
23万3,200円(税込) / 43.09平米
各線「渋谷」駅 徒歩11分
奥渋エリアのルーフバルコニー付き物件に空きが出たと聞いて、急ぎ足で下見に行ってきました。
扉を開けたらびっくり、思いっきり原状回復工事中だったのです。管理会社よ、なぜ一言教えてくれなかったのだ…。
この立地で、このバルコニーで、視界の抜けた気持ち良い部屋。工事が終わるのを待っ ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
従来、家はハウスメーカーや工務店、建築士が設計し、施工事業者が建てるものだったのが、今はそこに住まう人自身が家をデザインし、施工まで手がけられる時代になりました。そんな、新しい住まいづくりの仕組みを世に打ち出したのは、テクノロジーの力で誰もが作り手になれる世界を実現する、を掲げた建築系スタートアップ「VUILD株式会社」。同社が手がけるデジタル家づくりサービス「NESTING」によって、建築デザインや施工など専門家の領域だったものが、そうでない人にも開放され、自ら住まいの作り手になることができます。今回は、その記念すべき「NESTING」の1棟目を建てたお施主さんと、「VUILD
株式会社」の代表・秋吉浩気さん、「NESTING」事業責任者の森勇貴さんに、サービスの背景や「NESTING」で建てる価値など、話をうかがいました。
「NESTING」の家・外観(画像提供/VUILD株式会社)
施主自らデザインできて、施工もできる。そう聞くと、「DIYでつくった家」といったイメージを抱く人もいるかもしれません。しかし、「NESTING」は「DIY」の要素を含んでいながらも、「DIY」のクオリティを大きく超えるデザインと性能が光る家。日本の風土に根差した自然に溶け合う佇まいで、「HEAT20 G2」(断熱等級6)という最高レベルの断熱性能を誇ります。
「NESTING」の家・内観(画像提供/VUILD株式会社)
そんな、プロが手がけるような建築を、専門家でもない一般生活者がどうすれば建てられるようになるのでしょうか。そもそも、「NESTNG」のサービスを始めたきっかけは?まずは代表・秋吉浩気さんに事業の背景をうかがいました。
「VUILDでは、“「いきる」と「つくる」がめぐる社会へ”を、会社のビジョンとして掲げています。例えば、食べること。料理をつくり、それを食べることで、僕たちは生きているわけです。料理をつくる過程には、好きな食べものをつくる楽しさもあるだろうし、おいしく仕上げる工夫を凝らす楽しさもある。こんなふうに、生きるためにつくり、つくることで生きるという循環の先に、僕たちのいきいきとした暮らしがあるのではないかと感じて、「誰もが作り手になれる世界を実現する」をVUILDの活動モットーとしています。
そこで、VUILDが初めに取り組んだのが、3D木材加工機「ShopBot」の販売。誰もがものづくりの作り手になれるように、ものづくり技術の普及に取り組んできており、現在までに日本全国200箇所以上に導入してきました。ですが、デジタル機械を使いこなすまでには一定のハードルがあり、単に機械を販売するだけでは「誰もが作り手になれる世界を実現する」には至らないと感じました。
そこで、次にスタートしたのが、設計データさえあればそれを機械で加工可能なデータへと自動で変換してくれるツール「EMARF」です。これにより、ものづくりへの技術的なハードルがぐっと下がったものの、結局はものづくり経験のある人や、設計者でないと、このプラットフォームを活用できないという課題にぶつかりました。そこで思い浮かべたのが、Apple社のiPhone。技術の匂いをあまり感じさせないのに、高性能なテクノロジーが一つの端末に結集していて、誰もが直感的に操作できる。それでいて、デザインもかっこいい。それまでインターネットに興味を持っていなかった人も、iPhoneの普及によりインターネットに親しむようになったりして、僕はそれを「技術の民主化」だと捉えているんです。
ならば、僕たちがフィールドとしている「建築の民主化」を目指すためには、どうすればよいか。Apple社のiPhoneのように、技術を技術として販売するのではなく、テクノロジーをパッケージングしてブランドを築くことで、ものづくりや、建築の作り手としての入り口が開かれるのではないかと考えて、デジタル家づくりサービス「NESTING」の事業構想が浮かび上がりました」
「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん
