不妊治療と住宅購入、同時に実現させるには? 賢い住まいのマネー術(5)

不妊治療と住宅購入、どちらも非常にお金がかかるライフイベントです。二つの大きなライフイベントを同時に実現させることは可能なのでしょうか。その場合どのようなマネープランが必要なのか、基本から一緒に考えていきましょう。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。不妊治療にかかるお金と助成を知ろう 

      

不妊治療にはいくらかかるのでしょうか。タイミング指導で授かることができる場合、数万円で済むこともありますが、人工授精の場合は1回当たり数万円、体外受精の場合は1回当たり数十万円と、1人の子どもを授かるための費用は100万円以上かかることもよくあります。また、治療が長期に及ぶ場合も多いものです。

莫大なお金がかかるのに対して国や自治体からの補助はどれくらい受けることができるのでしょうか? 国の特定治療支援事業では、体外受精や顕微授精に対して、1回当たり最高15万円の給付があります。所得制限があり、夫婦合算の所得額が730万円未満(給与所得控除等を引いた額)に限られます。

独自の助成制度を設けている市区町村もあります。例えば、東京・港区の場合、所得制限なしで年30万円を限度に特定不妊治療費助成を受けることができ、東京都からの受給額では足りない部分をカバーすることができます。

品川区の場合は「一般不妊治療費助成事業」があり、国の助成制度では対象外となっているタイミング法・薬物療法・人工授精など一般不妊治療の医療費を最大で50万円助成します(年10万円まで、通算5年度、所得制限なし、年齢制限あり)。
※いずれも記事掲載時点。品川区の「一般不妊治療費助成事業」は制度変更を予定しており、上記は平成30年3月31日までの助成内容です。詳細については品川区のHPでご確認下さい。

すべての行政で独自の助成があるわけではありませんので、お住まいの市区町村のホームページや広報誌などで確認をしてみましょう。また、多くの場合、助成対象となる年齢に制限が設けられています。不妊治療は早期に始めるほうが、助成を受けるという面でも有利でしょう。

住宅選びで注意すべきは「予算」と「間取り」

では次に、不妊治療中にマイホームを購入する場合の注意点について考えてみましょう。まず一番大きなところは予算です。

住居費は手取り収入の3割以内に収めることが望ましいと言われていますが、不妊治療中もその原則は変わりません。

マイホームを購入し、不妊治療を続けた場合の家計簿はどうなるでしょうか。例えば、世帯の手取り月収40万円のA家庭の場合を見てみましょう。私の考える理想的な配分は以下のとおりです。

世帯の手取り 40万円
住居費 12万円(手取り月収の3割まで)
光熱・水道費 1万5000円
交通・通信費 2万円
保険・医療費 1万円
食費 6万円
生活用品費 5000円
被服・美容費 2万円
教養・娯楽費 2万円
交際費 1万円
夫婦小遣い 4万円
ライフイベント費(不妊治療にかかるお金) 6万円
※治療初期のケースを想定
貯金 2万円

不妊治療にかかるお金は医療費ではなくライフイベント費に含めています。治療の方法と受けられる助成額にもよって負担額は異なりますが、毎月の大きな支出になることは間違いありません。そのために、固定費となる住居費(住宅ローン返済額)は手取り月収の1/3以内に留められるように工夫をしましょう。

住宅購入の中でもマンションを購入する場合は、住宅ローンの返済以外に、管理費や修繕積立金、駐車場代など毎月住宅に固定費がかかります。すべて合わせて、現在の家賃と比べて無理がないかは必ずチェックをしておくとよいでしょう。

間取りに融通が利く物件にするなどの工夫も必要です。家族構成が決まらないうちに住宅を購入することになるからです。妊活に優しい自治体、子育てに優しい自治体もあるので、自治体情報も確認をしながら住むエリアを考えることも重要です。

夫婦共働きの期間は人生の貯め時であり、手取り月収の25%程度貯めたいところですが、ライフイベント費にお金もかかるので貯金が難しくなるかもしれません。治療が終了したら貯める、という意識を持つようにしましょう。

