土地の価格、道が一本違うだけで大きく変わるのはなぜ? 1平米6万円差が出ることも! 「路線価図」で街あるきしてみた

「交差点をはさんでこちら側とむこう側」「道が一本違うだけ」——それなのに、土地の価格が大幅に変わる。こうした不思議な現象が、街のあちこちに見られます。

なぜそんなことが起きるのか? 街をもっとよく知る手がかりとして、今回注目するのが「路線価図」。本来は持ち歩くための地図ではありませんが、住まいと街の解説者として30年以上活動する中川寛子さんは、この地図を活用して土地の価格の理由を探る「街あるき」をしています。2023年には著書『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)を刊行しました。

(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

「長く住む家や投資対象を探している人、街づくりに関わる人など、何か目的があって街をながめる人たちのヒントになるはず」と中川さん。路線価図を片手に、一緒に街を歩いてみました。

「路線価図」で地価の差分に注目

国税庁が毎年発行する路線価図。本来は、相続税や贈与税の算出時に参照されます。誰でもインターネット上で見ることができるデータです。

中目黒駅周辺の路線価図(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

中目黒駅周辺の路線価図(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

路線価図上では、道(路線)ごとに「1平方メートルあたりの価格」が設定されています。記されている数字は千円単位です。

たとえば、地図上の[A]に注目。「1600」と書かれた道に面する土地は、1600×1000円=1平方メートルあたり160万円。坪単価(3.3平方メートル)に変換すると、1坪あたり528万円です。

また、[B]のように、「2990」「1690」「980」「1400」と複数の路線価に囲われている土地は、物件の入口が面している道の価格を参照します。

注意点として、路線価図に記載されている数字は実際に売買される価格そのものではありません(※)。街あるきで路線価図を利用する際は、周辺の路線価を比べることでエリア傾向や道単位での差に注目するのが醍醐味となります。

※ 日本の土地価格の基準には「実勢価格」「公示地価」「基準地価」「固定資産税評価額」「相続税評価額」がある。路線価図は平成4年以降、公示地価の8割程度に評定されている。さらに、公示地価と実勢価格にも乖離がある。

実際に歩くのはなぜ?

路線価図の主な用途は、税の算出。つまり、持ち歩いて使うことはまず想定されていません。地域により縮尺も異なります。

中川さんは、土地の価格に関する記事の執筆依頼をきっかけに「土地の価格をただ比べるだけではなく、その理由を考えるべく現地を歩いてみよう」と思いつきました。2005年ごろから、さまざまなエリアで街あるきを続けているそう。

これまでの活動を通して、地形や街の成り立ち、再開発の様子など、たくさんの要素が価格に反映されることを実感している中川さん。「街の現在は地形×歴史でわかる」と話します。

ただし、いずれにしても「路線価が高ければ良い土地/低かったら悪い土地、ということではない」のが大事なポイント。個人の生活スタイルや優先事項、街づくりなどの事業目的によって、土地や住宅の価値は変わってくるからです。

中目黒から渋谷まで歩いてみる中目黒駅(写真撮影/小林景太)

中目黒駅(写真撮影/小林景太)

ということで、気持ちよく晴れた某日の午前10時、中目黒の駅前で中川さんと待ち合わせ、渋谷まで歩いてみます!

東急東横線と東京メトロ日比谷線が乗り入れる中目黒駅は、駅周辺の再開発に伴い人気が高まったエリアのひとつ。

路線価図に中川さんが散策コースを書き込んだもの。ピンク色の線が今日の道のり(画像提供/中川寛子さん)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

路線価図に中川さんが散策コースを書き込んだもの。ピンク色の線が今日の道のり(画像提供/中川寛子さん)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

指定された集合場所で、まずは路線価図をチェック。実はここが駅周辺で最も数値が高い場所。記された数字は「3710」……つまり1平方メートルあたり371万円。坪単価は1000万円以上に!

