住居専用の賃貸マンションに週末だけ営業の個人店が20も。札幌の個性派スペース「space1-15(スペース イチイチゴ)」って?

北海道札幌市の中心部にある賃貸マンション「シャトー・ル・レェーヴ」。目立った店看板もなく、一見すると普通の居住用マンションですが、入り口のインターホン横には、店名がずらり。改装した各部屋で食堂や雑貨店、レコードショップなど約20店舗が営業しています。

当初3店舗から始まったマンション内の店舗群は「space1-15(スペースイチイチゴ)」と名付けられ、2023年で14年目を迎えました。地元でも知る人ぞ知るスポットである「space1-15」は、どのようにして運営を続けてきたのでしょうか。

来店客は、店主に入り口のオートロックを解除してもらう

街の区画が碁盤の目になっている札幌市の中心部。大通公園のやや西側にあたる、南1条西15丁目にやって来ました。周辺には美術館や大学病院などがあり、比較的大きな建物が点在する静かなエリアです。

市営地下鉄東西線または市電の駅からそれぞれ徒歩数分。大通りから路地に入ると、マンションが立ち並ぶ一角に今回の目的地「シャトー・ル・レェーヴ」が見えてきました。

写真中央のビルが「シャトー・ル・レェーヴ」(写真撮影/森夏紀)

写真中央のビルが「シャトー・ル・レェーヴ」(写真撮影/森夏紀)

外観は特に変わったところのない、8階建ての賃貸マンションです。ただし、正面入り口まで近づくと、木製の立て看板が目にとまります。

インターホンの前で、目的の店の部屋番号を確認できる(写真撮影/森夏紀)

インターホンの前で、目的の店の部屋番号を確認できる(写真撮影/森夏紀)

このマンションでは、42部屋のうち21部屋が居室ではなく店舗やアトリエとして利用されています。営業するのは、週末を中心に木曜から日曜まで。営業日や時間は店ごとに異なります。

初めて来た人は、どうやって中に入ればいいのか戸惑うかもしれません。目的の店が入る部屋のインターホンを押し、店主やスタッフにオートロックを解除してもらいます。一度ビル内に入ってからは、エレベーターか階段でほかの階にある店も訪ねることができる仕組みです。

入居するテナントは、洋菓子や軽食などの飲食店、ヴィンテージアイテムや布雑貨、ジュエリー、器、レコードなどの小売店など。写真や木工の教室も開催されています。

ビル内の共用部の造りは、基本的にどの階も同じ。ところが、各店のドアから先には、思い思いの光景が広がります。

501号室のレコードショップ「Takechas Records(タケチャス・レコーズ)」(写真撮影/森夏紀)

501号室のレコードショップ「Takechas Records(タケチャス・レコーズ)」(写真撮影/森夏紀)

「Takechas Records」店内(写真撮影/森夏紀)

「Takechas Records」店内(写真撮影/森夏紀)

503号室の洋菓子店「CAPSULE MONSTER」(左)と、502号室のエナメルアクセサリー教室「MEDO」(写真撮影/森夏紀)

503号室の洋菓子店「CAPSULE MONSTER」(左)と、502号室のエナメルアクセサリー教室「MEDO」(写真撮影/森夏紀)

「CAPSULE MONSTER」店内(写真撮影/森夏紀)

「CAPSULE MONSTER」店内(写真撮影/森夏紀)

こうしたお店の存在は、マンションの前を通っただけだと気がつかないかもしれません。

観光都市である札幌の中心部にありながら、まさに“知る人ぞ知る”を体現しているspace1-15。なぜこのような営業スタイルをとっているのでしょうか? 同ビルをプロデュースした堤曠龍(つつみ ひろたつ)さんにお話を伺いました。

商業空間デザインの経験値とアイデアを賃貸マンションに

札幌市出身の堤さんは、東京でデザインや広告の仕事をした後、2000年代前半に札幌に戻り、やがて独立。店舗プロデュースの事業会社など5つの会社を経営し、16もの店舗の運営を統括するようになりました。

