
82万5,000円(税込) / 127.54平米
千代田線・副都心線「明治神宮前<原宿>」駅 徒歩8分
むむっ、思わず図面を二度見してしまいました。「ルーフバルコニー」の文字が4つ、「バルコニー」の文字は7つ、そしてとどめに「最上階専用ルーフテラス」の文字が。
そんなバルコニー天国の区画は、神宮前エリアにある名作群、ビラシリーズのうちの一棟、ビラ・ローザより。10階建ての建物の9 ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
11月も後半になり、ぐっと冷え込んで、コートやマフラーの出番ですね。SUUMOジャーナルで10月に公開した記事では、「一橋大卒24歳女子、スナックのママになる。若者も女性も楽しめる『街の社交場』に」「空き家を建築学生らが補修しながら住み継ぐシェアハウス×地域のラウンジに」などが人気TOP10入りしました。詳しく紹介します。
1位
一橋大卒24歳女子、スナックのママになる。若者も女性も楽しめる「街の社交場」に、全国展開も視野 「スナック水中」東京都国立市
2位
ニューヨーク人情酒場 ついに店の要・チャトも離脱…!?シビアなNYの飲食業界の洗礼が酒場を襲う…!
3位
空き家を建築学生らが補修しながら住み継ぐシェアハウス×地域のラウンジに。断熱改修のありがたみも実感!「こずみのANNEX」横浜市金沢区
4位
”シャッター街”と呼ばれた「柳ヶ瀬商店街」が、今ディープなおしゃれスポットに。定期イベント「サンデービルヂングマーケット」等で活気 岐阜県岐阜市
5位
2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?
6位
省エネ先進県・鳥取、中古住宅の省エネ性能を資産価値として評価! 「築22年以上の住宅も価値がゼロにならない」評価法を来年4月スタート
7位
ニューヨーク人情酒場 酒場の終わりは意外と静かに……「5年続けば奇跡」のNY飲食業界で奮闘した酒場の最後の1日
8位
賃貸の大家、”孤独死””勝手に民泊”などへのホンネ。「不安はある」が受け入れる理由「誰でも自由に住む家を選べる社会に」
9位
乳幼児のいる家庭のマンション選び、買う時より住んでから重視度が上がるポイントとは?
10位
中古住宅買取再販市場は2030年に22%増の5万戸へ。市場拡大の理由とは?買取再販物件の購入ポイントも解説!
※対象記事とランキング集計:2023年10月1日~31日に公開された記事のうち、PV数の多い順
1位
一橋大卒24歳女子、スナックのママになる。若者も女性も楽しめる「街の社交場」に、全国展開も視野 「スナック水中」東京都国立市
(写真撮影/片山貴博)
「一橋大学を卒業してすぐスナックを引き継いだ」という現在25歳のママがいると聞き、東京都国立市、南武線谷保駅から徒歩4分にある「スナック水中」を訪ねました。ママの坂根千里さんは、「スナックは地元の常連の男性客がほとんど」という常識を覆し、若者や女性客も訪れる「街の社交場」に! “バリキャリ”の道を捨ててママになった理由は? 「全国のスナック・バーを100店舗承継する」ことを目標に掲げる坂根さんに、スナックの新しい魅力を教えてもらいました。こんなスナックなら行ってみたい!
2位
ニューヨーク人情酒場 ついに店の要・チャトも離脱…!?シビアなNYの飲食業界の洗礼が酒場を襲う…!
(イラスト/ヤマモトレミ)
漫画家ヤマモトレミさんによる、アメリカのブルックリンにある小さな酒場(レストラン)で起こったいろんな出来事を描いた漫画エッセイ「ニューヨーク人情酒場」の人気連載。レミさんは、漫画業のかたわら、ブルックリンのレストランでお寿司をつくっています。今回は、レミさんが慕っていたヘッドシェフのチャトが退職することに。ショックを受けるレミさんに追い打ちをかける閉店の知らせ。NYでの飲食ビジネスの厳しさがリアルに伝わるのは漫画ならでは。NYの人情が交差する酒場がなくなってしまう!? 続きも見逃せません!
3位
空き家を建築学生らが補修しながら住み継ぐシェアハウス×地域のラウンジに。断熱改修のありがたみも実感!「こずみのANNEX」横浜市金沢区
(写真撮影/桑田瑞穂)
全国で増え続ける空き家。地域の住民や学生の力を上手に利用して、空き家を新たな拠点として生まれ変わらせたシェアハウス「こずみのANNEX」(神奈川県横浜市金沢区)を取材しました。築50年の空き家を補修したのは、建築学科の学生たち。2020年から空き家を再生し始めて、現在はコミュニティスペース兼シェアハウスとして地域に開放しています。どのように空き家を街の拠点として蘇らせたのか? そこから得られる建築の学びとは? 大学の指導者や居住する学生たちに話を聞きました。
4位
”シャッター街”と呼ばれた「柳ヶ瀬商店街」が、今ディープなおしゃれスポットに。定期イベント「サンデービルヂングマーケット」等で活気 岐阜県岐阜市
(写真提供/柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社)
古き良きレトロな雰囲気のアーケード街が広がる、岐阜県岐阜市の「柳ヶ瀬商店街」。「サンデービルヂングマーケット」をはじめとする定期開催のイベントは、たくさんの人でにぎわいます。コロナ禍を経て、カフェやギャラリー、アパレルショップなど140店舗が出店する人気イベントに成長。現在のにぎわいからは想像できませんが、「柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社」の末永さんは、「柳ヶ瀬商店街は今から10年から12年くらい前がどん底でした」と話します。シャッター街を若者に注目されるスポットに変える秘訣とは。
5位
2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?
(筆者撮影)
不動産情報サイト事業者連絡協議会や国土交通省などによる、「省エネ性能表示制度で住宅の省エネ化は進むのか?」記者発表会が開催されました。新しい「省エネ性能表示制度」とは、「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告等に表示することで、消費者が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度」のこと。2024年4月から始まる「省エネ性能表示制度」ですが、実は、アットホーム、LIFULL HOME’S、SUUMOの主要不動産ポータル事業者が深く関わっているのです。国土交通省の検討会には、SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長の池本洋一氏が委員として参加しています。制度を受けて不動産ポータルサイトの何が変わるのか? 住まいを選ぶときの新しい基準になりそうです。
6位
省エネ先進県・鳥取、中古住宅の省エネ性能を資産価値として評価! 「築22年以上の住宅も価値がゼロにならない」評価法を来年4月スタート
(写真/PIXTA)
現状は築22年以上たつと、建物の価値はゼロになるといわれています。せっかくお金をかけて快適な自宅を建てた(あるいはリフォームした)としても、22年たてば何もしていない住宅と価値が同じだと評価されてしまうのです。そこで、鳥取県は、令和2年(2020年)から、「とっとり健康省エネ住宅普及促進事業」をスタート。独自に国の基準より高い、家の「断熱」と「気密」の性能基準「NE-ST」を設け、NE-STを満たす家づくりを推奨・助成するという事業です。鳥取県版評価法を使うと、建物の価値を売り手/買い手が理解した上で、立地条件を考慮して、両者も納得の、少なくとも売り手としてはわが家の価値を把握した上で売りに出すことができます。22年という現代の常識に縛られない住宅の評価方法とは? 詳しく解説しています。
7位
ニューヨーク人情酒場 酒場の終わりは意外と静かに……「5年続けば奇跡」のNY飲食業界で奮闘した酒場の最後の1日
(イラスト/ヤマモトレミ)
漫画家ヤマモトレミさんによる、アメリカのブルックリンにある小さな酒場(レストラン)で起こったいろんな出来事を描いた漫画エッセイ「ニューヨーク人情酒場」の人気連載。最終回は、レミさんが働いていた酒場が閉店する日のこと。さみしさを隠しきれないレミさんですが、あっという間に別れが訪れます。ケツメイシの名曲 “恋の終わりは意外と静かに”を思い出すレミさんは胸がいっぱいになります。NYに暮らす人のあたたかさを知ったレミさんの連載。ニューヨーク人情酒場ありがとう!
8位
賃貸の大家、”孤独死””勝手に民泊”などへのホンネ。「不安はある」が受け入れる理由「誰でも自由に住む家を選べる社会に」
(イラスト/アンドウカヲリ)
賃貸住宅のオーナー(大家)なら、空室があればできる限り入居の希望を受け入れたいもの。一方で、高齢者やひとり親世帯、外国人などの入居の受け入れに悩むオーナーもたくさんいます。今回は、このように入居が不利になってしまっている人たちを積極的に受け入れているオーナー3人に語っていただきました。受け入れの不安を軽減するためにしていることは? 実際にあったトラブルは? 赤裸々な話に「やっぱり受け入れは覚悟がいるなあ」と思うか、チャレンジすべきと考えるか、分かれるかもしれません。記事では、OAG司法書士法人代表の太田垣章子さんによる賃貸トラブル解決の方法も紹介しています。
9位
乳幼児のいる家庭のマンション選び、買う時より住んでから重視度が上がるポイントとは?
(写真/PIXTA)
あなぶきホームライフでは、5歳以下の子どものいる家庭の意見を通じて、子育て世代の住宅ニーズを把握するために、首都圏にマンションを所有する、末子が5歳以下の946人にアンケートを実施しました。アンケートの内容は、「マンションを購入した時と居住した後の住まいに関する重視ポイント」について。購入時と購入後で差異が大きかった項目に注目しました。ファミリー世帯でマンション購入を検討している人は、購入後に後悔しないようチェックしてみてください。
10位
中古住宅買取再販市場は2030年に22%増の5万戸へ。市場拡大の理由とは?買取再販物件の購入ポイントも解説!
(写真/PIXTA)
矢野経済研究所が行った国内の「中古住宅買取再販市場の市場規模の調査」では、今後も市場は拡大基調で推移し、2030年には2022年比で22.0%増の5万戸になると予測。特に買取再販物件が人気を博しているといいます。「買取再販」とは、中古住宅を事業者が買い取って、リフォームやリノベーションを実施したうえで、事業者が売主となって再度販売するもの。人気の背景や、買取再販の中古住宅を選ぶ際の注意点を解説します。
ついに最終回を迎えた「ニューヨーク人情酒場」ですが、さみしさもつかの間、レミさんの新しい職探しやNYの生活についての新連載がはじまるのでお楽しみに。賃貸住宅のオーナー(大家)座談会の後編もすでに掲載しているので合わせてご覧ください!
ヨーロッパやデンマークの街並みを考える時、まず思い浮かぶのはレンガ造りの建物ではないでしょうか?でも、ここ数年、環境負荷を下げ、持続可能な住まいや建物をつくることを意識する上で、デンマークでも木造建築に注目が集まりはじめています。でも、人々の関心は木材以外のものにも広がっているようで……。デンマークが考える、これからの持続可能な建築素材について探ります。
レンガと瓦がデンマークの街並みをつくってきた建築材料の中心的存在レンガ造りの家、と聞いて、私がいつも真っ先に思い浮かべるのが、『3びきのこぶた』の童話です。みなさんも、子どものころ読んだことがあるかと思います。子豚を食べてやろうと虎視眈々と狙うオオカミ。長男の子豚はワラで、次男の子豚は木で家を建てるもののどちらの家も簡単に吹き飛ばされてしまいますが、働き者の三男の子豚が建てたのは、レンガの家。そのおかげでオオカミに食べられずにすみ、しかも、オオカミ退治までしてしまうというお話でした。
これは、イギリスのお話だそうですが、デンマークでもレンガや瓦屋根は1000年以上にわたり、建築材料の中心的な役割を担ってきました。見た目が美しく、寒さと熱の両方に対して断熱性を備え、耐久性も優れた素材です。また、デンマークの下層土には粘土が大量に埋蔵されているので、レンガや瓦屋根をつくるのに適していたことも影響しています。
瓦屋根は、はじめは国王や教会、領主だけが使うことができる非常に高価な建築材料でした。しかし、その当時多かった茅葺屋根の家々が連なる町は度重なる火災に見舞われ、何世紀にもわたり大きな人的、金銭的被害を出してきたことと、時代とともに瓦の製造技術が上がったことで、レンガと同様、瓦も一般の人々の家に普及していきました。
今、デンマークのあちこちで見かけるようなレンガと瓦屋根の家が増える前は、木組みにレンガを組み合わせた木骨レンガ造の家に茅葺屋根、というのが主流で、18~19世紀に建てられました。地震や台風がなく、戦争でも大きな被害を受けなかったこともあり、当時建てられた木骨レンガ造の家や茅葺屋根の家は今でもデンマーク各地で現役で使われており、古き良きデンマークの面影を町や田舎の風景の中にとどめています。リゾートエリアにあるこうした建物もとても人気があり、資産価値も高いのです。
私が暮らすロラン島のマリボにある、木骨レンガ造に瓦屋根の家 (C)Daniel Villadsen
家づくりの材料としての木材の利用が少しずつ増加傾向に私も最初にデンマークで引越したアパートは、なんと1670年代に建てられたもので、レンガ造り。でも、外装も内装も何度もリノベーションが施されているので、そこまで古い感じはしませんでした。一部、床は少し傾いているかな~というところはありましたが……(笑)。
前述したように、デンマークは地震や台風はないので、古い建物でも、補強や断熱などのリノベーションをすれば、家や建物は長く使うことができます。ですから、引越す時に、前あった家を壊して新築する、ということは非常にまれで、もともとあった家に引越して、そこで自分の好みになるように手を加えて暮らすことが主流です。
そうは言っても、人口の自然増が進むデンマークでは、新築の住宅や新しい建築物なども増えていて、近年の住宅完成件数は一年あたり約20,000~35,000件にのぼります。そして、建築材料として木材を使う割合が少しずつ増加傾向にあります。レンガの原料自体は天然素材ですが、これまでのレンガづくりは石炭を燃料とする焼成窯を利用することが多く、製造過程で多くの二酸化炭素を排出します。また、コンクリートも石灰石を他の原料と混ぜて高温で燃焼するプロセスで、二酸化炭素が大量に排出されます。こうした建築材料に、少しでも再生可能な木材などを使うことは、地球上全体の化石燃料による二酸化炭素の排出量を減らすことにつながります。デンマークでは、2020年6月に制定されたデンマークの『気候法』で、二酸化炭素の排出量を2030年までに、1990年比で70%削減するという野心的な目標を定めています。デンマークの二酸化炭素の総排出量の約3分の1以上は建設業界が占めていることから、その削減を確実に進めるために、翌2021年の4月に『持続可能な建設のための国家戦略』が策定されています。
これは、重点分野に
1)より気候に優しい建築と建設
2)高品質で耐久性のある建物
3)資源効率が高い建設
4)エネルギー効率が高く、健康的な建物
5)デジタル対応の建設
という5つを据え、さらに持続可能な建設の3つの次元として
1)自然、環境、気候、資源に影響を与える環境の質
2)幅広い観点で人々の健康と幸福に関係する社会的資質
3)総経費と建設の質のバランス
という意味合いで経済の質が保たれていることにフォーカスし、2030年までのロードマップを示すものです。
そうしたなか、木材が気候への影響を軽減する有効な手段であるという認識の高まりも相まって、建築における木材の使用は、過去10年で約25%増加しています。しかしながら、木造建築が劇的に増えたかというとそういうわけでもなく、2020年のデンマークの総建設の9%、住宅建設の11%が木造建築となっています。デンマークの木材関連団体では、2030年までにデンマークの建築の20%を木造建築が占めるという目標を掲げています。
木造の住宅コミュニティAgorahaverne。大人と高齢者向けで、自由、コミュニティ、自然、そして持続可能性がテーマ(C)Tetriis A/S
(C)Tetriis A/S
ワラ、亜麻、海藻……木材だけじゃない、古くて新しいこれからの建築材料これからデンマークが、二酸化炭素の排出量を大幅に削減して、国連の気候目標を達成すると同時に資源不足を解消するためには、再生可能な生物由来の資源を建築材料として使いこなしていくことも重要です。農業先進国であり、周りをぐるりと海岸線に囲まれたデンマークは、林業、農業、海洋環境から生物由来の資源を生み出せる可能性も大きく、これまで建築材料として使用してきた、環境負荷が高く再生不能なコンクリート、鉄鋼、レンガ、ミネラルウールの代わりにそうした生物由来の資源を使用することで、建設における二酸化炭素の排出量の削減に大きく貢献できます。
前述したデンマークの茅葺屋根ですが、その素材となっているのは実は日本原産のススキで、1990年代にデンマークに輸入され、全国で栽培されるようになったものなんです。もともとは、デンマーク産の葦が屋根に使われていて、200~400年も長持ちしていたそうですが、1930年にその葦が全国的に病気に侵され、既にあった茅葺屋根の家の補修も困難になってしまいました。そこで1990年代に、デンマークでは茅葺屋根の素材に関する世界での大規模調査が行われ、その時に日本のススキは丈夫で、経年劣化もゆっくりで金色とも例えられる美しい色合いが長持ちするということで、デンマークに移植されることになりました。日本では、ススキというと河原や山沿いの原っぱに生えているのが私たちに馴染みある風景だと思いますが、デンマークではススキは畑や湖や海岸近くの平地で栽培されています。ですから、刈り取る機械などもデンマークで開発されました。
私は、たまたま日本とデンマーク、両方の茅葺屋根職人さんの友人がいて、彼らの技術交流のお手伝いをさせていただいていたこともあります。現在、デンマークには約55,000軒の茅葺屋根の家があります。余談ですが、国際茅葺き協会というものがあり、現在、デンマーク、日本、フランス、ドイツ、英国、オランダ、南アフリカ、スウェーデンの職人さんたちが会員になり、2年毎に「世界茅葺き会議」も開催されています。ちなみに2019年には日本の白川郷、京都、美山、神戸を会場として開催されました。次回は2025年にデンマークでの開催が予定されています。
茅葺屋根の家。部屋の中は夏涼しく冬暖かい (C)Visit Lolland-Falster
最近の茅葺屋根建築の代表的なものは、記事冒頭の写真で紹介した、デンマーク最古の町リーベにある、Vadehavscenteret。国立公園にあるこの海洋センターは、ファサード、屋根、天井裏が葦で覆われていて、自然と一体化した特徴的なデザインです。通常、茅葺きは屋根の部分のみの場合が多いですが、この建物は、地面に続くところまですべて葦(あし)でつくられています。
Vadehavscenteret(ワッデン海洋センター)。自然に溶け込む、全体が葦で覆われた雄大な建物 (C) Vadehavscentret (2017) – Dorte Mandrup. Photographer: Adam Moerk
デンマークには、伝統的に海藻を使って屋根を葺く伝統もレス島に残っています。レス島は女性の島と呼ばれることもあります。歴史的に男性は漁に出たり、船乗りが多かったので、屋根を葺くなどの重労働も女性が手仕事で担っていたためです。その歴史から生まれたのが、アマモを使って屋根を葺く海藻屋根。島には17世紀に葺かれた海藻屋根が健在で、長持ちすることが証明されていますが、アマモには塩が染み込んでい
るため、燃えたり腐ったりすることがないのだそうです。
レス島の海藻屋根の家。とてもユニークな外観。断熱、防音効果も高い(C)Kjetil Loeite
デンマークの建築というと、日本でも人気の北欧デザイン、最新のシャープで斬新なものがイメージされるかもしれませんが、その良さを活かしつつ、今後は温故知新、身の回りにもともとあった自然素材の価値を再定義して、うまく組み合わせていくことになりそうです。どこか温かみのある住宅や建物がある町や地域、住む場所、使う場所が他の誰かや地球にストレスをかけない暮らし。スピードと効率性を究極まで求めてきた時代から、ようやくまた人が、地球が自然なテンポで生きることに戻っていくのかもしれないと思うと、心まで温かくなるような気がするのは私だけでしょうか?
●取材協力
・Eksporteventyr og lØsningen på fremtidens bæredygtige byggeri – KØbenhavns Universitet
・LæsØs tangtage | VisitLæsØ
・Vadehavscentret i Ribe
●関連記事
・「観光客への宣伝やめる」オーバーツーリズム問題へのデンマーク流解決。美しい港町ニューハウンの決断とは コペンハーゲン
・電力の半分は風力、7割以上が再生エネルギーのデンマーク。約5000基の風車で叶えるまでの軌跡とは?
