高齢者や要介護者の”家族と外食したい”を叶える横浜中華レストラン「風の音」。介護食対応・バリアフリーで地域の集える場に

神奈川県横浜市瀬谷区にある中華レストラン「風の音(かぜのおと)」。店内はバリアフリーで、メニューは介護食にも対応という、高齢者など外食のハードルが高い方も安心して食事を楽しめるお店です。その背景には、「家族と外で食事したい」という高齢者からの声がありました。2008年にオープンした同店は、地域の中でどのような存在となってきたのでしょうか。風の音を経営する株式会社アイシマ総務部長の栗原雅也さんと店長の外川純子さんに、開業のきっかけや地域との関わりについて伺いました。

地元・瀬谷区産の野菜を使い、本場の料理人が腕を振るう「風の音」外観(写真撮影/阿部夏美)

「風の音」外観(写真撮影/阿部夏美)

神奈川県横浜市の西端に位置する瀬谷区。東部の三ツ境エリアには、駅周辺の商業施設や商店街のほか、閑静な住宅街が広がります。

横浜駅から相模鉄道本線で約20分の三ツ境駅から10分ほど歩くと、奥行きのある2階建ての建物が見えてきます。この1階が、中華レストラン「風の音」です。経営する株式会社アイシマは、横浜市西部を中心にデイサービスやグループホームなどの介護事業を運営する企業。この建物も、2階はサービス付き高齢者住宅となっています。

人気メニューは平麺を使った「五目やきそば」。大ぶりの魚介と野菜をふんだんに使ったあんが、カリカリに焼いた麺にたっぷりからむ(写真撮影/阿部夏美)

人気メニューは平麺を使った「五目やきそば」。大ぶりの魚介と野菜をふんだんに使ったあんが、カリカリに焼いた麺にたっぷりからむ(写真撮影/阿部夏美)

開業当初は、横浜中華街でお店を持っていた経験をもつ中国人シェフが調理を担当していましたが、引退後の現在は中国から呼んだ弟子たちが腕を振るっています。高齢のお客さんに合わせ、味付けは一般的な中華料理と比べると塩分・油控えめの優しい味わい。好みに応じて濃く調整してもらうことも可能です。

野菜は地産地消を意識して、瀬谷区阿久和産のものを使っており、以前は店先の花壇で育てたパクチーを使った料理を提供していたこともあるそう。週替わりのランチメニューは、仕入れた野菜に応じて都度メニューを考えるので、旬の食材をいつでも楽しめます。

「家族と外で食事したい」 施設利用者からの要望でレストラン開業

同店の大きな特徴は、介護食にも対応していること。食べ物を飲み込むことが困難なお客さんに向け、食材をミキサーにかけたり、刻む大きさを3段階で用意したりするほか、食べ物が喉を通るスピードを調整するとろみ剤の準備も。どんなメニューでも、追加料金なしで対応可能です。

「食事には、彩りを見る楽しみもあります。刻む場合は完成した料理ごと細かくするのではなく、食材ごとに刻んでから盛り付けるんですよ」と店長の外川純子さん。

そんな風の音がオープンしたのは、2008年12月。アイシマが運営する施設の利用者からの要望がきっかけでした。

店長の外川純子さん(左)、アイシマ総務部長の栗原雅也さん(写真撮影/阿部夏美)

店長の外川純子さん(左)、アイシマ総務部長の栗原雅也さん(写真撮影/阿部夏美)

「介護施設の入居者から『たまには家族と外食したい』という声があったんです。でも、車椅子の高齢者が外食に行くにはさまざまな困難があり、なかなか難しいんですよね」

そう語るのは、アイシマの総務部長で、風の音事業を担当する栗原雅也さん。

「一般的な飲食店だと、設備面では通路やトイレの狭さがネックになります。料理に関しては、高齢者は嚥下(えんげ)力が弱まりむせやすいため、食材の硬さや大きさによって飲み込みにくいことがハードルに。また、マイクロバスなどの送迎サービスがあったとしても、車椅子に対応している車でなければ移動ができません。それならば、その声に応えようと思いました」(栗原さん)

こうして、介護事業を通して得た知見を活かしたレストランの運営が始まりました。

完全バリアフリーの店内。誰もが外食を楽しめる環境づくり

「高齢者が外食できる場所を」という目的でつくられた風の音。アイシマが運営する介護施設入居者の訪れやすさや、当時の本社にも近かったことにより、瀬谷区三ツ境にオープンしました。瀬谷区は横浜市内でも高齢者が多い地域の一つで、都心で生活している子ども世代がアクセスしやすい場所でもあるといいます。

1階はレストラン、2階はサービス付き高齢者向け住宅という業態にするため、建物を新築し、店内にさまざまなバリアフリーの工夫を施しています。

レストラン店内。奥のテーブルは、大人数での利用向けに長くつなげている(写真撮影/阿部夏美)

レストラン店内。奥のテーブルは、大人数での利用向けに長くつなげている(写真撮影/阿部夏美)

どの通路も車椅子やベビーカーが通れるように座席を配置。全てのテーブルは一般的なものより高さを上げている特注品で、車椅子に乗ったまま利用できます。車椅子利用者でない人にとっては使いづらいのでは?と思いましたが、筆者が使ってみても、使いづらさは全く感じませんでした。

約30坪のスペースにはテーブル11卓、席数52席を置いています。広さに対してテーブルや席が少なめの印象で、悠々と食事を楽しめそうな雰囲気です。このほか、6人掛けや8人掛けの中華テーブルを置いた個室の宴会場を設けています。

入口の境にも段差がない造り(写真撮影/阿部夏美)

入口の境にも段差がない造り(写真撮影/阿部夏美)