「平均的なトイレの面積は、だいたい0.5坪。たとえばの計算ですが、トイレ用の土地代だけで500万円くらいかかっちゃうってことですね」(中川さん)

価格と立地の関係は? 「一つのルールと二つの例外」路線価図(左)と、実際の道のり(右)(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

路線価図(左)と、実際の道のり(右)(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

ひとまず、中目黒の高台を歩くべく、渋谷とは逆方向へ。駅前の幹線道路から線路沿いの脇道へ入ります。この道は「1690」。駅前の「3710」から、一つ道を曲がっただけでいきなり数字ががくっと下がりました。

「ものを見るときは、『規則性』と『その規則性にのらないもの』に注目します。路線価図による土地と価格の関係は、大きく一つの基本的なルールと2つの例外があると考えているんです」と中川さん。

まず、基本ルールとなるのは「利便性」。
街の中心地(≒駅)から近いと土地の価格は高くなり、遠いと価格は低くなります。幹線道路沿いは価格が高く、路地に入ると低くなるのもこのルールに当てはまります。

しかし、「駅近なのに安い」「駅から遠いのに高い」というケースも。これには、次の2つの例外が関係すると中川さんは考えています。

「例外の一つ目は、住環境。環境がいいと価格は高くなります。閑静なエリアや、景観の良い土地は人気があるため高くなり、すると住宅も高級なものになっていきます。例外の二つ目は、安全性(防災)。地盤の固い土地、水害を避けやすい高台など、安全性が高いと価格は高くなっていきます」

道が一本違うと、何が違うのか

それでは、路線価を見ながら、実際の地形や土地の特徴を確かめていきましょう。

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

住宅地の路地で、交差点を境に路線価がそれぞれ異なる箇所を発見。地図上では同じ一本の道に見えますが、「650」と「710」の区画の差は60、つまり1平方メートルあたり6万円も価格が異なります。なぜでしょうか?

(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

実際に歩いてみると、理由が見えてきました。交差点から手前は道幅がせまく一方通行であるのに対し、交差点より奥は道幅が広くなっています。このように、道幅は土地の価格に大きく関わります。

面している道路の幅員によって建てられる建物の大きさは変わってきます。一般には道幅のある道路に面しているほど大きな建物が建てられるので、前面道路の道幅が広い土地ほど高くなるのです。

視界の先に渋谷の高層ビルが見える(写真撮影/小林景太)

視界の先に渋谷の高層ビルが見える(写真撮影/小林景太)

高台の住宅地を通り、渋谷方面へ。この辺りは駅から離れているにも関わらず、路線価が全体的に高いエリアです。

台地で昔はさらに眺望も良く、防災と住環境の2点から路線価が高くなっているのだと予想できます。「土地の標高も、大きな要素になる」と中川さん。

地図上の3本の道と、②の道の実際の様子(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

地図上の3本の道と、②の道の実際の様子(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

そんな台地の住宅地で、同じ方向に延びた3本の道。大通りに最も近いのは①の道ですが、最も路線価が低いのは②の道でした。「道幅に加え、行き止まりで何かあった時に避難に懸念があることが価格に影響していそうです」(中川さん)

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

幹線道路の山手通り沿いは「1760」など高い数値がならびますが、路地を1本入ると「700」に。坪単価で300万円以上も違います。

実際に歩くと、数字上の違いと自分の感覚にもギャップを感じます。「住む分には、むしろ一本入った路地のほうが落ち着いていて良いのでは?」「日当たりを重視するならどっちだろう?」など、具体的な想像が膨らみました。

(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

目黒川を渡り、渋谷方面へ。再び上り坂が続きます。

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

標高約30メートル、中目黒方面にひらけた西郷山公園。この公園の近くにある3本の道はそれぞれ数メートルしか離れていないにも関わらず、路線価が異なりました。

土地の価格が高いエリアでは、下り坂や一方通行といった特徴が大きな価格差として表れます。仮にこの辺りの物件情報だけをピンポイントで見比べた場合、こうした背景までは気づけなかったかもしれません。

南平台、鉢山、鶯谷ー渋谷の地名をたどる渋谷の高層ビルに近づいてきた(写真撮影/小林景太)

渋谷の高層ビルに近づいてきた(写真撮影/小林景太)

南平台町から鉢山町、鶯谷町を通って渋谷駅に向かう(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

南平台町から鉢山町、鶯谷町を通って渋谷駅に向かう(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

「南平台、鉢山、鶯谷、桜丘など、地形が反映された地名が多いのが渋谷エリアの特徴。渋谷自体も『谷』ですね。そして、中心部ほど路線価の差も大きく表れます」(中川さん)

鶯谷町の路地、川の跡だとうかがえる(写真撮影/小林景太)

鶯谷町の路地、川の跡だとうかがえる(写真撮影/小林景太)

暗渠(あんきょ)や緑道といった、かつて水路だった道は低地で比較的価格が低いことが多いそう。

「緑道ひとつとっても、景観の良さ、将来も風景が変わらないことをプラスにとらえる人がいれば、防災面を心配する人もいる。低地の物件は日当たりを気にする人にはマイナス要因でも、日中出ずっぱりの人はお買い得と感じるかもしれません」(中川さん)

再開発と土地の価格(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

渋谷駅に到着。この辺りは谷状の地形をカバーするように高架の通行路を設けた開発が行われているのが見て取れます。ところで、再開発は路線価図にどのくらい影響を及ぼすのでしょうか?