・コペンハーゲンは2人に1人が自転車通い! 環境先進国デンマークの自転車インフラはさらに進化中、専用高速道路も
・環境先進国デンマークのゴミ処理施設は遊園地みたい! 「コペンヒル(Copenhill)」市民の憩いの場に行ってみた
静岡県菊川市では、既存の福祉制度の狭間にある人や複合的な問題を抱えた人たちへの支援策を検討する場として2011年から「セーフティネット支援ネットワーク会議」を設置し、さまざまな情報共有をしています。ここでは寄せられる相談一件いっけんに対し、連携する多くの機関と協働することで具体的な支援を可能としているそうです。
菊川市における、居住支援活動について、菊川市社会福祉協議会の堀川直樹(ほりかわ・なおき)さん・後藤瑞希(ごとう・みずき)さん・上村ユカ(かみむら・ゆか)さん・野崎恭子(のざき・きょうこ)さんに話を聞きました。
支援の多様化と、制度の狭間で支援の対象とならない人たち高齢者、子育て世帯、低所得者、障がい者など、住居を確保することが難しい人たちの入居を促進するよう、2017年にセーフティネット住宅法が改正されました。そして住まい探しに困難を抱える人たちをサポートする居住支援法人の登録数が増え、「居住支援」という言葉も少しずつ認知されつつあります。
しかし、支援を必要としている人たちのうち、ただ住居問題だけで困っている人というのは実は少ないのです。
例えば、身体的に問題があるわけではないけれど引きこもりで働くことができなかったり、障がいのある外国人で家賃が払えなくなり、住むところがなくて困っていたり。複数の問題を抱えている場合や、困っているけれども、制度の対象から外れてしまって支援が受けられないという人もいます。
このような人たちに対して、どのような支援ができるのでしょうか。
複合的な問題を抱えている人や、制度の狭間にいる人を支援するにはどうすれば良いのか(画像提供/PIXTA)
菊川市の「セーフティネット支援ネットワーク会議」とはこの問題に一つの答えとなり得る支援を行っている自治体があります。
静岡県菊川市では、2011年から制度の狭間の問題や複合的な課題を抱えている事例を検討する場として「セーフティネット支援ネットワーク会議」(以下、ネットワーク会議)を設置しています。
菊川市社会福祉協議会(以下、菊川市社協または社協)が相談窓口となり、支援団体に繋ぐ体制をとっているものの、複雑な相談内容は、既存の制度に当てはめて解決できるものばかりではありません。
「福祉の支援をしていると、よく『制度の狭間の問題』にぶつかります。国土交通省や厚生労働省といったように分野別に制度ができているからです。そこで、ネットワーク会議で地域の福祉法人やNPOなどの各支援団体と問題を共有し、どう解決していくかを協議していくことが必要でした」(菊川市社協のみなさん、以下同)
多様化・複雑化・そして複合化する生活相談に、社協やそのほかの居住支援団体が単独で解決するのはとても難しいことだといえるでしょう。そして、これらの問題は決して個人やその家族だけの問題ではなく、地域全体の問題として捉え、市民・行政・支援団体が向き合っていく必要があると、菊川市社協は考えています。
菊川市の概況。人口の1/4ほどを65歳以上の高齢者で占め、人口に対する外国人の割合も高い。生活相談の内容も多岐にわたるが、その相談窓口となっているのが社会福祉協議会だ(画像提供/菊川市社会福祉協議会)
ネットワーク会議には、菊川市の福祉団体が多く参加し、協働が実現しています。堀川さんいわく「信念をもって取り組む多くの福祉法人の存在と、支援団体が連携する場をつくっていくことが大事」だそうです。
「ネットワーク会議は現場で相談業務に関わる職員さんが集まって事例を共有していく会議ですが、それ以前にも、2008年ごろから『地域福祉研究会」という、ネットワーク会議の前身のような集まりがありました。
さまざまな福祉法人の代表者と菊川市の地域課題について話し合い、2010年に「菊川市における『地域福祉推進』への提言」として7つにまとめた提言を市長に対して行った経緯もあり、そのころから連携していく土壌ができ上がっていたといえます。課題を通して社協と法人が同じ方向を向けたのが体制としてうまくいった要因でしょう」
この言葉からも菊川市はほかの地域に先駆けて、かなり早い時期から協働で支援に取り組んでいたことが伺えます。
複雑化する相談をネットワーク会議の場で支援団体全員が認識し、それぞれ何ができるかを話し合い、役割を分担することで制度の狭間にいる人たちを継続的に支援する(画像提供/菊川市社会福祉協議会)
できることを分担すれば継続した「伴走型支援」も可能に現在、ネットワーク会議で複合的な支援を提供するために経過を共有しているのは30数件ほど。これらの支援は、継続的に行っていく必要があるといいます。
「支援とは、一つ解決すれば終わりというものではありません。サポートがあって自立できている人は、支援が途切れたら社会との接点がなくなり、孤立してしまう恐れがあります。そういう人たちの存在を地域の皆さんと一緒に認識し、向き合っていくことが地域福祉につながっていくのではないでしょうか。支援を必要としているなら、できる限り全ての問題が解決するまで寄り添って見守っていこう、というのが菊川市社協の考えです」
現在、社協で居住支援にあたっているのは、堀川さんたち4人です。全ての支援を同時進行で続けていくとなると、担当者に負担がかかるのではないか、と心配になります。しかし堀川さんによると、一つの機関で支援するのではなく、いくつもの団体ができることを分担してサポートするので、困っていること、大変なことは支援団体みんなで対応にあたるそう。そのため、今のところ、どこか1カ所に負担がかかりすぎたり、支援の手が回らなかったりすることは起きていないとのこと。支援する側も「大変だから助けて!」と言える環境があるのです。
問題を共有することで、一つの団体に負担がかかりすぎることを回避できる。どうやって継続していくかを話し合うことも大事だ(画像提供/菊川市社会福祉協議会)
社会福祉協議会が居住支援法人に登録したわけ社協としては全国でも珍しく、2021年に菊川市社協は居住支援法人に登録されました。居住支援法人となった経緯についても、複合的な課題を解決するための一つの手段だったといいます。
「菊川市の市営住宅に入居するには2名の身元保証人が必要です。そのため、これまでは身寄りのない人の入居は難しいと諦めていたのです。しかし、福岡市の社協に話を聞く機会があり、いろいろな団体を巻き込んだネットワークで居住支援を支えていることにとても共感できました。
そして任意後見制度などを活用しながら、居住支援法人として身元保証サポートや死後事務委任などの支援を提供できることを知り、登録に踏み切った次第です」
居住支援法人となったことで、これまで福祉関係の団体としか関わりのなかった社協が、市内の不動産会社と繋がりました。入居可能な物件がないかなどをざっくばらんに相談できるようになったことは大きな前進だったといえるでしょう。身元の保証や万一亡くなられたあとの手続きが事前に明確化されていることで民間の賃貸オーナーも身寄りのない人に部屋を貸すことのハードルは低くなります。
いろいろな相談を受けるなかで、特にここ3年で居住に関する問題に直面することが増えたという。居住支援法人に登録することは、それらの問題を解決するための手段だった(資料提供/菊川市社会福祉協議会)
「居住支援」という言葉を知ってもらうことからのスタートしかし、最初から不動産会社と良好な協力関係が築けたわけではありません。2021年に居住支援法人に指定されてから市内の不動産会社を回り、アンケートを実施したところ「居住支援法人を知っていますか」という問いに対し「知っている」という回答はなんとゼロだったとか。まずは居住支援について知ってもらうところから始めました。その甲斐あってか、この2年で市内の不動産会社7社のうち、地元の会社を中心に5社が協力してくれるまでに。
「最初に訪問した時から比べると関係性もできてきて、こちらからの相談はもちろん、不動産会社の方も困ったことがあれば社協に相談してくれます。また直接不動産会社に相談に行った人で居住支援が必要な場合は社協に繋がるルートができていますね」
結果、居住支援法人として2022年度に社協が受けた相談は1年間で292件にのぼりました。
「今では、『菊川市の住まいの相談なら社協が乗ってくれる』とみなさんに認識していただいている感触があります。ご本人だけでなく地域包括支援センターや障がいのある方の支援事業所、民生委員さんなどが社協に繋いでくださっています」
まずは知ってもらうことから。居住支援法人となった菊川市社協は支援内容をわかりやすく伝えるチラシやホームページをつくって市内の不動産会社やオーナーに理解を促した(画像提供/菊川市社会福祉協議会)
菊川市の伴走型支援のこれからそして、2023年には菊川市にも居住支援協議会が発足。居住支援協議会とは、住まい探しに配慮が必要な人たちを支援する団体が連携して、より円滑な入居を可能にしていくための組織です。市内の協力不動産会社5社のほか、福祉医療関係団体や市の関係部署も参加して、居住支援に関わる勉強会を開催しています。
参加者へのアンケートで「菊川市社会福祉協議会が居住支援法人となり、居住支援の取組みを始めたことで協議会参加者が解決した問題や助かったことがあるか?」との問いには、約6割の人が「はい」と回答しています。
「地域の中でいろいろな支援機関が見守りの網を張って、入居中も孤立しそうな人たちがSOSを発したときにすぐに対応できる体制を整えておくことが、取り組みの目的です」と話す堀川さん。
入居前の相談だけではなく、入居後も生活に困難を抱える人たちが孤立しないよう取り組みを続ける(画像提供/菊川市社会福祉協議会)
今は、「施設ではなくて地域の中で共同生活をしたい」と話す障害のある人の人生の夢を叶えるため、不動産会社や支援団体と連携を取りながら、どのような応援ができるかを探っている最中とのこと。
少しずつ、そして確実に、居住支援法人としての社協の存在が浸透していっているようです。
いくつもの要因が重なった複雑な問題や制度の狭間にいる人たちを、一つの支援団体だけで支援するのではなく、みんなで認識し共有する仕組みが、菊川市の問題が解決するまで寄り添う伴走型支援を継続可能にしているポイントでしょう。
制度に人を当てはめるのではなく、一人ひとりにどう寄り添うか、そのためにはどうすれば良いか。当たり前のことのようですが、これこそが本来のあるべき支援の姿なのだと感じました。
●取材協力
社会福祉法人・菊川市社会福祉協議会
東京の主要路線の一つ、JR中央線。中央線自体は「中央本線」と呼称を変えながら東京駅を出てから神奈川県、山梨県、さらに長野県へとつながる長い路線だ。そのうち東京都内に位置する駅は、東京駅から高尾駅までの全32駅。そんなJR中央線・東京都内32駅の中古マンションの価格相場を調査した。専有面積50平米以上~80平米未満のカップル・ファミリー向け物件の、価格相場を安い駅順にランキングした結果がこちら!
JR中央線沿線(東京都内)の中古マンション価格相場が安い駅ランキング順位/駅名/価格相場/駅所在地
1位 西八王子 2824.5万円(東京都八王子市)
2位 日野 2980万円(東京都日野市)
3位 豊田 3930万円(東京都日野市)
4位 八王子 3950万円(東京都八王子市)
5位 国立 4480万円(東京都国立市)
6位 西国分寺 4730万円(東京都国分寺市)
7位 国分寺 4980万円(東京都国分寺市)
7位 立川 4980万円(東京都立川市)
9位 武蔵小金井 5499万円(東京都小金井市)
10位 東小金井 5540万円(東京都小金井市)
11位 高円寺 5985万円(東京都杉並区)
12位 西荻窪 6515万円(東京都杉並区)
13位 武蔵境 6630万円(東京都武蔵野市)
14位 阿佐ケ谷 6980万円(東京都杉並区)
15位 三鷹 7195万円(東京都三鷹市)
16位 大久保 7280万円(東京都新宿区)
17位 中野 7680万円(東京都中野区)
18位 東中野 7698万円(東京都中野区)
19位 荻窪 7780万円(東京都杉並区)
20位 新宿 8500万円(東京都新宿区)
21位 吉祥寺 8635万円(東京都武蔵野市)
22位 御茶ノ水 8990万円(東京都千代田区)
23位 水道橋 1億180万円(東京都千代田区)
24位 飯田橋 1億890万円(東京都千代田区)
25位 信濃町 1億980万円(東京都新宿区)
26位 四ツ谷 1億990万円(東京都新宿区)
27位 代々木 1億1360万円(東京都渋谷区)
28位 市ケ谷 1億1500万円(東京都千代田区)
29位 千駄ケ谷 1億2700万円(東京都渋谷区)
※東京駅、神田駅、高尾駅は調査条件に満たないため除外
東京駅や新宿駅など、東京を代表する駅が沿線に並ぶJR中央線。毎年調査する「SUUMO住みたい街ランキング 首都圏版」でも、2018年より6年連続で「住みたい沿線ランキング」の4位に輝く人気の路線でもある。それだけに沿線の物件価格も高そう……。東京駅から離れると価格も下がりそうだが、果たしてリーズナブルに住まい探しができる駅はどこなのかを調査してみた。
西八王子駅北口(写真/PIXTA)
最も中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場が安かったのは、八王子市に位置する西八王子駅で価格相場は2824万5000円。JR横浜線やJR八高線も乗り入れる八王子市の中心地、4位・八王子駅(価格相場3950万円)に比べると、西八王子駅周辺は落ち着いた住宅街の趣がある。とはいえ線路を挟んで北側にも南側にもスーパーやドラッグストア、気軽に利用できるチェーン系の飲食店が複数あり、暮らしやすそうな街並みだ。
西八王子駅から歩いて20分弱の場所に八王子市役所があるのも何かと便利だろう。1駅隣の八王子駅に出れば大型のショッピングモールも利用できるほか、駅から北に車で15分ほどの場所に「イオンモール八王子インターチェンジ北(仮)」が2025年春に開業予定という嬉しい情報も。また、通勤時間帯の7時台~8時台はJR中央線快速が10分未満の間隔で運行されており、新宿駅まで約56分、東京駅まで約1時間11分で行くことができる。新宿駅の価格相場(20位・8500万円)と見比べると、この程度の所要時間であれば都心部に通勤する人にとっても西八王子駅は住まいの候補地としてアリではないだろうか。
市民の森スポーツ公園(写真/PIXTA)
2位には日野市の中心部にある、日野駅が価格相場2980万円でランクイン。駅周辺には市役所や市立図書館、広々とした「市民の森スポーツ公園」、トレーニングルームを備えた「市民の森ふれあいホール」といった市の施設が点在。新選組の副長・土方歳三の出身地としても知られ、駅から徒歩15分圏内には「新選組のふるさと歴史館」や、新選組の隊員たちが稽古に励んだ剣術道場があった甲州街道・日野宿本陣の建物も。そうした歴史を伝える施設を抱える街ではあるが、駅前には複数のスーパーやドラッグストアもあり住宅地らしい雰囲気。駅から北に10分ほど歩くと多摩川の河川敷に出るので、息抜きにのんびりと散歩をするのも気持ちよいだろう。
豊田駅北口(写真/PIXTA)
3位にランクインしたのは、1位・西八王子駅と2位・日野駅の間に位置する豊田(とよだ)駅。こちらも日野市に位置しているが、価格相場は日野駅よりもグッと上がって3930万円。豊田駅南口側では街の再整備が進行中で新築マンションも誕生しており、そうしたことも価格相場に影響しているかもしれない。駅の北口側には、食料品店はもちろんグルメやファッション、生活雑貨、家電など多彩なショップがひしめく「イオンモール多摩平の森」があり、たいていの買い物はここで済ませられるだろう。大規模な新築マンションも登場している。また、東京方面行きのJR中央線快速は豊田駅始発の便もあり、座って通勤・通学できる点も魅力。新宿駅まで50分弱、東京駅までは1時間少々で行くことが可能だ。
実は新宿駅より武蔵野市のアノ駅のほうが価格相場が高いと判明JR中央線で最も東京駅から離れている高尾駅は今回ランク外となったが、高尾駅から東京方面に進むと西八王子駅(1位)~八王子駅(4位)~豊田駅(3位)~日野駅(2位)という順で駅が続いている。つまりトップ4には高尾駅に近い4駅がランクインしており、「東京駅から遠いほど価格相場が安そう」というイメージ通りの結果だろう。5位以下もおおむね価格相場は高尾駅に近い駅ほど安く、東京駅に近づくほど高くなっている。そんな傾向があるなかで異色の存在と言えるのが、21位の吉祥寺駅だ。
吉祥寺駅(写真/PIXTA)
武蔵野市に位置する21位・吉祥寺駅は高尾駅から13駅目、東京駅からだと18駅目。にもかかわらず価格相場は8635万円で、東京駅から10駅目の20位・新宿駅(価格相場8500万円)よりも高い結果となったのだ。吉祥寺駅は「SUUMO住みたい街ランキング2023 首都圏版」では前年調査に引き続いて2位に選ばれており、JR中央線沿線の駅では一番人気の街。特に「夫婦+子ども世帯」からの支持が高く、まさに今回調査した「カップル・ファミリー向け物件(専有面積50平米以上~80平米未満)」の購買層に人気があると言えよう。そんな需要の高さが、価格相場にも表れたようだ。
吉祥寺駅にはJR中央線のほかに京王井の頭線が乗り入れ、駅周辺は東京多摩地区でも屈指の繁華街。駅ビル「アトレ吉祥寺」をはじめとする大型商業施設からアーケード商店街の「吉祥寺サンロード商店街」「吉祥寺ダイヤ街」、さらに細い路地にまで多彩なショップや飲食店がひしめき、多くの人でにぎわっている。一方で駅から南に5分も歩けば「井の頭恩賜公園」へ。ボートが浮かぶ池をたたえた園内は緑豊かで、駅前の喧騒を忘れる憩いの空間。隣接地には動物園や遊具広場がある「井の頭自然文化園」や、「三鷹の森ジブリ美術館」もある。商業エリアや公園の周辺には静かな住宅街が広がり、都会的な便利さも、のどかな環境も兼ね備えている点が吉祥寺の人気の理由かもしれない。
もう1駅、杉並区にある11位・高円寺駅にも注目したい。駅の立地としては14位・阿佐ヶ谷駅(価格相場6980万円)と17位・中野駅(同7680万円)に挟まれているが、高円寺駅の価格相場は5985万円と両隣の駅と比べてだいぶリーズナブル。JR中央線の快速は平日のみ停車する駅ではあるが、それは阿佐ヶ谷駅も同様だ。JR中央線快速に乗れば新宿駅まで約7分、東京駅まで約22分という近さでありながら、周辺駅よりも価格相場が安い高円寺の駅周辺の様子を見てみよう。
高円寺駅前、高円寺純情商店街(写真/PIXTA)
高円寺は駅周辺で毎年8月に「東京高円寺阿波おどり」が開催される街として知られ、駅の発車メロディーも阿波おどりのおはやしをアレンジしたもの。北口の「高円寺純情商店街」、南口の「高円寺パル商店街」をはじめ駅周辺には複数の商店街が広がり、食料品店から若者に人気の個性的なお店まで多彩な店舗が軒を連ねている。2020年には高円寺駅~阿佐ヶ谷駅間の高架下に「al:ku(アルーク)阿佐ヶ谷」が誕生。カフェやベーカリーのほかに幼児園や体操教室など子ども向けの施設も入っているのは、ファミリー層が暮らす街らしいところだろう。
人出も多くにぎわいがあるが、大型の商業ビルではなく小規模店舗が並ぶ街なので親しみやすい下町風情が漂う。都心に近いわりには価格相場が控えめで、地元民に親しまれる商店街が元気な高円寺はJR中央線沿線の穴場駅と言えそうだ。
さて今回調査したJR中央線では、東京駅~大月駅(山梨駅)間を走る快速列車に2階建てグリーン車を導入する計画が進行中。2024年度末以降の導入予定で、現状の10両編成にグリーン車2両を連結するのだとか。運賃とは別にグリーン車料金が必要だが、先ごろ報道公開された車両内部を見るとリクライニングシートにコンセントも付いてなかなか快適そう。JR中央線快速は混雑率が高い路線だが、グリーン車を利用すれば確実に着席できるのが嬉しいところ。導入後はさらに、「住みたい街」としてJR中央線沿線の人気が高まりそうだ。
●駅順の価格一覧
※東京駅、神田駅、高尾駅は調査条件に満たないため除外
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている中央線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/4~2023/9
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
令和5年度補正予算について、概算が閣議決定した。国土交通省関係の補正予算の中から、住宅・不動産に関するものを中心に、どういった政策があってどのような優遇が受けられるようになるのかを見ていこう。キーワードは「子育て」と「省エネ住宅」だ。
【今週の住活トピック】
令和5年度国土交通省関係補正予算の概要について/国土交通省
国土交通省では、「エネルギーコスト上昇に対する経済社会の耐性の強化」として、「質の高い住宅ストック形成に関する省エネ住宅への支援」に2100億円を充てる。この支援事業は「子育てエコホーム支援事業」という名称となった。
「子育てエコホーム支援事業」は全く新しい事業というわけではない。「こどもみらい住宅支援事業」(令和3年度補正予算542億円、令和4年度予備費等600億円)、「こどもエコすまい支援事業」(令和4年度補正予算1500億円、令和5年度当初予算209.35億円)が、いずれも予算に達して早期に受付を終了したことを受けたものだ。予算を拡大し、適用条件などを変更しているので、以前の支援事業と同じ条件ではないことに注意が必要だ。
「子育てエコホーム支援事業」は、以前の支援事業と同様に、子育て世帯または若者夫婦世帯による(1)省エネ性能の高い住宅の新築と(2)住宅の一定のリフォームが対象。ただし、補助額とその条件が少し異なる。
■子育てエコホーム支援事業の補助対象 (下線部が前回の支援事業と異なる点)
(1)子育て世帯または若者夫婦世帯による省エネ性能の高い住宅の新築(注文住宅/新築分譲住宅の購入)
長期優良住宅の場合【補助額】100万円/戸
ZEH住宅の場合 【補助額】80万円/戸
※1:「子育て世帯」は、18歳未満の子どもがいる世帯、「若者夫婦世帯」は、いずれかが39歳以下の夫婦世帯
※2:ZEH住宅とは強化外皮基準かつ再エネを除く一次エネルギー消費量▲20%に適合するもの
(2)住宅の一定のリフォーム
【必須工事】住宅の省エネ改修
【任意工事】子育て対応改修、バリアフリー改修、空気清浄機能・換気機能付きエアコン設置工事等
【補助額】リフォーム工事内容に応じて定める額
【上限額】
子育て世帯または若者夫婦世帯:上限30万円/戸
※長期優良住宅リフォームの場合は上限45万円/戸、子育て世帯・若者夫婦世帯が既存住宅購入を伴う場合は上限60万円/戸
その他の世帯:上限20万円/戸
※その他の世帯が長期優良住宅リフォームを行う場合は上限30万円/戸
いずれも、事前に登録した事業者により、閣議決定日の2023年11月2日以降に工事に着工したものが対象で、補助金の申請は事業者が行うものとされている。
3省が連携して、住宅の省エネ化への支援を強化住宅の省エネ化に対する補助事業は、国土交通省だけではない。現在も、国土交通省と経済産業省、環境省の連携による「住宅省エネ2023キャンペーン」が実施されており、「こどもエコすまい支援事業」以外の事業はまだ補助金の申請を受け付けている。こちらも、「住宅省エネ2024キャンペーン」が予定されているが、新しいキャンペーンも少し内容が変わる。
■住宅省エネ2024キャンペーンの対象
住宅の省エネリフォーム等を支援する補助制度で、住宅の省エネ改修、断熱窓への改修、高効率の給湯器の導入支援の補助制度をワンストップで利用可能とするもの。
(1)断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ事業の後継)
高断熱窓の設置:【補助額】工事内容に応じて定める額(補助率1/2相当)上限200万円/戸
(2)高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金(給湯省エネ事業の後継)
高効率給湯器の設置:【補助額】高効率給湯器の機器・性能ごとに定める額
(3)既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業(新規事業)
既存賃貸集合住宅におけるエコジョーズ等の取り替え
(4)子育てエコホーム支援事業
なお、子育てエコホーム支援事業で定める必須の省エネ改修を行うだけでなく、キャンペーンの(1)~(3)のいずれかの工事を行った場合でも、(4)の任意工事が支援事業の対象となり、複数の支援事業を申請する場合は一つの窓口で申請できるなどの連携が行われる。
子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラスを新設令和5年度補正予算については、「こどもまんなかまちづくり」の実現に向けた子育てにやさしい住まいの支援として、子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラスの新設を挙げている。これは、子どもの人数に応じて【フラット35】※の金利の引き下げをするもの。
※【フラット35】は民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する長期固定型の住宅ローン
対象は、借入申込時点で、子育て(同居する孫を含む)世帯または若者夫婦(同性パートナー含む)世帯で、借入申込年度の4月1日に子どもの年齢が18歳未満または夫婦いずれかが40歳未満、などとなる。
【フラット35】の金利が引き下げられる【フラット35】Sなど※は、ポイントによって引き下げ幅が変わる仕組みになっているが、これに「子育てプラス」の以下のポイントが加算される形となる。
※【フラット35】Sのほかにも、管理・修繕に関する「維持保全型」、エリアに関する「地域連携型」などの金利引き下げ制度がある
○「子育てプラス」によるポイント
・若年夫婦世帯または子ども1人世帯:1ポイント
・子ども2人世帯:2ポイント
・子ども3人世帯:3ポイント
・子どもN人世帯:Nポイント
既存のそれぞれに与えられたポイントに「子育てプラス」のポイントを加算し、合計ポイントによって最終的な金利の引き下げ幅が決まる。1ポイントごとに5年間年0.25%の金利引き下げとなる。
※ただし、「子育てプラス」を利用しない場合は4ポイントまでが上限となる。
○「子育てプラス」を利用した場合の金利引き下げ例
1ポイント~4ポイントの場合、「当初5年間」1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる(最大で当初5年間年1.00%引き下げ)
5ポイント~8ポイントの場合、さらに「6~10年目まで」1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる(最大で当初10年間すべてで年1.00%引き下げ)
9ポイント以上の場合、さらに「11~15年目」も1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる
この新しいポイント制度は、令和5年度補正予算が成立し、住宅金融支援機構が告知する適用開始日の資金受け取り分から適用される。ポイント制度についてはかなり複雑なので、住宅金融支援機構の案内などで確認してほしい。
なお、今回紹介した支援事業はすべて、国会で令和5年度補正予算が成立することが前提であり、まだ正式に決定しているわけではない。また、ここで説明したことのほかにも詳しい条件が定められているので、実際に利用したいと思う人は、告知サイト等でしっかり確かめてほしい。
●関連サイト
「子育てエコホーム支援事業」
新たな住宅の省エネ化への支援 「子育てエコホーム支援事業」の事業の内容を公開します!
