室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマストな理由は省エネだけじゃなかった

「もしナイチンゲールが日本で活躍していたら、今ごろ日本の住宅は夏も冬も快適だった!?」「しかも住宅が快適なら、日本の生活習慣病の患者はもっと少なかったかも知れない!?」。にわかに理解しがたい話ですが、世界と日本の住宅環境の差が分かってくるほどに、さもあらんと思えてくるのです。住宅と健康の関係についての第一人者である慶應義塾大学教授の伊香賀俊治先生のお話から、世界との違いや、住宅と健康との密接な関係を紐解いていきましょう。

慶應義塾大学 理工学部 教授、日本建築学会 前副会長 伊香賀 俊治(いかが・としはる)先生(写真提供/伊香賀先生) 

慶應義塾大学 理工学部 教授、日本建築学会 前副会長 伊香賀 俊治(いかが・としはる)先生(写真提供/伊香賀先生) 

WHOが「冬は室温18度以上にすること」と強く勧告

今から約5年前。2018年11月にWHO(世界保健機関)は「住宅と健康に関するガイドライン」を公表しました。その中で各国に「冬は室温18度以上にすること」を強く勧告しましています。特に子どもや高齢者には「もっと暖かい環境を提供するように」と言葉が添えられました。

・WHOは「温かい住まいと断熱」を勧告

WHO(世界保健機関)は「住宅と健康に関するガイドライン」

WHOは「冬の室温は18度以上」と強く勧告し、「子どもと高齢者にはもっと温かく」としています。また新築時と改修時の断熱対策や夏の室内での熱中症についても勧告しています。近年、ヒートショックによる健康被害はメディアでもよく取り上げられるようになりましたが、高齢者特有の問題と思われている人も多いのではないでしょうか。
出典:WHOウェブサイト 2018.11.27公表

なぜWHOは年齢を問わず「冬の室温18度以上」にこだわるのでしょうか? 伊香賀先生によれば「冬の室温が18度以上であれば、呼吸器系や心血管疾患の罹患・死亡リスクを低減することが、エビデンス(根拠)は中程度だとしながらも、確認できたからです」と言います。

またイギリスはWHOの勧告より前の、2011年に住宅法を改正し、室温を18度以上に保つことを賃貸住宅に義務づけました。達成できない賃貸住宅に対して行政は解体命令を出すこともできます。賃貸住宅を対象にしたのは、お金持ちではない人々の住宅環境を改善しようという狙いからです。

さらに、日本とは北半球と南半球の違いはあるものの、緯度がほぼ同じで、島国であるという共通点のあるニュージーランドでも住宅の断熱性能を高める施策が行われています。2009年~2014年にかけて断熱改修の補助金制度が実施されたのですが、その成果を検証したところ、断熱改修によって居住者の入院頻度が減少したそうです。

こうした流れの中、日本では2022年に住宅性能表示基準が一部改正され、従来1等級から5等級まであった住宅の断熱等級の、上位等級として6等級と7等級が新設されました。さらに2025年からはすべての新築住宅に、断熱等級4以上の適合が求められ、遅くとも2030年には、ZEH基準(※)の水準が義務化されます。これは、入居者の健康はもちろん、住まいでの消費エネルギーを抑え、地球温暖化を避けるカーボンニュートラルの観点から決められたロードマップによるものです。

足の血行と冷えを改善する断熱性の良い住まい

足元の温度が低いと健康被害につながる血流低下が起きる。等級6の高性能な住まいであればこの問題は大幅に低減されることがわかる。
出典:河本紗弥、伊香賀俊治ほか:住宅断熱性能の違いが生理学的反応及び在宅作業成績に及ぼす影響に関する被験者実験、日本建築学会環境系論文集Vol.87, No.798, 2022.8

なお「断熱等級4で室温を18度にしても、足元は16度くらいになるでしょう。それでは十分な効果は得られないんです。足元も18度にならないと。現在のZEH基準とほぼ同等の、断熱等級5でやっと足元も18度になりますから、私が推奨する断熱等級は5以上です」と伊香賀先生。「義務化」とは「最低でもここまで」というレベルということです。

※ZEH/ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスのこと。太陽光発電の搭載等により、生活で消費するエネルギー量を実質ゼロ以下にすることができる

日本で室温18度以上だった都道府県は北海道をはじめ、わずか4道県

では2025年以降の新築ではなく、日本の既存住宅の断熱性能はどうなっているでしょう。少し前ですが、国土交通省は2014年に「スマートウェルネス住宅等推進調査」を実施しました。この調査には伊香賀先生も参加しているのですが、調べてみると、冬に室温18度以上だった都道府県は20度だった北海道をトップに、わずか4道県に過ぎませんでした。一方で、比較的温暖と思われている地域ほど、住宅の室温が低いという結果が現れたのです。

・温暖地ほど住宅の中が寒いという傾向が見られる

温暖地ほど住まいが寒い

冬の在宅中の居室において、平均の室温を調査した結果が上記。比較的温暖な九州や四国でも16度以下の都道府県があることがわかります。
出典:海塩 渉、伊香賀俊治、村上周三ほか、冬季の室温格差~日本のスマートウェルネス住宅全国調査~、Indoor Air. 2020 Nov;30(6):1317-1328

そもそも、断熱を高める要の「窓」に対して、日本人の関心は薄いようです。窓は住宅の中で最も大きい “熱の出入り口”。二重窓や複層ガラス窓、樹脂製や木製など金属製でないサッシにすれば断熱性能を高められます。しかし日本の「二重サッシまたは複層ガラス窓の設置範囲」の平均は、約30%しかありません。

一方で、窓を二重窓や複層ガラス窓にした、いわゆる断熱住宅が普及している都道府県ほど、冬に死亡者数が増えないという傾向があります。それが下記のグラフです。

・断熱住宅普及県ほど冬に死者が増えない

断熱住宅普及県ほど冬に死者が増えない

ここで言う「断熱住宅」とは「二重サッシまたは複層ガラス窓のある住宅」を指す。断熱性能を高めるのは断熱材など窓以外の考慮も重要だが、窓に配慮がなされている、つまり断熱意識が高い住宅という点だけで見ても大きな差になることがわかる。
出典:総務省「住宅・土地統計調査2008」と厚生労働省「人口動態統計2014年」都道府県別・月別から伊香賀先生が分析グラフ化

冬に死亡者が増える理由としては、冬の寒さによって血圧が上昇し、高血圧性疾患のリスクが増えることがまず挙げられます。さらに寒さは、肺の抵抗を弱らせて肺感染症リスクを高めたり、血液を濃化することで冠状動脈血栓症リスクを増加させます。

しかし上記グラフから、冬の寒さに起因するこれらの3大リスクを、住宅の室温が高い「温かい家」なら抑えられると推測できるのです。

室温を18度に上げると生活習慣病が改善される

国土交通省は先述の調査に加え、「住宅の断熱性能を高めたら健康的になれるのか?」の継続調査や研究を行いました。伊香賀先生を含む建築と医療の研究者80名のチームは「断熱等級1~2の住宅を断熱改修(リフォーム)によって断熱等級3~4にすると、居住者の健康にどう影響するのか」を調査。すると「まだサンプル数が不足しているので、医学論文には出せませんが」としながらも「生活“習慣”病は生活“環境”病だと言い得る」ということがわかったと言います。

では、その具体的な結果を見ていきましょう。まずは「高血圧症のリスク」についてです。

一般的に寒いと血圧は高くなり、また高齢者ほど高血圧になります。高血圧症は脳梗塞などの脳血管障害や心臓病、腎臓病、動脈硬化を引き起こす要因になります。朝起きた時の室温と「血圧」との関係は下記の通りで、80歳の男性の場合、室温20度ではまだ薬が必要なほど高血圧の状態です。

