台湾女子の一人暮らしin西荻窪。インテリアやライフスタイルにも個性あり!

エッセイスト柳沢小実が、気になる人のお部屋と暮らしをのぞきにいくシリーズ。第2回目は、台湾・高雄出身で東京在住の郭晴芳(ハル)さんのご自宅へお邪魔しました。

ハルさんは台湾の大学を卒業した後、約15年前に日本の大学院に留学してそのまま就職。現在は、カルチャー系ウェブメディアを運営する会社でプロデューサーをしています。コロナ禍前は日本国内や台湾中を飛び回る日々を送っていました。この数年でどのような変化があったのでしょうか。

Instagramで知り合ってはや数年。最もアクティブな友人

母国語である中国語に加えて日本語も堪能なハルさんは、アジアのクリエイティブシティガイドのディレクターをはじめ、コンテンツ制作やイベントの企画、プロモーション全般も担う、“ひとり広告代理店”のような人。

会社経由のみならず個人でも仕事を受けていて、2021年に高円寺の銭湯「小杉湯」で行われた台北の温泉博物館「北投温泉博物館」のプロモーションイベント、「歡迎光臨 小杉湯的台湾北投」も話題になりました。このイベントでは、台湾のアイテムが購入できるマーケットやトークイベント、ライブ、台湾映画の上映などが行われて大好評。こんこんと湧き出る好奇心と柔軟な発想力、センスの良さで、ますます仕事の幅を広げています。
私とハルさんの出会いは、6年以上前にInstagram経由で私が声をかけたこと。そこから仲良くなり、日本や台湾で頻繁に会うようになりました。もしかすると、家にこもりがちな私といちばん遊んでくれている人かも。遊ぶとはいっても、たいてい散歩して古道具屋や喫茶店に一緒に入るくらいで、あとはイベントに行ったり、ごはんを食べたり。そしてたまに、お互いの家でご飯や梅酒をつくったりしています。

台湾に住むハルさんの友人が二人宛の荷物を私のところに一緒に送ってくれたので、取材で会うついでにハルさん宅にお届け(写真撮影/相馬ミナ)

台湾に住むハルさんの友人が二人宛の荷物を私のところに一緒に送ってくれたので、取材で会うついでにハルさん宅にお届け(写真撮影/相馬ミナ)

形にとらわれない身軽な暮らしぶりは学ぶところが多く、いつか彼女の暮らしや考え方を紹介したいとずっと思っていました。

西荻窪の、繁華街と住宅地の間にある古いマンションに住む

ハルさんの自宅は、西荻窪駅(東京都杉並区)からほど近いところにある築50年ほどのマンション。商店街と住宅地の境目に立つ、愛らしい建物です。部屋の間取りは1Kで、広さはゆったりとした一人暮らしサイズの約39平米。もともとは3部屋が縦に連なるつくりでしたが、リフォームによって2部屋に変えられていて、DKと寝室+リビングとしてゆるやかにゾーン分けできる、住みやすそうな、いい間取りです。

縦に連なる二部屋は、もともとはめてあった間のドアを外して広々と(写真撮影/相馬ミナ)

縦に連なる二部屋は、もともとはめてあった間のドアを外して広々と(写真撮影/相馬ミナ)

ベッドははじめ窓辺に置いていたけれど、朝明るすぎたためにソファと置き替え(写真撮影/相馬ミナ)

ベッドははじめ窓辺に置いていたけれど、朝明るすぎたためにソファと置き替え(写真撮影/相馬ミナ)

ここは日本に来てから5軒目の部屋。最初は日本語学校の寮、その後は荻窪、阿佐ヶ谷、西荻窪、そしてまた今回の西荻窪。ずっと中央線沿線に住んでいます。

「古いものや、古いマンションが好き。新しい物件は間取りが似たり寄ったりだけど、この部屋は間取りがオープンで、フレキシブルに使えるのがいい。それが古い物件が好きな理由です。当初は角部屋を探していましたが、そうでなくても二面に窓があって明るいです。
押し入れはクローゼットにリフォームされていて使いやすいですし、キッチンとトイレのタイルや壁の色も、入居時に自分で好きなものを選ぶことができました。

