アプリでご近所付き合いが復活! マンションや自治会、住む街のコミュニケーションの悩み解決の救世主に 「GOKINJO」「common」

同じマンション内や近所に住んでいても、なかなか隣人の顔が見えにくいのはよくあること。「コミュニティ醸成型サービス」とは、同じ街やマンションに住む人限定のプラットフォームで、簡単にリアルタイムでコミュニケーションできる機能を備えている。地域コミュニティを支える基盤として、コロナ禍以降、存在感を増している。「日本DX大賞」UX部門 優秀賞を受賞したマンション・自治会の住民限定コミュニティ醸成サービス「GOKINJO」と、東急運営の地域共助プラットフォームアプリ「common」を取材。コミュニティ醸成型サービスの最新事例を紹介する。

ご近所で多世代交流できるきっかけをアプリでつくる(画像提供/コネプラ)

ご近所で多世代交流できるきっかけをアプリでつくる(画像提供/コネプラ)

マンション等の住民限定で近所付き合いができるアプリ「GOKINJO」

新型コロナウィルス流行の前後に登場した各社のコミュニティ醸成型サービスは、地域情報の共有を促し、住民同士の共感を育てる機能があり、利用することで暮らしが豊かになるよう設計されている。

株式会社コネプラが運営するGOKINJOは、マンションなどの住民限定で、程よいご近所付き合いが出来るサービス。街やマンションの資産価値向上や防災力アップに繋がるサービスとして、タワーマンションから戸建て分譲地の自治会まで幅広く導入されている。

子どものお下がりや日用品を住民間で気軽に無料でシェアリング・リユース(画像提供/コネプラ)

子どものお下がりや日用品を住民間で気軽に無料でシェアリング・リユース(画像提供/コネプラ)

サービスの構想がはじまったのは、2019年に募集された旭化成グループの社内コンテストがきっかけだった。最終プレゼンを経て実証実験を行い、初の社内ベンチャーとして2022年4月にコネプラが創業された。開発に関わったのは創業メンバーのCEO中村磨樹央さん、CTO森屋大輔さん、マーケティングディレクター根本由美さん。中村さんと根本さんに企画の背景や開発の経緯を取材した。

左から中村さん、森屋さん、根本さん(画像提供/コネプラ)

左から中村さん、森屋さん、根本さん(画像提供/コネプラ)

老若男女を問わず、多くのユーザーに愛用されていることが評価され、DX推進を加速させるDXコンテスト「日本DX大賞2023」で、全国から応募のあった100を超える企業、自治体、公的機関、大学からUX部門 優秀賞を受賞(画像提供/コネプラ)

老若男女を問わず、多くのユーザーに愛用されていることが評価され、DX推進を加速させるDXコンテスト「日本DX大賞2023」で、全国から応募のあった100を超える企業、自治体、公的機関、大学からUX部門 優秀賞を受賞(画像提供/コネプラ)

「構想の元になったのは、私と森屋が知り合った時、森屋がつくっていた子どもを保育園に入れる保活をしているママ同士を繋げるサービスでした。保活情報を頑張って勉強して集めても入園したら必要ない。一方で、保活中のお母さんはその情報をすごく欲しがっている。Aさんが不要となった知識や経験は、Bさんにとっては必要なものにも関わらず、価値交換の仕組みがこのような狭小地域社会においては機能していませんでした。特に子育て中の女性やシニアなど資本主義社会から分断されがちな人たちをケアしながら、地域での価値交換を機能させるサービスをつくろうと話し合いました」(中村さん)

その後、プロジェクトに加わった根本さんは、11年ほど自社ブランドの住宅設計に携わってきたが、「お客様の暮らしを見ている中で、物やスキルを持て余していて役立てる場所がない方が多いと感じていた」と同じ課題感を抱えていた。

そこで、特定地域内で「信頼できる相手」とつながり、無形の遊休資産活用に結び付ける現在のGOKINJOのプラットフォーム開発に着手。シニアにも使いやすいUI開発に苦心し、古い「らくらくフォン」等のシニア世代が所有する機種をテスト用に数台購入し、操作しながら開発にあたった。

2020年9月から、分譲マンションでGOKINJOの運用がスタート。開始時のGOKINJOは、気軽な情報をやりとりできる「情報交換」機能を搭載。その後、「お譲り機能」、「お助け」機能、「お知らせ」機能、「コイン」機能が追加された。

「不要な物をあげてお金をもらうより、ありがとうって笑顔をもらった方が嬉しいという方は少なくありません。お譲り機能では、子どものお下がりや日用品を無償でシェアリングしたり、住民間でリユース出来る場を提供しています。コイン機能は、貨幣経済に乗らないコミュニケーションを表現するために開発しました」(根本さん)

ニックネームなど匿名で利用でき、多世代間で情報交換が盛んに行われている(画像提供/コネプラ)

ニックネームなど匿名で利用でき、多世代間で情報交換が盛んに行われている(画像提供/コネプラ)

マンションの住民間で譲渡する品物を、ゆるく受け渡しできるキャビネも提案。部屋番号を明かさずに、気軽にモノのやり取りができる(画像提供/コネプラ)

マンションの住民間で譲渡する品物を、ゆるく受け渡しできるキャビネも提案。部屋番号を明かさずに、気軽にモノのやり取りができる(画像提供/コネプラ)

マンションの住民は、アバターや画像を選び、ニックネームを登録、パーソナル情報で「2歳の女の子がいます」「ランニング好き」など自由にプロフィールを公開設定できる。顔はわからなくても、「こういう人が近くに住んでいるんだな」とわかる。アプリ利用者は居住者のみで、また、コネプラが管理・運営を行ってくれるので、匿名不特定多数のSNSにはない安心感があると好評だ。

アプリ上住民同士で問題解決が進むなどマンション運営上のメリットも

GOKINJO は2023年11月10日現在、12箇所の分譲マンションや分譲地で使用されており、利用住戸数は、約2000戸、ユーザー総数は約3300人。20代から90代まで多世代に支持され、順調に導入物件を増やしている。

GOKINJOを導入したマンションの理事の声を紹介しよう。

新築で導入した東京都板橋区のマンション(約230戸)は、開始3年で住民の91%330名が利用している。30~40代の理事からは、「潜在的意見が出やすい」「理事会活動の可視化が図れる」という声がある。大阪市にある築8年のマンション(約280戸)では、住民の72%にあたる286名が利用。30代理事は、メリットに、「子育て世代に必須な近所の情報がわかり、譲り合いもできること」を挙げている。