「これまでは、つくることに興味のある人や、すでに作り手である人を相手にしたサービスを手がけてきました。でも世の中を見渡してみると、お金を出せばある程度のものが手に入る時代ですから、ほとんどの人が生産者というより消費者サイド。「いきる」と「つくる」がめぐる社会を築くには、社会の大多数を占める消費者にアプローチしないと、本当の意味で世の中を変えることはできない。「NESTING」が普及していくことで、これまで消費者だった人を生産者に変えることができるかもしれないと思いました」(秋吉さん)
誰でも直感的にデザインできる。基礎も、構造体も、自分でつくれる。だから、誰でも建てられる!「NESTING」で建てる家と、従来の家づくりにどんな違いがあるのか。
第一に、「NESTING」は施主の主体・主導で家づくりが進行するというところに、大きな違いがあります。例えば、設計プロセス。一般的には、施主の要望を工務店や設計士が聞き取り、それに基づいた設計プランを「提案する」流れですが、「NESTING」では施主がデザインを手がけ、そのサポートをプロが行います。
専門家が行う建築設計を、どうやって初心者でも手がけられるようにしたのか。その背景には、デジタル技術の活用があり、施主は専用アプリを使ってパソコン上で操作しながら、間取りや空間のイメージを膨らませられます。(注:アプリは改修中のため、実際の仕様と記載が異なる場合があります)
「NESTING」専用アプリ。画面上で建物の大きさや間取りを直感的にデザインできる
第二に、「価格の透明性」。従来の家づくりは、工務店や設計士に設計の比重があるため「何に」「どれだけ」コストがかかっているのか、施主側からは見えづらいという側面があります。そのため「知らない間に、コストが膨れあがっていた」なんてことも。また、木材加工、基礎工事、建て方工事、屋根工事、断熱材の吹付け、塗装、床張りなど、工事の工程ごとに専門の事業者が入っているため、見積もりも煩雑で時間がかかってしまいます。
それに対し「NESTING」は、施主本人がデザインを手がけるスタイルであるため、「何に」「どれだけ」コストがかかるのか、「何を」「どうすれば」コストが増えるのか・減らせるのかが分かります。その上、電気工事や給排水設備工事など、資格が必要な工事以外は施主本人で建てられるつくりとしているため、複数の事業者が入ることもなく即座に精度の高い見積もりが可能。このようにして、価格の透明性が実現できているのです。
さらに、「NESTING」の建物に使う木材パーツの多くを前述した3D木材加工機「ShopBot」で加工しており、事業者に依頼せずとも自分たちで高精度な木材加工ができる。それも、価格の透明性を高めている特徴の一つです。
木材を加工する3D木材加工機「ShopBot」(画像提供/VUILD株式会社)
「ShopBot」で加工した「NESTING」の木材キット(画像提供/VUILD株式会社)
この部品は、女性や子どもでも運べるように全て10kg以下で制作されています。だから、体力に自信がない人でも安心。家族や友人と協力しながら、自分たちの手で家の構造を組み上げることができるのです。
家の基礎も自分たちでつくります。一般的にはコンクリートを打設しますが、「NESTNG」では杭工法を用いて、電動工具を使いながら自分たちで杭を打ち込んでいきます。
専用の金物に単管パイプを打ち込み、基礎が完成!施工方法さえ覚えれば、初心者でもできる(画像提供/VUILD株式会社)
「NESTING」を横から見た図面(画像提供/VUILD株式会社)
第三に、建物のデザインに心が行き届いているというところ。誰でもつくれる家と聞くと、デザイン性が置き去りにされそうな印象がありますが、「NESTING」の家は違います。
「NESTINGのデザインパッケージを考えていた当初、コストカットするために軒の出をなくす案もありました。安価で合理的な家を建てようとすると、屋根を削って真四角な家をつくるのが一番いいんです。でも、日本建築は「屋根の建築」とも言われるくらい、気候条件的にも重要な存在。「NESTING」のデザインで最も特徴的でありこだわったのは、屋根かもしれません」(秋吉さん)
「NESTING」は、日本の風土や自然に溶け合う家。自然を愛する人、古くからある日本らしい風景を好む人の心をつかむデザインです。
(画像提供/VUILD株式会社)
記念すべき「NESTING」の1棟目は、香川県・直島のお宿こうして考えられた構想が、リアルに実現できるのか。その検証も兼ねて、「NESTING」は応募制というかたちで、2023年春にサービスが始動しました。そこで、記念すべき一人目の施主に選ばれたのは、東京都在住・清るみこさん。IT関係の企業に勤めながら、香川県にある直島が好きで、宿泊業を営まれています。今回は、新たにもう1棟、直島で宿の運営を始めようと、「NESTING」で建てることにしたそうです。
