サウナ付き賃貸・築100年超は当たり前!? 念願のフィンランドに移住した『北欧こじらせ日記』作者chikaさんが語る異文化住宅事情

「週末北欧部」として、ブログやSNSで北欧への愛を長年発信し続けてきたchikaさん。フィンランドで働くため日本で寿司職人になり、実際に移住するまでの道のりをつづっているコミックエッセイ『北欧こじらせ日記』(世界文化社)は、2022年秋にドラマ化している。

昨年4月、ついに念願のフィンランド生活をスタートしたchikaさんに、フィンランドの居住環境や暮らしについてお聞きした。

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

週末北欧部 chikaさん
フィンランドが好き過ぎて12年以上通い続け、ディープな楽しみ方を味わいつくした自他ともに認めるフィンランドオタク。移住のために会社員生活のかたわら寿司職人の修行を始め、ついに2022年春に移住。モットーは「とりあえずやってみる」。好きなものは水辺、猫、酒、一人旅。著書に『マイフィンランドルーティン100』(ワニブックス)、『北欧こじらせ日記』(世界文化社)、『世界ともだち部』(講談社)など。

自分らしく働くための「寿司職人」という選択肢

北欧やフィンランドへの愛を漫画で描き、インターネットで発信する週末北欧部・chikaさん。これまで北欧の魅力を多くの人に届けてきた。フィンランドとの出合いのきっかけは何だったのだろう。

「私の誕生日がクリスマスであることからずっと憧れていたサンタさんに会うため、20歳のときに一人旅で初めてフィンランドを訪れたんです。そこで『いつかこの国に住みたい!』と強烈な一目惚れをし、以来1年に1回は必ずフィンランドに通うようになりました」

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

大学卒業後は北欧音楽に関連する会社で働き、その後日本で北欧カフェを開くことを目指して、会社員をしながら休日にカフェでアルバイトをしていた。そんな生活を続けるうちに、「どうせ苦労するなら一番好きな場所で苦労しよう」とフィンランドで生活する方法を探し始めた。

見つけたのは、日本人歓迎の寿司職人の求人だった。会社員をしながら寿司学校やお店で約2年間修行したのち、2022年4月、13年越しの思いとともにフィンランドへ移住した。

日本での修行時代にchikaさんが握ったお寿司(画像提供/週末北欧部chika)

日本での修行時代にchikaさんが握ったお寿司(画像提供/週末北欧部chika)

「寿司はフィンランドの人たちにもよく食べられていて、日本人シェフは本場の味を知っていることから重宝されているようです。寿司職人は、私らしさを活かして喜んでもらえる仕事だと思いました。フィンランドのレストランとはビデオ通話で面接を行い、採用されたことで就労ビザが得られることになり移住が決定、フィンランドに渡った3日後あたりには仕事が始まりました」

フィンランドに住むために寿司職人になる。一見奇抜な決断だが、「好きな場所で自分らしく働きたい」と考え続けたchikaさんにとっては必然的な選択だったのだと思えた。そんなchikaさんに、フィンランドの住宅事情や現地での暮らしづくりの過程を話してもらった。

都心でも自然が身近なヘルシンキヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)

ヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)

「私が住んでいるのは首都のヘルシンキで、日本から来た人はここに居住することが多いと思います。フィンランド南部の海に面する都市で、森や湖などの自然も身近にあり心地良い街です。公用語はフィンランド語ですが9割以上の人が英語も話せるので、私も英語を使って生活しています。北部に行くほどフィンランド語しか通じない場面が増えますね」

正規でアパートを借りるには、現地の銀行口座が必要。口座開設に時間がかかるため、最初はAirbnbで小さなワンルームを借りて1カ月ほど過ごしたという。ただ、長期滞在向けの部屋ではないため、家具や光熱費などを含めても1泊7,000円とどうしても割高になってしまう。

「このアパートに居続けることは金額的に難しいと考えていたところ、10年来のフィンランド人の友達がちょうどワーケーションで空けることになった家を3カ月ほど貸してもらえることになりました。かつて年1回のフィンランド通いをしていたころにも滞在したことがあり、フィンランドにある『第二の家』だと思っていたので、すごくありがたいタイミングです。その家で暮らしているときにやっと口座が開設でき、ついに物件探しがスタートしました」

パーソナルサウナや都心部と家賃の関係、一人暮らしの新居に求めた条件とはヘルシンキの水辺。フィンランドには湖が多い(画像提供/週末北欧部chika)

ヘルシンキの水辺。フィンランドには湖が多い(画像提供/週末北欧部chika)

「ヘルシンキの中心部で水辺に近い好きなエリアがあったので、そこに住むことは決めていました。物件は、休日も料理ができるようにキッチンが広いところで、家賃はお給料の30%を目安に。フィンランドではほとんどのアパートに住民共用のサウナが付いているのですが、理想をいえば部屋にパーソナルサウナがあればいいなと思っていました」

そういえばフィンランドはサウナ発祥の地だった。パーソナルサウナがある物件は主に築浅だったり家賃がその分高くなったりと条件は厳しくなるらしいが、それでもアパートにサウナが標準装備されているのはさすが本場だ。

