既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説

政府はいま、住宅の省エネ化を加速している。特に新築住宅では、建築する際に求められる省エネ性能の基準を2030年までにZEH水準に引き上げる考えだ。一方で、既存のマンションはその多くが現行の省エネ基準の水準を満たしておらず、それをZEH水準に引き上げるのはハードルが高いと思われてきた。そこへ、積水化学工業とリノベるが協業して、既存マンションのZEH水準リノベーションの提供を始めたというのだ。

【今週の住活トピック】
既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始/積水化学工業・リノベる

ZEH(ゼッチ)水準とは?ZEHとは違うの?

まず、ZEH(ゼッチ)とは何かについて、説明しよう。
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方で、住宅で消費するエネルギーをゼロ以下にしようというものだ。そのためには、(1)住宅の骨格となる部分を断熱化して、エネルギーを極力使わないようにし、(2)給湯や冷暖房などの設備を高効率化して、エネルギーを効率的に使う。ただし、消費するエネルギーをゼロにするには、(3)太陽光発電設備などでエネルギーを創り、消費したエネルギーを補う必要がある。

ところが、マンションなどの高層住宅では、戸数が多いわりに太陽光発電設備を設置できる屋上の面積が広くないなどの制約がある。そこで政府は、建物の階数が高くなるほど太陽光発電などの再生エネルギーによる削減の基準を緩める形で、ZEH水準を定めている。

政府が定めたマンションのZEHの定義は次の4種類があり、1~3階建ては「ZEH-M」か「Nearly ZEH-M」を、4~5階建ては「ZEH-M Ready」、6階建て以上は「ZEH-M Oriented」を目指すべき水準としている。なお、いずれの場合も、再生エネルギーを除いた状態で、基準一次エネルギー消費量から20%以上削減することが条件となる。

○マンションの4種類のZEH
ZEH-M(ゼッチマンション):再生エネルギーを含めて100%以上を削減する
Nearly ZEH-M(ニアリーゼッチマンション):再生エネルギーを含めて75%以上100%未満を削減する
ZEH-M Ready(ゼッチマンションレディ):再生エネルギーを含めて50%以上75%未満を削減する
ZEH-M Oriented(ゼッチマンションオリエンティッド):再生エネルギーの導入を条件としない

既存のマンションでZEH水準のリノベーションを行う方法は?

今回提供を開始した、積水化学工業とリノベるが協業するZEH水準リノベーションは、住戸で「ZEH Oriented」に適合するようにしている。合わせて、建築物省エネルギー性能表示制度のBELSでは★5,リノベーション協議会の基準ではR1エコ★★の取得もするという。

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

まず、ZEH化の断熱改修では、積水化学グループの「マルリノ」の断熱特許工法を活用する。「グリーンシティ鷺沼」の事例では、住戸をスケルトンにした状態(上の写真)では、外気温34.6度のときには壁面温度も同程度になっているが、壁面の断熱工事後(内窓設置前=下の写真)では、外気温36.0度のときに31.8度になっている。

○断熱改修前(スケルトン)

断熱改修前(スケルトン)

○断熱改修後(内窓設置前)

断熱改修後(内窓設置前)

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

さらに、樹脂サッシLow-E複層ガラスの内窓を設置し、高効率のエアコン、エコジョーズ(高効率給湯器)、高断熱浴槽などの設備を設置することで、ZEH水準に適合させる。光熱費削減シミュレーションをしたところ、ZEH水準化によって光熱費が約30%削減できるという。

このZEH水準リノベーションによる追加の費用は、300万円(税抜き)弱。この額は、通常並みに間取り変更や一般的な設備にリノベーションした場合の費用を除き、スケルトンから断熱等級5への断熱工事費用や内窓の設置費用、設備を高効率なものにグレードアップした差額などによる。両社によると、この追加費用による住宅ローン返済額のアップ分は、光熱費の削減分でカバーでき、住宅ローン減税のZEHによる上乗せ分などの支援制度でさらに経済的メリットが見込まれるという。

今後、ZEH水準リノベーションは、区分マンションの買取再販事業、個人向けのリノベーション請負事業、法人向けのリノベーション請負事業の3つのチャネルで展開される予定だ。

カーボンニュートラル実現に向けて、既存住宅の省エネ性能向上に期待

説明してきたように、新築の住宅では法規制により、省エネ基準の適合、さらにはZEH水準への対応が進んでいくと考えられる。一方で、既存の住宅はその時々の省エネ基準に適合しているため、現行の省エネ基準よりも低い性能で建てられているものが多い。そのため、省エネ性能を引き上げる改修を行わないと、新築住宅と既存住宅の省エネ性能の開きが大きくなる一方だ。

カーボンニュートラル社会が実現するためには、既存の住宅の省エネ性能の向上が進むことが必要になる。また、新築と比べて省エネ性能が劣る中古住宅には、買い手がつきにくいという問題も考えられる。

特に、住宅の構造を共有するマンションなどの集合住宅では、一戸建ての改修よりも制約を受けやすい。既存のマンションでもZEH水準化するリノベーションが可能だということなので、こうしたリノベーションが進むことが期待される。

マンションの省エネ性能が高くなると、それ以前より夏は涼しく冬は暖かいといった、快適な室内環境で過ごすことができる。さらに、ヒートショックのリスクが減ったり、結露が解消してカビなどを吸い込む健康被害を抑制する効果もある。中古マンションを改修する際には、ぜひ省エネ性能を引き上げるリノベーションを検討してほしい。

●関連サイト
積水化学工業とリノベるが既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始

レジ袋が全面有料化。プラごみ減らす「量り売りショップ」に注目

2020年3月から、ニューヨークでレジ袋の無料配布が禁止になりました。日本では7月からレジ袋の無料配布が禁止になりますが、“脱プラスチック”に率先して取り組んできた欧米に比べると、環境対策では大きな遅れを取っています。
「プラスチックごみを減らそう!」という声を耳にすることはあっても、その必要性をきちんと理解している自信がある人は少ないのではないでしょうか? 今回は改めて、プラスチックごみにまつわる現状と、これからどのようなライフスタイルにシフトするのがよいのかを知るべく、プラスチックをなるべく使わない生活を提案するWebサイト『プラなし生活』を運営する中嶋亮太さんと古賀陽子さんにお話を伺いました。

日本はプラスチック包装容器の個人消費量で世界2位

今、世界中で増え続ける「プラスチックごみ」が大きな環境問題になっています。

軽くて頑丈なプラスチックは生物に分解されないため、誤ってビニール袋を食べた動物が満腹だと勘違いして、餓死するケースがいくつも報告されているのです。

また、魚の体内からは大量のマイクロプラスチックが発見されています。プラスチックには生物に有害な添加剤が加えられていることが多く、巡り巡って魚を食べた人体にも影響を及ぼすことが懸念されています。

ゴミ置場からあふれ出したビニール袋やペットボトルは、風に飛ばされ、雨に流され、最終的には海に流れ着く(写真/Unsplash)

ゴミ置場からあふれ出したビニール袋やペットボトルは、風に飛ばされ、雨に流され、最終的には海に流れ着く(写真/Unsplash)

その一方で、1人あたりの使い捨てプラスチックの量は増え続けていて、その約半分が食料品の容器や、飲料ボトルなどのプラスチック包装容器です。日本は残念ながら、このプラスチック包装容器の個人消費量が世界で2番目に多い国なのです。

「プラスチックを取り巻く国内外の状況」 (UNEP 2018)より引用

「プラスチックを取り巻く国内外の状況」 (UNEP 2018)より引用

ごみ処理技術の進歩を待つだけでは、もはや手遅れになりかねません。この問題を解決するには、プラスチックの大量生産・大量消費に慣れてしまった私たちのライフスタイルを変えることが急がれます。

途上国でも進む「使い捨てプラスチック規制」

日本人はなぜ「使い捨てプラスチック」を大量生産・大量消費してしまうのでしょうか。『プラなし生活』運営者の2人はこう語ります。

「意識の高い低いというよりも、使い捨てプラスチックを使うことが当たり前になってしまっていることが問題だと思います。消費者はちょっとでも商品に傷がついていると買わないので、企業は商品を過剰に守ろうとする。だから何重にも包装するのが普通になってしまっているんです」(中嶋さん)

「プラスチックごみの問題はメディアで取り上げられているので、知っている人は多いと思うのですが、『自分はポイ捨てしないから関係ない』『ちゃんと分別していればいくら使っても大丈夫』と思っている人が多い気がします」(古賀さん)

左から『プラなし生活』運営者の中嶋亮太さんと古賀陽子さん(写真提供/中嶋さん・古賀さん)

左から『プラなし生活』運営者の中嶋亮太さんと古賀陽子さん(写真提供/中嶋さん・古賀さん)

