
16万円 / 44平米
井の頭線「高井戸」駅 徒歩2分
桜並木の緑道沿いに立つ戸建を、一棟丸ごとリノベーション。天井高が軽く3mを超えた、質良く気持ちのいい空間が出来上がりました。
建物は1階と2階が分割されていて、今回ご紹介するのは1階。大きな特徴としては、室内の約半分を土間で仕上げたところです。
この土間は、店舗や事務所、アト ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
2021年7月10日からスタートする「東京ビエンナーレ2020/2021」で進行中の「災害対応力向上プロジェクト」。一見、アートから遠いように思える防災に国際芸術祭が取り組むと言います。その理由などを建築家でこのプロジェクトチームの一色ヒロタカさんに伺いました。
江戸の町火消しに着目、アートで地域コミュニティを創出したい
東京を舞台に開催する国際芸術祭、東京ビエンナーレ(開催期間:2021年7月10日~9月5日)。世界中から60組を超える幅広いジャンルの作家やクリエイターが東京に集結し、市民と一緒につくり上げていく芸術祭です。
テーマの「見なれぬ景色へ」は、「アートの力で都市の街並みに変化を起こしたい」という思いが込められている。栗原良彰《大きい人》2020 千代田区丸の内 Photo by ただ(YUKAI)(画像提供/東京ビエンナーレ)
アーティストの力で、「あ、この景色は何だ?」と思わせる。セカイ+一條、村上、アキナイガーデン《東京型家》完成イメージ図 2019 ©セカイ(画像提供/東京ビエンナーレ)
ビルの壁一面に描かれた絵画。古いオフィス街に出現した巨大なアートへの違和感は、街に対する意識の変化につながる。Hogalee《Landmark Art Girl》2020 神田小川町宝ビル Photo by YUKAI ©東京ビエンナーレ(画像提供/東京ビエンナーレ)
そのコンテンツのひとつ、「災害対応力向上プロジェクト」は、アートから災害にアプローチする新たな取組み。芸術祭で災害や防災をテーマしたのはなぜでしょうか。
「アートを通じて、新しい地域コミュニティを生み出すことが目的です。地域コミュニティは、災害時の コミュニティにつながります。『火事と喧嘩は江戸の華』と謳われたように、江戸の町は火事がとても多かったんです。火事の被害を食い止める消防組織である町火消しは、町人が自主的に設けたもの。江戸の防災は、地域コミュニティと深く関わっていたのです」(一色さん)
上左から時計回りに、一色ヒロタカさん、村田百合さん、渡邉莉奈さん、内藤あさひさん。2年間、街のフィールドワークや催事に参加し、住民の声を集めながら、プロジェクトに携わってきた(画像提供/オンデザイン)
東京都が区ごとに作成しているハザードマップを見ると、地震だけでなく、洪水・浸水・土砂災害などさまざまな災害が予想されています。
さらに、2019年12月には新型コロナウイルスが発生し、東京ビエンナーレは2020年夏の開催が延期に。2018年の発足時から掲げてきた東京ビエンナーレのコンセプトのひとつである「回復力」が、より切実なテーマとしてアーティストに突き付けられたのです。
「地震・雷・火事・水害等を対象にしてきましたが、コロナという大災害をふまえて、現在もプロジェクトをアップデートしようと模索を続けています。コロナ禍で自分と向き合う時間が増え、リモートワークなどで生活環境も大きく変わりました。災害が起きたとき、住んでいる街で、自分がどう行動するのか意識されるようになったのです。ところが、街全体の防災計画はあっても、個人レベルの細かい対策は、分からないことが多いんですね。そこで住民一人ひとりの悩みや不安に向き合ったアプローチをしようと考えました」(一色さん)
アーティストの視点で、街の課題・関係性を「見える化」このプロジェクトを統括する事務局は、一色さん、村田百合さん、渡邉莉奈さん、内藤あさひさんによるチームで企画・運営しています。4人は東京ビエンナーレの全会場計画を担当している設計事務所オンデザインに所属する建築家です。オンデザインでは、住宅や各種施設の設計のほか、街づくりにも積極的に取り組んできました。
