多様化するトレーラーハウス。災害支援、公共施設、宿泊、店舗など様々な可能性に注目

東京ビッグサイトで「東京トレーラーハウスショー2023」が開催されると聞いて訪れてみた。トレーラーハウスが立ち並ぶ姿は圧巻だったが、その利用方法は実に多様だ。どんな利用方法があるかについて、それぞれ見ていこう。

【今週の住活トピック】
日本最大級!43台のトレーラーハウスが一堂に「東京トレーラーハウスショー2023」

トレーラーハウスとは?キャンピングカーとは違うの?

SUUMOリサーチセンターは、2023年のトレンドとして「平屋回帰」を予測した。単なる平屋ではなく、コンパクトな平屋のことで、住宅の面積が小さな主拠点の平屋と、小屋やタイニーハウスなどのサードプレイスの平屋に分類している。トレーラーハウスは後者に該当する。

一般社団法人日本トレーラーハウス協会によると、トレーラーハウスは、次のように定義されている。

「トレーラーを一定の場所に定置し、土地側の給排水配管電気等の接続が工具を使用しないで脱着できる構造体であり、公道に至る通路が敷地内に確保されており、障害物がなく随時かつ任意に移動できる状態で設置したものをトレーラーハウスと呼ぶ。」

キャンピングカーも、小さいながら車の中にベッドやキッチンを設置したりできるが、車のバッテリーの電気を使い、備えたタンクの水を使う。排水もタンクにためて処理する必要がある。一方トレーラーハウスは、タイヤの付いたシャーシ(車台)に載せて、車で牽引して公道を移動する。一定の場所に設置して、住宅と同じように外部の水道や電気などの生活インフラと接続する。そのため、トレーラーの中にはトイレやシャワールームも設置でき、エアコンなどの家電も使うことができる。

まるで小さな小屋のようだ。ただし、小屋は建築物だが、トレーラーハウスは原則として自動車に該当するので、市街化調整区域などの建築物が建てられない場所にも置くことができる。

災害支援から店舗、グランピングまで多様に利用できるトレーラーハウス

こうした特徴のあるトレーラーハウスなので、さまざまな利用方法がある。今回の「東京トレーラーハウスショー2023」では、会場を8つの展示ゾーンに分けて、トレーラーハウスを展示している。
●災害支援
●公共施設
●事務所
●店舗
●グランピング&レジャー
●レンタル
●シャーシ(車台)
●未来型

「災害支援」ゾーンには、防災基地局トレーラーやレスキューホテル、室内のウィルスや細菌を外部に流出させるメディカルキューブ、トイレキューブなどがあった。

通信・発電や一時救護が可能な防災基地局トレーラー(手塚運輸)

通信・発電や一時救護が可能な防災基地局トレーラー(手塚運輸)
※各掲載写真はいずれも筆者撮影

カプセルベッドを4台設置したカプセルキューブ(写真右)、トイレキューブ(写真中奥)、メディカルキューブ(写真左)(いずれもトレーラーハウスデベロップメント)

カプセルベッドを4台設置したカプセルキューブ(写真右)、トイレキューブ(写真中奥)、メディカルキューブ(写真左)(いずれもトレーラーハウスデベロップメント)

同様に「公共施設」ゾーンには、シャワーキューブや低床トイレキューブ、スモーキングキューブ(分煙時の喫煙所)などがあった。

また、「レンタル」ゾーンになるが、ベビーケアトレーラーというのもあった。内部には、授乳スペース、おむつ替えスペース、着替えスペースがあり、ママたちには嬉しい場所だと思った。

ベビーケアトレーラー(西尾レントオール)

ベビーケアトレーラー(西尾レントオール)

ベビーケアトレーラー内部。奥にカーテンで仕切れる授乳スペースが2つ、手前におむつ替えスペースなどがある

ベビーケアトレーラー内部。奥にカーテンで仕切れる授乳スペースが2つ、手前におむつ替えスペースなどがある

もちろんトレーラーハウスは、「事務所」や「店舗」としても利用でき、展示会場には担々香麺を提供するキッチントレーラーなどもあった。

エアストリーム(キャンピングトレーラー)のキッチン仕様は見た目もかわいい(株式会社トレーラービレッジ)

エアストリーム(キャンピングトレーラー)のキッチン仕様は見た目もかわいい(トレーラービレッジ)

さて、住まいとしての利用方法は主に「グランピング&レジャー」だろう。自然豊かな場所などに置いて、のんびりくつろげるトレーラーが数多く並び、サウナ専用トレーラーも2台展示されていた。

グランピングトレーラー(奥)とデッキトレーラー(手前)を並べて設置した展示。取り外しができないウッドデッキは、建造物扱いになるため取り付けができないが、トレーラーを並べれば広々としたウッドデッキも一体的に使える(トレーラーハウスデベロップメント)

グランピングトレーラー(奥)とデッキトレーラー(手前)を並べて設置した展示。取り外せないウッドデッキは取り付けられない(建築物になる)が、トレーラーを並べれば広々としたウッドデッキも一体的に使える(トレーラーハウスデベロップメント)

サウナ専用トレーラー(トレーラーハウスデベロップメント)

サウナ専用トレーラー(トレーラーハウスデベロップメント)

電線から電気を得られなくても生活できるトレーラーハウスも

次に、「未来型」ゾーンの中からオフグリッドトレーラーハウスを紹介しよう。
生活インフラが遮断、あるいは整備されていないといった場所では、電気などが使えなくなるが、太陽光パネルや太陽熱温水器などを搭載したエネルギー自立型のトレーラーハウスなら、発電して蓄電池にためた電気を使い、温水器のお湯でシャワーを浴びるといったことも可能。水を使わないトイレも設置してあった。

オフグリッドトレーラーハウス(イスズ)

オフグリッドトレーラーハウス(イスズ)

車内には蓄電池・全熱交換型換気システムなどの周辺機器(左)、おが屑でし尿を分解させるバイオトイレ(右)が設置されている

車内には蓄電池・全熱交換型換気システムなどの周辺機器(左)、おが屑でし尿を分解させるバイオトイレ(右)が設置されている

最後に紹介するのは、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトを主導する工学院大学教授・鈴木敏彦氏の活動に賛同した淀川製鋼所が、中銀カプセルタワーの1つを取得し、トレーラーカプセルとして再生したもの。黒川紀章氏が提唱したメタボリズムの設計思想が、トレーラーハウスとして継承されている。

中銀カプセルタワーのカプセルを載せたトレーラー(淀川製鋼所)

中銀カプセルタワーのカプセルを載せたトレーラー(淀川製鋼所)

動く中銀カプセル「YODOKO+トレーラーカプセル」の内部

動く中銀カプセル「YODOKO+トレーラーカプセル」の内部

ニーズが変わる!?不動産から可動産へ

さて、展示場では各種のセミナーも開催されていた。筆者はこのうち、YADOKARI代表取締役の上杉勢太氏による「『可動産』と『タイニーハウス』の可能性」を聞いた。

これからは不動産から可動産へと、ニーズが変化するという。その背景には、人口が減り単身世帯が増えることに加え、コロナ禍で二拠点居住やアドレスホッパーといった新しい生活スタイルが広がっていることがある。住宅コストが暮らしを圧迫する一方で、災害住宅としてコンテナ状の住宅が使われるなど、小さな家が注目されるようになった。

海外には先行事例が多い。北欧では、住宅キットを使ってDIYでサマーハウスを建てたりしているし、アメリカではリーマンショックを機に、小さな家でシンプルに暮らすというタイニーハウス・ムーブメントが起きた。同様に、車を使ったVAN×LIFEというムーブメントも起きている。

日本でも、テレワークが加速し、移動式店舗・オフィスが増加している。不動産は建築基準法の制約を受けるが、VANやトレーラーハウス、移動可能な小屋などの可動産であれば、絶景の無人駅に人を集めるといったこともできる。というような可能性の広がりについて、上杉氏は熱く語っていた。

「グランピング&レジャー」ゾーンに出展したYADOKARI株式会社のトレーラーハウス

「グランピング&レジャー」ゾーンに出展したYADOKARIのトレーラーハウス

トレーラーハウスは、設置場所の自由度の高さや住宅取得のコスト軽減などのメリットもあるが、暮らし方が多様になるこれからは、生活拠点の選択肢の一つとして注目されていくのではないか。好きな場所で好きなことができるスタイルが広がるほど、トレーラーハウスの新しい利用方法も増えていくだろう。

●関連サイト
日本最大級!43台のトレーラーハウスが一堂に「東京トレーラーハウスショー2023」
東京トレーラーハウスショー2023公式サイト
SUUMO「トレーラーハウスとは?住居にする方法や用途、価格、設置方法、かかる税金は?」

木のコンテナが今すごい!どこにでも移動できるキャンピングトレーラー、コンサートやバー、茶室などへの用途も

今年は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称、改正木材利用促進法)」によって、公共建築物やマンションまで「木造」の建築物が次々と誕生しています。そんな中、ついに車にまで木造が進出。箱型の居室に窓やテーブルが整備された木造のキャンピングトレーラー「Wood Vehicle(ウッドビークル)」です。はたしてどんな空間なのでしょうか。誕生の理由と今後の可能性を聞きました。