札幌市内を中心に展開するコーヒーショップ「森彦」の2号店「ATELIER Morihiko(アトリエ モリヒコ)」をはじめ、日本酒と豆腐料理の店や、チーズケーキと深入り珈琲の店など、お客さんが行きたくなるような仕掛けづくりの経験を重ねていった堤さん。専門学校の講師も務めていたことから「このマンションに住んでくれる生徒を紹介してくれないか?」と話を持ちかけられたのが、「シャトー・ル・レェーヴ」でした。

「シャトー・ル・レェーヴ」はフランス語で「夢の城」という意味(写真撮影/森夏紀)

「シャトー・ル・レェーヴ」はフランス語で「夢の城」という意味(写真撮影/森夏紀)

交通のアクセスはいいものの、物件としては古く、入居者がなかなか集まらない。そんなビルに堤さんが提案したのは、空き部屋を作家のアトリエとして活用することでした。

どの部屋も7坪で、キッチンやユニットバスを備えたワンルーム。「人間が目を配れるのは10坪以内」という経験則があった堤さんは、ちょうどいい広さだと考えたそう。「つくったものは売りたくなる。このマンションの部屋では、作家が販売もすることになると思う」とビルの管理者を説得。ほかの部屋に住民は住んだまま、賃貸マンションながらアトリエ兼店舗として部屋の活用が始まりました。

2009年のオープン時は、3部屋から店舗営業がスタートします。堤さんが開いていた起業塾で知り合った生徒のうち、手づくり石けんを販売する「Siesta Labo.(シエスタラボ)」と、ブーケやリースなども扱う植物の店「losika(ローシカ)」が最初の入居者。堤さんも自身の書庫をつくるようなイメージで、本と雑貨、コーヒーを用意する「書庫・303」を出店しました。

303号室の「書庫・303」(写真撮影/森夏紀)

303号室の「書庫・303」(写真撮影/森夏紀)

「書庫・303」店内(写真提供/書庫・303)

「書庫・303」店内(写真提供/書庫・303)

当初の入居条件は、堤さんが1年以上話したことのある人。

「最近は知り合い以外の人も入居しますが、それでも入居を決めるまでに何度も顔を合わせます。分かりやすく売れる立地ではなく、それを逆手にとった仕掛けをしている場所なんです。だから、このマンションに合う人じゃないと店として成立しない」(堤さん)

「分かりにくい店」を探して来てくれた人は、2度目に誰かを連れて来る開設10周年、2020年当時の「space1-15」入居一覧(写真撮影/森夏紀)

開設10周年、2020年当時の「space1-15」入居一覧(写真撮影/森夏紀)

「あえて分かりやすくしない」ことが、このビルを続けるうえで重要だったと堤さんは話します。

例えば「space1-15」の由来は、このビルの立地が「札幌市中央区南1西15丁目」だから。言われてみればなるほど、とうなずけるシンプルなネーミングですが、ここにも堤さんのこだわりがありました。

「オープン当時、地図アプリなんて普及していなかった。『一体どこに店があるんだろう?』と迷いながら来てくれるお客さんに向けて、ヒントのように名付けました。苦労してたどり着いた店がおもしろい空間であれば、そのことを人に言いたくなるし、今度は人を誘ってまた来たくなる」

また、マンション内は現在も、「space1-15」の店主たちと、住まいとして部屋を借りる住民が共存しています。店舗の運営にあたり「音や匂いなど何か運営ルールはあるのか」と筆者が聞いたところ、「最初にそういうことを聞いてくる人は、そもそも入居できないんです」という答えが。

