白馬村から雪が消える?! 長野五輪スキー会場も直面の気候変動問題、子ども達の行動で村も変化

スキーやスノーボードをする人、山を愛する人はもちろん、そうでない人にもおなじみのリゾート地、長野県白馬村。長野五輪も開催されたこの村は、サーキュラーエコノミー(循環経済)に本気で取り組み、2021年にはグッドデザイン賞も受賞しました。人口1万人弱の小さな村で今、何が起きているのでしょうか。現地で取材してきました。

スノーリゾートで人気の街が雪不足の年も。気候変動を体感し、危機感連休明けの5月、白馬の人たちは「今が一番いい季節」と口をそろえていました(写真撮影/嶋崎征弘)

連休明けの5月、白馬の人たちは「今が一番いい季節」と口をそろえていました(写真撮影/嶋崎征弘)

“白馬村とサーキュラーエコノミー”と聞いて、その関係にすぐにピンとくる人は少ないかもしれません。また、大変お恥ずかしい話ですが、筆者は「サーキュラーエコノミー」を正しく理解しておらず、「環境問題に関することでしょ?」などとぼんやり捉えていましたし、正直に話すと、環境問題に特に意識の高い人達にしかまだ定着していない言葉なのかなと思っておりました。

植えられたばかりの稲が風にそよいでいます。山の近さがおわかりいただけるでしょうか(写真撮影/嶋崎征弘)

植えられたばかりの稲が風にそよいでいます。山の近さがおわかりいただけるでしょうか(写真撮影/嶋崎征弘)

サーキュラーエコノミーとは、日本語に直訳すると「循環型経済」で、廃棄されてきた製品や原材料を資源ととらえ、限りなく循環させていく経済の仕組みのことをいいます。今まで製品は生産、消費、廃棄が一方通行で大量生産大量消費を繰り返すことで経済を発展させてきましたが「サーキュラーエコノミー」では、使用が終わった製品を廃棄せずに資源と捉えて循環させ、廃棄物と汚染を発生させずに、環境と経済を両立するという考え方です。

欧州を中心に今、急速に世界中に広まりつつある考え方ですが、では、なぜ日本のリゾート地である白馬村でいち早く取り組んでいるのでしょうか。その背景を聞いてみました。

お話を聞かせてくださった白馬村観光局の福島洋次郎さん。真冬でも日課である犬散歩が大好きな愛犬家です(写真撮影/嶋崎征弘)

お話を聞かせてくださった白馬村観光局の福島洋次郎さん。真冬でも日課である犬散歩が大好きな愛犬家です(写真撮影/嶋崎征弘)

「そもそものはじまりは地元の高校生のアクションなんです。この数年、雪不足の年があったと思ったら、ドカ雪の年があったり。『気候変動の影響かね』『スノーリゾートなのに雪がないなんて笑えないよね』なんて私たちも話していたんですが、子どもたちは自分ごととして捉え、2019年、気候変動危機を訴える『グローバル気候マーチ』を起こしたんです」と話してくれたのは、白馬村観光局で働く福島 洋次郎さん。

子どもたちの真剣な意思表示を、白馬村の大人たちは無視しませんでした。2019年、『白馬村気候非常事態宣言』を白馬村の村長が打ち出し、白馬村では持続可能社会のあり方を考える「サーキュラーエコノミー」に取り組むようになったのです。雪の減少による観光客減という背に腹は代えられない面もあったのかもしれませんが、山を愛し、気候変動を肌に感じるからこそのスピード感といえるかもしれません。

5月の白馬の峰々。圧倒的に尊く、「これは次世代に引き継ぐべき宝だ!」という思いに駆られます(写真撮影/嶋崎征弘)

5月の白馬の峰々。圧倒的に尊く、「これは次世代に引き継ぐべき宝だ!」という思いに駆られます(写真撮影/嶋崎征弘)

取材で訪れたのはウィンターシーズンが終わり、新緑が眩しい5月でした。大きく美しい空と山に残る雪、緑に圧倒され、「環境問題はファッションやきれいごとではないんだ」と胸に迫ってきます。「意識高い」などと思っていた自分の浅はかさ、愚かさが心底恥ずかしくなりました。

雪解け水が地下を通り、湧水となってできた青木湖。夏のアクティビティとしてサップ体験が人気です(写真撮影/嶋崎征弘)

雪解け水が地下を通り、湧水となってできた青木湖。夏のアクティビティとしてサップ体験が人気です(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

湧水ならではの透明感と美しさ。都会で薄汚れた心を浄化してくれました(写真撮影/嶋崎征弘)

湧水ならではの透明感と美しさ。都会で薄汚れた心を浄化してくれました(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

断熱改修、自然エネルギー由来の導入など、行動が早い

そこからの動きは素早く、2020年夏には白馬村で初めての「GREEN WORK HAKUBA」が開催されました。これは、白馬村の事業者や村外のパートナー企業がカンファレンス、ワークショップを重ねながら、白馬村の課題を掘り出し、持続可能なリゾートへと変化するために、解決法や取り組みを考えるプロジェクトです。広告会社の新東通信内に設置された「CIRCULAR DESGIN STUDIO.」と協力して立ち上げました。

過去の「GREEN WORK HAKUBA」開催時の様子(写真提供/CIRCULAR DESGIN STUDIO.)

過去の「GREEN WORK HAKUBA」開催時の様子(写真提供/CIRCULAR DESGIN STUDIO.)

