10平米以下のタイニーハウス(小屋)の使い道。大人の秘密基地や、住みながら車で日本一周も! ステキすぎる実例を紹介

おうち時間が増えたコロナ禍で「自分だけの空間を持ちたい」と、タイニーハウス(小屋)が注目を集めています。「小さな空間、大きな時間」をコンセプトに開発された、BESS(ベス)のログ小屋シリーズ「IMAGO(イマーゴ)」も然り。わずか9.8平米、約6畳という狭さが落ち着くと、販売数を増やしています。さらに、車両扱いという“走るログ小屋”なるものも登場しました。それぞれの小屋ライフをとことん楽しむ、ユーザーの声も聞きました。

10平米弱のログハウスをつくった背景は?

ログハウスの小屋「IMAGO」が誕生したのは2016年10月のこと。BESSを手がける(株)アールシーコアの木村伸さんと松島綾子さんは、この10平米弱の小屋をつくった背景をこう話します。

「BESSはもともとログハウスからスタートした会社。吹き抜けやデッキやロフトといった、遊びの基地のような楽しい空間がある、“家は、暮らしを楽しむための道具だ”という考え方です。住宅に関する法的な基準が厳密になっていく昨今、一度『家』という概念を取っ払ってみようと。原点に立ち返り、ブランドとしての小屋を提案しようという背景から生まれたのが、このIMAGOです」(木村さん)

横長のIMAGO[R]、正方形に近いIMAGO[A]の2タイプとも、広さは10平米弱(写真提供/BESS)

横長のIMAGO[R]、正方形に近いIMAGO[A]の2タイプとも、広さは10平米弱(写真提供/BESS)

IMAGO[R][A]には“建てるログ小屋”というキャッチコピーが(写真提供/BESS)

IMAGO[R][A]には“建てるログ小屋”というキャッチコピーが(写真提供/BESS)

「IMAGOはぜひセルフビルドを楽しんでほしいと、キットで販売することを決めました。ログ材は、厚さ7cm×14.5cmの14段積みです。実は2006年に一度ログ小屋を開発したことがあるのですが、当時のログ材は厚さ11cmでセルフビルドするには重く、大変だったのです。また面積は、10平米以上になると建築確認申請が必要になる(※防火地域・準防火地域以外の敷地の場合)ことから、10平米を超えない広さとしました」(木村さん)

IMAGOには、ウッドデッキなどで自然いっぱいの外の空間と一体化して楽しむ[R=レセプター型]、農園など、目的の空間に置くことでその場の活用を仕掛ける[A=アクティベータ型]という形違いの2タイプあり、ともに畳数でいえば約6畳。ほどよいコンパクト感で、暖かみのあるログ空間の中、釣りやキャンプなどの道具を置いてメンテナンスしたり、クラフトや楽器などの趣味を楽しんだり。リモートワークが多い人なら仕事部屋としても使えそうです。

好きな色に塗装して。離れや趣味小屋にももってこい(写真提供/BESS)

好きな色に塗装して。離れや趣味小屋にももってこい(写真提供/BESS)

小屋の販売数は増加中。セルフビルドにトライする人も

ほかにも、実際に購入された方はどんな楽しみ方をしているのでしょう?
「趣味を楽しむところとして活用される方が多いですが、友人家族を招いて過ごすとか、お子さんの二段ベッドを置いてときどきそこで寝泊まりするというお話も聞きます」(松島さん)
ちょっと非日常の体験ができそうで、想像しただけでワクワクします!

さらに、教室を開いている方や、洋菓子や花の販売スペースとして使っている方もいるそう。また法人が複数購入し、宿泊施設やペットホテルにしているケースもあるようです。

プリザーブドフラワーショップとして活用しているケースも(写真提供/BESS)

プリザーブドフラワーショップとして活用しているケースも(写真提供/BESS)

(写真提供/BESS)

(写真提供/BESS)

(後述する可動式に対して)この固定式IMAGOは、2018年に80台、コロナ禍に突入した2019、20年にはそれぞれ110台超を販売。2021、22年はそれぞれ150台近くと、販売数を伸ばしています。自宅で過ごす時間が増えたことで、ログ小屋での新しい暮らしの楽しみ方が広がっているといえそうです。

「ユーザーの方などは結構セルフビルドされている印象が強いです。動画付きのマニュアルを用意しているので、どなたでも自作していただけます。期間の目安としては、2人以上で毎日作業すれば2週間ほど。雨さえしのげれば慌てなくてもいいので、週末ごとに作業して、1カ月ほどで完成させる、という方が多いようです」(木村さん)
自分で、または家族や仲間とチャレンジすれば、きっと愛着もひとしおでしょう!

自分の好きをぎゅっと詰め込んだ、心地いいトコロ桑原さんはIMAGOを離れとして活用。柿の木に吊るしたブランコとあいまって、楽しげな雰囲気(撮影/窪田真一)

桑原さんはIMAGOを離れとして活用。柿の木に吊るしたブランコとあいまって、楽しげな雰囲気(撮影/窪田真一)

それでは実際にIMAGOでの小屋時間を楽しんでいるユーザーさんにお話をうかがってみましょう。
長野県安曇野市で八百屋を営む桑原さんは、家族4人暮らし。ログ小屋の前にはバイクやバギーが置かれ、秘密基地のような雰囲気がヒシヒシと伝わってきます。
もともと小屋には興味があったのでしょうか?

「うちは敷地が250坪と結構広いんです。土地を買うとき、ここ全部買ってくれたら坪単価を安くするよと言われ、じゃあ、と。5年ほど前の春にBESSで自宅を建てて、同じ年の11月、バイク旅の帰りに展示場に寄って、お世話になった担当者に新しいバイクを見せようと思ったら、セルフビルドできる小屋が発売になるという話を聞きまして。ちょうど庭に東屋を建ててそこでBBQでもしたいな、と思っていたから、東屋より小屋の方がおもしろいじゃん!俺つくる!とすぐ予約しました」

6畳の空間は、高校生の頃から集めていたお気に入りでいっぱい(撮影/窪田真一)

6畳の空間は、高校生の頃から集めていたお気に入りでいっぱい(撮影/窪田真一)

ログ小屋をセルフビルドできるところに惹かれたという桑原さん(撮影/窪田真一)

ログ小屋をセルフビルドできるところに惹かれたという桑原さん(撮影/窪田真一)


桑原さんは、当時のキット特別価格100万円で購入、基礎部分はプロに依頼し、13万円だったそう。ほかにデッキや造作棚などは近所のホームセンターで材料を買い、自作したといいます。

もともと古いバイクやビンテージ家電を直すのが好きという桑原さん。ログ小屋もひとりで、なんと2週間ほどでつくり上げてしまいました。
「ツリーを置きたいから、クリスマスまでに完成させたい一心で。夜にトンカンやっているとご近所迷惑なので、仕事が終わって17時から19時までを作業時間と決めて夢中でやりました。夢中になれば、なんだってできるものですよ」

7cm厚のログ材で組み立てた小屋。塗装は家族みんなで(撮影/窪田真一)

7cm厚のログ材で組み立てた小屋。塗装は家族みんなで(撮影/窪田真一)

お風呂みたいな“おこもり”感もあり、視界が広がる開放感もあり

ログ小屋の中におじゃますると、カラフルな自転車にミニバイク、発電機、チェーンソー、レトロな看板、ファミコンまで、桑原さんの“好き”がぎゅぎゅっと詰まっていて、約6畳の空間がおもちゃ箱のよう。陳列の仕方にもセンスを感じますが、どれも飾りではなく、すべて桑原さんが手を入れて使えるように修理済み。
「昔は売ります・買います情報が載っている雑誌でお気に入りを見つけては入手していました。物置にしまってあったそれらの雑貨をひっぱり出して並べてみたら、すごくいい感じ!ようやく日の目を見たと感慨深かったです」

完成当時は、お子さんとここで絵本を読んで過ごすのが習慣だったとか。
「母家に置いてある絵本から好きなのを選んで、わざわざ小屋に持って行って読むんです。おんぶして行ったりね。寒いけど小屋の薪ストーブにみんなで薪を入れてあっためて。キャンプとまではいかなくても、ちょっと場所が変わるだけでなんだかワクワクするし、小屋で過ごした時間は子どもたちとのいい思い出になっています」
小屋はまさに、桑原さん一家の特別な時間を生み出す場所になったのです。

入口には一間分タイルを敷いてエントランススペースに(撮影/窪田真一)

入口には一間分タイルを敷いてエントランススペースに(撮影/窪田真一)

小屋の中央には、沖縄の米軍の家具屋で見つけてカバーを張り替えたという赤いソファをレイアウト。そこに座ってハーッと肩の荷を下ろしてリラックスするのが、桑原さんのいつもの過ごし方です。
「僕にとって小屋はお風呂のようなもの。ある程度狭くて、好きなものに囲まれてこもれる密閉空間は、湯船みたいに安心できる。一方で、サッシを開け放てば、デッキの先に庭が見えて、視野が広がる感じ。これは家以上の開放感です。バンのバックドアを開け放し、腰かけて海を見ながらおにぎりを食べるときみたいな、気持ちのよさを感じます」
狭さと広がり。その両立が、この小さなログ小屋の大きな魅力でもあるのです。