・朝起きたときの室温と血圧の関係

朝起きたときの室温と血圧の関係

室温が寒い&年齢が高いほど血圧が高いことがわかります。80歳の男性の場合、室温20度でも血圧が140mmHg近くです。
出典:伊香賀先生の資料より、JSH2014(日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2014)

「これが住宅の断熱改修をすると、血圧が平均で3.1mmHg低下するとわかったのです。厚生労働省は国民の健康のために血圧を4mmHg下げる数値目標を掲げていますが(健康日本21(第二次))、食事の工夫や運動といった生活習慣を改めなくても、住宅の断熱改修を高めるだけで目標の約8割を達成できまることになります」

さらに「脂質異常症の発症を抑制する」面でも断熱改修の効果が現れました。脂質異常症とは、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態のこと。いわゆる悪玉コレステロールや中性脂肪などの血中濃度が異常だという状態です。

この脂質異常症の発症を改修前と改修から5年後に調査したところ、居住者の脂質異常症の発症するオッズ(発症した人の数を発症していない人で割って得られる値。数値が小さいほど発症が起きにくいことを示す)が約0.3倍(約7割減)まで下がったのです。

・コレステロール値と室温の関係

レステロール値と室温の関係

上記の通り、温かい寝室で過ごしている人ほど脂質異常症を発症するオッズが減ります(伊香賀先生の資料より)

私たちは高血圧症や循環器疾患という「生活習慣病」は食生活を見直して、適度な運動をし、飲酒や喫煙を抑え、十分休養することで改善できると考えてきました。しかし上記の伊香賀先生たちの調査によって、そういった日頃の摂生だけではなく、暮らしの環境を整えるだけでもこうした病気のリスクを減らすことができるというわけです。伊香賀先生が「生活習慣病は生活環境病でもある」と唱える意味がわかると思います。

・高血圧・循環器疾患は生活環境病でもある

高血圧・循環器疾患は生活環境病でもある

(伊香賀先生の資料より)

日本で断熱意識が欠落していた理由とは?

実は以前から欧米では、健康に対する住宅の重要性を説いていた、と伊香賀先生は言います。だからこそ先述の通りWHOの勧告があり、イギリスや、歴史的にイギリスと関係の深いニュージーランドで住宅に対する施策が行われたのです。

では、なぜ日本ではこれまで、欧米のような住宅の高断熱化に関心が集まらなかったのでしょうか。

その理由は、今から約700年前の1330年代に書かれた『徒然草』にもあるように、日本の住宅は昔から、夏の気温や湿度を重視して建てられてきたからです。徒然草には「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる」とあります。少なくとも700年も前から日本人は「家は夏の暑さに対してなんとかすれば、冬はなんとでもなる」という考えが“当たり前”だったと考えられます。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

一方イギリスでは、19世紀にナイチンゲールが活躍していました。彼女は「どうすれば病気に罹らないか」「どうすれば病気から快復させることができるか」といったことをまとめた『看護覚え書』を1860年に刊行します。同書は全13章で構成されているのですが、その第一章は「換気と暖房」。冒頭からもう、温かい環境について言及しています。しかも13章中、実に半分以上の7章が生活環境、つまり住宅にも関係することです。イギリスで国民の健康政策に住宅が含まれるのは、この『看護覚え書』の考えが影響しているのは想像に難くありません。

・ナイチンゲールの看護覚え書

ナイチンゲールの看護覚え書

第一章以外にも「きれいな空気や水」「物音」「よい環境の変化」「陽光」など、暮らしの環境について言及されていますが、それらを押さえて最初にナイチンゲールが伝えたかったのが「換気と暖房」だと言えるのではないでしょうか(伊香賀先生の資料より)

ですから冒頭で触れたように、日本でもしナイチンゲールが活躍していたら、日本の住宅は断熱性能が高くなり、それによって生活習慣病が今よりも抑えられていたかもしれない、というわけです。

室温を18度に上げると老若男女問わず健康的に暮らせる

WHOが強く推奨する「室温を18度以上」にすると、伊香賀先生たちの調査の通り、血圧の上昇や脂質異常症の発症を抑えやすくなります。しかしそれ以外にも健康に資することが調査でわかってきました。いずれも「まだ調査のサンプル数が足りないので、医学論文にできるほどではない」のですが、それでも住宅の室温と健康の密接な関係が見えます。

例えば「夜間頻尿」。夜中にトイレに何度も起きると眠りが浅くなり、翌日に疲労感が残りがちですが、断熱改修した5年後には夜間頻尿の発症が0.42倍(約6割減)に抑えられました。夜間頻尿は高齢になるほど増えると言われていますが、調査は改修前と改修の5年後。ですから、対象者は調査期間中に5つ歳を重ねたことになります。それでも夜間頻尿を抑えられたのです。

夜間頻尿発症モデル

就寝前室温18℃以上で5年後の夜間頻尿発症が 0.4倍に(伊香賀先生の資料より)

続いて「つまずき」が減ることもわかりました。65歳以上の高齢者にとって「つまずき」を含む「転倒・転落・墜落」は、不慮の事故による死因の中で交通事故の4倍(令和2年度)にものぼる死因です。しかし、これも断熱改修の5年後には0.5倍(約5割減)に低減されています。「その理由は足元の温度です。室温が18度以上になると、足元は少なくとも16度以上になりますから、足首などの血流がよくなり、つまずきが減るのだと考えられます」

暖かい住宅で5年後のつまずき・転倒が0.5倍

(伊香賀先生の資料より)

室温18度以上の「温かい家」では、高齢者だけでなく、子どもや女性も健康的になるようです。まず風邪をひく子どもが約0.64倍(約4割減)に、病欠も約0.76倍(約3割減)になるという結果が現れました。また女性では月経前症候群(PMS)が0.7倍(約3割減)に減り、月経痛は約0.5倍(約5割減)に。

暖かな住まいでは風邪をひく子どもが約0.64倍、病欠する子どもが約0.8倍

(伊香賀先生の資料より)

さらに、こんな実験も行われました。断熱等級2と4、6の3つに分けた部屋でそれぞれエアコンを使い、まず室温を18度にします。その上で各部屋の被験者に単純な計算等をしてもらったところ、断熱等級6の部屋の被験者が最も正解率が高いとわかりました。これは断熱等級が低いと室温を18度にしても、足元が寒くなり、足の血流が悪くなることが正解率に影響を与えたと考えられます。「つまり在宅ワークにも、住宅の断熱性能は欠かせないということです」

このように自宅を「寒い家」から「温かい家」に改修するだけで、格段に健康的に暮らせるのです。もちろん断熱性能が高まれば、今夏のような暑さの中でも我が家に逃げ込めば快適に過ごせます。

ちなみに、先ほどの断熱等級2/4/6に分けた実験では、それぞれの部屋の冬の電気代(エアコン)も試算されました。それによると断熱等級2が2万8000円だったのに対し、断熱等級4は1万3000円、断熱等級6は7000円。我が家の断熱性能を高めれば光熱費を抑えられて、仕事がはかどり、しかも健康的に暮らせるというわけです。
この冬、こたつや暖房の効いたリビングに家族で集まった折に、我が家の断熱性能について話し合ってみてはいかがでしょうか。

●取材協力
慶應義塾大学 理工学部 教授
日本建築学会 前副会長
伊香賀 俊治(いかが・としはる)先生
1959年東京生まれ。1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了。(株)日建設計環境計画室長、東京大学助教授を経て、2006年慶應義塾大学理工学部教授に就任、現在に至る。日本学術会議連携会員、日本建築学会副会長、日本LCA学会副会長を歴任。主な研究課題は『住環境が脳・循環器・呼吸器・運動器に及ぼす影響実測と疾病・介護予防便益評価』。著書に『すこやかに住まう、すこやかに生きる、ゆすはら健康長寿の里づくりプロジェクト』『”生活環境病”による不本意な老後を回避するー幸齢住宅読本ー』など。