駅から近いと周辺がにぎやかだけど、ここは商店街の端の住宅地に入るところだから静か。窓を開けても外から見えないので、ベランダを縁側のように使っています」

築年数が経っている物件は、建物はレトロで愛らしい一方で、室内は水まわりを中心にこざっぱりとリフォームされていることも。管理状態が良い物件を選べば、同じ予算で築浅物件より駅近や広い部屋に住めたりするケースもあり、メリットも大いにあります。

カメラマンの友人とDIYでつくったキッチンカウンター(写真撮影/相馬ミナ)

カメラマンの友人とDIYでつくったキッチンカウンター(写真撮影/相馬ミナ)

岡山出身の陶芸家・加藤直樹さんの急須(写真撮影/相馬ミナ)

岡山出身の陶芸家・加藤直樹さんの急須(写真撮影/相馬ミナ)

好きで選んだものを使うのが、とびきり嬉しい(写真撮影/相馬ミナ)

好きで選んだものを使うのが、とびきり嬉しい(写真撮影/相馬ミナ)

ハルさんは、コロナ禍のかなり早い時期に完全テレワークになりました。本社オフィスも早々になくなったため、全く出社せず自宅で働く形態に。生活環境の向上のために、広い部屋に引越したり、東京を離れた同僚もいて、自身も同じ西荻窪内で引越しをしました。

新しい部屋を一からつくるのはやはり心躍るもので、友人に手伝ってもらってキッチンのカウンターを製作したり、古い家具を探してインテリアの配置を考えたり、これまでは苦手でほとんどしていなかった料理に挑戦したり(台湾では外食文化が発達していて、特に都市部に暮らす若い世代は自宅で料理をつくる習慣がほとんどないのです)。ずっと外での楽しみがあったのが180度転換して、家で過ごすことが楽しく思えてきたそうです。

家にいるときはソファで仕事をしたりすることも。お気に入りの場所(写真撮影/相馬ミナ)

家にいるときはソファで仕事をしたりすることも。お気に入りの場所(写真撮影/相馬ミナ)

外食メインだったのが、毎日一食は自炊するように

ハルさんの本棚は、同年代のカルチャー好きな日本人とほぼ一緒。また、作家ものの雑貨やうつわ、洋服などが好きで、インテリアにエスニックなテイストを取り入れるのも上手。〇〇系とくくれないところに、個性が出ています。

「考えずに置いているだけ」が、いい塩梅に(写真撮影/相馬ミナ)

「考えずに置いているだけ」が、いい塩梅に(写真撮影/相馬ミナ)

絵本作家の友人渡邊知樹さんの絵が描かれた紙袋などが無造作に掛けられている(写真撮影/相馬ミナ)

絵本作家の友人渡邊知樹さんの絵が描かれた紙袋などが無造作に掛けられている(写真撮影/相馬ミナ)

「ものを直感で選ぶから、どんどん増えています。買うときに、家に合うかは考えない。無機質な質感のものが苦手で、基本的に古いものが好き。クリエーターの友達の作品や、海外のものに惹かれます」

ハルさんのものの選び方は、ミニマリスト寄りで引き算系、使い道や収納まであらかじめ熟考しないと手に取れない私にとっては、ただただ羨ましい。頭で考えすぎずに、偶然性を楽しんでいてとても素敵です。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

そんなハルさん、コロナ前は台湾の同年代の友人たちと同様に、家で料理をほとんどしていませんでした。それが、コロナ禍で数年間台湾に帰れなくなったために、恋しい台湾料理を自分でつくるようになり、おうち時間も楽しむ人に大変身。好きなうつわを使いたくて、毎日昼か夜のどちらかは家でつくって食べる生活になったそうです。台湾の屋台料理の鹽酥鶏(鶏のから揚げと素揚げした野菜にスパイスをかけた料理)をつくってもてなしてくれたこともありました。

