ごみ捨て場が憩いのサロンに! 奈良県生駒市「こみすて」が面白い

日々、何気なく行っている「ごみ捨て」を切り口として、地域のコミュニティを活性化させる「こみすて」という取り組みが奈良県生駒市の萩の台住宅地ではじまりました。どんな取り組みで、まちにどんな変化があったのでしょうか。中心となっている自治会や行政、企業に話を聞きました。
ごみ捨てしながらおしゃべり。子どもも大人も楽しめる場所に!

一戸建てやマンション、住まいの種別によっても異なりますが、日々、行う「ごみ捨て」。ご近所の人や同じマンションの人が自然と集まるため、すれ違えば軽く会釈をする、あいさつをするという人も多いことでしょう。このごみ捨ての「自然と人が集まる」特性を利用してはじまったのが、「こみすて」という取り組み。「こみすて」は、「ごみすて」と「コミュニティステーション」をかけて名付けられた愛称です。

「こみすて」をはじめた奈良県生駒市の萩の台住宅地自治会。加入している世帯は700世帯ほどで、大阪からのアクセスが良い郊外の住宅街です。ここでは、自治会館脇の入り口付近に資源ごみ回収ボックスを設置し、家から出る生ごみや廃油、小型家電、ベルマークやペットボトルキャップ、廃トナー、使用済み切手が持ち込めるようになっています。

ごみ捨てをきっかけにした地域活性化の取り組み。宮城県南三陸町でアミタが行った実証実験がベースになっている(写真提供/アミタ株式会社)

ごみ捨てをきっかけにした地域活性化の取り組み。宮城県南三陸町でアミタが行った実証実験がベースになっている(写真提供/アミタ株式会社)

この「こみすて」の最大の魅力は、この場に行けばコーヒーを飲みながらご近所の誰かに会えて話しができたり、思い思いに過ごせたりする点でしょう。特に現在は新型コロナウイルスの影響で、なかなか大勢の人が一度に集まることは難しくなっていますが、ここでは子どもから高齢者まで自然と会話が生まれ、少しずつ距離を縮めて、顔なじみになっていくといいます。

訪れた人にコーヒーがふるまわれることもある(写真提供/中垣由梨さん)

訪れた人にコーヒーがふるまわれることもある(写真提供/中垣由梨さん)

マルシェでは子どもたちが活躍する姿も(写真提供/アミタ株式会社)

マルシェでは子どもたちが活躍する姿も(写真提供/アミタ株式会社)

実証実験時はリユース市も常設されていた(写真提供/アミタ株式会社)

実証実験時はリユース市も常設されていた(写真提供/アミタ株式会社)

2019年12月に「日常の『ごみ出し』を活用した地域コミュニティ向上モデル事業(※)」の実証実験として始まったこの「こみすて」の運営を担っているのは、現在は自治会長の山下博史さん、佐藤郁代さん、大谷良子さん、木村文穂さんはじめ、地域住民のみなさん。最初に社会実験としての立ち上げに携わったのは、アミタ株式会社の社会デザインPJチーム(当時)、設計のアドバイスを行ったのが株式会社グランドレベルの大西正紀さんです。

アミタの、ごみ出しという誰もが日常的に必要な行為をきっかけに、誰もが参画・協働できる持続可能なコミュニティを形成したいという想い。ごみ捨てに来てコーヒーを飲めるなどさまざまな要素が集まる、生駒市の複合型コミュニティづくりを推し進めていきたいという想い。それらが重なり、実証実験を経て、2020年度からは、「複合型コミュニティづくり」という施策のひとつとして進めています。また、地域新電力会社であるいこま市民パワー株式会社がコミュニティサービスの一環で「こみすて」をはじめとする「複合型コミュニティづくり」支援をしています。

「何するの?」からスタート。すると思わぬ出会いが!