●関連ページ
WHO Housing and health guidelines

“暖房をつけても寒い”は家に問題が! 解決策は「住まいの温活」

寒さが本格化するこの季節。思わず暖房をガンガン効かせたくなるけど、光熱費がかさむし、地球にも優しくない。そこで考えたいのが、住まいそのものを寒さから守ること。外の寒さを閉め出し、暖かさを逃さない家にする「住まいの温活」の方法について、断熱リフォームからDIYの方法まで、旭ファイバーグラス株式会社渉外技術担当部長の布井 洋二さんに話を聞いた。
暖房しても寒いのは、暖房の熱が外に逃げているから

冬、家の中を暖房しても寒いのは、なぜだろうか? それは、暖房の熱が外に逃げてしまうから。一戸建ての場合、暖房の熱は、窓などの開口部や外壁、床や屋根から失われてしまい、特に開口部からの流失は58%に上るというデータもある。せっかく暖房をつけても、窓や壁、床や屋根から、暖かさが逃げてしまうのだ。

では、どんな家なら、熱を外に逃さないのか。よく言われるのは、「家全体をくるむように断熱する」ということ。気密性を高め、隙間なく断熱することで、熱に逃げる隙を与えないのだ。そこで、開口部や壁、床、屋根など、外気に面していたり、土と接していたりする部分ごとに断熱を施すことになる。

すでに住んでいる家でも、断熱材を追加で施工したり、窓を替えたりする「断熱リフォーム」によって、断熱性能をアップすることは可能。一戸建て、マンションそれぞれについて、その方法を布井さんに聞いてみた。

冬、外気がマイナス2.6度のとき、18度に暖房した部屋から外に逃げていく熱の割合は、開口部(窓)が58%と最大。外壁や換気による流失が15%ずつあり、床や屋根からも熱が失われている(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

冬、外気がマイナス2.6度のとき、18度に暖房した部屋から外に逃げていく熱の割合は、開口部(窓)が58%と最大。外壁や換気による流失が15%ずつあり、床や屋根からも熱が失われている(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

2月の東京で、断熱材なしの一戸建てと断熱材100mmを施工した一戸建て(ともに窓は無断熱・単板ガラス)を設定20度で暖房した場合を比べると、断熱材なしのケースでは1日に逃げる熱の合計が断熱したときの約3倍だ(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

2月の東京で、断熱材なしの一戸建てと断熱材100mmを施工した一戸建て(ともに窓は無断熱・単板ガラス)を設定20度で暖房した場合を比べると、断熱材なしのケースでは1日に逃げる熱の合計が断熱したときの約3倍だ(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

一戸建ての断熱リフォーム費は数十万円から数百万円程度に

まず、一戸建て。簡易な方法としては、1.最下階の床下に断熱材を施工する「床断熱」、2.天井裏から吹込み断熱施工を行う「天井断熱」、3.内側、あるいは外側から断熱材を施工する「壁断熱」、4.今の窓の内側に内窓を設置することによる「窓の断熱」、この4つの部位の断熱が挙げられる。

このうち、床(最下階床)、天井、壁(外壁)それぞれを断熱リフォームした場合の費用の目安は下図の試算例が参考になる。昭和55年省エネルギー基準世代の築25~20年前後、床面積135平米の一戸建ての場合、天井にグラスウールを吹込み断熱する「天井断熱」だと1棟36万円。最下階の床下にグラスウールを充填すると「床断熱」だと同101万円、外壁に外側から断熱材を張り付ける外張付加断熱工法による「壁断熱」だと同387万円となっている。

「壁の断熱については、内張断熱工法も。断熱材にもよりますが、1平米あたり2万~5万円ほどかかるようです。得られる断熱性能は今の省エネ基準以下となるケースが多いでしょう」(布井さん)

窓の断熱にかかる費用は、内側に設置する内窓次第。標準的な掃き出し窓の場合、一間分に複層ガラス(数枚の板ガラスの間に乾燥空気やガスなどが封入された窓)を取り付けると、材料費・工事費で6万円台。腰高窓の場合は、3万円台が目安となる(いずれも取り付けや進入に障害がなかった場合)。例えば、1階の掃き出し窓二間分と腰高窓二間分、2階の掃き出し窓二間分と腰高窓五間分に内窓を設置するなら、トータル約50万円という計算だ。

「さらに念入りに断熱するなら、部位ごとの断熱を組み合わせます。例えば、1階のLDKに床断熱と窓の断熱を、2階の寝室に天井と窓の断熱を施す、といった具合です。さらに大掛かりなものとなると、建具や仕上材をはがしてから行うスケルトンリフォームしかないと思われますが、廃棄物の処理を含めてかなりの高額に。規模にもよりますが、一戸建てを新築するよりも数百万円安いくらいの金額、つまり1000万円を超えるレベルでないと、工事を引き受けるリフォーム会社はないように思われます」(布井さん)

(出典:「住宅・すまいweb 環境とすまい・まち」断熱改修のすすめ・戸建住宅編 (社) 住宅生産団体連合会、(株)岩村アトリエ/一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

(出典:「住宅・すまいweb 環境とすまい・まち」断熱改修のすすめ・戸建住宅編 (社)
住宅生産団体連合会、(株)岩村アトリエ/一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

〈試算条件〉
築25~20年前後の住宅モデル
1982~1991年(昭和55年省エネルギー基準世代)
延床面積:135平米(1階:80平米 、2階:55平米 )
改修費用:平米単価(消費税別)および1棟あたりの費用(消費税込み)を算出
〈年代相応の断熱仕様(リフォーム前)〉
天井:グラスウール10K 50mm
外壁:グラスウール10K 50mm
開口部:アルミサッシ+単板ガラス
床:押出法ポリスチレンフォーム保温板1種 20mm
(*平成25年省エネ基準の6地域を想定)

高断熱住宅なら、エアコン1~2台で十分な暖かさが得られる

次に、マンション。簡易なやり方としては、一戸建てと同様、1.外に面している壁を内側から断熱する内張断熱工法による「壁断熱」、2.今の窓の内側に内窓を設置することによる「窓の断熱」がある。窓の断熱については、一戸建てと同程度と考えられるだろう。

「大掛かりな断熱リフォームは、大規模修繕と併せて実施するケースが多く、屋上断熱防水工事や、妻壁(建物の短い方の辺の壁)の外断熱改修などを、マンション全体で行うことになります」(布井さん)

なお、一戸建て・マンションのいずれのリフォームでも、床暖房を設置することは少なくない。床暖房の設置も、住まいの「温活」の手段となり得るだろうか?

「床暖房も一つの手段です。ただし、断熱性能や気密性能が十分でないと、効果は限定的。床の表面温度だけが上がっても、隙間から冷気流を感じたり、窓や壁の表面温度が低いままだと、冷放射を受けて寒く感じてしまうからです。また、床暖房の下側を断熱していないと、せっかくの熱が基礎や地盤面に奪われてしまい、非効率。光熱費もかさんでしまいます」(布井さん)

加えて、HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)が定める断熱性能基準「G2」、などの高断熱住宅で、冬季に昼間の日射が期待できる場合は、ごくわずかの暖房エネルギーでまかなえるので、床暖房がなくても十分温かいケースもあり得るとのこと。また、「G2」よりワンランク下の「G1」クラスや省エネ基準レベルの住宅の場合、エアコンを併用する形で床暖房を用いるケースも多いが、前述の「G2」以上の断熱性能があれば、容量の小さなエアコン1~2台だけ(床下エアコンも含む)あれば、床暖房がなくても十分なケースも多いそう。もちろん、プランや周りの状況によるということだが。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

