
23万円 / 84.96平米
京王新線「幡ヶ谷」駅 徒歩7分
【無料駐車場付き】日当たりがよくない部屋が見当たりません。しかも空と緑も見える。気持ちいい三拍子がどの部屋にも揃っています。
ゆったりとしたリビングはもちろん、北側の部屋も日の光が入って、仕事場・書斎にしてもよさそうです。
キッチンもL字で大きくて使いやすそうだし、ほかの水ま ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
採れたて野菜を畑のすぐそばで購入できる野菜の直販サービス「Vege House」。始めたのは、小金井市の阪本農園の阪本さんはじめ幼馴染3人組。お客さんはLINEで注文しておいた野菜を農園でピックアップできる。24時間以内に収穫された新鮮な野菜が手に入るのが魅力で、まさに地産地消のサービスだ。
採れた野菜を、なるべく近所の方に食べてもらいたい近所に畑があっても、そこで直接野菜を買えるわけじゃない。ああ立派なピーマンだな、里芋だなと気になっても、野菜はスーパーで買うのがあたりまえの社会に私たちは生きている。収穫された野菜は市場に出され、流通にのってまた地元のスーパーに並ぶ。その間、収穫からゆうに4~5日が経ってしまう。
「せっかく住宅街のそばで新鮮な野菜を収穫しているのに、直接お客さんに届けられないのはもったいないと思ったんです。採れた野菜を、なるべく近所の方に食べてもらいたい」と、農園のすぐそばで野菜を売り始めた人たちがいる。同級生3人組、阪本大悟さん、佐藤友樹さん、小嶋英郎さんによる野菜の直販サービス「Vege House」だ。
野菜は新鮮であるほどおいしい。畑のそばで買えるのであれば、それだけで嬉しいサービスになるはずだ。詳しい話を聞きに、新小金井にある阪本農園に向かった。
(写真撮影/甲斐かおり)
住宅街の中に広がる農園西武多摩川線の新小金井駅から徒歩8分。コンビニエンスストアの脇の道を入っていくと、阪本農園の畑が見えてくる。周囲はまさに住宅街。1ヘクタールほどの畑が広がり、ハウスも10ほど並んでいる。阪本大悟さんが迎えてくれた。
Vege Houseの阪本大悟さん(写真撮影/甲斐かおり)
阪本農園は、この土地に350年も続いてきた農家。大悟さんのお父さんの啓一さんは早い時期から有機農法に取り組んできた熱心な農家だ。
主にサラダ野菜を5種類、スイスチャード、ルッコラ、サラダホウレンソウなどを栽培して、大手宅配サイトや飲食店に野菜を卸している。お母さんやお兄さんも一緒に働く家族経営で、ナスやキュウリ、ネギなどの一般的な野菜もつくっている。
(写真撮影/甲斐かおり)
「Vege House」は、そんな阪本農園の野菜と、近隣の農家の野菜をご近所さんに直販するサービスだ。
しくみはこう。ほぼ毎日、阪本さんたちはインスタグラムやLINEで、登録者向けに販売できる野菜をお知らせする。お客さんは受取の2日前までにほしい野菜をLINEで注文。注文受けた野菜を阪本さんたちは収穫して、受取時間までに用意しておく。お客さんは農園に直接取りにくるか、もしくは配送料300円を支払って届けてもらうことができる(配達範囲は主に小金井市と武蔵野市の一部)。
「配送するより、取りに来てくださるお客さんの方が圧倒的に多いです。なので本当にご近所さん向けのサービスといった感じですね。いま登録数は600ほどですが、1日に取りに来られるのは多いときで20人くらい、少ない日は2人なんて時もあります」
基本、平日の9時半~13時、13~20時は毎日受取可能。買い物や仕事帰り、保育園の送り迎えついでにピックアップする人が多い。しかも注文を受けてから収穫するため、24時間以内に採れた野菜が食べられるのが、最大の嬉しいポイントだ。
Vege Houseのinstagram
「採れたての野菜ってこんなにうまいのか」Vege Houseは昨年(2020年)の5月、阪本さんと子どものころから仲の良かった同級生、佐藤さん、小嶋さんと3人で始めた。当時はみなまだ大学生だった。
なぜこのサービスを始めることになったのだろう?
「僕は卒業したら農業を手伝うことを決めていました。うちの野菜の9割はずっと大地を守る会(現「オイシックスラ・大地」)に卸しているんです。なのでコロナ禍の影響はほとんどありませんでした。でも売り先が一つしかないのは不安だなと思うようになったんです。自然災害も増えているし、売り先はいくつかある方がいいのではと」
そこで通販プラットフォームを使って、オンラインでの販売を始めてみた。ところがそれほど数が出るわけでもなく、顔の見えないお客さんに野菜を送る仕事は面白く感じられなかった。
せっかく新しいことをやるなら、もっと面白いことができないかと、2人の友人に相談した。
「帰りにお土産にキュウリを渡したんです。それをかじった小嶋が『何これ!こんなうまいキュウリ、初めて食べた』って。採れたての野菜ってこんなにうまいのかって言うんです。野菜はスーパーで買うのが当たり前だと思っているから、東京でこんなおいしい野菜が食べられるってみんな知らないよねって話になって。だったら地元の人たちにアピールしてみたらどうだろうって」
友人2人が興味をもったことで、Vege Houseの構想が生まれた。ご近所さんが野菜を通じて農家や畑を身近に感じるようになる。そこに生まれるささやかな地域コミュニティ。そんな像をめざしてVege Houseは始まった。
その後3人とも大学を卒業し、佐藤さんと小嶋さんは会社員に。以前に比べると忙しくなり、毎日携わるのは難しくなったが、家も近いため月に2~3回は必ず3人で集まり相談し合っているという。
左から佐藤さん、阪本さん、小嶋さん(写真提供/Vege House)
農園が身近な場所になっていくオンラインでの広がりでお客さんは徐々に増えているが、お客さんというより友だちが増えていく感覚に近いと阪本さんはいう。子育て中の若いお母さんや働く主婦、年配者などさまざま。
「家族連れで取りに来られる方もいます。小さなお子さんが、公園公園っていう感覚で『のうえんのうえん』って言ってくれるらしくて。農園行こうねって。そう聞くとほんとに嬉しいんですよね」
子どもにとっては、スーパーに並ぶ野菜だけでなく、食べものの育つ現場を知る、いい機会なのかもしれないと思う。
だが農作業の合間に野菜を渡したり、配達にまわるのは負担ではないのだろうか。
「だいぶ慣れました。ただやっぱり、家族の理解は大きい。畑で作業していてもお客さんが受取にくる15分前には携帯のバイブが鳴るようにしていて、『行ってくるわ』っていうと『行ってらっしゃい』って言ってくれるので」
畑も受け渡し場所も同じ敷地内なので、それほど時間はかからない。ただし、お客さんの都合で受取時間が変わるなど、手間も多いだろう。
「そうですね。でも僕にとっては友だちみたいな感覚なので。ほぼ名前も覚えているし。『子どものお迎えを先に行ってきてもいいですか』と連絡がきて『はいじゃあ3時半にお待ちしますね』って感じのやり取りです。そのぶん野菜が美味しかったとか、ほかではもう買えないっていうような言葉をいただいて。その方がすごく嬉しい」
野菜の収穫体験をお客さんにプレゼントしたこともある。1000円以上買っていただいた方に、大根を1本直接畑から抜いてくださいというサービス。お客さんにとっては新鮮な遊びや体験になる。
そうしてどんどん近くの畑や農家が身近な存在になっていく。
(写真提供/Vege House)
仕入れ先もご近所さんVege Houseでは阪本農園だけでなく、近所の農家の野菜も合わせて販売している。各農家も注文に応じて収穫。それを阪本さんが毎朝集荷にまわる。
「車で10分かからないところばかりなので。例えば荻原農園さんに9時に仕入れにいって、ほかいくつかまわっても9時半にはうちに戻れます」
値段は各農家が決めるため、同じナスでもA農家とB農家で値段は違っていたりする。それはお客さんが選んでくれればいい。Vege Houseで多少の手数料を取っているが、値段は良心的。買う側からしても新鮮な野菜が安価に手に入る。
(写真撮影/甲斐かおり)
新しいお客さんを獲得するための、ゲリラ販売も8月中旬の土曜日には、ゲリラ販売が行われた。「インスタを見てはいるけどまだ試したことがない」という人たちに来てほしいと行われたイベントだった。
農作業の後、ということで開始は16時半。時間になると、農園の前にぞくぞくと人が集まり始めた。
軽トラックの荷台に野菜を広げて販売する。若い夫婦や、子ども連れのお母さん、年配者など20人ほどが列をつくった。
次々に野菜を手にするお客さんたち。阪本さんたちは必死で計算する(写真撮影/甲斐かおり)
阪本農園と近隣の農家で採れた旬の野菜が並ぶ(写真撮影/甲斐かおり)
「ホウレンソウくださ~い」という子どもの声。「じゃあまた~」と笑顔で帰るお年寄り。そのたびに阪本さんは「ありがとうございます、またお願いします!」「とれたて野菜、楽しんでくださいね」と言葉を返す。
野菜がどんどん売れていく。これほどお客さんが訪れるとは思っていなかったそうだ。
30分もしないうちに野菜はほぼなくなり、わずか1時間ほどで完売。
この日は佐藤さん、小嶋さんに代わり、同じく同級生の赤村陽太郎さんが助っ人として参加。(写真撮影/甲斐かおり)
この日訪れたお客さんの半分は、新規のお客だったそう。ほとんどがご近所さん。「その日の気分で買うので、なかなか数日前の予約は難しくて」と話すお客さんもいた。毎日、ここで販売する予定はないのだろうか。
「やっぱり予約して買っていただきたいんですよね。いつでも買えると八百屋と変わらなくなってしまう。欲しいから事前に頼む。お抱え農家みたいになりたいといいますか」
「売り手と買い手」である前に、「つくり手と買い手」の関係性が先にある。お客さんから見れば、阪本さんはあくまで“農家さん”。だからいい。それが違いかもしれない。
食べることはもっとも身近な行為。行きつけの美容院や飲食店と同じように、生活圏に“いつもの農家さん”がいるのは、安心で嬉しいことのように思う。
「自分の暮らす身近に農家があるといいですよね。都会にこそ、本当は農地が増えてほしい」
Vege Houseで扱う野菜はとくにオーガニックに限っているわけではないため価格も控えめ。「ただ新鮮でおいしい」に特化した直販サービスは珍しいかもしれない。
“お客以上友だち未満”の距離感で野菜を販売してくれるVege Houseのようなサービスが増えれば、畑や農業がもっと身近になるだろう。
●取材協力
Vege House
instagram:@vege_house_
採れたて野菜を畑のすぐそばで購入できる野菜の直販サービス「Vege House」。始めたのは、小金井市の阪本農園の阪本さんはじめ幼馴染3人組。お客さんはLINEで注文しておいた野菜を農園でピックアップできる。24時間以内に収穫された新鮮な野菜が手に入るのが魅力で、まさに地産地消のサービスだ。
採れた野菜を、なるべく近所の方に食べてもらいたい近所に畑があっても、そこで直接野菜を買えるわけじゃない。ああ立派なピーマンだな、里芋だなと気になっても、野菜はスーパーで買うのがあたりまえの社会に私たちは生きている。収穫された野菜は市場に出され、流通にのってまた地元のスーパーに並ぶ。その間、収穫からゆうに4~5日が経ってしまう。
「せっかく住宅街のそばで新鮮な野菜を収穫しているのに、直接お客さんに届けられないのはもったいないと思ったんです。採れた野菜を、なるべく近所の方に食べてもらいたい」と、農園のすぐそばで野菜を売り始めた人たちがいる。同級生3人組、阪本大悟さん、佐藤友樹さん、小嶋英郎さんによる野菜の直販サービス「Vege House」だ。
野菜は新鮮であるほどおいしい。畑のそばで買えるのであれば、それだけで嬉しいサービスになるはずだ。詳しい話を聞きに、新小金井にある阪本農園に向かった。
(写真撮影/甲斐かおり)
住宅街の中に広がる農園西武多摩川線の新小金井駅から徒歩8分。コンビニエンスストアの脇の道を入っていくと、阪本農園の畑が見えてくる。周囲はまさに住宅街。1ヘクタールほどの畑が広がり、ハウスも10ほど並んでいる。阪本大悟さんが迎えてくれた。
Vege Houseの阪本大悟さん(写真撮影/甲斐かおり)
阪本農園は、この土地に350年も続いてきた農家。大悟さんのお父さんの啓一さんは早い時期から有機農法に取り組んできた熱心な農家だ。
主にサラダ野菜を5種類、スイスチャード、ルッコラ、サラダホウレンソウなどを栽培して、大手宅配サイトや飲食店に野菜を卸している。お母さんやお兄さんも一緒に働く家族経営で、ナスやキュウリ、ネギなどの一般的な野菜もつくっている。
(写真撮影/甲斐かおり)
「Vege House」は、そんな阪本農園の野菜と、近隣の農家の野菜をご近所さんに直販するサービスだ。
しくみはこう。ほぼ毎日、阪本さんたちはインスタグラムやLINEで、登録者向けに販売できる野菜をお知らせする。お客さんは受取の2日前までにほしい野菜をLINEで注文。注文受けた野菜を阪本さんたちは収穫して、受取時間までに用意しておく。お客さんは農園に直接取りにくるか、もしくは配送料300円を支払って届けてもらうことができる(配達範囲は主に小金井市と武蔵野市の一部)。
「配送するより、取りに来てくださるお客さんの方が圧倒的に多いです。なので本当にご近所さん向けのサービスといった感じですね。いま登録数は600ほどですが、1日に取りに来られるのは多いときで20人くらい、少ない日は2人なんて時もあります」
基本、平日の9時半~13時、13~20時は毎日受取可能。買い物や仕事帰り、保育園の送り迎えついでにピックアップする人が多い。しかも注文を受けてから収穫するため、24時間以内に採れた野菜が食べられるのが、最大の嬉しいポイントだ。
Vege Houseのinstagram
「採れたての野菜ってこんなにうまいのか」Vege Houseは昨年(2020年)の5月、阪本さんと子どものころから仲の良かった同級生、佐藤さん、小嶋さんと3人で始めた。当時はみなまだ大学生だった。
なぜこのサービスを始めることになったのだろう?
