谷根千エリアを地元目線で取材! 街の見方が変わるローカルメディア「まちまち眼鏡店」がスタート

谷根千「谷中・根津・千駄木」を拠点に、活動を続ける一級建築事務所HAGI STUDIOが、2022年3月末に谷根千のローカルWebメディア「まちまち眼鏡店」をローンチした。おもしろいところは、情報を発信するだけでなく、谷根千に住んでいる人、この街を愛する人なら誰でも参加できるという、街全体を巻き込もうとしているところ。メディアを通じて、どのようにコミュニティをつくっていくのか、その想いや背景を取材した。

地元密着の建築事務所だからこそ、メディア発信が必要左から、千十一編集室の影山裕樹さん、『まちまち眼鏡店』店長の坪井美寿咲さん、副店長の柳スルキさん、HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉さん(写真撮影/片山貴博)

左から、千十一編集室の影山裕樹さん、『まちまち眼鏡店』店長の坪井美寿咲さん、副店長の柳スルキさん、HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉さん(写真撮影/片山貴博)

「HAGI STUDIO」は、ちょっと変わった建築事務所だ。例えば「宿(まちやど hanare)」を運営しているし、「教室・イベント(まちの教室KLASS)」も開く。さまざまなジャンルの「食(HAGI CAFE、TAYORI等)」のお店や、カフェやギャラリーなどの「複合施設(HAGISO)」も運営している。ただし、場所は谷根千エリアが主軸。活動範囲は狭く、そして深い。
「事務所から自転車で行ける範囲で7件ほどの拠点があります。それらの運営をするなかで、自然と街の人々と関わることが増え、自分たちで発信するローカルメディアの必要性を感じていたんです」と代表取締役の宮崎晃吉さん。とはいえ、本業が忙しく、なかなか重い腰を上げられなかったという。
「そんななかコロナ禍で、遠くに行けない事態になり、地元への関心が高まりました。谷根千は、観光地であり住宅街であり、寺町であり職人の街であり、商業地でもあります。生まれも育ちもココという人もいれば、最近はマンションが増え、新しい住民も増えています。同じ街でも、違う人が見れば、違ったふうに見える。人の目線を借りることで、街の魅力を再発見するのは、街の豊かさにつながる。それでメディアをつくろうと思いました」(宮崎さん)。

HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉さん。学生時代に住んでいた木造アパート「萩荘」を改修し2013年『最小文化複合施設HAGISO』として生まれ変わらせる。以来、谷根千エリア内での建物再生と運営、全国での建築設計を手掛ける(写真撮影/片山貴博)

HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉さん。学生時代に住んでいた木造アパート「萩荘」を改修し2013年『最小文化複合施設HAGISO』として生まれ変わらせる。以来、谷根千エリア内での建物再生と運営、全国での建築設計を手掛ける(写真撮影/片山貴博)

背景にはステレオタイプな谷根千イメージへの危機感が

こうしたローカルメディアを考えた背景には、既存メディアで谷根千が「昭和」「レトロ」というステレオタイプに扱われていることに、一種の危機感があったそう。
「あまりにもイメージが定着しすぎると、街がそれを追いかけるようになる。“昭和レトロな店しかこの街らしくない”とか。それでは街の解像度が粗い。実際はもっと複雑です。分かりやすいほうが消費しやすいのも分かりますが、複雑さは街の豊かさにつながるもの。複雑なものをそのまま享受するのは、分かりやすさを優先する既存のメディアでは難しいだろうと思ったんです」(宮崎さん)

では、手掛けるローカルメディアの柱とはなんだろうか?
「まず、観光客向けではなく、暮らす人に軸足を置くこと。読み手もつくり手になるような参加するメディアであること。このメディアを媒体にして、さまざまな属性を持つ人々のコミュニティ化が出来たら理想的だと考えました。これは単身者、ファミリー、高齢者、暮らす人働く人と、多様性のある谷根千ご近所エリアだからこそできることです」とはメディア監修を行う、千十一編集室の影山裕樹さん。

千十一編集室代表の影山裕樹さん。全国各地でローカルメディアや地域プロジェクトのディレクション、コンサルティング、制作を行う。今回はメディアのプロとして監修を行う(写真撮影/片山貴博)

千十一編集室代表の影山裕樹さん。全国各地でローカルメディアや地域プロジェクトのディレクション、コンサルティング、制作を行う。今回はメディアのプロとして監修を行う(写真撮影/片山貴博)