リフォームしなくても手軽なDIYによる“セルフ温活”が可能

「断熱リフォームに効果があることは分かったけど、とてもそこまではできない」という場合は、ちょっとした工夫や自分でできるプチDIYを試してみよう。

「家の中で一番、熱の逃げ道となっている『窓』の対策が効果的です。例えば、緩衝材の『プチプチ』や、中空のポリカーボネート板を窓ガラスや窓枠の内側に張るといったやり方があります。ただし、見栄えが悪く、気密性の向上も望めないので、効果は限定的。気密性を高めるためには、パッキンなどの交換も効果がありますが、自分でやるのは難しいかもしれません」(布井さん)

カーテンを厚手のものや遮熱カーテンに替えるといった方法も。また、床にホットカーペットやラグを敷いたり、フローリングに薄手の畳を載せることでも、暖かさを体感できる。ドアの隙間に張る隙間テープで冷気流を防ぐこともできるが、この場合は、換気のためにドアの下の部分を欠き取る『アンダーカット』が施されていることもあるので要注意。手間や材料費、見た目の悪さなどのデメリットも検討した上で、効果的なやり方をぜひ上手に暮らしに取り入れたい。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

中空ポリカーボネート板や「プチプチ」は、ホームセンターなどで手に入る(写真/PIXTA)

中空ポリカーボネート板や「プチプチ」は、ホームセンターなどで手に入る(写真/PIXTA)

高断熱リフォームなら次世代ポイント制度の対象になる

これから住宅を購入しようという人なら、あらかじめ高断熱の住まいを選ぶのも「温活」のひとつかもしれない。

「日本では、高断熱住宅であることの公的な認定制度は、『BELS』や省エネ基準レベルの断熱性能が最高等級の『住宅性能表示』しかありません。ただ、外皮性能(室内から屋外に逃げる熱の量の合計を、外壁や屋根など外皮の面積で割って算出した値。UA値)の良さは、一つの目安にはなると思います。公的ではありませんが、HEAT20の『G1』『G2』や、ほぼ同じレベルの外皮性能の必要なZEHの『強化外皮基準』『更なる強化外皮基準』などが参考になるでしょう。また『BELS』では、『外皮基準』として外皮性能(UA値)の数値も表示されているので、その数値が自分の地域のHEAT20のG1・G2レベル相当かどうかを比較するのも良いでしょう」(布井さん)

2019年10月の消費税率引き上げに伴い、一定の省エネ性能を満たす住宅の新築やリフォームに対して、さまざまな商品と交換できるポイントを発行する「次世代住宅ポイント」制度もスタートしている。「長期優良住宅」「ZEH」などの認定住宅など一定の条件を満たした新築住宅を購入した場合に加えて、リフォームで「開口部の断熱改修」「外壁、屋根・天井または床の断熱改修」を行った場合も対象に。期限があるので、利用を希望するなら、早めの検討・着手が必要だ。

「温活」した高断熱住宅で得られる自然な暖かさ

「住まいの温活」は、家の中を暖かくて居心地の良い空間にするだけでなく、室内の温度差を解消してヒートショックを防いだり、光熱費が節約できたりといったメリットもあるし、夏の暑さも和らげてくれる。
「ただし、こうしたメリットを享受するには、断熱性だけでなく、気密性も高める必要があります。隙間があり、気密性の低い家は、まるで穴の空いたセーターや布団のようなものですから」(布井さん)。
だからこそ、断熱性とセットで気密性の高い住宅の暖かさは格別なのだという。
「HEAT20の『G2』クラス相当かそれ以上の家を訪れると、暖かさを実感するというよりも、ふんわりとした暖かさのおかげで、暖かさ自体を忘れてしまいます。高断熱の家とはそんな空間なのです」(布井さん)
 
布井さんは、HEAT20のサポート委員として、日本の住宅の方向性を示す取り組みにかかわっている。
「省エネ性能に優れた住宅の生産を促す『トップランナー』制度の対象拡大や、省エネ基準の説明の義務化により、これからは、省エネ基準が、最低限、満たすべきレベルとなりますが、このレベルだと、家の中で部分的に暖房を付けたり消したりする程度では、暖房していない空間はかなり低温になり、ヒートショックなどのリスクは残ります。一方、HEAT20の『G2』クラスの断熱性能を備えた住宅は、わずかな光熱費で全館暖房が可能になるので、家の中の温度差が小さく、健康的で快適な空間に。断熱リフォームを行うのであれば、ぜひ『G2』レベルを目指していただきたいですね」という布井さんのメッセージでこの記事を締めくくりたい。

●参考サイト
HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)
次世代住宅ポイント

ハイスペックなエコハウスが並ぶ「山形エコタウン前明石」誕生! 全棟トリプルガラス搭載

JR山形駅から東へ車で20分ほど山形市の郊外に、新たに土地一区画が約210~260平米弱の建売住宅地の開発が進められている。名称は「山形エコタウン前明石」といい、その名の通り、エコを重視した住宅地である。東北芸術工科大学(山形市)と地元デベロッパーの荒正(山形市)、そして、アウトドアブランドのスノーピーク(新潟県三条市)がタッグを組んで立ち上げた。1棟の価格は3600万円台~4100万円台、間取りは3種類だ。6月末の暑い日、筆者は現地の見学会に訪れた。
エアコン1台で1年中、快適な室温をキープ

「山形エコタウン前明石」の大きな特徴はまず、全19区画に建つ予定の建売住宅が、すべてハイスペック・エコハウスであることだ。室内の温熱環境を保つため、外・内断熱を施し、窓にはペアガラスどころかなんとトリプルガラスの樹脂サッシを採用している。これは、今回採用した「ファース工法」に基づくもの。建物を高気密・高断熱に仕立て、小屋裏に取り付けたエアコン1台で、壁内から床下まで一定の温度の空気を循環させて、1年中、快適な室温を保つシステムである。北海道を拠点とする工務店が特許を取得している工法だ。建物の基本設計は東北芸術工科大学、実施設計はエネルギーまちづくり社(東京都)が担当した。

また、全住宅とも省エネルギーを目指し、自然冷媒ヒートポンプ給湯機、太陽光発電システムといった設備を標準搭載。ちなみに、年間の冷暖房の消費電力料金は約6万8000円と、山形県の平均的な料金の5割程度だという。この設備のみで、冬は半そでで過ごせるほど家全体が暖かく、夏は適度な涼しさを保てる。

「これは、HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)が設定する、G2グレードをクリアしています」と、当住宅地の企画に関わった、東北芸術工科大学の教授であり建築家の竹内昌義氏は話す。
そもそも寒冷な山形県では、室内の温度変化で急激な血液低下を起こす「ヒートショック」で入浴中に亡くなる人が交通事故死よりも多く、2016年度には200人以上だった。こうした事情を問題視した県では、「やまがた健康住宅」という定義をつくり、住宅の高気密・高断熱化を推奨・サポートしている。

小屋裏の様子。高性能エアコンと熱交換式換気扇のほか壁内などに適温を送り込むダクトがある(写真撮影/介川亜紀)

小屋裏の様子。高性能エアコンと熱交換式換気扇のほか壁内などに適温を送り込むダクトがある(写真撮影/介川亜紀)

室温や気温を確認できるパネルをリビングに設置(写真撮影/Isao Negishi)

室温や気温を確認できるパネルをリビングに設置(写真撮影/Isao Negishi)

高気密・高断熱に徹したから実現した、大きな窓と広々した間取り

こうした高気密・高断熱住宅を設計する際に課題となるのが、住宅の開放感だ。延べ床面積は94.67~125.86平米と、都市部に比べ住宅が広い傾向にあるこのエリアとしては比較的コンパクト。室内の温かさは開口部から逃げるので、それを防ぐために、通常であればどうしても窓は小さくせざるを得ない。そこで、ここの建売住宅は、断熱性の高いトリプルガラスを採用することで、開口部を大きく取った。そのため、外の景色が見渡せるようになり、視覚的に広がりが増した。