「住宅省エネキャンペーン2024」
住宅の省エネ化への支援強化に関する予算案を閣議決定!~国交省・経産省・環境省が連携して取り組みます!~
「【フラット35】子育てプラス」
子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラス(仮称)が新登場
おいしいパン屋さんのある街は、きっと素敵な街。そんな印象を持っている人も多いのでは。パンブームが続く昨今、おいしいパン屋さんは地元はもちろん遠方からも人を呼ぶ求心力を持ち、さらには「引越すならパン屋さんのご近所に!」なんてケースも少なくない。蒲田(東京都大田区)の住宅街にある「SONGBIRD BAKERY」は、実は大家さんが「パン屋さん限定」で募集した物件なのだ。その背景にある思いや、開店後の住宅街の変化について、大家の茨田禎之(ばらだ・よしゆき)さんと店主の本藤正敏(ほんどう・まさとし)さんに伺った。
こだわりのパン屋さんを呼び込めば、街の魅力も上がると考えてJR・東急 蒲田駅前のにぎわいを抜け、小さな川沿いを10分ほど歩いた先にある「SONGBIRD BAKERY(ソングバードベーカリー)」。周辺はのんびりとした住宅街で、近くを流れる呑川の反対岸の児童公園の緑が目を和ませる。2021年7月、ここでベーカリーをオープンさせたのは本藤正敏さん。国産小麦を使った高加水のもちもちパンがパン好きの間でも評判となり、オープン以来、地元はもとより遠方からもお客が訪れる人気ぶりだ。
パンは約25種類。1~2人で食べきりやすい小ぶりな食パンも2種そろう(画像提供/SONGBIRD BAKERY)
看板メニューは、水分たっぷりで小麦の甘味豊かな「うるる」(右下)。「明太フランス」(左)など定番のほか、季節で具材が変わる「フリュイ」(右上)など期間限定パンも(画像提供/SONGBIRD BAKERY)
店があるのは「カマタ_ブリッヂ」という4階建てマンション。1階は「SONGBIRD BAKERY」を含む3軒のテナント用スペース、上階は1~2人用の賃貸物件だ。テナント募集にあたり、オーナーである不動産会社「仙六屋」代表の茨田禎之さんは「パン屋さん限定」という条件を設定した。
1976年築の「カマタ_ブリッヂ」。2015年に全館フルリノベーション(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「オーナーとして、1階に何の店が入ると魅力的な物件になるかを考えてのこと。1階においしいパン屋があったら、入居者さんも街の人もハッピーでしょう?」
からっと笑う茨田さん。そのアイデアは、彼がこの界隈で行ってきた街づくりの活動がベースにある。
「当社はこのエリアにいくつか物件を所有していますが、街に波及効果のあるテナントに絞ったリーシング(商業用不動産の賃貸サポート)を行っています。この『カマタ_ブリッヂ』1階はもともと中華料理店でしたが、2015年の耐震リノベーションの際に、店は継続しつつ、残り2区画をクリエイター向けの工房併設型シェアオフィスとして開発。町工場の多いこのエリアと親和性の高いモノづくりスペースを通して、地域とつながりつつ物件の付加価値を高めようと考えたのです」
「仙六屋」代表の茨田禎之さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
多彩なイベントやプロジェクトを創出したシェアオフィスは2019年に京急梅屋敷駅高架下「梅森プラットフォーム」に移転が決定。そこに中華料理店閉業のタイミングが重なり、「カマタ_ブリッヂ」1階を再開発することに。そこで掲げたコンセプトは”小さな商店街”だ。
「シェアオフィスのクリエイティブな雰囲気は引き継ぎつつ、より対象を広げたい。職人さんがこだわってつくるパンならば、幅広い世代が日常的に親しめるし、隣の2店舗との相乗効果によって街に活気を生み出せる。物件としての魅力も上がり、住居部分の入居率向上にもつながると考えました」
「仙六屋」では周辺エリアを独自にリサーチ。競合ベーカリーの存在や、前と横の道路の通行量とその年齢層などを調べ、いかにこの物件がパン屋の新規出店に有利かをデータ化した。
「仙六屋」が作成した「周辺パン屋マップ」。半径500m以内に競合店がないことが明らかに(画像提供/仙六屋)
「1分間通行量リサーチ」。人通りが多い時間帯や年齢層の変化が分かる(画像提供/仙六屋)
「しかしコロナ禍も重なり、なかなか応募はなく……。そこで当社メンバーがそのデータをまとめた冊子を手づくりし、イメージに近いパン屋さんを回って営業も行いました」(茨田さん)
「仙六屋」の不動産チームが自作したパン屋さん募集用パンフレット(画像提供/仙六屋)
営業先では好反応もありつつ、やはり動きはないまま約1年が経過したころ、ベーカリー予定地の隣にカフェ開業希望者から申し込みが。
「当時はコロナ禍真っ最中でしたので、本当にいいの?という感じで。でも店主の30歳になるまでに独立したいとの決意を伺い、心意気を感じました。カフェとパン屋さんは相性がいいし、パン屋さんが出店を検討する時に、すでにカフェがあることが『ここで新しいお店がやっていけている』と説得力にもなるので、ありがたくて」と茨田さん。
そうして2020年6月にカフェ&バー「SSYET」が誕生。店主のセンスあふれるこのカフェはすぐ人気店に。そこから半年が経過したころ、ついにパン屋さんから応募が! それが本藤さんだった。
「住宅街で、地域の人たちに愛されるパンを」との店主の想いに合致独立を考え、都内と神奈川県で物件を探しこちらを発見した本藤さん。「最初に内見した物件だったんですが、魅力的だったのですぐ申し込みました」と驚きの発言!
「SONGBIRD BAKERY」オーナーシェフの本藤正敏さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「物件の条件はいくつか考えていましたが、ここはすべてを満たしていて。家賃も想定内だし、住宅街にあって、公園も近くて、隣に素敵なカフェもある。『周辺パン屋マップ』などの資料もすごく助かりました。でも最終的な決め手は直感ですね。ここで自分がお店を開いているところをイメージできたんです」と本藤さん。
川の反対岸にある児童公園(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
本藤さんが申し込みを急いだのは、ほかにも希望者がいるからでもあった。茨田さんは当時をこう振り返る。
「ずっと動きがなかったのになぜか同時に3件の申し込みをいただいて。ほかのお二方も素敵だったので悩みましたが、社内で協議を重ね、本藤さんに決めました。決め手は、実績はもちろん試食でいただいたパンがおいしかったこと。お人柄もパンも、優しくて柔らかい。この街にファンがついて、長く店をやっていただけそうだなと、いち住民としてイメージができました」
両者の「街に根付くパン屋さん」というイメージがぴたりと合致したのだ。そこに到達するまで時間はかかったが、茨田さんは「不動産は、ニーズが合うただ一人が見つかればいい。対象を絞ることで多少労力はかかっても、テナントが何度も入れ替わるよりずっと苦労は少ない」と確信している。
物件は駅から離れているが人通りが絶えない。「蒲田駅、梅屋敷駅、池上駅の3駅からアクセスできる立地も利点です」と本藤さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
地域に愛されつつ、遠方から人を呼び込み街の認知を高める存在にとうとう待望のパン屋さん「SONGBIRD BAKERY」がオープン。長い間「ここにパン屋さんが入ります」と「仙六屋」のSNSなどでも告知してきたこともあり、オープン日は雨の中行列ができる反響が。
「SONGBIRD BAKERY」オープン初日の様子(画像提供/仙六屋)
本藤さんはもともと蒲田にゆかりはなかったそうだが、「お客様から『パン屋さんができてうれしい』『この街に来てくれてありがとう』とのお声をオープン以来たくさんいただいて、地域とのご縁が育っています」と微笑む。「上階にお住まいの方々もよく買いに来てくださって、懇意にしていただけています。付近は住宅やマンションが多く、30~40代の子育て中のお客様が中心。対象にしたかった層とも合致しています」
最新製法を採りつつ、住宅街の立地を考慮し、菓子パンや惣菜パン中心の親しみやすいラインアップに(画像提供/SONGBIRD BAKERY)
茨田さんも「パパ友やママ友、いろんなところで評判を聞くんですよ」とうれしそう。「上の階に『パン屋さんがあるから入居したい』という直接的な影響はまだないですが、空き部屋が出てもすぐ埋まるように」。マンション1階に毎日通いたい素敵なお店があることが、入居者の生活の質の向上にもつながっている。
「SONGBIRD BAKERY」「SSYET」ともに遠方から訪れる人が多く、彼らにこの街を知ってもらえることも茨田さんはうれしいという。「蒲田=飲み屋街の印象を持っている人には、この界隈はギャップを感じてもらえるのでは。蒲田も駅から少し離れるとこんなに落ち着いていて、新しい素敵なお店もある。発見する喜びがここにはあります」
波及効果あるテナントを集めて、街の魅力をさらに高めていく連日行列ができる人気の「SONGBIRD BAKERY」。週末などはお昼すぎに売り切れ閉店することも。「買えない方には申し訳ないし、経営者としてもったいないとも思うので、難しい部分もありますが、生産量や商品ラインアップを少しずつ増やしていけたら」と本藤さん。
将来的には新たな展開も視野に。「イートインができるカフェも併設できたら。今のお店では少ないですが、個人的にはカンパーニュのようなハード系をもっとつくりたい。食事とともに出せば、そんなパンも受け入れられやすいかなと」
「サワードゥ」などハード系のパンも並ぶ(画像提供/SONGBIRD BAKERY)
一方の茨田さんは、現在空き店舗の「カマタ_ブリッヂ」の3つめのスペースに入るお店を見つけることが目下の課題。
「現状の2店舗さんとの相性も考えつつ、長く地域に根付いて成長してくれそうなお店を探し、お互いの希望をすり合わせる。そこをしっかりやらないと」と茨田さんが言うと、「茨田さんは入居前から親身になってくださって、信用金庫に融資を受ける際も一緒に来て口添えしてくださったりも」と本藤さん。
茨田さんは照れつつも「テナントさんは運命共同体。でも口うるさいオーナーにはなりたくないから、最初にしっかりセッティングしたら、その先は口出しなし!」ときっぱり。
茨田さんは、こんなふうに影響力あるテナントを地域に点在する自社物件に呼び込むことで、街の価値を上げていくことに取り組んでいる。「大規模な都市開発ではなく、個人単位の小さな点と点をつなげる”マイクロデベロップメント”。仲間とともにまちづくりとものづくりの企画開発を行う『@カマタ』を立ち上げて活動しています」。将来的には、この取り組みによる経済的効果も実証し、他エリアにも広めたいと茨田さんは考えている。
梅屋敷駅から続く商店街(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
京急梅屋敷駅高架下「梅森プラットフォーム」は「@カマタ」が京急電鉄に働きかけ、クリエイターと町工場が協働するモノづくり施設が実現。「仙六屋」はカフェとして入居して新たな不動産業を模索している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「SONGBIRD BAKERY」のように魅力ある個人商店や、「梅森プラットフォーム」のようなクリエイターの創造拠点の存在は、街を変える種火となる。その種火が連なり、燃え広がってこの街にどんな上昇気流をもたらすのか。俄然おもしろくなっていく蒲田~梅屋敷に、ぜひ注目したい。
●取材協力
茨田禎之さん
・仙六屋
・@カマタ
本藤正敏さん
・SONGBIRD BAKERY
佐賀で活動する、建築デザインユニット「対対/tuii」(以下、tuii)。田中淳さんと伊藤友紀さんの二人が2020年に結成し、パッケージから空間のデザイン、建築設計までを行う実力派チームだ。彼らの本業はデザインや建築だけれど、とあるビル一棟を、オーナーに代わり運営している。
誰とどんなふうに関わって、仕事をしていきたいか。それはどんな仕事でも、大事な要素に違いない。とくに地方では、仕事の関係性が他者からも見えやすい。だから「場」をもつことが大事なのだとtuiiの二人は教えてくれた。
tuiiが関わるようになって、20年以上空いていた2〜3階を含め、このビルの全テナントが埋まった。1階には本屋、カフェ、おにぎり屋、2階には洋服店、3階には彼ら自身の建築・デザイン事務所。
夜遅くまで明かりが灯るようになり、新たな文化スポットとして、感度の高い人びとが集う場所になっている。
本業の傍ら、ビルを運営するのはどんな理由からなのか。ここをどんな場所にしていきたいのか。tuiiの二人に話を聞いた。
徳久ビル、外観。1階のカフェは23時まで営業(写真撮影/藤本幸一郎)
建物から感じたエネルギーと、そのポテンシャルtuiiの入る徳久ビルは、お堀に囲まれた佐賀城跡地から徒歩5分ほど。佐賀市内でも文教感あふれる落ち着いたエリアの一角にある。
角のビルで、カフェは県庁前通りに向かってあり、もう一方のおにぎり屋は、水路沿いに遊歩道のある松原川通りに対して、大きなガラス窓が面している。
1階に「nowhere・tuii books」という本屋兼カフェ、おにぎり屋「shiroishimori」がオープンしたのは、昨年、2022年の夏のことだ。
朝から午後にかけては、おにぎり屋がにぎわう。白石という地区で半農半漁を営む、森卓也さんが経営する店。森さん一家が育てた米と、有明海で育てた海苔をおにぎりにして販売している。美味しいと評判で、人気がある。
午後から深夜にかけては、本屋兼カフェ「nowhere・tuii books」がオープン。カフェオーナーの平井開太(かいた)さんが居心地のいい空間をつくり出していて、常連も多い。奥にはtuiiが運営する本屋。2階には、服飾雑貨の店「ある晴れた日に」がほぼ毎日営業している。
洞窟のような空間をイメージしたというカフェと本屋。お客さんの視線がカフェオーナーと自然と合うように設計されている(写真撮影/藤本幸一郎)
おにぎり屋の外観。一面ガラス窓で店内は明るい。カフェ、本屋とは対極のつくり(写真撮影/藤本幸一郎)
tuiiの田中さんは建築畑の出身で、伊藤さんはグラフィックデザイナーとして仕事をしてきた。それぞれ東京、大阪と、都会で働いた経験がある。数年前に二人とも出身地である佐賀に戻り、別々にフリーランスでデザインの仕事をしていた。
出会ったこの徳久ビルを、先に見つけたのは、田中さんの方だった。
tuiiの二人。右が田中淳さん、左が伊藤友紀さん。ビルの3階、tuii事務所にて(写真撮影/藤本幸一郎)
「一目見て、この場のポテンシャルを感じたんです。建築家さんがつくられた建物なので存続しようとするエネルギーが宿っているのか、そこにデザインを加えれば、建物がもつ気配を取り戻せると思いました。ここで何か始めれば、自然と人が集まってくるんじゃないかなと」(田中さん)
ところが、このビルを借りたいと申し出たとき、オーナーからは「すでに支払いも終わっているし、人に貸すつもりはない」と断られる。
それでも諦めきれず、3~4度もオーナーの元へ通ったというのだから、田中さんが感じたポテンシャルは大きかったのだろう。二度目に訪れた時はさすがに嫌な顔をされたと田中さんは振り返って笑うが、その熱意は、オーナーの気持ちを少しずつ溶かしていった。
ビルが生き返る。「対対/tuii」の結成オーナーの徳久正弘さんはビルの1階で、文房具屋兼印刷所を営んできた人だった。
創設時の大正時代は写真館で、その後、建築用のブループリントと呼ばれる青焼きを、佐賀ではかなり早く始めた印刷会社だったらしい。
「このビルは私の亡き親友が設計した建物なんです。それを気に入ってもらえたら、やはり嬉しいですよ。何とか貸す方向で、と考えるようになりました。トイレが壊れていたので、そのままじゃ貸せない。でも直せば空いていた部屋も、また貸し出せるかもしれないと思い、改修費は負担するので後はお任せしますと」
徳久ビルオーナーの徳久正弘さん。今も2階の一室に事務所をもち印刷の仕事を続けている(写真撮影/藤本幸一郎)
そうして田中さんはさっそく、2階のトイレを友人の建築家とリノベーションし、3階を借りてデザイン事務所を構えた。
剥き出しのコンクリートを生かした内装。tuiiの事務所。2階の洋服店にも同じテイストの内装が踏襲されている(写真撮影/藤本幸一郎)
トイレ掃除はオーナーも入れて4軒のテナントで平等に分担し、当番制にしているというのが面白い(写真撮影/藤本幸一郎)
翌年、新たに2階に入ったのは服飾雑貨屋。この時、一緒にビルを見に訪れたのが、伊藤友紀さんだった。佐賀に戻りフリーでデザインの仕事を始めて6年目。そろそろ違った形で仕事したいと考え始めていた頃だった。
洋服屋のリノベーションを一緒に手がけたのがきっかけで、伊藤さんと田中さんはtuiiを結成することになる。このビルがなければ、二人は出会わなかっただろうし、tuiiも存在しなかっただろう。そう考えると運命的だ。
洋服店「ある晴れた日に」(火曜日のみ定休)(写真撮影/藤本幸一郎)
トイレがきれいになり、3階にはデザイン事務所、2階には洋服屋が新たに入った。オーナーにとってビルが生き返るような感覚があったに違いない。
徳久さんが引退を考え始めたとき、「1階も田中さんにお任せしたい」という気持ちになったのも、ごく自然な流れだっただろうと思う。
おにぎり屋の面する通り。水路沿いに遊歩道が続く、雰囲気のいいエリア(写真撮影/藤本幸一郎)
1階に入る3店のユニークな関係性としくみどんな店を入れるにしても、1階は開かれた場にしたい、という思いが強くあった。そう田中さんは話す。これには伊藤さんも同意だった。二人がたどり着いたのは本屋だ。
