
19万9,000円(税込) / 68.54平米
京浜東北線・東急池上線・東急多摩川線「蒲田」駅 徒歩13分
住宅街のど真ん中で「愛される店」を目指してみませんか!
オーナーと計画した3軒並びの小さな商店街、最終区画の今回の募集は、再び変化球にチャレンジします。家と店をセットにして、公私ともに町に根を張ってくれる方へ、特別な条件でお貸ししします。
蒲田駅から10分ほど歩いたところにあ ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
中国山地の山あいにある島根県邑南(おおなん)町「日貫(ひぬい)」地区。のどかな田園風景が広がるこの場所に、新しいスタイルの宿泊施設が2019年に誕生した。地方の空き家率増加や人口減が課題となっているなか、それらを逆手に取って、「関係人口」という形であたたかなつながりを育む「日貫一日(ひぬいひとひ)プロジェクト」。その立ち上げの中心人物、一般社団法人弥禮の代表理事・徳田秀嗣さんに話を聞いた。
地域ゆかりの建築家の旧家を、1日1組限定の“籠もれる”宿に
中国山地を貫く山道を車で走ると、川沿いにのどかな田園風景が広がる小さな村、日貫に辿り着く。緑の山々が重なり、そのふもとには水を張り始めた田んぼや、住人たちが日々の糧にと育てる畑。赤褐色の石州瓦を葺いた民家が点々と続く、のんびりした村だ。
山々の間に田んぼと畑と民家。のどかな日貫の遠景(写真撮影/福角智江)
その風景に溶け込むように、村の古民家をリノベーションした宿泊棟「安田邸」がある。どこか懐かしい日本の家。その雰囲気をそのままに、緑の中にひっそりたたずむその建物は、日貫にゆかりの建築家・安田臣(かたし)氏が暮らした旧家だという。
ここは1日1組限定の宿。宿泊者は滞在中、この「安田邸」を1棟丸ごと利用することができる。建物内には、寝室はもちろん、ゆっくりくつろげる和室、キッチンやダイニング、のんびりしたテラスや、木の香りが心地よいヒノキ風呂までそろう。
(写真撮影/福角智江)
「日貫一日」の宿泊棟「安田邸」(写真撮影/福角智江)
のれんをくぐって建物の中に入ると、広い土間にキッチンとダイニングテーブル。大きな窓の向こうには、のどかな村の風景が広がる(写真撮影/福角智江)
土間からリビングスペースとなる和室、さらにその奥には寝室が続く。一棟貸しならではの贅沢な空間でくつろげる(写真撮影/福角智江)
浴室も驚くほどの広さ。壁も天井も木張りで、ほのかな木の香りに包まれる(写真撮影/福角智江)
日貫での一日をゆっくりと、という願いを込めた「日貫一日」「もともとこの地域には建てられた当時のままの風情を残した古民家がいくつもあって、それを何とか地域の活性化のために活かせないかと考えたのが、このプロジェクトの始まりでした」と徳田さん。当初、自治体で観光関係の仕事をしていた徳田さんが、この地区に残る「旧山崎家住宅」の活用提案に手を挙げたのがその第一歩。残念ながらその提案は不採用となったが、その後も古民家活用の模索を続けるなかで出会ったのが「安田邸」だった。
農林水産省の農泊推進事業など、地域・産業活性のために国や行政が用意したスキームを活用するため、思いを共有できる地元の仲間たちと一般社団法人を設立。宿泊施設を計画した。「幸いにもさまざまな人とのつながりに恵まれて、建築家はもちろん、ロゴなどのデザインを手掛けるデザイナーや、フードディレクターなど、たくさんの方と一緒にプロジェクトを進めてきました」
日貫は人口440人ほどの小さな村だ(写真撮影/福角智江)
しかし、一番の課題は「どうやって人を呼ぶか」。客室を区切って複数の宿泊客を受け入れるゲストハウスのような構想も挙がったなかで、徳田さんが一番しっくり来たのが、「籠もれる宿」というコンセプトだったという。「1日1組のお客様が朝から夜までのんびりと心豊かに過ごせる、そんな空間づくり、おもてなしを目指しました」。「日貫一日」という名前も、そんな想いで名づけられたものだという。
日貫という地域の魅力をじんわり味わう、心温まるおもてなし例えば料理。通常、ホテルでは調理された料理がテーブルに並ぶが、日貫一日では宿泊者自身が料理を楽しめるように、設備が充実したキッチンが用意されている。しかも、「日貫は農業が盛んで新鮮な野菜がたくさん採れますし、石見ポークや石見和牛も有名です。せっかくなので、そうした食材を存分に味わってもらえるように、こだわりの3種類のレシピを準備しました」。事前に依頼しておけば、必要な食材を冷蔵庫などに準備しておいてくれるしくみだ。
近所の農家さんから仕入れることも多いという新鮮な野菜(写真撮影/福角智江)
豚本来のヘルシーさと脂の美味しさを併せ持つ石見ポーク(写真撮影/福角智江)
自分たちで料理して食べるのも楽しい「へか(日貫伝統 すき焼き)」。味噌が効いた甘辛いお出汁で、素材のおいしさを満喫。ごはんが止まらない!(写真撮影/福角智江)
ほかにも、室内には日貫や周辺地域のものを多く備えてある。「独特の風合いの食器類は、邑南町の森脇製陶所のもの。香りもいい野草茶は、近所に住んでいる80歳のおばあちゃんが育てているもので、今朝、煎りたてを分けていただきました」。新鮮な野菜も、近所の農家さんから買い取っているものが多いという。和室のちゃぶ台の上には、「せいかつかのじかんにつくりました」とメッセージ付きで、地元の小学生による「日貫の生き物」の手づくり図鑑も置かれている。
地元の小学生が手描きでつくった日貫の生き物図鑑(写真撮影/福角智江)
安田邸で使われている茶器と、ご近所さんお手製の野草茶(写真撮影/福角智江)
時間が合えば、日貫を流れる川沿いにある荘厳な滝や、かつての庄屋さんの住まいだという立派な茅葺の住宅を案内してもらえることもある。田んぼのあぜ道をのんびり歩けば、畑仕事をしている住民たちと気軽に言葉を交わせる。「これ、持って帰りんさい!」とたくさんの野菜をもらったと、うれしそうに話してくれた宿泊者の人もいたという。
のんびり過ごすほどに味わいが増す、そんな場所だ。
大きな田んぼをトラクターで耕していたのは住人の草村さん。徳田さんの姿を見るとみんな笑顔で話しかけてくれる(写真撮影/福角智江)
宿から車で10分ほどのところにある「青笹滝の観音」。普段はもっと水流が多く迫力もあるそうで、角度によって観音様のように見えるのだとか(写真撮影/福角智江)
日貫の庄屋を務めた旧家・旧山崎家住宅。立派な茅葺屋根が見事(写真撮影/福角智江)
フロント「一揖(いちゆう)」は住民との交流の場。人の集まるイベントも「この場所に宿泊施設をつくるという話をしたとき、近所の人たちの多くは半信半疑のようでした。こんなところに泊まりに来る人が居るのか?と(笑)。しかし、プレオープンで試泊を受け付けていた半年ほどの間に、ほぼ毎日明かりがともるのを見ていた人も多いようで、少しずつ、興味を持ってくれる人も増えてきました」
カフェやイベントスペースとしても利用できる日貫一日のフロント「一揖」は、近所の人が集まることも多く、地域の人が気軽に集まっておしゃべりできる社交場にもなっている。かつて電子部品工場だったという建物をリノベーションし、「会釈する」という意味の「一揖」と名付けた。現在は、宿泊者の朝食場所になっているほか、日貫にコーヒーの焙煎所ができたことで、スタッフが焙煎した豆でコーヒーを淹れる、カフェ営業も定着してきている。
カフェやイベントスペースとしても利用できるフロント「一揖」。かつての部品工場時代を知っていて「なつかしい!」という人も(写真撮影/福角智江)
「一揖」のカウンターは、日貫一日のフロントであり、カフェのキッチンでもある(写真撮影/福角智江)
丁寧に淹れられるコーヒーの豊かな香りにも癒される(写真撮影/福角智江)
最近では、日貫に移住してきた若者が「食で繋がる 日貫の台所」と銘打って、「一揖」に集まって、地域のみんなでご飯をつくり、一緒に食べる、そんなイベントも定期開催。「今後は宿泊者も巻き込みながら、住人と宿泊者が交流できる場にもなればいいですね」(徳田さん)
地域の住人の皆さんが関わりやすい、「お仕事」スタイルで笑顔の循環「日貫一日では、木製のお風呂の掃除や、朝食の支度など、地元のお母さんたちにお給料を払ってお手伝いしてもらってるんです。このプロジェクトを長く続けていくためには、地域の方を巻き込みながら、いかに楽しく運営していけるかが大切だと思うんです」と徳田さん。
地域おこしというと、ボランティアという形で関わるケースも少なくない。しかし、徳田さんたちがこだわるのは、興味をもってくれた人にあくまで「仕事」として、何らかの形で関わってもらえる機会をつくるということ。「きちんと報酬があるということが強いやりがいと人のつながりを生み、ひいては日貫全体を盛り上げていく力になると信じています」
朝食の支度にやってきては、「ええなぁ」と満足そうにテーブルに並んだ料理を眺めるお母さん。宿泊者の方から「野菜がおいしい!」という感想を聞いて、畑仕事にも力が入るお父さん。「日貫一日に関わることで、地域のみなさんの笑顔が増えるとうれしいですね」
最近、日貫一日のスタッフに新たに2人が加わり、計3人になった。立ち上げメンバーである夫と一緒に日貫にやってきたという湯浅さん。邑南町に住むおじいちゃんと一緒に暮らすために京都の大学を卒業後に日貫に来たという倉さん。そして、以前は公務員をしていたが、日貫一日に興味をもって関わるようになったという、地元出身の上田さん。それぞれが不思議な縁をたどって、今は日貫一日で働いている。
「日貫を盛り上げたいという想いを継いで活動してくれる次の世代の存在はとても重要です。このスタッフがそろったことで、その布石ができました。今後は彼女たちも一緒に、プロジェクトを盛り上げていけたらいいですね」
日貫一日で働くスタッフのみなさん(左から2番目が徳田さん)。みんなそれぞれの縁で、このプロジェクトに関わっている(写真撮影/福角智江)
取材の最後に、「今度は施設のすぐ裏にある神社の境内でマルシェを企画しているんですよ」と教えてくれた徳田さん。「昔のお宮さんのお祭りみたいな雰囲気で、フリーマーケットとかをしてもいいかな~」。そう話す徳田さんは笑顔満面。日貫に新たな人の笑顔が満ちるのが目に見える、そんな素敵な笑顔だった。
●取材協力
日貫一日
若手のクリエイターが東京に拠点を持ちたいと思っても、家賃が高く、借りられる部屋がない……。それならば、東京よりも家賃相場が低く、アクセスのいい郊外にクリエイターが集まる街をつくろう。こう考え、まちづくり会社のまちづクリエイティブが2013年ごろから松戸に展開しているのが「MAD City(マッドシティ)」です。そのランドマークとも言えるマンション「MADマンション」に住み、製作活動をつづける小野愛さんの住まいにお邪魔しました!
「30歳になってしまう」焦りから上京を決意
都市の規制やクレームの発生などによってクリエイターの活動が制限されることが多いなか、「地域住民とコミュニケーションを図りながらクリエイターが活躍できる『まちづくり』をしたい」という想いでまちづくりプロジェクトを行っているまちづクリエイティブ。千葉県松戸市にある拠点「MAD City Gallery」から半径500mの範囲を核とした「MAD City」は、そのモデルケースとなる街です。これまで、まちづクリエイティブを通じてこの街に住んだクリエイターの数は570人以上。いまも170人以上のクリエーターがこの街に住んで、さまざまな分野の創作活動に取り組んでいます。
玄関に通された瞬間、あっ! と思わず息をのむような、奥行きのある白い空間と白い作品たち。小野さん(32歳)の住まいは、まるで部屋全体が一つの作品のようにも感じられる、静かで神秘的な雰囲気を醸し出しています。
(撮影/嶋崎征弘)
小野さんの作品たち。石膏像のように見えるが、すべて白い布を用いて手縫いでつくられている(撮影/嶋崎征弘)
キッチンの窓辺に飾られている瓶や植物ですら、小野さんの作品の一部のように見える(撮影/嶋崎征弘)
小野さんがそれまで住んでいた大分県別府市から首都圏に活動拠点を移して、本格的に制作活動を行う決意をしたのは2019年のこと。「30歳を目の前に控えて、焦りもあった」と言います。
「もともとは、福岡のファッション系の専門学校を卒業しました。卒業後、布を使用した立体作品をつくるようになり、地元である大分県に戻ってアルバイトをしながら7~8年ほどは別府で活動を続けていました。29歳のころに美術家として生きていく覚悟を決めて、東京に拠点を移そうと考えたんです」(小野さん、以下同)
美術家の小野愛さん。にこやかに、穏やかに話してくれた(撮影/嶋崎征弘)
松戸を拠点にクリエイターが集う「MAD City」に住みたいところが、いざ東京都内で住居兼アトリエとして制作ができるだけの広さを確保しようとすると家賃が高くなり、なかなか予算に合う物件が見つけられなかったそう。そこで同郷のまちづクリエイティブのスタッフに相談をしたのが、入居のきっかけでした。
「都内の家賃は払えないので、もう少し郊外で、と思ったときにMAD Cityのことを知り、松戸で探すことにしました。関東での生活が初めてなので、同じようなクリエイターさんと知り合えたらいいなと。このマンションはひと目で気に入りました。広いワンルームのように使える間取りであること、そしてマンション内に他のクリエイターさんも多く住んでいることが何よりの決め手です」
以前の部屋の様子。現在の小野さんの部屋の雰囲気とは全く異なる(画像提供/まちづクリエイティブ)
小野さんの部屋を見ると、以前は2DKとして使われていたのだろうと思われる引き戸の溝があります。実際に内見をしたときには襖があったのだそうです。
もともと2DKだったと思われる間取り。DIYをする前は、中央のスペースにもクッションフロアが張られていた(資料提供/まちづクリエイティブ)
DIYで、住まいが独特の空気感をもつアート作品に!MADマンションは、全20室中、15室をまちづクリエイティブが借り上げています。見逃せない大きなポイントが“DIY可能”で、さらに退去時の“原状回復が不要”なこと。マンション内の1室はDIY作業が可能な共有スペースとして確保され、住人たちが道具を保管する物置として、また作業部屋として自由に使えるそう。
504号室はまちづクリエイティブが、住人のために確保している共有スペース(撮影/嶋崎征弘)
共有スペースの床にはところどころ物が置かれているが、作業部屋としても使えるくらい広く、がらんとしている(撮影/嶋崎征弘)
別府にいたころからDIYができる賃貸物件に住んでいた、という小野さん。「なぜかは分からないけど、白が好きで」自分好みの空間になるよう、手を入れてきました。
「奥の部屋はもとから床の板がむき出しになっていましたが、ダイニングと中央の部屋はクッションフロアでした。試しにめくったところ、簡単にはがれたので、中央の部屋も床の板をむき出しにして白く塗りました。梁やキッチンの扉、引き戸も白くしています」
中央のスペースとダイニングキッチンとの床の境目。今は白く塗った中央のスペースの床にも、もともとはダイニングキッチン同様のフローリング調のクッションフロアが張られていた(撮影/嶋崎征弘)
もともと押入れだったと思われる収納上部の引き戸も白く塗った(撮影/嶋崎征弘)
もともと付いていた茶色のカーテンレールがあまり好みでなかったため、取り外し、白く塗った窓枠の手前に白いワイヤーを渡してカーテンを通した(撮影/嶋崎征弘)
空間全体が白くなり、光がよく入る5階の部屋は曇りの日でも明るく、「制作に向かう環境としてとても贅沢な空間」だと言います。
「私の動画作品の一部としても、この空間を活用しています。このマンションに住んでいたダンサーの方を紹介してもらい、撮影したんです」
小野さんの映像作品の1カット。今回話を聞いた、まさにこの部屋で撮影されている(画像提供/小野さん、出演/永井美里、撮影/鈴木ヨシアキ)
なんと! 住まいやアトリエとしてのみならず、部屋の空間が作品にもなったんですね! それだけ小野さんのセンスを刺激する物件だったということでしょう。
住人同士や地域とのコミュニケーションも盛ん「先日まで個展を開催していたのですが、その会場にもこのマンションに住む人たちをはじめ、MAD Cityの人たちが足を運んでくれました。いろいろな人と知り合いたいと思って関東に出てきたわけですが、コロナ禍でイベントなどが少なくなり、出会える機会もなく……。それだけに、まちづクリエイティブさんが、このマンションに住む他のクリエイターさんを紹介してくれて、少しずつ輪が広がってきたことがとてもうれしいんです」
MADマンションの外観。古いが味のある建物は、どことなくクリエイティブなにおいを放っている(撮影/嶋崎征弘)
小野さんが話してくれたように、まちづクリエイティブはクリエイター同士の交流も促進してきました。現在、その活動は物件や人の紹介だけにとどまらず、地元企業と連携した仕事の創出や、クリエイターとの商品開発などにまで及んでいます。
昨年には、松戸駅エリアでは20年ぶりとなる全長4mの新しいスタイルの商店街「Mism」を発足させて回遊性を高めるプロジェクト行ったり、松戸で唯一のクラフト瓶ビール「松戸ビール」の商品ブランディングや販売を行ったりしているそう。
若い才能を発揮できる環境が整っているからこそ、個性的な魅力を宿す住まいや新しい作品、商品が生まれるのでしょう。かくいう筆者も小野さんの作品・空間を体感して、すっかりファンになりました! 一層盛り上がっていきそうなMAD Cityと、そこに住むクリエイターさんのつながり。これからの展開にも期待がふくらみます!
