
12万5,000円 / 37.3平米
都営大江戸線・つくばエクスプレス「新御徒町」駅 徒歩1分
蔵前から御徒町エリアにかけて、いつの間にか素敵なお店やアトリエが増えました。台東デザイナービレッジの卒業生が近くにお店やアトリエを構えるようになったことがその始まりだったと思います。週末の蔵前エリアは人通りも多く、数年前には想像もできなかった光景が広がっています。
「カチクラ」 ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
住宅ローンの商品内容は、その時々のニーズに応じて見直される。全期間固定金利型ローンの代表格【フラット35】も例外ではない。2023年1月から同性パートナー同士で、【フラット35】が借りられるようになった。どんな仕組みなのだろうか?詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
【フラット35】2023年1月から同性パートナーと連帯債務で申し込み可能に/住宅金融支援機構
同性パートナーでも、単独で住宅ローンを借りて住宅を購入する場合は、あまり問題にならない。しかし、協力してお金を出し合って購入しようとすると、親子や婚姻関係のある夫婦であれば、それぞれで住宅ローンを借りる「ペアローン」や2人の収入を合算して借りる「収入合算」などの仕組みが利用できるのに、婚姻関係が結べない同性カップルの場合は、こうした仕組みを利用できないことも多い。
また、どちらかが単独で住宅ローンを借りて購入し、実際には2人の収入から返済していく場合には、問題が生じてしまう。住宅ローンを借りていない人が出した返済分が、家賃として出されたものなら「不動産所得」として、資金援助として出されたものなら「贈与」として、いずれも借りた人の課税対象になる可能性があるからだ。
こうしたことから、同性パートナーでも住宅ローンを借りられるようにしようという動きになり、ペアローンや収入合算の対象となる「配偶者」の定義に同性パートナーを含めるという形で、同性カップル向けの住宅ローンを取り扱う金融機関が増えている。
【フラット35】で同性パートナーと借りる仕組みは?では、【フラット35】の場合を見ていこう。
【フラット35】とは、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携し、提供している住宅ローンで、35年などの長期間にわたって金利が変わらないのが特徴。提携先の民間金融機関によって、実際に借りるときに適用される金利や融資手数料は異なる。
同性パートナー同士で【フラット35】を利用するには、地方公共団体の「パートナーシップ証明書」や同性パートナーに関する合意契約に係る公正証書などの書類が必要だ。これは【フラット35】に限らず、多くの金融機関で共通する条件だ。
■主な必要書類(次の1または2いずれかの書類)
出典/住宅金融支援機構HPトピックスより転載
【フラット35】を利用する場合は、同性パートナーで「収入合算」が利用でき、住宅ローンの申込者に収入を合算する人は「連帯債務者」となる。加えて、2人とも団体信用生命保険に加入できる「夫婦連生団信(デュエット)」を利用できるのが、大きな特徴だ。
2人で協力して住宅ローンを返済する方法はいくつかある夫婦であれ、同性カップルであれ、2人で協力して住宅ローンを借りる方法はいくつかある。どういった場合に利用できるかは、金融機関によっても異なる。
近年増えている「ペアローン」は、同一物件に対して2人がそれぞれ住宅ローンを借りるものだが、【フラット35】では利用できない。
次に、民間金融機関の多くが収入合算で採っているのが「連帯保証」で、ローンを申し込んでお金を借りる人(債務者)の連帯保証人となる仕組みだ。この場合の連帯保証人は、万一のときには返済の義務を負うが、返済するのはあくまで債務者なので、住宅ローン控除や団体信用生命保険の対象にならない。
【フラット35】の場合は、収入合算で「連帯債務」とする借入方法としている。連帯債務者は、債務者と同等に返済する義務を負う。一般的に、住宅ローン控除の対象になるが、団体信用生命保険の対象にならない事例が多いのだが、同性パートナーが連帯債務者となる場合も「夫婦連生団信(デュエット)」を利用することができるようになった。どちらか一方が亡くなった場合に、残りの住宅ローンが保険金で返済されるので安心だ。ただし、デュエットを利用する場合は、金利上乗せの形で追加の保険料相当費用を支払うことになる。
このように、2人で協力してローンを借りるにはいくつか方法がある。一般的な方法を下表にまとめたので、借り方の違いを理解して、金融機関に詳しい条件を確認するのがよいだろう。
■2人で協力して住宅ローンを借りる方法
※金融機関が夫婦連生団体信用生命保険(【フラット35】では「デュエット」)を用意している場合は連帯債務者も加入できる。「2人で協力して住宅ローンを借りる方法」筆者作成
さて、共働きが当たり前になり、また、LGBTへの理解も深まっている時代だ。こうした時代の要請にこたえて、住宅ローンも変化している。選択肢は豊富にあるので、自分たちに合う住宅ローンを選んで、賢く住宅を購入してほしい。
●関連サイト
【フラット35】2023年1月から同性パートナーの方とも連帯債務でお申込みいただけます。
1年を代表するリノベーション作品を決める「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」。記念すべき10周年となった2022年の授賞式が12月6日に開催されました。260のエントリー作品の中から選び抜かれた総合グランプリをはじめ、各受賞作からリノベーションの今を読み解きました。
【注目point1】住み手の思いとつくり手の工夫が古い家を蘇らせる暮らしにくく老朽化した建物を今のライフスタイルや住人に合わせて快適な場所に生まれ変わらせるのが、リノベーションの最大の使命であり、原点ともいえます。近年見られた「コロナ禍における魅力あるテレワーク空間」「災害復興リノベでさらなる価値ある場所に」などの事例のように、リノベーション・オブ・ザ・イヤーは基本的に時代性を宿す作品が選ばれる傾向が強いアワードです。しかし、今回はそうしたトピック的な内容ではなく、リノベーションのもつ本質的な力によって住宅性能や居住快適性などを高いレベルで向上させ、魅力ある空間をつくり出した事例が10周年の記念すべき作品となりました。
●総合グランプリ
[総二階だった家(平屋)] 株式会社モリタ装芸
(写真提供/株式会社モリタ装芸)
(写真提供/株式会社モリタ装芸)
外観、内装ともに大きく変えたものの、古い梁や柱を意匠として残すことで愛着のある実家の思い出を留めています(写真提供/株式会社モリタ装芸)
総合グランプリに輝いた[総二階だった家(平屋)]は、リノベの原点回帰を具現化した作品であり、リノベの力をフルに発揮した点が高く評価されました。
まずインスペクションと耐震診断で改修すべき箇所を明確化させ、建て替えとリノベーションの両面で検討。床面積72坪という総二階(1、2階が同面積の家)を、達磨落としのように半分の36坪の平家に減築。減築に加えさらなる軽量化と耐震改修により耐震等級1相当を確保。断熱性能はZEH基準を上回る値を達成。これらの性能向上により長期優良住宅認定の補助金も得ています。間取りを全面的に変えて、開放感ある空間や暮らしやすい生活動線などを実現させました。
近年、新築戸建てで平家の着工件数が年々増加傾向(ここ10年で約2倍に増加。2021年の統計では約13%が平家/国土交通省)にありますが、この作品のように2階建てを平家に変えるリノベーションは今後の一つの流れになる可能性も伺えます。
古い建物を住み継いでいく場合、性能はどの程度向上できるのか、暮らしやすさは得られるのかなど、住む者の誰もが不安に感じるものです。施主の「空き家となっていた築47年の実家を残せるなら残したい。しかし、大きな古い家は地震時に不安。建て替えではなくリノベを選択する場合の安心材料が欲しい」という気持ちに寄り添って話し合いを重ねることで、つくり手側は一つひとつの不安を明確に解消していったそうです。
古い家を建て替えるのではなく、手を入れて住み継いでいくという価値観を改めて示した好事例となりました。
【注目point2】連鎖する「街の再編集」で人と人、人と街をつなぐ通り過ぎるだけだった無機質な場所を、人々が集いつながる有機的な場所に変える「街の再編集リノベーション」は、今回も注目されました。過去にリノベーションで生み出した、人が集まる場所との連携を図っている点も大きな特徴で、リノベの連鎖がどんどん広がることで、街を変えていく大きな力を感じさせます。
●無差別級部門最優秀賞
[駅前ロータリーを歩行者の手に取り戻せ - 『ざまにわ』] 株式会社ブルースタジオ
(画像提供/株式会社ブルースタジオ)
神奈川県座間市、座間駅東口ロータリーを、人々が集う「庭」として劇的に再編集。駅前にあった駐輪場を移動させて、空いた場所を緑に囲まれた芝生広場に(画像提供/株式会社ブルースタジオ)
[駅前ロータリーを歩行者の手に取り戻せ - 『ざまにわ』]は、駅に隣接し街の人々に開かれた「ホシノタニ団地(神奈川県座間市)」(リノベーション・オブ・ザ・イヤー2015総合グランプリ作品)のコンセプト「子どもたちの駅前ひろば」を踏襲したプロジェクトで、駅前に芝生が広がる心地よい場所を生み出しています。駅前とホシノタニ団地が歩行者のための場所としてつながったことで、さらなる街の活性化の要因ともなっているようです。リノベーションで街の再編集が続いていくことを期待させる点も高く評価されました。
