「歩道」がにぎわいの主役に!? 規制緩和が生むウィズコロナ時代の新しい街の風景

コロナ対策として「3 密」の回避が提唱され、商業施設をはじめ、公共交通機関やオフィスでも「ソーシャルディスタンス」を呼びかける掲示や床にラインが引かれるなど、さまざまな対策が採られています。
そして、この影響は街の交通を担う道路や歩道の使い⽅にも新しいアイデアを取り込む変化を与えているようです。

そこで、これまで街の再⽣や道路・歩道の活⽤に取り組んできたワークヴィジョンズの⻄村浩さんに、国内・海外の魅⼒的な事例やこれからの街と暮らしについてお話を聞きました!
ワークヴィジョンズの西村浩さん(右)。佐賀市街地活性化を目指してオープンさせた「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」の前で(写真提供/ワークヴィジョンズ)

ワークヴィジョンズの西村浩さん(右)。佐賀市街地活性化を目指してオープンさせた「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」の前で(写真提供/ワークヴィジョンズ)

全国各地で行われている! 「歩道活⽤」の実験

歩道活用の事例として筆者の記憶に新しいのは、佐賀県の「SAGAナイトテラスチャレンジ」です。2020年5月22日から6月6日の18時半から22時の間、佐賀市街地の屋台骨である中央大通りで、「3密」回避と地域活性化のために店舗の軒先1mほどのスペースにテラス席を設ける社会実験が行われ、全国の注目を集めました。このSAGAナイトテラスチャレンジの企画アドバイスを行った西村さんによると、「ここ2~3年でこのような社会実験が全国で盛んに行われている」と言います。

全国的に注目を浴びた佐賀県の歩道活用の社会実験「SAGAナイトテラスチャレンジ」実施中の風景(写真/唐松奈津子)

全国的に注目を浴びた佐賀県の歩道活用の社会実験「SAGAナイトテラスチャレンジ」実施中の風景(写真/唐松奈津子)

「岡山県岡山市、愛知県岡崎市でも佐賀県同様の1mチャレンジをやってきました。それぞれの街、もっといえば、その通りごとに、場所の魅力を活かした歩道の活用が進んでいます」(西村さん、以下同)

それでは、具体的にはどんなことが行われているのでしょうか? 西村さんに、岡山市や岡崎市の事例についても教えてもらいます。

「岡山県岡山市の県庁通りでは、もともと車道を一方通行2車線から1車線に減らしてその分を歩道に充てたいという市の計画がありました。自治体は道路や施設・設備などの『ハード』を先に整備しがちですが、それよりも『誰がどのように使うのか、使いたいのか』という『ソフト』の方が大切です。そのため、道路を整備する前に社会実験として、これまで2年かけて駐車場の一角にお店を出してみたり、道路の使い方についてのディスカッションをやってみたりしました」

岡山市の駐車場の一角で開催された、歩道の活用を考える「県庁通りデザインミーティング」(写真提供/ワークヴィジョンズ)

岡山市の駐車場の一角で開催された、歩道の活用を考える「県庁通りデザインミーティング」(写真提供/ワークヴィジョンズ)

車1台分のスペースでジュース屋さんも開業(写真提供/ワークヴィジョンズ)

車1台分のスペースでジュース屋さんも開業(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「愛知県岡崎市の連尺通りでは、住宅街のなかにある通りの雰囲気を活かす形で、オープンテラスを実施しました。また、その近くの康生通りでも、地元の人たちがやはり軒先1mのところに水槽をおいたり、おもちゃを出してみたり、遊び心のある風景をつくっています」

閑静な住宅地の中にある連尺通り(左)。1m分のテラス席が出されたことで、にぎやかな雰囲気になった(右)(写真提供/ワークヴィジョンズ)

閑静な住宅地の中にある連尺通り(左)。1m分のテラス席が出されたことで、にぎやかな雰囲気になった(右)(写真提供/ワークヴィジョンズ)

同じく連尺通りの社会実験中の様子。白いビニールテープで貼られた「けんけんぱ」のガイドが行き着く先には、木のおもちゃが待っている、地元住民のアイデア(写真提供/ワークヴィジョンズ)

