電力の半分は風力、7割以上が再生エネルギーのデンマーク。約5000基の風車で叶えるまでの軌跡とは?

環境先進国として先進的な取り組みを続ける国、デンマークを象徴する存在のひとつが、なんといっても風力発電です。古くは粉挽きや排水の役割を担うために村々にあった風車が、時代の変遷とともに、発電のための風車へと変わりましたが、今も昔も「風車のある風景」がデンマークらしさ、と言えるかもしれません。今回は、デンマークのエネルギー分野で主役的な役割を果たしている風力発電にフォーカスします。

農家は「農耕と発電」の二毛作!

飛行機でコペンハーゲンのカストラップ空港に近づくと窓から見えてくる、くるくる回るたくさんの白い風車たち。デンマークに(帰って)来たなぁと嬉しくなる瞬間です。この光景を見ると嬉しくなるのは私だけではないようで、デンマークを訪ねてくれる人のほとんどが、同じように「風車が見えてきてワクワクした!」と話してくれます。なぜなんでしょう、この感覚。自然が電気をつくっているのを目の当たりにできるからでしょうか。

そして、コペンハーゲンから約160km南下すると、私が暮らすロラン島があります。現在、デンマーク国内で一番風力発電が盛んなのは、デンマーク西部の沿岸地域ですが、2番目に盛んなのが、ロラン島です。

ロラン島(写真提供/ニールセン北村朋子、撮影/ Rune Johansen)

ロラン島(写真提供/ニールセン北村朋子、撮影/ Rune Johansen)

ここまで来ると、どの方向を見ても、必ず風車が視野に入るような感じで、本当にたくさんの風車が立っています。ロラン島では現在約260基の陸上風車があり、洋上にも162基の風車があります。風力発電以外に、近年は太陽光発電も増え、また農業から出るワラを燃料としたバイオマス発電や、家畜の糞尿や食糧残渣を利用したバイオガスによる発電なども含むと、ロラン島は、島内で使う電力の8倍~10倍の電力を、主に風力による再生可能エネルギーでまかなっています。

ロラン島の2023年7月までの再生可能エネルギーでの発電と消費電力のデータ。青が風力発電、黄色が太陽光発電。今年はこれまでに82.9%の電力を再エネでまかなっている(画像提供/REEL、出典:Lollands Energisystem)

ロラン島の2023年7月までの再生可能エネルギーでの発電と消費電力のデータ。青が風力発電、黄色が太陽光発電。今年はこれまでに82.9%の電力を再エネでまかなっている(画像提供/REEL、出典:Lollands Energisystem)

現在、デンマーク全国では約4,200基の陸上風車があり、1時間あたり約470万kWのエネルギーを生み出すことができます。また、洋上風車は630基にのぼり、1時間あたり約230万kWのエネルギーを生み出していて、デンマークの電力供給の約半分は風力発電で賄われています。

デンマークの風力発電機の分布図。風力発電がいかに盛んかがわかる(画像提供/Plan- og Landdistriktsstyrelsen、出典:Info om vedvarende energikilder)

デンマークの風力発電機の分布図。風力発電がいかに盛んかがわかる(画像提供/Plan- og Landdistriktsstyrelsen、出典:Info om vedvarende energikilder)

風力発電の容量と国内電力供給に占める風力発電の割合。青は洋上風力、緑は陸上風力、赤は風力による電力供給の割合(画像提供/Energistyrelsen、出典:Energistatistik2021)

風力発電の容量と国内電力供給に占める風力発電の割合。青は洋上風力、緑は陸上風力、赤は風力による電力供給の割合(画像提供/Energistyrelsen、出典:Energistatistik2021)

自治体別風力発電の容量。青色が濃いほど風力での発電容量が多い。右下にあるロラン島は西側が濃い青色(画像提供/Energistyrelsen、出典:Energistatistik2021)

自治体別風力発電の容量。青色が濃いほど風力での発電容量が多い。右下にあるロラン島は西側が濃い青色(画像提供/Energistyrelsen、出典:Energistatistik2021)

陸上風車を所有するのは、主に設置できる土地を持つ農家や、地域の風力発電組合で、近年は、風車の大規模化に伴い、再エネ関連企業が所有する例も増えてきています。ロラン島をはじめ、デンマークでは農家の人たちが作物を収穫するのと同時に、収穫後のワラを売却して地域の熱供給や発電の原料にしたり、畑にある風車や太陽光パネルから電力を収穫して売電し、収入を得るのは当たり前のこと。それぞれが持つリソースを最大限に利用することで、各農家の収益も安定しますし、農家の収入が増えれば、地方自治体は税収が増え、地域が潤うことにつながります。また、当然ながら、地域や国のエネルギーの自給率を上げることにも繋がり、エネルギーの安全保障にも大きな意義をもたらします。

デンマークの農家(写真提供/ニールセン北村朋子)

デンマークの農家(写真提供/ニールセン北村朋子)

陸上風車の高さは、約150m。ビルの高さに例えるなら、およそ40階くらいと同じになります。また、東京タワーの大展望台も地上150mで、デンマークで見かける陸上風車とほぼ同じ高さです。洋上風車はさらに大きくて、200mにもなります。ブレード(羽根)はゆっくり回っているように見えるのですが、実はブレードの先端部分では時速250kmを超えるスピードで回転していて、新幹線に近い速さなのですから驚きです。

農地に立つ大型風車たち。高さは150m!(写真提供/ニールセン北村朋子)

農地に立つ大型風車たち。高さは150m!(写真提供/ニールセン北村朋子)

ロラン島沖の洋上風力発電パーク(写真提供/ニールセン北村朋子)

ロラン島沖の洋上風力発電パーク(写真提供/ニールセン北村朋子)

■関連:デンマークのまちづくりやエコ関係の記事

自分たちが使うエネルギーは自分たちで選びたい!

冒頭にも触れたように、デンマークでは、風車のある風景は昔から馴染みのあるものでした。12世紀から13世紀にかけて小麦から粉を挽くために、また低地の湿地の排水をするために、風車は重要な役割を果たしていました。また、当時は製粉は地域の権力者が管理する仕組みで、地域の穀物を挽く独占的権利を持っていましたが、1862年に食の自由化がなされて、農民が農場製粉所を設置することが可能になり、風車は市民のものとなっていきました。1920年ごろには、2万~3万基の家庭用製粉風車があったようです。

発電のための風車が初めてつくられたのは1891年、物理学者のポール・ラ・クールがアスコウ・ホイスコーレ(デンマーク発祥の「人生の学校」と呼ばれるフォルケホイスコーレ(※)のひとつ)で実現しました。実際に普及するまでには少し年月がかかりましたが、1970年代のオイルショックによるエネルギー危機が大きな転機となります。今でこそ、デンマークは再生可能エネルギーの先進国として知られるようになりましたが、70年代当時は中東の石油に頼りきりで、エネルギー自給率は5%を切るほどでした。

※フォルケホイスコーレ……デンマーク発祥の全寮制の成人教育機関。17.5歳以上なら誰でも入学でき、資格やスキルを得るのではなく、より良く生きるために、誰にも評価されずに自分や社会、世界と向き合う時間を持つことができる。

そこで、エネルギーの自給を高めるための議論が活発になり、その解決策として急浮上したのが原子力発電でした。当時の国と電力会社は原発を推し進めようとしましたが、原発についてもっと詳しく知ってから活用するかどうかを考えたいと訴える市民団体OOA(原子力発電情報協会)が立ち上がり、原発のメリットとデメリットについて幅広く情報を集め、国民と共有し、議論を促したことや、79年にスリーマイル島で原発事故が起きたことも影響し、時が経つにつれて世論は原発反対へと傾いていきました。

そして1985年、デンマークはついに原発を選択肢から外したエネルギープランを採択。チェルノブイリで原発事故が起きたのは、デンマークのこの決定の翌年の86年のことでした。以降、デンマーク国内で自給自足できるエネルギーの大きな可能性を秘める選択肢として、風力発電の開発と普及が一気に加速して今に至ります。

(写真提供/ニールセン北村朋子)

(写真提供/ニールセン北村朋子)

デンマークの農民や市民が風力発電に関心を持つようになったのは、投資目的だけではありません。ロラン島で初めての市民風車のメンバーになったビャーネ・エネマークさんは、以前インタビューした時に「どういうエネルギーを使いたいかは、国や電力会社ではなく、国民や一般市民に決める権利がある」と話してくれましたが、地域のみんなと環境に良いことに取り組みたい、という気持ちと連帯感が、デンマークの市民を突き動かしています。そして、その意志を尊重する民主主義と政治があることも不可欠です。

デンマークの現在のエネルギー政策は、2012年に打ち出されたもので、2050年までに化石燃料から脱却することと、それに先立って2030年には二酸化炭素の排出量を1990年比で70%削減するという目標を設定しています。さらに、昨年暮れに発足した新政権では、2050年の化石燃料からの脱却目標を2045年に前倒しし、二酸化炭素の削減に関しては2050年までに110%を達成するという、野心的な目標を新たに設定しています。EUの2040年目標となっている、2019年比で二酸化炭素排出量を90%削減する、という方向性とも連動しながら、これからもデンマークではさらに風力発電を増やしていく予定です。

余るほどできる再エネの電力を、さまざまに使い回す

風力発電をはじめとして、再生可能エネルギーによる電力供給は増える一方のデンマーク。今の一番の関心事は、大量につくられる電力を、供給過多の時に効率的に貯めておいて、電力供給が足りない時に使ったり、電気としてだけでなく、輸送燃料や熱供給に使うためのPower to X への取り組みです。

Power to X とは、電力を熱や水素、メタンなどに変えて蓄え、輸送エネルギーや熱エネルギーなど電気以外のエネルギーで幅広く活用するための技術とデザインのこと。例えば、再エネの電力が余っている時間帯に水を電気分解して水素を取り出し、水素そのものとしてだけでなく、水素と二酸化炭素を組み合わせてメタンやメタノール、アンモニアやケロシンを生成することで貯めておくことが可能になり、輸送燃料などに利用することができるようになります。実際に、デンマークを代表する世界的海運会社、マースク社も、こうしたグリーンメタノールを燃料とするコンテナ船を今年から北欧で導入予定です。

また、ロラン島でも、Power to X の設備の建設が予定され、予定通りに進めば2027年から稼働の見込みで、さらに、こうしたPower to X によってつくられるグリーンな天然ガスを利用する、デンマーク国内初のバイオ小麦精製所もつくられる予定になっています。このバイオ小麦精製所は、食品に使うための小麦の精製だけでなく、現在は輸入に頼っているグルテンを国産できるようになることで、魚の養殖用の餌や養豚の飼料に活用することができたり、また食用にできる部分以外からさまざまな成分を取り出して、バイオポリマーをつくることによって、現在は石油化学原料からつくられている衣類や靴、医療品などを、こうしたバイオ素材でつくることを目的としています。化石燃料からの脱却は、石油化学製品からの脱却も同時に行っていくことを意味します。風力発電などの再生可能エネルギーは、こうした私たちの生活を支える素材づくりにも、大きく関わってきます。

Power to X を図解したもの。再生可能エネルギーの電気と水と二酸化炭素があれば、分子の形で貯めることができるほか、輸送部門など、さまざまな形で利用が可能になる(画像提供:Ranboll、出典:ANALYSE AF MULIGHEDER FOR POWER-TO-XOG GRON GAS PA LOLLAND)

Power to X を図解したもの。再生可能エネルギーの電気と水と二酸化炭素があれば、分子の形で貯めることができるほか、輸送部門など、さまざまな形で利用が可能になる(画像提供:Ranboll、出典:ANALYSE AF MULIGHEDER FOR POWER-TO-XOG GRON GAS PA LOLLAND)

再生可能エネルギーにおけるエネルギー生産は、天候に左右されるなど不安定要素が多いと指摘する声もあります。ただ、その再エネによる発電が高度に進むと、それをどううまく使い回すかという可能性も広がります。
今年の夏は、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「地球温暖化から地球沸騰化の時代が到来した」と警告するほど、世界各地を酷暑が襲い、深い爪痕を残しています。気候変動対策は、正真正銘、待ったなしです。

みなさんが毎日使っている電気は、どこから買っていますか? その電気は、どこから来ていますか?何でつくられていますか? それは、あなたが望む形でつくられていますか?