とはいえ、そもそも「ごみ捨て」で地域活性化といっても、今までの世の中にはない仕掛けです。仕掛ける側、地域の方々ともに戸惑いはなかったのでしょうか。

「実証実験開始前にアミタさんや行政から話を聞いたときには、『具体的に分からん、何するの?』と質問しましたね(笑)。ただ、環境問題解決や地域の活性化になるのであれば、これは正しいし、やったほうがいいだろうと。幸い、現在の自治会のメンバーは助けてくれる人も多く、まあなんとかなるだろうと始まりました」と自治会長の山下さんは振り返ります。何をするのか分からなかったのは、自治会の大谷さんも同じだったと述懐します。

「取り組みをなかなか十分に理解ができていなかった部分がありますね。特に、緑道に生ごみの資源化装置が運び込まれたときは驚きました。民家も近いので、物音や話し声、ニオイなど、周辺に迷惑がかからないよう気を使いました」と話します。

生ごみ資源化装置、通称「めたん君」。ここで生ごみはガスと液体肥料になる(写真提供/アミタ株式会社)

生ごみ資源化装置、通称「めたん君」。ここで生ごみはガスと液体肥料になる(写真提供/アミタ株式会社)

ただ、こうした「こみすて」の取り組みにいち早く反応した人がいました。萩の台住宅地で育ち、現在は働きながら子育てをしている真下藍さんです。

「2019年11月に、生駒市主催のイベントでグランドレベルの田中元子さんの講演を聞いていて、自分の好きなまちで自分の好きなことをやる“自家製公共(マイパブリック)”や、まちの目の高さの風景(グランドレベル)をいかにつくるか ということが気になっていたんです。そのあと、資源ごみステーションをつくるために、アミタさんとグランドレベルさんがこの街に視察に来られていた現場に、偶然出くわしたのです。『これは面白くなりそう。きっと思いもよらない景色が生まれるはず……!』と直感して、立ち上げのタイミングから、ここで生まれる風景を記録して共有したいと思いました」といいます。

真下さんの直感は当たり、住民の自主的なDIYでベンチができたり、今まで自治会活動とは関わりなかったような若い世代が積極的に関わるようになっていったとか。また、ロゴをつくったり、真下さんがSNS「こみすてノート」 で発信していくことで、生駒市内外にも取り組みが知られるように。このときは実証実験ということで、アミタのスタッフが常駐し、地域交流のイベントを計画し実行することも多かったとのこと。こうして地域に「こみすて」が徐々に浸透していったといいます。

「こみすて」に「子どもスタッフ」の登場! 地域に笑顔が生まれる

取り組みで大きかったのは子どもたちの存在です。
「アミタのスタッフさんに子どもたちがよくなついて集まるように」(大谷さん)といい、ついには“こみすて子どもスタッフ”として自主的に関わるように。

(写真提供/アミタ株式会社)

(写真提供/アミタ株式会社)

子どもスタッフの名刺。子どもたちの活躍がこみすての起爆剤に(写真提供/こみすてノート)

子どもスタッフの名刺。子どもたちの活躍がこみすての起爆剤に(写真提供/こみすてノート)

地域の子どもたちにペイントしてもらったこみすての壁画。ほかにも、DIYで作成したものが多数(写真提供/こみすてノート)

地域の子どもたちにペイントしてもらったこみすての壁画。ほかにも、DIYで作成したものが多数(写真提供/こみすてノート)

確かに子どもの字で書かれたお知らせやごみの分別の仕方を見ていると、これは大人が守らねばという気持ちになります。こうしてワイワイと楽しんでいることで、高齢者も積極的に参加するようになり、仲間が増えていったといいます。

おえかきボードの設置や現地掲示物を作成する子どもスタッフたち(写真提供/アミタ株式会社)

おえかきボードの設置や現地掲示物を作成する子どもスタッフたち(写真提供/アミタ株式会社)

「記憶に残っているのは、ご高齢のおばあちゃんかな。『こみすて』に来るのが日課になって、人に会って会話をすることで気持ちのうえでも、足腰の健康のうえでも張り合いになったようで。通ううちに、記憶もしっかりしていったのが印象に残っています」と山下会長は言います。

実利的な側面として、家庭から出るごみの量が減るという効果もありました。ただ、新型コロナウイルスの影響もあり、実証実験はいったん2カ月で終了となりました。それでも2020年12月に、自治会が主体となって、小さくとも再スタートをきることに。

「予算やスタッフなど、実証実験中のようにはいきませんが、とにかく身の丈で楽しく続けていこうと」(山下会長)。とはいえ、萩の台住宅地の自治会も、高齢化や自治会の担い手不足などとは無縁ではありません。それでも、取り組む理由はどこにあるのでしょうか。

