デザインの祭典ミラノサローネ、2021年は異例の秋開催。日本からサローネを楽しむ!

毎年4月に開催されるミラノ・デザイン・ウィーク。その中核イベントが「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano・通称ミラノサローネ)」です。昨年はパンデミックにより中止になりましたが、今年2021年は9月に特別展「スーパーサローネ(supersalone)」と形を変えて開催にこぎつけました。デザイン大国イタリアにとって、ミラノサローネは生命線。現地に行けなかった私ですが、その熱意と行動力に敬意を表しながら、今年はデジタルプラットフォームを活用し、在宅サローネ視察にトライします。

デジタルプラットフォーム充実、会場はサステナブルに

今年の「スーパーサローネ」では、会場も運営も新形式によるチャレンジを見せてくれました。4パビリオン(6万8520平米)に出展ブランド425社、会期6日間の来場者数は6万人超と、規模は従来の5分の1程度に縮小されましたが、閉幕後に主催者は「勇気と、ビジョンと、団結力が勝利を飾った」と達成感のあるコメントを出しました。

「surpersalone」デジタルプラットフォームで見ることができる会場風景のムービー。ロー・フィエラ見本市会場入口からパビリオン内の展示ブースへ。建築家やアーティスト、起業家、政治家などが登壇したイベント「open talk」の様子なども(画像提供/Salone del Mobile.Milano)

感染対策として、欧州で運用されている「Green pass」などのCOVID-19グリーン証明書の提示、加えて即席抗原検査ステーション(22ユーロ)も設けるなどして入場者を管理。マスク装着は映像で見る限り、同時期開催の全米オープンテニス会場より多い様子。

新たな展示形式はオープンな仕切りで来場者の密を避ける工夫がなされ、100%リサイクルされた木材でつくられたパネルを使用。利用後のリサイクル含め、サステナブルな運営(画像提供/Andrea Mariani by Salone del Mobile.Milano)

新たな展示形式はオープンな仕切りで来場者の密を避ける工夫がなされ、100%リサイクルされた木材でつくられたパネルを使用。利用後のリサイクル含め、サステナブルな運営(画像提供/Andrea Mariani by Salone del Mobile.Milano)

カーボンニュートラルへの取り組みでは、紙媒体のパンフレットや資料を作成せずQRコードでデジタル化するなど大胆に転換。カタログの重さに疲弊したころが懐かしい……。

porro社:家具プロダクトの背景壁面に映像を展開する、アート・ディレクターのピエロ・リッソーニによるインスタレーション。映像では生産工程や環境への取り組みなども紹介。今年porroの38歳女性社長マリア・ポッロがSalone del Mobile.Milano新代表に就任(画像提供/porro)

porro社:家具プロダクトの背景壁面に映像を展開する、アート・ディレクターのピエロ・リッソーニによるインスタレーション。映像では生産工程や環境への取り組みなども紹介。今年porroの38歳女性社長マリア・ポッロがSalone del Mobile.Milano新代表に就任(画像提供/porro)

Molteni&C社:飛行機内のような展示で、アテンダントの女性が「アテンションプリーズ」とアナウンス、窓の外には雲の合間に家具プロダクトが浮かんで流れる映像が流れている。座席は1954年に巨匠ジオ・ポンティによってデザインされたアームチェアの復刻デザインの新作「Round D.154.5」。自由に旅できる日が待ち遠しいと思わせるような、ロン・ジラッドらしいウィットに富んだインスタレーション(画像提供/Diego Ravier by Salone del Mobile.Milano)

Molteni&C社:飛行機内のような展示で、アテンダントの女性が「アテンションプリーズ」とアナウンス、窓の外には雲の合間に家具プロダクトが浮かんで流れる映像が流れている。座席は1954年に巨匠ジオ・ポンティによってデザインされたアームチェアの復刻デザインの新作「Round D.154.5」。自由に旅できる日が待ち遠しいと思わせるような、ロン・ジラッドらしいウィットに富んだインスタレーション(画像提供/Diego Ravier by Salone del Mobile.Milano)

従来の新作を大空間にセットアップして見せる展示とは趣向が違う各社の展示ですが、実際の会場はどんな様子だったのでしょうか?

いつも現地でお世話になっている、ミラノサローネ広報日本担当の山本幸さんに伺いました。
「各社ブースのレイアウトを通路平行に並べたライブラリー型展示は、間口幅6~30mで規模の違いを出すだけだったので、従来の複雑なコマ割りレイアウトより、来場者的には見やすく効率が良かったようです。小さいブランドも見つけられた、と大好評。出展側も声がかけやすいメリットもありました」とのこと。
日本企業やデザイナーへの注目も高かったようで、山本さんが紹介してくれました。

ミラノサローネ広報山本幸さん、日本から初出展のポータブル照明ブランドAmbientec社の前で (画像提供/山本幸)

ミラノサローネ広報山本幸さん、日本から初出展のポータブル照明ブランドAmbientec社の前で
(画像提供/山本幸)

Ambientec(アンビエンテック)社は横浜にある2009年設立のポータブル照明ブランド。水中撮影機材のメーカーだけあって、独自の高い技術開発力を持つ企業。それを活かすデザイナーを招聘し、魅力的なプロダクトを発表してきました。
2015年からMilan Design Weekで、著名なRossana Orlandiギャラリーへの出展を果たして好評価を得、今年は本格的に世界を相手にビジネスをするべくサローネ参画に到ったようです。

「TURN+(ターン・プラス)」デザイナー田村奈穂。ブラス・ステンレス・ブラックアルミニウムの3種類。新開発のオリジナル光源、アウトドアからバスルームもOKのポータブルランプ。磨き上げられた金属加工の高いクオリティに欧州人も絶賛(画像提供/Ambientec)

「TURN+(ターン・プラス)」デザイナー田村奈穂。ブラス・ステンレス・ブラックアルミニウムの3種類。新開発のオリジナル光源、アウトドアからバスルームもOKのポータブルランプ。磨き上げられた金属加工の高いクオリティに欧州人も絶賛(画像提供/Ambientec)

また、ミラノ在住の日本人アーティスト後藤司の作品を、サローネ主催者が「木工とガラス瓶の作品展示“alla Modigliani(モディリアーニへ)”は、日常生活の中で職人の忍耐強い作業によってモデル化された美の有用性を広める」とフィーチャー。

Tsukasa Gotoの作品を熱心に撮影する来場者。「Makers Show」というアーティストや職人たちを中心にしたカテゴリーへ出展(画像提供/Diego Ravier by Salone del Mobile.Milano)

Tsukasa Gotoの作品を熱心に撮影する来場者。「Makers Show」というアーティストや職人たちを中心にしたカテゴリーへ出展(画像提供/Diego Ravier by Salone del Mobile.Milano)

後藤司:1981年東京生まれ、2004年からミラノで活動。2014年のサローネではSaloneSatelliteで作品を発表。写真左/「Daydream」(ガラス瓶に手触りのあるテクスチャーを与え幻想的なオブジェに) 写真右/「Proximity」(丸い木の棒が3次元で接合して構成された木工作品)(画像提供/Tsukasa Goto)

後藤司:1981年東京生まれ、2004年からミラノで活動。2014年のサローネではSaloneSatelliteで作品を発表。写真左/「Daydream」(ガラス瓶に手触りのあるテクスチャーを与え幻想的なオブジェに) 写真右/「Proximity」(丸い木の棒が3次元で接合して構成された木工作品)(画像提供/Tsukasa Goto)

「without hearing, touching what we can understand? So I try to feel, to touch. (聞かずに、触れずに、何が理解できるでしょう?だから私は触れて、感じるようにするのです)」
という彼のメッセージは、まさしくサローネをリアル開催に踏み切った、主催者の閉幕メッセージと同じものでした。
「やはり実際に目で見て、触って、人と会って話すということが、いかに大切だったか。スーパーサローネを訪れた人が皆、それを再認識しました。この感動はリアルでしか体感できないのです」

東京2020からミラノへと、日本代表の活躍が続く!

