最新トレンドは「心と健康にいい住宅」。コロナ禍に世界中で注目される“WELL認証”って?

最近、住宅のキーワードとして“住宅性能”“環境配慮”などが話題にのぼっている。一方で、このコロナ禍において、世界中で住環境の見直しが進む中、新たな視点が注目を集めている。“人の健康やウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好であること)”の視点で空間を評価する「WELL認証(WELL Certification)」だ。一体どんなものなのか、国内外の最新情報を探った。
住宅性能、環境の次は「健康と心」にやさしい住まい。WELL認証とは

日本国内で省エネと環境配慮を評価するLEED認証やWELL認証の普及に尽力している「グリーンビルディングジャパン(GBJ)」(2013年設立)で、WELLワーキンググループの主査を担う清水建設の沢田英一さんに話を聞いた。

サステナブルな住環境づくりに関心の高い建築や不動産関係者へ、WELL認証を始めとしたワークショップやセミナーを提供している(写真提供/GBJ)

サステナブルな住環境づくりに関心の高い建築や不動産関係者へ、WELL認証を始めとしたワークショップやセミナーを提供している(写真提供/GBJ)

「いま、ウェルビーイング(Well-being)という言葉が注目を集めています。身体的、精神的、社会的にも健康な、幸福度をあげていこうという考え方です。日本では、主に職場環境や公共ビルに対してこのウェルビーイングを向上させようという動きが進んでいて、実際、GBJへの問い合わせもLEED認証よりもWELL認証が増えています」(沢田さん)

例えば、昨年8月にWELL認証(v1)を取得した京阪ホールディングスの「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」では、清潔で安心な空間をつくる「空調方式」を採用し、手洗い環境の整備と除菌清掃に関する取り組みが高く評価されたという。また、緑や自然を感じさせる空間を、ロビーや客室に配置。さらに、快適な安眠と目覚めを可能にするための「快眠照明システム」が導入された。

WELL認証は、こうしたウェルビーイングに基づいた「人々の健康や生活の快適さなどに焦点を当てた、建築物や居住区の環境や運用に対する性能評価システム」だ。建物を客観的に評価することにより、不動産価値を数値化できる点と、国際的な評価基準と照らしあわせることができるのが特徴。

(画像提供/G B J)

(画像提供/G B J)

2014年にv1から、2018年からはv2 pilotに移行し、コンセプトの数が10項目になった(画像提供/G B J)。現在は、v2、WELL Community、WELL Portfolio、WELL Health-Safety Rating(HSR)の4種類で登録が可能。また今年、住宅を対象にしたWELL Homes Advisoryが立ち上がったばかり

2014年にv1から、2018年からはv2 pilotに移行し、コンセプトの数が10項目になった(画像提供/G B J)。現在は、v2、WELL Community、WELL Portfolio、WELL Health-Safety Rating(HSR)の4種類で登録が可能。また今年、住宅を対象にしたWELL Homes Advisoryが立ち上がったばかり

沢田さん曰く「2014年にアメリカで誕生してから評価基準もどんどんアップデートされており、現在は『空気、水、栄養、光、運動、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティ』という10項目に。特筆すべきは、WELL認証は建物の設備的な点だけではなく、建物をどのように運用するかや、どのようなプログラムを導入するかが、認証を取る際の評価の重要なポイントになっている点です」
さらに、世界的に認証取得件数も2017年の635件から2021年6月に2万5253件に増え、注目度も上がっていることがうかがえると話す。
ではWELL認証の建物で生活すると、どんなメリットがあるのだろうか? この認証では、人生の90%を室内で生活していると言われている現代人が、健康に生活するためのスタンダードをつくることで、肉体的にも、精神的にも健康に、豊かに生活できる環境を整えようとしているものだ。例えば、建物の空気質環境が良ければ、気管支炎やぜん息に罹るリスクは減るといったことなど。
現在日本では、WELL認証を導入した建物の多くはオフィスビルで、住まいへの本格導入はこれからといったところのようだ。そんななか、オランダで世界発となるWELL認証を取得した既存建築物を利用した賃貸マンションが2018年に登場しているという。

「はじめは『健康的な建物?ジムでもつくるのか?』と笑われた」

その物件は、オランダ・アーネム市にあるマンション「Aan de Rijn(アン・デ・ライン)」。

名称通り、ライン川沿いに7階建てと9階建ての2棟が並ぶ複合マンション(写真提供/Vesteda)