「サーキュラーエコノミーを発信する日本のトップ研究者、SDGsに力を入れていて環境保全にも取り組む企業関係者などが白馬村に滞在・宿泊しながら、持続可能な経済、白馬村のあり方について、ディスカッションしたりアイデアを出し合ったりします。山の目の前、大自然・屋外でワークショップするとね、普段は出ないようなアイデア、素直な議論ができるんですよ」と福島さんは続けます。

GREEN WORK HAKUBAのワークショップ会場「白馬岩岳マウンテンリゾート」(写真撮影/嶋崎征弘)

GREEN WORK HAKUBAのワークショップ会場「白馬岩岳マウンテンリゾート」(写真撮影/嶋崎征弘)

自然に囲まれてワークショップをする「GREEN WORK HAKUBA」、今年も7月に開催予定です(写真撮影/嶋崎征弘)

自然に囲まれてワークショップをする「GREEN WORK HAKUBA」、今年も7月に開催予定です(写真撮影/嶋崎征弘)

白馬三山に向かって漕ぎ出すブランコは、ゼロ・カーボンだけど体験したくなるアクティビティ。発想がすごい(写真撮影/嶋崎征弘)

白馬三山に向かって漕ぎ出すブランコは、ゼロ・カーボンだけど体験したくなるアクティビティ。発想がすごい(写真撮影/嶋崎征弘)

すごいのはアイデアを出して終わりだけではなく、行動まで進めてしまうところ。たとえば、課題としてあげられていたのが、白馬南小学校をはじめとした校舎や建物の断熱性能の低さ。2021年秋には、企業やプロの協力をとりつけ、小学生のDIYによって断熱改修が行われたそう。

「企業に断熱材を提供してもらい、建築士の先生、地元の工務店のプロに手ほどきを受けながら、小学生自身が校舎の断熱改修を実施しました。すると教室が大幅に暖かくなり、今まで昼にはなくなっていた灯油が午後まで残り、驚くほど暖かくなったそうです」(福島さん)

(写真提供/白馬村観光局)

(写真提供/白馬村観光局)

「建物の断熱性を高めてエネルギー消費量を減らし、二酸化炭素の排出量を削減しつつ、教室も暖かくなって健康・快適になる」、そんな経験、お金を払ってでもしてみたいです。しかも小学生のうちから経験できるなんて、うらやましい……。そして何よりすばらしいのが、絵に描いた餅だけでなく、行動をしているところ。すばやい取り組みを見ると、みなさん本気なんですね。

リフトは自然エネルギー由来の電力へ切り替え、照明もLED化するなど、省エネや環境への負荷を低くするための投資・修繕を現在進行形で実施中(写真撮影/嶋崎征弘)

リフトは自然エネルギー由来の電力へ切り替え、照明もLED化するなど、省エネや環境への負荷を低くするための投資・修繕を現在進行形で実施中(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

岩岳マウンテンリゾートの自動販売機で販売しているのは瓶入りのコーラ!(写真撮影/嶋崎征弘)

岩岳マウンテンリゾートの自動販売機で販売しているのは瓶入りのコーラ!(写真撮影/嶋崎征弘)

瓶のほうが再利用は容易です。そしてなぜでしょう、大変美味しく感じます(写真撮影/嶋崎征弘)

瓶のほうが再利用は容易です。そしてなぜでしょう、大変美味しく感じます(写真撮影/嶋崎征弘)

エコなスキー場、ゴミ削減、ゼロ・カーボンの移動など、やりたいこと山積み!

とはいえ、サーキュラーエコノミーの取り組みははじまったばかり。やりたいことばかりが出てきて、実現できるものもあれば、追いつかないものもあると、福島さんは苦笑します。

村を見下ろすこの特等席。よい風景があれば実は何もいらないのかもしれません(写真撮影/嶋崎征弘)

村を見下ろすこの特等席。よい風景があれば実は何もいらないのかもしれません(写真撮影/嶋崎征弘)

「白馬も基本的に車社会なので、旅行者もレンタカーを借りる人が多いんです。でも、サーキュラーエコノミーをうたっているのに、自動車頼みでいいの? という意見があって、『人力車で村をめぐる』というアクティビティがうまれました。しかも引き手は白馬在住のプロ山岳ランナー。白馬でしかできない体験です。ただ、選手なので遠征のときは利用できないんですよ(笑)」と明かします。

また、白馬には約500件の宿泊施設があり、年間250万人が訪れているそう。当然、排出されるゴミの量も半端ではなく、当然、人口約9000人の村では処理しきれないので、周辺自治体と広域で運営する焼却施設に廃棄しています。

「排出ゴミの削減は切実な課題なんです。1つのホテル、1つのスキー場だけは限界があるので、連携してなにかできないかという取り組みもはじまっています。たとえば、ホテルのアメニティを協同のブランドにするなどですね。脱プラを進めるためにも、容器がプラスチックの液体ではなく石鹸のように固体のアメニティにしたいなど、アイデアはたくさんでています」といいます。

白馬ノルウェービレッジのカフェでは、出た食品廃棄物をコンポストで肥料にしています。できた肥料を畑で使い、夏には立派な野菜ができます(写真撮影/嶋崎征弘)

白馬ノルウェービレッジのカフェでは、出た食品廃棄物をコンポストで肥料にしています。できた肥料を畑で使い、夏には立派な野菜ができます(写真撮影/嶋崎征弘)

白馬ノルウェービレッジ(写真撮影/嶋崎征弘)

白馬ノルウェービレッジ(写真撮影/嶋崎征弘)

こちらはコンポストでつくった肥料を使って夏野菜を育てている畑。ナス、きゅうり、トマトなどは併設のカフェでも出しているそう(写真撮影/嶋崎征弘)

こちらはコンポストでつくった肥料を使って夏野菜を育てている畑。ナス、きゅうり、トマトなどは併設のカフェでも出しているそう(写真撮影/嶋崎征弘)

白馬村は耕作放棄地が少なめ。畑や水田を利用希望者へと受け渡すマッチングも促進しているそう(写真撮影/嶋崎征弘)

白馬村は耕作放棄地が少なめ。畑や水田を利用希望者へと受け渡すマッチングも促進しているそう(写真撮影/嶋崎征弘)

また、スキー場の設備の劣化やメンテナンス、季節ごとの閑散期と繁忙期の差や、各施設の収益力アップも課題になっているそう。
「いくら環境にやさしくても雇用を維持できなければ、持続可能とはいえません。白馬のスキー場は高度経済成長期につくられた設備も多いので、当然、メンテナンス・新しい設備投資も必要になる。夏のアクティビティのバリエーションを増やしたり、テレワークの場所としてアピールしたり。リゾートとして注目されるための新規の設備を設けたり、中長期で必要な設備投資をしつつ、暮らしている人の満足度や幸せ度を上げていけたらいいですよね」(福島さん)

将来的には「カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出を全体としてゼロにする)」から一歩進んで、「カーボンネガティブ(二酸化炭素を排出せずに、他地域の二酸化炭素を吸収している)」という構想もあるとか。

地球温暖化は世界の問題で、一つの地域で取り組んでも、その効果は限定的かつ、努力した地域に効果が変えるというものでもありません。白馬村のような先進的的取り組みがさらに様々な地域で展開されていく必要があります。環境と地方の観光、経済を両立する。小さな村ではじまった本気の取り組みが、他の町や村にもよい競争として波及し、さらなる好循環(まさにサーキュレーション!)を生み出すことを期待したいです。

●取材協力
白馬村観光局
GREEN WORK HAKUBA
CIRCULAR DESGIN STUDIO.