ミラノ・デザイン・ウィークでは、見本市会場以外の街中でさまざまな展示やイベントが開催される「fuorisalone(フオリサローネ)」も必見。インテリア以外の業界も含め今年は655ブランドが参加。ほとんどが無料入場できるので、学生や一般人も多く来場し、デザインやアートを楽しみます。

その一つ、フランスを代表するクチュールメゾンのDiorが開催した「THE DIOR MEDALLION CHAIR」展。17人のアーティストを招待して、メゾンの象徴的なエンブレムの1つであるメダリオン・チェアを再解釈するプロジェクトです。

ディオールメゾンの象徴的なエンブレムの1つであるメダリオン・チェアは、創業者クリスチャン・ディオールが愛した18世紀のルイ16世スタイル(写真撮影/©Alessandro Garofalo)

ディオールメゾンの象徴的なエンブレムの1つであるメダリオン・チェアは、創業者クリスチャン・ディオールが愛した18世紀のルイ16世スタイル(写真撮影/©Alessandro Garofalo)

18世紀の建造物Palazzo Citterio(ミラノ・ブレラ地区)での開催。ゲストデザイナーは、フランス、イタリア、レバノンや韓国など世界的に活躍する17人(写真撮影/©Alessandro Garofalo)

18世紀の建造物Palazzo Citterio(ミラノ・ブレラ地区)での開催。ゲストデザイナーは、フランス、イタリア、レバノンや韓国など世界的に活躍する17人(写真撮影/©Alessandro Garofalo)

日本からは二人の人気デザイナー、吉岡徳仁と佐藤オオキ(nendo)が招待されていました。
この二人、ミラノサローネでは毎年注目されていますが、今年は何と言っても東京オリンピック・パラリンピックでの活躍に触れなければなりません。

吉岡徳仁デザインの聖火リレートーチ(左) 佐藤オオキデザインの聖火台(右)(画像提供/©Tokyo 2020)

吉岡徳仁デザインの聖火リレートーチ(左) 佐藤オオキデザインの聖火台(右)(画像提供/©Tokyo 2020)

日本を代表するデザイナーとして選出され、お二人らしい見事なデザインで全うされた仕事ぶりに、長らくファンである私は感銘を受けました。

さて、デザイン界の日本代表とも言える両氏の「THE DIOR MEDALLION CHAIR」展ですが、こちらも各々の感性やキャラクターが反映された作品となっています。

”Medallion of Light” 「不規則な光を生み出す自然のように、人間の感覚を超越する偶然性を持ったものを表現したいと思いました。光に近い素材を用いて、歴史的でありながら未来的な椅子を生み出すことを考えました」(吉岡徳仁)(画像提供/THE DIOR MEDALLION CHAIR)

”Medallion of Light” 「不規則な光を生み出す自然のように、人間の感覚を超越する偶然性を持ったものを表現したいと思いました。光に近い素材を用いて、歴史的でありながら未来的な椅子を生み出すことを考えました」(吉岡徳仁)(画像提供/THE DIOR MEDALLION CHAIR)

364個の樹脂プレートをランダムに積層した椅子は、光を素材としてつくられたよう。目の錯覚と共に時空間の境界をぼかすような作品となって見る人を魅了します。

“Chaise Medaillon 3.0” 「メダリオンというクラシカルなチェアを先端技術を用いて再解釈することにしました。背もたれは楕円形に切り抜かれていることで、メダリオン・チェアの特徴が軽やかに空中に浮遊しているかのような表情が生まれました」(佐藤オオキ)(画像提供/THE DIOR MEDALLION CHAIR 撮影/©Yuto Kudo)

“Chaise Medaillon 3.0” 「メダリオンというクラシカルなチェアを先端技術を用いて再解釈することにしました。背もたれは楕円形に切り抜かれていることで、メダリオン・チェアの特徴が軽やかに空中に浮遊しているかのような表情が生まれました」(佐藤オオキ)(画像提供/THE DIOR MEDALLION CHAIR 撮影/©Yuto Kudo)

実はこの素材、強化ガラス。1800×1100mmの一枚板は厚みわずか3.0mmで、C字型まで深く曲げられる手法を新たに開発し実現したフォルムなのです。

この2作品、デザインはお二人らしさが出ていて、一方、素材はいつもと逆!?な意外性もあり興味深かったです。こういうプロジェクトは、やはり雰囲気のある会場で見ると感動がより深かったに違いありません……。

サステナブル社会の実現に向けて、技術とデザインが融合

インテリア業界以外の日本企業がミラノで企画展をすることも少なくないなか、今年初出展したのがNitto(日東電工)。スマホ用偏光フィルムや、工業用粘着テープなどなどを提供する高機能材料メーカーで、グローバルビジネスへのブランディングを強化しています。

クリエイションパートナーは面出薫(建築照明デザイナー)。透明な「RAYCREA(レイクレア)」フィルムをガラスやアクリル板に貼り光源を組み合わせることで、フィルムを貼った面だけが光る。光の迷宮のような会場(画像提供/Nitto)

Nitto(日東電工):「Search for Light」(ミラノ・トルトーナ地区)
クリエイションパートナーは面出薫(建築照明デザイナー)。透明な「RAYCREA(レイクレア)」フィルムをガラスやアクリル板に貼り光源を組み合わせることで、フィルムを貼った面だけが光る。光の迷宮のような会場(画像提供/Nitto)

新しい光の表現を可能にする光制御技術「RAYCREA」をミラノで披露し、デザイン界からユーザー視点での生の声を多く得られたようです。

最後にぜひ紹介したいのは、著名ギャラリーオーナー・Rossana Orlandi(ロッサーナ・オルランディ)が2019年から推進している「Ro GUILTLESSPLASTIC(罪のないプラスチック)」プロジェクト。
“プラスチックが罪なのではありません、私たちは習慣を変える必要があるのです”とロッサーナは呼びかけ、使用済みのプラスチックとゴミにデザインの力で新しい生命を与え、生まれ変わらせるデザインコンペを世界に向けて発信。
「Ro Plastic Prize」として毎年、Milan Design Week期間中に応募作品を展示し、表彰しています。

「Ro GUILTLESSPLASTIC」の会場はロッサーナのギャラリー近くにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館。中庭に設けられたステージのデザインも目を引く。期間中にはデンマーク王女も訪れた(画像提供/Galleria Rossana Orlandi)

「Ro GUILTLESSPLASTIC」の会場はロッサーナのギャラリー近くにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館。中庭に設けられたステージのデザインも目を引く。期間中にはデンマーク王女も訪れた(画像提供/Galleria Rossana Orlandi)

「廃棄物についての意識を高めるには、持続可能性と責任について話すだけではもはや十分ではありません。私たちは感情を刺激する必要があります」とロッサーナ、デザインコンペ「Ro Plastic Prize」に新たに設けた “Emotion on Communication”賞。その受賞作品に度胆を抜かれました!