「仕事にまつわるアートやデザイン系の本を中心に、まちに開かれた資料室のような本屋ができたらいいねと。それなら本と相性のいいコーヒーも欲しい。近くでカフェを営んでいた平井開太さんに話をしたら、移転してきてくれる上に、本屋の店番も兼ねて引き受けてくれることになったんです」
今の場所から数百メートルの場所でカフェを営んでいた平井開太さん(写真撮影/藤本幸一郎)
農家であり、海苔の養殖も行う森卓也さん。農業や海苔の生産と同時に、おにぎり屋「shiroishimori」も営む(写真撮影/藤本幸一郎)
面白いのは1階に入る3店、カフェ、本屋、おにぎり屋とtuiiの関係性だ。カフェ「Nowhere」を運営する平井さんは、カフェの仕事をしながら、同時に田中さんたちと共にtuii booksの運営に参加し、店番を受け持っている。そのためカフェの家賃をtuiiに支払ってはいるものの、本屋の管理をしているぶん、同額の業務委託費をtuiiから受け取っている。金銭だけみるとプラマイゼロ、ということだ。
一方で、おにぎり屋の森さんも、家賃を支払ってはいるが、同額に相当するデザインディレクションをtuiiは行っている。
つまり、tuiiはサブリースの形でカフェとおにぎり屋に1階のスペースを貸しながらも、家賃を店番代と相殺したり、家賃をデザインディレクション費も兼ねて受け取っているということだ。
それでは圧倒的に、tuiiが損なのでは?と問うと、「金額の面だけ見ると、たしかに損です」と田中さんは笑って言った。
「でも、例えばどこかに場所を借りて誰かに店番を頼んで本屋をやると、今よりずっと高くつく。平井さんは元編集者で、本に関わっていたいという思いがあって一緒にやってくれています。だから本のセレクトなど一緒に話し合うこともできるし、店番も任せられる。そうした諸々と家賃がトントンで、お互いOK。
森さんとの関係も同じです。もともとデザインディレクションを僕らに頼んでくれていたのですが、森さんがここでおにぎり屋を始めて、僕らが一緒に商品開発したものを売ったり、情報発信したりしてくれれば、最終的に僕たちの仕事にもかえってくると考えました」(田中さん)
関わる人たちそれぞれがやりたいことを実現するために、出せるものを出し合う。その、ちょうどいいバランスの取れる点で均衡をとったという。
「すべて計画通りではないですが、自然とこういう店があったらいいねって話をしているうちに、場を求めている人たちが集まって、お互いにウィンウィンの形を探していった結果なんです。tuiiにはあまりお金が残りませんけど(笑)、デザインの本業があるので何とかなっています」(伊藤さん)
tuiiが手がけた、「しろいしもり」のお米パッケージのデザイン(写真撮影/藤本幸一郎)
「誰とどんな仕事をしていきたいのか?」を見せる場所さらに1階では、3店の営業のほか、型染め、イラスト、写真などあらゆる展示会や、「Good Knowledge」の名でイベントを企画し、開催している。
「Good Knowledge Vol.4」では、若林恵さん(黒鳥社コンテンツディレクター)と山田遊さん(method代表 バイヤー)を招いてのトークイベントを開催。発売と同時に全席完売し、福岡をはじめ、県外から多くの人が訪れた。(写真撮影/藤本幸一郎)
つまり、このビルの運営にかけている労力やお金は、tuiiの二人にとって「投資」なのだ。建物、一次産業などあらゆるものにデザインをかけ合わせると魅力的に変化する。そのことを世の中に見せる、場なのである。
「実際、ここに来て見ていただいた方からお仕事をいただくことも少なくないんです」(伊藤さん)
ただし、tuiiが思う「場」の価値は、制作物を見てもらうためだけの場ではない。
どういうことか。
「デザイナーにとって、どこで誰とどんな仕事をしているか?を見せることがとても重要だと思っているんです。だから場所が大事。僕たちの場合、ここに場を構えたことでそのスタンスが明確になりました。作品のPRの場としてだけではなくて、誰とどんな仕事をしていきたいのか、というメッセージを発する場所です」(田中さん)
地方では、どれほどデザインが優れていても、商品が並ぶ先に選択肢が少ない。
「地方ではデザインの出来に加えて、どこに並べられるのか?がとても重要です。極端に言えば、どれほどデザインが優れていても、商品が並ぶのは普通のお店。それが都市部へいくと、いいお店がたくさんあるので、どんなものも商品として育ててくれる環境があります。
僕たちはデザインの種をつくることはできるけれど、それがどう世の中に浸透していくか?の面で、地方ではまだ陽の当たる環境が整っていない。だから自分たちでその環境をつくるしかないと思いました」
場づくりが、地方のデザイナーのプレゼンス、存在感を高めることにつながる、ということだ。
shiroishimoriのおにぎり(写真撮影/藤本幸一郎)
「デザイナーの社会的地位」を上げたい「かねてから、地方のデザイナーの社会的地位を上げる、という課題意識はかなり強くもっていました。その地域に居るってことはすごく重要。でも同時に、地方のデザイナーでもクオリティ高いものをつくるってことを示せないといけない。
デザインの質やクオリティを上げることも大事ですが、どのような人たちと関わり、ともに行動したり議論しているかが大切だと考えています。日本や世界に対して影響力がある方々に、徳久ビルで行うトークイベントや展示に参加いただくことで、運営している私たちの見え方も変わり、プレゼンスが変わる。それが結果的に、地域やまちにも還元されていくのだと思うんです。
そのために、デザイナーはデザインにもっと投資すべきだと感じています」(田中さん)
地域のためや、まちのため、ではなく、デザイナーの社会的地位、プレゼンスを上げるための投資。そう聞いて驚くと同時に感心した。これまでに、幾人もの地方のデザイナーを取材してきたけれど、そんな話をする人は一人もいなかったからだ。
一方で、パートナーの伊藤さんは、tuiiにそうした考え方があるゆえに、仕事の現場では、葛藤も生じると話した。
「私はどちらかといえば、クライアントに寄り添う形で仕事をしてきました。一方、tuiiとしてはデザインの世界でいうだいぶ先、エッジの効いた提案をすることも多いので、クライアントに理解されないこともあるんです。パッケージの見た目をただ素敵にデザインして売れれば喜ばれる。でもそれで課題の本質が解決しない場合、違ったアプローチを提案することになります。
初めは相手を不安にさせることもあって。でも形になった瞬間に、相手の態度ががらりと変わることも多いんです。こういうことだったんですね!と喜ばれる」(伊藤さん)
(写真撮影/藤本幸一郎)
たとえば、「佐賀えびすもなか」のパッケージデザインを依頼された際には、少しいい素材をつかった箱のパッケージをデザインすると同時に、商品の価格帯を上げることまでを提案した。結果、ヒット商品になったという。
田中さんと伊藤さんのバランスがいいのだろう。ユニット名の「対対」には「優劣がつけられないこと」という意味がある。
一方で、「場」を大事にして育てていこうという感覚は二人とも同じようにもっていた。
場所は変わらずここにあり、時間が積み重なっていく。
「ここで生きているってことが大事だなと。人や場とちゃんと向き合って、育てていきたいって感覚は一緒だから、多少ぶつかっても一緒にやっていけています」
(写真撮影/藤本幸一郎)
ローカルデザインのステージは、ここ数年で明らかに変わりつつある。10年ほど前までは「地方でデザイン」といっても、物々交換でしか対価を支払ってもらえないという話をよく聞いた。デザインの価値をわかる人や企業が少なかったからだ。だが今や、地方でもデザインはあらゆる分野に不可欠という認識が広まっている。
これまでは東京の大手代理店に流れていたような仕事を、tuiiがコンペに勝ち、手がけるようになった。目に見えて、ここ数年で佐賀のデザインシーンには変化が起きている。
魅力的なデザインを発するチームが各地に存在する、百花繚乱の時代になれば、文化の発信拠点も増えるのかもしれない。
そうなれば、地方はもっと面白くなるに違いない。
(写真撮影/藤本幸一郎)
●取材協力
tuii
神奈川県・溝の口エリアを拠点とする不動産会社、エヌアセットは、外国人対応専門店を設置するなど、外国人の賃貸探しに力を入れている不動産会社です。まだまだ全国的には外国人入居可の物件が少ない中、オーナーへの啓蒙や提案によって、エヌアセットの管理物件では5年前の2割から7割へと飛躍的に増えました。この成果は外国人スタッフの能動的な活躍によるところが大きいようです。
そこでエヌアセット 営業部部長の上野謙さん、そして国際営業チーム チーム長の林同財(りん どうざい)さんに外国人スタッフの採用や育成のポイントについて話を聞きました。
外国人スタッフ第1号を採用、外国人専門店舗ができるまでエヌアセットが初めて外国人スタッフを採用したのは、2017年のこと。通常のポータルサイトへの広告掲載による賃貸の集客に限界を感じて、新たな集客ターゲットを探していた時でした。そのタイミングで同社に入社してきた外国人スタッフ第1号が林さんです。
日本の大学の国際学部で学んだ林さんは、来日当初は日本語がうまく話せなかったり、住まい探しで外国人だからと断られたりしたことも。いろいろな国から来た同級生も同じような経験をしていたため、自分が同じような人たちの頼りになれないかという思いがあったそうです。
「大学4年生の秋ごろに、ほかの日本人大学生と同じように就職活動をしました。エヌアセットにたどり着いたのは、募集する文章に『国際的』『外国人』というキーワードがあり、多言語を話す能力を活かせると思ったからです。面接で社長から直接、『一緒に外国人事業をやっていきましょう』と言っていただいたのが決め手となり、この会社に入社しました」(林さん)
林さんが入社したことで、新たに外国人をターゲットとした事業が本格的に動き出した(画像/PIXTA)
林さんは、入社して1年目はほかの日本人スタッフと同様に日本人のお客さまからの電話を取ったり、来店者の対応をしたりしていました。2年目になり、ついに外国人事業に本格的に着手することに。2022年9月に外国人専用店舗ができたことで、外国人のお客さまに特化した対応ができるようになりました。外国語での物件紹介や資料作成、日本の商慣習や生活に必要なルールの説明など、外国人スタッフのもつスキルを活かせる業務に時間を割けるようなったと林さんは感じているそうです。
アメリカの大学の日本校でのハウジングフェアの様子。この大学がエヌアセットの営業エリア内に移転してから、職員や学生の住まい探しも増えている(画像提供/エヌアセット)
「外国人入居可」の物件を、5年で2割から7割に引き上げた取り組み不動産賃貸の市場全体においては、日本に住む外国人の数に対して、入居が可能な物件の数はまだまだ少ないのが現実です。しかし、エヌアセットでは、5年前には管理物件の2割程度に過ぎなかった「外国人入居可」物件が、今は約7割程度にまで増えたとのこと。それに伴い、外国籍の顧客を仲介する件数も飛躍的に伸びています。
多言語のホームページ作成、SNSやGoogleの口コミ活用など、積極的な施策で外国人入居者の仲介件数は5年間で10倍以上に(画像提供/エヌアセット)
外国人の受け入れが可能な物件を増やすために、林さんたちはオーナーに対するセミナーを開催したり、外国人スタッフ自らオーナーの説得を行ったりしてきました。時には実際に入居希望者をオーナーや物件の管理会社に引き合わせ、その人自身を見て納得してもらうことも。
さらに、入居者に対してのサポートも欠かせないといいます。日本で暮らしていくには、例えば電気・ガス・水道といったライフラインの開通は、日本の電話番号がなければできません。このような行政手続きをサポートし、水漏れなど緊急を要するときは、林さんたちスタッフが連絡を受けて対応することもあるそうです。
「入居希望者の中には、日本語がうまく話せない人もいます。海外では馴染みのない敷金・礼金など日本独特のルールについても、事前に母国語で理解できるまで説明をすることで、これまでに大きなトラブルはほとんど起きていません」(林さん)
「賃料面・入居後のサポートについて、自社だけでなくアウトソースでも対応ができるよう、外国人専用の家賃保証会社とパートナー関係を結びました。家賃滞納の不安を解消すると同時に、入居者も困ったことやトラブルがあったときに24時間コールセンターを利用できるようになったのです」(上野さん)
エヌアセットでは、定期的に外国人入居者同士の交流会も企画している。日本で新しい友人や知人ができることで、相談もしやすくなる。結果的にトラブルが起きにくくなる一面も(画像提供/エヌアセット)
入居中のサポートを充実させることで入居者も安心でき、オーナーの理解を得られるようになったことが外国人可の物件の増加につながったのでしょう。
変化をもたらしたのは、オーナーや管理会社だけではありません。自社内においても変化が見られたといいます。かつてエヌアセットの管理部門の中には、オーナーの気持ちに寄り添うがゆえに、外国人の入居をポジティブに捉えられない空気も少なからずあったのだとか。
「一番変化を実感しているのは、自社の管理部門に所属するスタッフの対応です。私が入社する以前は、日本語が話せないお客さまは基本的にお断りしていたそうです。それが今では外国人の入居促進に向け、管理部門の責任者が積極的に賃貸物件のオーナーへの説明に同行してくれます」(林さん)
「営業部門において、外国人の入居は普通のことになってきています。取引数においても外国籍のお客さまは、全体の約2割を占める重要な顧客層です。このことを社内外へ絶えず発信し続けることが必要と考えています」(上野さん)
外国人スタッフに聞く、日本企業で働く苦労は?今では敬語の使い方も上手で、流暢な日本語を話す林さんですが、最初のころは、やはり言語の壁があったと言います。
「日本で日本語を勉強して、基礎的な日本語はある程度理解できましたが、職場や接客での敬語の使い方は難しかったです。ネイティブの日本語ではないため、お客さまから、日本人スタッフに担当を変えてほしいと言われたこともありました」(林さん)
しかし、そんな林さんの助けとなったのは同期入社の仲間たちでした。同期は林さんを含め5人。ほかの4名は日本人でしたが、休みの日には一緒にスキーを楽しむほど、みんな仲が良いそうです。
「周りの中国人の知り合いからは、なかなか職場に馴染めないという話を聞いていましたが、良い人に囲まれて私はラッキーでした。外国人だからと言って特別扱いもされず、だからこそ早く慣れることができたのだと思います」(林さん)
外国人スタッフ採用と育成のポイントは?林さんの入社後、外国籍のスタッフの採用は続いており、現在は4名の中国人スタッフが、日本語、英語、北京語、広東語、韓国語にも対応していて2024年度は新たにベトナム人スタッフも加わる予定。
現在、日本語のほか、英語、中国語、韓国語に対応する外国人スタッフ4名が在籍している(画像提供/エヌアセット)
外国籍の顧客対応に注力するためには、外国人スタッフは必要不可欠な存在です。外国人スタッフは顧客がコミュニケーションをとりやすい母国語で話せるだけでなく、日本に来て入居希望者と同じような経験をしているので、顧客が何に困っていて何を欲しているのかを的確に掴むことができます。
林さんは、外国人スタッフの採用に際し、一次面接も行っているそう。そこで、どのような点を重視しているのかを聞いてみました。
「まずは言語力です。日本語と英語は最低限必要で、さらに他言語も話せればなお良いですね。ほかに見るのはこの仕事に合うかどうか。いろいろな文化や国の人と話す仕事なので、人と話すことが好きであることもポイントです」(林さん)
そして今後ますます増えると見込まれる外国人スタッフの育成や定着については、外国人スタッフ用の接客マニュアルを作成しようと検討している最中とのこと。また普段から定期的にスタッフ同士で飲食の機会を持つなど、アットホームな雰囲気づくりを心掛けているそうです。
「私が新たに入社する外国人スタッフに対していつも心がけていることは、『会社にとってあなたがいかに大事な存在か』を伝えるということです。外国人スタッフはみんな最低でも3言語は話せて優秀ですし、その分プライドも高い。それぞれの意見を尊重し合うよう、私もチームリーダーとして勉強中です」(林さん)
より多くの外国籍の入居希望者を受け入れていくためにこれからは賃貸市場において、外国籍の顧客層は今以上に増加していくと考えられます。エヌアセットのように外国人の住まい探しを推進しようとしている不動産会社も多いはず。先駆者としてのアドバイスはあるのでしょうか。
「外国人のほとんどは、慣れない土地での暮らしで、ある種の孤独感を抱えています。周囲の人たちは普段からの声がけや表情の変化に気づけるように様子をうかがう必要があるでしょう。それと忘れてはならないのは、日本で働く多くの外国人は自国でもトップクラスのエリート層だということです。よく言えば芯があり、ネガティブに捉えると頑固な一面があるので、そのようなことを理解して接すると良いと思います」(上野さん)
しかしその一方で、林さんは現場のスタッフが入居中のトラブルに対応したり、相談に乗ったりと日本人のお客さまへの入居後対応と比べて手間がかかるため、負担が大きくなっていることも指摘します。事業として継続していくためには、外国人スタッフが長く働ける環境を整えることも考えなくてはなりません。外国人専用の家賃保証会社とのパートナーシップは、オーナーや入居者だけでなく、外国人スタッフの負担を減らし、長く働いていくための一つの解決策となっているようです。
そして、最後に林さんから全国のオーナーさんへのメッセージです。
「『外国人を受け入れたことがない』『日本語が得意な人でないとうまくコミュニケーションが取れないのではないか』といった不安はあると思いますが、やってみなければわからないことがあります。外国人専用の家賃保証会社の活用で365日対応を任せることができるサービスもありますし、当社のように仲介会社がサポートできることもありますので、まずは最初の一歩を踏み出していただきたいです」(林さん)
