高騰続く新築マンション、2024年は買いやすくなる? 価格・金利上昇から見る買い時や注目の「省エネ性能」を解説

「新築マンション」とインターネットで検索すると「高騰」「億ション」など、景気の良いワードがずらりと出てきます。とはいえ、多くの世帯で収入が価格上昇に追いついていません。このまま新築マンションは高嶺の花になってしまうのでしょうか。2024年の新築マンション市場はどのように動くのでしょうか。SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長の池本洋一氏に、市場動向と買うべきときに見ておいてほしいポイントのほか、新築マンションの設備などについての最新事情について聞きました。

都心部好立地と郊外、立地で価格動向が異なる

一般的に、新築マンションの買いやすさの指標は、
(1)物件価格
(2)金利
(3)供給戸数
で見ることができます。池本氏によると、都心・好立地と郊外、供給されるエリアで新築マンション価格の動き方が異なるといい、「都心好立地の物件であれば価格は上昇、金利と供給戸数は横ばい、他方で郊外エリアの物件であれば価格はやや上昇、金利、供給戸数は横ばい」で推移するのではないかとのこと。気になる都心・好立地の物件の特徴から伺っていきましょう。

「2024年も価格上昇が予想されるのが都心部・好立地の新築マンションです。こうした物件を購入しているのは、金融資産が1億円以上ある日本の富裕層です。所得は伸び悩んでいると言われていますが、実は日本でも富裕層が増えています。購買意欲が旺盛で、マンション価格が高騰する中でも売れ行きは好調です。金額としては安いものではないので、物件のエントランスは高級感があり品質感や品格あるデザインが好まれています。また、物件の設備面、たとえばキッチンや洗面化粧台の仕様をワンランク上にし、一部高層階では天井高を高くして、共用設備では眺望ラウンジ、高級感あるゲストルーム、フィットネスジムなどがあることが多く、上質な暮らしを感じられるのが特徴です」と解説します。

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのグランドエントランス完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのグランドエントランス完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのエントランスラウンジ完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのエントランスラウンジ完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)

「今、マンションを買う人達は、新築マンションの価値である、立地や眺望という点を非常に重視します。かつては南向きがよしとされてきましたが、部屋からの景色や抜け感が重視されるようになり、海外と同様の価値観になってきましたね。床材や壁材、インテリアで好まれる色合いもグレージュのような落ち着きがあり、上質感が感じられるもので世界のトレンドに近づいてきました」(池本氏)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのワーキングラウンジ完成予想CG (写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのワーキングラウンジ完成予想CG (写真提供/東京建物、東栄住宅)

また、海外と同様という意味では、超富裕層向けの「プレミアム住戸」が珍しくなくなったそうです。
「通常の住戸と比較して、海外のように、洗面、トイレ、バスルームを複数持たせたり、床から天井までの階高が3m~6mあったりと、世界の富裕層向け物件と同クラスのものが出てきています。商品企画、建築も世界のラグジュアリー物件を参考にしているので、世界と比較しても見劣りしません」と池本氏。

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの住戸一例(写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの住戸一例(写真提供/東京建物、東栄住宅)

東京、大坂、京都、福岡、マンションが供給される立地の特色は?

こうした夢のあるマンションの話もいいですが、実際に買うとなれば話は別です。これから先、新築マンション価格はどうなると予測しているのでしょうか。

「マンションの価格は
(1)土地価格
(2)人件費
(3)資材費
の3つで決まります。このうち3つともに下げの要因はなく、むしろ高騰しています。これは新築マンションだけに限らず、すべての建築物を含めた資材の話となりますが、なんとこの2年半で、資材費は27%上昇、マンションの骨組みとして使われるH形鋼に至っては約70%も上昇しています。職人不足から人件費も値上がりしているほか、今まで建築業界など一部の業界で特例延期されていた、労働基準法に基づく労働時間の適正化が2024年からは実施されます。そのため人件費も上昇すると予測されます。
つまり、新築マンション価格が『上がる』要因はあっても、『下がる』要因はないんです」

今、価格が高いからといって将来に先延ばしをしても、新築マンション価格とリンクしやすい株価の暴落などが起きないかぎり、劇的な下落は考えにくいようです。

H形鋼(写真/PIXTA)

H形鋼(写真/PIXTA)

では、新築マンションを買うのであれば、どんな立地を狙うといいなど、買い手が立てられる戦略はあるのでしょうか。

「東京だけでなく、郊外都市や地方の主要都市部にもマンションに適した土地はあまり残っていません。利便性を重視しつつ、価格帯もとなると、冒頭に申し上げた『郊外』に目を向けるとよいでしょう。価格・供給数ともに横ばいで動くと予想しています。主要駅の周辺、具体的にいうなら立川や大宮、船橋、町田など首都圏の主要ターミナル駅とその一駅二駅隣の駅近物件であれば、買いやすい価格帯で供給されています。また、関西、地方主要都市の福岡や札幌、仙台、金沢、広島の中心部でも都心部や好立地は高く、郊外は買いやすい価格帯で落ち着くことでしょう」(池本氏)。

こうした郊外で供給されるマンションでも、生活の質をあげる設備が導入されていることが一般的です。
「保温性の高い浴槽、電子キーなどは標準装備となっていることが多いですね。共用設備では華美なものは少なく、スタディスペースやワークスペース、EV充電スタンド、カーシェアなど『実用性ある施設』が導入されています。また、郊外でも『南向きにこだわらない』動きがでてきていますね」(池本氏)。

なるほど、新築マンションを探すのであればまずは供給数が限られていることを理解し、広域で見て、選択肢を広げ、優先順位をつけていくという戦略が有効なようです。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

要チェックは省エネ性能。各社のZEH、木造新築マンションにも注目

池本さんが、今、新築マンションを買いたいと考えている人に、ぜひ押さえてほしいポイントがあるといいます。

「全ての新築住宅において、2025年4月からは、省エネ基準への適合が必要となります。2030年にはその基準がZEH水準(※)となるため、それ以降はZEH水準を満たさないと既存不適格(※)と見られることもあるでしょう。ですから今から買うなら、ZEH水準もしくは、マンションではZEH Orientedという水準以上を買うことをおすすめします」と力説します。

※断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6の性能をもつ省エネ性能の水準(詳しくはこちら)。

※既存不適格とは、建設時には適法だったが、以降の法改正などで法不適合になった状態のこと。そのことに法的な問題はないが、例えば、1981年に耐震基準が変わり、それより前の物件が旧耐震(既存不適格)と言われるように、市場で競争力が劣ってしまう状態が想定される。

■関連記事:
2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?

当然、各社もZEH化には注力しており、タワーマンションでも「ZEH」相当の物件も出てきています。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「国も建築物の省エネ性能向上、断熱性能の向上に注力していますし、住まいの高性能・省エネ性については、暮らす人のメリットもとても大きいのでぜひ重視してほしいポイントです」といいます。

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの省エネにつながる設備・システムの一例(同マンションのHPより)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの省エネにつながる設備・システムの一例(同マンションのHPより)

同じく、環境性能という面では、木造や木材を使ったマンションにも注目しているそう。
「国の方針や建築基準法の改正などの要因がありますが、中高層木造マンションや、中高層の木造、コンクリート、鉄骨のハイブリッドマンションも一つのトレンドです。先程の鉄鋼と比較すると中高層建築で使う木材は、今後、供給が増えてくればコストが下がっていく可能性も十分にあり、建築費の抑制といった意味でも注目しています。もちろん耐震性など性能面では従来の鉄筋コンクリート造の物件と同等の性能で建てられています」(池本さん)

木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」(三井ホーム/東京都稲城市)は、総戸数51戸、間取り2LDK~3LDK、専有面積は50平米~96平米。1階はRC(鉄筋コンクリート)造で、2~5階に木造枠組壁工法を採用(写真撮影/片山貴博)

木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」(三井ホーム/東京都稲城市)は、総戸数51戸、間取り2LDK~3LDK、専有面積は50平米~96平米。1階はRC(鉄筋コンクリート)造で、2~5階に木造枠組壁工法を採用(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

■関連記事:
マンションも木造の時代に! 耐震性や遮音など住みごこち満足度98%のお墨付き 「MOCXION INAGI」東京都稲城市

また、環境性能や心地よさから内装、インテリアの木質化も大きな流れになっているよう。確かに木を多用したインテリア、SNSでもよく見かけます。賃貸ではありますが木造マンション、「MOCXION INAGI」で入居者の98%が住み心地に満足と回答したというデータもあり、今後もひとつの潮流となっていくことでしょう。

これから買う人は自分たちの価値を大事に。気になる物件は1期で決断

最後に新築マンションを買いたいと思う人に、アドバイスをもらいました。

「まずは、自分たちの暮らしの軸を大切にしてください。世にいわれている大人気物件が必ずしも“買い”とは限りません。冷静に自分たちが大切にしたい暮らし、求める価値を見極めて、それで物件と合っているなら決断していいと思います。投資用に買うなら、買った価格より高く売れるかを意識すべきとだ思いますが、自宅として買うならば、その街、そのマンション、間取り空間で暮らしたいのかが家探しの軸になるべきです。どこで、だれと、どのような生活を送りたいのか、そこを見誤らないでください」。

その上で、マンション価格として「下げ要因」がない以上、気になる物件が出て、期分け販売をする物件であれば、期を追うごとに価格が上昇する可能性があるため、思い切って「1期で買い」だといいます。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