福井県産の杉を使用。部位で使い分けて強度を確保

木造のキャンピングトレーラー「Wood Vehicle(ウッドビークル)」をデザインしたのは、一級建築士で株式会社HUG山田敏博さん。木造建築の可能性を探るNPO法人 team Timberize(ティンバライズ)の副理事長も務め、都市木造の技術開発や普及活動に取り組んでいる木材活用のスペシャリストです。山田さんは2010年ごろから木材を活用した建築に携わりはじめ、建築はもちろんインテリアや家具の設計まで幅広く手掛けています。

高層だったり、燃えにくくなっている木造の集合住宅はsuumoジャーナルでも取り上げてきたので、なんとなくイメージできましたが、さすがに“木造でキャンピングトレーラー”はなかなかイメージがわきません。少し前にトヨタが手掛けた“木の車”が話題になりましたが、いったい、どんなものなのでしょうか。

木造キャンピングトレーラーの設営イメージ。当たり前ですが木なので、自然とよく調和します(写真提供/株式会社古崎)

木造キャンピングトレーラーの設営イメージ。当たり前ですが木なので、自然とよく調和します(写真提供/株式会社古崎)

「キャンピングトレーラーの土台にあたる“シャーシ”は規格が定まっていて市販されています。まずこれを購入してきて、土台にします。箱状の居住スペースには、主に福井県産の杉を使用しました。外装には防腐、防蟻処理して耐久性を高め、内装には杉の赤身と白太をランダムなストライプに張るなど、パーツごとに最適になるよう杉材を使いわけています。さらに杉とアルミを組み合わせることでけん引車の規格(けん引免許不要)である『750kg以下』になるよう軽量化。販売価格はフルオプション付きのもので、1台450万円ほど。オプションをいれなければ300万円台になります」(山田さん)

木造キャンピングトレーラーの内装。杉でつくった天然のストライプがかっこいい(写真提供/株式会社古崎)

木造キャンピングトレーラーの内装。杉でつくった天然のストライプがかっこいい(写真提供/株式会社古崎)

一部を切り取って見るとキャンピングトレーラーではなく、日本家屋のよう(写真提供/株式会社古崎)

一部を切り取って見るとキャンピングトレーラーではなく、日本家屋のよう(写真提供/株式会社古崎)

ホイール部分も木製。ロゴもおしゃれ!(写真提供/株式会社古崎)

ホイール部分も木製。ロゴもおしゃれ!(写真提供/株式会社古崎)

トレーラー後部を開けたところ。音楽を聞いたり、テントなど各種道具の収納にもぴったり。キャンプ場でもひときわ注目を集めることでしょう(写真提供/株式会社古崎)

トレーラー後部を開けたところ。音楽を聞いたり、テントなど各種道具の収納にもぴったり。キャンプ場でもひときわ注目を集めることでしょう(写真提供/株式会社古崎)

木造のキャンピングトレーラーというのは日本(というか世界でも)まだ希少なため、業界の人だけでなく一般の方からも問い合せが入るのだそう。
「みなさんの興味関心は高いですね。ただ、値段を聞くと『そうですか……』となるケースがほとんどです(笑)」。確かに即決できる金額ではないですが、それでも、興味を持つ人の気持ち、よくわかります。

「木造じゃないものを木造に、木造のものも木造に」

木造キャンピングトレーラー、内観・外観、ホイールどこもかしこもかっこいいのはわかるのですが、でもなぜ、わざわざキャンピングトレーラーを“木造”にしようと思ったんでしょうか。

「私が福井県出身なので、2017年から“ふくい県産材販路拡大協議会“の木材アドバイザーとして携わっているんです。そのご縁で、福井の株式会社古崎という企業と知り合いまして。木材に関する高い技術と加工ノウハウを持っているので、せっかくならオリジナルの製品をつくろう、おもしろいことをやりましょう、と話していたんです。で、古崎さんデザインで車の内装の木質化に取り組むことになりました」と話す山田さん。

自動車の内装を木材で仕上げた。ため息のでるようなかっこよさ。マテリアル好きとしてはたまりません!(写真提供/株式会社古崎)

自動車の内装を木材で仕上げた。ため息のでるようなかっこよさ。マテリアル好きとしてはたまりません!(写真提供/株式会社古崎)

こうして「自分たちのやりたいもの、ほしいものをつくる」ことの楽しさに目覚めた古崎の社員さんと山田さん、自然と出てきたのが、「キャンピングトレーラー」だったそう。

「タイニーハウス(小屋)やバンライフ、キャンプブームもあって、次につくるなら車、なおかつキャンピングトレーラーがいいだろうとなったんです。車を販売するのは、エンジンやブレーキなど駆動部分の整備があって難しい。でも、キャンピングトレーラーなら、居住性も必要だし、木との相性がよさそうだ、ということでチャレンジしてみました。合言葉は、“木でないものを木造に、木のものを木造に”。これが僕の仕事なんです(笑)」と楽しそう。

木造キャンピングトレーラーの制作途中。こう見ると家ですね。思ったより“家”(写真提供/株式会社古崎)

木造キャンピングトレーラーの制作途中。こう見ると家ですね。思ったより“家”(写真提供/株式会社古崎)

「“木”そのものは、日本人にとっても身近にある素材です。それを現代のライフスタイルにあわせて、既存にない、今までにないものをつくることで、より身近に、親近感を持ってもらう。それがこのプロジェクトの価値なんですよ」と山田さん。なるほど、身近にある木材×キャンピングトレーラーのような「ギャップ」があると、注目を集めるもの。見てくれた人が「木っていいな」という再発見こそが、山田さんたちの真の狙いともいえそうです。

HUG山田敏博さん。木に触れる機会、きっかけとしてキャンピングトレーラーをデザイン(写真提供/HUG)

HUG山田敏博さん。木に触れる機会、きっかけとしてキャンピングトレーラーをデザイン(写真提供/HUG)

茶室や音楽室も。まだまだ見逃せない、木造プロジェクト!

山田さんたちの作品はこれだけではありません。ここでは、キャンピングトレーラー以外にも注目したい、木の作品をご紹介しましょう。モバイルウッドベース。音楽鑑賞のためにだけに制作された、コンテナです。コンテナなので移動は可能で、どこでも移動音楽ホールが完成します。遠隔地や地方、屋外イベントとの相性もよさそうです。

外から見たところ。コンテナは世界規格なので、完成した状態で移動や輸出(!)も可能です。伸びしろしかない(写真提供/株式会社古崎)

外から見たところ。コンテナは世界規格なので、完成した状態で移動や輸出(!)も可能です。伸びしろしかない(写真提供/株式会社古崎)

自宅の庭にコンサートホールを付け足すことも可能(写真提供/株式会社古崎)

自宅の庭にコンサートホールを付け足すことも可能(写真提供/株式会社古崎)

天井の凹凸は単なるデザインではなく、音を拡散・吸音・反射させる「QRD音響パネル」になっているそう。デザインと実用を兼ねているんです! かっこよすぎ(写真提供/株式会社古崎)

天井の凹凸は単なるデザインではなく、音を拡散・吸音・反射させる「QRD音響パネル」になっているそう。デザインと実用を兼ねているんです! かっこよすぎ(写真提供/株式会社古崎)

次にご紹介するのが、モバイルウッドベース茶室です。音楽室と同様、コンテナの規格になっているのですが、室内に待合、にじり口(くぐって通る戸)、そして茶室へという茶道の一連の流れまで再現。しかも坪庭まであるではないですか。もちろん茶室にしてもいいですが、オフィスにしたり、2拠点生活の場所として活用したり、用途は無限にありそうです。

「モバイルコンテナにすることで、地方の雇用創出につながります。組み立てて消費地に持っていけるので、建設業のマンパワー不足の解消にも貢献。さらに移動できるので災害時の住まいにもなるし、海外に輸出することもできます」(山田さん)。コンテナと木の組み合わせも、確かにユニークです。

コンテナから明かりが漏れる様子は、雅だし和ですね!(写真提供/株式会社古崎)

コンテナから明かりが漏れる様子は、雅だし和ですね!(写真提供/株式会社古崎)

コンテナのモバイル性を活かしつつ木の空間に仕上げる。木製の踏石や玉砂利にも注目!(写真提供/株式会社古崎)

コンテナのモバイル性を活かしつつ木の空間に仕上げる。木製の踏石や玉砂利にも注目!(写真提供/株式会社古崎)

水平ラインを強調した横格子。視線を遮りつつ、光を取り入れる工夫がされています(写真提供/株式会社古崎)

水平ラインを強調した横格子。視線を遮りつつ、光を取り入れる工夫がされています(写真提供/株式会社古崎)

木造コンテナは、さらに移動可能なバーとして活用する方法もあります(写真提供/HUG)

木造コンテナは、さらに移動可能なバーとして活用する方法もあります(写真提供/HUG)

ほかにもホテルとして活用する方法もある。木造ならではの、くつろぎ感と上質感、最高ですね(写真提供/HUG)

