
12万円 / 43.55平米
総武線・東西線・武蔵野線「西船橋」駅 徒歩12分
建築家のご夫婦が、自宅として設計したユニークな空間。約43㎡のマンションの一室を、自由な発想でフルリノベーションしています。
なんと言っても特徴的なのは露天風呂気分を楽しめるオープンバスルーム。本来の水回りの位置を大きく変更し、浴室を持ってきたのはバルコニーに面する位置で、青空 ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
「マンションは管理を買え」と言われるほど、管理の良し悪しで経年による姿が変わる。その一方で、マンションの管理のレベルを客観的に評価した情報はこれまでなかった。その管理の質を評価する「マンション管理適正評価制度」が、2022年4月からスタートした。どんな制度なのか、詳しく見ていこう。
管理の状態を等級で評価する制度がスタート「マンション管理適正評価制度」をスタートさせたのは、マンション管理会社の業界団体である「一般社団法人マンション管理業協会」だ。マンション管理業協会に、制度創設の狙いなどを聞いた。
「マンション管理適正評価制度」ができたそもそものきっかけは、管理の質が市場で評価されていないことから、評価する基準をつくって、市場に情報開示していこうということだという。これまでは、そうした評価基準がなかったので、現時点でマンションを購入しようとする人は、不動産会社を通じて、管理規約や修繕積立金の積立額などの情報を入手して、自身で判断する必要がある。とはいえ、専門知識がないとマンションの管理を評価するのは難しいことから、売買の際に管理の質が重視されにくいのが実情だ。国土交通省の調査結果を見ても、「マンション購入の際に考慮した項目」(複数回答)で、共用部分の維持管理状況を考慮した割合は1割程度と低くなっている。
■マンション購入の際に考慮した項目
出典:国土交通省「平成30年度マンション総合調査結果」より転載
そこで管理業協会では、2019年に関連団体に呼び掛けるなどして『マンション管理適正評価研究会』を立ち上げた。研究会で検討を重ねた結果、2020年3月に報告書をとりまとめ、その「とりまとめ」を基にブラッシュアップして、評価制度を構築したのが「マンション管理適正評価制度」だ。
一方で、国の政策として、2020年6月に「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の改正が行われ、2022年4月に施行されることとなった。法改正により、国の基本指針に基づいて、地方公共団体がマンションに対して管理の適正化を推進する役割を担い、地方公共団体が適切な管理計画を持つマンションを認定する「マンション管理計画認定制度」が創設されることになった。
これを受けて、「マンション管理適正評価制度」の評価項目も、国の認定制度と齟齬がないように調整され、最終決定に至っている。したがって、2022年4月からは、「マンション管理業協会の評価制度」と「国の認定制度」の2つの制度が始まることになったが、管理業協会で2つの制度を同時に評価することもできる体制が整っている。
国の制度との違いは、マンション管理の見える化国の認定制度の目的は、高経年化したマンションが急増していることから、主にマンションの老朽化を抑制することにある。認定基準についても、管理組合が維持管理を適正に行えるルールになっているか、大規模修繕工事が実施できる費用を積み立てられる計画になっているか、などマンションの維持管理計画を重視した16項目(地方公共団体で独自の認定基準も追加できる)が設定されている。また、認定基準をすべてクリアしたマンションだけが認定される、という制度になっている。
これに対して、管理業協会の評価制度は、マンションの管理に求められる広範な審査項目が30項目設定され、国の認定制度より多くなっている。それぞれの項目はポイント制で評価され、マンションの管理レベルを総合的に判定する形だ。そのため、管理のレベルが高くても低くても評価が出され、評価は6段階(無星~星5つまで)で表示される。
例えば、筆者は住んでいるマンションで、持ち回りの理事長や大規模修繕工事の修繕委員などを経験して、マンションの管理状態をある程度把握しているが、筆者のマンションは、国の認定制度では認定されない可能性が高い。というのも、「区分所有者名簿や居住者名簿を作成し、一年ごとに更新している」という項目で唯一×がつくからだ。一方、管理業協会の評価制度では、おおむね評価基準をクリアしているので、総合判定で「★★★★★」になると考えている。
このように、似ているように見える制度ではあるが、目的や評価方法が異なるので、必ずしも結果が同じになるとは限らないわけだ。特に、管理業協会の評価制度では、管理全般が適正に行われているかの「見える化」がなされるので、管理組合だけでなく、サポートする管理会社にも参考になる指標となるだろう。
マンション管理を5カテゴリーと総合評価で表示では、具体的に評価項目を見ていこう。評価項目は次の5つのカテゴリーに分かれ、それぞれの項目ごとにポイントが設定されている。
■評価内容(5カテゴリー)
出典:マンション管理業協会「マンション管理適正評価制度」パンフレットより転載
例として、1の「管理組合体制」について説明しよう。国土交通省では、管理規約のひな型となる標準管理規約を用意しているが、ペット飼育や民泊などの問題を受けて、必要に応じて改正を行っている。これに準拠する形でその都度管理組合が管理規約を改正している場合、マンション新築当初から相当の期間が経っているのに管理規約を全く改正していない場合など、規約の整備状況によってポイントが変わる設定となっている。
また、3の「建築・設備」では、長期修繕計画についてだけでなく、マンションに義務付けられたさまざまな「法定点検」(エレベーターや消防設備の点検や水質の検査など)を行っているかといった、国の認定制度にはない項目も含まれている。ほかにも、4の耐震性の審査項目や5の緊急対応やコミュニティ形成などの審査項目などもあり、管理の質をうらなう広範な項目が審査対象となる。
審査結果は5つのカテゴリーごとにポイントが加算され、最後に総合評価を合計ポイントと6段階(無星から★5つまで)評価で表示される。総合評価でマンション自体の管理レベルがわかるだけでなく、どのカテゴリーが弱いのかなどの傾向もわかる仕組みだ。
■等級評価
総合計得点
90~100点特に優れている★★★★★
70~89点優れている★★★★☆
50~69点 良好★★★☆☆
20~49点 改善が必要★★☆☆☆
1~19点 管理に問題あるが、情報開示あり ★☆☆☆☆
0点以下管理不全の疑いあり☆☆☆☆☆
※項目によってはマイナスのポイントもあるので、総合評価でマイナスになる場合もある
評価された結果は、管理業協会の「マンション管理適正評価サイト」で公開される。ただし、マンションごとに異なるペット飼育や民泊の可否などについては、情報を開示するかどうかを管理組合で選べるようになっている。
出典:マンション管理業協会の資料を基にSUUMO編集部が作成
スタートした新制度の申請方法は?今後の普及は?管理組合が「マンション管理適正評価制度」を利用するには、まず管理を委託している管理会社等に相談し、おおよそどういった評価になるか事前評価をしてもらうことから始まる。その結果を基に、申請するかどうかを総会の決議で諮る必要がある。申請するとなれば、マンション管理業協会指定の講習を修了した管理業務主任者やマンション管理士に管理状態を評価させ、評価結果の登録を行う流れとなる。
この際に、登録料5500円(2022年度は無料)と評価・申請手数料(管理会社や評価者によって異なる)が必要となる。なお、1年ごとに更新する必要があり、更新されれば新しい評価の情報がサイトに公開される。(更新されない場合、一定期間でサイト上の表示は消される)
さて、4月からスタートしたばかりの制度だが、今後はどのように展開していく予定なのだろう。マンション管理業協会によると、管理組合の総会は基本的に年に1回の開催なので、評価制度への申請は徐々に増えていくと想定しており、総会の設定が多い5月、6月を経て7月以降に申請が増えてくると見込んでいるという。
申請数が増えて情報開示が進めば、住宅市場でマンションの管理評価が市場価値に反映されることが期待される。このほか、長期的には、維持管理の良いマンションの損害保険料の割引や共用部分の修繕に関わる金融機関の融資の優遇などがインセンティブになることを期待しているという。
管理業協会の評価制度も国の認定制度も、管理が良好なマンションであることを世の中に知らせる効果がある。が、管理組合の理事会は一般的に持ち回りで担当するので、費用を負担して申請しようと動くには、高いハードルがあると思われる。制度が普及して、現実的に住宅市場で売りやすくなったり高く売れたりするといった、強いインセンティブが必要になるだろう。
今後、評価されるマンションが増加し、購入を検討する際に情報が入手しやすくなれば、影響度が増していくことが考えられる。長期的な視点で見守りたい。
●取材協力:マンション管理業協会
【プレスリリース】「マンション管理適正評価制度が4月1日より開始」
マンション管理適正評価サイト
雪解けシーズンの到来で、雪災による住宅修理サービスによるトラブルが増えるという。損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)が、消費者の認識を調査するために「雪災への対策・悪質な住宅修理業者に関する意識調査」を実施したので、その結果を詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
「雪災への対策・悪質な住宅修理業者に関する意識調査」を実施/損害保険ジャパン
損保ジャパンによると、雪災などの自然災害による住宅の損害は、加入している火災保険で補償されることが多い。一方で、この時期には、「保険金の範囲内で修理するので自己負担はない」などと言って不当な復旧修理を行ったり、「保険が使える」と言って保険金の請求代行の契約を勧誘したりといった、トラブルが多発する。
こうした悪質な事業者は、高額な手数料や解約手数料などの請求を狙ったものだが、3~5月の雪解け後に訪問が活発化するという。
「雪災への対策・悪質な住宅修理業者に関する意識調査」では、全国の1万6062人を対象に調査している。地域の降雪量についての内訳は、「冬は日常的に積雪がある」が11.9%、「頻繁に降雪があるが日常的な積雪はない」が5.9%、「年に1回から数回降雪があり積もる場合もある」が37.1%、「雪はめったに降らない」が45.1%だ。
この人たちに、「自然災害後や雪解け時期に、悪質な住宅修理業者が過大な保険金請求を目的として被害の有無に関わらず、訪問してくることや連絡がくることを知っているか」と聞いたところ、「知っている」は33.0%、「知らない」は67.0%となり、3人に2人はこうした悪質な住宅修理業者について認知していないことが分かった。
「自然災害後や雪解け時期に、悪質な住宅修理業者が過大な保険金請求を目的として被害の有無に関わらず、訪問してくることや連絡がくることを知っているか」(出典:損害保険ジャパン「雪災への対策・悪質な住宅修理業者に関する意識調査」)
ちなみに、「知っている」と回答した人が悪質業者の存在を知ったのは、「テレビのニュース」(64.7%)や「新聞や雑誌の記事」(45.4%)、「WEBニュース」(34.8%)など、マスメディアからの情報だった。
14.3%が悪質な住宅修理業者の勧誘を受けた経験あり次に、悪質な業者が訪問や連絡をしてくることがあることについて、「知っている」と回答した5307人に、「悪質な住宅修理業者が起こすトラブルや、被害について知っているもの」を複数回答で聞いたところ、「ずさんな工事をされる」と「本来必要のない手数料を請求される」がそれぞれ6割以上と広く認知されていた。また、「その他」の回答事例として、「プロパンガスボンベが雪でこわれている。避難してほしいといわれ、その間に窃盗する」といったものもあった。
「悪質な住宅修理業者が起こすトラブルや、被害について知っているもの」(複数回答)(出典:損害保険ジャパン「雪災への対策・悪質な住宅修理業者に関する意識調査」)
さらに、「知っている」と回答した5307人に、「悪質な住宅修理業者の勧誘を受けたことがあるか」と聞くと、「ある」と回答したのは14.3%で、実際に勧誘を受けた経験のある人が1割以上いることも分かった。
勧誘を受けたことがある756人に「勧誘を受けたのはいつごろか」を聞くと、「春(3~5月頃)」が最も多く、今の時期が最も注意を要する結果となったが、台風などの自然災害が多い「秋(9~11月頃)」など、それ以外の時期にも勧誘の経験があることから、常に注意を怠ってはいけないことも分かった。
「その修理業者にはいつごろ勧誘されたか」(出典:損害保険ジャパン「雪災への対策・悪質な住宅修理業者に関する意識調査」)
勧誘を受けるなどして困ったときの相談先は?実際にこうした勧誘を受けて困ったときには、どうしたらよいのだろうか?