そして、もうひとつ、要注意な点として「金利動向です」とアラートをあげます。

「長期固定金利がじわりと上がってきています。今、みなさん住宅ローンを変動金利で借りていますが、変動金利が上昇する可能性もありそうです。そのため、借りられる金額の上限まで借り入れるのはおすすめしません。変動金利だけではなく、変動金利と固定をあわせるミックスなどを比較検討してください」(池本氏)

住まいは住む人の暮らしの基盤であり、幸せな暮らしを営むための器です。自分たちが「新築マンション」に求める価値はなにか、どんな暮らしがしたいのか、それは新築でなければ叶わないのか……。
一つずつクリアにしていくことが、2024年のマンション購入正攻法といえそうです。

●取材協力
SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長
池本洋一氏

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラス
物件ページ
公式HP

人気店の味を気軽に楽しみ食品ロスにも貢献! マンションと地域の交流を育む「夜のパン屋さん」飯田橋第一パーク・ファミリア 新宿区

コロナ禍のステイホームなどにより、マンション等の集合住宅では、住民同士の交流が減るなどの問題が生じていました。高齢者が多く入居する飯田橋第一パーク・ファミリア(東京都新宿区)では、管理会社と管理組合が連携し、売れ残ってしまいそうなパンを有償で引き取り代理販売する「夜のパン屋さん」を誘致。社会貢献をしながら、入居者や近隣の人へ食の楽しみを提供した活動が評価され、「マンション・バリューアップ・アワード2021『マンションライフ・シニアライフ部門』」で佳作を受賞しました。管理会社の三井不動産レジデンシャルサービス倉本昇さんに、取り組みの経緯と反響を伺いました。

売れ残りパンの代理販売「夜のパン屋さん」がマンションの駐車場にオープン

夕暮れ時、人が行き交う通りから一本入った住宅街のマンションの駐車場に、オレンジ色の光が灯るキッチンカー「夜のパン屋さん」がオープンしていました。マンションに帰宅する人や近隣に住んでいる人が立ち寄り、店頭に並ぶパンを選びながら、店員さんとの会話を楽しんでいます。

「夜のパン屋さん」は、「パンを焼かないパン屋さん」。どのお店のパンが並ぶかは当日のお楽しみ(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」は、「パンを焼かないパン屋さん」。どのお店のパンが並ぶかは当日のお楽しみ(写真撮影/桑田瑞穂)

マンションの居住者だけでなく、近隣の人も「夜のパン屋さん」のパンを楽しみにしている(写真撮影/桑田瑞穂)

マンションの居住者だけでなく、近隣の人も「夜のパン屋さん」のパンを楽しみにしている(写真撮影/桑田瑞穂)

17~20時の間に20組ほどが訪れる。この日は、静岡や埼玉のパン屋さんから届いたパンが並んだ(写真撮影/桑田瑞穂)

17~20時の間に20組ほどが訪れる。この日は、静岡や埼玉のパン屋さんから届いたパンが並んだ(写真撮影/桑田瑞穂)

飯田橋第一パーク・ファミリアを含む東京の3カ所で定期的にオープンしている「夜のパン屋」さんは、ホームレス状態など生活に困窮する人の自立支援事業を展開する有限会社ビッグイシュー日本が運営するパン屋さんで、売れ残りそうなパンをパン屋さんから預かり、代理販売をしています。

賞味期限が近いパンを買っておいしく食べることで、パン屋さんの食品ロスを減らし、同時に、パンの回収と販売を生活に困窮した人に携わってもらうことで、新たな仕事を創り出す取り組みです。

扱うパンは、都内の有名店や老舗店のほか北海道や静岡などの街のパン屋さんから送られてきたパン。さまざまな店のパンを購入できるとあって、人気を博しています。飯田橋第一パーク・ファミリアは、そのプロジェクトの2号店です。

柿とサツマイモのマフィン(写真撮影/桑田瑞穂)

柿とサツマイモのマフィン(写真撮影/桑田瑞穂)

東京都港区にある「ラトリエCOCCO」から届いたパンの詰め合わせ(写真撮影/桑田瑞穂)

東京都港区にある「ラトリエCOCCO」から届いたパンの詰め合わせ(写真撮影/桑田瑞穂)

コロッケバーガー、チーズボール、クリームパン、あんぱんなど詰め合わせパンは、組み合わせが異なるので選ぶ楽しみがある(写真撮影/桑田瑞穂)

コロッケバーガー、チーズボール、クリームパン、あんぱんなど詰め合わせパンは、組み合わせが異なるので選ぶ楽しみがある(写真撮影/桑田瑞穂)

飯田橋第一パーク・ファミリアの管理会社で、「夜のパン屋さん」のキッチンカーの誘致に尽力した三井不動産レジデンシャルサービスの倉本さんは、「今はすっかり定着しましたが、はじめての取り組みで初日はドキドキでした」と振り返ります。

飯田橋第一パーク・ファミリアには、もともと、管理会社によるキッチンカーの提供がありましたが、外部の運営業者のキッチンカーを敷地内に入れることについて、管理組合では、防犯面などから、さまざまな議論があったそうです。

コロナ禍で孤立する高齢の居住者に食の楽しみを増やしたい

飯田橋第一パークファミリアは、179世帯が入居するマンションで、築40年を超え、居住者の多くが高齢者です。管理会社として、「夜のパン屋さん」出店以前から、敷地内にキッチンカーを無償で出店し、コロナ禍で外出を控えている入居者に、お店でしか食べられないような、美味しい料理を提供してきました。

『夜のパン屋さん』の誘致は、倉本さんが、もともと管理会社が無償で出店していたキッチンカーに訪れた方から、『夜のパン屋さんプロジェクト』の話を聞いたのがきっかけです。運営する有限会社ビッグイシュー日本に問い合わせたところ、ちょうどプロジェクトの2号店として、キッチンカーの出店場所を検討中だとわかりました。以前から出店していたキッチンカーにはなかったパン屋さんであること、おいしいパンを食べることで、社会貢献ができる意義のある取り組みであることに魅力を感じた倉本さんは、マンションの敷地を提供したいと考えました。

「夜のパン屋さん」初のキッチンカー。キャッシュレスで清算できるのは、うれしい(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」初のキッチンカー。キャッシュレスで清算できるのは、うれしい(写真撮影/桑田瑞穂)

「当時は、コロナ禍で外出を控えたり、在宅勤務が多くなり、先が見えないなかで、自分もフラストレーションを感じていました。なにかできないだろうかと考えていましたが、食の楽しみが増えたらすてきなのではと。入居者の方々の喜ぶ顔が見たいと思いました」(倉本さん)

誘致に対するネガティブな意見に対して不安をなくす提案書を作成

2021年4月に、有限会社ビッグイシュー日本の担当者に現地を見てもらい、6月から理事会へ提案をはじめました。

「理事会では、管理会社の提供ではない外部の事業者が敷地内へ入ることへの防犯面の不安や販売員に対する消極的な意見がありましたが、『パン屋さんが来るのはうれしい』という前向きな意見もありました。管理組合から寄せられた懸念を払拭できるよう、担当者と打合せして、提案書をまとめていきました」(倉本さん)

倉本さん(中央)と販売員さん(左)、スタッフさん(右)。販売員さんは、夜のパン屋さん1号店オープンから手伝うベテラン。ユニフォームは、おそろいのエプロン(写真撮影/桑田瑞穂)

倉本さん(中央)と販売員さん(左)、スタッフさん(右)。販売員さんは、夜のパン屋さん1号店オープンから手伝うベテラン。ユニフォームは、おそろいのエプロン(写真撮影/桑田瑞穂)

提案書には、販売時の服装がわかる写真や、「夜のパン屋さんプロジェクト」の過去の実績を盛り込みました。

「販売員の方に清潔感があることや、不人気な売れ残りではなく、並ばないと買えないような有名店のパンも購入できることが好印象を与え、8月には理事会決議が通りました。有限会社ビッグイシュー日本さんが、課題に対して、スピード感のある提案をしてくださったこと、もともと当社と管理組合で信頼関係があったことも大きかったと思います」(倉本さん)

人気店や老舗店の売れ残りパンが大人気!居住者や近隣住民の楽しみに

「2021年10月5日、3カ月間のトライアルとして第1回目の夜のパン屋さん(2号店)がスタートしました。チラシ配布のみの告知だったにも関わらず、たくさんのお客様でにぎわい、飛ぶようにパンが売れました。当日は、17時に3店舗から預かったパンで販売をスタートしましたが、準備したパンは20分ほどで完売。18時すぎに追加の1店舗からパンが到着し、19時すぎに更に2店舗目からパンが到着しましたが、20時に完売となりました」(倉本さん)

訪れたのは、マンションに住んでいる高齢者、乳児や小さな子ども連れの女性たちでした。「パンが売り切れてしまって残念。次は早めに来ます」「コロナ禍でなかなか外出が出来ない中、毎週火曜日が楽しみになりました」などうれしい言葉が寄せられたそうです。

「夜のパン屋さん」の灯りで駐車場が明るくなり、「防犯面もよくなった」という声もあった(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」の灯りで駐車場が明るくなり、「防犯面もよくなった」という声もあった(写真撮影/桑田瑞穂)