ほかにもホテルとして活用する方法もある。木造ならではの、くつろぎ感と上質感、最高ですね(写真提供/HUG)

キャンピングトレーラーは株式会社古崎(福井県福井市)で、コンテナ作品はホテル田園プラザ(群馬県利根郡川場村)で見学可能。発注は、HUGまたは株式会社古崎で受け付けており、個別オーダー(カスタマイズ)も可能とのことです。

福井県の森の様子。日本には活用されていない木材がまだまだ眠っています……(写真提供/福井県木材組合連合会)

福井県の森の様子。日本には活用されていない木材がまだまだ眠っています……(写真提供/福井県木材組合連合会)

山田さんは、こうした木材の活用デザインのほかにも、ワークショップやイベントなどを仕掛けて、木の魅力、文化を発信しているといいます。
「品川の宮前商店街(東京都品川区)で“ふくいしながわハッピーウッドキャラバン”というイベントを実施します。2015年にワークショップで木製のベンチを作り設置して使ってきたのですが、だいぶいたんできたので、みんなでリペアするんですよ。メンテすれば長持ちする、これも木の良さですよね」(山田さん)。ほかにも、商店街のど真ん中で木の玉プール、滑り台、ウッドボルトクラフトなどの「木育ひろば」を設置するほか、木工ワークショップ、マルシェ、木製品などの販売も行う予定だとか。

2022年に実施するハッピーウッドキャラバン(左)と、同日開催のトーク&ものづくりイベント(連動企画)(右)のチラシ(写真提供/HUG)

2022年に実施するハッピーウッドキャラバン(左)と、同日開催のトーク&ものづくりイベント(連動企画)(右)のチラシ(写真提供/HUG)

2021年、青山で実施したハッピーウッドキャラバンの様子。子どもたちも、やっぱり木が好き(写真提供/HUG)

2021年、青山で実施したハッピーウッドキャラバンの様子。子どもたちも、やっぱり木が好き(写真提供/HUG)

木の良さは触れること、体感することで、実感できます。そもそも、木材は時間をかけて育んだ日本の貴重な資源のはずですが、現状では安く輸入される海外のものが中心で、国産材は十分に活用できてはいません。山や林業を、次世代によりよいかたちで引き継ぐためにも、もっともっと木がさまざまなものに使われ、身近になっていってほしいな、と思います。

●取材協力
HUG
FUKUI SHINAGAWA HAPPY WOOD CARAVAN リペアWS、トーク&ものづくり共通申込フォーム

わずか7畳のタイニーハウスに夫婦二人暮らし。三浦半島の森の「もぐら号」は電気もガスもある快適空間だった!

「タイニーハウス(小屋)」や「キャンピングカー」「バンライフ」のような、小さな空間での暮らしが関心を集めています。旅行のように数日ではなく、日常生活を送るのは不便ではないのでしょうか? 費用やその方法は? 夫妻でタイニーハウス暮らしをしている相馬由季さんと夫の哲平さんのお二人に、その等身大の暮らしを教えてもらいました。

広さ12平米、ロフト5平米の自作タイニーハウスで夫妻ふたり暮らし

米国では2008年のリーマンショック以降、西海岸を中心に、暮らしの選択肢としてタイニーハウスを選ぶ人たちが増えているといいます。このムーブメントは日本にも押し寄せ、タイニーハウスの認知度もじょじょに高まってきていますが、実際に「住まい」として暮らしはじめた人がいると聞き、取材に行ってきました。

場所は、三浦半島のとある私鉄の駅から徒歩数分、森のなかに、まるで童話のなかに出てくるような車輪付きの「小屋」がぽつんと佇んでいます。あまりのかわいさに「映画やドラマのセット?」にも思えてきますが、これは立派な住まいです。

駅から徒歩数分、海も山も近い場所にできたタイニーハウス(写真撮影/桑田瑞穂)

駅から徒歩数分、海も山も近い場所にできたタイニーハウス(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで暮らしている夫妻。セットのようですが、本物の家です(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで暮らしている夫妻。セットのようですが、本物の家です(写真撮影/桑田瑞穂)

扉をあけたところ。外観以上にセットのような愛らしさ(写真撮影/桑田瑞穂)

扉をあけたところ。外観以上にセットのような愛らしさ(写真撮影/桑田瑞穂)

「引越してきたばかりのころは、『人が暮らしているの?』とよく聞かれました(笑)」と話すのはタイニーハウスの主でもある、相馬由季さんと哲平さん夫妻。車輪付きのタイニーハウスを由季さんのニックネームにちなんで「もぐら号」と名付けました。広さはわずか12平米とロフト5平米、室内はキッチン、バス、トイレ付きです。ひとり暮らし向けの物件でも部屋の広さは15~20平米を確保していることが多いことを考えると、よりコンパクトな住まいであることがわかるかもしれせん。

シャワー・トイレの排水は、移動できるよう着脱式にして下水道につなげているので、従来の住まいと変わりありません(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワー・トイレの排水は、移動できるよう着脱式にして下水道につなげているので、従来の住まいと変わりありません(写真撮影/桑田瑞穂)

建物を横から見たところ。玄関の反対側はエアコン、給湯、プロパンガスなどのインフラチーム(写真撮影/桑田瑞穂)

建物を横から見たところ。玄関の反対側はエアコン、給湯、プロパンガスなどのインフラチーム(写真撮影/桑田瑞穂)

このタイニーハウスで驚くのは、由季さんによる水まわりなど以外は自分でつくる「セルフビルド」であるということ。今でこそ、タイニーハウスを販売している会社も増えていますが、こちらはそうした市販品を使うことなく、木材から建材、トイレなどの住宅設備機器まで、ネットやホームセンターで購入し、つくったといいます。

コンパクトな空間なので価値観のすり合わせが重要だったといいます。キッチンの大きさ、快適さなどの価値観をすり合わせながらつくりあげたので、ストレスなく生活できているそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

コンパクトな空間なので価値観のすり合わせが重要だったといいます。キッチンの大きさ、快適さなどの価値観をすり合わせながらつくりあげたので、ストレスなく生活できているそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

「DIYのワークショップに1度参加したくらいで、特別なスキルもなかったんですが、はじめてみないことには何も進まないと思い、材料が置けて作業できる場所を探し、都内の木材屋さんの倉庫を借りて実際につくりはじめたんです。
2年かけて必死になって、どうにかこうにかタイニーハウスが完成し、ここで住み始めたのは2020年の年末。それから1年半経過しましたが、狭さや不便さは感じません」(由季さん)

哲平さんは秘境・登山ガイドという仕事のため留守にすることもありますが、基本的には二人で自宅で過ごしているといいます。仕事はテレワーク中心ですが、必要に応じて近所のカフェを利用できるため、不便ではないそう。二人にとって「広さ」は、暮らしの快適さにおいてさほど問題ではないのです。

赤い三角屋根に、街灯、3つの窓に玄関。すべてがかわいい!(写真撮影/桑田瑞穂)

赤い三角屋根に、街灯、3つの窓に玄関。すべてがかわいい!(写真撮影/桑田瑞穂)

ひと月にかかる費用は光熱費1万円のみ!?

相馬由季さんがタイニーハウスを知ったのは2014年ごろ。移動ができる小さな住まいにひと目ぼれし、海外のタイニーハウスに住む人々を訪ね歩いたといいます。

由季さんがタイニーハウス暮らしを思い描いていたころ、夫の哲平さんに出会いました。つきあいはじめてすぐに、「タイニーハウスで暮らす夢」について話したといいます。

「もともとシェアハウスで暮らしていたこと、登山が好きということもあって、室内が狭いということにはまったく抵抗がありませんでした」という哲平さん。どのような暮らしを送りたいか価値観をすり合わせるようにし、つくる過程で少しずつ二人で暮らす仕様になっていったといいます。

駅からすぐ近くにあり、お友だちが遊びに来ることも多いそう(写真撮影/桑田瑞穂)

駅からすぐ近くにあり、お友だちが遊びに来ることも多いそう(写真撮影/桑田瑞穂)

「料理好きなのでキッチンは大きめにしたり、180cm 以上ある身長(夫)にあわせて、室内の高さを考えたり、少しずつ一緒に暮らす前提でつくっていきました」といい、いわばタイニーハウスは結婚する「二人らしさ」を形にした住まいなのです。結婚式を挙行するかわりにタイニーハウスづくり……、ありかもしれません。ただ、どの住宅もそうですが、夢と現実の条件面で折り合いを付ける必要があります。資金面や土地の事情の「リアル」「お金面」では、どのようになっているのでしょうか。

「タイニーハウスの土台となるシャーシが約120万円、設備や材料費、水まわり施工費が約250~300万円、完成したタイニーハウスの移設・設置費が約20万円ほどでした」と由季さん。およそ400万円で完成したといいます。

一方で難航したのが土地探しです。

緑があって、海も近い環境です。周囲の人もおおらかで、快くタイニーハウスの存在を受け入れてもらえたといいます(写真撮影/桑田瑞穂)

緑があって、海も近い環境です。周囲の人もおおらかで、快くタイニーハウスの存在を受け入れてもらえたといいます(写真撮影/桑田瑞穂)