同じく連尺通りの社会実験中の様子。白いビニールテープで貼られた「けんけんぱ」のガイドが行き着く先には、木のおもちゃが待っている、地元住民のアイデア(写真提供/ワークヴィジョンズ)

岡崎市の連尺通りと平行に走る康生通りでは、雑貨店の店先に並べられた多数のおもちゃで、通りの一角が、明るく、楽しげな印象に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

岡崎市の連尺通りと平行に走る康生通りでは、雑貨店の店先に並べられた多数のおもちゃで、通りの一角が、明るく、楽しげな印象に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「3 密」を避けるために、道路の使⽤規制が緩和された!

このようにここ数年、歩道の活用が全国で進んできた背景の一つとして、道路の活用について、徐々に国の規制緩和が進んできたことがあります。通常、歩道を含む道路を使用するには、管轄の警察署に「道路使用許可」、道路管理者に「道路占用許可」をとる必要があります。

ところが近年、イベント等で道路を活用したいというニーズが高まり、2005年に地域の活性化やにぎわい創出のため、道路管理者の「弾力的な措置」、つまり許可に融通を効かせるよう国土交通省から通知が出されました。さらに通常、地域の団体や民間企業が道路を使用する場合はその許可申請と一緒に「占用料」を払う必要がありますが、地方自治体が一括して申請することで占用料は不要になりました。

今回、その国交省が新型コロナウイルスの影響による社会ニーズを反映する形で、6月5日にさらに規制緩和を行ったのです。つまり「3密(密閉空間、密集場所、密接場面)」を避けるための暫定的な営業において、地域の清掃に協力するなど一定の条件を満たせば、地方公共団体だけではなく、地元関係者の協議会や地方公共団体が支援する民間団体なども道路の占用料が免除されることに。これにより、テイクアウト販売やテラス席設置のための道路使用・道路占用の許可が受けやすくなりました。

2020年6月5日に国土交通省から通知された、道路占用の許可基準緩和についての内容。イメージ画像に「SAGAナイトテラスチャレンジ」の画像が使用されている(資料/国土交通省)

2020年6月5日に国土交通省から通知された、道路占用の許可基準緩和についての内容。イメージ画像に「SAGAナイトテラスチャレンジ」の画像が使用されている(資料/国土交通省)

先に紹介した佐賀県や岡山市、岡崎市の事例は、国の通知を待つことなく自治体独自で展開した例ですが、今回の国交省の通知によって全国でいっそう、このような取り組みが進みそうです!

海外の街の「なんだかステキ!」も歩道がカギを握る

これまで西村さんが街の再生を考えるときには、海外の事例なども参考にしてきたそうです。

「欧米の人たちは外での過ごし方がすごく上手ですよね。特に北欧の国などでは日照時間が短いために、外で過ごすことへの願望が強いらしく、天気のいい日は出来る限り日光の当たる場所にいたいといいます。

写真はオランダのユトレヒトの街の風景ですが、人々がテラスで食事を楽しむ風景は、欧米のいたるところで見ることができます。ポイントは、実はテラス席のテーブルや椅子が出ているスペースだけ歩道のパターンが違っていることです。歩道の活用を前提にした街区の設計が意図的に行われることを示すものだと思います」

オランダ・ユトレヒトのカフェの風景。テラス席はパターンの違う石畳の中にきっちり収まっており、歩行者を妨げない形に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

オランダ・ユトレヒトのカフェの風景。テラス席はパターンの違う石畳の中にきっちり収まっており、歩行者を妨げない形に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

先に紹介した岡山市の県庁通りでは今まさに工事が行われており、この歩道のパターンを変えることによって、活用可能なスペースを明示する手法を取り入れたのだそうです。さらに西村さんは、海外で歩道の活用が進んできたのは、外で過ごす風土や習慣だけでなく「ボランティアをはじめとする公共空間の使い方の教育もポイント」だと言います。

