湾岸エリアのタワマン “横のつながり” をスポーツで。自治会問題も解決?【全国に広がるサードコミュニティ2】

東京オリンピック・パラリンピックに向けて再開発され、選手村として活用される予定の東京・湾岸エリアのマンション群。実施の延期は決まったものの、オリンピック・パラリンピック以降、このエリアに新しい住民がどっと押し寄せることが見込まれるなか、防災の観点からも新住民と旧住民をつなぐ仕組みづくりが求められています。
「第三のコミュニティ」のありかを探る連載第2回目は、タワーマンション同士でつながるコミュニティを紹介します。連載名:全国に広がるサードコミュニティ
自宅や学校、職場でもなく、はたまた自治会や青年会など地域にもともとある団体でもない。加入も退会もしやすくて、地域のしがらみが比較的少ない「第三のコミュニティ」のありかを、『ローカルメディアのつくりかた』などの著書で知られる編集者の影山裕樹さんが探ります。 湾岸エリアのタワーマンションの横のつながりをつくろう

築地から移転してきた豊洲市場を擁し、ららぽーと豊洲など大型のショッピングモールもあり、東京の新たな居住エリアとして人気を集めている中央区、江東区の湾岸エリア。タワーマンションが多数立ち並び、オリンピック・パラリンピック以降に多数の住人が押し寄せることが見込まれます。

一方で、新住民と旧住民とのつながり、新住民同士のつながりがまったくないところで生活がスタートすることは、防災や防犯の面からも問題だと思われます。そんななか、マンションとマンションをつなぎ、湾岸エリアに暮らす子育て世代をターゲットとした「マンション対抗フットサル大会」などスポーツイベントを開催する有志のグループがあります。それが「湾岸ネットワーク」です。

マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

タワーマンションが立ち並ぶ湾岸エリア(画像提供/湾岸ネットワーク)

タワーマンションが立ち並ぶ湾岸エリア(画像提供/湾岸ネットワーク)

湾岸ネットワークを立ち上げたのは、ITコンサルを専門とする会社を経営する浅見純一郎さん、普段は外資系銀行で働くサラリーマンの石原よしのりさん、スポーツ関係の会社を経営をする星川太輔さんの3名の住民たち。それぞれ40代で、家族を養う働き盛りの世代。

メンバーの浅見さんは2008年に浦安から豊洲に移住し、パークシティ豊洲の自治会長や近隣の小学校のPTA会長などを兼任。地域コミュニティに深く関わっています。星川さんも自宅のある有明のブリリアマーレ有明の管理組合理事長を、有明自治会の自治会長をそれぞれ5年ほど務めていました。当時、湾岸エリアで先進的な活動をしていた自治会の自治会長だった浅見さんと星川さんに、2014年に晴海のタワーマンションに移住してマンションの自治会長を務めていた石原さんが声をかけたのがきっかけ。

「6年前のことです。僕が暮らすマンションの管理会社の人に、管理会社の横の繋がりで、豊洲のタワーマンションの自治会長を紹介してくださいとお願いしたんです。そこで紹介されたのが浅見さんでした。その後星川さんとも出会い、3人ともタワーマンションに暮らす同世代で、自治会活動の中でマンション同士の横のつながりの必要性を感じていたので、すぐに意気投合しました」(石原さん)

マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

子育て世代が多いからこそできる、親子で楽しむ運動会

最初は湾岸ネットワーク立ち上げメンバーの3人を中心に他の湾岸マンションとの親睦会を重ねていたのですが、ネットワークをより形あるものに発展させようとの思いから、「マンション対抗シリーズ」(最初はフットサル大会)を始めました。スポーツをキーワードとした理由は、子育て世代が多いこと、未就学児のお子さんがいる親御さんも午前中に気軽に参加して帰れること、など。また、マンション対抗とすることで競争意識が芽生え、かつ同じマンションの住人同士の結束が高まると考えたからです。実際、午前中のスポーツイベントから帰り、マンション内のパーティルームで参加メンバー同士で親睦会を行う人たちもいるそう。

今年は新型コロナウィルス感染症の影響で中止がよぎなくされていますが、具体的には毎年5月に開催する「湾岸マンション対抗フットサル大会」、9月開催の「湾岸マンション対抗親子大運動会 湾岸ピック」、そして11月には「湾岸マンション対抗マイルリレー大会」を開催しています。

マンション対抗フットサル大会の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション対抗フットサル大会の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

