パリの暮らしとインテリア[6] 田舎の週末の家でガーデンランチや陶芸を楽しむ

前回に続き今回もヘアアーティストのマサトさん(夫)とアクセサリーデザイナーのユキコさん(妻)の住むセカンドハウス<ウィークエンド・ハウス>のアトリエやお庭での生活などをご紹介します。連載名:パリの暮らしとインテリア
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。母屋の裏庭もコーナーごとにくつろげる工夫が

母屋の裏には、購入の決め手となった”自分で芝刈りができるぐらいの手ごろな広さの庭”があります。撮影しに伺った時もお友達ご夫妻が泊まりがけでパリからいらしていて、お友達がランチをつくって庭のテーブルで食事をいただきました。都会で暮らしている者にとって、なんとも贅沢なガーデン・ライフです。

外で食べるランチは最高! 5月から9月のお天気の良い日はほとんど外で食べるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

外で食べるランチは最高! 5月から9月のお天気の良い日はほとんど外で食べるそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「田舎暮らしの魅力は、家の敷地内ですべてが満たされるということ」とユキコさん。庭の芝生の上にテーブルとパラソルを立て、友達とのランチは開放感と共にゆったりとした時間が流れます。食後は各自庭の好きな場所で、例えば木陰の長椅子で静かに読書したりお昼寝をしたりします。夕方になれば、母屋のテラスでこの季節ならよく冷えたシャンパンでアペリティフ。大勢人が集まるときは庭の一番奥にあるテラスでバーベキュー。<ウィークエンドハウス>の裏庭でいろいろな過ごし方ができるのは、マサトさんとユキコさんお得意のコーナーづくりによるものです。
そして、すべてが芝生ではなく母屋から出てすぐの地面はコンクリートでそこがテラスになっていたり、バーべキューコーナーは煉瓦と石のブロックで囲まれた石の平らな地面になっていたりとさまざまで、これによってコーナーごとのメリハリがついています。

庭を見ながら過ごせる母屋のテラス(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭を見ながら過ごせる母屋のテラス(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭に長椅子は必須アイテムと考えている太陽が大好きなフランス人は多いそう。長椅子の奥の木陰にバーベキューコーナーがある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭に長椅子は必須アイテムと考えている太陽が大好きなフランス人は多いそう。長椅子の奥の木陰にバーベキューコーナーがある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「もともとあった桃の木からは食べられないほど桃を収穫できました」とユキコさん。野菜づくりは不在時に枯れてしまうことも多いですが、今年はここで生活する時間が多かったのでトマト、ナス、きゅうりも収穫できたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「もともとあった桃の木からは食べられないほど桃を収穫できました」とユキコさん。野菜づくりは不在時に枯れてしまうことも多いですが、今年はここで生活する時間が多かったのでトマト、ナス、きゅうりも収穫できたそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭の一角には道具をしまう小屋があって、愛犬のルーはこの一角の木陰が好き(写真撮影/Manabu Matsunaga)

庭の一角には道具をしまう小屋があって、愛犬のルーはこの一角の木陰が好き(写真撮影/Manabu Matsunaga)

陶芸に没頭するあまりに元ガレージをアトリエに

陶芸はマサトさんが今一番情熱をかけていること。パリで学生時代に出会った勝俣千恵子さんから陶芸の魅力を教わったそう。彼女は今では陶芸家として京都で暮らし、作品はパリのギメ東洋美術館にも収納されているなど、活躍している作家です。
母屋の離れにはトラクターなどを入れていたガレージがあり、そこの1部屋をアトリエとして使っています。「陶芸をやっている者にとって、アトリエは欲しくてしょうがないもの。もちろんかつて持っていた1軒目の田舎の家にもありました」とマサトさん。完全な趣味ではあるけれど、ウィークエンド・ハウスにはなくてはならない場所だという。
一人娘のアリスさんも同じ趣味を持っているので、親子の時間をここで過ごすことも多いそう。
そして、陶芸は土をこね、形をつくり、乾かし、焼き、色をつけ、また焼き……という工程を経るので、このように専用のスペースがあるのが理想的なのだとか。
皿や椀などの食器が陶器の作品としては一般的ですが、マサトさんの作品は<飾る>がテーマ。例えば、日本では日常的ではない<蝋燭台>もマサトさんの進行中の作品に何台もあり、実際蝋燭を灯すことも多いそう。そして、庭の花を飾るための<一輪挿し>もたくさん制作中。

母屋の横にある離れのガレージを陶芸アトリエに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

母屋の横にある離れのガレージを陶芸アトリエに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

乾き具合をチェック(写真撮影/Manabu Matsunaga)

乾き具合をチェック(写真撮影/Manabu Matsunaga)

乾燥を待つ陶器たち(写真撮影/Manabu Matsunaga)

乾燥を待つ陶器たち(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マサトさんは作品を古い鏡と一緒に母屋の浴室のコーナーに飾りました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マサトさんは作品を古い鏡と一緒に母屋の浴室のコーナーに飾りました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ガレージを部屋のように使うアイデア「夏の家」

離れの陶芸アトリエの横にもう一部屋あり、そこに夏の日に過ごす部屋をつくりました。「冬は寒くてここは無理だけれど、夏だったら気持ちよく過ごせるかも?」と家具を運び込んだそう。見ての通りドアがないのでそこは今後の課題だそう。
ここに置かれている家具や小物は、蚤の市や古道具屋で見つけてきたものや、母屋で使わなくなった家具とのこと。「扉がない吹きっさらしの部屋なので、惜しげも無く使えるものでないと」とユキコさん。隔てる壁や扉がないので、風が吹き当たるし嵐のときや横殴りの雨のときは室内に入ってきてしまう。使い込まれたものばかりで、ナチュラルな雰囲気は母屋とはまた別。
ただのガレージを機能的なアトリエにし、その横に土足のままでくつろげる「夏の家」をつくった。このふた部屋は、またとない個性的で魅力的な過ごしやすい場所となった。
陶芸アトリエと「夏の家」の上には、まだ手つかずの小部屋があり、そのうちアリスさんの部屋をつくろうかと計画中だとか。まだまだやることがたくさんある<ウィークエンド・ハウス>の進化が楽しみです。

母屋の隣にある元ガレージ小屋。左がマサトさんの陶芸アトリエ、右が壁も扉もまだない「夏の家」、そして二階が今後アリスさんの部屋にしようと計画中の物置部屋(写真撮影/Manabu Matsunaga)

母屋の隣にある元ガレージ小屋。左がマサトさんの陶芸アトリエ、右が壁も扉もまだない「夏の家」、そして二階が今後アリスさんの部屋にしようと計画中の物置部屋(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ゆかも壁もガレージの時のまま。この土壁と使い込まれたインテリアがとても合っている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ゆかも壁もガレージの時のまま。この土壁と使い込まれたインテリアがとても合っている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

近所のゴルフ場や川や森は近くの人々の憩いの場

<ウィークエンド・ハウス>から車で5分、マサトさんが毎週のように通うのが近所のゴルフ場。「このあたりにはゴルフ場と乗馬クラブが多いので、子どもに乗馬をさせたい家族や、ゴルフ好きの夫婦が引退後に移り住んできたりしています」とマサトさん。

シャトーの門のようなゴルフ場の入り口(写真撮影/Manabu Matsunaga)

シャトーの門のようなゴルフ場の入り口(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コースを囲む建物もシャトーホテルなのでとても素敵(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コースを囲む建物もシャトーホテルなのでとても素敵(写真撮影/Manabu Matsunaga)

このゴルフ場には、シャトーホテルがついているので、レストラン、スパ、ショコラトリーなどもあってとても気に入っているそう。ゴルフの後にレストランで食事を楽しむこともあるのだとか。
ゴルフ場の周りは、散歩もできるようになっているので家族連れや犬の散歩、ジョギングをする人を多く見かけました。特に週末や2カ月に一度ある2週間の子どもたちの休みの時は、たくさんの人が集まります。

森と川のあるこの辺りは、週末はいろいろなところから人が集まります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

森と川のあるこの辺りは、週末はいろいろなところから人が集まります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マサトさんとユキコさんが描く今後

マサトさんは裏庭のさらに奥に手付かずの鶏小屋があるので、そこを整備して鶏を飼うのが近い将来の夢。そして、「夏の家」の扉をつけること。「パリとこちらと二カ所で生活していますが、都会との違いを体験して、ここはなくてはならない場所だと感じます」と力説します。
ユキコさんは常に引越しを気にかけて物件を探しているそう。「私の夢は夕日の見える高台に住むことなんです。でもなかなか良い物件に出会いませんね」と話しますが、今の生活が不満なわけではないそう。
そして「パリとの二拠点生活は今だからできると考えているんです。田舎暮らしは足腰が勝負。年を取り、一人暮らしになったとしたら、生活を楽しめるのはパリだと思うから」とユキコさん。パリを捨てることはないと断言していました。

コロナ以降、フランスでも家を選ぶときの基準が大きく変わり、選択肢が増えました。特に若い人、パリから離れて生きていこうとする人が多いと聞きます。田舎の不動産も高騰しているようです。今後もテレワークで仕事をする人が増えていくと想像すると、都会にいてストレスのある生活よりも、良い空気を吸って広い家に住むことができる田舎暮らしにも魅力を感じます。
お二人のようにパリと<ウィークエンド・ハウス>の二つの生活は、理想的です。しかし両方を持つことはとても難しい。どちらか一つを選ぶなら、<ウィークエンド・ハウス>のように田舎暮らしを選ぶのが時代の流れなのかもしれません。

●取材協力
シャトー ドジェルヴィル

〈文/松永麻衣子〉

パリの暮らしとインテリア[5] 郊外の元農家を“週末の家”に。ヘアアーティストとアクセサリーデザイナー夫妻の休日

パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送るパリジャン・パリジェンヌのおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。今回はパリ在住45年のマサトさん(夫)とユキコさん(妻)の住むパリから80km離れたセカンドハウス<ウィークエンドハウス>を訪れました。連載名:パリの暮らしとインテリア
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。森と川、自然に囲まれたパリから80km離れた村へ

パリ在住のマサトさんはパリにヘアサロンを3店舗、日本では2店舗を持つ有名ヘアアーティスト、ユキコさんはアクセサリーデザイナー、独り立ちした娘のアリスさんはグラフィックデザイナー。パリではアパルトマンを5回引越しをし、今は145平米4部屋ある6区の住宅街に住んでいます。今回はそんな家族が週末ごとに集まる、パリから80km離れたButhiers(ビュテイエール)という村にある<ウィークエンドハウス>(とお二人が呼ぶ)まで足を延ばしました。パリ番外編です。

パリからウィークエンドハウスへ向かう間の村。パリから少し離れただけで、アパルトマンではなく一戸建てばかりの町並みに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリからウィークエンドハウスへ向かう間の村。パリから少し離れただけで、アパルトマンではなく一戸建てばかりの町並みに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリからの道中にある有名なクーランス城(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリからの道中にある有名なクーランス城(写真撮影/Manabu Matsunaga)

<ウィークエンドハウス>がある村ビュテイエールは、パリからフォンテーヌブローの森を抜け、ジャン・コクトーが住んでいたことでも有名なミリ=ラ=フォレを過ぎたところにあります。
「周りには森があったり小川や沼があったり愛犬のルーの散歩には絶好のロケーションなんです。この村には友達が住んでいて様子が分かっていたので安心して家を買うことができたのです」とマサトさん。毎日パリへ通勤できる距離でもあり、マサト夫妻のように週末ごとに通ってくる人も多くいます。

別荘購入のきっかけは「娘に良い空気を吸わせたかったから」

普段はパリのアパルトマンから仕事場へ通い、土曜日の夕方から火曜日の夕方まで<ウィークエンドハウス>で過ごすそうです。「ここは2軒目なんです。28年ぐらい前に娘のために購入した1軒目は、ここよりさらにパリから遠く100km離れたシオワという村でした」と購入のきっかけは良い空気を吸わせたいという思いから。
しかし、その家は広大な土地だったので芝刈りも庭師を頼まないとならないほど、そこでもう少しコンパクトで自分たちで全てできるような家を探し始めたのが7年前。そして巡り合ったのが元農家の家の<ウィークエンドハウス>だったそう。

アスファルトを叩いて剥がし少しずつ木を植えたりしているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アスファルトを叩いて剥がし少しずつ木を植えたりしているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

敷地は2800平米あり母屋は220平米。母屋の奥の裏庭は自分で草刈りできる程度の理想の広さだとか。農家時代に使用していたものをまだ着手できていないという場所もあるそう。通りから入るとアスファルトの広いスペースがあり、お二人ともここが気に入らない部分だとか(トラクターを乗り入れるためにしょうがなかったのだろうと想像)。正面に2階建ての母屋があり、まずそこを大々的に改装。右隣のトラクターなどの重機を駐車していたガレージの上には小部屋があり、裏庭の先の小高い丘にもまだ手つかずのにわとり小屋がある。

6カ月かけた農家の家の改装はマサトさん自らが設計

この元農家の家はお向かいのおばあちゃんが言うには築200年ぐらい。なんと彼女はこの家の2階で生まれたのだそう。「セカンドハウスというより不自由のない家づくりを目指したので、改装費に購入した金額の3割ぐらいをかけました」とマサトさん。
母屋の内部はマサトさん自ら設計をして、まずは壁などを壊して一部の木床を残し、仕切り直し、パリから業者を呼び寄せ住み込みで半年以上もかけて工事をするという徹底ぶり。

仕切りを外して一室にした大きなサロン。窓の外は芝生の広がる裏庭(写真撮影/Manabu Matsunaga)