まずは、きっぱり断ることだ。相手方の社名や氏名を確認して、「御社の話は断ります」「リフォームの必要はありません」などと明確な意思表示をすることだ。
それでも困ったことになったら、調査を実施した損保ジャパンでも保険加入者に対して「住宅修理トラブル相談窓口」を設置しているので、加入している損害保険会社に相談するという方法もある。
ほかにも、全国各地にある消費生活センターや国民生活センターが相談に応じてくれる。また、住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」でも相談に応じてくれるので、こうした相談窓口の存在をあらかじめ知っておくと心強いだろう。
悪質業者は家に入り込んで、契約を断りづらくするテクニックを持っているものだ。問われるがままに住宅の保険や補修履歴、家族構成などを話してしまい、そこに付け入るスキを与えてしまうということもある。
特に高齢者は、長時間話を聞いてしまって断りづらくなったり、あいまいに断っている間に家に入り込まれたりといった事態を招きかねない。きっぱり断ること、家族や相談窓口などに相談してから決めるなどと言って次のステップに進ませないことが大切だ。
●関連サイト
「雪災への対策・悪質な住宅修理業者に関する意識調査」と「住宅修理トラブル相談窓口」の設置について/損害保険ジャパン
例年、「住みたい街」のランキングを発表しているリクルートが、2022年は住民の実感調査による「住み続けたい街」のランキングを発表。再開発や再整備、注目の施設の開業など、変化が著しい愛知。今住んでいる住民が「住み続けたい」街とは……?! どんな街が上位なのか、評価されたポイントなど、愛知県春日井市生まれ、現在名古屋市に住み続けて18年の筆者と一緒に見ていこう。
2022年「住み続けたい街(駅)」は、2020年「住みたい街(駅)」とは大きく違う顔ぶれに!今回の「住み続けたい」街(自治体・駅)ランキングは、愛知県内の街(自治体・駅)について、居住者に「今後もお住まいの街に住み続けたいですか?」と聞いた結果をランキングしたもの。
「住みたい街」は、住んでみたいと思われている憧れの街だといえるが、「住み続けたい街」は、住民の居住継続意向によるもの。住み替えの際に参考となる多様な視点を提供することが、この調査の目的になっている。
「住み続けたい駅」TOP10は、長久手市の駅である3位「はなみずき通」と、一宮市の駅である9位「観音寺」以外、すべて名古屋市内にある駅となった。
前回2020年には、「SUUMO住んでいる街実感調査」として「住民に愛されている街(駅)」ランキングを発表しており、こちらは1位「いりなか」、2位「御器所」、3位「覚王山」で、「荒畑」と「はなみずき通」も8位と9位にランクイン。今年の「住み続けたい街」と似た顔ぶれとも言える。
ところが、同じく前回の2020年発表の「住みたい街(駅)」ランキングでは、1位「名古屋」、2位「金山」、3位「豊橋」という大きく違った結果だった。こちらは7位に繁華街の「栄」もランクインしている。
これらのランキングから、「住んでみたい」と思われている街は、リニア中央新幹線開業への期待感なども込めて、再開発が進む都市部の街。一方で、実際に今住んでいる住民から愛され、「住み続けたい」と思われている街は、利便性のほかに住宅街としての顔を持った、下町らしさや自然が残る街という印象だ。
「住み続けたい街」(駅)1位は、歴史と新しさが共存する「覚王山」!それでは、「住み続けたい街」(駅)ランキング上位の街について見ていこう。
1位「覚王山」は、オフィスや商業施設が集まる「名古屋」や「栄」にも直通の地下鉄東山線沿線の駅で、名古屋市千種区に所在。シンボルは覚王山日泰寺で、駅を出るとすぐに400mほどの参道が続き、商店街が広がる。レトロな雰囲気の食堂などのほか、東海発祥のドーナツ店やパティスリーといった人気店も軒を連ね、新旧の良さが合わさる街だ。住民も街の魅力として「雰囲気やセンスのいい、飲食店やお店がある」という項目を上位に挙げている。
覚王山日泰寺(写真/PIXTA)
春夏秋に開催される「覚王山祭り」など地域の行事も盛んなので、世代を問わず楽しめる。また、一帯は古くからの住宅地で、特に本山方面にかけて広がる丘陵地は、閑静な住宅街として知られる。
2位「御器所」、4位「いりなか」、5位「荒畑」、8位「八事日赤」の4つは名古屋市昭和区の駅。一体は大学や高校が集まる文教地区で、それぞれの街の住民が、街の魅力の上位に「教育環境が充実している」ことを挙げた。
なかでも、2位「御器所」は駅徒歩圏内に名古屋柳城短期大学、名古屋国際高校・中学校などがある。また、女子バスケットボールの強豪校として全国に知られる桜花学園高校も。
御器所駅は昭和区役所や保健所とエレベーターで直結し、各種手続きや健診に便利。広路通沿いには24時間営業のスーパーや飲食店が並び、生活利便性も高い。地下鉄は市内中心部を南北に走る桜通線と、東西に走る鶴舞線の2路線が乗り入れ、通勤や通学に便利だ。鶴舞線は名鉄豊田線とも直通であるため、豊田市駅へも好アクセスだ。
注目なのは、住民による街の魅力として挙がった項目に「周囲の目を気にせず自由な生活ができる」が入っていること。目立つ施設がある街ではないけれど、交通利便性が高く必要なものがそろうので、充実した毎日が過ごせそうだ。
同じく名古屋市昭和区内にあり、教育環境が注目を集める4位「いりなか」は、南山学園(私立)の小中高・大学までの最寄駅。南山学園には名古屋都市景観重要建築物等に指定された建物があり、景観も美しい。また、駅からすぐにある隼人池公園では、季節ごとに花見や紅葉が楽しめるなど自然と触れ合える魅力も。人気の駅「八事」と「川名」の間に位置し、「八事」の興正寺は参道でのマルシェが好評だ。「川名」は複合遊具がある「川名公園」がファミリーに人気で、遠出しなくても地元で楽しみが見つかりそう。
川名公園(写真/PIXTA)
千種区「本山」から昭和区「八事」方面へ南北に走る四谷通は、山手通や山手グリーンロードとも呼ばれ、周辺は「四谷・山手通都市景観形成地区」に指定されている。丘陵地帯である八事山のなだらかな坂やカーブはドライブするのも楽しい。道沿いには名古屋大学や南山大学をはじめ大学が集中し、キャンパスタウンとしても知られる。
古くは実業家の保養地としても発展した丘陵地帯であることから、周辺にはゆとりある区画割の住宅街が広がる。8位「八事日赤」までの八事エリア一帯は、緑を残しつつ洗練された雰囲気を醸し出す、憧れのエリアだ。
3位「はなみずき通」は、長久手市にある愛知高速交通東部丘陵線リニモの駅。名古屋市の東端にある「藤が丘」の隣駅で、名古屋市とも行き来しやすい。市のランドマークでもある長久手市中央図書館の最寄駅でもあり、図書館のほか長久手市文化の家に繋がる道は、図書館通りと呼ばれて親しまれている。周辺にはベーカリーやカフェなどのほか、遊具が豊富な後山(うしろやま)公園があるなど、駅周辺に施設が充実しているのも生活のしやすさにつながっているのだろう。
住民による街の魅力項目1位が「街の住民がその街のことを好きそう」、2位が「人からうらやましがられそう」、3位が「子育て環境が充実している」というのも納得。
「住み続けたい自治体」の第1位は、今秋「ジブリパーク」が第1期開業する長久手市!次に、「住み続けたい自治体」についても見ていこう。TOP10の自治体のうち、7つは名古屋市の行政区。一方で名古屋市に隣接の市もランクインしていて、名古屋市中心部へのアクセスの良さと住環境が両立したエリアも高評価だった。
そんな、「住み続けたい自治体」ランキングの1位は、名古屋市16区を抑えて市外の長久手市!「住み続けたい駅(街)」3位の「はなみずき通」駅を擁する市だ。
街の魅力の評価で、「子育てに関する自治体サービスが充実している」をはじめ、多くの項目で自治体ランキング1位と、住民から高い評価を得た長久手市は、名古屋市名東区や日進市に隣接。名東区の駅「藤が丘」から豊田方面に延びるリニモ沿線の街だ。人口1人当たりの都市公園面積が県内1位で、緑が多いことが特徴。
人口は増加傾向で、市民の平均年齢が40.2歳(2020年国勢調査)という「日本一若い」街としても知られる。市内には愛知県立大学をはじめ大学が点在し、子育てファミリーも多い。
リニモ「長久手古戦場」駅前に映画館を併設するイオンモール長久手があり、「公園西」駅前にはIKEA長久手があるなど、商業施設が充実。そして2022年11月1日には、自然と共存し里山の景観を維持した愛・地球博記念公園内に、「ジブリパーク」が第1期開業予定! 「ジブリの大倉庫」「青春の丘」「どんどこ森」の3エリアが先行オープンとのことで、今から楽しみだ。
長久手市(写真/PIXTA)
同じく名古屋市外から5位にランクインした「大府市」にも注目したい。名古屋市緑区に隣接しているこの街は、魅力偏差値では「子育て環境が充実している」で1位、「子育てに関する自治体サービスが充実している」で2位に。
大府市は市民の健康づくりに注力。市南部には健康・医療・福祉・介護関連の施設が集中する地区があり、ウェルネスバレーと名付けられている。その中には約100haの総合施設「あいち健康の森」があり、アスレチックやターザンロープが楽しめる公園で、多世代が体を動かせる。また、県内唯一の小児保健医療専門施設「あいち小児保健医療総合センター」があるなど、子育てファミリーに手厚い環境だ。
「住み続けたい自治体」ランキング2位の「名古屋市昭和区」は、「住み続けたい駅」TOP10にランクインした「御器所」「いりなか」「荒畑」「八事日赤」の4駅が所在する区。文教地区であるだけに、街の魅力項目でも「教育環境が充実している」で1位だった。
3位の「名古屋市東区」は、「住み続けたい街(駅)」7位の駅「高岳」がある。「高岳」は久屋大通や栄エリアまで2km圏内でありながら、公園や幼稚園、保育園と商店が点在する住宅街の一面も。地下鉄の駅だけでなく、JR大曽根駅や名鉄瀬戸線の駅も利用でき、バスレーンも通ることから、街の魅力項目でも交通利便性が高く評価された。「いろいろな場所に電車・バス移動で行きやすい」「職場など決まった場所に行くなら電車・バス移動が便利だ」の2項目で、「名古屋市中区」に次いで2位に。
4位の「名古屋市千種区」は「住み続けたい駅」1位の「覚王山」駅がある区。地下鉄東山線沿線の街で、「今池」「池下」「星ヶ丘」「東山公園」の駅周辺にも商業施設が集まる。
名古屋市郊外に位置する8位「緑区」は、名鉄「左京山」駅徒歩圏内に106haの広大な敷地を持つ公園「大高緑地」があり、1人100円でゴーカートが楽しめる。また、JR「南大高」駅はイオンモール大高と南生協病院に隣接していて便利で、世代を問わず住み心地が良さそうだ。
魅力項目別のランキングからも、注目の街が見えてくる続いて、「街の魅力項目駅ランキング」からも、注目の街をピックアップしてみよう。
「歩ける範囲で日常のもの(食料品/日用品など)がひととおり揃う」駅ランキングTOP10には、大須商店街を形成する「上前津」と「大須観音」、栄エリアと大須エリアの間に位置する「矢場町」がランクイン。そのほか、2位はイオンモールナゴヤドーム前がある街。4位「東別院」は、駅名にもなっているお寺で毎月8が付く日に開かれる朝市が評判だ。8位「いりなか」や9位「鶴舞」は大学が近いことから学生も多く、スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどが充実している。
「子育て環境が充実している」駅ランキング2位は「東山公園」。中学生以下は入園無料の東山動植物園があり、花見や写生大会、ナイトZOOなどのイベントでも自然や生物と触れ合える。5位の「瑞穂区役所」の周囲には名古屋市博物館があるほか、高校や大学が点在。春には山崎川沿いの桜並木が楽しめる。また現在、2026年アジア競技大会のメイン会場になる瑞穂公園陸上競技場を建て替え中で、竣工後はより市民に開かれた施設になる予定だ。
ラストは「街の魅力項目自治体ランキング」から、「今後、街が発展しそう」と思われている街をご紹介。第1位は再び「長久手市」。ジブリパークの第1期開業を今年11月に控え、愛・地球博記念公園内で、新たな移動手段や移動体験の実現に向け、自動運転などの実証実験も始まっている。
2位の「名古屋市中区」は、今年3月、「栄」の丸栄跡地にマルエイガレリアがオープン。名古屋初出店のスーパーマーケット、パントリーが入居して話題に。今後も2024年に中日ビルが建て替え、2026年に錦三丁目に高層ビルが誕生予定など、大型開発が控えている。
3位の「刈谷市」は、周辺にトヨタ系部品メーカーであるデンソーやアイシン精機などの本社がある財政力豊かな街。名鉄線「刈谷市」駅北西側では2028年度まで市街地の整備が続く予定で、より魅力ある街へ進化しそうだ。
長く「住み続けたい街」とは、ライフスタイルが変わっても、その時々で暮らしやすく、楽しみが見つかる街ではないかと思う。
筆者が住んでいる街もTOP10入りしていた。確かに、近くに公園や商業施設があって、今は働きながら子育てしやすいし、自然や文化に触れられるスポットも徒歩圏内だから、将来はのんびり散歩できそう……。
住民のリアルな声を集めた「住み続けたい街」ランキングからは、街の新たな魅力が見えてくる。
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SUUMO住民実感調査2022 愛知県版
例年、「住みたい街」のランキングを発表しているリクルートが、2022年は住民の実感調査による「住み続けたい街」のランキングを発表。再開発や再整備、注目の施設の開業など、変化が著しい愛知。今住んでいる住民が「住み続けたい」街とは……?! どんな街が上位なのか、評価されたポイントなど、愛知県春日井市生まれ、現在名古屋市に住み続けて18年の筆者と一緒に見ていこう。
2022年「住み続けたい街(駅)」は、2020年「住みたい街(駅)」とは大きく違う顔ぶれに!今回の「住み続けたい」街(自治体・駅)ランキングは、愛知県内の街(自治体・駅)について、居住者に「今後もお住まいの街に住み続けたいですか?」と聞いた結果をランキングしたもの