頭金は入れすぎない 少なくとも200万円の現預金を残そう

    
治療の方法によっては貯金を切り崩す必要が出てくる場合もあります。そのことも想定して、マイホーム購入の際に頭金を入れ過ぎない(手元にある程度の現金・預金を確保しておく)ほうがよいでしょう。

具体的には、少なくとも手元に200万円程度の現金・預金を残しておきたいものです。なぜならば不妊治療をしていない家計であっても、出産前は妊婦健診や出産費用、休職中の収入減に備えて、最低100万円は余裕が欲しいです。不妊治療をしている場合はそれに加えて、医療費やサプリメントの購入など様々なお金がかかるからです。

頭金と住宅ローンのバランスを考える必要があるので、場合によってはファイナンシャル・プランナーなど専門家にライフプランの相談をするのも一つです。

治療中は体調が不安定になることがあります。筆者の知る限り、妻側が休職するケースもあるようです。そのリスクに備えて、住宅ローンを夫一人でも返済可能な額に留めたり、勤め先に不妊治療休暇がないかを確認したりもしておきましょう。
                                                    
人生ではお金がかかるライフイベントがいくつもありますが、ライフイベントが二つ同時に重なるケースもあるものです。その場合、より慎重なプランニングが必要になります。

花輪 陽子花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

知っておきたい「一生賃貸」にひそむリスク。あなたに向いているのは持ち家?賃貸?

家を買うというリスクを冒したくない、住みたいところに住み替えしやすい、などの理由から、『一生賃貸』でいいと思っている人もいるでしょう。でも「買わないリスク」というのもあります。どんなリスクがあるのでしょう。また、『一生賃貸』に向いている人とはどんな人なのでしょう。不動産を通じたライフプランに詳しいファイナンシャルプランナーの永田さんに聞いてみました。
一家の稼ぎ手に万一の事態があったときにリスク大

持ち家:住宅ローンの支払いは「団体信用生命保険」で残債が「ゼロ」に
賃貸:家賃が払えず「引越しを余儀なくされる」ことも

「よく比較される賃貸と購入ですが、お金の面では住居費の総額は条件次第で変わるため、一概にどちらがトクかは断言できません」という永田さん。では『一生賃貸』のリスクはというと、まずは「万が一のときの保証」が挙げられると言います。

「借り続けることへの対抗軸に上がるのが、住宅ローンを組んで購入すること。この住宅ローンを組む際には多くの場合、団体信用生命保険に加入します。万一、ローンを組んだ人が亡くなった際、残債がゼロになる保険です。その結果、残された家族には住み続けられる場所と資産を残すことができます。賃貸の場合は世帯主が亡くなっても家賃を支払い続けなければなりません。家賃を抑えるため、引越しを余儀なくされることもあるでしょう。そのため『一生賃貸』を選択する場合は、生命保険の加入や、日ごろからの貯蓄などでリスクを軽減するための備えが必要となるでしょう」(永田さん)

住宅ローンが払えないvs家賃が払えない。どちらが大変?

持ち家:返済が滞り事故情報が登録されると信用も毀損
賃貸:事故情報が登録されなければ再スタートを切りやすい

「どちらも大変なことですが、住宅ローンのほうが厄介なことになることが多いです」(永田さん)。実は住宅ローン(住宅購入)を原因として破産した人は近年増えており、10年間で約1.5倍になったという統計があります(※1)。低金利もあって頭金を入れずに無理な住宅ローンを組み、支払いができなくなったり、共働きを前提にして購入した場合、離婚や病気などで片方が働けない状態になってしまい、支払えなくなったりするケースが増えています。住宅ローンの場合、支払いの滞納を続けると、借入先の銀行等の金融機関は一括返済を求め、任意売却などをしない場合は、競売に向けて裁判所から現況調査が入るなど大変なことに。また、「ローンの事故情報が登録されると、しばらくの間、住宅ローンやカードローンあるいはクレジットカードの利用が難しくなるなど、その後の生活に支障が発生することも考えられます」(永田さん)

一方、賃貸の場合も、滞納が続くと督促のうえ、保証人、保証会社も巻き込むことになりますが、「事故情報が登録されることがなければ、支払い完了後に家賃の安い部屋に引越して住居費を抑えるなどで、再スタートを切りやすいかもしれません」(永田さん)。住宅ローンのように巨額のお金を一括で返済ということがない分、支払い滞納時のリスクは少ないと言えるかもしれません。

