
25万円 / 55.35平米
中央線「千駄ヶ谷」駅 徒歩5分
コンクリート打ちっぱなしの壁と天井に、床は少し年季の入ったフローリング。玄関まわりの黒がグッと空間を引き締めていて。重厚感のある隠れ家的な雰囲気にビビッときませんか。
コンクリートブロックで造作されたスペースは、ベッドを置いて寝室使いやワークスペースになりそうなパーソナルな空間 ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
手づくりの食事を朝100円、昼・夕500円のワンコインで毎日提供する、賃貸物件の入居者のために不動産会社が運営する食堂「トーコーキッチン」。2015年のオープン以降、「街の一角に自分たち専用の食堂がある」という安心感を味わえる魅力的な仕組みによって、賃貸物件への入居希望者が増えるとともに、多くの注目を集め続けています。食堂「トーコーキッチン」のある淵野辺(神奈川県相模原市)を訪れ、8年間の変化について聞きました。
「きっかけは、ご家族から聞こえてきた食事への心配の声でした」「トーコーキッチン」は、神奈川県相模原市の不動産会社・東郊住宅社が運営する入居者のための食堂。JR横浜線・淵野辺駅から徒歩2分ほどの商店街に立地しています。東郊住宅社は40年以上にわたりJR横浜線・淵野辺駅周辺にあるアパート、マンションなど賃貸物件を管理している、地域密着型のいわゆる「街の不動産屋さん」。
淵野辺には、3つの大学(青山学院大学、麻布大学、桜美林大学)が点在しており、東郊住宅社の管理する物件では1人暮らし用のワンルームが6、7割を占め、そのうちの8割ほどに学生が入居しています。
淵野辺駅から徒歩2分。トーコーキッチンはこんな商店街の一角にあります(写真撮影/片山貴博)
ガラス張りで、通りから店内が見えます(写真撮影/片山貴博)
トーコーキッチン店内。午後のティータイム。大学は春休みに入り、普段、大勢来店する学生さんたちは数人見かけるだけでした(写真撮影/片山貴博)
そうした学生を始めとする入居者のために、トーコーキッチンでは朝8時から夜8時まで毎日、朝食を100円、昼食・夕食を500円という格安価格で提供しています。朝・昼・夕食はそれぞれ栄養バランスを考えてつくられた日替わり&週替わり定食、カレーライス500円やキッズプレート300円、コーヒー・紅茶・ルイボスティー100円、サイドメニュー50円といったメニューがそろいます。
一番人気は「ハヤシ社長」500円。池田さん考案のハヤシライスです(写真撮影/片山貴博)
「カレー会長」は東郊住宅社を創業した先代社長がこよなく愛したスープカレー。先代の奥様のレシピだそうです(写真撮影/片山貴博)
これが100円の朝食。しかも税込みです。「朝食はさすがに赤字です」と池田さん(写真撮影/片山貴博)
日替わり定食500円。この日はプルコギ定食でした。ご飯は白米と五穀米から選べます。特に豚汁が美味!(写真撮影/片山貴博)
注文票を自分で記入してカウンターに渡すシステム(写真撮影/片山貴博)
食堂を利用できるのは、東郊住宅社が管理している賃貸物件の入居者およそ3000人、物件オーナー約200人、関係協力者、同社社員など。借りている自分の部屋のカードキーで食堂に入るシステムで、鍵の保有者と同行すれば家族や友人も一緒に入店できます。部屋探し中の人も食堂の利用体験ができるほか、近隣に暮らす人も興味があれば1度は利用することが可能だそうです。
「ここを立ち上げたきっかけは、新たに一人暮らしを始める学生さんのご家族から聞こえてきた、食事に対する心配の声でした」と当時を振り返る東郊住宅社社長の池田峰さん。「初めての一人暮らし。偏らずにしっかり栄養をとれる食生活が送れるのか」という親心に対し、そうした心配や不安を入居者サービスの一つとして解決できないかと考え始めたことが第一歩だったそうです。
トーコーキッチンをつくるに至った経緯や思い、その後の影響、食堂での日常風景については、当サイトの記事(「入居者のための食堂」が魅力的すぎ!朝食100円、昼食・夕食が500円で食べられるワケ(2017年1月25日掲載))に詳しいので、ぜひご参照を。
トーコーキッチンの魅力的な仕組みに、「自分の家の近くにもこうした入居者向け食堂があればいいのに」「こんな不動産屋さんがあるなんて、淵野辺ってすてきな街だな」などと、記事の反響も大きかったことを覚えています。
「おかげさまで入居率99%超に」。8カ月も前に入居予約が入るほど!トーコーキッチンは、入居希望者や物件オーナー、賃貸不動産業界にとどまらず、マスコミや世の中からも数多くの注目を集めました。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、WEBマガジンなど100を超えるメディアで紹介されたことがあり、目にした人も多いのではないでしょうか。
立ち上げから丸8年が経ち、この間にどんな反響や変化が起こったのか、池田さんに聞きました。
東郊住宅社社長・池田峰さん。東郊住宅社のオフィスから徒歩約10分のトーコーキッチンには1日数回訪れて、入居者との交流を図っています(写真撮影/片山貴博)
「トーコーキッチンの存在が物件選びの1つの動機となって、入居希望者が増え、おかげさまで今では入居率が99%を超えるまでになりました」と池田さん。
2018年時点の神奈川県の空室率が20.1%(※1)=入居率79.9%という数字から考えると、驚異的な高さです。
※1:公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会「民間賃貸住宅(共同住宅)戸数及び空き戸数並びに空き室率の推計」(2018年算出)より
トーコーキッチン以前から、同社管理物件の入居率は95~96%と他に比べて高かったそうですが、今や100%近い割合に。トーコーキッチンのない2015年以前にも高い入居率を保っていたのは、先代が社長時代に導入した「敷金0」「礼金0」「退去時の修繕義務なし(入居者の過失での修繕を除く)」「水漏れや鍵の紛失などの緊急事態に24時間対応」という、先進的な契約条件があったため。そこに食の提供という入居者サービスが加わったことで、「トーコーキッチンがあるから淵野辺に住みたい」「1人暮らしをする子どものために食事環境が安心な東郊住宅社の物件を選びたい」という人が増えたといいます。
「部屋が空いたらすぐに入居希望が入るというありがたい状況です。空く予定がなくても『空いたら入居したい』という方がたくさんいらっしゃいます。昨年はとうとう、引越しシーズンの8カ月も前の6月に、『大学入学で1人暮らしをするので、今から入居の予約はできますか』という問い合わせまで入ることに。新記録ですね。その時点で進学する大学が決まっていない状況だと思うのですが、実際には、淵野辺から片道1時間以上をかけて通学する学生さんもいらっしゃいます」(池田さん)
「学生の入居者さんに関していうと、以前は淵野辺にある3校が近いことから、その学生さんたちがほぼ10割を占めていました。しかし、トーコーキッチン開設以後は、他エリアの大学の学生さんも入居されるようになり、今では2割ほどを占めるまでになりました」と池田さん。
淵野辺駅は新宿や渋谷など都心へ行くには乗り換えが必要で、停車する電車は各駅停車のみ。決して交通アクセスが便利とはいえない街。「乗り換え必須なのにその2割の学生さんたちが、淵野辺に暮らすことを選んでくれたのは、トーコーキッチンがもたらす食の安心感を評価していただいているからなのでしょう」(池田さん)
淵野辺駅北口から見た駅前商店街の様子(写真撮影/片山貴博)
桜美林大学のキャンパスは淵野辺駅に隣接(写真撮影/片山貴博)
「社会人の方もご高齢の方も、安心な淵野辺暮らしを選んでくれています」学生以外の入居者も増えたそうです。
「リモートワークが一般化したことで、別の地域から淵野辺に拠点を移した社会人の方がとても増えました。オンラインでのつながりはあるけれど、やはりリアルなコミュニケーションの場があるのは良いということのようです。
また、ご高齢の親御さんを、淵野辺近辺に暮らす子世帯が自宅近くに呼び寄せて、という方々も増えました。たまに顔を合わせられるくらいの近居なら安心。さらに日々の食事はトーコーキッチンがあるからますます安心、というわけです」(池田さん)
入居希望の大きな動機と考えられるトーコーキッチンですが、すべての入居者が食堂を頻繁に利用するわけではなく、常連さんは3割くらいだそう。常連さんにとっても時々利用する人にとっても、「お茶1杯だけでもずっといていいですよ」という姿勢があることで、入居者にとってのサードプレイス(自宅でも職場でもない、居心地の良い第3の場所)的な場所として活用されています。
また、池田さんは1日数回顔を出して、「味はどう?」「部屋で困ったことはない?」と入居者と交流しています。「日本一『味はどう?』って聞いている不動産屋」と自負する池田さん。そうした日々のコミュニケーションも淵野辺で暮らす安心感につながっているのだと思います。
ランチ中の学生さんに気さくに話しかける池田さん(写真撮影/片山貴博)
笑顔がすてきな食堂スタッフのみなさん(写真撮影/片山貴博)
「賃貸物件はすべて自社管理。だからこそ入居者さんに喜んでいただける」東郊住宅社は賃貸借契約の仲介に加え、取り扱うすべての物件管理及び入居者管理(家賃の入金管理をはじめ、共用部の清掃や不具合の修繕、植栽の手入れなど)を行っています。仲介だけお願いしたいというオーナーの要望には対応していません。「不動産は管理が重要だと考えています。専任で管理をさせていただくからこそ、入居者さんに喜んでいただける仕事がまっとうできると思っています」と池田さん。
以前は1600室ほどだった物件数が、この8年間で1900室に迫るまでになりました。
「当社の管理手数料は物件によって家賃の5~8%と、他の不動産管理会社に比べると安くはない費用をオーナーさんからいただいています。にもかかわらず、『自分の所有物件もトーコーキッチンが使える物件にしたい』と、今までお取引のなかった近隣の物件オーナーさんから興味や共感を持っていただき、管理のご依頼が増えました。さらに、『トーコーキッチンが使える賃貸物件を所有したい』という物件購入の相談も年々増え、現在30人以上のオーナー希望者さんがいらっしゃいます」
こうした動きは、食の提供サービスの存在によって安定した入居率の維持が保てるという、高い付加価値が得られることも含め、物件オーナーが東郊住宅社の物件管理に対する姿勢に大きな信頼を寄せていることをうかがわせます。
「ただ、対象となるのは当社から車で30分圏内の物件です。小さな不動産会社にとって、何かあれば夜中でも駆けつけられる距離の上限だからです。そのため、ご要望があっても場所によってはお断りせざるをえないこともあります」(池田さん)
入居者に寄り添う姿勢は緊急時だけではありません。
2020年には、入居者の困りごとを解決する家事代行サービス「ゴーヨーキーキー」もスタート。5分100円からという利益度外視の安心サービスです。こちらも当サイトの記事(不動産屋さんが家事代行!? 電球交換、虫駆除などのお悩みに5分100円で)に詳しいので、ご覧ください。
日常的に物件状態を把握し、入居者との交流を保ち、食事や家事のサポートの提供によって暮らしの安心を生み出していく。淵野辺で賃貸ライフを送る人にとって、東郊住宅社そのものが街の頼もしい存在となっている状況がわかります。
「入居者用食堂を導入した不動産会社も新たに登場!」池田さんは以前の取材で「このビジネスモデルの特許取得を勧めてくださる方もいますが、アイデアで儲けるつもりはありません。皆さんの賃貸ライフを楽しくできたらうれしいので、逆に、どんどんまねして導入してくれる不動産屋があればいいと思いますね」と語っていましたが、その後、トーコーキッチンのような入居者向け食堂を立ち上げた企業は登場したのでしょうか。
「私の知る限りでは1社あります。その不動産会社から、同じシステムを取り入れたいと相談を受け、ノウハウをお伝えしたり食堂研修を受け入れたりとご協力させていただきました。現在、既に入居者専用食堂を運営されています」(池田さん)。
「どんどんまねしてもらえれば」という池田さんの言葉とは裏腹に、わかっている限りで同じサービスを導入した企業は1社だけということに意外な気がしました。他にも「実はわが社も」という会社もあるのかもしれませんが……。
しかし、逆に考えると、ここまで入居者・オーナー双方に喜ばれるサービスを追求し継続するというのは、実はとてもハードルが高いこと。誰もが真似できることではないとも感じます。利益度外視の入居者サービスとしての食堂運営、取り扱い物件はすべて自社で管理するなど、入居者が暮らしやすい環境をつくり出していく徹底した企業姿勢を持つからこそ、こうした全方位的に喜ばれるサービスが維持できているのでしょう。
「トーコーキッチンへようこそ!」トーコーキッチンへの思いを綴った著書『トーコーキッチンへようこそ!』(虹有社)を昨年2023年10月に上梓した池田さん。「ご縁があってこうして1冊にまとめることができました。著書を手にしてくださることで淵野辺に興味を持っていただく機会もさらに増えました」(池田さん)
「お部屋探し帰りのお客様が手に取ってくださり、有隣堂淵野辺店のビジネス書ランキングで週間1位になったことも!」(写真撮影/片山貴博)
「以前、部屋探しに来られた大学進学予定のお客様から、『実は高校の進路の先生から、暮らすなら東郊住宅社のある淵野辺がいいと勧められて、今日ここに来ました』とお聞きして驚いたこともありました。遠く離れた地の方々にも広く認知されつつあることが、ものすごくありがたいです」(池田さん)
入居者の増加とともに利用者も増え、トーコーキッチンの売り上げも上がっているそうですが、売り上げが上がればその分の利益は良い食材を購入することに還元させているそう。「前年同月比で110%の売り上げアップを目標にしています。新型コロナが5類に移行した月は130%アップ、昨年著書を上梓した後は140%アップとなった月も。ありがたいことに徐々にお客様は増えています」
利益を追求しない入居者サービスの食堂が、それまで関心のなかった淵野辺に人を呼び寄せ、食堂利用者が増えることで食材やメニューが充実するという好循環。全方位に喜ばれるトーコーキッチンそのものが、ある意味広告としての機能を持ち、「住みたい街ランキング」に一度も登場したことのない街に人を引きつけているのです。
「トーコーキッチンを立ち上げてからずっと、毎日の仕事が楽しくて楽しくて。それに、入居者さんや離れて暮らすご家族、物件オーナーさん、そうした皆さんにこんなにも喜んでいただけるということは、トーコーキッチンをやっていなければわからないままだったでしょうね」と、ニコニコの笑顔で語る池田さん。
住む人の安心や喜びを常に考えている不動産屋さんの存在は、淵野辺という街を輝かせているのではないかと感じました。
8年でだいぶ年季が入りました(写真撮影/片山貴博)
小さなお客様からの「ごちそうさまでした」「おいしかったよ」のかわいいメッセージが(写真撮影/片山貴博)
●取材協力
東郊住宅社「トーコーキッチン」
『トーコーキッチンへようこそ!』(虹有社)
春分の日も過ぎ、春が近づいてきた今日このごろ。SUUMOジャーナルで2月に公開した記事では、「『住みたい街ランキング』2024、東京勢弱体!? 1位、2位は東京外、吉祥寺はまさかの3位に退く」「『下関って何にもない、ダサい』我が子のひと言に奮起。空き家再生で駅前ににぎわいを 山口県・上原不動産」などが人気TOP10に入りました。さっそく、どんな記事なのかご紹介していきましょう。
2月の人気記事ランキングTOP10はこちら!第1位:「住みたい街ランキング」2024、東京勢弱体!? 1位、2位は東京外、吉祥寺はまさかの3位に退く
第2位:「下関って何にもない、ダサい」我が子のひと言に奮起。空き家再生で駅前ににぎわいを 山口県・上原不動産
第3位:最高水準の省エネ住宅をDIY! 光熱費4分の1以下、ZEH水準超えの断熱等級6の住みごこちを聞いてみた
第4位:台湾のまちづくりから日本は何を学べるか。都市計画のキーワードは「夜市」「流動」? 三文字昌也さんインタビュー
第5位:人口減エリアの図書館なのに県外からのファンも。既成概念くつがえす「小さな街のような空間」の工夫がすごすぎた! 静岡県牧之原市
第6位:【早稲田大学】一人暮らし賃貸の家賃相場ランキング2024年! 早稲田キャンパス周辺のクチコミ&オススメ情報
第7位:築40年超も2000万円リノベで耐震等級3相当・断熱等級6以上と国内最高レベルにできた! 実家も新築並に性能向上
第8位:あの選手村跡地のHARUMI FLAGにシェアハウス登場!共用施設の充実ぶりに驚き!?見学会へ潜入
第9位:2023年の一戸建て市場を総括。新築の一戸建ての価格は上昇するも面積は縮小気味?
第10位:2023年のマンション市場を総括。新築・中古マンションの価格推移と供給戸数を徹底解説!
※対象記事とランキング集計:2024年2月1~29日に公開された記事のうち、PV数の多い順
第1位:「住みたい街ランキング」2024、東京勢弱体!? 1位、2位は東京外、吉祥寺はまさかの3位に退く
(写真/PIXTA)
リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表しました。ランキング上位は常連が顔をそろえるなか、なんと今回、1位と2位には東京都以外の街がランクイン! さらに、例年人気の街、吉祥寺が3位に。ランキングがアップした街を中心に、その背景を探ってみました。
第2位:「下関って何にもない、ダサい」我が子のひと言に奮起。空き家再生で駅前ににぎわいを 山口県・上原不動産
(画像提供/ARCH)
山口県下関市にある上原不動産は、下関市で賃貸住宅の仲介・管理業務などを主に行っている不動産会社です。住宅を確保することが難しい人たちへの支援を、会社設立当初から行ってきた上原不動産。代表の長女であり、上原不動産の常務取締役である橋本千嘉子さんは、空き家再生事業「ARCH」を立ち上げ、街づくりや再生にも力を入れています。きっかけになったのは、5児の母でもある橋本さんが、中学2年生の子どもから言われた「下関って何にもない、ダサい」という言葉。それをきっかけに奮起した橋本さんの「下関の街の再生」にかける想いや、活動について、話を聞きました。
第3位:最高水準の省エネ住宅をDIY! 光熱費4分の1以下、ZEH水準超えの断熱等級6の住みごこちを聞いてみた
(写真撮影/桑田瑞穂)
住まいの省エネ性能に関心が高まる昨今、ハーフビルドで高い省エネ性能のハイスペックな家づくりにチャレンジした夫妻がいます。神奈川県の山間で2人のお子さんと共に暮らしている森川さん夫妻。住まいは平屋建て、間取りは大きな1LDK、建物面積は約60平米、上部にロフトが30平米です。完成した省エネ住宅の等級はなんと6で、これは等級7と合わせて2022年に新たに設定された最高水準クラス。ではその住み心地とは? 得られたものと、その幸せな暮らしぶりをご紹介します。
第4位:台湾のまちづくりから日本は何を学べるか。都市計画のキーワードは「夜市」「流動」? 三文字昌也さんインタビュー
(画像提供/三文字昌也さん)
台湾は、日本からも飛行機で近く、人気の旅行先です。台湾は、中国大陸ルーツの漢人による統治のほか、1895年から1945年までの50年間にわたって日本が統治するなど、複雑な歴史を有し、街には、それぞれの時代の名残があります。東京大学大学院で、台湾の都市計画を研究している都市デザイナーの三文字昌也(さんもんじ・まさや)さんは19歳で初めて台湾を訪れ、清朝以前の古い建物や路地がある街並みに日本統治時代につくられた近代的な道路があるなど、都市の中に各時代の痕跡が重なり合って残されていることに、興味を惹かれたといいます。1年間の台湾留学を経て、台湾の都市計画やまちづくりの研究に携わることになった三文字さん。台湾の街のどういうところに面白さを感じているのでしょうか。
第5位:人口減エリアの図書館なのに県外からのファンも。既成概念くつがえす「小さな街のような空間」の工夫がすごすぎた! 静岡県牧之原市
(写真撮影/片山貴博)
“最寄駅がない”静岡県牧之原市にある図書交流館「いこっと」。人口減に悩まされるこの街の小さな図書館が、複合施設内にテナントとして移転し、拡大オープンしたのは2021年のこと。2年後には累計来館者数が25万人を突破し、市内はもとより、市外や県外などの遠方から足を延ばす人がいるほどの人気になりました。「いこっと」を手掛けた牧之原市役所 企画政策部の本間 直樹さんは「このエリアにはナショナルチェーン店(全国展開のチェーン店)がないんです。ゆえにコンパクトで独自の商習慣と住空間になっています。そのため新たな居住者や人口の流入を見込みたかったのです。市内を活性化するために、きっかけが必要でした」と話します。人口減少エリアの図書館がなぜこれほどにぎわいを創出し、街の中心地に変化をもたらしたのか探りました。
第6位:【早稲田大学】一人暮らし賃貸の家賃相場ランキング2024年! 早稲田キャンパス周辺のクチコミ&オススメ情報
(写真/PIXTA)
大学に進学し、初めての一人暮らしをスタートさせる人も多いこの時期。早稲田大学・早稲田キャンパス(東京都新宿区)の周辺駅にアクセスしやすく、家賃相場が安い駅を調査しました。今回は高田馬場駅をはじめ、早稲田駅、西早稲田駅のいずれかの駅から20分圏内にある駅を調査対象とし、それぞれの駅から徒歩15分圏内にある学生向け賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が安い駅を順位付け。さらに不動産会社「ハウスメイトショップ新宿店」の佐久真正樹さんから、早稲田キャンパスに通う学生が住む街としておすすめの駅を教えてもらうことに。どんな駅がラインナップされたのか、紹介しています。
第7位:築40年超も2000万円リノベで耐震等級3相当・断熱等級6以上と国内最高レベルにできた! 実家も新築並に性能向上
(写真提供/YKK AP)
リノベーションブームを受けて、実家を、あるいは中古一戸建てを購入してリフォームすることを視野に入れている人も多いのではないでしょうか。しかし、気をつけてほしいことがあります。それは住宅の性能向上です。特に中古一戸建てのリフォーム/リノベーションで注意したいのが、「耐震」と「断熱」性能の向上。特に1981年5月以前に建てられた旧耐震基準時代の一戸建てについては、自治体が補助金制度を設けてまで耐震診断を促すほど、耐震性能に不安があるそうです。その名も「性能向上リノベの会」を立ち上げた、YKK AP 住宅本部 リノベーション事業部の西宮貴央さんにお話を伺いながら、詳細な理由や対策について紐解いてみました。
第8位:あの選手村跡地のHARUMI FLAGにシェアハウス登場!共用施設の充実ぶりに驚き!?見学会へ潜入
(提供/リビタ)
選手村跡地のビッグプロジェクトとして話題の「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」。先行して分譲マンションの販売が行われましたが、賃貸住宅街区にある賃貸住宅の募集も始まりました。なんと通常の賃貸に加えて、シェアハウスもあるといいます。リビタのシェア型賃貸住宅で、共用施設が充実しているのが特徴。8階と9階に2層吹き抜けの共用施設が設けられ、この2層はそれぞれ階段で行き来でき、大きなキッチンのあるシェアラウンジが2カ所とシアタールーム、海を臨むバルコニーに出ることもできるとか。他にも大浴場やフィットネスルームなど充実の設備も! いったいどんなシェアハウスなのか、プレス向け見学会に参加してみました。
第9位:2023年の一戸建て市場を総括。新築の一戸建ての価格は上昇するも面積は縮小気味?
(写真/PIXTA)
東京カンテイが公表した「マンション・一戸建て住宅データ白書 2023」から、三大都市圏の新築・中古一戸建て市場ついて紹介していきます。2023年、三大都市圏の新築・中古一戸建ての平均価格は総じて前年より上昇しました。新築マンションの価格高騰と共に中古マンションの価格も上昇していますが、一戸建ての市場はどうなっているのでしょうか。
第10位:2023年のマンション市場を総括。新築・中古マンションの価格推移と供給戸数を徹底解説!
(写真/PIXTA)
2024年に入り、2023年の住宅市場の動向が相次いで公表されました。2023年の新築マンション市場では、東京23区の平均価格が1億円を超えたというニュースも。やはり、マンション価格は上がり続けているのでしょうか。不動産経済研究所が公表した首都圏の新築マンションの平均価格は、前年(2022年)の6288万円より28.8%アップの8101万円。まだまだ大きく上昇している。と、本当に見てよいのでしょうか。実は、詳しく見ていくと、必ずしもそうではないのです。3年間の首都圏と近畿圏の平均価格の推移を紹介しながら、首都圏及び近畿圏の新築・中古マンションの価格動向について見ていきましょう。
2月の人気記事ランキングでは、2023年の新築や戸建ての市況を総括する記事や、住みたい街ランキングなど、市況全体の状況が伝わるような記事のランクインが目立ちました。4月からは新しい生活を迎える人も多いことでしょう。新生活にも役立つような住まいに関する記事を、これからも発信していきます。お楽しみに!
一見華やかな大都会、ニューヨークでの暮らし。しかし、生活にはお金がかかる!