●まちのクリエイティブ・リノベーション賞
[納屋と団地、小さなまちの職住一体のカタチ] 株式会社フロッグハウス
(画像提供/株式会社フロッグハウス)
道路側の壁をガラス張りにしたことで、通りすがりの人が気軽に入れる雰囲気になりました(画像提供/株式会社フロッグハウス)
[納屋と団地、小さなまちの職住一体のカタチ]は、使わなくなった築60年の納屋を人が集えるスペースに変えたリノベ作品。10年前、施主が所有する団地1棟をリノベして職住一体型のクリエイティブ拠点としましたが、そのクリエイターたちの発信場所の第二弾として街に開かれた場所に。花屋、書道教室、菓子販売、写真撮影、演奏会などを行い、兵庫県播磨町の街に活気をもたらしています。
【注目point3】「ご機嫌に暮らしたい」を叶える。建築が人を幸せに近年、リノベーションは特別なものではなく一般化してきています。中古リノベだけではなく、新築の家を購入してすぐにリノベーションで空間をカスタマイズするといった人もいるほどです。住み手側の熱意やリノベについての知識はどんどん深まり、「こんな暮らしをしたい」「家はこんな空間であってほしい」といった施主の家に対する思いの深さや多様な要望に応じて、リノベ会社はさまざまな工夫を凝らしています。
●1000万円未満部門最優秀賞
[5羽+1人で都心に住まう] 株式会社NENGO
(写真提供/株式会社NENGO)
鳥が美しく映える壁色。鳥の健康状態や飛行状態の確認にも役立ちます。自由に付け替えられる止まり木やバードアスレチックの配置も綿密に考えられました(写真提供/株式会社NENGO)
[5羽+1人で都心に住まう]は、インコなど5羽の鳥と暮らす「鳥ファースト」が徹底された家。鳥が快適に飛び回れるように間仕切り壁をなくし、化学薬品や金属の建材は一切用いず、脂粉や埃の舞い上がらないカーペットを採用するなど、愛情にあふれる仕様に。ペットの快適さをとことん追求した家=人も幸せでいられる家であることを明確に示した点が評価されました。
●マーケティング・リノベーション賞
[まちなかロッヂ] 有限会社ひまわり
(写真提供/有限会社ひまわり)
山小屋風の内装に一新され、気分は山暮らし!(写真提供/有限会社ひまわり)
[まちなかロッヂ]は、築39年の公団住宅、エレベーターなしの5階部分という一室を、アウトドア好きの人が好む室内に変えた再販(※)リノベ作品。エレベーターなしという大きなマイナスポイントを逆手に取り、「勝手に足腰強化!カロリー消費!自然とダイエットでジムいらず!」というプラス要素へとポジティブ変換しています。
※再販/中古住宅を事業者が買い取り、リノベーションなどを施したのち、再販売する形態
●新築リノベーション賞
[7°の非破壊リノベーション] 株式会社ブルースタジオ
(写真提供/株式会社ブルースタジオ)
家具配置が難しい幅狭で奥行きのあるLDK。既存キッチンを撤去し、造作キッチンや小上がりを設けて、自分たちらしくカスタマイズ(写真提供/株式会社ブルースタジオ)
[7°の非破壊リノベーション]は、リノベーションで新築の建売住宅のLDKを改善した作品。新築をそのまま使うのではなく、「より暮らしやすく、より自分たちらしく」を実現。既存建物に自分たちを合わせるのではなく、自分たちを基準に、一部分だけでも建物をつくり替えている点がポイントです。
●3次元空間活用リノベーション賞
[Summer Camp House 子供達の「自分で」を育てる家] リノベる株式会社
(写真提供/リノベる株式会社)
遊びながら体を鍛えられるアスレチック、勉強机を造作したロフト下空間など、キッチンから見守れる場所に3人の子どもたちのためのスペースが(写真提供/リノベる株式会社)
[Summer Camp House 子供達の「自分で」を育てる家]は、「サマーキャンプのような子どもだけで自由に過ごせる空間」という施主の希望を叶えた作品。マンションのLDKの空間を立体的に活用してロフトやアスレチック壁を設け、床面積を広げることで子どもの活動領域を最大限に広げています。
まだある注目リノベーション事例活かされていなかった既存建物のもつポテンシャルやメリットを、高次元に発揮したリノベ作品にも注目しました。
●1000万円以上部門最優秀賞
[Ring on the Green 風と光が抜ける緑に囲まれた家] 株式会社ルーヴィス
(写真提供/株式会社ルーヴィス)
中央に設けたオープンキッチンをぐるりと囲む角丸スクエアの照明の造形美が目を引くLDK(写真提供/株式会社ルーヴィス)
[Ring on the Green 風と光が抜ける緑に囲まれた家]は、過去最多のエントリー数で、オブ・ザ・イヤー史上もっとも激戦となった1000万円部門を制した作品。3方向に8つの窓があるというメリットを最大限に活かすため、細かく仕切られていた3LDKを90平米のワンルームに変え、引き戸で2LDKにもできる仕様に。自然光を豊富に入れ、風の道をつくり出しています。開口部のデメリットである断熱性能や遮音性能はインナーサッシで対策し、外からの視線はグリーンとブラインドでゆるやかに遮断。大胆な間取り変更とデザインの完成度にも高い評価が集まりました。
(関連記事:「付加価値リノベ」という戦略。建築家が自邸を入魂リノベ、資産価値アップで売却益も)
歴史的価値の高い名建築、時代の名残を感じさせる建物を再生させた住宅遺産ともいうべき作品も受賞しています。
●ヘリテージ・リノベーション賞
[津田山の家-浜口ミホの意匠を住み継ぐ]株式会社NENGO
(写真提供/株式会社NENGO)
モダニズム住宅の直線的な美しさを宿す築57年の家。タイルメーカーの協力のもと、タイルの欠損した箇所も再現(写真提供/株式会社NENGO)
[津田山の家-浜口ミホの意匠を住み継ぐ]は、ダイニングキッチンの生みの親といわれる建築家・浜口ミホ氏が設計した現存する唯一の建物。遺された意匠を尊重し、耐震、断熱改修などの性能を高めて暮らしやすくしています。
●ヘリテージ・リノベーション賞
[時空を旅する洋館]株式会社河原工房
(写真提供/株式会社河原工房)
著しく老朽化していた築102年の家が鮮やかに蘇りました。柱、梁、建具、瓦は再利用しつつ、和洋折衷だった内装をヨーロピアンスタイルに(写真提供/株式会社河原工房)
[時空を旅する洋館]は、大正時代にアメリカから東京へ輸入された建物を神戸の郊外へ移築するという壮大なプロジェクト。「歴史ある洋館でセカンドライフを送りたい」という施主の情熱と時空を超えたロマンの詰まったハーフティンバー様式の家です。移築+リノベーションが価値ある建物を継承するための有効な手法であることを示した好事例だと感じました。
●ローカルレガシー・リノベーション賞
[Mid-Century House | 消えゆく沖縄外人住宅の再生] 株式会社アートアンドクラフト
(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)
60年代に建築された家にミッドセンチュリーの名作家具が似合います。内装はシンプルに仕上げて工事費のバランスをとっています(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)
[Mid-Century House | 消えゆく沖縄外人住宅の再生]は、1970年代に民間に開放された在日米軍のアメリカンスタイルの住宅を再生した事例。長らく空き家となっていましたが、50年先まで通用する家を目指し、古い設備を一新。沖縄に残る近代建築を文化遺産として継承していく試みが評価されました。
大胆な表現手法で個性的空間を完成させた作品既存の概念に囚われない自由な発想で行われたリノベーションにも注目です。
●「コト」のデザインリノベーション賞
[コトなるカタチ] 株式会社ブルースタジオ
(写真提供/株式会社ブルースタジオ)
普通のマンションにはない心が浮きたつような楽しいデザインだから、暮らしを心豊かなものに変えてくれます(写真提供/株式会社ブルースタジオ)
[コトなるカタチ]は、間取りを変えず、ディテールを大胆に変更することで、「家の中でいろいろなアクティビティを体験でき、家族で暮らしを楽しめるコト」という施主の希望を叶えたリノベ作品。セミクローズドのキッチンをY型デザインに変えてオープンキッチンに。向かい合う主寝室と子ども部屋のドアを大きなアーチ開口へ変えることで、間の廊下も含めた広々レッスンスペースに。家族が一緒に料理を楽しんだり、ダンスレッスンをしたりと、楽しみの幅を広げています。
●500万円未満部門最優秀賞
[inherit from TAISHO ~古民家×アンティーク~] フクダハウジング株式会社
(写真提供/フクダハウジング株式会社)
長い年月を感じさせる古材にオレンジとブルーグレーを合わせた内装が新鮮(写真提供/フクダハウジング株式会社)
[inherit from TAISHO ~古民家×アンティーク~]は、アンティークやミッドセンチュリーが好きな施主のこだわり空間。大正3年(1914年)築という100年超の古民家の土台補強と断熱改修を施し、LDKを大胆な色使いとステンレスキッチンという異素材使いによりリノベーション。伝統的意匠性をそのまま引き継ぐという古民家リノベが一般的な中、古民家×ミッドセンチュリー、古民家×モダンという独特の世界観ある作品となっています。