入口のスロープから客席、トイレまで、店内には一切の段差がありません。車椅子やベビーカーの利用者はもちろん、杖をついている人や幼児にとっても移動しやすそうです。扉は全て自動ドアかスライド式のもので、店内の通路には手すりを取り付けています。

車椅子での方向転換にも不便がないよう、トイレは広々としたスペースを取っている(写真撮影/阿部夏美)

車椅子での方向転換にも不便がないよう、トイレは広々としたスペースを取っている(写真撮影/阿部夏美)

印象的なのは、トイレの設備の充実度。風の音では一般の個室が3つあるほか、車椅子利用者とともに介助者が入っても十分な広さのある個室を3つ設けています。高齢者はトイレが近い方が多いため、例えばグループでの食事会の際、お店に来たときや帰るときにトイレが大混雑、なんてことがあるのだそう。広い個室はベビーカーと一緒でも入りやすく、おむつ交換台も完備。4つの洗面台も全て、車椅子のままでも使いやすい高さにつくられています。

店のイベントで顔なじみに。入居者や地域住民が集う場としてオープン10周年記念イベントの様子。地元出身のアーティストを呼んでコンサートを開催しました(写真提供/風の音)

オープン10周年記念イベントの様子。地元出身のアーティストを呼んでコンサートを開催しました(写真提供/風の音)

アイシマでは、風の音で毎月イベントを開催し、地元とのつながりを育む活動を行ってきました。瀬谷区出身の歌手や三味線奏者のライブ、茶道の先生を呼んでお茶をたてる体験のほか、アイシマグループの会長が所有する山に咲いた花を使ったフラワーアレンジメント会を開いたこともあるそうです。

歌手の方やお茶の先生は、もともとお客さんとして訪れた方で、会話を通して活動を知り、「ぜひうちでイベントをやってみませんか」と声をかけたとのこと。こうして、地域のつながりから輪を広げていきました。

「イベントに参加してくださる方は、主に近隣住民や施設の入居者です。イベントで一緒になるうちに顔なじみになり、『また次に会いましょうね』なんて交流が生まれるんですよ」(外川さん)

アクセサリーやドリンクホルダーなど、お客さんがつくったハンドメイド作品を店内で販売しています(写真撮影/阿部夏美)

アクセサリーやドリンクホルダーなど、お客さんがつくったハンドメイド作品を店内で販売しています(写真撮影/阿部夏美)

お客さんのなかには、中華料理を食べずに友人同士の定期的なお茶会の場所として使っている人もいるとか。月に1回ほど、家族が車でお店まで送り届け、数人でデザートを食べながらひとしきりおしゃべりして帰る、という使い方だそうで、なんとも楽しそうです。

「自宅でお茶会をするのはお互いのご家族にも気を使わせてしまうとのことで、場所に困っていたそうです。みなさん普段からよくランチに来てくれる常連さんなので、『ぜひ協力できれば』と風の音を使ってもらうことになりました。お客さんからは『ここに来るとすごく落ち着く。スタッフの方と会話もできるし、家族と過ごすときとは違う楽しさがあるからまた来るね』と言っていただいたり、家族の方からも『風の音なら安心して送り出せる』といった声を聞いたりしていて、すごくうれしかったです」(外川さん)

施設や家とは別の居場所があるということ

2階に併設する高齢者向け住宅の入居者には食事が用意されていますが、家族や友人が訪ねてきたときに1階で一緒に食事をしたり、中華が食べたくなったときに電話で注文して1階や2階で食べたりすることが可能です。

風の音で提供するニラレバ。「過去の入居者さんで、ここのニラレバをすごく気に入っていた方がいたんです。オープン以来、毎週必ず食べに来てくれました」と外川さん(写真撮影/阿部夏美)

風の音で提供するニラレバ。「過去の入居者さんで、ここのニラレバをすごく気に入っていた方がいたんです。オープン以来、毎週必ず食べに来てくれました」と外川さん(写真撮影/阿部夏美)

アイシマが運営するほかの施設の入居者にとっても、風の音へ食事に行くのは楽しみな行事の一つ。定期的に開催される食事会のためにメイクをしたりネイルを塗ったりして訪れる利用者も多いそうです。帰ってきてからも、食事会の感想をおしゃべりしながらまた次回を心待ちにするなど、ただ1回の外食ではなく、その前後にいろいろな楽しみが生まれているといいます。

「介護施設に入ると、どうしても家族と会話する機会が減ってしまうので、生活の中でいかに刺激を得るかが課題になってくるんです。いつもと違う場所に出かけて食事をするといったイベントをつくることは、普段の話題が豊かになる点でもやっぱり大事だなと感じます」(栗原さん)

入口のドア前で。「当初は、来店時に施設の高齢者グループと一緒になると少し戸惑われるお客さんもいましたが、現在では風の音がどのような店なのかをどなたも理解してくださっているように感じます」と外川さん(写真撮影/阿部夏美)

入口のドア前で。「当初は、来店時に施設の高齢者グループと一緒になると少し戸惑われるお客さんもいましたが、現在では風の音がどのような店なのかをどなたも理解してくださっているように感じます」と外川さん(写真撮影/阿部夏美)

アイシマ全体として高齢者と関わる事業を運営していることから、新型コロナウイルス感染症には慎重に対応し続ける必要があり、2023年6月時点ではまだイベントの開催や他施設からの来店を再開できていません。今後についてお二人は、「少しずつ元の状態に戻って、これまでと変わらず地域に寄り添ったお店でありたい」と話してくれました。

一方で最近は、県外の特別支援学校などから「イベントの一環として利用したい」という連絡が増えているそうです。取材に伺ったときも、翌日には長野県の学校から修学旅行で訪れる予定が入っているとのことでした。