斬新な暮らしに挑戦!

所在地:中野区南台
12万円 / 45.63平米
京王新線「幡ヶ谷」駅 徒歩14分

らせん階段でつながれた3層のフロア。生活感のない美しい空間をどのように使いこなすか、想像力が試される物件です。



図面をよく見て考えると広めのワンルームのような間取り。3階のキッチンのある空間がリビング兼寝室となるかと思います。



1階の浴室脇の小部屋を納戸にして、荷物をここに全 ... 続き>>>.
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絵になるワンルーム -最上階-

所在地:江東区森下
8万円 / 26.65平米
都営新宿線「菊川」駅 徒歩2分

広めの土間に、スタイリッシュなカウンターキッチン、小上がりの居室など、遊び心がたっぷり詰まった部屋です。



ワンルームですが、土間と小上がりで段差がつくことによりメリハリのある空間になっています。



キッチンはステンレスの天板が少し大きめにつくられているので、椅子を置いて、ちょっ ... 続き>>>.
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森を泳ぐ船

所在地:葉山町堀内
1億5,500万円 / 199.75平米(建物) 357.19平米(敷地)
JR横須賀線「逗子」駅 バス16分 「葉山小学校」バス停 徒歩10分

森に沿って佇むこの家では、緑に包まれているのに、どこか船に乗っているような感覚にさせてくれます。



それはとても安心できる感覚と、パワフルな緑がくれるエネルギーに満ちています。まるで母なる抱擁感のある海と、力強い父のように勇ましい波を感じさせるとでも言いましょうか。



「海と山ど ... 続き>>>.
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公園前のおもちゃ箱

所在地:川崎市幸区南幸町
1億6,500万円 / 158.92平米(建物) 131.13平米(敷地)
JR東海道本線「川崎」駅 徒歩11分

<価格変更となりました>



子どもたちが楽しそうに遊びまわっている公園の前にある、閉じられたコンクリートの箱。いざ入ってみると、その箱の中はとても楽しげで、まるでおもちゃ箱のような空間だったのです。



この箱型の家は、お仕事では大規模建築を設計されている方の自邸でした。そこにご友 ... 続き>>>.
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ウメガオカの長屋

所在地:東京都世田谷区代田
9万円 / 22.34平米
小田急線「梅ヶ丘」駅 徒歩4分

駅前の商店街を抜け、路地を一本入ったところに立つ三軒長屋が、今回の物件です。パッと見た感じ、いわゆる普通のアパートではなく、一戸建てのような印象を受けますが、ちゃんと玄関が3つあって、各住戸1・2階が専有部になっています。



道路から建物を見て左側に通路があり、その通路に沿って、 ... 続き>>>.
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そのままどうぞ!

所在地:渋谷区千駄ヶ谷
29万6,120円(税込) / 49.46平米
中央線「千駄ヶ谷」駅 徒歩5分

引っ越して片付けが終われば、その日から雰囲気良いオフィスとして使えるリノベオフィス。



もちろん自分たちで改装プランを練って、良い雰囲気にリノベーションというのが1番納得行く姿になるのでしょうが、そのまま使えるのはやはり大きい!



天井は抜かれて、壁面とともに白塗装。床は質感の良 ... 続き>>>.
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NY、経済活動再開で家賃相場が30%増の地域も! シビアな世界の不動産事情

新型コロナウイルス感染症拡大で、2020年以降大打撃を受けたアメリカ・ニューヨーク。一時はロックダウンで街から人が消え去り、さらにはリモートワーク/テレワークなどの新たな働き方の浸透によって、多くの市民が市外や州外へ転出した。それに伴って、市内の不動産価格や家賃が下落。あれから2年。コロナ禍3年目となった今、感染状況は一進一退だが、不動産価格や家賃相場は再び上昇傾向になっている。そこには全世界から人が集まる大都市ならではの「ある理由」があった。

NYと日本、いま「住みたい街」とは?

アメリカの大都市ニューヨークでは、東京や大阪などと同様に、街によってそこを選ぶ人の世代やライフスタイルが異なる。収入が十分でない若年層が注目するのは、マンハッタンの外れの地域や、川を越えたクイーンズだ。タウンハウスという一軒家を借りて何人かでシェアしていることもある。子育てをしているファミリー層はマンハッタンから電車で1時間ほどの郊外にある、広い庭付きの一軒家が好まれる傾向がある。富裕層はマンハッタンのパークアベニューやアップタウン、トライベッカなどに好んで住む傾向だ。個性を求めているアーティストには、クリエイティブで独自の文化があるマンハッタンのダウンタウンや、広いロフトが多いブルックリンなどが人気だ。

ブルックリン(写真/PIXTA)

ブルックリン(写真/PIXTA)

ちなみに日本では、今コロナ禍による影響も大きな要因となって、都心よりも郊外の人気がやや上昇している。在宅時間が長くなり、人々が利便性に優れた都心だけでなく郊外の住環境などにも目を向けた結果だろう。 今年発表された「SUUMO住みたい街(駅)ランキング2022」でも、横浜駅や吉祥寺駅、恵比寿駅の人気は相変わらずだが、上位に埼玉県の大宮市や浦和市など、郊外の都市がランクインしたのが特徴的だった。

ニューヨークも同様、観光客が多いマンハッタンの繁華街ではなく、中心部から少し離れた場所や郊外などが「住みたい街」として注目されている。

2年前、この街は新型コロナウイルスの感染拡大によって大打撃を受け、経済が壊滅状態となった。感染を避けるため、またはリモートワーク/テレワークの浸透によって、多くの市民が市外や州外へと続々と転出したことが地元メディアでも報じられた。それによって、不動産価格や地価、家賃の下落が起きたのだ。不動産の調査をする「ストリート・イージー」によると、2021年1月~3月期のマンハッタンの月の家賃の中央値はコロナ騒動が勃発した時期の前年同期比17%減の2700ドル(当時の為替で約29万円)だった。これは集計を開始した10年以来で最低の数値だった。

