京都の“近所付き合い”を現代に。生活の一部をシェアするコレクティブハウスの暮らしって?

ご近所づきあいが希薄になりつつある一方で、シェアハウスや定額で多拠点に宿泊可能なサブスクリプション住居など、違う形でのコミュニティが活発化している昨今。京都の八清(ハチセ)が運営するコレクティブハウスは、一人暮らし以外に、子育て世代や高齢者にも注目されている。京都の特性を活かした住まいとはどのようなものか。その住まい方を紹介したい。
コミュニケーションのさじ加減。人との距離感は自分で調整路地でひと際目立つ2トーンの外観。大きなガラス戸が「ウェルカム」の意思表示に(写真提供/八清)

路地でひと際目立つ2トーンの外観。大きなガラス戸が「ウェルカム」の意思表示に(写真提供/八清)

京都の賀茂川近く、車も通れないような路地を入ると、古い街並みのなかに、板張りの塀に囲まれた、グレーと白の2トーンの外観が目を引く。ガラス戸を開けると、テーブルとキッチンカウンターのあるカフェのようなスペース。隣には中庭が広がり、そのまわりに5つの玄関が並んでいる。ここが、新築コレクティブハウス「coco camo」だ。そもそも、コレクティブハウスって?

「水まわりやLDKを共用するシェアハウスとは違い、それら生活に必要なスペースは専用でありながら、みんなで使ういくつかの共用スペースもある。生活の一部を共同化しながら生活する住まいのことです」と、コレクティブハウスを運営する株式会社八清の小山由美さん。

八清がコレクティブハウスを運営するのは、これで4つ目。これまでの3棟は、既存のワンルームマンションの一部を共用部に改装し、「面白い暮らしがしたい!」という人たちが好んで集まったという。共用部にはソファや広いキッチンを完備。それぞれの生活を送りながら、ひとたび集まれば、仕事が生まれたり、イベントを開催したり、山登りサークルができたり。集まったときのポテンシャルが高く、とにかく楽しそう!

シェアハウスとの一番の違いは、「人との距離感を自分で調整できることではないでしょうか」と小山さんは教えてくれた。「基本的に、コレクティブハウスはそもそも独立した住宅なので、個人の生活が確立しています。その上で、自分のスタンスに応じて、共用部をうまく使いながら、人と交流するイメージです。また、シェアハウスは年齢やライフスタイルの違いによる価値観の違いから起きるトラブルを回避したいと、年齢制限を設けたり、一人暮らしに限定していたりといった制限があることも多いのですが、コレクティブハウスはシェアハウスの楽しいところはそのまま、カップルや子どものいる世帯、高齢者など多様な人が住まえるところにも魅力があります」

自然素材に囲まれた2号室。ステンレス×木のキッチンはミニマルなシンプルデザイン(写真撮影/出合コウ介)

自然素材に囲まれた2号室。ステンレス×木のキッチンはミニマルなシンプルデザイン(写真撮影/出合コウ介)

床はオーク、土壁風クロスやシナベニヤなどを使って落ち着いた雰囲気に。アンティークな建具を再利用しているあたりは、町家リノベの実績の多い八清ならでは(写真撮影/出合コウ介)

床はオーク、土壁風クロスやシナベニアなどを使って落ち着いた雰囲気に。アンティークな建具を再利用しているあたりは、町家リノベの実績の多い八清ならでは(写真撮影/出合コウ介)

遠方からの移住者とコレクティブハウス。実はとても相性がいいシンボルツリー「ソヨゴ」があるコモンテラス。このテラスに面して各戸の玄関が配置されている。玄関のライトがコロンとしてかわいい(写真提供/八清)

シンボルツリー「ソヨゴ」があるコモンテラス。このテラスに面して各戸の玄関が配置されている。玄関のライトがコロンとしてかわいい(写真提供/八清)