「『こみすて』も自治会活動も、継続がいちばん難しい。年齢的にもどこまでできるか分からないけれど、続けていくには、楽しく取り組んでいる姿を見せるのが一番なんじゃないかな。さきざき、どうやっていくかは若い人たちにまかせて(笑)、できることを楽しそうに続けていくことがいいと思っています」。また、大谷さんも、「継続していくことで今は無関心な人も、遠くから見ている人も参加してくれると思います」と話します。

初対面同士がベンチに座って談笑。実証実験ではこのような光景が随所で見られた(写真提供/アミタ株式会社)

初対面同士がベンチに座って談笑。実証実験ではこのような光景が随所で見られた(写真提供/アミタ株式会社)

現役世代の真下さんはどのように感じているのでしょうか。
「私自身、出産直後に住んでいた所では、慣れない子育てで孤独を感じていた経験があり、近所に『こみすて』のような場所があれば毎日行っただろうなと思います。地域にどうやって溶け込んでいけばいいのか悩んでいる人にも、『こみすて』の魅力を知ってもらえたらうれしいですね。ただ、無理をして人を集めるのではなく、自分たちがここでやりたいことを思いっきり楽しむことが、人をひきよせるエネルギーになればいいなと思っています」と言います。実際、引越して間もない子育て中のお母さんが、再開後の『こみすて』に1歳の娘さんを連れてくるようになり、自治会館で実施されていた『いきいき100歳体操』に参加してくれたこともありました。

緑道を整備した時の切り株で、2020年12月にコミュニティバス停前にDIYでベンチを設置。写真は色塗りの様子(写真提供/アミタ株式会社)

緑道を整備した時の切り株で、2020年12月にコミュニティバス停前にDIYでベンチを設置。写真は色塗りの様子(写真提供/アミタ株式会社)

萩の台住宅地自治会の取り組みはまだはじまったばかりです。地域の中でできることややりたいことを、一人ひとりが少しずつ発揮していくことで、より住みやすく楽しいまちへと変わっていけるのかもしれません。

●取材協力
アミタホールディングス株式会社
アミタ株式会社(自治体、地域向けサイト)
奈良県生駒市
いこま市民パワー株式会社
株式会社グランドレベル
こみすてノート
Facebook
Instaglam
イコマカメラ部(中垣由梨さん)
生駒市萩の台住宅地自治会

●参考資料
「日常の『ごみ出し』を活用した地域コミュニティ向上モデル事業」

京都・四条河原町に複合型商業施設、12月に開業

京阪ホールディングス(株)は、京都・四条河原町で開発を進める複合型商業施設「GOOD NATURE STATION」の開業時期を、2019年12月に決定した。同施設は、京阪電車「祇園四条駅」より徒歩5分、阪急電鉄「河原町駅」より徒歩2分に立地する9階建て。3階部分で高島屋京都店と接続し、従来にはない、新たな食、宿泊、美容、体験を京都の地から発信していく。

1Fの「GOOD NATURE MARKET」は、マーケットとレストランの2つのゾーンで構成。マーケットゾーンでは、オーガニック商品や地元京都の食品などを販売する。レストランゾーンではカジュアルダイニングを展開。シェフズキッチン、テーブル席、個室で、幅広い利用シーンに対応していく。

2Fの「GOOD NATURE GASTRONOMY」は、賑わいあふれる1階のレストランと異なり、上質な空間で特別な食体験を提供するフロア。和や洋、中華などをベースに、従来のジャンルの枠にしばられない独創的なラインナップを予定している。

3Fの「GOOD NATURE STUDIO」では、オリジナルコスメや雑貨類を販売するエリアと、カットやネイルケアなどを行うサロン、一息つけるカフェを設ける。4~9Fの「GOOD NATURE HOTEL」では、天然木を基調とした優しい内装で、28~90m2の広々とした客室を用意する計画。

なお、同施設では、建物内で暮らし、働く居住者の健康・快適性に焦点を当てた建物・室内環境評価システム「WELL Building Standard(R)」認証(WELL認証)の取得を進めており、取得した場合、WELL認証に関してはホテルとして世界初となる。