●取材協力新年度がスタートし、大学進学を機に慣れない土地での生活が始まった人も多いはず。一方でコロナ禍によるオンライン授業の多さから、大学の近くに引越すかどうかまだ悩み中という人もいるのでは? そんな人の参考になるように、今回は慶應義塾大学で学部数の多い三田キャンパスと日吉キャンパスをピックアップし、それぞれの最寄駅である田町駅、三田駅まで電車で20分、日吉駅まで電車で15分圏内で、家賃相場(相場は駅から徒歩15分圏内の物件で算出)が安い駅を調査した。さらに今回は不動産会社の方に聞いた、各キャンパス周辺にある学生が住む街としておすすめの駅についてもご紹介しよう。
●田町駅、三田駅まで20分以内の家賃相場が安い駅TOP21(22駅)
順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 昭和島 7.4万円(東京モノレール/東京都大田区/19分/1回)
2位 流通センター 7.7万円(東京モノレール/東京都大田区/18分/1回)
3位 平和島 8.2万円(京浜急行本線/東京都大田区/16分/1回)
3位 武蔵小杉 8.2万円(JR横須賀線/神奈川県川崎市中原区/18分/1回)
3位 西馬込※ 8.2万円(都営浅草線/東京都大田区/14分/0回)
3位 大岡山※ 8.2万円(東急目黒線/東京都大田区/16分/0回)
7位 荏原町 8.3万円(東急大井町線/東京都品川区/18分/1回)
7位 馬込※ 8.3万円(都営浅草線/東京都大田区/12分/0回)
7位 洗足※ 8.3万円(東急目黒線/東京都目黒区/16分/0回)
10位 田園調布※ 8.35万円(東急目黒線/東京都大田区/20分/0回)
11位 川崎 8.4万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市川崎区/16分/1回)
12位 中延※ 8.5万円(都営浅草線/東京都品川区/11分/0回)
12位 旗の台 8.5万円(東急大井町線/東京都品川区/18分/1回)
14位 京急蒲田 8.6万円(京浜急行本線/東京都大田区/18分/1回)
14位 緑が丘※ 8.6万円(東急大井町線/東京都目黒区/17分/1回)
14位 西大井 8.6万円(JR横須賀線/東京都品川区/12分/1回)
17位 蒲田 8.7万円(JR京浜東北・根岸線/東京都大田区/14分/0回)
18位 根津※ 8.8万円(東京メトロ千代田線/東京都文京区/18分/1回)
18位 白山※ 8.8万円(都営三田線/東京都文京区/19分/0回)
18位 西小山※ 8.8万円(東急目黒線/東京都品川区/14分/0回)
21位 大森 8.9万円(JR京浜東北・根岸線/東京都大田区/10分/0回)
21位 武蔵小山※ 8.9万円(東急目黒線/東京都品川区/11分/0回)
「※」の駅は三田駅を利用
順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位白楽5.9万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/11分/0回)
2位妙蓮寺 6.00万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/9分/0回)
3位東白楽 6.15万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/13分/0回)
4位大口6.4万円(JR横浜線/神奈川県横浜市神奈川区/13分/1回)
5位大倉山 6.5万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/4分/0回)
5位小机 6.5万円(JR横浜線/神奈川県横浜市港北区/14分/1回)
5位日吉本町 6.5万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/2分/0回)
8位東山田 6.6万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市都筑区/7分/0回)
8位高田 6.6万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/4分/0回)
10位綱島 6.7万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/1分/0回)
10位菊名 6.7万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/5分/0回)
12位日吉 6.75万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/0分/0回)
13位中川 7万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/神奈川県横浜市都筑区/15分/1回)
13位都筑ふれあいの丘 7万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市都筑区/15分/0回)
15位反町7.06万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/15分/0回)
慶應義塾大学の主なキャンパスといえば、多くの学部の1・2年生が通う日吉キャンパスと、同様に複数の学部の3・4年生や大学院生が通う三田キャンパス。特に東京都港区にある三田キャンパスは慶應義塾の原点といえる地だ。JRの山手線や京浜東北・根岸線が乗り入れている田町駅から大学へと向かう通り一帯は、リーズナブルな飲食店がひしめく学生街としても愛されている。田町駅周辺はビジネス街としても発展。すぐ近くには都営三田線と浅草線が通る三田駅があり、こちらも大学の最寄駅として利用されている。
慶應義塾大学 東門(写真/PIXTA)
そんな田町駅周辺のシングルタイプの賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK。駅から徒歩15分圏内。以下同)の家賃相場は11万4000円、三田駅の家賃相場は11万6000円。大学への通いやすさなら最寄駅周辺に住むのが一番だろうが、学生にとってこの家賃相場は高めに思える。実際、今回お話をうかがった「ハウスメイトショップ目黒店」の須田さんによると、「徒歩で通える三田周辺は家賃が高めのため、電車を使ってドア・トゥ・ドアでキャンパスまで30分以内にある物件を探す方が多い印象です」とのこと。上記ランキングで記載しているのは電車の乗車時間(駅からの徒歩の時間は含まない)なので、参考値として見てもらいたい。トップ10の駅の家賃相場は7万円台~8万円台で、田町駅や三田駅よりも3万、4万円ほど費用をおさえることが可能だ。
日吉キャンパスのイチョウ並木(写真/PIXTA)
神奈川県横浜市港北区に位置する日吉キャンパスの最寄駅は、東急東横線と東急目黒線、横浜市営地下鉄グリーンラインが乗り入れている日吉駅。駅を出るとまず見事なイチョウ並木に目を奪われる。この並木沿いを進むと敷地面積約10万坪という広大なキャンパスにたどり着く。駅周辺にはにぎやかな商店街があり、学生が日常使いできる飲食店も多彩。駅直結の「日吉東急アベニュー」には食料品店からユニクロなどの服飾・雑貨店、家電量販店までそろっており、日常生活に必要な買い物はすべて駅周辺でまかなえそうだ。駅前の商店街を抜けると静かな住宅地が広がっており、住む街としても魅力的だ。
12位にランクインし、起点駅でもある日吉駅周辺の学生向け賃貸物件の家賃相場は6万7500円。都心に位置する三田キャンパスに比べれば、学生にも手が届きやすい価格帯だろう。実際、「日吉駅もしくは、近隣駅の徒歩圏内で探される学生が多いですね」と「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」店長の高橋良平さん。日吉キャンパスは単位取得のため学校に行く機会が多い1・2年生時に通う人が多いので、特にキャンパスへの近さが重視されるようだ。
高橋さんは「近すぎると友人のたまり場になり、遠すぎると通うのが面倒になるので、学校から20分ほどの範囲で探すのもいいですよ」とアドバイスをくれた。確かに、大学の最寄駅近くに一人暮らしすると友達が入りびたりになりそう……。楽しい半面、一人の時間も大事にしたいタイプなら最寄駅に住むのは避けるのが無難かもしれない。
とにかく家賃が安いことを望むなら、駅からの距離や広さを妥協するのもよいだろう。しかし一度住まいを決めたらそう簡単には引越しするわけにもいかないので、安さばかりではなく住みやすい街かどうかも気になるところ。そこで先に登場したお2人に、三田・日吉の各キャンパスに通う学生の住む街としておすすめの駅を教えてもらった。
三田キャンパスに通う学生の住まいとしておすすめの駅3選まずは三田キャンパスに通う学生も利用するという、「ハウスメイトショップ目黒店」須田さんがおすすめする街を紹介しよう。住む街を選ぶ際のポイントは、「交通の利便性が高い駅であること」と話す須田さん。「三田キャンパスを利用する3・4年生は、アルバイトや就職活動など学校外での活動が増えてくる時期。そのため学校への行きやすさをふまえたうえで、他の場所へのアクセスの利便性も高い駅を選ぶのがよいでしょう。特におすすめは東急目黒線の沿線。都営三田線と相互直通運転されていてキャンパスがある三田駅まで乗り換えせずに行けること、目黒駅に出れば都内の主要駅に行きやすいJR山手線に乗り換えられる点が魅力です」
武蔵小山駅前の様子(写真/PIXTA)
武蔵小山商店街パルム(写真/PIXTA)
なかでも須田さんイチ押しは、急行停車駅でもある21位の東急目黒線・武蔵小山駅。大学最寄りの三田駅までは都営三田線に乗り入れている東急目黒線で約11分で、家賃相場は8万9000円と少々高め。「開発が進み、近年は家賃相場が上がった点はネック。ですが、東京で最も長いアーケード商店街があって、買い物や外食にたいへん便利な環境です。街の治安もよいと評判で、学生の一人暮らしでも安心でしょう」。都内最長だというアーケード商店街「武蔵小山商店街パルム」は、全長約800m! 店舗数は約250軒にのぼり、例年は夏の納涼市や秋のサンバパレードなどイベントも豊富。あちこちの街へ出かけにくいコロナ禍では、自分の住む街自体にこうした楽しみがあることが特に魅力的に思える。
洗足駅前の風景(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
もう少し家賃相場をおさえたいなら、「東急目黒線の東京都区間内では比較的に家賃相場が安い、洗足(せんぞく)駅もおすすめです」と須田さん。洗足駅の家賃相場は武蔵小山駅よりも6000円低い8万3000円で、三田駅までは約16分だ。「駅前にスーパーやドラッグストアがそろっていて買い物に便利な環境です。駅周辺は閑静な住宅街で治安もいいですよ。ただ、人通りが少ない点が心配なら、住まい探しの際に駅までの道のりチェックも忘れずにしましょう」。この洗足駅前には美しいイチョウ並木が続き、並木通り沿いを中心に商店街が広がっている。日々の食事に役立つ惣菜店もあるほか、神保町に本店がある欧風カレーの名店「ボンディ」の支店も。商店街をめぐり、自分のお気に入りの店を探すのも楽しそうだ。
なかのぶスキップロード(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
須田さんがもう1駅、おすすめしてくれたのが12位の都営浅草線・中延(なかのぶ)駅。家賃相場は8万5000円で、三田駅までは約11分。「都営浅草線と東急大井町線が利用できて便利。若者に人気の自由が丘駅までも1本で行くことができます。駅近くには商店街が3つあり、八百屋さんや精肉店などが並んでいるので食費をおさえる助けにもなるかも。駅前にユニクロがあるのもうれしいところです」。商店街のなかでも注目は、「なかのぶスキップロード」と呼ばれる中延商店街。中延駅から北に延びており、東急池上線の荏原中延駅まで約330mも続くアーケード商店街だ。買い物に利用できる商店街独自のポイントシステムも用意されているので、ポイントを貯めつつお得に買い物が楽しめる。
日吉キャンパスに通う1・2年生が住むなら、こちらの駅がおすすめ!続いて日吉キャンパスに通う学生におすすめの街を、「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」店長の高橋さんに伺おう。先述した通り、日吉キャンパスに通う学生は日吉駅や近隣駅に住むことが多いのだそう。「日吉駅や日吉近隣の東急東横線沿線は、飲食店をはじめ商業施設が充実している駅も多く、初めての一人暮らしでも安心して居住できる環境ですよ」と話す高橋さん。なかでも特におすすめの駅を3つ、教えてくれた。
元住吉駅前の風景(写真/PIXTA)
川崎市中原平和公園(写真/PIXTA)
おすすめ度1位は日吉駅の隣、東急東横線と東急目黒線が通る元住吉駅で、家賃相場は7万4000円。「駅を挟んで東西2つの商店街があり、チェーン系の店舗・地元の個人商店も含め約270店舗の商店が立ち並んでいます。主にファミリー層が住むエリアなので、落ち着いた住環境を求められる方には非常におすすめできる駅です」。また、駅から徒歩7分ほどの場所に広大な「川崎市中原平和公園」があったり、駅前を流れる渋川沿いに約2kmにわたる桜並木が続いていたりと、自然を感じられる環境なのも魅力だという。気軽に遠出しづらいコロナ禍において、近所にリフレッシュできる場所があるのは嬉しいものだ。
武蔵小杉駅前の風景(写真/PIXTA)
続いておすすめしてくれたのは東急東横線と東急目黒線、JR南武線が乗り入れている武蔵小杉駅。日吉駅までは2駅・約3分、家賃相場は8万2000円だ。「家賃の価格帯は少し上がりますが、住みたい街ランキングでも上位に入る、人気が高いエリアです。『ららテラス 武蔵小杉』や『グランツリー武蔵小杉』など大型商業施設も充実。乗り入れ路線も多く、都内への玄関口として非常に利便性が高い駅です」。「SUUMO住みたい街ランキング2021 関東編」で14位にランクインした武蔵小杉駅は神奈川県川崎市にあるが、駅東側を流れる多摩川を越えると東京都大田区に。東急東横線の通勤特急に乗れば、自由が丘駅まで1駅・約6分、渋谷駅まで3駅・約15分で行くことができる。日吉キャンパスまでの近さはもちろんのこと、せっかく進学で上京するならば都内までの近さも重視したい人にとっては、うってつけの環境と言えるだろう。
綱島駅近くには鶴見川も(写真/PIXTA)
高橋さんおすすめの3つ目の駅は、10位にランクインしている東急東横線・綱島駅。元住吉駅とは逆側、日吉駅から下り方面へ1駅目に位置しており、家賃相場は6万7000円。日吉駅よりもわずかにではあるが低くなっている。「スーパーやドラッグストア、飲食店など、駅周辺には幅広いジャンルの店舗がとても豊富。2022年には東急新横浜線の新綱島駅が開業予定で、ますます利便性が高まる点も注目です!」と高橋さん。
東急新東横線は日吉駅~新横浜駅を結ぶ路線として開業予定で、同じく開業準備が進む新横浜駅~羽沢横浜国大駅・西谷駅を結ぶ相鉄新横浜線とともに、相鉄・東急直通線の連絡線としての役割を担う。開業したあかつきには相鉄線と東急線との相互直通運転が可能となる。新しく誕生する新綱島駅は綱島駅から100mほどの位置なので、このあたりに住むと将来的には2駅2路線が利用できるわけだ。ちなみに今回の調査でランキング1位になった相鉄本線・西谷駅は相鉄新横浜線の駅としても開業予定(2022年下半期)。新線開業によって西谷駅から日吉駅までは乗り換えせずに行けるようになるので、これから先の入学を考えている人には、住まいの候補地として注目してほしい。
新しく誕生する新綱島駅は綱島駅から100mほどの位置(写真提供/東急)
さて今回はランキング調査に加え、これまで多くの学生を新生活へと送り出してきた不動産会社のお話を参考に、学生におすすめの街をご紹介した。安さ重視でランキングの駅を参考に探すもよし、環境重視でおすすめに挙げてもらった街で探すのもよし。自分好みの街に住んで、ぜひ楽しい新生活を送ってほしい。
●取材協力
ハウスメイトパートナーズ
旭化成建材の快適空間研究所は、新型コロナウイルス感染拡大前と比べて、「換気」に対する意識や行動がどう変わったかを調査した。それによると、換気への関心は高まったが、適切な換気ができていない人もいるという実態が浮かび上がった。どういったことなのだろう?【今週の住活トピック】
「住宅内の空気・換気に関する意識と実態」調査結果について/旭化成建材
快適空間研究所の調査は、2人以上で暮らす持ち家および賃貸居住者(回答者数1752人)を対象としたもの。
感染拡大前と比較して関心が高まったかどうか聞いたところ、「室内の空気のきれいさ」(54.9%)や「室内の換気」(57.0%)について関心が高まった(「とても」と「どちらかといえば」の計)という回答が多かった。
一方、自宅の換気ができていると思うかを聞くと、「できている」という回答は49.2%とほぼ半数で、「どちらともいえない」(28.9%)、「できていない」(17.8%)、「よくわからない」(4.1%)と、換気ができていることに自信が持てない人が多いことが分かった。
では、感染拡大前後で換気に関する行動に変化はあったのだろうか?