「どういうエネルギーを使いたいかは、国や電力会社ではなく、国民や一般市民に決める権利がある」ことをぜひ忘れないでください。そして、自分だけでなく、子どもたちや未来の世代のためにも、責任のある選択をできているかどうか、今一度、考えてみませんか?

●取材協力
・REEL
・andel

●参考文献
ロラン島のエコ・チャレンジ デンマーク発、100%自然エネルギーの島(ニールセン北村朋子著、新泉社)

2023年は省エネ住宅がお得!補助が出る優遇制度、活用方法を解説。「住宅省エネ2023キャンペーン」はじまる

住宅の省エネ化を推し進めている政府は、さまざまな優遇制度を設けている。そこで、国土交通省・経済産業省・環境省の3省連携により行う「住宅の省エネリフォーム支援」および国土交通省が行う「ZEH住宅の取得への支援」について、共通ホームページを開設した。どんな優遇制度なのか、見ていくとしよう。

【今週の住活トピック】
「住宅省エネ2023キャンペーン」開始/国土交通省

「住宅省エネ2023キャンペーン」とは3つの補助事業の総称

「住宅省エネ2023キャンペーン」という名称は、住宅の省エネ化を推進する次の3つの補助事業の総称だという。いずれも2022年度補正予算で成立して間もない補助事業だ。

1. 先進的窓リノベ事業(予算1000億円:経済産業省・環境省)
2. 給湯省エネ事業(予算300億円:経済産業省)
3. こどもエコすまい支援事業(予算1500億円:国土交通省)

省それぞれで補助事業を個別に進めるだけでなく、3省連携によりワンストップで利用可能にするなどで使い勝手を良くしている。では、それぞれどんな事業なのか見ていこう。

断熱性の高い窓に交換することで最大200万円までを補助

「先進的窓リノベ事業」とは、経済産業省の「住宅の断熱性能向上のための先進的設備導入促進事業」と環境省の「断熱窓への改修促進等による家庭部門の省エネ・省CO2加速化支援事業」をまとめたもの。既存の住宅のリフォームが対象で、内窓を設置したり、外窓やガラスを断熱性の高いものに交換したりした場合、リフォーム工事の内容に応じた所定の補助額の合計金額を、1戸当たり200万円を上限に還元する事業だ。

省エネ効率の高い給湯器の設置で5万円~15万円/台を還元

「給湯省エネ事業」とは、「高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金」のこと。対象となる高効率の給湯器と1台当たりの補助額は、次の通り。台数制限があり、一戸建てはいずれか2台まで、マンションなどの共同住宅はいずれか1台までだ。

・「ヒートポンプ給湯機(エコキュート)」:補助額5万円
・「ヒートポンプ・ガス瞬間式併用型給湯器(ハイブリッド給湯機)」:補助額5万円
・「家庭用燃料電池(エネファーム)」:補助額15万円

「先進的窓リノベ事業」とは違って、新築住宅や賃貸住宅などの設置についても、補助金の対象となる。

■申請者(補助対象者)
高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金の概要

※ 新築住宅とは、完成(完了検査済証の発出日)から1年以内で、人の居住の用に供されたことのない住宅をいいます。既存住宅とは新築住宅以外の住宅をいいます。
経済産業省資源エネルギー庁「高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金の概要」より転載

ZEH水準の新築住宅に100万円を補助する「こどもエコすまい支援事業」

「こどもエコすまい支援事業」は、ZEH住宅の新築、または一定の住宅リフォームを対象とする補助事業だ。まず、新築への補助については、ZEH水準の住宅の新築で100万円の補助が出る。ただし、子育て世帯あるいは若者夫婦世帯に限られる。なおZEHとは、一般的にネットゼロエネルギーハウスを指すが、この事業では所定の条件が定められている。

次に、住宅のリフォームへの補助について見ていこう。まず住宅の省エネリフォームが必須条件で、併せて行うそれ以外の一定のリフォームについても補助対象になる。必須の省エネリフォームとは、「外壁や屋根、天井、床の断熱改修」「窓の断熱改修」「エコ住宅設備の設置」だ。

補助額は、リフォーム工事の内容に応じた所定の補助額の合計金額を、30万円を上限に還元する。ただし、子育て世帯あるいは若者夫婦世帯については、上限額が上乗せされて最大で60万円になる。

なお、子育て世帯とは18歳未満の子どもがいる世帯、若者夫婦世帯とはいずれかが39歳以下の夫婦世帯であるが、工事の着工時期によっていつ時点の年齢かが異なるので注意が必要だ。

■こどもエコすまい支援事業のリフォームへの補助
【リフォーム】
(1)対象工事
 1.(必須)住宅の省エネ改修
 2.(任意)住宅の子育て対応改修、防災性向上改修、バリアフリー改修、空気清浄機能・換気機能付きエアコン設置工事等

(2)補助額
リフォーム工事内容に応じて定める上限補助額は下表の通り
高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金の概要

※1 売買契約額が100万円(税込)以上であることとします。
※2 令和4年11月8日(令和4年度補正予算(第2号)案閣議決定日)以降に売買契約を締結したものに限ります。
※3 自ら居住することを目的に購入する住宅について、売買契約締結から3ヶ月以内にリフォームの請負契約を締結する場合に限ります。
※4 自ら居住する住宅でリフォーム工事を行う場合に限ります。
※5 法人、管理組合を含みます。
経済産業省資源エネルギー庁「高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金の概要」より転載

3省連携により補助事業の併用も可能に

「こどもエコすまい支援事業」のリフォームの対象となる工事には、窓の省エネ改修やエコ住宅設備が含まれる。窓の省エネ改修は「先進的窓リノベ事業」と、エコ住宅設備のうち高効率給湯器については「給湯省エネ事業」と重なる。

基本的に国の補助事業は、対象が重なる他の補助事業と併用ができないが、3省連携により補助対象が重複しない場合に限り併用を可能としている。省エネリフォームについて、3省の制度をまとめたのが下表だ。

令和4年度第2次補正予算省エネ支援策パッケージ

経済産業省資源エネルギー庁「令和4年度第2次補正予算省エネ支援策パッケージ」より転載

いずれの補助事業も補助対象の条件が細かく定められているので、利用を検討する場合は確認してほしい。なお、いずれの補助事業も、申請を行うのは工事を行う事業者(国の登録事業者であることが必須)で、事業者から消費者に還元される仕組みとなっている。

国は「2050年カーボンニュートラル」に向けて、住宅の省エネ化に力を入れている。補助事業の対象となる省エネ性が次第に引き上げられているが、補助金制度により促進しようとしている。こうした制度を上手に活用して、住宅のリフォーム費用を軽減することを考えるとよいだろう。ただし、補助金ほしさに不要な工事まで行うのは本末転倒。必要な工事は何かを優先することをお忘れなく。

●関連サイト
国土交通省「住宅省エネ2023キャンペーンはじまります!」
住宅省エネ2023キャンペーンについて

あと2年半で東京の新築住宅の太陽光発電設置が義務化! メリット・デメリットを解説

東京都が2025年4月から新築住宅に太陽光発電の設置を義務づけるという基本方針を決めた。このニュースはかなり話題になり、都民の声は賛否両論だった。都内で新築住宅を建てたり買ったりする場合、必ず太陽光発電を設置しなければならなくなるかというと、そういうわけではない。詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」の策定について/東京都

東京都は、なぜ太陽光発電の設置義務化に踏み切ったのか?

東京都では、「2050年ゼロエミッション東京」の実現に向け、「2030年カーボンハーフ」を表明している。2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減(2000年比)=「カーボンハーフ」するために、さまざまな施策を打ち出している。今回、東京都が策定した「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針(案)」に盛り込まれたのが、2025年4月からの新築住宅への太陽光発電の設置義務化だ。

都内のCO2排出量の32.3%を家庭部門(住宅)が占めているが、単身世帯の増加により都内の世帯数が増えていることもあって、業務部門や運輸部門等ではエネルギー消費が減っているのに対し、家庭部門だけは増え続けている。

そこで、住宅の省エネ化を推進しようと考えられたのが、「東京ゼロエミ住宅」。東京の地域特性などを踏まえて、都が独自に定めた高い断熱性能をもった断熱材や窓を使って、省エネ性能の高い家電製品などを取り入れた住宅だ。東京ゼロエミ住宅を支援する補助金の制度なども設けてきた。

一方で、都内の建物の屋根にも着目した。都内には、住宅の敷地が狭くて屋根が小さかったり、住宅が密集して隣家の陽当たりを確保するために屋根が変則的な形になったりする場合も多い。そうなると太陽光発電設備を設置しても、十分な発電量が得られないことから、「東京ソーラー屋根台帳(ポテンシャルマップ)」を公開するなどしてきた。地図上のどの建物の屋根に太陽光発電を設置すれば、どの程度の発電量が見込めるかわかるというものだ。ただし、設置に適しているとする建物のうちの4.24%しか設置されていないのが実情だ。

そのため、太陽光発電の搭載に適した建物には極力設置しようと考えて、新築住宅への義務化に舵を切ったのだ。

設置の義務を負うのは誰?すべての新築住宅に設置しなければならない?