日本賃貸物件管理協会でのプレゼン。これからの日本の賃貸市場で、外国人は無視することができない。オーナーの理解を得るための活動も積極的に行っている(画像提供/エヌアセット)
賃貸物件の空室問題がクローズアップされる中、これからは外国籍の入居希望者も重要な顧客層と捉えていくことが、問題解決の鍵となるでしょう。そのために、日本で同じような経験をし、入居希望者の気持ちを汲み取れる外国人スタッフは、なくてはならない存在です。
林さんは3年以内の目標として、賃貸だけでなく外国人を対象にした不動産売買、投資売買などへの進出も考えているそう。外国人市場は今後ますます拡大していくかもしれません。会社として本腰を入れた外国籍のスタッフの雇用・育成、そして一部のスタッフだけに負担をかけすぎない、組織としてのバックアップ体制を整えていくことが必要になってきていると感じました。
●取材協力
株式会社エヌアセット
東京都では、2022年度に消費者から都に寄せられた不動産取引に関する相談と、それを受けて都が宅地建物取引業者(宅建業者)に行った行政指導などについて取りまとめ、その概要を公表した。その内容を見ると、不動産の売買や賃貸借の取引でどういったトラブルが多いのかが分かる。詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」を公表/東京都
まず押さえておきたいことは、東京都の相談窓口では、「宅地建物取引業法(宅建業法)」の規制対象となる不動産取引の消費者相談について受け付けていること。都は宅建業者を指導監督する立場にあるからで、物件選びなどの相談は対象外となる。また、都民(個人)を対象に「不動産取引特別相談室」を設けて、宅建業者が関わる民事上の紛争などについて、弁護士などによる相談も行っている。
東京都が公表した概要によると、窓口での相談受付件数は、過去5年間は年間2万件前後で推移しているが、コロナ禍以降は面談による相談が減少し、2022年度は電話による相談が99.0%を占めたという。
その相談内容を見ると、「面談による相談」では、売買、賃貸借ともに重要事項説明や契約内容など契約に関する相談が多い。また、「電話による相談」でも、契約に関する相談が多いが、賃貸借では敷金(原状回復)についての相談が最多の3800件にのぼった。
「面談による相談」における主な相談内容
順位売買に関する相談(全86件)賃貸借に関する相談(全112件)1重要事項説明31件重要事項説明・契約内容42件2契約内容15件敷金(原状回復)25件3報酬・費用請求等/契約前相談各6件管理(設備の瑕疵等)10件「電話による相談」における主な相談内容
順位売買に関する相談(全4,118件)賃貸借に関する相談(全15,265件)1契約前相談602件敷金(原状回復)3,800件2重要事項説明517件重要事項説明・契約内容2,729件3契約の解除407件管理(設備の瑕疵等)2,249件※特別相談室における相談及びその他の相談(不動産取引以外の相談等)を除く。「面談」で契約に関する相談が多いのは、不動産取引の最大の山場であり、重要事項説明書や契約書などの関係書類を実際に見せながら相談できるからだろう。特に金額が大きい売買の相談の比率が高くなっている。一方、「電話」相談は、移動などの時間的な制約を受けないことに加えて、退去するときに原状回復費用の負担について宅建業者と借主で合意できずに早急に相談したいといった、緊急性がある場合も多いからだろう。
相談内容に法令違反の疑いがあれば調査し、行政処分も行う東京都では、相談の内容に法令違反の疑いがある場合は、宅建業者に対して調査などを行い、違反が認められれば監督処分を行うことになる。2022年度は76件で宅建業法違反の疑いがあり、調査に至っている。
その具体的な事例も公表されているので、いくつか見ていこう。
重要事項説明(宅建業法第35条)については、宅地建物取引士が説明を行わなかった事例、本来説明すべき内容について説明をしなかった事例などがあった。重要事項の不告知(宅建業法第47条)については、買主に不利になる情報を認識していたのに、故意に告げなかった事例があった。ほかにも、おとり広告(取引できない物件を広告)を行ったり、契約書を交付しなかったりといった法令違反の事例も見られた。
調査で違反が認められれば、東京都は業務停止等の処分や指導勧告などを行うが、2022年度では72件の事例があった。ただし、この件数は年々減少している。
ルールに則った適切な不動産取引の契約とは?ここで、不動産取引における契約に関するルールを確認しておこう。
○物件を決めて申し込む
買うあるいは借りる物件を決めたら、宅建業者を通じて正式に申し込む。この際に、申込金などの名目で内金を入れる場合があるが、一般的には契約の意志を表示するために預けたお金なので、正式に契約を結ぶ前であれば撤回でき、預けた申込金は返還される。念のために領収書ではなく、「預かり証」を受け取っておくとよい。
○契約前に重要事項説明を受ける
買う場合であれば住宅ローンの審査を経て、借りる場合であれば入居審査を経て、正式に契約することになる。宅建業法では、契約する前に、宅建業者が宅地建物取引士をもって物件や契約条件などに関する重要事項説明を行うことを義務※づけている。
※賃貸借契約の場合、宅建業者が仲介や代理ではなく、貸主として借主と直接契約する場合は、重要事項説明が義務づけられていない。
○正式に契約を結ぶ
重要事項説明を受けて納得できたら、正式に契約を結ぶ。一般的には、契約書を作成して取り交わすことになる。契約が成立したら、宅地建物取引士が記名押印した契約書を遅滞なく交付することが定められている。売買契約の場合、契約時に買主が売主に「手付金」を支払うのが一般的だが、契約後に買主が契約を解除する場合は手付金を放棄することになる(売主が解除する場合は手付金の倍返しをする)。
なお、重要事項説明や契約の際に、かつては書面を交付して押印する必要があったが、オンライン上の電子書面で取引するなど「電子契約」も可能になった。
○原状回復の取り決めについて
国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を、東京都では「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を定めている。これらによると、「経年変化や通常の使用による損耗等の復旧」は貸主が負担し、「故意・過失や通常の使用方法に反する使用など、借主の責任によって生じた住宅の損耗やキズ等の復旧」などは借主が原状回復として負担するとしている。ただし、契約時に双方が合意して、特約によって異なる取り決めをすることは可能。
さて、東京都では、不動産取引の知識や経験があまりない消費者が、ともすれば宅建業者に言われるがまま十分に確認をしないで契約を結んでしまい、トラブルが生じるケースが多いことから、ホームページにいろいろな手引書を公開している。
「不動産売買の手引」、「住宅賃貸借(借家)契約の手引」などの基本情報から、特に賃貸借で多い原状回復における貸主・借主の費用負担の基本的な考え方を示した「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(日本語・英語版)など、不動産取引で知っておきたい情報を公開しているので、見ておくとよいだろう。
注:東京都の「賃貸住宅紛争防止条例」については、東京都内の居住用の賃貸住宅のみが対象となる点に注意。
さて、生活の拠点を手に入れるために不動産取引を行う場合、トラブルになると拠点が定まらず、生活に支障をきたす場合もある。さらに、それなりの金額が動くこともあり、後悔のないようにしたいものだ。知らなかった、確認を怠ったでは済まされないので、物件を検索することと併せて、適切な手順やルールなどについても情報を収集し、チェックすべきポイントを見逃さないようにしてほしい。
●関連サイト
東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」の公表について」
東京都「不動産取引に関する相談及び宅地建物取引業者指導等の概要」
たべる、あるく、よりみちするのが大好きな岩手県盛岡市在住のスガワラとアベ。
そんな二人が、毎週土曜に楽しみにしているのが、「材木町 よ市(ざいもくちょう よいち)」(4月~11月開催)。今年で50年目を迎えた、盛岡市民おなじみのイベントです。盛岡駅から徒歩7分、材木町商店街に100店舗以上の露店が並び、たくさんの人でにぎわいます。焼きたてあつあつをその場で味わうのもよし、おつまみなどを買い込んで宅飲みとしゃれこむもよし、と、まさに市民の台所的存在なんです。マルシェのようなおしゃれなイベントともひと味違う、アットホームでのんびりとした雰囲気の中、盛岡ならではの旬の味や人気店の味に出合えますよー!
私たちの土曜日午後のお楽しみを、おしゃべりしながらご案内していきますね。
よ市の常連! 料理家の橋本玲奈さんをゲストに迎えて「よ市」をぶらぶら今回は兵庫県神戸市出身、盛岡在住の料理家、橋本玲奈(はしもと・れな)さんもご一緒に、材木町よ市をみちくさしながらぶらぶらと。秋の味覚をどっさり買ったあとは、玲奈さんのご自宅におじゃまして夕ご飯にする予定です。
4月~11月の毎週土曜に開催。季節の収穫物などの食材や、市内のお店のお惣菜、屋台、雑貨などのお店が並びます。
玲奈さん)秋刀魚(サンマ)! 一番小さいサイズのは100円、これはお買い得! 三陸海岸が近い盛岡市は新鮮な海の幸が手に入る街。それでも今年は秋刀魚、あんまり見かけないんだよね。「よ市」ぐるっと見てから、帰りに買いましょ!
スガワラ)あ!これ!こないだ来たときに気になったお豆腐だ。もめん豆腐よりもずっしり重たい。いつも「よ市」に来ると、ここの豆腐田楽が食べたくなっちゃうんだよね。田楽を焼いている、おばあちゃんとのおしゃべりにも癒やされるんです。
玲奈さん)毎週楽しみにしてるサランさんのキムチ。我が家はキャベツキムチの大ファンなの。冷蔵庫にキムチがある!って、テンションあがるよね。
スガワラ)キムチでメンタルマネジメントだ(笑)私は今回はタコキムチに決めたっ。
アベ)大根にしよっかなー、いや、キャベツ? まって白菜? 迷うー!
玲奈さん)材木町商店街を旭橋側から歩き始めて夕顔瀬橋の方へ。つきあたりまで歩いていくと甘いいにおいが漂ってくるよ。「赤澤タニさんのわたあめ屋さん」は、子ども達に大人気なのはもちろんだけど、大人が食べてもおいしい、ふわっふわのわたあめが100円で買えるの。
玲奈さん)お、右側にある栗、立派だね。600円であの量!
アベ)おばあちゃんのお野菜、ほかのも美味しそう。ゴーヤとか茗荷(ミョウガ)もある。夏の野菜から秋の野菜に変わっていく時期なんだね。季節の畑の様子が見えるようだよ……。これも「材木町よ市」ならでは。
スガワラ)たまに見たことのない野菜を発見することもあって、「どうやって食べたらいいですか?」って聞いてるよ。やっぱり生産者の方に教わるお料理は、簡単で美味しいのが多い。料理苦手な私でもばっちり!
あつあつグルメと冷たいビールを、音楽と一緒に玲奈さん)「よ市」の名物、焼き牡蠣は今日も大人気だ……諦めよう……。
スガワラ)うん……。
アベ)絶対食べたい!っていうときは、「よ市」のスタートと同時に並ぶくらいの気合いが必要ね。
玲奈さん)「ベアレン」のビールと焼き牡蠣、最高なんだよね。あ、ビール……飲みたくなってきた……。
玲奈さん)よ市に来たら、絶対飲みたい、ベアレンビール。いただきまーす!
スガワラ)わぁ!いい飲みっぷり!
玲奈さん)このプラスチックのリユースカップは、最初に「ビール+カップ」の料金を払って、飲み終わったカップを返すと、カップの代金も返金される仕組み。例えば、小サイズのビールだと最初に500円(ビール+カップ分)を支払い、おかわりは1回ごとに300円。最後にカップを返却すると200円が返金されるんだよ。
アベ)マイジョッキを持って並んでる人もいるね。
玲奈さん)あ!あれは「ジョッキ倶楽部」の人だねえ。ビアパブベアレン材木町の店舗の2階が「部室」なんだって。自分の名前が刻印された世界に一つだけのオリジナルジョッキ。800人以上の部員がいて、ベアレンのお店で登録したらすぐ部員になれるみたい。10枚綴りのチケットもあって、それを使うとジョッキ1杯390円! お値段も嬉しいよねー!わたしもいつかマイジョッキつくりたいなあ。
スガワラ)ベンチや椅子もあちこちに用意してあるし。食べて、飲んで、食べて、飲んで。お祭りほどハイテンションではないんだけど、みんなにこにこ幸せそうに過ごしてるのが、材木町よ市の好きなところだなあ。
玲奈さん)ここ!「百萬堂(ひゃくまんどう)」さん、材木町に来て時間があったらいつものぞくんだ。
スガワラ)わかる! お皿や絵画、雑貨以外にもいろいろなものがぎゅうぎゅうに詰まった店内。びっくりするような掘り出しものがあるのよね……。「よ市」の日以外でも入れるから、ぜひふらりと入ってみてほしい。
玲奈さん)「よ市」でもお店を出している、「プラッサッジョ」さん。切り立ての生ハムとワインでまったりしてしまうの~。今日は店内でフリマもやってて嬉しい。このお皿、グラタンにピッタリのサイズ。買おうーっと。
アベ)私、初めて入るお店だったよ。素敵な雰囲気。今度はランチかディナーで来てみたいなあ。
たくさんの戦利品と一緒に、玲奈さんの家へ移動。さあさあ!夕ご飯ですよ!
玲奈さん)並べると圧巻!お惣菜とかも買ってきてるからね。食べられるものをつまみながら、飲みながら夕ご飯つくっていきますよ。
スガワラ・アベ)よろしくおねがいしますー!
玲奈さん)ここ、クチバシみたいに黄色いでしょ。新鮮で美味しい秋刀魚の証拠だよ。シンプルにグリルで塩焼きにしましょ。
スガワラ)ほんとだ! 言われてみれば、鳥のクチバシみたい。全然気づかなかった。焼いちゃうの申し訳ないほどかわいい顔してるね。私、今年、初秋刀魚だよ、やったー!
玲奈さん)大きい立派なナスは、輪切りと角切り二つの切り方で切っていくよ。輪切りの方にトマトソースとチーズ、そして角切りのナスも乗せてオーブンへ。
アベ)岩豆腐とサランのキムチ……だけでも最高なのに、ごま油をたらりなんて!!
玲奈さん)ふふふ!あっというまにできる、「よ市」のごちそうだよ。キムチは期間限定のもあるからいろいろ試してみてね。
玲奈さん)さあ、できたよー!
アベ・スガワラ)ごちそう!!!いただきまーす!
玲奈さん)田楽茶屋さんの商品でもう一つおすすめなのが、納豆フライ。めっちゃうまい。「よ市」から帰ってきて、すぐご飯にしたい!っていうときに、ちょっとあっためたらすぐ食べられるから重宝するの。お酒にも合うよ。
スガワラ)こんな土曜日の夕ご飯。幸せ。ちょっとずつ美味しいものが並んで、みんなでおしゃべりしながら。
玲奈さん)そうそう、つくる方もゆるゆるーっと。晩酌もスタートしながら、ね。
アベ)玲奈さんがつくってくれたお料理みてると、盛岡で食べる日々のごはんっていいなあって思う。
玲奈さん)わたしも神戸から引越してきてすぐはびっくりしたよ。産直もいっぱいあるし生産者さんとの距離が近いから、朝に畑で収穫した野菜が夕ご飯には食卓に、っていうことも日常。四季がはっきりしてるから、冬の寒さは堪えるけどね(笑)
でも冬が寒いからこそ保存食をつくる文化があったり、食卓も季節ごとにがらりと並ぶ食材が変わって、旬、っていうのを感じられるよね。
旅行の人も住んでいる人も。毎週土曜は、美味しく楽しく私たちの土曜日のお楽しみ、「材木町よ市」。いかがでしたか?
期間限定の出店者さんも多く、毎週行っても新しい発見がたくさんあるのです。お酒好きな方は、北上川沿いの木伏緑地や、ノスタルジックな雰囲気の桜山界隈までお散歩して、ゆっくりと飲み直すのもいいですね◎
材木町商店街は「いーはとーぶアベニュー」とも呼ばれており、大きな宮沢賢治の像のほかにも、賢治にちなんだモニュメントが点在しているんです。石座(いしざ)、音座(おんざ)、星座(ほしざ)、絹座(きぬざ)、花座(はなざ)、詩座(うたざ)。探しながら歩いたあとは、注文の多い料理店の出版元「光源社」へ。宮沢賢治の世界に思いを馳せる”みちくさ”もおすすめですよ!
写真・テキスト/菅原茉莉
イラスト/阿部夏希
デザイン/伊瀬谷美貴
●関連サイト
材木町よ市
※2023年は11月25日が最終開催
「アーバンファーミング」という言葉をご存じでしょうか。一般的には、農地ではなく、都市の空きスペースを利用して行う都市型農業を指し、SDGsの観点やコミュニティ創出の場として、世界的に注目されています。ここ数年、東京都内に鑑賞用のグリーン(植物)だけでなく、ビルの屋上や駅構内などのちょっとしたスペースで小さな畑を見かけるようになっています。その背景では、何が起きているのでしょうか?2023年5月に事例をまとめた書籍も発売されました。「Tokyo Urban Farming」の発起人で書籍を監修した近藤ヒデノリさんに、最新事情やその魅力を教えてもらいました。
都市で農的に暮らす「Urban Farming Life」とは武蔵野大学有明キャンパスの屋上菜園(画像提供/Tokyo Urban Farming)
最近、都内では、さまざまな場所にコミュニティファームができ、 “農”的体験ができるイベントが開催されています。駅で野菜苗が無料配布されていたり、渋谷や新宿の街中で野菜を育てる小さなファームを目にしたことがあるかもしれません。「Tokyoを食べられる森にしよう!」をテーマに掲げた「Tokyo Urban Farming」は、2021年4月に開設されたオープンプラットフォームで、アーバンファーミングをもっと楽しく、美しく、あたりまえにすることをミッションに、コミュニティファームの設置やイベントの実施、情報発信を通じて都市の再生型ライフスタイルの普及を目指しています。
5月に発売された新刊『Urban Farming Life』を読むと、ビルの谷間で野菜を収穫し、土に触れる人たちの姿が。子どもも大人もとっても楽しそう!