「参加のパン屋さんも増えていく予定とのことですので、いろいろなパンを住民の皆様にお届け出来るようになればいいなと思っています。ほかのマンションへも波及していったらうれしいです」(倉本さん)

マンションの駐車場にオープンした「夜のパン屋さん」が与えてくれたささやかな幸せ。管理会社や管理組合が工夫することで、居住者だけでなく近隣住民の暮らしも豊かになりました。街のパン屋さんから「夜のパン屋さん」に、そして、買う人へ。パンを通じて、お腹とこころを満たす取り組みが続いています。

●取材協力
・夜のパン屋さん(Twitter)
・マンション・バリューアップ・アワード2021
・三井不動産レジデンシャルサービス株式会社

管理費が急に値上げ! 都心マンションの「駐車場」が抱える根深い問題

多くのマンションは駐車場を所有し、使用者が使用料を負担する仕組みにしていますが、空いているケースも見られます。駐車場からの収益は管理費に充当することが望ましいとされており、空きがでることで、管理組合の収入が減り、管理費の値上げを迫られることも。「マンション・バリューアップ・アワード2020」受賞事例の中から、駐車場の収益改善で、管理費の値上げを阻止した成功事例を紹介します。

車所有者が年々減少。駐車場の空き問題が管理組合の財政を圧迫

公共交通機関が充実し、カーシェアリングの普及が進む都市部のマンションでは、車を所有する人が減少し、マンションの駐車場の契約者が減る傾向があり、駐車場使用料の収入減につながっています。さらに、機械式駐車場などメンテナンスコストや修繕費が計画当初よりも値上がりすれば、想定外の経費が増えることに。管理組合の財政を圧迫し、管理費の値上げを迫られる場合があるのです。

空き駐車場問題に直面したマンションの管理会社は、様々なノウハウを活かし、駐車場の維持管理費の削減や使用料金の収益改善の提案をしています。「住み心地の向上」や「建物の適切な維持・管理」の優れた事例やアイデアを募集する「マンション・バリューアップ・アワード2020」(マンション管理業協会開催)を受賞した管理会社に、経緯と成功のポイントを聞きました。

タワーマンションの空き駐車場問題を、区画改修で改善

財政部門(組合財政の健全化)の部門賞を受賞したのが、住友不動産建物サービスが管理している東京都港区のタワーマンション「ワールドシティタワーズ」の事例です。4年前より「ワールドシティタワーズ」の担当になった営業所長の友光学さんは、着任早々さまざまな課題に直面しました。

「消費税増税による支出増加や人件費の高騰などで管理組合の支出が大幅に上がってしまい、このままいけば、管理費の値上げは避けられない状況でした。管理費を上げずにいかに諸問題に対応できるか、2017年1月頃からさまざまな検討をはじめました」(友光さん)

総戸数2000戸を超える「ワールドシティタワーズ」(画像提供/住友不動産建物サービス)

総戸数2000戸を超える「ワールドシティタワーズ」(画像提供/住友不動産建物サービス)

マンションの駐車場の空き問題は管理組合の収入減に直結するため、理事会の悩みの種になっている(画像提供/住友不動産建物サービス)

マンションの駐車場の空き問題は管理組合の収入減に直結するため、理事会の悩みの種になっている(画像提供/住友不動産建物サービス)

助成金や補助金を活用し、共用部分の照明のLED化やテレビブースターなど共聴設備更新工事などの経費削減を進めながら、倉庫を賃貸化して収入を得たり、資源ごみの買取りによる収益改善策を講じました。さまざま検討を重ねるなかで、着目したのが、駐車場の待機者リストでした。

「1302台の駐車場区画には平置きと機械式駐車場があります。機械式駐車場には、車高、車幅、車長の異なる様々なタイプのパレット(1台分の駐車スペース)がありました。そのなかに人気のあるパレットと人気のないパレットがあることに気づきました。平置き及び特大駐車場は満車で、1台目の待機者が36名もいることに着目。人気なのは、車幅1950cmの大きな外車が入れられるパレット。人気のないパレットをつぶして人気のあるサイズにできないか。そこから、駐車場の区画改修の検討が始まりました」(友光さん)

機械式駐車場のメーカー、住友不動産建物サービスの技術担当者と何度も打合せを重ねた結果、設備的な問題点をクリアし、1つの駐車場の設備あたり5000万円の改修費用が発生する見積りが出ました。

「待機者リストには2種類ありました。現在、マンションの敷地外に借りている人で一台目を駐車するため待っている人、マンションの駐車場を借りてはいるが、大きなパレットに移動したい人です。マンションの駐車場を借りてくれれば、その分が管理組合の収入増になります。その場合の使用料を計算すると、5000万円が8年位で回収できると試算。管理組合にメリットがあると判断し、理事会に提案しました」(友光さん)

理事会はすぐに提案を承認し、駐車場の区画改修プロジェクトが開始しました。

友光さんは、2年前から担当に加わった岩佐淳史さんと協力しながら、コツコツとデータを集め、わかりやすいプレゼン資料を作成。居住者のメリットが伝わり、総会ではスムーズに可決されました。プロジェクト開始前の検討期間を入れると、工事完了までに3年がかかりましたが、1302台のうち元々321台あった空きを、改修後は、201台の空きに減らすことができたのです。

「年間約1600万円の駐車場使用料の増収が見込まれています。改修工事だけで120台減ったとは言えませんが、空き問題を解決するだけでなく、待機者のニーズを満たせて、居住者の利便性向上にもつながったと思います」(友光さん)

管理会社の経験を信頼して、一緒にマンションの資産価値を守る

今回の事例が成功した背景のひとつとして、友光さんは、4年前からはじまった住友不動産建物サービスの「現場密着型の管理」を挙げます。

「担当者は基本的にマンションに常駐するようになり、居住者の方と近い感覚を持てるようになりました。雑談のなかで、マンションの困りごとを直接聞けるようになったんです。理事会との関係性も格段に良くなりました。今まで引き出せなかった問題を知ることで、会社にストックされたノウハウや個人の経験から改善策が導かれていく。良い循環が生まれるようになりました」(友光さん)

友光さんと岩佐さん。「マンション・バリューアップ・アワード2020」受賞で、「居住者からの感謝の言葉が何よりうれしかった」と言う(画像提供/住友不動産建物サービス)

友光さんと岩佐さん。「マンション・バリューアップ・アワード2020」受賞で、「居住者からの感謝の言葉が何よりうれしかった」と言う(画像提供/住友不動産建物サービス)

契約者が年々減少。機械式駐車場の平面化で解決

駐車場の空き区画問題の解決策のひとつとして、「平面化工事」があります。平面化工事とは、機械式駐車場を砕石等で埋め戻し、アスファルト舗装等で仕上げをしたり、機械式駐車場を撤去したあとに鋼板スラブを設置する工事のこと。機械式駐車場の利用者の減少に合わせて台数を減らすことができ、メンテナンスコストや修繕費用を削減する目的で行われています。

大和ライフネクストが管理する総戸数42戸の大阪市内のマンションは、「平面化工事」の成功事例として、「マンション・バリューアップ・アワード2020」財政部門で佳作を受賞しました。担当したマンション事業本部の竹ノ下巧さんに平面化に至るまでの経緯を聞きました。

当時、築24年を迎えたマンションは、年々駐車場の空き区画が増えている状況でした。そして、2020年4月に、ある所有者が複数の駐車場区画を全て解約したため、駐車場35区画のうち空きが14区画に。マンションの収入が著しく減少する事態になりました。

「解約の書面を受け取ってすぐに、理事会に報告し、管理費を値上げするか、それとも他の方法があるのか検討しました。実は、マンションは、その前年に、修繕積立金の改定を行ったばかり。さらに、管理費を上げるのは居住者の理解を得られないと思い、何とかしなければという気持ちでした」(竹ノ下さん)

駐車場を借りたい方がいない状況を受けて提案したのが、機械式駐車場の平面化です。マンション所有の二段式機械式駐車場のうち一部を平面化することで、無駄な区画を削減し、機械式駐車場の維持費用の削減を試みました。

駐車場の解約による収入減は、約60万~75万円/月で、その分が管理費の値上げになってしまいます。理事会に提案したのは、35台分ある機械式駐車場の一部18台を800万円の工事費用をかけて埋め戻し、平置き駐車場9台に改修するというもの。その結果、機械式駐車場の維持メンテナンス費用を40%ほど削減できる計算です。

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大和ライフネクストの事例では、2段式駐車場の一部である18台を平面駐車場9台に変更した。写真と本文とは関係ありません(PIXTA)

大和ライフネクストの事例では、2段式駐車場の一部である18台を平面駐車場9台に変更した。写真と本文とは関係ありません(PIXTA)

プロジェクトが始まり、竹ノ下さんは、大和ライフネクストの工事部と相談しながら提案資料を作成。保守費用、機器類交換、撤去・平面化の費用など今後30年間のシミュレーション等をつくりました。

そして、埋め戻しをするスペースの契約者で改修後は場所を移動する予定の居住者の家を訪ね、一人一人に説明。さらに、総会の前に住民アンケートを実施しました。このままでは、管理費の値上げになること、そのために、800万円を使って改修工事をすることについて賛否を問うことに。結果は8割が賛成でどちらともいえないが2割。反対者はいませんでした。埋め戻しと料金改定の2つの軸をしっかり切り分けた提案が理解され、事前説明のかいもあって、1回の総会で無事可決。工事までにかかった期間は約1年でした。