受賞作はオランダ人アーティストのMaria Koijckの動画作品「this is the waste of one operation , my operation…. (これが一度の手術で出る廃棄物、私の手術……)」。自身の乳がん手術に使われた医療器具などの廃棄物を回収し、自分の周りに並べるという斬新な構想(画像提供/RO PLASTIC PRIZE 2021)

Maria Koijckはプラスチック廃棄問題に取り組んできたアーティストとして、自分の手術に使用される医療材料の60%が使い捨てであることに愕然とし、このプロジェクトに取り組みました。そして、病の回復に感謝しつつも、こう投げかけます。
「人間は常に“良くなる”ことを目指していますが、私たちの環境にかかるコストはどれくらいですか?」
医療関連のプラスチックもリサイクルできるように技術革新を続けることが重要と訴えています。

持続可能な社会に向けた取り組みは、「surpersalone」会場のブランドからもリサイクル率や素材開発など多く発信されていました。
アーティストはデザインで人の心に訴え、企業は技術開発に挑む。そんな活動の広がりを日本に居ながらにして垣間見ることのできたMilan Design Week/ミラノサローネ2021@ホームでした。

ミラノサローネ国際家具見本市「Salone del Mobile.Milano」
2021年9月5日(日)~10日(金)
場所:ロー・フィエラ ミラノ 入場料:15ユーロ
「surpersalone」デジタルプラットフォーム
※2022年4月5日~10日開催予定(60周年記念ミラノサローネ国際家具見本市&キッチン・バスルーム見本市併催)

〈ミラノサローネ2019〉インテリアデザインも職人技からAI技術まで!世界の感性が集結

2019年4月9日~14日のMilan Design Week(イタリア・ミラノ)は、インテリア世界最大の見本市「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)を核に、街中がデザインの祭典に沸いた。レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年のオマージュ企画から、最先端のテクノロジーとデザインの融合も見られた刺激的な1週間となった。
デザイン都市ミラノ、イタリアオペラの殿堂「スカラ座」とも共演

今年2418の出展数となったミラノサローネ見本市会場には、181カ国から38万6236人が来場。加えて街中でのイベントが1,350カ所もあり、その一つTortona地区にあるSurperStudioでも8万人が来場とのこと。総勢50万人を超えるデザイン・コンシャスな人々であふれた、Milan Design Weekとなった。

ミラノは世界一の“デザイン・シティ”を目指し、国を挙げて産業界を盛り上げている。今年から、芸術の中心であるミラノ・スカラ座財団とのパートナーシップを結び、デザインとアートの融合も強化。そのスカラ座でミラノサローネ前夜祭が開催された。

スカラ座音楽総監督リッカルド・シャイーによる前夜祭のコンサート。筆者もバルコニーから鑑賞(写真撮影/藤井繁子)

スカラ座音楽総監督リッカルド・シャイーによる前夜祭のコンサート。筆者もバルコニーから鑑賞(写真撮影/藤井繁子)

驚かされたのは、その後のディナー。なんと、オーケストラがはけた、舞台上にテーブルがセットされていた!

別室でアペリティーボ(食前酒)を楽しんでいる間に、約300名のテーブルがステージ上で完璧にセッティング!? スゴイ技(写真撮影/藤井繁子)

別室でアペリティーボ(食前酒)を楽しんでいる間に、約300名のテーブルがステージ上で完璧にセッティング!? スゴイ技(写真撮影/藤井繁子)

スカラ座ディナーでも椅子は、Kartell社『MASTERS』のゴールド・バージョン! 樹脂製で軽く、スタッキング可能という特性が、このような場でも活かされている。

さて、翌日からミラノサローネが開幕。見本市フィエラ会場でも、そのKartell社が朝一注目を集めていた。

世界のメディアを前に登場したのは、やはりこの方。御歳70歳のP.スタルク氏がプレゼンテーション(写真撮影/藤井繁子)

世界のメディアを前に登場したのは、やはりこの方。御歳70歳のP.スタルク氏がプレゼンテーション(写真撮影/藤井繁子)

実は今年、Kartell社は創業70周年記念(スタルクと同い年!)。ここで発表されたのは、「世界初のAI(人工知能)によって創られた椅子」。基本AIが描き出したデザインに、スタルクがアングルなどの注文を付けただけというプロセスが動画で紹介され、会場の目が釘付けになった(動画は記事末にて掲載)。

『AIデザインの椅子』3D 技術を使ったデザイン・設計ソフトのAUTODESK社(米国)とコラボ(写真撮影/藤井繁子)

『AIデザインの椅子』3D 技術を使ったデザイン・設計ソフトのAUTODESK社(米国)とコラボ(写真撮影/藤井繁子)

スタルクは「デザイナーの仕事も無くなる? そうじゃない、素晴らしい友ができたって気分だ!」とAIとの協働を楽しんでいた。

また、Kartell社70周年を記念した特別展〈The Art side of KARTELL〉は、Palazzo Reale(王宮) Museumで開催された。

夜のパーティーは家具・照明から食器・花器までKartellずくし。王宮の階段にも、充電式のランプ『BATTERY』が並んでお出迎え。大理石の床に放たれた光模様の美しいこと!(写真撮影/藤井繁子)

夜のパーティーは家具・照明から食器・花器までKartellずくし。王宮の階段にも、充電式のランプ『BATTERY』が並んでお出迎え。大理石の床に放たれた光模様の美しいこと!(写真撮影/藤井繁子)

アジアン・デザイナーがラグジュアリーブランドで活躍

日本でも人気のイタリア・ラグジュアリーファニチャーブランドのMinotti社。
昨年、日本のデザイナーnendo(佐藤オオキ)などを起用し話題を集めたが、今年は更に斬新なプロダクト&展示に驚かされた。

このゼブラ柄ファーが空間のアクセントにたくさん使われていた。ほかにもパープルのファーやガラス使いなども素敵だった。ソファはR.ドルドーニによる新作『LAWSON』、アームで抱かれるようなデザイン(写真撮影/藤井繁子)

このゼブラ柄ファーが空間のアクセントにたくさん使われていた。ほかにもパープルのファーやガラス使いなども素敵だった。ソファはR.ドルドーニによる新作『LAWSON』、アームで抱かれるようなデザイン(写真撮影/藤井繁子)

そして、nendoによるアウトドア家具『TAPE CORD OUTDOOR』シリーズが発表された。

Minotti社で遭遇した佐藤オオキ氏。昨年リリースの家具『TAPE』が、翌年アウトドアラインとして追加されるとは……評判が良かったに違いない(写真撮影/藤井繁子)

Minotti社で遭遇した佐藤オオキ氏。昨年リリースの家具『TAPE』が、翌年アウトドアラインとして追加されるとは……評判が良かったに違いない(写真撮影/藤井繁子)

アウトドア家具としては小ぶりにデザインされていて、日本の住宅にもフィットするサイズ感。

このデイベッド、バルコニーや中庭に置けば、日常が非日常になること間違いなし(写真撮影/藤井繁子)

このデイベッド、バルコニーや中庭に置けば、日常が非日常になること間違いなし(写真撮影/藤井繁子)

一方、同じく歴史あるラグジュアリーブランドMolteni&C社で見られたのは、初めてアジア人としてデザイナーに起用されたNeri&Hu(中国)のベッドルーム。

『TWELVE A.M.』ベッドとサイドベンチ。Neri&Huは世界で活躍する男女のユニット。シンプルでプラクティカルな上品さに共感する(写真撮影/藤井繁子)

『TWELVE A.M.』ベッドとサイドベンチ。Neri&Huは世界で活躍する男女のユニット。シンプルでプラクティカルな上品さに共感する(写真撮影/藤井繁子)

話題を呼んだ新企画パビリオン〈S.Project〉、日本のMaruniも登場

〈S.Project〉と名付けられた新企画のパビリオン。従来のカテゴリーにとらわれず、家具・水まわり・照明などブランド横断で空間展示を行うなど多目的な場が見本市会場に用意され87社が出展した。

