コロナ禍で見えた「買い物難民」。全都道府県で売り上げ増の移動スーパー社長に聞いた

新型コロナウイルスの影響で、スーパーやドラッグストアの店頭から商品が消えたとき、「スーパーは私たちの命綱なんだな」と痛感した人も多いはず。とはいえ、今、買い物にいけない高齢者が、日本各地で増えているといいます。インターネットを使いこなせない世代に「買い物」というインフラをどう提供するのか、移動スーパー「とくし丸」の新宮歩社長にお話を伺いました。

週2日、家の前にスーパーがやってくる。

移動スーパー「とくし丸」は、軽トラックに生鮮食品や日用品の約400品目、1200点ほどをトラックに積み込み、民家の軒先で商品を販売する移動販売サービスです。2012年、徳島県で事業が始まり、2021年10月時点で、全国のスーパー140社と提携し、47都道府県でサービスを提供、毎日900台以上のトラックが稼働しています。

買い物客のニーズに対応したたくさんの生鮮食品や日用品が積まれている(写真提供/とくし丸)

買い物客のニーズに対応したたくさんの生鮮食品や日用品が積まれている(写真提供/とくし丸)

筆者の暮らす横浜郊外の住宅街でも、先日とくし丸のトラックが近所で移動販売を行っているのを見かけました。地方・郊外・都心を問わず広がるとくし丸のサービス、利用者にとってはどんなメリットがあるのでしょうか?

高齢者にとっては自宅の目の前に週2日、いつものドライバーが商品を持ってきてくれるので、好きなものを選びつつ買えるほか、見守りにもつながっているとか。
この1年半は、コロナウイルスの影響で(1)子ども世代が親の家を訪れて買い物の手伝いができなくなった、(2)人の集まるスーパーを高齢者が敬遠するようになった、(3)コンビニの代わりに利用するようになった、といった理由で利用が加速し、1台あたりの売り上げも増えているといいます。トラック1台あたりの売り上げは1日10万円ほどだそう。

コロナ禍にあっても、売り上げは堅調に推移しているといいます。
「爆発的に売り上げが伸びているわけではありませんが、前年比でプラス成長を続けていて、堅調に推移していると思っています。ただ、売り上げはドライバーごとの個人差もあり、まだまだ改善と工夫の余地はあると考えています」(新宮社長)

とくし丸・新宮歩社長(写真提供/とくし丸)

とくし丸・新宮歩社長(写真提供/とくし丸)

コロナ禍で顕在化した「買い物難民」は都市部にも

さらに興味深いのは、人口や店舗の減少が進む地方・郊外だけでなく、都心部でも売り上げを伸ばしている点です。確かに個人商店は少なくなっていますが、都心部や近郊にはスーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが点在し、買い物先には困らない印象です。

「もともとは創業者が、山間部に住む親が買い物に苦労していることに気が付き誕生した業態です。ただ、全国展開をしていることからもわかるように、買い物難民は、それこそどこにでも、東京都心にも郊外にも確実にいます。例えば、都心部に住んでいて、家の前にスーパーがある人でも、買い物に行けないことはあります。ある程度幅のある道路を渡らなければいけない場合、足の不自由な方だと、青信号の時間内に横断歩道を渡りきれないからです。さらに、今の高齢者は責任感が強い方が多い。子ども世代が休日に親の買い物を手助けしても、親からすると、『子どもに迷惑をかけている』と心の負担になっていることもあるんです」と新宮社長。

「コロナ禍により拍車がかかった面はありますが、高齢者や交通弱者が買い物に困っているのはコロナにかかわらない問題です」(新宮社長)

ここから見えてくるのは、現在のまちや移動インフラが、単身高齢者の増加や核家族化の進行を前提に設計されてこなかったということ。コミュニティバスやタクシーなどの移動手段はあっても、高齢者にとってはその日の体調や天候などを考える必要があり、なかなか便利とは言い難いものです。また、スーパーが近所にあったとしても、そこまでの道に坂があったり、歩道が狭かったりすれば、それだけで買い物はしづらくなります。そのため、ひとたび歩行や運転が不自由になると、とたんに買い物が難しくなる、それが日本各地で起きているのです。

筆者が暮らす住宅街は、大手スーパーマーケットがしのぎを削る「激戦区」といわれています。コンビニもドラッグストアもたくさんあると思っていたのですが、近所で「とくし丸」を見かけるということは、既存の店舗では買い物ができない人が少なからずいるということです。「買い物に困らない」と思っているのは、今、筆者が健康だからなのでしょう。なかなか見えてこないけれども、「買い物難民」はどこにでもいる、という言葉はとても重く感じます。

お客さまを協力者として巻き込む。持続可能なシステム

ただ、新宮社長からみると移動販売というスタイルは、昔でいうところの「御用聞き」で、高齢者世代にとってはお馴染みの方法だといいます。

「酒屋さんが注文を取って商品を積み込み配送する、八百屋や魚屋、お豆腐屋さんが商品を積み込んで販売する形は、昭和ではよく見られた光景でした。それが、小売業の発展、自動車の普及にともなって収益がでなくなり、廃れていってしまったのです」(新宮社長)