誰かの目線の「眼鏡」に見立てたウェブメディアがコンセプト

メディア名は「まちまち眼鏡店」。といっても眼鏡を売っているのではない。「誰かの目線で暮らしが深まるローカルメディア」をコンセプトに。多様な視点を”眼鏡”に見立て、まちを紹介する試みだ。
いわゆる観光客向けの情報サイトではない。具体的には、Web上で特集や、インタビュー、エッセイ、動画、ラジオ音源を掲載し、まちに関わる人たちが、どんな見方でまちを見ているのかを追体験できるメディアを考えている。「眼鏡店」と名付けたWebだから、運営するスタッフは「店長」「副店長」と、ちょっと変わった肩書にした。

「まちまち眼鏡店」という名は「ひとの数だけまちの見方がある」という気づきをもとに、まちを見る目を眼鏡に見立てたことから(画像提供/HAGI STUDIO)

「まちまち眼鏡店」という名は「ひとの数だけまちの見方がある」という気づきをもとに、まちを見る目を眼鏡に見立てたことから(画像提供/HAGI STUDIO)

コンテンツ例(画像提供/HAGI STUDIO)

コンテンツ例(画像提供/HAGI STUDIO)

軒先、塀の上などで思い思いに園芸を楽しむ路地裏の風景は谷根千ではおなじみ。「“路上園芸鑑賞家”の村田あやこさんとまち歩きをした際、その家の個性、最近の流行まで分かったんです。その気づきがメディアづくりのきっかけにもなりました」(宮崎さん)(写真撮影/片山貴博)

軒先、塀の上などで思い思いに園芸を楽しむ路地裏の風景は谷根千ではおなじみ。「“路上園芸鑑賞家”の村田あやこさんとまち歩きをした際、その家の個性、最近の流行まで分かったんです。その気づきがメディアづくりのきっかけにもなりました」(宮崎さん)(写真撮影/片山貴博)

読み手がつくり手にもなる。制作過程が目的にもなるメディア

収益面でも挑戦がある。
通常のメディアは、媒体でもWebでも、広告収入でまかなうのが普通だ。しかしローカルメディアは対象が限られているため、こうしたマスメディアの広告ありきのスキームは限界がある。
そこで、目指すのは「当事者たちによる自立した収益モデル」。地域の事業者で構成されるパートナー会員に加え、個人のメンバー会員も募集。「編集会議」と「まちの作戦会議」に参加する権利が得られる。メンバーについては現状、オープン記念につき10月末まで無料で登録ができるとのこと。

読み手がつくり手も担うことで、制作物であるWebメディアとその制作過程(ビハインド)の両方がコミュニティの場となるのだ。

「毎月の編集会議はリアルとオンラインの併用を想定。未定ですが、それぞれの興味あるものをフックに、地域に関われるリアルな場を設けたいと考えています。イメージは部活。例えば写真部、カレー部、猫部、お茶部など。引越して、いきなり町内会はハードルが高いけれど、例えば、一見では入りにくいお店に、地元の常連さんと一緒に入ってみるのが、地元での関わりのきっかけになるかもしれません」(宮崎さん)

編集会議の様子(画像提供/HAGI STUDIO)

編集会議の様子(画像提供/HAGI STUDIO)

メディアを活用することで、リアルの場の活性化も期待

ローカルメディアの登場によって、現在実施している「リアルな場」も良い影響を与えることも期待を寄せている。

例えば、「HAGI STUDIO」が手掛ける「まちの教室 KLASS」は、地域の方が教え、教わることができる学び場だ。
「ただし多くは単発で、なかなか継続的な流れにならないのが残念でした。集客がままならないケースもありました。コロナ禍でオンラインも試みたのですが、“初めまして”でいきなりネット上は難しいと感じていました」と、HAGI STUDIOのKLASS担当、柳スルキさん。
「例えば、メディアが発信し続けることで、ゆるくつながる場になります。また、部活的なチームのようなものができれば、先生役も希望者がリレーでまわすこともできます。知り合いの中でなら、教える側になるのもハードルが低く、継続的な活動ができやすくなります。またチームとして顔見知りになればオンライン上のやり取りもスムーズになると思います」(柳さん)

柳スルキさん。韓国生まれ日本育ち。KLASS担当のスタッフで、ローカルメディア『まちまち眼鏡店』副店長(写真撮影/片山貴博)