「例えば海外の公園では、管理・運営が市民団体やボランティアによって行われているところが少なくありません。海外では、地域に住む人たちが自分たちの街をよくするために、公共空間の清掃や整備はボランティアによって運営されるのが当たり前で、人気の公園などではボランティアの順番待ちすらあるそう。これは、幼いころからボランティアに参加することが普通で、みんなが使う場所を気持ちのいい空間にしたいから自分たちでやる、という教育が根付いているからだといえます」

アメリカのニューヨーク市のブライアント・パークは「BID(Business Improvement District)」という仕組みを活用にしていることでも有名。地域のエリアマネジメント活動資金を自治体が周辺の企業等から負担金として徴収・再配分、管理も一体的に任せて街づくりを推進する(写真/PIXTA)

アメリカのニューヨーク市のブライアント・パークは「BID(Business Improvement District)」という仕組みを活用にしていることでも有名。地域のエリアマネジメント活動資金を自治体が周辺の企業等から負担金として徴収・再配分、管理も一体的に任せて街づくりを推進する(写真/PIXTA)

気持ちよく使いたい、気持ちよく過ごしたい人たちが自分たちで動く、この思想や考え方は、これからの私たちの生活にも、必要な視点になりそうです。

これから街や暮らしはどうなる!? 私たちの新しいライフスタイル

このように、歩道が有効活用されるようになったとき、私たちの街や暮らしはどのように変わっていくのでしょうか? 今回の新型コロナウイルスが与えた影響と、今後の展望についても西村さんに聞いてみました。

「近年、歩道に限らず、公共空間といわれる場所でのルールが厳しくなって、例えば公園でボール遊びもできない、といったように『自由さ』が失われてきていたと思うんです。これは自治体をはじめとする管理者と住民の間で『信頼』が失われてきた結果だと思います」

近年、日本の公園では禁止事項が増え、ボール遊びができない公園も増えてきた(写真/PIXTA)

近年、日本の公園では禁止事項が増え、ボール遊びができない公園も増えてきた(写真/PIXTA)

「ところが、今回のコロナをきっかけに多くの人たちが外での時間を楽しむようになり、屋外の使い方が上手になったと感じます。例えばいつもは家でやるパズル遊びも外でやってみたら楽しい、とか、屋外の可能性にみんなが気付き始めた。これは失われた信頼を取り戻すチャンスなんです」

たしかに、先ほどの国交省のコロナ対策を目的とした歩道活用の通知も、全国からのニーズが高まったことを背景として挙げています。

「屋外、特に道路や公園などの公共的な空間をみんなが気持ちよく使っていくにはどうしたらいいか、それをしっかりと地域で話していくことで、これからの日本の街の景色が変わると思います。まずは自治体に対してそこで住む人たちが『屋外を使いたい!』と要望を上げ、地域主体で自律的な運用ができるように考え、お互いの信頼を回復していくことです。その姿を大人が見せることは、長い視点では子どもたちの教育にもつながります」

西村さんは公共空間をみんなが気持ちよく使うために管理者と住民の「信頼の回復」が重要だという(写真/唐松奈津子)

西村さんは公共空間をみんなが気持ちよく使うために管理者と住民の「信頼の回復」が重要だという(写真/唐松奈津子)

なるほど! 国交省の通知は一旦、今年の11月末までの暫定措置とされていますが、全国の自治体や住民の取り組み次第で、新しい国の動きにつながるかもしれませんね。

「面白い街に住みたい」気持ちから、街をみんなでつくる

コロナの影響受けて、地方に住みたい、就職したい若者が増えてきたというニュースが話題になりました。住む街や住まいの選び方も変わりそうです。

西村さんは「例えばひと言で『地元』と言っても、その県や市町村のなかでどの街に住もうか、と考えたときに、どんな場所を選びますか? 『あの街、なんか面白いことやってるな』という街に住みたくありませんか?」と投げかけます。たしかに、かくいう筆者も地元である佐賀の街が面白くなってきた、と聞いて、昨年から東京と佐賀の二拠点生活を始めた一人です(笑)。

西村さんが手がける、佐賀市街地の駐車場(左)を活用してオープンした店舗「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」(右)。店の前の通りでは週末にマーケットが開催され、街の風景を変えた(写真提供/ワークヴィジョンズ)