「僕は卒業したら農業を手伝うことを決めていました。うちの野菜の9割はずっと大地を守る会(現「オイシックスラ・大地」)に卸しているんです。なのでコロナ禍の影響はほとんどありませんでした。でも売り先が一つしかないのは不安だなと思うようになったんです。自然災害も増えているし、売り先はいくつかある方がいいのではと」
そこで通販プラットフォームを使って、オンラインでの販売を始めてみた。ところがそれほど数が出るわけでもなく、顔の見えないお客さんに野菜を送る仕事は面白く感じられなかった。
せっかく新しいことをやるなら、もっと面白いことができないかと、2人の友人に相談した。
「帰りにお土産にキュウリを渡したんです。それをかじった小嶋が『何これ!こんなうまいキュウリ、初めて食べた』って。採れたての野菜ってこんなにうまいのかって言うんです。野菜はスーパーで買うのが当たり前だと思っているから、東京でこんなおいしい野菜が食べられるってみんな知らないよねって話になって。だったら地元の人たちにアピールしてみたらどうだろうって」
友人2人が興味をもったことで、Vege Houseの構想が生まれた。ご近所さんが野菜を通じて農家や畑を身近に感じるようになる。そこに生まれるささやかな地域コミュニティ。そんな像をめざしてVege Houseは始まった。
その後3人とも大学を卒業し、佐藤さんと小嶋さんは会社員に。以前に比べると忙しくなり、毎日携わるのは難しくなったが、家も近いため月に2~3回は必ず3人で集まり相談し合っているという。
左から佐藤さん、阪本さん、小嶋さん(写真提供/Vege House)
農園が身近な場所になっていくオンラインでの広がりでお客さんは徐々に増えているが、お客さんというより友だちが増えていく感覚に近いと阪本さんはいう。子育て中の若いお母さんや働く主婦、年配者などさまざま。
「家族連れで取りに来られる方もいます。小さなお子さんが、公園公園っていう感覚で『のうえんのうえん』って言ってくれるらしくて。農園行こうねって。そう聞くとほんとに嬉しいんですよね」
子どもにとっては、スーパーに並ぶ野菜だけでなく、食べものの育つ現場を知る、いい機会なのかもしれないと思う。
だが農作業の合間に野菜を渡したり、配達にまわるのは負担ではないのだろうか。
「だいぶ慣れました。ただやっぱり、家族の理解は大きい。畑で作業していてもお客さんが受取にくる15分前には携帯のバイブが鳴るようにしていて、『行ってくるわ』っていうと『行ってらっしゃい』って言ってくれるので」
畑も受け渡し場所も同じ敷地内なので、それほど時間はかからない。ただし、お客さんの都合で受取時間が変わるなど、手間も多いだろう。
「そうですね。でも僕にとっては友だちみたいな感覚なので。ほぼ名前も覚えているし。『子どものお迎えを先に行ってきてもいいですか』と連絡がきて『はいじゃあ3時半にお待ちしますね』って感じのやり取りです。そのぶん野菜が美味しかったとか、ほかではもう買えないっていうような言葉をいただいて。その方がすごく嬉しい」
野菜の収穫体験をお客さんにプレゼントしたこともある。1000円以上買っていただいた方に、大根を1本直接畑から抜いてくださいというサービス。お客さんにとっては新鮮な遊びや体験になる。
そうしてどんどん近くの畑や農家が身近な存在になっていく。
(写真提供/Vege House)
仕入れ先もご近所さんVege Houseでは阪本農園だけでなく、近所の農家の野菜も合わせて販売している。各農家も注文に応じて収穫。それを阪本さんが毎朝集荷にまわる。
「車で10分かからないところばかりなので。例えば荻原農園さんに9時に仕入れにいって、ほかいくつかまわっても9時半にはうちに戻れます」
値段は各農家が決めるため、同じナスでもA農家とB農家で値段は違っていたりする。それはお客さんが選んでくれればいい。Vege Houseで多少の手数料を取っているが、値段は良心的。買う側からしても新鮮な野菜が安価に手に入る。
(写真撮影/甲斐かおり)
新しいお客さんを獲得するための、ゲリラ販売も8月中旬の土曜日には、ゲリラ販売が行われた。「インスタを見てはいるけどまだ試したことがない」という人たちに来てほしいと行われたイベントだった。
農作業の後、ということで開始は16時半。時間になると、農園の前にぞくぞくと人が集まり始めた。
軽トラックの荷台に野菜を広げて販売する。若い夫婦や、子ども連れのお母さん、年配者など20人ほどが列をつくった。
次々に野菜を手にするお客さんたち。阪本さんたちは必死で計算する(写真撮影/甲斐かおり)
阪本農園と近隣の農家で採れた旬の野菜が並ぶ(写真撮影/甲斐かおり)
「ホウレンソウくださ~い」という子どもの声。「じゃあまた~」と笑顔で帰るお年寄り。そのたびに阪本さんは「ありがとうございます、またお願いします!」「とれたて野菜、楽しんでくださいね」と言葉を返す。
野菜がどんどん売れていく。これほどお客さんが訪れるとは思っていなかったそうだ。
30分もしないうちに野菜はほぼなくなり、わずか1時間ほどで完売。
この日は佐藤さん、小嶋さんに代わり、同じく同級生の赤村陽太郎さんが助っ人として参加。(写真撮影/甲斐かおり)
この日訪れたお客さんの半分は、新規のお客だったそう。ほとんどがご近所さん。「その日の気分で買うので、なかなか数日前の予約は難しくて」と話すお客さんもいた。毎日、ここで販売する予定はないのだろうか。
「やっぱり予約して買っていただきたいんですよね。いつでも買えると八百屋と変わらなくなってしまう。欲しいから事前に頼む。お抱え農家みたいになりたいといいますか」
「売り手と買い手」である前に、「つくり手と買い手」の関係性が先にある。お客さんから見れば、阪本さんはあくまで“農家さん”。だからいい。それが違いかもしれない。
食べることはもっとも身近な行為。行きつけの美容院や飲食店と同じように、生活圏に“いつもの農家さん”がいるのは、安心で嬉しいことのように思う。
「自分の暮らす身近に農家があるといいですよね。都会にこそ、本当は農地が増えてほしい」
Vege Houseで扱う野菜はとくにオーガニックに限っているわけではないため価格も控えめ。「ただ新鮮でおいしい」に特化した直販サービスは珍しいかもしれない。
“お客以上友だち未満”の距離感で野菜を販売してくれるVege Houseのようなサービスが増えれば、畑や農業がもっと身近になるだろう。
●取材協力
Vege House
instagram:@vege_house_
部屋探しの大きなポイントといえば交通の便の良さ。首都・東京の玄関口であり、日本を代表するターミナル駅である東京駅へ電車で30分以内に到着するシングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)を対象にした最新の家賃相場ランキングとともに、穴場の駅を見ていこう。
東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅TOP10駅順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間(乗り換え時間・駅から駅への徒歩移動時間を含む)/乗り換え回数)
1位 南船橋 5.30万円(JR京葉線など/千葉県船橋市/29分/0回)
2位 戸田公園 6.10万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/30分/1回)
2位 蕨 6.10万円(JR京浜東北線/埼玉県蕨市/29分/1回)
4位 東船橋 6.18万円(JR総武線/千葉県船橋市/30分/1回)
5位 松戸 6.20万円(JR常磐線・新京成線/千葉県松戸市/27分/0回)
6位 一之江 6.30万円(都営新宿線/東京都江戸川区/27分/1回)
6位 津田沼 6.30万円(JR総武線/千葉県習志野市/30分/0回)
8位 梅島 6.40万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1)
9位 足立小台 6.45万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/27分/1回)
10位 下総中山 6.50万円(JR総武線/千葉県船橋市/27分/1回)
10位 五反野 6.50万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
10位 新浦安 6.50万円(JR京葉線/千葉県浦安市/20分/0回)
10位 瑞江 6.50万円(都営新宿線/東京都江戸川区/30分/1回)
10位 舞浜 6.50万円(JR京葉線/千葉県浦安市/16分/0回)
10位 西新井 6.50万円(東武伊勢崎線・大師線/東京都足立区/27分/1回)
上位5位には、JR各線の駅がランクインしていた。1位の南船橋駅は、京葉線の快速停車駅で、東京駅まで乗り換えなく利用できる。
ららぽーとTOKYO-BAY(写真/PIXTA)
大型商業施設の「ららぽーとTOKYO-BAY」や、スウェーデン発の人気家具店IKEAの日本1号店「IKEA Tokyo-Bay」などがあり、商業施設が充実している。IKEA Tokyo-Bay がある場所には、かつてバブル経済を象徴した屋内スキー場があり、レジャーを楽しめる地域であったが、2020年末に新しく、国際スケート連盟基準を満たしたアイススケートリンク「三井不動産アイスパーク船橋」がオープンした。アスリート育成とともに、生涯スポーツとしてもフィギュアスケートに親しめるよう、地域住民へ向けた優待チケットの配布なども計画されている。また、南船橋駅の所在地である船橋市を拠点にする男子プロバスケットボールBリーグの「千葉ジェッツふなばし」のホームアリーナも建設が検討されており、スポーツをフックにした魅力的な街づくりが進められている。
昨年の同ランキングでは上位3位は千葉県にある駅だったが、今回は2位に埼玉県戸田市の戸田公園駅、同蕨市の蕨駅と、埼玉県の駅が同率ランクインした。
戸田公園駅(写真/PIXTA)
戸田公園駅の周辺は、ファミリー層が多い閑静な住宅地。目立つ商業施設などはないが、JR埼京線の快速停車駅で新宿駅へ約20分、池袋駅や大宮駅へ約15分と、東京駅以外へも大きな繁華街へのアクセスが良いことが魅力だ。あちこちへ便利に遊びに行きたいけれど住む所は落ち着いた場所で、と考えるなら選択肢に入れておきたい。
蕨駅のある蕨市は面積が約500万平米と、日本で一番、市としては小さく、かつ人口密度の高い市として知られている。その特性を活かして、市役所などの公共機関や病院、買い物など都市機能を集約させたコンパクトシティの体現を掲げており、“効率的”な生活を送ることができそうだ。
蕨駅前(写真/PIXTA)
また近年は、クルド人など外国人の住民が増えており、他地域では見かけないような珍しい外国の食材などが買えるお店もある。そうした人たちの郷土料理教室が開かれたり、お祭りが行われたりするなど、ダイバーシティも体感できる街でもある。
東武伊勢崎線の沿線、西新井や梅島は買い物も便利東京都内で最上位にランクインしたのは、6位の一之江駅。駅周辺は新しいマンションが目立ち、落ち着いた印象を受ける住宅街だ。近くには深夜0時まで営業しているスーパーもある。
一之江駅(写真/PIXTA)
環七通りや新大橋通りなどの幹線道路が近いため、車での遠出が多い人にとっては便利そう。駅前のバス停からは、成田空港や羽田空港、また東京ディズニーリゾートへのバスも発着している。遠くへの出張が多いビジネスパーソンにも心強そうだ。
8位以下は昨年からの入れ替えが激しく、新浦安駅以外は“新顔”だった。8位の梅島駅は東武伊勢崎線の沿線駅。東武伊勢崎線は東京メトロの日比谷線や半蔵門線と連絡しているため、渋谷駅などにも乗り換えなしで行くことができる。
梅島駅の周辺は、下町情緒の残る住宅街が広がる。駅前にはスーパーもあるが、駅周辺に広がる「梅島駅前通り商店街」には人情味あふれる個人店舗も。また少し行けば家電量販店などが入った商業施設や、早朝5時まで営業している「MEGAドン・キホーテ環七梅島店」などもあるため、目的にあわせた買い物場所も不自由することはなさそうだ。
10位の西新井駅は梅島駅と同じく東武伊勢崎線の沿線駅だが、急行や区間急行などすべての列車の停車駅だ。そのため周辺は、駅ビルから家電量販店の入った大型商業施設まで買い物環境が充実している。
駅西口は再開発計画が立てられ、広場と駅ビルの一体的な整備などが計画されている。その便利さもあってにぎやかな街の印象を受けるが、駅から少し行けば、厄除け祈願で知られる真言宗豊山派の寺院「西新井大師」がある。西新井大師は、真言宗の開祖である弘法大師(空海)が流行する悪病の平癒を祈願したことが由来の寺院で、、緑あふれる境内は、懐かしさと落ち着きを街に添えている。
は都内、千葉と、埼玉をと各方面がまんべんなくランクインしているが、今回は千葉県方面の駅がやや優勢な印象だった。どんな暮らしをしたいのかを考えてみると、ぴったりな街が見つかるはずだ。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/5~2021/7
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2021年8月31日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
65歳からの部屋探しを支援するR65不動産が、全国の65歳以上を対象に「孤独死に関する意識調査」を実施した。「孤独死」は大きな社会問題になっているが、同時に、事故物件扱いとなって貸しづらくなるという賃貸住宅業界の課題でもある。詳しく説明していこう。
【今週の住活トピック】
「65歳以上の孤独死に関する意識調査」を公表/R65
筆者は当サイトで、「65歳以上の“入居拒否”4人に1人。知られざる賃貸の「高齢者差別」」
という記事を執筆したが、高齢期になると賃貸住宅を借りづらくなるという実態がある。
高齢期になると賃貸住宅への入居を断られる事例が多くなるのは、主に次のような要因による。
(1)入居中に何かあったときに駆けつけて対応してくれる、連帯保証人や緊急連絡先が必要
(2)入居中に認知症などで判断力が低下したときにトラブルが起きる可能性
(3)孤独死などが起きたとき、賃借権の解消や残置物の処理に手間がかかり、次の入居に支障が出る
(1)や(2)は貸主(大家)側の工夫や頑張りで解消する部分もあるが、(3)の孤独死などが起きると、一定期間は次の入居者募集ができず、また、次の入居が遅れれば想定している賃貸収入が得られないという、賃貸経営上の問題が生じる点で最もやっかいだ。
高齢者の意識「孤独死はやむを得ないが、長期的に放置されることを強く懸念」その孤独死について、R65不動産が調査を実施したところ、驚くような結果が出た。
65歳以上に「孤独死の危険がある出来事(病気・災害・事故等)が起こってしまった場合、どちらを強く懸念するか」と聞いて、次の3択を提示した。
「生きている間に見つけてもらえないこと」
「長期的に遺体が放置されてしまうこと」
「どちらとも言えない」
この問いへの回答は、「生きている間に見つけてもらえないこと」が25.1%だったのに対し、「長期的に遺体が放置されてしまうこと」は41.1%と約1.6倍も多かった。特に単身高齢者の場合は、「長期的に遺体が放置されてしまうこと」を懸念する人が46.7%にも達した。
R65不動産「65歳以上の孤独死に関する意識調査」より転載
また、孤独死に関して以下をどう考えるかを聞くと、
「未然に防ぐことが難しいためやむを得ないと思う」58.8%(とても思う15.5%+まあ思う43.3%)