●テキスタイル・リノベーション賞
[テキスタイルの可能性。]株式会社sumarch
(写真提供/株式会社sumarch)
布の描く柔らかい表情と白と生成の色合いが、優しい雰囲気を醸成(写真提供/株式会社sumarch)
[テキスタイルの可能性。]は、布で空間の雰囲気をガラリと変えるという、ありそうでなかった発想のリノベ作品。天井を薄手の布で覆うことで、布で拡散された柔らかな光が包み込む空間を生み出しています。鉄板を埋め込んだ壁にマグネットで固定する手法なので、取り外しが簡単。部屋の間仕切りや収納も同系色の布を用いているので、部屋をスッキリ見せています。
ほかにも素晴らしい作品が特別賞を受賞。リノベーション協議会のサイトでチェックしてみてください。
●まちの余白リノベーション賞
[間隙から生活と遊びの間/LifeShareSpace~noma~] 株式会社ネクスト名和
●フェミニン・リノベーション賞
[世界を旅するネイリスト~海外の開放感と自然の光が広がる空間~] 株式会社bELI
●アップサイクル・リノベーション賞
[風景のカケラ、再編集 「PAAK STOCK」] paak design株式会社
●ローカルグッド・リノベーション賞
[「くるみ食堂」新しい夕張の未来をつくりたい。]株式会社スロウル
2022年は世界情勢不安や円安などによる物価上昇が暮らしを直撃し、現在もその状況下にあります。リノベーション業界でも、原材料費の高騰等で難しい局面を迎えています。
人の暮らしは人の数だけ異なり、希望するリノベ内容も建物の状態も千差万別。一つひとつのリノベ事例は特注品であり、それぞれに応じた工夫が必要です。建材価格が上昇している状況では施主の予算に対して何にコストをかけ、どこをどう削ればいいのか取捨選択も必要となってくるでしょう。
そうした逆境下にありがながら、今回のリノベーション・オブ・ザ・イヤーでは、人の暮らしを快適で幸せなものに変えるリノベ作品が数多く登場しました。受賞作品それぞれの経緯からは、施主の情熱や思いとそれを叶えようとするリノベ会社の創意工夫が読み取れます。
施主と時間をかけて対話を重ねて不安を払拭し、リノベの創意工夫で「ごきげんな暮らし」を実現させるーーそんな各リノベ会社の姿勢に、「リノベーション」「建築」「ものづくり」がもつ大きな力を見ることができました。
コロナ禍や物価高など不安定な状況にあるからこそ、人々はごきげんな毎日を送りたいと願っています。人を幸せにしてくれるリノベーション作品に次回も出合えることを楽しみにしています。
赤絨毯に盛装が決まっている受賞者のみなさん。2023年も素敵な作品を期待しています(写真/SUUMOジャーナル編集部)
●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022」
良質なパウダースノーが楽しめるスキーリゾートとして世界的な注目を集める北海道のニセコ。そのニセコエリアで、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量をゼロにする持続可能なまちづくりに、官民一体となって挑んでいるのがニセコ町だ。環境先進国・ドイツのエコハウスをお手本に、2年前、ニセコ町の郊外に完成した賃貸の集合住宅と、市街地中心部の近くで工事が進められている新たな街区「ニセコミライ」での取り組みが、そのスタート地点。なぜ、ニセコ町は持続可能なまちづくりの一環として住宅の省エネ化に町をあげて、取り組んでいるのだろうか。ニセコミライの開発を手掛けるまちづくり会社の株式会社ニセコまちに話を聞いた。
ニセコ町ってどんな町?みんながイメージするあの国際的リゾート・ニセコひらふとは違う町「ニセコ」と聞いて多くの人がイメージするのは、多くの外国資本による高級ホテルやコンドミニアムが立ち並び、国内外の富裕層が集まる華やかなスキーリゾートだろう。ただし、今回取り上げる「ニセコ町」は、そのイメージとは少し異なる。
「ニセコ」というのは羊蹄山を中心に、主に倶知安(くっちゃん)町、ニセコ町、蘭越(らんこし)町にまたがるエリアを指し、そのうち、スキーリゾートNISEKOの中心地「ニセコひらふ」があるのは倶知安町。ニセコ町は、倶知安町の隣町だ。国定公園ニセコアンヌプリと、蝦夷富士とも呼ばれる羊蹄山(ようていざん)の裾野に位置する人口約5000人の小さな町。ジャガイモやアスパラガス、メロン、ゆり根などを生産する農業と、四季折々の豊な自然を活かした観光が主要な産業。ニセコ町にも、スキー場やホテルがあり、外国からの移住者も多いが、倶知安町のニセコひらふ周辺に比べると落ち着いた静かな町である。
札幌市や新千歳空港からは車で約2時間。外国からの投資でにぎわうニセコリゾートの中心・倶知安町の隣にあるのがニセコ町(画像提供/ニセコまち)
ニセコ町は羊蹄山(写真中央の山)の裾野に位置する、静かで自然豊かな町だ(画像提供/ニセコ町)
地球温暖化防止は待ったなしの今、大規模な産業のないニセコ町は建物の高断熱化に取り組むニセコ町は2014年、二酸化炭素排出量を86%削減しゼロカーボンを目指す「環境モデル都市」に国から認定され、さらに、2018年には内閣府から「SDGs未来都市」に選定されている。早くから環境への負荷を低減するための取り組みを行ってきた。しかし、地球温暖化や異常気象は簡単に抑えられるものではなく、それはスキー場の資源であるパウダースノーの質や、農作物の生育に大きく影響する。観光や農業で生計を立てている町民の生活をおびやかす。実際、ニセコ町でも近年はスキー場の雪質に変化が見られるという。地球温暖化防止は待ったなしの状況だ。
環境に負荷をかけずに二酸化炭素排出量を削減し、実質ゼロにするには「発電や産業、運輸など、化石燃料をエネルギー源として使用する際の二酸化炭素の発生を減らす」「太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスなどを利用した再生可能エネルギーから電気をつくり使用する」などの方法がある。
「ニセコ町の場合、立地条件などから風力発電や水力発電は向いていません。林業や酪農業も規模が大きくないため、間伐材からつくられるチップを燃やすバイオマス発電や、酪農業から得られる家畜のふん尿を使ったバイオガス発電も難しい。再生可能エネルギーの活用が難しいのであれば、使用するエネルギーを削減することで二酸化炭素排出量を減らすしかありません。しかし、ニセコ町にはエネルギー消費量が大きな大規模工場が稼働するような産業がなく、町内でのエネルギー消費の約7割は一般家庭やホテル、公共施設など建物由来。特に、ニセコ町の冬は最高気温がマイナスの日が続くため、暖房に使われるエネルギーが大きい。それを減らすために、建物の断熱性能を高めるという選択にたどり着いたのです」(株式会社ニセコまち・村上敦さん。以下、村上さん)
建物のエネルギー消費を削減しなければというニセコ町の思いは、ニセコ町役場庁舎にも見ることができる。2021年に竣工した新庁舎は、高性能断熱材、アルゴンガス入りトリプルガラスの木製サッシが導入された超高断熱の建物。夏涼しく、冬暖かい庁舎には、町民ホールやキッズコーナー、授乳室などが設けられ、自然に町民が集まる地域の交流の場にもなっている。
ニセコ町役場新庁舎。LPGガスによるコージェネレーションシステム、高断熱材、高気密高断熱のトリプルサッシを導入。躯体外皮性能0.18W/平米・Kを実現し、全国の庁舎でもトップレベルの省エネ性能だ(画像提供/ニセコ町)
木の温もりが感じられるニセコ町役場。1~2階は町民窓口がある執務室や防災対策室など、3階には町民が多目的に利用できる町民ホールや、コワーキングスペースにも使えるフリースペースがある(撮影/笠井義郎)
窓はシラカバ材の木製サッシ。トリプルガラスが採用されている(撮影/笠井義郎)
ニセコ町に誕生する官民でつくる新たな街区「ニセコミライ」。環境と住宅問題の切り札に環境負荷の低減のほか、ニセコ町が抱える慢性的な住宅不足に対応する、SDGsの視点から計画された新しい街区が「ニセコミライ」だ。開発の主体となっているのは、ニセコ町、地元企業、専門家集団が出資し、官民一体で立ち上げたまちづくり会社・ニセコまち。
「ニセコ町はもともと『まちづくりの主体は町民である』という住民自治の理念が基本にある町です。行政主導でもなく、地域外の大手企業に100%委ねるのでもなく、地域の人や企業を巻き込み、官民連携で挑戦しようとしています。そのため、住民が主体となって動けるように株式会社ニセコまちが設立されました」(村上さん)
ニセコミライがつくられるのはニセコ町役場などの公共施設や小中高校、幼児センター、飲食店などに歩いて行ける場所。将来的な計画では、約9haの敷地に、最大で450人程度が暮らすまちになる。
「第1工区は2022年10月から案内を開始しました。低層の木造集合住宅(木質化マンション)で分譲棟2棟、賃貸棟1棟と駐車場を予定し、現在造成工事中。オール電化で二酸化炭素を極力出さない住宅、暮らしがコンセプトです。最小限の光熱費で家中が暖かで、入居者個人の除雪や敷地管理の負担も少なく暮らしやすい住環境を整えます。また、第1工区の敷地内にはニセコミライの住民同士や周辺の住民の方との交流、子どもたちの遊び場など自由に使える住民共有の広場が設けられます」(株式会社ニセコまち・田中健人さん。以下、田中さん)