アプリ投稿を組合運営に役立てたり、住民が情報交換することで問題解決できたり、居住者がランニングクラブを立ち上げ、GOKINJOを通じて集まったメンバーで練習・マラソン大会に参加するなどアプリからリアルへ展開したケースもある。お金で買えない体験は、マンションの価値向上にも繋がっている。

「壊れていた自転車置き場の空気入れを買い替えませんか?」という投稿に寄せられた使い勝手のいい製品の情報を管理組合に提案、共同購入に至った例(画像提供/コネプラ)

「壊れていた自転車置き場の空気入れを買い替えませんか?」という投稿に寄せられた使い勝手のいい製品の情報を管理組合に提案、共同購入に至った例(画像提供/コネプラ)

マンション以外では、分譲後30年が経過した佐賀県基山町けやき台の分譲地に導入。登録者のうち70%が年齢60代以上。掲示板をデジタル化するなどタイムリ―な情報発信で交流が活発に(画像提供/コネプラ)

マンション以外では、分譲後30年が経過した佐賀県基山町けやき台の分譲地に導入。登録者のうち70%が年齢60代以上。掲示板をデジタル化するなどタイムリ―な情報発信で交流が活発に(画像提供/コネプラ)

居住マンションの元理事で、GOKINJOを導入するきっかけをつくった奥井亮佑さん(30代)に詳しく伺った。

「2022年1月に、居住マンションの理事になり、マンション情報のデジタル掲示板づくりに取り組んでいるとき、GOKINJOに出会ったんです。課題解決の手段として理事メンバーで導入を検討し、半年間の検証期間を経て、採用に至りました」(奥井さん)

奥井さんは、GOKINJOを毎日利用するヘビーユーザー。「日次で情報が更新されますので、それを見るのが毎日の楽しみ。自分の投稿にたくさん『いいね』がつくと嬉しいです」と話す。

たびたび利用するというお譲り機能を利用して、子ども用の衣服、おもちゃ、電子機器などを譲渡した。マンションでは、年2回GOKINJOのお譲り機能をもちいたバザーを開催している。GOKINJOと組み合わせることで自宅に居ながら出品物をスマホで確認でき、大変便利だと大人気に。苺ジャムの蓋が固すぎて開けられなかった時、お助け機能タブでSOSしたというユニークな使い方も。マンションの中で、力自慢の人を募る投稿をしたところ、数分以内に立候補コメントが続々届きびっくり。集会室で公開開封式を実施し、無事に苺ジャムを美味しく食べることができたという。

「マンション居住者と挨拶する機会が増え、マンション全体が明るくなった気がしますね。アプリを通じて知り合った方々と、一緒にイベント(ゴルフコンペや、飲み会)の企画もするようになり、同一の趣味を持った知人が増えて、楽しいマンション生活を送れています」(奥井さん)

地域と連携した仕掛け(地域クーポン等)を使って、街を盛り上げることができるのもメリットだ。これからのGOKINJOに期待するのは、地域特化の防災情報の自動連係や、連携防災イベントの実現。理事会としても活用を広げていきたいと考えている。

GOKINJO導入のマンションではデジタルからリアルな交流へ発展する例も。マラソン大会や集会室でのボードゲーム大会など住民主体のイベントが開催されている(画像提供/コネプラ)

GOKINJO導入のマンションではデジタルからリアルな交流へ発展する例も。マラソン大会や集会室でのボードゲーム大会など住民主体のイベントが開催されている(画像提供/コネプラ)

同じ街をフォローする住民同士が交流できる東急「common」commonの利用イメージ(画像提供/東急)

commonの利用イメージ(画像提供/東急)

コミュニティ醸成型サービスには、同じマンションの住民に限らず、同じ街に住む人を対象にしたものもある。東急が運営するcommonは、投稿機能、譲渡機能、相談機能を搭載したアプリで、同じ街に住むご近所さんとの共助関係を生み出し、より良い街をみんなでつくるサービスだ。開発を主導した東急株式会社デジタルプラットフォームデジタル戦略グループの小林乙哉さんと池原雄大さんにプロジェクトの経緯を取材した。

小林さん(左)・池原さん(右)のお写真(画像提供/東急)

小林さん(左)・池原さん(右)のお写真(画像提供/東急)

不動産や鉄道、いわゆるハードの開発を行ってきた東急だが、少子高齢化などの課題解決のため、2010年代からソフトな街づくり、住民主体の街づくりを推進してきた。住民参加の街づくりを進める中で新たに生じた課題があった。

「二子玉川や池上などで住民参加や公民連携の街づくりに関わる中で、例えばイベントを実施した場合でも住民のごく一部の方しか参加していただけないということに気づきました。より多くの地域の住民の皆さまに何かしらの形で関わっていかないと解決できない課題が地域には多い中で、これまでの住民参加の街づくりのやり方の限界を感じました。また旧来の地域コミュニティが高齢化や担い手不足の問題を抱えている中で、デジタルを使って、新しい共助の仕組みをつくろうと2019年の末頃からプロジェクトがはじまりました」(小林さん)

東急が2019年に公表した長期経営構想のビジョン。CaaS(City as a Service)構想は、リアルな街づくりに加えて、デジタル技術を積極的に活用した新しい街づくりを目指している(画像提供/東急)

東急が2019年に公表した長期経営構想のビジョン。CaaS(City as a Service)構想は、リアルな街づくりに加えて、デジタル技術を積極的に活用した新しい街づくりを目指している(画像提供/東急)

地域に関心があってもきっかけがない、忙しくて関われない人は多い。そのような大多数の人たちに関わってもらえるような場をつくることがプロジェクトの使命だった。プロジェクトを進める中で、コロナ禍に突入。開発メンバーもテレワークになった。

「自宅にいる時間が長くなり、散歩をするようになってはじめて自分が暮らす街の魅力に気づいたんです。こんな素敵な景色があったんだ!と思った時に、同じ街に住む人同士で情報などを共有する方法が無いな、そういう場をつくれないだろうかと思うようになりました」(小林さん)

結果的に、開発メンバーのコロナ禍の体験が、街の景色や出来事、食や防犯・防災の情報などを共有できる投稿機能の開発に繋がった。

なんていうことのない見慣れた風景が輝く一瞬。写真は、多摩川のマジックアワー(画像提供/東急)

