透明トイレ、行燈トイレ、イカトイレ? 渋谷が公共トイレでまちづくり

2020年7月にSNSなどで話題をさらった東京・渋谷区の「透明トイレ」。この公共トイレは、渋谷区内17の公共トイレが生まれ変わる「THE TOKYO TOILET」プロジェクトのひとつ。2021年の夏までにすべての公共トイレが設置予定で、そのうち、7カ所が今年の夏に完成した。安藤忠雄、伊東豊雄、隈研吾、槇文彦ら16人の著名クリエイターによる、トイレの常識を覆すデザインには、性別、年齢、障害を問わず快適に過ごせる工夫がなされている。プロジェクトを企画した日本財団に詳しい話を聞いた。
16人のクリエイターの斬新なトイレ、デザインの狙いとは

渋谷区のはるのおがわコミュニティパークに完成した「透明トイレ」は、完成するやいなや、近隣に住む男性が発信したツイッターで拡散。6.8万リツイート、25万いいね(2020年10月2日現在)を集め、ニュースは、「トイレ技術の最先端」として、世界にも発信された。注目されたのは、トイレの壁が透明であること。利用者がトイレに入るとガラス製の壁が不透明になり、中が見えなくなる仕組みだ。「そんな技術があったのか!」「利用時に本当に見えないのか不安になる」と話題になった。

SNSで話題を集めたはるのおがわコミュニティパークトイレ。デザインは建築家の坂茂さん(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)

SNSで話題を集めたはるのおがわコミュニティパークトイレ。デザインは建築家の坂茂さん(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)

「関心を持ってもらったのはうれしかったのですが、プロジェクトの公式発表前だったこともあり、驚きました。インパクトのある見た目だけが注目されないよう、プロジェクトの目的をしっかり伝えていこうと気持ちを引き締めました」と日本財団経営企画広報部の佐治香奈(さじ・かな)さんは語る。

「もともと、日本財団では、障がい者支援などを通じ、多様性を受け入れる社会づくりを目指してきました。公共トイレに着目したのは、さまざまな人が利用するトイレに問題意識を持ってもらい、障がい者・LGBTQ・子どもなどへの意識を変えるきっかけになればという思いからです」

日本財団と渋谷区は、社会変革により、社会課題の解決を図るソーシャルイノベーションに関する包括連携協定を結んでいる。公共トイレの事業も、日本財団が、先駆的な取組みのひとつとして、渋谷区に企画を提案し、渋谷区はこれを快諾。オリンピック、パラリンピックに合わせて、渋谷区内17の公共トイレを改装する「THE TOKYO TOILET」プロジェクトが始動した。

クリエイティブの力でトイレの常識をひっくり返す

世界や日本各地からさまざまな人が集まる渋谷区のキャッチコピーは、「ちがいをちからに変える街」。日本財団と渋谷区が共に目指しているのは、障害やLGBTQ、子どもなどを受け入れる多様性や思いやりのある社会をつくること。障がい者支援でトイレの改善に取り組んだこともある日本財団は、訪れる人の多くが利用する公共トイレを起爆剤にして街に変化を起こしたいと考えた。

公共トイレは、公共という名がついていながら、汚い、臭い、暗い、怖いというイメージがあり、利用者が限られているという実態がある。

今までのイメージをくつがえすトイレをつくるために協力を仰いだのが、安藤忠雄、伊東豊雄、隈研吾、槇文彦ら16人のクリエイターだった。トイレの設計施工には大和ハウス工業、トイレの現状調査や設置機器の提案にはTOTOが参加した。

「透明トイレ」で新しいのは見た目だけではない。建築家の坂茂さんがデザインした、外壁が透明なトイレには、トイレに入る前に、中が綺麗かどうか、誰も隠れていないかを確認できるという衛生上、防犯上の狙いがある。

「透明トイレ」のほかにも、西原一丁目公園には夜になると光る「行燈トイレ」、タコの遊具によってタコ公園と呼ばれている恵比寿東公園には「イカトイレ」など、今までにない斬新なトイレが完成している。

暗かった夜の西原一丁目公園を明るく照らす坂倉竹之助さんの「行燈トイレ」(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)

暗かった夜の西原一丁目公園を明るく照らす坂倉竹之助さんの「行燈トイレ」(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)

タコの遊具があり、「タコ公園」と呼ばれている恵比寿東公園に完成した槇文彦さんの「イカトイレ(写真奥の白い建物)」(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)

タコの遊具があり、「タコ公園」と呼ばれている恵比寿東公園に完成した槇文彦さんの「イカトイレ(写真奥の白い建物)」(画像提供/日本財団 写真撮影/永禮賢)