ニセコミライには、人口が増え移住希望者も多い、それなのに住宅が足りないという町が抱える課題の解消も期待される。
「ニセコミライのターゲットは主に、『現在の家が広すぎる、除雪が大変、市街地近くで生活をしたいなどで住み替えを考えているニセコに暮らしている方』『都市部からニセコに移ってきて、もっとニセコに溶け込みたい人』『ニセコに住みたいけれど、家がない』という方々です。分譲を開始してからは、別荘として使用したいという方からのお問合せも多いです。しかし、ニセコミライはもともと、町民の住み替えや、ニセコに根を張った暮らしをしたい人の移住を想定しています。ですから、特に、第1工区の一つ目の建物については、最終的にご購入いただく方すべてとお話しさせていただき、これからまちづくりに積極的に関わることを了承していただける方、ニセコ町のSDGsの理念に共感する方を優先してご案内しています」(田中さん)
目指すのは、ニセコに根を張り、コミュニティーに参加する人が暮らすまち。2025年以降に着工予定の第2工区は賃貸住宅とエネルギーセンター、シェアハウス、アトリエ、ランドリーカフェなどを予定。その後に着工する第3工区、第4工区はまちの需要に合わせた賃貸住宅や分譲マンションが計画されている。
ニセコミライは、環境に配慮し、「冬でも暖かく快適な暮らしをしたい」という町民の希望から導き出したコンセプトを形にする新しい街区(画像提供/ニセコまち)
2年前に建てられた集合住宅で実証実験中。これから生まれるニセコミライの家に活かされるニセコミライの集合住宅は、ニセコの厳しい冬をどれだけ快適に乗り越えられるのだろうか。2年前、ニセコ町の郊外にプロトタイプとなる集合住宅が建てられた。施工はニセコ町内の工務店が担当。ニセコミライを開発するスタッフと共に、高断熱住宅の先進国・ドイツを訪ね先進の高断熱住宅づくりを学ぶなど、地元の工務店にとっては技術力を高める機会にもなっている。(現在は、ニセコ町内の会社の従業員寮として使われているため取材時のみ公開)
ニセコまちのプロジェクトの実証実験として建てられた集合住宅(画像提供/ニセコまち)
「超高断熱・高気密の外壁と窓を採用しているため、冬季に使用する暖房は、建物全体を温める共用廊下のエアコン2台。このエアコンだけで外がマイナス14度でも、部屋の温度は19~20度を下回ることはありません。もう少し暖かくしたい場合は、各部屋についている500Wのパネルヒーターで室温を上げられます」(村上さん)
過酷な環境が、建物の耐久性にどう影響するかも気になるところ。
「冬は1階の窓の下半分くらいまで雪に埋もれてしまいます。外壁にクラック(ひび)が入らないか、重みで圧縮されて氷になってしまう雪の層は住宅にどのような影響を与えるのか、経過を見ながら、どれくらい耐久性があるかのテストをしているところです。結果は、ニセコミライで建てる住宅に活かしていく予定です」(村上さん)
共用廊下には2台のエアコンが設置されている。各住戸の玄関ドアの上に設けられた給気口から、基礎暖房として共用廊下のエアコンで温められた空気を室内に取り込む(撮影/笠井義郎)
窓の下にあるのは補助暖房として付けられているパネルヒーター。寒冷地ではトイレや脱衣室で使われるサイズだ。この集合住宅では、毎月数千円の共益費に基礎暖房代、駐車場代、除雪費、共用部分の清掃費が含まれている(撮影/笠井義郎)
外壁は厚さ10cmの柱と柱の間に、断熱材としてセルロースファイバー(蓄熱効果もあり、万が一火災で燃えても汚染物質を排出しない自然素材)が吹き込まれている。この集合住宅では、さらに防火性能の高いロックウールで外側をぐるりと囲む外断熱工法も採用し、ダブルでの断熱を実現している(撮影/笠井義郎)
窓にはアルゴンガス入りのトリプルガラスを採用。スマホで光を当てると、それぞれのガラスに光が反射し、3枚のガラスが使われていることがわかる(撮影/笠井義郎)
ニセコまちの田中健人さん(写真左)と村上敦さん(写真右)(撮影/笠井義郎)
ウッドショックで価格が上昇するなら、高断熱と電気のサブスクで住居費を抑える町民や移住希望者のための分譲住宅や賃貸住宅が計画されているニセコミライだが、ここへきてウッドショックなどの建築資材高騰が影響し販売価格や想定家賃が当初の予定よりも上昇せざるを得ない状況。それでも通常の住宅と比較して入居者の経済的メリットに可能性を秘めているのは、建物の高い断熱性能と電気料金のサブスクだ。
「ニセコでは冬を乗り切るための暖房費が可処分所得を圧迫します。光熱費は暮らし方などで異なりますが、4人家族、一般的な木造一戸建てで月5万~7万円というケースも耳にしました。さらにこれからも、電気代などの光熱費は上がっていく見通しです。しかし、断熱性能の高いニセコミライの住宅では、2年前に完成した集合住宅で結果が出ているように光熱費を大きく抑えても暖かく快適に生活することが可能です。住宅ローンの返済や毎月の家賃がこれまでよりも多少増えたとしても、光熱費の大幅な削減でトータルでの住居費は抑えられるのではと考えています」(田中さん)
さらに、検討中なのが電気を安い時間帯に購入し、電気代を定額・低額に抑える電気料金のサブスクモデルだ。
「どの時間帯にどの電気を購入するのかはHEMSと自動制御を導入して管理会社である私たちニセコまちが行います。基本はオール電化住宅で電気の基本料金とエアコン、エコキュートのリース代・メンテナンス代を含めて月1万6000円の定額制を計画しています」(田中さん)
一定の範囲を超えて使用した分は従量制での課金も検討しているそうだが、寒い時期でも暖房費を気にせず快適に過ごせる安心感は大きい。
建物の性能を上げての省エネは、脱炭素社会を実現するためのスタンダードに建物の断熱性を上げるというニセコ町での取り組みは、地元が経済的に潤う「域内経済循環」にもつながる。例えば『断熱による省エネ』で浮いた光熱費分のお金は、買い物をしたり外食をしたりといった地元や周辺地域での消費につながる。地元の工務店が断熱施工技術を学び、施工を行うことで、地元の工務店、職人の利益につながる。ニセコミライのような木造住宅で国産材を使用すれば、お金は地域、少なくとも国内に流通する。地域外に出ていってしまうお金を最小化するという自治体の戦略として汎用性があり、特に地方都市にとっては大きなメリットだ。
環境保護の面だけでなく、地域経済面でのメリットもある建物の高断熱化は、脱炭素社会を目指す自治体にとってこれからのスタンダードになるはずだ。
●取材協力
株式会社ニセコまち
ニセコ町役場
パリ東側の郊外の街モントルイユは、アーティストに人気の住宅街です。家賃の高さや住まいの狭さに辟易したパリ在住アーティストたちが、広い住空間を求め、10年ほど前から移り住むようになりました。街を歩いていると、歩道に無造作に置かれた古本の段ボールや(「どうぞご自由に」というメモ付き!)、特徴的な色使いの外壁などから、クリエイティブな人たちが暮らすエリアであることがわかります。グラフィックデザイナーのギレーヌ・モワさんも、パリから移住してきたアーティストの1人。庭のあるロフト風の一軒家には、自由な空気が流れていました。
広さと緑を求め、思い切って郊外へ「2009年にここに引越してくる前は、パリ13区に住んでいました。フランソワ・ミッテラン国立図書館のすぐそばにある古い広いアパルトマンで、かなり老朽はしていましたが、家族全員がとても気に入っていた住まいでした。ところがオーナーの希望で出てゆかねばならなくなり、ならいっそ賃貸から持ち家に変えようということになって」
最近夢中になっている陶芸作品を手にするギレーヌさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)
ギレーヌさんはイラストレーターとしても活動している(画像提供/ギレーヌさん)
自然光がたっぷりと差し込む広々としたリビングで、引越しのいきさつを話してくれたギレーヌさん。室内はグリーンがいっぱい、一面ガラス張りで覆われた庭側の壁面から入る風景と相まって、屋内でもあり屋外でもあるような、不思議な開放感のある空間です。ここに暮らしたら、きっと誰だってストレスから解放されることでしょう。
リビングはグリーンが緩やかな仕切りの役割を果たしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
愛猫フィフィ。猫は3匹います(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「賃貸暮らしをやめて物件を購入すると決めた時、優先したのは何よりも広さでした。それまで暮らしていた13区のアパートが広かったので、それより狭くなることは論外だったのです。でも、パリの広い物件はどこも非常に高額。そこで郊外、となるわけですが、モントルイユにはメトロが通っているところが決め手になりました。パリ暮らしをしていた私たち家族にとって、メトロは不可欠なのです」
不動産屋を介し訪問したこの物件は、元工場だったという建築物。以前のオーナーが住居に改装した、ロフト風の一軒家でした。ギレーヌさんとパートナーは訪問するとすぐにこの物件が気に入り、即決したといいます。庭もあり、しかも庭の向こうは空き地で、日光を遮る建物はなく、空き地の緑の借景と静寂が約束されている……信じられない好物件!