それを現代に蘇らせ、ビジネスモデルとして再構築したのが、「とくし丸」というわけです。面白いのはそのビジネスモデルで、商品を提供するのはスーパーですが、ドライバーは個人事業主で、販売委託という形を取っているため雇用関係はありません。商品は1点につき、店頭価格よりいくらか上乗せして販売し、その売り上げはドライバーと「とくし丸」で分け合います。スーパーは車両や人材確保をせずとも新規の売り上げが見込め、ドライバーは地方での雇用創出にもなり、高齢者にとっては買い物場所ができる、とかかわる人すべてが得をする「三方よし」の仕組みです。また、既存のスーパーと共存するために店舗300m以内の場所では営業しないのだとか。

(画像作成/SUUMO編集部)

(画像作成/SUUMO編集部)

「スーパーや小売店からすると、店頭価格に上乗せして、お客さまに負担してもらうのはとても難しいのでは、と言われていたそうです。ただ、実際、始めてみると、タクシー代やバス代と思えば安いよと言われて、この形になったといいます。お客さまを協力者として巻き込むことで成り立っているのです」といい、現在、盛んに言われている「持続可能な仕組み」になっているのも興味深いところです。

「高齢者の買う楽しみ」をネットとあわせて進化させる

高齢者の多くは、まわりに迷惑をかけないよう、ひっそりと暮らしているといいます。そこに「とくし丸」が行くことで人が集まってきて、ご近所の人と会って会話が盛り上がって……と活気がなくなったコミュニティの再生にもつながっているそう。「見守り」という面で自治体と連携していることもあります。

「週2日、とくし丸に来るのが唯一の楽しみという人も多いんです。買い物中も当然、『元気にしてた?』『好きなお団子、持ってきたよ』という、会話が交わされるようになり、そこから親戚のようなつながりが生まれます。見守りにもつながりますし、実際、あってほしいことではないですが、まさかの事態にドライバーが気が付いた例もあります」(新宮社長)

2019年撮影(画像提供/とくし丸)

2019年撮影(画像提供/とくし丸)

とくし丸で買い物を楽しむ人たち。2019年撮影。(写真提供/とくし丸)

とくし丸で買い物を楽しむ人たち。2019年撮影。(写真提供/とくし丸)

地域再生やコミュニティ活性といっても、結局は雑談や何気ない会話から生まれるもの。また、直接、話すことで、伝えられることも多いといいます。

「2020年の春ごろは、新型コロナウイルスといっても、都会の出来事でどこか他人事で、地方在住の高齢者はマスクをしていない人がほとんどだったんです。そこでドライバーがマスクや消毒をするように促し、『マスクをしたほうがいいですよ』『予防が大事ですよ』、と繰り返し伝えたことも。現在、『とくし丸』の利用者は約15万人。これだけの高齢者に直接、情報を伝えられる、高齢者の声を直接、メーカーなどに伝えられるのは、弊社の強みだと思っています」と新宮社長は言います。

日本の人口は減少に転じていますが、高齢者、特に単身世帯はまだまだ増え続け、貴重な「成長マーケット」という側面もあります。
「これまでの高齢者はインターネットが使えない人が多数でしたが、これからはインターネットを使いこなせる高齢者も増え、今までの10年以上に大きな変化が社会全体に起きると思っています。買い物でいうと、ネットで注文できるものは前もって注文しておき、トラックが届けるという使い方はなされるのではないでしょうか。一方で、今日のランチなどはその日の気分に合わせて、リアルで選びたいですよね。会話しつつ選ぶ楽しみ、買い物の楽しみも届けたいと思っています」(新宮社長)

住まいだけあっても、人の暮らしは成り立ちません。毎日の買い物は、暮らしを支えるインフラであると同時に、人と会ったり、話したりするつながりの場でもあります。移動スーパー・とくし丸が支えているのは、実は私たちのこれからの「暮らし」や「人生」なのかもしれません。

●取材協力
とくし丸

「親以外から生き方学べる場所を」。稲村ヶ崎を地域で子育てするまちに

江ノ島電鉄の「稲村ヶ崎駅」目の前にある「IMAICHI」(神奈川県鎌倉市)は、60年近く続いた駅前のスーパーマーケット跡地に2019年にできたコミュニティスペースだ。憧れの移住地としても注目される鎌倉市だが、少子高齢化問題や商店街の衰退などの難しさを抱える地域もある。地元の老舗幼稚園の次期園長である河井めぐみさんと、夫で造園業を営む亜一郎さんは、「子どもを守ってくれる地域づくりをしたい」と、異業種の世界に飛び込んだ。
地元のスーパーが、生き残りではなく生まれ変わりを選んだ

鎌倉駅から江ノ電で11分の場所にある稲村ヶ崎は、緑に囲まれた海辺の閑静な住宅地だ。サザンオールスターズの桑田佳祐さんが監督した映画『稲村ジェーン』の舞台となった場所としても知られる。人口3000人ほどが住んでおり、数世代前からこの地で生活を続けている人も多い。

「スーパー今市」は、そんな地域で60年間商いをしてきた。戦前・戦後は魚商だったが、地域のニーズに合わせて生鮮食料品から生活雑貨まで幅広い商品を扱うようになり今に至る。しかし、近所に大きなチェーンスーパーができたり、ネットショッピングが台頭する中で、小売業の競争はますます厳しくなり、2018年に注文を受けた分だけ仕入れて販売するという「御用聞き」の仕事に専念することに。19代目となる現在の店主の今子博之さんは、駅前の店舗を閉め、事業規模を縮小することに決めた。