サッシを開けると、ウッドデッキとの一体感で実際の面積以上の広がりを実感。「季節が変われば季節の空気を感じ、雨が降れば雨を眺めています」と桑原さん(撮影/窪田真一)

サッシを開けると、ウッドデッキとの一体感で実際の面積以上の広がりを実感。「季節が変われば季節の空気を感じ、雨が降れば雨を眺めています」と桑原さん(撮影/窪田真一)

ソファに座れば、庭の向こうに母家が見え、リビングにいる家族の姿をここからぼーっと眺めるのが好きだという桑原さん。逆にリビングから見る小屋も素敵なのだとか。
「タイマーで暗い時間だけ小屋の間接照明が点く仕組みにしているんです。暖かいライトがうっすらと光って、夜の眺めがまたいいんですよ」

音楽を聴きながら何も考えずに過ごすのが至福のとき。沖縄の楽器・三線(さんしん)もときどき練習中(撮影/窪田真一)

音楽を聴きながら何も考えずに過ごすのが至福のとき。沖縄の楽器・三線(さんしん)もときどき練習中(撮影/窪田真一)

最後に、安曇野の冬は氷点下になることも多いですが、薪ストーブのおかげで小屋の中はぽかぽかでした。薪ストーブは最初から計画して設置し、小屋の完成後、あとから床と天井に断熱材も入れたのだそう。
「自作したから知識がついたんです。あとでここ直したいなと思っても、プロの大工さんに依頼したとしたら『またお金かかっちゃうな』だけど、一度つくった経験があるから直し方がわかる。もちろんお金もかからない。自分の八百屋の増築までできるようになっちゃった(笑)。苦労してつくる、面倒くさいのが楽しいんです。想像はどんどんふくらみます」と、つくるを楽しむスタイルがとても印象的でした。

薪ストーブがログ小屋によく似合います(撮影/窪田真一)

薪ストーブがログ小屋によく似合います(撮影/窪田真一)

母家(写真左)と小屋の距離感もいい感じ。今後は家族で乗れるブランコを庭につくる計画も(撮影/窪田真一)

母家(写真左)と小屋の距離感もいい感じ。今後は家族で乗れるブランコを庭につくる計画も(撮影/窪田真一)

住宅の枠を飛び出して。車輪が付いた“動くログ小屋”で旅へ!?

これまで見てきた“建てるログ小屋”に対し、“走るログ小屋”IMAGO iter(イマーゴ イーテル)、“移るログ小屋”IMAGO X(イマーゴ エックス)も登場しています。発売は2021年10月。国産ログ材を使った、どっしりとした外観が目を引きます。

見ての通り、車輪がついていて車で牽引(けんいん)するタイプの小屋(写真提供/BESS)

見ての通り、車輪がついていて車で牽引(けんいん)するタイプの小屋(写真提供/BESS)

IMAGO iterは木屋根と幌屋根の2タイプ。木屋根は三角屋根がかわいらしく、写真の幌屋根は採光性に優れています(写真提供/BESS)

IMAGO iterは木屋根と幌屋根の2タイプ。木屋根は三角屋根がかわいらしく、写真の幌屋根は採光性に優れています(写真提供/BESS)

「たとえば農地や、防火などの建築条件で、これまでそのままでは建てられなかった場所に『置ける』、車両扱いのログ小屋です。コロナ禍の状況を受けて、もっといろんな場所で小屋を楽しもう、というアプローチにしたらおもしろいんじゃないかと」とBESS木村さん。

建築基準法に代わって道路運送車両法に準拠した、車両タイプのログ小屋。自分の車で牽引できる、つまり思い立ったらどこにでもログ小屋を連れて行って設置できる、という発想です。
釣り道具を乗せて海へ、キャンプをしに大自然の中へ、星を見に天文台の小屋を走らせて。好きなときに好きなところで、好きなものと過ごせる時間と空間は、なんと自由で贅沢なことでしょう。

IMAGO iterの走行風景がムービーで見られます(映像提供/BESS)

車両だからこそ、さまざまな場所に出向いてワークショップを開催したり、移動スタジオや災害時の仮設住宅といった使い方も(写真提供/BESS)

車両だからこそ、さまざまな場所に出向いてワークショップを開催したり、移動スタジオや災害時の仮設住宅といった使い方も(写真提供/BESS)

7cm厚の国産杉が暖かみを感じさせます。Xの天井は、ログハウスらしい斜め屋根(写真提供/BESS)

7cm厚の国産杉が暖かみを感じさせます。Xの天井は、ログハウスらしい斜め屋根(写真提供/BESS)

気軽に動かして、どこでも自由に小屋ライフを楽しめる

可動タイプのIMAGOはセルフビルドはできないものの、無塗装での引き渡しのため、自分好みに塗装を楽しむことが可能です。
Xは広さ約7畳とゆったり。iterは約4畳とコンパクト。どちらも牽引に使われるシャーシ(車台)から考えられたサイズです。

牽引するには、牽引自動車第一種免許と中型SUV(Xは大型SUV)以上の車が必要です。そう聞くとなかなかハードルが高く感じますが、可動式のメリットはなにより「動かせる」こと。
たとえば、庭に置いたログ小屋の場所を移動させる。季節に応じて向きを変えてみる。模様替えのように気軽に動かせば、窓から見える景色も新鮮に映るはず。公道を走る牽引はせずとも、固定式よりもはるかにフレキシブルな使い方ができそうです。

なお、ちょっとした移動なら、別売りのドーリー(ボートなどの牽引に使う器具)があれば牽引車がなくても手動でもできます。今後は、リモコンタイプのドーリーの販売もBESSで計画中だとか。

幌屋根タイプは小屋とは思えない明るさ。四方に窓があり、視界も風通しも良好です(写真提供/BESS)

幌屋根タイプは小屋とは思えない明るさ。四方に窓があり、視界も風通しも良好です(写真提供/BESS)

可動式の魅力は、キャンプ場など自然の中のコテージとして設置すれば、夏は水辺に、秋は紅葉のそばに、イベントがあれば一同に集めて……と、季節や目的に合わせてベストポジションで楽しめること。小さな駐車場や庭など、建築ができない街なかには、コーヒースタンドやスイーツ専門店などの小規模店舗として。農園の近くに設置すれば、ふだんは休憩所に、収穫期には直売所として利用できます。

山梨県の花農家がつくった静かなキャンプ場では、IMAGO Xをキャビンとして利用しています(写真提供/moss camp field)

山梨県の花農家がつくった静かなキャンプ場では、IMAGO Xをキャビンとして利用しています(写真提供/moss camp field)

(写真提供/moss camp field)

(写真提供/moss camp field)

実際にこれまで販売した約40台は、店舗やコテージとして使われるケースが多いそう。高速道路のサービスエリアに洋菓子店として出店したり、湖畔のキャンプ場に10台ほど並べたり、また鉄道の高架下でのイベント時には、受付ブースとして使用したことも。

「小屋を子ども部屋にするというケースもあると思いますが、子どもが成長して独立したとき、その小屋を持たせてあげる、なんていうことも不可能ではありませんよ」とBESS松島さん。小屋を「動かせる」ということは、そんな可能性も広がっていくのです。

自宅、固定式小屋に続いて可動式小屋も設置。「ここは遊ぶ部屋」アトリエの看板はご主人のお手製(写真提供/BESS)

アトリエの看板はご主人のお手製(写真提供/BESS)

可動式小屋を購入した岐阜県のKさんご夫妻にもお話をうかがってきました。
ご自宅をBESSで建て、さらに上の写真からもわかるように、固定式のIMAGOの姿も。

「そう、これで3つ目なんです。もともとキャンピングカーやトレーラーが好きで。ログ小屋を牽引していろんなところに行けるというのがおもしろいなぁと思って、興味を持ちました」とKさん(夫)。
展示場で紹介され、木屋根タイプのIMAGO iter(イーテル)を購入。本体価格の386万1000円に加え、納車費用、設置費用、車検取得費用などで60~70万円ほどだったそうです。

先に導入した固定式のものは、お2人が愛用するキャンプ道具や自転車、冷蔵庫などを置く小屋として活用。ときどきそこで食事をすることもあるそうで、「外ではないけれど、家の中とも違う。アウトドア感覚で過ごせるんです」とKさん(妻)は言います。

小屋にタイヤが付いていて、車両というのがわかります。前後にはナンバーも(写真提供/BESS)

小屋にタイヤが付いていて、車両というのがわかります。前後にはナンバーも(写真提供/BESS)