「住みたい街」は、住んでみたいと思われている憧れの街だといえるが、「住み続けたい街」は、住民の居住継続意向によるもの。住み替えの際に参考となる多様な視点を提供することが、この調査の目的になっている。
「住み続けたい駅」TOP10は、長久手市の駅である3位「はなみずき通」と、一宮市の駅である9位「観音寺」以外、すべて名古屋市内にある駅となった。
前回2020年には、「SUUMO住んでいる街実感調査」として「住民に愛されている街(駅)」ランキングを発表しており、こちらは1位「いりなか」、2位「御器所」、3位「覚王山」で、「荒畑」と「はなみずき通」も8位と9位にランクイン。今年の「住み続けたい街」と似た顔ぶれとも言える。
ところが、同じく前回の2020年発表の「住みたい街(駅)」ランキングでは、1位「名古屋」、2位「金山」、3位「豊橋」という大きく違った結果だった。こちらは7位に繁華街の「栄」もランクインしている。
これらのランキングから、「住んでみたい」と思われている街は、リニア中央新幹線開業への期待感なども込めて、再開発が進む都市部の街。一方で、実際に今住んでいる住民から愛され、「住み続けたい」と思われている街は、利便性のほかに住宅街としての顔を持った、下町らしさや自然が残る街という印象だ。
「住み続けたい街」(駅)1位は、歴史と新しさが共存する「覚王山」!それでは、「住み続けたい街」(駅)ランキング上位の街について見ていこう。
1位「覚王山」は、オフィスや商業施設が集まる「名古屋」や「栄」にも直通の地下鉄東山線沿線の駅で、名古屋市千種区に所在。シンボルは覚王山日泰寺で、駅を出るとすぐに400mほどの参道が続き、商店街が広がる。レトロな雰囲気の食堂などのほか、東海発祥のドーナツ店やパティスリーといった人気店も軒を連ね、新旧の良さが合わさる街だ。住民も街の魅力として「雰囲気やセンスのいい、飲食店やお店がある」という項目を上位に挙げている。
覚王山日泰寺(写真/PIXTA)
春夏秋に開催される「覚王山祭り」など地域の行事も盛んなので、世代を問わず楽しめる。また、一帯は古くからの住宅地で、特に本山方面にかけて広がる丘陵地は、閑静な住宅街として知られる。
2位「御器所」、4位「いりなか」、5位「荒畑」、8位「八事日赤」の4つは名古屋市昭和区の駅。一体は大学や高校が集まる文教地区で、それぞれの街の住民が、街の魅力の上位に「教育環境が充実している」ことを挙げた。
なかでも、2位「御器所」は駅徒歩圏内に名古屋柳城短期大学、名古屋国際高校・中学校などがある。また、女子バスケットボールの強豪校として全国に知られる桜花学園高校も。
御器所駅は昭和区役所や保健所とエレベーターで直結し、各種手続きや健診に便利。広路通沿いには24時間営業のスーパーや飲食店が並び、生活利便性も高い。地下鉄は市内中心部を南北に走る桜通線と、東西に走る鶴舞線の2路線が乗り入れ、通勤や通学に便利だ。鶴舞線は名鉄豊田線とも直通であるため、豊田市駅へも好アクセスだ。
注目なのは、住民による街の魅力として挙がった項目に「周囲の目を気にせず自由な生活ができる」が入っていること。目立つ施設がある街ではないけれど、交通利便性が高く必要なものがそろうので、充実した毎日が過ごせそうだ。
同じく名古屋市昭和区内にあり、教育環境が注目を集める4位「いりなか」は、南山学園(私立)の小中高・大学までの最寄駅。南山学園には名古屋都市景観重要建築物等に指定された建物があり、景観も美しい。また、駅からすぐにある隼人池公園では、季節ごとに花見や紅葉が楽しめるなど自然と触れ合える魅力も。人気の駅「八事」と「川名」の間に位置し、「八事」の興正寺は参道でのマルシェが好評だ。「川名」は複合遊具がある「川名公園」がファミリーに人気で、遠出しなくても地元で楽しみが見つかりそう。
川名公園(写真/PIXTA)
千種区「本山」から昭和区「八事」方面へ南北に走る四谷通は、山手通や山手グリーンロードとも呼ばれ、周辺は「四谷・山手通都市景観形成地区」に指定されている。丘陵地帯である八事山のなだらかな坂やカーブはドライブするのも楽しい。道沿いには名古屋大学や南山大学をはじめ大学が集中し、キャンパスタウンとしても知られる。
古くは実業家の保養地としても発展した丘陵地帯であることから、周辺にはゆとりある区画割の住宅街が広がる。8位「八事日赤」までの八事エリア一帯は、緑を残しつつ洗練された雰囲気を醸し出す、憧れのエリアだ。
3位「はなみずき通」は、長久手市にある愛知高速交通東部丘陵線リニモの駅。名古屋市の東端にある「藤が丘」の隣駅で、名古屋市とも行き来しやすい。市のランドマークでもある長久手市中央図書館の最寄駅でもあり、図書館のほか長久手市文化の家に繋がる道は、図書館通りと呼ばれて親しまれている。周辺にはベーカリーやカフェなどのほか、遊具が豊富な後山(うしろやま)公園があるなど、駅周辺に施設が充実しているのも生活のしやすさにつながっているのだろう。
住民による街の魅力項目1位が「街の住民がその街のことを好きそう」、2位が「人からうらやましがられそう」、3位が「子育て環境が充実している」というのも納得。
「住み続けたい自治体」の第1位は、今秋「ジブリパーク」が第1期開業する長久手市!次に、「住み続けたい自治体」についても見ていこう。TOP10の自治体のうち、7つは名古屋市の行政区。一方で名古屋市に隣接の市もランクインしていて、名古屋市中心部へのアクセスの良さと住環境が両立したエリアも高評価だった。
そんな、「住み続けたい自治体」ランキングの1位は、名古屋市16区を抑えて市外の長久手市!「住み続けたい駅(街)」3位の「はなみずき通」駅を擁する市だ。
街の魅力の評価で、「子育てに関する自治体サービスが充実している」をはじめ、多くの項目で自治体ランキング1位と、住民から高い評価を得た長久手市は、名古屋市名東区や日進市に隣接。名東区の駅「藤が丘」から豊田方面に延びるリニモ沿線の街だ。人口1人当たりの都市公園面積が県内1位で、緑が多いことが特徴。
人口は増加傾向で、市民の平均年齢が40.2歳(2020年国勢調査)という「日本一若い」街としても知られる。市内には愛知県立大学をはじめ大学が点在し、子育てファミリーも多い。
リニモ「長久手古戦場」駅前に映画館を併設するイオンモール長久手があり、「公園西」駅前にはIKEA長久手があるなど、商業施設が充実。そして2022年11月1日には、自然と共存し里山の景観を維持した愛・地球博記念公園内に、「ジブリパーク」が第1期開業予定! 「ジブリの大倉庫」「青春の丘」「どんどこ森」の3エリアが先行オープンとのことで、今から楽しみだ。
長久手市(写真/PIXTA)
同じく名古屋市外から5位にランクインした「大府市」にも注目したい。名古屋市緑区に隣接しているこの街は、魅力偏差値では「子育て環境が充実している」で1位、「子育てに関する自治体サービスが充実している」で2位に。
大府市は市民の健康づくりに注力。市南部には健康・医療・福祉・介護関連の施設が集中する地区があり、ウェルネスバレーと名付けられている。その中には約100haの総合施設「あいち健康の森」があり、アスレチックやターザンロープが楽しめる公園で、多世代が体を動かせる。また、県内唯一の小児保健医療専門施設「あいち小児保健医療総合センター」があるなど、子育てファミリーに手厚い環境だ。
「住み続けたい自治体」ランキング2位の「名古屋市昭和区」は、「住み続けたい駅」TOP10にランクインした「御器所」「いりなか」「荒畑」「八事日赤」の4駅が所在する区。文教地区であるだけに、街の魅力項目でも「教育環境が充実している」で1位だった。
3位の「名古屋市東区」は、「住み続けたい街(駅)」7位の駅「高岳」がある。「高岳」は久屋大通や栄エリアまで2km圏内でありながら、公園や幼稚園、保育園と商店が点在する住宅街の一面も。地下鉄の駅だけでなく、JR大曽根駅や名鉄瀬戸線の駅も利用でき、バスレーンも通ることから、街の魅力項目でも交通利便性が高く評価された。「いろいろな場所に電車・バス移動で行きやすい」「職場など決まった場所に行くなら電車・バス移動が便利だ」の2項目で、「名古屋市中区」に次いで2位に。
4位の「名古屋市千種区」は「住み続けたい駅」1位の「覚王山」駅がある区。地下鉄東山線沿線の街で、「今池」「池下」「星ヶ丘」「東山公園」の駅周辺にも商業施設が集まる。
名古屋市郊外に位置する8位「緑区」は、名鉄「左京山」駅徒歩圏内に106haの広大な敷地を持つ公園「大高緑地」があり、1人100円でゴーカートが楽しめる。また、JR「南大高」駅はイオンモール大高と南生協病院に隣接していて便利で、世代を問わず住み心地が良さそうだ。
魅力項目別のランキングからも、注目の街が見えてくる続いて、「街の魅力項目駅ランキング」からも、注目の街をピックアップしてみよう。
「歩ける範囲で日常のもの(食料品/日用品など)がひととおり揃う」駅ランキングTOP10には、大須商店街を形成する「上前津」と「大須観音」、栄エリアと大須エリアの間に位置する「矢場町」がランクイン。そのほか、2位はイオンモールナゴヤドーム前がある街。4位「東別院」は、駅名にもなっているお寺で毎月8が付く日に開かれる朝市が評判だ。8位「いりなか」や9位「鶴舞」は大学が近いことから学生も多く、スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどが充実している。
「子育て環境が充実している」駅ランキング2位は「東山公園」。中学生以下は入園無料の東山動植物園があり、花見や写生大会、ナイトZOOなどのイベントでも自然や生物と触れ合える。5位の「瑞穂区役所」の周囲には名古屋市博物館があるほか、高校や大学が点在。春には山崎川沿いの桜並木が楽しめる。また現在、2026年アジア競技大会のメイン会場になる瑞穂公園陸上競技場を建て替え中で、竣工後はより市民に開かれた施設になる予定だ。
ラストは「街の魅力項目自治体ランキング」から、「今後、街が発展しそう」と思われている街をご紹介。第1位は再び「長久手市」。ジブリパークの第1期開業を今年11月に控え、愛・地球博記念公園内で、新たな移動手段や移動体験の実現に向け、自動運転などの実証実験も始まっている。
2位の「名古屋市中区」は、今年3月、「栄」の丸栄跡地にマルエイガレリアがオープン。名古屋初出店のスーパーマーケット、パントリーが入居して話題に。今後も2024年に中日ビルが建て替え、2026年に錦三丁目に高層ビルが誕生予定など、大型開発が控えている。
3位の「刈谷市」は、周辺にトヨタ系部品メーカーであるデンソーやアイシン精機などの本社がある財政力豊かな街。名鉄線「刈谷市」駅北西側では2028年度まで市街地の整備が続く予定で、より魅力ある街へ進化しそうだ。
長く「住み続けたい街」とは、ライフスタイルが変わっても、その時々で暮らしやすく、楽しみが見つかる街ではないかと思う。
筆者が住んでいる街もTOP10入りしていた。確かに、近くに公園や商業施設があって、今は働きながら子育てしやすいし、自然や文化に触れられるスポットも徒歩圏内だから、将来はのんびり散歩できそう……。
住民のリアルな声を集めた「住み続けたい街」ランキングからは、街の新たな魅力が見えてくる。
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SUUMO住民実感調査2022 愛知県版
大きな窓から差し込む自然光、白い空間を飾る無数の額、心地よく配されたグリーン……1年前の引越しで手に入れた新しい環境に、心から満足しているエヴ=マリーさん。27平米から54平米へ、約2倍になった住空間と、念願のバルコニーのある暮らしです。これと引き換えに手放したのは、大好きなパリ暮らしへのこだわりでした。エヴ=マリーさん決断の物語です。
連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。
エヴ=マリー・ブリオラさんは息子のエミール君と、大きな猫のノラちゃんと暮らしています。ちょうど1年前、パリ北西の郊外の街、ル・プレ・サン・ジェルヴェにある54平米の集合住宅に引っ越してきました。パリに愛着を持つパリジェンヌにとって、パリを離れる決断はとても重大です。しかしエヴ=マリーさんには、広い住空間とバルコニーのある暮らしを得る、という明確なヴィジョンがあったのです。
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「パリのそのアパルトマンには15年以上暮らしていて、パリらしいオスマニアン建築(※)にも、街でのライフスタイルにも、とても満足していました(※オスマニアン建築:19世紀のパリ改造を象徴する集合住宅の建築様式。石造りの壁、凝った装飾を施した鉄柵のバルコニーなどが特徴)。でも息子が8歳になり、27平米の暮らしがだんだんと手狭になってきて……そこへコロナ禍の外出制限(ロックダウン)が重なったのです。オフィスで働く生活が一変し、自宅勤務が当たり前になった時、慣れ親しんだパリ暮らしにお別れする決意をしました」と、エヴ=マリーさん。
そのころエヴ=マリーさんは、自身が2018年に創業した手編みキットのブランドKnit in Parisの経営者として、責任ある仕事をしていました。そしてそれ以前の仕事は、DIYとインテリアデコレーション専門のジャーナリストだったそう。20年以上にわたって、『MARIE CLAIRE IDEES(マリクレール・イデ)』をはじめとするフランスのメジャー雑誌で仕事をしていたのです。つまり、快適な住まいづくりのプロ!
「新しい暮らしのイメージが具体的に、はっきりとありましたから、物件は3週間もかからずに見つかりましたよ」
決断したら早いところは、さすが、自ら会社を立ち上げた経験の持ち主です。しかも郊外暮らしをスタートした後に仕事も一新し、この1月から非営利団体の広報責任者を務めているとのこと。もともとジャーナリストだったエヴ=マリーさんにとって、情報を集めて文章を書き、それを効果的なグラフィックで見せていくという点で、現在の仕事は長くキャリアを積んだフィールドと共通しているのだそうです。
新しい街で、新しい住まいをつくり、新しい仕事を始めたエヴ=マリーさん。彼女が「大満足しています!」と言う住まいに、お邪魔しました!