「観光で横浜に来たとしても、バリアフリーで介護食対応のお店は、中華街にはなかなかないと思うんです。風の音でゆったりと本格的な中華料理を楽しんでもらって、『横浜でおいしい中華を食べた』という思い出を残せるような使い方をもっと広めていきたいですね」(外川さん)

いくつになっても安心して通えるからこそ、「長く愛せるお店」にニラレバや餃子、前菜の盛り合わせ、五目焼きそばなど。奥に映るのは筆者の祖父母(写真撮影/阿部夏美)

ニラレバや餃子、前菜の盛り合わせ、五目焼きそばなど。奥に映るのは筆者の祖父母(写真撮影/阿部夏美)

実は、風の音の近所に筆者の祖父母が住んでおり、以前から親戚の集まりなどでお店を利用していました。かつての食事会ではベビーカーに乗った乳幼児もいて、高齢者から子どもまでいるグループでみんながのびのびと食事できる場所は貴重だったのかなと思います。

祖父母とは3年ほど会えていませんでしたが、今回の取材後、久しぶりに声をかけて一緒に風の音に行ってみました。わいわいしながら大皿を取り分けて食べる中華料理は、誰かと食事する楽しみをより一層感じられる気がします。祖父母は以前会ったときよりも移動が大変そうになっていたり、耳が遠くなったことでお互いに大きめの声で会話したりしましたが、ここでは周りを気にすることはなく、当事者のみならず同行者も落ち着いて過ごせるお店なのだと再認識しました。

風の音に関して特徴的だと感じたのが、施設の入居者のためにつくられたお店でありながら、地域住民も利用できるという点です。栗原さんによると、入居者限定の食堂を併設している施設などはあっても、一般の方も入れるところはあまりないとのこと。実際、風の音のお客さんは6割ほどが地域住民の方々だそうです。施設の中だけで閉じてしまうのではなく、イベントの開催も通じて、異なる施設の入居者同士や近隣住民同士などがつながれる場を積極的につくってきたことが、長い月日にわたって風の音が地域に愛されるお店になった理由なのかもしれません。

●取材協力
中華レストラン「風の音」、株式会社アイシマ

かつての小学校が“まち”になる! 「那須まちづくり広場」始動

国土交通省、地域づくり活動の優良事例を表彰する「地域づくり表彰」で、廃校となった小学校を再生した「那須まちづくり広場」が最高位の国土交通大臣賞に選出された。これは、市場、カフェ、アート教室等へリノベーションされ、再び地域住民が集う場所へと生まれ変わったプロジェクトで、2022年にはサービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)を中心としたリニューアルも予定されている。
今回、計画にあたって重視していること、今後の展開などを、那須まちづくり広場株式会社の近山恵子さんと鏑木孝昭さんにお話を伺った。

かつて学校だった記憶を尊重した改修で、誰もが集う場所に

「那須まちづくり広場」は、2016年に廃校となった旧朝日小学校を再生利用した複合施設で、行政の建物を民間主導で運営する取り組み。2022年の完成を目指し、現在は先行して旧校舎を改修し、地元の食材を中心とした地産地消のマルシェ「あや市場」や、地域の住民たちが腕を振るう「コミュニティカフェ ここ」などを運営。今後は校庭に、サ高住が新築される予定だ。

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

厳選された地元の新鮮野菜や自然食品が並ぶ「あや市場」。所狭しと商品が並び、宝探しをしているような気分に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

厳選された地元の新鮮野菜や自然食品が並ぶ「あや市場」。所狭しと商品が並び、宝探しをしているような気分に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

周辺の農家さんから直売される新鮮な野菜。つくり手自ら加工した食品も。「サ高住が完成した将来は、こうした直売以外にも、提供する食事に使うために地元農家さんと契約していきたいと考えています」(鏑木さん) (写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

周辺の農家さんから直売される新鮮な野菜。つくり手自ら加工した食品も。「サ高住が完成した将来は、こうした直売以外にも、提供する食事に使うために地元農家さんと契約していきたいと考えています」(鏑木さん) (写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「大切にしているのは、学校本来の機能・雰囲気を活かすこと。今でもこの学校は、地域の運動会や敬老会が開催されるなど、地域のみんなが集う場所です。かつての思い出、記憶、継続している活動を尊重したいと考えています」(近山さん)
例えば、カフェのある場所は元家庭科室、鍼灸・マッサージ・整体などができる「こころと体の健康室」は、元は放送室。給食調理室は、今はオリジナルブランドの人気アイスキャンデー工場だ。玄関入ってすぐの下駄箱は、色を塗りなおし、街のチラシあれこれを入れたインフォメーションコーナーに。

本や絵本がずらりと並び図書館機能も持つ「コミュニティカフェ ここ」。Wi-Fi完備でコワーキングスペースにも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

本や絵本がずらりと並び図書館機能も持つ「コミュニティカフェ ここ」。Wi-Fi完備でコワーキングスペースにも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

スパイスの利いた特製豆カレーは定番の人気ランチ。サラダ、スープ付きで800円(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

スパイスの利いた特製豆カレーは定番の人気ランチ。サラダ、スープ付きで800円(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関の靴箱には地域のお知らせなどのチラシを置いて。課外活動の一環として見学にくる地元の小学生も多く、子どもたちによるポスターも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関の靴箱には地域のお知らせなどのチラシを置いて。課外活動の一環として見学にくる地元の小学生も多く、子どもたちによるポスターも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「リノベーションの過程で、近所の住民の方が小学生のころに書いた“大きくなったら自分の家を継ぎます”と書いた画用紙も見つかりました。かつて自分自身や自分の子どもが何度も足を運んだ場所だからこそ愛着がある。“みんなで作る生涯活躍のまち”事業において、学校を再利用するのはとても意義があると思います」(近山さん)

