家を自分でデザイン&組み立てられる! テクノロジーのチカラで素人でも低コスト&自由度高い家づくりサービス「NESTING」がおもしろい VUILD

従来、家はハウスメーカーや工務店、建築士が設計し、施工事業者が建てるものだったのが、今はそこに住まう人自身が家をデザインし、施工まで手がけられる時代になりました。そんな、新しい住まいづくりの仕組みを世に打ち出したのは、テクノロジーの力で誰もが作り手になれる世界を実現する、を掲げた建築系スタートアップ「VUILD株式会社」。同社が手がけるデジタル家づくりサービス「NESTING」によって、建築デザインや施工など専門家の領域だったものが、そうでない人にも開放され、自ら住まいの作り手になることができます。今回は、その記念すべき「NESTING」の1棟目を建てたお施主さんと、「VUILD
株式会社」の代表・秋吉浩気さん、「NESTING」事業責任者の森勇貴さんに、サービスの背景や「NESTING」で建てる価値など、話をうかがいました。

「建築の民主化」をめざして。消費者を生産者に変えていく「NESTING」の家・外観(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」の家・外観(画像提供/VUILD株式会社)

施主自らデザインできて、施工もできる。そう聞くと、「DIYでつくった家」といったイメージを抱く人もいるかもしれません。しかし、「NESTING」は「DIY」の要素を含んでいながらも、「DIY」のクオリティを大きく超えるデザインと性能が光る家。日本の風土に根差した自然に溶け合う佇まいで、「HEAT20 G2」(断熱等級6)という最高レベルの断熱性能を誇ります。

「NESTING」の家・内観(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」の家・内観(画像提供/VUILD株式会社)

そんな、プロが手がけるような建築を、専門家でもない一般生活者がどうすれば建てられるようになるのでしょうか。そもそも、「NESTNG」のサービスを始めたきっかけは?まずは代表・秋吉浩気さんに事業の背景をうかがいました。

「VUILDでは、“「いきる」と「つくる」がめぐる社会へ”を、会社のビジョンとして掲げています。例えば、食べること。料理をつくり、それを食べることで、僕たちは生きているわけです。料理をつくる過程には、好きな食べものをつくる楽しさもあるだろうし、おいしく仕上げる工夫を凝らす楽しさもある。こんなふうに、生きるためにつくり、つくることで生きるという循環の先に、僕たちのいきいきとした暮らしがあるのではないかと感じて、「誰もが作り手になれる世界を実現する」をVUILDの活動モットーとしています。

そこで、VUILDが初めに取り組んだのが、3D木材加工機「ShopBot」の販売。誰もがものづくりの作り手になれるように、ものづくり技術の普及に取り組んできており、現在までに日本全国200箇所以上に導入してきました。ですが、デジタル機械を使いこなすまでには一定のハードルがあり、単に機械を販売するだけでは「誰もが作り手になれる世界を実現する」には至らないと感じました。

そこで、次にスタートしたのが、設計データさえあればそれを機械で加工可能なデータへと自動で変換してくれるツール「EMARF」です。これにより、ものづくりへの技術的なハードルがぐっと下がったものの、結局はものづくり経験のある人や、設計者でないと、このプラットフォームを活用できないという課題にぶつかりました。そこで思い浮かべたのが、Apple社のiPhone。技術の匂いをあまり感じさせないのに、高性能なテクノロジーが一つの端末に結集していて、誰もが直感的に操作できる。それでいて、デザインもかっこいい。それまでインターネットに興味を持っていなかった人も、iPhoneの普及によりインターネットに親しむようになったりして、僕はそれを「技術の民主化」だと捉えているんです。

ならば、僕たちがフィールドとしている「建築の民主化」を目指すためには、どうすればよいか。Apple社のiPhoneのように、技術を技術として販売するのではなく、テクノロジーをパッケージングしてブランドを築くことで、ものづくりや、建築の作り手としての入り口が開かれるのではないかと考えて、デジタル家づくりサービス「NESTING」の事業構想が浮かび上がりました」

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「これまでは、つくることに興味のある人や、すでに作り手である人を相手にしたサービスを手がけてきました。でも世の中を見渡してみると、お金を出せばある程度のものが手に入る時代ですから、ほとんどの人が生産者というより消費者サイド。「いきる」と「つくる」がめぐる社会を築くには、社会の大多数を占める消費者にアプローチしないと、本当の意味で世の中を変えることはできない。「NESTING」が普及していくことで、これまで消費者だった人を生産者に変えることができるかもしれないと思いました」(秋吉さん)

誰でも直感的にデザインできる。基礎も、構造体も、自分でつくれる。だから、誰でも建てられる!

「NESTING」で建てる家と、従来の家づくりにどんな違いがあるのか。
第一に、「NESTING」は施主の主体・主導で家づくりが進行するというところに、大きな違いがあります。例えば、設計プロセス。一般的には、施主の要望を工務店や設計士が聞き取り、それに基づいた設計プランを「提案する」流れですが、「NESTING」では施主がデザインを手がけ、そのサポートをプロが行います。

専門家が行う建築設計を、どうやって初心者でも手がけられるようにしたのか。その背景には、デジタル技術の活用があり、施主は専用アプリを使ってパソコン上で操作しながら、間取りや空間のイメージを膨らませられます。(注:アプリは改修中のため、実際の仕様と記載が異なる場合があります)

「NESTING」専用アプリ。画面上で建物の大きさや間取りを直感的にデザインできる

「NESTING」専用アプリ。画面上で建物の大きさや間取りを直感的にデザインできる

第二に、「価格の透明性」。従来の家づくりは、工務店や設計士に設計の比重があるため「何に」「どれだけ」コストがかかっているのか、施主側からは見えづらいという側面があります。そのため「知らない間に、コストが膨れあがっていた」なんてことも。また、木材加工、基礎工事、建て方工事、屋根工事、断熱材の吹付け、塗装、床張りなど、工事の工程ごとに専門の事業者が入っているため、見積もりも煩雑で時間がかかってしまいます。

それに対し「NESTING」は、施主本人がデザインを手がけるスタイルであるため、「何に」「どれだけ」コストがかかるのか、「何を」「どうすれば」コストが増えるのか・減らせるのかが分かります。その上、電気工事や給排水設備工事など、資格が必要な工事以外は施主本人で建てられるつくりとしているため、複数の事業者が入ることもなく即座に精度の高い見積もりが可能。このようにして、価格の透明性が実現できているのです。

さらに、「NESTING」の建物に使う木材パーツの多くを前述した3D木材加工機「ShopBot」で加工しており、事業者に依頼せずとも自分たちで高精度な木材加工ができる。それも、価格の透明性を高めている特徴の一つです。

木材を加工する3次元木工用切削機「ShopBot」(画像提供/VUILD株式会社)

木材を加工する3D木材加工機「ShopBot」(画像提供/VUILD株式会社)

「ShopBot」で加工した「NESTING」の木材キット(画像提供/VUILD株式会社)

「ShopBot」で加工した「NESTING」の木材キット(画像提供/VUILD株式会社)

この部品は、女性や子どもでも運べるように全て10kg以下で制作されています。だから、体力に自信がない人でも安心。家族や友人と協力しながら、自分たちの手で家の構造を組み上げることができるのです。

