ふるさと納税で“体験型”返礼品が増加中!ウィズコロナ時代の地域応援

2008年に制度が開始し、「おトク」というイメージで2015年ころから急速に利用が広まったふるさと納税。返礼品は食品や伝統工芸品のイメージが強いが、近年、バリエーションが広がっている。なかでも「体験型」が増加しており、地域活性につながっているという。
「体験型」増加の背景と実態、そしてウィズコロナ時代の今だからこその「ふるさと納税」活用について、ふるさと納税サイト「さとふる」広報と、自治体担当者へ聞いた。

5割近くの自治体が「体験型」の開発を実施・検討

「さとふる」でも体験型の返礼品は増えており、バリエーションも多彩だ。旅行券・宿泊券、食事券、テーマパークや水族館等アミューズメント施設の入場券や、マリンスポーツ・ゴルフ・スカイダイビング等アクティビティの体験チケットもある。
地域産業を活かした「コスメの手作り体験」「伝統工芸品づくりの体験」や、「農業体験」「漁師体験」「地元テレビやラジオへの出演券」、中には「1日町長体験」などユニークなものも。

「寄附額1万円前後、都心から程近い場所の旅行券や、その土地で利用できる観光チケット、花火大会の入場券なども人気があります」と、「さとふる」広報の谷口明香さん・道岡志保さんは語る。
二人によれば、「体験型」増加の背景には2つの理由があるという。

ひとつは、ふるさと納税をPRの場として捉える自治体・事業者が増えたこと。食品や伝統工芸品などの特産品でなくとも、「その地域ならではの体験」を提供することで地域活性化や地域PRにつなげたいと考える自治体や事業者がアイデアを出しあい、オリジナルの返礼品を生み出している。

もうひとつが、2019年の地方税法改正だ。制度の趣旨に反する返礼品増加や過度な競争を抑制するため、返礼品の基準が変更された。それに伴い、全国的に返礼品の見直しが行われた。「さとふる」の調査によれば、法改正後、新しい取り組みを開始・検討した自治体は6割以上。取り組み内容として最も多かったのが「体験型返礼品の開発(45.7%)」だった。

化粧品の原料が採掘される愛知県東栄町では「手作りコスメ体験」を提供(画像提供/さとふる)

化粧品の原料が採掘される愛知県東栄町では「手作りコスメ体験」を提供(画像提供/さとふる)

複数の市町をまたいだツアー型の返礼品も

2019年度の調査で、ふるさと納税の寄附受け入れ額が前年度比1.3倍となった埼玉県も「体験型」に力を入れる自治体のひとつだ。その背景について、埼玉県 企画財政部 地域政策課 地域振興担当の高田尚久さんは、「実際に寄附自治体を訪問する機会をつくることで、地域により深く触れてもらい、魅力を体験していただきたい」と語る。

県内各市町村で、それぞれの特色を活かした返礼品が生まれている。
例えば2019年度、県内で最も受け入れ額が多かった秩父市では、「秩父プレミアムツアー~オトナの酒蔵めぐり~」と題して、普段見学できない「イチローズモルトウイスキー」秩父蒸留所の見学ツアーを提供。開始以降、定員いっぱいまで申し込みがあるという。
航空自衛隊入間基地を擁する狭山市では、市庁舎屋上から航空祭を観覧できるチケットが人気だ。
※コロナウイルス感染症拡大のため、本年は秩父蒸留所見学ツアー、入間航空祭、ともに中止。

秩父市の返礼品「オトナの酒蔵めぐり」の様子(画像提供/秩父地域おもてなし観光公社)

秩父市の返礼品「オトナの酒蔵めぐり」の様子(画像提供/秩父地域おもてなし観光公社)

狭山市の返礼品「入間航空祭観覧席」。ブルーインパルスの曲技飛行も見られるとあって、毎年人気(画像提供/大金歩美)

狭山市の返礼品「入間航空祭観覧席」。ブルーインパルスの曲技飛行も見られるとあって、毎年人気(画像提供/大金歩美)

県では、こうした県内各地で提供されているプランを県ホームページで一覧化して紹介するほか、市町村と県の協力により複数市町村を周遊・滞在する体験型返礼品のコースも開発している。
「地域全体を周遊・滞在し、満喫していただきたい。単独ではアピール度が弱い返礼品を複数組み合わせることで魅力を高める狙いもあります」と高田さん。
例えば、小川町・川島町いずれかへの寄附に対する返礼品として一昨年用意されたのが、「畑から蔵へ 大豆の旅」と題された体験型プラン。小川町にある農場で大豆の収穫体験を行った後、川島町にある醤油の蔵元で、仕込み蔵の見学と醤油づくりの一部工程が体験できるというものだ。