「NESTINGを選んだ理由は、早く建てたかったというのと、おもしろそうだったから。デザイン性と快適性にこだわってつくりたかったので、「NESTING」ならそれが叶いそうだと思いました。
よくある話だと思いますが、建物にこだわればこだわるほど、設計や施工費用がかさみ、後で減額調整をすることになりますよね。これまでは、工務店さんに丸投げしていたために、材料費以外にどんな費用がかかっているのか、減額の余地があるのかないのか、分からなかったんです。でも、「NESTING」はセルフビルドなので、工程も費用も自分でつくりながら理解することができる。VUILDさんとだからできる宿づくりでした」(清さん)
完成した宿の外観(画像提供/VUILD株式会社)
今回は、スピード感を重視していたために、清さんご自身が設計やデザインをすることはなく、「NESTING」のベースとなるデザインをもとに、設計者のスタッフと相談しながら間取りを決めていったそう。その後の、木材キットの加工などには清さんも積極的に参加されました。
「海老名に木材加工の工場があり、毎週末のように通いながら、部品が製造されていく様子を見学したり、部品の組み立てを体験させていただいたりしました。私自身、DIYで棚をつくったりしたことはありますが、こんな大掛かりな加工現場を見たことはなくて。とても勉強になったし、このキットで建物がつくれるんだ……!と、驚きもありました」(清さん)
部品づくりを体験された様子(画像提供/VUILD株式会社)
今回、基礎工事は事業者が行い、部品の組み立ては清さんやお仲間の皆さんで手がけられました。
「土日の2日間、友人たちが直島に手伝いに来てくれて、「VUILD」のスタッフさんや地元の大工さんの手を借りながら、自分たちで部品を組み立てていきました。女性が多かったので、屋根など高所での作業や男手が必要な施工は、サポートに来てくれていたスタッフさんにお任せしたのですが、部品を運んだりネジ締めをしたりと、大工さんに相談したりしながら、それぞれが役割を見つけて動いていました」(清さん)
ご友人と一緒に、2日間の建て方ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)
チームワークを発揮し、どんどん組み上げていきます(画像提供/VUILD株式会社)
2日間で上棟!(画像提供/VUILD株式会社)
屋根の板金工事や、壁の取り付けは「VUILD」のスタッフさんや大工さんが行い、清さんは床のタイルシールの貼り付けを担当。
「仕事の合間をぬって、毎週のように直島に通いながら、タイルシートを貼っていました。一見、簡単そうに見える作業も、ズレなくピシッと貼るのが意外と難しくて。床に接着するボンドが固まってしまい、一部だけ床が盛り上がってしまったりと、苦労しました」(清さん)
その後、再度ご友人の皆さんに集まってもらい、2日間の塗装ワークショップを開催。素人でも壁や建具をムラなく塗れるように、「NESTING」のためにオリジナルで開発した塗料を使用されたそうです。
ご友人が集まり、塗装ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)
皆さん、塗るのに夢中になっています(画像提供/VUILD株式会社)
こうして完成した宿が、こちら。
庭からの外観。海に面している直島の気候風土に合わせ、潮風にも耐えられるよう外壁は焼杉を使用している(画像提供/VUILD株式会社)
ダイニングからリビングを見た様子(画像提供/VUILD株式会社)
リビングから縁側を見た様子(画像提供/VUILD株式会社)
写真で見ても、未経験者がセルフビルドで建てた宿だとは思えない、ハイクオリティな仕上がりであることが分かります。さらに、着工してから竣工するまで工期は、たったの2カ月。実際の稼働日に換算すると、43日。通常では考えられない、驚きのスピードです。「NESTING」で建ててみた感想や手応えを、清さんはこのようにお話しされました。
「昔の家づくりって、コミュニティを巻き込みながらつくり上げていく側面があったと思うんですけど、現代はそれが薄れてきてると思うんです。その点、「NESTING」を通じて自分たちの手で建てることで関わった人たちの愛着も湧くし、直島の近隣の方が工事の様子を見に来て、そこから会話が始まったりもして。この場を運営するのは私であっても、みんなで場を共有している感覚が、とてもユニークだなと感じました。
その一方で、スタッフさんや大工さんの手を借りながらも、ほぼ全てをセルフビルドでつくっているので、後からみると手直しをしたくなるようなところもあります(笑)。でも、それも含めていい思い出ですね」
