愛猫家必見、ペット共生住宅の専門家の自宅におじゃまします! 猫・犬・人が快適に過ごせる間取りや家づくりの工夫は?

ペット共生住宅の専門家で設計事務所fauna+design (ファウナ・プラス・デザイン)代表の廣瀬慶二さん。約20年、愛犬や愛猫と幸せに暮らす家づくりを研究し続ける中で、2020年に家族3人と犬1匹、猫2匹が暮らすマイホームを建築し、自宅を通して試行錯誤しながら今も研究を続けています。そんな廣瀬さんの自宅は「猫も犬も人も快適に美しく暮らす家づくり」のポイントがたくさん。中でも、完全室内飼いで家にしかいない猫は、より工夫が必要です。猫が遊ぶ場所、くつろげる場所、トイレの場所はどうするかなど、猫と暮らす家を検討している人が気になることを専門家かつ実践者の目線で教えてもらいました。

愛猫のシロイちゃん。愛猫は2匹とも保護猫だそう(写真撮影/水野浩志)

愛猫のシロイちゃん。愛猫は2匹とも保護猫だそう(写真撮影/水野浩志)

愛猫のチャイちゃん(写真撮影/水野浩志)

愛猫のチャイちゃん(写真撮影/水野浩志)

フィールドワークを出発点にペット共生住宅を手掛け、犬猫専門建築家へ

ペットとの共生住宅を専門に設計する建築士は国内外を通じてほとんどいません。その第一人者として海外でも知られる廣瀬慶二さんは、ペット共生住宅を100軒以上手掛けています。そのスタートとなったのは2000年ごろ、当時勤めていた設計事務所を辞めてから、犬と暮らす人の家を訪問して聞き取るフィールドワーク(住まい方調査)を始めたことでした。

fauna+design (ファウナ・プラス・デザイン)代表の廣瀬慶二さんとシロイちゃん(写真撮影:水野浩志)

fauna+design (ファウナ・プラス・デザイン)代表の廣瀬慶二さんとシロイちゃん(写真撮影:水野浩志)

「フィールドワークをする中で、ペットと暮らすことで家の中がぐちゃぐちゃになりストレスを感じている人が意外と多くいました。以前所属していた設計事務所で設計した家を引き渡しからしばらくして見に行くと、部屋の隅に大きな檻が置かれて、せっかくの豪邸が台無しになっているケースもありました」
ペットの生態や習性、飼い主の行動に基づく、ペットと人が共生する新しいコンセプトの家が必要ではないか。そう思った廣瀬さんは、まず犬のための家づくりを始めました。

「その分野を誰もやっていなかったこともペットとの共生住宅をつくるようになった理由の一つです。2004年、庭で飼うのが主流だった犬を室内で飼う習慣が出てきたころと同時に、屋外にいることが普通だった猫を外に出さない完全室内飼育が主流になり、それに合わせて家の形も変わらなければならないと、一気に猫の家の仕事が増えてきました」

そして、廣瀬さんは「猫専門建築家」としても認知されるようになりました。

爪研ぎができる猫柱を登ってキャットウォークに向かうチャイちゃん。猫がワクワクするのを見ると飼い主も楽しい(写真撮影/水野浩志)

爪研ぎができる猫柱を登ってキャットウォークに向かうチャイちゃん。猫がワクワクするのを見ると飼い主も楽しい(写真撮影/水野浩志)

そもそも、今はよく耳にするようになった「ペット共生住宅」とは何でしょうか。「今の段階で定義をすると、動物福祉の世界には5FREEDOM(5つの自由(解放))という国際的に認められた基準があります。この「5つの自由」が担保された、動物も人間もストレスを感じない住まいをペット共生住宅といいます」と廣瀬さん。

5FREEDOM(5つの自由(解放))とは、1960年代の英国で家畜の劣悪な飼育環境を改善、福祉を確保するために基本として定められたもので、英国の動物福祉法にも盛り込まれています(以下参照)。この問いかけの文言を一つひとつチェックしていくと、ペットとの共生住宅に必要なものが見えてきます。

「5つの自由」に基づく動物福祉の評価表
Animal Welfare Assessment by(注※)RSPCA,WOAH

■1.飢えと渇きからの自由(解放)
(1) 動物が、きれいな水をいつでも飲めるようになっていますか?
(2) 動物が、健康を維持するために栄養的に充分な食餌を与えられていますか?

■2.肉体的苦痛と不快からの自由(解放)
(3) 動物は、適切な環境下で飼育されていますか?
(4) その環境は、常に清潔な状態が維持されていますか?
(5) その環境には、風雪雨や炎天を避けられる屋根や囲いの場所はありますか?
(6) その環境に怪我をするような鋭利な突起物や危険物はないですか?
(7) その動物に休息場所がありますか?

■3.外傷や疾病からの自由(解放)
(8) 動物は、痛み、外傷、あるいは疾病の兆候を示していませんか?
 もしそうであれば、その状態が、診療され、適切な治療が行われていますか?

■4.恐怖や不安からの自由(解放)
(9) 動物は恐怖や精神的苦痛(不安)の兆候を示していませんか?
 もし、そのような徴候を示しているなら、その原因を確認できますか?
 その徴候をなくすか軽減するために的確な対応がとれますか?

■5.正常な行動を表現する自由 
(10) 動物は、正常な行動を表現するための充分な広さが与えられていますか?
 作業中や輸送中の場合、動物が危険を避けるための機会や休息が与えられていますか?
(11) 動物は、その習性に応じて、群れあるいは単独で飼育されていますか?
(注※)
RSPCA:The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals(英国王立動物虐待防止協会)
WOAH:World Organisation for Animal Health(世界動物保健機関)

ポイント1 猫専用のものと猫立入禁止の空間を設け、猫の動線を考えて設計する

廣瀬さんがマイホームを建てたのは2021年3月。「実験の場を兼ねて家を建てて1年以上、いろいろなものをつくって、実際に猫たちが使って強度や使い勝手などを見て。お客さまに提供する前の実験をしていたんです」

廣瀬さんの自邸外観。正面の高い所にある正方形の窓は猫が外を見る場所(写真撮影/水野浩志)

廣瀬さんの自邸外観。正面の高い所にある正方形の窓は猫が外を見る場所(写真撮影/水野浩志)

廣瀬さんの自宅は見晴らしの良い高台の傾斜地に立つ2階建てで、さらに地下階とロフトがあります。上の写真すべて2階部分、駐車場部分は人工地盤で、本来の1階部分はこの下で、リビング・ダイニング・キッチンと和室、水まわり、さらに、地下階は子ども部屋、書斎、主寝室、ご家族の趣味の音楽室、そしてアクアリウムがあるプライベート空間となっています。1階と地下階が家族の生活の場で、愛犬の主な居場所は1階です。そして、2階は応接室と廣瀬さんの仕事場でもあるアトリエで、勾配屋根の下を利用した屋根裏やロフトは猫が主に利用しています。上の階に行くほど猫の滞在時間は長くなります。