エミール君とノラちゃん(写真撮影/Manabu Matsunaga)
条件に合わせて街を決め、さらに物件を絞り込む「15年以上暮らしたパリの27平米のアパルトマンを賃貸に出して、その家賃収入で広い住まいを借りて住む」
これがエヴ=マリーさんの引越しプロジェクトでした。「広さ、バルコニー、地下物置」という条件を満たす物件は、郊外に多く見つかりましたが、ル・プレ・サンジェルヴェに絞り込んだことには理由がありました。なぜならこの街からは、パリの中心部レ・アルまでメトロ1本でアクセスできるのです。東京に例えるなら、新宿駅に地下鉄1本でアクセスできる感覚。これなら、パリのギャラリーやエキシビジョン巡りをする生活が続けられますし、エミール君も転校せずに通学できます。この立地が、全く未知の街だったル・プレ・セン・ジェルヴェを、有力な引越し先にしたのでした。
街の様子(写真撮影/Manabu Matsunaga)
街が決まったら、次は物件です。これも条件が明確だったため、検索ですぐに絞り込みができたと言います。広さ、バルコニー、そして地下物置。
念願のバルコニー! エミール君とノラちゃんの安全のためにネットを装着した(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「内観したときに、ここで暮らしている様子がすんなりとイメージできました」
ということで即決。このジャッジの速さと正確さは、インテリアに携わる仕事をしてきた経験のたまもの。多くを見て知っている分、迷いがないわけです。ダイニングスペースのある広いキッチンと、広いリビング、子ども部屋、バルコニーと地下物置のある日当たりのいい10階の物件を、予算内で見つけることができました。
「気に入らないところはバスルームだけ。でも賃貸なので、ある程度の妥協はやむを得ませんね。バルコニーからの眺めと、遮るものがなくいつでも明るい10階の環境は、何ものにも代えられませんから」
こだわりのインテリア。選び方や配置のコツは?エヴ=マリーさんの住まいは個性にあふれている印象。なぜかな、と思ってぐるりと見渡し気づくのは、やはり特徴的なインテリアづかい。白で統一した空間に、たっぷりと配したグリーン、そして壁を覆う額。
ダイニングスペースのある広いキッチン。ここにも額を飾り、グリーンをたっぷりと配している(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「写真やイラストが好きで、たくさん購入してしまうのです。息子が生まれたころ、つまり9年くらい前から少しずつ集め始めて、引越しを機に数えたところ、なんと額が89枚もありました! 友達に手伝ってもらって1つ1つ包むのに、丸1日かかりましたよ。以前の住まいは27平米でしたから、それこそ1cmの隙間もないくらい、壁一面に飾っていました。そこに対する友達の反応ですか? 上々でしたよ!」
今は飾るべき壁がたくさんあることも、エヴ=マリーさんには喜びです。額を飾るコツを聞くと、壁に飾る前にまず床に平置きして、全体のバランスを見るのだそう。どこに何を置くか配置が決まったら、しっかり採寸して壁に穴を開けて釘を打ち、飾っていきます。こうすれば失敗を未然に防ぐことができるわけですが、もし失敗したときは「後で壁を塗り替えればいい」と頭を切り替え、やり直します。
「モダンな額と、ナポレオン3世スタイル(19世紀中頃のフランスで流行した建築様式、室内装飾様式。第二帝政期スタイルとも呼ばれる)が好きで、額はこのモダンスタイルとナポレオン3世スタイルの2タイプに統一しています。アンティークの額はeBay(主に中古品を売る転売サイト)や蚤の市で見つけることが多いです。まだまだたくさん飾りますよ、せっかく広い壁があるのですから! 以前の住まいのように、1cmの隙間もないくらい飾りたいです。それからグリーンも大好きなので、自然光がたっぷり入る今の環境は最高ですね」
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
白い壁と白い家具、モダンな額とナポレオン3世スタイルの額、そしてグリーン。このベースにそってインテリアを整えているので、たくさんのアートを飾っても、雑然とせず統一感があります。そしてそれはキッチンやサロンだけでなく、廊下も、子ども部屋も、家の中すべてに言えることなのでした。
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
子どものころからアートを生活に取り入れてエミール君の部屋は、9歳の男の子の部屋とは思えないシックなインテリア。モダンな額とナポレオン3世スタイルの額が壁を覆い、家具はやはり白が基調です。額の中の絵や写真をよく見ると、自分が小さかったころに描いた絵や顔写真などがあって、ああ、やっぱり子ども部屋なんだと気付かされる感じ。
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「エミールの部屋に飾るものは、もちろん本人の意見を反映していますよ。彼自身、自分がつくり上げた飾り付けを誇りに思っているようです。私が何かを飾るときに、どちらにしようか悩んだりすると彼に意見を聞くこともあります。子どもの意見を聞くことは重要ですし、アートについて考える機会を与えることも大切だと思っています。私が幼かったころ両親がしてくれたように、人生の中でアートは重要だということを、ごく自然に学んでくれたら」
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
エミール君はお小遣いができると、近所の園芸店へ植物を買いに行くのだとか。アートとグリーンを愛する心は、しっかりと育まれているようです。
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
あれ? でもちょっと待ってください。エミール君の部屋はありますが、エヴ=マリーさんの寝室がありません!
「私はリビングのソファベッドに寝ています。70年代建築のこの物件はよくできていて、玄関からの廊下に沿ってまずバスルーム、その向かいに子ども部屋、その先にリビング、キッチン、と続き、リビングを通らずにキッチンやバスルームに行ける間取りになっています。つまり、リビングのドアを閉めてしまえば、ここは独立した私の部屋。実はさっきまで、私の母がキッチンでエミールの宿題を見てくれていました。その間、私はこうしてプライバシーを確保しながら、お客様と話ができます。この間取りのおかげで、あと10年はここに住めそうです。引っ越しはとても大変な作業なので、しばらくは動きたくありませんから!」
リビングからもキッチンにアクセスできる(写真撮影/Manabu Matsunaga)
新しい生活と共に始まる、これからの豊かな暮らし理想の間取りとバルコニー、そして収納力たっぷりの地下物置のある住まい。そして、以前は知らなかった郊外の街。そのどちらにも大満足しているエヴ=マリーさんを見ながら、決断の大切さを思いました。外出制限中の「パリ暮らしにさよならする」決断があったからこそ、現在の暮らしがあるのです。
「この街には、私が大好きなアムステルダムを思わせるレンガ建築の一角があったり、オーガニックやヴィーガンの食材店が充実していたり、住んでみて嬉しい発見がたくさんありました。朝は車の騒音ではなくて、小鳥のさえずりと共に目覚めます。ほんとうに、パリのすぐそばなのに。この街そのものの暮らしの魅力と、パリへのアクセスの良さと、その両方が得られたのはラッキーだったと思います」
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
お気に入りのオーガニック専門店(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「ラッキー」は、自分の基準がはっきりわかっている、ということなのかも知れません。基準さえ明確なら、あとは何を決めるのも早いし、失敗も少ないはずですから。
引越してから2年目になる今年の夏も、エヴ=マリーさんは友達を自宅に招待し、自慢のバルコニーでアペリティフを楽しむことでしょう。自分の基準、重要ですね。
(文/Keiko Sumino-Leblanc)
●取材協力
エヴ=マリー・ブリオラさん
著書
動物好きのエヴ=マリーさんがボランティアをしている動物保護非営利団体Truffes Sans Toit
東京都を中心に、全国に43ある大相撲の稽古場(相撲部屋)。力士にとっては技と心を鍛える場であると同時に、生活の場でもある。大相撲という特殊な世界に生きる若者たちは、そこでどんな一日を過ごしているのだろうか? また、それぞれの稽古場には、どんな特徴があるのだろうか?
「稽古場は、親方一人ひとりの思いが反映された空間なんです」。そう語るのは、日刊スポーツ記者の佐々木一郎さん。一つひとつの稽古場の様子を、詳細な図解イラストで読み解いた『稽古場物語』の著者でもある佐々木さんに、個性豊かな稽古場とそこでの力士たちの生活などについて聞いた。
相撲部屋での力士の生活とは?――佐々木さんは2015年から4年にわたり、数多くの相撲部屋(以下、稽古場)を取材されています。力士にとって稽古場とはどんな場所なのでしょうか?
佐々木一郎さん(以下、佐々木):稽古場は鍛錬の場所でもあり、生活の空間でもあります。『稽古場物語』では44の稽古場を描いていますが、どの部屋も基本的なつくりは似ていますね。1階に土俵を中心とした稽古場、風呂場、調理場(ちゃんこ場)があり、2階以上が力士や親方の生活スペースになっています。関取(十両以上の力士)には個室が与えられ、それ以外の力士は大部屋での共同生活。ほとんどの稽古場は、伝統的にこの形を踏襲しています。
――個室がもらえるのは関取だけなんですね。
佐々木:はい。関取以外の力士が暮らす大部屋はプライベートな空間も少ないですし、不自由なことが多いです。ただ、だからこそ「早く関取になって、個室がほしい」というハングリー精神が生まれてくる。そういう狙いもあるのだろうと思います。
佐々木一郎さん(日刊スポーツ新聞社 デジタル編集部部長)。1996年日刊スポーツ新聞社入社。2010年3月場所から大相撲の担当記者になり、2013年4月からデスク。2015年から月刊『相撲』(ベースボール・マガジン社)で「稽古場物語」を連載。4年にわたって40以上の稽古場をめぐり、その特徴や親方たちの思いを自作のイラストとともに紹介してきた。近著は『関取になれなかった男たち』(ベースボール・マガジン社)。記者時代からの取材ノートは82冊を数える(写真撮影/藤原葉子)
――他に、稽古場ならではの間取りの特徴や工夫はありますか?
佐々木:どの部屋も、稽古場から風呂場、ちゃんこ場までの動線がよく考えられていますね。稽古で体についた土や砂を生活空間に持ち込まないよう、稽古場と風呂場が直結していたり、勝手口から外を通って風呂場に行けるようになっていたりします。そして、体をきれいにしたあとは、そのまま1階でちゃんこを食べられる。
例えば、旧二所ノ関部屋は稽古場への出入り口に脱衣所があって、すぐに風呂場へ行けるようになっていました。一般的な住宅でも家事や生活のしやすさを考えて動線を考えると思いますが、稽古場の場合も稽古と生活をスムーズにつなげるという観点で、理にかなったものになっていると思います。
佐々木さんの手描きによる稽古場の俯瞰図。土俵を中心とした稽古場の間取りや特徴が一目で分かる(写真撮影/藤原葉子)
イラストの描き方は、佐々木さんが学生時代から大ファンだった作家・妹尾河童さんの著書で学んだそう(写真撮影/藤原葉子)
――ちなみに、稽古場での一日とはどういったものなのでしょうか?
佐々木:まずは朝稽古。開始時間は部屋により違いますが、早朝からスタートして午前中には終わるところがほとんどです。食事は1日2回で、1回目は朝稽古終わりのちゃんこ。最初に親方と関取が食べ、その後は番付順に食べていきます。力士が多い部屋の場合、最後の人が食べ終わるのは午後2時くらいになることもありますね。その後は、関取であれば夜のちゃんこまでフリータイム。ジムなどで自主トレーニングをする人もいますし、家族がいる場合は自宅に帰って翌朝の稽古に備えます。
一方、関取以外の若い衆は朝のちゃんこの片付けをした後、夕方まで大部屋で昼寝です。午後4時くらいから掃除や夜のちゃんこの準備をして、食事が終わった後は寝るまで自由時間ですね。
――自由時間はどう過ごす人が多いですか?
佐々木:スマホでゲームをしたり、動画を観たり、漫画を読んだりと、そこは一般的な若者と変わらないと思いますよ。もちろん稽古場やジムなどで自主トレーニングに励む力士もいます。なお、朝稽古に支障をきたさないために多くの部屋に門限があり、この2年間はコロナ禍にあるため、そもそも外出する時間に制限があります。
伝統と革新が融合する、個性的な稽古場――どの稽古場も基本的なつくりは似ているということですが、それでも部屋ごとにちょっとした違いや個性は見られますか?
佐々木:そうですね。本当に部屋によってさまざまな特徴があります。正直、連載の取材を始める前は、多くの部屋でネタがかぶってしまうんじゃないかと心配していました。でも、実際は稽古場ごとに違いがあり、それぞれのストーリーを感じられるんです。
例えば、千葉県習志野市の「阿武松部屋」には、部屋のあちこちに美術作品が飾られていました。先代の親方が芸術を好んだ方で、弟子に対して「相撲だけしか知らないのではなく、絵など芸術にも触れてほしい。『これはなんだろう』と感じてもらうだけでもいい」という思いが込められているんです。
また、東京都江東区の「高田川部屋」には、力士が突っ張りの稽古をする「テッポウ柱」が5本もあります。これは角界でもここだけですね。普通は1本しかないため、親方は現役時代、ほかの力士とケンカしながらテッポウ柱を取り合っていたのだとか。そこで、弟子たちには存分に稽古をしてもらおうと5本も立てたそうです。
阿武松部屋 引用:『稽古場物語』(ベースボール・マガジン社)
高田川部屋 引用:『稽古場物語』(ベースボール・マガジン社)
――親方の稽古に対する考え方が、部屋づくりに反映されているわけですね。
佐々木:東京都墨田区の「鳴戸部屋」も革新的ですよ。風呂場に2つの浴槽があって、温水と冷水の交代浴ができるようになっています。これは、「血液の流れをよくして疲れをとるため」という理由からで、鳴戸親方(元大関・琴欧州)のこだわりです。親方は現役引退後に日体大に入学するなど新しいことを学ぶのに貪欲で、従来の相撲部屋にはなかった取り組みを次々と実現させています。
鳴戸部屋 引用:『稽古場物語』(ベースボール・マガジン社)
また、いま注目しているのは二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)が茨城に建設中の「二所ノ関部屋」。構想では土俵を2面用意したり、大部屋もプライベート空間を重視したりと、既存の稽古場にはあまりなかった発想で部屋づくりをしています。高田川部屋の5本のテッポウ柱と同じように、土俵が2面あれば力士が順番待ちをせずに稽古に励めるだろうという考え方ですね。ちなみに、二所ノ関親方も現役引退後に早稲田大学の大学院で学んでいます。自分の経験とスポーツ科学を組み合わせ、試行錯誤しながら新しい稽古のあり方を模索しているんです。
――若い親方が新しい発想を取り入れて、稽古場のありようも変わってきていると。
佐々木:はい。大相撲の伝統を尊重しながらも、科学的なトレーニングや合理的なやり方を取り入れる親方は増えています。特に、学生相撲出身の親方は新しい試みに積極的な印象があります。大学の相撲部は4年間という限られた期間でトーナメントを勝ち上がるために、早く強くなれる効率のいいトレーニングを重視していますから。
例えば、日本大学出身の木瀬親方(元幕内・肥後ノ海)が率いる「木瀬部屋」(東京都墨田区)は、力士を相撲に集中させるための合理性を追求しています。稽古場は冷暖房完備で、稽古をビデオで撮影し、テレビモニターですぐに確認できるようにもなっている。これは、古くからある稽古場では考えられなかったことですね。
木瀬部屋 引用:『稽古場物語』(ベースボール・マガジン社)
――ちなみに、立地はどうでしょうか? 両国国技館に近い東京23区内ではなく、茨城、千葉、埼玉などに部屋を構えるケースもあります。相撲に集中するための環境としては、どちらのほうがいいと思いますか?
