賃貸の大家、高齢者や外国人などの入居「大変だけどやりがいもある」。トラブル回避や対策はどうしてる?

高齢者やひとり親世帯、外国人など、住宅確保に配慮が必要な人の賃貸物件への入居受け入れ。多くの賃貸物件のオーナーが気になるのは、その実情でしょう。前編「賃貸の大家、”孤独死””勝手に民泊”などへのホンネ。『不安はある』が受け入れる理由『誰でも自由に住む家を選べる社会に』」では受け入れの際の心構えや受け入れを決めるポイント、トラブルについてオーナー3名に話を聞き、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在であるOAG司法書士法人代表の太田垣章子さんの見解も交えながらお届けしました。後編では、トラブルを減らすための工夫や、周辺関係者との連携などの実例について迫っていきます。

参加オーナー:
・Oさん: 40代男性、兼業オーナー。親が所有する木造アパート18室を管理している。
・Kさん: 50代女性、兼業オーナー。相続で先代から管理物件を受け継いだ。RC(鉄筋コンクリート造)2棟、区分所有住戸1件、合計35室を所有 。
・Mさん:50代女性、専業オーナー。木造アパート2棟10室、一戸建て8軒、区分所有住戸2件を所有。
※3名とも、築40年~50年ほどの築古物件を中心に所有。大家の会などに参加し、不動産管理の勉強をしている。

トラブルにはどう対応する? オーナー3名の工夫

――前編では入居に配慮が必要な人を受け入れた後に、経験した問題について伺いました。実際にトラブルが起こらないようにどんな工夫をされていますか?

Oさん 家賃滞納などを防ぐために、家賃保証会社の活用は必須です。私は、平日は地方公務員として仕事をしているため、基本的に入居している方とのやりとりは管理会社を通しています。

――皆さん家賃保証会社の利用がマストなのでしょうか?

Kさん 最近は賃貸借契約全般で連帯保証人をつけないことの方が一般的で、家賃保証会社を利用する傾向にありますね。少子化で親戚も少なくなる中、どなたであっても連帯保証人を確保するのが難しいという事情もあります。

Oさん しかし、家賃保証会社を利用したからといって、それだけでは解決しないことも。先日、排水管清掃を行ったんですが、その際に何年かぶりに入居者全員にあいさつをしたんです。「ご迷惑かけます」と、商品券を持ちながら全員の家に回って。その際に高齢の入居者とも話ができて私も楽しかったし、問題なく暮らしている様子にホッとしました。顔を合わせて話すことでトラブルを未然に防ぐことができるかもしれないと気付き、今後もこのような直接のコミュニケーションを継続する予定です。また、高齢の方が入居される際にはセンサーや監視カメラ、遠隔制御などといったIoT機器の導入も検討したいと考えています。

Mさん すばらしいですね。私は入居者のアンテナ不法設置事件があって以降(前編の記事参照)、自主管理をしている物件は、入居を希望する方と必ず電話面談を行うようになりました。

Mさんは自主管理している物件に入居を希望する人には、必ず電話面談を行うようにしていると言う(画像/PIXTA )

Mさんは自主管理している物件に入居を希望する人には、必ず電話面談を行うようにしていると言う(画像/PIXTA )

Kさん 私は本来ならば管理会社に入居審査を含めてすべてお任せしているサブリース物件でも、管理会社を通じて入居申込書をしっかり取得し、気になることがあれば「これまではどんなところに住んでいたのか」や「連絡を取れる人がいるか」などを尋ねることもあります。申込書の内容だけだと、入居者の個別事情を把握できず、家賃を払い続けられるのかどうかや万一のときにどうすればいいかなど、わからないことが多いからです。入居する方が今後、困りごとや悩みごとがあった際に、私たちも対応やコミュニケーションが取れるように、把握しておきたいのです。例えば日本に頼る人が作りにくい外国籍の方にはお勤めの企業を伺うことも。ちゃんと生計が立てられるかどうかという点がポイントで、国籍は関係ありません。また居住登録した人以外に住まれないよう、入居時に禁止事項についての条件確認をして書面に署名をもらうようにしています。

不動産会社や行政のサポートは期待できる?

――みなさん、自主的にトラブルを未然に防ぐ対策を講じていますね。

Mさん 入居者から「聞いていません」「知りませんでした」と言われないように、オーナーがあらためてきちんと入居条件を話すようにしています。

――仲介会社や管理会社、保証会社などは、居住配慮者に対するサポートや説明などはしないものですか?