2階の応接室とアトリエ(写真撮影/水野浩志)

2階の応接室とアトリエ(写真撮影/水野浩志)

間取図(以下参照)を見てわかるように、廣瀬さんの家には、猫専用のものと猫の立入禁止スペースを設けています。猫が好きなことも、家族(人間)の趣味や生活も大事にして、お互いに嫌な思いをしないで安全・安心に過ごせるよう線引きをしています。

・猫専用の空間と場所……猫ダイニング、猫用階段、猫大階段、猫柱、キャットウォークなど
・猫立入禁止スペース……書斎、音楽室、子ども部屋、キッチンなど水まわり

廣瀬さんの自邸の間取図。グレー部分は猫の立入禁止ゾーン、黄色部分は猫専用スペース(画像提供/fauna+design)

廣瀬さんの自邸の間取図。グレー部分は猫の立入禁止ゾーン、黄色部分は猫専用スペース(画像提供/fauna+design)

猫専用の空間には猫用の出入口を設けています。一方、猫立入禁止スペースにはドアの両側から鍵が閉められる両面サムターン鍵をつけているので、猫がレバーハンドルに飛びついて戸を開けてしまうことはありません。

右側は猫用のトイレ(下段)と水を飲んだり食事をしたりする場所(2段目)。掃除などで人間が出入りする扉とは別に、左の小さな扉は常時出入り可能な猫専用ドア(写真撮影/水野浩志)

右側は猫用のトイレ(下段)と水を飲んだり食事をしたりする場所(2段目)。掃除などで人間が出入りする扉とは別に、左の小さな扉は常時出入り可能な猫専用ドア(写真撮影/水野浩志)

玄関はメインエントランスのほかに、2階の応接室・アトリエに直接入れる来客用の玄関も設け、職と住を分けています。

そして、猫の動線も行動に合わせてしっかり道がつくられています。下の写真は、1階のリビング・ダイニングに隣接している「猫ダイニング」のくぐり穴(スリット)から専用通路(キャットウォーク)を歩いてキャットツリーを登って2階に行く動線です。ともすれば取ってつけたように感じるキャットウォークが、デザインとしても美しく成立しています。

猫ダイニングから和室、キャットウォーク、猫専用階段へ。出口や道がちゃんと用意されているから、家族の趣味の音楽のアイテムを邪魔しないで自由に動き回れる(写真撮影/水野浩志)

猫ダイニングから和室、キャットウォーク、猫専用階段へ。出口や道がちゃんと用意されているから、家族の趣味の音楽のアイテムを邪魔しないで自由に動き回れる(写真撮影/水野浩志)

ポイント2 猫のお気に入りになるキャットウォーク「大通り、横道、交差点」をつくる

愛猫家が「猫のための家をつくろう」と考えるとき、最初に浮かぶのはキャットウォークではないでしょうか。廣瀬さんの自宅、特にロフトにはキャットウォークがたくさんあります。

「キャットウォークは何も考えずにつくると、使ってくれないことが多々あります。1カ所に固めない方がいいです。まずは猫が好きな場所(A地点)から好きな場所(B地点)に行ける大きい道をつくる、それがメインキャットウォークです。そこから分岐するように、眺めを楽しむ窓の前やご飯を食べる所に行ける道、横断キャットウォークをつくります。交差する交差キャットウォークは、猫はどっちに行こうかと考えて自由に道を選べるので楽しいし、活発になりますね」

廣瀬さんの自宅のメインキャットウォークは部屋の端から端まで渡した、長さ7.5mの一本道。幅もあるので2匹の猫が擦れ違うときも悠々と歩けます。「住まいの中に猫的街並みを展開する」といった視点から解説すると、メインキャットウォークは都市でいえばメインストリート(大通り)という位置づけです。

メインキャットウォークの先には眺めを楽しむ窓。周囲にはすのこを張り巡らせ自在に動ける(写真撮影/水野浩志)

メインキャットウォークの先には眺めを楽しむ窓。周囲にはすのこを張り巡らせ自在に動ける(写真撮影/水野浩志)

メインキャットウォークから横断キャットウォークは、インテリア性も考えて廣瀬さんが好きなアーティスティックな組子細工の板を採用しています。

組子細工の横断キャットウォークは足元の下が見えるか見えないかで猫の冒険心をかき立てる? 厚さは約5cmで強度も問題ない(写真撮影/水野浩志)

組子細工の横断キャットウォークは足元の下が見えるか見えないかで猫の冒険心をかき立てる? 厚さは約5cmで強度も問題ない(写真撮影/水野浩志)

交差キャットウォークは、「猫的街並み」の視点では、信号がない交差点のような場所です。

キャットウォークが交差していると猫は自由で楽しい(写真撮影/水野浩志)

キャットウォークが交差していると猫は自由で楽しい(写真撮影/水野浩志)

猫の寝る場所もキャットウォークで上がれる天井裏を利用した落ち着く場所に設置。チャイちゃんがまったり(写真撮影/水野浩志)

猫の寝る場所もキャットウォークで上がれる天井裏を利用した落ち着く場所に設置。チャイちゃんがまったり(写真撮影/水野浩志)

廣瀬さんの家は勾配天井で、屋根材と下地の間に断熱材を入れて通気層となる隙間を設けた「屋根断熱通気層工法」を採用しているため、屋根裏に空間ができ、キャットウォークをたくさん設けることができました。小屋裏収納などに使うことが多い屋根裏を、猫たちが自由に楽しめるパラダイスとして有効活用したのです。平屋でも参考になる事例ではないでしょうか。

ポイント3 トイレと水飲み場がある猫専用の空間「猫ダイニング」をつくる

廣瀬さんの自宅には、1階と2階の2カ所に猫用の小部屋「猫ダイニング」があります。ダイニングといえば食事場所です。

「猫を初めて飼うとき、ほとんどの人が3段ケージを使います。一番下にトイレ、2段目にご飯と水を置いて、一番上にハンモックをつる、3段構成のケージです。飼い主がお世話するのに集中できますが、3段ケージを部屋として初めからつくればいいと考えたのが猫ダイニングです。

猫ダイニングには、猫の頭数分のトイレと猫の水飲み場(食事場所兼用)を置いています。水を少量だけ流しっ放しにできる水栓と手洗いボウルを設けた猫の水飲み場があると、猫はよく水を飲むようになります。水をよく飲む猫は下部尿路疾患のリスクが減り、毛艶もよくなります。猫は15年以上家の中で暮らしますから、長生きしてもらうためにも、間取りの中にあらかじめトイレの場所、猫ダイニングをつくってあげるといいですね」