なかでも3.11のあと宮城県石巻市のまちづくり団体ISHINOMAKI2.0の立ち上げに関わった経験は、今回のプロジェクトに活かされています。
ISHINOMAKI2.0は、2011年5月に設立。震災前より今より街をバージョンアップしようと活動を続けている(画像提供/オンデザイン)
「震災前の元の街に戻すのではなく、石巻を世界でいちばん面白くて新しい街にしよう! という思いで会社として取り組んでいます。地域住民と対話しながら、津波で閉じてしまったシャッター街を、新しい街につくり変えるなど10年間拠点づくりをしてきました。街は地域住民の生活の器です。建築物をつくるだけでなく、地域の課題や関係性をふまえて街全体を設計するのも建築家の役割だと考えています。地域住民の不安を発掘し、課題を『見える化』するプロセスは、アートを手掛かりに街の課題を考えていく今回のプロジェクトに通じます」(一色さん)
そこで、災害対応力向上プロジェクトでは、災害対策ではなく、「災害を受け止められる地域のコミュニティをつくる」ことを最終目標に挙げています。
2019年8月に、フィールドサーベイを神田エリアで実施し、地域住民とフィールドワークをしながら、災害につながる危険な場所をリサーチ。リスクを『見える化』する取組みがスタートしました。
一色さんほかプロジェクトメンバーが同行して行われた神田エリアフィールドサーベイの様子 2019年8月実施(画像提供/オンデザイン)
「わたし」の不安に「わたしたち」が答えるVOICE 模型東京ビエンナーレは千代田区・中央区・文京区・台東区を中心に、周辺の区へも滲み出しながら開催されますが、災害対応力向上プロジェクトは、千代田区を中心に展開します。住民やこのエリアを活動拠点としている方々から、ヒアリングによって拾い上げた声を視覚化した「VOICE模型&MAP」を展示の軸として制作が進んでいます。
VOICE模型&MAPには、ヒアリングから得られた課題を「 VOICE」として表出させ、展示を見に来たさまざまな方々からの「アンサー」により、参加型で課題解決を図るアプローチを試みる(画像提供/オンデザイン)
「今はヒアリングの段階で、千代田区の社会福祉協議会や五軒町の町内会など、地域のさまざまな人から声を集めている最中です。個人の不安・課題(VOICE)に、地域の資産(人・スキル・物)を集め、シェアできる場になれば。どこにどんな声があるかMAPで分かるようにして、具体的な解決を模型で表現しています。例えば、『庭を囲んでいる塀が倒れたら?』という不安には、『避難路に崩れたブロックをどかす軍手が必要だ』『前回の地震で、夜間の避難は、懐中電灯があって助かった』というアドバイスが集まります。家の模型やグッズで示し、具体的に解決する手段を伝える試みです」(渡邉さん)
「地震で塀が壊れたらどうしよう」という一人の不安に対し、「歩行者を守る修繕なら区からの補助金で直せるよ」「もしもの時、足元が悪いから懐中電灯を備えておくと安全だよ」など皆からアドバイスが集まる(画像提供/オンデザイン)
無印良品計画とのコラボ「いつものもしも、市ヶ谷」開催中、神田五軒町と市ヶ谷に2カ所の仮設防災センターを設置する予定です。「いつものもしも、神田五軒町エリア」は、民設民営のアートセンター3331Arts Chiyoda前のビル1階のテナントスペースに期間限定の仮設拠点として設けられ、VOICE模型&MAPの展示や防災の知識を学ぶワークショップ等が行われる予定です。
「いつものもしも、神田五軒町エリア」は、空きテナントを利用し、会期中に設置される予定(画像提供/オンデザイン)
神田五軒町と市ヶ谷の2拠点で開催(画像提供/オンデザイン)
「いつものもしも、市ヶ谷エリア」は、MUJI com武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店内に特設します。 良品計画では、毎月11日から17日までを『くらしの備え。いつものもしも。』期間とし、防災に役立つ商品をコラムと共に紹介しています。そのノウハウを活かし、東京ビエンナーレと良品計画のコラボした防災セットの展示や販売を行います。