家の基礎も自分たちでつくります。一般的にはコンクリートを打設しますが、「NESTNG」では杭工法を用いて、電動工具を使いながら自分たちで杭を打ち込んでいきます。

専用の金物に単管パイプを打ち込み、基礎が完成!施工方法さえ覚えれば、初心者でもできる(画像提供/VUILD株式会社)

専用の金物に単管パイプを打ち込み、基礎が完成!施工方法さえ覚えれば、初心者でもできる(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」を横から見た図面(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」を横から見た図面(画像提供/VUILD株式会社)

第三に、建物のデザインに心が行き届いているというところ。誰でもつくれる家と聞くと、デザイン性が置き去りにされそうな印象がありますが、「NESTING」の家は違います。

「NESTINGのデザインパッケージを考えていた当初、コストカットするために軒の出をなくす案もありました。安価で合理的な家を建てようとすると、屋根を削って真四角な家をつくるのが一番いいんです。でも、日本建築は「屋根の建築」とも言われるくらい、気候条件的にも重要な存在。「NESTING」のデザインで最も特徴的でありこだわったのは、屋根かもしれません」(秋吉さん)

「NESTING」は、日本の風土や自然に溶け合う家。自然を愛する人、古くからある日本らしい風景を好む人の心をつかむデザインです。

(画像提供/VUILD株式会社)

(画像提供/VUILD株式会社)

記念すべき「NESTING」の1棟目は、香川県・直島のお宿

こうして考えられた構想が、リアルに実現できるのか。その検証も兼ねて、「NESTING」は応募制というかたちで、2023年春にサービスが始動しました。そこで、記念すべき一人目の施主に選ばれたのは、東京都在住・清るみこさん。IT関係の企業に勤めながら、香川県にある直島が好きで、宿泊業を営まれています。今回は、新たにもう1棟、直島で宿の運営を始めようと、「NESTING」で建てることにしたそうです。

「NESTINGを選んだ理由は、早く建てたかったというのと、おもしろそうだったから。デザイン性と快適性にこだわってつくりたかったので、「NESTING」ならそれが叶いそうだと思いました。

よくある話だと思いますが、建物にこだわればこだわるほど、設計や施工費用がかさみ、後で減額調整をすることになりますよね。これまでは、工務店さんに丸投げしていたために、材料費以外にどんな費用がかかっているのか、減額の余地があるのかないのか、分からなかったんです。でも、「NESTING」はセルフビルドなので、工程も費用も自分でつくりながら理解することができる。VUILDさんとだからできる宿づくりでした」(清さん)

完成した宿の外観(画像提供/VUILD株式会社)

完成した宿の外観(画像提供/VUILD株式会社)

今回は、スピード感を重視していたために、清さんご自身が設計やデザインをすることはなく、「NESTING」のベースとなるデザインをもとに、設計者のスタッフと相談しながら間取りを決めていったそう。その後の、木材キットの加工などには清さんも積極的に参加されました。

「海老名に木材加工の工場があり、毎週末のように通いながら、部品が製造されていく様子を見学したり、部品の組み立てを体験させていただいたりしました。私自身、DIYで棚をつくったりしたことはありますが、こんな大掛かりな加工現場を見たことはなくて。とても勉強になったし、このキットで建物がつくれるんだ……!と、驚きもありました」(清さん)

部品づくりを体験された様子(画像提供/VUILD株式会社)

部品づくりを体験された様子(画像提供/VUILD株式会社)

今回、基礎工事は事業者が行い、部品の組み立ては清さんやお仲間の皆さんで手がけられました。

「土日の2日間、友人たちが直島に手伝いに来てくれて、「VUILD」のスタッフさんや地元の大工さんの手を借りながら、自分たちで部品を組み立てていきました。女性が多かったので、屋根など高所での作業や男手が必要な施工は、サポートに来てくれていたスタッフさんにお任せしたのですが、部品を運んだりネジ締めをしたりと、大工さんに相談したりしながら、それぞれが役割を見つけて動いていました」(清さん)

ご友人と一緒に、2日間の建て方ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人と一緒に、2日間の建て方ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

チームワークを発揮し、どんどん組み上げていきます(画像提供/VUILD株式会社)

チームワークを発揮し、どんどん組み上げていきます(画像提供/VUILD株式会社)

2日間で上棟!(画像提供/VUILD株式会社)

2日間で上棟!(画像提供/VUILD株式会社)

屋根の板金工事や、壁の取り付けは「VUILD」のスタッフさんや大工さんが行い、清さんは床のタイルシールの貼り付けを担当。

「仕事の合間をぬって、毎週のように直島に通いながら、タイルシートを貼っていました。一見、簡単そうに見える作業も、ズレなくピシッと貼るのが意外と難しくて。床に接着するボンドが固まってしまい、一部だけ床が盛り上がってしまったりと、苦労しました」(清さん)

その後、再度ご友人の皆さんに集まってもらい、2日間の塗装ワークショップを開催。素人でも壁や建具をムラなく塗れるように、「NESTING」のためにオリジナルで開発した塗料を使用されたそうです。

ご友人が集まり、塗装ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人が集まり、塗装ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

皆さん、塗るのに夢中になっています(画像提供/VUILD株式会社)

皆さん、塗るのに夢中になっています(画像提供/VUILD株式会社)

こうして完成した宿が、こちら。

庭からの外観。海に面している直島の気候風土に合わせ、潮風にも耐えられるよう外壁は焼杉を使用している(画像提供/VUILD株式会社)

庭からの外観。海に面している直島の気候風土に合わせ、潮風にも耐えられるよう外壁は焼杉を使用している(画像提供/VUILD株式会社)

ダイニングからリビングを見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

ダイニングからリビングを見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

リビングから縁側を見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

リビングから縁側を見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

写真で見ても、未経験者がセルフビルドで建てた宿だとは思えない、ハイクオリティな仕上がりであることが分かります。さらに、着工してから竣工するまで工期は、たったの2カ月。実際の稼働日に換算すると、43日。通常では考えられない、驚きのスピードです。「NESTING」で建ててみた感想や手応えを、清さんはこのようにお話しされました。

「昔の家づくりって、コミュニティを巻き込みながらつくり上げていく側面があったと思うんですけど、現代はそれが薄れてきてると思うんです。その点、「NESTING」を通じて自分たちの手で建てることで関わった人たちの愛着も湧くし、直島の近隣の方が工事の様子を見に来て、そこから会話が始まったりもして。この場を運営するのは私であっても、みんなで場を共有している感覚が、とてもユニークだなと感じました。

その一方で、スタッフさんや大工さんの手を借りながらも、ほぼ全てをセルフビルドでつくっているので、後からみると手直しをしたくなるようなところもあります(笑)。でも、それも含めていい思い出ですね」

どんな人に「NESTING」を勧めたいですかと尋ねると、「中小企業のチームビルディング研修にピッタリだと思います」と、清さん。

「実際に自分が建てるプロセスに参加してみて、組織のチームビルディングにすごくいいなと思ったんです。タイプの異なる人間が、同じゴールに向かって形にしていく過程の中で、学べるものがたくさんある。なので個人的には、店舗やレストラン、小規模の宿を運営されている中小企業の会社さんが、スタッフみんなで建てて、一緒にその場を築いていくみたいな「NESTING」の活用はとても魅力的だと思います」