佐々木:一長一短があるので、どちらがいいとは言えません。6場所のうち半分は両国国技館で開催されるので、「通勤」のことを考えたら都心のほうが便利ですよね。でも、当然ながら都心は土地が高いので、稽古場自体は狭くなります。逆に、茨城や埼玉、千葉などの部屋は国技館からは遠いですが、かなりゆったりと贅沢なスペースがとれる。
例えば、千葉県松戸市の「佐渡ヶ嶽部屋」の敷地面積は630坪もあり、力士は充実した環境で稽古に励んでいます。一方で、東京都墨田区の「宮城野部屋」はもともとバイク店だった建物をリフォームしていて、かなり窮屈なんです。ただ、そんな環境で横綱の白鵬が優勝を重ねていたことを考えると、稽古場が狭いからといって強い力士が育たないとは言えない。結局は親方の考え方次第ですよね。一般住宅でも、都心で便利さを求めるか、郊外で広さを求めるかで悩むじゃないですか。それと同じことではないでしょうか。
佐渡ヶ嶽部屋 引用:『稽古場物語』(ベースボール・マガジン社)
宮城野部屋 引用:『稽古場物語』(ベースボール・マガジン社)
「ただ強くなればいい」ではない――先ほど、新しい試みに積極的な親方が増えているというお話がありましたが、その一方で、あえて「昔ながらの稽古」を貫く親方もいらっしゃるのでしょうか?
佐々木:もちろんです。特に、歴史の長い部屋を受け継いだ親方や、中学卒業と同時に角界入りした叩き上げの親方はその傾向が強いかもしれません。「稽古場は“鍛錬の場”なのだから、冷暖房なんて必要ない。冬は汗をかけば温まるし、夏は暑さを我慢してやるものだ」と。
この根底には「相撲は修業の一環である」という考え方があります。つまり、ただ相撲が強くなればいいのではなく、人間教育にも重きを置かなくてはいけない。ですから、昔ながらのやり方を一概に時代遅れなどと切り捨てることはできませんし、どの考え方も正解なのだと思います。
「親方衆は、いかにして弟子の番付を上げ、いかにして人間教育と両立させていくかについて頭を悩ませています」と佐々木さん(写真撮影/藤原葉子)
――確かに、ただ競技能力の向上だけを目的とするなら、そもそも相撲部屋のシステム自体が決して合理的とはいえませんよね。
佐々木:そう思います。大部屋での集団生活や、ちゃんこ番、部屋の掃除までしなくてはいけないなんて、他のプロスポーツ選手であれば考えられませんよね。相撲で勝つことだけを考えるなら、ひたすら稽古だけに没頭したほうがいいし、各々が個室でリラックスし、ベッドでゆっくり休んで疲れをとったほうがいいのは明白ですから。ただ、それも全て、修業の一環なんです。
大相撲の場合、新弟子検査をクリアすればプロになれます。プロ入りのハードルは低い反面、関取になれるのはほんのひと握りです。10人のうち9人は30歳くらいまでに引退をして、相撲とは別の世界で生きていかなくてはならない。だからこそ、親方は弟子たちをいかに教育し、相撲界から卒業させるかに心を砕いているわけです。稽古場とは、そんな親方一人ひとりの思いが反映された空間なんですよ。
――佐々木さんのお話を伺って、稽古場を見学してみたくなりました。
佐々木:今はコロナの影響で中止になっていますが、以前は多くの部屋が朝稽古を一般に公開していました。また再開されたら、ぜひ訪れてみてほしいですね。もちろん、私語をしないなどマナーは守った上で、稽古場の空気を感じていただきたいと思います。
●取材協力
佐々木一郎(Twitter)
『稽古場物語』(ベースボール・マガジン社)
リクルートが2021年の「新築分譲一戸建て契約者動向」(首都圏)を発表した。この調査は、首都圏の新築分譲一戸建てを契約した人を対象に、購入物件や購入行動などを聞いたものだ。購入価格や広さ、駅からの距離、購入者の資金計画などに変化はあったのだろうか?
【今週の住活トピック】
「新築分譲一戸建て契約者動向」調査(2021年首都圏調査)公表/リクルート
まず、2021年に新築分譲一戸建ての契約をした人の購入物件について、見ていこう。購入物件価格の平均額は4331万円で、2014年の調査開始以降で最高額になった。内訳を見ると、「3000万~3500万円未満」と「3500万~4000万円未満」がそれぞれ約17%で、3000万円台が全体の3分の1を占める。いっぽうで5000万円以上の物件も24%を占めるなど、価格はかなり分散していることがうかがえる。
出典:リクルート「新築分譲一戸建て契約者動向」調査(2021年首都圏調査)より)
次に、購入物件の広さを見ると、建物の平均面積は99.0平米。100平米前後の「95~100平米未満」(22.1%)と「100~105平米未満」(25.2%)に集中している。また、土地の平均面積は120.5平米で、120平米前後の「100~120平米未満(32.7%)と「120~140平米未満」(23.9%)に集中している。広さはいずれも前年並みだ。
一戸建てとして好まれる面積は、土地120平米前後、建物100平米前後あたりになるが、立地条件などによって価格は変わるということだろう。
出典:リクルート「新築分譲一戸建て契約者動向」調査(2021年首都圏調査)より)
ちなみに、リクルートの「新築マンション契約者動向」(2021年首都圏調査)と比べてみると、新築マンションの平均購入価格は5709万円でやはり調査開始以降の最高額となったが、平均の専有面積は66.0平米と調査開始以降で最も小さくなった。新築マンションでは価格の上昇につれて専有面積は小さくなる傾向が見られるが、新築分譲一戸建てでは広さはあまり変わらず、平均価格だけが変動している印象だ。
また、新築マンションでは、シングル世帯の購入者が18%(男性7%・女性11%)であるのに対し、新築分譲一戸建てでは、シングル世帯は3%だった。
最寄り駅からの平均徒歩分数は14分、年々増加する傾向にでは次に、購入物件の立地を見ていこう。
最も多かったのは「東京都の23区外(市部エリア)」の24.1%だが、埼玉県、神奈川県、千葉県もそれぞれ20%近辺であり、立地は首都圏全体に分布していることがわかる。「東京23区」は15.1%で前年よりは増加した。
出典:リクルート「新築分譲一戸建て契約者動向」調査(2021年首都圏調査)より
最寄り駅からの距離を見ると、平均徒歩分数は14.0分。「徒歩11~15分以内」が26.0%で最も多いが、次いで「バス・車利用」(24.7%)や「徒歩6~10分以内」(21.5%)も多かった。平均徒歩分数は、2014年の調査開始時は11.6分だったが、次第に長くなり、徒歩10分以内の占める比率が年々減少する傾向が見られる。
マンションと違って、一戸建ての購入者は車通勤の人も多く、駐車スペースにこだわって(夫婦それぞれの2台駐車可能)住まい探しをしている事例も見られる。また、コロナ禍の働き方の変化の影響もあってか、駅近へのこだわりが薄まっているように感じられる。
出典:リクルート「新築分譲一戸建て契約者動向」調査(2021年首都圏調査)より)
4人に1人がフルローンで一戸建てを購入次に、購入した世帯の状況を見ていこう。
まず、世帯主の平均年齢は36.7歳。「30~34歳」(28.9%)と「35~39歳」(24.8%)で、30代が過半数を占めた。この傾向は近年変わっていない。また、既婚世帯に占める共働きの比率は68.6%で、年々増加傾向にある。平均世帯年収は779万円で、2014年以降最も高くなった。
さて、購入者の資金計画を見ると、自己資金の平均額は573万円。1000万円以上用意した世帯もいる一方で、自己資金0円、つまり全額ローンで購入した世帯が25.3%もいる。
出典:リクルート「新築分譲一戸建て契約者動向」調査(2021年首都圏調査)より)
では、ローン借入額はどうだろう?平均借入額は4075万円で、こちらも調査以降の最高額となった。「4000万~5000万円未満」が最多の26.4%で、次いで「5000万円以上」(19.7%)、「3500万~4000万円未満」(18.7%)、「3000万~3500万円未満」(18.2%)の順に多いという結果だ。
出典:リクルート「新築分譲一戸建て契約者動向」調査(2021年首都圏調査)より)
30代で新築分譲一戸建てを購入する人が多いことから、自己資金などの準備が十分ではない世帯がある一方で、共働きの増加により世帯年収が増加し、多額のローンを借り入れることができるようになった、という背景もあるのだろう。
調査結果によると、総年収1000万円以上の既婚共働き世帯が、全体の22.6%。総年収1000万円以上の既婚共働き世帯について、世帯主、配偶者それぞれの平均年収を見ると、世帯主が905万円、配偶者が548万円だったという。
さて、筆者が気になるのは、4人に1人がフルローンだということ。万一、変動金利型などの低金利を活用して、めいっぱい借りている世帯があるなら、早めに今後の金利上昇リスクについて検討しておく必要があるだろう。
実は、金融市場の長期金利がじわじわと上昇している。金融市場の長期金利と連動する、全期間固定型の住宅ローン「フラット35」の金利も2・3・4月と連続して金利が上がっている。長く続いてきた住宅ローンの超低金利時代だが、市場の金利上昇圧力が高まっているのだ。いまのところ、変動金利型などの金利は上がっていないが、長期間金利を固定するローンの方が先に上がっていくので、マイホームを購入した後は住宅ローンのメンテナンスについても怠らないようにしてほしい。
●関連サイト
リクルートの調査結果
「2021年首都圏 新築分譲一戸建て契約者動向調査」
「2021年首都圏 新築マンション契約者動向調査」
東京都世田谷区豪徳寺にある、推定およそ築130年の洋館。「憲政の神様」「議会政治の父」と呼ばれる政治家・尾崎行雄の旧居と伝えられてきた邸宅だ。1年前、取り壊しの危機にあった洋館は、保存を望む有志によって買い取られ、今なお往時の姿を留めている。ただ、一時的に解体を免れたものの今後も建物を維持し続けるための課題は山積み。当面の補修費用だけでも、およそ1億円がかかるという。
そうまでして、なぜこの洋館を守りたいのか? その思いやこれまでの紆余曲折、これからについて、2019年にスタートした「旧尾崎邸保存プロジェクト」発起人の漫画家・山下和美さん、笹生那実さんに聞いた。
世田谷イチ古い洋館に惹かれて――山下さんが最初に洋館に出合った時のことを教えてください。
山下和美(以下、山下):13年前、家を建てる土地を探していた時に豪徳寺を訪れ、初めてこの洋館を見ました。水色の外観は清里高原(山梨県)にあるペンションみたいなかわいらしさがありながら、時を重ねた建物にしか出せない品のある古さが感じられる。一目で惹かれましたね。この街に家を建てたのも、洋館の存在があったからです。近くに住み始めてからはより愛着が湧き、散歩をする度に眺めていました。
山下和美さん。漫画家。『ランド』『天才柳沢教授の生活』『不思議な少年』『数寄です!』『寿町美女御殿』など、数々の作品を発表。現在は、洋館の保存活動の経緯を描いた『世田谷イチ古い洋館の家主になる』をグランドジャンプ(集英社)で連載中(写真撮影/相馬ミナ)
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』1巻より(集英社)
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』1巻より(集英社)
――それがじつは、世田谷区内に現存する「最も古い洋館」だったと。
山下:界隈では「旧尾崎行雄邸」と呼ばれていましたが、建てたのは尾崎行雄の妻テオドラの父親である尾崎三良男爵で、明治21年築という説が有力のようです。つまり、築130年以上。鹿鳴館(明治16年築)とあまり変わらない時期に建てられ、世田谷区に移築された洋館と知った時には、なおさら残す価値があると思いました。ちなみに、三良男爵の日記には、新築時に伊藤博文ら政府要人を招いたという記述もあります。
――笹生さんは、この洋館の存在をどうやって知りましたか?
笹生那実(以下、笹生):山下さんが洋館の保存活動をしていることを知って興味を持ち、一人でこっそり見に行ったんです。想像以上に大きくて、風格があって圧倒されました。また、立派だけどかわいくもあり、とても魅力的な建物だなと感じましたね。
笹生那実さん。漫画家。主な作品に『薔薇はシュラバで生まれる』『すこし昔の恋のお話』『25月病』などがある(写真撮影/相馬ミナ)
――笹生さん、山下さんはもともと洋館がお好きだったのでしょうか?
