
14万3,000円 / 51.2平米
京成本線・千代田線「町屋」駅 徒歩5分
リノベーションにて生まれ変わった、小ぶりな戸建て。梁・壁・天井が全て白く塗装されたリビングが特徴の、2人暮らしにぴったりの物件です。
暗くなりがちな1階に寝室、バストイレ、比較的明るい2階にキッチン、リビングという気の利いた間取り。
窓が小さく奥行のあるつくりですが、梁がむき ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
東京都を代表する巨大ターミナル・新宿駅が、2023年2月にリクルートが発表した「SUUMO住みたい街ランキング2023(首都圏版)」にて住みたい街(駅)ランキングで5位に輝いた。同調査で「住みたい理由」として挙げられたのは、「魅力的な働く場や企業がある」「文化・娯楽施設が充実」「いろいろな場所に電車・バス移動で行きやすい」「大規模商業施設がある」など、働くにも遊ぶにも便利であり交通の利便性も高いという点だ。そんな便利で人気の街・新宿までアクセスしやすい、家賃相場が安い駅を調査してみた。駅から徒歩15分圏内にある、一人暮らし向け物件の家賃相場が安い駅を早速チェック!
新宿駅まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅TOP15(22駅)順位/駅名/家賃相場(沿線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 京王よみうりランド 5.5万円(京王相模原線/東京都稲城市/30分/1回)
2位 生田 5.6万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/25分/1回)
3位 読売ランド前 5.7万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/27分/1回)
4位 西国分寺 5.9万円(JR中央線/東京都国分寺市/28分/1回)
5位 京王稲田堤 6.0万円(京王相模原線/神奈川県川崎市多摩区/28分/1回)
5位 朝霞 6.0万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/30分/1回)
5位 稲田堤 6.0万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/29分/1回)
8位 田無 6.04万円(西武新宿線/東京都西東京市/28分/1回)
9位 百合ケ丘 6.1万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市麻生区/26分/1回)
10位 中野島 6.15万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/27分/1回)
11位 京王多摩川 6.3万円(京王相模原線/東京都調布市/26分、1回)
11位 宿河原 6.3万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/25分/1回)
11位 飛田給 6.3万円(京王線/東京都調布市/29分/1回)
14位 西調布 6.4万円(京王線/東京都調布市/30分/1回)
15位 久地 6.5万円(JR南武線/神奈川県川崎市高津区/28分/1回)
15位 向ヶ丘遊園 6.5万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/19分/1回)
15位 和泉多摩川 6.5万円(小田急小田原線/東京都狛江市/22分/1回)
15位 国分寺 6.5万円(JR中央線/東京都国分寺市/23分/0回)
15位 戸田公園 6.5万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/23分/0回)
15位 東小金井 6.5万円(JR中央線/東京都小金井市/25分/0回)
15位 狛江 6.5万円(小田急小田原線/東京都狛江市/20分/1回)
15位 蕨 6.5万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県蕨市/26分/1回)
関連記事:新宿駅まで電車で30分以内、中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2023年版
1位の家賃相場は新宿の2分の1以下で5万円台!JR各線をはじめ小田急線や京王線など、さまざまな路線が乗り入れる新宿駅。アクセス性が高いうえにビジネス街としても繁華街としても発展しており、この街に住めたらさぞかし便利だろう。ただ、ネックなのは人気の街だけあり家賃相場が高いこと……。今回の調査では、新宿駅の徒歩15分圏内にある一人暮らし向け物件(専有面積10平米以上~40平米未満のワンルーム・1K・1DK)の家賃相場は12万円という結果に。そこで「新宿駅が最寄駅」とはいかなくても、新宿駅にアクセスしやすい30分圏内にある駅の家賃相場を調査、ランキングにしたものがこちらだ。
1位は東京都稲城市に位置する京王よみうりランド駅で、家賃相場は5万5000円だった。京王相模原線で調布駅に出て、京王線に乗り換えると新宿駅まで計約30分で到着する。3位・読売ランド前駅と名前が似ていて混同されがちだが両駅は直線距離で2km以上離れており、路線も異なる別の駅。レジャー施設「よみうりランド」を間に挟んで南側に3位の読売ランド前駅、北側にあるのが1位の京王よみうりランド駅だ。
よみうりランド(写真/PIXTA)
そんな京王よみうりランド駅の周辺の様子を見てみると、駅南側はよみうりランドのほかに読売ジャイアンツの球場やゴルフ場、東京ヴェルディのサッカーグラウンドに利用されているため、住宅街は駅の北側が中心。駅から北に5分も歩くと、スーパーや100円ショップ、書店や衣料品店が入ったショッピングセンターへ。そのまま名産の果物直売所も点在するのどかな住宅街を北に進み、駅から15分ほど歩くとJR南武線・矢野口駅にたどり着く。周辺住民は行き先に応じて京王相模原線とJR南武線の2路線を利用できるわけだ。そして矢野口駅の北側には多摩川が流れ、河川敷は地域の憩いの場としてジョギングや散歩に利用されている。
続いて2位は神奈川県川崎市多摩区にある生田(いくた)駅で、家賃相場は5万6000円。小田急小田原線の通勤準急と快速急行を乗り継ぐと、新宿駅までは乗り換え1回・約25分。駅から徒歩10分ほどで明治大学の生田キャンパスに行けるほか、周辺には専修大学や聖マリアンナ医科大学のキャンパスもあるため、学生が住む街としても親しまれている。大型のショッピングビルがあるような繁華街ではないけれど、駅周辺には複数のコンビニやスーパー、ドラッグストアがあり、日用品や雑貨を扱うホームセンターも。日常遣いしやすいリーズナブルな飲食店がそろっている点も、一人暮らしには嬉しいところ。
生田緑地のばら園(写真/PIXTA)
生田駅から東南方面に10分ほど自転車を走らせると生田緑地へ。雑木林や湿地など貴重な自然が残され、初夏にはホタルも観察できるので、息抜きに訪れてもよさそう。ちなみに生田駅から下りで1駅目が3位・読売ランド前駅(家賃相場5万7000円)、2駅目が9位・百合ヶ丘駅(同6万1000円)という位置関係になっている。
新宿に加え「住みたい街(駅)」2位の吉祥寺にも好アクセスな駅も上位入り上位には新宿駅まで乗り換え1回の駅が続くが、15位までくると国分寺駅のように乗り換え0回の駅もランクインした。国分寺駅は家賃相場6万5000円で、JR中央線の通勤特快に乗ると約23分で新宿駅へ。国分寺駅の1駅隣に位置する4位・西国分寺駅(家賃相場5万9000円)は乗り換え1回・約28分との調査結果になったが、これは通勤特快が停車しないため。新宿駅まで30分以内の到着を目指すとまず快速で国分寺駅へ行き、そこから通勤特快への乗り換えが必要となるのだ。とはいえ快速1本でも西国分寺駅から新宿駅まで約34分とその差6分。実際に暮らすならば、乗り換えずに1本で行くことになるだろう。
国分寺駅(写真/PIXTA)
さて15位・国分寺駅はどんな街だろうか。駅南口側には9階建ての駅ビル「セレオ国分寺」が併設され、食料品からファッション、雑貨、レストランまで多彩なショップが営業中。そして北口側には西武国分寺線と西武多摩湖線の駅があり、駅前は賑やかな雰囲気。なかでも目を引くのはツインタワーだろう。これは半世紀も前に計画された再開発事業が実を結んだ再開発ビルで、2018年に誕生を迎えた。上層部は住居で、下層階が商業施設「cocobunji(ココブンジ) WEST」「cocobunji EAST」。ビル内には市の施設やショッピングモール「ミーツ国分寺」があり、飲食店からクリニックまで多彩な店舗が充実している。ほかにも駅周辺にはさまざまな商業施設が並び、緑豊かな公園「殿ヶ谷庭園」でほっと息抜きすることもできる。
ちなみに国分寺駅を通るJR中央線沿線には、「SUUMO住みたい街(駅)ランキング2023(首都圏版)」5位の新宿駅だけではなく、同ランキング2位の吉祥寺駅もある。吉祥寺駅は国分寺駅から新宿方面に5駅目で、家賃相場は今回の調査によると8万円。住みたい街上位に輝く新宿駅にも吉祥寺駅にもアクセスしやすいわりに両駅と比べて家賃相場が低く、駅周辺の商業施設も充実した国分寺駅は穴場の街と言えるかもしれない。
関連記事:「住みたい街ランキング2023」発表! 大宮と浦和で明暗、新宿が注目の理由とは?
さて、家賃相場が6万5000円の同額で8駅が並んだ15位からもう1駅、和泉多摩川(いずみたまがわ)駅をピックアップしよう。東京都狛江市に位置する和泉多摩川駅は小田急小田原線の駅であり、新宿駅までの所要時間は約22分でトップ15のうち3番目に早い。新宿駅に加えて小田急小田原線沿線の下北沢駅や、そこから京王井の頭線に乗り換えて4駅目の渋谷駅、さらに小田急小田原線と直通運転されている東京メトロ千代田線沿線の表参道駅などにもアクセスしやすいロケーションだ。
和泉多摩川駅(写真/PIXTA)
和泉多摩川駅の高架下にはスーパーやハンバーガー店があり、駅西口側には青果店やドラッグストア、ミニスーパーなどが並ぶ商店街も。2022年には駅南側にベンチなどを設置した広場が整備され、この春には緑地や公園がある多摩川河川敷へと続く緑道も誕生した。都内の人気の街にも楽に行けるうえ、日ごろは自然を身近に感じつつのんびり暮らせる点もこの街の魅力の一つだろう。
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ニューヨーク人情酒場へようこそ!これは、ブルックリンにある小さな酒場(レストラン)で起こったいろんな出来事。
大都会の夜、一杯の酒から始まる人間模様。作者はこのお店で今お寿司を作っているよ。
ペルー人のチャト。基本は陽気ですが、週末になると奇妙なほどにテンションが高い時があります。
バチャータというのは、ドミニカ共和国発祥の非常に情熱的なダンス!男女ペアになって踊ります。
南米の人々は本当にダンスが大好き!理由を聞いたら、小さなころから当たり前のように毎日ダンスを踊って過ごすからなんだそう。年齢を問わず、家族の集まりの場でも必ずダンスの時間があるんだって!日本の片田舎で育った人間からしたら考えられないことですが、すごくおもしろいですね。
金曜にテンションを上げても、結局土日は働くのが料理人なのであんまり意味ないのでは?と思ったりもしたけど、まあ週末だしね!って感じで、みんなで仲良く飲みながら仕事することもあります。
ご紹介した通りに週末は変なテンションのチャト。しかし、たまにこういう優しいところを見せるので、憎むなんて絶対できません。
踊りながらもささやかに気を配ってくれていたのか!と感動しましたが、実際は単に私の機嫌が悪そうに見えたからアイスで元気出せや!という感じだったのかも?!それでもとってもうれしい。小さな優しさが職場を円滑にすることをチャトは身をもって教えてくれました。
昔から日本人の移民が多いこともあり、ペルー人のスタッフはみんな親日家の印象です。オーナー陣をふくめ、本当に優しいスタッフが多かった!
ペルー名物料理、セビーチェは元々日本からの移民が刺身を保管するために編み出したレシピなんだって!いつか行って本場の味を食べてみたいな。
同僚のメルが急にフロリダに引っ越すことになりました。メルはコロンビア人ですが、フロリダは南米の人々から人気があります。南米からの移民がすごく多い土地柄、スペイン語がどこでも通じること、また美しい海があり、都市部ではパーティーカルチャーが盛んであることも理由なんだとか。物価や地価もNYより安いはず。一度旅行で行ったことがあるのですが、のんびりとしたとてもいいところでした。
それにしてもメルは「オタクにも優しいギャル」を体現するような女の子でしたね。アメリカの飲食業は入れ替わりがすごく激しく、一期一会の出会いだらけです。
作者:ヤマモトレミ
89年生まれ。福岡県出身。2017年、勤めていた会社の転勤でニューヨークに移住。仕事の傍ら、趣味でインスタグラムを中心に漫画を描いて発表していたところ、思った以上に楽しくなってしまい、2021年に脱サラし本格的に漫画家としての活動を開始。2022年にアメリカで起業し個人事業主になりました。ブルックリンのレストランで週4で寿司ローラーをやっています。
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かつてのどかな村だった中山地区が「町」になったのは、昭和44年のこと。その後令和元年には町が廃止され「中山」という地区名だけが残った。神奈川県横浜市緑区中山。
いま穏やかな住宅街の一画、半径1km圏内ほどのエリアに、ここ数年、カフェやシェアハウス、交流スペースができ、人知れず「753village(ななごーさんビレッジ)」と呼ばれている。
人が人を呼び、そのまちに根付いていく。なぜいま、中山でそんな動きが起きているのだろう? いったいどんな人たちによる、どんな取り組みなのか? 移住して10年の関口春江さんにお話を伺ってきた。
(写真撮影/池田 礼)
屋根の上に草が生える建物。ここはいったい……?JR横浜線と、横浜市営地下鉄グリーンライン(4号線)が乗り入れる中山駅から歩いて5分。駅の南を走る県道109号からさらに南に入ると、753villageの入口付近にあたる。曲がり角には『753通信』と書かれたイラストの地図が貼ってあった。いくつもの面白そうなスポットが記されている。
「753village」界隈のマップ
発酵をテーマにした古民家カフェ「菌カフェ753」。農園付き一戸建賃貸「なごみヒルズ」、もう20年以上続く多目的レンタルスペース「なごみ邸」、教室を開催できる「楽し舎(たのしや)」、販売拠点や実店舗を持たない人向けのチャレンジスペース「季楽荘」、絵画や写真、工芸などの展示スペース「Gallery N.」……
さらに歩を進めると、不思議な建物が目に入る。屋根の上に草が生えていて、面のガラス戸には大きな白い暖簾が揺れている。
これが最近オープンした「Co-coya」。シェアオフィスと貸アトリエと賃貸住宅の機能がぎゅっと入った建物で、染色や絵画などの作家の工房や、いざという時の地域住民のための避難所も兼ねている。
753villageは、この辺りの大家さんがチームの一員になり、空き家を活かしたカフェやシェアハウス、レンタルスペースを展開しているという。ほかの地域から訪れたシェフや、建築家、自主保育(※)の運営者などが「面白そう」と集まり、自発的にカフェを開いたり、マルシェを催したり。Co-coyaを運営する建築家の関口春江さんもその一人だ。
関口さんの話からは、関わる人たちがほどよい距離感で交流しながら、中山での暮らしを楽しむ様子が伝わってきた。
※自主保育/就学前の子どもたちを保育園や幼稚園に預けるのではなく、保護者同士が協力して子育てをしていく取り組み
753villageの入口付近に建つ「Co-coya」。屋根の野芝は断熱効果のほか、雨水貯蓄にもなる。手前は原っぱと休憩所のある「PARK753」(写真撮影/池田 礼)
古民家カフェに始まり、マルシェの開催へ関口さんはCo-coyaの管理人であり、菌カフェの発起人の一人でもある。援農(※)をきっかけに中山の隣のまちに通うようになった。そこで出会った仲間とカフェを始めたのが中山地区との最初の関わりだ。
「菌カフェ」は、753villageの起点となった場所。たった一歩、店に足を踏み入れただけで、長年大切にされてきた場所だとわかった。
※援農/無償または最低賃金以下の謝礼や農産物を対価として、農家の農作業を住民らが手伝うもの
毎日11~16時で営業。今は食事メニューには、発酵を用いた多彩なドリンクやランチが提供される(写真撮影/池田 礼)
店内には果物などが置かれ、壁の棚にはびっしりスパイスの瓶が並んでいる。店の奥には大きなガラス窓に、アンティーク風の家具(写真撮影/池田 礼)
「もともとここは大家さんがカフェギャラリーをやっていた場所で、私たちが訪れた時は空き家になっていました。隣に住んでいたのが、当時一緒に援農していたシェフの辻さん。あまりに素敵な場所だったので、仲間うちで何かしたいねという話になったものの、みな本業があるし、毎月定額の家賃を払うのは厳しい。そこで大家さんと一緒に運営する形で、スモールスタートさせてほしいとお願いしたんです」
Co-coya管理人であり、753villageの中心的な人物の一人、関口春江さん(写真撮影/池田 礼)
はじめは木金土の週3日だけ営業。まずはお店のことを知ってもらわなければと、店でマルシェを開催することになった。月に1回、手づくり小物の作家や、パン屋さんなどの出店があり、輪が広がりお客さんが増えていった。
コロナ以前に年2回開催していた大規模マルシェ、大753市の様子(753village提供)
Co-coyaのまねき市(753village提供)
大家さん次第で、まちはこれほど変わる関口さんの話にたびたび登場するのが、753villageのほとんどの建物を所有する大家の齋藤好貴さんだ。初めて会った時、齋藤さんは関口さんたちにこんな話をしたのだそうだ。
「『50年後、100年後に、この中山をもっと魅力的にしたい。そのために土地を切り売りするんじゃなくて、まちの歴史や培ってきた空気感を残しながら利活用する方法がないか、ずっと考えている』んですって。そんな地主さん、私は会ったことないなと思いました」
齋藤さんは、鎌倉時代からここに暮らす地主の末裔で、昔から中山近辺の多くの土地を所有してきた。中山には、和風の家も洋風の家もあるが、比較的立派な家が多い。おのずと庭や街並みも落ち着いた、風格のあるものになった。
都市部では、家が空くとすぐに更地にして駐車場にしたり、マンションが建ったりする。だが齋藤さんは、空いた家の何軒かを積極的にギャラリーや、教室など、皆が使える場所にしてきた。
中山地区の一部の地主であり、753villageの建物の所有者である齋藤好貴さん(写真撮影/池田 礼)
そのはじまりが、25年前に始まった、「なごみ邸」だ。大きな日本家屋を、サロンのような形で貸し出し、誰でも使える多目的スペースにした。
「当時から空き家は増えていくと言われていて。いくら都心に近くても、横浜であっても、空き家がどんどん使われなくなるのが予測できました。
じゃあ何ができるだろうと考えた時に、このまちに魅力を感じてもらえるような仕掛けをつくろうと。そうすれば自然と人が集まり、結果的に地主や家主も潤うんじゃないかと思ったんです」
齋藤さんのいうまちの魅力とは、交通の利便性や買い物のしやすさではない。
大事にしたかったのは人と人の縁。
「空いた建物や庭を生かして、この土地の雰囲気を味わって楽しく過ごしてもらう。それが人から人に伝わって、まちの評判につながればいい」と考えたのだ。
和室があり、窓が大きく庭が一望できる洋室あり(写真撮影/池田 礼)
春には庭の桜が見事な花をつける。3月末から4月初期は、庭を一般開放している(写真撮影/池田 礼)
そして10年ほど前に現れたのが関口さんたちだった。関口さん自身も建築家で、新築を建てるのが仕事。楽しい仕事だけれど、空き家が増える中で新たに建て続ける矛盾も感じていた。ハコをつくるより、活用し続けるほうが大事なんじゃないかと考えるようになっていた。
齋藤さんは関口さんたちのカフェの提案を受け入れる。その後、マルシェが始まり、展示スペースなど展開も広がり。
関口さんたちは齋藤さんの「なごみ邸」の名をもじって、このエリアを「753village」と名付ける。
大家さん次第でまちはこれほど変わるのだと、気付いた。
2021年にはクラウドファンディングと横浜市の助成を得て、職住一体型の地域ステーション「Co-coya」がオープンする。
コロナの影響で753villageの活動がすべてストップした時に、この構想が生まれた。
