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山手線「渋谷」駅 徒歩6分
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渋谷駅ほど近くという交通の便の良さ、そして初めから内装を整えてあるという今回の空間は、そんなニーズに ... 続き>>>.
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2022年1月29日~2月20日、長野県松本市で「マツモト建築芸術祭」が開催されました。市内20カ所の”名建築”を会場に、17名のアーティストによる作品を展示するというもの。各地でさまざまな芸術祭が開催される中でも、「建築」にフォーカスした芸術祭は珍しいものです。建築旅がライフワークの筆者がイベントの様子をレポートします。
日本初の建築芸術祭で楽しむ、有名無名の名建築江戸時代、城下町として発展した長野県松本市。全国で12箇所しかない、江戸時代以前からの天守が現存する国宝・松本城を筆頭に、江戸時代以来の町割(城郭を中心に据えた区画整備)、戦前の建築物など歴史の名残が色濃く感じられる松本は、街歩きが楽しい人気の観光スポットです。建築を目的にあちこちを旅してきた筆者としては、建築が観光資源になっている地域には、新しく建てられる建築物もまた、優れたものが生まれやすい土壌があると感じます。その最たるものが建築家・伊東豊雄氏の設計で2004年にオープンした「まつもと市民芸術館」。松本城の石垣を意識して外壁のパターンを、伊東氏らしさ全開の軽やかで柔らかなデザインに昇華させたこの建物は、現代日本建築随一の名作として世界的にも広く知られています。
国宝・松本城。無駄な要素が削ぎ落とされた実戦的な城郭建築。黒と白のコントラストが美しい(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
江戸~大正期以来の蔵を改修した商店が建ち並ぶ「蔵通り」こと中町通り。城下町として栄えていたころから、商人の町だった(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
まつもと市民芸術館。石垣をイメージしたパターンが有機的で軽やかに連続する様子には、竣工から20年近く経った今でも新鮮な印象を受ける(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
2Fロビー。壁面に穿たれた大小さまざまなガラス窓が輝き、ハレの空間を演出している(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
また明治期の開国後、西洋の建築デザインを取り込もうと全国で流行した「擬洋風建築」と呼ばれる様式の代表格として、あらゆる日本建築史の教科書に登場する旧開智学校もまた必見の建築物です。
建築・デザイン関係者ならずとも一度は訪れたい松本で開催された「マツモト建築芸術祭」
芸術祭をたっぷり楽しんだ筆者が、総合ディレクターを務めたグラフィックデザイナーのおおうちおさむさんにイベントに込めた想いを伺いました。
国宝・旧開智学校には現代美術家・中島崇氏の作品が展示された。多数の細い糸が建物の前面に張り渡され、鑑賞者が建物に近づけない現状が強調されている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
「アートがあることで建物が美しく感じられる、そんな関係をつくりたかったんだよね。僕は美術館に展示するために作品をつくっているアーティストはほとんどいないと思っていて。人々の暮らしの中にあって、その人の生活や空間を素敵に魅せるのがアートの本来の役割なんじゃないかな。松本は民藝の聖地でもあって、生活の中に美を見出す民藝の思想と、僕の思うアートの価値が完全につながっていて。日本各地でいろんな芸術祭が開かれているけど、松本だからこそやる意味があることはなんだろうって考えた時に、松本にしかない建築に、そこに展示するからこそ輝く作品・作家を選んでいこうと思った。松本には戦前から大切に使われてきた建築や、いろんな人の手にわたって使われ方も変わりながら引き継がれてきた建築がたくさんある。そういうストーリーをもった生活の中にアートが入り込んでいくのを想像したらすごくワクワクしたんだよね」
池上邸 土藏に展示された、磯谷博史氏の写真作品。線の細い照明は、作家の要望を受けおおうちさんがデザインしたもの(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
今回、芸術祭の会場として選ばれたのは松本城を中心に約800m圏内にある、有名無名の建築物で、おおうちさんの言うように、ほとんどは、筆者も知らないものでした。「名建築」の基準が独自に設定されていて、会場を訪れてみれば、どれも個性豊かで味わいのある建物ばかり。アート作品の解説以上に建物のストーリーが詳しく説明されていることも、この芸術祭の特徴です。
国登録有形文化財のかわかみ建築設計室。取り壊しの相談を受けた設計事務所が、壊すのは忍びないと自ら事務所として借り、後に所有することになった(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
もともと病院として設計された名残が、エントランスの受付スペースに。現在は事務所の作業スペースとして使われており、芸術祭の最中も事務所スタッフの方が忙しく作業していた(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
1階の旧応接室に展示されたロッテ・ライオン氏の作品。幾何学的な作品が、建築を構成する要素と呼応するよう(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
2階はなんと和室になっている。この芸術祭を通じて、外部からは想像も付かない内部空間を体験することが幾度もあった(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
ここでしか見られない、建築とアートのマッチング「僕も何回も松本には来ていたんだけど、そんなに建築に詳しいわけじゃなくて。もともと市役所に勤めていた米山さんっていう、とんでもない建築マニア、それこそ松本にある建築で知らないものはないみたいな人がいて。その人に、今回のビジョンを話したら次の日に膨大なリストをつくって持ってきてくれたんだよね。そこから気になったものをピックアップして話を聞いたり、実際に見に行った。その中で、あぁ、この建築にはこんな作品が置かれると良いだろうなぁ、ってインスピレーションが湧いた建築を選んでいって、最終的に60箇所くらいの候補のなかから絞り込んで20会場に落ち着いたんだ」
擬洋風の看板建築、下町会館。一般的な看板建築では建物のメインの立面のみデコレーションすることが多いなか、四周余念なくデザインされている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
ここに展示されたのは土屋信子氏の作品。普段は共有のオフィスとして公開され、誰でも申し込めば使うことができる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
今回の目玉のひとつ、国登録有形文化財の割烹 松本館。昭和十年ごろの建設時に太田南海が腕を振るった精巧な装飾があふれる空間に、小畑多丘氏の彫刻が展示された(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
松本館の外観からは、とても内部が想像できない。地元民でさえ、芸術祭を通して初めてその魅力に触れた人も多いことだろう(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
「たとえばまつもと市民芸術館は、伊東さんが石垣をイメージしてデザインした壁の隙間から差し込んでくる光に(井村)一登さんの作品を合わせたいなっていう、すごく単純な発想。たくさんの人が行き来するあの階段に置いてあったら、見ようによっては空間ごと彼の作品に見えてくるんじゃないかとか、想像が広がっていくよね。どの建築にどの作家の作品を展示してもらうか、っていうのは全部僕が決めていて、建築の空間と普段どんな使われ方をしているかってとこからイメージしていった」
まつもと市民芸術館、エントランスから2Fへ上がる大階段。左手の台に展示されているのが井村一登氏の作品(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
「旧念来寺の鐘楼は、お墓が並ぶところに建っていて、隣がショッピングモールになってるでしょ。人の日常的でささいな営みと、死後の世界とが共存しているなかに、他愛ないやり取りを作品化した山内(祥太)さんの映像が入り込んでいったら面白いなと思って。映像の世界観も新しくて、忘れていた記憶を引っ掻き回されるような不思議なアンリアルが、あの場所だからこそ生まれてる。アートを美術館から人の生活の中に引きずり出してあげることで、建築もアートも今までと違って見えてくる。誰にでも分かりやすい作品は選んでないから、見た人は本当に良いと思えるか、自分の眼で判断しなきゃいけない。ステートメントなんか読まなくても魅力が伝わる作品を選んでるつもりだけど、わからないな、つまんないなって人も当然出てくる。そうすることでこびりついた価値観を引き剥がしてフラットにものを見る力が養われていくことも期待してる。市は松本をアートの街に、っていう構想をもってるんだけど、本気でやるならそれくらいオリジナルなことをやらなきゃいけないと思ってて。既存の評価軸とか、過去の成功事例に乗らずに自分たちでなにが本当に価値があるのか、判断してくのはものすごくハードルが高いことで、すごくチャレンジングなことだけど、この芸術祭はその一端になったんじゃないかな」
墓地の真ん中に建つ旧念来寺鐘楼。左手側奥にショッピングモールがある(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
なにも変えなくても、違う体験になるひとつひとつ建築を読み解いて、この空間にどんな作品を展示するとその場所が輝くのか。実際に足を運んで建物を選んでいくおおうちさんの熱意は相当なものです。その熱意が建物のオーナーさんにも伝わったようで。
「普通こうやって建築を活用するイベントだと、なかなか使用許可が下りないケースが多いんだけど、今回ネガティブな理由で使えなかった建物はひとつもなかった。やっぱり松本の人たちも、古い建物を守っていきたいという想いがある一方で、なかなか良い使い方ができていないってジレンマがあったんじゃないかな。新しい使い方を拓く可能性に賭けてくれたんじゃないかなって思ってる。あとはやっぱり齊藤社長の存在。彼の松本に対する貢献って本当に大きくて、松本をアートで盛り上げていきたいっていう想いが今回の芸術祭に関わった人たちの姿勢に影響を与えてる。集まってくれたボランティアの人たちも、運営に携わった実行委員会の人たちも本当に熱意があって、だからこそ良いイベントになったと思うね」
齊藤社長とは、芸術祭の実行委員長で扉ホールディングス株式会社 代表取締役の齊藤忠政氏のこと。扉ホールディングスは、創業90年の歴史をもつ老舗旅館「扉温泉 明神館」や今回の会場にもなった、古民家を改修した高級レストラン「レストラン ヒカリヤ」など、松本の観光業をまさに建築体験を通じて盛り上げてきた立役者です。かく言うおおうちさん自身も、齊藤社長の熱意に動かされてきたひとり。
会場の一つで、写真家・石川直樹氏の作品が展示されたレストラン ヒカリヤ。国登録有形文化財に登録されている明治時代の建築。奥に建つ蔵が会場となった(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
ヒカリヤの展示会場へは母屋の隣に建つ建物を抜けて向かう。作品へ至るアプローチも芸術祭を楽しむ仕掛けになっている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
普段はフレンチレストランとして使われているヒカリヤ。最低限の手入れによって、文化財が美しく活用されている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
「もう十何年も前、それこそ僕がヒカリヤのアートディレクションをやらせてもらって齊藤社長と知り合ったころから、ずっと、松本に残る古い建築をどうにかして残していきたいって話は聞かされてたんだよね。だけど、保存して置いておくだけじゃどんどん朽ちていって命が失われていくから、使い続けることを考えた方が良いって話をずっとしてた。やっぱり時代時代の使われ方に応じてこそ、生きた建築って言えると思う。芸術祭ではいわゆる保存とはアプローチが違うけど、新しい使い方を気づかせてあげられたんじゃないかな。旧宮島肉店なんか、ボロボロのまま長いこと放置されてたのを片付けるところから始まったんだけど、芸術祭が始まってから何件もあそこを使いたいって相談が来てる。実は僕も、今後の芸術祭準備のための拠点として使おうと思っているんだけどね(笑)」
旧宮島肉店外観。コンパクトながら均整の取れたプロポーションが特徴的。それにしてもよく見つけてきたなと思わされる、素朴な建物だ(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
今回、旧宮島肉店に作品を展示するにあたり、壁紙を剥がすなど大胆に手を入れた。老朽化が進む建物を事務所として使うためには、それなりの改修が必要になる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
「今回、建築やアーティストとじっくり向き合ったからこその成功だったと思ってるから、この規模感は守っていきたい。なにも変えなくても、使う会場や展示する作家が変わるだけで全然違うイベントになるからね。これだけコンパクトだからこそ、街歩きもしながら1日で全部の会場を回れて、楽しみやすい芸術祭になってるし。少し数を減らして、1棟まるごと使った展示も考えてみたいかな」
鬼頭健吾氏の作品が外壁窓、中庭へ抜ける通路の天井と中庭に展示された、NTT東日本松本大名町ビル(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
中庭にはカラフルなアクリル板でかたちづくられた舟型の作品が。単体で展示されるのと、ビル全体を使った展示のひとつとして見るのとではまた印象が変わってきそうだ(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
「次は蔵通りに会場を必ず設けたい。実はもう次回に使いたい建物は決まってて、ひとつは看板建築の古い薬局で、もうひとつは旧開智学校を手掛けた大工が建てた蔵。あとはどうにかして松本城を会場にできないかなっていうのは考えてる。この時期いろんなイベントが重なってて、今回は断念したんだけど。旧開智学校も耐震工事を終えたらお披露目をしたいね。規模は守りつつ、単発のイベントでサテライト会場として中心部から少し離れた場所を使ってみる、みたいなやり方にもチャレンジしたいな」
いまも薬局として使われているミドリ薬局。装飾から立体感が感じられる看板建築だ(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
立石清重が晩年に手掛けた蔵。立石は旧開智学校の設計・施工にも携わった、明治期の松本で活躍した大工として知られる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
会場を変え、作家を変え、継続していく建築芸術祭。実現すれば、そのたびに建築やアートの新しい楽しみ方が見つかるに違いありません。
人と建築の関係に転換を迫る、アートの力筆者が今回の芸術祭を通して感じたことは、建築の見方をほんの少し変えてみることで、こんなにも豊かな世界が広がっているのかということでした。会場に指定されていなければ、決して中に入ることも注目することもなかっただろう建物に、芸術祭をきっかけに出会うことができたことは、参加者皆の財産になっていることだと思います。実際に中に入ってみると、外観からはまったく想像がつかない魅力にあふれた建築をいくつも訪れることとなりました。それもそのはずで、おおうちさんがアートは人の生活のためにあるものと言うように、建築もまた人々の生活のためにあるものです。生活とともにある建築の姿を知って初めて、その建築の魅力も知ることができるのだと思います。
総合ディレクターのおおうちおさむ氏。隣の井村一登氏の作品は、おおうち氏所蔵のものから出品した(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)
中に足を踏み入れて、普段どのような使われ方をしているのか想像してみる、あるいはそこに置かれたアートと対峙することで、自分だったらこの建築にどんな価値を見出すことができるか考えてみる。そのような建築との向き合い方がデザインされていました。
そのような視点で日々の生活で触れる建築を見てみることで、いままで見過ごしていた可能性や価値を発見することができるかもしれません。松本ではいまもたくさんのお店が古い建物をリノベーションし、営業していますが、これからよりオリジナルな使われ方が模索されていくのではないかと期待が膨らむきっかけとなりました。さらに、そこにしかない建築に、その空間に合った作品を展示するマツモト建築芸術祭の枠組みは、全国どんな場所であっても実践可能だと、おおうちさんは語っていました。松本ではじまった建築活用の新しい取り組みが、全国さまざまな名建築を舞台に広がっていくことを夢見させてくれる、幸せな芸術祭でした。
●取材協力
m.truth 株式会社
国民生活センターが、若者向け注意喚起として、住宅の賃貸借に関するトラブルについてチェックポイントなどを紹介している。特に、親元を離れて新たな生活を始める際に、賃貸借の契約をすることが多いので、契約内容をしっかり確認するように呼びかけている。
【今週の住活トピック】
「賃貸借契約にまつわる相談件数とトラブル防止のポイント」を発表/(独)国民生活センター
国民生活センターによると、住宅の賃貸借に関する消費生活相談のうち、契約当事者が 20 歳未満および 20 歳代である件数は、毎年2割ほどを占めるという。契約する時のトラブルだけでなく、入居中や退去時についても、契約内容に起因するトラブルは多い。
住宅の賃貸借のトラブル事例として、国民生活センターは次の事例を挙げている。
事例1:入居前に解約を申し出たら、支払った敷金などを含む約18万円がほとんど返ってこなかった。
事例2:賃貸マンション退去後に、原状回復費用として17万円もの額を請求された。
なぜ、こんなトラブルが起きるのだろうか?