仕切りを外して一室にした大きなサロン。窓の外は芝生の広がる裏庭(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの一角にある暖炉の周りはくつろぎのスペース。左の壁にはアフリカのマリ人アーティストのAMADOU SANOGO(アマドゥ・サノゴ)の2016年の作品が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの一角にある暖炉の周りはくつろぎのスペース。左の壁にはアフリカのマリ人アーティストのAMADOU SANOGO(アマドゥ・サノゴ)の2016年の作品が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

50年代を意識したインテリアはル・コルビュジエやイームズ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

50年代を意識したインテリアはル・コルビュジエやイームズ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アメリカンなコーナーには蚤の市で見つけた農業用のフォーク、アメリカから持ち帰った角が飾られてる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アメリカンなコーナーには蚤の市で見つけた農業用のフォーク、アメリカから持ち帰った角が飾られてる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

マサトさんが設計するにあたってまず着手したのは1階の<大きなサロン>だったそう。「そこにいろいろなスタイルの空間をつくりたいと考えていたんです」とマサトさん。改装後、大きなサロンは三つに分けられ、グレーの暖炉スペース、赤が基調のミッドセンチュリーモダンの家具のスペース、そしてアメリカンなスペース。どこで過ごしても居心地が良さそうだ。
「元農家の家は窓も小さく暗い印象だったので、明かりとりの小窓をつくったらどうか?と考えたんです」とマサトさん。その効果があって、大きなサロンのどこでくつろいでも穏やかな光に包まれる。

コーナーごとにテーマを持たせて家を飾る

お二人の趣味は全く同じではなくユキコさんはシックなバロック風が好き、マサトさんはナチュラルなアフリカものが好きなのだそう。マサトさんは撮影旅行であらゆるところに行き、そのたびにその土地ならではのものが欲しくなってしまうのだとか。この部分はユキコさんとも共通している。
旅した土地で必ず蚤の市やアンティークショップに寄り、古いものからインスピレーションを受けることも多いと二人は話す。今つくられたものより古いものに惹かれるというのも同じ。
しかし「長年一緒に住んでいても趣味が違うのは仕方がないと思うんです。そこで部屋のコーナーごとにテーマ性をもたせて飾ることを思いついたんです」とユキコさん。家全体で見てみると、お二人の趣味が調和され、より魅力的な空間になっていることが分かる。

藤で編んだサボテンのオブジェはスペインを旅した時に、藁で編んだ馬は南仏のカマルグで、旅で出会って家に飾るというのがお二人のスタイル(写真撮影/Manabu Matsunaga)

藤で編んだサボテンのオブジェはスペインを旅した時に、藁で編んだ馬は南仏のカマルグで、旅で出会って家に飾るというのがお二人のスタイル(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イームズの棚には旅各地の蚤の市で見つけたものが飾られている。肖像画はalexis kaloeffのサイン入り。ジャン・コクトーのお皿は近くの蚤の市で購入。かなり古いものらしい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イームズの棚には旅各地の蚤の市で見つけたものが飾られている。肖像画はalexis kaloeffのサイン入り。ジャン・コクトーのお皿は近くの蚤の市で購入。かなり古いものらしい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

1階は大きなサロンのほかにキッチンとダイニングがあり、サロンとの仕切りの壁にも小窓をつくり、クリスタルの食器や陶器の果物が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

1階は大きなサロンのほかにキッチンとダイニングがあり、サロンとの仕切りの壁にも小窓をつくり、クリスタルの食器や陶器の果物が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

<食>にちなんでダイニングの食器戸棚の上には、テリーヌポットとテーブル静物画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

<食>にちなんでダイニングの食器戸棚の上には、テリーヌポットとテーブル静物画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

チェストの上はユキコさんの好きなバロック風。ガラスドームの中のアンティークのオブジェは昔の流行の結婚式の引き出物のスタイル、ミリ=ラ=フォレの蚤の市で購入(写真撮影/Manabu Matsunaga)

チェストの上はユキコさんの好きなバロック風。ガラスドームの中のアンティークのオブジェは昔の流行の結婚式の引き出物のスタイル、ミリ=ラ=フォレの蚤の市で購入(写真撮影/Manabu Matsunaga)

好きなものだけを家に置く、という徹底したスタイルでこれらのコーナーは何年もかけて築き上げられたもの。「このウィークエンドハウスは飾ることを楽しめる家」とマサトさん。まだまだ進化していく途中と楽しそうに話してくれました。インテリアのへのそんな情熱はどこから湧き上がってくるのでしょうか?

インテリアのヒントは、旅の度に訪れる公開されている著名人の家から

「私たちはインテリア好きで、旅行先でも人の家(一般公開されている著名人の家)を見ることが共通な趣味なんです」とユキコさん。家を見て回るのはその人となりのスタイルが垣間見れ、この空間で彼らが暮らしていたのかーと想いを馳せることがとても興味深いのだとか。
「例えばアメリカ縦断の旅(3週間)でエルヴィス・プレスリーの家を見に行きました。大きくはない家でしたが家を挟んだ通りの向こうには専用飛行場があって驚きました」とお二人。
「建築家フランク・ロイド・ライトの家も感銘受けました。何もないところにひっそりと立つ姿には感動です」とマサトさん。
「この近くの村ミリ=ラ=フォレにはジャン・コクトーの家も公開されているのですよ。家だけではなく彼の庭づくりも参考になりおすすめです」とユキコさん。
このように、お二人が熱く語る著名人の家の数々からヒントを得て、”人となりの現れる<家>”という捉え方を常に意識しながら家づくりに励んでいるのだそう。どこかで見たヒントから自分らしい家づくりが生まれてくるとも。

階段下の廊下の壁には額がたくさん飾られています。額装された鏡と旅で見つけた田舎の風景画をミックスするのがマサトさん風(写真撮影/Manabu Matsunaga)

階段下の廊下の壁には額がたくさん飾られています。額装された鏡と旅で見つけた田舎の風景画をミックスするのがマサトさん風(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コロナ外出規制時の一番大掛かりなDIYは寝室の壁の塗り替え

1階には大きなサロンとキッチンとダイニング、2階にはご夫婦の寝室とは別に3部屋の客室があります。2階の一番奥にあるお二人の寝室も新たに設計し改装したそうです。
「寝るための寝室というよりは、ここでもくつろげるスペースをつくりたかったので、かなり広く設計しました」とマサトさん。ベッドのほかに椅子とテーブルを窓辺に設置。庭を見下ろす形に窓が配置され、ここでも明かり取りの小窓が空間を個性的に照らしています。

コロナによる外出規制の時に、壁の一面だけをブルーに塗り直したお二人の寝室(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コロナによる外出規制の時に、壁の一面だけをブルーに塗り直したお二人の寝室(写真撮影/Manabu Matsunaga)

塗り直した壁には額装した京都の着物の生地の原画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

塗り直した壁には額装した京都の着物の生地の原画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

映画運動・ヌーヴェヴァーバーグの象徴とも言える赤のソファー。天窓があり、とても明るい室内(写真撮影/Manabu Matsunaga)

映画運動・ヌーヴェヴァーバーグの象徴とも言える赤のソファー。天窓があり、とても明るい室内(写真撮影/Manabu Matsunaga)

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「客室3室は壁紙が素敵だったので、一部を残してほかは白のペンキで仕上げました」とゆきこさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「客室3室は壁紙が素敵だったので、一部を残してほかは白のペンキで仕上げました」とゆきこさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ウィークエンドハウスに欠かせないのは客室」とお二人。友達が遠くから来てくれて日帰りというのは実に味気ないとか。パリとは違ってゆっくりとした時間、良い空気、自然を身近に感じられる魅力を友達にも味わってほしいからだそう。
コロナの外出規制の時にパリではなく<ウィークエンドハウス>で2カ月以上生活をしていたお二人。この時ばかりと壁のペンキ塗りをしたり、家の細々したことに手間をかけることができた貴重な時間だったと振り返ります。

庭があることで外出制限の息苦しさを感じることなく過ごせたそう。確かにパリのマンションで家族全員が顔を合わせ、必要な買い物も1時間以内、歩き回れるのも直径100m以内という一番厳しい規制があった時には、この家はパラダイスだったはずです。

次回はそんな庭での過ごし方、マサトさんの陶芸アトリエ、夏の部屋などをご紹介していきます。

(文/松永麻衣子)

山野草からサボテン……さまざまな緑と暮らす、こだわり夫婦の家

インドアグリーンは住まいに自然の彩りを与え、不思議と心を落ち着かせてくれます。そこで、緑と上手に暮らしているご夫婦を取材。すぐに取り入れたくなる、こだわりのポイントを聞いてみました。
和を感じる山野草を中心にセレクト

訪れたのは、世田谷区にお住まいのHさんご夫婦の自宅。夫のDさんはIT企業勤務、妻のKさんはライターというクリエイターのお二人です。2016年に購入した100平米3階建ての戸建てには、緑をアクセントとして上手に取り入れています。

植物をセレクトしているのは、基本的に妻。部屋やベランダの随所に、多種多様な緑や花が配置されています。

「種類はバラバラなのですが、山野草が好きなので比較的多いかもしれません。食器やインテリアもですが、和テイストに惹かれるんです。それで自然と山野草に手が伸びるのかも。ただ、山野草ばかりに偏るのではなく、ハーブなども取り入れてバランスよく調和させることも意識していますね」(Kさん)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

「山野草が芽吹くと春だな~ってしみじみします。静寂さを醸し出しているところがすごく好きなんです」(Kさん)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

ニュートラルカラーやアースカラーの器に惹かれるというKさん。土っぽさや温かみがある焼物の鉢を好んで購入しているとか。さまざまな種類の観葉植物も、鉢のトーンを統一させるだけで、まとまりがうまれ、おしゃれ度がアップするのかもしれません。

空間のシンボルになっているのは、柱サボテン。見た目もサイズもひときわ存在感を放っています。他の観葉植物とはがらっとテイストが異なりますが……?

「素敵な住宅の写真を見ている中で目に留まり、懇意にしているエンジョイボタニカルライフ推進室の氏井さんに相談して仕入れていただきました」(Kさん)

ちなみに、エンジョイボタニカルライフ推進室では、室内緑化やお手入れの相談サポートの他、ワークショップなどを通して緑と暮らす楽しさを伝える活動も展開しているそう。Kさんもイベントを通じて知り、さまざまなアドバイスをもらっているそう。専門家の意見を取り入れるのも、上手に緑と暮らすコツなのかも。

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

住まいのテイスト→鉢→植物の順に考えるとインテリア性が高まるかも!

緑を暮らしに取り入れるうえで意識しているポイントについて、Kさんは次のように語ります。

「私はスモーキーやグレイッシュのような灰色がかったトーンのグリーンが好きなので、なるべく統一させるようにしています。ところどころ違う色が入ってもいいと思いますが、同じ系統の色味だと落ち着いた感じにまとまるんじゃないかと思います」

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

また、植物のインテリア性についても独自のこだわりが。

「植物はもとより、鉢は家に合うようなものを選んでいます。もし植物選びに迷ったら、内装の色味やデザインを踏まえたうえで、まずは鉢から選んでそこに植物を合わせるのもおすすめです。むしろ、その方がインテリア性が高まるような気がします」

時折、『Pen』『BRUTUS』といった雑誌にも目を通し、緑の取り入れ方の参考にしているそう。

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

また、お二人の友人で植物に関するアドバイザーでもある、エンジョイボタニカルライフ推進室の氏井暁さんは、緑のある暮らしについて次のように話します。

「Kさんは、ウッドパネルやフラワースタンド、壁掛けラックなど、資材を活用して上手にレイアウトしていますよね。住まいとのコーディネートも含め”緑のある暮らし”を楽しんでいらっしゃる感じがとても良いと思います」

もし、「どんな植物を選んでいいか分からない」という人も、眺めているだけで自然と好みが分かるようになるそうです。また、植物も生き物とあって、上手に共存するには植物が生まれ育った環境を知り、住まいとのギャップ(日照・気温・湿度など)をなるべく軽減してあげることも大切とのこと。

「植物からイメージを演出したい場合、植物の原産地や生息環境でセレクトしても面白いかもしれません。例えば一目惚れした植物が『シーグレープ』だったとすると、ネットで調べると原産地はフロリダ南部・西インド諸島・南米であることが容易にわかります。原産地のイメージから鉢植えを揃えてインテリアと一致させても良いでしょうし、器でがらっとイメージを変えてみるのもいいかもしれません。Kさんのように器ベースでコーディネートしてみてもいいと思います」(氏井さん)

住まいと緑を上手にコーディネートしているH家。テイストでまとめてレイアウトしたり、器の色味や素材感で統一感や住まいとの調和を演出したりすることが上手に緑を暮らしに溶け込ませるためのポイントになりそうです。

●取材協力
・エンジョイボタニカルライフ推進室

蔦屋書店に聞く! 本棚のおしゃれなレイアウト&収納アイデア

賃貸(1K・一人暮らし)でも書店のような本棚をつくりたいならDIYがオススメ、と「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平(さんじょう・ようへい)さんは言う。三條さんの自宅を参考に、おしゃれな本棚のつくり方のポイントを、書店員としての経験をもとに解説してもらった。「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平さん

「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平さん

三條さんが勤める「代官山 蔦屋書店」は、各ジャンルに精通したコンシェルジュのカラーが売り場に反映されていて、自身の知識とクリエイティビティを広げてくれる思いがけない本と出合うことができるのが魅力だ。数万冊もの本が並び、ただ身を置くだけでワクワクする “書店のような空間を自宅でも再現できたら”と思う方は多いはず。オリジナリティがあり大容量の本棚の作り方と、美しくおしゃれに収納するためのポイントをおさえて、その願いを実現しよう。