柳スルキさん。韓国生まれ日本育ち。KLASS担当のスタッフで、ローカルメディア『まちまち眼鏡店』副店長(写真撮影/片山貴博)

コロナ前のKLASSの教室の風景。アイランドカウンターのキッチンがあり、料理教室が人気。地域の方を講師に迎え、近所の大工さんによる箸づくりや金継ぎ教室なども(画像提供/HAGI STUDIO)

コロナ前のKLASSの教室の風景。アイランドカウンターのキッチンがあり、料理教室が人気。地域の方を講師に迎え、近所の大工さんによる箸づくりや金継ぎ教室なども(画像提供/HAGI STUDIO)

また、取材をするという名目の上、普段つながりがないような街の人々から思わぬ話が聞け、街への理解が深まる面も。『まちまち眼鏡店』店長の坪井美寿咲さんは、宿泊施設「まちやど hanare 」では、ゲストの要望に合わせた街の情報を提供したり、案内したりする「まちのコンシェルジュ」としても働いている。
「私は、生まれも育ちも谷中。だからよく知っていると思っていたのですが、取材となると、消費者の私では気付けない面を知る機会を得ます。例えば、子どものころからよく買い物にいった魚屋さんに思わぬ物語があることを知ったり、寺の住職からは“こんな話、聞かれるまで忘れていた”なんてエピソードを聞いたり。逆に、ホテルの宿泊ゲストと街歩きを一緒にしたときは、自分がまったく気付いていなかった街頭ランプの美しさを教えてもらいました。メディアでの取材と、コンシェルジュの両方の業務で、街への解像度が上がってきたことを実感しています」

坪井美寿咲さん。「私は、地元、谷中の工務店の娘で、今も街のあちこちに知り合いが(笑)。街の皆さんに見守っていただきながら幼少期を過ごしました」(写真撮影/片山貴博)

坪井美寿咲さん。「私は、地元、谷中の工務店の娘で、今も街のあちこちに知り合いが(笑)。街の皆さんに見守っていただきながら幼少期を過ごしました」(写真撮影/片山貴博)

どこか懐かしいモダンなデザインの街灯ランプ。「ホテルのお客様が写真を撮られていました。私はいつもこの下を通っているのに、特別視をしたことがなかった。人の数ほど、街の見方があると実感した出来事でした」(坪井さん)(写真撮影/片山貴博)

どこか懐かしいモダンなデザインの街灯ランプ。「ホテルのお客様が写真を撮られていました。私はいつもこの下を通っているのに、特別視をしたことがなかった。人の数ほど、街の見方があると実感した出来事でした」(坪井さん)(写真撮影/片山貴博)

取材したのは4月の発行前の3月初旬。地元の人、編集者・ライターといった書くプロ、音楽家や料理家の専門家による「寄稿」をベースとして考えているとのこと。街の目利きによる、編集のプラットフォームだ。 
「通常、広告で成り立つネットの世界では、“PV(ページビュー)をいくら稼げるか”みたいなことが重要視されますが、今や単体でメディアを成立するにはもう難しい時代にきているのかなと。このローカルメディアは、地域に関わりたい人たちにとって、この街で暮らす上で必要なツールになることができれば成功だと思っています」(影山さん)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

●取材協力
・まちまち眼鏡店
・HAGI STUDIO

今!働くなら。

所在地:大田区上池台
33万円(税込) / 134.68平米
東急池上線「長原」駅 徒歩7分

オフィスのあり方が問われる昨今、企業それぞれがオフィスをどう有意義に使うか、模索を続けている状況だと思います。



僕が強く思うことは、リモートワークだけでは生まれない「何か」がオフィスにはあるということ。



経験豊富な頼れる上司、切磋琢磨する仲間たち、そしてそんな環境に身を置きど ... 続き>>>.
Posted in 未分類

レトロビルの不思議な一角

所在地:杉並区上井草
7万9,000円 / 39平米
西武新宿線「井荻」駅 徒歩5分

レトロなビルの3階部分。なんとも斬新な空間が待っていました。



広い1フロアを後から二つの部屋に分けたようなつくり。共用廊下からフローリングが続き、玄関が玄関ぽくない。



ミニキッチン、トイレ、シャワールーム、洗濯機置き場は共用廊下を挟んだところにつくられています。コンパクトです ... 続き>>>.
Posted in 未分類

夢に見た暮らし

所在地:杉並区井草
10万5,000円 / 43.57平米
西武新宿線「井荻」駅 徒歩3分

爽やかな風が抜ける部屋で、天井からつるしたハンモックに腰を下ろし、読書する。



いつか夢に見た暮らしが出来そうな物件のご紹介です。



今から10年前の2012年に、建築家であるオーナーの設計で建物全体をリノベーション。室内はもちろん、外壁や共用部も生まれ変わりました。今では201 ... 続き>>>.
Posted in 未分類