「たとえ何が起きてもすでに覚悟を決めている」51.8%(とても思う14.2%+まあ思う37.6%)
となり、孤独死はやむを得ないもので、覚悟を決めているという人が半数以上であることが分かる。
実は不動産業界では、賃貸借契約の際に孤独死があったことを告知すべきかどうかの議論がされていた。というのも、宅地建物取引業法では、「宅地建物業者(以下、宅建業者)は契約の判断に影響を及ぼすような重要な事実を告知する義務がある」と定めている。
告知すべき内容には、借りようとする部屋で自殺や他殺などの事件があったり、近くに暴力団事務所があったりなど、そこに住む人が嫌悪感をもつような「心理的瑕疵(かし=欠陥や傷)も含まれる。この心理的瑕疵に孤独死も該当するのかどうかが不明確で、宅建業者によって告知する範囲が異なるといった事態が起きていたからだ。
2021年10月8日に国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し、公表した。分かりやすくいうと、次のような原則が提示されたことになる。
・売買・賃貸ともに、孤独死を含む自然死や不慮の死などの場合は告知不要
・賃貸の契約で、自殺や他殺などの場合、特殊清掃等が行われた場合でも3年程度経過したら告知不要
・売買・賃貸ともに、隣接する住戸や通常使用しない集合住宅の共用部分(※)は告知の対象外
(※)該当住戸のベランダや通常使用する玄関・エレベーター等は告知の対象
ただし、近隣の人によく知られた大きな事件になったような場合は告知すべきとしているほか、契約するかどうかの判断に重要な影響を及ぼす場合も告知すべきとしている。気になる人は、人の死に関する出来事がないかを宅建業者に確認するとよいだろう。
なお、特殊清掃等とは、遺体が長期間放置されたことで臭気や部屋の損傷が激しいときに清掃やリフォームをすることを指す。特殊清掃等が行われてから3年経過していない住戸は、判断に重要な影響を及ぼす場合に該当する可能性が高いとしている。
こうしたガイドラインができたことで、孤独死=事故物件扱いとなって価格や賃料を下げざるを得ない、といったことを避けられるメリットがある。
加えて、孤独死などによる残置物の処理についても、国土交通省が2021年6月に、賃貸借契約の解除や残置物の処理を内容とした死後事務委任契約に関する「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を定めており、高齢者が賃貸住宅を借りづらいという環境をつくらないよう努めている。
超高齢化社会を早期に迎える日本では、単身の高齢者が増加するとみられており、孤独死はより身近な問題となるだろう。筆者などは、生きている間に助かるよう支援してほしいと思うほうなので、死後の長期放置を懸念する人が多いことに驚いた。このように、孤独死の覚悟を決めている高齢者が多いことを、若い世代にも共有してもらいたい。
「65歳以上の孤独死に関する意識調査」/R65不動産
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」の策定/国土交通省
「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)」の策定/国土交通省
少子高齢化をはじめとする社会の変化は、不動産業界に変化をもたらし、新たなサービスを打ち出す企業も出てきました。
不動産の分譲・賃貸・仲介を手がける小田急不動産株式会社は、生活支援サービス(いわゆる便利屋さん業)をチェーン展開するベンリーコーポレーションとフランチャイズ契約を交わし、2017年に、ベンリー小田急鶴川店(東京都町田市)を設立、生活支援サービスに乗り出しました。開業から4年が経った今、まちの変化や課題などを振り返ります。
小田急不動産が生活支援サービス(以下ベンリー事業)に乗り出したのは、仲介やリフォームの商機を増やすフックにすることと、住宅を販売し、アフターサービスを終了した後も顧客との接点を得られるというメリットを考えてのことでしたが、当初想定していなかった、地域の高齢化によって生じた新たな課題も見つかりました。
60年近くにわたり、小田急沿線を中心に26,000戸以上の住宅を供給するなかで、沿線の65歳以上の世帯は全体の10%以上(男性10.9%、女性13.0%)と、少子高齢化、共働き世帯の増加が進んでいることが課題になっていました。
(写真/PIXTA)
住宅営業に25年以上携わった後、小田急沿線ベンリー事業を運営管理する生活サポートグループのグループリーダーになった望月直美さんは、ベンリー事業を通して気付いた街の変化をこう話します。
「一つは家族形態、家族観の変化です。例えば30年前、お子さまも含めた4、5人家族のお客さまが住宅購入をするとき、将来、お子さまの誰かがこの家に戻って同居し、老後の自分たちの面倒をみるだろうと想定していました。ところが今見ると、誰も戻っていません。そうなると、家の手入れや庭仕事などでもご夫婦だけではできないことが増えてきます」
30年ほど前の家族観は今とかなり違います。これは団塊の世代を見るとよくわかります。この世代は兄弟姉妹が多く、地方出身者の比率も高いのが特徴で、いわゆる跡取り(ほとんどは長男)が親と同居し、面倒をみるのは普通のことでした。大都市圏に出て家庭をつくり、住宅を持ったのは二男以降の子供たちでしたが、彼らもこの文化の中で育ちましたから、将来、自分の子供の誰かが同居して老後の面倒をみるだろう、少なくとも近居して助けてくれるだろう、と漠然と考えていました。こうした家族観は薄まりながらも今の60代くらいまで引き継がれています。
前提条件も違いました。「当時のお客様の妻はほとんどが専業主婦。また充実した介護施設のある今と違い、『老人ホーム』と言えば、身寄りのない人の行く場所、というイメージがあった時代です」(望月さん)。もちろん介護保険もありません。
そのすべてがこの30年で変わった結果、当時、住宅を購入した人々は今、“子供の助けなしに長い老後生活を過ごす”という想定外の状況にいるわけです。
もう一つは、同じ住宅でも、高齢化によって、若い時には気にもかけなかった点が課題になることです。「階段の昇降が大変、小さな段差が危険、といったことが起きてきます。長く住宅を販売してきた私にとっても、老いと住宅の関係はかなりの衝撃でした」
生活支援サービスを提供する企業は数多くありますが、サービスメニューが特定分野に偏らず、豊富であること、従業員教育が充実しているベンリーコーポレーション(以下ベンリー)との提携を決めたといいます(写真提供/小田急不動産)
現在、ベンリー小田急鶴川店(以下小田急鶴川店)では、小田急不動産の分譲住宅に限らず、地元のニーズに応えています。小田急不動産によると、おおまかに言えば約8割は小田急不動産の分譲住宅エリア以外からの依頼とのことです。
お知らせも手描きで温かみがある(写真提供/小田急不動産)
(写真提供/小田急不動産)
1カ月あたり180件ほどの依頼があり、計10名のスタッフで対応しています。(※要チェック2)
店長を務める松浦一彦さんは、もともとリフォーム営業をしていましたが、ベンリー事業をはじめるにあたって、2カ月合田にわたるベンリーの宿泊研修を受け、技術面や、サービスにおける心得や接遇マナーといった面を学んだといいます。「その先は場数を踏むことでスキルを上げていきました。この4年間で修繕や故障対応など多くの仕事を単独でできるようになりました。プロの職人さんの協力、知識も得て、根本原因を突き止められるようになったことが大きいと思います」(松浦さん)
松浦さんは第二種電気工事士と福祉住環境コーディネーター2級の資格を持ち、また他のスタッフは造園業、自動車整備、家具職人、栄養士、SEなどさまざまな資格や経歴を持ち多士済々。しかも社員全員が認知症サポーター養成講座を受講済です。これは高齢者への対応力を高めようという配慮でしょう。
店長の松浦一彦さん(写真提供/小田急不動産)
(写真提供/小田急不動産)
提供しているサービスは、ハウスクリーニング、庭の手入れ(草刈り、害虫退治など)、引越し手伝い、エアコン関連、不用品処理の手伝い、修繕、防災・防犯などと多種多様ですが、年間を通じて安定的に需要があるのは、ドアの建て付けの調整などの小修繕や草刈りなどの植栽関連です。「高齢化でお客さまには手が回らなくなった作業が多いですね。ベンリーの本部の統計でも、サービスを利用されるお客さまの平均年齢は60代から80代です」(松浦さん)
壁紙貼り(写真提供/小田急不動産)
庭の手入れ(写真提供/小田急不動産)
顧客の視点、価値観を大切にしてサービス提供なかには、日常生活のお手伝いにとどまらないものもあったといいます。
例えば、夫を亡くされた女性から、遺骨の粉骨を頼まれたこと。「樹木葬を希望されていたため、粉骨が必要だったからです。しかし調べてみると粉骨は条件が難しく、最終的には専門業者の方にお願いすることになりましたが」(松浦さん)
高齢の女性から墓を探してほしいという依頼もありました。既に家としての墓はお持ちでしたが、かなり遠い地域にあって墓参が大変なため、住宅の近くに良い墓(墓地)はないかというご依頼でした。地域密着サービスという強みを発揮して、松浦さんは地縁のあるスタッフのツテなども利用しながら、墓地探しに奔走、この要望に応えたそうです。
若い層の事例では、夫婦ゲンカをして結婚指輪を妻が川に投げ捨ててしまい、探してほしいと言われたことも。「川に膝まで入って、『えーと、どのあたりに投げましたか』と確認しながら川底をさらい、なんとか見つけることができました(笑)」(松浦さん)
指輪を探すのに3時間ほどかかったとか(写真/PIXTA)
いずれも、通常の不動産会社には依頼されないような内容です。ときには家族の死や大切な思い出の品を探すという人生の一大事に寄り添うこともあって、松浦さんは「単なる作業やお手伝いではなく、相談されたり、客観的な視点での判断を期待されたりするなど、人間的な意味でも地域とつながる仕事だと感じています」と話します。
今では地域からも頼りにされる松浦さんですが、サービスを始めて1年ほどたったころに大きな失敗をし、気付かされたことがあるといいます。
「サービスが始まり、数年経って慣れてくると業者(サービス提供者)だけの視点になりやすいものです。あるとき、いわゆるゴミ屋敷化したお宅に片付けを頼まれてうかがったら、高く積み上がった品々を前に、お客さまは『このどれ一つとしてゴミじゃないんだ』と言われ、お客様の視点に立つことの大切さにあらためて気付かされました。松浦さんにとっては、空間を占領し、整理・処分しなければならないモノとして見えても、お客様にとっては思い出や大切な記憶の証となる品々でした。それからは仕事をする前のヒアリングに時間をかけ、お客さまのご希望を正確に把握するように努めています」(松浦さん)
(写真/PIXTA)
高齢化社会と地域を守る役割にも期待小田急鶴川店は、地域の福祉作業所、ケアセンター、商店会などと連携した地域貢献も行っています。
「小田急鶴川店は、地域の行事に参加したり、福祉作業所のつくった製品をノベルティにすることもしています。こうした姿勢は予想以上に地域に受け入れられ、小田急不動産への信頼にもつながっていると思います」(望月さん)
例えば、ケアセンターにとっては、ベンリーの仕事は個人宅に訪問するため、ベンリーを通じて高齢者の情報が分かることが助けになります。もちろんプライバシーや個人情報保護の面を厳守してのことですが、結果的に地域の目としての役割を果たしています。
「想像以上に一人暮らしの方、引きこもる方は多いですね。高齢の方にとって、小田急鶴川店のメンバーは子どものような存在なのかもしれません。その意味ではこの店は地域の見守り役も期待されていると思います」(望月さん)
地域の方々と一緒に花壇の花の植え替えを行った時の写真(写真提供/小田急不動産)
その一つの証として松浦さんは、従業員が住民から、「小田急さん」や「ベンリーさん」でなく、個人名で呼ばれることをあげます。「作業の合間に、家族、住まい、テレビ番組などの話に花が咲くこともあって、それが親近感につながっている気もします」(松浦さん)
社会と社内に貢献できる事業に育てたい小田急鶴川店では、不動産事業の顧客数の拡大には限界がある中で、地域密着を高め、リピート率を高めることをめざしています。そのために、今後はより収益性を高めるため、この事業に携わる人員の増員や店舗数の拡大を模索しています。加えて小田急グループの他部署の仕事への波及効果にも期待しています。「ベンリー事業を通してわかってきた高齢化の実情を、これからの住宅の設計やサービスに反映させ、本当に長く住み続けられる住宅ができればうれしいですね」(望月さん)
小田急鶴川店のサービスが、地域から歓迎されている背景には、少子高齢化があることは明らかです。しかしそれは出生率や寿命の延びという数の問題以上に、家族に対する考え方や価値観の変容という文化の問題であることがわかります。伝統的な家族観や三世代同居という住み方は、ごく一部を除いて復活することはないでしょう。とすれば、人間的温もりを含めて提供される生活支援サービスは今後、ますます求められるのではないでしょうか。
●取材協力
小田急不動産株式会社 生活サポートグループ
ベンリー小田急鶴川店
ベンリー小田急鶴川店 店舗日記
首都・東京都を代表する駅と言えば、東京駅。JRの在来線各線に東北や北陸など各方面へ向かう新幹線、さらに東京メトロ丸ノ内線も通っており、まさに東京の玄関口と言える一大ターミナルだ。今年7月には東京駅日本橋口の新ランドマークとして、オフィスエリアと商業エリアからなる複合高層ビル「常盤橋タワー」がグランドオープンしたことも話題になった。そして東京駅は丸の内、日本橋、銀座などのオフィス街に囲まれており、旅行者はもちろんビジネスパーソンにとってもなじみ深い駅だろう。そんな東京駅まで30分圏内にある、中古マンションの価格相場が安い街を調査! 専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」、それぞれの価格相場が安い街をご紹介しよう。
●東京駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP10
【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線/所在地/東京駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 新子安 2040万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市神奈川区/29分/1回)
2位 鶴見 2130万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市鶴見区/25分/1回)
3位 新高円寺 2150万円(東京メトロ丸ノ内線/東京都杉並区/29分/0回)
4位 お花茶屋 2184万円(京成本線/東京都葛飾区/30分/2回)
5位 尾久 2465万円(JR高崎線/東京都北区/12分/0回)
6位 東向島 2480万円(東武伊勢崎線/東京都墨田区/27分/2回)
7位 梅島 2490万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1回)
8位 新三河島 2580万円(京成本線/東京都荒川区/17分/1回)
8位 板橋本町 2580万円(都営三田線/東京都板橋区/30分/0回)
10位 三河島 2589.5万円(JR常磐線/東京都荒川区/12分/0回)
