
29万8,000円 / 81.88平米
世田谷線「若林」駅 徒歩8分
カーテン越しに射し込むやわらかな光と、部屋のあちこちで育つ植物たち。緑に囲まれて暮らすために設けられたハンガーやフック、土間や棚。
植物を愛するご夫婦が丁寧にリノベーションした空間を、転勤に伴い募集をさせていただくことになりました。
躯体が現しになった天井のハードな表情は、温 ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
LIXILが、20代~50代の男女4700人を対象に、冬(主に11月~2月)における「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」を実施した。近年は地球温暖化により「暖冬」になることもあるが、同社によると、暖冬の場合は急激な寒暖差が起こりやすく“寒暖差疲労”に注意が必要なのだという。調査結果を詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」を実施/LIXIL
これから本格的な冬の寒さが到来する。「冬、普段生活している自宅の中で過ごしている際に、場所や時間によって寒暖差を感じることがあるか」と尋ねたところ、寒暖差を感じるという回答が74.1%(「感じる」39.4%+「どちらかというと感じる」34.7%)だった。
寒暖差を感じると回答した人に「寒暖差を感じる瞬間」を尋ねると、ダントツで「朝、起床し布団から出る時」(69.5%)となった。2位の「脱衣所で服を脱ぐ時」(48.0%)、3位の「浴室から出た時」(40.8%)と比べてもかなり多い回答だ。
かくいう筆者も、この記事を執筆している日の朝は外の気温が1℃だったので、布団から出るのがつらかった。昼でも10℃なので、ひざ掛けをしてパソコンに向かっているありさまだ。
「寒暖差疲労」と「ヒートショック」に注意LIXILによると、「一日の温度差が7℃以上あるときに寒暖差疲労は起こりやすいとされている」という。寒暖差疲労とは、「寒暖差による体温調節により多くのエネルギーを使用することで、体に疲労が蓄積し、疲労感やめまいといった症状を引き起こす」もの。
約7割が寒暖差を感じる「起床して布団から出る時」は、「温められた布団から冷えた室内に出ると、体が急激に冷やされることで血圧が上がり、ヒートショックを引き起こす危険がある」というのは、気になる点だ。住まいの断熱リフォームのビフォー/アフターで、起床時の血圧がかなり違うという研究結果(【画像1】)もあるのだ。「手の届く範囲に羽織れるものを用意しておく」、「暖房器具をタイマーセットし、朝方に部屋が暖かくなるようにする」、「寝室だけでも断熱リフォームを行い部屋の気温差を一定に保ちやすくする」などの対策を検討したい。
【画像1】
※日本サステナブル建築協会 断熱改修等による居住者の健康への影響調査 中間報告(第3回)資料より
起床時の血圧の比較(出典: LIXIL「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」プレスリリース)
住宅内で「寒さを感じる場所」と「暖かさを感じる場所」を尋ねると、【画像2】のような結果となった。おおむね居室やお湯をたくさん使う場所は暖かく、居室でない場所は寒く感じるようだ。リビングや寝室は暖房器具で暖めるものの、トイレや脱衣所、廊下などは日当たりが悪く、暖房もしないということだろう。
【画像2】
冬の自宅で寒さを感じる場所、暖かさを感じる場所(出典: LIXIL「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」プレスリリース)
同社の「住まいStudio」にある、断熱性能の異なる3つの部屋で同じ0℃の環境下で比較したのが【画像3】だ。断熱性能の違いを説明すると専門的になるので、分かりやすく言うと、「左」の昭和55年省エネ基準は「昔の家」、「中央」の平成28年省エネ基準は「今の家」、「右」のHEAT20 G2は「断熱性能のかなり高い家」と考えてよいだろう。外気温0℃はかなり寒い環境なので、暖房のある「居間」でもサーモカメラで見ると昔の家や今の家では青い色が残っている。一方、断熱性能のかなり高い家では、暖房のない廊下やトイレでも居間の暖房が効いて青くなっていない。同じ外気温、同じエアコン設定でも、住宅の断熱性能によってかなり違うことが分かる。
【画像3】
「住まいStudio」の3つ部屋の温度の違い(出典:LIXIL「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」プレスリリース)
実は筆者は、住まいStudioを訪問してこの3つの部屋を体験したことがある。窓の断熱性能の違いもあって、暖房のある居間でも窓際にいるとかなり寒さが違ったと記憶している。断熱性能のかなり高い家では、暖房ではなく送風でも十分に暖かった。建築コストも異なるが、住む間の電気代も変わることだろう。
また、昔の家では居間とトイレの温度差は12.1℃、今の家でも温度差は9.6℃だったが、断熱性のかなり高い家では温度差は5.3℃とその差は縮まり、部屋の間を移動する際の身体への負担も小さくなるので、ヒートショックの発症リスクも軽減されるという。
窓まわりの断熱リフォームのススメ住宅の断熱性能の違いが室温に大きく影響するわけだが、「これまでに断熱リフォームを検討、もしくはしたことがあるか」を尋ねている。「断熱リフォームをしたことがある」が6.7%、「断熱リフォームをしたことがないが、検討したいと思う(検討中である)」が9.5%で多いとはいえないが、昨年の調査結果と比べるとそれぞれ約1.4倍に増えたという。
「今後断熱リフォームを実施したい住まいの箇所」の1位は、56.9%の「断熱性の高い窓を設置/交換」だ。実は筆者も以前、窓の断熱リフォームを行った。冬の朝の窓ガラスの結露がひどかったので、それから解放されたのがうれしかった。工事は一日で終わったので、窓際が寒いという家の場合はぜひ窓の断熱リフォームを検討してはいかがだろう。
家の断熱性能を高めると、エコにつながることや光熱費が抑えられることが言われるが、最も大切なのは家の中にいる時の快適性が上がることだと思う。暑さ寒さの不快感が軽減し、寒暖差疲労やヒートショックのリスクも下げられるのは、日々の生活のなかで重要なことだ。家の断熱性能を高めていくと建築コストもかかるが、先進的窓リノベ事業(2024)などの補助金や減税などの優遇措置もあるので、上手に活用して冬を快適に過ごすことを考えてほしい。
●関連サイト
LIXIL「住まいの断熱と寒暖差に関する調査」
今年の秋は、この季節として過去の記録を大きく上回る高温でした。年末になっても例年より暖かい日が続きますが、寒暖差には注意して過ごしたいですね。SUUMOジャーナルで11月に公開した記事では、「『入居条件はパン屋さん』大家さんの狙いとは? 入居者も街の人もハッピーになる賃貸1階の”小さな商店街”化が進行中 東京・蒲田」「盛岡市民の生きがい『材木町 よ市』がグルメ天国すぎる!現地の楽しみ方をレポート」などが人気TOP10入りしました。バラエティー豊かな記事の見どころを紹介します。
1位
「入居条件はパン屋さん」大家さんの狙いとは? 入居者も街の人もハッピーになる賃貸1階の”小さな商店街”化が進行中 東京・蒲田
2位
盛岡市民の生きがい「材木町 よ市」がグルメ天国すぎる! 毎週土曜、100店超の美食をその場でも宅飲みでも。現地の楽しみ方をレポート
3位
UXデザイナーが自宅マンションリノベの”要求定義”した結果。「絶対に後悔しない家づくり」のプロセス【ビジネスパーソン必見】
4位
コンビニが撤退危機だった人口減の町に、8年で25の店がオープン。「通るだけのまち」を「行きたいまち」に変えたものとは? 長崎県東彼杵町
5位
地方でのデザイナーのプレゼンス、存在価値を高めたい。「場」をもって示す、佐賀発のデザインユニット「対対/tuii」の挑戦
6位
伝説のDIY可賃貸「吉浦ビル」誕生から10年、入居者をまき込みまちづくりが進行中! 空室率20%から人気物件になった脅威の軌跡とは 福岡市
7位
既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説
8位
令和5年度補正予算で住宅の取得やリフォームでおトクに!補助金や優遇制度を先取り解説!キーワードは子育てと省エネ住宅
9位
東京を”食べられる森”に! 渋谷や新宿などに農園が続々登場している理由「トーキョーアーバンファーミング(Tokyo Urban Farming)」
10位
新築・中古マンションの価格は平均年収の10倍以上に上昇?エリア別に詳しく解説
※対象記事とランキング集計:2023年11月1~30日に公開された記事のうち、PV数の多い順
1位 「入居条件はパン屋さん」大家さんの狙いとは? 入居者も街の人もハッピーになる賃貸1階の”小さな商店街”化が進行中 東京・蒲田
(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
パンが好きな人の中には、「おいしいパン屋さんのある街に住みたい!」と思っている人も少なくないのでは。蒲田(東京都大田区)の住宅街にある「SONGBIRD BAKERY」は、実は大家さんが「パン屋さん限定」で募集した物件です。「1階においしいパン屋があったら、入居者さんも街の人もハッピーでしょう?」と大家の茨田禎之(ばらだ・よしゆき)さん。当初難航したテナント探しと「SONGBIRD BAKERY」店主の本藤正敏(ほんどう・まさとし)さんとの出会い、「街に根付くパン屋さん」になるまでのストーリーを美味しそうなパンの写真とともに味わってみてください。
2位 盛岡市民の生きがい「材木町 よ市」がグルメ天国すぎる! 毎週土曜、100店超の美食をその場でも宅飲みでも。現地の楽しみ方をレポート
(イラスト/阿部夏希)
たべる、あるく、よりみちするのが大好きな岩手県盛岡市在住のスガワラさんとアベさんが、盛岡市民おなじみのイベント「材木町 よ市(ざいもくちょう よいち)」(4月~11月開催)をレポート! 盛岡駅から徒歩7分の材木町商店街に100店舗以上の露店が並ぶ人気イベントを盛岡在住の料理家、橋本玲奈(はしもと・れな)さんとおしゃべりしながらぶらぶら。食べ歩きしながら惣菜や新鮮な食材を買い込んで玲奈さんの自宅へ。玲奈さんの料理も記事の見どころです。買ってきた岩豆腐にキムチをのせてごま油をたらり……これは絶対美味しいやつ! 「材木町 よ市」を目的に盛岡市を訪ねたくなります。
3位 UXデザイナーが自宅マンションリノベの”要求定義”した結果。「絶対に後悔しない家づくり」のプロセス【ビジネスパーソン必見】
(写真撮影/嶋崎征弘)
UXデザイナーMさんの仕事は、ユーザーにとって嬉しい体験を実現するためにどんなシステムが必要なのかを考えること。UXデザイナーが家づくりをしたらどんな住まいができるでしょうか。Mさんと同じくUXデザイナーである夫のRさんとの家づくりを取材。ユニークなのは、「要求定義」を家づくりのアプローチに用いたこと。「要求定義」とは、システム開発プロジェクトにおいて、システムを通して何を実現したいのかを分かりやすく定義したものです。自らをリサーチし、「住まいへの要求をまとめた資料」は一見の価値あり!
4位 コンビニが撤退危機だった人口減の町に、8年で25の店がオープン。「通るだけのまち」を「行きたいまち」に変えたものとは? 長崎県東彼杵町
(写真撮影/藤本幸一郎)
人口約7700人、過疎の進む一方だった長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町。ところが、最近8年間で新しいお店が約25店舗オープンし、50人以上が移住。交流拠点「Sorrisoriso(ソリッソリッソ)」は、年間約2万7000人訪れる場所に大躍進。一体何が起こっているのでしょうか? 現地を訪れ、「Sorrisoriso(ソリッソリッソ)」を運営する、一般社団法人「東彼杵ひとこともの公社」代表理事の森一峻(もり・かずたか)さんを取材しました。2022年秋には、ひとこともの公社が、「国土交通大臣賞 地域づくり部門」を受賞。森さんが見つけた「まちづくりの鍵」とは。成果を上げた取り組みを紹介します。
5位 地方でのデザイナーのプレゼンス、存在価値を高めたい。「場」をもって示す、佐賀発のデザインユニット「対対/tuii」の挑戦
(写真撮影/藤本幸一郎)
佐賀で活動する、建築デザインユニット「対対/tuii」(以下、tuii)の田中淳さんと伊藤友紀さんは、本業のかたわら、ビル一棟を、オーナーに代わり運営しています。1階には本屋、カフェ、おにぎり屋、2階には洋服店、3階には彼ら自身の建築・デザイン事務所が入居し、クリエイターが集う場所になっています。それを「地域のためや、まちのため、ではなく、デザイナーの社会的地位、プレゼンスを上げるための投資」とふたりは言い切ります。「誰とどんな仕事をしていきたいのかを見せていく」等デザインの仕事に限らず、「やりたい仕事を実現するため」に参考にしたい考え方や工夫を紹介します。
6位 伝説のDIY可賃貸「吉浦ビル」誕生から10年、入居者をまき込みまちづくりが進行中! 空室率20%から人気物件になった脅威の軌跡とは 福岡市
(写真提供/樋井川テラス)
リノベーションや不動産に見識のある人たちの間では、全国区でその名を知られる福岡県福岡市の吉浦ビル。2013年、時代に先駆け“入居者が好みに合わせて自由にフルカスタマイズ可能な賃貸”で話題に。空室率20%、高齢化率40%、滞納金1,000万円以上、最寄りの駅からも40分程度だった難物件が、クリエイティブな人たちが集う人気物件になったストーリーは多くのメディアで取り上げられてきました。それから10年、どんな変化が起こっているのでしょうか? 空き家をリノベーションして“民間の公民館”のような拠点にするプロジェクトなど街や、時代に深く斬り込む活動の数々を紹介します。
7位 既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説
(写真/PIXTA)
住まいの最新ニュースを紹介&解説する連載「今週の住活トピック」では、政府が推進している住宅の省エネ化を解説。取り組みを進める上で、ハードルになっていたのは、既存のマンション。その多くが現行の省エネ基準の水準を満たしておらず、それをZEH水準に引き上げるのは難しいと思われてきましたが、積水化学工業とリノベるが協業して、既存マンションのZEH水準リノベーションの提供をスタート! ZEH(ゼッチ)水準とは?ZEHとは違うの?など基本から住宅の省エネ化の最新事情を知ることができます。
8位 令和5年度補正予算で住宅の取得やリフォームでおトクに!補助金や優遇制度を先取り解説!キーワードは子育てと省エネ住宅
(写真/PIXTA)
閣議決定された令和5年度補正予算のうち、国土交通省関係の補正予算の中から、住宅・不動産に関するものを中心に、どういった政策があってどのような優遇が受けられるようになるのかを解説します。キーワードは「子育て」と「省エネ住宅」。お得で役立つ情報が満載です! 住宅購入やリフォームをする前にチェックしておきましょう。
9位 東京を”食べられる森”に! 渋谷や新宿などに農園が続々登場している理由「トーキョーアーバンファーミング(Tokyo Urban Farming)」
(画像提供/Tokyo Urban Farming)
画像9SDGsの観点やコミュニティ創出の場として、世界的に注目されている都市型農業「アーバンファーミング」ですが、東京にもその波が。都市の空きスペースを活用した農園が続々オープンしているのです。「Tokyo Urban Farming」の発起人で書籍を監修した近藤ヒデノリさんに、最新事情やその魅力を教えてもらいました。記事では、書籍からピックアップした最新事例を多数紹介。下北沢の駅前に里山の野原のような畑ができたり、大手町の巨大ビルの屋上にオープンした農園も! 自らの手で野菜を育て、食すことは、生き方にもポジティブな影響を与えるそうです。
10位 新築・中古マンションの価格は平均年収の10倍以上に上昇?エリア別に詳しく解説
(写真/PIXTA)
「今週の住活トピック」では、東京カンテイのマンション価格の年収倍率に関する調査をクローズアップ! 東京カンテイが算出した都道府県別の年収倍率は、“マンションの買いやすさ”を検証するためのもの。都道府県ごとに「2022年に分譲された新築マンションの平均価格(70平米換算)」と「2022年における築10年の中古マンションの平均価格(70平米換算)」が、平均年収(※)の何倍に相当するかが調査されました。調査結果を住宅ジャーナリストがわかりやすく解説します。
※内閣府発表の「県民経済計算」を基に平均年収を予測した数値
11月の人気記事TOP10には、読み物として面白い記事だけでなく、住まいの最新ニュースを紹介&解説する連載「今週の住活トピック」3本もランクイン。住まいの最新の取り組みや補助金制度等役立つ情報が詰まった記事をお見逃しなく! 今後の動向をチェックして、新しい年を迎えましょう。
「新築マンション」とインターネットで検索すると「高騰」「億ション」など、景気の良いワードがずらりと出てきます。とはいえ、多くの世帯で収入が価格上昇に追いついていません。このまま新築マンションは高嶺の花になってしまうのでしょうか。2024年の新築マンション市場はどのように動くのでしょうか。SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長の池本洋一氏に、市場動向と買うべきときに見ておいてほしいポイントのほか、新築マンションの設備などについての最新事情について聞きました。
都心部好立地と郊外、立地で価格動向が異なる一般的に、新築マンションの買いやすさの指標は、
(1)物件価格
(2)金利
(3)供給戸数
で見ることができます。池本氏によると、都心・好立地と郊外、供給されるエリアで新築マンション価格の動き方が異なるといい、「都心好立地の物件であれば価格は上昇、金利と供給戸数は横ばい、他方で郊外エリアの物件であれば価格はやや上昇、金利、供給戸数は横ばい」で推移するのではないかとのこと。気になる都心・好立地の物件の特徴から伺っていきましょう。
「2024年も価格上昇が予想されるのが都心部・好立地の新築マンションです。こうした物件を購入しているのは、金融資産が1億円以上ある日本の富裕層です。所得は伸び悩んでいると言われていますが、実は日本でも富裕層が増えています。購買意欲が旺盛で、マンション価格が高騰する中でも売れ行きは好調です。金額としては安いものではないので、物件のエントランスは高級感があり品質感や品格あるデザインが好まれています。また、物件の設備面、たとえばキッチンや洗面化粧台の仕様をワンランク上にし、一部高層階では天井高を高くして、共用設備では眺望ラウンジ、高級感あるゲストルーム、フィットネスジムなどがあることが多く、上質な暮らしを感じられるのが特徴です」と解説します。
ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのグランドエントランス完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)
ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのエントランスラウンジ完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)
「今、マンションを買う人達は、新築マンションの価値である、立地や眺望という点を非常に重視します。かつては南向きがよしとされてきましたが、部屋からの景色や抜け感が重視されるようになり、海外と同様の価値観になってきましたね。床材や壁材、インテリアで好まれる色合いもグレージュのような落ち着きがあり、上質感が感じられるもので世界のトレンドに近づいてきました」(池本氏)
ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのワーキングラウンジ完成予想CG (写真提供/東京建物、東栄住宅)
また、海外と同様という意味では、超富裕層向けの「プレミアム住戸」が珍しくなくなったそうです。
「通常の住戸と比較して、海外のように、洗面、トイレ、バスルームを複数持たせたり、床から天井までの階高が3m~6mあったりと、世界の富裕層向け物件と同クラスのものが出てきています。商品企画、建築も世界のラグジュアリー物件を参考にしているので、世界と比較しても見劣りしません」と池本氏。
ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの住戸一例(写真提供/東京建物、東栄住宅)
東京、大坂、京都、福岡、マンションが供給される立地の特色は?こうした夢のあるマンションの話もいいですが、実際に買うとなれば話は別です。これから先、新築マンション価格はどうなると予測しているのでしょうか。
「マンションの価格は
(1)土地価格
(2)人件費
(3)資材費
の3つで決まります。このうち3つともに下げの要因はなく、むしろ高騰しています。これは新築マンションだけに限らず、すべての建築物を含めた資材の話となりますが、なんとこの2年半で、資材費は27%上昇、マンションの骨組みとして使われるH形鋼に至っては約70%も上昇しています。職人不足から人件費も値上がりしているほか、今まで建築業界など一部の業界で特例延期されていた、労働基準法に基づく労働時間の適正化が2024年からは実施されます。そのため人件費も上昇すると予測されます。
つまり、新築マンション価格が『上がる』要因はあっても、『下がる』要因はないんです」
今、価格が高いからといって将来に先延ばしをしても、新築マンション価格とリンクしやすい株価の暴落などが起きないかぎり、劇的な下落は考えにくいようです。
H形鋼(写真/PIXTA)
では、新築マンションを買うのであれば、どんな立地を狙うといいなど、買い手が立てられる戦略はあるのでしょうか。
「東京だけでなく、郊外都市や地方の主要都市部にもマンションに適した土地はあまり残っていません。利便性を重視しつつ、価格帯もとなると、冒頭に申し上げた『郊外』に目を向けるとよいでしょう。価格・供給数ともに横ばいで動くと予想しています。主要駅の周辺、具体的にいうなら立川や大宮、船橋、町田など首都圏の主要ターミナル駅とその一駅二駅隣の駅近物件であれば、買いやすい価格帯で供給されています。また、関西、地方主要都市の福岡や札幌、仙台、金沢、広島の中心部でも都心部や好立地は高く、郊外は買いやすい価格帯で落ち着くことでしょう」(池本氏)。
こうした郊外で供給されるマンションでも、生活の質をあげる設備が導入されていることが一般的です。
「保温性の高い浴槽、電子キーなどは標準装備となっていることが多いですね。共用設備では華美なものは少なく、スタディスペースやワークスペース、EV充電スタンド、カーシェアなど『実用性ある施設』が導入されています。また、郊外でも『南向きにこだわらない』動きがでてきていますね」(池本氏)。
なるほど、新築マンションを探すのであればまずは供給数が限られていることを理解し、広域で見て、選択肢を広げ、優先順位をつけていくという戦略が有効なようです。
(写真/PIXTA)
要チェックは省エネ性能。各社のZEH、木造新築マンションにも注目池本さんが、今、新築マンションを買いたいと考えている人に、ぜひ押さえてほしいポイントがあるといいます。
「全ての新築住宅において、2025年4月からは、省エネ基準への適合が必要となります。2030年にはその基準がZEH水準(※)となるため、それ以降はZEH水準を満たさないと既存不適格(※)と見られることもあるでしょう。ですから今から買うなら、ZEH水準もしくは、マンションではZEH Orientedという水準以上を買うことをおすすめします」と力説します。
※断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6の性能をもつ省エネ性能の水準(詳しくはこちら)。
※既存不適格とは、建設時には適法だったが、以降の法改正などで法不適合になった状態のこと。そのことに法的な問題はないが、例えば、1981年に耐震基準が変わり、それより前の物件が旧耐震(既存不適格)と言われるように、市場で競争力が劣ってしまう状態が想定される。
■関連記事:
2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?