(写真/PIXTA)
契約後は、契約書に記載された内容に文句は言えない賃貸住宅を契約する際には、契約上重要な説明を受けた後、賃貸借契約を交わす。契約をすると、そこに記載された内容を理解したうえで契約したものと解釈されてしまう。つまり、そこに記載されたとおりに実行されても文句は言えないし、逆に記載されたことと異なること、あるいは記載されていないことは交渉できるわけだ。
賃貸借契約書には、国土交通省が推奨するひな形がある。しかし、個人と個人が契約を交わす場合、それぞれに事情があるので、常識から考えて消費者側に著しく不利となるものを除き、互いが合意すればどういった契約内容でもかまわない。そこで、事前に契約に関する書類にどういったことが記載されているか、確認することが重要になる。
「申し込み」の段階であれば、自分の都合で契約を取りやめることができ、預けた申込金は返還される。しかし、契約が成立した後は、たとえ実際に入居する前に解約したとしても、「契約解除」について契約書に記載された内容通りに手続きがなされても文句は言えない。
入居時だけでなく、退去時のトラブルも多い。特に、「敷金」と退去時の「原状回復」費用との精算をめぐるトラブルは多い。そこで国土交通省では、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を作成し、HPに公表している。国土交通省では、契約書に原状回復に関する取り決めを具体的に明記するように推奨しているので、契約前にガイドラインを確認しよう。
(写真/PIXTA)
契約時、入居中、退去時のトラブルを防ぐには?契約するまでに、契約内容についてしっかり理解しておくのはとても重要なことだ。国民生活センターでは、特にチェックしてほしい項目をリストにしている。
出典:国民生活センター/若者向け注意喚起シリーズ「新しいお部屋で新生活!「賃貸借契約」を理解して、トラブルを防ごう!!」より転載
加えて、退去時のトラブルを防ぐには、いつから損傷していたかなどが分かるように、入居前や入居時に、貸主などと一緒に状況を確認したり、写真を撮ったりしておきたい。また、入居中も損傷が生じたら貸主に相談して、必要な補修を行ってもらおう。放置して損傷を大きくさせたり、無断で補修をしたりすると退去時のトラブルになりかねない。
普通に生活している間に、年月による壁紙の日焼けや家具を置いた跡などが発生するのは当然のこと。原状回復として、退去時に借主が負担するものには当たらない。原状回復費用は、借主側が生じさせた損傷などを負担するものなので、原則をよく理解し、契約書の原状回復の取り決めを確認しながら、費用負担について貸主側と交渉しよう。
賃貸住宅は、わが家ではあるものの、あくまで貸主の住宅を借りているもの。そのことを踏まえて、適切に使用するよう心掛け、契約書の内容をよく理解して生活しよう。無用なトラブルはないほうがよいにちがいない。
●関連サイト
「賃貸借契約にまつわる相談件数とトラブル防止のポイント」を発表/(独)国民生活センター
国土交通省が定めている「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインガイドライン」
コロナ禍での経済活動の再開、おうち時間が増え、住環境の見直しをする人が増えています。住まいの省エネには窓のリフォーム、特に高性能な内窓の取り付けが効果的と言われています。そんななか、YKK APが木材・木建具事業者による木製内窓の商品化の支援を2021年に開始し、話題になっています。樹脂やハイブリッド(アルミと樹脂の複合)などとの違い、取り組みの背景などについて紹介します。
YKK APの窓の部材・部品を使って木製・建具事業者が自社ノウハウで製品化今すでにある窓の内側に、もう一つの窓を取り付ける「内窓」。工事も簡易で、グリーン住宅ポイント制度や自治体の補助金などができるたびに話題になっていますが、昨今は光熱費の高騰などを背景に、「省エネになるらしい」「家の光熱費の節約にいいらしい」などとして、興味や関心を持つ人が増えています。
左はアルミ樹脂複合窓、右は樹脂窓(写真提供/YKK AP)
窓のサッシ(枠)の素材といえば、樹脂またはハイブリッド(アルミと樹脂の複合)が主流ですが、国産木材を使った、「木製内窓」にも関心が集まっています。高い断熱性能を持つ木製内窓を取り付けることで、元からある窓と付けた内窓の間に断熱効果のある空気層ができ、さらに木材のサッシは金属性に比べ熱を伝えにくいことから、より断熱効果を高めてくれます。木製内窓のメリットは大きく4つで、(1)断熱性が高まる(2)結露の軽減、(3)光熱費の節約、(4)木製素材ならではのあたたかみ、デザイン性があげられます。一方で、(1)価格が高くなる、(2)窓に求められる断熱や耐候性、おさまり(部材が美しく取りつけられた状態)などを確保するのが難しいといった難点があり、なかなか普及に至りませんでした。
今回、木製内窓を開発・発売したのは岐阜県岐阜市にある後藤木材で、その商品化を支援したのがYKK APです。YKK APといえば超大手、高性能な樹脂サッシを取り扱っていて、過去には木材を使った窓を生産していたこともあるといいます。今回、自社での開発でなく、木製内窓の商品化を支援する立場として“木製・木材加工のプロ”へ専用の部材・部品を開発し提供することに至った背景には、どのような理由があるのでしょうか。
木製内窓(写真提供/凰建設 森亨介さん)
「日本は森林資源も豊富にあり、木材は再生可能な材料でもあります。弊社でも活用を図ってきましたが、木材の調達加工、品質を確保しつつ製品化となるとやはり難しい。窓のことならすこしは得意なんですが(笑)、木材加工のプロである後藤木材さんに相談にいき『木材サッシ、木製の製品化にどうやって取り組むのがよいか』とヒアリングをしていたところ、『後付できる内窓をつくってみませんか?』という話になりました。こうした取り組みは初めてですので、お互いに手探りではじまったんです」と話すのはYKK APの住宅本部 住宅事業推進部商品企画部部長でもある山田司さん。
3年ほどの試行錯誤の末、YKK APが窓に必要な複層ガラスや部品や部材、ノウハウを提供し、後藤木材は独自の圧密技術(圧力をかけて木の強度を高める)の強みを活かして木材の調達や加工、組み立て、取り付けまでを行うという事業の枠組みができあがりました。
「YKK APが表にでるのではなく裏方になって、地方にたくさんある木材を扱う会社と組み、ネットワークを広げることが木製内窓にとってもよいのでは、という結論になりました」(山田さん)
木製内窓の提供イメージ。窓に必要な部品、部材、情報提供はYKK APが行い、木材加工ノウハウをもつ木材建具事業者が製品化する(画像提供/YKK AP)
木材・建具会社など13社から問い合わせ。試作品を製作した会社も最近では伝統工芸×おもちゃなど、異なる業種・業態のコラボ商品やサービスを目にすることが増えましたが、今回の木製内窓は、「それぞれのプロフェッショナルが得意分野を活かす」という、ある意味で、「王道のコラボ」といえるかもしれません。YKK APは今回のビジネスモデルを後藤木材だけでなく、全国の木材加工・建具企業にも応用していきたいと考えているそう。
「2021年7月にプレスリリースを発表しましたが、13社から問い合わせがあり、6社が商品化を検討、1社が試作品の段階に来ています」と前出の山田さん。
驚いたのは、木材加工だけでなく、建具や家具といったいわゆる工芸品の会社からの問い合わせがあったことだそう。確かに欧米のインテリアと比較した場合、窓のデザイン面では現在の内窓は物足りなさを感じてしまうのが現状です。さまざまな木材加工のノウハウを持つ会社が木製内窓に参入することで、技術面や価格面でも新しい発見があることでしょう。
窓次第で部屋の雰囲気はぐっと変化する(写真提供/YKK AP)
「窓辺を美しくしたいという潜在的な需要はありそうですし、何より日本には豊富な森林資源があります。1社で完結するのではなく、他社と強みを活かしつつ、窓の高性能化、断熱化を図っていけたらいいですね」と続けます。
10cmあれば取り付け可能。極薄で高性能な「木製サッシ」一方、部材の提供を受け、木製内窓の開発にあたった後藤木材の後藤栄一郎社長と内外装事業部上條武さんは、地元の工務店である凰建設の森亨介専務とともに、数年前から木製サッシの製品化に興味を持っていたといいます。
「弊社は杉・ひのきという柔らかい木を複数層重ねて圧縮して強度を増す独自の技術を持っており、床材、テーブルカウンターなど幅広い用途で商品展開をしてきました。また、ユーザーと接点を持つ工務店の意見を聞きたいと、数年前から森さんとも懇談・勉強を重ねてきました。以前に木製窓をつくったこともあったんです」(後藤社長)。
とはいえ、木製サッシを自社のみでつくるのは容易ではなく、風圧や遮音、気密、断熱といった性能については、森さんにリスクを負ってもらうかたちとなり、性能面でもしっかりとしたものを世に送り出したいという思いを抱いていたそう。
「今回、内窓の製品化にあたっては、富山県にあるYKK APの技術施設に行き、木製内窓の試作品確認会や検証試験を行い、強度、施工のしやすさ、おさまり、断熱、防音など徹底的に試験でき、樹脂の内窓と同程度の性能が担保できました」(上條さん)といい、胸を張って送り出せる「木製内窓」が完成したそう。
驚くべきはその薄さで、なんと10cm! 自然素材である木材は節などがあるため、薄くて強度を出すのは容易ではないそう。一方で、10cmという薄さを担保したことで、既存のマンションや一戸建ての窓に施工しやすく、多くの窓に取り付けることができ、見た目にも美しく収まります。
断熱性や気密性といった性能面、薄さを両立(写真提供/後藤木材)
「完成した内窓を今回、我が家で取り付けましたが、施工時間や手間などは樹脂の内窓とほぼ変わりません。なれてくれば1窓1時間あれば施工可能になりそうです」(森さん)
木製内窓を組み立てる様子。10cmと薄いため、マンション/戸建てともにおさまりのよい商品に。木枠ってやっぱり見ていて惚れ惚れします……(写真提供/後藤木材)
欧米の高性能窓に遜色なし。日本の技術を集めた窓に木製内窓を取り付けたところ。YKK APが誇る高性能樹脂窓「APW430」と遜色ない断熱性の数値を出せるそう(写真提供/凰建設 森亨介さん)
左側が内窓を取り付けていない箇所、右側が内窓を取り付けた箇所のサーモ画像。左側の窓は青みが強く、右側の窓は緑色になっていて、温度に差があることがわかります。「暮らしがてきめんに変わったということはありませんが、気がつくと快適」(森さん)といいます(写真提供/凰建設 森亨介さん)
木製内窓の第一号は、ともに研究をしてきた森さん宅の住まいに設置。もとから木のぬくもりを感じる住まいでしたが、木製内窓が違和感なくなじみ、「元からこのような住まいだったのでは?」と見紛うほど。
「住んでしまうとすぐに慣れてしまい以前との差が分かりにくいのですが、朝晩の冷えは気にならなくなりましたし、やはり常に快適です。また、既存の窓と内窓をあわせるとYKK APさんのトリプルガラスのAPW430を上回る熱貫流率0.84w/(平米・K)の性能が出せるように。木製の内窓でここまで性能値を出している商品はないので、自信をもっておすすめできます」と森さん。
ちなみに、森さんがこの木製内窓と相性がよいと考える住まいは、(1)既存~新築マンション、(2)2005年~最近に建てられた一戸建て、(3)防火地域に建てる新築一戸建てだそう。
「特に(1)マンションの場合、窓部分は共用部のため、個人で簡単には窓を取り換えることができませんが(新築・中古ともに)、こうした内窓であれば取り付けやすいでしょう。マンションは躯体自体の断熱性は高いものの、北側は底冷えしたり、直射日光を強く受ける夏場は冷房効率も悪くなるので、弱点ともいえる窓の部分を対策するのにお金をかける価値は十分にあることでしょう」
(写真提供/凰建設 森亨介さん)
「現在13社から問い合わせがありますが、木製内窓の商品化支援を進め、もっとつながりをつくっていきたいですね。後藤木材様をはじめ、今後、商品化される事業者の技術やノウハウを蓄積・共有することで、生産性向上やコストダウンにもつなげていただきたいと思います。また、森林資源の活用をして、地域活性化にもつなげていただきたいと思います」(山田さん)
後藤木材の後藤さんも、地域活性、森林資源の活用を課題に挙げます。
「戦後に植林された木材は今、使い時を迎えています。1本の丸太からさまざまな製品をつくりたいですし、地域で使って、地域にお金を落としていきたい。今回のように業界や会社の垣根を超えて、知恵を出していけたら」といいます。
森さんは、「今回の内窓のように大勢の人が集まっていいものをつくっても、住まいに採用されなかったとしたらあまりにさみしいので(笑)、まず知ってもらうこと、そして体感してもらうことが大切だと思います。日本の住まいの高断熱化は、本当に窓がカギとなっているので」と力説します。
今年は、「こどもみらい住宅支援事業」がはじまり、記事で紹介した内窓「ゴトモクのウチマド」を使ったリフォームも補助対象となっています。もし、「家が寒い」「光熱費が高い」と気になっているのであれば、この木製内窓、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。ちなみに我が家は2012年築、省エネ等級4ですが、この冬の電気代は3万円を超えました。今、真剣に検討中です。
●取材協力
YKK AP
後藤木材
凰建設
セルフサービス方式のカフェの受付、木材の貼られたカウンターの脇にはランチやスイーツの品書きの黒板が。スチールパイプと木のシンプルなテーブルや椅子が並ぶラウンジ。ランチの混み合う時間を終えると、一角ではセミナーのためにプロジェクターを設置して、それに合わせてテーブルを並べ替えしている人々の姿が見える。洒落た大学キャンパスのカフェラウンジのようにも見えるが、ここは「県庁の地下食堂」(佐賀県佐賀市)だという。
県庁の職員食堂を、市民に開かれたカフェラウンジに「放課後の時間になると、ライトコートに面したテーブルで近所の県立高校の生徒が自習している姿が見られます。役所の暗い地下食堂……から明るく開放的に一新され、職員だけでなく市民が訪れてくれる空間に生まれ変わりました」と話してくれたのは、佐賀県庁・総務部人事課の佐藤優成さんだ。
きっかけは、テナントとして入居し、県庁職員向けの食堂を経営していた事業者の経営不振からの撤退だった。県庁職員の昼食の受け皿である大切な食堂だが、佐藤さんによると「中小企業診断士に調査してもらったところ、職員の昼食需要だけでは採算が取れず経営が成り立たないという結果でした」という。そこで「県庁に訪れる市民や周辺住民にもランチ需要だけでなくホテルラウンジ的なカフェとして利用していただく方針とし、プロポーザル方式で事業者を募りました」(佐藤さん)と説明してくれた。
カフェのメニューやイベントなどの提案内容から、運営事業者としてサードプレイスが選定された。2018年3月に客席部分のみ整備してプレオープン、その後、厨房スペースの改修を行い、同年9月に佐賀県庁地下ラウンジ「SAGA CHIKA」がフルオープンした。
カフェはセルフサービス方式で、ラウンジは誰もが自由に出入りできる。職員や市民にとって、持ち込んだ飲み物やお弁当を食べることもできる、パブリックな空間という位置づけだ。
「SAGA CHIKA」の一角、セルフサービス方式のカフェ「CAFE BASE」。カウンター脇の黒板に、日替わりのランチ、スイーツのメニューが並ぶ(写真撮影/村島正彦)
ラウンジには、誰もが自由に出入りでき、飲み物やお弁当を持ち込むことも可能だ。地下だがライトコートからの視線を遮らないことで、外光を感じられる空間となっている(写真撮影/村島正彦)
会議やセミナーにも使える柔軟な利用、県産食材の売り場スペースも「SAGA CHIKA」の改修・インテリアなどを担当したのは、OpenA(オープン・エー)だ。
OpenAは、建築設計を中心にリノベーション、公共空間の再生、地方都市の再生、本やメディアの編集・制作などまで、幅広く行っている。
企画・デザインを担当したOpenAの加藤優一さんは、「既存の空間をスケルトン状態にして、間仕切りフレームと移動可能なテーブル・椅子などを設けることで、様々な活用ができる緩やかな空間にしました」と話す。間仕切りやカウンター、ロングベンチなどには、佐賀県産のスギ材を用いた。
「SAGA CHIKA」の一角のカフェ「CAFE BASE」を運営するのは、サードプレイスの清田祥一朗さんだ。県庁も立地する佐賀城内地区にある県立博物館のカフェの運営も行っている。
清田さんは、隣県の福岡県出身で、オーストラリアで経験したカフェ文化に触れたことで、カフェ経営に夢を描いたのだという。その後、学生時代を過ごした佐賀に住まいを移し、現在は佐賀市内で3店舗を経営している。
県内の農家との繋がりを大切にして、県産の食品を使った料理を提供するとともに、ラウンジ内では佐賀県産の小麦粉や野菜、醤油・味噌など加工食品の販売も行っている。
既存の空間をスケルトン状態にして、間仕切りフレームと移動可能なテーブル・椅子で構成した(写真撮影/村島正彦)
間仕切りフレームやテーブル・椅子には県産材のスギ材を活用した(写真撮影/村島正彦)
カフェカウンターの脇では、佐賀県産の小麦粉がレシピカード付きで販売されている(写真撮影/村島正彦)
羊羹、醤油、味噌など、佐賀県の名産品が販売されている。会計は、カフェカウンターで(写真撮影/村島正彦)
ワークショップ、イベント開催で市民が足を運び親しまれる県庁に2022年3月現在、「SAGA CHIKA」フルオープンから約3年半が経つ。
清田さんは「2020年春からの新型コロナウイルスの蔓延で、当初考えていたイベントなど満足に行えない状況ではあります。これまで、コーヒーセミナーや味噌づくりワークショップ、お酢のメーカーのトークイベントなど、地域の食関連の会社と連携しながら、市民の方にSAGA CHIKAに足を運んでもらうきっかけづくりを行っています」と話す。
また、カフェラウンジは、職員で混み合う昼休み以外は県庁内や外部の会議やセミナーにも場所貸しをしている。ラウンジのスペースを4つのブロックとして、事業者が県と協力してイベントなどを開催することは予約制で利用できる。取材で訪れた日には、ラウンジの一角で県の流通貿易課の民間事業者向けのセミナーが開催されていた。
人事課の佐藤さんは「旧来の職員食堂は、主に昼休みに職員だけが利用する場所になっていました。刷新されてオープンなスタイルになったSAGA CHIKAには、市民の方が足を運んでくれるようになり、施設の利用価値も高まり、県の発信する情報に触れていただく機会も増えたと思います」と話す。
エレベーターホールから「SAGA CHIKA」の入り口部分に当たる空間は、2021年4月に「SAGA TRACK」というスポーツ情報発信スペースとしてオープンした。2024年開催の「SAGA2024(佐賀国民スポーツ大会)」を市民にアピールする施設だ。佐賀県出身の柔道家、故・古賀稔彦氏のバルセロナ五輪のメダルや、「SAGA2024」のために整備が進められている「SAGAサンライズパーク」の模型展示など、「SAGA CHIKA」へ訪れる市民への広報にも一役買っている。
カフェを運営するサードプレイスでは、地元の食材関連の会社と連携してワークショップなど企画・開催している。写真は、お酢メーカーのトークイベントの様子(写真撮影/清田祥一朗)
この日は、ラウンジの一角で県の流通貿易課の民間事業者向けのセミナーが開催されていた(写真撮影/村島正彦)
「SAGA CHIKA」のエントランス脇には、2021年4月に「SAGA TRACK」が整備、オープンした。これは、2024年開催の「SAGA2024」のPR施設という位置づけだ。空間デザイン監修をOpenAが行った(写真撮影/村島正彦)
用事がないと訪れない、市民には馴染みの薄い県庁。「SAGA CHIKA」は、リノベーションによって、職員の昼食利用のニーズに応えると共に、地域に開かれ、ランチやコーヒーを楽しむ市民の憩いの場に。「お堅い印象、入りづらい」をデザインの力と、カフェ事業者の企画・運営力による、市民に親しみやすい公共空間づくりの成功例と言えるだろう。
●取材協力
・佐賀県総務部人事課
・OpenA
・サードプレイス
リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2022関西版」を発表した。今年はどんな順位になったのだろう。
昨年から順位逆転。1位は「梅田」、2位は「西宮北口」まず「2022年の住みたい街(駅)」ランキングの結果を紹介しよう。
TOP3では4年連続1位を堅守していた「西宮北口」と2位の「梅田」が逆転。トップになったのは関西ナンバーワンの大都市「梅田」だった。
神戸市の中心地「神戸三宮」は今年も3位に。
本年度より、集計方法を変更しており、上記の表の見方および、注意点については本記事末に表示。
4年ぶりに1位となった「梅田」。周辺ではJR大阪駅北側「うめきた2期地区開発プロジェクト」が進み、関空に直結するJR新駅が2023年に誕生予定など、再開発とともに将来への期待感の高まりが感じられる。
梅田駅周辺の風景(写真/PIXTA)
一方、盤石の人気を誇ってきた「西宮北口」だが、約10年ほど前から駅周辺の人口増加が落ち着いていた。対して梅田駅のある大阪市北区は5年で1割増程度のペースで人口増加を続けている。そのことからも人気の逆転現象がうかがえる。
若い世代の支持を集め、大阪市内中心部の人気が顕著にTOP20に注目すると、「本町」「心斎橋」が初トップ20入りを果たした。
得点を見ても、「なんば」(+90点)「梅田」(+79点)「福島(22位)」(+66点)「本町」(+41点)など大阪市の中心部が昨年より急上昇。都心人気の高まりが顕著な結果となった。
ちなみに「梅田」は男女ともに20代で1位。「本町」は20代女性でベスト10に入るなど、若い世代からの支持が高いことがわかる。
梅田エリアに隣接する「福島」は「うめきた2期」の波及効果で人気が上昇。初トップ20入りした「本町」は、西区と中央区のほぼ境目。両区ともタワーマンションの相次ぐ誕生や靭(うつぼ)公園、大坂城公園など都心部でも緑豊かな環境とあって、子育て層が流入。このため「本町」のある中央区は15歳未満人口が大幅に増加している。
本町の街並み(写真/PIXTA)
一方、「岡本」(8位→12位)「芦屋川」(13位→19位)などブランドイメージの強い阪神間の住宅地がやや順位を下げている。
共働き世帯率が上がり、新築マンションを中心とする大阪市内の住宅供給が増えたことから、大阪市内中心部の居住ニーズが高まった結果だろう。
2年前から続くコロナ禍で、郊外への注目度が上がったことは報道でも伝えられている。首都圏の住みたい街ランキングは郊外人気が顕著な結果となった。
ところが、関西では逆に都市部への注目度が一層増す結果に。なぜか。
関西は首都圏に比べてテレワーク率が低いことが理由のひとつにあげられる。また、生まれ育った地域に住み続けている人が多いことや、通勤時間が首都圏ほど長くないことなどから、コロナ禍でも生活スタイルを変える人が少なかったためではないだろうか。
一方、都心部以外で大きくランクアップし、初のベスト20入りしたのが「明石」(27位→16位)。
「住みたい自治体」でも明石市は過去最高の6位となり、関西全体で最も得点を伸ばした(+123点)。
明石がこれほどランクアップしたのはなぜだろう。
明石市は神戸市など周辺エリアからファミリー層が流入し、2020年の国勢調査では人口増加率が全国62中核市で1位になっている。
明石駅周辺で長年進められていた再開発が完成し、大型商業施設や子育て支援などの公共施設、タワーマンションが整備されたことに加え、子ども医療費の無料化、第2子以降の保育料無料化、中学校の給食の無償化など市が子育て支援の施策を次々に打ち出し、ファミリー層を引きつけているようだ。
投票した理由として、駅周辺のショッピングモールや商店街の利便性、緑豊かな明石公園など、派手ではないが暮らしやすさを評価する人が多かった。
また、明石市に投票した人のうち、神戸市・明石市以外の兵庫県に住む人が半数近くを占めた。子育て支援の取り組みなど、市民目線の自治体の施策が、他都市から新住民を呼び込む大きな要因となっていることがわかる。
明石市(写真/PIXTA)
「住みたい自治体」では、草津市(+43点)、姫路市(+58点)も得点が急上昇した。
草津市の中心部である「草津」や「南草津」は、再開発により大型商業施設を整備。両駅を核とする地域発展への期待に加えて、琵琶湖畔の景観に恵まれた住宅地の美しさや、JRで大阪と直結する交通アクセスの良さなどにより、不動産価値上昇への期待などが高支持の理由だろう。
「姫路市」も駅周辺の再整備で駅前に大型商業施設が整備。大ホールのある姫路市文化コンベンションセンターやはりま姫路総合医療センターなどの大型施設のオープンが相次ぎ、駅周辺が目覚ましい発展を見せている。
明石市、草津市、姫路市はいずれも再開発・大型整備が完成したことで街が美しく整備され、生活の利便性を増した。さらにJR新快速電車の停車駅で大阪や神戸、京都への通勤が可能なことなどが、共通した魅力といえる。
再開発で変化した姫路駅前(写真/PIXTA)
ブランドより実利性が重視される傾向住みたい街2022を見ると、若い世代の都心部人気の高まりとともに、郊外でも子育てしやすい住環境や自治体の施策が評価に影響していることを感じた。
明石市がその典型だが、高槻市(+40点)も医療施設や教育環境の充実が支持を集めており、姫路市も文化・娯楽施設や学びの施設充実で評価を高めている。
従来からのイメージやブランド力だけでなく、実利面でも住みやすさに注目が集まっている印象をもつ。今後、西宮北口のような住みたい街ランキング上位の常連となる街が新たに登場するかもしれない。今後の結果が楽しみだ。
■関連ページ
>「SUUMO住みたい街ランキング2022 関西版」
>住みたい街ランキング トップページ
■記事中に紹介しているランキング表について
・調査対象は関西2府4県(大阪府・兵庫県・京都府・滋賀県・奈良県・和歌山県)に住む20代~40代の男女4600人。調査は2022年1月に実施。最も住みたい街(駅・自治体)から3位までを投票し、最も住みたい街を3点、2番目に住みたい街を2点、3番目に住みたい街を1点として集計している。
・本年度より、集計方法を「※注」のように変更している。
※注:本年度より、「駅すぱあと路線図」において、複数の駅が、地下通路や連絡通路でつながっている場合には同じ駅として集計している。表中の※印は本年度より得点を合算している駅で、先頭に表記している駅を代表して表示している。以下が合算している対象駅
※1:梅田 大阪 大阪梅田 東梅田 西梅田 北新地
※2:神戸三宮 三ノ宮 三宮 三宮・花時計前
※3:なんば 難波 大阪難波 JR難波
※4:天王寺 天王寺駅前
※5:神戸 高速神戸 ハーバーランド
※6:烏丸 四条
※7:明石 山陽明石
※8:心斎橋 四ツ橋
ニューヨーク・マンハッタンの繁華街にある、8階建てのビル。エレベーターで上階に上がるまで、このビルの中に「和の空間」が存在しているなんて誰が想像できるでしょう?