「二食も外食するとお金がかかるので、一食は自炊してもう一食は外というサイクルになりました。夜は家で食べることが多くなったかな。放っておいても料理がつくれる台湾の電気調理器、“電鍋”を買おうかと思っています」

ほとんど出しっぱなし、そこがいい(写真撮影/相馬ミナ)

ほとんど出しっぱなし、そこがいい(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

入居時に選んだスモーキーなブルーのタイルが効いている(写真撮影/相馬ミナ)

入居時に選んだスモーキーなブルーのタイルが効いている(写真撮影/相馬ミナ)

とにかく西荻窪の街が好き。お店を家のように使っています

「引越してから自宅に置くワークデスクを探していた時に、家の目の前のカフェで仕事ができると知りました。お茶代だけでコワーキングスペースを利用できて、オンライン用の打ち合わせ空間も用意されているので、今は週3日くらいそこで仕事をしています。
リモート生活になってから、これまで以上にオンとオフの切り替えをしなくなりました。仕事と仕事の合間に好きなことをしていて、もちろんその逆もあります。西荻窪はお店が多いから、お昼時になったら外に出て、お店でごはんを食べてそのまま外で仕事をしたり、おにぎりを買ってきたり。フレキシブルに暮らせる街です」

台湾のデザート“愛玉子(オーギョーチ)”をその場でつくってふるまってくださいました(写真撮影/相馬ミナ)

台湾のデザート“愛玉子(オーギョーチ)”をその場でつくってふるまってくださいました(写真撮影/相馬ミナ)

種子を水の中で揉むとゼリー状に。甘酸っぱいシロップをかけていただきます(写真撮影/相馬ミナ)

種子を水の中で揉むとゼリー状に。甘酸っぱいシロップをかけていただきます(写真撮影/相馬ミナ)

西荻窪は、喫茶店や小さな飲食店がひしめく街。自然と繰り返し通う店ができて、お店の人とのコミュニケーションも楽しい。人のあたたかみと優しさを感じます。

台湾の人は、職場の近くや都会に住むことを好み、外に開いているイメージです。喫茶店で息抜きしたり、近くの店をオフィスのように利用したり、内と外の使い分けがとても上手。家の延長に街があって、街の中に家がある。だから、住宅地にばかり住んできて、内と外を明確に線引きして考えがちな私にとって、彼女の視点はとても新鮮でした。

●西荻窪のお気に入りのお店
・オーケストラ(カレー)
・どんぐり舎(喫茶)
・FALL(雑貨) 毎週展示が変わります

一人掛けのソファが特等席(写真撮影/相馬ミナ)

一人掛けのソファが特等席(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

ハルさんはコロナ禍を経て、住まいの基準や条件が大きく変わったといいます。出勤がなくなったこともあり、利便性以上に広さや環境を重視するように。家賃も高いので、将来的には都心から1~1.5時間くらいのエリアで二拠点生活をすることも考えているそうです。

私のまわりでも、都市部から離れる人や二拠点生活をする人が年々増えています。暮らしや働き方、住まいに対する価値観の変化は、この先新しいかたちになることはあれ、元には戻らないのではないでしょうか。私自身は持ち家なので簡単に居住地を変えることはできませんが、それでも暮らし方をアップデートし続けたいという気持ちは持ち続けていて。まずは、ハルさんのように直感を大切にして、心の声に素直になってみます。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