当然、各社もZEH化には注力しており、タワーマンションでも「ZEH」相当の物件も出てきています。
(写真/PIXTA)
「国も建築物の省エネ性能向上、断熱性能の向上に注力していますし、住まいの高性能・省エネ性については、暮らす人のメリットもとても大きいのでぜひ重視してほしいポイントです」といいます。
ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの省エネにつながる設備・システムの一例(同マンションのHPより)
同じく、環境性能という面では、木造や木材を使ったマンションにも注目しているそう。
「国の方針や建築基準法の改正などの要因がありますが、中高層木造マンションや、中高層の木造、コンクリート、鉄骨のハイブリッドマンションも一つのトレンドです。先程の鉄鋼と比較すると中高層建築で使う木材は、今後、供給が増えてくればコストが下がっていく可能性も十分にあり、建築費の抑制といった意味でも注目しています。もちろん耐震性など性能面では従来の鉄筋コンクリート造の物件と同等の性能で建てられています」(池本さん)
木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」(三井ホーム/東京都稲城市)は、総戸数51戸、間取り2LDK~3LDK、専有面積は50平米~96平米。1階はRC(鉄筋コンクリート)造で、2~5階に木造枠組壁工法を採用(写真撮影/片山貴博)
(写真撮影/片山貴博)
■関連記事:
マンションも木造の時代に! 耐震性や遮音など住みごこち満足度98%のお墨付き 「MOCXION INAGI」東京都稲城市
また、環境性能や心地よさから内装、インテリアの木質化も大きな流れになっているよう。確かに木を多用したインテリア、SNSでもよく見かけます。賃貸ではありますが木造マンション、「MOCXION INAGI」で入居者の98%が住み心地に満足と回答したというデータもあり、今後もひとつの潮流となっていくことでしょう。
これから買う人は自分たちの価値を大事に。気になる物件は1期で決断最後に新築マンションを買いたいと思う人に、アドバイスをもらいました。
「まずは、自分たちの暮らしの軸を大切にしてください。世にいわれている大人気物件が必ずしも“買い”とは限りません。冷静に自分たちが大切にしたい暮らし、求める価値を見極めて、それで物件と合っているなら決断していいと思います。投資用に買うなら、買った価格より高く売れるかを意識すべきとだ思いますが、自宅として買うならば、その街、そのマンション、間取り空間で暮らしたいのかが家探しの軸になるべきです。どこで、だれと、どのような生活を送りたいのか、そこを見誤らないでください」。
その上で、マンション価格として「下げ要因」がない以上、気になる物件が出て、期分け販売をする物件であれば、期を追うごとに価格が上昇する可能性があるため、思い切って「1期で買い」だといいます。
(写真/PIXTA)
そして、もうひとつ、要注意な点として「金利動向です」とアラートをあげます。
「長期固定金利がじわりと上がってきています。今、みなさん住宅ローンを変動金利で借りていますが、変動金利が上昇する可能性もありそうです。そのため、借りられる金額の上限まで借り入れるのはおすすめしません。変動金利だけではなく、変動金利と固定をあわせるミックスなどを比較検討してください」(池本氏)
住まいは住む人の暮らしの基盤であり、幸せな暮らしを営むための器です。自分たちが「新築マンション」に求める価値はなにか、どんな暮らしがしたいのか、それは新築でなければ叶わないのか……。
一つずつクリアにしていくことが、2024年のマンション購入正攻法といえそうです。
●取材協力
SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長
池本洋一氏
ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラス
物件ページ
公式HP
遠浅の海に、雲や夕焼けが映り込む“天空の鏡“と呼ばれる光景がInstagramで話題になり、年間50万人が訪れるようになった香川県三豊市の父母ヶ浜。実際に足を運ぶと、広々した海岸はほんとうに美しかった。一気に増えた観光客を受け入れる体制を整えようと、地元の民間企業11社が集まり、共同出資で新たな宿をつくることになる。ところがこの共同出資のしくみはそれにとどまらず、交通や教育、不動産などまちのベーシックインフラを整える新たなかたちになっていく。
新しいしくみの起点になった宿2021年1月、香川県三豊市の荘内半島には絶景の海を目の前に、一棟貸しの宿がオープンした。三豊市は香川のなかでも西側、北は瀬戸内海に面し、南は讃岐山脈で徳島県と接する、人口6万人の市。北西に突き出た荘内半島の海岸沿いに、張り付くようにして立つヴィラ風の建物がそうだ。
部屋に入ると、大きく海側にとられたガラス窓から一面に海が見える。日に2度の引き潮の時間だけ、砂の道が現れ、無人島・丸山島に渡ることができる。
荘内半島の海岸に立つURASHIMA VILLAGE(撮影/Fizm藤岡優)
部屋に入ると、大きく海側にとられたガラス窓から一面に海と、一日に二度だけ引き潮の時につながる丸山島と浦島神社が見える(撮影/Fizm藤岡優)
このプロジェクトは、ただ地域に新しいホテルができたというだけにとどまらない、さまざまな意味をもっている。
一つは、外資や他地域の資本による開発ではなく、地元の企業が域内で仕事を生み出す座組が組まれたこと。宿を建てる土地探しに始まり、建築設計、施工、建材の調達。また宿の運用が始まってからの、リネンクリーニング、飲食、交通などさまざまな関連事業が地域内でまかなわれ、域内循環し始めている。そして、こうした民間企業による共同出資のかたち、座組が、観光だけでなく、交通、生涯教育、不動産……と、暮らしのインフラづくりにまで発展しつつあることだ。
同じ田舎でも、インフラが整っているまちとそうでない場所の、住みやすさの差はこれからますます開いていくだろう。現地を取材して、そんな思いを強くした。
父母ヶ浜(撮影/Fizm藤岡優)
URASHIMA VILLAGEができるまでその場にいた人たちが、後から「あの飲み会がきっかけだった」という場がある。振り返ると、あれが起点だったと誰もが口をそろえるような。
宿「URASHIMA VILLAGE」の構想が生まれたのもそうした飲み会が始まりだった。
このプロジェクトを事務局としての役割で進めてきたのは、宿泊施設「UDON HOUSE」のオーナーで、人材受け入れのレジデンスなども立ち上げてきた瀬戸内ワークスの原田佳南子さんと、東京からたびたび通ってきていた地域プロデューサーの古田秘馬(ひま)さんだった。二人とも初めは東京から通いで三豊に関わり、現在は三豊に住んでいる。
原田佳南子さん(撮影/Fizm加藤真由)
「飲み会は本当にただの飲み会です(笑)。秘馬さんがこちらへ来るたびに、いろんな方に声をかけて、UDON HOUSEで宴会をしていました。地域のキーマンが集まって、それぞれのやりたいことや事業の課題についてなど話す場で、未来の話にもなって。
父母ヶ浜に人が集まり始めていたのがちょうど同じころ。宿があるといいねというのを、皆さん共通認識としてお持ちでした。
大規模なホテルとなると、地域外の資本に頼って開発されるのが一般的ですが、それは好ましくない。一社では規模的に負担が大きすぎるなら、みんなでやりましょうという話になったんです」
SNSで父母ヶ浜が話題になったものの、宿泊施設が地元にないために、訪れる人の多くは高松など別の場所に泊まり、三豊は経済効果を享受できていない状況が続いていた。
出資者の一人であり、この会にも参加していた金丸工務店の代表、藤田薫社長はこう話す。
「宿泊施設があるといいねというのは、地元の多くの人がもっていた課題感だったと思います。うちは工務店ですが、空いている施設で宿泊施設を始めようと検討していたほどで。でも、宿の運用はしたことがないしノウハウもない。躊躇していたところ、みんなで一緒に宿やろうかという話が飲み会の場で生まれて。いいですね、いいですねって話になったんです」
(撮影/Fizm藤岡優)
地域内に仕事が生まれ、お金を生み続ける「域内経済循環」集まっていた中には、地元のスーパーや工務店、建材屋、バス会社、宿泊業などさまざまな事業者がいた。偶然か必然かはわからないが、藤田さんいわく
「それぞれ、前向きに面白いことをいろいろやってらっしゃる会社だった」という。
結果、11社が一社あたり一口500万円ずつを出資し、2019年に「瀬戸内ビレッジ株式会社」を設立することになる。
「飲み会の翌日にはもう、出資候補の会社の名前が入った企画書ができていました。秘馬さんは皆に『出資するって言いましたよね?』と送って。でもみんな一度賛同していることだから悪い気はしないわけです。役員会を通すのでデータくださいと具体的な話になっていって。ああ、新しい事業ってこうやって生まれていくのかと思いました」(原田さん)
バス会社、建設会社が2社、建材兼不動産を営む会社、タクシー会社、レンタカー会社、スーパー、自然エネルギー、宿泊業など、市内および近隣の会社が集った。
集まった5500万円で足りない分は銀行から融資を受け、1.5億円をかけてURASHIMA VILLAGEを建設した。
大きなポイントは、関わっている11社すべてが、宿の建設設計や使う建材に始まり、ホテルの運用が始まった後も、本業として関わることのできる事業者ばかりという点だ。
「何かしらこの宿に貢献できる本業をお持ちであることが出資の条件になりました。土地を探したのは、喜田建材の不動産部門。設計・建設施工は金丸工務店。
いま、宿の運営に携わっているリネンのクリーニングは、地域で100年続く木材加工会社、モクラスが新規事業として引き受け、食事を提供してくださっているのも地元のショッピングストア今川です」(原田さん)
(撮影/Fizm加藤真由)
「瀬戸内ビレッジ株式会社」には代表以外正社員はおらず、部屋の清掃だけアルバイトを雇っているが、それ以外の仕事はすべて株主に発注しているという。
しかし500万円といえば、それなりの大金だ。ビジネス的な勝算があるなど、よほどの説得力がなければ、企業として出資は難しいのではないか。しかも11社も頭があると、思うようにいかなかった時の方針決めなどもフットワークが重くなりそうだ。
金丸工務店の藤田さんは言う。
「うちも最終判断を下すには時間がかかりました。でも逆をいえばリスクは出す分だけです。それぞれに、その後仕事としてかえってくるというメリットもありました」
出資者の中には同業者同士もいる。競合と手を組むことに躊躇はなかったのだろうか。
「普段からお付き合いのある会社ばかりで、敵対している関係の会社は一社もありません。皆さん前向きでね。うちより大きい建設系の会社もあるので実際に建物を建てるのは別の会社がやるのかなと思っていたら、皆さんすでに決まっている仕事で手いっぱいだったのか、うちに任せるわって言ってくださって。任されてもかえって責任重大なのでプレッシャーで。そこが不安ではありましたね。
でも結果として、あの建物を建てたことで、ウッドデザイン賞(※)などたくさん賞もいただきましたし、続々とほかの仕事につながりました」(藤田さん)
※木の良さや価値を再発見できる製品や取組について、特に優れたものを消費者目線で評価し、表彰する顕彰制度
ウッドデザイン賞受賞を祝う会の様子。写真手前中央が藤田さん(提供/藤田さん)
11社のうちコミットの仕方は会社によって濃淡がある。だがそれぞれができる仕事を担うことで、地域の事業者間でお金がまわる。レンタカーやタクシー、バス会社など交通系の会社にとっても、移動手段を売るだけでなく、行き先のロケーションを持つことになる。
宿の反響はどうかといえば、オープンしたのがコロナ禍の真只中だったにもかかわらず、一棟貸しの3棟という形態から、かえって家族などの集まりや旅行に使われることになり、稼働率は順調に推移してきた。2023年の夏、7月8月は稼働率が9割を超えている。
4年目からは、金額は大きくないが、出資社に配当も出るようになった。
3棟あり、それぞれが一棟貸し。すべての棟から海が見える。宿泊棟「timeless 時」(撮影/Fizm藤岡優)
宿泊棟「visionary 幻」の寝室(撮影/Fizm藤岡優)
URASHIMA VILLAGEがもたらした、一番大きなもの。地域が変わった地方の片田舎に新しい宿を建設して、経営していく。それだけでもリスクを伴うように見えるけれど、加えて11社を巻き込むことへの怖さはなかったのだろうか。
共同出資会社、瀬戸内ビレッジの代表に就いた、古田秘馬さんに聞いた。
「あの立地や環境に加えて、集まった11名をみても成功するイメージしか湧かなかったですよね。周りも応援するだろうし、話題になる。
でも重要なポイントは、宿泊事業の売上だけじゃなくて、各事業者さんの事業につながっていることです。単純な投資と配当の形ではなくて、皆さんの事業を生み出すためのしくみですよねって話です。それぞれスーパーに飲食をお願いするとか、ショールームが欲しいなどのもともとあった要望を叶えたり、新しく事業を始めたところもある。
誤解しないでいただきたいのは、一点突破でこの宿さえ当たればまちが活性化する!みたいな博打をしているわけではなくてね。大成功するかはわからないけど、失敗しない方法をきちんと仕込んでおく。
でもお金だけじゃないよねと。みんなでやりたいよねとか、まちのブランディングにつながったねとか。一粒で5個も6個も美味しいって準備をしていく」
古田秘馬さん。地元スーパー今川の、今川宗一郎さんの似顔絵入りのTシャツで(撮影/Fizm藤岡優)
URASHIMA VILLAGEの成功が、この共同出資のしくみをほかの分野へ転用する動きにもつながっていく。
「URASHIMA VILLAGEの効果として一番大きかったのは、『自分たちでやるものだ』というマインドセットが地域にできたことだと思うんです。
たとえば、父母ヶ浜に今は、スーパー今川の宗一郎がやっている『宗一郎珈琲』がありますが、スターバックスなどの有名店が出店するほうが経済効果は大きいし、楽なんですよね。でも経済はうるおっても、外の資本がまわっているだけで、自分たちで新しいものを生み出そうとする力や動きがなくなってしまう。スタバができたら次は◯◯というふうに、既存の店を呼ぶだけでどこも同じような街になって、まちのオーナーシップが自分たちの手からなくなってしまう。だから外の大企業がいなくなった時に地域が疲弊するんです。
まちの側でオーナーシップをもって、ここにしかない、オリジナリティのあるものをつくっていったほうがいい」
三豊では新しく、耕作放棄地を利活用した農業のプロジェクトも始まっている(撮影/Fizm藤岡優)
共同出資の座組を、教育と交通に応用。「暮らしの大学」「暮らしの交通」面白いのは、URASHIMA VILLAGEがうまくいったことで、三豊ではこうした「地域の民間企業による共同出資」の形で、暮らしのインフラを整える動きが始まっていることだ。
交通、生涯教育、不動産……といった分野でも、地元の企業が出資しあい、どんな形のサービスがまちに必要か?を検討し、実証実験する取り組みが次々に始まっている。
古田さんは言う。
「誤解を恐れずに言えば、第2の行政的なものを目指しています。いま行政はセイフティネットにあたる、全ての人をすくうための施策を行っていて、それはそれですごく大事。必要です。ただ、たとえば義務教育以外にも、大人になっても学べる場があるといいよねとか、コミュニティバスはあるけど早く移動したいとき別の手段もあるといいよねと。違ったレイヤーに、生活を豊かにするインフラサービスを充実させていこうと」
都会であれば学ぶ場はいくらでもあるし、タクシーのサービスがなくなることは考えにくい。ただ地方ではそもそも享受できないサービスも多く、いまある事業もどんどんなくなっている。そこを地域で支え合いながら充実させていこうとする試みである。
たとえば「瀬戸内暮らしの大学」。生涯教育を提供している市民大学で、やはり地域内外、18の企業や個人が出資をする形で2022年6月に開校した。
校舎として場所を提供したのは、株主でもある地元のタクシー会社。もと営業所だった建物を、暮らしの大学の校舎としてリノベーションした。その設計施工を行ったのも株主の一社だ。
(撮影/Fizm藤岡優)
一般会員は月1万2000円ですべてのクラスを受講できる。月2万円の法人会員枠もあり、地域内の小中高校生は無料。ビジネス系のクラスもあれば、DIYなどライフスタイル系のクラスもある。法人会員や出資会社は、社員教育の場としてここを活用できる。
「暮らしの交通」お年寄りのためのコンシェルジュ機能も見据えて2022年9月には、地元のタクシー会社3社が中心になって、関連企業を含む計12社が出資者となり「暮らしの交通株式会社」も誕生した。
「mobi」という「エリア定額乗り放題の相乗りサービス」を利用して、新たな移動サービスが始まっている。
アプリや電話で簡単に車を呼ぶことができ、半径約2km内を、出発地から目的地へと効率よいルートを探り送迎してくれる。相乗りになることもあるが、限りなくタクシーに近いサービスである。学生の通学、高齢者の通院や飲酒後の移動に、活用されている。
社長を担うのは、20代の田島颯さんだ。
田島颯さん。探究学習の普及や教員研修のために三豊に移住。交通による教育格差を感じていたことから、代表に就任(撮影/Fizm加藤真由)
「自分はもともと教育関係の仕事で三豊に来ました。共働き世帯が増えて、親が送迎しないと教育にアクセスできないといった移動格差が、教育格差につながり始めている。親が送迎できなければ、習い事にも行けない。コミュニティバスもあるけれど縮小傾向ですし、本数が少なくて不便だったり、学生が大勢乗ることでお年寄りが乗れなくなったりという弊害もあります」
一般会員は30日で6000円、学割会員は3000円。月額制のほかに、単発でも乗車できる「ワンタイム乗車」が500円。観光客などに利用されている。
アプリを使うため、いまは高専の学生の利用率がもっとも高い。それによって従来はタクシーは使用していなかった新たな層の発掘にもなっている。さらにこの後、高齢者の利用も増やしていくために、「御用聞き」などのコンシェルジュサービスをセットで始める予定だ。
一見すると既存のタクシーの競合になるサービス。日本でライドシェアなどのサービスがなかなか進まない背景には、既存の交通会社の反対がある。なぜ、三豊では地元のタクシー会社がこうした動きに参画しているのだろう?
「どこもドライバーの数が足りなくて、持っている車両の3分の1も動かせていないのが現実です。高齢化でドライバーの数が足りない。稼働できる時間も限られるんですね。
結果、売上としてしんどくなっていて、コミュニティバスの運行委託などでかろうじて成り立っていますが、コミュニティバス自体も縮小傾向にあります。
その危機感を、皆さん自身が感じていて、半分怖いけど、生き延びていくためにも変化しないといけないと強く思っていらっしゃったところから、始まった取り組みだと思います」
まちで配られている「mobi」のパンフレット(撮影/筆者)
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さらに共同出資のしくみを発展させて、住民からも出資できるようにして、よりまちを能動的に動かしていくファンドづくりも始まっている。
URASHIMA VILLAGEの出資者の一社でもある喜田建材は、地元に100年以上続く老舗企業。建材以外にも、自社ショールームの1階で雑貨のセレクトショップを運営し、不動産業も手がけ、リノベした空き家でショールーム兼ゲストハウスを何軒も運営していたり。なんとラーメン屋まで営業している稀有な企業である。
ここで不動産部門の担当をする島田真吾さんが話を聞かせてくれた。
「うちの営業先は工務店なので、工務店が受注をとれないと建材が売れない。工務店の受注がどうしたら増えるか?をヒアリングした結果、家を建てる土地が決まらないということだったんです。それなら僕らが不動産屋をやって、土地を探してくれば工務店も受注が取れるし、家も建てられる。その先で建材も売れるよねと」
喜田建材で不動産部門の担当をする島田真吾さん(撮影/Fizm加藤真由)
不動産の担当になった島田さんは、その足で地元をまわり、耕作放棄地や空き家のある場所をマッピングしていった。地図はピンで真っ赤になった。
「これだけ空き家や空き地があるのに、ほかの不動産会社が扱わないのは、土地も家も安いので、仲介手数料が少ないからです。業者として売上にならない。
そこで不動産が儲けられるしくみをつくろうと、リノベーション再販を始めました。空き家を買い取って、リノベして売るモデルです。すると、ボロボロだった築45年の古い物件が、想像できないくらい素敵な家に変化する。ボロボロの状態で売るより仲介手数料が上がるので、地域の不動産屋が積極的に流通するよう動くし、地域の空き家が減り、工務店さんの仕事は増え、建材も売れるといういい循環が生まれます。それでも、買う側からすると、新築より圧倒的にイニシャルコストもランニングコストも抑えられる」
リノベーション前の家。これが下の写真のように変化する(提供/喜田建材)
リノベーション後。リノベーション前はなかなか売れなかった物件が、元値の20倍近い金額で発売から2日で売れたりする(提供/喜田建材)
仮に、100万円で買った物件が2000万円で売れるとなれば、取り扱う不動産会社も増えるだろう。
ただし、こうした物件を、一不動産会社が自社物件として購入し、売るのは、リスクもある上に、数が広がりにくい。そこで、いま進めているのが「ファンド」を活用した、空き家のリノベーションである。
地域ローカルファンドとして、「つくるファンド」「育てるファンド」「持続させるファンド」の3つのファンドを用意した。
(1)
「つくるファンド」は、ひらたくいえば、地域に住む人が増えるよう、住居を増やすためのファンドである。地域住民や地元の企業などが出資し、ファンドで空き家を買い取ってリノベーションして販売する。売れれば、その利幅を出資者で分配する。
ポイントは、一社のみでリスクを負わないで済む点。仮に100万円で買った物件が、2000万円で売れるとなれば(100%そううまくはいかないだろうが)、出資する人も増えそうだ。
(2)
次に、家を増やしても、その地域自体が魅力的でなければ住む人が増えないため、地域に魅力的な事業(店)を増やすのが、「育てるファンド」。シェアアトリエをつくりたい、民泊、カフェを始めたいといった人がスタートアップしやすくする。ファンドでリノベーションした家を起業者が借りることで、イニシャルコストを抑えられる。たとえばパン屋、焼き鳥屋、居酒屋……など、「この地域にこんな店がほしい」と思う住民が応援の意味もこめて出資する。
(3)
最後に、「持続させるためのファンド」。ある企業が何億円かの投資をして事業を始めた場合、借金を完済するまでは、次の事業に手を出しにくい。そこで、最初に投資した不動産の所有権だけをファンドに売却するという方法だ。
3つのファンドの目的と区別(提供/喜田建材)
3つのファンドと地域の関係者を表した図式(提供/喜田建材)
URASHIMA VILLAGEのようなケースも、所有権だけがファンドに移り、これまでの運営チームは、ファンドから賃貸で物件を借りて運営する形になる。実質の運営はこれまでと変わらないが、ファンドに不動産の所有権だけを買ってもらうことで銀行への返済が済み、次の事業に手を出しやすくなる。
実際に、「つくるファンド」はすでに動き始めており、一棟を買い取って、2023年11月から改修が始まっている。「育てるファンド」も事業者が決まり、2024年にはスタート予定。
「『持続させるファンド』は何億円という規模になるので、大企業が地方に出資するような形を想定しています。いまは地方に視察にきて、いいですねという話にはなっても、それ以上関わるしくみがないんですよね。
一口5万円で投資できますというアクションにつなげられれば、今までは関係人口で終わっていたところが、「株主人口」として、もっと深い関係性を地域とつくることができるようになります」(島田さん)
(撮影/Fizm加藤真由)
こうしたファンドの取り組みは、まだ始まったばかりだけれど、クラウドファンディングをリアルかつ地域密着で行うようなものだ。住民にとっても「暮らすまちをより住みやすくする」ための出資と考えれば、大きな可能性を秘めているように思う。
喜田建材のこのファンドの話には、古田秘馬さんもブレインとして関わっている。より地域や自分たちの生活にかえってくるようなお金の使い方をしようという発想ですよね?と古田さんに問うと、こんな答えがかえってきた。