2021年に実施された改修工事により、将来見込まれていた機械式駐車場のメンテナンス費用が減り、金額にして今後30年間で約3000万円のコスト削減ができました。8年ほどで800万円の工事費用を回収でき、修繕積立金の負担が約2200万円軽減されることとなったため、管理費値上げ分とほぼ相殺できました。

竹ノ下さん。いちばん苦労した点は、「総会をスムーズに通すための下準備」。居住者の不安を解消する提案を心がけた(画像提供/大和ライフネクスト)

竹ノ下さん。いちばん苦労した点は、「総会をスムーズに通すための下準備」。居住者の不安を解消する提案を心がけた(画像提供/大和ライフネクスト)

管理組合、管理会社両方にメリットがある提案を常に探る

経営企画室の金坂将史さんは、機械式駐車場そのものが悪ではなく、時代のトレンドにあった収益改善・経費削減が必要と言います。

「そもそも40年前は、平置き駐車場が多かったんです。その後普及した機械式駐車場は、狭いスペースでも数を確保でき収益が出る計算で取り入れられた商品でした。しかし、時代が変わり、住民の高齢化や社会的な車離れによって、駐車場利用者が減り、空き駐車場に悩むマンションが増えてきました。大和ライフネクストが管理している全国のマンションでも5年ほど前から平面化の波が来ています。更新工事は、長期修繕計画に入っていますが、平面化はそこにないイレギュラーな工事。建物担当が注目していないとできない提案です」(金坂さん)

大和ライフネクストでは、2021年10月に空き駐車場課題解決に特化した組織を立ち上げ、11月より「駐車場診断」「駐車場サブリース」のサービス提供を開始しました。大和ライフネクスト管理受託マンションを中心に、管理受託外マンションやビル等建物の駐車場にも対応しています。

「収益化をやりたいという声は居住者からはなかなか出ないので、管理費の改善をするなかで、提案することが多いですね。経費削減や収益が上がる提案をしないと管理会社として生き残っていけないと考えています。管理組合、管理会社双方にメリットがあり、管理組合にとってリスクの少ない提案が、他社との差別化にもつながります」(金坂さん)

管理組合が抱える空き駐車場問題に、管理会社は、マンション管理のプロとして挑んでいました。管理組合と管理会社が垣根を越えて、お互いをパートナーとして信頼できれば、様々な問題の解決が早まりそうです。あなたのマンションでも、もしかしたらここ何年かで駐車場利用率に変化が起きているかもしれません。着目し話し合ってみてはどうでしょうか。

●取材協力
・住友不動産建物サービス株式会社
・大和ライフネクスト株式会社
●参考
マンションバリューアップアワード(一般社団法人マンション管理業協会)

あなたのマンションは大丈夫? 国交省が長期修繕計画、修繕積立金に関するガイドラインを改定

2021年9月28日、国土交通省がマンションの長期修繕計画作成や修繕積立金に関するガイドラインの改訂版を公表した。ガイドラインの内容は来年4月からスタートするマンション管理計画認定制度の認定基準となる予定でもあり、マンション所有者も購入予定者もその概要は知っておきたい。改訂のポイントを見ていこう。

長期修繕計画、修繕積立金は適切なのか

快適なマンション居住のためには、長期修繕計画や修繕積立金が重要であることはいまさら説明する必要もないだろう。しかし、自分の住む(購入しようとする)マンションの長期修繕計画が適切なものなのか、修繕積立金が十分なのかを判断することは難しい。
仮に判断できたとしても、計画の見直しや修繕積立金額の変更には他の所有者の合意を得る必要がある。所有者の多数が賛成しないと話が前に進まない。これがマンション管理の難しい点だ。
これらの問題解決の一助とすべく、長期修繕計画の考え方や作成方法を示したものが「長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン・コメント(以下、長期修繕GL)」であり、修繕積立金額を判断するための参考資料が「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(以下、修繕積立金GL)」だ。

長期修繕計画GLと、修繕積立金GL。国土交通省HPより

長期修繕計画GLと、修繕積立金GL。国土交通省HPより

改訂点3つのポイント

これらガイドラインの活用により、長期修繕計画や修繕積立金額の設定についてマンション所有者の間で合意形成を行いやすくなり、適切な修繕工事を行うことが期待される。長期修繕GLは平成20年(2008年)に、修繕積立金GLは平成23年(2011年)に策定されたが、築古のマンションの増加や社会情勢の変化を踏まえ、今回、改訂が行われた。
改訂点は多々あるが、ここでは3つのポイントを紹介したい。自分の居住するマンションの長期修繕計画が、これらの改訂点を踏まえたものになっているのか。チェックしてみる価値はあるはずだ。

1、計画期間は30年以上となっているか
今回の改訂では、長期修繕計画の期間を「30年以上で大規模修繕工事が2回以上含まれる」期間とした。従来は「中古マンションは25年以上・新築は30年以上」となっていたため、25年で長期修繕計画を立てているマンションも少なくないはずだ。
ところで、外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期は一般的に12~15 年程度とされる。30年以上の計画であればこれらの工事が2回含まれることになる。エレベーターの改修も検討に入ってくるだろう。計画期間が30年以上であれば、これら多額の工事費を見込んだ計画となる。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

一方、2回の大規模修繕工事が含まれていない計画では、計画期間直後に大幅な資金不足になるという事態も起こりかねない。
また長期修繕計画は一度つくったら終わりではない。状況の変化に応じて見直していく必要がある。このことは従来から指摘されていたが、今回の改訂では「5年程度」という表現が各所に追記された。見直しをお題目にすることなく、実行していくことが望まれるのだ。
居住するマンションの長期修繕計画が、「30年以上で大規模修繕工事が2回以上」含まれているのか、「5年程度」で見直すことが考慮されているのかはまず確認したいポイントだ。

2、省エネ性能の向上
改訂では、マンションの省エネ性能向上の改修工事も考慮するよう追記された。古いマンションでは省エネ性能が低い水準にとどまっているものが多い。屋上の断熱改修は比較的実績も多いが、外壁の外断熱改修はまだまだ少ない状況だ。窓サッシの改修も断熱性を高める。大規模修繕を契機に、これらの改修工事を行うことは、所有者の光熱費負担を低下させるとともに脱炭素社会の実現にも貢献することになる。築年の古いマンションであれば、この点も考慮した修繕計画となっているかも気になるところだ。

3、エレベーターの点検は?
エレベーターの点検に際し、国土交通省が平成28 年2月に策定した「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿った点検の重要性も述べられている。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

この指針では、エレベーター保守点検契約に盛り込むべき事項のチェックリストや業者の選定に当たって留意すべき事項など、エレベーターの適切な維持管理に必要な事項があげられている。法定点検をないがしろにしては、修繕計画も立てられない。指針に即した法定点検を行うことは長期修繕計画作成の前提条件だ。

それぞれのマンションにあった計画を立てる

マンションの維持管理を考える際、忘れてはならないことがある。マンションは個別性が強い、ということだ。規模、形状、仕様、立地、所有者の意向などさまざまな条件により維持管理の内容も異なってくる。
長期修繕計画も建物や設備の劣化状況の調査・診断に応じたオリジナルなものが作成されるべきなのだ(現実にはそこをいい加減にして、どのマンションに対しても同じような長期修繕計画を提案している「専門家」も少なくない)。
国土交通省が示している修繕工事項目や修繕周期は一つのモデルだ。これと違う部分があるからといってダメな計画と決めつけるのは早計だ。なぜ違いがあるのか、その確認が大切なのだ。マンションの個別性を踏まえた結果、異なるのであれば問題はない。むしろ良い長期修繕計画だ、ということになる。

修繕積立金の目安は

長期修繕計画が適切なものであっても、それを実施する修繕積立金が不足しては、必要な工事を実施できないし、実施しなければならなくなった場合は多額の一時金を徴収することになる。必要な修繕積立金を考える上で参考となるのが修繕積立金GLだ。
長期修繕計画GLの改訂とともに、修繕積立金GLが示す修繕積立金額の目安も見直されており、少し高くなった。
具体的には以下の金額だ。

(図表は修繕積立金GL)

(図表は修繕積立金GL)

上記の図表は、従来の長期修繕計画GLにおおむね沿って作成された長期修繕計画の事例(366事例)を収集・分析し、計画期間全体に必要な修繕工事費の総額を、計画期間で積み立てる場合の専有面積1平米あたりの月額単価を示している。長期修繕計画GLに沿った工事を行うために費用な積立金額の目安と考えてよいだろう(マンションの個別性があるため、必要な費用に幅が出る)。
例えば、20階建て以上の高層マンションでは、「平均値」は338円/平米、「事例の3分の2が包含される幅」が240円/平米~410円/平米となっている。自分のマンションの修繕積立金がこの「3分の2が包含される幅」に入っていないのであれば、その理由を確認しておきたい(この幅の下限より安いからといって、修繕積立金が不足すると決めつけることはできないし、上限より高いからといって、安心と言い切れるわけでもない)。なお、機械式駐車場がある場合は加算が必要となる(もう少し高くなる)。

「均等積立方式」と「段階増額積立方式」

また上記の金額は、「修繕積立金会計収入の平米単価」であることに注意が必要だ。「各住戸から集める修繕積立金の平米単価」ではない。1階住戸についている庭や駐車場など、使う世帯が負担する専用使用料等を修繕積立金に繰り入れ、含めた額となっている(専用使用料等の収入がある分だけ、各住戸の負担額は少なくなる)。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