人によって必要な防災グッズは異なる。東京ビエンナーレと良品計画のコラボした防災セットの販売のほか、それぞれに合った防災セットのつくり方を提案する予定(画像提供/良品計画)
「いつものもしも、市ヶ谷エリア」は、良品計画の店舗内に設置が予定されている。市ヶ谷には、学校やオフィスが多い。店舗を訪れる様々な年齢層が参加できる場をつくろうと企画中(画像提供/良品計画)
「個人の声にとことん向き合うことで、街を変えていきたい。マンションに住んでいて地域コミュニティへの参加が難しいなど、自分と同じような声と出会い、『わたし』から『わたしたち』へ街を見る目が変わっていきます。東京ビエンナーレのキャッチフレーズは、『見なれぬ景色へ』。当たり前だった街の景色を変えられたとしたら、それはアートの力です。関係性によって生まれる街の魅力は、不動産価値だけではかれない街の価値です。建築家としての視点で、人や都市にアプローチして、見えないものを表出していきたいと思っています」(一色さん)
オンデザインの自主メディア「BEYOND ARCHITECTURE」では、プロジェクトに携わる人へのインタビューなど活動内容を発信している(画像提供/オンデザイン)
東京ビエンナーレは、今後、2年に1度開催される予定です。アートで復元・出現した地域コミュニティに関わることで、新たな「わたし」を発見できる。アートのための催事に終わることなく、市民レベルの体験を生み出そうとチャレンジが続いています。
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無印良品の“日常”にある防災、「いつものもしも」とは
●取材協力
・東京ビエンナーレ
・オンデザイン
・BEYOND ARCHITECTURE
コロナの影響でテレワークが当たり前となり、「都会で暮らす意味ってなんだっけ……?」と思っていませんか? 現に、二拠点居住や移住を考える人も増えているようです。そんな人たちに参考になりそうなのが、都会生まれ都会育ちの漫画編集者が田舎という異世界で暮らす様子を赤裸々に描く実録マンガ『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』(講談社)です。原作者のクマガエさんに田んぼとお住まいで話を聞いてきました。
深夜も土日も仕事。朝まで新宿ゴールデン街で飲み歩いていた漫画編集者時代
『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』(講談社 (c)クマガエ/宮澤ひしを 講談社)
本作は、主人公・佐熊陽平が激務の漫画編集者時代を振り返るところから物語がはじまります。主人公のモデルはクマガエさん自身で、自身の移住体験をもとに話は展開していきます。
『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』の冒頭。明け方までの激務(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)
誰が言ったか、「田舎暮らしは異世界暮らし」(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)
「編集者時代は終電後に飲みに行って、朝5~6時まで飲んで、さらにもう1軒……なんてこともざらでした。土日も関係なく働いていましたし、だいたい朝に寝てお昼に出社できればいい方という日々です」とクマガエさんは振り返ります。妻のルキノさんと出会ったのも新宿ゴールデン街がきっかけだといい、二人はかつての暮らしを「なぜあんなに飲んでいたのか分からない」と笑うほど。
その多忙な生活に疲れ、“異世界”である田舎で稲作をはじめたのは、今から6年前。コロナ禍のさなか、今年4月、『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』単行本1巻が発売となり、田舎暮らし・郊外暮らしを描いているということで注目を集め、メディアからの取材も続いているといいます。
クマガエさん(写真撮影/土屋比呂夫)
「読者で多いのは、私がそうだったように30代前半から半ばでしょうか。多忙な都会の日々に限界を感じている、特に最近では仕事がテレワークになったことで移住や二拠点生活ができるのではないか、と考えはじめるようです。あとは、大学生なども読んでくれていて、働き方や生き方について考えさせられましたといった声が届いています」(クマガエさん)