かつての面影を最も色濃く残している図工室はアート教室に。隣のギャラリーで展覧会を開くことも可能(画像提供/那須まちづくり広場)

かつての面影を最も色濃く残している図工室はアート教室に。隣のギャラリーで展覧会を開くことも可能(画像提供/那須まちづくり広場)

パイプオルガン、チェンバロなど歴史ある楽器が並ぶ「音楽工房LaLaらうむ」。緩和ケアのための音楽を取り入れる試みも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

パイプオルガン、チェンバロなど歴史ある楽器が並ぶ「音楽工房LaLaらうむ」。緩和ケアのための音楽を取り入れる試みも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

子育て世代、高齢者、障がい者など多様な人々が1人でもふらりと立ち寄るのもよし、グループで集う場所として利用することもできる(写真提供/那須まちづくり広場)

子育て世代、高齢者、障がい者など多様な人々が1人でもふらりと立ち寄るのもよし、グループで集う場所として利用することもできる(写真提供/那須まちづくり広場)

屋上に太陽光発電設備を設置し、環境共生・防災時の備えにも取り組んでいる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

屋上に太陽光発電設備を設置し、環境共生・防災時の備えにも取り組んでいる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

住民自身が担い手になることで、暮らしはもっと豊かになる

さらに重視しているのが、地域住民が当事者であること。
例えば、カフェで料理をしてくれるのは、地域に住む方々。料理自慢が通常営業のほかにも、例えば毎週木曜日はワンプレートで雑穀ごはんと6種の惣菜をのせた木曜ランチの日、月に1回はタイカレーの日と、それぞれその日に料理を担当する人の事情に合わせたメニュー構成に。お菓子づくり名人によるオリジナルケーキはかなりの評判だそう。

「自身の“得意”と“時間”を提供していただいています。こうした“場”があることで、みなさんの才能を掘り起こすことができました。自分のお店をオープンするのはハードルが高いけれど、ここでなら自分のできる範囲で才能を発揮できる。それをマッチングさせるのが私たちの役目ですね」(近山さん)

カフェで働くのは地元の主婦の方々ばかり。「スタッフはすぐに集まって、スタートすることができました」(鏑木さん)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

カフェで働くのは地元の主婦の方々ばかり。「スタッフはすぐに集まって、スタートすることができました」(鏑木さん)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

アート、音楽、映像などの多種多様な講座が行われるプログラム「楽校」は、地域の人たちが先生役となることも少なくない(画像提供/那須まちづくり広場)

アート、音楽、映像などの多種多様な講座が行われるプログラム「楽校」は、地域の人たちが先生役となることも少なくない(画像提供/那須まちづくり広場)

住民自ら街づくりに参画する取り組みは、現在進行形の街づくりプロジェクトでも実践中。ワークショップの「人生100年・まちづくりの会」は住民参加型。街にどんな機能が必要か意見交換をしたり、住む、働く、食べるといったテーマ別でアイデア出しをしたり。さらには、自治体や介護の分野で注目されている「誰もが従業員で経営者」という働き方「ワーカーズコープ」の勉強会も開かれている。

「また、これからできるサ高住は暮らしたいと思う人のコミュニティづくりからスタート。中の設計も自由にカスタマイズ可能など、高齢者向けのコーポラティブ住宅のような取り組みをしています」(近山さん)

「人生100年・まちづくりの会」の様子。「参加者には移住された方が多いですね。最近はオンラインによる参加の方もいます」(近山さん)(画像提供/那須まちづくり広場)

「人生100年・まちづくりの会」の様子。「参加者には移住された方が多いですね。最近はオンラインによる参加の方もいます」(近山さん)(画像提供/那須まちづくり広場)

超高齢化社会の受け皿をワンストップで集約させるべく計画中

今後の課題、目標として「那須まちづくり広場」が掲げるのが「地域包括ケアの推進」だ。
自立型のサ高住、通所型のデイケアサービス、24時間対応の訪問介護サービス、看取り対応の高齢者住宅など、あらゆるニーズに対応する機能をワンストップに集約させる計画となっている。
「積極的に治療せず病院からの退院を余儀なくされるケース、病院で死にたくないけれど自宅介護は困難なケースなど、医療難民、介護難民となる人は多い。そうした局面での受け皿となる場所を目指しています」(鏑木さん)
そのためには現状で足りないものを優先。「例えば、今回の計画にはいわゆる通常の保育所はありませんが、障がい者児童向けの放課後デイケアサービスはあります。周辺地域に十分足りている施設については、あえて入れていないんです」(近山さん)

那須まちづくり広場2022年の完成予想パース。校舎やプールを改修、校庭に新たにサ高住を供給。全体で事業化することでコスト課題を解消する予定(画像提供/那須まちづくり広場)

那須まちづくり広場2022年の完成予想パース。校舎やプールを改修、校庭に新たにサ高住を供給。全体で事業化することでコスト課題を解消する予定(画像提供/那須まちづくり広場)

さらに「福祉の産直」も狙っている。
「サ高住含め、住戸100戸を供給予定。そのスケールメリットを活かして、地域の雇用を生み出すことができ、経済を活性化させていくことも目標です」(鏑木さん)
合わせて住宅の確保が困難な方向けのセーフティネット住宅や低価格の簡易宿泊所も併設。ここで暮らしながら、介護を勉強、資格を取得し、生活を立て直すこともできる。
「例えば、簡易宿泊所に泊まりながら、質のいいリハビリやヘルパーの研修プログラムに参加することも。目指すのは、福祉の産直と地消地産。社会的弱者と呼ばれる人たちの経済的、精神的自立を図ることも大きな目標のひとつです」(近山さん)

フロアマップ予想図。セーフティネット住宅には、住宅の確保が困難な高齢者、障がい者、子育て世代、外国人向けの住宅。また、移住、定住前のお試し住居として利用できる予定。サ高住の居室は1坪当たり約110万円で検討中(画像提供/那須まちづくり広場)