八丁堀の角地にて

所在地:中央区八丁堀
33万8,800円(税込) / 92.57平米
京葉線・日比谷線「八丁堀」駅 徒歩1分

八丁堀の駅近くの路面区画。交通量の多い新大橋通りから、路地に入った二八通り沿いの角地。



視認性がよく、ガラスで囲まれた1階はふらっと人が入りやすいつくり。メゾネットになっていて、地下1階のフロアもセットとなり、ゆったり広く使えます。



フロアが2つに分かれるので、ショップ兼事務 ... 続き>>>.
Posted in 未分類

オーシャンビューと大浴場

所在地:静岡県熱海市水口町
1,980万円 / 59.22平米
JR伊東線「来宮」駅 徒歩11分

★価格が下がりました★



窓の先には晴れ渡る空、青い海と、気持ち良すぎる眺望。おまけにマンション内にはサウナ付きの大浴場があるという、至れり尽くせりな別荘を手に入れませんか?



マンションが立つのは熱海駅の隣、来宮駅。「星野リゾートリゾナーレ熱海」や「ふふ熱海」といった良質な宿泊 ... 続き>>>.
Posted in 未分類

光広がるメゾネット-新築-

所在地:武蔵野市境南町
13万9,000~15万2,000円 / 43.4~53.19平米
中央線「武蔵境」駅 徒歩15分

縦に伸びる空間は素直に気持ちが良いです。どの区画もバーンと大きな窓があり、おかげで開放感があります。そんな2層のメゾネット、新築物件のご紹介。



5階建の建物のうち1・2階と、4・5階の2タイプあり、それぞれ入り組んだ空間構成になっていて、よくある2層のメゾネットとはひと味違う雰 ... 続き>>>.
Posted in 未分類

カクカク窓辺のワンルーム-新築-

所在地:武蔵野市境南町
8万9,000~10万円 / 26.93~31.75平米
中央線「武蔵境」駅 徒歩15分

シャープに大きく切り取られた窓と、シンプルながら手触り感のあるナチュラルな内装が魅力のフレッシュな新築物件。



ご紹介するのはコンパクトなワンルーム。このタイプがあるのは、5階建のマンションのうち、1階から3階。サイズ感は各部屋それほど変わらないので、自分にフィットする間取りを選 ... 続き>>>.
Posted in 未分類

一棟ビルのレアカード【オーナーチェンジ】

所在地:台東区松が谷
1億5,000万円(税込) / 400.84平米
銀座線「稲荷町」駅 徒歩8分

◆ 価格が下がりました! ◆



いつも斬新なリノベーション済み売買物件で驚かせてくれる、僕らの仲間の工務店さんが、一棟丸ごとリノベーションを施した古ビルを、【オーナーチェンジ物件】として募集します。



2022年にリノベーションが完了し、先日、全部屋の賃貸が埋まったばかりの建物で ... 続き>>>.
Posted in 未分類

僕たちの働きたいオフィスのかたち

所在地:目黒区下目黒
18万2,600円(税込) / 36.69平米
山手線・南北線・東急目黒線・都営三田線「目黒」駅 徒歩4分

◆ 賃料が下がりました! ◆



様々な飲食店で賑わう権之助坂から少し入ったレトロマンションの一室が、toolboxの**LINK|https://www.r-toolbox.jp/ex/skeleton_tools/**により生まれ変わりました!



水回りが収まる箱の特徴的な壁は ... 続き>>>.
Posted in 未分類

空き家を日替わりで活用。地域住民によるコーヒー店から結婚式場まで 東京都調布市深大寺

東京都調布市深大寺で空き家問題に取り組むコミュニティ「空き家をスナックする会」。「まずやってみる」をコンセプトに、メンバー自らが空き家のDIY改装を行い、工作や料理のワークショップ、間借りでの店舗運営、さらには結婚式など、さまざまな形で活用している。発起人の薩川良弥さんに、活動の背景やこれまでの事例、今後の展望について聞いてみた。

地域の人たちと空き家の活用方法を模索

――はじめに「空き家をスナックする会」とはなんですか?