また、間取りにも工夫して開放感を加えた。間取りは「吹き抜けのある家」「土間のある家」「デッキテラスのある家」の3種類。いずれも間仕切り壁を最小限にしたほか、1階玄関をリビングダイニングと一体化させた土間にする、1階から2階まで吹抜けにするなどだ。
とはいえ、こうした間取りがすんなりと決まったわけではない。「デッキテラスのある家」は2階にリビングダイニングを設け、そうした家族がくつろぐスペースからの眺望の良さと開放感が売りだ。首都圏では人気でも、ここ山形県では事情が異なった。

「リビングダイニングは1階にあること、また、部屋数が多い住宅のほうが売れます。ところが、竹内さんから提案された間取りのひとつは、2階にリビングダイニングのみがある。お客様の反応が不安でした」と、荒正の代表取締役、須田和雄氏は思い返す。
しかし、オープンハウスに訪れた30代夫婦に感想を聞くと、「リビングは1階にあるのが当たり前だと思っていましたが、実際にモデルハウスに入ってみると(日常生活に不自由はなさそうで)違和感はありませんでした」という答えが返ってきた。

1階のLDKからデッキにつながり、玄関が5.9畳の土間になっている住棟(写真撮影/介川亜紀)

1階のLDKからデッキにつながり、玄関が5.9畳の土間になっている住棟(写真撮影/介川亜紀)

土間の様子。カーポートから直結している(写真撮影/介川亜紀)

土間の様子。カーポートから直結している(写真撮影/介川亜紀)

2階にLDKを配置した住棟。この掃き出し窓からも大型のデッキが連続する(写真撮影/介川亜紀)

2階にLDKを配置した住棟。この掃き出し窓からも大型のデッキが連続する(写真撮影/介川亜紀)

デッキ部分。ホームパーティーが楽しめる広さ(写真撮影/Isao Negishi)

デッキ部分。ホームパーティーが楽しめる広さ(写真撮影/Isao Negishi)

緑豊かなランドスケープ、アウトドアリビングでコミュニティ形成を狙う

もうひとつの特長は、全体のランドスケープだ。敷地の境界線上は住民が誰でも散歩できるように、幅90cmの遊歩道になる。その中のいくつかの場所には、住民が自由に使えるベンチや井戸を配する予定だ。また、それぞれの住宅は塀などで囲まず、いくつかの箇所に常緑樹のシラカシや四季を感じられる樹木を植えて緩くゾーニングするのみだ。それぞれの庭はアウトドアリビングである。バーベキューグリルなどのアウトドア用品を置き、思い思いに楽しむ。
そのうちに、各住宅の草木が茂って住宅地全体が緑で一体化し、それぞれのアウトドアの楽しみも隣家同士でつながっていく。その姿に象徴されるように、徐々にコミュニティが形成されていくことを企画者たちはイメージしている。「室内が暖かいとかえって外に出るようになるのではないでしょうか。アウトドアの仕掛けがあればなおさらです」(竹内氏)

こうしたエコハウスにバーベキューなどアウトドアの楽しみを組み合わせる提案をしたのは、スノーピークである。同社営業本部東日本事業創造部シニアマネージャーの吉野真紀夫氏はこう話す。「オール電化も重要ですが、高性能な住宅に住みつつ、昔からの自然な火を囲む暮らしも目指したいと考えました」
山形では、仲間が集まり、屋外でサトイモの鍋を煮炊きする「芋煮会」という慣習があり、アウトドアに抵抗がないという声もあったようだ。

完成後のイメージパース。住棟が緑に囲まれ庭や通りで住人が交流している(資料提供/荒正)

完成後のイメージパース。住棟が緑に囲まれ庭や通りで住人が交流している(資料提供/荒正)

完成後の街並みの模型。住棟の間には塀などがなく、住宅地全体がゆるくつながる(写真撮影/介川亜紀)

完成後の街並みの模型。住棟の間には塀などがなく、住宅地全体がゆるくつながる(写真撮影/介川亜紀)

住棟の間には歩道をつくる。これに沿って植栽が計画されている(写真撮影/介川亜紀)

住棟の間には歩道をつくる。これに沿って植栽が計画されている(写真撮影/介川亜紀)

岩手県の注目住宅地、「オガールタウン日詰二十一区」がヒントに

そもそも、なぜ、このような建売の高気密・高断熱のエコハウスと、緑豊かなランドスケープが融合した“ハイスペック”な住宅地がここに誕生することになったのだろうか。

きっかけは3年前に遡る。地主から相談を受け、現住宅地の敷地を荒正が購入する運びとなった。そこは市街化調整区域であり、当時は住宅地として開発することはできなかった。実際に着手したのは、市街地調整区域の開発要件が緩和された後の2018年のことだ。
しかし、すでに敷地購入当初から、荒正の須田氏は建売の住宅地として展開する計画を想定していたのだという。駅から遠く、利便性が優れているとはいえない場所であるからこそ、確実に販売するため、近隣の住宅地より明らかにエッジが立っている住宅地にしたいと考えた。
その具体的なコンテンツのひとつが、建売の住宅をハイスペックなエコハウスに仕立てること。そこで、東北芸術工科大学の竹内氏にアドバイスを求め、企画を進めた。もうひとつが緑豊かなランドスケープだ。「一昨年訪れた、岩手県紫波町にある『オガールタウン日詰二十一区』を見て“これだ!”と感じた。緑に囲まれた、まるで公園のような心地よさをもつエコハウスの住宅地でした」と須田氏。
紫波町を訪れたときの縁で、ランドスケープやアウトドアをキーに住民のコミュニティ形成をデザインする、スノーピークの合流も決まった。

「オガールタウン」の様子。「オガールタウン日詰二十一区」は町役場そばにある56区画の住宅地(写真撮影/エネルギーまちづくり社)

「オガールタウン」の様子。「オガールタウン日詰二十一区」は町役場そばにある56区画の住宅地(写真撮影/エネルギーまちづくり社)

すでに購入手続きに入った30代の3人家族に、当住宅地の気に入ったポイントを聞いてみると、「居住中の賃貸マンションは、夏は暑くて冬は寒く、結露が原因でカビも生えます。このエコハウスは(断熱性が高く)そういう悩みは少ないのかもしれません。今よりランニングコストが抑えられるのはいい」「スノーピークのアウトドアグッズはおしゃれなイメージ。庭や周囲の散歩道にあるならぜひ使ってみたい」「コストパフォーマンス重視の住宅でなくていい」といった回答だった。

この住宅地に同じように魅力を感じる、住環境への価値観が近い居住者がこれから集ってくるだろう。そこから生まれる新たなつながりで、この住宅地のコミュニティやランドスケープ、もしかすると住宅も独自の変化を遂げていくのではないか。全住棟に居住者がそろった1年後、2年後にまた取材に訪れたい。
(構成・文/介川 亜紀)

●取材協力
・東北芸術工科大学
・スノーピーク
・荒正
・ファース工法
・エネルギーまちづくり社

知られざる危険「ヒートショック」とは? 香川、兵庫、滋賀がワースト3

死者は年間1万9000人にものぼるというのに、アンケートをとると「よく知らない」と答える人が約半数――。身近なのにあまり知られていない危険が「ヒートショック」です。今回はそんな「ヒートショック」が起きる原因ともいえる「室内温度差」を体験できる施設を訪問。その対策を探ってきました。
冬は家でも寒いのが当たり前? それが命取りになるかも!