画像1を見ると、冬場ということもあるのか、それほど大きな行動変化は見られなかった。また、いずれの場合も、「換気=定期的に窓を開ける」という行動を取る人が多いことも分かった。
出典/旭化成建材「住宅内の空気・換気に関する意識と実態」調査結果についてより転載
24時間換気システムとは?利用状況は?さて、画像1の質問の選択肢で「24時間換気システムのスイッチを入れる」というものがあるが、そもそも24時間換気システムとは何だろう?
24時間換気システムとは、「機械換気設備」によって2時間で家の中の空気がすべて入れ替わるように設置されるものだ。機械換気とは、給気ファンを動かして外気を取り込み、排気ファンから汚れた室内の空気を外に出すこと。給気も排気も機械を使うことで、強制的に換気するようになっている。
24時間換気システムが一般化した背景に、シックハウス対策として、2003年7月に建築基準法が改正されたことがある。この改正では、住宅を含むすべての建築物を新築する際に、仕上げ材を規定したり、24時間換気システムを設置したりすることが義務づけられた。
出典/国土交通省「快適で健康的な住宅で暮らすためにー改正建築基準法に基づくシックハウス対策―」パンフレットより、一戸建ての事例を抜粋転載
つまり、2003年7月以降に着工された住宅には、持ち家・賃貸住宅を問わず、原則として24時間換気システムが設置されていることになる。
ちなみに、筆者のマイホームは、法改正の前の2000年に建築されたものなので、24時間換気システムは設置されていない。窓や換気口を開けたり、キッチンや浴室の換気扇を動かしたりして、自分の手で換気をしている。
では、24時間換気システムは、実際にどの程度利用されているのだろうか?その結果が画像3となる。
出典/旭化成建材「住宅内の空気・換気に関する意識と実態」調査結果についてより転載
築10年以内の住宅は法改正後なので、24時間換気システムが設置されていることになる。それでも、63.4%しか利用していないというのが実態だ。築11年以上の住宅でも一定の人が利用しているが、義務化前から設置している場合や、リフォーム等で新たに設置した場合などがあるのだろう。
適切に換気するには正しい知識が必要24時間換気システムが設置されているであろう住宅なのに、利用していない人がいるのはなぜか?それは、住んでいる住宅の設備について、正しく理解していないからだ。
24時間換気が法律で義務化されていることを知っているか聞くと、築10年以内の住宅に住んでいる人でも「聞いたこともない」(36.9%)、「聞いたことはあるが意味は知らない」(11.6%)と、正しく理解できていないことが分かる。
出典/旭化成建材「住宅内の空気・換気に関する意識と実態」調査結果についてより転載
画像1の結果で「24時間換気システムのスイッチを入れている」のは、感染拡大後で19.9%だった。これを、「24時間換気システムを利用している」と回答した人に限ってみると、スイッチを入れているのは62.4%まで上がるという。とはいえ、利用している人でも4割弱の人がスイッチを入れていないということは、適切な換気ができていない可能性がある。
また、「窓開け換気」について見ても、画像1の結果で「定期的に、窓を開けていた」「常に、窓を開けていた」と回答した人に、どのように窓を開けているか聞くと、「対面する壁面にある窓を2カ所以上開けている」のは32.2%、「対面・隣接する壁面にある窓を3カ所以上開けている」のは8.2%で、最も効果的に換気ができる方法を取っていたのは、合わせて40.4%だけだった。
なかには、住んでいる住宅には居室に窓が1カ所しかないとか、同じ壁面にのみ窓が2カ所あるといった理由で、分かっていてもできないという場合もあるだろう。が、いずれにしても、効果的な窓開け換気がされていない可能性が高いことも分かった。
適切に換気するための注意点では、「適切な換気」とはどうしたらよいのだろう。ダイキンのホームページ「上手な換気の方法~住宅編~」によると、次のような方法を紹介している。
まず、「24時間換気システム」を設置している住宅の場合は、換気口を開けたうえで、常にスイッチを入れておくこと。電気代がもったいない、室内の気温が変わるといったことで、スイッチを切ってしまう人もいると聞くので、宝の持ち腐れにならないように注意したい。
次に、「窓開け換気」をする場合は、部屋の窓を2カ所開けて、部屋全体に風の流れをつくるようにすること。窓が1カ所しかなくて風の流れがつくれない、あるいは、同じ壁に2カ所なので窓を開けても部屋の壁側だけしか風が流れないという場合は、例えば扇風機を使って風の流れをつくる(ドアを開けて扇風機を窓の外に向けてかける)、キッチンの換気扇を同時に動かすといった工夫をするとよいという。
さて、コロナ禍で換気の重要性が高まっている。また、これからの梅雨時には室内の湿気も上がるので、カビの発生などを防ぐために換気が求められる。快適に暮らすには、正しい換気方法を理解して、新鮮な空気で汚れた空気を押し出すようにしよう。
差別化できず空室になっている賃貸物件も多い中、入居者が費用を負担すれば好きなようにDIYができる代わりに、退去時に原状回復義務を負わなくていい「DIY型賃貸住宅」という新しい契約形態に注目が集まっています。しかしまだまだ実績は少なく定着というにはほど遠い状況。そんな中、「目白ホワイトマンション」はこれでほかの空室も、たちまち決まったそう。どんな背景があるのか、お話を伺いました。
レトロで味のある外観の路線のままに、ターゲットを定めることを提案
JR線・目白駅から住宅地を歩いていくと現れる「目白ホワイトマンション」。1970年の竣工当時は最新の設備がそろい、外観のハイカラさもあって順調に入居が途絶えませんでしたが、その後、近隣に似たような条件の賃貸マンションが次々と建設、築古になるほどに空室が出るようになり、オーナーの浅原賢一さんは頭を抱えていました。建築家の嶋田洋平さんに、「どうにかならないか」と約7年前に相談したのがことの始まりです。
船をモチーフに湾曲した手すり壁や甲板風の屋上を取り入れた「目白ホワイトマンション」。「ひと目見て、新しい建物にない価値があると感じました」(嶋田さん)(写真撮影/片山貴博)
「最初に空室を見せてもらった感想は、『どうにもチグハグだな』と。外観は思いを込めてつくったであろう個性的なマンションなのに、内装には競合と見劣りさせないように真新しいクロスやフローリングが採用されていて。“新品”感が好きな人はかえって古さが目につくし、ビンテージマンションに惹かれて来た人は、がっかりしてしまう。もったいないので『古さを理解してくれる人に届くよう考えませんか』とお話しました。
とはいえ、単に内と外のテイストを合わせてリノベーションしても、確実に空室が埋まるとは限りません。一番は『入居者の理想通りの部屋にカスタマイズできる物件にすること』。しかし一室、数百万もする費用を何室分もオーナーが負担していくのは、ハードルが高すぎるだろうと感じました。そこで『オーナーと設計事務所・入居者の3者が費用を負担する方法』を提案したんです」(嶋田さん)
オーナー・建築家・入居者の3者が出資する、新しいDIY型賃貸住宅賃貸物件の住戸をリノベーションする場合、通常ならばオーナーは設計料と工事費を負担し、後に家賃収入を得ることでその投資分を回収していきます。この物件では、まずリフォーム費用をできるだけ圧縮しその工事費用(約200万円)を、オーナー100万円、入居希望者50万円、建築会社(嶋田さんが経営するらいおん建築事務所)50万円ずつ、合計200万円分を3者で折半、また全ての工事を施工会社に頼むのではなく可能な部分はDIY(入居者負担)でつくり上げることにしました。さらに本来ならばリノベーション費用の約20%、50万円程度を設計料としていただくことになるのですが、この時点では嶋田さんは受け取らず、入居者が支払っていく家賃から後で報酬として得られるような仕組みにしました。
具体的には、らいおん建築事務所がオーナーよりこの住戸を4年間、月額3万円で借り受け、入居者に5万円/月で転貸、差額の2万円(※)は初期投資の50万円の回収と、受け取っていなかった設計料にあたる報酬となっていきます(※3年目以降は7万円/月で転貸し、差額は4万円/月)。通常、設計士の役割は工事とともに終了、その後、入居者が決まらずオーナーが家賃収入を得られない時期がでたとしても責任は持ちません。そうではなく、設計者は工事が終わっても物件と関わり続けることで、入居者が絶えないようサポートしていけば投資や設計料が回収できるようにしたのです。オーナーも本来は約360万円必要だった初期投資が100万円で済み、その後の3万円/月で3年以内で投資が回収できます。さらに、入居者は自分の好みにリノベーションでき、当初負担した50万円は2年分の前家賃として機能することで、家賃の設定は同レベルの物件(家賃7万円)と比べ当初2年間は5万円と、月額約2万円低く抑えられています。
オーナーの浅原賢一さん(左)と建築家の嶋田洋平さん(右)。「住んでもらえる限りは、建物を維持していきたい」と浅原さん(写真撮影/片山貴博)
嶋田さんは、“空き家再生と地域活性化”のプロフェッショナル。これまで建物をリノベーションするだけでなく、オーナーと借り手の間に立って転貸することで不動産事業のリスクを負い、まちづくりをしてきました。偶然、DIYできる賃貸物件を探している知人がいて、持ちかけると即OKの返事をもらえたという幸運も重なります。
予想外のプランを、浅原さんはどう受けとめたのでしょう。
「これまで関わってきた建築会社は、『どれだけ空室が改善するかまでは保障しない』というスタンス。それなのに嶋田さんは『目白ホワイトマンション』に魅力を感じてくれて、出資もする、すでに入居希望者もいます、とまで。当時、空室が7戸もあったので、借り手が1人でも決まり、回収を見越して出資できるのは願ってもないこと。二つ返事でしたね」(浅原さん)
それぞれの入居者に合わせた契約が、スムーズな管理・運営を導く1人目の部屋は嶋田さんが設計し、ともに投資・転貸もしましたが、2人目からは入居者と浅原さんだけでのやり取りを始めます。
「オーナーであるこちらのスタンスはシンプルに言うと、『家賃は低めにするし、好きにDIYして構いません。その代わりDIY費用は入居者のあなた持ちになります』というもの。例えば本来、家賃7万円の部屋を3万円で貸すとします。そうすると入居者は2年間、住めば確実に96万円を得られる目処がつくため、これを資金としてオリジナルの部屋に変えられるのです。DIYで部屋の価値が上がれば退去後、家賃設定を有利にできるため、オーナーにもメリットがあるんです」(浅原さん)
といってもすべてが自由なわけではなく、DIYの内容を事前にオーナーと入居者とで擦り合わせ。この人ならやり遂げられると判断できた場合にOKを出し、かつ退去時の条件などの契約内容は個々に合わせて変えているそう。ごく普通の賃貸住宅だと何でも一律なので大変そうですが、
「入居者の人となりが見えると、おのずと対応の仕方が分かるため、トラブルが少なくなるんです。コミュニケーションが取れているので設備などに不具合が出ても、お互いに話をしてその時点で最適な対応がとれるんです。私もこうなって実感したのですが、こうして一人ひとりに合わせるのが、あるべきオーナーの姿なのかもしれません」(浅原さん)
またとない物件に、建築関係の仕事をするご夫婦やインテリアショップで働く一人暮らしの方など、住まいづくりに意欲の高い人たちが集まり、唯一無二の部屋へと変化を遂げていきました。
建築関係のご夫妻が住んでいた、床から棚・天井まで約150万円かけてDIYした部屋(写真撮影/片山貴博)
キッチン扉や縦長のスパイスラックも入居者のDIY。退去時、完璧に原状回復する必要はありませんが、ドアを外した場合など、次の住人が不便になりそうなところは戻してもらっています(写真撮影/片山貴博)
当初7戸あった空室はたちまち約4カ月で満室に。そのころの入居者たちが合作した自転車スタンドはコミュニティの象徴的な存在(写真撮影/片山貴博)
初代入居者の思いを受け継いで暮らすことで、自分の未来を育む「目白ホワイトマンション」がDIY型賃貸住宅として踏み出した1件目は、入居者とDIY好きのメンバーが技術集団「HandiHouse project」と7年前につくり上げました。あたたかな雰囲気を醸し出すその部屋に、現在、2代目として住んでいるのが小林杏子さん(20代)です。
「部屋でのんびりしているときに入ってくる日差しや窓の向こうで揺れる葉が好きです」と小林さん。照明は唯一、新たに取り入れた設備(楽器は演奏不可)(写真撮影/片山貴博)
「もともと初代の入居者とは同僚の紹介で知り合った仲。4年前に引越し先を探していた当時、限られた条件下だとどこも味気ない『小さな箱』で。落胆していた矢先だったため、見た瞬間、悲鳴を上げるほど感動しました」(小林さん)
「DIYには欲しい未来を自分でつくる意味がある気がして惹かれます」(小林さん)(写真撮影/片山貴博)
アパレル関係で仕事をしていた経験から、つくり手のこだわりが込められたものに強く惹かれるという小林さん。この部屋も随所に思いが宿っており、そこに愛着を感じて過ごすことが生活の豊かさになっていると言います。
「以前は日々、バタバタして地に足が着かない感覚があったのですが、寝転がって外を眺めたり、風の音を聞いたり、洗面台で落ち着いて髪を巻いたり。ここに来て“暮らしている”感覚をしっかり持てるように。友だちや同僚から『角が取れたね』『優しくなったね』と言われるようにも。きちんとした大人になるタイミングと重なったのかなと感じています」(小林さん)
「自分らしく素敵に暮らしてね」というのが、前入居者からのメッセージ。小林さんは「そのマインドごと引き継ぎたい」と、あえて自分では手を加えず、前入居者が残した部屋をそのまま享受しているそう。。満面の笑みからは、余すことなく住みこなしている様子が伝わってきます。
リビングに洗面コーナーがあることで、ゆったりくつろいだ気分に(写真撮影/片山貴博)
「自分らしく暮らして欲しい」という初代入居者の思いを大切に。「この部屋にいると背筋がぴんとします」(小林さん)(写真撮影/片山貴博)
料理をして簡単なお菓子をつくったら、テーブルでほっと一息(写真撮影/片山貴博)
「無機質な部屋も格好良いですが、日常はさまざまなことが起きるもの。少し間が抜けていても人の手が加わったものの方が、気持ちを受けとめてくれて、内面が充実することがあると思うんです。それがDIYの魅力なのかなと。もう手垢のついていない新築には住めないですね(笑)」(小林さん)
この部屋で暮らすことで将来の住まいへの想像力が膨らんでいき、自分で家を買ってリノベーションしたいと思うようになったそう。もし3代目にバトンパスされれば、好循環が引き継がれることでしょう。
単なる入居者ではない、物件の価値を理解し高めてくれる協力者に変化「入居を迷う方がいるとき、それまでは家賃を下げるくらいしかやり方がなかったのですが、DIY可能にしてから入居者への意識が『物件の価値を高めてくれる方』に変わり、つき合い方も前向きになりました。
もちろん、外観に特徴のある『目白ホワイトマンション』だからマッチしたのであり、すべてに通じる方法とは思いませんが、何をその物件のコンセプトにできるかを考えるのは無駄ではないと感じます」(浅原さん)
オーナー・建築家・入居者のめぐり会いで実現した新しいDIY賃貸住宅。発端は、浅原さんが相談相手を探し、嶋田さんの取り組みを受け入れたことからでした。こうした一歩が増えれば、賃貸住宅はもっと明るく変わっていきそう。そして、自分にぴったりの賃貸住宅との出会いは、確実に暮らしのクオリティを上げてくれることでしょう。
●取材協力
株式会社らいおん建築事務所
アサコーホーム株式会社
株式会社HandiHouse project
パリ市が運営するOffice Public de l’Habitat (OPH・市営住宅)に入居して4年目になる、ニット作家兼テキスタイルデザイナーのメゾナーヴ・シリルさん。彼のアパルトマンは、工業廃材や木材に彼が手を加えたオリジナルな家具に囲まれています。小さなアパルトマンで快適に生活するために欠かせないものとは? そんなヒントが見つかりました。連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。