薩川良弥(以下、薩川):空き家を活用することによって、街の活性化につなげることを目的としたコミュニティです。メンバーはオンラインでつながり、アイデアを出し合いながら企画を固め、みんなで実践していくチャレンジ型のチームですね。2018年3月に立ち上げて、現在の会員数は70名ほどです。

「空き家をスナックする会」の運営者、薩川良弥さん(写真撮影/松倉広治)

「空き家をスナックする会」の運営者、薩川良弥さん(写真撮影/松倉広治)

薩川:現在、主に運営している元空き家のスペースは2箇所。調布の深大寺エリアにある「いづみや」と「COMORI」です。「空き家をスナックする会」のメンバーであれば利用が可能で、それぞれが企画を発案して自ら協力者を募り、これまでにさまざまな形で利用されています。

――「いづみや」、「COMORI」はどんな施設ですか?

薩川:「いづみや」は元お蕎麦屋さんでした。10年ほど空き店舗だった建物を改装し、今は地域に住むメンバーに間借りしてもらって日替わりのお店を運営しています。リアルな店舗で思い思いの“商売”ができるということで、人気の施設になっていますね。現在、月の半分は埋まっていますよ。

もう1つの「COMORI」は、一般的な二階建ての一戸建て住宅なのですが、静かに1人の時間を過ごす、お一人様向けの宿として運営しています。深大寺の自然を感じながら集中したり、何も考えずに過ごしていただくことができます。

――薩川さんはなぜ「空き家をスナックする会」をつくろうと思ったんですか?

薩川:私はもともとコミュニティマネージャーの仕事をしていて、場の運営とコミュニティづくりをメインに活動してきました。そのなかで「いづみや」の存在を知り、私なりに活用方法を模索してみたんです。

外観や看板は現在もそのまま使用している(写真撮影/松倉広治)

外観や看板は現在もそのまま使用している(写真撮影/松倉広治)

薩川:一般的な空き家活用って、フルリノベーション後に貸すか売るか、もしくは自分で運営するかじゃないですか。でも、私の場合は地域住民に“参加”してほしかったんです。住民のみなさんに改装や運営にも加わってもらい、空き家活用を体験してもらうことで長期的に街に愛される場所になるのではないかと思ったんです。そこで、空き家とコミュニティをセットにしたオンラインサロンとして「空き家をスナックする会」を開くことにしました。

――空き家問題という街の課題について、住民自らが考えるきっかけにもなりますね。

薩川:そうですね。自分自身も、そうやって住民たちが自ら盛り上げていくような街で暮らしたいと思いますし、メンバーも同じような気持ちで参加してくれているように感じます。

――なるほど。ちなみに、「空き家をスナックする会」の“スナック”の由来って?

薩川:以前、(芸人で著作家の)西野亮廣さんが「これからは産業がスナックする」と話されていたんですよね。スナックに集まるお客さんって美味しいお酒やツマミというよりは、コミュケーションを求めていると。だから、ママに「片付けといて」と言われたら、お客さんも働く。つまり、商品を提供して消費するだけではなく、一緒につくり上げることがこれからは重要なんじゃないかというお話で、まさにそのとおりと思ったんです。その象徴がスナックなんです。

――たしかに。みんなで場をつくっている感じがします。

薩川:だから、空き家もオーナーさん、地域住民、行政、地域の企業、みんながフラットな関係でつくれたらいいなと思い、スナックという言葉を用いました。

壁面のペイントや置物はお蕎麦屋さん時代からのもの(写真撮影/松倉広治)

壁面のペイントや置物はお蕎麦屋さん時代からのもの(写真撮影/松倉広治)

空き家のオーナーさんへ飛び込み提案のはずが……なぜか「茶飲み仲間」に

――活動を始めるにあたって、最初はどんな課題がありましたか?