一方、可動式の方は、車両ゆえ基礎はいらず、出入りのためのデッキは自分たちで製作。こちらは主にKさん(妻)が、離れの個室のように使っているのだとか。
「1日の大半はここで過ごしています。趣味のペーパークラフトをつくったり、音楽を聞いたり、友人とお茶したり。ベッドはマッサージ機能が付いているので、横になってリラックスしたりしています」とKさん(妻)。
居心地よくて寝てしまいそうですね!
「夜ここに泊まることもありますよ。星がすごくきれいなんですよ。デッキでお酒を飲みながら星を眺めて。アウトドアの延長みたいな感じかな。庭先でBBQもできるから、外で食べたり、小屋で食べたり、自由にくつろいでいます」

目の前にはBBQを楽しめるスペースが(写真提供/BESS)

目の前にはBBQを楽しめるスペースが(写真提供/BESS)

小屋があることで、新たなコミュニティが生まれた

思ってもみなかった反響は、設置した場所とも関係がありました。
「いずれ出しやすいところにと思って、道路に面した庭先に置いたのですが、近所の子どもたちが遊びに来るようになったんです。よちよち歩きの子はハシゴをつたってデッキに上がるのが楽しいみたいで。ママさんたちにはコーヒーセットを用意しておいて、『お茶してきー』って。自宅の方はやっぱり用事がなければピンポーンって来ないじゃないですか。こっちも掃除しなきゃとか思って気軽には呼べないし。小屋はすごく気楽なところ。デッキに座っておしゃべりすることも多いですよ」とKさん(妻)は言います。

タイヤの付いたログ小屋の存在自体、大人も子どもも興味を持ってしまいますよね。
「見ず知らずの方も通りかかると気になるみたいです。何するところですか?と聞かれるので、遊ぶ部屋だよって答えています」

約4畳のスペースにベッドやテーブルを配置。「無垢材のおかげか、日が入ると冬でも暖かく、夜も寒くない」とKさん(妻)(写真提供/BESS)

約4畳のスペースにベッドやテーブルを配置。「無垢材のおかげか、日が入ると冬でも暖かく、夜も寒くない」とKさん(妻)(写真提供/BESS)

ログ小屋を牽引して、日本一周の旅を計画中

ギターが趣味というKさん(妻)、最近はカリンバも始めたとか。ログ小屋で演奏することもあるそうで。
「昨年の夏、音楽仲間とここで演奏会をしたんです。デッキをステージにして、庭にお客さんを呼んで。すごく楽しかったので、またやりたいなと思っています」
動かせるログ小屋だからこそ、いろいろな場所でも演奏会ができそうですね。

現在のところまだ動かしていないログ小屋ですが、実は今年の春にはご夫妻そろって牽引自動車第一種免許を取得する予定だとか。そして2~3年のうちに、このログ小屋を引き連れて、日本一周をする計画があるというから楽しみです!
「これまで何十年と、ワンボックスカーに乗ってあちこちにキャンプに行っていました。ここはくつろげるしベッドで寝ることもできるから、快適な旅ができそうです」
ご夫妻とワンちゃん、猫ちゃんも連れてのログ小屋の旅、ぜひレポートを待ちたいと思います。

ペーパークラフトなど多趣味なKさん(妻)。ワンちゃんもログ小屋がお気に入り(写真提供/BESS)

ペーパークラフトなど多趣味なKさん(妻)。ワンちゃんもログ小屋がお気に入り(写真提供/BESS)

IMAGOのクラフトもKさんの手づくり!ちゃんとBのロゴ入りです(写真提供/BESS)

IMAGOのクラフトもKさんの手づくり!ちゃんとBのロゴ入りです(写真提供/BESS)

つくる喜びを満たしてくれる小屋と、好きなところで好きなことを楽しめる小屋。小さなスペースだからこそ、ひとり時間を存分に楽しんだり、気軽に外とつながれたりする。そんな小屋があることで、第三の場所としての空間だけでなく、豊かな時間まで生まれるのだなと感じました。
BESSでは今後サウナ小屋のリリースも計画中だとか。ログハウスとサウナは相思相愛、しかも可動式。小屋の広がり、これからも目が離せそうにありません。

●取材協力
BESS(株式会社アールシーコア)
IMAGO

コロナ禍で家でもキャンプ! テレワークにも役立つアウトドアな暮らし

新型コロナウイルスの影響で、「ベランピング」「おうちキャンプ」などの言葉が普及し、実際に暮らしにキャンプのエッセンスを取り入れた人も多いのではないでしょうか。今、住まいとアウトドアがかつてなく近づいているようです。それでは、どんな住まいや住まい方が登場しているのでしょうか、アウトドアブランドとハウスメーカーに聞いてみました。
暮らしにアウトドアを取り入れる人が急増!

このところキャンプブームが続いていましたが、住まいの世界でも「キャンプのようなインテリア」「アウトドアっぽい暮らし」は、ひとつのトレンドとなっていました。ところが今年に入り、新型コロナウイルスの影響でその流れは一気に加速。外出自粛しながらも家でも外遊びがしたいと、「おうちキャンプ」「ベランピング」などを取り入れる人がぐっと増えているようです。

アウトドア総合メーカーのスノーピークのアーバンアウトドア事業担当・王治菜穂子さんによると、「世間では『メスティン』レシピが話題になっていますが、同社でも、1~2人を対象にしたミニサイズのダッチオーブン『コロダッチ』や、コンパクトに収納できて家使いでも重宝する『HOME&CAMPクッカー』、チタン製のマグカップといったテーブルウェアの売れ行きが大変好調です」といいます。

「HOME&CAMPクッカー」は2020年度グッドデザイン賞で「グッドデザイン・ベスト100」にも選出(写真提供/スノーピーク)

「HOME&CAMPクッカー」は2020年度グッドデザイン賞で「グッドデザイン・ベスト100」にも選出(写真提供/スノーピーク)

「外出自粛期間中は店舗を閉めておりましたが、その後営業再開してからは、かなりのスピードで売上が回復。キャンプビギナーから、根っからのキャンパーまで、おうちのなかでもキャンプを楽しみたい! という動きを肌で感じています」(王治さん)と話します。

ハウスメーカーとアウトドアのコラボは反響大!

ハウスメーカーでも同様の手応えがあるようです。ヘーベルハウス(旭化成ホームズ)では、アウトドアな暮らしを提案していますが、資料請求数が前年同期比5割増になっているといいます。キャンプ道具はインテリアアイテムとしても優秀なので、今、流行している「男前インテリア」の影響もあるかもしれません。

バルコニーを有効活用する暮らし方を提案(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))

バルコニーを有効活用する暮らし方を提案(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))

(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))

(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))

注文住宅に留まらず、新築の完成物件でもアウトドアを取り入れた住まいは好調のようです。例えば、中央住宅とアウトドア家具ブランド「INOUT(イナウト)」とコラボしたモデルハウスは、新型コロナウイルスの影響が深刻だった今年5月に販売を開始しましたが、全14棟完売したそう。

(写真提供/中央住宅)

(写真提供/中央住宅)

写真を見ても分かる通り、リビングとデッキがひとつづきになっていて、家の中と外がゆるくつながっています。シェードがあるので、いつでもキャンプ気分が楽しめる住まいと言えるでしょう。

実はスノーピークも2018年、地元・新潟の工務店などとコラボした「天野エルカール」という住宅街の開発に取り組んでいて、当時も大変好調だったといいます。

「地元工務店、ハウスメーカー、全10社とコラボした企画でしたが、計画中はどこまで反響があるか分からず、手探りだったのです。3週連続、週末に住宅展を開催したときは計7日間で1200組以上の方にご来場をいただき、関心の高さに驚かされました」(王治さん)と話します。

コロナ前からあったアウトドアな住まいですが、ブームで終わるとは考えにくく、今後、加速して一大ムーブメントとなっていくかもしれません。

家でもキャンプの楽しさを! アウトドアな住まいの良さとは

では、アウトドアな住まいの特徴や魅力は、どこにあるのでしょうか。

「うちと外がゆるやかにつながり、自然を感じられる工夫がされている点でしょうか。『天野エルカール』では、キッチン・リビングにつづいた土間やデッキをマストで設置しました。すると、窓をあければすぐに外の空気が感じられるのです。また、住まいにシェードを張りつけました。これだとすぐにシェードを張ることができ、さっと設営して、すぐにキャンプ気分が楽しめます」と王治さん。

スノーピーク 企画開発エグゼクティブクリエイター佐藤さんの自宅にもウッドデッキが。「自宅でのテレワークの際、晴れて気持ちいい天気のときは、ウッドデッキにさっとテーブルとチェアを持ち出します。休憩中はアウトドアギアを使ってコーヒーを豆から挽いて気分転換しています」(佐藤さん)

スノーピーク 企画開発エグゼクティブクリエイター佐藤さんの自宅にもウッドデッキが。「自宅でのテレワークの際、晴れて気持ちいい天気のときは、ウッドデッキにさっとテーブルとチェアを持ち出します。休憩中はアウトドアギアを使ってコーヒーを豆から挽いて気分転換しています」(佐藤さん)

シェードを張ると、キャンプ気分がアップ(写真提供/スノーピーク)

シェードを張ると、キャンプ気分がアップ(写真提供/スノーピーク)