つまり「各住戸から集める修繕積立金の平米単価」がGLで示されている金額より少ないからといって、直ちに不足が懸念されるわけではない。とはいえ、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の調査によれば、2020年度に同機構を通して成約した首都圏中古マンションの修繕積立金の平均平米単価は169円/平米だ。長期修繕計画GL沿った計画修繕には不足する管理組合も多いと思われる。
注意すべきは積立金額だけでない。積立方法が「均等積立方式」なのか「段階増額積立方式」なのかにも注意したい。「均等積立方式」とは計画作成時に長期修繕計画の期間中の積立金の額が均等となるように設定する方式だ。これに対し、当初の積立額を抑え、段階的に増額する方式が「段階増額積み立て方式」だ。後者であれば、将来の負担が増加することになる。

専門家は今回の改訂をどうみているのか

今回のGL改訂について、マンションの大規模修繕のコンサルタントとして豊富な実務経験がある明海大学不動産学部准教授の藤木亮介(ふじき・りょうすけ)先生にお話を伺った。……というと他人行儀だが、筆者の大学の同僚だ。研究室も真向いにある。マンション学会で今回のガイドラインについて報告されるなど実務と理論の双方に通じた専門家だ。

(写真提供/中村喜久夫)

(写真提供/中村喜久夫)

「今回の長期修繕GL改訂は、マンション管理適正化法改正に伴い来年4月より施行される『管理計画認定制度』とも関連しています。『管理計画認定制度』とは、良好に管理されているマンションを認定し、価値あるストックを増やしていこうとする制度です。中古マンションの売買価格には、管理の質が反映されているとは言い難い現状がありますが、この制度が浸透すれば、良好な管理が行われているマンションが、市場で評価される時代が来ると考えます。
この認定基準の一つに『計画期間が30年以上・大規模修繕2回以上』などといった長期修繕計画標準様式に準拠する内容が含まれます。したがって、マンションをお持ちの方には、是非、ご自分の資産を守るためにもこの長期修繕GLを読んでいただき、自分のマンションの長期修繕計画と見比べてもらいたいと思っています」(藤木先生)

確かに現状では管理の質が適切に評価されているとは言い難い。今後は、修繕積立金の多寡や計画修繕の実施状況も価格形成の要因となるのだろう。藤木先生は、『マンションの成長』という視点も提示される。

「一般的な理解として、長期修繕計画はマンションを『直す(修繕)ための計画』と捉えられていますが、これからのマンションには、『良くするための計画』という視点が必要になります。築浅のマンションであっても時代遅れにならないように、長期修繕GLを参考にして、省エネ化などマンションが成長していくような改良を見込んだ計画を立てておくことが重要になります」(藤木先生)

マンションを所有する以上、管理の問題は避けられない

マンションの良好な住環境を維持保全することは、資産価値の維持だけでなく地域の住環境の向上にもつながる。その実現には、日常の維持管理とともに計画的な修繕工事の実施が不可欠だ。マンション所有者の一人ひとりが、管理に関心を持ち、長期修繕計画やそれを支える修繕積立金についてもチェックしていくことが重要となる。
さらに今回の改訂では、マンション購入予定者に対する長期修繕計画等の管理運営状況の書面開示も望まれる、としている。マンション所有者はもちろん、購入予定者もしっかり学ぶべき問題であるといってよいだろう。

●関連資料
・「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて
・長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン・コメント
・マンションの修繕積立金に関するガイドライン
・昇降機の適切な維持管理に関する指針

「災害対策」「マンション管理の重要性」「住まい選びの多様化」…2019年不動産市場を5つのキーワードで振り返る

2019年も残りあと数日となりました。今年の不動産界隈ではどのような出来事がおこったのでしょうか。さくら事務所会長の長嶋氏に、5つのキーワードで2019年の不動産市場を振り返っていただきました。今年は以下の5つのキーワードをピックアップしました。

【今年の注目5大キーワード】
キーワード1:災害とその対策
キーワード2:マンション管理の「質」に焦点
キーワード3:省エネ義務化 見送り
キーワード4:住まい選びはますます多様に
キーワード5:不動産価格は今がピーク?

詳しくみていきましょう。

●キーワード1:災害とその対策

台風15号や19号は国内各地に甚大な被害をもたらしましたが、浸水が発生したのはおおむね被害が想定されていた地域も多く、あらためて「ハザードマップ」の有効性がクローズアップされました。現在は不動産を売買・賃貸する際にハザードマップの説明をすることは必ずしも義務化されておらず、浸水可能性の有無を知らずに買ったり借りたりしているケースも。しかし今後の気候変動の趨勢(すうせい)を考えれば、法改正でハザードマップの説明が義務化される可能性は高く、また金融機関の担保評価項目に織り込まれることとなれば、資産価格への影響も必至だとみておいたほうが良いでしょう。

災害大国ニッポン。自身や家族の安全・安心のためにも、また不動産の資産性を守るためにも、ハザードマップの確認は必須。万一の際の避難場所の確認や防災グッズの準備も欠かせません。また、各地で大型地震の予測がされているほか、昨今は想定していなかった地域でも大型の地震が発生しています。「地理院地図」(国土地理院)などで、地盤の性質について確認しておくこともマストといえます。

●キーワード2:マンション管理の「質」に焦点(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

主に1990年代後半から建設されてきたタワーマンションが続々と大規模修繕の時期に差しかかったこともあり、マンションの「持続可能性」に注目が集まりました。マンションの大規模修繕はおおむね15年ごとに行われますが、その原資となる修繕積立金の設定は、新築時に低めに設定されていたり、段階的な値上げを予定しているケースが多く、長期的な視野に立った修繕計画が大切です。一般的なマンションでは専有面積平米あたり200円程度の積立金が必要です。例えば60平米なら1万2000円程度の積み立てができているかということ。豪華な共用施設があるマンションやタワーマンションなどではもっとかかります。マンションへの永住意識が年々高まる中、購入者もマンションの持続可能性を見極め、所有者は管理組合運営に積極的にかかわるといった風潮が強まり始めています。

●キーワード3:省エネ義務化 見送り

2020年に一定の省エネ基準が義務化される予定であったところ、住宅などついては2015年に続いて見送りが決定されました。義務化された省エネ基準のない国は先進国では日本だけであり、世界的に見ればかなり後れを取っているといっていいでしょう。

しかし長期的に見れば、気候変動対策として、または「ヒートショック」などを防ぎ健康寿命を延ばすことを目的とした住宅省エネの追求は、やがて前進することになるはず。現行耐震基準にくらべて耐震性が低いいわゆる「旧耐震」の建物が、不動産取引や金融機関の融資、税制などで待遇に差があるように、やがて省エネ性の行程で、住んでいての快適性はもちろん、資産価格にも差がつく時代が来るでしょう。

●キーワード4:住まい選びはますます多様に

これまで住まいといえば「賃貸か持ち家か」といった2択でしたが昨今では、特定の住居を持たず定期的に居住地を移動する「アドレスホッパー」や、都心や地方といった複数の拠点を居住地とする「複数拠点居住」といった、新しいライフスタイルが台頭し始めています。

また「新築か中古か」といった2択も、ガス・電気・水道などのライフラインや構造躯体の性能を必要に応じて更新・改修したり、ライフスタイルに合わせ間取りや内外装を刷新する「リノベーション」の普及によってその境目もあいまいになってきました。

従来の常識や価値観にとらわれない多様な暮らし方は、今後もますます広がっていくでしょう。

●キーワード5:不動産価格は今がピーク?(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

国内最高価格を誇る銀座4丁目の交差点周辺の地価上昇率は2017年にピークを迎え2018年、2019年とその上昇率が鈍化。このペースでいくと2020年のその上昇率はほぼゼロないしはマイナスに転じそうです。2012年12月の民主党から自民党への政権交代以降、株価が上昇するのと同様に、都心部・都市部を中心に上昇を続けてきた国内不動産価格も潮目が変わる可能性が高いでしょう。

「不動産投資家調査」(日本不動産研究所)においても、2020年が不動産価格のピークとみる向きが多いようです。

また東京より不動産価格の高いロンドンや香港・上海・ニューヨークなどの米主要都市も、米中貿易戦争やブレグジット、香港デモといった世情を受けピークから下落が鮮明。東京都心部から始まった不動産価格の上昇は転換期を迎えそうです。

【最後に】

歴史を振り返れば、元号の変わり目には大きな社会変化が起きてきました。大正から昭和に変わった翌年には最大商社(鈴木商店)が破綻、2年後に世界大恐慌へ。昭和から平成となった年末に株価は4万円近くのピーク、翌年の大発会で大崩れし、その後戻ることはありませんでした。数年たち「あれがバブル崩壊だった」と気づきます。

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」というマーク・トウェインの言葉がありますが、1990年バブル崩壊から衰退の30年を経過した今、社会には30年サイクルがあるように思えます。1960~1990年はいわゆる戦後を脱し「モーレツ」な高度経済成長。1930~1960年は恐慌から戦争へと突入し敗戦とその処理。1900~1930年は日清・日露戦争に勝利し先進国の仲間入り。さらに30年前は明治維新です。