なんていうことのない見慣れた風景が輝く一瞬。写真は、多摩川のマジックアワー(画像提供/東急)

2021年3月、第1弾として二子玉川エリアでcommonの運用をスタートした。投稿機能のほか街の困りごとや疑問を解決していく「質問・回答機能」を提供。これらの機能を利用者が活用すると、街への貢献が数値として可視化される機能も搭載した。

街のどこで何が今起こっているかがわかるタイムラインとマップ ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

街のどこで何が今起こっているかがわかるタイムラインとマップ ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

相談に答えるなど街に貢献するとポイントがもらえる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

相談に答えるなど街に貢献するとポイントがもらえる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

「『同じ街に住む、働く特定多数の人とのコミュニケーション』を促進・活性化させるのが狙いです。2023年1月から対象エリアを東急線沿線全域に拡大しました。コミュニケーションできる範囲は、駅を基点とした生活圏単位に限定。二子玉川や自由が丘など駅名でエリアを提示し、好きな街、コミュニティに属したい街を選んでいただく形にしています。街をフォローする感覚が近いと思います」(小林さん)

■関連記事:
【東急・京急・小田急】少子高齢化で変わる私鉄沿線住民の暮らし。3社が挑む沿線まちづくり最前線

自分の持っているものを共有し街づくりに貢献

2023年12月末時点で累計ダウンロード数は約10万と着実に増加し、アプリ内での月間コミュニケーション数(投稿数、コメント数などのユーザー間のやりとりの合計)は30,000件を突破した。従来のSNSのような不特定多数でもなく、また特定の知り合いでもない、新しい交流が生まれている。運用開始前後からアンケートやインタビューを実施し、届いた声を開発に活かしてきた。どのような声が寄せられていたのだろうか。

街歩きで見つけたお蕎麦屋さん。「地域のお店こそ街のアイデンティティを形づくるもの」という考えから、ユーザーだけでなく、地域店舗も、広告費なし(無料)で利用できるようにした(画像提供/東急)

街歩きで見つけたお蕎麦屋さん。「地域のお店こそ街のアイデンティティを形づくるもの」という考えから、ユーザーだけでなく、地域店舗も、広告費なし(無料)で利用できるようにした(画像提供/東急)

「運用開始後のアンケートで多かったのは、譲渡機能の要望です。既存のサービスは、対象エリアが広域だったり、機能が有料だったり、身近な人に無償で譲りたいというニーズを満たせていないことがわかりました。commonが目指すのは、自分のリソースを他人の為に使って街に貢献できること。二子玉川エリアで運用を開始した直後から譲渡機能の開発の検討を進めていました」(池原さん)

2021年12月に実装された譲渡機能には、マイナンバーカード等の公的身分証明書を使った本人確認機能を導入し、安心して譲渡できる仕組みをつくった。「大きくて郵送料がかかるようなもの、お金をもらわなくてもいいものを譲る際に役立つ」と好評だ。小さなものなら、駅付近に設置した無料で利用できる「commonスポット」も用意されている。譲りたいものをロッカーに入れて対面なしでやりとりできるので、通勤・通学の合間にも手軽に譲渡できる。不要になった物を譲ることで、地域に関わるのは、ハードルが低く、地域コミュニティへの入口としてよさそうだ。

取引相手にのみ本人確認後の町名までの住所(例:世田谷区玉川)を公開する仕組み。確実に同じ街に住んでいるかを判別できる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

取引相手にのみ本人確認後の町名までの住所(例:世田谷区玉川)を公開する仕組み。確実に同じ街に住んでいるかを判別できる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

さらに、commonを使ったリユースプロジェクトが神奈川県座間市内全域で実施されている。市民間の無償譲渡の促進により廃棄物を減らすプロジェクト(実施期間:2023年10月23日~2024年2月29日)だ。画期的なのは、手渡しや「commonスポット」のほかリユース品を玄関先等へ出すことで、市の粗大ごみ収集・運搬を担う座間市リサイクル協同組合が回収し、貰い手の玄関先等へお届けする無料サービスを選択できること。高齢者や外出が難しい方の利用促進が期待されている。

2023年6月に搭載した相談機能では日々の暮らしの中で生まれた悩みについて、同じ街の人に相談したり、相談にのったりできる(画像提供/東急)

2023年6月に搭載した相談機能では日々の暮らしの中で生まれた悩みについて、同じ街の人に相談したり、相談にのったりできる(画像提供/東急)

植栽に関する相談の投稿に対して、地域の観葉植物・生花店がアドバイスを寄せてくれたこともある(画像提供/東急)

植栽に関する相談の投稿に対して、地域の観葉植物・生花店がアドバイスを寄せてくれたこともある(画像提供/東急)

「人口が減少していけば税収も減少し、自治体ができることが限られていく中、住民サイドで解決しなくてはいけないことが増えていくはずです。住んでいる方が地域に貢献できる仕組みがますます求められると思います。今のcommon には住民間の助け合いの機能しかないのですが、将来的にはユーザーの声が直接街づくりに繋がるような機能を増やしていきたいですね」(小林さん)

近年、少子高齢化や自然災害の増加などにより、地域住民間の共助の必要性は、高まる一方。見返りを求めないやりとりから新たな地域コミュニティを生み出す「GOKINJO」と、「common」。「親切にしてもらったから、私もしてあげたい」という人間の素直な気持ちに寄り添うサービスだと感じた。

●取材協力
・株式会社コネプラ
・common

湾岸エリアのタワマン “横のつながり” をスポーツで。自治会問題も解決?【全国に広がるサードコミュニティ2】

東京オリンピック・パラリンピックに向けて再開発され、選手村として活用される予定の東京・湾岸エリアのマンション群。実施の延期は決まったものの、オリンピック・パラリンピック以降、このエリアに新しい住民がどっと押し寄せることが見込まれるなか、防災の観点からも新住民と旧住民をつなぐ仕組みづくりが求められています。
「第三のコミュニティ」のありかを探る連載第2回目は、タワーマンション同士でつながるコミュニティを紹介します。連載名:全国に広がるサードコミュニティ
自宅や学校、職場でもなく、はたまた自治会や青年会など地域にもともとある団体でもない。加入も退会もしやすくて、地域のしがらみが比較的少ない「第三のコミュニティ」のありかを、『ローカルメディアのつくりかた』などの著書で知られる編集者の影山裕樹さんが探ります。 湾岸エリアのタワーマンションの横のつながりをつくろう