とはいえ、家づくりからというと、なかなかハードルが高くなるもの。今すぐにできる「おうちキャンプの楽しみ方」を教えてもらいました。

「アウトドアグッズの良さは、収納してコンパクトに持ち運べ、使わないときにはしまっておける点があります。例えば、テレワークだと気分転換が難しいですが、アウトドアグッズがあると気分転換も自宅でも容易にできます。弊社の社員では、おうちのバルコニーに机と椅子を置いて、テレワークする人もいます。リビングで仕事をするより、気分も変わって良いですよ」といいます。

なるほど、おうちアウトドアをチェアと机からはじめられるというのは、手軽ですね。

スノーピークビジネスソリューションズ  HRS事業部オフィスディレクションチーム  神原さんのご自宅。「在宅ワークでは気分転換が重要。集中したいときはリビングで、Webミーティングはテラスのお気に入りローチェアで。家の中でも場所を変えるだけで、気分も変わって生産性をアップできます」(神原さん)(写真提供/スノーピーク)

スノーピークビジネスソリューションズ HRS事業部オフィスディレクションチーム 神原さんのご自宅。「在宅ワークでは気分転換が重要。集中したいときはリビングで、Webミーティングはテラスのお気に入りローチェアで。家の中でも場所を変えるだけで、気分も変わって生産性をアップできます」(神原さん)(写真提供/スノーピーク)

もう一つ、アウトドアな住まいの良さとして、王治さんが教えてくれたのは、コミュニティを円滑にしてくれる点です。

「焚き火や火の匂いを敬遠する人もいるなか、やっぱりキャンプに憧れる人たち、してみたいなという人たちは一定数いるのだと思います。弊社では都心の新築マンションに住まわれる方でも、気軽に野遊びやキャンプを楽しめるための提案を行ってきましたが、実際にイベントをしてみると、やはりみなさんとてもうれしそうなんですね。焚き火を囲んで、会話がはずみ、打ち解けるきっかけになります」と王治さん。

住んでいる場所は大都会でも郊外でも、風や光、緑を感じたい、というのはいつも変わらぬ願いかもしれません。アウトドアな暮らし、これからはブームではなく、定番となっていくのではないでしょうか。

●取材協力
旭化成ホームズ
スノーピーク
スノーピークビジネスソリューションズ
中央住宅

外出自粛でテントのニーズ急増中!?快適な在宅生活のための知恵をプロに聞いた!

学校や幼稚園・保育園が休みになり、子どものめんどうを見ながらのテレワーク。1日3回の食事の準備と後片付け、片付かない部屋と、気持ちがめいっていませんか(筆者のことです)。そんななか、家でもお出かけ気分が味わえると、テントやアウトドア用品が売れているといいます。わが家も子ども用テントが出しっぱなしですが、どう活用するとよいのでしょうか。スウェーデン発の家具量販店「イケア」と登山・アウトドアショップ「好日山荘」に聞いてみました。
わが家を楽しく快適に! お手軽アウトドアで気分を変えよう

外出自粛が呼びかけられて早2カ月。今、キャンプ用のテントやアウトドアグッズがじわじわと売れているといいます。アウトドア用品店の好日山荘の広報担当の菰下さんによると、「ネットショップが中心ですが、登山用品全般、初心者向けアウトドアグッズは例年通りに売れています」。外出も登山もできない現在の状況を考えると、一見、使い道がないように思えますが、そのアウトドアグッズやテント、どのように使っているのでしょうか。

菰下さんによると「テレワーク部屋として集中したい時」「子どもの昼寝用」というではありませんか。なるほど、今ならではの使い方ですね! ちなみにテントは、部屋の大きさに合っていて、テント内の高さのあるものが使いやすくおすすめとのこと。子どものお昼寝であれば、ポップアップテントでも十分かもしれません。さっそくわが家でもチャレンジしたところ、子どもたちが大はしゃぎ。「今日、何して遊ぼうかな」という方にぜひおすすめしたい使い方です。

(写真撮影/嘉屋恭子)

(写真撮影/嘉屋恭子)

子どもの声が周囲に響かないよう、注意しつつ、自宅ベランダにテントを設置したところ。生活感のある写真で恐縮ですが、子どもたちはテントが気に入り、出てきません。煮込んだカレーを持ち込み、食べるだけで大満足です(写真撮影/嘉屋恭子)

子どもの声が周囲に響かないよう、注意しつつ、自宅ベランダにテントを設置したところ。生活感のある写真で恐縮ですが、子どもたちはテントが気に入り、出てきません。煮込んだカレーを持ち込み、食べるだけで大満足です(写真撮影/嘉屋恭子)

夜になると明かりをともして、キャンプらしい雰囲気に。息子はテントのなかで寝袋にくるまって一晩、眠りました(写真撮影/嘉屋恭子)

夜になると明かりをともして、キャンプらしい雰囲気に。息子はテントのなかで寝袋にくるまって一晩、眠りました(写真撮影/嘉屋恭子)

アウトドア用品だけでなく、イケアでも屋内用のテントは好調だといいます。
「現在、好評いただいているのが、(1)テレワーク用アイテム、(2)子ども向けテントやマット、(3)収納用品です。特にお手軽・簡単に取り入れられるアイデア、それを実現できる機能的でスタイリッシュな商品が人気です」(イケア広報)

対象年齢:18カ月以上(イケア・ジャパン)

対象年齢:18カ月以上
イケア・ジャパン

わが家にあるのは、かなり前のイケアの子ども用テントですが、確かに子どもが大好きなスペースです。カラーボールを入れて、なんちゃってボールプール風にするのが定番の楽しみ方。一人が楽しく遊んでいると、もうひとりが違う遊び方がしたいとケンカがはじまるという黄金コースではありますが……。

イケアのだいぶ前の子ども用テント。子ども部屋に出しているので、子どもたちが思い思い、遊んでいます(写真撮影/嘉屋恭子)

イケアのだいぶ前の子ども用テント。子ども部屋に出しているので、子どもたちが思い思い、遊んでいます(写真撮影/嘉屋恭子)

イケアおすすめ! 家にいながら「外を感じる」工夫

また、イケアでは家のなかでも外を感じる場所として、「ベランダ」「バルコニー」の活用を提案しています。

「日本では、ベランダは洗濯物を干す場所、植物を育てる場所になっていますが、アイデア次第で『セカンドリビング』になります。食事やコーヒーを飲んだり、仕事をしたり、読書やゲームをしたり、屋内とは少し違う雰囲気で、楽しく快適な時間を屋外で過ごしていただければと思います」(イケア広報)

イケア・ジャパン

イケア・ジャパン

イケアが提案しているのは、フロアタイルや屋外用ラグなどを敷いて椅子を置く、オープンカフェのようなスタイル。さらにクッションやひざ掛けなどのテキスタイル、照明やキャンドル、ランタンなどを活用することで、よりロマンチックな空間に演出できるとのこと。

欧米、特に家で長い冬をすごす北欧の人たちは、家でリフレッシュをするのがすごく上手な印象です。照明やファブリックに手を加えて、模様替えをすることでマンネリ化を防ぎ、今の自分の気分に合うよう、家の居心地をよくなるようアップデートするとともに、ストレスを解消しているのでしょう。これは、在宅時間が増える今こそ、見習いたい知恵なのですね。

またイケアでは、「空気清浄カーテン」という機能性カーテンが登場しています。なんでも自然光のエネルギーを利用して、室内の空気を浄化する鉱物ベースの処理を施しているそう。日本ではカーテンも引越しなどがないとあまり買い替えない印象ですが、窓まわりがかわると気分も変わるもの。この機会に一新してみると部屋の空気も気分も変わるかもしれません。

イケア・ジャパン

イケア・ジャパン

ランタンや寝袋などで「ちょいアウトドア気分」がおすすめ

一方、好日山荘のホームページでは、家でアウトドアグッズを使って楽しむ写真をシェアする「OUTiDOOR(おうちドア)グランプリ」という取り組みがされています(4/17~5/10)。家にいながらにしてアウトドアを取り入れることで、「非日常感」が楽しめるとのこと。

例えば、寝袋(顔だけ出して寝るタイプ)で、リビングで眠ってみる、またガスなどを使ったランタンを灯してみるなど。家にいながらにして、いつもと違う場所やことをしてみることで、違った風景が見えてくるそうです。

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好日山荘

好日山荘

また、ナイフ類を使ってみたり、山ごはんをつくってみたりすると、普通の家事とは違った心持ちで取り組めるとのこと。山ごはんは調理器具と食器を兼用できるので、洗い物もラク(これは重要)ですし、家族のコミュニケーションになるといいます。ランタンもバーナーも同じく換気には要注意ですし、小さなお子さんがいると難しいかもしれませんが、火を使ったごはんやぬくもりを感じる優しい灯りってやっぱりときめきますよね。