Mさん 不動産会社さんがきちんと説明できているか、私たちは案内の現場に居合わせるわけではないのでなかなか把握できませんが、事細かな説明はしていないこともあると感じます。

不動産会社も知識をもち、丁寧にコミュケーションを取ることが理想 (画像/PIXTA)

不動産会社も知識をもち、丁寧にコミュケーションを取ることが理想 (画像/PIXTA)

Kさん 仲介会社の担当者がもっと知識を持っていてくれたら……と思うことはありますね。例えば、入居申込の際に、入居希望者の事情や個別性に合わせて賃貸物件の案内ができていれば、オーナーと入居希望者のミスマッチが起きないと思うからです。入居者への資金的なサポート面については、行政の補助金申請等は、オーナーが行うものではなく、本人の申請が必要なのです。私たちは情報の提供ができても、本人が申請しないと始まらないため、それ以上のことができないことも多いです。

Oさん Kさんのおっしゃる通り、本人の了承を得ずに行政への補助金申請をできない。だから制度があっても活用しきれていないのが実情だと感じます。

行政のちょっとした介入など、社会の仕組みとして整備されれば

――こうした悩みはどうすれば解決できるものなのでしょうか。

Kさん オーナーだけで解決するのは限界があるため、行政ももう少しおせっかいな交流ができるようになるといいなと思いますよね。例えば「最近はどうですか。元気ですか」「何か困っていることはないですか」という声がけなど、小さなことでもいいんです。役所の方、地域包括支援センターの方がほんのひと手間かけてくれるだけでも違う気はします。

Oさん 昨今確立している生活困窮者自立支援制度というのがあり、これは金銭的な困窮だけではなく、社会との繋がりに困窮している人をサポートをしています。例えば大人のひきこもりの対応などです。実は8年ほど前からこうした制度もスタートしているんです。この制度では、本人の申し込みにより自立支援を開始する仕組みだけではなく、その人に関わる機関(介護事業所や支援団体など)の情報から支援につながっていない人を早期に発見し、支援方法を関係者みんなで検討していく仕組みもあります。支援が必要な人の孤立を防ぐためにも、こうした制度がもっと広まっていけばいいなと思っています。

Mさん 一般の人が、この情報や制度になかなかたどり着けないことが問題。「いいことやってるのに」と感じる制度があっても、情報が水面下に埋もれてしまっていますよね。

――一方、オーナーができることとして、どのようなことがありますか。

Mさん 他オーナーと情報交換したり、横のつながりを得るためにも現役オーナーやオーナーになりたい人が集まり、勉強会や情報交換をするオーナー会に参加しています。自分と同じような経験をしたオーナーが必ずいて、解決策や誰かが既にやっているとわかったら不安じゃなくなるからです。

Oさん 都道府県や市区町村で設置している「居住支援協議会」や「居住支援法人」などが、オーナー向けに行うセミナーなども増えているように感じます。そういったセミナーで情報を得るのも一つだと思います。また少し大変ではありますが、オーナー自らが入居者や管理会社、そのほかの支援者などと積極的に連携して解決方法を探していくことも、結果的に問題を最小限にとどめることにつながるように思っています。

「小さな声がけでもいいから、周囲がおせっかいをしていければ」とOさんたちは語る(イラスト/アンドウカヲリ)

「小さな声がけでもいいから、周囲がおせっかいをしていければ」とOさんたちは語る(イラスト/アンドウカヲリ)

居住配慮が必要な人の受け入れは過渡期。これから日の目を見ていく

――今後、賃貸物件のオーナーが物件を貸しに出す際、住宅確保に配慮が必要な人を受け入れることは増えていくのでしょうか。

Oさん 今は賃貸オーナーの中で、住宅確保に配慮が必要な人を受け入れる人はマイノリティなのかもしれません。しかし空室も増えている中で、これからはもっと幅広く入居を受け入れていくオーナーは増えていくと思います。今が過渡期なのかもしれません。

Mさん そのためにも、オーナーはトラブルが起こらないシステムを構築していくことが必要です。例えば先に述べた入居者の家族との連絡体制などがそうですね。トラブルが起きた時に相談できるところがあることも知っておきたいところです。

Kさん 地域包括ケアシステム(高齢者などが住み慣れた地域で医療・介護・福祉などのさまざまな支援を受けられるよう地域の人たちが助け合う体制)とつながることや、賃貸借契約書の整備も必要です。入居に配慮が必要な人向けの特記事項や条文を記載した契約書の雛形を作成するなどして、受け入れのために整備していきたいところ。そうすることで、もっと多くのオーナーさんが住宅確保要配慮者を受け入れやすくなるのではと感じます。