シリルさんが住む市営住宅の最大の魅力は、不動産屋や大家から直接借りる物件よりも家賃が安いということ。
入居希望の場合は事前にOPH(市営住宅)のサイトで登録が必要です。どの地区に住みたいか、部屋の数、住む人数、1年間の収入、などの情報を書き込みます。 「更新手続きは毎年でパズルのように複雑です。入居者を抽選で市が決め、当選すると連絡が来るのですが、場所や間取りなど気に入らなかったので数回断りました。条件の合った物件に巡り合うには忍耐が必要です」とシリルさん。彼は14年前に登録してから10年目にしてやっと自分たちの条件に合う物件に巡り合ったそう。
市営住宅の事情を調べてみると、パリの古いアパルトマンにはベランダがないことが多いのですが、最近建てられるほとんどの市営住宅にはベランダがあるそう。バルコニーで食事をしたり、ベランダ菜園をしたり、このように現代のライフスタイルに合わせて設計されているため、人気はうなぎ登りだそうです。「なかなか入居できなくても、将来のことを考えて登録だけはしておく」という若い人たちも多いそう。
シリルさんのアパルトマンはベランダはないが窓の外に植木鉢が置けるスペースがある古いタイプの間取り。広いリビングではないけれど、長方形を区切ってさまざまなコーナーをつくった。窓際から順番に、書斎、ソファーのあるくつろぎの場、一番奥は作品や小物を収納した本棚を置いたスペースにしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
窓際の左手の書斎の本棚。古い木の扉を仕切りにして、細々としたものを隠したりライトを取り付けたりしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
バタフライテーブルは使っていないときには畳めるので「省スペースの優れ家具の代表」とシリルさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)
自分たちの身の丈に合った部屋選びが重要このアパルトマンは、パリの東にあるナション駅に近い静かな通りにあります。周りには木が多く、寝室とサロンが大きな公園に面していて、彼が幼少のころに住んでいた街を思わせる庶民的な雰囲気が魅力だそう。住宅街ではあるけれど、買い物にも便利なカルチェ(地区)で、シリルさんが「アイデアの宝庫!」と絶賛するホームセンターも近くにあります。
また、間取りがリビングと寝室の2部屋というこの51平米のアパルトマンが、パートナーと3匹の猫と暮らすのに十分の広さだと考えたそう。
「パリのアパルトマンは小さいので、スペースを節約して暮らすことが重要課題です。私たちは年齢とともに必要でないものは手放し、大事なものだけに囲まれて生活することが幸せということも知っているから、私たちにぴったりな物件でした」とシリルさん。
4年前の引越し当初は、壁や天井が真っ白に塗られたとても明るい部屋でした。シンプルな空間がまっさらなキャンバスのようで、これからどんな風に部屋を自分たちらしくしようかとワクワクしたそうです。
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
寝室とサロンから見える公園「Square Sarah Bernhardt (スクエア・サラ・ベルナール)」(写真撮影/Manabu Matsunaga)
家具のDIYに欠かせない、シリルさん行きつけのホームセンター「castorama(カストラマ)」(写真撮影/Manabu Matsunaga)
自分でDIYしたインテリアに囲まれて暮らす幸せシリルさんは料理人、菓子職人、フローリストを経て現在のニット作家とテキスタイルデザイナーなりました。「手で何かをつくり上げる仕事は、常に前進する喜びと学びがあり、私の人生そのものなのです」とシリルさん。
そんな彼がインテリアで大切にしていることは、やはり手でつくり上げていく制作過程だそう。落ち着いた装飾、空間のアレンジ、それによって出来上がった部屋で過ごすのは何ものにも変えられない喜びだそう。
引越してきてからの4年間は“木の温もりや手づくり感があふれるものに囲まれた生活”をコンセプトとして、部屋づくりをしてきました。
彼は成形された材木を買ってくるのではなく、廃棄されてしまうようなものを積極的に再利用しています。例えば、“パリの胃袋”と呼ばれるランジス市場からもらってきたいくつもの木箱を使って本棚にしたり、ランジス市場で荷物を運ぶリフト用の板をベッドヘッドにしたり。そうすることによって想像もつかないオリジナルなインテリアができ上がったそうです。
市場でりんごを入れて運ぶための木箱を本棚にして廊下へ。ホームセンターで購入したグリーンのコードのライトは、本来庭やカフェのテラスよく使われている防水性のもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)
陽光がたくさん入るベッドルームは公園に面していてとても静か。ベッドの土台はたっぷり収納ができる引き出し付き(写真撮影/Manabu Matsunaga)
廃材を利用したベッドヘッド。これからここに棚を取り付ける予定(写真撮影/Manabu Matsunaga)
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
両ベッドサイドにはお店で購入した軍の放出品の救急箱を置いて。猫の毛はすみに溜まるから、掃除がしやすいように底にローラーを付けて可動式に(写真撮影/Manabu Matsunaga)
どの部屋にも植物を欠かさない。鉢植えにもテーマをシリルさんのインテリアへの想いは、引き出しや鏡にも。これらは子どものころに家族が使っていたものです。「古いものには物語があり、私が知らない過去を教え語ってくれているようにも思います。画家が創作時期によって色に偏りがでるように、私も以前は赤で統一した少しエキセントリックなインテリアをつくったり、緑に偏っていた時期は洋服まで緑のコーディネートにしていたこともあります」と語ります。
一方で、切り花のブーケをはじめとする全ての植物が好きだということは変わりませんでした。このアパルトマンでも「品種を混ぜ合わせた寄せ植えの鉢をつくっています。自分が温室や森に住んでいるのだと想像しながら」とシリルさん。中でも天井に届きそうな背の高いサボテンは25歳になり、引越しのたびに一緒に移動してきた家族のような存在。将来、地方に移住したとしてもこのサボテンだけは連れて行くそう。
ものや植物とテーマを決めて対話をし、ひとつひとつに愛情を注ぐことが大事だと話してくれました。
暖炉の上に置かれた“赤時代”の鏡。写真左のチェストは古くから家族の家にあったもの。その上はサボテンコーナーになっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
25年も一緒に暮らしている背の高いサボテン(写真左)。右の台に乗せられているのは寄せ植えの観葉植物(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「この一角だけで森をイメージしてしまう」というシリルさん。白い円柱の台を使って山の斜面のような高さを演出(写真撮影/Manabu Matsunaga)
あちこちに取り付けられている木の格子は、バラやクレマチスなどを絡ませるためのもの。本来は庭やベランダで使うものだが、木の質感が気に入り、友達から譲り受けたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
明るいバスルーム。この棚にも植物をもっと置く予定だ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
バスルームの洗面台の上の壁に取り付けた棚にも観葉植物が(写真撮影/Manabu Matsunaga)
キッチンのランプシェードにポトスを絡ませるアイデアが素敵。窓辺にはハーブ類を鉢に植えて料理に使っているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
今後の夢は海の見える家で暮らすことシリルさんの夢は、海の見える庭のある家で暮らすことだそう。今の候補は、パリからTGVで2時間ほど離れている、昔実家のあったフランス西部の学園都市のナント周辺。現在、ナントで週に一度大学でテキスタイル・デザインと編み物を教えていて、この街の良さを再確認したそう。
「そこでは、私の一番大切にしている思い出が詰まったオブジェだけを置き、シンプルな世界をつくってみたいです」とシリルさん。
魂を感じられない量販店の装飾などよりも、海を毎日見ることを大切にしたいそう。
「海の風景は、日の出や夕焼けも素敵ですが、雨でも美しいですし、潮の満ち引きや季節によっても大きく変化します。嵐が来た時の波が荒れる海の表情が大好きでなんです! 自然に勝るデコレーションはありません」
廊下の壁の一部に古い木材を立てかけて、お気に入りのベルエポック時代の骨董品を飾っています。色合いがシリルさんの作品と共通してナチュラル(写真撮影/Manabu Matsunaga)
りんご箱に飾ったシリルさんのニットの作品。りんご箱は窓辺に置いていて、時には椅子としても使うそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
シリルさんの作品は使い込まれた木の風合いによく似合う(写真撮影/Manabu Matsunaga)
現在、「パリ市内は高すぎてアパルトマンを買うことはできない」と、郊外へ脱出をする人が増えています。一方で、仕事の都合や、子どもの学校関係、それに「やっぱりパリに住みたい!」など、いろいろな理由でパリ市内を希望する人も少なくありません。そんな人たちにとって、市営住宅はとても魅力的です。
市営住宅自体は個性的ではないけれど、シリルさんのように自分たちにとって心地よい、唯一無二の空間をつくっていくこともできます。
何を選択するかは人それぞれ。このコロナ禍で、パリでも住まいの選び方がますます多様化してきています。それぞれの暮らしに何を望み、それをどう実現していくか。小さなアパルトマンという制限のある空間でも、本人次第で暮らしを楽しむことができるのだということが伝わってきました。
(文/松永麻衣子)
個人の庭を一般に公開する取り組み「オープンガーデン」。丹精込めた庭をお披露目し、庭を通して地域の人々、同じ趣味を持つ人々との交流を楽しむ場でもあり、英国の慈善団体がチャリティーの一環として始めたものとされている。
まだまだ日本では馴染みのないカルチャーだが、東京都小平市では14年前から、「こだいらオープンガーデン」としてまとめてPR、市がバックアップしている。
今回は登録されている27カ所の庭のうち、市の取り組みがスタートする前からご自身の庭を開放していた「森田オープンガーデン」の森田光江さんにインタビュー。そもそもご自身がオープンガーデンを始めた経緯、どんな取り組みをしているのか、実際にお庭にお邪魔して、お話を伺った。
「森田オープンガーデン」を訪れると、その規模感に圧倒される。1000坪の庭には、カモミール、菜の花、コデマリ、つつじの花々が咲きみだれていた。テーブルやチェアも設置されているなど、まるでフランシス・ホジソン・バーネットの童話『秘密の花園』のよう。これが個人の庭なのが驚きだ。
イメージは“手入れしすぎない、日常の中のガーデン”。こぼれた種をそのままに、自然のサイクルを活かした庭づくりを心掛けている。とはいえ、小道の手前には背の低い花を、奥に行くにしたがって花・樹木の高さが高くなるよう植物を配置し、花々が咲く季節をずらしながら植えられており、散策が楽しくなるように計算もされている。
奥にある玉川上水の並木道も借景にするイングリッシュガーデン。どこからかピーターラビットが現れそうな雰囲気(写真撮影/片山貴博)
庭にはテーブルやイスがあちこちに。友人から“森田さんのお庭に似合うと思って”と譲り受けることもあるそう(写真撮影/片山貴博)
撮影は4月下旬。可憐なカモミールの花が満開な季節。「まだまだ、花のトップシーズンはこれから。もうすぐバラが満開になります」と、笑顔で案内してくれるオーナーの森田さん。まるで我が子のように、慈しみ育てている。
「春から秋まではほとんどお庭にいますね。水やり、草むしり、植え替えとやることはいっぱい。今日は朝4時半起きなんです。続けてこれたのは“とにかく花が好き”ということと、喜んでくれる人たちがいるということですね」
奥には家庭菜園もあり、トマトやエンドウ豆の苗が育ち、収穫の楽しさも(写真撮影/片山貴博)
コデマリ、チューリップ、カモミール、シャクナゲと咲き誇る花々に癒やされる(写真撮影/片山貴博)
お手製の花時計も自慢の場所(写真撮影/片山貴博)
庭を開放し、花を愛でる喜びをみんなでシェア幼いころからずっと花が好きだった森田さん。「14年前に亡くなった夫とはとっても仲良しで、唯一の揉めごとが私の花畑と夫の野菜畑の境界線争いだったほど(笑)。彼が亡くなって本当に悲しくて、泣いてばかりだったけれど、せっかく彼が残してくれた場所なんだからと、花づくりにどんどん精を出すようになったんです」
そして、丹精込めて育てた花々をご近所さんとも共有したいという想いから、庭園を開放するように。そのうち、「もっとゆっくり腰を落ち着けてお庭を見ていただきたい」とテーブルやイスを置いたり、お茶をふるまうように。
定期的に訪れるご近所の常連さんも多いが、玉川上水沿いの緑道に接しているため、「ウェルカム」の看板に誘われ、ふらっと足を運ぶ人も。花の話題で、初対面でも話が盛り上がることも多い。撮影は晴天の4月ということもあり、平日の午前中から、たくさんの人がお庭を散策。なかには森田さんの同級生たちの姿も。
「コロナ禍で、なかなかみんなで集まることが難しいけれど、屋外のこの場所ならと、友人たちが顔を出してくれるんです」
モッコウバラの棚の木陰でお茶をふるまう森田さん。ちょっとしたおしゃべりも気分転換に(写真撮影/片山貴博)
カモミールティーとクッキーのセット(200円)。売上はすべて福祉団体へ寄付している。「最初は無料でふるまっていたらお礼にお土産をいただくようになり、かえって申し訳なくなったんです」(写真撮影/片山貴博)
手づくりの花籠やボタニカルアートも友人の手によるもの。友人たちにとってもかけがえのない場所になっているのかもしれない(写真撮影/片山貴博)
オーナーの森田光江さん。フレンドリーで明るい森田さんの人柄にも惹かれて訪問する人も多い。「今日はひ孫の幼稚園のお迎えに行ってきたばかりなんです」とアクティブ(写真撮影/片山貴博)
複数のオープンガーデンを包括することで“花の小平”をPRこうした自分の庭園を個人的に開放していた森田さんだが、2007年、市から「小平市内のオープンガーデンとしてPRしたい」という打診があったときには、「もちろん大丈夫です」と即答。これまでは、ご近所さん限定だったのが、春には市内外から訪れる人気スポットに。オープンガーデンの登録数も当初12カ所から現在は27カ所となっている(コロナ禍で休園している場所もあり)。
そもそも「こだいらオープンガーデン」とは、それより先に開催されていた「花と緑のこだいらガーデニングコンテスト」から「年間通して展開できないだろうか」という発想から始まったもの。玉川上水、野火止用水、狭山・境緑道、都立小金井公園と、ぐるりと散歩道が一周する約21kmの「小平グリーンロード」とあわせて、散策したくなる街の魅力をPRすることも狙いだ。森田さんのようなイングリッシュガーデンもあれば、開放が期間限定のバラ園、日本庭園もある。
現在の運営団体である、一般社団法人こだいら観光まちづくり協会の若林さち代さんにも話を伺った。「肥料代などの補助金もなければ会費もない、ゆるやかなものです。こうしたマップやパンフレットを作成することで、すべてのお庭を知っていただけたら。登録者のみなさんで情報交換など横のつながりも生まれています。今後は専門家を呼んで勉強会をするなどの取り組みも考えていきたいです」