「商業地はともかく、住宅地ではごく限られた周辺だけが値上がりし、それ以外には影響がほとんど及ばないケースもあります。いずれにしても、中心部以外では再開発直後に一気に路線価が跳ね上がるというより、開発前から上昇が積み重なっていき、気が付くと大きな差になっているという上がり方のほうが多いようです」(中川さん)

住みよい土地かはその人次第、街あるきで判断材料を集めよう

道中、中川さんからこんな問いかけが。

「川をはさんで2軒の住まい、ひとつは高台にある築年数の古い物件、もうひとつは低地にある新築物件。どちらを購入したいですか?」

答えはその人のライフスタイルによって変わってくるでしょう。ただ、そもそもそこがどんな土地か特徴を掴んでおくことで「思っていた環境じゃなかった」という失敗を減らせそうだなと、今回の街あるきで実感しました。何より、実際に歩くと街への解像度がぐっと高くなります。

賃貸や住宅購入に際して「実際に現地を見たほうがいい」とはいわれても、どこを見るか基準があいまいな人もいるはず。そんなとき、路線価図による街あるきは一種の判断材料になるかもしれません。目的をもって見比べることで、街の良いところや気になるポイントをぜひ見つけてみてください。

『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)●取材協力
中川寛子さん
住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマに活動。2023年4月に著書『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)を刊行。路線価図を手にまちを歩くガイド活動もおこなっている。

『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)

出没!アド街ック天国、執念の「街リサーチ術」をついに語る。最高の街の見つけ方とは

放送29年目に突入した「出没!アド街ック天国(テレビ東京系列)」。今まで1400を超える街を紹介してきた。
街の魅力を徹底的に掘り下げる番組だが、あまり知られていないリサーチ方法がわかった。
それは数週間も一つの街を徹底的に歩いて駆けずり回る、愚直な手法だ 。
他の番組でも類を見ないほどのアナログ式の徹底リサーチで、街調べを完遂する達人たち。その詳細から、「自分にピッタリの街」を見つけるヒントまで聞いた。

まず『アド街』と明かさずに地元民と仲良くなる?(写真撮影/辰井裕紀)

(写真撮影/辰井裕紀)

番組制作会社ハウフルスの会議室にいたのは、出没!アド街ック天国の演出・堀江昭子さん。
放送開始3年目で飛び込み、アド街を知り尽くした人だ。

さらに、プロデューサーの佐藤実さんにも話を聞く。

左から、プロデューサー・佐藤実さん、演出・堀江昭子さん(イラスト/タテノカズヒロ)

左から、プロデューサー・佐藤実さん、演出・堀江昭子さん(イラスト/タテノカズヒロ)

堀江「まず、リサーチをするのは担当ディレクター1人とアシスタントディレクター(AD)2人、計3人の班です。インターネットや書籍などで事前取材もしますが、基本はとにかく街歩きですね」

そもそも「3人」とは、あれだけの内容を調べるには少なくないか?

堀江「他の番組って、放送までにかけられる時間がすごく短いんですよね。うちは一つの街にリサーチから放送まで約2カ月かけていますから、少ない人数でもくまなく調べられるんです」

「8班」体制を組むからこそ可能な約2カ月スパン。リサーチだけで1カ月かけることもあるという。それでも、人数と予算が限られている中でどうやって探すのか。

番組制作には、ロケハン、ロケ、VTR編集、収録、番組全体の編集などの工程を経る(写真提供/ハウフルス)

番組制作には、ロケハン、ロケ、VTR編集、収録、番組全体の編集などの工程を経る(写真提供/ハウフルス)

一つの街では、メイン通りだけではなく、私道でなければ地元の人しか通らないような細い路地裏に至るまで、くまなく歩いてリサーチを行うという。

ちなみに、どんな方から話を聞くのか。

堀江「まず、商店街があったら商店街の会長さんや老舗のご主人など、地元の『生き字引みたいな人』に聞きます」

より街を知っている可能性の高いキーマンに話を聞くわけだ。

堀江「街にとって大事なスポットを聞いて、居酒屋をオススメされたら足を運び、周りの常連客とも『アド街』と明かさずに仲良くなって。他においしいお店も聞きます」

飲みニケーションからの数珠つなぎである。

さらに居酒屋にいるお客さんだけだと偏ってしまうので、美容室に髪を切りに行ったり、八百屋さんに行ったりして、「アド街」とは言わずに話しかける。そして目星をつけて各所を訪問するのだ。