薩川:一番大変だったのは、そもそも空き家が見つからないことでした。いや、空き家自体はあるんですけど、安く借りられて、自由にリノベーションして活用できるような“都合のいい空き家”なんて、実際にはそうそうない。建物自体は魅力的でも、オーナーさんの意向であまり大掛かりなことはしたくないというケースもありますからね。そこで、いい感じの建物を見つけるたびに、手紙を出していました。100件くらいには投函したと思います。

――100件! すごい行動力ですね。

薩川:そんなことを半年ほど続けましたが、実際にオーナーさんと出会えた数でいうと7~8人でしたね。そんな時に「いづみや」の賃貸情報が出たんです。不動産会社を介して物件を見学させてもらい、オーナーさんともお話しすることができました。ただ、不動産会社が設定した賃料が高くて……。当時、とてもそんな予算はありませんでした。

「いづみや」のオーナーさん(右)と話し込む薩川さん(画像提供/薩川良弥)

「いづみや」のオーナーさん(右)と話し込む薩川さん(画像提供/薩川良弥)

――どうされたんですか?

薩川:とにかく、必死に熱意を伝えました。「いづみや」でやりたい事業プランを持っていき、「現状の家賃では難しいのですが、ただただチャレンジしたいんです」と。当時のプランは、1階はコミュニティースペースとして運営し、2階は民泊として外国からの観光客向けに貸し出す、みたいなものでしたね。

――想いは伝わりましたか?

薩川:もちろん、すぐに結論は出ませんでした。ただ、オーナーさんには「信用できるやつだな」と認識していただけたようで、連絡を取り合うようになったんです。気付いたら、一緒にお茶をする関係になっていましたね。

――なんと……!

薩川:それから2~3カ月後くらいですかね、「1日だけお試しで営業してみる?」というようなことを言っていただきまして。僕はそこで「いづみやで何かしたい人は、きっといっぱいいます。僕が地域住民を集めるので、どのように生まれ変わらせるのがいいか、みんなで考える会を開きたいです」と提案しました。

オーナーさんは半信半疑でしたが、告知したところ一瞬で40席が埋まったんです。空き家の活用に興味がある人は多いだろうと思っていたけど、正直、ここまでの反応は予想していませんでしたね。オーナーさんも、ここまで人が集まるならと、私が管理することを条件にしばらく使わせてもらえることになりました。

地域住民と一緒に「いづみや」の活用方法を話し合った時の様子(画像提供/薩川良弥)

地域住民と一緒に「いづみや」の活用方法を話し合った時の様子(画像提供/薩川良弥)

――事業の内容云々の前に、薩川さん自身を認めてもらえたような感じですね。

薩川:そうであれば嬉しいですね。オーナーさんとは今も月に一度、活動の報告会をさせていただき一緒にお茶を飲んでいます。私はもちろん、オーナーさんも楽しそうで、良好な関係を築くための大切な時間になっていると思います。

ちなみに、「いづみや」の運営が始まってから4年が経った今も賃貸借契約は結んでおらず、オーナーさんのご好意で月額の家賃ではなく、その都度安価で貸していただいています。お金だけではなく、人と人との関係性によって成り立っているんです。「いづみや」でやりたいのも、まさにそれ。この場所で地域住民がつながることで、さまざまな街の課題を解決していきたいと思っています。

特に何もしなくても、人と人が自然につながるコミュニティが理想

――「いづみや」では、当初どんな活動をしましたか?

薩川:当初から今のような「間借り」で運用することを考えていたので、まずは飲食許可を取得するための改装を行いました。資金はクラウドファンディングで募り、最終的に200万円ほどのご支援をいただくことができました。

クラウドファンディング前の「いづみや」のキッチン(画像提供/薩川良弥)

クラウドファンディング前の「いづみや」のキッチン(画像提供/薩川良弥)

メンバーとキッチンを改装(画像提供/薩川良弥)

メンバーとキッチンを改装(画像提供/薩川良弥)

クラウドファンディングで支援を受け、生まれ変わったキッチン(画像提供/薩川良弥)

クラウドファンディングで支援を受け、生まれ変わったキッチン(画像提供/薩川良弥)

――間借りをする人はどうやって集めましたか?