「coco camo」はワンルームマンションからの発展形。「コレクティブハウス」を目的として建てた、一戸建てのような集合住宅だ。これまでの3棟は、ワンルーム=一人暮らしを想定していたが、「coco camo」の各住戸は初のメゾネットタイプ。一人でも、カップルでも暮らせるフレキシブルさがある。自然素材に囲まれた住戸は落ち着いた雰囲気で、住まう人の色に染められるよう、限りなくシンプルにデザインしている。これまでに手掛けたコレクティブハウスは内部の共用部のみだったが、中庭=コモンテラスという外部にある共用部は、本を読んだりお茶したりと自分の庭として使えるのが最大のメリット。バーベキューなどアウトドアを通してよりオープンに人とつながれる魅力も増えた。

入居者みんなが利用できるコモンリビングには団らんできるようカウンターを設置(写真撮影/出合コウ介)

入居者みんなが利用できるコモンリビングには団らんできるようカウンターを設置(写真撮影/出合コウ介)

入居者が飲んだビールの空き瓶もオブジェのようにズラリ。エントランスホールの可動棚とピクチャーレールはみんなと共有したいものを置いて、住まう人たちの情報交換の場に(写真撮影/出合コウ介)

入居者が飲んだビールの空き瓶もオブジェのようにズラリ。エントランスホールの可動棚とピクチャーレールはみんなと共有したいものを置いて、住まう人たちの情報交換の場に(写真撮影/出合コウ介)

実はこのコロナ禍の影響で、完成前の現地見学会をオンラインで行うことを余儀なくされた「coco camo」だが、逆にそれが功を奏して遠方の方とつながることができ、コレクティブハウスの特徴とマッチした。

「単身でお住まいの60代女性は、埼玉からの移住者です。セカンドライフは京都に住みたいと賃貸から探し始めたところ、八清のHPを発見。オンラインイベントに2回参加し、入居を決められました。知らない土地に住むには不安もあったようですが、コレクティブハウスというスタイルは、入居者同士での交流が大前提。遠方から移住=コレクティブハウスがぴたりとハマりました」と小山さん。

ソーシャルディスタンスを保ちつつ交流できる。時勢にマッチした住まい方株式会社八清 プロパティマネジメント部の小山由美さん。八清は京町家・中古住宅をリノベーションにより上質な空間へとプロデュースする京都の不動産会社(写真撮影/出合コウ介)

株式会社八清 プロパティマネジメント部の小山由美さん。八清は京町家・中古住宅をリノベーションにより上質な空間へとプロデュースする京都の不動産会社(写真撮影/出合コウ介)

一方、30代のご夫妻は、立地と共用部を見て決めた例。「このご夫婦は、コーヒーを入れるのがお好きなようで、共用部でコーヒーイベントやフリーマーケットなどをやりたいとおっしゃっていました」。入口が共用部というオープンなつくりから、内部との交流はもちろん、外部との交流も可能。住まう人次第で、可能性が広がるのが面白い。

友達以上、家族未満。近所付き合いを大切にする京都では、地蔵盆など地域のコミュニティも活発で、家と家との距離も近く、路地も生活の一部。顔を合わせたら挨拶をし、井戸端会議に花を咲かせる。だけど、互いの「距離感」は大切に。信頼はするけど、パーソナルスペースには踏み込まない。

コレクティブハウスは、そんな京都独特の住まい方の延長線上にある。要は、大人なさじ加減。そしてまた、面白いコミュニティをつくることができるコレクティブハウスは、密なイメージがあるかもしれない。しかし、独立した住居スペース+共用部という生活スタイルは、外出を自粛しがちになる中でソーシャルディスタンスを保ちつつコミュニケーションが図れる、この時勢にぴったりな、次世代の住まい方ではないだろうか。

こちらは広いタイプの5号室。1回は中庭=コモンテラスと大きなガラス戸でつながっている(写真撮影/出合コウ介)

こちらは広いタイプの5号室。1回は中庭=コモンテラスと大きなガラス戸でつながっている(写真撮影/出合コウ介)

2階は屋根の形状そのままの天井なので、天井高も高く、とても開放的(写真撮影/出合コウ介)

2階は屋根の形状そのままの天井なので、天井高も高く、とても開放的(写真撮影/出合コウ介)