太陽光発電の設置義務化について、さまざまな疑問が湧くだろう。1つずつ詳しく見ていこう。

疑問1:設置する義務があるのは誰か?
注文住宅の建設事業者や建売住宅を新築分譲する事業者が対象で、都内に一定以上(年間の都内供給延床面積が合計2万平米以上)の建物を供給する50社程度が義務化の対象となる見込みだ。

疑問2:日当たりの悪い住宅や狭小な住宅でも設置しなければならない?
義務化の対象となる大手の住宅供給事業者には、供給棟数に応じた再エネ発電量の総量が求められる。各事業者は、その総量を達成するために、新たに供給するどの建物に太陽光発電を設置するかを判断していく。設置に適さない住宅(算出対象屋根面積 20 平米未満など)については、設置基準算定から除外可能としている。

疑問3:太陽光発電設備を設置するとどんなメリットがある?
東京都の資料によると、4kWの太陽光パネルを設置した場合、初期費用98万円が10年(現行の補助金を活用した場合6年)程度で回収可能。30年間の支出(※)と収入を比較すると、119万円程度(現行の補助金を利用した場合は159万円程度)の経済効果がある計算になる、という。

※専門業者による「点検」や発電した電気を家庭で使えるように変換するための「パワーコンディショナーの交換」などの費用を支出に加算。ただし、設備をリサイクルする際には、別途30万円程度の費用が発生。

住宅供給事業者が太陽光発電に適していると判断した住宅については、事業者が設置のメリットなどを丁寧に説明して、注文住宅の施主や新築分譲住宅の購入者は納得したうえで建てたり買ったりすることになるだろう。

住宅所有者のメリット・デメリットと今後の課題

さて、義務化により太陽光発電設備が設置された住宅の所有者は、原則として、その設置費用や使用する間のメンテナンス費用、最終的に廃棄(またはリサイクル)する際の費用などを負担することになる。売電収入で補う方法が先ほどの東京都の試算だ。

一方、固定価格買取制度による電力の買取価格は下がっている。逆に、さまざまな要因で電力会社の電気代は上がっている。そのため現状は、発電した電気を売るよりも自宅で使うことで節約する人の方が多い。自宅で使う場合には、発電しない夜間に電気を使えるように家庭用蓄電池も設置する必要があり、それには別途の費用もかかる。

ただし、災害などで停電になった場合でも、日中は太陽光発電により、夜間や雨天は蓄電池により、自宅で電気を使うことができる。いわゆる災害に強い住宅になるわけだ。

環境省の「太陽光発電設備の導入意向に関するアンケート調査」(2018年10月実施)の結果を見ると、太陽光発電設備を導入したい理由としては、「発電された電力を自宅で使用することで電気料金を節約するため」が最も多く、「地球環境への貢献」と「売電収入」が続き、「災害、停電時の非常用の電源とするため」の順となった。

一方、導入を希望しない理由としては、「初期投資費用が高いため」が最も多く、「投資回収年数が長い」と「設備が壊れたり修理やメンテナンスで高額な費用がかからないか不安」が続き、「買取価格が下がるなどでどれくらいの年数で投資が回収できるか不安」の順となった。

いずれにしても、投資回収期間が長くなるので、その間の電力買取の仕組みを安定させること、初期投資費用を抑えられるように支援制度を用意すること、設備の廃棄・リサイクルの仕組みを整備することなどが必要となる。初期費用を抑える方法として、補助金などのほかに、都ではリースや屋根貸しなどの手法も推し進めたい考えだ。

出典:東京都「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針(案)」より転載

出典:東京都「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針(案)」より転載

東京都は2022年12月の第4回都議会定例会で条例改正案を提出し、議決後2年程度の準備・周知期間を設けたうえで、2025年4月の施行を目指すとしている。支援制度などの詳細はその間に決まるだろう。

一方、政府も「2030 年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」としている。太陽光発電設備などの設置を推し進める方針なので、家庭で発電した電力を安定して買い取る仕組みづくりに力を入れてほしい。

●関連サイト
東京都:「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」の策定について
東京都:カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針等の制度改正に関する情報
東京都:「東京ソーラー屋根台帳」(ポテンシャルマップ)

パリの暮らしとインテリア[11] 内装建築家が郊外の集合住宅をエコリノベーション

内装建築家のカミーユ・トレルさんは、エコ建築が専門です。1年半前に購入したフランスのパリ郊外にある住まいを訪ねると、得意のエコ建築でフルリノベーションを行っている真っ最中でした。ここにパートナーと17歳の長女、6歳の長男と、家族4人で暮らしています。そしてもうすぐ5人に! なぜ郊外なのか、そしてなぜエコ建築なのか? 魅力を探りました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

緑の多い環境と広々とした住まいを求めて、郊外へ

遠くヴェルサイユの森からビエーヴル川が流れ、そのほとりに木々が連なる静かな街、ヴェリエール・ル・ブイソン。ここはかつてフランス国王の狩猟のための森でした。緑豊かな環境は今も守られ、保存の行き届いた石畳の市内は、古いフランス映画のような可愛らしさがあります。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

内装建築家のカミーユさんは1年半前、この街の中心部にある集合住宅の2階を購入し、引越してきました。子どもたちが通うシュタイナーの学校があること、そしてパートナーの前妻が住む街なので家族みんなが近くに暮らせることが、決断の理由でした。もちろん、緑の多い環境であることも。

築年数約200年の集合住宅2階とその上の屋根裏部分が、カミーユさんの住まい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

築年数約200年の集合住宅2階とその上の屋根裏部分が、カミーユさんの住まい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちが通うシュタイナー学校(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちが通うシュタイナー学校(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「子どものころは、セーヌ川で船上生活をしていました。父が選んだ船暮らしでしたが、自然を身近に感じられる毎日が私は本当に好きで。当時の経験が今も大きく私に影響を与えていると感じます」と、カミーユさん。
実は、この住まいに引越す前も、パリ郊外に暮らしていたといいます。そのくらい緑豊かな環境は、カミーユさんにとって不可欠なのです。
「パリへのアクセスが便利な郊外は、美術館や文化施設など都市の豊かさを享受できます。それでいてパリ暮らしよりもずっと静かで、ずっと広い住まいに暮らせるのですから、コロナ禍の外出制限を機にパリ市民が大勢引越してきたというのも頷けます」

グラン・パリ構想が着々と実現される郊外エリア。住み心地は?

2016年 、パリ市とその周辺の131の市町村を1つの大都市とする「メトロポーム・デュ・グラン・パリ」が発足しました。現在、周辺地域を結ぶメトロ「グラン・パリ・エクスプレス」の建設工事が進んでいます。カミーユさんが暮らすヴェリエール・ル・ブイソンにも、メトロ18線(注:現在パリには14の路線が存在する)の駅が建設される予定です。今の所、パリへ出るには車か列車で約30分の道中になりますが、メトロ18線が登場すれば移動はぐっと楽になるでしょう。この街に引越してくるパリジャン・パリジェンヌも、よりいっそう増えそうです。

グラン・パリ開発が進む街の一つ、クレムラン・ビセトルに建設予定の集合住宅。MEFエドワー・フランソワ建築事務所が手掛ける(MEF - Kremlin bicetre)

グラン・パリ開発が進む街の一つ、クレムラン・ビセトルに建設予定の集合住宅。MEFエドワー・フランソワ建築事務所が手掛ける(MEF – Kremlin bicetre)

「グラン・パリに関しては、個人的に良い面と悪い面があると考えています。良い面は、郊外が近くなることで、より多くの人々が緑豊かな環境の広い住まいに暮らせるようになることです。コロナ禍を体験し、多くの人が暮らしの質を考え直した今、これは本当に歓迎すべきことだと思います。悪い面は、石造りの建物が取り壊されてビルに変わってしまうこと。まだあと100年は使える住居を壊すなど誰も望んでいませんし、私も同じ考えですから」
カミーユさんの心は複雑ですが、オルリー空港からも近いヴェリエール・ル・ブイソンが、今後注目の高まる街であることは間違いありません。

エコ建築は、今を生きる自分たちのため。そして将来の環境のため。

集合住宅の2階を購入し、その後屋根裏も買い足して、築年数約200年の物件を得意のエコ建築でリノベーションしているカミーユさん。カミーユさんにとってエコ建築は、環境を考慮した持続可能なアプローチで住まいやオフィスをリノベートすること。例えば、フランスのエコ認証の付いたペンキを選ぶことはもちろんですし、その認証が信頼できるものであるかどうかを調べることにも手を抜きません。また、エコ認証のないものでも、例えば無垢材の木の中古家具を採用することは、環境インパクトを最小限に抑えるという意味で持続可能なアプローチであり、エコであると捉えています。

玄関を入ったフロアに広々としたリビングとキッチンがあり、さらにシャワー、トイレ、長女の部屋があります。上階の屋根裏に行くと、長男の部屋と夫妻の寝室。夫妻の寝室には、バスタブとシャワーもつけました。

住まいはトータルで104平米(写真撮影/Manabu Matsunaga)

住まいはトータルで104平米(写真撮影/Manabu Matsunaga)

以前は映画業界で働いていたカミーユさんらしく、ポスターや電飾を使って暮らしを楽しく演出している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

以前は映画業界で働いていたカミーユさんらしく、ポスターや電飾を使って暮らしを楽しく演出している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

2匹いる犬たちも広い暮らしをのびのび満喫中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

2匹いる犬たちも広い暮らしをのびのび満喫中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コンパクトなキッチンも、オープンにして広々と(写真撮影/Manabu Matsunaga)

コンパクトなキッチンも、オープンにして広々と(写真撮影/Manabu Matsunaga)

クライアントの仕事を優先しているため、自分の住まいは後回しになり、仕上がりのスピードはゆっくりです。今もまだペンキを塗っていないファイバーボードの壁が、剥き出しになっていたりします。しかも、エコ素材のペンキは、通常のものよりも乾くのに時間がかかるので、工事を急ぐ現代人には敬遠されがちなのだそう。金額が高いことも障害になります。それでもエコ建築を選ぶのは、なぜでしょうか?

天井の断熱材には綿・麻・ジュートでできたナチュラルファイバーを使用。暖房のエネルギーを節約するために断熱は入念に。その厚みのため天井の梁が隠れてしまったが、味わいがあるので可能な限り残すようにした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の断熱材には綿・麻・ジュートでできたナチュラルファイバーを使用。暖房のエネルギーを節約するために断熱は入念に。その厚みのため天井の梁が隠れてしまったが、味わいがあるので可能な限り残すようにした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

屋根裏の仕切りにはフランスのエコ基準をクリアしたファイバーボードと石膏ボードを使用。軽量素材なので上層階のリノベートに適している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

屋根裏の仕切りにはフランスのエコ基準をクリアしたファイバーボードと石膏ボードを使用。軽量素材なので上層階のリノベートに適している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「建築素材のなかには、そこに含まれる有害物質が人間の身体に悪影響を及ぼすことは、今や誰でも知っています。そして自分の住空間が汚染されていると思いながら暮らすのは、気分のいいものではありません。この仕事を始める前、私は映画のセットをつくる仕事をしていました。それが妊娠をきっかけにヘルシーな住空間について考えるようになり、産休を利用して住まいをD I Yでエコリノベして……自然と、今の仕事につながりました」
つまり、エコ建築を選ぶ理由の核には、家族の健康への思いがある、ということ。
「私のクライアントも、生まれてくる赤ちゃんの健康のためにエコ建築を選ぶ人がほとんどです。仕事では個人宅以外にも、オフィスやレストランも手がけますが、『以前よりずっと快適に感じる』とか『アレルギーが治まった』など、住空間であれ仕事空間であれ、反響はとてもポジティブですよ」と、カミーユさん。
加えて、人の身体に優しいエコ建築は、持続可能でもあります。未来を生きる子どもたちの世代のために、せめて負の遺産を残さない努力はしたいという想いも、カミーユさんは強くお持ちでした。