ゴミをきちんと分別して捨てていても、プラスチックごみを減らさなくてはならないのはなぜでしょうか。

その理由の1つは、温暖化対策です。他のごみと同様、プラスチックは燃やせばCO2が発生するため、総量を抑える必要があります。

2つ目は、カンや瓶などに比べるとリサイクルが難しいためです。プラスチックは油がつきやすく落ちにくいので、きれいに洗浄できなかったプラスチックは燃やされてしまいます。また製品になる過程で、着色したり耐久性を持たせたりするための添加剤が加えられていることが多く、その場合もリサイクルは難しくなります。

なお、日本のプラスチックリサイクル率は82%と、諸外国に比べると高いのですが、これはプラスチックを燃やして発生した熱を再利用した分もリサイクル率に加えているためであって、純粋な日本国内でのリサイクル率は1割にも満たないと言われています。

3つ目は、落としたり、風に飛ばされたり、不法投棄されたりしたプラスチックが海に流れ着くことによって、生態系に悪影響を及ぼすためです。日本は廃棄物管理がきちんとしている国ではありますが、それでもゴミ置場からプラスチックごみが飛ばされたりすることは完全には防げません。また、日本は2018年1月に中国が廃プラスチックの輸入を停止するまで、自分たちのプラスチックごみの多くを中国に輸出してきました(年間約150万トン )。実際、海洋プラスチックごみのほとんどはアジアから流れ出ていることが分かっています。日本人の出したプラスチックごみが、海のごみになっている可能性は否定できません。

上勝町、亀岡市、鎌倉市など、プラごみ削減に積極的な自治体も

日本全体でのプラスチックごみ削減対策が遅れるなか、積極的な取り組みを進める自治体もあると、中嶋さんと古賀さんに教えてもらいました。

1.徳島県上勝町
人口約1300人の小さな町、徳島県上勝町は、日本で初めてゴミをゼロにすることを目指す「ゼロ・ウェイスト宣言」を2003年に発表しました。人口約1300人の小さな町の住民はゴミを34種類に分別し、その多くをリサイクルに回しています。レジ袋削減や、量り売りの推進にも積極的で、海外からも取材が来るほど注目を集めています。

2.京都府亀岡市
亀岡市は、使い捨てプラスチックごみゼロのまちとなることを目指して、2018年に「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を発表しました。2020年3月には「亀岡市プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例」が成立し、市内で事業を行う法人、個人全てのレジ袋の提供が禁止になりました。「有料提供」も禁止する点で、国の取り組みよりも一歩踏み込んだ内容となっています。

3.神奈川県鎌倉市
鎌倉市が取り組んでいるのは、市内の公共施設に給水スポットとして「ウォータースタンド」を設置するという新しい試みです。2020年2月から市内の公共施設を中心に最大50台程度の設置を目指していて、市民や観光客にマイボトルの利用を呼びかけています。鎌倉市は2018年10月に「かまくらプラごみゼロ宣言」も行っており、市役所の自販機でのペットボトル飲料の販売廃止など、率先した取り組みが目立っています。

(写真/PEXELS)

(写真/PEXELS)

日本ではこうした一部の自治体が先進的な取り組みを行っていますが、海外では先進国・途上国問わず、多くの国ですでにレジ袋の無償配布は禁止されています。中嶋さんによると、日本よりもはるかに厳しい罰則を設けている国は多いとのこと。

「ケニアではレジ袋を持っているだけで警察に逮捕されます。レジ袋が排水溝に詰まって洪水が起きてしまったことがきっかけで、禁止になったんです。インドでも、神聖とされている牛がレジ袋を誤って食べてしまい、使い捨てプラスチックを使うと罰金刑が課されるなど、取り締まりが厳しくなりました。このようにゴミ処理の技術が未発達な国の一部は、使い捨てプラスチックが環境に及ぼす影響が顕著な分、日本よりも対策は一歩進んでいると言えます」(中嶋さん)

すぐに始められる「量り売りショップ」の利用

使い捨てプラスチックの使用量を減らすために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか。簡単に始められるのが、「量り売りショップ」に行くことです。

「僕が住んでいたカリフォルニアでは、蜂蜜やコーンフレーク、ピーナッツバター、シャンプーやリンスが量り売りされていました」と中嶋さんは言います。海外ではプラスチックごみの問題が注目される前から、量り売りショップはわりと一般的だったそうです。

カリフォルニアでばら売りされている食材(写真提供/中嶋さん)

カリフォルニアでばら売りされている食材(写真提供/中嶋さん)

シャンプーの量り売り(写真/John Keane)

シャンプーの量り売り(写真/John Keane)

日本では、1つの店舗で多様な商品が量り売りされているお店はまだ少なく、食料品専門店が行っているケースが多いです。古賀さんにおすすめしてもらったのは、元住吉や新丸子で店舗を展開するバルクフーズ。ナッツやドライフルーツ、ピーナッツバターなどの食材をほしい分だけ購入できるお店です。

(写真提供/バルクフーズ)

(写真提供/バルクフーズ)

バルクフーズでは、瓶、缶、タッパーなど、好きな容器を持参すればその容器に商品を入れて購入できます。店舗にも備置きの容器がありますが、ビニールの小袋は紙袋へ、プラカップは瓶や紙カップへ、ビニールのレジ袋は生分解性の袋やエコバックヘと、切り替えを可能な範囲で進めているそうです。

店主の伊藤弘人さんは、量り売りを始めた理由を、「『身体にやさしいナチュラルな商品を日常的に摂取していただきたい』という思いのもと開店しましたが、そうした食品は高額なものが多く、継続的に摂取していただくためにはコストを抑える必要がありました。その手段として、量り売りは最も理に適ったやり方だったんです」と話します。店舗にとってはレジ袋を使わないことで、環境配慮だけでなくコスト削減の効果も期待できます。

またラッシュジャパンも、プラスチックごみの削減に向けて、多くの商品をパッケージ無しで販売しています。

容器不要の固形シャンプー「シャンプーバー」(写真提供/ラッシュジャパン)

容器不要の固形シャンプー「シャンプーバー」(写真提供/ラッシュジャパン)

バスボム、ソープ、シャンプーバーをはじめ、固形の商品は基本的に非包装の状態で販売しているほか、液体やクリーム状の商品のボトルやカップなどの容器には100%リサイクル可能な素材を使用し、可能な限りシンプルなデザインとしているとのこと 。

「ラッシュはビジネスを通して、社会の問題の根本をできるだけ解決したいと考えています。プラスチックの包装は、開封した途端にゴミになってしまいます。気候変動を無視することができなくなった昨今、『捨てること』を無くすことで、環境への負担を減らしたいと考えています」(ラッシュジャパン広報)

一般的にバスルームや洗面台で使われる商品は、使い捨てプラスチックで包装されていることがほとんどです。しかしラッシュでは、プラスチック包装なしで商品をショップに並べることが商品開発の時点から意識されており、プラスチックごみ対策が徹底されています。

エコな生活は「お金も時間もかかる」は本当?ラップの代わりに洗って繰り返し使えるミツロウラップ(写真提供/プラなし生活)

ラップの代わりに洗って繰り返し使えるミツロウラップ(写真提供/プラなし生活)

合成繊維(プラスチック)の食器洗いスポンジの代わりに使える綿たわし(写真提供/プラなし生活)

合成繊維(プラスチック)の食器洗いスポンジの代わりに使える綿たわし(写真提供/プラなし生活)

「エコな暮らしには憧れるけど、忙しいから自分には無理」と思う人も多いかもしれません。ところが、忙しい人ほど『プラなし生活』を実践するメリットがあると古賀さんは言います。

「使い捨てプラスチックを減らすと、身の回りにガラスやステンレス、金属、ステンレスなどの自然素材が増えます。そうすると、プラスチックの消耗品 を買ってストックする必要がなくなるので、結果的に買い物が減って、節約にもなるんです。しかも天然素材の風合いは統一感が出るので、キッチンが驚くほどオシャレになりますよ」

レジ袋を貰わないようにしたり、量り売りショップを利用してみたり。使い捨てプラスチックが地球環境に与える影響を知ることによって、今までの消費行動をできるところから変えていこうと思う人も多いのではないでしょうか。

「でも、何も『環境のため』と気負う必要はないんです」と古賀さんは語ります。

「一番大事なことは「長く続けて行く」こと。環境を変えてやるぞ、と頑張りすぎると疲れてしまうことがあります。 ちょっとおしゃれで、楽しめることだと思って、身近なところから始めてみるのが良いと思います」

『プラなし生活』の2人が言うとおり、楽しみながら取り組むことが、ライフスタイルを長期的に変えていくヒントかもしれません。

●取材協力
中嶋亮太さん
生物海洋学者。2009年に博士号を取得。米国スクリップス海洋研究所の研究員を経て、現在、国内の海洋研究所・研究員。海洋プラスチック問題、とくに海底に沈んだごみについて研究を進めている。著書に『海洋プラスチック汚染: 「プラなし」博士、ごみを語る』(岩波書店)がある。

古賀陽子さん
プラなし生活実践中の主婦。2005年にパナソニック(株)に入社し10年に渡り技術職勤務。その間、出産・育児を経て現在は自宅でお仕事中。海洋プラスチック汚染の深刻な実態を知り、中嶋氏 と共にプラスチックフリーなアイテムやヒントを探し回っている。