ご友人と一緒に建てることで、さらに関係性が深まったと清さん。つくること、建てることは、単なる手段ではなく、その過程そのものが人と人とのつながりを育み、場が地域にひらいていくきっかけになりそうです(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人と一緒に建てることで、さらに関係性が深まったと清さん。つくること、建てることは、単なる手段ではなく、その過程そのものが人と人とのつながりを育み、場が地域にひらいていくきっかけになりそうです(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」で一番届けたいのは、つくる喜びや楽しさ

1棟目の「NESTING」建築を経て、「VUILD」代表の秋吉さんは、可能性を感じられたと話します。

「清さんとご一緒できたおかげで、改善の余地がどこにあるかを確かめることができました。建てるというプロセスにおいては、住宅を購入するのとは明らかに違う光景が現場に広がっていて、関わっている人全員が、すごく楽しそうに作業している姿が印象的でした。「NESTING」によって、家づくりのあり方が変わる。その確かな手応えをつかむことができました。

さらに言えば、自分たちで家をつくれたなら、地域づくりや街づくりも自分たちでできるかもと思えたりして、「NESTING」を入り口に、つくることや街づくりに対してどんどん主体的になっていく可能性があるなとも感じました。

今回の1棟目をふまえて、現在は2棟目の「NESTING」を建てているところ。その施主は、「NESTING」事業責任者の森さんです。総工費1000万円、工期1カ月を目標に進めているところです」

森さんは栃木県で暮らしており、移住を検討されている方を対象にした「お試し移住拠点」として建てられているそう。

「NESTING」事業責任者の森勇貴さん

「NESTING」事業責任者の森勇貴さん

「都市圏に住みながらも、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心があるような人たちが増えてきていると思います。僕も、その一人。以前は東京に住んでいたのですが、今は那須に移住してリモートで仕事をしています。「NESTING」でお試し移住拠点をつくろうと思った理由は、自分たち家族が移住してみて、まちの魅力を存分に感じたため、移住仲間を増やしたかったから。今、建物の躯体が組み上がったところで、完成が楽しみです」(森さん)

安全管理を行った上で、息子さんと一緒に施工現場に入る森さん(画像提供/VUILD株式会社)

安全管理を行った上で、息子さんと一緒に施工現場に入る森さん(画像提供/VUILD株式会社)

この2棟目の実践を経て、本格的に「NESTING」のサービスがローンチできる目処がたってきましたと、秋吉さん。新たに10組の先行ユーザーを募集し、次々に「NESTING」を建てようと志す仲間が集まってきているそうです。

能登半島地震によって全壊してしまった家を、「NESTING」を使って自力で再建を目指す人。東京から地方に移住して、自然と共生するサステナブルな暮らしを実践しようとする夫婦。地域への移住促進に取り組む会社のオフィスとして…などなど。

その用途や目的はさまざまですが、共通しているのは、地域との関わりがあることや、建物を通して、周りとのコミュニティを開いていこうとしていること。森さんが話すように、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心がある人、地域や自然とのつながりを求める人に、「NESTING」が選ばれている傾向があるようです。

「今後、さらに展開していくにあたって、その地域ごとに使う素材やデザインをアレンジできればと思っています。地域資源を活用したり、自然が循環するきっかけに「NESTING」がなれたらなと。さらには、大工や職人の高齢化・減少化が進んでいますから、家づくりのプロが減っても、家づくりを諦めなくていい環境を僕たちが整備していけたらいいなと考えています」(秋吉さん)

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「NESTING」で家を建てることは、自分の「生きる」を「つくる」こと。そして「つくる」ことで、「生きる」ことの実感や手応えが、その人の人生に蓄積されていく。そのおもしろみや価値は、きっと頭で考えることではなく、自分の心と体で感じるもの。「NESTING」は、地に足をつけた生き方や暮らし方へと、現代に生きる人々のあり方を建てなおす起点となり、拠点となりそうです。

●取材協力
VUILD

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7畳のタイニーハウス暮らし夫婦、2棟目カワウソ号は宿に。宿泊で住まい観が一変!? ライター体験記「私はどう生きるか」 三浦半島

わずか7畳のタイニーハウス「もぐら号」は、神奈川県・三浦半島にある、現在進行形で「人が暮らしているタイニーハウス」です。電気・ガス・水道完備、シャワー・トイレ付きと、一般的な住まいと変わらず、快適な暮らしが送れているといいます。そのもぐら号に、今年、きょうだいの「カワウソ号」が仲間入りしたそう。しかもこちらは宿泊・体験できるとか。さっそく編集部とライターで宿泊してきました。

「カワウソ号」は約8畳(室内11平米+ロフト4平米)。タイニーハウスを知り・体験できる場所に

神奈川県三浦半島にある、まるで絵本に出てくるようなタイニーハウスの「もぐら号」は、相馬由季さんと夫の哲平さんの住まいです。もぐら号は約2年かけて相馬さんが設計から施工、2020年に完成。ほぼ自作したタイニーハウスに現在も夫妻で暮らしていらっしゃいます。そんな「もぐら」のきょうだいが「カワウソ号」です。もぐら号よりもやや小ぶりで、名前も愛らしい「カワウソ号」ですが、なぜもう1棟、タイニーハウスをつくったのでしょうか。

相馬由季さん。タイニーハウスに暮らしているほか、今年は海外のタイニーハウスをめぐる旅もした(写真撮影/桑田瑞穂)

相馬由季さん。タイニーハウスに暮らしているほか、今年は海外のタイニーハウスをめぐる旅もした(写真撮影/桑田瑞穂)

「もぐら号の話をすると、ほとんどの人に『遊びに行きたい』『泊まりたい』と言われるんです。みんなタイニーハウスに興味津々なんですね。もぐら号にも宿泊していただけるんですが、私たちも毎日、暮らしているので、そうそう泊めるわけにもいかない。じゃあ、もう1棟をということで、『カワウソ号』を計画したんです」と相馬さん。

「カワウソ号」。玄関扉のオフホワイト、緑のアーチ屋根が最高か!(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」。玄関扉のオフホワイト、緑のアーチ屋根が最高か!(写真撮影/桑田瑞穂)

主眼を置いたのは、単なるホテルではなく、「タイニーハウスを体験できる場所」であること。
「タイニーハウスに宿泊できる施設はありますが、まだ少数です。ここではホテルのような滞在ではなく、料理をしたり思い思いに過ごしたりと、あくまでも『暮らし』を体験する場所として考えているんです」と話します。

「基本設計や建材、建具のチョイスなどはすべて自分で行い、実施設計と施工を大工さんにお願いしました。ただ、制作途中も足を運び、吟味、調整をしてもらいました。タイニーハウスはとにかく余分なスペースがないので、数センチで使い勝手が変わるんです。だから、何度も何度も測って、思い入れを込めてつくったのは、カワウソ号も同じですね。『もぐら号』で自作した経験が生きています」

「カワウソ号」の内部。「もぐら号」と同様に、「暮らす」を主眼に設計されている(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」の内部。「もぐら号」と同様に、「暮らす」を主眼に設計されている(写真撮影/桑田瑞穂)

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「もぐら号」と「カワウソ号」の共通点でいうと、大きめのキッチン&シンク、電気ガス水道といったインフラ、窓や外壁などには断熱性・遮熱性などの性能を高めた「快適な暮らし」が送れる点です。一方で間取りは異なり、「カワウソ号」はロフト付きで、玄関が横付きになっています。また、大きなフィックス窓、横にスリット窓が入っています。スリット窓からチラリとのぞく緑がキレイです。

