実家じまい、母の民芸コレクション数千点の譲渡会を父が設計した自宅で開催。新しい物語を次世代につなぐ 二部桜子さん

多くの人が気になる「実家の片づけ」。挿花家でエッセイストの母と建築家の父のもとに生まれた料理家の二部桜子(にべ・さくらこ)さんは、両親が世界中で集めた膨大な民芸品などのコレクションを次世代につなごうと、実家を開放して譲渡会を実施。遠方からも人が訪れて盛況に! 実家じまいとしてはもちろん、自身の今後についても多くの気づきが得られたというその経験について、二部さんにお話を伺いました。

暮らしも注目された母・二部治身さん。世界を旅して集めた民芸品が大量に

コンクリート打ちっ放しの天井の高い建築。広大な空間を埋め尽くすように、おびただしい数の器や古道具が並ぶ。「ちょっとした骨董市の物量ですよね」と二部桜子さんも笑うが、一家庭のコレクションとは思えないスケールだ。

フリマ形式の譲渡会「Recollection - 回想の記録 -」の様子(画像提供/鮫島亜希子さん)

フリマ形式の譲渡会「Recollection – 回想の記録 -」の様子(画像提供/鮫島亜希子さん)

ここは桜子さんが育った東京都八王子市郊外の家。母である挿花家でエッセイストの二部治身(にべ・はるみ)さんは、建築家の夫・誠司(せいじ)さんとともに桜子さんと弟を育てながら、約100坪もの敷地で花と野菜をつくり、四季の草花を愛でてきた。「暮らし系」という言葉が生まれるずっと以前の80年代後半から、自然とともに生きる治身さんのライフスタイルは数々の女性誌や著作で紹介され、全国に多くのファンを生んだ。

二部桜子さん。アメリカの大学で美術を学んだのちアパレル企業に勤め日米を行き来する。2017年、東京都台東区蔵前に「SHUNNO KITCHEN」スタジオを開設し、旬の野菜を軸とした料理教室やケータリング、レシピ開発を行う(写真撮影/片山貴博)

二部桜子さん。アメリカの大学で美術を学んだのちアパレル企業に勤め日米を行き来する。2017年、東京都台東区蔵前に「SHUNNO KITCHEN」スタジオを開設し、旬の野菜を軸とした料理教室やケータリング、レシピ開発を行う(写真撮影/片山貴博)

「母は高校生のころから骨董を集めていたほど器や雑貨が大好き。タイへの新婚旅行を機にアジアの魅力に目覚め、さまざまな国を訪れては現地の民芸品を山のように持ち帰っていました」と桜子さんは振り返る。「アジアやアフリカの民芸品が持つ、素朴でどこか不完全な美しさが好きだったようです。父も収集癖があり、夫婦で好みも一致していたので、二人で競うようにものを集めていました」

生活道具のみならず、イスなどの家具や壺などもコレクションしていた(画像提供/鮫島亜希子さん)

生活道具のみならず、イスなどの家具や壺などもコレクションしていた(画像提供/鮫島亜希子さん)

アジアやアフリカのオブジェやマスクも(画像提供/鮫島亜希子さん)

アジアやアフリカのオブジェやマスクも(画像提供/鮫島亜希子さん)

治身さんが現役のころは雑誌などの撮影用小道具のリース業も少なかった時代。仕事に使えるようにと集めていた部分もある。1999年に建て替えられたこの家も、治身さんの仕事の撮影にも使えるようにと誠司さんが設計したもの。「だからデザイン性は高いんですけれど、底冷えするように寒かったり、段差が多かったり。敷地も広すぎて、高齢の夫婦が暮らすには厳しくて」

両親とも実家を手放して小さく暮らすことを検討していたが、2021年に誠司さんが他界してしまう。治身さんは桜子さん夫妻と暮らすことになり、いよいよ実家じまいを行うこととなった。

仲間の力を借りながら、楽しんで準備した自宅での譲渡会が大反響

そうして始まった二部家の実家じまいだが、当初は明らかに不要なものも膨大にあったという。
「まずは不要品を処分するのがいちばん大事だと思います。体力の必要な作業ですが、海外に住む弟も帰国時にやってくれました。とはいえあまりに物量が多かったので、この最初の段階ですべてを要・不要に分けたわけではないんです。判断に迷うグレーゾーンを残しつつも、明らかな不用品やゴミを処分できたことで気持ちにゆとりができ、友人にも手伝いに来てもらいやすくなりました」

残されたのは、大量の民芸コレクション。業者に買い取りを依頼することも頭をよぎったが、せっかくなら友人に譲りたいと桜子さんはひらめいた。「アパレル業が長かったこともあり、器やインテリアが好きな友人が多いんです。話してみたら“おもしろそう!”と言ってくれて」。そうしてまずは友人知人限定で、フリマ形式の譲渡会を行うことにした。

治身さんが高校時代から集めていたデッドストックの器たちも販売された(画像提供/鮫島亜希子さん)

治身さんが高校時代から集めていたデッドストックの器たちも販売された(画像提供/鮫島亜希子さん)

フリマで難しいのが値付けだろう。「母も値段までは覚えていなかったので、骨董屋さんに出かけて値ごろ感を確かめたり、画像検索で由来や価格を調べたり。通常の骨董品店よりはかなりお得な値段に設定しました」

友人の手も借りながら準備を進め、2022年8月と9月の4日間で「Recollection – 回想の記録 -」として譲渡会を実施。「告知はInstagramの個人アカウントのみで、友人とその友人のみの予約制に。中には影響力のある友人もいたので拡散力がすごくて」。予想以上の反響があり、約1500点が新たな持ち主のもとに旅立った。

世界各国からかごやザルを背負って持ち帰った治身さんは「かご長者」とあだ名されたほどのかご好き(画像提供/鮫島亜希子さん)

世界各国からかごやザルを背負って持ち帰った治身さんは「かご長者」とあだ名されたほどのかご好き(画像提供/鮫島亜希子さん)

好評を受けて、10・11月には一般客にも予約枠を開放することに。「リテールビジネス(BtoCのビジネス)に携わっている友人たちがいろいろアドバイスをくれて。当初は“この引き出しの中はいくら”みたいな値付けでしたが、知らない人への販売なら一つひとつ値段を書いたほうが会計がスムーズだよとか。”このコーナー売れ行きがよくないね”と友人がささっとディスプレイを直してくれたとたん、驚くほど売れたりも」

明治~昭和の和食器もセンスよくディスプレイして販売(画像提供/鮫島亜希子さん)

明治~昭和の和食器もセンスよくディスプレイして販売(画像提供/鮫島亜希子さん)

手伝ってくれた友人たちとはいつしか“実家フェス”の通称が定着。「”せっかくならお茶ができたらいいよね”と、友人が和室で抹茶を立てて、私のお菓子とお出ししたり。そうやって仲間とアイデアをふくらませるのが楽しかった」。まるで学園祭のような自由さをベースに、ビジネススキルと創造力を持ち寄って準備したこのイベントには、北海道や石川県など遠方も含めのべ数百人が訪れ、総計5000点ほどを譲渡できたという。

2023年10月には「Recollection-回想の記録-エピローグ」として、治身さんの著書のレシピを再現した食事会も実施。「譲渡会で、父が建てた建築をみなさんに見ていただけたのも嬉しかったんです。せっかくだから記録に残そうと、母の料理をつくって父と母が元気だった頃の二部家を再現して、友人である写真家の鮫島亜希子さんに撮ってもらいました」

和気あいあいと和やかな食事会の様子。このときのコレクションは"お気持ち"価格で譲渡し、ウクライナの動物支援団体に寄付も行った(画像提供/鮫島亜希子さん)

和気あいあいと和やかな食事会の様子。このときのコレクションは”お気持ち”価格で譲渡し、ウクライナの動物支援団体に寄付も行った(画像提供/鮫島亜希子さん)

顔の見える使い手へ譲る喜びが、愛したものを手放す寂しさを和らげる

業者の買い取りより手間や時間はかかっても、ものの行く末がわかるのが嬉しいと桜子さん。「友人のおうちに遊びに行ったら、うちで活躍していたものにまた出合えたり。おうちで使う様子をInstagramに上げてくれる人もいて、両親の愛したものたちの新しい物語が始まるのだと実感できました」

来場した友人たちが購入物をインスタにアップ。「みなさんのセレクトが見ていて楽しくて」と桜子さん(画像提供/左から、@hirokoinabaさん、@mamimori8さん)

来場した友人たちが購入物をインスタにアップ。「みなさんのセレクトが見ていて楽しくて」と桜子さん(画像提供/左から、@hirokoinabaさん、@mamimori8さん)

治身さんもイベントの様子に感激。「ものを手放すから、と悲しむ様子が全くなくて。自分のコレクションがお店みたいにキレイに並べられて“やっぱりこれ素敵よね”なんて喜んだり。自分が好きで手に入れたものを、みなさんが楽しそうに選んで譲り受けていく姿がすごく嬉しかったようで、いい親孝行ができました」

もちろん治身さん自身が手離したくない宝物はキープ。桜子さんも、手元で大切にしたいものたちを自宅やスタジオで愛用している。

水屋箪笥はクリーニングして、桜子さんの「SHUNNO KITCHEN」スタジオで愛用(写真撮影/片山貴博)

水屋箪笥はクリーニングして、桜子さんの「SHUNNO KITCHEN」スタジオで愛用(写真撮影/片山貴博)

風格あるベンチも実家からスタジオに。桜子さんの愛犬・アズキちゃんも心地よさそう(写真撮影/片山貴博)

風格あるベンチも実家からスタジオに。桜子さんの愛犬・アズキちゃんも心地よさそう(写真撮影/片山貴博)

古い実験用漏斗をランプシェードに。「たまたま訪れたアンティークショップで、こんなふうに漏斗を照明にしているのを発見。そのお店にお願いして照明にしてもらいました」(写真撮影/片山貴博)

古い実験用漏斗をランプシェードに。「たまたま訪れたアンティークショップで、こんなふうに漏斗を照明にしているのを発見。そのお店にお願いして照明にしてもらいました」(写真撮影/片山貴博)

買い手がつかなかったランプシェードもスタジオで活躍(写真撮影/片山貴博)

買い手がつかなかったランプシェードもスタジオで活躍(写真撮影/片山貴博)

これからの“もの”との付き合い方を考えるきっかけにも

二部家の実家じまいは、かなり特別なケースかもしれない。でも桜子さんのアイデアと行動力があったからこそ譲渡会は実現でき、成功につながった。「思いついたら後先考えず突っ走るタイプ。料理の仕事もずっとやりたいと言っていたけれど、この物件との運命的な出合いがあって、会社を辞めるより先に契約したことで現実化したんです。今回のイベントも、アイデアを周囲に伝えることで現実のものになりました」

窓の前に咲く満開の桜に、自分の名前との運命的な符合を感じて契約したスタジオ。「譲渡会で知り合った人たちが一緒に料理教室に来てくれたりと、嬉しいご縁も生まれています」(写真撮影/片山貴博)

窓の前に咲く満開の桜に、自分の名前との運命的な符合を感じて契約したスタジオ。「譲渡会で知り合った人たちが一緒に料理教室に来てくれたりと、嬉しいご縁も生まれています」(写真撮影/片山貴博)

周囲の人を巻き込んだのも成功の秘訣。
「一人では絶対に無理でした。最初に不要品処分を弟がやってくれたことが突破口になったし、アパレルの仕事の友人や、料理の仕事を通してつながった暮らしに関心の高い友人が助けてくれたからこそ実現しました」

また、今回のイベントを経験して学んだこともある。
「次の世代が使いたいと思える“いいもの”だからこそ譲ることができたんですよね。自分がものを選ぶ際にも、単に便利で安価だからというのではなく、次の世代にも引き継げるものを選ぶことが大切だと痛感しました」

両親が愛用していたハンス・J・ウェグナーデザインの「Yチェア」もそのひとつ。「実家で使い込まれて、かなり傷んでいたんですが、クリーニングに出したらいい味わいを残しつつきれいになって。いいものだからこそ、こうして修繕しながら長く使えるんですよね」

二部家のダイニングで活躍していたYチェア。脚ががたつき、ペーパーコードの座面もボロボロだったが家具のクリーニングに出して風格ある姿に(写真撮影/片山貴博)

二部家のダイニングで活躍していたYチェア。脚ががたつき、ペーパーコードの座面もボロボロだったが家具のクリーニングに出して風格ある姿に(写真撮影/片山貴博)

高齢になり、広すぎる家や多すぎるものの扱いに困っていた両親の姿を見て、年齢に応じてものとの付き合い方を見直す必要性にも気づいたという。
「70歳くらいになったら新たなライフステージの準備として、またフリマをやろうかと仲間と話しているんです。そのためにも“20年後、次の使い手に引き継げるか”を、もの選びの指針として大切にしていきたいです」

桜子さんが陶芸作家の久保田由貴さんと一緒に考案した器のセット。これも大切に使って次世代につなぎたいと考えているもの(写真撮影/片山貴博)

桜子さんが陶芸作家の久保田由貴さんと一緒に考案した器のセット。これも大切に使って次世代につなぎたいと考えているもの(写真撮影/片山貴博)

桜子さんのご両親が美しいと思えるものだけを集めていたからこそ、次の使い手につながるという幸せな展開は実現した。特別なケースだと思われがちな二部家の実家じまいだが、サステナビリティが重視される時代に、“次の使い手に引き継げるか”は、誰もが実践したいもの選びの基準と言えるだろう。また次の使い手へ引き継ぐための自宅フリマや譲渡会も、新しい実家じまいのアイデアとして参考になるはずだ。

●取材協力
「SHUNNO KITCHEN」主宰 二部桜子さん
Instagram

9人に1人が家具・家電などの長期リース型サブスクを利用。メリットやデメリットなども解説

家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS」は、春の引越しシーズン到来前に「家具・家電に関するアンケート」を18歳~49歳の男女1,000人に実施した。そこで、高価格帯の商品を長期にわたって利用する「長期リース型」のサブスクについて調べたところ、9人に1人が利用していることが分かった。

【今週の住活トピック】
1000人への実態調査で見る「春の新生活の家具・家電事情2024」を公表/CLAS

長期リース型サブスク、11.7%=9人に1人が利用している

サブスクとは、サブスクリプション(subscription)の略。ある商品やサービスを一定期間、一定額で利用できる仕組みのこと。サブスクの中でも長期にわたって利用する「長期リース型サブスク」を利用しているか聞いたところ、「利用している」が11.7%、「利用していない」が88.3%という結果に。おおむね9人に1人が長期リース型サブスクを利用していることになる。

長期リース型サブスクを利用している人を年代別に見ると、20代(13.8%)と30代(14.3%)が10代や(10.0%)や40代(6.7%)よりも多い。CLASの個人会員属性も20代後半~30代が中心であることから、この年代に耐久消費財を所有しない傾向があるという。

長期リース型サブスクを利用してますか(年代別)

出典:CLAS

次に、長期リース型サブスクを利用していると回答した人に、利用しているサブスクの商品を聞いたところ、「家電」が48.7%と最も多く、次いで「家具」の42.7%となった。家電や家具は生活する上で必要なものだが、金銭的負担も大きいことから、サブスクを利用することが多いのだろう。

利用している長期リース型サブスクは

出典:CLAS

2021年時点で近い将来7~8人に1人が利用していそうと予測

別の調査結果を見てみよう。LINEリサーチでは、2021年5月に18~59歳の男女を対象に「家具・家電の定額制レンタルサービス」の現状の認知率や利用率、今後の流行予想などについて調査を実施した。

2021年時点ですでに、「家具・家電の定額制レンタルサービス」の認知率は45.9%(「知っているし、使っている」「知っているし、今は使っていないが以前使っていた」「知っているが、使ったことはない」の合計)で、半数近くが「知っている」状態だった。

次に、自分の身のまわりで「どのくらいの人が使っていそうか?」という『現在の流行体感』を聞いたところ、流行体感スコアは2.3(=100人中およそ2人が利用している)という結果に。では、「1年後、自分のまわりでどのくらいの人が使っていると思うか」という『近未来の流行予想』を聞くと、流行予想スコアは13.0(=100人中およそ7~8人に1人が利用していそう)という結果になった。

2024年2月に実施したCLASの調査結果では、長期リース型サブスクの利用者は9人に1人だったので、2021年時点の予想はかなり近い結果だと言ってよいのだろう。

家具・家電の定額制レンタルサービスの今と1年後

出典:LINEリサーチ

なお、自分が今後使ってみたい(今後の利用意向)かを聞くと、利用意向ありが26.2%(「ぜひ使ってみたいと思う」「機会があれば使ってみたいと思う」の合計)と、近い将来は自分が利用したいと思う人が増えていた。

家具家電の長期リース型サブスク、メリットとデメリット

実家を出て一人暮らしを始める、結婚や同棲で新たに二人暮らしを始める、といったときに、新居の家具家電を買いそろえるのは大変な場合がある。引越しによる初期費用がかさむなか、家具家電のレンタルを利用すれば当初の費用を抑えることができる。

一定期間だけ単身赴任することになった場合も、同様だろう。家族と再び暮らすときに、単身赴任時の家具家電の処分をする必要もない。子どもの年齢が一定期間だけ必要となるものなども、一定期間レンタルすることが有効だ。

また、高額な家具家電を使いたいとき、「いきなり買うのは不安だけど、一定期間使ってみたい」という場合も使い勝手が良さそうだ。つまり、「必要な期間だけ使える&コスパのよさ」がメリットと言えるだろう。

一方、レンタルでは新品とは限らないこと、好きな家具家電がレンタルできることは限らないこと、長く使うとかえって割高になること、などのデメリットもある。

Z世代は、「モノ消費」よりも「コト消費」を好み、所有にこだわらないとか、「買い物で失敗したくない」という意識が強いといった傾向があると言われている。今回の結果を見ると、こうした若い世代を中心に、一定の人たちが生活の中で賢くサブスクのサービスを利用していることがうかがえる。家具家電についても選択肢が増えることで、私たちの生活の仕方も変化していくのではないだろうか。

●関連サイト
【CLAS調査レポート】 9人に1人が長期リース型サブスクを利用、 「家電」と「家具」に人気が集中!
LINEリサーチ、今と近未来の流行予想調査(第七弾・家具、家電の定額制レンタルサービス編)を実施

一人暮らしで買った家具、人気の家具ショップビッグ3とは?家具への意識はどう変化している?

クレアスライフが、自社が運営するマンションに住んでいる一人暮らし中の男女599人に、インテリア・収納に関するアンケートを実施した。一人暮らしの家具はどこで何を買うかがテーマなのだが、どこでどんな家具を買ったのだろうか?詳しく見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
都内599人にインテリア・収納に関するアンケート調査を実施/クレアスライフ

入居後に購入した家具のトップは、「カーテン・ブラインド」

最近、一人暮らしでInstagramなどのSNSを参考に、インテリアにこだわる人が多いという調査結果をよく見かける。筆者も「コロナ禍でインテリアへの関心が高まる!20代から50代まで幅広い層がインスタを参考に」や「Z世代の一人暮らしの特徴って? 重要なのは家賃、インテリアは”映える”韓国風がトレンド」といった記事を書いた。

今回は、家具はどこで何を買うかを調査した結果を見ていきたい。まず「今住んでいる住居に入居した際に新しく購入した家具があれば、何を購入したか」を聞いている。その結果、上位には「カーテン・ブラインド」(16.5%)、「ベッド」(14.6%)、「テーブル」(12.4%)が挙がった。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

引っ越し後に購入したもののTOPに挙がることが多いのが、「カーテン・ブラインド」だ。住居によって、窓の形や大きさが異なるため、持っているものでは合わないことが多いからだ。といっても、近年は街を歩いていると、窓に何もかけていない住宅を多く見かけるようになった。16.5%という数値は思ったよりは多くないのだが、近年のそうした影響を受けてのことではないかと思う。

逆に意外だったのが、「照明」が5.1%と少ないことだ。住宅を買う場合は自身で照明を設置することが多いが、賃貸の場合は、照明は貸主側で取り付けている場合もあれば、借主が自身で手配してつける場合もある。今回の調査では、貸主側で設置済みの場合が多いということだろう。

一人暮らしの人気家具ショップ、ニトリ・無印良品・IKEA

次に、「今住んでいる住居に入居した際に新しく購入した家具があれば、どこのインテリアショップで購入したか」を聞いている。その結果を見ると、圧倒的に人気が高いのは「ニトリ」(34.4%)だ。性別・年代別に分析した結果を見ると、ニトリは、そのなかでも特に男性に人気が高いことが分かる。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

どうやら、ニトリと無印良品、IKEAは3大人気家具ショップということになりそうだ。たしかに、シンプルなデザインで、リーズナブルな価格という共通点がある。ただし、それぞれに違いもある。

ニトリと無印良品は、日本の企業で全国に店舗数が多いという共通点があるが、無印良品の方がよりナチュラルなデザインで、価格はニトリより高めという印象だ。また、IKEAは北欧スウェーデン発祥で、よりおしゃれなデザインが特徴。郊外に大型店舗が多く、まとまった数のものを安く売るというスタイルなので、車のあるファミリーのほうが好むのかもしれない。

また、20代・30代の女性では、よりデザイン性の高い「Francfranc」の購入者も多いので、おしゃれなものを好む傾向があるといえそうだ。

さて、今回の調査結果で挙がった家具ショップのなかで、「LOWYA」(ロウヤ)と「KEYUCA」(ケユカ)は筆者には馴染みの薄いブランドだ。LOWYAもKEYUCAも、日本企業が2000年代にオープンしたブランド。LOWYAはオンライン販売が中心で、KEYUCAは東京都や神奈川県を中心に全国に店舗をもつ。いずれも、シンプルでリーズナブルという点で、ビッグ3と共通している。

手軽なDIYもインテリアには必要?

さて、「部屋のリフォームや家具作りなどのDIYに興味があるか」聞いたところ、過半数の52.6%がある(「興味関心があり、実践している」6.2%+「興味関心があり、今後やりたいと思っている」9.8%+「興味関心があるが、賃貸なのでできないと思っている」36.6%)と回答している。

現在行っている、あるいは今後行いたいDIYがどんなものかを聞くと、「収納を作る」が最多の30.1%で、次いで「剥がせる壁紙を貼る」20.3%、「置き敷きできる床材を使用する」19.4%の順となった。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

ポイントは、賃貸でも可能という点だ。特に、「剥がせる壁紙」と「置き敷きできる床材」は、賃貸でもできるDIYニーズに応えて、DIY商材が豊富になってきたもの。賃貸の退去時に、貼った壁紙を剥がしたり、敷いた床材をはずしたりすればいいので、原状回復を気にせずにDIYで自分らしく部屋を演出できる。

収納も、独立した収納ボックスなどを組み立てて設置するだけでなく、最近は壁にピンで止めるだけで飾り棚になる商品もある。実はマイホームではあるが筆者も、DIYに自信がないので、無印良品のピンで取り付ける飾り棚を付けた。といっても、飾っているのは好きな落語家のサイン入り色紙なのだが…。

対面型キッチンの上部の空間に飾り棚を取り付けた(筆者撮影)ちなみに、左から三遊亭兼好、春風亭一之輔、桃月庵白酒

対面型キッチンの上部の空間に飾り棚を取り付けた(筆者撮影)ちなみに、直筆色紙は左から三遊亭兼好、春風亭一之輔、桃月庵白酒

調査結果を見ると、20代・30代が多い一人暮らしの場合、高級で高価格な家具ではなく、シンプルで低価格な家具を購入する人が多いということが分かる。一人暮らしの部屋はそれほど広さがないので、テーブルで仕事も食事もするのかといった暮らし方を考慮したり、収納スペースを考慮して収納付きのベッドにしたりと、さまざまな工夫が必要だろう。

最近は、インスタ映えするインテリアのコーナーを設けるなどのニーズもあるようなので、自身のセンスを見せるためにも、家具やインテリアにこだわったり、自分らしいDIYを行ったりすることも大切になる。さて、あなたはどんな家具を選ぶのだろうか?

●関連サイト
クレアスライフ「都内599人にインテリア・収納に関するアンケート調査を実施」

SNSが浸透した今、インテリア提案も新たな局面へ。感性を形にするデザインシステムとは?

積水ハウスが、新デザイン提案システム「life knit design(ライフ ニット デザイン)」を6月30日から全国で始動するという。そのプレス向けの発表会が、6月20日に開催された。併せて、「life knit atelier(ライフ ニット アトリエ)」の内覧会もあり、筆者も参加してみた。

【今週の住活トピック】
「life knit design(ライフニットデザイン)」6月30日始動/積水ハウス

「和・洋・モダン」などから、「静・優・凛・暖・艶・奏」の6分類へ

積水ハウスの説明によると、“感性”を住まいに映し出すのが、新デザイン提案システム「life knit design」だという。“時間と共に愛着を編み込む住まい”といった意味合いがあるそうだ。これまでは、その時々に流行した「和・洋・モダン」などといったテイストをベースにしていたが、より普遍的な“感性”をベースにした空間提案をするのが、ライフ ニット デザインということだ。

その感性とは、これまでの積水ハウスの施工事例などのインテリア画像約6600点から受ける印象を言語化して、日本カラーデザイン研究所の言語イメージスケールを元に3D化した結果、おおらかな6つの感性フィールドを導き出したもの。例えば、静かな、くつろいだ、豊潤な、凛とした、などをプロットして、おおらかな(重なる部分もある)関係性をグループ化した結果、「静・優・凛・暖・艶・奏」の6つの感性フィールドに集約した。

【6つの感性フィールド】
「静 PEACEFUL」:しなやかな空気感…ローコントラスト、同系色
「優 TENDER」 : さわやかな空気感…すっきりナチュラルな木質感
「凛 SPIRIT」: 緊張感のある空気感…上質なシンプルさ
「暖 COZY」: 暖かみのある空気感…暖かみのある木質感
「艶 LUXE」: 贅沢な空気感…ハイコントラスト、重厚感
「奏 PLAYFUL」: 心躍る空気感…ワクワクする色やカタチ

6つの感性フィールドをプロット

積水ハウス プレゼン資料より転載

この提案システムはインテリアとエクステリアが対象で、エクステリアについても同様に、美しい景観を構成する「明度グラデーション」を特定している。顧客の感性から、インテリアやエクステリアをプランニングするのが新しい提案の手法だ。

好みのインテリア画像から感性を判断して空間を提案

説明を聞いただけでは具体的なイメージがわかないし、家族といえどもそれぞれ感性が異なる場合はどう提案するのだろうと疑問に思った。「SUMUFUMU TERRACE新宿」内に、実際に提案をする場となる「life knit atelier」があり、そちらに移動してさらに詳しく話を聞いた。

SUMUFUMU TERRACE新宿/筆者撮影

SUMUFUMU TERRACE新宿/筆者撮影

まず、同社が開発した「interior communication tool」で顧客の感性を調べる。内覧会では、筆者のいるグループから、夫役・妻役・子ども役の3人で実際に試してみることに。筆者は手を挙げて、子ども役を担当した。家族3人は、別々のタブレットで次々と映し出される36枚のインテリア画像を見て、好き(♡)かそうでもないか(△)をマークをタップして直感的に選ぶ。すべて選び終わると、好きなインテリア画像だけが映し出されるので、その中からベスト5を選ぶ。ベスト5については、その理由(例えば、使ってみたい家具や小物がある、過ごし方のイメージがわいたなど)も入力する。

積水ハウス プレゼン資料より転載

積水ハウス プレゼン資料より転載

入力が終わると、同社のスタッフが家族3人の選んだベスト5を一覧にして出してくれた。今回は、にわか家族なので、好きなインテリアがあまり重ならない。特に夫役の選んだ画像は、重厚感のある画像が多くて他の家族と全く一致しなかったが、妻役と子ども役はナチュラルな印象の画像が多く、数枚重なって選んでいた。「このように家族でも感性は一致しない場合はどうなるのか」という疑問を抱えたまま、次のステップへ移動。

筆者撮影

筆者撮影

インテリアの提案をしてくれるスタッフのいる部屋には、すでに家族の好みの画像が共有されている(写真左のディスプレイ)。そのうえで、好みの画像やその理由などを基に、一つのインテリアイメージをCG動画で提案してくれる(写真右のディスプレイ)。CG動画では、最初に平面の間取りが提示され、その間取りをどう作りこむかのCGが空間や角度を変えて映し出される。床・壁・天井といったシンプルな空間に、家具などを掛け合わせることで感性を表現するということなので、CG動画には家具、照明、ラグなども入っている。また、サンプルも用意してあるので、実際の色味や手触りなども確かめながら、決めていけるという。

今回の家族に提案されたCG動画は全体的にナチュラルな印象だったので、妻役と子ども役で共通する感性が優先されているのだろう。家具が気に入ったなどの理由によっては、誰かの好みの家具も配置されているのかもしれない。実際には、家族が提案されたCG動画を見ながら、床材はこうしたいなどと話し合い、要望に応じて変更された動画で確認しながら決めていくので、家族の感性が異なれば、家族で協議して解決することになるようだ。筆者が念のために、提案されるCG動画の数を聞いてみると、それぞれを組み合わせて提案するので、何万通りにもなるという。

住宅の範疇といえば、インテリアのうち内装や住宅設備になるが、提案されるCG動画には家具やラグなども配置されている。家具などの販売やあっせんもしてもらえるのかを聞いたところ、家具や照明はもちろん、観葉植物や絵画などの相談にも応じているという。その場ですぐに、照明や観葉植物を差し替えたCGを見せてくれた。至れり尽くせりだ。

最後に、マテリアルビュッフェのあるコーナーに移動した。ここでは、床材や壁紙、カーテン等のサンプルが展示してあるほか、6つの感性フィールド別のコラージュボックスが用意されている。コラージュボックスとは、「暖」の感性ならインテリアの内装はこうした組み合わせがオススメといったセットがボックスに収納されているものだ。残念ながら、どの感性に該当するといった判定はしてもらえないが、好みのセットをベースに、素材を触りながら他の感性の素材も取り入れて決めていくということになるのだろう。

マテリアルビュッフェのコーナー/筆者撮影

マテリアルビュッフェのコーナー/筆者撮影

ベースがあるので、家づくりを効率的に検討できるのがメリット

エクステリアに関する体験はできなかったのでよくわからないが、インテリアについては、感性にマッチしたものをトータルに提案してもらえるので、それをスタートラインにして検討できるという点で、決定するまでの時間の短縮が図れるだろう。

またその際に、家族の好みが見える化されるので、互いに話しやすいという利点もあるだろう。最近は、新築やリフォームの際に、好みの画像を用意して希望を伝える人も多いと聞く。この仕組みでは、積水ハウスが用意した画像だけでなく、例えばインスタグラムの好みの画像を提示すれば、それも加味して分析することも可能だという。

一方で、実際の家づくりでは、インテリアだけでなく、決まった広さの中で間取りを固めるため、スペースの取り合いという側面もある。スペースと好みのインテリアを上手に織り込むのが、スタッフの腕の見せ所となるのだろう。

また、インテリアについては至れり尽くせりなので、あれこれとこだわるほどにいろいろなものを新たに買うことになる可能性もあり、コスト管理という側面も欠かせないように思う。

さて、感性を軸として空間を提案するという新しい手法は、画像や動画に親しんでいる今の人たちにマッチしているのだろう。「何となく好き」な画像が、こうした手法でつきつめていくと、床や壁が好みなのか、家具が好みなのか、居住空間が好みなのかといったことが認識できるようになり、言語化されていくのも面白い。

一方でトータル提案されるのがメリットである半面、提案から外れるものを加えた途端、デザインが崩れてしまうので、住む人のインテリアセンスも問われることになるのだろう。

●関連サイト
積水ハウス「life knit design(ライフニットデザイン)」6月30日始動
「life knit design」ウェブサイト

『海外みたいにセンスのある部屋のつくり方』著者・早さんに初心者もできるおしゃれインテリアのコツを聞いてみた! マンションリノベのエピソードも

中野区にある約75平米の中古マンションを購入し、リノベーションした早(さき)さん。海外のインテリアを中心に自宅をコーディネートしてInstagramやブログを中心に発信しています。2022 年には書籍『海外みたいにセンスのある部屋のつくり方』(大和出版)を出版。インテリアコーディネーターの資格を持つ早さんならではの空間作りを伺います。

リビング

(写真提供/早さん)

リノベーション前の情報収集はPinterestで

IT企業に勤務する早さん。夫の岑(みね)康貴さんと2022年8月に生まれたお子さんの3人で暮らしています。夫婦ともに在宅勤務のため、ワークスペースはそれぞれが集中して過ごせるよう、2カ所設置。室内窓のある部屋を康貴さん、リビングの一角を早さんが仕事場所として使っています。

海外のインテリアを参考にコーディネートした色鮮やかな空間で、仕事をしながらもお互いの気配を感じられる家になっています。

康貴さんの仕事部屋

康貴さんの仕事部屋(写真提供/早さん)

康貴さんの仕事部屋(写真提供/早さん)

一口に「海外インテリア」と言っても幅広く、ネット検索しようにも自分好みの検索ワードがわからないもの。早さんはまず、自分の方向性を確かめるために写真を中心としたSNS「Pinterest」を使ったそう。

「はじめはPinterestで『海外』『インテリア』など普通のワードで検索していました。そこからハッシュタグやソース元を辿るうちに、『こういうテイストはボヘミアンっていうんだ』など、スタイルごとのキーワードがだんだんわかってきたんです。そのうちに英語で書かれた情報も読むようになり、自分好みの検索ワードを少しずつ増やしながら知識を固めていきました」

Pinterestで集めた情報は、部屋のコーナーごとに仕分けし、リノベーション会社にテイストを相談する際に利用しました。

リノベーションは「苦手な事例がない」会社へ依頼

物件探しでは、もともと注文住宅を検討していた早さん。金銭面や立地条件などから戸建ての中古物件、中古マンション……と、徐々に切り替えて探していきました。

「家の広さや交通の便も大切ですが、何よりも自分たちが好きになれる街に住みたいという希望がありました。そして、家の中は風通しや日当たり、抜け感のある居心地のよさを重視することに。最初は『自分の好きなように作れる注文住宅がいい』と思っていましたが、調べていくうちに『私たちはまだ、そのフェーズじゃないのかも』と思い直して、中古マンションをリノベーションすることに決めました」

夫妻ともに在宅勤務で家にいる時間も長いため、縦に大きくワンフロアが狭い戸建てよりもマンションで横の開放感を重視しました(写真提供/早さん)

夫妻ともに在宅勤務で家にいる時間も長いため、縦に大きくワンフロアが狭い戸建てよりもマンションで横の開放感を重視しました(写真提供/早さん)

リノベーション会社は物件を探している途中に決めたそうです。「過去の施工例を見たときに、『すごく好きな事例がひとつある』よりも、『事例の中に苦手なところがない』方が大事だと思いました。デフォルトの仕様が気に入るところだと、オプションをつけなくても話し合いがスムーズに進みます」

物件購入時は、希望通りの施工が可能かリノベーション会社に同行してもらう方法がありますが、都心のように人気があって物件の動きが多い場合、日程調整をしている間に別の人に決まってしまうこともあります。

早さんはリノベーションに関わる本を事前に読み、「この物件ならこういう改装ができそう」と自分である程度見極めてからリノベーション会社に確認したと言います。

理想の内装を実現する鍵は、コストをかける場所の優先順位を明確にすること

「リノベーション予算の中で、一番奮発したのが格子の室内窓です。ずっと憧れでした」

リビングと康貴さんの仕事部屋を仕切る大きな室内窓(写真提供/早さん)

リビングと康貴さんの仕事部屋を仕切る大きな室内窓(写真提供/早さん)

室内窓はガラス製で、開放感と光をよく通すことを重視したそうです。「防音性には欠けるため、互いに会議が重なるとちょっと大変です。今回は空間の広がりを優先させたので満足していますが、もしまたリノベーションをする機会があれば、別の区切り方を考えるかもしれません」

一方、浴室などはシンプルに、メーカー既存品のユニットバスを選択しました。「自分たちのライフスタイルとの相性を考えて、浴室乾燥機はつけませんでした。壁もただのシンプルな白にして、いらない機能を省いたら、結果的に見積もりよりもコストは下がりました」

都心の中古物件ではリセールを意識して万人に受けるリノベーションをすることも多いですが、早さんはあまり気にしていないそう。「何年か暮らしたら、住み替えも検討する予定。でも家を買う理由の一つが『自分の好きな空間をつくりたい』だったので、リセールを気にしすぎると方向性が変わってしまうんですよね。だから趣味費と割り切ることにしています」

海外風インテリアのカラーコーディネートはコーナーごとに2~3色以上を取り入れるのがコツ

インテリアで多くの方が悩むのが、部屋全体の色味とバランスです。早さんは、写真を撮って考えることが多いのだとか。「全部一つの色で統一するとスッキリ見えますが、異物が混ざりにくくなり、逆に難しいんです。我が家は各コーナーをなるべく2~3色のテーマカラーで合わせながらも、あまりきっちり揃えすぎずに複数の色が散らばるようにしています。実は色や柄を多く取り入れたほうがモノが多くてもあまり散らかって見えないし、カラフルな雑貨などを置いても馴染みやすいですね」

また、インテリアは部屋ごとではなく、コーナーごとでコーディネートを考えているそう。

「同じ画角に入らないところは違うテイストでも大丈夫。部屋には写真映えするコーナーをいくつもつくるイメージで広げていきます。

インテリアに悩んでしまう方は、まず憧れる部屋の写真を見つけて、そのコーナーだけ真似してみるのが簡単です。お気に入りスペースを1カ所つくると、別の場所も飾りたくなって、そのうちに気に入ったテイストが部屋全体に広がっていく。初心者は、まずは色柄のラグから挑戦してみるのがおすすめです。部屋の雰囲気がガラッと変わりますよ」

インテリアの金具類はゴールドかアイアンで統一している早さん。色や素材がひとりぼっちにならないように、小物などで色を拾って部屋のいろいろな場所に配置することで、ものがたくさんある状態でも馴染むようにしています。

アトリエスペースは糸を見せる収納。「糸がカラフルなので、部屋で何色使ってもなんとなく馴染むようになっています」(写真提供/早さん)

アトリエスペースは糸を見せる収納。「糸がカラフルなので、部屋で何色使ってもなんとなく馴染むようになっています」(写真提供/早さん)

ゴールドとアイアンの金具を使った洗面台(写真提供/早さん)

ゴールドとアイアンの金具を使った洗面台(写真提供/早さん)

ぬいぐるみのモンチッチも、よだれかけの赤が壁の色となじんでいます(写真提供/早さん)

ぬいぐるみのモンチッチも、よだれかけの赤が壁の色となじんでいます(写真提供/早さん)

お気に入りのポイントは、あらゆる場所を後から塗装できるようにしたことです。「『これ!』というイメージがわかない状態であれば、とりあえず白に塗ってもらう。後からでも、壁や枠、扉は自分で塗れますから」

一方、収納に関してはもっと気を配るべきだったと反省しているそう。「都内のマンションは狭いから、収納はもっと必要だったかな。でも、それとトレードオフで開放感をつくったので、結局は何を優先させるかですね。あんばいは難しいです」

フローリングは、リノベーション会社からの提案でパイン材を塗装した素材を選択。「おしゃれな人がラフに住んでいるような部屋が理想なので、リラックス感や手づくり感を出したかった」とのこと(写真提供/早さん)

フローリングは、リノベーション会社からの提案でパイン材を塗装した素材を選択。「おしゃれな人がラフに住んでいるような部屋が理想なので、リラックス感や手づくり感を出したかった」とのこと(写真提供/早さん)

窓際のスペースは、ひとりがけの椅子を置くように意識。「窓際って日本は通り道にしがちですが、くつろぐスペースにすることで海外っぽい配置に」(写真提供/早さん)

窓際のスペースは、ひとりがけの椅子を置くように意識。「窓際って日本は通り道にしがちですが、くつろぐスペースにすることで海外っぽい配置に」(写真提供/早さん)

後悔しないリノベーションの秘訣は「水回りと照明を妥協しない」

「室内窓のほかにこだわったのは、水回りと照明です」と語る早さん。「部屋の壁紙などは後からでも簡単に変えられるけれど、洗面台やタイル、壁付けの照明は後からどうにもできない部分です。リノベーションする時に理想を追求するしかありません」

キッチンはIKEAでそろえました。水栓はタッチすれば水が出てくるタッチレス水栓。タイルは白のサブウェイタイルに黒い目地。早さんのやりたかったデザインです(写真提供/早さん)

キッチンはIKEAでそろえました。水栓はタッチすれば水が出てくるタッチレス水栓。タイルは白のサブウェイタイルに黒い目地。早さんのやりたかったデザインです(写真提供/早さん)

洗面台のスツールは、蓋を開けると中に収納スペースが(写真提供/早さん)

洗面台のスツールは、蓋を開けると中に収納スペースが(写真提供/早さん)

「椅子を置いたのは、メイクをするときに座りたいからです。その分、収納スペースは減ったので、洗剤などの買い置きは最小限にしています」

生活感をできるだけ削ぎ落とす工夫も白の塗装を施した木の扉。色を変えたくなったら塗装できるようにしています(写真提供/早さん)

白の塗装を施した木の扉。色を変えたくなったら塗装できるようにしています(写真提供/早さん)

扉にも注目を。「日本の扉は表面にシートを張った仕上げのものが一般的。扉の種類はたくさんあるけれど、シートの扉は日本っぽいテイストに部屋が引っ張られてしまいます。海外っぽい部屋づくりがしたかったら、扉だけは天然の素材をセレクトしたほうがいいと思いました」

また、部屋の内装で現実感が出やすいのがインターホンまわりです。早さんは、海外のサイトでアートポスターを購入して、IKEAのフレームに入れて飾りました。複数のアートがセットで売っているものもあるので、そういうものを選ぶと初心者でもバランスを考えやすいそうです。

アートの額縁でインターホンが馴染みます。照明は海外のデザイン。「日本のインテリアは四角が主流ですが、海外インテリアは丸いフォルムが最近のトレンド。意識して取り入れています」(写真提供/早さん)

アートの額縁でインターホンが馴染みます。照明は海外のデザイン。「日本のインテリアは四角が主流ですが、海外インテリアは丸いフォルムが最近のトレンド。意識して取り入れています」(写真提供/早さん)

ピアノの置き方も工夫が凝らされています。Pinterestで検索して、本棚にピアノが収納されている写真を見た早さん。リノベーション会社に相談して、つくってもらいました。「設計の途中でピアノの調律のために余白が必要であることに気が付き、あわてて棚の高さを変更してもらいました(笑)」

当初はピアノと棚の間がもっと狭い予定でした(写真提供/早さん)

当初はピアノと棚の間がもっと狭い予定でした(写真提供/早さん)

理想の家を目指し続ける、余白のある家

お子さんが動き回るようになると、床に置いている植物や小物類は一時的に撤去する必要がありそうとのこと。「今はまだ寝てばかりなのでそのままにしていますが、今後は低い位置にものを置きにくくなるかもしれませんね。でも、子どもがいても自分好みの空間はつくれると思うんです。壁などの高いところは飾り放題ですし。工夫をしながらインテリアと向き合っていきたいです」

子どもの遊び道具を入れるカゴは、赤ちゃん時代のクーファン(写真提供/早さん)

子どもの遊び道具を入れるカゴは、赤ちゃん時代のクーファン(写真提供/早さん)

今後はダイニングにL字ソファーをDIYで作りたいと語る早さん。「自宅はまだ、未完成です。私にとって家作りのテーマは、『つくり続けられる家』だったのかもしれません」と、笑顔で振り返ります。自分好みの空間で過ごす理想の家づくりはこれからも続くようです。

『カラフル&モダンポップ 海外みたいにセンスのある部屋のつくり方』(大和出版)●取材協力
早[SAKI]
10年間で7回の引っ越しを経て、海外みたいにカラフルモダンポップなインテリアを日本で再現する方法を試行錯誤するインテリアオタク。2020年インテリアコーディネーター資格を独学で取得。本業はIT企業勤務の会社員、たまにドレスもつくる人。毎週土曜日に海外インテリア情報をお送りするニュースレターを配信中。
Instagram @sakihaya515

著書『カラフル&モダンポップ 海外みたいにセンスのある部屋のつくり方』(大和出版)

<取材・編集:小沢あや(ピース株式会社) 構成:結井ゆき江>

Z世代の一人暮らしの特徴って? 重要なのは家賃、インテリアは”映える”韓国風がトレンド

Z世代(1995年以降生まれの若年層)を対象としたシンクタンク組織「Z総研」が、Z世代の女性を対象とした「一人暮らし」に関する意識調査を行った。それによると、Z世代の女性の約8割が一人暮らしをしたいと思っているという。そこで、Z世代の一人暮らしの特徴を見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」を発表/N.D.Promotion

Z世代の多くが「一人暮らしをしてみたい」、重視するのは「家賃」と回答

Z世代が研究の対象となるのは、彼らが生まれた時からデジタルデバイスやインターネット、SNSといった環境が身近にあった「デジタル・ネイティブ世代」で、これまでの世代とはその特徴が異なるからだ。

さて、Z総研が全国のZ世代の女性301人に「一人暮らしをしてみたいと思うか」と聞いたところ、「現在している」が6.6%、「してみたい」が80.4%で、「してみたくない」の13.0%を大きく上回った。

物件を探す際に重視したい条件としては、「家賃」がダントツの82.4%で、次いで、「最寄り駅からの距離」(32.6%)、「間取り」(28.6%)となった。以前に別の調査で、一人暮らしのZ世代に同様の質問をした結果でも、家賃がダントツで、交通アクセスと間取りが並んだので、やはりなによりも「家賃重視」なのだ。

“映え”を気にするZ世代ならでは!賃貸アプリに内装の写真の多さを求める

一人暮らしの物件を探す際には、賃貸アプリを使うのだろうが、「何を求めるか」にZ世代女子の特徴が表れた。回答結果は次のようなものだ。

賃貸アプリ(サイト)に求めることはなんですか?

(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)

通常は不動産のポータルサイトに、「掲載物件が多い」(62.1%)ことを求める。テレビCMでも掲載数ナンバーワンなどとアナウンスしているのは、そのためだろう。検索サイトなので、もちろん検索のしやすさ、例えば「細かく条件設定できる」(51.5%)ことなども重視される。ところが、それらを上回って最多だったのが「内装の写真の豊富さ」(75.4%)だ。やはり“映え”を気にする世代ならではのことだ。

当サイトで、「コロナ禍でインテリアへの関心が高まる!20代から50代まで幅広い層がインスタを参考に」 という記事を書いたが、20代以下はインテリアへのこだわりが強く、インテリアの参考にするのは圧倒的に「Instagram」で、次いで「YouTube」だった。インテリアのこだわりが、室内の画像情報を重視することにつながっているのだろう。

インテリアにこだわるけど、落ち着いた色合いを好む

さて、この調査で筆者が最も印象に残ったのが、「一人暮らしの理想のインテリアテイスト」を質問した結果だ。筆者の記憶をたどると、インテリアで根強い人気のテイストは、「北欧風」だ。北欧のスウェーデン発祥の家具メーカー「IKEA」の人気が高いのはそのためだ!と思っていた。

ところが、Z世代の回答を見て驚いた。「北欧」はわずか2.0%。「シンプル」(36.5%)と「韓国風」(26.9%)の人気が極めて高いのだ。

一人暮らしの理想のインテリアテイストを教えてください

(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)

Z総研によると、「ホワイト基調のふわふわした女の子みたいな部屋が理想。YouTubeでインフルエンサーのお部屋紹介動画を見るのも好きで、実際に同じインテリアを購入した」(18歳/高校3年生)、「木の素材が好きでウッド調でシンプルなお洒落カフェのようなお部屋にしたい。自分好みにDIYするのも興味がある」(16歳/高校1年生)といったコメントがあったという。

「韓国風」ってどんなテイストなのだ?

ところで、「韓国風」とはどんなテイストなのだろうか? 「中国風」や「アジアンテイスト」などはわかる。が、「韓国風」とはどんなものかよくわからなかったので、SUUMO編集部のZ世代の編集者に聞いてみた。

彼女によると、「韓国風インテリアは、主に白やアイボリー、素材はウッドなどを基調としているため、あまり派手さはないものの、形状などが個性的で女性が好むアイテムが多い印象」だという。

それを聞いて自宅を見回すと、ダークブラウンの家具が多い。仕事用に最近購入した、無印良品の引き出しボックスだけがアイボリーだ。時代に遅れないように、韓国風をもっと意識しようと思う筆者だった。

ちなみに、「一人暮らしする際に買いたい憧れのインテリアブランド」については、「Francfranc」(38.5%)と「IKEA」(34.9%)の人気が高く、次いで「無印良品」(12.0%)や「ニトリ」(7.6%)となった。いずれも、豪華なインテリアではなくナチュラルなインテリアで、リーズナブルなブランドが多く挙がったのが特徴だ。

一人暮らしする際に買いたい憧れのインテリアブランドはありますか?

(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)

IKEAといえば、北欧テイストではないのか?と思い、インターネットで「IKEA」×「韓国風」で検索してみると、IKEAの韓国風インテリア事例が出るわ出るわ。ほかの組み合わせでも同様で、どのブランドも韓国風を意識してインテリアの商品開発を行っているようだ。

さて、Z世代はデジタルネイティブで、SNS映えを気にする世代である一方、日本の好景気を知らない堅実な世代でもある。一人暮らしをするにしても、無理のない家賃を意識し、シンプルでリーズナブルなインテリアではありながら、自分の個性が表現できるものを選んで購入するといった像が浮かび上がる。

近年は、コロナ禍の影響で自宅にいる時間も長くなっている。Z世代それぞれにとって居心地の良い住まいを選んで、快適な一人暮らしをしてほしいものだ。

●関連サイト
N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」

19世紀”花の都パリ”の象徴「オスマニアン建築」のアパルトマンに暮らす。ファッショニスタ川合陸太郎さん パリの暮らしとインテリア[17]

自分のこだわりを集めた住まいは、自分の夢を具現化した場所。フランス・パリのファッション業界で働く日本人、川合陸太郎さんが暮らすパリ9区のアパルトマンを訪問すると、帰るころにはそう納得している自分に気付かされるのでした。同時にそれは、誰にとっても実現したい、ライフスタイルの到達地点です。川合さんはどのようにして、自分のこだわりを形にすることができたのでしょうか? 古いものが好きで収集が趣味という川合さんに、夢の暮らしを具現化するコツを聞きながら、お宅を案内していただきました。

物件を購入し、自分の思うように工事できる楽しさに開眼

テキスタイルエージェント。川合陸太郎さんの職業を聞いても、専門的すぎて馴染みがなく、ピンとこない人が多いかもしれません。
「簡単にいうと、日本の生地を扱う商社の窓口のような存在で、フリーランサーとして仕事をしています。パリで働き始めたのは1999年。ジャンポール・ゴルチエ社からのオファーを受けたのが最初で、以来ずっとパリで、そしてファッション業界で仕事をしています」

こう語る川合さんは、妥協のないオーラを感じさせる装い。そして彼の背後に広がるお住まいも同じように、細部にまでこだわってつくり上げた完成度が一目瞭然です。高い天井にはレリーフ状の装飾があり、床はそれと対照をなすレトロモダンなタイル張り、その隣のフロアの床はヘリンボーン張りの19世紀オリジナル……。

好きなものが集まったリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)

好きなものが集まったリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「このアパルトマンに引越す前は、パリの東端にある20区に住んでいました。それは初めて購入した物件で、自分の気に入ったように改装し10年間暮らしましたが、次第に商材を置くスペースが必要になり、引越すことに。せっかくなら立地の良さや便利性を求めて中心部に移ろう、とここを選んだのです。住んで1年ちょっとになりますが、オペラ座とモンマルトルの丘のちょうど中間なのでどこへ行くにも近く、近所には美味しいパン屋もたくさんあります。今のこの環境をとても気に入っています」

人気パティシエやショコラティエの商品を集めた、スイーツのセレクトショップ「FOU DE PATISSERIE (フ・ド・パティスリー)」はよく行くお店(写真撮影/Manabu Matsunaga)

人気パティシエやショコラティエの商品を集めた、スイーツのセレクトショップ「FOU DE PATISSERIE (フ・ド・パティスリー)」はよく行くお店(写真撮影/Manabu Matsunaga)

人気の食材店が集まるマルティール通りもすぐそば(写真撮影/Manabu Matsunaga)

人気の食材店が集まるマルティール通りもすぐそば(写真撮影/Manabu Matsunaga)

広さを求めて引越しただけあり、現在の住まいは82平米。さらに、建物の最上階に「女中部屋」と呼ばれる7平米の屋根裏部屋がついています。これにプラス、川合さんは同じ建物内でちょうど売りに出ていた18.5平米のワンルームも合わせて購入し、商材を置くスペースに充てることにしました。3箇所の合計は107.5平米。これだけあれば、スペースは十分過ぎるくらいでしょう。

川合さんにとって2度目の購入物件となったこの82平米は、オスマニアンスタイルと呼ばれる19世紀パリ改造時代を代表する建築の、フランスでいう3階、日本でいう4階にあたります。オスマニアン建築の特徴は、石造りのファサード、凝った鉄細工を施したバルコニー、ヘリンボーン張りの床、暖炉など。最上階の屋根裏に女中部屋があることも、19世紀当時のライフスタイルを反映したオスマニアン建築の特徴ですが、最近では女中部屋の人気も高く、単独で売買されています。立地も抜群ですし、将来女中部屋だけ手放すことになっても高く売れるはず、とつい余計な気を回してしまいます。

「オスマニアン建築、ヘリンボーン床、そして暖炉は、物件探しをエージェントに依頼したときの希望であり条件でした。実はエッフェル塔が見えるバルコニーがあることも挙げていたのですが、残念ながらこちらは叶わず」と、川合さんは言いますが、パリの中心部にありながら静かな環境であることや、通り側と中庭側に窓があって住まいの両サイドから自然光が入ること、そして人気の女中部屋があることなど、購入を決断する際の大きなアドバンテージであったことは間違いありません。

では順を追って、このこだわりの詰まったお住まいを見せていただきましょう。

現代の若いパリっ子たちは、開放感が増し、スペースも有効活用できるので、玄関スペースを住空間に取り入れることをいといません。川合さんは、エントランスとキッチンの間の壁を取り除き、カフェのカウンターを設置し、外と中の空間にワンクッション、住まいの高級感をアップさせました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

現代の若いパリっ子たちは、開放感が増し、スペースも有効活用できるので、玄関スペースを住空間に取り入れることをいといません。川合さんは、エントランスとキッチンの間の壁を取り除き、カフェのカウンターを設置し、外と中の空間にワンクッション、住まいの高級感をアップさせました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

玄関のドアを押して中に入ると、目の前に広がる廊下スペースの突き当たりがトイレとシャワールーム、右側がカウンターのあるキッチンと、左側にダイニングテーブルを置いたリビングとゲストルーム、右側奥に寝室2つ、というレイアウト。2LDK で購入した物件でしたが、もともとの建設当時にあった壁を復活させて3LDKに戻し、反対にキッチンの壁を取り除いてカウンターを設置しました。

「キッチンは“カフェ”がテーマです。実際にパリのカフェで使われているメーカーの椅子やカウンターを選びました。見た目重視なのですが、さすがに業務用だけあって、実際に使ってみると確かに使いやすく丈夫だと感じます」

テーマに沿って、食器棚もカフェ仕様。食器棚はカウンターのメーカーにオーダーしたスズの支柱。前の家で使用していたものを取り外して持ってきたものです。板の部分は、本当は大理石を使いたかったのですが、サイズの合うものが見つからなかったので、改装工事の際に出た古い床材を転用、ほぞの出っ張りがそのまま装飾になっています。使い込んだ床材をあえて採用するという発想に、本当に細部にまでこだわりぬいていることがわかります。

古いカフェの棚の支柱に、床材を合わせた食器棚。上の扉のある棚は、見えないケースの部分はIKEAで扉はSuperfront のもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

古いカフェの棚の支柱に、床材を合わせた食器棚。上の扉のある棚は、見えないケースの部分はIKEAで扉はSuperfront のもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

料理好きなので、ガス台は5口以上あるものにこだわった。こまめに掃除をして清潔さをキープしているが、汚したくないから料理を控える、ということはない。揚げ物もつくってしまう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

料理好きなので、ガス台は5口以上あるものにこだわった。こまめに掃除をして清潔さをキープしているが、汚したくないから料理を控える、ということはない。揚げ物もつくってしまう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「でもIKEAのものもたくさんありますよ。特に見えないところはIKEAが多いです。扉付きの棚のベースはIKEAのもので、扉だけ別のメーカーのものを取り付けました。こういうカスタマイズのようなサービスを専門に行う会社がいくつかあるので、要所要所で活用しています。換気扇もIKEAです」

こだわるところは徹底してこだわり、見えないところはあえて力みすぎない。この力加減の配分は、そのまま予算配分に反映されます。川合さんのお話を伺いながら、このあんばいはぜひ参考にしたいと思いました。

欲しいものは探す! ひらめいたらつくる!

キッチンのお隣のリビングでは、5m近くもある飾り棚にまず、目を奪われます。これは川合さんの思い入れの結晶ともいえる存在で、白いお皿で有名なアスティエ・ド・ヴィラットのショップにある棚と同じものが欲しい、と思って探していたところ、縁があってそれを製造する職人さんにお願いできることになりました。土台となる引き出しのたくさん付いたアンティーク家具はネットオークションで購入、マルセイユからトラックで運ばれてきました。

本を探す川合さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

本を探す川合さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

棚の下の部分は全て引き出しになっており、飾る収納としまう収納の両方が実現できます。見た目の美しさはもちろん、収納力も抜群です。

「収納の少ない住まいなので、この引き出しの中には工具や取扱説明書、ナフキンやカトラリーなど、見せたくないもの全てを入れています」

3つのシャンデリアの下の大テーブルは、川合さんが自作した180cmの大作。日本のビールの木製ケースを分解して1枚1枚の板にし、スーツケースに入れて、フランスまで運んだものを転用しています。

「以前パリのビストロで、ワインの木箱をパッチワークにしたテーブルを見たことがあり、これを日本風にアレンジできたら面白いなと思ったことから着想を得ました。このテーブルも、以前の家で使っていました」

写真中央が大テーブル(写真撮影/Manabu Matsunaga)

写真中央が大テーブル(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖炉の上はお気に入りの品々を集めたコーナーです。シチリア島まで行って購入したアーティストの作品や、フローリストがアレンジしたブーケ、日本で購入した昭和な佇まいのショーケースなど。年代も、購入した場所も、スタイルも、さまざまなオブジェや家具が集まっていて、その共通点は川合さんが好きなものという1点だけ。そしてそんないろいろを、ランダムに配した3つのシャンデリアの灯りが、柔らかく、感じよく包んでいます。
好きなものが集まったこのリビングで、お気に入りのナポリのコーヒーを飲む時間は最上のひとときだ、と、川合さんは教えてくれました。

フィレンツエで見た照明のレイアウトに感化されて、3つ重ねるように配したシャンデリア。手前から、ナポリの骨董屋で購入したもの、ロンドン在住のイタリア人の友人が作成したもの、フィレンツェのオークションで購入したもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

フィレンツエで見た照明のレイアウトに感化されて、3つ重ねるように配したシャンデリア。手前から、ナポリの骨董屋で購入したもの、ロンドン在住のイタリア人の友人が作成したもの、フィレンツェのオークションで購入したもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

王様と女王様? ユーモラスな顔の鉢カバーは、シチリア島のアーティストのもとまで買いに行った。生花はお客様をお招きするときには必ず用意(写真撮影/Manabu Matsunaga)

王様と女王様? ユーモラスな顔の鉢カバーは、シチリア島のアーティストのもとまで買いに行った。生花はお客様をお招きするときには必ず用意(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖炉脇にはゆったりとくつろげる大きなサイズのソファを。ここで飲むお気に入りのコーヒーは格別!(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖炉脇にはゆったりとくつろげる大きなサイズのソファを。ここで飲むお気に入りのコーヒーは格別!(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アスティエ・ド・ヴィラットの食器と、ディプティックのアロマキャンドルを集めたコーナー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アスティエ・ド・ヴィラットの食器と、ディプティックのアロマキャンドルを集めたコーナー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

テーマを決めて、アレンジを楽しんで

玄関部分の廊下は、キッチンと同じタイルがそのままトイレ・シャワールームの入り口まで続きます。

「このタイルは前の住まいにも採用していたもので、気に入っていましたから今回も同じメーカーに注文しました。前の住まいから持ってきた家具も多いので、よく友達からは『前の住まいと共通のディテールが多いから初めて来た気がしない』と言われます」と、川合さん。

それだけ自分のスタイルがある、ということです。インテリアデザイナーの取材などで、よく「自分の好みを尊重することが、インテリアを成功させるコツだ」と言われるものですが、川合さんの住まいを見ながら本人のお話を伺っていると、確かにそうだと思わされます。

オーヴェルニュ地方を旅行中、衝動買いした古い暖房器。電車の旅ではあったが連れて帰ってきた。旅先でいつも衝動買いできるように、IKEAの大きいバッグを常に持参している。が、この暖房機はIKEAバッグにも入りません!(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オーヴェルニュ地方を旅行中、衝動買いした古い暖房器。電車の旅ではあったが連れて帰ってきた。旅先でいつも衝動買いできるように、IKEAの大きいバッグを常に持参している。が、この暖房機はIKEAバッグにも入りません!(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「この廊下部分は“メトロ”がテーマになっていて、1930年代のパリのメトロで実際に使用されていた扉や網棚付きの椅子などを集めました。ネットオークションや中古サイトなどを細かくチェックして見つけたものばかりです。トイレ・シャワールームの入り口の引き戸は、本来は2枚が1組になったメトロ車両の扉。1枚だけ販売していた人がいたので購入し、こんなふうに使うことにしました」

シャワールームの大理石の洗面台は、イタリアのトスカーナで購入して運んできたものです。古い映画で見るキャバレーのバックステージをイメージして、鏡の両サイドに設置したランプはIKEAのもの。IKEAも使いよう、と言っては申し訳ないですが、改めて使い勝手のいい家具メーカーであることがわかりました。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

セメント素材の分厚い六角タイルは、トスカーナで購入。柄タイルはパリで購入した。古いメトロドアに印してあるエンブレムは、当時のメトロの会社ロゴ。実に優美で、まるでラグジュアリーホテルのよう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

セメント素材の分厚い六角タイルは、トスカーナで購入。柄タイルはパリで購入した。古いメトロドアに印してあるエンブレムは、当時のメトロの会社ロゴ。実に優美で、まるでラグジュアリーホテルのよう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

トスカーナから持ち帰った大理石の洗面台を中心に、キャバレーのバックステージをイメージしてつくったシャワールームのコーナー。電球がたくさんついたドレッサーは、大学時代に60・70年代のフランス映画にのめり込んだころからの憧れ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

トスカーナから持ち帰った大理石の洗面台を中心に、キャバレーのバックステージをイメージしてつくったシャワールームのコーナー。電球がたくさんついたドレッサーは、大学時代に60・70年代のフランス映画にのめり込んだころからの憧れ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスルームの壁のペンキは、セメント風に仕上がるものを採用。内装のプロに教えてもらった業務用メーカーのもので、良心的価格だった。スイッチやコンセントは陶器製に統一(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスルームの壁のペンキは、セメント風に仕上がるものを採用。内装のプロに教えてもらった業務用メーカーのもので、良心的価格だった。スイッチやコンセントは陶器製に統一(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家具を求めて海をも渡り

ゲストルームには、猫足のバスタブが剥き出しのままポンと置かれています。ロンドンまで買いに行った思い入れのあるバスタブ。これも前の住まいで使っていたものを、引き続き使用しています。トイレ・シャワールームの陶器製のトイレも然り。苦労して手に入れたものを長く使うというのは、実はとてもエコですから、そういう意味でも川合さんのやり方はお手本といえます。

ベッドヘッドにかけた刺繍の飾りも、旅先で購入したもの。購入時にはどこに飾るかわからなかったものでも、それが自分の惹かれたものであれば、ご覧の通りぴったりの居場所が見つかる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ベッドヘッドにかけた刺繍の飾りも、旅先で購入したもの。購入時にはどこに飾るかわからなかったものでも、それが自分の惹かれたものであれば、ご覧の通りぴったりの居場所が見つかる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「前の家のバスルームは広かったのですが、ここにはバスタブを置けるスペースがありませんでした。じゃあゲストルームに置いてみよう、という発想でしたが、鉄製のバスタブは重く、板張りの床を一部剥がして下にコンクリートを流し補強する必要がありました。靴箱も、置き場所がなかったのでここに置いています」

あえて計算して探した家具配置ではない、ということが信じられないくらい、ゲストルームの内装もシックに、そして個性的に調和しています。やはり、「自分の好みを尊重することが、インテリアを成功させるコツ」なのかもしれません。

ベッドルームに剥き出しのバスタブがあるのはイギリスっぽくていいかな、と思い、実際にそのアイデアを採用した(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ベッドルームに剥き出しのバスタブがあるのはイギリスっぽくていいかな、と思い、実際にそのアイデアを採用した(写真撮影/Manabu Matsunaga)

どこかの工場で使用されていたと思われる古い工具入れを靴箱として使用している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

どこかの工場で使用されていたと思われる古い工具入れを靴箱として使用している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シャネルのボックスの横にはオイルヒーター。暖房器具までもが現代アートのように美しい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シャネルのボックスの横にはオイルヒーター。暖房器具までもが現代アートのように美しい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

素敵なインテリアは1日にしてならず!