ここで4000平米もの巨大ブースで注目を集めていたのが、家具のB&B Italia社、照明のFlos社 ・Louis Poulsen社の合同展示(Design Holdingグループ)。B&B Italia社が久しぶりに見本市会場へ出展することもあって、来場者が押し寄せていた。
面白かったのは、ブースの壁にイラストで描かれた著名デザイナーたちと3社の代表作品。センサーを感知すると、デザイナーたちが動いてウィットのあるリアクションを見せてくれる。

黄色の丸ゾーンに手を置くと、センサーで動き出すデザイナー。インタラクティブなプレゼンテーションが今っぽい(写真撮影/藤井繁子)

黄色の丸ゾーンに手を置くと、センサーで動き出すデザイナー。インタラクティブなプレゼンテーションが今っぽい(写真撮影/藤井繁子)

P.ウルキオラ女史(B&B Italia社)は、あまり似てないが……nendo佐藤くん(Flos社)はよく似てる!(写真撮影/藤井繁子)

P.ウルキオラ女史(B&B Italia社)は、あまり似てないが……nendo佐藤くん(Flos社)はよく似てる!(写真撮影/藤井繁子)

外で遊んでから中の展示へ。B&B Italia社の家具を分解し構造を見せることで、クオリティの高さを解説するゾーンが興味深かった。

V.V.デュイセンによる新作チェア『Pablo』も一枚の革で構成されているのが分かる(写真撮影/藤井繁子)

V.V.デュイセンによる新作チェア『Pablo』も一枚の革で構成されているのが分かる(写真撮影/藤井繁子)

A.チッテリオがデザインしたダイニングも、M.アナスタシアデスがデザインした照明(Flos社)と合わせることで、また違った空間が生まれる。

テーブル『Astrum』とチェア『Fulgens』はチッテリオ氏、照明『Arrangements』はアナスタシアデス氏の共演(写真撮影/藤井繁子)

テーブル『Astrum』とチェア『Fulgens』はチッテリオ氏、照明『Arrangements』はアナスタシアデス氏の共演(写真撮影/藤井繁子)

M.アナスタシアデスの今年の新作照明(Flos社)も素晴らしかった。

『Coordinates』=座標、と言う名のとおり縦横3次元の軸が交差するデザイン。ニューヨークのホテルFour Seasonsのレストラン用にデザインしたものを商品化(写真撮影/藤井繁子)

『Coordinates』=座標、と言う名のとおり縦横3次元の軸が交差するデザイン。ニューヨークのホテルFour Seasonsのレストラン用にデザインしたものを商品化(写真撮影/藤井繁子)

次も人気グループの出展、キッチンやバスルームなど水まわりの老舗ブランドBoffi社を中心に、家具の人気ブランドDePadova社などグループ4社で〈S.Project〉に出展。
メインデザイナーのP.Lissoniが、大きな池の上に建つようなブースをデザインした。

Boffi社の新作『Round Fisher』かなり大きい丸のバスタブ(高さ45×直径190cm)コーリアン人工大理石コーリアン®製。シャワーはM.ワンダースのデザイン(写真撮影/藤井繁子)

Boffi社の新作『Round Fisher』かなり大きい丸のバスタブ(高さ45×直径190cm)コーリアン人工大理石コーリアン®製。シャワーはM.ワンダースのデザイン(写真撮影/藤井繁子)

DePadova社でも、リッソーニ氏デザインの丸いテーブル。今年は丸く収めたい?

新作テーブル『FRENCH CONCESSION』(高さ73×直径250cm)リッソーニ氏は「花が咲くように」と表現。照明は人気の女性建築家E. オッシノによる『ELEMENTI』(写真撮影/藤井繁子)

新作テーブル『FRENCH CONCESSION』(高さ73×直径250cm)リッソーニ氏は「花が咲くように」と表現。照明は人気の女性建築家E. オッシノによる『ELEMENTI』(写真撮影/藤井繁子)

そんな世界的なトップブランドが居並ぶ〈S.Project〉に、日本のMaruni(マルニ木工)も出展。

昨年までのパビリオンから〈S.Project〉へ移動し、スペースも約2倍に拡大したMaruniの挑戦。深澤直人氏(右)デザインの『Roundish』アームチェアにクッションシートが登場(写真撮影/藤井繁子)

昨年までのパビリオンから〈S.Project〉へ移動し、スペースも約2倍に拡大したMaruniの挑戦。深澤直人氏(右)デザインの『Roundish』アームチェアにクッションシートが登場(写真撮影/藤井繁子)

AI(人工知能)と、人・暮らしの関わり方を探るプロジェクトも

市内の展示(フオリ・サローネ)で筆者が興味をもったのは、Google社の体験型インスタレーション。
デザインが感情や健康に、どう影響するのかを探求するプロジェクトだ。Google Design Studioが建築事務所Reddymade Architecture、デンマークの家具ブランドMuuto社、そして米国のJohns Hopkins Universityと組んだ企画。

心拍数、皮膚温、運動、皮膚伝導性などのデータを測定するセンサーを備えたリストバンドを巻いて、10人1グループで入場。3つのインテリアデザインが異なる部屋に5分ずつ滞在する。

3つの部屋で参加者が感じた快適性や感情を、biological(生物学)データを分析して“最も心地よい”と感じた部屋を教えてくれる。(意外と自分が感じた部屋の印象と、データに現れた生理反応が違うことも多いそう。頭と体の反応が違うってこと?)

左/3部屋から退出後、リストバンドを計測モニターに置くと、3部屋での反応データが現れる。筆者は真ん中の部屋が心地よく反応したと出た。インテリアの色や素材、デザインだけでなく、香りや音楽も影響している。右/一人一人の結果データを即、カードにプリントアウトし解説してくれる。その手際良さにも、IT企業らしさを実感し感動(笑)(写真撮影/藤井繁子)

左/3部屋から退出後、リストバンドを計測モニターに置くと、3部屋での反応データが現れる。筆者は真ん中の部屋が心地よく反応したと出た。インテリアの色や素材、デザインだけでなく、香りや音楽も影響している。右/一人一人の結果データを即、カードにプリントアウトし解説してくれる。その手際良さにも、IT企業らしさを実感し感動(笑)(写真撮影/藤井繁子)

Googleとしては、デザインの影響を可視化することで、さらに感性デザインを深く追求する事に役立てたいということだ。

Sonyは昨年同様、Tortona地区で企画展示。
〈Affinity in Autonomy -共生するロボティクスー〉というテーマで、人とロボティクスの関係性についての新しいビジョンを提案した。5つのセクションで構成された展示を進むと、センサーによって人を感知したロボットが反応する様々な形を体験できる。

生命感をそなえたロボティクス『aibo』。名前を呼ぶと反応し、撫でると喜ぶ。ここでは感情が下のモニターに色彩で現れる、赤くなっているのは怒っているらしい(写真撮影/藤井繁子)

生命感をそなえたロボティクス『aibo』。名前を呼ぶと反応し、撫でると喜ぶ。ここでは感情が下のモニターに色彩で現れる、赤くなっているのは怒っているらしい(写真撮影/藤井繁子)

最後のセクションでは、ロボティクスが来場者に今回の展示に関するフィードバックを尋ねる。

記入台が自動で人に寄ってきて、身長に合わせて台の高さが変わる(写真撮影/藤井繁子)

記入台が自動で人に寄ってきて、身長に合わせて台の高さが変わる(写真撮影/藤井繁子)

人とロボティクスの共演を、エンターテインメントで魅せたのがLEXUSのインスタレーション。
日本のテクノロジーアーティスト集団ライゾマティクス(Rhizomatiks)を起用(リオ五輪の閉会式や紅白歌合戦のPerfumeも手掛けた)。
暗闇で一人のダンサーと一緒に踊るのは……4輪の付いたパーテーションのようなロボットたち!?