丹精こめた庭や花を、オーナーと訪れた人がシェアする。地元で過ごすのは週末だけという人が多かったなか、コロナ禍で地元での暮らしを見直す人たちにとって、「オープンガーデン」は格好の癒やしの場、繋がりの場となるはずだ。
「こだいらオープンガーデン」に参画している庭は、この看板が目印(写真撮影/片山貴博)
ちなみに数あるオープンガーデンのうち、森田さんのお庭はかなり例外的。通常は飲食禁止、オーナーの対応はあるとは限らない。あくまでも「お庭を楽しむだけの場所」で、生活をしている方の邪魔にならないよう配慮が必要。敷地外からの見学のみの庭もある(写真撮影/片山貴博)
個人のお宅以外にも、レストランの庭、教会の庭園なども「こだいらオープンガーデン」のひとつ。例えば、
教会であるベタニア館のバラ園では、テラスで一休みもできる(画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)
自然派レストラン、カフェ・ラグラスの庭園もオープンガーデンのひとつ。店舗利用せずとも庭園を見学できる(画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)
ご夫妻ふたりで手掛けた庭「アトリエ絵・果・木(えかき)」。解体工事などで出る廃材などでプランターや椅子がつくられているのが特徴(画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)
●取材協力
一般社団法人こだいら観光まちづくり協会
コロナ禍で在宅時間が増えたという家庭も多いだろう。在宅時間が増えれば、使用する電気量も増える。となると、支払う電気料金も増える。ということで、一条工務店が太陽光発電とからめて調査を行った。その結果を見ると、太陽光発電を設置する理由が分かるので、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「太陽光発電と家庭の電気料金に関する意識調査」を公表/一条工務店
一条工務店の調査結果によると、コロナ禍で在宅時間が増えたことによる電気代が「増えた」という人が過半数の54.3%に達した。なかでも、全体の27.6%を占めるテレワークをした人に限ってみると、「増えた」という人は77.4%に上った。1.5倍以上(23.9%)や2倍以上(5%)も電気代が増えた人もかなりいた。(グラフ参照)
一方、テレワークをしている人で「勤務先から電気代の補助などがある」という回答は13.4%だったので、電気代の増加が家計を圧迫している可能性もうかがえる結果となった。
出典:一条工務店「太陽光発電と家庭の電気料金に関する意識調査」のリリースより転載
太陽光発電の設置で良かったのは、売電収入、停電時の安心、電気代の安さ次に、太陽光発電を設置(太陽光発電のみ設置、太陽光発電と蓄電池を設置)している人に、「太陽光発電を設置してよかったこと」を聞いたところ(複数回答)、「売電収入がある」(87.7%)、「停電時に安心」(71.3%)、「電気代が安い」(54.2%)の順に多かった。(画像2参照)
そのためか、太陽光発電の設置に満足しているかを聞くと、満足度は92.4%(とても満足67.2%+満足25.2%)とかなり高い結果となった。
出典:一条工務店「太陽光発電と家庭の電気料金に関する意識調査」のリリースより転載
太陽光発電の設置をしない理由は、設置費用やメンテナンス費用これに対して、太陽光発電を設置していない人に「太陽光発電を設置しない理由」を聞いたところ(複数回答)、
「設置費用が高い」(34.0%)、「将来のメンテナンス費が不安」(28.6%)、「元が取れるか不安」(28.3%)の順に多かった。(画像3参照)
出典:一条工務店「太陽光発電と家庭の電気料金に関する意識調査」のリリースより転載
また、太陽光発電を設置していない人で、「設置を検討している」(28.6%)または「検討したい」(20.6%)と答えた人に、その理由を聞いたところ(複数回答)、「自然災害による停電の多発」が63.8%と最も多く、「家庭向け電気料金の値上げ」(45.2%)、「自宅の電気代の増加」(44.5%)が続いた。(画像4参照)
出典:一条工務店「太陽光発電と家庭の電気料金に関する意識調査」のリリースより転載
住宅の太陽光発電の設置は今後も増える!?さて、住宅用の太陽光発電システムは、日中に太陽光で発電した電気を家庭で使用し、余った分は電力会社に売り、不足する分は電力会社から買う仕組みだ。地球環境意識の高まりを受けて、2012年にスタートした余剰電力の「固定価格買取制度」や設置費用の補助金制度などもあって、普及が進んだ。
一方で、「固定価格買取制度」で定める価格は年々下がっており、住宅の太陽光発電は売電目的よりも、自家消費をするためのものに変わってきている。発電設備だけでは電気を貯めることができないため、夜間でも使えるように蓄電池を併設する家庭も増えている。
今回の調査結果を見ると、既に設置した人では「売電収入」をメリットに挙げているのに対し、いま検討している人では「レジリエンス(災害対策)」を挙げる人が多いのは、こうした背景があるからだろう。特に、近年は大規模災害が頻発しているので、なおさら電気代よりも災害時の停電対策に重きを置く人が多いと思われる。
政府は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2021年4月には2030年度の温室効果ガスの排出削減目標を、2013年度比で46%減とすることを決定した。今後、再生可能エネルギーを大幅に増加させる必要があるため、住宅の太陽光発電についても、新築住宅への太陽光パネル設置を義務づける検討を始めている。太陽光発電は変動性が高いので課題も山積みだが、ZEH(ゼッチ:使うエネルギーと生み出すエネルギーの収支が0になること目指した住宅)への補助金などで積極的に促進していく姿勢だ。
住宅の太陽光発電を設置する際の注意点は?再び調査結果に目を向けると、太陽光発電の課題は、先行投資の費用にあることが分かる。設置やメンテナンスの費用が高額になるため、売電収入や電気代の引き下げで元が取れるようになるには時間がかかるからだ。
また、太陽光発電システムの普及に伴って、トラブル事例も増えている。資源エネルギー庁では、「太陽光発電に関するトラブルにご注意ください」というチラシを作成し、注意を呼び掛けている。トラブル事例を見ると、事実ではない(あるいは不正確な)説明や過剰なセールストークをしたり、強引な勧誘行為をしたり、ずさんな工事をしたりする事例が挙げられている。
これから太陽光発電の設置を検討するのであれば、必ず複数の事業者から詳しく説明を聞いて、太陽光発電システムの仕組みについて正しく理解するとともに、商品の違いや工事内容、見積額を比較検討したうえで、設置後の保証内容を確認し、依頼する事業者を選ぶようにしたい。
太陽光発電は、取り付ける屋根の面積や形状、方位などによって日射量が変わるので、どの程度の発電量が期待でき、どのくらいの電気代が節約できるのか、シミュレーションをしてもらうことも大切だ。事業者がこうした知識を持っていること、設置実績が多いことも、事業者選びには重要なポイントになる。
コロナ収束後も、テレワークという働き方やオンライン授業という学び方が定着すると見られており、以前よりも在宅時間が長くなることが想定される。増えてしまう家庭の電気代対策としては、小まめに節電したり、電力会社を切り替えたり、自宅で発電したりと方法はいろいろある。自分に適したものを検討するとよいだろう。
各テレビ局の2021年春のドラマがスタートした。その中で注目したいのが『大豆田とわ子と三人の元夫』だ。注目した理由は、松たか子さんが演じる大豆田とわ子の仕事にある。住宅建設会社の女社長というからには、ドラマの中で建設関係の話題がてんこ盛り。そこで、ドラマ制作の裏情報を聞いてきた。
専門家による「建築監修」でリアリティ満載
『大豆田とわ子と三人の元夫』の主人公・大豆田とわ子は、しろくまハウジングの社長に就任したばかりのバツ3女性。ひょんなことから三人の元夫たちと顔を合わせることになり、三人に振り回されながらも幸せを求めて奮闘するという物語だ。並行して、それぞれに新しい恋の(あるいはトラブルの)兆しもあって、先が読めないドラマになっている。
さて、ドラマのストーリーは別として、注目はしろくまハウジングのことだ。医療ドラマには医師が監修に当たるように、しろくまハウジングにも建築士の監修がいた。建築士の上田真路さんが代表取締役を務めるKUROFUNE Design Holdingsだ。
上田さんに、具体的にどういったことに関わっているのかを聞いた。
しろくまハウジングは“こだわりの注文住宅”で一目置かれているデザイン系建設会社。第1話では、「法規の読み違い」というトラブルが起きる。法規にかなうように、徹夜で設計を修正する大豆田とわ子。優秀な建築士であることが分かるシーンだ。
設計の変更についてスタッフに説明するシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)
番組プロデューサーの要望に応じて、住宅の設計時にどんなトラブルが起こりうるか、上田さんが情報提供をした例のひとつだ。第1話で起きたトラブルは、「第2種高度地区ではなく、実は第1種高度地区だった」というもの。第2種より第1種のほうが規制は厳しいので、第2種が前提で設計した建築物では建築の許可が得られないことになる。そこで、急遽、第1種の規制に合うように設計変更をする必要があるわけだ。
市街地の土地などには、都市計画法でそれぞれの土地に定められた建物の用途制限があり、これを“用途地域”という。主に住居系、商業系、工業系などに分かれ、例えば交通量の多い工場地帯に住宅が混在しないような規制をしている。重ねて、自治体ごとに、北側の隣地などに圧迫感をなくして日照などを確保するために“高度地区”を定めている。建築物を建てるにはこうした細かい法規制をクリアする必要があるのだ。
専門用語が飛び交うので、脚本にも上田さんの助言が反映される。大豆田とわ子は、自ら設計を変更した図面と模型をスタッフに見せながら、「北側の厳しい斜線制限がかかる側はボリュームを削減しました。3階のベッドルームはロフト部屋に変更して、代わりに広めのテラスを設置しました」と説明する。“斜線制限”とは、隣地の日照などを確保するために建物の高さだけでなく、建物上部の形状にも制限を設けるもの。斜線制限で3階にベッドルームをつくれなくなったので、2階の居室の天井を高くして、その居室の一部を2層式にしてロフトにすることで、制限をクリアしたのだ。全体の居住空間が減ってしまったので、庭に広めのテラスを設置して、部屋の延長空間として活用してもらおうという、使い勝手を考えた提案だ(と筆者は解釈している)。
このように、仕事の上でのトラブルを乗り切るドラマの展開において、専門知識の裏付けや専門用語を使った台詞が必要になるので、プロの監修が求められるのだ。脚本をつくる段階から関わるだけでなく、ドラマの展開に沿って、しろくまハウジングの作品として登場する建築物の設計図面やパース、模型などもKUROFUNE Design Holdingsで提供している。
しろくまハウジングが手掛ける大学図書館の図面とパースもKUROFUNEで提供した(第3話より)(画像提供:関西テレビ)
第3話の大学図書館の設計について、若手建築士の仲島登火(神尾楓珠さん)が素晴らしいデザインを提案する。そのデザインを見てとわ子は、「スイチョクカジュウとスイヘイタイリョクをこのタイリョクヘキとハシラで支えるのか」と言う。多くの視聴者にとってはなんのこっちゃ?という台詞だが、建築に多少でも関わった視聴者なら「垂直荷重と水平耐力をこの耐力壁と柱で支えるのか」と漢字で聞き取ることができる。医療ドラマなら「なんのこっちゃ?」側の筆者も、このドラマなら「ふむふむ」側になるので、なんとなくうれしい。
さて、ドラマのほうでは、このデザインでは予算に収まらないという難題が勃発する。そのため、社長と設計部の間で気まずい雰囲気が漂い、とわ子は悪戦苦闘することになる。
製図の引き方から席の配置まで、プロが見ても納得感のあるドラマに建築物に関する提供だけではない。第1話と第3話には、とわ子に扮する松たか子さんが図面を引くシーンがある。最近はCAD(コンピューターを使った設計を支援するツール)で設計するのが主流だが、とわ子は手で図面を描いている。筆者は建築については専門ではないので知らなかったのだが、製図で線を引くときには少しくるくる回るように描くのだそうだ。上田さんは、撮影現場に立ち会ってこうした演技指導もしている。松たか子さんは呑み込みが早かったそうだ。
ドラマでは松たか子さんが図面を引くシーンも多い(画像提供:関西テレビ)
ほかにも、第1話で住宅地のプロジェクトで設計部の三上頼知(弓削智久さん)が、模型を指さしながら説明するシーンがあったが、その手の動きなどにも演技指導が入っている。上田さんは「建築のプロが見ても違和感がないようにしている」という。
プロジェクトのデザインについての説明を受けるシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)
また、上田さんは、しろくまハウジングのオフィスのつくり方にも助言をしている。フロアの一段高いところに社長の席がある、おしゃれなオフィスなのだが、社長とスタッフの距離などにも配慮がなされている。
例えば、社長の席の近くに営業部署を置き、次いでインテリア部署や設計部署があり、遠い席に見積もりをする積算部署や経理部署があるという具合だ。それぞれの部署に応じて、壁材や床材のサンプルを置き、すぐに打ち合わせができるように大きなテーブルを置くなど、見た目では気づかないような細かい配慮もされているのだ。
しろくまハウジングのオフィスの様子(第3話より)(画像提供:関西テレビ)
余談になるが、上田さんによると、建築士は黒か白の洋服を着ることが多いという。デザインが主役となるように建築家自身はシンプルに見せるということと、建築現場は汚れやすいので汚れが目立ちにくい服を着ることが関係しているのではないかと。それを聞いてドラマを見直すと、さすがに主役の大豆田とわ子の衣装は、白や黒ではなくカラフルなものだが、設計部署の三上や登火などは黒い服を着ていたので、上田さんの情報提供が活かされているのかもしれない。
ドラマ本編はいよいよ佳境にさて、ドラマを楽しむには、建築の専門用語が分からなくても全く問題はない。しかし、実はこうした専門知識の裏付けがあるといったことが分かると、違う面白さも加わるのではないか。
このドラマをきっかけに建築に興味を持ってくれる人たちが増えて、その中から世界的に活躍する建築士が誕生するかもしれないと思うと、ワクワクする。もちろん、とわ子が元夫の誰かと元鞘に収まるのか、はたまたこれから新たなパートナーが登場するのか、ドラマ本編の展開も楽しみたいと思う。
●取材協力
KUROFUNE Design Holdings
プレスリリース
関西テレビ
番組HP
国土交通省が2014年に「DIY型賃貸借」を提示したなどの背景から、少しずつ増えているDIY型賃貸住宅。なかでも「アパートキタノ」は入居者同士でDIYのノウハウをシェアしたり、イベントを催したり、豊かなコミュニティを育んでいるよう。建築家・加藤渓一さんをはじめ、入居者の方々にお話を伺いました。
自分の家をつくる楽しさを知ることで、人生がよりよく変わる
「アパートキタノ」(東京都・八王子市)は京王線・北野駅から徒歩約10分の、ゆるやかな坂の上に立つ賃貸マンション。当初、投資用に購入したオーナーですが、都心から距離があるなどの立地条件から賃料を下げることでしか価値付ができず、困っていたそう。そこで相談したのが建築家の加藤渓一さんです。
「アパートキタノ」仕掛人「studioPEACEsign」代表・加藤渓一さん(写真撮影/田村写真店)
「こうした場合、賃料を下げるのが常套手段ですが、もっとプラスの価値を付けたいと思いました。そこで約18平米のワンルームの片方の壁と床に合板を張り、その部分だけDIYできる賃貸住宅を提案したんです。