左が「もぐら号」、右が「カワウソ号」(写真撮影/桑田瑞穂)

左が「もぐら号」、右が「カワウソ号」(写真撮影/桑田瑞穂)

キッチンにこだわったのは「もぐら」「カワウソ」共通です。シンクは大きく、電気ケトル、IHクッキングヒーターなどの調理器具もあるのです。まさに“暮らし”!(写真撮影/桑田瑞穂)

キッチンにこだわったのは「もぐら」「カワウソ」共通です。シンクは大きく、電気ケトル、IHクッキングヒーターなどの調理器具もあるのです。まさに“暮らし”!(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワーと洗面、トイレが一列になっていて、使いやすい動線(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワーと洗面、トイレが一列になっていて、使いやすい動線(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面とトイレ。シャワー付き。コンパクトですが、何度も設計しなおしたというだけあり、狭さは感じません。トイレは着脱式なノズル下水道につなげていて、一般的な水洗トイレです(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面とトイレ。シャワー付き。コンパクトですが、何度も設計しなおしたというだけあり、狭さは感じません。トイレは着脱式なノズル下水道につなげていて、一般的な水洗トイレです(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」のロフト。大きなフィックス窓からは緑がいっぱいに。人工物が目に入ってきません。心が満たされていく……(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」のロフト。大きなフィックス窓からは緑がいっぱいに。人工物が目に入ってきません。心が満たされていく……(写真撮影/桑田瑞穂)

電気と上下水道や既存のインフラを利用し、着脱式で接続。ガスはプロパン(写真撮影/桑田瑞穂)

電気と上下水道や既存のインフラを利用し、着脱式で接続。ガスはプロパン(写真撮影/桑田瑞穂)

昨年の暮れに施工場所から今の土地に移動させ、塗装など内部の仕上げや棚の設置、家具やインテリアの選定を行い、今年3月末より宿泊の受け入れを開始しました。では、その反響は?

「開始して2カ月ほどですが、平日、休日問わず多くの予約が入っています。メディアを介して知ってもらったり、SNSで知ってくださったり。いろいろです。若い世代はここだけしかできない体験ということで、カップルや友人同士で来てくださいます。ほかはご家族ですね。最大3人まで宿泊できます。」(相馬さん)

とはいえ、一人で滞在する40代~50代の人もいるのだとか。
「自分を見つめ直したい、という方でしょうか。タイニーハウスに籠もって、暮らしや人生に向き合う場所が欲しいという人が滞在されていきます。何かするのではなく、ゆっくりと過ごしていらっしゃいます」といい、今までの暮らしのあり方、人生のあり方を問い直す場所になっているのだそう。

ロフトではタイニーハウスに関する本をセレクト、ギターやプロジェクターなど、滞在を楽しくするアイテムも(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフトではタイニーハウスに関する本をセレクト、ギターやプロジェクターなど、滞在を楽しくするアイテムも(写真撮影/桑田瑞穂)

開閉式の机。空間を有効活用できるよう、考え抜かれている(写真撮影/桑田瑞穂)

開閉式の机。空間を有効活用できるよう、考え抜かれている(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで住まい感が変わる。自分に必要なモノ・コトが見えてくる

では、実際に滞在するのはどのような感じなのでしょうか。

筆者と編集部担当の2人は午後にチェックインし、翌日朝まで滞在。合間に仕事をしたり、ランニングをしたり、周囲のスーパーで食材を買い込み、暮らすように「プチ日常」を味わってみました。

シャワーの水量や温度、トイレの水量などもストレスフリー。また、はじめはタイニーハウスのセキュリティってどうなのだろうと少し不安があったのですが、駅近くの立地でほどよく人目があり、おまわりさんのパトロールエリアとのことで、ひと安心。とにかく快適な滞在となりました。

夜は近所でマグロのお刺身などを購入してきて晩酌。三浦半島ならではですね(写真撮影/嘉屋恭子)

夜は近所でマグロのお刺身などを購入してきて晩酌。三浦半島ならではですね(写真撮影/嘉屋恭子)

ロフトからキッチンと洗面を見下ろしたところ。目に入るものすべてが愛らしい(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフトからキッチンと洗面を見下ろしたところ。目に入るものすべてが愛らしい(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフト下部の寝室。寝具メーカーのベッドで寝心地もいい。編集もライターも、朝までぐっすりコースでした(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフト下部の寝室。寝具メーカーのベッドで寝心地もいい。編集もライターも、朝までぐっすりコースでした(写真撮影/桑田瑞穂)

そして、ひと晩過ごした結論をひと言でいうと、「これは……住まい感が変わるな」に尽きます。

筆者は、今まで不動産会社やさまざまな建物、建築家の先生方を取材し、天井高は2m40cmではちょっと低いのではとか、広さは一人あたりの面積25平米は確保したいなどと原稿を書いてきましたし、正直なところ「家の広さは気持ちのゆとりにつながる」、なんなら「天井高は正義」「収納は命」だと思ってきました。

ですが、実際に過ごしてみると11平米でも狭さは感じないのです。女性2人がほぼ1日、同じ空間にいてもストレスを感じない。これはすごいことだなと思いました。おそらくですが、備え付けの食器や寝具など、目に入るものすべてが吟味されていること(当たり前ですが子どものおもちゃやごちゃごちゃした生活のものはありませんし)、人間同士の目線が必要以上に重ならないこと、余計な音が入ってこないこと、室温が快適であること、暮らしに必要なものがきちんとそろっているからこそ、「コンパクトでも快適」は叶えられるのですね。

おそらくですが、窓からの緑や地面との近さ、自然な雨音、小鳥のさえずり、室内に漂う木々の香りなど五感に訴えるものがあり、タイニーハウスでしか感じたことのない、貴重な感覚が残りました。

もう一方で、自分に必要なものも浮かびあがってきたのです。筆者の場合は、カワウソ号になかった三面鏡、浴槽です。われながらお風呂という、わかりやすい欲が反映されていてびっくりしました。人生初の感覚です。本当に不思議。

宿泊していった人が残した記録。みなさん、「内省」していらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

宿泊していった人が残した記録。みなさん、「内省」していらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

こうした、気づきや発見があるのは筆者だけではないようで、「カワウソ号」の宿泊ノートには、さまざまな思いが記録されています。貴重ですね……。

相馬さんも、普段は会社勤務しながら、タイニーハウスづくりを行ってきたため、週末は何かしら「タイニーハウスづくりの予定」が入っていたそう。現在、「カワウソ号」が完成してやっとひと段落ではありますが、けしてラクではないタイニーハウスづくりに取り組み、宿泊運営者になった今、得るものはあるのでしょうか。

「やっぱり、タイニーハウスの暮らしを体験してもらって、その人の価値観が変わるとか、なにか湧き上がるものがある瞬間を見られるのがすごく好きですね。当たり前を疑うというか、その瞬間に立ち会えるというか……。タイニーハウスを通しての出会いもとても貴重ですし。その中で自分自身も、その先に湧き上がってくる次の挑戦の兆しを待っています。」(相馬さん)

(写真撮影/桑田瑞穂)

(写真撮影/桑田瑞穂)