おしゃれな本棚にしたいならDIYがおすすめ

三條さんが現在の住まいに引越してきたのは約4年前。いわゆる“普通の賃貸1K”だが、本・雑誌だけで段ボール30箱ほど、約1200冊が約7畳の洋室に収まっている。

三條さん宅の間取り。約7畳の洋室に、幅60×奥行き30×高さ230cmの本棚が4つ、以前の住まいから本棚として使用しているキューブボックス6つが並ぶ

三條さん宅の間取り。約7畳の洋室に、幅60×奥行き30×高さ230cmの本棚が4つ、以前の住まいから本棚として使用しているキューブボックス6つが並ぶ

「通勤アクセスを第一に、なじみのあった学芸大学~武蔵小山辺りで部屋を探しました。物件選びの際に、本の収納は意識していなかったです」と三條さんは物件探しを振り返る。それでもおしゃれな本棚を見ると、質問攻めしたくなる。まずは、本棚についてのこだわりを尋ねた。

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既製品ではサイズがさまざまな本に対して可変性がないのとコストの面から、おしゃれな本棚のための第一のポイントは「自分でつくる、これに限ります!」と教えてくれた。「三田修平さんが運転手兼店主を務める移動式書店『BOOK TRUCK(ブックトラック)』の前身で『BOOK APART』という小さな本屋さんが昔ありました。そこの本棚がDIYでつくられているのを見て、いいな、と思ったんです」と三條さん。
以前の住まいではキューブボックスを本棚として使っていたが、際限なく増やせてしまうため止めたという。

以前の家には、このキューブボックスがもっとたくさんあった

以前の家には、このキューブボックスがもっとたくさんあった

ディアウォールやピラーブラケット等、DIYツールを使った本棚のつくり方

本棚の図面は、大学で建築学を学んだ三條さん自らが引いた。「本棚をDIYすれば低コストですし、つくり直すこともできます。つくり方は意外と簡単。一人で組み立てましたが、1棚あたり30分ほどでつくることができました」

図面を引くにあたり、まずは三條さん所有の本のなかで一番背が高い本に合わせ、1段の高さは40cmに設定。出版されている本の背は高くても40cmが上限だそうで、どんな本を並べるか決まっていない場合や、どんな本でも収納できる本棚をつくりたいという場合は、高さを40cmに設定するのがいいのだそう。そして棚の奥行きも同様に、一番奥行きがある本に合わせて30cmとし、パーツを使って両サイドの木材に取り付けた。棚の幅は60cm、棚を支える両サイドの木材の高さは、天井高よりやや低い2m30cmに。上端にブラケットパーツを取り付け、床と天井を使って突っ張らせることにより木材を柱として固定した。

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ちなみに三條さん宅の本棚は、ホームセンターで図面に合わせてカットしてもらった2×4材(ツーバイフォー材)と、東京・恵比寿の「P.F.S PARTS CENTER(ピーエフエス パーツ センター)」で購入したブラケットパーツ「PILLAR BRACKET(ピラーブラケット)」と「SHELVING STAY」で制作。棚を支えるパーツやブラケットパーツは、ホームセンターなどでも購入可能だ。

美しく本を並べるポイントは奥行き・高さ・陳列方法

三條さんの本棚に並ぶ本は、建築・デザイン関連をメインに、文庫や漫画、ビジネス書など幅広い。そして装丁や判型もバラバラなのに、書店のように落ち着きがあり、まとまりを感じられるのはなぜだろうか。続いては、おしゃれに見せるための本の収納方法を伺っていこう。

まずは本棚の奥行きの活用方法について尋ねると「店頭では、すべての本の背表紙を本棚の手前端に合わせることで面をつくり、きれいに見せています」という答えが返ってきた。しかし三條さんの本棚はその逆で、奥の壁に本を付けて並べている。そして手前にできたスペースを飾り棚として活用し、収納している本に関連したポストカードや小物を置いて、インテリアのアクセントにしているのだ。

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また「展覧会の図録の場合は、チケットの半券やフライヤーも一緒に挟んで収納しています」と三條さん。物として残してあると展覧会の記憶を留めておけるのだそう。本棚が本だけでなく、思い出の収納場所としても活用されている。

続いては本の高さについて。「店頭では、より多くの本を手に取ってもらうため、関連する本を判型に関係なく並べますが、自宅の本棚をきれいに見せるには、判型の似たもの、背の高さや本のサイズが合っている本を集めて収納するとまとまって見えます」と三條さん。とはいえ、特に背の高さは合わせづらいもの。そこでおすすめなのが、棚1段の両端に背が高い本を置き、中央にかけて低くする並べ方。こうするとアーチ状になりきれいに見えるという。

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最後は、本の陳列方法について。大きく分けて、背表紙を見せる「背ざし」、表紙を見せる「面出し」、表紙を上にして重ねる「平積み」の3パターンがある。三條さんの場合、“見せる”よりも読書歴のインデックスとして本棚を機能させているため、「背ざし」での収納がほとんどだが、書店のようにおしゃれに見せたい場合は「面出し」「平積み」のテクニックを使うと有効的だ。

「個人的には、自宅の本棚は自分に向けてつくる方が良いと思います。たまに来客の際にアピールしたい本を『面出し』してカッコつけるくらいでいいのではないでしょうか(笑)」。そう三條さんが言って持ってきてくれたのが、「BIBLIOPHILIC(ビブリオフィリック)」のブックスタンド。本棚の空いたスペースにこちらを使って表紙がかっこいい本を「面出し」して見せてくれたが、雰囲気がぐっと増す。

ブックスタンドを使って、面出し

ブックスタンドを使って、面出し

また本を「平積み」してブックエンドの代わりにするのも、本棚にリズムが生まれるのでおすすめだ。三條さんの場合は、棚の積載量に耐えられなさそうな厚い本を床に「平積み」して、“見せる”と実用性の合わせ使いをしている。

左が平積み、右が背ざし

左が平積み、右が背ざし

そして三條さんが気をつけているのが本の保存方法。「本棚の位置に気をつけ、日中はカーテンをするなど、直射日光には当てないようにしています」と、本好きならではの心遣いだ。お陰でどの本も新書のような状態を保っていて、それが本棚全体の美しさにもつながっている。

また本好きにとって、本が増えてしまうのが悩みどころ。この問題に対し、三條さんはどのように対処しているのか伺うと「本棚からはみ出したり、本棚全体との違和感が出てきたりしたら、その都度手放すようにしています」と潔い答えが返ってきた。本棚の美しさを保つためには、本の中身を見極めて整理していくことが必要不可欠だ。

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中身重視の並べ方でも“自分の軸”でまとまりが生まれる

“ジャケ買い”のように装丁が目を引く本をインテリア用に買うことはあるのか尋ねると、「飾ろうと思って購入した本はなく、好きなものを買っています」と三條さん。それでも本棚全体がまとまって見えるのは、並ぶ本に“自分の軸”があるからかも、という。

「作家・写真家・デザイナー別やカバーの色別に並べている方もいらっしゃいますが、私の場合は本の中身を重視して並べています。例えば、新しく買った本と本棚に収納してあった昔の本の内容がリンクしたら隣に、というように」と三條さん。本棚は読書歴の整理の場であり、“記憶の外部装置”。インテリアとしてではなく、“個人図書館”としてつくってみるのもいいですよ、と話す。
取材を通して改めて自身の本棚を見渡し、「長年買い集めては取捨選択しているので、改めて全体を見渡すといい本があるなと自画自賛ですね」と笑う。収納テクニックを使って美しく見せながら、月日を掛けて本を入れ替えていく中で、自分らしさや感性が反映され、本棚が熟成していくのだろう。

部屋の壁にもさり気なくフリーペーパーが飾られていた

部屋の壁にもさり気なくフリーペーパーが飾られていた

●取材協力
「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュ 三條陽平さん
TSUTAYA TOKYO ROPPONGIで建築・デザインの担当をした後、2012年から「代官山 蔦屋書店」のコンシェルジュに。月に一度、建築物を見るために地方へ出かけることをライフワークとしている。最近最も感銘を受けた建築は「太田市美術館・図書館」。
代官山 蔦屋書店

BEAMS流インテリア[5] ないものは創る!賃貸1Kの部屋を自分らしく住みこなすDIY女子

原宿の勤務先まで乗り換えなしで通勤できる賃貸に住むBEAMS BOYの島田華衣(しまだ・けい)さん。25平米の1Kという限られた空間ながら「欲しいものが手に入らなければ自分で創る」というDIY精神を発揮して、仕事柄多い洋服や靴、スケボーなど趣味のものなどもしっかり収納。賃貸でもOKなDIYやオリジナルな工夫あふれる部屋を紹介しよう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。15軒内見して選んだのは人気沿線で便利な立地の和風レトロな25平米の1K

島田さんのお仕事はBEAMS BOYのVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)として店舗の陳列や空間づくりをすること。勤務先が町田から原宿になったのをきっかけに、通勤の利便性を考えて今の部屋に引越したというので、まずは部屋選びのこだわりポイントを聞いてみた。

「以前住んでいたのは横浜の5.3万円の部屋だったので、都内とはいえせめて家賃は6万円台に抑えたい。沿線は以前住んでいたので馴染みもあり、しかも通勤が一本ですむ東急東横線が希望でした。女性の一人暮らしなので防犯上2階以上でベランダ付き、料理もするのでワンルームでなくキッチンが分かれた間取り、収納もなるべく多く、と欲張りました」と島田さん。

人気沿線での部屋探しだったこともあり、内見した部屋は不動産会社3社で合計15軒。最終的に島田さんが選んだのは、昔ながらのレトロな玄関ドアに惹かれたという築36年(当時)のこの物件だった。新しい物件も見たけれど、どれも似ていて個性がなくてつまらないと感じたという。

家賃はギリギリ6万円台に収まり、東急東横線学芸大学から徒歩7分で2階、ベランダ付き、と希望通り。室内も押入れや廻り縁(まわりぶち ※天井と壁の境目に取り付ける縁のような部材のこと)など昔ながらの和室の面影を残しながら、床はフローリングになっていたのも決め手のポイントだった。「床に座る和風の暮らしにしたかったので和室でもよかったのですが、畳は重い物を置くと跡が付いて修繕が大変そう」と退去後のことまで考えるあたり、さすが上京して10年、引越しも3回目のベテランだ。

島田さんが一目で気に入ったという、典型的昭和レトロな玄関ドアとタイルの浴室がある1K(写真撮影/飯田照明)

島田さんが一目で気に入ったという、典型的昭和レトロな玄関ドアとタイルの浴室がある1K(写真撮影/飯田照明)

昭和レトロな間取りを活かし、DIYと見せる収納で空間活用

それでは昭和レトロな1Kを、お仕事洋服や靴、趣味も多い島田さんがどのように住みこなしているのか具体的にご紹介していこう。まずは玄関を入ってすぐの靴の収納棚はDIYで作成したもの。造り付けの靴箱はあったが全く収納量が足りず、元々持っていた棚を置くと玄関をふさいで通りにくくなってしまう。そこで靴が置ける最小限の奥行きでDIYでオリジナルの棚をつくり、靴の収納と玄関への出入りのしやすさ、両方を手に入れることに成功。7~8年続けている趣味のスケートボードも、よく使うものは玄関先に置いている。

左手の造り付けの靴箱には12足しかはいらないため、通路の邪魔にならない奥行きの浅いオリジナルの靴用の棚をDIYして40足以上をたっぷり収納(写真撮影/飯田照明)

左手の造り付けの靴箱には12足しかはいらないため、通路の邪魔にならない奥行きの浅いオリジナルの靴用の棚をDIYして40足以上をたっぷり収納(写真撮影/飯田照明)

棚の奥行きを靴のサイズより小さくすることで、収納量をキープしつつ通路の邪魔にならないよう動線にも配慮。以前使っていた収納棚の枠を利用して、棚板を新しくしたDIYだ(写真撮影/飯田照明)

棚の奥行きを靴のサイズより小さくすることで、収納量をキープしつつ通路の邪魔にならないよう動線にも配慮。以前使っていた収納棚の枠を利用して、棚板を新しくしたDIYだ(写真撮影/飯田照明)

島田さんのお部屋は典型的な1Kの間取り。元々収納は玄関入って左手の靴箱と押入れひとつのみ。これをDIYで収納たっぷりの部屋に。玄関入ってすぐのDIYの靴棚も通常の奥行きの棚では通路がふさがれてしまう(提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

島田さんのお部屋は典型的な1Kの間取り。元々収納は玄関入って左手の靴箱と押入れひとつのみ。これをDIYで収納たっぷりの部屋に。玄関入ってすぐのDIYの靴棚も通常の奥行きの棚では通路がふさがれてしまう(提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

多趣味なうえに、収集癖もあるという島田さん。現在の趣味はスケートボード、エレキギター、コーヒー、好きなアーティストの作品集コレクションなど幅広い。ちなみに23歳から始めたというスケートボードは歴代のものも合わせて7枚もあるという。「一度しまい込むとそのままになってしまう」という理由から、基本的に全て見せて収納する主義。「いつも見せるようにしていれば忘れないし、湿気もこもりませんよ」。

靴棚と並んで設置されたキッチン用品の棚と化粧品やバス用品を収納したワゴン。こちらも使いやすさ重視の見せる収納だ(写真撮影/飯田照明)

靴棚と並んで設置されたキッチン用品の棚と化粧品やバス用品を収納したワゴン。こちらも使いやすさ重視の見せる収納だ(写真撮影/飯田照明)

キッチン用品の棚には趣味のコーヒー豆やコーヒーミル。パスタなどの食材も見せて収納されている(写真撮影/飯田照明)

キッチン用品の棚には趣味のコーヒー豆やコーヒーミル。パスタなどの食材も見せて収納されている(写真撮影/飯田照明)