もともとALC板の壁だったので、合板を張り付けることによりクギが打ちやすくなるなどのメリットが出ますが、オーナー側からすれば部屋中すべてDIY可能にすると『何をされるのか』と心配になるし、退去後に改修費がかかります。範囲を限定し、安価で簡単に取りかえられる素材を使うことで管理のハードルを下げ、DIY賃貸を導入しやすくしました」(加藤さん)
壁と床に張る合板はOSB・シナ・ラーチ・ラワン・MDFの5種があり、旧タイプの部屋から切りかわるときに引っ越して来る最初の入居者が選べます(写真撮影/田村写真店)
「住み手」と「施工のプロ」が肩を並べて家づくりする「ハンディハウスプロジェクト」を主宰する加藤さん。「アパートキタノ」にも同様の思いがあるそう。
「日本だとなかなか文化が定着しませんが“自分で考えたものを自分でつくる”のは本来、楽しいものだと思うんです。住まいへの理解が深まり、完成後の暮らしも変わって来ます。
オリジナリティを出すことが許されない賃貸住宅は、これを阻む最たるものですが、多くの人が最終的に『家を購入』する現実を考えると、その手前の『賃貸住まい』が『練習場』になったほうがいい。DIYに挑戦することで感性を磨き、これからの住まいとの関わりを良好にしてもらえたらと思いました」(加藤さん)
「与えられたものを受け入れるのではなく、クリエイティブな力をつけることが、これからの時代の豊かさになるのでは」と語る加藤さん。このコンセプトにオーナーも賛同。2018年からスタートし、今では47戸中15戸がDIYできる部屋として貸し出されています。
入居者に特別な条件は設けていませんが、集まるのは手を動かすことや発想することが大好きな“表現者”ばかりです。
「どこにもない秘密基地のような“自分だけの部屋”が欲しいと、ずっと思っていました」と話すのは、大学の建築学部に通うマサさん(仮名・20歳)。
進学と同時に初めて一人暮らしを始めた物件では、オーナーの許可を得てDIYをしていましたが、ごく一般的な賃貸アパートだっただけに「原状回復」がネックとなり、限界を感じていました。
そんな時に知人からこの物件の存在を聞き、約1年前に引越してきました。
「授業では設計のアイデアを膨らませても実際につくることはないのですが、この部屋では『やりたい』と思ったことにのびのびとチャレンジできます」(マサさん)
「気になるパーツを見つけたら、まずは購入して試します」(マサさん)(写真撮影/田村写真店)
「大学で学んだ建築の意匠や、ドラマを観て着想したことを形にした」という部屋は、壁に本棚や小物入れ・工具などが美しく収められており、日常のアイテムをインテリアとして昇華させたさまは圧巻です。
部屋の合板はOSB。ラフな風合いで繰り返しネジを打っても目立たないのがメリット(写真撮影/田村写真店)
マサさんにとってDIYは、自分を表現する手段。部屋を見てもらうのは自己紹介と同じ感覚なのだそう。
最初に構成を決めるよりは、考えながらつくる方がアイデアが浮かびやすく、一度取りつけた本棚を数日後にわずかに移動させてみるなど、日々、アップデートしています。
右上の緑色の部分は一番に着手した思い出の本棚。授業で学んだ建築物を参考に前面に凹凸をつけ、横から本をしまえるようにしました(写真撮影/田村写真店)
グレーの壁紙に「ラブリコ」の突っ張り棒を合わせたコーナー。「見せる収納だと、収めて取り出す面倒がありません」(マサさん)(写真撮影/田村写真店)
リアリティ番組シリーズ『テラスハウス』からヒントを得た黒板ボード。「机に向かうより立っていた方が思いつく」と製作しました(写真撮影/田村写真店)
「DIYをきっかけに暮らしを楽しむ感覚が芽生え、料理や家庭菜園などにも挑戦するように。また、こだわった部屋を自慢したくて、友人を招くようにもなりました。アパートキタノに住んでから人とのつながりも含めて暮らし全体が彩られていっているように感じています」(マサさん)
「アパートキタノ」には工具や端材が置かれた共用の倉庫があり、外のウッドデッキでも作業が可能。入居者が自然と顔を合わせるため、作業を助け合ったり、ノウハウを聞いたりできると言います。
「DIYについて教えてもらううちに打ち解けて、一緒にご飯を食べに行くことも。部屋を見せてもらうこともあるのですが、同じ間取りなのにまったく趣向が違うので刺激を受けるし、モチベーションになります」(マサさん)
第二の住まいを図書館として開放し、サードプレイスを目指す学生時代から街づくりや地方の若者の雇用問題に関心を向け、各地の無人駅を間借りして本屋にする「無人駅をめぐる本屋」や「歩く本棚」の名でイベントに出店している堤 聡さん(30歳)。
夜勤が多い会社で働いており、「第一の住まいは会社施設」「第二の住まいは自宅」という、デュアルライフを送っていました。持て余し気味の自宅と本を「住み開き」で活用できたら、と思っていたそう。そんなときこの物件を知り、やってきたのが昨年11月。
コロナ禍で足踏みしたものの、同じマンションの住人限定の「人んち図書館」をこの4月にオープンしました。
「同じ本屋の活動をする仲間にも来てもらいたい」と堤さん(写真撮影/田村写真店)
「家賃は約5万円ですが、そのうち2万はライブラリーの場所代、残り3万は住居費と思えばかなりお手ごろ。
図書館は今後、『アパートキタノ』の入居者に向けて、週1回ほどの間隔で開放する予定。『自宅に不特定多数の人を入れるのはどうかな』という気持ちがあったのですが、単なる顔見知りとも違う、DIYなどを通して友達レベルで知っている人ばかりなので、安心感を得られるのが良いですね。
とはいえ普通の賃貸アパートだと、少しでも変わった取り組みは敬遠されたでしょう。やりたいことを柔軟に聞き入れてくれる『アパートキタノ』だからこそ実現できたのだと思います」(堤さん)
本来、壁と床を取りつけてもらった状態で入居しますが、堤さんは「せっかくなら」とハンディハウスと一緒に合板を打ちつけるところから始めました。
プレーンなシナに味のある古材を合わせてオープン棚を造作。ジャンルごとに本を分けつつ、目を引く表紙は面陳(めんちん)するなどして、訪れる人の興味をそそる置き方にしています。こうした工夫ができるのも、DIY型賃貸住宅だからこそ。
古材は和風住宅で使われていた建材のリサイクル品。「リビルディングセンタージャパン」(長野県・諏訪市)で購入しました(写真撮影/田村写真店)
本は堤さんが興味のある街づくり・建築関連に加え、デザイン・美術・写真・小説・エッセイなども。コメント風のジャンル分けがユニーク(写真撮影/田村写真店)
屋外でも図書館を開けるようにと自作したリュック型の本棚を背負って。入居して初めてDIYした作品でもあり、住民に手伝ってもらいながら完成させたとか(写真撮影/田村写真店)
「1人もいいけど何となく誰かと過ごしたいときってあると思うんです。そうしたときに学校でも家庭でもない第三の居場所として、気軽に来てまったりしつつ、考えをまとめたり、新しい発想を浮かべたりしてもらえたら良いなと思います。
ここは本がメインですが、料理ができる部屋・映画を楽しめる部屋など、テーマに特化した部屋がほかにも現れると面白そう。モデルケースがあると『出来るかな』と思えるものなので、自分がその契機になれたらうれしいです」(堤さん)
生き生きと語る堤さん、マサさんからは、「アパートキタノ」がアクションを起こしたい人のやる気と想像力を促す土壌になっていることが伝わってきます。
現代のアプリとウッドデッキ・ピザ窯でコミュニティが充実「アパートキタノ」では、アプリ「Slack」で入居者同士が交流できるようにもしているため、スムーズかつほどよい距離感で付き合えるそう。ご近所のおいしい飲食店や、緊急時に防災情報を伝えたり、イベントの声かけをしたりと役立てています。
この3月にはマサさんが中心になって、ウッドデッキ横にピザ窯を製作。ここではしばしば、食事会が催されます。「お花見とピザの会」(4月10日開催)をのぞかせていただきました。
晴れ渡る空の下、ピザづくりがスタート(写真撮影/田村写真店)
「Slack」で日程と料理を決めたら、基本の材料を集まれるメンバーで買い出し。食べたいものやシェアしたいものがあれば、それぞれがゆるく自由に持ち寄るスタイルです。昨秋「サンマの会」をしたときは、煮つけや日本酒・お漬物・たこ焼きが並んだと言います。
アプリはOBも登録していて、さまざまな世代が集結。OB男性による手製のジェノベーゼ・ボロネーゼ・ペスカトーレのソースをピザにトッピングして舌鼓(写真撮影/田村写真店)
同じ場所に住んでいると「バスルームの掃除どうしてる?」など、すぐに共通の話で盛り上がれるのが良いところ(写真撮影/田村写真店)
広々としたウッドデッキはDIYの作業や食事のほか、昼寝の場にもなります(写真撮影/田村写真店)
マサさんが設計や材料・予算を考え、みんなで製作したピザ窯(写真撮影/田村写真店)
ピザ窯はムラなく熱が広がるドーム型、かつ二層にしてグリル専用スペースをつくり、機能性を高めました(写真撮影/田村写真店)
「大学生をしていると『大学』と『アルバイト先』に人づき合いが限られてきますが、ここにきたことで、もうひとつの居場所を持てたと感じます。年代が違ったり、目新しい活動をしていたり、自分とは異なる人たちと出会えるのがうれしいですね。
いつも会っている訳ではなくても、存在として大きいものだなと感じます」(マサさん)
例えば「バーベキューがしたい」と思っても、準備などを考えると実際はハードルが高いもの。でもふらりと集まれる広場と一式の道具類、アプリがそれを可能にしているよう。
DIY型賃貸住宅というハード面の強みと、コミュニティを促すバックアップ体制、そこに意思のある人々が加わることで関係性がすくすくと育ち、入居者のクリエイティブな世界を広げていると言えそうです。
(写真撮影/田村写真店)
●取材協力
アパートキタノ
HandiHouse project
人んち図書館
コロナ禍でおうち時間が増え、自分の暮らしを見つめ直す人が増えています。もともとあった中古住宅のリノベーション需要に加え、最近では、壁や床を張り替えるなどのセルフリノベーションをする流れが出てきました。実際、自分でやるには?注意点は? 実例を通じて、内装デザイン会社夏水組の坂田夏水さんに聞きました。
在宅時間の増加で、セルフリノベをしたい人が増えている!
DIY(Do It Yourselfの略)は、日本では、主に机や棚などの家具を自作する場合を指すことも多く、「日曜大工」として親しまれてきました。一方、セルフリノベーション(以後セルフリノベ)は、壁や床の張替え、間取りの変更などの大掛かりな部屋のリフォームを指します。セルフリノベには、すべてDIYする、専門業者に一部依頼するなどがあります。セルフリノベへの関心の高まりにはどのような背景があるのでしょうか。
「私が2020年に『セルフリノベーションの教科書』を出版する以前にもDIYのハウツー本を書いてきましたが、10年前は、本屋にDIYのコーナーはありませんでした。今では料理本のコーナーに並んでDIYコーナーにも本がたくさん並んでいて、関心の高まりを感じています。以前からDIYをやってみたいという潜在層はいたのですが、コロナ禍で在宅時間が長くなり、実際に着手する人が増えたのでしょう。オンラインで部屋が背景に映る機会もあり、身につけるものと同じように空間をおしゃれにしたいという気持ちもあるのかもしれません」
オーナーや不動産会社向けに夏水組が開催している「内装の学校」では、養生の仕方、壁紙やクッションフロアの張り方などが学べる。レトロな雰囲気の物件に合う「アンジェリーナ」というブラウン系のペンキを塗装中(画像提供/夏水組)
輸入壁紙「ゴッホシリーズ」を貼る参加者。この後は、撮影のポイントなどのアドバイスを受けた(画像提供/夏水組)
夏水組の坂田夏水さん。中古物件のリノベーションや店舗の内装デザイン、DIYショップの運営などさまざまな活動をしている(画像提供/夏水組)
坂田さんは、十数年前にヨーロッパやアメリカを訪れた際、DIYの文化が広く根付いていることに驚いたといいます。
「街には、レストランや洋服のお店の隣にインテリアショップが並んでいました。ファッションや料理など趣味や家事の延長線上にDIYがあるのです。日本のDIYについては、当時はホームセンターで材料を買って、庭にデッキをつくるなどが多かった印象です。最近では、自分で壁紙を張替えたり、ペンキを塗り替えたりするDIY(セルフリノベ)が増えてきました。それでも賃貸だからと諦めていた人が多かったと思いますが、日本の不動産業界も変わりつつあり、DIY可や原状回復不要の賃貸物件も出てきています」
2008年に坂田さんが立ち上げた夏水組では、不動産会社、オーナーと住む人との間に入り、リノベーションやセルフリノベーションを行ってきました。入居者がリフォームできる新しい賃貸住宅、DIY型賃貸の企画をする不動産会社のリベストと提携し、DIYを希望する借主の相談にのっています。DIY型賃貸の借主のメリットは、賃貸物件でもDIYができること。退去時に原則、原状回復をしなくてもいいので、持ち家のように自由にセルフリノベが可能です。貸主としては、現状のまま貸せて手間がかからないメリットがあります。
それでは、DIY型賃貸でセルフリノベを行ったふたつの事例を紹介しましょう。
カリモクのソファ、インドのテーブル、イギリスのヴィンテージチェアなどが融合。レトロな雰囲気を醸し出している(写真撮影/片山貴博)
蔦の絡まる外観が特徴の「潤マンション」に住む宮本涼さん(20代)は、DIY可なことに惹かれ、入居を決めました。白壁に木のぬくもりを感じるリビングは、イギリスやアメリカ、インドなどの家具が置かれ、ヴィンテージな雰囲気。10.5畳ほどあるリビングの床の板張りをすべてDIYしたことに驚きます。
間取り。洋室はもともと真ん中に仕切りがあったが前の住民がひと間に。宮本さんもそのまま活かしてセルフリノベを進めた
間取りは、1DK。玄関を入り、暖簾をくぐるとリビングがある(写真撮影/片山貴博)
以前住んでいた人がコンクリートの壁を白く塗り、収納の扉を撤去していた。そこに棚やデスクを置き、ワークスペースに。元々あるものを活かしている(写真撮影/片山貴博)
アメリカのシェードランプの脇に鉢植えのガジュマル。室内にはポイントにグリーンを配している(写真撮影/片山貴博)
「ピカピカの新しいものより、味わいのある古いものが好きなんです。部屋を内見したとき、古い設えや前に住んでいた人が手を加えたところが残っていて面白いと思いました。リビングの床板は以前住んでいた人が敷いたものですが、木の板がささくれて裸足で歩けなかったので、真っ先に手を加えることにしたんです」
リビングの床の板をいったん剥がし、ささくれた表面をサンダーで削り、一枚ずつ張り直していきました。作業のほとんどはひとりで行い、かかった日数は延べ3日間程。初めての本格的なDIYでしたが、そろえた工具は、カンナ(約1000円)、ノコギリ(約1000円)、電動ドライバー(約3000円)、電動ヤスリ(約6000円)のほか紙やすりやビス、ワックスなど総額2万円ほど。自分でやり方を調べ、工具を用意するほか、夏水組からも機材の貸し出しやアドバイスをもらいました。
「壁と床の隙間に合うように、木を加工するのが難しかったですね。木の表面をヤスリでなめらかにするのも大変でした。床のDIYは音にも気を使います。両隣や向かいの方には引越しの挨拶の際、DIYする旨了承をいただいていましたが、作業する時間には気をつけていました」
DIYのためにそろえた工具。左上から、板の表面をなめらかに削る電動のサンダー、古びた味わいを出すヴィンテージワックス、紙やすりを装着して手動で使うハンドサンダー、左下は、カッター(クッションフロアを切る時に使用)、カンナ、電動ドライバー(写真撮影/片山貴博)
サンダーで表面を削り、ワックスを塗ったリビングの床。自然なツヤが美しい。木の表面のささくれがなくなり、裸足で歩けるようになった(写真撮影/片山貴博)
タイル風のクッションフロアは、硬質で本物のタイル張りのよう。部屋の隅に合わせてクッションフロアをカットするのは難しい(写真撮影/片山貴博)