いま、世界の債務は2京円を超え過去最大。ブレグジットで揺れるEU、多額のデリバティブ商品を抱えるドイツ銀行、米中貿易戦争、香港デモなど、世界の金融システム、ひいては政治経済を大きく揺るがす可能性のある火種はいくらでも転がっています。

思えば1990年のバブル崩壊、2000年初頭のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックと、金融ショックはおよそ10年ごとに起きてきました。前回リーマン・ショックの際には、米国政府がファニーメイやフレディーマックといった住宅系金融機関に公的資金を投入したところ批判が相次ぎ、民間金融機関であるリーマンブラザースを放置したところあのような事態となりました。リーマン・ショックから10年あまり、2020年以降の金融システムに変調があるか、着目しておきたいところですね。

マンションへの永住意識、6割超で過去最高

国土交通省は、このたび「平成30年度マンション総合調査結果」を公表した。この調査は、管理組合や区分所有者のマンション管理の実態を把握するため、約5年に一度行っているもの。今回は管理組合1,688件、区分所有者3,211件の回答を得た。
それによると、マンション居住者の永住意識は高まっており、今回は「永住するつもり」が62.8%(前回調査比10.4%増)で過去最高となった。世帯主の年齢では、居住者の高齢化が進展し、70歳代以上の割合が22.2%(同3.3%増)。完成年次が古いマンションほど70歳代以上の割合は高く、昭和54年以前のマンションにおける70歳代以上の割合は約半数の47.2%。

また、賃貸住戸のあるマンションの割合は74.7%(同3.1%減)。空室があるマンションの割合は37.3%(同3.6%減)で、完成年次が古いマンションほど空室がある割合が高くなる傾向。

マンション管理の状況をみると、計画期間25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金の額を設定しているマンションは53.6%(同7.6%増)。計画上の修繕積立金の積立額に対して現在の修繕積立金の積立額が不足しているマンションは34.8%で、計画に対して20%超の不足となっているマンションの割合は15.5%だった。

管理組合運営の状況としては、外部専門家の理事会役員への選任について「検討している」又は「必要となれば検討したい」としたマンションの割合は28.3%であり、理由としては「区分所有者の高齢化」や「役員のなり手不足」が多く挙げられた。

ニュース情報元:国土交通省

マンション管理会社満足度、総合1位は野村不動産パートナーズ

スタイルアクト(株)はこのほど、マンション入居者に対し管理会社満足度調査を行った。同調査は、資格者の数・管理戸数の数等のランキング結果ではなく、入居者の声を聞くことを目的とした調査。2009年から実施しており、今回で10年目。調査は2018年8月3日~14日にインターネットで実施。有効回答数は1837。それによると、全体総合満足度1位は、野村不動産パートナーズ(71.7ポイント)だった。次いで、三井不動産レジデンシャルサービス(71.5ポイント)、住友不動産建物サービス(67.5ポイント)が続く。野村不動産パートナーズは、管理会社の業務遂行に管理会社に対する評価がすべての項目で1位ないし2位で、総合力においても「全体満足度」と「推奨度」の得点が共に全体1位だった。また、野村不動産パートナーズは今回の結果により、10年連続の1位となった。

三井不動産レジデンシャルサービスは、管理人ならびに管理会社に対する評価が高く、「全体満足度」「推奨度」ともに高い評価を受け、総合2位。住友不動産建物サービスは、管理人に対する個別評価などが高い評価を受け3位となった。上位5位では、東京建物アメニティサポートが昨年から順位を上げ4位となっている。

また、理事経験者による満足度ランキング1位は、伊藤忠アーバンコミュニティ。伊藤忠アーバンコミュニティが1位になるのは、2016年以来2年ぶり。管理戸数10万戸未満の企業のランキング1位は、東京建物アメニティサポートで、同カテゴリーで初の1位となった。

ニュース情報元:スタイルアクト(株)

”地域との連携、管理活動と平行” 絶景マンション、ブリリア有明シティタワー【管理はつなぐ[11]】

かつては空地が多かったが、近年は開発が活性化し、次々と高層タワーが登場している有明エリア。同エリア内西部で、2015年に竣工したのが「ブリリア有明シティタワー」だ。ラウンジやスパ、ゲストルームなど、多彩な共用施設が最上階の33階に集まり、昼夜で趣の異なる絶景を楽しめる。【住民経営マンション・管理はつなぐ】
高い資産性を守って次世代に渡したい。都心住宅に暮らす人々の誠実な管理に学ぶ。『都心に住む』の人気連載からの転載記事です共用部の運用法見直しや地域の取り組みを積極展開

「33階の共用施設は、眺望が素晴らしいこともあって、利用者が多く活況です。資産価値の面でもこのマンション特有のポイントとしてとらえ、快適性と利便性の向上を図っています」(管理組合理事長、以下同)


例えば、1カ月先まで予約でいっぱいだというゲストルーム。以前は、その都度、予約可能か問い合わせる必要があったが、新たに1階コンシェルジュに案内掲示板を設置して空き状況を公開。急にキャンセルが出た際なども、タイムリーに利用希望者を募れるようになった。
33階にあるスパについては、利用者の多い夜間と土日に、同フロア内で受付を開設。わざわざ1階に立ち寄らなくても利用できるようにした。

最上階にある「テラスガーデン」。運河やタワー群など、ウォーターフロントならではの眺望を堪能できる(写真撮影/柴田ひろあき)

最上階にある「テラスガーデン」。運河やタワー群など、ウォーターフロントならではの眺望を堪能できる(写真撮影/柴田ひろあき)

「オーナーズスイート」と名付けられたゲストルームは全4タイプ。いずれにも写真のようなテラスが設置されていて、リゾートホテルのような趣になっている(写真撮影/柴田ひろあき)

「オーナーズスイート」と名付けられたゲストルームは全4タイプ。いずれにも写真のようなテラスが設置されていて、リゾートホテルのような趣になっている(写真撮影/柴田ひろあき)

暮らしやすさの向上やコミュニティ形成に対する意識が高い

 また、年に2回の防災訓練やクリスマスイベントの開催など、マンション内のコミュニティ形成にも積極的だ。
「有事の際の備えとして、管理組合理事や災害協力隊などを中心に、日ごろから居住者間のコミュニティ形成に努めています。約600戸も擁するマンションなので、こうしたイベントを通じてお互いに顔見知りになっていただき、安心感を醸成していきたいですね」
 ブリリア有明シティタワーは、周辺5棟のマンションと連合自治会を組織。理事長が自治会役員を兼務している。
「各マンションで共通のアンケート調査を実施した上で、自治会から行政に路線バスの運行ルート変更やダイヤ改正を申請し、実現させています。また、近くの有明スポーツセンターでマンション対抗運動会を開催するなど、一帯の交流活性化にも取り組んでいます」
 もとは住宅が少なく、近年になって住民が急増したエリアだからこそ、暮らしやすさの向上やコミュニティ形成に対する意識が高いのだろう。
「管理組合や自治会の活動は、住民一人ひとりが参加して初めて意味あるものになると思います。自分で購入した資産を自らの手で守り、より暮らしやすくしていくのは、当然のことですよね。この点を全員で共有することで、絆を強めていければと思っています」

1 階のメインエントランスを入ってすぐの場所に広がる開放的なラウンジ(写真撮影/柴田ひろあき)

1 階のメインエントランスを入ってすぐの場所に広がる開放的なラウンジ(写真撮影/柴田ひろあき)

マンションの外観。高い建物が隣接していないので、視界が開けている(写真撮影/柴田ひろあき)

マンションの外観。高い建物が隣接していないので、視界が開けている(写真撮影/柴田ひろあき)

1 階にあるキッズルーム。スペースを充てるだけでなく、子ども向けのデザインに仕上げてある(写真撮影/柴田ひろあき)

1 階にあるキッズルーム。スペースを充てるだけでなく、子ども向けのデザインに仕上げてある(写真撮影/柴田ひろあき)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授 大月敏雄氏が語る建築家の視点
最上階に共用施設を集約した設計は、多くの入居者からの求心力が高まるという意味でも秀逸だ。その上で使い勝手をさらに向上させているのも素晴らしい。
理事会や総会での協議に先だって、事前にアンケート調査を実施することが多いと聞いた。入居者の家族構成やライフスタイルは刻々と変化するものだし、大規模物件であればもともと多種多様な世帯が集まっている。あらかじめ家庭内で話し合って出た結果を、入居者の総意に反映させられるのはとても有意義だ。
昨年からWEBサイトやFacebookページを立ち上げ、物件自体や有明エリアの資産価値向上にも努めているそうだが、住民の当事者意識を高める上でも効果的だと思う。.エントランスで開催されたクリスマス会の様子(写真提供/ブリリア有明シティタワー管理組合)

.エントランスで開催されたクリスマス会の様子(写真提供/ブリリア有明シティタワー管理組合)

理事は全15名。任期は4 年を最長4年。個々が任意に決められる。4 つの専門部会を常設しているが、夏祭り実行委員やクリスマス実行委員など、必要に応じて期間限定の組織も設置する

理事は全15名。任期は最長4年。個々が任意に決められる。4 つの専門部会を常設しているが、夏祭り実行委員やクリスマス実行委員など、必要に応じて期間限定の組織も設置する

※この記事は『都心に住む』2018年4月号(2018年2月26日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