そもそも、「ヒートショック」という言葉そのものはニュースなどで耳にしたことがある人も多いことでしょう。お風呂やトイレなど、家の中の急激な温度差より、血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象をいいます。ただ、アンケート調査によるとこのヒートショックを「よく知らない」という人は約半数、危険だと思わない人は約8割にものぼります(※1)。つまり、なんとなく知っているけど、「ひとごと」だと思われているのです。

実はこのヒートショックによる浴室での死亡事故は年々増加傾向にあり、昨年は1万9000人もの方が亡くなっています。また、発生している県でいうと、香川、兵庫、滋賀がワースト3になり、ついで東京、和歌山という結果もあります(※2)。一方で、寒い北海道は沖縄についで死者数が少ないという結果に。

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「北海道では、住まいの断熱性能が高く全館暖房が普及しており、バス・トイレも含めてどの部屋も均一にあたたまるようにしています。一方で、関東、近畿エリアでは、夏暑く、冬寒い。こうした過酷な気候条件のわりには住まいの断熱性能が高くないため、浴槽内でのヒートショック現象が比較的多く起きるのではないか、と考えられています」と話すのはLIXIL LHT営業本部 営業推進部の古溝洋明さん(以下同)。
 
「ただ単に、『ヒートショックが起きています』『断熱性や部屋間の温度差が大事なんです』と言葉で言っても、なかなか伝わらないんです。そこで、われわれは実際に『部屋の温度差』を体感していただける『住まいStudio』というショールームをつくり、多くの人に体験してもらっているのです」と言います。確かに論より証拠です、さっそく体験しに行ってみましょう。

エアコン設定温度、部屋の広さなどは同一条件なのに、室温には大きな差が

ショールームに設置されているのは、昔の家(昭和55年省エネ基準)と今の家(平成28年省エネ基準)、これからの家(HEAT20 G2グレード※)、の3タイプ。広さや間取り、エアコンの設定温度、外気温はすべて同じという条件で、室温がどう違うのかを体感します。
※HEAT20=「2020年を見据えた住宅の高断熱技術開発委員会」

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

「まず、体感してもらうのが、昔の家です。日本にある家のうち、約75%がこの基準以下だと言われています。エアコンの設定温度は20度で、部屋中心部は20度ですが、床の温度は16度です」。確かに寒く、足先が冷えるのがよく分かります。また、何より窓際がひんやり。寒いのが苦手な筆者は窓に近寄りたくありません。

さらに、扉で仕切られた隣の部屋(脱衣所とトイレの設定)はなおのこと冷えがきつく、「この寒さ、知っている。アレだ、実家だ……!」と思い出します。温度計は9度で、これだけで10度近い温度差に。そういえば、こうした寒さを活用し、「ビールを冷やす」「みかんやりんごを置いておく」「ケーキを置いておく」など天然の冷蔵庫としている家庭も多いことでしょう。

この寒さで、昔は「しもやけ」になっている子どももいましたよね(ご存じでしょうか……)。何より寒いので動くのがおっくうになりますし、エアコンの暖房で頭のまわりはむわむわしているのに、足元は冷え冷えとしているのも不快です。

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

「次に体感していただくのが、今の家です。床の温度は17.9度。だいぶ暖房が効いているのを実感できるのではないでしょうか。サーモカメラでも、だいぶ緑の部分が見えてきたと思います」。確かに、窓際も先ほどの部屋ほどは寒くは感じません。それでも、足先は冷えるので「満足か」と聞かれると「う~ん、でもちょっと寒いよね」というのが正直な感想です。ましてや隣室の脱衣所・トイレの寒さは、昔の家よりもちょいマシという程度で、「うーさぶい。トイレ行くの、めんどくさいな~」と生活している様子が目に浮かびます。

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

「最後がこれからの家です。これくらいの断熱性能を目指したいよね、という住まいです。ここでやっと床の温度が20度になり、冷えを感じにくくなるのではないでしょうか。また隣室の暖房をしていないトイレや脱衣場との温度差も5度以内におさまり、人が『不快』と感じにくくなくなります」

確かにスリッパなしでも歩けるようになるし、温かくて心地よくなります。また、試算(※3)では、昔の家では約2万8000円の光熱費がかかるのに対し、今の家では約1万3000円、これからの家では約7000円と約1/4になるのも驚きです。省エネになるので、地球環境にもやさしくなります。

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

室温が健康に与える影響は大きい。体験すると印象は大きく変わる

この「住まいStudio」は誕生してから約1年超が経過しますが、月間約1000人が訪れ、体感すると大きな変化があるといいます。

「正直なところ、はじめはみなさん、あまり期待されていらっしゃらないようなのですが、『体験するうちにこれが快適な温度なんだな』と納得されていますね。特に女性は、当初はキッチンや間取りに注目されているのですが、体感後は『家は断熱! 温度差はないほうがいい!』という方が多いですね」といいますが、まったく同感です。

実は筆者、40代に入り高血圧と診断され、寒いと血圧が上がるようになりました。いわばヒートショックになりやすい「予備軍」なので、ひとごとではありません。では、今からできる対策はどのようなものがあるのでしょうか。

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

「部屋間の温度差をなくすには、建物そのものの気密・断熱性を高める必要があります。ただ、こうした性能は、住んでから改修するのは難しいもの。これから住まいを建てる方に関しては、こうした気密・断熱性能に注目し、検討してほしいですね」

ただ、日本にある家の多くは「昔の家」と同じ水準かそれ以下の断熱性能になります。

「今ある住まいに関しては、開口部、つまり窓の断熱性能を高めるリフォームで対策できます。内窓を追加する、今ある窓をハイブリッド窓にするといったリフォームでも、断熱性は大きく向上します。また、脱衣所や浴室の断熱性を高めるリフォームも比較的かんたんな工事で行えます」

今回、部屋内の温度差を体験してみて、もしかしたら温度差は想像以上に私たちの健康を害しているのかもしれないな、と思いました。「冬は寒いのは当たり前」「がまんすれば大丈夫」と思い込む前に、今一度、住まいの温度についても考えてみてほしいと思います。

●取材協力
LIXIL 快適暮らし体験 住まいStudio
※1 STOP!ヒートショック 東京ガス都市生活研究所 
※2 東京都健康長寿医療センター研究所
※3 試算=studio各部屋を12/1~3/31の暖房期間にエアコン暖房した場合の電気代

知られざる危険「ヒートショック」とは? 香川、兵庫、滋賀がワースト3

死者は年間1万9000人にものぼるというのに、アンケートをとると「よく知らない」と答える人が約半数――。身近なのにあまり知られていない危険が「ヒートショック」です。今回はそんな「ヒートショック」が起きる原因ともいえる「室内温度差」を体験できる施設を訪問。その対策を探ってきました。
冬は家でも寒いのが当たり前? それが命取りになるかも!

そもそも、「ヒートショック」という言葉そのものはニュースなどで耳にしたことがある人も多いことでしょう。お風呂やトイレなど、家の中の急激な温度差より、血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象をいいます。ただ、アンケート調査によるとこのヒートショックを「よく知らない」という人は約半数、危険だと思わない人は約8割にものぼります(※1)。つまり、なんとなく知っているけど、「ひとごと」だと思われているのです。

実はこのヒートショックによる浴室での死亡事故は年々増加傾向にあり、昨年は1万9000人もの方が亡くなっています。また、発生している県でいうと、香川、兵庫、滋賀がワースト3になり、ついで東京、和歌山という結果もあります(※2)。一方で、寒い北海道は沖縄についで死者数が少ないという結果に。

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「北海道では、住まいの断熱性能が高く全館暖房が普及しており、バス・トイレも含めてどの部屋も均一にあたたまるようにしています。一方で、関東、近畿エリアでは、夏暑く、冬寒い。こうした過酷な気候条件のわりには住まいの断熱性能が高くないため、浴槽内でのヒートショック現象が比較的多く起きるのではないか、と考えられています」と話すのはLIXIL LHT営業本部 営業推進部の古溝洋明さん(以下同)。
 