●取材協力
ハルさん
Instagram @patsykuo
『日青糸且HARU GUMI』@haru__gumi

購入不動産の立地、「10分以上を許容できる」は46%

リニュアル仲介(株)(東京都新宿区)はこのたび、購入不動産の立地に関するアンケート調査を実施した。調査は2019年6月7日(金)~6月11日(火)、インターネットで実施。621名より回答を得た。
自宅の購入は駅から徒歩何分まで許容できますか?では、「徒歩10分以内」は54%、「10分以上を許容できる」は46%、「7分以下」は22%だった。また、駅から16分以上、もしくはバス便でも構わないと回答した人が22.6%となり、約1/4の人が16分以上の距離を許容していることが分かった。

年代別にみると、20代は10分までと回答した人が66.7%に上り、若い世代は利便性を求めていることが分かる。対して、30代は16分以上やバス便を許容できる割合が29.3%と、ほぼ3割を占めた。子育て世代は駅からの距離に寛容なようだ。また、60代以上では5分までと回答する人が15.8%と、他の世代よりも突出しており、子育てを終えた世代は利便性を求める層が一定割合存在することが分かる。

自宅を購入する場所は、ライフスタイルを優先に考えますか?リセールバリュー(売却時の価格)を優先で考えますか?では、「ライフスタイル優先」が66.7%、「リセールバリュー優先」が33.3%。全体の2/3が「ライフスタイル優先」と回答した。

ニュース情報元:リニュアル仲介(株)

大阪梅田ツインタワーズ・サウス、II期部分を着工

阪神電気鉄道(株)と阪急電鉄(株)は、6月1日(土)より「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」II期部分の新築工事に着手した。同事業は、大阪市北区梅田1丁目に整備中の地下3階・地上38階の超高層複合ビル。「大阪神ビルディング」と「新阪急ビル」間の道路上空を活用した建替と、周辺公共施設の整備を一体的に行うことで、都市機能の高度化や防災機能を強化し、質の高いまちづくりを目指している。I期部分は2018年4月27日に竣工、同年6月1日から「阪神百貨店(阪神梅田本店)」が部分開業した。

今回着工したII期部分では、2021年秋に全面開業する予定の百貨店ゾーンや、1フロア当たりの貸室面積が西日本最大規模(約3,500m2)となるオフィスゾーン(地上11階~38階)のほか、大小2つのホールを備えるカンファレンスゾーンを整備する。

新しくなる「阪神百貨店(阪神梅田本店)」は、解体工事前と同規模(延床面積約100,000m2)で、フロア数は11層(地下2階から地上9階まで)を計画。店舗づくりにおいては、品揃えの充実を図り快適な売場環境を整備、様々なイベントを通じてライフスタイルの提案を行っていく施設を目指す。なお、全体開業は2022年春の予定。

ニュース情報元:阪神電気鉄道(株)

つくば市が「バンライフ」の聖地に? 車を家にする新しい暮らし

最近、世界中でひそかに注目されているのが車を拠点とする暮らし「バンライフ」。2019年3月、茨城県つくば市で開催されたのは、その「バンライフ」をテーマにした「つくばVAN泊2019」という取り組みだ。つくば市が掲げる「世界のあしたが見えるまち」というビジョンをもとに、これからの社会や暮らし方を考える実験の一つとしてのイベントである。
なぜ、つくば市は「バンライフ」に注目するのか? つくば市が目指すまちづくりとは? 実際にバンライフを送る人々の話を交えながら探っていく。
国内初の「バンライフ」イベント「つくばVAN泊2019」

真っ青な空を見上げると、視線の先には大きなロケットがそびえ立っている。つくば駅からすぐの「中央公園」では、そのロケットの麓近くに、たくさんの車が並んでいた。そのほとんどがバンタイプ。どの車もオープンに開かれて、展示されている。訪れた人たちは、車の中を覗き込み、所有者と話をしたり、実際に車に乗り込んでみたりと楽しそうだ。

車やモバイルハウスなどの「動く拠点」を持って生活することは「バンライフ」と呼ばれ、つくば市では、バンライフから広がる暮らし方や働き方に注目している。移動できるということは、都市から地方への移住の後押しになり、定住までいかずとも、地域を活性化することにもつながると考えているからだ。