夏場は窓を全開に(写真撮影/Manabu Matsunaga)
庭はバーベキューやアペリチフ(食前酒)を楽しむスペースとして大活躍(写真撮影/Manabu Matsunaga)
しかし元工場のロフト風一軒家は、住まいとしては好き嫌いがはっきりと分かれるところ。個性的で面白いと感じる人もいれば、風変わりすぎていてどう住んでいいいのかわからないと思う人もいるはず。ギレーヌさんのようなクリエイティブな人は当然前者で、レイアウトデザイナーである彼女のパートナーもまた前者です。2人にとっては個性的で面白い物件ですが、普通の家の間取りではありません。その特殊さを把握していただくために、玄関からぐるりとご案内させてください。
1階と2階、合わせて約250平米のたっぷり空間まず、玄関前に立った時点から、ここが住まいの入り口のドアだとはあまり思えない外観をしています。例えるなら、オフィスの入り口のような? 大きなアルミサッシのガラス張りのドアがあり、ガラスの内側が暗い色のカーテンで目隠しされています。家の中が見えないので、プライバシーは守られているとはいえ、いわゆる「家」という雰囲気ではありません。
そのドアを押して玄関の内側に入り、先へ進むと、ブルーにペイントした壁一面がワインの木箱を転用した本棚で覆われています。この壁の裏手がシャワールーム、向かい側はテレビルーム。
ワイン箱を積み重ねて本棚に。ワイン箱は壁に固定していない。中に置いたものの重さだけでバランスを保っている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
窓のない一室をテレビルームに(写真撮影/Manabu Matsunaga)
フランスの住まいでは、テレビはリビングの主役にならないことがほとんどです。狭いアパート暮らしの場合は別ですが、テレビ専用の部屋を確保している家は少なくありません。または、テレビをリビングに置かず、寝室に置く人も多いです。
本棚で覆われた廊下の先が、長い長方形のロフト空間。右手がアイランドキッチンで、左手がギレーヌさんのアトリエ、その先が広いリビング。それぞれのコーナーが壁で仕切られることなく、家具の配置とグリーンで緩やかに仕切られています。
アイランドキッチンは、購入時にはすでに存在していました。ただし、以前のオーナーはここをバーカウンターのように使っていたそうです。ギレーヌさんは植物をたっぷり置いて目隠しをし、キッチンとリビングの区切りをつけています。もちろんあくまでも緩やかに、流動的な仕切り方で。
そんな緩やかな仕切りのあるゆったり空間を歩いていると、あちこちに一休みスペースやディスプレーコーナーが隠れていて、なんとも面白いのです。
目の前に広がるロフト空間、右手がキッチン(写真撮影/Manabu Matsunaga)
廊下からキッチンに入る空間の、くつろぎの演出。本とグリーンに囲まれた隠れ家のようになっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
キッチンはアイランドタイプ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
以前はカウンターとして使われていたアイランドキッチン。あえてグリーンをたくさん置き、独立させた(写真撮影/Manabu Matsunaga)
アイランドキッチンの内側からは抜け感のいい室内の風景が見渡せる(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「2階建てのこの建物の総面積は、だいたい250平米でしょうか。ここに引越してきたばかりのころは、夫と一人息子と私の3人で暮らしていました。でもすぐに息子は大学生になって、一人暮らしを始めて。以来ずっと夫婦2人だけで住んでいます。はい、2人暮らしでこの広さですよ。家は私の仕事場でもあり、1日のほとんどをここで過ごしていますから、ここで私が快適かどうかはとても重要なことなです」
2階にはギレーヌさん専用の仕事場と、パートナーの仕事場、夫妻の寝室、息子の寝室があります。ギレーヌさんの仕事場はバルコニー付きで、集中力を要する仕事の合間にふと一息つくのに好都合なのだそう。本当に、この開放感、自然を身近に感じられる環境は、ギレーヌさんにとって何にも変えがたいものなのでした。
ギレーヌさんのアトリエコーナー。ここでイメージを膨らませて、実際の作業は2階の仕事場で行う(写真撮影/Manabu Matsunaga)
アトリエコーナーの上に、ギレーヌさんの仕事場がある(写真撮影/Manabu Matsunaga)
2階にあるギレーヌさんの仕事場。ここにもグリーンが(写真撮影/Manabu Matsunaga)
リビングには薪ストーブが。リビングの大テーブルコーナーの向こうに、ギレーヌさんのアトリエコーナーがある(写真撮影/Manabu Matsunaga)
だだっ広い長方形の空間。実は演出が難しい?広さ、明るさ、そして窓の外の緑。これだけ広い住まいなら、いくらでも工夫して楽しく暮らせそうです。が、意外にも、縦に長いロフト空間は、暮らしやすいレイアウトづくりが難しいとギレーヌさんは打ち明けてくれました。では、どのように克服しているのでしょうか?
リビング側から見たソファのコーナーと、その後ろ側にあるキッチン(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「各コーナーを魅力的に演出する小道具として、グリーンを使っています。もともとグリーンが好きなこともありますが、ただ単に家具の配置でコーナー分けをするよりもいい雰囲気になりますし、かといってつい立てなどとは違い空間の流動性が失われません」
仕切りのようでいて向こうが見える、グリーンならではの特徴を活用しているわけです。そのグリーンの数の多さにびっくりしますが、買ったものは1つしかないのだそう。わけ技をして増やしたり、路上に捨てられていたものを拾ってきたりしてこれだけの数になったと言います。
「みんな枯れたと思って捨てるのでしょうけれど、案外こうして蘇生できるものなのです」
グリーンと好相性のヴィンテージ家具は、パートナーの収集品です。
「パリ13区に住んでいたころ、すぐお隣にチャリティーショップがあって、彼はほとんど毎日そこへ行っていました。古いもの探しが趣味なのです。蚤の市やフリーマーケットにもちょくちょく出かけていますし、グリーンのように拾って来たものもありますよ。今はヴィンテージが流行っていますが、20年前はそうではなくて、古いものは単純に中古品としてとても安く買えました。広い家に住んでいると、そうやって集めたものを置いておく場所があります。そして集まったものたちは、自然と自分の居場所を見つけて、こうして調和しています」
薪ストーブのすぐそばに大テーブルコーナーが。冬は揺れる炎を見て楽しみ、夏は壁面全体を覆う窓を開け放ち開放感を享受(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「これを買って家のあそこに置こう!」とか、「家のここに置くこんな家具があるといいな」と考えながら買いものをしないのが古いもの探しの極意、とよくいわれますが、ギレーヌさんの住まいを見ていると、どうも実際にそのようです。なんと、家具や食器類は、新しいものを買うことがほとんどないのだそう。とはいえ、ものとの一期一会だけで、うまい具合に必要なものが見つかるのでしょうか?
「不思議なものでこうやって常に古いもの探しをしていると、『サイドテーブルが欲しいな』と思って外に出ると、パッと出合ったりするものです。信じられませんか? でも本当にそうなのですよ! それから、あまりいろいろなものを必要としないことも重要なのかもしれませんね。あるものでやりくりすれば、案外なんとかなるものです」
ものとのグッドタイミングな出合いの話には驚きますが、広い空間と、好きになって連れてきた古いものたちさえあればなんとかなる、というスタンスは、実際うまくいく組み合わせのかもしれません。自分たちは古いもの探しが趣味だから、それらを気兼ねなく置いておける広い住まいが必要。そうはっきりとわかっていて、優先順位の一番高いところが満たされさえしていれば、あとはおおらかに、うまく対応できるような気がします。
気に入って集めたものたちは、暮らしに活かせてなんぼ!ホウロウのキッチンツールを壁にかけて飾る収納。もちろん、料理に使います(写真撮影/Manabu Matsunaga)
ギレーヌさん宅にもたくさんのものがありますが、家の中を見渡すと、それぞれのものが必ずなんらかの役割を果たしていることがわかります。先ほどギレーヌさんが「集まったものたちは、自然と自分の居場所を見つけて調和しています」と話してくれた、まさにそのとおり。椅子や棚がそれ専用の用途に使われているのは当然ですが、ホウロウの古いキッチンツールも飾りではなく日々の料理に使われ、未使用のクッキングストーブはコンソールテーブルになっている、といった具合です。
さらに、ギレーヌさんが散歩中に拾ってきた木の実や枝も、ディスプレーのオブジェになっていました。こういう何気ないものが素敵に映えるのは、やっぱり空間の広さがあってこそという気がします。
蚤の市で買ったグラス類に、散歩中に拾った木の実や、猫をブラッシングした時に出る毛を集めてつくった毛玉を入れて。こちらも飾りをかねた収納(写真撮影/Manabu Matsunaga)
今ではヴィンテージとしてもてはやされている家具も、20年前はチャリティーショップで激安価格だった(写真撮影/Manabu Matsunaga)
クッキングストーブはコンソールテーブルとして飾る収納に(写真撮影/Manabu Matsunaga)
ギレーヌさんが最近夢中になっている陶芸。食器やオブジェを手づくりして楽しんでいる(写真撮影/Manabu Matsunaga)
自分の作品をディスプレイできるのも、広い空間があればこそ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
この家のために買った2つの新品。その正体は?中古品の使い込んだ風合と、たっぷり配されたグリーン。それが調和した居心地のいいロフト。そんなギレーヌさん宅にも、この家のために新調したものが2つだけあるといいます。それはなんでしょうか?