〈LEADING WITH LIGHT〉@Tortona地区Superstudio Piu会場。ダンサーの後ろを付いて回ったりするパーテーション・ロボット。そこにも光が投影され、空間にリズムが出る( 写真撮影/藤井繁子)

〈LEADING WITH LIGHT〉@Tortona地区Superstudio Piu会場。ダンサーの後ろを付いて回ったりするパーテーション・ロボット。そこにも光が投影され、空間にリズムが出る( 写真撮影/藤井繁子)

ダンス・ショーが終わると観客に光るボールが渡されて、照明にかざしてみる。照明が光るボールを追随するセンサーシステムを体験。

センサー技術によって人の動きにリアクションする、インタラクティブな体験型イベント展示が増えてきた。インスタレーションも“見て感動する”から、”やって見て感動する“時代になった。

日本からはインテリア以外の企業の参加も増えている。ダイキン工業がnendoと個展を行ったり、AGCやグランドセイコーは継続して出展、YAMAHAやLIXIL(INAX)が復活出展、住友林業は初出展など世界に向けたブランディングをミラノで行った。

年々、出展者・来場者共に増加し、世界のメディアが注目するMilan Design Week。
来年のミラノサローネは、2020年4月21日(火)~26日(日)と今年より遅い開催スケジュールと発表された。キッチン・バス見本市が併催の年。さらなる技術革新や新たなタレントと会えるのを楽しみに。Chao!

■「世界初のAI(人工知能)によって創られた椅子」Kartell社発表会の様子

【Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)】
 来年の会期:2020年4月21日(火)~26日(日)
>ミラノサローネ・オフィシャルサイト
>日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

ミラノサローネ2019の見どころは? “ダ・ヴィンチ没後500年”とモダンデザイン

インテリア・デザイン世界最大の見本市〈ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)〉が、今年4月9日~14日に開催される。今年は〈レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年〉の記念行事と共に、2019年はレオナルドのDNAを感じるデザインの祭典になりそう。
ミラノサローネ主催者による記者発表会が、現地ミラノで開かれ取材に飛んだ。今年の見どころや最新ニュースをご紹介!

レオナルドから受け継ぐ『INGENUITY(創意工夫)』がテーマに

“世紀の天才”“万能の天才”と称されるレオナルド・ダ・ヴィンチ (Leonardo da Vinci)は、1452年に生まれ、 1519年67歳で死去した。2019年は没後500年となり、絵画『最後の晩餐』を残すなど彼が20年間を過ごしたミラノでは、今年、記念イベントが各所で催される。
ミラノサローネでも、その一環となる特別展など新しい取り組みが企画されている様子。現地ジャーナリストに加えて、世界から60名弱の海外ジャーナリストが招待され、記者発表会がトリエンナーレ美術館で開かれた。

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長などの挨拶の後、今年のミラノサローネが“レオナルドへのオマージュ(敬意)”として企画する2つの特別展について、その内容が発表された。

ミラノ公に仕えたレオナルドは、芸術家・建築家・科学者・エンジニアとして、多くのプロジェクトにかかわり、“万能の天才”ぶりを発揮した。
特別展のひとつは、市内San Marco通りにある、レオナルドが木製の水門の設計と建築工事を監督したと言われるConca dell’Incoronata(運河の閘門※)が舞台に選ばれた。数々のオリンピック式典をプロデュースした著名なイタリア人演出家Marco Balichが魅せる、壮大な映像と音楽による〈AQUA. Leonardo’s Vision〉だ。
※高低の差の大きい水面で、船舶を昇降させるための装置

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

ミラノサローネLutiプレジデントは、見本市のマニフェストに新しいテーマ『INGENUITY(創意工夫)』を加え、レオナルドの功績を受け継ぐ意思を込めた。「『INGENUITY』とは、未来を見据えた新たな目で常に全てを再発明し、再発見することができると考え、その場で満足せず先を見越すことです」

これを受け、二つ目の特別展〈DE-SIGNO〉がミラノサローネ見本市会場で催される。
イタリア人芸術監督Davide Rampelloによるインスタレーション、ブースは建築家Alessandro Colomboがデザインしている。

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

天才レオナルドが遺産として残した、デザイン力と実行力を称賛する2つの特別展。彼によって開花したイタリア・デザインの文化を、過去と現代で比較する今年のイベントは必見だ。

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

進化するサローネ、新企画パビリオン〈S.Project〉が登場

ミラノサローネは、今年で58回目。年々、展示構成を見直しながら情報発信を続けてきた。
今年はホール〔22・24〕1万4000平米に、〈S.Project〉と名付けられた特設パビリオンが登場する。ここを“マルチセクター”と位置づけ、家具・水まわり・照明に加えて音楽・ウェルネスなど、既存展示セクターに捉われない多目的な展示で、空間提案のクオリティを高める試みが行われる。
出展する66社のなかには、「B&B Italia」「Boffi」など世界的な人気ブランドと共に日本の「Maruni(マルニ木工)」の名前も並ぶ。

その一つ、1872年から北欧のライフスタイルを牽引してきた「Fritz Hansen」(デンマーク)は、照明メーカーをグループに加えブランドを統一、家具・小物から照明までトータルな空間を〈S.Project〉で展示する。

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

また「Fritz Hansen」からのニュースでは、日本の〈nendo × Tenoha restaurant〉というコラボレーション展示で、nendoデザイン『NO1』チェアが見られると紹介された。

〈S.Project〉には、バスルームの世界的人気ブランド「antoniolupi」(イタリア)も登場する。
今年は隔年で行われるバスルーム見本市の年ではないが、あえて見本市会場に出展してきた意気込みが楽しみだ。

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

照明見本市〈Euroluce〉には421社出展。Artemide社など周年記念も目白押し

隔年開催の国際照明見本市〈Euroluce(エウロルーチェ)〉では、421社もの照明ブランドが出展し、新作を披露する。現代における照明デザインのキーワードを“実験と技術革新・持続可能性・人間中心主義(human-centricity)・美的研究”と掲げた。

LEDから有機EL、AIを含めた技術革新が進む照明界において、“human-centric(人間中心)”、つまり環境や健康、人のためになるライティングをデザインの方向性とした点に共感した。

イタリア照明ブランドの大手「Artemide」は今年創業60周年を迎える。

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

今年もBIGなど注目度が高い建築家やデザインユニットが14組、「Artemide」の照明デザインを手掛ける。

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

レオナルド没後500周年の今年、ほかにも周年記念を迎えるブランドが続く。
モダン家具ブランド「Living Divani」は50周年記念で、見本市会場とPalazzo Crivelliの庭園でも記念展示が行われる。加えてメインデザイナーのPiero Lissoniとの協業30周年を祝し、限定モデル商品が世界で発売されるそうだ。

また、イタリアモダン家具の革新的存在「Kartell」も、今年で創業70周年。
デザイン性の高い家具をプラスティック製で身近な物とし、暮らしを豊かに彩ってきた「Kartell」の歴史。それが、〈The art side of Kartell〉と題したPalazzo Reale(王宮)での展覧会で見ることができそうだ。

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネを核に、ミラノ市はデザインが街中にあふれる“Milano Design Week(2019年4月8日-14日”が始まる。ミラノ市は大阪市と姉妹都市でもあり、万国博覧会を控えた大阪はじめ日本企業・デザイナーの参加ニュースも続々と入っている。
2019年は、レオナルドの功績とモダンデザインの今に出会えるスペシャルな年。デザイン・コンシャスな人にとって見逃せない1週間となりそうだ!

Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)
会期:2019年4月9日(火)~14日(日)
会場:Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場)
総出展数 約2300社(サローネサテリテ参加デザイナー約550人含む)
総出展面積 20万5000平米
ミラノサローネ・オフィシャルサイト
日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

ミラノ サローネ2019の見どころは? “ダ・ヴィンチ没後500年”とモダンデザイン

インテリア・デザイン世界最大の見本市〈ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)〉が、今年4月9日~14日に開催される。今年は〈レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年〉の記念行事と共に、2019年はレオナルドのDNAを感じるデザインの祭典になりそう。
ミラノサローネ主催者による記者発表会が、現地ミラノで開かれ取材に飛んだ。今年の見どころや最新ニュースをご紹介!

レオナルドから受け継ぐ『INGENUITY(創意工夫)』がテーマに

“世紀の天才”“万能の天才”と称されるレオナルド・ダ・ヴィンチ (Leonardo da Vinci)は、1452年に生まれ、 1519年67歳で死去した。2019年は没後500年となり、絵画『最後の晩餐』を残すなど彼が20年間を過ごしたミラノでは、今年、記念イベントが各所で催される。
ミラノサローネでも、その一環となる特別展など新しい取り組みが企画されている様子。現地ジャーナリストに加えて、世界から60名弱の海外ジャーナリストが招待され、記者発表会がトリエンナーレ美術館で開かれた。

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長などの挨拶の後、今年のミラノサローネが“レオナルドへのオマージュ(敬意)”として企画する2つの特別展について、その内容が発表された。

ミラノ公に仕えたレオナルドは、芸術家・建築家・科学者・エンジニアとして、多くのプロジェクトにかかわり、“万能の天才”ぶりを発揮した。
特別展のひとつは、市内San Marco通りにある、レオナルドが木製の水門の設計と建築工事を監督したと言われるConca dell’Incoronata(運河の閘門※)が舞台に選ばれた。数々のオリンピック式典をプロデュースした著名なイタリア人演出家Marco Balichが魅せる、壮大な映像と音楽による〈AQUA. Leonardo’s Vision〉だ。
※高低の差の大きい水面で、船舶を昇降させるための装置

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

ミラノサローネLutiプレジデントは、見本市のマニフェストに新しいテーマ『INGENUITY(創意工夫)』を加え、レオナルドの功績を受け継ぐ意思を込めた。「『INGENUITY』とは、未来を見据えた新たな目で常に全てを再発明し、再発見することができると考え、その場で満足せず先を見越すことです」

これを受け、二つ目の特別展〈DE-SIGNO〉がミラノサローネ見本市会場で催される。
イタリア人芸術監督Davide Rampelloによるインスタレーション、ブースは建築家Alessandro Colomboがデザインしている。

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

天才レオナルドが遺産として残した、デザイン力と実行力を称賛する2つの特別展。彼によって開花したイタリア・デザインの文化を、過去と現代で比較する今年のイベントは必見だ。

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

進化するサローネ、新企画パビリオン〈S.Project〉が登場

ミラノサローネは、今年で58回目。年々、展示構成を見直しながら情報発信を続けてきた。
今年はホール〔22・24〕1万4000平米に、〈S.Project〉と名付けられた特設パビリオンが登場する。ここを“マルチセクター”と位置づけ、家具・水まわり・照明に加えて音楽・ウェルネスなど、既存展示セクターに捉われない多目的な展示で、空間提案のクオリティを高める試みが行われる。
出展する66社のなかには、「B&B Italia」「Boffi」など世界的な人気ブランドと共に日本の「Maruni(マルニ木工)」の名前も並ぶ。

その一つ、1872年から北欧のライフスタイルを牽引してきた「Fritz Hansen」(デンマーク)は、照明メーカーをグループに加えブランドを統一、家具・小物から照明までトータルな空間を〈S.Project〉で展示する。

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

新作家具では、デザイナーJaime Hayonが手がけるラウンジチェアが登場。

「Fritz Hansen」では10年以上デザインを手がけている人気デザイナーJaime Hayonの作品も。オーク材構造の後ろ姿が素敵(写真提供:Fritz Hansen)

「Fritz Hansen」では10年以上デザインを手がけている人気デザイナーJaime Hayonの作品も。オーク材構造の後ろ姿が素敵(写真提供:Fritz Hansen)

また「Fritz Hansen」からのニュースでは、日本の〈nendo × Tenoha restaurant〉というコラボレーション展示で、nendoデザイン『NO1』チェアが見られると紹介された。

〈S.Project〉には、バスルームの世界的人気ブランド「antoniolupi」(イタリア)も登場する。
今年は隔年で行われるバスルーム見本市の年ではないが、あえて見本市会場に出展してきた意気込みが楽しみだ。

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

照明見本市〈Euroluce〉には421社出展。Artemide社など周年記念も目白押し

隔年開催の国際照明見本市〈Euroluce(エウロルーチェ)〉では、421社もの照明ブランドが出展し、新作を披露する。現代における照明デザインのキーワードを“実験と技術革新・持続可能性・人間中心主義(human-centricity)・美的研究”と掲げた。

LEDから有機EL、AIを含めた技術革新が進む照明界において、“human-centric(人間中心)”、つまり環境や健康、人のためになるライティングをデザインの方向性とした点に共感した。

イタリア照明ブランドの大手「Artemide」は今年創業60周年を迎える。

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

今年もBIGなど注目度が高い建築家やデザインユニットが14組、「Artemide」の照明デザインを手掛ける。

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

レオナルド没後500周年の今年、ほかにも周年記念を迎えるブランドが続く。
モダン家具ブランド「Living Divani」は50周年記念で、見本市会場とPalazzo Crivelliの庭園でも記念展示が行われる。加えてメインデザイナーのPiero Lissoniとの協業30周年を祝し、限定モデル商品が世界で発売されるそうだ。

また、イタリアモダン家具の革新的存在「Kartell」も、今年で創業70周年。
デザイン性の高い家具をプラスティック製で身近な物とし、暮らしを豊かに彩ってきた「Kartell」の歴史。それが、〈The art side of Kartell〉と題したPalazzo Reale(王宮)での展覧会で見ることができそうだ。

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネを核に、ミラノ市はデザインが街中にあふれる“Milano Design Week(2019年4月8日-14日”が始まる。ミラノ市は大阪市と姉妹都市でもあり、万国博覧会を控えた大阪はじめ日本企業・デザイナーの参加ニュースも続々と入っている。
2019年は、レオナルドの功績とモダンデザインの今に出会えるスペシャルな年。デザイン・コンシャスな人にとって見逃せない1週間となりそうだ!

Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)
会期:2019年4月9日(火)~14日(日)
会場:Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場)
総出展数 約2300社(サローネサテリテ参加デザイナー約550人含む)
総出展面積 20万5000平米
ミラノサローネ・オフィシャルサイト
日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

ミラノサローネ2018リポート!キッチンもインスタレーションも“JAPANESE”が注目の的

今年で57回目を迎える【ミラノサローネ国際家具見本市/Salone del Mobile.Milano (以下、ミラノサローネ) 】は1841社の企業が出展し、4月17日―22日に開催。6日間で188カ国以上から43万4509人と、過去最高の来場者数を記録した(前年比 26%増。隔年開催のキッチン・バス見本市2016年比17 %増)。同時開催される街中イベント(【Fuorisalone(フォーリサローネ)】1372イベント)は、基本無料の公開なので子どもから大人までさらに多くの参加者でにぎわった。
例年以上に暑い日が続いたミラノの現地取材。人山をかき分けながら撮った筆者の写真を交え、隔年開催のキッチン見本市などをレポートします!
前夜祭から圧倒!街全体がインテリア・デザインに染まる

史上最高の来場者数となったミラノサローネ。同イベントのプレジデント、クラウディオ・ルーティ氏は
「産業と行政が協力し合い、文化と企業がイタリアを牽引し、唯一無二のイベントを生み出している」と、イタリア家具業界と、ミラノ市など自治体行政との友好な関係性を成功の秘訣に挙げた。