ギャラリーのような、このスペースはなんとトイレ! 歴代のお気に入りのスケボーが飾られ、収納を超えてオブジェ的存在に(写真撮影/飯田照明)

ギャラリーのような、このスペースはなんとトイレ! 歴代のお気に入りのスケボーが飾られ、収納を超えてオブジェ的存在に(写真撮影/飯田照明)

収納スペースの面でも、洋風のクローゼットより和風の押入れのほうが奥行きもあり物がたっぷり入る。この部屋を選んだ理由のひとつである押入れならではの奥行きをフルに活用して、衣類は全てこちらに引き出し式に収納している。ただしプラスティックケースなどふたつきでしまい込むと忘れるし、湿気がこもって服が傷んだ経験もあるので基本オープンに。押入れの戸も普段は開け放して使っている。

押入れスペースは一間分。上部は左右どちらもハンガーポールに上着を吊るし、下部は奥行きを利用した引き出す収納に。左下部にはパンツ類やトレーナーなどかさばる物を色別に、右はTシャツ類など軽い物を中心に(写真撮影/飯田照明)

押入れスペースは一間分。上部は左右どちらもハンガーポールに上着を吊るし、下部は奥行きを利用した引き出す収納に。左下部にはパンツ類やトレーナーなどかさばる物を色別に、右はTシャツ類など軽い物を中心に(写真撮影/飯田照明)

重量感がある衣類もたっぷり収納して楽々引き出せるワゴンは、押入れの奥行きぴったりのものをインターネットで探して購入(写真撮影/飯田照明)

重量感がある衣類もたっぷり収納して楽々引き出せるワゴンは、押入れの奥行きぴったりのものをインターネットで探して購入(写真撮影/飯田照明)

引越しても家具は買わない! 落ち着く和と好きなアメカジをミックスしてDIYサバイバル生活

島田さんが部屋で過ごす際は、インテリアのポイントになっている自作のテーブルを前に、床に座るかベッドをソファ代わりにするか。実はこの自作のテーブル、冬にはこたつにもなるという優れものでDIYに目覚めるきっかけとなった作品。

元々実家にもこたつがあって、椅子にテーブルというより床に座る生活がしたく、冬にはこたつが必須だった。ところがおしゃれなデザインのこたつはなく、友人からもらったこたつも手放せないし、狭い部屋なのでいくつもテーブルは置けない。イメージ通りのものを探してもなければ、おしゃれな天板をつくって通年使用しようと思ったのだという。

島田さんのインテリアのポイントとなるこたつ兼用のテーブルと壁収納はともにDIY作品。テーブルは大好きなコーヒーが似合うテーブルをと映画「コーヒー&シガレッツ」に出てくるチェッカーフラッグのテーブルのイメージからのオリジナルデザイン。壁収納はまだまだ進化中(写真撮影/飯田照明)

島田さんのインテリアのポイントとなるこたつ兼用のテーブルと壁収納はともにDIY作品。テーブルは大好きなコーヒーが似合うテーブルをと映画「コーヒー&シガレッツ」に出てくるチェッカーフラッグのテーブルのイメージからのオリジナルデザイン。壁収納はまだまだ進化中(写真撮影/飯田照明)

4年前の初DIY作品だというこたつテーブルの天板。チェッカーフラッグを少なめに市松模様風にして、周辺を木材で囲んで和テイストをミックスしたオリジナルデザインだ。冬にはこたつになるとは思えない、インテリアの中心。しかも制作日数は半日を3回程度、材料費約6000円だというから驚きだ(写真撮影/飯田照明)

4年前の初DIY作品だというこたつテーブルの天板。チェッカーフラッグを少なめに市松模様風にして、周辺を木材で囲んで和テイストをミックスしたオリジナルデザインだ。冬にはこたつになるとは思えない、インテリアの中心。しかも制作日数は半日を3回程度、材料費約6000円だというから驚きだ(写真撮影/飯田照明)

4年前にテーブルをつくってから、すっかりDIYに夢中に。「自分の部屋はスペースも限られているため、友人に頼まれたものでDIY修行しました(笑)」。マガジンラック、テーブル、靴箱、額など作品も多彩で「インスタグラムで #島田工務店 、として作品をアップしています」というから本格的だ。

今回の引越しの際も、新たな家具は購入せず、ないものはDIY でつくるという「DIYサバイバル生活」だという。壁の収納棚は見事な見せる収納で、収納量の確保とインテリアを兼ねている。

見せる収納のポイントになる自作の収納棚はテレビ台も兼ねた優れもの。材料費5000~6000円、制作日数は色塗りから始めて、トータル2日間だという(写真撮影/飯田照明)

見せる収納のポイントになる自作の収納棚はテレビ台も兼ねた優れもの。材料費5000~6000円、制作日数は色塗りから始めて、トータル2日間だという(写真撮影/飯田照明)

壁収納は、賃貸なので傷をつけず原状復帰できるように気を付けてDIY。支柱となる角材5本を高さ調整できる突っ張り金具のパーツで固定し、角材に一枚の板を箱状にした収納棚を付けてつくる(写真撮影/飯田照明)

壁収納は、賃貸なので傷をつけず原状復帰できるように気を付けてDIY。支柱となる角材5本を高さ調整できる突っ張り金具のパーツで固定し、角材に一枚の板を箱状にした収納棚を付けてつくる(写真撮影/飯田照明)

カーテンはIKEAのクリップで切った布を挟んで吊るしただけのシンプルなもの、ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに馴染むよう着色して台にして、マットレスを乗せただけの簡単なDIY。確かに全てDIYで新しく買ったものはないにもかかわらず、この部屋にぴったりで島田さんの個性あふれる部屋に仕上がっている。

ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに合うよう着色した土台の上にマットレスを置いただけのシンプルなもの。「通気性もあり、低めでちょうど使いやすいです」(写真撮影/飯田照明)

ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに合うよう着色した土台の上にマットレスを置いただけのシンプルなもの。「通気性もあり、低めでちょうど使いやすいです」(写真撮影/飯田照明)

自分の部屋のインテリアだけでなく、いまでは友人からのDIY依頼物も多くて、製作待ちリストがあるという島田さん。この部屋もこれから洗濯機上にランドリースペースをつくるなど、収納を増やしていく予定とのこと。お気に入りのインテリアショップに行っても「高い家具はなかなか買えないので、インスピレーションだけもらってDIYのパーツを買って帰ります」という徹底したDIY女子。賃貸1Kをこれだけ自分らしく住みこなせるのは、DIYの腕とセンスと工夫あってこそ、ですね。

●取材協力
・BEAMS

BEAMS流インテリア[4] 新しいのに懐かしい、ビンテージ好きが選んだ経年変化を楽しむ古民家暮らし

渋谷のBEAMS MEN SHIBUYAでショップマネージャーとして働く近藤洋司(こんどう・ひろし)さん。ファッションだけでなくインテリアもビンテージ好きで、住まいは築50年の平屋を全面リノベーションしたという徹底ぶり。鎌倉の高台に建つ、自然と古き良きものに囲まれた、ちょっと懐かしい感じがする古民家のお宅にお邪魔した。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。経年変化で味わいが増し、価値が落ちないのがビンテージの魅力

鎌倉の築50年の平屋を一年がかりで探し、さらに約半年かけてリノベーションしたという近藤さん。ガーデニング関連の仕事をする妻と2人で住む新居だ。「神奈川出身なので、家を持つならなじみが深く自然豊かなエリアがいいと思い、鎌倉、逗子、葉山で古民家を探し始めました」

近藤さんは、住まいだけでなくファッションもインテリアのコレクションなども一貫して、大のビンテージ好き。ビンテージとの出合いは、中学生のころ。当時サッカーの中田選手や前園選手がビンテージ物の服を着こなしているのに影響を受け、古着に凝り始めたのだという。今でも古着好きで、仕事にもつながる筋金入りだ。

寝室のクローゼットコーナー3列のうち右側2列が近藤さん分。洋服の半分は新品、半分は40年代から70年代ものだという古着好き(写真撮影/片山貴博)

寝室のクローゼットコーナー3列のうち右側2列が近藤さん分。洋服の半分は新品、半分は40年代から70年代ものだという古着好き(写真撮影/片山貴博)

古着の次は、働き始めてから食器に凝り始めた。「いい食器があるとモテるかな、と思って(笑)」とビンテージの北欧食器、ARABIA(アラビア)の絵皿を約8000円で単品購入。そうするとシリーズでそろえたくなって、海外駐在していた姉に頼んだり、インターネットなどさまざまなルートで集めたという。

キッチンのオープンな収納棚には、シリーズごとにRORSTRAND(ロールストランド)やARABIAなどのビンテージ北欧食器がずらり(写真撮影/片山貴博)

キッチンのオープンな収納棚には、シリーズごとにRORSTRAND(ロールストランド)やARABIAなどのビンテージ北欧食器がずらり(写真撮影/片山貴博)

さらにビンテージのコレクションは家具、雑貨、インテリア小物などと、広がっていく。「新しい物より、古い物の方が好きです。ストーリーがあるし、何より本物だから」という近藤さん。「本当にいい物で新しい物は高くて手が出なかったり、数が限られていて手に入らなかったり。さらに新品は中古になった瞬間に価値が下がるけれど、ビンテージ物は価値が下がりにくいのも魅力です」。

古い日本家屋にインダストリアルなテイストを組み合わせた独自空間

新居を探す際、住まいも価値が下がらないビンテージをと考えた。ところが、中古住宅を見学しても、築20年や30年ではただ古いだけで、味わいがあるちょうど良い古さの家はなかった。物件探しを始めて約一年、ようやく鎌倉の高台に建つ築50年の平屋に出合う。古いうえに小部屋が多くて室内は暗く、空き家になって長いため、庭にはススキや雑草が生い茂っていた。それでも「おばあちゃんが住んでいそうな懐かしい感じ。縁側があって、木の建具やレトロなガラスなど、求めていたイメージにピッタリでした」。

早速、雑誌などで作品を見て設計依頼したいと思っていた宮田一彦アトリエさんと現地へ。海が近く湿気が多い鎌倉だが、高台なので古くても基礎や土台は傷んでいないとプロからのお墨付きをもらい、購入して暗く使いにくい間取りは全面的にリノベーションをすることにした。

昔ながらのレトロな木製建具が残る平屋に一目惚れして、これを活かしてリノベーションすることに。高台にあるので遠くの山並みも見えて眺めも良い(写真撮影/片山貴博)

昔ながらのレトロな木製建具が残る平屋に一目惚れして、これを活かしてリノベーションすることに。高台にあるので遠くの山並みも見えて眺めも良い(写真撮影/片山貴博)

リノベーションにあたって近藤さんからオーダーしたのは3つ。アイランドキッチンにすること、フローリングを山形杉の柿渋塗装(柿渋からつくった液による古くからある日本の塗装方法。時間経過によって味わい深い色へと変化していくのが魅力)にすること、物が多いので最大限の収納スペースをつくること。「作品例を見てテイストは気に入っていたので、基本的に間取りはお任せしました」。

近藤さんの住まいのビフォーアフター。4畳半を中心に細かく仕切られ暗かった約60平米を、仕切りを全て取り払い、LDK・寝室・水まわりのシンプルでオープンな空間に(近藤さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

近藤さんの住まいのビフォーアフター。4畳半を中心に細かく仕切られ暗かった約60平米を、仕切りを全て取り払い、LDK・寝室・水まわりのシンプルでオープンな空間に(近藤さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

そして出来上がったのは、大きなLDKと寝室と水まわりに分かれたオープンな空間。天井は全て構造材をむき出しにして、ギリギリまで天井の高さを利用してロフトをつくり、物を置けるようにして収納の悩みを解決した大胆なリノベーションだ。

LDKの中央にはステンレスのアイランドキッチン。照明はむき出しの蛍光灯と2つの50年代フランスの工業用照明がインテリアのポイントに(写真撮影/片山貴博)

LDKの中央にはステンレスのアイランドキッチン。照明はむき出しの蛍光灯と2つの50年代フランスの工業用照明がインテリアのポイントに(写真撮影/片山貴博)

LDKと寝室を仕切るのは大正末期の「蔵戸」といわれる重厚な引き戸。アンティーク家具ショップをはしごしてイメージに合うものを近藤さん自身が探した(写真撮影/片山貴博)

LDKと寝室を仕切るのは大正末期の「蔵戸」といわれる重厚な引き戸。アンティーク家具ショップをはしごしてイメージに合うものを近藤さん自身が探した(写真撮影/片山貴博)

寝室の奥には広くオープンなクローゼットスペース。「クローゼットの中は隠したいものではないし、使い勝手の面でも湿気対策面でも扉を付ける必要を感じません」(写真撮影/片山貴博)

寝室の奥には広くオープンなクローゼットスペース。「クローゼットの中は隠したいものではないし、使い勝手の面でも湿気対策面でも扉を付ける必要を感じません」(写真撮影/片山貴博)

収納は縦空間を利用、古い日本家屋にインダストリアルでレトロなインテリア

近藤さんの収納のポイントは、何といっても縦空間の活用。平屋の天井高をフル活用して、ロフトを収納スペースにしていることだ。「季節外の衣類や趣味のキャンプ用品など、かなりの量を収納できて助かっています」。

基本的に全て見せる収納。物はかなり多いほうだというが、これをきれいに見せる秘訣は「きれいに畳むことと、同じものを集めてメリハリをつけること」。なるほど、物をたくさん置くコーナーと、何も置かず、置く場合も間隔を空けてスッキリ見せるコーナーと、メリハリをつけているのだという。

玄関の上など天井裏は全て収納スペースに。かさばるシュラフは天井から吊るして見せて収納。まるでアウトドアショップの展示のようなこのコーナーには物を雑然と、間隔も狭くたくさん置いている(写真撮影/片山貴博)