ニュース情報元:京阪ホールディングス(株)

キラキラでは落ち着かない、プライベートスペースはクラシカルに(後編) テーマのある暮らし[2]

築25年の邸宅で、ポーセラーツ・ポーセレンペイント、着物の着付けレッスンのサロン「ラ・フィユ鎌倉」を開いている赤見かおり子さん。パーティションを使わず、インテリアのテーマを変えることで、サロンスペースとプライベートスペースを分ける手腕が光っています。後編では、1年半前にリフォームを終えたプライベートスペースをご紹介します。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。家族のお客さまをもてなすクラシカルなメインダイニング

玄関から見て一番手前の部屋は、医師である夫のお客さまなどをもてなすメインダイニング。来客には年配男性も多いため、サロンのようなキラキラとしたインテリアでは落ち着かないのではないかと思い、クラシカルな雰囲気に仕上げたのだそう。
自分の希望よりも訪れる方の居心地を大切にする姿勢に、かおり子さんのお人柄が滲み出ています。

壁にかけられたノイシュヴァンシュタイン城の絵は、かおり子さんのお父様が描かれたもの。部屋のインテリアに合わせて、かおり子さんが絵の具の色まで指定したのだそうです(写真撮影/内海明啓)

壁にかけられたノイシュヴァンシュタイン城の絵は、かおり子さんのお父様が描かれたもの。部屋のインテリアに合わせて、かおり子さんが絵の具の色まで指定したのだそうです(写真撮影/内海明啓)

30年以上前から使っているキャビネットは、国産家具メーカー「カリモク」で購入したもの。引越し好き、リフォーム好きを自称するかおり子さんですが、何でも新しく買うわけではなく、愛着のあるものは何10年でも使い続けているそうです。

お気に入りの作品は、キャビネットにディスプレイしながら収納。フリーハンドで絵を描く作品はポーセレンペイント、転写紙を切って貼る作品はポーセラーツと呼ばれます。ポーセレンペイントの方が難易度は高いのだそう(写真撮影/内海明啓)

お気に入りの作品は、キャビネットにディスプレイしながら収納。フリーハンドで絵を描く作品はポーセレンペイント、転写紙を切って貼る作品はポーセラーツと呼ばれます。ポーセレンペイントの方が難易度は高いのだそう(写真撮影/内海明啓)

メインダイニングのテーブルセッティングは、自作の食器を中心にクラシカルな雰囲気でまとめています。
「私にとって“上質なもの”とは、愛情を注げるもの、お金では買えないもの。食器だって、デパートに行けば何百万円もするようなものが並んでいますが、私は愛情を込めて自分でつくった食器でおもてなしをしたいんです」とかおり子さん。

手描きの食器はアンティークとの相性が良いので、燭台はフランス、カトラリーはイギリスのアンティークをセレクト。アンティークをうまく使ったクラシカルなテーブルセッティングもかおり子さんの得意とするところです(写真撮影/内海明啓)

手描きの食器はアンティークとの相性が良いので、燭台はフランス、カトラリーはイギリスのアンティークをセレクト。アンティークをうまく使ったクラシカルなテーブルセッティングもかおり子さんの得意とするところです(写真撮影/内海明啓)

生活感を徹底的に排した驚きのキッチン

キッチンまわりは、モダンな雰囲気でまとめられています。ここに足を踏み入れた誰もが口にするのは、「生活感がない!」というひと言。どこをどう見ても、調味料ひとつ置いてありません。
「よく、本当に料理してるの?と聞かれるんですよ」そう言って笑いながら開けてくれたシンク下の扉の奥には、使い込んだフライパンがいくつも並んでいました。

キッチンにある「ウエストハウスギャラリー」の椅子には、「キファソ」の生地が張られています。今回のリフォームの際にオーダーしたとのこと、モダンな雰囲気にぴったりです(写真撮影/内海明啓)

キッチンにある「ウエストハウスギャラリー」の椅子には、「キファソ」の生地が張られています。今回のリフォームの際にオーダーしたとのこと、モダンな雰囲気にぴったりです(写真撮影/内海明啓)