「まさにそうです。住民も『もっと地域に関わろうよ』っていう。それに、大企業や出入りしている人など、ふわっとした関係の人たちが株主として関わることで、よりしっかりした地域との関係になる。
いまは、どうしても資本を入れた大企業がオーナーシップをもつ形になってしまいます。でも本来、地域の側がオーナーシップをもってものごとを進めるのが一番いい。資本は入れてもらっても、自分たちで運営していくしくみをつくろうってことですね」(古田さん)
(撮影/Fizm藤岡優)
仁尾のスナック「ニュー新橋」とまちに関わる4つの階層の話URASHIMA VILLAGEの取り組みを、地元の人たちがどんな温度感で見ているかというと、またちょっと違った視点もある。三豊市と一口にいっても、香川県内で3番目に人口の多い都市であり、高瀬町、山本町、三野町、豊中町、詫間町、仁尾町、財田町の旧7町が2006年に合併してできた市だ。
住民のアイデンティティは、市にあるというより、旧町にある人が多い。
出資者の一人である「スーパー今川」の今川宗一郎さんは、こう話す。
「URASHIMA VILLAGEに関わっているのは、地元でも名士と言われる、影響力のある企業の方々。地域では資本を持っている人たちが勝手にやっているという印象もあると思いますが、その役割の人たちだからできることで、それはそれで大切。
僕は、地域が変化していくために必要な4層があると思っていて。一番外側が観光客だとすると、その一つ内側が、外から関わってくれる秘馬さんや原田さんのような関係人口。そして一番内側に完全ローカル層の住民があるとしたら、内から二番目が重要なんじゃないかと。
地元の人間だけど、外の人とちゃんとコミュニケーションできる。そこを僕ら地域の若手が担えればと思っています。バリバリローカルの仲間とも話せるけど、秘馬さんや外の人たちと仕事の話やビジョンの話までちゃんと共有できる」
今川宗一郎さん(撮影/Fizm藤岡優)
URASHIMA VILLAGEの方法に影響を受けて、今川さんたちは、仁尾のローカルに、まったくメンバーの異なる地元の仲間数人と出資をしあい、「ニュー新橋」というカラオケパブを始めた。本記事の写真を撮っている藤岡優さんも、今川さんの仲間で、ニュー新橋の出資メンバーの一人である。
この店は「観光客のためというより、自分らで自分たちの暮らしを楽しくする」ことを目的にしていて、出資者自らシフト制で店に立つこともある。
ニュー新橋の様子。先述の田島さんも、移住してきてすぐこの店の常連になり、地域に打ち解ける入り口になったという(撮影/Fizm藤岡優)
「僕らはもともとよく集まっては地域を何とかしなきゃと話していたけど、どう動いていいかわからなかった面もあって。いま振り返れば、泳ぎたいけどプールに入らずに本を買ってきて勉強しようみたいな温度感だったんだと思います。それを秘馬さんはまずは水に浸かれと。それで失敗しても、本当に失敗かどうかはその後次第だと。それを一番に教えてもらった」
スーパー今川は、旧仁尾町の地元民にすれば、生活になくてはならないスーパーだ。その後継ぎの今川さんが、URASHIMA VILLAGEにも参画し、自ら別会社で「宗一郎珈琲」を始め、同時に仁尾の街中の通りを商店街として再生させようとしていることは、三豊市という大きな単位でなく、仁尾町という小さな単位の“地域”からみても、大きな意味をもっている。
地域の企業、住民が、自らの暮らしのなかで何を大切にして、しくみを確立し、暮らしていくのか。新しい試みが、すでに始まっている。(本文ここまで)
●取材協力
URASHIMA VILLAGE
金丸工務店
「瀬戸内暮らしの大学」
「暮らしの交通」
喜田建材「暮らしの不動産」
ショッピングストア今川
アメリカ・ニューヨークのセントラルパーク南端から2ブロック南の57丁目は、「ビリオネアズ・ロウ(Billionaires’ Row)」、つまり「億万長者の並び」と呼ばれています。この通りを中心に近年、次々と富裕層向け高級コンドミニアムの建設ラッシュが続いています。
今回はこの地区に新たに完成したばかりの、高級ホテルとの複合住居ビルに案内してもらいました。ホテル暮らしのような生活ができる新築コンドミニアムで、家具付きのオプションも選べます。どのような物件なのか、見てみましょう。
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マンハッタン56丁目にこのほど完成したばかりの高層新築コンドミニアム、「ONE11 Residences at Thompson Central Park(ワン・イレブン・レジデンスズ・アット・トンプソン・セントラルパーク)」 。
ハイアット系列の豪華ホテル 「トンプソン・セントラルパーク」の客室の上階(34階~42階、99世帯分)がONE11 Residences at Thompson Central Parkの住居スペースになっています。
販売価格は119万5,000ドル~1,695万ドル(約1億7,600万円~25億円)です。
「居住スペースは1階のホテルロビーから出入りも可能なため、ホテル内の施設に行きやすく、まるでホテル暮らしのような生活ができるんですよ」( ONE11 Residences at Thompson Central Parkのセールス・ディレクター マリア・マイニエリさん)
ホテル、トンプソン・セントラルパークの客室の上階(34階~42階)がONE11 Residences at Thompson Central Parkの住居部分。写真は廊下から見渡せるセントラルパークの景色(c) Kasumi Abe
セントラルパークまで3分と自然豊かな最高の立地で、それぞれの部屋の窓には四季折々の美しい景色が広がります。徒歩圏内はオフィス街と商業街で、地下鉄の駅、高級デパート、カーネギーホールなどの文化的施設も充実し、とてもにぎわいのある地区です。
日本に住んでいる方々がイメージしやすいよう、首都圏を中心に新築マンションを取材してきた情報誌『SUUMO新築マンション』編集長・永田幸樹氏にも話を聞いてみました。まず街の中心に位置する緑豊かなセントラルパークを皇居となぞらえるならば、東京でいうと「距離感などを考慮すると千代田区をイメージするのが良いのではないでしょうか」とのこと。
ただし、価格面は平方フィート(psf)あたりの平均価格から確認しても、千代田区より3~4割程度高いようです。東京都心でも特に人気エリアである千代田区より3~4割高いとは、さすが“ビリオネアズ・ロウ”界隈(ニューヨークの富裕層エリア)です。しかも高級ホテルの上階とは、一度は憧れるシチュエーションです。
住居部分の下層が豪華ホテルと連結。会員制高級ラウンジやレストランも使えるさっそく ONE11 Residences at Thompson Central Parkの中に入ってみましょう。
ONE11 Residences at Thompson Central Parkとホテル「トンプソン・セントラルパーク」の入口は2つ別々にありますが、高層複合ビルのため、建物内のロビーで繋がっています。奥に進めばホテルのレストランやバーがあり、ミーティングや仕事終わりの1杯などで立ち寄りやすい雰囲気です。
1階にあるホテル「トンプソン・セントラルパーク」のバー(c) Kasumi Abe
1階にあるホテル「トンプソン・セントラルパーク」のレストランスペース(c) Kasumi Abe
建物内にはホテル「トンプソン・セントラルパーク」のVIPとONE11 Residences at Thompson Central Parkの住人だけが利用できる高級会員制スタイルのラウンジ兼コワーキングスペースも完備しています。軽く飲みながら休憩をしたり、リモートワークをしている人の姿もちらほら見かけます。
「ONE11 Residences at Thompson Central Parkの居住者は最初の1年間、ここで提供されているフード&ドリンク類は無料サービスとなります」( マリア・マイニエリさん)
ホテルのVIPとONE11 Residences at Thompson Central Parkの住人だけが利用できるラウンジ兼コワーキングスペース(c) Kasumi Abe
NY生活を即開始できる。オプションで家具付き物件もこの物件には、ターンキー(turnkey)と呼ばれるオプションもあります。ターンキーとは簡単にいえば、家具付きの物件のこと。住人が契約後に鍵を受け取り、ドアを開けてすぐに生活が始められるという意味から、そのような言葉が使われています。
ONE11 Residences at Thompson Central Parkでは、インテリアの専門家がコーディネートした家具を丸ごと購入することもできます。もちろん自分でインテリアを選びたい場合は、ターンキーなしのオプションを選ぶことも可能です。
「ターンキー物件のインテリアは、人気のトーマス・ジュール・ハンセンによるコーディネートです。インテリアや家具、壁にかかっている絵画、リネン、キッチンのお鍋や食器、バスルームのソープ類、タオルなどまで丸ごと購入できますから、すぐに生活を開始できるのです。外国のお客様にとって海外生活を即スタートできるのはとても便利なオプションのようで、好評です」( マリア・マイニエリさん)
ゆったりした入口スペース(c) Kasumi Abe
ターンキーを選べば、センスの良い家具からインテリア小物まで全部ついてくる。自分で選んだり買い物したりする手間が省ける(c) Kasumi Abe
ターンキーのオプションを選べば、このようにテーブルや棚に置かれたインテリア小物もすべてついてくる。そのオプションを選ばなくても見ているだけでインテリア選びの参考になりそう(c) Kasumi Abe
セントラルパークを臨むベッドルーム(c) Kasumi Abe
アイランドキッチン。冷蔵庫、IH調理器、食器洗浄機、ワインクーラーなどすべてミーレ社製(c) Kasumi Abe
窓付きの明るいバスルーム。「アメリカでは非常に珍しく浴槽から出てお湯を流せるタイプになっています」( マリア・マイニエリさん)。日本人も使い勝手が良さそう(編集注:通常アメリカのバスルームはトイレと浴槽が同じ室内にあり、日本の浴室のように浴槽の外で体を洗ったりお湯を流したりすることはできない)(c) Kasumi Abe
収納スペースがたっぷりのウォークイン・クローゼット(c) Kasumi Abe
リビングとベッドルームからセントラルパークの四季の移ろいを楽しむことができる(c) Kasumi Abe
冒頭で価格帯はご紹介しましたが、各住居の気になるお値段は? 以下は住居ごとの一例です(すべてターンキーなしの価格)。
Residence 36A ー (1ベッド、1バスルーム 707平方フィート=65.7平方メートル)
$2,050,000(約3億1,027万円)
Residence 37C ー (2ベッド、2バスルーム 1,133平方フィート=105.2平方メートル)
$2,695,000(約4億790万円)
(オプションのターンキーを選ぶ場合、住居の大きさに応じて追加費用は16万ドルから25万5千ドル、約3,000万円前後)
ホテル上階の住居スペース、ターンキー物件、日本では?こうしたラウンジを備えたコンドミニアムやターンキー(家具付き)の物件は、日本でも増えているのでしょうか? 前出の『SUUMO新築マンション』の永田氏に聞きました。
「日本ではホテルと一体的に開発される分譲マンション自体がそもそも稀有な存在です。前提として、日本のマンションでは大規模物件を中心に共用部が充実しているケースが多く、高級感のある設えの物件も一定数ある状態です。とはいえ、ONE11 Residences at Thompson Central Parkのようにコンドミニアムに住みながら、同じ建物内にあるホテルの施設を利用できる物件も登場しています」
形式は違えど、ホテルライクな暮らしができるコンセプトの物件は、日本でも登場してきているようです。そのような中には高層階を購入した人のみが利用できるサービスもいくつか見られます。最近では、大阪市内に誕生した『Brillia Tower 堂島(ブリリアタワー堂島)』(フォーシーズンズホテルと一体の高級分譲マンション)が一例です。
ターンキー物件については、「ニューヨークでも同様かと思いますが、日本では分譲マンションのオプションとしては珍しいタイプで、ごく稀に存在している印象です。富裕層向けのハイクラスの物件はそもそもゼロベースでカスタマイズすることを前提にしているケースも多いです。空間づくりにこだわる方が多いのが背景にあるのですが、カスタマー自身が間取りや設備までトータルコーディネートしているケースが少なくありません」。
ターンキー物件そのものは珍しいものの、近いサービスを享受できる富裕層向けのハイクラス物件はよくあるようです。
コンドミニアムを購入する場合、「プロのインテリアコーディネーターによってすでにセレクトされている家具や小物を丸ごと購入できるのを便利としてそこに価値を置く人」から、「時間がかかって良いから自分ですべてのインテリアをコーディネートしたい人」、また「プロにお願いしなくて良いから少しでもインテリア価格を抑えたい人」など、住居に求める理想やライフスタイルの好みはさまざまです。それを踏まえ「諸々のオプションがあって選ぶことができる」のが、ONE11 Residences at Thompson Central Parkの強みであり特徴だと思いました。
●関連サイト
ONE11 Residences at Thompson Central Park
カーディフ生命が全国2000人を対象に実施した「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」によると、現在感じている最大の不安は「物価高」だという。では、物価高による節約志向が進む中で、住宅購入についてはどう考えているのだろう?
【今週の住活トピック】
「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」を実施/カーディフ生命
調査結果によると、「現在感じている不安」(複数回答)の1位は「物価高」の85.6%で、次いで「老後資金」(82.8%)、「自然災害」(74.88%)、「病気・ケガなどで働けなくなる」(71.5%)などが続いた。漠然とした不安よりも、目の前の生活に影響が大きい「物価高」に大きな不安を感じているようだ。
こうした物価高や値上げの影響を受けて、「外食・飲み会」(30.5%)や「日常の衣類・ファッション」(28.4%)などを節約していることも分かった。では、住宅購入についてはどう考えているのだろう?
この調査で、買う派(どちらかというと買うを含む)か、借りる派(どちらかというと借りるを含む)かを聞いたところ、買う派が67.1%という結果になった。同社では「購入希望理由のトップは『自分の家を持ちたいから』(56%)と物価高や住宅価格の高騰が続く中でも、依然としてマイホームへの憧れが強いことがうかがえる」と見ている。
出典:カーディフ生命「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」
半数近くは住宅ローンを返せるかに不安を感じているただし、住宅購入には不安も感じている。住宅購入への不安理由トップは「住宅ローン返済への不安」の47.4%。特に20代・30代では、半数以上が住宅ローン返済に不安を感じているのだ。
出典:カーディフ生命「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」
さらに、住宅ローン返済に不安を感じている人に対して、不安の理由を聞いたところ、「病気・ケガによる収入減」(61.2%)が最も多く、次いで「急な出費」(38.8%)、「金利上昇による将来の負担増」(36.0%)が続いた。調査結果を見ると、収入が減少して、ローン返済を続けられないことに不安が強いことがうかがえる。
出典:カーディフ生命「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」
住宅ローンの不安を軽減するには、まずは無理のない返済計画を“家を買う派”が多いものの、住宅ローンの返済に不安を感じているということが分かる結果だが、住宅ローンの借り方に注意することで、不安はかなり解消される。家を買っても借りても、いずれにせよ住宅に関する費用は発生する。住宅ローンに強く不安を感じるのは、賃料なら住み替えて金額を変えることもできるが、ローンは決められた額を必ず払わなければならない、ということにあるのだろう。
不安を軽減するには、まずは無理のない返済計画を立てることだ。病気やケガで働けない期間があっても、ローン返済後の家計に余裕があったり貯蓄があったりすれば、やりくりすることは可能だ。年間の返済額を年収の1/4程度に抑えておけば、変化に対応しやすいだろう。また、購入時の頭金として貯蓄をすべて使ってしまわないこと、購入後も教育資金や老後資金のための貯蓄を続けることも大切だ。
「金利が上昇して返済額が増える」ことに対しては、家計に余裕があったり繰り上げ返済などに回せる貯蓄があったりすれば、やりくりすることも可能だろう。一方で、【フラット35】のような返済中は金利が変わらない「全期間固定型」のローンを選ぶ方法もある。返済当初の金利は「変動金利型」などのほうが低いこともあって、今は変動金利型を借りる人が大半だ。ただし、家計に余裕がない人ほど、返済額が変わらない全期間固定型を選ぶほうが安心できるだろう。
住宅ローンの不安を保険で軽減する方法もある住宅ローンを借りる際には、多くの場合「団体信用生命保険」(以下、団信)に加入する。団信は借りている人が万一、死亡または高度障害になった場合にローンの残額を保険で返済するものだ。つまり、万一の際に残された家族が代わって返済を求められることはない。
一方で、病気やケガ、失業などの場合は団信の対象外となる。そのため、医療保険や就業不能保険などに加入して、万一に備える方法もある。なお、勤務先で雇用保険に加入しているなどの条件を満たせば、国の失業手当(失業保険)を受け取ることができる。
なお、この調査で、「住宅購入後の後悔」を聞いた際のトップになったのは、「団信の特約を付ければよかった」(40.4%)だった。団信の特約とは、がんや三大疾病(がん・心疾患・脳血管疾患)などに備えたり、就業不能や失業に備えたりする、団信に付帯できる保障のこと。この特約は、団信加入時に付帯するものなので、後から付けることができないのが原則だ。それが後悔する要因なのだろう。
家を買うのであれば、こうした保険に関する情報も押さえておくとよい。
このように、家を買う派が不安に感じる「住宅ローンの返済」については、不安を軽減する方法はいくつかある。漠然とした不安を抱えたままではなく、不安の理由を具体化してそれぞれの対処法を考えておくことは、返済計画の健全性を高め、不安を軽減することにつながるだろう。
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カーディフ生命「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」を実施
渋谷駅と横浜駅という、2つの巨大ターミナル駅を結ぶ全長約24.2kmの東急東横線。「SUUMO住みたい街ランキング2023 首都圏版」の「住みたい沿線ランキング」では、JR山手線に次いで2位に選ばれている。沿線には中目黒駅や武蔵小杉駅など住宅地として人気の街も多いが、家賃を抑えつつ住むならどこがいいのだろう? 東急東横線全21駅の家賃相場が安い駅ランキングをさっそくチェック!
東急東横線沿線の家賃相場が安い駅ランキング順位/駅名/家賃相場/駅所在地
1位 白楽 6.00万円(神奈川県横浜市神奈川区)
2位 妙蓮寺 6.10万円(神奈川県横浜市港北区)
3位 東白楽 6.35万円(神奈川県横浜市神奈川区)
4位 日吉 6.90万円(神奈川県横浜市港北区)
5位 菊名 7.00万円(神奈川県横浜市港北区)
5位 大倉山 7.00万円(神奈川県横浜市港北区)
5位 綱島 7.00万円(神奈川県横浜市港北区)
8位 元住吉 7.50万円(神奈川県川崎市中原区)
9位 反町 7.70万円(神奈川県横浜市神奈川区)
10位 多摩川 8.20万円(東京都大田区)
11位 武蔵小杉 8.50万円(神奈川県川崎市中原区)
11位 新丸子 8.50万円(神奈川県川崎市中原区)
13位 横浜 8.55万円(神奈川県横浜市西区)
14位 田園調布 8.70万円(東京都大田区)
15位 自由が丘 9.00万円(東京都目黒区)
16位 祐天寺 9.10万円(東京都目黒区)
17位 都立大学 9.30万円(東京都目黒区)
17位 学芸大学 9.30万円(東京都目黒区)
19位 中目黒 11.00万円(東京都目黒区)
20位 代官山 12.80万円(東京都渋谷区)
21位 渋谷 13.20万円(東京都渋谷区)
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東京都から神奈川県まで線路が続く東急東横線。一人暮らし向け賃貸物件(ワンルーム・1K・1DK、10平米以上~40平米未満)の家賃相場を調査したところ、同じ路線内でも最高値~最安値で7万2000円もの開きがあることが判明した。最も安かったのは白楽駅で、家賃相場は6万円だった。
白楽駅(写真/PIXTA)
1位・白楽駅は神奈川県横浜市神奈川区に位置し、横浜駅までは3駅・約5分で行くことができる。各駅停車のみの停車駅だが、2駅隣の菊名駅で急行や通勤特急に乗り換えると渋谷駅までは計約36分だ。駅から南西に15分ほど歩くと神奈川大学の横浜キャンパスがあるため、学生の姿も多く見かける。駅改札前の「タリーズコーヒー」が神奈川大学とのコラボ店舗だったり、駅周辺にはリーズナブルな飲食店が豊富な点も、大学の最寄駅らしいところだ。
六角橋商店街(写真/PIXTA)
白楽駅の西口を出て神奈川大学へと向かう旧綱島街道を中心に広がる「六角橋商店街」には、飲食店はもちろんスーパーをはじめとする生鮮食料品店や雑貨店、クリニックなど約170もの店舗がずらり。日常の用事はこのあたりで済ませられそう。駅の北側には、魚釣りができる池の周囲に遊歩道がめぐる「白幡池公園」と緑豊かな「篠原園地」があり、地元住民の憩いの場として親しまれている。学生向けのリーズナブルな賃貸物件も多く、活気ある商店街や自然を感じる公園もある白楽駅周辺は、都会過ぎずにのびのび暮らしやすそうな街だ。
妙蓮寺駅(写真/PIXTA)
2位は神奈川県横浜市港北区にある妙蓮寺駅で、家賃相場は6万1000円。1位・白楽駅から渋谷方面に1駅目で、横浜駅までは4駅・約7分だ。駅の東口前には駅名の由来となった妙蓮寺の敷地が広がり、商店街は駅の西口側にある。コンビニやドラッグストア、スーパーのほかに、ファストフード店やカフェなどの気軽に利用できる飲食店も。自家焙煎コーヒー豆専門店やチョコレート専門店、作家物の器の展示・販売店など個性的なショップもあるので、散歩がてらお店めぐりをしてはいかがだろう。
妙蓮寺駅の北西方面には、大きな池がシンボルの「菊名池公園」がある。緑豊かな園内の池端には桜が植栽されているので、春はここでお花見をするのも楽しそう。また、同じ港北区内にあるJR新横浜駅までは自転車で10分たらず。そこまで行くと大型ショッピングモールがあるので、休日に足を延ばすのもよさそうだ。
東白楽駅周辺の風景(写真/PIXTA)
続いて、家賃相場6万3500円で3位にランクインした東白楽駅は、1位・白楽駅から横浜方面に1駅目。東白楽駅(3位)~白楽駅(1位)~妙蓮寺駅(2位)と連続する3駅が、トップ3に並んだわけだ。東白楽駅は神奈川県横浜市神奈川区に位置し、2駅・約3分で横浜駅に到着する。駅周辺は商店街というよりは住宅地で、コンビニや飲食店が点在する程度。しかし横浜上麻生道路を南東に10分ほど歩けば「イオンスタイル東神奈川」があるので、買い物には困らない。その少し先には、JR東神奈川駅と京急東神奈川駅も。両駅の周辺には多彩な店舗がそろい、京急本線に乗れば品川方面にも行くことができる。
さらに、東白楽駅からJR東神奈川駅とは逆方向へと横浜上麻生道路を進むと、徒歩10分ほどで1位・白楽駅周辺の「六角橋商店街」にたどり着く。落ち着いた住宅地が広がる東白楽駅の近くに住みつつ、にぎわいある東神奈川駅や白楽駅の周辺にある商業施設を活用する……。そんな暮らし方ができそうだ。
家賃を抑えつつ渋谷に近い住まいを探すなら、元住吉駅や多摩川駅へランキングを見てみると上位9駅を神奈川県内の駅が占めており、安く住むなら東京都内よりも神奈川県内の駅のほうが狙い目だとわかる。しかし「安く住みたい、けれどなるべく渋谷に近いほうがいい」という人もいるだろう。そんな場合は、上位9駅のうちでは最も渋谷駅に近い8位・元住吉駅はいかがだろう?