●取材協力
株式会社 八清

コミュニティで子育てする暮らし方とは?キッズデザイン受賞のコレクティブハウスを訪ねた

グッドデザイン賞を受賞した建築物は数多くあるが、今回はキッズデザイン賞とW受賞した建築物があると聞いて取材した。「コミュニティの中に子育てが当たり前にある新たな暮らし方」というが、どんな暮らしができる賃貸住宅なのだろうか?
キッズデザイン賞受賞の賃貸住宅「まちのもり本町田」

「まちのもり本町田」は、2020年のキッズデザイン賞を受賞。しかも、少子化対策担当大臣賞だ。「子どもたちを産み育てやすいデザイン」地域・社会部門の優秀賞として評価された。

まずは、賃貸住宅としての概要を紹介しておこう。
築27年の企業の社宅をリノベーションしたもので、総戸数73戸(25平米×61戸、50平米×12戸)と賃貸住宅としては戸数が多い。そのため、「コモン付き賃貸」と「コレクティブハウス」という2タイプの賃貸形態を用意している。といっても、どちらも馴染みの薄い賃貸形態かもしれない。賃貸住宅としての大きな特徴は、ラウンジや多目的ルーム、大型キッチンなどの共用スペースが豊富に設けられていることだ。

「コモン付き賃貸」は、こうした豊富な共用スペースをシェアして利用できる。一般的な賃貸住宅に比べ、コミュニティのきっかけが生まれやすいのが特徴だ。一方、「コレクティブハウス」は、コレクティブハウスの居住者全員が「居住者組合」に加入し、自分たちでこれらの豊富な共用スペースの運用方法などを決めていく。コミュニティの場があるだけでなく、話し合って決めていくことで多様性を受け入れられるしなやかなコミュニティが形成されるのが特徴だ。

ハード面では人目が届き、コミュニティが形成しやすいデザイン

さて、キッズデザイン賞の受賞理由を見ると、「コミュニティを醸成する生活者同士が子育てに参加する仕組みを、集合住宅のモデルからアプローチした斬新な試み」とある。生活者同士が子育てに参加する仕組みとはどういったものか?

まず、まちのもり本町田にどういった共用スペースがあるのか、企画・事業主であるコプラスの久保有美さんに案内してもらった。

まちのもり本町田の外観。森をイメージした装飾や緑・黄・茶のカラーがポイントとして使われている(撮影:片山貴博)

まちのもり本町田の外観。森をイメージした装飾や緑・黄・茶のカラーがポイントとして使われている(撮影:片山貴博)

まず、エントランスを抜けるとそこには「アトリウム」と名付けた、屋根付きの吹抜け空間が広がる。居住者への連絡事項などの掲示板もあるので、自然とそこで立ち止まることになる。アトリウムの奥には、「パティオ」と名付けた、人工芝を敷いた中庭がある(冒頭の写真参照)。アトリウムの奥、パティオの横に居住者全員が利用できる「ラウンジ」がある。ラウンジは全面ガラス張りなので、アトリウムを通る人やパティオで遊ぶ子どもたちの姿が自然と目に入ってくる。

「アトリウム」。屋根付きなので雨天でも利用できる。奥のパティオも含めて、オートロックの内側にあるので、子どもたちと遊ばせていても安心できる(撮影:片山貴博)

「アトリウム」。屋根付きなので雨天でも利用できる。奥のパティオも含めて、オートロックの内側にあるので、子どもたちと遊ばせていても安心できる(撮影:片山貴博)

「ラウンジ」。居住者が利用できるので、コモン付き賃貸とコレクティブハウスの居住者相互の交流の場にもなる。Wi-Fiも完備しているので、気分転換にここでテレワークをする人もいるという(撮影:片山貴博)

「ラウンジ」。居住者が利用できるので、コモン付き賃貸とコレクティブハウスの居住者相互の交流の場にもなる。Wi-Fiも完備しているので、気分転換にここでテレワークをする人もいるという(撮影:片山貴博)