ほかにも、今やおしゃれインテリアとしてファンが多い「ハンモック」を設置したり、カセットコンロで燻製・干物をつくったりという楽しみ方もよいとか。確かにこの2つはこれからの季節的にもぴったりですよね。燻製はフライパンでもできますし、手軽~本格派までいろいろなタイプがあって個人的にも大好きです(ただし酒量が増えるので要注意)。

こうしてみると、家での過ごし方は、まだまだ工夫できそうですね。この度の「おうちにいましょうウィーク」、ランタンひとつ、寝袋で眠る「ちょいアウトドア」にチャレンジしてみたいと思います。

●取材協力
好日山荘
イケア・ジャパン

登山家・野口健さんが指南する、生き抜くための本当の防災対策

富士山などに散乱するゴミ問題に着目した清掃登山活動で有名な登山家の野口健さんは、東日本大震災やネパールの大地震、熊本地震でも支援活動を行い、熊本の避難所に被災者用のテントを張る「テント村」活動も展開している。
命がけで数々の険しい登山に成功し、被災地での様子を見続けてきた彼は、日本での地震や津波、豪雨などの震災発生時に最大1週間、自分の力で生き延びれば、自衛隊の助けを得られるなど何とか生き延びることができると言う。「自分の命は自分で守る」ために、個人として日ごろからどのような「防災対策」をしておくべきだろうか。経験談をもとに考えを聞いた。
被災者のストレス軽減につながった「テント村」

――2016年4月に熊本地震が発生後、避難所にテント村をつくったきっかけは何ですか?

プライバシーの確保が難しいので、長期間避難所にいると誰でもイライラしてきます。幼い子どもがいると周りに迷惑をかけるし、子どもたちもストレスを感じてしまう。そもそもペットがいるご家庭は避難所に入れません。そんな方たちはやむなく車中泊になりますが、肉体的に辛いですし、エコノミークラス症候群で命に危険が及ぶかもしれない。そんな状況を見て、何ができるかと考えたときに、ヒマラヤ登山でのベースキャンプの経験が役立つと思いました。つまり「テント村」をつくるということです。

陸上競技場の外周に市販のテントを1m間隔で並べる。「これだけでも、避難所で過ごすよりはプライベートを保つことができ、ストレスが軽減します」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

陸上競技場の外周に市販のテントを1m間隔で並べる。「これだけでも、避難所で過ごすよりはプライベートを保つことができ、ストレスが軽減します」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

余震が続く中、屋根がある避難所で過ごすと、いつ天井が落ちてくるか分からないため恐怖を感じます。その点、歩いて動けるぐらいの高さがあるテントなら天井が落ちる心配もないし、閉塞感もさほど感じません。車中泊や、避難所のシーツで仕切られた区画で寝るぐらいなら、寝袋で寝る方が快適だし、アウトドアグッズは色が鮮やかなので、気持ちも暗くなりにくいんです。また隣のテントとの間を1m以上空けることができれば、意外と隣の話し声が気にならず、ある程度のプライベート空間を持つことができます。

そうして実際に、陸上競技場のグラウンドの外周にテントを張ったところ、車中泊の方だけでなく、避難所で過ごされていた方も移動して来られ、300人分のテントを張る当初の予定が、その倍の600人弱を収容できる分のテントを張ることになりました。昼間はグラウンドの真ん中で子どもたちが走り回るなど、キャンプ場のような雰囲気になるので、目の前の光景が明るくなりました。

「アウトドア用品は明るい色が多いし、広々としたグラウンドを子どもたちが笑いながら走り回っている光景が目に入ると、元気が出てきます」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

「アウトドア用品は明るい色が多いし、広々としたグラウンドを子どもたちが笑いながら走り回っている光景が目に入ると、元気が出てきます」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

何よりもうれしかったのが、テントを張っていた期間、救急搬送が1人も出なかったことです。「避難所暮らしをしていると体調を崩す人が多いのですが、これはなかなかないことですよ」と医療関係者の方に言われたぐらい、テント村は被災者のストレス軽減につながったと思います。ストレスは人間の健康に及ぼす害が大きいので、災害後は少しでも軽減するよう環境を整えることが大事ですし、何があっても動じない心を養うことも大事だと思います。

―――どうしたら災害後に動じない心を養えますか。

2018年6月23日にタイ王国・チエンラーイ県のタムルアン森林公園内の洞窟で、地元のサッカーチームメンバーのコーチ1人と少年12人が閉じ込められました。残念ながら救出に向かった1人のダイバーは亡くなりましたが、7月10日に全員無事に救出されたニュースは記憶にある方も多いでしょう。電気もなく、水位がどんどん上がっていく不安しかない中で、10日間以上も閉じ込められたら、ノイローゼになったとしても不思議はありません。でも救助に来た救助隊にしがみつくわけでもなく、泣きながらパニックになるわけでもなく、子どもたちが淡々と会話をしていた映像を見たときに、国民性というものもあるかもしれませんが、育ってきた環境の影響も大きいのではと思いました。

タイでは「ボーイスカウト活動」が義務教育なんです。チームワークの重要性や役割分担の中での責任感、リーダーシップやフォロワーシップを自然の中で学んでいます。1つの課題に向けて一致団結して進める能力、総合的な人間力が身についていたからこそ、パニックになる子どもがいなかったのでは、と思うんです。

「自然の中で遊ぶという子どもたちは減少しているように思います」(写真撮影/片山貴博)

「自然の中で遊ぶという子どもたちは減少しているように思います」(写真撮影/片山貴博)

だから、幼いころからボーイスカウトに所属して自然の中でさまざまな経験をしたり、家族でキャンプに出かけて楽しみながら役割分担などを行ったりするアウトドア体験は、災害時に役立つと思います。

また、普段から家や会社など自分が過ごすエリアの地盤をハザードマップでチェックし、家族会議を開いて、災害時にどこに避難して、どこで集合するなどの打ち合わせをしておくだけでも、パニック状態に陥りにくいのではないでしょうか。

「プチ・ピンチ」の経験が生き抜く力につながる

――環境学校を開催され、子どもたちが自然と触れ合う機会をつくっていらっしゃいますが、災害時に役立つ経験につながることも目的なのでしょうか。

最初は、子どもたちに自然の素晴らしさを知ってもらって、自然環境を守ってもらいたいという考えでした。でも実際に始めると環境を守る以前に、自分の命を危険から守ることができない子どもたちが多いことに驚いたんです。

例えば、シーカヤックの乗り方を教えて転覆したときの脱出方法を練習させますが、実際に足がつく浅瀬で子どもが乗っているカヤックをひっくり返すと、カヤックの底を見せたまま何の動きもしない子どもたちが何人もいました。水中に潜って見てみると、子どもはパドルを握った姿勢のまま固まっているので、急いで引っ張り出しました。地上で練習して知識を身につけたけど、いざ危険な状況になると頭が真っ白になり、動けなくなってしまうんです。それは災害時も登山でも同じで、頭が真っ白になって固まったり、パニックになったり、諦めやすい人ほど、助かる可能性は低くなります。

本文の内容とは別の日に行われた、小笠原での環境学校(写真提供/野口健事務所)

本文の内容とは別の日に行われた、小笠原での環境学校(写真提供/野口健事務所)

だから自然の中で小さな失敗、怖かった経験、凍える状況などの「プチ・ピンチ」を体験することは大事です。人は死ぬかもしれないという危険に晒されたときに、死を感じた分だけ生きたいと思う、生に対する執着心が大きくなるもの。「絶対におぼれたくない」と思って必死にカヤックから抜け出そうとし、反射神経や自己防衛力などが磨かれるように思います。

それが分かってから「プチ・ピンチ」やチームワークを経験させるために、僕は環境学校に近場の岩登りや富士山に登るといったメニューを取り入れました。最近は危ないからと禁止している学校もありますが、木登りは手軽に「プチ・ピンチ」がつくれる遊びの1つです。アウトドアこそ防災術になると思いますね。

――ご自身のお子さんに経験させている「プチ・ピンチ」は?