筆者個人としては、「タイニーハウスでの宿泊」は、家を借りたい人、家を買いたい人、注文住宅で家をたてようと考えている人、リフォームしたいと思っている人など、今、住まい・暮らしについて考えているすべての人におすすめしたい体験だなと思いました。自分にとって家とはなにか、家に必要なものはなにか、自分が大事にしたいものはなにかが明確になるからです。タイニーハウスの宿泊費は1泊あたり1万3000円~2万円程(人数、時期によって変動)。得るものは小さくなく、大きなものとなるはずでしょう。

●取材協力
相馬由季さん・哲平さん
由季さんのInstagram
ブログ
カワウソ号宿泊予約

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断熱ワークショップの舞台となる住まい。神奈川県内とはいえ、里山ののどかな雰囲気(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱ワークショップの舞台となる住まい。神奈川県内とはいえ、里山ののどかな雰囲気(写真撮影/桑田瑞穂)

この住まいの施主は、30代の森川夫妻。妻は会社員、夫は今、退職して家づくりに全力投球しています。設計と施工を担当するのはHandiHouse projectのみなさん。SUUMOジャーナルでも、「施主も“一緒に”つくる住まい」という連載を続けていましたが、今回はその試みがバージョンアップし、「5地域の断熱等級6」(※1)相当の住まいをつくるのだといいます。相模原市は6地域にあたりますが、お住まいのある山間部は山梨にも近く、冬にはマイナスになることも多々あるため、山梨市と同等の5地域の断熱性能を求めることにしたといいます。
※1 日本は地形の気候に合わせて省エネ基準地域が8区分されています。数字が小さいほど寒い地域で、首都圏の都市部は多くが6地域に該当します。その地域区分によって、等級の評価基準が異なるので、同じ等級6の評価でも、6地域より、5地域の方がより高いものが求められます

「住宅省エネルギー基準」による地域区分(一般財団法人住宅・建築SDGs推進センターHPより)

「住宅省エネルギー基準」による地域区分(一般財団法人住宅・建築SDGs推進センターHPより)

断熱等級6と7は2022年10月に新設されたばかりですが、等級6はこれからの日本の住宅が目指すべき断熱のスタンダード暮らす、等級7は世界基準のトップクラスに相当します。とはいえ、今までは最高等級が4だったことを考えると、ハーフビルドでつくるには十分にハイレベルな水準でもあります。では、どのようにしてこのプロジェクトがはじまったのかを、施主の森川夫妻に聞きました。

「家をつくるにあたり、まずできる限り、自分たちの手でつくりたいという希望がありました。また、夫妻ともに寒がりで、一方で化石燃料や石油エネルギーをできるだけ使いたくない、減らしたいとの考えから、高断熱・高気密の家がいい。加えて、私たちには2人の子どもがいるのですが、現在、深刻化する気候変動に対し、未来の世代に自分たちなりの『解』を示しておきたい。加えて、地域の建材や廃材を使いたい、また太陽光パネルを搭載、将来的に電気自動車を購入してV2H(※2)にしてほぼすべてのエネルギーを太陽光で賄うプランを考えていたんです。そんな理想もりもりの家づくりがはたしてできるのか、依頼先を探していたところ、設計事務所HandiHouse projectの中田さん夫妻を紹介されて。コレだ! とすぐに決まりました」とその理由を明かします。

※2 V2H 自動車(Vehicle)から家(Home)へという意味。電気自動車に蓄えられた電力を、家庭用に有効活用する考え方。

「パーマカルチャー」(持続可能な循環型の農業をもとに、人と自然がともに豊かになるような関係性を築いていくためのデザイン手法)に加えて、地域や将来の環境のことを考えて家づくりをしたいと考えていた夫妻と、共感できる設計事務所の出合いは、まさに奇跡&運命ともいえるものでしょう。それが、今回のワークショップ開催の運びとなりました。

ワークショップ参加者やご近所さんの見学も。断熱への関心は高い

2023年1月中旬、断熱ワークショップが開催されました。2022年のうちに家づくりのプランが確定し、地鎮祭と基礎工事、棟上げ、屋根の防水や外壁張り、窓設置が完了しているので、見た目はほぼ「家」になっています。また、天井や床には発泡プラスチック系の断熱材10cmがプロの手によってすでに入っている状態です。

ワークショップ前には準備体操。本日もご安全に!(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショップ前には準備体操。本日もご安全に!(写真撮影/桑田瑞穂)

施工する前にまず住まいの断熱性能についての説明、使う断熱材やその理由、性能をHandiHouse projectメンバーから説明してくれました(写真撮影/桑田瑞穂)

施工する前にまず住まいの断熱性能についての説明、使う断熱材やその理由、性能をHandiHouse projectメンバーから説明してくれました(写真撮影/桑田瑞穂)

今回ワークショップを開催したHandiHouse projectの中田りえさんは、この試みについて、「施主だけでなく、参加者、ご近所の方などに、住まいの断熱の大切さを知ってもらえるいい機会になりますよね。あと、住まいの建築のプロセスにはいろいろとありますが、断熱って特別なスキルはいらず、ていねいに施工することが大切なんです。ウレタンスプレーで吹き付けるのも楽しいし。それこそお子さんやママ、パパも参加しやすいし、もっとこの輪を広げていけたら」と話します。

ワークショップの開催はHandiHouse projectのフェイスブックページや施主の森川さんがブログで告知したこともあり、筆者のSUUMOチームとはまた別に4名の取材チームがいらっしゃいました。ハーフビルドのワークショップは何度も参加しているという人もいれば、初めてという人も。いずれにしても「断熱や気密に関心がある」「DIYで家づくりがしてみたい」と、住まいそのものへの関心の高さが伺えます。

森川邸の断面図。断熱材を10.5cm入れる図面になっています(写真撮影/桑田瑞穂)

森川邸の断面図。断熱材を10.5cm入れる図面になっています(写真撮影/桑田瑞穂)

まずは施工する建物の前にて、自己紹介とあいさつ、そして準備体操をします。楽しそうではありますが、やはり事故や怪我をするわけにはいきません。その後、場所を建物内にうつし、「なぜ、今、断熱が大事なのか」「高気密が大切な理由」「今日の作業手順」を説明してもらいました。ここで断熱等級6は外皮性能レベル(いわゆるUA値)では0.46で、省エネ等級4の北海道と同水準あること、施工しやすさから発泡系断熱材を使うこと、断熱材は価格と性能がほぼ比例すること、住まい完成時には気密測定を行い、住宅の隙間総量を表すC値は実測で0.4をめざすという話が出ていました。ちなみに、C値は数値が低いほど気密性にすぐれるというもので、現時点で一般的な住まいでは1以下、世界基準のパッシブハウスで0.6以下だといわれています。0.4というのは、細部にわたって隙間なくていねいな施工が求められる水準のため、ハーフビルドでこの数字を本当に実現できるの?と筆者は驚きが隠せません。

ちなみに断熱ワークショップの作業そのものはとてもシンプルで、間柱(まばしら)に合わせてあらかじめカットされている断熱材(発泡プラスチック系)をはめこんでいくというもの。

断熱材を入れる前の壁の様子。柱と間柱(まばしら)の間は38cm(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱材を入れる前の壁の様子。柱と間柱(まばしら)の間は38cm(写真撮影/桑田瑞穂)