西村さんが手がける、佐賀市街地の駐車場(左)を活用してオープンした店舗「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」(右)。店の前の通りでは週末にマーケットが開催され、街の風景を変えた(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「面白いことをやっている街には、人が集まるんですよ。それが不動産の価値を上げて、街全体の価値も上がっていく。自治体も、不動産をもつ人も、そこに住む人も、商売をする人も、みんなが街を面白くしていこう、という気持ちをもって同じ方向に進むことで、もっと魅力的な街になり、そこに住む幸せにつながると思います」

西村さんは「日本ではほとんどの公園が税金によって管理・運営されているなんて言ったら、欧米の人はびっくりするのでは」といいます。
面白そうな街を選ぶ、という観点はもちろん、西村さんの言うように「自分たちが街を面白くしていくんだ」「もっと心地よい場所、通りにしていくんだ」という積極的な関わり方ができると、全国の歩道や街も、私たちの住む場所も、もっと素敵になりそうですね!

●取材協力
・株式会社ワークヴィジョンズ

日本に「オープンカフェ」が少ない理由って?“住みたい街”の条件が見えてきた

「エリアマネジメントの実践」や「パブリックスペースの重要性」なんて言葉にはピンとこない人も「オープンカフェのある街っていいな」「ご近所にいい感じのカフェや公園があったら」なんて考えたことはあるのでは。
これこそ、「パブリックスペース」であり、それを実現する仕組みが「エリアマネジメント」なんです。でも、ヨーロッパではよく見かけるオープンカフェは、日本には少ないもの。その理由を深堀りしていくと、その価値や今後の課題がおのずと見えてくるはず。
今回は、エリアマネジメントやパブリックスペースの社会実験の専門家であり、こうした活動の情報発信をするWEBメディア『ソトノバ』編集長の泉山さんにインタビューしました。
お話を伺った『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん(写真提供/泉山塁威さん)

お話を伺った『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん(写真提供/泉山塁威さん)

日本は路上を使うのはハードルが高いもの

――海外に旅すると、街のあちこちにオープンカフェがありますが、日本は、こうしたオープンカフェって少ないですよね。どうしてなんでしょう。

まず、日本のオープンカフェは民間の敷地内にあることがほとんどですが、海外では加えて公道に展開されていることをよく見かけます。
日本の場合、道路を使うには行政や警察への申請が必要で、これが、けっこう大変。まず、申請者は、個人やお店は基本的にはダメで、商店会やNPOなど地域団体に限られるのが実情です。一方、先日、研究のためにオーストラリアの都市のメルボルンとアデレードに行きましたが、実にオープンカフェが多いんですよ。というのも、オーストラリアはカフェやバーなどのお店からの申請がOKで、使用料は必要ですが、あまりNGにされることはないようです。

――その違いって何なんでしょうか。

まず、日本では、路上が「公共の場」(=行政の場所)という意識が強いからでしょうか。何かしら問題があったときに、行政や警察に連絡がきて対応を求められてしまうので、避けたい意識が働くのでしょう。だから規制することになる。
また、海外では、路上でアルコール販売は禁止なので、公共の場では、お店で提供するしかない点も関係あるでしょう。

――それは残念。オープンカフェ、あったらいいですよね。公共のものだから制限を設けるのか、公共のものだからみんなのために活用すべきなのか、その考え方の違いが根本にあるのですね。

ただ、小泉政権(2001-2006年)以降の規制緩和によって、少しずつではありますが、行政が民間の力を借りて、バブリックスペースを魅力的にしようという動きはあります。

パブリックスペースの充実が街の魅力を上げていく

――私たちは「パブリックスペース」というと公園や駅前広場などをイメージしますが、路上もバブリックスペース。海外で見かけるようなオープンカフェもそうですね。

はい。やはり「ソトで過ごす」時間を考えると飲食できる場は重要なファクターです。
住んでいる街のあちこちに、まるでリビングのようにくつろげる場所があるでしょう。私たちはそんな場所やライフスタイルを「PUBLIC LIFE(パブリック・ライフ)」と呼んでいます。

泉山さんがよくパブリック・ライフの例に挙げるパブリックスペース、ニューヨークのブライアントパーク。「図書館と公園、カフェがあり、まさに理想形です」(写真提供/泉山塁威さん・Shutterstock)