新宿駅東口前にあるSinjuku Farmと運営するJR新宿駅の駅員さん(画像提供/Tokyo Urban Farming)
金融の街、茅場町のEdible Kayabaenは、子どもたちの食育の場に(画像提供/Tokyo Urban Farming)
世田谷区が所有する遊休地を活かしたタマリバタケ(画像提供/Tokyo Urban Farming)
「駅前に畑があったり、オフィスビルの屋上に大きな農園ができたり、少し前だったら想像もしなかった風景が東京に広がっています。田舎では昔から当たり前だったことが都会に入ってきて、ウェルビーイングにつながるものとして定着し始めているのです」(近藤さん)
2023年5月に発売された「Urban Farming Life」(画像提供/Tokyo Urban Farming)
東京23区内12の事例とキーパーソン、アーバンファーミングの文化や方法をまとめた1冊(画像提供/Tokyo Urban Farming)
『Urban Farming Life』の冒頭では、アーバンファーミングを、「農家による野菜生産や販売を目的とした農業ではなく、誰もが自宅や市民農園、コミュニティファーム等で仲間と野菜を育てたり、食べたり、学んだりできる農的ライフスタイル」と定義しています。食べ物を共に育てることを通じて都会の人と人、自然をつなぐほか、生ごみをコンポストで堆肥にするなどと都市を再生する役割も。アーバンファーミングの社会的メリットとして以下が挙げられています。
都市に住む人に農的体験の場を提供気候危機を解決していくための意識変革持続可能な街づくり(コミュニティ・防災や治安の向上)地産地消やフードロス解消アーバンファーミング 6つの役割(画像提供/Tokyo Urban Farming)
住宅街の中にある「たもんじ交流農園」は、地域のコミュニティの場(画像提供/Tokyo Urban Farming)
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さまざまなイベントは、近藤さん自らプロデュースするだけでなく交渉、広報、SNSなどほぼすべてを行っています。広告を手掛ける博報堂が、アーバンファーミングのオープンプラットフォームを自ら立ち上げ、イベントを運営しているのは意外な気もしますが、きっかけを教えてください。
「博報堂には、創造性を研究しているUNIVERSITY of CREATIVITY(以下UoC)という機関があります。僕はサステナブル領域のディレクターをしていますが、UoCが立ち上がったのは、ちょうどコロナの時期。地球環境や社会の状況、都市の課題を調べたり、有識者などとトークセッションをする中で見えてきたのが、アーバンファーミングという再生型のライフスタイルだったんです」
近藤さんは、自宅を「地域共生のいえ」KYODO HOUSEとしてアーバンファーミングや様々な文化活動を実践している(画像提供/Tokyo Urban Farming)
コロナ禍やそれにより普及が進んだリモートワークの影響で、屋外の庭や貸農園で野菜を育てる需要が世界的に高まっていました。近藤さんが感銘を受けたのは、ニューヨークにあるブルックリン・グランジという世界最大の屋上農園。国際展示場の2つの屋上に、サッカー場が2つ入るくらいの広さの農場が広がっています。
「ブルックリンに住んでいたことがあるので、あそこに素敵な農園ができたんだ!と驚きました。もともとドイツにはクラインガルテンという都市型農園がありますし、イギリスのロンドンでも次々と創設されていました。日本でも広がりつつあったので、これから来るんじゃないかと。日本では草の根的な個別の活動が多かったので、博報堂が企業や行政を繋いで大きなうねりにできないかなと思って始めたのがきっかけです」
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緑豊かな「のはら」。管理するのは、地元の参加者で構成されたシモキタ園藝部の部員たち(画像提供/Tokyo Urban Farming)
「Urban Farming Life」では、行政や企業、大学などが主体となったモデルケースとなる事例がピックアップされています。例えば、小田急線の地下化に伴い空いた敷地を活用した広場「のはら」は、下北沢の駅前に広がる里山の野原のような畑です。レモングラスなどのハーブ類やズッキーニなどの野菜を栽培し、養蜂も行っています。千代田区大手町一丁目にある大手町ビルの屋上にも農園ができました。2022年5月に開設されたThe Edible Park OTEMACHI by growです。巨大ビルの屋上にプランターが並び、ビルの就業者や近隣の人で野菜を育てています。オフィス街で、ウィークデーに土に触れて自然を体感できる場所があるなんて今までは考えられなかったことです。
オフィスビルの屋上にコンテナを並べたThe Edible Park OTEMACHI by grow。木製の棚には植物の種や書籍が並ぶ(画像提供/Tokyo Urban Farming)
区民農園の隣にある家族向けシェアハウス「青豆ハウス」。地域の人を招いたお祭りも催される(画像提供/Tokyo Urban Farming)
近藤さんが監修する際、意識したのは、今までバラバラに存在していた活動をまとめることで、アーバンファーミングの役割や価値、その魅力を広く伝えることでした。
「取材を進める中で、同じような思いを持っている人が増えていると実感しました。たくさんの仲間に出会えてさらにアーバンファーミングの可能性を感じたし、東京だけでなく、都市とそのライフスタイルを再生型に変えていくバイブルにできればと考えてつくりました。集合住宅での始め方も掲載しているので興味を持った人が真似できるネタ本として使ってもらえたら嬉しいです」
左は、渋谷に4つのコミュニティファームを持つNPOの代表理事小倉崇さん。右は、The Edible Park OTEMACHI by growを運営する三菱地所の担当者。さまざまな人たちがアーバンファーミングで繋がっていく(画像提供/Tokyo Urban Farming)
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「Tokyo Urban Farming」のプラットフォームや書籍のデザインは、スタイリッシュで、今までの牧歌的な“農”のイメージとは異なる印象を受けます。
「もちろん、牧歌的な農的表現も素敵だし、美しいと思うんですけど、それだと都会の人たちは、距離を感じちゃうかもしれない。ぼくらは、農家ではないし、農業の専門家でもないから、いかに創造性で農的文化をわくわくさせるものにできるかを意識しています」
「Tokyo Urban Farming」のプラットフォーム(画像提供/Tokyo Urban Farming)
UoCでは単管パイプとLED照明を用いて陽のあたらない屋内空間でも野菜やハーブを栽培できるMicro Farmを実験している(画像提供/Tokyo Urban Farming)
近藤さんがキーワードに掲げているのは、「粋」という江戸時代の美意識です。
「江戸の人は、粋か野暮かを判断基準にしていたそうです。それを現代の東京でアップデートできないかなと。例えば、ゴミを分別しないのは間違っている! と言われるより、ゴミをちゃんと捨てないのは野暮だよねと言われた方が響くような。そうした現代における粋な美意識を育てていけたらなと思っているんです」
「都市の食と農の未来」をテーマに東京駅でフェス「TOKYO ART FARM」を開催「Tokyo Urban Farming」は、東京の地場に発する国際芸術祭「東京ビエンナーレ2023|に「TOKYO ART FARM」という名の祭典を企画・プロデュースするなどアートシーンにも活動の場を広げています。
(画像提供/Tokyo Urban Farming)
不要なスーツケースを活用したMOBILE FARMワークショップも開催(画像提供/Tokyo Urban Farming)
「テーマは、都市の食と農の未来。野菜を通じたアートの力で人工的な東京駅を、繋がりを生み出す場に変えようと。不要なスーツケースを活用したMOBILE FARMであったり、首都圏の水源の森の間伐材で、東京駅グランルーフ2Fに長さ22mのLONG TABLEを制作したり。11月の3、4日には、そこで、食べられるアート体験を行いました。現代美食家のソウダルアさんのイベントで、22mのテーブルに白い紙をブワーッとひいて、その上に東京野菜から作ったソースや料理が広がる。東京のど真ん中で、そんな50人以上での特別な食のアート体験を2回開催しました」
10月8日には、アーティストの諏訪綾子(food creation主宰)さんなどによるイベントやマルシェ・ワークショップ・トークが夜更けまで行われた(画像提供/Tokyo Urban Farming)
アーティストの岩切章悟と大丸東京店VMDチームの協働で古着やプラスチックハンガーなどの廃棄物を活用して制作されたKAKASHI ART(画像提供/Tokyo Urban Farming)
TODOが廃棄野菜を漉き込んだ和紙によるポップアップ茶室でアートユニット花信風が「再生」をテーマにもてなす「東京野菜茶会」も開催(画像提供/Tokyo Urban Farming)
アーティストの山本愛子さんがN高生と共に野菜から染めてつくった人と自然の共生社会を象徴する旗(画像提供/Tokyo Urban Farming)
「展覧会のフィナーレとなる11月5日には、15人のダンサーがテーブルの上で躍りました。野菜に扮装したり、キャベツに電極をつないで楽器にしたり、駅という移動の場が、東京の食と農の未来を感じる体験に変わる特別な日になりました」
アーバンファーミングの先にあるポジティブな未来近藤さんは、自らアーバンファーミングを実践し、活動を続ける中で、「未来をポジティブに捉えられるようになった」といいます。
「物価上昇や、異常気象など明るいニュースがあまりない中で、人生100年時代と言われても、先行きが不安になりますよね。環境問題を身近に感じて、何かしたいと思っても、何をしたらいいかわからない。そんな人が多いのではないでしょうか。活動を通じてたくさんの人に会いましたが、皆、希望的な未来を見ていました。やれることをやらないで未来に臨んでいくと、人生後悔しそうだし、自分に嘘つくことになると思うんです。何もしないでいるよりもやれることをやろうと。そういう風に始める人たちが着実に増えています。アーバンファーミングに関わるとマインドがすごくヘルシーで気持ち良くなります。環境にも良いし、いろんな友達ができるし、幸せへの道なのかなと思います」
活動を通じて消費者から生産者へ(画像提供/Tokyo Urban Farming)
「The Edible Park OTEMACHI by grow」で開催された「Night Farm」の参加者。DJ HIROの音楽とともに、収穫した野菜を素揚げにして食べたり、ハーブを使ったカクテルが提供された(画像提供/Tokyo Urban Farming)
最後に、「Tokyo Urban Farming」の活動をはじめて2年。今、近藤さんが思う「アーバンファーミング」とは?
「自然農法家の川口由一さんの著書の中に、『命の道・人の道・わが道』という言葉があります。別の言い方をすると、環境問題、人間社会、自分の生き方なんですよね。それらが重なっていくのが、アーバンファーミングだと感じています。もちろん、さまざまな課題を解決するすべての答えがアーバンファーミングにあるかといえば、そんなわけでもないし、そう言うと逆に嘘くさいと思いますが、誰でも入りやすいし、意識を変えるきっかけとしては、すごくいいなと思っています」
2050年までには人類の80%が都市に住むといわれています。大量のゴミを排出する消費型の都市から循環型の都市へ転換するためにも、アーバンファーミングの果たす役割は大きいと感じました。スーパーに並んでいるものを買うのではなく、自分で育てて、収穫し、いただく。命の根源ともなる体験は、社会的メリット以上に人生で大切なものを教えてくれそうです。
●取材協力
株式会社博報堂
「UNIVERSITY of CREATIVITY」サステナビリティフィールドディレクター
近藤ヒデノリさん
「
UXデザイナーのMさんと夫のRさん。今年から、東京郊外のマンションをリノベーションした新居で暮らし始めました。ユニークなのは、二人の家づくりのアプローチ。夫妻が望む暮らしを住まいに落とし込むための「要求定義」からスタートしたのだとか。
仕事では、ユーザーにとって嬉しい体験を実現するためにどんなシステムが必要なのかを考えていく役割のMさん。IT業界では欠かせない工程である要求定義ですが、理想の住まいを実現するために、どんなプロセスでそれをまとめ、家づくりに活かしていったのでしょうか? 夫妻の要望を受け取り、設計を行った建築家の伯耆原洋太さんを交え、Mさん夫妻にお話を伺いました。
暮らしに最適化した住まいをつくるデザインエージェンシーに勤め、システム開発に携わるUXデザイナーのMさん。夫は建築ライター・編集者のRさん。夫妻は結婚6年目となる今年、東京の郊外に住宅を購入しました。
駅近に立つ、築40年ほどのマンション。80平米の一室をリノベーションし、二人の生活スタイルや望む暮らしに最適化した空間をつくりあげています。
家の間取図。築年数が経過していたものの新耐震基準に適合する耐震補強工事がなされ、管理状態も良好。広さと眺望の良さにも惹かれたそう(写真撮影/嶋崎征弘)
それまで暮らしていた賃貸マンションでは家事の動線や収納、機能面などで不満を感じる点が多かったといいます。家を買うからには、そうしたストレスの種は全て取り除きたい。「中古マンションリノベ」を選んだのも、二人の生活にフィットする間取りや機能を実現するためでした。
Mさん「まずは、複数のリノベーション専門会社に話を聞きに行きました。でも、こちらで設計担当者を選べなかったり、打ち合わせの回数が決められていたり、使える建材が少なかったりと、思った以上に制約が多くて。特に、設計担当者がどなたになるのか分からないのは不安でした。だったらリノベ会社を介さず、自分たちで見つけた建築家さんに直接お願いしようかと」
二人はまず、Instagramで「建築家」「リノベーション」などのハッシュタグで検索し、さまざまな建築家の作例をチェックしました。気になる人がいれば、noteやブログ、インタビューでの発言までも追い、家づくりに対する姿勢や考え方を含めて吟味。そこまで徹底的にリサーチを重ねたのは、こんな理由からでした。
Rさん「僕は建築ライターという仕事柄もあって、建築家をリスペクトしています。国内外の建築物を見て回るのも好きで、建築を文化として楽しんでいます。しかし、そうした建物に自分が住むとなると、まるでイメージが湧かなくて。
建築家が手掛ける家はその人の『作品』としての側面があるので、ある種の自己表現が入ります。建築家が表現したいことと僕らが求めていることが、本当に合致するのかという心配はありましたね。妻は妻でこだわりが強いタイプなので、こちら側の思いや要望をちゃんと汲み取ってくれる建築家じゃないと、きっと衝突してしまうだろうなと。だから、素敵な空間をつくれることと同じくらい、住まいに対する考え方が合う建築家さんにお願いしたいと思いました」
リビングの壁一面に設置した本棚。「本屋を歩いているような気分」で、気軽に本を手に取れるようになっている。一方、エアコンやテレビの配線、レコーダーなどは吊り戸棚の中へ収納。「見せるもの」と「隠すもの」をしっかり分けている(写真撮影/嶋崎征弘)
検討に次ぐ検討の末にたどり着いたのが、建築家の伯耆原洋太氏。伯耆原氏は自らリノベーションした自邸に住み、noteなどで住まいと暮らしの関係性や、必要な機能などについて発信していました。生活者の視点に立った住まいづくりの感覚を持っていることが、依頼の決め手になったといいます。
Rさん「伯耆原さんはnoteで『一つ目の自邸が生活の変化に対応しきれなくなった点』や『その経験を次にどう活かしたか』といったことも率直に書かれていました。建築家として表現したいことがありながらも、暮らす人の声にもしっかり耳を傾けてくれる人なんだろうなと。妻にも『この人、どうかな』と提案して、ぜひ相談してみようということになりました」
設計を担当した伯耆原洋太さん。2022年、自ら設計した自邸がリノベーションオブザイヤー最優秀賞に輝く。2023年、大手ゼネコンから独立し、一級建築士事務所「HAMS and,Studio株式会社」を設立(写真撮影/嶋崎征弘)
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「付加価値リノベ」という戦略。建築家が自邸を入魂リノベ、資産価値アップで売却益も
リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022に見るリノベ最前線。実家を2階建てから平屋へダウンサイジングや駅前の再編集など
玄関を入ってすぐのところにある「セカンドリビング」。今後の生活スタイルの変化に合わせて活用できるよう、あえて使用目的を限定せず、空間に余白を持たせるスペースとして設けた(写真撮影/嶋崎征弘)
トイレの前の壁には絵を飾る想定で、3D図面の段階から配置をシミュレーション。現在はMさんの祖母が描いた絵が掛けられていて、トイレに行くたびに眺めているという(写真撮影/嶋崎征弘)
洗面所(写真撮影/嶋崎征弘)
キッチン。もともと持っていた家電や一般的な家電のサイズを考慮し、各アイテムがぴったり収まるように計算して棚を設計(写真撮影/嶋崎征弘)
住まいへの指針や要望を明確化伯耆原さんに設計を依頼するにあたり、はじめに妻のMさんが着手したのは住まいに対する「要求定義」。要求定義とはシステム開発プロジェクトにおいて、システムを通して何を実現したいのかを分かりやすくまとめていくステップ。プロジェクトの目的を明確に定義することで、手戻りや取りこぼしを防ぐことにもつながります。それはUXデザイナーのMさんが普段、仕事で当たり前にやっていることでもありました。
要求定義にあたっては、まずユーザーのことを徹底的に知る必要があります。家づくりの場合、ユーザーはそこに暮らす人、つまりMさん夫妻です。そのため、Mさんはまず自分たち自身を「リサーチ」し、夫妻が住まいに対して不満に感じていること、建築家にお願いしたいことなどをまとめていきました。
住まいへの要求をまとめた資料の一部(画像提供/Mさん)
住まいへの要求をまとめた資料の一部(画像提供/Mさん)
Mさん「UXデザインでは人間中心設計、つまりユーザーを中心に置く考え方が根付いています。私が仕事でつくっているシステムのように何千人、何万人が使うものであっても、できるだけ多くの人に話を聞くなどしてリサーチを重ね、ユーザーが使いやすいよう設計していくのが当たり前なんです。
家だって本来はそうあるべきですが、多くの分譲マンションはどちらかというと『限られた敷地をいかに効率よく使って建てるか』が優先されて、暮らす人目線の間取りになっていないような気がします。だから、設計は『私たちのことをできるだけ知ろうとしてくださる方』にお願いしたいと思いました。
その点、伯耆原さんは私たちが前に住んでいた家にも来てくださって、暮らし方をインプットするところから始めてくれたので、とても信頼できる方だなと。こちらとしても、なるべく詳細に私たちの状況をお伝えしようと思い、住まいに求める要望をまとめた資料を共有することにしたんです」
資料には基本方針や自分たちの暮らしについてなるべく具体的に、細部にわたるまで書き出しました。さらには「収納するもの・置くもの」を全て洗い出し、現状の収納状況やモノの量が分かるよう各所の写真も添付。これをたたき台に、伯耆原さんと打ち合わせを重ねたそうです。
かさばるアウターや靴、傘など、外出時に必要なものが過不足なく収まる玄関収納(写真撮影/嶋崎征弘)
(写真撮影/嶋崎征弘)
リモートワーク時に集中できるよう、夫妻それぞれの書斎も(写真撮影/嶋崎征弘)
(写真撮影/嶋崎征弘)
プロの仕事を信頼し、任せる部分は任せるただ、建築家によっては、こうしたやり方を好まないケースがあるかもしれません。当の伯耆原さんは、このような家づくりをどう感じていたのでしょうか?