田無で「スコップ三味線」を体験するディレクター(写真提供/ハウフルス)

田無で「スコップ三味線」を体験するディレクター(写真提供/ハウフルス)

ちなみに、担当ディレクターが一つの街につき1人だけなのはなぜか。

堀江「この街をどう見せようかの演出を統一できますから。同じ街でも魅力の見せ方次第で変わって見えますので。街の人とも1人の方が、仲良くなれますし、端的に言うと『深く』できるんです」

たしかに、1人で話しかけた方が向こうも心を開いてくれやすい。深いリサーチや演出に必要なのは「孤独」なのだ。

ディレクターは猫しか通らないような路地も探索する。そのおかげで白山・千石(東京都文京区)の放送回では、花街だった名残を多く見つけられた。

白山・千石エリアの路地裏には現役の井戸&手押しポンプがあり、住民が植物の水やりなどに使う(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

白山・千石エリアの路地裏には現役の井戸&手押しポンプがあり、住民が植物の水やりなどに使う(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

堀江「たとえば、白山が花街だったのは有名ですけど、路地に石畳が残っています。ふつうは通り過ぎちゃうような場所なんですけど、そこを調べれば街の歴史がわかるんです」

お蔵入りの街も「時代が変われば放送できる」

ちなみに、ネタが見つからなさそうなときはどうするのか。

堀江「正直、放送までこぎつけられなかった街もあります」

過去に3つほどあったという。

佐藤「時代が変われば放送できると思っています」

時間をおいて、見直された街はあるか。

佐藤「ありますよ、西武新宿線の武蔵関とか。2022年に取り上げたんですけど、これまでは『何もないかな?』と思いこんでいたのですが、行ってみたら、すごく面白い街でした」

世界的かつ日本を代表するお店が多くあったという。たとえば、バイク店の「チェリーズカンパニー」。

堀江「メディアに一切出てないとこだったんですけど、行ってみたら凄腕のバイク職人さんのお店で。カスタムバイクの全国大会で3連覇し、ブラッド・ピットのバイクも手がけた人のお店だったんです」

パーツのほとんどはこの店の黒須さんのオリジナル。『仮面ライダーBLACK SUN』に登場するバイクやブラッド・ピットが愛用するバイクも手がけた(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

パーツのほとんどはこの店の黒須さんのオリジナル。『仮面ライダーBLACK SUN』に登場するバイクやブラッド・ピットが愛用するバイクも手がけた(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

それでもベッドタウンの住宅街などは、特筆すべきところが見つからなさそうだが。

佐藤「地元の方からは『うちの街は1時間も紹介できないでしょう』とよく言われるんですけど、そんなことはなくて。地元民だからこそ魅力に気付かない、『灯台下暗し』なこともあるんです。人が住んでいれば、僕らはできると思います。街の方にとって大事なスポットをどれだけ浮き彫りにできるかです」

理想の街の見つけ方

「自分にとってピッタリな街」を見つけたい人も多いはず。

佐藤「お店などで人と話せばわかりやすいんですけど、『人との距離感の違い』が見えてくるんです。都市でも大阪は距離感が近くて、東京だとやや遠いですが、下町の方ならもっと近いとか。人それぞれに距離感がちょうど合う街があると思います」

都心で「江戸っ子の人情」が残っているのが、老舗も多い日本橋や神田、墨田区あたりという。

佐藤「アド街はロケハンや撮影の期間も長いんですが、顔なじみになり、昔ながらの方に『本当にあの子たち頑張ってるんだ』と思ってもらえて、『暑いから冷たいもの飲んでよ』と差し入れまでいただきました」

「うちなんかいいから。あそこの店頑張ってるし、取材してやってよ」と言われて、そのお店に行ったら、本当にいい店だったことも。

押上・東京スカイツリー回では「最先端とは真逆の、渋さ満点の定食屋さん」たちを紹介(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

押上・東京スカイツリー回では「最先端とは真逆の、渋さ満点の定食屋さん」たちを紹介(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

東陽町の居酒屋「あづま」でロケハン後にあめのお裾分けをたくさんいただく(写真提供/ハウフルス)

東陽町の居酒屋「あづま」でロケハン後にあめのお裾分けをたくさんいただく(写真提供/ハウフルス)