柱と柱の間に、断熱材(発泡プラスチック系)を埋め込んでいます。手で押すだけで施工できるので、めちゃくちゃシンプル(写真撮影/桑田瑞穂)

柱と柱の間に、断熱材(発泡プラスチック系)を埋め込んでいます。手で押すだけで施工できるので、めちゃくちゃシンプル(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱材は幅に合わせてカットされていますが、さらに現場で長さをカットします。カットするのは施主の森川さん(妻)。ちゃんとまっすぐサイズに合わせてカットできるか、ドキドキします(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱材は幅に合わせてカットされていますが、さらに現場で長さをカットします。カットするのは施主の森川さん(妻)。ちゃんとまっすぐサイズに合わせてカットできるか、ドキドキします(写真撮影/桑田瑞穂)

カットした断熱材を埋め込んでいきます。隙間があってはいけないので、最後は押す力が必要です(写真撮影/桑田瑞穂)

カットした断熱材を埋め込んでいきます。隙間があってはいけないので、最後は押す力が必要です(写真撮影/桑田瑞穂)

手で押すと凹んでしまうため、木槌と板を使ってはめていきます(写真撮影/桑田瑞穂)

手で押すと凹んでしまうため、木槌と板を使ってはめていきます(写真撮影/桑田瑞穂)

隙間を見つけては、発泡ウレタンスプレーで埋めていきます。金具の周辺も同様に行います(写真撮影/桑田瑞穂)

隙間を見つけては、発泡ウレタンスプレーで埋めていきます。金具の周辺も同様に行います(写真撮影/桑田瑞穂)

説明をうけると、みんな夢中になって断熱材を加工したり、はめていく作業に入りました。また、発泡ウレタンスプレーで隙間を埋めていくのも楽しいよう。パズルがぴったりはまってく感覚、プチプチをつぶすのにも似た、おもしろさがあります。

森川さん(夫)の仕上げによって、壁一面に断熱材が入りました(写真撮影/桑田瑞穂)

森川さん(夫)の仕上げによって、壁一面に断熱材が入りました(写真撮影/桑田瑞穂)

県産材を施主が用意する。文字通り地域に根ざした家づくり

ワークショップは午前10時にはじまりましたが、途中、森川夫妻と中田さんのお子さん、ご近所のお子さん、近隣の方も顔を出すなど、なんともにぎやか。あっという間に終わった印象です。家のなかに資材を置かずに安全には十分配慮し、断熱材を充填する作業そのものは釘などをほとんど使わないので、部屋の片すみで子どもが遊んでいました。なんとも幸せで楽しげな施工風景です。家づくりってこんなにも楽しいんですね。

HandiHouse project中田さん夫妻のお子さんたち。断熱材を机にして、ぬり絵をしています(写真撮影/桑田瑞穂)

HandiHouse project中田さん夫妻のお子さんたち。断熱材を机にして、ぬり絵をしています(写真撮影/桑田瑞穂)

今回の住まい、床のフローリングや外壁などに使う木材は、すべて神奈川県内の地元のものを使っているとのこと。また自身の手で製材所に運び、なんと自身で製材も行った森川さん。インターネットでクリックひとつで海外のものも安く手に入る時代ですが、「輸送にかかる環境負荷を考えたら、地域の木材を使う方がいい。今回、使っているのはこの近郊、家からなるべく近い山で採れた木材です」と言います。

住まいの広さは4人家族にはコンパクトな60平米ほどの平屋。自分たちで施工をすることもあり、躯体は凸凹がなく、シンプルな長方形です。ロフトがありますが、それ以外のところは将来に仕切りを自由に変更できるなど、可変性のある間取りにしています。窓は樹脂サッシでトリプルガラスを採用、断熱や窓など、住んでから手を入れにくい箇所にお金をかけているのがわかります。

施主である森川夫妻とご両親、さらにはご近所のお子さんたちと一緒に(写真撮影/桑田瑞穂)

施主である森川夫妻とご両親、さらにはご近所のお子さんたちと一緒に(写真撮影/桑田瑞穂)

ちなみに、森川夫妻、妻は出産をして現在育休中、まだ頻回授乳もある時期です。また、夫はこの住まいづくりに合わせて会社を退職し、現在はフルタイムの大工見習いをしているとのこと。まだまだ手のかかるお子さんがいるのに、このチャレンジ精神と取り組み、夫妻ともにパワフルすぎる!

「ほぼ毎日、現場に来て家づくりに携わっているので家のつくりを理解できています。将来、多少の不具合が出ても自分たちで修正していけます。この家づくりで身につけたことを、これからの家族の変化に合わせた家づくりにも活かしていきたい」と夫。本当の意味で、「持続可能な家づくり」をめざしているんですね。

そしてこのワークショップ、何よりの特色は楽しいこと!! 
「この前ね、子どもに『お父さんとお母さんは、家ができるたびに友達が増えている』って言われたんですよ」と中田りえさん。施主も一緒につくるという価値観に惹かれて依頼するので、施主と工務店・建築士という間柄ではなく、友達になるのは当たり前といえば当たり前かもしれません。

お昼にはほうとうをつくって食べます。みんなで食べるともっと美味しい(写真撮影/桑田瑞穂)

お昼にはほうとうをつくって食べます。みんなで食べるともっと美味しい(写真撮影/桑田瑞穂)

ちなみに、午前に断熱材がひと通り充填されたところで、午後は焼き杉づくりに挑戦。焼き杉とは、杉の表面を焼き焦がして、耐久性や耐火性を高めたもの。知識としては知ってはいましたが、実際に焼く作業なんてめったにない貴重な機会なので、体験させていただくことに。

神奈川県産材の杉。3枚の板を三角形にして紐で固定します(写真撮影/嘉屋恭子)

神奈川県産材の杉。3枚の板を三角形にして紐で固定します(写真撮影/嘉屋恭子)

下の七輪に火を入れて焼いていきます。右のように煙と火が上がったら完成!(写真撮影/嘉屋恭子)

下の七輪に火を入れて焼いていきます。右のように煙と火が上がったら完成!(写真撮影/嘉屋恭子)

できた焼き杉は、外壁材として使用するため、全部で200枚以上焼く計算(写真撮影/嘉屋恭子)

できた焼き杉は、外壁材として使用するため、全部で200枚以上焼く計算(写真撮影/嘉屋恭子)

冒頭に紹介した通り、今年は電気代が高くなっていること、寒さが厳しいこの地域では、建物の高断熱化はとても注目度の高いトピックスになっています。ふらりと立ち寄ったご近所の方からも「高気密・高断熱の家って~?」「窓はトリプルサッシで~?」と会話が盛り上がっていました。そもそも、人って楽しそうにしていると集まってきますよね。もちろん、森川夫妻の人柄もある気がしますが、家って単なる建物ではなくて、人と人とをつなぐ特別なものなのだなと実感します。

森川家の住まいは今年3月、竣工の予定です。汗と思い出がつまった住まいは、一見すると小さな、普通の家に見えるかもしれません。ただ、断熱性や持続可能性、つくり手と住まい手のつながりなどは今までにない「新しい家」への試みがつまった住まいでもあります。これからの住まいは、コンパクトであたたかく、長持ち、地域や自然と一体となっている。こんな「森川さんち」のような家が増えていったらいいなあと思います。

●取材協力
森川家
ハンディハウスプロジェクト
●参考サイト
「住宅の省エネルギー基準」一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター

わずか7畳のタイニーハウスに夫婦二人暮らし。三浦半島の森の「もぐら号」は電気もガスもある快適空間だった!