床、階段、本棚などなど、いたるところに木の無垢材を多用(写真撮影/Manabu Matsunaga)

床、階段、本棚などなど、いたるところに木の無垢材を多用(写真撮影/Manabu Matsunaga)

味わいのある天井の梁はあえて剥き出しにして、エコ基準をクリアしたペンキで白く塗り替えた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

味わいのある天井の梁はあえて剥き出しにして、エコ基準をクリアしたペンキで白く塗り替えた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

中古品のリサイクルは、2つのエコとおしゃれな暮らしの味方

開放感があって、温もりも感じられて。カミーユさんの住まいの心地よさは、エコ建築以外からももたらされている気がする……そう思いながら住まいの中を1つ1つ見てゆくと、家具や雑貨のほとんどが木や自然素材をベースにしたもの、そしてレトロなデザインのものであることに気づきます。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングのダイニングコーナーの一角に置かれたピアノは、パートナーの仕事道具。なんと彼は、フランスを代表するミュージシャンたちとコンサートを行う著名なピアニスト(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングのダイニングコーナーの一角に置かれたピアノは、パートナーの仕事道具。なんと彼は、フランスを代表するミュージシャンたちとコンサートを行う著名なピアニスト(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「チャリティーショップや蚤の市で見つけたものがほとんどです。つまり中古品。家具や雑貨をリサイクルすることは、環境へのインパクトを抑える効果的なアクションの一つなのですよ。私のクライアントたちも、中古品の再利用をとても歓迎してくれます。質の良い魅力的なオブジェを、安く購入できる、と」
エコノミックでエコロジック。2つのエコが、おしゃれなインテリアづくりのカギだったとは!
新品のもの、例えばキッチンツールやバスまわりのグッズは、パリの生活雑貨セレクトショップ「ラ・トレゾルリ」(La Trésorerie)で購入することが多いとのこと。ここへ行けば自然素材ベースのタイムレスなデザインのものがそろっているので、カミーユさんの趣味にぴったり。さらに言うと、ヨーロッパで生産された伝統的な品々が厳選されているため、サスティナビリティーや輸送のCO2の配慮面も安心です。こうして選んだものを長く愛用すれば、ここでもエコノミックでエコロジックな2つのエコが実現できると言うわけです。しかもこんなにおしゃれに!

藤の棚は、今やインスタ映えの必須アイテム! チャリティーショップで格安で見つけた。棚に並べた食器も同様(写真撮影/Manabu Matsunaga)

藤の棚は、今やインスタ映えの必須アイテム! チャリティーショップで格安で見つけた。棚に並べた食器も同様(写真撮影/Manabu Matsunaga)

壁の絵画もチャリティーショップで購入した中古品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

壁の絵画もチャリティーショップで購入した中古品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

古いものこそ最先端?

特注でつくり付けた木の無垢材の階段をのぼって、屋根裏へ。階段の突き当たりの踊り場がデスクコーナーになっています。デスクコーナーも中古品の寄せ集めでつくられていますが、それがなんとも可愛らしい!

中古品を集めて作ったデスクコーナー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

中古品を集めて作ったデスクコーナー(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「タイプライターは飾り? いえいえ、もちろん使っています! なぜかはわかりませんが、私は古い素材の質感と古いデザインに、とても魅力を感じるのです。手触りも良く使いやすい。今は新しいものが安く簡単に買えますが、遠い国でどんな手段で作られていることか……品質も疑問です。安いものを買ってすぐにゴミにしてしまうよりも、古いものを長く使った方が心地いいと私は思います」
その古いものが、今やヴィンテージとしてもてはやされ、インスタグラマーの間では引っ張りだこになっているのですから、面白いものです。カミーユさんの考えに共感する人は、きっと多いはず。そう思い、カミーユさんのインスタアカウントをチェックしたところ、17,511人のフォロワーが! やはり、そうでしたか。

木の無垢材のクローゼットはオーダーメイド。上にカゴを並べ、小物を収納している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

木の無垢材のクローゼットはオーダーメイド。上にカゴを並べ、小物を収納している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

長男の部屋にも天窓をつけ、自然光をたっぷりと取り入れるようにした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

長男の部屋にも天窓をつけ、自然光をたっぷりと取り入れるようにした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

仕事もプライベートも、自分ペースがいちばん贅沢

「私がインスタグラムに上げているのは、子どもと一緒に森を散歩したり、日常のコーナーを飾ったり、そんな写真ばかりです。それに共感してくれる人が大勢いるということは、贅沢の基準や優先順位がとても個人的なものになってきているということかも知れません。若い世代は環境問題に敏感ですし、自分にとって何が大切かをよく考えています。そしてそんな人たちは、どんどん増えていると感じます」
こう語るカミーユさんが自分のために大切にしているとっておきの時間は、バスタイム。毎週1回、自然光の注ぐ天窓下のバスタブにゆっくり浸かって、「心と身体の大掃除」を楽しむのだそうです。市内にあるアーユルヴェーダのサロンでヨガをしたり、オーガニック食材店でアロマオイルを買ったりするのも、お気に入りの自分時間とのこと。自分ペースで豊かに暮らす、カミーユさんの生活のひとコマを垣間見てしまったら、誰でもこの街に引っ越したくなりますね。

ラ・トレゾルリで購入したバス小物(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ラ・トレゾルリで購入したバス小物(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのオーガニック食材店(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのオーガニック食材店(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(文/Keiko Sumino-Leblanc)

●取材協力
カミーユさん
Instagram
●関連サイト
「ラ・トレゾルリ(La Trésorerie)」

“ごみ”を学べるホテル? 徳島県「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」が前代未聞のユニークさ!

徳島県徳島市から車で約40分。勝浦川沿いの山間部に広がる上勝町は、「ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)宣言」や「葉っぱビジネス」など、ユニークな取り組みで注目を集めているまちだ。2020年5月、このまちにゴミステーションと宿泊棟等が併設された環境型複合施設「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」がオープンした。ごみゼロを体感できるホテルとは、果たしてどんな施設なのだろうか?
「ゼロ・ウェイスト」を発信して、人の交流を生む

上勝町を貫く県道16号沿いにベンガラ色の建物が目を引く「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」が突如現れる。上空から見ると「?」マークの形状。「WHY?(なぜ?)」という疑問符を持って、ごみから学び、ごみのない社会を目指す、いわばこの施設の理念を表現しているのだ。「?」の上部はごみの分別所やフロント機能、交流ホール等になっていて、「・」の部分が宿泊施設「HOTEL WHY」だ。

画像提供/上勝町ゼロ・ウェイストセンター

画像提供/上勝町ゼロ・ウェイストセンター

2003年に国内の自治体として初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った上勝町。それ以来、ごみ収集を行わず、生ごみは各家庭がごみ処理機で堆肥化、そのほかのごみは45種類以上に分別して、ごみステーションに持ち寄っていた。2018年、その取り組みによりリサイクル率は80%を達成した。

「ここは残りの20%を解決するための拠点としての役割も担っています」と語るのは、同施設の運営・管理を行う株式会社BIG EYE COMPANY CEOの大塚桃奈さん。その20%には、オムツ、使い捨てカイロ、靴など、リサイクルの難しいごみが多数含まれている。「そのためには生産者にもアプローチが必要です。例えば花王とタッグを組んで、詰め替え用パウチから遊具用ブロックをつくったのもその一つです」

「この取り組みを通じて、生産者と消費者、県内外の人々の交流の場としての機能も充実させていきたい」ともう一つの目的を語る大塚さん。他の自治体同様に過疎が進む上勝町では、この地域に関わる交流人口の増加が、活性化の必須条件だ。「オープンして間もないですが、教育の一環として福島の高校生の宿泊研修を始め、関東や関西から環境問題に敏感なファミリーなどに利用していただいています」

ごみの分別所に掲げられたパネルで、上勝町の取り組みや施設の紹介をしてくれる大塚さん(写真撮影/藤川満)

ごみの分別所に掲げられたパネルで、上勝町の取り組みや施設の紹介をしてくれる大塚さん(写真撮影/藤川満)

施設案内ツアーを通じて取り組みを学ぶ

それでは宿泊利用者同様にチェックインから始めていこう。フロントには、町民が中古品を持ち込み、町内外の訪問者が持ち帰り可能な物品が並ぶ「くるくるショップ」が併設されている。持ち帰りは無料だが、ぜひカンパをしておきたい。ここでは年間約9トンもの品々が持ち帰られ、新たな持ち主のもとで再利用されている。

フロントに併設されたくるくるショップ。床にはここに集まった古い陶器の破片が敷き詰められている(写真撮影/藤川満)

フロントに併設されたくるくるショップ。床にはここに集まった古い陶器の破片が敷き詰められている(写真撮影/藤川満)

一升瓶のケースを積み上げたフロントでは、必要に応じて無添加の石鹸の切り分け、プラスチックを使用していない竹歯ブラシの販売も行う。またウェルカムドリンクとして、循環型能栽培に取り組む農園の豆をローストしたコーヒーも提供してくれる。

フロントにはくるくるショップで前月に持ち帰られた中古品のキロ数が掲げられている。取材時(2021年5月)は4月に491kgの実績があった(写真撮影/藤川満)

フロントにはくるくるショップで前月に持ち帰られた中古品のキロ数が掲げられている。取材時(2021年5月)は4月に491kgの実績があった(写真撮影/藤川満)

使い残しがないように石鹸は必要な量だけ切り分けて提供される。石鹸は無添加で昔ながらの釜焚き製法でつくる神戸の「無添加石鹸本舗」のもの(写真撮影/藤川満)

使い残しがないように石鹸は必要な量だけ切り分けて提供される。石鹸は無添加で昔ながらの釜焚き製法でつくる神戸の「無添加石鹸本舗」のもの(写真撮影/藤川満)

受付が終わると、施設案内を通じて上勝町の「ゼロ・ウェイスト宣言」の取り組みを学べる「STUDY WHY」ツアー。普段は町民のみに開放されているごみ分別所から順番に施設を巡っていく。

ごみ分別所に回収用のコンテナがずらりと並ぶ姿は壮観だ。各コンテナにはごみの種類がイラストと共に表示され、分別方法を正確に記憶せずとも分かりやすい。またそれぞれに「1kg○○円」と書かれているのも興味を引く。「リサイクル業者が買い取ってくれるものはその入金額、処理に費用がかかるものは出費額として表示しています」と大塚さん。入出金額を表示することで、意識に変化をもたらしそうだ。

「?」の上部にあたるごみ分別所。ごみの種類により区画され、車でも移動しやすい動線になっている(写真提供/Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO)

「?」の上部にあたるごみ分別所。ごみの種類により区画され、車でも移動しやすい動線になっている(写真提供/Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO)

町民自ら持ち込み45種類に細かく分別されるごみ(写真撮影/藤川満)