元住吉駅(写真/PIXTA)
神奈川県川崎市中原区に位置する8位・元住吉駅の家賃相場は7万5000円。東急東横線・目黒線が乗り入れており、どちらかの路線で1駅隣の武蔵小杉駅に行って東急東横線の急行に乗り換えると、渋谷駅までは計21分前後で到着できる。東急目黒線は目黒駅経由で東京メトロ南北線や都営三田線と相互直通運転が実施されているため、永田町駅や四ツ谷駅、大手町駅や神保町駅にも元住吉駅から1本で行ける点も魅力の一つだ。
元住吉駅の東口側には「モトスミ オズ通り商店街」が、線路を渡った西口側には「モトスミ・ブレーメン通り商店街」があり、駅前はにぎわいのある雰囲気。コンビニやドラッグストアなどのおなじみのチェーン店から個性的な個人商店までそろい、買い物環境が充実している。また近年、住宅地として人気が高まった武蔵小杉駅(11位・家賃相場8万5000円)は東急東横線で1駅、自転車でも10分ほどの近さ。そこまで行くと大型のショッピングモールも利用できる。横浜駅までも各駅停車なら20分ほど、1駅隣の日吉駅で急行に乗り換えれば計約15分。渋谷駅にも横浜駅にも20分前後でアクセスできる、便利なロケーションだ。
元住吉駅よりもさらに渋谷駅に近い立地で、東京都内の駅で最も家賃相場が安かったのは東京都大田区にある多摩川駅。家賃相場は神奈川県内にある武蔵小杉駅や新丸子駅(両駅同額で11位・8万5000円)よりも安い、8万2000円で10位にランクインしている。多摩川駅にも停車する急行に乗れば、渋谷駅まで5駅・約16分だ。駅の東側には湧水池や芝生広場、隈研吾氏設計の休憩施設を備えた「田園調布せせらぎ公園・せせらぎ館」が広がり、西側には見晴らしのよい丘陵地「多摩川台公園」がある、公園に挟まれた緑豊かな環境。「多摩川台公園」の脇を流れる多摩川を超えれば神奈川県に入る、都県境間際のロケーションでもある。
多摩川台公園(写真/PIXTA)
10位・多摩川駅周辺には1駅隣の田園調布駅から続く閑静な住宅地が広がり、駅構内のコンビニやベーカリー以外だと商店は飲食店が数軒あるのみ。日々の買い物をする際は歩いて15分ほどの田園調布駅前のスーパーや商店街を利用するか、多摩川駅からそれぞれ自転車で10分弱の場所にある11位・新丸子駅や、東急池上線・雪が谷大塚駅を訪れるといいだろう。両駅の周辺にはコンビニやスーパーのほかにファストフードやラーメンなどの飲食店もそろっているので、自炊をせずに食事を済ませたい時にも出かけたい。
さて、多摩川駅からさらに渋谷方面に進むにつれて家賃相場は8万円台後半、9万円台……とどんどん上昇していく。自由が丘や中目黒、代官山といった有名な街が居並ぶ沿線から最後にもう1駅、学芸大学駅をピックアップしよう。東京都目黒区に位置する学芸大学駅は、家賃相場9万3000円で17位にランクイン。駅名の由来になった「東京学芸大学」は東京都小金井市に移転しているが、同大学の付属高校は徒歩15分ほどの場所にいまもある。駅周辺は飲食店が豊富で、そこを目的に遠くから訪れる人もいるような人気店も。駅高架下のスーパーや100円ショップ、食料品店をはじめ、日常生活を支える商店も多数ある。
学芸大学駅前(写真/PIXTA)
そして注目は現在、学芸大学駅の高架下を中心にした南北約1km区間でリニューアルが進行中なこと。2023年秋には飲食店街「学大横丁」の外部空間などがアップデートされ、2023年冬には駅北側の駐輪場にスモールオフィスエリアが、2024年春にはカルチャー&フードエリアが誕生予定だ。より魅力的な街へと生まれ変わる学芸大学駅は、今後ますます人気も家賃相場も高まるかもしれない。
東急東横線は東京メトロ副都心線、みなとみらい線との相互直通運転が行われているため、渋谷駅から先の新宿三丁目駅や池袋駅、横浜駅から先の元町・中華街駅にも1本で行くことができる便利な路線。さらに2023年3月には日吉駅経由で相鉄・東急新横浜線との相互直通運転もスタートし、東海道新幹線の新横浜駅にも渋谷駅から乗り換えずに最速25分で到着可能となった。今回の調査結果を見ると沿線の家賃相場は全体的に安いというわけではないものの、家賃に見合うだけの魅力を備えた路線と言えるようだ。
●駅順の家賃相場一覧
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東横線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/4~2023/9
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンションのうち普通借家契約の物件のみ)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
賃貸住宅というと、画一的なプランを思い浮かべる人も多いでしょう。でも、そんな思い込みを裏切る個性的な賃貸物件が日本各地で少しずつ増えています。お店が開けたり、相撲部屋付きだったり、農園付きだったりとその顔ぶれもさまざま。では、次に賃貸物件にやってくる新しい風とは? お部屋を借りる側にはどんなメリット・注意点があるのでしょうか。SUUMO副編集長でSUUMOリサーチセンター研究員でもある笠松美香氏に話を聞きました。
リサーチ期間や内見件数など、お部屋の探し方に変化がまず前提として、賃貸住宅は間取りやデザインなどについては大きな変化が起きにくい構造になっています。それにはいくつか要因がありますが、
(1)既に多数のストックがあり、新築物件は多くない
(2)家を借りる人と建てる人が別である
(3)デザイン・間取りも大多数の人に嫌われないことが大切
というのが大きな理由です。借り手がどんな人になるかわからない以上、特別好かれなくても「嫌われない」お部屋づくりを基本にするのは、わかるような気がします。とはいえ、物件や大家さん側の意識にも少しずつ変化があり、また家を探す側、お部屋の探し方や意識が変わってきているため、個性的な物件が出やすい土壌になってきたといいます。
「今、お部屋を借りて住み替えたいと思う人は、物件情報を収集・検討する期間が長くなっています。ルームツアー動画も人気がありますし、引越す気がなくともスマホで日常の合間合間に『物件を見ている』という感じで、お部屋探しの情報にふれる期間が長くなっているんですね。ネットに載る物件情報もひとつひとつが詳しくなっており、いわゆる『コンセプト賃貸』のような、個性ある物件についても差別化され、借りたいと思う人とマッチングしやすくなっているんです」と笠松氏。
DIYし放題の賃貸。住民みんなで使えるピザ窯や住民のための図書館をつくった大家さんも「キタノアパート」(東京都八王子市)(写真撮影/田村写真店)
全9部屋でゴルフ、陶芸、ボルダリング、ピアノ演奏などコンセプトが異なるユニークなコンセプト賃貸も(写真は千葉県柏市にある「ガルガンチュア」)(写真撮影/内海明啓)
ただ、ネット上で決めてしまい、リアルには物件見学しないというわけではなく、訪問や内見「現地でしか見られない状況を確かめる」「入居前の最終確認」という位置づけになっているそう。
また、お部屋を借りる人が長く情報収集・物件の資料を見続けることで、目が肥え、「防音設備が整っていてYOUTUBEでオンライン実況ができる」「大型犬が飼える」「入居者同士のコミュニティがある」「菜園がある」といった特色ある物件が差別化され、「ニーズを捉えていれば、借り手が見つかる」「そのような特別な特徴に強く惹かれた入居希望者が何年も入居待ちしている」という状況も生まれています。これは「入居者に愛される賃貸をつくりたい」「マッチした人に長く住んでほしい」と考える大家さん、「似たような部屋しかない」と不満に思う借り手、双方にとって幸せな流れといえるでしょう。
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笠松氏の話をまとめると、これからお部屋探しをする人は「ゆるゆると情報を集めて、ここぞというときは決断する」と行動を想定しておくのが、良いお部屋探しの大原則といえそうです。また、もうひとつ、お部屋を借りる側としてうれしい傾向が初期費用にあるといいます。
「近年、大家さんが空室を極力減らしたいという意向もあり、礼金が減少傾向にあります。さらに日本各地で家賃債務保証会社の利用が一般化しています。そのため、家賃回収できなかったときのために多めに設定されてきた『敷金』も1カ月分、もしくは0カ月とし、ルームクリーニング代を実費で精算するなどして抑える傾向も。つまり、敷金や礼金といった初期費用が下がっているため、住み替えのハードルが下がっているんです」(笠松氏)といい、賃貸の魅力である「ライフスタイルの変化」にあわせた住み替えができるようになっているのが昨今の特徴だといいます。
(写真/PIXTA)
コロナ禍では、「テレワークができる広めの郊外のお部屋」、収入減少に対応して「家賃が低めのお部屋」といった大きく変わった生活環境に合わせた選択をする人も見られたそう。これは変化に柔軟という賃貸のメリットを生かせるという意味でとてもいい傾向といえるのではないでしょうか。もうひとつ、コロナ禍を経た変化として不動産業界のデジタル化を教えてくれました。
「オンラインで重要事項説明を受けることも可能になりました。希望すれば不動産会社の担当者とはリアルで対面しないまま契約も可能になっています。現時点では一部ですが、こうしたデジタル化の流れは今後も廃れるとは思えないですし、じょじょに一般化するのではないでしょうか」(笠松氏)
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また、賃貸だけに限りませんが、新築マンション、新築一戸建てなど、すべての新築住宅に影響する制度がスタートし、賃貸にも好影響が期待されます。
「2024年4月から『省エネ性能表示制度』がスタートし、2025年には、断熱等級4が、さらに遅くとも2030年には等級5(ZEH基準並みの水準)が新築住宅においては義務化されます。すでに「長期優良住宅」の条件は2022年から等級5となっており、新築の賃貸住宅は省エネ性能も向上することが見込まれます」と解説します。
もちろん、賃貸住宅のなかでも新築といえば総数は多くありませんし、家賃も高めに設定されています。いきなり大多数の物件の省エネ性能が向上するわけではありませんが、義務化された以上、今後は大きな流れになっていくのは間違いありません。
住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)
SUUMOにおけるインターネット広告への掲載例
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「賃貸住宅の建築を請け負っているハウスメーカー各社も当然、この制度に対応していて、各社注力しています。2025年には等級4が最低基準になりますが、海外の基準を見ていると省エネ等級6や7をとるべきですよという流れになっていくはずです。住宅の省エネ性能が高まると、使用するエネルギー量が節約できるほか、住む人の健康にも良い影響を与えることもわかっているので、賃貸住宅を借りる側にとってはよいことだと思います」(笠松氏)
埼玉県和光市で環境性能評価システムLEEDを取得する予定の賃貸住宅「鈴森Village」(埼玉県和光市)(写真撮影/片山貴博)
超高断熱・高気密の外壁と窓を採用しているため、冬季に使用する暖房は、建物全体を温める共用廊下のエアコン2台。このエアコンだけで外がマイナス14度でも、部屋の温度は19~20度を下回ることはないという、北海道ニセコ町にある“最強断熱”賃貸住宅(画像提供/ニセコまち)
副産物として、賃貸住宅の根強いニーズであった遮音性の向上も見込めるといいます。
「物件を借りる側のアンケートでは、収納や防音/遮音、省エネ性というニーズが高いことがわかっています。断熱性能の高い住まいは気密性も高く遮音性もよいことが多いので、賃貸住宅の住み心地そのものが向上していくのではないでしょうか」と期待を寄せます。
確かに「収納」「遮音」「断熱」は住み心地に大きく影響しますが、なかなか見てわかる「徒歩分数」「家賃」「差別化できる要因」とはなりにくく、今までは後回しにされてきました。今後はこうした「住み心地」に直結する基本性能がよくなっていくことでしょう。
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もう一つ、東日本大震災以降、じわじわと増えているのが「コミュニティ型」賃貸住宅だといいます。
「日本各地で災害が頻繁に発生していることもあり、近所に見知った顔がほしいというニーズが根強くあるため、コミュニティ形成を助ける賃貸住宅は一定の支持を集めてきました。パルコカーサ、青豆ハウス、ハラッパ団地、高円寺アパートメントなどは代表的な例ですよね。コミュニティ賃貸だけでなく、人とつながって暮らすというのは、シェアハウスに住んだ経験者が多い、今の若い世代にとっては当たり前なんです。ずっとではないけれど、人生の一時期はシェアハウス暮らしでさまざまな人との出会いを楽しみたいという声もよく聞きます」と笠松氏。
“育つ賃貸住宅”というコンセプトを掲げ、2014年に誕生した「青豆ハウス」(東京都練馬区)。住む人と青豆ハウスを訪れる人が一緒に育む新感覚の共同住宅だ(画像提供/青豆ハウス)
保育園・農園付きで3年満室続く「ハラッパ団地・草加」(埼玉県草加市)(写真撮影/片山貴博)
なるほど、コミュニティ賃貸は「ご近所づきあい」、シェアハウスは「節約目的」ばかりだと思っていましたが、ともに「人とのつながり」「体験」をシェアするという側面もあるのですね。また、いわゆる賃貸住宅の一角で商売をする「ナリワイ」をはじめられる賃貸住宅も同様だといいます。
「ナリワイって、そこで儲けようとか、起業して成功しようという目的ばかりではなく、人とつながったりとか、人との会話や関係性ができたり、誰かの役に立ちたいという目的が多いように思います。大家さんとしても、やっぱり商売する人が入居してくれれば、なかなかその場を離れないというのもあって、大家さん、借り手、地域住民の三方良しの仕組みなんですよね」とその背景を解説します。
「なりわい賃貸住宅」、「暮らしの町あい所」として話題になった「hocco(ホッコ)」(東京都武蔵野市)(撮影/片山貴博)
令和は、賃貸住宅でしかできない経験や体験が重視されているのかもしれません。
「大家さんとしても、知らない人同士が住んで、どんどん入れ替わって、顔が見えなくてという不安な状態よりは、やっぱり同じ街に暮らす人同士が助け合いたい、そこに自分の資産である賃貸住宅を組み込んでほしいという思いはあります。大家さんは代々その地に根付いた人だからこそ、街に愛着を持ち、よくしていきたいという人が多いのです。土地や住んでいる人がいてこその大家さんなので」と笠松氏。
賃貸といえば「借り住まい」「帰って寝るだけの場所」という側面もありましたが、今は「家で過ごす時間がいちばん楽しい」「自分がいたいと思える家」という物件が次々と登場しているということなんでしょうか。2024年はより「愛ある賃貸住宅」「思いを込めてつくった家」が輝き、魅力を放つ一年になるかもしれません。
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賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区
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銭湯がつないだ地域の絆を受け継いで。名物賃貸「パルコカーサ」の子育てコミュニティ
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懐かしさ感じる”リノベ団地”に広がる人の輪! 保育園・農園付きで3年満室続く「ハラッパ団地・草加」を訪ねた
団地はどう変わっていく?「ハラッパ団地・草加」に見る新しい暮らし
【高円寺アパートメント】
災害時、賃貸でお隣さんは助けてくれる? 住民同士で防災計画をつくる「高円寺アパートメント」
デュアルライフ・二拠点生活[21] 高円寺と別府。意外と似ている2つの街を楽しむ暮らし
【hocco】
土間や軒下をお店に! ”なりわい賃貸住宅”「hocco」、本屋、パイとコーヒーの店を開いて暮らしはどう変わった? 東京都武蔵野市
●取材協力
SUUMO副編集長・SUUMOリサーチセンター
笠松美香氏
ひとり親、とりわけシングルマザーの住まい探しにおいて、収入面の不安から賃貸の審査に通らず、希望する物件に入居できないことがあります。とくに何らかの理由で就労できていない、または働いていても低所得の場合などにおいては、離婚した元夫からの養育費が貴重な収入源となります。この養育費を受け取れていないことがひとり親家庭が入居に困難を抱える原因の一つであることを知った家賃債務保証会社の株式会社Casa(以下、Casa)は、養育費保証サービスを始めました。
ひとり親の現状と養育費の受け取り状況、同社の取り組みなどについてCasa養育費相談室の赤池藍夏さん、長澤芳美さん、江藤慎介さんにお話を聞きました。
ひとり親、特にシングルマザーが住まい探しで抱える問題は?ひとり親、特にシングルマザーになった場合、収入面で不安が生じます。厚生労働省の「2021年度(令和3年度)全国ひとり親世帯等調査報告」「2021年国民生活基礎調査」によれば、一般的な子育て世帯の平均世帯年収が814万円に対し、父子家庭は606万円、母子家庭においては373万円となっています。シングルマザーになるまで専業主婦で十分な仕事の経験を積めなかった場合、より収入が少ない、仕事に就けないといった問題は起こりやすく、元パートナーと共働きだった場合でも一人分の稼ぎが減れば生活に余裕はなくなります。そして、収入面の不安は住まい探しにも影響します。
子どもを抱えるシングルマザーの収入面の不安は、住まい探しにも影響する(写真/PIXTA)
離婚する前に持ち家がある場合は元夫の名義であることが多く、財産分与で家が夫のものとなり、妻が子どもを育てていくとなった場合には、新たに住まいを確保する必要が生じます。つまり離婚と住まい探しはセットになっているといえます。
また、子どもの生活への影響が少なく済むよう「同じ学区内で探したい」、子どもの将来を考えて特定の学校に通わせたいと希望する人も多いのですが、その場合は特にハードルが上がります。
Casaで住み替えのサポートを行なっている江藤さんはリアルな状況を教えてくれました。
「親子が暮らせる広さで、これまでよりも家賃を抑え、さらにエリアを絞るとなると物件がかなり限られてきます。家賃は一般的に収入の3割くらいまでが適正だと言われていますが、地価が高い地域の物件は家賃も高く、条件に当てはまる物件を探すと収入の4割~5割の家賃を無理して払うしかない、ということも少なくありません。
大家さんや管理会社に『家賃を払い続けられるのだろうか』という不安が生じると、入居審査に通らない、ということが起こります」(江藤さん)
ここで、ひとり親の就労収入だけではなく、毎月安定した「養育費」が確保できていれば、その分を収入に組み入れることができ、借りられる物件の幅も広がり、審査にも通りやすくなると言います。
取り決めをしても、養育費が受け取れていないことが多い子どものいる夫婦が離婚した場合、親権者ではなくなった親も子どもの親であることに変わりないため、養育費の支払義務が生じます。親権を持たない(子どもと離れて暮らす)ほうの親が、ひとり親家庭に養育費を支払うことになります。
ところが、ここに大きな問題があります。
「厚生労働省の『2021年度(令和3年度)全国ひとり親世帯等調査報告』によれば、離婚に至る際に養育費の取り決めをした母子世帯は46.7%。さらに現在も養育費を受け取れている母子世帯はわずか28.1%ということですから、問題は深刻です」(赤池さん)
このような問題に対し、兵庫県明石市では、3カ月間月額5万円までを市が立て替えたり、養育費を受け取るべき人が裁判所でする差押え等の手続の費用を補助したりする事業を始めました。このような養育費を受け取る事業を始める自治体は増えてきていますが、まだまだ多くはありません。
養育費を確保して、希望の物件へ入居する準備を整えたいものです。
養育費の取り決め・受取状況。養育費を受け取れていないケースが多い(厚生労働省「2021年度(令和3年度)全国ひとり親世帯等調査報告」をもとに編集部作成)
ほかには離婚前提で別居して一人で子育てをしている場合に、児童手当が配偶者に支給され、子どもと自身の生活に役立てられないというケースもあるそうです。
家賃保証会社が養育費保証サービスをスタートしたワケ「家賃保証サービスを提供していくなかで、以前は普通に家賃の支払いができていたのに、急に家賃を滞納するようになる家庭があることに気づきました。理由を聞いてみると、ひとり親で『養育費が支払われなくなったため』という答えが多数挙がったのです」(江藤さん)
このような声を聞き、何とかして社会の役に立てないか、とCasaが2020年9月にスタートさせたのが養育費保証サービスです。Casaが元パートナーの代わりに毎月養育費を立て替えて支払うことで、ひとり親家庭が家賃を滞納せずに済みます。養育費の支払い義務を負う相手側への支払いの催促はCasaが行うため、ひとり親家庭の経済的な不安だけでなく、精神的な負担も軽減されると言います。
養育費保証の仕組み。養育費受取者はCasa(保証会社)と保証契約を結ぶことで、Casaが立て替えた養育費を毎月受け取ることができる(画像提供/Casa)
養育費保証サービスを利用するには「養育費に関する取り決めがあること」「サービスに申し込んだ時点で未払いがないこと」という条件がありますが、条件に合致しない場合でもCasaが相談に乗り、民間の調停機関などの窓口紹介を行っています。
「離婚してひとり親になることを考えたときには、養育費の取り決めをしておくのと一緒に、将来受け取れなくなることも想定して養育費保証サービスへの加入をおすすめしています」(赤池さん)
家賃保証会社が「居住支援法人」に。他団体や自治体とも協業Casaは東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の居住支援法人として指定されています。居住支援法人とは、2017年に改正された住宅セーフティネット法に基づき、住宅の確保に配慮が必要な人が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、居住支援を行う法人として都道府県が指定するものです。2023年9月時点では全国で700以上の法人が指定されていますが、NPOや福祉関係団体、不動産会社などが多く、家賃保証会社で登録しているところは珍しいそう。
「居住支援法人になることで、入居を希望する方に必要な支援を提供できるようになったことはもちろん、提携先の不動産会社とも一層連携しやすくなりました。最近は、ひとり親を支援している不動産会社と協業してセミナーを開き、情報発信にも努めています」(江藤さん)
現在は、大阪市、知立市、飯塚市の3自治体と連携協定を結び、養育費保証サービスを受ける人に保証料の一部を助成する仕組みを提供したり、シングルマザーの就労支援を行っている一般社団法人日本シングルマザー支援協会と連携し、シングルマザーの部屋探しだけではなく、その後に自立した生活ができるようサポートもしています。
「当社では、『ママスマ』というネットメディアを自社で運営しています。これは、主にシングルマザーの自立を促すことを目的に、子育てやお金について情報発信するメディアです。
このような活動を通じて、現在約4,000人のシングルマザーから反響があるほか、離婚アプリを開発している会社や、ひとり親を支援している団体などとの協業も行っており、つながりが広がってきました」(赤池さん)
Casaが運営するネットメディア「ママスマ」(画像提供/Casa)
「不安」が「安心」に変わり、自身のキャリアの支えにもなるCasaで養育費の相談窓口を担当する長澤さんによると、離婚前から離婚後まで、さまざまな状況の人がおり、皆が不安を抱えているそうです。
「離婚の手続きはやったことがない、公正証書など言葉が難しい、仕事は、家は、子どもの預け先は……とやることが多過ぎてパニックになる人もいるので、まず話を聞いて、何から手を付けるべきかを整理し、不安をできるだけ取り除くようにしています」(長澤さん)
Casaがシングルマザーを対象に実施したアンケートで養育費保証に興味を持ったきっかけを聞くと、『不安だったから』という回答が80%にも上りました。
「そのような不安を抱えて相談された方が、サービスを受けた後には皆さん『安心』と言ってくれます。印象に残っているのは『離婚するときに、いろいろな人に助けてもらったから、私も誰かの助けになる仕事をしたい』と連絡をくれたシングルマザーの声です。その方は、離婚を機に資格を取得して専門職に就いたのだとか。養育費保証が心の安定につながり、キャリアに対する支えにもなったのだと思います」(長澤さん)
電話でシングルマザーの相談を受ける長澤さん。Casaの養育費相談室には離婚前の不安や離婚後に養育費が受け取れなくなったなど、さまざまな声が寄せられる(画像提供/Casa)
赤池さんによれば、養育費保証サービスの課題は「周知」だと言います。
「養育費の取り決めが交わされていなかったり、未払いが発生してしまってから養育費保証サービスの存在に気づいたりする人も多いのですが、そうなると私どもでできることは限られてしまいます。『あの時に知っていれば』がないように周知することが重要です」(赤池さん)
ひとり親世帯の住まい探し、養育費保証、そして就労支援団体への取次対応と、ワンストップで3本柱に対応するCasa。赤池さんは、「多くのシングルマザーが抱いている『養育費をもらえなくなったらどうしよう』という不安を解消するだけで、いきいきと暮らせて、生活が安定し、自分自身の収入アップのために時間を割くこともできる」「お母さんが笑顔になれば、子どもも自然と笑顔になるはず」と語ります。
ひとり親は就労・育児・住まいの全てが揃わなければ、生活を続けていくことができません。Casaの養育費保証のようなさまざまなサービスをうまく活用しながら、ひとり親と子どもたちがよりよい暮らしを実現できる社会になっていくことを願ってやみません。
●取材協力
・株式会社Casa
・ママスマ
渋谷駅から横浜駅まで、東京と神奈川を代表する街を結んで全長約24.2kmを走る東急東横線。「SUUMO住みたい街ランキング2023 首都圏版」の「住みたい沿線ランキング」では、JR山手線に次いで2位に選ばれている。その人気の高さからすると、沿線の住宅は価格相場も高そうだけれど実際はどうなのか。東急東横線21駅の中古マンションの価格相場を調査し、安い順にランキングした結果を見ていこう。
東急東横線沿線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング1位 菊名 4090万円(神奈川県横浜市港北区)
2位 妙蓮寺 4280万円(神奈川県横浜市港北区)
3位 日吉 4839.5万円(神奈川県横浜市港北区)
4位 大倉山 4899万円(神奈川県横浜市港北区)
5位 反町 4980万円(神奈川県横浜市神奈川区)
6位 東白楽 5185万円(神奈川県横浜市神奈川区)
7位 綱島 5190万円(神奈川県横浜市港北区)
8位 新丸子 5380万円(神奈川県川崎市中原区)
9位 横浜 5490万円(神奈川県横浜市西区)
10位 元住吉 6480万円(神奈川県川崎市中原区)
11位 武蔵小杉 7380万円(神奈川県川崎市中原区)
12位 学芸大学 7980万円(東京都目黒区)
12位 自由が丘 7980万円(東京都目黒区)
14位 祐天寺 8185万円(東京都目黒区)
15位 都立大学 8910万円(東京都目黒区)
16位 渋谷 9280万円(東京都渋谷区)
17位 中目黒 9980万円(東京都目黒区)
18位 代官山 1億2795万円(東京都渋谷区)
※田園調布、多摩川、白楽の各駅は調査条件に満たないため除外
東急東横線は東京メトロ副都心線、みなとみらい線との相互直通運転が行われ、さらに2023年3月には日吉駅経由で相鉄・東急新横浜線との相互直通運転もスタートしている。これにより渋谷駅から先の新宿三丁目駅や池袋駅、横浜駅から先の元町・中華街駅にも1本で行けるうえ、東海道新幹線の新横浜駅にも渋谷駅から乗り換えずに最速30分で到着可能に。そんな便利さを反映してか、沿線は住まいの価格相場がやはり高めな様子。そうしたなかでも最もカップル・ファミリー向けの中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場が安かったのは、神奈川県横浜市港北区にある菊名駅だ。
菊名駅の駅前の風景(写真/PIXTA)
1位・菊名駅の価格相場は4090万円。最も安くて4000万円オーバーということからも、東急東横線の人気の高さがうかがえる。菊名駅は全21駅中で6駅だけの特急停車駅の一つで、菊名駅以外の5駅は価格相場が5000万円以上という点を考えるとお得感があるかもしれない。特急に乗れば横浜駅までは1駅・約6分、渋谷駅までは4駅・約30分。JR横浜線も乗り入れており、新幹線駅でもある新横浜駅まで1駅だ。菊名駅はスーパーに直結し、JRの駅舎にはミニスーパーとベーカリーも。駅の東口にも西口にも商店街が広がり、個人商店やスーパー、ドラッグストアがあるが大型の商業施設はないアットホームな住宅街。駅から北に延びる綱島街道を進むと、市立図書館や郵便局、港北区役所にも徒歩15分以内で行くことができる。
妙蓮寺駅(写真/PIXTA)
2位には価格相場4280万円で神奈川県横浜市港北区の妙蓮寺駅がランクイン。1位・菊名駅から横浜方面へ1駅目に位置しているが、停まるのは各駅停車の列車のみのため横浜駅までは4駅・約7分となり、菊名駅~横浜駅間よりも時間が必要だ。妙蓮寺駅の東口を出ると目の前には駅名の由来となった妙蓮寺があり、広大な境内には落差約4mの滝もある。妙蓮寺の北側には市立小学校、その周囲には住宅街が続き、商店街は主に駅の西側。大型商業施設はなくてもスーパー、ドラッグストア、精肉店や青果店から多彩な飲食店まで小さなお店が豊富に揃っている。商店街の先、駅の北西方面には大きな池や遊具、夏季営業のプールを備えた「菊名池公園」があるので、休日に家族で出かけるのもいいだろう。
日吉駅周辺の風景(写真/PIXTA)
3位も神奈川県横浜市港北区から、日吉駅が価格相場4839万5000円でランクインした。通勤特急と急行が停車する駅で、通勤特急に乗ると横浜駅まで2駅・約12分、渋谷駅までは4駅・約23分。東急目黒線と横浜市営地下鉄グリーンラインも乗り入れているほか、2023年3月開業の東急新横浜線の駅の一つでもある。そのため下り線のホームには横浜方面(東横線)ではなく、新横浜方面(東急新横浜線)の列車も入ってくるので乗り間違いには注意したい。
そんな日吉駅の東口駅前には慶應義塾大学の日吉キャンパスが広がり、通学にもよく利用されていることから1日平均乗降人員数は東急東横線内で5番目の多さ(2022年度)。駅には地下1階から地上3階までさまざまな店舗が並ぶ「日吉東急アベニュー」が併設され、西口駅前にも商店が豊富。学生の街だけあって、気軽に利用できる飲食店が充実している点も魅力だ。
ここまで見てきたトップ3、さらに4位の大倉山駅を含めていずれの駅も神奈川県横浜市港北区にある。横浜市の北東部に位置する港北区は、人口・世帯数ともに横浜市はもとより全国の政令指定都市の区の中で最多なんだそう。そして2020年度の区民意識調査では、「港北区に住み続ける+たぶん住み続ける」との回答が7割を超える結果に。理由としては「交通が便利」が約70%、「愛着を感じている」が約57%、「買い物に便利」が約46%、続いて「治安が良い」「緑や自然が多い」をそれぞれ3割超の人が選択。港北区は住み続けたくなる、便利に暮らせる街のようだ。
渋谷から遠いほど安いわけじゃない! 便利な割にリーズナブルな駅もランキングを見てみると、東急東横線沿線の価格相場は「都心の渋谷から遠いほど安い」という単純な結果にはなっていない。渋谷駅から最も離れている横浜駅も神奈川県内屈指の繁華街のため、価格相場は5490万円で安さランキングでは高からず低からずの9位だ。横浜駅を渋谷方面に向かって出ると市内の静かな住宅街を通りつつ、1位・菊名駅に向かって価格相場は多少上下しつつも減少傾向。その後は再び価格相場が上がっていき、神奈川県川崎市の人気住宅地である11位・武蔵小杉駅では7380万円に! ここから都内に向けて価格相場がさらに上昇していくかと思いきや、武蔵小杉駅の隣にある新丸子駅ではググっと減少に転じて5380万円。1駅違いで価格相場に2000万円もの差がつく、新丸子駅とはどんな駅だろうか?