あらかじめ起こりうることを想定して入居者との約束事を契約条文に記せば、トラブルになりにくい(画像/PIXTA )

あらかじめ起こりうることを想定して入居者との約束事を契約条文に記せば、トラブルになりにくい(画像/PIXTA )

居住配慮者の受け入れの背景として、複合的な問題がある

このように賃貸オーナー3名から、これから入居に困難を抱える人たちの受け入れを考えるオーナーにとって貴重な実体験やトラブル回避のための方策を聞いてきましたが、賃貸トラブルの専門家であるOAG司法書士法人代表の太田垣章子さんは、どのように考えているのでしょうか。

司法書士で、OAG司法書士法人代表でもある太田垣さんは、とくに高齢者の入居問題について法整備の必要性を訴え続けている(画像提供/OAG司法書士法人)

司法書士で、OAG司法書士法人代表でもある太田垣さんは、とくに高齢者の入居問題について法整備の必要性を訴え続けている(画像提供/OAG司法書士法人)

太田垣さんは入居に配慮が必要な人の受け入れは「一つの問題ではなく、複合的な問題である」と話します。
「昔の居住トラブルはシンプルで、『家賃滞納』が主だった。しかし時を経て、入居トラブルの質が変わっている」と感じているそうです。また以前は、高齢者は子世帯と住むことが多く、賃貸物件を借りるということも少なかったそうです。しかし、核家族化・単身世帯の増加などで高齢者をはじめとした住宅確保に配慮を必要とする人たちが、自ら住宅を借りることが増えています。

太田垣さんは「賃貸物件のあるエリアで地域の人と繋がっていき、まちを活性化させていけばトラブルが減る」と提唱します。「地域が良くなれば、同じ価値観を共有できる気持ちの良い人たちがまちに暮らし、オーナーさんが所有する物件にもそのような入居者が集まります。住宅の確保に配慮が必要な人たちをまち全体で見守っていけば、もっと安心感が高まるのではないでしょうか」(太田垣さん)

少子高齢化、核家族化の影響を受けて、住宅確保に配慮が必要な人たちと周辺の関係者とのつながりが希薄になっています。一方、賃貸オーナーも管理サービスの多様化により直接管理をしなくてもよく、便利になった分、入居者とのつながりが希薄になってきているようです。

「トラブルは顔が見えないから起こるもの。顔を見て言葉を交わせば、きっと想像以上に未然に防げるもの」と太田垣さんは言います。ですが、オーナー一人で頑張る必要はありません。管理会社や居住支援法人はもちろん、近隣のオーナーや地域住民、地域コミュニティとしっかりつながり、まちぐるみで「お節介」をしていければ入居に配慮が必要な人もそうでない人も、みんなが安心して暮らせるのではないでしょうか。

●取材協力
OAG司法書士法人 代表 太田垣章子さん

賃貸の大家、”孤独死””勝手に民泊”などへのホンネ。「不安はある」が受け入れる理由「誰でも自由に住む家を選べる社会に」

賃貸住宅のオーナー(大家)は所有物件の空室を避けるために、空室があればできる限り入居の希望を受け入れたいと考えるものです。一方で、高齢者やひとり親世帯、外国人などの入居に対しては、「トラブルは起きないか」「突然連絡が取れなくならないか」など、受け入れに悩むオーナーがいるのも事実。今回は、これらの入居に配慮が必要な人たちを受け入れているオーナー3人に実情を赤裸々に語っていただきました。どのようにして受け入れの不安を軽減したのか、また実際にトラブルは起きていないのでしょうか。
賃貸トラブル解決のパイオニア的存在であるOAG司法書士法人代表の太田垣章子さんの見解も交えながらお届けします。

参加オーナー:
・Oさん: 40代男性、兼業オーナー。親が所有する木造アパート18室を管理している。
・Kさん: 50代女性、兼業オーナー。相続で先代から管理物件を受け継いだ。RC(鉄筋コンクリート造)2棟、区分所有住戸1件、合計35室を所有 。
・Mさん:50代女性、兼業オーナー。木造アパート2棟10室、一戸建て8軒、区分所有住戸2件を所有。
※3名とも、築40年~50年ほどの築古物件を中心に所有。大家の会などに参加し、不動産管理の勉強をしている。