町民自ら持ち込み45種類に細かく分別されるごみ(写真撮影/藤川満)

町内外の人たちの交流の場となるラーニングセンター&交流センターは、上勝町産の杉の温もりと両側から差し込む温かい日差しが印象的なスペース。杉の柱は「太鼓落とし」と呼ばれる工法で、丸太を二つの材に切り離し、一本のボルトで接合している。つまり余計な材料を使用せず、端材の発生も少なくて済む。しかもメンテナンスもしやすい。

「窓は町内から集まった廃材の窓枠540枚を利用しています。過疎化が進み窓に映る光が少なくなったこの地域を、再び明るく照らす意味も込めています」と大塚さんはその狙いを語る。

ラーニングセンター&交流ホールをはじめ、施設内の構造は廃材が出ない無駄のない工法がとられている(写真撮影/藤川満)

ラーニングセンター&交流ホールをはじめ、施設内の構造は廃材が出ない無駄のない工法がとられている(写真撮影/藤川満)

ラーニングセンター&交流ホールにある遊具のブロックは、花王とのコラボで、詰め替え用プラスチック容器をリサイクルして生まれた(写真撮影/藤川満)

ラーニングセンター&交流ホールにある遊具のブロックは、花王とのコラボで、詰め替え用プラスチック容器をリサイクルして生まれた(写真撮影/藤川満)

コラボレーティブラボラトリーの壁一面にある本棚はシイタケを詰めるコンテナを再利用している(写真撮影/藤川満)

コラボレーティブラボラトリーの壁一面にある本棚はシイタケを詰めるコンテナを再利用している(写真撮影/藤川満)

取材時はあいにくの雨。しかしあえて雨樋(あまどい)を設けず、雨のカーテンと雨音を楽しむ仕掛けを体験することができた(写真撮影/藤川満)

取材時はあいにくの雨。しかしあえて雨樋(あまどい)を設けず、雨のカーテンと雨音を楽しむ仕掛けを体験することができた(写真撮影/藤川満)

リユースの工夫が詰まった客室でゆったり過ごす宿泊体験施設の外観。「HOTEL」の看板も、廃材の農機具などが利用されている(写真提供/Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO)

宿泊体験施設の外観。「HOTEL」の看板も、廃材の農機具などが利用されている(写真提供/Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO)

宿泊体験施設「HOTEL WHY」は全4室で最大16人収容のコンパクトな造り。環境教育プログラムや研修など団体の一棟貸しにも対応してくれる。室内はメゾネットタイプで、窓からは上勝町の山並みやダム湖などを望むことができる。

リビングにあるソファは、かつて上勝町役場が使用していたもの。クッションにはカーテン生地をカバーにしてリユースしている。窓に掛かるカーテンも端切れをつなぎ合わせたもの。説明を受けなければ新品と見間違う出来映えだ。

メゾネットタイプの室内。ウッドデッキが設けられ、外でお茶を楽しむこともできる。テレビはない(写真撮影/藤川満)

メゾネットタイプの室内。ウッドデッキが設けられ、外でお茶を楽しむこともできる。テレビはない(写真撮影/藤川満)

端切れをつなぎ合わせたカーテンは、独特の風合いを醸し出している(写真撮影/藤川満)

端切れをつなぎ合わせたカーテンは、独特の風合いを醸し出している(写真撮影/藤川満)

夕食は「ゼロ・ウェイスト」を実践している町内のマイクロブルワリー「RISE & WIN Brewing Co. 」やそのほかの飲食店へ出向いて楽しむのが基本。ただしお酒を伴う場合は、公共交通機関がほぼないため、「白タク特区」でもある同町の有償ボランティアタクシーを利用したい。

朝食は「RISE & WIN Brewing Co. 」から運ばれてくるベーグルまたはイングリッシュマフィンのセット。パティとなるフィッシュカツは徳島名物で、ほんのりカレー味がする魚のすり身。これにネパールのスパイス・アチャールと上勝名産・柚香(ゆこう)を加えたマヨネーズで味わおう。

徳島名物「フィッシュカツ」をベーグルに挟んで楽しむ朝食例(写真提供/Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO)

徳島名物「フィッシュカツ」をベーグルに挟んで楽しむ朝食例(写真提供/Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO)

各部屋に置かれているごみ分別ボックス。チェックアウトの際に利用者自ら分別を行う(写真撮影/藤川満)

各部屋に置かれているごみ分別ボックス。チェックアウトの際に利用者自ら分別を行う(写真撮影/藤川満)

環境教育の場として確立を目指していく

「ここでの宿泊体験をさらに充実するべく、さまざまなプログラムの開発にも取り組んでいます」と大塚さん。例えば目の前に広がるダム湖でのSUP体験、ブナ原生林の散策などは、上勝町の自然を手軽に楽しめ、ここを訪れる人の間口を拡げるプログラムだ。

また、大塚さんが「このまちの取り組みの解像度がさらに高まる」と語るプログラムとして、「ゼロ・ウェイスト」に詳しい有償ボランティアタクシードライバーによるガイドツアーなども実施している(3時間7200円)。「このまちには100~700mの間に55の集落があります。なかには日本の里山百選に選ばれた棚田もあり、その保全活動の体験なども考えています」

「ゼロ・ウェイスト」達成と同時に、プログラムの充実によってさらに関係人口の増加を目指す「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」。「広島と長崎が『平和教育の場』なら、上勝は『環境教育の場』として、ごみを通じた多様なコミュニケーションを育み、ゼロ・ウェイストに向けたアイデアを上勝に集めていきたい」と大塚さんは意気込んでいる。

●取材協力
上勝町ゼロ・ウェイストセンター
有償ボランティアタクシー

資源ごみ「捨てられない時代」に!? 税金負担も左右するごみ処理知識

新型コロナウイルス対策下、自宅で過ごす時間が増え、家の掃除をしたり生活を見直したりする機会が増えているようです。また7月からはレジ袋の全面有料化が始まるので、改めてごみやリサイクルに対する知識をつけておきたいところですね。

そこで今回は、リサイクルの現場やごみの正しい出し方について、モノファクトリーの河西桃子さんにお話を聞きました。モノファクトリーでは、グループ会社の産業廃棄物処理業者であるナカダイに運びこまれた廃棄物を、ユニークな方法で利活用しているそうです! どんな方法があるのでしょうか?
コロナの影響で、家庭ごみが増えている!産業廃棄物の新たな使い方を提案するモノファクトリーの品川のショールーム(写真/モノファクトリー)

産業廃棄物の新たな使い方を提案するモノファクトリーの品川のショールーム(写真/モノファクトリー)

自宅にいる時間が増えると、家の中のいろいろなところが気になります。私も3月以降、これまで使っていた照明器具を買いかえたり、家の中の汚れが気になって頻繁に掃除をしたりするようになりました。

「コロナの影響は、ごみにおいてもさまざまなところで変化を与えています。まず、自宅でジュースやお酒などを飲む機会が増えたことで、アルミ缶がごみとして出される量が確実に増えました。また、資源ごみや粗大ごみの回収量も増えているといいます。

さらに、私たちの気持ちの変化も大きいでしょう。近年、ごみを減らすために、エコバックをはじめとしてものを繰り返し使うことや、一つのものをシェアするなど、ものの有効活用の意識が少しずつ浸透してきたと感じます。けれども、今回のコロナ対策下では、衛生面に配慮して感染リスクを避けることが最優先になりました。これもこの数カ月でごみが増えている原因の一つと言えるでしょう」(河西さん、以下同)

衛生面を第一に考えれば「使い捨て」が増え、ごみも増える(写真/PIXTA)

衛生面を第一に考えれば「使い捨て」が増え、ごみも増える(写真/PIXTA)

実は、日本のごみ処理は危機的な状況に!?

やはり、家庭ごみの量が増えているんですね。全国で同じようなことが起こっていそうで心配です……。

「コロナ対策の前から、廃棄物は国内でだぶつき始めています。実は、一昨年くらい前から中国が資源ごみの輸入をストップしていて、このニュースは業界内では話題になりました。それまで日本は中国にお金を払って資源ごみを処理やリサイクルしてもらっていたわけですが、以来、ごみの出し先がない状況です。私たち廃棄物処理業に携わる者は、そう遠くないタイミングで『捨てられない時代』になるのでは、と危機感を持っています。一般の家庭に影響が出ていないのが不思議なくらいなんです」

資源ごみの出し先となっていた中国が資源ごみの輸入をストップし、日本国内のごみ問題は深刻な状況(写真/PIXTA)

資源ごみの出し先となっていた中国が資源ごみの輸入をストップし、日本国内のごみ問題は深刻な状況(写真/PIXTA)

コロナの影響にかかわらず、すでに日本のごみ事情はかなり切迫している状況だったんですね。このような危機的な状況を回避するためにも、私たちが家庭でごみを出すときに気をつけることなどはありますか?

「まず、ご家庭でごみを出すときのベストな方法は、当たり前のようですが、本当に『自治体が指定する通りの方法で出すこと』なんです。自治体によってごみの処理方法は異なります。例えば、燃えるごみにプラスチックを入れていいかどうかが自治体によって異なりますが、それは各自治体がもっている焼却炉のスペックが異なるからです。つまり、プラスチックを焼却する際に発生する有毒ガスを浄化できる機能を持った焼却炉があれば、プラスチックも燃えるごみとして出すことができます。自治体の提示するごみの出し方は、それぞれ最も効率よくごみを利活用または処理できる方法になっているので、ぜひその通りに出してください」

資源ごみのさまざまな疑問・質問に回答!