持ち主は、26年前の訪日以降、日本の大ファンになり日本の文化に敬意を表すニューヨーカーの男性です。一体彼はなぜ、自宅を和室空間にリノベーションしたのでしょうか? お部屋を見せてもらいました。
ニューヨーク・マンハッタンのダウンタウン地区。地下鉄ユニオンスクエア駅から徒歩5分の便利な場所に、煉瓦造りのコンドミニアム(日本でいう分譲マンションにあたるもの)があります。この辺ではよく見かける 歴史的なヨーロッパ建築の8階建てビルです。
エレベーターで7階に上がり、廊下の奥のドアを開けると、なんと2間の「和室」が広がっています!
京都から取り寄せた畳以外の和の素材は、アメリカ現地で調達したもの。全部で約700スクエアフィート(65平米)(写真撮影/安部かすみ)
持ち主は、スティーブン・グローバス(Stephen Globus)さんというマンハッタン生まれ・育ちの生粋のニューヨーカーです。彼は26年前、出張で初めて日本を訪れ、京都・龍安寺の冬景色の美しさに息を呑んだと言います。その後も、東京・新宿の友人の日本家屋に滞在する機会が幾度かあり、「畳の生活」に魅了されたそうです。
ニューヨークに戻ってからも「畳の間が恋しい」と思うようになり、当地にある日系の施工会社、MiyaSに相談したところ、ニューヨークでも和の空間をつくることができると知り、早速自宅の大改築を依頼。2004年に完成したのが、この和室空間なのです。
茶会用に水屋も備わっている(写真撮影/安部かすみ)
床の間(写真撮影/安部かすみ)
「日本人はチェックアウトの際、必ず来た時よりも綺麗に掃除して出発しますね」と感心する、家主のグローバスさん。お気に入りの浴衣を羽織って(写真撮影/安部かすみ)
構想の段階では、ただ「自分のために和室を」いうコンセプトでしたが、完成すると噂は瞬く間に広がっていき、「茶室として利用できないか?」という周囲のリクエストが多く集まったそうです。それに応え、せっかくなので茶室として一般向けに、スペースの提供を始めました。そうして茶会イベントが徐々に増え、日本人や日系の人々、日本文化が好きな地元の人の間で「話題の場所」になりました。
ただ、ここはそもそも茶室専用に つくったわけではなかったため、茶道口(点前をするときの亭主用の出入り口)や炉(ろ)がない状態です。本格的な茶会イベントが頻繁に行われると、どうしても不便が生じてしまうようになりました。
そこでグローバスさんは、今度は8階の別の自室スペースとペントハウスのスペースを利用して、本格的な茶室にリノベをしたのです。そうして誕生したのが「グローバス和室」(憩翠庵)でした。
現在は、7階を「グローバス旅館」としてアーティスト向けのゲストハウスにし、8階とペントハウスの「グローバス和室」を、当地在住の茶の講師(表千家流、上田宗箇流)に使ってもらい、一般向けに茶会を定期的に催しています。
8階は茶室スペースの「グローバス和室」。写真は昨年12月に行われた着物の展示イベント(写真撮影/安部かすみ)
「グローバス旅館」について特筆すべきは、ここはアーティストであれば「無料」で滞在できる場所ということです。その理由をグローバスさんに聞いてみると、「私は芸術が好きなので、日本とアメリカの文化交流の場をつくりたいのです。才能ある日本人アーティストにニューヨークで夢を叶えてほしい」と言います。
「予算が限られた中で活動をしている芸術家が多く、いざニューヨークでアート活動と言っても滞在費用はかさみますから、才能ある芸術家のサポートができたら嬉しいです」。つまり、ここで芸術活動をしてもらう代わりに、無料でこの和室空間を彼らの滞在先として提供したい、ということなのです。
これまで滞在したアーティストやパフォーマーの数は100人を優に超え、茶会、絵の展示会やライブ・ドローイング・パフォーマンス、生け花、舞踊、琴や三味線などの演奏会、着物の展示会などさまざまなイベントが行われてきました。
例えば2016年、当地在住の日本人カップルのために、福岡県の宮地嶽神社から宮司や巫女を招き、神前結婚式を行っています。「その時は6人の巫女さんが当旅館に滞在しました」(グローバスさん)。
グローバス旅館の奥の部屋(写真撮影/安部かすみ)
2部屋にある布団は3人分なので、それ以上のグループでは過去に、寝袋で滞在した人もいたそうです。「私の提供しているものは、カルチュラル・グッドウィル(文化に絡んだ親善活動)です。つまり私がトップアーティストを支援したいという気持ちによるものですから、(通常の)ホテルやホテルのようなサービス、アメニティがここにあるわけではないことをご理解ください」。そして、「ニューヨークで夢を叶えてもらって、私が日本に行った時に彼らのプログレス(進化)を見るのを楽しみにしているんですよ」と、目を輝かせながらグローバスさんは言います。
ここでの芸術イベントおよび滞在に興味があれば、下のウェブサイトの「Contact」から問い合わせてみてください。
障子の外は、ニューヨークの日常の景色が広がっている。室内は外界の音が遮断され、ここがマンハッタンというのを忘れてしまうほど静か(写真撮影/安部かすみ)
2年に及ぶコロナ禍。年の大半をビーチで過ごす普段はベンチャー・キャピタリストとして活動するグローバスさん。2020年春、ニューヨークで新型コロナウイルスの感染が大拡大し、人々の間ではリモートワークがニューノーマルとなりました。これを機に州外や国外に居住地を移した人も多いです。
グローバスさんも人口密度が高く、ウイルスが蔓延する市内に留まることをやめ、2020年と2021年はそれぞれ5月から11月の間、セカンドハウスのある郊外のロングアイランド(ニューヨーク州南東部に広がる 地域)にある、車の通行が禁止されている島、ファイアーアイランドのビーチハウスで生活しました。
また今年頭まで、家族の住むフロリダやヨーロッパ、そしてハワイにも滞在。「仕事をしている以外は、人の密度が低いビーチを散歩するような生活でした」と、すっかり大自然の中で充電してきた模様です。
州民の大多数がワクチン接種を完了し、感染状況が落ち着きつつあるニューヨークには、2月に戻ってきたばかりです。避難生活中も着物の展示イベントなどを開催し、そのようなイベントを行うたびに、スーツケースを抱えて、戻って来ていました。
久しぶりに故郷であるニューヨークに戻り、アメリカ用につくられたやや深めの堀ごたつに腰掛けてくつろぐグローバスさん。「やっぱり和の空間は心が落ち着きますね」と言いながら、心底リラックスしているようでした。
●取材協力
グローバス和室
グローバス旅館(ゲストハウス)
889 BroadwayNew York, NY 10003
35年などの長期間にわたり金利が固定される住宅ローンの【フラット35】。住宅ローンを借りようと考えている人なら、一度は検討したことがあるだろう。実は、4月以降で制度変更がある。どんな点が変わるのか、詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
「【フラット35】2022年度4月以降の制度変更事項のお知らせ」を発表/住宅金融支援機構
【フラット35】は、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携している住宅ローンで、長期固定金利である点が大きな特徴だ。住宅金融支援機構という公的機関が関わっている住宅ローンなので、一定の品質が確保されていると認められた住宅でないと利用できない。
今は、民間の金融機関による変動金利の住宅ローンだけでなく、【フラット35】のような長期間、金利を固定するものも低金利なので、住宅の品質面で安心できるだけでなく、長期間低金利を享受できるのが【フラット35】の魅力だろう。さらに、より性能の高い住宅には、当初の一定期間の金利を引き下げる優遇措置も設けられていて、「【フラット35】S」と呼ばれている。
実は、住宅金融支援機構によると、2020年度の【フラット35】の利用者のうち、92%が【フラット35】Sの利用者だったという。2021年度の2月末時点でも89%だというので、およそ9割が一般の【フラット35】ではなく、金利引き下げを受けられる「S」を利用したわけだ。
【フラット35】Sには、金利AプランとBプランがあり、Aプランで当初10年間、Bプランで当初5年間、適用される金利が0.25%引き下げられる。住宅ローンの一般的な返済方法である元利均等返済では、返済当初ほど返済額に占める利息の割合が大きいので、【フラット35】Sを利用するメリットは大きいのだろう。
ほかにも、中古住宅を購入して一定の要件を満たすリフォームを行う場合(住宅事業者が一定の要件を満たすリフォームを行った中古住宅を購入する場合も対象)に、当初一定期間金利が引き下げられる「【フラット35】リノベ」もある。こちらも、金利AプランとBプランがあり、Aプランで当初10年間、Bプランで当初5年間、適用される金利が0.5%引き下げられる。
【フラット35】S、【フラット35】リノベのプラン内容
このほか、自治体がマイホーム取得者(予定者含む)に補助金の交付などの支援をしている場合で、住宅金融支援機構と連携した際に利用できる、「【フラット35】地域連携型」もある。該当すれば当初5年間【フラット35】の金利が0.25%引き下げられ、【フラット35】Sと併用もできる。
4月から「【フラット35】維持保全型」が創設される2022年4月の制度変更では、「【フラット35】維持保全型」が創設されることになった。これは、いま政府が力を入れている住宅の維持保全施策に対応したものが対象となる。具体的には、以下の通り。
出典:住宅金融支援機構のホームページ「【フラット35】2022年度4月以降の制度変更事項のお知らせ」よりSUUMO編集部作成
(1)は、住宅の耐久性や省エネ性などの高さに加え、維持保全計画が立てられていることなどを条件に認定される「長期優良住宅」であること。(2)と(3)は、4月からスタートする、国の「マンション管理計画認定制度」に認定されることが条件で、(2)が新築版、(3)が中古版となる。
また、古い中古住宅については耐震性や劣化状況の検査を推奨しており、(5)はインスペクション(建物検査)で劣化がないとされたもの、(4)はインスペクションに基づいてリフォームされた(あるいはリフォーム案が提示されている)「安心R住宅」に認定されたもの、(6)は住宅の構造上重要な部分について検査と保険がセットになった「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」が付いている住宅だ。
該当する場合は、当初5年間、金利が0.25%引き下げられる。これは、【フラット35】Sと併用でき、金利Bプランと併用した場合は金利引き下げ期間が10年間になり、Aプランと併用した場合は当初5年間の金利引き下げ幅が0.5%(6年目~10年目は0.25%)になる。
ほかにも、【フラット35】地域連携型の中でも、子育て支援に該当する場合に限り、金利引き下げ期間が当初5年間から当初10年間に延長される。
10月からの変更点は大きい!「省エネ性」の条件が厳しくなる点に注意気になるのが10月からの変更点だ。【フラット35】Sの適用基準の引き上げが予定されているので、かなり影響があるだろう。
現行の【フラット35】Sの基準は、金利Aプランでは、「省エネ性」、「耐震性」、「バリアフリー性」、「耐久性・可変性」のいずれかで一定以上の基準をクリアすることが条件で、金利BプランではAプランより低い基準が設けられているほか、中古住宅独自の基準も設けられている。
住宅金融支援機構によると、現状の【フラット35】Sの資金実行件数のうちほぼ半数が「省エネ性」基準をクリアすることによるというが、この「省エネ性」の基準を引き上げる変更が予定されている。加えて、「省エネ性」に新たに「ZEH(ネットゼロエネルギー住宅)等」を設けて、省エネ性が高いほど金利引き下げが拡大するようにし、中古住宅の【フラット35】S(金利Bプラン)の「バリアフリー性」の基準も高めることになっている。具体的には、次の通り。
■【フラット35】S等の基準の見直し
出典:住宅金融支援機構「【フラット35】2022年度4月以降の制度変更事項のお知らせ」についてのご案内チラシより転載
金利の引き下げについては、ポイント制になり、ポイント数によって当初5年間0.25%引き下げ~当初10年間0.5%引き下げまでの間で設定される。
政府は、「2050年カーボンニュートラル」に向けて、住宅の省エネ性の基準を段階的に引き上げていく。それに先行する形で、【フラット35】についても、2023年4月以降(設計検査申請分)、新築住宅では「断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上」に適合しないと、利用できなくなる点にも留意したい。
マイホームを取得する場合、住宅ローンの果たす役割は大きい。長期間にわたって返済していくことになるので、どの住宅ローンを選択するかは大きなポイントだ。【フラット35】の利用を検討している場合、変更点を知っているか知らないかで資金計画が変わることもあるので、正しい情報をタイムリーに入手することが大切だ。
●関連サイト
「【フラット35】2022年度4月以降の制度変更事項のお知らせ」を発表/住宅金融支援機構
パリを拠点に活動するアーティストの河原シンスケさんは、若者に人気のエリア、バスティーユに暮らしています。話題のレストランやショップが次々と誕生するそばで、庶民の市場やおじさんたちのカフェが健在しているミックス感が、とても居心地良いのだそう。アーティスト・河原シンスケ(かわはら・しんすけ)さんの住まいにおじゃましました。
連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。
ヨーロッパ、アメリカ、アジアの、さまざまな都市を舞台に活動するアーティスト、河原シンスケさん。日本に生まれ、武蔵野美術大学を卒業し、アーティスト活動を始めてからはパリに暮らしています。
河原さんのアートに頻繁に登場する動物、うさぎ。うさぎをモチーフにしたオブジェが室内のあちこちに点在している。うさぎの黒いキャンバス画は河原さんの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)
その生活は文字通り移動の連続で、フランスでエルメスとのコラボレーションを続けつつ、東京都南青山にあるギャラリーSCÈNEや宮城県仙台市の仙台うみの杜水族館、ブリュッセルの@elevensteens 等で展覧会を開催する、といった具合。フットワークの軽さは引越しにも影響するのか、パリ暮らしの約30年の間に、なんと7回も住居を変え、そのたびに改装を重ねたそうです。
「パリで最初に住んだワンルームは、レピュブリック広場近く、今人気の北マレにある小さな住まいでした。そのあとでエッフェル塔の正面にある住まいや、90平米もある歴史的なアパルトマンなど、広さも、建築年代も、さまざまな住居に暮らしました。8年前に引越してきた今の住まいは、日本式でいう1階(海外では日本の2階部分を1階と数える)にあります。日本やフランスの地方都市への移動が多くなったころに、生活をコンパクトにしたいと思って、これまで住んだことがない20平米のワンルームを買いかえました」と、河原さん。
住まいの目の前は車の入らない路地。通行人の行き来もあまり激しくなく、若者エリアにありながらエアポケットにいるよう。古き良きパリの風情の中に、若者に人気のレストランが点在している(写真撮影/Manabu Matsunaga)
20平米はともかく、フランスでは1階の物件は人気がありません。集合住宅の入り口の階なので、人が出入りするたびにドアを開閉する音が響いたり、窓の目の前を通行人が行き来したり。都市の喧騒がそのまま住空間の中に入ることが、敬遠される理由です。日当たりも良くありません。住みにくいことが大前提になっている証拠に、かつて建物の入り口脇の1階は、管理人が暮らすスペースの定番でした。そこをなぜあえて、河原さんは選んだのでしょう?
「移動が多い私にとって、スーツケースを簡単に出し入れできる1階の住まいは何より楽です。段差がないので、作品の搬出の際も便利。そしてコンパクトな住まいは戸締まりが簡単で、セキュリティ面の心配も少ないでしょう。以前、90平米に住んでいた時は、出張のたびにチェックポイントが多くてなかなか面倒でした。今は東京からパリに戻って荷物を置いて、そのままブリュッセルへ出張、ということもとても楽にできます」
あえて暗く演出した室内はひっそりとしたムードがあり、とても落ち着く。壁画アートに見える木製の壁は、全て収納の扉(写真撮影/Manabu Matsunaga)
1階には1階のメリットがある。これは意外な発見でした。でも、日当たりや通行人による騒音はどうでしょう?
「もちろん日当たりの良い住まいの方が、悪い住まいよりはいいですよね。でも住まいというのは、その時その時の予算の中で、自分が何を優先するかで決まると思うのです。これから先また変わるとしても、今の私にとっての優先順位はまず、移動が楽な1階であること、そしてコンパクトであること。その優先順位の中で納得のいく物件を選び、そしてその中で、自分にとって暮らしやすい空間づくりに挑戦したいと思いました」
「狭くて落ち着く大人な場所」を表現「自分にとって暮らしやすい空間」をつくる! そう明確な意図があった河原さんは、物件を購入するや否や大改装に着手しました。入り口のドアを塞ぎ、逆に塞がれ使われていなかったほうのドアを開け、こちらを入り口に変更。リビング側から住まいに入るつくりに変えました。リビングの奥に続く細長い空間は、キッチン兼バスルームに。システムキッチンは、奥行きをリビングとの仕切りになった入り口の開口に合わせてオーダーメイドしたものです。そのおかげでシステムキッチン全体が壁面のようにペタンと空間に収まり、全く圧迫感がありません。
リビングの開口に合わせて、ペタンと平面になるようデザインしたシステムキッチン。その向かいにバスタブが設置されている。洗濯機とトイレも、バスタブの延長に並列(写真撮影/Manabu Matsunaga)
オーダーメイドのシンクは奥行き約30cmとコンパクト。収納扉の取っ手は、バーナーを使って自分で焼き色を入れ加工した。河原さんは料理の腕前も有名。シンプルでおいしいおしゃれなレシピを日本の雑誌で連載中(写真撮影/Manabu Matsunaga)
キッチンに立った時に、背の側になる壁面がバスタブとトイレです。こちらも、リビングからの開口部の幅に合わせた奥行きにそろえて、スッキリと造り付けました。なんと、今バスタブが置かれている壁面が、以前の入り口ドアの場所だというのですから、河原さんの大改装がどれだけ抜本的なものだったのか想像できるというものです。白いパネル式のスライドドアでトイレや洗濯機をカバーして、1枚の壁にして隠す仕組みも、河原さんの考案によるオーダーメイドです。
「一人暮らしだからこんなことも可能」と、大胆な場所に設置したバスタブ。なんと今はタイルで覆われている壁が、物件購入時にはドアだった(写真撮影/Manabu Matsunaga)
キッチンの向こうは小さな中庭。リビングの窓と合わせて、窓はトータル2カ所ある(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「小さな住まいだからといって、学生の一人暮らしみたいな場所にはしたくありませんでした。これまでもずっとそうでしたが、ここでも『真似できない独特の空間をつくる』ことをポリシーに、住まいづくりをしています。もし家族がいたら20平米は狭すぎるでしょうし、予算は同じでも優先したいこと、しなければならないことは他にあったでしょう。でも私は今一人で、自分が満足するための空間づくりに集中することができるのです。ここには『狭くて落ち着く大人な場所』をつくりたいと思いました」
居心地の良さに必要な条件は、どうやら広さや日当たりにあるとは限らないようです。河原さんの住まいに居ると、確かにそう感じます。今の自分が満足するには何を優先するべきか、そこがカギになる、とスッと納得できるのです。では、1階にあるこの20平米がなぜ心地よいのか、そのポイントを探っていきましょう。
キッチンとリビングの間の開口部上に、トレーニング用のバーを設置。ジムの役割も備え、今の自分にとって必要な全てを装備した空間に。2カ月間続いたコロナ禍のロックダウン中も、この住まいのおかげで快適に過ごすことができた(写真撮影/Manabu Matsunaga)
床暖房と、暗い照明まず、住空間の快適さのために、河原さんは床暖房を取り入れました。床暖房は暖房装置としての性能が優れていることに加え、もし暖房器具を取り付けるとなった場合に必要な、気に入ったデザインを見つける時間や労力をまるまるカットすることができます。多忙な人ならなおのこと、この素早いジャッジは参考にしたいところです。さらには、暖房器具そのものを住空間に取り付けなくて済む、という大きなメリットもあります。小さい住まいにとって、電気機器等の家電の出っ張りは、できればない方がありがたい!