湾岸エリアにも当然、幼稚園や小学校などがあり、PTAなどの親御さん同士のつながりももちろんあります。ただ、それも幼稚園や小学校といった括りでしかつながることができないので、マンション住人同士の子育て世代がつながる機会は現状、なかなかありません。そのなかで、湾岸ネットワークは一つの選択肢になると浅見さんは言います。

「私個人もそうなんですけれど、みなさんマンションを購入して、地域に何かしら貢献したいと思っている人は多い。けれど仕事が忙しくてなかなか地域活動に参加できないんですね。私たちとしては、地域に関わりたいけれどどうすればいいか分からない住民の方に、なるべく敷居を低くして関わっていただけるといいなと思っています」(浅見さん)

「従来の町内会などの自治会だと、年1回のお祭りを本気でやる、みんなで一生懸命つくる、というところが多い。でもそこまでコミットするのは働き盛りの世代にはなかなか難しい。そういった方々が気軽に参加できて、体験できるイベントが必要だと考えたんです」(星川さん)

給水所のカギをもらえない? 顕在化するタワマンの脆弱さ

既存の自治会の問題というのは、とにもかくにも高齢化。さらには、江東区、中央区と行政区ごとに分かれていて、タワーマンションが同じ課題を抱えていても、住人同士が関わることが少ない、という課題がありました。

「区内の自治会長たちの集まりに行くとご高齢の方が多い。また、それぞれ独自の運営をしているケースがありそうで、なかなか新しい人が入っていくのに抵抗があるのではないかと思われます」(浅見さん)

一方で、タワーマンションに移り住んでくるのは30~40代の若い世代が中心。再開発によってまちに暮らす新旧住人の割合が大きく変わる中、旧住人の代表である既存の自治会と、タワーマンションに暮らす新住人のニーズとはかけ離れていくばかりです。

左から石原さん、浅見さん、星川さん(画像提供/湾岸ネットワーク)

左から石原さん、浅見さん、星川さん(画像提供/湾岸ネットワーク)

ちなみに、タワーマンションはチラシ投函が禁止されているところがほとんで新聞購読率も20%程度という話は聞いたことありますか? そうなると当然近隣のイベント情報がなかなか入ってこない。子育て世代が多いのにこれでは致命的でしょう。

「自治会って、つくる義務はないんです。自治会のないタワーマンションも多い。だから自治会がないタワーマンションは情報が行き届かない。僕も経験したのでよく分かりますけど。防災とか子育ての情報に関して、タワーマンションに住んでいる人と従来から住んでいる人との間には格差がある」(石原さん)

「有明にはそもそも自治会がなかったんですけれど、つくって分かったことがあります。お台場の水の博物館近くに給水所があるんですけれど、給水所の存在とそこの鍵の暗証番号を自治会をつくったことによって行政から連絡が来て初めて教えてもらえたんです。役所の方に聞いたらそういう仕組になっていると。自治会をつくらないと給水所が使えないって、災害時のときに住民は大変困りますよね」(星川さん)

防災といえばバケツリレーなどのイベントが開催されることが多いですが、タワーマンションでバケツリレーをしても意味がない。ポンプ車での放水訓練もマンションでは現実的ではない。行政にタワマンの防災ナレッジがないため、もしマンションで火事が起きたら大変。大きな台風が来てマンションの電源が喪失してしまった場合、どうすれば電力を確保ことができるか、などのノウハウ共有も大切です。

現時点で導入可能な非常時の電源確保手段として、水路を使った重油共有ネットワークやEV(電気自動車)の電池を使ったエレベーター稼働のしくみ、LPガスを動力とした非常用発電機など、それぞれの企業から専門家を呼んで、各マンションの防災担当者向けの講演会を開催しました。

「防災行政は従来の戸建てが並ぶ街の防災拠点を想定して、防災訓練を行っていますが、タワーマンションの住民は自宅待機での「自助・共助」が推奨されています。しかし、従来の防災訓練はタワーマンション住民の火災時の行動をミスリードする恐れがあり、現在多くのタワーマンションではそれぞれの環境に合った防災訓練を独自に行い、行政との連携については試行錯誤している段階です」(石原さん)

新旧住民の情報格差を解消するには?マンション同士のノウハウ共有が課題(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション同士のノウハウ共有が課題(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション対抗スポーツ大会などの敷居の低いイベントが、潜在的に地域に関わりたい人の接点を生み出すことも重要ですが、このように、タワーマンションならではの課題を解決するための機能も果たしているように思います。例えば、資源ゴミの回収ルールはマンションごとに決まっていて、委託業者の言い値で決められているところが多いそう。しかし、異なるマンションの管理組合の人どうしで、「資源ごみ回収はどの会社に委託している?」という会話が生まれることで、買取価格が3倍以上になったエピソードもあるそう。そこで増えた収入は他の住人向けイベントに回すこともできます。