「日本のように一人暮らし用の賃貸物件は多いです。金銭的な理由でルームシェアをする人もいますが、フィンランド人はパーソナルスペースを大切にする人が多いので、独身の場合は一人暮らしが基本ですね。家賃は都心の人気エリアだと10~15万円で、都心から電車で30分ほど離れると半額ぐらいになります。日本だと東京駅から30分離れた程度では家賃が半分になることはないと思いますが、そこで差が出やすいのはヘルシンキの特徴かもしれません」

ヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)

ヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)

「私が物件を探し始めた秋ごろは、フィンランドでちょうど学校の新年度が始まるシーズンでした。入学を控えた学生たちが部屋を探す時期だから、条件の良い物件はすぐに埋まってしまい……。そんなときに、友達のご家族が代々管理しているアパートに空きが出て、借りられることになったんです。パーソナルサウナがないこと以外は全て私の求める条件が叶っていました」

再び友達を通じた物件との出合いだ。こう聞くとたまたま運に救われているように思えるかもしれないが、chikaさんは日本で生活しながらフィンランドを愛する日々の中で、インターネットを使って幅広い交友関係を築いてきた。「大好きなフィンランドで生活したい」という気持ちがたくさんの人に伝わっていたからこそ、このような出合いが巡ってきたのだろうと感じる。

雪国としての暖房設備やシャワールームの工夫

chikaさんのお部屋の写真とともに、フィンランドの住宅のポイントを教えてもらった。まず注目したいのは、1年を通して気温がマイナス6度~17度という寒冷地ならではの暖房機能だ。

大きい湯たんぽのような「セントラルヒーティング」。料金は家賃に含まれる(画像提供/週末北欧部chika)

大きい湯たんぽのような「セントラルヒーティング」。料金は家賃に含まれる(画像提供/週末北欧部chika)

二重窓と、その間に設置されているブラインド。かつてフィンランドはカーテン文化だったが、今はほとんどの家がブラインドを採用しているという(画像提供/週末北欧部chika)

二重窓と、その間に設置されているブラインド。かつてフィンランドはカーテン文化だったが、今はほとんどの家がブラインドを採用しているという(画像提供/週末北欧部chika)

「セントラルヒーティングという、アパートのボイラーで沸かしたお湯を循環させる設備で部屋を暖めます。触ってもやけどしないくらいの温度で、タオルなどを置いて乾かすこともできるんですよ。シャワー室とトイレは床暖房になっていて、それ以外の暖房設備はこのセントラルヒーティングだけですが、外がマイナス気温だとしても室温は常に20~22度を保てています。断熱性を高めるための二重窓は間にブラインドが入っていて、窓を開けずに操作できます」

内部にお湯が流れているポール。シャワー室は床暖房になっており、使用後はすぐに水気を切れる(画像提供/週末北欧部chika)

内部にお湯が流れているポール。シャワー室は床暖房になっており、使用後はすぐに水気を切れる(画像提供/週末北欧部chika)

「シャワー室にもセントラルヒーティングと同じくお湯が循環しているポールがあって、タオルやシーツを干せます。でもこれに掛けなくても、フィンランドは湿度がとても低いので部屋干しだけでパリパリに乾くんです。アパート共用のサウナは予約制で、申請しておいた時間にプライベートで使えます」

雪国らしい設備の数々。いつでも部屋干しができるのはうらやましいと思っていたら、「冬のフィンランドで外干しをすると凍っちゃいます」とのことだった。それぞれの気候に応じた生活スタイルがある。

築100年以上、リノベーションで長く住まう水切りを兼ねた食器棚。「フィンランドのイノベーションとも称されますが、発祥については諸説あるようです」とchikaさん(画像提供/週末北欧部chika)

水切りを兼ねた食器棚。「フィンランドのイノベーションとも称されますが、発祥については諸説あるようです」とchikaさん(画像提供/週末北欧部chika)

リノベーションされたばかりの広いキッチンには、洗濯機・食洗機・オーブンが並ぶ。フィンランドの住宅はオール電化が一般的(画像提供/週末北欧部chika)

リノベーションされたばかりの広いキッチンには、洗濯機・食洗機・オーブンが並ぶ。フィンランドの住宅はオール電化が一般的(画像提供/週末北欧部chika)

「食器棚は収納と水切りを兼ねる構造になっていて、共働きの多いフィンランドではこのような家事の効率化も文化の一つになっています。また、多くの賃貸では冷蔵庫・オーブン・食洗機・洗濯機が備え付けで、大型家電を運ぶ必要がないので、引越しの際にはレンタカーを借りて家族や友達同士で手伝います」

そんなchikaさんの住むアパートは、築100年を超えているという。

「日本だと築100年はすごいと感じるかもしれませんが、周りはほとんど築100年の家ばかりです。ヨーロッパには『古いものほど価値がある』という考え方があって、取り壊さずに適宜リノベーションしつつ使っていく文化があります。私のアパートも1年前にリノベーションしたばかりなので、キッチンやシャワールームがきれいで、玄関の鍵もカードでタッチすれば開くようなものになっています」