【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線/所在地/東京駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 東船橋 2634万円(JR総武線/千葉県船橋市/30分/1回)
2位 六町 2800万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/26分/1回)
3位 四ツ木 2824.5万円(京成押上線/東京都葛飾区/29分/2回)
4位 扇大橋 2839.5万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/30分/1回)
5位 西船橋 2880万円(JR京葉線/千葉県船橋市/29分/0回)
5位 足立小台 2880万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/27分/1回)
7位 青井 2990万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/24分/1回)
8位 お花茶屋 2998万円(京成本線/東京都葛飾区/30分/2回)
9位 五反野 3080万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
10位 西新井 3130万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
JR新子安駅北側(写真/PIXTA)
「シングル向け」中古マンション(専有面積20平米以上~50平米未満)の価格相場が最も安かったのは、JR京浜東北・根岸線の新子安駅で価格相場は2040万円。JR京浜東北・根岸線で川崎駅に出て、JR東海道本線に乗り換えると30分以内で東京駅に到着する。乗り換えが面倒なら、30分少々かかるもののJR京浜東北・根岸線1本でも行くことができる。また、川崎・東京方面とは反対方面に向かう列車に乗ると、2駅目が横浜駅だ。新子安駅の改札を出てすぐの場所には京急本線・京急新子安駅があり、2路線を使い分けられる点も便利だろう。
そんな新子安駅周辺の様子を見てみると、駅南側の臨海エリアは主に工業地帯で住宅地はない。しかし工場や物流倉庫のほかに年中いちご狩りができる「東京ストロベリーパーク(10月22日時点で休園中)」や、自動車の歴史や技術にふれられる「日産エンジンミュージアム」もあるので、休日にめぐってみるのもいいだろう。駅北側には2001年にグランドオープンした再開発地区「オルトヨコハマ」が広がっている。オフィス・商業ゾーンにはスーパーやドラッグストアに100円ショップ、飲食店などがそろい、駅前で日常の買い物や食事を済ませられる便利な環境だ。
2位には、JR京浜東北・根岸線で新子安駅から東京駅方面へ1駅先の鶴見駅がランクイン。東京駅までのアクセスは新子安駅と同様で、価格相場は2130万円と新子安駅よりもわずかに高い。駅周辺は鶴見駅のほうがにぎわっているので、そのあたりも価格相場に影響しているのかもしれない。駅の東側には駅ビル「シァル鶴見」があり、生鮮食料品からファッション、雑貨、書籍にレストランまでさまざまな店舗が6フロアにわたってひしめいている。この「シァル鶴見」を出て駅前広場を通り過ぎると京急本線・京急鶴見駅があり、京急鶴見駅の東側にもスーパーや飲食店が並ぶ商店街が続いている。駅西側にも複数のスーパーや飲食店が点在し、仕事帰りにさっと買い物や食事ができそうだ。
JR鶴見駅東口(写真/PIXTA)
また2021年9月23日には、鶴見駅から徒歩15分ほどの場所に「LICOPA鶴見」がオープン。これは旧「イトーヨーカドー鶴見店」を建物ごと一新した地域密着型の複合商業施設で、イトーヨーカドーをはじめ「無印良品」や「ニトリデコホーム」、100円ショップや回転寿司店などの店舗のほか、施設の一角には歯科医院や整形外科医院が集まる「クリニックモール」も。緑の芝装飾が色鮮やかな吹抜け空間や、屋上BBQエリアも備えているので、休日に訪ねてみてはいかがだろう。
1位2位ともに横浜市の駅だったが、3位以下には東京都内の駅が並んでいる。3位は杉並区にある東京メトロ丸ノ内線・新高円寺駅がランクイン。東京駅までは東京メトロ丸ノ内線1本で行くことが可能で、道中に停車する新宿駅や赤坂見附駅、霞ケ関駅などにも乗り換え不要だ。駅から北へ12分ほど歩くとJR中央線・高円寺駅があり、両駅を結ぶ通り沿いには「高円寺ルック商店街」や「高円寺パル商店街」といったにぎやかな商店街が続いている。ぶらぶら買い物に出歩くのも楽しいこの新高円寺駅、実は先日調査した「渋谷駅まで30分以内にある中古マンションの価格相場が安い街」のシングル向けランキングでも1位になっている。東京駅にも渋谷駅にも30分以内で行ける新高円寺駅は、「物件の広さはさほど求めないので安いほうがよいし、便利な立地がよい」という人は注目の街と言えそうだ。
高円寺ルック商店街(写真/PIXTA)
「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」両トップ10入りの駅も「カップル・ファミリー向け」中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場が安い街ランキング1位は、JR総武線・東船橋駅で価格相場は2634万円。1駅隣の船橋駅でJR総武線快速に乗り換えると約30分で東京駅に到着する。東船橋駅の周辺は静かな住宅街で、駅前に大型商業施設はない。とはいえ24時間営業のスーパーや、ドラッグストア、飲食店は点在し、駅から15分弱歩いた大通り沿いにはホームセンターもあり、日常の買い物には困らない。また、両隣の船橋駅と津田沼駅はショッピングモールやデパートといった商業施設が充実しているので、休日の気分転換がてらに足を運ぶのもよいだろう。
つくばエクスプレス・六町駅(写真/PIXTA)
2位はつくばエクスプレス・六町(ろくちょう)駅で価格相場は2800万円。六町駅から7位の青井駅、北千住駅を経て南千住駅に出て、JR上野東京ライン直通のJR常磐線に乗り換えると計約26分で東京駅に到着する。つくばエクスプレス1本で浅草駅や秋葉原駅に行くこともでき、秋葉原駅では都心の主要駅を沿線に抱えるJR山手線に乗り継ぐことも可能だ。そんな六町駅は2005年に開業した比較的新しい駅で、駅開業とともに周辺の街の整備も進められてきた。駅前にはバスロータリーと区立公園、スーパーやコンビニ、数軒の飲食店があるほかは静かな住宅街。商店街というほど店舗が軒を連ねる通りはないが、駅から徒歩10分圏内には別のスーパーやドラッグストア、コンビニなどが点在している。
3位は京成押上線・四ツ木駅で価格相場は2824万5000円。都営浅草線直通の京成押上線で浅草橋駅へ行き、そこからJR総武線で秋葉原駅、さらにJR山手線に乗り換えると約29分で東京駅にたどり着く。四ツ木駅はマンガ『キャプテン翼』の作者・高橋陽一氏の出身地という縁で、駅構内や下町情緒が残る街にキャプテン翼に関連する装飾や銅像があることでも人気だ。駅前のコンビニでは限定グッズも販売されているそうなので、のぞいてみてはいかがだろう。そんな駅の西南側には綾瀬川が流れており、街並みは駅北東側に広がっている。徒歩15分圏内には飲食店も併設した「イトーヨーカドー四つ木店」をはじめ複数のスーパーが点在するほか、ベーカリーや弁当店、飲食店などが集まる「まいろーど四つ木商店街」もある。
京成本線・お花茶屋駅(写真/PIXTA)
「カップル・ファミリー向け」トップ10からはもう1駅、8位の京成本線・お花茶屋駅もピックアップしたい。この駅は「シングル向け」ランキングでも4位になっているのだ。リーズナブルな物件がそろうこの街、いったいどんな環境なのだろう? 駅の立地は3位の四ツ木駅と直線距離で2km弱、東京都葛飾区に位置している。「お花茶屋」というちょっと気になる地名の由来は、「鷹狩り中に腹痛を起こした徳川8代将軍・吉宗が、茶屋の娘・お花に看病され快方した」という逸話によるものだとか。
現在のお花茶屋駅周辺に江戸時代の面影はないけれど、古くからの住民もいる下町らしい雰囲気の住宅街だ。駅前商店街「プロムナードお花茶屋」には、商店街の看板を掲げたアーチの両脇を固めるドラッグストアとたこ焼き・お好み焼き売店を皮切りに、鮮魚店や精肉店、青果店にスーパーなど、さまざまな商店が軒を連ねている。手づくり惣菜店や多彩な飲食店もあるので、忙しい時や外食をするときにもこの商店街が役立ちそうだ。
東京駅から30分圏内にある、中古マンションの価格相場が安い街を調査した今回のランキング。東京駅と聞くと、「便利な都心だけど住む場所としてはイメージが湧かないな……」という印象がある。しかしそこからわずか30分離れると、地域密着型の複合商業施設があったり下町らしさが残っていたりと、生活しやすい街がさまざまあることがわかる。東京駅へのアクセスのよさと暮らしやすさ、さらにリーズナブルな物件を兼ね備えた理想の住まい探しに、ぜひ今回のランキングを参考にしてほしい。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2021/5~2021/7
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2021年8月31日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
全国的な知名度はないけれど、局地的に絶大な支持を受ける「ローカル飲食チェーン」が今、注目されています。その理由とは? 元『秘密のケンミンSHOW』 リサーチャーであり、全国7都市を取材した新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』の著者・辰井裕紀さんに、愛される秘訣を伺いました。
なぜ今「ローカル飲食チェーン」が注目されるのかこのところ、「ローカル飲食チェーン」がアツい盛り上がりを見せています。「ローカル飲食チェーン」とは、全国展開をせず限定したエリアのなかだけで支店を広げる飲食店のこと。マクドナルドや吉野家のように全国的な知名度はありません。けれども反面「地元では知らぬ者なし」なカリスマ的人気を誇ります。
この局地的なフィーバーぶりは人気テレビ番組『秘密のケンミンSHOW 極』(読売テレビ・日本テレビ系)でたびたびとりあげられ、紹介されたチェーン店はもれなくSNSでトレンド入り。さらに注目度が高まり、雑誌はこぞって「全国ローカル飲食チェーンガイド」を特集するほど。
(画像/イラストAC)
そのような中、ついに決定打とおえる書籍が発売されました。それが『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)。豚まんやカレーライス、おにぎりなどなど、創意工夫を積み重ねた味とサービスで地元の期待に応え、コロナや震災などの逆境にも耐え抜いた全国7社の経営の秘密を明らかにした注目の一冊です。
地元に愛される7社を解剖した話題の新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)(写真撮影/吉村智樹)
著者はライターであり、かつてテレビ番組「秘密のケンミンSHOW」のリサーチャーとして全国各地のネタを集めた千葉出身の辰井裕紀さん(40)。
話題の新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』著者、辰井裕紀さん(写真撮影/吉村智樹)
夢かうつつか幻か。わが街にはいたるところにあるのに、一歩エリア外へ出れば誰も知らない。反対に自分の県には一軒もないのに、お隣の県へ行けば頻繁に出くわす、不思議なローカル飲食チェーン。この謎多き業態の魅力とは? 地元に愛される秘訣とは? 著者の辰井さんにお話をうかがいました。
前代未聞。 「ローカル飲食チェーン」の研究書が登場――辰井さんが初めて上梓した新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』は実際に自らの足で全国を巡って取材した労作ですね。この書籍の企画が生まれたいきさつを教えてください。
辰井裕紀(以下、辰井):「以前からTwitterで“飲食チェーンに関するツイート”をよくしていたんです。『こんなにおいしいものが、こんなに安く食べられるなんて』など、外食にまつわる喜びをたびたびつぶやいていました。それをPHP研究所の編集者である大隅元氏がよく見ていて、『ローカル飲食チェーンの本を出さないか』と声をかけてもらったんです」
――Twitterで食べ物についてつぶやいたら書籍の書き下ろしの依頼があったのですか。夢がありますね。しかし全国に点在する飲食チェーンですから、実際の取材や執筆は大変だったのでは。
辰井:「大変でした。資料を参考にしようにも、ローカル飲食チェーンについて考察された本が、過去にほぼ出版されていなかったんです。あるとすればサイゼリヤや吉野家のような全国チェーンにまつわる本ばかり。類書どころか先行研究そのものが少ないので引用ができず、苦労しました」
――確かに全国のローカル飲食チェーンだけに絞って俯瞰した書籍は、私も読んだ経験がありません。では、どのように事前調査を行ったのですか。
辰井:「国会図書館やインターネットで文献や社史にあたったり、取り寄せたり。地元でしか得られない文献は現地まで行って入手しました」
一次資料を得るためにわざわざ全国各地へ足を運んだという辰井さん(写真撮影/吉村智樹)
――現地まで行って……。ほぼ探偵じゃないですか。骨が折れる作業ですね。
辰井:「調べられる限り、ぜんぶ調べています」
自ら選んだ「強くてうまい!」7大チェーン――新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』では北海道の『カレーショップインデアン』 、岩手『福田パン』、茨城『ばんどう太郎』、埼玉『ぎょうざの満洲』、三重『おにぎりの桃太郎』、大阪『551HORAI』、熊本『おべんとうのヒライ』の計7社にスポットライトがあたっています。この7社はどなたが選出なさったのですか。
『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』に選ばれた全国7社(写真撮影/辰井裕紀)
辰井:「自分で選びました。【お店として魅力があるか】【行けばテンションが上がるか】【独自のサービスを受けてみたいか】、そういった『秘密のケンミンSHOW』で取り上げるようなポップな面と、ビジネス的に注目できる面とがうまく両輪で展開している点で、『この7社だ』と」
――メニューやサービスのユニークさと経営の成功を兼ね備えた、まさに「強くてうまい!」企業が選ばれたのですね。
辰井:「その通りです」
客が鍋持参。 「車社会」が生みだした独特な食習慣北海道・十勝でチェーン展開する『カレーショップインデアン』(写真撮影/辰井裕紀)
――この本を読んで私が特にビックリしたのが、北海道・十勝を拠点とする『カレーショップインデアン』(以下、インデアン)が実施している「鍋を持ってくればカレーのルー※1が持ち帰られる」サービスでした。どういういきさつで生まれたサービスなのですか。
※1……インデアンではカレーソースのことを「ルー」と呼ぶ
『カレーショップインデアン』のカレー。年間およそ280万食が出るほどの人気(写真撮影/辰井裕紀)
鍋を持参すればカレーのルーをテイクアウトできる(写真撮影/辰井裕紀)