フロアマップ予想図。セーフティネット住宅には、住宅の確保が困難な高齢者、障がい者、子育て世代、外国人向けの住宅。また、移住、定住前のお試し住居として利用できる予定。サ高住の居室は1坪当たり約110万円で検討中(画像提供/那須まちづくり広場)

那須まちづくり代表の近山さん(左)と鏑木さん(右)。「我々が目指すのは地産地消ならぬ、地消地産。地域で消費するものをなるべく自分たちで生み出していくことが目標。理念を可視化するために、実践しながら共有していく。そのための”場”がここなんです」(近山さん)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

那須まちづくり代表の近山さん(左)と鏑木さん(右)。「我々が目指すのは地産地消ならぬ、地消地産。地域で消費するものをなるべく自分たちで生み出していくことが目標。理念を可視化するために、実践しながら共有していく。そのための”場”がここなんです」(近山さん)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

生きる、働く、そして死ぬことーーあらゆる局面で必要となる場を含んだまちづくりは、高齢化社会が加速する日本においては急務の課題。その舞台として、かつてコミュニティの場であった学校の跡地を利用するのは他の自治体でも挑戦可能な手段といえる。今後の「那須まちづくり広場」の挑戦をウォッチしていきたい。

●取材協力
那須まちづくり広場
MINSURU[みんする] :那須まちづくり広場・事業構想プロジェクト

サ高住「ゆいまーる花の木」に込めた、秩父市×豊島区が目指すアクティブシニアの未来とは

自分のセカンドステージをどういったように暮らしたいかと考えたとき、生活を楽しみ、人との交流も続けたいと望むアクティブシニアが増えている。そんな高齢者向けの住宅や施設も誕生しているようだ。今回は秩父市に建設された「ゆいま~る花の木」のオープン記念式典があると聞いて足を運んでみた。
都市と田舎を結ぶ姉妹都市連携が新しいシニアの住まい方をつくる

池袋駅からレッドアロー号で78分、西武秩父駅に降り立つと駅周辺は活気にあふれている。関東に暮らす人にとっては長瀞渓谷や軽登山が楽しめる山々など、週末のアクティビティのイメージが強い秩父だが、歴史ある街であるからこそ、文化施設や個性的なカフェなども多く、実は落ち着いて自然を満喫できる暮らしができる古都でもある。

長瀞渓谷(写真/PIXTA)

長瀞渓谷(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

駅から徒歩15分、タクシーだとワンメーターでたどりつく場所に「ゆいま~る花の木」が11月にオープンした。木造2階建ての新築20戸、60歳以上の元気なシニア世代を対象としたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)だ。今回、そのオープン記念式典が、隣にある秩父市の交流センターで開催された。

「ゆいま~る花の木」(写真提供/株式会社コミュニティネット)

「ゆいま~る花の木」(写真提供/株式会社コミュニティネット)

この施設は「秩父市生涯活躍のまちづくり」構想のモデル事業「花の木プロジェクト」の一環として誕生したものだが、秩父市(埼玉県)&豊島区(東京都)による「2地域居住」構想にも関係している。もともと姉妹都市関係にある両自治体が将来に向けてお互いの可能性を見据えた計画だという。

豊島区は、都市の過密や高齢化という課題を抱える中で、区民のライフスタイルの選択肢を広げ、第2の人生を後押ししたいとの考えがあった。一方、秩父市も人口減少という課題をかかえ、生涯活躍のまちづくり(都市部からの移住者が健康で活動的な生活を送れるとともに、医療・福祉等の地域ケアも整ったまちづくり(日本版CCRC)を目指していた。

セレモニーでは豊島区長と市長の挨拶もあり、この取組への期待の高さが感じられる。運営はサ高住で実績のある株式会社コミュニティネットが担当、「親しい人に囲まれ、楽しく、自由な暮らしを満喫し、介護が必要になったときも、地域の医療/介護資源を利用しながら自分らしく暮らす」をコンセプトとしている。

キッチンが設置された「秩父市花の木交流センター」でオープニングセレモニーを開催。「ゆいま~る花の木」の住民はもちろん、秩父市内の住民交流の場としても期待されている(写真撮影/四宮朱美)

キッチンが設置された「秩父市花の木交流センター」でオープニングセレモニーを開催。「ゆいま~る花の木」の住民はもちろん、秩父市内の住民交流の場としても期待されている(写真撮影/四宮朱美)

とりあえず試しに住む、2地域居住で気楽に始める、どちらも可能

リタイア後のセカンドライフをどこで始めるかは、高齢層にとって関心は高いが、いきなり今まで住んでいた場所から他の場所に移り住むのはハードルが高い。できればお試し期間が欲しい。

「ゆいま~る花の木」は、平日は自然豊かな秩父で生活し、土日は豊島区で文化芸術イベントに参加するといった「2地域居住(デュアルライフ)」のモデルケースも想定している。若い世代で行われているデュアルライフが平日都心、週末郊外となっているのに対し、逆も可能というのも特徴。これから人口減少が懸念される日本にあって、お互いに人口を奪い合わない交流や移動で「さまざまな地域との共生の仕組みづくり」に力を入れているそうだ。実際に豊島区に自宅がありながら、ここでの生活も始めようとしている高野正義さんに話を伺った。

「私は生まれてから現在まで豊島区で暮らし、地域の町会長もしてきました。地元に友人・知人も多いですが、少しのんびりしたいと思って、ここに拠点を持つことにしました。言ってみれば『もう1つの書斎』みたいなものですね。友人たちも興味を持っているみたいで、いずれ彼らも参加してくれると面白いと思っています」