小川町での大豆収穫体験の様子(画像提供/小川町)

小川町での大豆収穫体験の様子(画像提供/小川町)

体験型返礼品の実施後に観光者の数が増加した自治体は複数あり、地域を訪れるきっかけとして機能しているという。
「訪問していただいた際、市内の別の場所に立ち寄ったとの声もあります。寄附をきっかけに地域のグルメや名所に触れていただくことで、各市町村のPRにつながっているようです」(高田さん)

継続的に寄附を行ったり、2回3回とその地域を訪問するリピーターも生まれている。「地域が好きになった」「また来たい」という声のほか、移住に興味を持つ寄附者もいるとのこと。自治体内で新規創業した事業者が返礼品の提供者となる事例もあり、地元起業者への支援にもつながっている。

コロナ禍での「体験型」実施方法には各地域頭を悩ませており、今年は中止としたプランも複数存在するという。一方、コロナ禍で近距離の旅行(マイクロツーリズム)が人気を集めるようにもなった。高田さんは「都心から1~2時間でアクセスできる本県の体験型返礼品が注目される機会も増えるのではないか」と期待を寄せる。

都内でも、「ここでしか味わえない体験」を提供

従来、ふるさと納税制度における「過度な返礼品競争」について反対の立場を表明してきた渋谷区も、「ふるさと納税の影響による税収減を看過できない」と、2020年度より制度活用を開始した。渋谷区総務課ふるさと納税担当主査の増子義明さんは、こう意気込む。
「ご存じのとおり、渋谷区ではふるさと納税で寄附が集まる農産物や海産物等の特産品はありません。しかしながら、渋谷でしか味わえない魅力的な体験やサービスは多数ある。商品を売るのではなく、渋谷のコトを体験してもらうことで、渋谷のファンにシティプライドを持ってもらい、渋谷区の応援団を増やす取り組みにつなげていくことを目指しています」

2020年10月現在、レストランでの食事券やホテルのスイートルーム宿泊券、高層ビル展望施設のチケット、ファッション性の高いTシャツやトートバックといった返礼品のバリエーションが準備されている。

渋谷区の返礼品の中には「渋谷スクランブルスクエア」の展望施設「SHIBUYA SKY」入場チケットも。約230mの高さから、スクランブル交差点や富士山、東京スカイツリーなどを一望できる(画像提供/渋谷区)

渋谷区の返礼品の中には「渋谷スクランブルスクエア」の展望施設「SHIBUYA SKY」入場チケットも。約230mの高さから、スクランブル交差点や富士山、東京スカイツリーなどを一望できる(画像提供/渋谷区)

一方、コロナ渦での募集開始となり、店舗の休業や事業自粛などを受け、申し込み受付開始当初は返礼品の一部が提供できない状況にもあった。
「正直、申し込みは少ないものと覚悟していた」という増子さん。
しかし、蓋を開けてみれば、約1カ月で113名と、想定を超える数の寄附申し込みがあった。

現時点では特定の返礼品に人気が集まっている訳ではないが、レストランでの食事券が比較的申し込み件数が多いという。提供を延期している返礼品についても、今後、コロナウイルス感染状況の推移を見ながら、「事業者と調整の上、順次提供していく予定」とのことだ。

オンラインを活用したプランも登場

新型コロナウイルスの影響を受け、移動自粛が続く中、新たに生まれたのがオンラインを活用した「体験型」だ。
山形県庄内町では「蔵元と語りながら地酒を飲もう〈地酒3種付き〉」と題し、テレビ会議で現地の酒造と寄附者をつなぐプログラムを行った。寄附者は事前に郵送で届いた地酒を片手に参加。蔵元から日本酒の基本知識や酒造の特徴を教わりながら、和気あいあいと語らったほか、オンラインで酒造の案内も行なわれた。

参加者からは「地域とつながって応援できるという、ふるさと納税の本質を実感できてよかった」「コロナが落ち着いたら実際に庄内に行って、直接蔵元さんに会ってみたい」といった声があがり、事業者からも「初めての人への販促として良い企画、ここから蔵のコアなファンが増えたらうれしい」との感想が得られた。

山形県庄内町の返礼品「蔵元と語りながら地酒を飲もう」の様子(画像提供/株式会社ROOTs)

山形県庄内町の返礼品「蔵元と語りながら地酒を飲もう」の様子(画像提供/株式会社ROOTs)