「今のうちに次に向けての準備をしようと思ったんです。拠点が増えたので、わかりやすく案内するまちの入口、案内所をつくろうと。私たちのしてきた活動が、古くからの住民にもわかりやすいように見える化しようと考えました。子育て世代や世代間の交流を促す場所にもなったらいいなと思ったんです」(関口さん)
Co-coyaの建物へ入ると、まず天井の高い広い土間と大きな机の置かれたコワーキングスペースがある。向かって左には、防災の観点から電気やガスが止まっても薪で沸かせるお風呂があり、その奥はパンの焼ける工房。さらに扉の向こうには井戸があり、何かあった際の水の供給ができるようになっている。
薪で暖をとることができるように、あえて薪ストーブ。左手のお風呂も薪風呂(写真撮影/池田 礼)
「ここの構想を話して共感してくれたパティシエの子や、今2階に住んでいる画家、陶芸家さんとはマルシェを通じて知り合いました。共感型投資といいますか。彼女たちが間借りしてくれたおかげで、一緒にこの場所をつくってきたような関係なんです」
Co-coyaの奥のスペースには、井戸がある(写真撮影/池田 礼)
初めて訪れる人にも安心して立ち寄ってもらえるよう、通りに面した入口は上から下までガラス張りに。関口さん自身も、普段はここで仕事をしている。
福祉の拠点「レモンの庭」菌カフェのすぐそばには、「レモンの庭」と名付けられた、多世代交流施設もある。これも齋藤さんが新しく建てた賃貸の家を、一般社団法人フラットガーデンが借りて、開催しているものだ。横浜市の介護予防生活支援サービス補助事業でもある。
訪れた日、中へお邪魔すると、若い人からお年寄りまで、集まった女性たちが思い思いに好きな縫いものをしていた。この日行われていたのは「ぬいものカフェ」。参加者同士おしゃべりや笑い声が絶えなかった(写真撮影/池田 礼)
フラットガーデンの阿久津さんが、教えてくれる。
「ここは月曜と水曜から土曜日の10時から15時まで開いていて。ほかにも編み物を楽しむ『ニットカフェ』や、餃子づくりやパンづくりを教わる『レモンの学校』、初心者歓迎で子どもからお年寄りまでともに楽しむ健康麻雀『麻雀 はじめの一歩』など、いろんなプログラムがあって参加費は500円。
女性はおしゃべり好きも多いので、こうして集まってわいわいやるんですが、男性は話すのが苦手な方も多いので、2階で健康麻雀もやっています。終わってから下でお茶飲んだりするうちに次第に打ち解けるんですよね」
「ぬいものカフェ」で各自が好きな縫い物をして楽しんでいる様子。子どもから、赤ちゃん連れのお母さん、高齢者まで、誰でも立ち寄ることができ、日によってはランチも提供(写真撮影/池田 礼)
健康麻雀のようす(写真撮影/池田 礼)
2階へ上がってみると、麻雀には若い人や女性の参加者もいてみんな楽しそうだ。
「多世代交流」とひと口に言うのは簡単だが、一人暮らしのお年寄りや、家族以外の誰かと時を過ごしたい、心を通わせたい人たちにとって、ここは想像以上に大切な場所なのかもしれない。
時間をかけてできたことそんな風に少しずつ、外の人と地元住民がつながり、縁が紡がれていく。大きくは「コミュニティが広がっている」と言えるのだろうが、個人から見ると、友達や知り合いが増えて、近所に話相手が増えることになるのだろう。
何気ないことのようで、人が生来求めている、そして都市部の多くでは失われた切実な願いを叶えてくれているのかもしれない。最後に、関口さんは大切なことを教えてくれた。
「ここまでくるには年月がかかっているんです。私たちも、移住してもう10年になりますし、齋藤さんとも、毎月お家賃を手渡ししながら少しずつ関係性を築いてきたので。その間こちらも人間性を見られていたと思うし、私たちも齋藤さんのことを少しずつ理解して。周囲の人たちとも同じように。10年かけて今の関係性があります」
(写真撮影/池田 礼)
土地をもつ大家さんと、外から入ったクリエイティブな人たちが出会って新しい動きが生まれる。そこでいい関係性が育てば、地元に根付き、変わらないまちの魅力になっていくのかもしれない。これから10年後の753villageがどうなるのか、楽しみだなと思った。
●取材協力
753village
パナソニック ホームズが、若年者(Z世代)を含む住宅購入検討層や将来的な購入検討層を対象に、「住まいに対する意向調査」を実施した。そのなかでも特に「結婚と住まいの意向についてのアンケート」(リリース資料の図7~13が対象)を中心に、Z世代ならでは住まい観について見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「住まいに対する意向調査」を実施/パナソニック ホームズ
この調査では、住宅購入の潜在的もしくは将来の顧客層と考えられる、15歳から49歳の独身男女に、「結婚したらどこに住みたいか」を聞いている。その結果は、圧倒的に「一戸建ての購入」を選んだ人が多数を占めた。とりわけZ世代(この調査では15歳から25歳と定義)では、他の年齢層が4割ちょっとであるのに対して56.0%が、一戸建ての購入を選んでいる。
出典:パナソニック ホームズ「住まいに対する意向調査」
どの種類の住宅に住みたいかを聞いた調査は過去にも多くあり、賃貸より購入、マンションより一戸建てが多いのが一般的だ。しかし、Z世代では一戸建ての購入を希望する人が極めて多いという点が大きな特徴といえるだろう。
次に、「住宅を購入するとしたら、何を優先するか」を聞いたところ、どの年齢層でも、1位が「立地が良い」、2位が「ローンの返済に無理がない」、3位が「新築であること」、4位が「資産価値があること」となった。
出典:パナソニック ホームズ「住まいに対する意向調査」
ただし、他の年齢層と違い、Z世代で目立つのが、「新築であること」の比率の高さだ。2位の「ローンの返済に無理がない」(24.9%)とほぼ同等に「新築であること」(24.2%)を選んでいるのだ。
Z世代などの若年層は「新築」住宅がお好き?実は、同時期に公表された、リクルートの「住宅購入・建築検討者」調査 (2022年)でも、似たような傾向が見られた。リクルートの調査は、過去1年以内に住宅の購入・建築やリフォームを検討した20歳から69歳の男女を対象にしている。独身に限っていないこと、より住宅への関心が高い層であるといった違いがあることを前提としてほしい。
こちらの調査では、ストレートに新築が良いか中古が良いかを聞いている。その結果、新築派が全体で68%になっているが、20代で見ると「ぜったい新築」が35%と新築への意向が他の年齢層より高いことが分かる。
出典:リクルート「住宅購入・建築検討者」調査 (2022年)
どちらの調査結果を見ても、若年層ほど「新築派」が多数を占めている。理由が確認できないのでよく分からないが、かつては若年層ほど新築へのこだわりが弱く、古着文化などに見られる中古を上手に活用するといった傾向が見られたのだが、今はそうではないことがはっきりした結果だ。
Z世代などの若年層は「近さ」よりも「広さ」を選ぶ?さて、パナソニック ホームズの調査結果に戻ろう。「住宅を購入しようとして、費用が足りなかったら」という質問で選んだ選択肢も年齢層によって違いが見られた。年齢が高くなるほど、購入をあきらめて賃貸にすることを選ぶ比率が高くなる。一方、Z世代で顕著なのが「遠くにしても良い」という選択だ。他の年齢層では、「狭くしても良い」のほうが「遠くにしても良い」を上回っているが、Z世代だけは狭さよりも遠くを選んでいるのが大きな特徴だ。
出典:パナソニック ホームズ「住まいに対する意向調査」
この傾向は、リクルートの調査結果でも見られる。こちらはストレートに、広さか駅からの距離かを聞いているが、若い年齢層ほど、駅からの距離派が減って、広さを優先する傾向が強くうかがえる。
出典:リクルート「住宅購入・建築検討者」調査 (2022年)
パナソニック ホームズでは、Z世代が、費用が不足していれば遠くても狭くても良いので、新築の一戸建てを購入したいという傾向がうかがえることから、「自分の時間やプライベートを大切にするとされるZ世代は、心地よく快適に過ごせて、共同住宅と比べて比較的近隣に気を使わなくて良い空間を新築一戸建てに求めているのかも知れない」と分析している。
一方、リクルートのSUUMO副編集長の笠松美香さんは「Z世代は、親元で暮らしている人も多く、自分で住まい探しを経験した人は他の世代に比べて少ないと推察されます。どうしても住まいのイメージが実家や友人・親戚の家などの生活感あふれるタイプと、メディアやSNSで見かけるピカピカでおしゃれなものと両極端なイメージになっているのではないでしょうか。だとすると、『新築じゃない家はキレイじゃない』と思いこんでしまっている人も多いのではないかと思いました。中古物件もリフォームすれば新築のような見た目になることを、住まい探しの経験を積んでいくほど認知していくので、年齢が上がっていくことで、中古でもキレイにできるし安い、といったようにコストと天秤にかけて許容していく層が増えていくのではないでしょうか。住まいは一生必要なものだけに、個人の住まい観も、一生アップデートされていくものだと思います」などと考察していただけるとうれしい。
パナソニック ホームズの調査対象である、独身のZ世代(15~25歳)はまだ具体的に住宅の購入を検討している人は少ないと思うが、リクルートが調査した20代でも似たような傾向が見られた。ということは、これから先に住宅購入を検討する世代では、新築志向、広さ志向が強いということは考慮すべき点だ。
一方、これまでは中古住宅をリノベーションして再販する事業者が少なかったが、取り組みを強化する事業者が増えている。新築ではないが、リノベーションによって新築並みの中古一戸建てが増えれば、若年層の有効な選択肢になるのではないだろうか。
●関連サイト
パナソニック ホームズ「住まいに対する意向調査」
リクルート「『住宅購入・建築検討者』調査(2022年)」
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載5回目。今回は、韓国・ソウル南部にある“デパート”「クァンギョ・ガレリア(Galleria in Gwanggyo)」(設計:クリス・ヴァン・ドゥイン/OMA)を紹介する。
驚愕的ファサードで魅了する最新の韓国デパート「クァンギョ・ガレリア」韓国は隣国の中国ほどではないにしても、アジアでは著名海外建築家のデザイン作品が多い国である。例えばレム・コールハース(オランダ)が率いるOMA(Office for Metropolitan Architecture)がデザインした「ソウル国立大学美術館」を筆頭に、ザハ・ハディド(英)の「東大門デザイン・プラザ」、ジャン・ヌーヴェル(仏)の「サムスン美術館 Leeum」、MVRDV(オランダ)の「ソウル・スカイ・ガーデンズ」など、日本と比較したらそうそうたる世界の著名建築家の作品が非常に多いのだ。
今回OMAのパートナーのひとり、クリス・ヴァン・ドゥインがデザインした「クァンギョ・ガレリア(光教ガレリア)」は、1970年代に韓国で初めて生まれた大規模デパートであるガレリアの支店である。以来同デパートは韓国の小売市場において、先端を疾走する大手デパートに成長してきた。今回の新店舗はソウル南部にあるニュータウンのクァンギョ地区に完成した国内6番目の支店で、同社の最大規模のデパートとなった。
(Photo by Hong Sung Jun)
レム・コールハースによるOMAの建築デザインは、非常に多様性があることは世界的に知られた事実であり、全世界にユニークな建築を数多く展開してきた。そうした作品群のなかでも、今回クァンギョに完成した作品は、ビックリもののデザインだ。建物はまさに奇想なデザインをまとった巨大な岩石の彫刻といった印象である。都市のワン・ブロックを占める巨大な矩形の岩石を切り出したような外壁に、切子面状のガラス開口部が、蛇のようにくねって外壁に取り付いているといった特異な外観である。この強烈なアイデンティティーの表現は、OMAデザインの中でも異色中の異色と言える代物であろう。
“自然”にインスパイアされた建築は、市民の視覚的な拠り所にクァンギョ・ニュータウンの中心街の大通りに位置するこの建物は、新興のアーバン・ディベロップメント(都市開発)による特有の高層集合住宅タワー群に囲まれている。「クァンギョ・ガレリア」のファサードは、自然石のような素材をモザイク状に張り巡らせた不思議な表情に驚かされる。そのような自然的ファサードと、蛇のように曲がりくねるガラス開口部が、異様なシナジー効果(相乗効果)を発揮して人々を驚愕させる。それは近隣にあるクァンギョ・レイクパーク(光教湖水公園)における自然を参照したデザインなのだ。
(Photo by Hong Sung Jun)
建物はそのクァンギョ・レイクパークと、林立する高層集合住宅タワー群のちょうど中間あたりに位置している。建物の外壁を覆うストーン・ファサードのようなテクスチャーが、レイクパークにある岩壁などの自然を喚起させると同時に、クァンギョ市民の自然に対する視覚的な拠り所となっている。
建物は地下1階・地上12階建ての大きなデパートである。外壁を取り巻く長い開口部は、1階から徐々に上昇しながら建物をループ状に取り巻いて行き、文化的なアクティビティもできるルーフ・ガーデンに至る。つまりこの開口部の内部は来客用のパブリック・ループ(回廊)となっており、クァンギョの街並みを楽しみながら、自分の目指す売り場へと至ることができるデザインとなっている。パブリック・ループの途中には、特にコーナー部分には、レスト・スペース、エキシビションやパフォーミング・スペースが設けられており、買い物客は休息したり、展示を見たり、パフォーマンスをしたりすることができる。
(Photo by Hong Sung Jun)
クリス・ヴァン・ドゥインが意図したデザイン・ポイントは、「ショッピングとカルチャー」、「都市と自然」という二項対立的なものをミックスすることで、ショッピングの予測可能性をはるかに超えた場所としてのデパートである「クァンギョ・ガレリア」が、市民に親しまれることであった。そのように単なるショッピングではなく、付加価値を加味して、ショッピングというアクティビティをさらなる高次元へと進化させていく狙いが見事に成功しているデパート・デザインである。
(Photo by Hong Sung Jun)
日本にもある! OMAパートナーによるデザイン「虎ノ門ヒルズ・ステーション・タワー」設計を担当したOMAのクリス・ヴァン・ドゥインはデルフト工科大学でマスターを取得した。1996年にOMAに参加し、2014年にパートナーになった逸材。OMAの代表作のひとつである北京の「CCTV(中国中央電視台本部ビル)」をはじめとする主にアジアの作品を担当してきたが、「ユニヴァーサル・スタジオ・ロサンゼルス」「プラダ・ニューヨーク&ロサンゼルス・ストアーズ」などアメリカ作品をも担当。近年では「モスクワ現代ガレージ美術館」(2015)、「ミラノ・プラダ財団」(2015)、「アレクシ・ド・トクビル図書館」(2017)なども手掛けたシャープなセンスをもつパートナーである。
なお現在OMAには8名のパートナーがおり、ロッテルダムの本社以外の世界各地に赴任して活動している。日本人唯一のパートナーである重松象平氏はニューヨークにおり、アメリカを担当しているが、現在「虎ノ門ヒルズ・ステーション・タワー」のデザインにもタッチしている。
●関連サイト
クアンギョ・ガレリア
OMA
日本屈指の商業エリアでありビジネス街でもある新宿駅。2023年2月にリクルートが発表した「SUUMO住みたい街ランキング2023(首都圏版)」では見事、5位にランクインした。そして新宿駅の周辺は現在「次世代のターミナル」を目指す大規模再開発が進行中でもあり、今後はさらなる発展が見込まれている。今回は、そんな新宿駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場が安い駅を調査。シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)とカップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)、それぞれの価格相場が安い駅ランキングをご紹介しよう。
新宿駅まで電車で30分以内にある価格相場が安い駅TOP10【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(沿線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 志村三丁目 2180万円(都営三田線/東京都板橋区/28分/1回)
2位 氷川台 2199万円(東京メトロ有楽町線/東京都練馬区/18分/1回)
3位 浜田山 2235万円(京王井の頭線/東京都杉並区/18分/1回)
4位 川口 2344万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/21分/1回)
5位 上板橋 2425万円(東武東上線/東京都板橋区/21分/1回)
6位 田無 2430万円(西武新宿線/東京都西東京市/29分/1回)
7位 ときわ台 2485万円(東武東上線/東京都板橋区/20分/1回)
8位 西川口 2499万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/23分/1回)
9位 府中 2635万円(京王線/東京都府中市/28分/0回)
10位 西馬込 2649万円(都営浅草線/東京都大田区/28分/1回)
【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(沿線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 読売ランド前 2850万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/27分/1回)
2位 京王稲田堤 2935万円(京王相模原線/神奈川県川崎市多摩区/28分/1回)
3位 百合ケ丘 3185万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市麻生区/26分/1回)
4位 稲田堤 3235万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/29分/1回)
5位 北戸田 3280万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/27分/0回)
6位 久地 3480万円(JR南武線/神奈川県川崎市高津区/28分/1回)
6位 戸田 3480万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/25分/0回)
6位 生田 3480万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/25分/1回)
6位 飛田給 3480万円(京王線/東京都調布市/29分/1回)
10位 朝霞 3530万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/30分/1回)
東京都と新宿区が策定した「新宿グランドターミナル」構想に基づき、新宿駅に乗り入れる鉄道各社などによる再整備が進められている新宿駅。「住みたい街」5位に輝く街でもあり、その人気は今後ますます高まりそう。しかし駅周辺は商業施設やオフィスビルが多く、住宅の数はさほど多くはない。駅から徒歩15分圏内にある中古マンションの価格相場も今回の調査時点では、シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)が4680万円、カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)が8430万円となっており、気軽に手が出せる物件ではない様子。しかし新宿駅から電車で30分圏内にまで選択肢を広げると、価格相場はグッと下がるようだ。
新宿から30分圏内にある「シングル向け」中古マンションの価格相場が最も安かった駅は、東京都板橋区の都営三田線・志村三丁目駅。価格相場は2180万円で、新宿駅よりも2500万円ダウン! 新宿駅までは、まず都営三田線で新板橋駅に出て、徒歩で向かう板橋駅からJR埼京線に乗り換えると計約28分だ。都営三田線沿線にはビジネス街として知られる神保町駅や大手町駅、日比谷駅、JR山手線に乗り換え可能な巣鴨駅がある点も魅力の一つだろう。
志村三丁目駅付近の様子(写真/PIXTA)