カウンターにはくぐり穴を造作しトイレから2段目やキャットウォークへのスムーズな動線を設けた。トイレの置き場は防水性があるものを。つり戸棚には猫のものを収納((写真撮影/水野浩志)

カウンターにはくぐり穴を造作しトイレから2段目やキャットウォークへのスムーズな動線を設けた。トイレの置き場は防水性があるものを。つり戸棚には猫のものを収納((写真撮影/水野浩志)

食事場所とトイレが近くても立体的に配置すれば問題ありませんが、猫ダイニングではトイレの清潔感、掃除のしやすさがポイントになります。「猫トイレの置き場所はキッチンのカウンターに用いられる人造大理石で7cmの立ち上がりをつくり、内部の入隅にRをつけて、掃除がしやすいよう工夫しています。そして一番大事なのはトイレの近くに24時間稼働する換気扇をつけることです」。猫も個室があるとうれしいでしょうし、トイレも集中してできそう、飼い主は世話がしやすく省スペースで大助かりです。

廣瀬さんの自宅は猫2匹とジャックラッセルテリアのアリスちゃんが同居しています。犬が猫のトイレの砂を食べてしまうこともあるため、猫のトイレに犬を近づけないことが最重要課題で、だからこそ個室にすることが必要でした。

また、犬は猫が大好きで近づきたいそうですが、猫はマイペースで過ごしたいので犬と一緒にいたがらないそうです。犬と猫が仲良しの例もあるかもしれませんが、住まいにおいては、犬と猫がお互いに邪魔をしないように動線を分けてあげることが大切です。

ポイント4 猫が大好きな縦の運動ができる「猫大階段」などをつくる

キャットウォークは水平方向に動ける道ですが、猫にとっては縦の動き、縦と横をつないで立体的に動くことが大切です。廣瀬さんの自宅では、猫ステップ(上下の行き来ができる棚板)ではなく猫大階段、猫ロフト、猫専用階段を採用しています。

「猫はとにかく高い所が好きです。家の中ばかりにいると刺激も必要ですし、肥満防止にもなるので、縦の運動ができるように工夫しています。猫ステップは過去にたくさんつくって、幅や段差などをいろいろ調査しましたが、見た目(インテリア性)のことも考えて最近、猫ステップは設計に組み込んでいません。猫ダイニングの高さまで登るなら、椅子を一つ置くだけで十分です。
地形レベルで考えると、壁から飛び出した板を上がるより、小さい山があったり谷があったりした方が猫は楽しいので、最近は猫大階段と呼んでいる大きい階段をつくっています。猫は階段が大好きなので、機会があったら人間用の階段が複数ある家をつくりたいですね」

本棚兼用の猫大階段と、その背後にある猫ロフト(写真撮影/水野浩志)

本棚兼用の猫大階段と、その背後にある猫ロフト(写真撮影/水野浩志)

猫ロフトは、猫がのんびりくつろぐ空間。「猫専用の家具は必要ありません。人と猫が共用できる、猫のお気に入りの椅子があればいいですね」。猫は人が使う椅子が大好きですし、猫と住んでもインテリアの質を落としたくないという廣瀬さんのこだわりもあります。

人間用の読書空間にもなる猫ロフトにはカッシーナのすてきなチェアや小田隆の絵画が飾られている(写真撮影/水野浩志)

人間用の読書空間にもなる猫ロフトにはカッシーナのすてきなチェアや小田隆の絵画が飾られている(写真撮影/水野浩志)

デスク横の造り付けの家具は空間を仕切る収納棚であり、キャットウォークに上れる猫階段でもある(写真撮影/水野浩志)

デスク横の造り付けの家具は空間を仕切る収納棚であり、キャットウォークに上れる猫階段でもある(写真撮影/水野浩志)

左がキャットツリーで、1階から2階、猫ロフトまで一気に駆け上ることができる。右は猫用階段(写真撮影/水野浩志)

左がキャットツリーで、1階から2階、猫ロフトまで一気に駆け上ることができる。右は猫用階段(写真撮影/水野浩志)

廣瀬さんの自宅は、人間の居心地の良さと猫の居心地の良さ、人と猫の使いやすさが両立しています。美しく整然としていることも居心地の良さを高めます。例えば、家族がくつろぐリビング・ダイニングの壁、天井の下のキャットウォークはくぐり戸や猫柱とつながり部屋から部屋へ、上階から下階へと移動する機能をもちながら、インテリアとしてもアクセントになっています。

猫のほかに犬(テリア?の〇〇〇ちゃん)もいますが、

家族がくつろぐリビング・ダイニングにキャットウォークや猫専用階段、猫柱がなじんでいる。犬は主にリビングでくつろぐ(写真撮影/水野浩志)

家族がくつろぐリビング・ダイニングにキャットウォークや猫専用階段、猫柱がなじんでいる。犬は主にリビングでくつろぐ(写真撮影/水野浩志)

仕事の打ち合わせをする2階の応接室。猫が自在に動ける動線、猫が好きな景色を見る窓も、癒やしの植物もある(写真撮影/水野浩志)

仕事の打ち合わせをする2階の応接室。猫が自在に動ける動線、猫が好きな景色を見る窓も、癒やしの植物もある(写真撮影/水野浩志)

まだある!猫も家族もうれしい猫の家を2事例紹介

廣瀬さんの自宅のほか、廣瀬さんが設計した猫と暮らす家を2事例紹介します。

まずは、愛知県のW邸(猫5匹と同居)で、猫が岩盤浴を楽しむという個性的なコンセプトの家です。白とナチュラルを基調としたフレンチモダンのインテリアで統一されていて、猫も優雅に見えます。2階の猫大階段を上がると床暖房が採用された猫ロフトがあり、そこで猫がまるで岩盤浴のようにのんびりと楽しめる、ほんわかした雰囲気です。また、壁面の中に猫階段を設けた「猫壁」をつくるなど工夫を凝らしています。

W邸の猫大階段。左には猫トイレと食事スペース(画像提供/fauna+design)

W邸の猫大階段。左には猫トイレと食事スペース(画像提供/fauna+design)

W邸。猫が岩盤浴にアクセスするには猫大階段、キャットツリー、キャットタワー、爪研ぎ猫柱などいくつものルートがある。白い格子窓の窓台は猫の居場所(画像提供/fauna+design)

W邸。猫が岩盤浴にアクセスするには猫大階段、キャットツリー、キャットタワー、爪研ぎ猫柱などいくつものルートがある。白い格子窓の窓台は猫の居場所(画像提供/fauna+design)