暖房器具としても、装飾のオブジェとしても、活躍している暖炉。暖炉はもともとあったものを残した。来客のあった時などにムードづくりも兼ねて使用するとか。暖炉の奥行きと窓の開口に合わせて、壁面収納をオーダーした(写真撮影/Manabu Matsunaga)
そして照明。1階であるが故の暗さをカバーするために、天井にスポットを付ける、という発想が一般的なところですが、河原さんはその反対。できるだけ暗くする目的で、アンティークやヴィンテージのライトを採用しました。
うさぎモチーフのネオンを照明に。明るさを抑えた照明をいくつも組み合わせるのが、心地よさのポイント(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「ライティングはくつろぎの演出にとってとても重要な要素です。落ち着きやリラックス感を得られるよう、できるだけ暗い照明にしたいと思いました。ライトの他に、キャンドルも毎日の生活に取り入れています」
『狭くて落ち着く大人な場所』は、床暖房の快適さと、抑えた照明がポイントであると言えそうです。実は、リビングにある唯一の窓の前には、屏風が置かれています。自然光をさえぎるのはもったいない、と多くの人が思うところですが、こうすることで窓の前を歩く通行人の存在が気にならず、なんとも言えない隠れ家的ムードが生まれるのでした。
窓の前の屏風は、河原さんの作品。ここにもうさぎが登場している。花は河原さんの生活に欠かせない大切なディテール(写真撮影/Manabu Matsunaga)
既製品に手を加えて、自分だけのオリジナル家具にあえて照明を暗くして、心地よさを演出した小さな住まい。コンパクトだからこそ、空間を最大限に生かすために、システムキッチンや収納をオーダーすることが不可欠だったことがわかりました。照明と、造り付けのオーダー家具の他はどうでしょう? 他の部分の、心地よさのポイントは? そう思って河原さんの住まいを眺めて気づくのは、目に入る全てが河原さん流だということです。
「コンパクトな生活をしたくて決めた20平米の暮らしでしたから、持ち物も厳選して、徹底的にミニマムにしました。ここには必要なもの、気に入っているもの、実際に使うものしかありません。小さい子どものいる家だったら、お客さん用の食器と普段使いのものを使い分けた方が安心です。でも、ここはそうではない。気に入っていて、使う食器だけがあれば十分で、たくさん持つ必要がないのです」
リビングのベッドは毎朝布団を収納に片付け、毎晩眠る前にベッドメイキングしている。毎日きちんとやるのは大変だ、と思ってしまうが「日本の布団だってそうでしょう?」と言われてみれば確かにそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
そのように厳選されたものが集まっているから、目に入る全てが河原さん流なのでしょう。壁のペイントや、作品のインスタレーション、そして既製品にバーナーで焼き色をつけた家具など、河原さんの手によるものと、アンティークのベッドや椅子、ヴィンテージの照明といった河原さんが選んだお気に入りが混在し、『真似できない独特の空間』がつくられているのでした。
イケアのテーブルと椅子は、バーナーで焼き色を入れて自分で加工した。このテーブルで6人が着席するディナーを振る舞うことも(写真撮影/Manabu Matsunaga)
バーナーで焼き色を入れた収納家具と壁面。ここが入り口のドア(写真撮影/Manabu Matsunaga)
アールデコのカトラリーホルダーも日常使いの小物。そしてこれも、やはりうさぎ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
河原さんのお話を伺いながら、いつか取材した女性内装デザイナーの話を思い出しました。家づくりは洋服選びと違って経験値が少ない分、失敗が怖くて冒険ができません。そう彼女に伝えると、「あなたの住まいなのですから、あなたが好きなようにすればいいのです。第一、外科の手術ではなくてインテリアです、失敗したらやり直せばいい。もし誰かに悪趣味だと言われたとしても、あなたの家はあなたのためのものですよ」との言葉。自分にとっての優先順位を明確にして、自分がいいと思うものを選ぶ、という河原さんのお話と、核心は同じです。そして同時に思うのです、自分が選ぶこと、自分が決めることに、なんと私たちは不慣れなことか! そう河原さんに伝えると、そっと背中を押してくれる言葉が返ってきました。
「予算や、家族等の条件や、色々を含めて、その中で最大限に楽しもうと考えてはどうでしょう? せっかく自分で、住まいづくりができるのですから」
河原さんのように、セオリーではなく、自分を優先してみる! そう考えるだけでプレッシャーから解放され、気が楽になります。住まいづくりを自由に楽しむことができそうです。
自分のバッグのオリジナルペイントは、フランスのファッション&アクセサリーブランドである「ピエール・アルディ」とのコラボの楽しみとして始めた。その後オーダーが殺到し、4月中ごろからピエール・アルディのサイトにも登場することに(写真撮影/Manabu Matsunaga)
個性的なドクロのドアノブは、道端で拾ったもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)
天井の高さを生かして設置したインスタレーション。鏡の額装を兼ねている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
お気に入りのパリ暮らし。そしてこれから。フランス人が敬遠する1階のワンルーム、しかもコンパクトな20平米をあえて選んで、自分のための快適な空間づくりに挑戦し、それを実現した河原さん。住まいがあるエリアもお気に入りで、19世紀から続くアリーグルの市場や、目利きが選ぶアンティークショップ、おしゃれなカフェやベトナムレストランなど、庶民の活気と最新アドレスが混ざり合うパリならではの環境を、一人のパリジャンとして日々、満喫しています。朝ちょっと外に出てテラスでカフェを飲む。そんななんでもないことが当たり前にできるのも、パリ暮らしの魅力だ、と。
天気がいい時、気分転換したい時、打ち合わせの時、ふらりと活用できるカフェはパリジャンにとって第2のリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)
河原さんがよく立ち寄るヴィンテージのショップ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
パリジャンの暮らしに花は欠かせない。庭は無くとも、新鮮な切花が部屋にあればフレッシュな季節感を感じられる(写真撮影/Manabu Matsunaga)
19世紀から続くアリーグル市場はいつでも庶民の活気に満ちている。河原さんのお気に入りスポットの一つ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「でも実は、そろそろ次を考え始めているのですよ。気に入っていても、飽きるので(笑)。次の住まいは、広々とした郊外もいいかもしれませんし、コロナ禍以降人気の上がっている地方都市も面白いかもしれません。ヨーロッパのほかの都市という選択肢だってあり得ます。いろいろな考えが浮かんでは消えてゆき、まだ確定していません。というのも、ギャラリーや美術館の多いパリの暮らしがやっぱり好きですし、世界中どこへ行くにもここは便利ですから」
新しい住まいづくりは新しいチャレンジ! そう捉えている河原さんだからこそ、暮らし変えを躊躇せず、常に前に進んで行けるのだなあと実感しました。
(文/角野恵子)
●取材協力
河原シンスケさん
HP
Instagram
●関連サイト
ピエール・アルディ
長引くコロナ禍で、運動不足に悩む人が増えました。屋外で取り組めるランニングは、コロナ禍にもおすすめのスポーツ。とはいえランニングにはストイックなイメージがあり、少しハードルが高く感じることもあるでしょう。今回はランニングを楽しく気軽にできると人気のコミュニティ、「ランニングと朝食」の活動を深掘りします。ランニングでまちを知り、朝食でコミュニケーションを楽しむユニークな活動の内容とは? 主宰者の林 曉甫(はやし・あきお)さんに聞きました。
仲間と「はじまりの時間」を共有し、心地よい休日をスタートする「ランニングと朝食」は国内外に全27チーム(2022年3月4日時点)あり、イベントにはフェイスブックのグループページにて参加表明をすることが必要(写真撮影/蜂谷智子)
「ランニングと朝食」は、フェイスブックの承認制グループを軸にしたランニングチーム。登録者900人超えの、このランニングサークルの活動内容は至ってシンプル。それは「走って、食べて、おしゃべりする」ことです。
グループに参加すると、メンバーの各地での活動の様子や、「東京チーム」「東横線チーム」や「中央線チーム」「シアトルチーム」「鎌倉チーム」など国内外で活動する27チームの、週末ランニングの予定と参加者募集情報が流れてきます。
実際にチームランに参加しているメンバーは、フェイスブックグループのなかの一部ですが、個人で走って美味しい朝食を食べたことをシェアする人も目につきます。また自ら投稿をせずとも、フェイスブックの「ランニングと朝食」グループに休日に流れてくる投稿――各地のメンバーのランニング風景や美味しい朝食の写真を見るだけでもOK。刺激を受けて、良い休日を過ごそうというモチベーションが高まりそうです。
主宰者の林 曉甫さんは、実は「大切なのは、走ることそのものではない」と言います。
「初期メンバーが『ランニングと朝食』について、『それって、はじまりの時間を共有することだね』と指摘してくれたのですが、それが正にこの活動を言い当てていると思います。週末の朝に走ることと朝食を食べることで、はじまりの時間を共有することが大切。ポイントは走る、ではなく共有することなんです」(林 曉甫さん)
フェイスブックの承認制「プライベートグループ」が活動のハブ。基本的に走る意欲や朝食が好きであれば承認しているそう。メンバーの数は1000人に迫る(フェイスブックより)
(写真提供/ランニングと朝食)
「ランニングと朝食」主宰者の林 曉甫(はやし あきお)さん(写真撮影/蜂谷智子)
走らずに朝食を食べるだけでも歓迎のランニングチームランニングコミュニティというと、運動が得意な人、意識が高い人でないと付いていけない気がして、参加に勇気が要ることも。でも「ランニングと朝食」には、そんな心配は無用です。
走る距離も決まっていないし、目標タイムもありません。速く走れなくても、途中で歩いてしまってもOK。朝食を食べるだけの参加だって歓迎です。
「この活動自体のユニークネスをあげるとしたら、徹底してハードルを設けないこと。そもそも僕がこの活動を始めたのが、『独りだと走り続けられないから、誰かと走りたい』という動機だったりします。タイムの向上とか、距離を走れるようにとか、そういうことは全く考えてなかったんですね。
活動開始からもうすぐ6年。周囲の友人だけだったメンバーも今や1000人に迫る勢いですが、『共にやる』という軸はブラさずにいます。参加者が子どもであっても、遠方に住んでいても、参加して欲しい。ランニングスタイルもそれぞれで、途中歩いてもいいし、走らないで朝食会場で合流したっていいのです」(林さん)
「誰かと一緒に楽しく体を動かして、美味しいものを食べたい」というのは誰もが抱くシンプルな欲求。そんな願いを気負わずにかなえられるからこそ、「ランニングと朝食」が、これだけのメンバーを集めているのかもしれません。
コロナ禍においては、マスク着用でソーシャルディスタンスを取り、感染対策を取りながら活動している(写真撮影/蜂谷智子)
走ることでまちの解像度が上がり、体の経験値として積み重なっていく27もチームがあると、自分の地元とは違う地域の「ランニングと朝食」チームに参加する楽しみもあります。
「旅先で地元のチームに参加することもできます。僕自身は東京チームが家から近いのですが、東横線沿線の東横線チームで走ったり、京都や鎌倉のチームにジョインしたり。そうやって『ランニングと朝食』つながりで知らない者同士が時間を共有したり、知らないまちを走ったりということが、楽しいですね。
走ったり朝食を食べたりしながらしゃべることで、知らない人とも距離が縮まりますし、走ることでまちの解像度も上がります。例えば東京だと移動は基本電車です。なかでも地下鉄に乗ってしまうと身体感覚があやふやなまま隣のまちに移動しているということが往々にしてあります。そこを走ってみることで体の経験値として、まちの記憶が積み重なっていくのではないでしょうか」(林さん)
軽いランニングの距離が5kmだとして、家から5km圏内にどんな風景があるのか、5km走るとどんな場所へ行けるのか、実は私たちはよく知りません。いつもは電車で移動してしまう5kmを自分の足で走ることで、素敵な風景やおいしい朝食のお店を発見することもありそうです。
「ランニングと朝食」では、メンバーが見つけた、休日にモーニングを食べられる店をマップにアーカイブしているそう。その履歴が積み重なって、今や登録されている朝食スポットは国内外で500件以上。「はじまりの時間を共有する」ための、貴重なデータです。
各地の朝ごはん情報。朝食を出すお店の多彩さに、驚く(写真提供/ランニングと朝食)
「ランニングと朝食」が、“アート”になる理由「ランニングと朝食」はフェイスブックのシステムを有効活用したコミュニケーションの設計で、気軽さと親密さの程良いバランス。林さんは、本業ではNPO法人インビジブル理事長/マネージング・ディレクターという肩書きを持っています。仕事でアートによる地域活性化に携わる林さんは、実は「ランニングと朝食」の運営でも、アートや地域活性化の手法を参考にしているそうです。
「ランニングとアートにどんな関係があるのかと疑問に思われるかもしれませんが、アートとは額装して飾るような作品だけを指すのではありません。1990年代後半ぐらいから世界各地で行われているリレーショナル・アートやソーシャリー・エンゲージド・アートと言われる分野があります。それは、特定の活動やアクションによって社会を巻き込んでいくプロセスも含めて、ひとつの作品として見せていくものです。
『ランニングと朝食』は、我々にとって他者との関係性をつくるということはどういうことなのだろう……ということを、問いながらできる活動であり、ゆるやかなコミュニティであり、アートプロジェクトです。また社会的な寄与という点でも、このコロナ禍において週に一度でも誰かと走ったり話したりすることによる、精神的肉体的な影響があると思います。
林さんが参加するアーティスト支援を行う社会彫刻家基金は、書籍発行のためのクラウドファンディングを実施中だ※2022年5月31日まで(写真提供/社会彫刻家基金 撮影:丸尾隆一)
僕は本業の方でも、アートが単に作品を体験したりモノをつくったりする場を超えて、例えば人のメンタルヘルスなどのウェルビーイング(身体、心、社会的に健康であること)にどう寄与するのかということについて、研究者を交えて調査ができたらいいなと思っています。
そういった本業で考えていることが、この『ランニングと朝食』でのコミュニケーションと、リンクしている部分がありますね」(林さん)
アートの概念は多様ですが、関係性に注目したリレーショナル・アートやソーシャリー・エンゲージド・アートの世界では、何かを生み出したり、ある状況をつくったりする過程での「人々の関係性」そのものに斬新さや美しさを見出します。
ランニング中に見た美しい風景を誰かとシェアしたり、朝食の会話で気づきがあったりといったことも、アートなのだと考えると、ワクワクしませんか?