1位・志村三丁目駅の近くには幹線道路の環八と国道17号の交差点があり、両沿道を中心に商業施設が立ち並ぶ。環八に面した駅前の「志村ショッピングセンター」にはスーパーと家電量販店、インテリア用品店があるため日常の買い物は大抵ここで済ませられそう。そこから徒歩5分ほどの交差点付近には「MEGA ドン・キホーテ」、さらに7~8分歩くとスーパーにホームセンター、「ユニクロ」や「無印良品」などが集まったショッピングモール「セブンタウン小豆沢」もある。また、志村三丁目駅は都営三田線にしては珍しく地下ではなく地上を走る区間に位置し、線路高架下部分はコンビニや飲食店が並ぶ商店街「メトロ―ド志村三丁目」として利用されている。その隣接地には2023年5月末に「メトロ―ド志村三丁目 Ⅱ」が完成予定なので、どんなテナントが入るのか楽しみだ。
2位は東京メトロ有楽町線・氷川台駅で価格相場は2199万円。東京都練馬区に位置し、氷川台駅から4駅・約9分の池袋駅でJR埼京線に乗り換えると新宿駅まで計約18分だ。東京メトロの有楽町線のほかに副都心線も通っており、渋谷駅までは通勤急行に乗って約20分。東京の3大繁華街とも言われる新宿・池袋・渋谷すべてに20分以内で行くことができるのだ。氷川台駅自体の周辺は繁華街ではなく静かな住宅地。スーパーやドラッグストア、コンビニなどの商店は駅前に集中している。飲食店の数は多いというほどではないが、ファミレスや定食店、ハンバーガーや牛丼のチェーン店など、日常遣いしやすい店舗が駅周辺に揃っている。
氷川台駅周辺(写真/PIXTA)
3位は東京都杉並区にある京王井の頭線・浜田山駅で、価格相場は2235万円。京王井の頭線で渋谷方面に3駅目の明大前駅から京王線の急行に乗り換えると、新宿駅まで計約18分。明大前駅で降りずにそのまま京王井の頭線に乗っていると、下北沢駅や渋谷駅にも1本で行くことができる。浜田山駅は線路の北側にしか入口がなく、駅の南北を結ぶ踏切が朝夕のラッシュ時間帯はなかなか開かないことが問題視されてきた。しかしついに南口入口や南北自由通路の整備が始まり、2024年度中には完成予定だそう。そんな駅周辺には複数の商店街が広がり、スーパーはもちろん食品関係や生活雑貨の個人商店も軒を連ねている。飲食店も豊富で、チェーン店だけではなく個性的な店舗も多いので食べ歩きが楽しそうだ。
浜田山駅(写真/PIXTA)
「カップル・ファミリー向け」TOP10中5駅は都県境の狭い範囲に集中続いて「カップル・ファミリー向け」(専有面積50平米以上~80平米未満)のランキングを見ていこう。1位は神奈川県川崎市多摩区にある、小田急小田原線・読売ランド前駅で価格相場は2850万円。新宿駅までは乗り換えずに行くことも可能だが、早さを求めるなら登戸駅で小田急小田原線の快速急行に乗り換えると約27分で到着する。駅の北側には森に包まれた日本女子大学の広大な敷地が広がっている。ただ、2021年に同大学の全学部が都内の目白キャンパスに移転・統合されたため、現在もこの敷地内で学んでいるのは付属中学・高校の学生のみに。大学施設の跡地がどう活用されるのか気になるところだ。
読売ランド前駅(写真/PIXTA)
そんな日本女子大学の敷地を囲むように住宅地があり、駅南側には昔ながらの商店街も。スーパーやドラッグストアのほか、鮮魚店やベーカリー、ドイツ製法の自家製ソーセージが人気の精肉店などが並んでいる。駅周辺には保育園や幼稚園も点在し、徒歩10分ほどの場所には市立の小中学校もあるので子育て世代にも選ばれている様子。また、駅からバスで10分ほど北へ向かうと駅名にもなったレジャー施設「よみうりランド」へ。敷地内には各種アトラクションをはじめ夏季営業のプール、温浴施設もあるので、休日のお出かけ先として活躍しそう。そしてレジャー施設の隣接地には「TOKYO GIANTS TOWN(東京ジャイアンツタウン)」の建設計画が進行中。水族館一体型の球場となるそうで、読売ジャイアンツの新球場は2025年3月、水族館は2026年度中にオープンする予定だ。
2位は京王相模原線・京王稲田堤駅で価格相場は2935万円。1位と同じ神奈川県川崎市多摩区に位置し、読売ランド前駅北側の日本女子大学の敷地を越え、さらに北へ向かうと京王稲田堤駅がある。両駅間は直線距離なら2kmほどだ。そんな京王稲田堤駅から通勤時間帯に新宿駅まで最短所要時間の約28分で行くには、京王相模原線の区間急行と特急を乗り継ぐため「乗り換え1回」としたが、特急1本でも新宿駅まで約30分で行くことが可能だ。
京王稲田堤駅の駅前の様子(写真/PIXTA)
京王稲田堤駅の南口前にはスーパーがあり、ドラッグストアや農産物直売所、飲食店などが並ぶ商店街を抜けて東へ5分ほど歩くと4位にランクインしたJR南武線・稲田堤駅(価格相場3235万円)へ。こちらの駅前にも商店街がある。また、駅南側を通る府中街道沿いには家族で利用しやすい飲食店や多摩区の出張所が点在し、暮らしやすそうな街並みだ。駅の北口から7分ほど北へ歩くと多摩川の河川敷に出る。春は桜、夏はせせらぎや児童プールでの水遊びができる多摩川沿いの市営「稲田公園」は、子ども連れで訪れても楽しいだろう。この京王稲田堤駅は神奈川県および川崎市で最北の駅でもあり、多摩川を越えた北側は東京都調布市だ。
2位・京王稲田堤駅と4位・稲田堤駅は歩ける近さに位置していたが、実は3位・百合ヶ丘駅と6位・生田駅も1位・読売ランド前駅の両隣という近接した位置関係。そして前述のように読売ランド前駅と京王稲田堤駅は2kmほどしか離れていない。つまりこの5駅は近い範囲に集中しているわけだ。5駅ともに、東京と神奈川を隔てて流れる多摩川のほど近く。住所としては神奈川県川崎市だけれど新宿駅まで30分以内で行けるほど都心部に出やすく、その割に周辺には生田緑地をはじめとした自然を身近に感じられるスポットも残されている。そして、新宿駅(価格相場8430万円)に比べて2分の1以下の予算で住まいが探せる点も魅力だろう。「新宿駅までアクセスしやすい街」というと都内に目を向けがちだが、日ごろは東京都外ののんびりと子育てできる街で暮らし、必要に応じて便利な電車網を活用してサッと新宿へ……という暮らし方もよさそうだ。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2022/3~2023/2
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年2月27日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
「週末北欧部」として、ブログやSNSで北欧への愛を長年発信し続けてきたchikaさん。フィンランドで働くため日本で寿司職人になり、実際に移住するまでの道のりをつづっているコミックエッセイ『北欧こじらせ日記』(世界文化社)は、2022年秋にドラマ化している。
昨年4月、ついに念願のフィンランド生活をスタートしたchikaさんに、フィンランドの居住環境や暮らしについてお聞きした。
週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より
週末北欧部 chikaさん
フィンランドが好き過ぎて12年以上通い続け、ディープな楽しみ方を味わいつくした自他ともに認めるフィンランドオタク。移住のために会社員生活のかたわら寿司職人の修行を始め、ついに2022年春に移住。モットーは「とりあえずやってみる」。好きなものは水辺、猫、酒、一人旅。著書に『マイフィンランドルーティン100』(ワニブックス)、『北欧こじらせ日記』(世界文化社)、『世界ともだち部』(講談社)など。
北欧やフィンランドへの愛を漫画で描き、インターネットで発信する週末北欧部・chikaさん。これまで北欧の魅力を多くの人に届けてきた。フィンランドとの出合いのきっかけは何だったのだろう。
「私の誕生日がクリスマスであることからずっと憧れていたサンタさんに会うため、20歳のときに一人旅で初めてフィンランドを訪れたんです。そこで『いつかこの国に住みたい!』と強烈な一目惚れをし、以来1年に1回は必ずフィンランドに通うようになりました」
週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より
大学卒業後は北欧音楽に関連する会社で働き、その後日本で北欧カフェを開くことを目指して、会社員をしながら休日にカフェでアルバイトをしていた。そんな生活を続けるうちに、「どうせ苦労するなら一番好きな場所で苦労しよう」とフィンランドで生活する方法を探し始めた。
見つけたのは、日本人歓迎の寿司職人の求人だった。会社員をしながら寿司学校やお店で約2年間修行したのち、2022年4月、13年越しの思いとともにフィンランドへ移住した。
日本での修行時代にchikaさんが握ったお寿司(画像提供/週末北欧部chika)
「寿司はフィンランドの人たちにもよく食べられていて、日本人シェフは本場の味を知っていることから重宝されているようです。寿司職人は、私らしさを活かして喜んでもらえる仕事だと思いました。フィンランドのレストランとはビデオ通話で面接を行い、採用されたことで就労ビザが得られることになり移住が決定、フィンランドに渡った3日後あたりには仕事が始まりました」
フィンランドに住むために寿司職人になる。一見奇抜な決断だが、「好きな場所で自分らしく働きたい」と考え続けたchikaさんにとっては必然的な選択だったのだと思えた。そんなchikaさんに、フィンランドの住宅事情や現地での暮らしづくりの過程を話してもらった。
都心でも自然が身近なヘルシンキヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)
「私が住んでいるのは首都のヘルシンキで、日本から来た人はここに居住することが多いと思います。フィンランド南部の海に面する都市で、森や湖などの自然も身近にあり心地良い街です。公用語はフィンランド語ですが9割以上の人が英語も話せるので、私も英語を使って生活しています。北部に行くほどフィンランド語しか通じない場面が増えますね」
正規でアパートを借りるには、現地の銀行口座が必要。口座開設に時間がかかるため、最初はAirbnbで小さなワンルームを借りて1カ月ほど過ごしたという。ただ、長期滞在向けの部屋ではないため、家具や光熱費などを含めても1泊7,000円とどうしても割高になってしまう。
「このアパートに居続けることは金額的に難しいと考えていたところ、10年来のフィンランド人の友達がちょうどワーケーションで空けることになった家を3カ月ほど貸してもらえることになりました。かつて年1回のフィンランド通いをしていたころにも滞在したことがあり、フィンランドにある『第二の家』だと思っていたので、すごくありがたいタイミングです。その家で暮らしているときにやっと口座が開設でき、ついに物件探しがスタートしました」
パーソナルサウナや都心部と家賃の関係、一人暮らしの新居に求めた条件とはヘルシンキの水辺。フィンランドには湖が多い(画像提供/週末北欧部chika)
「ヘルシンキの中心部で水辺に近い好きなエリアがあったので、そこに住むことは決めていました。物件は、休日も料理ができるようにキッチンが広いところで、家賃はお給料の30%を目安に。フィンランドではほとんどのアパートに住民共用のサウナが付いているのですが、理想をいえば部屋にパーソナルサウナがあればいいなと思っていました」
そういえばフィンランドはサウナ発祥の地だった。パーソナルサウナがある物件は主に築浅だったり家賃がその分高くなったりと条件は厳しくなるらしいが、それでもアパートにサウナが標準装備されているのはさすが本場だ。
「日本のように一人暮らし用の賃貸物件は多いです。金銭的な理由でルームシェアをする人もいますが、フィンランド人はパーソナルスペースを大切にする人が多いので、独身の場合は一人暮らしが基本ですね。家賃は都心の人気エリアだと10~15万円で、都心から電車で30分ほど離れると半額ぐらいになります。日本だと東京駅から30分離れた程度では家賃が半分になることはないと思いますが、そこで差が出やすいのはヘルシンキの特徴かもしれません」
ヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)
「私が物件を探し始めた秋ごろは、フィンランドでちょうど学校の新年度が始まるシーズンでした。入学を控えた学生たちが部屋を探す時期だから、条件の良い物件はすぐに埋まってしまい……。そんなときに、友達のご家族が代々管理しているアパートに空きが出て、借りられることになったんです。パーソナルサウナがないこと以外は全て私の求める条件が叶っていました」
再び友達を通じた物件との出合いだ。こう聞くとたまたま運に救われているように思えるかもしれないが、chikaさんは日本で生活しながらフィンランドを愛する日々の中で、インターネットを使って幅広い交友関係を築いてきた。「大好きなフィンランドで生活したい」という気持ちがたくさんの人に伝わっていたからこそ、このような出合いが巡ってきたのだろうと感じる。
雪国としての暖房設備やシャワールームの工夫chikaさんのお部屋の写真とともに、フィンランドの住宅のポイントを教えてもらった。まず注目したいのは、1年を通して気温がマイナス6度~17度という寒冷地ならではの暖房機能だ。
大きい湯たんぽのような「セントラルヒーティング」。料金は家賃に含まれる(画像提供/週末北欧部chika)
二重窓と、その間に設置されているブラインド。かつてフィンランドはカーテン文化だったが、今はほとんどの家がブラインドを採用しているという(画像提供/週末北欧部chika)
「セントラルヒーティングという、アパートのボイラーで沸かしたお湯を循環させる設備で部屋を暖めます。触ってもやけどしないくらいの温度で、タオルなどを置いて乾かすこともできるんですよ。シャワー室とトイレは床暖房になっていて、それ以外の暖房設備はこのセントラルヒーティングだけですが、外がマイナス気温だとしても室温は常に20~22度を保てています。断熱性を高めるための二重窓は間にブラインドが入っていて、窓を開けずに操作できます」
内部にお湯が流れているポール。シャワー室は床暖房になっており、使用後はすぐに水気を切れる(画像提供/週末北欧部chika)
「シャワー室にもセントラルヒーティングと同じくお湯が循環しているポールがあって、タオルやシーツを干せます。でもこれに掛けなくても、フィンランドは湿度がとても低いので部屋干しだけでパリパリに乾くんです。アパート共用のサウナは予約制で、申請しておいた時間にプライベートで使えます」
雪国らしい設備の数々。いつでも部屋干しができるのはうらやましいと思っていたら、「冬のフィンランドで外干しをすると凍っちゃいます」とのことだった。それぞれの気候に応じた生活スタイルがある。
築100年以上、リノベーションで長く住まう水切りを兼ねた食器棚。「フィンランドのイノベーションとも称されますが、発祥については諸説あるようです」とchikaさん(画像提供/週末北欧部chika)
リノベーションされたばかりの広いキッチンには、洗濯機・食洗機・オーブンが並ぶ。フィンランドの住宅はオール電化が一般的(画像提供/週末北欧部chika)
「食器棚は収納と水切りを兼ねる構造になっていて、共働きの多いフィンランドではこのような家事の効率化も文化の一つになっています。また、多くの賃貸では冷蔵庫・オーブン・食洗機・洗濯機が備え付けで、大型家電を運ぶ必要がないので、引越しの際にはレンタカーを借りて家族や友達同士で手伝います」
そんなchikaさんの住むアパートは、築100年を超えているという。
「日本だと築100年はすごいと感じるかもしれませんが、周りはほとんど築100年の家ばかりです。ヨーロッパには『古いものほど価値がある』という考え方があって、取り壊さずに適宜リノベーションしつつ使っていく文化があります。私のアパートも1年前にリノベーションしたばかりなので、キッチンやシャワールームがきれいで、玄関の鍵もカードでタッチすれば開くようなものになっています」
リノベーションされている古い物件でも水道管は動かしづらく、昔の文化の名残で洗濯機が地下室に置かれている場合も多いという。地下にあるタイプの洗濯機は予約制で、「仕事休みの朝6時にしか洗濯機の予約が空いていないこともあって不便」とのこと。室内に洗濯機が備え付けの物件は人気になりやすく、chikaさんも物件選びで重視したポイントだった。
玄関にはマットを敷いて靴を脱ぐためのスペースをつくる(画像提供/週末北欧部chika)
「日本との共通点として、フィンランドでも室内では靴を脱ぎます。ただ、玄関の境はないので、マットを自分で設置して玄関っぽい空間をつくるのが少し違うところですね。郵便物は薄いものしか家に届けられなくて、荷物類は近くの郵便局まで取りに行きます。雪がある季節はソリを使えば楽ですが、雪がない季節は少し大変です」
このほかにも、「各住民に個別の倉庫が用意されている」「古い物件ほど天井が高い(理由は不明)」などの特徴を教えていただいた。古い建物をリノベーションしていくからこそ、住宅としての機能がかなり整備された形になっているのがフィンランドの賃貸物件の特徴なのかもしれないと感じた。
お気に入りポイントは、北欧ならではの大きな窓フィンランド人もお墨付きの明るさをもたらしてくれる窓(画像提供/週末北欧部chika)
「一番のお気に入りは、明るく光を取り込める窓です。フィンランドは日照時間が短いため日差しの入り具合が重視されていて、遊びに来た友達もみんな『明るいね!』と言ってくれます」
設定した時間に流せるラジオ。コマーシャルの入らない国営放送を聞くことが多いという(画像提供/週末北欧部chika)
「大通り沿いは交通量やお店も多くにぎやかですが、私の家は表通りからは少し外れて静かで、都心でありながら自然も近い場所です。朝はコーヒーを淹れて、窓から入る日を浴びながら飲むのがルーティーンになっています。最近は友達の勧めでラジオを買って、目覚まし代わりに流れてくるラジオを聞きながら、しばらくはスマホを見ずに過ごすのがすごく良いんです」
想像するだけでうっとりするような時間の過ごし方である。そんなアパートに住む住民同士での交流などはあるのだろうか。
「交流といえるほどのものはなく、会ったらあいさつをする、という感じですね。フィンランドで暮らす人はシャイなところも日本人と結構似ていて、例えば『同じ階の誰かがエレベーターに乗ろうとしているから、その人がいなくなるまで玄関で待っていよう』とか、『一緒にエレベーターに乗った人が同じ階に降りようとしていると気まずい』みたいな考え方をするんです。もちろん人によっては社交的に生活していて、ご近所同士で仲良くなってホームパーティーをしている友人もいます(笑)」
エレベーターの話は痛いほど共感できる「あるある」で驚いた。あの意味のない時間をフィンランドの人も経験していると思うと、なんだか親近感が湧いてくる。
大好きな場所で暮らすようになっても、サードプレイスは必要だったchikaさんのお気に入りの島。「カフェもあって、夏場は毎週のように通うサードプレイスとなっています。冬は図書館に行くことが多いです」とchikaさん。夏のヘルシンキは23時まで太陽が沈まないため、20時ころまで日向ぼっこできるという。(画像提供/週末北欧部chika)
念願のフィンランド生活を全力で楽しんでいるchikaさんだが、日本からの単身移住生活を成り立たせるのはそう簡単なことではなかったようだ。未知の生活をうまく楽しむための心持ちやコツを聞いてみた。
「気持ちの面では、『準備はネガティブに、やるときはポジティブに』をモットーに、大好きな国に行くけど期待はしないということを大切にしていました。何かが起こったとしても『予想よりは大丈夫だった』と思える意識は忘れないようにしています」
「テクニックとしては、気持ちを切り替えられるサードプレイス(第三の居場所)を持つことが大事です。日本にいたころは職場と家以外のサードプレイスをいくつか持っていて、フィンランドもその一つでしたが、実際に暮らすようになってからは『フィンランドという好きな場所の中でもサードプレイスを持つ必要があるんだ』と気づきました。ヘルシンキは歩ける距離に小さい島が点在していて、その中のお気に入りの島を夏のサードプレイスとしています。休みの日のお昼過ぎに出かけて、屋台でソフトクリームとコーヒーを買い、お気に入りの木陰にピクニックシートを敷いて気が済むまで滞在します。本を読んだり、日記を書いたり、少し寝たり。時間を気にしないで過ごせる場所です」
大好きでも期待しすぎず、暮らしの中の居場所を増やすこと。フィンランド、ひいては海外への移住に限らず、新たな環境で生活するために必要な心構えだと感じた。
憧れの地で探し求める理想の生活入居当時のchikaさん宅(画像提供/週末北欧部chika)
最後に、今後のフィンランド生活での抱負を聞いてみた。