築地から移転してきた豊洲市場を擁し、ららぽーと豊洲など大型のショッピングモールもあり、東京の新たな居住エリアとして人気を集めている中央区、江東区の湾岸エリア。タワーマンションが多数立ち並び、オリンピック・パラリンピック以降に多数の住人が押し寄せることが見込まれます。

一方で、新住民と旧住民とのつながり、新住民同士のつながりがまったくないところで生活がスタートすることは、防災や防犯の面からも問題だと思われます。そんななか、マンションとマンションをつなぎ、湾岸エリアに暮らす子育て世代をターゲットとした「マンション対抗フットサル大会」などスポーツイベントを開催する有志のグループがあります。それが「湾岸ネットワーク」です。

マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

タワーマンションが立ち並ぶ湾岸エリア(画像提供/湾岸ネットワーク)

タワーマンションが立ち並ぶ湾岸エリア(画像提供/湾岸ネットワーク)

湾岸ネットワークを立ち上げたのは、ITコンサルを専門とする会社を経営する浅見純一郎さん、普段は外資系銀行で働くサラリーマンの石原よしのりさん、スポーツ関係の会社を経営をする星川太輔さんの3名の住民たち。それぞれ40代で、家族を養う働き盛りの世代。

メンバーの浅見さんは2008年に浦安から豊洲に移住し、パークシティ豊洲の自治会長や近隣の小学校のPTA会長などを兼任。地域コミュニティに深く関わっています。星川さんも自宅のある有明のブリリアマーレ有明の管理組合理事長を、有明自治会の自治会長をそれぞれ5年ほど務めていました。当時、湾岸エリアで先進的な活動をしていた自治会の自治会長だった浅見さんと星川さんに、2014年に晴海のタワーマンションに移住してマンションの自治会長を務めていた石原さんが声をかけたのがきっかけ。

「6年前のことです。僕が暮らすマンションの管理会社の人に、管理会社の横の繋がりで、豊洲のタワーマンションの自治会長を紹介してくださいとお願いしたんです。そこで紹介されたのが浅見さんでした。その後星川さんとも出会い、3人ともタワーマンションに暮らす同世代で、自治会活動の中でマンション同士の横のつながりの必要性を感じていたので、すぐに意気投合しました」(石原さん)

マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション対抗親子大運動会「湾岸ピック」の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

子育て世代が多いからこそできる、親子で楽しむ運動会

最初は湾岸ネットワーク立ち上げメンバーの3人を中心に他の湾岸マンションとの親睦会を重ねていたのですが、ネットワークをより形あるものに発展させようとの思いから、「マンション対抗シリーズ」(最初はフットサル大会)を始めました。スポーツをキーワードとした理由は、子育て世代が多いこと、未就学児のお子さんがいる親御さんも午前中に気軽に参加して帰れること、など。また、マンション対抗とすることで競争意識が芽生え、かつ同じマンションの住人同士の結束が高まると考えたからです。実際、午前中のスポーツイベントから帰り、マンション内のパーティルームで参加メンバー同士で親睦会を行う人たちもいるそう。

今年は新型コロナウィルス感染症の影響で中止がよぎなくされていますが、具体的には毎年5月に開催する「湾岸マンション対抗フットサル大会」、9月開催の「湾岸マンション対抗親子大運動会 湾岸ピック」、そして11月には「湾岸マンション対抗マイルリレー大会」を開催しています。

マンション対抗フットサル大会の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション対抗フットサル大会の様子(画像提供/湾岸ネットワーク)

湾岸エリアにも当然、幼稚園や小学校などがあり、PTAなどの親御さん同士のつながりももちろんあります。ただ、それも幼稚園や小学校といった括りでしかつながることができないので、マンション住人同士の子育て世代がつながる機会は現状、なかなかありません。そのなかで、湾岸ネットワークは一つの選択肢になると浅見さんは言います。

「私個人もそうなんですけれど、みなさんマンションを購入して、地域に何かしら貢献したいと思っている人は多い。けれど仕事が忙しくてなかなか地域活動に参加できないんですね。私たちとしては、地域に関わりたいけれどどうすればいいか分からない住民の方に、なるべく敷居を低くして関わっていただけるといいなと思っています」(浅見さん)

「従来の町内会などの自治会だと、年1回のお祭りを本気でやる、みんなで一生懸命つくる、というところが多い。でもそこまでコミットするのは働き盛りの世代にはなかなか難しい。そういった方々が気軽に参加できて、体験できるイベントが必要だと考えたんです」(星川さん)

給水所のカギをもらえない? 顕在化するタワマンの脆弱さ

既存の自治会の問題というのは、とにもかくにも高齢化。さらには、江東区、中央区と行政区ごとに分かれていて、タワーマンションが同じ課題を抱えていても、住人同士が関わることが少ない、という課題がありました。

「区内の自治会長たちの集まりに行くとご高齢の方が多い。また、それぞれ独自の運営をしているケースがありそうで、なかなか新しい人が入っていくのに抵抗があるのではないかと思われます」(浅見さん)

一方で、タワーマンションに移り住んでくるのは30~40代の若い世代が中心。再開発によってまちに暮らす新旧住人の割合が大きく変わる中、旧住人の代表である既存の自治会と、タワーマンションに暮らす新住人のニーズとはかけ離れていくばかりです。

左から石原さん、浅見さん、星川さん(画像提供/湾岸ネットワーク)

左から石原さん、浅見さん、星川さん(画像提供/湾岸ネットワーク)

ちなみに、タワーマンションはチラシ投函が禁止されているところがほとんで新聞購読率も20%程度という話は聞いたことありますか? そうなると当然近隣のイベント情報がなかなか入ってこない。子育て世代が多いのにこれでは致命的でしょう。

「自治会って、つくる義務はないんです。自治会のないタワーマンションも多い。だから自治会がないタワーマンションは情報が行き届かない。僕も経験したのでよく分かりますけど。防災とか子育ての情報に関して、タワーマンションに住んでいる人と従来から住んでいる人との間には格差がある」(石原さん)

「有明にはそもそも自治会がなかったんですけれど、つくって分かったことがあります。お台場の水の博物館近くに給水所があるんですけれど、給水所の存在とそこの鍵の暗証番号を自治会をつくったことによって行政から連絡が来て初めて教えてもらえたんです。役所の方に聞いたらそういう仕組になっていると。自治会をつくらないと給水所が使えないって、災害時のときに住民は大変困りますよね」(星川さん)