「鮮やかな黄色のカーテンと、テーブルコーナーの薪ストーブです。どちらも、この家のためにオーダーしました。カーテンの色を決めるときに、ナチュラルな生成りにするか、目の覚めるような黄色にするか、とても悩みましたが、黄色にしてよかったです。冬場の日が短い季節でも、このカーテンを引けばすぐに空間が明るくなりますから。麻の風合いも気に入っています。薪ストーブは家全体を暖めてくれますし、揺れる炎を見るのも好き。火の周りには人が集まりますよね。とても重要なアイテムです」
面積が多い分、大胆な色を選んで大正解だったカーテン(写真撮影/Manabu Matsunaga)
新調した薪ストーブ。これと床暖房で冬は万全(写真撮影/Manabu Matsunaga)
庭には薪ストーブ用の薪のストックが(写真撮影/Manabu Matsunaga)
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
自分自身の居心地の良さを追求してつくったギレーヌさんの住まいは、まるでギレーヌさんその人のように、飾らず、自由。とても魅力的でした!
ギレーヌさんお気に入りのショップIna Luk。個性あふれるクリエイターのグッズを販売(写真撮影/Manabu Matsunaga)
お隣の街、ヴァンセンヌの本屋さんMille Pages (写真撮影/Manabu Matsunaga)
(文/Keiko Sumino-Leblanc)
●取材協力
ギレーヌ・モワさん(グラフィックデザイナー)
インスタグラム
●関連サイト
Ina Luk
Mille Pages
ニューヨーク人情酒場へようこそ!これは、ブルックリンにある小さな酒場(レストラン)で起こったいろんな出来事。
大都会の夜、一杯の酒から始まる人間模様。作者はこのお店で今お寿司を作っているよ。
※ミスター・ミヤギ:映画「ベスト・キッド」の登場人物。いじめられっこの主人公が住むアパートの管理人にしてカラテの達人
いきなりまさかの展開です。でも、寿司職人に対する憧れはずっとあったので受けることにしました。
特別な資格や経験も乏しい移民がアメリカで生活していく上で職業の選択肢は決して多くないのですが、その中でも、特殊能力的な意味で寿司職人はいろいろな場所で重宝される印象があります。一発逆転した方がニュースで取り上げられたりもしていましたね。
中でもグルメの集まる都市、ニューヨークでの寿司職人の待遇はとても良く、アメリカンドリームの1つであるといっても過言ではありません。なんといっても高級な寿司店では一人当たりの単価が200~300ドル(日本円で2万7千円~4万円ほど)が当たり前という世界ですから……。その分、卓越したサービスを求められるのは間違い無いんですけどね。
ひとことで寿司職人といっても日本で職人に弟子入りして長く経験を積んだ方から、身一つでアメリカにやってきて生きるためにゼロから寿司を覚えた方まで三者三様。
しかし、手に職をつけていれば食うのに困らないというのは、まず間違いないといえるでしょう。
©1984 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
正直に言ってNYの寿司職人さんは昔ながらの日本人気質の方が多く、そしてほぼ全員が男性です。
ですが、トシさんはどうにもユニークな存在でした。女性を絶対的にリスペクトしており、さらに元々はボクサーをしていて世界中を旅したらしく、その後いろいろ経てアメリカ移住、寿司職人になり30年というかなり面白い経歴。
父親と同年代の方でしたがかなり自由な魂をもった方でした。そして同僚からは、「レミにはミスター・ミヤギがついたらしい」と言われまくりました。
©1984 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
忙しいときこそ、その人の本性が出ると思っています。
トシさんの前向きな姿勢は本当に素敵だし、自分に対しても他人に対してもネガティブな言葉を発するところなんて一度も見たことがありません。
忙しい現場だからこそ、いい雰囲気で一緒に仕事できるよう心がけるというのは、口で言うのはたやすくてもなかなか実行できないものです。
こういうこともあって、私はどんなときも前向きで何があっても私を助けてくれるトシさんを、魔法少女ものでいうところのマスコットキャラ的な妖精なんだろうと思うようになりました。
作者:ヤマモトレミ
89年生まれ。福岡県出身。2017年、勤めていた会社の転勤でニューヨークに移住。仕事の傍ら、趣味でインスタグラムを中心に漫画を描いて発表していたところ、思った以上に楽しくなってしまい、2021年に脱サラし本格的に漫画家としての活動を開始。2022年にアメリカで起業し個人事業主になりました。ブルックリンのレストランで週4で寿司ローラーをやっています。
最近、時刻表や広告などを液晶で表示したバス停が増えていると思いませんか? 運行、運休情報がすぐに確認でき、文字が時刻に合わせて自動で大きく表示されることに、便利だと感じた人も多いと思います。それは、IoT(モノのインターネット:モノがインターネット経由で通信すること)を活用した次世代のバス停「スマートバス停」です。デジタルのバス停との違いや、今、「スマートバス停」が全国に導入されている背景、開発の経緯や最新技術、利用者のメリットについて、取材しました。
最新のIoT技術を活用して開発された「スマートバス停」以前から、広告付きバスシェルターやバスの接近情報案内板がデジタル化されたバス停はありました。「スマートバス停」は、一体どこが今までと違うのでしょうか。開発に携わったYEデジタル(ワイ・イー・デジタル)マーケティング本部の工藤行雄さんと事業推進部スマートバス停担当の筒井瑞希さんに伺いました。
左が従来のバス停。右が「スマートバス停」。バスの接近情報や時刻表、広告などがデジタル表示される(画像提供/YEデジタル)
「今までにない利点のひとつは、『スマートバス停』は、電源のない所にも設置できることです。日本国内にバス停は、53万基ありますが、その8割に電源がありません。そのため、従来のデジタル化されたバス停は、都市部への設置が主でした。『スマートバス停』は、反射型液晶という超低消費電力技術を用いたディスプレイに、太陽光発電パネルとバッテリーを組み合わせることで電源を必要としないなど、設置環境やニーズに合わせて選べる複数のモデルをご用意しています。そのため、給電しにくい郊外部にも設置が可能になりました。反射型液晶を使った郊外モデルでは、昼は太陽光の反射を活かし、夜間にはバックライトを使って電灯がない所でも高い視認性を保つことができます」(筒井さん)
今まで不便だった高齢者が多い郊外部のバス停でも、大きい文字で時刻表が見られたり、ダイヤ変更の際にすぐに情報が反映されるなど、利用者の利便性が大きく向上しました。
太陽光発電とバッテリーを搭載しているので、長期間日が当たらなくても稼働できる(画像提供/YEデジタル)
反射型LCDにバックライトを組み合わせることで、夜間でもよく見える(画像提供/YEデジタル)
「情報が一覧できるため、複数の交通情報などにスマホでアクセスするのが難しい方にもわかりやすく、英語、中国語、韓国語の翻訳機能もあるため、インバウンド観光で訪れた人にも対応しています。路線バスの情報だけでなく、コミュニティバスの乗り継ぎ情報や航空便の運航状況が逐一表示されるなど、従来のデジタル化したバス停よりも、情報の統合が進んでいるのです」(筒井さん)
従業員の高齢化に悩むバス事業者を「スマートバス停」で働き方改革「さらに、大きな特徴は、DX化(デジタル技術でビジネスモデルや働き方を変えること)により、バス会社の従業員の働き方改革をした点です」(工藤さん)
プロジェクトの立ち上げのきっかけとなったのは、2017年、工藤さんが、西日本鉄道、西鉄バス北九州、西鉄エム・テックと交わした雑談でした。
「そこで、全国のバス事業者が抱える問題について話題になったんです。年2回、バス停の時刻表を張り替える作業は、従業員総出で深夜まで行っていると知りました。従業員の高齢化や張り替え時の事故の危険性があり、コロナ禍によるダイヤの改正が増えたことも影響し、大きな負担となっていたのです」(工藤さん)
工藤さん。「『スマートバス停』は、まち全体をデジタル化するための第一歩。テクノロジーを使って、事業者にとっても利用者にとっても便利なバス業界にしていきたい」(画像提供/YEデジタル)
ダイヤ改正前の時刻表作成作業。ダイヤ改正日の当日深夜、運行管理者や運転手など、営業所総出で張り替え作業をしていた。西鉄バス北九州では、コロナ禍による飛行機の欠航に合わせ、月3回もダイヤ改正する時もあったという(画像提供/YEデジタル)
福岡県北九州市に本社を置くYEデジタルは、IoTを活用したさまざまなサービスを提供しています。工藤さんとバス事業者の会話がきっかけとなり、「バス事業者の抱える課題を解決するバス停をつくろう」と、2017年から、今までにないバス停をつくるプロジェクトが始まりました。
開発は、日本最大手のバス事業者西鉄グループと共同で行いました。高齢化が進む北九州市で、西鉄バス北九州が抱える課題は、全国のバス事業者に共通するのではないかと考えました。