W邸。猫は暖かい所が大好き。猫ロフト(岩盤浴)でくつろぐ猫(画像提供/fauna+design)

W邸。猫は暖かい所が大好き。猫ロフト(岩盤浴)でくつろぐ猫(画像提供/fauna+design)

W邸。壁に飾り棚や収納を設け、階段も猫の居場所に(画像提供/fauna+design)

W邸。壁に飾り棚や収納を設け、階段も猫の居場所に(画像提供/fauna+design)

次に紹介するのは、岡山県のO邸(猫3匹)で、キャット用のパティオ(中庭)、「キャティオ」のある家です。リビング・ダイニングの天井にはキャットウォークや猫ステップ、キャットツリーを設け、上部のすのこ上の猫寝天井(猫が寝るための天井空間)や猫ロフトへの移動をスムーズにしました。まるでバリのリゾートホテルのような趣のインテリアに猫の居場所や遊び場が違和感なくなじんでいます。

O邸。外からの視線も危険もない広いキャティオで、お腹を出して日なたぼっこを楽しむ猫(画像提供/fauna+design)

O邸。外からの視線も危険もない広いキャティオで、お腹を出して日なたぼっこを楽しむ猫(画像提供/fauna+design)

O邸。猫の寝床は人間のベッド。構造上必要な柱を爪研ぎの猫柱とし、連続的に並べているのは、猫のためと、デザイン面への配慮(画像提供/fauna+design)

O邸。猫の寝床は人間のベッド。構造上必要な柱を爪研ぎの猫柱とし、連続的に並べているのは、猫のためと、デザイン面への配慮(画像提供/fauna+design)

O邸。リビング・ダイニングのキャットウォークから猫ステップへリズミカルに移動する猫(画像提供/fauna+design)

O邸。リビング・ダイニングのキャットウォークから猫ステップへリズミカルに移動する猫(画像提供/fauna+design)

O邸。コーナーで折れ曲がるキャットウォーク(画像提供/fauna+design)

O邸。コーナーで折れ曲がるキャットウォーク(画像提供/fauna+design)

以上の二つの事例は、家族の好みや趣味、インテリア性を大事にしながら、猫のストレスがたまらないように、気持ちよく過ごせることを優先的に考えています。そして、猫が幸せだと飼い主も幸せ、お互いが幸せになる家です。

廣瀬さんの自宅を参考に「猫と暮らす家について大切なこと」をまとめてみました。

・お気に入りの場所に行けるキャットウォークを設ける
・縦、垂直に移動できる猫階段、猫柱などを設け、縦と横がつながるようにする
・屋根断熱工法を採用すると屋根裏を猫の遊び場として利用できる
・高い所、外を眺めるのが好きな猫のために窓と窓の前の居場所を設ける
・猫の水飲み場、食事場所、トイレを1カ所にまとめた猫ダイニングを設ける。少量でいいので常に新鮮な水を流しっ放しにし、換気扇をつけて清潔に保つ

廣瀬さんがつくるペット共生住宅は、猫の習性や行動に基づいて猫にとって必要なものをつくり、猫目線で猫が喜ぶこと、幸せに感じることを考えた住宅です。人間がペットのために我慢することがないように、反対にペットが人間のために我慢することがないように、お互いに健やかに暮らせるように工夫して、ペットと暮らす家づくりを考えてみませんか。

●取材協力
廣瀬慶二さん
設計事務所fauna+design代表、犬猫専門建築家、一級建築士、一級愛玩動物飼育管理士。神戸大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。著書『ペットと暮らす住まいのデザイン』ほか

猫好きさん夢のシェアハウス! 獣医師が運営、定期健診つきで愛猫の健康を守る 「KOTERA」東京都大田区

猫が好き、猫に囲まれて暮らしたい! できれば猫好きの同志も近くに住んでいたら、毎日楽しそう……。そんな暮らしを実現できるのがペット飼育可のシェアハウスです。

ペット飼育可というと、犬のみ、猫のみ、または犬猫OKなどバリエーションはさまざまですが、東京都大田区にあるシェアハウス「KOTERA」の特徴は、オーナーが猫専門の獣医師であること。猫と気持ち良く暮らすための工夫やシェアハウスの運営体制について、オーナーと入居者に聞きました。

「全ての猫に医療の機会を」 知見を活かしたシェアハウス開設(画像提供/猫の診療室モモ)

(画像提供/猫の診療室モモ)

「KOTERA」のオーナーは、猫専門動物病院「猫の診療室モモ」の院長を務める谷口史奈さん。幼いころから猫と過ごし「将来は猫に関する仕事に就きたい」と考えていた谷口さんは、その思いを叶えて獣医師になり、2016年に同院を開業。診察や治療だけでなく、保護猫支援にも積極的に取り組んでいます。

「全ての猫が等しく医療を受けられる機会をつくりたい」と話す谷口さん。実践の場の一つとなっているのが、自身が運営する猫飼育可・女性専用のシェアハウス「KOTERA」です。

入居条件は「猫を飼っている人」もしくは「猫と暮らしてみたい人」一戸建ての2階部分が「KOTERA」(画像提供/KOTERA)

一戸建ての2階部分が「KOTERA」(画像提供/KOTERA)

東急池上線・旗の台駅から徒歩圏内、閑静な住宅街にあるシェアハウス「KOTERA」。現在は、2人と4匹の猫たちが暮らしています。

入居の条件は、「猫を飼っている人」だけでなく「猫と暮らしてみたい人」。猫を飼いたいけれど自分一人で受け入れる余裕や準備がまだできていない人や、猫との暮らしを経験してみたい人が、ほかの入居者の飼い猫との触れ合いを通じて猫に慣れ、学ぶことができます。

約40坪の3LDKで、リビング・ダイニング、キッチンのほか、バスルームや洗面所、トイレといった水回りは共用。玄関前にはウッドデッキも(画像提供/KOTERA)

約40坪の3LDKで、リビング・ダイニング、キッチンのほか、バスルームや洗面所、トイレといった水回りは共用。玄関前にはウッドデッキも(画像提供/KOTERA)

家賃は8万円で、光熱費・水道代、インターネット使用料、共用部の消耗品代、家財保険を含めた共益費が1万6千円。猫の飼育は1人3匹までで、2匹目からは月5千円の追加費用がかかります。

動き回って、外を眺めて 猫の本能を満たす環境づくり共用部であるリビングは掃除がしやすく猫が動き回れるよう、家具は多く置かない(画像提供/KOTERA)

共用部であるリビングは掃除がしやすく猫が動き回れるよう、家具は多く置かない(画像提供/KOTERA)