「さとふる」では、お盆の帰省の時期に合わせた「オンライン帰省を楽しむ」特集を公開。地酒やフィンガーフードなど、パソコンの前で、遠方の家族と一緒に楽しめるような返礼品や、送り先を2カ所に分ける方法などを紹介した。
「帰省自粛の流れを受けて、以前からあった『お墓参り』や『見守り代行』の返礼品も今後、よりニーズが高まってくるかもしれません」(谷口さん)

「地域を応援する手段」としての活用が増加

「さとふる」では、新型コロナウイルスによる外出自粛要請が出た4月ころから、寄附額が全体的に増えているという。4月単月の比較では、昨年比1.8倍以上となった。

「自宅で過ごす時間が増え、食品等の返礼品ニーズが増したことももちろん大きいと思います。
そこに加えて、新型コロナウイルスの影響で経済的に困っている事業者が多いことは広く知られた事実。移動自粛で現地に行くことも難しくなった中で、地域を応援したい・手助けしたいという思いを持つ方は増えているのではないかと思います」(谷口さん)

ふるさと納税を活用した「応援」の仕方もさまざまだ。
例えば、コロナ禍で打撃を受けた産業の代表例である観光業。ふるさと納税では、宿泊チケット等の発送をもって寄附先の自治体から事業者へ代金が支払われるため、宿泊施設に先にお金を落とすことができる。

文化・芸術・スポーツに対する支援例もある。例えば長崎県諫早市では、返礼品に地元サッカーチーム「V・ファーレン長崎」のユニフォームを用意。寄附金の使い道としても「Jリーグ『V・ファーレン長崎』への応援」を選べる。

長崎県諫早市の返礼品。地元サッカーチームV・ファーレン長崎のユニフォーム(画像提供/さとふる)

長崎県諫早市の返礼品。地元サッカーチームV・ファーレン長崎のユニフォーム(画像提供/さとふる)

「都内のレストランで、地域食材を味わう」返礼品も。熊本県上天草市や三重県松阪市の返礼品の中には、都内のレストランで、地域の食材を使ったコースを楽しめるというプランがある。

三重県松阪市の返礼品。東京都中央区日本橋のレストランで、松阪・三重食材のコースが楽しめる(画像提供/さとふる)

三重県松阪市の返礼品。東京都中央区日本橋のレストランで、松阪・三重食材のコースが楽しめる(画像提供/さとふる)

実際に、ふるさと納税が地域の大きな助けとなることを示唆するデータもある。
「さとふる」と事業構想大学院大学の調査によれば、返礼品原材料の調達、生産・加工、雇用等が全て地域内で行われた場合、最大767億円の域内雇用者所得が生まれるという試算だ。

「事業者単位でなく、地域全体に還元できるのがふるさと納税の特徴のひとつ。特定の事業者だけではなく、広く地域を応援したいということであれば、より有効な手段になり得ると思います。
また、自身の想いに合わせて税金の使い道を指定できること、スマホやパソコンから気軽に参加できることも特徴です。
地域経済に貢献しながら、美味しいものや楽しい体験を得ることができる。多くの人が楽しみながら参加することで、全国の地域にお金が巡っていく。気軽にできる地域貢献として、ご活用いただけると良いなと思います」(道岡さん)

スマホひとつで、気軽にできる地域貢献

コロナ禍で、地域経済は大きな打撃を受けた。例えばGO TOトラベルで旅行を楽しむことも地域貢献になるが、ふるさと納税を活用することで、より深く地域を知り、地域経済全体へ貢献することもできる。
同時に、地方移住への関心が高まる中、地域と関わる第一歩としても活用できそうだ。
今この時期だからこそ、ふるさと納税の活用に、今いちど注目してみてはいかがだろうか。

●取材協力
さとふる
埼玉県
東京都渋谷区

ふるさと納税、新制度後も注目したい地域は?「関係人口」貢献で地域おこしに参加

自分の好きな自治体へ寄付をすることで、税制控除が受けられる「ふるさと納税」。家計の節約効果の大きさや魅力的な返礼品からすっかり世に浸透したが、今年2019年6月1日に法律が改正され、新しい制度が導入された。「ふるさと」を冠する制度にふさわしく、地方やその自治体ならではの特色を打ち出す新制度の内容とともに、地方にかかわる手段のひとつとしてのふるさと納税のケースを考えてみたい。
返礼品が地場産品限定、地方を意識する契機に