「ただ単に、『ヒートショックが起きています』『断熱性や部屋間の温度差が大事なんです』と言葉で言っても、なかなか伝わらないんです。そこで、われわれは実際に『部屋の温度差』を体感していただける『住まいStudio』というショールームをつくり、多くの人に体験してもらっているのです」と言います。確かに論より証拠です、さっそく体験しに行ってみましょう。

エアコン設定温度、部屋の広さなどは同一条件なのに、室温には大きな差が

ショールームに設置されているのは、昔の家(昭和55年省エネ基準)と今の家(平成28年省エネ基準)、これからの家(HEAT20 G2グレード※)、の3タイプ。広さや間取り、エアコンの設定温度、外気温はすべて同じという条件で、室温がどう違うのかを体感します。
※HEAT20=「2020年を見据えた住宅の高断熱技術開発委員会」

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

「まず、体感してもらうのが、昔の家です。日本にある家のうち、約75%がこの基準以下だと言われています。エアコンの設定温度は20度で、部屋中心部は20度ですが、床の温度は16度です」。確かに寒く、足先が冷えるのがよく分かります。また、何より窓際がひんやり。寒いのが苦手な筆者は窓に近寄りたくありません。

さらに、扉で仕切られた隣の部屋(脱衣所とトイレの設定)はなおのこと冷えがきつく、「この寒さ、知っている。アレだ、実家だ……!」と思い出します。温度計は9度で、これだけで10度近い温度差に。そういえば、こうした寒さを活用し、「ビールを冷やす」「みかんやりんごを置いておく」「ケーキを置いておく」など天然の冷蔵庫としている家庭も多いことでしょう。

この寒さで、昔は「しもやけ」になっている子どももいましたよね(ご存じでしょうか……)。何より寒いので動くのがおっくうになりますし、エアコンの暖房で頭のまわりはむわむわしているのに、足元は冷え冷えとしているのも不快です。

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

「次に体感していただくのが、今の家です。床の温度は17.9度。だいぶ暖房が効いているのを実感できるのではないでしょうか。サーモカメラでも、だいぶ緑の部分が見えてきたと思います」。確かに、窓際も先ほどの部屋ほどは寒くは感じません。それでも、足先は冷えるので「満足か」と聞かれると「う~ん、でもちょっと寒いよね」というのが正直な感想です。ましてや隣室の脱衣所・トイレの寒さは、昔の家よりもちょいマシという程度で、「うーさぶい。トイレ行くの、めんどくさいな~」と生活している様子が目に浮かびます。

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

「最後がこれからの家です。これくらいの断熱性能を目指したいよね、という住まいです。ここでやっと床の温度が20度になり、冷えを感じにくくなるのではないでしょうか。また隣室の暖房をしていないトイレや脱衣場との温度差も5度以内におさまり、人が『不快』と感じにくくなくなります」

確かにスリッパなしでも歩けるようになるし、温かくて心地よくなります。また、試算(※3)では、昔の家では約2万8000円の光熱費がかかるのに対し、今の家では約1万3000円、これからの家では約7000円と約1/4になるのも驚きです。省エネになるので、地球環境にもやさしくなります。

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

室温が健康に与える影響は大きい。体験すると印象は大きく変わる

この「住まいStudio」は誕生してから約1年超が経過しますが、月間約1000人が訪れ、体感すると大きな変化があるといいます。

「正直なところ、はじめはみなさん、あまり期待されていらっしゃらないようなのですが、『体験するうちにこれが快適な温度なんだな』と納得されていますね。特に女性は、当初はキッチンや間取りに注目されているのですが、体感後は『家は断熱! 温度差はないほうがいい!』という方が多いですね」といいますが、まったく同感です。

実は筆者、40代に入り高血圧と診断され、寒いと血圧が上がるようになりました。いわばヒートショックになりやすい「予備軍」なので、ひとごとではありません。では、今からできる対策はどのようなものがあるのでしょうか。

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

「部屋間の温度差をなくすには、建物そのものの気密・断熱性を高める必要があります。ただ、こうした性能は、住んでから改修するのは難しいもの。これから住まいを建てる方に関しては、こうした気密・断熱性能に注目し、検討してほしいですね」

ただ、日本にある家の多くは「昔の家」と同じ水準かそれ以下の断熱性能になります。

「今ある住まいに関しては、開口部、つまり窓の断熱性能を高めるリフォームで対策できます。内窓を追加する、今ある窓をハイブリッド窓にするといったリフォームでも、断熱性は大きく向上します。また、脱衣所や浴室の断熱性を高めるリフォームも比較的かんたんな工事で行えます」

今回、部屋内の温度差を体験してみて、もしかしたら温度差は想像以上に私たちの健康を害しているのかもしれないな、と思いました。「冬は寒いのは当たり前」「がまんすれば大丈夫」と思い込む前に、今一度、住まいの温度についても考えてみてほしいと思います。

●取材協力
LIXIL 快適暮らし体験 住まいStudio
※1 STOP!ヒートショック 東京ガス都市生活研究所 
※2 東京都健康長寿医療センター研究所
※3 試算=studio各部屋を12/1~3/31の暖房期間にエアコン暖房した場合の電気代

知られざる「危険ヒートショック」とは? 香川、兵庫、滋賀がワースト3

死者は年間1万9000人にものぼるというのに、アンケートをとると「よく知らない」と答える人が約半数――。身近なのにあまり知られていない危険が「ヒートショック」です。今回はそんな「ヒートショック」が起きる原因ともいえる「室内温度差」を体験できる施設を訪問。その対策を探ってきました。
冬は家でも寒いのが当たり前? それが命取りになるかも!

そもそも、「ヒートショック」という言葉そのものはニュースなどで耳にしたことがある人も多いことでしょう。お風呂やトイレなど、家の中の急激な温度差より、血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象をいいます。ただ、アンケート調査によるとこのヒートショックを「よく知らない」という人は約半数、危険だと思わない人は約8割にものぼります(※1)。つまり、なんとなく知っているけど、「ひとごと」だと思われているのです。

実はこのヒートショックによる浴室での死亡事故は年々増加傾向にあり、昨年は1万9000人もの方が亡くなっています。また、発生している県でいうと、香川、兵庫、滋賀がワースト3になり、ついで東京、和歌山という結果もあります(※2)。一方で、寒い北海道は沖縄についで死者数が少ないという結果に。

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「北海道では、住まいの断熱性能が高く全館暖房が普及しており、バス・トイレも含めてどの部屋も均一にあたたまるようにしています。一方で、関東、近畿エリアでは、夏暑く、冬寒い。こうした過酷な気候条件のわりには住まいの断熱性能が高くないため、浴槽内でのヒートショック現象が比較的多く起きるのではないか、と考えられています」と話すのはLIXIL LHT営業本部 営業推進部の古溝洋明さん(以下同)。
 
「ただ単に、『ヒートショックが起きています』『断熱性や部屋間の温度差が大事なんです』と言葉で言っても、なかなか伝わらないんです。そこで、われわれは実際に『部屋の温度差』を体感していただける『住まいStudio』というショールームをつくり、多くの人に体験してもらっているのです」と言います。確かに論より証拠です、さっそく体験しに行ってみましょう。

エアコン設定温度、部屋の広さなどは同一条件なのに、室温には大きな差が

ショールームに設置されているのは、昔の家(昭和55年省エネ基準)と今の家(平成28年省エネ基準)、これからの家(HEAT20 G2グレード※)、の3タイプ。広さや間取り、エアコンの設定温度、外気温はすべて同じという条件で、室温がどう違うのかを体感します。
※HEAT20=「2020年を見据えた住宅の高断熱技術開発委員会」

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

「まず、体感してもらうのが、昔の家です。日本にある家のうち、約75%がこの基準以下だと言われています。エアコンの設定温度は20度で、部屋中心部は20度ですが、床の温度は16度です」。確かに寒く、足先が冷えるのがよく分かります。また、何より窓際がひんやり。寒いのが苦手な筆者は窓に近寄りたくありません。