リノベーションされている古い物件でも水道管は動かしづらく、昔の文化の名残で洗濯機が地下室に置かれている場合も多いという。地下にあるタイプの洗濯機は予約制で、「仕事休みの朝6時にしか洗濯機の予約が空いていないこともあって不便」とのこと。室内に洗濯機が備え付けの物件は人気になりやすく、chikaさんも物件選びで重視したポイントだった。

玄関にはマットを敷いて靴を脱ぐためのスペースをつくる(画像提供/週末北欧部chika)

玄関にはマットを敷いて靴を脱ぐためのスペースをつくる(画像提供/週末北欧部chika)

「日本との共通点として、フィンランドでも室内では靴を脱ぎます。ただ、玄関の境はないので、マットを自分で設置して玄関っぽい空間をつくるのが少し違うところですね。郵便物は薄いものしか家に届けられなくて、荷物類は近くの郵便局まで取りに行きます。雪がある季節はソリを使えば楽ですが、雪がない季節は少し大変です」

このほかにも、「各住民に個別の倉庫が用意されている」「古い物件ほど天井が高い(理由は不明)」などの特徴を教えていただいた。古い建物をリノベーションしていくからこそ、住宅としての機能がかなり整備された形になっているのがフィンランドの賃貸物件の特徴なのかもしれないと感じた。

お気に入りポイントは、北欧ならではの大きな窓フィンランド人もお墨付きの明るさをもたらしてくれる窓(画像提供/週末北欧部chika)

フィンランド人もお墨付きの明るさをもたらしてくれる窓(画像提供/週末北欧部chika)

「一番のお気に入りは、明るく光を取り込める窓です。フィンランドは日照時間が短いため日差しの入り具合が重視されていて、遊びに来た友達もみんな『明るいね!』と言ってくれます」

設定した時間に流せるラジオ。コマーシャルの入らない国営放送を聞くことが多いという(画像提供/週末北欧部chika)

設定した時間に流せるラジオ。コマーシャルの入らない国営放送を聞くことが多いという(画像提供/週末北欧部chika)

「大通り沿いは交通量やお店も多くにぎやかですが、私の家は表通りからは少し外れて静かで、都心でありながら自然も近い場所です。朝はコーヒーを淹れて、窓から入る日を浴びながら飲むのがルーティーンになっています。最近は友達の勧めでラジオを買って、目覚まし代わりに流れてくるラジオを聞きながら、しばらくはスマホを見ずに過ごすのがすごく良いんです」

想像するだけでうっとりするような時間の過ごし方である。そんなアパートに住む住民同士での交流などはあるのだろうか。

「交流といえるほどのものはなく、会ったらあいさつをする、という感じですね。フィンランドで暮らす人はシャイなところも日本人と結構似ていて、例えば『同じ階の誰かがエレベーターに乗ろうとしているから、その人がいなくなるまで玄関で待っていよう』とか、『一緒にエレベーターに乗った人が同じ階に降りようとしていると気まずい』みたいな考え方をするんです。もちろん人によっては社交的に生活していて、ご近所同士で仲良くなってホームパーティーをしている友人もいます(笑)」

エレベーターの話は痛いほど共感できる「あるある」で驚いた。あの意味のない時間をフィンランドの人も経験していると思うと、なんだか親近感が湧いてくる。

大好きな場所で暮らすようになっても、サードプレイスは必要だったchikaさんのお気に入りの島。「カフェもあって、夏場は毎週のように通うサードプレイスとなっています。冬は図書館に行くことが多いです」とchikaさん。夏のヘルシンキは23時まで太陽が沈まないため、20時ころまで日向ぼっこできるという。(画像提供/週末北欧部chika)

chikaさんのお気に入りの島。「カフェもあって、夏場は毎週のように通うサードプレイスとなっています。冬は図書館に行くことが多いです」とchikaさん。夏のヘルシンキは23時まで太陽が沈まないため、20時ころまで日向ぼっこできるという。(画像提供/週末北欧部chika)

念願のフィンランド生活を全力で楽しんでいるchikaさんだが、日本からの単身移住生活を成り立たせるのはそう簡単なことではなかったようだ。未知の生活をうまく楽しむための心持ちやコツを聞いてみた。

「気持ちの面では、『準備はネガティブに、やるときはポジティブに』をモットーに、大好きな国に行くけど期待はしないということを大切にしていました。何かが起こったとしても『予想よりは大丈夫だった』と思える意識は忘れないようにしています」

「テクニックとしては、気持ちを切り替えられるサードプレイス(第三の居場所)を持つことが大事です。日本にいたころは職場と家以外のサードプレイスをいくつか持っていて、フィンランドもその一つでしたが、実際に暮らすようになってからは『フィンランドという好きな場所の中でもサードプレイスを持つ必要があるんだ』と気づきました。ヘルシンキは歩ける距離に小さい島が点在していて、その中のお気に入りの島を夏のサードプレイスとしています。休みの日のお昼過ぎに出かけて、屋台でソフトクリームとコーヒーを買い、お気に入りの木陰にピクニックシートを敷いて気が済むまで滞在します。本を読んだり、日記を書いたり、少し寝たり。時間を気にしないで過ごせる場所です」