玄関の上など天井裏は全て収納スペースに。かさばるシュラフは天井から吊るして見せて収納。まるでアウトドアショップの展示のようなこのコーナーには物を雑然と、間隔も狭くたくさん置いている(写真撮影/片山貴博)

洋服は色別・柄別にまとめてきれいに畳むのが見せる収納のコツ。床から天井まで、ハンガーポールの上部も靴などがびっしり(写真撮影/片山貴博)

洋服は色別・柄別にまとめてきれいに畳むのが見せる収納のコツ。床から天井まで、ハンガーポールの上部も靴などがびっしり(写真撮影/片山貴博)

季節外の衣類はアーミー風のトランクにまとめて収納。そのまま寝室のインテリアにもなっている(写真撮影/片山貴博)

季節外の衣類はアーミー風のトランクにまとめて収納。そのまま寝室のインテリアにもなっている(写真撮影/片山貴博)

ビンテージの北欧食器コレクションをディスプレイするため、天井から吊って食器棚をあらかじめ造り付けた。天井までの空いたスペースも季節外の衣類などの収納に(写真撮影/片山貴博)

ビンテージの北欧食器コレクションをディスプレイするため、天井から吊って食器棚をあらかじめ造り付けた。天井までの空いたスペースも季節外の衣類などの収納に(写真撮影/片山貴博)

インテリアも「好きな物を集めただけ」というが、全て徹底したレトロ。日本の古い物はもちろん、北欧、フランス、アフリカ、など国はバラバラだが、共通するのは古き良き懐かしいテイスト。「古い日本家屋にインダストリアルなテイストを組み合わせた」という狙いどおりの仕上がりになっている。

昭和の建具、50年代のフランスの照明、フィンランドの50年代のダイニングテーブルと椅子、これらが見事に調和している(写真撮影/片山貴博)

昭和の建具、50年代のフランスの照明、フィンランドの50年代のダイニングテーブルと椅子、これらが見事に調和している(写真撮影/片山貴博)

レトロな模様のガラス入りの建具や障子は、この家の雰囲気に合わせて近藤さんがアンティークショップ巡りをしてサイズが合うものを探し出した(写真撮影/片山貴博)

レトロな模様のガラス入りの建具や障子は、この家の雰囲気に合わせて近藤さんがアンティークショップ巡りをしてサイズが合うものを探し出した(写真撮影/片山貴博)

少し無理をしてでも本物を買う、という近藤さん。「模倣されたデザインの物が次々に生まれても、その原点である本物を知っていることは仕事の現場でも役に立ちます」。新品は買った時が一番新しく徐々に古くなっていくが、ビンテージ物は経年変化が味になって価値が落ちにくい。新品では手に入らない物でも、時間が経つと手に入りやすいというメリットもあり、自分の元に来るまでのストーリーごと楽しんでいるという。徹底したアンティーク好きのお洒落な古民家、初めて訪れたのに懐かしい気持ちになり和みました。

●取材協力
・BEAMS

BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで

ご夫婦ともにスーパーバイザーの村口良(むらぐち・りょう)さんと恭子(きょうこ)さん。40歳前後のお2人、そろそろ脱賃貸をとマイホームに選んだのは、立地も建物もどちらも妥協しない注文住宅。古都・鎌倉駅に近い土地を選び、建物もデザインや素材ひとつひとつにこだわり、しかも予算内に収めたアイデアいっぱいの新居を紹介しよう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。ファッションだけでなくライフスタイルもおしゃれに。予算内で土地も建物も妥協なしバルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

バルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

ともにファッション好きで、BEAMSは憧れの職場だったという村口夫妻。若いころは洋服ばかりたくさん買って、後は飲み代に消えていたというが、会社の先輩の家に遊びに行き、そのライフスタイルに刺激を受け、考え方が変わったという。「ファッションだけでなくライフスタイルや生き方そのものをお洒落にしようと、目で盗んでインテリアセンスを磨きました」と村口さん。

「予算に限りがあるものの、土地・建物どちらも妥協したくなかった」というお2人がマイホームに選んだのは、土地探しから始める注文住宅。立地は通勤に便利な都内か、自然豊かな古都・鎌倉。運よく探し始めてすぐに、鎌倉駅から徒歩圏の、自然にも文化にも恵まれたイメージ通りの土地に巡り合い購入した。

知人でセンスも信頼できるデザイナーに依頼して、家のデザインイメージや間取りも決まった。そこまではとんとん拍子だったが、デザイナーは関西在住。地元でイメージ通りの家を建ててくれる工務店探しをすることになり、これが難航した。別プランを提案されたり、大幅に予算オーバーになったりを繰り返し、施工会社が決まるまでに20社近くとやり取りをする結果となった。

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村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

古い街並みになじむモダンな家に。イメージに合う建具を自ら探し出し、特注も

新居のコンセプトは古都・鎌倉のモダンな家。古い街並みの中に、コンクリートやモルタルに真鍮(しんちゅう)や鉄などの金属を組み合わせた、モダンなイメージにこだわった。階段やバルコニーの手すりや寝室ドアはオーダーの鉄製。鉄の素材にこだわっていたものの、工務店に提案されたものがコスト的に合わず、自分で新潟県燕三条の会社を探し出して特注したという。

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

キッチンもイメージに合う既製品が高かったので、コンロなどのパーツはデザイン性の高い物を選び、モルタルとステンレスの組み合わせで造作して予算内に収めた。家づくりの過程ひとつひとつに手間をかけ、毎晩のようにインターネットで情報収集し、毎週末工務店と打ち合わせを繰り返したという努力の甲斐あって、イメージ通りの建物がなんと2000万円以内という予算内で出来上がった。

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

とはいえ、「少し無理してでも、妥協せずその時に最大限にいい物を選ぶべき」とアドバイスする村口さん。実はコストダウンのため玄関の照明に安い物を選んだものの、毎日見るたびに気になり、結局入居後早々に変更したという。「最初からいいほうを選んでいたら工事代もかからなかったのに(笑)」。

徹底的な「見せる収納」、絵になる秘訣は妥協しないモノ選びと統一感

村口家の収納の特徴は徹底した「見せる収納」。ウォークインクローゼットもキッチンの収納棚も全てオープンで、トイレットぺーパーのストックさえも見せて収納しているという。

「見せる収納の秘訣は、置きっぱなしになっていても絵になる、見せていい物を選ぶこと」という村口さん。「手鏡は北欧の木の置物のようなデザインのものに、ハンドクリームは国産でなくデザインが洒落た海外の缶入りに変えてリビングに置いています」と恭子さん。

細かなものが集まりがちなキッチンも全てオープン。整然として見えるのは、調理器具のメーカーがBALMUDAで統一されていたり、並んだ調味料ラベルを包装紙でくるんでいたり、細かい物は籠や箱や壺などの入れ物にまとめて入れるなどの工夫をしているから。使いやすく、きれいに見えるちょっとした工夫を積み重ねているのだ。

服も見せる収納。「畳むのは2人ともお手のもの。20年やっているプロですから(笑)」と恭子さん。「色や素材別にまとめるときれいに見えます」と村口さん。仕事柄服も増える一方だが、定期的に人にプレゼントしたり切ってふきんとして使ったりして総量をセーブするように心がけている。

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

引越しをきっかけに仕事中心だったライフスタイルが激変したという村口夫妻。庭づくりや周辺散策などやりたいことが沢たくさんあり、休日が待ち遠しいという。「仕事の張り合いにもなって、住まいって大事だなとしみじみ」と恭子さん。ベランダに照明をつけ、お気に入りの郵便受けを設置し、庭をモダンな金属製フェンスで囲み、ベランダに置く植物を選ぶ……まだまだこだわりの住まいは進化を続けています。

●取材協力
・BEAMS

BEAMS流インテリア[2] 世界各国のアンティーク家具・民芸品がつくりだす極上おもてなし空間

一生ものの家具に出会うまでは妥協なし。捨てるのが嫌なので、気に入ったものに巡り合うまではたとえ不自由でも間に合わせは買わない、と断言するスタイリングディレクターの和田健二郎(わだ・けんじろう)さん。お眼鏡にかなった世界各国の民芸品、家具、ファブリックなどが創り出す独自なミックステイストは、BEAMSスタッフ間でも羨望の的。とびきりのセンスと、居心地の良さの秘訣を探ってみましょう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。オープンなLDK空間とプライベート空間を分けた最上階のメゾネット

和田さんが住むのは、世田谷の住宅街を見渡す低層マンションの最上階メゾネット。購入してリノベーションしたのは約8年前。結婚して借りた下北沢の1LDKのメゾネットにも8年住んでいた。「上下階で空間を分ける暮らしが気に入っていたので、中古マンションを探す際もメゾネットにこだわりました」(和田さん・以下同)。

元々住んでいた下北沢の近くで探し始めたものの、人気の沿線、かつメゾネットは数が少ないため、物件探しは長期戦に。半年過ぎて諦めて別の中古マンションに決めかけていたころ、東南角部屋の100平米を超す広さのこの部屋に巡り合った。「最上階で窓も多く、視界のヌケ感や空の広さが理想通り」と即決。当時築30年だったマンションを、同じ鹿児島出身のLAND SCAPE PRODUCTSさんに依頼してリノベーションすることにした。

コンセプトは「人が集まりやすい家」。玄関を入ったフロアはLDKメインのオープンな空間にするため、2つの部屋をひと続きにして広々と。LDKの一部に小上がりをつくって変化をつける、キッチンコーナーもオープンに、壁は漆喰(しっくい)、など妻と相談しながら空間イメージや素材もスケッチにして具体的に提示した。

和田さんのお住まいはマンションの最上階、4階と5階のメゾネット。人が集まりやすいよう玄関を入ったフロアをパブリックスペースに、階段をあがった上階を寝室や子ども部屋などのプライベートスペースに(和田さん提供資料を基にSUUMOジャーナルにて作成、上階省略)

和田さんのお住まいはマンションの最上階、4階と5階のメゾネット。人が集まりやすいよう玄関を入ったフロアをパブリックスペースに、階段をあがった上階を寝室や子ども部屋などのプライベートスペースに(和田さん提供資料を基にSUUMOジャーナルにて作成、上階省略)

「全ての希望はかない、壁の一部に大谷石を使うなど面白い提案ももらい、仕上がりの満足度は120%です」

玄関を入ると20畳以上の明るく広々したLDK。ウェグナーのダイニングテーブル(デンマーク)、革製ロバのスツール(スペイン)、パーシヴァル・レイファーの黒革ソファ(ブラジル)、100年以上前の食器棚(イギリス)など世界各国のこだわりのインテリアが並ぶ(写真撮影/飯田照明)

玄関を入ると20畳以上の明るく広々したLDK。ウェグナーのダイニングテーブル(デンマーク)、革製ロバのスツール(スペイン)、パーシヴァル・レイファーの黒革ソファ(ブラジル)、100年以上前の食器棚(イギリス)など世界各国のこだわりのインテリアが並ぶ(写真撮影/飯田照明)

リビングの一角にはお気に入りのスツールや小物をディスプレーする小上がり空間。冬にはここがこたつコーナーになるという。LDKの壁は漆喰、棚の奥は大谷石で空間のアクセントに(写真撮影/飯田照明)

リビングの一角にはお気に入りのスツールや小物をディスプレーする小上がり空間。冬にはここがこたつコーナーになるという。LDKの壁は漆喰、棚の奥は大谷石で空間のアクセントに(写真撮影/飯田照明)

小上がりの下は、段差を利用して引き出し式の大きな収納スペースに。3つある引き出しには季節外のラグやこたつなど模様替え用のファブリック中心。かさばるものも重いものも入って便利(写真撮影/飯田照明)

小上がりの下は、段差を利用して引き出し式の大きな収納スペースに。3つある引き出しには季節外のラグやこたつなど模様替え用のファブリック中心。かさばるものも重いものも入って便利(写真撮影/飯田照明)

世界各国の椅子が20脚以上! 妥協しないインテリア選びの秘訣

リビングの小上がりは、いま和田さんが気になっているものをディスプレーする舞台のようなコーナー。インテリア小物、美術書などの絵になる本、スツール類が無造作に並ぶ。現在、棚にはテイスト別に民族ものやビンテージものなどお気に入りの服がお店のように並び、こまめに模様替えも楽しんでいるという。

ここにある柳宗理(やなぎ・そうり)デザインのバタフライスツール3脚は、20年前に出会って和田さんがインテリアに関心をもつキッカケとなったもの。

棚上段に中国やアフガニスタンの民族ものの衣服、2段目にアメカジやボーダー、3段目にデニム、チノパン、ミリタリー、ビンテージものを分類。その下には3脚のバタフライスツール、手前には部族によってデザインが違うアフリカのスツール類を集めて植物を置いている(写真撮影/飯田照明)

棚上段に中国やアフガニスタンの民族ものの衣服、2段目にアメカジやボーダー、3段目にデニム、チノパン、ミリタリー、ビンテージものを分類。その下には3脚のバタフライスツール、手前には部族によってデザインが違うアフリカのスツール類を集めて植物を置いている(写真撮影/飯田照明)

「曲線的なフォルムの美しさに惹かれて。日本製とは思えないデザインと技術力に驚き、売り場の商品だったので説明できるよう、インテリアの勉強を始めました」

臨時収入があると飲み代に消えていたお金で、このバタフライスツールを買った。そこからスツールに凝り始め、「すっかり椅子フェチ、いまではスツールだけで20脚以上あります(笑)」
※スツールとは背もたれなしの椅子のこと