一番奥の部屋のテーマは「大人っぽい子ども部屋」で、唯一壁紙が張られている部屋でもあります。照明からクッションまで、ここにある全てのものが厳選されていることは一目瞭然ですが、特に日本のインテリアファンの皆さんに注目していただきたいのはカーテンのサイズです。天井から床までたっぷりととったカーテン、見た目が優美なことに加えて断熱や防音の効果もあり、フランスではこれが基本サイズです。川合さんも、床に引きずる長さにこだわりオーダーしたのでした。

カーテンはたっぷりと、床を引きずる長さで。つんつるてんではせっかくのおしゃれな住まいがかわいそうです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

カーテンはたっぷりと、床を引きずる長さで。つんつるてんではせっかくのおしゃれな住まいがかわいそうです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

気球柄の壁紙と好相性な、遊び心ある照明。壁紙はフォルナセッティのもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

気球柄の壁紙と好相性な、遊び心ある照明。壁紙はフォルナセッティのもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

フランスの地図を刺繍したクッションと、日本の地図を刺繍したクッションを重ね使い(写真撮影/Manabu Matsunaga)

フランスの地図を刺繍したクッションと、日本の地図を刺繍したクッションを重ね使い(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ひと通りお住まいを拝見し、川合さんのキーワードは「こだわり」に尽きると言わざるを得ません。そのディテールや、厳選したものたちがここにやってくるまでのストーリーは、出合った土地の色や香りも連想させるほどに豊か。ここで全てをお伝えできないのが残念です。しかし、川合さんが常々心がけていることは、しっかり書き留めておかなくてはなりません。なぜならそれは、自分らしいインテリアづくりを成功させるヒントだから。

「今まで見たものの記憶や、ここにこれを置いたらどうかなという想像力が、部屋づくりには不可欠だと思います。そのために、好きなものをコツコツ集めたり、頭の中にイメージをためたりすることを、日常的にしています。旅行もそうです。そしてiPhoneにイメージフォルダをつくって、見て気に入ったものやインテリアの写真を保存して。写真があると、工事を担当する職人さんにもこちらのイメージが伝わりやすく便利です。大きな部分を頭の中で組み立てて、あとはものの配置で調整する。そんなやり方で、この住まいは誕生しました」

こだわりが詰まった川合さんの住まいの完成度を、いきなり自分のものにすることは無理だとしても、コツコツと好きなものを集めることや、頭の中にイメージを貯めることならできそうです。ローマは1日にしてならず。川合さんの住まいの写真を参考にしながら、楽しくインテリアづくりをしたいものですね。

(文)
Keiko Sumino-Leblanc

●取材協力
川合陸太郎さん
インスタグラム
#ChezNepoja (パリの住まい)
#CasaNepoja  (トスカーナの住まい)

子育てや家事もシェアする「シェアハウス日日」。孤育てや強制ない距離に共感、学生や会社員の入居者も

住まいを探すときの選択肢として、すっかり定着したシェアハウス。家賃をおさえるため、趣味を共有したい、異文化交流したい、など目的に合わせてさまざまなタイプがありますが、多いのは20代から30代のシングル向けの、大人がほどよい距離を保ちながら暮らすという物件です。ただ、今回はそんな物件とはちょっと趣が異なる、子育てやDIYなど、暮らしを分け合うシェアハウスをご紹介します。

築90年の古民家に子育て中の夫妻、入居者4人が暮らす階段から玄関を見たところ。建物全体に年を経た味わいがあります(写真撮影/相馬ミナ)

階段から玄関を見たところ。建物全体に年を経た味わいがあります(写真撮影/相馬ミナ)

DIYや食事、子育てといった日々の営みを“シェア”する「シェアハウス日日(にちにち)」は、北千住駅から少し歩いた住宅街の一角にあります。長年、空き家となっていましたが、所有者が活用方法を模索するため行政主催の空き家活用コンペにこの物件を提供。Tさんたちの企画が採用され、シェアハウスになることが決まったといいます。現在、暮らしているのは、管理人ご夫妻とそのお子さん、入居者4名の計7名です。管理人のTさん、Kさん夫妻はシェアハウスの運営をしつつ、古民家をリノベーションした日用品と喫茶の店「KiKi北千住」を営んでいます。

「シェアハウスの運営を通じて、暮らし方や建築、不動産のあり方を考えています」(管理人のTさん)といいます。

口コミや紹介などで自然と次の人が決まっているとのことで、「常に満室フル稼働」というよりは、住まいや暮らしの価値観の合う、理解のある人を求めているそう。
建物の築年数は古いものの、基本的な内装とバスやトイレなどの水回り、キッチンはプロの手によって改修されています。間取りは1階にキッチン、リビング、バストイレ、ご夫妻の居室、2階に寝室があり、家賃は5万円、共益費が1万4000円。1階のLDKのほか各部屋もDIY可能で、共有部分にはDIY道具も置いてあります。
基本的に入居者は自炊して暮らしていますが、時間が合う時には食材を持ち寄ってパーティをしたりします。

共有部に置かれたDIY用品。「私達にはDIYスキルがあるので、入居者に経験がない場合でも、教えることも可能だと思ったんです」と妻のKさん。KiKi北千住をセルフリノベーションした経験があるほか、「大工インレジデンス」(大工技術を提供する代わりに家賃や食費を提供してもらえる)という仕組みがある九州のシェアハウスで、住み込み大工をしていたこともあるそう(写真撮影/相馬ミナ)

共有部に置かれたDIY用品。「私達にはDIYスキルがあるので、入居者に経験がない場合でも、教えることも可能だと思ったんです」と妻のKさん。KiKi北千住をセルフリノベーションした経験があるほか、「大工インレジデンス」(大工技術を提供する代わりに家賃や食費を提供してもらえる)という仕組みがある九州のシェアハウスで、住み込み大工をしていたこともあるそう(写真撮影/相馬ミナ)

取材前、シェアハウスで子育て、食事を分け合っていると聞いて、あまりイメージがわかなかったのですが、実際に和やかにランチをともにしている様子を拝見していると、とても自然な様子です。まるで昔からの友人や親戚のようなあたたかさに驚きます。

娘ちゃんを囲んでランチの様子。みんなのアイドルです!(写真撮影/相馬ミナ)

娘ちゃんを囲んでランチの様子。みんなのアイドルです!(写真撮影/相馬ミナ)

“孤育て”やイライラとは無縁! シェアハウスでの子育て

ご夫妻で決めた上でシェアハウスで子育てをしているわけですが、まずはその成り立ちから聞いてみました。

妻のKさんはこう言います。「シェアハウスの運営を通じて、子育てを夫婦以外の第三者も巻き込んで、ゆるやかなコミュニティの中でする方が、親にとっても子どもにとってもよい環境なのではないかと思い、試してみたかったんです」

そのため、シェアハウスの企画が立ち上がり、夫のTさんからシェアハウスで子育てしようという話が持ちかけられたとき、ここで子育てをするというのは実に自然な流れだったといいます。

左が妻のKさん、右がTさん。(写真撮影/相馬ミナ)

左が妻のKさん、右がTさん。(写真撮影/相馬ミナ)

入居時、建物は未完成の状態でしたが、その後、入居者といっしょに壁を塗ったり、床を貼ったり、棚をつくったりと、DIYを続け、現在のかたちに落ち着いています。夫妻は共働きのため、現在、娘さんは保育園に通っていますが、まだまだ手がかかる年齢です。シェアハウスでの子育ては、まわりに気を使って大変ではないんでしょうか。

「子どもがいることに理解をして入居してもらっているので、寧ろ子ども好きな人が多いですね。ごはんづくりやお風呂、トイレといったちょっとした時間も、入居者のだれかが娘の面倒を見ていてくれることもあります。小さなことかもしれないけど、ストレスがなくて助かっています。親以外の大人が、子どものことを可愛がってくれると、子育ての喜びも増しますし、逆に大変なことも笑いあえる環境というのがとても有難いです」とKさん。

おそうじの当番表。ありがとうと書き込まれているので、はげみになります(写真撮影/相馬ミナ)

おそうじの当番表。ありがとうと書き込まれているので、はげみになります(写真撮影/相馬ミナ)

娘さんは入居者みんなのアイドル、かわるがわるに遊んでもらったり、抱っこしてもらったりと、可愛がられています。親戚のような、きょうだいのような、「ゆるい親戚」という言葉が実にしっくりきます。

「夫が料理好きで、食いしん坊なんです。ふるまうのが好きで、それで突然、パーティがはじまることも多いですね」とKさん。Tさんが自然と続けます。
「近所に足立市場があるんですが、お刺身にしたり、鍋にしたり。新鮮な魚が近くにあって、市場に行くだけでもイベント感があるので楽しめます」とにこやかです。ほかにも味噌をつくったり、たこ焼きパーティをしたり、誕生日を祝ったりしています。

キッチンのタイルは入居者みんなで貼ったもの(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンのタイルは入居者みんなで貼ったもの(写真撮影/相馬ミナ)

料理をしているといい香りが漂います(写真撮影/相馬ミナ)

料理をしているといい香りが漂います(写真撮影/相馬ミナ)

この日はみんなが大好きなパスタをつくってくれました(写真撮影/相馬ミナ)

この日はみんなが大好きなパスタをつくってくれました(写真撮影/相馬ミナ)

配膳はみんなで分担。カウンターもDIYで造作しました(写真撮影/相馬ミナ)

配膳はみんなで分担。カウンターもDIYで造作しました(写真撮影/相馬ミナ)

完成した料理。サラダも盛り付けて、みんなでいただきます(写真撮影/相馬ミナ)

完成した料理。サラダも盛り付けて、みんなでいただきます(写真撮影/相馬ミナ)

「東京にあるもう一つの実家」。居心地の良さに出たくないほど

では、入居者はどのように感じているのでしょうか。大学生のAさんは、半年ほど前に別のシェアハウスからこのシェアハウスへ引っ越してきた住人です。通学にかかる時間は増えてしまいましたが、居心地のよさから「第二の実家」とまで言い切ります。

「前に暮らしていた知人のデザイナーさんから、お部屋を引き継いで暮らしているのですが、あまりにも居心地良すぎて、大人になってもずっとここに住んでいたいです(笑)」とおっとりと話します。前の住人が壁を白く塗ってくれていた部屋の雰囲気に合わせて、フローリングシートを張ったり、ロフトの壁を塗ったりお部屋をAさんらしくアレンジしています。

Aさんのお部屋の入り口にあるサイン。アートバーで制作したそう(写真撮影/相馬ミナ)

Aさんのお部屋の入り口にあるサイン。アートバーで制作したそう(写真撮影/相馬ミナ)

お気に入りのお部屋で。広さもインテリアも「すべてがいい感じ」だそう(写真撮影/相馬ミナ)

お気に入りのお部屋で。広さもインテリアも「すべてがいい感じ」だそう(写真撮影/相馬ミナ)

「室内の白い壁は前の入居者さんががんばってDIYして、白いまま残してくださりました。インテリアは私の好みのものを揃えたのですが、白い壁の雰囲気とよくマッチしていて、すべてがいい感じなんです」といいます。あまりにも暮らしが快適なため、「欲しい物もあまりないかな」と話すほどで、その満足度の高さが伺えます。Tさん夫妻の娘とも仲良しです。

「年の離れたお姉さんというよりも、純粋に友達という感じでしょうか。いっしょになって遊んでいます。めちゃくちゃかわいくて毎日癒やされてます。」といい、子どものいる暮らしがとても楽しいよう。

意地悪な質問ですが、シェアハウスにありがちな生活音やトラブル、暮らしでいやな経験をしたことはないのでしょうか。
「管理人夫妻がいっしょに住んでいらっしゃるので、何かあっても感情的になるのではなく、冷静に『指摘』してくれるので助かっています。通勤してくる管理人、清掃スタッフだとまた違うのではないでしょうか。トラブルや困りごとはないですね」といいます。このあたり、入居前に顔をあわせていたり、紹介を経由して人が集まったりすることで、「入居者同士の感覚が近い」のもあるのかもしれません。

Aさんの個室。シンプルですが個性が出ていてすてき(写真撮影/相馬ミナ)

Aさんの個室。シンプルですが個性が出ていてすてき(写真撮影/相馬ミナ)

もうひとり、1カ月ほど前からここで暮らしはじめたFさんにもお話を伺いました。

「出身は千葉ですが、以前は福岡で一人暮らしをしていました。この春に東京に戻ってくることが決まり、家具家電をそろえる費用がかからないシェアハウスを探していたんです。管理人Tさんが私の大学の先輩というご縁もありましたし、勤務先の近くにあるので、通勤にも便利ということで、入居を決めました」と立地や実用性も重視しての入居となったそう。入居して間もないものの、すでにシェアハウスに馴染んでおり、前出のAさんのことはまるで妹のようと話すなど、気持ちのよい関係が築けています。 

「入居前に心得をブログにまとめてくれていたので、共通理解ができているのは大きいと思います。共有部分の掃除や汚れが気になることもないし、分担も自然とできています」。なるほど、管理人夫妻の人柄やシェアハウスでつくりたい「暮らし」のイメージが明確だからこそ、大きくぶれないのかもしれません。

自分の好きな作品をディスプレイ(写真撮影/相馬ミナ)

自分の好きな作品をディスプレイ(写真撮影/相馬ミナ)

トイレには、元住人が作った作品の姿も(写真撮影/相馬ミナ)

トイレには、元住人が作った作品の姿も(写真撮影/相馬ミナ)

今後の展望についてTさんに聞いてみました。
「昨今、北千住の人気が出てきてしまったので、なかなかいい物件と出会いにくくなっているというか。ただ、空き家活用や建築のお悩みごとや街への想いは地元のみなさん、お持ちなんですね。物件との出会いは人との出会いでもあるので、不動産や建築を通して、この街にもっと根ざしていけたらいいなと思います」とTさん。

この建物ができた今から90年ほど前の日本では、長屋暮らしが一般的でしたし、家族や親類縁者、住み込みの従業員でいっしょに食事をしたり、建物の普請や手直しをすることが多かったはずです。シェアハウス日日の暮らしがなんとなく懐かしいのは、新しいようでいて、実は古くからある暮らしそのものだからなのかもしれません。

入居者ごとにマステが決められていて、貼っておけば誰のものかわかる仕組み。賢い!(写真撮影/相馬ミナ)

入居者ごとにマステが決められていて、貼っておけば誰のものかわかる仕組み。賢い!(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

●取材協力
シェアハウス日日

パリの暮らしとインテリア[13] アーティスト河原シンスケさんが暮らす、狭カッコいいアパルトマン

パリを拠点に活動するアーティストの河原シンスケさんは、若者に人気のエリア、バスティーユに暮らしています。話題のレストランやショップが次々と誕生するそばで、庶民の市場やおじさんたちのカフェが健在しているミックス感が、とても居心地良いのだそう。アーティスト・河原シンスケ(かわはら・しんすけ)さんの住まいにおじゃましました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

今の自分に合わせて選んだ、コンパクトな住まい

ヨーロッパ、アメリカ、アジアの、さまざまな都市を舞台に活動するアーティスト、河原シンスケさん。日本に生まれ、武蔵野美術大学を卒業し、アーティスト活動を始めてからはパリに暮らしています。

河原さんのアートに頻繁に登場する動物、うさぎ。うさぎをモチーフにしたオブジェが室内のあちこちに点在している。うさぎの黒いキャンバス画は河原さんの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんのアートに頻繁に登場する動物、うさぎ。うさぎをモチーフにしたオブジェが室内のあちこちに点在している。うさぎの黒いキャンバス画は河原さんの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

その生活は文字通り移動の連続で、フランスでエルメスとのコラボレーションを続けつつ、東京都南青山にあるギャラリーSCÈNEや宮城県仙台市の仙台うみの杜水族館、ブリュッセルの@elevensteens 等で展覧会を開催する、といった具合。フットワークの軽さは引越しにも影響するのか、パリ暮らしの約30年の間に、なんと7回も住居を変え、そのたびに改装を重ねたそうです。

「パリで最初に住んだワンルームは、レピュブリック広場近く、今人気の北マレにある小さな住まいでした。そのあとでエッフェル塔の正面にある住まいや、90平米もある歴史的なアパルトマンなど、広さも、建築年代も、さまざまな住居に暮らしました。8年前に引越してきた今の住まいは、日本式でいう1階(海外では日本の2階部分を1階と数える)にあります。日本やフランスの地方都市への移動が多くなったころに、生活をコンパクトにしたいと思って、これまで住んだことがない20平米のワンルームを買いかえました」と、河原さん。

住まいの目の前は車の入らない路地。通行人の行き来もあまり激しくなく、若者エリアにありながらエアポケットにいるよう。古き良きパリの風情の中に、若者に人気のレストランが点在している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

住まいの目の前は車の入らない路地。通行人の行き来もあまり激しくなく、若者エリアにありながらエアポケットにいるよう。古き良きパリの風情の中に、若者に人気のレストランが点在している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

20平米はともかく、フランスでは1階の物件は人気がありません。集合住宅の入り口の階なので、人が出入りするたびにドアを開閉する音が響いたり、窓の目の前を通行人が行き来したり。都市の喧騒がそのまま住空間の中に入ることが、敬遠される理由です。日当たりも良くありません。住みにくいことが大前提になっている証拠に、かつて建物の入り口脇の1階は、管理人が暮らすスペースの定番でした。そこをなぜあえて、河原さんは選んだのでしょう?

「移動が多い私にとって、スーツケースを簡単に出し入れできる1階の住まいは何より楽です。段差がないので、作品の搬出の際も便利。そしてコンパクトな住まいは戸締まりが簡単で、セキュリティ面の心配も少ないでしょう。以前、90平米に住んでいた時は、出張のたびにチェックポイントが多くてなかなか面倒でした。今は東京からパリに戻って荷物を置いて、そのままブリュッセルへ出張、ということもとても楽にできます」

あえて暗く演出した室内はひっそりとしたムードがあり、とても落ち着く。壁画アートに見える木製の壁は、全て収納の扉(写真撮影/Manabu Matsunaga)

あえて暗く演出した室内はひっそりとしたムードがあり、とても落ち着く。壁画アートに見える木製の壁は、全て収納の扉(写真撮影/Manabu Matsunaga)

1階には1階のメリットがある。これは意外な発見でした。でも、日当たりや通行人による騒音はどうでしょう?

「もちろん日当たりの良い住まいの方が、悪い住まいよりはいいですよね。でも住まいというのは、その時その時の予算の中で、自分が何を優先するかで決まると思うのです。これから先また変わるとしても、今の私にとっての優先順位はまず、移動が楽な1階であること、そしてコンパクトであること。その優先順位の中で納得のいく物件を選び、そしてその中で、自分にとって暮らしやすい空間づくりに挑戦したいと思いました」

「狭くて落ち着く大人な場所」を表現

「自分にとって暮らしやすい空間」をつくる! そう明確な意図があった河原さんは、物件を購入するや否や大改装に着手しました。入り口のドアを塞ぎ、逆に塞がれ使われていなかったほうのドアを開け、こちらを入り口に変更。リビング側から住まいに入るつくりに変えました。リビングの奥に続く細長い空間は、キッチン兼バスルームに。システムキッチンは、奥行きをリビングとの仕切りになった入り口の開口に合わせてオーダーメイドしたものです。そのおかげでシステムキッチン全体が壁面のようにペタンと空間に収まり、全く圧迫感がありません。

リビングの開口に合わせて、ペタンと平面になるようデザインしたシステムキッチン。その向かいにバスタブが設置されている。洗濯機とトイレも、バスタブの延長に並列(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングの開口に合わせて、ペタンと平面になるようデザインしたシステムキッチン。その向かいにバスタブが設置されている。洗濯機とトイレも、バスタブの延長に並列(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オーダーメイドのシンクは奥行き約30cmとコンパクト。収納扉の取っ手は、バーナーを使って自分で焼き色を入れ加工した。河原さんは料理の腕前も有名。シンプルでおいしいおしゃれなレシピを日本の雑誌で連載中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オーダーメイドのシンクは奥行き約30cmとコンパクト。収納扉の取っ手は、バーナーを使って自分で焼き色を入れ加工した。河原さんは料理の腕前も有名。シンプルでおいしいおしゃれなレシピを日本の雑誌で連載中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンに立った時に、背の側になる壁面がバスタブとトイレです。こちらも、リビングからの開口部の幅に合わせた奥行きにそろえて、スッキリと造り付けました。なんと、今バスタブが置かれている壁面が、以前の入り口ドアの場所だというのですから、河原さんの大改装がどれだけ抜本的なものだったのか想像できるというものです。白いパネル式のスライドドアでトイレや洗濯機をカバーして、1枚の壁にして隠す仕組みも、河原さんの考案によるオーダーメイドです。

「一人暮らしだからこんなことも可能」と、大胆な場所に設置したバスタブ。なんと今はタイルで覆われている壁が、物件購入時にはドアだった(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「一人暮らしだからこんなことも可能」と、大胆な場所に設置したバスタブ。なんと今はタイルで覆われている壁が、物件購入時にはドアだった(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンの向こうは小さな中庭。リビングの窓と合わせて、窓はトータル2カ所ある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンの向こうは小さな中庭。リビングの窓と合わせて、窓はトータル2カ所ある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「小さな住まいだからといって、学生の一人暮らしみたいな場所にはしたくありませんでした。これまでもずっとそうでしたが、ここでも『真似できない独特の空間をつくる』ことをポリシーに、住まいづくりをしています。もし家族がいたら20平米は狭すぎるでしょうし、予算は同じでも優先したいこと、しなければならないことは他にあったでしょう。でも私は今一人で、自分が満足するための空間づくりに集中することができるのです。ここには『狭くて落ち着く大人な場所』をつくりたいと思いました」

居心地の良さに必要な条件は、どうやら広さや日当たりにあるとは限らないようです。河原さんの住まいに居ると、確かにそう感じます。今の自分が満足するには何を優先するべきか、そこがカギになる、とスッと納得できるのです。では、1階にあるこの20平米がなぜ心地よいのか、そのポイントを探っていきましょう。

キッチンとリビングの間の開口部上に、トレーニング用のバーを設置。ジムの役割も備え、今の自分にとって必要な全てを装備した空間に。2カ月間続いたコロナ禍のロックダウン中も、この住まいのおかげで快適に過ごすことができた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンとリビングの間の開口部上に、トレーニング用のバーを設置。ジムの役割も備え、今の自分にとって必要な全てを装備した空間に。2カ月間続いたコロナ禍のロックダウン中も、この住まいのおかげで快適に過ごすことができた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

床暖房と、暗い照明

まず、住空間の快適さのために、河原さんは床暖房を取り入れました。床暖房は暖房装置としての性能が優れていることに加え、もし暖房器具を取り付けるとなった場合に必要な、気に入ったデザインを見つける時間や労力をまるまるカットすることができます。多忙な人ならなおのこと、この素早いジャッジは参考にしたいところです。さらには、暖房器具そのものを住空間に取り付けなくて済む、という大きなメリットもあります。小さい住まいにとって、電気機器等の家電の出っ張りは、できればない方がありがたい!

暖房器具としても、装飾のオブジェとしても、活躍している暖炉。暖炉はもともとあったものを残した。来客のあった時などにムードづくりも兼ねて使用するとか。暖炉の奥行きと窓の開口に合わせて、壁面収納をオーダーした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖房器具としても、装飾のオブジェとしても、活躍している暖炉。暖炉はもともとあったものを残した。来客のあった時などにムードづくりも兼ねて使用するとか。暖炉の奥行きと窓の開口に合わせて、壁面収納をオーダーした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そして照明。1階であるが故の暗さをカバーするために、天井にスポットを付ける、という発想が一般的なところですが、河原さんはその反対。できるだけ暗くする目的で、アンティークやヴィンテージのライトを採用しました。

うさぎモチーフのネオンを照明に。明るさを抑えた照明をいくつも組み合わせるのが、心地よさのポイント(写真撮影/Manabu Matsunaga)

うさぎモチーフのネオンを照明に。明るさを抑えた照明をいくつも組み合わせるのが、心地よさのポイント(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ライティングはくつろぎの演出にとってとても重要な要素です。落ち着きやリラックス感を得られるよう、できるだけ暗い照明にしたいと思いました。ライトの他に、キャンドルも毎日の生活に取り入れています」

『狭くて落ち着く大人な場所』は、床暖房の快適さと、抑えた照明がポイントであると言えそうです。実は、リビングにある唯一の窓の前には、屏風が置かれています。自然光をさえぎるのはもったいない、と多くの人が思うところですが、こうすることで窓の前を歩く通行人の存在が気にならず、なんとも言えない隠れ家的ムードが生まれるのでした。

窓の前の屏風は、河原さんの作品。ここにもうさぎが登場している。花は河原さんの生活に欠かせない大切なディテール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓の前の屏風は、河原さんの作品。ここにもうさぎが登場している。花は河原さんの生活に欠かせない大切なディテール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

既製品に手を加えて、自分だけのオリジナル家具に

あえて照明を暗くして、心地よさを演出した小さな住まい。コンパクトだからこそ、空間を最大限に生かすために、システムキッチンや収納をオーダーすることが不可欠だったことがわかりました。照明と、造り付けのオーダー家具の他はどうでしょう? 他の部分の、心地よさのポイントは? そう思って河原さんの住まいを眺めて気づくのは、目に入る全てが河原さん流だということです。

「コンパクトな生活をしたくて決めた20平米の暮らしでしたから、持ち物も厳選して、徹底的にミニマムにしました。ここには必要なもの、気に入っているもの、実際に使うものしかありません。小さい子どものいる家だったら、お客さん用の食器と普段使いのものを使い分けた方が安心です。でも、ここはそうではない。気に入っていて、使う食器だけがあれば十分で、たくさん持つ必要がないのです」

リビングのベッドは毎朝布団を収納に片付け、毎晩眠る前にベッドメイキングしている。毎日きちんとやるのは大変だ、と思ってしまうが「日本の布団だってそうでしょう?」と言われてみれば確かにそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングのベッドは毎朝布団を収納に片付け、毎晩眠る前にベッドメイキングしている。毎日きちんとやるのは大変だ、と思ってしまうが「日本の布団だってそうでしょう?」と言われてみれば確かにそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そのように厳選されたものが集まっているから、目に入る全てが河原さん流なのでしょう。壁のペイントや、作品のインスタレーション、そして既製品にバーナーで焼き色をつけた家具など、河原さんの手によるものと、アンティークのベッドや椅子、ヴィンテージの照明といった河原さんが選んだお気に入りが混在し、『真似できない独特の空間』がつくられているのでした。

イケアのテーブルと椅子は、バーナーで焼き色を入れて自分で加工した。このテーブルで6人が着席するディナーを振る舞うことも(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イケアのテーブルと椅子は、バーナーで焼き色を入れて自分で加工した。このテーブルで6人が着席するディナーを振る舞うことも(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バーナーで焼き色を入れた収納家具と壁面。ここが入り口のドア(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バーナーで焼き色を入れた収納家具と壁面。ここが入り口のドア(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アールデコのカトラリーホルダーも日常使いの小物。そしてこれも、やはりうさぎ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アールデコのカトラリーホルダーも日常使いの小物。そしてこれも、やはりうさぎ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんのお話を伺いながら、いつか取材した女性内装デザイナーの話を思い出しました。家づくりは洋服選びと違って経験値が少ない分、失敗が怖くて冒険ができません。そう彼女に伝えると、「あなたの住まいなのですから、あなたが好きなようにすればいいのです。第一、外科の手術ではなくてインテリアです、失敗したらやり直せばいい。もし誰かに悪趣味だと言われたとしても、あなたの家はあなたのためのものですよ」との言葉。自分にとっての優先順位を明確にして、自分がいいと思うものを選ぶ、という河原さんのお話と、核心は同じです。そして同時に思うのです、自分が選ぶこと、自分が決めることに、なんと私たちは不慣れなことか! そう河原さんに伝えると、そっと背中を押してくれる言葉が返ってきました。

「予算や、家族等の条件や、色々を含めて、その中で最大限に楽しもうと考えてはどうでしょう? せっかく自分で、住まいづくりができるのですから」

河原さんのように、セオリーではなく、自分を優先してみる! そう考えるだけでプレッシャーから解放され、気が楽になります。住まいづくりを自由に楽しむことができそうです。

自分のバッグのオリジナルペイントは、フランスのファッション&アクセサリーブランドである「ピエール・アルディ」とのコラボの楽しみとして始めた。その後オーダーが殺到し、4月中ごろからピエール・アルディのサイトにも登場することに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自分のバッグのオリジナルペイントは、フランスのファッション&アクセサリーブランドである「ピエール・アルディ」とのコラボの楽しみとして始めた。その後オーダーが殺到し、4月中ごろからピエール・アルディのサイトにも登場することに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

個性的なドクロのドアノブは、道端で拾ったもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

個性的なドクロのドアノブは、道端で拾ったもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の高さを生かして設置したインスタレーション。鏡の額装を兼ねている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の高さを生かして設置したインスタレーション。鏡の額装を兼ねている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのパリ暮らし。そしてこれから。

フランス人が敬遠する1階のワンルーム、しかもコンパクトな20平米をあえて選んで、自分のための快適な空間づくりに挑戦し、それを実現した河原さん。住まいがあるエリアもお気に入りで、19世紀から続くアリーグルの市場や、目利きが選ぶアンティークショップ、おしゃれなカフェやベトナムレストランなど、庶民の活気と最新アドレスが混ざり合うパリならではの環境を、一人のパリジャンとして日々、満喫しています。朝ちょっと外に出てテラスでカフェを飲む。そんななんでもないことが当たり前にできるのも、パリ暮らしの魅力だ、と。

天気がいい時、気分転換したい時、打ち合わせの時、ふらりと活用できるカフェはパリジャンにとって第2のリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天気がいい時、気分転換したい時、打ち合わせの時、ふらりと活用できるカフェはパリジャンにとって第2のリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんがよく立ち寄るヴィンテージのショップ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんがよく立ち寄るヴィンテージのショップ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリジャンの暮らしに花は欠かせない。庭は無くとも、新鮮な切花が部屋にあればフレッシュな季節感を感じられる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリジャンの暮らしに花は欠かせない。庭は無くとも、新鮮な切花が部屋にあればフレッシュな季節感を感じられる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

19世紀から続くアリーグル市場はいつでも庶民の活気に満ちている。河原さんのお気に入りスポットの一つ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

19世紀から続くアリーグル市場はいつでも庶民の活気に満ちている。河原さんのお気に入りスポットの一つ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「でも実は、そろそろ次を考え始めているのですよ。気に入っていても、飽きるので(笑)。次の住まいは、広々とした郊外もいいかもしれませんし、コロナ禍以降人気の上がっている地方都市も面白いかもしれません。ヨーロッパのほかの都市という選択肢だってあり得ます。いろいろな考えが浮かんでは消えてゆき、まだ確定していません。というのも、ギャラリーや美術館の多いパリの暮らしがやっぱり好きですし、世界中どこへ行くにもここは便利ですから」

新しい住まいづくりは新しいチャレンジ! そう捉えている河原さんだからこそ、暮らし変えを躊躇せず、常に前に進んで行けるのだなあと実感しました。

(文/角野恵子)

●取材協力
河原シンスケさん
HP
Instagram
●関連サイト
ピエール・アルディ

パリの暮らしとインテリア[12] 陶芸作家が暮らすアール・デコ様式のアパルトマン

陶芸作家ソン・ヨンヒさんは、サンマルタン運河沿いのアール・デコ様式のアパルトマンに住んでいます。2年前から画家や写真家などのアーティスト仲間とリニューアル工事に着手し、現在も手を加えながら暮らしています。モノトーンを基調にした空間に、鮮やかな色合いの家具やアンティークの家具を配置して、パリ・シックを見事に体現したおうちです。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

ノスタルジックな下町の雰囲気が残るグルメなおしゃれエリア10区で暮らす

ヨンヒさんは、レースなどの繊細なモチーフにこだわったセラミック作品を生み出す陶芸作家で、絵画も手掛けています。彼女が住むのは10区の主役ともいえるサンマルタン運河沿い。さまざまな小説の舞台になり、名画にも登場しています。とりわけ有名なのはマルセル・カルネ監督の映画『北ホテル』映画『アメリ』など。パリの庶民の暮らしぶりを撮り続けたロベール・ドアノーの写真にも多く登場するフォトジェニックな界隈です。パリのおしゃれなボボ(ブルジョワ・ボヘミアンの略。裕福で高学歴、オーガニックやエコロジーに関心があり、自由なボヘミアンスタイルを好む人々)に好まれる地区で、運河の両サイドには、いまのパリの空気を感じられるようなバーやカフェ、雑貨店がひしめき合っています。もっとも、こうしたエリアも昔は下町で、歩いて数分でインド、オリエンタル、アフリカやアラブ人街があるさまざまな文化が交差しています。

冬は静かなサンマルタン運河は、散歩には最適な場所(撮影/manabu matsunaga)

冬は静かなサンマルタン運河は、散歩には最適な場所(撮影/manabu matsunaga)

特にシャトー・ドー(Château d’eau)界隈やフォブール・サン・ドニ通り(rue du faubourg Saint Denis)は活気があり、チーズ専門店、エピスリー(食材店)、炭火焼きサンドイッチの店などの新店が次々と誕生しています。ヨンヒさんのおうちの周辺は、パリきってのブランジュリーの激戦地区。古代小麦やオーガニックにこだわった「マミッシュ(Mamiche)」や「サン・ブランジュリー(Sain Boulangerie)」、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」といった、いまパリで最も注目を集める店が軒を並べています。「私は食に興味があるので、さまざまな国の料理や食材に囲まれている、この界隈での生活にとても刺激を受けています」とヨンヒさんは語ります。週末の朝はフレッシュな食材が勢ぞろいする「マルシェ・ヴィレット」に行くのが日課。このあたりはパリで第二の中華街ともいわれるベルヴィル街で、懐に優しい中華料理店、新鮮なお豆腐屋、北アフリカ名物クスクスの店など、食の宝庫。ベルヴィルは、19世紀末から移民が移り住み、現在、アジア系、北アフリカ系、ユダヤ系の集まる、コスモポリタンなパリを象徴する地区となっています。

サンマルタン運河の川縁は春先からは人々が集い憩いの場所となります(撮影/manabu matsunaga)

サンマルタン運河の川縁は春先からは人々が集い憩いの場所となります(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさん宅のご近所には、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」など、おいしいパン屋さんが多い(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさん宅のご近所には、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」など、おいしいパン屋さんが多い(撮影/manabu matsunaga)

心地よい暮らしを求めてリノベーション

ヨンヒさんが渡仏した2000年当初は、パリ郊外の住宅街サン=モール=デ=フォセの友人宅に3カ月間お世話になった後、パリ16区の高級住宅街ジャスマンに3カ月、パリの東ヴァンセンヌ城から目と鼻の先のワンルームに2年間ちょっと暮らしていました。その後、家族の介護のために日本とフランスを行き来していましたが、2005年にフランスに戻り、彫刻家の故・藤江孝さんが生前に住んでいた南郊外ヴァンヴのアパルトマンに1年間居住。その翌年、渡仏直後に出会い、ずっと心の支えになってくれた後の夫の持ち家であるアパルトマンに引越し、現在で16年になります。

サロンはヨンヒさんが1日で一番長く過ごす場所。窓が北東に面している ので日差しが入り気持ちよく、サンマルタンが運河が一望できる(撮影/manabu matsunaga)

サロンはヨンヒさんが1日で一番長く過ごす場所。窓が北東に面している ので日差しが入り気持ちよく、サンマルタンが運河が一望できる(撮影/manabu matsunaga)

このアパートは1930年代に建てられたアール・デコ様式の建築で、直線的で機能的なデザインに特徴があります。後に夫となるピエール・リシアンさんは、フランス映画界の重鎮でした。ヌーヴェルヴァーグ(1950年代末に始まったフランスの映画運動)の金字塔『勝手にしやがれ』の助監督を経て、映画宣伝として世界で初めてプレスブックをつくった後、アメリカやアジアの新しい才能を世界に発信し続けた筋金入りの映画人。カンヌ映画祭を長きにわたって影で支えた立役者であるリシアンさんの世界各地の旅に同行し、ヨンヒさんも年の3分の1はパリを不在にする日々が始まります。映画に関するさまざまな雑貨やオブジェのコレクターであった夫は、映画のみならず文学、絵画に関する書籍や何万単位のDVDなど所有量が半端ではありません。まるで映画博物館のようで、「人を招待できる場所ではなかった」とヨンヒさんは述懐します。当時、二人は1階下に35平米のワンルームも所有し、友人知人をもてなしていました。フランスでは自宅に招き合って交流を深める習慣があります。ヨンヒさんはとびきりの料理上手。頻繁に招き招かれの生活を送りながら、夫と世界各国の映画人が深い関係を築いていくのに何役も買いました。
ところが2018年の春、夫が急逝します。ヨンヒさんは失意の時を過ごしますが、1年としばらく経ってから決意をします。「これから生きていく上でより快適に、心地よく暮らせる空間を」とリノベーション工事に着手。その上での絶対条件が「夫の思い出を散りばめた空間」にすることでした。

亡き夫の思い出のコーナー(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の思い出のコーナー(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の友人の映画監督&写真家ジェリー・ シャッツバーグの撮った有名人の写真。フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ボブ・ディラ ン、アンディ・ウォーホールなどのオリジナルプリント(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の友人の映画監督&写真家ジェリー・ シャッツバーグの撮った有名人の写真。フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ボブ・ディラ ン、アンディ・ウォーホールなどのオリジナルプリント(撮影/manabu matsunaga)

エンジェルのモチーフが大好 きなヨンヒさんのお宅にはさまざまな写真やオブ ジェがある。右の写真は、アメリカの映画監督アレクサンダー・ペイ ンが夫の著書を読んでいる写真(撮影/manabu matsunaga)

エンジェルのモチーフが大好 きなヨンヒさんのお宅にはさまざまな写真やオブ ジェがある。右の写真は、アメリカの映画監督アレクサンダー・ペイ ンが夫の著書を読んでいる写真(撮影/manabu matsunaga)

ところが、リニューアルは最初から難題に突入。“フランスあるある”で、夏のバカンス前から始める工事には困難がつきまといました。まずは工事の始まる数カ月前からアパートの管理組合の許可を取り、準備を粛々と進めなければいけないことが後になって判明します。バカンス前には工事が殺到するため、職人の確保も困難を極めます。リニューアルの第一歩はガス工事をする必要があるのに、当初来てくれる人たちのキャンセルが相次ぎました。しかもフランスではさまざまな部品がすぐに届かないことも大きな要因。「このままでは(“完成しない建築”とも言われる)サグラダ・ファミリアのようになってしまう!?」という不安がよぎったそうです。

そこで、2019年6月からヨンヒさんは業者の手を借りずに、画家、写真家などのアーティスト仲間と、一つ一つのディテールにこだわり抜きながら、唯一無二の空間づくりを開始することにしました。
現場監督は室内装飾家であり画家でもある鈴木出さん。彼は壁の質感や色に徹底的に気を配り、丁寧な作業を続けてくれました。元はパリでアンティーク店を営んでいたパク・ソンジンさんは、水道、電気、内装などでマルチな才能を発揮。花瓶をランプに変身させたり、古い家具を加工したりすることはお手の物です。いまはベルリンに居を移して写真家として活躍するパクさんは、工事のためにパリとベルリン間を往復する生活を2年以上も続けました。サックス奏者の北学さんは、アール・デコ様式の古くなった黒いボロボロのドアを溶接し、10日かけて丹精込めて修復しました。サッカーの指導者でジュエリー作家でもある向和孝さんは、強靭な体格を活かして壁を壊したりしたほか、ペンキ塗りを担当。そのほかにも随時、友人知人の手を借りて、一つ一つを丁寧につくり上げていきました。

扉はすべてアール・デコ 建築の様式。クリニャンクールの蚤の市でボロボロのドアを購入してサックス奏者の北学さんが10日 かけて修復した。とても重くて作業が大変だったとか(撮影/manabu matsunaga)

扉はすべてアール・デコ 建築の様式。クリニャンクールの蚤の市でボロボロのドアを購入してサックス奏者の北学さんが10日 かけて修復した。とても重くて作業が大変だったとか(撮影/manabu matsunaga)

傷んでいたステンドクラスは、教会や修道院など文化遺産の修復を手掛ける専門店で完璧にレストアしてもらった(撮影/manabu matsunaga)

傷んでいたステンドクラスは、教会や修道院など文化遺産の修復を手掛ける専門店で完璧にレストアしてもらった(撮影/manabu matsunaga)

照明のうち数個は手づくりしている。蚤の市で収集してきた真鍮のパーツを花瓶などと組み合わせた(撮影/manabu matsunaga)

照明のうち数個は手づくりしている。蚤の市で収集してきた真鍮のパーツを花瓶などと組み合わせた(撮影/manabu matsunaga)

現在も工事中のお風呂場は自分で工事するとのこと(撮影/manabu matsunaga)

現在も工事中のお風呂場は自分で工事するとのこと(撮影/manabu matsunaga)

試行錯誤のなかで始めた工事ですが、いろいろな気づきもありました。85平米でサロンと2つの寝室がある間取りのアパルトマンは、最初はやたらにドアが多いことや部屋の形がデコボコしていることなどを不思議に思ったそうですが、実は、どの部屋にも窓があってもプライバシーが守られる機能的な設計だったことが分かりました。リビング、お風呂、トイレの壁は左官技法によって、その空間にぴったりとくる質感の壁をつくり上げました。砂の割合などを緻密に計算してつくる左官による仕事は水回りの水分を早く吸収してくれます。現場監督の鈴木さんは画家の本領を発揮して、表面を美しく整えてくれました。

アンティークを日常生活に溶け込ませて、格調高く

内装は白、黒、グレーのモノトーンを基調に、イエロー、青、赤といったカラフルな色を差し色にした、クラシックとモダンが調和した現代的なパリ・シック。「古いものだけだと重たい印象になるので、明るいトーンの差し色や、少しだけラグジュアリーなものを融合してメリハリがあるように心掛けました」

アパルトマンに入ると、まず最初に目に入る衣紋掛けから、部屋への期待が高まる(撮影/manabu matsunaga)

アパルトマンに入ると、まず最初に目に入る衣紋掛けから、部屋への期待が高まる(撮影/manabu matsunaga)

カラフルなインテリアを差し色に(撮影/manabu matsunaga)

カラフルなインテリアを差し色に(撮影/manabu matsunaga)

パリでは一つの年代に統一するのではなく、「クラシックとモダンの調和」が好まれる傾向にあります。古いものを現代的なものと融合させてこそ「センスのある人」とみなされます。
かねてからのアンティーク好きのヨンヒさんは、外国を旅行すればその国の骨董街を訪ねて、日常的にアンティークを取り入れてきました。彼女の週末の楽しみの一つは「蚤の市散策」。クリニャンクールの蚤の市(マルシェ・オ・ピュス・サントアン)では、がらくたの山からアンティークのステンドグラスを発見。ドアノブや蛇口も蚤の市の“戦利品”です。

スイッチもアンティーク。壁は左官の技術を使い、鈴木出さんによってつくられた(撮影/manabu matsunaga)

スイッチもアンティーク。壁は左官の技術を使い、鈴木出さんによってつくられた(撮影/manabu matsunaga)

蚤の市で見つけたボロボロの手洗い場に真鍮などのアクセサリーを取り付けた(撮影/manabu matsunaga)

蚤の市で見つけたボロボロの手洗い場に真鍮などのアクセサリーを取り付けた(撮影/manabu matsunaga)

クリニャンクールの蚤の市のお気に入り店で見つけた王家の紋章のタイル。非常に古く、鉄筋が入っていたの で、一枚ずつ割らない様に剥がして高さを整えるのに苦心したそう。写真右の部分には、亡き夫の記念碑プレートを制作してはめ込む予定(撮影/manabu matsunaga)

クリニャンクールの蚤の市のお気に入り店で見つけた王家の紋章のタイル。非常に古く、鉄筋が入っていたの で、一枚ずつ割らない様に剥がして高さを整えるのに苦心したそう。写真右の部分には、亡き夫の記念碑プレートを制作してはめ込む予定(撮影/manabu matsunaga)

4回も旅行で訪れたポルトガル北部ポルトへの目的の一つも、本物のアンティークのタイル探し。昨今、ポルトガルですら本物は希少価値が高く、市場に出回っているものの多くはレプリカだそうです。

ヨンヒさんがポルト中心部のアンティーク街でたまたま入った店では、鮮やかな黄色のタイルに熱狂。高めのものでは1枚100ユーロのタイルも珍しくない中、25枚で400ユーロにまけてもらいました。値段交渉の駆け引きもアンティーク品や掘り出し物探しの醍醐味です。
サロン入り口のステンドグラスの横に配置された人形は、パリ7区のアンティークの老舗店で一目惚れ。高額でしたが、「こんなに優しい表情の人形はかつて見たことがない」と3回も通った末に、「清水の舞台から飛び降りる」気持ちで購入しました。1700年代につくられたこの人形は、フランス語ではサントン、英語圏ではサントスと呼ばれ、クリスマスに飾る装飾で「小さな聖人」を意味します。

(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんが一日で最も多くの時間を過ごすサロンには、「タベルナクル」と呼ばれる、祈りのための装飾的な祭壇があります。「大切な人を身近に感じるために、サロンの一番見晴らしのいい場所に置きました」

壁際は夫のコレクションスペース。祈りのための祭壇「タベルナクル」はサロンの中央に鎮座(撮影/manabu matsunaga)

壁際は夫のコレクションスペース。祈りのための祭壇「タベルナクル」はサロンの中央に鎮座(撮影/manabu matsunaga)

サロンでのくつろぎの時間こそ、最高の贅沢

彼女が一日のうち、一番くつろげるのは、夕方の黄昏時。「風通しのいい窓際でアペリティフをしながら、静かに過ごすのが至福の時間です」。日差しがさんさんと降り注ぐ窓辺には植物や花を配し、都会にいながらも自然を愛でる暮らしを送っています。窓からはサンマルタン運河が一望でき、四季折々の、胸にしみるような美しさを見せます。

生花も至るところに(撮影/manabu matsunaga)

生花も至るところに(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

夕方以降はキャンドルに灯した明かりや、ランプの光で過ごす(撮影/manabu matsunaga)

夕方以降はキャンドルに灯した明かりや、ランプの光で過ごす(撮影/manabu matsunaga)

夫が亡くなった後も、彼女の周りには友人が集います。フランスでは女主人が席につかないと食事を始められない、という暗黙のルールがあります。食事とおしゃべりを楽しみながら交流を深めていくのがフランス流。女性がキッチンで料理にかかりっきりは、良しとされない文化があるのです。そこで今回のリノベーションでは、サロンにつながる食堂の奥にオープンキッチンを設置。「料理をしながら和気あいあいとしたおしゃべりが楽しいのです」。フランスの食事はスタートから終了までがとても長いため、長時間座っていても座り心地のいい椅子を探すために苦心したヨンヒさん。古い椅子を8脚そろえるために時間をかけて、決して妥協を許しませんでした。テーブルは長方形だと端に座った人たちがコミュニケーションを取れないので、正方形を選択しました。

リノベーションにあたって一番重視したというオープンキッチン。以前は台所と 食卓が区切られていたので改装が大変だったとのこと。友人に囲まれ、おしゃべりしながら楽しく料理 できる空間づくりを心がけた。 タイルは蚤の市で一目惚れしたタイルを使用(撮影/manabu matsunaga)

リノベーションにあたって一番重視したというオープンキッチン。以前は台所と 食卓が区切られていたので改装が大変だったとのこと。友人に囲まれ、おしゃべりしながら楽しく料理 できる空間づくりを心がけた。 タイルは蚤の市で一目惚れしたタイルを使用(撮影/manabu matsunaga)

ステンドグラスの食器棚は とても古く、購入時はガラスが半分以上 割れていて、ドアも外れていたそう。購入価格より、修復には何倍もの費用がかかっ た(撮影/manabu matsunaga)

ステンドグラスの食器棚は とても古く、購入時はガラスが半分以上 割れていて、ドアも外れていたそう。購入価格より、修復には何倍もの費用がかかっ た(撮影/manabu matsunaga)

テーブルは長方形だと端の人達がコミュニケーションを取れな いので、正方形のテーブルにこだわった(撮影/manabu matsunaga)

テーブルは長方形だと端の人達がコミュニケーションを取れな いので、正方形のテーブルにこだわった(撮影/manabu matsunaga)

寝室とゲストルームは白い壁にシンプルでリラックスできる空間を演出。

とても明るいゲストルームは、心地よいファブリックでデコレーション(撮影/manabu matsunaga)

とても明るいゲストルームは、心地よいファブリックでデコレーション(撮影/manabu matsunaga)

それぞれの部屋には310cm×320cmのタンスを設置し、ここにほとんどの衣類やモノを収納できるようにしました。このタンスは長年の友人である、93歳のアルジェリア人の家具職人によるものです。彼は13歳の時に故郷アルジェリアからフランスに渡って以来、80年もの間、家具一筋で生きてきた熟練の職人。仕事にシビアで、こだわりの強さは半端ではありません。フランスの木を購入し、車で南仏マルセイユ港まで運び、船でアルジェリアに渡り、そこのアトリエで制作し、パリに持ってくる事をなんども繰り返してくれたのです。「今は使い捨ての家具が多いが、家具を接着剤で貼るのではなく、全部組み合わせる方法でつくったから何百年も使えるんだ」と誇らしげに話すのが彼の口癖だったそう。

ゲストルームにある特注ダンスは、工事中の寝室にも配置されて いる(撮影/manabu matsunaga)

ゲストルームにある特注ダンスは、工事中の寝室にも配置されて いる(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんは今のアパルトマンが気に入っているので、引越しは考えていませんが、将来は田舎で生活をするのが夢です。「花や野菜を育てたりしながら、創作活動を続けたいです」とヨンヒさん。

食器棚にはたくさんの食器が。料理に合わせてテーブルコーディネートするのが大好きとのこと(撮影/manabu matsunaga)

食器棚にはたくさんの食器が。料理に合わせてテーブルコーディネートするのが大好きとのこと(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんがパリ南西郊外のドゥルダン(Dourdan)に借りているアトリエで制作するお皿はどれも一点物でとても繊細です(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんがパリ南西郊外のドゥルダン(Dourdan)に借りているアトリエで制作するお皿はどれも一点物でとても繊細です(撮影/manabu matsunaga)

友人知人のアーティストや職人たちの、確かな「手」によってつくり上げた、唯一無二のパーソナルな空間。サンマルタン運河を眺めながら、ゆったりと心地よく暮らす、本当の贅沢を垣間見た気がしました。

(文 / 魚住桜子)

パリの暮らしとインテリア[12] 陶芸作家が暮らすアール・デコ様式のアパルトマン

陶芸作家ソン・ヨンヒさんは、サンマルタン運河沿いのアール・デコ様式のアパルトマンに住んでいます。2年前から画家や写真家などのアーティスト仲間とリニューアル工事に着手し、現在も手を加えながら暮らしています。モノトーンを基調にした空間に、鮮やかな色合いの家具やアンティークの家具を配置して、パリ・シックを見事に体現したおうちです。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

ノスタルジックな下町の雰囲気が残るグルメなおしゃれエリア10区で暮らす

ヨンヒさんは、レースなどの繊細なモチーフにこだわったセラミック作品を生み出す陶芸作家で、絵画も手掛けています。彼女が住むのは10区の主役ともいえるサンマルタン運河沿い。さまざまな小説の舞台になり、名画にも登場しています。とりわけ有名なのはマルセル・カルネ監督の映画『北ホテル』映画『アメリ』など。パリの庶民の暮らしぶりを撮り続けたロベール・ドアノーの写真にも多く登場するフォトジェニックな界隈です。パリのおしゃれなボボ(ブルジョワ・ボヘミアンの略。裕福で高学歴、オーガニックやエコロジーに関心があり、自由なボヘミアンスタイルを好む人々)に好まれる地区で、運河の両サイドには、いまのパリの空気を感じられるようなバーやカフェ、雑貨店がひしめき合っています。もっとも、こうしたエリアも昔は下町で、歩いて数分でインド、オリエンタル、アフリカやアラブ人街があるさまざまな文化が交差しています。

冬は静かなサンマルタン運河は、散歩には最適な場所(撮影/manabu matsunaga)

冬は静かなサンマルタン運河は、散歩には最適な場所(撮影/manabu matsunaga)

特にシャトー・ドー(Château d’eau)界隈やフォブール・サン・ドニ通り(rue du faubourg Saint Denis)は活気があり、チーズ専門店、エピスリー(食材店)、炭火焼きサンドイッチの店などの新店が次々と誕生しています。ヨンヒさんのおうちの周辺は、パリきってのブランジュリーの激戦地区。古代小麦やオーガニックにこだわった「マミッシュ(Mamiche)」や「サン・ブランジュリー(Sain Boulangerie)」、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」といった、いまパリで最も注目を集める店が軒を並べています。「私は食に興味があるので、さまざまな国の料理や食材に囲まれている、この界隈での生活にとても刺激を受けています」とヨンヒさんは語ります。週末の朝はフレッシュな食材が勢ぞろいする「マルシェ・ヴィレット」に行くのが日課。このあたりはパリで第二の中華街ともいわれるベルヴィル街で、懐に優しい中華料理店、新鮮なお豆腐屋、北アフリカ名物クスクスの店など、食の宝庫。ベルヴィルは、19世紀末から移民が移り住み、現在、アジア系、北アフリカ系、ユダヤ系の集まる、コスモポリタンなパリを象徴する地区となっています。

サンマルタン運河の川縁は春先からは人々が集い憩いの場所となります(撮影/manabu matsunaga)

サンマルタン運河の川縁は春先からは人々が集い憩いの場所となります(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさん宅のご近所には、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」など、おいしいパン屋さんが多い(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさん宅のご近所には、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」など、おいしいパン屋さんが多い(撮影/manabu matsunaga)

心地よい暮らしを求めてリノベーション

ヨンヒさんが渡仏した2000年当初は、パリ郊外の住宅街サン=モール=デ=フォセの友人宅に3カ月間お世話になった後、パリ16区の高級住宅街ジャスマンに3カ月、パリの東ヴァンセンヌ城から目と鼻の先のワンルームに2年間ちょっと暮らしていました。その後、家族の介護のために日本とフランスを行き来していましたが、2005年にフランスに戻り、彫刻家の故・藤江孝さんが生前に住んでいた南郊外ヴァンヴのアパルトマンに1年間居住。その翌年、渡仏直後に出会い、ずっと心の支えになってくれた後の夫の持ち家であるアパルトマンに引越し、現在で16年になります。

サロンはヨンヒさんが1日で一番長く過ごす場所。窓が北東に面している ので日差しが入り気持ちよく、サンマルタンが運河が一望できる(撮影/manabu matsunaga)

サロンはヨンヒさんが1日で一番長く過ごす場所。窓が北東に面している ので日差しが入り気持ちよく、サンマルタンが運河が一望できる(撮影/manabu matsunaga)

このアパートは1930年代に建てられたアール・デコ様式の建築で、直線的で機能的なデザインに特徴があります。後に夫となるピエール・リシアンさんは、フランス映画界の重鎮でした。ヌーヴェルヴァーグ(1950年代末に始まったフランスの映画運動)の金字塔『勝手にしやがれ』の助監督を経て、映画宣伝として世界で初めてプレスブックをつくった後、アメリカやアジアの新しい才能を世界に発信し続けた筋金入りの映画人。カンヌ映画祭を長きにわたって影で支えた立役者であるリシアンさんの世界各地の旅に同行し、ヨンヒさんも年の3分の1はパリを不在にする日々が始まります。映画に関するさまざまな雑貨やオブジェのコレクターであった夫は、映画のみならず文学、絵画に関する書籍や何万単位のDVDなど所有量が半端ではありません。まるで映画博物館のようで、「人を招待できる場所ではなかった」とヨンヒさんは述懐します。当時、二人は1階下に35平米のワンルームも所有し、友人知人をもてなしていました。フランスでは自宅に招き合って交流を深める習慣があります。ヨンヒさんはとびきりの料理上手。頻繁に招き招かれの生活を送りながら、夫と世界各国の映画人が深い関係を築いていくのに何役も買いました。
ところが2018年の春、夫が急逝します。ヨンヒさんは失意の時を過ごしますが、1年としばらく経ってから決意をします。「これから生きていく上でより快適に、心地よく暮らせる空間を」とリノベーション工事に着手。その上での絶対条件が「夫の思い出を散りばめた空間」にすることでした。

亡き夫の思い出のコーナー(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の思い出のコーナー(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の友人の映画監督&写真家ジェリー・ シャッツバーグの撮った有名人の写真。フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ボブ・ディラ ン、アンディ・ウォーホールなどのオリジナルプリント(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の友人の映画監督&写真家ジェリー・ シャッツバーグの撮った有名人の写真。フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ボブ・ディラ ン、アンディ・ウォーホールなどのオリジナルプリント(撮影/manabu matsunaga)

エンジェルのモチーフが大好 きなヨンヒさんのお宅にはさまざまな写真やオブ ジェがある。右の写真は、アメリカの映画監督アレクサンダー・ペイ ンが夫の著書を読んでいる写真(撮影/manabu matsunaga)

エンジェルのモチーフが大好 きなヨンヒさんのお宅にはさまざまな写真やオブ ジェがある。右の写真は、アメリカの映画監督アレクサンダー・ペイ ンが夫の著書を読んでいる写真(撮影/manabu matsunaga)

ところが、リニューアルは最初から難題に突入。“フランスあるある”で、夏のバカンス前から始める工事には困難がつきまといました。まずは工事の始まる数カ月前からアパートの管理組合の許可を取り、準備を粛々と進めなければいけないことが後になって判明します。バカンス前には工事が殺到するため、職人の確保も困難を極めます。リニューアルの第一歩はガス工事をする必要があるのに、当初来てくれる人たちのキャンセルが相次ぎました。しかもフランスではさまざまな部品がすぐに届かないことも大きな要因。「このままでは(“完成しない建築”とも言われる)サグラダ・ファミリアのようになってしまう!?」という不安がよぎったそうです。

そこで、2019年6月からヨンヒさんは業者の手を借りずに、画家、写真家などのアーティスト仲間と、一つ一つのディテールにこだわり抜きながら、唯一無二の空間づくりを開始することにしました。
現場監督は室内装飾家であり画家でもある鈴木出さん。彼は壁の質感や色に徹底的に気を配り、丁寧な作業を続けてくれました。元はパリでアンティーク店を営んでいたパク・ソンジンさんは、水道、電気、内装などでマルチな才能を発揮。花瓶をランプに変身させたり、古い家具を加工したりすることはお手の物です。いまはベルリンに居を移して写真家として活躍するパクさんは、工事のためにパリとベルリン間を往復する生活を2年以上も続けました。サックス奏者の北学さんは、アール・デコ様式の古くなった黒いボロボロのドアを溶接し、10日かけて丹精込めて修復しました。サッカーの指導者でジュエリー作家でもある向和孝さんは、強靭な体格を活かして壁を壊したりしたほか、ペンキ塗りを担当。そのほかにも随時、友人知人の手を借りて、一つ一つを丁寧につくり上げていきました。