名称通り、ライン川沿いに7階建てと9階建ての2棟が並ぶ複合マンション(写真提供/Vesteda)

物件オーナーはオランダの不動産管理会社Vesteda(ヴェステダ)だ。そこのサステナビリティ責任者ステファン・デ・ビーさんはこう話す。

「実はVestedaがオーナーになった時点では、既存の住民からは“健康的な建物”に対する需要はなかったんです。ですが私たちは、住まいは『サステナブル』で『幸せをもたらすもの』であるべきだという信念があり、それにもとづいて、この物件も改善することにしたんです。となると、既存の住民にもそれを理解してもらわないといけない。そこで私たち自身が学ぶ場を得ると同時に、住民にも認識をうながす手段として、『WELL認証を取得すること』を思いついたのです」

その時点で、すでにマンション94室はほぼ満室。取得を決めてから最初に行ったのは、住民たちとのコミュニケーションだった。

「ある住民に『建物の健康度を測る認証をオランダのマンションで初めて取得する』という話をしたら、“ジムでもつくるつもりなのか?”と聞かれました」と笑うデ・ビーさん。

通称「緑のエントランス」と呼ばれているマンションの1F玄関部分©(写真提供/Vesteda)

通称「緑のエントランス」と呼ばれているマンションの1F玄関部分©(写真提供/Vesteda)

「居住空間の“禁煙”」に反対の声も……どう住民たちの理解を得たのか

認証取得のためのリフォームにも住民たちに積極的に関わってもらうことで、「コミュニケーション頻度が増えるなど距離が縮まり、理解を得ることができた」という。例えば、エントランスを改装する際には、デザインを住民に選んでもらった。

なかでも最も苦労したのは、評価基準の「空気」の項目。建物すべてがWELL認証を得るためには、共有部分だけでなく居住空間でも“禁煙”を徹底しなければならない。オランダでは、タバコが吸えない賃貸住宅ビルはそれまで存在しておらず、もちろん当初は反対する人も多かったという。

しかし、繰り返し「清浄な空気の大切さ」を訴えたこと、入居済みの住民に対してはこの条件が適応されないこともあって、徐々に賛同者を増やしていくことができたそうだ。(ただし、既存住民に対しては禁止ではないものの、禁煙が推奨されている)

「アン・デ・ライン」は、85平米/100平米の広さ、2LDKまたは3LDKの2種類の部屋がある。家賃は月に950ユーロ(12万円)前後(写真提供/Vesteda)

「アン・デ・ライン」は、85平米/100平米の広さ、2LDKまたは3LDKの2種類の部屋がある。家賃は月に950ユーロ(12万円)前後(写真提供/Vesteda)

ちなみにこの物件では、特別な浄化装置によってろ過される飲料水が蛇口から飲める(写真提供/Vesteda)

ちなみにこの物件では、特別な浄化装置によってろ過される飲料水が蛇口から飲める(写真提供/Vesteda)

新規の住民に対しては、「ペット不可」と同様の法的プロセスをとることで、入居時に“禁煙”の建物だと伝え、あらかじめ理解を得られるようにする。さらに、自治体にも協力を仰いで建物から半径20m以内の地域を「禁煙区域」と指定してもらうことで周辺の環境基準も整えた。

また建物全体に微粒子フィルターを備えた換気システム(熱回収機能付き)が設置されているほか、その日の外気の状態(空気の汚れ度)に応じて窓を開けるべきか/エアコンを使うべきかのアドバイスを、エントランスに設置されたタブレットや各住民のアプリを通じてチェックできるといった工夫もされている。

WELL認証のための改修費用などはどうした?