連日、全国から通う生徒さんのレッスンをこなす多忙なかおり子さんにとって、家の中を美しく保つのはさぞ大変だろうと思いましたが「“出したら戻す”ということを徹底しているだけなんです。そうすると、そもそも散らからないので、キープするだけでいいんですよ」とのこと。
すべてのモノの収納場所を決めておくことが、この状態をキープするカギなのだそう。

キッチンの隣には、白いグランドピアノがディスプレイされています。ここはもともと中庭でしたが、7年前にこのピアノを置くために増築したのだそう。

音大時代にピアノを学んだかおり子さん。白とライトグレー2台のグランドピアノが2階の防音室にあったのですが、防音室を着物部屋にリフォームしたためライトグレーの1台は処分。こちらをディスプレイ用として、1階に下ろしました。

スモーキーなピンク色が甘すぎずスタイリッシュな雰囲気を醸し出すカーテンは、今回のリフォームの際に壁の色と合わせて選んだもの。パーティションのエレガントなラインは、リビングの螺旋階段とリンクしています(写真撮影/内海明啓)

スモーキーなピンク色が甘すぎずスタイリッシュな雰囲気を醸し出すカーテンは、今回のリフォームの際に壁の色と合わせて選んだもの。パーティションのエレガントなラインは、リビングの螺旋階段とリンクしています(写真撮影/内海明啓)

リビングルームは、エレガントな螺旋階段がアクセント

一番奥に位置しているのは、家族がくつろぐリビングルーム。南東に面している上に2面採光なので、いつも光があふれています。今回のリフォームでは、壁のクロスを無地からダマスク柄に変えるなど、少し思い切ったそう。

多忙を極める夫、成人している2人の娘さん……と、すれ違いがちな生活になりそうですが、実は「みんな、ここでくつろぐことが大好き」なのだそう。常に感謝の言葉を忘れず、細やかな気づかいを欠かさないかおり子さんが、ご家族を包み込んでいる様子が伝わってきます。

存在感のある白いソファは、10年以上使っているもの。「白だから汚れやすいけれど、うちは家族みんなが掃除好き。夫も娘たちも、休みの日には一生懸命拭いてくれるんですよ」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

存在感のある白いソファは、10年以上使っているもの。「白だから汚れやすいけれど、うちは家族みんなが掃除好き。夫も娘たちも、休みの日には一生懸命拭いてくれるんですよ」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

このリビングで誰もが目を奪われるのは、螺旋階段です。新築当初、手すりのラインは縦の直線のみで、色も白でした。今回のリフォームで、装飾が付いたデコラティブなラインのパーツを溶接し、ブラックに塗装しなおしたことで、見事にリビングのアクセントになっています。

赤見邸は建物が2つに分かれているため、リビングの2階に上がるにはこの螺旋階段が不可欠なのだそう。2階はかおり子さんの“着物部屋”になっているため、かおり子さんは一日に何度もこの螺旋階段を往復するそうです(写真撮影/内海明啓)

赤見邸は建物が2つに分かれているため、リビングの2階に上がるにはこの螺旋階段が不可欠なのだそう。2階はかおり子さんの“着物部屋”になっているため、かおり子さんは一日に何度もこの螺旋階段を往復するそうです(写真撮影/内海明啓)

白をベースにしながら年代を感じさせる家具を配したエレガントなスタイルは、レイチェル・アシュウェルが提唱した“シャビ−シック(味がありながらも優雅なさま)”を彷彿とさせますが、かおり子さんの好みは少し違う様子。
「シャビーだと言われることもあるのですが、個人的にはもっとキラキラしたものや、透明感のあるものを取り入れるスタイルが好きですね」

リフォームもショッピングも、感性と出会いを大切に

25年の間に数え切れないほどのリフォームを繰り返した赤見邸ですが、インテリアデザイナーに相談したのは、なんと直近のリフォームがはじめて。
それまでは、クロスやカーテンなどの素材選びから、工務店とのやりとりまで、すべてかおり子さんが1人で手がけてきたのだそうです。

「こんな素材見たことないよ、なんて言われながらも、こうしたい、ああしたいって伝えて。業者泣かせですよね(笑)。工務店の方とは、いまでは信頼関係で結ばれていますよ」