「今の家も当初は『ここは誰の家なんだろう』という感覚で落ち着けなかったのですが、最近は帰ってきたらほっとできる『自分の家』になってきました。私は『いつかフィンランドに移住する』と思い続けていたので、日本にいるときからずっと仮住まいのような気持ちで、大きな買い物ができなかったり猫を飼いたくても飼えなかったりして。自分が本当に欲しいものも分からなくなっていると感じていました。これからは寿司職人の仕事と描く仕事とのワークライフバランスも含めて暮らしを整えながら、自分がどんな生活をしていきたいのかを見つめていけたらいいなと思っています」
自分の住みたい場所に住む、という目標を叶えるためにじっくりと時間をかけてきたchikaさん。「フィンランドの生活がいつまでも続くとは思わないで、まずは3年間を区切りに頑張ってみるつもりです。がむしゃらに過ごした1年目を踏まえて、2年目、3年目をより濃く過ごせたら」とも話してくれた。
chikaさんにとってのフィンランドのような場所とは、きっとそう簡単に出合えるものではない。だからこそ、「ここに住みたい」という思いが生まれたときには、自分の気持ちを信じて行動する必要があると感じた。
週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より
●取材協力
週末北欧部 chikaさん
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『北欧こじらせ日記』(世界文化社)
一戸建てのマイホームといえば、2階建て、3LDK以上というのがこれまでの既定路線。いま、家族のあり方やライフスタイルの多様化にともない、70平米前後までのコンパクトな平屋が今需要を伸ばしています。ミニマムな広さと価格で自分らしい平屋暮らしを楽しむ人たちの声をもとに、マイホームの選択肢として注目が高まる「コンパクト平屋」の魅力を探ります。
なぜ今、コンパクト平屋が人気なのかここ数年、住宅資材や土地価格の高騰で、従来よりもコストダウンした住宅が関心を集めるようになりました。また、子育てファミリー世帯から、単身や高齢者夫婦、ひとり親世帯(シングルファーザー・シングルマザー)といった多様な世帯が増えたことにより、住宅ニーズも変化してきています。さらに、災害で資産を失うことや、終活、実家じまいなどでモノを多く持つことへの課題に直面し、“ミニマルな暮らし”が注目されています。
そうした背景から、年々需要を伸ばしているのが、コンパクトな平屋です。新しいマイホームの選択肢として、平屋住まいを選んだ方たちの事例取材を進めると、平屋が支持される5つのポイントが見えてきました。
平屋が支持される5つのポイント
1 上層階の重さがかからず、地震に強い構造がつくりやすい
2 施工コストが安く、購入できる人の幅が広がった
3 ランニングコストが安く、高性能な家が実現できる
4 アメリカンテイスト、ログハウスなど、デザインバリエーションの増加
5 ミニマリスト、終活など、モノを持たない暮らしへのシフト
それでは、具体的に見ていきましょう。
ポイント1 熊本地震以降、地震に強い平屋の需要が急増熊本地震以降、全国と比較して熊本での平屋の需要が急増したことは、平屋の耐震性に着目する人が増えたことを物語っています。
2016年、震度6と震度7を立て続けに観測した熊本では、木造2階建て住宅の1階部分が上階に押し潰される形での倒壊が数多く見られました。こうした経験から、再建築や新築の際需要が増加したのが、シンプルで安定した構造の平屋の住まいでした。
2016年以降、全国と比較して、熊本の平屋の割合が増加したことがわかります(データ/国土交通省より)
熊本県熊本市の工務店、グッドハート株式会社の営業・宮本紬麦さんにお話をうかがうと、「熊本地震から5年以上経っても、震災後の家づくりとしてやはり耐震性を気にかける方は多い印象です。当社で2022年度に完工した26棟のうち、10棟が平屋でした。セールスポイントであるローコストや自由設計という点にまず着目して来られる方からも、耐震性能の話は確実に出てきます」
地震に強い構造がつくりやすいということが、平屋を選ぶ大きな理由のひとつになっているようです。
(写真提供/グッドハート)
平屋が耐震性に優れているのは、バランスが取りやすい安定した構造であること、また建物の重心が低いため揺れにくいことが挙げられます。家にかかる重量という点でも、2階建て以上の建物と比べて軽いことから、倒壊のリスクは軽減されるといえます。
加えて、玄関や窓から屋外に逃げやすいという点も、平屋のメリットでしょう。
子どもが巣立ったのを機に、2階建ての家からリフォーム済み中古の平屋に移り住んだSさん夫妻(栃木県・夫60歳、妻52歳)。以前は福島県にお住まいで、東日本大震災で大きな地震も経験しています。「前の家では小さな地震でも2階にいると揺さぶられるように感じることがありましたが、平屋に住んでからはそこまでの揺れを感じたことがありません。いざ大きな地震や火災が起きても、足腰に負担をかけずすぐに外に逃げ出せると思うと、安心感があります」と言います。
中古の平屋をリフォームし、夫妻と愛犬で第二の人生を楽しんでいるSさん宅(写真撮影/masaru tsurumi)
関連記事:50代から始めた終活でコンパクト平屋を選択。家事ラク・地震対策・老後の充実が決め手、築42年がリフォームで大変身
ポイント2 施工コストが低いから、多くの人の手に届きやすい一般的に、階段や2階トイレの確保、建築中の足場代などがより必要な2階建て住宅と比べ、施工コストが抑えられる平屋。太陽光発電、高断熱といった機能性を追求しつつ、70平米前後で1500万円を切るローコスト新築住宅も登場しています。手元に老後資金を残したいシニア世帯や、住宅ローンの借入額に不安を感じていたシングル世帯、ひとり親世帯など、さまざまな人に手が届きやすい価格帯といえます。
夫と2人、マンションから住み替えたRinさん(千葉県・50代)の平屋は、約60平米で建築費は1600万円台。子どもが就職し、教育費がかからなくなったタイミングでの購入でした。「夫が住宅ローンを組める年齢だったので、10年で完済する予定で住宅ローンを組みました」と話します。
夫と二人暮らしをしているRinさん宅。面積は以前のマンションより2割ほど小さくなりました(写真提供/Rinさん)
関連記事:50代人気ブロガーRinさんがコンパクト平屋に住み替えた理由。暮らしのサイズダウンで夫婦円満に
前出のSさん夫妻(栃木県・夫60歳、妻52歳)は、老後を見据えた終活のひとつとして平屋での暮らしを選択。「平均寿命である80歳まで、住むのは20年。手元にもお金を残しておきたかったし、金銭面では無理をしないでおこうと思いました」と、元の家の売却金額をスライドして支払いに充て、住宅ローンを組まずに購入しました。
平屋で、愛犬と一緒に二人暮らししているSさん夫妻(写真撮影/masaru tsurumi)
両親の介護を終え、実家で一人暮らしをしていたTさん(埼玉県・60代)は、実家の敷地の半分を売却し、その資金で65平米の平屋を新築しました。「必要最低限のほどよいサイズで、シンプルなつくりが気に入っています。女性単身で『家を建てるなんて無理』と思われるかもしれませんが、私にもできました」。庭では家庭菜園を楽しみ、広いウッドデッキは地域の憩いの場にもなっています。
自宅の敷地に平屋を新築したTさん。愛猫と一緒に一人暮らしを満喫しています(写真撮影/片山貴博)
関連記事:実家じまい跡に65平米コンパクト平屋を新築。家事ラク&ご近所づきあい増え60代ひとり暮らしを満喫
ポイント3 ランニングコストが安く、高性能な家に住めるこの1年余りでエネルギー高に直面し、ランニングコストを下げたいという希望も高まってきました。コンパクトな平屋は冷暖房効率が高く、家中の温度を一定にしやすいのが特徴。高齢になるほど心配なヒートショック対策にもなります。また、同じ床面積の2階建てと比較して平屋は屋根面積が大きいため、より多くの太陽光パネルを設置することができます。発電効率がよく、メンテナンスがしやすいことも、注目したいポイントです。
80代の母と同居するため、2階建ての実家を約50平米の平屋に建て替えたHさん(千葉県)。「冬は朝起きる前に1時間ほどエアコンをつけておき、日中は灯油ストーブとリビングのホットカーペットだけ。廊下もないので、家中の温度差はほとんどありません」と、気密性の高いコンパクト平屋の快適さを実感しているそうです。
モダンな土間キッチンのあるHさん宅。格子戸で仕切れる和室を母との2人の寝室に(写真提供/木のすまい工房)
関連記事:2階建て実家をコンパクト平屋に建て替え。高齢の母が過ごしやすい動線、高断熱に娘も満足
子どもが社会人になり独立、夫婦二人暮らしになるにあたり、67平米の平屋を新築したTさん(埼玉県・夫30代、妻40代)は、「小さい住まいは断熱性能がとてもよく、夏も冬もエアコン1台で快適に過ごせました」。電気料金が値上がりしても、使用電力が以前より少なく済んだため、電気代は抑えられたといいます。
Tさん宅にはエアコンがリビングに1台のみ(写真撮影/片山貴博)
夫婦二人暮らしの久保田さん(群馬県・40代)の住まいは、約73平米、2LDKの平屋。「エアコンは3室に設置してありますが、この冬はリビングにある24畳用のエアコンだけ稼働させて、十分暖かかった。寝室に入ったときも寒さは感じませんでした」と言います。屋根には太陽光パネルを搭載。「今後メンテナンスが必要になったときも、足場が最小限で済むから費用は抑えられるはず」と話します。
開放的なリビングでストレスなくのびのび暮らす久保田さん夫妻(写真撮影/片山貴博)
関連記事:40代共働き夫婦、群馬県の約70平米コンパクト平屋を選択。メダカ池やBBQテラスも計画中で趣味が充実
ポイント4 アウトドア風などデザインのバリエーションも豊富にカリフォルニアの風を感じるようなガレージ付きのアメリカンスタイルの家に、ぬくもりあふれるログハウスなど、コンパクトな平屋にも多彩なデザインが続々登場。好みや趣味によりフィットした、豊かな暮らしが叶います。テレワーク用の部屋やアウトドアなど趣味を楽しむ拠点として、敷地内に建てる“離れ”感覚のタイニーハウスも人気が高まっています。
前出のTさん夫妻(埼玉県・夫30代、妻40代)は、車をメンテナンスできる大きなガレージがほしいと、67平米のアメリカンハウスの平屋に住み替えました。「西海岸をイメージした、吹き抜けのある白いリビングが気に入っています。庭にはドライガーデンと、季節の花を植えた花壇を作りました。のんびり庭いじりしたり、デッキでお酒を飲んだりする時間が楽しいです」
庭にガレージを建てるのが目標と話すTさん(夫)(写真撮影/片山貴博)
自宅の敷地内に約10平米のログハウスをセルフビルドした桑原さん(長野県・40代)は、10代のときから集めていたビンテージ雑貨や自転車、バイクなどを並べ、趣味の空間をつくり上げました。「6畳だけの空間は、湯船みたいな“おこもり感”もあり、サッシを開け放てばデッキの先につながる庭が見渡せて、視界が広がり開放感もあります」。ログのぬくもりも心地いい、秘密基地のようなサードプレイス平屋です。
ログ小屋のキットを購入してセルフビルドした桑原さんの小屋。薪ストーブもあります(撮影/窪田真一)
関連記事:10平米以下のタイニーハウス(小屋)の使い道。大人の秘密基地や、住みながら車で日本一周も! ステキすぎる実例を紹介
ポイント5 ミニマリスト、終活など、ものを持たない暮らしが実現終活や実家じまいなどを通じて、ものを多く持つことで見えてくる課題にふれ、この先はシンプルに暮らしたいと考える人が増えてきました。コンパクトな平屋の住まいは、余計なものを持たないミニマム志向の暮らしにマッチします。
約60平米の平屋に住む前出のRinさん(千葉県・50代)はこう言います。「収納は、扇風機のような季節家電が入るくらいの奥行きがあれば十分。洋服も若いときほど多くなくていい。クロゼットもパントリーも、何があるか一目でわかるように収納しています」。必要なものだけを厳選し、家事動線を整えた小さな平屋暮らしでは、家事ストレスが減って夫婦仲も円満になったそうです。
写真右はキッチン横のパントリー。奥行きが浅く、全部見渡せるので、何があるのか忘れません(写真提供/Rinさん)
母娘2人で暮らす前出のHさん(千葉県)は、実家を約50平米の平屋に建て替えるのを機に、ものをすっきりと処分。「実家は使っていないものであふれていました。今の家に持ってきたのは本当に必要なものだけ。収納場所も限られていますが、手の届く範囲に収納できて、どこに何があるかきちんと把握できています」
2階建ての実家を平屋に建て替えたHさん宅。ものを減らしてすっきり暮らしています(写真提供/木のすまい工房)
ライフスタイルの変化に合わせて、ものを減らし、スムーズな動線で快適に心地よく暮らす。地震に強く、広さも価格もミニマム。そんなコンパクト平屋は、世代を問わず、これからの理想の住まいとして、ますます広がりを見せていきそうです。
●関連ページ
「SUUMOトレンド発表会 2023」プレスリリース
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●取材協力
・グッドハート株式会社/ペンギンホーム
・株式会社カチタス
・Rinさん ブログ「Rinのシンプルライフ」
・ヒロ建工
・木のすまい工房
・古川工務店
・ケイアイスター不動産株式会社
・BESS(株式会社アールシーコア)
一戸建てマイホームといえば「2階建て3LDK以上」が一般的でしたが、70平米前後の平屋が少しずつ需要を伸ばしています。実家の土地を相続したのをきっかけに、60代で家を建てることにしたTさんもそのひとり。「家との出合いに感謝している」と話すTさんの、約65平米・2LDKの家づくりストーリーを通して“コンパクト平屋”の可能性に迫ります。
実家の土地を相続したのを機に、単身で家を建てることを計画都会でひとり暮らしをしてきたTさん(60代・女性)は、約20年前、両親の介護をするために埼玉県郊外の故郷にUターン。その後、15年ほど実家で生活しますが、両親を見送ったことで50代後半のときに再びひとり暮らしになります。
まずTさんを悩ませたのは、実家が立つ広大な土地にかかる、多額の相続税でした。悩んだ末、土地の半分を売って税金の負担を軽くするのがベストだと判断。次に浮かんだのは、「これからの住まい方をどうするか」ということだったと言います。
T邸の敷地は旗竿地。庭は外部から視線が届きにくい位置にあるため、プライベート感が漂います(写真撮影/片山貴博)
「実家は私が中学生のころに両親が建てたもので、築50年近く経っていたため、断熱性や耐震面で不安がありました。一戸建てであることは気に入っていましたが、110平米もあるため、広過ぎてひとりだと使いづらくて。以前から『人生の後半は豊かな暮らしがしたい』と思っていたこともあり、土地を売却し、手元に残った資金で新しい家に住み替えようと思い立ちました」(Tさん)
Tさんにはマンションを購入して都心に住む選択肢もありましたが、相続した土地に新築することを考えます。それも“コンパクトな平屋”にすることが大前提でした。
「集合住宅だとどうしても、コミュニティと疎遠になりがちではないでしょうか。うちの家族は昔から近所づき合いが大好きだったので、近隣の方が気軽に遊びにきてくれる家にしたかったですし、自然に親しみがあったため、地面に近い暮らしをして、家庭菜園を楽しみたいとも思いました。幼いころから慣れ親しんだ敷地に、ひとりで住むのにほどよいサイズの平屋を建てるのが、一番、好ましかったのです」(Tさん)
建築会社との出合いで問題が解決し、家づくりが現実にとはいえ「ひとりで家を建てるなんて、無理に違いない」とTさんは当初、家づくりに及び腰だったそう。しかし、建築会社の担当者に話を聞いてもらうなかで「私にもできるかも」と思うようになったと言います。
「ネックになったのは費用面です。というのも相続した不動産は、実家の敷地部分と、そこに隣接する野菜畑。野菜畑のほうが、日当たりが良かったので、そちらに建てたかったのですが、建築資金を得るには『売り先行』で実家側の土地を売却しなければならず、そうなると、住んでいる実家をすぐに出ていかなくてはいけません。それを建築会社の担当者に打ち明けたところ、『うちで不動産事業もしているので、土地を買い取りますよ』と、買主になることで資金面の融通をつけてくれることになったのです」(Tさん)
そうしてTさんは、建築会社と工事請負契約を結び、以降4カ月ほど打ち合わせを重ね、プランを詰めていきます。
Tさんの平屋は2LDK・65平米。北側の個室は主に収納に使っていて、クローゼットを大きめにつくってもらいました。
「照明ひとつを選ぶにしても、実際どんな空間になるかは、なかなかイメージできません。それをひとりで決めなくてはならないので、想像力が限界に達するほど大変でした。それでも乗り越えられたのは、建築会社が家族のように親身になってくれたおかげです」(Tさん)
「年を重ねるほど気力も体力も衰える」と感じていたTさんは、「60歳を目途に完成させよう」という強い気持ちで話を進めていったと話します。
ほどよいサイズの平屋で、良好な近所づき合いと自然を満喫そうして約1年半前に竣工したのが、約65平米・2LDKの平屋です。
アメリカ・西海岸の住宅を思わせる、下見板張りの平屋。玄関とひとつながりにしたカバードポーチが、くつろいだ雰囲気を醸し出します(写真撮影/片山貴博)
LDKは吹抜け、約27平米、17畳弱のゆったりした空間。リビングの延長には約10平米のカバードポーチ(屋根つきのウッドデッキ)が配置されていて、近所の人たちとの格好の交流スペースになっています。
ウッドデッキは屋根つきなので、雨天でも活躍。「道路から見えるためか、近隣の方が気軽に遊びにきてくれるようになりました」(Tさん)(写真撮影/片山貴博)
勾配させた屋根裏を現しにしているため、LDKは開放感がいっぱい。無垢の木の梁が、あたたかなムードを加えます(写真撮影/片山貴博)
キッチンの一角に仏壇を設置。「日常で自然と接することができ、いつも一緒にいる気持ちになれるので、一番いい場所におさまりました」(Tさん)(写真撮影/片山貴博)
「『人とつながりを持ち、自然とも触れ合いたい』という思いから、ウッドデッキと窓のサイズを大きくしました。自然をダイレクトに感じられるのはもちろんですが、不思議と若いご家族にも立ち寄ってもらえるようになって。お友だちが増えたのは、とても嬉しい変化です」(Tさん)
掃除が断然ラクになるミニマムサイズの平屋は、この先の強い見方T邸の扉はすべて“上吊りタイプ”のため、床にはレールがなく、すみずみまでフラット。「ひとり暮らしに3つは多すぎる」と個室は2つにとどめ、上り下りが必要になるロフトなどは一切設けませんでした。
扉はすべて、敷居が不要な上吊りタイプ。「リビングの床をコンクリートにすることもできましたが、足が冷えると思い、無垢の床で統一しました」(Tさん)(写真撮影/片山貴博)
「最初はLDKと寝室があれば十分だと思ったのですが、やはり荷物専用の部屋が必要だと思い2LDKに。もしこれがファミリー世帯だったら、少しでも部屋を広く使ったり、いろいろな造作を設けたくなったりしたでしょう。でも私にはこれが最適でした」(Tさん)
「ひとり暮らしならではのシンプルで使い勝手のいいつくりが気に入っている」とTさん。
「必要最小限の広さであること」「生活のなかで上下の移動がないこと」「床に段差のないこと」により、格段の暮らしやすさが生まれていると話します。
「床が平坦だと掃除がしやすくて、気がついたときにサッと掃除機をかけられます。ミニマムな平屋だけにキッチン・バスルーム・トイレが近くにまとまり、少ない移動で用事が済むのもよいです。
年上の先輩から『年々、動くのが面倒になるよ』と聞きますし、実際、階段から落ちてケガをする80代の方の話を耳にします。この先の体への負担を考えても、正解だったと思いますね」(Tさん)
洗面スペースはあえて扉を設けず、トイレや洗面室も、開け放てるよう引き戸にして広さを確保。洗面室・洗濯スペース・トイレが行き来しやすいつくりになっています(写真撮影/片山貴博)
玄関は、廊下とLDKの2方向からアクセスが可能。廊下側の通路にはシューズクロークがあり、靴や鞄を置いたり、出がけにサッとコートを羽織ったりできます(写真撮影/片山貴博)
強固な構造により耐震等級3をクリア。冷暖房費の削減にも成功メリットが見られる平屋ですが、「耐震面でも理に適っている」と話すのは、設計を担当したヒロ建工の淺見貴寅(あさみ・たかとも)さんです。
「もちろんほかの建物でも耐震性は出せますが、平屋だと2階以上の住居に比べて上部からかかる負荷が少ない分、強固につくりやすいといえます。65平米のT邸は面積の都合上、減税の対象となる『長期優良住宅』の対象外で、認定を受けられませんでしたが、『耐震等級3』はその条件を優に満たしています。そのため『住宅性能評価書』を取得することで高品質な住宅であることを証明し、減税措置を受けられるようにしました」(淺見さん)