どんな人に「NESTING」を勧めたいですかと尋ねると、「中小企業のチームビルディング研修にピッタリだと思います」と、清さん。
「実際に自分が建てるプロセスに参加してみて、組織のチームビルディングにすごくいいなと思ったんです。タイプの異なる人間が、同じゴールに向かって形にしていく過程の中で、学べるものがたくさんある。なので個人的には、店舗やレストラン、小規模の宿を運営されている中小企業の会社さんが、スタッフみんなで建てて、一緒にその場を築いていくみたいな「NESTING」の活用はとても魅力的だと思います」
ご友人と一緒に建てることで、さらに関係性が深まったと清さん。つくること、建てることは、単なる手段ではなく、その過程そのものが人と人とのつながりを育み、場が地域にひらいていくきっかけになりそうです(画像提供/VUILD株式会社)
「NESTING」で一番届けたいのは、つくる喜びや楽しさ1棟目の「NESTING」建築を経て、「VUILD」代表の秋吉さんは、可能性を感じられたと話します。
「清さんとご一緒できたおかげで、改善の余地がどこにあるかを確かめることができました。建てるというプロセスにおいては、住宅を購入するのとは明らかに違う光景が現場に広がっていて、関わっている人全員が、すごく楽しそうに作業している姿が印象的でした。「NESTING」によって、家づくりのあり方が変わる。その確かな手応えをつかむことができました。
さらに言えば、自分たちで家をつくれたなら、地域づくりや街づくりも自分たちでできるかもと思えたりして、「NESTING」を入り口に、つくることや街づくりに対してどんどん主体的になっていく可能性があるなとも感じました。
今回の1棟目をふまえて、現在は2棟目の「NESTING」を建てているところ。その施主は、「NESTING」事業責任者の森さんです。総工費1000万円、工期1カ月を目標に進めているところです」
森さんは栃木県で暮らしており、移住を検討されている方を対象にした「お試し移住拠点」として建てられているそう。
「NESTING」事業責任者の森勇貴さん
「都市圏に住みながらも、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心があるような人たちが増えてきていると思います。僕も、その一人。以前は東京に住んでいたのですが、今は那須に移住してリモートで仕事をしています。「NESTING」でお試し移住拠点をつくろうと思った理由は、自分たち家族が移住してみて、まちの魅力を存分に感じたため、移住仲間を増やしたかったから。今、建物の躯体が組み上がったところで、完成が楽しみです」(森さん)
安全管理を行った上で、息子さんと一緒に施工現場に入る森さん(画像提供/VUILD株式会社)
この2棟目の実践を経て、本格的に「NESTING」のサービスがローンチできる目処がたってきましたと、秋吉さん。新たに10組の先行ユーザーを募集し、次々に「NESTING」を建てようと志す仲間が集まってきているそうです。
能登半島地震によって全壊してしまった家を、「NESTING」を使って自力で再建を目指す人。東京から地方に移住して、自然と共生するサステナブルな暮らしを実践しようとする夫婦。地域への移住促進に取り組む会社のオフィスとして…などなど。
その用途や目的はさまざまですが、共通しているのは、地域との関わりがあることや、建物を通して、周りとのコミュニティを開いていこうとしていること。森さんが話すように、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心がある人、地域や自然とのつながりを求める人に、「NESTING」が選ばれている傾向があるようです。
「今後、さらに展開していくにあたって、その地域ごとに使う素材やデザインをアレンジできればと思っています。地域資源を活用したり、自然が循環するきっかけに「NESTING」がなれたらなと。さらには、大工や職人の高齢化・減少化が進んでいますから、家づくりのプロが減っても、家づくりを諦めなくていい環境を僕たちが整備していけたらいいなと考えています」(秋吉さん)
「NESTING」で家を建てることは、自分の「生きる」を「つくる」こと。そして「つくる」ことで、「生きる」ことの実感や手応えが、その人の人生に蓄積されていく。そのおもしろみや価値は、きっと頭で考えることではなく、自分の心と体で感じるもの。「NESTING」は、地に足をつけた生き方や暮らし方へと、現代に生きる人々のあり方を建てなおす起点となり、拠点となりそうです。