>プラなし生活●関連サイト
バルクフーズ
ラッシュジャパン

ハイスペックなエコハウスが並ぶ「山形エコタウン前明石」誕生! 全棟トリプルガラス搭載

JR山形駅から東へ車で20分ほど山形市の郊外に、新たに土地一区画が約210~260平米弱の建売住宅地の開発が進められている。名称は「山形エコタウン前明石」といい、その名の通り、エコを重視した住宅地である。東北芸術工科大学(山形市)と地元デベロッパーの荒正(山形市)、そして、アウトドアブランドのスノーピーク(新潟県三条市)がタッグを組んで立ち上げた。1棟の価格は3600万円台~4100万円台、間取りは3種類だ。6月末の暑い日、筆者は現地の見学会に訪れた。
エアコン1台で1年中、快適な室温をキープ

「山形エコタウン前明石」の大きな特徴はまず、全19区画に建つ予定の建売住宅が、すべてハイスペック・エコハウスであることだ。室内の温熱環境を保つため、外・内断熱を施し、窓にはペアガラスどころかなんとトリプルガラスの樹脂サッシを採用している。これは、今回採用した「ファース工法」に基づくもの。建物を高気密・高断熱に仕立て、小屋裏に取り付けたエアコン1台で、壁内から床下まで一定の温度の空気を循環させて、1年中、快適な室温を保つシステムである。北海道を拠点とする工務店が特許を取得している工法だ。建物の基本設計は東北芸術工科大学、実施設計はエネルギーまちづくり社(東京都)が担当した。

また、全住宅とも省エネルギーを目指し、自然冷媒ヒートポンプ給湯機、太陽光発電システムといった設備を標準搭載。ちなみに、年間の冷暖房の消費電力料金は約6万8000円と、山形県の平均的な料金の5割程度だという。この設備のみで、冬は半そでで過ごせるほど家全体が暖かく、夏は適度な涼しさを保てる。

「これは、HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)が設定する、G2グレードをクリアしています」と、当住宅地の企画に関わった、東北芸術工科大学の教授であり建築家の竹内昌義氏は話す。
そもそも寒冷な山形県では、室内の温度変化で急激な血液低下を起こす「ヒートショック」で入浴中に亡くなる人が交通事故死よりも多く、2016年度には200人以上だった。こうした事情を問題視した県では、「やまがた健康住宅」という定義をつくり、住宅の高気密・高断熱化を推奨・サポートしている。

小屋裏の様子。高性能エアコンと熱交換式換気扇のほか壁内などに適温を送り込むダクトがある(写真撮影/介川亜紀)

小屋裏の様子。高性能エアコンと熱交換式換気扇のほか壁内などに適温を送り込むダクトがある(写真撮影/介川亜紀)

室温や気温を確認できるパネルをリビングに設置(写真撮影/Isao Negishi)

室温や気温を確認できるパネルをリビングに設置(写真撮影/Isao Negishi)

高気密・高断熱に徹したから実現した、大きな窓と広々した間取り

こうした高気密・高断熱住宅を設計する際に課題となるのが、住宅の開放感だ。延べ床面積は94.67~125.86平米と、都市部に比べ住宅が広い傾向にあるこのエリアとしては比較的コンパクト。室内の温かさは開口部から逃げるので、それを防ぐために、通常であればどうしても窓は小さくせざるを得ない。そこで、ここの建売住宅は、断熱性の高いトリプルガラスを採用することで、開口部を大きく取った。そのため、外の景色が見渡せるようになり、視覚的に広がりが増した。

また、間取りにも工夫して開放感を加えた。間取りは「吹き抜けのある家」「土間のある家」「デッキテラスのある家」の3種類。いずれも間仕切り壁を最小限にしたほか、1階玄関をリビングダイニングと一体化させた土間にする、1階から2階まで吹抜けにするなどだ。
とはいえ、こうした間取りがすんなりと決まったわけではない。「デッキテラスのある家」は2階にリビングダイニングを設け、そうした家族がくつろぐスペースからの眺望の良さと開放感が売りだ。首都圏では人気でも、ここ山形県では事情が異なった。

「リビングダイニングは1階にあること、また、部屋数が多い住宅のほうが売れます。ところが、竹内さんから提案された間取りのひとつは、2階にリビングダイニングのみがある。お客様の反応が不安でした」と、荒正の代表取締役、須田和雄氏は思い返す。
しかし、オープンハウスに訪れた30代夫婦に感想を聞くと、「リビングは1階にあるのが当たり前だと思っていましたが、実際にモデルハウスに入ってみると(日常生活に不自由はなさそうで)違和感はありませんでした」という答えが返ってきた。

1階のLDKからデッキにつながり、玄関が5.9畳の土間になっている住棟(写真撮影/介川亜紀)

1階のLDKからデッキにつながり、玄関が5.9畳の土間になっている住棟(写真撮影/介川亜紀)

土間の様子。カーポートから直結している(写真撮影/介川亜紀)

土間の様子。カーポートから直結している(写真撮影/介川亜紀)

2階にLDKを配置した住棟。この掃き出し窓からも大型のデッキが連続する(写真撮影/介川亜紀)

2階にLDKを配置した住棟。この掃き出し窓からも大型のデッキが連続する(写真撮影/介川亜紀)

デッキ部分。ホームパーティーが楽しめる広さ(写真撮影/Isao Negishi)

デッキ部分。ホームパーティーが楽しめる広さ(写真撮影/Isao Negishi)

緑豊かなランドスケープ、アウトドアリビングでコミュニティ形成を狙う

もうひとつの特長は、全体のランドスケープだ。敷地の境界線上は住民が誰でも散歩できるように、幅90cmの遊歩道になる。その中のいくつかの場所には、住民が自由に使えるベンチや井戸を配する予定だ。また、それぞれの住宅は塀などで囲まず、いくつかの箇所に常緑樹のシラカシや四季を感じられる樹木を植えて緩くゾーニングするのみだ。それぞれの庭はアウトドアリビングである。バーベキューグリルなどのアウトドア用品を置き、思い思いに楽しむ。
そのうちに、各住宅の草木が茂って住宅地全体が緑で一体化し、それぞれのアウトドアの楽しみも隣家同士でつながっていく。その姿に象徴されるように、徐々にコミュニティが形成されていくことを企画者たちはイメージしている。「室内が暖かいとかえって外に出るようになるのではないでしょうか。アウトドアの仕掛けがあればなおさらです」(竹内氏)

こうしたエコハウスにバーベキューなどアウトドアの楽しみを組み合わせる提案をしたのは、スノーピークである。同社営業本部東日本事業創造部シニアマネージャーの吉野真紀夫氏はこう話す。「オール電化も重要ですが、高性能な住宅に住みつつ、昔からの自然な火を囲む暮らしも目指したいと考えました」
山形では、仲間が集まり、屋外でサトイモの鍋を煮炊きする「芋煮会」という慣習があり、アウトドアに抵抗がないという声もあったようだ。

完成後のイメージパース。住棟が緑に囲まれ庭や通りで住人が交流している(資料提供/荒正)

完成後のイメージパース。住棟が緑に囲まれ庭や通りで住人が交流している(資料提供/荒正)

完成後の街並みの模型。住棟の間には塀などがなく、住宅地全体がゆるくつながる(写真撮影/介川亜紀)

完成後の街並みの模型。住棟の間には塀などがなく、住宅地全体がゆるくつながる(写真撮影/介川亜紀)

住棟の間には歩道をつくる。これに沿って植栽が計画されている(写真撮影/介川亜紀)

住棟の間には歩道をつくる。これに沿って植栽が計画されている(写真撮影/介川亜紀)

岩手県の注目住宅地、「オガールタウン日詰二十一区」がヒントに

そもそも、なぜ、このような建売の高気密・高断熱のエコハウスと、緑豊かなランドスケープが融合した“ハイスペック”な住宅地がここに誕生することになったのだろうか。

きっかけは3年前に遡る。地主から相談を受け、現住宅地の敷地を荒正が購入する運びとなった。そこは市街化調整区域であり、当時は住宅地として開発することはできなかった。実際に着手したのは、市街地調整区域の開発要件が緩和された後の2018年のことだ。
しかし、すでに敷地購入当初から、荒正の須田氏は建売の住宅地として展開する計画を想定していたのだという。駅から遠く、利便性が優れているとはいえない場所であるからこそ、確実に販売するため、近隣の住宅地より明らかにエッジが立っている住宅地にしたいと考えた。
その具体的なコンテンツのひとつが、建売の住宅をハイスペックなエコハウスに仕立てること。そこで、東北芸術工科大学の竹内氏にアドバイスを求め、企画を進めた。もうひとつが緑豊かなランドスケープだ。「一昨年訪れた、岩手県紫波町にある『オガールタウン日詰二十一区』を見て“これだ!”と感じた。緑に囲まれた、まるで公園のような心地よさをもつエコハウスの住宅地でした」と須田氏。
紫波町を訪れたときの縁で、ランドスケープやアウトドアをキーに住民のコミュニティ形成をデザインする、スノーピークの合流も決まった。