断熱面では、断熱材を専任の大工が施工するほか、第三者機関による品質チェックを入れて精度を徹底したと言います。
「家全体が魔法瓶のように冷気・暖気を逃さないため、年中、快適に過ごせます。冷暖房費が思ったよりかからないことに驚きました」(Tさん)
優れた断熱性能によりLDKは年中、快適。ここではヨガにDIYにと趣味にいそしみます(写真撮影/片山貴博)
快適な平屋でオフは趣味に没頭。かけがえない家との出合いに感謝現在はマイペースに週3回だけ仕事をしているTさん。たっぷりある自由時間はDIYで家具にペイントしたり、ヨガにいそしんだり、自分らしく過ごすことに使っています。
家を建ててから「全部、自分でつくる」という意識が芽生えたTさん。カラフルな箪笥やスツールは、愛着ある実家の家具をペイントしたもの(写真撮影/片山貴博)
軒先に小さな花々を植えるための花壇をDIY。庭では木を植えたり、夏に野菜を育てたりして楽しむ予定(写真撮影/片山貴博)
「この家にいると旅先のコテージを訪れたようにリラックスできて、『毎日、わが家にいたい』『早く帰りたい』という気持ちになるのです。つくづく人だけでなく“家”にも出合いがあるのだと実感。とても幸せな気持ちで暮らしています」(Tさん)
「コンパクトな平屋はシニアにこそおすすめ」とTさんは続けます。
「とくに女性だと『家を建てるなんて無理』と思われるかもしれませんが、私にもできました。参考にしてもらえたら、こんなに嬉しいことはありません」(Tさん)
都会での生活に両親の介護にと、人生のさまざまな経験を経てたどり着いた平屋という選択。充実した暮らしぶりが、新たなひとり暮らしのあり方としての可能性を物語っていました。
●取材協力
ヒロ建工
北千住(東京都足立区)の街に面白いシェアハウスが増えているという。アーティストが集う「アサヒ荘」、JICA海外協力隊らが集う「チョイふるハウス北千住」……。シェアハウスを運営するのは65歳以上向けの賃貸情報サイトを運営するR65不動産の代表として不動産業界では知られる山本遼さんです。実は山本さんは、自らも特定の家を持たず場所を転々としながら生活するシェアハウスホッパーという側面も持っています。身軽に住みたい場所に住めて住民同士の交流が魅力の暮らし方です。さらに、共同書店も運営。それらを通じて、北千住にどのような新しい関係が生まれているのでしょうか。シェアハウスと共同書店「編境」を訪ねました。
山本さん。65歳以上向けの賃貸情報サイトを運営する「R65不動産」の代表でありながら、自ら賃貸するシェアハウスを転々として暮らす(写真撮影/片山貴博)
山本さんの街づくりは、自分ひとりで決めず皆で考えながらつくり上げていくスタイル(写真撮影/片山貴博)
海外協力隊らが住むシェアハウス「チョイふるハウス北千住」JR常磐線北千住駅の改札を出ると目の前に大型ファッションビル。しかし、駅の近くには、庶民的な宿場町通り商店街が。少し歩くと、お団子屋さんや八百屋さん……生活を支える小さな商店街もあります。通り抜け禁止の看板がある路地もあちこちに。この街に、山本さんが運営する5棟のシェアハウスと共同書店「編境」、が点在しています。5棟のシェアハウスは、R65不動産で借り上げ、契約や賃貸費用の回収を行い、管理人は住民が務めています。
駅に近い宿場町通り商店街。個性的な飲食店や銭湯がある(写真撮影/片山貴博)
住宅街の曲がりくねった路地に山本さんが運営する5棟のシェアハウスのひとつ「チョイふるハウス北千住」はありました。ここは、海外協力隊や国際支援に関心のある人が集うシェアハウスです。
迎えてくれたのは、管理人の栗野泰成さん。栗野さんも、海外協力隊としてエチオピアで2年間、情操教育やスポーツ教育の普及活動に携わった経験があります。「チョイふるハウス北千住」の立ち上げから運営に至るまで行っています。
海外から持ち帰ったお土産が飾られた玄関(写真撮影/片山貴博)
「もともと国際協力に関心のある人たちを集めるコンセプトのシェアハウスをやってみたかった」という栗野さん。栗野さん自身、当時は、シェアハウスを転々として暮らしていたシェアハウスホッパーでした。つくば市に住んでいたころ、山本さんのTwitter投稿を見て北千住に興味を持ちました。「ショウガナイズ北千住」というシェアハウスで、コンセプトは、新陳代謝。なんと半年ごとに家賃が5000円ずつ値上がりすることがあらかじめ決まっていて、退去を促す不動産会社の経営面からはあり得ないシステムです。
「この人面白いなあと。面白い人の周りには面白い人が集まるので、すぐにDMを送って入居しました。それが5年前。海外協力隊のためのシェアハウスをつくりたいと山本さんに話したら、やってみたらと物件を紹介してくれたんです。『ショウガナイズ北千住』の家賃が値上がるのに追い立てられながら(笑)、シェアハウスを立ち上げ、ぼくも引越しました」(栗野さん)
開業するとすぐにコロナ禍になり、海外に派遣された隊員が緊急帰国することになりました。3カ月で帰国を余儀なくされた人も。日本に戻って来ても家がないので困るだろうと、栗野さんはTwitterでシェアハウスを告知。緊急性、ニーズがあり、隊員に一時的な住まいを提供できました。その後も国際協力や栗野さんが携わる子ども支援の活動に関心のある人たちが集まるシェアハウスとして認知されるようになったのです。
スパイスやハーブを使ったカレーづくり、アメ横で購入した面白い食材を使って料理をつくる会など、さまざまなイベントがシェアキッチンで催され、住民やその友人でにぎわう(写真撮影/片山貴博)
「現在の住民は5人。海外協力隊でケニアに行っていた人や、子ども支援の活動に長年携わっているフリーター、海洋ゴミの問題に取り組むNPOの理事などです。人を助けたいという思いでつながっているので、話が盛り上がるし、交友関係も広がります」(栗野さん)
縛られず行きたい場所へすぐ行けるシェアハウスホッパーという選択取材当日、シェアハウスの共用スペース(畳スペース)でテレワークをしていた西山大貴さんと成田彩花さんに、住み心地や住んで良かったことを伺いました。
シェアキッチン横の畳スペースで談笑する成田さん(左)と西山さん(右)。「今どんな仕事しているの?」お互いの仕事に興味津々(写真撮影/片山貴博)
途上国の農村開発に携わる西山さんは、「チョイふるハウス北千住」が5カ所目のシェアハウス。北千住の別のシェアハウスから引越してきました。「海外協力隊経験者が集まっているので、住みながら、海外の情報が入って来ますし、自分が活動する国以外の支援者とつながれるのが良さですね」といいます。
WEBマーケティングの仕事をしている成田さんは、大学時代からシェアハウス暮らしで、「チョイふるハウス北千住」は10カ所目。「アサヒ荘」のアートイベントに遊びに行き、ここを知りました。
「国際協力に興味があったのですが、今の仕事では経験者となかなか知り合う機会がなくて。実際に活動している人とつながれるのが嬉しいです」(成田さん)
部屋の中で目につくのは布団とスーツケースひとつだけ。いつでも行きたい所へ行くため荷物は最小限(写真撮影/片山貴博)
管理人として特別なことは何もしていないという栗野さん。2021年2月に貧困の子ども支援の一般社団法人チョイふるを立ち上げました。「チョイふる」は、choicefullの略。生まれた環境で選択肢が限られてしまう子どもたちに、食事や居場所を提供し、親の生活相談を行っています。住人がボランティアに参加してくれたり、クラウドファンディングを応援してくれたり、人のつながりに助けられていると言います。
「集客的には入れ替わりが激しいので、大変な面はあります。4カ月ほどで退去する人が多いんです。成田さんも去年の12月に入居して4月にはカンボジアへ行くために退去しますしね。でも、抜けたり入ったりが多いからこそ、面白い人がどんどん集まって関係が広がっていく。日本に帰国したときの一時滞在の場所として今後も使ってもらえるといいんじゃないかな」(栗野さん)
海外の伝統工芸の絵が廊下に飾られていた(写真撮影/片山貴博)
シェアハウスや共同書店「編境」で街の中に街をつくる北千住の街の中にコンセプトの異なる5つのシェアハウスをつくった理由を山本さんにたずねるため、共同書店「編境」に伺いました。共同書店とは、本を売りたい人(棚主)で売り場(棚)をシェアするタイプの書店。古い一軒家を改装したお店は、通り過ぎても気づかないくらいです。ところが、扉を開けると、どこか懐かしい本屋さん。椅子もあって、つい長居をしてしまいそう。
一見、書店とわからない「編境」。オープンするのはお店番がいるときだけ。開いているときに来た人はラッキー(写真撮影/片山貴博)
椅子がいくつもあるので、子どもが絵本を読みふけることも(写真撮影/片山貴博)
本の売れ行きを左右する自筆のポップから棚主の人柄を感じる。「積読(つんどく)書店」と名付け、読まなかった本を販売(写真撮影/片山貴博)
なぜシェアハウスや共同書店を運営しているのでしょう?
「シェアハウスも、共同書店も街に仕事以外のつながりをつくれないか、そんな思いで始めました」と山本さん。
山本さんが北千住の街に関わるようになったのは、65歳以上向けの不動産サイト「R65不動産」の事業を法人化した2016年ころ。北千住にある中古住宅を活用してほしいと依頼を受け、以前運営したことのあるシェアハウスを北千住にもつくろうと考えました。シェアハウスは、当時、騒音問題や、部屋をきれいに使ってくれないのではというネガティブなイメージが大家さんにあり、別のエリアで経営したときは、周囲の風当たりが強かったと山本さん。
「でも、北千住の人たちは、『若い人で集まってるの? 楽しそうだね』と受け入れてくれました。東京芸大(東京藝術大学)千住キャンパスがあって街に学生やアーティスト、クリエイターが多く、もともと挑戦を受け入れてくれる街なんです。北千住は、今、バズワード的に盛り上がっていて、若い人が外からどんどん入ってきますが、再開発が進んで家賃の値上がりが著しく、だんだん窮屈な街になってきているなあと感じていました」(山本さん)
そこで、山本さんが考えたのは、街の中に1km圏内くらいの嗜好が近い人同士でつながる小さな街をつくること。その拠点となるのが、シェアハウスでした。運営するシェアハウスはそれぞれコンセプトが異なり、入居者のタイプも違います。
アーティストが集う「アサヒ荘」(画像提供/R65不動産)
アサヒ荘のイベント時の1枚。とっても楽しそう!(画像提供/R65不動産)
「賃貸住宅は住民同士が過度に干渉しない良さがありますがが、趣味や嗜好が近い人でつながるのも面白いんじゃないかと思ったんです。北千住ではありませんが、世田谷ではじめたのが、日替わり店長が開く『スナックニューショーイン』です。コロナ禍で閉店しましたが、世田谷の街に住んでいる劇作家、ライター、デザイナー、学生が店長になってくれました。ご近所の人との関わりって面倒くさいんだけど、つながりたい人とつながりたいっていう欲はすごくあるんだなと実感したんです。喋らなくてできるもので、北千住でやるなら何がいいだろう? と考えた末に生まれたのが、共同書店『偏境』でした」(山本さん)
「スナックニューショーイン」。店長の友人や知人が集いにぎわった(画像提供/R65不動産)
共同書店には、40名(2023年3月末現在)の棚主がリンゴ箱や木箱に選りすぐりの本を販売しています。棚主は、この街に住むアーティストや近くにある芸大の関係者、近所の人などさまざま。ポップを読むだけで楽しい気持ちになります。
棚主ひとりに木の棚やりんご箱ひとつ。皆でブックフェアも。訪れた3月のテーマは「旅立ち」(写真撮影/片山貴博)
山本さんの棚。「自分の頭の中を見られているようでちょっと恥ずかしい」(写真撮影/片山貴博)
見せたいけど売りたくない本も並んでいる。売れないように高値をつけるけど、そういう本に限って売れてしまう(写真撮影/片山貴博)
年代問わず挑戦を応援する場所をつくっていきたいシェアハウス、共同書店、今後予定しているギャラリーすべてを束ねるコンセプトはあるのでしょうか。
「あえてつくっていないんです。同じコンセプトだとつまらなくなるし、ぼくを嫌いな人は入って来にくくなる。シェアハウスで、コンセプトを決めたのは、『ショウガナイズ北千住』だけ。ぼくは、5棟のシェアハウスのいずれかに住んでいますが、満室になるとほかのシェアハウスへ移ります。一緒に住んでいると住民のやりたいことを応援するきっかけになるので楽しいですよ」(山本さん)
R65不動産の収入源は、賃貸物件を一括で借り上げ、入居者に転貸するサブリースによるもの。共同書店での収益にはこだわっていないといいます。
「共同書店は、一つの棚がひと月で3000円。1回お店番をすると1000円安くなるので、学生は月3回店番をして無料で使っている人もいます。シェアハウスもサブリースです。若い人で始めたい人はけっこういるのですが、自分でゼロからだとハードルが高いんです。初期費用は中古物件でも100万円以上、空き部屋が出ると賃貸料が持ち出しになるので無理になる。大家さんから見てみてもよくわからない人がシェアハウスをするのは受け入れられない。ぼくらが会社として間に入ることで実現できます」(山本さん)
大義名分はなく、「ぼくらの楽しいことをしているだけ」と山本さん(写真撮影/片山貴博)
インテリア小物にもセンスが光る。現在、「編境」の2階にギャラリーを企画中(写真撮影/片山貴博)
R65不動産は、65歳以上の入居希望者に物件を紹介する事業がメイン。ゆくゆくは、年齢に関係なく挑戦できる場所を北千住に増やしたいと考えています。
「だんだん5棟のシェアハウスそれぞれが村のようになってきました。一棟で6人ほど住民がいるので全員で32人。住民の友人で遊びに来る人も含めると80人を超えて関わり合っています。80人いれば、小さい飲食店が成り立つ購買力がある。月に一回ひとり3000円で飲みに行けば、24万円になりますから」
北千住の拠点全部をひっくるめて、オンラインでもリアルでもつながれる仮想の街「北千住浪漫シティ」をつくるのが山本さんの今の夢。浪漫は、挑戦を意味しています。
「祖母が76歳まで自営の薬局で働いていて元気だったんですよ。背筋が伸びて接客してる姿がすごくかっこよくて。そういう挑戦ができる小さな場所をつくっていきたいです」(山本さん)
点在するシェアハウスが拠点となり、つながりあって、街の中の小さな街へ。「北千住に来ると、夢が叶う」。受け入れる文化と新しい挑戦が、街の可能性を広げています。
●取材協力
R65不動産
自分のライフスタイルに合った暮らしを実現できると、家選びの際に平屋を選ぶ人たちが増えています。40代の久保田さん夫妻も、家を新築する際、迷わず決めたのが平屋の一戸建てでした。タイルのテラスから庭とつながる、約22坪(約73平米)のコンパクトな家。その住み心地と、「多くの人に平屋をすすめたい」という理由をうかがいました。
2階はなくていい。コンパクトなワンフロアが理想群馬県在住の久保田さん夫妻がお住まいなのは、22坪のコンパクトな平屋の家です。以前住んでいたのも、同程度の広さの平屋の賃貸住宅だったというご夫妻。「趣味で飼っているメダカが増えてしまって、今1000~2000匹くらいいるんです。以前の賃貸の家は古く、庭もなかったので、メダカの水槽を置ける庭付きの家に住み替えよう、と思ったのがきっかけでした」(久保田さん夫)
メダカがみるみる増えてしまったのが住み替えのきっかけだったといいます。庭先に置いたプレハブの小屋には、メダカに関連する道具がいっぱい(写真撮影/片山貴博)
当初、中古の2階建ての家を見学したおふたり。そこは1階にキッチン、リビングと1部屋、2階に2部屋ある間取りでした。「内覧して、正直、2階はいらないなと思いました。ずっとふたり暮らしだから、部屋数があっても使わないですし。何十年か先、足腰が弱ってきたら、きっと2階には行かなくなって物置になってしまいそう。それなら、ワンフロアでコンパクトな平屋がいいなと思ったのです」(久保田さん妻)
その後、スマホで家探しをしていたところ、近所でモデルハウスを販売するという情報を見つけました。
「見学してみて、ひと目惚れ。廊下もない平屋のワンフロアで、吹き抜けで家中が明るく、住みやすそうだなと感じました。ロフトがあって、なんだか遊び心もあるなぁと」(妻)
ただ、その家は予算に合わなかったこと、完成品ゆえ仕様や色などが選べなかったため、改めて新築を依頼。土地探しから始めました。
ほどなくして、おふたりの仕事先から近い住宅地に約83.4坪の土地を見つけ、840万円で購入しました。「建物は、17坪、19坪、24坪、27坪の4つのプランのうち、19坪プランを選びました。ただ、住宅ローンは【フラット35】を使いたかったのですが、22坪以上でないと適用にならないとのこと。だけど24坪プランではうちには部屋が多すぎる。そこで相談して、19坪プランの居室部分を3坪分広げるかたちで、22坪の家を建てることにしたのです」(夫)
間取りは、いくつか用意されていたパターンのうち、3室が南に面した2LDKを選択。価格は1000万円台前半でした。
黒×茶色の外壁がシックな平屋。屋根にはソーラーパネルを設置しています。庭の右側、カバーをかけているのがメダカの水槽(写真撮影/片山貴博)
ずらりと並んだメダカの水槽(写真撮影/片山貴博)
玄関ドアは明るいブルー。玄関ホールから居室につながり、廊下はありません(写真撮影/片山貴博)
玄関脇はアウトドアグッズなどがしまえる土間状の収納スペース。ここにもメダカの鉢が(写真撮影/片山貴博)
完成した住まいは、玄関ホールから洋室とLDKにつながっていて、リビングの奥に和室、キッチンの先に洗面脱衣室と浴室。廊下がなく、無駄なくまとまった間取りです。
「コンパクトなんだけど、キッチンも広いし、脱衣所もゆったりしていて着替えるのも楽です。洋室は寝室として使っていて、和室は今のところなにも置いたりせず、親や友人が泊まりにきたときに使えたらいいかなと思っています」(妻)
客間として使う予定の和室。物干しポール(オプション)もあり、室内干しもここで(写真撮影/片山貴博)
洗面脱衣所もゆったり広々(写真撮影/片山貴博)
コンパクトだからとにかく家事が楽!のびやかな天井高は平屋ならでは。ロフトもプラスしました。テーブルを置かず、ダイニングスペースを広く使っています(写真撮影/片山貴博)
当初のプランより広げたというLDKは18.5畳(30.63平米)とゆったり。天井が高く、オプションで2畳ほどのロフトもプラスしたそう。「実家ではロフトが自分の部屋だったので。でも、下で事足りてしまうし、ハシゴの上り下りが大変なので、今は使っていません」(夫)
壁紙の色は用意されていた3タイプから白ベースのカラーを選んだこともあり、明るくすっきり、広々と感じます。
白を基調にしたキッチン。リビングからカウンターの手元が見えないのですっきり(写真撮影/片山貴博)
「天井が高いのは憧れでした。以前住んでいた賃貸と広さはそんなに変わらないのに、おかげでここは開放的だなと感じます。ダイニングテーブルを置くと動線の邪魔になりそうだったので、食事はリビングのテーブルで。それもあって空間が広々と使えています。収納スペースも限られているけど、本当に使うものだけにして、すっきりさせています。いちばん気に入っているのは、家事が楽なところ。特に掃除は、お互い仕事をしているので週末に掃除機をかける程度ですが、10分もかからないで終わってしまうのがうれしい」と久保田さん(妻)は笑います。
シンプルな洋室はふたりの寝室に(写真撮影/片山貴博)
動線も無駄がありませんよね。
「そこも便利だと感じています。うちの実家は3階建てで、私の部屋は3階にあったので、忘れ物をするといちいち3階まで階段を上がって取りに行かないといけなくて、それが本当に大変でした。今は車に乗ってから、『あ、アレ忘れた』と家に取りに戻っても、探すのは1階だけだからささっと(笑)。とても楽ちんです」(妻)
家の中の温度差がないのもよかった点。各部屋にエアコンは設置してありますが、この冬はリビングにある24畳用のエアコンのみ稼働させ、家中快適に過ごせたといいます。
ふたりともテレビを見るのが大好きで、リビングのソファでまったり、お酒を飲みながら過ごすのがなによりの楽しみだといいます。
「せっかく庭もあるので、これから活用していきたいですね。先日、暖かい日に七輪を出して焼肉をしたんです。春にはBBQするのもいいな」と妻。
ソファでテレビを見ながら過ごすのが楽しみというふたり(写真撮影/片山貴博)
夫は「以前鯉を飼っていた知人が、ひょうたん型の大きな生簀をくれたので、庭に置いてメダカを放したんです。ここに屋根を付けたり、自然池みたいにしたい」と夢がふくらみます。
両親が遊びに来たときも、「ここはふたりにちょうどいい広さだね!」と絶賛したという住まい。ストレスなくのびのび過ごしているおふたりの姿が印象的でした。
大きな生簀にたくさんのメダカが。いずれは屋根も付ける予定(写真撮影/片山貴博)
久保田さんがこの家で暮らして半年ほど。今後どんな方に平屋ライフをおすすめしたいですか?