新丸子駅(写真/PIXTA)
8位・新丸子駅があるのは神奈川県川崎市のほぼ中央部、中原区。駅から15分ほど北に歩き、丸子橋を渡って多摩川を越えれば東京都大田区に入る。多摩川沿いには自転車・歩行者道「かわさき多摩川ふれあいロード」が整備され、気軽にサイクリングや散策が楽しめる環境だ。駅前は西口・東口ともに商店街が広がる、活気ある街並み。西口を出て5分ほど歩くと日本医科大学附属の病院もあり、もしもの時も心強い。この大学病院の敷地は近年再開発が行われ、現在の病棟は2021年に新築移転されたもので最新の医療機器を揃えている。病院の西側には2019年4月に川崎市立小学校が開校し、増加傾向にある近隣住民の子どもたちが通っている。さらに病院の南側では現在も再開発が進行中。2026年2月の竣工を目指してツインタワーが建築されており、住宅棟と商業施設、高齢者福祉施設や保育所が誕生予定だ。
かわさき多摩川ふれあいロード(写真/PIXTA)
また、新丸子駅から南に5~6分も歩くと、11位・武蔵小杉駅に到着する。両駅間は東急東横線内で最短、500mほどしか離れていないのだ。そのため新丸子駅周辺に住んでも、武蔵小杉駅周辺にある大型ショッピングモールに気軽に行くことが可能。武蔵小杉駅からなら、新丸子駅には停車しない東急東横線の特急や急行にも乗れるし、JRの南武線や横須賀線、新宿湘南ラインも利用できる。にもかかわらず価格相場は格段にリーズナブルなのだから、新丸子駅周辺で物件探しをするのもアリだろう。
●駅順の価格一覧
さて、新丸子駅から渋谷方面に進むとまたも価格相場は上昇していく。なかでも東京都目黒区の15位・都立大学駅は、価格相場が同額の7980万円で12位にランクインした自由が丘駅と学芸大学駅の間に位置しながら、8910万円という高さ。都立大学駅は各駅停車しか停まらないが、急行停車駅である両隣の駅よりも価格相場が930万円もアップするのだ。ただ、各駅停車でも渋谷駅までは5駅・約15分と近く、隣の学芸大学駅で急行に乗り換えると約12分で行くことができる。
そんな都立大学駅は現在リニューアル工事が行われている。すでに外壁など一部は改修済みで、2024年春に完了予定だという。駅の高架下には飲食店や精肉店があるほか、駅前の商店街もにぎわっている。しかし駅から少し離れると静かな住宅街が広がり、のんびり散策できる緑道も。1日平均乗降人員数は両隣の駅と比べて2万人以上も少ない都立大学駅。都会の便利さを享受しつつ静かに落ち着いて暮らせる点が、この街の魅力と言えるだろう。
都立大学駅(写真/PIXTA)
今回調査した東急東横線は、2023年8月より有料座席指定サービス「Qシート」がスタートして話題を呼んだ。これは平日の夕方以降に渋谷駅を発車する一部の元町・中華街行き急行列車に導入され、既存車両よりも広い座席や無料Wi-Fiサービスが利用できるもの。クタクタの仕事終わりやたっぷり遊んだ帰り道、ゆったりと座って帰宅できるのだ。そんな新たな魅力を備えた東急東横線は、今後も「住みたい路線」としての人気がより高まっていきそうだ。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東横線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/4~2023/9
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
野村総合研究所(以下NRI)は、2023年7月、東京都内の従業員300人以上の企業に勤務する20代~60代の男女3090人を対象に、働き方と郊外・地方移住に関するインターネット調査を実施した。2022年の調査に続き2回目。新型コロナウイルス感染症が2023年5月に5類に移行してからの調査になるので、前回より勤務先への出社頻度は増加しているが、移住ニーズはどう変化したのだろう。
【今週の住活トピック】
「働き方と移住」のテーマで2回目の調査を実施/野村総合研究所
まず、2023年7月時点の出社頻度を尋ねたところ、「毎日出社」が53.1%を占めた。前回調査時の2022年2月は、まだ東京都でまん延防止等重点措置の期間中だったため、「毎日出社」が38.3%だったのに対してかなり増えたことになる。出社回帰の傾向は強まっているものの、コロナ前ほどには戻っていないようだ。
■各時点での出社頻度(コロナ前・今回調査時:N(回答数)=3,090、前回調査時:N=3,207)
注)コロナ前の出社頻度は、今回の調査対象者に2020年1月以前の出社頻度を聴取した。
前回、今回調査時の出社頻度は、各回の調査対象者に調査時点の出社頻度を聴取した。
出所:NRI「働き方と生活に関するアンケート」(2023年7月)
出社頻度が増加した理由はなんだろう? 出社頻度が増加した人にその理由を聞いたところ、「勤務先の方針やルールが変わり、出社を求められるから」(39.0%)など企業側の要請という理由もあったが、「出社したほうがコミュニケーションを円滑に取れるため、自主的に出社を増やしたから」(28.2%)や「出社したほうが業務に集中できるため、自主的に出社を増やしたから」(23.7%)など、自らの意志によるものもあった。
出社頻度が増加しても、郊外・地方への移住意向は下がらない次に、郊外・地方※への移住意向を聞いたところ、直近1年間に移住意向がある人は全体の15.3%、5年以内に意向がある人は全体の28.4%と、それぞれ前回調査から微増した。出社頻度が増加したとはいえ、郊外や地方への移住ニーズは下がっていないことが分かった。
※都心から公共交通機関で1時間程度の場所を「郊外」、2時間以上の場所を「地方」として調査
■郊外・地方への移住意向がある人の割合(前回調査N=3,207、今回調査N=3,090)
出所:NRI「働き方と生活に関するアンケート」(2023年7月)
NRIは、この理由として、「「都心よりも住宅費が抑えられる郊外・地方への関心が高まっている」、「テレワークの浸透によって、より広い居住面積を有する郊外の住宅ニーズが高まっている」などが推察される」としている。また、移住意向を年代別や現在の居住形態別に分析した結果、「郊外・地方への移住意向がある層は、現在は賃貸住宅に居住している若年層(25~34歳)で、かつ将来的には持家に居住したいと考えている層だと考えられる」と指摘している。
「理想の出社頻度」を聞いたうえで、出社頻度を現在の出社頻度よりも減らしたいと考えている人を分析したところ、「郊外・地方移住意向なしの人よりも、郊外・地方移住意向ありの人の方が多い結果となった」という。最も差が開いたのは、「週3日出社」の場合。「週3日出社」している人で理想の出社頻度を減らしたい回答だったのは、「郊外・地方移住意向なし」では49.3%なのに対して、「郊外・地方移住意向あり」では63.9%で、週3日以上の出社が移住のハードルとなっているようだ。
また、「転職の意向」と重ねて分析すると、「郊外・地方移住意向あり」のうち、「今後1年の間に転職を考えている」人は47.6%で、「郊外・地方移住意向なし」の23.9%に比べてかなり高い結果となった。さらに、転職の検討理由について分析すると、「郊外・地方移住意向あり」のうち、「テレワークの制限によって理想の働き方が実現できないこと」が理由だと回答した人は23.6%で、「郊外・地方移住意向なし」の14.8%に比べて高い結果になっていた。これらのことから、NRIは、「郊外・地方移住意向ありの人の中には、出社頻度を転職の判断軸のひとつとする人が一定数いると推察される」と分析している。
郊外・地方移住をする場合の注意点とは?では、郊外・地方に移住する際に注意すべきことはなんだろう?
現役世代が勤務しながら「郊外・地方移住」をする場合、都心部から遠くても2~3時間程度までだろう。となると、都心部と気候が全く異なるとか、自然に囲まれた田舎暮らしになるとか、そこまでの注意点は不要だろう。
そうはいっても、都心部の暮らしとは違う点も多々あるはずだ。その場所に住むことのメリットとデメリットをしっかりと把握しておきたい。
たとえば、
・広い家を手に入れやすい
・都心から離れた分だけ自然が豊かになる
・生活するための物価が安い
などのメリットがあるかもしれないし、
・近隣との関係が都心部とは異なる
・車移動が増える。そのため、ガソリン代も増える
・都心より、商業施設や娯楽施設が少ない
などのデメリットがあるかもしれない。
なぜそこに移住したいかの「理由」を明確にしておくことも大切だ。メリットの優先度が高くなったりデメリットを許容できるようになったりと、検討したメリットとデメリットの優劣も変わってくる。家族で移住するなら、よく話し合って互いに共有できるようにしておきたい。
NRIでは、「賃貸住宅に居住している若年層(25~34歳)で、かつ将来的には持家に居住したい層で、郊外・地方移住意向が高いことから「家族が増える・住宅を購入するといったタイミングでの転居において、その安さや広さから郊外・地方への関心がより高まっている」と考えられる」と見ている。利便性一辺倒ではない住まいの選び方が、今後は広がっていくのかもしれない。
●関連サイト
「野村総合研究所、都内の会社員を対象に「働き方と移住」のテーマで2回目の調査」
北海道の上川町は大雪山国立公園や層雲峡温泉などを有する自然豊かな町です。人口3000人ほどの町には元銀行の空き物件を活用した交流&コワーキングスペース「PORTO(ポルト)」があります。この場所では“元”移住者が“新”移住者をサポートするという循環が生まれています。
ポルトを運営する株式会社Earth Friends Camp代表取締役の絹張蝦夷丸(きぬばり・えぞまる)さん、同社コミュニティマネージャーの中川春奈(なかがわ・はるな)さんにお話を伺いました。
大雪山のふもとに位置する北海道上川町(画像提供/ポルト)
全ての人に開かれた、多様なバックグラウンドを持つ人たちが出会う場にポルトは町中心部の銀行跡地の空き物件を活用し、できるかぎり地域住民たちの手で改装を手掛け、2021年10月オープンしました。
現在はコミュニティマネージャー2人とパート勤務1人の3人体制で業務しています。誰もが気軽に入れる交流スペースのほか、移住・観光・暮らしの総合窓口、コワーキングスペース、ショップ、ギャラリーと5つの機能をあわせ持っています。
筆者が訪れた平日昼下がりには交流スペースでコーヒー片手に楽しそうに語らうシニアの方々、その後ろでパソコンとイヤホンでオンラインミーティング中の若いビジネスパーソンの姿がありました。コワーキングスペースも3名が活用していました。
放課後は学童帰りの子どもたちも立ち寄り、もっとにぎやかな時間があるそうです。マルシェなどイベントが開催され、町内外の人が入り混じる取り組みも盛んに行われています。土、日も開いているため、役場や市役所での移住窓口と異なり、休日に相談に乗れることも訪れる人の利点でもあります。
利用者数はひと月にのべ500人ほど。年間累計6000人に達し、町人口の倍近くの人がこの場を訪れていることになります。
明るい雰囲気の交流スペース。フローリングは銀行時代のままの素材を使用。奥の大きな金庫だったスペースはギャラリーとして活用されています(写真撮影/米田友紀)
実は、ポルトは一般的な公設民営施設ではありません。物件自体をEarth Friends Campが賃貸契約していることで、運営委託期間が終了しても自分たちで継続していくことができることが利点だといいます。
同社代表取締役の絹張さんは、2019年に仲間4人の“ノリ”で上川町へ移住した人物。ノリから始まって4年、どっぷりと地域に浸かりチャレンジを続けています。
ショップ機能の棚は大工としても活躍する地域おこし協力隊の一員が制作。町には道の駅がないため、地元土産が購入できる観光の拠点としても利用されています(写真撮影/米田友紀)
仲間4人の勢いで移住。自分たちで町を面白くしたい絹張さんは2019年3月、29歳の時に地域おこし協力隊として札幌市から上川町へ移住しました。
きっかけは移住前年の2018年秋に上川町の層雲峡で開催された紅葉イベントでした。当時移動式コーヒ―ショップを営んでいた絹張さんは、アウトドア仲間とともにイベントに参加。その際、層雲峡でホステルを経営していた友人から上川町の地域おこし協力隊「KAMIKAWORK」の募集が始まったことを偶然紹介されます。
当時、町ではフード、アウトドア、ランプワーク、コミュニティと4分野で人を募っていました。
「面白そう!」と盛り上がり、仲間同士で4分野にそれぞれ応募したところ、そろって採用されたのです。
「楽しそうだと思ったものの、上川に住みたかったわけでも、協力隊になりたかったわけでもありませんでした。まだ都心部から離れたくないなという気持ちもありましたし。
もしも当時、自分の故郷の町で同じような話があったなら、そちらに関心があったかもしれません。本当に偶然、上川町での働き方を知って、仲間と盛り上がって応募してみたら採用されちゃった、という感覚。採用が決まり、さてどうしようか、4人で行くんだから何とかなるか、という勢いの移住でした」
町での新しい活動を前向きに考えていたものの、移住から半年の間、絹張さんは想定外のしんどさを味わいます。地方出身で、地域のことに詳しく、アウトドア企画など提案力が問われる取り組みを得意としてきた絹張さん。ですが、町で自分がやりたい活動をしたいのに、思うように活動できない日々が続きました。
「今思えば恥ずかしいですが、自分の力を過信していたのだと思います。行政には行政の仕事の進め方があるのに、スピード感が合わない、正しいのに変えられない、と感じてイラ立ちを抱え続けていました。でも、周囲に相談していくうちに気づいたんです。相手が求めていないことを、自分の正しさで押し付けてはいけない。まず求められたことに対して、それ以上のことを届けていくことをめざしました」
町の人と話すために、町中にとにかく顔を出す。銭湯に通い、地元の話を聞く。絹張さんは自身の役割を考察し、地域おこし協力隊として任用された自分ができることを見出していきます。すると移住直後の軋轢(あつれき)が減り、業務も少しずつ歯車が噛み合うように。自分の行動で地域がより良くなる手応えが生まれ、「自分たちの力で町を楽しくできる」という実感が湧いてくるようになりました。
小さな町では「一票の重み」のように一人のチャレンジが大きな変化をもたらすことがあります。自分たちの取り組みが目に見えて身近な人の幸せにつながる感触。これは小さな地域ならではの面白さかもしれません。
絹張さんとともに移住した仲間3人も、地域おこし協力隊卒業後も上川町に関わり続けています。ポルトがある町の通り道。地方にありがちな静かな通りの様子に、著者は「この道で合ってる?」と一瞬不安になりましたが、ポルトや近くのカフェには若い世代もシニアも多くの人の姿がありました(写真撮影/米田友紀)
地域で暮らす人が楽しそうな町には、自然と人が集まるはず移住から1年後の2020年春、世界中がコロナ禍に陥ります。3つの温泉郷を有する上川町では観光産業が大きなダメージを受けました。
絹張さんらは温泉郷の安心宣言を設計し、広報活動をサポートする役割を担います。観光産業への打撃は自分と地域の関わりを見直す契機にもなりました。
「観光やレジャーの事業をやりたい。町でコーヒー屋もつくりたい。でも、事業があるだけではダメなんです。当然ですが町に来たいと思う人がいなくては成り立ちません。仲間と内輪で楽しくやっていても、その先が見えない。地域のことをもっともっと、考えないとダメかもしれない。そう考えるようになりました」
当時役場から偶然、声がかかったのが交流施設の立ち上げでした。ポルトの原案となる交流施設のコンセプトシートを見た絹張さんは「これだ!」と感じたといいます。
人口が多かった時代の町の過去と現在との比較や都市部と田舎を比べて勝ち負けを競うのではなく、今地域で暮らす人が楽しい町でありたい。そんな人たちが暮らす地域には自然と人が集まるはず。コンセプトシートには絹張さんがつくりたい地域の未来が広がっていました。
交流施設の輪郭を役場とともに手探りで描き、2021年にポルトがオープンを迎えます。
「ポルト」はイタリア語で港の意味。すべての人に開かれた港のような存在をめざしている(画像提供/ポルト)
絹張さんが代表を務めるEarth Friends Campはアウトドアを軸としたプロデュース事業を行っています。
アウトドアと、移住相談に交流拠点。一見結びつかない事業にチャレンジするのには、「今地域で暮らす自分たちで行動を起こし、町を楽しくしていく」と決めた絹張さんと役場の熱量の共有がありました。
コロナ禍には「行き場を失う人が出てしまう」と出来る限りポルトの鍵は閉めずに、開店していたそう(写真撮影/米田友紀)
子どもの「やりたい」も応援 個々人の挑戦に伴走する現在ポルトには「一緒にやりたい」「あげたい」「ほしい」など自由に記載できる伝言板があります。
そこにある日「みんなで鬼ごっこ大会をしたい」と書き残した小学生がいました。その紙を見たポルトスタッフは大会実施をサポートするために奔走。地域おこし協力隊の教育部門スタッフも巻き込み、小学生主催による鬼ごっこ大会が実現します。
たった一枚からはじまった大会実現に保護者から長文で感謝のメッセージをもらったそう。親が忙しい時期に親以外の誰かが向き合ってくれる、この町で育つ子どもは幸せ者だ、と伝えるメッセージでした。
絹張さんと中川さん。訪れる人の個々の思いに寄り添う姿勢が印象的です(写真撮影/米田友紀)
家族以外の人、地域が自分たちを支えてくれるという原体験は、子どもの人生にプラスの力を及ぼすものではないでしょうか。無償の優しさを「与えてもらった」子どもたちが、彼らが大人になってまた「与えていく」。そんな優しさが継承される社会であってほしいです。
ポルトでは毎月マルシェも行われています。人と人、地域と人をつなぐ場とすることが目的で、町内外の店舗や農園オーナー、キッチンカーを招き、新しい出会いが生まれています。上川町の現役の地域おこし協力隊や別エリアの協力隊、卒業生も多くやってきて、小さな町で人的交流が活発に行われているのです。
「協力隊や上川町で事業をされている方はもちろん、上川町に関わってくれているすべての人のやりたいことをポルトの場を活用して実現してほしいです。やりたいことや暮らしの小さな悩みごとにも一緒に考えて伴走できる存在でありたいです」(中川さん)
コワーキングスペースは上川町の地域おこし協力隊の活動拠点としても活用されています(写真撮影/米田友紀)
中川さん自身も、2023年4月に札幌市から上川町へ移住した一人です。それまでは10年間看護師として従事していましたが、暮らしのすぐそばにある「誰でも来ていい場所」であるポルトが興味深く、何度も足を運ぶようになったそう。
上川町へ通い、町内外の人と会話をする中で、コミュニティマネージャーとして働くことを選びました。これからの人生を考えた時に「心地よさ」や「好き」をもう少し大切に暮らしたいと思っていたタイミングで上川町に出会い、自然がたくさんある環境や人のあたたかさに触れ、心地よさから移住することを決めたそうです。
地域で暮らす人が楽しそうにしていたら、人が集まる。ポルトの原案にあった風景が広がりつつあります。
2023年10月で3年目となったポルト。毎日必ず書く日報には、素敵な取り組みがあった日にスタッフ同士で「ナイスポルト!」とコメントするそうです。ポジティブに協力し合うコミュニティを築いています(写真撮影/米田友紀)
偶発的な機会を受け入れ、自分起点で挑む「自分たちで」は絹張さんたちからよく聞かれる言葉。自らがやりたいことに挑むことで、結果として身近な人たちが幸せになってくれたら、というアクションの取り方をしています。
仲間同士のノリと偶然から始まった小さな町への移住。自分たちの役割と、やりたいことをつなげながら、ポルトは新しい移住者を歓迎する循環を生み出しつつあります。
外からの風が吹く場所であり続けたい、とポルトの2人は語ってくれました。
自分たちが町の新しい風であったように、次の風が町に楽しい変化を巻き起こす。ポルトから始まる地域の変化が楽しみです。
●取材協力
ポルト
毎年1月になると本格的な賃貸のお部屋探しシーズンに突入します。一般的には新築や築年数が浅い物件が好まれていますが、築36年、周辺エリアの家賃相場より高いというのにほぼ満室、空室が出てもすぐ埋まってしまう賃貸マンションが神奈川県川崎市麻生区にあるといいます。しかも大家(オーナー)の池上正芳さんはYouTuber。何がいったいどういうことなのでしょうか。人気の理由を探りました。
廊下もゴミ置き場、エントランスもきれい。設備は新築物件並みの充実ぶり小田急線百合ヶ丘駅から徒歩6分、線路沿いに立つのが「百合ヶ丘池上マンション」です。築36年でありながら全42戸のうち、今、工事中の部屋をのぞくと満室という人気物件です。
最寄駅から徒歩6分、外観は一見よくある賃貸マンションですが、実は大人気物件「百合ヶ丘池上マンション」(撮影/片山貴博)
パッと見ると普通の物件ですが、まず特筆すべきは、廊下やゴミ置き場がきれいに保たれている点です。通常、築20年を超えてくると個々の部屋の玄関まわりには傘などの私物が置かれていたり、ゴミ置き場のルールを守らない人がいたりするもの。不思議なことにゴミなどの生活のマナーが守られないと、生活音などの暮らしのトラブルも起こりやすくなりがちで、「築年数が古い物件はちょっと……」と敬遠される理由の一つとなってしまいます。
ところが、この百合ヶ丘池上マンションでは、玄関の郵便受けに投函されっぱなしのチラシはなく、共用のゴミ置き場もきれいに保たれており、住民のトラブルもほとんどないとか。注意喚起の看板はありますが、かわいらしくて、どことなくユーモラス。廊下にはアーティストの作品が掲げられていたり、エントランスまわりはクリスマスなど季節の装飾がされていて、愛着が湧くようになっています。
ゴミ置き場に貼られたポスターはやわらかなタッチで、きちんと分別して出そうという気持ちになります(撮影/片山貴博)
きれいに保たれた廊下。ワンコが描かれた作品が飾られ、これを朝晩見れば愛着が湧きますね(撮影/片山貴博)
玄関はクリスマスの装飾が。宅配ロッカーなど嬉しい設備も備え付け(撮影/片山貴博)
(撮影/片山貴博)
共用部分の玄関には、これから外に出るときにちょっと使える日焼け止めや虫よけ、さらに救急箱まで。物件側で置いているだけでなく、居住者も置くことでいつも充実しているとか。コレほどまでに「気が利いてる~!」と感じた賃貸物件があっただろうか、いやない(撮影/片山貴博)
おまけに玄関には住民が利用できる、DIYツールや救急箱が置いてあったり、近隣のおすすめお店情報も告知されていたりと、「あったらうれしい」「ちょっとお出かけしようかな」という心づかいが至るところになされています。心憎いばかりの「おもてなし」ですが、このマンションの名物はこれだけではないのです。
シェアスペースにはマンガもズラリ。住民同士で交流を促すイベントもこのマンションには、1階に住人が利用できるシェアルーム「サードプレイス102」があり、朝7時~24時まで開いていて、365日利用可能で利用料も無料。
シェアスペース内には、4KTVやWi-Fi、無料のコーヒー、マンガ1000冊(しかも中身は3カ月ごとに入れ替えされるサブスク制)がそろえてあるので、仕事や勉強をしてもいいし、くつろぎの場にも最適。入居者同士でいっしょにスポーツ観戦したり、おしゃべりするのだって楽しそうです。コレ、絶対楽しいやつだ……!