ラウンジに隣接する「コレクティブコモン・キッチン」。ここはコレクティブハウス居住者専用。業務用の厨房機器が備え付けられているので、大人数の料理をつくったり本格的な料理をつくったりできる。プロパンガスを使っているので、災害時には炊き出しができ、地域住民への防災対策にも配慮している(撮影:片山貴博)

ラウンジに隣接する「コレクティブコモン・キッチン」。ここはコレクティブハウス居住者専用。業務用の厨房機器が備え付けられているので、大人数の料理をつくったり本格的な料理をつくったりできる。プロパンガスを使っているので、災害時には炊き出しができ、地域住民への防災対策にも配慮している(撮影:片山貴博)

実際にラウンジの椅子に座ってみると、かなり視界が広いので、アトリウムを通る人やパティオにいる人たちと目線が合う。コプラスでは、挨拶をすることを奨励しているというので、こうした空間があることで、あるいはそれまでに互いに居住者だと認識するようになるのだろう。

ほかの施設を見学していると、建物の外でなにやら作業をしている人がいた。現在、コレクティブハウスに居住している人たちで、今年の夏の日差しを遮るために、ヘチマやゴーヤを植えて緑のカーテンをつくったが、いまはスナップエンドウとルッコラ、大麦の種をまいているという。緑のカーテンがかかった場所は、1階がコモンバス、2階がコレクティブコモン、3階がコモンルームといずれも共用スペースに当たる。共用スペースを快適にしようという、居住者ならではの工夫だ。

来春の収穫に向けてスナップエンドウなどの種まきをするコレクティブハウスの居住者(撮影:片山貴博)

来春の収穫に向けてスナップエンドウなどの種まきをするコレクティブハウスの居住者(撮影:片山貴博)

1階のコモンバス(有料)とは、大型の浴室付きの部屋だ。水まわりが3点ユニットの部屋も多いので大きな浴槽につかりたいという人もいるだろうし、他のコレクティブハウスの事例では、仲良くなった子どもたちだけで風呂に入ることも多く、そうしたニーズに応えてのことだという。子どもたちは浴室まわりを水浸しにしてしまうので、どこかのお宅の浴室を使うというよりもこうした共用の場所があると使い勝手がよい。共用のリビングも隣接しているので、親たちがリビングで浴室の子どもたちを見守ることもできる。

2階のコレクティブコモンはコレクティブハウスの居住者用、3階のコモンルームはコモン付き賃貸の居住者用の共用スペース(無料)だ。それぞれWi-Fi完備で、ミニキッチン付き。

ほかにも、1階と3階にコイン式のランドリーがあり、1階にゲストルームと多目的ルームがある。1階の部屋はいずれも予約して貸し切る(有料)こともできる。

2階のコレクティブコモン。夏に収穫したヘチマを干すためか、テーブルの上に並べられていた(撮影:片山貴博)

2階のコレクティブコモン。夏に収穫したヘチマを干すためか、テーブルの上に並べられていた(撮影:片山貴博)

1階のオートロックの外側に扉がある「多目的ルーム」(有料)。入居者が応接や教室などに利用できるだけでなく、地域の住民にも貸し出しできるようにしている(撮影:片山貴博)

1階のオートロックの外側に扉がある「多目的ルーム」(有料)。入居者が応接や教室などに利用できるだけでなく、地域の住民にも貸し出しできるようにしている(撮影:片山貴博)

ソフト面では、共用スペースで共通の体験ができる仕組み

次に「生活者同士が子育てに参加する仕組み」の具体例を紹介したいのだが、まちのもり本町田では、募集時期が新型コロナウイルスの感染拡大期と重なったため、特にコレクティブハウスの入居者がまだ少なく、試験的なイベント程度しか実施できていない。というのも、コレクティブハウスでは居住者組合をつくって自主運営するため、募集の際にオリエンテーションを行い、居住者組合の定例会を体験してもらうなど、一連の手続きを経ている。いまはこうしたことが難しい時期だからだ。