薩川:口コミもありましたが、多くは実際に「いづみや」に来たお客様ですね。その日に入っているお店の人と話すなかで「私は木曜日だけ借りているんですよ」みたいな会話から少しずつ増えていきました。大々的に告知をしているわけではないので一気に借り手が増えることはありませんが、このゆるやかなスピード感と、こぢんまりとした規模感が逆に良いと思っています。

なぜなら、そのほうが関わるメンバー全員に当事者意識が生まれます。実際、掃除もみんなでやるし、お店の使い方も私が決めるのではなく、みんなで話し合っています。そうやって、みんなで少しずつ意見を出し合いながら運営していくスタイルが理想的だと思うんです。

――新しく加わる人もネットの情報だけではなく「場の雰囲気」を見て決めているから、ギャップを感じることも少なそうです。

薩川:そうですね。空き家活用ってなんとなくイケてる!お洒落!みたいなイメージだけが先行して、現場の実態を知らないまま来られてしまうと、ちょっと難しいように思いますね。正直、古い空き家って隙間風もすごいし、不便なところもたくさんあります。それに対して「ちゃんと管理して直してくれないと困るよ!」と言われてしまうと、少し辛いかなと。そんな部分も含めて、この場所を愛してくれる人と一緒にやっていきたいです。

――現在、どんな店舗が入られていますか?

薩川:今日(取材日)のコーヒー屋さんをはじめ、壺の焼き芋屋さん、バリ料理屋さん、薬膳カレー屋さん、チャイ屋さん、グルテンフリーカフェ、ほかにも単発でそば打ち体験イベントなどを開催しています。基本的には地域住民が多く、何かチャレンジしてみたい、この場を活用してみたい、という方々にご利用いただいています。

毎週木曜日に出店している自家焙煎コーヒー「みよし珈琲(344coffee)」。コーヒー豆は「いづみや」で焙煎している(写真撮影/松倉広治)

毎週木曜日に出店している自家焙煎コーヒー「みよし珈琲(344coffee)」。コーヒー豆は「いづみや」で焙煎している(写真撮影/松倉広治)

――薩川さんも毎日いるわけじゃないですよね? それでも問題なく運営できていますか?

薩川:そこは入居いただいているみなさんのおかげですね。本当に人柄が良い方ばかりで、私がここにいられない時でも安心して場を任せられます。それに、最近は私がいなくても、自然と人と人のつながりが生まれているんですよ。今日のコーヒー屋さんでも、ここでお客さん同士が出会い、ランチ仲間になったりしています。そうやって、こちらが特に何もしなくても勝手につながりが生まれていくのがコミュニティの本質だと思います。そういう意味では、順調に場が育ってくれているのかなと。

――過去にはここで結婚式もやられたそうですね。

薩川:はい。といっても、私の結婚式なんですが。いづみやで食事を提供し、裏の駐車場にミュージシャンを呼んで、野外パーティーみたいな結婚式でした。我ながら良い式だったなと思うので、次は他のカップルの結婚式もやりたいですね。

薩川さんの結婚式。オーナーさんもとても喜んでくれたそう(画像提供/薩川良弥)

薩川さんの結婚式。オーナーさんもとても喜んでくれたそう(画像提供/薩川良弥)

街の人たちの力を結集し、完成した「森の宿」

――もう一つのスペース「COMORI」の経緯も教えてください。

薩川:こちらも「いづみや」と同じオーナーさんの所有物件で、何年も空き家でした。そこで、サロンのメンバーだけでなく、「いづみや」で出会った方々と一緒につくり上げたんです。例えば、WEBデザイナーのメンバーにサイトをつくってもらったり、コーディネーターに家具を選定してもらったり。企画の段階からみんなで考え、みんなの力を借りながら一緒に形にしていきました。そのぶん、完成した時の喜びも大きかったですね。最初から理想としていた「空き家という課題を、街のみんなで解決する」ことができたのは、とても感慨深かったです。

深大寺の小さい森の中にある、お一人様用の宿「COMORI」(写真撮影/松倉広治)

深大寺の小さい森の中にある、お一人様用の宿「COMORI」(写真撮影/松倉広治)

茶室をイメージした和室(画像提供/薩川良弥)

茶室をイメージした和室(画像提供/薩川良弥)

空き家を通じて、街と街をつなげたい

――4年にわたり「いづみや」を運営してきて、街の人たちからの反応は変わってきていますか?

薩川:少しずつ「いづみや」の存在を認知していただいていると感じます。当初は深大寺という場所柄、観光客の方が中心だったのですが、最近は地域住民のお客様が増え、近所のお蕎麦屋さんなども世間話がてらお茶を飲みに来てくださるようになりました。大きなことではないかもしれませんが、4年かけて街の人が気軽に立ち寄ってくれる場所になったことは、素直に嬉しいですね。

今では地域の交流の場にもなっている(写真撮影/松倉広治)

今では地域の交流の場にもなっている(写真撮影/松倉広治)

――街に「いづみや」のような場所があるだけで、街がどんどん面白くなっていく気がします。今後はどんな展開を考えていますか?