他にも自宅をAirbnbに使った場合、法的にどんな問題があるか? を学び合ったり、管理組合の財務的なコストダウンの方法を話し合ったりなど、マンション同士のつながりがあることで享受できるメリットは多数あります。セキュリティがしっかりしているからこそ、住人同士のつながりが薄いマンションにおいて、住人同士のつながりをつくっていく団体の役割は大きいと感じました。

「現在はあくまで任意団体として活動していて、加盟金も徴収しておらず、有志のメンバーで続けています。、しかしイベントの規模が徐々に大きくなり、参加世帯数が増えスポンサーからの協力を得られやすくなった半面、リソース不足等の問題にも直面しています。湾岸地区の発展に追いつくために、団体をより一層成長させるべく法人格の取得を検討しています。でも、参加を強制するのではなく、参加したいから参加する、というイベントであることは守っていきたいと思います。街と住民自身が一緒に成長していく、そんな過程を共有できる地域は他にはなかなかないと思います。湾岸に住む大きな価値の一つだと思います」(石原さん)

今回のインタビューで、タワーマンションに対する見方が変わりました。便利で快適というイメージがあるタワマンも、既存コミュニティとの情報格差が存在するということが分かりました。その理由は、自治会のないタワマンと行政が接点を持つ仕組みが、まだまだ未発達だから。または、新しい場所に移住してくる人たちの多くが、ご近所付き合いの面倒臭さを避けてしまうことも大きいかもしれません。「しがらみがなさそうだからタワマンに入居した」という人もいることでしょう。

ですがやっぱり、災害が起きたときに、地域のつながりがなければ混乱が生じるのは明白です。可能な範囲で住人同士、そして住人と行政のつながりを維持していくことは不可欠。もちろん、しがらみがないからこそ、自分たちで街の未来をつくっていく醍醐味を味わうことができます。変化が日常である湾岸エリアでは、そこで育つ子どもたちが「ふるさと」と感じられるような風景が残らない代わりに、「コミュニティ」のつながりこそが唯一の「ふるさと」になりうるのかもしれません。

実際、マンション対抗フットサル大会を通じマンション内にフットサルクラブが発足し、マンションフットサルクラブ同士の交流戦が行われるなど、湾岸ネットワークから派生した新たなコミュニティが育ちつつあります。ゆるやかに参加でき、強制力がない有志のつながりこそが、再開発され新住民であふれる「新しいまち」には必要なのかもしれません。

●取材協力
・湾岸ネットワーク

タワーマンション、 あえて“低層階”という選択肢

タワーマンションのウリは、立地のよさ、そして何と言っても眺望。高層階から見下ろす景色は、やはりタワーマンションならではですよね。しかし、あえてタワーマンションの低層階を選択する人も。低層階ならではのメリットや住み心地を、実際に住んでいる人々と、タワーマンションに詳しい専門家に聞いてみました。
低層階に住む住人にインタビュー! リアルな住み心地ってどう?

それでは、実際にタワーマンションの低層階に住む人は、その住み心地についてどのように感じているのでしょうか?

Iさん(30代後半、女性)は、3年前に結婚して現在40階建てのタワーマンションの9階に居住中です。バルコニーからは海とレインボーブリッジが望める環境に暮らしています。実はIさん、結婚前にも同エリア内の別のタワーマンションの28階に住んでいたとか。

今回話をしてくれたIさん。0歳の子をもつママで現在育休中、港区ベイエリアのタワーマンションに家族3人で暮らしている(写真撮影/スパルタデザイン)

今回話をしてくれたIさん。0歳の子をもつママで現在育休中、港区ベイエリアのタワーマンションに家族3人で暮らしている(写真撮影/スパルタデザイン)

「確かに28階のほうが眺望はよかったのですが、窓が開けられないので開放感を感じにくいというデメリットもありました。マンションによるかもしれませんが、今の低層階のほうが、水面が近くてリラックスできて、開放感という意味では満足しています。今のマンションは目立たない程度なら洗濯物を干してもOKですし、レインボーブリッジを眺めながらバルコニーでランチやお茶をすることもできます。夜景を見ながら夫とお酒を飲んで語り合う時間は格別ですよ」(Iさん)

Iさん宅、9階バルコニーからの眺望(写真提供/Iさん)

Iさん宅、9階バルコニーからの眺望(写真提供/Iさん)

高層階と低層階の両方に住んでみて、低層階のいま、デメリットを感じることはほとんどないとIさんは続けます。高層階に住んでいたときに、反対に大変だったのはやはり災害時。

「東日本大震災のとき、ちょうど28階に住んでいました。ハイヒールで階段を上り下りしなければならなかったことが無茶苦茶きつかったんです。独身のあのときでもかなり大変だったのですが、子どもが生まれた今となっては、子どもを抱えて28階を階段で上ることは考えられないですね」

タワーマンション低層階には、こんなメリットが!