大好きでも期待しすぎず、暮らしの中の居場所を増やすこと。フィンランド、ひいては海外への移住に限らず、新たな環境で生活するために必要な心構えだと感じた。

憧れの地で探し求める理想の生活入居当時のchikaさん宅(画像提供/週末北欧部chika)

入居当時のchikaさん宅(画像提供/週末北欧部chika)

最後に、今後のフィンランド生活での抱負を聞いてみた。

「今の家も当初は『ここは誰の家なんだろう』という感覚で落ち着けなかったのですが、最近は帰ってきたらほっとできる『自分の家』になってきました。私は『いつかフィンランドに移住する』と思い続けていたので、日本にいるときからずっと仮住まいのような気持ちで、大きな買い物ができなかったり猫を飼いたくても飼えなかったりして。自分が本当に欲しいものも分からなくなっていると感じていました。これからは寿司職人の仕事と描く仕事とのワークライフバランスも含めて暮らしを整えながら、自分がどんな生活をしていきたいのかを見つめていけたらいいなと思っています」

自分の住みたい場所に住む、という目標を叶えるためにじっくりと時間をかけてきたchikaさん。「フィンランドの生活がいつまでも続くとは思わないで、まずは3年間を区切りに頑張ってみるつもりです。がむしゃらに過ごした1年目を踏まえて、2年目、3年目をより濃く過ごせたら」とも話してくれた。

chikaさんにとってのフィンランドのような場所とは、きっとそう簡単に出合えるものではない。だからこそ、「ここに住みたい」という思いが生まれたときには、自分の気持ちを信じて行動する必要があると感じた。

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

●取材協力
週末北欧部 chikaさん
Twitter
Instagram

『北欧こじらせ日記』(世界文化社)

二拠点生活の先進国・フィンランドへ。自給自足ライフを体験!

「二拠点生活(デュアルライフ)」の日本の実践者は1.3%(リクルート住まいカンパニー調べ)。一方、フィンランドは、“サマーハウス”と呼ばれる二拠点目での暮らしを楽しむ人が半数を超え、現地の人に聞いたところによると「8割の人は一度は体験している」という二拠点生活の先進国といわれている。今回は、自らも日本での二拠点生活を実践するSUUMO編集長が、現地で二拠点生活を体験したことをレポートします。
フィンランドには、サマーハウスの予約サイトがある!

2019年のトレンドワードとして「デュアラー(二拠点生活実践者)」を発表した弊社としては、デュアラー先進国のフィンランドで浸透の秘密を探りつつ、ちゃんと実体験もしないと。という理屈で、フィンランドでの二拠点生活体験&取材が決まりました。

今回は、フィンランドの知人のオッリさんに、彼の親族が所有する二拠点目の住居(サマーハウス)を体験させてもらおうと画策・相談しました。が、そのサマーハウスはヘルシンキから少し距離があり、時間がかかるということで彼から「サマーハウス専用の予約サイトがあるから、そこからヘルシンキにほど近いサマーハウスを探して予約しましょう」という提案が来ました。下記がそのサイトです。サマーハウスを持っている人が使わないときは人に貸し出すサービスでフィンランド版のAirbnbのようなものです。

サマーハウス予約サイト。実際に予約した家がこちら。予約期間の初期設定が7daysと日本から見ると羨ましくなるような長さが、二拠点生活の先進国・フィンランドらしい

サマーハウス予約サイト。実際に予約した家がこちら。予約期間の初期設定が7daysと日本から見ると羨ましくなるような長さが、二拠点生活の先進国・フィンランドらしい

今回はショートステイで大人最大7名が泊まれるサマーハウスに2泊。ベッドシーツ、タオルレンタルやクリーニング代すべて合わせて616ユーロ(約7万円)でした。
鍵の受け取り等と、食料品の買い込み、準備はオッリさんに全部やってもらい、我々はヘルシンキから車でサマーハウスに乗り込みました。

平均29平米といわれるサマーハウスのなかでは、平屋でかなり大きめのサイズ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

平均29平米といわれるサマーハウスのなかでは、平屋でかなり大きめのサイズ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

到着して最初に行うのは、アレ!

我々が到着したのは夕方の16時ごろ。到着後、荷物を置いて、部屋割りを決めて、オッリさんにすぐに連れて行かれたのは小さな小屋。「では、束になっている薪をこのトレイに積んで」と指示を受けて持って行ったのは、湖のほとりの別の小屋。ここはもしや?と思ったら、予想通りサウナ小屋でした。まずサウナから。さすがサウナの本場フィンランドです。日本でいうと温泉旅館に到着したら、浴衣に着替えてまずはお風呂にいく、あの感覚に近いです。

薪をしまっておく倉庫。小屋はDIYでつくった感のある簡易なもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

薪をしまっておく倉庫。小屋はDIYでつくった感のある簡易なもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

サウナの温め方は、薪ストーブに似ています。炉内に薪をくべて、薄く剥いだ木片に火をつけて、それを火種に、最初にくべた薪に火を回します。薪が燃えると上にある石が徐々に温まっていくという形。石が温まるまでは時間がかかるので最初にやります。

ところで石の上にかける水はというと、湖から汲んできます。フィンランドのサマーハウスのほとんどは湖のほとりにありますが、これは景観的に美しいとか、サウナ後にすぐ飛びこめるといったものだけでなく、水の調達がしやすいという実利面もあるようです。