「オガールタウン」の様子。「オガールタウン日詰二十一区」は町役場そばにある56区画の住宅地(写真撮影/エネルギーまちづくり社)

「オガールタウン」の様子。「オガールタウン日詰二十一区」は町役場そばにある56区画の住宅地(写真撮影/エネルギーまちづくり社)

すでに購入手続きに入った30代の3人家族に、当住宅地の気に入ったポイントを聞いてみると、「居住中の賃貸マンションは、夏は暑くて冬は寒く、結露が原因でカビも生えます。このエコハウスは(断熱性が高く)そういう悩みは少ないのかもしれません。今よりランニングコストが抑えられるのはいい」「スノーピークのアウトドアグッズはおしゃれなイメージ。庭や周囲の散歩道にあるならぜひ使ってみたい」「コストパフォーマンス重視の住宅でなくていい」といった回答だった。

この住宅地に同じように魅力を感じる、住環境への価値観が近い居住者がこれから集ってくるだろう。そこから生まれる新たなつながりで、この住宅地のコミュニティやランドスケープ、もしかすると住宅も独自の変化を遂げていくのではないか。全住棟に居住者がそろった1年後、2年後にまた取材に訪れたい。
(構成・文/介川 亜紀)

●取材協力
・東北芸術工科大学
・スノーピーク
・荒正
・ファース工法
・エネルギーまちづくり社

YKK吉田前会長、71歳男のロマン! 地方創生、パッシブタウンからヤギ牧場まで あの人のお宅拝見[9]

私が住宅雑誌の編集長時代から、多くの経営者にお話を伺ってきたなかで最も“人”として関心を引かれたのがYKKとYKK AP前会長(現両社取締役)の吉田忠裕さん(「吉」は、正しくは下が長いつちよし)。YKK AP社は窓などの建材メーカーであるが、本体YKK社はファスナーの世界的メーカー。早くからインターナショナルな視点をもち、ファッション業界の荒波にも揉まれた経験が、日本の住宅業界では異質な輝きを放っていた。

6月に会長職を退かれた吉田さん。そのバックグラウンドと最近の暮らしぶりを探るべく、YKK総本山の富山県黒部市に伺った。

連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。グローバル企業のリーダーを引退、富山県黒部での新生活

東京が本社のYKKですが、製造・開発など“技術の総本山”と位置付けられているのが富山県黒部市。創業者・吉田忠雄氏の生まれ故郷・魚津市の隣町というご縁。

東京から北陸新幹線に乗って約2時間半、黒部宇奈月温泉駅に到着。お宅訪問の前に、YKKセンターパークへ伺った。

一般の方も無料で見学できる、YKKのテーマパーク的な施設。右が一号館、左が二号館(写真撮影/片山貴博)

一般の方も無料で見学できる、YKKのテーマパーク的な施設。右が一号館、左が二号館(写真撮影/片山貴博)

富山県や黒部の紹介映像が上映されるシアターは迫力満点(実はテーマソングを歌っている歌手は、吉田さんのご息女!)展示ゾーンでは、ファスナーの仕組みや窓の機能など、子どもでも楽しく学べるようになっています。

NASAの宇宙服にもYKKファスナーが採用されているなんて知りませんでした!(写真撮影/片山貴博)

NASAの宇宙服にもYKKファスナーが採用されているなんて知りませんでした!(写真撮影/片山貴博)

そんな中でも私が一番感動したのは、「創業者 吉田忠雄ホール」。忠雄氏の生い立ちや起業の歴史、その功績を映像や肉声で知ることができます。
『善の巡環』(自社の利益だけを考えることなく、お客様/社会・取引先とともに繁栄してゆく)を唱えた忠雄氏。この時代の創業者の人生に触れると頭が下がり、「私も頑張ろう!」という気持ちにさせてくれます。

自然の力を利用して暮らす『パッシブタウン』、理想の街づくりに挑戦中

さて、その創業者の志を継ぐ吉田忠裕前会長のお宅がある、『パッシブタウン(PASSIVETOWN)』へと向かいます。

2016年に第1期街区(36戸)が竣工し、現在第3期街区まで入居済み。2025年までには約250戸が完成予定のプロジェクト。これを構想し、推進しているのが吉田さんご自身なのです。

日本海沿岸で沖から吹く夏のそよ風『あいの風』や、立山連峰からの豊富な地下水など富山の自然を利用したパッシブエネルギーで、エネルギー消費の少ない街・住まいを実現する実証実験を、吉田さんご自身で住まいながら研究されています。

『あいの風』を取り込む建築レイアウト。雪国なので駐車場は地下に、その分地上は緑が豊か。ランドスケープの設計は宮城俊作氏(写真撮影/片山貴博)

『あいの風』を取り込む建築レイアウト。雪国なので駐車場は地下に、その分地上は緑が豊か。ランドスケープの設計は宮城俊作氏(写真撮影/片山貴博)

東京から黒部への本社機能一部移転に伴い社員寮や社宅の整備も必要であったことから、その跡地で計画が始まったようですが、今は一般の方も入居する人気の賃貸住宅となっています。

第1期街区の設計は、パッシブハウスの研究者・小玉祐一郎氏。木質バイオマスボイラーや太陽熱、地下水による冷暖房システムによって光熱費を抑える計画(写真撮影/片山貴博)

第1期街区の設計は、パッシブハウスの研究者・小玉祐一郎氏。木質バイオマスボイラーや太陽熱、地下水による冷暖房システムによって光熱費を抑える計画(写真撮影/片山貴博)

第3期街区J棟とK棟(設計:森みわ氏)は、既存の社宅をリノベーションしたもの。資材削減のストック活用であり、減築によって屋上庭園を設けるなどの工夫が評価され、日本で初めてLEED※ Homes Awards 2017の最高位を受賞しました。
※LEED(Leadership in Energy & Environmental Design) 米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発・運用する環境配慮建築やエリア開発の認証システム

吉田さんは、第1期ー3期街区すべての住戸を住み渡り、現在は第2期街区にお住まいです。最近は神奈川のご家族との本宅と、こちらを半々程度の生活の様子。単身、どんなお宅になっているのでしょう。

第2期街区は、吉田さんが旧知の槇文彦氏による設計。建築界の大御所が手がけたパッシブ賃貸住宅!(写真撮影/片山貴博)

第2期街区は、吉田さんが旧知の槇文彦氏による設計。建築界の大御所が手がけたパッシブ賃貸住宅!(写真撮影/片山貴博)

1階のインターホンで呼び出すと、吉田さんが降りてきてお出迎えくださいました。

地上4階・地下1階(駐車場)建てマンション(写真撮影/片山貴博)

地上4階・地下1階(駐車場)建てマンション(写真撮影/片山貴博)

ご案内いただいたお住まいは、70平米ほどの1LDK。開口部がふんだんに取られた明るいリビングルームでお話を伺いました。

雪国では珍しい、窓・ドアが天井高まで大きく取られたマンション。YKK APの高断熱樹脂窓が実現する気持ちの良い空間(写真撮影/片山貴博)

雪国では珍しい、窓・ドアが天井高まで大きく取られたマンション。YKK APの高断熱樹脂窓が実現する気持ちの良い空間(写真撮影/片山貴博)

『パッシブタウン』は建築後にエネルギー削減目標が実現できているか、住人の住み心地はどうかなどを第三者の専門家が調査する『パッシブタウン性能評価プロジェクト』を実施しているそうです。取材当日も、評価プロジェクト委員会の専門家たちが東京から訪れて、住人と意見交換をしていたようです。

「私は事業主であり、住人であるという両方の立場ですが、いつも委員会に参加して双方の貴重な意見を伺っています」と、吉田さん。

立山連峰を眺めながら、企業として個人として何ができるか考える

『パッシブタウン』のプロジェクトを構想された経緯をお話してくださいました。

「創業当時からYKKの本社は東京でしたが、工場や研究開発を黒部に集約してきました。海外では本社を中心地に置かず、流通面や住環境の良い街を選んできたので、日本の東京一極集中をいろんな意味から回避したいと考えていました」

国が“地方創生”を唱える前から、黒部への本社機能一部移転や街づくりを進めていた吉田さん (写真撮影/片山貴博)

国が“地方創生”を唱える前から、黒部への本社機能一部移転や街づくりを進めていた吉田さん
(写真撮影/片山貴博)

「黒部へ東京から社員が異動して問題だったのは、大きな戸建てはあっても住み慣れた大きさのマンションが無いことだったんですよ。
そんな最中の2011年に東日本大震災が起こり、エネルギー問題に直面したのも当プロジェクトのキッカケ。富山の自然を活用したパッシブデザインにより、エネルギー消費量を抑える住まい方に挑戦しようと思ったのです」

「ここに座って、立山連峰を眺めてるんだ」と、お気に入りの窓際に座らせてくれた(写真撮影/片山貴博)