防災といえばバケツリレーなどのイベントが開催されることが多いですが、タワーマンションでバケツリレーをしても意味がない。ポンプ車での放水訓練もマンションでは現実的ではない。行政にタワマンの防災ナレッジがないため、もしマンションで火事が起きたら大変。大きな台風が来てマンションの電源が喪失してしまった場合、どうすれば電力を確保ことができるか、などのノウハウ共有も大切です。

現時点で導入可能な非常時の電源確保手段として、水路を使った重油共有ネットワークやEV(電気自動車)の電池を使ったエレベーター稼働のしくみ、LPガスを動力とした非常用発電機など、それぞれの企業から専門家を呼んで、各マンションの防災担当者向けの講演会を開催しました。

「防災行政は従来の戸建てが並ぶ街の防災拠点を想定して、防災訓練を行っていますが、タワーマンションの住民は自宅待機での「自助・共助」が推奨されています。しかし、従来の防災訓練はタワーマンション住民の火災時の行動をミスリードする恐れがあり、現在多くのタワーマンションではそれぞれの環境に合った防災訓練を独自に行い、行政との連携については試行錯誤している段階です」(石原さん)

新旧住民の情報格差を解消するには?マンション同士のノウハウ共有が課題(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション同士のノウハウ共有が課題(画像提供/湾岸ネットワーク)

マンション対抗スポーツ大会などの敷居の低いイベントが、潜在的に地域に関わりたい人の接点を生み出すことも重要ですが、このように、タワーマンションならではの課題を解決するための機能も果たしているように思います。例えば、資源ゴミの回収ルールはマンションごとに決まっていて、委託業者の言い値で決められているところが多いそう。しかし、異なるマンションの管理組合の人どうしで、「資源ごみ回収はどの会社に委託している?」という会話が生まれることで、買取価格が3倍以上になったエピソードもあるそう。そこで増えた収入は他の住人向けイベントに回すこともできます。

他にも自宅をAirbnbに使った場合、法的にどんな問題があるか? を学び合ったり、管理組合の財務的なコストダウンの方法を話し合ったりなど、マンション同士のつながりがあることで享受できるメリットは多数あります。セキュリティがしっかりしているからこそ、住人同士のつながりが薄いマンションにおいて、住人同士のつながりをつくっていく団体の役割は大きいと感じました。

「現在はあくまで任意団体として活動していて、加盟金も徴収しておらず、有志のメンバーで続けています。、しかしイベントの規模が徐々に大きくなり、参加世帯数が増えスポンサーからの協力を得られやすくなった半面、リソース不足等の問題にも直面しています。湾岸地区の発展に追いつくために、団体をより一層成長させるべく法人格の取得を検討しています。でも、参加を強制するのではなく、参加したいから参加する、というイベントであることは守っていきたいと思います。街と住民自身が一緒に成長していく、そんな過程を共有できる地域は他にはなかなかないと思います。湾岸に住む大きな価値の一つだと思います」(石原さん)

今回のインタビューで、タワーマンションに対する見方が変わりました。便利で快適というイメージがあるタワマンも、既存コミュニティとの情報格差が存在するということが分かりました。その理由は、自治会のないタワマンと行政が接点を持つ仕組みが、まだまだ未発達だから。または、新しい場所に移住してくる人たちの多くが、ご近所付き合いの面倒臭さを避けてしまうことも大きいかもしれません。「しがらみがなさそうだからタワマンに入居した」という人もいることでしょう。

ですがやっぱり、災害が起きたときに、地域のつながりがなければ混乱が生じるのは明白です。可能な範囲で住人同士、そして住人と行政のつながりを維持していくことは不可欠。もちろん、しがらみがないからこそ、自分たちで街の未来をつくっていく醍醐味を味わうことができます。変化が日常である湾岸エリアでは、そこで育つ子どもたちが「ふるさと」と感じられるような風景が残らない代わりに、「コミュニティ」のつながりこそが唯一の「ふるさと」になりうるのかもしれません。

実際、マンション対抗フットサル大会を通じマンション内にフットサルクラブが発足し、マンションフットサルクラブ同士の交流戦が行われるなど、湾岸ネットワークから派生した新たなコミュニティが育ちつつあります。ゆるやかに参加でき、強制力がない有志のつながりこそが、再開発され新住民であふれる「新しいまち」には必要なのかもしれません。

●取材協力
・湾岸ネットワーク

「コミューンときわ」で地域に根ざす自分らしい暮らし。新築賃貸でもDIY可能!

多世代の交流を育み、地域に開かれた“コミュニティ賃貸”として、オーナーの浦和への想いを形にした「コミューンときわ」。中庭が人々の暮らしを繋ぎ、また、令和生まれの新築でも住戸のDIYが可能というのも特徴だ。2020年2月に開かれたお披露目会に参加し、オーナーや入居者に話を伺った。
コンセプトは「夢ある人が集い、コミュニティをつくり、地域と共生する」

JR京浜東北線「北浦和」駅から徒歩10分ほど。活気ある「北浦和西口商店街(ふれあい通り)」を抜けた先の住宅街に「コミューンときわ」は立地している。道路沿いには、NPO法人クッキープロジェクトが運営するカフェや、ガラス張りで街に開かれたSOHO型の住まいが並び、道行く人々の目を引く。

自然にコミュニティが形づくられていくよう、コミュニティデザインを「まめくらし」が監修。「まめくらし」は、「青豆ハウス」や「高円寺アパートメント」など街に開かれた賃貸を手がけてきた会社だ。代表取締役の青木純さんが「子どもだけでなく親も一緒に来られるために目的を限定しない場所を」とアドバイスした中庭をはじめ、ラウンジや水回り常設の屋上菜園など、住民同士の交流やくつろぎの場となる共用部が充実。日々どこかしらで井戸端会議が開かれそうだ。

運営もしっかり考えられている。“ご近所づきあいに興味があって入居しても、どうすればいいか分からない”という住人が出ないよう、平日は、住人同士の間をつなぐ「コミューン・パートナー」が常駐。日常の関係性づくりやより暮らしを楽しむサポートをしてくれる。

芝生が敷かれた中庭。住民が多目的に使用できるほか、イベントスペースとしても運営予定だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