物件DATA
江東区有明/2015年/地下1階・地上33階建て/総戸数601戸/分譲時売主:東京建物、住友不動産/設計・施工:三井住友建設/取材協力:ブリリア有明シティタワー管理組合、住友不動産建物サービス

マンション管理組合の96.2%「民泊は全面的に禁止した」

(公財)マンション管理センターはこのたび、管理組合を対象に行った「民泊対応状況」に関するアンケート調査の結果を公表した。調査期間は2018年6月15日~7月6日。有効回答数は105組合。
それによると、民泊への対応状況では、「全面的に禁止した」が96.2%、「一部を許容した」「全面的に許容した」がともに0.0%、「何も定めていない」は2.9%、「その他」が1.0%。ほとんどの管理組合で民泊禁止の取り決めを行っており、民泊を許容する取り決めをした管理組合はなかった。

規定方法としては、「管理規約で規定した」が76.2%、「理事会で方針を決議した」11.9%、「総会で方針を決議した」9.9%、「使用細則で規定した」2.0%。管理規約で規定している管理組合、規約で規定する前提で理事会決議を行っている管理組合が多いが、使用細則で規定している管理組合、総会決議で方針を示している管理組合もあった。

全面禁止とした理由は、「騒音・ゴミ廃棄など迷惑行為の懸念」がトップで66.3%。「防犯・安全面の懸念」56.4%、「不特定多数の立入りによるいざこざ」20.8%などが続いた。

違法民泊の状況は、「行われていない」が87.6%だったが、約8%の管理組合で「違法民泊が行われている(疑いがある)」と回答している。

ニュース情報元:(公財)マンション管理センター

約5000人が暮らす港区の大規模マンション 管理と自治の工夫とは?【管理はつなぐ[9]】

ワールドシティタワーズ(以下、WCT)が立つ東京都・港区港南は1~5丁目まであり、総人口は2万1000人弱(※2017年9月1日時点)。「そのうちWCTの住民は約5000人。港南の4分の1に相当します」(自治会理事・野田久正氏)そんな超大規模物件だからこそのマンション管理の工夫に迫る。【住民経営マンション・管理はつなぐ】
高い資産性を守って次世代に渡したい。都心住宅に暮らす人々の誠実な管理に学ぶ。『都心に住む』の人気連載からの転載記事です”中期経営計画”を立案 住民合意形成の一助に

24時間営業のスーパー、クリニック、薬局、銀行、認可保育園、カフェ、品川駅と物件を結ぶシャトルバスもある、まさにひとつの街。これほどの規模だけに、竣工時から物件管理、修繕などハードを請け負う管理組合と、住民の交流促進や防災などソフト面を担当する自治会の分業体制が敷かれている。
管理組合の目下の課題は2021年度開始予定の大規模修繕工事だ。「費用は億単位、1年以上はかかります。総会で承認を得るべき事項も膨大な数のため、2017年4月に大規模修繕工事委員会を立ち上げました。これを機に“中期経営計画”的なロードマップを作成、住民に発信して合意形成の一助にしたいと考えています」(管理組合理事長・八木智裕氏)

(上)アクアタワー26・27階にある2層吹抜けのスカイラウンジ。レインボーブリッジ、東京湾のパノラマビューを楽しめる(下) 品川駅と物件前を結ぶシャトルバス。1 日約70本、朝の通勤時間帯は5~7分に1本の割合で走る(写真撮影/中垣美沙)

(上)アクアタワー26・27階にある2層吹抜けのスカイラウンジ。レインボーブリッジ、東京湾のパノラマビューを楽しめる(下) 品川駅と物件前を結ぶシャトルバス。1 日約70本、朝の通勤時間帯は5~7分に1本の割合で走る(写真撮影/中垣美沙)

全戸自治会加入の新体制 管理組合とのさらなる好循環へ

一方の自治会は、約300戸の分譲賃貸を含む全住民で構成され、快適で安全な生活を守る活動に努めている。「大きな仕事のひとつが今年で10回目の秋祭り。隣にある約2万平米の区立公園を会場に、歴代の役員が手弁当で行政や企業、学校などと折衝し、参加を募ってきました。今では地元の公立小中学校の鼓笛隊や企業、レストランなどが出店して1日約800人が訪れる一大イベントになっています。
また、昨年管理規約を改定し、基本的に全戸自治会加入の新体制が確立しました。コミュニティとしてさらに成熟が進みそうです」(自治会会長・伊丹桂氏)
管理組合理事長の八木氏は、今後、組合と自治会の連携を深めたいと話す。
「自治会は住民の生の声に触れる機会が多い。われわれは自治会を通じて住民のリアルな要望を集め、管理や大規模修繕に反映したいと考えています」 
自治会からは「駐車場にEV充電設備を設置してEV車を有事の共用電源にする、共用プールを非常用水源にするなど、新たな仕組みをつくっては、といった具体的な意見が出ています。実現できればWCTの付加価値は確実に上がると思います」(伊丹氏)
管理組合と自治会が連携し、住み心地や資産性の向上を目指す。今後、2つの組織の協働が好循環を生めば、一層の相乗効果が期待できるだろう。

(左)昨年の秋祭りの様子。近隣のカフェ、レストランからの出店もある(右)こちらも秋祭り。場所は物件隣の港区立港南緑水公園(写真撮影/中垣美沙)

(左)昨年の秋祭りの様子。近隣のカフェ、レストランからの出店もある(右)こちらも秋祭り。場所は物件隣の港区立港南緑水公園(写真撮影/中垣美沙)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授  大月敏雄氏が語る建築家の視点
一般的には、管理組合は所有者目線で建物の維持に取り組み、自治会は賃貸も含めた全住民の生活者目線に基づいて活動する。WCTのように両者が連携を意識すればマンション経営は円滑に進むはず。
管理組合の総務部会理事が自治会環境部でも仕事をされており、こうした人的交流も理想的だ。 
自治会は港南地区のマンションや企業が加盟する地域連合会に参加しており、品川駅に向かう公道の拡幅などにも尽力したという。ひいてはWCT住民の快適、安全な生活にも寄与しているわけで敬意を表したい。
現在、自治会報制作の負荷が高くアウトソーシングも検討中とのこと。これについて管理組合が資金援助を考えているそうで、実現すればより密な関係になりそうだ。6~23時まで使用できるプール。出勤前にひと泳ぎする人も多い(写真撮影/中垣美沙)

6~23時まで使用できるプール。出勤前にひと泳ぎする人も多い(写真撮影/中垣美沙)

3棟構成だが、管理組合は1つ。理事会は監事を含めて34名で任期は2年。議案が多いため、月1回の理事会前に準備部会で優先順位を付ける仕組み。自治会の理事は20名超で自他薦で決定

3棟構成だが、管理組合は1つ。理事会は監事を含めて34名で任期は2年。議案が多いため、月1回の理事会前に準備部会で優先順位を付ける仕組み。自治会の理事は20名超で自他薦で決定

※この記事は『都心に住む』2018年1月号(2017年11月25日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

物件DATA
所在地:港区港南4丁目/2005年12月~2007年2月完成/アクアタワー、ブリーズタワー、キャピタルタワー地上42階・地下2階建て/総戸数2092戸(店舗等含む)/分譲時売主:住友不動産/設計・監理:日建設計/施工:清水建設、ピーエス三菱、西武建設/取材協力:ワールドシティタワーズ管理組合・自治会、住友不動産建物サービス

賃貸トラブル誰に言う? 意外と知らないマンション管理

賃貸マンションを選ぶとき、あなたはその部屋を“管理”している人が誰か、意識していますか? 入居した後で水道の故障や騒音などのトラブルがあった場合、賃貸している人に代わって対応するのが、その部屋の管理担当者。では誰が管理を担当しているのかというと、さまざまなケースがあるようです。
仲介会社に入居後のトラブルを伝えても、対応できない!?

気に入ったお部屋を見つけて借りたけれど、水まわりの故障や住環境の悪化など、住んでから問題がでてきた……。こんな場合、あなたはどこに相談しますか? 仲介会社に連絡するという人も多いかもしれませんね。しかし実は、仲介会社には入居後のトラブルを解決する責任がない場合も多いのです。では誰に相談したらよいのでしょうか? プリンシプル住まい総研の所長でAll About「賃貸・部屋探し」ガイドの上野典行(うえの のりゆき)さんに伺いました。

「入居後のトラブル対応の責任は、その物件の管理をしている人がもっています。物件を紹介する“仲介”と入居後の“管理”は、必ずしも同じ会社が担当しているとは限りません。なかには仲介会社が管理も一括して行っている場合もあります。そういった物件を業界的には『管理物件』といいます。この場合は仲介業者に連絡すれば、同じ会社や系列会社の管理部門につないでくれるでしょう。

一方で、管理を仲介とは別の会社や個人が行っていることもあり、そういった物件を『一般物件』といいます。名称については業界内部のものなので、入居する方は端的に“管理の責任者は誰か”を確かめればよいでしょう」(上野さん)

もしも住んだ部屋にトラブルがあった場合、管理者に速やかに対処してほしいもの。しっかりと物件管理をしてくれるかどうか、事前に見分ける方法はあるのでしょうか。

大家さんが管理している場合と、企業が管理している場合がある

上野さんによると、管理に関しては大別すると「仲介会社と同じ系列の管理会社が担当する場合」「仲介会社とは別の管理会社が担当する場合」「個人の大家さんが管理する場合」の3つがあるそう。