1階にあるシェアルーム「サードプレイス102」の入口。この部屋だけでなく、全部屋電子キーになっています(撮影/片山貴博)
中はカフェのような空間になっており、コーヒーを飲んだり、備え付けの漫画を読んで過ごすことができます(撮影/片山貴博)
壁に利用規約が書いてあります。住民同士が交流できるよう設置された掲示板には、住民が企画する「マンガ夜会」の案内が(撮影/片山貴博)
ここまで「百合ヶ丘池上マンション」の共用部分の仕掛けや住みやすくなるさまざまな工夫を紹介してきましたが、実際の住心地はどうなのでしょうか。現在、暮らしている女性N.R.さん(30代)に話を聞いてみました。
「実は、初めて1人暮らしをした賃貸がこの物件なんです。10年間住み続けているので、正直なところ手狭になってきて、何度か引越しを検討し、住まいを探したこともあるんですが、家賃や広さ、設備を比較すると、どうしても今よりよい物件がなくて……。宅配ロッカーや電子キーなど、設備も年々、アップデートもされているし、私の暮らしにあわせて有孔ボード(※)を取り付けてもらったり、『サードプレイス102』のようなシェアスペースがあったり。他のお部屋の人とも『こんなに良いマンション、他にないよ』って話すんです」
※有孔ボード/小中学校の音楽室の壁にあったような穴の開いた壁材。穴を利用して、吊るしたり収納棚を取り付けたりなどでき、壁が有効利用できる
なるほど、家賃は同額なのに年々アップデートするのであれば、引越す理由はないですし、住み続けるほどに愛着が増す気もします。
「それに、大家の池上さんですね。池上さんがちょうど大家さんになったころに入居して、ご挨拶させていただいて。今では東京のお父さんというか(笑)。いっしょにYouTube動画を作成したり、ご一緒することが多くて、楽しいし、顔が見える分、安心して暮らせています」と魅力を解説します。
1人暮らしは自由で気楽な半面、防犯面や災害時、病気の時など心細いことがあるもの。こうした身近なつながりがあることで、安心して暮らせますよね。では、大家である池上さんはなぜこれほどまでに設備を更新したり、おもてなしをしたりするのでしょうか。話を聞いてみました。
祖母が建てた不動産を相続。空室と家賃低下のスパイラル「この物件を建てたのは私の祖母で、今から10年ほど前、父から私が引き継ぎました。その時点では学生向けワンルームばかりで空室も多く、年々、家賃も下げていかないと部屋が埋まらない、そんな状況でした。管理は不動産会社任せ、さらにあまり部屋を大事に使ってもらえずにトラブルも多発、そんな状況だったんです」と当時を振り返ります。
大家の池上正芳さん(撮影/片山貴博)
このままでは「負動産」になってしまうと思った池上さんは、小さなことから物件を良くしていこうと工夫をはじめます。
「空いた部屋の玄関に全身が映る鏡をつける、荷物やコートがかけられるフックをつける、部屋に室内干しをつける、といったことをしていきました。予算は少額で、借りる人目線でちょっと手を加えたら、家賃を下げなくとも空室が埋まるようになって。入居者に喜んでもらえる楽しさに目覚めていったんです」(池上さん)
そのうち単なる工夫だけにとどまらず、デザイン性を重視したリノベーション、空間プロデュースを手掛けるように。建築士や施工会社ともつながりができ、空室が出る→空間のコンセプトを決める→リノベする→家賃を再設定して募集する→入居者が決まる、という「正のスパイラル」が生まれるようになりました。
現在、リノベ済みの部屋。1人暮らしはもちろん、2人暮らしもできる広さ(撮影/片山貴博)
有孔ボードがあるので収納場所やディスプレーする場所になる。Bluetoothスピーカーや椅子、照明も備え付けなので、初めての1人暮らしでもすぐに快適な生活ができる(撮影/片山貴博)
キッチン側から見たところ。室内に段差があるので、空間に遊びあるのもうれしい(撮影/片山貴博)
もちろん、池上さんの取り組みのすべてが成功したわけではありません。リノベのコンセプトをつくり込みすぎてしまったり、ターゲットのほしい室内デザインとズレていたり。その度に修正して、柔軟に「部屋を借りる人がよろこぶデザイン・設備・サービスはなにか」と模索し続け、現在の「各部屋、コンセプトの異なる部屋」「電子キー」「Bluetoothスピーカー」「住民の共用スペース」「物件公式LINEアカウント」にたどりついたのです。
こちらもリノベ済みの部屋。ブルックリンの地下鉄をテーマにしたワンルームのキッチン。調理用に移動できる卓上のIHクッキングヒーターがついています。このキッチンカウンターで使うもよし、テーブルに運んで卓上で調理するもよし(撮影/片山貴博)
窓際のコーナーテーブルは、後付けしたことで一気に雰囲気アップ!ここにテレビやパソコンを置いて、くつろぎや作業をすることも。黒のブラインドもおしゃれ(撮影/片山貴博)
各部屋備え付けのBluetoothスピーカー。間接照明にもなります(撮影/片山貴博)
部屋の雰囲気を壊さない充電コーナー。奥には有孔ボードがあり、こちらもディスプレーが楽しくできそう(撮影/片山貴博)
取材に同席し、以前から池上さんの大家業に注目していたという、ハウスメイトマネジメントソリューション事業本部の伊部尚子さんは「池上さんは、なんでも挑戦してみようという前向きな姿勢に加えていつも謙虚で偉ぶらず、ご自分よりはるかに若い入居者さんや業者さんからアイデアを教えてもらい、良いものはどんどん取り入れようという柔軟性をもっていらっしゃいます。相続した不動産が空室ばかりと悩んでいる人は多いですが、そんな悩める大家さんの希望の星です。こんなに楽しそうに賃貸経営をされている大家さんはあまりいらっしゃいません」と話す。不動産のプロとして日本全国のさまざまな賃貸物件の知見を持つ伊部さんからしても、ここまで細やかにサービスや工夫をしている賃貸物件は珍しいと証言します。
住む人に幸せになってもらうこと。それこそが大家の本懐池上さんは今も入居者が決まる度に、「ごあいさつキットに入れたカギ」「百合ヶ丘の町ガイド」を手渡しします。また「ゴミの出し方」「傘を共用部に置かない」など、マンションのルールを、入居時に丁寧に伝え、LINEの公式アカウントに友達追加してもらっているといいます。
池上さんが入居者に渡しているハンドタオルとキーフォルダーとカギのセット。キーホルダーのデザインはこれまでの大家業で関わってきた若いクリエイターによるオリジナル。これをもらったら大事にせずにはいられません(撮影/片山貴博)
「公式LINEアカウントを追加したあとに、例えば風邪をひいたとか、電子キーが開かないとか、ささいなこと、日常のお困りごとを連絡してくださいと伝えています。直接のグループLINEで大家や管理会社とつなげようとする方も多いのですが、それは入居者の方にはハードルが高くて。公式アカウントにした方が、入居者の方も直接会話ができて気軽なんです。これもいろんなケースを通じてわかってきたことです。入居者が困ったときにも即、対応できるし、反対に大家側からも一斉にお知らせができます。こうしたルール説明、対応方法を知らせておくと、みなさん気持ちよく暮らしてくれます」と池上さん。
建物での暮らしのルールはあいまいだったり、明文化されていないことが多いもの。入居時にしっかりと説明されるとガイドラインが明確になり、暮らしているほうも安心ですよね。
こうして手間と愛情をかけて物件や入居者と向き合うことで、思いもよらない副産物もあるのだそう。
「手間と費用をかけてリノベをし、借り手を募集すると、賃料ありきではなく、『したい暮らし』で物件を探してくれる人と出会えるんです。そうすると、新しい才能と出会えることがあって、入居者さんにデザインや動画を手伝ってもらえたりするんですよ。エントランスに貼った百合ヶ丘マップやアート作品はそのひとつなんです」と池上さん。物件が才能ある人を招いて、物件の魅力がさらに磨かれる、そんな好循環になっているんですね。
元入居者の作成した百合ヶ丘マップ。おすすめのお店情報を入居者同士で教えあえる工夫も(撮影/片山貴博)
今、池上さんが取り組んでいるのが、この物件がある百合ヶ丘駅周辺の魅力の発信です。「百合ヶ丘駅」は各駅停車の小さな駅ですが、個人のお店が多く、あまり知られてない良さがあるのだとか。
「ターミナルであるお隣の新百合ヶ丘駅に目がいきがちですが、百合ヶ丘にもいいところがたくさんある。自分の物件でなく、この街の良さ、暮らしを知ってほしくて、YouTubeをはじめたんです。撮影して歩くと自分も知らなかった魅力に気付くんですよ」とYouTuberになったきっかけを明かしてくれます。(余談ですがこのチャンネル、ほのぼのしていて最高です……!)
まさか自分のためではなく、「人のため」ひいては「まちの魅力発信のため」にYouTuber大家さんになってしまうとは……。その行動力に感服以外の言葉がありません。ここまでする理由を、池上さんは、「大家をするなら、住んでもらう人に幸せになってもらいたいから」とさらりと言います。こうまで言われてしまうと、住み続けたくなる理由が大家さんというのも納得です。入居者も快適で幸せに暮らせ、大家さんも利益を得てまた幸せになる。「自他共栄」とは、まさにこういうことをいうのだな、としみじみ実感した取材となりました。
●取材協力
y-BROOKLYN
百合ヶ丘チャンネル
大島土地建設とブルースタジオが、『まちの大家による都市の面的木造化』推進プロジェクトを推進している。「都市の木造化」のために、中小規模事業者でも計画可能な小規模木造ビルのモデルが必要で、それを構築し普及を図るというものだ。そのモデルとなる「OS annex 2」が上棟し、見学会が開催されたので参加した。
まちの大家に小規模な木造ビルを建てるという選択肢を提供政府の2050年カーボンニュートラル宣言に見られるように、脱炭素が求められている。その方策の一つが、木造化・木質化だ。住宅・建築分野において、積極的に「木」を使うことで温室効果ガスの吸収を増やせるからだ。大規模な建築物では、大手ゼネコンなどが独自の工法を確立し、すでに木は燃えやすいというイメージを覆すような高層の木造ビルをいくつか建てている。
一方、建築・不動産業界の多数を占めるのは、中小規模の事業者だ。中小規模の事業者がビルの木造化に取り組まない限り、都市の面的な木造化は進まない。そう考えて動き出したのが、大島土地建設三代目代表でブルースタジオの専務取締役でもある、大島芳彦さんだ。大島土地建設は、東中野のみで小規模ビル7棟を賃貸する、いわゆる「まちの大家」だ。その大島土地建設が施主(大家)となり、ブルースタジオが建築設計を担当して、木造化による賃貸ビル「OS annex 2」を建築することを決意した。
都心商業地域の主たる建築物は、2000平米未満の商業・事務所ビル。このクラスの「小規模ビル」の木造化技術の標準化とその普及が目的だ。「中小規模不動産事業者、中小規模設計事務所、中小規模工務店」でも計画可能な標準工法による小規模木造ビルの建築モデルを構築することで、本質的な『都市の木造化』の促進を目指すという。
つまりは、まちの大家(大島土地建設)でも、まちの設計事務所(ブルースタジオ)やまちの工務店(今回は礎コラム)と共に、小規模な木造ビルを建てられる建築モデルを用意したので、実際に建てた事例を見て同じように建ててほしいということだ。
見学会で熱く語る、大家兼blue studioディレクターの大島芳彦さん(筆者撮影)
小規模ビルの木造化、その手法とは?建築モデルとなる「OS annex 2」の概要を見ると、JR中央・総武線「東中野」駅徒歩2分、敷地は間口約9m・奥行約17m、8階建て、延べ床面積714.46平米となっている。大島さんによると「都心部の建物の約7割は10階建て以下、間口10m以下」の縦長のビルだというので、その典型の建物と言えるだろう。ただし、木造化と言ってもすべてが木造というわけではない。設計上はすべて木造とすることは可能なのだが、そうすると建築コストがかなりかかるため、経済合理性を考えて、1~4階は鉄骨造、5~8階は木造としている。
1~4階は、標準的なラーメン構造の2時間耐火の鉄骨造だ。ラーメン構造とは、「柱」(垂直方向)と「梁(はり)」(水平方向)で四角形の枠を構成して建物を支える構造のこと。柱と梁をしっかり接合することで、地震の揺れで変形しないようになっている。
※鉄骨造は両方向のラーメン構造
この鉄骨造の上に、1時間耐火の木造を載せる構造となっている。木造部分は、構造となる木材(カラマツ)を強化石膏ボードで両側からはさんで耐火被膜とし、さらにその両側面を木材の耐震フレームではさむ「門型」フレームのラーメン構造としている。ただし、門型フレームは、開口部側の一方向のラーメン構造なので、奥行側にブレース(筋交い※)を入れる形を採っている。
※四角形に組まれた骨組みに対角線状に入れる補強材のこと
ビルの構造の説明図
筆者はかつて、大手ハウスメーカーが建てた木造の賃貸マンション(5階建て)を見学したことがあるが、それも経済合理性を考えて1階をRC(鉄筋コンクリート)造としていたので、混構造となるのはよくあることなのだろう。
この構造がよく分かる上棟の段階で、見学会が行われた。
数回に分かれて行われた見学会。筆者参加の回も大勢が見学に訪れた(筆者撮影)
建築中の建物内に入り、ビルの構造をこの目で確認間取図と現地写真で、鉄骨造と木造の違いを見てほしい。鉄骨造のフロアでは左右それぞれに柱が3本ずつ、木造のフロアではそれぞれに柱が5本ずつ入っているのが分かる。
■鉄骨造のフロア
2~4階の間取図(間取図提供:ブルースタジオ)
1階の様子(筆者撮影)
■木造のフロア
5~8階の間取図(間取図提供:ブルースタジオ)
6階の様子(筆者撮影)
木造部分を詳しく見ると、下の写真の緑色の部材が主要構造部で、木材をそのまま見える形にした耐震フレームで両脇をはさんでいる。奥行側は隣にマンションがあるので、斜めのブレースを入れて耐震補強している。床は山型デッキプレートを使った合成スラブ構造で、天井部分にデッキプレートが見えている。
8階の木造部分(筆者撮影)
さて、見学会では、もっと詳しい説明があったのだが、筆者は建築の専門知識がないので、残念ながら構造や設計について詳しいことがよく理解できなかった。木造防耐火監修の桜設計集団による木造門型フレームの加熱実験が行われるなど、標準モデルとなるような細かい設計がなされているので、詳しく知りたい場合は、ブルースタジオに確認をしてほしい。
小規模木造ビルで、賃料設定はどうなる?さて、木造ビルは決して安価で建てられるものではない。国からの補助金などを受けているが、それでも賃料は周辺相場より高めになる。募集する賃料は、2~4階(専有面積76.45平米)で38万2800円、5~8階(専有面積71.61平米)で39万600円※8階のみ41万2300円(賃料はいずれも消費税別)。
ただし、ZEB-ready(ゼブ・レディ=完全なZEB/ゼロエネルギービルではないが、ZEBを見据えた先進建築物としての条件を備えたビル)を取得し、通常より電気代を抑制できることに加え、外壁面に太陽光パネルを設置することで、テナントが光熱費を抑えることができるようになっている。また、外から見て木造ビルであることがすぐに分かるようにデザインされているので、地球環境に配慮したビルに入居することの意義などSDGsの要素も加わり、そのうえで賃料を見てもらえると考えている。
大島さんは、木造ビルの建て方だけでなく、こうした募集ノウハウなども合わせて提供できるのではないかという。
さて、地球温暖化が進み、カーボンニュートラルに向けて待ったなしの状況になっている。住宅や建築分野の脱炭素は、資金力や人手のある大手事業者が先導して取り組むことが多いが、現実には小規模な住宅や建築物が街中には多く存在している。小規模な建築物でも脱炭素に取り組みやすい手法があり、成功事例が増えていけば、街の中に木造のビルが増えていくかもしれない。大島さんの挑戦に、今後も注目していきたい。
●関連サイト
ブルースタジオ プレスリリース「まちの大家による『都市の木造化』促進計画 都心商業地域における小規模木造ビルの標準化プロジェクト」
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載12回目。今回は、中国・海口市(はいこうし)、約7,500平米という広大な敷地に立つ2021年に誕生した住宅街の交流施設「海口クラウドスケープ (The Cloudscape of Haikou)」(設計:MAD)を紹介する。
彫刻的表情をもつオーガニック・アーキテクチャー中国最南端の海南島の北端にある海口市は、中国本土に対面した都市で、近年社会的重要性が指摘され、同市のパブリック・スペースの質を高め、都市・建築・住民間の連係を強める計画がスタートした。「海口クラウドスケープ」は、そのような計画の端緒となったプロジェクトである。
(C)ArchExist
「海口クラウドスケープ」は、16棟の海浜パビリオンのトップを飾るもので、海沿いに展開されるパブリック・スペースを改良する目的がある。海口シーサイド・パビリオンと呼ばれる新規構想では、国際的に著名な建築家、アーティストおよび学際的なプロフェッショナルに、16件のランドマーク的公共建築の設計を依頼した。
中国で先進的な国際的建築家集団MADが手がけたパビリオンパビリオンをデザインしたMADといえば、今や中国建築界ではもっとも先進的な国際的建築家集団で、マ・ヤンソン、ダン・チュン、早野洋介の3名が率いる建築家チームは、中国のみならず今やヨーロッパにも活動領域を広げている。
パビリオンには、ブック・ストアと市民アメニティを含んでいる。海口湾岸沿いのセンチュリー・パークに位置する建物は、4,397m2の敷地に1,380m2の延床面積を擁している。建物内部の南側には10,000冊の蔵書スペースがある図書館とその閲覧室がある。また無料で一般に開放された多機能視聴覚エリアが収容されている。他方北側には、シャワー室をはじめ休息室、保育室、トイレ、ルーフ・ガーデンがある。
陸と海の中間で静穏に座すパビリオンは、高度に彫刻的な表情を見せている。自由でオーガニックなフォルムは、ユニークなインテリア・スペースを生み出している。そこでは壁、床、天井は一体となった融合的なデザインとなっている。さらに内外空間の境界が曖昧となっている。
パビリオンの円形開口部は、野生動物や海の生物によってつくられた穴を想起させ、建築と自然の境界を曖昧にしている。大小さまざまな開口部は、インテリアに自然光を導入し、海口の一年中暖かい気候にある建物を冷やす自然換気を生み出している。これらの穴越しに、ビジターは時間や空間の推移を通して、あたかも慣れ親しんだ世界を見るかのように、空を仰ぎ見たり海を眺めたりする。
(C)CreatAR
1階と2階をつなぐカスケード状となった海に面する閲覧室は、図書空間だけでなく文化的な交流の場所にもなっている。子ども用の閲覧エリアは、メインの閲覧室から離れたところにあり、そこではトップライト、穴、ニッチなどが子どもの探究心を刺激するようデザインされている。
読書や眺望を楽しめる半外部空間やテラスがあちこちに建物の構造的な形態から、いくつかの半外部空間やテラスが生まれ、それらが読書をしたり海を眺めたりする格好のスペースとなっている。ローカルな暑い気候に対応して、建物の外部廊下のグレー空間はキャンティレバー(※)となり、居心地のよい気温を生み出し、サステイナブルな省エネ建築となっている。
※片持ち梁。通常、梁は柱や壁などに両端が固定されているが、一端のみ固定されているもの。バルコニーなどで用いられる
(C)ArchExist
MADはこの建物により、アンチ・マテリアルなアプローチを掲げ、構造や工事の意図的な表現を避け、材料についての日常的な認識を解消し、空間認識そのものがメインの目的となるようにしている。この建物ではコンクリートは、その流れるようなソフトで自在な構造形態で特徴づけられる液状材料と考えられている。
建物の内外はコンクリート打放しとし、ひとつの凝集的フォルムとなっている。屋根と床は2層のワッフル・スラブ(高気密・高断熱・高遮音の快適住空間を生み出す床材)で、建物のスケールや大きなキャンティレバーを支持している。デザインはデジタル・モデルを使用して進められた。その結果、機械系、電気系、配管系のエレメントは、見かけを最小にしてコンクリートの隙間に配置し、視覚的な統一性を表現することが可能になった。パビリオンのスムースかつ有機的なオーラは、建築、構造、機械&電気デザインを巧みにインテグレートすることで創造された。
「青豆ハウス」は”育つ賃貸住宅”というコンセプトを掲げ、2014年に誕生した。住む人と青豆ハウスを訪れる人が一緒に育む新感覚の共同住宅として注目され、その年のグッドデザイン賞を受賞。多数のメディアに紹介されてきた。設立9年目を迎えた青豆ハウスを訪ね、運営する株式会社まめくらしの青木純さんに、地域と溶け合うコミュニティ創出やその背景にある思いを取材。大家さんしかできない役割や賃貸住宅の可能性をたっぷり語ってもらった。
(写真撮影/桑田瑞穂)
“住む人集う人で育てる賃貸住宅”「青豆ハウス」青豆ハウスは、東京都練馬区平和台にある。副都心線平和台駅から5分歩くと住宅街の中に突如大きな農園が現れて驚く。練馬区が管理する田柄一丁目区民農園だ。青豆ハウスは、その農園に隣接して建っている。3階建てのメゾネットが2階にあるデッキを介して繋がる様子は、まさに豆の木が絡まるよう。畑を一望できる青豆ハウスは、農園を見守っているようにも見える。
9年前の建築当時に苗木で植えた木々が育ち建物を包む(写真撮影/桑田瑞穂)
「畑を見下ろす風景を住民に見せたかったんですよ」と青木さんは、白菜や大根の葉っぱで青々とした畑を指さす。門を入り、2階デッキへと上る階段から眺める235区画もの区民農園は壮観。東京とは思えないほど空が広く感じる。
「これだけの自然環境の中で暮らすことに価値を感じてもらえる住宅にしたかったんです。デッキに面しているのは各住戸のリビングダイニング。食卓には、朝昼晩だいたい同じ時間に灯りがともるでしょう? 人の営みを感じながら同じ時間を共有することを大事にしていますね」(青木さん以下同)
「いつも誰かが土を耕しているのが見えますよ」と青木さん。夕立ちのあとには虹がかかるという(写真撮影/桑田瑞穂)
門を入ったところにある階段をのぼって2階デッキへ。デッキの下には各住戸用の収納庫がある(写真撮影/桑田瑞穂)
青木さんは、住み手と大家が一緒につくる「カスタマイズ賃貸」をはじめるなど日本の賃貸文化の変革者として知られ、公民問わず講演の依頼が絶えない。ジェイアール東日本都市開発と組んだ高円寺アパートメントや南池袋公園など公共空間活用も公民連携で実践してきた。それらの活動の原点が青豆ハウスだ。
「2011年ごろは、東京のシェアハウスブームがはじまって10年くらい経ったタイミングでした。当時シェアハウスは、単身世帯用の独身寮をコンバージョン(※)していた背景がありましたので、そこで出会って結婚すると卒業しなきゃいけない、ということが少なくありませんでした。シェアハウス卒業組が、シェアハウス時代と同じ感覚で誰かと繋がりながら住めるところが賃貸にない。これはおかしいなという思いが、青豆ハウスの構想につながりました」
※コンバージョン/用途変更
青木さんが青豆ハウスで試みたのは、建物などハードだけでなく、暮らしの価値にお金を払ってもらうこと。いわゆるポータルサイトでの不動産広告はせずに、賃貸住宅では珍しい、物件専用ウェブサイトをつくり、パーススケッチやコンセプトを掲載。ブランディングデザイナーの土屋勇太さんや素描家のshunshun(しゅんしゅん)さんと会話を重ねながら、コンセプトに沿ったロゴや未来の暮らしがイメージできるイラストを作成した。出来上がったロゴは、「青」という文字をモチーフにしたものだった。
「コンセプトは、『住む人集まる人が育む賃貸住宅』。青という漢字にはもともと育つと言う意味合いがあるそうです。8枚の葉っぱの形が違うのは、それぞれの個性を尊重するって意味を込めて。それぞれの暮らしが実って、共用デッキに人が集うことによって、大きな木になる。建築過程は、『そらと豆』という成長日記のブログに公開しました」
イチョウやモミジなど葉っぱの種類がそれぞれ違う(写真撮影/桑田瑞穂)
shunshunさんが1本のペンで描いた青豆ハウスの未来予想図。「運営側の色に染めたくない」と色はつけなかった(画像提供/青豆ハウス)
建築途中に青豆ハウスの世界観を伝えるための一歩目として行われた上棟式。左にいるのが青木さん(画像提供/青豆ハウス)
建物の設計は、ブルースタジオに依頼。「目の前でむくむく緑が育つ農園と、のびのびと広がる空にインスピレーションを得て」企画された。内装も外装も天然素材にこだわった。外壁や床などには天然木を、中庭などの外構には古くから使われてきた大谷石(おおやいし)がふんだんに用いられている。いずれも年月を経ると変色などが発生する。一般的には「経年劣化」と言われてしまうが、青木さんは「経年変化」と呼んで慈しむ。
ピザ窯のある中庭に敷き詰めた大谷石。年月を経て白から青緑色に変化する(写真撮影/桑田瑞穂)
「豆の木にならうからには」と、構造も木にこだわり、木造三階建てに。外壁の天然木も時を経るごとに渋い味わいを増す(写真撮影/桑田瑞穂)
「日本だと築年数が経つほど価値が毀損されて原状回復しきゃいけないって考え方があるけど、欧米の賃貸市場では、築年数が古ければ古いほど、関係性ができればできるほど建物の価値が上がっていく。日本もスクラップアンドビルドじゃなくて、いいものを大切に使って無駄をなくしていく方がいいと思います。建った瞬間はゼロ歳で一歳、二歳、三歳となるうちに暮らしも豊かになるし、建物の雰囲気、味わいも出ていくのだから」
コミュニティづくりは、無理しない、無理強いしない初期から続く年始の恒例行事「新年会」(画像提供/青豆ハウス)