生活を維持するために多くの移民が働く場所、それは飲食店。
単身やってきたニューヨークで飛び込んだ先は大衆酒場。愉快な同僚と寿司との出会い、そして別れ。
仕事って、生活って、幸せってなんだろう?そんなことを考えながら寿司を巻く日々のこと。
最近、生活用品の買い物は仕事場のあるGreenpointで済ませています。何せ安いし、Greenpointでしか買えないものがとても多いため。ポーランド系アメリカ人のコミュニティとして知られていて、特に最近ホットな街です。
東欧のお菓子には当たり外れも多いけれど、その分見たことがないようなものを試す楽しさがあります。そして、記事でも紹介したように一番おすすめなのは加工肉(ハムやソーセージ)です。カウンターに行って、係の人に肉塊をスライスしてもらう方法がポピュラーです。
アメリカで売っているパッケージの生ハムは高い上においしくもないのですが、Greenpointで買う肉屋の生ハムは感動するほどおいしいのでぜひ試してみてください!
買い方については、重量買いになるのですが、0.25lb(ポンド)で約二人分。二人分が欲しい場合、店員さんに”Can I have a quarter pound of 〇〇(ハムの名称) sliced please?”(キャナイ・ハブ・ア・クオーター・パウンド・オブ・〇〇・スライスド・プリーズ)と言えばOK。最初は戸惑うけど、慣れたらこれ以外のハムが食べられなくなりますよ!
ちなみに私が好きなのはPoledwica Lososiowa(ポレドヴィカ・ロゾシオワで合っている
のか?)で、これはスモークされた豚のハムという意味らしいです。言えるかよ!
みんなの弟ポジション、ホセは本当に可愛らしい21歳の男の子。粗野で口も悪いルイスと真逆のキャラクターかと思いきや、やっぱり親族なのもあってヤンチャな一面もあり、そこもまた可愛かったです。
アメリカのOmakaseは店員さんやお客さんとのコミュニケーションが楽しみで来る人も多いのですが、私はこのコミュニケーションが大の苦手!しかし、ホセはお客さんからも大人気で、ルイス曰く「ホセがシフトに入っている時の方がお客さんたちはチップをはずむ」ということでした。
アメリカのレストランではチップ制度があり、戸惑う人も多いですが、飲食店で働く人の給与は基本の時給にチップが上乗せされるため、これは労働者にとってはとても大切な制度なのです。レストランに行って素晴らしいサーバーに出会ったら、チップを多めに払うと喜ばれますよ!
作者:ヤマモトレミ
89年生まれ。福岡県出身。2017年、勤めていた会社の転勤でニューヨークに移住。仕事の傍ら、趣味でインスタグラムを中心に漫画を描いて発表していたところ、思った以上に楽しくなってしまい、2021年に脱サラし本格的に漫画家としての活動を開始。2022年にアメリカで起業し個人事業主になりました。アメリカで食っていくために寿司をやっていくことを決意し、週4ブルックリンで寿司をつくっています。
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近ごろ話題になることの多い空き家問題。福岡県大牟田市では、住宅系部門管轄の空き家を活用するために、福祉系部門の民生委員が調査を行いました。空き家の状態を調査し、住宅を必要とする人とのマッチング、他の支援団体と連携して包括的な生活の支援を目指しています。
他の自治体のお手本になりそうなこの取り組み、大牟田市都市整備部建築住宅課の今福信幸さん、西山妙佳さん、NPO法人大牟田ライフサポートセンターの牧嶋誠吾さん、三浦雅善さんにお話を聞きました。
大牟田市の空き家問題と住宅要確保配慮者の実情とは福岡県大牟田市は、かつては炭坑節でも知られる三池炭鉱が栄え、1960年代には20万人以上の人でにぎわう、日本の高度経済成長を象徴する街でした。しかし閉山と共に人口は減り、現在では多くの自治体と同様に、人口減少や高齢化などの問題を抱えています。
増え続ける空き家問題も深刻です。
大牟田市の今福さんによると、2019年に実施した調査では2912件の空き家が存在し、2016年からわずか3年で1138件も新たに空き家が増えているとのこと。現状のまま利用できる空き家が減少し、修繕が必要だったり利用が困難だったりする建物が増えていることがわかります。
大牟田市では、人口の減少とともに空き家の増加も問題になっている(資料提供/大牟田市)
一方、何らかの事情で住まい探しに困っている高齢者、障がい者、ひとり親世帯、外国人など「住宅確保要配慮者」と呼ばれる人たちも増え続けています。
これらの問題を解決しようと、大牟田市では、2012年から行動を起こし始めました。同年、住まい探しが困難な人たちの入居や生活をサポートする団体としてNPO法人大牟田ライフサポートセンターが誕生。翌2013年には、不動産関係団体や医療・福祉関係団体らと情報を共有し、円滑に居住支援を行うための場として「大牟田市居住支援協議会」が立ち上がりました。現在、協議会の事務局は大牟田市の建築住宅課と大牟田ライフサポートセンターが共同で担っています。
大牟田市では全国の取り組みと比べてもかなり早い時期から見守りや、空き家を居住支援に利活用するためのワークショップを行い、関係者間で問題を共有することが居住支援協議会立ち上げの素地となっていった(資料提供/大牟田ライフサポートセンター)
空き家の実態を調査するために、民生委員と学生が活躍!現在は大牟田ライフサポートセンターの事務局長であり、当時は大牟田市の職員だった牧嶋さんは、増え続ける空き家を住まいの問題を抱える人たちの受け入れ先として利活用できないか、と考えました。そのためには、まず空き家が「市内のどこに、どれくらいあるのか」の把握と「空き家の老朽状態の確認」をする必要がありますが、市の財政は厳しく、予算もなければ人も足りません。
大牟田ライフサポートの牧嶋さん(右)。かつては大牟田市職員として、住宅部局と福祉部局両方の仕事を経験したため、双方の仕事や考え方も理解した上で「居住支援とは暮らしの基盤を整えることで、決して箱だけを提供するものではない」と話す(写真撮影/りんかく)
そこで牧嶋さんたちは300人の民生委員(※)に協力を求めることを思いつきました。ところが、当初は相談しても「厚生労働大臣から委嘱され活動している民生委員は、自治体職員の下請けではない」「なぜ私たちがやらなくてはならないのか」と反対意見も多かったのだとか。
「日ごろから築いてきた人間関係を武器に『空き家利活用は地域の問題でもある』ということを何度も説明し、最終的には24校区の内、23校区に協力してもらうことができました。地域で支える認知症の取り組みなど、長期にわたる行政と民間(民生委員)の協働という土壌があったからできたのだと思います」(牧嶋さん)
※民生委員/厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員で、地域住民の立場から生活や福祉全般に関する相談・援助活動を行う。地域社会のつながりが薄くなっている現在、子育てや介護の悩みを抱える人や、障害のある方・高齢者などが孤立し、必要な支援を受けられないケースがある中、身近な相談相手となって、支援を必要とする住民と行政や専門機関をつなぐパイプ役を務めている
民生委員たちは地域に精通しているので、地図を見ただけでどこに空き家があるかを把握していることも多い。この空き家調査でデータだけではわからなかった、市内の空き家の位置や数が明らかに(画像提供/大牟田市)
さらには、市内の高等専門学校の建築学科の先生に相談し、学生たちに空き家の老朽度調査を実施してもらえないかを相談。結果、かかった費用は民生委員に渡した蛍光ペン代と学生たちのアルバイト代を合わせて、約90万円でした。
空き家と、住まいに困っている人たちをつなぐ仕組みこの調査で得られた情報をもとに、牧嶋さんたちは本格的な空き家を利活用した居住支援に踏み出します。
2014年には、住宅確保要配慮者向けWEB情報システム「住みよかネット」を立ち上げました。入居を希望する人と空き家のオーナーをマッチングするだけではなく、入居してからの暮らしも見据えた「居住支援」の相談窓口へとつなげるものです。
「住みよかネット」では、空き家の所有者などから許可を得た物件情報を掲載。借りたい人や購入したい人が物件を探せるだけでなく、問い合わせることで居住支援の窓口につながる(画像提供/大牟田市居住支援協議会)
大牟田市の居住支援では、住宅の確保から入居支援まで、大牟田市居住支援協議会が窓口となりつつ、入居後の生活支援に関しては居住支援法人であるNPO法人大牟田ライフサポートセンターなどの支援団体が主となって支援していく体制をとっています。ここまでが住宅施策、と区切ってしまうのではなく、互いに連携をとり、必要なところを補い合いながら業務を分担しているところが特徴的でしょう。
「私たち大牟田市居住支援協議会は、空き家所有者と入居希望者を結びつける『仲人』です。オーナーに行政や福祉の窓口に相談にきた相談者の人となりを紹介しながら、現場でお見合いをしてもらいます。この、第三者が間に入るトライアングルの関係と運用の仕組みづくりが重要なんです」(牧嶋さん)
入居後も支援団体が間に入ることで、オーナーが直接対峙するのを避け、入居者に起こっている問題解決のための相談に乗ることができるわけです。
住宅確保の相談から生活支援までの流れ。「居住支援とは、ただ家を紹介するのではなく、空き家物件の確保から、入居サポート、さらには入居後の生活の支援まで、住宅と福祉、両方の支援が必要」だと、牧嶋さんは言う(画像提供/大牟田市)
住宅の確保には、空き家を提供するオーナーさんを継続して募集しています。
空き家を貸し出すことができれば、オーナーさんはその収入を建物の維持管理に充てることが可能。空き家のまま放置して劣化が進み、倒壊の恐れや相続の際のトラブルの原因になったりするリスクも減らせるので、オーナーさんにとってもメリットです。
オーナーさんから相談が入ると、市役所の建築住宅課の職員と大牟田ライフサポートセンターのスタッフとが一緒に現地に空き家調査に赴きます。
「大牟田市に空き家の相談が寄せられる件数は年間約80件ほど。オーナーさんの希望を聞きながら利用が可能か、取り壊さないと危険なのか建物状況を調査し、使用可能な場合は利活用の道をオーナーさんと共に相談していきます。行政職員が一緒に同行することでオーナーさんも安心して活用を検討できます」(大牟田ライフサポートセンター 三浦さん)
「調査に伺うと、家財道具の処分などを希望されることもあります。市としては特定の会社を紹介することができませんが、NPO法人である大牟田ライフサポートセンターなら直に紹介できるので、オーナーさんも、市としても助かります」(大牟田市 西山さん)
大牟田市職員の西山さん(左)と大牟田ライフサポートセンターの三浦さん(右)(撮影/りんかく)
困っている人たちにとって「本当に必要な支援は何か」を見極める大牟田市では、居住支援を行う際、相談に来る人たちに必ずお願いしていることがあります。それは、居住支援協議会の事務局である大牟田市の職員と大牟田ライフサポートのスタッフ以外に、メインとなる支援者をつけること。最初の相談時点で支援者が誰もいない場合は、支援団体への紹介も行っているそうです。
また、大牟田市においては近年、ひとり親世帯、特に母子家庭の困窮者が目立つと言いますが、住まいに困っている人の事情はさまざま。単純に高齢者の問題、低所得者の問題、といったように分類して区切れるものではありません。
「住まい探しだけに困っているケースはごくわずかです。多くの場合、仕事やそれに伴う収入、医療・介護の必要性など、さまざまな問題が複雑に絡み合っているため、よくよく話を聞くと、その人に必要なのは住まいではなく、生活に紐づく複数の問題だったりします。
現場でメインとなる支援者とは別に、私たち大牟田ライフサポートでは、面談を通じた適切なアセスメント(その人自身や周りの人、環境に及ぼす影響を把握すること)によって、相談内容の本質はどこにあるのか、必要な支援は何かを見極めるのです」(牧嶋さん)
住まい探しの相談にくる人は、住まいだけでなく、さまざまな問題を抱えている場合が多い。相談者ごとに本当に必要な支援をしていくため、居住支援協議会以外にメインとなって支援をしていく団体をつけるようにしている(資料提供/大牟田ライフサポートセンター)
居住支援を継続していくためのポイントや課題は?大牟田市の住宅部局と福祉が連携をとって、居住支援を押し進める事ができるのは、以前から協働の土壌があったことが大きいでしょう。さまざまな分野の人が集まって福祉的視点からの空き家利活用などについて話し合うワークショップを開催するなど、コミュニケーションを重ねてきました。
「民生委員だったり、地域の住民だったり、民間の企業とも関わっていく必要があります。居住支援を広げたいと考えるときも、最初の一歩は現場で属人的な関わりをきっかけに動いていくことが大事です」(牧嶋さん)
そして、今後改善すべき点を聞いたところ、間髪を入れずに「運営費です!」との答えが返ってきました。
「基本的に、お金にゆとりのない人を支援の対象者にしています。既にある制度に則った支援には補助金がつきますが、NPO職員の人件費など、運営費を確保していくのも大変だということを基礎自治体にもっと知っていただきたい。居住支援は行政サービスの一環だという認識がもっと広まってほしいと思います」(牧嶋さん)
居住支援だけで事業を成り立たせるのは至難の業。継続的な支援のための運営費を確保していくことが大牟田市のみならず、居住支援の現場の課題といえそうです。
大牟田市都市整備部建築住宅課課長の今福さん。牧嶋さんと一緒に長年大牟田市の住宅施策、居住支援を推し進めている(撮影/りんかく)
空き家をセーフティネット住宅として活用していくことは、国としても目指しているところです。しかし、うまく推し進められている自治体はまだまだ多くはありません。そんな中で、大牟田市は非常にうまく、住宅と福祉が連携している例と言えます。
300人もの民生委員が空き家調査に動いたり、市の職員とNPO法人が常に一緒に活動を行う大牟田市の居住支援は、常日頃から良好な人間関係を築いてきたからこそ。大牟田市の協働の姿勢は、他の地域にも参考となるヒントがいろいろとあるのではないでしょうか。
●取材協力
・大牟田市居住支援協議会
・住みよかネット
・大牟田市
・大牟田ライフサポートセンター
日銀の金融政策が転換し、ついに“金利のある時代”がやってくる。リクルートの2023年調査を見ると、首都圏の新築マンション購入者の購入物件の平均価格は、これまでよりさらに上がっている。また、三菱UFJ信託銀行の調査を見ると、デベロッパーは1年後のマンション価格が上昇すると予想している。そこで、新築マンションの購入者の変化を中心に、今後のマンション市場について市場の現状と今後はどうなっていくか見ていきたい。
【今週の住活トピック】
「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」を発表/リクルート
リクルートの調査研究機関『SUUMOリサーチセンター』が、「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」の結果を発表した。首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の、2023年1月~12月の新築分譲マンション購入契約者4934件の結果をまとめたもの。
まず、3つの特徴的な購入者の傾向を見てみよう。
第1の特徴は、購入世帯のライフステージ。かつては、結婚して夫婦のみか子どもがいる世帯が購入者の中心だった。しかし、2023年の結果を見ると、「子どもあり世帯」は年々減少してわずか35.0%に。次いで、「夫婦のみ世帯」30.9%が続く。逆に大きく増加したのは「シングル世帯」の19.1%(男性シングル8.1%+女性シングル11.0%)だ。なお、シングル世帯の平均年齢は男性40.3歳、女性42.0歳と、夫婦のみ世帯(33.3歳)、子どもあり世帯(37.7歳)よりも高くなっている。
分譲するマンションの価格上昇を受けて、平均購入価格も年々上昇してきたが、2023年は6033万円となり、ついに6000万円台に乗った。「6000万円以上」が40.7%を占めることが要因だ。
購入価格が高くなれば、住宅ローンの借入額も増えることになる。第2の特徴は、「借入額」の高さだ。ローンの平均借入額は5235万円だった。借入額「5000万円以上」が52.4%と、ついに過半数にまで達した影響は大きい。
ローン借入総額(ローン借入総額の回答があり、かつ金額が0円でない者/実数回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)
一方、自己資金の比率は下がった。自己資金比率が第3の特徴だ。自己資金比率の平均は21.7%だが、自己資金比率が5%未満を見ると、41.7%(「0%」17.7%+「5%未満」24.0%)もいるのだ。共働き世帯が増えて、2人で返済していくことで借入額を増やし、自己資金が少ない状況でも購入に動いていることが見て取れる。ちなみに、全額キャッシュも、わずかながら増え続けている。富裕層が購入しているからだろう。
自己資金比率(実数回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)
マンション購入では資産性を意識、低金利による促進効果は低い次に、購入者の意識の変化を見ていこう。それは「住まいの購入理由」によく表れている。
住まいの購入を思い立った理由は、「子どもや家族のため、家を持ちたいと思ったから」が最も高く36.1%。この理由は、1位が定位置の常に強い理由だ。2位は、「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから」(32.0%)。10年前の2013年調査では17.4%だったので、近年は購入する際に「資産性」を意識していることがうかがえる。
これに対して、「金利が低く買い時だと思ったから」は12.4%。日銀がマイナス金利政策を導入した2016年には、34.5%で2位に位置していたことと比べると、かなり減っている。金利上昇圧力が強まって、2023年に長期固定金利の【フラット35】の金利が、じわじわ上がっていたことも影響しているだろう。
購入理由(3つまでの限定回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)
マンションデベロッパーの予測、価格は上昇、金利が上がったら供給戸数は減少さて、三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部では、デベロッパーに対して半期ごとに首都圏のマンション・戸建住宅の市況について調査している。2024年1月に調査をした「2023年度下期デベロッパー調査」の結果が公表された。
マンションデベロッパーは、1年後の販売価格は現在より上昇すると予測している。特に、販売価格が高いほど上昇率も高くなると見ている。ただし、戸建住宅のデベロッパーは、1年後「1億円以上」の価格帯のほかは価格が下がると予想している。新築のマンションと戸建住宅では、今後の価格予想に違いがあるのだが、新築マンションの価格上昇は止まらないようだ。
出典:三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」
また、「住宅ローン金利が上昇した場合(+0.5%)の市況影響」を聞いたところ、供給戸数が減り、販売価格が下落すると予想している。ただし、供給戸数への影響の方が大きくなる回答だ。「供給戸数が減少する(10%以上)」(31%)、「供給戸数が減少する(10%未満)」(46%)と、実に77%のデベロッパーは金利が上昇すると供給戸数が減少すると見ているわけだ。
出典:三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」
金利が上がっていくと専有面積が小さくなる?では、もしローン金利が上がると、新築マンションの販売価格は下がるのだろうか? おそらく、ローン金利が0.5%も上がると購入者が借りられる額が減るので、販売価格を下げざるを得ないということだろう。
新築マンションの価格は、「土地」を買った費用と施工会社に払う「建築工事」の費用、デベロッパーが土地や建築工事の費用を金融機関から借りて支払う際の「利息」に、「宣伝や販売管理にかかる費用」が加算され、デベロッパーが自社の「利益」を上乗せして全戸の販売総額が決まる。
1年後に販売するマンションの場合、すでに土地を購入しており、施工会社を決めて建築工事の費用も決めて発注していることが多い。となると、ローン金利が上がったからといって、販売価格を変えることは簡単ではない。金利の上昇を見ながら、販売の長期化も視野に戦略を見直したり、住戸の内装や設備のグレードを下げたりといったレベルの対応しかできないだろう。
一方で、地価は上昇しているし、人件費高騰による建築工事費用の上昇も続く見込みだ。金利が上昇すれば、デベロッパーが負担する利息も増える。省エネ基準が今後ZEH水準に引き上げられることを踏まえた性能向上も必要なので、その分のコストアップもある。このようにマンションの原価は上がるので、販売価格を下げる余地はあまりない。となると、販売価格を下げるために「専有面積を小さく」して、平米単価は上がっても面積を小さくすることで各戸の販売価格を引き下げる、といった対応が増える可能性が高いだろう。
実際に、リクルートの新築マンション購入者の調査結果では、価格上昇局面で購入したマンションの面積が小さくなる傾向が見られる。2023年調査では、50~60平米の広さが前年よりも増えていた。
金利の上昇による住宅市場への影響は大きい。それでも、収入が増えれば、物価上昇や住宅価格上昇などの影響は少なくなる。つまり、これからの景気回復が本格的になるかどうかで、マンションの購入ニーズも変わり、その大きさに応じてマンションの販売価格も変わっていくのだろう。
●関連サイト
リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」
三菱UFJ信託銀行「23年度下期のデベロッパー調査」
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載15回目。今回は、アメリカのミズーリ州セントルイスにある高層集合住宅「公園脇の100mタワー(100m Above the Park)」(設計:スタジオ・ギャング)を紹介する。
アメリカ建築史を語るうえで欠かせない重要な都市、セントルイスにある名物集合住宅「公園脇の100mタワー」は、アメリカ合衆国の中央部にあるミズーリ州のセントルイスに立つ高さ116mの高層集合住宅タワーである。セントルイスという街は、アメリカ建築史における特筆すべき重要な都市なのだ。アメリカはかつて東部から西部に向けて開発が進行したが、その拠点の一つになったのが、セントルイスであったからだ。そのようなアメリカ開発史の軌跡を留めた都市が、セントルイスというわけなのである。
(C)Tom Harris
今日セントルイスを訪れると、以下の文章にも出てくる「ゲートウェイ・アーチ」という著名建築があり、それ故にこの町の名前を世界的に有名にさせているのだ。アメリカ建築界の巨匠であったエーロ・サーリネンが設計した名建築であり、高さ192mの美しい半円形アーチの建築は、内部をトロッコに乗って頂上まで登れるようになっている。頂上の窓から西部の大平原を一望に見晴らすことができるという、エポック・メイキングな建築である。
エネルギー負荷を減らす建物形態がユニーク「公園脇の100mタワー」は1階に店舗などの商業施設をはじめ、アメニティー施設、パーキングなどがある。上階の住戸群からは西側にフォレスト・パークを望み、東側には上述の有名な「ゲートウェイ・アーチ」を望むことができる。特にフォレスト・パークの樹木によりフレーミングされた建物は、この上なく優雅な佇まいを見せている。
(C)Tom Harris
「公園脇の100mタワー」は平面的には樹木の葉に似たユニークなプランをもち、立面的には段状に連なる形態は、全体的なエネルギー負荷を減らし、そのユニークな建物形態が近隣では話題となっている建築である。
建物は4階分をひとつのまとまった層とし、上部に向けて開くようなデザインとなっている。この層が積層化されて建物全体が構成されている。従ってファサードは、テラスを広く取るよう上広がりになるよう角度が付けられている。つまりテラスがあるのは4層の一番下の階にある住戸に限られているので、全住戸の4分の1だけということになる。また住民コミュニティー用の共有のアメニティー空間は、グリーン・ルーフ・スペースに設置されており、緑の庭園で住民同士の活動や語らいができるようデザインされている。
敷地のオリエンテーションや環境条件による種々のメリットを高めることで、樹木の葉のようなプランや、積層化された建物形態はその効果を最大にしている。逆に全体的なエネルギー負荷を減らすことで、住民の満足感を向上させている。
周辺の景観も建築を引き立てる要素に緑の森や雪景色といったダイナミックなシーンを生み出すフォレスト・パークは、変わりゆく日差しや天候をエンジョイする建物の素晴らしい背景になっている。このアパートメントは特にフォレスト・パークと有名なゲートウェイ・アーチへの眺望が素晴らしく、それがこの建築の魅力的な特徴になっている。個々の住戸はコーナー部分にリビングを配して、2方向への視界が可能になっている。パノラミックな景色に加えて、住戸内にはハイ・クオリティの太陽光をふんだんに導入している。1階には店舗スペースもあり、公園側へのワイドなストリートスケープが楽しめる。
(C)Sam Fentress
真冬の雪で周囲が白化粧をすると、建物は開口部以外の白い外壁が近隣環境に同化して“白のハーモニー”を奏で、住民たちはそのアンサンブルを楽しむことができる。やはり女性建築家のデザインによると、シックで華麗な外観の佇まいが、納得できる素晴らしさを秘めているようだ。
●関連サイト
100 Above the Park
「交差点をはさんでこちら側とむこう側」「道が一本違うだけ」——それなのに、土地の価格が大幅に変わる。こうした不思議な現象が、街のあちこちに見られます。
なぜそんなことが起きるのか? 街をもっとよく知る手がかりとして、今回注目するのが「路線価図」。本来は持ち歩くための地図ではありませんが、住まいと街の解説者として30年以上活動する中川寛子さんは、この地図を活用して土地の価格の理由を探る「街あるき」をしています。2023年には著書『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)を刊行しました。
(写真撮影/小林景太)
「長く住む家や投資対象を探している人、街づくりに関わる人など、何か目的があって街をながめる人たちのヒントになるはず」と中川さん。路線価図を片手に、一緒に街を歩いてみました。
「路線価図」で地価の差分に注目国税庁が毎年発行する路線価図。本来は、相続税や贈与税の算出時に参照されます。誰でもインターネット上で見ることができるデータです。
中目黒駅周辺の路線価図(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.