住宅確保要配慮者が増加するも、理解と仕組みが追いつかない

社会や価値観の多様化によって、単身者、高齢者、ひとり親家庭と家族の形態も多様化し、その数は年々増えています。また障がいがある人やLGBTQ、外国籍の人などの存在や、住まい探しが難しい状況について、世間で少しずつ認知されてきているようです。それぞれが抱える事情や生活、住環境に関する困りごと、悩みごとは幅広く、必要なサポートも異なります。

一方のオーナーは、事情がよくわからない、あるいは居住に配慮が必要な人への知識が不足しているために、漠然とした不安を抱えて、受け入れに躊躇している人もいるようです。また、入居後の家賃支払いが継続できるかどうかや、入居後の有事があった際に連絡が取れるかなどといった連絡体制の課題も。国土交通省が実施した「2021年度(令和3年度)家賃債務保証業者の登録制度に関する実態調査」によると、住宅の確保に配慮が必要な入居者に対し、多くのオーナーが受け入れに不安を感じていることがわかります。

住宅確保要配慮者に対する賃貸人の入居制限の状況

住宅確保要配慮者はさまざまな事情の方がいるが、どの事情の人に対しても一定の不安を感じている様子(資料/国土交通省)

とはいえ近年、家族形態や暮らし、価値観などは多様化し、もちろん住環境、つまり賃貸する際にも多様性が求められています。オーナーも居住に配慮が必要な人の事情や実態を知って、受け入れについて考えていく必要があるでしょう。
では、実際に入居に配慮が必要な人たちを受け入れているオーナー3人に話を聞いていきましょう。

高齢者や外国人など、配慮が必要な人たちの受け入れの実態はいかに

――はじめに、入居に配慮が必要な方のうち、現在どのような方を受け入れているのか、教えてください。

Oさん 私の物件には高齢者と外国籍の方、生活保護受給者やシングルマザーなどがいらっしゃいます。

Kさん 私は高齢者と外国籍の方ですね。過去にはLGBTQの方がお一人で入居されていたこともありました。

Mさん 私はシングルマザーです。少し前には生活保護を受給している方もいました。

賃貸オーナー3名はいずれも別の仕事を本業としながら「兼業」で賃貸物件を所有している (イラスト/アンドウカヲリ)

賃貸オーナー3名はいずれも別の仕事を本業としながら「兼業」で賃貸物件を所有している (イラスト/アンドウカヲリ)

――みなさん多様な方を受け入れていますね。配慮が必要な方を受け入れる際には不安はありませんでしたか?

Oさん 最初は不安はありましたね。

Kさん 私もありました。ですが入居に配慮が必要な方々、特に高齢者は一人暮らしになればなるほど新たな情報を確保するネットワークや媒体との接点が減り、「情報弱者」になりがちなので、主に情報提供の面でケアをしたかったのです。所有する物件が全て自主管理(管理会社などに管理を委託せず、オーナー自身が直接管理すること)だからケアができるのだとは思います。とはいえ、中にはオーナーとそんなに関わりたくないと思う入居者もいるので、コミュニケーションの距離感をつかむのが難しいです。

Mさん 私も不安はありましたが、配慮が必要な人を「住宅確保要配慮者」とくくって入居制限をするようなことはしたくなかったのです。誰でも自由に住む家を選べるようにしたかった。私は不動産の専門知識はないのですが、入居者の話を聞くことはできます。しっかり対話をしてから入居していただいており、物件は自分の目が届く自主管理物件に限定しています。

オーナーが受け入れを決めたポイントは?

――Mさんは入居希望者と対話をして、入居決定をしているという話でした。皆さんは配慮が必要な人を受け入れる際に、どんな点を判断材料にしていますか?

Kさん 私の場合、緊急連絡先になる親族がいるかどうかで判断しています。一番心配なのは、何かあった際にすぐに連絡を取ることができるかどうかなのです。契約の前にそのルートを確保しておくことが大切です。

入居に配慮が必要な人が一人暮らしをする場合、連絡が取れるように見守りやコミュニケーションが必要(イラスト/アンドウカヲリ)

入居に配慮が必要な人が一人暮らしをする場合、連絡が取れるように見守りやコミュニケーションが必要(イラスト/アンドウカヲリ)

――親族がいない場合はどうするのでしょうか?