「眺望や高層階に住むというステータスにこだわりがなければ、タワーマンションの低層階はかなりお勧めできる物件だと思います」と話すのは住宅アドバイザーの高江啓幸さん。

住宅アドバイザー・高江啓幸さん(写真撮影:スパルタデザイン)

住宅アドバイザー・高江啓幸さん(写真撮影:スパルタデザイン)

実際にタワーマンションを購入予定の人が住みたい階の一番人気は、10~14階というデータもあります。

参考:憧れのタワーマンション!購入検討者に聞いた「住みたい階」は意外な結果に!? タワマン調査[1]

「『低層階』といっているものの、実際は10~14階も普通のマンションなら十分に高層階です。さえぎる建物が少ないため、タワーマンションに期待する眺めの良さも十分に満喫できるでしょう」(高江さん、以下同)

眺望面以外にも、タワーマンションの低層階に住むメリットがある、と高江さんは続けます。

「特に東日本大震災以降に建てられたタワーマンションは、最新の免震技術の導入やセキュリティ、共用施設の充実など、資産価値が高いと感じます。ゲストルームやスポーツジム、プールといった共用施設は居住者なら誰でも利用できます。低層階の区分所有者は高層階よりも割安に購入できるのが一般的ですが、タワーマンションライフは十分に堪能できるでしょう。
 
また、通常のマンションよりも維持費が高いと思われがちな施設管理費に関しては、世帯数が多いので、1戸当たりの金額を見ると、それほど高くないケースが多いようです」

低層階に住むのが合っている人の特徴とは?

それでは、タワーマンションの低層階に住むのが合っている人というのは、どんな人なのでしょうか?

「多くの人が一番心配しているのは、きっと災害時のことだと思います。地震などの災害によりエレベーターが止まったときのことを考えると、子どもがいるファミリーや高齢者の方が、あえて低層階を選ぶというのは大いに理にかなっていると思います」

写真/PIXTA

写真/PIXTA

また、資産としての効率を重視する人にも、低層階はおすすめだと高江さんは言います。

「タワーマンションの立地の多くは駅前で利便性も高く、ほかの一般的な物件と比べて知名度もあるため、たとえ低層階であっても、購入時の金額と比較して資産価値が落ちにくい傾向があります。急な転勤や生活環境の変化から早く売りに出したい場合に、売却しやすいのも大きなメリットになるでしょう。買いたい人が多いということは売りやすいということでもありますから」

部屋へのアクセスが楽で、エレベーター待ちが少なく、災害時も避難しやすい……。タワーマンションの低層階に住むことのメリットは、思った以上にたくさんありそうです。

限られた予算で自分の住みたいマンションを見つけることはとても難しいことです。マンションを購入する際には、家族構成やライフスタイルなどによって、求める条件は変わります。住む階数もそうですが、住環境や利便性、安全性などを考慮しながら、心地良く過ごすために優先したいポイントを考えてみましょう。

●取材協力
・住宅アドバイザー 高江啓幸さん

タワマン上層階で被災したらどうするの? 気になる災害対策を聞いてみた 

住宅にブランドやステータスを求めるとき、有力な選択肢のひとつとなるのがタワーマンションだろう。人気を集める最大の理由は眺望の良さだが、高層建築ならではのその魅力は災害に遭遇したときには不安の種ともなりうるもの。タワーマンションの災害対策はどうなっているのか、タワーマンションが多数立っているエリアで地震災害を担当している東京都中央区・総務部防災課の早川紀行(はやかわ・のりゆき)課長に聞いてみた。
タワーマンションで被災するとどういうことが起きるか

そもそもタワーマンションは、比較的大災害に強いといわれている。1981年に適応された新耐震基準の建物は震度6強から7程度の地震でも倒壊しないような構造基準に設定されているが、タワーマンションでは免震や制震構造などの最新の建築技術を用いた建物も多く、倒壊などの心配はほとんどないといっていいだろう。

高層建築ならではの被害は、電気やガス、水道など生活する上で欠かせないライフラインのひとつ、エレベーターだ。

「ほとんどのエレベーターは、震度4以上の地震が発生すると緊急停止します。エレベーターが復旧するまでの移動手段は、原則徒歩。高層階になればなるほど上下の移動が困難になり、備蓄品が不十分だと生活を継続することが難しくなります」(早川課長、以下同)