●取材協力
VUILD
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東日本不動産流通機構が、2023年度に成約した首都圏中古マンションの管理費や修繕積立金について、分析した結果を発表した。それによると、管理費も修繕積立金も前年度より上昇しているという。なぜ上昇しているか、その理由も含めて考えてみたい。
【今週の住活トピック】
「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」を発表/東日本不動産流通機構
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は、不動産会社間で不動産情報を共有するシステムなどを運用する指定流通機構で、東日本を担当している。それを通じて成約に至った中古マンションについて、年度ごとの管理費や修繕積立金などのランニングコストを分析している。
2023年度の首都圏中古マンション月額平均額は、1戸当たりで管理費が平均1万2831円、修繕積立金が1万1907円だった。これを1平米当たりに換算すると、管理費は平均201円(前年度比2.1%上昇)、修繕積立金は187円 (同3.1%上昇)となった。いずれも、前年より上昇したことが分かる。
首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金の月額(平均額と1平米当たり)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より抜粋転載)
マンションの管理費は、日常の管理を円滑に進めるためのもので、管理会社への委託費、共用部の清掃費や水道光熱費、共用設備の点検などに使われる。また、修繕積立金は、計画的に行われる大規模修繕工事を実施するために積み立てられる。
まず管理費については、地域では東京都区部で高く、築年では築10年以内や築11~20年など、新しいものほど高くなっている。また、総戸数50戸未満、200戸以上でも高くなっている。
一般的に、高額なマンションほど、その設備仕様や管理サービスの水準が高くなり、維持管理の費用も高くなる傾向がある。また、大規模なマンションには、共用施設が多いため、その維持管理の費用もかかってくる。一方で、大規模なマンションは発生する固定費を多くの戸数で分担できるが、50戸未満の小規模なマンションでは分担できる戸数が少ないため割高になる場合もある。
こうした要因が管理費に影響するわけだが、近年新築マンションの価格高騰により高額なマンションが増えていること、なかでも東京都区部でその傾向が顕著であることから、管理費を引き上げる要因になっているといえるだろう。
次に修繕積立金を見ると、管理費ほどの金額差はないが、50戸未満の小規模なものは1戸当たりの平均額が高くなっており、規模感の影響が出ている。目立つのは、築10年以内で低くなっていることだが、これには別の理由もある。
築年数が新しいほど管理費が高く、修繕積立金が低い理由とは?管理費と修繕積立金の1平米当たりの月額の推移を築年別に見ていこう。
建築年別の1平米当たり管理費・修繕積立金(月額)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より転載)
管理費は、1967年~1977年など築年の古いものでは月額150円前後で推移しているが、以降は200円近くに上がり、バブル期で豪華なマンションが多かった1988年~1993年では200円を超えるものの、おおむね横ばいに推移していた。しかし、2013年以降は右肩上がりの上昇トレンドになり、2023年に建築されたマンションではついに300円を超える結果となった。
これには、管理員の人件費の高騰が大きく影響している。政府が2013年に施行した『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)』による定年延長や再雇用などにより、定年後の仕事の選択肢が広がった。管理員の仕事は、かつては定年退職後の雇用の受け皿になっていたこともあり、採用が難しくなった結果、近年は人手不足に陥っているのだ。そのため、報酬を引き上げるなど人件費が上昇し、それが管理費にも影響しているというわけだ。
また、近年は共用部で使う水道光熱費などさまざまなものが値上がりしているので、管理費が上がる要因が多くなっている。築年の新しいマンションほど管理費が高くなるのには、こういった要因もあるのだ。