コロナ禍3年目、不動産市場が再び活況に

しかしコロナ禍3年目となる今、ニューヨーク市内での不動産価格や地価、家賃の上昇が伝えられている。

「ニューヨークは戻った」という見出しを掲載したビジネス誌『FORTUNE(フォーチュン)』のウェブ版記事は、「アメリカの金融資本の需要はかつてないほど高まっている」とし、マンハッタンの家賃が記録的な金額に達したと報じた。

マンハッタン(写真/PIXTA)

マンハッタン(写真/PIXTA)

同誌によると、マンハッタンの家賃は昨年に比べて24%も上昇したという。中央値は昨年より705ドル(9万円以上。1ドル128円計算。以下同)も値上がりし、(今年3月時点で)3700ドル(47万円超え)に。家賃の上昇は、オフィス勤務の復活や学校再開に伴い人々が市内に戻り、空室が少なくなったことを意味する。空室率は昨年2月の時点で12%近かったが、今年の同時期は1.32%まで下がっている。

マンハッタン以外でも、ブルックリンで昨年に比べて10.5%上昇し、中央値は2900ドル(37万円超え)、クイーンズで14.5%上昇し中央値は2888ドル(37万円超え)に達するなど、市内の至るところで家賃が上昇している。

地元メディアのニューヨークポストによると、特に中心部や繁華街(マンハッタンのアッパーウェストサイドやダウンタウン、ブルックリン)の駅近くの物件において家賃が上昇傾向にあるという。

NY、エリア別の家賃相場

家賃が東京の2倍もしくはそれ以上とも言われるニューヨーク。家賃相場はエリアにより、また間取りやビルの状態などによって異なる。
ニューヨークは全体的に家賃が急上昇しています。特にマンハッタンは前年同月比で30%くらい上がっていると思います。ブルックリンも負けずに上がっています」と話すのは、滝田不動産(Yoshi Takita REALTOR(R))の代表、滝田佳功(たきたよしのり)さん。

Living NY社に勤務する、ニューヨーク州認定の不動産エージェント、木城祐(ひろし)さんも、「特に家賃が上昇しているのはマンハッタンです。アッパーマンハッタン(北部)など一部エリアを除いて、上がり続けています」と話す。

アッパーウエストサイド(写真/PIXTA)

アッパーウエストサイド(写真/PIXTA)

木城さんによると、昨年は入居者を呼び込むための優遇措置で、家賃割引や仲介料なしといった物件もあったが、現在の市場ではそれらの優遇措置はほぼ見られないという。

「日本人留学生などに人気のイーストビレッジ地区やローワー・イーストサイド地区ではパンデミック中、入居者が大量に流出し、多数の空室が出て大家は頭を抱えました。しかし昨年秋に市内の大学が対面授業の再開を発表するや否や、学生が州外や国外から市内に戻り、瞬く間に空室がなくなってしまったのが印象的です」(木城さん)

また前述の「優遇」の恩恵を受けた入居者も1年契約が終わった途端に家賃が大幅に高騰し、住み続けられず慌ててほかのアパートを探すケースもよくあるという。

滝田さんは、学校が再開して学生が戻ってきたあと、学生寮のルームシェアが撤廃されたため、寮以外の一般のアパートを借り始めた学生も多いという情報を聞いており、そんな事情も家賃上昇に拍車をかけている一因になっていそうだ。

学生だけでなく、新しくビジネスを始める人々や一度は郊外や州外に引越しをしたがやはりニューヨーク市内での生活が良いと感じた人などが戻り、市内を拠点にしたことで、家賃の高騰に拍車をかけた。

家賃以外で、暮らしで変化したこと

ニューヨーカーの暮らしを圧迫しているのは家賃だけではない。物価高騰も暮らしを圧迫している。
家賃上昇に加え、最近アメリカでは記録的なインフレが続いている。2021年から加速して39年ぶりの高水準となり、ガソリンや日用品、食費などあらゆる物価が高騰している。特にロシアによるウクライナ侵攻後、ガソリン価格が過去最高値を更新した。

また、物不足も深刻だ。住宅建築需要の増加によって、木材不足・価格高騰(ウッドショック)や半導体などあらゆる不足が連日ニュースとなっている。そして最近は、粉ミルク不足も大きな社会問題となっている。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

今後、家賃相場の高騰に対するなにか対策がされていくのか

また、インフレとは無関係に、世界を代表する大都市ニューヨークは、世界中から移住者が増え続けており、家賃は恒常的に毎年上昇し続けている。ブルックリンのアパートに住む筆者の家賃も、13年前の引っ越し当初の家賃と比べて、円にして数万円単位で値上がりしている。家賃上昇と物価高騰のWパンチで、ますます大都市は住みにくくなっている。

「この街を一層ユニークで味のあるものにしてきたのは、ここで生まれ育ったニューヨーカーたち。そんな彼らが、物価上昇と家賃の高騰に悲鳴を上げている。以前と同じ住居やエリアに住み続けられないのだとしたら、それはとても残念なことです」と、木城さんは話す。

滝田さんも、以下のように言う。
「ニューヨーク州の条例では、コロナ禍に家賃が払えなくなった住民のために『Eviction Moratorium(強制立ち退き猶予)』が設けられ、今年1月15日まで、大家による強制立ち退きは禁止されていました。またハードシップ手当として、家賃支払いができない人のための補助金も出ていたので、本当に家賃が支払えなくて退去させられた人は少ないと思います。また、生活費に困窮した市民が申請し、審査に通れば、よりリーズナブルな家賃で住める『アフォーダブルハウジングのプログラム』などの措置もあります」

最近物価高騰が報じられる日本だが、それでもコンビニに行けば、数百円単位の美味しいものに出合うことができる。当地でも昔から1ドルピザなるものがあったが、コロナ禍で次々に閉店が報じられている。物価上昇と家賃上昇などで、この大都市はさらに住みにくい街として汚名を着せられていくのか? 人々は戦々恐々としている。

●取材協力
Yoshi Takita REALTOR(R)
Living New York

ハードコア団地

所在地:千葉市美浜区幸町
590万円 / 48.85平米
総武線「稲毛」駅 バス9分 「15街区」バス停 徒歩1分

※値下げしました。



団地暮らしっていうと、どこかほっこりしした感じを想像しますが、この物件は、そんな団地のイメージを覆してくれました。



と言っても周辺の景色は団地らしく、緑も多くて穏やかな空気が流れています。そんなほっこり気分で階段を上って部屋に入ると、そこは荒々しく改装され ... 続き>>>.
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ギャラリーとアトリエのある家