サウナ小屋の先には階段があり、下りた先は湖。桟橋は、ときに“飛び込み台”になり、腰を掛けて足先を水につけて読書するときの“椅子”になります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

サウナ小屋の先には階段があり、下りた先は湖。桟橋は、ときに“飛び込み台”になり、腰を掛けて足先を水につけて読書するときの“椅子”になります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

サウナ小屋の内部の様子。オレンジのバケツに湖から取ってきた水を入れておきます。サウナの外に着替えや仮眠ができる小部屋があります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

サウナ小屋の内部の様子。オレンジのバケツに湖から取ってきた水を入れておきます。サウナの外に着替えや仮眠ができる小部屋があります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

外国人客をもてなすディナーはあの肉

サマーハウスの母屋に戻ると、夕食の準備が進んでいます。「ではメインの肉を焼きましょう、はい、焼き担当は外へ出ましょう」とオッリさん。ウッドデッキ上にあるBBQグリルで炭をおこし、プレートの上で焼くのは、「レインディア(トナカイの肉)」です。トナカイ肉はやや高級品らしく、豚:牛:トナカイ=1:2:3くらいの値段と聞きました。今回のトナカイ肉はスーパーで売っているごく一般的なものでしたが、まったく臭みがなくて、塩コショウだけで超美味でした。ビールがどんどん進みます。

トナカイ肉でBBQ
「はい、できました」とオッリさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「はい、できました」とオッリさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)


さてリビングに戻ると、仲間たちがお手伝いして夕食がどんどんできあがっていました。調理場でもオッリさんが大活躍。フィンランドでは男子が調理場に立つのは普通のようですが、なかでもオッリさんは超料理男子でした。

リビングでの夕食の様子
リビングでの夕食の様子(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

リビングでの夕食の様子(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

食事も盛り上がり、夜も更けて、外は暗くなってくるかと思いきや、ここは夏のフィンランド。日が長かった。夜の20時でも全然明るいのです。夕食後に、サウナにいってさらに湖で泳ぐことができます。

サウナはとても気持ち良いものの、果たして体や髪の毛はどう洗うのか?ぱっと見ると上水道はありません。はい、実は汲んできた湖の水を洗面器に移してそれをすくって頭から豪快にバシャーです。

汲んできた湖の水を洗面器に移す
湖で汲んできた水をサウナ用の薪で熱湯に変えて、水を混ぜて適温にして豪快に頭からかぶる。よく見ると少し小枝が浮いているが、そんな小さなことは気にしない様子(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

湖で汲んできた水をサウナ用の薪で熱湯に変えて、水を混ぜて適温にして豪快に頭からかぶる。よく見ると少し小枝が浮いているが、そんな小さなことは気にしない様子(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そのままサウナに入ること数十分。体がポカポカになってきたところで、小屋の先の階段を下りていきます。そして……湖にドボンです。

写真撮影した時間は20時近くと思われますが明るいです。サウナ後に遊泳するだけでなく、小舟で釣りに出かけ、その釣った魚を調理して食べるのもサマーハウスの楽しみ方(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

写真撮影した時間は20時近くと思われますが明るいです。サウナ後に遊泳するだけでなく、小舟で釣りに出かけ、その釣った魚を調理して食べるのもサマーハウスの楽しみ方(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さて夜も深まって睡眠。朝は散歩に出かけます。今回利用させていただいたサマーハウスの付近は日本の別荘地と異なり、建物が立て込んでいません。建物はポツポツとある程度で、周囲は自然そのものです。また、建物も均一ではなくきれいなものもあれば、自分で建てたであろう小屋も点在します。

日本の北海道に近い光景。急峻な山はなく、緩やかな小高い丘に緑のじゅうたんの景色が広がる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

日本の北海道に近い光景。急峻な山はなく、緩やかな小高い丘に緑のじゅうたんの景色が広がる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

家に戻って朝ごはん、ここでも調理男子オッリさんがフィンランドの朝らしい朝食ををつくってくれてました。ブルーベリーパイに、卵料理などテーブルの上にズラリ。そして何よりも窓からの景色が彩りとなって、豊かな朝の時間が流れます。

朝食では、ブルーベリーパイ、ハム、エッグ
朝食では、ブルーベリーパイ、ハム、エッグ。ランチではフィンランド名物サーモンクリームスープをいただきました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

朝食では、ブルーベリーパイ、ハム、エッグ。ランチではフィンランド名物サーモンクリームスープをいただきました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

優雅なランチタイムを終えて、最後に記念写真をパチリ。

今回は現地で魚やマッシュルームを調達する自給自足体験は諦め、スーパーで食品を調達する形に。
オッリさんが自宅で下ごしらえするなど凝ったパーティー料理を準備してくれました。もっと自給自足的な昔の暮らしを楽しむスタイルもあります。子どもと一緒に森に入り、ふんだんにあるブルーベリーを摘み、マッシュルームを集め、湖で釣りをして、さばいて食べるなんてこともよくあることです。近くの森林から伐採した木を割って薪にしてサウナを沸かすことも一般的。サマーハウスもほぼDIYで建てたものから、厳しい冬も暖かく過ごせる高断熱の立派なサマーハウスまでさまざまです。サマーハウスで家族や親族、知人と一緒に過ごし、多様な体験を得ることがフィンランドの二拠点生活文化として根付いています