一方、修繕積立金はおおむね横ばいで推移してきたものが、ここ10年程度を境に下降トレンドになっている。これを見ると、修繕積立金の負担が軽減されてきたように見えるが、けっしてそういうわけではない。建設工事の費用が上昇しているなかで、大規模修繕工事の費用も上昇しないはずはない。
「均等積立方式」か「段階増額積立方式」か?修繕積立金については、かつては規制がなかったため、マンション分譲時に長期修繕計画を作成しているものの、それを確実に行えるだけの修繕積立金の額を設定していない事例が多かった。それでは実際の大規模修繕工事を実施するのに支障があるということで、長期修繕計画通りに工事が行えるように修繕積立金の金額を設定するようになった。
とはいえ、マンションを販売する際には管理費・修繕積立金・駐輪駐車場代などの合計月額が低い方が売りやすいこともあって、それまで主流だった均等に積み立てる「均等積立方式」から、あらかじめ段階的に増額する「段階増額積立方式」を採用する事例が多くなった。
「段階増額積立方式」では、当初の修繕積立金の額は抑えられているが、5年ごとなどに一定割合で上がっていく形になる。修繕積立金の値上げは、管理組合の総会で承認される必要があり、否決されると値上げができなくなる。
修繕積立金で築年の新しいマンションの月額が低いのは、値上げされる前の金額の事例が多いという事情もあるのだ。修繕積立金については、さらに注意点がある。
長期修繕計画は適宜見直すことになっているが、近年、大規模修繕工事にかかる費用が上がっている。建築資材や水道光熱費などの上昇に加え、建設業界や物流業界では残業時間を規制する2024年問題が拍車をかけて人手不足が深刻化している。そして人件費の高騰は大規模修繕工事の費用に大きく影響する。となると、以前の長期修繕計画上の費用と現実の費用にズレが生じる可能性も高い。不足しない計画だったとしても、不足する可能性もあるのだ。
毎月払うランニングコストは安い方がよいのだが、管理費も修繕積立金も上がる可能性はある。特に、「段階増額積立方式」では、負担すべき費用を順繰りに送る形なので、上がることが前提となっている。
新築マンションを購入する場合は、ランニングコストが上がる可能性を考慮する必要があるし、中古マンションを購入する場合は、修繕積立金の積立方式がどうなっているか、長期修繕計画はいつ見直されたものかなども、しっかり確認する必要がある。事前に把握できることをスルーしてしまうと、将来家計に大きな影響が出るということもあるので、忘れずに確認してほしい。
●関連サイト
東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」
1950年に図書館法が制定されてから、戦後全国で次々と誕生した図書館。今、過渡期を迎えています。これらの建物が老朽化しており、いっせいに寿命を迎えているのです。東京都・西多摩郡瑞穂町の「瑞穂町図書館」にもこうした課題がありましたが、これまでの建物をあえて残しながら改修し、新たな空間をつくり上げる道を選びます。そして「誰もが居心地の良い、街のいこいの場」の機能を加えたのです。こうした改修プロジェクトを主導したのは、町民たち。どのような歩みを経てきたのでしょうか。図書館改修事業に携わった方の思いをお聞きしました。
街のリビングのような、心ゆるせる場所東京都心の北西部にある人口3万2000人ほどの小さな町、西多摩郡瑞穂町。最寄駅である箱根ヶ崎駅には、東京駅からは電車で1時間半ほど乗ると到着します。町内には狭山丘陵の一角があり、背景には緑豊かな山並みも目にすることができます。
街の中央部にある瑞穂町図書館は、2022年3月にリニューアルオープンしました。コンセプトに掲げているのは、「本や人とゆるやかにつながり、自分の居場所と感じられる図書館」。そのテーマどおりに、図書館内のほとんどのスペースでおしゃべりや飲食がOKで、多くのくつろげるスペースがあります。
夕方になると緑のネオンサインが点灯。浮かび上がる姿は幻想的です(写真撮影/片山 貴博)
1階エントランスを入るとすぐ目に入るスペース。おしゃべりも、読書も、ワークショップも。あらゆることができるリビングのようなエリアです(写真撮影/片山 貴博)
2階建ての図書館には、開口部全面に配置されたロングソファや、木製のボックス型読書ブース、Wi-Fiと電源が完備された無料のブース型ワーキングスペースなど、あらゆる人が快適に過ごせる空間が用意されています。
緑に囲まれたロングソファコーナーはまるでリゾート地で読書をしているかのような雰囲気を味わえます(写真撮影/片山 貴博)
黙々と一人で読書や仕事をすることができるパーソナルブースには、開館と同時に人が集まっていました(写真撮影/片山 貴博)