快適なセカンドライフに必要なのは、設備や住宅はもちろんだが、地域に溶け込めるコミュニティだ。その点でも、隣接する地域開放型交流拠点施設「秩父市花の木交流センター」の存在が注目されている。セレモニーでは近隣の幼稚園児も参加、かわいい歌声を聞くことができた。施設が幼稚園、小学校、中学校などの教育施設が集まる文教エリアの中に位置していることで、世代を超えたコミュニティの醸成が期待できる。

「秩父市花の木交流センター」(写真提供/株式会社コミュニティネット)

「秩父市花の木交流センター」(写真提供/株式会社コミュニティネット)

(写真提供/株式会社コミュニティネット)

(写真提供/株式会社コミュニティネット)

終身建物賃貸契約と3つの安心で長く安心して暮らせるシステム

部屋は1Kから2LDK、29.54平米~47.62平米の3タイプが用意されている。住居内はバリアフリー。床暖房が設置され、ヒートショックを軽減する浴室換気乾燥暖房機も標準装備だ。シニアにとって住戸内の温度差が整えられているのはうれしい。

くわえて「毎日の安否確認」「生活コーディネーターの日常生活の相談」「セコムと連携した夜間緊急時の対処」など3つの安心も用意されている。

安否確認は、1日1回建物内の郵便受け横に設置した専用ボードに記名予定、確認ができない場合は、電話連絡や入室などで安否確認を実施。生活コーディネーターは、日々のちょっとした相談や困りごと、医療・介護の活用についても相談に応じる(フロントは、隣接する交流センター内に設置予定)。 日中は常駐スタッフとセコムが連携し、夜間の緊急時にはセコムの緊急対処員が駆けつけ対応する。

また「終身建物賃貸借契約」で入居者は亡くなるまで安心して住み続けられるのもメリット。毎月払いの場合は5万7000円から8万9000円、一括前払いの場合は1231万円から1922万円と終身タイプのものとしては手が届きやすい(このほか毎月、生活サポート費2万7500円(一人の場合、税込)と共益費1万円(非課税)が必要)。

2LDKタイプの居室。収納スペースも確保されている(写真撮影/四宮朱美)

2LDKタイプの居室。収納スペースも確保されている(写真撮影/四宮朱美)

水まわりもバリアフリーでゆとりあるスペースを確保(写真撮影/四宮朱美)

水まわりもバリアフリーでゆとりあるスペースを確保(写真撮影/四宮朱美)

ちょうどいい距離感と歴史や文化に恵まれた自然たっぷりの秩父市

秩父市は荒川の清流と秩父盆地を中心とした山々に囲まれ、四季折々の自然が楽しめる環境だ。また歴史的な文化資源も豊富。昭和レトロを感じさせる町並みや、秩父夜祭をはじめとする大小多くの祭りが1年を通じて開催される。

西武秩父駅構内には「祭の湯」というスパ施設があり、土産物を売る店も充実している。フードコートではたくさんの人が食事を楽しんでいる。

セレモニー当日も平日にも関わらず、駅周辺は観光に訪れた人たちを目にした。秩父34カ所観音霊場巡りだけでも、たくさんのコースがあり人気を集めている。池袋からの距離も「大人の遠足」で出かけてくるのにちょうどいい距離感だ。いわゆるアクティブシニアが自分らしい時間を過ごすために、秩父市というのは最適な環境の1つかもしれない。

駅構内に隣接されている祭の湯。フードコートや土産物店も併設され、日常的に楽しめる施設になりそうだ(写真撮影/四宮朱美)

駅構内に隣接されている祭の湯。フードコートや土産物店も併設され、日常的に楽しめる施設になりそうだ(写真撮影/四宮朱美)

筆者が若いころにイメージしていた「落ち着いてのんびり過ごす老後」は、自分が年齢を重ねて目の当たりにする状況とは少し違ってきている気がする。「ゆいま~る花の木」での生活を始めようとしている高野さんにおいては、豊島区でのコミュニティづくりの経験を秩父での暮らしにこれからも活かしていけそうだ。すでに豊島区と秩父市の橋渡しのような存在になっている。リタイア後のセカンドライフは、これからも続けていきたいこと、これから新たに挑戦したいこと、等々がいっぱいありそうだと感じた。そんなアクティブシニアにとっては、都会と田舎の両方でのセカンドライフを欲張りに手に入れられそうな環境は、選択肢として魅力的かもしれない。

●取材協力
・株式会社コミュニティネット

サ高住「パークウェルステイト浜田山」が追求する理想的な終の棲家とは?「人生100年時代」の最新住宅事情

うっかりしていたら、昨年還暦を迎えてしまった。私も立派なシニア世代だ。まだまだ元気なつもりだが「終の棲家をどうするか」という問題がたまに頭をよぎることがある。三井不動産レジデンシャル株式会社がシニアをターゲットにしたサービス付き高齢者向け住宅の新商品「パークウェルステイト浜田山」を誕生させたと聞き、そのプレス説明会と内覧会に参加してみた。
自立したシニアに向けた「住まい」としての快適さを重視したプランニング

同物件のある浜田山は渋谷と吉祥寺を結ぶ京王井の頭線沿線の静かな住宅街だ。現地は駅の北側を歩いて9分(約720m)。周辺は低層住宅が広がり、善福寺川緑地(約560m/徒歩7分)や三井の森公園(約970m/徒歩13分)も点在する緑豊かな環境だ。

テーマは街なかに居ながらにして樹々と静寂に包まれた「市中の山居」。住まいと庭園とが一体となって四季の息吹を肌で感じるように企画されたそうだ。「彩の庭」と名付けられたプライベートガーデンは約1100本のさまざまな樹木が植えられ、館内の随所から眺められるように設計されている。建物は地下1階地上3階建て、62戸の一般住戸と8戸の介護用住戸が備えられている。