室内に入ってまず印象的だったのが、リビングの高い天井に渡る2本の梁。入居者の飼い猫たちがキャットウォークとして使っています。キャットタワーやカーテンレールから梁へと移動することができ、日々の運動不足を防ぎます。

人の手が届かない高い位置から、人間の様子を見ている猫たち(画像提供/KOTERA)

人の手が届かない高い位置から、人間の様子を見ている猫たち(画像提供/KOTERA)

飼い主の居室に戻ってほしいのに梁から全然降りてくれなくて困る……なんてこともあるほど、猫たちのお気に入りスポットとなっているそう。こうした縦方向に移動できる環境を飼い猫に提供できるのも、マンションの個室ではない、一戸建てタイプのシェアハウスの広い空間ならでは。

室内飼いの猫にとっては、外の景色を眺めて刺激を受けることも大切です。ウッドデッキ側の大きな窓からはもちろん、猫たちは幅のある窓枠に乗ってそこからも風景を眺めています。

窓辺の猫(画像提供/KOTERA)

窓辺の猫(画像提供/KOTERA)

「猫の本能は見張りと狩り。室内飼いの安全な状態でありつつ、本能が満たされる環境にできると猫の健康のためにいいですね。

とはいえ、『適切な運動量は一日●分』、など一概に言うことは難しいもの。猫にもそれぞれ個性があるので、飼い主が考える『正しい生活』を一方的に強いるのはおかしいですよね。飼い猫の性格を理解したうえで健康を維持できる環境を整える、という考え方が自然ではないでしょうか」(谷口さん)

定期的な健康チェックや往診 もしもの時にも対応

「ペット可のシェアハウスを始めるにあたって、なにか特徴がないと入居には至らないだろうし、猫の健康に関するサービスは特に充実させることにしました」と谷口さん。「KOTERA」で暮らす猫と飼い主のために、いくつかのサービスを用意しています。

・年1回の健康診断、月1回の健康チェック・爪切り・ノミ予防(無料)
・入居猫への往診(往診無料、別途治療費)
・慢性腎臓病などの慢性疾患をもつ猫に必要な薬や処方食を優遇
・最新フードやサプリメントの情報共有

(画像提供/KOTERA)

(画像提供/KOTERA)

月に1回、谷口さんが来訪して健康チェックや爪切り、ノミ予防を行います。爪切りが苦手な飼い主や猫は多いと思いますが、その点、定期的にプロに切ってもらえるのは安心です。

往診が無料というのも、移動や病院がストレスになってしまう猫にとってはありがたいですね。多忙で通院が難しい飼い主も時間をつくりやすくなるため、健康チェックは好評だそう。

また、腎臓病は高齢の猫の発症率が高いため、薬や処方食が今すぐ必要ではない飼い猫にとっても、いざというときの支えになればと考えているそう。何よりも、専門医にすぐ相談できる環境があるということが心強いと感じました。

絶妙な距離感で一つ屋根の下に住む

シェアハウスにつきものなのが、ほかの入居者との相性問題。「KOTERA」の場合は猫同士の相性にも気をつけなくてはいけません。円満な猫関係のために、どのような対策を取っているのでしょうか。

「入居前のヒアリングで猫の性格などを聞き、先住猫とやっていけそうかをある程度判断します。入居後は個室に置いた3段ケージの中で過ごしてもらい、慣れてきたら少しずつ行動範囲を広めて先住猫と対面します。このあたりは普通の多頭飼いとあまり変わらないかなと」(谷口さん)

3段ケージ(右)、個室、共用部と少しずつ環境に慣らしていく(画像提供/KOTERA)

3段ケージ(右)、個室、共用部と少しずつ環境に慣らしていく(画像提供/KOTERA)

猫同士が十分な距離を取れる環境のため、相性の合わない猫たちがずっと一緒にいてストレスがかかることはないそう。仲が悪くも良くもないという、猫らしい絶妙な距離感でそれぞれマイペースに過ごしています。

入居者の居室でリラックスする猫(画像提供/KOTERA)

入居者の居室でリラックスする猫(画像提供/KOTERA)

また、安全のために「KOTERA」では飼い主の不在中は飼い猫を個室にとどめておくというルールを設定。飼い主が出入りする際の玄関ドアからの脱走や、キッチンなど危ない場所への立ち入りを防ぎます。

キャットウォークにもなるウォールシェルフなど、入居者の個室にも猫が動き回れる工夫が(画像提供/KOTERA)

キャットウォークにもなるウォールシェルフなど、入居者の個室にも猫が動き回れる工夫が(画像提供/KOTERA)

エサやトイレは、入居者それぞれの個室に設置。ほかの猫にエサを食べられたりトイレを使われたりというトラブルを避け、臭い対策にもなります。

家賃が猫のためになる 保護猫支援の取り組み保護猫団体「CAT’S INN TOKYO」の活動の様子。同団体の代表と谷口さんは知り合いで、猫に関するさまざまな活動を一緒に行ってきた(画像提供/CAT’S INN TOKYO)

保護猫団体「CAT’S INN TOKYO」の活動の様子。同団体の代表と谷口さんは知り合いで、猫に関するさまざまな活動を一緒に行ってきた(画像提供/CAT’S INN TOKYO)

「KOTERA」では、保護猫支援にも取り組もうとしています。板橋区で里親募集型保護猫カフェの運営や猫の飼育講座を行う団体「CAT’S INN TOKYO」と提携し、保護猫を一定期間預かってお世話をする「預かりボランティア」をシェアハウスで実施予定。エサ代など費用の一部は、シェアハウス入居者の家賃からまかなわれます。

保護猫を迎えたいと思っていても、一人暮らしだと譲渡が難しいケースもあります。「KOTERA」では入居者が保護猫を飼う際、迎え入れる猫の相談や飼育のアドバイスなど、「CAT’S INN TOKYO」と谷口さんがサポートするそうです。

「猫と暮らしたい人、猫と暮らす適性があるか分からない人に、保護猫の迎え入れや預かりボランティアを通じて猫との生活の機会を提供できれば」(谷口さん)

「うちの子こんなに動けたんだ」 実際に入居してみて

「KOTERA」での生活や猫たちの様子について、入居者の方にもお話を伺いました。

入居定員は3名で、それぞれ鍵付きの個室(約5~6畳)を備える(画像提供/KOTERA)

入居定員は3名で、それぞれ鍵付きの個室(約5~6畳)を備える(画像提供/KOTERA)

入居者・ハルカさん(仮名)の飼い猫は3匹。もともと自分で飼っていた猫たちに加え、実家の猫も引き取ることになったタイミングで引越してきました。

「複数匹を飼える賃貸物件はなかなかないので、ありがたかったです。物件自体が広くて猫たちの住み心地がいいのはもちろん、私自身は備え付けのダブルベッドが快適で気に入っています(笑)」(ハルカさん)