青豆ハウスの世界観を理解してくれる人に入居してほしいと、建築中から募集を開始し、1組1組丁寧にコミュニケーション取りながら面接を重ねること3カ月。青豆ハウスの家賃は、当時の練馬区の賃料相場の1.5倍ほどだったが、オープンする時には満室に。青豆ハウスには、青木さん夫妻も入居している。コミュニティづくりでいちばん大切なことをたずねると、「正直であること」と青木さん。
「僕も正直です。なんでも正直にしゃべる。言いにくいことも『言いにくいんだけど』ってちゃんと話します。虚勢を張ったり無理しているとどこかで破綻してしまいますから。あとは、自分ファーストじゃなくて、相手の感情、相手の状況を思いやることが大事かな。青豆ハウスに管理規約はないけど、『無理せず気負わず楽しむ』という家訓があります。住民同士の食事会などのイベントの参加は、無理しない、無理強いしない。自分の意志で集うことを大事にしています」
毎年夏、地域に開放して催される夏祭り。住民同士の家族のような関係を子どもたちは「仲間」と表現する(画像提供/青豆ハウス)
住居の玄関に掲げられた葉っぱの看板には、“hana(花豆)”や“hiyoko(ひよこ豆)”など豆の名前がつけられている(写真撮影/桑田瑞穂)
中庭のピザ窯を使ったガーデンパーティや地域の人も参加できる夏祭り、区民農園での野菜づくりなどコミュニケーションをとる機会が多く、居住者は皆家族ぐるみのつきあいだ。
苦しいことも分かち合ったコロナ禍を経て再び街に開く9年の間には、設立時からいた住民の卒業も経験した。青木さんに、筆者がどうしても聞かなければと考えていたことがあった。青木さんのブログのトップに固定されている2020年8月に書かれた記事のことだ。「実家、のようなもの。」というタイトルがつけられた記事の文章は、青木さんの決意表明のようにみえた。記事に登場する「けんけんさん、くにーさん」のことを問いかけると、青木さんは、ふたりが暮らし、今は居住者がいないlens(レンズ)という住居へ案内してくれた。
lensは、レンズ豆からとった名前(写真撮影/桑田瑞穂)
けんけんさん、くにーさん家族が過ごした部屋。今は共有スペースとして使っている(写真撮影/桑田瑞穂)
「ふたりともクリエイターで、部屋の名前に惹かれて、青豆ハウスありきで練馬に引越してくれました。青豆ハウスに来てから、はなちゃん、うたちゃんという双子の女の子も生まれました。彼ら“レンズファミリー”は住民にとても愛されていたんです。はなちゃん・うたちゃんは未熟児で大変でしたが無事に成長してよかったと思っていたところ、お母さんのくにーが重い肺の病気を患ってしまったんです。僕はけんけんからこの話を聞いたとき、皆には僕から話すって言いました。皆が大好きな家族がこういう状況にあると。全員、できる限りの支援をしたいという気持ちでした」
lens入居当初のけんけんさん(左)と、くにーさん(画像提供/青豆ハウス)
はなちゃんうたちゃんの話になると自然と笑みがこぼれる(写真撮影/桑田瑞穂)
生まれも育ちも青豆ハウスなふたり(画像提供/青豆ハウス)
住民の皆で、子どもたちのお守りや食材の買い出しを手伝い、面白い動画や写真を撮影して励ましのメッセージをくにーさんに届けた。
「そうしたら、肺移植が必要なほど悪かった病気がお医者さんもびっくりするくらい回復して退院できたんです。皆で大喜びしました。ところが、今度はコロナがやってきたんですよ。肺の疾患だったのでコロナに感染したら致命的。レンズファミリーは、緊急事態宣言中に群馬の実家に戻ったまま帰京することなく、ぼくはオンラインで退去したいと連絡を受けました。『悩みに悩んだし、ずっとここに暮らしたいと思ってたけど、一緒に暮らすことで、誰かからコロナをもらってしまうかもしれない。自分も相手も傷つけちゃうから。それだけは嫌だ』って。パソコン越しに泣く泣く。僕もとっても辛かった」
別れのとき、はなちゃん・うたちゃんが「絶対嫌だ、ここで皆と暮らす!」と泣き叫ぶのを聞いて、青木さんはひとつの決断をする。
「ぼくは、大家として一連のやり取り見ていて、他の人にlensを貸したくなくなったんですよ。じゃあ、ここは、はなうたの実家だ、残すよってふたりに約束したんです」
レンズファミリーの旅立ちの日にも、祝福するような虹が出ていた(画像提供/青豆ハウス)
こうして、lensは、欠番の部屋になった。レンズファミリーが帰った時に使うだけでなく、コロナ禍で住民たちのもうひとつの部屋として活用されることに。テレワークをする人たちがスケジュールを共有し合うことで、こどもの面倒を交代でみたり、英語の先生に出張してもらって英会話教室をしたり。それぞれの部屋に人を受け入れるのは抵抗がある中、lensのおかげでコミュニケーションをとることができた。
現在、lensの1階部分はまちのキオスク「まめスク」として活用されている。コロナ禍で疎遠になってしまった地域の人とキヨスクのように気軽に関わりを持てるスペースとして活用され、植栽さんや洋裁屋さんなどが出店する日は近所の人でにぎわっている。
悲しい別れもあれば、出会いもある。イラストレーターの熊谷奈保子さんは、初期住民以外の引越し組第一号だ。まめスクで個展中だというので青豆ハウスの暮らしをたずねてみた。
lensを店舗併用住宅に変更し、1階をまめスクに(写真撮影/桑田瑞穂)
小さな個展「甘い毎日」では、童話とお菓子をモチーフにしたイラストを展示(会期終了)(写真撮影/桑田瑞穂)
近所で賃貸暮らしをしていた熊谷さんは、建築中から青豆ハウスが気になっていたという。決め手になったのは?
「建物に良い素材を用いていること。単純に高級ということではなく、以前から惹かれるものだった、ということが大きいです。大家さんが心地よく感じるものと自分のそれがフィットした感じでしょうか。『住む人に心地よく過ごして欲しい』という大家さんの思いを感じました」(熊谷さん)
すでにあるコミュニティに入る不安もあったが、内覧会で住民の人と話が盛り上がり、心配は吹き飛んだという。「今回の個展の設営や告知も手伝ってもらったんですよ」と嬉しそう。
ご自宅を訪ねるとどこを切り取ってもおしゃれな空間! 緑の壁やキッチンのタイルは先住者が選んだものだが、もともと大好きな色なので、お気に入り。在宅で仕事をしているので、「窓越しに隣の人の気配を感じると、ほっこりした気持ちになる」と話してくれた。
農園を借景にした明るいリビングダイニング(写真撮影/桑田瑞穂)
熊谷さんがひと目ぼれした紺色のタイルが貼られたキッチン(写真撮影/桑田瑞穂)
壁から天井まで余すところなく素敵なインテリアで飾る(写真撮影/桑田瑞穂)
毎年販売される熊谷さんのイラストを使ったカレンダー。来年のカレンダーはすでに完売(写真撮影/桑田瑞穂)
居住者にはクリエイティブな仕事をしている人が多いので、助け合ったり、一緒に仕事をすることも多い。「売り切れないようにカレンダーの印刷部数を増やさなきゃ」と熊谷さんにアドバイスする青木さん(写真撮影/桑田瑞穂)
住む人の暮らしをつくる大家さんの仕事は面白い!青木さんは、住民として大家として、居住者に向き合い続ける中で、疲れたり、いやになってしまうことはないのだろうか。
「初めのうちは力みがありましたね。大家さんとして、こうしてほしい、こうなったらいいなって押し付けてしまったり。最初は、緊張感を持っていたけど、段々と気を緩ませ始めて。壁を自分が取っ払ってありのままでいることを意識し始めたらすごくうまく回ったんですね。ぼくのダメな部分は、皆が知ってます。例えば酔っ払って寝ちゃうとか、承認欲求が強そうとか、意外と根暗とか(笑)。ぼくも、それぞれのいい部分、悪い部分、ぜんぶ知っています。家族みたいなものです。共同で暮らすのは、楽しいことばかりじゃない。でも、辛いこと、苦しいことも分かち合えることが、コロナの時によくわかりました」
青木家にはひとり息子がいる。思春期で親とは話さなくても住民の人に話を聞いてもらっていたそうだ(画像提供/青豆ハウス)
青木さんは、「大家さんの仕事は、皆が考えているより、ずっと楽しい!」と力説する。青木さんが不動産業界に関わることになった時、感銘を受けたのが、リクルート住宅総研(当時)のレポート「愛ある賃貸住宅を求めて」だった。
「『日本の大家さんへ』という島原万丈さんからのメッセージを今でもおぼえています。『あなたが建てたアパートやマンションの部屋で毎日眠り目覚め、食事を摂り勉強したり、仕事にでかけたり、時に友と語らい、時に恋をして、社会人として成長していく若者のことを、自分の物件にふさわしいとあなたが選んだ若者の人格を慈しみ、その暮らしを思いやることはできる。いやそれはあなたにしかできない仕事だ。』って書いてあったんですね。家だったり、共同住宅は、街の前にある一番最初の単位。そこでいい関係性をつくって、ちょっとはみ出して、街に幸せを広げていきたい。地方都市で移住者と先住者が対立する問題があるけど、大家さんが地域とその人をちゃんと繋いであげて関係性つくってあげたらうまくいくと思うんです」
話を聞いていると、大家さんはなんて面白い仕事だろう。自分も大家になってみたい!と思えてくる。自ら校長を務める「大家の学校」や池袋東口グリーン大通りで開催するイベント「池袋リビングループ」など、青豆ハウスの経験やノウハウを未来に繋ぐ活動も取り組んでいる。
青豆ハウスの住民たちで区民農園を残す活動もしてきた(写真撮影/桑田瑞穂)
自宅では窓辺で過ごすことが多い青木さん、どんぐりの木が窓いっぱいに見えてツリーハウスにいる気分(写真撮影/桑田瑞穂)
思い出の詰まった絵や写真が壁一面に(写真撮影/桑田瑞穂)
プリンの絵の後ろにインターホンが隠れている。遊び心がニクイ(写真撮影/桑田瑞穂)
最後に、青木さんの夢を聞いた。
「青豆ハウスが、百年後も続いていることですね。きっと建物も僕も残っていないだろうけど、地域の人に『青豆ハウスがここにあったよね』って言われたい。子どもたちが成長して、自分に子どもが出来た時にここに来てくれたら嬉しいなあ」
真ん中にいるのは青木さんの長男。今年、高校の寮に入るため青豆ハウスを巣立つ際に住民がイラストを描いてくれた(画像提供/青豆ハウス)
ポイ捨てがなくなればいいねと花壇に置くようになった黒板。日々交代で住民が描くかわいいイラストが評判でファンレターが置かれていたことも(写真撮影/桑田瑞穂)
取材が終わった時、朝、入口で見つけた小さな看板のことを思い出していた。迎えてくれたのは、住民の方が描いたというスーモ君の絵。取材は、皆で相談して引き受けることを決めたという。さりげない歓迎の印が嬉しくて、少しの時間、青豆ハウスの仲間に含まれた気持ちがした。いつか青豆ハウスがなくなっても、だれかの心にきっと残り続ける。そんな思いを胸に青豆ハウスを後にした。
●取材協力
・青豆ハウス
・大家の学校
・池袋リビングループ
「65歳以上の高齢者は賃貸住宅を借りづらい」ということは、近年報道などを通じて知られるようになってきた。山本 遼さんが代表取締役を務めるR65では、65歳からの部屋探しを支援し、専用サイト「R65不動産」で高齢者が入居できる物件を紹介している。また、高齢者の賃貸入居を難しくする課題を解消する取り組みも積極的に行っている。高齢者の部屋探しの実態について、山本さんに話を聞いた。
65歳以上の4人に1人が経験する“入居拒否”の実態筆者は2年前に「65歳以上の“入居拒否”4人に1人。知られざる賃貸の「高齢者差別」」という記事を書いた。この記事で、全国の65歳以上の23.6%が「不動産会社に入居を断られた経験がある」と回答し、断られた経験の回数は「1回」という人が半数近くになるが、「5回以上」という人も13.4%いたという、R65の調査結果を紹介したものだ。
筆者が気になったのは、65歳以上の4人に1人は入居拒否に遭う一方、4人に3人は問題なく入居できているのか?その場合、どんな高齢者なら入居を断られないのだろうか?高齢者の入居拒否の実態に詳しいR65の山本さんに質問をぶつけてみた。
R65代表取締役の山本遼さん(筆者撮影)
「高齢者の4人に3人は入居できる状態と思わないでほしい」と山本さん。収入があって保証人もいる高齢者でも、賃貸住宅を見つけるのに時間がかかっている。むしろ、4人に1人は時間をかけても物件が見つからない状態と見るべきだというのだ。R65の調査結果でも、年収200万円未満とそれ以上(年金以外に仕事をして収入を得ていると想定)で比較しても、入居拒否の経験の有無や断られた回数に違いはなかった。
出典:R65「『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題』に関する調査」
後期高齢期(75歳以上)の年齢になったり障害があったりすれば、さらにハードルが高くなるだけで、入居については、まず「65歳以上という年齢」が大きなハードルになるのだという。
65歳以上が入居しづらい要因はあるが、ケアする手立てもあるではなぜ、65歳以上で入居が難しくなるのだろうか?山本さんによれば、最も大きな要因は、貸主(オーナー)側に高齢者に貸した経験が少ないことで、理解が不足しているからだという。
一般的な賃貸住宅では、貸主側にやむを得ない事情がない限り、入居者が希望すればそのまま住み続けることができる。住み続ければ入居者が高齢化して、孤独死や死後の残置物の問題が生じるなど、若年層に貸すのとは異なるトラブルが起きると考え、それを懸念して年齢だけで入居を拒む貸主が多いようなのだ。
(公財)日本賃貸住宅管理協会による調査では、「高齢者世帯の入居に拒否感がある」と回答した貸主は全体の70.2%を占める。この拒否感を解消するには、貸主のリスクをケアする手立てを講じて、安心して貸せる環境を整備していくことが必要だと、山本さんは考えている。以降は、どんな課題があるか、それに対するどんな手立てがあるかを整理していこう。
●孤独死
貸主にとって孤独死は大きな問題だ。発見が遅れると、臭いや床面の損傷などが発生して、その部屋を特殊清掃したり改修したりする必要がある。かつ、その間は入居者募集もできないので、貸主の損失も大きくなる。だから、孤独死は早期発見がカギになるのだ。これについては、「見守りサービス」を活用することで、異常な状態を検知することができる。
●身元保証
賃貸借契約では連帯保証人などの身元保証を求められるが、保証人がいない高齢者も多い。身元保証で求められるのは主に家賃の滞納だが、これは高齢者に限らず、「家賃債務保証会社」と契約するのが一般的になっている。このほか、入院時や死亡時にまで対応する「身元保証サービス」の利用も考えられる。
●死亡後の残置物の処理
死後に賃貸住宅に残された物は、貸主が勝手に処分することはできない。相続人に残置物の処分や部屋の明け渡しなどの対応を依頼するのが基本だ。一人暮らしで相続人が不明の場合、貸主は推定相続人を探し出して交渉することになり、それにかなりの時間を要する場合がある。これについては、国土交通省と法務省が「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定した。入居者の推定相続人か、それが難しいときは居住支援法人※などの第三者が入居者と委任契約を結び、それによって代理権を得た者が賃貸借契約の解除や残置物の処理を行うというものだ。
※居住支援法人とは、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)に基づき、都道府県が指定する、要配慮者の居住支援を行う法人。
こうした高齢者ならではのリスクについては、行政が対応すべき課題もある。このなかで不動産会社が考えるべきことは、賃貸経営で重要となる、物件の資産価値を下げず、空室期間を長期化させないことに絞られると山本さん。
そこで、R65でも高齢者の入居リスクをケアする商品を用意している。まず、孤独死の問題については、「あんしんみまもりパック」(月額980円~)を提供している。これは、電気の使用量をチェックして見守るもので、貸主の原状回復費用や家賃を補償する保険もセットにしている。比較的安価で見守りと補償をセットにすることで、貸主が利用しやすいようにしているのが特徴だ。
残置物の処理については、R65のパートナー不動産会社に対しては、居住支援法人でもあるR65が残置物処理に関する委任契約を受ける契約書を用意しているほか、他の不動産会社などが使える賃貸借契約の解除と残置物処理に関する契約書(推定相続人が受託する想定)を一般公開している。
なお、家賃の滞納については、実は高齢者だからといって多いわけではないという。たしかに、家賃債務保証会社を利用することで滞納のリスクは解消されるし、年金のなかでやりくりできる賃料であれば問題はあまり発生しないはずだ。
難しいのは認知症を発症して、賃貸住宅での生活が難しくなる場合だ。特に身寄りのない単身高齢者の場合、認知症が進んでしまうと意思能力がないと判断されてしまうので、まだ軽症のうちに地域包括支援センター※などと連携して、グループホームなどの環境が整った場所に移ってもらうのがよいという。
※地域包括支援センターは、地域の高齢者を支えるために市町村が設置するもので、「介護予防ケアマネジメント」「総合相談支援」「包括的・継続的ケアマネジメント支援」「権利擁護」の業務を行う。
高齢者がもっと賃貸住宅を探しやすくするためには、不動産情報サイトの充実が挙げられる。現状でも、掲載物件数の豊富な大手ポータルサイトで、「高齢者歓迎」などの項目で検索して、高齢者の入居を拒まない物件を探すことはできる。さらに、高齢者対象の賃貸住宅に特化したR65不動産のサイトでは、エリア検索のほかに、二人入居可、駅徒歩5分、保証人不要相談、庭付き、ペット可、1階またはエレベータなどのテーマ別検索ができるようにしている。これらは、高齢者が部屋探しをする際に主要な条件として挙げる場合が多いからだ。ただし現状では、必ずしも、高齢者のニーズと掲載物件がマッチするとは限らない。
そこで、山本さんがもう一つの課題として挙げるのが、不動産流通の問題だ。高齢者の入居を拒まない物件自体を増やす必要があるからだ。
貸主が高齢者に賃貸住宅を貸すことに拒否感がない場合でも、不動産会社のほうで手間がかかるなどの理由で、積極的でない場合もある。そこで、高齢者の部屋探しに積極的なR65のパートナー不動産会社を増やし、R65不動産の掲載物件を増やそうと考えている。パートナー不動産会社に高齢者に関する仲介や賃貸管理のノウハウがないという場合は、ノウハウの提供を惜しまないという。
次に、貸主の理解を深めること。「高齢者世帯の入居に拒否感がある」という貸主が70.2%いたが、拒否感を示していない残りの3割にしっかりと、見守りサービスなどのリスクをケアする手立てを紹介することで、高齢者に多くの賃貸住宅を提供してもらいたいという。
山本さんの高齢者のイメージには、亡くなる2年前まで薬局で長く働き続けた祖母の姿がある。高齢者が暮らす場としては、介護が受けられる施設やサービス付き高齢者向け住宅などもあるが、自立して自分らしい生活を送るには、街の中に数多くある賃貸住宅が適していると思っている。それを実現するために、R65不動産を拡充させたいという考えだ。
今後、日本の高齢化はますます進んでいく。政府も、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」や「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定し、高齢者などの住宅確保要配慮者の支援を拡充するための検討会を立ち上げるなどの取り組みも行っている。
こうした後押しも必要だが、困っている高齢者の部屋探しを支援しようという、山本さんのような情熱も必要だ。「高齢者に賃貸住宅を貸すのが当たり前の社会になったときには、R65不動産はなくなってよい」という、山本さんの発言が印象に残っている。
「現代の道具を使わず、自然にあるものだけでゼロから文明を築く」。そんなテーマで週末、山に籠り、縄文生活を実践してYouTubeで発信する「週末縄文人」。膨大なエネルギーと時間をかけ、竪穴住居までつくり上げた二人には、高度なテクノロジーに支えられた現代の住まいや暮らしはどのように見えているのでしょうか。縄文生活は、現代の生き方にも変化をもたらしたのでしょうか。山の中の活動拠点にお邪魔して話をうかがってきました。
スーツ姿がトレードマークの週末縄文人。縄さん(左)は学生時代、ワンダーフォーゲル部に所属し、多くの時間を山で過ごしていたという。1991年秋田生まれ。文さん(右)は幼少期、アメリカ・ニュージャージー州やアラスカ州で暮らしていた経験をもつ。1992年東京生まれ(写真撮影/嶋崎征弘)
平日サラリーマンであり、週末縄文人というおもしろさ二人が配信するYouTubeチャンネル「週末縄文人」は現在、登録者数13万人超。8月には初の著書『週末の縄文人』(発行:産業編集センター)を上梓し、話題を集めています。そんな彼らの正体は、ふだんは東京に暮らし、映像制作会社で働くサラリーマン。YouTubeは会社に内緒でスタートしたため、それぞれ顔に「縄」「文」のモザイクをつけて活動しています。
縄文生活を始めたのは、必死に働いている仕事が果たして人や社会の役に立っているのだろうか?と心にモヤモヤを抱えていた文さんが、同期入社の縄さんに「山で遊ばないか」と声をかけられたことがきっかけ。大学時代、ワンダーフォーゲル部にいた縄さんは、映像制作の仕事で「文明が崩壊したらどうなるか」というサバイバル映像を制作したいと考えていたものの、企画が通らず、自分たちでやってYouTubeで発信しようと提案します。
そこで、「どうせ文明を築くなら歴史の教科書に最初に出てくる縄文時代まで遡り、現代の道具を一切使わないところからやってみよう」と、二人で「週末縄文人」を結成。縄さんと文さんのとてつもない冒険がスタートしたのです。
それにしても、現代のサラリーマンが、教科書の一ページ目のような縄文生活を送ったら、現代の暮らしは一体どんなふうに目に映るのでしょう。住まいに求めることは変わったのでしょうか。たくさんの困難が待ち受ける縄文の暮らしを体験して、きっといろいろな発見や心境の変化もあったはず……。とある日の活動を見せてもらいながら、お話をうかがってみました。
縄文人がやっていたであろうことを実践。ひたむきに向き合うその過程が見られることに視聴者はワクワクする(写真撮影/嶋崎征弘)
秋まっさかりの週末、取材チームが訪れたのは、長野県某所の山の中。生い茂るススキの間にある小道を通り抜けると、開けた小さな広場のような空間が現れ、そこで野焼き(焚き火で土器を焼くこと)が行われていました。
活動拠点にしている場所は、知り合いのツテで借りている土地。縄文時代の住まいである竪穴住居(竪穴式住居)を建てることを目的に、「平坦で、石ころがなく、砂っぽくないところ」を条件に探したのだそうです。面積は0.5ヘクタール(約5000平米)と広大、まわりに人家はありません。
ちなみに、広場に来るまでに通ってきたススキの小道は二人がつくったのではなく、行き来するうちに自然と道のようになったのだとか。「目的があれば道はできます」。早速深い言葉が飛び出します。
起こした火のまわりに土器を並べて乾燥させ、熾火(おきび)になったところでその上に直接土器を置く。このあと薪をくべて火力を上げ、本焼きに入る。円錐形に尖った「尖底(せんてい)土器」は縄文時代にはメジャーなもので、今回が初挑戦(写真撮影/嶋崎征弘)
火にくべられていたのは、土器7、8、9号(粘土に戻ったものも含めこれまで1~6号までつくっている)と、“縄文茶道”のための茶碗2つ。縄文茶道とは二人の造語で、文さんは実際に茶道の経験もあるそうです。この茶碗でお茶を点てたらさぞかしおいしいのだろうな、と妄想が広がります。
この野焼きの段階に来るまでに、果てしない時間がかかっています。まず粘土づくりに丸2日。知り合いの土地から粘土質の土を採取してきて、小石やゴミを取り除きます。その後3~4日かけて捏ね、粘りが出たらようやく粘土が完成。成形するのに1日、文様を入れるのに1~2日。さらに水漏れを防ぐために内側を磨き、3週間ほどかけてゆっくり乾かしていきます。もちろんすべて手作業です。こうした作業ができるのも週末だけ。ゆえに、今回の土器づくりは実に2カ月ほど前から始まっていたといいます。
2カ月かけてつくった縄文土器をいよいよ野焼き。成功を祈る!これまで何度となく失敗してきた土器づくり。工数が多いため原因がつかめず、懇意にしている考古博物館の館長にわずかな手がかりをもらい、実践を積み重ねてここまで進化してきました。その館長いわく、「自分は答えを知ってしまっているからもう失敗することはできない。君たちは失敗できるからおもしろい。失敗できるということは財産なんだ」。些細なヒントをもとに考え、知恵を絞り、工夫しながら答えを見つけていく。失敗の中にこそ大きな発見があり、そしてそれは土器に限らず、すべてのものに当てはまることなのでしょう。
果たして、今回の野焼きは無事成功するのでしょうか。今日初めてここに来た取材チームも、成功を祈る気持ちで見守ります。
縄文生活の第一歩である火起こしも、もちろん自然にあるものだけを使って行う。今は早ければ30秒で火種がつくれるようになったが、最初は3カ月かかったという(写真撮影/嶋崎征弘)
落ちている木の枝を集めてきては、火にくべていく(写真撮影/嶋崎征弘)
土器の運命は、すべてこの火の中に……(写真撮影/嶋崎征弘)
自分の手で自分の暮らしをつくる、その豊かさに気づいた焼き始めて1時間近く経ったころ、「パァン!」と不穏な爆発音が。もしや、7~9号土器あるいは茶碗が割れた音だろうか……? 不安を隠せない取材チームでしたが、二人は倒れ込みながらも気を取り直して声を掛け合い、ポジティブにお互いを励まし合っています。
ここまで時間と手間をたっぷりかけてつくった、愛着のかたまりのような土器。それが割れてしまったときの気持ちは、計り知れません。失敗の原因を分析して、工夫して次につなげる、できるようになるまでやる、その原動力はどこから来ているのでしょう。そしてこうした体験を経て、見えてきたことはあったのでしょうか?
