2位 港南中央 3380万円 土地85.70平米 建物86.75平米
(横浜市営地下鉄ブルーライン/神奈川県横浜市港南区/15分/1回)
3位 東林間 3444万円 土地104.57平米 建物97.44平米
(小田急江ノ島線/神奈川県相模原市南区/31分/1回)
4位 小田急相模原 3494万円 土地100.10平米 建物99.91平米
(小田急小田原線/神奈川県相模原市南区/40分/2回)
5位 上大岡 3655万円 土地65.90平米 建物94.13平米
(京急本線/神奈川県横浜市港南区/8分/0回)
6位 上星川 3775万円 土地109.54平米 建物96.75平米
(相鉄本線/神奈川県横浜市保土ケ谷区/10分/1回)
7位 三ツ境 3780万円 土地109.29平米 建物99.14平米
(相鉄本線/神奈川県横浜市瀬谷区/19分/0回)
7位 弘明寺 3780万円 土地64.46平米 建物93.02平米
(京急本線/神奈川県横浜市南区/13分/0回)
9位 二俣川 3790万円 土地91.20平米 建物97.45平米
(相鉄本線/神奈川県横浜市旭区/12分/0回)
10位 小田栄 3880万円 土地54.23平米 建物89.66平米
(JR南武線/神奈川県川崎市川崎区/23分/2回)
ランキングを見て分かる通り、横浜駅まで60分以内の条件でランキングしたものの、所要時間が50分を超える駅は一つも入ってきておらず、中古に至ってはすべて40分以内、20分以下の駅も多く登場している。東京都心の場合、同心円状に価格が安くなっていくのに対して、横浜駅を起点に価格で検討すると、さまざまなエリアに選択肢があるということだ。
「新築一戸建て編」の1位はJR相模線・入谷(いりや)駅。東京都内にも同名の駅があるが、こちらは神奈川県座間市に位置している。田園風景の中にぽつんとある無人駅で、1駅隣にある海老名駅の駅前の発展ぶりに比べると「1駅しか違わないのに、こんなにのどかなの!?」と驚かされる。しかし線路をまたぐ県道46号を北東へ進み、駅から徒歩7~8分ほどの座間警察署あたりまで出ると商業エリアに。スーパーやドラッグストア、書店、ディスカウントストアの「ドン・キホーテ」、休日の癒やしにうれしい温浴施設などが集まっている。
海老名駅(写真/PIXTA)
さらに座間警察署から10分ほど歩くと、9位にランクインした小田急小田原線・座間駅へ。1位・入谷駅~9位・座間駅間は歩いて15分少々といった近さながら、価格相場は入谷駅のほうが805万円も安い。先ほど述べた通り入谷駅周辺には田園風景が広がっているため“駅近”物件の数自体が少なく、その点が価格相場の安さにつながっているのかもしれない。しかし入谷駅に加え座間駅も利用しやすく、自然を身近に感じる環境でもあると考えると、入谷駅周辺で住まい探しをするのもアリだろう。入谷駅から横浜駅に向かうにはまず海老名駅に行き、相鉄本線の特急に乗り換えると計39分で到着する。相鉄本線の海老名駅~横浜駅間には、5位・かしわ台駅、10位・さがみ野駅も含まれている。
トップ10には、1位・入谷駅を含めてJR相模線の駅が4駅ランクインしていた。JR相模線はJR横浜線や京王相模原線も通る橋本駅から南へ延び、海近くの茅ヶ崎駅まで18駅を結ぶ路線。入谷駅から南に進むと海老名駅、厚木駅があり、厚木駅から4駅隣が7位・宮山駅、続いて3位・寒川駅、同額3位・香川駅という順に続いている。香川駅から2駅隣が茅ヶ崎駅で、そこからJR東海道本線に乗って約35分で横浜駅に到着する。
香川駅(写真/PIXTA)
ランクインしたJR相模線の駅のうち、最も南側に位置する3位・香川駅の周辺はどんな様子だろうか。駅周辺は住宅街で、駅西側の駅前通りには個人商店がある。その先にはスーパーや、子育て支援センターを併設した香川市役所出張所も。保育園や幼稚園もあるので、小さな子どもがいるファミリー層にもうれしい環境だ。駅から西に歩くこと5分ほど、小出川を越えて中原街道に出るとディスカウントストアや飲食店、コンビニが並んでいる。さらに西には田畑が広がっており、全体的に見ると駅周辺は静かに暮らせる街といった趣だ。