給料は伸びなくても、都市部の家賃や住宅ローンの負担はずしりと重くのしかかります。日々、忙しく働いているのに、「手元にお金も残らず、家も狭いし、これって幸せなんだっけ?」と思う気持ち、よく分かります。
漫画編集者を辞めようと悩むものの……(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)
会社員を辞めて「田舎暮らし」という異世界へ踏み出します(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)
田舎+古民家ライフができるのはバーサーカー(狂戦士)だけ!?現在、クマガエさんがしているのは、いわゆる「ど田舎にある古民家・自然派暮らし」ではありません。1話目冒頭で紹介されている通り、住まいは築浅の賃貸アパート、近くにはカフェもあり、東京にも電車で1時間半ほどでアクセスできるなど、都内に出社できないこともない、田舎と郊外の狭間での暮らしです。
「マンガで描いているように、私自身も米づくり体験→会社を辞めることを検討→田舎で空き家探し→移住の流れです。空き家探しは、会社を辞める前提で家賃を抑えられたらいいな~と、気楽に考えていたんですが、まさに異世界体験となりました。修繕しないですぐ住める家はないし、前の住人の荷物で ゴミ屋敷と化していたり。都会の賃貸物件を内見する感覚でいたので、めちゃくちゃびっくりしました。でも、地方や田舎出身の人に話を聞くと、よくある話みたいですよ(笑)」といいます。
異世界・田舎での家探しがスタート(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)
しかし思ったようにいかず……(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)
家探しの前提条件が違うのは衝撃ですよね。同じ時代の同じ国、同じ言葉を話すのに「言葉や感覚が違う」というのはまさには、異世界転生。なんか……バグっていく感覚です。
妻のルキノさんは、もともと引越しが大好きで、賃貸の更新をせずに引越したいと思うタイプ。ただ、夫妻二人ともに都市部育ちということもあり、便利な東京23区外で暮らせるのかという不安はあったそう。
「結局、いい空き家が見つからず、知人の古民家に間借りというかたちで田舎暮らしが始まりました。実際に古民家で暮らしてみて、家の修繕を自分でできて、暑さ寒さや湿気、虫の多さも気にしない、過酷な環境にも対応できるバーサーカー(狂戦士)じゃないと、あの生活はできないだろうと痛感して。それで今の賃貸に落ち着きました。SUUMOで探した気がします(笑)。今の家は家賃7万円台、広さ60平米弱の2LDKで、駐車場1台付きです。東京時代は夫婦二人で渋谷区のワンルーム暮らしで30平米未満、家賃は10万円超でしたからねえ」としみじみと振り返ります。
夫妻が暮らす賃貸アパートのリビング。陽がたっぷりと入り、のびのびとした空間(写真撮影/土屋比呂夫)
ベランダでは収穫した玉ねぎを乾燥させています(写真撮影/土屋比呂夫)
デスクを並べて夫妻でお仕事。奥の壁は原状回復できる色付きの壁紙で明るくし、画の額縁も自作。DIYスキルも上がっています(写真撮影/土屋比呂夫)
稲作6年目、そろそろレベルアップ!? 海の近くへ引越しも検討中「今は米づくりのほかに、畑で野菜を育てるほか、ぬか漬け、梅仕事、味噌づくりなど、田舎暮らしの経験値もぐっと溜まってきました。半農半X、つまり米づくりや畑や農作業のほか、今までもっているスキルをかけあわせて、農作業のほかに、フリーランスのマンガ編集者、漫画原作などを並行して暮らしています」
自宅でとれた稲の糠をつかってのぬか漬け(左)と梅干しづくり(右)にも挑戦中。手仕事って見ているだけでも楽しい(写真/土屋比呂夫)