「タイニーハウス(小屋)」や「キャンピングカー」「バンライフ」のような、小さな空間での暮らしが関心を集めています。旅行のように数日ではなく、日常生活を送るのは不便ではないのでしょうか? 費用やその方法は? 夫妻でタイニーハウス暮らしをしている相馬由季さんと夫の哲平さんのお二人に、その等身大の暮らしを教えてもらいました。

広さ12平米、ロフト5平米の自作タイニーハウスで夫妻ふたり暮らし

米国では2008年のリーマンショック以降、西海岸を中心に、暮らしの選択肢としてタイニーハウスを選ぶ人たちが増えているといいます。このムーブメントは日本にも押し寄せ、タイニーハウスの認知度もじょじょに高まってきていますが、実際に「住まい」として暮らしはじめた人がいると聞き、取材に行ってきました。

場所は、三浦半島のとある私鉄の駅から徒歩数分、森のなかに、まるで童話のなかに出てくるような車輪付きの「小屋」がぽつんと佇んでいます。あまりのかわいさに「映画やドラマのセット?」にも思えてきますが、これは立派な住まいです。

駅から徒歩数分、海も山も近い場所にできたタイニーハウス(写真撮影/桑田瑞穂)

駅から徒歩数分、海も山も近い場所にできたタイニーハウス(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで暮らしている夫妻。セットのようですが、本物の家です(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで暮らしている夫妻。セットのようですが、本物の家です(写真撮影/桑田瑞穂)

扉をあけたところ。外観以上にセットのような愛らしさ(写真撮影/桑田瑞穂)

扉をあけたところ。外観以上にセットのような愛らしさ(写真撮影/桑田瑞穂)

「引越してきたばかりのころは、『人が暮らしているの?』とよく聞かれました(笑)」と話すのはタイニーハウスの主でもある、相馬由季さんと哲平さん夫妻。車輪付きのタイニーハウスを由季さんのニックネームにちなんで「もぐら号」と名付けました。広さはわずか12平米とロフト5平米、室内はキッチン、バス、トイレ付きです。ひとり暮らし向けの物件でも部屋の広さは15~20平米を確保していることが多いことを考えると、よりコンパクトな住まいであることがわかるかもしれせん。

シャワー・トイレの排水は、移動できるよう着脱式にして下水道につなげているので、従来の住まいと変わりありません(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワー・トイレの排水は、移動できるよう着脱式にして下水道につなげているので、従来の住まいと変わりありません(写真撮影/桑田瑞穂)

建物を横から見たところ。玄関の反対側はエアコン、給湯、プロパンガスなどのインフラチーム(写真撮影/桑田瑞穂)

建物を横から見たところ。玄関の反対側はエアコン、給湯、プロパンガスなどのインフラチーム(写真撮影/桑田瑞穂)

このタイニーハウスで驚くのは、由季さんによる水まわりなど以外は自分でつくる「セルフビルド」であるということ。今でこそ、タイニーハウスを販売している会社も増えていますが、こちらはそうした市販品を使うことなく、木材から建材、トイレなどの住宅設備機器まで、ネットやホームセンターで購入し、つくったといいます。

コンパクトな空間なので価値観のすり合わせが重要だったといいます。キッチンの大きさ、快適さなどの価値観をすり合わせながらつくりあげたので、ストレスなく生活できているそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

コンパクトな空間なので価値観のすり合わせが重要だったといいます。キッチンの大きさ、快適さなどの価値観をすり合わせながらつくりあげたので、ストレスなく生活できているそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

「DIYのワークショップに1度参加したくらいで、特別なスキルもなかったんですが、はじめてみないことには何も進まないと思い、材料が置けて作業できる場所を探し、都内の木材屋さんの倉庫を借りて実際につくりはじめたんです。
2年かけて必死になって、どうにかこうにかタイニーハウスが完成し、ここで住み始めたのは2020年の年末。それから1年半経過しましたが、狭さや不便さは感じません」(由季さん)

哲平さんは秘境・登山ガイドという仕事のため留守にすることもありますが、基本的には二人で自宅で過ごしているといいます。仕事はテレワーク中心ですが、必要に応じて近所のカフェを利用できるため、不便ではないそう。二人にとって「広さ」は、暮らしの快適さにおいてさほど問題ではないのです。

赤い三角屋根に、街灯、3つの窓に玄関。すべてがかわいい!(写真撮影/桑田瑞穂)

赤い三角屋根に、街灯、3つの窓に玄関。すべてがかわいい!(写真撮影/桑田瑞穂)

ひと月にかかる費用は光熱費1万円のみ!?

相馬由季さんがタイニーハウスを知ったのは2014年ごろ。移動ができる小さな住まいにひと目ぼれし、海外のタイニーハウスに住む人々を訪ね歩いたといいます。

由季さんがタイニーハウス暮らしを思い描いていたころ、夫の哲平さんに出会いました。つきあいはじめてすぐに、「タイニーハウスで暮らす夢」について話したといいます。

「もともとシェアハウスで暮らしていたこと、登山が好きということもあって、室内が狭いということにはまったく抵抗がありませんでした」という哲平さん。どのような暮らしを送りたいか価値観をすり合わせるようにし、つくる過程で少しずつ二人で暮らす仕様になっていったといいます。

駅からすぐ近くにあり、お友だちが遊びに来ることも多いそう(写真撮影/桑田瑞穂)

駅からすぐ近くにあり、お友だちが遊びに来ることも多いそう(写真撮影/桑田瑞穂)

「料理好きなのでキッチンは大きめにしたり、180cm 以上ある身長(夫)にあわせて、室内の高さを考えたり、少しずつ一緒に暮らす前提でつくっていきました」といい、いわばタイニーハウスは結婚する「二人らしさ」を形にした住まいなのです。結婚式を挙行するかわりにタイニーハウスづくり……、ありかもしれません。ただ、どの住宅もそうですが、夢と現実の条件面で折り合いを付ける必要があります。資金面や土地の事情の「リアル」「お金面」では、どのようになっているのでしょうか。

「タイニーハウスの土台となるシャーシが約120万円、設備や材料費、水まわり施工費が約250~300万円、完成したタイニーハウスの移設・設置費が約20万円ほどでした」と由季さん。およそ400万円で完成したといいます。

一方で難航したのが土地探しです。

緑があって、海も近い環境です。周囲の人もおおらかで、快くタイニーハウスの存在を受け入れてもらえたといいます(写真撮影/桑田瑞穂)

緑があって、海も近い環境です。周囲の人もおおらかで、快くタイニーハウスの存在を受け入れてもらえたといいます(写真撮影/桑田瑞穂)

「土地は2年くらいかけて探しました。以前は神奈川県横浜市のシェアハウスに暮らしていたのですが、理想の土地を求めて東京都内、千葉、神奈川などさまざま見学したものの、駅からの距離、土地の広さ、上下水道の引き込み、周辺環境など、気に入るものがなくて。今のこの場所は、駅を降りた瞬間から、駅からの距離、海への近さ、スーパーなど含めて気に入って、『ココだね』となったんです」(哲平さん)

庭で大葉などのハーブや野菜を育てています。想像以上に広いためか、手入れは大変だといいますが、どこかうれしそう(写真撮影/桑田瑞穂)