ずらりと並んでいた車は、バンタイプの他にキャンピングカーあり、モバイルハウスを設置したトラックあり。幅広い暮らし方や働き方を見ることができた(撮影/相馬ミナ)

ずらりと並んでいた車は、バンタイプの他にキャンピングカーあり、モバイルハウスを設置したトラックあり。幅広い暮らし方や働き方を見ることができた(撮影/相馬ミナ)

参加していたバンタイプの車は約20台。個人が所有しているものもあれば、企業としての参加もある。
まずは、実際にバンライフを送る人の話を聞いてみよう。

「車上生活」のイメージを一新する渡鳥ジョニーさんのバンライフ渡鳥ジョニーさん(左)とパートナーの奥はる奈さん(右)。「VAN + LDK = VLDK」をコンセプトに、シェアリングサービスを活用しながら実際にこの車に二人で暮らしている。スタイリッシュな内装が人気で、トークショーに取材にと大忙しの様子だった(撮影/相馬ミナ)

渡鳥ジョニーさん(左)とパートナーの奥はる奈さん(右)。「VAN + LDK = VLDK」をコンセプトに、シェアリングサービスを活用しながら実際にこの車に二人で暮らしている。スタイリッシュな内装が人気で、トークショーに取材にと大忙しの様子だった(撮影/相馬ミナ)

入口付近で人気だったのは、渡鳥ジョニーさんのバン。渡鳥さんは「VLDK(バンエルディーケー)」というウェブメディアでバンライファーとしての暮らし方を提案している。離婚を機に北海道から東京へ戻る際、スーツケース2つの荷物だったことから「これだけで暮らせるのかもしれない」と気づき、車に目を向けた。「車上生活=みじめなイメージがあるかもしれないけれど、そうではない暮らしをしたかった。だからあえてベンツのバンを選んで改装し、永田町のシェアオフィスに駐車スペースを確保しています」と話す。

二人が暮らす車は「ベンツ トランスポーターT1 307D」で通称「ベントラ」と呼ばれているもの。「『マイホームはベンツです』と話しているんです」とジョニーさん(撮影/相馬ミナ)

二人が暮らす車は「ベンツ トランスポーターT1 307D」で通称「ベントラ」と呼ばれているもの。「『マイホームはベンツです』と話しているんです」とジョニーさん(撮影/相馬ミナ)

左側手前にキッチン、奥に収納ソファ、右側の壁収納にはセミダブルのベッドも。ベッドを広げるとクローゼットが現れる。コンパクトながらも必要最低限のものが収まっている(撮影/相馬ミナ)

左側手前にキッチン、奥に収納ソファ、右側の壁収納にはセミダブルのベッドも。ベッドを広げるとクローゼットが現れる。コンパクトながらも必要最低限のものが収まっている(撮影/相馬ミナ)

実際に見せてもらうと、パートナーであり防災・リスク管理コンサルタントである奥はる奈さんとの二人の居住空間だという。北欧モダンを意識してリノベーションしたという車内には、洋服やキッチン道具、日用品などをコンパクトに収納している。さらに、壁の一面を引き出せば大きなベッドが登場。シモンズのマットレスを組み込んでいて快適な寝心地だという。必要最低限のものではあるが、どれも二人がこだわりをもって選んでつくり上げているバンだ。

「トイレや電源は、拠点にしているシェアオフィスで、お風呂はジム。洗濯はランドリーサービスを活用しています。足りないものはシェアでまかなえているんです」と二人は笑う。
街ならこれで十分。車を駐車できる拠点があればそこから自由に好きな場所へ行けるというわけだ。

二人はバンで旅しながら、隠れた絶景を借景にその土地のものを料理しながら、超移動時代の豊かな食卓を提案している。「今日はどこで誰と、何を食べよう。 Van a Table」がキャッチコピーだ(写真提供/奥はる奈さん)