「土地は2年くらいかけて探しました。以前は神奈川県横浜市のシェアハウスに暮らしていたのですが、理想の土地を求めて東京都内、千葉、神奈川などさまざま見学したものの、駅からの距離、土地の広さ、上下水道の引き込み、周辺環境など、気に入るものがなくて。今のこの場所は、駅を降りた瞬間から、駅からの距離、海への近さ、スーパーなど含めて気に入って、『ココだね』となったんです」(哲平さん)

庭で大葉などのハーブや野菜を育てています。想像以上に広いためか、手入れは大変だといいますが、どこかうれしそう(写真撮影/桑田瑞穂)

庭で大葉などのハーブや野菜を育てています。想像以上に広いためか、手入れは大変だといいますが、どこかうれしそう(写真撮影/桑田瑞穂)

土地の広さは1100平米で、価格は交渉。加えて、上下水道の引き込みなどで費用が100万円ほどかかりましたが、ローンは利用せずに思い切って一括で購入しました。
また、タイニーハウスは車輪がついているため、固定資産税がかかるのは土地のみです。自動車として扱うため自動車税と自動車重量税になり、現在かかっているひと月あたりの費用はこれらの税金と水道光熱費のみだそう。

「電気もガスも水道も少量ですむので、光熱費は毎月1万円程度でしょうか」(由季さん)といいます。生活するための住居費や光熱費を稼がなくては……というプレッシャーとは無縁で、より好きなことを仕事にできる感覚があります。

ほかにも「タイニーハウスづくり」を応援してくれた家具屋さんから、「新居祝いに」と庭のテーブルセットをもらったり、地元の植木屋さんから良い木を植えてもらったりと、人とのつながりに助けられている、と笑います。自然体の二人が楽しそうにタイニーハウス暮らしに挑戦しているからこそ、まわりも助けたくなるのかもしれません。

ソファを来客時はベッドになるようにDIY。2人までなら宿泊できるそう(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファを来客時はベッドになるようにDIY。2人までなら宿泊できるそう(写真撮影/桑田瑞穂)

通常の部屋の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

通常の部屋の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファをベッドにし、テーブルを収納するとこのように。コンパクトですが可変性があり、ここまでできるんだと関心してしまいます(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファをベッドにし、テーブルを収納するとこのように。コンパクトですが可変性があり、ここまでできるんだと関心してしまいます(写真撮影/桑田瑞穂)

現在の場所に移動してきてから後付けしたテーブル。折りたたみ式で収納可能です(写真撮影/桑田瑞穂)

現在の場所に移動してきてから後付けしたテーブル。折りたたみ式で収納可能です(写真撮影/桑田瑞穂)

小さくても断熱環境やキッチンのサイズ、「快適さ」はゆずらない

とはいえ、予算重視、予算ありきでタイニーハウスをつくったわけではありません。

「室内が小さいからこそ快適性はゆずりたくなくて、断熱材は厚めに入れましたし、窓は樹脂窓(フレームが樹脂製のため金属製に比べ断熱性の高い窓)にしました。キッチンは大きめにしましたし、トイレもバスも好きなものを選んでいます。また、赤い三角屋根のシルエットは、一貫してこだわった部分ですね」(由季さん)といいます。

赤い屋根と樹脂窓、ランプ……。すべてネット通販などで買えるそう。びっくり(写真撮影/桑田瑞穂)

赤い屋根と樹脂窓、ランプ……。すべてネット通販などで買えるそう。びっくり(写真撮影/桑田瑞穂)

一年を通して快適な断熱環境を目指して、樹脂窓を採用(写真撮影/桑田瑞穂)

一年を通して快適な断熱環境を目指して、樹脂窓を採用(写真撮影/桑田瑞穂)

哲平さんが料理好きということもあり、大きめのキッチン。シンクも広々、3口コンロです(写真撮影/桑田瑞穂)

哲平さんが料理好きということもあり、大きめのキッチン。シンクも広々、3口コンロです(写真撮影/桑田瑞穂)

DIYで棚をつくったり、微調整しながら暮らせるのが良いそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

DIYで棚をつくったり、微調整しながら暮らせるのが良いそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスは、基本的にひと部屋。採用できる建具や設備が限られているからこそ、一つひとつのパーツ、こだわり、自分の好きなものをぎゅっと選べます。だからこそ、扉を開けたときに、つくり手の価値観が一目で表現できるのがおもしろさでもあります。相馬さん夫妻のタイニーハウスは断熱材や窓、開口部にこだわったこともあり、今年2022年の夏のような猛暑でもすぐに涼しくなり、冬は寒さを感じずに快適だそう。

「完成した『もぐら号』にはたくさんの人が遊びに来てくれましたが、『意外と広い!』『快適なんだ』と言われることが多いですね。プロジェクターを設置したり、折りたたみのテーブルをつけたり、快適に暮らせる微調整は日々、続けています。だからこそ外から見ている以上に空間に広がりがあり、自分の好きに囲まれて暮らせていて、本当に心地いいんです」と話します。季節の衣類や登山用具は、庭のガレージに保管しているため、過度に捨てたり処分したりの必要はないといいます。

プロジェクターを設置しているので、大画面で映画も楽しめます。すごいなー(写真撮影/桑田瑞穂)

プロジェクターを設置しているので、大画面で映画も楽しめます。すごいなー(写真撮影/桑田瑞穂)

映画をベッドに寝転がって鑑賞。夫妻でキャンプのようで楽しい!(写真撮影/桑田瑞穂)

映画をベッドに寝転がって鑑賞。夫妻でキャンプのようで楽しい!(写真撮影/桑田瑞穂)

「趣味のカメラでも、登山用品でも、一つ買ったら一つ売るを徹底しているので、すっきり暮らせているのも心地いいですね」と哲平さんは笑います。ちなみにもぐら号を見た哲平さんのお父さんは、「俺もほしい」と話していたそう。その気持ち、わかります。

タイニーハウスは人生を考える「きっかけ」。暮らしはもっと軽やかでいい笑顔がすてきな夫妻。大きさや持つことにとらわれない、等身大の幸せがあります(写真撮影/桑田瑞穂)

笑顔がすてきな夫妻。大きさや持つことにとらわれない、等身大の幸せがあります(写真撮影/桑田瑞穂)

周囲の人からも大好評の「もぐら号」ですが、泊まってみたいという要望も多いことから、夫妻は今、第2棟となる「カワウソ号」を作成しています。今度は自作ではなくデザインと仕上げの内装は自分で行い、施工はプロに依頼しています。

「タイニーハウスで暮らしてみて改めて思ったのは、住まいを考えるということは、人生を考えるきっかけになるということです。住まいって、暮らし方、働き方、誰とどんな場所で生きていきたいのか、考えるきっかけになりますよね。特にタイニーハウスは小さいからこそ、暮らしや自身の価値観と向き合わないとできないんです」と話します。

2棟目のタイニーハウス「カワウソ号」は9月中には「もぐら号」の隣に移設予定とのこと(写真提供/相馬さん)

2棟目のタイニーハウス「カワウソ号」は9月中には「もぐら号」の隣に移設予定とのこと(写真提供/相馬さん)

やはり小さく、制限があるからこそ、本当に大切にしたいものは何かをよく考え、厳選するようになるのかもしれません。特にコロナでさまざまな価値観が変わった今こそ、「やりたいことをベースにする」に、イチから住まい方を考え直したい、そう思う人が多いからこそ、相馬さんのタイニーハウスづくりを応援したい、興味をもっているという人が増えているのでしょう。

「日本で誰もやったことがない」ことから、「自分がやりたいからやってみる」とタイニーハウスづくりをはじめた相馬さん。「住居費のためではなくて、自分の人生を生きたい」と考えるなら、まずは今までの住まいのあり方を疑ってみるのも、ひとつの方法かもしれません。

●取材協力
相馬由季さん・哲平さん
由季さんのInstagram
ブログ

タイニーハウスやバンライフがコロナ禍で浸透! 無印やスノーピークなども続々参入する”小屋”の魅力とは?