堀江「あと、元気のいい街は商店街がしっかりしていると思っていて。(山田)五郎さんに言わせると、お茶屋さんが営業できている商店街はいいそうです。専門店で買い物する意識の高い人や、お茶の習慣を持った昔からの人たちが住んでいる街なので」

そして、老舗のお店が多い街はこんな土壌も育つ。

堀江「老舗をみんなで支えていこう、みたいなね。コロナのときにも周りが、大変だろうから、どうにかしなきゃって意識があったようで。店が住んでる人を育てて、人が店を育てているんでしょうね」

古いものを守り、未来に向かう街のよさ

最近見てきた中で、印象的な街はあるか。

佐藤「たとえば蔵前(東京都台東区)とか。かつて倉庫が立ち並ぶ街でしたが、今では使われなくなった倉庫が生まれ変わり、外観を残しつつ、中が綺麗にリノベーションされています」

単なる再開発にとどまらず、新しいものの利便性と、古いもののいい部分を調和させた街ができあがっている。

年貢米を貯蔵するなど、江戸時代から倉庫街だった蔵前。倉庫リノベーションで生まれたお店たちによって若者にも人気に(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

年貢米を貯蔵するなど、江戸時代から倉庫街だった蔵前。倉庫リノベーションで生まれたお店たちによって若者にも人気に(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

堀江「蔵前みたいに、古いものを大事にしている街を見つけるのも手ですよね。街の魅力をわかっていて、未来にこの街をどう残すかをちゃんと考えている人たちがいることが、すごく大事」

さらには、未来へ向かう街がある。

堀江「つくば市(茨城県)は子育て世代にはすごくいいと思います。都会と田舎のよさが共存し、教育環境もすばらしくて。このご時世で、子どもがすごく増えています」

1977年からスタートしているICT教育をはじめ、2012年度から市内全ての小中学校で9年一貫教育を完全実施。最近では生成AIの活用を学ぶ授業を全小中学校に順次取り入れるなど、先進的な学びを推し進めてきた。

つくば市にある学園の森義務教育学校では児童数の多さを活かして、2,039人でだるまさんが転んだを行い「ギネス世界記録」に認定された(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

つくば市にある学園の森義務教育学校では児童数の多さを活かして、2,039人でだるまさんが転んだを行い「ギネス世界記録」に認定された(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

堀江「北海道の東川町も、バブル期直前の1985年、当時の町長さんが『写真の町宣言』をして。他の町が特産物をアピールする中ですよ。インスタなんかない時代に、未来が見えていたんでしょうね。今では写真を軸とした文化の町になりました」

東川町の人口は25年で20%増加し、約8600人の住民は半数以上が移住者。家の新築、薪ストーブの設置などに補助金が出るなど、助成・支援制度が充実する(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

東川町の人口は25年で20%増加し、約8600人の住民は半数以上が移住者。家の新築、薪ストーブの設置などに補助金が出るなど、助成・支援制度が充実する(写真提供/テレビ東京・ハウフルス)

数え切れないほどの街の魅力を見せてきたアド街は、ついに30周年が目前。何を大事にして番組を続けたいか。

佐藤「(初代宣伝部長の)愛川欽也さんが言っていた、『街をつくるのは建物じゃない、人なんだ』が、アド街の真髄です。本当に街をつくるのは人だと思います」

そして、街の移り変わりを見届ける。

佐藤「地元の人が頑張って街は成長していきますし、魅力も膨らんでいきます。街並みが変わっても変わらなくても、アド街は何度でも出没していきますので」

番組が29年間も探求してきた「アド街視点」を学べた今回の取材。知らない街から、知ってるつもりの街まで、もう一度イチから魅力を探してみたくなった。

30周年とその先へばく進する番組に期待しつつ、いつかどこかの店で「アド街見た」と言ってやろう。

最後に、取材後の立ち話で「今住んでいる街のさらなる魅力」を発見するコツを教えてもらった。

・いつもと違うルートを歩く
・いつもと違うことをやる
・入ったことのない店に入る

堀江「自分のテリトリーを変えることじゃないですかね。そのお店で周りやご主人と話してみるとか。意外な街の側面が見えてくるかもしれませんよ」

北鎌倉の円応寺でロケ後の記念撮影(写真提供/ハウフルス)

北鎌倉の円応寺でロケ後の記念撮影(写真提供/ハウフルス)

●取材協力
「出没!アド街ック天国」テレビ東京系列にて毎週土曜日夜9時~9時54分放送中