やはり、ごみの出し方の指定にもそうすべき理由があるんですね。
私もここ最近、自治体から配布されているごみの捨て方の冊子を開いてみたんですが、一つひとつ確認しながらその通りに出すのは結構大変です。これだけ労力を使うと、ごみが一体どのように活用されているのかが気になります……。そこで、河西さんにいくつかの質問を投げかけて、答えてもらえました。

●資源ごみとして紙を出すとき、縛る「ひも」も、紙のひもでないとダメ?
「基本的にはガムテープでもビニール紐でも大丈夫なはずです。紙はリサイクルの過程で一度水に溶かして不純物はすくい取ってしまうので、別の素材で縛ってもそれほど大きな問題になりません。ただ、リサイクルする機械のスペックにもよるので、最終的には住んでいる自治体に確認をしましょう」

河西さんによると、ナカダイで回収している古紙を縛る「ひも」の素材は必ずしも紙である必要はないそうだ(写真/PIXTA)

河西さんによると、ナカダイで回収している古紙を縛る「ひも」の素材は必ずしも紙である必要はないそうだ(写真/PIXTA)

●蛍光灯は資源ごみ? どんな形でリサイクルされるの?
「蛍光灯はちゃんと分解すれば100%リサイクルができます。ガラスの部分はグラスウールに、両端の金属部分はアルミとして、中の水銀もリサイクルされます。ただし、蛍光灯が割れると水銀の取り扱い上、資源ごみとして出せなくなるので、割らないように注意してください」

蛍光灯は割らずに分解できれば100%リサイクル可能な素材でできている(写真/PIXTA)

蛍光灯は割らずに分解できれば100%リサイクル可能な素材でできている(写真/PIXTA)

●古着の回収があるが、どのように使われるの?
「素材や服として再利用できるものは、国内の寄付団体などを通じて、海外へ輸出されることが多いようです。また、綿100%の衣類は国内でもウェス(油や汚れなどを拭き取るための布)として工場や工事現場などで利用されています」

古着などの布類は、工場や工事現場などで油や汚れを拭き取るウェスとして再利用される(写真/PIXTA)

古着などの布類は、工場や工事現場などで油や汚れを拭き取るウェスとして再利用される(写真/PIXTA)

「発想はモノから生まれる」モノファクトリーの取り組み

ごみの行き先や使い道を教えてもらったことで、俄然、ごみやリサイクルに興味が湧いてきました! モノファクトリーさんでは、近年の社会的なニーズの高まりに応じて産業廃棄物を利活用されているそうですが、その取り組みについても詳しく教えてください。

「当社グループ会社のナカダイが、産業廃棄物処理業者です。産業廃棄物は大きく4つのルートを辿ります。1つはマテリアルリサイクルと呼ばれるもので、単一の素材にして資源として再利用します。代表的なものには鉄やペットボトルをイメージしていただくと分かりやすいでしょう。2つ目はサーマルリサイクルと言って、リサイクルできないものがある場合に、燃やして灰にするだけでなく、燃料等に加工して熱源などに活用します。3つ目は家具や家電など、まだ使えるものをリユースすること、そして最後は焼却などの適切な方法で処理して埋め立て処分等することです」

プラスチック製品の原料になる「ペレット」などもモノファクトリーのショールームで購入できる(写真提供/モノファクトリー)

プラスチック製品の原料になる「ペレット」などもモノファクトリーのショールームで購入できる(写真提供/モノファクトリー)

ナカダイで産業廃棄物として回収したものを、モノファクトリーで加工したり、活用している、ということでしょうか?

「モノファクトリーでは、『捨て方のデザイン』と『使い方の創造』を提案しています。捨て方のデザインについては、主に企業向けに大量に出る産業廃棄物をどのように回収すれば有効な資源として使えるか、コンサルティングやアドバイスを行っています。使い方の創造については、リサイクルの過程で出た素材を仕入れ、大量に集めて展示・販売しています。私たちは『発想はモノから生まれる』ことを伝えていますが、素材をいろいろ触ってみた結果、これに使えるかも、というアイデアが出ることを面白がっていただきたいのです」

「自由な発想」でモノが新しい価値を生む

どのような素材がどのように活用できるのか、素人にはなかなかすぐにイメージしづらいのですが、具体的に面白い事例があれば、ぜひご紹介ください!

「まずは、隈研吾さんが設計した三鷹駅前の『ハモニカ横丁ミタカ』です。放置自転車360台分の前輪を、外装や店舗什器に使用しています。素材を単品で考えるだけでなく、同じものがたくさん並ぶ、ということによってとてもインパクトのあるものになりますよね。特にインテリアやDIYなどが好きな人は、同じものを並べてディスプレイするなど、自由な発想で楽しんでいただきたいです」

隈研吾さん設計の「ハモニカ横丁ミタカ」。放置自転車360台分の前輪を並べた外観はインパクト大!(写真提供/モノファクトリー)

隈研吾さん設計の「ハモニカ横丁ミタカ」。放置自転車360台分の前輪を並べた外観はインパクト大!(写真提供/モノファクトリー)

さすが日本を代表する建築家の隈さんならではの活用法ですね。私たちが普段の生活に簡単に活かせるようなアイデアもありますか?

「先日、ショールームにいらした親子連れのお母さんが素材を見て口にしたひと言が印象に残っています。ゴムの細長い素材を見て『このゴムを使えば引き戸のドアがいつもバタンと大きな音を立てて閉まるのを防げるかも』と言って買っていかれたんです(笑)」

なるほど! まさに「発想はモノから生まれる」ですね。

モノファクトリーのショールームで展示・販売しているさまざまな形状・色とりどりの素材。見ているだけで心が弾む。写真は前橋市のショール―ムの様子(写真提供/モノファクトリー)

モノファクトリーのショールームで展示・販売しているさまざまな形状・色とりどりの素材。見ているだけで心が弾む。写真は前橋市のショール―ムの様子(写真提供/モノファクトリー)

快適で持続可能な生活のために、私たちがこれからできることは?

本日のお話を聞いて、楽しみながらごみをリサイクルしてまた活用する、という流れができるといいなと思いました。

「その通りです。近年、海外の商品を安く手軽に購入できるようになりました。将来的にごみが捨てられない状況になれば、国内で再利用する仕組みを考えていくほかありません。そのとき、ごみを処理するためにかかる費用は、税金やそのほかの形で一層私たちにのしかかってくることになるでしょう。本当は、商品をつくって販売する会社が責任をもって、商品を買った人からごみを回収して再活用する、という『循環』の体制ができればベストです。私たちもごみを扱う会社として、有効にごみをリサイクルできる方法を各企業に提案しています。

また、そのような事業を行っている会社を応援する意味でも、自分が消費者として購入する場合には、値段だけではなく、販売したものを循環させる仕組みや体制があるかどうかなど、各企業の取り込みにも興味を持って購入してほしいと思います」

ごみを捨てるときだけでなく、購入を検討するときからリサイクルは始まっているのかもしれない(写真/PIXTA)

ごみを捨てるときだけでなく、購入を検討するときからリサイクルは始まっているのかもしれない(写真/PIXTA)

河西さんのお話によれば「ごみは単一の素材として分類されていればリサイクルができる」といいます。その素材が複雑に絡み合っていたり、汚れたりしていると、きれいな単一の素材にするために分解をしたり、洗浄したり、といった作業が必要になるのだそうです。その作業費が膨れ上がれば、最後は私たちが税金やそのほかの形でその負担をすることになるわけです。

日々、商品の購入から使用、ごみの廃棄までちょっとしたケアをすることで、無駄なごみや無駄な費用を抑制できることが分かりました! 私たちの生活が快適で持続可能なものになるよう、商品の選び方やごみの捨て方にも意識して取り組みたいですね。

●取材協力
・株式会社モノファクトリー
・株式会社ナカダイ

レジ袋が全面有料化。プラごみ減らす「量り売りショップ」に注目

2020年3月から、ニューヨークでレジ袋の無料配布が禁止になりました。日本では7月からレジ袋の無料配布が禁止になりますが、“脱プラスチック”に率先して取り組んできた欧米に比べると、環境対策では大きな遅れを取っています。
「プラスチックごみを減らそう!」という声を耳にすることはあっても、その必要性をきちんと理解している自信がある人は少ないのではないでしょうか? 今回は改めて、プラスチックごみにまつわる現状と、これからどのようなライフスタイルにシフトするのがよいのかを知るべく、プラスチックをなるべく使わない生活を提案するWebサイト『プラなし生活』を運営する中嶋亮太さんと古賀陽子さんにお話を伺いました。

日本はプラスチック包装容器の個人消費量で世界2位

今、世界中で増え続ける「プラスチックごみ」が大きな環境問題になっています。

軽くて頑丈なプラスチックは生物に分解されないため、誤ってビニール袋を食べた動物が満腹だと勘違いして、餓死するケースがいくつも報告されているのです。

また、魚の体内からは大量のマイクロプラスチックが発見されています。プラスチックには生物に有害な添加剤が加えられていることが多く、巡り巡って魚を食べた人体にも影響を及ぼすことが懸念されています。

ゴミ置場からあふれ出したビニール袋やペットボトルは、風に飛ばされ、雨に流され、最終的には海に流れ着く(写真/Unsplash)

ゴミ置場からあふれ出したビニール袋やペットボトルは、風に飛ばされ、雨に流され、最終的には海に流れ着く(写真/Unsplash)

その一方で、1人あたりの使い捨てプラスチックの量は増え続けていて、その約半分が食料品の容器や、飲料ボトルなどのプラスチック包装容器です。日本は残念ながら、このプラスチック包装容器の個人消費量が世界で2番目に多い国なのです。

「プラスチックを取り巻く国内外の状況」 (UNEP 2018)より引用

「プラスチックを取り巻く国内外の状況」 (UNEP 2018)より引用

ごみ処理技術の進歩を待つだけでは、もはや手遅れになりかねません。この問題を解決するには、プラスチックの大量生産・大量消費に慣れてしまった私たちのライフスタイルを変えることが急がれます。

途上国でも進む「使い捨てプラスチック規制」

日本人はなぜ「使い捨てプラスチック」を大量生産・大量消費してしまうのでしょうか。『プラなし生活』運営者の2人はこう語ります。

「意識の高い低いというよりも、使い捨てプラスチックを使うことが当たり前になってしまっていることが問題だと思います。消費者はちょっとでも商品に傷がついていると買わないので、企業は商品を過剰に守ろうとする。だから何重にも包装するのが普通になってしまっているんです」(中嶋さん)

「プラスチックごみの問題はメディアで取り上げられているので、知っている人は多いと思うのですが、『自分はポイ捨てしないから関係ない』『ちゃんと分別していればいくら使っても大丈夫』と思っている人が多い気がします」(古賀さん)

左から『プラなし生活』運営者の中嶋亮太さんと古賀陽子さん(写真提供/中嶋さん・古賀さん)

左から『プラなし生活』運営者の中嶋亮太さんと古賀陽子さん(写真提供/中嶋さん・古賀さん)

ゴミをきちんと分別して捨てていても、プラスチックごみを減らさなくてはならないのはなぜでしょうか。

その理由の1つは、温暖化対策です。他のごみと同様、プラスチックは燃やせばCO2が発生するため、総量を抑える必要があります。

2つ目は、カンや瓶などに比べるとリサイクルが難しいためです。プラスチックは油がつきやすく落ちにくいので、きれいに洗浄できなかったプラスチックは燃やされてしまいます。また製品になる過程で、着色したり耐久性を持たせたりするための添加剤が加えられていることが多く、その場合もリサイクルは難しくなります。

なお、日本のプラスチックリサイクル率は82%と、諸外国に比べると高いのですが、これはプラスチックを燃やして発生した熱を再利用した分もリサイクル率に加えているためであって、純粋な日本国内でのリサイクル率は1割にも満たないと言われています。

3つ目は、落としたり、風に飛ばされたり、不法投棄されたりしたプラスチックが海に流れ着くことによって、生態系に悪影響を及ぼすためです。日本は廃棄物管理がきちんとしている国ではありますが、それでもゴミ置場からプラスチックごみが飛ばされたりすることは完全には防げません。また、日本は2018年1月に中国が廃プラスチックの輸入を停止するまで、自分たちのプラスチックごみの多くを中国に輸出してきました(年間約150万トン )。実際、海洋プラスチックごみのほとんどはアジアから流れ出ていることが分かっています。日本人の出したプラスチックごみが、海のごみになっている可能性は否定できません。