Kさん 親族がいない場合は、判断能力がなくなった時のためにあらかじめ代理人と委任契約しておく「任意後見制度」を活用し、きちんと連絡先を確保することができれば有効です。
また、入居後も何か起こった際に代理人のほかにもケースワーカーさんやヘルパーさんなど関係者の誰に連絡をするべきか決めておきたい。複数の連絡先を確認した上で、順位付けしたリストをつくっておくとよいかもしれません。

Oさん 私は高齢の方の入居を検討する際、近所に娘さんが住んでいて連絡が取れることが分かったため、入居していただくことにしました。またヘルパーさんが週2回来訪していること、デイサービスも利用しているという話を聞き、日常的に介護や見守りをされていることが確認できた点も決め手になりましたね。Kさんの意見には同意で、高齢者を受け入れるとなると、やっぱり緊急時に連絡ができる体制や、見守りサービスの導入など、仕組みづくりが必要かなと思います。

Mさん 私は入居後にトラブルがあることが一番困るなと思っています。実際にトラブルに遭ったこともありまして……(トラブルの詳細は後述)。それ以降は、必ず入居前に電話面談をして判断をしています。

孤独死や精神疾患、10本以上の無断アンテナ設置に汚物投棄……「実際、トラブルもある」

――Mさんからトラブルのお話がありましたが、実際にみなさん、トラブルの経験はあるのでしょうか。どんなケースがありましたか?

Mさん 最もインパクトがあったのは、約6年間入居されていた方とのトラブルです。コミュニケーションを十分とることが出来なくて、問題が発覚したのは、隣の所有戸建ての屋根工事をオーナー負担にて実施した際です。工事に入ったリフォーム会社の人が「家の上に塔が立っています」と。なんと知らない大きなアンテナと数本のアンテナが立っていたのです。どうやら趣味のアマチュア無線をやるために勝手につけたようで……。工事担当者から「このままだと屋根が浮いて雨漏りしますよ」と言われ、入居者にアンテナを下ろすようお願いしたのですが、「入居の時から雨漏りしている」「アンテナは下ろしたくない」と抵抗にあい、話が進まなくて困りました。結局、司法書士さんに相談して交渉してもらい、アンテナを撤去することができました。

――KさんとOさんはどんなトラブルがありましたか。

Kさん 外国籍の方が、貸室で民泊事業をしているかもしれないと疑われるケースがありました。防災点検の際に部屋の中に立ち入ると、一人暮らしなのにベッドが4つもあったんです。これはおかしいなと思い……。別の機会に部屋をのぞいた際にも、まるで宴会や合宿のように人がたくさんいたんです。

――それは疑わしいですね。

Kさん でも同室にいる人を「この子、自分の孫なの」と紹介してくださることもあって。決定的に疑えない状況でもありました。それ以来、民泊サイトで自分の物件が掲載されてないかチェックをしています。

民泊を経営してない?と調べてみるけど、本当のところはわからない……(イラスト/アンドウカヲリ)

民泊を経営してない?と調べてみるけど、本当のところはわからない……(イラスト/アンドウカヲリ)

他にも70代の入居者が精神疾患になり、連絡が取れなくなったこともありました。ある日、「いよいよこれは生命の危機があるかもしれない」と判断して、警察の立会いのもとに部屋に入ったんです。すると実は部屋の中にいたようで。「警察なんか嫌いなんだ」と叫ぶばかりで、話し合いもできないし、退去も促せないしで、大変困りました。

また共同ベランダに、ある時汚物が投棄されていることが発見されたこともあります。誰かの嫌がらせかもしれないと思って、警察を呼んで調べてもらったんです。すると、先の精神疾患のある方が部屋からベランダに向かって汚物を投棄したということがわかりました。共用部の汚れは清掃すれば取れますが、何より物件内に臭いがただよって厳しい環境だし、1階に住む方のベランダに干した洗濯物にも汚物の飛沫が飛ぶしで、他の住民にも迷惑がかかってしまい、とても申し訳ないことをしてしまいましたね。

部屋からベランダに汚物を投棄されて、住民にも迷惑が…… (イラスト/アンドウカヲリ)

部屋からベランダに汚物を投棄されて、住民にも迷惑が…… (イラスト/アンドウカヲリ)

Oさん 私は高齢者の孤独死がありました。幸い死後に入居者の親族と連絡が取れ、撤去や部屋の特殊清掃はできました。このように孤独死にならないようにするためには、抜本的な対策が必要。しかし、どうするべきかと考えあぐねている状況です。その後、この部屋は貸しに出しましたが、また高齢の単身者が入って亡くなってしまったら……と少し躊躇しましたね。