二人はバンで旅しながら、隠れた絶景を借景にその土地のものを料理しながら、超移動時代の豊かな食卓を提案している。「今日はどこで誰と、何を食べよう。 Van a Table」がキャッチコピーだ(写真提供/奥はる奈さん)

泊まれて働けるバンは、仕事場でもあり、旅の相棒でもある

都会から離れ、移住先を探す旅の最中にバンを手に入れた人もいる。鎌倉出身の中川生馬さんは、東京での会社中心の生活から離れ居住地を探すためにバックパッカーとして全国の田舎を中心に旅をした。九州を旅していたときに出会ったのが車旅をしていた夫婦。車移動の快適さに憧れて、自身もバンを手に入れたという。「以前は夫婦それぞれ60L級のザックに寝袋・炊事道具などを入れて移動していたのですが、車になったことですごく楽になって。そこから住む場所を探して能登に決めた後も、旅をするときにはいつもこの車です」と話す。

特注したという中川さんの仕事用の机。能登・穴水町岩車にいる際も、頻繁に仕事場としてバンを使うこともあるという(撮影/相馬ミナ)

特注したという中川さんの仕事用の机。能登・穴水町岩車にいる際も、頻繁に仕事場としてバンを使うこともあるという(撮影/相馬ミナ)

「気持ちのいい季節なら、車の中でも快適で集中できるんです。自宅から140m先にある漁港にバンを停めて、穏やかな海が広がる前での仕事は最高です」と中川さん(写真提供/中川生馬さん)

「気持ちのいい季節なら、車の中でも快適で集中できるんです。自宅から140m先にある漁港にバンを停めて、穏やかな海が広がる前での仕事は最高です」と中川さん(写真提供/中川生馬さん)

ライターや広報など、遠隔から仕事をすることが多いため、バンの後部にはパソコンを使うためのテーブルがきちんとつくられたワークスペース、子どもと一緒にくつろげるソファありの“リビング”スペースもある。夜になればここがベッドに変わるという仕組みだ。

後部座席はソファ仕様にしてくつろげるスペースに。寝る際はシートの背もたれを中央にはめ込んでフルフラットに、さらにソファの上に板を渡して2段ベッドにもできる(撮影/相馬ミナ)

後部座席はソファ仕様にしてくつろげるスペースに。寝る際はシートの背もたれを中央にはめ込んでフルフラットに、さらにソファの上に板を渡して2段ベッドにもできる(撮影/相馬ミナ)

「キャンプに行ってテントを張る場所を探すのは大変ですが、車に泊まれると思えば気持ちが楽になります。バックパックであちこち行くにも、拠点としての車があるとすごく便利なんです。最近では、車中泊スポットが簡単に探せるサービス『Carstay(カーステイ)』もできたので、より快適になりました」

旅に出ないときは、自宅の敷地内にクルマを停めて自分のオフィスとして活用。250Wのソーラーパネルと、エンジン内にあるものとは別に2つの大容量バッテリーがついているので電源が確保できる。アイドリングなしで少量のガソリンと電気で動く「FFヒーター」があるので、冬も楽に乗り越えられる。
「限られたスペースなので、不要なものを持たなくなる。旅をしたおかげで、人生に必要なものが何かがしっかり分かるようになりました」と話す。

ハイエースをベースにしたアネックス社のキャンピングカーの「ファミリーワゴン」タイプ。後部にはバックパックのほか、キャンプで使うあれこれを収納できるスペースもある(撮影/相馬ミナ)

ハイエースをベースにしたアネックス社のキャンピングカーの「ファミリーワゴン」タイプ。後部にはバックパックのほか、キャンプで使うあれこれを収納できるスペースもある(撮影/相馬ミナ)