芝生が敷かれた中庭。住民が多目的に使用できるほか、イベントスペースとしても運営予定だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ヨーロッパで多く見受けられる中庭を持つ集合住宅。「コミューンときわ」が異なるのは、中庭に面しているのが窓ではなく共用廊下で、アクションを取りやすいことだ。玄関と中庭が接しているため、買い物に出る際に中庭での会話や遊びに参加したり、中庭で会話が弾んだ流れで誰かの家に移動したりと、自然と交流が生まれそうなこのつくりは、長屋のような雰囲気を感じる。

家賃は周辺相場よりもやや高めの設定だ。それでも、多世帯交流などから生まれる豊かなライフスタイルが、「コミューンときわ」ならではの価値につながっていくことだろう。

浦和の文化と人とをつないで地域活性へ

コミュニティづくりは「コミューンときわ」内にとどまらず、地域とも連携していきたいと、オーナーである株式会社エステート常盤・代表取締役の船本義之さんは言う。「commune」はフランス語で共同体という意味。オーナーである株式会社エステート常盤・代表取締役の船本義之さんの「豊かな暮らしを育み、ひとつの街のようなつながりをつくりたい」という想いから名付けられた。

名曲『神田川』の時代から、分譲の住まい自体の質は高くなってはいるものの、賃貸物件をめぐる環境づくりやあり方が時代に追いついていないと感じていた船本さん。賃貸というものの形態は、ライフテージの変化に合わせて暮らしやすいからこそ、もっといい住環境を提供したいと、入居者同士がつながったり、部屋を自分らしくアレンジしたりできるようにした。

お披露目会の様子(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お披露目会の様子(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

浦和は「鎌倉文士に浦和画家」と称され、古くから文化が根付く街。浦和で20年ほど暮らしてきた船本さんは、「浦和にはいろいろな活動をしている人がいて、文化的なポテンシャルが高い人も多く住んでいる。しかしみんな皆、東京を見ていて、横のつながりがない」と感じていた。周りに多彩な人がいることを知る機会があれば、暮らしがもっと豊かになり、地域が活性化するのではないかと、多世代や地域の交流の場として「コミューンときわ」を計画。文化が産業の“人里資本主義”を掲げ、浦和が持つ人材のネストを目指している。

船本さんは、入居希望者全員と面接を行い、コミュニティづくりへの想いを共有していくという。プライバシーとコミュニティとのバランスをとりながら「ドアに鍵をかけなくてもいいような関係性が築かれていけば」と「コミューンときわ」のこれからに期待を寄せる。

セミオーダーから一点モノへ、サポートを受けながら自分好みの空間に

「コミューンときわ」には、多世代が暮らせるよう、1Rから2LDK、SOHO型まで幅広い55戸の住戸が用意されている。どの住戸も窓が大きく、オープンなつくりで開放的だ。そして特徴的なのが、各住戸の表情が異なること。

内装は空間デザイン会社の夏水組がトータルコーディネートを行った。それぞれ「Urban Vintage(アーバンヴィンテージ)」「Innocent Green(イノセントグリーン)」「Ellison Natural(エリソンナチュラル)」「Casual Taste(カジュアルテイスト)」の4つのテイストが用意されている。

「Ellison Natural(エリソンナチュラル)」の内装で、一人暮らしを想定した住戸(28.12平米)。1階は専用庭付き(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「Ellison Natural(エリソンナチュラル)」の内装で、一人暮らしを想定した住戸(28.12平米)。1階は専用庭付き(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「Urban Vintage(アーバンヴィンテージ)」の内装で、土間が大きく取られたカップル/ファミリー向け住戸(55.08平米)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「Urban Vintage(アーバンヴィンテージ)」の内装で、土間が大きく取られたカップル/ファミリー向け住戸(55.08平米)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

共用廊下に面した開口が広いのがコミュニティ賃貸ならでは(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

共用廊下に面した開口が広いのがコミュニティ賃貸ならでは(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

クロスやタイルはデザイン性の高いものから好みの柄を選ぶことができる。ヘリンボーンの床などPanasonicの建材を使用(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

クロスやタイルはデザイン性の高いものから好みの柄を選ぶことができる。ヘリンボーンの床などPanasonicの建材を使用(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

選択肢が多いことは、入居者にとってうれしい一方、オーナー視点では施工コストがかさみ、デメリットになりそうだ。夏水組・代表取締役の坂田夏水さんに伺うと「建具や壁紙などモノのコストは変わらず、増えるのは現場管理コストのみ」だそう。その分、夏水組が見積もりを判断し、VE(バリューエンジニアリング=機能を維持しつつ、コストを削減すること)につなげたという。

参考として展示された夏水組セレクションの壁紙のバリエーション。好みの柄を張ってカスタマイズできる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

参考として展示された夏水組セレクションの壁紙のバリエーション。好みの柄を張ってカスタマイズできる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お披露目会に出店した「Decor Interior Tokyo」。この日は、夏水組デザインのタイルや、ニトムズのインテリアマスキングテープなど売れ筋アイテムをそろえた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お披露目会に出店した「Decor Interior Tokyo」。この日は、夏水組デザインのタイルや、ニトムズのインテリアマスキングテープなど売れ筋アイテムをそろえた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

インテリア好きな入居者にとってうれしいのが、夏水組がプロデュースするインテリアショップ「Decor Interior Tokyo」と連携していること。幅広い商品の中から、壁紙やDIYアイテムをスタッフと一緒に選んでもらったり、施工のアドバイスを受けたりすることができるのは心強い。

未知数の「コミューンときわ」入居の決め手は「単純におもしろそう」

お披露目会では、さっそくお手伝いをする入居者の姿があった。「北浦和」駅の近くにあるクラフトビールバー「BEER HUNTING URAWA」オーナーの小林健太さんは、自慢のビールで来客をおもてなし。小林さんが参加する浦和の街をおもしろくしようという活動で開いた「うらわ横串ミーティング」での船本さんや青木さんとのトークイベントをきっかけに「コミューンときわ」に興味を持った。

入居の理由を尋ねると「単純に、おもしろそうだから」と小林さん。このシンプルな答えこそが、“まだよく分からないけど、とにかくおもしろそうな何かが生まれそう”という「コミューンときわ」の魅力を物語っている。