上勝町、亀岡市、鎌倉市など、プラごみ削減に積極的な自治体も

日本全体でのプラスチックごみ削減対策が遅れるなか、積極的な取り組みを進める自治体もあると、中嶋さんと古賀さんに教えてもらいました。

1.徳島県上勝町
人口約1300人の小さな町、徳島県上勝町は、日本で初めてゴミをゼロにすることを目指す「ゼロ・ウェイスト宣言」を2003年に発表しました。人口約1300人の小さな町の住民はゴミを34種類に分別し、その多くをリサイクルに回しています。レジ袋削減や、量り売りの推進にも積極的で、海外からも取材が来るほど注目を集めています。

2.京都府亀岡市
亀岡市は、使い捨てプラスチックごみゼロのまちとなることを目指して、2018年に「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を発表しました。2020年3月には「亀岡市プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例」が成立し、市内で事業を行う法人、個人全てのレジ袋の提供が禁止になりました。「有料提供」も禁止する点で、国の取り組みよりも一歩踏み込んだ内容となっています。

3.神奈川県鎌倉市
鎌倉市が取り組んでいるのは、市内の公共施設に給水スポットとして「ウォータースタンド」を設置するという新しい試みです。2020年2月から市内の公共施設を中心に最大50台程度の設置を目指していて、市民や観光客にマイボトルの利用を呼びかけています。鎌倉市は2018年10月に「かまくらプラごみゼロ宣言」も行っており、市役所の自販機でのペットボトル飲料の販売廃止など、率先した取り組みが目立っています。

(写真/PEXELS)

(写真/PEXELS)

日本ではこうした一部の自治体が先進的な取り組みを行っていますが、海外では先進国・途上国問わず、多くの国ですでにレジ袋の無償配布は禁止されています。中嶋さんによると、日本よりもはるかに厳しい罰則を設けている国は多いとのこと。

「ケニアではレジ袋を持っているだけで警察に逮捕されます。レジ袋が排水溝に詰まって洪水が起きてしまったことがきっかけで、禁止になったんです。インドでも、神聖とされている牛がレジ袋を誤って食べてしまい、使い捨てプラスチックを使うと罰金刑が課されるなど、取り締まりが厳しくなりました。このようにゴミ処理の技術が未発達な国の一部は、使い捨てプラスチックが環境に及ぼす影響が顕著な分、日本よりも対策は一歩進んでいると言えます」(中嶋さん)

すぐに始められる「量り売りショップ」の利用

使い捨てプラスチックの使用量を減らすために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか。簡単に始められるのが、「量り売りショップ」に行くことです。

「僕が住んでいたカリフォルニアでは、蜂蜜やコーンフレーク、ピーナッツバター、シャンプーやリンスが量り売りされていました」と中嶋さんは言います。海外ではプラスチックごみの問題が注目される前から、量り売りショップはわりと一般的だったそうです。

カリフォルニアでばら売りされている食材(写真提供/中嶋さん)

カリフォルニアでばら売りされている食材(写真提供/中嶋さん)

シャンプーの量り売り(写真/John Keane)

シャンプーの量り売り(写真/John Keane)

日本では、1つの店舗で多様な商品が量り売りされているお店はまだ少なく、食料品専門店が行っているケースが多いです。古賀さんにおすすめしてもらったのは、元住吉や新丸子で店舗を展開するバルクフーズ。ナッツやドライフルーツ、ピーナッツバターなどの食材をほしい分だけ購入できるお店です。

(写真提供/バルクフーズ)

(写真提供/バルクフーズ)

バルクフーズでは、瓶、缶、タッパーなど、好きな容器を持参すればその容器に商品を入れて購入できます。店舗にも備置きの容器がありますが、ビニールの小袋は紙袋へ、プラカップは瓶や紙カップへ、ビニールのレジ袋は生分解性の袋やエコバックヘと、切り替えを可能な範囲で進めているそうです。

店主の伊藤弘人さんは、量り売りを始めた理由を、「『身体にやさしいナチュラルな商品を日常的に摂取していただきたい』という思いのもと開店しましたが、そうした食品は高額なものが多く、継続的に摂取していただくためにはコストを抑える必要がありました。その手段として、量り売りは最も理に適ったやり方だったんです」と話します。店舗にとってはレジ袋を使わないことで、環境配慮だけでなくコスト削減の効果も期待できます。

またラッシュジャパンも、プラスチックごみの削減に向けて、多くの商品をパッケージ無しで販売しています。

容器不要の固形シャンプー「シャンプーバー」(写真提供/ラッシュジャパン)

容器不要の固形シャンプー「シャンプーバー」(写真提供/ラッシュジャパン)

バスボム、ソープ、シャンプーバーをはじめ、固形の商品は基本的に非包装の状態で販売しているほか、液体やクリーム状の商品のボトルやカップなどの容器には100%リサイクル可能な素材を使用し、可能な限りシンプルなデザインとしているとのこと 。

「ラッシュはビジネスを通して、社会の問題の根本をできるだけ解決したいと考えています。プラスチックの包装は、開封した途端にゴミになってしまいます。気候変動を無視することができなくなった昨今、『捨てること』を無くすことで、環境への負担を減らしたいと考えています」(ラッシュジャパン広報)

一般的にバスルームや洗面台で使われる商品は、使い捨てプラスチックで包装されていることがほとんどです。しかしラッシュでは、プラスチック包装なしで商品をショップに並べることが商品開発の時点から意識されており、プラスチックごみ対策が徹底されています。

エコな生活は「お金も時間もかかる」は本当?ラップの代わりに洗って繰り返し使えるミツロウラップ(写真提供/プラなし生活)

ラップの代わりに洗って繰り返し使えるミツロウラップ(写真提供/プラなし生活)

合成繊維(プラスチック)の食器洗いスポンジの代わりに使える綿たわし(写真提供/プラなし生活)

合成繊維(プラスチック)の食器洗いスポンジの代わりに使える綿たわし(写真提供/プラなし生活)

「エコな暮らしには憧れるけど、忙しいから自分には無理」と思う人も多いかもしれません。ところが、忙しい人ほど『プラなし生活』を実践するメリットがあると古賀さんは言います。

「使い捨てプラスチックを減らすと、身の回りにガラスやステンレス、金属、ステンレスなどの自然素材が増えます。そうすると、プラスチックの消耗品 を買ってストックする必要がなくなるので、結果的に買い物が減って、節約にもなるんです。しかも天然素材の風合いは統一感が出るので、キッチンが驚くほどオシャレになりますよ」

レジ袋を貰わないようにしたり、量り売りショップを利用してみたり。使い捨てプラスチックが地球環境に与える影響を知ることによって、今までの消費行動をできるところから変えていこうと思う人も多いのではないでしょうか。

「でも、何も『環境のため』と気負う必要はないんです」と古賀さんは語ります。

「一番大事なことは「長く続けて行く」こと。環境を変えてやるぞ、と頑張りすぎると疲れてしまうことがあります。 ちょっとおしゃれで、楽しめることだと思って、身近なところから始めてみるのが良いと思います」

『プラなし生活』の2人が言うとおり、楽しみながら取り組むことが、ライフスタイルを長期的に変えていくヒントかもしれません。

●取材協力
中嶋亮太さん
生物海洋学者。2009年に博士号を取得。米国スクリップス海洋研究所の研究員を経て、現在、国内の海洋研究所・研究員。海洋プラスチック問題、とくに海底に沈んだごみについて研究を進めている。著書に『海洋プラスチック汚染: 「プラなし」博士、ごみを語る』(岩波書店)がある。

古賀陽子さん
プラなし生活実践中の主婦。2005年にパナソニック(株)に入社し10年に渡り技術職勤務。その間、出産・育児を経て現在は自宅でお仕事中。海洋プラスチック汚染の深刻な実態を知り、中嶋氏 と共にプラスチックフリーなアイテムやヒントを探し回っている。

>プラなし生活●関連サイト
バルクフーズ
ラッシュジャパン

地熱発電の利用拡大はできるのか? 別府市の取り組みを取材してみた

環境に配慮した自給自足のエネルギーとして再生可能エネルギーの重要性が年々高まっている。太陽光、風力、水力と発電方法はさまざまだが、そのなかでも天候に左右されないエネルギーとして注目されているのが「地熱エネルギー」だ。そこで国内で初めて地熱発電に成功した大分県・別府市にて現状と今後について伺った。
地熱発電の導入数でトップ

温泉大国・別府市は源泉数2217件、毎分83058Lの湧出量を誇る。これは日本でもずば抜けて多い源泉数と湧出量で、至るところで湯けむりがたなびいている景色は、国内外問わず観光客に支持されている。そして同市はその豊かな源泉を活かして日本で初めて地熱発電を成功させた。

1919年、別府の鶴見噴気孔付近で掘削した後、1925年に東京電灯(東京電力の前身)の太刀川平治博士が深度約24mの井戸から出た噴気を利用して電灯10個分ほど(1.12kW)の発電に成功したことがきっかけで、地熱発電が全国へと広まった。その後、東日本大震災をきっかけに再生可能エネルギーの導入が進んでいるが、なんと2017年3月末時点で全国29カ所のうち17カ所が別府市と、日本の地熱発電所の約6割が同市に集まっている。

【画像1】資料は資源エネルギー庁の集計のもの。発電所数に関して別府市は全国でもトップ。認定=国から売電の許可を得た発電所。導入=そのうち売電を始めた発電所(提供/別府市)

【画像1】資料は資源エネルギー庁の集計のもの。発電所数に関して別府市は全国でもトップ。認定=国から売電の許可を得た発電所。導入=そのうち売電を始めた発電所(提供/別府市)

【画像2】海側から眺めた別府市(写真提供/別府市観光協会)

【画像2】海側から眺めた別府市(写真提供/別府市観光協会)

別府市の地形は扇型で、二つの断層が市街地を挟むように山から海に向かって伸びており、その断層をつたって温泉が湧き出ている。山側・中側・海側と断層を掘る位置によって違った泉質の温泉が楽しめるのが特徴だが、地熱発電に関して言えば山側の断層付近では高深度の掘削を行わなくても高温の温泉や蒸気を確保することが可能であり、それによって地熱バイナリー発電の導入が進んでいる。

【画像3】別府市では「別府市地域エネルギービジョン」を掲げ、地熱・太陽光・風力・バイオマスなど各種再生可能エネルギーの導入に関して具体的な目標数値を設定。温泉発電の導入ペースはこのまま維持する計画だ(出典/別府市「別府市地域エネルギービジョン」より転載)

【画像3】別府市では「別府市地域エネルギービジョン」を掲げ、地熱・太陽光・風力・バイオマスなど各種再生可能エネルギーの導入に関して具体的な目標数値を設定。温泉発電の導入ペースはこのまま維持する計画だ(出典/別府市「別府市地域エネルギービジョン」より転載)

固定価格買取制度(FIT制度)に関する地熱発電の買取価格は40円/1kwと太陽光に比べても高く、また天気に左右されず24時間安定供給ができるクリーンエネルギーであることから地産地消のエネルギーとして拡大が期待されている。しかし実際のところを伺うと、開発費用や設置費用、メンテナンス費用など経費が高く事業として成り立たない恐れや、メイン産業である温泉に「これ以上、掘削を続けると影響があるのではないか」という懸念の声が一部で出ていることが分かった。別府市の産業の9割はサービス業なので、温泉の湯量や温度への影響は死活問題でもあるのだ。