路線価図上では、道(路線)ごとに「1平方メートルあたりの価格」が設定されています。記されている数字は千円単位です。
たとえば、地図上の[A]に注目。「1600」と書かれた道に面する土地は、1600×1000円=1平方メートルあたり160万円。坪単価(3.3平方メートル)に変換すると、1坪あたり528万円です。
また、[B]のように、「2990」「1690」「980」「1400」と複数の路線価に囲われている土地は、物件の入口が面している道の価格を参照します。
注意点として、路線価図に記載されている数字は実際に売買される価格そのものではありません(※)。街あるきで路線価図を利用する際は、周辺の路線価を比べることでエリア傾向や道単位での差に注目するのが醍醐味となります。
※ 日本の土地価格の基準には「実勢価格」「公示地価」「基準地価」「固定資産税評価額」「相続税評価額」がある。路線価図は平成4年以降、公示地価の8割程度に評定されている。さらに、公示地価と実勢価格にも乖離がある。
実際に歩くのはなぜ?路線価図の主な用途は、税の算出。つまり、持ち歩いて使うことはまず想定されていません。地域により縮尺も異なります。
中川さんは、土地の価格に関する記事の執筆依頼をきっかけに「土地の価格をただ比べるだけではなく、その理由を考えるべく現地を歩いてみよう」と思いつきました。2005年ごろから、さまざまなエリアで街あるきを続けているそう。
これまでの活動を通して、地形や街の成り立ち、再開発の様子など、たくさんの要素が価格に反映されることを実感している中川さん。「街の現在は地形×歴史でわかる」と話します。
ただし、いずれにしても「路線価が高ければ良い土地/低かったら悪い土地、ということではない」のが大事なポイント。個人の生活スタイルや優先事項、街づくりなどの事業目的によって、土地や住宅の価値は変わってくるからです。
中目黒から渋谷まで歩いてみる中目黒駅(写真撮影/小林景太)
ということで、気持ちよく晴れた某日の午前10時、中目黒の駅前で中川さんと待ち合わせ、渋谷まで歩いてみます!
東急東横線と東京メトロ日比谷線が乗り入れる中目黒駅は、駅周辺の再開発に伴い人気が高まったエリアのひとつ。
路線価図に中川さんが散策コースを書き込んだもの。ピンク色の線が今日の道のり(画像提供/中川寛子さん)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.
指定された集合場所で、まずは路線価図をチェック。実はここが駅周辺で最も数値が高い場所。記された数字は「3710」……つまり1平方メートルあたり371万円。坪単価は1000万円以上に!
「平均的なトイレの面積は、だいたい0.5坪。たとえばの計算ですが、トイレ用の土地代だけで500万円くらいかかっちゃうってことですね」(中川さん)
価格と立地の関係は? 「一つのルールと二つの例外」路線価図(左)と、実際の道のり(右)(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.
ひとまず、中目黒の高台を歩くべく、渋谷とは逆方向へ。駅前の幹線道路から線路沿いの脇道へ入ります。この道は「1690」。駅前の「3710」から、一つ道を曲がっただけでいきなり数字ががくっと下がりました。
「ものを見るときは、『規則性』と『その規則性にのらないもの』に注目します。路線価図による土地と価格の関係は、大きく一つの基本的なルールと2つの例外があると考えているんです」と中川さん。
まず、基本ルールとなるのは「利便性」。
街の中心地(≒駅)から近いと土地の価格は高くなり、遠いと価格は低くなります。幹線道路沿いは価格が高く、路地に入ると低くなるのもこのルールに当てはまります。
しかし、「駅近なのに安い」「駅から遠いのに高い」というケースも。これには、次の2つの例外が関係すると中川さんは考えています。
「例外の一つ目は、住環境。環境がいいと価格は高くなります。閑静なエリアや、景観の良い土地は人気があるため高くなり、すると住宅も高級なものになっていきます。例外の二つ目は、安全性(防災)。地盤の固い土地、水害を避けやすい高台など、安全性が高いと価格は高くなっていきます」
道が一本違うと、何が違うのかそれでは、路線価を見ながら、実際の地形や土地の特徴を確かめていきましょう。
(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.
住宅地の路地で、交差点を境に路線価がそれぞれ異なる箇所を発見。地図上では同じ一本の道に見えますが、「650」と「710」の区画の差は60、つまり1平方メートルあたり6万円も価格が異なります。なぜでしょうか?
(写真撮影/小林景太)
実際に歩いてみると、理由が見えてきました。交差点から手前は道幅がせまく一方通行であるのに対し、交差点より奥は道幅が広くなっています。このように、道幅は土地の価格に大きく関わります。
面している道路の幅員によって建てられる建物の大きさは変わってきます。一般には道幅のある道路に面しているほど大きな建物が建てられるので、前面道路の道幅が広い土地ほど高くなるのです。
視界の先に渋谷の高層ビルが見える(写真撮影/小林景太)
高台の住宅地を通り、渋谷方面へ。この辺りは駅から離れているにも関わらず、路線価が全体的に高いエリアです。
台地で昔はさらに眺望も良く、防災と住環境の2点から路線価が高くなっているのだと予想できます。「土地の標高も、大きな要素になる」と中川さん。
地図上の3本の道と、②の道の実際の様子(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.
そんな台地の住宅地で、同じ方向に延びた3本の道。大通りに最も近いのは①の道ですが、最も路線価が低いのは②の道でした。「道幅に加え、行き止まりで何かあった時に避難に懸念があることが価格に影響していそうです」(中川さん)
(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.
幹線道路の山手通り沿いは「1760」など高い数値がならびますが、路地を1本入ると「700」に。坪単価で300万円以上も違います。
実際に歩くと、数字上の違いと自分の感覚にもギャップを感じます。「住む分には、むしろ一本入った路地のほうが落ち着いていて良いのでは?」「日当たりを重視するならどっちだろう?」など、具体的な想像が膨らみました。
(写真撮影/小林景太)
目黒川を渡り、渋谷方面へ。再び上り坂が続きます。
(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.
(写真撮影/小林景太)
標高約30メートル、中目黒方面にひらけた西郷山公園。この公園の近くにある3本の道はそれぞれ数メートルしか離れていないにも関わらず、路線価が異なりました。
土地の価格が高いエリアでは、下り坂や一方通行といった特徴が大きな価格差として表れます。仮にこの辺りの物件情報だけをピンポイントで見比べた場合、こうした背景までは気づけなかったかもしれません。
南平台、鉢山、鶯谷ー渋谷の地名をたどる渋谷の高層ビルに近づいてきた(写真撮影/小林景太)
南平台町から鉢山町、鶯谷町を通って渋谷駅に向かう(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.
「南平台、鉢山、鶯谷、桜丘など、地形が反映された地名が多いのが渋谷エリアの特徴。渋谷自体も『谷』ですね。そして、中心部ほど路線価の差も大きく表れます」(中川さん)
鶯谷町の路地、川の跡だとうかがえる(写真撮影/小林景太)
暗渠(あんきょ)や緑道といった、かつて水路だった道は低地で比較的価格が低いことが多いそう。
「緑道ひとつとっても、景観の良さ、将来も風景が変わらないことをプラスにとらえる人がいれば、防災面を心配する人もいる。低地の物件は日当たりを気にする人にはマイナス要因でも、日中出ずっぱりの人はお買い得と感じるかもしれません」(中川さん)
再開発と土地の価格(写真撮影/小林景太)
渋谷駅に到着。この辺りは谷状の地形をカバーするように高架の通行路を設けた開発が行われているのが見て取れます。ところで、再開発は路線価図にどのくらい影響を及ぼすのでしょうか?
「商業地はともかく、住宅地ではごく限られた周辺だけが値上がりし、それ以外には影響がほとんど及ばないケースもあります。いずれにしても、中心部以外では再開発直後に一気に路線価が跳ね上がるというより、開発前から上昇が積み重なっていき、気が付くと大きな差になっているという上がり方のほうが多いようです」(中川さん)
住みよい土地かはその人次第、街あるきで判断材料を集めよう道中、中川さんからこんな問いかけが。
「川をはさんで2軒の住まい、ひとつは高台にある築年数の古い物件、もうひとつは低地にある新築物件。どちらを購入したいですか?」
答えはその人のライフスタイルによって変わってくるでしょう。ただ、そもそもそこがどんな土地か特徴を掴んでおくことで「思っていた環境じゃなかった」という失敗を減らせそうだなと、今回の街あるきで実感しました。何より、実際に歩くと街への解像度がぐっと高くなります。
賃貸や住宅購入に際して「実際に現地を見たほうがいい」とはいわれても、どこを見るか基準があいまいな人もいるはず。そんなとき、路線価図による街あるきは一種の判断材料になるかもしれません。目的をもって見比べることで、街の良いところや気になるポイントをぜひ見つけてみてください。
●取材協力
中川寛子さん
住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマに活動。2023年4月に著書『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)を刊行。路線価図を手にまちを歩くガイド活動もおこなっている。
『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)
先日発表された「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」にて、1都4県に走る鉄道路線のうち「住みたい沿線ランキング」の人気1位に輝いたJR山手線。都心の30駅を環状に結んで走る沿線には東京を代表する駅がずらりとそろい、他の路線に接続するターミナル駅も豊富。さらに日中ならほぼ5分間隔で次々と運転されていて、アクセス性のよさは抜群といえる。そんな便利なJR山手線沿線に住まいを借りるなら、家賃はどれくらい必要なのだろう? 沿線の各駅から徒歩15分圏内にある一人暮らし向け賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場を調べたところ、全30駅でその相場には最大4万9000円の開きがあることが判明! 気になる調査結果を見ていこう。
JR山手線の家賃相場が安い駅ランキング(写真/PIXTA)
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JR山手線の家賃相場が安い駅ランキングの1位には、家賃相場8万8000円の目白駅と田端駅の2駅がランクイン。目白駅は豊島区、田端駅は北区に位置しているが、それぞれどんな駅なのか見てみよう。
目白駅(写真/PIXTA)
目白駅は山手線以外のJR線や他社の路線が乗り入れていない単独駅。JR山手線としては珍しく、全30駅のうち単独駅は新大久保駅(11位・家賃相場9万8500円)と、ここ目白駅の2駅だけだ。そんなこともあってか、両隣に位置する4位・高田馬場駅(家賃相場9万1500円)と8位・池袋駅(同9万3000円)に比べると駅周辺は落ち着いた雰囲気。高校や大学、専門学校など教育機関が多いのも特徴で、駅東側には学習院大学のキャンパスが広がっている。
目白駅は日本初の橋上駅としても知られ、駅出入口は目白通りに面した1カ所。目白通り沿いには複数のコンビニ、飲食店やスーパーなどが入ったショッピングモール「トラッド目白」などが点在している。大通り沿いを離れると閑静な住宅地が広がり、静かな暮らしを求める人によさそうだ。一方で、多彩な商業施設でにぎわう高田馬場や池袋の駅前にも歩いて15分ほどで行くこともできる。
田端駅 南口(写真/PIXTA)
1位になったもう一つの駅、田端駅はJRの山手線に加え京浜東北線が利用可能。駅の北西部には何本もの線路が並行する車両基地が広がり、駅前の橋梁の上や車両基地のフェンス越しに新幹線や機関車、貨物列車が眺められる。駅南口はJR山手線の駅舎とは思えない小ぢんまりとした造りで、どこかのローカル線の駅のよう。2023年にJR東日本が開催したスタンプラリー「東京23区内秘境駅ラリー」のチェックポイントにも選ばれており、都内でありながら「秘境駅」とJR自らが太鼓判を押すひなびた雰囲気は一見の価値アリといえるかも。
田端駅 北口(写真/PIXTA)
一方で田端駅北口には駅ビル「アトレヴィ田端」が併設され、電車を降りてすぐにコンビニやスーパー、ドラッグストア、飲食店などが利用できる便利な環境だ。駅周辺にはショッピングモールなどの大型商業施設はないが、コンビニやスーパーは複数ある。JR山手線の中では知名度は低いかもしれないが、2路線が利用できて日々の買い物には困らず、家賃相場も低めとあって、田端駅は「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」では「穴場だと思う街(駅)ランキング」の16位に選ばれている。
西日暮里駅(写真/PIXTA)
田端駅南口から線路沿いを南へと10分ほど歩けば、荒川区に位置する3位・西日暮里駅へ。家賃相場8万9000円の西日暮里駅にはJRの山手線と京浜東北線、日暮里・舎人ライナー、さらに大手町駅や霞ケ関駅、表参道駅を通る東京メトロ千代田線も乗り入れている。JR駅構内のコーヒーショップやそば店が朝から晩まで営業していたり、駅周辺にも気軽に利用できる飲食店が多数あるのは、あまり料理をしない人にうれしいところ。コンビニやスーパー、ドラッグストアも点在しているほか、駅から南へ10分ほど歩くと約170メートルの通りに60軒ほどの商店が連なる「谷中銀座商店街」も。食料品店や飲食店、雑貨店など多彩な店舗があり、地元の人のみならず食べ歩きを楽しみに来る観光客もいる人気の商店街が近所にあるのは魅力だろう。
谷中銀座商店街(写真/PIXTA)
そんな西日暮里駅の駅前では、2030年度の竣工を目指して地上47階建程度の住宅棟と地上11階建程度の商業棟の建築計画が進められている。これが完成するとさらなる街のにぎわいが予想され、家賃相場の上昇もあり得る。リーズナブルに住むなら、今のうちが狙い目かもしれない。
4位以降を見てみると、4位は1位・目白駅に隣接する高田馬場駅、5位は1位・田端駅の隣の駒込駅、6位には3位・西日暮里駅の隣の日暮里駅……と近接する駅が上位に並んだ。なんとトップ11には新大久保駅~鶯谷駅間の連続する11駅がランクインするという結果に。そして12位以降になると家賃相場が10万円以上に突入するので、家賃を10万円未満に抑えたいと考える人は、JR山手線でも北側に位置するこの11駅に狙いを定めて住まい探しをするとよさそうだ。
(図/SUUMOジャーナル編集部)
1駅しか離れていなのに新宿駅より家賃相場が2万円以上も低い駅とは……?ランキング上位の駅はJR山手線内の北側にある11駅に集中していた。しかし、「家賃は安いほうがいいけれど、どちらかというとJR山手線内でも南側に住むほうが都合がいい」という人もいるだろう。そんな人におすすめなのは、目黒駅~高輪ゲートウェイ駅間の5駅。この区間にランキング12位~16位が集中しているのだ。そのうち最も家賃相場が低い、12位・大崎駅をピックアップしよう。
大崎駅周辺の様子(写真/PIXTA)
12位・大崎駅は品川区に位置し、家賃相場は10万3000円。山手線や湘南新宿ラインなどのJR各線に加え、お台場エリアの東京テレポート駅や新木場駅に向かう、りんかい線も乗り入れている。駅の北口と南口の改札を結ぶ通路沿いには駅ナカ商業施設「Dila(ディラ)大崎」があり、ユニクロやドラッグストア、飲食店が営業中だ。そして改札を出て駅東側のペデストリアンデッキを進むと、ショッピングモールとオフィスビルからなる「ゲートシティ大崎」や「大崎ニューシティ」へ。駅西側にも同様にオフィス棟と商業棟を備えた「ThinkPark」がある。
このほかにも大崎駅周辺には近年の再開発で誕生したオフィスビルや複合ビルが立ち並び、古くからの住宅街はその外周に広がるような街並みだ。また駅西側では2025年度内の竣工を目標に、住宅や事務所、店舗、保育所などを備えた地上37階・地下3階建てのビルを建設中。この先も発展が期待できる街といえそうだ。
ここまで見てきたように、隣り合う駅同士の家賃相場は上下しつつも似たような価格帯となっている。距離的に近いエリアなのだから当然とも言える一方で、ランキングを見ると隣接する駅と比べて家賃相場が大きく下がる駅も判明。最もその開きが大きいのは、24位・新宿駅(家賃相場12万1000円)に隣接する11位・新大久保駅。家賃相場は新宿駅と比べて2万2500円も低い、9万8500円だ。新宿駅~新大久保駅間は直線距離で約1.3km、歩いても20分ほど。近距離でありながら新宿駅よりも家賃相場がグッとリーズナブルな新大久保駅は、どんな駅なのだろうか。
新大久保駅(写真/PIXTA)
11位・新大久保駅は新宿区にあり、前述の通り1位・目白駅同様にJR山手線しか通っていない単独駅。この点も立地のわりには家賃相場が低い理由の一つかもしれない。とは言え新大久保駅から西へ5分も歩くとJR中央線・大久保駅があり、周辺住民は2路線が利用可能だ。駅周辺はさまざまな商店が立ち並んでいる。日本屈指のコリアンタウンの一つでもあり、2000年代の韓流ブームをきっかけに韓国のグッズやグルメを求めて観光客が訪れる街として知られるようになった。
(写真/PIXTA)
新大久保駅は桜美林大学の新宿キャンパスや早稲田大学の西早稲田キャンパスに近いこともあって現在も多くの若者でにぎわい、人気店に行列ができることも珍しくない。韓国以外もアジア諸国を中心にさまざまな国の店があって国際色豊か。観光客向きのお店だけではなく、スーパーやドラッグストアといった日常生活を支える店舗もそろっている。駅前の喧騒を離れ、10分ほど歩けば「東京都立戸山公園」へ。都心でありつつ緑に囲まれた憩いの場へふらりと行ける点も魅力だ。そして先ほど述べたように、新宿駅までも歩いて20分ほど。「新宿に住みたいけど予算オーバーだな……」というときは、新大久保駅周辺で住まいを探すという手もアリだろう。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)、築年数35年以内
【データ抽出期間】2023/7~2023/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
2022年に全国の自治体で初めて「ひとり親家庭」に特化した移住サポートプログラムを開始した静岡県の川根本町。このプログラムは、住まい探しが困難なひとり親世帯への有効な解決策となるのでしょうか。ひとり親家庭が安心して暮らすために川根本町が行う支援とは?川根本町 経営戦略課の植村紳吾さんと移住コーディネーターの神東(かんとう)美希さんに話を聞きました。
ひとり親家庭が抱える住まいの問題と「移住」との関係川根本町は、静岡県の中央部に位置し、一級河川の大井川が流れ、全面積の約94%は山林という、自然に囲まれたのどかな町です。観光温泉地として知られる一方で、少子高齢化が進み、人口減少や働き手不足が課題となっています。
南アルプスの山々や大井川に囲まれた自然豊かな町(画像提供/川根本町)
一方、秋田県にかほ市のアンケート結果によると、一都三県(東京、神奈川、埼玉、千葉)のシングルマザーの4割近くが「地方移住に興味がある」と答えており、ひとり親家庭に地方移住のニーズがあるようです。ひとり親家庭は、子育てと両立できる仕事や公的な支援・補助制度があることを重視して居住地を選択する傾向があるため、人口減少に悩む地方の自治体と住まい探しに困っているひとり親家庭をうまくマッチングできれば、win-winの関係を築けるかもしれません。
シングルマザーの約4割は、地方への移住に興味があるというアンケート結果も(画像提供/秋田県にかほ市)
ひとり親家庭の移住を後押しする「マザーポート移住」とはこのような問題を解決するために川根本町が、2022年から取り組んでいるのが「マザーポート移住」です。
母子家庭のための不動産ポータルサイト「マザーポート」に移住専用ページを作成し、ひとり親家庭の移住を町ぐるみで積極的に受け入れようというもの。
前述したようにひとり親の移住への関心度は高い傾向にありますが、知り合いが誰もいない見ず知らずの土地に移住し生活していくのは、誰しも不安に違いありません。
ひとり親であればなおさら、生活のために仕事も探さなくてはならず、子どもと過ごす時間も必要です。
また、一般的な子育て世帯の平均世帯年収814万円に対して、母子家庭は373万円というデータ(厚生労働省「2021年度(令和3年度)全国ひとり親世帯等調査報告」「2021年国民生活基礎調査」)が示しているように、ひとり親家庭、特に母子家庭は貧困率が高く、オーナーや管理会社の家賃滞納への不安から借りられる物件が限られるなどの問題も。住所が定まらなければ行政のサービスを受けることも、仕事に就くこともできないという負のループに陥る恐れがあります。
ひとり親家庭では、安定した収入がないと入居を断られてしまうことがある。住所が決まらなければ、公共のサービスや支援を受けることができないという悪循環に……(画像提供/川根本町)
「マザーポート移住では、住宅の確保が困難な可能性のあるひとり親家庭に対して、福祉、移住、教育それぞれの問い合わせを、経営戦略課が窓口になってワンストップで相談に乗るのが特徴です。他の自治体では、各課に相談しなければならず大変というお話も聞きますが、川根本町ではまとめて相談ができるので、安心してお問い合わせいただけると思います」(植村さん)
移住を考える人の事情はさまざまです。自然豊かな川根本町に魅せられた人もいれば、人間関係や仕事、家賃などで困っている人もいるでしょう。実際に移住した人のなかには、子どもが学校になじめず、新たな環境を整えるために移住して来たというケースも見られます。
川根本町では、移住後もひとり親と子どもたちがスムーズに地域になじむことができるよう、移住希望者と地元住民の橋渡し役である「移住コーディネーター」が中心になって地域との間を繋ぎ、暮らし面での相談にも乗っています。
「町の人たちがとても親切で、いち住民として私たちのことを気にかけて見守ってくださるので、働きながらも安心して子育てができる」というのは川根本町に移住してきたシングルマザーの声。移住コーディネーターの神東さんは、近所のおじいちゃんおばあちゃんたちにとっても、子どもがいることで地域が明るくなり、良い影響をもたらしていると感じています。
移住コーディネーターの神東さん。自身も10年以上前に他県からやって来た移住組。移住してくる人の不安も、住民の気持ちもわかるからこそ、双方の橋渡しをしたいという(画像提供/川根本町)
川根本町で、ひとり親家庭の住まい・仕事・教育環境はどうなる?ひとり親家庭が移住するとなると、前述したように住居や仕事、育児や教育環境、さらには地域の人たちと上手に付き合っていけそうかなど、事前に確認しておくべき点はいろいろあります。川根本町の事情はどうでしょうか。
まず「住まい」については、ひとり親家庭が住むことのできる住宅として町営住宅、空き家バンク物件、そして民間アパート2棟があります。
ただ、空き家バンクは売買物件が多く、補修を必要とする場合もあって初期費用がかかるのと、すぐに住めないものもあるのが難点。町営住宅は比較的リーズナブルですが、空いている部屋が少なく、タイミングによっては、いつでも入れるというわけではないとのこと。希望通りの物件が必ずあるというわけではないので、なるべく希望に添えるものを町の担当者や移住コーディネーターが一緒に探します。
川根本町の町営住宅(画像提供/川根本町)
また、子どもの通う保育園や学校といった環境も気になります。
「川根本町には小学校が2校あり、そのうちの1校は1学年4~10名程度の小規模な学校で、もう一つの学校は1学年20名程度です(2024年度から小中一貫の義務教育学校2校となります)。実際に授業風景などを見てどちらの学校が良いか決めてもらい、その学区内で住まいを探すという流れになりますね」(神東さん)
町内には公立・私立あわせて1つの幼稚園と3つの保育園があり、待機児童ゼロ。親と幼児が一緒に遊べて保育士さんが子育てママの相談に乗ってくれる施設もあるなど、子育てや子どもの教育が充実しているのも嬉しいところ(画像提供/川根本町)
さらに、移住先でどのような仕事があるのかということも重要です。マザーポート移住のホームページでも地元の企業がいくつか紹介されています。
「基本的に、常に求人はあり、働き口はありますが業種や職種は限られます。ひとり親家庭の場合は、お子さんがいるので土日が休みであることや、突然の病気や学校の行事などでは融通がきく仕事でないと厳しいですよね。女性だと土建業などの現場仕事は体力的に難しいことが多いですし。マザーポート移住には、そのような事情にも比較的理解のある会社を掲載しています」(神東さん)
KAWANEホールディングスはそのような会社の一つです。代表の迫洋一郎さんは、マザーポート移住を川根本町に提案した一人で、自身も数年前に地元で起業した移住者だそう。ほかにも、最近は農家民宿やゲストハウス、飲食店といった事業を自分で営む人も増えているそうです。
マザーポート移住の提案者でもあり、移住者の採用にも前向きなKAWANEホールディングスの迫さん。ほかにもひとり親に理解のある企業がマザーポートに掲載されている(画像提供/川根本町)
ひとり親家庭も活用できる制度を整備。移住者の増加で町が変わる川根本町は2022年にマザーポート移住を始める前から、ひとり親に限らず、移住者を呼び込むためにさまざまな移住制度の充実を図ってきました。例えば、家賃や住宅購入費用(川根本町定住・移住促進住宅家賃購入補助金)、住宅改修(川根本町定住・移住促進住宅改修事業費補助金)のための補助金や「こども医療費助成制度」などの助成金を設置。移住してくる人に対してはまずはこの町の暮らしを体験してもらうための「お試し住宅」、移住や就業にかかる費用を助成する「移住・就業支援金」制度もあります。その甲斐あってか、ここ数年では、Uターンも含めて年間約40名ほどの人たちが川根本町に移住しているそうです。
近ごろでは、移住してきた人たちがSNSで町での暮らしを発信し、町でのイキイキとした暮らしぶりを見て新たに移住してくる人もいるのだとか。地元の人たちも新しいお店に出入りして、新たなネットワークができているといいます。
「若い移住者のエネルギーで新しいつながりが自然にできて町が活性化することは大歓迎です。町としても地元の人と移住してくる人の橋渡しを強化していくために、今まで1人だった移住コーディネーターを2人に増やして、移住を希望する人たちにより行き届いたサポート体制を整えています」(植村さん)
このようにひとり親家庭に限らず、移住者が入りやすい地域の雰囲気があることも、地域のサポートを期待したいひとり親家庭にとっては重要なポイントでしょう。
川根本町では町が移住促進に力を入れている。子育てや暮らしへのサポートが充実しているのも特徴だ(画像提供/川根本町)
全ての人に移住が向くわけではない。親子が共に生活を楽しめる環境へしかし神東さんは「誰にでも移住をおすすめするわけではない」と言います。かつて親子で移住した人の中には、子どもは友達もできて楽しく暮らしても、お母さんが地域に馴染めず、転出した人もいたそうです。
「例えば、川根本町での暮らしに車は必須。運転免許や車のない人は、ここでの暮らしは向いていないでしょう。また、地域のコミュニティーに溶け込んでいくには、自分から心を開いてなじもうとする姿勢が必要だと思います。子どもたちは手厚い教育が受けられるし順応力もあるので、実は私たちもあまり心配していません。むしろひとり親のお母さん、お父さんが孤立しないかを常に気にかけています」(神東さん)