所在地:茨城県牛久市ひたち野東
5,900万円 / 185.5平米(建物) 284.34平米(敷地)
常磐線「ひたち野うしく」駅 徒歩4分

★大幅に価格が下がりました★



創作から展示まで、自宅で完結できる環境がここにありました。

ギャラリー・アトリエ・住居の3つが融合した稀有な住宅の紹介です。



建築家堀部安嗣氏の初期代表作で、建築家の登竜門である新建築吉岡賞を受賞している貴重な作品としての側面もあることから、単 ... 続き>>>.
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心地良い余白

所在地:渋谷区大山町
33万円 / 98.07平米
小田急線・千代田線「代々木上原」駅 徒歩8分

代々木上原駅から徒歩8分の、閑静な住宅街に立つ重厚感のある低層マンション。



さまざまな暮らしのかたちにフィットしそうな約100㎡の3LDK。洋室2部屋には、大容量のクローゼットが付き、玄関室やサニタリーも余裕があります。その上でなおLDKが約23.5畳確保された、ぜいたくな間取 ... 続き>>>.
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見える。潜在能力

所在地:杉並区高円寺南
16万5,000円 / 122.45平米
中央線「高円寺」駅 徒歩4分

120平米超えの木造戸建て。物販店舗やギャラリー、貸しスタジオなど、なにかカッコいいスペースに生まれ変わる姿が見えてきませんか?



高円寺駅から徒歩約4分。古着屋の多い区画に並んだこの木造戸建ては、以前まで倉庫として使われていました。



1階の床は土間。天高は約3mの広々とした空 ... 続き>>>.
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経年がつくる暮らし

所在地:大田区上池台
9万9,000円 / 36.67平米
東急池上線「洗足池」駅 徒歩8分

古い木造アパートを思いきり気持ちよくリノベーション。高い天井、大きな窓からこぼれる自然光。それに加えて経年変化の美しさが楽しめる内装です。



建物全体をリノベーションしたのが数年前のこと。木肌の感触を楽しめる無垢の床や、経年のおもむきと清潔感を両立している柱と壁。よく光と風の通る ... 続き>>>.
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原宿ハイドアウト

所在地:渋谷区神宮前
25万3,000円(税込) / 40.24平米
山手線「原宿」駅 徒歩2分

竹下通りとほぼ並行して明治通りまで続く、裏通り「ブラームスの小径」をご存知でしょうか。今回の物件は原宿駅近にありながら、喧騒とは無縁のエリアにあります。



いい意味で原宿とは思えない風情ある通りに面した建物の中でも、さらに奥まった場所。路地裏だけれども暗くない、いい雰囲気の立地で ... 続き>>>.
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クリエイターズ雑種ビル

所在地:台東区東上野
2万5,000円(税込) / 5.38平米
山手線「上野」駅 徒歩3分

台東区東上野の、ある細い道路を挟んで向かい合わせにある2棟の建物に、ブックカフェ、グリーンショップ、パン屋、家具屋、さらにギャラリーが入居する、居心地のいい一角があるのをご存知でしょうか?



この、新しい村のような一角を運営するのは、僕らの仲間の工務店さん。



今回空きがでたのは ... 続き>>>.
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自由設計を楽しもう!in日吉

所在地:横浜市港北区日吉本町
5,300万~7,100万円(税込) / 67~81平米
東急東横線「日吉」駅 徒歩12分

※これは通常の売買物件情報ではありません。コーポラティブハウスの参加者募集のお知らせです



コーポラティブハウスは「新築マンション」でありながら、個別に間取りやデザインを「自由に創っていく」ことが出来る住まい。自分の想い描く心地よい空間をつくってみませんか?



緑豊かな日吉の街に ... 続き>>>.
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そこはまるで桃源郷

所在地:府中市栄町
5,350万円 / 102.46平米(建物) 175平米(敷地)
中央線・武蔵野線「西国分寺」駅 徒歩18分

木々に囲まれ、穏やかな暮らしをしたいと夢描いていた方。こんな暮らしはどうでしょうか?



別荘地というわけではないですが、木々に埋もれるその家は、まるでそこだけ、どこかの避暑地のような雰囲気。



南側道路に長く面した地形を生かして、建物の前には前庭をつくっています。紅葉、柑橘、柿な ... 続き>>>.
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大正時代の豪邸や町家をホテルなどに。空き家の活用が続々の町おこしが脚光 岐阜県美濃市

「うだつの上がる町並み」として重要伝統的建造物群保存地区に選定されている岐阜県美濃市は、1300年以上の歴史を誇る美濃和紙で知られる。うだつ(卯建)とは、隣り合った町家の間に、延焼を防ぐ防火壁として造られた、屋根の上の立ち上がり部分のこと。そんな、往時のにぎわいがしのばれる町家が並ぶこの美濃のまちも、空き家問題に悩まされてきた。

衰退した美濃和紙の産業を、空き家対策で盛り上げる

世界遺産に登録された本美濃紙の技術や、日本三大清流の一つである長良川を有し、自然や文化資源に恵まれた岐阜県美濃市。町家の延焼を防ぐ防火壁「うだつ」は、紙の問屋が並ぶ美濃市では特に大事な意味があった。これが次第に装飾的な意味を持つようになり、裕福な商家などでは競うように立派なうだつが造られるようになったという。

タイムスリップしたかのような、美濃市のうだつの上がる町並み(写真撮影/本美安浩)

タイムスリップしたかのような、美濃市のうだつの上がる町並み(写真撮影/本美安浩)

ここ美濃市でも、全国的な課題である空き家問題は例外ではない。美濃市のまちづくりに携わる「みのまちや株式会社」が2021年に行った独自調査によると、文化庁の重要伝統的建造物群保存地区に指定されたうだつの上がる町並みやその付近だけでも、40件以上の空き家があることがわかったという。

「空き家は“歯抜け”状態で現れますから、町並みの美しさが欠けてしまうのです」と説明しながら案内してくれたのは、みのまちや株式会社広報部の平山朝美さんだ。

老朽化した建物は倒壊の危険が出てくるため、例え歴史的な価値がある建物であったとしても、空き家状態のままだと取り壊されてしまうことも珍しくないという。

「だから、空き家対策にはスピード感が必要なのです」と平山さんは話す。

意匠が凝らされた「うだつ」を眺めながら歩くのも趣深い(写真撮影/本美安浩)