「ここに座って、立山連峰を眺めてるんだ」と、お気に入りの窓際に座らせてくれた(写真撮影/片山貴博)

バルコニーからも、雄大な山並みが望め、空気も抜群! 手前の3階建がリノベーションの第3期街区K棟、屋上庭園の緑が見える(写真撮影/片山貴博)

バルコニーからも、雄大な山並みが望め、空気も抜群! 手前の3階建がリノベーションの第3期街区K棟、屋上庭園の緑が見える(写真撮影/片山貴博)

それぞれ街区ごとに違う建築家を採用しながら、その知恵を出し合うプロジェクト運営をされていますが、全戸で外断熱システムなどの構造とともに効果を上げるのが、YKK APの樹脂窓『APW』シリーズの高断熱窓。

Low-E複層ガラスに加え、樹脂フレームはアルミ製と比べて断熱性能が高く、冬の結露も心配ない(筆者宅も樹脂フレーム採用!)(写真撮影/片山貴博)

Low-E複層ガラスに加え、樹脂フレームはアルミ製と比べて断熱性能が高く、冬の結露も心配ない(筆者宅も樹脂フレーム採用!)(写真撮影/片山貴博)

高効率全熱交換器の採用など省エネ設備を駆使した電力削減状況が、端末で見ることができると利用者の節電意識も高まる(写真撮影/片山貴博)

高効率全熱交換器の採用など省エネ設備を駆使した電力削減状況が、端末で見ることができると利用者の節電意識も高まる(写真撮影/片山貴博)

「机や椅子、鞄も好きなんだよ」黒部宅ではパーソナルデスクが“男の書斎”

今回は特別に寝室にある、お気に入りデスクまで見せてくださった。

米国人デザイナー、ジョージ・ネルソンのライティング・デスク&チェアー『Swag Leg シリーズ』(ハーマンミラー社)。スーツ&シャツはイタリア製しか着ないのに、アメリカ家具を選ぶところが吉田さんらしい!

「この椅子は、そんなに好きでも無いんだけど。一応、セットだからね」モダンデザインの名作に座り、機能的なパーソナルデスクがコンパクトな書斎(写真撮影/片山貴博)

「この椅子は、そんなに好きでも無いんだけど。一応、セットだからね」モダンデザインの名作に座り、機能的なパーソナルデスクがコンパクトな書斎(写真撮影/片山貴博)

デザイナーやプロダクトのヒストリーが記された『George Nelson』の書籍も(写真撮影/片山貴博)

デザイナーやプロダクトのヒストリーが記された『George Nelson』の書籍も(写真撮影/片山貴博)

デスクのデザイン設計図とともに飾られていた写真は、経済誌の写真展のものと、今年のお正月ご自身で撮られたご夫婦ツーショット。「着物はワイフからのプレゼント」だそう(写真撮影/片山貴博)

デスクのデザイン設計図とともに飾られていた写真は、経済誌の写真展のものと、今年のお正月ご自身で撮られたご夫婦ツーショット。「着物はワイフからのプレゼント」だそう(写真撮影/片山貴博)

金属製の脚を成型する技術“Swag(スウェージ)”が名前の由来。珍しい黒色のデスクが、白い椅子とともに寝室のモノトーンに収まっていた(写真撮影/片山貴博)

金属製の脚を成型する技術“Swag(スウェージ)”が名前の由来。珍しい黒色のデスクが、白い椅子とともに寝室のモノトーンに収まっていた(写真撮影/片山貴博)

『パッシブタウン』での吉田さんの暮らしを垣間見ることができましたが、実は黒部生活の本題はここから!
「黒部でヤギ牧場をやっている」と以前から伺っていて、遂に、その現場へご案内いただくことになりました。

“Think globally, Act locally”を、ここ黒部で実践

「引退しても、何か没頭できる仕事が欲しいと考えていた」ところに、黒部牧場を再生する機会に遭遇したそう。

「富山湾は魚の宝庫、なので山側にも何か観光レジャーになるものがあっても良いと思ってね。チーズが好きなのでヤギ牧場を始めて、黒部で世界に誇れる六次産業をやってみようと思ったわけ」

早速、吉田さんの運転で助手席に乗せていただき牧場へ向かいます。

愛車スバル[フォレスター]雪道もガッツリ走ります!(写真撮影/片山貴博)

愛車スバル[フォレスター]雪道もガッツリ走ります!(写真撮影/片山貴博)

ちなみに、吉田さんは社長・会長時代も役員車を使わずに、東京本社へ神奈川の自宅から1時間半かけて電車通勤。「電車のほうが早いし効率が良い」と。その上、お酒を飲まない吉田さんは「社員に、僕が送るから飲んで良いよって言うんだ」と話します。黒部では本当に社員を送ったりもするそうです。
創業社長の跡取りに育ちながら、分け隔てなく合理的に物事を考える、この姿勢には驚かされます。

20分ほど山に向かって走り、『くろべ牧場 まきばの風』に到着。

富山湾を見下ろす山の斜面に広がる牧場、「向こうが能登半島だよ」(写真撮影/片山貴博)

富山湾を見下ろす山の斜面に広がる牧場、「向こうが能登半島だよ」(写真撮影/片山貴博)

YKKとは全く関係なく、ファミリービジネスとして牧場を一から始めるって……凄い発想。吉田さんは、やっぱりアメリカ的。米国人サラリーマンの夢は、牧場をもつことって良く聞きますから。
「ブラジルの農園は……スイスのバスや鉄道は……ドイツの再生可能エネルギー政策は……」と次々出てくる世界の話は、吉田さんの実体験による生きた知恵。
それを、黒部で活かす。これこそ真の“Think globally, Act locally”

吉田さん直筆の“ゆるい”MAPが微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

吉田さん直筆の“ゆるい”MAPが微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

ヤギ飼育舎の手前にはラベンダーが咲き誇り、いわゆる牧歌的な美しい風景(写真撮影/片山貴博)

ヤギ飼育舎の手前にはラベンダーが咲き誇り、いわゆる牧歌的な美しい風景(写真撮影/片山貴博)

われわれ取材班も長靴に履き替えて、ヤギ牧場見学へ。吉田さんは、赤いMyキャップを被って牧場主に変身!

赤いキャップ、ちょっとトランプ大統領風?(写真撮影/片山貴博)

赤いキャップ、ちょっとトランプ大統領風?(写真撮影/片山貴博)

米国大統領といえば、故ジミー・カーター大統領とは州知事時代からのお付き合い。何と1977年大統領就任式に吉田さんのお父様とお母様は特等席で臨席されたというお話でした。

ヤギは100頭から200頭。生まれては育て、ほかへ譲ったりもしながら徐々に増やしてきたそうです。

ヤギは好奇心旺盛で直ぐに寄ってくる。筆者の指を吸う、子ヤギ。カワイイ!(写真撮影/片山貴博)

ヤギは好奇心旺盛で直ぐに寄ってくる。筆者の指を吸う、子ヤギ。カワイイ!(写真撮影/片山貴博)

富山湾から吹くミネラルたっぷりの風を受けた草を食べ、黒部の美味しい水を飲み健康に育つ子ヤギたち(写真撮影/片山貴博)

富山湾から吹くミネラルたっぷりの風を受けた草を食べ、黒部の美味しい水を飲み健康に育つ子ヤギたち(写真撮影/片山貴博)

「失敗しても成功せよ」『善の巡環』がここにも

ヤギ牧場に似つかわしくないモダンな建物、これは吉田さんと旧知であるイタリア・建築デザイン界の巨匠、マンジャロッティ事務所が設計したレセプションハウス。

レセプションハウス「La Capra」。マンジャロッティ氏は約30年前に東京事務所を設立、2012年に死去(写真提供/マンジャロッティ事務所)

レセプションハウス「La Capra」。マンジャロッティ氏は約30年前に東京事務所を設立、2012年に死去(写真提供/マンジャロッティ事務所)

ヴェネチアンガラスのモダンなシャンデリア「ジョガリ」、テーブル・棚「カヴァレット」と椅子「トレトレ」も全てマンジャロッティによるデザイン(写真撮影/片山貴博)

ヴェネチアンガラスのモダンなシャンデリア「ジョガリ」、テーブル・棚「カヴァレット」と椅子「トレトレ」も全てマンジャロッティによるデザイン(写真撮影/片山貴博)

レセプションハウスの中には、イタリアのチーズ・コンテストで受賞した証明書なども飾られています。

「チーズづくりは試行錯誤、イタリアのチーズ職人の師匠を得てからも5年間ほど格闘しました」(写真撮影/片山貴博)

「チーズづくりは試行錯誤、イタリアのチーズ職人の師匠を得てからも5年間ほど格闘しました」(写真撮影/片山貴博)

『失敗しても成功せよ』と言うYKK創業者である父上、吉田忠雄氏の言葉。
やってみて、失敗しないと成功への道は開けない。そして、やるからには成功させるのだという意志が、このヤギ牧場やチーズづくりにもつながっていると感じました。