「ひとり親家庭への支援がきっかけになって川根本町に興味を持ってくれる方、住みたいと思ってくれる方が増えていくような制度になっていけばと思っています」(植村さん)
移住を検討するときには、子どもだけでなく親自身がいざというときには相談に乗ってもらえるような人間関係を構築して、移住先での生活を楽しむ姿勢が必要なようです。
地域みんなが一緒になってこれからの町をどうよくしていくかを話し合う。「移住者ともともと暮らしている住民が分断しないよう、町の活性化につなげていくことが大事」だと神東さんたちは考えている(画像提供/川根本町)
今回話を聞いた川根本町では、マザーポート移住を開始して、2023年12月現在で問い合わせは4件。うち実際に移住したひとり親家庭は1件です。ひとり親の移住支援として実績だけを見ると、年間40名の移住者の中で、この制度の認知度はまだまだこれからの感があります。
しかし、住まい・仕事・教育、そして地元住民との交流など、複合的にサポートが整えられていることは、ひとり親家庭にとって魅力的で、認知が進めばもっとニーズは広がっていくのでは、と思いました。今後も、このような自治体の動きを注視しながら、ひとり親家庭がより良い暮らしを追求できるよう応援していきたいですね。
●取材協力
・川根本町
・マザーポート移住(川根本町)
東京都を走る鉄道路線は合計するとなんと80以上! そのなかでも東京を代表する路線といえば、JR山手線だろう。都心の主要エリアを囲むように全30駅を結んで環状に線路が続き、東京駅や新宿駅をはじめ都心から各方面へと向かう路線に接続するターミナル駅も数多い。便利な暮らしを求めるならJR山手線沿線で住まいを探すのがうってつけではある一方で、都心部だけあり住宅価格が高いことが予想される。そこで今回は、JR山手線沿線の中古マンションの価格相場を調査! 専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」について、価格相場が安い駅をランキング。さっそく結果を発表しよう。
JR山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング(写真/PIXTA)
※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)、高輪ゲートウェイ(港区)、原宿(渋谷区)の各駅は調査対象物件数が20件以下のためランク外
※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)、神田(千代田区)の各駅は調査対象物件数が20件以下のためランク外
リーズナブルな物件を探すなら新大久保駅~秋葉原駅間を狙おう(図/SUUMOジャーナル編集部)
(図/SUUMOジャーナル編集部)
「シングル向け」中古マンション(専有面積20平米以上~50平米未満)の価格相場が最も安かったのは、荒川区にある西日暮里駅で価格相場は3770万円。「カップル・ファミリー向け」(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場は5798万5000円で、2位にランクインしている。
西日暮里駅(写真/PIXTA)
西日暮里駅にはJRの山手線に加えて京浜東北線も停車するほか、日暮里・舎人ライナーと東京メトロ千代田線も通っている。東京メトロ千代田線1本で大手町駅や霞ケ関駅、表参道駅に行けるうえ、代々木上原駅から先は一部列車が小田急小田原線と直通運転されているのも便利なところ。西日暮里駅の駅周辺を見ると細い路地が入り組んでいるが、この街並みがガラリと変わる計画が持ち上がっている。JRや千代田線の駅と日暮里・舎人ライナーの駅に挟まれた区間に、地上47階建て程度の住宅棟と地上11階建て程度の商業棟が建設され、文化交流施設や保育施設も設置される予定だそう。2024年夏に再開発の組合設立・事業計画の認可、着工は2025年度末ごろ、竣工は2030年度内を目指しており、少々先ではあるものの大きな転換期を迎えた街といえる。今後は物件の価格相場も上がっていくかもしれない。
そんな西日暮里駅から飲食店が並ぶ商店街を抜けつつ南東へ7~8分も歩くと、「シングル向け」2位の日暮里駅へ。両駅間の距離はJR山手線で最も短くわずか500mほど、価格相場も大きくは変わらず日暮里駅は西日暮里駅から20万円アップの3790万円という結果に。ちなみに「カップル・ファミリー向け」では価格相場6680万円で5位となった。
日暮里駅(写真/PIXTA)
日暮里駅にはJRの山手線と京浜東北線、常磐線が停車するほか、日暮里・舎人ライナーと、成田空港にダイレクトアクセスも可能な京成本線が乗り入れている。駅ナカ商業施設「エキュート日暮里」が併設され、弁当や総菜、お菓子など食品関係のショップやカフェ、雑貨店が営業中。また、駅西側には約170mの通りに60軒ほどのさまざまな商店が連なる「谷中銀座商店街」が広がっている。この商店街を含む谷中・根津・千駄木一帯は「谷根千エリア」と呼ばれ、古い建物や下町情緒が残る街並みが人気。歴史ある神社や文化施設も点在しているので、街歩きを楽しんではいかがだろう。
谷中銀座商店街(写真/PIXTA)
さて、西日暮里駅から日暮里駅とは反対の北西へ15分ほど歩くと、JRの山手線・京浜東北線が通る田端駅に到着する。価格相場は「シングル向け」が3905万円で4位に、「カップル・ファミリー向け」だと5740万円で1位にランクインした。北区にある田端駅は武蔵野台地の東端部に位置し、周囲には起伏にとんだ台地と平坦な低地で構成された高低差のある街並みが広がる。駅前にはスーパーやコンビニ、ファストフード店はあるが繁華街といった雰囲気ではなく、静かな住宅街。しかし、3フロアにわたる駅ビル「アトレヴィ田端」にはスーパーやドラッグストア、飲食店などがあるので、日頃の買い物には困らなそうだ。
田端駅前(写真/PIXTA)
「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」のランキングを見てみると、両ランキングともトップ10の駅は環状に走るJR山手線の北側半分に位置する新大久保駅~秋葉原駅間の14駅に収まっていた。14駅のうち唯一、トップ10に漏れた池袋駅も「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」で各11位にランクインしている。JR山手線内でも安い物件を探したいなら、新大久保駅~秋葉原駅間を狙うとよいだろう。
「住みたい沿線」1位のJR山手線沿線のなかでも人気の駅をチェック!JR山手線は「SUUMO住みたい街ランキング2024(首都圏版)」で調査した「住みたい沿線」の1位に輝いている。今回調査で上位にランクインした「安い」駅も軒並み価格帯が高めなのは、さすが人気の路線といえる。例えば先日ご紹介した「東京23区内の中古マンション価格相場ランキング」の調査結果と比べてみたところ、今回の「シングル向け」1位の西日暮里駅は23区内の安い駅ランキングだと40位(=価格相場が23区内で40番目に安い駅)で、「カップル・ファミリー向け」1位の田端駅にいたっては何と23区内の安い駅ランキングでは142位! こうして見ると、住宅価格が日本屈指の高さである東京23区のなかでも、JR山手線沿線は特別なエリアだと改めてわかる。
そんな人気の路線、JR山手線の全30駅のなかでも特に人気の駅はどこか。「SUUMO住みたい街ランキング2024(首都圏版)」によると、住みたい街トップ3の横浜駅・大宮駅・吉祥寺駅に続いて4位に恵比寿駅、5位に新宿駅、6位に目黒駅、7位に池袋駅、8位に品川駅、9位に東京駅、11位に渋谷駅、とJR山手線の駅がランクインしていた。恵比寿駅は今回調査した「シングル向け」では24位(価格相場7280万円)、「カップル・ファミリー向け」では25位(同1億2690万円)。1億円の大台を突破すると住まいを購入する人はだいぶ限られてくるだろうが、さてどんな街なのか見てみよう。
恵比寿駅前(写真/PIXTA)
恵比寿駅は渋谷区に位置し、両隣にある渋谷駅と目黒駅と比べても「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」ともに価格相場が突出して高くなっている。乗り入れ路線はJR各線のほかに、霞ケ関駅や銀座駅などを通る東京メトロ日比谷線があって便利。駅ビル「アトレ恵比寿」は本館が7階、西館が地下1階から地上8階まであり多彩な店舗がそろっている。この恵比寿駅は現・サッポロビールが製造した「ヱビスビール」の出荷専用の貨物駅として1901年に開業したそうで、駅名もビール名に由来するのだとか。ビール工場の跡地に1994年誕生したのが商業・文化施設や住居、ホテル、オフィスの大型複合施設「恵比寿ガーデンプレイス」で、2022年11月の大型リニューアルでまた注目度がアップ。商業棟の地下2階から地上2階が一新されたほか、一時休館していた映画館も再オープンしている。駅周辺には各国の大使館が多く、商業施設が多いわりに大通り沿いを外れると静かな住宅街が広がるのも特徴。便利さと静かな暮らしが両立できる点が、街の人気につながっているのだろう。
前出の「住みたい街」に挙がっていたJR山手線の駅からもう1駅、ピックアップしてみよう。新宿駅、目黒駅、池袋駅、品川駅、東京駅、渋谷駅のうち「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」ともに価格相場が最も安かったのは、池袋駅だ。両ランキングとも11位に入っており、価格相場は「シングル向け」が4399万円、「カップル・ファミリー向け」が7480万円だ。
池袋駅前(写真/PIXTA)
豊島区にある池袋駅はJR各線と東武東上線、西武池袋線、東京メトロ丸ノ内線・有楽町線・副都心線が乗り入れる一大ターミナル駅。駅周辺に大型商業施設が立ち並ぶ都内屈指の繁華街であり、さらに今後は大型の再開発が計画されている。東武百貨店や池袋センタービル、西口公園などがある駅西口地区を4つの街区に分け、A街区には地上41階・地下4階、B街区には地上50階・地下5階、C街区には地上33階・地下6階の高層複合施設を建設し、D街区には公園を整備するという壮大なプロジェクトだ。早ければ2027年度に既存建物の解体に着手し、全体竣工は2043年度ごろだという。約20年後とまだまだ完成は先だが、ほかにも駅東口側では2026年度竣工を目指して文化体験施設を備えた地上33階・地下3階の複合施設の開発事業が進行中だったりと、さまざまな再開発が計画されている。さらなる発展が見込まれる街・池袋に、今のうちによい物件を入手しておくのもよいかもしれない。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数40年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/7~2023/12
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
「もういちど7歳の目で世界を…」を合言葉に、大人が学ぶ社会塾「熱中小学校」。2024年2月までに日本全国のさまざまな地域、さらに米国シアトルを加えた計24カ所で開校した実績があり、現在も1,000人を超える生徒が学んでいる。今回筆者は、北海道初の熱中小学校として2017年に誕生した「とかち熱中小学校」(帯広市)の授業を体験。学びに来たはずが、なぜか雪原にダイブしたり、上空800mを飛ぶことに!? 年齢や地域の垣根を超えて生徒が集う、一風変わった「小学校」に潜入します。
熊本県と北海道の距離を超え、「共生」について考えたチャイムが鳴り、「起立」の号令がかかると、さっきまでのガヤガヤした教室のムードは一瞬でピリッとした空気に変わった。どこにでもある小学校の授業前のワンシーン。でも、ちょっと違う。そこにいるのは下は24歳から上は73歳まで年齢もさまざまな大人たちだ。
この日の「とかち熱中小学校」の会場は北海道の帯広畜産大学。階段状の教室には約50人の生徒が詰めかけていた。
筆者が聴講したのは「共生」の授業。講師は、熊本県戸馳島(とばせじま)で洋ラン農園を営む宮川将人さんだ。
授業は宮川さんの自己紹介から始まった。花農家の3代目として生まれた宮川さんは「サイバー農家」の道を切り開くため、洋ラン業界では前例のなかったネットショップ開設に挑み、日本最大級のECサイトで売上1位の商品を生み出すまでに。ところが34歳のときに過労で倒れ、生死をさまよった経験から「今日が最後の一日だったら何をするか」を自問自答。地域愛が自分の軸としてあることを悟り、地域の活性化に力を注ぐことを決意する――と、かなりかけ足で書いてしまったが、失敗談も惜しみなく披露する宮川さんの講義に、会場は終始温かい笑いに包まれっぱなしだった。そうした中でも、宮川さんが半生を振り返る中で得た教訓「成功の反対は何もしないこと」は、生徒の皆さんの胸に届いたはずだ。
「農家は楽しすぎる」と話す宮川将人さん。前向きに自分らしく、が宮川流(撮影/岩崎量示)
授業後半は、宮川さんのもうひとつの顔「くまもと☆農家ハンター」の話。
農作物のイノシシ被害に向き合い、「災害から地域を守る消防団」のように若手農家有志が取り組む農家ハンター事業が紹介された。捕獲したイノシシを恵みととらえて食肉などへの有効活用を探る中で、イノシシ対策を進めながら耕作放棄地再生や担い手育成につなげるという持続可能な地域づくりのヒントが語られた。人間と野生生物との共生は、エゾシカ被害に悩む北海道にとっても共通したテーマだ。「とかち熱中小学校」の生徒には農家も多く、授業後の質問の多さからも関心度の高さが伺えた。
宮川さんの話に引き込まれる生徒の皆さん(撮影/岩崎量示)
1日の授業は2コマ。この日のもうひとコマは「社会」で、こちらはSUUMO編集長の池本洋一氏が先生として登壇した。
教壇に立つ池本編集長。「メディアが取り上げたくなる」をキーワードとしながら、全国のさまざまな街づくりの事例を紹介した。よく見ると傍らにはスーモの姿が(撮影/岩崎量示)
惜しみなく全力で教えてくれる先生と、7歳のままの好奇心を持ち続ける生徒と「とかち熱中小学校」の授業は、主に週末の午後に開かれる。半年間を1期として、授業は全8回。生徒になるには申込みが必要で、授業料は1期15,000円(※)だ。「とかち熱中小学校」の運営は主に生徒の授業料でまかなわれている。ちなみに「とかち」を謳ってはいるが、「学区」は十勝エリアに限られているわけではなく、札幌や東京にも生徒はいる。授業はZOOMで配信され、オンラインで出席することも可能だ。
※自治体から助成が受けられる町村もある。なお授業料は各校で異なる
授業の内容は毎回変わり、さまざまな分野で活躍する先生を、地元を含む全国各地から招いて実施する。現在までにのべ344名の先生が教壇に立った(2024年3月時点、課外授業含む)。「世界最高齢」プログラマーとして知られる若宮正子さんや、日本の音楽を世界に発信するピーター・バラカンさんなど、そうそうたる面々だ。
さてその先生だが、全員がボランティアと聞いて驚いた。たっぷり1時間を超える授業に加え、ここは北海道十勝。移動を考えれば少なくとも丸2日間は拘束することになる。先生を引き受ける側もそれ相応の負担を強いられるわけで、熱中小学校への理解と想いがなければ務まらない。
そうした先生の選定や調整を担うのが、「とかち熱中小学校」を運営する一般社団法人北海道熱中開拓機構だ。理事長の木野村英明さんと業務執行理事の亀井秀樹さんに話を聞いた。
一般社団法人北海道熱中開拓機構の木野村さん(左)と亀井さん(撮影/岩崎量示)
「私たちは全国の熱中小学校と連携して350名を超える講師陣リストを共有し、各地域の学校がカリキュラムに合わせて先生をお招きしています。リストとは別に、各校が独自に先生をスカウトする場合もあります。私がお声がけするときの基準は、ワクワクできるかどうか。生徒全員がビビッと来る必要はないけれど、一人でも二人でも、その生徒の人生を変えちゃうような先生を呼ぶことができたらいいなと思って依頼しています」(木野村さん)
そもそもどうして「とかち熱中小学校」はスタートしたのか?
「最初の熱中小学校が山形県高畠町に誕生したのは2015年です。日本IBMの常務を務めた堀田一芙さんが立ち上げました。木野村さんと僕は、設立前にある講演会で堀田さんからこのプロジェクトのことを聞き、都心ではなく地域からこういう動きが生まれるのはすごいなと思って注目していました。その後、熱中小学校を全国に展開することになり、僕たちに声をかけてくれたというのが始まりです」(亀井さん)
こうして2017年春に「とかち熱中小学校」は開校(当初は十勝さらべつ熱中小学校)。半年ごとに生徒を募り、13期目を迎えた。現在は10代~80代の134名が登録する。このうち新入生は2割ほどで、2割は首都圏など十勝以外の地域から受講。平均年齢は44.7歳で全国平均(53.8歳)よりも若い。生涯学習を目的に参加する人のほかにも、起業を目指して通う人、Uターンや2拠点生活を始める前に人脈づくりをしておきたい人など、動機はさまざま。過去には、授業のたびに横浜から飛行機で通学し、ついには夫妻で中札内村に移住した生徒もいる。ちなみにその方はその後、熱中小学校で知り合った映像作家とタッグを組み、現在は広大な雪原に足跡で作品を描くスノーアーティストとしても活躍しているそうだ。
「年齢も職業も異なるいろんな人たちが集まって、刺激を受け合い、お互いにできることを補完して新しいものが生まれています。中にはここでやりたいことを見つけて脱サラし、起業に向けた準備を進めている人もいます。熱中小学校の先生に感銘を受け、その会社に就職した人もいました。一緒に学ぶ仲間がいれば心強いし、新しい挑戦にも背中を押してもらえます。ここに集まるのは、好奇心を7歳のまま持ち続けている人たちなんです」(亀井さん)
授業の後に開かれた懇親会は酪農が盛んな十勝らしく牛乳で乾杯!(撮影/岩崎量示)
授業は帯広畜産大学の教室を借りて行われるが、帯広畜産大学に通う学生にとっても良い影響があると語るのは、同大学の学長であり、「とかち熱中小学校」の校長を務める長澤秀行さんだ。
「うちの学生は約7割が道外からやってきます。何も知らずにこの土地に入ってくる。そうしたときに熱中小の先生や生徒とつながることはすごく大切です。学生にはできるだけ熱中小に参加してもらいたいので、学生は無料で授業が受けられるようにしています。そして一方で、十勝を代表するような企業や、十勝を拠点にがんばっている企業の社長さんにも先生として来てもらっています。最高のキャリア教育の場です。学生たちにはローカルの魅力にたくさんふれて、十勝、北海道が大好きになり、卒業後もここに残って暮らしたい、地域で活躍したいと思ってくれたらうれしいですね」
「十勝には前向きで好奇心旺盛な人が多い」という長澤さん(撮影/岩崎量示)
大人が本気で雪遊びを楽しむ熱中雪中運動会「とかち熱中小学校」には、学校と同じく運動会もある。
授業の翌日、取材チームは雪中運動会に参加した。氷点下の雪原で行うクレイジーな運動会に。
雪の中の運動会とあって競技も極めてユニークだ。チームでひたすら雪玉をつくる「雪玉づくり競争」(十勝のパウダースノーはサラサラ過ぎて固まりづらい)、玉入れならぬ「雪玉入れ」、ビーチフラッグスをモチーフにした「スノーフラッグ」、ソリを引くスピードを競う「ソリリレー」といった具合に。ルールづくりをはじめ、運営は「とかち熱中小学校」の生徒が主体的に行う。そのねらいを木野村さんに聞くと、次のように話してくれた。
「テーマはチームビルディングとルールメイキングです。毎年、実行委員会を一から立ち上げて運営する。そして競技のルールを決める。自分たちがつくったルールに基づいて、意図したとおりにみんなが動いてくれるか。動いてくれないのか。チームビルディングとルールメイキングを学ぶ実践の場として、運動会は一番手っ取り早いんです」
足元の不安定な雪の上での雪中綱引き。応援にも熱が入る(撮影/岩崎量示)
クイズの答えが書かれた旗をもぎ取るスノーフラッグ。明日は筋肉痛確定(撮影/岩崎量示)
ご近所さんも、初めましての人も、同じチームに。いつしか芽生える団結力(撮影/岩崎量示)
実行委員長を務めた小谷文子さんに話を聞いた。小谷さんは更別村の大規模農家コタニアグリの奥さまで、「とかち熱中小学校」の立ち上げから関わる「コア生徒」の一人だ。
「この日のために3カ月前から準備を進めてきました。熱中小学校の生徒29名が今回の実行委員会に参加していますが、みんな仕事がある中で何度も会議を行い、協賛金を集め、広報活動をしてきました。それぞれ得意なことを役割分担して、みんなで知恵を出し合って、今日を迎えました。忙しくても協力を惜しまない、全力で楽しむというのは熱中小学校ならではですよね。今回、5年目にして初めて参加者が100名を超えました。雪中運動会が地域に受け入れられてきているのを実感しています。熱中小学校の関係者だけじゃなく、いろんな人を巻き込んで、つながって、楽しさを広げていくことが大事だと考えています」
実行委員長の小谷文子さんは、「いい天気で本当に良かった」と胸をなで下ろす(撮影/岩崎量示)
……飛んでる?(撮影/岩崎量示)
参加者みんなで「ハイ、とかちー!」。子どもも大人もがんばった!(撮影/岩崎量示)
こうした課外活動は雪中運動会にとどまらない。熱中小学校には生徒が自主的に取り組む部活動もある。これまでにピザ部、クレヨン部、豆研究会などさまざまな部活動が生まれた。今年度は新たに雪像部が結成された。
(提供/とかち熱中小学校雪像部)
(提供/とかち熱中小学校雪像部)
「おびひろ氷まつり」の会場にスーモ、スモミ、ドンスーモが! 雪像部の皆さん、ありがとうございました!!(提供/とかち熱中小学校雪像部)
上空800mを新しい観光地に!実は雪中運動会が行われた日の早朝、取材チームは亀井さんの勧めで熱気球フリーフライトを体験した。それというのも、熱中小学校の生徒さんがパイロットだからだ。
左から2番目が「十勝空旅団(そらたびだん)」代表の篠田博行さん(撮影/岩崎量示)
篠田さんはパイロット歴36年のベテラン操縦士。長年趣味で熱気球を楽しんでいたが、3年前から副業で観光フリーフライトを始め、2023年3月に32年間勤めた郵便局をすっぱり辞めて本格事業化した。熱気球のフリーフライトサービスを行う民間企業は、十勝でも2社しかないという。ほとんど前例がない中での船出(離陸?)だった。
「昔は競技に夢中になった時期もあったんです。ただ、競技用のバルーンはスムーズな上昇や下降が求められるので機体が小さく、基本は一人乗りなんですね。競技そのものは楽しいけど、空の上では一人きり。一人でボウリングをやって、ストライクを取っても振り向いたら誰もいない、みたいな。『空を共有したい』というのが、観光事業を始めたきっかけです」
球皮の中の空気を温めて浮力を得る熱気球。準備段階から体験できるのがうれしい(撮影/岩崎量示)
球皮の中に特別に入れてもらって記念撮影。一番右は、今回の先生を務めた宮川さん。楽しんでます(撮影/岩崎量示)
事業を始めて気づいたことがある。「お客さんの9割は道外の方です。800mの上空に行くとみんな、だだっ広い畑やまっすぐの道を見て感動するんですね。『何もなくていい』。東京の人はそう言います。ここで育った僕にはその価値がわかっていなかったんです」
音更の街並みを眼下に上昇する熱気球。この日は日高山脈が美しかった(撮影/岩崎量示)
篠田さんは2023年秋、知人に誘われて「とかち熱中小学校」に入学した。
「自分が知らない世界、知らないキャリアの話を聞くのはびっくりの連続ですよね」
熱中小学校が縁で新しいプロジェクトもスタートした。
「熱中小でこれよりも大きな気球を持っている方がいて、共同で新しい熱気球ビジネスを開発中です。10人乗りの熱気球にシェフを乗せて空の上でレストランを開店したり、スノーアーティストと組んでサプライズプロポーズを演出したり。空の上から大地を見たら雪原に『WILL YOU MARRY ME?』なんて描いてあったら盛り上がるでしょ。空を飛ぶ楽しさをどんどん広げたいし、どんどんたくさんの人と共有したい」。篠田さんの夢も大きく膨らむ。
「とかち熱中小学校」の一日入学(+課外授業)を体験して印象的だったのは、先生も生徒もごちゃ混ぜになって心底、学校を楽しむ姿だった。年の差を超えて笑い合い、地域差を超えて共通の話題で盛り上がる。多様性という言葉がぴったりな同級生たちが磁場となって、これからも十勝管内はもとより、東京や札幌からも人を引き寄せていくのだろう。「十勝に熱中小学校があることが地域の強みになるように、こうした場を提供し続けることが大切」と亀井さんは言う。
2024年4月に7周年を迎える「とかち熱中小学校」。5月には初めての学校祭も計画している。「内容はこれから」とのことだが、ユニークで熱い学校祭になることだけは間違いない。
●取材協力
とかち熱中小学校
ピンクと水色を基調としたインテリア。そしてたくさんの花と花瓶に囲まれて暮らすインスタグラマーのSmithさん。壁のライトブルーと個性的な小物のスタイリングが、明るい空気をつくっています。
モノが多いのに開放感があり、空間づくりがユニークなSmithさんの部屋ですが、実は32平米と思ったよりコンパクトな1LDK。さらに、日当たりがあまり良くないのだそう。それでも自分の「好き」が詰まった空間をつくり上げてきた彼女に、部屋づくりのコツと花と暮らす日々について伺います。
ピンクと水色の調和が生み出す部屋づくりもともとはフレンチアンティークやヴィンテージの家具を中心とした、落ち着いた雰囲気の部屋に住んでいたというSmithさん。この部屋に引越してきた時には家具とコンクリートの壁が馴染まず、倉庫っぽい印象になってしまったと語ります。
「コンクリートの壁がどうしても重く冷たい空気になりますし、手持ちの家具との雰囲気がまとまらず悩んでいたんです。そんな時、ふと、『日照時間が短い北欧の人は、家の中をカラフルにして過ごしている』という情報を思い出しました。それで『色をたくさん取り入れれば、コンクリートの重たい感じが和らぐんじゃないか?』と考えたんです」
そこで部屋の配色を一変。カラフルなアイテムをセレクトするようになったそう。
「引越してからの約2カ月間で大物家具もほとんど買い替え。ソファはligne roset(リーン・ロゼ、フランスのインテリアブランド)を代表するデザインの『TOGO』にしました。Blue Daisyという淡い水色で、汚れにくいウルトラスエードの生地でオーダーしています」
食器棚として使うIKEAの「ファブリコール」。食器もこだわりの「Astier de Villatte」など個性的なアイテムがずらり。(写真提供/Smithさん)
「家具は製作年代やデザイナー家具に限らず、IKEAもうまく活用しています。たとえば食器棚はIKEAのディスプレイ用ラック「ファブリコール」を活用。寝室の棚もIKEAの「PS キャビネット(ホワイト)」を使っています」
寝室にある左の棚がIKEAの「PS キャビネット(ホワイト)」(撮影/ピース)
「壁全体のバランスはPhotoshopでシミュレーションしています。我が家はモノが多いので、空間をゾーニングすること、フォーカルポイントをつくること、小物でアクセントをつけることが大切。大物家具はあまり主張しすぎないデザインで無彩色やニュートラルな色を選び、小物で色やエッジを効かせるようにしました」
部屋を彩るポスターやアート作品もバランスを整えるのに一役買っています。とくに、ポスターは気分によって替えられるので重宝しているそうです。
1LDKの部屋のうち、寝室は「配色などを自由に挑戦する場」と位置づけ、自身で壁を塗り替えるのだそう。以前はシーズンごとに温かみのある色、涼しげな色と決めていましたが、現在は季節問わず自分の好きな色を選ぶのだとか。この壁は、なんと塗り替えて8色目なのだそう。
「インテリアはリズム感が出るようにガラスや金属、陶器といったいろんな素材を取り入れています。たとえば、ベッドのシーツがフラットな質感なら、枕はぽこぽこしたワッフル生地にするんです」
寝室とリビングの仕切りには透け感のあるオーガンジーのカーテンで抜け感をつくり、圧迫感のない空間へ仕上げています。
オーガンジーのカーテンは、深いパープルに。花瓶が並ぶ棚は、大阪のヴィンテージショップ「WANT ANTIQUE LIFE STORE」で購入しました(撮影/ピース)