まさに、稲村ヶ崎駅の目の前(写真提供/IMAICHI)

まさに、稲村ヶ崎駅の目の前(写真提供/IMAICHI)

「スーパーという形でなくてもいいから、誰か店舗を引き継いでくれる人はいないだろうか」

今市さんが相談した相手が、この街で長年幼稚園を営んでいる聖路加幼稚園の次期園長である河井めぐみさんだった。今市さんのお子さんとめぐみさんの弟さんが幼稚園の同級生だったことから、同じ地域に長年住む者として、家族ぐるみの付き合いをしていた。

思い当たる人たちに声を掛けてみたものの、地域の人以外は集まりにくいこの場所を借り受けたいという人はなかなか現れなかった。そんな時、めぐみさんの夫・亜一郎さんの「それなら自分たちで何かやってみようじゃないか」というひと言で、この空間を引き継ぐことに決めたという。

河井さん夫妻は、めぐみさんの故郷である稲村ヶ崎で2人のお子さんの子育て真っ最中(写真提供/河井めぐみさん)

河井さん夫妻は、めぐみさんの故郷である稲村ヶ崎で2人のお子さんの子育て真っ最中(写真提供/河井めぐみさん)

多目的なスペースだから地域の実情やニーズが見えてくる

河井さん夫妻は、改めて「スーパー今市」の存在意義を考えたとき、“日用品の買い物をする場所”という以上に、地域の中での存在感の大きさに気づいたという。駅前の店ゆえに、駅を利用する際に買い物ついでに立ち寄って、接客のため店頭に出ている奥さんと長々とお喋りしている人や、海側にしかないコンビニの代わりに、駅前立地の便利さから、食料品から生活雑貨を買っていく若者までが訪れた。

「店番しているおばあちゃん(現店主のお母さん)の顔を見て、外出先から稲村に帰ってきたと感じていた」とめぐみさんは話す。

こうしたことから、利用客を制限しがちな専門的なお稽古ごとの教室やお店にせず、誰でも立ち寄りやすい場所という「スーパー今市」の存在意義を引き継げる、誰でも利用可能な環境にしたいと、多目的に活用できる「コミュニティスペース」にたどり着いた。利用目的の制限をしないことで、幼稚園との連携や、そこで学んできたことを相互に活かせるのではないかと考えたという。

例えば、「ねいばぁず」というプログラムもその一つ。もともとは、地域のお母さんたちが稲村ヶ崎自治会館で、鎌倉市から補助を受けて運営していたプログラムを、IMAICHIで開催することになった。プログラムの内容は、野菜ハンコ制作やクリスマスリースづくりなど。

参加対象を、親子連れに限らず「近隣の住民」なら誰でもOKとすることで、地元のシニアたちへも参加を呼びかけているという。地域の交流の場所になるように、という思いでつくられたこの場所だからこそ、多くの人に参加を促すことができる。また月2回開かれている古典ヨガ教室には、年齢も性別もさまざまな人が参加しているという。

月に2回、月曜に開かれている古典ヨガ教室の様子(写真提供/IMAICHI)

月に2回、月曜に開かれている古典ヨガ教室の様子(写真提供/IMAICHI)

また、稲村ヶ崎町内には遊具のある公園がないうえ、スポーツ系のお稽古先も選択肢が少ない。こうした背景から“身体を動かせる場所”をつくりたいと考えた河井さん夫妻は、店内にボルダリングウォールを設置した。設置費用にかかった300万円の一部は、クラウドファンディングを利用した。

ボルダリングウォールは子どもから大人までゲーム感覚で挑戦できる(写真提供/IMAICHI)

ボルダリングウォールは子どもから大人までゲーム感覚で挑戦できる(写真提供/IMAICHI)

とはいえ、まだまだ完成形ではない。多目的スペースだからこそ、地域のニーズが見えてくると考えている。そのなかで、少しずつ形を変え、より地域に寄り添えるようになればいい。「私自身、この地域で幼稚園をやっていく上でもこのIMAICHIを通じて地域の実情やニーズなどを知ることができることは役立っています。IMAICHIでの知見を生かして、地域の幼稚園として子育て環境を充実させていきたいですね」とめぐみさんは話す。

まちの人のニーズを受けて、体験学習教室を開催

IMAICHIを通じて、幼稚園という垣根を越えて地域と交流するようになっためぐみさんが始めた活動の一つに、「体験学習教室」がある。昨年9月に開始したこの活動は、地域の幼稚園児や小学生の「学童保育」に当たる活動で、年齢の違う子どもたちが一緒になり、先生と一緒に町に出てさまざまな体験をする。例えば、地域の商店を訪れ、店主などに話を聞いた情報をもとに子どもたちと一緒に稲村ヶ崎の地図やガチャガチャゲームづくりをするといった活動だ。

(写真提供/IMAICHI)

(写真提供/IMAICHI)

(写真提供/IMAICHI)

(写真提供/IMAICHI)

「今の子どもたちは、親以外の大人に何かを教えてもらうという経験値が乏しい子が多い。仕事などで忙しい親たちの代わりに、愛情を注いでくれる大人は地域にもたくさんいることを感じて欲しい」とめぐみさん。また、子どもとの遊び方が分からないと話す親が増えるなか、こうした体験学習を通じて、大人が子どものやりたいという気持ちを汲み取ることができれば、自宅でも子どもたちがリードする形で、親子の活動にも広がりができるに違いない。