香川駅から2駅隣の茅ヶ崎駅まで行けばショッピングモールや観光客にも人気の飲食店などがあり、茅ヶ崎駅を出てサザン通り商店街を南下すると夏は海水浴客でにぎわう浜辺「サザンビーチちがさき」にたどり着く。このあたりはサーファーにも人気がある湘南エリア。サーフィンが趣味の人や、海を身近に感じて過ごしたい人に、香川駅は住まいの候補地としていいかもしれない。
茅ヶ崎の海(写真/PIXTA)
中古一戸建てを探すなら、新宿にも出やすい相鉄線沿線に注目「中古一戸建て編」の1位は相鉄本線・かしわ台駅。「新築一戸建て編」の5位にもランクインした駅だ。特急は停まらないが、急行、通勤急行、快速などは停車する。急行なら乗り換えせずに横浜駅まで8駅・33分。より急いで横浜駅に向かいたい場合は、3駅先の大和駅で特急に乗り換えると29分で到着できる。
線路を挟んでかしわ台駅の北側には海老名市立の中学校、南側には小学校があるほか、消防署や総合病院も駅の近く。駅から5分ほど歩くとスーパーのほかにドラッグストアや100円ショップ、衣料品店の「しまむら」にスーパー銭湯、さらに保育園が集まるエリアがあり、一度にいろいろと用事を済ませたり、一日楽しんだりすることができそうだ。遊べる広場に加えて屋内プールやトレーニング室も備えた「海老名市北部公園」をはじめ、周辺には大小の公園も点在。両隣の駅、海老名駅やさがみ野駅ほどには駅前に商業施設が多くはないが、生活環境は十分に整っている。
1位・かしわ台駅を含め、トップ10には相鉄本線の駅が4駅ランクイン。かしわ台駅から横浜駅方面に向かって乗車すると、7位・三ツ境駅、9位・二俣川駅、6位・上星川駅という順で駅が並んでいる。この相鉄本線は2019年よりJR線との相互直通運転が開始した。二俣川駅の2駅隣、上星川駅の1駅前に位置する西谷駅よりJR直通線(相鉄新横浜線)に分岐し、そのまま乗っていると大崎駅や恵比寿駅、渋谷駅、新宿駅まで1本で行くことができる。1位・かしわ台駅、7位・三ツ境駅、9位・二俣川駅はJR直通の列車も停車するため、この3駅は横浜駅のみならず新宿駅にも乗り換えせずに行けるというわけだ。さらに相鉄本線は2022年度中に東急東横線・目黒線との相互直通運転も開始予定。ますます便利になる相鉄本線の沿線は、住む街として今後の注目度がアップしそうだ。
上大岡駅(写真/PIXTA)
さてトップ10のうち、5位の京急本線・上大岡駅も取り上げたい。注目ポイントは、横浜駅まで1本なうえに特急に乗れば8分という近さ。「横浜駅まで60分圏内」という条件で調査したにもかかわらず、これほど横浜駅に近い駅が物件の価格相場の安さで5位になるとは少々意外だろう。価格相場が安いのは、横浜駅に近くても不便だからということもない。上大岡駅に直結して京急百貨店や家電量販店があり、駅前にはショッピングモールや映画館も。繁華街と言えるにぎわいだ。しかし駅前の商業エリアを越えると住宅地が広がり、日常使いできるスーパーやドラッグストア、小中学校や保育園もあり、住む街としても申し分ない。自然の豊かさを望む人にとっては好みから外れるかもしれないが、「やっぱり便利な環境がいい」という場合は注目の駅といえるだろう。
2つのランキングを振り返ってみると、「新築一戸建て編」は価格相場が約2500万円~約3500万円で横浜駅までの所要時間は40分前後のエリアが多かった。「中古一戸建て編」は価格相場が約3000万円~約3900万円で横浜駅までの所要時間は最短で8分(5位)、最長でも40分(4位)で、思いのほか近場のエリアがランクインしていた。
横浜駅の近隣エリアはすでに宅地として利用されていて新築を建てるスペースの確保も難しいだろうし、中古物件を視野に入れて探すと好みの物件を見つけやすいかもしれない。一方で横浜駅から40分ほど離れたエリアなら、新築物件を建てる土地が残されており、郊外のため価格相場が下がるというメリットもある様子。横浜駅から離れるものの価格相場が安めのエリアの新築一戸建てか、横浜駅に近いぶん価格相場は高めの中古一戸建てか……、どちらも魅力的で悩ましいが、自分たちの暮らし方や好みに応じて探していきたい。
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