笹生:洋館には子どものころから憧れがありました。私は横浜出身で、山手の西洋館エリアを見て育ちましたから。きれいな建物と広い庭、大きな犬を連れて散歩している住人。とても華やかで、本当に外国にいるような気持ちになりましたね。
――山下さんも、多くの古い洋館が残る小樽で幼少期を過ごしたそうですね。
山下:小樽(北海道)には明治維新のころにたくさんの洋館が建てられて、私が暮らしていた1960年代にはあちこちにまだ残っていました。その一部は父が勤めていた小樽商科大学の宿舎としても使われていて、職員であれば安く住むことができたんですよ。実際、私が赤ん坊のころに円柱形の不思議な洋館に住めることになり、母と姉が見学にも行ったらしいんですけど、「押入れがないと布団が仕舞えない」と母が反対して断念したそうです。当時はベッドを買うという発想がなかったみたいで。残念ながら、憧れの洋館に住むチャンスを失いました。ちなみに、今はもうその建物は取り壊されてしまったそうです。
世田谷の静かな住宅街に建つ洋館。周囲の緑と水色の外観が調和している(写真撮影/相馬ミナ)
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』1巻より(集英社)
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』1巻より(集英社)
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』1巻より(集英社)
解体工事の2週間前に始めた「ネット署名」が流れを変える――現在は山下さんたちが所有し、保存されている洋館ですが、一時期は取り壊し寸前までいったそうですね。
山下:3年前に近所の人から「洋館が取り壊されるらしい」という話を聞きました。跡地に建売住宅を作る計画があって、すでに土地と建物は不動産会社を通じて工務店に売却済みという状況だったんです。私たちが買い戻すとなると、3億円はかかるという話でした。
正直、私も借金して自宅を建てたばかりで、とてもそんなお金はない。それでも、何とか残す手はないかと2019年に保存プロジェクトを始めたんです。
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』1巻より(集英社)
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』1巻より(集英社)
――お金のこと以外に、何が特に大変でしたか?
山下:不動産会社との交渉がうまく進まず、1年近くも膠着状態になってしまったのは辛かったですね。不動産会社の言い値や契約内容に不明瞭な点があっても、私たちにそれを確かめるすべはありません。その時には前オーナーである家主さんとの接触も、不動産会社側によって完全にシャットアウトされていましたから。そうこうしているうちに解体工事の日程も決まってしまい、もはや絶望的な状況でした。
洋館の内部。洋館として「きばりすぎていない」シンプルなつくりに惹かれたと山下さん(写真撮影/相馬ミナ)
1階と2階をつなぐ手すり付きの階段(写真撮影/相馬ミナ)
館内随所に130年の年月を重ねた風格がにじみ出ている(写真撮影/相馬ミナ)
――そんな絶望的な状況から、潮目が変わったきっかけは何だったのでしょうか?
山下:解体工事の予定日まで2週間を切ったギリギリのタイミングで(保存を求める)ネット署名を集め始めたのですが、そこから少しずつ流れが変わっていきました。たくさんの賛同者が集まってくれて、多くの人に保存プロジェクトのことを知ってもらえたんです。
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』2巻より(集英社)
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』2巻より(集英社)
また、世田谷区議会議員の神尾りささんからもご連絡をいただき、協力してもらえることになりました。神尾さんはもともとワシントンを拠点に仕事をしていて、尾崎行雄に対して特別な思い入れがあったというんです(※編集部注:尾崎行雄は東京市長時代、ワシントンD.C.のポトマック河畔に3000余本の桜の苗木を寄贈し、日米友好に努めた)。
――それは心強い。
山下:神尾さんは、私たちが立ち上げたネット署名を海外に発信することを提案してくれました。アメリカ側からも“日米友好の象徴”である旧尾崎行雄邸保存の動きを起こそうと、英訳までやってくれたんです。
それからは本当に目まぐるしく、短期間でいろんなことが起こりましたね。さまざまなメディアにもこの一件が取り上げられ、世間的な関心が高まったこともあって、解体工事だけは延ばしてもらえました。
――工事を延ばしつつ交渉を進め、最終的には強力な支援者が現れて一時的に洋館を買い取る形になったそうですね。
笹生:はい。金額が金額だけに大変でしたが、、最終的には「取り壊しを防ぐための一時所有なら」ということで支援してくれたんです。
3つの部屋が連なる不思議な間取り。1階と2階を合わせて7つの部屋がある(写真撮影/相馬ミナ)
1億円の補修費用、どう捻出?――所有が保存プロジェクトに移り、取り壊しは回避されました。ただ、このまま維持していくのは大変ですよね?
笹生:そうですね。一時的に解体は免れましたが、次はこれをどう維持・活用していくかという問題があります。当初は洋館を曳家(ひきや/建物をそのままの状態で移動させる手法)で移動し、広くなった土地を分譲して資金を得ることも考えましたが、なかなか買い手は見つかりませんでした。
山下:それに、既存の建物として今の場所にあるぶんには仕方ないけど、場所を移動するなら現在の建築基準法等の法令に合わせなくてはいけないんです。その後、世田谷区にも相談してさまざまなアイディアもうまれましたが、時間がかかりそうでした。
現在は、洋館を使いたい民間企業とテナント契約を結び、収益を得ながら有効活用する道を探っています。
窓ひとつとっても味わい深い。ただ、つくりが複雑なため、補修できる業者を見つけるのも一苦労だという(写真撮影/相馬ミナ)
――現時点での手応えはいかがですか?
山下:さまざまな企業が興味を示してくれましたが、最終的には都内の有名コーヒー店が本店を洋館に移したいと名乗り出ていただきました。しかも、洋館自体はそのままにして、昔の建物の雰囲気を大事にしたいと言ってくれて。厨房などは、洋館の横にある朽ちかけた小屋を改装してつくるということでした。今は具体的な詰めやスケジュールの調整を行なっているところです。
2階の洋室。かつてはここに6家族が間借りし、暮らしていたこともあったそう(写真撮影/相馬ミナ)
テレビのアンテナ。戦後、一部の部屋は賃貸住宅として活用され、現代の暮らしが営まれてきた(写真撮影/相馬ミナ)
――ただ、築130年の建物は老朽化も進んでいて、補修費用だけでも莫大な額になると思います。家賃収入だけで賄うことは難しいのでは?
山下:当面の補修費用だけでも、およそ1億円はかかります。大家となるからには耐震工事は必須ですし、現在の古い建物のままでは寒すぎるので、暖房器具も入れなくてはいけない。ただ、普通にエアコンを入れてしまうと、せっかくの雰囲気が台無しになってしまいます。外観だけでなく中身も明治を感じさせる趣を残すには、通常よりさらにハイレベルな工事や技術が必要になるんです。他にも、窓のつくりがものすごく複雑だったりするので、修繕できる業者も限られてきます。そうなると、どうしても費用はかさんでしまう。
笹生:正直、家賃収入だけではとても足りません。そこで、保存プロジェクトでクラウドファンディングによる寄付を募り、約1800万円のご支援をいただくことができました。他にも、知人の漫画家など支援の声を挙げてくださる方がいますので、当面はお借りできるところからお借りして、家賃収入で少しずつ返していければと考えています。
取材時に洋館を案内してくれた山下さんと笹生さん。一部のスペースはお二方のギャラリーとしても活用する予定(写真撮影/相馬ミナ)
――とりあえず取り壊しを免れたものの、保存への取り組みはまだまだ続いているわけですね。
山下:そうですね。ずっと進行中です。一番の悩みは、私たちがこの世からいなくなった後のことです。その時には絶対にまた同じ問題が起こりますよね。私たちの願いは洋館を後世にも残し続けることなので、いずれは永続的に所有してもらえるところに譲りたいと考えています。
笹生:いくつか目星はつけているので、私たちが元気なうちに何とか道筋をつけたいです。これからテナントが入り、洋館が活用されている様子を発信できれば、周囲の見方も変わってくると思います。ですから、まずは目の前の計画をしっかり進めていきたいですね。
山下さんの『世田谷イチ古い洋館の家主になる』。保存プロジェクトの詳細な経緯が描かれている(写真撮影/相馬ミナ)
●取材協力
旧尾崎邸保存プロジェクト(Twitter)
旧尾崎行雄邸保存プロジェクト(Facebook)
『世田谷イチ古い洋館の家主になる』(グランドジャンプ)※試し読みあり
この世には、「会社のとなりに住む人たち」がいる。
通勤時間を極限まで減らし、空いた時間を生活やさらなる仕事に割り振る。限られた人生の時間を、究極の方法で生み出す者だ。
コロナ禍で、働き方の可能性を大きく広げたリモートワーク。それでも補完しにくい、直接的なコミュニケーションが可能なオフィスの役割も見直されるいま。彼らの生活に迫ってみた。
90万円の部屋に住み、となりの会社へ通う社長今回はそんな日常生活を送る2人に話を伺った。この両者、家賃は10倍ほど違う。まずは90万円もの高額な家賃を払いながら、会社のとなりに住む1人目の声を聞く。
左はオフィスがあるアークヒルズ、右は住居の泉ガーデンレジデンス。本当にとなりだ(写真撮影/辰井裕紀)
位置関係はこの通り(写真撮影/辰井裕紀)
六本木のアークヒルズサウスタワーに会社を構え、システムエンジニアリングサービス事業とSaaS事業を営む株式会社エージェントグロー。このエリアは完全なる「ビジネス一等地」だが、よりによってとなりにある超高級マンション、泉ガーデンレジデンスに居を構えている人がいる。同社代表取締役の河井智也さんである。
「ウマ娘」にハマる河井社長(撮影時のみマスクを外しています。写真撮影/辰井裕紀)
会社のとなりへ住むようになったいきさつを語ってくれた。
「実家暮らしが長かったんですけど、27~28歳で一人暮らしを始めてから、ずっと職場の近くに住むようにしています」
そこには理由があった。
「実は私、元引きこもりのニートで。家は貧乏でしたし、学歴もそれほどじゃなくて」
世の中は不平等だ。
「ですがある日、『どんな人にも時間は平等なんだよな』と気付いたんです」
当時住んでいた新横浜の実家から、都心へは通勤に1時間以上かかる。その通勤時間を時給2000円で計算すると「1年でおよそ100万円」になる。
「時間を有効活用して通勤時間を仕事や勉強に費やそうと思い、『会社の近くに住もう』と決めました」
そう一念発起して、18億円を超える売り上げと317名もの従業員を抱える会社を築いた。
かつて河井さんのオフィスがあった溜池交差点(写真撮影/辰井裕紀)
創業当初のオフィスは溜池山王にあり、赤坂に住んでいた。
「当時は会社から7分くらいのところに住んでいたのですが、会社が移転したのに伴い徒歩10分ぐらいになっちゃって。それを機に『新社屋から一番近い部屋に引っ越そう!』って決めたんです」
部屋の中。さまざまな日本画が飾られている(写真提供/河井智也)
真ん中に見えるのが自宅と会社を行き来する裏道(写真撮影/辰井裕紀)
新しい住まいは1LDKで66平米ほど。リビングは16.5畳(約30平米)でバルコニーも広々としている。
「赤坂のときは妻と2人暮らしで2LDKに住んでいたんですけど、引っ越し先を決める際に『個室がふたつあるより、リビングの大きいところに住みたいね』と話して。画家の妻が大きな作品を描くにも便利なので、広いリビングのある1LDKに引っ越しました」
始業の10分前に起きても会社へ間に合う一人暮らし時代の家賃は15万円、赤坂のときは30万円。六本木で48万円と来た。そしてこの記事が出るころには、同じマンションの高層階に引っ越している。床面積は2倍近くに広がるも、家賃はさらに90万円へ跳ね上がった。
「子どもが生まれてから物がすごく増えて手狭になり、リビングがさらに広い2LDKに引っ越しました。物置が大きいので、たくさんある妻の画材もしまえますね」
リビングは19畳と広々している(画像提供/河井智也)
90万円もの高額な部屋に住む、決断に至った心中とは。
「環境がよければ、お金を稼げますから。家賃が高くとも、たくさん頑張って成果を出せばいいので」
力強く語る。そのために寝る時間も大切にしている。
「家が会社のとなりにあるおかげで、徒歩1分で帰宅できます。会社を出るのが24時を過ぎても7~8時間は眠れますし、仮に寝坊して8時50分に起きても、定時の9時に間に合いますよ」
エスカレーターを乗り継げば泉ガーデンレジデンスからアークヒルズまで雨に濡れずに移動できる(写真撮影/辰井裕紀)
「電車通勤が不要」なのも、会社のとなりに住む利点という。
「なかなか気づかないですけど、電車に乗るのは意外と精神的に削られるんですよ。人とすごく近いとかで。会社に着いた時点でもう、ちょっと疲れちゃうんですよね」
“仕事のパフォーマンスに直結する”との考えから、電車に乗らなくていい家を選んだ。
東京メトロ南北線 六本木一丁目駅も近いがほぼ使わない(写真撮影/辰井裕紀)
近いから家庭生活も大事にできる会社の成長にも、「会社のとなり」生活が活きた。
「一番大きいのは、採用面接ですね。面接に来る求職者の方の大半は平日の日中帯に働いていますから、だいたい定時後か土日の面接を希望されるんですよ。コロナ前は対面の面接がメインだったんですが、さまざまな事情で来社できなくなる方もたまにいらっしゃって」
家が遠ければ通勤時間が気になるが、家がとなりにあれば精神的にも余裕ができる。土日の面接でもゆとりを持って対応でき、良い社員が続々と入社してくる好循環が生まれた。そして、「結婚生活」においてもメリットがある。
「1歳にならない子どもがいるんですが、子どもに何かがあって妻からヘルプがあったらすぐ帰れるんですよね。家のベランダから会社の明かりが見えるほど近いので、お互い安心できます」
中央右側が家。バルコニーから合図を送れる距離だ(写真撮影/辰井裕紀)
ちなみに行きつけのお店は?