直井薫子さんと小林健太さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

直井薫子さんと小林健太さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お披露目会の看板を描いていたのは、「コミューンときわ」のSOHO型住宅でデザインオフィスを構え、職住近接を実践する直井薫子さん。東日本大震災をきっかけに、地元である埼玉のことを考えるようになり、東京から引越してきた。

以前住んでいた東京・葛飾では、ローカルメディアに携わるなど、地域に対してデザインができることは何かを考え、実践してきた。「埼玉でデザイナーといえば直井と言われるように」と、地域に根ざしたデザイナーを目指している。入居して間もないが、すでに映画のイベントを企画。今後は本屋のイベントや、アートやデザインに関連したコミュニティづくりを行っていきたいと語ってくれた。

笑顔が素敵なこのお二人と仲良くなれるだけでも、入居する価値を感じる。ハード面だけでなく、住人やそこから生まれるつながりが核となり、コミュニティの輪が広がっていくことだろう。

直井さんが、お披露目会の看板を描く様子。「コミューンときわ」には入居者それぞれが得意分野を活かせる場がある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

直井さんが、お披露目会の看板を描く様子。「コミューンときわ」には入居者それぞれが得意分野を活かせる場がある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

住人同士や地域とのコミュニティづくり、そして部屋のアレンジやのサポート体制が整ったマンション。近年、自分らしい住まいを手に入れようと思ったら、物件を購入してリノベーションをするのが流行りのように思われるが、この新しい賃貸物件では、気軽に住み方のバリエーションを広げられる。

時間を掛けて、じっくり街がつくりあげられていく「コミューンときわ」。興味を持ったら、現地を訪れてみてはいかがだろうか。

●取材協力
・コミューンときわ
・株式会社夏水組
・株式会社まめくらし

名古屋のタワマンでママが「子ども会」をつくってみました

多くの人の子ども時代の記憶に残る「子ども会」の活動。近所の子と一緒に、夏の朝はラジオ体操、秋はお祭りやスポーツ大会……。筆者も楽しく参加した思い出がある。その子ども会は今、少子化などの影響により減少の一途をたどっているという。そんな中、名古屋市の都心部にあるマンションで「子ども会がなかったから、自分で立ち上げました」という人に、立ち上げの経緯や理由、子ども会の良さを取材した。
少子化や指導者不足…、子ども会は減少傾向

はじめに、全国の子ども会や指導者、及び連合組織を会員とする「公益社団法人 全国子ども会連合会」に子ども会の現状を聞いてみた。山本哲哉常務理事によると、「マンション単体での子ども会の立ち上げは、全国的にも希少な例でしょう」という。「現在、全国の子ども会が直面している最大の課題は会員減少です。少子化による、人口の自然減少以上の加速度的な会員減少に、歯止めがかけられていません」

子ども会とは、「基本的には、小学生から中学生までの子どもたちによる地域密着型の団体。異年齢の子どもたちが、その地域になじんだ活動へ主体的に取り組むことが、地域における子ども会の本質であり意義であると考えています」と山本常務理事。

データから見ても子ども会の会員数減少は明らかだ。子ども会の会員数(全子連共済加入者数で、カウントは就学前3年の幼児から中高生までの構成員)の推移表を見せてもらうと、筆者が10歳だった昭和63年は、子どもの会員数が604万3228人、大人の会員数が155万5429人で、合計759万8657人。一方、平成29年の調査では、子どもの会員数が247万2960人、大人が102万9157人で、合計350万2117人。合計人数が2分の1以下になり、大幅に減少しているのが分かる。

令和元年5月に総務省統計局から公表された平成30年12月の確定値では、15歳未満の総人口は1538万7000人。一方で政府統計によると、昭和63年は15歳未満の総人口が2398万5000人となっている。
確かに、子どもの人口減少以上に、会員数の減少が目立つ。

また、「少なくとも都市圏では子ども会の組織そのものが減少しています」と山本常務理事。「子どもの減少で活動が思うようにいかなくなった近隣の数カ所の子ども会が合併し、新たな名称の子ども会をつくったという場合や、児童数の減少により、今まであった単体の子ども会を、校区全体で1つの子ども会にしてしまった例なども聞いています」という。

さらに、「会員減少は、役員や指導者の後継者不足という、大人側の問題ともつながっています」と話す。核家族や多忙な共働き世帯、シングルマザーやシングルファザーの世帯も増えている現代では仕方がない面もあるのかもしれない。「指導者を含む人材不足による行事のマンネリ化、子ども会の魅力のなさが、会員減少の根本的な問題であることはいうまでもありません」

会員減少、そして子ども会の減少により、「子どもの体験不足やコミュニケーション能力不足を引き起こす可能性があるのでは」と懸念しているという。

越してきたマンションが「子ども会に入っていない」!

今回取材した「子ども会立ち上げママ」は、名古屋市在住のUさん。3歳・8歳・10歳の3児の母で、約100世帯が住むタワーマンションに住んでいる。日中は自宅でPCを使って仕事をする兼業主婦だ。子ども会を立ち上げるきっかけは偶然だった。

「関東から名古屋市内のマンションに引越してきた最初の夏休みに、近所の広場でラジオ体操をしているのを見かけて、子どもと出かけると、『そこのマンションは子ども会に入っていないから』と説明され、参加できませんでした。
小学生の夏休みといえば、ラジオ体操があって早起きをするというイメージがあったので、自分のマンションが子ども会に入っていないことに驚きました。マンションの世帯数が多いので、子ども会に加入したいのであれば、よその子ども会に入るのではなく、自分たちで子ども会をつくらなければならないのだとその際に知りました」

数年後、順番が回ってきてマンションの役員になったUさん。
「役員になり、さらにクジ引きで理事長に就任しました。理事長として、小学校区の連絡協議会で子ども会の現状について報告する機会があり、人から『どうしてそこのマンションには子ども会がないの?つくればいいのに』と言われて。それもそうだと気がつき、さっそく区役所に行って、子ども会のつくり方を調べてみました。すると、会則と会員名簿を作成して区役所に申請すれば、子ども会を立ち上げて、助成金をもらうことができると知って、思ったより簡単だなと感じました」

ちなみにUさんの自治体では、会員数が10~34人までの場合、年間約2万円(申請時期により異なる)の助成金を受けることができるそうだ。

Uさんがパソコンで制作した新規会員募集のチラシは、管理組合を通してマンションの掲示板に掲示(写真提供/Uさん)