泉山さんがよくパブリック・ライフの例に挙げるパブリックスペース、ニューヨークのブライアントパーク。「図書館と公園、カフェがあり、まさに理想形です」(写真提供/泉山塁威さん・Shutterstock)

例えば、このニューヨークのマンハッタンにあるブライアントパーク。公園と図書館があるだけでは、単に「空間」ですが、可動式のベンチやテーブルを置き、「場」を提供することで、ここで食事したり、本を読んだり、子どもと遊んだり、昼寝したり、「人」が主役となります。街で、それぞれが思い思いに過ごすことができ。多様な目的とアクティビティが存在することが日常の風景になる。気づけば長い滞在時間、そこで過ごすようになる。そんな形が理想的。

例えば、ビアガーデンに行く人の目的は飲食で、それが達成すれば帰ってしまうでしょう。一方で、パブリックライフのある場所は、食事をした後に、運動をしたり、昼寝をしたり、はたまた読書をしたりと、いろんな目的がある。多様な行動ができるということは多様な人が使える。こうしたパブリックスペースが自分の街にあれば、暮らしが豊かになるはずです。

――確かに。そういうパブリックスペースがあることが、街の魅力につながり、住み替えるときに街選びの基準にもなりますよね。
泉山さんが手掛けられた既存の街のパブリックスペースを魅力的に変えた事例を教えていただけないでしょうか。

2014・2015年に行った、池袋駅東口グリーン大通りオープンカフェ社会実験ですね。ここはオフィス街で、とても広い歩道沿いにチェーンの飲食店が並んでいました。こうしたチェーン店の協力のもと、期間限定でテイクアウトスペースをつくり、オープンカフェやマルシェを開きました。「何をしているんだろう」と、道行く人が足を止め、食事をしたり、お店の人とおしゃべりしたり、日常的なアクティビティが一時的に行われました。

池袋駅東口グリーン大通りのブロジェクト(2014-2015)。(左)普段は広い歩道が続く通りだが、(右)期間中はイスやテーブルを置いて飲食できるスペースに(写真提供/泉山塁威さん)

池袋駅東口グリーン大通りのブロジェクト(2014-2015)。(左)普段は広い歩道が続く通りだが、(右)期間中はイスやテーブルを置いて飲食できるスペースに(写真提供/泉山塁威さん)

また、2018年には、さいたま新都心周辺で「パブリックライフフェスさいたま新都心2018」を行いました。もともと歩車分離の高質な歩行者デッキがあり、地域の企業と一緒に、ゾーンごとに、ガーデンのような場所や、60mのロングテーブルとイス200脚程度、インスタ映えするチャンネル文字を置くなどして、通り過ぎるだけの場所から、くつろげるスペースに変えました。特に日陰のリラックスチェアは大人気。普段使えない場所も出店者を集めたり、ビル風を風力発電のスマホ充電に利用したり、いろいろ仕掛けを実験し、課題や可能性を抽出するためのデータ分析も行っています。

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ。「元々あった公共施設を使い倒そうと仕掛けました」(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ。「元々あった公共施設を使い倒そうと仕掛けました」(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ(写真提供/泉山塁威さん)

――どちらもとても楽しそうですし、こうしたイベントは、自分たちが働く、もしくは暮らす街に愛着がもてるきっかけになりますね。

実験に終わらせない。継続させるために必要なこと

――どちらも期間限定ですが、継続的に行うことは難しいのでしょうか?

元々、どちらも社会実験のひとつとしてスタートしたことが大きいです。また、期間限定だからこそ協力を得られた部分もあり、同じことをそのまま継続するには、マンパワー的に難しいのが実情です。今かかわっているさいたま新都心では、実験のコンテンツ自体は好評のものは多く、常設化や継続できるものはないか、今後の方向性を検討中です。

現在、都心のバブリックスペースで日常的に使われている例として思い浮かぶのは、東京の丸の内や六本木界隈、中野セントラルパーク。新しいところでは、虎ノ門ヒルズ周辺の新虎通り、渋谷ストリームですが、どれも企業のパワーか、企業と地域が連携して実施しています。