伯耆原さん「特にやりづらさは感じませんでした。家づくりに対してここまで強いエネルギーを持ってくれているのは設計する側としても有り難いですし、むしろやりやすかったですね。先ほどRさんがおっしゃっていたような建築家の表現が先行してしまう家って、結局は施主さんとのコミュニケーション不足が原因だと思うんです。施主さん側も『相手はプロだから大丈夫だろう』『実績のある建築家だから口出ししづらいな』と、ちゃんと要求を伝えていないケースもあるのではないかと。結果的に、実際に暮らし始めてから不満が出てきてしまう。Mさん、Rさんくらいやりたいことを明確にしてくれると、そうした心配もなくなりますしね」
施主側の積極的な介入を歓迎する一方で「時には、建築家視点の意見やアドバイスを受け入れてもらう姿勢も必要です」と伯耆原さん。間取りから刷新できるリノベーションとはいえ、建物の構造上できないこと、専門家の目から見てオススメできないこともあります。それをゴリ押しされると、かえって使いづらく、ストレスを感じる家になってしまいかねません。
伯耆原「お二人は家づくりに対して強いこだわりがありましたが、同時に建築やデザインに対するリスペクトもお持ちでした。こちらの意見にも耳を傾けてくれるスタンスだったので、僕のほうも単に要望をそのまま聞き入れるのではなく、思うことはしっかり伝えるようにしていました」
Mさん「わたしたちの考えていることをまとめた資料はつくりましたが、私たちとしてもこれを建築家さんに押し付けたいわけではないんです。あくまで『我々としては、いったんこう考えています』というたたき台のようなものであって、これをもとにディスカッションしながら、最終的に良い家になればいいなと考えていました。
そもそも、家づくりの素人である私たちがあまりにガチガチな要求をしてしまったら、伯耆原さんもやりづらいだろうなと。私も普段はクライアントワークをしている側なので、お互いにとって心地よい進め方をしたいという思いはありました。」
全体的な内装デザインは夫妻が好きな映画『グランド・ブダペスト・ホテル』の世界観をイメージ。伯耆原さんにデザインイメージを伝える「ムードボード」を共有し、認識のズレを防いだ(写真撮影/嶋崎征弘)
さらに、もう一つMさんが伯耆原さんとのコミュニケーションで気をつけていたことがあります。それは、施主として伝えるのは「目的」だけ。それを叶えるための「手段」については、プロにお任せするというものです。
Mさん「たとえば『掃除がしやすい家にしたい』という目的と、『床はロボット掃除機+フローリングワイパー程度で掃除できるようにしたい』という最低限の希望だけはお伝えします。でも、具体的なやり方は、基本的に伯耆原さんに考えてもらいました。当たり前ですが、そこはプロのほうがたくさんの引き出しをお持ちですから。それに、伯耆原さんなら細かい部分にも気を配って、私たちの想像を超える提案をしてくれるだろうという安心感もありました」
リビングに面した夫妻の寝室。当初は戸を設ける計画だったが、リビングの広さ感と採光を確保するため伯耆原さんからカーテンで仕切ることを提案。プラン変更にあたっても、密にコミュニケーションをとり、全員が納得する線を探っていった(写真撮影/嶋崎征弘)
住まいへの要求をあらかじめ整理することで、迷いや後悔がなくなった家づくりに際し「要求定義」を行うことは、施主側、建築家側にとってどんなメリットがあるのでしょうか? 改めて、双方に伺いました。
伯耆原さん「僕は、今回の家づくりにおける辞書のように捉えています。Mさんがつくってくれた資料は単なる要望リストではなく、ご夫婦の思想や大切にしたいことなどが詰まっていました。設計で悩んだり、建物の構造の問題で要件書の通りにできない箇所があったりした時も、その辞書を引くことで『二人が本当にやりたいこと』を起点に別の手段を考えることができたと思います」
Mさん「住まいに求めることを明確にするためには、『自分たちがしたい暮らし』を見つめ直す必要があります。洗濯をした後に、洋服をどこにどう収納するのか。夏の間に冬用の布団はどこにしまっておくのか。そうした細かい暮らしのシーンを含めて、頭の中で何度もシミュレーションしたんです。『これなら大丈夫』と思えるところまで、徹底的に突き詰めたうえでスタートしているので、迷いや後悔が全くなくて。
逆に理想の暮らしを考えないまま進めていたら、『これでいいのかな?』という思いを抱えたまま何となく完成してしまって、住み始めてからもモヤモヤしていたと思います。正直大変でしたけど、やってよかったですね」
人が家に合わせるのではなく、住む人の暮らしに合わせて家をつくる。そのためには施主を含めた家づくりに関わる全員が、同じゴールや具体像を共有する必要があります。
住まいに対する自分たちの要求を整理することから始める最大のメリットは、最初に施主と建築家の目線を合わせられるだけでなく、度重なる打ち合わせの過程でズレてしまいがちなイメージをその都度すり合わせ、最初から最後までブレのない家づくりが叶う点ではないでしょうか。Mさんたちのような資料をつくるとまではいかなくても、専門家相手でも遠慮せず、自分たちの意志や希望を明確に伝えること。それが後悔のない家づくりの第一歩といえそうです。
●取材協力
Mさん・Rさん夫妻
建築家・伯耆原洋太さん(一級建築士事務所HAMS and, Studio株式会社)
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2013年、時代に先駆け“入居者が好みに合わせて自由にフルカスタマイズ可能な賃貸”で話題を集めてきた福岡県福岡市の「吉浦ビル」。およそ10年の時を経て、どんな変化を果たしているのか! 熊本大学で建築を学ぶ学生たちがリノベーションを学ぶために視察に訪れると聞きつけ、同行させてもらうことに。まるでニューヨークのアーティスティックな住まいのようなカスタム事例との出合い、さらには空間だけに留まらない街や時代に深く斬り込む活動の数々。10年の着実な進化を目の当たりにする時間となった。
始まりは祖父の経営していた老朽化した賃貸ビルを引き継いだことリノベーションや不動産に見識のある人たちの間では、全国区でその名を知られる吉浦ビル。その歴史は、中心人物となる吉浦隆紀氏が祖父から老朽化した賃貸ビルを引き継いだことに端を発している。空室率20%、高齢化率40%、滞納金1,000万円以上、最寄りの駅からも40分程度。そんなビルの実情を表す数字を目の前に突きつけられて、正直最初は「モチベーションも0%」だったという吉浦氏。
学生を前に丁寧な案内でひと部屋ずつを案内するオーナー兼社長の吉浦隆紀氏(写真撮影/アポロデザイン)
しかし、直前に留学していたニューヨークでの経験をもとに、「100年を超える建物でも、決してアクセスのよくない物件でも、ニューヨークなら世界中から人が集まり、高い賃貸でも暮らしている」と思い立ち発想を転換。リノベーションという付加価値をつけることで、魅力あふれる賃貸にできないか、と思い至ったそうだ。早速、空き家だった部屋を程よくリノベーションして貸し出すことにするが、実は、このリノベではなかなか入居に至らなかった。そこで、さらに一歩踏み込んで始めてみたのがスケルトン、つまりゼロの状態から入居者の好みにあわせてフルリノベーション可能な賃貸として貸し出すという大胆な施策だ。するとクリエイティブな人たちからの問い合わせが続々と入り始める。
仕組みとしては、オーナー側である吉浦ビルが3年分の家賃程度をリノベーション費として補助。例えば、家賃6万円のお部屋であれば、総額230万円程度の補助額が出るというわけだ。賃貸する側は、補助額内でリノベーションをすることもできるし、もっと手をかけたければそれ以上のお金をかける人たちもいる。貸す側、借りる側でWin-Winの関係が築かれてきた。
視察に訪れた熊本大学の学生たちと吉浦ビルの関係者。写真奥左から管理部の森山幸久さん、真ん中が吉浦隆紀さん、右が森田英介さん(写真撮影/アポロデザイン)
ただのリノベじゃない!賃貸の概念が覆される個性派すぎる空間大学生の訪問に併せてこの日は、入居者が暮らす3部屋と1階のテナントが視察を受け入れてくれるという。その入居者さんとの関係の近さにも驚きだったが、扉を開く度に広がる部屋のリノベーションのカスタム具合はさらに衝撃的。
ひと部屋目は、東京在中の映像クリエイターがカスタマイズしたという80年代を彷彿とさせるスペーシーな空間。吉浦ビルの周辺は時に畑も広がっているのどかな地域だが、この部屋はクラブのようでもあり、未来空間のようでもあり樋井川沿いとは思えない尖り具合。部屋の一角には、防音室まで整備されている。
映像クリエイターが手掛けたという80年代の宇宙映画を彷彿とさせる空間。本格的な防音室もあっていろんな楽しみ方ができそう(写真撮影/アポロデザイン)
別のもうひと部屋は、フードコーディネーターが自身の仕事場としてちょっとしたキッチンスタジオ風に改装した空間。入居者は結婚後に海外移住したそうだが、今も手放すことなくレンタルスタジオとして遠隔で活用中だそう。空間だけじゃなく、使い方のカスタマイズもされている。
レンタルスタジオとしても機能している部屋。撮影時に使いやすいようカスタマイズした工夫が随所に(写真撮影/アポロデザイン)
3つめの部屋は、ファッションデザイナーがその拠点とする空間。創作活動だけでなく、お客も訪れるというアトリエ空間は、海外などで仕入れてきたというヴィンテージの什器などが壁一面に自由に取り付けされている。
入居したてのファッションデザイナーのお部屋。音や振動のあるプロ用ミシンを気にせずに使えるのも決め手になったそう(写真撮影/アポロデザイン)
ほかにはこんな部屋も(写真提供/樋井川テラス)
(写真提供/樋井川テラス)
この部屋は、室内に庭をつくっているそう!(写真提供/樋井川テラス)
自然と生まれるコミュニティが空室の心配も解消建物の1階には住人はもちろん、一般のDIY愛好者もレンタル可能なDIY工房Tekuがある。ここを拠点に家具製作を行っている藤田元輝さんは、カスタム賃貸の吉浦ビルが始まった初期からの入居者だ。住人が自身でDIYをする時に工房を利用するようなときは、相談にのることもあるそう。そもそもマンションのリノベーションとなると、騒音問題が発生しがちだが、吉浦ビルではそうした騒音などにみんなが寛容。むしろ、リノベの相談を通して、自然とコミュニティが広がっているのも大きな魅力のひとつ。BBQなど遊びの時間を共有することもあれば、クリエイティブな住人が多いこともあって、お互いの製作に関するコラボ企画などが進むケースもあるそうだ。
住宅街の1階とは思えないいろんな機材がそろった工房。写真奥左が藤田元輝さん。この工房からオリジナル家具の製作・販売を行っている(写真撮影/アポロデザイン)
住人のほとんどが自分の一部のように部屋を気に入っているので、長く住み続けるケースが多いそう。そんなわけで、退去の理由として最も多いのが“寿退去”。どうしても家族が増えて狭くなるから、愛着はあるけれど仕方なく退去するケースが多い。ただ、いわゆる不動産ポータルサイトで募集をかけなくても、空室がでるとすぐに入居者の口コミや、噂を聞きつけた人からの入居希望の問い合わせが入るので、空室率に悩むことはほぼないそう。住民同士はもちろん、吉浦ビルファンによるコミュニティが、この10年で着実に形成されているのが感じられる。
賃貸住宅の経験をもとに、街へ飛び出すカスタム精神カスタム賃貸や住人同士のコミュニティづくりの成功をもとに、吉浦さんが街の交流を生み出すべく2016年にスタートしたのが「樋井川テラス」の取り組み。商店街の活性化を目指し、樋井川沿いの空き家をリノベーションして“民間の公民館”のような拠点をつくろうというプロジェクトだ。“民間の公民館”は、「カフェや小商いをやってみたい!」という人たちが、安価に場所を借りてチャレンジできる場所になる。
商店街から抜けた住宅街の入り口、樋井川沿いすぐに立つ樋井川テラス(写真提供/樋井川テラス)
この場をつくるにあたってこだわったのは、「いきなり投資をしすぎずに小さく始めること」、その上で「ニーズをつかんで寄り添っていくこと」のふたつ。吉浦ビルの賃貸での、「最初からつくり込みすぎるより、カスタマイズを重ねてだんだんとよくしていく」経験がここに活きている。
スタートは小さく始めたが今はスペースも活動も着々と広がっている(写真提供/樋井川テラス)
(写真提供/樋井川テラス)
最初はパラパラだった利用も、今では月に数度のマルシェが定期的に開催されている。特にコロナ禍での需要が高まったそうだが、あえて都会に出るのではなく、地域に根付いたこうした場所が注目されたようだ。
幅広い世代の交流があるのも樋井川テラスの魅力(写真提供/樋井川テラス)
また、樋井川テラスの建物の一角には、オープンデッキのカフェスペースがあるが、実はこれは都市型河川の減災システムの役割も兼ねている。九州大学との研究室のコラボで実現したデッキ部分には、昨今の集中豪雨の際に土壌へ雨水が浸透しやすい素材を使うことで、河川への急な雨水の流入を防ぐ仕組みを兼ねている。その他にも、雨水の流失を抑制する「雨水タンク」を設置し、雨水を活用した「雨庭」も備えられている。九州大学からの話を受けクラウドファンディングによって完成したスペースだが、晴れた日は絶好の休憩スペースとして地域住民に愛されている。7年目を迎え、地域の子どもから、高齢者、そして地域外の人たちも呼び込む、多世代の交流の場として着実に育ってきている。
デッキ部分の下にもしもの災害に備えた機能(写真提供/樋井川テラス)
雨水タンクも各所に置かれている(写真提供/樋井川テラス)
今や日本は空き家大国。人口減少の時代、そう遠くない未来に、3件に1件は空き家の時代がやってくるとも言われている。そんな空き家問題に窮する人たちが、吉浦さんの活躍を聞きつけて相談に来ることも多いそう。
空き家をマイナスと捉えてしまうのではなく、この課題に楽しく取り組めないかーー。吉浦さんは、学生や若い人たちを巻き込んで、吉浦ビルや樋井川周辺だけじゃない空き家活用プロジェクトをいくつか推進している。
福岡市を離れ同県内の大牟田市で進む空き家リノベーション。建築を学ぶ学生たちも多くプロジェクトに参加中(写真提供/吉浦ビル)
プロジェクトに学生インターンとして参加していたうちの一人森田英介さんは、卒業後、そのまま吉浦ビルに就職。若い人が自らの思いでプロジェクトを動かしていってほしいと考えた吉浦さんは、敢えて若干22歳の森田さんを株式会社吉浦ビルのCEOに任命してチャレンジの機会を与えている。
この日も建築を学ぶ学生たちを中心に丁寧な案内をしていたが、学校では学べない日本の建物が抱えるリアルな課題を眼の前にして、若い目はさまざまな思いを抱いていたようだ。建物を育てることから始まり、街へ、そして時代が抱える問題にも向き合っていく。10年を経た吉浦ビルの活動は、これからの時代や地域社会にますます必要とされることになりそうだ。
●取材協力
有限会社吉浦ビル
株式会社樋井川村
遊べるカフェ 樋井川テラス
東京カンテイの調査結果によると、2022年のマンションの年収倍率(全国平均)は、新築マンションで9.66倍、築10年の中古マンションで7.27倍になり、いずれも前年度より0.73拡大したという。気になるのは首都圏、特に東京都だ。マンションはどこまで遠くに行くのだろう?
新築マンションで13、中古マンションで5の都道府県で年収倍率が10倍超えに東京カンテイが算出した都道府県別の年収倍率は、“マンションの買いやすさ”を検証するためのもの。都道府県ごとに「2022年に分譲された新築マンションの平均価格(70平米換算)」と「2022年における築10年の中古マンションの平均価格(70平米換算)」が、平均年収※の何倍に相当するかを割り出したもの。
※内閣府発表の「県民経済計算」を基に平均年収を予測した数値
新築マンションの年収倍率は、全国平均で9.66倍となり、前年から0.73拡大した。最も倍率が高いのは東京都の14.81倍、次いで京都府の13.66倍、最も低いのは徳島県の7.35倍だった。東京カンテイによると、「全国的に平均年収が低下する中でも圏域を問わず高額な物件の供給が続いている」ことが、背景にあるという。
年収倍率が10倍を超えるのは、北から北海道10.98倍、青森県11.26倍、岩手県10.56倍、埼玉県12.38倍、東京都14.81倍、神奈川県12.42倍、石川県11.14倍、静岡県10.70倍、京都府13.66倍、大阪府12.45倍、奈良県10.52倍、鹿児島県10.13倍、沖縄県11.59倍の13都道府県だった。最も倍率の低い徳島県でも、新築マンションを買うには年収の7.35倍が必要という計算になり、新築マンションの価格は全国的に手が届きにくい状況にある。
一方、築10年の中古マンションの年収倍率は、全国平均で7.27倍となり、前年より0.73拡大した。これにより、2008年の集計開始以来で初の7倍台に達した。最も倍率が高いのは東京都の14.49倍、次いで京都府の11.35倍、最も低いのは富山県の4.31倍だった。東京カンテイによると、「全域的に拡大した首都圏や近畿圏がけん引する形で全国平均はさらに押し上がる結果となった」という。
築10年の中古マンションで年収倍率が10倍を超えるのは、北から埼玉県10.87倍、東京都14.49倍、神奈川県10.43倍、京都府11.35倍、大阪府10.45倍の5都府県。中古マンションといえども、都市部では手が届きにくい状況にある。ただし、年収倍率が5倍台以下になるのは、茨城県5.92倍、群馬県5.68倍、新潟県5.31倍、富山県4.31倍、福井県5.94倍、三重県5.42倍、鳥取県5.25倍、島根県5.57倍、山口県5.07倍、徳島県5.92倍、香川県5.05倍、愛媛県5.52倍、佐賀県5.20倍の13県あり、新築マンションよりも価格的に手が届きやすいことは間違いないだろう。
東京都の年収倍率は、新築マンションも中古マンションも14倍台に新築と中古の年収倍率の開きは、前年も2022年も2.39で変わっていない。全国的に平均年収が前年より下がったのに対して、新築も中古も全国的に価格(70平米換算)が上がったという構図だ。
マンションの最大供給エリアである首都圏に絞って見てみよう。
新築マンションでは、千葉県を除いて1都2県が過去17年間で最高値を記録した。特に埼玉県と神奈川県で、前年より大きく倍率が拡大した。東京都が小幅な拡大だったのは、平均年収が上がっていることも影響している。片や中古マンションでは、首都圏1都3県ともに前年より倍率が拡大した。首都圏全域で中古マンション価格が上昇したということだろう。
特に年収倍率が、新築マンション(14.81倍)と中古マンション(14.49倍)ではほとんど差がない、東京都に注目だ。新築マンションの年収倍率は想定できたが、中古マンションの年収倍率がここまで上がるとは驚きだ。東京都や京都府などでは、マイホームとして買う層だけでなく、投資目的や海外組が買う事例が多いことも影響しているのだろう。
●首都圏の年収倍率
■新築マンション
●首都圏の年収倍率
■中古マンション
年収倍率だけ見ると、一部の地域を除いて、新築も中古もマンション購入のハードルが高くなったという印象を受ける。上記の年収倍率は、世帯年収(2022年首都圏平均495万円)で計算している。
実際にどの程度の年収倍率でマンションを買っているかに関しては、住宅金融支援機構の「2022年度フラット35利用者調査」で見ていこう。長期間固定金利の住宅ローン【フラット35】を利用して住宅を取得した人の世帯年収や年収倍率は、次のようになっている。
●「2022年度フラット35利用者調査」の結果
■新築マンション
■中古マンション(築年限定なし)
年収倍率世帯年収購入価額全国5.9621.5万円3156.9万円首都圏6.3637.8万円3518.0万円近畿圏5.7562.0万円2775.6万円東海圏4.8578.7万円2220.7万円その他地域4.9670.8万円2546.6万円出典:住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」より抜粋して筆者作成実際にマンションを買っている人で見ると、やはり年収倍率は新築マンションで6~7倍、中古マンションで5倍前後と、現実的な範囲で買っている。買った人の世帯年収はそれなりに高いので、世帯年収が500万円を切る世帯では、マンションは遠い存在になっているかもしれない。
さて、“買いやすさ”の指標である年収倍率は上昇が続いている。ここにきて、住宅ローンの長期固定金利が上昇局面に移りつつある。マンションを買おうとしている人には厳しい環境にあるが、こうした時は背伸びをしないで、自分たちの世帯年収に見合う、長期的に無理なく返済できるマンションを探すことをお勧めする。新築マンションやリノベーション済みの中古マンションの性能は、以前より高くなっているという側面もあるので、価格だけでなく、それに見合う住宅性能であるかも見てほしい。
●関連サイト
東京カンテイ「都道府県別 新築・中古マンション価格の年収倍率 2022」
住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」
自分の暮らすまちで「その地域は人が減っているから、あなたの仕事はもう続けていけないよ」と言われたら、いったいどうするだろう。場所を変える、仕事を変える、撤退する……などいろいろ選択肢はあるけれど、地域に訪れる人を増やそうとする人は、そう多くいないのではないだろうかと思う。
長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町は旧千綿(ちわた)村と彼杵町が合併してできた、人口約7700人の町。過疎の進む一方だったこのまちに、近年新しいお店が続々とオープンし、活気を取り戻している。8年間で新しいお店が約25店舗オープン。50人以上が移住し、交流拠点「Sorrisoriso(ソリッソリッソ)」は、年約2万7000人が訪れる場所に。
一体ここで何が起きているのだろう?現地を訪れて話を聞いてきた。
(写真撮影/藤本幸一郎)
「まちづくりの鍵は自営業者にある」東彼杵町は、大村湾を望む山に一面にお茶畑が広がる、海と山に囲まれた美しいまち。長崎から観光スポット、ハウステンボスへ向かう通過点にすぎないと言われてきたこのエリアに、近年、若い人たちが集う小さな店がいくつもできている。
その中心が、元JA(農業協同組合)の米倉庫を改修してできたまちの拠点「Sorrisoriso」だ。
まちの拠点「Sorrisoriso」外観。2013年には解体予定だった建物。今は県の「まちづくり景観資産」に登録されている(写真撮影/藤本幸一郎)
Sorrisorisoの内観。中には珈琲店「ツバメコーヒー」と、お隣に地産品として有名なそのぎ茶の試飲ができる体験型のショップ「くじらの髭」が入っている(写真撮影/藤本幸一郎)
今、Sorrisorisoの周囲にはフレンチレストラン「Little Leo(リトル・レオ)」、アンティークと古着の店「Gonuts(ゴーナッツ)」、障がい者がデザイン製作した雑貨やアート作品を販売する「=VOTE(イコールボート)」などの店ができている。