「最も困難だったのは、電源の確保ですね。実は、今回のプロジェクト以前にも何回か商品化にチャレンジしてきましたが、電源問題で先へ進みませんでした。しかし、省電力化の技術が進み、蓄電池のコストも下がっていました。そこで、ソーラー蓄電池で稼働できる商品を開発。電源の有無に関係なく設置できるようになり、全国で8割を占める電源のないバス停のスマート化実現の可能性が一気に高まりました」(工藤さん)
苦労したのは、屋外での耐性面です。
「高湿度による結露を原因としたショート防止などの湿度対策、夏の暑さやアスファルトの照り返しなどへの対策、排気ガスへの耐性……ひとつひとつ課題を解決し、実証実験で検証を重ねました。完成した『スマートバス停』は、14県24事業者に導入され、約140基が稼働中です。販売を開始してから5年間で解約はゼロ。全国で順調に増えています」(工藤さん)
文字の拡大表示など今までにない機能で利便性アップバス事業者のメリットだけではなく、西鉄グループからは、「利用者の利便性を向上させるものを」と要望されていました。「紙の時刻表をデジタル表示するだけでは面白くない」と考えたマーケティング本部は、文字を拡大する機能を提案。西鉄グループと共同で運賃や路線、臨時ダイヤを含む連絡事項などの画面を指定した間隔で巡回表示する機能も新開発しました。
2020年1月に製品化された「スマートバス停」のラインアップは、繁華街モデルや市街地モデルのほか、太陽光パネルを使い充電するたびに繰り返し使える二次電池を用いた郊外モデル、電気使用量を最小限に抑え、完全に放電し終わったら取り換える一次電池を用いた楽々モデルの4タイプです。
左から繁華街モデル、市街地モデル、楽々モデル、郊外モデル。4つのモデルを基本形にして、バス事業者の要望に合わせてカスタマイズができる電源不要の郊外モデルと楽々モデルの登場は画期的だった(画像提供/YEデジタル)
北九州市小倉北区のスマートバス停。上からフライトインフォメーション、エアポートバスの運行情報、時刻表を掲載(画像提供/YEデジタル)
2021年3月には、北九州空港線全路線に楽々モデルが導入されました。2路線23停留所へのスマートバス停化により、6時間以上かかっていた時刻表作成時間は1時間に、18時間かかっていた時刻表張り替え時間は0時間に短縮でき、ダイヤ改正1回に要するコストを96%削減できました。導入された西鉄バス北九州では空港線以外でのスマートバス停の設置が進んでおり、利用者からは、「急な運休情報もすぐに確認できて便利になった」「目が悪いので時刻が大きく表示されるのが助かる」という声が寄せられています。
異業種コラボでユニークな「スマートバス停」が続々登場さらに、異業種とのコラボレーションでさまざまな「スマートバス停」が登場しています。広島電鉄×伊藤園のコラボで開発した自動販売機一体型サイネージ(電子看板)は、広島駅へ設置されました。時刻のお知らせや接近情報、広告を発信しながら、利用者に飲料水を提供できる自動販売機です。クリーニングボックス付きや地元銘菓が買えるユニークな「スマートバス停」の実証実験なども行ってきました。
左が自動販売機一体型サイネージ。真ん中は、タッチディスプレイを搭載した自動販売機一体型の「スマートバス停」。地元銘菓「くろがね堅パン」を購入した人はオリジナルフレーム付き記念写真の撮影ができる。右はクリーニング対応ロッカー付きバージョン(画像提供/YEデジタル)
まちづくりにおいても注目されており、福岡県みやま市では、自動運転×スマートバス停の実証実験を実施。スマートバス停とコミュニティバスの連携をテストしました。市の情報も表示し、市民がバス停に行くことで行政や民間の情報を得られるようにしてまちの活性化につなげます。
「スマートフォンとの連携もいずれ進めたいと思っています。地域の求人や物件情報がバス停に表示されれば、そこに住んでいる人にダイレクトに届けることができます。バスインフラのコストは、鉄道と比べて10分の1で、今後、市民の足としてますます重要になります。ニーズに対応しながら、全国に『スマートバス停』を広めていきたいですね」(工藤さん)
2021年9月の実証実験で、「スマートバス停」と「みやま市自動運転サービス」の連携を行った(画像提供/YEデジタル)
「スマートバス停」にQRコードを表示し、QRコードサイトから、産経新聞社の「探訪シリーズ」の写真がダウンロードできるサービス(画像提供/YEデジタル)
バス事業者の働き方と住民生活を支える「スマートバス停」。取材では、「簡易的なメッセージをスマートフォンからバス停に送って表示する」アイデアも飛び出しました。「スマートバス停」の表示板でサプライズのプロポーズをする、なんていうユニークな使い方も生まれるかもしれませんね。
●取材協力
株式会社 YEデジタル
コロナ禍でリモートワークやステイホームが浸透し、自分が住む地域に目を向ける機会が増えている。地元のまちづくり活動を目にして、参加してみたいと思う人もいるのではないだろうか。これからは、住む街を選ぶという行為だけでなく、参加して変えていくことが、街との関係を考える上でのキーポイントになるかもしれない。全国の最新事例とともに、書籍『まちづくり仕組み図鑑』(日経アーキテクチュア編、日経BP 2022年9月発刊)の著者、早稲田大学教授の佐藤将之先生にお話を聞いた。
続くコロナ禍。身近な人やモノ、機会に目を向ける佐藤先生の専門は建築計画・環境心理・こども環境。今年9月に、共著で『まちづくり仕組み図鑑』を上梓した。まちづくりに「無意識的」に参画できるような仕組みのポイントを解説しつつ、全国12の事例を取材・紹介して、新たな方向性を示した本だ。カラー写真や図が多く読みやすいので、まちづくりに興味がある人や、地元での楽しみ方を探している人は、ぜひ読んでみてほしい。
もともとは飲み友達だったという佐藤先生と安富啓さん(石塚計画デザイン事務所)、佐藤先生とはパパ友である馬場義徳さん(星野リゾートの海外事業グループユニットディレクター)の共著(写真提供/佐藤将之さん)
「すてきな偶然に出会ったり、予想外のものを発見したりすることを“セレンディピティ”といいますが、ビジネスにおいては、その偶然に“新たな価値を見出す能力”としてとらえられています。これは今回のテーマの一つであり、本の中でも、セレンディピティによって偶然の出会いを楽しみながらビジネスをするという、これからのまちづくりを紹介しています。
地元の会社と地域の人が連携して定期的にマルシェを開催する「DIY STORE三鷹」での事例(写真提供/佐藤将之さん)
僕を含む共著の3人は、まちなどをプランニングする上で、プロセスを大事にしてきました。物理的環境に寄与したまちづくりではなく、本の中で“地元ぐらし”と呼んでいる暮らし方のような、『“身近なところに隠れているいろいろなもの”を大切にするまちづくりに、ビジネスの契機や幸運が埋もれているのでは? そして、それを逃している人が多いのではないか?』と考えたことが、この本を制作したきっかけです(佐藤先生、以下同)」
「自分が暮らす地域=地元」という認識があるなか、この本の中での“地元ぐらし”とは、単にその地域に住んでいる状態を指すのではなく、地域で出合う機会や人脈、地域のポテンシャルを活かしながら、楽しんでビジネスしている暮らし方という意味で使われる。
建築計画のほか、幼児や子どもが過ごす環境に関する研究も行う佐藤先生。『まちづくり仕組み図鑑』でも事例として紹介した「市民集団まちぐみ」(青森県八戸市)のTシャツを着こなす(写真提供/佐藤将之さん)
地元で相手の顔を見ながら、小さく始める具体的には、コロナ禍が続く現在、まちづくりはどう変わっているのだろうか。
「コロナ以降のまちづくりのキーワードとしては、地元に目を向けることと、ビジネスを小さく始めるスモールスタートにチャンスがあるのではないかと思います。
スモールスタートの考え方は以前からありましたが、コロナ禍で人々が交流できなかったことの反動で、今は、人とのつながりの価値が高まり、リアルに会うことの大切さを、多くの人が実感しているのではないでしょうか」
そうなると、リアルに会いやすいのは地元で暮らす人であり、まずは地元で、顔の見える人たちを相手に小さく事業を始める、スモールスタートが向いている……といえそうだ。
「また、今は人を『“分ける”から“混ぜる”』に変化しています。昔は人口が増える社会だったので、人を『いかに分けるか』が課題でした。例えば、小学生がメインのイメージがある児童館において、首都圏では中高生用の児童館も誕生していた……、というように。でも人口が減少した今は、ニーズが低い用途の建物を単体で建てていては成り立たなくなり、『いかに混ぜてあげるか』が大事になっています。最近は、高齢者施設の入口に駄菓子屋が入っている例もあります。孤立しがちな高齢者とそのほかの人たちと混ぜるのはどうか?と考える動きが現れた、その一例です」
役目が広がる、現代の駄菓子屋の事例さらなるキーワードを探して、具体的に事例を見ていこう。まずは、「ヤギサワベース」(東京都西東京市)という施設。グラフィックデザインのオフィスに駄菓子屋を併設して、デザイン業も拡大したという内容だ。
駄菓子がにぎやかに並ぶ「ヤギサワベース」の店内。壁のアートワークがカッコイイ(写真提供/佐藤将之さん)
向かって左側が駄菓子売り場、右側の什器の仕切りの奥がフリースペース。子どもたちは駄菓子を食べたり宿題をしたりして自由に過ごす(写真提供/佐藤将之さん)