土器が赤く輝きだしたら焼き上がりのサイン。少しばかりの亀裂が入っていても、めげない(写真撮影/嶋崎征弘)
「文が『原始からやろう』と言ってくれて始まった縄文人生活。それは、『自分の手で自分の暮らしをつくること』だったんです」と縄さん。それまでほかの動物と変わらなかった人間が、最初に編み出した発明は、現代にも続く暮らしの基礎の基礎。文明の原点である火起こし。水が汲めて、煮炊きができる土器。布を縫える糸と針。木を切れる石斧……。「革新的な発明ですよね。そのひとつひとつ、できなかったことを少しずつできるようになる。発明した縄文人に想いを馳せ、できたときの達成感を存分に味わっています」。その過程の苦しみを超えるほど、達成したときの喜びが大きいのだなあと感じます。
文さんも、「自分の手で自分の暮らしをつくる“豊かさ”に気づきました」と言います。「料理をするとか、安全に暮らすとか、命をつなぐための本質的なことは、縄文時代も現代の暮らしも同じ。日々の営みを自分でちゃんとすることで豊かな気持ちになれると知って、東京に戻ったときも、野菜を買ってきて料理しようとか、シーツを週1回は洗おうとか、少し丁寧に、営みに時間をかけること。そんなふうに変わってきました」
爆発して割れてしまったものは確認できたようだが、ひび割れや欠けは火が完全に消えて取り出すまではわからない(写真撮影/嶋崎征弘)
火が消え、姿を現した土器。竹で渦巻文様をつけた8号土器、右奥の7号の円筒土器は成功したように見える(写真撮影/嶋崎征弘)
焼き上がったばかりの土器は言うまでもなく熱い。そんなとき文さんは、足元の草を素早くちぎって鍋つかみのように使う(写真撮影/嶋崎征弘)
縄さんの表情が見せられないのがもったいないほど、嬉しそうな笑顔!(写真撮影/嶋崎征弘)
このときの縄文土器づくりの動画は「週末縄文人」のチャンネルにアップされているので、ぜひチェックしてみてください!
なにか愛らしいキャラクターにも見える、週末縄文人渾身の住まい(写真撮影/嶋崎征弘)
制作日数30日。自然にあるものだけでつくり上げた、愛すべき竪穴住居焚き火広場の先には、二人が30日かけてつくり上げた縄文人の住まい、竪穴住居が佇んでいます。ノコギリもトンカチも釘も使わずに、自分たちで一からつくった石斧で木を切り出し、骨組みをつくり、柱と梁をつくり、大量のクマザサで覆う。
クマザサの屋根はいい感じに色褪せ、まわりの木々やススキと同化していました。
入り口には階段を、住居中央には焚き火口を設けた(写真撮影/嶋崎征弘)
竪穴住居の直径は2m、広さは3.5畳ほどでしょうか。中に入らせてもらうと、想像していたよりも広く感じます。深さ50cmほど地面を掘り下げてあり、天井高は中央部分で最高1.7mくらい。立つことも可能です。座れば大人が6~7人は入れそう。穴の中に入り込んだような落ち着ける感覚があり、外よりも2度くらいひんやり。この日は秋にしては暖かかったので、それが心地よく感じられます。
「夏は涼しく、冬暖かい。静かで、最初は暗いけどだんだん目が慣れてきて見えるようになる。不思議な安心感がありますよ。これまで僕たちがつくったものの中でいちばん時間がかかったのが、この竪穴住居です。縄文時代の本物と比べたらだいぶ小ぶりですが、これが今自分たちにできる限界の大きさ。二人で力を合わせて屋根を乗せ終わったときは、今までに経験したことのない達成感がありました」と縄さんは言います。
「これまではここで夜を過ごそうと思ったら、野宿ですよね。雨が降るかもしれないし、動物も来るかもしれない。原っぱの中で寝られる場所を自分たちでつくり出せたというのは、すごい体験です」と文さん。葉っぱを敷けば、二人が寝転ぶこともできます。
この骨組みとササ葺き屋根を、現代の道具を使わずにつくったというのがちょっと信じ難い。柱と梁を結束しているのは、剥いだ木の皮(写真撮影/嶋崎征弘)
現代の住まいと比べて、居心地はどうですか?
「現代の家が外と遮断されているのに対し、この家は外とつながっているという感覚があります。家によく現れる、小さなカナヘビが動くカサカサ、という音や、風が吹き始めて壁のクマザサが揺れる音。一瞬で風だ、とか雨が降り始めた、とわかるんです。そのセンサーがすごいんですよね」と文さん。感覚が研ぎ澄まされる感じ、確かに遮音性や気密性にすぐれた現代の家のつくりでは味わえないものです。
竪穴住居をつくったときの動画は、こちら。二人のすごさ、縄文人のすごさ、現代のテクノロジーのすごさ……いろいろと実感します。
竪穴住居とは切り離せない、火の存在クマザサを使ったのは、この近くに大量に自生していたから。住居の中で火を焚くと、屋根から煙が抜けていく(写真撮影/嶋崎征弘)
縄さんは慣れた様子でスムーズにイン。記者はお尻をついてのけぞるようにしてやっとのことで入れた(写真撮影/嶋崎征弘)
竪穴住居で火を起こすため、野焼きで使った熾火を運ぶ(写真撮影/嶋崎征弘)
火を焚くと、家の中の空気がたちまち循環する(写真撮影/嶋崎征弘)
竪穴住居には、火は欠かせない存在だといいます。家の中央には焚き火口がつくられ、先ほどの野焼きで使った熾火と拾ってきた小枝で、文さんが瞬く間に火をつけてくれました。すると、家の中がほわっと明るく照らされます。
「火があると、家も生き生きとするんです。夏は暑いと思われるかもしれませんが、空気が動くから換気ができて快適です。煙で家中がコーティングされると乾燥してカビも生えない。煙に燻されて虫も追い払えるし、獣も近寄りません」と縄さん。いいことずくめなんですね!焚き火の効力もあって、縄文時代の家は20年持つといわれているそうです。
「火があって初めて家だといえるんです。火は光になり、暖かい温もりがあり、ごはんもつくれ、燻すこともできる」(文さん)
地中50cmほどの深さが、穴の中にこもっているようで落ち着く(写真撮影/嶋崎征弘)
骨組みや柱になる木材は、知人の山から3日かけて切り出したもの。安定した構造がつくれたのが本当にすごい(写真撮影/嶋崎征弘)
自然の移り変わりを感じながら、非効率なことを楽しめる暮らし4年目に入った縄文生活は、二人の日々の感じ方に変化をもたらしていました。
「東京での仕事が忙しくて終電帰りが1カ月続いたりすると、家と会社を往復するだけの毎日で、なんだか息苦しい。ふとまわりを見ると、確か夏の終わりだったはずなのに、もうイチョウの葉が落ちていて、冬が始まろうとしていたりする。その変化に気づかなかったことにショックを受けました。週末ここに来ると、町から山にかけて紅葉の色が変わってきて、グラデーションを感じる。デジタル時計とアナログ時計みたいな違いなのかも。環境や自然の変化にとても敏感になります」(文さん)
例えば石を磨くのも、何時間もかけて削れるのはほんの数ミリ。縄文生活の変化の速度はとにかくゆっくり、ゆっくり。
「現代の暮らしと、スピード感がなにもかも違うんです。土器を焼くのも、家をつくるのも。時間がかかることは非効率的といえますが、その分じっくり味わえるということ。各駅停車の旅みたいに」(縄さん)
研いだ石はナイフ、どんぐりはアク抜きをして食べる予定。どんぐりの煮汁はひび割れた土器の目止めにも使える。目止めは現代でも陶器をおろすとき最初にやること。縄文時代から続いていたとは……(写真撮影/嶋崎征弘)
血豆だらけの縄さんの手が、現代の道具を使わずになにかをつくる過酷さを物語る(写真撮影/嶋崎征弘)
石磨きに没頭すると、感性が研ぎ澄まされていくという文さん。磨き込んだ石を使った二代目の石斧は、縄文人レベルに達するものができたという(写真撮影/嶋崎征弘)
縄文人目線で見ると、現代の文明がまぶしい!近い将来挑戦したいことは、縄さんは「鉄をつくりたい。鉄で鍬(クワ)をつくって、田んぼを耕したい」。文さんは「衣服づくり。カラムシという植物の茎から糸をつくって布ができるんです。ただ、大人ひとり分の服をつくるのに1年くらい時間がかかると聞いたので、尻込みしてなかなか始められていません(笑)」
では、現代の暮らしから縄文生活に取り入れたいものがあるか聞いてみると、
「『まっすぐ』があったらいいなぁ。この家に、直線のものってないんです。現代の道も床も、まっすぐだからこそ快適なんですよね。まっすぐは偉大です」と文さん。確かに、自然のものは曲がっているのが当たり前。そんな縄文人目線で現代を見ると、人工物が輝いて見えてきそうです。
縄さんが欲しいものは、ひとしきり悩んだ末、「リアルに軽トラかな。遠方から土や木を運んだりするために使いたい。文明の利器ってやっぱりすごいです」
二人がおじいさんになったころ、時代がどれくらい進んでいるのだろうか、楽しみにしたい(写真撮影/嶋崎征弘)
二人でこうして家まで建てられたのだから、リアルな暮らしでも古民家をリノベーションするとか、DIYして住むとか、そういった次のことに興味は出てきたり……?
「それは全然思わないです(笑)。その時間があったら、今の縄文人活動に使いたいので」
現代の暮らしにおいて、原点回帰したいとか、自給自足したいとかいう気持ちが芽生えたわけじゃない。そうやって一見、現代の生活とは切り離している縄文生活ですが、暮らしの本質は変わらず、1万年前から地続きでつながっていることに気づいたと二人は言います。
過酷とも思える縄文人の活動はすべて、自分たちが安全に、豊かに、幸せに暮らすために必要なこと。現代に生きる私たちはなかなか実感しにくいけれど、仕事(労働)と営みが直結していた縄文生活。
その「自分の手で暮らしをつくる」ことの尊さを身をもって知ったからこそ、二人は生きている証のようなものを日々味わい、楽しみ尽くしているように見えました。どう生きたら人生が豊かになるのか、幸せなのか。それはコスパやタイパ※では計れないものなのだと感じました。
※タイムパフォーマンス/時間対効果。かかった時間に対する満足度
この先、何十年か経っておじいさんになっても、文明をつくり出すまでこの活動を続けたいと言う週末縄文人の二人。その悠久とも思える日々を共有してもらえることを楽しみにしながら、私も今度の週末は火起こし、やってみたいな……などと思ったのでした。
●取材協力
週末縄文人
『週末の縄文人』(産業編集センター刊)
■関連記事:
縄文人さん、「竪穴住居」でどんな暮らしを送っていたんですか?
JR山手線と並んで東京を代表する路線の一つ、JR中央線。そのうち東京都内に位置する駅は、東京駅から高尾駅の全32駅。そんなJR中央線・東京都内32駅の一人暮らし向け賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場を調べてみた。都内と言っても千代田区から八王子市まで、約53kmにわたる沿線の環境はさまざま。同じ路線であっても家賃相場は駅によって違いがありそう……。実際はどうなのか、さっそくランキングをチェックしよう。
JR中央線沿線(東京都内)の家賃相場が安い駅ランキング順位/駅名/価格相場/所在地
1位 西八王子 5.30万円(東京都八王子市)
1位 高尾 5.30万円(東京都八王子市)
3位 日野 5.80万円(東京都日野市)
4位 西国分寺 5.90万円(東京都国分寺市)
5位 国立 6.00万円(東京都国立市)
6位 国分寺 6.28万円(東京都国分寺市)
7位 東小金井 6.50万円(東京都小金井市)
7位 豊田 6.50万円(東京都日野市)
9位 八王子 6.60万円(東京都八王子市)
10位 武蔵小金井 6.70万円(東京都小金井市)
11位 武蔵境 7.00万円(東京都武蔵野市)
12位 西荻窪 7.50万円(東京都杉並区)
13位 阿佐ケ谷 7.70万円(東京都杉並区)
13位 吉祥寺 7.70万円(東京都武蔵野市)
15位 三鷹 7.80万円(東京都三鷹市)
15位 立川 7.80万円(東京都立川市)
17位 荻窪 8.00万円(東京都杉並区)
18位 高円寺 8.20万円(東京都杉並区)
19位 中野 8.80万円(東京都中野区)
20位 東中野 8.90万円(東京都中野区)
21位 大久保 9.80万円(東京都新宿区)
22位 東京 11.05万円(東京都千代田区)
23位 代々木 11.40万円(東京都渋谷区)
24位 御茶ノ水 11.50万円(東京都千代田区)
25位 市ケ谷 11.55万円(東京都千代田区)
26位 水道橋 11.60万円(東京都千代田区)
27位 神田 11.70万円(東京都千代田区)
28位 四ツ谷 11.80万円(東京都千代田区)
28位 新宿 11.80万円(東京都新宿区)
30位 飯田橋 12.00万円(東京都千代田区)
31位 信濃町 12.50万円(東京都新宿区)
32位 千駄ケ谷 12.60万円(東京都渋谷区)
【JR中央線】中古マンション価格相場が安い駅ランキング2023年版(東京-高尾32駅)。吉祥寺が新宿よりも高額に
東京都の多摩地域にある3駅が、家賃相場5万円台でトップ3入り中央線自体は「中央本線」と呼称を変えながら東京駅を出てから神奈川県、山梨県、さらに長野県へとつながる長い路線だ。今回の調査では、東京都内にある全32駅を対象にしてランキングしている。そして最も一人暮らし向け賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が安かったのは、八王子市に位置する西八王子駅で家賃相場は5万3000円。法政大学の多摩キャンパスと結ばれたバスが発着していたり駅から約3km北に工学院大学の八王子キャンパスがあったり、周辺地域に大学も点在していることから学生向けの賃貸物件も豊富なエリアだ。
西八王子駅前の風景(写真/PIXTA)
1位・西八王子駅の周辺にはコンビニやスーパー、ドラッグストアがあり、ふらっと立ち寄れるチェーン系の飲食店も複数。1駅隣の八王子駅(9位・家賃相場6万6000円)には大型のショッピングモールや家電量販店もあり、ショッピングにも出かけやすい。買い物環境でいえば八王子駅のほうが便利ではあるが、西八王子駅のほうが家賃相場は1万3000円も低い点は魅力だろう。JR中央線の快速に乗れば、1時間弱で新宿駅に行くこともできる。ちなみに新宿駅の家賃相場は11万8000円で、ランキングは全32駅中28位。西八王子駅から電車で1時間弱離れると、家賃相場が6万5000円もアップするわけだ。
JR中央線の東京都内の駅のうち最西端に位置する、八王子市の高尾駅も家賃相場5万3000円で同額1位にランクインした。JRの駅舎の南側には京王高尾線・京王高尾駅もあり、2路線を利用可能だ。しかし駅利用者以外が線路の北側~南側を行き来する場合は入場券を購入して改札内を通るか、大きく迂回しなければならない点がネックで、南北自由通路の整備が計画されている。当初想定より工事費が肥大化し計画の見直しが行われたため「2026年度以降の早期着工」とのこと。少し先ではあるが、北口駅前広場の整備も行われるそうなので楽しみに待ちたい。
高尾駅(写真/PIXTA)
そんな高尾駅周辺は2路線が乗り入れていることもありコンビニやスーパー、飲食店などの商店が充実。駅東側には八王子市最大級のショッピングセンター「イーアス高尾」があり、ファッション、雑貨、家電のショップや書店、100円ショップなど多彩な店舗が並んでいる。駅から南にバスで約5分の場所には拓殖大学のキャンパスがあり、西八王子駅同様に学生向けの賃貸物件も建っている。東京方面に向かう快速・中央特快いずれも大半が高尾駅始発の列車のため、座って乗車しやすいのもうれしいところ。新宿駅までは快速なら1時間少々、中央特快なら50分弱で到着できる。
3位は日野市の中心部にある、日野駅で家賃相場は5万8000円。新選組の副長・土方歳三の出身地としても知られ、線路の東側には「新選組のふるさと歴史館」や新選組の支援者・佐藤彦五郎の屋敷だった日野宿本陣の建物など歴史を伝える施設が点在している。駅周辺にはコンビニやスーパー、100円ショップといった日常生活を支える商店がそろい、ラーメンやハンバーガーなどファストフードの店舗も。駅から北に10分ほど歩くと多摩川の河川敷が広がっているので、散歩やランニングに出かけてもいいだろう。また、新宿駅までの所要時間は快速で50分弱、中央特快だと35分ほどだ。
日野駅前の様子(写真/PIXTA)
23区内で最安は西荻窪駅。最も高いのは東京、新宿ではなく……?都内にあるJR中央線の駅では最西端にあたる1位・高尾駅の近隣に位置する駅は、家賃相場がおおむね5万円台~6万円台に収まっている。しかし3位・日野駅(家賃相場5万8000円)と5位・国立駅(同6万円)の間に位置する立川駅は家賃相場が7万8000円と突出して高く、15位にランクインした。高尾駅から5駅目にある、立川駅の周辺はどんな街並みだろうか。
立川駅(写真/PIXTA)
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立川市に位置する立川駅は中央線のほかに青梅線や南武線、さらに山梨県や長野駅に向かう特急列車や、成田空港直結の成田エクスプレスといったJR各線が乗り入れているうえ、駅舎をはさむように多摩モノレールの立川北駅と立川南駅もある。JR中央線の駅では新宿駅、東京駅に次いで乗車人数が多い(2022年度)、東京多摩地域で屈指のターミナル駅だ。新宿駅まではJR中央線の快速で40分ほど、通勤快速で35分ほど。改札の内外に店舗がある「エキュート立川」をはじめ、「グランデュオ立川」や「ルミネ立川」、伊勢丹や高島屋など、ペデストリアンデッキで結ばれた駅の北側にも南側にも大型商業施設が立ち並んでいる。駅の北西方面には広大な「国営昭和記念公園」が広がり、自然に親しみやすい環境という点も魅力だろう。
国営昭和記念公園(写真/PIXTA)
さて、JR中央線は八王子市の高尾駅から東京方面に向かうと、日野市、立川市……と東京市部を走った後に杉並区、中野区……と東京23区に入って千代田区の東京駅にたどり着く。23区内にあるのは全32駅中18駅で、そのうち最も家賃相場が安かったのは12位・西荻窪駅の7万5000円だ。杉並区に位置しており、23区内では最も高尾駅寄りの駅でもある。とはいえ快速に乗れば新宿駅まで15分ほどの近さ。西荻窪駅から4駅目の中野駅から先で進路を変える、東京メトロ東西線快速に直通の列車も停車するため高田馬場駅や飯田橋駅、大手町駅、さらには浦安駅や西船橋駅など千葉県内にも1本で行くことができる。
西荻窪駅の改札前には紀ノ国屋系列のスーパー、その先の高架下には「西荻マイロード商店街」が続いており、駅周辺にも複数のコンビニやスーパーがあって飲食店も充実。個性的な書店・古書店やアンティークショップが豊富だったり、クラフトビール醸造所併設の飲み屋があったり、気になる個人商店が点在しているのも魅力。好みの店を探して、ぶらりと散歩をするのが楽しい街だ。
西荻窪の飲み屋街(写真/PIXTA)
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ここまでは家賃相場の安さに注目して駅をピックアップしてきたが、最後に最も家賃相場が高い駅も見てみよう。それは東京駅でも新宿駅でもなく、千駄ケ谷駅。家賃相場は12万6000円で、1位・西八王子駅より7万3000円も高い結果となった。駅自体は渋谷区に位置しているが新宿区との区境に近いロケーション。駅北側には「新宿御苑」が広がり、南側には「東京体育館」や「国立競技場」と「明治神宮外苑」が広大な面積を占めている。さらに「東京体育館」の隣接地には津田塾大学、駅東側には慶應義塾大学のキャンパスもあり、そうした大型施設の合間に住宅が広がるような街並みだ。
コンビニはあちこちに点在しており、千駄ケ谷駅から徒歩10分ほどの東京メトロ副都心線・北参道駅近くに行くと安さが自慢のスーパーも。千駄ケ谷駅の近くには都営大江戸線・国立競技場駅があったり、代々木駅や新宿駅の周辺にも徒歩15分~20分で行けたりと、便利な環境であることは確か。今回判明した家賃相場と駅周辺の環境を考えあわせつつ、自分好みの住まい探しに取り組んでほしい。
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●駅順のランキング
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている中央線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/4~2023/9
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンションのうち普通借家契約の物件のみ)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している