薩川:「いづみや」も「COMORI」も古い建物なので、2階の積極的な活用は避けてきました。とはいえ、せっかくスペースがあるので、なんとか活用したいです。これもメンバーや街のみなさんと一緒に模索していきたいと思います。また、これからは他の空き家の活用も手がけていきたいですね。

オンラインサロンを通じて、それぞれのスタンスで空き家活用に関われる仕組みづくりも模索している(写真撮影/松倉広治)

オンラインサロンを通じて、それぞれのスタンスで空き家活用に関われる仕組みづくりも模索している(写真撮影/松倉広治)

――調布以外での活動も考えていますか?

薩川:そうですね。今は調布でコミュニティとして活動させてもらっていますが、空き家を通じて「街」と「街」がつながっていくようなことができたら面白いと思います。「空き家をスナックする会」がハブとなって人や情報をつなぐことで、姉妹都市のような関係性が生まれるかもしれません。そして、もしかしたら調布からそこに移住するメンバーも出てくるかもしれないですよね。

理想は、空き家を軸に他の街のコミュニティともつながっていき、その輪をどんどん広げていくこと。そのためにも、これからもチャレンジしていきたいですね。

全国的に増え続けている「空き家問題」。しかし、オーナーさんとつながることで、地域にとって意義のある場所へ変化させることができるかもしれない。今後、薩川さんが手がける空き家が楽しみだ。

●取材協力
空き家をスナックする会
深大寺いづみや
COMORI

痺れる憧れる

所在地:世田谷区駒沢
12万8,000円 / 27.31平米
東急田園都市線「駒沢大学」駅 徒歩3分

天高3.8mのコンクリート打ちっぱなしの空間。コンクリート・ステンレス・スモークガラスなど、使われている素材はどれもスタイリッシュ。カッコいい家具やアートがハマることは安易に想像ができます。



東側の壁には天井までバチっとはめ込まれた大きな窓。この窓のおかげでコンクリートの閉塞感 ... 続き>>>.
Posted in 未分類

二人暮らしの理想形

所在地:新宿区新小川町
22万5,000円 / 59.92平米
東西線「飯田橋」駅 徒歩10分

理想型、とタイトルでご紹介するためにはまず、担当である僕が心からそう思えていなければなりません。日々色んな物件を紹介してますが、二人暮らしだった頃の自分が住みたいとしたらまさにこんな部屋!とグサグサに刺さってしまった物件をご紹介します。



建築関係の仕事を本業とするオーナーが設計 ... 続き>>>.
Posted in 未分類

空に近い住空間

所在地:文京区大塚
24万円 / 71.59平米
丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩7分

大きな窓の向こうに、抜け感が気持ちのいい景色と、ウッドデッキ敷きのルーフバルコニー。



まだ築23年ほどのマンションでありながら、9年前にフルリノベーションされた内装は、モールテックスの天板で造作されたキッチンに無垢のフローリング、大谷石を使った玄関や木のつまみがかわいい収納扉な ... 続き>>>.
Posted in 未分類

古ビルサプライズ!

所在地:千代田区東神田
66万円 / 148.83平米
総武快速線「馬喰町」駅 徒歩2分

なんの変哲もない角地の古ビルに、こんなに天井が高く、胸を熱くさせてくれるような空間が広がっているなんて、誰が想像できたでしょう。



天井高約5mと、一般的なオフィスの倍近くは高さがある室内。そのスケール感に圧倒され、なんだか少し慣れないような、そわそわしてしまうような、気がつけば ... 続き>>>.
Posted in 未分類

河川敷に住んでます

所在地:世田谷区玉川
5,980万円(税込) / 56.67平米
東急田園都市線・東急大井町線「二子玉川」駅 徒歩3分

角部屋の利点を活かし、L字型に多数の窓が配置された図面を見るだけでも、開放的で気持ちのよい家であることが分かるこの家。



人気の二子玉川駅から徒歩わずか3分の距離にある、レトロで可愛らしい外観のこのマンションは立地が特徴的で、まさに多摩川の河川敷にあるといっても過言ではないロケー ... 続き>>>.
Posted in 未分類