低層ビルの1階に位置し、駄菓子屋が営業を開始する午後には、子どもたちの自転車が集まってくる(写真提供/中村晋也さん)
グラフィックデザイナーである中村晋也さんは、自身のデザイン事務所に併設する形で「ヤギサワベース」という駄菓子屋を始めた。駄菓子屋は参入障壁が低く、ビジネス構造も単純であることがわかったからだという。売り場の奥にはフリースペースがあり、子どもたちは自由に“たまる”ことができ、夜になると商店街の集会場所としても活用される。スペースを地域に開いたことをきっかけに、地元コミュニティーから本業のデザインの依頼も舞い込むようになったという。
「ヤギサワベース」がある柳盛会柳沢北口商店街の祭礼で、中村さんがポスターなどのデザインを担当(写真提供/中村晋也さん)
中村さんは現在、西東京市で販売されているさまざまな商品のパッケージデザインなども担当し、地域でのネットワークを広げている。「ひばりが丘PARCO」や「ASTA」といった、市内の大型商業施設のデザインにも参画しているという。
自身のデザイン事務所に駄菓子屋を併設するスタイルは、地元での「スモールスタート」であり、人を「分けるから混ぜる」ことも含んだ事例だ。
西東京市のアンテナショップ「まちテナ 西東京」の責任者にもなり、店舗のデザインなども任されている中村さん。ここでも「まちづくり仕組み図鑑」が購入できるので要チェック!(写真提供/中村晋也さん)
「ひばりが丘PARCO」では、「西東京市カルタ展」の展示を担当(写真提供/中村晋也さん)
佐藤先生によると、「そもそも、昔と比べて駄菓子屋の意味が変わってきています」とのこと。
「かつては、駄菓子屋といえばお菓子があり、子どもたちが集まっていました。でも近年は、子どもたちとそれ以外の人との交流の場としても活用されています」
「ヤギサワベース」のフリースペースでゲームなどを楽しむ子どもたち。遊び場に大人の目があるのは、親としても安心(写真提供/中村晋也さん)
現代において駄菓子屋は、多世代をつなぐ場としてのキーポイントに。以前SUUMOジャーナルでも紹介した、野田山崎団地にオープンした「駄菓子屋×設計事務所」の「ぐりーんハウス」の事例や、2022年度のグッドデザイン大賞を受賞した、店内通貨によって子ども食堂の役割を果たした奈良県の駄菓子屋「チロル堂」の事例も、駄菓子屋の新しい形といえそうだ。
地域の絆を大切に、スモールスタートでほかにも、地元に目を向けたスモールスタートの事例を2つ見てみよう。
「DIY STORE三鷹」(東京都三鷹市)は、東京の郊外でDIYショップを開く会社だ。地域連携の一環として、年2回、駐車場でマルシェを開催していることで、会社の認知度が向上し、住宅の改修工事の受注効果につながるなど、波及効果は大きいという。
マルシェに出店する手仕事の作家たちは、「DIY STORE三鷹」の店内でも、日常的に商品を販売することができる(写真提供/佐藤将之さん)
「DIY STORE三鷹」を運営するTLSグループの本業はビルメンテナンス事業やリフォーム事業。コロナ禍で人々が自宅をリノベーションしたり、これまで目を向けていなかった地元のお店に行ったりする頻度が増えたというライフスタイルの変化に着目。DIYショップやマルシェの活動を通して、地域とのコミュニティーを形成した。
「DIY STORE三鷹」のマルシェは、アパートの駐車場スペースを活用して開催。小さなスペースだからこそ、出店者や来場者に活発なコミュニケーションが生まれているという(写真提供/佐藤将之さん)
マルシェでは農作物を販売する市内の農家や、アクセサリーなどをつくって販売する近隣の造形作家、紙芝居屋さんやキッチンカーなどが集まる。2020年の初回から、1日当たり600人が来場したという。
「先日も、11月の初めの3日間、秋のマルシェが行われました。地元の人同士がつながるだけでなく、手仕事をしている人やDIYに関心がある人など、趣味の合う人がつながることがマルシェの強みです。出店を機に商談に発展することもあるほか、出店者同士のコラボなどが生まれています」
2021年11月に行われた、活況の秋のマルシェの様子(写真提供/佐藤将之さん)
ビーズ編みや刺繍のアクセサリーを手掛ける地元作家の出店ブース(写真提供/佐藤将之さん)
地元作家による手仕事の商品を前に、会話も弾む(写真提供/佐藤将之さん)
TLSグループの白石尚登代表は、マルシェスペース周辺のアパートを買取ってオーナーとなり、工作教室やシェアレンタルスペースとして貸出している。シェアレンタルスペースは日替わりで喫茶店やベーカリー、整骨院などになり、トライアルできるスペースと賃料によって、双方にメリットがあるという。
「DIY STORE三鷹」では、リノベーションしたアパートをシェアレンタルスペースとして喫茶店などに貸し出している(写真提供/佐藤将之さん)
DIYを見学し、シェアレンタルスペースのカフェでくつろぐ学生たち。カフェスペースがあることで、ふらりと訪れた若者も覗きやすい仕組みになっている(写真提供/佐藤将之さん)
「スタジオ伝伝とArt&Hotel木ノ離」(岐阜県郡上市)は、岐阜県の郡上八幡に移住した建築家の藤沢百合さんが、スタジオの設立後、ゲストハウス「Art&Hotel木ノ離」を開業。“地元ぐらし”の場とした例だ。郡上八幡の2拠点に、住民や観光客が気軽に訪れる場をつくることで、出会いや持続的な関係を生み出す。
建築設計事務所「スタジオ伝伝」は、縁側に立ち寄って座れるようにしつらえている(写真提供/佐藤将之さん)
「スタジオ伝伝」のエントランスは引き戸にして開放し、地域に対してオープンに(写真提供/佐藤将之さん)
小さくビジネスを試してみて、周囲の反応を見ながら少しずつ成長させた藤沢さん。東京に設計事務所を残しつつ、郡上で空き家再生などの建築活動が根付いてから、オフィスを立ち上げた。そして定期清掃やお祭りの準備など、地域活動にも積極的に参加していた結果、「木ノ離」となる物件の大家とつながり、トライアルからゲストハウスを始めた。
「無理せず段階を経てビジネスを発展させていく、スモールスタートの例です。やりたいことを周囲に話しておくと、誰かしらが助けてくれたりするもの。藤沢さんが『空き家でゲストハウスをやりたい』と周囲に話したことで幸運を呼び込んだ、セレンディピティの例でもあります」
お酒のCM撮影のロケ地になった「Art&Hotel木ノ離」。敷地外から2方向のアクセス路があり、外履きのままキッチン・ダイニングまで入ることができる。「スタジオ伝伝」との距離は徒歩2分(写真提供/佐藤将之さん)
お酒のCM撮影のロケ地になった「Art&Hotel木ノ離」。敷地外から2方向のアクセス路があり、外履きのままキッチン・ダイニングまで入ることができる。「スタジオ伝伝」との距離は徒歩2分(写真提供/佐藤将之さん)
高齢男性のパワーと“複業” がキーワードそれでは、これからのまちづくりのポイントは?
「一つ目は、高齢者マンパワーに期待することですね。なかでも、退職後の高齢男性は、地元に肩書なしで付き合える仲間や居場所がないことがあり、1日中冷暖房の効いた公共施設で時間を潰している例を聞きました。活動のポテンシャルが活かされていないと感じています。高齢男性が無意識的に参画することができて、知らず知らずのうちに地域活動で躍動するような場や仕組みを提供できるなら、そこにビジネスチャンスがあるのでは」
女性は近所付き合いや自治会、子どものPTA活動などを通して、地域と接点があることが多いが、世代的に仕事人間だった高齢男性は、リタイア後に孤立しがちなようだ。
高齢男性のパワーを活かせるような地域での居場所や雇用方法を考えることが、これからキーワードの一つだ。
「二つ目は、“副業”というより“複業”を考える時代ということです」
通信・情報環境の進化や企業の副業解禁、働き方改革などの追い風で、“複業”は身近になっている。
「今はさまざまな人が、多彩な仕事や役割を担うことができます。『ヤギサワベース』における駄菓子屋のように、複業は自分の中で稼ぎ頭ではなくても、本業へ人々を引き込む力がある場合も」
子どもたちでにぎわう「ヤギサワベース」。大人にとっては懐かしい空間だ(写真提供/中村晋也さん)
「ヤギサワベース」ではワークショップも開催。この日は「好きな駄菓子を描く」がテーマ。イラストを見ると、それ自分も好きだった!と言いたくなる(写真提供/中村晋也さん)
今後の暮らし方でいえば、今住んでいる場所だけでなく、多拠点生活や移住も注目を集めている。移住先で“地元ぐらし”をするために心掛けることは?
「今回、書籍で扱った人たちの中には移住組も多いのですが、まず地元の人と一緒に作業に取り組んだり、顔なじみをつくってから生業を始めたりするなどのポイントがありました。周囲の人を無意識的に巻き込んで、共に楽しむことができれば、移住した先でも、地元ぐらしがうまくいくのではないでしょうか」
「地元ぐらし」「スモールスタート」「分けるから混ぜる」「副業から複業へ」など、現代のまちづくりや暮らし方のキーワードには、どれも納得。
筆者も地元が好き。ただこれまでは、「地元」を強調すると、その地で生まれ育っていない人が疎外感を覚えるのでは……と考えていたけれど、必ずしもそうではなさそう。そのまちを愛し、地域の人の役に立ちたいと考えて動き、楽しんでいたら、それは地元ぐらしであり、そこはもう「地元」になるのだ。
●取材協力
・早稲田大学人間科学学術院教授 佐藤将之先生
・まちづくり仕組み図鑑