堤さんが大切にしているのは、この場に一律のルールをつくらないこと。言われなくても周りの人、近所の人のことを考えて過ごせる人であることが入居の条件です。

「近所の人といい関係をつくること。このマンションだけでなく、周辺も住宅地ですから、もし地域の人に嫌われてしまったら、先がない。お客さんだけでなく、地元の人にも『いい場所だな』『人に教えたいな』と思ってもらえれば、そこからも集客の可能性が広がっていきます」

「書庫・303」店内(写真提供/書庫・303)

「書庫・303」店内(写真提供/書庫・303)

例外的にひとつだけ設けているルールは、週末にのみ営業すること。大半の店の営業日は土曜や日曜を中心に、多くて週4日です。

「店主にも休みが必要です。自分の身の周りを整える日、誰かに会いに行く日、家族など自分の大切な人のための日。休みは最低3日いると思うよと、入居する店主には伝えています」

「店を続けていくのは難しいこと」 4度目の誘いで出店

一方、なぜ入居店主はspace1-15に集まるのでしょうか。2014年に入居した「Takechas Records(タケチャス・レコーズ)」店主の井上武志さんにお話を伺いました。

(写真撮影/森夏紀)

(写真撮影/森夏紀)

偶然にも「space1-15」のスタートと同じ2009年に、札幌を拠点にWebショップ「Takechas Records」を始めた井上さん。実店舗を持つことには抵抗があったといいます。

「店をつくることはできても、続けていくのは難しい。自分に店舗はまだ早いと思っていました」

実店舗は持たずとも、レコード店が普通はやらないことをしようと、当時できたばかりのチカホ(札幌駅前地下歩行空間)(※)への出店など、レコードのイメージとは離れた場でのポップアップショップを続けていた同店。そこにプロデューサーの堤さんがやって来るようになります。

「最初は、謎の人だなと(笑)。space1-15への入居を誘われる度に断って、最終的には4度目の誘いをお断りするために、私のほうから手紙を持参して会いに行きました。なのに、何か呪文にかかったように、気づいたら店をやることになったんですよね。『あれ? やることになっちゃった』と思って(笑)。space1-15が、みんなの入りたがっているビルだということは、後から知りました」

マンションの一室であることも、井上さんにとっては戸惑いの一因に。「内装は何をやってもいい」という堤さんの言葉を受け、部屋を改装しながら営業を始めることになりました。

※2011年にオープンした、地下鉄札幌駅と大通駅をつなぐ全長約520m、幅12mの通路。通路脇や複数の広場で1年を通してさまざまなイベントが開催されている。

堤さんに手伝ってもらい、DIYで仕上げた店内(写真撮影/森夏紀)

堤さんに手伝ってもらい、DIYで仕上げた店内(写真撮影/森夏紀)

日々の「異種格闘技」から、若い世代が通う店へ

営業を始めてみると、ここでは否が応でもほかの店を意識してしまったそう。

「最初は、なんというか異種格闘技。これまでも雑貨イベントに出店することはありましたが、店を開いてからは日常的に『いまどきレコード?』と言わんばかりの、好意的じゃないお客さんの波にも揉まれるようになって。レコードを昔のもの扱いされちゃうこともありました」

新しい店では特に、「自分の好みを押し付けず、来てくれた人と共有する」という感覚で接客するようになったという井上さん。年月がたち、段々と店が知られるようになると、お客さんの反応にも変化が。ここ数年はレコードが再評価される動きが広がっており、「Takechas Records」は外国からの観光客が空港から直行してくれることもあるそう。

「今、一番若いお客さんは小学生。お父さんとお母さんに連れられて来るけど、ご両親はレコードに親しんできたわけじゃないんです。本人が好きなんだって。ほかにも、通ってくれている中高生が、ミュージシャンとして活躍するようになりました。うちの店は『初めてレコードを買う』という人がすごく多いから、そういう場に立ち会えると、なんともうれしい気持ちになりますよね。そんな人を増やしていきたいなとも思います」