そのほか、玄関の床の張替えやキッチンのリフォームを行った宮本さん。セルフリノベの魅力は、「自分で住む空間をデザインできること」だといいます。憧れていたDIYにチャレンジし、暮らしやすくなりましたが、さらに玄関脇のお風呂場の前に仕切りをつくろうと計画中です。
キッチンは、突っ張り棒のような仕組みで壁や天井に穴を開けずに柱をつくれるアイテム「ディアウォール」を使用。施工は1日ほど(写真撮影/片山貴博)
アンティークの鏡の横には季節のグリーンを(写真撮影/片山貴博)
「テレワークで家にいる時間が増えて、できるだけ過ごしやすい部屋にしたいと思うようになりました。手をかけるとその分使いやすく見栄えが良くなってきます。業者に依頼してリノベした方が早いですが、リノベは一回やるとなかなか変えられません。セルフリノベは、住んで使ってみて柔軟に変えていける良さがあります」
難しいところはプロに頼りつつDIYできるDIY型賃貸物件の魅力もうひとつの事例は、白い外壁に赤いドアが印象的なフラットハウス(平屋)です。夏水組により入居前にリノベーションされた室内は、白を基調にブルー系の差し色のシンプルでおしゃれな内装。DIY型賃貸なので、そのまま住むことも、さらに自分でDIYすることもできます。C.Kさん(39歳)とK.Kさん(38歳)は、引越したばかり。初めての賃貸暮らしなので、家具などをそろえながら、少しずつ、DIYしていきたいと考えています。
玄関から正面に見えるブルーがアクセントの壁に貼ったのは、夏水組オリジナルの襖(ふすま)紙(写真撮影/片山貴博)
「アメリカンハウスのような外観に惹かれ、内見すると、グリーンと白にまとまった空間にモザイクタイルやエキゾチックな壁紙が、私の好きなモロッコ風のインテリアを連想させ、一目で気に入りました。さらに、DIYができる物件なので、自分たちが好きなように間取りを変えたり、足りない物を足したりでき、暮らしながら補えるところにも魅力を感じました」(C.Kさん)
白壁に赤いドアのフラットハウスは、海外の雰囲気を醸し出している(写真撮影/片山貴博)
間取り
間取りは、寝室やキッチン、リビングに仕切りのない1フロアです。
「住みながら必要なところに仕切りをつくったり、棚をつけたりしたいと思っています。キッチンカウンターは自分たちでつくるのは無理そうなので、デザインだけして木材屋さんに相談中です。自由度が高いところが、楽しい面でも難しい面でもありますね」(K.Kさん)
キッチンパネルや壁や床などブルーで統一されたキッチン(写真撮影/片山貴博)
DIYする箇所はオーナーに事前に確認が必要ですが、原状回復の義務はなく、管理費もありません。エアコンなどの備え付けの設備の故障についてはオーナーへ修繕を依頼できます。
玄関の下駄箱の上の壁に板を貼り付けた。フック等を取り付ける予定とのこと(写真撮影/片山貴博)
縁側の床は、入居後に白いペンキで塗り直してメンテナンス(写真撮影/片山貴博)
「どこに何を置こうか、どう手を加えていこうか、ふたりで想像をふくらませてワクワクしています。完成するまでに長い年月が必要ですが、ブラッシュアップできるのが楽しみです。きっと終わりはない気がします」(C.Kさん)
先日は、グリーンの更紗模様の壁紙に合わせて、エスニック柄のカーテンをつけました。内装を手掛けた夏水組の実店舗「Decor Interior Tokyo」では、照明や鏡、モロッコタイルに合わせたマスキングテープを購入し、アクリルBOXに貼り小物入れに。
「Decor Interior Tokyo」では、DIYグッズや壁紙、床材などの内装建材のサンプルを取りそろえ、部屋づくりをサポート。リベストで入居した人には、買い物の割引サービスも。二人は入居後、何度も訪れ、インテリアやDIYの相談をしています。
セルフリノベをする際、気をつけなければいけないところを坂田さんにたずねました。
「自分でやれるところとプロに任せた方がよいところを理解するのが大切です。水まわりは、水漏れが起きると階下に迷惑がかかり、トラブルになってしまいます。電気については、漏電や感電の心配があり、専門の資格を持っていないとほとんどの施工ができません。キッチンのガスコンロの近くにスノコで収納をつくるなど防火上問題のあるDIYをしている例もSNSなどで見受けられます」
特に注意が必要なのは、建築基準法で火災の拡大や煙の発生を遅らせるために規制されている内装制限についてです。内装制限のある場合、床や壁に燃えにくい内装仕上げ材を使うなどの決まりがあります。
そのほか、貸主や管理会社の申請と承諾を得て行うことやほかの住民へ迷惑となるDIYはしないなど、オーナーと入居者、管理会社が事前に書面で確認をとるなど共通認識を持つのが大切です。
夏水組では、賃貸でDIYするときの注意点や防火法、内装制限について理解を深めてもらおうと、DIY型賃貸借のスタートブックを作成し、インターネットで公開。ブックには、全国各地のDIYショップマップもついています。
DIY型賃貸借のスタートブック。理解が難しい内装制限についても詳しく解説されている(画像提供/夏水組)
裏面には、さまざまなサービスでDIYをサポートしてくれる全国のショップがずらり。店舗情報は発行時のもの(画像提供/夏水組)
さまざまなDIYグッズやインテリア資材が並ぶDecor Interior Tokyoの店内(画像提供/夏水組)
店内各所で実際に施工をした床や壁を見ることができるので、内装のイメージが分かりやすい(画像提供/夏水組)
店内奥には打ち合わせ室兼ワークショップができるスペースがある。コーディネーターやDIYに詳しいスタッフが常駐しているので、サンプルを見ながら、気軽に相談ができる(画像提供/夏水組)
「輸入資材を豊富にそろえる店や工務店が運営している店など、今はさまざまなショップがあります。DIYを一度やってみると、床の張替え、ペンキの塗り替えと次々にやりたいことが増えていくときに頼りになるのがこうしたショップです。オーナーと借主との間に入ったり、施工の相談に乗ったり、日本のDIYを支える存在になってきています。賃貸だからと諦めず、洋服を選ぶように、自分らしい家をつくってほしいですね」
DIY・セルフリノベで、時間が経つほど暮らしやすく、愛着が増す住まい。インテリアショップやプロの力をうまく借りながら、自分らしい暮らしを自分でつくり上げる文化が日本でも根付き始めています。
●取材協力
・夏水組
・Decor Interior Tokyo
・株式会社リベスト
高度経済成長期、都市近郊に多数造成され、数多の家族が思い出を築いた「ニュータウン」。巣立った子どもたちは戻ってこず、近年では「高齢化」「過疎化」「限界集落」など、ネガティブな文脈で語られることが多くなっています。そんな流れを打破するような動きが、埼玉県の鳩山ニュータウンで起きています。今回は担い手となっている生活芸術家でアーティスト・レトロ系YouTuberの菅沼朋香さんと焼き菓子作家の山本蓮理さん、彼女たちを支える人々の話をご紹介します。
高齢化と過疎化が進むニュータウンに新名物「空家スイーツ」
池袋駅から電車で1時間弱、高坂駅からバスで15分ほどの場所にある「鳩山ニュータウン」は、1区画60坪程度、ゆったりとした街並みが保たれた美しい街です。昭和40年代から平成にかけて開発され、埼玉県を代表するニュータウンのひとつと言われていますが、近年の都心回帰現象によって、「高齢化・過疎化・空き家の増加」といった課題が山積しています。
電柱なども埋設され、空を広く感じる「鳩山ニュータウン」(撮影/片山貴博)
メインストリートには商店なども立ち並びますが、シャッターも多く、ものさびしい印象を受けます(撮影/片山貴博)
筆者は昭和52年生まれ、横浜のはずれの分譲住宅地で育っているだけに、空は広くて大きな歩道があって、街路樹が並ぶ様子を見ると「初めてだけど、懐かしいなあ」という思いがこみ上げます。
今、この「鳩山ニュータウン」でつくられ、一躍、脚光を集めているのが「空家スイーツ」です。ニュータウンの民家の庭に植えられたはっさくやゆず、金柑など、さまざまな果樹の実をジャムにし、ロシアケーキの材料として、「空家スイーツ」と名付けて商品化、発売したところ、大注目となっているのです。
ニュータウンで採れた果実のジャムを型抜きしたクッキーに入れ、オーブンで焼いて「ロシアケーキ」に。生地には鳩山町の地粉を使っている。超地産地消!(撮影/片山貴博)
空き家や民家の庭で実ったフルーツをジャムにして、クッキーの型に置いていきます(撮影/片山貴博)
ニュータウン土産として商品化した「空家スイーツ」。レトロなパッケージ&リボンがかわいい!(撮影/片山貴博)
ニュータウンの印象は「息苦しい」「近未来」。住んだ実感は?!この空家スイーツを生み出したのは、生活芸術家でアーティスト・レトロ系YouTuberの菅沼朋香さんと焼き菓子作家の山本蓮理さんという2人の女性です。もともとまったく鳩山ニュータウンには縁がなかったものの、2016年、鳩山町のまちおこし拠点である「鳩山町コミュニティ・マルシェ」の立ち上げメンバーとして携わることになったのが、すべてのはじまりだといいます。
左から、菅沼朋香さん、山本蓮理さん(撮影/片山貴博)
もともと、愛知県出身で名古屋近郊のニュータウン育ちの菅沼さんは、ニュータウンそのものに対し「画一的でどこか息苦しい」とあまり良い印象を持っていませんでした。一方、山口県出身の山本さんは、「地方にある町や村の区画とも違うし、東京の大都会とも違う。まっすぐの道路、区画……。見たことのない風景で、近未来!って思いました」。近未来! そういえばアニメや映画など、昭和に描かれた近未来の風景とニュータウンの風景って、近しいかもしれません。
ただ、コミュニティ・マルシェで働き鳩山ニュータウンの一戸建てで実際に暮らすようになった菅沼さんは、アーティストとして町を観察したことで、あらためて良さが再発見できたといいます。
「引越してきた当初、庭付き一戸建ては大きくて持てあますと思っていたんですが、実際に暮らしてみると庭の草木の手入れだって季節を感じられて楽しい。ニュータウンって空も広いし、緑も豊かで心地よいんです。私は1980年代生まれなんですが、物心ついてからずっと不況で、大学卒業がリーマン・ショックと、高度経済成長を知らない世代なんです。かつて、こんなに豊かな暮らしがあったんだなあって。今、見落としていただけで、緑や夢などがつまった暮らしがあることに気が付きました」とその良さに気が付いたそう。それをさっそく歌にして、レコーディングしたというからさすがアーティストです。
一方で、周辺にお店がないことに気がついた菅沼さん、2017年に鳩山町に中古の一戸建てを借り、2019年に購入、1階部分をセルフリノベーションし「ニュー喫茶 幻」をつくることを企画。資金はクラウドファンディングで募り、2019年2月にオープンさせました。ここまでの発想と行動力、ただただ脱帽です。
一戸建てを改装して、住まいのその一角を「ニュー喫茶 幻」に(撮影/片山貴博)
不思議と落ち着く空間で、お酒が飲みたくなります。名物は「宇宙コーヒー」です(撮影/片山貴博)
2人の女性と町の人の架け橋になったのは、地元のサポーターとはいえ、若い2人の女性の活動は、高齢化が進む鳩山ニュータウンでは、異質の存在だったようです。
「20から30代女性って、この町に一番いない層なんです。だから若い2人で何かしようとすると、目立ってしまう。はじめは、遠巻きに見られている印象でした」と振り返ります。
ただ、試行錯誤するなかで、2人ががんばっている様子が徐々に受け入れられるようになったといいます。
「スーパーに行くと、驚くほどたくさん人がいて、暮らしているんだなって思ったんです。ただ、遊んだり、息抜きする場所がないから、ガランとしてしまう。他にも、イベントで昭和歌謡ライブをしたときはすごく盛り上がったことがあって、やっぱり年代問わず外で遊べる場所を求めていたことに気がついたんですよ」と山本さんが話します。
確かにニュータウンは名前の通り、ベッドタウン、つまり、眠る&子育ての機能面を重視されて造成されているため、大人が食事をしたり、遊んだり楽しめる場所は少ないもの。今でいう「多様性」が欠けていたことに気がついたといいます。
また、「ニュー喫茶幻」を通じて、近隣住民との架け橋になってくれる存在が生まれました。菅沼さんが鳩山ニュータウンに引越してきたあとに、移住してきた江幡正士(まさお)さん(70代男性)です。
「2人の取り組みを見ていて、これは面白いかもしれないって。できることをはじめてみようと思いました」(江幡さん)と、応援することを決めたそう。2020年に「空家スイーツ」の話が持ち上がると、果樹のある家を見つけては声をかけ、収穫させてもらったといいます。やはり「楽しく」「おもしろく」取り組んでいると、人は自然と集まってくるのかもしれません。
江幡さんの家の隣家に住むおじいちゃん(90代)の庭に生った梅の実。時期がきたら収穫して梅ジャム→「空家スイーツ」に変身(撮影/片山貴博)
(撮影/片山貴博)
おじいちゃんがお庭の手入れが難しくなったため今は少し寂しくなってしまいましたが、かつては藤の花なども咲き誇る見事なものでした(撮影/片山貴博)
シェアハウスにシェアアトリエ…、若い人が呼び合うように!「まち起こしのきっかけとしてコミュニティ・マルシェができ、2020年には空き家を活用した『国際学生シェアハウスはとやまハウス』で町内に学生が暮らすようになりました。また、はとやまハウスの卒業生が中心となって、2021年4月に「シェアアトリエniu(ニュウ)」が誕生しました。おもしろいことをしていると、人が人を呼び合っている感じです」と菅沼さん。
「はとやまハウス」(写真撮影/永井杏奈)
ちなみに「はとやまハウス」住人の学生さんは『鳩山町コミュニティ・マルシェ』で月32時間働けば家賃が無料になる仕組みで、仕事の一貫として『空家スイーツ』の作成を手伝ってくれることも。町は関係人口が増えるし、学生は家賃が抑えられると双方にメリットのある施策ですね。
シェアアトリエniuは、東京藝術大学の大学院を卒業した人、在籍する院生などが活動の拠点にしています。アートや建築、デザインに携わる若い世代が移住しつつ、1階で展覧会やワークショップを企画/開催する予定だとか。
「シェアアトリエniu」(撮影/片山貴博)
庭付きの一戸建てをシェアアトリエに。花岡美優さん(写真)を含めた3人が活動の拠点にしている。花岡さんは日本画・現代アートを専攻する(撮影/片山貴博)
はじめは菅沼さんや山本さんなど数名だった鳩山ニュータウンの活性化の試みですが、今、新しい波として広がっている印象です。
「今まで、コミュニティ・マルシェ、ニュー喫茶幻、空家スイーツ、シェアハウスと毎年、さまざまな動きをしているのですが、今後は自分が前に出ていくというよりも、今、集まってきている人を応援するスタンスになると思います。あと、アーティストとして、『世界中のレトロ可愛い』を見たり、集めたりしたいな」と菅沼さん。
豊かさは金銭だけではなく、心、時間、人とのつながりなど、さまざまなことを通して実感できるものなのでしょう。高度経済成長期は戻ってきませんが、若い世代を魅了する「ニュータウン」が持っている豊かさや可能性は、今後、もう一度、評価される気がします。
●取材協力
空家スイーツ
シェアアトリエniu
高度経済成長期、都市近郊に多数造成され、数多の家族が思い出を築いた「ニュータウン」。巣立った子どもたちは戻ってこず、近年では「高齢化」「過疎化」「限界集落」など、ネガティブな文脈で語られることが多くなっています。そんな流れを打破するような動きが、埼玉県の鳩山ニュータウンで起きています。今回は担い手となっている生活芸術家でアーティスト・レトロ系YouTuberの菅沼朋香さんと焼き菓子作家の山本蓮理さん、彼女たちを支える人々の話をご紹介します。
高齢化と過疎化が進むニュータウンに新名物「空家スイーツ」
池袋駅から電車で1時間弱、高坂駅からバスで15分ほどの場所にある「鳩山ニュータウン」は、1区画60坪程度、ゆったりとした街並みが保たれた美しい街です。昭和40年代から平成にかけて開発され、埼玉県を代表するニュータウンのひとつと言われていますが、近年の都心回帰現象によって、「高齢化・過疎化・空き家の増加」といった課題が山積しています。