辰井:「鍋持参のテイクアウトは約30年前から始まったサービスです。お客さんから『容器にくっついたカレーのルーがもったいないから鍋を持参してもいいか』と要望があったのがきっかけだとか。加えて当時はダイオキシンが社会問題となり、なるべくプラスチック容器を使わない動きがありました。そこで誕生したのが、インデアンの鍋持参システムです」
――鍋持参のテイクアウトは30年近くも歴史があるんですか。十勝にそんな個性的な習慣があったとは。
辰井:「おそらく、十勝が鍋を持っていきやすい車社会だから、定着したサービスなのでしょうね」
農地が広がる十勝は車社会。だからこそ「鍋持参」の習慣が定着したと考えられる(写真撮影/辰井裕紀)
――なるほど。さすがに電車やバスで鍋を持ってくる人は少ないでしょうね。そういう点でも都会では実践が難しい、ローカルならではの温かい歓待ですね。
辰井:「インデアンはほかにも『食べやすいようにカツを小さくして』と言われたカツカレーが、極小のひとくちサイズになって定番化するなど、お客さんの声を吟味して取り入れます。ローカル飲食チェーンは商圏が狭いからこそ、お客さんに近い存在ですから」
総工費1億5000万円の屋敷で非日常体験お屋敷のような造りの『ばんどう太郎』。駐車場も広々(写真撮影/辰井裕紀)
店内にはなんと精米処があり、炊きあげるぶんだけ毎日精米している(写真撮影/辰井裕紀)
――車社会といえば、茨城の『ばんどう太郎』にはド肝を抜かれました。ロードサイドに忽然と巨大なお屋敷が現れ、それが和食のファミレスだとは。
辰井:「『ばんどう太郎』の建物は車の運転席からも目立つ造りになっています。総工費は一般的なファミレスの倍、およそ1億5000万円もの巨費を投じているのだそうです。さらに店の中に精米処があり、新鮮なごはんを食べられますよ」
――夢の御殿じゃないですか。
具だくさんな看板商品「坂東みそ煮込みうどん」(画像提供/ばんどう太郎 坂東太郎グループ)
辰井:「看板商品の『坂東みそ煮込みうどん』は旅館のように固形燃料で温められた一品です。生たまごを入れ、黄身や卵白に火が通ってゆく過程を楽しみながら味わえます。旬の野菜から肉、キノコまでたっぷりの具材が入っていて、褐色のスープですから『鍋の底にはなにがあるんだろう?』と、闇鍋のように掘り出す楽しさまであります」
――ファミレスというより、非日常を体感できるテーマパークのようですね。
辰井:「駐車場が広くて停めやすく、店内のレイアウトがゆったりしていますし、接客のリーダー『女将さん』がいるのもプレミアム感があります。広々と土地を使えるロードサイド型のローカル飲食チェーンならではのお店ですね」
割烹着姿の「女将さん」と呼ばれる接客のリーダーが客に安心感を与える(写真撮影/辰井裕紀)
――『ばんどう太郎』で食事する経験自体がドライブ観光になっているのですね。楽しそう。ぜひ訪れてみたいです。
辰井:「坂東みそ煮込みうどんは関東人に合わせた絶妙な味わいで、私は何度でも食べたいです」
お弁当屋さんの概念をくつがえす店内の広さ――ロードサイド展開といえば、熊本『おべんとうのヒライ』にも驚きました。お弁当屋さんとは思えない、大きなコンビニくらいに広い店舗で、スーパーマーケットに迫る品ぞろえがあるという。この業態は駐車場があるロードサイド型店舗でないと無理ですよね。
コンビニなみに品ぞろえ豊富な『おべんとうのヒライ』(写真撮影/辰井裕紀)
辰井:「自家用車での移動がひじょうに多い街に位置し、広いお総菜コーナーがあります。なので、『ついでに買っていくか』の買い物需要に応えられるんです。さらに店内にはその場で調理したものが食べられる食堂もあります。地方には実はこんな中食(なかしょく)※2・外食・コンビニが三位一体となった飲食チェーンが点在しているんです」
※2中食(なかしょく)……家庭外で調理された食品を、購入して持ち帰る、あるいは配達等によって、家庭内で食べる食事の形態。
――お弁当屋さんの中で食事もできるんですか。グルメパラダイスじゃないですか。
辰井:「特に『おべんとうのヒライ』の食事は安くてうまいんですよ。なかでも“大江戸カツ丼”がいいですね。一般的なカツを煮た丼と違い、揚げたてのカツの上に玉子とじをのせるカツ丼で。衣がサクサク、玉子はトロトロで食べられます。『この価格で、こんなにもハイクオリティな丼が食べられるのか』と驚きました。たったの500円ですから」
カツを煮込まず玉子とじをのせる独特な「大江戸カツ丼」(写真撮影/辰井裕紀)
――安さのみならず、独特な調理法で食べられるのが魅力ですね。
辰井:「そうなんです。小さなカルチャーショックに出会えるのがローカル飲食チェーンの醍醐味ですね。どこへ行っても同じ食べ物しかないよりも、『あの県へ行ったら、これが食べられる』ほうが、おもしろいですから」
「あの県へ行ったら、これが食べられる」。このエリア限定感がローカル飲食チェーンの醍醐味だと語る辰井さん(写真撮影/吉村智樹)
旅先で出会える「小さなカルチャーショック」が魅力愛らしい桃太郎のキャラクターが迎えてくれる『おにぎりの桃太郎』。ただいまマスク着用中(写真撮影/辰井裕紀)
混ぜごはんのおにぎり、その名も「味」(写真撮影/辰井裕紀)
――カルチャーショックを受けた例はほかにもありますか。
辰井:「ありますね。たとえば三重県四日市の飲食チェーン『おにぎりの桃太郎』には『味』という名の一番人気のおにぎりがあります。『味』は当地で“混ぜごはん”を意味しますが、そのネーミングがまず興味深いですし、地元独特の味わいが楽しめました」
――おにぎりの名前が「味」ですか。もうその時点で全国チェーンとは大きな感覚の違いがありますね。
辰井:「ほかにも『しぐれ』という、三重県北勢地区に伝わるあさりの佃煮を具にしたおにぎりも、香ばしくて海を感じました」
ご当地の味「あさりのしぐれ煮」のおにぎり(写真撮影/辰井裕紀)
――ローカル飲食チェーンが「地元の食文化を支えている」とすらいえますね。
辰井:「そんな側面があると思います」
ローカル飲食チェーンに学ぶ持続可能な社会――カルチャーショックといえば『おべんとうのヒライ』の、ちくわにポテトサラダを詰めて揚げた「ちくわサラダ」は衝撃でした。
ちくわの穴にポテトサラダを詰めた「ちくわサラダ」(写真撮影/辰井裕紀)
辰井:「もともとはポテトサラダの廃棄を減らす目的で生まれた商品ですが、いまでは熊本で愛されるローカルフードになりましたね。ワンハンドで食べやすく、一本でも充分満足感があります」
――おいしそう! 自分でもつくれそうですが、それでもやはり熊本で食べたいです。食品の廃棄を減らすため、一つの店舗のなかで再利用してゆくって、ローカル飲食チェーンはSDGsという視点からも学びがありますね。
辰井:「ありますね。たとえば大阪の『551HORAI』ではテイクアウトで売れる約65%が豚まん、約15%が焼売なんです。どちらも“豚肉”と“玉ねぎ”からつくるので、2つの食材があれば合計およそ80%の商品ができます。一度に大量の食材を仕入れられるからコストが抑えられる上に、ずっと同じ商品をつくっているので食材を余らせません」
『551HORAI』の看板商品「豚まん」(写真撮影/辰井裕紀)
「豚まん」に続く人気の「焼売」(写真撮影/辰井裕紀)
――永久機関のように無駄がないですね。
辰井:「一番人気の豚まんがとにかく強い。『強い看板商品』の存在が、多くの人気ローカル飲食チェーンに共通します。看板商品が強いと供給体制がよりシンプルになり、食品ロスも減る。質のいいものをさらに安定して提供できる。いい循環が生まれるんです」
地元が店を育て、人を育てる――ローカル飲食チェーンには「全国展開しない」「販路を拡げない」と決めている企業が少なくないようですね。コッペパンサンドで知られる岩手の『福田パン』もかたくなに岩手から手を広げようとしないようですね。
多彩なコッペパンサンドが味わえる『福田パン』(写真撮影/辰井裕紀)
辰井:「『福田パン』は岩手のなかでは買える場所が増えていますが、他県まで出店するつもりはないようです。これ以上お店を増やすと製造する量が増え、『機械や粉を替え変えなきゃならない』など、リスクも増えますから」
――全国進出をねらって失敗する例は実際にありますものね。
辰井:「とある丼チェーン店は短期間に全国へ出店したものの、閉店が相次ぎました。調理技術が行き渡る前にお店を増やしすぎたのが原因だといわれています。地元から着実にチェーン展開していった店は、本部の目が行き届くぶん、地肩が強いですね」
――『福田パン』のコッペパンサンド、とてもおいしそう。食べてみたいです。けれども、基本的に岩手へ行かないと買えないんですね。それが「身の丈に合ったチェーン展開」なのでしょうね。
『福田パン』は眼の前で具材を手塗りしてくれる(写真撮影/辰井裕紀)
ズラリ一斗缶に入って並んだコッペパンサンドの具材(写真撮影/辰井裕紀)
辰井:「社長の福田潔氏には、『その場でしか食べられないものにこそ価値がある』というポリシーがあるんです。福田パンは一般的なコッペパンより少し大きく、口に含んだときに塩気と甘さが広がる。とてもおいしいのですが、目の前でクリームをだくだくにはさんでくれるコッペパンは現地へ行かないと食べられない。やっぱり岩手で食べると味わいが違います」
――ますます岩手へコッペパンを食べに行きたくなりました。反面、埼玉の『ぎょうざの満洲』は関西進出を成功させていますね。京都在住である私は『ぎょうざの満洲』の餃子が大好物でよくいただくのですが、他都市進出に成功した秘訣はあったのでしょうか。
「3割うまい!!」のキャッチフレーズで知られる『ぎょうざの満洲』(写真撮影/辰井裕紀)
餃子のテイクアウトにも力を入れる(写真撮影/辰井裕紀)
辰井:「関西進出はやはり初めは苦戦したそうです。『ぎょうざの満洲』は関東に生餃子のテイクアウトを根付かせた大きな功績があるのですが、関西ではまだ浸透していなかった。加えて店員と会話せずスムーズに買えるシステムを構築したものの、その接客が関西では『冷たい』と受け取られ、なじまなかった。そこで、できる限り地元の人を雇用し、店の雰囲気を関西風に改めたそうです」
――やはり地元が店や人を育てるという答に行きつくのですね。いやあ、ローカル飲食チェーンって本当に業態が多種多彩で、かつ柔軟で勉強になります。
辰井:「企業ごとにいろんな考え方がありますから、それぞれから学びたいですね」
――そうですよね。私も学びたいです。では最後に、全国のローカル飲食チェーンの取材を終えられて、感じたことを教えてください。
辰井:「ローカル飲食チェーンは地元の人たちにとって、地域を形作る屋台骨であり、アイデンティティなんだと思い知らされました。私は千葉出身なんですが、私が愛した中華料理チェーン『ドラゴン珍來』を褒められたら、やっぱりうれしいですよ。もっと地元のローカル飲食チェーンを誇っていいんだって、ホームタウンをかえりみる、いい機会になりました。読んでくださった方にも、地元を再評価してもらえたらうれしいです」
――ありがとうございました。
「ローカル飲食チェーンを通じて、地元を再評価してもらえたらうれしい」と語る辰井さん(写真撮影/吉村智樹)
辰井裕紀さんが全国を行脚し、自分の眼と舌で確かめた「ローカル飲食チェーン」の数々。それぞれの企業、それぞれの店舗が、その土地その土地の地形や風習、地元の人々の想いに添いながらひたむきに営まれているのだと知りました。そこで運ばれてくる料理は「現代の郷土料理」と呼んで大げさではないほど地元LOVEの気持ちが込められています。
ビジネス書でありながら、故郷やわが街を改めて愛したくなる、あたたかな一冊。ページを閉じたとたん、当たり前に存在すると思っていたローカル飲食チェーンに、きっと飛び込みたくなるでしょう。
●書籍情報
強くてうまい! ローカル飲食チェーン
辰井裕紀 著
1,210円(本体価格1,100円)
PHPビジネス新書
2021年9月28日、国土交通省がマンションの長期修繕計画作成や修繕積立金に関するガイドラインの改訂版を公表した。ガイドラインの内容は来年4月からスタートするマンション管理計画認定制度の認定基準となる予定でもあり、マンション所有者も購入予定者もその概要は知っておきたい。改訂のポイントを見ていこう。
長期修繕計画、修繕積立金は適切なのか快適なマンション居住のためには、長期修繕計画や修繕積立金が重要であることはいまさら説明する必要もないだろう。しかし、自分の住む(購入しようとする)マンションの長期修繕計画が適切なものなのか、修繕積立金が十分なのかを判断することは難しい。
仮に判断できたとしても、計画の見直しや修繕積立金額の変更には他の所有者の合意を得る必要がある。所有者の多数が賛成しないと話が前に進まない。これがマンション管理の難しい点だ。
これらの問題解決の一助とすべく、長期修繕計画の考え方や作成方法を示したものが「長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン・コメント(以下、長期修繕GL)」であり、修繕積立金額を判断するための参考資料が「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(以下、修繕積立金GL)」だ。
長期修繕計画GLと、修繕積立金GL。国土交通省HPより
改訂点3つのポイントこれらガイドラインの活用により、長期修繕計画や修繕積立金額の設定についてマンション所有者の間で合意形成を行いやすくなり、適切な修繕工事を行うことが期待される。長期修繕GLは平成20年(2008年)に、修繕積立金GLは平成23年(2011年)に策定されたが、築古のマンションの増加や社会情勢の変化を踏まえ、今回、改訂が行われた。
改訂点は多々あるが、ここでは3つのポイントを紹介したい。自分の居住するマンションの長期修繕計画が、これらの改訂点を踏まえたものになっているのか。チェックしてみる価値はあるはずだ。
1、計画期間は30年以上となっているか
今回の改訂では、長期修繕計画の期間を「30年以上で大規模修繕工事が2回以上含まれる」期間とした。従来は「中古マンションは25年以上・新築は30年以上」となっていたため、25年で長期修繕計画を立てているマンションも少なくないはずだ。
ところで、外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期は一般的に12~15 年程度とされる。30年以上の計画であればこれらの工事が2回含まれることになる。エレベーターの改修も検討に入ってくるだろう。計画期間が30年以上であれば、これら多額の工事費を見込んだ計画となる。
(写真/PIXTA)
一方、2回の大規模修繕工事が含まれていない計画では、計画期間直後に大幅な資金不足になるという事態も起こりかねない。
また長期修繕計画は一度つくったら終わりではない。状況の変化に応じて見直していく必要がある。このことは従来から指摘されていたが、今回の改訂では「5年程度」という表現が各所に追記された。見直しをお題目にすることなく、実行していくことが望まれるのだ。
居住するマンションの長期修繕計画が、「30年以上で大規模修繕工事が2回以上」含まれているのか、「5年程度」で見直すことが考慮されているのかはまず確認したいポイントだ。
2、省エネ性能の向上
改訂では、マンションの省エネ性能向上の改修工事も考慮するよう追記された。古いマンションでは省エネ性能が低い水準にとどまっているものが多い。屋上の断熱改修は比較的実績も多いが、外壁の外断熱改修はまだまだ少ない状況だ。窓サッシの改修も断熱性を高める。大規模修繕を契機に、これらの改修工事を行うことは、所有者の光熱費負担を低下させるとともに脱炭素社会の実現にも貢献することになる。築年の古いマンションであれば、この点も考慮した修繕計画となっているかも気になるところだ。
3、エレベーターの点検は?