大家さんがもっとも避けたいことの一つに「孤独死」がある(イラスト/アンドウカヲリ)

大家さんがもっとも避けたいことの一つに「孤独死」がある(イラスト/アンドウカヲリ)

大変なこともあるが「やりがい」もある。ただしオーナーの資質は問われる

――お話を聞いていると、何かあった時のオーナーさんの負担が重たく、胆力や対応力が必要だと感じます。

Oさん そうですね。話だけ聞くとそう感じるかもしれません。ですが、実は配慮が必要な方たちが入居する物件の方が手をかけているし、その分やりがいを感じています。人が好きで、コミュニケーションをとることが好きだからかもしれません。

人が好きなオーナーさんだったら、入居に配慮が必要な人の受け入れは向いているのでしょうね。配慮が必要な高齢者や外国籍、障がいのある人、ひとり親の方などは孤独を感じている方も多く、その分、多少のおせっかいをしても、結構受け入れてくれる印象があります。ですから、積極的にコミュニケーションが取れる人は、入居者の方たちとも上手にコミュニケーションが取れると思います。

Mさん 私も正直、高齢者や障がいのある人など、実際に生活のサポートが必要な方もいるためお世話好きな人じゃないと、入居に配慮が必要な人たちへの対応は務まらないと思います。お世話が好きじゃない人は、きっと「私はできない」と思うかもしれません。実は「大家側の資質」が大きいとは思いますね。

トラブルが起きても困らないように 知識をつけて、しっかり交流すること

ここまで賃貸物件のオーナー3名から居住配慮者の受け入れ実情を聞いてきましたが、専門家はどのような見解なのでしょうか。賃貸トラブル解決のパイオニア的存在であるOAG司法書士法人代表の太田垣章子さんは、オーナーのみなさんと同じように「家主の資質や努力が問われる」と話します。

一方、単に資質や努力だけで全てが解決できることではありません。社会の多様化により、単身者、高齢者などといったさまざまな世帯、暮らし方が存在するようになりました。私たちにとってまず一番大切なことは、相手の立場を想像すること、理解しようとすることなのかもしれません。そのためにはオーナーは社会背景や事例をインプットしていくことから始めると良いでしょう。

お話を伺った賃貸トラブルの専門家、太田垣章子さん。司法書士で、OAG司法書士法人の代表でもある(画像提供/OAG司法書士法人)

お話を伺った賃貸トラブルの専門家、太田垣章子さん。司法書士で、OAG司法書士法人の代表でもある(画像提供/OAG司法書士法人)

太田垣さん オーナーはただ管理をするだけではなく、住まいの確保に配慮が必要な人を取り巻く法律や対応方法、事例などといった知識をどんどん入れて対応していくことが必要です。オーナーは利益を追求するために不動産を所有しているものだと思いますが、そこには支出をいとわず、お金をちゃんと払ってセミナーや勉強会などで学んで知識を入れていくべきです。あるいは対応実績のあるプロに相談したり、コンサルティングを依頼するという選択も考えると良いかもしれません。

また“住まい”という、人が生活する場所を収益を得て提供する以上、オーナーも現場に行くべきです。なぜなら現場に社会的な問題が隠れているから。「どうして家賃を滞納してるんだろう」「どうしてこの人は連絡が取れないのだろう」といった疑問は現場に行けばすぐにわかります。入居者にあいさつし、様子を見て、相手の状況や立場を想像する。根本的なことですが、こうした行動を欠いてしまう人が多いのです。
私の経験上、オーナーが足繁く通っている物件ではトラブルがほとんどないんです。結局コミュニケーションが「最後の砦」になります。オーナーはそのことを肝に銘じておくべきですね。

少子高齢化に伴い、高齢者、とくに単身高齢者の増加による住まい確保の問題は「孤独死」や「認知症発症時の対応」などとも関係し、深刻な社会問題となっています。また高齢者に限らず全国で住宅の確保に配慮が必要な人たちが増えています。賃貸オーナーとして賃貸物件を所有している以上、こうした配慮が必要な人たちの受け入れは、空室対策の範囲を超えて、検討が必要なテーマとなってくるのではないでしょうか。

もちろんオーナーとしての資質や努力は問われるかもしれません。ですが、入居者とのコミュニケーションなど地道な取り組みだけでなく、見守りの導入、居住支援法人との連携等、仕組みの部分も加えて学んでいくことで、受け入れが増えていってほしいと思います。

●取材協力
OAG司法書士法人 代表 太田垣章子さん