災害などの非常事態にも備えた取り組みは、まちのシンボルに

一方、地熱発電の先駆けとして走っているのが「杉乃井ホテル」だ。このホテルでは1980年に日本のホテル業界では初めて本格的な地熱発電所として運転を開始し、当時は3000kWの発電に成功した。現在は1900kWの設備容量により、ホテル館内の約46%の電力を賄っている。

【画像4】杉乃井地熱発電所。24時間体制で電力を送電でき、非常時にも対応できるのが魅力。施設は日本工業技術庁が地熱発電試験を行った跡地を利用(写真撮影/フルカワカイ)

【画像4】杉乃井地熱発電所。24時間体制で電力を送電でき、非常時にも対応できるのが魅力。施設は日本工業技術庁が地熱発電試験を行った跡地を利用(写真撮影/フルカワカイ)

「温泉はスケールと呼ばれる『湯垢』がつくので、温泉を通る管やタンクなどのメンテナンスには費用がかかります。それでも熊本地震のときには非常電力として稼働し、ホテルなので非常食やベッドなどの提供もできる態勢が整っていたので、災害時に感謝の声をいただきました。私たちとしても続けてよかったなと思っているところです」と語る広報の東さん。

事実「震災に見舞われて一時的だが観光客が減ったときも杉乃井ホテルの明かりがついていたことは市民のこころの支えになった」という地元の声もあった。また通常時でも夏には温水プール、冬にはイルミネーションと電力を観光客の楽しめるエンタテインメントに替え、地域の魅力を発信している。

【画像5】杉乃井ホテルの外観(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像5】杉乃井ホテルの外観(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像6】330万球のイルミネーション。おもてなしの精神を光で表現している(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像6】330万球のイルミネーション。おもてなしの精神を光で表現している(写真提供/杉乃井ホテル)

古き良き温泉熱利用でうまれた温泉たまご

乱掘が懸念されてはいるが、多くの温泉が湧き出るなかでそのまま利用しないのはもったいないというのも事実である。鉄輪温泉にある「双葉荘」は、源泉から出た蒸気をさまざまな形で利用して観光客向けのサービスを提供している旅館だ。「地獄蒸し」と呼ばれる、蒸気でつくる温泉たまごは温泉独自の硫黄の香りがさらに味わいを増し、6時間以上たってもあたたかい。また蒸し湯やオンドルもじんわりと体を温めてくれるので長湯ができない人にも人気だ。古くから行われている温泉の二次利用の代表例であり、それが観光資源となるなど、最先端の有効活用法でもある。

【画像7】写真左:宿泊客のリピート率が90%という旅館「双葉荘」で人気の地獄蒸し。写真右:宿泊客は自由に野菜やたまご、海鮮類を持ち込んでは蒸し料理を楽しんでいる。旅館内にはオンドルも(写真撮影/フルカワカイ)

【画像7】写真左:宿泊客のリピート率が90%という旅館「双葉荘」で人気の地獄蒸し。写真右:宿泊客は自由に野菜やたまご、海鮮類を持ち込んでは蒸し料理を楽しんでいる。旅館内にはオンドルも(写真撮影/フルカワカイ)

【画像8】 別府市では規定により発電に関する堀削の場所や穴の深さ・横幅を定めている。「すでに湧出している温泉や蒸気の熱エネルギーの有効活用を図るという意味での、温泉発電の導入促進が進んでいるのが現状です」と別府市環境課の津川さん(写真撮影/フルカワカイ)

【画像8】 別府市では規定により発電に関する堀削の場所や穴の深さ・横幅を定めている。「すでに湧出している温泉や蒸気の熱エネルギーの有効活用を図るという意味での、温泉発電の導入促進が進んでいるのが現状です」と別府市環境課の津川さん(写真撮影/フルカワカイ)

再生可能エネルギーの自給率を上げるにはまず、個人の意識を高めることが必要

このように、地熱エネルギーの取り組みは国内でも進んではいるものの、現状の施設への配慮を優先とし、使用用途などを慎重に考慮しながら進めているのが事実として見えてきた。環境にも優しく、非常事態でも使えるエネルギーは市外の人間にとってはメリットしか見えないが、温泉を生業にする人には持続可能な温泉資源の利活用が重要な課題として上がってくる。「まずは現状湧き出ている温泉の蒸気の二次利用など、現状の状態でできることから始めていき、だんだんと理解を深めていくのが必要なことかもしれません」と環境課の津川さんは語る。ある地域に依存する、ということではなく、再生可能エネルギーを私たち個人がどう生み出すか。次世代に向けてエネルギーのあり方をひとりひとりが考えていくことが大切なのかもしれない。

●取材協力
・別府市
・杉乃井ホテル
・鉄輪温泉「双葉荘」●参考
・再生可能エネルギーを知る・学ぶには

光熱費を抑えられ、一年中快適! 「エコな賃貸住宅」の今に迫る

地球温暖化が世界的な問題になっている中、国土交通省と環境省は合同でCO2(二酸化炭素)を削減する省CO2賃貸住宅を増やすために補助金制度を設けて推進している。このようなエコな賃貸住宅は、地球にやさしいだけでなく、入居者の暮らしにもメリットがあるようだ。省CO2賃貸住宅を手がける積水ハウスと、建て主であるオーナーに話を聞いた。
CO2を削減するエコな賃貸住宅とは?

温暖化の原因となる温室効果ガスにはCO2やメタン、フロン類などさまざまあるが、なかでもCO2は石油をはじめとした化石燃料の使用が急増したことで増加し、温暖化への影響が最も大きいと言われている。

このCO2を削減する賃貸住宅、つまり省CO2賃貸住宅が、今回取り上げる「エコな賃貸住宅」だ。具体的には高性能な断熱材や高断熱の窓、電力消費の少ないエアコンや照明、高効率な給湯器などを備え、使用するエネルギーを抑えることで省CO2を実現する。

家電の省エネマークのように、省CO2住宅かどうかを第三者機関が評価する制度「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」があり、今回訪れた埼玉県の「グリーンガーデン稲荷山」も、省CO2住宅として認証された賃貸住宅だ。

【画像1】「グリーンガーデン稲荷山」のエントランスのドアには、省CO2住宅として認められた賃貸住宅を示すステッカーが貼られている(写真撮影/籠島康弘)

【画像1】「グリーンガーデン稲荷山」のエントランスのドアには、省CO2住宅として認められた賃貸住宅を示すステッカーが貼られている(写真撮影/籠島康弘)

グリーンガーデン稲荷山が竣工したのは2017年1月。18戸ある約45m2の1LDKはすぐに満室になったという。自分の住む部屋が「地球にやさしい」ことは入居者にとって誇らしいことではあるが、それだけで入居を決めるとは思えない。入居者のメリットはどんなところにあるのだろう。

光熱費が抑えられ、一年中快適に過ごせる

グリーンガーデン稲荷山の最寄駅は都心へのアクセスが良く、それゆえ競合する賃貸住宅も多い。しかし「入居希望者に省CO2であるメリットを伝えると、すぐに入居が決まります」と、グリーンガーデン稲荷山の管理を担当する積和不動産関東の佐野友洋さんは言う。

【画像2】「グリーンガーデン稲荷山」の一室。照明はLEDのダウンライト、エアコンや給湯器は省エネタイプを採用。また断熱窓や高断熱の壁や床が使用されている(写真提供/積水ハウス)

【画像2】「グリーンガーデン稲荷山」の一室。照明はLEDのダウンライト、エアコンや給湯器は省エネタイプを採用。また断熱窓や高断熱の壁や床が使用されている(写真提供/積水ハウス)

魅力としてまず、断熱性能を高めたことで光熱費を抑えられることが挙げられる。竣工して1年未満のため、平均の光熱費は算出できないそうだが「同規模の省CO2ではない一般的な賃貸住宅と比べると、抑えられていると思います」と、グリーンガーデン稲荷山を手がけた積水ハウス・永井秀人さんは言う。

実際、オーナーの横田さんは入居者の一人から「エアコンの効きがよくてビックリしました」と聞いたことがあるそうだ。断熱性や気密性が高いゆえ、約45m2の広さでもエアコン1台で、さほどフル回転しなくても快適な温度を保てるようだ。

また断熱性能が高いと、そもそもエアコンを使う頻度が減り、自然の風や太陽の恩恵を受ける時間が長くなる。断熱窓は冬なら日差しによる温かさを外に逃さず、逆に夏は日差しによる熱を遮る。風や太陽の気持ちよさを享受できるのも、省CO2賃貸住宅の入居者ならではないだろうか。

断熱性能が高いと結露も少なくなる。結露が少なければカビも生えにくいから、健康的に過ごすことができる。このように省CO2賃貸住宅は、光熱費の削減効果や健康的な暮らしを入居者にもたらしてくれるのだ。

なんとかできるうちに、温暖化対策に少しでも役立ちたい

一方建てる側のオーナーからすれば、省CO2化は一般的な賃貸住宅よりも建築費用がかかる。それでもグリーンガーデン稲荷山のオーナー・横田豊三郎さんはなぜ建てることにしたのだろう。

【画像3】「グリーンガーデン稲荷山」の夜景。室内だけでなく外構など共用部の照明もLED照明だ。「地域に溶け込むよう、温かみのある明かりを選びました」とオーナーの横田さん(写真提供/積水ハウス)

【画像3】「グリーンガーデン稲荷山」の夜景。室内だけでなく外構など共用部の照明もLED照明だ。「地域に溶け込むよう、温かみのある明かりを選びました」とオーナーの横田さん(写真提供/積水ハウス)

「自分たちで食べる程度の田畑を持っているのですが、種をまく時期や収穫時期が昔とずれてきているなど、温暖化の影響を実感していました」と横田さん。「自然災害のニュースも最近は増えてきたと感じています。なんとかできるうちに、一人ひとりが考えたり行動したりすることが必要なのだと思います」(横田さん)

【画像4】緑あふれるエントランスは、横田さん夫婦が自ら「どんな在来の木を植えようか」と散歩をしながら調べ、植栽(写真撮影/籠島康弘)

【画像4】緑あふれるエントランスは、横田さん夫婦が自ら「どんな在来の木を植えようか」と散歩をしながら調べ、植栽(写真撮影/籠島康弘)


また地元に愛着のある横田さんは、「地域の気候に合った自生種を外構に植栽するという『5本の樹』計画の提案も魅力的でした。これなら昆虫や鳥の生態系を守ることができるでしょうから」と話す。

現状、省CO2賃貸住宅の知名度は低いが、光熱費が削減できて一年中快適に暮らせると認知さえされれば、入居希望者はもっと増えるはずだ。そうなれば、省CO2賃貸住宅を建てるオーナーが増え、環境にも地域にもやさしい街が増えていくのではないだろうか。

●取材協力
・積水ハウス
・積和不動産
・横田豊三郎さん