ハルカさんの飼い猫、ちろちゃん(左)とチーズちゃん。ダブルベッドですやすやと眠る(画像提供/KOTERA)

ハルカさんの飼い猫、ちろちゃん(左)とチーズちゃん。ダブルベッドですやすやと眠る(画像提供/KOTERA)

もう一人の入居者・ナツコさん(仮名)の飼い猫は、KOTERAに住む猫たちの中で唯一のオスでいちばん年下の新入り。ほかの猫と暮らした経験もありませんでしたが、たまに先輩猫に追いかけ回されたりしつつも、おっとりとマイペースに過ごしているそうです。

ナツコさんの飼い猫・とのくん 窓辺でまったり(画像提供/KOTERA)

ナツコさんの飼い猫・とのくん 窓辺でまったり(画像提供/KOTERA)

「とのは運動があまり得意じゃないと思っていたんです。でもここに引越してから活発に動き回っていて、うちの子こんなに動けたんだ、と驚きましたね。広い環境だからこそ知れた、新たな一面です」(ナツコさん)

入居者はお互いの猫を可愛がるのはもちろん、それぞれの猫の面倒を見ることもあります。朝急いで外出しないといけない時は、お互いの同意のもと、まだ家にいる相手に自分の飼い猫を自分の居室に入れるのを頼んだりするそうです。

膝に乗るのが大好きなちろちゃんは、よくナツコさんの膝の上でくつろいでいる(画像提供/KOTERA)

膝に乗るのが大好きなちろちゃんは、よくナツコさんの膝の上でくつろいでいる(画像提供/KOTERA)

日中は2人とも外出して働いていますが、リビングで会うと必ず雑談したり、ときにはハルカさんがナツコさんにおすすめして2人ともハマったというアイドルの動画を一緒に観たり、入居者同士もゆるやかな関係を築いているそうです。

シェアハウスでの猫との生活は、1人では実現できないような居住空間やサービスを愛猫に与えられること、価値観の似ている入居者同士が気兼ねない距離感で暮らせることが魅力ではないでしょうか。何よりも、「人の飼い猫も思う存分可愛がれる」というのが、猫好きにとっては心惹かれるポイントかもしれません。

●取材協力
・KOTERA
・猫の診療室モモ 院長 谷口史奈さん

スターアニマルのお宅訪問!ハリネズミ「もなか」と角田修一さんの暮らし

2020年は12年に一度のネズミ年。そしてこのところ、犬、猫に次ぐ、スターアニマルとして人気を集めているのが「ハリネズミ」です。では、ハリネズミとともに過ごす日々はどのようなものなのでしょうか。「“ハリ飼い”さん」である写真家の角田修一さんにその暮らしぶりを聞きました。
小さくて丸くて、トゲトゲ。小さな手足とつぶらな瞳の「ハリネズミ」!

インスタグラムで大人気・ハリネズミの「もなか」さん。親ハリネズミである「あずき」さん時代から角田さんが続けているインスタグラムのフォロワーは40万超、写真集やポストカードブックが次々と発売されるなど、世界から注目されているスターアニマルです。その可愛らしさは写真を見ていただければ一目りょう然、説明いらず。小さくて丸くて、チクチクしていて、愛らしい。

『はりねずみのあずき&もなか ポストカードブック』(講談社 刊)2020年1月23日発売

『はりねずみのあずき&もなか ポストカードブック』(講談社 刊)2020年1月23日発売

ハリネズミのもなかさん。取材陣一同、ひたすら「かわいい」と連呼してしまう(写真撮影/相馬ミナ)

ハリネズミのもなかさん。取材陣一同、ひたすら「かわいい」と連呼してしまう(写真撮影/相馬ミナ)

角田さんがハリネズミと出会ったのは2016年。当初は犬を飼いたいと考えたものの、家族の体調などを考慮し、抜け毛やニオイがなくケージで飼育できる「ハリネズミ」の存在を知ったそう。

「それまでハリネズミをよく知らなくて、ヤマアラシみたいな生き物を想像していたのですが、実際に見たら小さくて愛おしくて。とはいえ、命なので即決せずに一週間、よく勉強して、準備をしてから正式にお迎えしたんです」と言います。

ただ、犬や猫と違い、ペットとして飼うための情報も少なく、手探りだったそう。そんなときに役立ったのがSNS、インスタグラムでした。

「インスタではささいな日常を残しておきたい」と角田さん。眺めていると幸せな気分になれます(写真撮影/相馬ミナ)

「インスタではささいな日常を残しておきたい」と角田さん。眺めていると幸せな気分になれます(写真撮影/相馬ミナ)

「当時はハリネズミの情報もあまりなくて。日常の記録、成長の記録として残しておこうと思ったんです。また、他のハリ飼いさんと繋がって、日常のお世話など素朴な疑問をぶつけあって解消する場にもなって、自然と輪が広がりました」といいます。

インスタグラムで掲載しているのは、できるだけ自然体でリラックスした表情のもなかさん。普段、何気なく過ごしていると見落としてしまいそうな、忘れてしまいそうな、なるべく些細な思い出を残していくのだとか。写真越しにもそのやさしさ、愛情が伝わってきて、人気に火がつくのも納得です。

つぶらなひとみと鼻。手のひらサイズのトゲトゲもふもふ(写真撮影/相馬ミナ)

つぶらなひとみと鼻。手のひらサイズのトゲトゲもふもふ(写真撮影/相馬ミナ)

丸まった状態からのご飯、最後は大の字! 愛らしすぎて、無限に見ていられる……(インスタグラムより)

丸まった状態からのご飯、最後は大の字! 愛らしすぎて、無限に見ていられる……(インスタグラムより)

室温は26~28度をキープ。愛らしいドールハウス住まい

「鳴き声の心配がない」「散歩が不要」「抜け毛がなく、ニオイもない」とはいえ、ハリネズミは単純に「誰でも飼える」という生き物ではありません。まず欠かせないのが室温管理です。ハリネズミの飼育に適しているのは24度から28度と言われていますが、もなかちゃんは少し寒がりのため、アクリルケージ内は常に26~28度になるよう配慮しています。

角田さんは東京都内の3階建ての一戸建てにお住まいですが、1年を通して最も室温が安定する、2階リビングの一角にアクリルケージを設置。さらに、上下にパネル式のヒーターをいれて一年中、適温をキープできるようにしています。

安心できる脇の下に逃げ込む。腕の中の、この安心しきった表情!(写真撮影/相馬ミナ)

安心できる脇の下に逃げ込む。腕の中の、この安心しきった表情!(写真撮影/相馬ミナ)