厳しいWELL認証の項目をクリアするためにリフォームを行うなど、当然、費用もかかったに違いない。一体どうやってまかなったのだろうか。

「WELL認証の改修費用は、物件の価値を上げるための投資として弊社が負担していますが、WELL認証導入後の管理費は、1戸に対して年間数ユーロだけです。管理費自体は増加しましたが、それは清掃費の分だけ。それ以外のメンテナンス関連の費用は、初期投資だけで運営費をゼロに抑える仕組みをつくりました」(デ・ビーさん)

その方法は、多くのサプライヤーにVestedaのアイデアに賛同してもらい、導入費用の割引や、パートナーシップの契約に協力を仰ぐというものだ。

例えば、施設の清掃の課題として、マンション内の植物の水やりがあった。植物が枯れないように、パートナー企業の支援で1カ月分の水を貯水できるタンクを設置した。タンクに水を入れるのは1カ月に1度だけで、必要な量についても自動的に判断し、給水される仕組みだ。そのため、清掃員は追加作業をする必要はなく、運営費もほとんど追加されていない。

定期的な水やりが心配されていたエントランスの植物(写真提供/Vesteda)

定期的な水やりが心配されていたエントランスの植物(写真提供/Vesteda)

また、前述の「換気システム」は半年に1回のフィルター交換が必要だが、メーカーに交渉し、定期的にフィルターを提供してもらう代わりにその効果を測定し、そのデータのフィードバックを行うことにした。

パートナー企業らも、革新的なプロジェクトに参画することで製品の良さを宣伝できるうえ、顧客からのフィードバックを得られるということで、プロジェクトへの参加に積極的だという。

パートナー企業等からの協力があったとはいえ、始動から3年、これらの一連の投資に見合う価値はあったのだろうか?

その問いに対し、デ・ビーさんは「間違いなくY E Sです。実際に住んでみるとその良さが分かるはず」と話す。

とはいえ、現在もWELL認証を取得しているかどうかは物件価値につながっておらず、賃料を設定するときのプラス材料とすることはできない。だが、「アン・デ・ライン」の住民たちからの評価は上々だ。「将来的にWELL認証の物件は、もっと価値が上がるのではないかと考えています」とデ・ビーさんは胸を張る。

左からRonald Papingさん(Arnhem市の市会議員)、“WELLマーク”を抱えるVestedaのCEOゲルトヤン・ヴァン・デル・バァンさん、Dick Vinkさん(BBI)、Ann-Marie Aguilar(IWBI)、Alexandra Boot(BBI)(写真提供/Vesteda)

左からRonald Papingさん(Arnhem市の市会議員)、“WELLマーク”を抱えるVestedaのCEOゲルトヤン・ヴァン・デル・バァンさん、Dick Vinkさん(BBI)、Ann-Marie Aguilar(IWBI)、Alexandra Boot(BBI)(写真提供/Vesteda)

GBJの沢田さんいわく、日本でのWELL認証の本格導入にはもう少し時間がかかりそう、とのこと。

「資料が英語で書かれ、審査書類の準備も英語で行わなければいけない。こうした言語のハードルの高さと、WELL認証を継続的に持ち続けるための運用コストの償却方法が、日本での普及の課題になっているんです」(沢田さん)

現時点で日本国内のWELL認証取得済みの建物は、オフィスや寮のみで、一般住宅はない。
とはいえ一方で、国内の認証制度である「CASBEE」でも、サステナビリティや健康に照準を当てた基準ができつつあるという。

オランダの賃貸マンションの事例では、サステナブルな住まいに対して、多くの企業が積極的に参画していただけでなく、自治体や行政も協力的だった。また、賃貸オーナーが自ら「テナントの生活環境と活力の向上に積極的に貢献する」という発想が、今後、日本でも芽生える可能性はあるのだろうか。関係する多くの協力が必要なものだけに、これからの日本での浸透に注目していきたい。

●取材協力
・一般社団法人グリーンビルディングジャパン(GBJ)
・Vesteda

「3Dプリンターの家」2021年最新事情! ついにオランダで賃貸スタート、日本も実用化が進む

以前、3Dプリンターの家づくりが進んでいるという記事をご紹介した。あれから2年。今年4月にオランダで世界初の3Dプリンターハウスの賃貸住宅が登場し、入居者が決まったというニュースが飛び込んできた。手掛けたのはオランダの不動産管理会社Vesteda(ヴェステダ)で、94平米、2LDKの平屋の家賃は、月800ユーロ(約10万円)から。
ほかにも、米国では3Dプリンターで建設した建売住宅が登場したり、コミュニティ(複数戸の住宅から成る小さな共同体)が続々と登場したりしているという。Vestedaの担当者と、この分野に詳しい建設ITジャーナリストの家入龍太さんにも3Dプリンターハウスの最新事情を聞いた。