主宰としてプロジェクトを運営しつつ、「参加する時はいち個人として楽しみたい」と林さん(撮影時のみマスクを取っています)(写真撮影/蜂谷智子)
ある日の「ランニングと朝食」、東横線チーム編走り出す前のミーティング。10分程度で軽く自己紹介をして、ルートの説明を聞きます(写真撮影/蜂谷智子)
「ランニングと朝食」のリアルな活動は週末の朝に始まります。東京だけでも10チームがあるのですが、今回は東横線沿線を走る「東横線チーム」を取材しました。
まず各チームマネジャーが集合場所と朝食を食べる目的地を決めて、フェイスブックのグループで呼びかけます。コース選びや朝食会場選びは、チームマネジャーの個性が出るところ。東横線チームのチームマネジャーは小嶋一平さん。本業では化粧品会社のSNSマーケティングを担当する小嶋さんは、朝食のお店の洗練されたチョイスに定評があります。今回の東横線チームは中目黒駅から駒沢公園までの約4kmのラン。駒沢公園に接した景色の良いカフェで朝食を食べるコースです。
目黒川沿いを走って駒沢まで4km、約60分のランニング(写真撮影/蜂谷智子)
ランナーに人気の駒沢公園の周辺にはモーニングの選択肢が多い(写真提供/ランニングと朝食)
集合後に軽くミーティングをして、自己紹介をします。お互いが初めての方や、久しぶりの方もいました。その後はランニング。ペースはゆっくりめで、お互いの近況報告をしながら走れるくらいのペース。途中で立ち止まったりしても大丈夫。チームから外れてしまっても、朝食会場で待ち合わせればいいという考え方です。ランナーはマラソン大会に出場しているような、走り慣れている方も、初心者の方もいたようです。
朝食のカフェに着く頃には、体が温まってお腹も空いてきます。取材した日も、朝食だけ参加の方が数人いました。違うルートを走って、朝食だけ参加ということも可能とのこと。朝食の際に話してみると、参加者は年齢も仕事も多種多様でした。
ランチ会場のKOMAZAWA PARK CAFÉは野菜たっぷりのブッダボウルやフルーツをトッピングしたフレンチトーストが人気(写真提供/ランニングと朝食)
最近から参加するようになった20代女性は、去年地方から東京に転勤してきたそう。転勤してからリモートワークでなかなか知り合いができないのが悩みでした。今ではこのサークルが人との出会いのきっかけになっているとのこと。また、30代の男性は船舶勤務から地上の勤務になって、運動不足を感じたのが参加のきっかけだそうです。
キャリアの話や最近見た映画の話、家族の話など、それぞれに会話を楽しみながら1時間程度で朝食は終了。解散時間は朝の9時半で、まだ一日は始まったばかりです。まさに「はじまりの時間を共有する」活動だと感じました。
走って、食べて、おしゃべりする。その時間がアート!2021年に新型コロナウイルスが蔓延してからというもの、体験を共有する機会や、たわいのない会話が失われがちになりました。そんななかで走って、食べて、おしゃべりする時間をアートだと捉えて慈しむことができれば、日常がより輝くものになるかもしれません。
●取材協力
ランニングと朝食
林 曉甫さん
>NPO法人インビジブル
>アーティスト支援を行う社会彫刻家基金のクラウドファンディング
●撮影協力
KOMAZAWA PARK CAFÉ
コロナ禍で高インフレが続く米国では、タイニーハウス(小さな家)などの低価格住宅への需要は増すばかりだ。そんななか、ネバダ州ラスベガスを拠点に置く企業BOXABL(ボクサブル)による、5万ドル(約580万円)のプレハブ住宅「カシータ」というモデルが話題になっている。テスラ社のイーロン・マスクが住んでいると報じられたことも。いったいどんな住まいなのか、BOXABL社ディレクターのガリアーノ・ティラマーニさんにインタビューをした。
住宅を“折り畳む” !? 工数や配送コストを下げて低価格を実現イーロン・マスクがテキサスの住居としてタイニーハウスを利用していると米国INSIDERが報じ、話題になったのがBOXABL(ボクサブル)社のプレハブ住宅「カシータ」。
(写真提供/BOXABL)
BOXABL社のプレハブ住宅は、1部屋(モジュールと呼ぶ、約35平米)に水回りや電化製品もすべて完備されているのに約580万円と低価格。その秘密は、折り畳めるようにしたことで配送コストを、生産工程の自動化したことで生産コストを下げたこと。2021年10月の受注開始以来、全米50州から7,000万件以上の注文が入っているという。同社の共同創業者で、ディレクターのGaliano Tiramani(ガリアーノ・ティラマーニ)さんに詳しい話を聞いた。
(写真提供/BOXABL)
(写真提供/BOXABL)
オンライン取材に応じたボクサブルの創業者でディレクターのガリアーノ・ティラマーニさん(写真提供/筆写撮影)
ガリアーノさんらが事業を立ち上げたのは2017年。きっかけは、当時カリフォルニア州で、庭付き一戸建て住宅の庭に付属住宅(ADU)を建て、それを賃貸したり、居住スペースを広げたりする需要が高まっていたことだったという。CEOでガリアーノさんの父であるパオロさんは、工業デザイナーやエンジニアとしてプレハブ住宅の生産に関わるなかで、現代の住宅における2つの課題に気が付いた。
一つ目は、「建築現場における人間による作業量の多さ」だ。それは100年前からほぼ変化がなく、一棟の家を建てるのに数カ月から数年の時間を要し、大量の人材が必要だ。
二つ目は、「配送」。プレハブ住宅は工場で部材生産、加工し、組立を行うことで価格を抑えることができるが、ガリアーノさんによると「多くのプレハブ住宅の生産者が、配送時のトラブルで損をしてきた」とのこと。具体的には、何度も運ぶことでの燃料コストの負担や、配送途中に部材を傷つけてしまったりなどである。
これらの課題に対し、「住宅を折り畳むこと」と「配送しやすいサイズにした上で、工場での大量生産すること」で、高品質の住宅を手ごろな価格で提供する仕組みをつくり上げた。
「今はあらゆる製品が、『組立てライン』さえ構築できれば、低コストで高品質なものがつくれる時代だ。しかし住宅にはその考えが欠けていた。私たちの技術は、住宅業界の価格に大きな影響を与えると考えている」とガリアーノさん。
(写真提供/BOXABL)
(写真提供/BOXABL)
1分間に1戸の生産を目指すボクサブルが採用したのは、自動車のオートメーション方式だ。ポルシェの生産方式を真似て、まるで自動車工場のように、住宅を自動化してつくる。最終的には、1分間に1戸を目標に生産を拡大する予定だという。
プレハブ住宅「カシータ」は、現在1日あたり2棟生産されている。2022年の年末までに、1日あたり10棟の生産が可能な体制になる見込みだとガリアーノさんは話す。現在は、最初に受注を受けたフロリダの現役軍人用住居156棟の生産と建設を行っている。
「需要を満たすには、現在の工場の10倍の大きさが必要」と、はやくも拠点を拡大する計画を進めている。
(写真提供/BOXABL)
「ボクサブル流こそ未来の住宅だ」「カシータ」は、375平方フィート(約10坪・約35平米)のモジュールで、8フィート×13フィート(約2.4m×約4m)に折り畳まれて台車に引かれて運ばれていく。料金には洗濯乾燥機、食器洗い機、オーブン、電子レンジなど、ソファとベッド以外の主な家具が含まれていて、引き渡し時はそれらがすべて完備されている状態。現地で住宅を“広げ”、排水と電気の接続さえ終えれば、すぐに生活が開始できる。モダンな家具や設備を配置し、機能性を重視し生活しやすさを追求したデザイン性にこだわりを持った、小さいが快適な住空間が広がる。
(写真提供/BOXABL)
(写真提供/BOXABL)
(写真提供/BOXABL)
ガリアーノさんは、「私たちは、世界中のさまざまな環境条件に対応できるよう、カシータの工学技術に多くの時間を費やしてきた。猛暑や強風、地震、水害など、さまざまな環境条件に対応できるような建材を選び、従来の建物よりも強く、安全で、エネルギー効率に優れた建物になるよう、細心の注意を払ってつくり上げた」と胸を張る。ジオバーニさんも、「私達が使っているのは、木材よりもエネルギー効率が高く、低コストで、長持ちし、強度が高いなど、より優れた素材だ」と話す。
「カシータ」が使用しているのは、木材ではなく、鉄やセラミックボード、断熱材として発泡スチロールなどの素材。発泡スチロールは、軽量で硬質な「独立気泡」の断熱材であるため、最小限の水分しか吸収しない。その結果、吹雪やハリケーン、洪水などの厳しい天候にも耐えることができるという。さらに、最大25万ポンド(125t)の圧力に耐えることができ、耐震構造になっている。
ボクサブルが使用している壁面パネルの耐火テストの様子
さらに、「昨今注目を集めている3Dプリンター住宅よりも未来志向だ」と続ける。「(3Dプリンター住宅は)ほとんどの場合、コンクリートの外壁を3Dプリントしているだけだ。家というのは、コンクリートの外壁よりももっと多くの要因がある。私たちは、その解決策が『組立ライン』にあると思っている」(ガリアーノさん)
(写真提供/BOXABL)
すでに完備されたキッチン、オーブン、冷蔵庫(写真提供/BOXABL)
確かに3Dプリンターの家は、原材料の面で無駄がないと言われているが、そのサステナビリティ性は、外壁を作りにおける工程を削減できる、ということに限られる。一方でボクサブルの組立ラインは、住宅の外見だけでなく、室内装備に至るまでデザインを統一することで、建築時の無駄を省き、また住宅としてのエネルギー効率を高めているという。
ボクサブルは今後、生産の過程で出る廃棄物を減らし、エネルギー効率も向上させていくことを目指す。「効率化」が、サステナブルな生産に結びつくと考えているという。また、カシータのリサイクルや二次流通についてジオバーニさんは、「将来的に、カシータを売却したり、移動させたりすることも可能だ」と話してくれた。
すでに海外展開も視野に「カシータ」は現在1種類のみだが、今後は顧客のニーズに合わせて、サイズや形を変えた住宅生産も検討しているという。
さらに、海外展開も視野に入れている。
「海外では、私たちの技術を活用してパートナー工場をつくりたいと考えている。すでにWebサイト経由で問い合わせを受けた国際的な大企業と話し合いを始めている」と話すガリアーノさん。
海外展開もすでに視野に入れている(画像提供/BOXABL)
とはいえ、まだまだ課題もある。日本でも木材価格が高騰するウッドショックや給湯器の部品不足が話題になったが、米国の建築業界でも原材料不足と、価格の高騰が問題になっている。これにともなってカシータの販売価格も、今後は6万ドル(約690万円)に引き上げざるを得ないと話す。
「壁面パネルは自社生産している。スチールや発泡スチロールも自分たちで生産し、垂直統合を進めており、最終的にすべての部品を自社生産に切り替えられれば、もっと生産スピードを上げられる」とガリアーノさん。自社生産に加え生産効率が上がれば、価格のコントロールもしやすくなるとのこと。
「カシータ」は災害があった被災地に、すぐに住みやすい住宅を提供することも可能だ。ほかにも既存の物件の庭先に小さな個室を建て、趣味部屋にしたり、賃貸したりすることも可能だ。その可能性は無限に広がる。土地に限りがある日本でも、新たな住宅のヒントになるかもしれない。
※原稿中の日本円は2022年2月28日時点のレートで計算したもの
●取材協力
BOXABLディレクター Galiano Tiramani氏
東京を代表する路線・JR山手線は全30の駅を結ぶ環状線。沿線には都内の主要駅が並び、東京のなかでも地価や物件価格はおおむね高め。そしてJR山手線の内側ほど都心とみなされているため、都内の地価や家賃を語るときに「JR山手線の内側か外側か」というのが一つの基準にもなっている。そんなJR山手線の駅の中でも、比較的リーズナブルに中古マンションが探せる駅はどこなのか? 専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」に分け、それぞれの物件の価格相場が安い駅をランキング。その調査結果がこちら!
JR山手線の中古マンションの価格相場が安い駅ランキング※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)、高輪ゲートウェイ(港区)は調査対象物件11件以下のためランク外
※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)は調査対象物件11件以下のためランク外
山手線で安く中古マンションを探すなら「北半分」に注目!(写真/PIXTA)
中古マンションの価格相場が安い、JR山手線の駅はどこなのかを調べた今回のランキング。まずは気になる1位を見てみよう。「シングル向け」(専有面積20平米以上~50平米未満)で最も安かったのは田端駅。価格相場は3190万円で、「カップル・ファミリー向け」では2位にランクインしていた。
田端駅南口(写真/PIXTA)
田端駅北口(写真/PIXTA)
北区にある唯一のJR山手線の駅である田端駅は、北口と南口で印象が大きく異なる点がおもしろい。南口は小さな駅舎がぽつりと佇むのみで、商業施設などは見当たらない。線路を見下ろしながら坂道を上っていくと、一戸建てが多い閑静な住宅地へと入る。少々地味なこの南口、2019年公開の映画『天気の子』(新海誠監督)の舞台になったことで知ったという人もいるだろう。一方の北口には駅ビル「アトレヴィ田端」が併設され、スーパーやドラッグストアに雑貨店、カフェ、レストランなどが3フロアに並んで賑わっている。駅前に出てみるとスーパーが点在するほか、線路の北側にも南側にも小学校や保育園がありファミリー層が住む住宅地といった印象だ。また、田端には明治後期から昭和初期にかけて文士や芸術家が多く住んだという一面も。駅から徒歩5分ほどのところにある芥川龍之介旧居跡に、記念館を開設する計画もあるのだそう。
「カップル・ファミリー向け」(専有面積50平米以上~80平米未満)で価格相場が最も安かったのは、台東区にある鶯谷(うぐいすだに)駅で価格相場は5380万円。「シングル向け」では3位になっている。鶯谷駅は小ぢんまりとした無人駅で、1日の乗車人員はJR山手線では高輪ゲートウェイ駅に次いで2番目に少ない(JR東日本「各駅の乗車人員 2020年度」より)。JR山手線の内側にあたる南口側には寛永寺の敷地が広がり、その先には東京国立博物館や国立科学博物館、上野の森美術館を抱える上野公園といった文化施設が集まっている。駅北口側には飲み屋街があり、そこを抜けると浅草へと続く言問通りにぶつかる。スーパーやコンビニ、飲食店が並ぶ通りを越えると、小学校や幼稚園もある住宅街へ。昔ながらの一戸建ても多いが、中層~低層マンションも点在。博物館や美術館が目当ての人は1駅隣の上野駅を利用することが多いため、駅の乗車人員が少なく駅前も賑やかな雰囲気という感じではないが、落ち着いて暮らしたい人にはよさそうだ。
鶯谷駅(写真/PIXTA)
「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」のトップ10に注目してみると、ある傾向が見えてくる。それはトップ10の駅の立地が、環状になったJR山手線の北半分に集中しているということ。JR山手線のなかでも、よりリーズナブルに物件を探したいならまずは北半分にある駅を狙うとよさそうだ。ただし、両ランキングトップ10のうち1駅のみ、この傾向から外れて南半分に位置していた。「シングル向け」8位となった田町駅だ。
「JR山手線」30駅の中古マンションの価格相場が安い駅ランキング 2022年版
田町駅前(写真/PIXTA)
田町駅は港区に位置し、駅東側には芝浦ふ頭やレインボーブリッジなど湾岸エリアが広がっている。駅周辺には大手企業の本社をはじめとするオフィスビルが多く、イタリアやボツワナ共和国などの大使館も点在。近年は高層マンションも増えている。街の雰囲気からすると物件の価格相場は高そうなので、「シングル向け」8位になったのは意外に思える。「カップル・ファミリー向け」だと17位で特別にリーズナブルではないので、「シングル向け」物件に限ってお得感がある価格相場になっていると言えそうだ。
また、田町駅のすぐ前にある東京工業大学・田町キャンパスの再開発が2021年に発表された点にも注目したい。同敷地には2030年の開業を目指して、産官学連携施設に商業施設、ホテルなどからなる地上36階建ての複合施設が建設されるという。ますます街の価値が高くなりそうなので、価格相場にお得感がある「シングル向け」物件を探すなら今のうちが狙い目かもしれない。
広さにこだわらなければ都心湾岸エリアにも手に届く価格帯の物件アリ!?「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」のランキングを見比べてみると、順位は多少入れ替わりつつも、おおむね同様の結果となっていた。しかしなかには「シングル向け」と「カップル・ファミリー向け」で価格相場に大きな開きがある駅も。一つは先ほど取り上げた田町駅、もう一つは浜松町駅だ。浜松町駅は「シングル向け」18位(価格相場4740万円)、「カップル・ファミリー向け」27位(価格相場1億480万円)となっており、「シングル向け」と「カップル・ファミリー向け」の価格相場の開きは5740万円も! これは他の駅と比べても圧倒的に差が大きい。一体、どういうわけなのだろう?
浜松町(写真/PIXTA)
SUUMO掲載物件をのぞいてみたところ、「シングル向け」(専有面積20平米以上~50平米未満)の物件は、広さが40平米未満だと価格はおおむね2000万円台後半~3000万円台前半だった。しかし40平米を超えると一気に価格帯がはね上がる。4000万円台のものもあるが大半は7000万円以上で、9000万円台後半のものも! 厳密に言うと本稿執筆時点とランキング調査時期でSUUMO掲載物件は同一ではないが、同様の傾向はみられると考えられる。つまり浜松町駅の40平米未満の物件は特に割安な傾向があり、「シングル向け」全体の価格相場(中央値)が引き下げられた。結果として「カップル・ファミリー向け」(有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場との開きが大きくなったのだろう。
40平米を境に物件価格が大きく異なるこの状況が引き起こされた理由は何なのか? そんな疑問をSUUMO副編集長・笠松美香氏にぶつけてみた。
「浜松町にある専有面積40平米以下の狭い間取りのマンションは築古のものが多いため価格が安くなっていて、広い間取りのマンションは、単に広いから高いだけでなく築浅が多いため高い傾向がみられるのです」
浜松町の中古マンションは狭いタイプだと築古が多く、広いタイプだと築浅が多い。これは時代による生活環境の変化と、それにともなって建築されるマンションの傾向も移り変わったことが背景にあるのだそう。
「20年ほど前までは今ほど共働き世帯率が高くなく、ファミリー層はゆったりとした子育て環境を求めて比較的郊外に住む傾向がありました。そのため浜松町のようにオフィス街のマンションは、賃貸にも出せるような20平米~40平米のシングルタイプが多かったのです。都心ゆえにマンション用地にできる土地が限られる点も、こうした間取りが増えた一因ですね。
ところが、この20年余りで共働き世帯が増えたこと、都心部でもカップルや子どものいるファミリーが住みやすい環境が整ったことで、カップル・ファミリー層を狙った広い間取りのマンションも増加していきました。また、浜松町駅にも近い芝浦や海岸、汐留といった湾岸部の比較的広い土地がマンション用地として開発されるようになり、必然的に規模の大きなタワータイプが増えることにつながりました」
広さにより価格相場に大きな開きがあったもう一つの駅、田町駅でも同様の傾向がみられるのだとか。こうした時代背景を心にとめながらランキングを見ていくのもなかなか興味深い。ともあれ、浜松町駅でお得に中古マンションを探すなら、「広さ40平米未満」をキーワードにするとよさそうだ。
そんな浜松町駅の様子はというと、羽田空港へ向かう東京モノレールが乗り入れており、駅から少し歩くと都営浅草線・大江戸線の大門駅もある便利な立地。駅周辺は都内有数のオフィス街で、駅東側には旧浜離宮恩賜庭園という憩いの場も。庭園のさらに東側には東京湾が広がり、西側に目を向けると東京タワーが目に入る。このあたりのマンションには東京タワービューやベイビューを自慢とする物件もあり、価格相場が高めなのもうなずけるところ。広さにこだわらなければ2000万円台の物件もありそうなので、都心らしい暮らしを望む人は探してみるといいだろう。
旧浜離宮恩賜庭園(写真/PIXTA)
また、浜松町駅西側では再開発も進行中で、浜松町のランドマークだった「世界貿易センタービル」の建て替え工事が2021年より始まっている。将来的には地上46階建てと地上8階建てのビルに、モノレール駅舎をはじめ商業施設やホテル、インバウンドを見据えた観光情報発信施設や都市型MICEの拠点(カンファレンスセンター)の整備が計画されている。2029年度の竣工予定とのことで、完成時には駅周辺の広場や歩道も整備されるそう。これからの浜松町駅の進化に期待したい。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2021/10~2021/12
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
リクルートのSUUMOリサーチセンターが、新築分譲マンション、新築一戸建て検討者を対象に、コロナ禍中の住宅に求めることの変化をテーマとして調査を行った。コロナ禍初期にニューノーマルスタイルとして注目された「あれ」のニーズは、その後どうなったのかニーズ調査の結果を見ていこう。
【今週の住活トピック】
「新築分譲マンション・一戸建て商品ニーズ調査(2021年)」を公表/リクルート
調査時期は2021年9月13日~21日。東京都などに出されていた緊急事態宣言が解除された2021年10月1日直前、感染者数がかなり抑制されていった時期に該当する。調査対象は、首都圏、関西圏、東海圏、札幌市、仙台市、広島市、福岡市に住む20代~60代の2100人だ。
調査では、さまざまな性能や設備、スペースについて、次の2点を聞いている。