マンション内の店主同士の関係については、「緩やかな共同体」だと話します。

「うちに来てくれるお客さんが、隣のケーキ屋さんのお客さんでもある。強い仲間意識はないけど、かといって全く他人とも思っていない感じです。やっぱり皆さんいろんな事情があるから、もっと大きな店に移転する方もいれば、店を辞められる方もいる。顔を合わせる機会が少なくなるのを、寂しく思う気持ちはありますね」

space1-15全体では、新型コロナウイルス感染症の流行前まで「あさいち」というイベントを開催。他店舗同士がコラボして限定商品を販売するなどの取り組みをしていました。

お客さんの熱量が、「分かりにくさ」を超えてくるマンション内の共有スペースに設置されたフロアマップ。詳しい説明は書かれていない

マンション内の共有スペースに設置されたフロアマップ。詳しい説明は書かれていない(写真撮影/森夏紀)

あえて派手な宣伝はせず、マンション前に大きな看板を掲げることもしない。オートロック式の店内で週末営業。こうしたspace1-15のスタイルに、井上さんは慣れたのでしょうか? 

「僕はこのビルのファンで入居したわけじゃないから、やっぱり最初は『どうしてそんなにお客さんを振り落とすんだろう?』って思いました。ただ、お客さんの『来たい』という熱量が上がれば、そこをも越えてくるんだなと。入居時と比べて、このシステムに戸惑う人は減っている気がします。それは、店主の皆がそれぞれ外のイベントに出店する機会などを経て、space1-15を気に入ってくれそうな人に対して、確実に広めていった結果でもあるのかなと」

「堤さんからは『何でもいいから相談してくれ』と言われているので、本当に何でも相談するし、軽口も言えます。なんか変だなと思うことを言い合えるような関係が築けたのは、彼の度量の大きさがあるからだし、ありがたいです」

取材を申し込む数日前に、筆者が個人的に来店したことも覚えていてくださった井上さん。訪れた店で生まれた会話や、見つけたものを大事に持ち帰りたくなる魅力がspace1-15にはあると感じました。

タイミングを大事に、人が場をつないでいく

運営を続けていくうちに客層が広がり、現在は若者から年配の方までが集まるようになったというspace1-15。同ビルから卒業した店舗は、数年で力をつけてスタッフを雇うまでに成長するケースもあるといいます。

取材の最後に、プロデューサーの堤さんは「大事なのは、タイミングと人の縁。タイミングは、つくろうと思ってつくれるものではないから」と話してくれました。

実は筆者がこのビルに初めて足を踏み入れたのは、市内の高校に通っていた2010年ごろ。地元のカフェ店主が常連客を紹介してくださり、さらにその人が「こういう場所には来たことがないでしょう」と案内してくれたのが「space1-15」でした。

それまで駅ビルに入るテナントやチェーン展開のファストフード店に行くばかりだった筆者は、個人店の店構えに緊張しつつ、まったく画一的ではない手づくりの空間で、自分のつくったものや選んだものを売る人たちの姿から、子どもであっても1人の客として接してくれる誠実さを感じました。案内してくれた人に「いいと思った店にはお金を払うのが大切」と教えてもらったことも、自分で働き始めてからのお店選びや生活スタイルに影響しています。こんな風に人の記憶に残る場所が街の起点となり、地域の輪郭がつくられていくのではないでしょうか。

●取材協力
・space1-15
・商業空間プロデューサー 堤曠龍さん
・Takechas Records(タケチャス・レコーズ)

レジ袋が全面有料化。プラごみ減らす「量り売りショップ」に注目

2020年3月から、ニューヨークでレジ袋の無料配布が禁止になりました。日本では7月からレジ袋の無料配布が禁止になりますが、“脱プラスチック”に率先して取り組んできた欧米に比べると、環境対策では大きな遅れを取っています。
「プラスチックごみを減らそう!」という声を耳にすることはあっても、その必要性をきちんと理解している自信がある人は少ないのではないでしょうか? 今回は改めて、プラスチックごみにまつわる現状と、これからどのようなライフスタイルにシフトするのがよいのかを知るべく、プラスチックをなるべく使わない生活を提案するWebサイト『プラなし生活』を運営する中嶋亮太さんと古賀陽子さんにお話を伺いました。