環境学校では事故につながるといけないので、「プチ・ピンチ」にとどめていますが、自分の娘には時に死を感じるほどのもっと大きなピンチを経験させています(笑)。

野口さんの講演会や取材現場などに一緒に出向き、父親の話を熱心にノートに記録する娘の絵子さん。富士山の清掃や被災地の支援活動に向かう父の背中を見て育った(写真撮影/片山貴博)

野口さんの講演会や取材現場などに一緒に出向き、父親の話を熱心にノートに記録する娘の絵子さん。富士山の清掃や被災地の支援活動に向かう父の背中を見て育った(写真撮影/片山貴博)

娘の初登山は小学校4年生の時で、冬の八ヶ岳に連れて行きました。マイナス17度という低い気温の猛吹雪で、ほっぺが痛いし、服も濡れて凍えるほど寒いし、精神的にも追い詰められて「もう助からないかも」と彼女は泣きべそをかいていました。僕自身、山頂まで行くのは無理だと思いつつも、「娘に自然を体験させる」というテーマがあったので、「泣いてないでちゃんと岩を掴みなさい。泣いて助かるものは山にないよ」と語りかけていました。山頂から2時間ほど手前にあった山小屋でひと休みしながら、「今日はここまで。山には『していい無理』と『してはいけない無理』がある。ここから先は『してはいけない無理』だから下りるよ」と伝え、下山しました。

ヒマラヤ登山をする野口さんと絵子さん(写真提供/野口健事務所)

ヒマラヤ登山をする野口さんと絵子さん(写真提供/野口健事務所)

(写真提供/野口健事務所)

(写真提供/野口健事務所)

翌日テレビで、八ヶ岳で遭難して凍死したというニュースが流れました。僕らが撤退した同じ時間帯に登っていたパーティーで、吹雪の中で立ち往生してしまったとのこと。そのニュースを見て僕は、死を身近に感じるような強烈な経験をしてしまった娘がトラウマにならないかと心配しました。親に殺されかけたんですからね。でも彼女は「してはいけない無理だったんだね」と納得していました。「絵子さん(娘さんの名前)は、またパパと山に登りたいですか?どうですか?」と聞くと、「なんでそんなことを聞くの?」と言いながら、「リベンジする」と言いました。そして中学校1年の冬に、一緒に登り切りました。頂上で「やったね!」というと、「パパ、無事に下山するまでが登山だよ」と生意気にも言われてしまいました(笑)。
  
最近では一緒に15時間以上山道を歩いたり、ヒマラヤに登ったりもしていますが、予定外のことが起こっても彼女は簡単にパニックにならないようになりました。こうした自然環境の中で養われる経験こそ、自身の危機管理能力やメンタル力の向上につながっているように思います。

「よくトラウマにならなかったよね?」と絵子さんに語りかける野口さん。「どうしてもリベンジして登りたかったから」と絵子さんは微笑む(写真撮影/片山貴博)

「よくトラウマにならなかったよね?」と絵子さんに語りかける野口さん。「どうしてもリベンジして登りたかったから」と絵子さんは微笑む(写真撮影/片山貴博)

家にテントを張って寝袋で寝てみる

――防災グッズを準備しておくだけではあまり意味がないんですね。

準備することで満足しているだけでは、災害時にいざ使おうと思ってもうまく使えません。防災グッズの1つとしてテントを購入しても、納戸にずっとしまいっぱなしでは、いざというときに組み立てられないでしょう。テント内に細いロープを張ると洗濯物を吊るしたり、ランタンを吊るしたりすることもできますが、知らないとどう道具を使えば快適に過ごせるかも分からない。だから普段から使うことが大事になります。

そもそも「防災」という切り口から入っても、起きるか起こらないか分からないネガティブな状況を考えることは面白くないから、防災意識は定着しないように思います。だったら、趣味や遊びといったアウトドア体験を楽しんで、自ずと防災意識や経験も身についている方が、よっぽどもしものときに役立つと思うんですよね。

テントには不思議な魅力があります。登山での山小屋やテントの中の方が普段の生活よりも、娘がよく喋ってくれるんですよね。親子のコミュニケーションの場にもなっていると思います。また、友人であるレミオロメンの藤巻亮太さんとヒマラヤに3~4年ほど毎年正月に登っていたんですが、テントを張って日本酒を並べて飲むんですよ。二人で「何よりの贅沢だな」と言いながら楽しみました。

そんな楽しいと思えることこそ、継続できます。最初はご自宅の庭や屋上、駐車場などにテントを張って、家族並んで寝袋で寝てみてもいいと思います。1人用の小さなテントならマンションのベランダでも張れるのではないでしょうか。少しずつハードルを上げて、今まで3日間観光地巡りをしていた旅行を、「湖畔で3日間キャンプ」に変えてみてもいいでしょう。

日本人は真面目なので机上で防災知識を学ぼうとしますが、いくらインプットしてもいざというときに実践できなければ意味がありません。可能な限りパニックにならず、適切な判断力を身につけるには経験しかない。自分たちでできる範囲のアウトドアを楽しむことから始めてみてください。

●取材協力
登山家
野口 健さん
1973年米国ボストン生まれ。亜細亜大学卒業。故・植村直己さんの著書に感銘を受け、登山を始める。99年エベレストの登頂に成功し、7大陸最高峰最年少登頂記録を25歳で樹立。以降、エベレストや富士山に散乱するゴミ問題に着目して清掃登山を開始。東日本大震災や熊本地震でも支援活動を展開。こうした経験を講演するほか、子ども向けの環境学校なども開催する。『震災が起きた後で死なないために~「避難所にテント村」という選択肢』(PHP研究所)など著書多数。

春のお出かけに! 持って便利、部屋に置いても様になるオシャレなアウトドアグッズ

アウトドアグッズはバーベキューやキャンプ、登山をするときに使うモノ、と思っていませんか? 機能性はもちろん、インテリアとしても大活躍するオシャレなものが多い、今どきのアウトドアグッズ。お部屋のインテリアにもなって外出も楽しくなる、そんなアウトドアグッズを上手な取り入れ方とともに紹介します!
アウトドアグッズを「部屋で使う」!

「グランピング」という言葉をご存じでしょうか? 最近ネットや雑誌でたびたび話題となっている、ぜいたくで豪華なキャンプのことを指しますが、そのスタイルをインテリアに取り込む人がジワジワと増えています。「グランピングをインテリアに取り入れる」と言うと、「やってみたいけど、なんだか難しそう……」と身構えてしまう人も多いかもしれませんね。

でも「実はちょっとしたポイントを押さえるだけで、グランピングスタイルは簡単に楽しめるんです」と話すのはインテリアコーディネーターとして活躍する小島真子(こじま・まこ)さんです。

インテリアコーディネーター・小島真子さん(写真撮影/竹治昭宏・スパルタデザイン)

インテリアコーディネーター・小島真子さん(写真撮影/竹治昭宏・スパルタデザイン)

「グランピングスタイルを取り入れたインテリアは、アウトドアのワクワク感をお部屋で楽しめるのが何よりも魅力です。また、実用面でもメリットがあります。インテリアに取り入れる際に欠かせないのが、アウトドア感のあるテーブルウェアやキッチンアイテムです。丈夫で無骨でありながら、レトロさやスタイリッシュさが感じられるデザインに人気が集まっています。素材ではステンレス、アルミ、チタン、ホーロー、鉄(アイアン)等が人気ですね」(小島さん・以下同)

特にアウトドアチェアやテーブルなどは、キャンプに持って行くだけでなく、普段のインテリアとしても使いやすいとか。

「アウトドア向けのチェアやテーブルは、デザインはもちろん、簡単に折り畳んでしまうことができるのも魅力です。通常、テーブルや椅子を動かすとなると、女性や子どもには重労働です。ところがアウトドア製品は持ち運びしやすいように軽くて丈夫につくられているので、使うときだけ出して使わないときは畳んで収納することが可能です。また『部屋が狭いから、いつもテーブルを出しておくのはちょっと……』という一人暮らしの収納問題に悩む人にもうれしいポイントだと思います」

確かに、アウトドア用の折り畳みテーブルやチェアなら子どもでも運びやすいですし、アウトドア用の食器は壊れにくいという利点もあります。落としても破損しにくいのは、小さな子どもがいる家庭にとっては大きなメリットです。

アルミニウム製の飯ごうをフラワーベースがわりにコーディネート。木製のカトラリーや丸太のコースターなど自然素材と一緒にすると和らぐ(画像提供/小島真子さん)

アルミニウム製の飯ごうをフラワーベースがわりにコーディネート。木製のカトラリーや丸太のコースターなど自然素材と一緒にすると和らぐ(画像提供/小島真子さん)

アウトドアグッズをオシャレに取り入れるコツとは!?

では、インテリアへ実際に取り入れるためにはどのような点に注意すると、オシャレに見えるのでしょうか。

「アウトドア感のあるインテリアをオシャレに決めるには、空間に柔らかさをプラスすることが大切です。具体的には植物、照明、ファブリックの3点です。部屋全体のインテリアを統一しようと考えると荷が重いですが、小物なら気軽にアウトドア感を演出できます。
例えばお部屋やバルコニーに植物を置くと、ぐっとグランピング気分が高まると思いますし、スチール椅子に北欧柄やネイティブ柄のブランケットをかけるだけでも、雰囲気が柔らかくなってオシャレな空間になります。まずは身近なラグやクッションなどの小物から取り入れてみてはいかがでしょうか?」

たしかに、初心者にはインテリア全体をアウトドアスタイルに統一するのではなく、アウトドアグッズをプラスアルファで取り入れるのが良さそうです。またキッチンや玄関などのように、スペースを決めてアウトドアの要素をつくってみるのもオススメとか。

「自然を感じさせるスタイルを目指せば、初心者でもフォーカルポイント(インテリで目を引く部分・スペース)をつくりやすいと思います。例えばリネンやコットン、木製のものなど『自然素材』をいくつか使ってみるといいでしょう」

ワイヤーバスケットを用いてアウトドアの世界を演出。ウッドと植物、アイアンの組み合わせが、アウトドアらしさとモダンさを巧みに共存させている(画像提供/小島真子さん)