子どもたちと海に行き、磯遊びをすることも体験教室の一環(写真提供/IMAICHI)

子どもたちと海に行き、磯遊びをすることも体験教室の一環(写真提供/IMAICHI)

この活動を通じて町内を出歩くようになったことで、「これまで直接話しをしたことがなかった大人である町の商店の人たちにも、子どもたちが積極的に話しかけるようになった」と話すめぐみさん。

「子どもたちの“やりたい!”をとにかく手助けすることが私の役目。先日は、稲村ヶ崎の情報番組をつくりたいと意気込み、iPad片手に商店街に飛び出して行く小学生を見守りました。私はこの教室を通じて、むしろ子どもたちから学ぶことも多い。大人としては一人の子どもの失敗に対して思わず責めてしまいそうになるシーンでも、子どもたちは誰も責めず、笑ってのける。そんな関係を、IMAICHIを通じて地域の中で築けていきたいですね」と続ける。

地域のハブとしてできること

町の商店が徐々になくなっていく中で、地域住民同士の交流も次第にか細くなっていく傾向は否めない。そんななか「IMAICHI」を通じて子どもが地域の大人と交わる機会をつくろうと奮闘している。こうした活動が広まれば、この地域がより「住みやすいエリア」になっていくだろうと河井さん夫妻は話す。

「夜に電車で帰宅して、稲村ヶ崎に降り立ったら、駅前のIMAICHIにこうこうと電気がついていてホッとした」と立ち寄ってくれた住民がいる、と話すめぐみさん。経営は楽ではないが、この場所からはまだ多くの何かもっとできることがあるように感じているそうだ。

 店内からは、到着する江ノ電が見える(写真提供/IMAICHI)

店内からは、到着する江ノ電が見える(写真提供/IMAICHI)

昨年11月には、地域住民からのリクエストもあり、コーワーキングスペースとしてデスクの設置やWi-Fiを完備させたという。子どもと一緒にリモートワークのために訪れた人は、「子どもも自分も充実した時間が過ごせた」と喜んでいたとのこと。こうしたサービスの導入で、「今後は町を訪れる観光客やリモートワークの滞在者などにも利用してもらいたい」とめぐみさん。過疎化や高齢化が進む稲村ヶ崎の住民として、この地を気に入り、移り住みたいと思う人がもっと増えてほしいという思いもあるという。

こうしたIMAICHIの現在の様子を、スーパー今市の店主だった今子さんは「駅前の立地で子どもが出入りする場所になるのは、地域にとってとても良いことだと思う。安心できる場所、頼れる場所にしてもらえてうれしい」と話す。

「地域が見守ることで、子どもたちが安心して暮らせる街になれば」と河井さん夫妻は思いを馳せる。商店街や地元のお店が元気を失うなかで、IMAICHIという場所が、地域上の役割はそのままに、時代にあわせた新しい価値を与えらえたことで、今後稲村ヶ崎の活気を生む原動力になっていけることを願う。

●取材協力
IMAICHI

スーパーマーケットの軒先をまちに開く!“ご近所さん”とつながる地域改革

食料品や日用品をそろえるスーパーマーケットは、老若男女問わず人が行き交い、実は公共施設以上に公共的な存在です。そんなスーパーマーケットの軒先に「誰もが自然と居られるコミュニティスペース」をつくる取り組みが千葉県千葉市のスーパーマーケット、マックスバリュおゆみ野店ではじまりました。誕生までのエピソードと変わりはじめたスーパーマーケットと地域との関係について聞いてきました。
スーパーマーケットの広い軒先を人が居られる場に再生

「大型商業施設」「スーパーマーケット」の軒先と聞いて、思い浮かべるのは、店舗の外壁と使い終わった買い物カート置き場、自転車置き場のような空間ではないでしょうか。お世辞にもおしゃれとは言い難い空間ですし、滞在する、ましてやくつろぐ場所だとは思えない人がほとんどでしょう。

そんなスーパーマーケットの軒先空間にヒューマンスケールのパーゴラ(棚)を建て、その中にベンチやテーブル、カウンターや屋台、黒板や水場なども配置した「Cafe&Dine(カフェダイン)」というスペースが誕生しました。屋台ではコーヒーが販売されていますが、買い物に来た人も、通りがかった人も、誰もが自由にくつろげる場所です。

改装前(左)と改装後(右)。通りがかる人々が、フラッと腰をかけていき、スーパーマーケットの軒先にはいつも人の気配があります。以前の姿はもう想像できません(写真提供/グランドレベル)

改装前(左)と改装後(右)。通りがかる人々が、フラッと腰をかけていき、スーパーマーケットの軒先にはいつも人の気配があります。以前の姿はもう想像できません(写真提供/グランドレベル)

軒先からのアングル。ガランとしていた空間が、誰もが気軽に立ち寄りたくなる場所に(写真提供/グランドレベル)

軒先からのアングル。ガランとしていた空間が、誰もが気軽に立ち寄りたくなる場所に(写真提供/グランドレベル)

軒下の中央に新たに設置した黒板。子どもたちが落書きをしはじめると、スタッフとの会話が自然とはじまります(写真提供/マックスバリュ関東)