日本はプラスチック包装容器の個人消費量で世界2位

今、世界中で増え続ける「プラスチックごみ」が大きな環境問題になっています。

軽くて頑丈なプラスチックは生物に分解されないため、誤ってビニール袋を食べた動物が満腹だと勘違いして、餓死するケースがいくつも報告されているのです。

また、魚の体内からは大量のマイクロプラスチックが発見されています。プラスチックには生物に有害な添加剤が加えられていることが多く、巡り巡って魚を食べた人体にも影響を及ぼすことが懸念されています。

ゴミ置場からあふれ出したビニール袋やペットボトルは、風に飛ばされ、雨に流され、最終的には海に流れ着く(写真/Unsplash)

ゴミ置場からあふれ出したビニール袋やペットボトルは、風に飛ばされ、雨に流され、最終的には海に流れ着く(写真/Unsplash)

その一方で、1人あたりの使い捨てプラスチックの量は増え続けていて、その約半分が食料品の容器や、飲料ボトルなどのプラスチック包装容器です。日本は残念ながら、このプラスチック包装容器の個人消費量が世界で2番目に多い国なのです。

「プラスチックを取り巻く国内外の状況」 (UNEP 2018)より引用

「プラスチックを取り巻く国内外の状況」 (UNEP 2018)より引用

ごみ処理技術の進歩を待つだけでは、もはや手遅れになりかねません。この問題を解決するには、プラスチックの大量生産・大量消費に慣れてしまった私たちのライフスタイルを変えることが急がれます。

途上国でも進む「使い捨てプラスチック規制」

日本人はなぜ「使い捨てプラスチック」を大量生産・大量消費してしまうのでしょうか。『プラなし生活』運営者の2人はこう語ります。

「意識の高い低いというよりも、使い捨てプラスチックを使うことが当たり前になってしまっていることが問題だと思います。消費者はちょっとでも商品に傷がついていると買わないので、企業は商品を過剰に守ろうとする。だから何重にも包装するのが普通になってしまっているんです」(中嶋さん)

「プラスチックごみの問題はメディアで取り上げられているので、知っている人は多いと思うのですが、『自分はポイ捨てしないから関係ない』『ちゃんと分別していればいくら使っても大丈夫』と思っている人が多い気がします」(古賀さん)

左から『プラなし生活』運営者の中嶋亮太さんと古賀陽子さん(写真提供/中嶋さん・古賀さん)

左から『プラなし生活』運営者の中嶋亮太さんと古賀陽子さん(写真提供/中嶋さん・古賀さん)

ゴミをきちんと分別して捨てていても、プラスチックごみを減らさなくてはならないのはなぜでしょうか。

その理由の1つは、温暖化対策です。他のごみと同様、プラスチックは燃やせばCO2が発生するため、総量を抑える必要があります。

2つ目は、カンや瓶などに比べるとリサイクルが難しいためです。プラスチックは油がつきやすく落ちにくいので、きれいに洗浄できなかったプラスチックは燃やされてしまいます。また製品になる過程で、着色したり耐久性を持たせたりするための添加剤が加えられていることが多く、その場合もリサイクルは難しくなります。

なお、日本のプラスチックリサイクル率は82%と、諸外国に比べると高いのですが、これはプラスチックを燃やして発生した熱を再利用した分もリサイクル率に加えているためであって、純粋な日本国内でのリサイクル率は1割にも満たないと言われています。