「気軽にグランピングしたい」という願いを叶えたバン

より自然と触れ合うためにとつくられたバンもある。YURIEさんは、身軽にキャンプに行きたいと考え、日産のバネットを自身の手で改装した。収納に便利な木製のりんご箱を土台にしてベッドをつくり、寝泊まりできる空間にしている。さらに、折りたたみできるテーブルや椅子、プラスチック製の食器などを積み込んでいるので、思い立ったらすぐにキャンプへ行けるというわけだ。

車内の改装はもちろん、外装のペイントも自身で手がけたYURIEさん。「都内でも小回りがきいて、かつ、荷物も詰める最適なサイズのバンです」(撮影/相馬ミナ)

車内の改装はもちろん、外装のペイントも自身で手がけたYURIEさん。「都内でも小回りがきいて、かつ、荷物も詰める最適なサイズのバンです」(撮影/相馬ミナ)

「キャンプが好きなんですけど、いつも準備が大変だったんです。バンを持ったことで、気軽にセルフグランピングできるようになりました」とうれしそうだ。普段は都内で働き、週末や休日にキャンプだけでなく、日本各地へと旅に行っているという。

もともと趣味で始めたキャンプだが、愛車で各地をまわり、女子でもできる「週末ソトアソビ」を提案するうちに、その活動が人気となった。今ではアウトドア商品のスタイリングや空間プロデュースなども手がけているというだけあって、たくさんの人が集まってきていた。
「これからはエコな仕様も取り入れていきたいし、将来的に家族が増えることを考えて大きいバンも考えたい」とまだまだやりたいことはたくさんある様子だった。

収納は下にまとめ、上部をベッドとして使えるように。板を載せているだけなので、手軽に後部座席を起こして座ることもできる(撮影/相馬ミナ)

収納は下にまとめ、上部をベッドとして使えるように。板を載せているだけなので、手軽に後部座席を起こして座ることもできる(撮影/相馬ミナ)

大工が手がけたバンは、上質で見事な仕上がりの空間

あるバンは、内装のクオリティの高さに驚いた。天井も壁面もきれいに木で覆われていて、棚板は美しいアール状にカットされている。聞けば持ち主の鈴木大地さんの本職は大工というから納得だ。

さりげなく棚板の角が曲線になっているなど、ディテールにこだわりがうかがえる。「実際につくってみて、まだまだやりたいこと、できることはたくさんあると感じています」(撮影/相馬ミナ)

さりげなく棚板の角が曲線になっているなど、ディテールにこだわりがうかがえる。「実際につくってみて、まだまだやりたいこと、できることはたくさんあると感じています」(撮影/相馬ミナ)

「仕事で使う車ですが、移動先で寝泊まりできたら便利だと思って。キャンピングカーがほしかったのですが、ちょっと高いし、だったら自分でつくってみようと」
細部までこだわって丁寧に仕上げた内装は、自分の作品でもある。大工の仕事はなかなか現場に行かなければ見られないものだが、これなら移動させて取引先へ見せることができる。実際にこの日も、鈴木さんに自分のバンの内装を頼みたいと話している人もいた。
また、仕事だけでなく、この車で旅をすることも増えたと話していた。

鈴木さんが室戸岬を旅したときの写真(写真提供/鈴木大地さん)

鈴木さんが室戸岬を旅したときの写真(写真提供/鈴木大地さん)

鈴木さんのバンは「ベンツ トランスポーターT1N 313CDI」。中古で手ごろな価格で手に入れたそう(撮影/相馬ミナ)

鈴木さんのバンは「ベンツ トランスポーターT1N 313CDI」。中古で手ごろな価格で手に入れたそう(撮影/相馬ミナ)

バンライフの可能性と、広げていくための課題とは?