そこで、まちのもり本町田の運営を共同で手掛けているNPOコレクティブハウジング社が運営支援する別の物件、コレクティブハウスとして10年を経た「コレクティブハウス聖蹟」を取材することにした。コレクティブハウス全20戸のコレクティブハウス聖蹟には、赤ちゃんから高齢者まで大人23人、子ども11人が居住している。「居住者組合」では月1回の定例会を開き、暮らし方に関するさまざまなことを決めている。もっともコロナ禍のいま、定例会はオンライン会議で行っているという。

さて、案内や説明をしてくれたのは、NPOコレクティブハウジング社の狩野三枝さん。取材当日は、午前中にオンラインによる定例会があり、午後からは居住者による「みどりの活動」(月1回の庭の手入れ)が行われていた。専門家の指導の下、枯れたトチノキを切る人、擁壁を圧迫している芙蓉を切る人、落ち葉を集めたり雑草を取ったりする人など、それぞれに分かれて作業をしていた。

建物東側の庭には、食べられる実がなる木を植えている。右奥のトチノキは枯れたので伐採するが、ユスラウメやイチジクなどの実は、みんなで収穫して食べているという(撮影:片山貴博)

建物東側の庭には、食べられる実がなる木を植えている。右奥のトチノキは枯れたので伐採するが、ユスラウメやイチジクなどの実は、みんなで収穫して食べているという(撮影:片山貴博)

子どもたちは大人たちの周りで遊んでばかりだが、たまにお手伝いをしてくれる(撮影:片山貴博)

子どもたちは大人たちの周りで遊んでばかりだが、たまにお手伝いをしてくれる(撮影:片山貴博)

そして、この日は夕食のコモンミールをする日でもあった。コモンミールとは、居住者が月それぞれ1回程度の頻度で交代して食事をつくり、つくってもらった食事を食べたい人は事前に予約をするという取り組みだ。食べたい人は大人400円、子ども200円を払う。なかには腕をふるってグルジア料理やハンガリー料理に挑戦する人もいるのだとか。筆者は料理が得意ではないのでちょっと引いてしまったが、毎回牛丼ばかりつくる人もいるので、得意料理が一品あれば大丈夫なのだとか。

本日のコモンミールの担当は矢田智美さん。庭仕事の後なので、特別に鰻(鰻の場合は大人800円、子ども400円)にした。鹿児島に住む矢田さんの知り合いから直接鰻を買って、コストを抑える工夫もしている。16時半ごろから準備を始めていたが、時間が経つにつれ、一人、また一人と料理を手伝う居住者が増えていった。つくる数は多くても手伝ってくれる人がいるので、18時半ごろには人数分が出来上がった。

食べる時間はそれぞれでいいので、後から食べる人もいればすぐに食べる人もいる。コロナ禍で部屋に持ち帰って食べる人が多いというが、感染対策をしながらその場で食べる人も多かった。

コレクティブハウス聖蹟では月に10~14日のコモンミールがある。子どもがコモンミールをつくりたいと言って、食事づくりに参加することもあるのだとか(撮影:片山貴博)

コレクティブハウス聖蹟では月に10~14日のコモンミールがある。子どもがコモンミールをつくりたいと言って、食事づくりに参加することもあるのだとか(撮影:片山貴博)

コモンキッチンにつながるコモンスペースでソーシャルディスタンスを保って食べたり、部屋に持ち帰って食べたりする(撮影:片山貴博)

コモンキッチンにつながるコモンスペースでソーシャルディスタンスを保って食べたり、部屋に持ち帰って食べたりする(撮影:片山貴博)

さて、居住者組合の活動は実に多岐にわたる。居住者が快適に暮らしをシェアするためには、共用スペースの管理運営方法を決めたりする必要があるからだ。そのため、全員が何らかの担当を受け持っている。

まず、居住者組合の運営にかかわる役員や運営委員。運営委員は、地域や大家、見学者などへの対応も担当する。ほかにも、日常のコモンミールやみどりの活動、ハウスの清掃活動などのマネジメントを担当する各グループ、コモンスペースの快適な使い方やイベントの企画運営を担当する各グループなどがある。イベントはコロナ禍では開催しづらいが、例年は餅つきや花見、夏の流しソーメン、クリスマスパーティーなどが行われてきた。有志を中心に、地域の住民に参加を呼び掛けるイベントも定期的に開催してきた。