庭で大葉などのハーブや野菜を育てています。想像以上に広いためか、手入れは大変だといいますが、どこかうれしそう(写真撮影/桑田瑞穂)

土地の広さは1100平米で、価格は交渉。加えて、上下水道の引き込みなどで費用が100万円ほどかかりましたが、ローンは利用せずに思い切って一括で購入しました。
また、タイニーハウスは車輪がついているため、固定資産税がかかるのは土地のみです。自動車として扱うため自動車税と自動車重量税になり、現在かかっているひと月あたりの費用はこれらの税金と水道光熱費のみだそう。

「電気もガスも水道も少量ですむので、光熱費は毎月1万円程度でしょうか」(由季さん)といいます。生活するための住居費や光熱費を稼がなくては……というプレッシャーとは無縁で、より好きなことを仕事にできる感覚があります。

ほかにも「タイニーハウスづくり」を応援してくれた家具屋さんから、「新居祝いに」と庭のテーブルセットをもらったり、地元の植木屋さんから良い木を植えてもらったりと、人とのつながりに助けられている、と笑います。自然体の二人が楽しそうにタイニーハウス暮らしに挑戦しているからこそ、まわりも助けたくなるのかもしれません。

ソファを来客時はベッドになるようにDIY。2人までなら宿泊できるそう(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファを来客時はベッドになるようにDIY。2人までなら宿泊できるそう(写真撮影/桑田瑞穂)

通常の部屋の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

通常の部屋の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファをベッドにし、テーブルを収納するとこのように。コンパクトですが可変性があり、ここまでできるんだと関心してしまいます(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファをベッドにし、テーブルを収納するとこのように。コンパクトですが可変性があり、ここまでできるんだと関心してしまいます(写真撮影/桑田瑞穂)

現在の場所に移動してきてから後付けしたテーブル。折りたたみ式で収納可能です(写真撮影/桑田瑞穂)

現在の場所に移動してきてから後付けしたテーブル。折りたたみ式で収納可能です(写真撮影/桑田瑞穂)

小さくても断熱環境やキッチンのサイズ、「快適さ」はゆずらない

とはいえ、予算重視、予算ありきでタイニーハウスをつくったわけではありません。

「室内が小さいからこそ快適性はゆずりたくなくて、断熱材は厚めに入れましたし、窓は樹脂窓(フレームが樹脂製のため金属製に比べ断熱性の高い窓)にしました。キッチンは大きめにしましたし、トイレもバスも好きなものを選んでいます。また、赤い三角屋根のシルエットは、一貫してこだわった部分ですね」(由季さん)といいます。

赤い屋根と樹脂窓、ランプ……。すべてネット通販などで買えるそう。びっくり(写真撮影/桑田瑞穂)

赤い屋根と樹脂窓、ランプ……。すべてネット通販などで買えるそう。びっくり(写真撮影/桑田瑞穂)

一年を通して快適な断熱環境を目指して、樹脂窓を採用(写真撮影/桑田瑞穂)

一年を通して快適な断熱環境を目指して、樹脂窓を採用(写真撮影/桑田瑞穂)

哲平さんが料理好きということもあり、大きめのキッチン。シンクも広々、3口コンロです(写真撮影/桑田瑞穂)

哲平さんが料理好きということもあり、大きめのキッチン。シンクも広々、3口コンロです(写真撮影/桑田瑞穂)

DIYで棚をつくったり、微調整しながら暮らせるのが良いそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

DIYで棚をつくったり、微調整しながら暮らせるのが良いそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスは、基本的にひと部屋。採用できる建具や設備が限られているからこそ、一つひとつのパーツ、こだわり、自分の好きなものをぎゅっと選べます。だからこそ、扉を開けたときに、つくり手の価値観が一目で表現できるのがおもしろさでもあります。相馬さん夫妻のタイニーハウスは断熱材や窓、開口部にこだわったこともあり、今年2022年の夏のような猛暑でもすぐに涼しくなり、冬は寒さを感じずに快適だそう。

「完成した『もぐら号』にはたくさんの人が遊びに来てくれましたが、『意外と広い!』『快適なんだ』と言われることが多いですね。プロジェクターを設置したり、折りたたみのテーブルをつけたり、快適に暮らせる微調整は日々、続けています。だからこそ外から見ている以上に空間に広がりがあり、自分の好きに囲まれて暮らせていて、本当に心地いいんです」と話します。季節の衣類や登山用具は、庭のガレージに保管しているため、過度に捨てたり処分したりの必要はないといいます。

プロジェクターを設置しているので、大画面で映画も楽しめます。すごいなー(写真撮影/桑田瑞穂)

プロジェクターを設置しているので、大画面で映画も楽しめます。すごいなー(写真撮影/桑田瑞穂)

映画をベッドに寝転がって鑑賞。夫妻でキャンプのようで楽しい!(写真撮影/桑田瑞穂)

映画をベッドに寝転がって鑑賞。夫妻でキャンプのようで楽しい!(写真撮影/桑田瑞穂)

「趣味のカメラでも、登山用品でも、一つ買ったら一つ売るを徹底しているので、すっきり暮らせているのも心地いいですね」と哲平さんは笑います。ちなみにもぐら号を見た哲平さんのお父さんは、「俺もほしい」と話していたそう。その気持ち、わかります。

タイニーハウスは人生を考える「きっかけ」。暮らしはもっと軽やかでいい笑顔がすてきな夫妻。大きさや持つことにとらわれない、等身大の幸せがあります(写真撮影/桑田瑞穂)

笑顔がすてきな夫妻。大きさや持つことにとらわれない、等身大の幸せがあります(写真撮影/桑田瑞穂)

周囲の人からも大好評の「もぐら号」ですが、泊まってみたいという要望も多いことから、夫妻は今、第2棟となる「カワウソ号」を作成しています。今度は自作ではなくデザインと仕上げの内装は自分で行い、施工はプロに依頼しています。

「タイニーハウスで暮らしてみて改めて思ったのは、住まいを考えるということは、人生を考えるきっかけになるということです。住まいって、暮らし方、働き方、誰とどんな場所で生きていきたいのか、考えるきっかけになりますよね。特にタイニーハウスは小さいからこそ、暮らしや自身の価値観と向き合わないとできないんです」と話します。

2棟目のタイニーハウス「カワウソ号」は9月中には「もぐら号」の隣に移設予定とのこと(写真提供/相馬さん)

2棟目のタイニーハウス「カワウソ号」は9月中には「もぐら号」の隣に移設予定とのこと(写真提供/相馬さん)

やはり小さく、制限があるからこそ、本当に大切にしたいものは何かをよく考え、厳選するようになるのかもしれません。特にコロナでさまざまな価値観が変わった今こそ、「やりたいことをベースにする」に、イチから住まい方を考え直したい、そう思う人が多いからこそ、相馬さんのタイニーハウスづくりを応援したい、興味をもっているという人が増えているのでしょう。

「日本で誰もやったことがない」ことから、「自分がやりたいからやってみる」とタイニーハウスづくりをはじめた相馬さん。「住居費のためではなくて、自分の人生を生きたい」と考えるなら、まずは今までの住まいのあり方を疑ってみるのも、ひとつの方法かもしれません。

●取材協力
相馬由季さん・哲平さん
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