電柱なども埋設され、空を広く感じる「鳩山ニュータウン」(撮影/片山貴博)
メインストリートには商店なども立ち並びますが、シャッターも多く、ものさびしい印象を受けます(撮影/片山貴博)
筆者は昭和52年生まれ、横浜のはずれの分譲住宅地で育っているだけに、空は広くて大きな歩道があって、街路樹が並ぶ様子を見ると「初めてだけど、懐かしいなあ」という思いがこみ上げます。
今、この「鳩山ニュータウン」でつくられ、一躍、脚光を集めているのが「空家スイーツ」です。ニュータウンの民家の庭に植えられたはっさくやゆず、金柑など、さまざまな果樹の実をジャムにし、ロシアケーキの材料として、「空家スイーツ」と名付けて商品化、発売したところ、大注目となっているのです。
ニュータウンで採れた果実のジャムを型抜きしたクッキーに入れ、オーブンで焼いて「ロシアケーキ」に。生地には鳩山町の地粉を使っている。超地産地消!(撮影/片山貴博)
空き家や民家の庭で実ったフルーツをジャムにして、クッキーの型に置いていきます(撮影/片山貴博)
ニュータウン土産として商品化した「空家スイーツ」。レトロなパッケージ&リボンがかわいい!(撮影/片山貴博)
ニュータウンの印象は「息苦しい」「近未来」。住んだ実感は?!この空家スイーツを生み出したのは、生活芸術家でアーティスト・レトロ系YouTuberの菅沼朋香さんと焼き菓子作家の山本蓮理さんという2人の女性です。もともとまったく鳩山ニュータウンには縁がなかったものの、2016年、鳩山町のまちおこし拠点である「鳩山町コミュニティ・マルシェ」の立ち上げメンバーとして携わることになったのが、すべてのはじまりだといいます。
左から、菅沼朋香さん、山本蓮理さん(撮影/片山貴博)
もともと、愛知県出身で名古屋近郊のニュータウン育ちの菅沼さんは、ニュータウンそのものに対し「画一的でどこか息苦しい」とあまり良い印象を持っていませんでした。一方、山口県出身の山本さんは、「地方にある町や村の区画とも違うし、東京の大都会とも違う。まっすぐの道路、区画……。見たことのない風景で、近未来!って思いました」。近未来! そういえばアニメや映画など、昭和に描かれた近未来の風景とニュータウンの風景って、近しいかもしれません。
ただ、コミュニティ・マルシェで働き鳩山ニュータウンの一戸建てで実際に暮らすようになった菅沼さんは、アーティストとして町を観察したことで、あらためて良さが再発見できたといいます。
「引越してきた当初、庭付き一戸建ては大きくて持てあますと思っていたんですが、実際に暮らしてみると庭の草木の手入れだって季節を感じられて楽しい。ニュータウンって空も広いし、緑も豊かで心地よいんです。私は1980年代生まれなんですが、物心ついてからずっと不況で、大学卒業がリーマン・ショックと、高度経済成長を知らない世代なんです。かつて、こんなに豊かな暮らしがあったんだなあって。今、見落としていただけで、緑や夢などがつまった暮らしがあることに気が付きました」とその良さに気が付いたそう。それをさっそく歌にして、レコーディングしたというからさすがアーティストです。
一方で、周辺にお店がないことに気がついた菅沼さん、2017年に鳩山町に中古の一戸建てを借り、2019年に購入、1階部分をセルフリノベーションし「ニュー喫茶 幻」をつくることを企画。資金はクラウドファンディングで募り、2019年2月にオープンさせました。ここまでの発想と行動力、ただただ脱帽です。
一戸建てを改装して、住まいのその一角を「ニュー喫茶 幻」に(撮影/片山貴博)
不思議と落ち着く空間で、お酒が飲みたくなります。名物は「宇宙コーヒー」です(撮影/片山貴博)
2人の女性と町の人の架け橋になったのは、地元のサポーターとはいえ、若い2人の女性の活動は、高齢化が進む鳩山ニュータウンでは、異質の存在だったようです。
「20から30代女性って、この町に一番いない層なんです。だから若い2人で何かしようとすると、目立ってしまう。はじめは、遠巻きに見られている印象でした」と振り返ります。
ただ、試行錯誤するなかで、2人ががんばっている様子が徐々に受け入れられるようになったといいます。
「スーパーに行くと、驚くほどたくさん人がいて、暮らしているんだなって思ったんです。ただ、遊んだり、息抜きする場所がないから、ガランとしてしまう。他にも、イベントで昭和歌謡ライブをしたときはすごく盛り上がったことがあって、やっぱり年代問わず外で遊べる場所を求めていたことに気がついたんですよ」と山本さんが話します。
確かにニュータウンは名前の通り、ベッドタウン、つまり、眠る&子育ての機能面を重視されて造成されているため、大人が食事をしたり、遊んだり楽しめる場所は少ないもの。今でいう「多様性」が欠けていたことに気がついたといいます。
また、「ニュー喫茶幻」を通じて、近隣住民との架け橋になってくれる存在が生まれました。菅沼さんが鳩山ニュータウンに引越してきたあとに、移住してきた江幡正士(まさお)さん(70代男性)です。
「2人の取り組みを見ていて、これは面白いかもしれないって。できることをはじめてみようと思いました」(江幡さん)と、応援することを決めたそう。2020年に「空家スイーツ」の話が持ち上がると、果樹のある家を見つけては声をかけ、収穫させてもらったといいます。やはり「楽しく」「おもしろく」取り組んでいると、人は自然と集まってくるのかもしれません。
江幡さんの家の隣家に住むおじいちゃん(90代)の庭に生った梅の実。時期がきたら収穫して梅ジャム→「空家スイーツ」に変身(撮影/片山貴博)
(撮影/片山貴博)
おじいちゃんがお庭の手入れが難しくなったため今は少し寂しくなってしまいましたが、かつては藤の花なども咲き誇る見事なものでした(撮影/片山貴博)
シェアハウスにシェアアトリエ…、若い人が呼び合うように!「まち起こしのきっかけとしてコミュニティ・マルシェができ、2020年には空き家を活用した『国際学生シェアハウスはとやまハウス』で町内に学生が暮らすようになりました。また、はとやまハウスの卒業生が中心となって、2021年4月に「シェアアトリエniu(ニュウ)」が誕生しました。おもしろいことをしていると、人が人を呼び合っている感じです」と菅沼さん。
「はとやまハウス」(写真撮影/永井杏奈)
ちなみに「はとやまハウス」住人の学生さんは『鳩山町コミュニティ・マルシェ』で月32時間働けば家賃が無料になる仕組みで、仕事の一貫として『空家スイーツ』の作成を手伝ってくれることも。町は関係人口が増えるし、学生は家賃が抑えられると双方にメリットのある施策ですね。
シェアアトリエniuは、東京藝術大学の大学院を卒業した人、在籍する院生などが活動の拠点にしています。アートや建築、デザインに携わる若い世代が移住しつつ、1階で展覧会やワークショップを企画/開催する予定だとか。
「シェアアトリエniu」(撮影/片山貴博)
庭付きの一戸建てをシェアアトリエに。花岡美優さん(写真)を含めた3人が活動の拠点にしている。花岡さんは日本画・現代アートを専攻する(撮影/片山貴博)
はじめは菅沼さんや山本さんなど数名だった鳩山ニュータウンの活性化の試みですが、今、新しい波として広がっている印象です。
「今まで、コミュニティ・マルシェ、ニュー喫茶幻、空家スイーツ、シェアハウスと毎年、さまざまな動きをしているのですが、今後は自分が前に出ていくというよりも、今、集まってきている人を応援するスタンスになると思います。あと、アーティストとして、『世界中のレトロ可愛い』を見たり、集めたりしたいな」と菅沼さん。
豊かさは金銭だけではなく、心、時間、人とのつながりなど、さまざまなことを通して実感できるものなのでしょう。高度経済成長期は戻ってきませんが、若い世代を魅了する「ニュータウン」が持っている豊かさや可能性は、今後、もう一度、評価される気がします。
●取材協力
空家スイーツ
シェアアトリエniu
住まいは土地から離れられないものゆえ、『動かせない』を意味する「不動産」と言われてきました。でも、もしかしたら「住まいは動く」「人とともに動く」のは、今後、当たり前になるかもしれません。新しい暮らしとして最近注目されている、タイニーハウス、DIY、バンライフをはじめとする移動する暮らしの、“いいとこ取り”がぎゅっとつまった建築集団「SAMPO」の「モバイルハウス」などの取り組みをご紹介しましょう。
移動できて、コンパクト、その人らしい住まいをつくる試み
おしゃれな人が集う三軒茶屋の住宅街の一角、味わいのある一軒家と隣接するコンテナと緑の建造物が目を惹きますが、ここが建築集団「SAMPO」のハウスコアです。
一戸建ての住宅街に現れるハウスコア。普通の住まいとは異なる趣があり、思わずと足を止めたくなるはず(写真撮影/嶋崎征弘)
左部分のコンテナと手前の緑の個室(モバイルセル)は移動できて居住できる部屋。茶色と黒が建物でハウスコア。内部は窓や通路でつながっていて、行き来可能です(写真撮影/嶋崎征弘)
「SAMPO」が提案するのは、軽トラックに搭載できるサイズの個室「MOC(モバイルセル)」で、一つの場所にとらわれない暮らしです。キッチンやバス、トイレといった水まわりは「HOC(ハウスコア)」に接続することで対応します。三茶のケースでは、写真の右側の一戸建て(茶色・黒の建物)がハウスコアにあたります。このハウスコアに住民票をおいて、郵便物などを受け取ることも可能です。モバイルセルは所有者の個性を大切にしたデザインで、コンパクトながらも快適な空間をDIYで一緒につくり出します。この暮らし方であれば、人も住まいも、いつでも心地よく、自由に動くことが可能になります。
コンテナ側から見た接続したモバイルセルの様子。コンテナに小さなドアがついていて、開閉します(写真撮影/嶋崎征弘)
モバイルセルの内部。大人2人が眠れて暮らせるサイズ。用途はさまざまで、音楽スタジオにした例も。これが軽トラに搭載できるってすごい!(写真撮影/嶋崎征弘)
コンテナ内部の住まい。こちらはSAMPOを主宰する村上さん夫妻が暮らしている部屋。おしゃれ!!(写真撮影/嶋崎征弘)
考え方はシェアハウスと同じ。動く住まいの構想は100年以上前からちょっと今までの住まい方とあまりにも異なるのでびっくりしてしまいますが、このSAMPOの主宰者の一人の塩浦一彗さんによると、何も難しいことはないですよ、と言います。
塩浦一彗さん(写真撮影/嶋崎征弘)
「シェアハウスは個人が過ごす部屋と、バス・トイレ・キッチンなどの共用部分から成り立っていますよね。その部屋が『DIYでつくって、可動する』だけ。ごくごくシンプルなんですよ」と笑いながら解説します。そのため、ハウスコアの建物提供者となる大家さん、モバイルセルとの所有者の不動産契約なども、すべてシェアハウスと同様の手続きをとっているといいます。そうか……部屋が動くシェアハウスといえば理解も早いですね。
現在、拠点となるハウスコアは日暮里など都内に複数箇所あり、モバイルセルは今まで40人以上とつくってきたといいます。
日暮里のハウスコア(写真提供/SAMPO)
(写真提供/SAMPO)
「2016年に移動できる住まいの構想を僕と村上で考えていた当初はなんのコネもなかったのですが、おもしろい人がおもしろい出会いをつくって、またそれが人を呼んで、翌日にまた違う展開があって……というかたちで広がっていきました」(塩浦さん)
もともとイギリスの大学で建築を学んでいた塩浦さんによると、住まいをコンパクト&移動するという発想は自動車が誕生した直後から、主に米国で提唱されてきたといいます。
「今までは技術的に可能であっても、人々の住まい方や思想がついて来ませんでした。ただ、世界中の都市部の地価が高騰し、若い世代ほど暮らすことが難しくなっている。そのため、モバイルな暮らし、タイニーハウスが世界中の都市部で脚光を集めています。建築というより思想が先に変わりはじめたと言ったほうがいいかもしれません」(塩浦さん)
アトリエにあるキッチンとDJブース。食や音楽などライフスタイルや文化を大切にする塩浦さんたちの個性があふれています(写真撮影/嶋崎征弘)
(写真撮影/嶋崎征弘)
モバイルセルは、“共につくる体験”を売っている「モバイルセルは世界の都市部の住宅難に対する一つの答えでもあります。日本でも35年の住宅ローンを背負うというのは人生の足かせになってしまうし、何より幸せそうに見えない。経済的に豊かになったはずなのに、幸せを感じられないのはなぜかと、依然からずっと疑問に思っていました。もっと身軽であれば、決断できること、チャレンジできることもあるはず」と力説します。
そのために大切なのは、住まいを買う・借りるという、消費者のスタンスから脱却して、「つくる」ことが大切だと考えているそう。
「現在、村上と他の会社で “キャラメルポッド”という名称で500万円のキャラメルのおまけにコンテナハウスとモバイルセルがドッキングしているタイプのものを販売していますが、キャラメルを買うくらいの感覚で部屋を買ってほしいからという意味も含めて名前をつけたんですよ。ただ、販売するとはいえ、完全なできあがったパッケージ商品を売るという感覚ではありません。所有希望者と対話しながら、一緒に空間を模索していく感じでしょうか。一人ひとり、モバイルのなかで何がしたいのか、最小限の空間で何ができるのか、その過程が大事なんです」と話します。
これは……「家を売る」というよりも、「家をつくる」という共同体験を販売しているのかもしれません。
シンガポール政府と共にSAMPOを支援している会社から依頼があり、商業施設とモバイルの生活空間の可能性を追求するプロジェクトに参画しています(写真撮影/嶋崎征弘)
災害の多い日本だからこそ広がる、モバイルセルの可能性「それにモバイルセルを自分たちの手でつくれるようになると、すごく生き抜く自信がつくんですよ。軽トラと数十万円あれば、とりあえず家で雨露がしのげるって思うと、不確実な時代のサバイバルスキルとしてはとても有効だと思うんです」と塩浦さん。ここまで思うようになったのには、理由があります。
「モバイルセルの原点は、3.11の東日本大震災の体験にあります。当時、日本にいることに危険を感じ、震災発生の2日後にイタリアに渡ることになって、そこで高校を卒業しました。その後ロンドンの大学で学んで、日本に帰国。日本は小さいものを愛でる文化、茶室もあるし、モバイルな住まいととても相性がいいんです。現在も、モバイルセルのワークショップ形式でイベントを企画したり、学生と話す機会も多いんですが、今後はもうちょっと災害発生時の可能性を広げていけたら」と話します。
確かに災害発生時にモバイルセルがあったら、被害の甚大な場所に必要な台数分、配置すればいいですし、安全な場所に移動・避難ができます。建設にも解体にも時間とお金のかかる現状の仮設住宅よりも、こうした「モバイルセル」のほうが機動力もあり、有効な気がします。
また、個人としても、非常時に安心できる「巣」「家」をつくるスキルがあるって、それだけで、こう心強い気持ちになるのは、分かる気がします。すごく原始的な活力で、生き抜く力なのかもしれません。ただ、もともと、塩浦さん自身は、DIYの経験もほとんどなかったといい、やるなかでスキルを身に着けていったそう。
「DIYのほかに、料理やアクセサリーもつくりますし、音楽環境を整えたり、本を出版したり……、いろんなスキルを持つ人が周囲にいるので助けたり、助け合ったりして、今に至ります。やっぱり経験することで何かが生まれるし、触発される。何かをつくりたい、生み出したいって、本能に近いんだと思います」(塩浦さん)
アクセサリー工房の一角。建築にアクセサリー、音楽とちょっと才能があふれすぎ(写真撮影/嶋崎征弘)
(写真撮影/嶋崎征弘)
一方、現在のアトリエは、7月に予約制の店舗(古着・骨董・アクセサリーのスタジオ)としてもオープンするそう。職住融合、モバイルハウスといっても、少し前までは絵に描いた餅だと思っていましたが、若い世代は、時代に即したかたちで適切にアップデートしていくんですね。自然災害や住まいの領域でも課題は山積みですが、若い才能が世界をより良く変えていくのかもしれません。
●取材協力
SAMPO