Uさんがパソコンで制作した新規会員募集のチラシは、管理組合を通してマンションの掲示板に掲示(写真提供/Uさん)

マンションの住民にアンケートを実施し、子ども会が発足

「立ち上げにあたり、事前に、マンションの住民に『子ども会が必要かどうか』というアンケート調査を実施しました。すると、子どもを持つ世帯の半数以上から『子ども会をつくってほしい、あれば参加したい』という回答をもらったことがモチベーションに。さっそく会則と会員名簿を作成して申請し、人数に応じた助成金をいただけるようになりました。
役員については、1年目なので、顔見知りのお母さんたち数名にお願いして引き受けてもらうことに。マンションの住民に対しては、立ち上げに関しての説明会も実施し、アンケート結果などの資料を配りました」

現在は14世帯、子どもは30名ほどがマンションの子ども会に在籍。子ども会を立ち上げて最初の夏休みであった昨年、さっそく近所の広場でラジオ体操を実施した。

「町内の子ども会に共催という形で入れてもらい、スタンプカードを分けてもらうなど、進め方を教えてもらいながら同じ広場で開催しました。子どもたちは元々同じ校区の仲間なので、夏休み中もクラスメイトたちと会うことができ、喜んで参加していたようです。マンション内では、ラジオ体操の当番表をつくり、役員ではない保護者にも持ち回りで当番をしてもらいました」

そのほか、小学校の長期休みの日中に「子ども映画鑑賞会」を実施して好評を博した。
「マンションの集会室にプロジェクターとスクリーンがあるので、権利関係を確認してDVDを用意し、映画を上映しました。その際、助成金で買ったお菓子やジュースを食べられるようにして、好評でした。子ども会会員以外の住民のお子さんも、100円を持って来れば参加可としました」

子ども会行事についての連絡は、管理組合の許可を得て、マンションの掲示板にチラシを掲示している。
「ただ、なかなか掲示物を見ない人もいるので、会員の保護者には子ども会のLINEグループに参加してもらい、ダイレクトにお伝えもしています。春休みなどの長期の休みでも、親が仕事だったり、子どもたちの習い事があったりと、なかなか日程がそろわないので、LINEの予定表で、参加者が一番多い日に開催するようにしています」

助成金を活用して、子ども会を卒業する6年生に図書カードを配布した(写真提供/Uさん)

助成金を活用して、子ども会を卒業する6年生に図書カードを配布した(写真提供/Uさん)

親も子も安心できる、共用施設でのイベント開催

マンション単体で子ども会を立ち上げたことに、メリットを感じているというUさん。

「集会場など、マンションの共用施設で映画鑑賞会などのイベントを開催することで、子どもだけでも気軽に参加できるのは大きなメリットだと感じました。例えば、夏休みや春休みなどの長期休み中に、親が仕事で、一人で留守番をしなければならない子も、マンション内であれば、エレベーターで降りるだけで友人や知り合いがいて、安全に参加できます。これは大型マンション単体の子ども会ならではのメリットだと考えています」

エントランスの出入口には管理員も常駐しているので、大人の目は多い。それまで空いている時間が多かった集会室や、プロジェクター設備の活用につながっていて良いという、住民からの声も聞かれた。

Uさんは「自分自身、役員としてイベントに付き添ってみて、顔と名前が一致したり、新たに知った子もいたりして、マンション内や近所でも、会うと挨拶したり話をする機会が増えました。普段はなかなか会わないので、親子にとってよかったと思います」と感じている。

「イベントに関しては『映画鑑賞会で、友達と一緒に映画を観たのが楽しかった』と言った子がいて、小さな子が、初めて友達と一緒に映画を観るいい機会にもなったようです」と振り返る。「ただ、ラジオ体操は『習ったことがないので難しかった』という声があり、今は小学校で習っていないのだと気がつきました。今年は練習会などを考えています」

今後は、どの程度の規模のイベントを企画していくかを検討中だという。
「引率者の問題もありますが、よりイベントの幅を広げることも考えていきたいです。自治体が開催する既存のイベントに、子ども会ごと参加するのもいいかもしれません。費用の面では、助成金だけでなく会員から会費を集めるのか、自治会(町内会)とも交渉して助成金をもらうようにするのか……と考えているところです。自分たちのマンションで、まだ回収していない古雑誌などの資源を集めるというアイデアもあります。もちろん、安心・安全なマンションの共用部は、これからも活用する予定です」

マンションの集会室に講師を招いて、親子で参加できるようなワークショップを行うことなども検討しているという。

“気張らない活動”でも、子どもと大人に大きなメリットが

現在、まだ遠出するイベントなどは実施していないというUさん。マンション内を中心としたあまり気張らない活動がメインながら、子どもたちは楽しみ、刺激を受けているようだ。

一人っ子家庭も多い現代では、異年齢や異性と関わり、遊びながら社会性を身に着けられる場としても意義は大きい。Uさんのマンションの「映画鑑賞会」のイベントでも、年上の子が率先して集金し、小さな子にお菓子やジュースを配るなど、自然とリーダーシップを発揮している場面が見られたという。

前出の全国子ども会連合会の山本常務理事も話す。「子ども会の理想は、大人は見守るスタンスで、子どもが主体となり成功体験につながるような活動です。でも現実は、限られた時間の中、少子化や共働きなどの現代の状況下での活動になりますから、各自が負担にならないように運営することが大切です」

Uさんのように、マンションで子ども会を立ち上げた場合、子ども会の存在によってコミュニケーションが生まれ、活動がない日もマンション内での見守り効果が高くなるというメリットもあるだろう。キッズルームやライブラリーを備えたマンションなら、活動はさらに広がり、共用施設の有効活用にもつながりそうだ。

この数年でマンションが増加している名古屋の街並み(写真/PIXTA)

この数年でマンションが増加している名古屋の街並み(写真/PIXTA)

かつては地域単位だった子ども会が、マンション単位で実施されるのは現代的。子ども会の発足を機に、マンションが1つの街のようにまとまり「みんなで子どもを育てよう」という住民の意識が高まるかも。

働く女性が増えて忙しい世の中だからこそ、子ども会の活動をきっかけにして、もしものときに助け合えるママ友や、子どものコミュニティが増えたらいいなと感じた。

できる人が、できることから。ゆるやかに始めてみるのも、令和時代の子ども会のスタイルにマッチしているかもしれない。

●取材協力
・公益社団法人 全国子ども会連合会