ちなみに、お住まいは建築家とともに建てた注文住宅。周囲を建物にかこまれた旗竿敷地なので、「屋根から光を取り入れ、やわらかく光をまわす」、そんな工夫を凝らしたお住まいです。

やわらかく光が差し込む角田さんの住まい(写真は12年前のもの)。もなかさんのケージがあるのは2階だそう(写真提供/角田修一さん)

やわらかく光が差し込む角田さんの住まい(写真は12年前のもの)。もなかさんのケージがあるのは2階だそう(写真提供/角田修一さん)

アクリルケージの中には、角田さんお手製のドールハウスを設置。これがまた愛らしいカラーリングで、しかもハリネズミの体高や動きに合わせてつくり出した、まさに世界に一つのお家です。こんな住まいで暮らせるなんてもなかさん、幸せものです……。

もなかさんのお父さん、あずきさんが使っていたアクリルケージ。写真右手にあるのがお手製のおうち。テントはドイツの骨董市で購入してきたもの(写真撮影/相馬ミナ)

もなかさんのお父さん、あずきさんが使っていたアクリルケージ。写真右手にあるのがお手製のおうち。テントはドイツの骨董市で購入してきたもの(写真撮影/相馬ミナ)

もなかさんのおうち。イメージに合わせて外壁塗装を変えているそう。素敵が止まりません(インスタグラムより)

もなかさんのおうち。イメージに合わせて外壁塗装を変えているそう。素敵が止まりません(インスタグラムより)

「ハリちゃんが来て一番の暮らしの変化は生活にリズムができたこと。ハリネズミはトイレが覚えられないので、ペットシーツの交換が必要。だから毎朝、あいさつをして、ケージの掃除をするとともに、ご機嫌を伺っています」(角田さん)

ハリネズミは夜行性で、睡眠時間もたっぷり必要だそう。もなかさんの場合は20時間寝ていることもあるとか。そのため昼間はひたすら眠り、夜中に動き回ることが多いそう。だから朝、あいさつ代わりにふれあってその後に掃除、昼間はゆっくり寝かせてあげて、夜の帰宅後にマッサージをしたり、えさをあげたりとふれあっているとのこと。こうした日々を過ごすうち、角田さん自身の体調にも変化がありました。

「私はパニック障害を患っていて、今まで薬が手放せなかったのですが、ハリちゃんたちのお世話をするなかで、発作が出にくくなりました。パニック障害って周囲の人になかなか理解されないのですが、ハリネズミはそばにいてくれる存在というか、とにかく癒やしになっているのだと思います」と言います。

マッサージをされてうっとりのもなかさん。確かに癒やし効果は絶大です……(写真撮影/相馬ミナ)

マッサージをされてうっとりのもなかさん。確かに癒やし効果は絶大です……(写真撮影/相馬ミナ)

ハリネズミの寿命は3~5年。一回一回のお世話が貴重なひととき

ハリネズミは「ネズミ」といいつつも、その生態はモグラに近いそう。視力は弱く、嗅覚や聴覚で周囲の環境などを判断するため、匂いの強い柔軟剤、香水の使用は避けるようにしているとか。

「ハリネズミの寿命は3年から5年。さらにほとんど寝ているから必然的にお世話をしてあげられる時間、ともに過ごす事のできる時間は限られています。だからこそ、一回一回、会える時間をどれだけ愛してあげられるかが大事なんです。一瞬でも10分でも大切にして、お世話をしてあげたい」と角田さん。基本的にはとても臆病な生き物ですが、お世話をしていくうちに飼い主にしか見せない、油断した顔や、うっとりした顔を見られるのが、ハリネズミとの暮らしの良さだとか。

ブランケットにくるまれるのも好き。ひょっこりと顔が出ています(写真撮影/相馬ミナ)

ブランケットにくるまれるのも好き。ひょっこりと顔が出ています(写真撮影/相馬ミナ)

今、角田さんをはじめ、ハリ飼いさんのなかで最も懸念されているのが、インスタ映えのためだけに、まるで道具のようにハリネズミを飼い始める人が出てしまっていること。

「ハリネズミは動きが早いから撮影も難しいし、まるきりなつかない性格の子もいます。すると思ったような可愛い写真が撮れない、ぜんぜん懐かない、可愛くないという理由で、簡単に捨てられてしまうケースが出てきてしまって……」と悲しそうに話します。

ただでさえ短命のハリネズミが捨てられて命を落としてしまうのは、悲劇でしかありません。小さな命を乱暴に扱う人がこれ以上出ないように。最後の瞬間まで生をまっとうできるように、そっと祈るばかりです。

ぬいぐるみ(右)のハリネズミとご対面。なんだこいつ……?と思っているとか、いないとか(撮影/相馬ミナ)

ぬいぐるみ(右)のハリネズミとご対面。なんだこいつ……?と思っているとか、いないとか(撮影/相馬ミナ)

●取材協力
角田修一さん、もなかちゃん
コマーシャルフォトグラファー。1975年、東京生まれ。多摩美術大学デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。モデル活動後に独学で写真とヘアメイクを学び、現在カメラマン。広告撮影を中心に雑誌やCDジャケット、ポートレートの分野で幅広く活動中。SNSで日々のはりねずみのあずきともなかを紹介している。著書『トゲもふ! はりねずみのあずき』(kadokawa)ほか。
あずき 2016.1.15~2019.1.20
もなか 2018.4.8~
インスタグラム
『はりねずみのあずき&もなか ポストカードブック』

ペット“可”ではなく“共生”。犬も猫も一緒に暮らすシェアハウスの魅力とは

近年、ユニークなコンセプトのシェアハウスが続々と登場していますが、ペットと一緒に暮らすことができるシェアハウスはまだまだ珍しいかもしれません。今回は、ペット共生シェアハウスを運営するHOUSE-ZOO株式会社代表取締役の田中宗樹さんに、ペット共生ハウスの魅力や運営について伺いました。
ペット共生シェアハウスの原点は、動物と一緒に暮らした故郷の生活

そもそも、田中さんがペット共生のシェアハウスをつくろうと決めたのは、自身の出身地である宮崎での思い出がきっかけだったそうです。

「上京するまでは、庭で犬やニワトリを飼うなど動物と一緒に暮らすのが当たり前の生活でした。でも、東京の集合住宅では、ペットを飼える物件はそれほど多くありません。しかし、人間と動物は昔から共存・共生してきたわけだから、動物と一緒に暮らせる生活をつくりたいと思うのは当たり前のことだと思うんです。動物と共生する住環境づくりに特化していきたいという考えで今の会社を始めました」