扉はすべてアール・デコ 建築の様式。クリニャンクールの蚤の市でボロボロのドアを購入してサックス奏者の北学さんが10日 かけて修復した。とても重くて作業が大変だったとか(撮影/manabu matsunaga)

扉はすべてアール・デコ 建築の様式。クリニャンクールの蚤の市でボロボロのドアを購入してサックス奏者の北学さんが10日 かけて修復した。とても重くて作業が大変だったとか(撮影/manabu matsunaga)

傷んでいたステンドクラスは、教会や修道院など文化遺産の修復を手掛ける専門店で完璧にレストアしてもらった(撮影/manabu matsunaga)

傷んでいたステンドクラスは、教会や修道院など文化遺産の修復を手掛ける専門店で完璧にレストアしてもらった(撮影/manabu matsunaga)

照明のうち数個は手づくりしている。蚤の市で収集してきた真鍮のパーツを花瓶などと組み合わせた(撮影/manabu matsunaga)

照明のうち数個は手づくりしている。蚤の市で収集してきた真鍮のパーツを花瓶などと組み合わせた(撮影/manabu matsunaga)

現在も工事中のお風呂場は自分で工事するとのこと(撮影/manabu matsunaga)

現在も工事中のお風呂場は自分で工事するとのこと(撮影/manabu matsunaga)

試行錯誤のなかで始めた工事ですが、いろいろな気づきもありました。85平米でサロンと2つの寝室がある間取りのアパルトマンは、最初はやたらにドアが多いことや部屋の形がデコボコしていることなどを不思議に思ったそうですが、実は、どの部屋にも窓があってもプライバシーが守られる機能的な設計だったことが分かりました。リビング、お風呂、トイレの壁は左官技法によって、その空間にぴったりとくる質感の壁をつくり上げました。砂の割合などを緻密に計算してつくる左官による仕事は水回りの水分を早く吸収してくれます。現場監督の鈴木さんは画家の本領を発揮して、表面を美しく整えてくれました。

アンティークを日常生活に溶け込ませて、格調高く

内装は白、黒、グレーのモノトーンを基調に、イエロー、青、赤といったカラフルな色を差し色にした、クラシックとモダンが調和した現代的なパリ・シック。「古いものだけだと重たい印象になるので、明るいトーンの差し色や、少しだけラグジュアリーなものを融合してメリハリがあるように心掛けました」

アパルトマンに入ると、まず最初に目に入る衣紋掛けから、部屋への期待が高まる(撮影/manabu matsunaga)

アパルトマンに入ると、まず最初に目に入る衣紋掛けから、部屋への期待が高まる(撮影/manabu matsunaga)

カラフルなインテリアを差し色に(撮影/manabu matsunaga)

カラフルなインテリアを差し色に(撮影/manabu matsunaga)

パリでは一つの年代に統一するのではなく、「クラシックとモダンの調和」が好まれる傾向にあります。古いものを現代的なものと融合させてこそ「センスのある人」とみなされます。
かねてからのアンティーク好きのヨンヒさんは、外国を旅行すればその国の骨董街を訪ねて、日常的にアンティークを取り入れてきました。彼女の週末の楽しみの一つは「蚤の市散策」。クリニャンクールの蚤の市(マルシェ・オ・ピュス・サントアン)では、がらくたの山からアンティークのステンドグラスを発見。ドアノブや蛇口も蚤の市の“戦利品”です。

スイッチもアンティーク。壁は左官の技術を使い、鈴木出さんによってつくられた(撮影/manabu matsunaga)

スイッチもアンティーク。壁は左官の技術を使い、鈴木出さんによってつくられた(撮影/manabu matsunaga)

蚤の市で見つけたボロボロの手洗い場に真鍮などのアクセサリーを取り付けた(撮影/manabu matsunaga)

蚤の市で見つけたボロボロの手洗い場に真鍮などのアクセサリーを取り付けた(撮影/manabu matsunaga)

クリニャンクールの蚤の市のお気に入り店で見つけた王家の紋章のタイル。非常に古く、鉄筋が入っていたの で、一枚ずつ割らない様に剥がして高さを整えるのに苦心したそう。写真右の部分には、亡き夫の記念碑プレートを制作してはめ込む予定(撮影/manabu matsunaga)

クリニャンクールの蚤の市のお気に入り店で見つけた王家の紋章のタイル。非常に古く、鉄筋が入っていたの で、一枚ずつ割らない様に剥がして高さを整えるのに苦心したそう。写真右の部分には、亡き夫の記念碑プレートを制作してはめ込む予定(撮影/manabu matsunaga)

4回も旅行で訪れたポルトガル北部ポルトへの目的の一つも、本物のアンティークのタイル探し。昨今、ポルトガルですら本物は希少価値が高く、市場に出回っているものの多くはレプリカだそうです。

ヨンヒさんがポルト中心部のアンティーク街でたまたま入った店では、鮮やかな黄色のタイルに熱狂。高めのものでは1枚100ユーロのタイルも珍しくない中、25枚で400ユーロにまけてもらいました。値段交渉の駆け引きもアンティーク品や掘り出し物探しの醍醐味です。
サロン入り口のステンドグラスの横に配置された人形は、パリ7区のアンティークの老舗店で一目惚れ。高額でしたが、「こんなに優しい表情の人形はかつて見たことがない」と3回も通った末に、「清水の舞台から飛び降りる」気持ちで購入しました。1700年代につくられたこの人形は、フランス語ではサントン、英語圏ではサントスと呼ばれ、クリスマスに飾る装飾で「小さな聖人」を意味します。

(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんが一日で最も多くの時間を過ごすサロンには、「タベルナクル」と呼ばれる、祈りのための装飾的な祭壇があります。「大切な人を身近に感じるために、サロンの一番見晴らしのいい場所に置きました」

壁際は夫のコレクションスペース。祈りのための祭壇「タベルナクル」はサロンの中央に鎮座(撮影/manabu matsunaga)

壁際は夫のコレクションスペース。祈りのための祭壇「タベルナクル」はサロンの中央に鎮座(撮影/manabu matsunaga)

サロンでのくつろぎの時間こそ、最高の贅沢

彼女が一日のうち、一番くつろげるのは、夕方の黄昏時。「風通しのいい窓際でアペリティフをしながら、静かに過ごすのが至福の時間です」。日差しがさんさんと降り注ぐ窓辺には植物や花を配し、都会にいながらも自然を愛でる暮らしを送っています。窓からはサンマルタン運河が一望でき、四季折々の、胸にしみるような美しさを見せます。

生花も至るところに(撮影/manabu matsunaga)

生花も至るところに(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

夕方以降はキャンドルに灯した明かりや、ランプの光で過ごす(撮影/manabu matsunaga)

夕方以降はキャンドルに灯した明かりや、ランプの光で過ごす(撮影/manabu matsunaga)

夫が亡くなった後も、彼女の周りには友人が集います。フランスでは女主人が席につかないと食事を始められない、という暗黙のルールがあります。食事とおしゃべりを楽しみながら交流を深めていくのがフランス流。女性がキッチンで料理にかかりっきりは、良しとされない文化があるのです。そこで今回のリノベーションでは、サロンにつながる食堂の奥にオープンキッチンを設置。「料理をしながら和気あいあいとしたおしゃべりが楽しいのです」。フランスの食事はスタートから終了までがとても長いため、長時間座っていても座り心地のいい椅子を探すために苦心したヨンヒさん。古い椅子を8脚そろえるために時間をかけて、決して妥協を許しませんでした。テーブルは長方形だと端に座った人たちがコミュニケーションを取れないので、正方形を選択しました。

リノベーションにあたって一番重視したというオープンキッチン。以前は台所と 食卓が区切られていたので改装が大変だったとのこと。友人に囲まれ、おしゃべりしながら楽しく料理 できる空間づくりを心がけた。 タイルは蚤の市で一目惚れしたタイルを使用(撮影/manabu matsunaga)

リノベーションにあたって一番重視したというオープンキッチン。以前は台所と 食卓が区切られていたので改装が大変だったとのこと。友人に囲まれ、おしゃべりしながら楽しく料理 できる空間づくりを心がけた。 タイルは蚤の市で一目惚れしたタイルを使用(撮影/manabu matsunaga)

ステンドグラスの食器棚は とても古く、購入時はガラスが半分以上 割れていて、ドアも外れていたそう。購入価格より、修復には何倍もの費用がかかっ た(撮影/manabu matsunaga)

ステンドグラスの食器棚は とても古く、購入時はガラスが半分以上 割れていて、ドアも外れていたそう。購入価格より、修復には何倍もの費用がかかっ た(撮影/manabu matsunaga)

テーブルは長方形だと端の人達がコミュニケーションを取れな いので、正方形のテーブルにこだわった(撮影/manabu matsunaga)

テーブルは長方形だと端の人達がコミュニケーションを取れな いので、正方形のテーブルにこだわった(撮影/manabu matsunaga)

寝室とゲストルームは白い壁にシンプルでリラックスできる空間を演出。

とても明るいゲストルームは、心地よいファブリックでデコレーション(撮影/manabu matsunaga)

とても明るいゲストルームは、心地よいファブリックでデコレーション(撮影/manabu matsunaga)

それぞれの部屋には310cm×320cmのタンスを設置し、ここにほとんどの衣類やモノを収納できるようにしました。このタンスは長年の友人である、93歳のアルジェリア人の家具職人によるものです。彼は13歳の時に故郷アルジェリアからフランスに渡って以来、80年もの間、家具一筋で生きてきた熟練の職人。仕事にシビアで、こだわりの強さは半端ではありません。フランスの木を購入し、車で南仏マルセイユ港まで運び、船でアルジェリアに渡り、そこのアトリエで制作し、パリに持ってくる事をなんども繰り返してくれたのです。「今は使い捨ての家具が多いが、家具を接着剤で貼るのではなく、全部組み合わせる方法でつくったから何百年も使えるんだ」と誇らしげに話すのが彼の口癖だったそう。

ゲストルームにある特注ダンスは、工事中の寝室にも配置されて いる(撮影/manabu matsunaga)

ゲストルームにある特注ダンスは、工事中の寝室にも配置されて いる(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんは今のアパルトマンが気に入っているので、引越しは考えていませんが、将来は田舎で生活をするのが夢です。「花や野菜を育てたりしながら、創作活動を続けたいです」とヨンヒさん。

食器棚にはたくさんの食器が。料理に合わせてテーブルコーディネートするのが大好きとのこと(撮影/manabu matsunaga)

食器棚にはたくさんの食器が。料理に合わせてテーブルコーディネートするのが大好きとのこと(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんがパリ南西郊外のドゥルダン(Dourdan)に借りているアトリエで制作するお皿はどれも一点物でとても繊細です(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんがパリ南西郊外のドゥルダン(Dourdan)に借りているアトリエで制作するお皿はどれも一点物でとても繊細です(撮影/manabu matsunaga)

友人知人のアーティストや職人たちの、確かな「手」によってつくり上げた、唯一無二のパーソナルな空間。サンマルタン運河を眺めながら、ゆったりと心地よく暮らす、本当の贅沢を垣間見た気がしました。

(文 / 魚住桜子)

ビカクシダだらけ!? デザイナー夫妻が猫と暮らすインダストリアルな賃貸

インダストリアルな室内に、ビカクシダ(コウモリラン)や自然のオブジェなどが置かれ、白とグレーの猫が悠々とたたずむ。そんな自然物が似合う「博物館」をテーマにした部屋で暮らす森田賢吾さん・仁美さん夫婦に、ライフスタイルとリンクする「ステキなお部屋づくり」について伺いました。

「ペット可・バイク駐車可・変わった物件」を条件に部屋探し

クリエイティブディレクターでグラフィックデザイナーの森田賢吾さんと、クリエイティブディレクターでテキスタイルデザイナー、イラストレーターの森田仁美さん。多摩美術大学の同級生のご夫妻は、お互いに好きなものを集めているうちに部屋が狭くなり、2019年に今の住まいに引っ越しました。
Twitter(@Hi__MoriMori)で、普通ではないお住まいとジャングルのような植物、カッコイイ家具、2匹の猫の美しさに興味をひかれ、訪問させていただきました。

まるで絵のよう。クールなインテリアに植物や猫が生命のぬくもりを添える(写真提供/森田さん)

まるで絵のよう。クールなインテリアに植物や猫が生命のぬくもりを添える(写真提供/森田さん)

この賃貸物件を見つけたのは、夫の賢吾さん。「東京周辺で、猫が飼えて、バイクが置ける場所があって、おしゃれなデザイナーズ物件」の4つを条件に、お部屋探しのアプリを5、6個ダウンロードして時間があれば見ていました。不動産会社に行って、「コンクリートの箱みたいな部屋でいいので、変わった物件はないですか」とイメージに近い写真を見せて相談しましたが、東京都内はペット可物件が少なく、条件やイメージに合う部屋はなかなか巡り合えませんでした。

陽が当たる窓際は猫も植物も大好きな場所(写真撮影/相馬ミナ)

陽が当たる窓際は猫も植物も大好きな場所(写真撮影/相馬ミナ)

「不動産屋さんが紹介してくれるのは、ほとんどが一般的な普通の部屋でした。これはと思う物件はスピード勝負ですぐに内定していたり、なかなか条件が合わなかったり。この物件はポータルサイトで見つけて、内見して即決しました」(賢吾さん)

「部屋自体に個性やスタイルがあるより、ニュートラルな部屋で、自分たちが好きで集めてきたものを置いてスタイルができ上がるような物件がいいと思っていました」と話す仁美さん。夫婦の趣味が合うので、決断はスムーズでした。

コンセプトを「博物館&インダストリアル」に決めてぶれない部屋づくり

住まいはインテリアや家具、暮らし方で表情が変わるもの。ブランディングの仕事をしている森田さん夫妻は、コンセプトから始めました。

「まずこの部屋をどういう世界観にしたいか、お互いに意見を出してコンセプトを決めました。『木や石、植物などの自然物が映える、博物館のような家』をコンセプトにプランニングしたことで、想像どおりの家になりました。持っている家具をリストアップして、サイズを測って間取図に落とし込んだり、世界観資料のようなものをつくって、仕事でやっていることを部屋でもやりました」(賢吾さん)

住まいのメインステージは、窓が大きいリビングです。天井と壁の一部はコンクリートの打ちっぱなしで、床は黒いストロングフロアに壁は黒やグレー。モノクロがベースですが、陽当たりが良く明るい雰囲気。デザイン書やレコードなどを収納している本棚は、アメリカでガレージに置くようなものを、キッチンの棚はお店の厨房などで使用されているものを買って、無骨さを生かした部屋づくりを目指したそうです。

シンプルなリビング。低い家具でまとめているため広く感じる(写真提供/森田さん)

シンプルなリビング。低い家具でまとめているため広く感じる(写真提供/森田さん)

リビングのテーブルは恵比寿にある人気のインテリアショップ「パシフィック・ファニチャー・サービス」で購入。使うほどに色が濃くなり味が出てくる無垢材の寄せ木の天板が特徴的です。

テーブルと木の色が合う椅子はイームズ(写真撮影/相馬ミナ)

テーブルと木の色が合う椅子はイームズ(写真撮影/相馬ミナ)

対面式キッチンは吊り戸棚もキャビネットもなく、圧迫感も生活感も感じられず、キッチンというよりお店のカウンターのよう。キッチンとダイニング・リビングの間の段差が空間を仕切らずに分けています。家具は、キッチンの前壁のステンレスと木の色とできるだけ合わせるなど、マテリアルやカラーを統一しています。

カフェのようなキッチン。レトロなペンダント照明も素敵(写真撮影/相馬ミナ)

カフェのようなキッチン。レトロなペンダント照明も素敵(写真撮影/相馬ミナ)

家具はアメリカ系のインテリアショップや業務用の家具屋さんで買ったものがほとんど。「私たちは好みが似ていて、デザインされすぎているものより、インダストリアル感がある武骨なものが好きなんです。自然物、木のモノ、植物沢山が映えるように主張し過ぎる家具は置かないし、可愛い家具や小物に惹かれても、コンセプトのインダストリアルから外れるなら選びません」(仁美さん)

リモートワークの際に夫婦が並んで作業ができるワークスペースもシンプルに(写真撮影/相馬ミナ)

リモートワークの際に夫婦が並んで作業ができるワークスペースもシンプルに(写真撮影/相馬ミナ)

また、浴室もコンクリートの壁に囲まれていて19世紀後半のアメリカで流行した猫脚の浴槽が設置されています。浴室とトイレ、洗面台が同じ空間にあるため、来客時に水まわりが丸見えにならないよう内装屋さんに頼んでガラスドアにカッティングシートを貼ったそうです。

猫脚の浴槽が置かれたガラス張りの水廻り。ビカクシダが水分を補給中(画像提供/森田さん)

猫脚の浴槽が置かれたガラス張りの水まわり。ビカクシダが水分を補給中(画像提供/森田さん)

自慢のコレクションを飾り、生活感があるものは徹底的に隠す

両親が水産大学出身であったことから、子どもの頃から魚の造形に興味をもち、釣りや魚の絵を描いて過ごし、たくさんの魚や昆虫を捕ってきて飼育をしていたという賢吾さん。自然が豊かな環境で、動物たちが多くいる実家で育ち、よく昆虫を捕ったりしていた仁美さん。森田さん夫婦は、そんな原体験をベースに、自然や動物、生き物に興味をもち続け、自分たちの目線を通した「博物館」を居住空間で表現しています。

家具と同様、コレクションも厳選された美しいモノばかり。テレビ台の隣にある六面体のオブジェは、イタリアのデザインデュオ、alcarol(アルカロール)が製作したもので、世界遺産のドロミテ山の低層で眠っていた”むした苔をまとった木材”を使用したスツール。「池をそのままくりぬいて形にしたような、水の中に入っているような気持ちになれる不思議なオブジェです」と仁美さん。

感性に合うアートを厳選。テレビ台の横にある椅子は本来座るもの。テーブルの上にあるのは賢吾さんが作成した苔のテラリウム(写真撮影/相馬ミナ)

感性に合うアートを厳選。テレビ台の横にある椅子は本来座るもの。テーブルの上にあるのは賢吾さんが作成した苔のテラリウム(写真撮影/相馬ミナ)

夫のコレクションの石。自然に造られた形や柄、色が美しい(写真撮影/相馬ミナ)

夫のコレクションの石。自然に造られた形や柄、色が美しい(写真撮影/相馬ミナ)

石の博物館やジビエ屋で購入した化石や骨。コレクターにとって垂涎の逸品(写真撮影/相馬ミナ)

石の博物館やジビエ屋で購入した化石や骨。コレクターにとって垂涎の逸品(写真撮影/相馬ミナ)

流木で出来た牛の骨格は、アーティスト・古賀充さんの作品(写真撮影/相馬ミナ)

流木で出来た牛の骨格は、アーティスト・古賀充さんの作品(写真撮影/相馬ミナ)

すっきりと暮らす秘訣を聞くと、「植物、石、アートなどのコレクションやデザイン書、レコード、DJの機材などは出しっぱなしだし、収集癖があるのでモノはたくさんあります。ただ生活感があるもの、例えば商品としてデザインされたパッケージなどがあると生活空間がごちゃごちゃしてしまうので、見えない所に隠しています」と賢吾さん。

キッチンは食器棚の代わりに、飲食店の厨房にあるようなステンレス製の収納台を設置。家電もステンレスや黒で統一。流しの下の空洞には、サイズを測ってコンテナボックスやダストボックスを収めています。

調味料も台車式の収納ボックス内に収納(写真撮影/相馬ミナ)

調味料も台車式の収納ボックス内に収納(写真撮影/相馬ミナ)

「調味料や油や鍋などは、キッチンに出しておいた方が使いやすいかもしれませんが、夫が生活感のあるものを出しておくのが嫌いなので、使うときに出して、出したらすぐしまうことが習慣になりました」(仁美さん)

細かいものや日常品は収納グッズを利用。アメリカのバンカーズや無印良品の収納ボックスなどの、同じ形のフタ付きのツールボックスをいくつか重ねたり並べたりしてモノを隠しています。

寝室の収納。収納ボックスは棚のサイズに合うものを選んだ(写真撮影/相馬ミナ)

寝室の収納。収納ボックスは棚のサイズに合うものを選んだ(写真撮影/相馬ミナ)

猫と両立する「スッキリきれいなインテリア」

森田家には2匹の猫がいます。仁美さんは、実家で10匹~15匹くらいの保護猫と暮らしていましたが、賢吾さんは結婚して初めて触れあった猫の人懐っこさに驚いたそうです。

白猫のやっこちゃん。猫もアートのように美しい(写真撮影/相馬ミナ)

白猫のやっこちゃん。猫もアートのように美しい(写真撮影/相馬ミナ)

凛と佇む姿が部屋の雰囲気に溶け込んでいる、しじみちゃん(写真撮影/森田さん)

凛とたたずむ姿が部屋の雰囲気に溶け込んでいる、しじみちゃん(写真撮影/森田さん)

「最初の頃は、机の上にあるものを片っ端から落とすので、お気に入りガラスの置物を壊されたこともありましたが、『猫はモノを落とす生き物だから、しまっておかない人間が悪い』と夫に話して理解してもらいました。おかげで、モノを出しておかないきっかけになったかもしれません。

猫のおもちゃも、夜寝る前にはしまいます。出しっぱなしより、時々出した方が喜んで遊んだりしますね。植物にいたずらするのは、かまってほしいときなので、猫草で気をそらすようにしています」(仁美さん)

やっこちゃんのお気に入りの場所。猫は狭い凹みが大好き(写真撮影/相馬ミナ)

やっこちゃんのお気に入りの場所。猫は狭い凹みが大好き(写真撮影/相馬ミナ)

自然と向き合うこと、ビカクシダを育てることもクリエイティブ

仁美さんは、この部屋に越して急激に植物への興味が出てきたそうです。最初は多肉植物や大きい花瓶に枝ものを刺したりしていましたが、コケ玉に着生したビカクシダ(コウモリラン)をひとつ買って、調べるうちに、植物の概念を覆すような生態やインテリアとしての面白さに惹かれたそうです。植物は種類により猫との共生に気をつける必要がありますが、森田さんは猫たちが、多肉植物やビカクシダなどに反応しないことをテスト済みの上、増やしています。

ビカクシダは丸い葉っぱ(貯水葉)と長い葉っぱ(外套葉)から成る(写真撮影/相馬ミナ)

ビカクシダは丸い葉っぱ(貯水葉)と長い葉っぱ(外套葉)から成る(写真撮影/相馬ミナ)

自然界では地面に生えるのではなく木に寄生して生きるビカクシダ。板に貼り付ける人もいますが、仁美さんは、「室内に自然物があるような感じにしたい」と、コルクの木の樹皮にくくりつけています。

天井に突っ張りポールを設置して吊るしたビカクシダ。一つひとつ形が違い、葉っぱの形に装飾性があり面白い(写真提供/森田さん)

天井に突っ張りポールを設置して吊るしたビカクシダ。一つひとつ形が違い、葉っぱの形に装飾性があり面白い(写真提供/森田さん)

「同じフォーマットでも少しずつデザインや色が違うものを集めたくなるコレクター魂が刺激されて、今は20株ほどあります。部屋の陽当たりがいいので、すごい早さで植物が育つんです。全部大きくなると大変なので、これ以上は増やせないと思っています」

お手入れは「陽当たりが良く、常にサーキュレーターをつけて、風がそよそよと吹く状態を作っておくこと。水苔が乾いたら浴室でコルクの樹皮と植物の間にある水苔にたっぷりと水をあげて、水を切って部屋に戻します。数が多いので手はかかりますが、ビカクシダを育てて約2年、一度も枯らしたことがありませんし、最近はホームセンターなどに育てやすく品種改良されたものも売っているので、初めての人もトライしやすいと思います」と仁美さん。Twitterを始めたのも、愛好家がビカクシダをどう育てているのか、情報を収集するためだそう。

一年を通して水苔が乾いたらたっぷりと水を与える(写真撮影/相馬ミナ)

一年を通して水苔が乾いたらたっぷりと水を与える(写真撮影/相馬ミナ)

「ビカクシダはS缶やフックを使って天井や突っ張り棒に吊るしたり、ハンガーラックにかけるなど、壁に掛けて飾れるので生活面積を邪魔しません。床が広いまま増やせるのも魅力です」

ハンガーラックに沢山並べて吊るしている(写真提供/森田さん)

ハンガーラックに沢山並べて吊るしている(写真提供/森田さん)

希少性の高いビカクシダは金額が高いので、胞子から育て始めた仁美さん。「時間をかけて育てられた達成感もあり、愛着が違うので、興味がある人は育ててみるのもいいかもしれません。ちょこちょこ手を加えて見ていると、一気に大きくなったり変化が分かりやすく、自然と向き合うことが楽しい。植物を育てるのはクリエイティブな作業です」

撒いた胞子が芽を出し9カ月位でここまで育った(写真撮影/相馬ミナ)

撒いた胞子が芽を出し9カ月位でここまで育った(写真撮影/相馬ミナ)

ビカクシダは仁美さんの趣味ですが、賢吾さんは、最近渓流でのテンカラ釣りに凝っていて、イワナなど川魚のはく製や毛鉤(けばり)を作るための素材(鳥の羽など)を少しずつ集めているそう。「お互いに好きなものは認めて応援しています。これからも、まだまだ興味が広がって変化するかもしれません」と仁美さん。

独自の世界観をつくり上げている森田夫妻。「植物が沢山ある自然と向き合う暮らし。日常生活でありながら非日常に住むスペシャル感というか、非日常が日常になっていて、居心地がとてもいい」と仁美さん。「好きなモノを自分の身のまわりに置いて、好きを感じられる趣味部屋のような家。趣味、ライフスタイルイコール部屋みたいな感じはします」と賢吾さん。

好きなことを優先し、コンセプトを決めて、しっかりプランニングして統一感をもたせることで完成した、オリジナリティあふれる「博物館のような住まい」。夫妻のような特別なセンスがなくても、取り入れたり試せるヒントがあるのではないでしょうか。

●森田賢吾さん
クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。大貫デザイン、博報堂デザインを経て2016年デザインユニットknotを設立。JAGDA正会員。ハイクオリティなビジュアルコミュニケーションを軸としたブランディングデザインを多数手がける。NY ADC賞、 D&AD賞、 ONE SHOW、TOPAWARDS ASIA、グッドデザイン賞、亀倉雄策賞・JAGDA賞ノミネートなど国内外の賞を多数受賞。
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●森田仁美さん
クリエイティブディレクター・ テキスタイルデザイナー・イラストレーター。多摩美術大学テキスタイルデザイン学科卒業。アパレル小物の企画デザインや生産に携わった後に独立。国内の靴下工場のCDO(チーフデザインオフィサー)としてものづくりの現場のブランディングを行う傍ら、イラストの仕事も手がける。
Twitter (モリヒト)

パリの暮らしとインテリア[11] 内装建築家が郊外の集合住宅をエコリノベーション

内装建築家のカミーユ・トレルさんは、エコ建築が専門です。1年半前に購入したフランスのパリ郊外にある住まいを訪ねると、得意のエコ建築でフルリノベーションを行っている真っ最中でした。ここにパートナーと17歳の長女、6歳の長男と、家族4人で暮らしています。そしてもうすぐ5人に! なぜ郊外なのか、そしてなぜエコ建築なのか? 魅力を探りました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

緑の多い環境と広々とした住まいを求めて、郊外へ

遠くヴェルサイユの森からビエーヴル川が流れ、そのほとりに木々が連なる静かな街、ヴェリエール・ル・ブイソン。ここはかつてフランス国王の狩猟のための森でした。緑豊かな環境は今も守られ、保存の行き届いた石畳の市内は、古いフランス映画のような可愛らしさがあります。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

内装建築家のカミーユさんは1年半前、この街の中心部にある集合住宅の2階を購入し、引越してきました。子どもたちが通うシュタイナーの学校があること、そしてパートナーの前妻が住む街なので家族みんなが近くに暮らせることが、決断の理由でした。もちろん、緑の多い環境であることも。

築年数約200年の集合住宅2階とその上の屋根裏部分が、カミーユさんの住まい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

築年数約200年の集合住宅2階とその上の屋根裏部分が、カミーユさんの住まい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちが通うシュタイナー学校(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちが通うシュタイナー学校(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「子どものころは、セーヌ川で船上生活をしていました。父が選んだ船暮らしでしたが、自然を身近に感じられる毎日が私は本当に好きで。当時の経験が今も大きく私に影響を与えていると感じます」と、カミーユさん。
実は、この住まいに引越す前も、パリ郊外に暮らしていたといいます。そのくらい緑豊かな環境は、カミーユさんにとって不可欠なのです。
「パリへのアクセスが便利な郊外は、美術館や文化施設など都市の豊かさを享受できます。それでいてパリ暮らしよりもずっと静かで、ずっと広い住まいに暮らせるのですから、コロナ禍の外出制限を機にパリ市民が大勢引越してきたというのも頷けます」

グラン・パリ構想が着々と実現される郊外エリア。住み心地は?

2016年 、パリ市とその周辺の131の市町村を1つの大都市とする「メトロポーム・デュ・グラン・パリ」が発足しました。現在、周辺地域を結ぶメトロ「グラン・パリ・エクスプレス」の建設工事が進んでいます。カミーユさんが暮らすヴェリエール・ル・ブイソンにも、メトロ18線(注:現在パリには14の路線が存在する)の駅が建設される予定です。今の所、パリへ出るには車か列車で約30分の道中になりますが、メトロ18線が登場すれば移動はぐっと楽になるでしょう。この街に引越してくるパリジャン・パリジェンヌも、よりいっそう増えそうです。

グラン・パリ開発が進む街の一つ、クレムラン・ビセトルに建設予定の集合住宅。MEFエドワー・フランソワ建築事務所が手掛ける(MEF - Kremlin bicetre)

グラン・パリ開発が進む街の一つ、クレムラン・ビセトルに建設予定の集合住宅。MEFエドワー・フランソワ建築事務所が手掛ける(MEF – Kremlin bicetre)

「グラン・パリに関しては、個人的に良い面と悪い面があると考えています。良い面は、郊外が近くなることで、より多くの人々が緑豊かな環境の広い住まいに暮らせるようになることです。コロナ禍を体験し、多くの人が暮らしの質を考え直した今、これは本当に歓迎すべきことだと思います。悪い面は、石造りの建物が取り壊されてビルに変わってしまうこと。まだあと100年は使える住居を壊すなど誰も望んでいませんし、私も同じ考えですから」
カミーユさんの心は複雑ですが、オルリー空港からも近いヴェリエール・ル・ブイソンが、今後注目の高まる街であることは間違いありません。

エコ建築は、今を生きる自分たちのため。そして将来の環境のため。

集合住宅の2階を購入し、その後屋根裏も買い足して、築年数約200年の物件を得意のエコ建築でリノベーションしているカミーユさん。カミーユさんにとってエコ建築は、環境を考慮した持続可能なアプローチで住まいやオフィスをリノベートすること。例えば、フランスのエコ認証の付いたペンキを選ぶことはもちろんですし、その認証が信頼できるものであるかどうかを調べることにも手を抜きません。また、エコ認証のないものでも、例えば無垢材の木の中古家具を採用することは、環境インパクトを最小限に抑えるという意味で持続可能なアプローチであり、エコであると捉えています。

玄関を入ったフロアに広々としたリビングとキッチンがあり、さらにシャワー、トイレ、長女の部屋があります。上階の屋根裏に行くと、長男の部屋と夫妻の寝室。夫妻の寝室には、バスタブとシャワーもつけました。

住まいはトータルで104平米(写真撮影/Manabu Matsunaga)

住まいはトータルで104平米(写真撮影/Manabu Matsunaga)

以前は映画業界で働いていたカミーユさんらしく、ポスターや電飾を使って暮らしを楽しく演出している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

以前は映画業界で働いていたカミーユさんらしく、ポスターや電飾を使って暮らしを楽しく演出している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

2匹いる犬たちも広い暮らしをのびのび満喫中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

2匹いる犬たちも広い暮らしをのびのび満喫中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コンパクトなキッチンも、オープンにして広々と(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コンパクトなキッチンも、オープンにして広々と(写真撮影/Manabu Matsunaga)

クライアントの仕事を優先しているため、自分の住まいは後回しになり、仕上がりのスピードはゆっくりです。今もまだペンキを塗っていないファイバーボードの壁が、剥き出しになっていたりします。しかも、エコ素材のペンキは、通常のものよりも乾くのに時間がかかるので、工事を急ぐ現代人には敬遠されがちなのだそう。金額が高いことも障害になります。それでもエコ建築を選ぶのは、なぜでしょうか?

天井の断熱材には綿・麻・ジュートでできたナチュラルファイバーを使用。暖房のエネルギーを節約するために断熱は入念に。その厚みのため天井の梁が隠れてしまったが、味わいがあるので可能な限り残すようにした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の断熱材には綿・麻・ジュートでできたナチュラルファイバーを使用。暖房のエネルギーを節約するために断熱は入念に。その厚みのため天井の梁が隠れてしまったが、味わいがあるので可能な限り残すようにした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

屋根裏の仕切りにはフランスのエコ基準をクリアしたファイバーボードと石膏ボードを使用。軽量素材なので上層階のリノベートに適している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

屋根裏の仕切りにはフランスのエコ基準をクリアしたファイバーボードと石膏ボードを使用。軽量素材なので上層階のリノベートに適している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「建築素材のなかには、そこに含まれる有害物質が人間の身体に悪影響を及ぼすことは、今や誰でも知っています。そして自分の住空間が汚染されていると思いながら暮らすのは、気分のいいものではありません。この仕事を始める前、私は映画のセットをつくる仕事をしていました。それが妊娠をきっかけにヘルシーな住空間について考えるようになり、産休を利用して住まいをD I Yでエコリノベして……自然と、今の仕事につながりました」
つまり、エコ建築を選ぶ理由の核には、家族の健康への思いがある、ということ。
「私のクライアントも、生まれてくる赤ちゃんの健康のためにエコ建築を選ぶ人がほとんどです。仕事では個人宅以外にも、オフィスやレストランも手がけますが、『以前よりずっと快適に感じる』とか『アレルギーが治まった』など、住空間であれ仕事空間であれ、反響はとてもポジティブですよ」と、カミーユさん。
加えて、人の身体に優しいエコ建築は、持続可能でもあります。未来を生きる子どもたちの世代のために、せめて負の遺産を残さない努力はしたいという想いも、カミーユさんは強くお持ちでした。

床、階段、本棚などなど、いたるところに木の無垢材を多用(写真撮影/Manabu Matsunaga)

床、階段、本棚などなど、いたるところに木の無垢材を多用(写真撮影/Manabu Matsunaga)

味わいのある天井の梁はあえて剥き出しにして、エコ基準をクリアしたペンキで白く塗り替えた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

味わいのある天井の梁はあえて剥き出しにして、エコ基準をクリアしたペンキで白く塗り替えた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

中古品のリサイクルは、2つのエコとおしゃれな暮らしの味方

開放感があって、温もりも感じられて。カミーユさんの住まいの心地よさは、エコ建築以外からももたらされている気がする……そう思いながら住まいの中を1つ1つ見てゆくと、家具や雑貨のほとんどが木や自然素材をベースにしたもの、そしてレトロなデザインのものであることに気づきます。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングのダイニングコーナーの一角に置かれたピアノは、パートナーの仕事道具。なんと彼は、フランスを代表するミュージシャンたちとコンサートを行う著名なピアニスト(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングのダイニングコーナーの一角に置かれたピアノは、パートナーの仕事道具。なんと彼は、フランスを代表するミュージシャンたちとコンサートを行う著名なピアニスト(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「チャリティーショップや蚤の市で見つけたものがほとんどです。つまり中古品。家具や雑貨をリサイクルすることは、環境へのインパクトを抑える効果的なアクションの一つなのですよ。私のクライアントたちも、中古品の再利用をとても歓迎してくれます。質の良い魅力的なオブジェを、安く購入できる、と」
エコノミックでエコロジック。2つのエコが、おしゃれなインテリアづくりのカギだったとは!
新品のもの、例えばキッチンツールやバスまわりのグッズは、パリの生活雑貨セレクトショップ「ラ・トレゾルリ」(La Trésorerie)で購入することが多いとのこと。ここへ行けば自然素材ベースのタイムレスなデザインのものがそろっているので、カミーユさんの趣味にぴったり。さらに言うと、ヨーロッパで生産された伝統的な品々が厳選されているため、サスティナビリティーや輸送のCO2の配慮面も安心です。こうして選んだものを長く愛用すれば、ここでもエコノミックでエコロジックな2つのエコが実現できると言うわけです。しかもこんなにおしゃれに!

藤の棚は、今やインスタ映えの必須アイテム! チャリティーショップで格安で見つけた。棚に並べた食器も同様(写真撮影/Manabu Matsunaga)

藤の棚は、今やインスタ映えの必須アイテム! チャリティーショップで格安で見つけた。棚に並べた食器も同様(写真撮影/Manabu Matsunaga)

壁の絵画もチャリティーショップで購入した中古品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

壁の絵画もチャリティーショップで購入した中古品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

古いものこそ最先端?

特注でつくり付けた木の無垢材の階段をのぼって、屋根裏へ。階段の突き当たりの踊り場がデスクコーナーになっています。デスクコーナーも中古品の寄せ集めでつくられていますが、それがなんとも可愛らしい!

中古品を集めて作ったデスクコーナー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

中古品を集めて作ったデスクコーナー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「タイプライターは飾り? いえいえ、もちろん使っています! なぜかはわかりませんが、私は古い素材の質感と古いデザインに、とても魅力を感じるのです。手触りも良く使いやすい。今は新しいものが安く簡単に買えますが、遠い国でどんな手段で作られていることか……品質も疑問です。安いものを買ってすぐにゴミにしてしまうよりも、古いものを長く使った方が心地いいと私は思います」
その古いものが、今やヴィンテージとしてもてはやされ、インスタグラマーの間では引っ張りだこになっているのですから、面白いものです。カミーユさんの考えに共感する人は、きっと多いはず。そう思い、カミーユさんのインスタアカウントをチェックしたところ、17,511人のフォロワーが! やはり、そうでしたか。

木の無垢材のクローゼットはオーダーメイド。上にカゴを並べ、小物を収納している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

木の無垢材のクローゼットはオーダーメイド。上にカゴを並べ、小物を収納している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

長男の部屋にも天窓をつけ、自然光をたっぷりと取り入れるようにした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

長男の部屋にも天窓をつけ、自然光をたっぷりと取り入れるようにした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

仕事もプライベートも、自分ペースがいちばん贅沢

「私がインスタグラムに上げているのは、子どもと一緒に森を散歩したり、日常のコーナーを飾ったり、そんな写真ばかりです。それに共感してくれる人が大勢いるということは、贅沢の基準や優先順位がとても個人的なものになってきているということかも知れません。若い世代は環境問題に敏感ですし、自分にとって何が大切かをよく考えています。そしてそんな人たちは、どんどん増えていると感じます」
こう語るカミーユさんが自分のために大切にしているとっておきの時間は、バスタイム。毎週1回、自然光の注ぐ天窓下のバスタブにゆっくり浸かって、「心と身体の大掃除」を楽しむのだそうです。市内にあるアーユルヴェーダのサロンでヨガをしたり、オーガニック食材店でアロマオイルを買ったりするのも、お気に入りの自分時間とのこと。自分ペースで豊かに暮らす、カミーユさんの生活のひとコマを垣間見てしまったら、誰でもこの街に引っ越したくなりますね。

ラ・トレゾルリで購入したバス小物(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ラ・トレゾルリで購入したバス小物(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのオーガニック食材店(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのオーガニック食材店(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(文/Keiko Sumino-Leblanc)

●取材協力
カミーユさん
Instagram
●関連サイト
「ラ・トレゾルリ(La Trésorerie)」

パリの暮らしとインテリア[10]元テニスプレイヤー、マラットさんの高層マンションで本に囲まれた暮らし

幼少のころからテニス中心の生活を送り、世界中をまわっていたマラットさん。プロのテニスプレイヤーだった16年前からパリに移り住み、このアパルトマンは4軒目。バルコニーがなくても開放感のあるおうちにお邪魔しました。連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

パリでは珍しい眺めの良いアパルトマンを購入

一般的にパリのアパルトマンは、狭くてエレベーターがない、日当たりが悪い、ベランダ付きは珍しいという特徴があります。パリに住むのは便利だけれど、そこが難点と言われてきました。このコロナ渦で家で過ごす時間が増え、パリで暮らす私たちは、自分たちの暗い部屋での暮らしと、郊外のベランダや庭から空が見える暮らしとの違いを痛感。住まい選びの基準も大きく変化したと実感しています。

そんななか、パリを見渡せて開放感のある“高層マンション”の人気が急上昇しているそうです。マラットさんが5年前から住む14階からも、パリの街並みと空が眼前に広がっています。

マラットさんが住んでいるのは、22階建ての高層マンションの14階。3棟同じデザインが並ぶ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マラットさんが住んでいるのは、22階建ての高層マンションの14階。3棟同じデザインが並ぶ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリでは、アパルトマンの標準は5、6階建てで、その3、4倍のいわゆる“高層マンション”は建てていい地区が決められています。中心部に近いモンパルナスタワー近辺、13区の中華街近辺、自由の女神とセーヌ川を見渡せる15区の元ホテル街、ミッテラン図書館近辺の個性的な高層マンション街、新凱旋門のあるデファンスのオフィス街、そしてマラットさんとパートナーが二人で住むパリ北東のヴィレット近辺です。

ヴィレット通り付近は近年、パリで最も人気の地区のひとつとされています。特徴のある小さなお店や美味しいレストランもたくさんあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ヴィレット通り付近は近年、パリで最も人気の地区のひとつとされています。特徴のある小さなお店や美味しいレストランもたくさんあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリの住まい探しは口コミ&大家に交渉、がコツ

ノルウェー人の父とポーランド人の母を持つマラットさんは、以前はノルウェーやポーランドに住んでいて、16年前にパリに移住しました。今まで4軒の物件に住んできましたが、いずれも知り合いの口コミで見つけたそうです。「パリでは不動産会社に空き部屋の情報が出る前にクチコミで見つけ、大家と直接交渉できることが多いんです。その方が安く借りることもできるので得ですね」とマラットさん。

実は、今住んでいる14階の部屋の前には、同じ建物の4階に住んでいたそう。

「4階だと向かいのビルが風景を遮っていて、窮屈な感じがしていました。遠くを眺められる住まいが重要と気付き、上層階の空き部屋が出るのを待っていたんです」

同じマンションに住んでいれば、上層階の空き情報をいち早くキャッチできる。それは「サンディカ(住民の組合)」の集会などで話題になることがほとんどで、大家への直接交渉が可能なのだそう。

「地平線と空が私にとって不可欠です。そして街を見下ろして景色を眺めながら自分の内面に目を向けるひと時が大切」(マラットさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「地平線と空が私にとって不可欠です。そして街を見下ろして景色を眺めながら自分の内面に目を向けるひと時が大切」(マラットさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

75平米の部屋を購入し、セルフリノベ

現在の14階の部屋を購入した当時、1970年代に建てられた時のままで、壁紙などが時代遅れな印象だったとか。それでもサロンの二面のガラス窓や各部屋からの眺めは格別で、パリによくある部屋とは違った明るい空間が、新しい暮らしへのイメージを膨らませてくれたと言います。

「内装がとても傷んでいたので、パリに住む叔父とパートナーと一緒に工事を始めました」

工事にあたり、内装を自分でデザイン。床や壁のほとんどを取り除き、気に入った素材などを集めながら、少しずつ作業していったそう。フランスでは、改装工事は高額で時間がかかるのはよくあること。セルフリノベをしたことで業者の4分の1ほどの出費に抑えられたとか。何より、「達成感を味わえた」と満足そう。

キッチンから見たサロンの様子。二面に窓があり、特に明るい場所(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンから見たサロンの様子。二面に窓があり、特に明るい場所(写真撮影/Manabu Matsunaga)

白色で統一された収納たっぷりのキッチンは、仕切りなしでサロンとつながっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

白色で統一された収納たっぷりのキッチンは、仕切りなしでサロンとつながっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

一番のお気に入りの場所はサロンのソファー

こだわったのは、二面の大きな窓ガラスのあるサロンとオープンキッチンをシームレスにつなげたことと、寝室を2部屋つくったこと。

サロンは、すべての壁を真っ白に塗り、そのうちの一面に凹凸のある石をはめ込みました。

「暮らす前から、このサロンの壁際にソファーを置こうと決めていました。自分が一番長く過ごす場所になるだろうというイメージもわいていました。読書をしたり、映画を見たり、窓から夕焼けを眺めたり……」

サロンでくつろぐマラットさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンでくつろぐマラットさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「X」のオブジェはアーティストの1点ものでランプが取り付けられています。ソファーのクッションはいろいろな国で購入したもの。赤と白のクッションは2年前にマダガスカルで(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「X」のオブジェはアーティストの1点ものでランプが取り付けられています。ソファーのクッションはいろいろな国で購入したもの。赤と白のクッションは2年前にマダガスカルで(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「私は花が大好きで、パリにいるときは週に1回は自分でブーケをつくるようにしています。特に、珍しい形、明るい色、紫、緑、黄色、赤の花が大好きです」。 黒いコーヒーテーブルはフランスの建築家でありデザイナーのジャン・プルーヴェの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「私は花が大好きで、パリにいるときは週に1回は自分でブーケをつくるようにしています。特に、珍しい形、明るい色、紫、緑、黄色、赤の花が大好きです」。 黒いコーヒーテーブルはフランスの建築家でありデザイナーのジャン・プルーヴェの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

テニスコーチとなった今もトレーニングを欠かせない。サロンにマシーンを設置(写真撮影/Manabu Matsunaga)

テニスコーチとなった今もトレーニングを欠かせない。サロンにマシーンを設置(写真撮影/Manabu Matsunaga)

世界中で知り合った友達を迎え入れるためのゲストルームも

子どものころから世界中を旅していたマラットさんは、各地で知り合った友達がパリに来た時に泊まれるように寝室を2部屋つくりました。サロンにある大テーブルも最大10名が座れます。まさに、友達の集まる家なのです。
「コロナ禍で友達を迎えることはできていませんが、外出制限の時には私の仕事部屋として使っていました」と言います。

ここには、マラットさんが繰り返し読みたい本、新しく買った本を置くメインライブラリーもあり、本を読んだり、絵を描いたりと集中できる空間になっています。

客室にはテーブルを設置し、現在は仕事部屋として使用。窓際にはたくさんの本がしまわれています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

客室にはテーブルを設置し、現在は仕事部屋として使用。窓際にはたくさんの本がしまわれています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

客室のメインライブラリー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

客室のメインライブラリー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自分たちの寝室はグレーで統一。「整頓された空間で眠るのが好きなので、私の部屋は常に整理されています」とマラットさん。やはりこの部屋の窓際にも本が収納されていました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自分たちの寝室はグレーで統一。「整頓された空間で眠るのが好きなので、私の部屋は常に整理されています」とマラットさん。やはりこの部屋の窓際にも本が収納されていました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ベッドサイドテーブルには、デザイナーもののランプとB&Oスピーカーがあり、夜寝る前に音楽を聴きながら読書をするのが日課だそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ベッドサイドテーブルには、デザイナーもののランプとB&Oスピーカーがあり、夜寝る前に音楽を聴きながら読書をするのが日課だそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家の中には好きなものしか置かない主義

「本に囲まれて生活するのが好きで、どの部屋にも本棚があるんです」

サロン、キッチン、寝室2部屋、バスルームにまで本が置いてあります。

飾り方もとてもおしゃれ。本棚やキッチンの棚などに飾っているほか、装丁もサイズもバラバラな本を横に積むように置いたりして、インテリアの一部のように演出しています。

サロンの窓際にある本棚。本棚に収まりきらない本はカーヴ(地下の倉庫)に保管しています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの窓際にある本棚。本棚に収まりきらない本はカーヴ(地下の倉庫)に保管しています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンのお茶コーナーにはレシピ本を飾ってあります。「私はお茶が大好きで夢中!」とマラットさん。 旅行では最高の緑茶を探し歩くそう。お茶は彼にとって小さな儀式のようなもので、少なくとも1日1回は飲み、リラックス、熟考を楽しむとか(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンのお茶コーナーにはレシピ本を飾ってあります。「私はお茶が大好きで夢中!」とマラットさん。 旅行では最高の緑茶を探し歩くそう。お茶は彼にとって小さな儀式のようなもので、少なくとも1日1回は飲み、リラックス、熟考を楽しむとか(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オスロのフリーマーケットで小さな赤い銅の鍋を購入。本は非常に質の高い版のアートブックで知られるファイドン出版が編集した日本料理の本。「これは私の心に強く訴える料理の聖書です」(マラットさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オスロのフリーマーケットで小さな赤い銅の鍋を購入。本は非常に質の高い版のアートブックで知られるファイドン出版が編集した日本料理の本。「これは私の心に強く訴える料理の聖書です」(マラットさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

本のほかにも、アーティストものやデザイナーもののインテリアや雑貨などが飾られた部屋からは、マラットさんの「好きなもの以外は部屋に置かない」というこだわりが伝わってきます。

自分たちの寝室の壁には、アメリカ人の映像作家、詩人、活動家のジョナス・メカスが撮影したピエル・パオロ・パゾリーニの写真が飾ってありました。花瓶には3、4カ月ごとにパリで今流行りのドライフラワーで活け直すそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自分たちの寝室の壁には、アメリカ人の映像作家、詩人、活動家のジョナス・メカスが撮影したピエル・パオロ・パゾリーニの写真が飾ってありました。花瓶には3、4カ月ごとにパリで今流行りのドライフラワーで活け直すそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ベッドサイドの金の箱には絵の具を収納。客室は普段使われていなかったので収納場所としても活用。絡み合う二人のオブジェは友人からの贈り物(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ベッドサイドの金の箱には絵の具を収納。客室は普段使われていなかったので収納場所としても活用。絡み合う二人のオブジェは友人からの贈り物(写真撮影/Manabu Matsunaga)

こけしは東京と京都で見つけたもので1960年代のこけしと現代的こけし。マラットさんは日本が大好きだそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

こけしは東京と京都で見つけたもので1960年代のこけしと現代的こけし。マラットさんは日本が大好きだそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「木製のスツールは友人から贈られたアート作品ですが、アーティストの名前は覚えていません。でもとても気に入っています」 窓際に置かれた物はすべて旅行先で見つけて持ち帰った大切な思い出だそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「木製のスツールは友人から贈られたアート作品ですが、アーティストの名前は覚えていません。でもとても気に入っています」 窓際に置かれた物はすべて旅行先で見つけて持ち帰った大切な思い出だそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

漆塗りの木のアルバムは、1960年代に彼の祖父が日本に旅行したときのもの。艶を失わず大切にしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

漆塗りの木のアルバムは、1960年代に彼の祖父が日本に旅行したときのもの。艶を失わず大切にしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

また、機能的でリラックスしやすい空間づくりにも工夫がたくさん。選手生活中に旅先でさまざまなホテル暮らしをしてきたことが、現在のライフスタイルにも影響しているといいます。

今もパリにいないことが多く、数カ月ぶりに帰ってきた時にささっと埃を掃除できる設計にしていて、大量の本も半分以上は引き戸の付いた本棚に収納するなどして、お茶の道具とナイフ以外は全てしまわれています。

「今のところ引越しは考えていません、今よりも良い条件の物件を探すのは難しい」とマラットさん。現在の住まいの界隈が、パリで一番好きな場所だそう。

また、フォンテヌーブローの近くには庭付きの広い別荘もあり、気持ちいいテニスコートでテニスや乗馬などをして自然に触れながらトレーニングをしているのだとか。

コロナ禍ではテニスの大会も制限があったようですが、選手と同行することが多く、今でもホテル暮らしも多いマラットさん。そんな彼が、遠征生活とコロナ禍を経て自分の住まいとして行き着いたのは、ホテルのような機能的で快適な生活空間と見晴らしの良い環境。そして街での暮らしと自然のバランスがとれた生活でした。

ビュットショーモン公園は、パリ中でマラットさんの一番のお気に入りの場所(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ビュットショーモン公園は、パリ中でマラットさんの一番のお気に入りの場所(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(文/松永麻衣子)

パリの暮らしとインテリア[9]家具は古材でDIY! テキスタイルデザイナーが暮らす市営アパルトマン

パリ市が運営するOffice Public de l’Habitat (OPH・市営住宅)に入居して4年目になる、ニット作家兼テキスタイルデザイナーのメゾナーヴ・シリルさん。彼のアパルトマンは、工業廃材や木材に彼が手を加えたオリジナルな家具に囲まれています。小さなアパルトマンで快適に生活するために欠かせないものとは? そんなヒントが見つかりました。連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

10年待ってやっと条件の合うOPH(市営住宅)に入居

シリルさんが住む市営住宅の最大の魅力は、不動産屋や大家から直接借りる物件よりも家賃が安いということ。
入居希望の場合は事前にOPH(市営住宅)のサイトで登録が必要です。どの地区に住みたいか、部屋の数、住む人数、1年間の収入、などの情報を書き込みます。 「更新手続きは毎年でパズルのように複雑です。入居者を抽選で市が決め、当選すると連絡が来るのですが、場所や間取りなど気に入らなかったので数回断りました。条件の合った物件に巡り合うには忍耐が必要です」とシリルさん。彼は14年前に登録してから10年目にしてやっと自分たちの条件に合う物件に巡り合ったそう。

市営住宅の事情を調べてみると、パリの古いアパルトマンにはベランダがないことが多いのですが、最近建てられるほとんどの市営住宅にはベランダがあるそう。バルコニーで食事をしたり、ベランダ菜園をしたり、このように現代のライフスタイルに合わせて設計されているため、人気はうなぎ登りだそうです。「なかなか入居できなくても、将来のことを考えて登録だけはしておく」という若い人たちも多いそう。

シリルさんのアパルトマンはベランダはないが窓の外に植木鉢が置けるスペースがある古いタイプの間取り。広いリビングではないけれど、長方形を区切ってさまざまなコーナーをつくった。窓際から順番に、書斎、ソファーのあるくつろぎの場、一番奥は作品や小物を収納した本棚を置いたスペースにしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シリルさんのアパルトマンはベランダはないが窓の外に植木鉢が置けるスペースがある古いタイプの間取り。広いリビングではないけれど、長方形を区切ってさまざまなコーナーをつくった。窓際から順番に、書斎、ソファーのあるくつろぎの場、一番奥は作品や小物を収納した本棚を置いたスペースにしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓際の左手の書斎の本棚。古い木の扉を仕切りにして、細々としたものを隠したりライトを取り付けたりしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓際の左手の書斎の本棚。古い木の扉を仕切りにして、細々としたものを隠したりライトを取り付けたりしている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バタフライテーブルは使っていないときには畳めるので「省スペースの優れ家具の代表」とシリルさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バタフライテーブルは使っていないときには畳めるので「省スペースの優れ家具の代表」とシリルさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自分たちの身の丈に合った部屋選びが重要

このアパルトマンは、パリの東にあるナション駅に近い静かな通りにあります。周りには木が多く、寝室とサロンが大きな公園に面していて、彼が幼少のころに住んでいた街を思わせる庶民的な雰囲気が魅力だそう。住宅街ではあるけれど、買い物にも便利なカルチェ(地区)で、シリルさんが「アイデアの宝庫!」と絶賛するホームセンターも近くにあります。
また、間取りがリビングと寝室の2部屋というこの51平米のアパルトマンが、パートナーと3匹の猫と暮らすのに十分の広さだと考えたそう。
「パリのアパルトマンは小さいので、スペースを節約して暮らすことが重要課題です。私たちは年齢とともに必要でないものは手放し、大事なものだけに囲まれて生活することが幸せということも知っているから、私たちにぴったりな物件でした」とシリルさん。
4年前の引越し当初は、壁や天井が真っ白に塗られたとても明るい部屋でした。シンプルな空間がまっさらなキャンバスのようで、これからどんな風に部屋を自分たちらしくしようかとワクワクしたそうです。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

寝室とサロンから見える公園「Square Sarah Bernhardt (スクエア・サラ・ベルナール)」(写真撮影/Manabu Matsunaga)

寝室とサロンから見える公園「Square Sarah Bernhardt (スクエア・サラ・ベルナール)」(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家具のDIYに欠かせない、シリルさん行きつけのホームセンター「castorama(カストラマ)」(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家具のDIYに欠かせない、シリルさん行きつけのホームセンター「castorama(カストラマ)」(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自分でDIYしたインテリアに囲まれて暮らす幸せ

シリルさんは料理人、菓子職人、フローリストを経て現在のニット作家とテキスタイルデザイナーなりました。「手で何かをつくり上げる仕事は、常に前進する喜びと学びがあり、私の人生そのものなのです」とシリルさん。
そんな彼がインテリアで大切にしていることは、やはり手でつくり上げていく制作過程だそう。落ち着いた装飾、空間のアレンジ、それによって出来上がった部屋で過ごすのは何ものにも変えられない喜びだそう。
引越してきてからの4年間は“木の温もりや手づくり感があふれるものに囲まれた生活”をコンセプトとして、部屋づくりをしてきました。
彼は成形された材木を買ってくるのではなく、廃棄されてしまうようなものを積極的に再利用しています。例えば、“パリの胃袋”と呼ばれるランジス市場からもらってきたいくつもの木箱を使って本棚にしたり、ランジス市場で荷物を運ぶリフト用の板をベッドヘッドにしたり。そうすることによって想像もつかないオリジナルなインテリアができ上がったそうです。

市場でりんごを入れて運ぶための木箱を本棚にして廊下へ。ホームセンターで購入したグリーンのコードのライトは、本来庭やカフェのテラスよく使われている防水性のもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

市場でりんごを入れて運ぶための木箱を本棚にして廊下へ。ホームセンターで購入したグリーンのコードのライトは、本来庭やカフェのテラスよく使われている防水性のもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

陽光がたくさん入るベッドルームは公園に面していてとても静か。ベッドの土台はたっぷり収納ができる引き出し付き(写真撮影/Manabu Matsunaga)

陽光がたくさん入るベッドルームは公園に面していてとても静か。ベッドの土台はたっぷり収納ができる引き出し付き(写真撮影/Manabu Matsunaga)

廃材を利用したベッドヘッド。これからここに棚を取り付ける予定(写真撮影/Manabu Matsunaga)

廃材を利用したベッドヘッド。これからここに棚を取り付ける予定(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

両ベッドサイドにはお店で購入した軍の放出品の救急箱を置いて。猫の毛はすみに溜まるから、掃除がしやすいように底にローラーを付けて可動式に(写真撮影/Manabu Matsunaga)

両ベッドサイドにはお店で購入した軍の放出品の救急箱を置いて。猫の毛はすみに溜まるから、掃除がしやすいように底にローラーを付けて可動式に(写真撮影/Manabu Matsunaga)

どの部屋にも植物を欠かさない。鉢植えにもテーマを

シリルさんのインテリアへの想いは、引き出しや鏡にも。これらは子どものころに家族が使っていたものです。「古いものには物語があり、私が知らない過去を教え語ってくれているようにも思います。画家が創作時期によって色に偏りがでるように、私も以前は赤で統一した少しエキセントリックなインテリアをつくったり、緑に偏っていた時期は洋服まで緑のコーディネートにしていたこともあります」と語ります。
一方で、切り花のブーケをはじめとする全ての植物が好きだということは変わりませんでした。このアパルトマンでも「品種を混ぜ合わせた寄せ植えの鉢をつくっています。自分が温室や森に住んでいるのだと想像しながら」とシリルさん。中でも天井に届きそうな背の高いサボテンは25歳になり、引越しのたびに一緒に移動してきた家族のような存在。将来、地方に移住したとしてもこのサボテンだけは連れて行くそう。
ものや植物とテーマを決めて対話をし、ひとつひとつに愛情を注ぐことが大事だと話してくれました。

暖炉の上に置かれた“赤時代”の鏡。写真左のチェストは古くから家族の家にあったもの。その上はサボテンコーナーになっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖炉の上に置かれた“赤時代”の鏡。写真左のチェストは古くから家族の家にあったもの。その上はサボテンコーナーになっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

25年も一緒に暮らしている背の高いサボテン(写真左)。右の台に乗せられているのは寄せ植えの観葉植物(写真撮影/Manabu Matsunaga)

25年も一緒に暮らしている背の高いサボテン(写真左)。右の台に乗せられているのは寄せ植えの観葉植物(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「この一角だけで森をイメージしてしまう」というシリルさん。白い円柱の台を使って山の斜面のような高さを演出(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「この一角だけで森をイメージしてしまう」というシリルさん。白い円柱の台を使って山の斜面のような高さを演出(写真撮影/Manabu Matsunaga)

あちこちに取り付けられている木の格子は、バラやクレマチスなどを絡ませるためのもの。本来は庭やベランダで使うものだが、木の質感が気に入り、友達から譲り受けたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

あちこちに取り付けられている木の格子は、バラやクレマチスなどを絡ませるためのもの。本来は庭やベランダで使うものだが、木の質感が気に入り、友達から譲り受けたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

明るいバスルーム。この棚にも植物をもっと置く予定だ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

明るいバスルーム。この棚にも植物をもっと置く予定だ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスルームの洗面台の上の壁に取り付けた棚にも観葉植物が(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスルームの洗面台の上の壁に取り付けた棚にも観葉植物が(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンのランプシェードにポトスを絡ませるアイデアが素敵。窓辺にはハーブ類を鉢に植えて料理に使っているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンのランプシェードにポトスを絡ませるアイデアが素敵。窓辺にはハーブ類を鉢に植えて料理に使っているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