目指すは3Dプリンターのコミュニティ! オランダの英知を集めた共同プロジェクト

オランダといえば、3Dプリンター先進国のひとつ。前回は政府が積極的に3Dプリンター技術を採用しようと資金面の補助を行い、橋づくりが盛んに行われていることに触れた。
今回ご紹介する3Dプリンターの賃貸住宅を手掛けた不動産管理会社Vestedaは、公的資金である年金貯蓄や保険料を、サステナブル(持続可能)なオランダの住宅用不動産に投資している民間企業。

SUUMOジャーナルの取材にオランダから応じてくれたVesteda社のステファン・デ・ビーさん(撮影/寺町幸枝)

SUUMOジャーナルの取材にオランダから応じてくれたVesteda社のステファン・デ・ビーさん(撮影/寺町幸枝)

「オランダの先進技術で、サステナブルで、手ごろに提供できる住宅環境を世界に提案していきたいと考えています。私たちが目指すのは、最新技術により、廃棄物を減らし、より手ごろな価格の住宅を実現することです。その住宅の完成形として、全5戸から成る3Dプリンターハウスのコミュニティづくりをつくることにしました。今回完成したのは記念すべき第1戸目です。この『プロジェクト・マイルストーン』では、自治体や大学、民間企業などと連携して取り組んでいきます」と話すのは、この共同イノベーションプロジェクトの旗振り役である、同社のサステナビリティ担当者のステファン・デ・ビーさん。

プロジェクトメンバーは、今回の3Dプリンターハウスが建てられたMunicipality of Eindhoven(アイントホーフェン市)、先端技術を研究するEindhoven University of Technology(アイントホーフェン工科大学)、建設会社のVan Wijnen(ヴァンウィーネン)、材料会社のSaint-Gobain Weber Beamix(サンゴバン・ウェーバー・ビーミックス)、エンジニアリング会社のWitteveen + Bos(ウィットヴェーン+ボス)。

3Dプリンターハウスは多くのSDGsの可能性を秘めている

今回完成した1戸目は、全てのパーツを工場でつくり、建築現場で組み立て作業を行った。しかし今後は少しずつ「オンサイト(現場)」での作業へシフトし、最終的な5戸目の家は、必要な機材を持ち込み、パーツの作成から組み立てまですべての工程を“現場で”建てる予定だという。

未来を感じさせる3Dプリンターハウスのフォルム。今回完成した住宅は94平米、2LDKの平屋で、月800ユーロ(約10万円)から(画像提供/Vestas、写真撮影/Bart van Overbeeke Fotografie)

未来を感じさせる3Dプリンターハウスのフォルム。今回完成した住宅は94平米、2LDKの平屋で、月800ユーロ(約10万円)から(画像提供/Vestas、写真撮影/Bart van Overbeeke Fotografie)

「3Dプリンターを使って家のパーツをつくるためにかかる時間は、合計で120時間(5日間)ほどです。3Dプリンターハウスの魅力は、曲線を描けるなどのデザイン面での<自由度>と、材料の無駄が出にくいことです。サステナビリティを追求した住宅として、3Dプリンターハウスにはたくさんの新しい可能性が秘められています」(デ・ビーさん)

さらに今回使用されたセメントは、3Dプリンターハウスのために特別に開発されたもので、従来のセメントよりもCO2排出量を削減することができるという。

建築基準が厳しい“オランダクオリティ”、海外輸出も視野

たった5日ほどの建築期間だが、耐久面や快適性、機能性はどうなのだろうか。
「オランダの建築基準は世界的に見ても非常に厳しい。この3Dプリンターハウスも、もちろん全ての基準を満たしています」とデ・ビーさん。

たった5日でできあがったとは思えないほど美しい仕上がり。オランダの厳しい建築基準もクリアしている(画像提供/Vestas、写真撮影/Bart van Overbeeke Fotografie)

たった5日でできあがったとは思えないほど美しい仕上がり。オランダの厳しい建築基準もクリアしている(画像提供/Vestas、写真撮影/Bart van Overbeeke Fotografie)

今回完成した家は、今年8月から賃貸住宅として6カ月間の試住が始まる。一般公募から選ばれたのはリタイアしたカップルで、一戸建てやマンションなどいろんなタイプの住宅に住んできた経験をふまえ、住み心地のフィードバックが期待されている。その結果を、今後の3Dプリンターハウスに反映していくとのことだ。ちなみに4月下旬にすでに渡されているカギは“アプリ”だという。