さらに、扉で仕切られた隣の部屋(脱衣所とトイレの設定)はなおのこと冷えがきつく、「この寒さ、知っている。アレだ、実家だ……!」と思い出します。温度計は9度で、これだけで10度近い温度差に。そういえば、こうした寒さを活用し、「ビールを冷やす」「みかんやりんごを置いておく」「ケーキを置いておく」など天然の冷蔵庫としている家庭も多いことでしょう。

この寒さで、昔は「しもやけ」になっている子どももいましたよね(ご存じでしょうか……)。何より寒いので動くのがおっくうになりますし、エアコンの暖房で頭のまわりはむわむわしているのに、足元は冷え冷えとしているのも不快です。

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

「次に体感していただくのが、今の家です。床の温度は17.9度。だいぶ暖房が効いているのを実感できるのではないでしょうか。サーモカメラでも、だいぶ緑の部分が見えてきたと思います」。確かに、窓際も先ほどの部屋ほどは寒くは感じません。それでも、足先は冷えるので「満足か」と聞かれると「う~ん、でもちょっと寒いよね」というのが正直な感想です。ましてや隣室の脱衣所・トイレの寒さは、昔の家よりもちょいマシという程度で、「うーさぶい。トイレ行くの、めんどくさいな~」と生活している様子が目に浮かびます。

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

「最後がこれからの家です。これくらいの断熱性能を目指したいよね、という住まいです。ここでやっと床の温度が20度になり、冷えを感じにくくなるのではないでしょうか。また隣室の暖房をしていないトイレや脱衣場との温度差も5度以内におさまり、人が『不快』と感じにくくなくなります」

確かにスリッパなしでも歩けるようになるし、温かくて心地よくなります。また、試算(※3)では、昔の家では約2万8000円の光熱費がかかるのに対し、今の家では約1万3000円、これからの家では約7000円と約1/4になるのも驚きです。省エネになるので、地球環境にもやさしくなります。

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

室温が健康に与える影響は大きい。体験すると印象は大きく変わる

この「住まいStudio」は誕生してから約1年超が経過しますが、月間約1000人が訪れ、体感すると大きな変化があるといいます。

「正直なところ、はじめはみなさん、あまり期待されていらっしゃらないようなのですが、『体験するうちにこれが快適な温度なんだな』と納得されていますね。特に女性は、当初はキッチンや間取りに注目されているのですが、体感後は『家は断熱! 温度差はないほうがいい!』という方が多いですね」といいますが、まったく同感です。

実は筆者、40代に入り高血圧と診断され、寒いと血圧が上がるようになりました。いわばヒートショックになりやすい「予備軍」なので、ひとごとではありません。では、今からできる対策はどのようなものがあるのでしょうか。

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

「部屋間の温度差をなくすには、建物そのものの気密・断熱性を高める必要があります。ただ、こうした性能は、住んでから改修するのは難しいもの。これから住まいを建てる方に関しては、こうした気密・断熱性能に注目し、検討してほしいですね」

ただ、日本にある家の多くは「昔の家」と同じ水準かそれ以下の断熱性能になります。

「今ある住まいに関しては、開口部、つまり窓の断熱性能を高めるリフォームで対策できます。内窓を追加する、今ある窓をハイブリッド窓にするといったリフォームでも、断熱性は大きく向上します。また、脱衣所や浴室の断熱性を高めるリフォームも比較的かんたんな工事で行えます」

今回、部屋内の温度差を体験してみて、もしかしたら温度差は想像以上に私たちの健康を害しているのかもしれないな、と思いました。「冬は寒いのは当たり前」「がまんすれば大丈夫」と思い込む前に、今一度、住まいの温度についても考えてみてほしいと思います。

●取材協力
LIXIL 快適暮らし体験 住まいStudio
※1 STOP!ヒートショック 東京ガス都市生活研究所 
※2 東京都健康長寿医療センター研究所
※3 試算=studio各部屋を12/1~3/31の暖房期間にエアコン暖房した場合の電気代

あなたは「ヒートショック予備軍」? 予防する方法は?

リンナイが、入浴習慣の実態について調べるために、「ヒートショック危険度チェックシート」を用意した。このチェックシートで、自分はヒートショック予備軍かどうかが分かるという。あなたは危険度の高い“予備軍”に当てはまらないだろうか?【今週の住活トピック】
「入浴」に関する意識調査を公表/リンナイ危険度を判定!あなたはヒートショックを起こしやすい?

まずは、次のチェックシートに挑戦して、あなたのヒートショック危険度を判定してみよう。

ヒートショック危険度 簡易チェックシート
□ メタボ、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、心臓・肺や気管が悪い等と言われた事がある
□ 自宅の浴室に暖房設備がない
□ 自宅の脱衣室に暖房設備がない
□ 一番風呂に入ることが多いほうだ
□ 42度以上の熱い風呂が大好きだ
□ 飲酒後に入浴することがある
□ 浴槽に入る前のかけ湯をしない、または簡単にすませる
□ シャワーやかけ湯は肩や体の中心からかける
□ 入浴前に水やお茶など水分をとらない
□ 1人暮らしである、または家族に何も言わずにお風呂に入る
リンナイが公開した、入浴科学者・早坂先生監修 ヒートショック危険度チェックシート(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

チェック数が5個以上ある方はヒートショックになる可能性が高い『ヒートショック予備軍』だという。
筆者はチェック数が3つだったが、1つでも当てはまればヒートショックの可能性はあるのだそうだ。油断大敵ということか。

ちなみに、全国の2350人のチェック結果は以下のようなものだった。脱衣室や浴室に暖房設備のない家庭がとても多いことが分かる。

危険度チェックシートの回答結果(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

危険度チェックシートの回答結果(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

ヒートショック対策で、どんなことをすればいい?

この調査で「ヒートショック対策について何か習慣化していることがあるか」を聞いたところ、習慣化している人は18.3%と2割に満たなかった。

また、習慣化していると回答した人の具体的な対策としては、次のような結果になった。
入浴前に脱衣所や浴室を暖かくしておくほかに、入浴前後に水分をとったり、湯船につかる前にかけ湯などで体を温めたり、ぬるめのお湯にして長湯を避けたりといった予防対策が取られている。

ヒートショック対策の回答(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

ヒートショック対策の回答(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

ちなみに、筆者の家の浴室には「浴室乾燥機」がある。「乾燥」「換気」「暖房」「涼風」の機能があるので、浴室内を冬には暖房機能で暖めたり、夏には涼風機能で涼しくしたり、入浴後は換気機能で湿気を排出したりといったことができるので重宝している。

浴室乾燥機がない場合でも、入浴前にシャワーで温水を浴室の壁にかけるなどして、浴室を暖めておくという方法もある。脱衣所に小型のヒーターなどを設置して暖めたり、脱衣所の扉を開けておいて近くのエアコンを使って居室間の室温差を無くしておいたりなどの方法も有効だろう。

また、リンナイのリリースには、ヒートショックを予防する「入浴前準備呼吸」を紹介しているので、試してみるのも良いだろう。 

なお、全国健康保険協会によると、国土交通省はヒートショックを防ぐための住宅環境として、部屋の温度は15℃以上28℃以下、洗面所・浴室・トイレの温度は冬季で20℃以上といった温度条件を紹介しているという。

入浴中だけでなく、住まいの中で急激な温度差にさらされることで起きる可能性もあるのがヒートショックだ。起きて布団から出たときや寒い廊下に出たときにもリスクはつきまとう。住まい全体の暖房器具を上手に活用したり、断熱対策グッズを利用したり、住まいの断熱改修を実施したりといった、住まいの工夫でヒートショック対策を取ることも大切だ。

普段の何気ない生活行動で急激な温度差を感じ、それが命を脅かすヒートショックを生み出すこともあるのだから。