安心して散策できる敷地内のプライベートガーデン「彩の庭」。四季折々の表情を楽しめる緑豊かな中庭だ(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

安心して散策できる敷地内のプライベートガーデン「彩の庭」。四季折々の表情を楽しめる緑豊かな中庭だ(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

ガーデンの緑が絵画のように印象的なエントランス(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

ガーデンの緑が絵画のように印象的なエントランス(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

高齢者向け住宅としては「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」と「住宅型有料老人ホーム」の2つが話題になっているが、同物件の場合は国土交通省の所轄による高齢者向け住宅である「サ高住」として企画されている。一方の「住宅型有料老人ホーム」は厚生労働省の所轄による「介護施設」になる。

つまりシニアが快適に暮らせる「住まい」としての位置づけで企画されている。同物件の場合は、入居する際は自立できる健康な状態が条件だ。ただサ高住で取りざたされる「要介護度が大きく進んだ場合に別の介護施設に移り住まなくてはならない」懸念は解決されている。本格的な介護用住居も用意されているからだ。

シニアの住まいのニーズの変化に応じて、自宅での介護でも、介護施設でもない、新たな選択肢を提供(イメージ)(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

シニアの住まいのニーズの変化に応じて、自宅での介護でも、介護施設でもない、新たな選択肢を提供(イメージ)(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

同事業の基本的なスキームは、三井不動産レジデンシャル株式会社が建物を開発したのち、三井不動産レジデンシャルウェルネス株式会社に建物を賃貸し、同社が入居者と終身建物賃貸借契約を締結する。同社は、生活相談やフロントサービスなど、入居者へのホスピタリティサービスを提供するほか、介護事業者やレストラン事業者への運営委託および医療機関との連携等を通じて、さまざまな専門性の高いサービスを提供する。

資生堂美容室と提携したヘアサロン、フィットネスルーム、大浴場なども

まずは共用施設から見学させてもらった。男女共に、檜風呂と石風呂の2種類の浴槽をしつらえた大浴場はバスタオルも用意され、着替えを持っていくだけの気軽さだ。自室の浴室を利用した場合の清掃の煩わしさを軽減できるようにという考えで設置されたそうである。確かに浴室の掃除は手間がかかるのでうれしい設備だ。

フィットネスルームでは200種以上の運動が可能というキネシスをはじめ、さまざまな機種が整っている。トレーナーが定期的に常駐するので初心者でも使い方を教えてもらえ、さらに希望すればパーソナルトレーニングも受けられる(予約制・有償)

またシアタールーム、アトリエ、ビリヤード場、自動麻雀卓を備えたゲームルームなどが備えられ、時間にゆとりのあるシニアが充実した1日を送ることができそうだ。各々経験がある人はもちろん、はじめて挑戦する場合も気軽に始められる多彩なラインナップで、趣味の幅が広がる。

特徴的なのはヘアサロンの存在だ。資生堂美容室提携でおしゃれなシニアの要望に応えられる施設は、「7割が女性」という入居者の想定に即したものだろう。送迎シャトルバスを活用して、日本橋エリアなどに買い物ツアーに出かけるアクティビティも用意されるようだ。「買い物とおしゃれ」は、これからのシニア女性には欠かせない。いつまでも身だしなみに気を配る方に満足してもらえる工夫だ。

イタリア・テクノジム社の人間工学に基づく最先端マシンを備えたフィットネスルーム(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

イタリア・テクノジム社の人間工学に基づく最先端マシンを備えたフィットネスルーム(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

資生堂美容室と提携したヘアサロン。カットやパーマだけではなくネイルやフェイシャルも受けられる(有料)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

資生堂美容室と提携したヘアサロン。カットやパーマだけではなくネイルやフェイシャルも受けられる(有料)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大浴場「明鏡(めいきょう)・清香(せいか)」。自室のお風呂の利用頻度が低いという顧客の声から、男女共に、檜風呂と石風呂の2種類の浴槽をしつらえた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大浴場「明鏡(めいきょう)・清香(せいか)」。自室のお風呂の利用頻度が低いという顧客の声から、男女共に、檜風呂と石風呂の2種類の浴槽をしつらえた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

58~100平米超の居室は都心高級マンションのクオリティ。クルマ椅子利用も視野に

次にプライベートスペースである各個室を見せてもらった。単身用の58平米超の1LDKと夫妻でも入居できる100平米超の2LDKの2つのタイプだ。いずれもスペースに余裕があり、ガーデンの緑が眺められる。バルコニーの手すりはガラスが使用され、室内からの眺望を大切にしていることが見て取れる。

特筆すべきは引き戸を多用した設計だ。水まわりを含めて出入りする場所は極力引き戸が採用されている。万一車椅子を利用することになっても、廊下の広さを含めて移動が簡単にできるように工夫されている。

単身入居者向けの1LDK。引き戸を開放すればワンルームにもなる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

単身入居者向けの1LDK。引き戸を開放すればワンルームにもなる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

100平米超の広い2LDK。家族が来ても宿泊できるように主寝室以外に個室が用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

100平米超の広い2LDK。家族が来ても宿泊できるように主寝室以外に個室が用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

急に具合が悪くなったときなど、万一の場合に対応することができるように居室にはスタッフと直接話せるスピーカーとマイクが用意されている。また、ホテルのカードキーのような仕組みで在室しているかどうかを把握。在室中にも関わらずトイレ前に取り付けられたセンサーに、一定時間反応がない場合、呼びかけや駆けつけの対応がなされる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

急に具合が悪くなったときなど、万一の場合に対応することができるように居室にはスタッフと直接話せるスピーカーとマイクが用意されている。また、ホテルのカードキーのような仕組みで在室しているかどうかを把握。在室中にも関わらずトイレ前に取り付けられたセンサーに、一定時間反応がない場合、呼びかけや駆けつけの対応がなされる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「もしも」の場合も介護ルームを用意。1.5人に1人の体制で看護スタッフを用意