自分の好きなものを「見せる」収納衣服は見えない場所にしっかり片づける一方で、食器や個性的な花瓶たちは、あえて「見せる」収納を選択。
「自分の好きなものを常に視界に入れていたくて、食器も花瓶も見える場所に飾っています。以前から花瓶は20個ほど所有していましたが、コロナ禍のステイホームをきっかけにお花にハマったんです。花瓶も癖のあるデザインが欲しくなって買いそろえるようになり、今は約200個所有しています。今はカラーパレットのように色分けして棚に飾るように収納しています」
花屋や古着屋、ヴィンテージショップ、東急ハンズの植物コーナーなどで購入した花瓶たち。ジェルシートを敷いて地震対策をしています(撮影/ピース)
「好きなものをいつでも見ていたい」というSmithさんの思いは留まりません。Smithさんが推すJO1の白岩瑠姫さんのアクリルスタンドを飾る棚や、シルバニアファミリーをデコレーションした一画もつくられています。
推しのアクリルスタンドが並ぶ棚はSmithさんがDIYしたもの(撮影/ピース)
Smith流インテリア探しの術Smithさんのインテリア探しは、インテリアショップやヴィンテージショップを地道に巡るほか、Instagramで見つけた素敵なお部屋にタグづけされたブランドをチェックしたり、Yahoo!オークションで検索したりするそう。エーロ・サーリネンがデザインしたチューリップテーブルのリプロダクト品は、フリマアプリ「ジモティー」にて格安で購入したそう。
ネット検索では「ヴィンテージ、テーブル」といったビッグワードをあえて使い、「後はひたすらスクロールしていく」と言います。
ネットサーフィンで出会ったものの一つが、リビングスペースで存在感を放つテレビ台です。大阪のアンティークショップ「WANT ANTIQUE LIFE STORE」で購入したもの。
「石膏に丸太が刺さったデザインで、まるで遺跡のような存在が気に入っています」
ポップな雰囲気の部屋づくりではテレビの存在が浮きがちですが、個性的なテレビ台とテレビの前に置かれたオブジェが調和しています。
ミッシェル・レモンの彫像やヴィンテージの握りこぶしのオブジェ。右端にあるキャンドルホルダーはデンマークのデザイン会社が復刻した「STOFF NAGEL」(撮影/ピース)
「小物は一期一会だと思い、ビビッときたら購入するようにしています。自分の好きなものを集め続ければ、違うテイストの集合体でもいずれ調和すると信じているので、購入時に迷うことはあまりないです」
(写真提供/Smithさん)
インテリアはDIYすることも。ダイニングスペースにかかるピンク色のキャンバスは、海外の好きなインテリアスタイリストの自宅写真を見て憧れたことから制作。コンクリートの壁一面に色があるだけで印象が変わるそう。
自作したキャンバスの隣には、ギャラリーで一目ぼれして購入したErin D. Garcia(エリン・ディー・ガルシア)のポスター作品が並びます。照明コードは、空間のアクセントになるように赤いものを探したそう(写真提供/Smithさん)
洗面所のタイルもDIYで貼り付けました。表に出すアイテムはパッケージデザインが素敵なものをセレクトして置いています(撮影/ピース)
花で満たされる部屋の暖かさSmithさんの部屋の中で、ひときわ輝くのがたくさんの花。日があまり当たらない部屋は、冬場の玄関がとくに寒いそう。ですが、一般的に切り花が長持ちする温度は5~10℃とされているので、花のある生活にはベストな環境なようです。
玄関の靴箱の上に飾られた花と花瓶たち。夏はエアコンの効いた室内に花を飾るそう(撮影/ピース)
花の購入場所は、青山フラワーマーケットや、梅ヶ丘のduft、中目黒のSTAYFLOWERがほとんど。
「店舗によってセレクトが全く異なるので、時間がある日は何軒もはしごします」
「最初はかなり試行錯誤していました。三角形に配置するディスプレイの基本は守りつつ、好きな花屋さんが発信する結婚式の高砂のスタイリングを参考にして、自分なりの生け方を身に付けました。それに色の組み合わせでは補色や反対色を意識して、花と花瓶が互いに引き立つよう工夫しています」
「花の入荷日(基本的には月・水・金)に合わせて花屋へ行き、『かわいい』と感じた花を本数は決めずに購入しています。購入費は1回およそ2000円~5000円。立ち寄る頻度が高いため、花屋の店員さんとお話しすることも自然と増えてきました」
完成した「美」を感じるSmithさんの部屋ですが、今後はどのような進化を遂げるのでしょうか。
「寝室の壁は以前よりも高頻度で塗り替えるつもりです。タイルはどうしても目地が汚れるので、そろそろ玄関のタイルを張り替えようと海外のタイルを取り寄せて考えています。アートなラグも増やしたいですね」
他にも、JO1がデビュー4周年を迎える3月4日には、メンバー11人になぞらえた11色の花を飾る予定だそう。Smithさんの「好き」で、部屋はさらに成長しそうです。
「自分の好きなものを集め続ければ、違うテイストのモノでもいずれ調和する」。Smithさんの哲学が生きた部屋づくりには、まず自分の「好き」を信じて、貫く姿勢が必要になりそうです。
●取材協力
Smith
フォロワー10万人を超えるインスタグラマー。花と個性的な花瓶、カラフルな配色のインテリアコーディネートが人気。近年は自身がキュレーションするポップアップストアの開催もしている。
Instagram:@shimihome
<取材・編集 小沢あや(ピース株式会社)/ 構成 結井ゆき江>
愛媛県宇和島市の保健福祉部では、生活困窮者の住まい確保に向けて不動産会社との連携を必要としています。しかし、福祉分野(厚生労働省管轄、以下厚労省)と不動産関係者(国土交通省管轄)との連携構築に困難を感じていたため、2021年度、市役所内でそれらを結ぶ居住支援協議会の設立を提起するためのヒアリングを実施。しかしまさかの「不要」との結論に……。そこで利用したのが、厚労省が居住支援に本格的に取り組もうとしている自治体や団体を支援する「高齢者住まい・生活支援伴走支援事業」です。
宇和島市のこれまでの動きと今後の展望について、宇和島市福祉課・包括支援センターの岩村正裕さん、大江仁志さんに話を聞きます。
高齢化が進む宇和島市。住まいの確保における課題は?愛媛県宇和島市は、宇和島城を中心に発展した旧城下町。観光や県外からの移住にも力を入れています。しかし、総人口が減少する中、高齢化率は年々増加傾向にあり、2023年12月時点で40.7%とのこと。市民の健康と生活をサポートする地域包括支援センターで、相談員8人とともに、岩村さん、大江さんが市民から受けるさまざまな相談の件数は、年間3000件にのぼります。
海や山などの自然と、観光名所である宇和島城とその城下町が調和する美しい街並み。観光や移住に注力しているが、現在の高齢化率は4割を超える(画像/PIXTA)
住まいの問題にフォーカスすれば、過疎による空き家の増加、公営住宅の老朽化なども問題になっている一方、「民間の賃貸住宅の家賃は若干高めで、高齢者や低所得者など事情のある人を受け入れる物件は、数が足りていない」と大江さんは言います。
「不動産会社などに適切に働きかけができれば、空き家の問題と入居者の受け入れ、両方の解決ができてお互いにwin-winの妥結点があるはずです。しかし、私たち福祉課の職員は、住宅に関するスキルやノウハウ、知識がありません。住まいに関する適切なアドバイスを私たちはできず、手詰まりになってしまいます」(大江さん)
また、宇和島市にはもう一つ、組織の問題もありました。
それぞれの部署で住宅問題に取り組んでいても、同じ保健福祉部内で高齢者の支援は高齢者福祉課、障がい者や生活困窮者は福祉課、生活保護を受けている人は保護課と担当部署がとても細かく分かれているために「隣の課がどのような問題を抱えているのか、居住支援を必要としている人が全体でどのくらいいるのかといった状況の把握もままならない」のだそうです。
支援を必要とする人によって、市役所内の担当部署が分かれている(画像提供/宇和島市)
「市役所内に限らず、『住宅』というキーワードで支援団体や専門職をコーディネートする役割を担う部署がないこと、そして情報や知識を共有できる場がないことも大きな課題です」(岩村さん)
「居住支援協議会は不要」と結論された、その背景とはそれでも住まいを必要としている人たちの住宅確保、生活の安定のためには、他部署や不動産会社など民間団体との連携が不可欠です。そこで岩村さんと大江さんは、2021年に市の社会福祉協議会とともに、居住支援を行う団体の連携を図る組織「居住支援協議会」を宇和島市でもつくれないかと考え、市役所の各部署に居住支援の実態を調査しました。
果たしてその結果は……市民は住まいの問題を市役所に相談しようとはあまり考えないのか、相談件数も少なく、市役所内の各部署では、居住支援協議会設置の必要性をあまり感じていない状況でした。
「しかし、実際の現場では、認知症を発症して生活保護を受けている高齢者や、公営住宅に入居している無職のひとり親家庭など、起因する問題を管轄する部署と、対応する部署がいくつも絡んだ複合的な問題となっているケースも。高齢者福祉課の地域包括支援センターと保護課、建設部の建築住宅課と地域包括支援センターなど、部署をまたいだ支援を要することが多くなっています。
だからこそ相談者が高齢者か、障がいのある人か、ひとり親か、また管轄が厚労省なのか国交省なのか、さらにどちらにも当てはまらないのかによって、市役所内でたらい回しのようになることは避けたい。『住宅(の確保に困っている人)』という括りで支援を協議する場の必要性を強く感じていました。それこそが居住支援協議会ではないかと思ったのです」(岩村さん)
居住支援協議会設立の提案に、市の回答は「必要なし」だった。しかし現場では複合的な問題を解決するための協議の場が必要だと感じている(画像/PIXTA)
厚労省のプロジェクトを活用し、理解や学びを深めるそこで市役所内外の関係者に連携の重要性を理解してもらうために、岩村さんと大江さんは、厚労省の「高齢者住まい・生活支援伴走支援プロジェクト」(以下、伴走支援プロジェクトまたはプロジェクト)に応募しました。このプロジェクトは、住まいの確保や、その後の生活に支援を必要とする人たちをサポートする団体の連携の場として、居住支援法人協議会を立ち上げようとしている自治体や団体を専門家が応援・アドバイスするというものです。
プロジェクトに手を挙げたことで、2022年12月には研修会を開催。すでに積極的に居住支援に取り組んでいる自治体から講師を招き、宇和島市の各部署の支援に携わる職員のほか、社会福祉協議会、伴走支援チームのメンバーや厚生労働省職員も出席して、居住支援の基礎から学ぶことができたそうです。
「居住支援法人の必要性についての理解が参加者に浸透しつつあるので、継続しながら居住支援協議会立ち上げの機運を高めていけたらと考えています。
研修会以外にも、個々に居住支援法人の補助金や補助制度、不動産会社へのアプローチの方法など、講師の方に居住支援の仕組みづくりのノウハウを教えてもらいながら、居住支援協議会立ち上げに向けて準備を進めているところです」(岩村さん)
NPOや不動産会社など、民間団体とのつながりもこれまで福祉部門では接点を持てなかった民間団体や不動産関係者とのつながりができたことも、このプロジェクトでの大きな成果といえるでしょう。
実は、宇和島市には居住支援法人(都道府県が居住支援を行う団体を指定するもの)がないものの、精神科を退院した患者さんが自立して暮らすための住まい探しを以前からサポートしている病院があり、市内の不動産会社の間ではその活動がよく知られていました。そのため、行政が居住支援に力を入れていくことについては、概ね好意的な感触を得られているそうです。
「プロジェクトに参加して初めて、病院のスタッフの方がNPO法人を立ち上げて活動を行っていることを知りました。また、今まであまり接点のなかった不動産会社ともつながり、意見交換を重ねています。このきっかけをさらに強いパイプにしていくため、2023年12月には2回目の研修会を開催しました」(大江さん)
研修会を通じて「居住支援とは何か」を学ぶことで、市役所内のいろいろな部署においても居住支援協議会についての理解が進みつつある(画像提供/宇和島市)
居住支援を推進、継続していくために必要なモノとは?居住支援協議会の設立に向けて奮闘する岩村さんと大江さん。しかし、2人が中心となって市役所内で居住支援協議会を立ち上げ、不動産会社と関係を持ちつつ運営、居住支援活動を行うとなると、人手も足りず無理があるといいます。
「宇和島市に居住支援法人が自主的に立ち上がって、行政と連携をとりながら、居住に関する問題のコーディネートに当たるという体制ができるのが理想です。将来的には、社会福祉協議会や社会福祉法人、不動産会社などがその役割を担ってくれればと期待しています。私たちはその活動を推進・サポートするために心血を注ぎます」(岩村さん)
そしてもう一つの懸念は、居住支援を継続していくための財源です。
居住支援を単独の事業として成立させるのはなかなか難しいのが現実。補助金は受けられますが、毎年申請する必要があるため、常に財源の心配をしなくてはなりません。
一方、全国の居住支援法人は増え続けています。それは歓迎すべきことなのかもしれませんが、居住支援法人が増えすぎて財源が不足し、受けられる金額が少なくなって共倒れすることも大江さんが危惧する点です。
「居住支援に取り組む団体が安心して活動に専念するためにも、介護保険法によって介護サービスが提供されるように、国全体で居住支援の制度化が進むといいなと願っています」(大江さん)
宇和島市のメンバーと厚労省のプロジェクトの伴奏支援チームとが次のステップへ向けた協議を行っているときの様子。支援を必要としている人を取りこぼさない、持続可能な支援体制をつくることが大切(画像提供/宇和島市)
宇和島市では、居住支援を行っていく支援体系の構築が始まったばかり。さまざまな課題に直面する現場職員の苦悩が伺えました。おそらく、市役所内のそれぞれの部署でも住まいに関する課題を抱えていて、なんとか解決したいという思いがあるものの、情報共有や連携体制がうまく取れていないために、解決できないもどかしさがあるのでしょう。
自治体内の横の連携はもちろんのこと、不動産会社などの民間企業やNPO法人などの外部団体との関係づくりも居住支援体制の構築には欠かせません。
「福祉」や「住宅」、「民」と「官」といった枠にとらわれず、目の前にいる困っている人たちを支援していくには何が必要か、同じ方向を見据えて皆で考える場として、居住支援協議会のような組織がもっと機能していく必要性を感じました。
●取材協力
宇和島市
東京都内でも特に利便性が高い暮らしを望むなら、23区内に住みたいところ。交通網が充実していて商業・文化施設も豊富、さらに賃貸物件の数も多いので気に入る住まいを探しやすい。一方で、首都圏でも飛び抜けて家賃が高い点はネックではある。とはいえ探せば、予算内で住める物件はあるはず! そこで、東京23区内にある駅ごとの家賃相場を調査。駅から徒歩15分圏内にある賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満のワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が安い駅トップ20をご紹介しよう。
東京23区内の家賃相場が安い駅TOP20順位/駅名/家賃相場(主な路線/駅の所在地)
1位 江戸川 6.40万円(京成本線/江戸川区)
2位 一之江 6.50万円(都営新宿線/江戸川区)
2位 篠崎 6.50万円(都営新宿線/江戸川区)
4位 上井草 6.55万円(西武新宿線/杉並区)
4位 京成小岩 6.55万円(京成本線/江戸川区)
6位 谷在家 6.60万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
7位 瑞江 6.65万円(都営新宿線/江戸川区)
7位 六町 6.65万円(つくばエクスプレス/足立区)
9位 小岩 6.70万円(JR総武線/江戸川区)
9位 新柴又 6.70万円(北総線/葛飾区)
9位 大師前 6.70万円(東武大師線/足立区)
9位 竹ノ塚 6.70万円(東武伊勢崎線/足立区)
9位 舎人公園 6.70万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
14位 喜多見 6.80万円(小田急小田原線/世田谷区)
14位 五反野 6.80万円(東武伊勢崎線/足立区)
14位 柴又 6.80万円(京成金町線/葛飾区)
14位 西新井 6.80万円(東武伊勢崎線/足立区)
14位 扇大橋 6.80万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
14位 高野 6.80万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
20位 梅島 6.85万円(東武伊勢崎線/足立区)
※21位~45位は記事末に記載
1位は江戸川区の京成本線・江戸川駅で、家賃相場は6万4000円。1駅隣は4位にランクインした京成小岩駅(家賃相場6万5500円)だ。江戸川駅は高架駅で、出入口正面の高架下にはドラッグストア併設のスーパーがあって便利。周辺の住宅街にもミニスーパーやコンビニが点在しているので、日常の買い物には困らないだろう。駅のすぐ東側には江戸川が流れ、河川敷に広がる「小岩菖蒲園」は例年5月~6月に約5万本のハナショウブが咲き誇る。江戸川を越えると、千葉県市川市というロケーションだ。
江戸川駅(写真/PIXTA)
小岩菖蒲園(写真/PIXTA)
江戸川駅は夏の風物詩・江戸川区花火大会の最寄駅の一つでもあり、夏は多くの人で混雑するが、近所で花火が見られるのはうれしいところ。また、駅前から西へ自転車で10分弱も走ると9位・小岩駅(家賃相場6万7000円)にたどり着き、JR総武線が利用できる。江戸川駅から京成本線に乗れば日暮里駅まで約24分、京成上野駅まで約30分。京成本線で2駅目の京成高砂駅や3駅目の青砥駅から、都営浅草線直通の京成各線に乗り換えて浅草駅や新橋駅に行きやすいのも魅力だ。
江戸川区花火大会(写真/PIXTA)
2位には家賃相場6万5000円の一之江駅と篠崎駅がランクイン。どちらも江戸川区に位置し、都営新宿線が通っている。1位・江戸川駅から江戸川沿いを自転車で南下して20分ほどで篠崎駅に着き、さらに20分弱も走ると一之江駅に到着。そして篠崎駅と一之江駅に挟まれて、7位・瑞江駅(家賃相場6万6500円)があるという位置関係だ。この3駅のうち最も新宿駅寄りなのは一之江駅で、都営新宿線に乗れば岩本町駅まで約20分、市ヶ谷駅まで約28分、新宿駅までは約35分でたどり着く。
一之江駅(写真/PIXTA)
そんな一之江駅の東口側には2021年、「コメダ珈琲店」や100円ショップ、スーパーがオープン。徒歩10分弱の場所にはドラッグストアも誕生し、便利さがアップした。駅西口側にもスーパーやコンビニ、ドラッグストアがある。駅の周辺にはハンバーガーや牛丼、回転寿司などの気軽に入れる飲食店も点在しているので、料理するのが面倒な仕事帰りにもサッと食事ができるだろう。駅西側を通る環七通り沿いにはラーメン店も豊富なので、食べ比べするのも楽しそう。
一之江駅と同じ2位・篠崎駅の様子も見てみよう。一之江駅よりも新宿駅から電車で5分ほど遠ざかるものの、都営新宿線の始発駅・本八幡駅の次の駅なので通勤時間帯でも比較的座りやすいのはいいところ。駅ホームは篠崎駅北口と直結する交通会館篠崎ビルの地下にあり、ビル上階ではスーパーや100円ショップ、ベーカリーや牛丼店が営業している。駅周辺にも複数のスーパーやドラッグストアがある他、チェーン系の飲食店や居酒屋も豊富だ。駅の北側にある2軒の銭湯はサウナも備えているので、疲れを癒やしに行くのもいいだろう。1位・江戸川駅同様に江戸川に近く、花火大会の最寄駅でもあるので、窓辺から花火が見られる物件も探せば見つかるかもしれない。
篠崎駅(写真/PIXTA)
4位以降は日暮里・舎人ライナーと東武伊勢崎線の駅が多数ランクイントップ3の駅はいずれも江戸川区に位置していたが、4位以下を見てみると17駅中の10駅が足立区という結果に。そして6位・谷在家(やざいけ)駅(家賃相場6万6000円)、9位・舎人公園(とねりこうえん)駅(同6万7000円)、14位の扇大橋駅と高野駅(同6万8000円)の4駅は、日暮里駅~見沼代親水公園駅を結ぶ日暮里・舎人ライナーの沿線にある。4駅のうちでJR線と接続する日暮里駅に最も近い、扇大橋駅の様子を見てみよう。
扇大橋駅(写真/PIXTA)
14位・扇大橋駅の駅名を聞いて、首都高の料金所を思い浮かべる人もいるだろう。その扇大橋料金所のほど近く、日暮里駅から北に5駅・約10分走って荒川に架かる扇大橋橋梁を渡った先のすぐそばに駅はある。尾久橋通り上空に設けられた高架駅で、駅北側は江北橋通りとの交差点。この2つの大通り沿いを中心に複数のスーパーやコンビニ、飲食店やホームセンターが点在している。ショッピングモールなどの大型商業施設はないが日常の買い物に困ることはなく、脇道に入ると静かな住宅街なので落ち着いた暮らしを求める人にはよさそうだ。荒川沿いを散策したり、遠くに東京スカイツリーを望む河川敷のゴルフ練習場で汗をかいたりと、気軽にリフレッシュできる環境でもある。
日暮里・舎人ライナーと同じく、東武伊勢崎線もトップ20に4駅ランクイン。9位・竹ノ塚駅(家賃相場6万7000円)~14位・西新井駅(同6万8000円)~20位・梅島駅(同6万8500円)~14位・五反野駅(同6万8000円)の順に連続する駅で、いずれも足立区に位置している。都心部寄りの浅草駅に最も近いのは五反野駅だが、4駅のうちで唯一、急行や準急も停車する西新井駅の様子をピックアップしよう。
西新井駅(写真/PIXTA)
14位・西新井駅は前述の扇大橋駅の北東2.3kmほどの位置にある。東武伊勢崎線の他に東武大師線も通っているが、この路線は関東厄除け三大師の一つ「西新井大師(総持寺)」の最寄駅・大師前駅と西新井駅の2駅のみなので、活用する機会は少ないかもしれない。西新井駅から浅草駅までは、東武伊勢崎線の急行と区間急行を乗り継いで約21分、区間急行1本だと約25分。東武伊勢崎線の普通列車は東京メトロ日比谷線、急行と準急は東京メトロ半蔵門線との直通運転が行われているので、日比谷線の霞ヶ関駅や銀座駅、半蔵門線の大手町駅や永田町駅、渋谷駅へも1本で行くことができる。
そんな西新井駅、下り線ホームに立ち食いラーメン店があるのもちょっとした名物だ。駅東口には駅直結のショッピングモール「西新井トスカ」があり、その先には家電や生活用品の専門店も備えた大型スーパーも。駅西口側にもディスカウントストアやショッピングモールがあり、にぎわっている。さらに西口駅前では再整備計画が進行中で、交通広場が2030年に完成予定だそう。あわせて駅ビルの建て替えや新たな商業施設の誘致も見込まれ、西新井は今後さらなる活性化が期待されている。
住まい探しをする際は家賃相場に加えて、学校や会社など日常的に通う目的地へ訪れやすい路線の沿線であるかどうかを重視する人も多いだろう。トップ20には日暮里・舎人ライナーと東武伊勢崎線の駅が多かったが、21位~45位を見てみると西武新宿線の駅も複数ランクインしている。21位以降のランキング一覧は下記にあるので、あわせてチェックしてはいかがだろう。
●21位以降のランキング
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京23区内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/7~2023/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS」は、春の引越しシーズン到来前に「家具・家電に関するアンケート」を18歳~49歳の男女1,000人に実施した。そこで、高価格帯の商品を長期にわたって利用する「長期リース型」のサブスクについて調べたところ、9人に1人が利用していることが分かった。
【今週の住活トピック】
1000人への実態調査で見る「春の新生活の家具・家電事情2024」を公表/CLAS
サブスクとは、サブスクリプション(subscription)の略。ある商品やサービスを一定期間、一定額で利用できる仕組みのこと。サブスクの中でも長期にわたって利用する「長期リース型サブスク」を利用しているか聞いたところ、「利用している」が11.7%、「利用していない」が88.3%という結果に。おおむね9人に1人が長期リース型サブスクを利用していることになる。
長期リース型サブスクを利用している人を年代別に見ると、20代(13.8%)と30代(14.3%)が10代や(10.0%)や40代(6.7%)よりも多い。CLASの個人会員属性も20代後半~30代が中心であることから、この年代に耐久消費財を所有しない傾向があるという。
出典:CLAS
次に、長期リース型サブスクを利用していると回答した人に、利用しているサブスクの商品を聞いたところ、「家電」が48.7%と最も多く、次いで「家具」の42.7%となった。家電や家具は生活する上で必要なものだが、金銭的負担も大きいことから、サブスクを利用することが多いのだろう。
出典:CLAS
2021年時点で近い将来7~8人に1人が利用していそうと予測別の調査結果を見てみよう。LINEリサーチでは、2021年5月に18~59歳の男女を対象に「家具・家電の定額制レンタルサービス」の現状の認知率や利用率、今後の流行予想などについて調査を実施した。
2021年時点ですでに、「家具・家電の定額制レンタルサービス」の認知率は45.9%(「知っているし、使っている」「知っているし、今は使っていないが以前使っていた」「知っているが、使ったことはない」の合計)で、半数近くが「知っている」状態だった。
次に、自分の身のまわりで「どのくらいの人が使っていそうか?」という『現在の流行体感』を聞いたところ、流行体感スコアは2.3(=100人中およそ2人が利用している)という結果に。では、「1年後、自分のまわりでどのくらいの人が使っていると思うか」という『近未来の流行予想』を聞くと、流行予想スコアは13.0(=100人中およそ7~8人に1人が利用していそう)という結果になった。
2024年2月に実施したCLASの調査結果では、長期リース型サブスクの利用者は9人に1人だったので、2021年時点の予想はかなり近い結果だと言ってよいのだろう。
出典:LINEリサーチ
なお、自分が今後使ってみたい(今後の利用意向)かを聞くと、利用意向ありが26.2%(「ぜひ使ってみたいと思う」「機会があれば使ってみたいと思う」の合計)と、近い将来は自分が利用したいと思う人が増えていた。
家具家電の長期リース型サブスク、メリットとデメリット実家を出て一人暮らしを始める、結婚や同棲で新たに二人暮らしを始める、といったときに、新居の家具家電を買いそろえるのは大変な場合がある。引越しによる初期費用がかさむなか、家具家電のレンタルを利用すれば当初の費用を抑えることができる。
一定期間だけ単身赴任することになった場合も、同様だろう。家族と再び暮らすときに、単身赴任時の家具家電の処分をする必要もない。子どもの年齢が一定期間だけ必要となるものなども、一定期間レンタルすることが有効だ。
また、高額な家具家電を使いたいとき、「いきなり買うのは不安だけど、一定期間使ってみたい」という場合も使い勝手が良さそうだ。つまり、「必要な期間だけ使える&コスパのよさ」がメリットと言えるだろう。
一方、レンタルでは新品とは限らないこと、好きな家具家電がレンタルできることは限らないこと、長く使うとかえって割高になること、などのデメリットもある。
Z世代は、「モノ消費」よりも「コト消費」を好み、所有にこだわらないとか、「買い物で失敗したくない」という意識が強いといった傾向があると言われている。今回の結果を見ると、こうした若い世代を中心に、一定の人たちが生活の中で賢くサブスクのサービスを利用していることがうかがえる。家具家電についても選択肢が増えることで、私たちの生活の仕方も変化していくのではないだろうか。
●関連サイト
【CLAS調査レポート】 9人に1人が長期リース型サブスクを利用、 「家電」と「家具」に人気が集中!