今後の夢は海の見える家で暮らすこと

シリルさんの夢は、海の見える庭のある家で暮らすことだそう。今の候補は、パリからTGVで2時間ほど離れている、昔実家のあったフランス西部の学園都市のナント周辺。現在、ナントで週に一度大学でテキスタイル・デザインと編み物を教えていて、この街の良さを再確認したそう。
「そこでは、私の一番大切にしている思い出が詰まったオブジェだけを置き、シンプルな世界をつくってみたいです」とシリルさん。
魂を感じられない量販店の装飾などよりも、海を毎日見ることを大切にしたいそう。
「海の風景は、日の出や夕焼けも素敵ですが、雨でも美しいですし、潮の満ち引きや季節によっても大きく変化します。嵐が来た時の波が荒れる海の表情が大好きでなんです! 自然に勝るデコレーションはありません」

廊下の壁の一部に古い木材を立てかけて、お気に入りのベルエポック時代の骨董品を飾っています。色合いがシリルさんの作品と共通してナチュラル(写真撮影/Manabu Matsunaga)

廊下の壁の一部に古い木材を立てかけて、お気に入りのベルエポック時代の骨董品を飾っています。色合いがシリルさんの作品と共通してナチュラル(写真撮影/Manabu Matsunaga)

りんご箱に飾ったシリルさんのニットの作品。りんご箱は窓辺に置いていて、時には椅子としても使うそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

りんご箱に飾ったシリルさんのニットの作品。りんご箱は窓辺に置いていて、時には椅子としても使うそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シリルさんの作品は使い込まれた木の風合いによく似合う(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シリルさんの作品は使い込まれた木の風合いによく似合う(写真撮影/Manabu Matsunaga)

現在、「パリ市内は高すぎてアパルトマンを買うことはできない」と、郊外へ脱出をする人が増えています。一方で、仕事の都合や、子どもの学校関係、それに「やっぱりパリに住みたい!」など、いろいろな理由でパリ市内を希望する人も少なくありません。そんな人たちにとって、市営住宅はとても魅力的です。
市営住宅自体は個性的ではないけれど、シリルさんのように自分たちにとって心地よい、唯一無二の空間をつくっていくこともできます。
何を選択するかは人それぞれ。このコロナ禍で、パリでも住まいの選び方がますます多様化してきています。それぞれの暮らしに何を望み、それをどう実現していくか。小さなアパルトマンという制限のある空間でも、本人次第で暮らしを楽しむことができるのだということが伝わってきました。

(文/松永麻衣子)

パリの暮らしとインテリア[8] 壁のカラーリングで狭くて暗い部屋が大変身! 建築家のアパルトマン

女性の建築家、カミーユ・エチヴァンさんは、パリによくある陽の光があまり入らないアパルトマンに住んでいます。部屋ごとに壁の色や壁紙を変えることで、見事に明るい印象のアパルトマンに変身させました。壁に手を加えることでここまで素敵になるというお手本のようなおうちです。連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。人気が出ることを予想して20年前に20区に引越し

パリの住宅価格の高騰のため、今では「パリで家が買えるとしたらもうこのあたりしかない!」と注目度のとても高いカルチェ(地区)の19区と20区。カミーユさんのアパルトマンは20区の坂の多いメニールモンタン地区にあります。
パリ中心部へのアクセスはメトロで10分程度、それなのに20年前は、とても静かで、お店もそれほどありませんが、特に物価が安くて住みやすい地域でした。しかしカミーユさんは、きっとここは人気になるだろうと予想してアパルトマンを探し始めたそう。
近くには大きなベルヴィル公園があったり、あまり知られていないパヴィヨン・ボードインという18世紀の美しい石造りの邸宅もあり、散歩をしたり、くつろいだりすることができる場所がたくさんあるのも、この地区でアパルトマンを借りる決め手となったとか。
最初は友人と共同でアパルトマンを借り、今はカミーユさんと11歳と14歳の息子さん、雄の子猫“SUN”という家族構成で暮らしています。

年に3回描き変えられるパヴィヨン・ボードイン邸宅の壁のストリート・アート。壁の向こう側には、公園と、今はミュージアムになっている邸宅がある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

年に3回描き変えられるパヴィヨン・ボードイン邸宅の壁のストリート・アート。壁の向こう側には、公園と、今はミュージアムになっている邸宅がある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

20年前は静かだった通りも、色々なお店ができてにぎわっている。このパン屋&サロン・ド・テがカミーユさんのお気に入り(写真撮影/Manabu Matsunaga)

20年前は静かだった通りも、色々なお店ができてにぎわっている。このパン屋&サロン・ド・テがカミーユさんのお気に入り(写真撮影/Manabu Matsunaga)

壁紙で部屋を明るい印象に

「このあたりに住みたいと漠然と思っていた時、たまたま通りかかった建物の管理員が”アパート貸します”と、張り紙をしていたんです」とカミーユさん。そのころは子どももいなかったので、65平米で寝室2部屋、サロン、ダイニングのあるこのアパルトマンは、友人と2人で住むのにちょうどよかったそうです。
「契約者が2人で連名契約ができる、パリでも珍しい物件でした。何年か後に友達が出ることになったので、通常の1名契約に切り替えて住んでいます」
仕切りなどは入居当時のままで、自分と子どもたちだけになったことを機に大改装をしたそう。フランスでは、賃貸物件でも引越す時に元に戻せば自由に壁に色を塗ったり、壁紙を張ったりしてもいいというのもお国柄。パリではありがちな光のあまり入らないアパルトマンを、建築家の専門知識を活かして明るい雰囲気に仕上げました。

3人暮らしになった事を知人に知らせるポストカード。改装前の部屋の写真を見るとやはり暗いアパルトマンだったことが分かる(写真撮影/Camille Etivant)

3人暮らしになった事を知人に知らせるポストカード。改装前の部屋の写真を見るとやはり暗いアパルトマンだったことが分かる(写真撮影/Camille Etivant)

「この壁紙を貼っ他ことによって、部屋の雰囲気がガラッと変わりました」とカミーユさん。これによって部屋を変えていくアイディアがつぎつぎと浮かんできたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「この壁紙を張ったことによって、部屋の雰囲気がガラッと変わりました」とカミーユさん。これによって部屋を変えていくアイデアがつぎつぎと浮かんできたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

まずはアパルトマンの部屋の中で一番目を引く植物柄の壁、「通路の壁で家具を置くことができなかったところを、植物の雰囲気のある“強い”パターンの壁紙を張りました」とのこと。

ペリカンのクチバシの黄色に合わせて、寝室の扉と壁の一部を黄色にしようと思いついたそう。これによって、ただの白壁だった空間が奥行きのあるものになり、アパルトマンの印象が大きく変わりました。

ハビタ(Habitat)で見つけた籐ランプ。アームチェアはイームズ。チェストの上には植物を欠かさない(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ハビタ(Habitat)で見つけた籐ランプ。アームチェアはイームズ。チェストの上には植物を欠かさない(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ブルーの壁のダイニングはペンキ選びにこだわった

「L字型のサロンには大きなテーブルが置けるスペースがあり、ダイニングとしてどうにか活用したかったのです」とカミーユさんは言います。もともと陽の光が入らない間取りだったけれど、この空間を心地よいものにしたかったそう。
そこで一面だけ壁をブルーに塗ることで空間にメリハリが出るのでは?と思いついたそう。自分でペンキを塗ったという壁は、フランスのペンキの高級ブランドRessourceのSarahLavoineという色を選びました。
フランスでは、ペンキの色だけではなくブランドにこだわる人が多いのです。
このブランドのブルーは、微妙な風合いの“強い”色。ブルーは冷たい印象になりがちだけれど、逆に温かみも持ち合わせているそう。それによって開放感も出て、明るいイメージになったようです。
ここに置いたテーブルで、食事をするだけではなく、子どもたちは勉強をしたり、時にはゲームをしたりするそうです。

「ブルーの壁で動植物の宇宙をつくりたかった」とカミーユさん。ドライフラワー、ゼブラの写真、サボテンなどの観葉植物で演出 (写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ブルーの壁で動植物の宇宙をつくりたかった」とカミーユさん。ドライフラワー、ゼブラの写真、サボテンなどの観葉植物で演出 (写真撮影/Manabu Matsunaga)

ダイニングとサロン。左にあるチェストはバタフライ式で、机を広げるとカミーユさんの仕事場になるこだわりのミッドナイトブルーのペンキで自分で塗り替えた(写真撮影/Manabu Matsunaga) 濃紺なので黒に見えてしまいますが、これがミットナイトブルーのチェストです。

ダイニングとサロン。左にあるチェストはバタフライ式で、机を広げるとカミーユさんの仕事場になるこだわりのミッドナイトブルーのペンキで自分で塗り替えた(写真撮影/Manabu Matsunaga)
濃紺なので黒に見えてしまいますが、これがミットナイトブルーのチェストです。

家族が多くを過ごすサロンは飾るための部屋

「サロンはこの家で唯一白い壁にしています」とカミーユさん。サロンはくつろぐための部屋であると同時に、飾るための部屋でもあります。壁には絵が飾られ、チェストの上の壁には小さな鏡が数個吊るされています。
カミーユさんはソファからダイニングのブルーの壁を眺めるのが好きなのだとか。ダイニングでも家族は集うけれど、サロンで過ごす時間が一番多く、子どもたちも自分の部屋にいるよりも大好きだそう。
「このサロンで自分の好きなものに囲まれながらくつろいでいると幸せを感じます」と言います。
このサロンも陽の光があまり入らないので、窓際には大きな鏡を置き、光を部屋の中に取り込む工夫をしています。

ソファとローテーブルをグレーで統一。通路の壁紙がインパクトあるので家具は抑えめの色をチョイス(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ソファとローテーブルをグレーで統一。通路の壁紙がインパクトあるので家具は抑えめの色をチョイス(写真撮影/Manabu Matsunaga)

60年代につくられた本棚は、無垢材に丁寧にニスが塗られた良いものをeBay(個人間売買サイト)で購入。 彼女の祖母が使っていたアームチェアをフランスの生地メーカー『ピエール・フレイ』の生地で再装飾(写真撮影/Manabu Matsunaga)

60年代につくられた本棚は、無垢材に丁寧にニスが塗られた良いものをeBay(個人間売買サイト)で購入。
彼女の祖母が使っていたアームチェアをフランスの生地メーカー『ピエール・フレイ』の生地で再装飾(写真撮影/Manabu Matsunaga)

祖母からゆずり受けた鏡はleboncoin(個人売買サイト)で購入したレコード入れの棚の上に(写真撮影/Manabu Matsunaga)

祖母からゆずり受けた鏡はleboncoin(個人売買サイト)で購入したレコード入れの棚の上に(写真撮影/Manabu Matsunaga)

小さい棚も取り付けた。左から、インドの旅で見つけた写真、昔の写真機に使われていた鏡、50年代のビーチの写真、サイン入りのイタリア人作家のリトグラフ、パリの小さいギャラリーで出会った写真。ここでも鏡が効果的に飾られている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

小さい棚も取り付けた。左から、インドの旅で見つけた写真、昔の写真機に使われていた鏡、50年代のビーチの写真、サイン入りのイタリア人作家のリトグラフ、パリの小さいギャラリーで出会った写真。ここでも鏡が効果的に飾られている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

フランス人デコレーターのピエール・グアリッシュのキャビネットの上には、3つの鏡のほかにフランス人デザイナーのイオナ・ヴォートリンによるゴールドのランプや、デンマークの家具ブランド「フリッツ・ハンセン」の「IKEBANA JAIMEHAYON(花瓶)」が飾られている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

フランス人デコレーターのピエール・グアリッシュのキャビネットの上には、3つの鏡のほかにフランス人デザイナーのイオナ・ヴォートリンによるゴールドのランプや、デンマークの家具ブランド「フリッツ・ハンセン」の「IKEBANA JAIMEHAYON(花瓶)」が飾られている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子ども部屋と寝室は壁を2色に塗り分けることで、広々とした印象に

子ども部屋にも彼女の職業の知識がふんだんに活かされています。天井が3mくらいと高かったので、メザニン(中二階)をつくって息子たちのベットを配置しました。以前はとても狭かった床が広々としたそう。
「自分で設計して、できるだけお金もかけないようにしたから、木の素材はむきだしのまま。そのかわり、壁はペンキにこだわって自分たちで塗りました」
下の方は明るいブルーに、メザニンの高さより上と天井は白にすることによって、さらに広々と明るい空間を演出しました。

メザニンのベッドは「秘密基地みたいでうれしい」と二人。それぞれのベッドの間は薄い板で仕切られているのでプライバシーを保つことができる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

メザニンのベッドは「秘密基地みたいでうれしい」と二人。それぞれのベッドの間は薄い板で仕切られているのでプライバシーを保つことができる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シングルベッドを2台置くと狭いけれど、メザニンをつくってからは子ども部屋が広く使えるようになり、子どもたちも満足している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シングルベッドを2台置くと狭いけれど、メザニンをつくってからは子ども部屋が広く使えるようになり、子どもたちも満足している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「私の寝室は白と薄いグレーのツートーンにして落ち着いた雰囲気に仕上げました。壁の2色とカーテンの薄い紫のグラデーションが好きです。季節によってベッドカバーを変えると、部屋の印象が変わるんです」
家具は中古品を個人で売買するwebショップのleboncoin(個人売買サイト)やブロカント市(アンティークまで古くない物を売る露天市)で購入。新しい物よりも古い物の方が味があって、人と違った空間をつくることができるから好きなのだそう。

サロンから見た寝室「この全ての色のバランスが私にとってパーフェクトなんです」と語る(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンから見た寝室「この全ての色のバランスが私にとってパーフェクトなんです」と語る(写真撮影/Manabu Matsunaga)

寝室の窓際に置くことによって光が拡散して明るくなる。鏡は古い洋服ダンスから鏡だけを外したもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

寝室の窓際に置くことによって光が拡散して明るくなる。鏡は古い洋服ダンスから鏡だけを外したもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンに置いてあるバタフライ式の仕事机と同じミッドナイトブルーのペンキを塗ったチェスト。鏡の近くにランプを置くことによって光が広がる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンに置いてあるバタフライ式の仕事机と同じミッドナイトブルーのペンキを塗ったチェスト。鏡の近くにランプを置くことによって光が広がる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「このアパルトマンにバルコニーがついていたらパーフェクトなんですけどね。でも、このカルチェ(地区)から離れたくないという気持ちの方が今は上です」とカミーユさん。20年間でこの地区が変わっていくのを目の当たりにして、よりいっそう愛着が湧いたと語ります。

カミーユさんのアパルトマンは壁の色使いや、鏡の効果が最大限に活かされていました。部屋に入ったときに暗いとは感じず、むしろ生き生きとした空間が広がっていました。そして、建築家の知恵が散りばめられた一つの作品のようにも思えたのです。
今ではないけれど、引越すとしたら陽の光がたくさん入るアパルトマンを選びたいとのこと。このカルチェを始め、パリが大好きなので田舎や郊外で住むことはないと話していました。
外出制限が続くパリ。だれもが太陽の光を求めています。

(文/松永麻衣子)

パリの暮らしとインテリア[7]18世紀築のアパルトマンを大改装! 2度目の外出禁止令のお家時間

2度目のロックダウンになる前に訪問した、パリの中心部にも近いサン・ドニ門近くに住むファッション小物ブランド「MAISON N.H PARIS」代表、紀子さんのアパルトマンをご紹介。外出禁止令が出てからのお家時間についても伺いました。連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。アパルトマン購入のきっかけと決め手になった条件

紀子さんは雑誌や広告のファションコーディネーター、プロデューサーとして活躍し、並行して6年前から始めたラフィアのバック、帽子スカーフなどのファッション小物のブランドMAISON N.H PARIS代表でもあります。娘で22歳のマヤさんはすでに独立し、息子のリュアン君18歳はロンドン留学中、レイ君14歳は父親(元夫)のところと紀子さんのアパルトマンを1週間おきに行き来しています。
20年前、このアパルトマン購入を決意したのは、マヤさんが生まれて3人家族になり、パリ18区にあった50平米のアパルトマンが手狭になったから。「当時、彼(元夫)の仕事場に向かう郊外列車の駅が北駅で、徒歩で通える範囲で探しました」と紀子さん。
メトロの駅にも歩いて行けて、日当たりが良く、大きな浴槽を置くことができる物件を、広さ80平米という条件で探していましたが、18世紀に建てられた130平米のこのアパルトマンをとても気に入ってしまったそう。パリの住宅事情では、明るい部屋を探すのはとても大変ですが、このアパルトマンの日当たりの良さが購入の決め手となりました。「全てを得るのは難しいので、どこで折り合いをつけて、その中で幸せを見つけるかが私の人生のテーマ」 (紀子さん)。パリの古い建物にはよくありがちなエレベーター無し、階段で5階まで上り下りをすることにも躊躇しなかったそうです。

4部屋に区切られていた壁を全部取り払い、日当たりの良い広いサロンに改装(写真撮影/Manabu Matsunaga)

4部屋に区切られていた壁を全部取り払い、日当たりの良い広いサロンに改装(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サン・ドニ門の商店街に面するアパルトマン

パリの中心地にも近い10区にあるサン・ドニ門の商店街はもともとコスモポリタン的な街です。紀子さん家族が移り住んだ2001年ころは、中近東インドをはじめオリエンタル系、アフリカ雑貨のお店がほとんどを占めていたそう。
ここ6、7年でおしゃれなカフェやレストランなどが増えたため、集まる人たちも多様になりつつあります。BOBO(ボボとはブルジョワ・ボヘミアンの略で、中流階級で高学歴、自由に生きている人々。ファッション業界や自由業が多いとされている)と呼ばれる人々が物価の安かったころに物件を買って住み始めたのも影響しているそう。
近くにはヘアサロン用のヘアカラーやウィックなどプロの卸問屋が軒を連ねたり、小さなテアトルがあったり「にぎやかな地区でお店もいろいろあって生活にはとても便利です」と紀子さんは話します。

紀子さんのアパルトマンから見下ろした商店街。外出制限の時もこの窓辺で過ごすことが多かったそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

紀子さんのアパルトマンから見下ろした商店街。外出制限の時もこの窓辺で過ごすことが多かったそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自宅からこのサン・ドニ門をくぐればパリの中心地へ、毎日必ず見る光景(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自宅からこのサン・ドニ門をくぐればパリの中心地へ、毎日必ず見る光景(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パッサージュ・ブランディはインドのレストランや雑貨、食材の店が並んでいる。「よくここで香辛料などを購入して自宅で料理します」(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パッサージュ・ブランディはインドのレストランや雑貨、食材の店が並んでいる。「よくここで香辛料などを購入して自宅で料理します」(写真撮影/Manabu Matsunaga)

Chez Janetteは紀子さんは子どもを学校へ送り届けた後に、ママンたちとお茶をして情報交換をする場所。今は仕事帰りやひと息つきたいときにカウンターでカフェを飲むそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

Chez Janetteは紀子さんは子どもを学校へ送り届けた後に、ママンたちとお茶をして情報交換をする場所。今は仕事帰りやひと息つきたいときにカウンターでカフェを飲むそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

18世紀築のアパルトマンを大改装

2000年の購入当時、扉や天井が歪んでいたりして全てがボロボロだったため、大規模な改装工事を物件の購入価格の1/6の工事費をかけて行いました。物件は洋服関係の作業場だったらしく、130平米に何部屋も小部屋があり、床にはボタン類が散らばっていたそう。今の大きなサロンはもともと4つの部屋に分かれていて、まずは壁を取り除くことから始まりました。キッチンをサロンの一角に設置し、お風呂場、ベッドルームを4部屋つくるという大工事です。そのうちの2部屋はバスルーム&トイレを真ん中に置く設計で、両部屋から入ることができ、扉の鍵を締めればプライバシーが保てる仕組みになっています。「引越しした時は長女も小さくまだ3人家族だったので、この使わない2部屋には小さなキッチンもつけて部屋貸できるようにしました。工事費用の足しになるように考えたのです」と紀子さん。

部屋貸しできるよう設計された部屋は、今はレイ君の部屋に。スケートボードに夢中の男の子14歳の部屋(写真撮影/Manabu Matsunaga)

部屋貸しできるよう設計された部屋は、今はレイ君の部屋に。スケートボードに夢中の男の子14歳の部屋(写真撮影/Manabu Matsunaga)

階段やファサードなどの日本では「共用部」と呼ばれる部分の改装工事や修理代、時には壁の中の配管や防湿剤など直接隣接していない工事に関してもアパルトマンの全住人がお金を出して直していきます。興味深いのがフランスの建物のシステム。その金額は住んでいる家の大きさによって何%払うかが決められるといいます。紀子さんの家は広いので、工事費の10%を支払う義務があり、この19年間で1000万円ぐらい支払ったそう。
18世紀築の古い建物なので、日常的に修繕が行われ、住民同士が助け合って、大切にこの後も住み続けていくことになります。

大きなサロンの5つの役割

大工事の末にでき上がった大きなサロンは55平米あり、玄関、キッチン、大きなテーブルのあるダイニング、ソファーとローテーブルのあるくつろぎのスペース、そして、思いがけずコロナの外出制限のときにはとても重要な場所になった窓辺の5つのスペース。

冬でも季節関係なく使っているMAISON N.H PARISの籠バッグ。北マレの人気ブロカント市で購入したチェストと棚。一輪挿しや旅から持ち帰った物が飾られている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

冬でも季節関係なく使っているMAISON N.H PARISの籠バッグ。北マレの人気ブロカント市で購入したチェストと棚。一輪挿しや旅から持ち帰った物が飾られている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

まずは家の中に入ると、友達から譲り受けたベンチがあり、ここでコートを脱いだり靴を履いたりする玄関コーナーがあります。サロンへ続く壁際のチェストには鍵やマスクや郵便物を置いた、生活の流れを感じることができる配置。
「天井はちょっと低いけど、広いサロンがバスルームと同じぐらい好きな場所。高級な家具はないけどお気に入りばかり」と紀子さん。ほとんどがヴィンテージ家具で、蚤の市や友人から譲り受けたり、道で拾ったりしたもの。
離婚して1人になった時に、大人は自分しかいない家になったから「好きな物だけに囲まれたい」と思ったのが今のライフスタイルの原点だそう。
サロンの窓に向かって右側がダイニング。最大15人座れる大きなテーブルも友達から譲り受けたもの。食事以外でもこの大きなテーブルで仕事をしたり、子どもたちと話たり、時には仕事のミーティングもする場所。

写真右奥にはNYのイサムノグチ美術館で購入したグリーンの版画と赤いイケアの引き出しがある「ファッションは黒っぽい格好が多いけど、インテリアはJoyeuse Bordel(明るく雑然とした感じ?というような意味)が好み」と紀子さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

写真右奥にはNYのイサムノグチ美術館で購入したグリーンの版画と赤いイケアの引き出しがある「ファッションは黒っぽい格好が多いけど、インテリアはJoyeuse Bordel(明るく雑然とした感じ?というような意味)が好み」と紀子さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

この本棚はイケア製。テーブルには花を活けることが多い(写真撮影/Manabu Matsunaga)

この本棚はイケア製。テーブルには花を活けることが多い(写真撮影/Manabu Matsunaga)

くつろぎのソファーコーナーと窓際

サロンの窓に向かって左側のスペースの日の差し込み方が好き、と紀子さんが言うように、購入の決め手となるのも頷けるほどとても明るい。そこはくつろぎのコーナーで大きなソファーは、なんと紀子さんが道で見つけてきたもの。こういうときは力が出てしまうと、5階の家まで担いできたといいます。
フランスでは古いものを大切に使うし使えるものは拾ってきてしまう、これはとても一般的。粗大ゴミをネットで回収日と時間を決めて道に出しても、必要と思う人が持って行ってしまうことも多いのです。拾うことに抵抗がない国民性なのかもしれません。たしかに100年経っていない、でも古いものを売る”ブロカント市”は全国的に人気で、紀子さんも年に2回開かれる北マレのブロカント市の常連です。フランスにはさらに「ヴィッドグルニエ」という家庭の不用品を売る市もここ数年人気を博しています。紀子さんもサイト情報をチェックしているそう。

道で拾ってから家のメンバーになったソファ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

道で拾ってから家のメンバーになったソファ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「前はサロンにテレビとゲームがあったのですが、子どもたちも大きくなってどかしました。そうしたら子どもたちとの会話が増えたような気がします」と紀子さん。ラグはインドのハンドメイド」ハンドメイドというものが好きと言う紀子さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「前はサロンにテレビとゲームがあったのですが、子どもたちも大きくなってどかしました。そうしたら子どもたちとの会話が増えたような気がします」と紀子さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ラグはインドから持ち帰ったハンドメイド(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ラグはインドから持ち帰ったハンドメイド(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓から見えるのはコロナ前と変わりのない普通の景色。けれど、ロックダウンで外を眺めてコーヒーを飲む癖がついてしまったそうです。「テーブルと椅子を窓辺に置いて朝食を食べたり、今は第二の外出制限中。不要な外出を避けて自宅窓際カフェで我慢するしかないようです」(紀子さん)今では一人のときは窓際で多くの時間を過ごす、重要な場所になったそう。

天井を真っ直ぐつけると窓が開かなくなるので、実は湾曲している。古い建物ばかりのパリではそんな事がよくあるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井を真っ直ぐつけると窓が開かなくなるので、実は湾曲している。古い建物ばかりのパリではそんな事がよくあるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓と窓の間に置かれたチェストの上にある個性的な花瓶は、実は60年代の北欧のDANSK社のワインクーラー (写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓と窓の間に置かれたチェストの上にある個性的な花瓶は、実は60年代の北欧のDANSK社のワインクーラー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

日のよく当たる窓際の隅には大きな籠を置いてひざ掛けやテーブルクロス。紀子さんの見せる収納術(写真撮影/Manabu Matsunaga)

日のよく当たる窓際の隅には大きな籠を置いてひざ掛けやテーブルクロス。紀子さんの見せる収納術(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「植木類を育てるのは苦手だけれどサボテンはぐんぐん伸びるので面白い」と紀子さん。伸びすぎた部分をカットして今乾かし中で、もう少ししたら土に植えるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「植木類を育てるのは苦手だけれどサボテンはぐんぐん伸びるので面白い」と紀子さん。伸びすぎた部分をカットして今乾かし中で、もう少ししたら土に植えるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンにあるオープンキッチンは見せるスタイル

元夫はミニマルなシステムキッチンにして全てを収納しようと思っていたといいますが、バスルームにお金をかけすぎてしまったため、28年前に救世軍で買ったビュッフェ(食器棚)を置いてオープンキッチンにしたそうです。「いつか工事と思いながら仮の姿でそのまま20年経ちました(笑)。
ビュッフェはもともと黄色にペイントされていて、フランス北部の街アミアンのアパートから18区のアパートを経てこの定位置に落ち着きました。ハゲていても全然気になりません」と紀子さん。
「見えるところに調味料など置いてあった方が使いやすいし、カゴを使ってラップなどのキッチン消耗品を入れたり、そんなスタイルの方が好きだし自分らしい」。ミニマルや超モダンなものに疲れてしまう自分を発見したと話します。
家のいろいろなところに食器が飾られている紀子さんのアパルトマン「私は食器は使ってなんぼと思っているので、身の丈に合わないものは買わないようにしているんです。毎日の日常生活を彩ってくれるので、割れても後悔しないくらいの金額」というのが紀子さんのバランスです。

28年前に5000円ぐらいで買った黄色いビュッフェでキッチンとダイニングコーナーを仕切っています。この裏が流し台調理台になっている。花を活けることが好きで、たくさんの花瓶を持っている紀子さん。特に一輪挿しが好きで、気に入ったものがあれば買ってしまうほど(写真撮影/Manabu Matsunaga)

28年前に5000円ぐらいで買った黄色いビュッフェでキッチンとダイニングコーナーを仕切っています。この裏が流し台調理台になっている。花を活けることが好きで、たくさんの花瓶を持っている紀子さん。特に一輪挿しが好きで、気に入ったものがあれば買ってしまうほど(写真撮影/Manabu Matsunaga)

豚の籠の中にはビニール袋、調味料はガラス瓶に入れて中身が分かるように。<SIMPLE>という料理本はエスニックな調味料を上手に使っていてとても美味しいレシピばかりだそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

豚の籠の中にはビニール袋、調味料はガラス瓶に入れて中身が分かるように。<SIMPLE>という料理本はエスニックな調味料を上手に使っていてとても美味しいレシピばかりだそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

日本茶、中国茶、ハーブティー、紅茶。お茶というお茶が大好きな紀子さんは、いろいろなポットを持っている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

日本茶、中国茶、ハーブティー、紅茶。お茶というお茶が大好きな紀子さんは、いろいろなポットを持っている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

一番こだわったバスルームへ続く寝室

前に住んでいたアパルトマンいは小さなシャワー室しかなく、それがストレスだった紀子さん。だから、絶対に大きなバスタブにしたかったそう。そして、フランス式に溜めたお湯の中で体を洗うのではなく、バスタブとは別にシャワーを設置して、シャワーとバスタブは行き来できるようにセメントのブロックで階段をつけました。
当時インターネットも普及しておらず、今ほどおしゃれなパーツが売っていなかったそう。探しに探してたどり着いた蛇口は一目惚れしたVolaシリーズ、デザインはアルネヤコブセン。洗面器は木の上に置けるようなタイプが見つからず、イタリアからお取り寄せというこだわりぶり。
「家で一番好きなバスルームで本を読んだり、スマホをいじりながらお風呂に入るのがワーカホリックな私の唯一無二のリラックスタイムです」と紀子さん。

バスルームもたくさんの光が入る。床はフローリングのままというのが紀子さんらしい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスルームもたくさんの光が入る。床はフローリングのままというのが紀子さんらしい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスソルトはハーブやエッセンシャルオイルをミックスして楽しんでいるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスソルトはハーブやエッセンシャルオイルをミックスして楽しんでいるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスルームへ直接アクセスできる紀子さんの寝室は、小さな中庭に面していてとても静か。
「家で過ごす土曜日がこんなに好きなのはお昼寝できるから。家でずっと過ごすからこその至福の時」。外出制限中のおうち時間も苦ではないそう。
ベッドカバーは季節ごとに変えるようにしているとか。夏はカラフル、冬になったらメキシコの市場で購入した白黒に模様替え。インドのSerendipity Delhiのランプシェードは苦労して持ち帰った旅の思い出。

寝室は中庭側、サロンは光の入る道路に面した側、というのがフランス式(写真撮影/Manabu Matsunaga)

寝室は中庭側、サロンは光の入る道路に面した側、というのがフランス式(写真撮影/Manabu Matsunaga)

帽子好きな紀子さんは、旅で見つけたものもコレクションに。自分のブランドでもつくっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

帽子好きな紀子さんは、旅で見つけたものもコレクションに。自分のブランドでもつくっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

年々パリの物件価格は上昇していて、不動屋に見積もってもらったところ、購入金額の4倍にもなっていたとか。このアパルトマンは、すでにローンも払い終わっていますが、子どもたちもほとんど家にいない時間が多くなり、紀子さん一人で住むには広すぎると言います。「この際ここを売って新たに物件を探そうかと考えているところです。パリ市内にこだわっていませんが、コロナ以降は、比較的アクセスがよく、もっと自然と寄り添える、周辺環境が静かな地区で、庭などの空間があったらいいなと漠然と考えています。広さは今の半分で十分」。コロナはまだまだ猛威を振るっていますが、考えや価値観を見直すきっかけになり、得ることも多かったのも確かなようです。

●取材協力
MAISON N.H PARIS

パリの暮らしとインテリア[6] 田舎の週末の家でガーデンランチや陶芸を楽しむ

前回に続き今回もヘアアーティストのマサトさん(夫)とアクセサリーデザイナーのユキコさん(妻)の住むセカンドハウス<ウィークエンド・ハウス>のアトリエやお庭での生活などをご紹介します。連載名:パリの暮らしとインテリア
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。母屋の裏庭もコーナーごとにくつろげる工夫が

母屋の裏には、購入の決め手となった”自分で芝刈りができるぐらいの手ごろな広さの庭”があります。撮影しに伺った時もお友達ご夫妻が泊まりがけでパリからいらしていて、お友達がランチをつくって庭のテーブルで食事をいただきました。都会で暮らしている者にとって、なんとも贅沢なガーデン・ライフです。

外で食べるランチは最高! 5月から9月のお天気の良い日はほとんど外で食べるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

外で食べるランチは最高! 5月から9月のお天気の良い日はほとんど外で食べるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「田舎暮らしの魅力は、家の敷地内ですべてが満たされるということ」とユキコさん。庭の芝生の上にテーブルとパラソルを立て、友達とのランチは開放感と共にゆったりとした時間が流れます。食後は各自庭の好きな場所で、例えば木陰の長椅子で静かに読書したりお昼寝をしたりします。夕方になれば、母屋のテラスでこの季節ならよく冷えたシャンパンでアペリティフ。大勢人が集まるときは庭の一番奥にあるテラスでバーベキュー。<ウィークエンドハウス>の裏庭でいろいろな過ごし方ができるのは、マサトさんとユキコさんお得意のコーナーづくりによるものです。
そして、すべてが芝生ではなく母屋から出てすぐの地面はコンクリートでそこがテラスになっていたり、バーべキューコーナーは煉瓦と石のブロックで囲まれた石の平らな地面になっていたりとさまざまで、これによってコーナーごとのメリハリがついています。

庭を見ながら過ごせる母屋のテラス(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭を見ながら過ごせる母屋のテラス(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭に長椅子は必須アイテムと考えている太陽が大好きなフランス人は多いそう。長椅子の奥の木陰にバーベキューコーナーがある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭に長椅子は必須アイテムと考えている太陽が大好きなフランス人は多いそう。長椅子の奥の木陰にバーベキューコーナーがある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「もともとあった桃の木からは食べられないほど桃を収穫できました」とユキコさん。野菜づくりは不在時に枯れてしまうことも多いですが、今年はここで生活する時間が多かったのでトマト、ナス、きゅうりも収穫できたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「もともとあった桃の木からは食べられないほど桃を収穫できました」とユキコさん。野菜づくりは不在時に枯れてしまうことも多いですが、今年はここで生活する時間が多かったのでトマト、ナス、きゅうりも収穫できたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭の一角には道具をしまう小屋があって、愛犬のルーはこの一角の木陰が好き(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭の一角には道具をしまう小屋があって、愛犬のルーはこの一角の木陰が好き(写真撮影/Manabu Matsunaga)

陶芸に没頭するあまりに元ガレージをアトリエに

陶芸はマサトさんが今一番情熱をかけていること。パリで学生時代に出会った勝俣千恵子さんから陶芸の魅力を教わったそう。彼女は今では陶芸家として京都で暮らし、作品はパリのギメ東洋美術館にも収納されているなど、活躍している作家です。
母屋の離れにはトラクターなどを入れていたガレージがあり、そこの1部屋をアトリエとして使っています。「陶芸をやっている者にとって、アトリエは欲しくてしょうがないもの。もちろんかつて持っていた1軒目の田舎の家にもありました」とマサトさん。完全な趣味ではあるけれど、ウィークエンド・ハウスにはなくてはならない場所だという。
一人娘のアリスさんも同じ趣味を持っているので、親子の時間をここで過ごすことも多いそう。
そして、陶芸は土をこね、形をつくり、乾かし、焼き、色をつけ、また焼き……という工程を経るので、このように専用のスペースがあるのが理想的なのだとか。
皿や椀などの食器が陶器の作品としては一般的ですが、マサトさんの作品は<飾る>がテーマ。例えば、日本では日常的ではない<蝋燭台>もマサトさんの進行中の作品に何台もあり、実際蝋燭を灯すことも多いそう。そして、庭の花を飾るための<一輪挿し>もたくさん制作中。

母屋の横にある離れのガレージを陶芸アトリエに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

母屋の横にある離れのガレージを陶芸アトリエに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

乾き具合をチェック(写真撮影/Manabu Matsunaga)

乾き具合をチェック(写真撮影/Manabu Matsunaga)

乾燥を待つ陶器たち(写真撮影/Manabu Matsunaga)

乾燥を待つ陶器たち(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マサトさんは作品を古い鏡と一緒に母屋の浴室のコーナーに飾りました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マサトさんは作品を古い鏡と一緒に母屋の浴室のコーナーに飾りました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ガレージを部屋のように使うアイデア「夏の家」

離れの陶芸アトリエの横にもう一部屋あり、そこに夏の日に過ごす部屋をつくりました。「冬は寒くてここは無理だけれど、夏だったら気持ちよく過ごせるかも?」と家具を運び込んだそう。見ての通りドアがないのでそこは今後の課題だそう。
ここに置かれている家具や小物は、蚤の市や古道具屋で見つけてきたものや、母屋で使わなくなった家具とのこと。「扉がない吹きっさらしの部屋なので、惜しげも無く使えるものでないと」とユキコさん。隔てる壁や扉がないので、風が吹き当たるし嵐のときや横殴りの雨のときは室内に入ってきてしまう。使い込まれたものばかりで、ナチュラルな雰囲気は母屋とはまた別。
ただのガレージを機能的なアトリエにし、その横に土足のままでくつろげる「夏の家」をつくった。このふた部屋は、またとない個性的で魅力的な過ごしやすい場所となった。
陶芸アトリエと「夏の家」の上には、まだ手つかずの小部屋があり、そのうちアリスさんの部屋をつくろうかと計画中だとか。まだまだやることがたくさんある<ウィークエンド・ハウス>の進化が楽しみです。

母屋の隣にある元ガレージ小屋。左がマサトさんの陶芸アトリエ、右が壁も扉もまだない「夏の家」、そして二階が今後アリスさんの部屋にしようと計画中の物置部屋(写真撮影/Manabu Matsunaga)

母屋の隣にある元ガレージ小屋。左がマサトさんの陶芸アトリエ、右が壁も扉もまだない「夏の家」、そして二階が今後アリスさんの部屋にしようと計画中の物置部屋(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ゆかも壁もガレージの時のまま。この土壁と使い込まれたインテリアがとても合っている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ゆかも壁もガレージの時のまま。この土壁と使い込まれたインテリアがとても合っている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

近所のゴルフ場や川や森は近くの人々の憩いの場

<ウィークエンド・ハウス>から車で5分、マサトさんが毎週のように通うのが近所のゴルフ場。「このあたりにはゴルフ場と乗馬クラブが多いので、子どもに乗馬をさせたい家族や、ゴルフ好きの夫婦が引退後に移り住んできたりしています」とマサトさん。

シャトーの門のようなゴルフ場の入り口(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シャトーの門のようなゴルフ場の入り口(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コースを囲む建物もシャトーホテルなのでとても素敵(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コースを囲む建物もシャトーホテルなのでとても素敵(写真撮影/Manabu Matsunaga)

このゴルフ場には、シャトーホテルがついているので、レストラン、スパ、ショコラトリーなどもあってとても気に入っているそう。ゴルフの後にレストランで食事を楽しむこともあるのだとか。
ゴルフ場の周りは、散歩もできるようになっているので家族連れや犬の散歩、ジョギングをする人を多く見かけました。特に週末や2カ月に一度ある2週間の子どもたちの休みの時は、たくさんの人が集まります。

森と川のあるこの辺りは、週末はいろいろなところから人が集まります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

森と川のあるこの辺りは、週末はいろいろなところから人が集まります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マサトさんとユキコさんが描く今後

マサトさんは裏庭のさらに奥に手付かずの鶏小屋があるので、そこを整備して鶏を飼うのが近い将来の夢。そして、「夏の家」の扉をつけること。「パリとこちらと二カ所で生活していますが、都会との違いを体験して、ここはなくてはならない場所だと感じます」と力説します。
ユキコさんは常に引越しを気にかけて物件を探しているそう。「私の夢は夕日の見える高台に住むことなんです。でもなかなか良い物件に出会いませんね」と話しますが、今の生活が不満なわけではないそう。
そして「パリとの二拠点生活は今だからできると考えているんです。田舎暮らしは足腰が勝負。年を取り、一人暮らしになったとしたら、生活を楽しめるのはパリだと思うから」とユキコさん。パリを捨てることはないと断言していました。

コロナ以降、フランスでも家を選ぶときの基準が大きく変わり、選択肢が増えました。特に若い人、パリから離れて生きていこうとする人が多いと聞きます。田舎の不動産も高騰しているようです。今後もテレワークで仕事をする人が増えていくと想像すると、都会にいてストレスのある生活よりも、良い空気を吸って広い家に住むことができる田舎暮らしにも魅力を感じます。
お二人のようにパリと<ウィークエンド・ハウス>の二つの生活は、理想的です。しかし両方を持つことはとても難しい。どちらか一つを選ぶなら、<ウィークエンド・ハウス>のように田舎暮らしを選ぶのが時代の流れなのかもしれません。

●取材協力
シャトー ドジェルヴィル

〈文/松永麻衣子〉

パリの暮らしとインテリア[5] 郊外の元農家を“週末の家”に。ヘアアーティストとアクセサリーデザイナー夫妻の休日

パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送るパリジャン・パリジェンヌのおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。今回はパリ在住45年のマサトさん(夫)とユキコさん(妻)の住むパリから80km離れたセカンドハウス<ウィークエンドハウス>を訪れました。連載名:パリの暮らしとインテリア
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。森と川、自然に囲まれたパリから80km離れた村へ

パリ在住のマサトさんはパリにヘアサロンを3店舗、日本では2店舗を持つ有名ヘアアーティスト、ユキコさんはアクセサリーデザイナー、独り立ちした娘のアリスさんはグラフィックデザイナー。パリではアパルトマンを5回引越しをし、今は145平米4部屋ある6区の住宅街に住んでいます。今回はそんな家族が週末ごとに集まる、パリから80km離れたButhiers(ビュテイエール)という村にある<ウィークエンドハウス>(とお二人が呼ぶ)まで足を延ばしました。パリ番外編です。

パリからウィークエンドハウスへ向かう間の村。パリから少し離れただけで、アパルトマンではなく一戸建てばかりの町並みに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリからウィークエンドハウスへ向かう間の村。パリから少し離れただけで、アパルトマンではなく一戸建てばかりの町並みに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリからの道中にある有名なクーランス城(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリからの道中にある有名なクーランス城(写真撮影/Manabu Matsunaga)

<ウィークエンドハウス>がある村ビュテイエールは、パリからフォンテーヌブローの森を抜け、ジャン・コクトーが住んでいたことでも有名なミリ=ラ=フォレを過ぎたところにあります。
「周りには森があったり小川や沼があったり愛犬のルーの散歩には絶好のロケーションなんです。この村には友達が住んでいて様子が分かっていたので安心して家を買うことができたのです」とマサトさん。毎日パリへ通勤できる距離でもあり、マサト夫妻のように週末ごとに通ってくる人も多くいます。

別荘購入のきっかけは「娘に良い空気を吸わせたかったから」

普段はパリのアパルトマンから仕事場へ通い、土曜日の夕方から火曜日の夕方まで<ウィークエンドハウス>で過ごすそうです。「ここは2軒目なんです。28年ぐらい前に娘のために購入した1軒目は、ここよりさらにパリから遠く100km離れたシオワという村でした」と購入のきっかけは良い空気を吸わせたいという思いから。
しかし、その家は広大な土地だったので芝刈りも庭師を頼まないとならないほど、そこでもう少しコンパクトで自分たちで全てできるような家を探し始めたのが7年前。そして巡り合ったのが元農家の家の<ウィークエンドハウス>だったそう。

アスファルトを叩いて剥がし少しずつ木を植えたりしているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アスファルトを叩いて剥がし少しずつ木を植えたりしているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

敷地は2800平米あり母屋は220平米。母屋の奥の裏庭は自分で草刈りできる程度の理想の広さだとか。農家時代に使用していたものをまだ着手できていないという場所もあるそう。通りから入るとアスファルトの広いスペースがあり、お二人ともここが気に入らない部分だとか(トラクターを乗り入れるためにしょうがなかったのだろうと想像)。正面に2階建ての母屋があり、まずそこを大々的に改装。右隣のトラクターなどの重機を駐車していたガレージの上には小部屋があり、裏庭の先の小高い丘にもまだ手つかずのにわとり小屋がある。

6カ月かけた農家の家の改装はマサトさん自らが設計

この元農家の家はお向かいのおばあちゃんが言うには築200年ぐらい。なんと彼女はこの家の2階で生まれたのだそう。「セカンドハウスというより不自由のない家づくりを目指したので、改装費に購入した金額の3割ぐらいをかけました」とマサトさん。
母屋の内部はマサトさん自ら設計をして、まずは壁などを壊して一部の木床を残し、仕切り直し、パリから業者を呼び寄せ住み込みで半年以上もかけて工事をするという徹底ぶり。

仕切りを外して一室にした大きなサロン。窓の外は芝生の広がる裏庭(写真撮影/Manabu Matsunaga)

仕切りを外して一室にした大きなサロン。窓の外は芝生の広がる裏庭(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの一角にある暖炉の周りはくつろぎのスペース。左の壁にはアフリカのマリ人アーティストのAMADOU SANOGO(アマドゥ・サノゴ)の2016年の作品が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの一角にある暖炉の周りはくつろぎのスペース。左の壁にはアフリカのマリ人アーティストのAMADOU SANOGO(アマドゥ・サノゴ)の2016年の作品が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

50年代を意識したインテリアはル・コルビュジエやイームズ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

50年代を意識したインテリアはル・コルビュジエやイームズ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アメリカンなコーナーには蚤の市で見つけた農業用のフォーク、アメリカから持ち帰った角が飾られてる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アメリカンなコーナーには蚤の市で見つけた農業用のフォーク、アメリカから持ち帰った角が飾られてる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マサトさんが設計するにあたってまず着手したのは1階の<大きなサロン>だったそう。「そこにいろいろなスタイルの空間をつくりたいと考えていたんです」とマサトさん。改装後、大きなサロンは三つに分けられ、グレーの暖炉スペース、赤が基調のミッドセンチュリーモダンの家具のスペース、そしてアメリカンなスペース。どこで過ごしても居心地が良さそうだ。
「元農家の家は窓も小さく暗い印象だったので、明かりとりの小窓をつくったらどうか?と考えたんです」とマサトさん。その効果があって、大きなサロンのどこでくつろいでも穏やかな光に包まれる。

コーナーごとにテーマを持たせて家を飾る

お二人の趣味は全く同じではなくユキコさんはシックなバロック風が好き、マサトさんはナチュラルなアフリカものが好きなのだそう。マサトさんは撮影旅行であらゆるところに行き、そのたびにその土地ならではのものが欲しくなってしまうのだとか。この部分はユキコさんとも共通している。
旅した土地で必ず蚤の市やアンティークショップに寄り、古いものからインスピレーションを受けることも多いと二人は話す。今つくられたものより古いものに惹かれるというのも同じ。
しかし「長年一緒に住んでいても趣味が違うのは仕方がないと思うんです。そこで部屋のコーナーごとにテーマ性をもたせて飾ることを思いついたんです」とユキコさん。家全体で見てみると、お二人の趣味が調和され、より魅力的な空間になっていることが分かる。

藤で編んだサボテンのオブジェはスペインを旅した時に、藁で編んだ馬は南仏のカマルグで、旅で出会って家に飾るというのがお二人のスタイル(写真撮影/Manabu Matsunaga)

藤で編んだサボテンのオブジェはスペインを旅した時に、藁で編んだ馬は南仏のカマルグで、旅で出会って家に飾るというのがお二人のスタイル(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イームズの棚には旅各地の蚤の市で見つけたものが飾られている。肖像画はalexis kaloeffのサイン入り。ジャン・コクトーのお皿は近くの蚤の市で購入。かなり古いものらしい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イームズの棚には旅各地の蚤の市で見つけたものが飾られている。肖像画はalexis kaloeffのサイン入り。ジャン・コクトーのお皿は近くの蚤の市で購入。かなり古いものらしい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

1階は大きなサロンのほかにキッチンとダイニングがあり、サロンとの仕切りの壁にも小窓をつくり、クリスタルの食器や陶器の果物が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

1階は大きなサロンのほかにキッチンとダイニングがあり、サロンとの仕切りの壁にも小窓をつくり、クリスタルの食器や陶器の果物が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

<食>にちなんでダイニングの食器戸棚の上には、テリーヌポットとテーブル静物画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

<食>にちなんでダイニングの食器戸棚の上には、テリーヌポットとテーブル静物画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

チェストの上はユキコさんの好きなバロック風。ガラスドームの中のアンティークのオブジェは昔の流行の結婚式の引き出物のスタイル、ミリ=ラ=フォレの蚤の市で購入(写真撮影/Manabu Matsunaga)

チェストの上はユキコさんの好きなバロック風。ガラスドームの中のアンティークのオブジェは昔の流行の結婚式の引き出物のスタイル、ミリ=ラ=フォレの蚤の市で購入(写真撮影/Manabu Matsunaga)

好きなものだけを家に置く、という徹底したスタイルでこれらのコーナーは何年もかけて築き上げられたもの。「このウィークエンドハウスは飾ることを楽しめる家」とマサトさん。まだまだ進化していく途中と楽しそうに話してくれました。インテリアのへのそんな情熱はどこから湧き上がってくるのでしょうか?

インテリアのヒントは、旅の度に訪れる公開されている著名人の家から

「私たちはインテリア好きで、旅行先でも人の家(一般公開されている著名人の家)を見ることが共通な趣味なんです」とユキコさん。家を見て回るのはその人となりのスタイルが垣間見れ、この空間で彼らが暮らしていたのかーと想いを馳せることがとても興味深いのだとか。
「例えばアメリカ縦断の旅(3週間)でエルヴィス・プレスリーの家を見に行きました。大きくはない家でしたが家を挟んだ通りの向こうには専用飛行場があって驚きました」とお二人。
「建築家フランク・ロイド・ライトの家も感銘受けました。何もないところにひっそりと立つ姿には感動です」とマサトさん。
「この近くの村ミリ=ラ=フォレにはジャン・コクトーの家も公開されているのですよ。家だけではなく彼の庭づくりも参考になりおすすめです」とユキコさん。
このように、お二人が熱く語る著名人の家の数々からヒントを得て、”人となりの現れる<家>”という捉え方を常に意識しながら家づくりに励んでいるのだそう。どこかで見たヒントから自分らしい家づくりが生まれてくるとも。

階段下の廊下の壁には額がたくさん飾られています。額装された鏡と旅で見つけた田舎の風景画をミックスするのがマサトさん風(写真撮影/Manabu Matsunaga)

階段下の廊下の壁には額がたくさん飾られています。額装された鏡と旅で見つけた田舎の風景画をミックスするのがマサトさん風(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コロナ外出規制時の一番大掛かりなDIYは寝室の壁の塗り替え

1階には大きなサロンとキッチンとダイニング、2階にはご夫婦の寝室とは別に3部屋の客室があります。2階の一番奥にあるお二人の寝室も新たに設計し改装したそうです。
「寝るための寝室というよりは、ここでもくつろげるスペースをつくりたかったので、かなり広く設計しました」とマサトさん。ベッドのほかに椅子とテーブルを窓辺に設置。庭を見下ろす形に窓が配置され、ここでも明かり取りの小窓が空間を個性的に照らしています。

コロナによる外出規制の時に、壁の一面だけをブルーに塗り直したお二人の寝室(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コロナによる外出規制の時に、壁の一面だけをブルーに塗り直したお二人の寝室(写真撮影/Manabu Matsunaga)

塗り直した壁には額装した京都の着物の生地の原画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

塗り直した壁には額装した京都の着物の生地の原画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

映画運動・ヌーヴェヴァーバーグの象徴とも言える赤のソファー。天窓があり、とても明るい室内(写真撮影/Manabu Matsunaga)

映画運動・ヌーヴェヴァーバーグの象徴とも言える赤のソファー。天窓があり、とても明るい室内(写真撮影/Manabu Matsunaga)

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「客室3室は壁紙が素敵だったので、一部を残してほかは白のペンキで仕上げました」とゆきこさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「客室3室は壁紙が素敵だったので、一部を残してほかは白のペンキで仕上げました」とゆきこさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ウィークエンドハウスに欠かせないのは客室」とお二人。友達が遠くから来てくれて日帰りというのは実に味気ないとか。パリとは違ってゆっくりとした時間、良い空気、自然を身近に感じられる魅力を友達にも味わってほしいからだそう。
コロナの外出規制の時にパリではなく<ウィークエンドハウス>で2カ月以上生活をしていたお二人。この時ばかりと壁のペンキ塗りをしたり、家の細々したことに手間をかけることができた貴重な時間だったと振り返ります。

庭があることで外出制限の息苦しさを感じることなく過ごせたそう。確かにパリのマンションで家族全員が顔を合わせ、必要な買い物も1時間以内、歩き回れるのも直径100m以内という一番厳しい規制があった時には、この家はパラダイスだったはずです。

次回はそんな庭での過ごし方、マサトさんの陶芸アトリエ、夏の部屋などをご紹介していきます。

(文/松永麻衣子)

パリの暮らしとインテリア[3]スタイリスト家族と犬が暮らす、花やオブジェに囲まれたアパルトマン

私はフランスのパリに暮らすフォトグラファーです。パリのお宅を撮影するたびに、スタイルを持った独自のインテリアにいつも驚かされています。
今回は数年前に花と一輪挿しに目覚めたスタイリスト&コーディネーターのまさえさんと旅や散歩で拾い集めたものをアレンジするのが得意なアートディレクターのドメさん家族のアパルトマンを訪問しました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
フランス・パリで暮らす写真家が、パリの素敵なお宅を撮影。インテリアの取り入れ方から日常の暮らしまで、現地の空気感そのままにお伝えします。二人で見て回った物件は50軒! そのなかで条件が明確に

まさえさんとドメさんが子どもと犬と一緒に暮らすアパルトマンは、地図でいうと右岸の右上の19区にあります。サン・マルタン運河、サン・ドニ運河、ウルク運河、ラ・ヴィレット貯水池、と、水場の多いのが特徴です。パリ中心部にほど近い10区のアパルトマンから2009年に引越してきたときには、少し治安が心配なエリアでしたが、ここ数年運河の周りや公園が整備され、家族で安心して楽しめる週末の人気エリアに変わりました。

ちょうど10年前、10区のアパルトマンから引越しを決意したきっかけはドメさんの病気でした。「階段の上り下りは体に負担がかかる。エレーベーター付きのアパルトマンを購入しようと思ったのです」(まさえさん)
そのころちょうどパリのアパルトマンが高騰し始めたばかり、中心部に近い人気の10区11区は無理でも19区20区あたりまで対象を広げれば希望のアパルトマンを買える価格だったそう。

今のお住まいを見つけるまで50軒以上の物件を見て回った二人。物件は良くてもアクセスが悪かったり、間取りは良くてもアパルトマンの天井が低かったり、となかなか希望どおりの物件は見つかりませんでした。
「50軒といっても、部屋を全て見たわけではありません。最寄りのメトロを出た途端に雰囲気がしっくりこなくてその場で見学をキャンセルすることもありました。メトロは私たちの足となる大切なものだから、その周りの街並みはとっても重要だと思います」(ドメさん)
物件を見て回っていて、図面や頭の中で想像しているものと実際は大きく違う、その都度自分たちがどんなアパルトマンを求めているか、条件がどんどん明確になっていくのが興味深い体験だったといいます。

そんなお二人の物件探しの条件は、パリ右岸、犬のナナの散歩が気持ちよくできる、子どもを授かったときのために公園が近い場所、エレーベーターがある、窓が大きく見晴らしが良い、できればバルコニーに小さなテーブルを置いて食事がしたい。というささやかなもの。その条件を満たしたのが今のアパルトマンだったのです。

バルコニーはもうひとつの大切な部屋、という考え方天気の良い日は13歳のフレンチブルドッグのナナともお茶をバルコニーで。まさえさんはイギリスのTony Woodの黒猫ティーポットに一目惚れ、ドメさんからのプレゼントとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天気の良い日は13歳のフレンチブルドッグのナナともお茶をバルコニーで。まさえさんはイギリスのTony Woodの黒猫ティーポットに一目惚れ、ドメさんからのプレゼントとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アパルトマンのバルコニー側は大通りのため、向かいの建物と距離があり空が広く見える。この景色をまさえさんは「大きな絵画のよう」と話す(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アパルトマンのバルコニー側は大通りのため、向かいの建物と距離があり空が広く見える。この景色をまさえさんは「大きな絵画のよう」と話す(写真撮影/Manabu Matsunaga)

大きな窓が購入の決め手となったこのアパルトマンは1970年代にできたもの。床は毛足の長いオレンジの絨毯、壁はピンクのジャガードの生地が貼られていたそう。6カ月をかけてドメさんとまさえさんで改修工事をしました。古い絨毯、古い壁紙を剥がし、 62平米の間取りはサロン、キッチン、子ども部屋、寝室と細かく区切られていたため、大きな窓のあるバルコニー側にあたるサロンとキッチンの仕切りを取り払い、広々とした明るい空間をつくり上げました。

お二人が外の部屋と呼ぶだけあって、素敵に飾られているドメさんコーナー。拾ってきたものをまずはここでストックします(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お二人が外の部屋と呼ぶだけあって、素敵に飾られているドメさんコーナー。拾ってきたものをまずはここでストックします(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「バルコニーは家の続きで、僕たちはもう一部屋が外にあるって思っています。ここで植物を育て、ここで食事をし、ここで景色を眺める、とても重要な場所なんです。そして、ここは僕が主導権を握る場所なんですよ」(ドメさん)
おふたりの生活をお聞きしていると、確かにバルコニーで過ごす時間が多い。ドメさんはヴァカンスで行った海岸で流木や貝殻、森では松ぼっくりや石ころ、パリの街では愛犬ナナの散歩のときに捨てられた枯れた植物、色々なものを拾い集めて飾っている。

海岸近くで見つけた多肉植物は水の分量が難しく、世話もドメさん担当。それを楽しそうに見守るまさえさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

海岸近くで見つけた多肉植物は水の分量が難しく、世話もドメさん担当。それを楽しそうに見守るまさえさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

旅をしていても、パリでも、蚤の市散策はお二人の共通の趣味。マリア像はパリの蚤の市で購入し植物たちの陰にそっと。海岸で拾った穴あきの石は植木鉢にデコレーション。オリジナルなセンスのバルコニーはこうやってつくられていく(写真撮影/Manabu Matsunaga)

旅をしていても、パリでも、蚤の市散策はお二人の共通の趣味。マリア像はパリの蚤の市で購入し植物たちの陰にそっと。海岸で拾った穴あきの石は植木鉢にデコレーション。オリジナルなセンスのバルコニーはこうやってつくられていく(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「これが松ぼっくりの中にある種です。差し上げるので土に植えてみてください。私も発芽させましたよ、割ると松の実が入っているので食べても美味しいですよ」とお土産をいただきました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「これが松ぼっくりの中にある種です。差し上げるので土に植えてみてください。私も発芽させましたよ、割ると松の実が入っているので食べても美味しいですよ」とお土産をいただきました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

蚤の市で買い集めた額がシークレット・ガーデンの主役

お二人が出会ったころ、ドメさんは音楽系のアートディレクター、まさえさんはイラストレーターの仕事をしていました。もうすでにそれぞれの世界観が出来上がっていたため、インテリアの趣味が微妙に違っていたそうです。そこで、ベランダはドメさん、まさえさんはトイレを担当しました。「購入後の大工事が終わって、唯一私の趣味を表現していいと許可が出たのがトイレだったのです。夫と出会う前から蚤の市で少しずつ買い集めた額に入った花や鳥モチーフの刺繍は、いつか飾りたいと思って大切にとってありました。やっと出番がきました。テーマは<シークレット・ガーデン>です」とまさえさんは笑います。

トイレの壁は<シークレット・ガーデン>の名にふさわしくナチュラルな木目に額の中の刺繍が映えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

トイレの壁は<シークレット・ガーデン>の名にふさわしくナチュラルな木目に額の中の刺繍が映えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そして、サロンや寝室はお二人の趣味がうまく調和していて、そこに長男ショーン君も加わります。ドメさんが探してきたものを今度はまさえさんが棚に飾ったり、ショーン君が拾った貝殻とまさえさんの集めている一輪挿しが一緒に置かれていたり、いろいろなコーナーを家族でつくり上げています。パリという都会に住みながら、アパルトマン全体が自然の中を旅しているような気分にさせてくれる空間になっているのです。

田舎から持ち帰ってドライにした野草はブロカント市で見つけたGustave Reynaud作の一輪挿しに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

田舎から持ち帰ってドライにした野草はブロカント市で見つけたGustave Reynaud作の一輪挿しに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの棚は家族の好きなものを飾り、ティーポットや小さな花瓶も花が生けられてなくてもしまわないで並べるのがお二人のルール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの棚は家族の好きなものを飾り、ティーポットや小さな花瓶も花が生けられてなくてもしまわないで並べるのがお二人のルール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「買ったものがほとんどない窓辺!」(まさえさん)。 「デレク・ジャーマンみたいでしょ?」(ドメさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「買ったものがほとんどない窓辺!」(まさえさん)。 「デレク・ジャーマンみたいでしょ?」(ドメさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

花好きに拍車をかけ、一輪挿しに目覚めるきっかけになった出会いとは?北向きの寝室の壁一面だけ自分たちで配合したペンキでブルーに。「花瓶を置いた途端に棚が喜んでいるように見えるでしょう」(まさえさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

北向きの寝室の壁一面だけ自分たちで配合したペンキでブルーに。「花瓶を置いた途端に棚が喜んでいるように見えるでしょう」(まさえさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お二人のアパルトマンは、シークレット・ガーデン(トイレ)、サロン、寝室、いたるところに花瓶が置かれていました。まさえさんはコーディネーターという職業柄、街をたくさん歩きます、5年前に通りかかった9区の<Debealieu>という花屋さんはフラワー・アーティストのピエールさんが開いたばかりのお店でした。「見たことのない花々や、当時珍しいドライフラワーが飾ってあって他のお店と明らかに違い、私は言うなれば一目惚れしてしまったのです。それ以来頻繁にお店に通ってピエールさんとよくお話しするようになりました。彼は花屋を始める前は別の仕事をしていたのですが、手を使った仕事がしたくて半年間のフラワー・アレンジメントの研修を受けてお店を構えたんです」