「小屋」「タイニーハウス」「バンライフ」などのコンパクトな暮らしは、この10年ですっかりおなじみの存在となった。特にこの数年は、新型コロナウィルスの影響で「働く場所」「移動できる暮らし」としての拠点としても注目を集めています。いま、小屋やタイニーハウス事情はどうなっているのでしょうか。現在地を取材しました。

無印良品やスノーピークも参入! 小屋やタイニーハウスは憧れのライフスタイルに

「やはりコロナ禍の影響で、小屋の存在感、注目度は増しているように思います」と話すのは、約10年前から日本の小屋・タイニーハウス(小さな家)文化を牽引してきたYADOKARI株式会社の遠藤美智子さん。アメリカでは、タイニーハウスは2008年のリーマンショック以降にライフスタイルを見直した人が中心となって広まってきましたが、日本では東日本大震災を経験した2011年以降、徐々に広まってきました。特に2020年以降、リモートワークやテレワークが普及し、インターネット環境が整っていればどこでも働ける人が増えたため、「都会にいる必要はない」「自然のなかで暮らしたい」という声が増加、「小屋を郊外や地方に構えて2拠点生活をしてみたい」というニーズをよく聞くようになったそう。

YADOKARIが運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、鉄道の高架下に3種類のタイニーハウスを並べている。小屋ライフのお試しにぴったりだ(写真撮影/桑田瑞穂)

YADOKARIが運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、鉄道の高架下に3種類のタイニーハウスを並べている。小屋ライフのお試しにぴったりだ(写真撮影/桑田瑞穂)

「小さな家全般のことをタイニーハウスといい、弊社でも複数取り扱っていますが、先日もトレーラーを改造したトレーラーハウスのお引渡しがありました。土地代と中古トレーラーハウス代合わせて600万円以内で収まりました。都内に拠点を持ちながら、週末は愛犬といっしょに小屋で暮らしたい。今の暮らしにちょうどよい『選択肢』として定着しているように思います」と遠藤さんは続けます。
「先日、弊社で扱う小屋を一堂に展示する一般向けのイベントを湘南で開催したのですが、非常に多くのお客さまがいらっしゃいました。子どもたちも来場していて、とても和やかな雰囲気でした。今まで対企業として小屋を扱うことが多かったので、小屋への関心の高さ、広がりに私たちが驚いたほどです」と話すのは、同じくYADOKARIの齊藤佑飛さん。

イベント時の様子。次回は展示場の見学予約を開催予定(7月3日(日)、6日(水)予約制)(写真提供/YADOKARI)

イベント時の様子。次回は展示場の見学予約を開催予定(7月3日(日)、6日(水)予約制)(写真提供/YADOKARI)

こうした小屋人気の背景には、無印良品やスノーピーク(建築家の隈研吾氏デザイン)、カインズホームなど、さまざまな業種からの参入が続いたことも大きく影響しているそう。
「デザイン性や価格など、さまざまな特徴を持つ小屋が増えました。バリエーションも豊かになり、ますます個人の好みに合った小屋が選べるようになっています」と遠藤さん。

YADOKARIの遠藤美智子さん(左)と齊藤佑飛さん(右)(写真撮影/桑田瑞穂)

YADOKARIの遠藤美智子さん(左)と齊藤佑飛さん(右)(写真撮影/桑田瑞穂)

移動と定住、インドアとアウトドア。小屋にも派閥がある!?

固定の場所で暮らすタイプの小屋に加えて、今では、バンや軽自動車などを改造して移動しながら暮らす「バンライフ」や「モバイル小屋」も増えています。そこにはユーザーの志向やタイプに少し違いがあるそう。現在よく耳にするようになった「小屋」の種類とタイプを解説してもらいました。

■スモールハウス(小屋)、タイニーハウス
広さ10~20平米弱の小さな住まい。住まいになるため、基礎の上に建てます。移動させずに1カ所に定着するため、周囲で畑を耕したり地元の人と交流したりする人もいます。無印良品やスノーピークから販売されている商品のほか、組み立てキットなど、さまざま商品が登場しています。今後は3Dプリンターの家も登場するといわれています。

(写真提供/加藤甫)

(写真提供/加藤甫)

■コンテナハウス、トレーラーハウス
貨物コンテナを小屋として改造したものが「コンテナハウス」、さらに自動車で牽引できる家が「トレーラーハウス」です。「タイニーズ 横浜日ノ出町」の小屋は「トレーラーハウス」にあたります。バス・トイレがあり、人が暮らしを営めますが、法律上は車両です。移動もできるのが特徴です。

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」のカフェ部分は、コンテナを改造した「コンテナハウス」です。コンテナらしい無骨な風合いが、独特の味わいを醸し出しています(写真撮影/桑田瑞穂)

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」のカフェ部分は、コンテナを改造した「コンテナハウス」です。コンテナらしい無骨な風合いが、独特の味わいを醸し出しています(写真撮影/桑田瑞穂)

「タイニーズ 横浜日ノ出町」にある小屋は「トレーラーハウス」。建物のそのものは、住宅を手掛ける大工さんに施工してもらったといいます(写真撮影/桑田瑞穂)

「タイニーズ 横浜日ノ出町」にある小屋は「トレーラーハウス」。建物のそのものは、住宅を手掛ける大工さんに施工してもらったといいます(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウス「Wonder」の前で。小屋といいつつも、ゆとりがあるのがおわかりいただけますでしょうか(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウス「Wonder」の前で。小屋といいつつも、ゆとりがあるのがおわかりいただけますでしょうか(写真撮影/桑田瑞穂)

「Wonder」のお部屋。4人まで宿泊できますが、狭さを感じません(写真撮影/桑田瑞穂)

「Wonder」のお部屋。4人まで宿泊できますが、狭さを感じません(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワーやトイレもあります。トイレは水洗。工具を使わずに着脱できる配管を使用し、下水道につなげている。すぐ移動ができるよう、土地には固定していないとのこと(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワーやトイレもあります。トイレは水洗。工具を使わずに着脱できる配管を使用し、下水道につなげている。すぐ移動ができるよう、土地には固定していないとのこと(写真撮影/桑田瑞穂)

「Wonder」のシャワーブース。こうして見ると小屋といっても案外、広さがあることがわかります(写真撮影/桑田瑞穂)

「Wonder」のシャワーブース。こうして見ると小屋といっても案外、広さがあることがわかります(写真撮影/桑田瑞穂)

「タイニーハウスに興味がある人に加え、友達と個室に宿泊したい、個性的な部屋に泊まりたいという需要で利用する人も増えてきました(齋藤さん)」(写真撮影/桑田瑞穂)

「タイニーハウスに興味がある人に加え、友達と個室に宿泊したい、個性的な部屋に泊まりたいという需要で利用する人も増えてきました(齋藤さん)」(写真撮影/桑田瑞穂)

■キャンピングカー・バン
自動車の居住性を高めたのが「キャンピングカー」や「バン」です。基本的には車の延長上にあるため、居住面積は小さめです。アウトドア好きな人が多く、旅をしながら暮らしたい、いろいろなところに行きたいという、「移動」したい人“バンライファー”に向いている形態です。お風呂やトイレがついていないこと、また車中泊の場所には注意が必要です。

(写真提供/加藤甫)

(写真提供/加藤甫)

★番外編 
■サウナトレーラー
サウナの本場・フィンランドでは、自動車で牽引できる「サウナトレーラー」があるそう。バカンスの時期になると自宅の車につないで別荘に持っていき、好きな場所でサウナを楽しむといった使い方です。きれいな川、湖がある場所に移動すれば、最高の水風呂で“ととのう”ことは間違いなさそう。YADOKARIで販売をはじめたので、これから一気に盛り上がりそうです。

(写真提供/YADOKARI)

(写真提供/YADOKARI)

なるほど、移動を重視するアクティブ派は「バン」「キャンピングカー」、好みの場所に定住したい派は「小屋(タイニーハウス)」、「コンテナハウス」(移動はできるけれど、基本は1カ所で過ごす)といえるのかもしれません。「生き方」や「好きな暮らしのタイプ」にあわせて小屋が選べるようになっているあたり、小屋・タイニーハウス文化の広がりを感じます。

オフグリッドにコミュニティ、まだまだ可能性は広がる

「今まで弊社では、主に企業と組んで、小屋のプロデュースや土地の活用法をご紹介・提案してきました。シェアオフィス、コワーキングスペース、最近ではビジネスの側面からトレーラーハウスの引き合いがとても多いですね。ただ、このコロナ禍で大きく価値観が変わり、都会で暮らす意味を問い直す人や、住宅ローンや家賃にしばられない暮らしがしたい、という人がさらに増えたように思います。広さや駅からの距離、家賃などといった今までの物件の選び方とは異なる価値観を提案していけたらいいですね」と遠藤さん。

(写真提供/加藤甫)

(写真提供/加藤甫)

「もともと住まいって、広さよりも、どう過ごすかのほうが大事なはず。僕自身も今は小さな家に暮らしていて、広い家にあまり興味はありません(笑)。自分の身の丈にあったサイズの家が心地よいと思うんです。必要なら拡張したり、縮小したりする。柔軟な暮らし方ができるんだよと伝えていけたらいいですね」と齊藤さん。“うさぎ小屋”のようだと揶揄されてきた日本では、「広さこそ、豊かさ」と考えていた時代が続いていたわけですが、その価値観は今、大きく変わったようです。

では、今後小屋がさらに普及するうえで課題となっているもの、次の展開などについて聞いてみました。

「現状の課題のひとつは、ローンが組みにくいことがあります。小屋は住宅ローンのような超低金利ローンは利用できないのです。お金を借りるにしても金利が高くなってしまうのは、悩ましいですね。今後の展開や展望でいうと、やりたいことが多くて。自然エネルギーを活用したオフグリッドハウス(外部の電力と切り離され、独立した住まい)や、小屋で暮らす人が集まるコミュニティ、災害発生時の仮設住宅など、アイデアはたくさんあるので、ひとつずつ実現していけたらいいですね」(遠藤さん)