変化 : コロナ禍を経験したことで「必要だと思うようになった」と回答した比率
永続度 :コロナ禍が収束した後でも「必要だと思う」と回答した比率
縦軸を「変化」、横軸を「永続度」にして、それぞれの全体平均値を中心にした十字(マトリクス図)に、調査した各項目の結果を配置すると、右上が、「変化」も「永続度」も全体平均より高いブロックになる。つまり、今回のコロナ禍でその必要度が増し、コロナ禍が収束した後も必要度が高いものになる。
一方、左上のブロックは「変化」は全体平均以上だが、「永続度」が全体平均以下で、コロナ禍で必要度が増したものの、感染が落ち着いたらそれほど必要ではないかも…というものになる。
まず、左上のブロックに入ったものを見ていこう。
出典:リクルート「新築分譲マンション・一戸建て商品ニーズ調査(2021年)」より転載
マンションも一戸建ても、除菌・非接触関連が多いことが分かる。特にマンションで見ると、「窓を開けずに換気ができるウイルス除菌システム」、「感染症対策がとられた設備があること」、「除菌対応エレベーターがあること」、「共用部入り口に除菌ツール置き場や検温センサーがあること」、「玄関で手洗いができる設備」が挙げられる。
一戸建てでも、「ウイルス除菌システム」と「玄関で手洗いができる」が左上ブロックに入っている。これらの設備などは、感染拡大初期に注目されたものが多い。その頃は特に、新築一戸建てで「玄関手洗い」の間取りが話題になったが、確かに最近ではあまり話題にならなくなった。
謎のウイルスが蔓延して疑心暗鬼になっているときは、直接的な対策となる設備などの必要度が増すものの、予防対策が分かってきたら、コロナが落ち着けばそこまで必要と思わないと見方が変わったのだろう。
「通信環境」「換気」「遮音性」「省エネ」の基本性能は必要度が高い次に、右上のブロックを見ていこう。「変化」も「永続度」も全体平均より高くなったものだ。
出典:リクルート「新築分譲マンション・一戸建て商品ニーズ調査(2021年)」より転載
マンションで見ると、「変化」(平均25.9%)、「永続度」(平均21.3%)ともに平均以上に配置されたのが、「通風・換気性能に優れた住宅であること」、「通信環境が充実していること」、「遮音性に優れた住宅であること」、「省エネ性(冷暖房効率)に優れた住宅であること」と「宅配ボックスが充実していること」の5つ。
一方、一戸建てで見ると、「変化」(平均26.5%)、「永続度」(平均20.7%)ともに平均以上に配置されたのが、「通風・換気性能」、「通信環境」、「遮音性」、「省エネ性(冷暖房効率)」、「陽当たりの良い住宅であること」と「収納スペースが充実していること」の6つ。
どちらにも共通するのが、「通風・換気性能」、「通信環境」、「遮音性」、「省エネ性(冷暖房効率)」の4つの基本性能だ。コロナ対策、テレワークやテレビ会議、在宅時間長期化などの影響を受けて注目されたものだが、住宅の基本性能であるだけに、室内環境の向上に寄与するものだ。今後もニーズが続くと見てよいだろう。
加えて、マンションでは「変化」が20.9%と平均値より少し下だったためにこのブロックに入らなかったが、一戸建てで入った「陽当たりの良さ」も快適性を高める重要な基本性能だ。特に「永続性」が高いのが特徴で、在宅時間長期化で必要性が再認識されたが、陽当たりの良さはコロナの状況にかかわらずニーズが強いということだろう。
“基本性能”ではなく、“スペース”に該当するが、「収納スペースの充実」も「陽当たり」と似たような傾向が見られた。根強いニーズがあるようだ。
住宅の基本性能や快適性のニーズが今後も高い次に、純粋に「永続度」の必要度が高いものを見ていこう。
「永続度」の高いTOP10
1.通信環境
2.通風・換気性能
2. 陽当たり
4.収納スペース
5.遮音性
6.省エネ性
7.広いリビング
8.掃除・洗濯などをラクにできる
9.家族それぞれが一人で仕事や趣味に集中できるスペース
10.宅配ボックス(マンションのみ)
TOP10を見ていると、コロナ禍で在宅時間が長期化し、住宅の基本性能などが再認識されたことが分かる。そのうえで、通信環境が1位になったのは在宅勤務やオンライン授業などの影響によるものだろう。9位も同様だ。また、8・9・10位には共働き世帯率増加の影響も見て取れる。
住宅内の設備や間取りは、リフォームなどで変えることもできる。一方、陽当たりや通風、遮音性、省エネ性などは、後から変えることが難しい。住まいを選ぶときには、後から変えることが難しいものを重視するのが基本だ。そういった意味でも、基本性能を重視する傾向は喜ばしいと思う。
●関連サイト
「新築分譲マンション・一戸建て商品ニーズ調査(2021年)」を公表/リクルート
呼べばすぐ専用車がお迎えに来てくれる。そんな定額乗り放題のAIオンデマンドサービス「mobi(モビ)」が、昨年7月から東京都の渋谷エリアで始まりました。現在は、愛知県名古屋市千種区と京都府京丹後市、海外でも展開されています。子どもの送迎や買い物に便利そうですが、具体的にはどんなサービスなのでしょう。同サービスを運営しているウィラーの広報担当である清水美帆さんに伺いました。
乗りたいと思ったときにすぐお迎えにきてくれる「自分専属の運転手を持つように、日常生活の中で乗りたいだけ乗れるサービスだ」。「mobi(モビ)」サービスを知るために体験してみた、私たち取材班の素直な感想です。
利用した区間は渋谷駅から渋谷区松濤にある小さな公園まで。スマートフォンの専用アプリを操作して車を手配し、すぐ近くにある規定の乗降場所へ移動。そこで待つこと約5分で、最大7名まで乗れる車両が現れました。
乗降場所で待っていると、約5分で車両が迎えに来てくれた(写真撮影/片山貴博)
この車体のロゴが目印(写真撮影/片山貴博)
あとは目的地近くにある乗車場所まで、AIが提示する最適なルートに沿って運転手が車を走らせるだけ。この時は他に相乗りしてくる利用者がいなかったため、あっという間に目的地まで到着しましたが、タイミングによっては途中で他の利用者を乗せていくこともあります。そのため自家用車やタクシーと比べて、目的地までの到着時間がかかることを想定して利用する必要があります。また、運行エリアは渋谷区内に設定された半径2km圏内となっています。
足元も広々(写真撮影/片山貴博)
車内でスマートフォンの充電も出来る(写真撮影/片山貴博)
とはいえ1人あたり月額(30日間)5000円。同居する家族を会員として追加することもでき、追加料金は1人につき500円。例えば、家族3人で利用しても月々6000円ですから自家用車の購入費や維持費などと比べても、遙かに割安です。
一方で「相乗り」ならではのメリットもあります。渋谷エリアでサービスが始まってから半年以上が経ちましたが、子どもの通学や習い事の送迎などに使う親子は、当然同じ時間帯に利用します。そのため車内で母親同士が顔なじみになり、ママ友に発展するケースが珍しくないそうです。「運転手も何人かの固定メンバーで運用していますから、運転手とも顔なじみになり、安心して子ども一人だけでも塾の送迎に使える、という声もいただいております」と清水さん。
さらに「mobiを利用するようになってから『朝食を食べに街中のカフェへ行くのが楽しい日課になった』というように、ライフスタイルが変化し、日常に溶け込んでいる様子が窺えるコメントもいただいています」
渋谷の街を走るmobi(写真撮影/片山貴博)
ラストワンマイルを解決する1つとして登場最寄り駅やバス停から、自宅をはじめとした最終目的地までのちょっとした区間のことを、交通の「ラストワンマイル」と言います。このラストワンマイルの移動手段として、最近は都市部なら電動キックボードや電動アシスト自転車、車を使ったシェアリングサービスがあります。この定額乗り放題サービスもその1つに挙げられます。
しかしmobiは電動キックボードや電動アシスト自転車と違い、自ら運転する必要がありませんし、雨の日も気軽に利用できます。
またカーシェアリングサービスは(当たり前ですが)運転免許を持った人が利用しなければなりません。しかしmobiなら、子どもだけ乗せて塾への送迎に使う、なんて使い方もできます。また自家用車やカーシェアリングと違い、目的地周辺で駐車場を探す必要もありません。
渋谷区といえば「ハチ公バス」と呼ばれるコミュニティバスもありますが、それとの大きな違いは乗降場所(公共バスで言うバス停)が圧倒的に多いこと、また決まった路線や時刻での運行ではないことです。例えば渋谷エリアでは、半径約2kmのエリア内に約150箇所もの乗降場所が用意されています。この範囲は、渋谷区の面積に対して約8割。ですから、さすがに全ての人の自宅前とはいかないにせよ、自宅周辺で乗り降りができるのです。
買い物や通勤などで渋谷駅との往復で利用するという使い方もある(写真/PIXTA)
さらにママ友ができたり、運転手と顔なじみになることなんて、他のラストワンマイルサービスやコミュニティバスでは、なかなかありえません。このような地域のコミュニティを形成しやすいということも、大きな特徴と言えそうです。
現在mobiは渋谷以外にも名古屋市千種区と京都府京丹後市、さらにシンガポールとベトナムでも展開されています。エリア内定額乗り放題で、アプリや電話で配車を依頼し、AIを使って最適なルートを走るというサービスの根本は同じなのですが、地域によって利用者の年齢や属性、利用目的に多少の差はあるそうです。
「例えば京丹後市は車がないと通勤や買い物にも不便で、そのため家族1人に車が1台あるようなエリアです。しかし子どもの送迎や買い物などをmobiで行えるようになり、家族での所有台数を減らしてもよいかもいう考えをお持ちの方もいらっしゃいます。『車にかかる維持費が減ったから、その分を別の費用に充てることができる』『マイカーを使う頻度が減った』と喜ばれています」
京丹後市(写真/PIXTA)
京丹後市で活動中の車両。エリア特性等によって使用する車両は変わる(写真提供/WILLER)
また免許返納を考えているけれど、買い物などに車が手放せない、という高齢者の背中も押してくれるサービスのようです。
さらにmobiには、法人会員制度も設けられており、エリア内の飲食店や病院、塾などでお客さまや従業員の送迎にも活用されているとのこと。このようにエリアのニーズに沿ってサービス内容をアレンジすることも可能だそうです。
今後の課題は到着時間の短縮と、アプリの使いやすさの向上現状の課題としては、先述したように「1. 目的地までの到着時間が読みにくいことと2. スマートフォンに馴染みのない高齢者へのサポートが挙げられます」と清水さん。
1. の到着時間、つまり乗降している時間を縮める対策ですが、そもそも「mobi」では相乗りする際に車が向かう順番や運行ルートなどを、AIを使って最適化しています。AIは日々学習していくのが特徴の1つですから、利用者が増えるほど最適化ルートの提案が進歩し、時間短縮を図れます。
また「お客さまの声などをもとに、よりスムーズに乗り降りしてもらえる場所や、最適なルートをたどる場合にどこで乗ってもらえばよいかなど、乗降場所の微妙な位置修正といった最適化も常に行っています」
アプリ上に表示された乗降場所の中から行き先と出発地を指定(操作画面より)
所要時間等や配車状況も確認できる(操作画面より)
さらに利用者が多い時間帯は、車を増やすことで相乗りする人数を減らし、その結果として乗降時間を短くするなどの調整も随時行っているそうです。
もう一つの課題、2. の高齢者へのサポートですが、高齢者を含めてスマートフォンに不慣れな方のために、現在でもアプリだけでなく電話による配車応対も行っています。「また誰でも扱いやすいよう、アプリのユーザーインターフェースの改善を日々行っています」
アプリを用いるメリットは、改良されたらすぐにアップデートされること。いずれ高齢者でも簡単に操作できるようになる日も近そうです。少なくとも、スマートフォンに慣れている世代は、現状でも戸惑うことはありません。
KDDIとの協働で、サービスエリアの拡大も昨年末、ウィラーはKDDIと共同で今後のサービスを全国へ展開していくことを発表しました。
高速バス運行事業者、そして京都丹後鉄道の運営事業者でもあり、すでにこの事業を国内3エリア・海外2エリアで展開し、独自のITマーケティングシステムを持つウィラー社。
そこに全国の地方自治体とつながりが深く、大量の人々の移動データを所有し、その活用に長けたKDDIが加われば、サービスエリアが加速的に増えていことも期待できそうです。将来的には自動運転による自動運行も既に検討が始まっているのだとか。
既に同社では東京都豊島区や愛知県名古屋市などで自動運転の実証実験を行っている(写真提供/WILLER)
そうなると、例えば渋谷区のサービスエリアが拡大、例えば隣の港区へもこのサービスで行き来できるようになるのでしょうか。
「渋谷区とは別に港区でも展開することはあり得ますが、両区の行き来は行いません(設定した2kmが区をまたぐ場合はある)。サービス提供エリアがどんどん増えていくイメージです。例えば渋谷から港区六本木に行く場合、渋谷駅から地下鉄や公共バスが利用できます。mobiはその渋谷駅までのラストワンマイルの移動を自由にすることが目的ですから」
もし鉄道やバスで移動するような広い範囲をサービスエリアにすると、車の移動距離が増えてしまい、呼んでも到着まで時間がかかるようになります。それでは「呼べばすぐ迎えに来る」というサービスのメリットが薄れてしまいます。ちなみに1マイルは約1.6km。同社では半径約2kmを目安に運営しています。
一方自治体としては、地元エリア内で人々の移動が増えるということは、買い物に行くことや、駅やバスなどの公共交通の利用につながる外出のきっかけづくりをはじめとする行動が増えるため、地域の活性化に繋がります。また近隣住民同士のコミュニティが形成されることは、安心安全な街づくりにもメリットです。さらに高齢者は家でじっとしているより、積極的に外に出掛け、交流を持つなど、動いたほうが心身ともに健康になりますから、自治体としては医療費の抑制にもつながります。
子どもの塾への送迎から開放され、自治体も地域が活性化するなど、たくさんの人々がWin-Winの間柄になれるサービス。都心部、地方都市など今後たくさんの街でサービスが始まり、ラストワンマイルの課題が解決していくことを期待したいです。
●取材協力
mobi
コロナ禍を背景に、開放感と地域への共感、貢献感など心が満たされる場所(心のふるさと)へのニーズが高まっている。従来の観光を目的とせず、現地の暮らしを体験したり、文化に触れたり、現地の人々と交流する旅である。地域のファンとなり、何度も訪れることで、結果的に関係人口が増えた地域も。旅からはじまる地域との新しい関係とは。これからの旅の在り方のヒントとして、長野県松本市の浅間温泉リノベーションプロジェクト「松本十帖」を紹介する。
宿泊客以外も利用できるカフェを併設。開かれた宿が街歩きの起点に長野県松本市の浅間温泉は、飛鳥時代から約1300年続くとされ、温泉街から車で10分の距離に松本城があり、安曇野や上高地、白鳥など信州全域への観光拠点になっている。いま、時代の変化に置いて行かれ、歴史があっても廃れていく温泉街が後を絶たないが、浅間温泉街も例外ではない。城下町の奥座敷という恵まれたロケーションにありながら、全盛期に比べ、温泉街を歩く人の姿は減少していた。
そこで、温泉街再興の起爆剤として2018年3月に始まったのが、貞享3(1686年)創業の歴史を持つ老舗旅館「小柳」の再生プロジェクト「松本十帖」だった。ホテル単体の再建ではなく、温泉街を含む「エリアリノベーションのきっかけ」になることを目指した画期的な取り組みだ。
江戸時代には松本城のお殿様が通い、明治時代には与謝野晶子や竹久夢二ら多くの文人に愛された浅間温泉。昭和の時代には温泉街に芸者さんも多かった(画像提供/自遊人)
路地の坂を歩けば温泉街に来た旅情が催してくる(画像提供/自遊人)
4年の歳月をかけて2021年5月に誕生した複合施設「松本十帖」は、宿と街の関係を深める新しいモデルとして注目を集めている。もともと老舗旅館「小柳」が建っていた敷地内に、「HOTEL松本本箱」と以前の名前を冠したまったく新しい「HOTEL小柳」がオープン。ホテル内には、ブックストア、ベーカリー、レストランなどがあり、宿泊者以外も利用できるように入口を4か所設けて、地域に閉じていた旅館を「解放」。2軒のカフェ「Cafeおやきとコーヒー」「哲学と甘いもの。」は、“温泉街を人々が回遊すること”をイメージして、あえて敷地外につくった。
敷地内の小道を歩いていくと宿泊棟の「HOTEL松本本箱」が現れる(画像提供/自遊人)
小柳旅館の大浴場を本屋に改装したブックストア松本本箱。選書は日本を代表するブックディレクターの幅允孝(はばよしたか)さん率いる『BACH』や、日本出版販売の選書チーム「YOURS BOOK STORE」による(画像提供/自遊人)
「HOTEL小柳」1階にある「浅間温泉商店」は、良質な生活雑貨や食品を取りそろえている(画像提供/自遊人)
「松本十帖」は、さまざまな施設が集まった総称。敷地内の「HOTEL松本本箱」のなかにブックストア松本本箱があり、「HOTEL小柳」にはベーカリーやレストランなどがある。2軒のカフェはホテルから150mほど離れた敷地外にある(画像提供/自遊人)
古民家を借り受けて改装した「Cafeおやきとコーヒー」は、ホテルのレセプションを兼ねている。そもそもホテル敷地内には駐車場がない。宿泊者の駐車場はホテルまで徒歩2、3分のカフェ「Cafeおやきとコーヒー」の横にあるのだ。宿泊者は、まず、カフェでチェックインし、おやきとコーヒーのウェルカムサービスをいただいてから、温泉街を歩いて、歴史ある温泉街を訪れたという気持ちを高めながら、ホテルへ向かう。ホテルに着くと、Barを兼ねたフロントでは、スタッフが温泉街の成り立ちや文化を紹介してくれる。
「Cafeおやきとコーヒー」の建物は、かつては芸者さん専用の浴場であり、また置屋(休憩室)でもあった(画像提供/自遊人)
宿泊者には、チェックイン手続き後、2階のカフェスペースでウェルカムスイーツのおやきと飲み物がふるまわれる(画像提供/自遊人)
ホテルから温泉街全体へ波及させ、地域活性化を目指す「松本十帖」は完全な民間プロジェクト。一般的に公的資金を投入して行うようなプロジェクトを引き受けた株式会社自遊人代表取締役でクリエイティブディレクターの岩佐十良(いわさ・とおる)さんに、プロジェクトにかける想いを伺った。
「私が思い描くのは、メインストリートに人があふれるほどにぎわう浅間温泉街の姿。『松本十帖』が、その呼び水になれば。『地域に開かれた宿』と注目されていますが、私にとって地域に開かれた宿が当たり前という感覚です。そもそも温泉街は、街歩きを楽しむ場所としても発展してきました。しかし、昭和30年代以降、観光バスでやってきて宿の中で楽しむ団体旅行が主流になり、街なかにあったラーメン屋やカラオケ、バーまでも施設内に取り込んで、大型化していきました。宿泊施設の中で完結するようになった結果、温泉街が廃れてしまったのです。でも、そういう時代は終わりました。宿に来てもらうだけでなく街に出てもらう。『松本十帖』は、双方向から仕掛けをつくっています」(岩佐さん)
「小柳旅館」の再生プロジェクトは、岩佐さんにとって民間企業として何ができるのかの挑戦でもあった。設備投資が莫大な旅館運営を行うのは並大抵の苦労ではないという(画像提供/自遊人)
また食べたい! もっと知りたい! 旅の心残りがリピートのきっかけ温泉街に人を呼び戻すには、まずは、「行ってみたい」と思わせる宿がいる。雑誌「自遊人」を発行する出版社の経営者である岩佐さんは、新潟県大沢山温泉の「里山十帖」など地域の歴史や文化を体験・体感でき、ライフスタイルを提案する複合施設としてのホテルをプロデュース、そして自ら経営してきた。「HOTEL松本本箱」「HOTEL小柳」の設計を依頼したのは、注目の建築家、谷尻誠氏と吉田愛氏が率いるサポーズ デザイン オフィスと、長坂常氏が代表を務めるスキーマ建築計画など。サポーズ デザイン オフィスが「HOTEL松本本箱」を手掛け、スキーマ建築計画が敷地内の「小柳之湯」や「浅間温泉商店」「哲学と甘いもの。」などを手掛けた。小柳旅館解体時に現れた鉄筋コンクリートの躯体やもともとの内装を活かしながら、洗練されたホテルに生まれ変わった。
「HOTEL松本本箱」最上階のスイートルームからは、北アルプスの山並みが見える(画像提供/自遊人)
ホテルから徒歩3分ほどの距離にあるカフェ「哲学と甘いもの。」(画像提供/自遊人)
難解な哲学の本に疲れたらスイーツを(画像提供/自遊人)
ユニークなのは、昔からある地域住民のコミュニティ「湯仲間」で管理し利用する共同浴場を、あえて「松本十帖」の中に復活させたこと。「Cafeおやきとコーヒー」の2階席の階下には、湯仲間しか入れない共同浴場「睦の湯」がある。地域住民しか入浴できない温泉を、観光客が出入りする「松本十帖」に取り入れた狙いはどこにあるのだろうか。
「従来の考え方では、観光客が入れないんだったら意味がないじゃないかと思われるかもしれませんが、私はこういった見えない文化も観光資源だと思っているんです。『睦の湯』など、浅間温泉各所にある共同浴場には、地元のタンクトップ姿のおじさんが、四六時中温泉街を歩いて温泉に入りに来ます。これこそが、生活に根付いた温泉街の姿ですよね。観光客も『入れない風呂があるなんて面白そうだ』と感じてくれます。そこで、観光客と湯仲間のおじさんの間に『どんなお風呂なんですか』『めちゃくちゃいい湯だよ』といったような会話が生まれるかもしれません」(岩佐さん)
それが、岩佐さんが「生活観光」と呼んでいる地域の風土・文化・歴史を体感できる新しい旅。「睦の湯」を通して、偶発的な会話が生まれるように「松本十帖」という場所がデザインされているのだ。観光客用には、「松本十帖」の敷地内に「小柳之湯」を用意している。設備は「睦の湯」と同じく、シャンプーやボディーソープはなく、脱衣所と半露天のシンプルな浴槽のみ。源泉かけ流しの小さな湯舟に浸かれば、生活の中に息づく温泉街を感じられる。
敷地の真ん中、正面入り口前に設けられた「小柳之湯」(画像提供/自遊人)
観光客は、「小柳之湯」で浅間温泉各所にある湯仲間専用の共同浴場を疑似体験できる(画像提供/自遊人)