東京は再開発ビルのオープンスペース(公開空地)を活用できる場所が多く、デベロッパーや企業が主導的にかかわっていくことは、資産価値やテナントへの訴求力につながりやすい。一方で、道路や公園になると、地域や行政との連携を密に行っていかなければならない。いずれにしても、世界の各都市と競争する東京ならではのやり方です。東京以外では、違う状況や方法で考えていかなければなりません。

――継続的に行うためには何が必要でしょうか。

ひとつのヒントになりそうな海外事例があります。
メルボルンから電車で30分の街、ポイントクックという街で、期間限定の公園「ポップアップパーク」が行われていました。去年と今年2月~4月の3カ月間、街の中心地であるショッピングモールのメインストリートに人口芝生を敷いて、みんながくつろげるスペースがありました。

オーストラリアのポイントクックの事例(写真提供/泉山塁威さん)

オーストラリアのポイントクックの事例(写真提供/泉山塁威さん)

この街は急激に郊外開発が進み、住宅がどんどん増えて人が移り住んできたベッドタウンで、コミュニティが希薄だったんです。そこで、「自分の街に住んでいる人を誰も知らないなんて嫌」と思った主婦2人が始めたのがきっかけ。元々は彼女たちが、仲間を募って始めたものなんです。今年はスポンサーもつき、法人化し、プロジェクトが発展しています。

この事例がすごいのは、主催する側のホストと、参加する側のゲストの境目があいまいなこと。「ヨガを教えたい」「ライブをやりたい」など、遊びに来た人が、今度は仕掛ける側にまわっていく。
FacebookなどSNSのツールを駆使して、共感や仲間を集めています。企画をやりたい人が集まってきたり、あるいは人同士をつなげることで、勝手に企画が始まる。ゲストの立場だけなら、数回足を運んで「楽しかったね」で終わりますが、ホストの立場も兼ねるなら、そのつながりは強くなります。

人工芝を敷き、ベンチ、パラソルを各自で持ち寄った。随時、さまざまなイベント情報がFacebookで紹介されている(POINT COOK POP UP PARK FACEBOOK)

人工芝を敷き、ベンチ、パラソルを各自で持ち寄った。随時、さまざまなイベント情報がFacebookで紹介されている(POINT COOK POP UP PARK FACEBOOK)

――確かに、イベントでは遠方からくるゲストと地元に暮らすホストは明確な境目がありますが、みんな同じ街に暮らすコミュニティが前提なら継続的になっていく可能性は高まりますね。

「パブリックスペース」が使えるという事例が増えてきているなかで、人が歩いている街で、人が休んだり、出会ったりする場所が大事だと思っています。そのためには、イベントのように、人を呼んで楽しませて終わり、ではなく、日常的にくつろげたり、楽しめたり、継続的に取り組む必要性があります。
前出の、オーストラリアのポイントクックの主婦の方もスキルのある「当事者市民」です。今後は行政も、民間企業だけでなく、当事者意識の高い市民を巻き込みながら、街を盛り上げてほしいですね。

ポイントクックの活動を始めた主婦2人と泉山さん。日本ではなかなか難しいストリートミューラル(横断歩道のカラフルなペイント)も、イベント時に「後で黒く塗って原状回復する」として街の風景に。日本では考えられない大らかさと交渉力だ(写真提供/泉山塁威さん)

ポイントクックの活動を始めた主婦2人と泉山さん。日本ではなかなか難しいストリートミューラル(横断歩道のカラフルなペイント)も、イベント時に「後で黒く塗って原状回復する」として街の風景に。日本では考えられない大らかさと交渉力だ(写真提供/泉山塁威さん)

●取材協力
『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん
東京大学先端科学技術研究センター 助教/ソトノバ編集長/博士(工学)/認定准都市プランナー/タクティカル・アーバニスト/アーバンデザインセンター大宮|UDCO ディレクターほか/1984年札幌市生まれ/明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。エリアマネジメントやパブリックスペース利活用及び規制緩和制度、社会実験やアクティビティ調査、タクティカル・アーバニズムの研究及び実践にかかわる
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