「自宅近くのお店にはだいたい入ったことがあるので、誰かとごはんを食べるときにいいお店はある程度把握しています」
さすがの網羅ぶりを見せる河井さんに、いくつか店をピックアップしてもらった。
「THE CITY BAKERY BRASSERIE RUBINは、パリのパン屋さんのレストランです。広くて子連れで行きやすいうえにテラス席もありますし、妻も好きなお店です。あとは陳麻婆豆腐とか。辛いのが好きな社員も多いので、みんなでランチによく行きますよ」
陳麻婆豆腐(写真撮影/辰井裕紀)
ランチセットは1,100円。ごはんを大盛りにすれば食べごたえもある(写真撮影/辰井裕紀)
歩かなくなって30キロ太った(撮影時のみマスクを外しています。写真撮影/辰井裕紀)
メリットは多いが、意外な盲点も。
「会社の近くとなると大都会であることも多いので、まず家賃が跳ね上がります。職場近くにずっといると生活もマンネリ化しがちなので、旅行などでリフレッシュするように心がけます」
近くに住むからこそ、遠出する余裕もできるという。そして河井社長は笑って話す。
「会社のとなりに住むようになって、30キロ太ったんですよ。あまりに太りすぎてみんなから『痩せろ』と言われて。歩くってカロリー消費に大切だったんだなと。あわててジムに通い始めましたね」
老後は、会社を離れて住むことも考えている。
「歳を取って会社の近くに住まなくてよくなったとき、競馬ファンの私は『競馬場の近く』にでも住んでいるかもしれません(笑)。そのとき自分が熱中しているものや、やりたいことを叶えられるところに住むのが一番だと思いますから」
それまでは、仕事がやりやすい「会社のとなり」生活を謳歌する。
「仕事で成果を出したり年収を上げたりしたい人は、絶対会社の近くに住んだ方がいいと思いますね」
(写真撮影/辰井裕紀)
あの大阪の大手ゲーム社員も「会社のとなりに住む」もう1人。誰もが知るあの大阪の大手ゲーム会社のとなりに住むのが、キャラクターデザイナーのolorさんだ。
olorさんの近影(画像提供/olor)
「会社への距離は……本当に1分くらいですね。距離は50mもないです」
JR吉祥寺駅前 (写真/PIXTA)
いったいなぜ会社のとなりに住んだのか。それは東京時代にさかのぼる。
「吉祥寺に住み、渋谷まで通勤していました。会社までは50分かかり、出退勤ラッシュに苦しんでいたんです。人混みに眼鏡を割られたこともありますし、酔ったとなりの人からゲロを吐かれたことも3回あります(笑)」
olorさんが勤めるゲーム会社の社屋(画像提供/olor)
電車を逃して会社に何度も泊まったこともあり、通勤の苦労は深く脳裏に刻まれた。そこから3年前に転職し、東京から大阪に移住する。
8年住んだ吉祥寺は気に入っており、「関西の吉祥寺」のようなところを探したが、なかった。そこで目を付けたのが、会社のとなりだったのだ。
「さすがに会社のとなりは、仕事モードのオンオフができなさそうで悩みました。ですがこだわりポイントがすべて集まっていたのも、会社の近くだったんです。川の真ん中にあってオシャレな中之島公園もあるし、10分歩けば大阪城。ショッピングモールもあったので」
そして「通勤・退勤ラッシュにつかまらない」のも理由のひとつだった。
遊覧船が通る中之島公園。イベントも開催されてにぎわう(画像提供/olor)
関西の物件は東京よりは安いと思っていたが、本社があるのは大阪市でも都会の中央区だ。7万2000円の家賃では広い部屋を借りられなかった。
「吉祥寺時代の6畳から9畳になりましたが、実質キッチンが3畳ほど取っている1Kなので、やっぱり狭いです」
olorさんの部屋。キッチンが部屋のスペースを取っている(画像提供/olor)
猛暑や梅雨も関係なく過ごせる「残業が多い業界で近所に住む社員も多いですが、本当にすぐとなりだと知るとびっくりされましたね」
だからプライベートでもよく同僚と遭遇する。
「気まずくはないですけど、ピザを買って帰るところを目撃されて『今日ピザなんですね』とか言われることはあります(笑)」
行きつけのお店も、やはり近くの店になる。
「いつも同じところばっかりに行ってしまうのが問題です(笑)」
長い行列のできるつけ麺の井手本店や、たっぷりの鶏むねからあげが食べられる万喜鶏などは、olorさんも何十回と通っている。
焼き鳥屋の万喜鶏。「めちゃくちゃなボリュームの鶏のむねからあげが好きで、よく行きます」(画像提供/olor)
+200円で倍近くからあげが増える(画像提供/olor)
住んでみると徒歩1分もかからず出勤できるし、電車のラッシュとは無縁で、まるで体力を消耗しなかった。猛暑や梅雨も苦にならないし、自分の時間が増えた。
「家と会社への往復があまりにもカンタンですから、家のPCの調子が悪くなったときも、出勤して会社のPCでやり過ごせました。退社後には『olorさんがデータを確認しないと進めない』などの連絡もたまに来るんですが、パジャマのまま会社に行ってすぐ解決できますよ」
「ついでに」の行動ができないだが、デメリットもある。olorさんが勤めるような大企業は都会にあるため、「都市のノイズがうるさい」
「働くならいいんですが、住むのは大変です。そばに片側5~6車線くらいあるすごく大きい道路があり、緊急車両のサイレンが毎日のように鳴るし、バイクの暴走族もいます。休日にはデモまで」
さらにまわりには高い建物が多く、日当たりも微妙だという。
「会社と家の往復では仕事のオンオフができません。インドア派の私でも、変化がなくて息苦しさを感じます」
関西に来て3年経つが、その実感も薄いという。会社もデスクワークのため、1日10分も歩かない。
「あと、通勤に距離があるとお店や公園に寄ったり、映画を観たりできます。家が近すぎると、意識してアクションを起こさないと外での行動ができません。お家に入ったら『もう出たくない』となるので」
物も増えて手狭になり、引っ越しを計画中(画像提供/olor)
「会社から離れる幸せ」も見えてきたなので、次は会社から離れたところへのマイホーム購入を考えている。
「大阪は東京ほど電車が混まないっていうし、30分以上離れてもいいかなと。物も増えましたし、関西で落ち着いてもいいと思ったので」
探しているのは交通の便のよさとともに、自然豊かな街だ。
「京都と大阪の真ん中にある高槻市とか、大阪・枚方市の樟葉とか。老後も考えたら、京都の宇治市もいいかなって。通勤は1時間かかりますが、電車1本ですぐ京都市内には出られるので。趣味のバイクで琵琶湖にもすぐ行けますから」
宇治市御蔵山から見渡す秋晴れの山科方面の景色 (写真/PIXTA)
そうやって引っ越しを考える日々だが、それでも「会社のとなり生活」は、メリットの方が多いと語る。
「移動がない分、自分の時間は明らかに増えます。仕事が生活のメインの人か、完全にインドアの人にはいいと思いますし、都会生活が好きな人には最適だと思いますよ」
会社のとなりに住みたくなった人には。
「単調な毎日になりやすいので、帰宅後や週末のプランを意図的に組み込んで、気分のオンオフをしたほうがいいですね」
夕日が沈む琵琶湖(写真撮影/辰井裕紀)
テレワークで、時間と距離の自由を得た現代人。しかし、もし行き詰まりを感じているようであれば、「会社のとなりに住む」のも選択肢の一つだ。多くのメリットとともに、デメリットも確実にある。そこを見きわめて納得できたら、こう生きるのもいいだろう。
会社のとなりに住むメリットと、離れて住むメリット。一緒に見つめられるはずだ。
●取材協力
株式会社エージェントグロー
olorさん
東京都では、「住み替えやリフォームをお考えの方に向けて、契約する前に知っておきたい、良質な住まいを選ぶためのヒントや気を付けるべきポイントなどをまとめたホームページを新たに開設しました」と広報した。“東京の膨大な不動産情報にアクセスする際のガイド役を果たす”ということなので、筆者がそのお役立ち度を見ていこうと思う。
【今週の住活トピック】
東京の住まい選びをサポートする情報サイト「TOKYOすまいと」を開設/東京都
東京都が広報したサイトの名称は「TOKYOすまいと」。サブキャッチに「住まい選びの東京アクセスガイド」とある。
コンテンツを見ると、次のように多様なものだ。
●良質な住宅の見分け方とは?
●知ってお得な助成制度とは?
●初めて住宅を借りる時に気を付けるべきことは?
●子育てしやすい住宅とは?
●高齢者にやさしい住宅とは?
●環境にやさしいエコ住宅とは?
●既存住宅(中古住宅)購入のポイントは?
●住宅リフォームの成功の秘訣とは?
●災害に強い住宅で安心して暮らすためには?
●健康で快適な暮らしをするためには?
●公的機関が供給する住宅とは?
各コンテンツの内容を見ていくと、見分け方や注意ポイントの解説をしている内容ではなく、参考になる情報を記載したサイトを紹介する形となっている。つまり、詳しい情報を入手したい場合の“中継基地”といった感じで、サブキャッチ通りまさに「アクセスガイド」だった。
このコンテンツの中で筆者が最も役立つと思ったのは、「初めて住宅を借りる時に気を付けるべきことは?」だ。「既存住宅(中古住宅)購入のポイントは?」も同じ観点で役立つと思った。
これらのコンテンツでは、東京都が作成したガイドブックなどを数多く紹介している。
以前から東京都は住宅を借りたり買ったりする住宅消費者向けに、わかりやすいガイドブックを作成しているので、機会があれば、筆者はそれらのガイドブックの活用を勧めている。公的機関が作成するガイドブックのスタンスは、法律などに沿った“正論”でまとめられている。理論武装ができる手引きになるので、専門知識が不動産会社などと比べて乏しい住宅消費者には、一度は目を通してほしいと筆者は思っている。
これまでそのガイドブックは、東京都のHP内で探しづらかったのだが、このサイトに集約されて探しやすくなった。「初めて住宅を借りる時」で特にお勧めなのが、「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(東京都作成)と「住宅賃貸借(借家)契約の手引き」(不動産適正取引推進機構作成)だ。契約時や退去時に生じやすいトラブルを防ぐための、重要な情報が細かく記載されている。東京都のものは、特に、退去時にトラブルになりやすい「原状回復」について詳しく解説されている。
また、「既存住宅(中古住宅)購入のポイント」で特にお勧めなのは、「安心して既存住宅を売買するためのガイドブック」の「戸建住宅編」と「マンション編」(東京都作成)だ。東京都に限らず、家を購入しようと検討している全国の人に見てほしい内容となっている。
(写真/PIXTA)
東京都独自の助成制度がすぐ調べられるこのコンテンツの中で次に役立つと思ったのは、「知ってお得な助成制度」だ。 国の助成制度も紹介しているが、東京都独自の助成制度もまとめて紹介されているので、東京都で住宅を取得したり改修したりする際に、どんな助成制度があるのかを知ることができる。また、住宅の特徴別のコンテンツでも、該当する助成制度を重複して紹介しているので、関心のある住宅から助成制度を探すこともできる。
ただし、区や市などの独自の助成制度もあれば、掲載されていない国の助成制度もあるので、東京都民が受けられる助成制度は必ずしもこのサイトに紹介されたものがすべてではないと考えてほしい。自身でも、利用できる助成制度がほかにないかを確認するのがよいだろう。
一方で、「○○住宅とは」といったコンテンツに、一般的な住まい選びのポイントが書いてあると期待して見ると、ちょっと違うと思うかもしれない。これらは、国や東京都が推奨する性能の高い住宅について紹介するものが多いので、住宅価格は高くなっても性能が高くて安心して居住できるものを探している人に向くコンテンツだろう。
そのなかでも「子育てしやすい住宅」では、子育てしやすい住宅の条件を知る情報もあるので、検討中の人には参考になるだろう。東京都が独自で行っている「子育て支援住宅認定制度」は、安全性や家事のしやすさなどに配慮された住宅で、かつ、子育てを支援する施設やサービスの提供など、子育てしやすい環境づくりのための取組を行っている優良な住宅を認定する制度。少し専門的にはなるが、認定制度の詳細やその認定基準となるガイドラインも紹介されているので、関心のある人は頑張って読み込んでみてはいかがだろう。
(写真/PIXTA)
このように、「TOKYOすまいと」には住宅を買ったり借りたりする際に参考になる情報が多様に紹介されているので、気になる項目があれば、リンク先に飛んで詳しい情報を確認したうえで、適切な住まい選びをしてほしいと思う。加えて、「相談窓口」なども紹介されているので、東京都で万一トラブルになったときにも確認するとよいだろう。
名称は「TOKYOすまいと」ではあるが、多くの情報は東京都に限らないものなので、住まい選びをしている全国の人ものぞいてみてはいかがだろう。
●関連サイト
・東京都のプレスリリース
・「TOKYOすまいと」
埼玉県の北西部、秩父郡に属する横瀬町。県内でも知名度が高いとはいえない街だが、「2021年 住み続けたい街(自治体/駅)ランキング首都圏版」(SUUMO調べ)でTOP50位以内にランクインした。埼玉県下に限れば、なんと4位! 人口8000人の横瀬町が、「なぜ住み続けたい」と思われているのか? どんな魅力が隠されているのか? その謎を紐解くべく、横瀬町で生まれ育ち、街づくりに関わる田端将伸さん(横瀬町役場まち経営課)に聞いてみた。
「横瀬町で何かやりたい人」をバックアップする仕組み――さっそくですが、地域住民が投票した「住み続けたい街ランキング」にて、なぜ横瀬町が上位にランクインしたと思いますか?