意匠が凝らされた「うだつ」を眺めながら歩くのも趣深い(写真撮影/本美安浩)

みのまちや株式会社は、「美濃の歴史的資源を未来に残す」ことを目的に、2019年に設立された会社。「空き家の数だけ夢がある」と空き家ゼロを目指し、美濃のまちをフィールドに、地域と連携しながらさまざまな事業を展開している。

代表の辻晃一さんは、美濃生まれ美濃育ち、美濃在住の生粋の「美濃の人(じん)」。実家は機械漉きの美濃和紙の製紙会社で、進学を機にこの地を離れ、東京のベンンチャー企業で働いていたが、2008年から稼業を継ぐことに。そこで目の当たりにしたのは、衰退しつつある美濃和紙の産業と、少子高齢化が進み、空き家が増えた故郷だった。

みのまちや株式会社代表であり丸重製紙企業組合の代表理事、懐紙作家としても活動する辻晃一さん(45歳)(写真提供/みのまちや株式会社)

みのまちや株式会社代表であり丸重製紙企業組合の代表理事、懐紙作家としても活動する辻晃一さん(45歳)(写真提供/みのまちや株式会社)

「衰退した産業を再び盛り上げるためには、まちに魅力が必要だ」。そう考えた辻さんは、まず、自分ができることとして空き家対策に取り掛かり、「みのまちや株式会社」を設立した。

後述する「NIPPONIA美濃商家町」の「YAMAJOU棟」は、みのまちや株式会社のプロジェクトで1番はじめに開発された。3室の主屋と3つの蔵からなる「YAMAJOU棟」は、和紙の原料蔵がレセプションの役割を果たしている。棟の名前はもとの屋号から(写真撮影/本美安浩)

後述する「NIPPONIA美濃商家町」の「YAMAJOU棟」は、みのまちや株式会社のプロジェクトで1番はじめに開発された。3室の主屋と3つの蔵からなる「YAMAJOU棟」は、和紙の原料蔵がレセプションの役割を果たしている。棟の名前はもとの屋号から(写真撮影/本美安浩)

2021年に、「YAMAJOU棟」の蔵にレセプションスペースをプラスした。美濃や美濃和紙について現代アートを通して発信するギャラリースペースとカフェを併設し、カフェは美濃市で開業したい人のチャレンジショップとしても活用(写真撮影/本美安浩)

2021年に、「YAMAJOU棟」の蔵にレセプションスペースをプラスした。美濃や美濃和紙について現代アートを通して発信するギャラリースペースとカフェを併設し、カフェは美濃市で開業したい人のチャレンジショップとしても活用(写真撮影/本美安浩)

宿泊者は「YAMAJOU棟」に泊まる場合も、少し離れた「YAMASITI棟」に泊まる場合も、まずは蔵のレセプションへ(写真撮影/本美安浩)

宿泊者は「YAMAJOU棟」に泊まる場合も、少し離れた「YAMASITI棟」に泊まる場合も、まずは蔵のレセプションへ(写真撮影/本美安浩)

美濃市のプロポーザルに採用され名士宅を改修

代表の辻さんが最初に行ったのが、美濃市のプロポーザルへの参加だった。そのころ、和紙の主原料である楮(こうぞ)を扱う美濃一の原料屋、松久才治郎氏の別宅が、持ち主により美濃市に寄贈され、民間事業者による活用案とその運営が公募されたのだ。

「別宅といっても、美濃一の名士の家ですから、主人が客人をもてなすための主屋に3部屋と、一軒家ほどもある金庫蔵に原料蔵、道具蔵がありました」と平山さんがスケールの大きさを説明してくれた。

「建物は使わないと朽ちてしまうので、人が出入りして営みがあるということが大事です。だからこそ、この歴史的な建物を、お店やミュージアムではなく、人が住んで使うホテルにしようと考えたのです」

「残月」「満月」「綾錦」の3部屋がある主屋。中庭を囲むように建てられ、部屋ごとに違った景色が楽しめる。部屋名は和紙の名前(写真撮影/本美安浩)

「残月」「満月」「綾錦」の3部屋がある主屋。中庭を囲むように建てられ、部屋ごとに違った景色が楽しめる。部屋名は和紙の名前(写真撮影/本美安浩)

元が商家だったこの辺りの空き家は物件が大きく、個人で手に負えるものではなかった。それでも辻さんは、地道に「和紙で美濃市を元気にしたい」との思いを各方面でアピールした。

一方、美濃一の名士の空き家がプロポーザルに出たタイミングで、兵庫県篠山市のエリア開発会社が動き、この地域でのパートナーを模索していた。すると縁あって辻さんと出会い、共同でプロポーザルにエントリーすることに。無事に採択され、古民家ホテルの改修から運営までを任されることになった。そこで、2者はまちづくり会社「みのまちや株式会社」を設立するに至る。

こうして、主屋にスイートルーム3室と3つの蔵をそれぞれ1棟貸しの客室として、「五感で美濃を感じる宿」として改修するプロジェクトが始まった。

当時のまま残された総柾目の天井が美しい「満月」の部屋。朝は地元の素材をふんだんに使った食事を部屋食で(写真撮影/本美安浩)

当時のまま残された総柾目の天井が美しい「満月」の部屋。朝は地元の素材をふんだんに使った食事を部屋食で(写真撮影/本美安浩)

「和紙の新しい出口を提案する宿」として、松久才治郎の兄、松久永助によって創業された「松久永助紙店」の美濃和紙タオルや枕カバーを使用(写真撮影/本美安浩)

「和紙の新しい出口を提案する宿」として、松久才治郎の兄、松久永助によって創業された「松久永助紙店」の美濃和紙タオルや枕カバーを使用(写真撮影/本美安浩)

美濃和紙の紙糸を使った「松久永助紙店」の洗える枕カバーは吸水性が抜群だという(写真撮影/本美安浩)

美濃和紙の紙糸を使った「松久永助紙店」の洗える枕カバーは吸水性が抜群だという(写真撮影/本美安浩)