壁と天井の境目の廻り縁も、すべてかおり子さんが自分で選んだもの。1本ではなく数本重ねて、よりエレガントに見えるように工夫するなど、工務店と話し合いながらリフォームを進めたそうです(写真撮影/内海明啓)

壁と天井の境目の廻り縁も、すべてかおり子さんが自分で選んだもの。1本ではなく数本重ねて、よりエレガントに見えるように工夫するなど、工務店と話し合いながらリフォームを進めたそうです(写真撮影/内海明啓)

完成度の高いインテリアを手がけるかおり子さんですが、インテリアデザインやテーブルコーディネートの専門的な勉強をしたことはないのだそう。
「自分の住まいですから、自分の好きなようにやっていきたいと思うんです。だから、参考にするインテリア雑誌や、ブランドショップなどもとくに決めていません。なにかを選ぶときには、出会いと感性を大切にしています」

ティーポットはカナダで、トレイはニュージーランドで購入した銀器。贔屓のブランドを決め込まず、旅先で出会ったものを思い出と一緒に持ち帰るのが、かおり子さんらしいショッピング(写真撮影/内海明啓)

ティーポットはカナダで、トレイはニュージーランドで購入した銀器。贔屓のブランドを決め込まず、旅先で出会ったものを思い出と一緒に持ち帰るのが、かおり子さんらしいショッピング(写真撮影/内海明啓)

サロンの生徒さんやプライベートでのお客さま、そしてご家族ひとりひとりのためにインテリアに手をかけるかおり子さん。お話を伺えば伺うほど、その温かな人柄に引き込まれます。
「私にとって“家”は幸せの象徴。生徒さんのためでもあり、自分の趣味でもあるリフォームはまだまだ続けていきます。ゴールはないんですよ(笑)」と語る笑顔からは、幸せなオーラがあふれていました。

●取材協力
・赤見かおり子さん
Instagram (kaoriko_no_salon)
きもの着付けアーティスト、ポーセレンアーティスト。大人のためのお稽古サロン「ラ・フィユ鎌倉」主宰。サロンでは-10歳に見せるきもの着付けレッスン、ポーセラーツ・ポーセレンペイントレッスンを開催中。

9回の引越しで実現、夢を詰め込んだサロンスペース(前編) テーマのある暮らし[2]

築25年の邸宅で、ポーセラーツ・ポーセレンペイント、きもの着付けレッスンのサロン「ラ・フィユ鎌倉」を主宰する赤見かおり子(あかみ・かおりこ)さん。サロンスペースとプライベートスペースをきっちりと分けながらも、美しく融合させたエレガントなインテリアは、すべて赤見さんのセンスによるもの。前編では、女性の夢ともいえそうなインテリアを詰め込んだ、サロンスペースをご紹介します。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。 引越しは9回目、リフォームは毎年!

湘南モノレールの西鎌倉駅から約7分。閑静な住宅街の一角にたたずむ瀟洒(しょうしゃ)な邸宅で、かおり子さんは家族4人で暮らしながら、サロン「ラ・フィユ鎌倉」を主宰しています。
結婚35年目を迎えるご夫妻にとって、25年前に建てたこの邸宅はなんと9軒目の住まい。鎌倉の街に惹かれ、最後の引越しにするつもりで選んだそうです。

サロン「ラ・フィユ鎌倉」を主宰する赤見かおり子さん。「ラ・フィユ」はフランス語で1枚の葉っぱを意味します。「初めての絵付けでは、皆さん1枚の葉っぱの絵から挑戦します。サロンも1枚の葉っぱから枝葉が伸びるように広がるといいなと思って」(写真撮影/内海明啓)

サロン「ラ・フィユ鎌倉」を主宰する赤見かおり子さん。「ラ・フィユ」はフランス語で1枚の葉っぱを意味します。「初めての絵付けでは、皆さん1枚の葉っぱの絵から挑戦します。サロンも1枚の葉っぱから枝葉が伸びるように広がるといいなと思って」(写真撮影/内海明啓)

かおり子さんは、子どものころから暇さえあれば方眼紙に家の間取図を描いていたというほど“家”が大好きでした。9回もの引越しをすることになったのは、引越し先のインテリアが完成すると「もっと違うインテリアにも挑戦してみたい」という気持ちがわき上がった結果なのだそう。