ワイヤーバスケットを用いてアウトドアの世界を演出。ウッドと植物、アイアンの組み合わせが、アウトドアらしさとモダンさを巧みに共存させている(画像提供/小島真子さん)

また「あまり色を増やさないのもポイント」と小島さんは言います。

「色を考えるときには、自然を感じさせるようなアースカラー(主には茶系の色にカーキやオリーブを含めた色)を取り入れるといいでしょう。例えば空や海のような青、紅葉のような赤、森のようなグリーン……といった具合ですね。
注意点としては、ラグとクッションカバーで全然違う色や模様、原色はできるかぎり避けてほしいですね。色数を少なくするのは、どんなインテリアにおいてもオシャレに決める最低限のコツです。コーナーごとにテーマ色を決めても面白いかもしれませんね」

せっかくオシャレなインテリアを目指しても、カラフルになりすぎてチープに見えてしまったら全てが台無し。アウトドアの落ち着きのあるテイストを大切にしたいものですね。

家でアウトドアムードを味わえるオススメグッズ

ポイントを押さえれば誰でも簡単というアウトドアテイストを取り入れたインテリア。すぐにアウトドアムードを味わえるオススメグッズにはどんなものがあるでしょうか。

「大きめのものとしては、折り畳みができるタイプのディレクターズチェアはオススメ。椅子として座ることはもちろん、ちょっとした物置きにもなりますし、ほかの用途でスペースを使いたいときにはさっとしまえるので便利です。アウトドア、インドアの両方に対応したラウンジチェアの『アカプルコチェア』も空間をオシャレに演出してくれます。

屋内でも屋外でも使用できるアカプルコチェアは1つあれば、その存在感で空間がぐっとオシャレに見える(画像提供/小島真子さん)

屋内でも屋外でも使用できるアカプルコチェアは1つあれば、その存在感で空間がぐっとオシャレに見える(画像提供/小島真子さん)

そのほかに、収納ボックスや折り畳み式のコンテナボックス、ワイヤーバスケットなど、少しだけメンズライクなものを取り入れてあげると空間にメリハリが生まれます。コンテナボックスはリビングに置いて子どものおもちゃを収納したり、突然の来客に見せたくないものを隠したりすることができ、外ではクーラーボックスとしても活躍しますよ(笑)」

このようにアウトドア仕様のものを普段の生活に取り入れると、まるで自然の中へ出かけたような新鮮な気分を味わうことができますね。発想や目線を少し変えるだけで、シンプルなインテリアもたちまちアウトドアの雰囲気に演出できそうです。

「またLEDランタンはアウトドアで使うアイテムの一つですが、ディスプレイとして飾るのはもちろん、お家での実用性も備えていて非常灯として活躍するでしょう。私自身も、ブリキランタンやLEDのキャンドルライトなどをお部屋のインテリアに取り入れて楽しんでいます。キャンドルライトは高さの異なるものをいくつか並べてもすてきです」

キャンプのワンシーンを思わせる、ウッド&ランタンのディスプレイ。グランピングを体験しているかのようなムードが漂う(画像提供/小島真子さん)

キャンプのワンシーンを思わせる、ウッド&ランタンのディスプレイ。グランピングを体験しているかのようなムードが漂う(画像提供/小島真子さん)

手軽に楽しめるアウトドアは、今後ますます認知度も人気も高まっていく予感。まずは照明やラグなど小物から試して部屋にオリジナリティを出していくのがよさそうです。アウトドアに興味を持ち始めたけど、実際のキャンプはハードルが高い……そんな人はお家の中にアウトドアグッズを取り入れて、心地よい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

●取材協力
・インテリアコーディネーター小島真子(株式会社Laugh style)

今、「ソトごはん」がアツい!  アウトドアライフを無理なく楽しむコツとは?

いよいよ春本番、外出が楽しくなってくる季節になりました! せっかくなので、この春は今ブームの「ソトごはん」トレンドにのってみませんか。

「ソトごはん」とは、キャンプ、都市型BBQ、ピクニック等、「ソト(アウトドア)」で食べる食事の総称です。「ソトごはん」のレシピサイト「ソトレシピ」を運営する株式会社シーザスターズ(東京都中野区、以下シーザスターズ)に、初心者でも楽しめる「ソトごはん」のコツも教えてもらいました。
女子会するならアウトドア? 男性よりも女性に人気

シーザスターズが運営する「ソトレシピ総合研究所」(以下「ソトレシピ総研」)の調査によると、「アウトドアが好きですか」という質問に対して、67.1%の女性が好きと回答しているそう。
更に「好きなアウトドアを教えてください」という質問に対して女性は男性よりもBBQ、ピクニックが高い結果になったのです。男性よりも女性のほうに、ソトごはん人気が高いのですね!意外な気がします。

好きなアウトドアを教えてください〈回答数=479 複数回答 単位:%〉(画像提供/株式会社シーザスターズ)

好きなアウトドアを教えてください〈回答数=479 複数回答 単位:%〉(画像提供/株式会社シーザスターズ)

また、「ソトごはんが好きな理由」としては、女性に一番多かったのが「リフレッシュできるから」という回答。これも男性より割合が高いですね。世の女性たちは、リフレッシュを求めているようです。

ソトごはんが好きな理由〈回答数=376 複数回答 単位:%〉(画像提供/株式会社シーザスターズ)

ソトごはんが好きな理由〈回答数=376 複数回答 単位:%〉(画像提供/株式会社シーザスターズ)

そして20~50代の男女に、普段のソトごはんの料理・調理方法をたずねた「ソトレシピ総研『2018年ソトごはんトレンド調査』」によると、「網や鉄板で焼く料理」が圧倒的に高く79.9%という結果に。典型的なBBQの調理法ですね。
今後やってみたい料理・調理方法は「網や鉄板で焼く料理」は58.9%と普段よりも21.0pt下がり、一方で、「ダッチオーブン料理」や「くんせい」などは普段より今後の意向が20pt以上高い結果になっています。また、「アウトドアのごはんに関する不満は?」という質問には、「網で焼くだけのマンネリ化」との回答が40.2%となったのだとか。網や鉄板は既に定番なので、「脱アミ」して新しい料理・調理方法にも取り組みたい気持ちが見えてきます。

〈回答数=443 複数回答 単位:%〉(画像提供/株式会社シーザスターズ)

〈回答数=443 複数回答 単位:%〉(画像提供/株式会社シーザスターズ)

初心者はお家ごはんと共通の道具を使うのもおすすめ

でも、網もダッチオーブンも一人暮らしの家に保管するのはなかなか大変そうですよね。道具をそろえるのに時間もかかりそう……。そういった心配に対し、シーザスターズのご担当者が手軽に始められる「ソトごはんのノウハウ」を教えてくれました。

「最初からすべてをそろえるということは難しいので、最初は、家庭にあるもので代用したり、友人に借りたり、レンタルサービスを使いながら、ご自身でも調理器具を一つずつそろえていくというやり方も良いかもしれません。しかしソトごはんの調理器具のなかにはスキレットやダッチオーブンなど、家庭でも使うことができるものが多数あります。家庭で使うときも調理の仕方はソトで行うやり方と変わりませんが、スキレットやダッチオーブンは鋳鉄製ですので、熱伝導に優れており蓄熱性も高いです。一度加熱すれば、あとは弱火や余熱を使ってしっかりと加熱できるので、普通のお鍋やフライパンに比べて肉料理などもやわらかく調理できるというメリットもありますよ」(シーザスターズ)

ソトごはん用の道具があれば、普段の家ごはんの幅も広がるということですね!

「私たちの運営するサイト『ソトレシピ』は、アウトドアで簡単につくれるフォトジェニックな美味しいレシピをコンセプトにしており、調理器具がそろっていなくても、手軽に始められるものを紹介していますので、ぜひチェックしてください」(同)

一方で最近ではインスタ映えするアクティビティが人気ですが、ソトごはんもインスタ映えはばっちりです。「ソトレシピ」担当者に、素敵な写真を撮るコツを聞いてみました。

「撮影アングルや料理だけでなく、お皿や机のテーブルスタイリングが重要ですね。アウトドアテイストを演出するなら、カトラリーや卓上のテーブルスタイリングは、より自然素材に近いものや、ナチュラルな色味のものを使うとよいでしょう」(同)

またアウトドアライフの楽しみには、インテリアを楽しむのにも似た部分があるとのこと。

「自分がアウトドアで暮らす空間を、コーディネートするという考え方を取り入れてみては? 焚火の場所、くつろぎの場所、料理する場所、寝る場所、などを家の間取りを考えるように考えてみてください。より一層アウトドアライフが心地良くなると思いますよ」(同)

アウトドアでも空間をコーディネートするというのは、意外な発想です。調理道具などのアウトドアグッズも、ぜひお気に入りの一品を見つけてコーディネートしてみてはいかがでしょう?