LINEリサーチ、今と近未来の流行予想調査(第七弾・家具、家電の定額制レンタルサービス編)を実施
神奈川県横浜市緑区にある竹山団地。神奈川県住宅供給公社が1960年代に開発した約45haの大規模団地です。築50年を超えた約2800戸を有する建物は、日本の高度経済成長期に建てられたほかの団地と同様に老朽化と高齢化の問題を抱えています。
そこで2020年に竹山団地を所有する神奈川県住宅供給公社は、神奈川大学と「連携・協力に関する協定書」を締結。「学生たちに共同生活や地域貢献を通じて課題解決型の教育を実践したい」と考える神奈川大学と、保有資産やこれまでのノウハウを活かして団地活性化に取り組みたい公社のニーズが一致したのです。大学のサッカー部員が団地の空室に住んで、防災訓練や地域のイベントに参加したり、学生食堂を兼ねるカフェの運営、商店街の清掃などを行ったりしています。
2023年の年末にも、大掃除とセットで芋煮会を実施する予定があると聞き、現地を取材。この取り組みの背景や、約4年間を経てつくり上げてきたもの、入居する学生たちの本音などを聞きました。
「子どもたちにマス食わせてやんべ」の声かけで始まった、大掃除と芋煮会2023年12月のある土曜日、竹山団地の中央にある竹山中公園には、10代、20代の学生たちと一緒に談笑しながら炭火の準備をする高齢男性たちの姿が。そのひとり、竹山連合自治会の経理局長を務める星川敬博さんは、山形県出身。一昨年、寒い季節になったころにふるさとの芋煮を思い出し、神奈川大学の理事長付審議役でありサッカー部の部長を務める佐藤武さん(60代、大学職員)や友人たちと「学生たちに芋煮食わすか」「じゃあ、マスを焼いて食わせてやんべ」という話になったと笑います。
星川さんと一緒に火をおこすサッカー部の4年生。火おこしも慣れたもの(画像/片山貴博)
竹山連合自治会 経理局長の星川敬博さん。学生たちにとって竹山団地は学生寮としての入居で卒業と同時に退寮になるため、4年生は最後の集まりとなる。「うるさいのがいなくなる」という言葉に寂しさも滲ませる(画像/片山貴博)
神奈川大学 理事長付審議役 サッカー部部長の佐藤武さん。2024年3月で定年を迎えるにあたり、これまでの取り組みを振り返りながら「退職する前にサッカー部でやれることはやっていきたい」と意気込みを語る(画像/片山貴博)
その日は、朝10時に星川さんたち自治会のメンバーや神奈川大学サッカー部の学生たちが集合して、自治会館周辺を大掃除。集まった人たちや学生の何人かは、自治会館の内外で里芋の皮むきや野菜を切って調理の準備をしています。そこには「ほら、ぼやっとしないで動いて」と学生たちのお尻を叩く、自治会事務局長の高橋明美さんの姿も。高橋さんは学生たちの「お母さん的存在」なのだそう。
自治会館やその前の通りを掃除するサッカー部の学生たち(画像/片山貴博)
屋根の上の掃除は高齢者には危険を伴うことも。運動神経に自信のある学生たちが頼もしい(画像/片山貴博)
団地の自治会の人たちと学生とが混じって外で里芋の皮むきをしている(画像/片山貴博)
調理室では大量の野菜を切って大鍋に入れ、公園まで運ぶ(画像/片山貴博)
竹山連合自治会 事務局長の高橋明美さん。「住民も学生と仲良くなると個別にお願いごとをするようになるが、学生に負担がかからないよう、事務局で “お手伝い内容”として取りまとめている」そう。学校や公社とも打ち合わせを重ねて細かいルールを決めている(画像/片山貴博)
公園にブロックを置いてつくったかまどで、手馴れた様子で火をおこす学生たち。パチパチと着火用の薪が燃え、白い煙が上がり始めると星川さんや自治会のメンバーが代わるがわる声をかけながら炭を入れて手伝います。聞けば、このような炭の火おこしは数年前から一緒に何度もやって来たのだそう。芋煮も学生たちが大きな鍋にドバドバと豪快に醤油や料理酒を入れて、味見をしながらつくり上げていきます。出来上がったマスの塩焼きと芋煮の味は大好評で、公園内には箸が止まらない学生たちと地域の人たちの笑い声が響きました。
学生と地域の人とが談笑しながらマスが焼けるのを待つ。この80匹ものマスは自治会の人たちが用意してくれたもの(画像/片山貴博)
寒い日に温かい芋煮は大好評。大鍋の前に列ができる(画像/片山貴博)
「おいしい!」が思わずこぼれる、芋煮の味付けも学生たち自身によるもの(画像/片山貴博)
大学のサッカー部が22部屋を学生寮として入居する竹山団地竹山団地には、サッカー部の学生たち約60人が2DKまたは3Kの部屋に2~3人ずつに分かれて住んでいます。コーチ陣も一緒に入居する、これら22室の部屋は、高齢化によって上層階が空室になっていたものを神奈川大学が所有者である神奈川県住宅供給公社から法人契約で借り受け、学生寮として使用しているものです。エレベーターがないと高齢者には上り下りの負担が大きい上層階ですが、若い学生たちに入居してもらうことで有効活用できるようになりました。
1960年代に建てられ、約2800戸、開発面積45haを有する大規模な竹山団地(画像提供/神奈川県住宅供給公社)
生態系の再現を目指してつくられた大きな池があり、水抜きなどの掃除を学生たちが手伝ってきた(画像提供/神奈川県住宅供給公社)
その始まりは2019年。神奈川大学の理事長付審議役でありサッカー部の部長を務める佐藤武さんとサッカー部の監督である大森酉三郎さんが、学生の成長を促す仕組みづくりのために、大学や神奈川県住宅供給公社に団地の空室を学生寮として使用しながら、地域の活性化に寄与する仕組みができないかと相談したことにさかのぼります。相談を受けた神奈川県住宅供給公社の水上弘二さんは、具現化できそうな場として、高齢化率が45%以上に達しながらも地域住民の自治体制が整い、公社と自治会の意思疎通が図られている竹山団地に白羽の矢を立て、社内外の調整をはじめました。
神奈川大学のサッカー部の部長を務める佐藤武さん(左)と監督の大森酉三郎さん(右)(画像/片山貴博)
2020年5月から学生たちの入居が始まり、もうすぐ4年が経とうとしています。これまで、学生たちと地域が一緒に取り組んできたプロジェクトは枚挙に暇がありません。
自治会が主催する防災訓練や花火大会などのイベント運営、休耕地を活用した野菜づくり。団地の空き店舗をリノベーションした学生食堂の空き時間を活用し、横浜市の介護予防・生活支援事業として介護予防体操教室やコミュニティカフェを運営。ほかにも高齢者向けのスマートフォン教室や子どもたちの学習支援の先生役を学生たちが務めています。今後は国の補助を受け、新たな地域活動拠点の整備を進めていくそう。
普段は学生食堂兼クラブハウスとして使用している竹山商店街「14号店舗」は、かつて魚屋だった場所。学生たちもリノベーションに関わり、スマートフォン教室やコミュニティカフェなど団地に住む人たちが集う場所として生まれ変わった。(画像/片山貴博)
学生たちが講師を務めるスマートフォン教室は「マンツーマンで自分のわからないことを教えてもらえる」と大人気。LINEグループがあり、150人近くの高齢者が登録しているのだとか(画像/片山貴博)
NPOを設立して、アルバイト料を支払い。国や自治体も巻き込むプロジェクトにこれらの事業展開をスムーズにしていくため、サッカー部はNPO法人KUSCを立ち上げました。NPOの運営は、現在、監督の大森さんやコーチたちが中心となって担い、スマートフォン教室の講師や学習支援の補佐役、食堂の運営を行う学生たちには、NPOからアルバイト料が支払われます。
「ちゃんとお金を払っていくことで、活動が継続できるものになります。また、それぞれの仕事に必要な資格を取ると時給がアップする仕組みを取り入れています。学生たちも自分で時間をつくって地域活動に参加するようになりますし、アルバイト料は経済的な支えにもなります」(監督の大森さん)
神奈川大学サッカー部監督の大森酉三郎さん。現在は監督とコーチがマネジメントしているNPOの活動をより広げていくためにも、実務能力のある人を雇用してほしいと大学側に要望しているそう(画像/片山貴博)
さらに大森監督は「部員たちにとっての将来はサッカーだけではない」と続けます。
「サッカーはこの子たちにとってアイデンティティの中心ですが、チームの中でリーダーシップを取ることができるのはごく少数。活動の場が寮生活や地域にも広がることで、それぞれの場所や活動の中でリーダーシップを発揮する学生部員も出てきて、それがサッカーのプレーにも反映されるようになったりする。相乗効果があるだけではなく、これから先の社会や自分の人生を見据えてどう生きるか、という視点の醸成や人間的な成長につながります」(監督の大森さん)
「いいことばかりではないが、自分を知れた」学生たちの視点と本音サッカー部の学生たちは、原付バイクで下宿である竹山団地とサッカー部の練習場であるグラウンド、大学のキャンパスを移動する毎日。団地で地域の人たちと生活をする中で、苦労していることなどがないかを聞くと、サッカー部のキャプテンである永谷陵之佑さんは「周囲の住民さんとの生活スタイルの違いには常に気をつけるようにしている」と答えます。
「隣の部屋には、一般の方が住んでいたりするので、自分たちの話し声や生活音が騒音として問題にならないかは気になるところです。高齢の方は夜早く寝たりされるので、洗濯機を回す時間を考えたり、門限がなくても、活発に動く時間は常識の範囲の中で周囲に配慮して行動するように心がけてきました」(キャプテンの永谷さん)
サッカー部のキャプテン、永谷陵之佑さん(4年生)が暮らす竹山団地の1室。1住戸に同じ学年の学生が固まらないように振り分け。上級生から下級生に、ごみ捨てをはじめとする生活のルールなどを教え、引き継いでいくのだと言う(画像/片山貴博)
また、学業に部活、寮生活での慣れない家事に加え、地域活動の時間をつくるとなると、学生たちへの負担も懸念されます。サッカー部部長の佐藤さんによれば「この取り組みを始める際にも、大学内の責任者などからはその懸念を指摘された」と言います。毎日、結構大変なのでは?と副キャプテンの蓑輪実潤(みのわまひろ)さんに投げかけると率直に答えてくれました。
「正直に言えば、本当にやるべき学業やサッカーがおろそかになってしまったり、事業がどんどん拡大していく中で人手不足を感じたりと、まだまだバランスが取れていないと感じる部分もあります。いいことばかりではありませんが、活動を通して自分が『誰とやるか』を重視することに気づけたりして、自分を知ることにもつながりました」(副キャプテンの蓑輪さん)
サッカー部の副キャプテン、4年生の蓑輪実潤(みのわまひろ)さん。「卒業後はオーストラリアに行き、サッカーをやりながら経営者を目指したい」と語る(画像/片山貴博)
これからも解決策を模索しながら進む、学生たちと地域の課題神奈川県住宅供給公社の水上さんも「団地の新しい取り組みとして、多くのメディアで紹介され、全国的に評価されはじめた。一方で、どこででも簡単に横展開できるものではない」と語ります。
「竹山団地は、大森監督から話があったことに加え、自治会の星川さんや高橋さんたちのように家族として、学生たちに関わってくださる方がいるなど、偶然や必然が重なってできたデザインです。同じスキームが他の団地でできるかというと、そうは思っていません。もし他の大学や他の団地で同じような話が出てきたとしても、その地域の思いや環境、資源などを考えながらデザインしていくのでしょうね」(水上さん)
神奈川県住宅供給公社の水上弘二さん。「私たちはオーナーとしてしゃしゃり出ないようにしながら、竹山団地の取り組みを支援している」そう(画像/片山貴博)
一方で、この竹山団地での取り組みが、社会問題となっている集合住宅の老朽化や高齢化へのひとつの解決策となりうる期待も込めます。
「今いる4年生たちは、この取り組みの1期生であり、1年生で入学した時から大学4年間を通して活動し続けてきました。1からモデルをつくってきた大変さがあったと思いますが、これから入ってくる子たちは、道がすでにできているところに溶け込めるか、というハードルを乗り越える必要が出てくるでしょう。一方で、住民の皆さんは1年経てば1つ歳をとります。本格的な高齢化のスピードに取り組みが追いつくことができるのか、学生たちの地域活動がどう変わっていくのか、今後も期待をしながら私たちもオーナーとしてできる限りの支援をしていきたいと思います」(水上さん)
芋煮会の様子を見て、団地内に住む子どもが立ち寄る。「大好きな憧れのお兄ちゃん」であるサッカー部員に芋煮をすすめてもらい、嬉しそうに食べる姿がほほえましい(画像/片山貴博)
大森監督は「いまの時代、さまざまな形の家族がある中で、学生たちは今まさに家族の経験をしている。今はわからなくても10年後、20年後にこの経験の価値を知ることになるはず」だと言います。
学生たちの将来、そして団地、言い換えれば、日本の社会が抱える課題や将来の姿を見据えて取り組まれるこのプロジェクトが、建物の老朽化や住む人の高齢化への解決策となり得るか、これからもその成長に目が離せません。
●取材協力
・神奈川大学サッカー部
・神奈川県住宅供給公社
・竹山団地 竹山連合自治会
大規模災害を想定した、最低限の水や非常食の備蓄。しかし大地震により物流が途絶え、支援物資も届きづらい状況を思えば、防災リュックの中身だけでは心もとない。また、避難所や仮設住宅での生活が長引いた際には、嗜好品や思い出の品など「心を癒やすアイテム」も必要になる。
できれば最低限ではなく、最悪を想定した十分な備えをしておきたいところだが、自助で賄える備蓄や防災には限界がある。そこで、個人やマンション単位で導入できる最新の防災サービスの検討を含め、一歩進んだ対策について考えてみたい。
防災備蓄をスマホでまとめて管理「SAIBOU PARK」その前に、多くの人は本当に「最低限」の備えができているのだろうか。防災リュックは、クローゼットの奥で埃をかぶっていないか。そもそも、中身を把握できていなかったり、非常食の消費期限が切れてしまっているケースもあるかもしれない。
そんな、怠りがちな防災備蓄の管理を、スマホで簡単に行えるのが「SAIBOU PARK」。自宅にあるアイテムの写真を撮り、数量や保管場所、消費期限を登録することで、防災備蓄をまとめて管理することができる。
物置に眠る防災用品を集めて撮影する
アイテム名や個数、保管場所を登録していく
非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く
サービスを運営しているのは、防災用品のセレクトショップも手がける株式会社サイボウ。「SAIBOU PARK」アプリを開発した背景には、防災備蓄にまつわるこんな課題感があったという。
「自宅の防災アイテムや備蓄品を『あったっけ?』『どこだっけ?』と探した経験がある人は多いと思います。防災備蓄を把握しづらい理由は主に3つあり、1つ目は『種類が多く、一つひとつが小さい』こと。2つ目は『購入後に収納すると、当面は気にかけない』こと。3つ目は『目の届かないところに収納したものは、時間の経過とともに忘れてしまう』こと。
防災用品はこうして存在自体を忘れられ、ひっそりと劣化が進んだり、期限が切れてしまいます。せっかく備えたアイテムも、これではいざというときに真価を発揮できません。その解決策として、防災備蓄の全体像をいつでも把握・管理できるように企画したのが、このアプリでした」
こう語るのは、自身も防災士の資格を持つ「SAIBOU PARK」の佐多大翼さん。
SAIBOU PARKでは防災アイテムの劣化や非常食の消費期限切れを防ぐため、アイテムごとに「期限」を設定し、期限が切れる1カ月前と2週間前にプッシュ通知でリマインドする機能を持たせた。
「非常食だけでなく、電池やガスボンベにも使用期限があります。SAIBOU PARKを使ってみて、そのことを初めて意識したというユーザーの方もいらっしゃいました」(佐多さん)
不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる
最低限の自助といえる防災備蓄。自分や家族にとって最適な備えを把握するためにも、まずはこうしたアプリを使い、現在の備蓄状況を俯瞰的にチェックしてみるといいかもしれない。
<サービス概要>
・SAIBOU PARK
自宅の備えがひと目でわかる「防災備蓄まとめて管理アプリ」。非常食や懐中電灯など、手元の防災用品をアプリに登録。賞味期限や使用期限を設定しておくと、期限が切れる前にプッシュ通知でお知らせしてくれる。足りないアイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」から購入することも可能。
食糧の備蓄や日用品、簡易トイレといった防災アイテムは十分に備えていたとしても、避難生活では「意外なもの」が不足することがある。
例えば、乳幼児を連れて避難する場合、被災のストレスで一時的に母乳が出にくくなったり、哺乳瓶を消毒することができずに授乳に困るケースがあるという。
また、小さな子どもの不安やストレスをやわらげる遊び道具、高齢者のいる家庭なら避難所に持ち込める椅子、ペットがいる場合はケージなども用意しておきたい。
最低限の備蓄品以外に、避難所で必要になるものは人それぞれ。家族の属性だけでなく、住んでいる環境によっても必要な準備が異なる。そんな、一人ひとりに合わせた防災対策をパーソナライズして自宅に届けてくれるのが、「pasobo(パソボ)」だ。WEB上の防災診断で「住んでいる自宅の種類は?」「何人で暮らしていますか?」といった13の質問に回答すると、その世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析したうえで、自分に必要な防災セットを提案してくれる。
1分程度の「オンライン診断」を回答
自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する
サービスを手掛けるのは株式会社KOKUA。東日本大震災の被災地で出会い、全国各地の被災地支援を続けてきたメンバーたちで設立された防災ベンチャーだ。
「行政による支援は、どうしても『誰もが共通して使えるもの』の優先度が高くなりがちで、個人の属性に応じた物品を用意したり、それを各避難所へ配備することが難しいと聞きます。実際、私たちが避難所でボランティアをしているなかでも、必要なものが不足し不便な思いをしている方がたくさんいらっしゃいました。不便なだけならまだいいのですが、それがないことで体調が悪化してしまうこともある。被災してから『これを準備しておけばよかった』という事態を防ぐためにも、pasoboの防災診断をきっかけに自分や家族にとって『本当に必要な防災対策』を考えていただければと思います」(KOKUA共同代表の疋田裕二さん)
<サービス概要>
・パーソナル防災サービス「pasobo」
WEB上で、家族構成や立地、建物の耐震基準・階数、個人の災害に対する価値観といった、いくつかの質問に回答するだけで、自分に必要な防災対策が1分で見つかるサービス。サイト上に入力された情報をもとに、個人の世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析し、最適な防災グッズを提案。提案された防災用品は、サイト上で購入することもできる。
災害の規模によっては、こうした自助の備えだけでは賄いきれない場合もある。そんなときに頼れるのは、地域やコミュニティのなかで助け合う「共助」の力だ。
特にマンションの場合、近年は「在宅避難」を見越した防災力の強化が叫ばれている。実際、管理組合が主体となり、マンション全体で備蓄の管理を含めた防災対策に取り組むケースも増えてきた。
最近では、防災備蓄品の選定や管理をアウトソーシングできるサービスも登場している。2023年10月に提供がスタートした「防災サステナ+」もその1つ。マンションの倉庫の容量や住人の数に応じた適正数量の防災備蓄品を提案・納品してくれるほか、期限切れの前に備蓄品を補充してくれる。
マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)
管理組合設立以降(イメージ)
「有事の際に防災備蓄品の使用期限が切れて使用できなかったら、備蓄の意味がありません。実際、管理組合で消費期限や使用期限が切れていて問題になり、慌てて購入されるような事案もあるようです。通知だけでは現地にある備蓄品の期限切れが解消されるわけではないため、自動的に補充されるまでをサービスとしました」(サービスを運営する「つなぐネットコミュニケーションズ」の担当者)
現在は新築マンションを展開するデベロッパーや、既存マンションの管理会社を中心にサービスを提案中。同時に、マンションごとに異なる防災のニーズを聞き取りながらサービス内容をブラッシュアップしている。
ただ、いかに共助が大事といっても、あくまで最低限の「自助」があってこその「共助」。そのため、どこまでを自助とし、どこからを共助として管理組合で備えておくべきかは、住民同士で十分に話し合っておく必要があるという。
「発災当初、消防などの公的支援は被害が大きいところに集中するため、安全性の高いマンションへの支援が遅れる可能性があります。そのため、自分の命を守る『自助』、マンション内で助け合う『共助』が重要になります。『自助』では各住戸での安全対策や水食料等の備蓄をしておくこと、『共助』では救助活動や共用部の安全対策等のため活動ルールや備蓄品を備えておくことが必要です」(同)
<サービス概要>
・防災サステナ+
マンションでニーズの高い防災備蓄品の選定・納品(ハード)に加え、将来にわたる更新期限の管理を、月額利用料金で継続的に利用できる防災サービス。サービスの契約期間中は無料の防災相談サービスが受けられるほか、管理組合専用グループウェアも利用できる。平常時の管理組合による防災活動の活性化に加え、災害時の共助促進も期待できる。
被災した際、何より欠かせないのは食糧や生活必需品。その次に必要になるのは、嗜好品や趣味の品、大切にしているものなど「心を癒やすアイテム」ではないだろうか。
2022年、日本郵便と寺田倉庫は防災サービス「防災ゆうストレージ」の提供を開始した。もしものときのために「必要なもの・大切なもの」を寺田倉庫が管理する安全な倉庫に預けておくことができ、地震や災害が起こった際には日本郵便の流通網で全国の被災地まで運んでくれる。
頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)
サービスの背景には、被災者たちの辛い経験談があるという。
「被災者の方々に話をお伺いすると、何よりも辛かったのは思い出の写真やアルバム、愛着のある品々をなくしてしまったことであると。家をなくすよりも悲しかったとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいました。ふだんは嵩張るようなもの、ちょっと邪魔だなと思っているものでも、いざなくしてしまうと大きな喪失感につながってしまう。そこで、いったん遠くの場所へ思い出を移しておくことで自宅も整理できますし、有事の際の心の拠り所にもなるのではないかと考えました」(サービスを設計した日本郵便の担当者)