軒下の中央に新たに設置した黒板。子どもたちが落書きをしはじめると、スタッフとの会話が自然とはじまります(写真提供/マックスバリュ関東)

コーヒーを移動式の屋台で販売しています。黒板をしつらえた屋台の側面にも子どもたちが集まります(写真提供/マックスバリュ関東)

コーヒーを移動式の屋台で販売しています。黒板をしつらえた屋台の側面にも子どもたちが集まります(写真提供/マックスバリュ関東)

ビフォー・アフターの写真を見ただけでも、「これがスーパーマーケットの軒先……?」と驚くことでしょう。コーヒーもサービス価格で、利益を生み出す場所とは言いにくそうですが、なぜこのような場をつくることになったのでしょうか。このプロジェクトの責任者・マックスバリュ関東株式会社の黒田覚さんと、企画・デザイン監修を行った株式会社グランドレベル代表の田中元子さんに話を聞いてみました。

スーパーマーケットを買い物だけでなく、人々にとって価値ある場所に

「今までのスーパーマーケットのイートインスペースは、店舗運営の内側からの発想でつくられてきたものでしたが、それでも優先順位が高いものではありませんでした。今回、店舗を大きく改装するにあたり、弊社ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(以下、U.S.M.H)は、『1階づくりはまちづくり』をモットーに人々のためのさまざまな居場所を手がける会社・グランドレベルの田中元子さんにアドバイスをいただくなかで、軒先に買い物目的の人だけではなく、まちに暮らす誰もが気軽に訪ねたくなる場所をつくるべきだという提案をいただきました。それがすべてのはじまりでした」と黒田さんが舞台裏を明かしてくれます。

近年、スーパーマーケットは価格競争が激化し、そのブランド、あるいは店舗ならではの魅力、価値が厳しく問われているようになってきているといいます。その新しい価値のひとつとして、地域に暮らす人々にとって、スーパーマーケットをもっと愛される、豊かな場所にできないか、その答えが、ただのイートインスペースではない、人々が自由に思い思いに過ごせる場所(コミュニティスペース)だったというわけです。

小さな子どもから、お年寄りまで、まちに暮らす誰もがさまざまに利用しています。スーパーで買ったご飯を食べる人もいれば、コーヒーで一息つく人、ただ座って休んでいるだけの人も(写真提供/グランドレベル)

小さな子どもから、お年寄りまで、まちに暮らす誰もがさまざまに利用しています。スーパーで買ったご飯を食べる人もいれば、コーヒーで一息つく人、ただ座って休んでいるだけの人も(写真提供/グランドレベル)

広い軒先は、地域の人たちが自由に予約をして借りることもできます。この日は地元の人が教えるパンフラワー(粘土細工)教室が開催されていました(写真提供/マックスバリュ関東)

広い軒先は、地域の人たちが自由に予約をして借りることもできます。この日は地元の人が教えるパンフラワー(粘土細工)教室が開催されていました(写真提供/マックスバリュ関東)

犬用のフックも設置して、犬の散歩の人も温かく迎え入れてくれます。犬の散歩で通りがかる人も増えているそうです(写真提供/グランドレベル)

犬用のフックも設置して、犬の散歩の人も温かく迎え入れてくれます。犬の散歩で通りがかる人も増えているそうです(写真提供/グランドレベル)

改装後のオープンは2020年10月16日でしたが、すぐに自然と人々が利用しはじめ、狙い通り、軒先でくつろぐ姿が増えていったといいます。これは奈良県生駒市の「ごみ捨て」を切り口に地域のコミュニティを活性化させる「こみすて」(設計アドバイス:グランドレベル)でも感じたことですが、それまで殺風景だった場所もきちんとデザインの手が加えられれば、人が自然と集まりやすい場所を再生できる。そして、興味深いのは、そこにアクセスし、関わる人たちは、はじめは戸惑っていても、その表情はどんどん柔らかくなっていくということです。

スタッフが変わり、お店とお客さんとの関係も変わっていく

「カフェダインの運営には、店舗のサービスカウンターで働いていた人たちに担当してもらうことになりました。周辺で暮らしている主婦が多く、学校や町会など地域の事情にも精通しているスタッフです。ただ、今までのマニュアルがあるサービスとはまったく異なりました。グランドレベルさんが提唱する『自由なくつろぎを提供する』といわれてもイメージがわかなかったようで、最初は戸惑いや不安もありました。その後、グランドレベルさんが運営する喫茶ランドリーに研修へうかがうことになりました」と黒田さん。

大手スーパーに限らず、多くのサービス業にはマニュアルがあり、それを憶えて実行することが良しとされてきました。しかし、「カフェダイン」が目指した市民の誰もが自由にくつろぐ場所は、それまでのような画一的なオペレーションではつくり出すことができません。

カフェダインを通じてスタッフのマインドにも変化が(写真提供/マックスバリュ関東)

カフェダインを通じてスタッフのマインドにも変化が(写真提供/マックスバリュ関東)