HOUSE-ZOOのシェアハウスではペットも家族の一員。特に共用スペースでは、ペットの誤飲や誤食を防ぐためにルールも設けている(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

HOUSE-ZOOのシェアハウスではペットも家族の一員。特に共用スペースでは、ペットの誤飲や誤食を防ぐためにルールも設けている(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

ちなみに、賃貸物件などでよく見かける「ペット可」という言葉はHOUSE-ZOOの物件にはありません。ペット可物件は動物が住んでも構わないというだけで、同じ建物のなかには動物が苦手な人が住んでいることも。

一方、HOUSE-ZOOでは、ペット可の代わりに「ペット共生」という言葉を使っています。ペットを飼うことを許可するという意味ではなく、はじめから「ペットと暮らすための住環境」をつくっているからです。ペットがいるのが当然の住環境なので、動物が苦手な人はまず入居しません。同じ建物で生活する住人たちがその環境に不満をもつことが少なくなるのです。

ペット同士の相性は人と同じ。入居者同士が助け合いながら飼育

HOUSE-ZOOが運営するペット共生シェアハウスでは1人で3頭まで飼うことができるので、運営物件全体では入居者よりもペットのほうが多いそう。シェアハウスによって飼える動物は異なりますが、犬や猫だけでなく、フェレットやカメ、インコ、ウサギなどといった小動物もいます。

「当社のペット共生シェアハウスの特徴は、ペットを飼っていなくてもペットが好き、ペットをこれから飼いたいという人でも入居でき、動物との生活が楽しめる点。飼っていないけど動物のいる環境で暮らしたいという人もいます。いずれはペットを飼いたいと考えている人も多いですね。まわりの入居者が飼い方を教えてくれるので、ほかの入居者の様子を見て飼いたいと思うようになった人も少なくないんです」

犬も猫も仲良く共生させるために、入居する際には時間をかけて環境になじませる工夫も(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

犬も猫も仲良く共生させるために、入居する際には時間をかけて環境になじませる工夫も(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

また、HOUSE-ZOOが運営するシェアハウスのなかには、犬専用・猫専用のほか、犬と猫が一緒に暮らす物件もあります。仲良くなりづらいと言われる犬と猫が共生するために、運営上注意している点はあるのでしょうか。

「犬と猫が特別相性が悪いとは思わないです。人と一緒で、同じ犬同士・猫同士であっても相性のいい子も悪い子もいます。だから、犬と猫を別々に生活させるなど、そこまで気をつかうことはありません。

ただ、猫だけは入居した最初の1カ月間ぐらいは部屋から出さないで、ということはお伝えしています。猫の場合は、いきなりほかの犬や猫と顔を合わせると警戒してしまう習性があるんです。たとえ猫専用シェアハウスであっても、あえて顔も合わせず、姿を見せず、まずは気配だけを感じさせるようにしています。それだけでも、もともといる子たちは新しい子が来たって分かるんですよね。その『気配』が新しく来た子にとって当たり前の生活になったら仲良くなれる。その点は飼い主さんにも焦らないように注意しています」

入居者が集まってパーティーを開くことも。ペットも他の入居者と一緒にくつろいでいる(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

入居者が集まってパーティーを開くことも。ペットもほかの入居者と一緒にくつろいでいる(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

一人暮らしでペットを飼うとなると、当然ながらすべて一人で世話をしなければなりません。でも、ペット共生のシェアハウスなら、入居者同士が自然と助け合う関係ができるのだそうです。

「入居して間もないうちは、慣れなくて吠えたり鳴いたりするペットもいます。でも、ペット共生シェアハウスで暮らす入居者たちは、そういう子たちに対して『うるさい』と注意するのではなく『ずいぶんと鳴いてるけど大丈夫?』『なんかあったんじゃないの?』と心配するんですよね」

入居者みんなで助け合いながらお互いのペットを大切にする生活は、ペット自身だけでなく飼い主にとってもうれしいに違いありません。

過剰な設備は不要。ただし、清掃や片付けは徹底的に

ペットと共生するシェアハウスとなると、どうしても気になるのは建物の設備や衛生面のこと。設備や環境づくりでこだわっている点はあるのでしょうか。

「当社のシェアハウスは普通の空き家をリノベーションしている物件がほとんど。散歩から帰ってきたときに捨てやすいところにゴミ箱を置いたり、ペットバスを設置したり、できるだけニオイを防ぐための換気を検討したりはしますが、それ以上の特別な設備はありません。できるだけ滑りにくく、粗相をしたときに片付けやすい建材を採用していますが、フロアや壁もペット用のものではないんです。ペットと共生する住環境としてはこれで十分。これ以上の設備は過剰だと考えています」

ペット用の体を洗うお風呂(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

ペット用の体を洗うお風呂(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

また、シェアハウス内のお掃除も気になるところです。同社が運営するシェアハウスでは、ロボット型掃除機で毎日掃除するほか、10日に1日のペースでHOUSE-ZOOのスタッフや同社に採用された近所の人が清掃を行うそう。「ペットと共生する環境づくりのために、掃除や片付けにはとても気を配っている」と田中さんは言います。

共用スペースの様子。ペットの誤飲や誤食を防ぐために片付けのルールは徹底している(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

共用スペースの様子。ペットの誤飲や誤食を防ぐために片付けのルールは徹底している(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

「一番怖いのはペットの誤飲や誤食です。そのため、入居者の皆さんには、共用スペースに物を出さない・出したら片付けるということを徹底的にお伝えしています。共用スペースでは、ペットから目を離さないようにするということもルールにしています。ただ注意するのではなく、ルールを破ったことでペットたちが苦しい思いをするかもしれないということを伝えると理解してもらえますね」

地方からペットと一緒に上京する人にぜひ利用してほしい

ペット共生シェアハウスは、都会でなかなかペットと一緒に住む家を見つけることができないという人だけでなく、地方からペットと一緒に上京する人にもぜひ利用してほしいと田中さんは言います。

一人暮らし用のペット可物件ではなかなか見られない、ペットが駆け回れるスペースも(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

一人暮らし用のペット可物件ではなかなか見られない、ペットが駆け回れるスペースも(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

「シェアハウスなら家具も家電もそろっていますし、居心地がいいと言ってくれる人もたくさんいます。もちろん、いろんな入居者がいるのですぐに打ち解けるのは難しいかもしれませんが、ペットを飼っているという共通点があると仲良くなりやすいんです」

ペット共生シェアハウスは、ペットを飼う入居者同士が交流するだけでなく、入居者みんなでみんなのペットを育てていくという新しい住まいのかたち。ペットと一緒に暮らしたいと考えている人にとっては、新しい選択肢のひとつになるのではないでしょうか。

●取材協力
・HOUSE-ZOO株式会社