来年5月までに2戸、2025年までに全5戸の建築を目指す。2戸目は2階建てになる予定。今後、さらに価格を抑えるための素材や技術の研究が続けられ、プロジェクトを通して確立された技術とノウハウは、オランダ国内だけでなく、特に住環境の厳しい日本やシンガポールといった海外への輸出も視野に入れているそうだ。

基礎工事を行ったあと、あらかじめ作成したいくつかのパーツを現場に持ち込んで3Dプリンターで溶接するように接合し、家をつくりあげていく。5日間で本体工事まで終了。あとは電気工事や内装工事などを加えれば、すぐに住むことができる

日本でもコロナ禍で実用化が加速

一方、建設ITジャーナリストの家入龍太さんによれば、日本でも3Dプリンターを利用した建築物の実用例が続々と登場しているという。

例えば、北海道札幌市では市の基準に沿って建設された公共トイレが、オランダ製の大型3Dプリンターを用いてつくられた。またインド輸出用として3Dプリンターならではの曲線美を利用した「ハイテク型トイレ」の生産も進んでいるという。

家入さんは、「コロナ禍で、ますます3Dプリンターのニーズが高まり、導入が進むだろう」と話す(写真提供/株式会社建設ITワールド)

家入さんは、「コロナ禍で、ますます3Dプリンターのニーズが高まり、導入が進むだろう」と話す(写真提供/株式会社建設ITワールド)

さらに、ゼネコン各社は本格的に建造物への3Dプリンター製のパーツの導入を進めている。清水建設が都内の「(仮称)豊洲六丁目4-2・3街区プロジェクト」で使用した埋設型の枠はその一例だ。家入さんは「建築業界では、より人手不足が厳しくなるうえ、このコロナ禍で“3密を避ける”必要が出てきました。そのため、現場作業のテレワーク化や、機械による部品生産というイノベーションが進んでいるのです」と話す。

3Dプリンターをオートメーション部品として組み合わせた工場用のロボットの導入も進んでいる。例えば、溶接アームにコンクリートノズルをつけるだけで、3Dプリンター機能を持つロボが完成するのだ。「(設備投資の面で)導入しやすい価格のものが出てきたうえ、質も担保できる製品がつくれるようになった」と家入さん。日本の建築業界における3Dプリンター研究もいよいよ加速度を増し、実用化はさらに進みそうだ。

また、日本で始めての国内の住宅基準を満たした3Dプリンター製の住宅づくりに取り組む企業も登場している。2021年12月には日本初の3Dプリンター住宅が完成する計画で、2022年には30坪300万円で2階建ての住宅デザインも既に意匠出願済とのこと。

セレンディクスパートナーズ株式会社が、兵庫県を拠点に3Dプリンターで30坪300万円の住宅をつくる「Sphere(スフィア)プロジェクト」が2019年12月からスタート(写真/セレンディクスパートナーズ © Clouds Architecture Office)

セレンディクスパートナーズ株式会社が、兵庫県を拠点に3Dプリンターで30坪300万円の住宅をつくる「Sphere(スフィア)プロジェクト」が2019年12月からスタート(写真/セレンディクスパートナーズ © Clouds Architecture Office)

「私たちは住み心地の良い家を追求しています。それを3Dプリンターでつくっただけ」というデ・ビーさんの言葉が印象に残っている。

特に災害の多い日本では、現状では3Dプリンターの家に対して耐久面や機能面を不安視する声も少なくない。しかし、それらを担保できるだけの技術が進歩した暁には、「住み心地さ」や「自分らしい暮らしのデザインができる」家として、3Dプリンターハウスが積極的に選ばれていく時代が訪れるかもしれない。

3Dプリンターハウスの未来への期待は増すばかりだ。

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●取材協力
・Vesteda 
・セレンディクスパートナーズ

建築ITジャーナリスト・家入龍太(いえいり・りゅうた)
BIM/CIMやロボット、AIなどの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。新しいことへのチャレンジを「ほめて伸ばす」のがモットー。公式サイト「建設ITワールド」を中心に積極的に情報発信を行っている。「年中無休・24時間受付」の精神で、建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
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