以前、YADOKARIが提唱する「ゼロハウス構想」(住宅ローンや家賃などの金銭的負荷を減らして可処分所得や時間を人、文化の醸成に再投資する)という考え方を聞いたとき、正直、筆者は「理想はわかるけれど、実際にはね……?」と疑っていました。ただ、小屋の価格が手ごろになり、空き家や活用しにくい土地が増えてきたこと、どこでも仕事ができるようになっているなどの時代の変化を考えたときに、「ゼロハウス、無理じゃないかも」と思うようになりました。

暮らし方も働き方も大きく転換している今なら、好きな場所で、小さく豊かに暮らすが、「リアル」な選択肢になりつつあります。小屋暮らしに興味があるのであれば、今が恰好のタイミングかもしれません。

●取材協力
ヤドカリ
タイニーズ 横浜日ノ出町

3カ月、駐車場に住んだバンライファー夫妻。40代後半で退職、家を売却した理由【バンライフの日々1】

2020年4月、筆者が運営するシェアハウス「田舎バックパッカーハウス」併設の“住める駐車場”「バンライフ・ステーション」にひと組のバンライファー夫妻が訪れた。神奈川県横浜市出身、50歳を目前に早期退職し、自宅を売却して今年1月末からバンライフをスタート。その理由や、新型コロナウイルス感染症の騒動下での状況について伺った。連載名:バンライフの日々
荷台スペースが広い車“バン”を家やオフィスのようにし、旅をしながら暮らす新たなライフスタイル「バンライフ」。石川県 奥能登の限界集落・穴水町川尻に、シェアハウス「田舎バックパッカーハウス」と住める駐車場「バンライフ・ステーション」をオープンした旅人・中川生馬が「バンライフ」と出会ったバンライファーたちとのエピソードを紹介します。自宅を売却して“車”を拠点にした生活にお二人がバンライフの拠点にしているのは、「ISUZU Be-cam」をベースにした日本特種ボディー社製キャンピングカー「SAKURA」(写真撮影/中川生馬)

お二人がバンライフの拠点にしているのは、「ISUZU Be-cam」をベースにした日本特種ボディー社製キャンピングカー「SAKURA」(写真撮影/中川生馬)

今回「バンライフ・ステーション」に3カ月滞在していたバンライファー夫妻の夫・秋葉博之さんと妻・洋子さん。

バンライフという暮らし方を決めた大きなきっかけは「宝くじ」だった。「宝くじ」に当たったわけではないが、そのときにふと交わしたシンプルな会話が二人の人生観を変えたのだ。

2018年春、洋子さんが「宝くじで、億円単位が当たったらなにをしたい? 私だったら、全国へ旅したい!」と言った。当たったわけでもないのに、博之さんはすぐに「いいね!やるなら今でしょ!」と賛同。二人は「とにかく、何もしないで旅をしよう!」と話し合った。「お金に対する不安ばかりを考えてもなにも始まらない」「とりあえず生きられればいい」……

キャンピングカー内にはテレビ兼PCモニターも設置されている(写真撮影/中川生馬)

キャンピングカー内にはテレビ兼PCモニターも設置されている(写真撮影/中川生馬)

博之さんは、バンライフをスタートさせるために購入したキャンピングカーの納車に合わせて、2019年10月中旬、約15年勤務した建設機械のレンタル会社を退社。それから生命保険の解約、自宅にあったモノの売却・譲渡・処分など、秋葉さん夫妻にとって今後の人生で“不要”と思ったモノの断捨離……いわゆる資産整理を始め、そして2020年1月30日に横浜の自宅を売却。バンライフを始めるにあたっての投資額は約1000万円以上。不安よりもワクワクのほうが何十倍も大きい。人生1度限りの無期限な旅へ期待に胸を膨らませながら、バンライフへの旅立ちの日を迎えた。

だが、ぶち当たったのは新型コロナウイルス感染症の影響だった。

キャンピングカー内の寝床(写真撮影/中川生馬)

キャンピングカー内の寝床(写真撮影/中川生馬)

90リッターの備え付けの冷蔵庫と、14リッターのエンゲル社製の冷蔵庫も積んでいるため、“食”生活も問題ない(写真撮影/中川生馬)

90リッターの備え付けの冷蔵庫と、14リッターのエンゲル社製の冷蔵庫も積んでいるため、“食”生活も問題ない(写真撮影/中川生馬)

旅立ち直後、コロナ禍で行き場を失った

バンライフをスタートさせた1月末は順調だったが、3月になると世の中は新型コロナ禍の影響が色濃くなっていった。
政府が4月7日に「緊急事態宣言」を発出し、各県でも順次、独自の対応を発表した。密閉空間・密集場所・密接場面など、3つの「密」になりうる温泉、道の駅、車中泊スポットなどの施設も閉鎖。運転の休憩をするための“仮眠”向けの車中泊スポットとなる道の駅やサービスエリア、電源が使えるRVパークなどは、いずれもバンライファーにとって大事な生活拠点だ。これらが使えないのは、家を売却してしまった夫妻にとっては死活問題。行き場を失ってしまった。

さらに、「車両ナンバーは、コロナが蔓延している神奈川県『横浜』。あちこち移動することで、周囲の人に不快感を与えたくなかった」と秋葉さん夫妻。彼らと同じように考える県外ナンバーのバンライファーは多く、筆者の知り合いのバンライファーたちも、実家や友人宅に滞在するなどして、バンライフを自粛していた。

「バンライフ」はクルマで旅や仕事をしながら快適に生活でき、好きな場所で寝起きできるなど、旅好きやさまざまな場所で暮らしてみたい人たちにとっては、理想的なライフスタイルではある。

しかし、今回のコロナ禍は、秋葉さん夫妻のように家を売却してしまっている、あるいは家を持たないバンライファーたちにとって、長期滞在することができる「不動産の拠点」の必要性を痛感した出来事でもあったかと思う。

まだまだバンライファーたちが長期滞在できるスポットの選択肢は多くない。「バンライフ・ステーション」へ秋葉さん夫妻が訪れたのは、こうした経緯からだった。

シェアハウス「田舎バックパッカーハウス」の住める駐車場「バンライフ・ステーション」には、トイレ・シャワー・料理場・ダイニング・居間・ワークスペースなど基本的な生活インフラを完備(写真撮影/中川生馬)

シェアハウス「田舎バックパッカーハウス」の住める駐車場「バンライフ・ステーション」には、トイレ・シャワー・料理場・ダイニング・居間・ワークスペースなど基本的な生活インフラを完備(写真撮影/中川生馬)

秋葉さん夫妻の家犬ならぬ“バン”犬・ぶーすけ(写真撮影/中川生馬)

秋葉さん夫妻の家犬ならぬ“バン”犬・ぶーすけ(写真撮影/中川生馬)

行き場を失ってたどり着いた

秋葉さん夫妻から筆者に問い合わせがきたのは、緊急事態宣言から数日後の4月11日。内容は以下のようなものだった。「現在、和歌山県にいます。今は毎日、点々として暮らしている状態です。先が見えない状況であり緊急事態宣言の出た横浜ナンバーでウロウロするのも気が引けて……。このような私たちでも受け入れが可能であれば利用させていただききたいと思っております。よろしくお願いいたします。(旅していた場所は)田舎ですし、3密になることもありませんが、道の駅や入浴施設等は利用しています。今のところ体調不良はありません」――。とても紳士的で、「きっといろいろと考えて問い合わせしてくれたんだろうなぁ」と思った。

秋葉さん夫妻滞在中に、1トントラックに自作の木造の家を荷台に積み1年間全国を旅したというバンライファーも訪問!(写真撮影/中川生馬)

秋葉さん夫妻滞在中に、1トントラックに自作の木造の家を荷台に積み1年間全国を旅したというバンライファーも訪問!(写真撮影/中川生馬)

当時、ちょうど「田舎バックパッカーハウスも、なにかコロナ対策に利活用できないものか」「災害時、ここが社会的にもっと役立つ施設になれればなぁ」と考えていた時期で、同じ“旅人”だということと、筆者がもともと暮らしていた鎌倉と、秋葉さん夫妻が暮らしていた横浜というゆかりのある土地の近さで親近感を抱いたことなども背景にあり、受け入れさせていただいた。また、思い切ってキャンピングカーに“人生の楽しみ”を詰め込むような人に「悪い人はいない!」という筆者の勝手な思い込みと直感もあった。

本来の田舎暮らしは近所付き合いが大切で、そこに面白みがあるのだが、今回はそうも言っていられない。1. (一定期間)近所の人たちとの距離を置く、2. マスクをすることなどを前提に「バンライフ・ステーション」に来ていただいた。

実際、夫妻に会ってみると、まさに思っていた通りの人たちだった。

「いい歳して、会社を辞めて、家を売って、将来のことはどうするの?」と思う人もいるかもしれない。しかし、秋葉さん夫妻は、「“自分たちの将来”のことについて本気で考えて、大切に想っている」からこそ旅に出たのである。大切な決断だと思う。

いろんな場所で短期滞在するのがバンライフの暮らし方。コロナ禍は災難だったが、期せずして長期滞在になったことで、能登をよく知ってもらう機会になったのではないかと思う。残念ながら前半はコロナの影響もあり、筆者の家族以外の近所付き合いがなかったが、滞在中に平和な田舎暮らしを味わってもらえたようだ。その様子は博之さんのブログに綴られている。