日本の別荘は、暮らしに必要なインフラや設備を用意しすぎなのかもしれません。フィンランドのサマーハウスは自然と親しみ、一体化する感覚が強いです。サマーハウスが建つ場所も、食べ物も、水光熱にかかる部分も自然の恵みを上手に利用して、リーズナブルに、手間を楽しんで、時間に追われずゆったり過ごす。日本においても管理・共用棟だけ充実させ、個人の家の空間は、広さや設備をミニマムにして、もっとリーズナブルに提供すればいいのではないでしょうか。特に若い世代にはそのほうがヒットする予感がしす。デュアルライフを楽しむために必要なのは、立派な箱ではなく、調理ができる、火が起こせる、肉が上手に焼けるという個人スキルだと思いました。同行したスタッフも「一番驚いたのは、オッリの料理スキルの高さ! 調理が『家事』ではなく『余暇の過ごし方』という位置付けなのが、その要因の一つでは。サバイバビリティの高さは、今の日本のキャンプブームとも通ずるものがあると感じました」とのこと。その点で自分はどうかというと……がんばります(苦笑)。

今回、サマーハウス体験をしたみなさんと家の前で。お世話になりました!左手に薪の小屋、奥に見えるのが湖。その手前にサウナ小屋があります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今回、サマーハウス体験をしたみなさんと家の前で。お世話になりました!左手に薪の小屋、奥に見えるのが湖。その手前にサウナ小屋があります(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

二拠点生活(デュアルライフ)は日本で定着する? 先進国・フィンランドの暮らしを訪ねた

日本で今、広がりを見せている「二拠点生活(デュアルライフ)」。とはいえ、実践者は1.3%(リクルート住まいカンパニー調べ)。一方、フィンランドは、“サマーハウス”と呼ばれる二拠点目の暮らしを楽しむ人が半数を超え、中には「8割超えではないか」と言う人もいる、いわば二拠点生活の先進国。今回は、自らも二拠点生活を実践するSUUMOジャーナル編集長が、フィンランドの二拠点生活を視察。親族がサマーハウスを持っていて、自身もよく活用しているというフィンランド人オッリさんに、現地の二拠点生活事情を聞いてみました。「森と湖の国」と言われるだけあって、フィンランドは、陸地の約65%が森林に覆われ、18万8000の湖がある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「森と湖の国」と言われるだけあって、フィンランドは、陸地の約65%が森林に覆われ、18万8000の湖がある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

フィンランドでは、戦前と戦後にサマーハウスブームがあった!

サマーハウスの文化が始まったのは19世紀後半。産業の繁栄を背景に、金銭的に豊かな人々が、湖畔などの水辺にサマーハウスを建て始めたのがはじまりです。そして、1920~30年にかけての経済成長期に、富裕層から中間層への広がりを見せますが、この時はセルフビルドが主流。50平米未満のコンパクトなサマーハウスを建てる「第一次サマーハウスブーム」的なものがやってきました。第二次世界大戦が始まると、ブームはいったん下火になりますが、戦後、再び経済成長が始まると再燃。1960年代には工場生産のサマーハウスも登場し、「第二次サマーハウスブーム」が到来します。ピークである1980年代には10万戸を超えるサマーハウスが建設されました。2000年代以降は落ち着きをみせ、年間約2000戸ペースとなりました。
「最近、建てられているサマーハウスの平均面積は72平米に達し、住宅設備は通常の住宅とほぼ同レベルとなっています」(オッリさん)

フィンランド語の「ruska」は、「紅葉」や「秋の色」を意味する言葉。この言葉の通り、秋には、色づいた森の広葉樹や針葉樹が鮮やかにサマーハウスの周りを彩る(写真提供/オッリさん)

フィンランド語の「ruska」は、「紅葉」や「秋の色」を意味する言葉。この言葉の通り、秋には、色づいた森の広葉樹や針葉樹が鮮やかにサマーハウスの周りを彩る(写真提供/オッリさん)

2018年時点で、国内にあるサマーハウスは、約50万9800戸。うち約43万2300戸が私有で、残りの約7万7500戸が企業や自治体、外国人などの所有です。フィンランドの総世帯数が267万7000世帯であることから算出すると、サマーハウスを私的に所有している世帯の割合は、約16%となりますが、親族同士で1つのサマーハウスを共有していることを考慮すると、実際は、もっと多くの割合の世帯がサマーハウスを利用していると考えられます。実感値としては、少なくとも過半数の人が、自分か親族所有のサマーハウスを利用している感覚です。

統計によると、サマーハウスの平均面積は49平米とコンパクト。ただ最近、建てられているものの平均面積は72平米と、広くなっている傾向があります。内訳を見ると、約3分の1は20~39平米で一番多く、次いで40~59平米が3割弱。総じてコンパクトなサイズであることが分かります。

出典:「建物とサマーハウスの調査」フィンランド統計局

出典:「建物とサマーハウスの調査」フィンランド統計局

フィンランド人はなぜサマーハウスを持つのか?