スツールのなかでも貴重なのが、アフリカ民芸もの。一本の太い木をくり抜いてつくられる接ぎ木のないもので、部族ごとにデザインも違う、木材・技術ともに今やつくることが難しい一点物のアンティーク。そのほか、フィンランドのサウナスツール、スペインの革製ロバなど、国も素材も年代も多様。「好きなモノをイメージして探し続ければいつか出会える」という。

実際、海外のフリーマーケットや近所のアンティークショップまでさまざまなところで出会いがあり、「海外から大荷物を背負って帰ることもしばしば」とのこと。

家具や小物だけでなく、中東、アジア、アフリカなどの民族着やファブリックもコレクションに。「年代を経た手の込んだ一点物を見るとつい買ってしまいます」。ラグは、季節ごとに模様替えを楽しんでいるという。

「家具は捨てるとき大きなゴミになるから買い替えが嫌。買うときは一生ものだと思って慎重に選び、間に合わせで妥協はしない」という和田さん。結婚当初、欲しいローテーブルが2~3年待ちと言われ、納品まで不便でもローテーブル無しで過ごした。当時から人が集まる家にしたいという思いがあり、ダイニングテーブルも2人暮らしには大きい6人掛けサイズを選んだ。その甲斐あって、家族が増え住まいが変わったいまも全て大活躍中だ。

フローリングは全てオーク材、壁は漆喰など大規模なリノベーションだったが、工事中の廃材もなるべく出さないように気遣った。「天井や床も、全て元の素材の上から張ってもらいました。ゴミも出ないし、断熱や防音も兼ねられるので一石二鳥です」。

奥のキッチンは、タイルの色までこだわって妻がデザイン画を作成してイメージを伝えた。左の食器棚はイギリスの100年超えのアンティーク、右は大正末期の水屋箪笥というミックス感。手前のローテーブルが2年待ち、フィンランドのタピオ・ヴィルカラ(写真撮影/飯田照明)

奥のキッチンは、タイルの色までこだわって妻がデザイン画を作成してイメージを伝えた。左の食器棚はイギリスの100年超えのアンティーク、右は大正末期の水屋箪笥というミックス感。手前のローテーブルが2年待ち、フィンランドのタピオ・ヴィルカラ(写真撮影/飯田照明)

既成概念にとらわれず、収納も自由な発想でアレンジ

素敵な一点物を買ってきて置いているだけでは生まれない、異なるインテリアテイストのミックス感が生みだす独自のハーモニーもある。もちろんそれぞれが和田さんのお眼鏡にかなったという前提はあるものの、国も年代もテイストも素材もバラバラなものを組み合わせる秘訣は何だろうか。

「ものをありのままでとらえるのではなく、自由な発想でアレンジして組み合わせを楽しんでいます」。手に入れたものはそのまま使うだけでなく、色を塗ったり、用途を変えたり、パーツを変えたり、ちょっとした手間や工夫で見違えるような変化があるというのだ。

リビングのイギリスのアンティークの食器棚は、背が高く圧迫感があるためひとつのものを上下別々に2カ所で使用。玄関の昭和な下駄箱とリビングに続くアンティークの扉は、形も素材も異なるテイストを合わせるため色を塗る、などDIYのひと手間をかけた。小物を飾る際も、ひとつの下駄箱の上は日本の作家のものでまとめる、一方はアフリカの仮面など、同じテイストのものを固めるのもテクニックのひとつだ。

玄関ドアを開けると、マンションの玄関とは思えない広々した空間にパタパタ扉付きの昭和レトロな下駄箱が2つ。収納としての機能だけでなく、家具の存在そのものが絵になる(写真撮影/飯田照明)

玄関ドアを開けると、マンションの玄関とは思えない広々した空間にパタパタ扉付きの昭和レトロな下駄箱が2つ。収納としての機能だけでなく、家具の存在そのものが絵になる(写真撮影/飯田照明)

苦労して運び込んだという下駄箱の上は、日本の作家ものの陶器をディスプレー。昔の小学校の雰囲気そのままで使うのではなく、黒のペンキを塗り、取っ手を真ちゅうのボタン型に変えることで、波型ガラスが映える雰囲気あるインテリアに早変わり(写真撮影/飯田照明)

苦労して運び込んだという下駄箱の上は、日本の作家ものの陶器をディスプレー。昔の小学校の雰囲気そのままで使うのではなく、黒のペンキを塗り、取っ手を真ちゅうのボタン型に変えることで、波型ガラスが映える雰囲気あるインテリアに早変わり(写真撮影/飯田照明)

「あまり得意ではない」と謙遜しながら、さらにDIYで収納量アップの工夫も。下駄箱は箱内も板で仕切り、収納出来る靴の数を2倍3倍に。この2つに入りきらない靴類は、クロークの壁にDIYで棚を付けて大量に収納している。

出番待ちの靴や衣類を大量に収納するクローク。靴の高さに合わせてIKEAで購入したパーツと板でDIY、木製のネクタイ掛けはBROOKS BROTHERSのショップで使われていたものをDIYした(写真撮影/飯田照明)

出番待ちの靴や衣類を大量に収納するクローク。靴の高さに合わせてIKEAで購入したパーツと板でDIY、木製のネクタイ掛けはBROOKS BROTHERSのショップで使われていたものをDIYした(写真撮影/飯田照明)

上階寝室の窓際には、DIYで天井から帽子掛けを吊るして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

上階寝室の窓際には、DIYで天井から帽子掛けを吊るして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

マンションとは思えない玄関のしつらえ、風が吹き抜ける眺めのいい広々したLDK。世界各国の民芸とミッドセンチュリーが融合したインテリア。「妥協しないから失敗はしない」「いい物を選ぶと収納も楽しくなる」という言葉に納得の美術館のようでいて居心地もいいお住まい。ほぼ毎週末来客があり、年末には20人を超すゲストと忘年会を開いているというのも納得の、居心地の良さを兼ね備えた極上空間でした。

●取材協力
・BEAMS

収納家具なし! 見せ方・隠し方に技アリのオープン大空間【BEAMS流インテリア(1)】

同期入社で結婚4年目、というプレスの安武俊宏(やすたけ・としひろ)さんとディレクターで現在は産休中の恵理子(えりこ)さん。初めての出産を控えたご夫妻の住まいは、コンクリートむきだしの大空間をガラスの建具で緩やかに区切る、大胆にリノベーションされたマンション。照明や椅子など、インテリアひとつひとつにストーリーがあるものを選び抜いた、アイデアいっぱいの空間を拝見します。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のディレクター、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。自分たちらしい空間を求めて中古マンションをモダンにリノベーション

プレスとディレクターという、華やかなお仕事についている安武ご夫妻。ファッションが好きで入社したお2人ですが、洋服はその時々に好きなものを買い、かつ仕事で毎日関わっているので、オフのときは逆にインテリアやライフスタイルを大切にするようになったとのこと。2人の共通の趣味も、インテリアショップや雑貨店巡りと旅行だという。

安武さんは、プレスとして『BEAMS AT HOME』等の書籍制作も担当。この仕事を通して、ますますインテリア熱も高まったという。現在4冊発行されているシリーズの1冊目に、結婚前に2人で住んでいた部屋が掲載され、恵理子さんの名字をプレス権限で「安武」に変えて発行するというサプライズがプロポーズだったというから、公私ともに住まいと縁が深い。

1冊目発行後の2015年1月に結婚、さらに自分たちらしい空間を求めて、2016年1月から家探しを開始。2人とも仕事が忙しいので都心へのアクセス最優先で渋谷区・目黒区・港区に限定し、リノベーション前提なので築年数関係なく、50平米後半の中古マンションを探した。

SUUMOで物件検索して、これはというものがあれば週末ごとに内見へでかけたものの、なかなかピンと来る物件はなかった。さらに条件を新宿区まで広げたところ、神楽坂駅に近く通勤30分、当時築37年60平米のこの物件に巡り合う。既に20件以上見学していたので即決し、それからは5月末契約、仕事仲間に紹介されたデザイナーにリノベーション依頼、8月に完成・入居と、とんとん拍子だった。

リノベーション後の安武さん宅の間取り。玄関を入って廊下正面がLDK空間。寝室にはLDKからも、玄関から直接納戸経由でも出入りすることができる(安武さん提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

リノベーション後の安武さん宅の間取り。玄関を入って廊下正面がLDK空間。寝室にはLDKからも、玄関から直接納戸経由でも出入りすることができる(安武さん提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

玄関を入って廊下右手に水まわり、左手に寝室、正面の扉奥がLDK。廊下左の壁一面は収納になっている(写真撮影/飯田照明)

玄関を入って廊下右手に水まわり、左手に寝室、正面の扉奥がLDK。廊下左の壁一面は収納になっている(写真撮影/飯田照明)

趣味のインテリアショップ巡りで磨いたセンスで長く使える良いものを選ぶ

リノベーションで元々あった壁や天井、内装などを一度すべて壊してスケルトン状態から出来上がったのは、コンクリートや配管がむき出しのLDKを中心に、書斎兼収納、寝室、玄関・水まわりの3つの空間を黒のガラス入り建具で緩やかに仕切った大空間。約60平米というが、ガラス越しに視線がつながって一体感があるため広く感じる。

インテリアのテイストは、好みの写真などをデザイナーと共有しながら、相談してつくり上げていったという。
休日はお気に入りのインテリアショップ巡りをしているというお2人だけあって、センスも抜群。色味を抑えたモノトーンのモダンなテイストでまとめている。

「インテリアで最初に決めていたのはダイニングの照明。フランスの名作照明でずっと欲しかったけれど工事が必要なので賃貸時代は我慢していたので」という安武さん。「私は毎日使う水まわりにこだわりました。キッチンは造作にしてLDKの中心に、バスルームもホテルライクにしました」という恵理子さん。

多少優先順位は違うものの、美しい物へのこだわりやセンスは一致している。例えば、LDKにある2脚の名作椅子。入居前、新居のインテリアに合うリラックスチェアを探していたところ、繊細で美しいフォルムのポール・ケアホルムPK22に巡り合う。高価なため中古品も探したが条件に合うものがなく、ちょうど発売になった限定モデルが色も素材もぴったりで一脚約50万円を即決したという。ペンダントライトも作家の一点もの。

「2つ欲しかったけど、ひとつでいいじゃないとは言われました(笑)」と安武さん。目線より高い位置にものを置かないことで空間を広く見せ、ぶら下がった照明でメリハリをつけているという。

線が細いフォルムのポール・ケアホルムPK22の60周年記念モデル・グレーのヌバック素材が優しくインテリアに溶け込む。クッションと絨毯(じゅうたん)はモロッコ旅行の際に2人で選んだもの(写真撮影/飯田照明)

線が細いフォルムのポール・ケアホルムPK22の60周年記念モデル・グレーのヌバック素材が優しくインテリアに溶け込む。クッションと絨毯(じゅうたん)はモロッコ旅行の際に2人で選んだもの(写真撮影/飯田照明)

オープンな大空間は収納家具に頼らず、隠すべきものは隠し方にもこだわって

リビングからは、ガラスの建具越しに部屋全体が見渡せる。仕事柄洋服や小物なども多いはずだが、いったいどこに収納しているのか。空間を広く見せるために、大きな収納家具は置かない主義。確かに食器棚も洋服ダンスも見当たらない。

玄関の廊下には、それぞれの靴とバッグ専用の壁面収納を造り付けた。2人合わせて実に靴150足はあるというが、扉を閉めればスッキリ。扉で隠す造作収納は玄関収納のほか、家の中心にあるキッチン収納だ。いわゆる食器棚は置かず、吊戸棚もなく、アイランド型キッチンの下に食器類も全て収納している。

写真左:玄関の壁面上部にロードバイク、反対側は一面4カ所の壁面収納、扉を閉めればスッキリ。写真右:壁面収納はちょうど靴が入る奥行きで、夫婦それぞれの靴やバッグ用。靴だけで安武さん100足、恵理子さん50足は超える(写真撮影/飯田照明)

写真左:玄関の壁面上部にロードバイク、反対側は一面4カ所の壁面収納、扉を閉めればスッキリ。写真右:壁面収納はちょうど靴が入る奥行きで、夫婦それぞれの靴やバッグ用。靴だけで安武さん100足、恵理子さん50足は超える(写真撮影/飯田照明)

食器棚も置かず、アイランドキッチンの下に食器類も収納。「キッチンは造作で細かな仕切りや棚がなかったので、引き出せる棚を通販で探しました」(写真撮影/飯田照明)

食器棚も置かず、アイランドキッチンの下に食器類も収納。「キッチンは造作で細かな仕切りや棚がなかったので、引き出せる棚を通販で探しました」(写真撮影/飯田照明)

衣装持ちのはずだが、衣類はどうしているのか。まずは玄関からも直接出入りできる、便利な寝室のウォークインクローゼット。ここは頻繁に着るシーズンものを中心に、ハンガーパイプに吊るした、オープンで使いやすい収納だ。しかし収納量には限りがある。

LDKとガラスの建具で仕切られた寝室(写真撮影/飯田照明)

LDKとガラスの建具で仕切られた寝室(写真撮影/飯田照明)

寝室奥のウォークインクローゼットはシーズンものの洋服を手前に、奥には頻度低めのスーツやコートがかけられるようになっている(写真撮影/飯田照明)

寝室奥のウォークインクローゼットはシーズンものの洋服を手前に、奥には頻度低めのスーツやコートがかけられるようになっている(写真撮影/飯田照明)

ベッド奥の出窓を利用して本などを見せて収納(写真撮影/飯田照明)

ベッド奥の出窓を利用して本などを見せて収納(写真撮影/飯田照明)