3つ目は、落としたり、風に飛ばされたり、不法投棄されたりしたプラスチックが海に流れ着くことによって、生態系に悪影響を及ぼすためです。日本は廃棄物管理がきちんとしている国ではありますが、それでもゴミ置場からプラスチックごみが飛ばされたりすることは完全には防げません。また、日本は2018年1月に中国が廃プラスチックの輸入を停止するまで、自分たちのプラスチックごみの多くを中国に輸出してきました(年間約150万トン )。実際、海洋プラスチックごみのほとんどはアジアから流れ出ていることが分かっています。日本人の出したプラスチックごみが、海のごみになっている可能性は否定できません。

上勝町、亀岡市、鎌倉市など、プラごみ削減に積極的な自治体も

日本全体でのプラスチックごみ削減対策が遅れるなか、積極的な取り組みを進める自治体もあると、中嶋さんと古賀さんに教えてもらいました。

1.徳島県上勝町
人口約1300人の小さな町、徳島県上勝町は、日本で初めてゴミをゼロにすることを目指す「ゼロ・ウェイスト宣言」を2003年に発表しました。人口約1300人の小さな町の住民はゴミを34種類に分別し、その多くをリサイクルに回しています。レジ袋削減や、量り売りの推進にも積極的で、海外からも取材が来るほど注目を集めています。

2.京都府亀岡市
亀岡市は、使い捨てプラスチックごみゼロのまちとなることを目指して、2018年に「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を発表しました。2020年3月には「亀岡市プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例」が成立し、市内で事業を行う法人、個人全てのレジ袋の提供が禁止になりました。「有料提供」も禁止する点で、国の取り組みよりも一歩踏み込んだ内容となっています。

3.神奈川県鎌倉市
鎌倉市が取り組んでいるのは、市内の公共施設に給水スポットとして「ウォータースタンド」を設置するという新しい試みです。2020年2月から市内の公共施設を中心に最大50台程度の設置を目指していて、市民や観光客にマイボトルの利用を呼びかけています。鎌倉市は2018年10月に「かまくらプラごみゼロ宣言」も行っており、市役所の自販機でのペットボトル飲料の販売廃止など、率先した取り組みが目立っています。

(写真/PEXELS)

(写真/PEXELS)

日本ではこうした一部の自治体が先進的な取り組みを行っていますが、海外では先進国・途上国問わず、多くの国ですでにレジ袋の無償配布は禁止されています。中嶋さんによると、日本よりもはるかに厳しい罰則を設けている国は多いとのこと。

「ケニアではレジ袋を持っているだけで警察に逮捕されます。レジ袋が排水溝に詰まって洪水が起きてしまったことがきっかけで、禁止になったんです。インドでも、神聖とされている牛がレジ袋を誤って食べてしまい、使い捨てプラスチックを使うと罰金刑が課されるなど、取り締まりが厳しくなりました。このようにゴミ処理の技術が未発達な国の一部は、使い捨てプラスチックが環境に及ぼす影響が顕著な分、日本よりも対策は一歩進んでいると言えます」(中嶋さん)

すぐに始められる「量り売りショップ」の利用

使い捨てプラスチックの使用量を減らすために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか。簡単に始められるのが、「量り売りショップ」に行くことです。

「僕が住んでいたカリフォルニアでは、蜂蜜やコーンフレーク、ピーナッツバター、シャンプーやリンスが量り売りされていました」と中嶋さんは言います。海外ではプラスチックごみの問題が注目される前から、量り売りショップはわりと一般的だったそうです。

カリフォルニアでばら売りされている食材(写真提供/中嶋さん)

カリフォルニアでばら売りされている食材(写真提供/中嶋さん)

シャンプーの量り売り(写真/John Keane)

シャンプーの量り売り(写真/John Keane)

日本では、1つの店舗で多様な商品が量り売りされているお店はまだ少なく、食料品専門店が行っているケースが多いです。古賀さんにおすすめしてもらったのは、元住吉や新丸子で店舗を展開するバルクフーズ。ナッツやドライフルーツ、ピーナッツバターなどの食材をほしい分だけ購入できるお店です。