「自然と知らない人同士が出会ったり、コミュニケーションを取りはじめる場を運営していくには、空間などのハードのデザイン、何をする場所か、何が許される場所かというソフトのデザインと同じくらい、どのように人と接するかというコミュニケーションのデザインが大切になります。そこを学んでいただくために、私たちはプロジェクトに関わる人には必ず、『喫茶ランドリー』でのスタッフとしての研修をお願いしています。喫茶ランドリーは、奥に洗濯機やミシンを備えた「まちの家事室」を備えたまちの喫茶店です。スタッフは、店員とお客さんという関係ではなく、“○○さん”という一人の人間として立ち、誰にも人間らしく自分らしく接しています。そうすることで、誰もが自由に過ごせる空気を生み出せます。オープンから数週間後、マックスバリュおゆみ野店を訪れると、黒田さんもサービスカウンターの皆さんも、確実に変わりはじめていることが分かりました。お客さんからのアイデアを柔軟に受け入れながら、また自分たちのアイデアも次々と実現させていて、想像以上に手ごたえを感じました」とグランドレベル田中さん。

黒田覚さん自身も、大きな変化や手ごたえを感じていました。
「先日、カフェダインに小さなお子さんを連れたお父さんがいらっしゃったんです。お子さんは店内を走り回っていたのですが、スタッフが声をかけて絵本の読み聞かせをしたところ、自然と立ち止まって、目を輝かせて聞いてくれて……。今までだったら『注意』して終わっていたと思います。それを、あえて本を読むという行動に変えただけで、私たちとお客さんとの関係が変わり、それが小さな出会いと思い出になりました。こういうことが積み重なっていけば、地域の中におけるスーパーマーケットの存在価値は、変わっていくなと思いました」と感慨深い様子です。

アフターコロナを見据えたスーパーマーケットが果たす新たな役割

リニューアルオープンが、コロナ禍の2020年10月となりましたが、感染予防対策をしながらも、クリスマスや年越し、節分やバレンタインなど、さまざまなイベントが開催されていったそう。すべてスタッフの発案によるものだったそうです。

コロナ禍で、さまざまな制限があるなかでも、常に自分たちでその距離感を考えながら、さまざまなイベントを開催しています(写真提供/マックスバリュ関東)

コロナ禍で、さまざまな制限があるなかでも、常に自分たちでその距離感を考えながら、さまざまなイベントを開催しています(写真提供/マックスバリュ関東)

スタッフやお客さんたちの好きなモノの写真であふれていた室内側の掲示板は、お正月には一新し、お客さんたちが書いた『私の一文字』でいっぱいに。この多様さが、また人を引きつけていったといいます(写真提供/マックスバリュ関東)

スタッフやお客さんたちの好きなモノの写真であふれていた室内側の掲示板は、お正月には一新し、お客さんたちが書いた『私の一文字』でいっぱいに。この多様さが、また人を引きつけていったといいます(写真提供/マックスバリュ関東)

「カフェダインの半分は、半屋外の軒先にあるので、コロナ禍においては密室が避けられるので良いというお声もいただいています。公民館などの施設が閉まっていることが多いので、カフェダインの場所を借りたいというお声も多くいただいています。実際、フラワーアレンジメント教室や英会話教室など、さまざまにご利用いただくことも増えてきました」と黒田さん。

一方、新型コロナウイルスの流行によって在宅勤務が増えたことで、「自宅以外の、『気楽にいられる場所への需要』が高まっている」と田中さんは別の側面も指摘します。

「特に働き盛りの世代や独身の世帯は、自宅以外に地域の居場所を持っていない人が少なくありません。こうやってスーパーの軒先が、買い物目的でなくても立ち寄れる、まちに暮らす多様な人が居られる場所になれれば、孤独な人でも、何かの拍子に知らない人と顔見知りになったり、話しかけられる状況も生まれやすくなったりします。スーパーマーケットは公共的な存在だからこそ、そうやって小さなコミュニティを生み出せる場所になるべきだと思います」」と田中さん。

実際のところ、カフェダインのスタッフとお客さんとの間には、これまでにない新しい関係が生まれていて、「アレ、今日は●●さんは?」という会話もよく交わされているそう。新型コロナウイルスの流行で失われた、「約束もなく自然と人と会って、何気ないことを会話する」を埋める場所として、また、これからのスーパーマーケットのあり方として、カフェダインは大きな存在価値を発揮するに違いありません。

●取材協力
株式会社グランドレベル
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社
マックスバリュ関東株式会社

首都圏スーパーマーケットの戦略。地元で愛されるための裏側とは

住まい選びでは、家そのものだけでなく、公園やスーパー、病院など周辺環境も重要な要素のひとつ。お気に入りのスーパーがあるとその街に住みたくなったり、街に愛着が湧いたりしますよね。今回は、暮らしを楽しくしてくれる首都圏の「ご当地スーパー」とその特色をテレビ番組『マツコの知らない世界』(TBS系)にも出演した「スーパーマーケット研究家」の菅原佳己さんに聞いてきました。
スーパーの注目ポイントは、お惣菜とポップ広告

スーパーと聞いて、あなたが思い浮かべるのはどのお店でしょうか。小売業界の売上高ではおなじみの「イオン」が首位を走り、ついでセブン&アイHDの「イトーヨーカドー」が追うという構図になっています。ただ、スーパーマーケット研究家の菅原佳己さんによると、大手はもちろん、全国津々浦々、その土地で愛されている「ご当地スーパー」は今も元気で、そこには「生産するメーカー、販売するスーパー、購入する消費者」、それぞれの歴史と文化がつまっているのだそう。