シーズン外の物は書斎兼ウォークインクローゼットにあるというが、一切目に入らない。不思議に思って尋ねると、インテリアにもなる洒落た丸箱には布団が、アンティークの旅行鞄などに季節外の洋服やバッグ類を入れているのだという。クローゼットでさえも生活感なくセンスがいいのは、収納家具に頼らず、さらに収納する入れ物自体もデザインにこだわって選んでいたからだった。ガラス越しに見渡せるひと続きの大空間は、見せ方も隠し方も技ありだった。

机の上にハンガーポールや棚が造り付けられた書斎兼ウォークインクローゼット。一見ただの書斎にしか見えないほど整然としているが、アルミ製のキャンプ用品の収納ケース(机の上部、棚の最上段)やインテリアショップで見つけたデザイン性の高い丸箱(写真右)、アンティークの大型旅行鞄やコンテナ(写真左)に季節外の物を全て収納(写真撮影/飯田照明)

机の上にハンガーポールや棚が造り付けられた書斎兼ウォークインクローゼット。一見ただの書斎にしか見えないほど整然としているが、アルミ製のキャンプ用品の収納ケース(机の上部、棚の最上段)やインテリアショップで見つけたデザイン性の高い丸箱(写真右)、アンティークの大型旅行鞄やコンテナ(写真左)に季節外の物を全て収納(写真撮影/飯田照明)

スノーピークのキャンプ用品の収納ケースは、積み重ねも可能で多目的に使える。現在は季節外の衣類を入れて収納ケースとして棚の最上段で使用(写真撮影/飯田照明)

スノーピークのキャンプ用品の収納ケースは、積み重ねも可能で多目的に使える。現在は季節外の衣類を入れて収納ケースとして棚の最上段で使用(写真撮影/飯田照明)

「長く使えるいいものを」と、2人のアンテナにかかるものをひとつひとつ選んでいった安武夫妻。家にあるもの全てに「インテリアショップで一目惚れした照明」「新婚旅行で訪れたモロッコで気に入った絨毯や写真」「ずっと欲しくて運命的に限定モデルが手に入ったチェア」など、素敵なストーリーがある。隠すものは上手に隠し、好きなモノだけを見渡せる大空間。もうすぐ家族3人になる安武家。お子さんが生まれてからの、お2人のセンスを活かした住まいの変化も楽しみです。

●取材協力
・BEAMS

弾かないけど捨てられない! 使わなくなった“物置ピアノ”、よみがえらせるには?

お子さまに「習わせたい」と、思いきって購入したピアノ。ずっと弾き続けられればよいのですが、成長や独立などにともない、弾かれなくなることもしばしばあります。思い出がつまっているものだし売りたくない、しかし誰も弾かないのでピアノの上に荷物が積まれている……。そんな状況に陥っているご家庭もあるのではないでしょうか? 忘れそうなピアノを生き返らせるインテリア配置、そしてピアノの色を塗り替えたり、装飾を施したりしてインテリアとして生き返らせる「デザインピアノ」についてお伝えします。
弾かれない実家のピアノ 気がついたらピアノが物置になっていた!

使わなくなったピアノ、どうしますか? 「ピアノ 使わない」などのワードでウェブを検索すると「中古ピアノ買い取り」の会社がずらずらとヒットします。筆者の実家にも今はだれも弾いていないグランドピアノがあるので、母に売らないのかどうかを聞いてみたのですが、思い入れがあるようで、「決して手放さない」と一蹴されました。そんなことはつゆともしらず、のんきな妹(三女)がピアノの上にも下にも物をたくさん置いて、まるで便利な収納スペースに。部屋もピアノ部屋というよりは物置部屋といった様相で、見るも無残です。

大掛かりなリフォームができない場合や、使わないピアノを処分せず、暮らしやすい部屋をつくりたい場合、いったいどうすればよいのでしょうか。インテリアの工夫などについて専門家の方に聞きました。

「ピアノ・どーん!」でもストレスフリーに見せる家具の配置を考える

グランドピアノを購入された方の相談を受け、お部屋づくりに携わった経験をお持ちのインテリア・コーディネーター、水田恵子(みずた・けいこ)さんに、ピアノ部屋のインテリアについてお伺いしました。

新しく迎え入れるときには大きさが頼もしく感じられるピアノですが、弾かなくなったピアノは大きくて重い真っ黒なオブジェのようなもの。「ピアノを部屋に置く場合、黒くて大きなものが部屋のかなりのスペースを占めることになるので、まずバランスを考えねばなりません。特に、部屋の隅に置けるアップライトピアノとは異なり、グランドピアノはその部屋の主役です。残った空間に、他の家具はどれだけ置けるのか、その結果として日常生活をどのように成り立たせていくのか、こうしたことをよく考える必要があります」と水田さん。

カーテンは色味としてはシックで、光沢感のない無地の生地を使用し、ピアノに合ったシンプルなものを選択、ピアノの上のシャンデリアも、シャープでスッキリしたデザインのものに(画像提供/水田恵子さん)

カーテンは色味としてはシックで、光沢感のない無地の生地を使用し、ピアノに合ったシンプルなものを選択、ピアノの上のシャンデリアも、シャープでスッキリしたデザインのものに(画像提供/水田恵子さん)

グランドピアノとアップライトピアノでは、インテリアも変わるのでしょうか。「グランドピアノとアップライトピアノの違いに、インテリアの派手・地味は関係ないと思います。グランドピアノの場合はピアノが部屋の真ん中に来るので、ピアノ中心のインテリアになり、どうしても派手になりやすいでしょう。一方で、アップライトだと壁に寄せておくことが大半だと思いますので、グランドピアノに比べれば、ピアノを意識せずにインテリアをつくりやすいと思います」(水田さん)

「使わないピアノなら、色を塗り直すなどのリメイクをしたりして、現在の生活で有効に使うことも一案」と水田さん。「ピアノが弾けなくならないよう気をつけつつ、インテリア小物などをディスプレイする場所にするのも一つの方法です」とも教えてくださいました。

そこで、次にピアノをリメイクを実際に行っているかたのお話を伺うことにしました。

ピアノそのものをリメイクして新しいインテリアに 「デザインピアノ」

ピアノメーカーが集中し、生産がさかんな静岡県。湖西市にあるデザインピアノ工房は、依頼を受けたピアノ自体にデザインを施し、「魅せる」ピアノをつくっています。店長の荻野光彦(おぎの・みつひこ)さんに、ピアノのリメイクについてお話ししていただきました。

「ピアノは大きく存在感のあるものなので、お客様のインテリアの趣味や志向に合わせて選べたら、もっと素敵な空間をつくれます。部屋の隅でほこりをかぶっているピアノをよく見かけますが、そのピアノもご家族などからプレゼントされ、それぞれに思い出が詰まっているケースがほとんど。だから古くなっても今のインテリアに合うデザインにリノベーションして残したい人が多いものです」(荻野さん)。そんな思いから、デザインピアノのお仕事を始められたとのこと。現在までに、アップライトピアノを450台、グランドピアノ30台のリメイクを手掛けたそうです。

人気があるのは「白いピアノ」「猫脚のピアノ」など、幼いころ絵本で見て憧れたようなデザイン。真っ黒なピアノであっても真っ白に塗り替えることが可能だというので驚きです。ピアノには何重にも塗膜を重ねて塗装するため、色ムラがでることはないとのこと。また、椅子も脚をピアノと同色に塗装したり、座面をホワイトに張替えたりするリメイクが可能なため、ほとんどの方がピアノと椅子をセットでリメイクされるそうです。

デザインはお客様のお部屋を見て、相談しながら決めます。費用も塗り直し19万8000円~、飾り金具一つ8000円~などを組み合わせた結果、ピアノによってさまざまです。「ピアノは箱に入れてしまっておくことが出来る楽器ではありません。今後も楽器として使える『奏でるインテリア』としてお客様に提案しています」(荻野さん)

人気のある白いピアノ。左の古い真っ黒なピアノが右のように白く生まれ変わる(画像提供/デザインピアノ工房) 

人気のある白いピアノ。左の古い真っ黒なピアノが右のように白く生まれ変わる(画像提供/デザインピアノ工房) 

荻野さんのこれまでのお仕事で印象に残っているのは、「亡くなった母の好きだったひまわりの絵を描いてもらいたい」という依頼だそうです。「スペースの問題など、各家庭にそれぞれの事情があると思いますが、リメイクすることで、新たなピアノライフの始まりになるとよいですね」(荻野さん)

思い出のひまわりを描いたピアノ(画像提供/デザインピアノ工房) 

思い出のひまわりを描いたピアノ(画像提供/デザインピアノ工房) 

ピアノをリメイクしてその時代に合ったデザインにしていけば、次の世代に受け渡すことが可能だと言う荻野さん。ピアノリメイクの意義は「物を大切にする気持ちを尊重し、思い出を守り、想いをつないでいくこと」だと語ってくださいました。

物置部屋と化す前に、ピアノがある暮らしを考え直そう

以上のように、インテリアの工夫、ピアノそのもののリメイクなど、ピアノの延命策やピアノ部屋の改装には、いくつかの方法があることが分かりました。そのうえで水田さんは「お客様のお話をよく聞いたうえで、もし処分するほうのメリットが大きければ、処分するようにアドバイスをすることもありえるでしょう」と言います。たしかに、処分したピアノが誰かの手に渡ってまた弾かれるのであれば、それもまたピアノがつなぐ縁だといえます。

筆者の実家、ほぼ物置部屋と化したピアノ部屋。こうならないために早めの対策を(写真撮影/近藤智子)

筆者の実家、ほぼ物置部屋と化したピアノ部屋。こうならないために早めの対策を(写真撮影/近藤智子)

例えば筆者の実家のピアノ部屋はリビングの横にあり、以前は亡くなった祖父の部屋でした。妹(次女)が専門的に音楽に取り組むことになったため、畳の和室はフローリングの洋室へとリフォームされ、それまでのピアノが処分され、新しいピアノがやってきました。が、その妹も大学入学と同時に実家を出て、それ以来、鍵盤はほとんど叩かれることがありません。

それでも家族の思い出の詰まったピアノ。これからまた誰かが弾き始めないとも限りません。カーテンを開けて光を入れ、部屋を片付けて、そのうえで、どんなふうにピアノ部屋をつくり直し、ピアノと付き合うのが我が家にふさわしいのかを、一度考えてみたいと思います。

●取材協力
・デザインピアノ工房
・水田恵子(Office SPIRAL)

RoomClip編集部に聞く「100均DIY」の驚くべき進化

100円ショップのアイテムを使って気軽にチャレンジできることから、近年主婦の間で人気の「100均DIY」。なぜここまで浸透し、どのような変化をしてきたのでしょうか。月間270万人が利用する、部屋のインテリア実例共有サイト「RoomClip」運営チームの竹野さんにお話をうかがいました。
メディアの発信で浸透した「100均DIY」文化

「日曜大工」という言葉もあるように、DIYには男性のイメージが定着しています。そんななかで登場した「100均DIY」という言葉は瞬く間に主婦たちの間に広まり、今や主婦にとって代表的な趣味として知られるようになりました。

「100均DIYがはやり始めたのは、2015年ごろだったと記憶しています。RoomClipでも『100均』と『DIY』のタグをつけた投稿が増えてきました」(竹野さん、以下同)

100均DIYが浸透していったのは、どのような背景があったのでしょうか。

「2015年に100均アイテムを使ったDIYを紹介するムック本が相次いで発売されました。書籍やテレビ、ウェブメディアなどが目をつけ、積極的に発信したことが大きなきっかけだったと考えられます」

また2015年といえばInstagramが国内のアクティブユーザー数を大きく伸ばした年。「自分でつくった作品の写真をネットに投稿する」というアクションが定着したことも、100均DIYの発展に一役買ったようです。

材料5つ、計500円余りでつくれるという消臭ビーズ入れ。写真ではフックと瓶のワイヤー部分を塗料で白く塗り、インテリアに溶け込ませる工夫も(画像提供/miyuさん)

材料5つ、計500円余りでつくれるという消臭ビーズ入れ。写真ではフックと瓶のワイヤー部分を塗料で白く塗り、インテリアに溶け込ませる工夫も(画像提供/miyuさん)

クローゼット内の収納を3段に増やす便利ワザ。子どもの服を畳む手間を削減し、衣替えもスムーズに(画像提供/taitaiさん)

クローゼット内の収納を3段に増やす便利ワザ。子どもの服を畳む手間を削減し、衣替えもスムーズに(画像提供/taitaiさん)

100均DIYの醍醐味は「自分で家をカスタマイズできる楽しさ」

「100均DIYにチャレンジする動機として最も多いのは、『100円なら失敗しても怖くない』という理由。『いきなりホームセンターで本格的な道具と材料を買うのはハードルが高い』という方も、100均ならチャレンジしやすかったと言います」

100均DIYで慣れた方が、やがて本格的なDIYへとスキルアップしていくこともあるのだとか。

突っ張り棒1本でトイレットペーパーの収納を実現。カフェ風のカーテンはダイソーで購入(画像提供/tentenさん)

突っ張り棒1本でトイレットペーパーの収納を実現。カフェ風のカーテンはダイソーで購入(画像提供/tentenさん)

壁収納は100均DIYの基本技とも言える。こちらは黒ワイヤーを結束バンドで固定するだけの手軽な壁収納DIY(画像提供/ayakaさん)

壁収納は100均DIYの基本技とも言える。こちらは黒ワイヤーを結束バンドで固定するだけの手軽な壁収納DIY(画像提供/ayakaさん)

安価だからこその安心感、手軽さから、初心者もチャレンジしやすいという100均DIY。その楽しさはどこにあるのでしょうか。

「やっぱり、オリジナリティを出せるところだと思います。自分の手でつくったものに囲まれ、使ううちに、より一層自分の家に愛着をもてるようになることが100均DIYの醍醐味です」(竹野さん)