「行燈トイレ」は、もともと薄暗く、夜になると物騒な雰囲気すらあった西原一丁目公園を明るくする目的があった。子どもが訪れることが多い恵比寿東公園の「イカトイレ」は建物の影に人が潜まないように裏のないデザインになっている。

田村奈穂さんによる東三丁目公衆トイレではプライバシーを守れるように、さっと入ってさっと出られるように外壁をデザイン(写真撮影/エスエス 北條裕子)

田村奈穂さんによる東三丁目公衆トイレではプライバシーを守れるように、さっと入ってさっと出られるように外壁をデザイン(写真撮影/エスエス 北條裕子)

すべてのトイレに多目的トイレを設置している(写真撮影/片山貴博)

すべてのトイレに多目的トイレを設置している(写真撮影/片山貴博)

「利用者の方から、子どもが安心して遊べるようになった、夜も安全に歩けるようになったという声が寄せられています。完成した7つのトイレを巡る人もいるそうです。トイレについて皆で語ろうという機運をつくれたのではないでしょうか」と佐治さん。

「トイレは宝石箱、利用者は宝石」と語る安藤忠雄さんのトイレを訪ねた大きな屋根の庇の下は、コンクリートのたたきになっており、軒下でひと息つける空間になっている(写真撮影/片山貴博)

大きな屋根の庇の下は、コンクリートのたたきになっており、軒下でひと息つける空間になっている(写真撮影/片山貴博)

2020年9月15日に、安藤忠雄さんがデザインした神宮通公園トイレが、報道陣に公開された。まわりはビルが立ち並ぶが、公園内には緑が多い。木立の間にたたずむのは、「小さなあずまや」をイメージしてつくられたトイレだ。大きくせり出しているトイレの屋根の庇(ひさし)は、雨宿りのできる軒先をつくる目的がある。トイレとして利用するだけでなく、ちょっと休憩ができるような、パブリックな価値を持たせた。

「依頼を受けて、思い切ったプロジェクトだなというのが第一印象。クリエイターの名前を見て、刺激されました。完成した他のクリエイターのトイレを見て、みんな小さい建物にも全力投球するものだなと思いましたね。トイレは小さいけど、大きな発信力がある。私はこのトイレをデザインするにあたって、トイレは宝石箱、入る人は宝石だと考えました。公園全体を輝かせるものであるようにと願っています」と安藤忠雄さん。

「完成したのはまだ7カ所だけですが、インド、中国、ヨーロッパ各国から、完成したトイレと同じものをそのままつくってほしいというオファーが日本財団に届いています。しかし、維持管理の問題もあるので、形だけ輸出するのは慎重でありたい」と笹川順平常務理事は言う。
完成して終わりではなく、5年後、10年後にも「いいトイレだね」と使ってもらえることをプロジェクトのゴールにしているからだ。

「私のつくったトイレはUFOだとか言われている。渋谷の街に新しいものが舞い降りてきた。そんなイメージを持ってもらえたらいいですね」と安藤さん(写真撮影/片山貴博)

「私のつくったトイレはUFOだとか言われている。渋谷の街に新しいものが舞い降りてきた。そんなイメージを持ってもらえたらいいですね」と安藤さん(写真撮影/片山貴博)

外壁は風と光を通す縦格子になっている(写真撮影/片山貴博)

外壁は風と光を通す縦格子になっている(写真撮影/片山貴博)

メンテナンスでつなげる、次に使う人への思いやり

全17カ所のトイレの維持管理は、日本財団・渋谷区・一般財団法人渋谷区観光協会が三者協定を結び、実施している。「THE TOKYO TOILET」では、完成した後のメンテナンスについても、今までの常識にとらわれない方法を取り入れた。トイレの清掃員が着用するユニフォームは、若者に人気のファッションデザイナーNIGO®さんが監修したもの。清掃する側のモチベーションを高めようと依頼した。今後は、トイレの維持管理状況を特設ウェブサイトで随時更新する予定もある。

軒先の空間で取材に答える安藤さんと日本財団の笹川常務理事。笹川常務理事が着ているのが清掃員のユニフォームだ(写真撮影/片山貴博)

軒先の空間で取材に答える安藤さんと日本財団の笹川常務理事。笹川常務理事が着ているのが清掃員のユニフォームだ(写真撮影/片山貴博)

赤い印がすでに完成したトイレ。渋谷に行く際は、最寄りのトイレを訪ねてみては(画像提供/日本財団パンフレットより)

赤い印がすでに完成したトイレ。渋谷に行く際は、最寄りのトイレを訪ねてみては(画像提供/日本財団パンフレットより)