美濃の伝統文化を感じられるハイクラスな宿として話題に

大きな企業や資本が入るのではなく自分たちで国の補助金を活用して、資金調達から行ったのがこのプロジェクトの大きな特徴だ。

「とにかく、予算も人も足りなくて……。私は2019年に入社してすぐに、ホテルの開業を控えていましたから、建物の掃除からメディア対応、地域の方との関係づくり、ワークショップや説明会など、代表を前に立たせるための準備は、なんでもやりました」と広報担当の平山さんは振り返る。

国の補助金には制約も多く、事業の立ち上げの大変さを痛感したという。現在は、パートタイマーを含め30人ほどが働く。

東京から夫妻で移住し、子育て中でもある広報担当の平山朝美さん。建物の関係者から、当時の意匠や時代背景のことをリサーチしたといい、美濃について熱量を持って伝えてくれた(写真撮影/本美安浩)

東京から夫妻で移住し、子育て中でもある広報担当の平山朝美さん。建物の関係者から、当時の意匠や時代背景のことをリサーチしたといい、美濃について熱量を持って伝えてくれた(写真撮影/本美安浩)

寂れつつあった美濃の町の空き家をホテルへ改修することへの、街の人達の反応は、当初は半信半疑なものだったという。

「まず『この街に、本当に人が来るの?』という声が多かったですね。また、こういった地方では珍しくハイクラスなホテルとして企画したため、1室が5万円ほど(1泊朝食付き1人1万5400円~)になります。中には、定員4名で1棟が6万円という蔵の客室も。その値段設定にも驚かれ、『良い建物だとは知っているが、場所が場所だし……』などと言われたこともあります」

美濃市周辺にこの層に向けたホテルはなく、潜在的なニーズがあった。みのまちや株式会社の読みは当たり、「和紙の新しい出口を提案する」というコンセプトの第1期開発である「NIPPONIA美濃商家町」YAMAJOU棟(2019年)は人気の宿になった。

「満月」の部屋で出迎える美濃和紙のアート作品「長良川」は、3人の職人による合作(写真撮影/本美安浩)

「満月」の部屋で出迎える美濃和紙のアート作品「長良川」は、3人の職人による合作(写真撮影/本美安浩)

茶室のある数寄屋造の主屋は、総柾目の天井や涼を取るための無双窓が見られるなど、贅を尽くした造り。「できる限り当時のまま」という和風建築や中庭が目を楽しませる。

客間には美濃和紙を多用。障子や壁紙でさまざまな種類の和紙を見ることができる。作家や職人が手がけた和紙のアートも飾られている。

茶室に飾られていた和紙のインスタレーション。物件のもとの持ち主であった松久才治郎には茶の心得があったという(写真撮影/本美安浩)

茶室に飾られていた和紙のインスタレーション。物件のもとの持ち主であった松久才治郎には茶の心得があったという(写真撮影/本美安浩)

1棟貸しの客室「金剛」は2階がある大きな蔵。財産管理のための銀行員が控えていたという前室も付いている(写真撮影/本美安浩)

1棟貸しの客室「金剛」は2階がある大きな蔵。財産管理のための銀行員が控えていたという前室も付いている(写真撮影/本美安浩)

吹き抜けがある「金剛」はファミリーにも人気。壁面の木棚は金庫として使われていた(写真撮影/本美安浩)

吹き抜けがある「金剛」はファミリーにも人気。壁面の木棚は金庫として使われていた(写真撮影/本美安浩)

「分散型ホテル」として離れた場所に2棟目を開業

2020年の開発である2棟目は、「YAMAJOU棟」から徒歩5分ほどの場所にある「YAMASITI棟」だ。こちらは、紙問屋で大地主となった築100年の須田家邸を改修。ペットと宿泊できるドッグラン付きの蔵の客室もあり、こちらは土間を活かした建物で、質実剛健な印象。

1棟目から少し離れた場所にある建物を選んだのは、「“分散型ホテル”として、美濃のまちを歩いて欲しいという思いがあったから」だという。

土間を活かした「YAMASITI棟」のエントランス。紙問屋のころは従業員が活発に行き来していたのかと思いを馳せる。ラウンジスペースのみの利用も可能で、今夏はかき氷店「SEIRYU GORI」が開業する(写真撮影/本美安浩)

土間を活かした「YAMASITI棟」のエントランス。紙問屋のころは従業員が活発に行き来していたのかと思いを馳せる。ラウンジスペースのみの利用も可能で、今夏はかき氷店「SEIRYU GORI」が開業する(写真撮影/本美安浩)

美濃市が拠点のかき氷専門店「SEIRYU GORI」。天然果実を使った非加熱のシロップが名物(写真提供/みのまちや株式会社)

美濃市が拠点のかき氷専門店「SEIRYU GORI」。天然果実を使った非加熱のシロップが名物(写真提供/みのまちや株式会社)

ペットと泊まることができる「YAMASITI棟」の客室「小町」は、ハンモックが吊るされ遊び心が満載(写真撮影/本美安浩)

ペットと泊まることができる「YAMASITI棟」の客室「小町」は、ハンモックが吊るされ遊び心が満載(写真撮影/本美安浩)

蔵を改修した「小町」には、専用ドッグランやペットの足洗い場もある。宿泊は中型犬1匹もしくは小型犬2匹までOK(写真撮影/本美安浩)

蔵を改修した「小町」には、専用ドッグランやペットの足洗い場もある。宿泊は中型犬1匹もしくは小型犬2匹までOK(写真撮影/本美安浩)

当初は心配していた周囲の人たちも、「ホテルのおかげで若い世代まで訪れるようになって、街がにぎやかになった」と言ってくれるように。

開業からしばらくは「岐阜県の旅行中、雰囲気のいい日本のホテルに泊まりたい」と考える海外からの宿泊客も訪れていたそうだ。

そこへ襲ったコロナ禍。「やはり大変でしたが、計10室の規模が幸いして、なんとか乗り切ることができました」と平山さん。今年のゴールデンウィークは満室御礼に持ち直した。

今後は新たに宿泊客に向け、美濃和紙を使ったアートパネルづくりや提灯づくり、和紙の糸を使って織り機で半幅帯をつくる体験をスタートする。

宿泊施設併設の“まちごとシェアオフィス”で「働く&暮らす」をサポート

そして2021年に行った第3期開発は古民家シェアオフィス「WASITA MINO」。コワーキングスペースとプライベートオフィスのほか、宿泊施設「WASITA HOUSE」を併設し、美濃のまちで働くことと暮らすことをサポートする施設だ。