秋葉さん夫妻と筆者親子で「田舎バックパッカーハウス」周辺をお散歩(写真撮影/中川生馬)

秋葉さん夫妻と筆者親子で「田舎バックパッカーハウス」周辺をお散歩(写真撮影/中川生馬)

「田舎バックパッカーハウス」周辺 田んぼなど、緑が広がっている。近くには海も(写真撮影/中川生馬)

「田舎バックパッカーハウス」周辺 田んぼなど、緑が広がっている。近くには海も(写真撮影/中川生馬)

緊急事態宣言の解除後、「北」へ旅立った

6月18日、緊急事態宣言が全面的に解除され、19日以降、県境移動の自粛も解除された。

秋葉さん夫妻の動きは慎重だった。最終的に、7月9日に北海道に向けて旅立った。能登での3カ月間の“ちょい”田舎暮らしが終了した。

能登出発最終日に秋葉さん夫妻と記念撮影(写真撮影/中川生馬)

能登出発最終日に秋葉さん夫妻と記念撮影(写真撮影/中川生馬)

本州の暑くなる夏を避けるために、北海道へと向かったのだ。当初の旅の目的である「自分たちが今後なにをしたいのか探しながら全国を旅する」ことを果たすために。

「田舎バックパッカーハウス」運営者である筆者は、このコロナ禍という未曾有の状況下でつながった秋葉さん夫妻にますます親近感を持ってしまい、お別れの9日にはぼろ泣きしてしまった。

北へと向かった秋葉さん夫妻(写真撮影/中川生馬)

北へと向かった秋葉さん夫妻(写真撮影/中川生馬)

コロナ禍で見直されるバンライフ

このコロナ禍で、今後のライフスタイルについて改めて考え始めた人も多いだろう。秋葉さん夫妻のように、年齢やタイミングに関係なく、実現したいライフスタイルを自由に選択できる時代だ。

一方で、秋葉さん夫妻の話から筆者が感じたのは、今後増えていくだろうバンライファーに対応したインフラ施設の進化が必要だということ。バンライフは災害時にも有用な暮らし方だと言われているが、今回の件でさらなる課題が見えたように思う。

暮らし方だけでなく、生活基盤の選択肢も充実し、より豊かな生き方を選び取ることができるようになることを願いたい。

住める駐車場「バンライフ・ステーション」に続き、多くのバンライファーが集うことができる駐車場“村”「バンライフ・ビレッジ(仮)」を整備中で、オープン予定の赤井成彰さん(写真撮影/中川生馬)

住める駐車場「バンライフ・ステーション」に続き、多くのバンライファーが集うことができる駐車場“村”「バンライフ・ビレッジ(仮)」を整備中で、オープン予定の赤井成彰さん(写真撮影/中川生馬)

「田舎バックパッカーハウス」のワークスペース、ダイニング、キッチンエリア。7月中旬から、旅行グッズレンタルサービス「flarii(フラリー)」とタッグを組み、バンライファーやサテライトオフィス含め長期滞在者向けの仕事環境のために、パソコンやPCモニターがレンタルできる「リモートワークプラン」を開始した(写真撮影/中川生馬)

「田舎バックパッカーハウス」のワークスペース、ダイニング、キッチンエリア。7月中旬から、旅行グッズレンタルサービス「flarii(フラリー)」とタッグを組み、バンライファーやサテライトオフィス含め長期滞在者向けの仕事環境のために、パソコンやPCモニターがレンタルできる「リモートワークプラン」を開始した(写真撮影/中川生馬)

バンライファーが集う「田舎バックパッカーハウス」がある石川県では、地元・金沢工業大学とCarstay社が「バンライフ」で地域を盛り上げるプロジェクトが始まった。全国的に「バンライフ」の旅と暮らしのスタイルが広がりつつある(写真撮影/中川生馬)

バンライファーが集う「田舎バックパッカーハウス」がある石川県では、地元・金沢工業大学とCarstay社が「バンライフ」で地域を盛り上げるプロジェクトが始まった。全国的に「バンライフ」の旅と暮らしのスタイルが広がりつつある(写真撮影/中川生馬)

●取材協力
・秋葉さん夫妻
・田舎バックパッカー
・flarii(フラリー)●関連記事
民家の駐車場に“住める”!? 「バンライフ・ステーション」って?
つくば市が「バンライフ」の聖地に? 車を家にする新しい暮らし
田舎をバックパッカー旅してたどり着いた、家賃5000円の能登暮らし

民家の駐車場に“住める”!? 「バンライフ・ステーション」って?

「バン」などの車中泊仕様の車を生活拠点「家」にして、仕事や旅行などを楽しむ新たなライフスタイル「バンライフ」が話題となっている。

その流れを受け、バンライファーである筆者が、日本初の長期間“住める”民家の駐車場「バンライフ・ステーション」を2019年12月にオープンした。この試みはどういったものなのか、利用者の声も踏まえてお届けする。

なぜバンライフが熱いのか?

インスタグラムの「#VANLIFE」ハッシュタグ数は世界で676万件(2020年3月現在)にも及ぶ。インスタグラム、フェイスブック、ブログなどのソーシャルメディアを通して、世界的にあらゆるライフスタイルが共有される時代、人々の視野や価値観が拡大することで、“一緒に”変わった暮らし方にチャレンジする実践者が増えている傾向にある。

筆者の周りでも最近、「生活はバンライフで十分、(それを実践する)バンライファーになりたい」と従来の安定した正社員生活を離れ、2020年3月からトヨタ・ヴォクシーを活用し、バンライファーの仲間入りを果たした20代の若者もいる。

豊かな世の中に生まれ育った20~40代前後の若者が「何故これまでの考えのもと、人生を過ごさなければいけないの?」「時代に合わせた生活があってもいいのでは?」と暮らしの固定概念を疑問視し、精神的な豊かさや自由を求めて、旅先であらゆることを日々体感しながら暮らせるバンライフに魅力を感じ始めているようだ。

バンライフの“家”もあれこれ(写真提供/中川生馬)

バンライフの“家”もあれこれ(写真提供/中川生馬)

ハイエースをベースに、オフィスやベッドを搭載した“動く拠点”(写真撮影/中川生馬)

ハイエースをベースに、オフィスやベッドを搭載した“動く拠点”(写真撮影/中川生馬)

軽トラックや1トントラックに自作の木造の家を荷台に積むバンライファーもいる(写真撮影/中川生馬)

軽トラックや1トントラックに自作の木造の家を荷台に積むバンライファーもいる(写真撮影/中川生馬)

自身の好みで車内を改装すれば、分厚くて頑丈な外装、安全面を重視して製造された車は家にもなる。

「バンライフ=車上生活・車中生活」というと、かつては車付きの路上暮らしをイメージされがちだったが、いわゆるこの記事内の「バンライフ」は従来のイメージとは異なる。

ひと昔前は「マイホーム」が豊かさを示していたかもしれないが、今や個々の豊かさの価値観は自身の自由度にシフトし始めている。

情報通信技術が飛躍的に進化、バンライファー人口はどれくらいいる?

バンライフを実践したい人たち向けに車中泊スポットのシェアと、キャンピングカーなど車中泊仕様の車に特化したカーシェアサービスを提供するCarstay(カーステイ)によると、「世界には120万人、日本には3400人もの長期間、車で過ごすバンライファーがいる」という。

2000年初期からADSLや光回線が普及し、2010年に入ってからはモバイルWi-Fiルーターやスマホのテザリングを介したインターネットが普及。このことでいつでもどこでも場所を問わず仕事ができるようになり、バンライフに火が付き始めた。

2020年代に突入し、5Gや自動運転が普及することで、車で移動しながら仕事するだけでなく、暮らすこともできるようになる。この社会動向とともに、より多くの人が「バンライフも自分の生活の選択肢としてあり得るのでは?」と考え始め、今後の暮らし方の自由度はさらに拡大することだろう。

バンライファーが集まるイベント「キャンパーフェス」にて(長野県安曇野)(写真提供/中川生馬)

バンライファーが集まるイベント「キャンパーフェス」にて(長野県安曇野)(写真提供/中川生馬)

この流れのなかで、バンライファーたちの注目を集めているのが大手自動車会社の動向だ。

それは、情報技術と車両を活かしてあらゆるサービスを展開する概念「MaaS(Mobility as a Service)」。この市場は世界で6兆円規模と言われている。

去年開催された自動車の祭典「第46回東京モーターショー2019」では、車が単に人の「足」になるだけでなく、これまで以上に人の生活に深く入り込み、車は「動く」打ち合わせスペース、ホテル、仮設住宅など、「動くX」に生まれ変わることを自動車会社が強調していた。

「動くX」の代表例はトヨタの「e-Palette(イーパレット)」(写真提供/トヨタ自動車株式会社)

「動くX」の代表例はトヨタの「e-Palette(イーパレット)」(写真提供/トヨタ自動車株式会社)

さらにトヨタは、世界最大のエレクトロニクスとテクノロジーの見本市「CES 2020」で、MaaSなどの実証実験ができるコミュニティ「Woven City(ウーブン・シティ)」を静岡県裾野市に創ることや、通信インフラ最大手のNTTとの資本・業務提携にまで踏み込み、この世界の広がりを本格化させることを発表した。

MaaSに関わる業界全体で、車を基盤としたサービスの革新が進み、バンライフにもさらなる注目が寄せられることだろう。

住める駐車場「バンライフ・ステーション」とは?