元気なうちは自立して暮らせても、何かあれば病院に行き、そのまま入院ということになるが、ここでは介護が必要になった際に入室できる介護用住戸が8戸も用意されている。また大学病院(※1)との連携を軸として、24時間常駐の看護スタッフ(※2)や同一建物内にクリニック(※3)も設置、医療のプロたちが常に健康を見守る体制が用意されている。

訪問介護事業所「TOKIORI浜田山」が併設。介護サービスは、「ケアサービス(生活支援サービス)」「訪問介護サービス」「自費サービス」の3種類があり、入居者の要望に応じて支配人とケアマネジャーが提案してくれる。

介護用住戸で提供される「ケアサービス(生活支援サービス)」(※4)は、サービス料金に含まれており、日常的な服薬管理、健康管理、訪問診療所医師(主治医)の指示によるレジデンスの体制で可能な医療ケアへの対応をしてもらえる。また看護・介護スタッフと介護用住戸利用者の比率は、1.5:1相当の体制を実現しており、短時間・随時・緊急の場合でも24時間対応が可能だ。
要支援、要介護の認定を受けた方を対象とした「訪問介護」は、介護保険を利用したケアサービスで、一般住戸、介護住戸に関わらず利用可能だ(介護保険適用サービス)。本人の健康状態に応じて訪問医療や訪問看護(有償)によるサポートの利用も含めて、館内で看取りまでを行う予定だそうだ。

一般住戸での生活が難しくなった場合、住戸はそのままに、この介護用住居に移ることができる。夫婦のどちらかに介護が必要になった場合でも、最も近い距離で暮らせる。バルコニーから眺める中庭の緑が美しい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一般住戸での生活が難しくなった場合、住戸はそのままに、この介護用住居に移ることができる。夫婦のどちらかに介護が必要になった場合でも、最も近い距離で暮らせる。バルコニーから眺める中庭の緑が美しい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

寝たままの体制で入浴できる浴室を介護スペースには設置。ほかに座ったまま入浴できる浴室も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

寝たままの体制で入浴できる浴室を介護スペースには設置。ほかに座ったまま入浴できる浴室も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

自然光を取り込むダイニングで朝・昼・晩の3食、コース料理も可能

ワイドなガラス窓から四季を感じる植栽と滝の織りなす美しい水景が眺められるダイニング「季饗(ききょう)」は、ホテルのレストランのような贅沢な空間だ。ゲストが来たときのための個室、夜のバー活用(週1回)、予約不要の自由喫食など、それぞれのライフスタイルにあわせて使えるそうだ。

食事は管理栄養士による栄養バランスが管理された上質な日替わり・定番メニューを提供。健康を意識したメニューや栄養バランスの分かるサービスはニーズが高いだろう。試食させてもらったが、目を楽しませてくれる盛り付けから、薄味に留意しながら深い味わいのある料理は満足度が高い。朝食500円、昼食850円、夕食1300円(すべて税抜)で提供される予定だが、十分に価値がある。さらに要望があればコースメニュー(有償・予約制)の提供も可能のようだ。

専属のシェフが栄養と健康に気を配り、和・洋・中のバラエティーに富んだ日替わりメニューや軽食等のアラカルトメニューなど提供してくれるダイニング(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

専属のシェフが栄養と健康に気を配り、和・洋・中のバラエティーに富んだ日替わりメニューや軽食等のアラカルトメニューなど提供してくれるダイニング(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

朝食の一例。和食も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

朝食の一例。和食も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

夕食の一例。洋食も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

夕食の一例。洋食も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

シニア世代の新たなライフスタイルに合わせたコンセプト

三井不動産レジデンシャルではシニア向け住宅事業を新たな成長戦略の柱の一つとし、2017年4月にはシニアレジデンス事業部を新設。人生100年時代に向けた新商品として、「パークウェルステイト」シリーズを発表、これからも展開していく予定だ。

というのも平均寿命が延びただけでなく、80歳代前半でも約8割が介護保険を利用していないなど、自立した元気な高齢者が増加したことで、静かな老後ではなく、もっとアクティブなライフスタイルのニーズが生まれている。

元気なときから介護が必要になったあとも、そして最期を迎えるときまでも、住み慣れた環境で暮らしたいと願う人は多い。しかし自宅介護は家族の負担が大きい。そんな人たちにとっての理想的な環境が用意されているのが同物件ではないだろうか。確かに入居金は単身者用でも1億3593万円(前払方式・80歳入居)、毎月94.4万円(月払方式・年齢不問)と高めの設定だ。ほかに月額利用料や光熱費も必要になる。しかし歳を重ねることをポジティブにとらえるためにも、このシニアレジデンスの誕生は「終の棲家」の選択肢を広げてくれるきっかけになりそうだ。

※1 順天堂大学医学部附属〈順天堂医院・ 練馬病院〉(総合科目)
※2 看護スタッフ1名常駐(週40時間常勤換算で常勤2名、非常勤3名(予定)によるシフト制。夜間(18時~翌9時)看護スタッフ1名。ただし休憩等による最少時は0名)
※3 クリニックによる提供サービス(健康診断・健康相談・生活アドバイス・健康管理等)に関わる費用は、基本サービス料金に含まれます
※4 ケアスタッフ1名常駐(週40時間常勤換算で常勤2名、非常勤3名(予定)によるシフト制。夜間(18時~翌9時)ケアスタッフ2名。ただし休憩等による最少時は1名)。介護用住戸の利用者がいない場合はケアスタッフの配置はございません

●取材協力
パークウェルステイト浜田山