田んぼ作業がある日は朝6~7時ごろに起きてお弁当を持って田んぼへ行き、夜には自宅で食事。23時には就寝と、夫妻二人、東京にいたころに比べれば“人間らしい”暮らしを送っています。「田んぼ仕事って、年中、忙しいわけではなくて、5月半ばの田植えのあとは、週1回程度の草引きを2カ月ほどやれば大丈夫なんです。今の田んぼは4家族でシェアして使っていますが、去年は夫婦二人で食べきれないほどのお米(110kg程度)が収穫できました」(クマガエさん)
東京から電車で2時間弱。広い空と水田に心和みます。日本人の原風景なんでしょうね、きっと(写真/土屋比呂夫)
(写真撮影/土屋比呂夫)
草取りは“ニルヴァーナ(涅槃)“だったのです。解脱も近い?(画像提供/講談社 (c) クマガエ/宮澤ひしを 講談社)
この生活をすることで、物欲も減り、飲み会も行かなくてもいいかな、と思うようになりました。友人と集まって一緒に味噌づくりをしたり、味噌の完成お披露目会をしたり、そんなことが楽しいですね。今はどこでも味噌が売っていて、買えますよね。一見、すごく便利なようだけど、実はみんなでわいわい味噌をつくるような楽しい機会を奪われているんじゃないか……って思うようにもなりました。あと家事の大切さ、家仕事の価値がすごく低く見積もられている気がします」(クマガエさん)
確かに家事って生きる日々の営みですものね。おろそかにしていいことではない気がします。今、二人は、賃貸で快適な暮らしをキープしつつ、農作業と仕事をする「ちょうどよい暮らし」をしているように見えますが、実はレベルアップ(?)も間近だとか。
「一度、東京都心の塀のなかから飛び出したことで、『あ、私たち、郊外でも暮らせるんだ』って、自信がついた感じでしょうか。もう都会暮らしは無理かもしれませんが、もうちょい不便でも暮らしていけるかも」とルキノさん。今、引越し先として考えているのは海の近くで、農作業ができるエリアだとか。
(写真撮影/土屋比呂夫)
(写真撮影/土屋比呂夫)
「こうやって取材を受けるなかで、そろそろ次のレベルにいってもいいかもな、と思うようになりました。今の場所を見て、『田舎じゃない』っていう人もいるんですけれど、田舎って言ってもグラデーションになっていて、いろんな人がいて、場所がある。もしハードルが高いと感じるなら、いきなり移住・引越ししなくたっていい。まずは農作業経験とかに参加してみたり、軽い気持ちでチャレンジしてもいいと思うんですよね」とクマガエさん。
コロナ禍を経て、私たちの働き方、暮らし方は大きく変わろうとしています。郊外や地方での暮らしのハードルはぐっと下がっている今、農作業と仕事を自分らしく楽しむ「半農半X」という方法で、無理せずやりたいことを実現するのは、決して夢物語ではありません。もしかしたらクマガエさんのように異世界に踏み出す勇者は、続々と現れるのではないでしょうか。
●取材協力
『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』公式Twitter
1話試し読み
作画担当 宮澤ひしを先生Twitter
2021年4月、セーフティネット登録住宅の基準に新たにひとり親世帯向けシェアハウスの基準が設けられました。これにより、ひとり親世帯の住まいの選択肢として「シェアハウス」が増えることが期待されています。
今回の基準新設は、物件のオーナーさんや自治体、そしてひとり親世帯にどのような影響を与えるのでしょうか。専門家、自治体、そして実際に制度を活用したシェアハウスのオーナーさんに話を聞きました。
ひとり親向けのシェアハウスが抱えてきた“問題”とは?今回の基準新設は「セーフティネット住宅」の制度についてなされたもの。低額所得者や高齢者、被災者、子育て世帯など、住宅の確保が難しい人に対して“入居を拒まない住宅”として、登録している住宅のことを言います(制度と基準新設についての詳細)。一定の収入以下の世帯が入居できる公営住宅だけではカバーしきれない、さまざまな立場の住宅弱者のために2017年、新たな住宅セーフティネット制度が施行され、その中にはシェアハウスの基準もあるのですが、実はそれはこれまで“単身者向け”のシェアハウスを対象としたものだったのです。近年、ひとり親世帯向けのシェアハウスのニーズが高まっていることにともない、今回の基準新設に至りました。