防災にもお役立ち! 日常生活に取り入れたいアウトドアグッズをチェック

趣味でアウトドアを楽しむ人は多いが、せっかく買いそろえたアウトドアグッズをしまい込んでいてはもったいない。日ごろの生活に取り入れておけば、災害時にも役に立つはず。どんなものが役に立つのか、どう日常生活に取り入れたらいいか、探ってみた。
緊急時に、避難生活に、役立つグッズがたくさんある

街を飛び出して、自然の中で遊ぶときに欠かせないアウトドアグッズ。厳しい自然環境の中で安全・快適に過ごせるように開発された道具だから、災害時にも役立つのは間違いない。

その実例が、アウトドア総合メーカーのモンベルが取り組む災害支援活動だ。1995年の阪神淡路大震災をきっかけに、アウトドアグッズと自分たちがもつノウハウを役立てようと「アウトドア義援隊」を結成。災害が起こると現地に駆け付け、テントや寝袋などの貸し出しを行い、被災者のサポートを行ってきた。

災害時には、どんなアウトドアグッズが、どんなときに、どう役立つのだろう? 
「モンベルでは、災害発生からの状況変化に応じた備えを提案しています。『一次避難』は、災害が発生した直後に自分の身の安全を確保し、命を守るステージ。その後、ライフラインが復旧するまで、避難所や野外で生活を送るステージが『二次避難』です」(モンベル広報 以下同)
それぞれのステージで役立つアイテムをいくつか紹介してもらった。

【一次避難に役立つアウトドアグッズ】
●ホイッスル
少しでも早く救助してもらうために、ぜひ用意しておきたい基本アイテム。声が出ないような状況でも助けを呼ぶことができ、大声で叫ぶより体力を消耗しない。
【画像1】エマージェンシーコール 大きくクリアな音が出るホイッスル。572円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像1】エマージェンシーコール 大きくクリアな音が出るホイッスル。572円(税別)(画像提供/モンベル)

●ヘッドランプ
避難時に明かりは必須。日中でも停電により暗闇の中を非難することになるかもしれない。懐中電灯は片手がふさがってしまうが、頭に装着するヘッドランプなら両手が使え安全に行動できる
【画像2】パワーヘッドランプ 明るさ160ルーメン、照射距離110mのパワフルなヘッドランプ。2900円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像2】パワーヘッドランプ 明るさ160ルーメン、照射距離110mのパワフルなヘッドランプ。2900円(税別)(画像提供/モンベル)

【二次避難に役立つアウトドアグッズ】
●寝袋・マット
避難所で過ごす場合も、毛布一枚より格段に暖をとりやすい。特に冬の避難生活で心強いアイテム。コンパクトになり場所を取らないのも利点。下にマットを敷けば地面からの冷気を遮断し、寝心地も改善する。
【画像3】ダウンハガー 800 #3 一年を通じて使える軽量・コンパクトなモデル。27500円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像3】ダウンハガー 800 #3 一年を通じて使える軽量・コンパクトなモデル。27500円(税別)(画像提供/モンベル)

●テント
就寝スペースとして、また着替えや子どもの居場所にも利用できる。避難生活が長引いたときにテントが張れればプライバシー面でのストレスが減少する。
【画像4】ムーンライトテント 設営が簡単で、居住空間が広いモデル。写真は6~7人用の7型68000円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像4】ムーンライトテント 設営が簡単で、居住空間が広いモデル。写真は6~7人用の7型68000円(税別)(画像提供/モンベル)

2016年の熊本地震の際は、モンベル南阿蘇店で被災者にテントの貸し出しを行い、店舗前のスペースにテント村ができた(冒頭の写真)。「長く避難所にいるとプライバシーの面でストレスになり、家族で過ごせるテントのほうが快適だという声をたくさん聞きました」

レインウエアやシューズは日常生活にすぐ取り入れられる

日常生活にもアウトドアグッズは取り入れられるだろうか? 取り入れやすいものとして挙がったのが、レインウエアや登山靴、ヘッドランプだ。レインウエアと登山靴は雨風の強い日に活用できるし、ヘッドランプは懐中電灯代わりに壁にかけておいてもいい。

「モンベルでは雨や雪の日の通勤にレインウエアや防水の登山靴を着用する社員も多いです。キャンプや登山のシーンだけでなく、日常の悪天候の際にも使っていただくことをオススメします」

●レインウエア 
アウトドア用は防水性が高く、丈夫で動きやすいのが特徴。レインウエアの上下があれば、どんな天候や状況でも両手をふさがずに行動できる。
【画像5】ストームクルーザー 透湿性に優れ、軽くてしなやかな着心地。防寒着としても活用できる。ジャケット19500円(税別)、パンツ13500円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像5】ストームクルーザー 透湿性に優れ、軽くてしなやかな着心地。防寒着としても活用できる。ジャケット19500円(税別)、パンツ13500円(税別)(画像提供/モンベル)

●登山靴
ソールが厚めにできていて剛性も高い。ガラス片やがれきが散乱する中を歩かなければならないときに、スニーカーとの差は歴然。さらに防水のものなら、ぬれた場所でもガンガン歩いていける。
【画像6】ラップランドストラーダー。低山ハイクやキャンプ向きのモデル。軽量で柔らかな履き心地、高い防水性が特徴。男性用13500円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像6】ラップランドストラーダー。低山ハイクやキャンプ向きのモデル。軽量で柔らかな履き心地、高い防水性が特徴。男性用13500円(税別)(画像提供/モンベル)

●ライフジャケット
もうひとつ紹介してくれたのが「浮くっしょん」という商品。普段はクッション、開けばライフジャケットになる。実はこれ、東日本大震災の津波の経験から考案されたものだという。

「東日本大震災では、家の奥にしまい込んでいたりどこかに保管していて、津波のときに使えなかったライフジャケットがたくさんありました。普段の生活の中ですぐ手の届く場所に置けて、いざというときに確実に手に取れるものが必要という考えのもと開発されました」

装着が簡単で、普段から水辺の遊びに使える。防災頭巾のように学校や幼稚園を中心に備えが広がっているそうだ。
【画像7】浮くっしょん クッションとして身近に置けるライフジャケット。反射テープやホイッスルもついている。大人用4762円(税別)、キッズ用2サイズ3619円(税別)・4000円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像7】浮くっしょん クッションとして身近に置けるライフジャケット。反射テープやホイッスルもついている。大人用4762円(税別)、キッズ用2サイズ3619円(税別)・4000円(税別)(画像提供/モンベル)

普段からよく使っていてこそ、いざというときにちゃんと使える

アウトドア用品を部屋に置いてインテリアとして楽しむ手もあるかも、と考えた筆者だが、この案は賛同を得られなかった。
「災害時に役立てるには、普段から使っていることがとても大事です。部屋に置くというより、どんどんアウトドアに出かけて、持っている道具をよく使うこと。そうすることで、もしものときにもちゃんと使いこなすことができます」

確かにそのとおり。テントを持っていても、使っていなければ立て方を忘れてしまう。ずっとしまい込んでいて出してみたらカビだらけ、なんてこともありそうだ。しばらくアウトドアから遠ざかっている人は、防災のことも視野に入れて新しいアウトドアを始めるのもいいだろう。

例えば、家族で何かを始めるならキャンプはどうだろう? ということで、キャンプ用品を得意分野とするアウトドアメーカーにも、防災に役立つおすすめ商品を紹介してもらった。

スノーピークが紹介してくれたのは、誰にでも設営しやすいロングセラーのテント。コールマンのすすめは、4つに分割して持ち歩ける進化形のランタンだ。

【画像8】アメニティドームM[5人用] フレームのエンドパーツやテープが色分けされているので、迷わず設営できる。入り口が広く子どもを抱っこしたまま入りやすい。耐久性と高い防水・撥水加工も特徴。32800円(税別)(画像提供/スノーピーク)

【画像8】アメニティドームM[5人用] フレームのエンドパーツやテープが色分けされているので、迷わず設営できる。入り口が広く子どもを抱っこしたまま入りやすい。耐久性と高い防水・撥水加工も特徴。32800円(税別)(画像提供/スノーピーク)

【画像9】クアッドマルチパネルランタン 部屋全体を照らし暗闇の不安を解消。4つの発光パネルを分割して持ち歩け懐中電灯の役目も。最長約20時間の大容量で、携帯の充電ができるUSBポートも付いている。 1万584円(税込)(画像提供/コールマン ジャパン)

【画像9】クアッドマルチパネルランタン 部屋全体を照らし暗闇の不安を解消。4つの発光パネルを分割して持ち歩け懐中電灯の役目も。最長約20時間の大容量で、携帯の充電ができるUSBポートも付いている。1万584円(税込)(画像提供/コールマン ジャパン)

今回の取材を通じて学んだことは、「アウトドアでたくさん遊ぶことが、もしもの災害への備えになる」ということ。最近めっきりアウトドアから遠ざかっている筆者。しまいこんだテントを引っ張り出して、久しぶりに山旅を計画しようと思った。

【取材協力】
●株式会社モンベル
●株式会社スノーピーク
●コールマン ジャパン株式会社