ミラノ市長ジュゼッペ・サラ氏(左から4番目)とミラノサローネ社長クラウディオ・ルーティ氏(同5番目)。市内中心地の王宮前に建てられた特別企画展示『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』のオープニング・テープカットの様子(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長ジュゼッペ・サラ氏(左から4番目)とミラノサローネ社長クラウディオ・ルーティ氏(同5番目)。市内中心地の王宮前に建てられた特別企画展示『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』のオープニング・テープカットの様子(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』展は、建築家のカルロ・ラッティによる500平米のガーデンパビリオン。春・夏・秋・冬4つのゾーンに分けて、その気候を再現。夏の日差しや冬の寒さを、太陽光発電エネルギーによって生成し、ゾーン間で熱交換を制御した。「クリーンエネルギーによって、どのように自然を都市に戻すことができるか」に挑戦する企画展示だ。

春のゾーンには桜が咲き、冬のゾーンではヒマラヤ杉に雪が積もる。秋は「霧のミラノ」の情景だったが……うまく写真を撮れなかった!23種類の樹木や植物をイタリア家具と共に展示(写真撮影/藤井繁子)

春のゾーンには桜が咲き、冬のゾーンではヒマラヤ杉に雪が積もる。秋は「霧のミラノ」の情景だったが……うまく写真を撮れなかった!23種類の樹木や植物をイタリア家具と共に展示(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』パビリオンがあるのは、大聖堂ドゥオモと右の王宮の間の広場(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』パビリオンがあるのは、大聖堂ドゥオモと右の王宮の間の広場(写真撮影/藤井繁子)

その後、ミラノ王宮で行われたミラノサローネ前夜祭ガラ・ディナーに筆者も出席。

素晴らしいクラッシックな大広間の天井に繰り広げられたのは、四季をテーマにしたプロジェクションマッピング。「Spettacolo(スペクタクル)!」(写真撮影/藤井繁子)

素晴らしいクラッシックな大広間の天井に繰り広げられたのは、四季をテーマにしたプロジェクションマッピング。「Spettacolo(スペクタクル)!」(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネのプレス、国際担当のヴェントゥーラ女史(左)と日本担当の山本幸さん(右)と共に。右写真の椅子はKartell(カルテル)社の『マスターズ』(フィリップ・スタルク)(写真撮影/筆者友人)

ミラノサローネのプレス、国際担当のヴェントゥーラ女史(左)と日本担当の山本幸さん(右)と共に。右写真の椅子はKartell(カルテル)社の『マスターズ』(フィリップ・スタルク)(写真撮影/筆者友人)

こんな風に前夜祭パーティーから、インテリアの祭典らしく完璧な演出!翌日からの見本市会場オープンへ、期待が高まっていく。

キッチン見本市【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】ガラス・ショーケースが印象的

ミラノサローネではメインの家具に加え、キッチン・バスと照明・オフィスの見本市が隔年で開催される。今年はキッチン・バス見本市の年、来場者数は照明の年より多くなるのが常だ。

【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】には世界から111社が出展。【FTK】と呼ばれる設備機器メーカー47社の見本市も併催(写真撮影/藤井繁子)

【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】には世界から111社が出展。【FTK】と呼ばれる設備機器メーカー47社の見本市も併催(写真撮影/藤井繁子)

キッチンパビリオンは朝からどこも大にぎわい。直ぐに行列ができて入場制限するブースも。
Scavolini(スカヴォリーニ)社は、ファッションブランド『Diesel(ディーゼル)』とコラボしたキッチンや日本の『nendo(ネンド)』がデザインしたキッチンなど話題が多いキッチン&バス・メーカー。
今年はイタリア人ミシュランスターシェフのCarlo Cracco(カルロ・クラッコ)がデザインしたキッチン『MIA』を発表。

プロフェッショナル志向のユーザーが好むステンレス仕上げ。シンプルデザインのなかにクラッコ・シェフが提案する気の利いた機能が、アイランド本体だけでなく、壁面のオープンシェルフや収納にも盛り込まれていた(写真撮影/藤井繁子)

プロフェッショナル志向のユーザーが好むステンレス仕上げ。シンプルデザインのなかにクラッコ・シェフが提案する気の利いた機能が、アイランド本体だけでなく、壁面のオープンシェルフや収納にも盛り込まれていた(写真撮影/藤井繁子)

例えば、こちらは収納を引き出すと、ちょっとしたものがカットできるまな板がビルトイン。横から包丁収納が引き出せ、カットした野菜ゴミなどがサッと捨てられる穴があいている(下がゴミ箱収納)。

確かに、生ゴミを捨てる穴は便利!でも、引き出しでなくカウンターに付いているほうが有難いかな……(写真撮影/藤井繁子)

確かに、生ゴミを捨てる穴は便利!でも、引き出しでなくカウンターに付いているほうが有難いかな……(写真撮影/藤井繁子)

今年、キッチンを見て回ったなかで印象的だったのが、ガラス・キャビネット。
キッチンにこだわる人は、食器だけでなくキッチン家電などもデザインの良いものを選ぶので
見せる収納として扉をガラスにするキッチンキャビネットが増えていた。
単にオープンシェルフ化するより、収納しながらもライティングでショーケースのように美しく飾る。

Scavolini社クラッコ・シェフの提案は、一部をガラス・ショーケースにして魅せる。収納の中には電源も(写真撮影/藤井繁子)

Scavolini社クラッコ・シェフの提案は、一部をガラス・ショーケースにして魅せる。収納の中には電源も(写真撮影/藤井繁子)

Dada(ダーダ)社は家具ブランドMolteni&C(モルテーニ)社のグループ、洗練されたデザインのガラスキャビネットはモルテーニ社の得意な分野。

Molteni&C社との家具パビリオンで展示されたDada社のキッチン。両者のアートディレクターであるVincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥィセン)がブース全体を家として構成し美しくまとめ上げた(写真撮影/藤井繁子)

Molteni&C社との家具パビリオンで展示されたDada社のキッチン。両者のアートディレクターであるVincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥィセン)がブース全体を家として構成し美しくまとめ上げた(写真撮影/藤井繁子)

【EuroCucina】会場でもDada社のキッチンは複数展示されていたが、やはり魅力的だったのはガラス使い。
レンジフードも、ゴールドメタルを挟んだガラスで囲んだデザイン。遠目に見るとメタルなのに、レースのような質感がきれいだった。

Dada社デザインの新作ガラス・キャビネット。ファッションブランド『アルマーニ』のキッチンもDada社製だが、今回新作は無かった(写真撮影/藤井繁子)

Dada社デザインの新作ガラス・キャビネット。ファッションブランド『アルマーニ』のキッチンもDada社製だが、今回新作は無かった(写真撮影/藤井繁子)

設備メーカーからも、ショーケース的に見せる収納を発見。
「ワインセラーの中に、コレクションで一番見せたいボトルを飾るラックをつくりました。スポットライトのような照明で演出します」(GAGGENAU(ガゲナウ)社)

ドイツGAGGENAU社の新製品、ビルトイン冷蔵庫やオーブンと並びで構成されるシステム。吸い込まれるようにフォーカスされる2本の高級シャンパン(写真撮影/藤井繁子)

ドイツGAGGENAU社の新製品、ビルトイン冷蔵庫やオーブンと並びで構成されるシステム。吸い込まれるようにフォーカスされる2本の高級シャンパン(写真撮影/藤井繁子)

世界の中で注目を浴びたのは、日本企業のキッチン展示!