長屋を改修した「まちごとシェアオフィス WASITA MINO」。芝生の中庭があり、仕事の合間の気分転換もしやすそう(写真撮影/本美安浩)

長屋を改修した「まちごとシェアオフィス WASITA MINO」。芝生の中庭があり、仕事の合間の気分転換もしやすそう(写真撮影/本美安浩)

特徴的なのは“まちごとシェアオフィス”の仕組み。この仕組みの会員は、利用会員特典として社員証代わりに「まちごとワークタンブラー」が付いてくる。これを美濃のまちの提携店舗で提示すると、コーヒー1杯の無料提供と、店舗内での仕事がOKになる。まちを周遊して楽しみながら、気分を変えて仕事ができるというわけだ。

「まちごとワークタンブラー」を紹介してくれた、コミュニティマネージャーの橋元麻美さん。関東から夫妻で美濃市へ移住し、子育て中とのこと(写真撮影/本美安浩)

「まちごとワークタンブラー」を紹介してくれた、コミュニティマネージャーの橋元麻美さん。関東から夫妻で美濃市へ移住し、子育て中とのこと(写真撮影/本美安浩)

「WASITA MINO」のコミュニティマネージャーである橋元麻美さんは話す。「シェアオフィスは、美濃に帰省した人の仕事場としても活用されています。“まちごとワークタンブラー”を利用する際には、モバイルWi-Fiもお貸しします。宿泊施設があるので、名古屋などからの企業の研修にも使っていただいています」

1階のおしゃれなコワーキングスペース。他にソロワークブースもある(写真撮影/本美安浩)

1階のおしゃれなコワーキングスペース。他にソロワークブースもある(写真撮影/本美安浩)

シェアオフィスでは、地元の会員同士が再会するという出会いがあったそう。「話したい会員さん同士はおつなぎします。今後はビジネスマッチングも生まれるかもしれません」と橋元さん。

まずは、3300円で2日間(個人・要予約)のお試し利用も可能。美濃のまちが気に入ったら会員になればいい。個人の会員料金は4dayプラン月9900円(曜日指定)、Fullプラン月1万6500円(全営業日)。電源やWi-Fi、給湯室やミニキッチン、プリンター複合機も利用できる。

宿泊施設「WASITA HOUSE」の個室は3室。共用のダイニングキッチンがあり、グループでの合宿にもオススメ。美濃の街を撮影する写真作家が長期滞在したこともあったそう(写真撮影/本美安浩)

宿泊施設「WASITA HOUSE」の個室は3室。共用のダイニングキッチンがあり、グループでの合宿にもオススメ。美濃の街を撮影する写真作家が長期滞在したこともあったそう(写真撮影/本美安浩)

美濃のまちの“関係人口”を増やす多彩な取り組み

そもそも、空き家改修のプランをホテルにしたのは、「宿を足がかりに、人々に美濃のまちを周遊してもらいたい」という目的があったという。

「分散型ホテル」や「まちごとシェアオフィス」のほかにも、さまざまな仕掛けが、訪れた人にアクションを起こさせる。

「NIPPONIA美濃商家町」の宿泊客に渡す「美濃馴染み符」では、提携各店で「食事したらデザートが無料」などのサービスが受けられる。「現在、提携して私たちを応援してくれているお店は12軒くらい。今後増やしていきたいです」と平山さん。

移住促進やテナント誘致を目的に行っているイベントも2つある。
1つ目は「ミノマチヤマーケット」。美濃市内の空き家を活用して、お試し出店の場を提供する、年に1度の大規模なマルシェイベントだ。

美濃のまち全体を使った、大規模な「ミノマチヤマーケット」(写真提供/みのまちや株式会社)

美濃のまち全体を使った、大規模な「ミノマチヤマーケット」(写真提供/みのまちや株式会社)

2つ目は「ミノノイチ」。「ミノマチヤマーケット」の縮小版という位置付けで、メイン会場である「NIPPONIA美濃商家町」に、プラス1軒の空き家や関連施設を会場とした数軒で行う。こちらは偶数月の第2日曜の開催で、今年は6月と8月、10月の開催が決まっている。

どちらも、空き家に出店してみたい人や、美濃市に移住を考えている人に、お試し利用をしてもらう機会だ。

「NIPPONIA美濃商家町」のレセプションの前にキッチンカーが出店しにぎわう「ミノノイチ」(写真提供/みのまちや株式会社)

「NIPPONIA美濃商家町」のレセプションの前にキッチンカーが出店しにぎわう「ミノノイチ」(写真提供/みのまちや株式会社)

「私たちは、美濃市の“関係人口”を増やしたいと考えているんです」と平山さん。いきなり移住や転職というのはハードルが高いので、まずは何かしら、“美濃に関わっている人”を増やし、美濃のまちを好きになってもらいたい……という柔らかな考え方だ。

「今後は、宿泊された方をアテンドできるハイエンドなレストランを、今ある空き家に誘致できたら。また、銭湯の物件を復活させる構想もあり、動いているところです」と楽しみな計画は続く。

「空き家がある分だけ、まちに人が集まります。空き家をマイナスイメージじゃなく魅力と捉えて、楽しく利活用していきたいですね」とのこと。

まさに、空き家の数だけ夢があった。

松久才治郎の兄、松久永助によって1876年に創業された和紙問屋「松久永助紙店」が現在も佇む(写真撮影/本美安浩)

松久才治郎の兄、松久永助によって1876年に創業された和紙問屋「松久永助紙店」が現在も佇む(写真撮影/本美安浩)

店舗が増え、平日でも若者が歩くようになった美濃のまち。数年ぶりに訪れた筆者は変化を実感した。

空き家の利活用の中でも、今回は行政も関わるスケールの大きな事例。それが、もともとは、辻代表をはじめ住民の若いパワーが結集して立ち上がり、その後も仲間を増やしつつ順調に運営しているのはすごいことだ。

貴重な文化財でもある日本家屋や蔵に宿泊したら、心が豊かになりそう。そして、こういった歴史の積み重ねを感じられる空間が失われていくのは悲しい。「空き家対策はスピード感が大事」という平山さんの言葉が胸に響いた。

●取材協力
・みのまちや株式会社 
・NIPPONIA美濃商家町
・WASITA MINO