そんなある日、ピエールさんの一輪挿しを使ったディスプレーを見て、この世界観が好きだ!とその日から一輪挿しに花を飾るようになり、それと同時にブーケというものを買わなくなったという感銘ぶりでした。今では、まさえさんにとってピエールさんにしかできないアレンジや珍しい花、特別に見せてもらった一輪挿しのコレクション、彼との会話がエネルギー源になっているといいます。

ピガールから坂を下ってピエールさんに会いに。店の近くには歴史的な建造物、有名な映画監督ジャン・ルノアールが住んでいた屋敷もある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピガールから坂を下ってピエールさんに会いに。店の近くには歴史的な建造物、有名な映画監督ジャン・ルノアールが住んでいた屋敷もある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんのお店<Debealieu>の一画(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんのお店<Debealieu>の一画(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「まさえのために今日は特別に好きそうなものを出してきたからディスプレーしてみるよ。写真的にもいいか一緒に確認して」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「まさえのために今日は特別に好きそうなものを出してきたからディスプレーしてみるよ。写真的にもいいか一緒に確認して」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

一輪挿しのコレクションを使ったまさえさんのためのコーナーをディスプレ―完成(写真撮影/Manabu Matsunaga)

一輪挿しのコレクションを使ったまさえさんのためのコーナーをディスプレ―完成(写真撮影/Manabu Matsunaga)

和気あいあいと花や花瓶の魅力について語るお二人(写真撮影/Manabu Matsunaga)

和気あいあいと花や花瓶の魅力について語るお二人(写真撮影/Manabu Matsunaga)

週末になるとマルシェで花を買い、街を歩いて気になるフラワー・ショップを見つけると必ずチェックしてしまうというまさえさん。花瓶のコレクションも増え、日々の生活には花があふれています。

ガラスの花瓶も好きで、1920-1960年代の薄いピンクのものがお気に入り。季節のダリアを黄色い球根用の瓶に(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ガラスの花瓶も好きで、1920-1960年代の薄いピンクのものがお気に入り。季節のダリアを黄色い球根用の瓶に(写真撮影/Manabu Matsunaga)

陶器で有名な南仏のヴァロリス村のものは個性があって夢もある。顔付きの花瓶も活ける花によって表情が変わる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

陶器で有名な南仏のヴァロリス村のものは個性があって夢もある。顔付きの花瓶も活ける花によって表情が変わる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんの影響でまさえさんも花瓶をコレクション。この春にノルマンディの小さい町の骨董市で見つけた花瓶はオブジェとして飾っても素敵ですが、花を活けると花瓶が生き生きとしてうれしそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんの影響でまさえさんも花瓶をコレクション。この春にノルマンディの小さい町の骨董市で見つけた花瓶はオブジェとして飾っても素敵ですが、花を活けると花瓶が生き生きとしてうれしそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

もう一つのエネルギー源は春から夏にかけてノルマンディーにある田舎の家で週末を過ごすこと。
「主に草刈りや家の修復などに時間がかかってしまっていますが、近くには小川が流れていて可愛い野草が
生えているのです。パリに戻るときは散歩がてら摘みに行って、少しいただいて来ます。もちろんそれを花瓶と相談しながら活けるのが楽しみで、また新しい一週間を頑張れる気がします」

旅やパリで色々なものを集めるという作業は、全てに思い出があり、家族の記録になっていると考えるドメさん。自然には何かを気付かせる力があり、ものには必ずストーリーが伴う。
「花には花瓶が必要で、その二つのハーモニーが組み合わせによって変わる楽しがあります。家の空気まで変わるんです」(まさえさん)
そう、花を飾るだけではなく、家の全てを飾る、それは人生をも飾るということなのでしょう。そんな彼ら家族だけの大切な宝物が詰まったアパルトマンでした。

(文/松永麻衣子)

「花の定期便」で身近に楽しむ、花のある暮らし

お花を飾りたい。でも、どう選んでいいか分からない。そんな人にオススメしたいのが、近所のお花屋さんではなかなか見かけない、とっておきの花が毎月届く宅配サービス。
「花の定期便」は、定期的に季節の花が届く定額のサービス。届いたらそのまま生けられるように、相性のいい花をセレクトしているので、初心者にもうれしいサービスです。そんな「花の定期便」が好評な、「北中植物商店」の小野木彩香さんにお話を伺いました。

これまでの悩み

これまでは金曜日にお花を買って、週末を中心に楽しんでいました。でも、自分で選ぶと同じような種類のお花ばかり手に取ってしまったり、組み合わせ方が分からなくて一種類だけになりがちでした。また、お花が好きなのにどう生けたら素敵になるか自信がなくて、選んだり生けたりするのは苦手という状態がずっと続いていました。

なので、お花屋さんが選んでくれたブーケが毎月届くというサービスは、正直ありがたい。お花を楽しみながら、選び方と生け方も学ぶことができます。

北中植物商店へ

東京都、三鷹市。野川のほとりに建つ古い日本家屋で金土日だけオープンする「北中植物商店」を訪れました。

川沿いの緑あふれる場所にある「北中植物商店」は、季節の花を販売しているだけでなく、庭づくりの提案も行っているお花屋さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

川沿いの緑あふれる場所にある「北中植物商店」は、季節の花を販売しているだけでなく、庭づくりの提案も行っているお花屋さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今回お話を聞いた店主の小野木さんは、ここにお店を構えて5年。お花の販売だけでなく、ワークショップなども開催しています。

建物は趣のある日本家屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

建物は趣のある日本家屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

アンティーク家具と一緒に飾られている植物はすべて販売されています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

アンティーク家具と一緒に飾られている植物はすべて販売されています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「3年ほど前に、雑貨感覚で取り入れやすいドライフラワーが、インテリアアイテムとして大流行しました。手軽でかわいく、お手入れが不要なために、多くの人へ広がったのでしょう。それと共に、生花を飾ることもトレンドになりました。
一輪でも生花を飾る習慣があると、季節を感じるきっかけになります。それはうつわや食べ物への関心にもつながっていき、暮らしがよりみずみずしく、豊かになります。花は季節よりも少しだけ早いものが売られているので、“秋が来るな”と、先取りして感じることができます」(小野木さん、以下同)

朝ごはんを食べているとき。帰宅したとき。夜、のんびりしているとき。ふとお花が目に入ると、気持ちがふわっとほぐれます。生きているものが空間にあることで、部屋の雰囲気がやさしく潤うように感じるのです。

お店の奥にあるワークショップスペースに飾られたスワッグ。飾り方の参考にもなります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お店の奥にあるワークショップスペースに飾られたスワッグ。飾り方の参考にもなります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

小野木さんがつくられたリースやスワッグも販売しています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

小野木さんがつくられたリースやスワッグも販売しています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お花の選び方

「秋は、いよいよ実ものがお店に並びます。枝ものや実ものは長持ちしますし、そのままドライフラワーにできるものも多いので、忙しかったり扱いに慣れていなくても安心です。ひまわりやバラ、デルフィニウムも、比較的長持ちする品種。茎がしっかりしている個体を選ぶと、丈夫で長持ちします。

店内には小野木さんが市場でセレクトした季節のお花が並んでいました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

店内には小野木さんが市場でセレクトした季節のお花が並んでいました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お花の生け方

お花を選んだら、いよいよ花瓶に生けましょう。
「花瓶の高さと、そこから出ている茎の長さは1:1.5が目安です。適度な長さに切ったら、上の数枚を残して葉っぱを取ります。そのほうが花に水と栄養がいくのと、蒸れるのを防げるからです。また、茎の上部で枝分かれして多くの花をつけるスプレー咲きは、枝を切り分けるとボリュームが出ますし、長さも調節できます」

儚げなデルフィニウムも実は長持ち(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

儚げなデルフィニウムも実は長持ち(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ある程度お花の量がある場合は、花瓶と花の間に茎が見えないように飾るのがポイントです。花瓶の縁にかかるように、メインの花を短く切って生けると全体の印象がボヤけません」

全体のバランスを見ながら生けていくことが重要だそうです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

全体のバランスを見ながら生けていくことが重要だそうです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「数本だけなら、長さをちょっと変えて、動きが出るように生けても素敵です」

メインの花は短めに切ります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

メインの花は短めに切ります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

生けやすい花瓶とは

「花瓶は、数本生けるならば高さ10cm、10本以上生けるならば高さ25cmのものが使いやすいです。ガラスや白磁の花瓶は、季節を問わず使えるので、一つ目にピッタリ。太くて口がすぼまっている形は、安定感があり生けやすく、お洒落に見えます」

高さ25cm前後の花瓶もたくさん販売されています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

高さ25cm前後の花瓶もたくさん販売されています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

高さ10cmは数本挿しにピッタリ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

高さ10cmは数本挿しにピッタリ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

全体のバランスはこのくらい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

全体のバランスはこのくらい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

定期便が届いたら

取材後に、心待ちにしていた定期便が届きました。紫がかったブルーとオレンジの組み合わせにハッとします。数種類のお花を中心に、野の花のような草花や実ものがあしらわれていて、この組み合わせはプロならではだと感激しました。

箱を開けたら、秋色のブーケが(写真撮影/柳沢小実)

箱を開けたら、秋色のブーケが(写真撮影/柳沢小実)

まず、ブーケのまま花瓶にいけて完成されたアレンジメントを楽しみ、少しずつお花が傷んで減ってきたら、ブーケをほどいていくつかに分けて飾ってもいいそう。
花を長持ちさせるためには、なるべく毎日茎を切って、水を吸い上げられるようにすること。ブーケをそのまま手に持ち、下を切りましょう。
花は素直で、お手入れすると応えてくれます。たっぷり愛情を注いで、長く楽しみたいですね。

届いたブーケをそのまま花瓶に(写真撮影/柳沢小実)

届いたブーケをそのまま花瓶に(写真撮影/柳沢小実)

はじめて体験したお花の定期便。プロが選んだ雰囲気のあるお花を飾りながら、お花の選び方や組み合わせも学ぶことができました。毎月異なるお花が届くのも楽しみです。そしてなにより、お花のある暮らしは、心にも潤いを与えてくれます。お花との距離が、ぐんと近づいたように感じました。
花のある暮らしに憧れているけれどなかなかお店に行けない方や、お花選びに迷ってしまう方にこそ、オススメしたいサービスです。

●取材協力
北中植物商店

パリの暮らしとインテリア[2]アクセサリーアーティストが家族と暮らすアトリエ付きの一軒家

私はフランスのパリに暮らすフォトグラファーです。パリのお宅を撮影するたびに、スタイルを持った独自のインテリアにいつも驚かされています。今回はアクセサリーアーティストの純子さんが家族と暮らす、アトリエの離れが付いた一軒家に伺いました。連載【パリの暮らしとインテリア】
フランス・パリで暮らす写真家が、パリの素敵なお宅を撮影。インテリアの取り入れ方から日常の暮らしまで、現地の空気感そのままにお伝えします。アパルトマン暮らしから一軒家へ

二人目の子どもを授かった2002年の当時、純子さんは夫のピエールさんとパリの最新トレンド発信地として人気の北マレ地区でアパルトマンの6階に住んでいました。まだ2歳だった長女と買い物などで毎日何度も階段を上り下りするのが大変で、ピエールさんと一軒家を探し始めました。
条件を夫婦でよく話し合ったそうです。

1.治安が比較的良いパリ南西部
2.パリのメトロで行ける場所
3.車が止められるスペースがあること
4.アクセサリーのアトリエをつくるスペースがあること

母屋(奥)とガレージ(手前)の間には中庭がある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

母屋(奥)とガレージ(手前)の間には中庭がある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

純子さんは、当時のことをこう話します。
「売りに出されている物件を20軒くらい見に行きました。とてもいい物件でも、郊外で電車やバス移動があるところだと、どうしても気が向きませんでした。
決め手になったのは、近所の住民が親切だったことです。今住んでいる家の契約書類のサインがせまっていた時期に、住民が道にテーブルを出して、飲んだり食べたりしているところ(日本でいう町内会の集まり)に遭遇し、みんなこの周辺のことなどを親身になって教えてくれました。
今の家は、パリのメトロでのアクセスが良いところ、通りが袋小路になっていて静かなところが気に入っています。購入当時はまだ小さかった長女、これから生まれてくる次女のためにも、歩いて10分以内に幼稚園から中学校まであることも助かりました」

ピエールさんは食関係の仕事をしていてたくさんの荷物を積んで車で朝早くに出かけるので、パリにもアクセスが良いこの場所がお気に入りと言います。また、レコードコレクターでもある彼は、近隣に気にせず音楽を楽しめるようになったことも大きかったようです。

「パリにいたころは車を駐車するのにも時間がかかったりして、ストレスフルな日々でした。それと僕は音楽が大好きなので一軒家に憧れていました。
パリのアパルトマンでは、こちらが注意していても音が近隣トラブルのもとになったりしますし、どこからかいろんな音が聞こえてきて、絶えずリラックスできない環境でした。
一軒家を手に入れてからは近隣のことも気にならないし、時間に自由ができて満足しています」

ピエールさんはリビングの一部に自分のスペースをつくり、いつでも好きな音楽を聴けるように配置しています。年に何度か季節に合わせて額に入れたレコードジャケット入れ替え、まるでギャラリーのよう。「次女と音楽センスが合ってうれしい」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんはリビングの一部に自分のスペースをつくり、いつでも好きな音楽を聴けるように配置しています。年に何度か季節に合わせて額に入れたレコードジャケット入れ替え、まるでギャラリーのよう。「次女と音楽センスが合ってうれしい」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

2階に上がって左右に子ども部屋がある。ブルーのペンキは空をイメージして、自分たちで色を配合(写真撮影/Manabu Matsunaga)

2階に上がって左右に子ども部屋がある。ブルーのペンキは空をイメージして、自分たちで色を配合(写真撮影/Manabu Matsunaga)

手づくりの花瓶が飾ってあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

手づくりの花瓶が飾ってあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

2002年当時は、まだユーロ通貨になって間もないころ。不動産もそれほど高騰はしていない時期で、とてもリーズナブルに購入できたそう。
「住居スペースは95平米、離れのガレージは25平米、中庭、車が2台分置ける駐車スペースもあって、申し分ない物件でした。それとカーヴ(ワイン貯蔵庫)が地下にあり、買い貯めていたワインも安全にストックできるのも気に入っています」とピエールさん。

購入したあとは、家族にとってより快適な空間にするために居住スペースとガレージの改装をしました。

「住居スペースは4人家族が住むには広さとしては理想的でしたが、細かく部屋が仕切られていたので、開放的なスペースにしたいと夫婦で意見が一致しました。まずは仕切り壁を取り壊し、台所も配置を換え、床がタイルだったのをフローリングにしました。
それとガレージをアトリエにするために、断熱材を入れたりして大工事になりました。
物件の購入金額に加え、その10~15%相当の工事費がかかりました」(純子さん)

一軒家でアクセサリーアーティストの活動拠点を手に入れた

純子さんは日本の服飾学校を卒業後、パリでアクセサリーアーティストとして活動。一軒家購入を機に、念願のアトリエを手に入れました。

ガレージを改装して純子さんのアトリエに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ガレージを改装して純子さんのアトリエに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

使う道具や材料は作業をしながらでも手が届くところに置いています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

使う道具や材料は作業をしながらでも手が届くところに置いています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

純子さんの作品はパリのブティック数カ所に置かれているほか、ポップアップショップでも頻繁に展示・販売しています。

「ポップアップショップでは、お客さんと対話を通じてその方の趣味や求めているものが分かり、自分のクリエーションの参考にもなります。そこで得たことを活かしながら、アトリエでの制作活動に集中したいんです」

パリの歴史的なパッサージュ(アーケード商店街)で展示の準備(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリの歴史的なパッサージュ(アーケード商店街)で展示の準備(写真撮影/Manabu Matsunaga)

新作は陶器のピアス。手づくりなので、同じものは一つもない一点物です(写真撮影/Manabu Matsunaga)

新作は陶器のピアス。手づくりなので、同じものは一つもない一点物です(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お客さん対応をする純子さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お客さん対応をする純子さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

手づくりの感覚を大切にして一点物にこだわる姿勢、お客さんに真摯に対応する純子さんの姿に、写真家として同じくクリエーションに携わる筆者も心打たれました。

作品制作中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

作品制作中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちが小さいときにつくったオブジェも大切に飾っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちが小さいときにつくったオブジェも大切に飾っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

数年前から始めた陶器アクセサリーや、自分で使うお皿などは、地元にある美術学校エコール・デ・ボザールの窯を週1で借りて制作しているとのこと。

「そのうち、アトリエに自分の窯を置きたいです。アトリエの奥は夫のキッチンラボになっていますが、少しスペースを貸してほしいと交渉中です」と笑顔で語ります。

花瓶やお皿などの陶器づくりにも凝っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

花瓶やお皿などの陶器づくりにも凝っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

撮影にうかがったのは夏休み前の天気の良い日曜日でした。庭には桜の木やフランボワーズなどがありました。夏が終わるころには、甘いブドウも実るでしょう。

家の門を開けるとすぐ、桜の木と母屋が見えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家の門を開けるとすぐ、桜の木と母屋が見えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

純子さん一家は毎年できるブドウを楽しみにしています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

純子さん一家は毎年できるブドウを楽しみにしています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんは20年間シェフとしてレストランで働いていたので、料理はお手のもの。キッチンは中庭に簡単にアクセスできるようにつくられていて、天気の良い日はパラソルを立てて食事をします。

ピエールさんの料理をする手さばきはさすが(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんの料理をする手さばきはさすが(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イタリア製のプロ用のガスレンジ。今後改装しても、これだけは使い続けていきたいとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イタリア製のプロ用のガスレンジ。今後改装しても、これだけは使い続けていきたいとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンからの眺め。バーベキュー用の窯も奥に見えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンからの眺め。バーベキュー用の窯も奥に見えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家購入20年の記念に。まだまだ夢が広がる

「今、アトリエ以外の改装計画も立てているところなんです。家を購入してから20年の記念に、バスルームを全面改装したいのです。日本風の洗い場があってくつろげる空間にしたくて。でも子どもたちはイタリア式の水圧が高いシャワールームがいいと言っていて。なかなか意見がまとまりませんね(笑)」と純子さん。

ピエールさんも夢を膨らませます。
「僕は地球環境問題に興味があるので、エネルギーの節約の意味も込めて家の断熱材の強化をしたいです。
また、今は庭のコンポストで生ゴミを使って庭用の肥料をつくっていて、自分の庭で取れるサクランボ、フランボワーズ、ブドウを安全で美味しく食べられるようにしています。本当は庭に鶏を飼って新鮮な卵を毎朝食べるのが夢なんです。でも隣近所に迷惑にならないようにしないと」

いろんな夢を持ち続け、それを素直に話し合い、お互いの世界を展開しているお二人に乾杯!です。これからの家の進化も楽しみです。

二人で見つけたヴィンテージのランプ、ガラスと木の素材が他のインテリアにもマッチ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

二人で見つけたヴィンテージのランプ、ガラスと木の素材が他のインテリアにもマッチ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

純子さんが少しずつ集めたアンティークのレース類(写真撮影/Manabu Matsunaga)

純子さんが少しずつ集めたアンティークのレース類(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんを唸らせた(!)純子さんの父親のフランス車と純子さんが5歳の時の写真が大切に飾ってあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんを唸らせた(!)純子さんの父親のフランス車と純子さんが5歳の時の写真が大切に飾ってあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリの暮らしとインテリア[1]ヴィンテージ家具に囲まれたデザイナー家族のアパルトマン

私はフランスのパリに暮らすフォトグラファーです。パリのお宅を撮影するたびに、スタイルを持った独自のインテリアにいつも驚かされています。

今回はヴィンテージ家具を20年以上かけて少しずつ集めて生活を楽しんでいる、ブティックなどの内装を手がけるデザイナーのヴァレリーさん、ファッションデザイナーの仁美さんらが暮らすアパルトマンに伺いました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
フランス・パリで暮らす写真家が、パリの素敵なお宅を撮影。インテリアの取り入れ方から日常の暮らしまで、現地の空気感そのままにお伝えします。人気エリア11区から静かな『北マレ』への引越し

ヴァレリーさんと仁美さんが子どもたちと暮らすお住まいは、今パリの最新トレンド発信地として大人気の北マレ地区にあります。2005年に引越してきたときにはまだ「北マレ」というエリア名では呼ばれておらず、パリの中心地にある割にはとても静かなところでした。今では多くのギャラリーやおしゃれなカフェなどが点在し、活気がある地区に変化を遂げました。

お住まいの通りは北マレにあっても静かな通りです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お住まいの通りは北マレにあっても静かな通りです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

以前は子育てにも人気な地区である11区に住んでいましたが、当時の家は子ども部屋が小さかったこと、子どもたちを公立の小学校に通わせるために、パリ中心部への引越しを決めました。ちなみにそのとき住んでいた家は、お二人自身でDIYで改装していたので、売買するときもすぐに買い手が見つかり、スムーズだったといいます。

今の住まいを見つけたきっかけはインターネットでのアノンス(通知)で、とても興味深い物件だったとのこと。
「長女のアリスと長男ジェレミーがまだ小さかったので、共働きの私たちにとって、お手伝いさん用の小さなスペースが隣接していたのがここと契約する決め手になりました」と仁美さん。

入り口の共用部分の階段は、最近ようやく工事が終了! カラーリングは住人たちで相談して決めました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

入り口の共用部分の階段は、最近ようやく工事が終了! カラーリングは住人たちで相談して決めました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓から見える風景。向かいは歴史的建造物。マレ地区には古い館が点在しています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓から見える風景。向かいは歴史的建造物。マレ地区には古い館が点在しています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ただ、部屋を自分たちでデザインしてDIYしていたので、完成には6カ月もかかりました。でも楽しい時間でした」(ヴァレリーさん)
購入した金額のプラス12%が改装費。もちろん業者さんに支払った額も含まれています。ヴァレリーさんの仕事柄、通常よりリーズナブルに収まったようです。

特に部屋の色合いには気を付けているとのこと。階段側面のグレーは自然素材のペンキFarrow&Ballで、自分たちでペイント。一部を塗ることでメリハリをつけています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

特に部屋の色合いには気を付けているとのこと。階段側面のグレーは自然素材のペンキFarrow&Ballで、自分たちでペイント。一部を塗ることでメリハリをつけています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

偶然に見つけた椅子からインテリアのヒントを得る

ヴィンテージ家具をコレクションするきっかけになったのは、仁美さんが20年以上も前にドイツ旅行をしたときにさかのぼります。たまたま見つけたオレンジの椅子が始まりです。「パットンチェアーと呼ばれる椅子に目が留まって、当時10ユーロもしなかったのですぐに飛びつきました。それからはどんなものを加えていくか夫婦二人でよく話し合うようになりました」
ひと目惚れのパットンチェアー以降はほとんど衝動買いをせず、部屋の空間バランスや色合いなどを考慮して買い足して今日に至った様子。

最初に購入したヴィンテージのオレンジの椅子がイメージを膨らませました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

最初に購入したヴィンテージのオレンジの椅子がイメージを膨らませました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家具にはいろいろな想いも詰まっているといいます。例えば息子のジェレミーの部屋に入る扉の上には、彼が生まれた記念に購入したネルソンクロックのオレンジの時計が飾られています。パリでは、子どもの出産時に記念品を購入することが多いのです。
今回写真には登場しないジェレミーは、バレエダンサーになるべくレッスンでオランダのサマースクールへ。お部屋は見せてもらえませんでしたが、彼の部屋にも少しヴィンテージ家具が置いてあるとのことでした。

息子のジェレミーが生まれた記念に購入した時計。奥がジェレミーの部屋になっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

息子のジェレミーが生まれた記念に購入した時計。奥がジェレミーの部屋になっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

東欧製のピアノ上には、ハンドプレーイングという小さなサーフボードのオブジェが飾られています。ヴァレリーさんはフランスのサーファーの聖地、ビアリッツ近くの街オースゴー出身で、子どものころからサーフィンをしていました。

ピアノは東欧のPetorf、イケアのデザインランプの横にはHand Playing(ハンドプレーイング)を飾っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピアノは東欧のPetorf、イケアのデザインランプの横にはHand Playing(ハンドプレーイング)を飾っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「気に入るのはどうしても北欧系の家具になってしまいますが、ソファと椅子の2点だけはフランスものです」

家具のアクセントになるような小物もところどころに配置されています。「最近では特にドナ・ウィルソン(ロンドンを拠点に活動するクリエイター)のぬいぐるみ、ブロッコリー、ピーナッツモチーフが気に入って少しずつ足していっています」(仁美さん)

ブロッコリー、ピーナッツモチーフが気に入っているが、次は狐を狙っているとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ブロッコリー、ピーナッツモチーフが気に入っているが、次は狐を狙っているとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「家具だけでなく、デザイン性が高い小物を飾ることも大好きです。食器に関してはフランスのツェツェ・アソシエのものが大好きですが、デリケートな陶器なので扱いが難しいですね。それでも食卓に登場する頻度は高いです」(仁美さん)

大好きなツェツェ・アソシエのカップでお茶の準備中。お茶の時間は大切な家族の対話に必要(写真撮影/Manabu Matsunaga)

大好きなツェツェ・アソシエのカップでお茶の準備中。お茶の時間は大切な家族の対話に必要(写真撮影/Manabu Matsunaga)

料理はヴァレリーさんもよくつくるそうで、得意料理はパスタ。家族みんなの大好物! 仁美さんは、日曜日に必ずバスチーユのマルシェに季節の野菜や果物類を買いに行きます。

日曜日はヴァレリーさんの出番も多いです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

日曜日はヴァレリーさんの出番も多いです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

将来的な計画も

「今、改装を考えているところです。アリスが高校を卒業したタイミングで、彼女の部屋を使用人部屋に移そうかと。台所が2人で作業できないほど狭いので、キッチン部分を小さな寝室にして、隣接するサロン(ダイニングのような部分)をアメリカンオープンキッチンにしたいと考えているのです」(仁美さん)

改装を考える一方で、いい部屋があれば引越しも検討しているとか。仁美さんは不動産探しも趣味。アプリで自分の気に入った条件を力すると最新の情報のお知らせが来ることで、夢も広がり、寝る前のリラックスタイムになっているそうです。

「でも今は物件が高くてなかなか手が出るものはないんです。
特に今のこの場所がどこに行くのも便利なのでなかなか離れられませんね」

4人ともそれぞれの自転車を持っているので、あまり電車には乗らないそうです。
かつてヴァレリーさんがスケートボードのお店をやっていたせいか、子どもたちはスケートボードで出かけることも多いとのこと。

近所にはアリスはスケートボードで出かける(写真撮影/Manabu Matsunaga)

近所にはアリスはスケートボードで出かける(写真撮影/Manabu Matsunaga)

散歩を兼ねてよく行く近所のホテルレストランはアートセンスが満載(写真撮影/Manabu Matsunaga)

散歩を兼ねてよく行く近所のホテルレストランはアートセンスが満載(写真撮影/Manabu Matsunaga)

中庭には心地よいレストランもあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

中庭には心地よいレストランもあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お互いの興味をよく話し合い快適な住まいづくりを実践している素敵な夫婦でした。これからも家も家庭も進化していくと感じました。

30年も前からヴァレリーさんが少しずつ描き続けているデッサンを絵巻にして保存。 過去にギャラリーで展示したことがありますが、新しいものもあるのでまたやってみたいとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

30年も前からヴァレリーさんが少しずつ描き続けているデッサンを絵巻にして保存。
過去にギャラリーで展示したことがありますが、新しいものもあるのでまたやってみたいとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ヴァレリーさん自身がスケッチした間取図(画像提供/ヴァレリーさん)

ヴァレリーさん自身がスケッチした間取図(画像提供/ヴァレリーさん)

メザニン(中二階)から見下ろすサロン空間(写真撮影/Manabu Matsunaga)

メザニン(中二階)から見下ろすサロン空間(写真撮影/Manabu Matsunaga)

〈ミラノサローネ2019〉インテリアデザインも職人技からAI技術まで!世界の感性が集結

2019年4月9日~14日のMilan Design Week(イタリア・ミラノ)は、インテリア世界最大の見本市「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)を核に、街中がデザインの祭典に沸いた。レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年のオマージュ企画から、最先端のテクノロジーとデザインの融合も見られた刺激的な1週間となった。
デザイン都市ミラノ、イタリアオペラの殿堂「スカラ座」とも共演

今年2418の出展数となったミラノサローネ見本市会場には、181カ国から38万6236人が来場。加えて街中でのイベントが1,350カ所もあり、その一つTortona地区にあるSurperStudioでも8万人が来場とのこと。総勢50万人を超えるデザイン・コンシャスな人々であふれた、Milan Design Weekとなった。

ミラノは世界一の“デザイン・シティ”を目指し、国を挙げて産業界を盛り上げている。今年から、芸術の中心であるミラノ・スカラ座財団とのパートナーシップを結び、デザインとアートの融合も強化。そのスカラ座でミラノサローネ前夜祭が開催された。

スカラ座音楽総監督リッカルド・シャイーによる前夜祭のコンサート。筆者もバルコニーから鑑賞(写真撮影/藤井繁子)

スカラ座音楽総監督リッカルド・シャイーによる前夜祭のコンサート。筆者もバルコニーから鑑賞(写真撮影/藤井繁子)

驚かされたのは、その後のディナー。なんと、オーケストラがはけた、舞台上にテーブルがセットされていた!

別室でアペリティーボ(食前酒)を楽しんでいる間に、約300名のテーブルがステージ上で完璧にセッティング!? スゴイ技(写真撮影/藤井繁子)

別室でアペリティーボ(食前酒)を楽しんでいる間に、約300名のテーブルがステージ上で完璧にセッティング!? スゴイ技(写真撮影/藤井繁子)

スカラ座ディナーでも椅子は、Kartell社『MASTERS』のゴールド・バージョン! 樹脂製で軽く、スタッキング可能という特性が、このような場でも活かされている。

さて、翌日からミラノサローネが開幕。見本市フィエラ会場でも、そのKartell社が朝一注目を集めていた。

世界のメディアを前に登場したのは、やはりこの方。御歳70歳のP.スタルク氏がプレゼンテーション(写真撮影/藤井繁子)

世界のメディアを前に登場したのは、やはりこの方。御歳70歳のP.スタルク氏がプレゼンテーション(写真撮影/藤井繁子)

実は今年、Kartell社は創業70周年記念(スタルクと同い年!)。ここで発表されたのは、「世界初のAI(人工知能)によって創られた椅子」。基本AIが描き出したデザインに、スタルクがアングルなどの注文を付けただけというプロセスが動画で紹介され、会場の目が釘付けになった(動画は記事末にて掲載)。

『AIデザインの椅子』3D 技術を使ったデザイン・設計ソフトのAUTODESK社(米国)とコラボ(写真撮影/藤井繁子)

『AIデザインの椅子』3D 技術を使ったデザイン・設計ソフトのAUTODESK社(米国)とコラボ(写真撮影/藤井繁子)

スタルクは「デザイナーの仕事も無くなる? そうじゃない、素晴らしい友ができたって気分だ!」とAIとの協働を楽しんでいた。

また、Kartell社70周年を記念した特別展〈The Art side of KARTELL〉は、Palazzo Reale(王宮) Museumで開催された。

夜のパーティーは家具・照明から食器・花器までKartellずくし。王宮の階段にも、充電式のランプ『BATTERY』が並んでお出迎え。大理石の床に放たれた光模様の美しいこと!(写真撮影/藤井繁子)

夜のパーティーは家具・照明から食器・花器までKartellずくし。王宮の階段にも、充電式のランプ『BATTERY』が並んでお出迎え。大理石の床に放たれた光模様の美しいこと!(写真撮影/藤井繁子)

アジアン・デザイナーがラグジュアリーブランドで活躍

日本でも人気のイタリア・ラグジュアリーファニチャーブランドのMinotti社。
昨年、日本のデザイナーnendo(佐藤オオキ)などを起用し話題を集めたが、今年は更に斬新なプロダクト&展示に驚かされた。

このゼブラ柄ファーが空間のアクセントにたくさん使われていた。ほかにもパープルのファーやガラス使いなども素敵だった。ソファはR.ドルドーニによる新作『LAWSON』、アームで抱かれるようなデザイン(写真撮影/藤井繁子)

このゼブラ柄ファーが空間のアクセントにたくさん使われていた。ほかにもパープルのファーやガラス使いなども素敵だった。ソファはR.ドルドーニによる新作『LAWSON』、アームで抱かれるようなデザイン(写真撮影/藤井繁子)

そして、nendoによるアウトドア家具『TAPE CORD OUTDOOR』シリーズが発表された。

Minotti社で遭遇した佐藤オオキ氏。昨年リリースの家具『TAPE』が、翌年アウトドアラインとして追加されるとは……評判が良かったに違いない(写真撮影/藤井繁子)

Minotti社で遭遇した佐藤オオキ氏。昨年リリースの家具『TAPE』が、翌年アウトドアラインとして追加されるとは……評判が良かったに違いない(写真撮影/藤井繁子)

アウトドア家具としては小ぶりにデザインされていて、日本の住宅にもフィットするサイズ感。

このデイベッド、バルコニーや中庭に置けば、日常が非日常になること間違いなし(写真撮影/藤井繁子)

このデイベッド、バルコニーや中庭に置けば、日常が非日常になること間違いなし(写真撮影/藤井繁子)

一方、同じく歴史あるラグジュアリーブランドMolteni&C社で見られたのは、初めてアジア人としてデザイナーに起用されたNeri&Hu(中国)のベッドルーム。

『TWELVE A.M.』ベッドとサイドベンチ。Neri&Huは世界で活躍する男女のユニット。シンプルでプラクティカルな上品さに共感する(写真撮影/藤井繁子)

『TWELVE A.M.』ベッドとサイドベンチ。Neri&Huは世界で活躍する男女のユニット。シンプルでプラクティカルな上品さに共感する(写真撮影/藤井繁子)

話題を呼んだ新企画パビリオン〈S.Project〉、日本のMaruniも登場

〈S.Project〉と名付けられた新企画のパビリオン。従来のカテゴリーにとらわれず、家具・水まわり・照明などブランド横断で空間展示を行うなど多目的な場が見本市会場に用意され87社が出展した。

ここで4000平米もの巨大ブースで注目を集めていたのが、家具のB&B Italia社、照明のFlos社 ・Louis Poulsen社の合同展示(Design Holdingグループ)。B&B Italia社が久しぶりに見本市会場へ出展することもあって、来場者が押し寄せていた。
面白かったのは、ブースの壁にイラストで描かれた著名デザイナーたちと3社の代表作品。センサーを感知すると、デザイナーたちが動いてウィットのあるリアクションを見せてくれる。

黄色の丸ゾーンに手を置くと、センサーで動き出すデザイナー。インタラクティブなプレゼンテーションが今っぽい(写真撮影/藤井繁子)

黄色の丸ゾーンに手を置くと、センサーで動き出すデザイナー。インタラクティブなプレゼンテーションが今っぽい(写真撮影/藤井繁子)

P.ウルキオラ女史(B&B Italia社)は、あまり似てないが……nendo佐藤くん(Flos社)はよく似てる!(写真撮影/藤井繁子)

P.ウルキオラ女史(B&B Italia社)は、あまり似てないが……nendo佐藤くん(Flos社)はよく似てる!(写真撮影/藤井繁子)

外で遊んでから中の展示へ。B&B Italia社の家具を分解し構造を見せることで、クオリティの高さを解説するゾーンが興味深かった。

V.V.デュイセンによる新作チェア『Pablo』も一枚の革で構成されているのが分かる(写真撮影/藤井繁子)

V.V.デュイセンによる新作チェア『Pablo』も一枚の革で構成されているのが分かる(写真撮影/藤井繁子)

A.チッテリオがデザインしたダイニングも、M.アナスタシアデスがデザインした照明(Flos社)と合わせることで、また違った空間が生まれる。

テーブル『Astrum』とチェア『Fulgens』はチッテリオ氏、照明『Arrangements』はアナスタシアデス氏の共演(写真撮影/藤井繁子)

テーブル『Astrum』とチェア『Fulgens』はチッテリオ氏、照明『Arrangements』はアナスタシアデス氏の共演(写真撮影/藤井繁子)

M.アナスタシアデスの今年の新作照明(Flos社)も素晴らしかった。

『Coordinates』=座標、と言う名のとおり縦横3次元の軸が交差するデザイン。ニューヨークのホテルFour Seasonsのレストラン用にデザインしたものを商品化(写真撮影/藤井繁子)

『Coordinates』=座標、と言う名のとおり縦横3次元の軸が交差するデザイン。ニューヨークのホテルFour Seasonsのレストラン用にデザインしたものを商品化(写真撮影/藤井繁子)

次も人気グループの出展、キッチンやバスルームなど水まわりの老舗ブランドBoffi社を中心に、家具の人気ブランドDePadova社などグループ4社で〈S.Project〉に出展。
メインデザイナーのP.Lissoniが、大きな池の上に建つようなブースをデザインした。

Boffi社の新作『Round Fisher』かなり大きい丸のバスタブ(高さ45×直径190cm)コーリアン人工大理石コーリアン®製。シャワーはM.ワンダースのデザイン(写真撮影/藤井繁子)

Boffi社の新作『Round Fisher』かなり大きい丸のバスタブ(高さ45×直径190cm)コーリアン人工大理石コーリアン®製。シャワーはM.ワンダースのデザイン(写真撮影/藤井繁子)

DePadova社でも、リッソーニ氏デザインの丸いテーブル。今年は丸く収めたい?

新作テーブル『FRENCH CONCESSION』(高さ73×直径250cm)リッソーニ氏は「花が咲くように」と表現。照明は人気の女性建築家E. オッシノによる『ELEMENTI』(写真撮影/藤井繁子)

新作テーブル『FRENCH CONCESSION』(高さ73×直径250cm)リッソーニ氏は「花が咲くように」と表現。照明は人気の女性建築家E. オッシノによる『ELEMENTI』(写真撮影/藤井繁子)

そんな世界的なトップブランドが居並ぶ〈S.Project〉に、日本のMaruni(マルニ木工)も出展。

昨年までのパビリオンから〈S.Project〉へ移動し、スペースも約2倍に拡大したMaruniの挑戦。深澤直人氏(右)デザインの『Roundish』アームチェアにクッションシートが登場(写真撮影/藤井繁子)

昨年までのパビリオンから〈S.Project〉へ移動し、スペースも約2倍に拡大したMaruniの挑戦。深澤直人氏(右)デザインの『Roundish』アームチェアにクッションシートが登場(写真撮影/藤井繁子)

AI(人工知能)と、人・暮らしの関わり方を探るプロジェクトも

市内の展示(フオリ・サローネ)で筆者が興味をもったのは、Google社の体験型インスタレーション。
デザインが感情や健康に、どう影響するのかを探求するプロジェクトだ。Google Design Studioが建築事務所Reddymade Architecture、デンマークの家具ブランドMuuto社、そして米国のJohns Hopkins Universityと組んだ企画。

心拍数、皮膚温、運動、皮膚伝導性などのデータを測定するセンサーを備えたリストバンドを巻いて、10人1グループで入場。3つのインテリアデザインが異なる部屋に5分ずつ滞在する。

3つの部屋で参加者が感じた快適性や感情を、biological(生物学)データを分析して“最も心地よい”と感じた部屋を教えてくれる。(意外と自分が感じた部屋の印象と、データに現れた生理反応が違うことも多いそう。頭と体の反応が違うってこと?)

左/3部屋から退出後、リストバンドを計測モニターに置くと、3部屋での反応データが現れる。筆者は真ん中の部屋が心地よく反応したと出た。インテリアの色や素材、デザインだけでなく、香りや音楽も影響している。右/一人一人の結果データを即、カードにプリントアウトし解説してくれる。その手際良さにも、IT企業らしさを実感し感動(笑)(写真撮影/藤井繁子)

左/3部屋から退出後、リストバンドを計測モニターに置くと、3部屋での反応データが現れる。筆者は真ん中の部屋が心地よく反応したと出た。インテリアの色や素材、デザインだけでなく、香りや音楽も影響している。右/一人一人の結果データを即、カードにプリントアウトし解説してくれる。その手際良さにも、IT企業らしさを実感し感動(笑)(写真撮影/藤井繁子)

Googleとしては、デザインの影響を可視化することで、さらに感性デザインを深く追求する事に役立てたいということだ。

Sonyは昨年同様、Tortona地区で企画展示。
〈Affinity in Autonomy -共生するロボティクスー〉というテーマで、人とロボティクスの関係性についての新しいビジョンを提案した。5つのセクションで構成された展示を進むと、センサーによって人を感知したロボットが反応する様々な形を体験できる。

生命感をそなえたロボティクス『aibo』。名前を呼ぶと反応し、撫でると喜ぶ。ここでは感情が下のモニターに色彩で現れる、赤くなっているのは怒っているらしい(写真撮影/藤井繁子)

生命感をそなえたロボティクス『aibo』。名前を呼ぶと反応し、撫でると喜ぶ。ここでは感情が下のモニターに色彩で現れる、赤くなっているのは怒っているらしい(写真撮影/藤井繁子)

最後のセクションでは、ロボティクスが来場者に今回の展示に関するフィードバックを尋ねる。

記入台が自動で人に寄ってきて、身長に合わせて台の高さが変わる(写真撮影/藤井繁子)

記入台が自動で人に寄ってきて、身長に合わせて台の高さが変わる(写真撮影/藤井繁子)

人とロボティクスの共演を、エンターテインメントで魅せたのがLEXUSのインスタレーション。
日本のテクノロジーアーティスト集団ライゾマティクス(Rhizomatiks)を起用(リオ五輪の閉会式や紅白歌合戦のPerfumeも手掛けた)。
暗闇で一人のダンサーと一緒に踊るのは……4輪の付いたパーテーションのようなロボットたち!?

〈LEADING WITH LIGHT〉@Tortona地区Superstudio Piu会場。ダンサーの後ろを付いて回ったりするパーテーション・ロボット。そこにも光が投影され、空間にリズムが出る( 写真撮影/藤井繁子)

〈LEADING WITH LIGHT〉@Tortona地区Superstudio Piu会場。ダンサーの後ろを付いて回ったりするパーテーション・ロボット。そこにも光が投影され、空間にリズムが出る( 写真撮影/藤井繁子)

ダンス・ショーが終わると観客に光るボールが渡されて、照明にかざしてみる。照明が光るボールを追随するセンサーシステムを体験。

センサー技術によって人の動きにリアクションする、インタラクティブな体験型イベント展示が増えてきた。インスタレーションも“見て感動する”から、”やって見て感動する“時代になった。

日本からはインテリア以外の企業の参加も増えている。ダイキン工業がnendoと個展を行ったり、AGCやグランドセイコーは継続して出展、YAMAHAやLIXIL(INAX)が復活出展、住友林業は初出展など世界に向けたブランディングをミラノで行った。

年々、出展者・来場者共に増加し、世界のメディアが注目するMilan Design Week。
来年のミラノサローネは、2020年4月21日(火)~26日(日)と今年より遅い開催スケジュールと発表された。キッチン・バス見本市が併催の年。さらなる技術革新や新たなタレントと会えるのを楽しみに。Chao!

■「世界初のAI(人工知能)によって創られた椅子」Kartell社発表会の様子

【Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)】
 来年の会期:2020年4月21日(火)~26日(日)
>ミラノサローネ・オフィシャルサイト
>日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

ミラノ サローネ2019の見どころは? “ダ・ヴィンチ没後500年”とモダンデザイン

インテリア・デザイン世界最大の見本市〈ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)〉が、今年4月9日~14日に開催される。今年は〈レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年〉の記念行事と共に、2019年はレオナルドのDNAを感じるデザインの祭典になりそう。
ミラノサローネ主催者による記者発表会が、現地ミラノで開かれ取材に飛んだ。今年の見どころや最新ニュースをご紹介!

レオナルドから受け継ぐ『INGENUITY(創意工夫)』がテーマに

“世紀の天才”“万能の天才”と称されるレオナルド・ダ・ヴィンチ (Leonardo da Vinci)は、1452年に生まれ、 1519年67歳で死去した。2019年は没後500年となり、絵画『最後の晩餐』を残すなど彼が20年間を過ごしたミラノでは、今年、記念イベントが各所で催される。
ミラノサローネでも、その一環となる特別展など新しい取り組みが企画されている様子。現地ジャーナリストに加えて、世界から60名弱の海外ジャーナリストが招待され、記者発表会がトリエンナーレ美術館で開かれた。

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長などの挨拶の後、今年のミラノサローネが“レオナルドへのオマージュ(敬意)”として企画する2つの特別展について、その内容が発表された。

ミラノ公に仕えたレオナルドは、芸術家・建築家・科学者・エンジニアとして、多くのプロジェクトにかかわり、“万能の天才”ぶりを発揮した。
特別展のひとつは、市内San Marco通りにある、レオナルドが木製の水門の設計と建築工事を監督したと言われるConca dell’Incoronata(運河の閘門※)が舞台に選ばれた。数々のオリンピック式典をプロデュースした著名なイタリア人演出家Marco Balichが魅せる、壮大な映像と音楽による〈AQUA. Leonardo’s Vision〉だ。
※高低の差の大きい水面で、船舶を昇降させるための装置

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

ミラノサローネLutiプレジデントは、見本市のマニフェストに新しいテーマ『INGENUITY(創意工夫)』を加え、レオナルドの功績を受け継ぐ意思を込めた。「『INGENUITY』とは、未来を見据えた新たな目で常に全てを再発明し、再発見することができると考え、その場で満足せず先を見越すことです」

これを受け、二つ目の特別展〈DE-SIGNO〉がミラノサローネ見本市会場で催される。
イタリア人芸術監督Davide Rampelloによるインスタレーション、ブースは建築家Alessandro Colomboがデザインしている。

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

天才レオナルドが遺産として残した、デザイン力と実行力を称賛する2つの特別展。彼によって開花したイタリア・デザインの文化を、過去と現代で比較する今年のイベントは必見だ。

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

進化するサローネ、新企画パビリオン〈S.Project〉が登場

ミラノサローネは、今年で58回目。年々、展示構成を見直しながら情報発信を続けてきた。
今年はホール〔22・24〕1万4000平米に、〈S.Project〉と名付けられた特設パビリオンが登場する。ここを“マルチセクター”と位置づけ、家具・水まわり・照明に加えて音楽・ウェルネスなど、既存展示セクターに捉われない多目的な展示で、空間提案のクオリティを高める試みが行われる。
出展する66社のなかには、「B&B Italia」「Boffi」など世界的な人気ブランドと共に日本の「Maruni(マルニ木工)」の名前も並ぶ。

その一つ、1872年から北欧のライフスタイルを牽引してきた「Fritz Hansen」(デンマーク)は、照明メーカーをグループに加えブランドを統一、家具・小物から照明までトータルな空間を〈S.Project〉で展示する。

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

新作家具では、デザイナーJaime Hayonが手がけるラウンジチェアが登場。

「Fritz Hansen」では10年以上デザインを手がけている人気デザイナーJaime Hayonの作品も。オーク材構造の後ろ姿が素敵(写真提供:Fritz Hansen)

「Fritz Hansen」では10年以上デザインを手がけている人気デザイナーJaime Hayonの作品も。オーク材構造の後ろ姿が素敵(写真提供:Fritz Hansen)

また「Fritz Hansen」からのニュースでは、日本の〈nendo × Tenoha restaurant〉というコラボレーション展示で、nendoデザイン『NO1』チェアが見られると紹介された。

〈S.Project〉には、バスルームの世界的人気ブランド「antoniolupi」(イタリア)も登場する。
今年は隔年で行われるバスルーム見本市の年ではないが、あえて見本市会場に出展してきた意気込みが楽しみだ。

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

照明見本市〈Euroluce〉には421社出展。Artemide社など周年記念も目白押し

隔年開催の国際照明見本市〈Euroluce(エウロルーチェ)〉では、421社もの照明ブランドが出展し、新作を披露する。現代における照明デザインのキーワードを“実験と技術革新・持続可能性・人間中心主義(human-centricity)・美的研究”と掲げた。

LEDから有機EL、AIを含めた技術革新が進む照明界において、“human-centric(人間中心)”、つまり環境や健康、人のためになるライティングをデザインの方向性とした点に共感した。

イタリア照明ブランドの大手「Artemide」は今年創業60周年を迎える。

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

今年もBIGなど注目度が高い建築家やデザインユニットが14組、「Artemide」の照明デザインを手掛ける。

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

レオナルド没後500周年の今年、ほかにも周年記念を迎えるブランドが続く。
モダン家具ブランド「Living Divani」は50周年記念で、見本市会場とPalazzo Crivelliの庭園でも記念展示が行われる。加えてメインデザイナーのPiero Lissoniとの協業30周年を祝し、限定モデル商品が世界で発売されるそうだ。

また、イタリアモダン家具の革新的存在「Kartell」も、今年で創業70周年。
デザイン性の高い家具をプラスティック製で身近な物とし、暮らしを豊かに彩ってきた「Kartell」の歴史。それが、〈The art side of Kartell〉と題したPalazzo Reale(王宮)での展覧会で見ることができそうだ。

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネを核に、ミラノ市はデザインが街中にあふれる“Milano Design Week(2019年4月8日-14日”が始まる。ミラノ市は大阪市と姉妹都市でもあり、万国博覧会を控えた大阪はじめ日本企業・デザイナーの参加ニュースも続々と入っている。
2019年は、レオナルドの功績とモダンデザインの今に出会えるスペシャルな年。デザイン・コンシャスな人にとって見逃せない1週間となりそうだ!

Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)
会期:2019年4月9日(火)~14日(日)
会場:Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場)
総出展数 約2300社(サローネサテリテ参加デザイナー約550人含む)
総出展面積 20万5000平米
ミラノサローネ・オフィシャルサイト
日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

ミラノサローネ2019の見どころは? “ダ・ヴィンチ没後500年”とモダンデザイン

インテリア・デザイン世界最大の見本市〈ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)〉が、今年4月9日~14日に開催される。今年は〈レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年〉の記念行事と共に、2019年はレオナルドのDNAを感じるデザインの祭典になりそう。
ミラノサローネ主催者による記者発表会が、現地ミラノで開かれ取材に飛んだ。今年の見どころや最新ニュースをご紹介!

レオナルドから受け継ぐ『INGENUITY(創意工夫)』がテーマに

“世紀の天才”“万能の天才”と称されるレオナルド・ダ・ヴィンチ (Leonardo da Vinci)は、1452年に生まれ、 1519年67歳で死去した。2019年は没後500年となり、絵画『最後の晩餐』を残すなど彼が20年間を過ごしたミラノでは、今年、記念イベントが各所で催される。
ミラノサローネでも、その一環となる特別展など新しい取り組みが企画されている様子。現地ジャーナリストに加えて、世界から60名弱の海外ジャーナリストが招待され、記者発表会がトリエンナーレ美術館で開かれた。

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長などの挨拶の後、今年のミラノサローネが“レオナルドへのオマージュ(敬意)”として企画する2つの特別展について、その内容が発表された。

ミラノ公に仕えたレオナルドは、芸術家・建築家・科学者・エンジニアとして、多くのプロジェクトにかかわり、“万能の天才”ぶりを発揮した。
特別展のひとつは、市内San Marco通りにある、レオナルドが木製の水門の設計と建築工事を監督したと言われるConca dell’Incoronata(運河の閘門※)が舞台に選ばれた。数々のオリンピック式典をプロデュースした著名なイタリア人演出家Marco Balichが魅せる、壮大な映像と音楽による〈AQUA. Leonardo’s Vision〉だ。
※高低の差の大きい水面で、船舶を昇降させるための装置

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

ミラノサローネLutiプレジデントは、見本市のマニフェストに新しいテーマ『INGENUITY(創意工夫)』を加え、レオナルドの功績を受け継ぐ意思を込めた。「『INGENUITY』とは、未来を見据えた新たな目で常に全てを再発明し、再発見することができると考え、その場で満足せず先を見越すことです」

これを受け、二つ目の特別展〈DE-SIGNO〉がミラノサローネ見本市会場で催される。
イタリア人芸術監督Davide Rampelloによるインスタレーション、ブースは建築家Alessandro Colomboがデザインしている。

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

天才レオナルドが遺産として残した、デザイン力と実行力を称賛する2つの特別展。彼によって開花したイタリア・デザインの文化を、過去と現代で比較する今年のイベントは必見だ。

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

進化するサローネ、新企画パビリオン〈S.Project〉が登場

ミラノサローネは、今年で58回目。年々、展示構成を見直しながら情報発信を続けてきた。
今年はホール〔22・24〕1万4000平米に、〈S.Project〉と名付けられた特設パビリオンが登場する。ここを“マルチセクター”と位置づけ、家具・水まわり・照明に加えて音楽・ウェルネスなど、既存展示セクターに捉われない多目的な展示で、空間提案のクオリティを高める試みが行われる。
出展する66社のなかには、「B&B Italia」「Boffi」など世界的な人気ブランドと共に日本の「Maruni(マルニ木工)」の名前も並ぶ。

その一つ、1872年から北欧のライフスタイルを牽引してきた「Fritz Hansen」(デンマーク)は、照明メーカーをグループに加えブランドを統一、家具・小物から照明までトータルな空間を〈S.Project〉で展示する。

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

また「Fritz Hansen」からのニュースでは、日本の〈nendo × Tenoha restaurant〉というコラボレーション展示で、nendoデザイン『NO1』チェアが見られると紹介された。

〈S.Project〉には、バスルームの世界的人気ブランド「antoniolupi」(イタリア)も登場する。
今年は隔年で行われるバスルーム見本市の年ではないが、あえて見本市会場に出展してきた意気込みが楽しみだ。

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

照明見本市〈Euroluce〉には421社出展。Artemide社など周年記念も目白押し

隔年開催の国際照明見本市〈Euroluce(エウロルーチェ)〉では、421社もの照明ブランドが出展し、新作を披露する。現代における照明デザインのキーワードを“実験と技術革新・持続可能性・人間中心主義(human-centricity)・美的研究”と掲げた。

LEDから有機EL、AIを含めた技術革新が進む照明界において、“human-centric(人間中心)”、つまり環境や健康、人のためになるライティングをデザインの方向性とした点に共感した。

イタリア照明ブランドの大手「Artemide」は今年創業60周年を迎える。

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

今年もBIGなど注目度が高い建築家やデザインユニットが14組、「Artemide」の照明デザインを手掛ける。

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

レオナルド没後500周年の今年、ほかにも周年記念を迎えるブランドが続く。
モダン家具ブランド「Living Divani」は50周年記念で、見本市会場とPalazzo Crivelliの庭園でも記念展示が行われる。加えてメインデザイナーのPiero Lissoniとの協業30周年を祝し、限定モデル商品が世界で発売されるそうだ。

また、イタリアモダン家具の革新的存在「Kartell」も、今年で創業70周年。
デザイン性の高い家具をプラスティック製で身近な物とし、暮らしを豊かに彩ってきた「Kartell」の歴史。それが、〈The art side of Kartell〉と題したPalazzo Reale(王宮)での展覧会で見ることができそうだ。

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネを核に、ミラノ市はデザインが街中にあふれる“Milano Design Week(2019年4月8日-14日”が始まる。ミラノ市は大阪市と姉妹都市でもあり、万国博覧会を控えた大阪はじめ日本企業・デザイナーの参加ニュースも続々と入っている。
2019年は、レオナルドの功績とモダンデザインの今に出会えるスペシャルな年。デザイン・コンシャスな人にとって見逃せない1週間となりそうだ!

Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)
会期:2019年4月9日(火)~14日(日)
会場:Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場)
総出展数 約2300社(サローネサテリテ参加デザイナー約550人含む)
総出展面積 20万5000平米
ミラノサローネ・オフィシャルサイト
日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

閉店する喫茶店の家具と想いを次の使い手へと届ける「村田商會」の挑戦

赤いベルベットの椅子、カーブを描いた脚のテーブル、レトロなロゴ入りのグラスやあめ色に変わったコーヒーミル。村田商會が販売する古い家具や喫茶道具は、すべてが閉店するという喫茶店から引き取ってきたもの。この仕事を始めた経緯や想いを、2018年12月8日にオープンしたばかりの実店舗で話を聞いた。
ウェブショップから実店舗へ

西荻窪駅から歩いて5分ほど、喫茶店「POT」があった場所。ここが、それまでネット販売で営業していた村田商會の実店舗となる。オープンに向けて準備中だという店内は、以前の喫茶店の雰囲気を残しながらも、客席だったところには椅子やテーブルが所狭しと積まれている。
「これらが商品なんです。もともと喫茶店で使われていた家具や道具、雑貨などを引き取り、手入れをしてから販売しています」と話すのは村田商會の店主である村田龍一さんだ。

喫茶店としても営業するべく、準備中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

喫茶店としても営業するべく、準備中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大好きな喫茶店の家具や想いを受け継ぐ

村田さんが自身の店を立ち上げたのは2015年。それまで勤めていた会社を辞めてのことだった。
「学生のころから純喫茶が好きで、よくいろいろなお店に行っていました。古いお店の内装、雰囲気、マスターやママさんと話す時間が好きで喫茶店巡りをするようになって。社会人になってからも続いていたんですが、それまで何度か足を運んでいた喫茶店に閉店のお知らせの紙が貼ってあったんです。マスターに話を聞いているうちに、家具を捨ててしまうという話が出て、もったいないなと思って1セットくださいとお願いしたんです。そのテーブルと椅子は、今でもうちで使っています」

自身が好きだった喫茶店のテーブルと椅子を自宅で使用している。譲ってもらってから10年以上たった今も現役。「この家具があることで、今でもお店のことを思い出したりして、愛着も増しています」(写真提供/村田龍一さん)

自身が好きだった喫茶店のテーブルと椅子を自宅で使用している。譲ってもらってから10年以上たった今も現役。「この家具があることで、今でもお店のことを思い出したりして、愛着も増しています」(写真提供/村田龍一さん)

そこで、村田さんは自分と同じように純喫茶が好きで、そこで使われている家具を欲しいと思う人がほかにもいるのではないかと考える。お店もしかり。閉店してしまうが、家具を捨てるのはもったいないと思う人もいるのではないか、と。
「純喫茶の家具って、欲しいと思って探してもなかなか見つからないんです。アンティークとも、中古家具とも違う。使い込まれてきた風合いがあって、さらにお店の雰囲気をもっているものだから。閉店するお店そのものは残せなくても、家具なら残せるし、仕事にしてみよう、と始めました」

現在はネットだけでなく、イベントにも出店し、家具だけでなく、喫茶小物や道具なども販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在はネットだけでなく、イベントにも出店し、家具だけでなく、喫茶小物や道具なども販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

閉店を望んでいるわけではないからこその葛藤

かくして村田商會がスタートする。閉店する喫茶店の情報は、実際に自分の足で探すこともあれば、周りから教えてもらったり、ネットで仕入れたりすることもある。村田さんは必ずお店へ出向き、話をするという。閉店することを決めた店主に話をするのは、かなり気使うことなのではないだろうか?
「それまで自分が通っていたお店だったら、話はしやすいんです。でも、行ったことのないお店だと確かに難しい。混んでいない時間帯に行って、コーヒーを飲んだり、ご飯を食べたりして、お店の雰囲気を伺って、話すタイミングを見計らって、やっと切り出す感じです」
閉店を決めた店主の気持ちがどのようなものか想像し、お客さんとの関係もきちんと汲み取ったうえで買い取りの話をもちかける。友人の紹介があれば信用してもらえるが、よく分からない営業だと思われたこともあったという。
「そりゃ怪しいですよ、僕が逆の立場だったら、なんだ?って思います(笑)。信用してもらえても、高い金額で買い取ることができないので、折り合わないこともあるし、すべてがうまくいくわけではないんです」。それに、とちょっと顔を曇らせて続ける。
「ものすごいジレンマがあって。僕は閉店を望んでいるわけではないんです。喫茶店は一軒でも多く残ってほしいし、続けられるなら続けてほしいから。矛盾というか葛藤というか、複雑な気持ちはいつもあります。

喫茶店ならではのおもしろい雑貨も。これは「かうひい異名熟字一覧」で、さまざまな文献に掲載されたコーヒーの別名を紹介している。非売品。小岩にあった喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

喫茶店ならではのおもしろい雑貨も。これは「かうひい異名熟字一覧」で、さまざまな文献に掲載されたコーヒーの別名を紹介している。非売品。小岩にあった喫茶店「らむぷ」で使われていたもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「瓦版」の文字がくりぬかれた板も喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。当時はお店からの案内を貼るためのものだったのだろうか。村田商會の実店舗で使う予定だそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「瓦版」の文字がくりぬかれた板も喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。当時はお店からの案内を貼るためのものだったのだろうか。村田商會の実店舗で使う予定だそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

家具を残すことで、お店の雰囲気を少しでも受け継ぎたい。なくなってしまう喫茶店のことが好きで、家具だけでも欲しいというお客さんもいます。僕自身がそうであったように、喫茶店を好きだという人が、自宅でも楽しめたらいいなと思ってのことなんです」

家庭でも使いやすいよう、丁寧にリペア

仕事は村田さんが一人ですべて行っている。喫茶店店主とのやりとり、買い取る家具の査定、運び出して倉庫に入れ、一つ一つ状態をチェックし、修理をして、写真を撮ってネットに掲載して販売し、発送する。書き出すだけでも膨大な仕事量だ。力仕事なのはいうまでもない。
「買い取る前にチェックはするんですが、照明の暗いお店だったりすると、外に運び出すときに初めて『あれ?』と気付くこともあるんです。ちょっと破れていたり、さびがひどかったり、いろいろです。喫煙可能なお店が多いので、ニオイも気になりますし、ヤニが付いているものもあります。それをすべてリペアしてから販売するので、手間も時間もかかるんです」

東大宮にあった喫茶店「ひまつぶし」の椅子。スポンジがすり減り、生地が擦り切れていた(左)。きれいに張り替え、きちんと使える状態に生まれ変わった(右)。手が触れる場所だからと裏地もしっかり張り替えている(写真提供/村田龍一さん)

東大宮にあった喫茶店「ひまつぶし」の椅子。スポンジがすり減り、生地が擦り切れていた(左)。きれいに張り替え、きちんと使える状態に生まれ変わった(右)。手が触れる場所だからと裏地もしっかり張り替えている(写真提供/村田龍一さん)

リペアの技術は知り合いに教えてもらったり、調べたりして身につけた。自宅でも問題なく使えるように、さび止め加工をしてペイントすることもあれば、生地の貼り直しやぐらつきの修正などもある。家具以外のものも加われば、細かな調理道具などの整理も必要だ。

ただ売るだけじゃなく、喫茶店の空気感も伝えたい

「以前、キャバレーの家具を買い取ったことがあるんです。やっぱりタバコの匂いやお酒のシミも残っていてリペアは必要でした。買ってくれたお客さんのなかに、お父様がそのキャバレーに通っていたから、サプライズでプレゼントしたいという方がいて。その話を聞いたときはうれしかったですね」
自分たちで喫茶店を始めたいと家具や小物を買っていくお客さんもいるという。

ただ単に売っているだけではない。村田商會のホームページには、その家具を使っていたお店について伝えるページがある。どんな歴史があり、どんな雰囲気でどんなお客さんが来ていたのか。閉店前のお店の写真まで掲載している。
「家具を売るだけじゃなく、お店のことをきちんと伝えていきたいと思って。受け継ぐ気持ちでやっています」

今年の夏に閉店した喫茶店「POT」。村田さんが内装や家具もそのまま引き継いで残している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今年の夏に閉店した喫茶店「POT」。村田さんが内装や家具もそのまま引き継いで残している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2018年8月営業当時のPOTの店内。記事トップの写真にある赤いポットは、もともとの喫茶店「POT」の象徴的なアイテムで、こちらも商品になる(家具(椅子・テーブル)は販売対象外)(写真提供/村田龍一さん)

2018年8月営業当時のPOTの店内。記事トップの写真にある赤いポットは、もともとの喫茶店「POT」の象徴的なアイテムで、こちらも商品になる(家具(椅子・テーブル)は販売対象外)(写真提供/村田龍一さん)

そうして、ネット販売を続け、実店舗のオープンにつながった。
「『POT』も好きなお店で、ちょこちょこ来ていたんです。閉店すると聞いてご主人と話をするうちに、家具を買い取るのではなく、この場所を受け継ごうと決心しました。ちょうどお店を持ちたと思い始めた時期でもあったので、ありがたかったです」

実店舗なら、たくさんの喫茶店で使われてきた家具を販売しながら、それぞれのお店のことをお客さんに直接話をして伝えていくことができる。
「今はまだ準備中ですが、ゆくゆくはここも喫茶店としてオープンする予定です。もともとの『POT』さんで使われていた家具や道具は残してあるのでそれをきちんと戻して、昔から通っていたお客さんにも楽しんでもらえるように」

形を変えても残るものがある。楽しめるものがある。喫茶店を営む人、楽しむお客さんへ向けた、村田さんの愛情はここからさらに広がっていくだろう。

12月8日にオープンし、家具や雑貨を販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

12月8日にオープンし、家具や雑貨を販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●店舗情報
村田商會 西荻窪店
東京都杉並区西荻北3-22-17
2018年12月8日オープン(喫茶店の営業は2019年から予定)
12月中の営業時間 12:00~18:00【不定休】

山野草からサボテン……さまざまな緑と暮らす、こだわり夫婦の家

インドアグリーンは住まいに自然の彩りを与え、不思議と心を落ち着かせてくれます。そこで、緑と上手に暮らしているご夫婦を取材。すぐに取り入れたくなる、こだわりのポイントを聞いてみました。
和を感じる山野草を中心にセレクト

訪れたのは、世田谷区にお住まいのHさんご夫婦の自宅。夫のDさんはIT企業勤務、妻のKさんはライターというクリエイターのお二人です。2016年に購入した100平米3階建ての戸建てには、緑をアクセントとして上手に取り入れています。

植物をセレクトしているのは、基本的に妻。部屋やベランダの随所に、多種多様な緑や花が配置されています。

「種類はバラバラなのですが、山野草が好きなので比較的多いかもしれません。食器やインテリアもですが、和テイストに惹かれるんです。それで自然と山野草に手が伸びるのかも。ただ、山野草ばかりに偏るのではなく、ハーブなども取り入れてバランスよく調和させることも意識していますね」(Kさん)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

「山野草が芽吹くと春だな~ってしみじみします。静寂さを醸し出しているところがすごく好きなんです」(Kさん)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

ニュートラルカラーやアースカラーの器に惹かれるというKさん。土っぽさや温かみがある焼物の鉢を好んで購入しているとか。さまざまな種類の観葉植物も、鉢のトーンを統一させるだけで、まとまりがうまれ、おしゃれ度がアップするのかもしれません。

空間のシンボルになっているのは、柱サボテン。見た目もサイズもひときわ存在感を放っています。他の観葉植物とはがらっとテイストが異なりますが……?