“マーケティングの父”と称される、コトラー教授の愛弟子でもある吉田さん。チーズづくりや牧場経営にも、その手腕が発揮されている!?(写真撮影/片山貴博)

“マーケティングの父”と称される、コトラー教授の愛弟子でもある吉田さん。チーズづくりや牧場経営にも、その手腕が発揮されている!?(写真撮影/片山貴博)

富山湾の深層水から採った塩が熟成させた、素晴らしいチーズをいただきました。リコッタ(写真:右上)が、絶品!『カプリーノ』のしょうゆ味(写真:右下)は日本酒にも合いそう(写真撮影/片山貴博)

富山湾の深層水から採った塩が熟成させた、素晴らしいチーズをいただきました。リコッタ(写真:右上)が、絶品!『カプリーノ』のしょうゆ味(写真:右下)は日本酒にも合いそう(写真撮影/片山貴博)

会長引退後の吉田さんは、新たにベンチャー企業の事業家として生き生きと輝いていました。

「あいの風」を感じながら、黒部から地方創生の夢を語ってくださる吉田さん。日本海・富山湾を背景に、牧場のベンチにて(写真撮影/片山貴博)

「あいの風」を感じながら、黒部から地方創生の夢を語ってくださる吉田さん。日本海・富山湾を背景に、牧場のベンチにて(写真撮影/片山貴博)

「シンプルに、『ここに住んでみたい!』と思う魅力的な街にする事が、地方創生なのだと思ってる。仕事があれば、若い人も富山に住みたいと思うはず。だから、次の事業ももう考えているよ!」と、悪巧みをするように微笑む吉田さん。

自分が熱中できる事業を富山に起業し、人を呼び、地域を元気にする『善の巡環』を率先する姿は、日本の経営者たちも憧れる70代の姿ではないでしょうか。

吉田忠裕
YKK/YKK AP取締役(前会長CEO)。1947年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、米国のノースウエスタン大学経営大学院(ケロッグ)修了、“マーケティングの父”と称されるF・コトラー教授に学ぶ(後に、大学院のアドバイザリーボードのメンバーに)。1972年父、吉田忠雄創業のYKK入社(旧吉田興業)。1990年YKK AP/1993年YKK社長、2011年両社会長CEO歴任後、2018年6月退任。
2017年、永年にわたる企業活動を通じての建築文化への貢献により日本建築学会文化賞を受賞。
【YKK】ホームページ
【YKK AP】ホームページ
【PASSIVETOWN】ホームページ
【ヤギチーズ専門「Y&Co」】ホームページ

【検証】自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか?

きつい、辛い、帰りたい。

なぜ僕は部屋の中で自転車を漕いでいるのだろうか。なぜ一生懸命に走っているのだろうか?
【画像1】(写真撮影/大嶺 建)

【画像1】(写真撮影/大嶺 建)

今、僕は部屋で必死に自転車発電を行っている。そして僕の横では女の子がくつろいでピザを食べている。ふざけているわけではない。これはれっきとした闘いなのだ。己の魂をかけた挑戦なのである。

こんなカオスな空間が生まれたのには理由がある。きっかけは1カ月前に遡る。

遡ること約1カ月前【画像2】リクルート住まいカンパニーの社屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】リクルート住まいカンパニーの社屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

とある日、SUUMOジャーナル編集部に打ち合わせに行く用があった。そのときにたまたまSUUMO編集長である池本さんにお会いした。

SUUMO編集長はとても気さくだった。初対面の僕に向かって「君の顔めちゃくちゃ長いね!」と言って緊張をほぐしてくれるような人だ。あくまで緊張をほぐすために言ってくれたことであり、バカにされたわけではないと、僕は池本編集長を信じている。信じている。

【画像3】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

池本編集長「最近注目の集まっているエコな住宅関係で記事をつくりたいと思っているので、おもしろいネタがあったらぜひ一緒にやりましょう」

そんな声をかけてもらったので、僕はとっさに

「自転車発電と太陽光発電のどっちが勝つのか比べたらおもしろそうですよね(笑)!」

と冗談半分で提案した。僕は過去にママチャリで日本一周した経験があり、それをやっているときにふと思った疑問をここで出してみたのである。

そしたらそのネタに池本編集長が予想外に食いついてくれ、大盛り上がりしてネタがどんどんと膨らんでいった。

【画像4】(写真撮影/大嶺 建)

【画像4】(写真撮影/大嶺 建)

そして気づいたらこうなっていた。

もちろん自転車を借りて、部屋を借りて……と段取りを踏んでやっているので、いきなり拉致されて企画に巻き込まれたという意味で言っているわけではない。

冗談で言った企画が、編集部から連絡が来て、ガッチリとした企画になり、まさか家を借りて行うほどの大掛かりなものになるとは思っていなかったのだ。あれよあれよと気づいたらあとに引き下がれない状況になっていたのだ。

大人になると「言葉に責任をもたなきゃいけない」というのは本当のことであったと学んだ。

ただし、やるからには負けたくない。過去にママチャリで日本一周した経験は本当であるし、勝つ気でやらないとものごとはまったくおもしろくない。記事もおもしろくならない。

かくして「自転車発電 vs 太陽光発電」の火ぶたが切って落とされた。

自転車発電 vs 太陽光発電自転車発電 vs 太陽光発電の対戦ルール
・ママチャリを使用して発電を行う
・宿泊して2日にわけて行う
・制限時間は最大10時間(借りている部屋の使用時間が決まっているため)
・Wh(電力量)で対決する ※1時間でどのくらいの電力が稼げるかの値

今回の企画を簡単に言うと「自転車発電で太陽光発電に勝てるのか?」という検証である。

【画像5】(写真撮影/大嶺 建)

【画像5】(写真撮影/大嶺 建)

【画像6】(写真撮影/大嶺 建)

【画像6】(写真撮影/大嶺 建)

自転車発電と太陽光発電を比べるために、今回は積水ハウスの賃貸住宅をお借りすることができた。亀有駅から徒歩5分という好立地な部屋だ。

ここまできれいな部屋を用意されていたら、僕の言った「あとに引けない状況になっている」という言葉の意味がよく分かると思う。やるしかないのだ。

【画像7】(写真撮影/大嶺 建)

【画像7】(写真撮影/大嶺 建)

実はこの家は太陽光発電ができるだけでなく、なんとその日に発電した電力量がどのくらいかを見ることができる「HEMS」という端末までついているのだ。

こんなに今回の企画に適した家もなかなかないだろう。

【画像8】(写真撮影/大嶺 建)

【画像8】(写真撮影/大嶺 建)

今回の企画では「vs 太陽光発電」という形をとるために、仮想対戦相手を用意した。仮想対戦相手には太陽光発電ができる家で一日過ごしてもらう。

つまり「自転車で一生懸命漕ぐ人(自転車発電)」vs「家でダラダラ過ごす人(太陽光発電)」という、図式にして分かりやすくした。

仮想対戦相手として選んだのはアイドルのカワシマユカさんだ。彼女はアイドルグループを自ら運営して立ち上げている途中であり、現在はアイドルニートを自称している。そのため一日中家の中ですごしてもらう今回の企画に合っていると思ったからだ。

あと「企画的に写真が地味になりそうだから女の子を呼んだ」という大人の事情もある。むしろこっちの理由がメインかもしれない。

【画像9】(写真撮影/大嶺 建)

【画像9】(写真撮影/大嶺 建)

ちなみにカワシマユカさんには、仮想敵なので「なるべく僕がムカつくようなことをやってほしい」とお願いしてある(お願いしなきゃよかったと後悔した)。

どうでも良いけど灰色のパーカが被っていて、親戚のぎこちない記念撮影みたいになった。

自転車の準備に時間がかかる/部屋の説明を受ける【画像10】(写真撮影/大嶺 建)

【画像10】(写真撮影/大嶺 建)

ということで対戦は始まったのだけれど、まずは下記のように自転車発電の準備をしなければならない。

自転車を家の中に運び込む

発電機を組み立てる

発電機に自転車をセットする

自転車発電のセットは有限会社ひのでやエコライフ研究所でお借りした。これが予想以上に組み立てるのに時間がかかる重労働であった。というか僕はイケアの家具すら組み立てるのを挫折したことがある男だ(結局そのときは兄を呼んでことなきを得た)。

【画像11】(写真撮影/大嶺 建)

【画像11】(写真撮影/大嶺 建)

このときもなかなか上手く組み立てられず、写真撮影をしてくれているカメラマンに手伝ってもらいながら2時間くらいかかってようやく準備をし終えた。この組み立て段階が今回一番だったと言ってもいいくらい大変だった……。

【画像12】説明をしてくれているのはZEH体験宿泊のPR担当をしている向井さん(写真撮影/大嶺 建)

【画像12】説明をしてくれているのはZEH体験宿泊のPR担当をしている向井さん(写真撮影/大嶺 建)