それらを預けておくだけでなく、有事の際には避難所まで届けてくれるのも大きい。なかなか自宅に戻れない状況下では、思い出の写真一枚、小さなぬいぐるみ1つが心の拠り所になることもある。
「思い出の品々だけでなく、好きな本や嗜好品もそうだと思います。これらは、命をつなぐために必要なものではありません。でも、避難生活が長引いたときに『いつもの暮らし』を取り戻させてくれます。例えば、避難所や仮設住宅での食事も、お気に入りの食器を使うだけで気持ちは変わる。ちょっとしたことですが、家族の日常を取り戻す第一歩になるのではないかと思います」(同)
「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)
災害の規模によっては、避難生活が長期化することもある。もとの暮らしを取り戻すまで日常をつなぎとめてくれるのは、じつは身の回りにあるちょっとしたアイテムなのかもしれない。
<サービス概要>
・防災ゆうストレージ
月額保管料275円~と、個人でも利用しやすい防災向け宅配型トランクルームサービス。専用ボックスに、思い出の品だけでなく、避難先での生活が長期化した場合に必要となる日用品を入れて発送するだけで「じぶん用支援物資」として預けておくこともできる。衣類や衛生品のほか、公的な支援物資だけでは不足しがちな紙おむつやコンタクトレンズ、使い慣れた生理用品、常備薬、ペット用品など、自宅に備えている防災リュックの「拡大版」のような形で利用することもできる。
大規模な災害が頻発しているとはいえ、常日頃、高いレベルの防災意識を保ち続けることは難しい。重要なのは、普段は特別に意識しなくても、もしもの時に困らない体制をつくっておくこと。そのためにも、手軽に導入できるこれらの防災サービスをうまく活用し、防災力の強化に努めたい。
●関連リンク
・SAIBOU PARK
【iOS】
【Android】
・パーソナル防災サービス「pasobo」
・防災サステナ+
・防災ゆうストレージ
光熱費の値上げが家計の大きな問題になっている昨今。電気の価格は、各地の電力会社によって差があります。2023年6月に国内の大手電力会社7社がいっせいに電気料を値上げしたなか、沖縄県は33.3%と7社の中でも2番目に高い上昇率。冬も暖かい沖縄県内はこれまで「断熱」「省エネ」の認識が低かったのですが、いよいよ無視できない状況になっています。リノベーション会社アーキラボラフィット(RENOBEES)(沖縄県沖縄市)は高断熱性能の賃貸&全館空調マンションに挑んでいますが、「ひと筋縄ではいかない」といいます。
モデルルームとしてリノベーションをした、沖縄市にある2LDK・55平米の中古マンションで沖縄の断熱最新事情のお話をうかがいました。
全館空調システムを1室からリノベーションで実現モデルルームで出迎えてくれたのは、代表取締役の德里政俊(とくざと・まさとし)さんと取締役/プランナーの嘉手苅麗子(かでかる・れいこ)さんです。
代表取締役の德里政俊(とくざと・まさとし)さんと取締役/プランナーの嘉手苅麗子(かでかる・れいこ)さん(写真撮影/島袋常貴)
「ここ沖縄県でも、多くのご家庭が光熱費の高騰に頭を悩ませています。しかし、寒冷地域とは異なり、断熱に目を向けるご家庭は多くありません」。2級建築士資格を持つ徳里さんはそう話します。
たしかに、沖縄県に住んでいる筆者の周りでも「断熱」という言葉を耳にしたことは皆無です。よく耳にするのは、台風時の豪雨や強風による浸水、雨漏り、破損などをいかに防ぐか。沖縄独特の瓦や、石造りの家などがこれに当たります。もしくは、湿度の高い沖縄で、カビを防ぐためにいかに風通しを良くするか、などです。
また、夏の気候が長く続く沖縄では、時に10月、11月になっても冷房つけているご家庭も。当然ながら、その時期は電気代が跳ね上がります。
しかしこうした冷房も、実は断熱住宅のほうが機密性が高く、長く涼しさが続くとされています。
「マンション1室まるごとを全館空調で管理する場合は、通常の家で使う部屋だけにクーラーをつけているよりも光熱費が安くなるケースも多いのです」(嘉手苅さん)
いったいどういうことなのか、さっそく室内を拝見してみましょう。
オープンクローゼットなど沖縄ならではの工夫もモデルルームになったのは沖縄県沖縄市にあるマンション。沖縄は冬でも20度前後で過ごしやすい日もあるのですが、この日は2023年で1番といってもいいほど冷え込んでおり、外気温は15度前後。長袖を一枚はおらないと肌寒さを感じる日でした。
玄関ドアを開けると、まず三和土の先はフローリングが張られ、リビングへ続く廊下はまたドアで仕切られています。
「外気やそこに含まれる湿気がリビングに流れ込まないようにするためです」(德里さん)
室内に一歩足を踏み入れた瞬間、思わず「暖かい!」と声が出てしまうほど。室内は、全館空調で室温22度前後、湿度約60%に保たれています。
全館空調のメリットを最大限引き出すには、気密性の高さがとても大切です。ドアは曇りガラスになっているため、リビングの窓から入る光を通し、玄関は薄暗さを感じられません。
玄関とリビングはすりガラスが入ったドアで仕切られていますが、それでも全館空調の威力を感じます(写真撮影/島袋常貴)
向かって右側には、オープン式のシューズラックが設けられています。
「多湿な沖縄では、引き出しや戸棚の中のものにカビが生えやすいことから、オープン式のシューズラックや洋服掛けなどが好まれます。まれに、ドア付きのクローゼットのドアをわざわざ開け放しておく方もいるほどです」(同)
確かに、個室に設けられたクローゼットもオープン式です。
個室のオープン式クローゼットは、通気性の高さで沖縄の人々に人気(写真撮影/島袋常貴)
全館空調システムは、キッチンの天井裏にはめ込まれています。ケィ・マックインダストリー社の24時間換気システムで、導入費は200万円ほど。リビングを通ったダクトから外気を室温に近づけて給気する仕組みです。
キッチン天井裏に取り付けられた全館空調システム(写真撮影/島袋常貴)
キッチンの天板はステンレス、それ以外の部分はホーロー製(写真撮影/島袋常貴)
全ての居室の室温や湿度、換気などをキッチンで一元管理できます(写真撮影/島袋常貴)
外気を取り入れるビングのダクトは白色にして圧迫感を減らしています(写真撮影/島袋常貴)
寝室の様子。リノベーションして内廊下に面した窓があるため光が入って開放的(写真撮影/島袋常貴)
「エアコンの室外機を1つずつ設置しなくてよいので、意匠的にも優れています」(同)
全館空調の効果を最大限に発揮するために、壁と床にはそれぞれ厚さ2.5cmの断熱材を使用しています。
断熱材が入ることで、外から沖縄の太陽で照り付けられても熱が室内にこもることがなく、冷房で冷やされた室温を維持しやすいのです。また、外部の湿気が内部に侵入しにくという効果もあります。
コンクリートの建物で、このように室内の壁と床に断熱材を入れることは珍しいといいます。
断熱工事の様子。壁をはがして、厚さ2.5cmの断熱材を入れていきます(写真撮影/島袋常貴)
リビングに面した窓も、二重サッシで防音もバッチリ。部屋は大通りに面していて、日中は車通りもありましたが、音はほとんど気になりませんでした。樹脂製の内窓は、室内の木目調のインテリアともマッチしています。
居室は全てフローリング材で統一されていますが、この床材は本州で使われるものと同じ木材です。
開放的なリビングの床もフローリングで、気温と湿度が完全にコントロールされているため快適に過ごすことができます(写真撮影/島袋常貴)
内窓を取り付けて二重窓に。金属性よりも断熱性が高い樹脂製を採用(写真撮影/島袋常貴)
「通常、沖縄では湿気に強いチークやメルバウなどをフローリングに使用します。反ったり膨張したりしにくいのですが、独特の赤みがでてしまうんです。しかし、全館空調であれば湿度も管理されていますから、そういった心配もありません。床材の選択肢が広がると、選択できるインテリアの幅も広がりますよね」(同)
気になる光熱費について、全館空調・断熱の導入前後を比較してみましょう。
アーキラボラフィット(RENOBEES)の試算によると、導入前の年間の光熱費は月額平均約3万7,067円(年間44万4,804円)。導入後は月額平均2万1,615円(年間25万9,378円)と、約42%の削減効果が見込まれるそうです(平均外気温22.9℃で計算)。
一方、断熱工事を含め、かかったリノベーション費用は1300万円。全館空調システムの200万円を合わせて、計1500万円の初期投資が必要です。
今回は自社施工だったため、補助金などを活用することはできませんでした。
一般の方が同じリノベーションに取り組む場合には、国の制度である「住宅省エネ2024キャンペーン」の中の①質の高い住宅ストック形成に関する省エネ住宅への支援(仮称)の「住宅の省エネ改修」に該当する場合は1戸あたり上限20~30万円(30万円は子育て世帯・若者夫婦世帯)。子育て世帯・若者夫婦世帯が既存住宅購入を伴う場合には、1戸あたり上限60万円の補助が受けられます。
窓については、同補助金「先進的窓リノベ2024」の要件に該当した場合は、工事内容に応じて定める額(補助率1/2相当等、上限200万円まで)、また「子育てエコホーム」の要件に該当する場合は、最大20~60万円の補助が受けられます。
また、沖縄市在住の場合は「沖縄市住宅リフォーム支援事業補助金」の中の「バリアフリー・省エネ等改修工事」で施工金額のうち、認められれば最大25%の補助金を受け取ることができる可能性があります。
気密性の高さは沖縄で受け入れられるか沖縄ではまだ目新しい全館空調・断熱リノベマンション。ほこりや排気ガスの侵入や、騒音なども防ぐことができ一石二鳥なのですが、沖縄の文化になじむか否かはこれから検証が必要です。
沖縄では風水を重視する傾向などから、ドアや窓を開け、通気性がよいことを好む人々も少なくありません。夏場であっても玄関や窓を開け放しているご家庭も見受けられるのですが、全館空調を取り入れた物件で同じことをしてしまうと、空調が効かなくなるだけでなく、外気からの湿度の影響を受けてフローリングや家具などにカビやたわみなどの影響が出てくることも考えられます。
一方で、中国本土の一部や香港などでは、通年でエアコンをかけ、気密性が高い居室を好む地域もあります。これはSARSや大気汚染などの影響で、頻繁に換気で外気を取り入れるよりも、同じ空気を、フィルターを通して循環させたほうが清潔である、という考え方があるためです。沖縄の物件は外国人にも人気。全館空調・断熱の家はこうした地域出身の外国人には好まれるかもしれません。
「弊社でも初めての試みですが、今後も上がり続けるであろう光熱費に対する、1つの提案になればと思っています」(德里さん)
新たな試みは沖縄の人々に受け入れられるのか、注目していきたいと思います。
●取材協力
アーキラボラフィット(RENOBEES)
光熱費の値上げが家計の大きな問題になっている昨今。電気の価格は、各地の電力会社によって差があります。2023年6月に国内の大手電力会社7社がいっせいに電気料を値上げしたなか、沖縄県は33.3%と7社の中でも2番目に高い上昇率。冬も暖かい沖縄県内はこれまで「断熱」「省エネ」の認識が低かったのですが、いよいよ無視できない状況になっています。リノベーション会社アーキラボラフィット(RENOBEES)(沖縄県沖縄市)は高断熱性能の賃貸&全館空調マンションに挑んでいますが、「ひと筋縄ではいかない」といいます。
モデルルームとしてリノベーションをした、沖縄市にある2LDK・55平米の中古マンションで沖縄の断熱最新事情のお話をうかがいました。
全館空調システムを1室からリノベーションで実現モデルルームで出迎えてくれたのは、代表取締役の德里政俊(とくざと・まさとし)さんと取締役/プランナーの嘉手苅麗子(かでから・れいこ)さんです。
代表取締役の德里政俊(とくざと・まさとし)さんと取締役/プランナーの嘉手苅麗子(かでかる・れいこ)さん(写真撮影/島袋常貴)
「ここ沖縄県でも、多くのご家庭が光熱費の高騰に頭を悩ませています。しかし、寒冷地域とは異なり、断熱に目を向けるご家庭は多くありません」。2級建築士資格を持つ徳里さんはそう話します。
たしかに、沖縄県に住んでいる筆者の周りでも「断熱」という言葉を耳にしたことは皆無です。よく耳にするのは、台風時の豪雨や強風による浸水、雨漏り、破損などをいかに防ぐか。沖縄独特の瓦や、石造りの家などがこれに当たります。もしくは、湿度の高い沖縄で、カビを防ぐためにいかに風通しを良くするか、などです。
また、夏の気候が長く続く沖縄では、時に10月、11月になっても冷房つけているご家庭も。当然ながら、その時期は電気代が跳ね上がります。
しかしこうした冷房も、実は断熱住宅のほうが機密性が高く、長く涼しさが続くとされています。
「マンション1室まるごとを全館空調で管理する場合は、通常の家で使う部屋だけにクーラーをつけているよりも光熱費が安くなるケースも多いのです」(嘉手苅さん)
いったいどういうことなのか、さっそく室内を拝見してみましょう。
オープンクローゼットなど沖縄ならではの工夫もモデルルームになったのは沖縄県沖縄市にあるマンション。沖縄は冬でも20度前後で過ごしやすい日もあるのですが、この日は2023年で1番といってもいいほど冷え込んでおり、外気温は15度前後。長袖を一枚はおらないと肌寒さを感じる日でした。
玄関ドアを開けると、まず三和土の先はフローリングが張られ、リビングへ続く廊下はまたドアで仕切られています。
「外気やそこに含まれる湿気がリビングに流れ込まないようにするためです」(德里さん)
室内に一歩足を踏み入れた瞬間、思わず「暖かい!」と声が出てしまうほど。室内は、全館空調で室温22度前後、湿度約60%に保たれています。
全館空調のメリットを最大限引き出すには、気密性の高さがとても大切です。ドアは曇りガラスになっているため、リビングの窓から入る光を通し、玄関は薄暗さを感じられません。
玄関とリビングはすりガラスが入ったドアで仕切られていますが、それでも全館空調の威力を感じます(写真撮影/島袋常貴)
向かって右側には、オープン式のシューズラックが設けられています。
「多湿な沖縄では、引き出しや戸棚の中のものにカビが生えやすいことから、オープン式のシューズラックや洋服掛けなどが好まれます。まれに、ドア付きのクローゼットのドアをわざわざ開け放しておく方もいるほどです」(同)
確かに、個室に設けられたクローゼットもオープン式です。
個室のオープン式クローゼットは、通気性の高さで沖縄の人々に人気(写真撮影/島袋常貴)
全館空調システムは、キッチンの天井裏にはめ込まれています。ケィ・マックインダストリー社の24時間換気システムで、導入費は200万円ほど。リビングを通ったダクトから外気を室温に近づけて給気する仕組みです。
キッチン天井裏に取り付けられた全館空調システム(写真撮影/島袋常貴)
キッチンの天板はステンレス、それ以外の部分はホーロー製(写真撮影/島袋常貴)
全ての居室の室温や湿度、換気などをキッチンで一元管理できます(写真撮影/島袋常貴)
外気を取り入れるビングのダクトは白色にして圧迫感を減らしています(写真撮影/島袋常貴)
寝室の様子。リノベーションして内廊下に面した窓があるため光が入って開放的(写真撮影/島袋常貴)
「エアコンの室外機を1つずつ設置しなくてよいので、意匠的にも優れています」(同)
全館空調の効果を最大限に発揮するために、壁と床にはそれぞれ厚さ2.5cmの断熱材を使用しています。
断熱材が入ることで、外から沖縄の太陽で照り付けられても熱が室内にこもることがなく、冷房で冷やされた室温を維持しやすいのです。また、外部の湿気が内部に侵入しにくという効果もあります。
コンクリートの建物で、このように室内の壁と床に断熱材を入れることは珍しいといいます。
断熱工事の様子。壁をはがして、厚さ2.5cmの断熱材を入れていきます(写真撮影/島袋常貴)
リビングに面した窓も、二重サッシで防音もバッチリ。部屋は大通りに面していて、日中は車通りもありましたが、音はほとんど気になりませんでした。樹脂製の内窓は、室内の木目調のインテリアともマッチしています。
居室は全てフローリング材で統一されていますが、この床材は本州で使われるものと同じ木材です。
開放的なリビングの床もフローリングで、気温と湿度が完全にコントロールされているため快適に過ごすことができます(写真撮影/島袋常貴)
内窓を取り付けて二重窓に。金属性よりも断熱性が高い樹脂製を採用(写真撮影/島袋常貴)
「通常、沖縄では湿気に強いチークやメルバウなどをフローリングに使用します。反ったり膨張したりしにくいのですが、独特の赤みがでてしまうんです。しかし、全館空調であれば湿度も管理されていますから、そういった心配もありません。床材の選択肢が広がると、選択できるインテリアの幅も広がりますよね」(同)
気になる光熱費について、全館空調・断熱の導入前後を比較してみましょう。
アーキラボラフィット(RENOBEES)の試算によると、導入前の年間の光熱費は月額平均約3万7,067円(年間44万4,804円)。導入後は月額平均2万1,615円(年間25万9,378円)と、約42%の削減効果が見込まれるそうです(平均外気温22.9℃で計算)。
一方、断熱工事を含め、かかったリノベーション費用は1300万円。全館空調システムの200万円を合わせて、計1500万円の初期投資が必要です。
今回は自社施工だったため、補助金などを活用することはできませんでした。
一般の方が同じリノベーションに取り組む場合には、国の制度である「住宅省エネ2024キャンペーン」の中の①質の高い住宅ストック形成に関する省エネ住宅への支援(仮称)の「住宅の省エネ改修」に該当する場合は1戸あたり上限20~30万円(30万円は子育て世帯・若者夫婦世帯)。子育て世帯・若者夫婦世帯が既存住宅購入を伴う場合には、1戸あたり上限60万円の補助が受けられます。
窓については、同補助金「先進的窓リノベ2024」の要件に該当した場合は、工事内容に応じて定める額(補助率1/2相当等、上限200万円まで)、また「子育てエコホーム」の要件に該当する場合は、最大20~60万円の補助が受けられます。
また、沖縄市在住の場合は「沖縄市住宅リフォーム支援事業補助金」の中の「バリアフリー・省エネ等改修工事」で施工金額のうち、最大25%の補助金を受け取ることができる可能性があります。
気密性の高さは沖縄で受け入れられるか沖縄ではまだ目新しい全館空調・断熱リノベマンション。ほこりや排気ガスの侵入や、騒音なども防ぐことができ一石二鳥なのですが、沖縄の文化になじむか否かはこれから検証が必要です。
沖縄では風水を重視する傾向などから、ドアや窓を開け、通気性がよいことを好む人々も少なくありません。夏場であっても玄関や窓を開け放しているご家庭も見受けられるのですが、全館空調を取り入れた物件で同じことをしてしまうと、空調が効かなくなるだけでなく、外気からの湿度の影響を受けてフローリングや家具などにカビやたわみなどの影響が出てくることも考えられます。
一方で、中国本土の一部や香港などでは、通年でエアコンをかけ、気密性が高い居室を好む地域もあります。これはSARSや大気汚染などの影響で、頻繁に換気で外気を取り入れるよりも、同じ空気を、フィルターを通して循環させたほうが清潔である、という考え方があるためです。沖縄の物件は外国人にも人気。全館空調・断熱の家はこうした地域出身の外国人には好まれるかもしれません。
「弊社でも初めての試みですが、今後も上がり続けるであろう光熱費に対する、1つの提案になればと思っています」(德里さん)
新たな試みは沖縄の人々に受け入れられるのか、注目していきたいと思います。
●取材協力
アーキラボフィット(RENOBEES)
リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳〜49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024年関西版」を発表した。
どのような街がランクインしたか、結果と併せて街の魅力を探ってみた。
1位は大都心部「梅田」、2位は阪神間の人気の街「西宮北口」、3位は神戸市の玄関口「神戸三宮」だった。
トップ3は2022年から3年連続で同じ位置をキープしたが、今年際立ったのが1位の「梅田」の強さだ。2位の「西宮北口」と約300点もの差をつけており、「得点がジャンプアップした街ランキング」でも昨年から100点以上も得点を伸ばして1位に。
「梅田」の人気の高まりがはっきりと結果に出た。
「梅田」の人気の背景には、西日本最大のターミナル「JR大阪駅」北側の再開発「うめきた」による街の発展がある。「グランフロント大阪」が誕生した1期開発に続いて「うめきた2期(グラングリーン大阪)」が進行しており、今年9月には一部先行街開きをする予定だ。
グランフロント大阪(写真/PIXTA)
中でも特に期待が寄せられるのが、大阪駅と直結する都市公園「うめきた公園」の誕生だろう。関西最大のビッグターミナルであるJR大阪駅前に、広大な芝生広場や、美しい曲線を描く大屋根のイベントスペースを設けた巨大公園が姿を現す。周辺にはホテルやオフィスビル、タワーマンションなども続々開業するという、心躍らされる都市プランだ。
住みたい理由としてあげられる街の魅力は、働く場にとどまらない街のにぎわい、文化娯楽施設の充実などだ。
「梅田」を「西宮北口」と年代別で比較すると、20代の支持率が突出して高いのもうなずける。
ビジネスや商業のイメージが強い「梅田」だが、うめきたエリア再開発の波及効果や福島方面や中津方面の再開発により住宅供給が増加。直近10年間でも大阪市北区・福島区で1万5000戸以上の分譲マンションが供給された。
近年、若い人の間で住宅を資産価値として見る層が増えており、住むイメージが希薄だった梅田エリアも、都心居住への憧れの強さに後押しされ、“働き、暮らす街”として魅力を増していると考えられる。
同時にアンケートをとった「穴場だと思う街(駅)」でも「梅田」が昨年の2位から1位に上昇した。
「梅田」と「穴場」のイメージがマッチしない印象だが、ハイブランドの店舗から昔ながらの飲食街まで多様な顔があることが、“住む街としても見逃せない”という穴場感につながっているのかも。
ほかにも得点を上げた街を見てみたい。
「江坂」は昨年の11位から8位にランクインした(310点→342点)。
「江坂」は大阪中心部のオフィス街に直結する大阪メトロ御堂筋線にあり、新幹線停車駅「新大阪」や「梅田」「淀屋橋」に乗り換えなしで行ける。
また、阪急京都線「烏丸」は昨年の15位から12位に(238点→270点)、「本町」は18位から13位(216点→256点)に大きく順位を上げている。
それぞれ京都市、大阪市の中心エリアにあり、商業施設やオフィスが集まる華やかな街だ。
これらの結果を見ても、都心への交通アクセスの良さや商業施設の充実など、利便性の高い街に人気が集まっていることがわかる。
アンケートでは「住みたい自治体」についても尋ねた。
1位は「西宮市」。以下「大阪市北区」、「明石市」、「大阪市天王寺区」、「大阪市中央区」と続いた。