ホテルにはリピーターも多いが、大きな理由は“食”にある。ホテルの夕食は、地域の「風土・文化・歴史」を表現した料理で、レストラン名は、「三六五+二(367)」。三六七(三六五+二)は信州をS字に流れる日本一の大河、千曲川(信濃川)の総延長が367kmであることに由来する。365日の風土と歴史、文化(+二)を感じてもらいたいという思いが込められている。食材は地場の野菜や千曲川・信濃川流域と日本海でとれた魚が中心。キャビアなどの豪華食材を使うことはなく、季節のものを厳選し、いつ来ても違う味に出会える。ほかに、1万冊を超える蔵書を誇るブックカフェ「松本本箱」のとりこになり、リピーターになる人もいる。料理と本で「また食べたい」「もっと知りたい」という「旅の心残り」を誘う。松本十帖は、コロナ禍による閉塞感からの解放にとどまらず、自分の感性を磨いたり、思考を整理したり、ポジティブな目的を持って訪れる人が多いそうだ。
夕食は『三六五+二(367)』『ALPS TABLE』ともにコース料理。いずれも地域の風土・文化・歴史を表現した「ローカルガストロノミー」がコンセプト(画像提供/自遊人)
公式サイトで「地味だけど滋味」と表現される料理が体に沁みる(画像提供/自遊人)
日常でも非日常でもない「異日常」へ もう一人の自分に会いに帰る旅岩佐さんが手掛けたホテルを何度も訪ねている鈴木七沖さん(すずき・なおき、57歳・編集者)に魅せられる理由を伺った。25年間、本づくりに携わり、現在は映像制作も手掛けている鈴木さんは、神奈川県茅ケ崎市在住で、「箱根本箱」には6回、新潟の「里山十帖」には3回、「松本十帖」にはオープン直後に訪れている。「松本十帖」の敷地外のカフェでチェックインした鈴木さんは、細い温泉街の道を歩いて宿まで移動しながら、気持ちが整っていく感じがしたという。本をゆっくり読むため外出することは少ないが、温泉に入ったり、食事をしたりするのがいいリセットになる。
「箱根本箱」滞在中の鈴木さん。ホテルでは原稿を執筆したり、自身が制作した映画の編集を行うことも。「たくさんの本が装置になって新しい発想が生まれるんです」(画像提供/鈴木七沖さん)
里山十帖のイベントで話し合う岩佐さんと鈴木さん。同じ編集者として岩佐さんのものづくりのコンセプトに共感している(画像提供/鈴木七沖さん)
「僕の場合は、観光する目的ではなく、自分の考えを整理したり、発想力を豊かにするために宿泊しています。何回も通っている理由は、なんていうか、自分の‘‘残り香‘‘がする場所になっているからなんです」(鈴木さん)
‘‘残り香‘‘とは何かたずねると、鈴木さんは、「日常ではない場所にいるもう一人の自分」だと答える。
「『松本十帖』だけでなく岩佐さんの手掛けたホテルでは、日常ではなかなか出会えないもう一人の自分に出会えるんです。旅行に行くというより『帰る』という感覚。自分と対話できる時間と空間がたっぷりある。僕にとって魔法が生まれる場所です」
普通の観光であれば、南の島に行ってきれいな海で泳ぐなど非日常を楽しむのが目的だ。鈴木さんの体験は、日常でも非日常でもない「異日常」という表現がしっくりくる。鈴木さんは街づくりのオンラインサロンを運営しているが、「異日常」は二拠点生活の感覚に近いという。
「異日常は、日常では思いもよらないアイデアだったり、もう一つの感性だったりを気付て「ぜひ出店したい」と「cafeおやきとコーヒー」の目の前におしゃれなパン屋さんができた。岩佐さんは、「浅間温泉街を起点に松本市内にいろんなマップマークが出てくれば、大きなうねりが起きる可能性がある」と期待を寄せる。宿から街に人の流れができれば、地域のファンになり、関係人口として関わる人も増えるはず。新しい旅の形には、人口減少問題解決の鍵となる地方再生の可能性が秘められている。
●取材協力
・松本十帖
・鈴木七沖さん
東京都内で交通利便性を重視して部屋を探すなら、真っ先に思い浮かぶのがJR山手線沿線だろう。人気と知名度の高さゆえに、家賃も高い印象が強いが、あえてそのなかでねらい目な駅を探すならどこだろうか。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象とした、山手線全30駅の家賃相場の最新ランキングから考えてみた。
JR山手線30駅の家賃相場が安い駅ランキング 2022年版最新の2022年版のランキングの家賃相場は2021年版に比べ、全体的に家賃が上昇している。しかし13位の有楽町駅が2.50万円下落したのを筆頭に、下位グループ、つまり家賃の高い駅に限定すると、半数近くが下落。山手線沿線内での価格差はせばまっているようだ。
(写真/PIXTA)
1位だったのは高田馬場駅で、2021年版の5位、2020年版の7位から急上昇。上位の駅は軒並み家賃が上がっているなかで唯一の値下げ駅であり、22年にまさにねらい目といえそうだ。所在地の新宿区は都内でも家賃相場の高い方に分類されるが、新宿駅から少し離れれば価格帯も幅広くなる。
高田馬場駅前(写真/PIXTA)
高田馬場といえば代名詞ともいえるのが、早稲田大学の存在だろう。創立者である大隈重信の像や大隈記念講堂がある早稲田キャンパスや文学部などがある戸山キャンパス、理工学術院のある西早稲田キャンパスの最寄り駅の一つ。東京メトロ東西線や西武新宿線が乗り入れるターミナル駅でもある。
周辺には学習院女子大学など他にも大学や教育機関が多く、一大学生街が広がっている。そのため、進学や就職で初めて一人暮らしを経験する人に心強い飲食店も数多い。近年はラーメン激戦区としてや、エスニック料理店の充実ぶりなどが話題になり、食の街としても人気エリアだ。歴史ある学生街らしく、名画座や小劇場なども点在している。
2位の田端駅は、山手線唯一の北区にある駅。山手線と同様に東京の交通の大動脈である、JR京浜東北線の快速停車駅だ。
田端駅前(写真/PIXTA)
都心部を通るイメージのある山手線だが、田端駅周辺は落ち着いた住宅街。すぐそばに大きな施設が立ち並ぶというわけではないが、駅直結の商業施設「アトレヴィ田端」があり、飲食店などのほかドラッグストアや成城石井なども入っている。また、駒込駅方面へいけば、昔ながらの情緒が残る商店街などもあり、ちょっとした日々の買い物も楽しい。田端は大正時代、芥川龍之介や室生犀星などの文学者たちが集って執筆活動にいそしんだ文学の街という一面を持ち、駅北口すぐの「田端文士村記念館」では、彼らの貴重な資料なども展示されている。
消滅可能性解消の豊島区、大塚駅や池袋駅は再開発で魅力向上同率5位の大塚駅と池袋駅は隣駅で、駅間距離は約2km。ともに所在地である豊島区は2014年に23区で唯一、少子化や人口移動などにより将来消滅する可能性がある「消滅可能性都市」だと指摘された。しかし近年、解決のための取り組みが実を結んできており、官民あげた魅力的なまちづくりが進められている。
池袋駅(写真/PIXTA)
大塚駅周辺も、地元住民とともに再開発が行われている。駅周辺は、「アトレヴィ大塚」や星野リゾートが運営する都市型ホテル「OMO5東京大塚」が入る「ba01」など商業施設が整備され、女性の夜の一人歩きも安心できる明るい街並みになっている。スーパーも商店街も数多い。
山手線で唯一、路面電車(都電荒川線<さくらトラム>)が停車するという下町情緒を生かし、空き家だった古民家をリノベーションした昭和レトロな飲食店が軒を連ねる「東京大塚のれん街」は、話題のスポットにもなっている。また、昔ながらの喫茶店もあちこちに見かけ、ノスタルジックな雰囲気が漂う。駅から少し行った住宅地も区画整理が進み、広い敷地に小さな森や池を備えた「大塚台公園」などが点在。憩いや癒しの場を、そこかしこで楽しむことができる。
東京大塚のれん街(写真/PIXTA)
池袋駅は、住宅街である大塚駅と同じ家賃で大繁華街に住めると考えれば、都心らしい暮らしを楽しみたい人にはお得感がより増すだろう。東京の主要な繁華街である渋谷駅、新宿駅が12万円前後であることに比べると、9万円以下の池袋駅のねらい目度もわかりやすい。
豊島区は持続発展する都市「国際アート・カルチャー都市づくり」を推進し消滅可能性都市の危機を脱したが、その世界を視野に置いた街づくりの中心が池袋駅。旧庁舎跡地を活用した「Hareza池袋」など新しい施設が開業したほか、南池袋公園を中心に街全体が人が交流できる開放的な公園のようにしていく取り組みが次々と行われている。
南池袋公園(写真/PIXTA)
アニメなどのカルチャー拠点が注目されるが、池袋は駅西口の東京芸術劇場を筆頭に、大物演出家が手掛ける大作から宝塚歌劇団の公演、ネクストブレイクの若手劇団が上演する小劇場まで幅広く上演される、劇場街としての顔も持つ。一方で、少し行けばこじんまりしたスーパーや個人商店がのんびりと営業する住宅街があり、便利な都心と住みやすい街の双方の発展が両立した街といえる。
高値な駅は値下げ傾向、最も「お得」なのは有楽町駅13位の有楽町駅の相場は10万円、前述したが今回のランキング内で最も「お得」になったといえそうだ。21年は27位で12.50万円、20年は24位で11.80万円から大幅にランクアップしている。
有楽町駅(写真/PIXTA)
東京駅から徒歩圏内の隣駅で、皇居や帝国ホテル、銀座も歌舞伎座もすぐそばにある、ビジネス街で繁華街。住む場所としてのイメージが薄く、選択肢から外してしまいそうだが、足を延ばせば銀座三越のデパ地下や、駅前の「ルミネ有楽町」の中に成城石井が入っており、スーパーが皆無というわけでもない。すぐそばの東京交通会館では産地直送の野菜や米、果物などの食材がならぶ「交通会館マルシェ」を実施、平日は5店舗、週末は20~30店舗も出店している。自炊派にとっても満足な買い物環境にあるといえそうだ。
16位の目黒駅も、ランキングこそ21年と同じものの、家賃が下がった駅。東急目黒線と東京メトロ南北線、都営三田線が乗り入れている。
目黒駅前(写真/PIXTA)
駅直結の商業施設は規模も大きく、アトレ目黒1には「ザ・ガーデンズ自由が丘 目黒店」ほか地下にも魚屋、肉屋、八百屋が、さらにアトレ目黒2には「プレッセ目黒店」も入っておりスーパーはかなり充実している。駅のすぐそばには小規模な商店街もあるが、中目黒方面まで足を延ばせば、約900mに個性豊かな170の専門店が並ぶ「目黒銀座商店街」も。昭和レトロな店舗からおしゃれな雑貨屋まで、散策も楽しい。
繁華街の印象が強いが、駅すぐそばには結婚式場としても人気のミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」がある。美術工芸品の展示や豪華な内装は有名だが、落ち着いた庭園も非常に魅力がある。その庭園の存在もあり、意外なほど緑豊かで落ち着いた雰囲気も感じられる。花見の名所で知られる目黒川もほど近い。
春の目黒川(写真/PIXTA)
都心部を選ぶときに気になるのが、手近に大きなホームセンターがあるとは限らないという点だが、目黒駅から少し離れてはいるものの、22年夏に目黒通り沿いに家具・インテリア雑貨の「ニトリ」の大型店舗の開業が予定されている。
人気のある路線は、各駅がそれぞれ違った吸引力にあふれている。どれも魅力的で目移りしてしまうが、そこから厳選するのも、また部屋探しの楽しみの一つだろう。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/10~2021/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
オーダーメイドで自分好みの内装が決められる賃貸住宅があるという。東京都杉並区・JR西荻窪駅からほど近く(徒歩4分)の西荻北ホープハウスだ。オーダーメイドのみならず、入居後にDIYも可能で「原状回復」の縛りもないのだという。女性を中心に魅力的なインテリアを提案している「夏水組」の坂田夏水さんにお話を聞いた。
憧れのウィリアム・モリスの壁紙で、おうち時間も快適にリビングの壁と玄関ドアにウィリアム・モリスの壁紙を選んだAさんは「好みのインテリアに囲まれているから一日家にいても飽きません」と話す。昨年に会社員からフリーランスに転じた女性で、在宅の仕事でほぼ一日を家で過ごすことから、この部屋の居心地の良さに満足そうだ。
オーダーメイドで壁紙が選べることに魅力を感じ、物件を内見してすぐにこの部屋に決めたという。いくつか壁紙のサンプルを見せてもらったなかから、モリスの柄から2種類を選んだ。
モリスは、19世紀後半の英国で産業革命による粗悪な工業製品を嫌って、生活と芸術の調和を目指したアーツ・アンド・クラフツ運動を興した。工業製品に対して、中世の美意識や手仕事に重きを置いた。これは遠く日本の柳宗悦らによる民芸運動にも影響を与えた。
「古い物件でも、手を入れてリニューアルされることに共感をおぼえます。37平米とひとり暮らしに広さも十分で、キッチン周りも広く使いやすく改修されていて料理が楽しくなりました」と話してくれた。
壁紙などオーダーメイドのマテリアルは、夏水組がプロデュースするDecor Interior Tokyoでコーディネートの相談にのってくれる(画像提供/夏水組)
Aさんが入居の際に選んだウィリアム・モリスの壁紙を貼ったドア(画像提供/夏水組)
築古の賃貸にかかわらず、魅力的なリニューアルによって人気物件に西荻北ホープハウスのリノベーションを5年前から任っているのは、空間デザインやリノベーションを手がける夏水組(武蔵野市)の坂田夏水さんだ。デザイン事務所・夏水組のほか、東京・吉祥寺と大阪・梅田でDecor Interior Tokyoというインテリアマテリアルショップも経営していて、自分らしい豊かな空間をつくる提案をしている。
不動産投資家のオーナーBさんと夏水組の坂田夏水さん。リニューアルを終えた西荻北ホープハウスの部屋で。現オーナーは、1年ほど前に前のオーナーから購入した(写真撮影/村島正彦)
「こちらのマンションは1975年に建築されて、築年数も40年以上と老朽化が進んでいて、私がご相談を受けたときには、総戸数42戸のうち空き室が30%以上ありました」と話す。
この空き室について、夏水組プロデュースにてリニューアル工事を進めて、ほどなく満室に導いたという。
築古のマンションだけに、入居者が長く住んでいた部屋、入れ替わりがそれなりにあった部屋などあり、入居者が代わるタイミングで行われるリフォーム工事によって、部屋の状態にはバラつきがあった。そこで、坂田さんは、3つのリニューアルプランを提示したという。
もとの間取りには手を入れずトイレやお風呂など水回りを中心にリニューアルする「スタンダードプラン」。2つ目は、キッチンを使い勝手の良い間取りにする「キッチンプラン」。そして、3つ目は間仕切り壁を無くして開放感のあるお部屋にする「フリープラン」という3タイプだ。いずれのプランにおいても、エントランス正面のクロスやバスルームのタイルなどは、部屋ごとに違うものとして、費用を抑えつつも個性をもたせたという。
玄関周りの壁紙は部屋ごとに違うものをあしらい個性を持たせた(画像提供/夏水組)
「賃貸住宅のリニューアルは、オーナーさんの負担が原則です。オーナーさんの資金も限られているなかで、部屋ごとの老朽化の具合やこれまでのリフォーム投資を無駄にしないよう、リニューアルの仕方も選択性にしました」と坂田さん。
西荻北ホープハウスのオーナーのBさんは「提案していただいたリニューアルは、空き部屋が出ても次の入居者がすぐに決まり、オーナーとしてもリニューアルへの投資の面からも不安がありません」と話してくれた。
西荻北ホープハウスでは、壁紙だけでなく、DIYも楽しんで欲しい夏水組にリニューアルを依頼しているのは、5年前から西荻北ホープハウスの管理を請け負っている地元の不動産会社・リベスト(武蔵野市)だ。
リベスト・中道通り店の店長代理・荒井康友さんは「当社で管理をさせていただく以前は、建物の築年数がそれなりに経過していることもあり、空室率が高い状況でした」と話す。
そこで西荻北ホープハウスの管理の請け負いと同時に、築年数の経過にも調和したデザイン力のある夏水組にリニューアルを依頼するようになったという。また、部屋が空いて内装のリニューアルを行っている途中であれば、壁紙やタイル等の入居者が選べる箇所も多く、「期間限定・内装を自分好みにオーダーメイド可能」と記した間取り図付きのチラシを出せば、すぐに次の入居者が決まることも多いという。
荒井さんは、「西荻北ホープハウスは、こうしたインテリアにできるということが評判をよび、空き室待ちが発生することもあります」と話してくれた。
坂田さんは、国交省が賃貸住宅の流通促進の一環として取り組む「DIY型賃貸の普及」にも共感して、住まい手の啓発につとめているという。「西荻北ホープハウスでも、DIYができることをアピールしています。築古の物件でオーナーさんの理解があれば、住まい手が自分の住まいを自分でつくる楽しみを実現できます」と話す。
西荻北ホープハウスでは、オーナーの意向もあり「DIY可能」な賃貸物件だ。坂田さんは「住まい手自身、住みながら家に手を入れて愛着を持ってもらいたい」と話す(画像提供/夏水組)
坂田さんが経営するインテリアマテリアルショップDecor Interior Tokyoでは、壁紙などインテリア商品の販売だけでなく、壁紙の貼り方や小物のデコレーションなどワークショップも積極的に行って、自分の住まいを自分でアレンジする楽しみの輪を広げているという。
夏水組がプロデュースするDecor Interior Tokyo(吉祥寺店・梅田店)では定期的にインテリアワークショップを行っている(画像提供/夏水組)
坂田さんは「ヨーロッパでは、古い建物を、住まい手自らがインテリアにこだわりを持って修復やDIYしながら、豊に暮らしています。そんな文化を若いときに暮らす賃貸住宅でトライして楽しみを知ってもらうことで、日本にも根付かせていきたい」と語ってくれた。
画一的でなく、部屋ごとに個性の感じられる西荻北ホープハウスを見ると、住まい手が自由に楽しんで暮らしていることがうかがえる。最近ではリノベーションへの注目から、築古の賃貸住宅を中心に、借り手が好みのインテリアにできるDIY可能な賃貸が増えてきている。こうした流れを受けて、国土交通省では、貸主と借主のトラブルを未然に防ぐためにDIY型賃貸借に関する契約書式例やガイドブックを作成して公開している。参考にしてもらいたい。
●取材協力
・夏水組
・Decor Interior Tokyo
・リベスト
・国土交通省 DIY型賃貸
全宅連・全宅保証協会では、毎年9月23日を「不動産の日」と定め、消費者向けに、住居の居住志向及び購買等に関する意識調査を実施している。今回公表した、2021年9月23日~11月30日までに実施した調査結果(有効回答数2万3349件)を見ると、買い時について揺れている消費者の様子が見てとれる。
【今週の住活トピック】
2021年「不動産の日アンケート」結果公表/全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)・全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証協会)
東京都に出された4回目の緊急事態宣言は2021年7月12日~9月30日まで。この間の7月23日~8月8日は、東京オリンピックが開催されていた。全宅連・全宅保証協会の調査時期は、この緊急事態宣言の終盤から宣言が明けて新型コロナウイルス感染者数がかなり抑制されていった時期に該当する。
この時期に「いま、不動産は買い時だと思いますか?」(単一回答)と聞いたところ、「買い時だと思う」が10.5%、「買い時だと思わない」が25.6%、「分からない」が63.9%となった。これを前年と比べると、「買い時だと思う」が減少して、「分からない」が増加する形となった。
「分からない」という回答は6割を超え、過去最高水準の数値になったという。市場が読み切れず、判断ができない人が多かったということだろう。
Q1.いま、不動産は買い時だと思うか?(単一回答)(出典:全宅連・全宅保証協会「2021年『不動産の日』アンケート結果」より転載)
「買い時だ」VS「買い時でない」それぞれの理由では、「買い時だ」「買い時でない」と思った理由はなんだろう?
買い時だと思う人に対して「買い時だと思う最も近い理由は何ですか?」、買い時だと思わない人に対して「買い時だと思わない最も近い理由は何ですか?」とそれぞれに聞いて、選択肢を1つ選んでもらった結果が次のものだ。
「買い時だと思う」「買い時だと思わない」理由(出典:全宅連・全宅保証協会「2021年『不動産の日』アンケート結果」より転載)
まず、「買い時の主な理由」から見ていこう。
■「住宅ローン減税など住宅取得の為の支援制度が充実しているから」41.4%
■「不動産価値(価格)が安定または上昇しそうだから」25.4%
■「今後住宅ローンの金利が上昇しそうなので(今の金利が安いので)」22.5%
次に「買い時ではない主な理由」を見よう。
■「不動産価値(価格)が下落しそうだから」が28.8%
■「自分の収入が不安定または減少しているから」26.5%
不動産価格が横ばいまたは上昇と見るか、下落と見るかで、買い時感が変わっている点が興味深い。価格の件を除くと、「買い時」では「支援制度が充実」や「金利が上昇しそう」、「買い時ではない」では「収入が不安定など」が主な理由になっている。
さて、買い時理由1位に挙げられた住宅ローン減税だが、実は2022年からは2021年と制度内容が変わっている。住宅ローン減税の控除率が1%から0.7%に下がり、控除期間が10年から13年に延びるなどの制度変更があったが、2025年末まで延長される。制度変更によって減税額が2021年より減ってしまう人もいるが、それでも当初13年間あるいは10年間にわたり、ローンの利息に相当する程度の額が還付される効果は大きい。
また、住宅取得資金として贈与をした場合の非課税枠についても、2022年から限度額が下がるが、2023年末まで延長される。ほかにも、リフォームに関する減税や各種の補助金などもいろいろあるので、購入を支援する制度は多いと言えるだろう。
一方、買い時ではない理由2位の「収入の不安定や減少」については、その程度にもよるだろうが、住宅ローンを組むにはリスクがある。たしかに、買い時ではないと思う大きな理由になるだろう。
買い時に影響する、金利は?住宅の価格は?では、住宅ローンの金利や住宅価格はどうだろう?