清掃員が、ユニフォームを着て清掃していると、「ありがとう」「きれいに使いますね」と声をかけてくれる人が増えたという。日本財団、渋谷区の思いを形にしたクリエイター、TOTO、大和ハウス工業、未来に引き継ぐための維持管理。そして、利用者自身が次に使う誰かに思いやりのバトンをつなぐ。小さな問題意識から変わっていく街。それこそが、多様な人を受け入れるまちづくりの一歩なのではないだろうか。

●取材協力
・日本財団
・THE TOKYO TOILET

突然のトイレ故障! 応急処置からリフォーム完了までの1カ月

とある3連休初日の夜10時、トイレが故障するという事態に見舞われた筆者。トイレタンクの上の蛇口(手洗い管)からの水が止まらなくなったのだ。設備会社にとりあえず水を止めてもらったが、さて、この後どうする? 修理か、新品購入か。解決までの約1カ月を報告する。
トイレの水が止まらない! 管理会社に助けを求めるが……

そろそろ寝ようかと、リビングのテレビを消したある夜のこと。トイレのほうからチョロチョロと音がすることに気がついた。見に行くと、トイレタンク上部の蛇口(手洗い管)から水が流れ続けている。

【画像1】水が止まらなくなったわが家のトイレ。便器本体とタンクはマンションが竣工した35年前のもの。温水洗浄便座は7年前に取り付けたものなので本体と便座のメーカーが違う(写真撮影/田方みき)

【画像1】水が止まらなくなったわが家のトイレ。便器本体とタンクはマンションが竣工した35年前のもの。温水洗浄便座は7年前に取り付けたものなので本体と便座のメーカーが違う(写真撮影/田方みき)

水を流すレバーを回してみると、抵抗感なくカランと空回りする。「ああ、またか」と思い、タンクのふたをはずして中をのぞいてみた。以前も何度か同じことがあったのだ。

【画像2】トイレタンクの仕組み(画像提供/DCMホーマック)

【画像2】トイレタンクの仕組み(画像提供/DCMホーマック)

トイレタンクは、レバーを回すとタンクの排水口をふさいでいるゴムフロートが上がって便器に水が流れ、同時にタンク内と手洗い管に給水が始まる構造だ。ゴムフロートの鎖がどこかに引っかかって排水口が開いたままになると、いつまでも水が流れ続けることになる。以前にも同じことが何度かあり、そのたびに排水口が閉じるまで鎖をテキトーに動かして直していた。ところが、今回はなかなか排水口が閉じてくれない。早く水を止めないと、水道代が大変なことになる。もちろんトイレも使えない。

ふと思い出したのは管理会社に24時間サポートの窓口があること。電話をして状況を話すと、管理会社のサポートスタッフが「トイレの止水栓、または水道の元栓を閉めてタンクへの給水を止める応急処置」の方法を説明してくれた。この方法でとりあえず水を止めておけば、翌朝以降に修理業者を派遣してくれるとのことだった。

【画像3】赤いマルで囲んだ部分が止水栓。ここをマイナスドライバーで右に回せば給水管からのタンクに流れ込む水を止められる。ところが、固く締まっていて(おそらくサビている)まったく動かなかった(写真撮影/田方みき)

【画像3】赤いマルで囲んだ部分が止水栓。ここをマイナスドライバーで右に回せば給水管からのタンクに流れ込む水を止められる。ところが、固く締まっていて(おそらくサビている)まったく動かなかった(写真撮影/田方みき)

よし、と止水栓を回そうとしてみるが、サビているのか固くてびくともしない。止水栓はあきらめて、玄関横のパイプシャフト(給排水管やガス管等を通す空間のこと)内の水道の元栓を閉めることにした。流れ続けていたトイレの水は無事に止まり、ほっと一息。

しかし、悠長に構えてはいられない。このままではキッチンも浴室も水は出ないのだ。時刻はこの時点ですでに午前0時近い。戦いは翌日に持ち越しだ。仕方なく、この夜はお風呂も入らずに寝るしかなかった。

水は止まるも再発の危機! 即時交換は20万!?

翌朝、設備会社の人がやってきた。プロ仕様の工具で止水栓をあっさりと閉じる。故障の原因は、トイレタンク内の部品の破損。レバーとゴムフロートをつなぐ棒が折れていた。約35年前から使っているトイレなので、経年劣化だろうとのこと。

そこで、設備会社に、どんな対処方法があるかを聞いた。それをまとめたのが下の表だ。

【画像4】対処方法と費用(※筆者が施工を依頼した設備会社の場合)。それぞれの納期は、設備会社に在庫があれば即日。なければ取り寄せに約1週間。また、内装を変える場合はリフォーム会社とのプランニングの日数も必要となる