配置されている書棚も、本に手が伸ばしやすいように、フロア全体が背の低い書棚で囲まれています。さらには子どもが手に取りやすいサイズの書棚に、ゆるやかなカーブを描いた面陳列の木製書棚も印象的です。ゆったりとしたスペースや通路に、あたたかみのある木製の家具でつくられたやわらかな空間。
10代の学生たちに向けた本を集めたコーナー。手に取りやすい高さになっています(写真撮影/片山 貴博)
靴を脱いでくつろぐことができる、子ども向けのコーナー(写真撮影/片山 貴博)
ボックスブースでは、落ち着いて飲食、勉強、打ち合わせも可能です(写真撮影/片山 貴博)
瑞穂町にゆかりのある大瀧詠一さんが発表されたレコードを集めたコーナー(写真撮影/片山 貴博)
そこでは新聞を広げてくつろぐ人や、仕事や勉強に夢中になる人、黙々と本を読む人などと、思いおもいの時間を過ごす風景が広がります。なかには開館と同時に来館し、一日中図書館に浸る人も。まるで自分の家のリビングでくつろぐかのような雰囲気です。とはいえ、お互いにやりたいこと、求める空気感など、相手を尊重し合いながら秩序を保っています。
晴れた日は2階のテラスも利用できます。日光浴をしながらコーヒーを飲み、読書をすることができるなんて、なんて最高なのでしょう(画像提供/瑞穂町図書館)
「ここは誰もがいてよい場所。なので、私たちからは”こうしろ”、”ああしろ”と強制はしません。ですが、例えば”今あそこには誰々がいて、こんなこと気にしているみたいよ”と促しはします。自発的に相手のことを考えてもらうために、そっとサポートをするイメージです」と、司書の西村優子さんは話します。
新しくするのではなく、今ある施設の魅力を活かす「実はこの図書館は、私と生まれ年が同じなんです」
瑞穂町生まれの前館長・町田陽生さんはそう話を切り出します(取材当時は館長)。
リニューアル前の図書館は築45年で、設備の老朽化が目立ち、若年層の来館者が伸び悩んでいたことが気がかりでした。おまけにエレベーターもなく、車いすの人にも訪れにくい環境。なんとか変えたいと、誰もが利用しやすく快適な図書館へと改修するプロジェクトがはじまったのです。
瑞穂町は全てを新たに建て直すのではなく、既存の建物を活かすために一部減築をした上で、新たな建物を増築するという、2つの方法を組み合わせて改修する道へと踏み切ります。
せっかく改修するならば、何としても多くの人に訪れてもらえるようになりたいと願っていたと、前館長の町田さんは話します(写真撮影/片山 貴博)
「限られた期間と予算のなかで事業を進めていく必要がありました。図書館は駅から離れた位置にあり、立地も良いとはいえない場所です。ここで改修をするにあたり、どうすれば多くの方に来ていただき、町民に愛される図書館にできるかと模索する毎日でした」町田さんは、こう振り返ります。
建物改修と並行して、「図書館がどうあってほしいのか」という、ソフト面を考える取り組みも行うことになりました。そこで町は、住民参加型ワークショップを開催するべく、場を立ち上げたのです。
町民のやりたいこと、かなえたいことを集めて実現していくワークショップは、瑞穂町図書館のリニューアルの屋台骨を決めるものとなりました。
図書館の基本計画の策定段階である2019年に「図書館をみんなで考え・つくるワークショップ」を3回、その後2021年には「図書館をみんなで考え・活用するワークショップ」を3回開催。合計167人の、親子連れや学生、お年寄りなど幅広い世代の町民が参加しました。
彼らの描いていた図書館の理想像は「おしゃべりをしながら本を読みたい」「コーヒーが飲める場所がほしい」「Wi-Fiが使えるようになってほしい」「子どもが泣いてしまってもいいようなスペースがほしい」というものでした。
町民の声をもとにドリンクマシーンを設置。館内で自由に飲むことができます(写真撮影/片山 貴博)
もちろん町民全ての願いをかなえられたわけではありません。ですが、一つひとつ耳を傾け、願いを実現することで、町の人にとって「居心地のよい場所」が生み出されたのです。
こうした街の人との意見交換では、新たなコミュニティも誕生しました。それが「図書館ファンクラブ」です。集まった10名ほどのメンバーは、図書館のスペースを使って、イベントの企画や運営を担っているのです。こうした積極的に関わってくれる街の人が増えたことで、図書館は活気にあふれるようになりました。
この日は反物の端切れを使って、ブックカバーをつくるワークショップを行っていました(写真撮影/片山 貴博)
ファンクラブのメンバーの一人である村上豊子さん。彼女は腹話術の人形をあやつり、語り部をしています。この日は相棒である人形の「くりちゃん」とともに、図書館に足を延ばしていました。リニューアルした図書館のことをこう話します。