「素敵な住宅の写真を見ている中で目に留まり、懇意にしているエンジョイボタニカルライフ推進室の氏井さんに相談して仕入れていただきました」(Kさん)

ちなみに、エンジョイボタニカルライフ推進室では、室内緑化やお手入れの相談サポートの他、ワークショップなどを通して緑と暮らす楽しさを伝える活動も展開しているそう。Kさんもイベントを通じて知り、さまざまなアドバイスをもらっているそう。専門家の意見を取り入れるのも、上手に緑と暮らすコツなのかも。

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

住まいのテイスト→鉢→植物の順に考えるとインテリア性が高まるかも!

緑を暮らしに取り入れるうえで意識しているポイントについて、Kさんは次のように語ります。

「私はスモーキーやグレイッシュのような灰色がかったトーンのグリーンが好きなので、なるべく統一させるようにしています。ところどころ違う色が入ってもいいと思いますが、同じ系統の色味だと落ち着いた感じにまとまるんじゃないかと思います」

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

また、植物のインテリア性についても独自のこだわりが。

「植物はもとより、鉢は家に合うようなものを選んでいます。もし植物選びに迷ったら、内装の色味やデザインを踏まえたうえで、まずは鉢から選んでそこに植物を合わせるのもおすすめです。むしろ、その方がインテリア性が高まるような気がします」

時折、『Pen』『BRUTUS』といった雑誌にも目を通し、緑の取り入れ方の参考にしているそう。

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

また、お二人の友人で植物に関するアドバイザーでもある、エンジョイボタニカルライフ推進室の氏井暁さんは、緑のある暮らしについて次のように話します。

「Kさんは、ウッドパネルやフラワースタンド、壁掛けラックなど、資材を活用して上手にレイアウトしていますよね。住まいとのコーディネートも含め”緑のある暮らし”を楽しんでいらっしゃる感じがとても良いと思います」

もし、「どんな植物を選んでいいか分からない」という人も、眺めているだけで自然と好みが分かるようになるそうです。また、植物も生き物とあって、上手に共存するには植物が生まれ育った環境を知り、住まいとのギャップ(日照・気温・湿度など)をなるべく軽減してあげることも大切とのこと。

「植物からイメージを演出したい場合、植物の原産地や生息環境でセレクトしても面白いかもしれません。例えば一目惚れした植物が『シーグレープ』だったとすると、ネットで調べると原産地はフロリダ南部・西インド諸島・南米であることが容易にわかります。原産地のイメージから鉢植えを揃えてインテリアと一致させても良いでしょうし、器でがらっとイメージを変えてみるのもいいかもしれません。Kさんのように器ベースでコーディネートしてみてもいいと思います」(氏井さん)

住まいと緑を上手にコーディネートしているH家。テイストでまとめてレイアウトしたり、器の色味や素材感で統一感や住まいとの調和を演出したりすることが上手に緑を暮らしに溶け込ませるためのポイントになりそうです。

●取材協力
・エンジョイボタニカルライフ推進室

“保存食の達人”料理家・黒田民子さん、亡き夫に導かれたキャリアと手づくりの豊かな日常 あの人のお宅拝見[10]

家庭料理の専門家として生活情報サイト「All About (オールアバウト)」ホームメイドクッキングのガイドをする黒田民子さん。保存食や薫製を、家庭で簡単につくれるレシピを紹介した本は翻訳され海外でも好評。私は黒田さんの夫、キッチンデザイン研究家の黒田秀雄さんと懇意にしていただいていたが、4年前にご病気で他界。その遺志を継ぐように、民子さんはお料理のお仕事のほかにも精力的に活動されています。東京都調布市のご自宅に伺って、いろんなお話を聞かせていただきました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。38年前にスケルトン・インフィルで購入したマンション

タイル張りの重厚なマンション、築年はたっているものの管理が行き届いた建物の1階が黒田邸。中へご案内いただき廊下を抜けてドアを開けると、手前にキッチン&ダイニング、奥にリビングが広がっていました。

料理研究家のご自宅らしく、キッチンと大きなテーブルのあるダイニングが中心の住まい(写真撮影/片山貴博)

料理研究家のご自宅らしく、キッチンと大きなテーブルのあるダイニングが中心の住まい(写真撮影/片山貴博)

そのダイニングテーブルで、黒田秀雄さんと出会ったころのお話を。
黒田ご夫妻は、関西出身。民子さんが松下電器産業(現在のパナソニック)にお勤めだったときに、同社で住宅設備のデザインをしていた黒田秀雄さんと出会い、ご結婚。
「24歳で結婚後、仕事を辞めて、2人の息子を育てる普通の主婦でした。54歳で『All About』のガイドを始めるまでは……」

背が高くて奇麗な民子さん、麗しの71歳!(若いころは、さぞかしモテたに違いない…)(写真撮影/片山貴博)

背が高くて奇麗な民子さん、麗しの71歳!(若いころは、さぞかしモテたに違いない…)(写真撮影/片山貴博)

秀雄さんが独立し、東京で起業した1975年ごろは杉並にお住まいでしたが、
「秀雄さんが仕事で、このマンション開発にかかわっていたので、スケルトンで購入し、内装を一から彼が設計したの」
マンションの自由設計であるスケルトン・インフィル形式を、何と38年前に実践していた黒田邸! 特に、キッチンデザイナーとしても草分け的な存在であった秀雄さん、こだわりのキッチンは今も健在です。

「色を多く使いたくなかった」ので、白黒モノトーンのキッチンに。赤いエスプレッソマシーンがアクセントカラーになっている(写真撮影/片山貴博)

「色を多く使いたくなかった」ので、白黒モノトーンのキッチンに。赤いエスプレッソマシーンがアクセントカラーになっている(写真撮影/片山貴博)

家電類は、デザインの良いものが最小限置かれているだけ。モノトーンのキッチンにあつらえたような『バーミキュラ』のライスポットと『クイジナート』のミキサー。

オール電化住宅なのでコンロはIHクッキングヒーター。鉄瓶でお湯を沸かすところが、流石!黒のタイルは清掃性もデザイン性もある賢明なデザイン(写真撮影/片山貴博)

オール電化住宅なのでコンロはIHクッキングヒーター。鉄瓶でお湯を沸かすところが、流石!黒のタイルは清掃性もデザイン性もある賢明なデザイン(写真撮影/片山貴博)

「『バーミキュラ』のライスポットは、ポットヒーター(IH調理器)の中に鋳物ホーロー鍋が入っていて、ご飯がしっかり炊けておいしいのよ」
ご自身で使いこなされた『バーミキュラ』鍋のレシピ本も出されています。

キッチンはオーダーキッチンで人気の『クッチーナ』による、初期のシステムキッチンだそう。
「このシンクは、秀雄さんが開発にかかわっていた伊奈製陶(現在のINAX)時代のものです」

グースネックの水栓(左から『BRITA(ブリタ)』『TOTO』『GROHE(グローエ)』製)などは新しくなっているが、陶器のシンクは38年前のまま。大切に使われてきたのが分かる(写真撮影/片山貴博)

グースネックの水栓(左から『BRITA(ブリタ)』『TOTO』『GROHE(グローエ)』製)などは新しくなっているが、陶器のシンクは38年前のまま。大切に使われてきたのが分かる(写真撮影/片山貴博)

コミュニケーションを生むキッチン、子育て時代から今も実践

黒田秀雄さんはJIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)主催「エコデザイン展」に、2003年から「エコキッチン」を作品出展されてきました。

2003年に環境負荷を抑えたゼロエネルギー・キッチンや、自己完結型フリースタンディング方式のキッチンなど先駆的なデザインを発表して注目を集めた(写真撮影/片山貴博)

2003年に環境負荷を抑えたゼロエネルギー・キッチンや、自己完結型フリースタンディング方式のキッチンなど先駆的なデザインを発表して注目を集めた(写真撮影/片山貴博)

2004に発表されたエコキッチン「LOHAS KITCHEN」(上記写真の資料右側)は、「今も“山の家”に置いてあります」
“山の家”とは、長野県にある黒田ファミリーの別荘のこと。
「息子たちが小学校のころ、もう35年くらい前に買った“山の家”ですが、秀雄さんが火の起こし方から厳しく仕込むので子どもは行くのを嫌がっていたことも(笑)。今となっては自然志向の息子たち、父親に感謝していると思いますよ」

秀雄さんは調布の自宅でも息子さんたちに、後片付けを手伝うようしつけられていたそう。
「30年以上前ですから、食洗機は普及していませんでしたしね。今は、共働きや子育て中に食洗機は必需品ですよ!」と、力説する民子さん。

のちに導入された食洗機はスウェーデンの『ASKO(アスコ)』製、「60cm幅の大型で、お鍋も入るところが助かるんです」(写真撮影/片山貴博)

のちに導入された食洗機はスウェーデンの『ASKO(アスコ)』製、「60cm幅の大型で、お鍋も入るところが助かるんです」(写真撮影/片山貴博)

「食洗機に洗い物を任せれば、子どもや家族とのコミュニケーションが増えるし、主婦がゆっくりくつろげる時間が持てると家族も幸せになるはず」とオススメ。

「私たち夫婦だけのときは、1日分をまとめて夜に洗っていました」
秀雄さんがご健在のころは、毎日の食器洗いの実態を写真付きでブログにアップされていました。(2011年から亡くなる前月の2014年11月まで、すごい実証実験!ジャーナリスト魂に敬服)

子育てしているころ、「息子たちはこのダイニングテーブルで宿題などをしていましたね。私は後ろを向いて、お料理しながらも『もう一度、朗読して!』と言ったりしてね」
キッチンをオープンにデザインしたことで、家族のコミュニケーションは自然に取れていたようです。

「息子の朗読のお話に、料理しながら泣けてきたりもしたわ!」って、とてもかわいいママ(写真撮影/片山貴博)

「息子の朗読のお話に、料理しながら泣けてきたりもしたわ!」って、とてもかわいいママ(写真撮影/片山貴博)

ご自宅にはご夫婦の仲間が20人ほど集まることもあって、「大きなダイニングテーブルと食洗機は大活躍でしたね」

幻のリフォーム計画?スケルトンならではの間仕切り収納家具

「秀雄さんはいろんなものを残してくれていましてね……。これは、【我が家のリフォーム計画】」

元々スケルトンでの購入なので構造梁以外、自由に間取り変更できる。秀雄さんらしい、精巧で分かりやすい図面(写真撮影/片山貴博)

元々スケルトンでの購入なので構造梁以外、自由に間取り変更できる。秀雄さんらしい、精巧で分かりやすい図面(写真撮影/片山貴博)

ダイニングキッチンの収納は、隣の部屋との仕切りを兼ねたもの。壁は無いので、動かしてレイアウト変更ができる可変性のある収納なのです。秀雄さんの計画では、この間仕切り収納を移動させ、キッチン空間をより広くするレイアウトになっていました。

天井高までの間仕切り収納に、ステンレス扉の冷蔵庫(『ASKO』製)もスッキリ納まっている(写真撮影/片山貴博)

天井高までの間仕切り収納に、ステンレス扉の冷蔵庫(『ASKO』製)もスッキリ納まっている(写真撮影/片山貴博)

【我が家のリフォーム計画】に描かれたリフォームは実施されませんでしたが
「私一人になりましたからね。でも、バス&サニタリーはリフォームしましたので見ていただいて結構ですよ」

ホテルライクなトイレ・洗面・バスがワンルームになった空間。背が高い民子さんが選んだのは、米国「KOHLER(コーラー)」のペデスタル型洗面(写真撮影/片山貴博)

ホテルライクなトイレ・洗面・バスがワンルームになった空間。背が高い民子さんが選んだのは、米国「KOHLER(コーラー」のペデスタル型洗面(写真撮影/片山貴博)

「できれば、ダイニングテーブルをむくの大きなものにしたいとは思ってるの」
【我が家のリフォーム計画 by 民子さん】も楽しみです。

「保存食をやればいい」夫が後押ししたテーマ

普通の主婦生活を送っていた民子さんを、「ALL About」のガイドに推薦したのは、キッチン専門家としてガイドをしていた秀雄さん。その後、さまざまな仕事が舞い込んでくるたびに、尻込みする民子さんを秀雄さんは「すっごく応援してくれたの!」。セミナー講師の仕事がきたときには「会場に来るって言って聞かないから、恥ずかしかったのよ」。

家庭料理研究家の民子さんではありますが
「おふくろの味や、お菓子・パンづくりなんかも、たくさん専門家がいらっしゃるでしょ。そんなときに、秀雄さんが『君の得意な保存食がいいんじゃないか?』とテーマを与えてくれました」
梅干しやみそづくり、果実酒や薫製も得意な民子さんを“保存食の達人”として世に送り出してくれたようです。

取材日にも、「ベーコンの薫製をつくったから、食べてみてちょうだい」と出してくださった。

生の豚バラ肉を香辛料などと共に冷蔵庫で1週間ほど脱水し、フライパンを使って40分~1時間ほど薫製したもの。冷蔵庫から出してスライス(写真撮影/片山貴博)

生の豚バラ肉を香辛料などと共に冷蔵庫で1週間ほど脱水し、フライパンを使って40分~1時間ほど薫製したもの。冷蔵庫から出してスライス(写真撮影/片山貴博)

少しいただいた途端、スモークされた芳醇な香りが口から鼻へと広がってビックリ!

今回は薫製用チップを使ったものでしたが「ほうじ茶の葉を使ってもおいしいですよ」と教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

今回は薫製用チップを使ったものでしたが「ほうじ茶の葉を使ってもおいしいですよ」と教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

「魚の干物やチーズなど薫製は楽しみ方もいろいろで、保存も1週間くらいはききますからチャレンジしてみて!」
薫製のほかに、果実酒づくりもご夫妻で楽しまれていたようで、すてきな瓶に保存された果実酒の数々を並べてくださった。

果物のほかにキンモクセイやコーヒー、山椒というのもある!?ラベルは秀雄さんが書いたもの。「いいでしょ!」。デザイナーの文字ってホントすてき(写真撮影/片山貴博)

果物のほかにキンモクセイやコーヒー、山椒というのもある!?ラベルは秀雄さんが書いたもの。「いいでしょ!」。デザイナーの文字ってホントすてき(写真撮影/片山貴博)

知人から頂いた青唐辛子を使って「薬味味噌」をつくったと、味見させてくださいました。

ご飯のお供に抜群! やっぱりビールかな?(写真撮影/片山貴博)

ご飯のお供に抜群! やっぱりビールかな?(写真撮影/片山貴博)

「家に人を呼ぶのが好きなので、保存食があれば重宝しますよ。薫製も簡単にできるので、つくり方の話がおしゃべりのキッカケにもなってね」
おいしいだけでなく、コミュニケーションを高めるネタにしてしまうところが“達人”たるゆえんです。

感謝と共に、日々前へ進む努力家

最近は料理以外にも、そのスタイルを活かし読者モデルもされている民子さん。
「体力維持に水泳は続けています、週に3日ほど。週に2km以上は泳ぐようにしているの」

マンション1階でお庭が広く、草木の手入れも日課。「ハーブやもみじは、良くお料理にも使います」(写真撮影/片山貴博)

マンション1階でお庭が広く、草木の手入れも日課。「ハーブやもみじは、良くお料理にも使います」(写真撮影/片山貴博)

ちょっと驚いたのは……お履きになっていたスリッパが、左右反対!?
「これ、ボケてる訳じゃないのよ(笑)。O脚を治すのに良いって聞いてやってるの」
いくら年を重ねても、向上心がある人は進化し続けるといういいお手本です。

他人にも自分にも関心をもち、新しいことにチャレンジする姿。これが憧れの70代!(写真撮影/片山貴博)

他人にも自分にも関心をもち、新しいことにチャレンジする姿。これが憧れの70代!(写真撮影/片山貴博)

リビングの棚には秀雄さんの思い出の品々と共に、まだお骨も。民子さんを見守っていた(写真撮影/片山貴博)

リビングの棚には秀雄さんの思い出の品々と共に、まだお骨も。民子さんを見守っていた(写真撮影/片山貴博)

「これは、私が50半ばのころかしら。友人のカメラマンが撮ってくださったの」

今の私と同じ年ごろ。私はこれからの20年、民子さんのように素敵に生きられるだろうか?(写真撮影/片山貴博)

今の私と同じ年ごろ。私はこれからの20年、民子さんのように素敵に生きられるだろうか?(写真撮影/片山貴博)

秀雄さんの最期のノートを拝見すると、民子さんへのメッセージに「どうかいっぱい生きてください」と書いてありました。
「ただただ、感謝しかありません」と、民子さんは少し涙ぐまれましたが、私には、今輝いている彼女の姿に「たみちゃん、やるねぇ!」と笑っている秀雄さんが見えました。
飾らずシンプルに、でも時間をかけた丁寧な、ご自宅での暮らしを垣間見ることができました。「あんな風に年をとりたいな」と、素直に思える取材でした。

黒田民子
家庭料理研究家。All About[ホームメイドクッキング]ガイド。1947年大阪府生まれ。子育てや主婦業の経験を活かし、旬の食材を使って簡単につくれるレシピを多数発表している。料理教室の講師や調理器具のアドバイザーとしても活躍。
著書『やさしい保存食と自家製レシピ』(主婦の友社)、『いちばん簡単な 手作り燻製レシピ』(河出書房新社)、『家族の命をつなぐ 安心!保存食マニュアル』(ブックマン社)、『自宅で手軽に♪燻製生活のススメ(監修)』(メディアファクトリー)、『バーミキュラだから野菜がおいしい簡単レシピ』(三才ブックス)など。
All About ホームメイドクッキング
いきいきライフ
日々の食器洗い機日記

インテリアで重視すること、トップは「見た目がすっきりしている」

マイボイスコム(株)(東京都千代田区)はこのたび、6回目となる「インテリア」に関する調査を実施した。調査方法はインターネット。調査期間は2018年8月1日~5日。10,297件の回答を得た。自分の家のインテリアにこだわりがありますか?では、「非常にこだわりがある」が4.1%、「ややこだわりがある」は24.8%、合わせて28.9%が「こだわりがある」と回答した。こだわりがある人の比率は、男性2割強、女性4割弱で、女性の方が高い。男性や女性10・20代では、こだわりがない人(「まったくこだわりはない」「あまりこだわりはない」の合計)が6割弱と過半数を超えた。

インテリアについてどのようなことを重視しますか?(複数回答)では、「見た目がすっきりしている」が最も多く41.9%。次いで「くつろぎ・癒しの空間となり、居心地がよい」(37.3%)、「シンプルで飽きがこない」(35.6%)、「部屋全体のテイストに統一感がある」(29.9%)と続く。「くつろぎ・癒しの空間となり、居心地がよい」「手入れがしやすい」「シンプルで飽きがこない」などは、女性高年代層での比率が高い。

家具・インテリア選定時の参考情報は「店頭のディスプレイ」が37.2%。「テレビ番組・CM」「商品カタログ・パンフレット」「インテリア関連雑誌」「家具・インテリア関連メーカーの公式サイト」などが各10%台となっている。女性10~30代では「ブログ、SNS、インスタグラムなど」の比率が他の層より高い。

家具・インテリア雑貨の購入場所は「家具専門店(大塚家具、ニトリ、島忠、イケアなど)」が最も多く62.0%。2位は「ホームセンター」で36.6%。「インターネットショップ、通販サイト」「大型生活雑貨店(東急ハンズ、ロフト、無印良品など)」「インテリアショップ」などが各2割だった。

ニュース情報元:マイボイスコム(株)

蔦屋書店に聞く! 本棚のおしゃれなレイアウト&収納アイデア

賃貸(1K・一人暮らし)でも書店のような本棚をつくりたいならDIYがオススメ、と「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平(さんじょう・ようへい)さんは言う。三條さんの自宅を参考に、おしゃれな本棚のつくり方のポイントを、書店員としての経験をもとに解説してもらった。「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平さん

「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平さん

三條さんが勤める「代官山 蔦屋書店」は、各ジャンルに精通したコンシェルジュのカラーが売り場に反映されていて、自身の知識とクリエイティビティを広げてくれる思いがけない本と出合うことができるのが魅力だ。数万冊もの本が並び、ただ身を置くだけでワクワクする “書店のような空間を自宅でも再現できたら”と思う方は多いはず。オリジナリティがあり大容量の本棚の作り方と、美しくおしゃれに収納するためのポイントをおさえて、その願いを実現しよう。

おしゃれな本棚にしたいならDIYがおすすめ

三條さんが現在の住まいに引越してきたのは約4年前。いわゆる“普通の賃貸1K”だが、本・雑誌だけで段ボール30箱ほど、約1200冊が約7畳の洋室に収まっている。

三條さん宅の間取り。約7畳の洋室に、幅60×奥行き30×高さ230cmの本棚が4つ、以前の住まいから本棚として使用しているキューブボックス6つが並ぶ

三條さん宅の間取り。約7畳の洋室に、幅60×奥行き30×高さ230cmの本棚が4つ、以前の住まいから本棚として使用しているキューブボックス6つが並ぶ

「通勤アクセスを第一に、なじみのあった学芸大学~武蔵小山辺りで部屋を探しました。物件選びの際に、本の収納は意識していなかったです」と三條さんは物件探しを振り返る。それでもおしゃれな本棚を見ると、質問攻めしたくなる。まずは、本棚についてのこだわりを尋ねた。

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既製品ではサイズがさまざまな本に対して可変性がないのとコストの面から、おしゃれな本棚のための第一のポイントは「自分でつくる、これに限ります!」と教えてくれた。「三田修平さんが運転手兼店主を務める移動式書店『BOOK TRUCK(ブックトラック)』の前身で『BOOK APART』という小さな本屋さんが昔ありました。そこの本棚がDIYでつくられているのを見て、いいな、と思ったんです」と三條さん。
以前の住まいではキューブボックスを本棚として使っていたが、際限なく増やせてしまうため止めたという。

以前の家には、このキューブボックスがもっとたくさんあった

以前の家には、このキューブボックスがもっとたくさんあった

ディアウォールやピラーブラケット等、DIYツールを使った本棚のつくり方

本棚の図面は、大学で建築学を学んだ三條さん自らが引いた。「本棚をDIYすれば低コストですし、つくり直すこともできます。つくり方は意外と簡単。一人で組み立てましたが、1棚あたり30分ほどでつくることができました」

図面を引くにあたり、まずは三條さん所有の本のなかで一番背が高い本に合わせ、1段の高さは40cmに設定。出版されている本の背は高くても40cmが上限だそうで、どんな本を並べるか決まっていない場合や、どんな本でも収納できる本棚をつくりたいという場合は、高さを40cmに設定するのがいいのだそう。そして棚の奥行きも同様に、一番奥行きがある本に合わせて30cmとし、パーツを使って両サイドの木材に取り付けた。棚の幅は60cm、棚を支える両サイドの木材の高さは、天井高よりやや低い2m30cmに。上端にブラケットパーツを取り付け、床と天井を使って突っ張らせることにより木材を柱として固定した。

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ちなみに三條さん宅の本棚は、ホームセンターで図面に合わせてカットしてもらった2×4材(ツーバイフォー材)と、東京・恵比寿の「P.F.S PARTS CENTER(ピーエフエス パーツ センター)」で購入したブラケットパーツ「PILLAR BRACKET(ピラーブラケット)」と「SHELVING STAY」で制作。棚を支えるパーツやブラケットパーツは、ホームセンターなどでも購入可能だ。

美しく本を並べるポイントは奥行き・高さ・陳列方法

三條さんの本棚に並ぶ本は、建築・デザイン関連をメインに、文庫や漫画、ビジネス書など幅広い。そして装丁や判型もバラバラなのに、書店のように落ち着きがあり、まとまりを感じられるのはなぜだろうか。続いては、おしゃれに見せるための本の収納方法を伺っていこう。

まずは本棚の奥行きの活用方法について尋ねると「店頭では、すべての本の背表紙を本棚の手前端に合わせることで面をつくり、きれいに見せています」という答えが返ってきた。しかし三條さんの本棚はその逆で、奥の壁に本を付けて並べている。そして手前にできたスペースを飾り棚として活用し、収納している本に関連したポストカードや小物を置いて、インテリアのアクセントにしているのだ。

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また「展覧会の図録の場合は、チケットの半券やフライヤーも一緒に挟んで収納しています」と三條さん。物として残してあると展覧会の記憶を留めておけるのだそう。本棚が本だけでなく、思い出の収納場所としても活用されている。

続いては本の高さについて。「店頭では、より多くの本を手に取ってもらうため、関連する本を判型に関係なく並べますが、自宅の本棚をきれいに見せるには、判型の似たもの、背の高さや本のサイズが合っている本を集めて収納するとまとまって見えます」と三條さん。とはいえ、特に背の高さは合わせづらいもの。そこでおすすめなのが、棚1段の両端に背が高い本を置き、中央にかけて低くする並べ方。こうするとアーチ状になりきれいに見えるという。

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最後は、本の陳列方法について。大きく分けて、背表紙を見せる「背ざし」、表紙を見せる「面出し」、表紙を上にして重ねる「平積み」の3パターンがある。三條さんの場合、“見せる”よりも読書歴のインデックスとして本棚を機能させているため、「背ざし」での収納がほとんどだが、書店のようにおしゃれに見せたい場合は「面出し」「平積み」のテクニックを使うと有効的だ。

「個人的には、自宅の本棚は自分に向けてつくる方が良いと思います。たまに来客の際にアピールしたい本を『面出し』してカッコつけるくらいでいいのではないでしょうか(笑)」。そう三條さんが言って持ってきてくれたのが、「BIBLIOPHILIC(ビブリオフィリック)」のブックスタンド。本棚の空いたスペースにこちらを使って表紙がかっこいい本を「面出し」して見せてくれたが、雰囲気がぐっと増す。

ブックスタンドを使って、面出し

ブックスタンドを使って、面出し

また本を「平積み」してブックエンドの代わりにするのも、本棚にリズムが生まれるのでおすすめだ。三條さんの場合は、棚の積載量に耐えられなさそうな厚い本を床に「平積み」して、“見せる”と実用性の合わせ使いをしている。

左が平積み、右が背ざし

左が平積み、右が背ざし

そして三條さんが気をつけているのが本の保存方法。「本棚の位置に気をつけ、日中はカーテンをするなど、直射日光には当てないようにしています」と、本好きならではの心遣いだ。お陰でどの本も新書のような状態を保っていて、それが本棚全体の美しさにもつながっている。

また本好きにとって、本が増えてしまうのが悩みどころ。この問題に対し、三條さんはどのように対処しているのか伺うと「本棚からはみ出したり、本棚全体との違和感が出てきたりしたら、その都度手放すようにしています」と潔い答えが返ってきた。本棚の美しさを保つためには、本の中身を見極めて整理していくことが必要不可欠だ。

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中身重視の並べ方でも“自分の軸”でまとまりが生まれる

“ジャケ買い”のように装丁が目を引く本をインテリア用に買うことはあるのか尋ねると、「飾ろうと思って購入した本はなく、好きなものを買っています」と三條さん。それでも本棚全体がまとまって見えるのは、並ぶ本に“自分の軸”があるからかも、という。

「作家・写真家・デザイナー別やカバーの色別に並べている方もいらっしゃいますが、私の場合は本の中身を重視して並べています。例えば、新しく買った本と本棚に収納してあった昔の本の内容がリンクしたら隣に、というように」と三條さん。本棚は読書歴の整理の場であり、“記憶の外部装置”。インテリアとしてではなく、“個人図書館”としてつくってみるのもいいですよ、と話す。
取材を通して改めて自身の本棚を見渡し、「長年買い集めては取捨選択しているので、改めて全体を見渡すといい本があるなと自画自賛ですね」と笑う。収納テクニックを使って美しく見せながら、月日を掛けて本を入れ替えていく中で、自分らしさや感性が反映され、本棚が熟成していくのだろう。

部屋の壁にもさり気なくフリーペーパーが飾られていた

部屋の壁にもさり気なくフリーペーパーが飾られていた

●取材協力
「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュ 三條陽平さん
TSUTAYA TOKYO ROPPONGIで建築・デザインの担当をした後、2012年から「代官山 蔦屋書店」のコンシェルジュに。月に一度、建築物を見るために地方へ出かけることをライフワークとしている。最近最も感銘を受けた建築は「太田市美術館・図書館」。
代官山 蔦屋書店

BEAMS流インテリア[5] ないものは創る!賃貸1Kの部屋を自分らしく住みこなすDIY女子

原宿の勤務先まで乗り換えなしで通勤できる賃貸に住むBEAMS BOYの島田華衣(しまだ・けい)さん。25平米の1Kという限られた空間ながら「欲しいものが手に入らなければ自分で創る」というDIY精神を発揮して、仕事柄多い洋服や靴、スケボーなど趣味のものなどもしっかり収納。賃貸でもOKなDIYやオリジナルな工夫あふれる部屋を紹介しよう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。15軒内見して選んだのは人気沿線で便利な立地の和風レトロな25平米の1K

島田さんのお仕事はBEAMS BOYのVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)として店舗の陳列や空間づくりをすること。勤務先が町田から原宿になったのをきっかけに、通勤の利便性を考えて今の部屋に引越したというので、まずは部屋選びのこだわりポイントを聞いてみた。

「以前住んでいたのは横浜の5.3万円の部屋だったので、都内とはいえせめて家賃は6万円台に抑えたい。沿線は以前住んでいたので馴染みもあり、しかも通勤が一本ですむ東急東横線が希望でした。女性の一人暮らしなので防犯上2階以上でベランダ付き、料理もするのでワンルームでなくキッチンが分かれた間取り、収納もなるべく多く、と欲張りました」と島田さん。

人気沿線での部屋探しだったこともあり、内見した部屋は不動産会社3社で合計15軒。最終的に島田さんが選んだのは、昔ながらのレトロな玄関ドアに惹かれたという築36年(当時)のこの物件だった。新しい物件も見たけれど、どれも似ていて個性がなくてつまらないと感じたという。

家賃はギリギリ6万円台に収まり、東急東横線学芸大学から徒歩7分で2階、ベランダ付き、と希望通り。室内も押入れや廻り縁(まわりぶち ※天井と壁の境目に取り付ける縁のような部材のこと)など昔ながらの和室の面影を残しながら、床はフローリングになっていたのも決め手のポイントだった。「床に座る和風の暮らしにしたかったので和室でもよかったのですが、畳は重い物を置くと跡が付いて修繕が大変そう」と退去後のことまで考えるあたり、さすが上京して10年、引越しも3回目のベテランだ。

島田さんが一目で気に入ったという、典型的昭和レトロな玄関ドアとタイルの浴室がある1K(写真撮影/飯田照明)

島田さんが一目で気に入ったという、典型的昭和レトロな玄関ドアとタイルの浴室がある1K(写真撮影/飯田照明)

昭和レトロな間取りを活かし、DIYと見せる収納で空間活用

それでは昭和レトロな1Kを、お仕事洋服や靴、趣味も多い島田さんがどのように住みこなしているのか具体的にご紹介していこう。まずは玄関を入ってすぐの靴の収納棚はDIYで作成したもの。造り付けの靴箱はあったが全く収納量が足りず、元々持っていた棚を置くと玄関をふさいで通りにくくなってしまう。そこで靴が置ける最小限の奥行きでDIYでオリジナルの棚をつくり、靴の収納と玄関への出入りのしやすさ、両方を手に入れることに成功。7~8年続けている趣味のスケートボードも、よく使うものは玄関先に置いている。

左手の造り付けの靴箱には12足しかはいらないため、通路の邪魔にならない奥行きの浅いオリジナルの靴用の棚をDIYして40足以上をたっぷり収納(写真撮影/飯田照明)

左手の造り付けの靴箱には12足しかはいらないため、通路の邪魔にならない奥行きの浅いオリジナルの靴用の棚をDIYして40足以上をたっぷり収納(写真撮影/飯田照明)

棚の奥行きを靴のサイズより小さくすることで、収納量をキープしつつ通路の邪魔にならないよう動線にも配慮。以前使っていた収納棚の枠を利用して、棚板を新しくしたDIYだ(写真撮影/飯田照明)

棚の奥行きを靴のサイズより小さくすることで、収納量をキープしつつ通路の邪魔にならないよう動線にも配慮。以前使っていた収納棚の枠を利用して、棚板を新しくしたDIYだ(写真撮影/飯田照明)

島田さんのお部屋は典型的な1Kの間取り。元々収納は玄関入って左手の靴箱と押入れひとつのみ。これをDIYで収納たっぷりの部屋に。玄関入ってすぐのDIYの靴棚も通常の奥行きの棚では通路がふさがれてしまう(提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

島田さんのお部屋は典型的な1Kの間取り。元々収納は玄関入って左手の靴箱と押入れひとつのみ。これをDIYで収納たっぷりの部屋に。玄関入ってすぐのDIYの靴棚も通常の奥行きの棚では通路がふさがれてしまう(提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

多趣味なうえに、収集癖もあるという島田さん。現在の趣味はスケートボード、エレキギター、コーヒー、好きなアーティストの作品集コレクションなど幅広い。ちなみに23歳から始めたというスケートボードは歴代のものも合わせて7枚もあるという。「一度しまい込むとそのままになってしまう」という理由から、基本的に全て見せて収納する主義。「いつも見せるようにしていれば忘れないし、湿気もこもりませんよ」。

靴棚と並んで設置されたキッチン用品の棚と化粧品やバス用品を収納したワゴン。こちらも使いやすさ重視の見せる収納だ(写真撮影/飯田照明)

靴棚と並んで設置されたキッチン用品の棚と化粧品やバス用品を収納したワゴン。こちらも使いやすさ重視の見せる収納だ(写真撮影/飯田照明)

キッチン用品の棚には趣味のコーヒー豆やコーヒーミル。パスタなどの食材も見せて収納されている(写真撮影/飯田照明)

キッチン用品の棚には趣味のコーヒー豆やコーヒーミル。パスタなどの食材も見せて収納されている(写真撮影/飯田照明)

ギャラリーのような、このスペースはなんとトイレ! 歴代のお気に入りのスケボーが飾られ、収納を超えてオブジェ的存在に(写真撮影/飯田照明)

ギャラリーのような、このスペースはなんとトイレ! 歴代のお気に入りのスケボーが飾られ、収納を超えてオブジェ的存在に(写真撮影/飯田照明)

収納スペースの面でも、洋風のクローゼットより和風の押入れのほうが奥行きもあり物がたっぷり入る。この部屋を選んだ理由のひとつである押入れならではの奥行きをフルに活用して、衣類は全てこちらに引き出し式に収納している。ただしプラスティックケースなどふたつきでしまい込むと忘れるし、湿気がこもって服が傷んだ経験もあるので基本オープンに。押入れの戸も普段は開け放して使っている。

押入れスペースは一間分。上部は左右どちらもハンガーポールに上着を吊るし、下部は奥行きを利用した引き出す収納に。左下部にはパンツ類やトレーナーなどかさばる物を色別に、右はTシャツ類など軽い物を中心に(写真撮影/飯田照明)

押入れスペースは一間分。上部は左右どちらもハンガーポールに上着を吊るし、下部は奥行きを利用した引き出す収納に。左下部にはパンツ類やトレーナーなどかさばる物を色別に、右はTシャツ類など軽い物を中心に(写真撮影/飯田照明)

重量感がある衣類もたっぷり収納して楽々引き出せるワゴンは、押入れの奥行きぴったりのものをインターネットで探して購入(写真撮影/飯田照明)

重量感がある衣類もたっぷり収納して楽々引き出せるワゴンは、押入れの奥行きぴったりのものをインターネットで探して購入(写真撮影/飯田照明)

引越しても家具は買わない! 落ち着く和と好きなアメカジをミックスしてDIYサバイバル生活

島田さんが部屋で過ごす際は、インテリアのポイントになっている自作のテーブルを前に、床に座るかベッドをソファ代わりにするか。実はこの自作のテーブル、冬にはこたつにもなるという優れものでDIYに目覚めるきっかけとなった作品。

元々実家にもこたつがあって、椅子にテーブルというより床に座る生活がしたく、冬にはこたつが必須だった。ところがおしゃれなデザインのこたつはなく、友人からもらったこたつも手放せないし、狭い部屋なのでいくつもテーブルは置けない。イメージ通りのものを探してもなければ、おしゃれな天板をつくって通年使用しようと思ったのだという。

島田さんのインテリアのポイントとなるこたつ兼用のテーブルと壁収納はともにDIY作品。テーブルは大好きなコーヒーが似合うテーブルをと映画「コーヒー&シガレッツ」に出てくるチェッカーフラッグのテーブルのイメージからのオリジナルデザイン。壁収納はまだまだ進化中(写真撮影/飯田照明)

島田さんのインテリアのポイントとなるこたつ兼用のテーブルと壁収納はともにDIY作品。テーブルは大好きなコーヒーが似合うテーブルをと映画「コーヒー&シガレッツ」に出てくるチェッカーフラッグのテーブルのイメージからのオリジナルデザイン。壁収納はまだまだ進化中(写真撮影/飯田照明)

4年前の初DIY作品だというこたつテーブルの天板。チェッカーフラッグを少なめに市松模様風にして、周辺を木材で囲んで和テイストをミックスしたオリジナルデザインだ。冬にはこたつになるとは思えない、インテリアの中心。しかも制作日数は半日を3回程度、材料費約6000円だというから驚きだ(写真撮影/飯田照明)

4年前の初DIY作品だというこたつテーブルの天板。チェッカーフラッグを少なめに市松模様風にして、周辺を木材で囲んで和テイストをミックスしたオリジナルデザインだ。冬にはこたつになるとは思えない、インテリアの中心。しかも制作日数は半日を3回程度、材料費約6000円だというから驚きだ(写真撮影/飯田照明)

4年前にテーブルをつくってから、すっかりDIYに夢中に。「自分の部屋はスペースも限られているため、友人に頼まれたものでDIY修行しました(笑)」。マガジンラック、テーブル、靴箱、額など作品も多彩で「インスタグラムで #島田工務店 、として作品をアップしています」というから本格的だ。

今回の引越しの際も、新たな家具は購入せず、ないものはDIY でつくるという「DIYサバイバル生活」だという。壁の収納棚は見事な見せる収納で、収納量の確保とインテリアを兼ねている。

見せる収納のポイントになる自作の収納棚はテレビ台も兼ねた優れもの。材料費5000~6000円、制作日数は色塗りから始めて、トータル2日間だという(写真撮影/飯田照明)

見せる収納のポイントになる自作の収納棚はテレビ台も兼ねた優れもの。材料費5000~6000円、制作日数は色塗りから始めて、トータル2日間だという(写真撮影/飯田照明)

壁収納は、賃貸なので傷をつけず原状復帰できるように気を付けてDIY。支柱となる角材5本を高さ調整できる突っ張り金具のパーツで固定し、角材に一枚の板を箱状にした収納棚を付けてつくる(写真撮影/飯田照明)

壁収納は、賃貸なので傷をつけず原状復帰できるように気を付けてDIY。支柱となる角材5本を高さ調整できる突っ張り金具のパーツで固定し、角材に一枚の板を箱状にした収納棚を付けてつくる(写真撮影/飯田照明)

カーテンはIKEAのクリップで切った布を挟んで吊るしただけのシンプルなもの、ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに馴染むよう着色して台にして、マットレスを乗せただけの簡単なDIY。確かに全てDIYで新しく買ったものはないにもかかわらず、この部屋にぴったりで島田さんの個性あふれる部屋に仕上がっている。

ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに合うよう着色した土台の上にマットレスを置いただけのシンプルなもの。「通気性もあり、低めでちょうど使いやすいです」(写真撮影/飯田照明)

ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに合うよう着色した土台の上にマットレスを置いただけのシンプルなもの。「通気性もあり、低めでちょうど使いやすいです」(写真撮影/飯田照明)

自分の部屋のインテリアだけでなく、いまでは友人からのDIY依頼物も多くて、製作待ちリストがあるという島田さん。この部屋もこれから洗濯機上にランドリースペースをつくるなど、収納を増やしていく予定とのこと。お気に入りのインテリアショップに行っても「高い家具はなかなか買えないので、インスピレーションだけもらってDIYのパーツを買って帰ります」という徹底したDIY女子。賃貸1Kをこれだけ自分らしく住みこなせるのは、DIYの腕とセンスと工夫あってこそ、ですね。

●取材協力
・BEAMS

BEAMS流インテリア[4] 新しいのに懐かしい、ビンテージ好きが選んだ経年変化を楽しむ古民家暮らし

渋谷のBEAMS MEN SHIBUYAでショップマネージャーとして働く近藤洋司(こんどう・ひろし)さん。ファッションだけでなくインテリアもビンテージ好きで、住まいは築50年の平屋を全面リノベーションしたという徹底ぶり。鎌倉の高台に建つ、自然と古き良きものに囲まれた、ちょっと懐かしい感じがする古民家のお宅にお邪魔した。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。経年変化で味わいが増し、価値が落ちないのがビンテージの魅力

鎌倉の築50年の平屋を一年がかりで探し、さらに約半年かけてリノベーションしたという近藤さん。ガーデニング関連の仕事をする妻と2人で住む新居だ。「神奈川出身なので、家を持つならなじみが深く自然豊かなエリアがいいと思い、鎌倉、逗子、葉山で古民家を探し始めました」

近藤さんは、住まいだけでなくファッションもインテリアのコレクションなども一貫して、大のビンテージ好き。ビンテージとの出合いは、中学生のころ。当時サッカーの中田選手や前園選手がビンテージ物の服を着こなしているのに影響を受け、古着に凝り始めたのだという。今でも古着好きで、仕事にもつながる筋金入りだ。

寝室のクローゼットコーナー3列のうち右側2列が近藤さん分。洋服の半分は新品、半分は40年代から70年代ものだという古着好き(写真撮影/片山貴博)

寝室のクローゼットコーナー3列のうち右側2列が近藤さん分。洋服の半分は新品、半分は40年代から70年代ものだという古着好き(写真撮影/片山貴博)

古着の次は、働き始めてから食器に凝り始めた。「いい食器があるとモテるかな、と思って(笑)」とビンテージの北欧食器、ARABIA(アラビア)の絵皿を約8000円で単品購入。そうするとシリーズでそろえたくなって、海外駐在していた姉に頼んだり、インターネットなどさまざまなルートで集めたという。

キッチンのオープンな収納棚には、シリーズごとにRORSTRAND(ロールストランド)やARABIAなどのビンテージ北欧食器がずらり(写真撮影/片山貴博)

キッチンのオープンな収納棚には、シリーズごとにRORSTRAND(ロールストランド)やARABIAなどのビンテージ北欧食器がずらり(写真撮影/片山貴博)

さらにビンテージのコレクションは家具、雑貨、インテリア小物などと、広がっていく。「新しい物より、古い物の方が好きです。ストーリーがあるし、何より本物だから」という近藤さん。「本当にいい物で新しい物は高くて手が出なかったり、数が限られていて手に入らなかったり。さらに新品は中古になった瞬間に価値が下がるけれど、ビンテージ物は価値が下がりにくいのも魅力です」。

古い日本家屋にインダストリアルなテイストを組み合わせた独自空間

新居を探す際、住まいも価値が下がらないビンテージをと考えた。ところが、中古住宅を見学しても、築20年や30年ではただ古いだけで、味わいがあるちょうど良い古さの家はなかった。物件探しを始めて約一年、ようやく鎌倉の高台に建つ築50年の平屋に出合う。古いうえに小部屋が多くて室内は暗く、空き家になって長いため、庭にはススキや雑草が生い茂っていた。それでも「おばあちゃんが住んでいそうな懐かしい感じ。縁側があって、木の建具やレトロなガラスなど、求めていたイメージにピッタリでした」。

早速、雑誌などで作品を見て設計依頼したいと思っていた宮田一彦アトリエさんと現地へ。海が近く湿気が多い鎌倉だが、高台なので古くても基礎や土台は傷んでいないとプロからのお墨付きをもらい、購入して暗く使いにくい間取りは全面的にリノベーションをすることにした。

昔ながらのレトロな木製建具が残る平屋に一目惚れして、これを活かしてリノベーションすることに。高台にあるので遠くの山並みも見えて眺めも良い(写真撮影/片山貴博)

昔ながらのレトロな木製建具が残る平屋に一目惚れして、これを活かしてリノベーションすることに。高台にあるので遠くの山並みも見えて眺めも良い(写真撮影/片山貴博)

リノベーションにあたって近藤さんからオーダーしたのは3つ。アイランドキッチンにすること、フローリングを山形杉の柿渋塗装(柿渋からつくった液による古くからある日本の塗装方法。時間経過によって味わい深い色へと変化していくのが魅力)にすること、物が多いので最大限の収納スペースをつくること。「作品例を見てテイストは気に入っていたので、基本的に間取りはお任せしました」。

近藤さんの住まいのビフォーアフター。4畳半を中心に細かく仕切られ暗かった約60平米を、仕切りを全て取り払い、LDK・寝室・水まわりのシンプルでオープンな空間に(近藤さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

近藤さんの住まいのビフォーアフター。4畳半を中心に細かく仕切られ暗かった約60平米を、仕切りを全て取り払い、LDK・寝室・水まわりのシンプルでオープンな空間に(近藤さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

そして出来上がったのは、大きなLDKと寝室と水まわりに分かれたオープンな空間。天井は全て構造材をむき出しにして、ギリギリまで天井の高さを利用してロフトをつくり、物を置けるようにして収納の悩みを解決した大胆なリノベーションだ。

LDKの中央にはステンレスのアイランドキッチン。照明はむき出しの蛍光灯と2つの50年代フランスの工業用照明がインテリアのポイントに(写真撮影/片山貴博)

LDKの中央にはステンレスのアイランドキッチン。照明はむき出しの蛍光灯と2つの50年代フランスの工業用照明がインテリアのポイントに(写真撮影/片山貴博)

LDKと寝室を仕切るのは大正末期の「蔵戸」といわれる重厚な引き戸。アンティーク家具ショップをはしごしてイメージに合うものを近藤さん自身が探した(写真撮影/片山貴博)

LDKと寝室を仕切るのは大正末期の「蔵戸」といわれる重厚な引き戸。アンティーク家具ショップをはしごしてイメージに合うものを近藤さん自身が探した(写真撮影/片山貴博)

寝室の奥には広くオープンなクローゼットスペース。「クローゼットの中は隠したいものではないし、使い勝手の面でも湿気対策面でも扉を付ける必要を感じません」(写真撮影/片山貴博)

寝室の奥には広くオープンなクローゼットスペース。「クローゼットの中は隠したいものではないし、使い勝手の面でも湿気対策面でも扉を付ける必要を感じません」(写真撮影/片山貴博)

収納は縦空間を利用、古い日本家屋にインダストリアルでレトロなインテリア

近藤さんの収納のポイントは、何といっても縦空間の活用。平屋の天井高をフル活用して、ロフトを収納スペースにしていることだ。「季節外の衣類や趣味のキャンプ用品など、かなりの量を収納できて助かっています」。

基本的に全て見せる収納。物はかなり多いほうだというが、これをきれいに見せる秘訣は「きれいに畳むことと、同じものを集めてメリハリをつけること」。なるほど、物をたくさん置くコーナーと、何も置かず、置く場合も間隔を空けてスッキリ見せるコーナーと、メリハリをつけているのだという。

玄関の上など天井裏は全て収納スペースに。かさばるシュラフは天井から吊るして見せて収納。まるでアウトドアショップの展示のようなこのコーナーには物を雑然と、間隔も狭くたくさん置いている(写真撮影/片山貴博)

玄関の上など天井裏は全て収納スペースに。かさばるシュラフは天井から吊るして見せて収納。まるでアウトドアショップの展示のようなこのコーナーには物を雑然と、間隔も狭くたくさん置いている(写真撮影/片山貴博)

洋服は色別・柄別にまとめてきれいに畳むのが見せる収納のコツ。床から天井まで、ハンガーポールの上部も靴などがびっしり(写真撮影/片山貴博)

洋服は色別・柄別にまとめてきれいに畳むのが見せる収納のコツ。床から天井まで、ハンガーポールの上部も靴などがびっしり(写真撮影/片山貴博)

季節外の衣類はアーミー風のトランクにまとめて収納。そのまま寝室のインテリアにもなっている(写真撮影/片山貴博)

季節外の衣類はアーミー風のトランクにまとめて収納。そのまま寝室のインテリアにもなっている(写真撮影/片山貴博)

ビンテージの北欧食器コレクションをディスプレイするため、天井から吊って食器棚をあらかじめ造り付けた。天井までの空いたスペースも季節外の衣類などの収納に(写真撮影/片山貴博)

ビンテージの北欧食器コレクションをディスプレイするため、天井から吊って食器棚をあらかじめ造り付けた。天井までの空いたスペースも季節外の衣類などの収納に(写真撮影/片山貴博)

インテリアも「好きな物を集めただけ」というが、全て徹底したレトロ。日本の古い物はもちろん、北欧、フランス、アフリカ、など国はバラバラだが、共通するのは古き良き懐かしいテイスト。「古い日本家屋にインダストリアルなテイストを組み合わせた」という狙いどおりの仕上がりになっている。

昭和の建具、50年代のフランスの照明、フィンランドの50年代のダイニングテーブルと椅子、これらが見事に調和している(写真撮影/片山貴博)

昭和の建具、50年代のフランスの照明、フィンランドの50年代のダイニングテーブルと椅子、これらが見事に調和している(写真撮影/片山貴博)

レトロな模様のガラス入りの建具や障子は、この家の雰囲気に合わせて近藤さんがアンティークショップ巡りをしてサイズが合うものを探し出した(写真撮影/片山貴博)

レトロな模様のガラス入りの建具や障子は、この家の雰囲気に合わせて近藤さんがアンティークショップ巡りをしてサイズが合うものを探し出した(写真撮影/片山貴博)

少し無理をしてでも本物を買う、という近藤さん。「模倣されたデザインの物が次々に生まれても、その原点である本物を知っていることは仕事の現場でも役に立ちます」。新品は買った時が一番新しく徐々に古くなっていくが、ビンテージ物は経年変化が味になって価値が落ちにくい。新品では手に入らない物でも、時間が経つと手に入りやすいというメリットもあり、自分の元に来るまでのストーリーごと楽しんでいるという。徹底したアンティーク好きのお洒落な古民家、初めて訪れたのに懐かしい気持ちになり和みました。

●取材協力
・BEAMS

BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで

ご夫婦ともにスーパーバイザーの村口良(むらぐち・りょう)さんと恭子(きょうこ)さん。40歳前後のお2人、そろそろ脱賃貸をとマイホームに選んだのは、立地も建物もどちらも妥協しない注文住宅。古都・鎌倉駅に近い土地を選び、建物もデザインや素材ひとつひとつにこだわり、しかも予算内に収めたアイデアいっぱいの新居を紹介しよう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。ファッションだけでなくライフスタイルもおしゃれに。予算内で土地も建物も妥協なしバルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

バルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

ともにファッション好きで、BEAMSは憧れの職場だったという村口夫妻。若いころは洋服ばかりたくさん買って、後は飲み代に消えていたというが、会社の先輩の家に遊びに行き、そのライフスタイルに刺激を受け、考え方が変わったという。「ファッションだけでなくライフスタイルや生き方そのものをお洒落にしようと、目で盗んでインテリアセンスを磨きました」と村口さん。

「予算に限りがあるものの、土地・建物どちらも妥協したくなかった」というお2人がマイホームに選んだのは、土地探しから始める注文住宅。立地は通勤に便利な都内か、自然豊かな古都・鎌倉。運よく探し始めてすぐに、鎌倉駅から徒歩圏の、自然にも文化にも恵まれたイメージ通りの土地に巡り合い購入した。

知人でセンスも信頼できるデザイナーに依頼して、家のデザインイメージや間取りも決まった。そこまではとんとん拍子だったが、デザイナーは関西在住。地元でイメージ通りの家を建ててくれる工務店探しをすることになり、これが難航した。別プランを提案されたり、大幅に予算オーバーになったりを繰り返し、施工会社が決まるまでに20社近くとやり取りをする結果となった。

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村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

古い街並みになじむモダンな家に。イメージに合う建具を自ら探し出し、特注も

新居のコンセプトは古都・鎌倉のモダンな家。古い街並みの中に、コンクリートやモルタルに真鍮(しんちゅう)や鉄などの金属を組み合わせた、モダンなイメージにこだわった。階段やバルコニーの手すりや寝室ドアはオーダーの鉄製。鉄の素材にこだわっていたものの、工務店に提案されたものがコスト的に合わず、自分で新潟県燕三条の会社を探し出して特注したという。

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

キッチンもイメージに合う既製品が高かったので、コンロなどのパーツはデザイン性の高い物を選び、モルタルとステンレスの組み合わせで造作して予算内に収めた。家づくりの過程ひとつひとつに手間をかけ、毎晩のようにインターネットで情報収集し、毎週末工務店と打ち合わせを繰り返したという努力の甲斐あって、イメージ通りの建物がなんと2000万円以内という予算内で出来上がった。

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

とはいえ、「少し無理してでも、妥協せずその時に最大限にいい物を選ぶべき」とアドバイスする村口さん。実はコストダウンのため玄関の照明に安い物を選んだものの、毎日見るたびに気になり、結局入居後早々に変更したという。「最初からいいほうを選んでいたら工事代もかからなかったのに(笑)」。

徹底的な「見せる収納」、絵になる秘訣は妥協しないモノ選びと統一感

村口家の収納の特徴は徹底した「見せる収納」。ウォークインクローゼットもキッチンの収納棚も全てオープンで、トイレットぺーパーのストックさえも見せて収納しているという。

「見せる収納の秘訣は、置きっぱなしになっていても絵になる、見せていい物を選ぶこと」という村口さん。「手鏡は北欧の木の置物のようなデザインのものに、ハンドクリームは国産でなくデザインが洒落た海外の缶入りに変えてリビングに置いています」と恭子さん。

細かなものが集まりがちなキッチンも全てオープン。整然として見えるのは、調理器具のメーカーがBALMUDAで統一されていたり、並んだ調味料ラベルを包装紙でくるんでいたり、細かい物は籠や箱や壺などの入れ物にまとめて入れるなどの工夫をしているから。使いやすく、きれいに見えるちょっとした工夫を積み重ねているのだ。

服も見せる収納。「畳むのは2人ともお手のもの。20年やっているプロですから(笑)」と恭子さん。「色や素材別にまとめるときれいに見えます」と村口さん。仕事柄服も増える一方だが、定期的に人にプレゼントしたり切ってふきんとして使ったりして総量をセーブするように心がけている。

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

引越しをきっかけに仕事中心だったライフスタイルが激変したという村口夫妻。庭づくりや周辺散策などやりたいことが沢たくさんあり、休日が待ち遠しいという。「仕事の張り合いにもなって、住まいって大事だなとしみじみ」と恭子さん。ベランダに照明をつけ、お気に入りの郵便受けを設置し、庭をモダンな金属製フェンスで囲み、ベランダに置く植物を選ぶ……まだまだこだわりの住まいは進化を続けています。

●取材協力
・BEAMS

BEAMS流インテリア[2] 世界各国のアンティーク家具・民芸品がつくりだす極上おもてなし空間

一生ものの家具に出会うまでは妥協なし。捨てるのが嫌なので、気に入ったものに巡り合うまではたとえ不自由でも間に合わせは買わない、と断言するスタイリングディレクターの和田健二郎(わだ・けんじろう)さん。お眼鏡にかなった世界各国の民芸品、家具、ファブリックなどが創り出す独自なミックステイストは、BEAMSスタッフ間でも羨望の的。とびきりのセンスと、居心地の良さの秘訣を探ってみましょう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。オープンなLDK空間とプライベート空間を分けた最上階のメゾネット

和田さんが住むのは、世田谷の住宅街を見渡す低層マンションの最上階メゾネット。購入してリノベーションしたのは約8年前。結婚して借りた下北沢の1LDKのメゾネットにも8年住んでいた。「上下階で空間を分ける暮らしが気に入っていたので、中古マンションを探す際もメゾネットにこだわりました」(和田さん・以下同)。

元々住んでいた下北沢の近くで探し始めたものの、人気の沿線、かつメゾネットは数が少ないため、物件探しは長期戦に。半年過ぎて諦めて別の中古マンションに決めかけていたころ、東南角部屋の100平米を超す広さのこの部屋に巡り合った。「最上階で窓も多く、視界のヌケ感や空の広さが理想通り」と即決。当時築30年だったマンションを、同じ鹿児島出身のLAND SCAPE PRODUCTSさんに依頼してリノベーションすることにした。

コンセプトは「人が集まりやすい家」。玄関を入ったフロアはLDKメインのオープンな空間にするため、2つの部屋をひと続きにして広々と。LDKの一部に小上がりをつくって変化をつける、キッチンコーナーもオープンに、壁は漆喰(しっくい)、など妻と相談しながら空間イメージや素材もスケッチにして具体的に提示した。

和田さんのお住まいはマンションの最上階、4階と5階のメゾネット。人が集まりやすいよう玄関を入ったフロアをパブリックスペースに、階段をあがった上階を寝室や子ども部屋などのプライベートスペースに(和田さん提供資料を基にSUUMOジャーナルにて作成、上階省略)

和田さんのお住まいはマンションの最上階、4階と5階のメゾネット。人が集まりやすいよう玄関を入ったフロアをパブリックスペースに、階段をあがった上階を寝室や子ども部屋などのプライベートスペースに(和田さん提供資料を基にSUUMOジャーナルにて作成、上階省略)

「全ての希望はかない、壁の一部に大谷石を使うなど面白い提案ももらい、仕上がりの満足度は120%です」

玄関を入ると20畳以上の明るく広々したLDK。ウェグナーのダイニングテーブル(デンマーク)、革製ロバのスツール(スペイン)、パーシヴァル・レイファーの黒革ソファ(ブラジル)、100年以上前の食器棚(イギリス)など世界各国のこだわりのインテリアが並ぶ(写真撮影/飯田照明)