また、ハウスそれぞれで定めたルールに従って、共用部の清掃当番や庭の水やり当番、共用スペースの鍵が閉まっていることを確認する当番などが交代で回ってくる。掲示板で誰が当番かを分かるようにしているうえ、当番の名札を担当のお宅の扉にかけるなどの工夫がなされている。

このお宅が金曜日の鍵当番(撮影:片山貴博)

このお宅が金曜日の鍵当番(撮影:片山貴博)

子育て世帯も単身世帯も、それぞれの形で子どものいる生活を体験できる

みどりの活動の後に、居住者にインタビューさせてもらった。まず子育て中の方に話を聞いた。コモンミールをつくった矢田さんも子育て中の母親だ。お子さんが小学校低学年のころ、遊びに来た友達は矢田家が豪邸だと思ったという。お子さんが自宅内だけでなく、建物全体を遊び場として使うので、遊びに来た友達が、コレクティブハウス全体が矢田さんの家だと勘違いしたからだそうだ。面白いエピソードだと思う。

子育て中の父親の三浦健さんは、子どものいる世帯が多いので、子ども向けのイベントがあるのがうれしいという。子どもが、同じ年の子どもばかりではなく、違う年齢の子どもとも遊ぶようになるのが、ここならではだという。

同じく子育て中の父親であるJ・Yさんは、コレクティブハウスなら安心安全に子育てできるという。例えば、下の子が入院したときに、実家に頼れず困っていたが、上の子の送り迎えを助けてもらったりして、親がいなくても何とかなるという安心感があるのだと。

また、災害時にもコミュニティに助けられるという。東日本大震災のときには、帰宅できた大人がいくつも保育園を回って子どもたちを連れて帰ってきたり、昨年の大きな台風の時などには同じ部屋に子どもたちを集めてゲームをしたりして怖い思いをさせずに済んだし、親もパニックにならずに済んだ。

たしかに子育て中の家庭は、子育てを助け合えるので住みやすいかもしれない。しかし、単身者などはどう感じているのだろう?
俵山知子さんは2020年2月に入居した単身者だ。ここで開催されたイベントに参加して、この人たちと一緒に暮らしてみたいと思って決めたという。江藤由貴子さんも2020年7月に入居したばかりの単身者だ。東日本大震災がトラウマとなって、誰かと一緒に住みたいと思うようになり、ここにたどり着いた。

この二人には同じ体験がある。みどりの活動中にワンパクぶりを発揮していた男の子二人が、「お手紙でーす」などと言って、突然部屋を訪れるのだ。部屋の中で遊んでから帰っていくのだが、どうやら子どもたちはこの二人を“大人のお友達”と思っているようなのだ。

J・Yさんは、子どもは大人たちをちゃんと見ているという。親と仲の良い大人には、子どもも近づいていくのだと。また、矢田さんは、多様な世代と一緒に暮らしていると、子どもは子どもなりに、家庭ではここまで、知り合いとはここまで、知らない人とはここまでと、やっていいことをちゃんと見極めるようになるのだという。

チビッ子たちの急襲を受ける二人はどう思っているのだろう?俵山さんは「体験を共有できる暮らし」に満足しているといい、江藤さんは「想定外のギフト」だと思うという。子育て中ではない居住者も、子どもと暮らす生活を体験できることを高く評価しているわけだ。

もちろん、人とつながりたいと思う人がコレクティブハウスという形態を選ぶので、こうした生活に向かないという人もいるだろう。しかし、つながりを持ちたい人には、交流する空間としての場があり、交流する機会が数多くあり、多様な世帯と出会えるので、好ましいと思う交流を深めることができる。

こういうことが、「居住者同士が子育てに参加する仕組み」であり、「コミュニティの中に子育てが当たり前にある新たな暮らし方」であるのだろう。