※1:2014年破産事件及び個人再生事件記録調査(日本弁護士連合会)

年金を当てにする試算は持ち家前提。DINKSはリスク軽減策を

持ち家:住宅ローンがなくなり生活費だけの負担に
賃貸:年金ベースの試算では家賃+生活費の支払いは難しい

「『一生賃貸』のリスクは、年金生活になるリタイア後も家賃の支払いが続くことでしょう。生活費と住居費を年金でまかなうのが難しくなるので、退職までに貯蓄しておく必要があります」(永田さん)。必要な貯蓄額は家賃によって変動しますが、例えば総務省が発表している家計調査(平成28年)では、2人以上無職・世帯主65歳以上世帯の支出は住居費を除き、生活費は25万3152円。一方、年金などの収入は20万5682円で、毎月4万7470円は貯蓄からまかなう必要があります。65歳から90歳までの計算で1424万円になります。これに住居費が加わるのですが、例えば家賃10万円の場合、25年計算だとすると合計3000万円。つまり約4400万円が必要になります。

特にDINKSはリスク回避を考えておく必要があるといいます。「共働きで現役バリバリの方々は収入や体力があり、子どもがいないと教育費負担を考えなくて済む分、財布のひもが緩みがち。多少家賃が高くても余裕があるので、希望の暮らしを優先して貯蓄がおろそかになりやすいです」(永田さん)

ちなみに住宅・土地統計調査(総務省・平成25年)によると、ほとんどの年金生活者は持ち家で、約1.5万円が住居費として算出されています。持ち家は住宅ローン支払いが終わる分住居費が少なくなるので、その分貯蓄は少なく済みやすいのです。「また持ち家の場合は売却、賃貸運用という選択肢もあります」(永田さん)

さらに「『一生賃貸』の最も大きなリスクは、高齢になって自分が弱ったとき」と永田さん。「家賃が苦しいとなれば、安い賃料の物件に引越してコストを下げればいいのですが、老齢になるにつれ借りられる物件の選択肢が減っていくことは事実です。現在、サービス付き高齢者向け住宅が充実してきたり、空き家利用の促進などから、一昔前に比べて借りやすい環境は整いつつあります。しかし、今もって大家さんは支払い遅延リスクや、何かあった際のことを考えて高齢者を敬遠しがちです。結果、いいなと思った物件が借りられないこともあります。また、認知、判断機能が衰えると、契約行為そのものができなくなることもあります。子どもがいる場合は成人した子どもが代わりに契約するという手段もとれますが、単身の場合はそれも難しい。さらに、施設への入居が必要となったときに、持ち家は売却して入居資金をねん出する方法が考えられますが、賃貸では貯蓄を切り崩さなければなりません。これも老後が長い時代のリスクのひとつといえるでしょう」(永田さん)

こうした上で人生設計を考える一つの目安が年齢であると永田さんはいいます。
「私は賃貸派も購入派も50歳台がひとつの節目だと考えています。現役のときとリタイア後では、賃貸に対して受け入れられるリスクや探す物件も変わってきます。リタイア後の生活が想像できるようになる50歳台、60歳台こそ、今後の「住まい」について、あらためて持ち家にするか賃貸にするか、じっくり検討することができるタイミングなのではないでしょうか。もちろん、その時点でどちらでも選択できるように、若いうちから老後資金の備えをしっかり準備しておくことが大切なことは言うまでもないでしょう」

【画像1】老後に突入する前に「住まい」について持ち家にするか賃貸にするかじっくり検討すべきだと語る永田さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像1】老後に突入する前に「住まい」について持ち家にするか賃貸にするかじっくり検討すべきだと語る永田さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

気軽に引越しやすく、住みたいところにも住みやすい、住居費だって抑えようと思えば抑えられる。そんな賃貸のメリットも『一生賃貸』となるとリスクがあるようです。特に高齢になった際のことを考えた、長い人生設計をすることが大切のようです。

●取材協力
・(株)フリーダムリンク