車で数分圏内には、オーガニック食の「海月(くらげ)食堂」、洋食料理人が作る鶏魚介ラーメン専門店「多々樂tatara(タタラ)」、雑貨屋「きょうりゅうと宇宙」などポップで楽しそうな店が、ここ数年の間に続けてオープン。県内外から若い人や、感度の高いお客さんが訪れるエリアになっている。
各店のオーナーはIターン者や地元の若手、Uターン者とさまざま。
元はコインランドリーだった建物に入る「=VOTE」(写真撮影/藤本幸一郎)
アート作品やプロダクトが並ぶ「=VOTE」の店内。VOTE代表の坂井佳代さん(右)(写真撮影/藤本幸一郎)
とくに大きな資本が入って再開発が行われたわけではない。
Sorrisorisoを運営する、一般社団法人「東彼杵ひとこともの公社」代表理事の森一峻(もり・かずたか)さんは、地域の活動に取り組む中で、あることに気付いたという。
それは、「まちづくりの鍵は自営業者にある」というもの。
「自営業者にとって、まちに活気があるかどうかは自分の店の経営にダイレクトに影響します。だからまちのことも自分ごととして捉えることができる。同じベクトルをもてる自営業者同士がコミュニティをつくれば、まちの活動が盛んになると思ったのです」
森さん自身が旧千綿村に生まれ育ち、5年半ほど県外で働いた後、24歳でUターンして家業のコンビニエンスストアを継いだ地元の自営業者である。
森さんはLINEグループなどを使って、まちの自営業者同士が支え合うゆるやかなコミュニティをつくり、Sorrisorisoを中心に新しい店を増やす取り組みを始めていった。
フレンチレストラン「Little Leo」店内(筆者撮影)
鶏魚介ラーメン専門店「多々樂tatara」の「そのぎ茶つみれラーメン」(写真撮影/藤本幸一郎)
雑貨屋「きょうりゅうと宇宙」、小玉一花さん(筆者撮影)
新しい店を支援する「パッチワークプロジェクト」まずはSorrisorisoで、起業したい人が小さく自営業を始めることのできるしくみ「パッチワークプロジェクト」をスタートさせる。
うまくいくかどうかわからない中で店を構えて商売を始めるのはハードルが高いもの。そこで、まずは試験的にSorrisoriso内のスペースを貸して商いを始めてもらい、お客さんがついたら独立してもらう。開業の養成所のような役割を果たす。
さまざまなカラーの店がSorrisorisoに集い、卒業した後もまちを彩る。その様を布のパッチワークに例えた。
「とくにIターンで外から入ってきた人たちには、新しい土地で商売を始めるのは難しいと思うんです。そこで僕たちが間に入って、このエリアへ出店する場合はすべて無償で移住を含めたサポートをします。空き物件を紹介したり、情報発信をしてお客さんとつないだり。名前やロゴを一緒に考えることもあります」(森さん)
一般社団法人東彼杵ひとこともの公社の代表理事、森さん(写真撮影/藤本幸一郎)
筆者が初めてSorrisorisoを訪れたのは、2018年の夏だった。この時は「Tsubame coffee(ツバメコーヒー)」のほかに、古着やアンティークを置く店「Gonuts」がSorrisorisoで営業していた。その後「Gonuts」は独立して近くに店をオープン。
筆者が訪れる以前に、Sorrisorisoで営業していた「海月(くらげ)食堂」や「千綿食堂」はすでに独立していて、海月食堂は近くの元製麺工場を改装してオーガニックカフェレストランをオープン、千綿食堂は駅で営業していて人気があった。
そんなふうに、パッチワークプロジェクトを通して、新しい店がいくつも東彼杵町にできてきたのである。
勢いのあるエリアだという印象が広まると、佐世保市内で営業していた飲食店が、こちらへ移転してくるなどの動きも起こり始めた。
新しいお店ができる過程が自営業者のコミュニティ内で情報共有され、地元で応援する構図がSorrisorisoを中心にできていった。
例えば、フレンチレストラン「Little Leo」が千綿に移転してきた際には、みなで歓迎し、リノベーションを手伝ったのだそうだ。
フレンチレストラン「Little Leo」のリノベーション前、地域の方々や手伝ってくださる方に森さんやレストランオーナーの宮副(みやぞえ)シェフがSorrisorisoにて説明会および交流会を開催した時の様子(写真提供/くじらの髭)
地域のみなで空き家のリノベーションを手伝った(写真提供/くじらの髭)
「Little Leo」オープン前日のパーティー。お手伝いした人や知人を含め大勢が集まり、翌日からのオープンを祝った(写真提供/くじらの髭)
地元の自営業者たちがサポートしてくれるとなれば、よそから移住してお店を始める人たちにとっても、どれほど心強いか。
「Iターン者の存在は、閉鎖的な町に刺激を与えてくれるなど、まちに新しい風を吹き込む意味で重要です。ただしそれを迎え入れて活躍する場を用意するUターン者や地元の人たちに関心をもってもらうのも大切。自営業者が集って楽しみながらまちの活動も進めていることで、お店だけでなく、ライターやカメラマンなどクリエイティブな仕事をする人たちも集まってきています」(森さん)
さらに地元の人がお店を新しくオープンするなど、相乗効果が生まれていった。
Sorrisorisoの裏手の道には、お店案内の看板も出ている。それほど店がありそうでない場所に店がある(筆者撮影)
閉店勧告を受けた時、後退せずに「攻め」で進んだ森さんがSorrisorisoを立ち上げたきっかけは、実家のコンビニエンスストア(八反田郷店)を父から引き継いだ翌年、本社から受けた勧告だった。2012年のことである。
「このままでは八反田郷店は閉めるか、ほかのエリアに移すしかない、と本社から宣告されたのです。普通なら店を閉じて後退するところなんでしょうけど、父が始めた地元店をなくすことは考えられなかった。借金背負ってでも前進しようと。翌年、八反田郷店をリニューアルした上に、資金繰りのためさらに新しい店舗を隣の川棚町でも始めて、同時にSorrisorisoをつくる動きを始めました」
この時、森さんが痛感したのは、「自分の店だけでなく、エリア全域が活気づかなければ店の継続は難しい」ということ。
コンビニは、地方ではもはやインフラである。宅配やATM、買い物など生活を支える機能は、それはそれでまちにとって大事。
それでも、森さんは、コンビニのもつ限界も同時に感じてきたと話す。デジタルマーケティングによって絞り切った商品のみを投下する、合理性の極みのようなビジネスと、Sorrisorisoで始めた、地域性や文化的な要素を大事にしながら自営業を支援する展開は、まるで方向性がちがう。
「コンビニも大事ですが、それを目指してよそからお客さんが来るというふうにはなりませんから」
地域性や人、文化を大事にする商いは、効率はよくないかもしれないけれど、持続的に地元の人たちに愛され、土地の個性を発揮する武器、キラーコンテンツにもなりえる。地域性のあるお店を大事にすることが、長い目でみれば、地域の大きな価値になる。
森さんのそうした考え方が、Sorrisorisoをはじめとする展開のベースにある。
Sorrisorisoでも、地元のそのぎ茶を試飲できたり、活版印刷機を展示していたり。地域性や文化を前面に打ち出した展開は、その後開発した「くじら焼き」にも広がっていった。
全国茶品評会で連続日本一となった地産品、そのぎ茶を店内で試飲できる。(写真撮影/藤本幸一郎)
森さんには、生まれ育った旧千綿村の原風景がずっと頭にあった。
「昔、千綿の浜はいつも漁師さんたちでにぎわっていました。朝が早いので、昼には漁から戻った人たちが、漁港や浜でわいわい飲んでいて。
僕が8歳の時、浜でゴミを燃やしているところへスプレー缶を投げ入れて、爆発して大やけどしたことがあったんです。この時、浜にいた大人たちがすぐに僕を海に放り込んでくれたおかげで、一命をとりとめました。全身包帯でぐるぐる巻きにされて数カ月入院したのですが、危なかったと言われました。
つまり、浜に人が居たから助かったんです。あの浜の風景が自分にとっては大事。もう当時の方々は亡くなったりしているので、地域に恩送りしたい気持ちが強いんです」
元は浜だった場所が今は小さな魚港になっている(写真撮影/藤本幸一郎)
コロナの状況下で目を向けた、地元の老舗店2015年から2020年の5年間は、外から訪れる人の移住支援や、20~40代など若い人たちの新規起業を中心に、自営業者のコミュニティを育ててきた。だが2020年のコロナ禍によって、事態が変化。
地元に古くからある自営業者を応援しようという動きにシフトする。
森さんたちは、ひとこともの公社で運営する「くじらの髭」というウェブサイトで、地元企業30社近くを取材し、情報発信をしていった。取材の過程で、森さん自身も地元の店のことを改めて知ったのだと話す。
「例えば割烹懐石料理を楽しめる、創業96年の栄喜屋さん。美味しい店だとは思っていましたが、大将が若いころ、京都の老舗で修行されたと取材で初めて知って。鰻の炭火焼きのタレを、創業者でオーナーのおばあさんにあたる“おるい”さんが防空壕にまで持ち込んで守り抜いてきたタレであるってことも知ったんです」
そうした諸々を知って初めて「おるいさんのストーリーをアピールした方がいい」「この写真を活用するといいのでは」といったアドバイスをするような関係に。
創業96年の栄喜屋の歴史を感じさせる写真。創業者は、大将の祖母にあたる方で、森ルイさん、通称「おるい」さん(写真提供/くじらの髭)
もう一つ例を挙げると、同じく旅館兼老舗の料亭「若松屋」さん。コロナ禍でくじらカツ弁当を販売することになり、お弁当のパッケージデザインの制作に森さんが入り、地元のデザイナーとつないで、若い人にも訴求しそうなデザインに仕上げたのだそう。これが若松屋のリブランディングにもつながった。
くじらカツ弁当(写真提供/くじらの髭、撮影/小玉大介)
森さんたちと話したのがきっかけで、お店の側でSNSも活用し始め、コロナ禍が落ち着き県外からもお客さんが訪れるようになり、すっかり繁盛しているのだとか。
この時期、こうした老舗料理屋のオーナー同士がSorrisorisoに集まった時のこと。「初めて会った」とお互いが言い合っているのを聞いて森さんは驚いたのだそう。
「何十年もこの小さなまちで同業でやってきて、組合に属していても、会ったことがないんだなって。そういう機会がないんですね。みんなその場で一緒に弁当食べたりして、さっそく仲良くなっていました」
Sorrisorisoのような「まちの拠点」があると、内外から人が集まってくる。外からふわっとやって来る人たちを、森さんたちが適材適所に導く。ただそれだけでなく、元々いたまちのプレイヤーもここを介して知り合い、新たな共同の動きを始めている。地元の民間事業者同士のつながりも強くなり、外の人を受け入れる土壌ができているのだ。
地域の文化に目を向ける さらなる展開の広がりこれまでの取り組みが評価され、2020年には九州電力との協業もスタート。2022年には新たに複合施設「uminoわ」がオープンした。
「uminoわ」外観。コインランドリーをはじめ、喫茶「CHANOKO」、服のお直しをしてくれる縫製場、子どもの遊び場、観光案内所といった機能が内包され、たい焼きならぬ「くじら焼き」を商品開発し、出張販売も行っている(写真撮影/藤本幸一郎)
「くじらの髭」プランニングマネージャーの池田晃三さん(左)と、「CHANOKO(チャノコ)」のストアマネージャー兼ブランドマネージャーでありパティシエの中村雅史さん(右)(写真撮影/藤本幸一郎)
「uminoわ」内観(写真撮影/藤本幸一郎)
2022年秋には、ひとこともの公社が、「国土交通大臣賞 地域づくり部門」を受賞。
森さんは、今、さらに新たな会社を通して、人と人のつながりを東彼杵町の中だけでなく長崎県全域、ひいては九州に広げようとしている。各地に拠点をもつプレイヤーがつながり合うことで、お互いに協力し合ったり、情報交換したり刺激し合うことができる。
筆者が、全国で行われているさまざまなまちづくりの例を見てきて思うのは、地域に活気を取り戻そうとする行為は、とどのつまり、人と人のつながりを繋ぎ直すことに集約されるのではないかということ。
一度途切れてしまったつながりを地域内でつなぎ直すという意味もあるし、新しく入ってきた人と地元の人をつなぐ、地域をこえて外の人同士がつながり刺激し合う。
Sorrisorisoでの取り組みにはそのすべてが含まれていた。
東彼杵町の「ひとこともの」をつなぐ取り組みは、いまも続いている。
(写真撮影/藤本幸一郎)
●取材協力
Sorrisoriso ひがしそのぎの情報サイト「くじらの髭」
2011年3月11日に発生した東日本大震災。津波によって多くの人命が失われ、街の主要な機能が流されてしまった東北の沿岸地域では、復興が急ピッチで進められました。同時に、惨劇を二度と繰り返さないために、地震が発生したときにどのようにふるまうべきか、教訓を語り継いでいくための取り組みが行われています。
紙媒体やインターネットを通じたアーカイブも充実していますが、やはり現地を訪れてこそ感じ取れることがあるのも確か。特に被害の実態や被災者の生の声を伝える資料をコンテンツとしていかに体験してもらうか、建築家やデザイナーが綿密な計画を練った復興建築を巡ることは、被災地から離れた地域に住む人にとって有効なツアーになるのではないでしょうか。
今回、各地の建築やまち歩きをライフワークにしてきた筆者が、都内からも比較的アクセスしやすい宮城県石巻市を中心に、宮城県の三陸海岸エリアの復興建築をレポートします。前編では三陸海岸の北側、岩手県沿岸部を紹介していますので、合わせてご覧ください。
東日本大震災の”復興建築”を巡る。今こそ見るべき内藤廣・乾久美子・ヨコミゾマコトなどを建築ライターが解説 岩手県陸前高田市・釜石市
海と川、2方向から津波が襲った石巻市仙台市から電車で1時間、国内有数の水揚げ量を誇る漁港の町として知られる石巻市には、市街地の中心に旧北上川という河川が流れ、川が見える風景が長らく市民の生活とともにありました。しかし東日本大震災時にはこの旧北上川を逆流した津波が市内に流れ込んだことで大きな被害を生み、河岸部分に防潮堤を築くことになります。それでも少しでも川とともにある生活を受け継ぐことを意図してデザインされたのが、大きくゆとりをもたせ広い散歩道として整備された防潮堤でした。一段低い市街地から防潮堤に架け渡すように設計された建築も見られ、市民の憩いの場として川と街をつないでいます。
東日本大震災からの復興にあたっては、防災のために巨大な土木スケールの防潮堤を築くことに対し、古くからの町の風景が失われてしまう葛藤がどの地域にもありました。人命には替えられないと、防潮堤の建設は進められていきましたが、デザインの力によってその間を取り持つ可能性が示されているように感じます。
河岸に整備された散歩道(写真撮影/筆者)
防潮堤に設置された東屋は、仮設的で華奢なデザイン。設計は萬代基介建築設計事務所による(写真撮影/筆者)
防潮堤と市街地をつなぐブリッジのように建つ、観光情報施設「かわべい」(写真撮影/筆者)
復興が進んだ中心部に対し、痛ましい被害の様子が伺えるのが南の沿岸部側。津波により被災した門脇小学校は、震災遺構として遺され見学ができるようになっています。震災時に発生した津波火災によって黒焦げに焼けた校舎は、見学用のルートが真横に新設され、間近で見ることができます。
少し小高い日和山を背に立つ門脇小学校では、発災時に校舎内にいた児童は迅速に山へ避難し津波を逃れることができました。一方で校庭に集まった住民の多くが津波の被害に合いました。少しの判断の差が生死を分けた現実は、悔やんでも悔やみきれません。その教訓を風化させまいという残された人々の想いが、校舎を取り壊すことなく保存する決断につながっています。ご遺族の言葉も、資料とともに展示されることで画面越しで見るのとは違う切実さを、訪れる人に与えているのではないでしょうか。
石巻市震災遺構門脇小学校の外観。右側に見えるボックス状の回廊が、新設された見学ルート(写真撮影/筆者)
校舎1階部分。左手側の旧校舎は被災当時のまま残され、通路から見学することができる(写真撮影/筆者)
門脇小学校からさらに南へ向かうと、更地になった海岸部に整備された広大な復興祈念公園が見えてきます。中心に位置するのが「みやぎ東日本大震災大津波伝承館」です。こちらは語り部として活動している被災者のメッセージに加え、津波のメカニズムなど震災を科学的な視点から紹介するコーナーなど、より包括的に震災の記録がアーカイブされた施設となっています。市が運営し、石巻市にフォーカスした門脇小学校と、宮城県が運営する伝承館、さらにその中間には市民により運営されている「伝承施設MEET門脇」があり、それぞれの視点で伝承のための活動が行われています。さらに町の中心部では、津波被害に限定せず、石巻市の歴史や市民の生活そのものを知ってもらう展示がなされた場所も見られました。町の魅力を伝えることで興味をもってもらう、そのうえで津波被害について学ぶことは、ただ単に事実を見せられるのとは違う印象を与えるのだと思います。
復興祈念公園の遠景。防潮堤が海との境界になっている。左手前に見えるのが伝承館で、庇最上部の位置まで津波が達した(写真撮影/筆者)
石巻市に限らず、こうした伝承施設は特定のエリアに集中して建てられるケースが多く見受けられます。遠方から訪れた観光客は、そうした施設を順に見て回る人も多いでしょう。そのなかでいかにして被害の実態を記憶にのこるかたちで伝えていくか。官民それぞれの取り組みが重なり合いながら、相互に補い合って伝承している石巻は、町全体で展示デザインがなされているように感じるほど、震災にまつわる豊富な学びのある町でした。
中心部から離れた高台に新設された「マルホンまきあーとテラス」。大小のホールや市立博物館を備えた文化施設の設計は、藤本壮介建築設計事務所によるもの(写真撮影/筆者)
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震災の記憶を次世代に。伝える取り組みや遺構が続々と
石巻からさらに電車で30分、町の中心部全体が浸水し町の主要な機能が失われてしまった女川町では、中心市街地全体を盛土により嵩上げし、居住区域を高台に移す復興がなされました。これにより防潮堤の高さを制御し、町から海が見える風景が守られました。そして震災後の新たなシンボルとして、世界的建築家の坂茂氏設計による駅舎が建てられました。
長年、建築家としての設計活動と並行して、世界中の災害現場や難民キャンプで仮設住宅など避難用の建築のデザインや施工をボランティア活動として取り組んできた坂氏は、東日本大震災でも東北各地で復興支援活動にあたりました。避難所での生活にプライベートな空間を確保するためのダンボール間仕切りの提供のほか、ここ女川では輸送用コンテナを活用し短期間での施工を可能にした仮設住宅の設計を手掛けています。この仮設住宅設計後も継続的に女川に関わり、近隣の仮設住宅に住む住民への聞き取り調査を行っていた坂氏は、狭い仮設住宅のユニットバスでは望めない、ゆったりくつろげる銭湯が多くの方に望まれていることを知ります。その矢先に、女川駅の設計を依頼された坂氏は、駅舎と温浴施設を一体的にデザインする提案を行いました。災害復興への長年の取り組みあってこそのデザインだったと言えるでしょう。
女川駅全景。白い膜でつくられた大きな屋根が象徴的なデザイン(写真撮影/筆者)
女川駅の展望台から海方向を見る。海への見晴らしが維持された(写真撮影/筆者)
「海が見える終着駅」として知られる女川駅からは、駅舎からまっすぐ海へと向かってプロムナードが延び、その両サイドに地産の食材が楽しめる料理屋や土産物屋が並びます。星野リゾートのホテルの設計などで知られる建築家の東利恵氏が手掛けた、シーパルピア女川です。漁港の町らしい木造の家屋が立ち並び、個性のある商店が店を構え、分棟形式の隙間には庭が整備されています。決して多くはない商店を、単純に横並びにするのではなく前後の奥行きをもたせて配置することで、散策しながら買い物を楽しむことができるよう計画されたデザインです。
観光客であふれるシーパルピア女川(写真撮影/筆者)
中・小規模の建屋が雁行するように連なり、隙間の空間を散策できる(写真撮影/筆者)
女川にも、観光客が必ず目にするであろう場所、プロムナードの突き当りに、津波の猛威を示す震災遺構が遺されています。鉄筋コンクリート造の建物が基礎ごと引き抜かれ、横倒しにされた光景がメディアを通じて大きな衝撃を与えた旧女川交番です。被災当時のままの状態で保存され、その周囲を取り囲む回廊が新たに設置されました。回廊に掲げられたパネルには、女川町の震災被害や復興までの歩みが記されています。小さいながらも強いメッセージを発する震災遺構です。
横倒しになった旧女川交番。剥き出しになった杭が津波の威力を伝えている(写真撮影/筆者)
隈研吾氏設計の建築が集まる南三陸町石巻駅から電車とバスを乗り継ぎ2時間弱、南三陸町も復興建築が集中するエリアです。津波によって線路が流されてしまったため、中心部にある志津川駅はBRT(バス高速輸送システム)の停留所として使われています。
駅の目の前で一際目を引くのが、新国立競技場の設計などで知られる建築家・隈研吾氏設計による「南三陸ポータルセンターアムウェイハウス」。南三陸産の木材を用いたルーバーは平行ではなく放射状に配置され、建物内部に視線が引き込まれるようにデザインされています。アムウェイハウスは被災地の地域コミュニティの再生支援を行う施設として、ここ南三陸を含む東北3県7箇所に設置されています。
隈研吾氏は2013年から継続的に南三陸町の復興計画に携わり、一帯のマスタープランも手掛けています。地元の海産物を楽しめる商店街さんさん市場、駅とメモリアルパークを結ぶ中橋、そしてこのアムウェイハウスです。メモリアルパークには、津波襲来の直前まで避難を呼びかける様が大きく報じられた南三陸旧防災庁舎が震災遺構として遺されており、多くの観光客が日々訪れています。駅から市場へ、メモリアルパークから山方向にある神社へ、2つの軸線の中間に位置するアムウェイハウスには、人の流れを誘発するように穴が設けられています。マスタープランがあってこそ生まれたデザインです。
南三陸ポータルセンターアムウェイハウス。斜めに傾いたいくつもの立体が統合されたデザイン(写真撮影/筆者)
南三陸さんさん市場。シンプルな構成により、低コスト化と短納期化を図っている(写真撮影/筆者)
メモリアルパークから駅方向を見たところ。右手前に鉄骨フレームだけとなった旧防災庁舎が見える(写真撮影/筆者)
東日本大震災による被害の状況は、発災当時メディアを通じて視覚的なイメージとして発信されていました。その光景はどの町も同じように悲惨なものとして、記憶に焼きつけられているのではないでしょうか。しかし震災から10年以上が経ち、新しいコミュニティが築かれ新たな町として生まれ変わった被災地の現状は、町ごとに、エリアごとに異なる復興が行われ、それぞれの歩みを進めています。その土台としてデザインされた復興建築を巡ることは、東北の今を知るきっかけとして気軽にできる最初の一歩になるのではないかと思っています。
●取材協力
門脇小学校