これまでの公的な住宅施策は住居しての“ハード”を提供するものでしたが、育児、家事、仕事を全てひとりで行わなければならないひとり親の生活には、“ソフト”であるサービスの存在も欠かせません。保育や家事代行などのサービスを付帯する住まいとして、また、ひとり親の「孤立」を防ぎ、「自立」を促す住まいとしてシェアハウスが注目されてきたのです。さらに新型コロナウイルスの影響によって、特に低所得のひとり親世帯が失業や減収などで生活に困窮する状況も、この基準新設を後押ししたことでしょう。
ひとり親向けシェアハウスの基準新設について国土交通省から出された通知(資料/国土交通省)
ひとり親向けシェアハウスの基準新設について国土交通省から出された通知(資料/国土交通省)
母子世帯の貧困と居住福祉について研究を深め、今回の基準新設においても尽力をし続けてきた追手門学院大学准教授の葛西リサさんは、「この基準ができるのには6年くらいかかったが、コロナ禍もあって昨年一気に実現へ向けて協議が進んだ」と言います。
「私がひとり親向けシェアハウスの研究に着手をしたのは、2008年ごろからです。ひとり親世帯は所得の低い世帯が多く、入居しやすい住宅を提供しようとすれば家賃を低めの価格帯に設定する必要があります。そのため、これまでひとり親世帯をサポートしたい、という想いを強く持ちながらも、採算が取れずに廃業・撤退したシェアハウスの運営者の方も多く見てきました」(葛西さん)
研究者としてこれまでひとり親向けシェアハウスの基準新設に尽力をしてきた追手門学院大学の葛西リサさん(写真撮影/唐松奈津子)
いち早く制度を活用したシェアハウスは?この“採算性が取れない”問題を解決し、想いを持つシェアハウス運営者の後押しをするために、「住宅セーフティネット制度にひとり親向けシェアハウスの基準を設けることが必要だった」と葛西さんは言います。
「自治体が制度を設けている地域の物件をセーフティネット専用住宅として登録すれば、オーナーさんが家賃低廉化や改修のための補助を得ることができます。特に家賃低廉化補助、つまりオーナーさんに支給される家賃補助にあたるものは、国と自治体の負担分をあわせると最大で月4万円。その分、賃料を下げることができるので、入居するひとり親世帯の負担が軽くなります」(葛西さん)
(写真/PIXTA)
実際にこの制度を導入した横浜市で、ひとり親向けのシェアハウスを営むYOROZUYAの小林剛さんは「セーフティネット住宅として登録しただけでも、問い合わせが増えた」と言います。
「ひとり親、特に母子世帯のなかには、DVなどの問題を抱えてまだ離婚ができていない人もいます。そのようなケースでは、一般の賃貸住宅では入居が難しいことが多いので、こちらに入居できないか、という相談が来るのです。
入居できる住まいを求めてインターネットでシェアハウスを検索するひとり親の中には、さまざまな公的なサポートの存在を知らない人も多くいます。結果的にうちの物件に入居にならなくても、ほかに活用できる制度について確認するよう話したり、ただ相談に乗ったりするだけでも不安が和らいだ、と言ってもらえることがたくさんあります」(小林さん)
今回、取材に協力してくれたYOROZUYAの小林剛さん。2020年10月にセーフティネット専用住宅としての登録が完了し、今年の3月に家賃低廉化補助金の受給が決まった(写真撮影/唐松奈津子)
自治体にとっても居住支援制度への導入がしやすくYOROZUYAが所在する神奈川県横浜市は、今回の基準新設よりも先駆けて、2019年からひとり親向けのシェアハウスの基準を独自で設けてきました。この背景について横浜市建築局の石津啓介さんと小島類さんに話を聞いたところ、実際にひとり親世帯向けシェアハウスの運営者などから「独自で基準を設けてくれないと、運営の実態と登録基準とが合っておらず、制度を活用できない」という要望が出ていたと言います。
「横浜市では、独自基準を設けるまでに市民の方々の声を拾うほか、他の自治体の事例調査やアンケート調査など、さまざまな調査・検討を行う必要がありました。今回、国が明確な基準を示したことによって、全国の地方自治体で制度を設けやすくなったことは間違いありません」(石津さん)
横浜市建築局住宅部住宅政策課の石津啓介さん(右)と小島類さん(左)(写真撮影/唐松奈津子)