(写真提供/バルクフーズ)

(写真提供/バルクフーズ)

バルクフーズでは、瓶、缶、タッパーなど、好きな容器を持参すればその容器に商品を入れて購入できます。店舗にも備置きの容器がありますが、ビニールの小袋は紙袋へ、プラカップは瓶や紙カップへ、ビニールのレジ袋は生分解性の袋やエコバックヘと、切り替えを可能な範囲で進めているそうです。

店主の伊藤弘人さんは、量り売りを始めた理由を、「『身体にやさしいナチュラルな商品を日常的に摂取していただきたい』という思いのもと開店しましたが、そうした食品は高額なものが多く、継続的に摂取していただくためにはコストを抑える必要がありました。その手段として、量り売りは最も理に適ったやり方だったんです」と話します。店舗にとってはレジ袋を使わないことで、環境配慮だけでなくコスト削減の効果も期待できます。

またラッシュジャパンも、プラスチックごみの削減に向けて、多くの商品をパッケージ無しで販売しています。

容器不要の固形シャンプー「シャンプーバー」(写真提供/ラッシュジャパン)

容器不要の固形シャンプー「シャンプーバー」(写真提供/ラッシュジャパン)

バスボム、ソープ、シャンプーバーをはじめ、固形の商品は基本的に非包装の状態で販売しているほか、液体やクリーム状の商品のボトルやカップなどの容器には100%リサイクル可能な素材を使用し、可能な限りシンプルなデザインとしているとのこと 。

「ラッシュはビジネスを通して、社会の問題の根本をできるだけ解決したいと考えています。プラスチックの包装は、開封した途端にゴミになってしまいます。気候変動を無視することができなくなった昨今、『捨てること』を無くすことで、環境への負担を減らしたいと考えています」(ラッシュジャパン広報)

一般的にバスルームや洗面台で使われる商品は、使い捨てプラスチックで包装されていることがほとんどです。しかしラッシュでは、プラスチック包装なしで商品をショップに並べることが商品開発の時点から意識されており、プラスチックごみ対策が徹底されています。

エコな生活は「お金も時間もかかる」は本当?ラップの代わりに洗って繰り返し使えるミツロウラップ(写真提供/プラなし生活)

ラップの代わりに洗って繰り返し使えるミツロウラップ(写真提供/プラなし生活)

合成繊維(プラスチック)の食器洗いスポンジの代わりに使える綿たわし(写真提供/プラなし生活)

合成繊維(プラスチック)の食器洗いスポンジの代わりに使える綿たわし(写真提供/プラなし生活)

「エコな暮らしには憧れるけど、忙しいから自分には無理」と思う人も多いかもしれません。ところが、忙しい人ほど『プラなし生活』を実践するメリットがあると古賀さんは言います。

「使い捨てプラスチックを減らすと、身の回りにガラスやステンレス、金属、ステンレスなどの自然素材が増えます。そうすると、プラスチックの消耗品 を買ってストックする必要がなくなるので、結果的に買い物が減って、節約にもなるんです。しかも天然素材の風合いは統一感が出るので、キッチンが驚くほどオシャレになりますよ」

レジ袋を貰わないようにしたり、量り売りショップを利用してみたり。使い捨てプラスチックが地球環境に与える影響を知ることによって、今までの消費行動をできるところから変えていこうと思う人も多いのではないでしょうか。

「でも、何も『環境のため』と気負う必要はないんです」と古賀さんは語ります。

「一番大事なことは「長く続けて行く」こと。環境を変えてやるぞ、と頑張りすぎると疲れてしまうことがあります。 ちょっとおしゃれで、楽しめることだと思って、身近なところから始めてみるのが良いと思います」