エレベーターの点検に際し、国土交通省が平成28 年2月に策定した「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿った点検の重要性も述べられている。
(写真/PIXTA)
この指針では、エレベーター保守点検契約に盛り込むべき事項のチェックリストや業者の選定に当たって留意すべき事項など、エレベーターの適切な維持管理に必要な事項があげられている。法定点検をないがしろにしては、修繕計画も立てられない。指針に即した法定点検を行うことは長期修繕計画作成の前提条件だ。
それぞれのマンションにあった計画を立てるマンションの維持管理を考える際、忘れてはならないことがある。マンションは個別性が強い、ということだ。規模、形状、仕様、立地、所有者の意向などさまざまな条件により維持管理の内容も異なってくる。
長期修繕計画も建物や設備の劣化状況の調査・診断に応じたオリジナルなものが作成されるべきなのだ(現実にはそこをいい加減にして、どのマンションに対しても同じような長期修繕計画を提案している「専門家」も少なくない)。
国土交通省が示している修繕工事項目や修繕周期は一つのモデルだ。これと違う部分があるからといってダメな計画と決めつけるのは早計だ。なぜ違いがあるのか、その確認が大切なのだ。マンションの個別性を踏まえた結果、異なるのであれば問題はない。むしろ良い長期修繕計画だ、ということになる。
長期修繕計画が適切なものであっても、それを実施する修繕積立金が不足しては、必要な工事を実施できないし、実施しなければならなくなった場合は多額の一時金を徴収することになる。必要な修繕積立金を考える上で参考となるのが修繕積立金GLだ。
長期修繕計画GLの改訂とともに、修繕積立金GLが示す修繕積立金額の目安も見直されており、少し高くなった。
具体的には以下の金額だ。
(図表は修繕積立金GL)
上記の図表は、従来の長期修繕計画GLにおおむね沿って作成された長期修繕計画の事例(366事例)を収集・分析し、計画期間全体に必要な修繕工事費の総額を、計画期間で積み立てる場合の専有面積1平米あたりの月額単価を示している。長期修繕計画GLに沿った工事を行うために費用な積立金額の目安と考えてよいだろう(マンションの個別性があるため、必要な費用に幅が出る)。
例えば、20階建て以上の高層マンションでは、「平均値」は338円/平米、「事例の3分の2が包含される幅」が240円/平米~410円/平米となっている。自分のマンションの修繕積立金がこの「3分の2が包含される幅」に入っていないのであれば、その理由を確認しておきたい(この幅の下限より安いからといって、修繕積立金が不足すると決めつけることはできないし、上限より高いからといって、安心と言い切れるわけでもない)。なお、機械式駐車場がある場合は加算が必要となる(もう少し高くなる)。
また上記の金額は、「修繕積立金会計収入の平米単価」であることに注意が必要だ。「各住戸から集める修繕積立金の平米単価」ではない。1階住戸についている庭や駐車場など、使う世帯が負担する専用使用料等を修繕積立金に繰り入れ、含めた額となっている(専用使用料等の収入がある分だけ、各住戸の負担額は少なくなる)。
(写真/PIXTA)
つまり「各住戸から集める修繕積立金の平米単価」がGLで示されている金額より少ないからといって、直ちに不足が懸念されるわけではない。とはいえ、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の調査によれば、2020年度に同機構を通して成約した首都圏中古マンションの修繕積立金の平均平米単価は169円/平米だ。長期修繕計画GL沿った計画修繕には不足する管理組合も多いと思われる。
注意すべきは積立金額だけでない。積立方法が「均等積立方式」なのか「段階増額積立方式」なのかにも注意したい。「均等積立方式」とは計画作成時に長期修繕計画の期間中の積立金の額が均等となるように設定する方式だ。これに対し、当初の積立額を抑え、段階的に増額する方式が「段階増額積み立て方式」だ。後者であれば、将来の負担が増加することになる。
今回のGL改訂について、マンションの大規模修繕のコンサルタントとして豊富な実務経験がある明海大学不動産学部准教授の藤木亮介(ふじき・りょうすけ)先生にお話を伺った。……というと他人行儀だが、筆者の大学の同僚だ。研究室も真向いにある。マンション学会で今回のガイドラインについて報告されるなど実務と理論の双方に通じた専門家だ。
(写真提供/中村喜久夫)
「今回の長期修繕GL改訂は、マンション管理適正化法改正に伴い来年4月より施行される『管理計画認定制度』とも関連しています。『管理計画認定制度』とは、良好に管理されているマンションを認定し、価値あるストックを増やしていこうとする制度です。中古マンションの売買価格には、管理の質が反映されているとは言い難い現状がありますが、この制度が浸透すれば、良好な管理が行われているマンションが、市場で評価される時代が来ると考えます。
この認定基準の一つに『計画期間が30年以上・大規模修繕2回以上』などといった長期修繕計画標準様式に準拠する内容が含まれます。したがって、マンションをお持ちの方には、是非、ご自分の資産を守るためにもこの長期修繕GLを読んでいただき、自分のマンションの長期修繕計画と見比べてもらいたいと思っています」(藤木先生)
確かに現状では管理の質が適切に評価されているとは言い難い。今後は、修繕積立金の多寡や計画修繕の実施状況も価格形成の要因となるのだろう。藤木先生は、『マンションの成長』という視点も提示される。
「一般的な理解として、長期修繕計画はマンションを『直す(修繕)ための計画』と捉えられていますが、これからのマンションには、『良くするための計画』という視点が必要になります。築浅のマンションであっても時代遅れにならないように、長期修繕GLを参考にして、省エネ化などマンションが成長していくような改良を見込んだ計画を立てておくことが重要になります」(藤木先生)
マンションを所有する以上、管理の問題は避けられないマンションの良好な住環境を維持保全することは、資産価値の維持だけでなく地域の住環境の向上にもつながる。その実現には、日常の維持管理とともに計画的な修繕工事の実施が不可欠だ。マンション所有者の一人ひとりが、管理に関心を持ち、長期修繕計画やそれを支える修繕積立金についてもチェックしていくことが重要となる。
さらに今回の改訂では、マンション購入予定者に対する長期修繕計画等の管理運営状況の書面開示も望まれる、としている。マンション所有者はもちろん、購入予定者もしっかり学ぶべき問題であるといってよいだろう。
●関連資料
・「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて
・長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン・コメント
・マンションの修繕積立金に関するガイドライン
・昇降機の適切な維持管理に関する指針
緊急事態宣言が解除になり、街に人のにぎわいが戻ってきました。SUUMOジャーナルで9月に公開した記事では、「商店街のシェアハウスで “街×人”の化学反応はじまる!『寿百家店』で北九州市黒崎が再燃中」「築100年の長屋のまち『墨田区京島』にクリエイターが集結中! いま面白い東京の下町」などが人気TOP10入りしました。詳しく紹介します。
1位 商店街のシェアハウスで “街×人”の化学反応はじまる!「寿百家店」で北九州市黒崎が再燃中
2位 築100年の長屋のまち「墨田区京島」にクリエイターが集結中! いま面白い東京の下町
3位 住まいの水害対策の最新事情2021年版!「浮く家」「床下浸水しない家」など
4位 脱炭素社会の実現に政府が本腰。2030年の住宅のあるべき姿とは。
5位 使わなくなった畑や田んぼ、どうしよう! 農地の相続などで困ったときの新しい選択肢
6位 生まれ育った町田山崎団地の駄菓子屋が閉店危機に! 継承を決意させた「心揺さぶられる光景」
7位 内見も契約もオンラインでOK!?コロナ禍で進む、部屋探しのオンライン化
8位 スマート家電、人気第2位はお掃除ロボット!ダントツの第1位は?
9位 名古屋「栄駅」まで電車で15分以内、家賃相場が安い駅ランキング! 2021年版
10位 徳島県神山町で最先端の田舎暮らし!子育て世代が主役の「大埜地の集合住宅」
※対象記事:2021年9月1日~2021年9月30日に公開された記事
※集計期間:2021年9月1日~2021年9月30日のPV数の多い順
1位 商店街のシェアハウスで “街×人”の化学反応はじまる!「寿百家店」で北九州市黒崎が再燃中
(写真撮影/加藤淳史)
過去にも人気記事入りしている福岡県北九州市の商店街再生プロジェクト「寿百家店」で、全区画テナントが入居しシェアハウスも開業。入居者が新たな入居者を連れてきて、今の時代にふさわしい新しいにぎわいが生まれています。
2位 築100年の長屋のまち「墨田区京島」にクリエイターが集結中! いま面白い東京の下町
(写真撮影/内海明啓)
戦前からの懐かしい風景が残る東京都墨田区の京島に魅せられたクリエイターたちが増えています。築100年を超える長屋をDIYしたりアトリエにしたりするほか、地元に住む職人たちからものづくりへのインスピレーションを受けることも。街づくりの立役者たちに魅力を聞きました。
3位 住まいの水害対策の最新事情2021年版!「浮く家」「床下浸水しない家」など
(写真提供/一条工務店)
台風の季節に気になるのが、昨今増えている水害への対策。これから家を建てるなら、検討すべき対策は「修復容易化案」「建物防水化案」「高床化案」「早期生活回復可能案」「屋根上避難可能案」の5つだそう。それぞれの費用対効果やそれ以外の対策など、最新事情を解説します。
4位 脱炭素社会の実現に政府が本腰。2030年の住宅のあるべき姿とは。
(写真/PIXTA)
政府の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受けて、住宅分野での省エネ化の道筋が見えてきました。25年度までに、新しく住宅を建てる際には、これまで努力義務や届け出義務だった現行の省エネ基準の適合が義務化、30年までには基準がより高い「ZEHレベル」に引き上げられる見通しです。
5位 使わなくなった畑や田んぼ、どうしよう! 農地の相続などで困ったときの新しい選択肢
(写真/PIXTA)
農業生産者の高齢化や後継者不足により全国で問題になっている荒廃農地で、土地の特性を活かした太陽光発電や市民農園への転換など、新たな活用が試みられています。農林水産省の担当者に現状を聞きました。
6位 生まれ育った町田山崎団地の駄菓子屋が閉店危機に! 継承を決意させた「心揺さぶられる光景」
(写真撮影/中村晃)
東京町田市の団地内にあるおもちゃ&駄菓子店「ぐりーんハウス」。自身の原風景が失われることを惜しんだ団地出身のインテリアデザイナーの手により、地域の交流が育まれるスペースに生まれ変わりました。コーヒースタンドにもなるオープンなシェアキッチンやテーブル席を備え、子どもだけでなく大人にも親しまれています。
7位 内見も契約もオンラインでOK!?コロナ禍で進む、部屋探しのオンライン化
(写真/PIXTA)
2020年度の「賃貸契約者動向調査(首都圏)」によると、コロナ禍で部屋探しのオンライン化が進んでいます。「オンライン内見」を実施したのは回答者の約2割で、オンライン内見のみは13.5%、現地内見の併用は6.2%。男性の方が利用が多い傾向がうかがえました。オンライン内見のメリットやデメリットの解説とともに詳述します。
8位 スマート家電、人気第2位はお掃除ロボット!ダントツの第1位は?
(写真/PIXTA)
スマート家電保有者を対象にした実態調査によると、ダントツの人気はスマートスピーカー。利便性を一番感じる点は、単身者は「音声操作」、子育てファミリーは「遠隔操作」、親と同居世帯は「家事負担の軽減」と、家族構成によって違いがみられました。
名古屋「栄駅」まで電車で15分以内、家賃相場が安い駅ランキング! 2021年版
(写真/PIXTA)
東海圏最大の大都市・愛知県名古屋市の中心部、繁華街「栄駅」から電車で15分以内のシングル向け物件家賃相場ランキング最新版。1位は名古屋市守山区にある名鉄瀬戸線沿線の小幡駅で4.65万円、2位も同区にあるJR中央本線沿線の新守山駅で4.75万円でした。
10位 徳島県神山町で最先端の田舎暮らし!子育て世代が主役の「大埜地の集合住宅」
(写真撮影/生津 勝隆)
先進的な取り組みで成果をあげ“奇跡の田舎”と呼ばれる徳島県神山町に、町内外から子育て世代が移り住むための集合住宅が誕生しました。建材には町内産の木材を使用し、光熱費も森林資源の活用でコストを軽減。地球環境や地域産業にも寄与する最先端技術を取り入れた住まいの今を探りました。
今後家を建てる際にチェックしておきたい災害対策の最新事業や新しい基準、またテクノロジーの活用による快適な生活の在り方など、未来を見据えた記事が目立ったように感じられる今月のランキング。一方で、上位2位の記事からは地域のコミュニティを重視する傾向もうかがえます。快適さと人との触れ合いこそが住まい探しの両輪であると、改めて感じられます。
「居心地が良く歩きたくなる」まちなかの実現へ向けて、2021年6月、国土交通省が「グランドレベル(街路、公園、広場、民間空地、沿道建物の低層部など、まちなかにおいて歩行者の目線に入る範囲)」の基本的な考え方や優れた事例を発表しました。
コロナ禍を経て地元で過ごす時間が増え、地域を元気にしようという動きも生まれているなか、「居心地がよく歩きたくなる」まちなかとはどのようなものなのでしょうか。冊子「居心地が良く歩きたくなるグランドレベルデザイン」を作成した国土交通省の椎名大介さん、宮川武広さん、諏訪巧さんと、掲載事例のひとつ横浜元町地区のうち元町通り地区を整備する元町エスエス会の加藤祐一さん、打木豊さんに話を聞きながら、実際にまちなかを歩いてみました。
いま注目される「グランドレベルデザイン」とは?まず、そもそも「グランドレベル」という言葉にあまり馴染みがない人も多いのではないでしょうか。グランドレベルとは、英語の「1階」、まちなかにおいては街路や公園、広場など、『歩行者の目線に入る範囲』を指します。別の言葉では、人々が感じるまちの雰囲気や魅力、居心地を決定づける場所と言い換えられるでしょう。先のグランドレベルデザインの冊子では、その考え方やポイントを整理し、国土交通省により着目された全国の98事例を紹介しています。
「居心地が良く歩きたくなるグランドレベルデザイン」冊子。グランドレベルデザインの考え方やポイントとあわせて全国の98もの事例が掲載されている。国土交通省のホームページからもダウンロード可能(資料/国土交通省)
「紹介している事例は、大きく6事例と92事例に分けられます。各事例は全国のさまざまな取り組みを5つのポイントに着目して整理したものですが、前者の6事例はその5つのポイント全てが満たされるかなり完成度の高い事例です。ある種の理想の形だと考えてもいいかもしれません」(椎名さん)
グランドレベルデザインの要素として「ビジョン」「体制」「空間デザイン」「アクティビティの誘発」「育成・管理」の5つが挙げられ、このポイントから全国の事例を紹介している(資料/国土交通省)
98事例という数の多さにも驚きますが、その中でも特に評価された事例がどのようなものなのかが気になります! さらに1つか2つピックアップするとしたら……?と相談して宮川さんから紹介してもらったのが「横浜元町地区」(神奈川県)と「豊田市都心地区」(愛知県)です。
「横浜元町地区の事例は、地元商店の発意によってつくられた街のルールが秀逸です。豊田市都心地区の事例は『使う視点』を大切にして計画をつくり、さらに使う人たちを巻き込んで広場の管理や運営を行っている点に注目しています」(宮川さん)
実際に、横浜の元町通りを歩いてみた!6事例の中でも特に注目すべきものとして1番目に紹介されている「横浜元町地区」。街づくりを主導してきた打木さんと、組合事務局の加藤さんにまちづくりのポイントを聞いて、実際に歩いてみました!