玄関を入ると20畳以上の明るく広々したLDK。ウェグナーのダイニングテーブル(デンマーク)、革製ロバのスツール(スペイン)、パーシヴァル・レイファーの黒革ソファ(ブラジル)、100年以上前の食器棚(イギリス)など世界各国のこだわりのインテリアが並ぶ(写真撮影/飯田照明)

リビングの一角にはお気に入りのスツールや小物をディスプレーする小上がり空間。冬にはここがこたつコーナーになるという。LDKの壁は漆喰、棚の奥は大谷石で空間のアクセントに(写真撮影/飯田照明)

リビングの一角にはお気に入りのスツールや小物をディスプレーする小上がり空間。冬にはここがこたつコーナーになるという。LDKの壁は漆喰、棚の奥は大谷石で空間のアクセントに(写真撮影/飯田照明)

小上がりの下は、段差を利用して引き出し式の大きな収納スペースに。3つある引き出しには季節外のラグやこたつなど模様替え用のファブリック中心。かさばるものも重いものも入って便利(写真撮影/飯田照明)

小上がりの下は、段差を利用して引き出し式の大きな収納スペースに。3つある引き出しには季節外のラグやこたつなど模様替え用のファブリック中心。かさばるものも重いものも入って便利(写真撮影/飯田照明)

世界各国の椅子が20脚以上! 妥協しないインテリア選びの秘訣

リビングの小上がりは、いま和田さんが気になっているものをディスプレーする舞台のようなコーナー。インテリア小物、美術書などの絵になる本、スツール類が無造作に並ぶ。現在、棚にはテイスト別に民族ものやビンテージものなどお気に入りの服がお店のように並び、こまめに模様替えも楽しんでいるという。

ここにある柳宗理(やなぎ・そうり)デザインのバタフライスツール3脚は、20年前に出会って和田さんがインテリアに関心をもつキッカケとなったもの。

棚上段に中国やアフガニスタンの民族ものの衣服、2段目にアメカジやボーダー、3段目にデニム、チノパン、ミリタリー、ビンテージものを分類。その下には3脚のバタフライスツール、手前には部族によってデザインが違うアフリカのスツール類を集めて植物を置いている(写真撮影/飯田照明)

棚上段に中国やアフガニスタンの民族ものの衣服、2段目にアメカジやボーダー、3段目にデニム、チノパン、ミリタリー、ビンテージものを分類。その下には3脚のバタフライスツール、手前には部族によってデザインが違うアフリカのスツール類を集めて植物を置いている(写真撮影/飯田照明)

「曲線的なフォルムの美しさに惹かれて。日本製とは思えないデザインと技術力に驚き、売り場の商品だったので説明できるよう、インテリアの勉強を始めました」

臨時収入があると飲み代に消えていたお金で、このバタフライスツールを買った。そこからスツールに凝り始め、「すっかり椅子フェチ、いまではスツールだけで20脚以上あります(笑)」
※スツールとは背もたれなしの椅子のこと

スツールのなかでも貴重なのが、アフリカ民芸もの。一本の太い木をくり抜いてつくられる接ぎ木のないもので、部族ごとにデザインも違う、木材・技術ともに今やつくることが難しい一点物のアンティーク。そのほか、フィンランドのサウナスツール、スペインの革製ロバなど、国も素材も年代も多様。「好きなモノをイメージして探し続ければいつか出会える」という。

実際、海外のフリーマーケットや近所のアンティークショップまでさまざまなところで出会いがあり、「海外から大荷物を背負って帰ることもしばしば」とのこと。

家具や小物だけでなく、中東、アジア、アフリカなどの民族着やファブリックもコレクションに。「年代を経た手の込んだ一点物を見るとつい買ってしまいます」。ラグは、季節ごとに模様替えを楽しんでいるという。

「家具は捨てるとき大きなゴミになるから買い替えが嫌。買うときは一生ものだと思って慎重に選び、間に合わせで妥協はしない」という和田さん。結婚当初、欲しいローテーブルが2~3年待ちと言われ、納品まで不便でもローテーブル無しで過ごした。当時から人が集まる家にしたいという思いがあり、ダイニングテーブルも2人暮らしには大きい6人掛けサイズを選んだ。その甲斐あって、家族が増え住まいが変わったいまも全て大活躍中だ。

フローリングは全てオーク材、壁は漆喰など大規模なリノベーションだったが、工事中の廃材もなるべく出さないように気遣った。「天井や床も、全て元の素材の上から張ってもらいました。ゴミも出ないし、断熱や防音も兼ねられるので一石二鳥です」。

奥のキッチンは、タイルの色までこだわって妻がデザイン画を作成してイメージを伝えた。左の食器棚はイギリスの100年超えのアンティーク、右は大正末期の水屋箪笥というミックス感。手前のローテーブルが2年待ち、フィンランドのタピオ・ヴィルカラ(写真撮影/飯田照明)

奥のキッチンは、タイルの色までこだわって妻がデザイン画を作成してイメージを伝えた。左の食器棚はイギリスの100年超えのアンティーク、右は大正末期の水屋箪笥というミックス感。手前のローテーブルが2年待ち、フィンランドのタピオ・ヴィルカラ(写真撮影/飯田照明)

既成概念にとらわれず、収納も自由な発想でアレンジ

素敵な一点物を買ってきて置いているだけでは生まれない、異なるインテリアテイストのミックス感が生みだす独自のハーモニーもある。もちろんそれぞれが和田さんのお眼鏡にかなったという前提はあるものの、国も年代もテイストも素材もバラバラなものを組み合わせる秘訣は何だろうか。

「ものをありのままでとらえるのではなく、自由な発想でアレンジして組み合わせを楽しんでいます」。手に入れたものはそのまま使うだけでなく、色を塗ったり、用途を変えたり、パーツを変えたり、ちょっとした手間や工夫で見違えるような変化があるというのだ。

リビングのイギリスのアンティークの食器棚は、背が高く圧迫感があるためひとつのものを上下別々に2カ所で使用。玄関の昭和な下駄箱とリビングに続くアンティークの扉は、形も素材も異なるテイストを合わせるため色を塗る、などDIYのひと手間をかけた。小物を飾る際も、ひとつの下駄箱の上は日本の作家のものでまとめる、一方はアフリカの仮面など、同じテイストのものを固めるのもテクニックのひとつだ。

玄関ドアを開けると、マンションの玄関とは思えない広々した空間にパタパタ扉付きの昭和レトロな下駄箱が2つ。収納としての機能だけでなく、家具の存在そのものが絵になる(写真撮影/飯田照明)

玄関ドアを開けると、マンションの玄関とは思えない広々した空間にパタパタ扉付きの昭和レトロな下駄箱が2つ。収納としての機能だけでなく、家具の存在そのものが絵になる(写真撮影/飯田照明)

苦労して運び込んだという下駄箱の上は、日本の作家ものの陶器をディスプレー。昔の小学校の雰囲気そのままで使うのではなく、黒のペンキを塗り、取っ手を真ちゅうのボタン型に変えることで、波型ガラスが映える雰囲気あるインテリアに早変わり(写真撮影/飯田照明)

苦労して運び込んだという下駄箱の上は、日本の作家ものの陶器をディスプレー。昔の小学校の雰囲気そのままで使うのではなく、黒のペンキを塗り、取っ手を真ちゅうのボタン型に変えることで、波型ガラスが映える雰囲気あるインテリアに早変わり(写真撮影/飯田照明)

「あまり得意ではない」と謙遜しながら、さらにDIYで収納量アップの工夫も。下駄箱は箱内も板で仕切り、収納出来る靴の数を2倍3倍に。この2つに入りきらない靴類は、クロークの壁にDIYで棚を付けて大量に収納している。

出番待ちの靴や衣類を大量に収納するクローク。靴の高さに合わせてIKEAで購入したパーツと板でDIY、木製のネクタイ掛けはBROOKS BROTHERSのショップで使われていたものをDIYした(写真撮影/飯田照明)

出番待ちの靴や衣類を大量に収納するクローク。靴の高さに合わせてIKEAで購入したパーツと板でDIY、木製のネクタイ掛けはBROOKS BROTHERSのショップで使われていたものをDIYした(写真撮影/飯田照明)

上階寝室の窓際には、DIYで天井から帽子掛けを吊るして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

上階寝室の窓際には、DIYで天井から帽子掛けを吊るして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

マンションとは思えない玄関のしつらえ、風が吹き抜ける眺めのいい広々したLDK。世界各国の民芸とミッドセンチュリーが融合したインテリア。「妥協しないから失敗はしない」「いい物を選ぶと収納も楽しくなる」という言葉に納得の美術館のようでいて居心地もいいお住まい。ほぼ毎週末来客があり、年末には20人を超すゲストと忘年会を開いているというのも納得の、居心地の良さを兼ね備えた極上空間でした。

●取材協力
・BEAMS

収納家具なし! 見せ方・隠し方に技アリのオープン大空間【BEAMS流インテリア(1)】

同期入社で結婚4年目、というプレスの安武俊宏(やすたけ・としひろ)さんとディレクターで現在は産休中の恵理子(えりこ)さん。初めての出産を控えたご夫妻の住まいは、コンクリートむきだしの大空間をガラスの建具で緩やかに区切る、大胆にリノベーションされたマンション。照明や椅子など、インテリアひとつひとつにストーリーがあるものを選び抜いた、アイデアいっぱいの空間を拝見します。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のディレクター、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。自分たちらしい空間を求めて中古マンションをモダンにリノベーション

プレスとディレクターという、華やかなお仕事についている安武ご夫妻。ファッションが好きで入社したお2人ですが、洋服はその時々に好きなものを買い、かつ仕事で毎日関わっているので、オフのときは逆にインテリアやライフスタイルを大切にするようになったとのこと。2人の共通の趣味も、インテリアショップや雑貨店巡りと旅行だという。

安武さんは、プレスとして『BEAMS AT HOME』等の書籍制作も担当。この仕事を通して、ますますインテリア熱も高まったという。現在4冊発行されているシリーズの1冊目に、結婚前に2人で住んでいた部屋が掲載され、恵理子さんの名字をプレス権限で「安武」に変えて発行するというサプライズがプロポーズだったというから、公私ともに住まいと縁が深い。

1冊目発行後の2015年1月に結婚、さらに自分たちらしい空間を求めて、2016年1月から家探しを開始。2人とも仕事が忙しいので都心へのアクセス最優先で渋谷区・目黒区・港区に限定し、リノベーション前提なので築年数関係なく、50平米後半の中古マンションを探した。

SUUMOで物件検索して、これはというものがあれば週末ごとに内見へでかけたものの、なかなかピンと来る物件はなかった。さらに条件を新宿区まで広げたところ、神楽坂駅に近く通勤30分、当時築37年60平米のこの物件に巡り合う。既に20件以上見学していたので即決し、それからは5月末契約、仕事仲間に紹介されたデザイナーにリノベーション依頼、8月に完成・入居と、とんとん拍子だった。

リノベーション後の安武さん宅の間取り。玄関を入って廊下正面がLDK空間。寝室にはLDKからも、玄関から直接納戸経由でも出入りすることができる(安武さん提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

リノベーション後の安武さん宅の間取り。玄関を入って廊下正面がLDK空間。寝室にはLDKからも、玄関から直接納戸経由でも出入りすることができる(安武さん提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

玄関を入って廊下右手に水まわり、左手に寝室、正面の扉奥がLDK。廊下左の壁一面は収納になっている(写真撮影/飯田照明)

玄関を入って廊下右手に水まわり、左手に寝室、正面の扉奥がLDK。廊下左の壁一面は収納になっている(写真撮影/飯田照明)

趣味のインテリアショップ巡りで磨いたセンスで長く使える良いものを選ぶ

リノベーションで元々あった壁や天井、内装などを一度すべて壊してスケルトン状態から出来上がったのは、コンクリートや配管がむき出しのLDKを中心に、書斎兼収納、寝室、玄関・水まわりの3つの空間を黒のガラス入り建具で緩やかに仕切った大空間。約60平米というが、ガラス越しに視線がつながって一体感があるため広く感じる。

インテリアのテイストは、好みの写真などをデザイナーと共有しながら、相談してつくり上げていったという。
休日はお気に入りのインテリアショップ巡りをしているというお2人だけあって、センスも抜群。色味を抑えたモノトーンのモダンなテイストでまとめている。

「インテリアで最初に決めていたのはダイニングの照明。フランスの名作照明でずっと欲しかったけれど工事が必要なので賃貸時代は我慢していたので」という安武さん。「私は毎日使う水まわりにこだわりました。キッチンは造作にしてLDKの中心に、バスルームもホテルライクにしました」という恵理子さん。

多少優先順位は違うものの、美しい物へのこだわりやセンスは一致している。例えば、LDKにある2脚の名作椅子。入居前、新居のインテリアに合うリラックスチェアを探していたところ、繊細で美しいフォルムのポール・ケアホルムPK22に巡り合う。高価なため中古品も探したが条件に合うものがなく、ちょうど発売になった限定モデルが色も素材もぴったりで一脚約50万円を即決したという。ペンダントライトも作家の一点もの。

「2つ欲しかったけど、ひとつでいいじゃないとは言われました(笑)」と安武さん。目線より高い位置にものを置かないことで空間を広く見せ、ぶら下がった照明でメリハリをつけているという。

線が細いフォルムのポール・ケアホルムPK22の60周年記念モデル・グレーのヌバック素材が優しくインテリアに溶け込む。クッションと絨毯(じゅうたん)はモロッコ旅行の際に2人で選んだもの(写真撮影/飯田照明)

線が細いフォルムのポール・ケアホルムPK22の60周年記念モデル・グレーのヌバック素材が優しくインテリアに溶け込む。クッションと絨毯(じゅうたん)はモロッコ旅行の際に2人で選んだもの(写真撮影/飯田照明)

オープンな大空間は収納家具に頼らず、隠すべきものは隠し方にもこだわって

リビングからは、ガラスの建具越しに部屋全体が見渡せる。仕事柄洋服や小物なども多いはずだが、いったいどこに収納しているのか。空間を広く見せるために、大きな収納家具は置かない主義。確かに食器棚も洋服ダンスも見当たらない。

玄関の廊下には、それぞれの靴とバッグ専用の壁面収納を造り付けた。2人合わせて実に靴150足はあるというが、扉を閉めればスッキリ。扉で隠す造作収納は玄関収納のほか、家の中心にあるキッチン収納だ。いわゆる食器棚は置かず、吊戸棚もなく、アイランド型キッチンの下に食器類も全て収納している。

写真左:玄関の壁面上部にロードバイク、反対側は一面4カ所の壁面収納、扉を閉めればスッキリ。写真右:壁面収納はちょうど靴が入る奥行きで、夫婦それぞれの靴やバッグ用。靴だけで安武さん100足、恵理子さん50足は超える(写真撮影/飯田照明)

写真左:玄関の壁面上部にロードバイク、反対側は一面4カ所の壁面収納、扉を閉めればスッキリ。写真右:壁面収納はちょうど靴が入る奥行きで、夫婦それぞれの靴やバッグ用。靴だけで安武さん100足、恵理子さん50足は超える(写真撮影/飯田照明)

食器棚も置かず、アイランドキッチンの下に食器類も収納。「キッチンは造作で細かな仕切りや棚がなかったので、引き出せる棚を通販で探しました」(写真撮影/飯田照明)

食器棚も置かず、アイランドキッチンの下に食器類も収納。「キッチンは造作で細かな仕切りや棚がなかったので、引き出せる棚を通販で探しました」(写真撮影/飯田照明)

衣装持ちのはずだが、衣類はどうしているのか。まずは玄関からも直接出入りできる、便利な寝室のウォークインクローゼット。ここは頻繁に着るシーズンものを中心に、ハンガーパイプに吊るした、オープンで使いやすい収納だ。しかし収納量には限りがある。

LDKとガラスの建具で仕切られた寝室(写真撮影/飯田照明)

LDKとガラスの建具で仕切られた寝室(写真撮影/飯田照明)

寝室奥のウォークインクローゼットはシーズンものの洋服を手前に、奥には頻度低めのスーツやコートがかけられるようになっている(写真撮影/飯田照明)

寝室奥のウォークインクローゼットはシーズンものの洋服を手前に、奥には頻度低めのスーツやコートがかけられるようになっている(写真撮影/飯田照明)

ベッド奥の出窓を利用して本などを見せて収納(写真撮影/飯田照明)

ベッド奥の出窓を利用して本などを見せて収納(写真撮影/飯田照明)

シーズン外の物は書斎兼ウォークインクローゼットにあるというが、一切目に入らない。不思議に思って尋ねると、インテリアにもなる洒落た丸箱には布団が、アンティークの旅行鞄などに季節外の洋服やバッグ類を入れているのだという。クローゼットでさえも生活感なくセンスがいいのは、収納家具に頼らず、さらに収納する入れ物自体もデザインにこだわって選んでいたからだった。ガラス越しに見渡せるひと続きの大空間は、見せ方も隠し方も技ありだった。

机の上にハンガーポールや棚が造り付けられた書斎兼ウォークインクローゼット。一見ただの書斎にしか見えないほど整然としているが、アルミ製のキャンプ用品の収納ケース(机の上部、棚の最上段)やインテリアショップで見つけたデザイン性の高い丸箱(写真右)、アンティークの大型旅行鞄やコンテナ(写真左)に季節外の物を全て収納(写真撮影/飯田照明)

机の上にハンガーポールや棚が造り付けられた書斎兼ウォークインクローゼット。一見ただの書斎にしか見えないほど整然としているが、アルミ製のキャンプ用品の収納ケース(机の上部、棚の最上段)やインテリアショップで見つけたデザイン性の高い丸箱(写真右)、アンティークの大型旅行鞄やコンテナ(写真左)に季節外の物を全て収納(写真撮影/飯田照明)

スノーピークのキャンプ用品の収納ケースは、積み重ねも可能で多目的に使える。現在は季節外の衣類を入れて収納ケースとして棚の最上段で使用(写真撮影/飯田照明)

スノーピークのキャンプ用品の収納ケースは、積み重ねも可能で多目的に使える。現在は季節外の衣類を入れて収納ケースとして棚の最上段で使用(写真撮影/飯田照明)

「長く使えるいいものを」と、2人のアンテナにかかるものをひとつひとつ選んでいった安武夫妻。家にあるもの全てに「インテリアショップで一目惚れした照明」「新婚旅行で訪れたモロッコで気に入った絨毯や写真」「ずっと欲しくて運命的に限定モデルが手に入ったチェア」など、素敵なストーリーがある。隠すものは上手に隠し、好きなモノだけを見渡せる大空間。もうすぐ家族3人になる安武家。お子さんが生まれてからの、お2人のセンスを活かした住まいの変化も楽しみです。

●取材協力
・BEAMS

ミラノサローネ2018リポート!キッチンもインスタレーションも“JAPANESE”が注目の的

今年で57回目を迎える【ミラノサローネ国際家具見本市/Salone del Mobile.Milano (以下、ミラノサローネ) 】は1841社の企業が出展し、4月17日―22日に開催。6日間で188カ国以上から43万4509人と、過去最高の来場者数を記録した(前年比 26%増。隔年開催のキッチン・バス見本市2016年比17 %増)。同時開催される街中イベント(【Fuorisalone(フォーリサローネ)】1372イベント)は、基本無料の公開なので子どもから大人までさらに多くの参加者でにぎわった。
例年以上に暑い日が続いたミラノの現地取材。人山をかき分けながら撮った筆者の写真を交え、隔年開催のキッチン見本市などをレポートします!
前夜祭から圧倒!街全体がインテリア・デザインに染まる

史上最高の来場者数となったミラノサローネ。同イベントのプレジデント、クラウディオ・ルーティ氏は
「産業と行政が協力し合い、文化と企業がイタリアを牽引し、唯一無二のイベントを生み出している」と、イタリア家具業界と、ミラノ市など自治体行政との友好な関係性を成功の秘訣に挙げた。

ミラノ市長ジュゼッペ・サラ氏(左から4番目)とミラノサローネ社長クラウディオ・ルーティ氏(同5番目)。市内中心地の王宮前に建てられた特別企画展示『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』のオープニング・テープカットの様子(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長ジュゼッペ・サラ氏(左から4番目)とミラノサローネ社長クラウディオ・ルーティ氏(同5番目)。市内中心地の王宮前に建てられた特別企画展示『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』のオープニング・テープカットの様子(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』展は、建築家のカルロ・ラッティによる500平米のガーデンパビリオン。春・夏・秋・冬4つのゾーンに分けて、その気候を再現。夏の日差しや冬の寒さを、太陽光発電エネルギーによって生成し、ゾーン間で熱交換を制御した。「クリーンエネルギーによって、どのように自然を都市に戻すことができるか」に挑戦する企画展示だ。

春のゾーンには桜が咲き、冬のゾーンではヒマラヤ杉に雪が積もる。秋は「霧のミラノ」の情景だったが……うまく写真を撮れなかった!23種類の樹木や植物をイタリア家具と共に展示(写真撮影/藤井繁子)

春のゾーンには桜が咲き、冬のゾーンではヒマラヤ杉に雪が積もる。秋は「霧のミラノ」の情景だったが……うまく写真を撮れなかった!23種類の樹木や植物をイタリア家具と共に展示(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』パビリオンがあるのは、大聖堂ドゥオモと右の王宮の間の広場(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』パビリオンがあるのは、大聖堂ドゥオモと右の王宮の間の広場(写真撮影/藤井繁子)

その後、ミラノ王宮で行われたミラノサローネ前夜祭ガラ・ディナーに筆者も出席。

素晴らしいクラッシックな大広間の天井に繰り広げられたのは、四季をテーマにしたプロジェクションマッピング。「Spettacolo(スペクタクル)!」(写真撮影/藤井繁子)

素晴らしいクラッシックな大広間の天井に繰り広げられたのは、四季をテーマにしたプロジェクションマッピング。「Spettacolo(スペクタクル)!」(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネのプレス、国際担当のヴェントゥーラ女史(左)と日本担当の山本幸さん(右)と共に。右写真の椅子はKartell(カルテル)社の『マスターズ』(フィリップ・スタルク)(写真撮影/筆者友人)

ミラノサローネのプレス、国際担当のヴェントゥーラ女史(左)と日本担当の山本幸さん(右)と共に。右写真の椅子はKartell(カルテル)社の『マスターズ』(フィリップ・スタルク)(写真撮影/筆者友人)

こんな風に前夜祭パーティーから、インテリアの祭典らしく完璧な演出!翌日からの見本市会場オープンへ、期待が高まっていく。

キッチン見本市【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】ガラス・ショーケースが印象的

ミラノサローネではメインの家具に加え、キッチン・バスと照明・オフィスの見本市が隔年で開催される。今年はキッチン・バス見本市の年、来場者数は照明の年より多くなるのが常だ。

【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】には世界から111社が出展。【FTK】と呼ばれる設備機器メーカー47社の見本市も併催(写真撮影/藤井繁子)

【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】には世界から111社が出展。【FTK】と呼ばれる設備機器メーカー47社の見本市も併催(写真撮影/藤井繁子)

キッチンパビリオンは朝からどこも大にぎわい。直ぐに行列ができて入場制限するブースも。
Scavolini(スカヴォリーニ)社は、ファッションブランド『Diesel(ディーゼル)』とコラボしたキッチンや日本の『nendo(ネンド)』がデザインしたキッチンなど話題が多いキッチン&バス・メーカー。
今年はイタリア人ミシュランスターシェフのCarlo Cracco(カルロ・クラッコ)がデザインしたキッチン『MIA』を発表。

プロフェッショナル志向のユーザーが好むステンレス仕上げ。シンプルデザインのなかにクラッコ・シェフが提案する気の利いた機能が、アイランド本体だけでなく、壁面のオープンシェルフや収納にも盛り込まれていた(写真撮影/藤井繁子)

プロフェッショナル志向のユーザーが好むステンレス仕上げ。シンプルデザインのなかにクラッコ・シェフが提案する気の利いた機能が、アイランド本体だけでなく、壁面のオープンシェルフや収納にも盛り込まれていた(写真撮影/藤井繁子)

例えば、こちらは収納を引き出すと、ちょっとしたものがカットできるまな板がビルトイン。横から包丁収納が引き出せ、カットした野菜ゴミなどがサッと捨てられる穴があいている(下がゴミ箱収納)。

確かに、生ゴミを捨てる穴は便利!でも、引き出しでなくカウンターに付いているほうが有難いかな……(写真撮影/藤井繁子)

確かに、生ゴミを捨てる穴は便利!でも、引き出しでなくカウンターに付いているほうが有難いかな……(写真撮影/藤井繁子)

今年、キッチンを見て回ったなかで印象的だったのが、ガラス・キャビネット。
キッチンにこだわる人は、食器だけでなくキッチン家電などもデザインの良いものを選ぶので
見せる収納として扉をガラスにするキッチンキャビネットが増えていた。
単にオープンシェルフ化するより、収納しながらもライティングでショーケースのように美しく飾る。

Scavolini社クラッコ・シェフの提案は、一部をガラス・ショーケースにして魅せる。収納の中には電源も(写真撮影/藤井繁子)

Scavolini社クラッコ・シェフの提案は、一部をガラス・ショーケースにして魅せる。収納の中には電源も(写真撮影/藤井繁子)

Dada(ダーダ)社は家具ブランドMolteni&C(モルテーニ)社のグループ、洗練されたデザインのガラスキャビネットはモルテーニ社の得意な分野。

Molteni&C社との家具パビリオンで展示されたDada社のキッチン。両者のアートディレクターであるVincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥィセン)がブース全体を家として構成し美しくまとめ上げた(写真撮影/藤井繁子)

Molteni&C社との家具パビリオンで展示されたDada社のキッチン。両者のアートディレクターであるVincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥィセン)がブース全体を家として構成し美しくまとめ上げた(写真撮影/藤井繁子)

【EuroCucina】会場でもDada社のキッチンは複数展示されていたが、やはり魅力的だったのはガラス使い。
レンジフードも、ゴールドメタルを挟んだガラスで囲んだデザイン。遠目に見るとメタルなのに、レースのような質感がきれいだった。

Dada社デザインの新作ガラス・キャビネット。ファッションブランド『アルマーニ』のキッチンもDada社製だが、今回新作は無かった(写真撮影/藤井繁子)

Dada社デザインの新作ガラス・キャビネット。ファッションブランド『アルマーニ』のキッチンもDada社製だが、今回新作は無かった(写真撮影/藤井繁子)

設備メーカーからも、ショーケース的に見せる収納を発見。
「ワインセラーの中に、コレクションで一番見せたいボトルを飾るラックをつくりました。スポットライトのような照明で演出します」(GAGGENAU(ガゲナウ)社)

ドイツGAGGENAU社の新製品、ビルトイン冷蔵庫やオーブンと並びで構成されるシステム。吸い込まれるようにフォーカスされる2本の高級シャンパン(写真撮影/藤井繁子)

ドイツGAGGENAU社の新製品、ビルトイン冷蔵庫やオーブンと並びで構成されるシステム。吸い込まれるようにフォーカスされる2本の高級シャンパン(写真撮影/藤井繁子)

世界の中で注目を浴びたのは、日本企業のキッチン展示!

今年サローネ開催前から話題に上がっていたのは、イタリアのキッチン&バス・デザインをリードするBoffi(ボッフィ)社の27年ぶりの出展だった。傘下の家具ブランド、De Padova(デ・パドバ)社・ MA/U Studio社と合同で家具パビリオンに登場。

Boffi社の新作『COMBINE(コンビン)』(Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)デザイン)(写真撮影/藤井繁子)

Boffi社の新作『COMBINE(コンビン)』(Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)デザイン)(写真撮影/藤井繁子)

『COMBINE』その名のとおり、“組み合わせる”ことが自由にできるシステム。
単体ではコンパクトキッチンに、2つ並べるとI型キッチン、こんな風にZ型に組み合わせて可動式のテーブルも合わせるなど、スペースに合わせてデザインできる。
カウンタートップの高さがそれぞれ違うので、組み合わせるとリズム感のあるデザインに。

キッチン扉材は石・木など形状・素材バリエーションを豊富に用意、テーブルなど組み合わせアイテムもそろう(写真では正方形テーブルを、少し動かして離してみてくれた)(写真撮影/藤井繁子)

キッチン扉材は石・木など形状・素材バリエーションを豊富に用意、テーブルなど組み合わせアイテムもそろう(写真では正方形テーブルを、少し動かして離してみてくれた)(写真撮影/藤井繁子)

キッチンで最後に紹介したいのが、【ミラノサローネ・アワード/Salone del Mobile.Milano Award】を受賞した日本のサンワカンパニー社。
この賞は展示商品だけでなく、その展示空間・コンセプトなどを総合的に審査し、最も優れた出展社を表彰するもの。今年は見本市会場に出展した1841社のなかから、サンワカンパニーとCC-tapis(CC-タピス)、Magis(マジス)の3社が選出された。

角地で目立つロケーション、ひときわシンプルで“間”が取られた空間は“ZEN(禅)”を彷彿とさせ、いかにも日本的な美しさの展示だった(広さ320平米)。審査員からは「混雑する会場の中で、オアシスのような場を提供」「空間が製品を引き立たせ、ストーリー性をもっている」と評価された(写真撮影/藤井繁子)

角地で目立つロケーション、ひときわシンプルで“間”が取られた空間は“ZEN(禅)”を彷彿とさせ、いかにも日本的な美しさの展示だった(広さ320平米)。審査員からは「混雑する会場の中で、オアシスのような場を提供」「空間が製品を引き立たせ、ストーリー性をもっている」と評価された(写真撮影/藤井繁子)

サンワカンパニーは前回に続き2度目の出展。前回評価が高かったコンパクトキッチンに絞って、サンワカンパニーのデザインコンセプトである『ミニマリズム』を8種の新作で体現した。

『PATTINA COMPACT』キッチンを演出するのは、イタリア・Davide Groppi(ダビデ・グロッピ)の照明(写真撮影/藤井繁子)

『PATTINA COMPACT』キッチンを演出するのは、イタリア・Davide Groppi(ダビデ・グロッピ)の照明(写真撮影/藤井繁子)

今年、イタリアデザインの巨匠であるAlessandro Mendini(アレッサンドロ・メンディーニ)事務所によるキッチン『AM01』も発表したサンワカンパニー。そのメンディーニ氏も審査にかかわったコンテスト【サンワカンパニーデザインアワード2016】最優秀賞のデザインも製品化して展示した。

『AC01』受賞者のデザイン事務所YutoRieの伊藤優理恵さん。「テーブルにもなるキッチンカウンターは高さが調節でき、車椅子でも利用できるデザインです」(写真撮影/藤井繁子)

『AC01』受賞者のデザイン事務所YutoRieの伊藤優理恵さん。「テーブルにもなるキッチンカウンターは高さが調節でき、車椅子でも利用できるデザインです」(写真撮影/藤井繁子)

このように日本的なシンプルで、気配りのあるデザインがミラノサローネ・アワードの受賞につながったようだ。

昨年からのパステル・ナチュラル系に、プリントがアクセントなカラートレンド

広大な見本市会場の中、モダン・デザインの人気パビリオンを回って今年目についたのは、植物系などのプリントデザイン。

クッションに一つ、アクセント使い。これは刺繍も入って素敵@Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)(写真撮影/藤井繁子)

クッションに一つ、アクセント使い。これは刺繍も入って素敵@Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)(写真撮影/藤井繁子)

ファッションブランドの家具では、プリント柄がより大胆に!
今年、Kartell(カルテル)では、J.J.マーティンが手がけるミラネーゼに人気のファッション『La Double J(ラ・ダブル・ジェイ)』とのスペシャル・コラボレーションが誕生した。『La Double J』のヴィンテージ・プリントで彩られたKartellのプロダクトが新鮮。
Moroso(モローゾ)から出ている『Diesel』(ディーゼル)の家具は、アパレルのイメージ同様アバンギャルドなデザイン。ここでも珍しく、緑のプリント柄がソファに使われていた。

(左) @『La Double J』by Kartell  (右)@『Diesel』by Moroso(写真撮影/藤井繁子)

(左) @『La Double J』by Kartell (右)@『Diesel』by Moroso(写真撮影/藤井繁子)

キッチン見本市開催年なので、家具パビリオンでもダイニングテーブルに注目して回っていたら……
無垢木を扱わせたら世界一のRiva1920(リーヴァ)で、こんな面白いテーブルに遭遇!

テーブルの脚が、バレリーナの足!? Fabio Novembre(ファビオ・ノベンブレ)デザイン@Riva1920(写真撮影/藤井繁子)

テーブルの脚が、バレリーナの足!? Fabio Novembre(ファビオ・ノベンブレ)デザイン@Riva1920(写真撮影/藤井繁子)

家具ブランドで今年は、何と言ってもMinotti(ミノッティ)の70周年に合わせた新デザイナーの起用が話題をさらった。
新しく迎えたデザイナー3人のうちの1人がなんと、日本のデザインオフィス、佐藤オオキのnendo(ネンド)。意外な抜擢に、業界関係者もプロダクトを見るのを楽しみにしていた。

nendoによる『TAPE』(ソファ&チェアのシリーズ、写真右のようにテープで止めたようなデザイン。皮テープのバージョンもある)『RING』『WAVES』(テーブルのシリーズ)(写真撮影/藤井繁子)

nendoによる『TAPE』(ソファ&チェアのシリーズ、写真右のようにテープで止めたようなデザイン。皮テープのバージョンもある)『RING』『WAVES』(テーブルのシリーズ)(写真撮影/藤井繁子)

期待を裏切らないデザインで新境地を開拓したnendo。市内トルトナ地区では、日本企業7社とコラボした個展「forms of movement」を行うなど今年も精力的なnendoのミラノサローネだ。

このほか、街中イベント【Fuorisalone】1372イベントのなかから表彰される【Milano Design Award 2018】(5部門賞)にも、「Best Playfulness Award」にSONYの “Hidden Senses” 、「Best Technology Award」にPanasonicの “Transitions” が選出されるなど、Milan Design Week全体でのJapanese Designの存在感が目立った年だった。

歩き回って疲労困憊(こんぱい)の筆者。ジェラートで一服……太陽の日差しと街中人の熱気で、ジェラートも溶けそう!

歩き回って疲労困憊(こんぱい)の筆者。ジェラートで一服……太陽の日差しと街中人の熱気で、ジェラートも溶けそう!

次回ミラノサローネは、隔年開催の照明見本市EuroLuce(ユーロルーチェ)とWorkplace 3.0(オフィス家具)と共に2019 年4月9日(火)~14日(日) 開催予定。インテリア好きの皆様、刺激と感動を求めてミラノサローネへ来年出かけてみてはいかがでしょう!

●参考
・ミラノサローネ国際家具見本市日本公式サイト

春のお出かけに! 持って便利、部屋に置いても様になるオシャレなアウトドアグッズ

アウトドアグッズはバーベキューやキャンプ、登山をするときに使うモノ、と思っていませんか? 機能性はもちろん、インテリアとしても大活躍するオシャレなものが多い、今どきのアウトドアグッズ。お部屋のインテリアにもなって外出も楽しくなる、そんなアウトドアグッズを上手な取り入れ方とともに紹介します!
アウトドアグッズを「部屋で使う」!

「グランピング」という言葉をご存じでしょうか? 最近ネットや雑誌でたびたび話題となっている、ぜいたくで豪華なキャンプのことを指しますが、そのスタイルをインテリアに取り込む人がジワジワと増えています。「グランピングをインテリアに取り入れる」と言うと、「やってみたいけど、なんだか難しそう……」と身構えてしまう人も多いかもしれませんね。

でも「実はちょっとしたポイントを押さえるだけで、グランピングスタイルは簡単に楽しめるんです」と話すのはインテリアコーディネーターとして活躍する小島真子(こじま・まこ)さんです。

インテリアコーディネーター・小島真子さん(写真撮影/竹治昭宏・スパルタデザイン)

インテリアコーディネーター・小島真子さん(写真撮影/竹治昭宏・スパルタデザイン)

「グランピングスタイルを取り入れたインテリアは、アウトドアのワクワク感をお部屋で楽しめるのが何よりも魅力です。また、実用面でもメリットがあります。インテリアに取り入れる際に欠かせないのが、アウトドア感のあるテーブルウェアやキッチンアイテムです。丈夫で無骨でありながら、レトロさやスタイリッシュさが感じられるデザインに人気が集まっています。素材ではステンレス、アルミ、チタン、ホーロー、鉄(アイアン)等が人気ですね」(小島さん・以下同)

特にアウトドアチェアやテーブルなどは、キャンプに持って行くだけでなく、普段のインテリアとしても使いやすいとか。

「アウトドア向けのチェアやテーブルは、デザインはもちろん、簡単に折り畳んでしまうことができるのも魅力です。通常、テーブルや椅子を動かすとなると、女性や子どもには重労働です。ところがアウトドア製品は持ち運びしやすいように軽くて丈夫につくられているので、使うときだけ出して使わないときは畳んで収納することが可能です。また『部屋が狭いから、いつもテーブルを出しておくのはちょっと……』という一人暮らしの収納問題に悩む人にもうれしいポイントだと思います」

確かに、アウトドア用の折り畳みテーブルやチェアなら子どもでも運びやすいですし、アウトドア用の食器は壊れにくいという利点もあります。落としても破損しにくいのは、小さな子どもがいる家庭にとっては大きなメリットです。

アルミニウム製の飯ごうをフラワーベースがわりにコーディネート。木製のカトラリーや丸太のコースターなど自然素材と一緒にすると和らぐ(画像提供/小島真子さん)

アルミニウム製の飯ごうをフラワーベースがわりにコーディネート。木製のカトラリーや丸太のコースターなど自然素材と一緒にすると和らぐ(画像提供/小島真子さん)

アウトドアグッズをオシャレに取り入れるコツとは!?

では、インテリアへ実際に取り入れるためにはどのような点に注意すると、オシャレに見えるのでしょうか。

「アウトドア感のあるインテリアをオシャレに決めるには、空間に柔らかさをプラスすることが大切です。具体的には植物、照明、ファブリックの3点です。部屋全体のインテリアを統一しようと考えると荷が重いですが、小物なら気軽にアウトドア感を演出できます。
例えばお部屋やバルコニーに植物を置くと、ぐっとグランピング気分が高まると思いますし、スチール椅子に北欧柄やネイティブ柄のブランケットをかけるだけでも、雰囲気が柔らかくなってオシャレな空間になります。まずは身近なラグやクッションなどの小物から取り入れてみてはいかがでしょうか?」

たしかに、初心者にはインテリア全体をアウトドアスタイルに統一するのではなく、アウトドアグッズをプラスアルファで取り入れるのが良さそうです。またキッチンや玄関などのように、スペースを決めてアウトドアの要素をつくってみるのもオススメとか。

「自然を感じさせるスタイルを目指せば、初心者でもフォーカルポイント(インテリで目を引く部分・スペース)をつくりやすいと思います。例えばリネンやコットン、木製のものなど『自然素材』をいくつか使ってみるといいでしょう」

ワイヤーバスケットを用いてアウトドアの世界を演出。ウッドと植物、アイアンの組み合わせが、アウトドアらしさとモダンさを巧みに共存させている(画像提供/小島真子さん)

ワイヤーバスケットを用いてアウトドアの世界を演出。ウッドと植物、アイアンの組み合わせが、アウトドアらしさとモダンさを巧みに共存させている(画像提供/小島真子さん)

また「あまり色を増やさないのもポイント」と小島さんは言います。

「色を考えるときには、自然を感じさせるようなアースカラー(主には茶系の色にカーキやオリーブを含めた色)を取り入れるといいでしょう。例えば空や海のような青、紅葉のような赤、森のようなグリーン……といった具合ですね。
注意点としては、ラグとクッションカバーで全然違う色や模様、原色はできるかぎり避けてほしいですね。色数を少なくするのは、どんなインテリアにおいてもオシャレに決める最低限のコツです。コーナーごとにテーマ色を決めても面白いかもしれませんね」

せっかくオシャレなインテリアを目指しても、カラフルになりすぎてチープに見えてしまったら全てが台無し。アウトドアの落ち着きのあるテイストを大切にしたいものですね。

家でアウトドアムードを味わえるオススメグッズ

ポイントを押さえれば誰でも簡単というアウトドアテイストを取り入れたインテリア。すぐにアウトドアムードを味わえるオススメグッズにはどんなものがあるでしょうか。

「大きめのものとしては、折り畳みができるタイプのディレクターズチェアはオススメ。椅子として座ることはもちろん、ちょっとした物置きにもなりますし、ほかの用途でスペースを使いたいときにはさっとしまえるので便利です。アウトドア、インドアの両方に対応したラウンジチェアの『アカプルコチェア』も空間をオシャレに演出してくれます。

屋内でも屋外でも使用できるアカプルコチェアは1つあれば、その存在感で空間がぐっとオシャレに見える(画像提供/小島真子さん)

屋内でも屋外でも使用できるアカプルコチェアは1つあれば、その存在感で空間がぐっとオシャレに見える(画像提供/小島真子さん)

そのほかに、収納ボックスや折り畳み式のコンテナボックス、ワイヤーバスケットなど、少しだけメンズライクなものを取り入れてあげると空間にメリハリが生まれます。コンテナボックスはリビングに置いて子どものおもちゃを収納したり、突然の来客に見せたくないものを隠したりすることができ、外ではクーラーボックスとしても活躍しますよ(笑)」

このようにアウトドア仕様のものを普段の生活に取り入れると、まるで自然の中へ出かけたような新鮮な気分を味わうことができますね。発想や目線を少し変えるだけで、シンプルなインテリアもたちまちアウトドアの雰囲気に演出できそうです。

「またLEDランタンはアウトドアで使うアイテムの一つですが、ディスプレイとして飾るのはもちろん、お家での実用性も備えていて非常灯として活躍するでしょう。私自身も、ブリキランタンやLEDのキャンドルライトなどをお部屋のインテリアに取り入れて楽しんでいます。キャンドルライトは高さの異なるものをいくつか並べてもすてきです」

キャンプのワンシーンを思わせる、ウッド&ランタンのディスプレイ。グランピングを体験しているかのようなムードが漂う(画像提供/小島真子さん)

キャンプのワンシーンを思わせる、ウッド&ランタンのディスプレイ。グランピングを体験しているかのようなムードが漂う(画像提供/小島真子さん)

手軽に楽しめるアウトドアは、今後ますます認知度も人気も高まっていく予感。まずは照明やラグなど小物から試して部屋にオリジナリティを出していくのがよさそうです。アウトドアに興味を持ち始めたけど、実際のキャンプはハードルが高い……そんな人はお家の中にアウトドアグッズを取り入れて、心地よい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

●取材協力
・インテリアコーディネーター小島真子(株式会社Laugh style)

すぐ枯らしていない? お部屋の環境に合った観葉植物の選び方を教えて!

お部屋に観葉植物がある生活、憧れますよね。インテリアとして観葉植物を飾るだけでお部屋が華やかになります。
でも、日当たりが悪かったり西日が強かったりすると、植物はうまく育つことができません。最悪の場合、枯れてしまうことも……。せっかく観葉植物を置くのであれば、上手に育ててあげたいですよね。そこでお部屋の環境にぴったりな植物や上手な育て方を、観葉植物の専門店であるグリーンインテリアの真下悦洋(ましも・よしひろ)さんに教えてもらいました。

初心者でも安心して観葉植物を育てるために、そろえておくべきグッズは?

まずは、観葉植物を育てたことのない方がそろえておきたいグッズと上手な使い方についてうかがいました。

観葉植物専門店グリーンインテリア バイヤー 真下悦洋さん(写真撮影/近藤宏美)

観葉植物専門店グリーンインテリア バイヤー 真下悦洋さん(写真撮影/近藤宏美)

「最初に準備したほうがいいものは、じょうろ・霧吹き・栄養剤の3点ですね。じょうろは鉢の中の土が乾いていたときの水やりに使います。お水をあげないと枯れてしまいますが、実はあげすぎるのもよくないんです。土の状態をチェックして最適な量をあげることが長持ちのコツ。表面の土が乾いていても、中が湿っていたら水やりをする必要はありませんので、指や割り箸などで中の土の状態を確認してからお水をあげてください」(真下さん、以下同)

観葉植物に水やりをする親子(写真/pixta)

観葉植物に水やりをする親子(写真/pixta)

じょうろだけなく、霧吹きも必要なのはなぜでしょうか。

「霧吹きは葉っぱにお水をかけるときに使うんです。空気が乾燥しているとハダニが発生しやすいので、葉っぱに適度な潤いを与えてハダニ予防をしたいですね。春先以降に育てる場合は栄養剤を使用すれば、より元気に育ってくれます。栄養剤には即効性のある液体のものと、緩効性の固形タイプのものがあります。栄養剤はあげすぎてしまうと逆に弱ってしまうので、用量を守って使用してくださいね」

観葉植物が成長してきたら、植え替えるための大きな鉢や、虫が発生したときには専用の薬剤を用意することも必要になります。

初心者でも育てやすい「おすすめの観葉植物」は?

じょうろや霧吹き、栄養剤をちゃんとそろえて観葉植物を育て始めたとしても、お世話を忘れてしまったり、忙しくてなかなか手がかけられなかったりして、うっかり枯らしてしまった……なんてことにならないようにしたいもの。観葉植物初心者でも育てやすい、生命力の強い観葉植物を真下さんに教えていただきました。

●サンスベリア
サンスベリア・レディチャーム(写真撮影/近藤宏美)

サンスベリア・レディチャーム(写真撮影/近藤宏美)

「『サンスベリア』は、観葉植物初心者でも育てやすい植物のひとつです。水やりは月に1回程度でもOKですし、気温が10度以下になる12月から2月までの冬の間は生長がストップして休眠に近い状態になるので、断水でも大丈夫なほど。光があまり入らない暗い場所でも頑張って生きていくことができる植物なんです」

●ポトス
ポトス・エンジョイ(写真撮影/近藤宏美)

ポトス・エンジョイ(写真撮影/近藤宏美)

「『ポトス』も強い植物のひとつです。頻繁にお水をあげる必要はなく、土が乾いていたらあげる程度で大丈夫。暗い場所で育てることもできます」

●ソテツキリン
ソテツキリン(写真撮影/近藤宏美)

ソテツキリン(写真撮影/近藤宏美)

「乾燥にも寒さにも強く、暗い場所でも育つ植物です。パイナップルのような可愛らしい形なので女性に人気です」

寒さに強い観葉植物は?

いくら育てやすいと言われる観葉植物であっても、お部屋の環境や気候のせいでうっかり枯らしてしまう可能性もあります。そこで、真下さんに、寒さや暑さ、日差しの強さや日陰や湿気など、それぞれの環境に強い観葉植物についても教えていただきました。

まずは、寒さに強い観葉植物について。真下さんいわく、寒さに強い観葉植物は比較的葉っぱが細長いものが多いのだそうです。

ユッカ(写真撮影/近藤宏美)

ユッカ(写真撮影/近藤宏美)

シェフレラ(写真撮影/近藤宏美)

シェフレラ(写真撮影/近藤宏美)

「『ユッカ』や『シェフレラ』などは比較的寒さに強いですね。ユッカは中南米などの乾燥地帯原産で、シェフレラは熱帯アジアが原産です。主な産地である八丈島では、防風林に使われることもあるくらい寒さには強いですよ。

日当たりの良くない部屋や外出が多くて暖房がついていない時間の短い部屋でも、上手に育てることができます。もちろん光合成をしますので、なるべく窓際やベランダの近くに置いてあげるのが良いのですが、寒さに強い観葉植物は比較的暗い場所にも強いです」

暑さに強い観葉植物は?

基本的に観葉植物は暑い場所で育っているので、どの品種も暑さに強いものが多いのだとか。なかでも「ガジュマル」や「ベンジャミン」「エバーフレッシュ」などは、特に暑さに強いと真下さんは言います。

ガジュマル(写真撮影/近藤宏美)

ガジュマル(写真撮影/近藤宏美)

ベンジャミン(写真撮影/近藤宏美)

ベンジャミン(写真撮影/近藤宏美)

エバーフレッシュ(写真撮影/近藤宏美)

エバーフレッシュ(写真撮影/近藤宏美)

ただし、暑さに強いからといって、日差しに強いわけではないので注意が必要なのだそう。

「外に出したり直射日光を浴びせたりすると、葉っぱが焼けて黒く色が変わってしまいます。日焼けしたとしても、観葉植物の命に影響を与えるようなものではないのですが、できれば急に外には出さずに室内に置いておくのがよいでしょう。西日が強く当たる間取りや全面窓でも室内に置いて窓越しに光が当たる程度であれば問題ありません」

暑さに強い観葉植物はお水が大好きなので、乾燥しないように気を付けることが大事。また、換気も必要だと真下さんは言います。

「閉め切って空気が流れていない場所に長時間置いておくと、弱ってしまうことがあります。朝と夜に換気をしていれば昼間は多少空気がこもっていても問題ありません。

旅行や帰省などで、数日間家にいないような場合は要注意。24時間換気の設備がついている家ならスイッチをつけておいてはいかがでしょうか。サーキュレーターや扇風機などで風を送るのも良いと思います。ただ、直接風を当てないように気を付けてください。換気孔が備わっている住宅では開けてから外出するとか、防犯的に問題がないようなら網戸にしておくなど、風が通る工夫をしておくとよいでしょう」

観葉植物のことを「ペットのように世話をしてあげてほしい」と語る真下さん(写真撮影/近藤宏美)

観葉植物のことを「ペットのように世話をしてあげてほしい」と語る真下さん(写真撮影/近藤宏美)

日差しに強い観葉植物は?

全面ガラス窓のリビングに置いても問題ない日差しに強い観葉植物や、ベランダや玄関の外に置けるような植物はあるのでしょうか。しかし、どの観葉植物でも基本的には直射日光は苦手だと真下さんは言います。

「直射日光を当て続けると、葉っぱが焼けて黒いシミになってしまうんです。でも、植物は与えられた環境に適応しようとする力が強いので、日焼けした葉っぱが落ちても、次に生えてくる新芽からは日差しが当たっても大丈夫になることもあるんです」

「オリーブ」や「シマトネリコ」といった外で育てられる観葉植物は、日焼けなどの心配がないのだそうです。

オリーブ(写真撮影/近藤宏美)

オリーブ(写真撮影/近藤宏美)

シマトネリコ(写真撮影/近藤宏美)

シマトネリコ(写真撮影/近藤宏美)

日陰や湿気に強いグリーンは?

日当たりのあまり良くない部屋や、水まわりなどの湿気の多いところなら、シダ系の植物がおすすめと真下さんは言います。

アスプレニウム・クリーシー(写真撮影/近藤宏美)

アスプレニウム・クリーシー(写真撮影/近藤宏美)

アジアンタム・ぺルビアナム(写真撮影/近藤宏美)

アジアンタム・ぺルビアナム(写真撮影/近藤宏美)

ネフロレピス・ドラゴンテール(写真撮影/近藤宏美)

ネフロレピス・ドラゴンテール(写真撮影/近藤宏美)

「シダ系の植物は、幹がなくペタっとしていて葉っぱが多いのが特徴です。高めの空中湿度が好きなので、こまめに霧吹きをしてあげると元気に育ちますよ。逆に乾燥には弱い植物が多いので、窓の近くよりは少し暗い場所に置くのがおすすめですね。洗面所やキッチンに置くのも良いと思います。リビングであれば窓から離れた暗い場所に置けるので、レイアウトの幅が広がっていいのではないでしょうか」

さまざまなお部屋の環境にあわせて、ベランダや窓の近くには暑さに強い植物、キッチンや洗面所には湿気に強い植物を置くことを意識するだけで、ぐっと育てやすくなるのではないでしょうか。

ちなみに、観葉植物からはリラックス効果のある成分が分泌されているのだとか。日々の仕事や家事などで疲れているときでも、観葉植物の鮮やかなグリーンを目にするだけで、穏やかな気持ちになれるでしょう。
これまで観葉植物を育てたことがないという方も、以前観葉植物を育てて失敗したという方も、お部屋に飾る生活を始めてみませんか?

●取材協力
・観葉植物専門店グリーンインテリア

RoomClip編集部に聞く「100均DIY」の驚くべき進化

100円ショップのアイテムを使って気軽にチャレンジできることから、近年主婦の間で人気の「100均DIY」。なぜここまで浸透し、どのような変化をしてきたのでしょうか。月間270万人が利用する、部屋のインテリア実例共有サイト「RoomClip」運営チームの竹野さんにお話をうかがいました。
メディアの発信で浸透した「100均DIY」文化

「日曜大工」という言葉もあるように、DIYには男性のイメージが定着しています。そんななかで登場した「100均DIY」という言葉は瞬く間に主婦たちの間に広まり、今や主婦にとって代表的な趣味として知られるようになりました。

「100均DIYがはやり始めたのは、2015年ごろだったと記憶しています。RoomClipでも『100均』と『DIY』のタグをつけた投稿が増えてきました」(竹野さん、以下同)

100均DIYが浸透していったのは、どのような背景があったのでしょうか。

「2015年に100均アイテムを使ったDIYを紹介するムック本が相次いで発売されました。書籍やテレビ、ウェブメディアなどが目をつけ、積極的に発信したことが大きなきっかけだったと考えられます」

また2015年といえばInstagramが国内のアクティブユーザー数を大きく伸ばした年。「自分でつくった作品の写真をネットに投稿する」というアクションが定着したことも、100均DIYの発展に一役買ったようです。

材料5つ、計500円余りでつくれるという消臭ビーズ入れ。写真ではフックと瓶のワイヤー部分を塗料で白く塗り、インテリアに溶け込ませる工夫も(画像提供/miyuさん)

材料5つ、計500円余りでつくれるという消臭ビーズ入れ。写真ではフックと瓶のワイヤー部分を塗料で白く塗り、インテリアに溶け込ませる工夫も(画像提供/miyuさん)

クローゼット内の収納を3段に増やす便利ワザ。子どもの服を畳む手間を削減し、衣替えもスムーズに(画像提供/taitaiさん)

クローゼット内の収納を3段に増やす便利ワザ。子どもの服を畳む手間を削減し、衣替えもスムーズに(画像提供/taitaiさん)

100均DIYの醍醐味は「自分で家をカスタマイズできる楽しさ」

「100均DIYにチャレンジする動機として最も多いのは、『100円なら失敗しても怖くない』という理由。『いきなりホームセンターで本格的な道具と材料を買うのはハードルが高い』という方も、100均ならチャレンジしやすかったと言います」

100均DIYで慣れた方が、やがて本格的なDIYへとスキルアップしていくこともあるのだとか。

突っ張り棒1本でトイレットペーパーの収納を実現。カフェ風のカーテンはダイソーで購入(画像提供/tentenさん)

突っ張り棒1本でトイレットペーパーの収納を実現。カフェ風のカーテンはダイソーで購入(画像提供/tentenさん)

壁収納は100均DIYの基本技とも言える。こちらは黒ワイヤーを結束バンドで固定するだけの手軽な壁収納DIY(画像提供/ayakaさん)

壁収納は100均DIYの基本技とも言える。こちらは黒ワイヤーを結束バンドで固定するだけの手軽な壁収納DIY(画像提供/ayakaさん)

安価だからこその安心感、手軽さから、初心者もチャレンジしやすいという100均DIY。その楽しさはどこにあるのでしょうか。

「やっぱり、オリジナリティを出せるところだと思います。自分の手でつくったものに囲まれ、使ううちに、より一層自分の家に愛着をもてるようになることが100均DIYの醍醐味です」(竹野さん)

自作のフラワーインテリア。ペンキを塗ったメイソンジャーに、グルーガンで造花とプリザーブドフラワーを接着(画像提供/Disneyさん)

自作のフラワーインテリア。ペンキを塗ったメイソンジャーに、グルーガンで造花とプリザーブドフラワーを接着(画像提供/Disneyさん)

100均の材料にお子さんたちが拾ってきたドングリや石を活用し、インテリアを自作(画像提供/crowさん)

100均の材料にお子さんたちが拾ってきたドングリや石を活用し、インテリアを自作(画像提供/crowさん)

一方で、憧れの生活を手に入れるために100均DIYに取り組む人もいると言います。

「個別の作品をつくって終わりではなく、家全体を1つのコンセプトに向けてカスタマイズしていく人が増えていますね」(竹野さん)

あちこちに100均DIYの工夫がなされた部屋。意識しているのは「フレンチナチュラル」と「フレンチカントリー」(画像提供/Disneyさん)

あちこちに100均DIYの工夫がなされた部屋。意識しているのは「フレンチナチュラル」と「フレンチカントリー」(画像提供/Disneyさん)

最新の100均DIYトレンドは「創造性を加えた“自分だけのインテリア”」

ここで最新の100均DIYのトレンドについても教えていただきました。

「RoomClipでは、アイテムそのものを生活に取り入れるのではなく、自分の創造性を加えて、『自分だけのもの』につくり変えようとする投稿が増えています。例えば先日は、お皿とカップを貼り合わせてオリジナルのケーキスタンドをつくった投稿がありました。私たちでも思いつかないようなアイデアが、日々投稿されています」(竹野さん)

短期的なトレンドで言えば、今は新生活が始まる時期。普段のメインユーザー層は主婦ですが、この時期は一人暮らしの人の投稿が増えるのだそうです。

靴収納に便利な自作ラック。すのことアイアンバーを組み合わせて作成。新生活にもおすすめ(画像提供/yunakoさん)

靴収納に便利な自作ラック。すのことアイアンバーを組み合わせて作成。新生活にもおすすめ(画像提供/yunakoさん)

新生活を機に100均DIYを始めたいという人には「まずは簡単なものからチャレンジしてほしい」と竹野さんは言います。
「100均の材料を使って簡単な木箱などをつくるところから始めて、慣れていく。その後段々と『色を塗りたいからハケを使ってみよう』『ディアウォールやラブリコを使った壁面収納のDIYにチャレンジしてみよう』とやりたいことに挑戦する、その繰り返しでみなさんスキルを上げてこられたようですね」

もはや100均DIYは、理想の住環境を気軽に手に入れるための手段のひとつとなっているようです。既製品だけに囲まれた暮らしではなく、自分が手がけたものに囲まれて暮らす生活を求める人が増えているのかもしれません。

●取材協力
・RoomClip
●画像提供
・ayakaさん(RoomNo.874680)
・crowさん(RoomNo.1211179)
・Disneyさん(RoomNo.810832)
・miyuさん(RoomNo.535462)
・taitaiさん(RoomNo.610489)
・tentenさん(RoomNo.2937148)
・yunakoさん(RoomNo.974057)
※ローマ字順

旅行の思い出をインテリアに! プロが教える5つのテクニック

いつもの生活から離れて、非日常感を味わうことができる旅行。旅行中に、ホテルのインテリアや街並み、アイテムから新しいアイデアやインスピレーションを得ることも少なくありません。
世界最大のオンライン宿泊予約サイト「Booking.com」の日本法人であるブッキング・ドットコムジャパンが、およそ19,000人の世界中の旅行者に対して行った「旅行とインスピレーションに関するアンケート」によると、56%の旅行者は「旅行先のインテリアに影響を受けて自宅のインテリアを変える」と回答しています。特に、ミレニアル世代とよばれる10代からアラサー世代では、この割合は67%にまで上昇します。
また、旅行者の44%は、「ホテルだけでなく、旅行先特有のデザインもインテリアの参考になる」と答えています。では、実際にどのような都市のデザインがよく参考にされているのでしょうか。ブッキング・ドットコムのユーザーが「デザイン」のカテゴリで高い評価をつけている5都市を見てみましょう。
デザイン都市としては依然として北欧が人気画像提供/ブッキング・ドットコム

画像提供/ブッキング・ドットコム

北欧はフィンランドとデンマークと2都市もランキングに入っています。さすがデザイン大国ですね。その他もヨーロッパの国が人気があるようです。

では、デザイン感度の高い旅行者はどの国の人々なのでしょうか? 特にアジア圏の旅行者は旅行先でのインテリアデザインを重要視する傾向があるようです。

画像提供/ブッキング・ドットコム

画像提供/ブッキング・ドットコム

デザインのインスピレーションを得るために、ホテルタイプ以外の宿泊先を選ぶと答えた旅行者も47%と半数近くを占めています。「コテージ」などの「バケーションレンタル」スタイルは、旅行先のインテリアやデザインを重要視するタイ人旅行者やインド人旅行者の間でも人気が高いようです。

ブッキング・ドットコムが行ったこのアンケートでは、57%の旅行者が「物理的にも精神的にも日常から離れることで、休暇をより満喫できる」と答えていますが、いつもの環境にはないインテリアやデザインも日常から離れるきっかけになるものです。旅行を満喫するために旅先のインテリアやデザインを積極的に楽しみたいですね。

旅先のインテリアの楽しみ方は……?