そのころカワシマユカさんはこの家の設備の説明を受けていた。

この家はZEH(ゼッチ)の基準を満たした家である。ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称で、断熱や省エネ、そして太陽光発電などで電力を売り、年間の一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の電気代をゼロにするという住宅である。

【画像13】ソーラーパネルが最初から設置されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像13】ソーラーパネルが最初から設置されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像14】お風呂も大気の熱を利用してお湯を沸かすエコキュートが採用されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像14】お風呂も大気の熱を利用してお湯を沸かすエコキュートが採用されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像15】窓はなんとガラスが二重になっており、外の冷気が入りづらくなっている。外側にガラスがあるため、内側の窓には水滴ができずカビの心配もない(写真撮影/大嶺 建)

【画像15】窓はなんとガラスが二重になっており、外の冷気が入りづらくなっている。外側にガラスがあるため、内側の窓には水滴ができずカビの心配もない(写真撮影/大嶺 建)

今回借りた部屋も、高断熱材を使用した壁、2枚のガラス板でつくられた複合ガラスの窓など、熱を逃がさないようなエコなつくりになっている。そして太陽光発電ができるので家で電力を生み出し、それを自動で売ってくれる。

家の工夫によって熱を外に逃さずにエコな過ごし方ができ、さらに自分の家の電気代を太陽光で生まれた電気でまかない、実質的に電気代が概ねゼロ以下になるようになっているのだ。

【画像16】太陽光発電などでどのくらい電気が売れたのかは、HEMSという端末ですぐに確認することができる(写真撮影/大嶺 建)

【画像16】太陽光発電などでどのくらい電気が売れたのかは、HEMSという端末ですぐに確認することができる(写真撮影/大嶺 建)

ZEHの家に無料で宿泊体験ができるキャンペーンがあり、今回はその中の一つを借りているという形だ。

【画像17】(写真撮影/大嶺 建)

【画像17】(写真撮影/大嶺 建)

発電機の準備をしながら横で僕も聞いていたんだけど、「ZEHってどういう意味か知っている?」という質問に対して、カワシマユカさんは

「ゼッチって漢字でどう書くんですか?」

と聞くほどだったので本当に何も知らないようであった。それにしても漢字という発想はなかった。「絶地」と書くと思ったのだろうか? 漢字で書くと『るろうに剣心』とかに出てくる必殺技っぽくなる。

【画像18】(写真撮影/大嶺 建)

【画像18】(写真撮影/大嶺 建)

カワシマユカさんが説明を受けている間に着々と準備を進めて、いよいよ自転車は組み上がった。あとはひたすら漕ぐだけだ。

自転車発電の計算方法【画像19】(写真撮影/大嶺 建)

【画像19】(写真撮影/大嶺 建)

ということで僕の勝負がいよいよ始まった。時刻はだいたい16時ごろ。22時までは漕げるので、6時間は漕げる計算になる。あとはとにかく必死に漕ぐだけである。

それにしても異質な空間である。女の子がいる部屋で僕はひたすら自転車を漕いでいる。なんだろうこの空間。新しいフェチ動画として世に発信したほうが良かったかもしれない。

【画像20】自転車発電の仕組み(画像作成/megaya)

【画像20】自転車発電の仕組み(画像作成/megaya)

自転車発電といっても、漕げば漕ぐだけ電力が溜まっていくという仕組みではない。(蓄電ができれば話は別であるが、)どれくらいの電力を消費するか、が計算される。

分かりやすくいうと、例えば自転車に繋いでスマホを充電する場合はMAXで5W(ワット)までしか発電できない。つまりずっと5W分のスピードを出して漕げば充電されるわけだ。

しかし例えばドライヤーの場合は約1000Wほどあるので、その分の力を常に出してないといけない。自転車を一生懸命漕いでもそのW数にいかない場合は、ドライヤーが動くことはないのだ。ほぼ全力でずっと漕いでいないといけないので、自転車発電でドライヤーを動かすのはかなりの労力がいる。

つまりW数が高いもので発電すれば大変だけど稼げる電力は大きくなり、W数が低いもので発電すれば楽だけど稼げる電力が小さくなるのだ。

【画像21】(写真撮影/大嶺 建)

【画像21】(写真撮影/大嶺 建)

今回はWh(ワットアワー)という単位で勝負を行う。Whとは1時間でどのくらいのWを発電しているかを表す単位だ。100Wを1時間使ったら単純に100Whだ。

ざっくりと言ってしまえば1時間の平均の値で勝負することになる。つまりは継続ができなければまるで意味がないのである。

なので僕はとにかく継続して電力を稼ぐことを目的として、体力的に負担が低いスマホを自転車に繋いで、常に5Wの発電をするようにした。

【画像22】スマホのメーターで発電量を確認できる(写真撮影/大嶺 建)

【画像22】スマホのメーターで発電量を確認できる(写真撮影/大嶺 建)

【画像23】(写真撮影/大嶺 建)

【画像23】(写真撮影/大嶺 建)

とにかく止まることが悪なので、ひたすら漕ぐ。ママチャリ日本一周した経験が蘇ってくるものの、やったのはもうすでに7年も前の話だ。体力的には今とかなり違う。普段運動しないので開始10分でかなり体力が奪われた。足が早くも笑っている。

【開始1時間】暑さとの闘いだと気づく【画像24】(写真撮影/大嶺 建)

【画像24】(写真撮影/大嶺 建)

【画像25】(写真撮影/大嶺 建)

【画像25】(写真撮影/大嶺 建)

それにしても暑い。ZEHの家では高断熱材を使用しているので、部屋がとてもあたたかい。普段なら快適で過ごしやすい家なのかもしれないが、自転車を漕いでる今はそれが仇になっている。

とりあえず着ていたパーカを脱いだ。あと脱水症状が怖いので、水分は多めにとるようにした。

【開始から2時間】着替えてテンションをあげる【画像26】(写真撮影/大嶺 建)

【画像26】(写真撮影/大嶺 建)

走り始めて1時間経ったころに、膝がガクガクしていることに気づいた。運動不足がここに来て響いている。早くも辛くなってきた。

しかしこちらも太陽光発電に勝つために準備はしっかりとしているのだ。テンションをあげるために着替えよう。

【画像27】(写真撮影/大嶺 建)

【画像27】(写真撮影/大嶺 建)

【画像28】(写真撮影/大嶺 建)

【画像28】(写真撮影/大嶺 建)

【画像29】(写真撮影/大嶺 建)

【画像29】(写真撮影/大嶺 建)

【画像30】(写真撮影/大嶺 建)

【画像30】(写真撮影/大嶺 建)

ということでサイクルウェアに着替えた。初めて着たけど異常にカッコイイ……!

なぜこれを着たのかというと『弱虫ペダル』という自転車漫画が僕は好きで、ロードバイクに憧れがあるのだ。なのでサイクルウェアを着ただけで自然と笑みがこぼれてくる。やる気も出てくるのだ。

日本一周のときに学んだことの一つに「体力よりも精神を安定させた方が漕ぐ力が湧いてくる」という僕の中での学びがある。なのでこのサイクルウェアにも大きな働きがあるのだ。断じてただコスプレがしたかったわけではない。

【画像31】(写真撮影/大嶺 建)

【画像31】(写真撮影/大嶺 建)

僕が必死に漕いでる横でカワシマユカさんは『魔法少女まどか☆マギカ』というアニメのSNSゲームをずっとやっており、開始30分くらいでこの体勢になっていた。もはや実家のようである。

僕のことはまるで空気のように意に介していなかった。思っていたよりも図太い子なのかもしれない。

【開始から3時間】夜ご飯【画像32】(写真撮影/大嶺 建)

【画像32】(写真撮影/大嶺 建)

この日の制限時間は22時までなので(念のために騒音の心配も考慮して)、まだまだ先は長い。倒れないように食料と水は定期的にとるようにする。この「自転車に乗りながら携行食を食べる」というのも『弱虫ペダル』の憧れのシーンなのである。箱根の直線鬼と呼ばれる新開隼人がやっていて、それが真似できたのでひそかにテンションが爆上がりしていた。

ただこのくらいの時間が一番つらいのだ。まだまだ終わりは見えないし、漕ぎ続けないといけない。

必死に自転車を漕いでいるとインターホンが鳴った。「誰だろうか?」と疑問に思っているとカワシマユカさんが玄関に向かっていった。誰かがやってきたようだ。

【画像33】(写真撮影/大嶺 建)

【画像33】(写真撮影/大嶺 建)

【画像34】(写真撮影/大嶺 建)

【画像34】(写真撮影/大嶺 建)

【画像35】(写真撮影/大嶺 建)

【画像35】(写真撮影/大嶺 建)

……

携行食を食べている僕を尻目にカワシマユカさんの夜飯がこれみよがしに到着した。ピザと寿司とコーラである。「欧米か!!」という懐かしいフレーズで全力でツッコミたくなる夜ご飯である。

【画像36】(写真撮影/大嶺 建)

【画像36】(写真撮影/大嶺 建)