2008年に導入されたふるさと納税は、出身地や本籍地などに関係なく任意の自治体に寄付をすると、翌年の確定申告で自己負担の2000円を超えた金額が所得税と住民税から上限までの全額控除される制度。寄付をした自治体からは、その地方の農作物などお礼の品が届くことで人気となり、2016年には受入額約2844億円、受入件数約1271万件に達している。一方、その地域と直接関係のない金券などを返礼品に設定するなど、自治体による納税者の奪い合いの過熱が問題となり、新制度の下では、返礼品は地場産品、返礼割合は寄付金額の3割以下で、寄付できる自治体も総務省が指定した対象地域となった。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

都心に人が集中するなか、地方は人口が減少し、財政面でも厳しい状況が続いている日本において、人口や経済活動は都心に集中し、地方は厳しい現状におかれている。地方の経済の再生と資源を活用する地域創生は、政府が推進する大きなテーマのひとつだ。

その地域に住んでいなくても、地域や地域住民との関係を持つとして、近年、「関係人口」というキーワードが注目されている。その地方に移住した「定住人口」、または観光にきた「交流人口」でもなく、多様なかかわり方をするひとびとのことで、地域外の人材が地域づくりや変化を生み出すとして期待されている。政府は今年6月、2020年度から地方創成に向けた新たな戦略の基本方針案を示しており、「関係人口」拡大もその一つだ。

ふるさと納税は、生まれ育った地域を離れて東京や大阪など都市部に移住した人たちにとって故郷を意識する契機であり、また、国内の各地方の魅力を知ったり接点を持ったりする大きな機会にもなりうる。

ふるさと納税は、地方の「関係人口」として貢献できる

ふるさと納税を行うことは、関係人口としてその地域に貢献できるこということでもある。ふるさと納税の返礼品には、物そのものをもらうことができるものが目を引くが、「体験」を提供するものも多い。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

和歌山県田辺市の返礼品は、同市にある世界文化遺産に登録されている「紀伊山地の霊場と参詣道」の熊野古道を語り部の解説を聞きながら歩く宿泊付きのウォークプラン(額によっては和歌山の特産である梅製品をもらえるプランもある)。寄付金は、間伐や枝打ちなど森林の手入れとともに、観光地にとって共通の悩みであるトイレや多言語案内の設置などの環境整備に使用されている。

また、来年にせまった東京オリンピック・パラリンピック開催を契機にしたスポーツ振興の機運を、地方から支えることもできる。富山県氷見市は、ハンドボール振興のため「春の全国中学生ハンドボール大会」を2005年から実施しており、寄付金は大会継続のための資金として使用されている。野球やサッカーのような競技人口の多い競技と違って、そのスポーツに親しむ人数が多いとはいえないマイナー競技には、甲子園や花園といった“聖地”の設定が難しいこともある。氷見市は小中学生のチームが全国優勝するなどハンドボールが盛んな土地であり、市民の意欲を満たす一方で、各都道府県の代表チームを応援するサポーターを市内の地域ごとに設定、他県からの参加者の応援をすることで、大会自体を盛りあげている。

かつてサッカーの日韓ワールドカップで、カメルーンのキャンプ地となったことで同国との交流が話題になった大分県の小さな村・中津江村が、現在でも同国との親交が続いているように、支援された氷見市だけでなく、サポーターとなった先の都道府県との相互の関係人口となれることも、ふるさと納税がもたらす恩恵といえるだろう。寄付者には大会決勝戦のチケットが届けられるが、氷見漁港でとれた海産物による郷土料理や氷見牛など、食べてうれしい返礼品も希望することができる。

岡山県の和気町では、日本最古の庶民の学校といわれる「閑谷学校」にゆかりのある地であることから、「教育の街」を推し進めることにふるさと納税を活用している。2016年から本格的に始められた公営塾では、特に英語教育に力を入れており、当初は中学生のみだった対象生徒も、小学校高学年の児童にも拡大。塾で学ぶ子どもたちの英検合格実績が報道で取り上げられたこともあり、同年の和気町への移住者は、前年の約3倍になった。ふるさと納税から、知識に関係するだけでなく定住人口の増加につなげられた好例といえるだろう。

お得さや返礼品のラインナップについつい目を奪われてしまうが、ふるさと納税の理念に立ち返れば、本当に気にかけたいのはその使途のはず。自分の寄付したお金がどのように使われているかで選べば、その地域への愛着や興味とともに、そこを訪れたい気持ちや実際に行った際の楽しみもふえるだろう。地場産品の返礼品を眺めるとともに、その地域への貢献に、改めて思いをはせてみたい。