【画像4】対処方法と費用(※筆者が施工を依頼した設備会社の場合)。それぞれの納期は、設備会社に在庫があれば即日。なければ取り寄せに約1週間。また、内装を変える場合はリフォーム会社とのプランニングの日数も必要となる

好みや予算によって、さまざまな方法があることがお分かりいただけるだろうか。

私が選んだのは「4」の一式まるごと交換。安上がりな「1」「2」は古い機種のため部品がなかったこともあるが、なにより、せっかくの機会なのでキレイな新品にしたかった。「5」は収納キャビネットや手洗いカウンターがあるといいなとは思うものの、設置費用などすべて含めて20万円以下という予算をオーバーしそうなので涙をのんで断念。

設備会社からは、「好きなメーカーの好きなトイレを選んでくれたら、設置可能かどうかを調べます。当社の場合、費用は設置や撤去費用も含めてメーカー希望小売価格の約7~8割。20万円の機種なら15~16万円程度と考えておいてください」と言われたので、まずは機種選びから始めることに。

【画像5】便器の交換が完了するまでの約1カ月間、バケツに水をくんで流す「手動水洗トイレ」の生活が続いた。忙しいときにはこれが面倒で、トイレに行くのを我慢したことも。体によくない(写真撮影/田方みき)

【画像5】便器の交換が完了するまでの約1カ月間、バケツに水をくんで流す「手動水洗トイレ」の生活が続いた。忙しいときにはこれが面倒で、トイレに行くのを我慢したことも。体によくない(写真撮影/田方みき)

ここまで来たら妥協しない! 最新トイレ見学に、いざショールームへ

どうせ新しいトイレに交換するなら、自動で水が流れたり、掃除がラクだったりする好みの機種にしたい。住宅設備メーカーの最新カタログ3社分を取り寄せて熟読。「汚れの原因になる水あかがつきにくい」というトイレを候補に決めた。

さっそく、パナソニックのショールームに予約を入れた。トイレが壊れてからすでに1週間が経過していたが、ここまできたら実物を見たかったのと、設備会社が出してくれた費用が妥当か知りたかったからだ。

第一候補のトイレは、今年発売になった比較的新しい機種。本体に凹凸が少なく(ホコリがたまりにくく掃除がラクそう!)、便器内の汚れが残りにくいタイプ。価格も約15万円で、これなら予算内におさまりそうだ。

ショールームのスタッフに、交換費用を聞いてみる。すると、住宅設備メーカーと提携しているリフォーム会社に依頼すれば、内装リフォームや収納棚を付けるなどのリフォームにも対応でき、メーカー希望小売価格の範囲内に工事費もおさまることが多いとのこと。トイレの交換のみなら、先日家に来てくれた設備会社にお願いするのがコスト的にはよさそうだ。(※リフォーム会社によって対応が異なるため、依頼の際は確認が必要)

「やっと解決!」と思いきや、決めかけていた機種がマンションの2階以上では、水圧などの条件で設置に向かないことが判明。機種選びは振り出しに戻った。

収納キャビネットがセットになったトイレを発見。そしてリフォーム完了

カタログを再度見直す。そこで見つけたのが収納キャビネットがセットになったトイレ。設備会社に見積もりを出してもらうと約20万円(税込)。予算をオーバーしそうだからとあきらめていた収納キャビネットが付けられる。よし、これに決めた!

その後、トイレとキャビネット一式の発注・納品に約1週間。マンションの管理組合にリフォーム内容と日程を申請し工事当日を迎えた。施工時間は、トイレ交換だけなら3時間程度で済んだのだが、キャビネットの幅を合わせるために現場での調整が必要だったため所要時間は約5時間だった。

トイレが故障してから交換完了まで、ちょうど1カ月かかった計算だ。

【画像6】新しくなったわが家のトイレ。キャビネットの高さが、以前のトイレタンクよりも低かったため、壁の汚れが一部露出してしまった(写真撮影/田方みき)

【画像6】新しくなったわが家のトイレ。キャビネットの高さが、以前のトイレタンクよりも低かったため、壁の汚れが一部露出してしまった(写真撮影/田方みき)

【画像7】汚れていた壁が露出してしまった部分は小物で隠した(写真撮影/田方みき)

【画像7】汚れていた壁が露出してしまった部分は小物で隠した(写真撮影/田方みき)

毎日使う水まわり設備が故障すると、日常生活に大きな支障をきたす。すぐに修繕ができればいいが、急な交換となったときには、リフォームが完了するまで想像以上に不便だ。わが家の場合も、トイレを使うたびにバケツに水をくんで流すのが面倒だった。設備が古く、そろそろ使えなくなるかもと感じている場合は、壊れてから直すのではなく、計画的に交換するほうがストレスがなさそうだ。