「もう、みんなにすすめたいです。土地が狭いとどうしてもスペースが足りず2階建て、3階建てになってしまうと思うんですけど、ある程度土地の広さがあれば、平屋ってとても便利ですよ、と伝えたいです。普段の家事も、メンテナンスや将来的にリフォームするのも楽だと思います。うちは屋根に太陽光発電をのせているんですが、いつか劣化して交換するときも、2階建てより平屋の方が便利ですよね」(妻)
(写真撮影/片山貴博)
ふたり世帯、シニア世帯のニーズを捉えるコンパクト平屋平屋商品に注力するIKI株式会社(ケイアイスター不動産グループ)によると、平屋の販売数は年々増加傾向にあるといいます。特に契約者の割合が高いのは、夫婦/パートナーとのふたり世帯、次いでシニアで、年齢でいうと40~50代の関心を集めているようです。
まさしく久保田さん夫妻のように、ふたり世帯からの注目が高まる平屋暮らし。一戸建てといえば、部屋数を確保した2階建てをイメージしがちですが、自分たちの暮らし方によりフィットした、シンプルでミニマルな平屋、そんな選択肢も定着しつつあるのだなと実感しました。
●取材協力
ケイアイスター不動産株式会社
規格型平屋注文住宅IKI(イキ)
※ひら家IKIは、ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する商品です
70平米前後までのコンパクトな平屋が、新しいマイホームの選択肢として、じわじわと需要を伸ばしている。子どもが巣立ったあとのシニア世帯の住まいとして、多彩な価値観をもつファミリー世帯の成長の場として、趣味や余暇をたのしむ一人暮らしの個性を表現する場として……。住人の属性や選択の理由もさまざまだ。ここでは、6LDKの戸建てを売却し、県外の平屋に移り住んだシニア世帯を取材した。
両親の介護を経験し、老後を見据えて転居を計画夫が50代半ば、妻は40代のころに、「自分たちの老後を見据えて終活を始めた」と話すSさん夫妻(夫60歳、妻52歳)。約2年前からコンパクトな平屋を検討していたという。
もともとの住まいがあったのは福島県中部の市。結婚当初に新築した2階建て6LDKの日本家屋に36年間住み、夫の両親と同居しながら、子どもを2人育てた。現在は子ども達が独立し、親は高齢者向け施設へ入居したので、夫妻と愛犬との生活。
「両親を自宅で介護していたころは、金銭面も体力面も大変でした」と振り返る。
「これまで両親の世話した苦労があるからこそ、自分たちは、県外で暮らしている息子や娘に面倒をかけないようにしようと決めました」
そんななか、まず平屋を検討した理由は、「年齢的に2階へ上がるのが億劫になり、コンパクトに暮らしたいと思ったから」。もとの家の2階には3部屋とクローゼットがあったが、子どもが巣立ち、どの部屋も物置同様となって、荷物がホコリをかぶっていたのが気になった。
第二の人生を歩む引越し先には、娘夫婦が住む栃木県那須塩原市を選んだ。「息子は東京に住んでいますが、自分たちは都会に住みたいとは思わなくて……。栃木なら、東京からでも、車や新幹線で来やすい距離ですから、親族が集まりやすいなと思いました」
和室4室と勝手口付きの食堂があった平屋を中古で購入。開放的なLDKがある現代的な住まいへリフォームした(写真撮影/masaru tsurumi)
リフォーム後はリビングに(写真はリフォーム前)(写真提供/カチタス)
30軒紹介されても、条件に合う平屋が見つからないSさん夫妻は平屋の中古物件に候補を絞り、現地のメーカーや不動産業者に依頼した。
「金額面で無理はしないでおこうと、価格は土地込みで1000万円から1500万円くらいを考えていました。今60歳で、平均寿命である80歳まで20年しか住まないのですから、そこで無理をしていい家に住んでも仕方がない。手元にもお金を残したかったので」とにこやかに話す。
並行して、住んでいた一戸建ての売却を地元の不動産業者に依頼した。
しかし、平屋の物件は思った以上に見つからなかったという。立地や価格面で候補となる家は約30軒見学したが、どれも2階建てだった。
「現地の不動産会社さんから、『実際には平屋の空き家もあるけれど、家庭の事情などで売りに出されていない』と聞きました。途中で1軒だけ平屋を紹介されたのですが、敷地が狭く、駐車場が1台分だけ。夫婦ともに通勤するためすでに車を2台持っているし、娘が車で遊びに来るので、3台分は欲しいと思って、断りました」
平屋探しを始めてから1年が経過した。
「あまりに見つからないので、2階建てに住んで、1階部分だけを平屋のように使おうか?」と考え始めていた。
日当たりのいい南側は、LDKに隣接した和室に。ゴロンとくつろげるのがいいところ(写真撮影/masaru tsurumi)
リフォーム内容と金額の打ち合わせを経て、契約へ現在の物件を紹介したのは、群馬県に本社を置き、全国120店舗以上ある拠点で中古住宅を買取り、リフォームして販売する会社だった。
「やっと出てきた平屋で、『やった!』と思いました。それも、娘夫婦の家と車で10分たらずの立地で、駐車場が4台分に部屋が4部屋。ほどよいサイズ感だと思いました。ただ、リフォーム前の段階で見学したので、内装が古く庭が荒れていて、『うわっ、汚いな』とも思いましたが(笑)」
(画像提供/カチタス)
この平屋は築42年、71.21平米の3LDKだった。空き家状態で同社が買い取ったので、中の家具などはそのままで、仏壇まで残っていたという。会社が買い取って荷物を整理した後に連絡があり、Sさんが見学した。
「その後会社からリフォームについての打ち合わせがあり、『だいたいこのようなリフォームをしてこれくらいの金額になりますが買いますか?』と。それを聞いて、ここに決めますと話しました」と夫。一昨年の10月に平屋購入の契約をした。
「2022年の2月か3月ごろに引き渡しの予定でしたが、昨今の世界情勢から建材の搬入が先延ばしになり、引き渡しは昨年の5月の連休明けでした。銀行でお金のやり取りをして、荷物を積んで、鍵を持ってすぐに入居しました」
慌しくなったのは、時を同じくして、福島県にある自宅の購入希望者が現れたからだった。
「急だったけれど、これを逃すといつ売れるか分からないので、夫婦2人で引越しの作業をしました。平屋の手付金を払ってから1週間で前の家が売れるというタイミングだったので、引越し会社も呼べず、すべて自分たちで行い、バタバタでした。ただ、家が売れる前から、終活として荷物の整理を少しずつ始めていたので、引き渡し時には何も残っていない状態にできました」
金額面は、元の家を売却した金額が平屋の値段とほぼ同じだったことから、そのままスライドして支払うことができた。
コンパクトな住まいなのでコミュニケーションが取りやすく、和やかな雰囲気(写真撮影/masaru tsurumi)
和室2室を日当たりのいいLDKへ大幅リフォームとはいえ、6人家族時代からある36年分の荷物を、軽トラックで何往復もして運ぶのは大変だったという。
「まだ着られる洋服はリサイクルショップへ。鉄屑は鉄の業者さんに持っていき、できるものは千円くらいだとしても換金しました。物を捨てるのにもお金がかかりますから」と、Sさん夫妻は合理的かつ行動的。
「昔の家なので、湯呑みなどの食器類や座布団、布団なども多かったですね。処分した布団だけで2tトラック1台分ありました。タンスは全部処分して、軽くて中身が見やすいプラスチックケースに変えました。持ち物は半分以下に減らして引越しましたが、こっちに来てから、やっぱりいらないと思って捨てたものもあります」。処分した荷物は軽トラック2台分になった。
購入した平屋は、畳の和室4つに食堂付きという造りだったが、間取りを変更して大幅にリフォーム。会社から提案されたプランをベースに、Sさん夫妻も意見を出した。
「大きな変更は、キッチンの形をI型からL型に変更してもらったことです。これによりキッチンの作業スペースが広がり、リビングに開放感が生まれました。壁になる予定だったリビングと和室の間を取っ払って、和室と一体型のLDKにしてもらったんです。この間取り変更は大正解。もともと設置してもらう予定だったI型のシステムキッチンですと私たちの生活動線では作業スペースが足りないと感じ、さらに出入りがしにくくなりそうでしたから。また、会社がもともと予定していたリフォームは、元食堂の勝手口を防犯面の観点から塞ぎ、そこにトイレをつくるというものでした。リフォーム後の間取りは、キッチンだけでなく玄関やトイレの位置までパーフェクトです」
新設したトイレに窓をつけることは妻が、浴室の壁の一面と洗面所にモダンなブラウンのシートを使用することなどは二人で提案した。
L字型のシステムキッチンに、ダイニングとの間仕切りと収納を兼ねてカラーボックスを設置(写真撮影/masaru tsurumi)
リフォーム前のキッチン(写真提供/カチタス)
コンパクトな暮らしに加え、日当たりと静けさを手に入れた生活が変わった部分は、「最近、階段を上っていないこと」と話す夫。2階に上がらなくていいのは本当にラクですね」と、平屋の良さをしみじみと話す。
「住まいがコンパクトなので動きやすく、足の運びがいいですね。家の真ん中に押入れを造ったので、その周りをぐるりと1周すれば、LDKも水回りも玄関もあり、動くことや片付けが億劫ではなくなりました。また以前は、地震の際に2階にいると、揺れを大きく感じることがありましたが、こちらに引越してからは、まだ感じたことがありません。これも平屋の良さかもしれません」
廊下沿いに押入れと物入れがあり、クローゼットとして使用。周囲をぐるりと回遊できる(写真撮影/masaru tsurumi)
また、「ここは静かで日当たりがいい」と口をそろえる二人。
「以前の住まいは、建てたころは静かな場所でしたが、新興住宅地になってしまい、集合住宅が300棟くらい建ちました。庭の前にも家があり、私たちの暮らしにとっては騒がしかったんです。また、最近建てられた住宅は背が高いので、私たちの2階建てには、南側からの日が当たらなくなってしまって。今は一日中、日が当たりっぱなしで嬉しいです」
愛犬も家の中を走り回っている。
娘夫婦以外、知り合いがいない県に移り住んだが、近所付き合いもうまくいっているという。
「ご近所さんが自家製の野菜を分けてくれるなど、仲良くしてもらっていますね。ここでは、自分たちは若い方なんです」と笑う。
また、Sさん夫妻は引越してから共に転職し、自宅から車で15分ほどの職場にそれぞれ通い、地域に馴染んでいる。
娘夫婦も頻繁に遊びにくるという。
「いくら準備をしたって、歳を取れば少なからず身内に迷惑をかけることになるけれど、遠くで迷惑をかけるよりは、近い距離で迷惑をかけた方が、精神的にも金銭的にも楽ですね」
周辺には行楽地があり、今後も楽しみが増えたという。
「ここまで忙しかったので、まだあまり出かけていないけれど、温泉なども近いので、夫婦でこれからの生活を満喫したいですね。住まいの計画としては、庭をいじって変えていきたいと思います。愛犬のためのドッグランと、幅2mくらいのウッドデッキを造りたいという計画があります」
「こちらに移り住んでから、白髪を染めるのをやめました」と自然体な夫と、共に夫の両親を介護した盟友でもある妻。平屋で愛犬との静かな暮らしを楽しむ(写真撮影/masaru tsurumi)
シニアが平屋ライフを楽しむには……Sさん夫妻に、シニアが充実した平屋ライフを送るコツを聞いてみた。
「やはり、早くから『何歳でこうする』というプランを立てておくといいと思います。私たちは、次は墓地を買って自分たちのお墓を建てる計画があり、お葬式のことも話し合っています。また、『どちらかが1人になったらホームに入ろう』とも決めています。歳をとると、一日一日が速いもの。予定を立てずにダラダラと過ごしてしまうと、周りの人に迷惑をかけることになりかねません。何より、計画を立てておくことで、自分たちが安心して暮らすことができます」
コンパクトな平屋暮らしは、年配者2人などのシニア世帯にはピッタリだと話す夫。
「平屋は、シニア世帯にすごくおすすめです。いざ、火災や地震があった時も、足腰に負担をかけず、すぐに外に逃げ出せますから。また、病気などで万が一という状態のときに、救急車が家の前まで付けられることもいいですね。例えば、一分一秒を争う脳梗塞のように、体が動かせないような状況の時に、2階から大人を担架に乗せて降ろすのは、大変だと思います。私たちにとってはあらゆる面で、安心して暮らすことができるのが、コンパクトな平屋です」
4台分ある駐車場。度々遊びに来る娘夫婦をはじめ、来客がある時も安心。お手製のドッグランを造る計画もある(写真撮影/masaru tsurumi)
まだまだ現役の50代前後で「終活」に取り掛かり、荷物を処分して一戸建てを売り、県外の平屋に住み替え、転職もしているSさん夫妻の鮮やかな人生設計に脱帽。
71.21平米の3LDKなら、マンション住まいとあまり変わらない。その上、生活音をあまり気にしなくてもよく、ドアを開けたらすぐ庭や駐車場という一戸建ての良さが付いてくるのは魅力的だと思う。
誰でも歳をとるのだから、なるべく暮らしをコンパクトにして、毎日を楽しみたい。それにはやはり事前の計画が大事……! 2人の若々しくスッキリとした表情に、考えさせられることが多かった。
●取材協力
株式会社カチタス
Z世代(1995年以降生まれの若年層)を対象としたシンクタンク組織「Z総研」が、Z世代の女性を対象とした「一人暮らし」に関する意識調査を行った。それによると、Z世代の女性の約8割が一人暮らしをしたいと思っているという。そこで、Z世代の一人暮らしの特徴を見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」を発表/N.D.Promotion
Z世代が研究の対象となるのは、彼らが生まれた時からデジタルデバイスやインターネット、SNSといった環境が身近にあった「デジタル・ネイティブ世代」で、これまでの世代とはその特徴が異なるからだ。
さて、Z総研が全国のZ世代の女性301人に「一人暮らしをしてみたいと思うか」と聞いたところ、「現在している」が6.6%、「してみたい」が80.4%で、「してみたくない」の13.0%を大きく上回った。
物件を探す際に重視したい条件としては、「家賃」がダントツの82.4%で、次いで、「最寄り駅からの距離」(32.6%)、「間取り」(28.6%)となった。以前に別の調査で、一人暮らしのZ世代に同様の質問をした結果でも、家賃がダントツで、交通アクセスと間取りが並んだので、やはりなによりも「家賃重視」なのだ。
“映え”を気にするZ世代ならでは!賃貸アプリに内装の写真の多さを求める一人暮らしの物件を探す際には、賃貸アプリを使うのだろうが、「何を求めるか」にZ世代女子の特徴が表れた。回答結果は次のようなものだ。
(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)
通常は不動産のポータルサイトに、「掲載物件が多い」(62.1%)ことを求める。テレビCMでも掲載数ナンバーワンなどとアナウンスしているのは、そのためだろう。検索サイトなので、もちろん検索のしやすさ、例えば「細かく条件設定できる」(51.5%)ことなども重視される。ところが、それらを上回って最多だったのが「内装の写真の豊富さ」(75.4%)だ。やはり“映え”を気にする世代ならではのことだ。
当サイトで、「コロナ禍でインテリアへの関心が高まる!20代から50代まで幅広い層がインスタを参考に」 という記事を書いたが、20代以下はインテリアへのこだわりが強く、インテリアの参考にするのは圧倒的に「Instagram」で、次いで「YouTube」だった。インテリアのこだわりが、室内の画像情報を重視することにつながっているのだろう。
インテリアにこだわるけど、落ち着いた色合いを好むさて、この調査で筆者が最も印象に残ったのが、「一人暮らしの理想のインテリアテイスト」を質問した結果だ。筆者の記憶をたどると、インテリアで根強い人気のテイストは、「北欧風」だ。北欧のスウェーデン発祥の家具メーカー「IKEA」の人気が高いのはそのためだ!と思っていた。
ところが、Z世代の回答を見て驚いた。「北欧」はわずか2.0%。「シンプル」(36.5%)と「韓国風」(26.9%)の人気が極めて高いのだ。
(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)
Z総研によると、「ホワイト基調のふわふわした女の子みたいな部屋が理想。YouTubeでインフルエンサーのお部屋紹介動画を見るのも好きで、実際に同じインテリアを購入した」(18歳/高校3年生)、「木の素材が好きでウッド調でシンプルなお洒落カフェのようなお部屋にしたい。自分好みにDIYするのも興味がある」(16歳/高校1年生)といったコメントがあったという。
「韓国風」ってどんなテイストなのだ?ところで、「韓国風」とはどんなテイストなのだろうか? 「中国風」や「アジアンテイスト」などはわかる。が、「韓国風」とはどんなものかよくわからなかったので、SUUMO編集部のZ世代の編集者に聞いてみた。
彼女によると、「韓国風インテリアは、主に白やアイボリー、素材はウッドなどを基調としているため、あまり派手さはないものの、形状などが個性的で女性が好むアイテムが多い印象」だという。
それを聞いて自宅を見回すと、ダークブラウンの家具が多い。仕事用に最近購入した、無印良品の引き出しボックスだけがアイボリーだ。時代に遅れないように、韓国風をもっと意識しようと思う筆者だった。
ちなみに、「一人暮らしする際に買いたい憧れのインテリアブランド」については、「Francfranc」(38.5%)と「IKEA」(34.9%)の人気が高く、次いで「無印良品」(12.0%)や「ニトリ」(7.6%)となった。いずれも、豪華なインテリアではなくナチュラルなインテリアで、リーズナブルなブランドが多く挙がったのが特徴だ。
(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)
IKEAといえば、北欧テイストではないのか?と思い、インターネットで「IKEA」×「韓国風」で検索してみると、IKEAの韓国風インテリア事例が出るわ出るわ。ほかの組み合わせでも同様で、どのブランドも韓国風を意識してインテリアの商品開発を行っているようだ。
さて、Z世代はデジタルネイティブで、SNS映えを気にする世代である一方、日本の好景気を知らない堅実な世代でもある。一人暮らしをするにしても、無理のない家賃を意識し、シンプルでリーズナブルなインテリアではありながら、自分の個性が表現できるものを選んで購入するといった像が浮かび上がる。
近年は、コロナ禍の影響で自宅にいる時間も長くなっている。Z世代それぞれにとって居心地の良い住まいを選んで、快適な一人暮らしをしてほしいものだ。
●関連サイト
N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」
シラハマ校舎は、千葉県南房総市白浜町の小学校跡地を活用してできた複合施設です。無印良品の小屋がずらりと並んだその一角に、2022年、上下水道、電気も既存インフラに頼らない「オフグリッド小屋」が誕生したといいます。省エネが注目される昨今、以前よりも耳にする機会が増えた「オフグリッド小屋」、一体どのように活用されるのでしょうか。可能性を探るため、シラハマ校舎に話を聞きました。
タイニーハウス(小屋)人気は健在。ウェイティングリストは27組も!2016年、千葉県の房総半島の先に誕生した「シラハマ校舎」は、廃校となった長尾小学校・幼稚園の敷地と建物を用途変更してできた施設です。敷地内には18ある小屋が立つほか、レストラン(完全予約制)、シェアオフィス、コワーキングスペース、宿泊施設で構成されています。ちなみに小屋の1棟の広さは12平米で、バスやキッチン、トイレなどの水回りは共用で使います。運営しているのは、妻がこの町の出身者という多田夫妻。