今年サローネ開催前から話題に上がっていたのは、イタリアのキッチン&バス・デザインをリードするBoffi(ボッフィ)社の27年ぶりの出展だった。傘下の家具ブランド、De Padova(デ・パドバ)社・ MA/U Studio社と合同で家具パビリオンに登場。

Boffi社の新作『COMBINE(コンビン)』(Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)デザイン)(写真撮影/藤井繁子)

Boffi社の新作『COMBINE(コンビン)』(Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)デザイン)(写真撮影/藤井繁子)

『COMBINE』その名のとおり、“組み合わせる”ことが自由にできるシステム。
単体ではコンパクトキッチンに、2つ並べるとI型キッチン、こんな風にZ型に組み合わせて可動式のテーブルも合わせるなど、スペースに合わせてデザインできる。
カウンタートップの高さがそれぞれ違うので、組み合わせるとリズム感のあるデザインに。

キッチン扉材は石・木など形状・素材バリエーションを豊富に用意、テーブルなど組み合わせアイテムもそろう(写真では正方形テーブルを、少し動かして離してみてくれた)(写真撮影/藤井繁子)

キッチン扉材は石・木など形状・素材バリエーションを豊富に用意、テーブルなど組み合わせアイテムもそろう(写真では正方形テーブルを、少し動かして離してみてくれた)(写真撮影/藤井繁子)

キッチンで最後に紹介したいのが、【ミラノサローネ・アワード/Salone del Mobile.Milano Award】を受賞した日本のサンワカンパニー社。
この賞は展示商品だけでなく、その展示空間・コンセプトなどを総合的に審査し、最も優れた出展社を表彰するもの。今年は見本市会場に出展した1841社のなかから、サンワカンパニーとCC-tapis(CC-タピス)、Magis(マジス)の3社が選出された。

角地で目立つロケーション、ひときわシンプルで“間”が取られた空間は“ZEN(禅)”を彷彿とさせ、いかにも日本的な美しさの展示だった(広さ320平米)。審査員からは「混雑する会場の中で、オアシスのような場を提供」「空間が製品を引き立たせ、ストーリー性をもっている」と評価された(写真撮影/藤井繁子)

角地で目立つロケーション、ひときわシンプルで“間”が取られた空間は“ZEN(禅)”を彷彿とさせ、いかにも日本的な美しさの展示だった(広さ320平米)。審査員からは「混雑する会場の中で、オアシスのような場を提供」「空間が製品を引き立たせ、ストーリー性をもっている」と評価された(写真撮影/藤井繁子)

サンワカンパニーは前回に続き2度目の出展。前回評価が高かったコンパクトキッチンに絞って、サンワカンパニーのデザインコンセプトである『ミニマリズム』を8種の新作で体現した。

『PATTINA COMPACT』キッチンを演出するのは、イタリア・Davide Groppi(ダビデ・グロッピ)の照明(写真撮影/藤井繁子)

『PATTINA COMPACT』キッチンを演出するのは、イタリア・Davide Groppi(ダビデ・グロッピ)の照明(写真撮影/藤井繁子)

今年、イタリアデザインの巨匠であるAlessandro Mendini(アレッサンドロ・メンディーニ)事務所によるキッチン『AM01』も発表したサンワカンパニー。そのメンディーニ氏も審査にかかわったコンテスト【サンワカンパニーデザインアワード2016】最優秀賞のデザインも製品化して展示した。

『AC01』受賞者のデザイン事務所YutoRieの伊藤優理恵さん。「テーブルにもなるキッチンカウンターは高さが調節でき、車椅子でも利用できるデザインです」(写真撮影/藤井繁子)

『AC01』受賞者のデザイン事務所YutoRieの伊藤優理恵さん。「テーブルにもなるキッチンカウンターは高さが調節でき、車椅子でも利用できるデザインです」(写真撮影/藤井繁子)

このように日本的なシンプルで、気配りのあるデザインがミラノサローネ・アワードの受賞につながったようだ。

昨年からのパステル・ナチュラル系に、プリントがアクセントなカラートレンド

広大な見本市会場の中、モダン・デザインの人気パビリオンを回って今年目についたのは、植物系などのプリントデザイン。

クッションに一つ、アクセント使い。これは刺繍も入って素敵@Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)(写真撮影/藤井繁子)

クッションに一つ、アクセント使い。これは刺繍も入って素敵@Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)(写真撮影/藤井繁子)

ファッションブランドの家具では、プリント柄がより大胆に!
今年、Kartell(カルテル)では、J.J.マーティンが手がけるミラネーゼに人気のファッション『La Double J(ラ・ダブル・ジェイ)』とのスペシャル・コラボレーションが誕生した。『La Double J』のヴィンテージ・プリントで彩られたKartellのプロダクトが新鮮。
Moroso(モローゾ)から出ている『Diesel』(ディーゼル)の家具は、アパレルのイメージ同様アバンギャルドなデザイン。ここでも珍しく、緑のプリント柄がソファに使われていた。

(左) @『La Double J』by Kartell  (右)@『Diesel』by Moroso(写真撮影/藤井繁子)

(左) @『La Double J』by Kartell (右)@『Diesel』by Moroso(写真撮影/藤井繁子)

キッチン見本市開催年なので、家具パビリオンでもダイニングテーブルに注目して回っていたら……
無垢木を扱わせたら世界一のRiva1920(リーヴァ)で、こんな面白いテーブルに遭遇!

テーブルの脚が、バレリーナの足!? Fabio Novembre(ファビオ・ノベンブレ)デザイン@Riva1920(写真撮影/藤井繁子)

テーブルの脚が、バレリーナの足!? Fabio Novembre(ファビオ・ノベンブレ)デザイン@Riva1920(写真撮影/藤井繁子)

家具ブランドで今年は、何と言ってもMinotti(ミノッティ)の70周年に合わせた新デザイナーの起用が話題をさらった。
新しく迎えたデザイナー3人のうちの1人がなんと、日本のデザインオフィス、佐藤オオキのnendo(ネンド)。意外な抜擢に、業界関係者もプロダクトを見るのを楽しみにしていた。

nendoによる『TAPE』(ソファ&チェアのシリーズ、写真右のようにテープで止めたようなデザイン。皮テープのバージョンもある)『RING』『WAVES』(テーブルのシリーズ)(写真撮影/藤井繁子)

nendoによる『TAPE』(ソファ&チェアのシリーズ、写真右のようにテープで止めたようなデザイン。皮テープのバージョンもある)『RING』『WAVES』(テーブルのシリーズ)(写真撮影/藤井繁子)

期待を裏切らないデザインで新境地を開拓したnendo。市内トルトナ地区では、日本企業7社とコラボした個展「forms of movement」を行うなど今年も精力的なnendoのミラノサローネだ。

このほか、街中イベント【Fuorisalone】1372イベントのなかから表彰される【Milano Design Award 2018】(5部門賞)にも、「Best Playfulness Award」にSONYの “Hidden Senses” 、「Best Technology Award」にPanasonicの “Transitions” が選出されるなど、Milan Design Week全体でのJapanese Designの存在感が目立った年だった。

歩き回って疲労困憊(こんぱい)の筆者。ジェラートで一服……太陽の日差しと街中人の熱気で、ジェラートも溶けそう!

歩き回って疲労困憊(こんぱい)の筆者。ジェラートで一服……太陽の日差しと街中人の熱気で、ジェラートも溶けそう!

次回ミラノサローネは、隔年開催の照明見本市EuroLuce(ユーロルーチェ)とWorkplace 3.0(オフィス家具)と共に2019 年4月9日(火)~14日(日) 開催予定。インテリア好きの皆様、刺激と感動を求めてミラノサローネへ来年出かけてみてはいかがでしょう!

●参考
・ミラノサローネ国際家具見本市日本公式サイト