左から、元町エスエス会の打木豊さん、加藤祐一さん(写真撮影/片山貴博)
まず、現地に着いて最初に目に入るのがシルバーのモニュメントです。元町のシンボルとなっているフェニックスのオブジェが、元町通りの東西両端で来訪者を歓迎しています。
東西の入り口にはシンボルであるフェニックスのモニュメントがある。数年に一度はメンテナンスのために不在になることもあるそう(写真撮影/片山貴博)
通りを少し歩くと、歩道の両脇には座り心地の良さそうな木製の素敵なベンチが! これは待ち合わせやひと休みなど、誰もが利用できるオープンスペースとして設けられた「元町パークレット」と呼ばれるものです。
「もともと多くの買い物客や地元の人から『休憩できる場所が欲しい』という声が多く寄せられていたため、2019年に通り内の3カ所に設置しました。パークレットとは、車道の一部をパブリックな空間として利用することで、サンフランシスコが発祥と言われます。元町通りでは車道内の駐車スペースに縁石を設けて歩道と一体化したつくりにしました。気候の良いときはパラソルを立てたり、夜には照明を活かした雰囲気のある空間にして、訪れる皆さんに憩いの場所として使っていただいているんですよ」(打木さん)
車道側からパークレットの下部分を見ると、もともとは駐車スペースだった石畳の上に白い縁石が乗せられ、さらにその上に花壇やベンチが乗っていることがわかる(写真撮影/片山貴博)
元町通りを訪れる人が休憩できるスペースとして設けられた「元町パークレット」。取材当日も多くの人が座ってまちの風景やおしゃべりを楽しんでいた(写真撮影/片山貴博)
パラソルも立てられる(写真撮影/片山貴博)
細部にまで配慮された「歩車共存」のストリート実際に歩いていると、パークレットで休憩をしたり、なごやかにおしゃべりをしている人たちの姿が頻繁に見られます。ベンチのデザイン自体もオシャレですが、通りの至るところに花やグリーンがあり、優しく歩道やベンチを彩っています。
通りには至るところに花やグリーンの演出が。緑のある景観は歩行者に「居心地が良く歩きたくなる」通りだと感じさせるポイントの一つだろう(写真撮影/片山貴博)
しばらく歩きながら見ていると、なんと!それらが植えられているフラワーポット、駐車スペースの精算機、果てにはポストまでが深みのある紺色で統一されていることに気がつきました!
案内板や街灯など通りに設置されるものは「元町ブルー」で統一。ベンチには元町の「M」マークのあしらいが入っているこだわりよう! 果てには駐車スペースの精算機やポストまでこの色(写真撮影/片山貴博)
「これは『元町ブルー』という色を設定して統一しています。色で街としての一体感を出しているほか、店舗の正面の壁を見ると、すべての店舗の1階が歩道から少し下がって2階が張り出したような形でそろっていることがおわかりいただけるでしょう。2階の下の部分を歩行者の方が通ることで、雨の日でも濡れずに歩いてもらえる構造になっているんですよ」(加藤さん)
通りに並ぶ店舗はすべて1階部分が2階に対して約1.8m下がっているという。横断歩道にもひさしが設けられ、雨の日でも歩きやすい(写真撮影/片山貴博)
確かに、横断歩道の上にまで雨除けが! 打木さんによると、歩く人に優しい配慮を各所に施しているそうです。
「車道には『歩車共存』ができる道路を目指して自動車の通行速度を抑える工夫をちりばめています。風情を演出しながらあえて凹凸のあるピンコロ石を敷き詰めたり、道路は直線にせず、途中に駐車スペースやクランク、ハンプを設けることで車がゆっくり走る道になるよう意識しています。逆に元町の『M』マークの所は歩道との段差が少ないフラットな石畳を使用し、ベビーカーや車いすが通りやすいバリアフリーエリアになっているんですよ」(打木さん)
一定間隔で「M」のマークの入ったフラットな石畳が出現! 道路はあえて一方通行にすることで、交通量を最小限に抑えている(写真撮影/片山貴博)
さらに子ども連れにも優しいスペースとして、通りの中ほどには専用の授乳スペースが確保されています。「オアシス」と名付けられたパウダールームで、鏡やイスはもちろん、個室のドアがついた授乳スペースやソファ、オムツ替えスペース、調乳用の給湯器も備え付けてありました!
通りから脇道を入ったビルの2階にはパウダールーム「オアシス」が。完全個室のドアがついた授乳スペースや広々としたソファもある(写真撮影/片山貴博)
アパレル店の前にはレトロなコカ・コーラの自動販売機が! ちょっとした遊びゴコロが随所に見られるところも「歩きたくなる」ポイントの一つだろう(写真撮影/片山貴博)
(写真撮影/片山貴博)
見えないところもスゴイ!歩きたくなるまちを支える仕組みここまで見てきただけでも“至れり尽くせり”な通りだと感じますが、元町の凄さは見えるところだけではなく、見えないところでまちの魅力を下支えする仕組みがあることです。多くの店舗があるにもかかわらず、通常、よくお店の前で見かける搬入・搬出用の大きなトラックが通りには全く見当たりません。
「大きなトラックが駐車していないのは、ショッピングストリート単独では希少な『共同配送』の仕組みを設けているからです。近隣に『共同配送集配センター』を設置し、各運送会社からの配送貨物はすべて1カ所に集まります。そこで荷物を共同配送専用の車両『エコトラック』に積み替えて各店舗へと配送するんです。その際には、通りの一つ脇を流れる堀川沿いにある共同配送車専用の駐車スペース『エコカーゴステーション』を利用するので、トラックが通りを歩く人の目に触れることはほとんどありません」(加藤さん)
2004年に社会実験として開始した元町SS会オリジナルの共同配送の仕組み。専用車両やスペースを確保することで大きなトラックが見えない通りに(資料/元町SS会)
また、元町SS会では「元町通り街づくり協定」を策定し、5年ごとに横浜市に承認を得ながら、この通りで営業する商店に対して「元町公式ルールブック」というまちづくりと店舗設計の指針を示しているそう。多くの店舗がこのルールに則ったお店づくりをすることで、元町の歩きたくなる、美しく快適な街並みが維持されているのでしょう。
新しく元町通りに店舗がオープンするときには、店主に「横浜元町まちづくり憲章」や「元町まちづくり協定」等をまとめたルールブックを渡すという(資料/元町SS会)
さらに見えないところでまちを支えているのが、行政や周囲の組織との連携です。加藤さんは「常日ごろから頻繁に連絡を取ることによって風通しの良い関係を築き、前向きな取り組みにつなげられている」と言います。
「周辺には元町SS会のほかにも、中華街、馬車道、関内、山手の各商店会があり、横浜というまち全体を盛り上げるようなイベントや取り組みを行っています。また、元町には住民の方で組織された自治会もありますが、住む人と商店ではまちに求める機能や環境が異なりますよね。そのギャップを埋めるために『商店が栄えることで街がきれいに維持できている』ということを共有して、周辺に住む方にも理解と協力を得ながらまちをつくっている感じです」(加藤さん)
近年はコロナの影響で開催できていないが、例年、ハロウィンやクリスマスなどのイベントには多くの人で通りがにぎわう(資料/元町SS会)
実際に2019年6月~2020年3月の間に行われた、パークレットの整備を含む改修作業においても、この密な連携が欠かせなかったと言います。
「行政や警察と何度も事前協議を行い、日々、相談・連絡をしながら計画・実施をしていきました。例えば、パークレットはもともと駐車スペースだった道路の一部を使用しているのですが、道路活用にはさまざまな法規制があり、そのままでは利用できませんでした。横浜市や警察、土木事務所と協議を重ねた結果、縁石を設けて歩道の一部とすれば使えることになり、縁石の上やその歩道側にベンチを設けたのです」(打木さん)
「つくる」ではなく、「使う」目線のまちづくりを確かに、国土交通省の皆さんに話を聞いたときにも「地域の人がまちづくりを主導することが大きな成功要因になる」という言葉がありました。印象的だったのは、「これまでは『何をつくるか』という視点で行政が主導してきたまちづくりだが、現在、好事例として取り上げているまちは『どう使うか』の視点で住民や民間事業者が参画している」という点です。
「元町の事例もそうですが、豊田市都心地区の新とよパークの事例も、行政だけでなく地元の人たちも主体的に動いているからこそ、魅力的なまちづくりができていることをよく示すものだと思います。実際に空間を使う人たちの『使う視点』を大切にして計画をつくり、多くの関係者と『共有する』ということを大事にしているんです」(宮川さん)
新とよパーク(左)、新とよパークパートナーズの会議(右)(画像提供/国土交通省)
「住民や民間企業が行政に対してまちを『こんな風に使いたい』という意見を積極的に発信していけば、それが多くの方に支持されるまちづくりにつながると思います。住民の方のかかわりが、そのまちのビジョンの核になっていくのです」(諏訪さん)
さらに椎名さんは、「都市の機能が多様化していくなかで『人』中心のまちづくりを進めていくと都市の価値が向上し、多くの人の『QOL(クオリティーオブライフ、生活価値)の向上につながる』といいます。
「多くの人にとって歩きたいと思える街になることで、多様な人が集まります。いろいろな人が集まれば、ダイバーシティーの発想で街にイノベーションが起こります。新しい発想は地域課題の解決につながり、日々の暮らしが快適なものになり、経済が活性化していきます。経済が回れば、まちに投下される資金も増えるので、まちはいっそう快適で、美しいものになるでしょう。この好循環を生み出すことが重要なポイントなのです」(椎名さん)
日本でも地方創生が叫ばれて久しいですが、まちづくりを住民・民間で主体的に行っていこう、という流れは数年前から世界的な流れとして起こっています。コロナ禍も経て、改めて歩けるまちの良さを理解できた、という声も多いそうです。
多くの人が新しい生活様式を模索しているいまこそ、まちに興味を持ち、積極的に声を上げ、関わっていくチャンスかもしれません。私たち一人ひとりがまちをつくる主体の一人だという気持ちで「自分の好きなまちがもっと魅力的になるには」を考えていきたいですね。
●取材協力
・国土交通省
・元町SS会事務局
元気に美しく空中を舞う姿がSNS等で話題の「無重力猫・ミルコ」をはじめ5匹の猫と暮らす、中川ちささん。猫を迎えてから、DIY未経験だった夫が猫トンネルやキャットウォークなどを家中に巡らせ、シンプルな注文住宅が激変!「自分たちの手でここまでできるの?」と驚く「猫の巨大ジャングルジム」のような家ができるまでのストーリーと、素人でもトライできる「猫のためのDIY」について話を伺いました。
「初めて猫を飼う不安」より目の前の猫の可愛さが勝り5匹の親にTwitterやInstagramで人気の「無重力猫ミルコの家」を発信している中川ちささん。中川夫妻は15年前に、たくさん持っていた絵が映えるようにと、ダークブラウンと生成り色の壁でコーディネートしたシンプルシックな注文住宅を建てました。「いつか猫か犬を飼いたい」と思っていたことを知る友人から、「里親を募集している子猫の引き取り手がいなくて困っているから見に行こう」と誘われて会いに行きました。2人とも猫との暮らしがどういうものか分からなかったこと、壁や家を汚されるのではないかという不安はありましたが、猫のあまりの可愛さにほだされて、その場で迎え入れることを決意したのです。
猫専用通路を張り巡らせた家で、ミルコを抱いた中川ちささん(写真提供/中川ちささん)
「里親を募集していたのはオスとメスの2匹でしたが、夫が仲のいい2匹を引き離すのはかわいそうと言うので、2匹を同時に連れて帰ることにしました。飼う前は不安があったのに、実際暮らしてみたら癒やししかありませんでした」(ちささん)
2012年にうしお(オス)とピーチ(メス)と暮らし始め、1年後にベンガルのレオン(オス)を、2015年に駐車場でひろったミルコ(オス)も加わり、2017年に保護猫シェルターにいたロッケ(オス)を迎えました。ロッケは子猫のころから腎臓の持病があることが分かりましたが、獣医師に診てもらい、投薬を続けながら普通の生活ができています。「猫の飼いやすさは個体差があって何匹なら飼いやすいとは言えませんが、病気になったときのことなどを考えると、うちで飼えるギリギリは5匹です」
飛び跳ねるポーズがダイナミックで美しい白猫のミルコ(写真撮影/中川ちささん)
(写真撮影/中川ちささん)
ユニークだったのは、躍動的に飛び跳ねるミルコでした。その写真を撮影してちささんがSNSに投稿するとたちまち話題になり、出版社からのオファーで「無重力猫、ミルコ」の名前が入った写真集が2冊発売され、「バレリーナのような猫」と海外でも話題に。ちささんは、「もっと猫について正しい知識を得たい」「猫と暮らす住まいについて学びたい」と、愛玩動物飼養管理士、ペット共生住宅管理士の資格を取得。猫との暮らしに関するコラムを執筆したり、猫イベントに呼ばれて参加するなど生活が一変したのです。
釘やビスを使わず組み立てた初めてのDIY作品「猫棚」夫は週末DIYを始め、住まいは猫仕様に変わりました。リビング・ダイニング・キッチンを見ていきましょう。
猫トンネル、キャットウォーク、スケルトンキャットウォーク、本棚兼キャットタワーへ、家中を走り回れる住まいになった(写真撮影/中川ちささん)
DIYを始めたきっかけは、猫を完全な室内飼いにしたこと。「猫が3匹だったころ、庭で木登りをしたりして遊んでいるうちに塀を越えて隣の庭に入ってしまって。ご近所に迷惑をかけてはいけないと、庭に出さないことを決意しました。すると、外遊びができなくなった猫たちが淋しそうで、猫たちが家の中で楽しく遊べるようにと、夫がDIYを始めたのです」
DIY未経験の夫が初めてつくったのは、ちささんが欲しかった本棚と、猫たちが上り下りできる遊び場の2つのニーズを叶えた「猫棚」でした。収納したかった本が収まり、色合いもデザインも部屋になじんでいます。
初めてつくった猫棚(右)(写真撮影/中川ちささん)
「猫棚は、これまでつくったDIY作品の中でも最も苦労したものです。初めてで分からないこともあって、DIYは釘やビスを使うと猫が爪を傷めないかと心配で、ビスや釘を一切使わず、木と木の凸凹を組み合わせるほぞ組みで組み立てました。今考えると取り越し苦労でした」と夫。