オッリさんによると、サマーハウスが流行った理由として最も大きいのは、「自然の中に身を置くことで、平日の仕事や日常生活の煩わしさを忘れてリラックスしたいという願望でしょう」とのこと。
「また、自給自足的な昔の暮らしを楽しみたいというのもありますね。子どものころに親や親族、知人を通じてサマーハウスでの暮らし経験をしていて、新しい家族を持ったときに子どもにも経験させてやりたいというのもあると思います」(オッリさん)

日本では、“別荘”というと「避暑」の目的が強いですね。軽井沢、那須、八ヶ岳などは、いずれも避暑地です。でもフィンランドは違います。快適な短い夏を目いっぱい楽しむためにサマーハウスを活用することから、高原避暑地ではなく、湖のほとりに建てるのが一般的です。

森と湖の国フィンランドには、10万を超える湖があります。湖のほとりはそこら中にあるのです(笑)。そこに小さな家とサウナ小屋を建て、サウナに入って汗かいて湖に飛び込んで泳ぐ。お腹が空いたら魚を釣る。近くにあるマッシュルームやブルーベリーを摘んで、バーベキューを楽しむ。こんな生活です。

フィンランドの人々が二拠点生活に求めるもので、日本人と共通しているのは「リラックス」「自然と親しむこと」。違いは、「自給自足的な生活を楽しめるか、あるいは面倒と思うか」というところでしょうか?

サマーハウスの周辺には、鹿などの野生動物もしばしば出没。これぞ自然と共存するシンプルライフの醍醐味(だいごみ)だ(写真提供/SUUMOジャーナル編集部)

サマーハウスの周辺には、鹿などの野生動物もしばしば出没。これぞ自然と共存するシンプルライフの醍醐味(だいごみ)だ(写真提供/SUUMOジャーナル編集部)

サマーハウスのマストアイテムは水道でも電気でもなくサウナ!

さて、サマーハウスの設備はどうなっているのでしょうか。驚いたのは、なにはともあれ「サウナ」ということ。水道や電気を引くよりも、サウナが優先なんだそうです。「水道、電気なしで生活できるの?」と聞くとオッリさんからはこんな答えが返ってきました。
「水道が通っていないサマーハウスは、湖から水を運べばいいのです。サウナに使う木は、ふんだんにある森から調達できます。最近のサマーハウスは、シャワーが付いていますが、古めのサマーハウスはシャワーなしです。その場合は、サウナの熱で湖のお湯を沸かし、体や髪の毛をサウナの脇で洗えばいい。トイレも通常は屋外です。最近は下水道完備のサマーハウスが増えていますが」(オッリさん)

かつてはセルフビルドでサマーハウスを建てていたフィンランド人も、最近は「Honka」などのログハウスメーカーに建ててもらうケースが増えました。価格は、夏に住む仕様だと1平米あたり約1500ユーロ(約18万円・2019年6月時点・以下同様)、冬でも住める仕様になると1平米あたり2000ユーロ~2500ユーロ(約24万円~30万円)となり、平均的な広さである49平米に換算すると、夏仕様で約890万円、冬仕様で約1200万円~1500万円となります。

オッリさんのサマーハウスのサウナ。フィンランド人のサウナ好きは、海外にあるフィンランド大使館やヘルシンキにある国会議事堂にもサウナが設けられていることからも分かる(写真提供/オッリさん)

オッリさんのサマーハウスのサウナ。フィンランド人のサウナ好きは、海外にあるフィンランド大使館やヘルシンキにある国会議事堂にもサウナが設けられていることからも分かる(写真提供/オッリさん)

自分や親族で使うのが基本だが、サマーハウス貸し出しサイトもある

フィンランド統計局の調査では、自宅からサマーハウスまでの距離は平均92kmですが、中央値は39kmであることから、半数以上は38km以下の近距離にサマーハウスがあることが分かります。ただし、首都ヘルシンキのあるUusimaa県に住む人で見ると、平均が167km、中央値が131kmと、全国平均よりは距離があり、首都圏ほどサマーハウスが遠い傾向があることが分かります。サマーハウスへの移動手段は、基本は自動車です。
 
さて、このサマーハウス。使わないときはどうしているのでしょう。

「使わないときは人に貸すこともありますが、基本的には自分や親族だけで使います。フィンランド最大のサマーハウス賃貸サイトを見ると、貸し出されているサマーハウスは約4000戸ありました。総数50万戸と比べると少ないですが、貸せる仕組みはあるということです。また、企業が所有するサマーハウスは、安い利用料で従業員に貸し出されています」(オッリさん)
 
また、この調査によると、サマーハウスを持つ人の24%が夏の長期休暇中をまるまるサマーハウスに滞在するとしており、62%の人は長期休暇の一部をサマーハウスで過ごすとしています。冬でも住める仕様のサマーハウスであれば、年間を通じて週末をサマーハウスで過ごすのが一般的です。