実においしそうに食べるカワシマユカさんを横目に足を動かす。僕は初めに「闘いなのでムカつくことをやってください」とお願いしているため、彼女は何も間違ったことはしていない。正しい働きなのだ。彼女をキャスティングしてよかった。ムカつくけど。

それから一つ言っておきたいのは、僕はピザや寿司は食べていない。お腹いっぱいで自転車に乗ると辛くなるのは経験則で分かっているし、何事も真剣にやったほうがおもしろくなると思っているからだ。

【開始から4時間】体にガタが来る【画像37】(写真撮影/大嶺 建)

【画像37】(写真撮影/大嶺 建)

だんだんと体力の限界に近づいてくる。足のガクガクが尋常じゃなくなってくるし、飲み物の消費量がかなり多くなってくる。もうすでに2リットルを消費している。

【画像38】(写真撮影/大嶺 建)

【画像38】(写真撮影/大嶺 建)

その一方でカワシマユカさんはポテチを食べながらゴロゴロしていた。まさにアイドルニートに恥じない動きである。

【開始から5時間】昔を思い出す【画像39】(写真撮影/大嶺 建)

【画像39】(写真撮影/大嶺 建)

【画像40】(写真撮影/大嶺 建)

【画像40】(写真撮影/大嶺 建)

体力は消耗しているものの、だんだんとどのくらいのペースで漕げば良いのか掴んできたので、スマホをいじりながらでも走れる余裕が出てきた。

またも自転車日本一周したときの知識が活きてきた。「中途半端に休んだり走ったりしてはいけない」ということを思い出したのだ。自転車で長い距離を走るためには常に一定のペースで走るのが大切だ。マラソンと同じだ。常に漕ぎ続けろ……!!

【画像41】(写真撮影/大嶺 建)

【画像41】(写真撮影/大嶺 建)

僕の心の中で熱い思いがほとばしっているとき、カワシマユカさんはスマホで『弱虫ペダル』のアニメの最新話を見ていた。

いやいやいや、真横で一人でママチャリで必死に走っているんだからこっち見てくれ。スマホに写った『弱虫ペダル』じゃなくて、現実のママチャリ男をせめて応援してくれ。

【開始から6時間】今日のラストラン【画像42】(写真撮影/大嶺 建)

【画像42】(写真撮影/大嶺 建)

途中で足をつりながらも、いよいよラストスパート。とにかく必死に漕いで漕ぐしかない。何も考えず、ただただ走り抜くだけである。ここまで来ると体力ではなく精神の問題である。

大丈夫だ。おれは最後までやれる。走れる。頑張れる。やれる。頑張れ。最後まで……!!

【画像43】(写真撮影/大嶺 建)

【画像43】(写真撮影/大嶺 建)

ちらりと横を見るとアイスを食べながら彼女はこっちを見ていた。

クソ野郎……!!

就寝【画像44】(写真撮影/大嶺 建)

【画像44】(写真撮影/大嶺 建)

6時間走り切ったので、いよいよ就寝である。しかしさすがにアイドルと同じ部屋で寝ることはできないので、池本編集長の紹介で近くにある知り合いの家に移動した。

泊まらせてもらう家は、築95年の木造建築の長屋なので、先ほどのZEHの家と比べてかなり寒い。

【画像45】ZEHの部屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像45】ZEHの部屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像46】築95年の長屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像46】築95年の長屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

ついこの前Amazonで「壁の温度が測れる機械」があったので衝動買いした(なんで買ったのか覚えていない)。

試しにZEHと長屋でどのくらい違うのかやってみたら一目瞭然であった。壁の温度が8度も違うのだ。やっぱり高断熱材を使用している効果がハッキリと出ている。数値を見たら余計に寒く感じてきた。壁の温度なんて測らなければよかったと後悔した。

【画像47】(写真撮影/大嶺 建)

【画像47】(写真撮影/大嶺 建)

【画像48】(写真撮影/大嶺 建)

【画像48】(写真撮影/大嶺 建)

あまりに寒かったので寝袋を借りて就寝。まさか家の中で寝袋を使うことになるとは思わなかった。あとこの企画が思ったより過酷で辛い。

こうやって写真で見ると寝るときの差がえげつない……。

ラスト2時間【画像49】(写真撮影/大嶺 建)

【画像49】(写真撮影/大嶺 建)

朝6時前に起きた。前日が過酷で「もうやりたくない……」となるかと思ったが、意外にも気持ちはやる気で満ち溢れていた。

早めにZEHの家に戻り、朝の7時から再び漕ぎ始めた。いよいよ残り2時間である。これで勝負が決まる。

コツコツやっている人が勝つ世の中であって欲しい。そう願いながら必死に漕ぐ。

【画像50】(写真撮影/大嶺 建)

【画像50】(写真撮影/大嶺 建)

思えば21のときに家出をしてママチャリ日本一周をしてから、もう7年も経っていた。あのときはとにかく毎日必死に生きていて、明日のことなどこれっぽっちも考えていなかった。

毎日とにかく必死にペダルを漕いで、毎日必死に限界に挑んだ。

今はどうだろうか?
毎日を必死に生きているだろうか?
一つ一つを大切に生きているだろうか?

どうですか?僕?

あのころを思い出して今はペダルを漕いでいる。久しぶりに全力で生きている。今はそれがただただ誇らしい。

【画像51】(写真撮影/大嶺 建)

【画像51】(写真撮影/大嶺 建)

完走……!!!

今日僕はここで大切なことを思い出し、大切なものを手にいれた。

カワシマユカさんもこの僕の姿にきっと感動しているはずだ……!!

【画像52】(写真撮影/大嶺 建)

【画像52】(写真撮影/大嶺 建)

化粧してました。

結果発表

5Wでずっとやり続けてきた僕の結果は約35Whという結果になった。僕は電力などには詳しくないが、これはそこそこの結果なんじゃないだろうか? 距離もサイクルメーターで測っていて約70kmを走破したことになる。

ということで、運命の結果発表……

【画像53】(写真撮影/大嶺 建)

【画像53】(写真撮影/大嶺 建)

【画像54】(写真撮影/大嶺 建)

【画像54】(写真撮影/大嶺 建)

なんと太陽光発電!!

しかも差が圧倒的だと言う。嘘だ。地道に努力して努力して、必死に漕いだあの時間はなんだったんだろうか。いやいや確認間違いの可能性もある。

それなりに頑張ったがさすがに最新鋭の機械には勝てないかもしれない。しかし「太陽光発電とどのくらい良い勝負ができたか?」ということだ。端末にてその結果を確認する。

【画像55】(写真撮影/megaya)

【画像55】(写真撮影/megaya)

昨日の発電量のデータを確認したのだが、昨日の発電量は1Whや2Whが多く、僕よりかなり低い数値を叩きだしていた。

「あれ? これ結果発表間違っていたんじゃないか?」

と思いもう一度確認したみたところ「単位の読み間違えしていませんか?」と指摘された。ん? 単位?

【画像56】(写真撮影/megaya)

【画像56】(写真撮影/megaya)

 【画像57】(写真撮影/megaya)

【画像57】(写真撮影/megaya)

単位が「kWh」だ。つまり僕が一生懸命に稼いでいた「Wh」の1000倍である。ZEHの家では1時間で最大3kWhも発電していた。太陽光発電に今の同じペースで追いつくためには、僕があと685人はいないとダメということだ。

僕は今まで家庭の電力はWh計算だと勝手に勘違いしていた。だからスマホの5Whを走り抜ければ勝てると思っていた。その勘違いをしたままだったので、つまりはこの企画がスタートした時点で負けが確定していたということだ。自分の無知さが憎い。

さらに僕の漕いだ電力を円に換算(1kWh=24円)すると約0.8円らしい。1円にすら満たない。どんなに頑張っても日本円にはならないのだ。つらすぎる。

真っ白に燃え尽きたよ。

発電は圧倒的に太陽光発電

1日当たりの電気使用量平均は18.5kWhくらいで、この家(ZEH)の発電量は、だいたい20kWh近くはいくらしい。ほぼ発電だけで電力をまかなえていることになる。

自転車だと1日分の電力稼ぐだけでも何年かかるか分からない。自転車発電ってもっと効率の良いものだと思ってた。よくよく考えたら効率がもしよかったら色んな家庭で流行るはずだもんなぁ……。

【画像58】(写真撮影/大嶺 建)

【画像58】(写真撮影/大嶺 建)

【画像59】(写真撮影/大嶺 建)

【画像59】(写真撮影/大嶺 建)

というか必死にやっている感じずっと出してたけど、実はアイス食べたり、カワシマユカさんがつくった動画見てたりしてだいぶ休んでいた。

8時間漕いで70kmしか走ってないのを考えると、思っていたよりサボっていたというのが自分でも分かる。

【画像60】(写真撮影/大嶺 建)

【画像60】(写真撮影/大嶺 建)

最後にカワシマユカさんに「今回、ZEHの宿泊体験でどこが一番よかった?」という話を聞いてみたら、

「シャワーが上下に動くのが一番良かったです!」

と元気よく教えてくれた。いやそれZEH全然関係ないから……!!