横浜市では、2018年度からの4カ年計画の中で、2021年度末までに家賃補助付きセーフティネット住宅の供給目標として700戸を掲げていますが、まだ1割程度しか達成できていないそう。「空き家、空室に悩むオーナーさんにも積極的にこの制度を活用してほしい」と言います。
「オーナーさんが家賃低廉化の補助を受けるには、セーフティネット “専用住宅”として登録する必要があります。1棟物件を所有されている場合は、その中の1戸から専用住宅として登録することが可能です。セーフティネット住宅となったことで問い合わせが増えたという話も聞きますので、空き家や空室にお困りのオーナーさんには、一つの選択肢として検討していただきたいと思います」(小島さん)
住宅セーフティネット制度の活用を広げるためにこのように、オーナーさんが専用住宅とすることに不安を感じる以外にも、この制度の活用においては、まだ、さまざまな課題があるようです。小林さんは「まず、十分な周知がされているのかが心配」と不安を漏らします。
「私は全国ひとり親居住支援機構というNPOに所属しているので、この制度のことを知っていましたが、制度の存在自体を知らないオーナーさんも多いのではないでしょうか。
また、セーフティネット住宅に登録する手続きと家賃低廉化の補助を受けるための手続きが別で、申請先が異なることも私は登録後に気づきました。セーフティネット住宅に登録すれば、自動的に家賃低廉化の補助を受けられると思っていたのです。このような手続きの煩雑さも登録への障害になっているかもしれません」(小林さん)
小林さんが運営するシェアハウスYOROZUYA(写真提供/YOROZUYA)
家賃は6万円~8.95万円だが、家賃低廉化補助の4万円を活用すれば、2万円~4.95万円で入居できる(写真提供/YOROZUYA)
加えて、制度の運用は各地方自治体によって異なるため、セーフティネット住宅に登録しても、家賃低廉化補助の制度がない自治体もあるそうです。
「シェアハウスの運営事業者にとっては、家賃補助がなければ物件登録のメリットは感じづらくなります。コロナ対策などでの自治体の財政難も理解できますが、コロナの影響を受けた人へのサポートとしても、また空き家や子どもの貧困などの社会問題解決のためにも、セーフティネット住宅の拡大は重要です。
その一つとして、これらの問題解決に有効なひとり親向けシェアハウス普及へ向け、各自治体には家賃補助付きでの制度設計を積極的に行ってほしいと願います」(葛西さん)
これからのひとり親の住まいにはどんな選択肢が?横浜市では、現在、約8000戸のセーフティネット住宅が登録されていますが、その中で家賃低廉化の補助を受けられるひとり親向けのシェアハウスはわずか10戸だと言います(2021年6月20日現在)。今回の基準新設により、ひとり親向けシェアハウスをはじめとするセーフティネット専用住宅の登録が増えれば、一般賃貸住宅や公営住宅とあわせて、住宅の確保が難しい人にとって有効な住まいの選択肢の一つとなりうることでしょう。
住宅セーフティネット制度に登録されている住宅は、国土交通省の運営する「セーフティネット住宅情報提供システム」のサイトから探すことができます。また、入居を検討している人の相談に乗り、入居の支援をしてくれる窓口として各地方自治体には「居住支援協議会」の設置や「居住支援法人」の登録がなされています。
新たな住宅セーフティネット制度の3つの柱(資料/国土交通省)
今回取材した皆さんが声をそろえて言うように、困っているときには、これらの窓口に相談しながら、サポートが受けられる制度を活用したいものです。また、このような取り組みを多くの人に知ってもらい、困っている人がいたときには「こんな制度があるから相談してみたら」と声をかけられるといいですね。
●参考
・ひとり親世帯向けシェアハウスの基準を新設/国土交通省
登録住宅について:セーフティネット住宅情報提供システム
住宅確保要配慮者居住支援法人について:国土交通省
●取材協力
・追手門学院大学 地域創造学部 准教授 葛西リサさん
・シェアハウス YOROZUYA
・横浜市 建築局住宅部 住宅政策課「家賃補助付きセーフティネット住宅」