なお、サマーハウスに対して特別な税金の控除や補助金はなさそうです。ただし、サマーハウス用途の住宅の固定資産税はメイン居住の住宅よりも負担が軽いのが通例です。

夏にはハイキング、冬にはクロスカントリースキーなどが楽しめる森の中のサマーハウス。フィンランドでは、誰でも自然の中の好きな場所を自由に歩けるという権利「自然享受権」が認められている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

夏にはハイキング、冬にはクロスカントリースキーなどが楽しめる森の中のサマーハウス。フィンランドでは、誰でも自然の中の好きな場所を自由に歩けるという権利「自然享受権」が認められている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

若い世代の「サマーハウス離れ」について

この取材に行く前に、「フィンランドの若い世代には、サマーハウス離れという現象があるのではないか」という記事を読みました。調べてみると、フィンランド統計局の調査では、サマーハウス所有者の平均年齢63歳であり、40歳未満は6%とわずか。やはり、「若者離れが進んでいるのでは?」と感じるデータです。でもオッリさんの見解は違いました。

「若い世代の”サマーハウス離れ“と言いますが、少なくとも私はそうは思いません。現に、水道や電気が通っていなくてもサマーハウスを利用したいと考えている20~30歳の人たちを、私は個人的に知っています。統計調査でも、18~25歳以上の人の半数がサマーハウスを所有したいと考えており、80%以上がサマーハウス生活を送ることに前向きです」

にもかかわらず、なぜこれほど多くの高齢者がサマーハウスを持っているのでしょうか。そのひとつめの理由として考えられるのが、40歳未満の人々は自宅の住宅ローンを払っている最中か、あるいは自宅購入すらしていないためではないかということ。また、サマーハウスの多くは、所有者の死亡時に子どもに相続されることによって所有権が移るため、必然的に、所有者の年齢が高くなるという事情もあるようです。

湖では、ボートこぎ、カヌー遊び、釣りなどが楽しめる。もちろん、サウナの後に体をクールダウンさせるときにも、湖は天然の水風呂に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

湖では、ボートこぎ、カヌー遊び、釣りなどが楽しめる。もちろん、サウナの後に体をクールダウンさせるときにも、湖は天然の水風呂に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ボートで湖に漕ぎ出して、静寂に包まれながら湖上で釣り糸を垂れるひととき。フィンランドでは誰でも無料で釣りができるが、ルアー・フィッシングには許可が必要(写真提供/オッリさん)

ボートで湖に漕ぎ出して、静寂に包まれながら湖上で釣り糸を垂れるひととき。フィンランドでは誰でも無料で釣りができるが、ルアー・フィッシングには許可が必要(写真提供/オッリさん)

湖にかかる桟橋は、ときに“飛び込み台”になったり、腰を掛けて足先を水につけて読書するときの“椅子”になったりと、大活躍(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

湖にかかる桟橋は、ときに“飛び込み台”になったり、腰を掛けて足先を水につけて読書するときの“椅子”になったりと、大活躍(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

日本でも二拠点生活は一般的になるのか?

実は妻が日本人で、日本の事情にも詳しいオッリさん。日本での二拠点生活の普及の可能性についても聞いてみました。

「フィンランドが日本よりも二拠点生活が盛んなのは、フィンランド人のほうが自由な時間が多いという理由が最も大きいでしょうね。長時間労働が定着している日本では、サマーハウスでの生活を楽しめるほど十分な休暇はなかなか取れませんから。ただ、ライフスタイルや暮らしを楽しみたいという気持ちは、日本人もフィンランド人も、さほど変わりません。日本人には、フィンランドの人々と同じように自然や住まいに親しみ、故郷の親戚を訪ねたり、温泉でリラックスしたいという志向があるからです。フィンランドでは、土曜日が休日になったことで、週末に小旅行をする時間が生まれて、サマーハウスのブームが始まりました。当初、自給自足的に野菜を栽培するときの拠点であったサマーハウスは、やがてリラックスするために求められるようになり、今やフィンランドの人々は、自然と触れ合いながら、サマーハウスでのシンプルな生活を通じて、都会での忙しい生活とのバランスを取ることができています」(オッリさん)

そう考えると、日本人の働き方が変わり、自由な時間が増えれば、二拠点生活がさらに広がり、浸透するのではないでしょうか。

また、もう一つのキーは「自給自足的な生活を楽しめるかどうか」。交通や商業の利便性を重視する人が多い日本で、ある意味「面倒で手間のかかる生活」をしたいのか? 魚や山菜を取ってBBQをする、あるいは薪を割るなどという生活を好むのかどうか? そうした志向を日本人が持てるようになるかどうか…。
この点においても、日本人の志向が変わりつつある兆しを感じます。その一つがキャンプ。オシャレなキャンプ道具が増え、キャンプ人口は着実に増えています。家庭菜園も人気ですね。部屋の内装をDIYでつくりこむ日本人も増えてきています。また、都心の物件価格が異常に上昇する一方で、地方や田舎では空き家も増え、買うにせよ借りるにせよ、価格や家賃はリーズナブルになっています。加えて、法が整備されたことで、地域によっては持ち家を合法的に宿としても貸せるようになり、取得コストを10年以内に回収できる選択肢も出てきました。
豊かな二拠点生活の一般普及の環境は、徐々に整いつつあるように感じます。