「一見、ネットが日本各地の情報を網羅しているよう思えますが、まだまだ知られていない食品や食材があるもの。だから、各スーパーの目利きバイヤーは、いつも新しいものを我先に見つけて販売してやろう、新しい食べ方や食材を提案しようと考えているんです。スーパーは、そうした熱意や思いがあるほど面白い」とその魅力を明かします。

「スーパーマーケット研究家」の菅原佳己さん(写真提供/菅原佳己さん)

「スーパーマーケット研究家」の菅原佳己さん(写真提供/菅原佳己さん)

そんな各バイヤーの努力をダイレクトに感じられるのが、「お惣菜とポップ広告」だと言います。

「食品以外の衣料品なども扱う総合スーパーの売上は苦戦していますが、食品を中心に扱うスーパーの中には売上好調の店も少なくありません。カギを握っているのはお惣菜です。各社、メニューはもちろん価格、品質で差別化をはかり、惣菜の割合は年々大きくなっています」(菅原さん)

惣菜がアツい理由は、ひとり暮らしや夫婦共働きが増え、「中食」というライフスタイルが定着したこと。確かに以前の「スーパーのお惣菜」といえば、揚げ物が中心で、手抜きというイメージが強かったのですが、今は、「ヘルシー」で「おしゃれ」、さらに「美味しい」のだとか。筆者もですが、とかく子育てしているお母さん・お父さんに時間の余裕はありません。「食事づくりのために家族がイライラするくらいなら、お惣菜を買って、ニコニコ過ごそう」と考える人が増えているのでしょう。ゆえに「惣菜を制するものは、スーパーを制す」という状況になっているのだそう。そしてもう一つのカギは「ポップ広告」。

「とにかく、今、普通に商品を並べていてもモノは売れません。だから、モノがうまれた背景、ドラマを伝える必要がある。例えば、地元の農家が育てたこだわり野菜を扱う、山梨県八ヶ岳の麓のスーパー『ひまわり市場』では、くすっと笑えて、へーとためになるポップが、商品のファンを増やすきっかけになっています」(菅原さん)。なるほど、情報を伝えるだけでなく、思いを伝えるから「買ってみようかな」という行動になるんですね。

菅原さんの9選。首都圏・近郊の注目ご当地スーパーは?

規模には大小の差はあれど、個性あふれる店舗がひしめく首都圏で、今、菅原さんが注目している特徴的なスーパーをご紹介していきましょう。

惣菜で強さを見せる「サミット」(本社・東京都杉並区/東京中心に115店舗展開)
「お惣菜に注力していて、どれも内容・価格・味ともにバランスがよいものばかり。毎年、スーパーマーケットトレードショーで開催される『お弁当・お惣菜大賞』で入賞を果たしている実力派。30種類以上ある揚げ物もクオリティが高く、美味しいですよ」

サミットの三元豚とんかつ(写真提供/菅原佳己さん)

サミットの三元豚とんかつ(写真提供/菅原佳己さん)

おしゃれで気の利いている「成城石井」(本社・神奈川県横浜市/171店舗展開)
「元・一流レストランのシェフらが開発したエスニックな惣菜、流行を先取りしたスイーツは、毎日、彼ら自身が調理もする本格的なシェフの味。品ぞろえも価格帯、バリエーションもとにかく『さすが』のひとこと。来客があっても、慌てないですみますよね。スーパーとレストランを融合させたグローサラントという新業態も注目です」

成城石井のモーモーチャーチャー(写真提供/菅原佳己さん)

成城石井のモーモーチャーチャー(写真提供/菅原佳己さん)

元祖スーパーマーケット「紀ノ国屋」(本社・東京都新宿区/9店舗展開)
「日本で初めて、アメリカンタイプのレジとカートを導入して、スーパーマーケットの業態を始めたのがこの紀ノ国屋。青山の本店にいくと『ああ、これが元祖スーパーの紀ノ国屋……』と感慨に浸れます。各国の食材のほか、ロゴ入りのオリジナルグッズも充実していて、お土産にもオススメです」

パスポートなしで行ける海外「ナショナル麻布スーパーマーケット」(本社・東京都港区/3店舗展開)
「日本とは違うスーパーの空気が流れているのが、ナショナル麻布です。1階の食品だけでなく、2階は本場のハロウィン、クリスマスなどのパーティーグッズが満載。日本のスーパーでは見かけない珍しい商品がそろっていて、外国に行ったよう。各国大使館が近隣にあり、お客さんも国際色豊か。海外旅行にでかけた気分になりますよ!」

ナショナル麻布スーパーマーケット(写真提供/菅原佳己さん)

ナショナル麻布スーパーマーケット(写真提供/菅原佳己さん)

(写真提供/菅原佳己さん)

(写真提供/菅原佳己さん)

会長のイチオシに注目。勢いのある「OKストア」(本社・神奈川県横浜市/108店舗展開)
「商品点数を絞り、毎日低価格の『EDLP(Every Day Low Priceの略。特売はせずに毎日低価格)路線』で多くのファンから支持されています。商品の状況を報告する独自のポップ『オネストカード』の存在も信頼獲得につながっています。惣菜も充実していて、パンは店舗で生地からつくっているほか、大きなピザがワンコイン以下(税抜き価格)! でも、チープな感じがしません。個人的には『会長のオススメ』商品がハズレがなく好きです」

会長のおすすめ品(写真提供/菅原佳己さん)

会長のおすすめ品(写真提供/菅原佳己さん)

商品の状況を報告するオネストカード(写真提供/菅原佳己さん)