建てた当時は約79坪、今は増築して約85坪というこの邸宅を、かおり子さんは毎年のようにリフォームしながら暮らしています。

1年半ほど前にリフォームを終わらせたリビングルーム。黒を印象的に用いた螺旋階段がアクセントになっています。今回のリフォームで、初めてインテリアデザイナーに協力を依頼したそう。こちらのお部屋の詳細は後編にて(写真撮影/内海明啓)

1年半ほど前にリフォームを終わらせたリビングルーム。黒を印象的に用いた螺旋階段がアクセントになっています。今回のリフォームで、初めてインテリアデザイナーに協力を依頼したそう。こちらのお部屋の詳細は後編にて(写真撮影/内海明啓)

「お花を替えるような気持ちで、壁のクロスも替えるんですよ」と語るかおり子さんはとても楽しそう。方眼紙に間取図を描いていたころのわくわく感が、いまも息づいていることが伝わってきます。
かおり子さんの家へのこだわりは、どこにあるのでしょうか?
さあ、おじゃましてみましょう。

インテリアで分けられたサロンとプライベートスペース

家の中に一歩入ると、きらきらと煌めく夢のような世界が広がっていました。この光景には、誰もが思わず歓声を上げてしまうことでしょう。

最初に気付くのは、玄関から見て手前と奥のスペースでは雰囲気がまったく異なること。手前は、クラシカルな雰囲気のなかに煌めきをたたえた格調高いインテリア。奥には、床も壁も白で統一された、明るく軽やかな空間が広がっています。

玄関から見て手前の部屋は、美しい木目の床が印象的なメインダイニング。主に夫のお客さまをもてなすときに使うそう。奥に見える白で統一されたスペースが、かおり子さんのサロンです(写真撮影/内海明啓)

玄関から見て手前の部屋は、美しい木目の床が印象的なメインダイニング。主に夫のお客さまをもてなすときに使うそう。奥に見える白で統一されたスペースが、かおり子さんのサロンです(写真撮影/内海明啓)

パーティションなどは一切使っていないにもかかわらず、一目見ただけで2つの部屋がまったく別の目的でしつらえられていることが感じ取れるのは、床の色がはっきりと分かれているからでしょうか。
とはいえ、ちぐはぐな印象がまったくなく、自然と統一感がとれているところはかおり子さんの手腕なのでしょう。

白でまとめられた奥のスペースは、かおり子さんのサロンです。徹底してフェミニンでエレガントな雰囲気にまとめられたこのスペースには、サロンに対するかおり子さんの思いが、存分に込められていました。

和室を改築して、使いやすいサロンスペースに

新築当初、サロンスペースは床の間のある和室に縁側、そして小さな庭だったのだそう。そもそも、サロンを始める予定などまったくなかったというかおり子さん。1人の友人から絵付けを教えてほしいと頼まれ、教えているうちに口コミで広がって生徒さんが増え、今から12年ほど前に思い切ってこのスペースをサロン専用に改築したのだそうです。

天井、床、壁、すべて白で統一されたサロンスペース。白で統一するインテリアは難易度が高いと言われますが、かおり子さんは単調にならないように壁のクロスに柄の入ったものを選ぶなどの工夫をしています(写真撮影/内海明啓)

天井、床、壁、すべて白で統一されたサロンスペース。白で統一するインテリアは難易度が高いと言われますが、かおり子さんは単調にならないように壁のクロスに柄の入ったものを選ぶなどの工夫をしています(写真撮影/内海明啓)

入って左手のテーブルは作業スペース、右手はティールームです。白を基調にしたのは、絵付けに色とりどりの彩色を施すので、インテリアがその邪魔にならないようにするためなのだそう。作業スペースのライティングには、スポットライトを使わなくても細かな作業ができるよう、明るいものをセレクトしました。

着付けレッスンの際は、スペースを広くとれるように伸張式のテーブルを縮めて使います。片側の壁が全面的に鏡になっているのも、着付けサロンならでは(写真撮影/内海明啓)

着付けレッスンの際は、スペースを広くとれるように伸張式のテーブルを縮めて使います。片側の壁が全面的に鏡になっているのも、着付けサロンならでは(写真撮影/内海明啓)