『プラなし生活』の2人が言うとおり、楽しみながら取り組むことが、ライフスタイルを長期的に変えていくヒントかもしれません。

●取材協力
中嶋亮太さん
生物海洋学者。2009年に博士号を取得。米国スクリップス海洋研究所の研究員を経て、現在、国内の海洋研究所・研究員。海洋プラスチック問題、とくに海底に沈んだごみについて研究を進めている。著書に『海洋プラスチック汚染: 「プラなし」博士、ごみを語る』(岩波書店)がある。

古賀陽子さん
プラなし生活実践中の主婦。2005年にパナソニック(株)に入社し10年に渡り技術職勤務。その間、出産・育児を経て現在は自宅でお仕事中。海洋プラスチック汚染の深刻な実態を知り、中嶋氏 と共にプラスチックフリーなアイテムやヒントを探し回っている。

>プラなし生活●関連サイト
バルクフーズ
ラッシュジャパン

新生「渋谷PARCO」、11月下旬にグランドオープン

(株)パルコはこのたび、「渋谷PARCO」を2019年11月下旬にグランドオープンすると発表した。
1973年にオープンして以来、渋谷の発展の一端を担ってきた「渋谷PARCO」。老朽化などにより建替えを2007年より検討開始、2015年12月に都市再生特別地区の決定を受け、市街地再開発事業として計画を進めてきた。そして、50周年を迎える節目の年に、新生「渋谷PARCO」として生まれ変わる。

施設は、渋谷区宇田川町15-1に立地する地下3階~地上19階(商業:地下1階~地上9階、10階一部)。「FASHION」「ART&- CULTURE」「ENTERTAINMENT」「FOOD」「TECHNOLOGY」の5本の柱で構成。それぞれのジャンルをミックスし、お互いの魅力を引き出しあうフロア編集を行い、約180の個性あふれる魅力的な店舗が揃う。

「FASHION」としては、ラグジュアリー・モード・ストリート・カジュアル・ヴィンテージなど、東京の様々なジャンルを代表する約100の魅力的なショップを集積。ファッションの面白さを再提案していく。「ART&- CULTURE」としては、ギャラリー機能を備えたショップが9店舗オープンする。

「ENTERTAINMENT」としては、さまざまなエンタテインメント施設を館内に導入。「PARCO劇場」は、旧劇場の約1.5倍の座席数636席に拡張し、オールS席で鑑賞できるプレミアムな空間へリニューアル。パルコ自社運営のミニシアター「CINE QUINTO」もオープン。ジャンルを問わない個性的で良質な作品を上映していく。

ニュース情報元:(株)パルコ

港区・虎ノ門に複合施設「神谷町トラストタワー」上棟

森トラスト(株)は、東京・港区で開発を推進している国家戦略特別区域特定事業「東京ワールドゲート」(街区名称)の核となる複合施設「神谷町トラストタワー」を2月2日(土)に上棟した。

同施設(旧建物名称「虎ノ門トラストタワー」から名称変更)は港区虎ノ門四丁目に立地。敷地面積16,210m2(約4,900坪)、延床面積195,190m2(約59,000坪)、地上38階・地下3階。オフィス、カンファレンス、レジデンス、ホテル、サービスアパートメント、ショップ&レストラン等からなる複合施設となる。

オフィスは様々な企業ニーズにフレキシブルに対応。超大型フロアプレート(約1,200坪)の無柱空間を有し、3階~16階には「クリエイティブフロア」も展開する。31階~36階には、マリオット・インターナショナルの最高級グレードであるラグジュアリー・ライフスタイルホテルブランド「EDITION」が日本初進出。

37階・38階はレジデンスで、最上階にホテルサービス付き最高級分譲レジデンスを配置する。その他、ラウンジ、ショップやレストラン、多言語ワンストップ医療機能、生活コンシェルジュ機能などを1階・2階に集約する。竣工は2020年3月の予定。

ニュース情報元:森トラスト(株)