小屋は発売当初、「どんな人が買うんだろう?」という声もありましたが、現在、ワーケーションやシェアオフィス、2拠点生活の場所として活用されていて、2019年に完売、2023年現在はウェイティングリストに27組もいるという人気物件です。(関連記事:コロナ禍で「小屋で二拠点生活」が人気! 廃校利用のシラハマ校舎に行ってみた 千葉県南房総市)
シラハマ校舎の夜景(写真提供/シラハマ校舎)
「今、1棟、販売されているんですが、見学にいらっしゃる方も多いですね。人気があるため、中古価格も崩れていません。
ただ、比較的大きな畑付きで、ほぼ毎週末、手入れが必要になるんです。週末くらいはゆっくりしたいというニーズが強いので。となると、当然、人を選んでしまう。やはり小屋でゆったりしたいという人は多いので」と話すのは、シラハマ校舎の企画から管理、運営までをご夫妻で行っている多田朋和さん。
また、コロナ禍で広まったアウトドア人気やキャンプ人気は未だに衰えず、特に房総半島では次々とキャンプ場が誕生しているよう。キャンプのようでもあり、別荘のようでもある、シラハマ校舎の「小屋」は、手堅い需要があるようです。
平時はキャンプ場、非常時は避難場所。小屋を柔軟に活用するこの大人気のシラハマ校舎の敷地の一角がさらに進化して、2022年には「オフグリッド」の小屋ができました。オフグリッドとは、電力などの送電網につながっていない独立型電力システムのこと。このシラハマ校舎では、電力だけでなく、なんと上下水道も既存のインフラに頼らず、自立して運営できる仕組みをつくったそう。一体なぜなのでしょうか。
「きっかけは、2019年の台風です。送電網が停止し、白浜町一帯も停電、陸の孤島となりました。避難場所となったコミュニティセンターの受け入れ可能人員は最大で80人ほど。そのため、150人近い人が避難できない状態になりました」と多田さん。また停電したことで9月の残暑が住民を直撃したほか、浄化槽も稼働できず、衛生状態もよくなかったといいます。
2022年末の取材時も、一角に残されていた井戸。今回のプロジェクトでは、こちらも活用(撮影/ヒロタ ケンジ)
小屋はそもそもサイズが小さいため、使う電気エネルギーは最小限ですみます。そのため、生活に使う電力は太陽光発電でも十分まかなえるのです。いわば、「小屋の利点」を活かして、平時と非常時の二段階活用を実践したかっこうです。誰もが空想したり、アイデアとしては浮かびますが、民間の試みでさらりと行ってしまうところが、多田さん夫妻のすごいところ。
新しい小屋の内観。こうしてみると普通のホテルですね(写真提供/シラハマ校舎)
新しい小屋の内観。電気なので、キッチンはIHです(写真提供/シラハマ校舎)
「もともと下水道はなく、浄化槽(※)を利用する地域なので、非常時でも電気と水さえあれば機能します。また小学校の敷地内には古い井戸があったので、これを吸い上げて配水に利用することに。太陽光発電と水を確保できることで、いざというときも下水も稼働するんです。電気だけなら、オフグリッドでまかなえる施設はたくさんありますが、上下水が既存インフラから独立して稼働するのは、日本でもシラハマ校舎くらいじゃないかな」と多田さん。
※敷地内に設ける小規模な汚水処理設備で微生物の働きなどを利用して汚水を浄化する古くからある仕組み
万一のことを考え、シラハマ校舎そのものは送電線とはつながっていますが、いざというときは電力を買わなくても稼働するとのこと。
今のところ大きなトラブルはナシ。課題は冬場の発電量。実際に稼働してみて、課題はないのでしょうか。
「シラハマ校舎は、南向きの土地なので、夏であれば十分に発電できるのですが、問題は冬ですね。日照時間が短いので発電した電気を一日で消費してしまうんです。そのため、オフグリッド小屋に宿泊していただくお客様には、連泊してもらう場合、別の小屋に移動してもらっています(笑)」
小屋の裏側。太陽光発電した電力を蓄えておける蓄電池が設置されている(写真提供/シラハマ校舎)
なるほど、運用でカバーできる範囲の課題なんですね。エネルギーの地産地消というか、オフグリッドで建物を運営するのは、もう「リアル」にできることなんだなと実感します。使うエネルギーとつくるエネルギーのプラスマイナスゼロの住まいを「ZEH(ゼッチ)」(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)といいますが、まさに小屋もZEHの時代なんですね。
「今は小屋1棟でお貸ししていますが、2棟つなげて1つにキッチンとお風呂、トイレをつくり、1つをベッドルームにした宿泊棟もつくろうかと思っています。こちらもZEHで、使うエネルギーとつくるエネルギーはプラスマイナスゼロにする予定です」と多田さん。
シラハマ校舎のアップデートはまだまだ止まりそうにありません。
「水でいうと、エアコンから出た排水や汚水などをあわせてフィルターで濾過(ろか)し、真水にして循環利用できる技術もあるのですが、商業施設や複数人が利用することを考えて、導入を見送っています。技術的に問題ないといっても、気分的に嫌悪感を抱く人がいるのは理解できるので」(多田さん)。水の技術にも興味があるほか、海岸沿いに所有する農地に小型風力発電設備を設置する計画も進めています。
白浜町はその土地柄、強い海風が吹いています。これを活用し、小規模事業でも環境に貢献していきたいとのこと。こうした施策に興味を持ち、企業や自治体の視察希望者が次々とやってくるそう。
小学校らしさを残してリノベ。オフィスやレストランなどが入っています(撮影/ヒロタ ケンジ)
「どこの自治体や企業も環境への取り組みが欠かせません。自社の勝機はどこにあるのか、意識の高まりを感じますね。また、日本国内では廃校が毎年約400~500ほどあるので、どこも地方自治体は活用方法に頭を悩ませています。校舎は廃校して他用途で活用しようとすると、耐震補強工事や用途変更に手間がかかるんです。シラハマ校舎の場合、校舎をワーケーションオフィスとして活用しつつ、小屋を宿泊場所にしています。これは他の自治体でも有効な『パッケージ』として輸出できないかなと考えているんですが、なかなか運用が難しいようで。あとは韓国でも少子化によって同様の問題が起こると予想されているので、『廃校活用パッケージ』として輸出できたらおもしろいですよね」(多田さん)
外観も学校らしさを残している(撮影/ヒロタ ケンジ)
キッチンや水回りなどの共用施設がある建物(撮影/ヒロタ ケンジ)
さらに昨年には農業法人を立ち上げ、ワイナリー+ソーラーシェアリング(太陽をシェアし太陽光発電とパネルの下で農産物を生産する取り組み)も現在計画しているとのこと。これが可能になると、天候関係なく果実ができたり、収穫できたりするようになるのだとか。なんでしょう、房総半島の先にある民間の施設なのに、どこよりも新しい試みをはじめています。
強い風を利用した風力発電も計画中(撮影/ヒロタ ケンジ)
小屋に注目が集まっている昨今ですが、オフグリッドやソーラーシェアリングなどと組み合わせ、どこよりもユニークな挑戦を続けるシラハマ校舎。小屋や環境、これからの暮らしに興味がある人なら、ぜひ一度、訪れてソンはないと思います。
●取材協力
シラハマ校舎
秋田県秋田市南通亀の町(みなみどおりかめのちょう)には、秋田の面白いもの・こと・人が集まるホットスポットがあります。火を灯したのは、デザイン会社See Visionsの東海林諭宣さん。いま、秋田で何が起きているのでしょうか? 次々と秋田を元気にする事業を広げている東海林さんに伺いました。
築47年の倉庫をリノベーションした「ヤマキウ南倉庫」が亀の町のランドマークに(画像提供/See Visions)
小路につくったバルをきっかけに土地の価値が上がった東海林さんは、秋田県美郷町出身です。東京で学生生活を送った後、デザイン事務所に就職。店舗デザイナーをしながら、秋田の仕事も手掛けているうちに、だんだんと秋田の仕事が増えていったといいます。2004年に秋田市に帰り、2006年にSee Visionsを設立しました。
See Visionsには、街づくりに興味があって入社してくる人も(画像提供/See Visions)
東海林さんが手掛けたのは、「酒場カメバル」、レストラン「サカナ・カメバール」、コーヒースタンド&デリ「亀の町ストア」を設けたヤマキウビル、そして、2019年のリノベオブ・ザ・イヤー「エリアリノベーション部門」を受賞した複合施設「ヤマキウ南倉庫」、ほかにも県内の注文住宅建築事業者と施主を結ぶ「JUU」、また秋田市のフリーペーパー「OTTO」の企画・編集・デザインなど多岐にわたります。
東海林諭宣さんによるエリアリノベーションのはじまりは、2013年にオープンした、亀の町の小路にあった空き店舗をリノベーションした「酒場カメバル」(スペインバル)です。JR秋田駅と繁華街の間に位置する南通(みなみどおり)地区にあります。
亀の町は、商店街の中心からはずれた住宅街の入口付近の小さなエリアで、空き店舗が目立ち、小路は夜になると薄暗く地域の人は「治安が悪いから」と通るのを避けていました。街歩きが好きで、「飲食店の面白さは、街の楽しさの重要なファクター」と感じていた東海林さん。当時、事務所は亀の町から500mくらい離れた場所にあり、散歩中に、後に「酒場カメバル」になる古い長屋を見つけました。直観的に「ここを飲食店にしたら面白いのでは」と考えた東海林さんは、知り合いに紹介しますが、蜘蛛の巣がはった長屋を使ってくれる人はいませんでした。そこに、なぜデザイン会社の自主プロジェクトとして酒場を手掛けようと考えたのでしょうか。
「酒場カメバル」と小路を挟んで向かい側にあるレストラン「サカナ・カメバール」。レストランのある場所にはもともと麻雀屋があった(画像提供/See Visions)
「酒場が人の集まる拠点になったらいいなという思いですね。東京では、ガラス張りで中のにぎやかさが外に漏れるようなデザインの飲食店がよくありますが、このあたりでは、窓から見えると、『あそこで飲んでいたでしょ』と言われちゃう。オープンな店舗デザインは好まれず、酒場は個室が人気でした。でも、ぼくはある程度オープンでやってみたかったんです。客同士やマスターと情報交換したりすることによって、地域を好きになったり、その場所が好きになったりしますよね。そういったことが小路を入ったところなら、できるかもしれないと思いました」(東海林さん)
開店すると、秋田市におしゃれな場所ができた! と話題になり、若い人たちが集まる場所に。「酒場カメバル」に続いて、その向かいにワインと魚介料理の「サカナ・カメバール」をオープンしました(現在は閉店)。さらに2015年に、近くにあったヤマキウビルをリノベーション。1階にコーヒースタンドとデリの「亀の町ストア」とクラフトビールのテナント、2階に貸しオフィス、3階にはSee Visionsの事務所が入居しました。小路に若者が集まり、地域の人も小路を使うようになりました。
古いビルをリノベーションしたと思えないほど明るく開放的なヤマキウビル1階カフェ(画像提供/See Visions)
夜は光が漏れて街の雰囲気を明るくする(画像提供/See Visions)
カフェ横にはクラフトビールのテナントも(画像提供/See Visions)
「ぼくが街歩きで面白いと思うのは、市民の方々が日常使いする場所。できれば触れ合うことが出来て、情報が得られるような場所があるとまた訪れたいなって思う。関係性ができることが大事。そういった意味でバルは非常にいい関係性づくりの場所だなと思っているんです。お酒を飲むと自分のやりたいことやスキルを話し出す。それ一緒にやりましょうって話になったりしますから」(東海林さん)
通りがにぎわうようになると、飲食店が次々オープンして空き店舗がなくなり、2012年に4件だった亀の町南通の土地の取引件数が2016年には16件に。その火付け役として「酒場カメバル」が新聞に取り上げられ、亀の町がおもしろい場所だと認知されるようになりました。
消費される場所でなく関係を生み出す場所「ヤマキウ南倉庫」2019年には、ヤマキウビルと同じ敷地にある築42年の倉庫を大規模リノベーションしてできた「ヤマキウ南倉庫」がオープン。「KAMENOCHO HALL KO-EN(カメノチョウ・ホール・コーエン)」を囲むようにテナントやオフィス・コワーキングスペースを配し、訪れた人が“公園”のように思い思いに過ごすことができる複合施設です。この施設は、建物の設計からグラフィック・ウェブのデザイン、そして施設管理・企画運営まで手掛けています。
「ヤマキウ南倉庫」。多様な人が来やすいように「おしゃれすぎないデザインにする」ことも大切だという(画像提供/See Visions)
単なる話題のスポットで消化されてしまわないよう、テナントは、壁紙を提案するお店や家具屋さん、花屋さんなど訪れた人の生活のクオリティーを上げるようなお店を選んでいます。あらゆる人が積極的に関わる仕組みづくりにも時間をかけました。「ヤマキウ南倉庫」には、この場所をより良く、より楽しくしていくため、テナントの入居者同士がアイデアを出し合い、事業を計画する自治会が存在しています。
地の野菜や全国の良質な食材が並ぶスーパーマーケット(画像提供/See Visions)
色や柄を豊富にそろえた壁紙のショップでは、要望に合わせた壁紙を提案してくれる(画像提供/See Visions)
花屋さんのグリーンは、倉庫内のインテリアにとっても効果的。居心地のいい空間づくりにひと役買っている(画像提供/See Visions)
「ヤマキウ南倉庫のコンセプトは、『SYNERGY(相乗効果)』。僕らは運営のプロじゃないので、除雪費用が思いのほかかかるとか、想定外のことや追加の経費が出てくるんですよね。倉庫を自分ごとに考えてもらい、そういった課題を解決するために自治会を自分たちで運営してもらっています。イベントや集客活動に関しても自治体が主体になっているんです」(東海林さん)
2階からのながめ。倉庫中央にホールがありテナントが囲む配置。ホールは有料で貸し出し、マルシェなどのイベントが行われる(画像提供/See Visions)
ミニキッチンを備えたコワーキングスペース。大学生の利用者も多い(画像提供/See Visions)
イベントには、See Visionsの若手が参加し、サポートをしています。当初は、「亀ノ市実行委員会」という名前でイベントをしていましたが、最近、「ノ市実行委員会」という名前にしました。「ノ市」の前に、例えば、開催場所が駅前であれば、「秋田駅前ノ市実行委員会」として駅前の商店街の人と一緒につくりあげていきます。イベントに皆が自分ごととして関わることで、新しい関係が生まれているのです。
地域の事業者で若者が活躍できる場所をつくるヤマキウビルとヤマキウ南倉庫のリノベーションで、東海林さんは忘れられない思い出があるといいます。それは、株式会社ヤマキウの小玉社長との出会いでした。
「ヤマキウビルのプロジェクトは、事務所が手狭になったので、一緒に店舗も構えて面白い場所にできたらいいなと考えたのがスタートでした。空きビルになっていたヤマキウビルなら面白いことができると考え、所有していた株式会社ヤマキウに飛び込みで提案書を持っていったんです。テナントも3社候補を上げて、『自分たちで大きな借金はできないので、投資して家賃で回収していただけないでしょうか』と。最初はもちろん門前払いでした。でも、息子さんがたまたまカメバルに飲みに来てくださったんです。隣に座って資料を広げてプレゼンをしました」(東海林さん)
1976年築、鉄骨造り2階建て、延べ床面積約1300平米のヤマキウ南倉庫は、当時、長らく使われていないままになっていた(画像提供/See Visions)
建物を残したいという気持ちが強かった小玉社長は、今まで「買いたい」という話があっても断っていましたが、東海林さんが改めて提案書を持っていくと、「そのままの形で活用でき、投資をして若い人が面白いことができるようになるなら」と了承してくれたのです。
ヤマキウビルでは建物に3600万円、ヤマキウ南倉庫では、1億5000万円もの投資をしてくれた小玉社長は、ヤマキウ南倉庫の完成を待たずに亡くなりました。
「小玉社長が常々言っていたのは、『その場所で土地を活用していたオーナーとして利回りが低くてもやるべきことはあるし、若い人たちが活用して、楽しい環境をつくるのを支えるのが地域に住む人の責務だ』と。まさにその通りだなと。僕は、小玉社長にヤマキウ南倉庫を託されたと思っているんです。土地の所有者が使いたい人に利回り10%位の投資をすることによって、地域はどんどん活用できるんです。そういうやり方で街が元気になることを伝える伝道師にならねば、と」(東海林さん)
若者の「やりたい」を応援するおじさんでありたい街がどんどんよくなっていく手ごたえを感じている東海林さん。カフェや居酒屋をやってみたい人を応援するシェアキッチン「亀の町アップトゥユー」や商店街の空き店舗にお店を開いていく「あける不動産」をはじめ、商店街組合の意識改革をして新しい街を生み出すための町内会「亀の町町内会」を企画中です。次にやりたいのは、宿泊事業。有形文化財に登録されている古い旅館の建物を再生するプロジェクトが始まっています。
「やりたいと思ったときにすぐにお店を出せる環境を」という思いでつくった「亀の町アップトゥユー」(画像提供/See Visions)
カフェやスナックなどここでスモールスタートして人気になり独立する人もたくさんいる(画像提供/See Visions)
「若者には、やりたいことは、諦めずにやった方がいいよと言いたいです。若い人が事業を始めた時って1000万円借りるのもできないんですよね。ぼくが最初に小玉社長に提案書を持って行った時も、店舗経営の実績はなくて、勇気だけある状態。若い人の気持ちがすごく分かります。先人の事業者として、ヤマキウビルやヤマキウ南倉庫で使った枠組みを広めたいんです。貸すのを不安に感じるオーナーさんに、若い人のやりたいことを説明して、間に立って、若者の背中を押してあげる、そんなおじさんでありたいと思っています」(東海林さん)
亀の町を越えて広がりつつある東海林さんのエリアリノベーション。原動力は、「自分たちの生活しているエリアが楽しい環境になってほしい」という願い。建物や場所だけでなく人の関係をもデザインする人間味が街をあたためているのだと感じました。
●取材協力
株式会社See Visions
自分のこだわりを集めた住まいは、自分の夢を具現化した場所。フランス・パリのファッション業界で働く日本人、川合陸太郎さんが暮らすパリ9区のアパルトマンを訪問すると、帰るころにはそう納得している自分に気付かされるのでした。同時にそれは、誰にとっても実現したい、ライフスタイルの到達地点です。川合さんはどのようにして、自分のこだわりを形にすることができたのでしょうか? 古いものが好きで収集が趣味という川合さんに、夢の暮らしを具現化するコツを聞きながら、お宅を案内していただきました。
物件を購入し、自分の思うように工事できる楽しさに開眼テキスタイルエージェント。川合陸太郎さんの職業を聞いても、専門的すぎて馴染みがなく、ピンとこない人が多いかもしれません。
「簡単にいうと、日本の生地を扱う商社の窓口のような存在で、フリーランサーとして仕事をしています。パリで働き始めたのは1999年。ジャンポール・ゴルチエ社からのオファーを受けたのが最初で、以来ずっとパリで、そしてファッション業界で仕事をしています」
こう語る川合さんは、妥協のないオーラを感じさせる装い。そして彼の背後に広がるお住まいも同じように、細部にまでこだわってつくり上げた完成度が一目瞭然です。高い天井にはレリーフ状の装飾があり、床はそれと対照をなすレトロモダンなタイル張り、その隣のフロアの床はヘリンボーン張りの19世紀オリジナル……。