バンライフへのアツい潮流をひしひしと実感し、2019年12月、能登半島の奥地、石川県穴水町川尻地区で筆者が安価で譲り受けた一軒の古民家を、シェアハウス、シェアオフィス、コワーキングスペースなど多用途・多目的の家「田舎バックパッカーハウス」としてバンライファー向けにオープンした。「バンライフ・ステーション」はその敷地内にある、中長期間滞在が可能な“住める民家の駐車場”だ。

バンライファーの家となる「車」を駐車場に停めて、「田舎バックパッカーハウス」にドッキング。固定された家に「動く部屋」が拡張されたイメージだ(撮影/中川生馬)

バンライファーの家となる「車」を駐車場に停めて、「田舎バックパッカーハウス」にドッキング。固定された家に「動く部屋」が拡張されたイメージだ(撮影/中川生馬)

ワークスペース、居間、台所、シャワー、トイレ、畑、Wi-Fi、パソコンモニター、デスクなど、生活で必要となるスペースや設備の共同利用が可能で、プライベート空間が必要なときや、就寝時は自身の家/ベットルーム「車」へと戻るという考え方だ。

通常、バンライファーは自宅となる車を運転しながら、その日の風呂、車中泊、仕事、充電などができるスポットを探すことで頭がいっぱいだ。

車の旅人は主に、長距離運転などの疲労による仮眠の車中泊はOKで、オートキャンプなどいわゆるレジャー目的の車中泊は“遠慮してください”としている「道の駅」、サービスエリア、車中泊が正式認定された「Carstay」ステーション、オートキャンプ場、RVパークなどを利活用することが多いが、これらの施設は「長期滞在」「連泊して住む」ことなどを目的としては機能していない。

時代とともに目的や用途は変更すべきだとは思うが、現状、本格的なバンライフを支えるインフラは存在しない。一時的にリラックスでき、24時間仕事に集中できる「バンライフ・ステーション」は、バンライファー含めた旅人に求められていると思っている。このような「バンライフ・ステーション」が増えることで、バンライファーも増えるに違いない。

「田舎バックパッカーハウス」オーナーの筆者・中川生馬は、バックパッカーあがりのバンライファーです(撮影/中川生馬)

「田舎バックパッカーハウス」オーナーの筆者・中川生馬は、バックパッカーあがりのバンライファーです(撮影/中川生馬)

今回、「田舎バックパッカーハウス」をつくろうと思った背景には、筆者のバックパッカー時代の経験がある。「田舎バックパッカーハウス」のオーナーである筆者は、以前は田舎を旅するバックパッカーだった。

前職の大手企業での会社生活に満足していたものの、会社中心のライフスタイルに疑問を抱き、2010年10月から、能登の小さな農山漁村・石川県穴水町岩車に移住した2013年5月まで、テントや炊事道具など約30キロのバックパックを担いで、全国各地の“聞いたことがない”田舎を中心に旅歩き、田舎現地の人たちの生の声を聞きながら、次の生活拠点を探した。途中、車中泊・旅人仕様に車を改装するアネックス社からハイエースがベース車輌の「ファミリーワゴンC」を購入し、バンライフを開始。

バックパッカーやバンライフをしていた当時から、中長期間、時間を気にすることなく、休憩しつつも仕事ができ、旅人の体や気持ちを癒やし共感できるスペースの必要性を感じていた。今回、「バンライフ・ステーション」を開設したのは、こういう理由からだ。

今後、バンライファーがさらに増加することで、「バンライフ・ステーション」の需要はさらに高まると思う。「バンライフ・ステーション」は現在能登に1カ所しかないが、共同企画者であるCarstayが年内中に全国から「バンライフ・ステーション」のオーナーの募集をする予定だ。

ハイエースのバンがベース車輌のキャンピングカーで打ち合わせをするCarstayのメンバー(写真提供/Carstay株式会社)

ハイエースのバンがベース車輌のキャンピングカーで打ち合わせをするCarstayのメンバー(写真提供/Carstay株式会社)

「バンライフ・ステーション」を利用した2組の声

2020年新年早々、「田舎バックパッカーハウス」に2組のバンライファー夫婦が訪れた。

1組目の矢井田さん夫妻は「バンライフ」に魅力を感じて会社を退職したという。

2019年10月ごろ、住んでいた大阪のアパートを解約し、ハイエースに引越した。自宅で使っていたベッドや棚などは車内に移動。さながらハイエースは“動くワンベッドルーム”のようだった。

矢井田さん夫妻のハイエースの家。アパートで使っていたベッドや棚を設置(撮影/中川生馬)

矢井田さん夫妻のハイエースの家。アパートで使っていたベッドや棚を設置(撮影/中川生馬)

2組目の菅原さん夫妻は、結婚当時 家がなく、唯一持っていたのは車のみだった背景から、2019年4月から旅・仕事・生活を車中で開始、今では軽自動車のハスラーで全国を周る超小型バンライフを楽しんでいる。が、少しスペースが小さすぎたようで、最近ではハイエースへの乗り換えを予定しているとのこと。

菅原さん夫婦の“家” 軽自動車ハスラー(撮影/中川生馬)

菅原さん夫婦の“家” 軽自動車ハスラー(撮影/中川生馬)

両組とも「バンライフ・ステーション」を利用しようと思った背景には、「落ち着いた環境で時間を気にせず、約1カ月間 集中して仕事をしたい」などの理由があった。

夜はみんなでわいわいと飲み食い(撮影/中川生馬)

夜はみんなでわいわいと飲み食い(撮影/中川生馬)

ご飯を自炊したり、夜中過ぎまで仕事をしたりして「田舎バックパッカーハウス」で過ごしていた二組夫婦。

同じバンライフ人生を過ごす仲間と一時を共有できたことについて「バンライファーが長期間、一つの場所に集まることは珍しい。共感できる話も多くて楽しい時間を過ごせた」と話していた。

また、味噌づくりなど地域の行事に参加、近所で野菜をお裾分けしてもらうなど、田舎ならではの体験をとおして、地域と交流ができ、人との“つながり”が生まれた。

「バンライフでは夫婦2人で居る時間がほとんど。この場をきっかけに、お互いの夫婦や地元の人たちと触れ合うことができ、新しい家族が増えたようで楽しかった。穴水町はまだまだ知られていない穴場、移住した中川生馬さんが地元の人と私たちをつなげてくれたおかげで、『知る人ぞ知る』地元ならではの体験もできてうれしかった」と、菅原さん夫婦は話してくれた。

両夫婦とも能登牡蠣には超感動(写真提供/中川生馬)

両夫婦とも能登牡蠣には超感動(写真提供/中川生馬)

矢井田さん夫妻も、「今回、バンライフ・ステーションに滞在した主な理由は、たまっていた仕事を落ち着いた空間で片付けたいと思ったからでした。バンライフでは、落ち着ける車中泊スポット、温泉や銭湯、ポータブルバッテリーの充電スポットなどを探しながら日々を過ごしています。とはいえ、連泊でき、時間を気にすることなく、自宅のように気軽に利活用できるスペースがありません。夫婦だと、ゲストハウスやホテルなどの長期宿泊すると高額になりますし、バンライフを送るにも通常1カ月あたり12万円以上かかっていましたが、ここに滞在した1カ月間は、ガソリン代や温泉代などを抑えることができ、二人一組で約半額で済みました。また、田舎への“ちょい”移住生活も体感できたし、牡蠣などの能登の食材もとにかく素晴らしかった!」と滞在を楽しんでくれた様子。

昼前から深夜にかけて仕事をする二組の夫婦(撮影/中川生馬)

昼前から深夜にかけて仕事をする二組の夫婦(撮影/中川生馬)

能登では冬季間の1~2月は雨や雪が多いが、3月ころから天気が回復して暖かくなり、過ごしやすくなる。

夏は暑いが、都会と比べると、日中や朝晩は涼しい。暑い日は、「田舎バックパッカーハウス」から数分で行ける穏やかな海へと飛び込んで涼む方法もある。

「バンライフ・ステーション」で過ごすだけでなく、牡蠣漁師の体験や…(撮影/中川生馬)

「バンライフ・ステーション」で過ごすだけでなく、牡蠣漁師の体験や…(撮影/中川生馬)

穏やかな海上で地元の食材や地酒を堪能し、釣った魚を調理し半自給自足体験をすることもできる(撮影/中川生馬)

穏やかな海上で地元の食材や地酒を堪能し、釣った魚を調理し半自給自足体験をすることもできる(撮影/中川生馬)

あらゆるものがそろっている豊かな時代。

あえて混雑した都会を離れ、バンライフというユニークな暮らし方を試してみてはいかがだろうか?

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