田端将伸(以下、田端):じつは横瀬町では、数年前から官民が連携した街づくりプロジェクトを進めてきました。今回の埼玉県下で4位という結果は、それが少しずつ実を結びはじめている証ではないかと思います。
横瀬町職員の田端将伸さん(写真撮影/藤原葉子)
――どのような取り組みなのですか?
田端:まちづくりのアイデアを形にできるプラットフォーム「よこらぼ」を使い、さまざまなプロジェクトを行っています。個人、団体・企業を問わず、「横瀬町で何かをやってみたい」という熱意を持つ人が、「よこらぼ」を通じて、さまざまなことにチャレンジできるんです。
――なるほど。具体的なプロジェクトについて伺う前に、そもそも「よこらぼ」はどういった経緯で生まれたのですか?
田端:きっかけは富田町長と、ある起業家の立ち話からでした。「サービスのアイデアはあっても、それを実証する場がなかなかない。ぜひ、横瀬町でやらせてもらえないか?」という提案があったんです。当時、東京都内には数多くのベンチャー企業が台頭していましたが、同じような悩みを抱えている起業家は多かったようで。そのとき、これはチャンスかもしれないと考えたんです。
――なぜですか?
田端:どこの自治体も企業誘致を試みています。しかし、横瀬町のような山間地域に来てくれる企業って、なかなか見つからないんですよ。そこで、企業そのものを誘致するのは難しくても、「プロジェクト」を誘致することならできるかもしれないと考えました。
横瀬町を実証実験の場として積極的に活用してもらえば、人、物、お金、情報がどんどん入ってくるのではないかと。そこで、そのための窓口として2016年に「よこらぼ」を立ち上げました。そして、企業の実証実験だけでなく、個人にも「自分のやりたいこと」「横瀬町をよくすること」などを提案してもらうことにしたんです。
「小さな行政」の利点を生かし、ハイスピードでプロジェクトを回す――立ち上げ当時の反響はいかがでしたか?
田端:最初に想定していた通り、都内のベンチャー企業による実証実験の応募が多かったです。例えば、「廃校など町の遊休スペースを貸し出すプロジェクト(採択No.02)」や「被写体中心の360度自由視点映像サービスの実証(採択No.20)」、都内のクリエイターたちがチームで挑んだ「中学生を対象としたキャリア教育プログラム(採択No.08)」などですね。応募が集まることで新聞やWebメディアなどでも紹介され、記事を見た企業が「うちもやりたい」と声を挙げてくれる、いい循環ができていました。ちなみに、現在までに189件の応募があり、そのうち108件を採択しています(2022年3月1日時点)。
世界初の特許技術、360度自由視点映像サービス「SwipeVideo」でフォームをチェック(画像提供/横瀬町)
都内のクリエイターによる、中学生を対象にした半年間のキャリア教育プログラム「横瀬クリエイティビティー・クラス」(画像提供/横瀬町)
――採択率およそ6割と、けっこう高いですね。「よこらぼ」に寄せられたアイデアはどのようなフローで採択しているのでしょうか?
田端:毎月、審査会を開き、町民代表や役場の職員らで審査をしています。早ければ、応募から約一ヶ月という早いスピードで各プロジェクトをスタートできるように心掛けています。このペースはずっと守り続けてきました。これは、小さな町、小さな行政だからこそできる強みといえるかもしれません。
――だから、5年で100件以上のプロジェクトを実行できたんですね。
田端:そうですね。また、スピードだけでなく横瀬町の「コミュニティの強さ」も、プロジェクトを進める上でプラスに働いていると思います。ここで何かしらのサービスの実証実験をやろうとすると、住民が積極的に協力して、実証のサービスや商品を使ってくれようとするんです。リアルな住民に使ってもらい、フィードバックを得られるのは、企業側にとっても魅力なのではないでしょうか。他にも、Wi-Fiなどが使える現地オフィスの提供、行政権限を生かした法的なサポートも行っています。
――手厚いですね。最近では、どんなプロジェクト事例がありますか?
田端:最近では「電動アシスト付きの手押し一輪車による、運搬労力の削減プロジェクト(採択No.107)」という事案がありました。そこで、農園と建設作業場に手押し一輪車を持っていき、実証を行ったんです。一見すると、どこででも実験可能な内容に思えますが、このような実証実験をしてくれる自治体は、ほぼないでしょう。
また、地方では農園も建設現場も、最近は労働力不足が深刻化しています。そこで、電動の手押し一輪車で重い荷物を運べるようになるだけでも、多少なりとも生産性は上がるはずです。地方の課題を解決しつつ、企業にとっても良いフィードバックが得られる。なおかつ、町民のためになり、横瀬町の知名度も上がる。こうした良いサイクルを生むプロジェクトが多いように思います。
手押し一輪車のタイヤを交換するだけで、電動化することができる(画像提供/横瀬町)
――ただ、毎月の審査会でどんどん新しいプロジェクトが採択されるとなると、町民の協力を得るのも大変な気がしますが。
田端:そこは私たちのほうでも意識していて、いつも同じ町民ばかりにお声がけして負担が偏らないよう、案件ごとにご協力いただく方を調整しています。ただ、今は基本的にみなさん快く協力してくださいますね。確かに、最初は説明するのが大変だった時期もありました。例えば、「シェアリングエコノミーのプロジェクトです」と言っても、特にご高齢の方には伝わりづらいですよね。ですから、噛み砕いて分かりやすい言葉で丁寧に伝えることは意識していましたし、「よこらぼ」の冊子をつくるなどして、活動そのものへの理解を深めるように努めていました。
――それは根気が必要ですね……。
田端:ただ、全員に完璧に理解してもらってからやろうとすると、いつまでたっても前に進みません。ですから、そこにばかりエネルギーを注ぎすぎず、同時並行でプロジェクトを次々と回し、参加してもらうことで理解してもらいました。すると、結果的に町民が他の町民を巻き込むような形になり、「よこらぼ」自体の認知度や理解も深まっていったように思います。最近では、「何をやっているかは未だにわからないけど、この街を変えているんだよね」と言ってくださる人も多いです(笑)。
――町民も街の変化に気づいているんですか?
田端:そう思います。だからといって、今のところ暮らしが豊かになったとか、幸せになったかとか、具体的な何かがあるわけではありません。それは、まだまだ先の話。でも、隣町や少し離れた街の人から「横瀬を褒められる」ことがあり、嬉しかったという声はいただいています。そうした周囲からの評価を聞いて、改めて横瀬に誇りを持ってくださる人もいたのではないでしょうか。
横瀬町役場まち経営課で、「よこらぼ」のほか、総合計画、空き家などを担当している(写真撮影/藤原葉子)
町民一人一人の「やりたい」を起点に、街を活性化していく――企業以外の団体や個人のプロジェクトにはどんなものがありますか?
田端:企業以外の団体では、大学と連携することが多いです。例えば「介護における、転倒リスクを予防する」プロジェクトなどがあります。また、「よこらぼ」の認知度向上に伴い、個人の応募も増えてきましたね。最近も、地元の人が「横瀬の材料を使ったお菓子をつくりたい」というプロジェクトを応募してくれたんです。横瀬町のPRにもつながると考え、すぐに採択しました。はじめに、販売先の紹介などの支援をしましたが、今ではしっかり自走しています。けっこう売り上げも良いみたいですよ。
――それは素晴らしいプロジェクトですね。
田端:そのプロジェクトは、自身が小さいころから思い描いていた夢だったそうで。その夢を「よこらぼ」のおかげで叶えることができたと、嬉しそうでした。こうした、「自分がやりたいこと」を起点にプロジェクトを立ち上げ、結果的に街づくりの担い手になってくれるような町民が、これからも増えていってくれるといいですね。
――そうした「街づくりの気運」みたいなものは高まっているのでしょうか?
田端:そうですね。高まりつつあると思います。例えば、「よこらぼ」をきっかけに作られた「Area898」というコミュニティスペースがあるのですが、これも町民のみなさんの提案でした。
横瀬町役場まち経営課で、「よこらぼ」のほか、総合計画、空き家などを担当している(写真撮影/藤原葉子)
田端:「よこらぼ」がスタートしてから、地域外からも多くの人が訪れるようになり、新しい出会いやコミュニティも生まれました。しかし、せっかく交流が生まれたのに、横瀬町には人と人が交わる“リアルな場所”がなかったんです。そこで、ある町民団体から「よこらぼ」を通じて「新しいコミュニティ・イベントスペースをつくりたい」という提案があり、JA旧直売所跡地を使って「Area898」を整備することになりました。
――確かに、駅前などには日常的に交流できそうな場所が見当たりませんでした。
田端:そうなんです。だから、よく見る商店街の光景で「あら、〇〇さん。こんにちは」というシーンも生まれない。それってすごくもったいない気がしたんです。そこで「集まりたくなる場」を町民と行政でつくったわけです。
今では「Area898」に連日、人が集っている(画像提供/横瀬町)
――「Area898」の利用状況はいかがですか?
田端:横瀬町民はもちろん、横瀬に関わる町外の人たちも集まるようになりました。自分の好きなこと、楽しいこと、やりたいこと、共有したいことを軸に「Area898」に人が集い、新しい活動が生まれるようになりましたね。かなり、面白い場所だと思いますよ。私が会議をしている横で、お年寄りがスマホ相談会を受けていたり、中学生が勉強をしていたり。誰でも無料で利用できることで、多くの住民が集まりやすい環境ができたと思います。
Wi-fiも完備。その後、住民から寄贈されたボルタリング、黒板、スクリーンなどが徐々に加えられていった(写真撮影/藤原葉子)
JA旧直売所に残っていたものも再利用。パレットはブランコに、米びつはショーケースに生まれ変わった(写真撮影/藤原葉子)
田端:また、2022年の3月からは「よこらぼ」「Area898」と並ぶ、新たな試みもスタートさせています。それが「ENgaWAプロジェクト」。横瀬の中心部にあった給食センターの跡地に作った、“チャレンジキッチン”です。
――「エンガワ」。どんな場所なんでしょうか?
田端:町内でとれる農作物を使った、新しい商品の開発などを町民と一緒に考えるスペースです。コロナ禍で農作物が売れずに余ってしまったため、新たな活用方法を模索する場所として誕生しました。商品開発だけでなく、食のイベントなどを通した町民同士の交流スペースとしても活用していきたいと考えています。最近も、地元の大豆を使ったイベントを開催しました。
節分に合わせて2月5日に開催された「大豆フェスティバル」
オリジナルメニューは4品。写真はオリジナルスイーツ「くるむー焼」(画像提供/横瀬町)
――地産地消だけでなく、地域の人がメニューまで開発してしまうというのは面白いですね。
田端:ありがとうございます。ちなみに、「ENgaWA」のメンバーは農作業のお手伝いもしています。農家さんの負担を少しでも軽減し、その見返りとして収穫した農作物をおすそ分けしてもらっているんです。
――本当に、助け合いの心が根付いていますね。そして、それが見事に街づくりの源泉になっている。
田端:それもこれも、「よこらぼ」というベースがあったからだと思います。とはいえ、当たり前ですが全ての町民が積極的に街づくりに関わりたいわけではありません。ですから、決して無理な呼びかけや、ましてや強制などはしません。あくまで、興味がある人がガッツリやればいい。そうでもない人は基本スルーでいいし、なんとなく興味が出てきた時だけ参加してくれればいい。そういう、ゆるさが大事だと思うんですよね。行政は環境だけを整えて、あとは町民の意思に委ねる。このやり方が、今のところはうまくいっているのではないかと感じます。
「大豆フェスティバル」をお手伝した町民の方々(画像提供/横瀬町)
「閉鎖的な田舎」からの脱却を――お話を伺っていて、横瀬町が「住み続けたい街」として評価されている理由がなんとなくわかりました。町民自らが「街をよくしよう」と活動しているわけですから、愛着も生まれますよね。
田端:だとすれば、嬉しいことですね。今も人口は減り続けていますが、“何か面白いことをやりたい人”は確実に増えていると感じます。ですから、今後はさらにいろんなチャレンジができそうな気がしますね。また、「よこらぼ」で実証実験に来た人が、プロジェクト終了後も遊びに来てくれたり、二拠点居住のような形で頻繁に訪れてくれることも増えてきました。こんなふうに、移住とまではいかなくても横瀬町を第二の故郷のように思ってくれるのは、とても嬉しいことですね。
空き家バンクも、最近はすぐに埋まってしまうそう。去年の登録件数14件のうち、13件が成約(画像提供/横瀬町)
――今後も横瀬が「住み続けたい街」であり続けるためには、何が必要だと思いますか?
田端:「関わりしろのある街の可能性」を示し続けることじゃないかと思います。街がチャレンジし続けていれば、若い人にもきっと「この街だったら、まだやれることがあるんじゃないか」と思ってもらえるでしょうから。
ただ、チャレンジには失敗がセットです。だから、横瀬町では失敗を咎めません。それに、チャレンジといっても、別に大きなことでなくていいんです。例えば、ウォーキングだっていいし、盆栽だっていい。それが直接的に街づくりにはつながらなくても、一人ひとりがやりたいことをやっている。そんな街でありたいです。そのためにも、私たちが率先して、チャレンジしている姿を見せ続けていきたいですね。
(写真撮影/藤原葉子)
●取材協力
よこらぼ
Area898
ENgaWA