自作のフラワーインテリア。ペンキを塗ったメイソンジャーに、グルーガンで造花とプリザーブドフラワーを接着(画像提供/Disneyさん)

自作のフラワーインテリア。ペンキを塗ったメイソンジャーに、グルーガンで造花とプリザーブドフラワーを接着(画像提供/Disneyさん)

100均の材料にお子さんたちが拾ってきたドングリや石を活用し、インテリアを自作(画像提供/crowさん)

100均の材料にお子さんたちが拾ってきたドングリや石を活用し、インテリアを自作(画像提供/crowさん)

一方で、憧れの生活を手に入れるために100均DIYに取り組む人もいると言います。

「個別の作品をつくって終わりではなく、家全体を1つのコンセプトに向けてカスタマイズしていく人が増えていますね」(竹野さん)

あちこちに100均DIYの工夫がなされた部屋。意識しているのは「フレンチナチュラル」と「フレンチカントリー」(画像提供/Disneyさん)

あちこちに100均DIYの工夫がなされた部屋。意識しているのは「フレンチナチュラル」と「フレンチカントリー」(画像提供/Disneyさん)

最新の100均DIYトレンドは「創造性を加えた“自分だけのインテリア”」

ここで最新の100均DIYのトレンドについても教えていただきました。

「RoomClipでは、アイテムそのものを生活に取り入れるのではなく、自分の創造性を加えて、『自分だけのもの』につくり変えようとする投稿が増えています。例えば先日は、お皿とカップを貼り合わせてオリジナルのケーキスタンドをつくった投稿がありました。私たちでも思いつかないようなアイデアが、日々投稿されています」(竹野さん)

短期的なトレンドで言えば、今は新生活が始まる時期。普段のメインユーザー層は主婦ですが、この時期は一人暮らしの人の投稿が増えるのだそうです。

靴収納に便利な自作ラック。すのことアイアンバーを組み合わせて作成。新生活にもおすすめ(画像提供/yunakoさん)

靴収納に便利な自作ラック。すのことアイアンバーを組み合わせて作成。新生活にもおすすめ(画像提供/yunakoさん)

新生活を機に100均DIYを始めたいという人には「まずは簡単なものからチャレンジしてほしい」と竹野さんは言います。
「100均の材料を使って簡単な木箱などをつくるところから始めて、慣れていく。その後段々と『色を塗りたいからハケを使ってみよう』『ディアウォールやラブリコを使った壁面収納のDIYにチャレンジしてみよう』とやりたいことに挑戦する、その繰り返しでみなさんスキルを上げてこられたようですね」

もはや100均DIYは、理想の住環境を気軽に手に入れるための手段のひとつとなっているようです。既製品だけに囲まれた暮らしではなく、自分が手がけたものに囲まれて暮らす生活を求める人が増えているのかもしれません。

●取材協力
・RoomClip
●画像提供
・ayakaさん(RoomNo.874680)
・crowさん(RoomNo.1211179)
・Disneyさん(RoomNo.810832)
・miyuさん(RoomNo.535462)
・taitaiさん(RoomNo.610489)
・tentenさん(RoomNo.2937148)
・yunakoさん(RoomNo.974057)
※ローマ字順

3万円で”脱・無難部屋”! インテリアコーディネーターとお部屋改造してみた

一人暮らしをスタートさせ、インテリアにこだわって統一感を出したり、暮らしやすいように家具を好きな配置にしたり、理想の部屋にしたいと思う人も多いのではないでしょうか。しかし、いざ自分でコーディネートしようとすると、お金をかけてインテリアや小物を買ったけれど、無難な仕上がりになり、描いた理想や自分らしい部屋とはほど遠い仕上がりになることも多いよう。そこで今回は、東京で活躍するインテリアコーディネーターの山口恵実さんに協力していただき、低予算でも理想の部屋に近づけるコーディネートのヒミツを探ります!
オシャレにしたいと思う人ほどよく陥りがちな【無難部屋】【画像1】一人暮らし歴7年の萬年(まんねん)さんの部屋。インテリアに興味はあるが、つい白・ベージュ・茶色などの”無難系”に(写真撮影/アウル株式会社)

【画像1】一人暮らし歴7年の萬年(まんねん)さんの部屋。インテリアに興味はあるが、つい白・ベージュ・茶色などの”無難系”に(写真撮影/アウル株式会社)

山口さんと訪れたのは、一人暮らしを始めて7年の萬年(まんねん)さん、29歳・女性の賃貸部屋。萬年さんは部屋に統一感を出したいと考え、白とベージュ・茶色をベースに家具やインテリアをチョイスし配置したと話してくれました。色を絞ってインテリアを選ぶ考えはとてもいい方法なのですが、選んだ色が多くの人が選びやすい白・ベージュ・茶色なので、部屋の個性がない、いわゆる「無難」なコーディネートになってしまっています。また、部屋全体を見たときにアクセントとなるものがなかったので少し寂しい印象を受けました。

萬年さん自身、部屋の印象を変えたいと思いつつも、一見統一されているように見えるこの部屋をどこから変えていいか分からず、悩んでいるそうです。今回のコーディネート予算は3万円。無難部屋からの脱却を図ります。

無難部屋の印象を変えるカギは「アクセント」と「目線」

まずは、山口さんに部屋の中で改善できるポイントを聞いてみました。

―――今回のコーディネートで部屋の改造ポイントとなる部分はどこでしょう?
まず1つは、インテリアのなかに「アクセント」が不足していると感じました。現在、白や茶色がベースとなっているので、メインカラーに萬年さんの好きだと仰っていた「ブルー」を持ってくる。好きな色があると気分が上がるので、自分の部屋がもっと好きになれると思います。

あとは、ベッドやラグの色が濃くて目線が下に行きがちなので、目線を上に向けられるようにインテリアを整えられたらいいのではないでしょうか。大きなものだと、照明器具も印象を変えるのにピッタリです。賃貸だと元からシーリングライトがついている部屋もあって、なかなか気づかない部分なんですが、今回は照明も思い切って変えてみようと思いました。それから、最近賃貸にも増えてきたピクチャーレールですね。フックさえつければ、好きなアートや写真が飾れるので、これは活用したいですね。

予算3万円で購入したコーディネートアイテム紹介

改善ポイントを踏まえたうえで、山口さんが今回のコーディネートアイテムとして選んだものがコチラ。

1.アクセント用のクッション

【画像2】萬年さんの好きな「ブルー」、サブカラーにアイビーを取れ入れたクッション(写真撮影/アウル株式会社)

【画像2】萬年さんの好きな「ブルー」、サブカラーにアイビーを取れ入れたクッション(写真撮影/アウル株式会社)

左:アクセントクッションINアイビー(中身付)/ニトリ 1380円(税抜)
中:FJADRARインナークッション50x50cm/IKEA 500円(税込)&SANELAクッションカバー50x50cm/IKEA 999円(税込)
右:ニトリクッションヌード45x45cm/ニトリ 462円(税抜)&クッションカバー 北欧デザイン 45×45cm Jubilee×Lamoppe コラボデザイン/楽天 Jubilee 2700円(税込)

2.インテリア照明

【画像3】部屋全体を爽やかな印象にするために、あえてリゾート感漂う照明をチョイス(写真撮影/アウル株式会社)

【画像3】部屋全体を爽やかな印象にするために、あえてリゾート感漂う照明をチョイス(写真撮影/アウル株式会社)

照明:SINNERLIGペンダントランプ竹/IKEA 8999円(税込)
電球:LEDARE NN LED電球E26 600ルーメン/IKEA 799円(税込)

3.気分の上がるアート

【画像4】額に入れるだけで、インテリアにアートが加わる(写真撮影/アウル株式会社)

【画像4】額に入れるだけで、インテリアにアートが加わる(写真撮影/アウル株式会社)

ポスター:TVILLINGポスター2点40x50cm 地平線/IKEA 500円(税込)
額縁:RIBB NNフレーム50x70cmホワイト/IKEA 2499円(税込)×2点
フック:HAGHEDハーグヘード ワイヤーループ&調節可/IKEA 499円(税込)×3点 ※1つは予備

4.観葉植物

【画像5】部屋の中に植物があると、空気の流れが良くなり、癒しの効果もあるのだとか(写真撮影/アウル株式会社)

【画像5】部屋の中に植物があると、空気の流れが良くなり、癒しの効果もあるのだとか(写真撮影/アウル株式会社)

植物:HEDERA HELIX鉢植12cm/IKEA 399円(税込)
鉢:FRIDFULL鉢カバー/IKEA 399円(税込)

5.ベッド用品
【画像6】茶色一色だったベッドまわりの印象をガラッと変えるために購入(写真撮影/アウル株式会社)

【画像6】茶色一色だったベッド周りの印象をガラッと変えるために購入(写真撮影/アウル株式会社)

枕カバー:マクラカバーパレット3IV/ニトリ 555円(税抜)
布団カバー:カケカバーNグリップパレット3I/ニトリ 1843円(税抜)
ボックスシーツ:マルチスッポリポシーツ ウィンドウペン IV/ニトリ 2306円(税抜)

以上、大きく5つのコーディネート部分に関するアイテムを購入。商品は全部で15種類、合計で2万8860円(税込)となりました。

低予算のときは、ニトリやIKEAなど、種類豊富なアイテムが低価格で手に入る場所でアイテムを購入するのがオススメ。配送料はかかりますが、家までの配達サービスもあるため、大きな買い物をする際にも便利です。

【無難部屋】から【爽やか美人部屋】への大変身!

購入したアイテムを使い、早速部屋をコーディネートしました。

【画像7】部屋のコンセプトは「爽やか美人部屋」(写真撮影/アウル株式会社)

【画像7】部屋のコンセプトは「爽やか美人部屋」(写真撮影/アウル株式会社)

萬年さんが好きな「ブルー」には気持ちを落ち着ける効果があり、安心と信頼感をかもし出す色でもあります。チョイスしたブルーのクッションやアートなど洗練されたブルーに囲まれ、気分の上がる部屋を目指しました。

また、ブルー一色ではなく、サブカラーとして観葉植物のグリーンを入れることでプラスのアクセントに。観葉植物効果で部屋の空気の流れが清らかになった印象も受けます。思いきって変えた照明も部屋全体を優しい雰囲気で包んでくれています。
今回家具類は一切変えないコーディネートでしたが、コーディネート前と印象がガラリと変わりました。改めて、コーディネートのすごさや重要性を感じました。住人の萬年さんも洗練された出来映えに感動し、「これから気持ちよくすごせそうです!」ととても喜んでいました。

【画像8】小さな緑が加わるだけで部屋のアクセントに(写真撮影/アウル株式会社)

【画像8】小さな緑が加わるだけで部屋のアクセントに(写真撮影/アウル株式会社)

低予算でもオシャレコーディネートは実現できる!

最後に山口さんからコーディネートの工夫点やこれからすぐに役立つアドバイスをいただきました。

【画像9】インテリアコーディネーターの山口恵美さん(写真撮影/アウル株式会社)

【画像9】インテリアコーディネーターの山口恵美さん(写真撮影/アウル株式会社)

―――実際にコーディネートをしてみてどうでしたか?
今回、予算3万円と限られたなかでのコーディネートで、どれだけ印象が変わるか不安でした。しかし元々の部屋の色がシンプルだったので、アクセントとして取り入れたクッションや観葉植物がうまく映えてくれました。空気の流れがキレイに感じられる爽やかな部屋になったのではないでしょうか。

―――改めて、コーディネートの工夫点を教えてください。
カーテンを変えたり、大きな家具を変えるともちろん印象は変わるんですが、そこに頼らず、テーマカラーを決めて、それに合わせたインテリアや小物アイテムをチョイスしていきました。萬年さんの好きな色を取り入れて、住む人の気分が上がるように、部屋で過ごすことが楽しくなるように想いを込めてコーディネートしました。

―――これから部屋の模様替えをしたい、印象を変えたいと思っている人に向けてアドバイスをお願いします。
そうですね、ただなんとなく気に入った家具・インテリアを買うのではなく、購入する際に、キーとなるテーマカラーを決めることがオシャレな部屋への第一歩だと思います。部屋の中に色が多すぎるとごちゃごちゃしてまとまりにくいので、今回のブルー・グリーンのように、2,3種類に絞ってインテリアをチョイスすると部屋に統一感が生まれます。

【画像10】アートやグリーンで部屋に立体感が生まれた(写真撮影/アウル株式会社)

【画像10】アートやグリーンで部屋に立体感が生まれた(写真撮影/アウル株式会社)

また、部屋で過ごすことが楽しくなるよう、壁などにアートや写真を飾ってみてください。壁に模様がついているならいいのですが、白いママだと少し寂しい印象になります。最近ではピクチャーレールがついている賃貸住宅も多くなってきたので、ぜひ備え付けのモノは活用してほしいなと。自分が好きなモノがパッと目につく場所に飾ってあると、住んでいて気持ちがいいものですよ。

予算3万円と限られたなかでの今回のコーディネート。無難な部屋から住む人の好みを取り入れた素敵な部屋へ大変身を遂げました。大きなものを変えなくても、アクセントを取り入れるだけで印象が変わる。目線をあげることで気分が上がる。山口さんから教わったコツはすぐにでも使えることばかりでした。「自分の部屋、無難かも……」そう感じた方はぜひすぐに試してみてはいかがでしょうか。

●インテリアコーディネータープロフィール
山口恵実/Emi Yamaguchi
東京都世田谷区の築40年の賃貸マンションに暮らす。
外資コンサル会社アクセンチュアで6年働いた後フリーランスになり、インテリア、アート、料理&テーブルスタイリングの仕事に携わる。インテリアコーディネーター/整理収納アドバイザー