商品の状況を報告するオネストカード(写真提供/菅原佳己さん)

大きなピザ(写真提供/菅原佳己さん)

大きなピザ(写真提供/菅原佳己さん)

さいたまで独自路線を貫く「ヤオコー」(本社・埼玉県川越市/172店舗展開※グループ店含む)
「もともと、惣菜に注力していた埼玉県のスーパー。お惣菜の味を均一にせず、地元のお母さん方が食べ慣れた味をということで、北部と南部で少しずつ味が異なることで、埼玉の地域に根ざして愛されてきました。埼玉を中心に千葉や東京郊外などで展開。おはぎとからあげの美味しさには定評があり」

ヤオコーのおはぎ(写真提供/菅原佳己さん)

ヤオコーのおはぎ(写真提供/菅原佳己さん)

商社の総合力が光る「業務スーパー」(本社・兵庫県加古郡/838店舗展開※フランチャイズ含む)
「その名の通り、業務用食品を多く扱いますが、神戸物産という商社が運営しているため、よく見ると直輸入の世界の名品に出会えます。おうちカフェにも使えそうなフレンチフライやワッフルも本場ベルギーの冷凍食品で、味も姿もトレビアン。コストカットのためにパッケージは簡素で大容量。冷凍品なら日持ちするので、冷凍庫をキレイにしてから買いに行くといいでしょう」

かつてスーパーといえば、安さで勝負する「価格競争」のイメージが強かったのですが、最近では「時短」「手抜き感がない」「毎日の食卓がちょっと楽しくなる」という意味で、家庭のご飯をサポートする企業という側面もあるんですね。また、ときには日常から抜け出し、「逗子や羽村など郊外にも独自の魅力で惹きつけるスーパーがあるので、ぜひ訪れて」と菅原さんは続けます。

湘南にこの店あり!「スズキヤ」(本社・神奈川県逗子市/12店舗展開※グループ店含む)
「神奈川県の逗子を中心に湘南、鎌倉に店舗を構えるスーパー。多くの著名人や文化人など昔からの顧客を満足させてきたのは、素材の良さだけでなく、丁寧な仕事の中身と言えます。ひとつひとつの目玉を取り除いた春のホタルイカ、パックのなかでバラの花のように華やかに盛り付けられているスモークサーモンの美しさは秀逸。今でいうSNS映えを先取りしているかたちですよね。逗子や葉山、鎌倉のメーカーと共同で開発したプライベートブランド商品はここでしか買えませんし、絶品です」

目玉を取り除いたホタルイカ(写真提供/菅原佳己さん)

目玉を取り除いたホタルイカ(写真提供/菅原佳己さん)

見た目も美しいスモークサーモン(写真提供/菅原佳己さん)

見た目も美しいスモークサーモン(写真提供/菅原佳己さん)

ここでしか買えないオリジナル商品も多数、そろえる(写真提供/菅原佳己さん)

ここでしか買えないオリジナル商品も多数、そろえる(写真提供/菅原佳己さん)

羽村に引越したい「福島屋」(本社・東京都羽村市/5店舗展開※グループ店含む)
「東京都心から1時間ちょっとかかりますが、この店のためだけに羽村に行く価値ありです! 福島屋は『家庭の食を豊かに』を合言葉に、お惣菜はどれも手づくり、無添加です。無農薬で育てた自然栽培の野菜や果物、全国各地の絶品や、生産者とつくったオリジナル商品など、こだわりの逸品ばかり。月2回しか入荷しない幻の要冷蔵醤油『きあげ』、素材のよさがしみじみ美味しい『おむすび』など、魅力を挙げたらきりがありません!」

食べた人は感動すると評判。福島屋のおにぎり(写真提供/菅原佳己さん)

食べた人は感動すると評判。福島屋のおにぎり(写真提供/菅原佳己さん)

スーパーの競争が激しさを増す首都圏近郊エリアに注目

最後にスーパー激戦区としてオススメのエリアを聞きました。

「23区は大型スーパーに適した土地はもう少なく、再開発でマンションの1角に出店するか、もしくはミニスーパーの形態になります。だから今、スーパー激戦区になっているのが、準郊外といわれるエリアです。例えば、調布~仙川。ライフ、クイーンズ伊勢丹、成城石井、いなげや、マルエツ、食品館あおば、ヤオコーなどバラエティ豊かなスーパーが目白押しです。こうした準郊外は人口流入が続き、新しい業態にもチャレンジしやすいんでしょう。また、八潮~草加にはイトーヨーカドー、西友、ベルク、マルエツ、ヨークマート、マルコーなどの千葉・埼玉・東京の有力スーパーが勢ぞろいしています。スーパーの競争が激しいエリアに住むということは多種多様な食材との出会いがあなたを待っているということ。毎日の、スーパーの買い物も楽しくなるのではないでしょうか」

スーパーはいつものところでいいやと慣れている店・同じ店に行きがちです。
もちろん、大手のスーパーは安心感がありますが、地域ならではの店、普段、行かないお店にいくとまた発見があるはず。もちろん上記のような競争の激しい、スーパー巡りを楽しめる地域を選ぶのも楽しいですね。スーパーで思わぬ発見・出会いがあると、一日がちょっとだけ得した気分で過ごせるに違いありません。

●取材協力
一般社団法人 全国ご当地スーパー協会