自宅にいて被災し部屋自体が無事であっても、停電やエレベーターの運転再開のための復旧作業には時間を要することから、建物の外に出ることすら大変になる。救援物資の配布を受けても、水など重いものは部屋へ持って帰るだけでも低層階住宅に比べてはるかに労力が必要になってしまう。

また、地震の揺れの力を逃す免震構造により、上層階ほど大きく長く揺れる可能性もある。高層建築物と共振しやすい長周期地震動では「震源地が遠方の場合でも、影響を受ける場合もあります」

もしも建物や設備に修繕が必要になった場合、居住者数が多いタワーマンションは、建て替えなどの合意を住民から得るのに時間がかかるであろうことも課題だそうだ。

もしものとき、マンションや自治体はどう対応するのか

被災時には、近隣住民同士の協力は欠かせないものだ。玄関から出ても建物内であり、住民の様子を外からうかがうことのできないタワーマンションの災害時マニュアルは、住民同士での安否確認の手順が記載されている。

「災害発生直後には、各住戸の安全確認をはじめ各フロア単位での安否確認・救助活動を行い、各階の情報を対策本部に集約するという流れになっています」。マニュアルには、被災生活を送る際にマンションが備蓄している防災用品の一覧表や食料品の配布方法などのルールも記載されている。

災害時マニュアルの作成は居住者や管理組合が行うが、中央区では防災アドバイザーがアドバイスすることも(※写真はイメージです)(画像提供/PIXTA)

災害時マニュアルの作成は居住者や管理組合が行うが、中央区では防災アドバイザーがアドバイスすることも(※写真はイメージです)(画像提供/PIXTA)

マニュアルの作成は居住者や管理組合が主体となって実施されているが、中央区では、防災アドバイザーとともに高層住宅に赴き、資料の用意や必要なアドバイスなどをする支援も行っている。「防災アドバイザーは、防災訓練などの相談や助言も行っています」

また中央区では、防災対策の推進と地域とのつながりを一層高めるため、防災組織の設置や震災時活動マニュアル作成などの一定の条件を満たすマンションを「中央区防災対策優良マンション」と認定。優良マンションに認定されると、防災資器材などの助成を受けることができるという。

タワーマンションに住む個人や家庭で備えておくべきことは

いざというときの危険や不便さを少しでも軽減するべく、高層住宅に住む家庭や個人が普段から備えておくべきことも教えてもらった。

長周期地震動では上層階になるほどマンションは大きく揺れるため、室内の家具が転倒したり棚から食器が飛び出したりする危険性は高くなる。しかしながら、地震の種類によっては階層にかかわらず、大きな揺れが起こる可能性があるため、全ての家庭において家具の固定は重要だ。

備蓄の目安は住居のタイプにかかわらず、最低3日分の水・食料・簡易トイレを家族の人数分、が基本であり、内閣府では1週間分を推奨している。だが、前述のとおり、タワーマンションの高層階の場合、外に出ることが難しい場合もある。

「高層階になるほどエレベーターが停止中の移動が困難となるため、備蓄数を増やす必要があります。日常生活で使う食料や水を多めに用意して消費した分を補充するローリングストック法なら、日ごろから無理なく行うことができます」

中央区のホームページでは、缶詰や乾物など家庭にある食材を火を使わずに調理するレシピを掲載した「災害時簡単料理レシピ」も掲載しているので、普段からチェックしておくのも良いだろう。

被災時を想定して火を使わずに調理する方法も覚えておきたいところ(画像提供/PIXTA)

被災時を想定して火を使わずに調理する方法も覚えておきたいところ(画像提供/PIXTA)

また、災害時にはエレベーターが利用できなくなることの周知の徹底も大切だ。「エレベーターが緊急停止した際には最寄り階で停止するため、速やかに降りることの周知も混乱を避けるために重要です。高齢者やけが人などを下の階に運ぶための非常用階段避難車といった資器材の配備を検討することも、対策のひとつです」

日ごろの備えが大切なのは、どんな住居に住んでいても同じこと。災害の規模が大きければ大きいほど、重要な一線を分けるのは、住民同士で助け合えるかどうかだ。「そのために、自らの命は自分で守り共に助け合う、地域ぐるみでの防災体制の構築が重要です」。自分の住んでいる建物の特質と起こりうると想定される被害を知ることで、最適な備えを心がけたいものだ。

●取材協力
東京都中央区防災課普及係