作業は仕事がオフの週末だけ。実際の制作時間は短いものの、構想に時間がかかるそう。「『こういうものをつくりたい、欲しい』と思いついてからプランを練って作業に入るまで2、3カ月かかります。デザインが決まったら、サイズ、手順、必要な材料などを考えてメモして、完成イメージが決まれば、ホームセンターで材料を買って作業に入ります。作業時間は物にもよりますが、だいたい数日でできます」(ちささん)
細かいことが得意だという夫が描いた自分用のメモのような設計図(写真撮影/中川ちささん)
Excelでつくった猫棚の立面図。ここまでできれば完成が見えてくる(画像提供/中川ちささん)
猫棚の扉の取っ手を猫型にくり抜いたのはちささんの希望。細かいところも愛がキラリ(写真撮影/中川ちささん)
もともとあった丸窓の前のステップ台とカーテンレールの上のキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)
壁に穴を空けて部屋から部屋へ抜けて遊べる「猫トンネル」夫が猫棚の次につくったのは猫専用通路「猫トンネル」でした。猫を飼ったことがある人は分かると思いますが、猫は狭い所、高い所、隠れられるところが大好きです。中川家の猫トンネルは、壁に穴を空けて、壁を通り抜けて隣の部屋や1階と2階への行き来をショートカットできる猫専用通路。「あそこの壁に穴をあけよう」と夫が言い出して、リビングの小さな吹抜けから2階の寝室に抜けるトンネルをつくりました。
くぐったりお昼寝したりできるトンネルは猫たちに人気(写真撮影/中川ちささん)
食器棚の上から階段へ続く猫トンネル。くぐるミルコの後ろ姿が可愛い(写真撮影/中川ちささん)
上の写真のトンネルを抜けるとそこは階段。『マツコ会議』(日本テレビ系列)で紹介されたトンネルは穴から顔だけ出したり、覗いたりして遊べる(写真撮影/中川ちささん)
「猫トンネル」のつくり方を教えてもらいました。
猫トンネルのつくり方
(1)壁に穴を空ける前の準備として、壁の中の間柱を調べる機器「下地センサー」で柱がない場所を確認して、壁の中が空洞になっている部分に穴をあけます。電気配線が通っていそうな場所を避けるよう注意。
(2)猫の胴回りなどのサイズから、(4)の塩ビパイプのサイズ(直径)を決めます。
※塩ビパイプは決まった規格があるので、塩ビパイプに壁の穴の大きさ(5)の木枠の穴の大きさを合わせます。
(3)引き回しのこぎりで壁(入口と出口になる壁)に同じ大きさの穴をあけます。
(4)貫通した壁に塩ビパイプを通します。
※塩ビパイプは、下水道管や土木管など、排水や輸送配管として使われる建築資材です。
(5)円の周囲に木枠を当てて木工用ボンドで接着して完成。
写真のようにトンネルの木枠の色は、部屋のテイストと合わせてペイントしています。「1階のリビングから寝室へ続く道、リビングから夫の部屋に続く道、キャットウォークからキャットウォークに続く道、そして食器棚から階段に続く道と、家では4つも猫トンネルをつくってしまいましたが、失敗したら大変なので、おすすめはしません」と、ちささん。つくる際は、自己責任で正確かつ慎重に行う必要があります。マンションは自分のモノでも、外周壁や戸境壁は共用部分になるため、穴をあけられません。また、住戸内の壁も、管理規約で穴をあけることが禁止されている場合があるので確認が必要です。
猫も人も楽しめる天井の下の猫専用通路「キャットウォーク」猫トンネルをくぐる猫たちの姿を見て、もっと駆け回れる範囲を広げたいと、夫はキャットウォークに着手しました。キャットウォークは、猫たちの専用歩道のようなもので、室内飼いの猫の運動不足、ストレス解消にもうってつけ。猫の飼い主が注文住宅を建てるときに要望が多いアイテムです。中川家は、ウォーキングコースを増設するようにキャットウォークを次々とつくり、猫の動線を伸ばしていきました。
板を棚受け金具で留めただけのシンプルなキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)
キャットウォークを製作中の夫と作業を見守るレオン(写真撮影/中川ちささん)
猫好きが大好きな「肉球」を下から見放題のスケルトンキャットウォークは、透明な椅子に猫をのせて肉球の写真を撮っていたちささんが、肉球が歩く様子を見たいと要望して、夫が製作したもの。写真のように真っすぐ一直線に長くするのではなく、角度をつけているのは猫が全速力で走って、勢い余って落ちたりすることがないようにとスピード抑制対策です。また、アクリル板と木の枠の間にナットをはさみ少し隙間をあけたことで猫たちの抜け毛が溜らずに落ちて、植物や飾りを吊るすこともでき、一石二鳥でした。
アクリル板と木の枠の間に隙間を確保するのがポイント(写真撮影/中川ちささん)
キャットウォークの両脇に設けた木の枠は特別な部屋のよう(写真撮影/中川ちささん)
上の写真はキャットウォークの支柱を枠上にデザインしたものですが、猫たちが手やあごをのせて休むのにちょうどよいスペースになりました。
形を変えるとキャットウォークにもなる「見晴らし台」のつくり方
窓際の高い所から外を眺める「見晴らし台」(写真撮影/中川ちささん)
パーツをステインで着色。パーツは正確に丁寧に切り出す(写真撮影/中川ちささん)
天井や壁に穴をあけるのはちょっと困るという方のために、簡単につくれるキャットウォークを教えてもらいました。もともとカーテンレールの上を平行棒のように歩いたり、カーテンを上るのが好きな猫も多くいます。カーテンレールの上に細長い板を置いて、U字型のサドルバンドで留めて固定すれば完成。設置する前には、カーテンレールが壁にしっかり固定されているか念のため確認しましょう。
これなら、マンションでも穴をあけずにつくれますね。ただし、カーテンレールの上のキャットウォークまで上れる、足掛かりになるものを用意してあげましょう。
カーテンレールの上のキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)
サドルバンドでカーテンレールと板をしっかり固定してつくったキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)
人と猫の喜ぶものを次々とつくり広がる「猫パラダイス」中川家は、長年使っていた食器棚の一部を活かして食器棚を新たに製作し、食器棚の上をキャットウォークにしました。普通なら、人と猫が使うものは別で、空間が狭くなりがちですが、キャットステップ兼用の本棚も同様に、猫の遊び場と人の使い勝手が調和しています。
キャットウォークから食器棚の上のキャットウォークへ、さらに猫トンネルを通って階段に出られる(写真撮影/中川ちささん)
キャットステップ兼用の本棚には猫トンネルや隠れ場所もある(写真撮影/中川ちささん)
見晴らし台やキャットウォークへアクセスするのに便利な螺旋階段(写真撮影/中川ちささん)
中川家のDIYがステキなのは、夫、妻、猫たちの三位一体の作品だから。妻が欲しいものと猫たちが喜ぶことを頭に描きながら、時間と手間をかけて形にする夫。ときには製作を見守り、完成したらうれしそうに使う猫たち。最近は色を塗ったりするなどの作業を手伝うこともある妻は、猫たちが作品を使う様子を撮影してSNSで発信。「真似したい」「つくり方を教えて」という問い合わせが多く、誰かの役に立つならと、目で見て分かりやすいYouTubeでつくり方を発信し始めました。
夫が仕事から帰ってくると、最短ルートのキャットウォークを駆使して、猫たちが玄関まで走って出迎えるそう。「DIYの面白さは、自分のセンス、知識、技術を自由に発揮できること。難しいのは、見栄えと機能性をどう両立させるかですが、だからこそやりがいを感じます。猫たちはキャットウォークで昼寝をしているか、走り回っているか、存分に活用してくれるのもうれしく、つくり甲斐があります」(夫)
夫が庭で作業する様子を並んで見守っている猫たち(写真撮影/中川ちささん)
「何をつくっているのかにゃ?ボクたちのもの?」と、興味津々な猫たちに見守られて作業するのは楽しいもの。けれども、仮止めした製作途中の作品に猫がのらないよう注意が必要です。
15年前に注文住宅を建てた中川さんは、猫5匹の大家族になり生活スタイルも変化、時とともに家具やインテリアの好みも変わったそうです。「注文住宅を建てるときにもし猫たちがいたら、全然違う家を建てていたと思います。例えば、猫のトイレと人のトイレを近くに置きたかったですが、後から変えられる部分と変えられない部分があります。DIYにトライして、失敗したら自己責任でやり直しての繰り返しで、家とともに自分たちも成長してきました。これからも少しずつDIYのアイテムを増やしたいです」と、ちささん。
家の購入、注文住宅は完成・引き渡しがゴールではありません。変化するライフスタイルや好みに合わせて自らが手を加え工夫して、家族が喜ぶ家にカスタマイズしていく。そして、家族の豊かなおうち時間を過ごし思い出を育む、そこからが「世界にたったひとつのわが家づくり」はずっと続いていくのです。
●無重力猫ミルコのお家
●Instaglam
旭化成ホームズのくらしノベーション研究所では、自社が提供した一戸建ての開口部などの修理記録を元に、過去15年間の侵入被害についての調査結果をまとめた。その結果を見ると、地域によって侵入経路に違いがあることや、省エネガラスの普及などで侵入手口が変化したことなどが分かった。詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
くらしノベーション研究所調査報告「戸建て住宅侵入被害15年間調査」
同社によると、コロナ禍でステイホームが広がり、留守になる住宅が減ったことから、空き巣狙いなどの侵入窃盗の被害が大きく減少しているという。ただし、住宅への侵入窃盗は年々減少傾向にあるものの、オートロックやピッキング対策錠が普及してきたマンションに比べて、ポストコロナにおける一戸建ての侵入窃盗のリスクは高いと考えられる。
同社では「道路との関係」「窓ガラス」「窓とシャッター」について、侵入窃盗被害の傾向を分析している。それぞれについて、具体的に見ていこう。
「東京・神奈川」と「関西圏」「中部圏」で侵入経路に違いまずは、建物と道路との関係性について見ていこう。一戸建ての場合は、前面は道路に面し、三方は他の住宅に囲まれている形状が多い。道路から見て建物の裏側や建物の側面の奥側は、道路から見えづらい「ケアゾーン」となる。
調査結果を見ると、以前は道路の奥側のケアゾーンの侵入が圧倒的に多かったが、近年はケアゾーンの侵入が大きく減っている。同社は、下記のような「ディフェンスライン」で道路から見えやすく、侵入を防ぐプランを提案しており、そうした効果が考えられるとしている。
ゾーンディフェンス概念図(出典/旭化成ホームズ・くらしノベーション研究所「戸建て住宅侵入被害15年間調査」より転載)
興味深いのは、「東京・神奈川」と比べると、「関西圏」では建物側面からの侵入被害が増え、「中部圏」に至っては、正面からの侵入被害も格段に増えることだ。この地域による違いの要因はいくつかある。まず、「東京・神奈川」の都市部は密集市街地が多く、通行人の視線による防犯効果も高い。東京・神奈川よりも道路幅や敷地に余裕が生じる地域では、建物側面の中央付近からの侵入が多くなることが挙げられる。
また、車社会の中部圏では、犯罪者が車で乗り付けて、道路に近い場所で犯行に及び、車で逃走するという事例が多発していたことが挙げられる。そうなると、道路側から建物奥に向かって照明を当てて側面を明るくしたり、カーポートより前で侵入を防ぐなどの手立てを考える必要があるという。
防犯ガラスはガラス破りに効果あり!?サッシや窓から侵入する場合、ガラスを割って侵入することが多い。近年は省エネ性の高い複層ガラスなどが普及し、ガラスが単層(1枚)の普通ガラスより防犯性も高くなる。
下記を見ると、普通ガラスの場合は「ガラス割り」で侵入する事例が多いが、防犯性の高いガラスの場合はガラスを割らずにサッシ自体をこじ開ける「こじ開け」事例の比率が高いことが分かる。ガラス割りに時間のかかる防犯ガラスでは、サッシをこじ開ける手口へと転換しているわけだ。
また、人が通れる幅ではない細い窓(スリット窓)や地盤面から2mを超える高さの窓(高窓)からの侵入が少ないことから、スリット窓と高窓の防犯対策が有効なことも分かったという。
グラフの横軸は被害時期(例:2006年~2010年)を示している(出典/旭化成ホームズ・くらしノベーション研究所「戸建て住宅侵入被害15年間調査」より転載)
窓を開けたままに注意!面格子付きの窓でも油断は禁物一戸建ての特徴に「勝手口」が挙げられる。この勝手口のドアも狙われる対象だ。特に、格子付きの上げ下げ窓が開いている「無施錠」の状態での被害が多いという。
(出典/旭化成ホームズ・くらしノベーション研究所「戸建て住宅侵入被害15年間調査」より転載)
また、「面格子」のある窓はない窓に比べて侵入リスクが低いが、面格子のある浴室の窓が開いている状態での侵入が多かった。浴室は湿気が気になるので窓を開けておき、浴室の窓くらいならとそのまま外出してしまう場合も多いのだろう。防犯の最大の対策は居住者側の「施錠」という基本的な防犯行動だということがよくわかる結果だ。
また、一戸建ての窓は「シャッター」付きのものも多い。シャッター付きの窓では、圧倒的にシャッターが開いていた状態での侵入被害が多い。同社では、空き巣は夕方から夜に犯行が多いと言われているので、昼間にシャッターを開けたまま外出し、夜になって照明がついていないことで留守だとわかる状態になることが要因だと見ている。
(出典/旭化成ホームズ・くらしノベーション研究所「戸建て住宅侵入被害15年間調査」より転載)
侵入窃盗の被害に遭わないためには、住宅の設計や設備などを防犯という観点で検討することに加え、カギをかけたりシャッターを閉めたりといった、基本的な防犯行動が最も重要だということが分かる報告書だった。マイホームで空き巣などの侵入窃盗被害を受けたら、金銭的なものだけでなく、精神的にも大きなダメージを受ける。被害を受けてからでは遅いので、マイホームの防犯については常に意識したいものだ。