しかし一方で、ブッキング・ドットコムの担当者によると、「旅行先でのインテリアデザインを重要視している」と答えた日本人は少ないそう。なんと16%ほどにとどまっているとか。また「ホテルのインテリアが気に入って、予定していた時間よりも長くホテルに滞在した」という人は、インド人旅行者では60%、中国人旅行者では56%となっているのに対し、日本人旅行者はわずか14%という結果に。

新しいアイデアやインスピレーションを得られるせっかくのチャンスなのに、少しもったいない気がしますね。次の旅行では、旅行先のインテリアやデザインに注目して宿泊先を選ぶことにチャレンジしてみてはいかがでしょう。

一方で、旅行で得たアイデアやインスピレーションを自宅のインテリアに活かすといっても、意外と難しいのも現実。インテリアのプロはどのようにして旅の雰囲気をインテリアに取り入れているのでしょうか。ブッキング・ドットコムが話を聞いた、インテリア・スタイリスト兼ライフスタイルエキスパートのウィル・テイラー氏によると、旅行先のアイデアやインスピレーションを自宅のインテリアに取り入れるテクニックは5つあるそう。さっそく、プロのテクニックを紹介していきます。

【テクニック1】旅行先にちなんだアイテムをアクセントとして活用
旅行先から持ち帰ったアイテムがあれば、インテリアのアクセントとして活用できないか考えてみましょう。例えば、お土産のバスケットはダイニングテーブルの照明にかぶせるだけで、今までのダイニングの雰囲気を一新することができます。また、寝室の印象を変えてみたいのであれば、伝統工芸のラグをベッドのヘッドボードにかけるのもオススメ。簡単にできるのに、部屋の印象をガラリと変えることができます。

【テクニック2】インスピレーションを受けた色彩は写真やお土産で再チェック
旅行したときに「素敵だな」と感じた色彩を自宅に取り入れる場合は、ポストカードや写真、お土産の服やアクセサリーなどといった現地のものを振り返ってみましょう。インスピレーションを感じた色彩を改めて確認できたら、その色合いを再現できるアイテムを見つけに行くとよいでしょう。

【テクニック3】旅先でしか出会えないデザインのものを持ち帰る
旅先の雰囲気を強く出したいなら、旅先でしか出会えないデザインのものをお土産として選ぶのもよいですね。例えば、シンプルなソファーが自宅にある場合、モロッコで買ったキリム柄のクッションをソファーに置くだけで一気にエキゾチックで温かい雰囲気の部屋にすることができます。このように、旅行先の国や地域独自のデザインのものを上手に選びましょう。

【テクニック4】旅先の香りを再現
部屋の雰囲気を変えるのは、色やアイテムだけではありません。旅行先で得た感覚を思い出したいときは、ホテルで使われていた香りや街中で感じた雰囲気を思い起こさせる香りを、アロマキャンドルやお香で再現してみるとよいでしょう。暖炉のある北欧のアパートメントに泊まった体験を再現したいのであれば、雪の降る日に薪の香りがするキャンドルを灯してみるのもよいですね。

【テクニック5】旅行の思い出や旅行先で見た景色を色で表現
色はデザインにおいて感情的な要素です。上手に使って、旅の思い出やお気に入りの景色を色で再現してみましょう!例えば、「地中海の美しさに感動した」という思い出を大切にインテリアに取り入れたいのであれば、きれいな青色のペンキで廊下や部屋の壁を塗るのもおすすめです。お気に入りの色に囲まれた環境を自宅につくると、自宅がさらに居心地のよい空間になります。

旅行先の街並みや自然をインテリアに取り入れるというのはなかなか難しいものですが、ホテルのインテリアから受けたアイデアやインスピレーションは比較的再現しやすそうですね。

国内でもインテリア鑑賞を目当てにしたショートトリップができる!

海外旅行だけではなく、国内旅行でもホテルのインテリアからインスピレーションを受けることもできるはず。

ブッキング・ドットコムによると、「モクシー東京錦糸町 by マリオット」「TRUNK (HOTEL)」など、東京都内にも個性的でデザイン性の高いホテルがあるとのこと。国内・海外問わず、旅行する際にはいつもの環境にはないインテリアやデザインを楽しむことを目的にしてもよいかもしれません。

MOXY Tokyo Kinshicho by Marriott Hotel(画像提供/ブッキング・ドットコム) 

MOXY Tokyo Kinshicho by Marriott Hotel(画像提供/ブッキング・ドットコム) 

TRUNK (HOTEL) (画像提供/ブッキング・ドットコム)

TRUNK (HOTEL) (画像提供/ブッキング・ドットコム)

●参照
・PR TIMES

“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

「うち近いから寄ってく?」と友人に言いかけて途中で飲み込んだ覚えはありませんか? 部屋が散らかっていたり汚かったりすると、人を呼ぶのをためらってしまいがち。「うちにおいでよ!」と気軽に言えるお部屋にするにはどうしたらよいのでしょうか。人には見せられない“おブス部屋”から卒業するための、ちょっとした工夫をプロに聞きました。
手がけた物件は1000件以上! お部屋改造のプロってどんな人?

今回、散らかり放題のおブス部屋をイケてる部屋にするヒントを聞かせていただくために伺ったのは、有限会社お部屋改造計画。一人暮らしや、ご夫婦の方々の「インテリアコーディネート」や「お部屋模様替え」、カフェやサロン、オフィスなど小さな店舗の「トータルプロデュース」を行っている会社です。今年で設立19年目、手がけた物件は1000件を超えるそう。

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お客様は一人暮らしの方が多く、女性は20代~30代、男性は30~40代が多いとのこと。「しっかりヒアリングをして、その人の生活習慣にマッチした部屋づくりをします。好きなことや嫌いなこと、仕事は何かなど、こだわりや趣味を考え抜いてつくり上げます。ですから、100人100様の部屋ができ上がります」と代表兼ルームスタイリストの柳橋浩さんは話します。

そんなお部屋づくりのプロ・柳橋さんに聞く、おブス部屋から抜け出すコツとは!?

断捨離はする必要なし! 持ち物があってこその生活

ちまたではミニマリストなど、断捨離が流行して普遍になりつつありますが、柳橋さんはそれには賛同しかねると言います。

「思い入れのあるものなど、処分できないものは、リメイクや置く場所等を工夫してお部屋になじませるという方法でクリアできます。なんでもかんでも捨ててしまわなくても、きれいな部屋はつくれますよ」(柳橋さん)

大切なものは捨てられないと思っていた筆者としては、すこし安心しました。

とはいえ、物が多いと片づけの難易度が上がるはず。物を捨てずに片づけるコツはあるのでしょうか? 柳橋さんによると、まずは「収納場所を特定したほうがよい」とのアドバイスが。

「片づけやすい環境づくりをすることで、実際に『片づける』という行動につながります。ただ、収納スペースを多くつくってしまうと、安心感から今度はそこに物がたまってしまうので注意しましょう」(同)

また、収納が面倒くさくなるのは「収納の動線」がつくられていないからだそう。「捨ててもいいものは外に出しやすい、玄関に近いほうに置くようにしましょう。また、急な来客があったときなどのために、『とりあえず入れておくコーナー』を設置しておくのもよいですね」(同)

まずは収納の動線をつくって片づけをしやすい環境にととのえることが、おブス部屋脱却のカギになりそうです。

おブス部屋の原因はどこにある? 実際に聞いてみた

柳橋さんのお話にうなずきながら、おそるおそる筆者の部屋の写真を出して、見ていただきました。インテリア雑誌やテレビの情報番組を見て「隠せ、隠せ」とできるだけシンプルな布を購入して、積み上げたものを隠している部分です。

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

冷や汗をかきながら小声で「汚くてなんだかすみません」と恐縮しまくる筆者に「そんなに汚くないですよ~」と明るく優しく声をかけてくださる柳橋さん。そしてすぐさま直せそうなポイントを指摘してくださいました。

「目隠しの布はよく使われますが、相当に気を使わないと実は難しいもの。適当な布を置いてもバランスが崩れるので、やめたほうが賢明です」(同)

また、家具の並べ方にもポイントがあるそう。

「背の高い家具同士は極力並べるのを避けて、間に少し低い家具を置いたり、余白をつくったりして高低差をつけて、メリハリを出してください。そのほうが圧迫感を感じにくくなります。もし圧迫感のある家具が多い場合には、今の位置と反対側に置くなどして、同一方向の視線から外しましょう」(同)

さらに、新たに家具選びをするときには、こんなコツがあるそうです。

「『食器棚』『テレビ台』など、家具は決まった用途があるかのように名づけられて売られていますが、これに惑わされないでください。見た目とサイズ感から、従来の使い方以外にも用途がいろいろ浮かんでくると思います。そうすれば、自分にぴったりなオリジナルの使い方ができます」(同)

家具の並べ方は、やはりバランス感覚が重要とのこと、安定感や見た目の重視に気をつけるだけで、相当に片づいて見えるようです。これなら少しずつ解決ができそうな気がします。

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋改造は、どんなメリットがある?

最後に柳橋さんに、お部屋を改造することで部屋が片づくこと以外に得られるメリットについて伺いました。

「部屋が変わると、世界観が変わるというお客様が多いですね。『生活が好転しました』『気持ちが明るくなりました』と言ってくださる方が多いです。大掃除の達成感に似ているのかもしれませんが、部屋を変えることでご本人の何かが変わるのではないでしょうか。すぐには引越しできない場合にも、模様替えは可能ですから、ぜひ一度試してみていただきたいです」(同)

今回いただいたアドバイスで、おブス部屋から脱出する糸口が見つかったような気がします。大掛かりなものはプロに任せるという選択肢もアリかな、と感じました。

お部屋の改造は住み続けるための選択肢。人に見せても恥ずかしくない部屋づくりはちょっとしたことから始められます。そして部屋に向き合うことは、自分と向き合うことにもつながっているのかもしれません。

●取材協力
・有限会社お部屋改造計画

一人の空間を楽しむためのインテリアについて考えてみたら、禅問答みたいになった

『「ぼっち」の歩き方』(PHP研究所)などの著書を持ち、一人でいることをこよなく愛する「ぼっちライター」の朝井麻由美さん。そんな彼女に、今回は一人の空間をこの上なく快適にするインテリアについて考えてもらいました。本来、自分の部屋は自由にコーディネートできるものですが、本当に自分の好きなものだけの空間をつくることは案外できていないのではないでしょうか。

以後、朝井さんこだわりの”ぼっち部屋”について、朝井さんの一人称でお届けします。
好きなものを「好き」と言えなかったころのこと

自分の部屋の中は、誰が何と言おうと“自分の城”のはずだ。一人暮らしはもちろん、誰かと暮らしていたとしても、自分の部屋には自分の好きなものだけを敷き詰めていい。けれど、一体どれだけの人が、自分一人だけの、好きなものだけの空間と向き合えているだろうか。私はずいぶん長いこと、それが上手くできなかった。

16歳のころ。私は人生最大級に、自分の好きなものが何なのか、よく分からなくなっていた。高校の教室で女子たちが話していたのは、いつもどこで服を買っているかについて。私は、服はPARCO……じゃなくて、PARCOの脇の細い道を通ったところにある、よく分からない小さな店で買っていた。パーカーが一着だいたい1200円。Tシャツは700円。洗濯するとすぐに、てろてろになる。

うっかり私服の高校に入ってしまったがために、教室内で、毎日のように、ダサい子とおしゃれな子を分けるオーディションが開かれていたようだった。しかし、700円のてろてろTシャツをまとってオーディションに臨む子なんていない。

どうやら、雑誌と似たような服を着ていれば、自信のない自分を晒さなくていいらしいということが分かった。みんなと私は同じです。同じ雑誌を読んで、同じ店で服を買っています。同じだから、おかしなセンスではないです。同じ。同じ。同じ……

誰かが家に来たら恥ずかしいから、無難な部屋になってしまった【画像1】(画像提供/朝井麻由美)

【画像1】(画像提供/朝井麻由美)

【画像2】(写真撮影/朝井麻由美)

【画像2】(写真撮影/朝井麻由美)

「みんなと同じ」重圧は自分の部屋にまで及んだ。好きだった少女マンガのポスターを、部屋の壁からすべて剥がした。本棚に並ぶイラスト集も、マンガ雑誌も、インテリアも、子どもっぽいものは全部捨ててしまった。「誰かが家に来たら恥ずかしい」と、自分の部屋から多くの“好きなもの”が消え、“無難なもの”を買い集めるようになった。結局、誰かが家に来ることなんて一度もなかったのに、無難なインテリア(全然好みじゃない)は増え続けた。

好きなものを好き、と胸の内を明かして、それがもし他の人とズレていたとしたら、みんなの輪に入れなくなってしまう。そもそも、私の好きなものって、何だっけ。

そして、大学に入り、社会人になり、序列をつけられる教室から解放されたことで、徐々に見つけていった「好きなもの」が私にはある。

狂おしいほど好きな家具がある

なぜだか分からないけれど、大人になった私は今、食パンと目玉焼きがものすごく好きなのである。食べ物の食パンではなく、家具のほうの、だ。そんなことを言われても何のことだかさっぱり分からないと思うから、まずはこの写真を見てほしい。

【画像3】食パンと目玉焼きの家具シリーズ(写真撮影/朝井麻由美)

【画像3】食パンと目玉焼きの家具シリーズ(写真撮影/朝井麻由美)

これは神奈川県にある株式会社セルタンがつくっているシリーズで、Amazonや楽天などで食パンの家具を探すと、たいていセルタンのものなのだ。当然であろう。こんな家具をつくろうとするメーカーがそうそうあるわけがない。それも、2~3カ月に1回くらいのペースでどんどん新作が追加されているのだ。このシリーズに、そんなに需要があるのだろうか。

【画像4】食パンと目玉焼きシェアナンバーワン(!?)を誇るセルタン(写真撮影/朝井麻由美)

【画像4】食パンと目玉焼きシェアナンバーワン(!?)を誇るセルタン(写真撮影/朝井麻由美)

一人の空間を楽しむインテリアとは、何か

もう一度おさらいしておくと、今回のこの記事のテーマは、「一人の空間を最大限に楽しむためのインテリア」である。自分だけの空間を楽しむための答えは一つしかない。純度100%で好きなものに囲まれることだ。インテリア雑誌に載っているようなおしゃれ空間が好きならば、そういうインテリアに囲まれればいいし、ロココ調が好きならロココ調家具に囲まれればいい。私は食パンが好きだから、食パンに囲まれるのが最適解となる。

【画像5】食パン家具シリーズの中には、カビた食パンもある(写真撮影/朝井麻由美)

【画像5】食パン家具シリーズの中には、カビた食パンもある(写真撮影/朝井麻由美)

好きなものに囲まれるだなんて一見当たり前のようだが、これは思っている以上に難しい。100%実現できている人なんて、ほとんどいないのではないかと思う。かつての私のように、「来客があったときに恥ずかしいから」という基準でものを選んだり、あるいは、「この狭いアパートには似合わないから」と断念したり。

とりわけ、いくら好みのインテリアが決まっていても、生活との両立は至難の業。私の部屋は見渡せば、ホームセンターでそれしか選択肢がなかったから買ったテーブルに、大きさだけで決めた座椅子、もらいもののデスク、と理想の部屋からは程遠い。どうしたって、生活するためのインテリアが、理想を邪魔するのだ。

今回は、手っ取り早く理想を体験するために、セルタンへ行って「食パン部屋」をつくってもらうことにした。

【画像6】目玉焼きブランケットが意外と暖かい(写真撮影/セルタン)

【画像6】目玉焼きブランケットが意外と暖かい(写真撮影/セルタン)

バズるけど売れない……売り上げは1割にも満たない食パン家具

なんとセルタンでは、たった一人の社員さんが食パンと目玉焼きシリーズの家具をつくり続けているらしい。Twitterアカウント(@cellutane01)を用いた広報の甲斐もあり、「セルタン=食パン家具の会社」と認識されつつあるものの、社内全体から見た食パン商品は1割程度。売り上げに至っては1割を切る。それでも「宣伝になる」、「採用試験を受けに来る学生が増える」という理由でつくり続けている。狂気である。

「食パンにこだわっているのは社内で私くらいなもので……。でも、本当はもっと食パンをつくりたいんです。食パンの家具は定期的にTwitterで拡散されるんですよね。だから、お金にならなくても話題にはなっているから、と社内にアピールをしてどうにか続けています」(同社担当者)

【画像7】食パンのビーズクッションに寝転がってみる(写真撮影/セルタン)

【画像7】食パンのビーズクッションに寝転がってみる(写真撮影/セルタン)

【画像8】すべすべの食パンに埋もれると快適すぎて起き上がれない(写真撮影/セルタン)

【画像8】すべすべの食パンに埋もれると快適すぎて起き上がれない(写真撮影/セルタン)

自分らしいインテリアの難しさ

「インテリアを他人ありきで考えてしまう方は、すごく多いのだと思います。Twitterで見て、いくら食パンをかわいいと思っていただいても、いざ部屋に置くとなると非常にハードルが高い。食パンのソファのツイートが拡散されたときに、売れ行きが伸びるのは食パンではなく(セルタンで扱っている)普通のソファ、なんてこともあります」と担当者は続ける。

【画像9】特大の目玉焼きブランケットは布団代わりになる(写真撮影/セルタン)

【画像9】特大の目玉焼きブランケットは布団代わりになる(写真撮影/セルタン)

好きなものを部屋に置くことも、好きなものを身につけることも、簡単なようで難しい。それを好きである、と多くの人に知られてもいい、これが自分だ、と自信を持てないと、おそらくできない。好きなものに囲まれることは、単にうれしいだけじゃない。きっと、自分という人間を楽しむことでもあるのだ。

【画像10】こんな部屋に住みたい(写真撮影/朝井麻由美)

【画像10】こんな部屋に住みたい(写真撮影/朝井麻由美)

ことセンスを問われるものに関して、いかに純粋な「好き」よりも、「こう見られたい」がモノ選びに影響しているかを改めて実感した。でも、そういう意味では、もしかしたら私は「食パンインテリアが好き」なのではなく、「食パン好きな人に見られたい」と思っている可能性すらあるのではないだろうか。なんてこった!

●取材協力
・セルタン

インテリアで重視すること、トップは「部屋が広く見える家具の配置やレイアウト」、ワコム調べ

(株)ワコムはこのたび、20代~30代の360人の男女を対象に「インテリアのレイアウト」に関する調査を実施した。調査時期は2018年1月4日~5日。それによると、インテリアを決めるとき最も重視することは、「部屋が広く見える家具の配置やレイアウト」と回答した人が51.7%と最も多く、次いで、「動線をしっかり確保した家具の配置やレイアウト」(42.8%)、「家具やアイテムのデザイン性」(35.3%)という結果。カラーコーディネートを重視するという声もあった。

引越しや模様替えの際、家具の配置やレイアウトで後悔したことがありますか?では、「ある」と答えた人が46.5%と、半数近くの人が家具の配置やレイアウトで後悔した経験があるようだ。理由は、「購入した家具の色や素材がイメージと違った」(57.3%)、「部屋が広く見える家具の配置やレイアウトができなかった」(44.9%)、「置く場所のシミュレーションをせず動線の確保ができなかった」(32.9%)だった。

家具の配置やレイアウトを考える際、配置図を書いたことがありますか?では、45.0%の人が「ある」と回答。さらに、配置図を書くことで失敗が防げると思いますか?では、66.1%の人が「思う」と回答しており、7割近くの人が事前に家具の配置図を書くことの重要性を感じているようだ。

ニュース情報元:(株)ワコム

あの人のお宅拝見[7] ガーデ二ング誌の編集者が家族と造り上げた、庭を愉しむ住まい

住宅業界のプレス発表会には、いつもすてきないでたちでいらした大先輩・横山禎子(ていこ)さん。昨年、71歳でガーデニング誌『BEISE(ビズ)』編集者としての現役を引退されたと聞き、念願のご自宅への訪問がかなった筆者。子育てと仕事を⻑年両立してきた、横山さんの興味深い半生記もお伺いすることができました。連載【あの人のお宅拝見】
『月刊 HOUSING』元編集⻑など住宅業界にかかわって四半世紀以上のジャーナリストVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。庭を愛する人は、家のクオリティにも妥協がない

横山さんのお住まいがあるのは東京都下町田市の緑が残る山の手住宅地。門扉からも階段が続く高台立地。

【画像1】取材当日は秋景色。花が終わっていたので、後日送っていただいた夏の写真が右。アガパンサスの⻘い花が両脇に(写真撮影/(左)片山貴博・(右)横山さん)

【画像1】取材当日は秋景色。花が終わっていたので、後日送っていただいた夏の写真が右。アガパンサスの⻘い花が両脇に(写真撮影/(左)片山貴博・(右)横山さん)

【画像2】タイル張り外壁に上げ下げ窓(米国マービン社製)、瀟洒(しょうしゃ)な外灯、趣のあるテラコッタ製ベンチ……と、期待値が上がるエントランス(写真撮影/片山貴博)

【画像2】タイル張り外壁に上げ下げ窓(米国マービン社製)、瀟洒(しょうしゃ)な外灯、趣のあるテラコッタ製ベンチ……と、期待値が上がるエントランス(写真撮影/片山貴博)

そして、迎えられた玄関の迫力に圧倒された!

昨今、一戸建て住宅なのにマンションのようなシングルドアの玄関が多いことを残念に思う筆者としては、この両開きの扉を見て「流石、横山さん!」と感激。家に想いがある人かどうかは、玄関に表れるもの。

【画像3】オークむく材、両開きのフレンチドアは米国製。開閉時の音に重厚感があるのは高級車と同じ感覚(写真撮影/片山貴博)

【画像3】オークむく材、両開きのフレンチドアは米国製。開閉時の音に重厚感があるのは高級車と同じ感覚(写真撮影/片山貴博)

玄関を入ると、2階への吹抜け階段とステンドグラスのリビングドアから陽が入り、明るいホールになっていました。

【画像4】亡き夫、版画家・横山皓一氏の作品がエントランスホールでお出迎え(写真撮影/片山貴博)

【画像4】亡き夫、版画家・横山皓一氏の作品がエントランスホールでお出迎え(写真撮影/片山貴博)

リビングドアの先に広がっていたのは、構造梁(はり)を見せた木質感たっぷりのリビング&ダイニング。大きな植物が豊かなインドア・ガーデンと、大きな出窓の向こうにはお庭の緑も見えます。

【画像5】ケヤキの大黒柱が中央に。煖炉も備え付けられ、ノスタルジックなインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像5】ケヤキの大黒柱が中央に。煖炉も備え付けられ、ノスタルジックなインテリア(写真撮影/片山貴博)

横山さんのお気に入り、窓辺の庭が眺められる特等席でお話を伺いました。

版画家のご主人がアトリエを拡張したい時期でもあった二十数年前、この家の建築を計画されたそう。「夫は建築が好きだったし、建材・設備選びは洋書などからアイデアを集めてね。庭もほとんど自分たちの手で造り上げたの」

【画像6】「この家は21年前、50歳のころに建てたの。実は29歳のときに最初の家を建ててうまく売れて(笑) 、2度目の家づくりだから、夫と2人で相当こだわりましたよ」(写真撮影/片山貴博)

【画像6】「この家は21年前、50歳のころに建てたの。実は29歳のときに最初の家を建ててうまく売れて(笑) 、2度目の家づくりだから、夫と2人で相当こだわりましたよ」(写真撮影/片山貴博)

【画像7】「大きな植物を育てるために、吹抜けをつくったの」と横山さん。インドア・ガーデンで、ケンチャヤシがすくすくと3m以上に育っている(写真撮影/片山貴博)

【画像7】「大きな植物を育てるために、吹抜けをつくったの」と横山さん。インドア・ガーデンで、ケンチャヤシがすくすくと3m以上に育っている(写真撮影/片山貴博)

植物のために設計するなんて、ガーデニング誌の編集者らしいと思いきや、「ここは『BISES』の編集部に入る前なの。元々、私はファッション誌の編集から始まってね……」と、私の知らなかった横山さんのキャリア話。

50 年近く前、女性の就職先など選べる時代では無かったころ。「私は最初から雑誌の編集がやりたくて、やっとの思いで就職できたのが『服装』というファッション誌の編集部。当時の出版社は徹夜なんて当たり前で、結婚するか仕事するかの選択だったわね」

そんな時代に、「人生、何事も楽しみたいと思って」結婚・出産と仕事を両立してきた横山さん。「でもさすがに、徹夜仕事と子育ては無理なので退職しました」

その子育て中、子どもとの庭いじりで精神的安らぎを得られた経験も次のキャリアにつながったのだそう。「子育てママ向けの『sesame(セサミ)』という雑誌が創刊され、ママの居ない編集部からお声がかかって」5時までの実質契約社員として出版社に復帰、ママとしての読者視点で企画を実現していったそうです。

子育て後にはがんも経験し、ガーデニングの世界へ没頭

お話しの続きは、お庭に出て伺うことにした。

【画像8】花は少ないなか、紅葉が進み始めたお庭。⻩色のオーニング(可動式の日よけ)はオランダ製、夏にはテラス全体を日陰にすることもできる(写真撮影/片山貴博)

【画像8】花は少ないなか、紅葉が進み始めたお庭。⻩色のオーニング(可動式の日よけ)はオランダ製、夏にはテラス全体を日陰にすることもできる(写真撮影/片山貴博)

「この家を建てた50歳のころ、がんが発覚して手術入院したのね。だけど、病院からFAXで原稿のやり取りをしていたわ(笑) 凄いわよね!」とさらりと話され、面食らった筆者……既に20年経過し、完治したそうで何より。

ちょうど、同じ出版社から創刊されて注目していたガーデニング誌『BISSE』。「今だからこそやりたいのは、これだ!」と、横山さんは編集⻑に手紙を書き、以来20年間、編集⻑の片腕として日本のガーデニング文化を担われてきました。

【画像9】ガーデン・ファニチャーを置いてくつろげるお庭は、正にアウトドア・リビング(写真撮影/片山貴博)

【画像9】ガーデン・ファニチャーを置いてくつろげるお庭は、正にアウトドア・リビング(写真撮影/片山貴博)

「雑誌をつくるときは、自分なら何を見たいか?って考えると、次々にやりたいテーマが出てきてね。またそれを家で実践して楽しんでたの」。自分が好きな事だから良い仕事ができて、結果、⻑く続けられるという好例ですね。

「この石畳(【画像10】)も、基礎の砂利から自分たちでやったのよ。夫が指示するように、私と息子が動いてね」

【画像10】素人仕事には見えない石畳。自然に生えたコケが雰囲気ある小径(こみち)、庭の奥へと続く(写真撮影/片山貴博)。右写真は夏、アジサイの一種ノリウツギが咲いている写真(横山さん撮影)

【画像10】素人仕事には見えない石畳。自然に生えたコケが雰囲気ある小径(こみち)、庭の奥へと続く(写真撮影/片山貴博)。右写真は夏、アジサイの一種ノリウツギが咲いている写真(横山さん撮影)

ガーデ二ング取材の経験は、自邸で随所に活かされていて見どころが満載。

【画像11】「庭は外の街並みとの調和も大切なので、できるだけ日本の樹木を植えています」(写真撮影/片山貴博)

【画像11】「庭は外の街並みとの調和も大切なので、できるだけ日本の樹木を植えています」(写真撮影/片山貴博)

【画像12】英国っぽい小物やバードバス、ガーデン愛好家なら「いいね!」したくなるさり気なさ(写真撮影/片山貴博)

【画像12】英国っぽい小物やバードバス、ガーデン愛好家なら「いいね!」したくなるさり気なさ(写真撮影/片山貴博)

【画像13】「夫はお昼から、ここでビールを愉しんだりして……創作活動は室内にこもるから、庭で季節を感じ ることは彼にとって大切だったのね」と、思い出を語ってくれた(写真撮影/片山貴博)

【画像13】「夫はお昼から、ここでビールを愉しんだりして……創作活動は室内にこもるから、庭で季節を感じ ることは彼にとって大切だったのね」と、思い出を語ってくれた(写真撮影/片山貴博)

「田舎風が好きなの」 こだわりのキッチンはフレンチ・カントリー

お庭を見て回り、お部屋に戻ると「こちらで休憩してちょうだい」と、庭に面したダイニングへ案内してくださった。

【画像14】木製家具の温かみあるダイニング&キッチン(写真撮影/片山貴博)

【画像14】木製家具の温かみあるダイニング&キッチン(写真撮影/片山貴博)

カウンターの向こうに見えるのは、コの字型の広いキッチン。「キッチンはタイル張りにしたかったの。大好きなアルハンブラ宮殿からインスピレーションを受けた“ブルー&イエロー”がテーマカラーです」

【画像15】タイル(フランス製)と調理器具や小物も“ブルー&イエロー”でそろえられてすてき!(写真撮影/片山貴博)

【画像15】タイル(フランス製)と調理器具や小物も“ブルー&イエロー”でそろえられてすてき!(写真撮影/片山貴博)

【画像16】水栓はオリュス社(フランス)のクラッシックデザイン。珍しいカラーシンクと共にフレンチ・カントリーなテイスト(写真撮影/片山貴博)

【画像16】水栓はオリュス社(フランス)のクラッシックデザイン。珍しいカラーシンクと共にフレンチ・カントリーなテイスト(写真撮影/片山貴博)

【画像17】洗面サニタリーでは、キッチンと同じタイルを大判のタイルと組み合わせたデザインに(写真撮影/片山貴博)

【画像17】洗面サニタリーでは、キッチンと同じタイルを大判のタイルと組み合わせたデザインに(写真撮影/片山貴博)

子育てと忙しい編集の仕事をもちながら「原稿を家に持ち帰ってでも、夕食は家族と共にしていました」と横山さん。このキッチンを見れば、庭づくりだけでなくお料理も相当お上手なのが分かります。

【画像18】キッチンでコーヒーを入れながら、こだわって選んだキッチンの建材についても興味深いお話が(写真撮影/片山貴博)

【画像18】キッチンでコーヒーを入れながら、こだわって選んだキッチンの建材についても興味深いお話が(写真撮影/片山貴博)

キッチン天板は御影石。「天然石なので食器を落としたら割れるのよ。だから優しく扱わないといけないの、粗雑な私が治っていいのよね」。そういう考え方、筆者は共感するところ! 余りにも簡単で便利で安くなり過ぎると、物の扱いが雑になるんですよね。

しばらく話していると、「私はおやつに甘いケーキより、こんなキッシュのほうが好きなの」と、オリーブを添えて運んでくださった。

【画像19】気候が良いときは、お庭のテーブルで休憩されるそう。お茶でなく、「ホットワインが好きでね」と横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像19】気候が良いときは、お庭のテーブルで休憩されるそう。お茶でなく、「ホットワインが好きでね」と横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像20】温かいホットワインをキッシュと共にいただき、身も心も温まって幸せ満開の筆者!(写真撮影/片山貴博)

【画像20】温かいホットワインをキッシュと共にいただき、身も心も温まって幸せ満開の筆者!(写真撮影/片山貴博)

落ち着いたインテリアの中、バイオリンのクラシック音楽と共に聞こえていたのは、水槽の優しく心地良い水の音。

【画像21】ご家族写真の下にある水槽。「夫が家での時間が⻑いから、何か生き物が居ると良いと思って飼った熱帯魚なの」(写真撮影/片山貴博)

【画像21】ご家族写真の下にある水槽。「夫が家での時間が⻑いから、何か生き物が居ると良いと思って飼った熱帯魚なの」(写真撮影/片山貴博)

お話の随所で亡きご主人との思い出話が出てきて、まだその存在も感じられるお住まいでした。お二人で丹精こめて造り上げた家と庭、文字通り素晴らしい“家庭”を築かれた横山さんのお話に感動しきり。

【画像22】Quality of Life、豊かな住生活を営むお手本の横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像22】Quality of Life、豊かな住生活を営むお手本の横山さん(写真撮影/片山貴博)

20代から50代の好奇心と行動力で走り切った半生と、今70代で新たなステージを歩み始めた横山さんのこれからを、ロールモデルとして私は追いかけて行きたいと思いました。

横山禎子
1946年愛媛生まれ。婦人生活社で『服装』『sesame』など雜誌編集者として第一線で活躍。23歳で結婚。『sesame』では子育てママの実体験を通じた読者視点の企画が好評を博す。50歳でガーデニング誌『BISES』(2017年1月発行号にて休刊)の編集に加わり20年間、庭のあるライフスタイルの魅力を提案し日本のガーデニング市場を牽引してきた。現在は地元で里山の保全やフットパスのNPO活動、山歩きなどを楽しむ。

ユナイテッドアローズ、フルオーダーのマンションリノベーション事業に進出

リノベーションマンションは、オリジナリティの高いインテリアや間取りを好む人々からの人気が高い。ファッションの一環として自分らしい住まいを求めるトレンドを受けて、不動産業界とアパレル業界が本格的にコラボレーションした、フルオーダーのリノベーションサービス「Re : Apartment UNITED APROWS LTD.(リ アパートメント ユナイテッド アローズ ) 」誕生。2018年1月6日よりサービスがスタートする。リノベーション事業や不動産仲介・売買事業を手がけるグローバルベイス株式会社と、アパレルブランドを展開する株式会社ユナイテッドアローズがタッグを組んだ。グローバルベイスの担当者は、今回の取り組みは両業界にとって革新的だと言う。「これまで、アパレル企業の家具部門とリノベーション会社が協業して、リノベ-ション済み物件に家具を設置したりすることはありましたが、今回は住空間の一部ではなく、空間作りの全てのプロセスにユナイテッドアローズが参加した事例となり、この点が業界初となります。内装やオリジナル家具の制作等、ユナイテッドアローズのブランドの世界観が、スタイリッシュかつ快適に住空間に落とし込まれています」とのこと。

具体的には都心の優良中古マンションの調達と施工をグローバルベイスのリノベーションワンストップ事業「マイリノ」が行い、内装デザインから家具製作に至るまでのプロデュースをユナイテッドアローズが行う。オーダーの流れは、モデルルームを見ながら顧客のライフスタイルや趣向をヒアリングし、間取りや設備等をアレンジした物件プランを提供するもの。

注文までの詳しい手順は下記のとおり。
(1)グローバルベイスまで問い合わせ
(2)希望の住まいや予算などのヒアリングを実施
(3)物件選びから資金計画を行う
(4)リノベーションの段取りを提案
(5)リノベーションの施行(定期報告など諸事項あり)
(6)物件の引き取り

モデルルームの第一弾は東京都武蔵野市のビンテージマンションの一室。インテリアの詳細も公開されている。

【リビング】
ユナイテッドアローズのオリジナル家具を設置。ガラスとアイアンを組み合わせた扉や、部屋ごとに設置している演出照明、壁と同様のモルタルを使用したリビングテーブル、壁にユナイテッドアローズのセレクト塗装を施すなど、こだわりがつまった空間。

【画像1】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像1】画像提供/グローバルベイス株式会社

【書斎】
リビングの一角にガラス張りの書斎スペースを設置。ガラス材とアイアンをパーティションに使用したオリジナル建具を使用。

【画像2】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像2】画像提供/グローバルベイス株式会社

【キッチン・ダイニング】
アイランド型のオリジナルキッチンには、オープン・シェルフが備え付けられ、グラスなどをディスプレイ収納が可能。また、キッチンとダイニングテーブルの天板は同じ大理石素材で制作したものを使用し統一感を演出。壁面は、天然の石の六角モザイクタイル。一つ一つ風合いが異なるオリジナルタイルを使用。

【画像3】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像3】画像提供/グローバルベイス株式会社

【洗面室】
壁面タイルはキッチンスペースと同じ天然石六角モザイクタイルを、また洗面台はキッチン・ダイニングと同じ大理石の天板を採用。

【画像4】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像4】画像提供/グローバルベイス株式会社

【寝室】
ユナイテッドアローズならではのオリジナルの見せるウォークインクローゼット。ガラスとアイアンで造作し広々とした収納スペースに。

【画像5】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像5】画像提供/グローバルベイス株式会社

今後の展開として、2018年の2月と4月にApartment UNITED ARROWS LTD.モデルルームの第2弾と第3弾が完成する予定とのこと。アパレル業界とリノベーション業界がコラボレーションする個性的な住まいが、どのように広がっていくのかが注目される。

お家での日常をおしゃれに撮るコツは? 人気インスタグラマーに聞いてみた

若者を中心に人気の写真投稿SNS「Instagram(インスタグラム)」。お部屋や日常の風景をアップしている人も多いけれど、上手に撮影するのは難しそう。そこで、人気インスタグラマーであるSakieさんとkyoooko.aさんに、暮らしをすてきに見せる撮影術を聞きました。
特別「カメラ女子」というわけではなかった

Sakieさんはフォロワー数6905人。札幌の「大きなワンルームのような一軒家」に夫と高校2年生と中学3年生の2人の娘さん、そして3歳のトイプードルという4人と1匹で暮らしています。時々顔を出すトイプードルの写真がキュートなアカウントです。

【画像1】明るく優しく、光にあふれる暮らしぶりがまぶしいSakieさんのInstagram(画像提供/Sakieさん)

【画像1】明るく優しく、光にあふれる暮らしぶりがまぶしいSakieさんのInstagram(画像提供/Sakieさん)

kyoooko.aさんはフォロワー数約1万8000人。東京都内の1Kの部屋に一人で暮らしています。一度一人暮らしをしたあと実家に戻り、二度目の一人暮らしをはじめてちょうど1年が経過したところ。家具などは以前実家に帰るときほとんど捨てて、いまは物をほとんど持っていないというミニマリスト。大好きな本は近所の図書館で借りることが多いそうです。

【画像2】ナチュラルなテイストのお部屋を撮影しているkyoooko.aさんのInstagram(画像提供/kyoooko.aさん)

【画像2】ナチュラルなテイストのお部屋を撮影しているkyoooko.aさんのInstagram(画像提供/kyoooko.aさん)

お二人にいつからInstagramを利用しているかをうかがってみると、Sakieさんは2年半前から、kyoooko.aさんは1年前からと、案外インスタ歴が長くないことが判明。そのわりにはお二人とも「インスタ映え」する写真を多く投稿されていて、コメントも上手です。

そこで、Instagramを始める以前にも写真を撮っていたり、何かに投稿したりしていたのかを聞いてみました。Sakieさんは「『365日1日1枚』というアプリと『Facebook』に投稿していました」とのこと。「写真撮影は好きでしたが、高いカメラは買えないのでトイカメラを使っていたこともあります」と、以前から興味をお持ちだったようです。

一方、kyoooko.aさんは「普段はまったく写真を撮りません。SNSによくある食事風景や、料理の写真も撮らないくらいなんですよ」と教えてくださいました。

日光の出ている時間がシャッターチャンス!?

Instagramを利用していて気になるのは、どんな写真をアップすれば「いいね」をもらえるのかということ。お二人は、どんなとき、どんなシーンを投稿しようと思うのでしょうか。

「暮らしのヒントを見つけたときや暮らしのこと、季節の変わり目、北海道らしさ、すてきなお店、トイプードルとの暮らし」など、Sakieさんは生活の折々に写真を撮ってみようと思うそうです。

「写真を撮ろう!と思っていると、Instagramに追いかけられる生活になってしまって大変なので、特に決めてはいません。なんとなく撮りたくなったときに撮ります」(kyoooko.aさん)

写真撮影時に気をつけていることやこだわりについては、二人とも一致しており、「なるべく日光の出ている時間帯に撮影します」と教えてくれました。スマホにつける小さな照明などのグッズもありますが、お部屋を自然に明るくきれいに写してくれるのは、やはり明るいお日さまだと分かります。

また、お二人は特別なカメラや、カメラのスペックが高いスマホを使っているわけではありません。Sakieさんは2015年冬に発売された「Xperia Z5」、kyoooko.aさんは「『iPhoneX』のカメラがすごいという話も聞きますが、まだ『iPhone5s』なんです。でもこれで十分きれいに撮れますよ」と笑って話します。

これだけでも驚きですが、お二人とも特別なアプリなども使わないというのです。加工はするとしても、インスタに最初から備わっているものを使う程度。Sakieさんはフィルターなしで、明るさは70から80にして、いつもトーンがおなじくらいの数値になるようにしているそうです。「そういえば、正面から取るのが好きなので、ななめからの写真がほとんどない気がします」(Sakieさん)。

kyoooko.aさんは「こまごまとした作業が面倒で、いやになってしまうので加工はしないことにしています。明るさも日光しだい」といいます。

【画像3】Sakieさんお気に入りの1枚(その1)、2017年10月19日撮影されたもので、札幌で初雪が降った翌日のお部屋の様子だそう(画像提供/Sakieさん)

【画像3】Sakieさんお気に入りの1枚(その1)、2017年10月19日撮影されたもので、札幌で初雪が降った翌日のお部屋の様子だそう(画像提供/Sakieさん)

【画像4】kyoooko.aさんお気に入りの1枚(その1)愛読している西加奈子さんの本が置かれた場所で、プロフィール画像にも使っている(画像提供/kyoooko.aさん)

【画像4】kyoooko.aさんお気に入りの1枚(その1)愛読している西加奈子さんの本が置かれた場所で、プロフィール画像にも使っている(画像提供/kyoooko.aさん)

大切なのは技術より心。思いがあれば上手に撮れる!?

最後に、上手に撮りたいと思っているかたへのメッセージを伺いました。

「上手に撮りたいという気持ちが大切です。日常の見え方が変わってきて、日が当たってすてきだなとか、窓の向こうの景色や、部屋を整えたくなる気持ちが生まれますし、撮って載せることから始まる想像力や緊張感、自分への厳しさも芽生えてくるでしょう。自分らしさも見つかると思います」(Sakieさん)

「いつも定位置から、定点観測的に撮影しています。最初はバリエーションが多いほうが、見てくれる人が楽しくてよいのかなと思っていましたが、気にしなくなりました。同じところで撮影することで、自分のパターンが出てきて記録になっていくのが楽しいですよ」(kyoooko.aさん)

奇をてらわず、自分らしいありのままの暮らしを正直に伝えること。そうした姿勢のりりしさが、写真の美しさを生むようです。

【画像5】Sakieさんお気に入りの1枚(その2)、大切な家族の愛くるしい姿(画像提供/Sakieさん)

【画像5】Sakieさんお気に入りの1枚(その2)、大切な家族の愛くるしい姿(画像提供/Sakieさん)

【画像6】kyoooko.aさんお気に入りの1枚(その2)撮影を続けるうち、自然に定点になったこの場所をいつも撮影している。明るい日差しがさし込む窓辺のベッドが印象的(画像提供/kyoooko.aさん)

【画像6】kyoooko.aさんお気に入りの1枚(その2)撮影を続けるうち、自然に定点になったこの場所をいつも撮影している。明るい日差しがさし込む窓辺のベッドが印象的(画像提供/kyoooko.aさん)

「インスタ映え」が流行語になりノミネートされ、たくさんのインスタ用アプリや機材が世の中にはあふれています。けれども、素敵な写真を撮れる人には、それらを超える「心の眼」があるように思います。部屋を少しだけ片づけて日光を招きい入れ、1枚写真を撮ってみてください。あなたの素直な暮らしが、そこに現れるかもしれません。

●取材協力
・sakie06さん
・kyoooko.aさん

お家での日常をおしゃれに撮るコツは? 人気インスタグラマーに聞いてみた

若者を中心に人気の写真投稿SNS「Instagram(インスタグラム)」。お部屋や日常の風景をアップしている人も多いけれど、上手に撮影するのは難しそう。そこで、人気インスタグラマーであるSakieさんとkyoooko.aさんに、暮らしをすてきに見せる撮影術を聞きました。
特別「カメラ女子」というわけではなかった

Sakieさんはフォロワー数6905人。札幌の「大きなワンルームのような一軒家」に夫と高校2年生と中学3年生の2人の娘さん、そして3歳のトイプードルという4人と1匹で暮らしています。時々顔を出すトイプードルの写真がキュートなアカウントです。

【画像1】明るく優しく、光にあふれる暮らしぶりがまぶしいSakieさんのInstagram(画像提供/Sakieさん)

【画像1】明るく優しく、光にあふれる暮らしぶりがまぶしいSakieさんのInstagram(画像提供/Sakieさん)

kyoooko.aさんはフォロワー数約1万8000人。東京都内の1Kの部屋に一人で暮らしています。一度一人暮らしをしたあと実家に戻り、二度目の一人暮らしをはじめてちょうど1年が経過したところ。家具などは以前実家に帰るときほとんど捨てて、いまは物をほとんど持っていないというミニマリスト。大好きな本は近所の図書館で借りることが多いそうです。

【画像2】ナチュラルなテイストのお部屋を撮影しているkyoooko.aさんのInstagram(画像提供/kyoooko.aさん)

【画像2】ナチュラルなテイストのお部屋を撮影しているkyoooko.aさんのInstagram(画像提供/kyoooko.aさん)

お二人にいつからInstagramを利用しているかをうかがってみると、Sakieさんは2年半前から、kyoooko.aさんは1年前からと、案外インスタ歴が長くないことが判明。そのわりにはお二人とも「インスタ映え」する写真を多く投稿されていて、コメントも上手です。

そこで、Instagramを始める以前にも写真を撮っていたり、何かに投稿したりしていたのかを聞いてみました。Sakieさんは「『365日1日1枚』というアプリと『Facebook』に投稿していました」とのこと。「写真撮影は好きでしたが、高いカメラは買えないのでトイカメラを使っていたこともあります」と、以前から興味をお持ちだったようです。

一方、kyoooko.aさんは「普段はまったく写真を撮りません。SNSによくある食事風景や、料理の写真も撮らないくらいなんですよ」と教えてくださいました。

日光の出ている時間がシャッターチャンス!?

Instagramを利用していて気になるのは、どんな写真をアップすれば「いいね」をもらえるのかということ。お二人は、どんなとき、どんなシーンを投稿しようと思うのでしょうか。

「暮らしのヒントを見つけたときや暮らしのこと、季節の変わり目、北海道らしさ、すてきなお店、トイプードルとの暮らし」など、Sakieさんは生活の折々に写真を撮ってみようと思うそうです。

「写真を撮ろう!と思っていると、Instagramに追いかけられる生活になってしまって大変なので、特に決めてはいません。なんとなく撮りたくなったときに撮ります」(kyoooko.aさん)

写真撮影時に気をつけていることやこだわりについては、二人とも一致しており、「なるべく日光の出ている時間帯に撮影します」と教えてくれました。スマホにつける小さな照明などのグッズもありますが、お部屋を自然に明るくきれいに写してくれるのは、やはり明るいお日さまだと分かります。

また、お二人は特別なカメラや、カメラのスペックが高いスマホを使っているわけではありません。Sakieさんは2015年冬に発売された「Xperia Z5」、kyoooko.aさんは「『iPhoneX』のカメラがすごいという話も聞きますが、まだ『iPhone5s』なんです。でもこれで十分きれいに撮れますよ」と笑って話します。

これだけでも驚きですが、お二人とも特別なアプリなども使わないというのです。加工はするとしても、インスタに最初から備わっているものを使う程度。Sakieさんはフィルターなしで、明るさは70から80にして、いつもトーンがおなじくらいの数値になるようにしているそうです。「そういえば、正面から取るのが好きなので、ななめからの写真がほとんどない気がします」(Sakieさん)。

kyoooko.aさんは「こまごまとした作業が面倒で、いやになってしまうので加工はしないことにしています。明るさも日光しだい」といいます。

【画像3】Sakieさんお気に入りの1枚(その1)、2017年10月19日撮影されたもので、札幌で初雪が降った翌日のお部屋の様子だそう(画像提供/Sakieさん)

【画像3】Sakieさんお気に入りの1枚(その1)、2017年10月19日撮影されたもので、札幌で初雪が降った翌日のお部屋の様子だそう(画像提供/Sakieさん)

【画像4】kyoooko.aさんお気に入りの1枚(その1)愛読している西加奈子さんの本が置かれた場所で、プロフィール画像にも使っている(画像提供/kyoooko.aさん)

【画像4】kyoooko.aさんお気に入りの1枚(その1)愛読している西加奈子さんの本が置かれた場所で、プロフィール画像にも使っている(画像提供/kyoooko.aさん)

大切なのは技術より心。思いがあれば上手に撮れる!?

最後に、上手に撮りたいと思っているかたへのメッセージを伺いました。

「上手に撮りたいという気持ちが大切です。日常の見え方が変わってきて、日が当たってすてきだなとか、窓の向こうの景色や、部屋を整えたくなる気持ちが生まれますし、撮って載せることから始まる想像力や緊張感、自分への厳しさも芽生えてくるでしょう。自分らしさも見つかると思います」(Sakieさん)

「いつも定位置から、定点観測的に撮影しています。最初はバリエーションが多いほうが、見てくれる人が楽しくてよいのかなと思っていましたが、気にしなくなりました。同じところで撮影することで、自分のパターンが出てきて記録になっていくのが楽しいですよ」(kyoooko.aさん)

奇をてらわず、自分らしいありのままの暮らしを正直に伝えること。そうした姿勢のりりしさが、写真の美しさを生むようです。

【画像5】Sakieさんお気に入りの1枚(その2)、大切な家族の愛くるしい姿(画像提供/Sakieさん)

【画像5】Sakieさんお気に入りの1枚(その2)、大切な家族の愛くるしい姿(画像提供/Sakieさん)

【画像6】kyoooko.aさんお気に入りの1枚(その2)撮影を続けるうち、自然に定点になったこの場所をいつも撮影している。明るい日差しがさし込む窓辺のベッドが印象的(画像提供/kyoooko.aさん)

【画像6】kyoooko.aさんお気に入りの1枚(その2)撮影を続けるうち、自然に定点になったこの場所をいつも撮影している。明るい日差しがさし込む窓辺のベッドが印象的(画像提供/kyoooko.aさん)

「インスタ映え」が流行語になりノミネートされ、たくさんのインスタ用アプリや機材が世の中にはあふれています。けれども、素敵な写真を撮れる人には、それらを超える「心の眼」があるように思います。部屋を少しだけ片づけて日光を招きい入れ、1枚写真を撮ってみてください。あなたの素直な暮らしが、そこに現れるかもしれません。

●取材協力
・sakie06さん
・kyoooko.aさん

あの人のお宅拝見[6] 料理研究家・有元葉子邸、建築家の娘がリノベーションで実現したキッチン・オリエンテッドな住まい

お料理だけでなく、その洗練されたライフスタイルに多くの女性ファンを持つ、料理研究家の有元葉子さん。筆者もその一人だが、実は有元さんの長女・このみさんとは10年前に地元の活動で知り合っていた。当初は有元さんの娘さんとは知らず、建築家・八木このみさんの柔らかな物腰に惹かれ親しくなった。

今回、取材の依頼を快く受けてくださったこのみさん。母上の料理研究家・有元葉子さんはイタリアの家に滞在中でご不在だったが、自身が手掛けられた母上宅のリノベーションを案内いただきながら、ゆっくりお話を伺うことができた。

連載【あの人のお宅拝見】
住宅業界にかかわり四半世紀以上のジャーナリストVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。築30年のマンションをフルリノベーション

5年ほど前に、自分らしい住まいにしたいと新たな家探しを始めた有元葉子さん。建築家である娘のこのみさんと共に選んだのが、こちらのマンション。築30年ほどですが、全室に窓があり、その窓から豊かな緑が臨める環境が決め手だったそう。

玄関ドアを開けると、正面に大きな出窓のあるホールに圧倒された。マンションでここまで広く、明るい玄関ホールは初めて!

【画像1】玄関の床壁、廊下をモルタル仕上げで一体化したシンプルで都会的なデザイン。窓の日差しがあるので、冷たく感じない(写真撮影/片山貴博)

【画像1】玄関の床壁、廊下をモルタル仕上げで一体化したシンプルで都会的なデザイン。窓の日差しがあるので、冷たく感じない(写真撮影/片山貴博)

【画像2】玄関で左右に居室が分かれる間取り、入って右手(写真奥)が寝室などプライベートゾーン。木製フローリングで、扉が無くても視覚的に境界だと分かる。3LDKから1LDK+Nへのリノベーション(写真撮影/片山貴博)

【画像2】玄関で左右に居室が分かれる間取り、入って右手(写真奥)が寝室などプライベートゾーン。木製フローリングで、扉が無くても視覚的に境界だと分かる。3LDKから1LDK+Nへのリノベーション(写真撮影/片山貴博)

【画像3】玄関を入って左手、キッチン・リビングなどのパブリックゾーンに続く床は、玄関と同じモルタル仕上げでシームレスに。鏡を天井高まで貼り奥行きを演出(写真撮影/片山貴博)

【画像3】玄関を入って左手、キッチン・リビングなどのパブリックゾーンに続く床は、玄関と同じモルタル仕上げでシームレスに。鏡を天井高まで貼り奥行きを演出(写真撮影/片山貴博)

このみさんに、施主である母上の要望や住まいへの想いを聞いてみた。

「実は私が母の家を設計するのは、ここが2軒目なの。最初は長野県の別荘、その時は『白黒、モノトーンの家にしたい』という要望でした」

【画像4】15年前に長野県野尻湖の母上の別荘を設計、斬新な形状で海外の本にも紹介。その写真を見せてくれた、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像4】15年前に長野県野尻湖の母上の別荘を設計、斬新な形状で海外の本にも紹介。その写真を見せてくれた、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像5】傾斜地の等高線に沿って建物を設計。外観が山並みに調和すると共に、室内にも木々が自然と入り込む。母・葉子さんの要望通り、モノトーンのシャープな空間(写真撮影/繁田 論)

【画像5】傾斜地の等高線に沿って建物を設計。外観が山並みに調和すると共に、室内にも木々が自然と入り込む。母・葉子さんの要望通り、モノトーンのシャープな空間(写真撮影/繁田 論)

「今回は、日本の素材をできるだけ使ってほしいと言われました。デザイン的には別荘とは違って、自宅として心地よいものに。母は私と違って“甘いモノ”が好きなんですよ」と、“甘い”とはデザイン・テイストのことで、レースなど乙女チックなかわいい系らしい。私も年々、“甘いモノ”好きになってるんだなぁ……。

「心底好きだった」実家の住空間が原風景

有元さんは、娘3姉妹が成長してから料理研究家としてメディアでも有名になった方。子育て中はどんなお母様だったのでしょう?

「小さいころから母は人を家に招いて、お料理を振る舞うのが好きでした。私たち娘には『料理は、しっかり食べて舌で覚えれば良い』という教えで、結婚して必要に迫られるまで母は特に教えようとしたり、手伝わせることもなかったんですよ」

このみさんの学生時代、母上がつくるお弁当は友達から注目の的で、わざわざ教室まで見に来る人たちがいたようです。既に料理研究家の片鱗がうかがえるお話。

「キッチンであれこれ試しながら研究している母の姿は楽しそうで、私たち姉妹も自然と料理好きにはなりました」

【画像6】「食べることは全ての基本。しっかり食べないと、体だけでなく心も育たないですよね」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

【画像6】「食べることは全ての基本。しっかり食べないと、体だけでなく心も育たないですよね」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

そのかわり、厳しく言われていたのは「片付け」だそう。「母は新聞の朝刊を読んだら、すぐに古紙置場へ片付けるような人。物は増やさない、ためないがポリシーです」。なるほど、こちらのお宅はショールームのように片付いていたのですが、それが有元家の日常のようです。

そんな、食べることを大切にして育ったこのみさんが設計する家は、キッチンが中心にあるキッチン・オリエンテッドな家。

「その家の一番良い場所を、キッチンにするプランニングを提案しています」

【画像7】大きな窓に面した明るいキッチン、タイル張りのL字型&木製のアイランド。天井板を取って配管を出した形で天井を高くした(写真撮影/片山貴博)

【画像7】大きな窓に面した明るいキッチン、タイル張りのL字型&木製のアイランド。天井板を取って配管を出した形で天井を高くした(写真撮影/片山貴博)

カスタムメイドのアイランドキッチン(オーク材)は、キャスター付きの可動式。これは、母上の料理教室スタジオで採用し好評だったので同じ機能にしたもの。人が集まるときにはレイアウトを変えられる、便利なモバイルキッチン。

「キッチンのキャビネット収納は、引出し型でなく[扉+内引出し]を私は提案しています」。引出し型より、取り出しやすく収納力もあるからだそう。内引出しはドイツ製の頑丈なステンレス製レール。

【画像8】扉の中はスライド式の可動棚。『ラバーゼ』ブランドで料理道具をデザイン監修している有元さんのキッチンには、当然ボウルから水切りかごまで『ラバーゼ』が勢ぞろい!(写真撮影/片山貴博)

【画像8】扉の中はスライド式の可動棚。『ラバーゼ』ブランドで料理道具をデザイン監修している有元さんのキッチンには、当然ボウルから水切りかごまで『ラバーゼ』が勢ぞろい!(写真撮影/片山貴博)

【画像9】「日本は料理道具が多いので、きっちり片付けられるようプランニングします」(写真撮影/片山貴博)

【画像9】「日本は料理道具が多いので、きっちり片付けられるようプランニングします」(写真撮影/片山貴博)

ドイツの老舗GAGGENAU社のガスコンロ。アイランドにはIHコンロと鉄板焼プレートもビルトイン。

【画像10】プロ仕様のコンロをタイルのカウンタートップに収め、ノスタルジックで懐かしいデザインに仕上げたキッチン。このみさんの言う“甘い”テイスト、私は大好き!(写真撮影/片山貴博)

【画像10】プロ仕様のコンロをタイルのカウンタートップに収め、ノスタルジックで懐かしいデザインに仕上げたキッチン。このみさんの言う“甘い”テイスト、私は大好き!(写真撮影/片山貴博)

「タイル張りのカウンタートップは雰囲気が良いだけでなく、意外と使いやすいですよ。最近のタイル目地は進化していて防汚機能も高くなっています」。有元邸では、L字で窓辺のカウンターまでタイルを張り、一体で質感のあるインテリア空間に仕上げている。

飾るものでなく、実用的なものが好きな母

キッチン上部はオープンシェルフ、籠(かご)のコレクションが印象的。

【画像11】「籠は、その土地ごとの素材でつくられたものが必ずどこにでもあるので、集めるのが好きみたいです」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

【画像11】「籠は、その土地ごとの素材でつくられたものが必ずどこにでもあるので、集めるのが好きみたいです」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

「でもね、これ飾りじゃなくて日常使っているもので。こんな使い方もしていて……」と言って、取り出してくれた籠の中には……「ゴム手袋が入っているの(笑)」

【画像12】布巾とかスポンジなどが籠に収納されている。単なる紐も、こんな風にするとインテリア小物のよう(写真撮影/片山貴博)

【画像12】布巾とかスポンジなどが籠に収納されている。単なる紐も、こんな風にするとインテリア小物のよう(写真撮影/片山貴博)

籠コレクションかと思いきや、片付けの達人らしいなんとも実用的なデコレーション。ぜひ、マネしたいアイデアです。

【画像13】籠は国内も地方によって特徴があるし、海外からでも軽いから持ち帰りやすいお土産。これぞ、暮らしの達人!(写真撮影/片山貴博)

【画像13】籠は国内も地方によって特徴があるし、海外からでも軽いから持ち帰りやすいお土産。これぞ、暮らしの達人!(写真撮影/片山貴博)

キッチンからワンルームでつながるオープンな空間は、ダイニング・リビング的な場所。中央には「母が、いつか欲しいと思っていた」著名な木工作家ジョージ・ナカシマ(米国)のラウンドテーブル。日本では香川県の桜製作所でつくられているもの。

【画像14】モルタル床に分厚いブラックウォールナット製テーブル、藤を編んだような紙パルプ製チェアにガラスのペンダント照明と、マテリアル・ミックスをこなした大人のインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像14】モルタル床に分厚いブラックウォールナット製テーブル、藤を編んだような紙パルプ製チェアにガラスのペンダント照明と、マテリアル・ミックスをこなした大人のインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像15】「この迫力あるテーブルに、パステルカラーのチェアを合わせるところが“甘いモノ”好きな母っぽい。私にはこの組み合わせは思いつきませんね(笑)」と、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像15】「この迫力あるテーブルに、パステルカラーのチェアを合わせるところが“甘いモノ”好きな母っぽい。私にはこの組み合わせは思いつきませんね(笑)」と、このみさん(写真撮影/片山貴博)

クールなデザインが好きなこのみさんに対し、私を含めた有元ファンは「この女性らしいヌケ感」に惹かれるのであります。

有元家のルール「おせちづくりは、全員集合!」

二児の母でもあるこのみさんは、夫と主宰する建築事務所の建築家であり経営者。自分のことだけで一杯一杯な筆者から見ると、さぞや忙しそうで、寝込んだりしないのかと心配しますが「母こそ今だに、国内外を飛びまわって大丈夫かしらと(笑)私も好きな仕事に没頭するのは、母譲りなんでしょうね」と笑います。

【画像16】「子どものころから母は、『仕事は一生続けなさい』と言っていたの」その言葉通りこのみさんは、子育てをしながら建築の仕事を続けてきた(写真撮影/片山貴博)

【画像16】「子どものころから母は、『仕事は一生続けなさい』と言っていたの」その言葉通りこのみさんは、子育てをしながら建築の仕事を続けてきた(写真撮影/片山貴博)

「母が仕事を始めたころは、どんな仕事も断らず引き受けて頑張っている姿を見てきました。子どものために必死だったと思います。今、自分も子どもを持ち『母は立派だったなぁ』と改めて実感します」

まだまだ現役でご活躍の母・葉子さんは、独立した娘達ファミリーと顔を合わす機会も少なくなりがち。「ここ10年くらい年末のおせちづくりは家族全員、絶対参加という暗黙の厳しいルールがあるんです(笑)」

年末の数日間、家族総出でキッチンに立ち手間暇をかけてつくるおせち料理。

【画像17】出来上がった25品目にも及ぶおせち料理!八木家では、浅めの漆塗りのお重に詰める(写真提供/八木このみさん)

【画像17】出来上がった25品目にも及ぶおせち料理!八木家では、浅めの漆塗りのお重に詰める(写真提供/八木このみさん)

その充実したおせち料理は『有元家のおせち作り』という本にも収められていますが、『おせちづくりには日本料理の基本が全て入っているから、年に一度、皆でつくるのは大事なこと』という母上の想いがあるという。それだけでなく、作業の合間に出されるまかない料理が充実していて、男子の孫たちもそれを楽しみに参加するそう。流石、料理研究家。孫の代まで胃袋つかんでマス。

今回の有元邸を訪問しこのみさんのお話を伺って、母・有元葉子さんが娘たちに伝えたいことが、このおせちづくりの“時と場”に集約されているように思えました。

食を通じて人をつくる素晴らしさを伝える母、それを実現するキッチンを設計するのが娘なんて、出来過ぎなストーリーですね。私も年始をおせちで祝えるよう、年末のラストスパート頑張りたいと思います!

建築家 八木このみ(娘)
1968年東京都生まれ。1993年芝浦工業大学工学部建築工学科卒業、1995年芝浦工業大学大学院修士課程修了。2000~2001年荻津郁夫建築設計事務所勤務を経て、2001年~ 夫・八木正嗣氏と八木建築研究所を主宰。2010年~ 芝浦工業大学非常勤講師。
ホームページ【八木建築研究所】
料理研究家 有元葉子(母)
料理教室やショップ経営の他著書も多数、料理関連以外にも『有元葉子・このみ・くるみ・めぐみ 母から娘へ伝える暮らしの流儀』など、新刊は『有元葉子の料理教室 春夏秋冬レシピ』。
ホームページ【@ da arimoto yoko】