「住みたい街ランキング」でトップ2だった街の自治体「西宮市」「大阪市北区」がやはり1位、2位を獲得した。
1位から5位までが昨年と同じ順位だが、昨年との得点差を見ると「大阪市北区」が130点(997点→1127点)と、他の自治体に比べて突出して大きい。
一方、手厚い子育て施策で注目を集める「明石市」は今年も3位をキープし、依然として高い支持を得ている。
「梅田」が利便性や都心への憧れ、資産価値の高さを背景にしているのに対し、「明石市」は市民目線のサービスで注目を集めた。
「明石市」の街の魅力項目には「子育てに関する自治体のサービスが充実している」だけでなく、「介護や高齢者向けのサービスが充実している」「公共施設が充実している(図書館、コミュニティセンター、公民館など)」など、子育て以外の自治体の施策や生活環境の充実も挙げられる。
明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)
明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)
年代・ライフステージでは、夫婦+子ども世帯の支持(2位)だけでなく、夫婦のみ世帯(3位)、女性20代・30代(2位)、男性20代・30代(5位)と子育てファミリー以外のさまざまな層からも高く注目されている。
また、「メディアによく取り上げられて有名」という声も多く、自治体の発信力も地元以外でも住みたいと思う人が増える要因になっているようだ。
■関連記事:
子育て支援の“東西横綱”千葉県流山市と兵庫県明石市、「住みたい街ランキング」大躍進の裏にスゴい取り組み
本町の風景(写真/PIXTA)
「本町」は住みたい街ランキングで昨年の18位から13位へとランクアップ。得点ジャンプアップした街ランキングでも40点も得点を伸ばし3位となった。
「本町」のある「大阪市中央区」は自治体総合ランキングで6位となり、特に男性40代、シングル男性、シングル女性では3位の高順位に。
街の魅力として「魅力的な働く場」や「雰囲気やセンスのいい飲食店やお店」などがあり、最先端のおしゃれな街という印象で捉えられていることが分かる。
大阪市中央区は2府4県の中でも人口増加率、15歳未満の人口増加率がともにナンバー1。小学校の児童数も10年前の3000人未満から4000人に届きそうな数に。本町駅周辺は中央区・西区ともに小型の分譲マンション供給が続いており、この5年間で中央区だけで約6000戸以上増えたことが人口増の要因となっている。
1975年の万博開催年に建てられた「船場センタービル」はコロナ禍の中、2021年から土日の営業を開始。地域住民が増えていることで飲食店などがにぎわいを見せている。
JR尼崎駅前の様子(写真/PIXTA)
「尼崎市」は「住みたい自治体」総合順位で過去最高位の19位にランクイン。特にシングル男性で8位に食い込み、夫婦のみの世帯も16位と高支持を得た。ファミリーよりもシングルやカップルからの支持が厚い傾向が見られる。
JR「尼崎」駅は「住みたい街ランキング」では31位だが、「得点がジャンプアップした街」では9位に躍進を遂げた。
JR尼崎駅は大阪駅まで新快速で1駅6分、東海道本線、福知山線、東西線が乗り入れ、交通利便性の高さでは関西屈指。その割に家賃相場が割安なのも魅力のひとつといえる。
住みたい理由として「コストパフォーマンスが良い」「物価が安い」「電車やバスでさまざまな場所に行きやすい」「街に賑わいがある」など、交通利便性や物価といった実質的な側面が評価されている。
尼崎市全体では高齢化が進むものの再開発で美しく整備されたJR尼崎駅周辺を中心にマンションの供給が続き、周辺エリアからの流入も多い。
子ども向け施設として最近注目を集めているのが、2022年に「ボートレース尼崎」場内にオープンした関西初のキッズパーク「モーヴィあまがさき」。ボーネルンド社や行政が共同で子ども向けのイベントを開催しており、なかなか予約がとれないほどの人気だという。
市も子育て支援に力を入れており、子どものうちから健康に関心を持つよう11歳と14歳を対象に「尼っこ検診」を実施。定住・転入促進情報発信サイト「AMANISM(アマニスム)」やSNSを使った情報発信など、独自の取り組みで住みやすさをアピールしている。
2024年の「住みたい街ランキング」では、「梅田」が圧倒的に強かった。得点ジャンプアップランキングでも1位となり、人気の高まりは現在進行形だ。
また、「尼崎」や「本町」など、梅田から10分圏内の街も躍進が目立つ。
コロナ禍を抜け出した今、関西圏では都心の利便性と華やぎが一層求められるようになったと思える。
一方、「明石市」のように、市民目線の施策や地道な街づくりにより人口を増やしている自治体もある。
うめきたエリアの再開発などで都心部が今後さらに整備されていく中、人々が「住みたい」と思う街がどう変化していくか、注目していきたい。
●関連サイト
・SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 関西版」プレスリリース
リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳〜49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024年関西版」を発表した。
どのような街がランクインしたか、結果と併せて街の魅力を探ってみた。
1位は大都心部「梅田」、2位は阪神間の人気の街「西宮北口」、3位は神戸市の玄関口「神戸三宮」だった。
トップ3は2022年から3年連続で同じ位置をキープしたが、今年際立ったのが1位の「梅田」の強さだ。2位の「西宮北口」と約300点もの差をつけており、「得点がジャンプアップした街ランキング」でも昨年から100点以上も得点を伸ばして1位に。
「梅田」の人気の高まりがはっきりと結果に出た。
「梅田」の人気の背景には、西日本最大のターミナル「JR大阪駅」北側の再開発「うめきた」による街の発展がある。「グランフロント大阪」が誕生した1期開発に続いて「うめきた2期(グラングリーン大阪)」が進行しており、今年9月には一部先行街開きをする予定だ。
グランフロント大阪(写真/PIXTA)
中でも特に期待が寄せられるのが、大阪駅と直結する都市公園「うめきた公園」の誕生だろう。関西最大のビッグターミナルであるJR大阪駅前に、広大な芝生広場や、美しい曲線を描く大屋根のイベントスペースを設けた巨大公園が姿を現す。周辺にはホテルやオフィスビル、タワーマンションなども続々開業するという、心躍らされる都市プランだ。
住みたい理由としてあげられる街の魅力は、働く場にとどまらない街のにぎわい、文化娯楽施設の充実などだ。
「梅田」を「西宮北口」と年代別で比較すると、20代の支持率が突出して高いのもうなずける。
ビジネスや商業のイメージが強い「梅田」だが、うめきたエリア再開発の波及効果や福島方面や中津方面の再開発により住宅供給が増加。直近10年間でも大阪市北区・福島区で1万5000戸以上の分譲マンションが供給された。
近年、若い人の間で住宅を資産価値として見る層が増えており、住むイメージが希薄だった梅田エリアも、都心居住への憧れの強さに後押しされ、“働き、暮らす街”として魅力を増していると考えられる。
同時にアンケートをとった「穴場だと思う街(駅)」でも「梅田」が昨年の2位から1位に上昇した。
「梅田」と「穴場」のイメージがマッチしない印象だが、ハイブランドの店舗から昔ながらの飲食街まで多様な顔があることが、“住む街としても見逃せない”という穴場感につながっているのかも。
ほかにも得点を上げた街を見てみたい。
「江坂」は昨年の11位から8位にランクインした(310点→342点)。
「江坂」は大阪中心部のオフィス街に直結する大阪メトロ御堂筋線にあり、新幹線停車駅「新大阪」や「梅田」「淀屋橋」に乗り換えなしで行ける。
また、阪急京都線「烏丸」は昨年の15位から12位に(238点→270点)、「本町」は18位から13位(216点→256点)に大きく順位を上げている。
それぞれ京都市、大阪市の中心エリアにあり、商業施設やオフィスが集まる華やかな街だ。
これらの結果を見ても、都心への交通アクセスの良さや商業施設の充実など、利便性の高い街に人気が集まっていることがわかる。
アンケートでは「住みたい自治体」についても尋ねた。
1位は「西宮市」。以下「大阪市北区」、「明石市」、「大阪市天王寺区」、「大阪市中央区」と続いた。
「住みたい街ランキング」でトップ2だった街の自治体「西宮市」「大阪市北区」がやはり1位、2位を獲得した。
1位から5位までが昨年と同じ順位だが、昨年との得点差を見ると「大阪市北区」が130点(997点→1127点)と、他の自治体に比べて突出して大きい。
一方、手厚い子育て施策で注目を集める「明石市」は今年も3位をキープし、依然として高い支持を得ている。
「梅田」が利便性や都心への憧れ、資産価値の高さを背景にしているのに対し、「明石市」は市民目線のサービスで注目を集めた。
「明石市」の街の魅力項目には「子育てに関する自治体のサービスが充実している」だけでなく、「介護や高齢者向けのサービスが充実している」「公共施設が充実している(図書館、コミュニティセンター、公民館など)」など、子育て以外の自治体の施策や生活環境の充実も挙げられる。
明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)
明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)
年代・ライフステージでは、夫婦+子ども世帯の支持(2位)だけでなく、夫婦のみ世帯(3位)、女性20代・30代(2位)、男性20代・30代(5位)と子育てファミリー以外のさまざまな層からも高く注目されている。
また、「メディアによく取り上げられて有名」という声も多く、自治体の発信力も地元以外でも住みたいと思う人が増える要因になっているようだ。
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本町の風景(写真/PIXTA)
「本町」は住みたい街ランキングで昨年の18位から13位へとランクアップ。得点ジャンプアップした街ランキングでも40点も得点を伸ばし3位となった。
「本町」のある「大阪市中央区」は自治体総合ランキングで6位となり、特に男性40代、シングル男性、シングル女性では3位の高順位に。
街の魅力として「魅力的な働く場」や「雰囲気やセンスのいい飲食店やお店」などがあり、最先端のおしゃれな街という印象で捉えられていることが分かる。
大阪市中央区は2府4県の中でも人口増加率、15歳未満の人口増加率がともにナンバー1。小学校の児童数も10年前の3000人未満から4000人に届きそうな数に。本町駅周辺は中央区・西区ともに小型の分譲マンション供給が続いており、この5年間で中央区だけで約6000戸以上増えたことが人口増の要因となっている。
1975年の万博開催年に建てられた「船場センタービル」はコロナ禍の中、2021年から土日の営業を開始。地域住民が増えていることで飲食店などがにぎわいを見せている。
JR尼崎駅前の様子(写真/PIXTA)
「尼崎市」は「住みたい自治体」総合順位で過去最高位の19位にランクイン。特にシングル男性で8位に食い込み、夫婦のみの世帯も16位と高支持を得た。ファミリーよりもシングルやカップルからの支持が厚い傾向が見られる。
JR「尼崎」駅は「住みたい街ランキング」では31位だが、「得点がジャンプアップした街」では9位に躍進を遂げた。
JR尼崎駅は大阪駅まで新快速で1駅6分、東海道本線、福知山線、東西線が乗り入れ、交通利便性の高さでは関西屈指。その割に家賃相場が割安なのも魅力のひとつといえる。
住みたい理由として「コストパフォーマンスが良い」「物価が安い」「電車やバスでさまざまな場所に行きやすい」「街に賑わいがある」など、交通利便性や物価といった実質的な側面が評価されている。
尼崎市全体では高齢化が進むものの再開発で美しく整備されたJR尼崎駅周辺を中心にマンションの供給が続き、周辺エリアからの流入も多い。
子ども向け施設として最近注目を集めているのが、2022年に「ボートレース尼崎」場内にオープンした関西初のキッズパーク「モーヴィあまがさき」。ボーネルンド社や行政が共同で子ども向けのイベントを開催しており、なかなか予約がとれないほどの人気だという。
市も子育て支援に力を入れており、子どものうちから健康に関心を持つよう11歳と14歳を対象に「尼っこ検診」を実施。定住・転入促進情報発信サイト「AMANISM(アマニスム)」やSNSを使った情報発信など、独自の取り組みで住みやすさをアピールしている。
2024年の「住みたい街ランキング」では、「梅田」が圧倒的に強かった。得点ジャンプアップランキングでも1位となり、人気の高まりは現在進行形だ。
また、「尼崎」や「本町」など、梅田から10分圏内の街も躍進が目立つ。
コロナ禍を抜け出した今、関西圏では都心の利便性と華やぎが一層求められるようになったと思える。
一方、「明石市」のように、市民目線の施策や地道な街づくりにより人口を増やしている自治体もある。
うめきたエリアの再開発などで都心部が今後さらに整備されていく中、人々が「住みたい」と思う街がどう変化していくか、注目していきたい。
●関連サイト
・SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 関西版」プレスリリース
日本には、病気やケガなどで脚部や上肢・胴体の一部を使わずに生活する方が約193万1000人(2016年 厚生労働省 生活のしづらさなどに関する調査)いますが、生活にはどんな不便があり、住宅にはどんなことが求められるのでしょう。マンションをリノベーションし、自分たちらしい住まいを手に入れた30代の夫妻の事例を通して、「バリアフリー住宅×リノベーション」の可能性に迫ります。
「賃貸住宅は自分にとって不便だらけ」。Nさん夫妻がリノベーションを決めた理由高校時代に事故にあい、車椅子生活になったNさんは、これまで進学・就職・結婚と人生の節目節目で引越しをし、4つの賃貸住宅に住んできました。そこでは、たくさんの不便があったと言います。
「とくに使いにくかったのは水まわりです。洗面やキッチンはシンク下収納棚が設置されているものがほとんどで、車椅子を横づけして体を捻りながら使っていました。車椅子で動き回るのに十分な広さがないため、トイレや浴室のドアは物件によってはオーナーに断りを入れて取り外す必要がありましたし、床との段差が大きい浴槽に関しては、横に台を置けば入浴できる物件はあったものの、その対策が取れず、湯船に漬かるのを諦めていた物件もありました」(Nさん)
Nさんご夫妻(写真撮影/桑田瑞穂)
2020年に結婚をし、ひとり暮らし用のワンルームから妻と2人で住める部屋に越してきましたが、車椅子を乗り入れる分、一般的な住宅だと玄関もキッチンも洗面室も窮屈。かといって設備や広さが理想的な物件は、手が出ないほど家賃が高額でした。
賃貸住宅では限界があるということを痛感した2人は、持ち家をリノベーションした方が金銭的にも得策だと考え、自分たちらしいバリアフリー住宅をつくることを決意します。
さっそく、物件探しをはじめたNさんご夫妻ですが、そこでは大前提の条件がありました。都心の企業で会社員をしているNさんは、コロナ禍以降、月半分がリモートワークになったものの、残りはマイカー通勤。プライベートでは、電車で出かけることもあります。部屋をスケルトンにした状態からリノベーションすれば、中身はいくらでも変えられますが、周辺環境はそうはいきません。それだけに、「駅から物件までの道筋がフラットであること」「車椅子で乗り降りができる『平置き駐車場』があること」「建物のエントランスがスロープつきであること」が不可欠。ようやく3LDK・約87平米のマンションに出合います。
リノベ会社は「細かい要望にも寄り添ってくれる」と感じたゼロリノベに依頼。事前に希望を書き出して共有したほか、打ち合わせでは、設計担当の前川香織さんに車椅子で日常の動作を再現して見せ、2人にとっての暮らしやすさを確実に落とし込んでもらえるようにしたと言います。
N邸の平面図(画像提供/ゼロリノベ)
2人にとっての快適な形を追求し、ストレスのない生活を実現そうして2022年4月に完成したN邸。1歩中に入ってまず気がつくのは玄関です。ここでは上がり框(あがりかまち)のほかに、車椅子用のスロープを設置。妻とNさんとで二手に出入口を分けることで、2人が一緒に外出・帰宅をしたときに生じがちな混雑を避けられるようにしました。
以前は車椅子に占領されていた玄関が、開放的な空間に。妻は右手の上がり框を、Nさんは左手のスロープを使います(写真撮影/桑田瑞穂)
玄関には傷がつきにくい石材調のコンポジションタイルを使用。Nさんは車椅子を屋外用と室内用とで2台、所有していますが、専用のスペースがあるためラクに乗りかえられます(写真撮影/桑田瑞穂)
玄関隣には、物干し場を兼ねたウォークインクローゼット。そのまま洗濯機置き場・脱衣室・洗面室・廊下・LDKへと抜けられるため、生活動線としてはもちろん、家事動線としてもスムーズです。
左の白いカーテンの奥がウォークインクローゼット。ぐるりと洗面室に回り、ブルーの壁の出入口から廊下に抜けられます(写真撮影/桑田瑞穂)
ウォークインクローゼットは物干し場を兼ねており、隣の部屋に洗濯機があるため、サッと洗濯物を干し、ハンガーに掛けたまま収納することが可能。バーの高さも計算されていて、上は妻、下はNさんが使用中(写真撮影/桑田瑞穂)
「どの部屋も車椅子が通れる幅でつくってもらっていますが、とりわけ車椅子でUターンや旋回できることが大切でした。そのため、キッチンと洗面室のカウンターは、下部に収納をつくらず開放しています」(Nさん)
カウンター下が開放されたキッチン。料理は主に妻が、洗いものはNさんが担当。換気扇のスイッチはコンロ下に設置しています(写真撮影/桑田瑞穂)
洗面室は幅・奥行きともに余裕を持たせ、鏡も大きくして2人が並んで使えるように。カウンター下が開放されているので、膝を入れてシンクに正面から身体を近づけたりUターンしたり、のびのびと使えます(写真撮影/桑田瑞穂)
さらなるポイントは、扉をなくしたことにあると言います。
「賃貸住宅では、戸棚や部屋に扉があることも問題でした。横にスライドさせる引き戸であればよいですが、ドアだと押したり引いたり、体を屈ませたり。無駄な動きが出るうえ、開く側のスペースにゆとりが必要です。そこでトイレと浴室以外は扉をなくしてオープンに。妨げが解消され、一気にストレスがなくなりました」(Nさん)
N邸は扉がない分、行き来がスムーズ。どこにいても互いの気配を感じられます。げた箱は、以前は扉があるため取り出しにくく、履く靴が限定されていたそう。「扉をなくした分、コストが浮きましたし、しまい込むと持っていることを忘れがちですが、そうはなりません。片づける動機にもなります(笑)」(Nさん)(写真撮影/桑田瑞穂)
廊下沿いには2人で使えるワークスペースが。ここでも机の下を開放しているため、アクセスがよくスムーズに方向転換ができます(写真撮影/桑田瑞穂)
間仕切り壁を一枚だけ立てただけの、開放感あふれる寝室。あえて日の当たる場所に配置し、生活に溶け込ませました(写真撮影/桑田瑞穂)
収納はすべてオープン棚にしているN邸ですが、これは妻にとってもメリット。食器などが取り出しやすいうえ、飾って見せる楽しみが増えたとか。ほかにも車椅子のための仕様が、妻にも役立つシーンがあると言います。
「わが家では車椅子でも高さ約37cmの窓からバルコニーに出られるよう、ゆるく勾配させたスロープを、玄関から窓辺まで4.5mの長さで設置しています。これがダイニング脇まで伸びているので、重い食材を台車に乗せて帰ってきたときに、すぐに冷蔵庫にしまえて便利。友人が親子で遊びにきたときは、子どもたちの格好の遊び場になっています」(Nさんの妻)
有孔ボードで間仕切りしたスロープは、小さな部屋のようなこもり感。黒板塗装はご夫妻によるDIY(写真撮影/桑田瑞穂)
スロープはNさんが登りやすい角度でつくられたもの。窓の高さに合わせて設置しているため、気軽にバルコニーに出られます(写真撮影/桑田瑞穂)
トイレは実際に設計者に車椅子で動き回る姿を見せて、四方のサイズを緻密に計算。手すりも使いやすい位置を確かめてから取りつけました(写真撮影/桑田瑞穂)
Nさんが段差のある浴槽に入るときは台が必要ですが、市販品は高額。設計者にコスト面でも見合う「TOTOリモデルWYシリーズ」のベンチつきユニットバスを見つけてもらって解決しました(写真撮影/桑田瑞穂)
デザインが取り残された家にはしたくないという2人の強い思い「一般的に福祉用具は、機能性を重視するあまりに見た目が二の次になっているケースが少なくないのではないでしょうか。バリアフリーをうたった賃貸住宅にも、実は同じような物足りなさを感じていました。私たちがリフォームではなく“リノベーション”を選んだのは、住まいを丸ごと好きなテイストにできると思ったのも理由です」(Nさんの妻)
もともと躯体(くたい)に埋め込まれていたインサート(ボルト用の穴)を利用し、天井にルーバーを設置。レールを取りつけ、照明をつるしたりカーテンをつけたりできるようにしました。妻の手づくりブーケが調和しています(写真撮影/桑田瑞穂)
バリアフリー住宅としての実用性を備えているN邸ですが、主張している感じがしないのは、ところどころで採用した趣ある素材や色づかいが、豊かな表情をもたらしているから。デザインにもこだわったことで、極上の居心地を手に入れています。
カフェに行くより、家が一番。リノベーションという選択に大満足以前の住まいではくつろげるスペースが限られており、よく2人でカフェに出かけていたというNさんご夫妻。しかし今では、家が一番、落ち着ける場所。何も予定のない休日に、のんびり起きて遅めの朝食を取ったり、ソファでまったりコーヒーを飲んだりするのが至福の時間です。
冷蔵庫は上部のものを取りやすい「AQUA」シリーズの低めのタイプを購入。ただそれだけだと収納量が足りないため、横に冷凍庫を並べています(写真撮影/桑田瑞穂)
「“バリアフリー住宅”というと、大まかな捉えられ方をされがちなのですが、需要は人によって千差万別。せっかくバリアフリーの賃貸住宅を見つけても合わなかったり、リフォームしてもかゆいところまでは手が届かなかったり。それだけに、リノベーションに大満足。私たちの例が必要としている人に届いたら、こんなにうれしいことはありません」(Nさんご夫妻)
Nさんご夫妻が家づくりでもうひとつ課題にしたのが、住まいに可変性を持たせること。寝室はベッドを3台まで置ける広さにし、リビングは将来、一部をキッズスペースにしたり、客室にしたりできるようにしました。
形を変えながら長く住み続けられる住まいで、これからも家族の物語が紡がれていきます。
大きなバルコニーがあったのも、この物件を購入した理由のひとつ。普段づかいができるよう窓辺にウッドデッキを配置。晴れた日は2人で食事をしたりお酒を飲んだりして楽しみます(写真撮影/桑田瑞穂)
●取材協力
ゼロリノベ