まず、住宅ローンの金利については、日本銀行が政策金利をゼロあるいはマイナス金利に誘導し、景気や物価を押し上げる政策を取っているので、住宅ローンも長期間低金利が続いている。
一方で「金利の先高感」を持つ人も多い。実際に、2022年の2月、3月と長期間金利を固定する【フラット35】や固定期間選択型の当初10年間だけ金利を固定する「10年固定」などの金利が上がっている。これは、市場の短期金利と長期金利の動きの違いによるものだ。市場の長期金利が、コロナ禍でも先行して経済が活性化したアメリカの物価上昇(インフレ)と利上げの動きなどによって上昇したことで、長期金利と連動する【フラット35】や10年固定の金利が上がったという構図だ。市場の短期金利に連動する「変動金利型」の金利は変わっていない。
金利については、この先を予測することは難しいが、これ以上はもう下がる余地がないところまで来ているので、上がることはあっても下がる可能性は低いと言ってよいだろう。
次に、見方によって買い時感が変わる「不動産価格」だ。不動産価格が下落すると見た人のなかには、一部に「東京オリンピックが終わったら不動産価格が下落する」といった噂が流れており、そうした影響もあるのかもしれない。筆者の専門は住宅なので住宅価格について見ると、現時点で住宅価格は下落していないし、コロナ禍のテレワークの普及などによる新たな需要も生まれ、新築も中古も上昇傾向にある。
特に新築の価格は、土地値や建築費用、金利などの影響を受ける。いずれを見ても、今後下がる見込みのものはないので、住宅価格も下落するよりは横ばいか上昇する可能性のほうが高いだろう。
さて、金利も住宅価格も、グローバル経済の影響を強く受けるものだ。数年前は、新型コロナウイルスなどの感染爆発が世界中で起きるとは想像もしていなかったし、直近でも、軍事力で他国に侵攻する事態を想像できた人も少なかっただろう。たとえ専門家といえども、金利や不動産価格を予測することが難しいのが現実だ。
となると、買い時かどうかは、子どもの成長や家族構成の変化、生活環境の変化などで「自分自身に住宅を買う理由があるかどうか」、が一番の決め手になるのだろう。子どもの成長は待ったなしだし、不満のある住宅に住み続けるのは不便だろう。思い立った時が買い時、と考えれば、予測が難しい金利や価格をそれほど気にする必要はないかもしれない。
●関連サイト
「2021年「不動産の日アンケート」結果公表/全国宅地建物取引業協会連合会・全国宅地建物取引業保証協会
新潟県三条市が、人気移住地域ランキング「SMOUT移住アワード2021上半期ランキング」(面白法人カヤック発表)でNo.1に輝いた。その評価ポイントは、「市内のエリア特性を見事に生かし、移住関心者の心を掴んだこと」。「移住関心者の心を掴む」として挙げられているのが、三条市に本社を構えるスノーピーク。敷地内にキャンプ場を併設している、アウトドア業界を牽引する企業だ。
そのほかにも、一大金物産地である燕三条地域を成す三条市には、人口比あたり日本一社長が多いと言われるほど多くの企業が存在している。人気の理由を深堀りするため、「スノーピーク」と、話題の金物づくり企業「庖丁工房タダフサ」と「諏訪田製作所」、そして工場と工場、クリエイターをつなぎ文化の継承を担う「三条ものづくり学校」を訪れてみた。
国内外でアウトドア関連事業を幅広く展開するスノーピークは、三条市を代表する企業だ。「人生に、野遊びを。」をスローガンとする同社の製品は、多くのキャンパーから支持されている。
本社の地下にあるスノーピークミュージアム。創業からの歴史とこれまでの製品が展示されている(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
創業は1958年。三条市で山井幸雄(やまい・ゆきお)さんが金物問屋を立ち上げ、趣味の登山用に本格的なギアをつくりだしたのが始まりだ。
幸雄さんが開発した、雪山登山時に靴に装着するアイゼンと、岩にボルトを打ち込むハンマー(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
その後、息子の太(とおる)さんが2代目社長に就任し、オートキャンプ領域を切り開いた(現在会長職)。
キャンプ用品はバックパッカーやクライマー向きのものが中心だった時代。欲しいものを自らつくり現場で試すという信念を父親から受け継ぎ、誰もが気軽にアウトドアを楽しめる上質な用品を、次々と産み出していった。
山井太さん(左)は三条市生まれ。東京の大学で学び、外資系商社を経て2代目社長に就任した。2020年に娘の梨沙さんが3代目となり、2021年4月より代表取締役会長。執行役員でもある妻の多香子さん(右)とは商社で同期入社だったそう(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
暴風雨にさらされてもテントを守る頑丈なペグ。焚火のような強い直火に耐えうる鍋。室内で使用する以上に堅牢さを求められるアウトドア製品づくりは、燕三条の職人の技術が支えている。
「たとえば鍋は、大きさによりコンマミリ単位で板厚を変えねばなりません。どのくらいの厚さがベストなのか職人の経験に頼りながら、試作を繰り返します。同時に使いやすさ、美しさを追求しますから『お前が持ってくる依頼はめんどくさいものばっかりだ』と言われながらも、『こんなの無理ですよね、できないですよね』と職人魂を焚き付ければ焚きつけるほど(笑)、こちらの要求を超えてくるのが燕三条の職人です。『試作品つくるために機械もつくっちゃったよ』なんて、びっくりさせられることもよくありました」(太さん)。
高品質を誇りに、「キャンプ製品に永久保証をつけたのは我々が世界初です」と太さんは胸を張る。そんなスノーピークは2011年に、本社をキャンプ場・店舗・工場・オフィスが一体となった「Headquarters」へと進化させ、三条市街地から山を身近に望む丘稜地帯に移転した。
取材当日は大雪。雪中テント泊を楽しみにするキャンパーが関東から訪れていた(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
「社員もみんなキャンパー、自然の中で過ごすのが大好きなことが入社の条件のひとつです」と語るのは、執行役員の吉野真紀夫(よしの・まきお)さん。自身も釣りとキャンプの愛好家だ。「山も川も海も近いこの場所は、アウトドア体験から製品をつくり試すのにふさわしい、素晴らしい場所です」
「これを眺めながら仕事だなんて、最高でしょ?」と雪景色にはしゃぐ吉野さん。晴れたときには広大なキャンプ場とその奥の山並みが本社屋から一望できる(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
アウトドア愛好者の憧れの会社となったスノーピークには、全国から入社希望者が殺到する。「今や社員のほとんどは新潟県以外の出身。私も東京出身です」(吉野さん)
「社員たちのアイデアは、地元の工場の職人さんたちに、それこそ打たれ研磨されて世界に誇れる商品になっていきます。新人のうちは不勉強を嘆かれつつもモノづくりへの熱い気持ちは同じ。心に火をつけて最高のギアをつくっていくのです」(吉野さん)
キャンパーであることを優とするスノーピークの採用基準と、常にキャンパーでいられるフィールド、そして、そのフィールド体験をカタチにできる燕三条のモノづくり。そんな吸引力が、若者をスノーピークに惹き寄せているようだ。
社員が自由に使える打ち合わせスペースはまるでキャンプサイト。「これからは衣食住働遊の全領域で、自然と触れ合える生活を提供していきます」(山井太さん)(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
「庖丁工房タダフサ」世界のバイヤーが認める鍛冶仕事は子どもたちの憧れ庖丁工房タダフサは、世界中のバイヤーが注目する話題の企業だ。創業は1948年。現在は3代目となる曽根忠幸(そね・ただゆき)さんが経営を担う。
タダフサの主力製品はその名の通り包丁だ。手作業でつくられる鋼の包丁は極上の切れ味。例えば家庭用の万能三徳包丁は9000円(税別・取材当時)と高額だが、生産が間に合わないほどの人気を誇っている。
工場併設のショップ。鋼製包丁はオールステンレスに比べると手入れが必要だが、その重力だけで固い人参が切れる体験をすると、買わずにはいられない。研ぎ直しサービスもあるので安心(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
会社ロゴには、鋼材をつかむ、つかみ箸をデザインした。以前は鍛冶職人が最初に修行としてつくるならわしがあったそう(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
「祖父の寅三郎(とらさぶろう)が大工道具の曲尺づくりを始めたのが創業のきっかけです。腕利きが認められるようになって、農具や漁業用具などさまざまな刃物を手掛けました。家庭用の包丁も問屋から注文が入るようになり、その後父・忠一郎(ちゅういちろう)に工場を引き継ぎました。職人が全工程を手作業で行うのは、創業当時と同じです」と曽根さん。
曽根忠幸さん。東京の大学卒業後3年間の会社勤めを経験し、鍛冶職人に。2012年代表取締役に就任。会長職に就いた忠一郎さんは伝統工芸士に認定されている(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
職人の数も少しずつ増え、やがて時代のニーズとともにホームセンターからの注文も入るようになった。「ホームセンターは納期が厳しかったです。長時間労働を強いられ利益も薄いのですが、売上が大きいので断れませんでした」(曽根さん)。
2011年に中川政七商店の中川政七さんに工場経営を相談したことが転機となった。
当時の市長が三条市の活性策として「モノづくり」に道を求め、中川さんにコンサルティングを依頼。多くの金物工場の中からまず1社、タダフサが先鞭をつけるべく選抜されたのだ。
中川さんと打ち合わせを重ねて気がついたのは「自分たちで何をつくるべきか考えてこなかった」ということだった。ユーザーや問屋、ホームセンターのオーダーに応え続けた結果、当時は900種もの商品数があり、その材料や資材などの在庫を抱えていたのだそう。
検討の結果、ユーザーが選びやすい「基本の3本」包丁と、料理の腕が上がったときの「次の1本」に主力商品を整理。利益に見合わない大量発注は請け負わない決断をした。
「特殊な刃物は受注製造制にして、出来上がりまで少し待ってもらうことにしました。ウチの包丁はちゃんと研げば数十年使えますからね、買い替えも数十年に一度です」と曽根さん。
左から「基本の3本」パン切り、万能三徳、万能ペティ、「次の1本」牛刀、出刃、小出刃、刺身(写真提供/庖丁工房タダフサ)
曽根さんは、工場見学者を受け入れて作業と技術を見てもらうことにもこだわっている。
「品質はむしろ海外から評価されていて、2021年の売り上げのうち3割以上が海外関連を占めています。こういった事実は、職人の励みにもなりますね」(曽根さん)
タダフサの包丁ができるまでは大まかに21行程。材料の切断、鋼材の鍛造、焼入、研磨、歪み取りといった工程を職人が1丁1丁作業していく。その様子を見学してもらうことで製品の確かさが伝わり、「この値段ならむしろ安い」と購入してくれる。「モノづくりの背景を知ってもらうことで、価値がより高まります」(曽根さん)
工場見学には、海外のバイヤーも多かった。新型コロナ拡大状況などによる見学可否はHPで確認を(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
また、タダフサの“工房心得”には「三条の子どもたちの憧れとなるべき仕事にすること」が刻まれている。「自分も父の仕事をしている姿を見るのが大好きでした」と曽根さん。「鍛冶職人のカッコ良さを見てもらい、技巧の素晴らしさに触れてもらうことで三条が産地として継続するはずです」(曽根さん)
三条市の小学生は社会科見学で工場に訪れる。「息子が『鍛冶屋になる!』と言ってくれているのがものすごく嬉しい」(曽根さん)(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
曽根さんは、燕三条の工場を一斉にオープンする「燕三条 工場(こうば)の祭典」を2013年初代委員長として開催した、立役者でもある。2020年はオンライン開催となったが、2019年には4日間で5万人の来場者があり、職人仕事に熱い視線が集まった。
「商品を絞り、高品質を伝えることで売り上げは倍以上、利益率も上がりました。憧れの職業となるよう働く環境も整えています。うちは週休二日制、勤務時間は8時間。残業も多少ありますが、残業代は当然支払います。月に1回、会社負担でマッサージも受けられるようにして、仕事の疲れも癒してもらっています」(曽根さん)
実際、タダフサには職人に憧れる若者の入社希望が増えている。2011年の社員数は12人だったが、2022年1月時点で33人。憧れの現場には、女性の職人も4名、オーストラリアから移住してきた若者も働いている。
「職人希望者が増えて嬉しいのですが、鋼を扱う作業は冬は寒いし夏は暑い。過酷な環境で作業に没頭して技巧を磨いていけるかどうかには、向き不向きがあります。ただ、三条の鍛冶職人は世界一。しっかりと家族を養うことができる収入も得られますし、手に職をつけることにより一生涯の仕事ともなります」(曽根さん)
世界基準の技術を持つ。プライベートも大切にできる収入を得る。若者がプライド高く励む鍛冶の現場が、庖丁工房タダフサにあった。
「諏訪田製作所」はオープンファクトリーの先駆者。進化を続ける創業95年企業「工場の祭典」は職人の後継者不足と製品の低価格化を解決する一策として、燕三条エリアの工場が一斉に工場見学を開放し、一般見学者が地図を片手に思い思いの工場を巡る一大イベント。画期的な取り組みで、全国的にも話題を集めている。
開催の先駆けとなったのが、2011年に「オープンファクトリー」として工場を刷新し、見学者を迎え入れた諏訪田製作所だ。
諏訪田製作所は材料の仕入れから製造、修理まで一貫して自社で行っている。主力商品はニッパー型のつめ切り。「創業96年を迎えます。以前から地元の愛用者が、修理などの相談でフラッと工場に来ることが多かったそうですよ」と、諏訪田製作所の水沼樹(みずぬま・たつき)さん。
来場者の受け付け体制を整えたほうがお互いに良い、ということと、3代目代表取締役・小林知行(こばやし・ともゆき)さんが「生産工程を見せることで商品価値を上げたい、そして職人にプライドを持ってもらいたい」と決断したことが工場を公開する「オープンファクトリー」のきっかけだった。
のどかな田園地帯に建つ諏訪田製作所。2019年に新築された工場はひときわ異彩を放つ(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
正面ドアを入ると、つめ切りの端材を使ったアートが迎えてくれる(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
インテリアにこだわったカフェレストランとショップも併設されていて、工場というより美術館を訪れたような感覚に陥る(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
黒と赤で統一された工場スペースでは、職人たちの様子を間近に見ることができる。オープン前は「見学者を受け入れるなんてとんでもない。集中できない」と反対の声があったそうだが、一流の職人こそ作業に没頭している。そんな心配は無用だった。
直接ユーザーから製品の良さを聞く機会が増え、精緻な技巧を誉められることで、職人たる誇りが醸成されることにも繋がった。
見学コースと作業場所は仕切られていて安全性も保たれている。集塵機がある工場は冷気が吸い込まれてしまうためエアコンをつけないことも一般的だそうだが、諏訪田製作所では倍の数のエアコンを設置して働きやすい環境を維持(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
職人の家族もオープンファクトリーに訪れる。そのカッコいい姿に子どもたちは憧れて、また職人になることを目指す(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
見学コースを抜けると、職人技に感動した逸品が並ぶショップに繋がる。1万円のつめ切りも、もはや高いとは感じない。自宅用に、大事な人へのプレゼント用にと、お買い物が進む。その後はスイーツが自慢のカフェレストランで休憩し、SNSで情報共有したくなる。そんな仕掛けも巧妙だ。
「刃と刃の境目がわからない」ことで高品質がわかる諏訪田製作所のつめ切り(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
水沼さんは、第1回「工場の祭典」に参加して諏訪田製作所を見学し、入社を決めたうちのひとり。出身は山口県、東京の大学に進み中小企業経営を学んでいて、燕三条エリアには製造から販売まで一貫して行う工場・企業が多いことに魅力を感じていたのだそう。
「モノづくりって、人類が原始からやっていることですよね。石包丁とか土器とか。残念ながら自分は器用ではないので現場仕事には向いていないのですが、モノをつくる過程でデザインも必要だし、広報や営業も大切です。大企業とは違って職人にも経営者にも近い中小企業の工場で、いろいろなことを学びたいと考えていました」(水沼さん)
「三条に来たのは、諏訪田製作所があったから。妻は花屋を経営しています。彼女も大阪からの移住者で、燕三条で出会いました」と水沼さん(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
実は、水沼さんは代表取締役 小林さんの大学スキー部の後輩。「工場の祭典」の前にスキー部のOB会で出会っていた。小林さんはその時にロン毛で登場。「多くの先輩がいらっしゃる中で社長にはとても見えず、ナニモノ?と強く印象に残りました(笑)」(水沼さん)。
その後ゼミ仲間と「工場の祭典」に行くことになり、小林さんに再会。経営者としての手腕と諏訪田製作所のモノづくりに惚れ込んで入社を決めた。
取材の最後に小林さん(右)にお会いできた。この日は金髪。左は取材に同行したSUUMO編集長(写真撮影/池上香夜子)
諏訪田製作所の社員は約60人。熟練の職人も多いが、会社の成長にともない若者の入社が増えて、今は全体の半数が20代と30代。男女比はほぼ半々なのだそう。
その若い世代にも、モノづくりを極めたくて入社してきた人が多い。「他の工場と距離が近いのも燕三条エリアの特徴だと思います。自社製品以外に、お互いの得意技術を活かしたモノづくりができる近さは魅力的です。世界に誇れる技術がたくさんあり、販路も世界中。競争意識はありますよ。まさに切磋琢磨できる、理想のモノづくり環境です」(水沼さん)。
完璧な使い心地のつめ切り、芸術作品のようなその商品でさえ、時代に合わせてモデルチェンジを繰り返す諏訪田製作所。地域を超えて日本の工場を先導する諏訪田製作所には、未来を切り拓いていく若者の姿があった。
工場と工場、そしてクリエイターを繋ぐ「三条ものづくり学校」。職人技の継承と新たな繋がりを産み育てる燕三条エリアの特筆すべきところは、各企業が優れた商品を生み出しているだけではなく、企業間の連携も図れている点だ。そのなかで、工場と工場、そしてクリエイターをつなぎ、文化の継承を担う役割を果たしているのが、閉校した小学校をリノベーションした「三条ものづくり学校」。東京都世田谷区のIID世田谷ものづくり学校を運営する株式会社ものづくり学校が三条市から委託を受けて2015年4月に開校した。
「燕三条エリアのモノづくりの技術やアイデアを育み、地域に貢献することが設立の目的です」と三条ものづくり学校の斎藤広幸(さいとう・ひろゆき)さん。「教室だったところを小規模のクリエイターなど事業者にオフィスとして貸し出すほか、一時的に利用可能なレンタルスペースもあります」(斎藤さん)
小学校当時そのままの外観(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
オフィス入居の応募条件は「ものづくりに関わる事業を行う法人もしくは個人事業主であること」。30室はほぼ満室状態だ(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
「三条市の工場は規模が小さいところがほとんど。組合も専門分野ごとにバラバラで、連携が乏しいという弱点がありました。職人の技術と伝統を絶やさぬよう光を当て、時代にあった商品開発に繋がる役目を果たしたい。そのため、最初はデザイナーやクリエイターに入居を促すことから始めました」(斎藤さん)
斎藤さんは開校以来200社を超える工場に出向いている。「工場、職人の技術や経営ノウハウについてインタビューして、他の工場で参考にしてもらえるようHPなどで紹介しています。直接相談を受けることも増えていて、それが新しい商品に結びつくこともあります」(斎藤さん)
例としてあげてくれたのが、「鉛筆切出(えんぴつきりだし)」。創業から60年、鍛造技術を親子二人で守り、大工道具である切出し小刀を専門につくっている増田切出工場と、ものづくり学校にオフィスを構えるカワコッチという任意団体のデザイナーが共同開発し、ステーショナリーに仕上げた。
従来の切出小刀に窪みを加えることで鉛筆が削りやすくなった。荷物の開梱など生活のちょっとした場面で幅広く使える。IDSデザインコンペ2019準大賞を受賞(写真提供/三条ものづくり学校)
三条ものづくり学校ではワークショップや交流会などがたびたび開催され、入居者同士のコミュニケーションも活発だ。「全て把握することはできませんが、大小のアイディアが飛び交っているようです」(斎藤さん)。
工場に眠っていた廃材や廃盤となった製品、クリエイターが廃材からつくった作品などを事業者自身が販売する「工場蚤の市」。2019年4月は2日間の開催で約2万人が訪れた。マニアックな部品が並ぶが、「地域の工場や技術が可視化できて、一般の人も出展者もいろんな発見があったと思います」(斉藤さん)
2019年「工場蚤の市」。職人による体験教室も大人気だった。2020年・2021年は「Factory Piece Market」と題し規模を縮小して開催(写真提供/三条ものづくり学校)
斉藤さん。自身も三条ものづくり学校での活動を事務局内に引き継ぎ中(写真撮影/RIZMO-PHOTO小林和幸)
日本の多くの地方工業都市では、若者の流出が課題となることが多い。その流出を止めるには魅力的な働く場所・企業と、その環境の整備が有効なのではないだろうか。
三条市を訪れてみると、世界で戦えるモノづくりを基盤に、働きたくなるよう職場を洗練して勤務環境を整えた企業と、地元産業の職人に光を当てて繋ぐ自治体の取り組みが見えてきた。
今回訪問した企業の共通項は「高単価」「世界水準」。成し遂げていたのが、2代目・3代目だったことも共通点だった。創業者とは違う経験を通して、自社の発展と、地域・国・産業の発展とを地続きで見渡す視野の広さに感銘を受けた。
●取材協力
・スノーピーク
・庖丁工房タダフサ
・諏訪田製作所
・三条ものづくり学校
●関連リンク
・燕三条 工場の祭典