「それぞれにメリット、デメリットがあります。仲介と同系列の管理会社であれば仲介担当者との連携がスムーズな場合が多いですし、個人の大家さんが管理している場合は、もしかしたら漫画『めぞん一刻』のような、人情味あふれるやりとりが期待できるかもしれません。

とはいえ私は、特に今なら個人よりは企業の管理する物件をお勧めします。なぜなら住宅宿泊事業法(民泊新法)の改正があったり、民法の改正があったりと、直近で集合住宅にまつわる法改正が多いからです。個人の大家さんがそういった変化に追いつくのは、なかなか大変だと思います」(上野さん)

住宅宿泊事業法(民泊新法)の改正によって2018年6月から、マンションやアパートの管理規約で禁止されている場合を除いて、申請すればどこでも民泊が営業できるようになります。また、民法改正後には賃貸した部屋を元どおりにする「原状回復」に関して、経年劣化に関しては入居者が修復費用を負担する必要がないと明記されます(ただし、ハウスクリーニング代などがかかるといった特約がある場合は、特約が有効になります)。

例えばお部屋の隣が民泊で、毎晩パーティーが開かれていたら、夜間は静かにするように伝えてほしいですよね。そういったことに関して、もしも管理側に民泊についての知識や経験がなければ、上手に対応してもらえないかもしれません。そして住み替える際、管理側が民法の改正を知らなければ、経年劣化分の原状回復費用まで請求されてしまう可能性もあるでしょう。もちろん個人の大家さんでも法律に詳しく、管理会社よりも経験豊富な人もいますが、管理会社の場合は、人と人との相性を超えた交渉ができるメリットがありそうです。

部屋の快適さは間取りやインテリアだけでなく、管理の良さもポイント。いざというときにちゃんと対応してもらうためにも、賃貸でお部屋を決める際には、「管理トラブルの際は誰に連絡すればよいのか」を仲介業者に確かめておきましょう。個人の大家さんの場合は、すぐに連絡がつく人なのかどうかなど、その人となりを仲介担当者に聞いてみるのもよいでしょう。

●取材協力
・プリンシプル住まい総研

マンションって、誰がどうやって管理してるの?マンションの「管理」を担う人たちに聞いてきた

「戸建て住宅と違って、マンションに住んでいれば自分以外の第三者が管理してくれる」という認識で分譲マンションを購入する人が結構いるようだ。しかし、いったいどこの誰が、いつ、どのように管理してくれているかについて、きちんと把握できているだろうか。分譲マンション購入を検討するなら、知っておきたい、マンションの管理の仕組みのイロハを取材してきた。
管理組合、管理者、理事会、管理会社、管理員…それぞれの役割とは?

「マンション管理」の構成員として、管理組合、管理者、理事会、管理会社、管理員と似たような言葉が羅列され分かりづらい。それぞれの立場や役割が違うので、それをまとめておこう。

【画像1】マンション管理の仕組み(画像提供/一般社団法人マンション管理業協会)

【画像1】マンション管理の仕組み(画像提供/一般社団法人マンション管理業協会)

まず管理組合とは「区分所有者が全員で建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(区分所有法第3条)」のことで、マンションを購入した人が構成員となる組織だ。つまり区分所有者による区分所有者のための団体である。ここで大切なことは、区分所有者は本人の意思に関係なく管理組合には必ず加入しなければならないということだ。「区分所有者=管理組合」ということである。「面倒なので管理組合には加入しない」といった選択の余地はない。

「一棟の建物全てを所有するオーナーが賃借人に貸している賃貸マンションは区分所有法の適用になりませんし、管理組合は存在しません。所有者が1人のオーナーだけなので建物の管理もオーナーの責任になります。分譲マンションの場合は専有部の管理は区分所有者が各々管理し、共用部は区分所有者全員で管理する責任があります」と、今回取材を受けていただいたマンション管理業協会、業務部の 山崎有恒さん。

建物等の管理は「区分所有法の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、管理者を置くという方法によって行われる(同法3条)」と決められている。

そしてここでの「管理者」とは区分所有者全体の集まりである管理組合の代表者にあたる。その管理業務を全員で行うことは難しいので、「集会(総会)の決議により管理者を選任し、選任された管理者が管理業務を実行すること(同法25条~29条)」となっている。多くのマンションではこれが「理事会」にあたり、その目的は、管理組合がするべき業務を執行する機関として機能することだ。会社で言えば取締役会に似たような役割になるだろう。

管理の具体的な業務については専門的・技術的な知識が必要なことも多く、管理組合と理事会だけで行うのは実際には難しい。管理業務を管理会社に一括して委託、あるいは一部を委託して行うのが通常だ。

つまり管理会社は、管理の主体である管理組合と締結した管理委託契約に基づいて管理業務を委託されているという立場だ。あくまでも管理に関する主役は管理組合であり、その意思決定に沿った「業務」を依頼されて実施するのが管理会社というわけだ。

国土交通省作成の「マンション標準管理委託契約書」では、下記のように管理業務を類型化している。

■事務管理業務
管理組合の会計の収入及び支出の調定、出納、当該マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整を期間事務というが、管理会社はこの3つを一括しての外部に再委託することは禁止されている。この業務に関連して、管理費、修繕積立金の収納があり、管理に管理業者が関与するため、財産の分別管理について、詳細な規定が設けられている。

■基幹事務以外の事務管理業務(理事会支援業務、総会支援業務、その他)
・管理員業務
一般的には通勤方式が多く、受付等の業務、点検業務、立会業務、報告連絡業務に細分化される。
・清掃業務
日常清掃(床の掃き拭きやちりはらい等を中心とした清掃)と特別清掃(定期的に床の清掃やワックス仕上げ等を行うことをいう)に細分化され、いずれも清掃員が作業を行う。
・建物・設備管理業務
建物点検、検査、エレベーター設備、浄化槽、排水設備、消防用設備、機械式駐車場設備が掲載されている。

「管理会社は、管理組合と『管理業務委託契約』を締結し、管理業務を委託される立場です。その管理業務のうち、『基幹事務』の会計面については管理会社の会計部が、マンションの実務的な運営面は一般的に『フロントマン』と呼ばれる担当者が対応する例が多いですね。そして管理業務のうち最も日常的な業務を担当しているのが一般に管理員と呼ばれる人たちです」と山崎さん。管理と言っても、その仕事内容は幅が広い。

「管理員室」の管理員さんは、毎日何をしているの?

管理員さんは、どのような立場なのかも聞いてみた。
「各管理員は管理会社と雇用契約を結んで各マンションに派遣されている場合が多いです。業務内容もあらかじめ管理会社と管理組合が決めた内容に沿って仕事の範囲が決められています。ごく稀に自主管理をしているマンションの場合は管理組合が直接管理員を雇っている場合がありますが、ほとんどの場合は管理会社の社員もしくは派遣です」とのこと。

次に管理員さんは一体どんな仕事をしているか、疑問に思ったことを聞いてみた。
「実際の仕事は大きく分けて受付業務、点検・巡回業務、立会業務、報告連絡業務等です。居住者や来訪者からの問い合わせ・ご相談の対応や集会室等共用施設の予約管理が『受付業務』。建物・設備の目視点検、無断駐車等の確認が『点検・巡回業務』。外注業者の業務履行やゴミ搬出時に立ち会う『立会業務』です。中には日常の清掃やゴミ出し等の『清掃業務』を管理員がかねている場合もあります」
マンションの規模によっては、各担当者が別々にいる場合もあるようだ。

住民から「自分の部屋(専有部)の電球交換をしてほしい」といった要望もあるらしいが、基本的には共用部の管理が中心だ。あくまでも「管理委託契約書」で決められていて、必ず年1回(契約期間1年の場合)は管理会社から区分所有者にその内容の説明が行われてから契約することになっている。つまりプラスαの要望があれば住民は管理組合・理事会に要望して、それが管理組合全体の要望であれば管理会社と協議して契約条項に入れる必要がある。管理員に直接交渉しても契約外の業務は依頼できないというのが通常だ。

つい、あれもこれもお願いしたくなるが、その業務が契約に沿っているかどうかは「管理委託契約書」で確認しておく必要がある。

あくまでも「管理組合」が管理の主役である

「マンションの管理」はめんどうなので他人事と思っていても、購入して区分所有者となった人は、同時に管理組合員になり、主体的に取り組む責任が生まれるのだと思う。それはマンションを購入する前から頭に入れておきたい。

「管理のいい悪い」が取りざたされることが多いが、実はそれを決めるのは区分所有者であり、その集合である管理組合だ。マンションの「管理規約」にしても、「管理委託契約書」にしても、個々のマンションにあったものに総会の決議で変更はできる。またマンション管理会社や管理員を信頼して、存分に働いてもらうようにするのも、管理組合の能力にかかっている。快適なマンション生活のために知恵を出し合って工夫していくと、自ずと「管理のいいマンション」にたどり着けることが可能であり、強いては自分たちの財産を守ることにつながる。

最近では、マンションの管理を自分ごとと捉え、積極的に参加している理事たちの話題も耳にする。マンションの理事の情報交換の場も生まれつつある。しかし一般的にはまだその意識は低い。自分自身の資産運用の1つとしても、もっと区分所有者一人ひとりが主体的に「マンション管理」にかかわる必要がある。

●取材協力
・マンション管理業協会