窓に面した明るいティールームは、元々は庭だったということもあり、テラスのような雰囲気を味わえるのが特徴です。「我が家のキャッチフレーズは“鎌倉山を一望できる家”なんですよ」とかおり子さん。たしかに、窓の外には鎌倉山が広がっています。桜が満開の時期も真冬の雪景色も、ここから眺めればどれほど美しいことでしょう。

2面採光の明るいティールーム。「以前に住んでいた300坪の家は庭の草取りだけでも大変だったので、今度は自分で草取りをしなくてもいい眺望の美しい家にしよう、と思ったんです(笑)」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

2面採光の明るいティールーム。「以前に住んでいた300坪の家は庭の草取りだけでも大変だったので、今度は自分で草取りをしなくてもいい眺望の美しい家にしよう、と思ったんです(笑)」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

サロンは女性が非現実を愉しみ、夢を見るための空間

サロンのインテリアをフェミニンな雰囲気にまとめてある理由について、かおり子さんは明快に語ってくださいました。
「家庭のある女性って、ご自宅に自分のための空間を持つのは難しい場合もありますよね。だから、ここに来たら非日常を味わって、心から満たされてほしいんです。ほら、シャンデリアもかなり大ぶりでキラキラしているでしょう? このサロンは、女性の皆さんが夢を買いに来る場所でもあるんです」

壁のクロス、デコラティブな柱などもすべてかおり子さんのセレクト。以前にフラワーアレンジメントを教えていたこともあり、生花やアーティフィシャルフラワーが美しいアレンジメントでディスプレイされています(写真撮影/内海明啓)

壁のクロス、デコラティブな柱などもすべてかおり子さんのセレクト。以前にフラワーアレンジメントを教えていたこともあり、生花やアーティフィシャルフラワーが美しいアレンジメントでディスプレイされています(写真撮影/内海明啓)

サロンのテーブルセッティングは、毎月必ず変えるそうです。
「通い始めてもう15年になる方もいらっしゃるほど、長いお付き合いの生徒さんが多いんです。来るたびに同じような雰囲気だと、飽きてしまうでしょう? だから、季節感を生かしながら頻繁に変えています。季節のものは1カ月先取りしますね。そうすると、ここでいいなと思ったものをご自宅で真似できると思うので」

取材に訪れたのはひな祭りの数日前でしたが、インテリアはすでにひな祭り仕様を終え、初夏を感じさせるグリーンに整えられていました。お気に入りのテーブルクロスは鎌倉のハンドメイドショップ「鎌倉スワニー」のもの。絵付け前の白磁が美しく映えます(写真撮影/内海明啓)

取材に訪れたのはひな祭りの数日前でしたが、インテリアはすでにひな祭り仕様を終え、初夏を感じさせるグリーンに整えられていました。お気に入りのテーブルクロスは鎌倉のハンドメイドショップ「鎌倉スワニー」のもの。絵付け前の白磁が美しく映えます(写真撮影/内海明啓)

インテリアもテーブルコーディネートも、すべて“生徒さんが心地良く過ごせるように”という観点から考えているかおり子さん。そのプロ意識は、ちらりとのぞかせていただいたパウダールームで最も強く感じられました。

とりわけ居心地よく過ごせるように工夫してあるというパウダールーム。便器からは音楽が流れるようになっています。「一曲聴いてきちゃったわ、となかなか出てこない方もいらっしゃるんですよ」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

とりわけ居心地よく過ごせるように工夫してあるというパウダールーム。便器からは音楽が流れるようになっています。「一曲聴いてきちゃったわ、となかなか出てこない方もいらっしゃるんですよ」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

「サロンを主宰するマダムがつくり上げる、上質を極めた空間」、前編では女性の夢を詰めこんだサロンスペースをご紹介しました。後編ではプライベートスペースを見せていただきましょう。

●取材協力
・赤見かおり子さん
Instagram (kaoriko_no_salon)
きもの着付けアーティスト、ポーセレンアーティスト。大人のためのお稽古サロン「ラ・フィユ鎌倉」主宰。サロンでは-10歳に見せるきもの着付けレッスン、ポーセラーツ・ポーセレンペイントレッスンを開催中。