好きなものが集まったリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「このアパルトマンに引越す前は、パリの東端にある20区に住んでいました。それは初めて購入した物件で、自分の気に入ったように改装し10年間暮らしましたが、次第に商材を置くスペースが必要になり、引越すことに。せっかくなら立地の良さや便利性を求めて中心部に移ろう、とここを選んだのです。住んで1年ちょっとになりますが、オペラ座とモンマルトルの丘のちょうど中間なのでどこへ行くにも近く、近所には美味しいパン屋もたくさんあります。今のこの環境をとても気に入っています」
人気パティシエやショコラティエの商品を集めた、スイーツのセレクトショップ「FOU DE PATISSERIE (フ・ド・パティスリー)」はよく行くお店(写真撮影/Manabu Matsunaga)
人気の食材店が集まるマルティール通りもすぐそば(写真撮影/Manabu Matsunaga)
広さを求めて引越しただけあり、現在の住まいは82平米。さらに、建物の最上階に「女中部屋」と呼ばれる7平米の屋根裏部屋がついています。これにプラス、川合さんは同じ建物内でちょうど売りに出ていた18.5平米のワンルームも合わせて購入し、商材を置くスペースに充てることにしました。3箇所の合計は107.5平米。これだけあれば、スペースは十分過ぎるくらいでしょう。
川合さんにとって2度目の購入物件となったこの82平米は、オスマニアンスタイルと呼ばれる19世紀パリ改造時代を代表する建築の、フランスでいう3階、日本でいう4階にあたります。オスマニアン建築の特徴は、石造りのファサード、凝った鉄細工を施したバルコニー、ヘリンボーン張りの床、暖炉など。最上階の屋根裏に女中部屋があることも、19世紀当時のライフスタイルを反映したオスマニアン建築の特徴ですが、最近では女中部屋の人気も高く、単独で売買されています。立地も抜群ですし、将来女中部屋だけ手放すことになっても高く売れるはず、とつい余計な気を回してしまいます。
「オスマニアン建築、ヘリンボーン床、そして暖炉は、物件探しをエージェントに依頼したときの希望であり条件でした。実はエッフェル塔が見えるバルコニーがあることも挙げていたのですが、残念ながらこちらは叶わず」と、川合さんは言いますが、パリの中心部にありながら静かな環境であることや、通り側と中庭側に窓があって住まいの両サイドから自然光が入ること、そして人気の女中部屋があることなど、購入を決断する際の大きなアドバンテージであったことは間違いありません。
では順を追って、このこだわりの詰まったお住まいを見せていただきましょう。
現代の若いパリっ子たちは、開放感が増し、スペースも有効活用できるので、玄関スペースを住空間に取り入れることをいといません。川合さんは、エントランスとキッチンの間の壁を取り除き、カフェのカウンターを設置し、外と中の空間にワンクッション、住まいの高級感をアップさせました(写真撮影/Manabu Matsunaga)
玄関のドアを押して中に入ると、目の前に広がる廊下スペースの突き当たりがトイレとシャワールーム、右側がカウンターのあるキッチンと、左側にダイニングテーブルを置いたリビングとゲストルーム、右側奥に寝室2つ、というレイアウト。2LDK で購入した物件でしたが、もともとの建設当時にあった壁を復活させて3LDKに戻し、反対にキッチンの壁を取り除いてカウンターを設置しました。
「キッチンは“カフェ”がテーマです。実際にパリのカフェで使われているメーカーの椅子やカウンターを選びました。見た目重視なのですが、さすがに業務用だけあって、実際に使ってみると確かに使いやすく丈夫だと感じます」
テーマに沿って、食器棚もカフェ仕様。食器棚はカウンターのメーカーにオーダーしたスズの支柱。前の家で使用していたものを取り外して持ってきたものです。板の部分は、本当は大理石を使いたかったのですが、サイズの合うものが見つからなかったので、改装工事の際に出た古い床材を転用、ほぞの出っ張りがそのまま装飾になっています。使い込んだ床材をあえて採用するという発想に、本当に細部にまでこだわりぬいていることがわかります。
古いカフェの棚の支柱に、床材を合わせた食器棚。上の扉のある棚は、見えないケースの部分はIKEAで扉はSuperfront のもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)
料理好きなので、ガス台は5口以上あるものにこだわった。こまめに掃除をして清潔さをキープしているが、汚したくないから料理を控える、ということはない。揚げ物もつくってしまう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「でもIKEAのものもたくさんありますよ。特に見えないところはIKEAが多いです。扉付きの棚のベースはIKEAのもので、扉だけ別のメーカーのものを取り付けました。こういうカスタマイズのようなサービスを専門に行う会社がいくつかあるので、要所要所で活用しています。換気扇もIKEAです」
こだわるところは徹底してこだわり、見えないところはあえて力みすぎない。この力加減の配分は、そのまま予算配分に反映されます。川合さんのお話を伺いながら、このあんばいはぜひ参考にしたいと思いました。
欲しいものは探す! ひらめいたらつくる!キッチンのお隣のリビングでは、5m近くもある飾り棚にまず、目を奪われます。これは川合さんの思い入れの結晶ともいえる存在で、白いお皿で有名なアスティエ・ド・ヴィラットのショップにある棚と同じものが欲しい、と思って探していたところ、縁があってそれを製造する職人さんにお願いできることになりました。土台となる引き出しのたくさん付いたアンティーク家具はネットオークションで購入、マルセイユからトラックで運ばれてきました。
本を探す川合さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)
棚の下の部分は全て引き出しになっており、飾る収納としまう収納の両方が実現できます。見た目の美しさはもちろん、収納力も抜群です。
「収納の少ない住まいなので、この引き出しの中には工具や取扱説明書、ナフキンやカトラリーなど、見せたくないもの全てを入れています」
3つのシャンデリアの下の大テーブルは、川合さんが自作した180cmの大作。日本のビールの木製ケースを分解して1枚1枚の板にし、スーツケースに入れて、フランスまで運んだものを転用しています。
「以前パリのビストロで、ワインの木箱をパッチワークにしたテーブルを見たことがあり、これを日本風にアレンジできたら面白いなと思ったことから着想を得ました。このテーブルも、以前の家で使っていました」
写真中央が大テーブル(写真撮影/Manabu Matsunaga)
暖炉の上はお気に入りの品々を集めたコーナーです。シチリア島まで行って購入したアーティストの作品や、フローリストがアレンジしたブーケ、日本で購入した昭和な佇まいのショーケースなど。年代も、購入した場所も、スタイルも、さまざまなオブジェや家具が集まっていて、その共通点は川合さんが好きなものという1点だけ。そしてそんないろいろを、ランダムに配した3つのシャンデリアの灯りが、柔らかく、感じよく包んでいます。
好きなものが集まったこのリビングで、お気に入りのナポリのコーヒーを飲む時間は最上のひとときだ、と、川合さんは教えてくれました。
フィレンツエで見た照明のレイアウトに感化されて、3つ重ねるように配したシャンデリア。手前から、ナポリの骨董屋で購入したもの、ロンドン在住のイタリア人の友人が作成したもの、フィレンツェのオークションで購入したもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)
王様と女王様? ユーモラスな顔の鉢カバーは、シチリア島のアーティストのもとまで買いに行った。生花はお客様をお招きするときには必ず用意(写真撮影/Manabu Matsunaga)
暖炉脇にはゆったりとくつろげる大きなサイズのソファを。ここで飲むお気に入りのコーヒーは格別!(写真撮影/Manabu Matsunaga)
アスティエ・ド・ヴィラットの食器と、ディプティックのアロマキャンドルを集めたコーナー(写真撮影/Manabu Matsunaga)
テーマを決めて、アレンジを楽しんで玄関部分の廊下は、キッチンと同じタイルがそのままトイレ・シャワールームの入り口まで続きます。
「このタイルは前の住まいにも採用していたもので、気に入っていましたから今回も同じメーカーに注文しました。前の住まいから持ってきた家具も多いので、よく友達からは『前の住まいと共通のディテールが多いから初めて来た気がしない』と言われます」と、川合さん。
それだけ自分のスタイルがある、ということです。インテリアデザイナーの取材などで、よく「自分の好みを尊重することが、インテリアを成功させるコツだ」と言われるものですが、川合さんの住まいを見ながら本人のお話を伺っていると、確かにそうだと思わされます。
オーヴェルニュ地方を旅行中、衝動買いした古い暖房器。電車の旅ではあったが連れて帰ってきた。旅先でいつも衝動買いできるように、IKEAの大きいバッグを常に持参している。が、この暖房機はIKEAバッグにも入りません!(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「この廊下部分は“メトロ”がテーマになっていて、1930年代のパリのメトロで実際に使用されていた扉や網棚付きの椅子などを集めました。ネットオークションや中古サイトなどを細かくチェックして見つけたものばかりです。トイレ・シャワールームの入り口の引き戸は、本来は2枚が1組になったメトロ車両の扉。1枚だけ販売していた人がいたので購入し、こんなふうに使うことにしました」
シャワールームの大理石の洗面台は、イタリアのトスカーナで購入して運んできたものです。古い映画で見るキャバレーのバックステージをイメージして、鏡の両サイドに設置したランプはIKEAのもの。IKEAも使いよう、と言っては申し訳ないですが、改めて使い勝手のいい家具メーカーであることがわかりました。
(写真撮影/Manabu Matsunaga)
セメント素材の分厚い六角タイルは、トスカーナで購入。柄タイルはパリで購入した。古いメトロドアに印してあるエンブレムは、当時のメトロの会社ロゴ。実に優美で、まるでラグジュアリーホテルのよう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
トスカーナから持ち帰った大理石の洗面台を中心に、キャバレーのバックステージをイメージしてつくったシャワールームのコーナー。電球がたくさんついたドレッサーは、大学時代に60・70年代のフランス映画にのめり込んだころからの憧れ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
バスルームの壁のペンキは、セメント風に仕上がるものを採用。内装のプロに教えてもらった業務用メーカーのもので、良心的価格だった。スイッチやコンセントは陶器製に統一(写真撮影/Manabu Matsunaga)
家具を求めて海をも渡りゲストルームには、猫足のバスタブが剥き出しのままポンと置かれています。ロンドンまで買いに行った思い入れのあるバスタブ。これも前の住まいで使っていたものを、引き続き使用しています。トイレ・シャワールームの陶器製のトイレも然り。苦労して手に入れたものを長く使うというのは、実はとてもエコですから、そういう意味でも川合さんのやり方はお手本といえます。
ベッドヘッドにかけた刺繍の飾りも、旅先で購入したもの。購入時にはどこに飾るかわからなかったものでも、それが自分の惹かれたものであれば、ご覧の通りぴったりの居場所が見つかる(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「前の家のバスルームは広かったのですが、ここにはバスタブを置けるスペースがありませんでした。じゃあゲストルームに置いてみよう、という発想でしたが、鉄製のバスタブは重く、板張りの床を一部剥がして下にコンクリートを流し補強する必要がありました。靴箱も、置き場所がなかったのでここに置いています」
あえて計算して探した家具配置ではない、ということが信じられないくらい、ゲストルームの内装もシックに、そして個性的に調和しています。やはり、「自分の好みを尊重することが、インテリアを成功させるコツ」なのかもしれません。
ベッドルームに剥き出しのバスタブがあるのはイギリスっぽくていいかな、と思い、実際にそのアイデアを採用した(写真撮影/Manabu Matsunaga)
どこかの工場で使用されていたと思われる古い工具入れを靴箱として使用している(写真撮影/Manabu Matsunaga)
シャネルのボックスの横にはオイルヒーター。暖房器具までもが現代アートのように美しい(写真撮影/Manabu Matsunaga)
素敵なインテリアは1日にしてならず!一番奥の部屋のテーマは「大人っぽい子ども部屋」で、唯一壁紙が張られている部屋でもあります。照明からクッションまで、ここにある全てのものが厳選されていることは一目瞭然ですが、特に日本のインテリアファンの皆さんに注目していただきたいのはカーテンのサイズです。天井から床までたっぷりととったカーテン、見た目が優美なことに加えて断熱や防音の効果もあり、フランスではこれが基本サイズです。川合さんも、床に引きずる長さにこだわりオーダーしたのでした。
カーテンはたっぷりと、床を引きずる長さで。つんつるてんではせっかくのおしゃれな住まいがかわいそうです(写真撮影/Manabu Matsunaga)
気球柄の壁紙と好相性な、遊び心ある照明。壁紙はフォルナセッティのもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)
フランスの地図を刺繍したクッションと、日本の地図を刺繍したクッションを重ね使い(写真撮影/Manabu Matsunaga)
ひと通りお住まいを拝見し、川合さんのキーワードは「こだわり」に尽きると言わざるを得ません。そのディテールや、厳選したものたちがここにやってくるまでのストーリーは、出合った土地の色や香りも連想させるほどに豊か。ここで全てをお伝えできないのが残念です。しかし、川合さんが常々心がけていることは、しっかり書き留めておかなくてはなりません。なぜならそれは、自分らしいインテリアづくりを成功させるヒントだから。
「今まで見たものの記憶や、ここにこれを置いたらどうかなという想像力が、部屋づくりには不可欠だと思います。そのために、好きなものをコツコツ集めたり、頭の中にイメージをためたりすることを、日常的にしています。旅行もそうです。そしてiPhoneにイメージフォルダをつくって、見て気に入ったものやインテリアの写真を保存して。写真があると、工事を担当する職人さんにもこちらのイメージが伝わりやすく便利です。大きな部分を頭の中で組み立てて、あとはものの配置で調整する。そんなやり方で、この住まいは誕生しました」
こだわりが詰まった川合さんの住まいの完成度を、いきなり自分のものにすることは無理だとしても、コツコツと好きなものを集めることや、頭の中にイメージを貯めることならできそうです。ローマは1日にしてならず。川合さんの住まいの写真を参考にしながら、楽しくインテリアづくりをしたいものですね。
(文)
Keiko Sumino-Leblanc
●取材協力
川合陸太郎さん
インスタグラム
#ChezNepoja (パリの住まい)
#CasaNepoja (トスカーナの住まい)
先日、痛ましい事故のニュースを目にしたところだが、以前から窓やベランダからの子どもの転落事故については、注意喚起がされていた。また、窓やドアの経年劣化なども事故の原因になるという。子どもの安全を守るためにも、窓やベランダなどのリスクについて考えていこう。
【今週の住活トピック】
「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」/政府広報オンライン
「放置しないで!窓・ドアの危険サイン」/製品評価技術基盤機構(NITE)
2023年3月10日に政府広報オンラインが「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」をリリースした。子どもは成長するにつれて活動範囲が広くなり、好奇心から大人の想定を超える行動をすることがある。東京消防庁管内の緊急搬送事例では、1歳と3・4歳で窓やベランダからの転落事故が多いという。
年齢別救急搬送人員(東京消防庁管内で発生した、2017年から2021年までの窓やベランダからの転落事故における年齢別の救急搬送件数(総数=62))(出典 東京消防庁「住宅等の窓・ベランダから子どもが墜落する事故に注意」より転載)
政府広報オンラインに紹介されていた事例としては、次のような行動から転落事故が生じている。
●こどもだけで部屋にいて、網戸に寄りかかる
●ソファなど足場になるものから窓枠まで登る
●ベランダの手すりにつかまっていて、前のめりになって転落
●ベランダの室外機に登り、手すりを越えて転落
事故事例から分かることは、「子どもだけで部屋にいるときに窓が開いている場合」や「窓やベランダの手すりまで足場を使って登れる場合」などでリスクが高くなることだ。
子どもの転落事故を防止するためのポイントは?子どもの転落事故を防ぐには、窓やベランダの周辺でリスクの高い環境を作らないことが大切だ。具体的には、次のような対策が考えられる。
(1)補助錠を付ける
ポイントは、子どもの手が届かない位置に補助錠を付けること。
(2)ベランダには物を置かない
プランターやイス、段ボールなどが足場になるので、できるだけ物を置かないこと。エアコンの室外機は置かざるを得ないので、室外機を「手すりから60cm以上離す」か、子どもだけでベランダに出ないようにする。
(3)室内の窓の近くに物を置かない
ソファやベッドなどが足場になるので、窓に近い場所に家具を置かないように配置を工夫する。
(4)窓、網戸、ベランダの手すりなどに劣化がないかを定期的に点検する
網戸がはずれやすくなっていないかなど、定期的に点検する。
窓などの点検については、事業者の製品安全の取り組みと消費者の安全のための検査や調査などを行っているNITE(ナイト)も注意喚起をしている。2023年3月23日に、「放置しないで!窓・ドアの危険サイン ~事故に遭わないための点検ポイント~」をリリースした。
思いがけない出来事に「ヒヤリ」としたり、事故が起こりそうになって「ハッ」としたりすることが、大きな事故につながることから、見た目に異常がなくても、不具合が起きていないか点検をすることが大切だという。例えば、部品が損傷したことで、窓が落下したりドアが倒れたり、はめ込んであるガラスが割れたりすると、怪我をしたり腕や指が挟まれたりといった事故につながる。
具体的な点検ポイントとしては、次のようなものが挙げられている。
■窓・ドアの点検ポイント
□ がたつきがないか。
□ スムーズに開閉せず、重たくなっていないか。
□ 開閉時に異音がしないか。
□ 破損や変形がないか、さびている箇所はないか。
特に子どもは、リスクを感知することが難しいので、大人がリスクを引き下げる環境を整えることが大切だ。春になると外出の頻度や換気の回数なども増えるので、窓やドア、ベランダの手すりなどに不具合はないか点検し、子どもの転落を防止する対策を取り、悲しい事故が起きないようにしてほしい。
●関連サイト
政府広報オンライン「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」
製品評価技術基盤機構(NITE)「放置しないで!窓・ドアの危険サイン」
東京消防庁「住宅等の窓・ベランダから子どもが墜落する事故に注意!」