「これまで町の人は、地域活動の場所が限られていたんです。こういった場所ができて、積極的にイベントができるのはうれしいですね。子どもたちと接する機会が増えたことも喜びの一つです」
村上さんの相棒、腹話術人形の「くりちゃん」とともに(写真撮影/片山 貴博)
本を手にしたら、新しい発見がある書棚を目指すリニューアルのもう一つのテーマは、書籍の配置の見直しでした。ここでは、テーマ配架が取り入れられたのです。テーマ配架とは、日々の暮らしに近いテーマや地域に根ざしたテーマなど、瑞穂町独自の6つのテーマで本を分類して並べることです。
図書館といえば日本十進分類法(NDC)での区分が知られているところ。例えば「文学」「哲学」「産業」などと聞くと、誰もが思い出すかもしれません。しかし、瑞穂町図書館ではその分類の根底を残しつつも、とらわれすぎない独自の6つのテーマを設定したのです。
例えば生活を豊かにする本が並ぶ「QOL(クオリティー・オブ・ライフ)」や、瑞穂の地域について学ぶ本が並ぶ「みずほ学」、10代の若者に寄り添ったテーマの本「ティーンズ」などといったセグメントです。訪れる人の目的や興味で本が探せる配置になっています。司書たちはこの6つのテーマに沿って、自らが選書や配置をしているのです。そのスタイルは、まるで、独立形書店のようでもあります。
瑞穂町の歴史や、瑞穂町にある企業にまつわる本が集められた「みずほ学」コーナー(写真撮影/片山 貴博)
そもそもこの本の並べ方も、町民とのワークショップで意見を聞いて取り入れたのだとか。
「子どもがメダカを飼いたいって言ったときに、メダカの生態の本も、メダカの飼い方の本も見たいじゃないですか。でもこの2つって全然違う場所に配置されているんです。あっちもこっちも行き来するって大変ですよね。じゃあ、どういう本棚の構成だったら探しやすいのだろう?と。そしてわかったのが、テーマを設けて本を並べるということだったのです。お子さんにも、感覚的にわかりやすいような本棚になったんですよ」と司書の西村さんは笑顔で語ります。
こうした配置によって生まれたうれしい変化がありました。関連する本をついでに2冊、3冊と借りて行く人が増えたことです。
子育てを支える本や、子どもたちに手にしてほしい本が集まる「みずほ育」コーナー(写真撮影/片山 貴博)
町田さんはこう続けます。
「その人の求めている知的欲求がより深まるといいますか。本と本、人と人のつながり、こういうコンセプトがにじみ出た本棚でもありますね」
生活を豊かにする本が集う「QOL」コーナー(写真撮影/片山 貴博)
町民の手で、町民の知識で、この場所での体験を自分ごとにしていくリニューアル後、来館者も増加。2018年度と比較すると約2倍に増えました。これは純粋に書籍を借りる人だけではなく、ここに憩いを求めて訪れている人も含まれているそうです。でもそれでいいと西村さんは言います。
「本のある空間に触れること、これが大切だと思うんです。小さいころから”なんとなく本のある空間”に身を置くことで、将来大きくなったときにここに戻ってきてくれる。そうあってほしいなと願って、くつろぐ、おしゃべりするだけでも足を延ばしてほしいと思っているのです。町の人の憩いの場であることが一番ですから」
本の配置に試行錯誤したことを話してくれた西村さん。全国にある図書館を視察して研究しているそうです(写真撮影/片山 貴博)
今、図書館のあり方は大きく変わっています。西村さんは「この町を愛する人たちが自分の手でここをよくしていくこと。それが愛着を生み出しているのだと思います。まだまだやれることはあります。町民の力を借りながら、私たち職員はよりよい選書とは? もっと快適なスペースつくりとは? と、じっくり考えていきたいです」と話しました。
課題はもちろん残ります。この図書館は役場の職員が運営をしているため、誰かが異動をすると仕組みを維持しにくくなる恐れがあるのです。そこは、これから担い手を増やしていくよう工夫をしていく必要がありますが、町民にとっても役場の職員の皆様にとってもやりがいはありそうです。
瑞穂町図書館のみなさん。日々の運営のために、積極的にアイデアを出し合っているそうです(写真撮影/片山 貴博)
取材の最後に西村さんは、こう話してくれました。
「今、全国各地で、図書館のあり方について考える必要が出てきています。ただ課題があっても、民間業者に委託する方法以外にも解決方法はあるのだと思います」
たしかに、自分たちの手で工夫をしていくことはできるのでしょう。時代は変わるので、図書館の役割も変わって当然。その工夫ができれば、もっと自分たちにとって心地よい施設になりそうですね。
●取材協力
瑞穂町図書館