「つくばVAN泊2019」では、さまざまな視点のトークセッションも行われた。バンライフを実践している「バンライファー」同士はもちろん、「限られた空間での暮らしかた」という視点から、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員とのトーク、さらにはバンライフから「防災」を考えるトークとして、防災科学技術研究所の職員などが登壇し、バンライフの可能性とこれからの課題について議論されていた。

バンライフの楽しさや可能性を語るだけでなく、防災の視点からのメリット、限られた空間での暮らしのデメリットなど、幅広いテーマで議論が行われていた(撮影/相馬ミナ)

バンライフの楽しさや可能性を語るだけでなく、防災の視点からのメリット、限られた空間での暮らしのデメリットなど、幅広いテーマで議論が行われていた(撮影/相馬ミナ)

「もともと市では、地域外から訪れてくれて、愛着や関心をもって関わってくれる人=「関係人口」を創出しようと考えていました」と、つくば市のプロモーションプランナーである酒井謙介さんは話す。バンライフをする人たちはまさに関係人口そのものである、と。
確かに、ある程度の生活や仕事をこなせる設備が整った車があれば、1カ所に留まる必要はなくなるだろう。気になる土地へ自由に車を走らせて、好きな場所で生活したり、働いたりしてもいいのだ。
ただ、車だけでは完結しないこともたくさんある。車にキッチンがついていても、食材はどこかで調達しなければならない。ましてやトイレやお風呂、洗濯の機能をもつバンは少ないし、夜になって就寝となれば、道の駅やサービスエリアなどバンを安全に停められる場所も必要だ。
酒井さん曰く「つくば市では、これらを有料サービス化したり、マッチングサービスを活用したりすることで、地域との関わりにできないかと考えています。生活や仕事に伴う買い物のほか、銭湯やコインランドリーなどを利用してもらえれば、街が活性化するでしょうし、定住までせずとも、地域外からの人材が留まることで「関係人口」が生まれ、コミュニティの発展にもつながるかもしれないと考えています」

これからの地方の活性化を考えれば、バンライフがもつ可能性は大きい。そのためには課題をクリアしていくことは不可欠だが、解決策はきっとあるはずだ。
バンライフが広がることで、私たちの暮らし方、働き方の選択肢はぐっと増えるだろう。さらに、地方の活性化につながるのであれば、日本でのこれからの生活はもっと魅力的になるのかもしれない。どこで暮らしてもいい、どこで働いてもいい。そう感じる未来は近いのかもしれない。

(撮影/相馬ミナ)

(撮影/相馬ミナ)

●取材協力
・TSUKUBA TOMMORROW LABO
・渡鳥ジョニーさんのウェブメディア「VLDK(バンエルディーケー)」
・「今日はどこで誰と、何を食べよう。 Van a Table」
・中川生馬さんのブログ「田舎バックパッカー」
・YURIEさんのHP
・鈴木大地さんのInstagram

雑貨店店主と建築家の夫婦がつくる「変わり続ける家」 その道のプロ、こだわりの住まい[4]

JR国立駅と谷保駅の間に位置する、国立ダイヤ街商店街。精肉店や鮮魚店、青果店が軒を連ね、昔から地元の人たちに愛され続けている場所だ。その一角にあるのが日用雑貨を扱う「musubi」。ここは、店主の坂本眞紀さんと夫で建築家の寺林省二さん、一人娘の吟ちゃん、愛猫のトトが暮らす自宅でもある。道具を扱うプロと、家づくりのプロの生活を見せてもらった。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。昔ながらの商店を彷彿とさせる仕事場兼自宅坂本さん(左)は元インテリアショップのバイヤーで、独立して自身の店を構えた。寺林さん(右)は「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」として、住宅を中心に設計をしている。坂本さんの膝の上にいるのが、看板猫のトト(写真撮影/嶋崎征弘)

坂本さん(左)は元インテリアショップのバイヤーで、独立して自身の店を構えた。寺林さん(右)は「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」として、住宅を中心に設計をしている。坂本さんの膝の上にいるのが、看板猫のトト(写真撮影/嶋崎征弘)

日用雑貨が並ぶ店内の奥に目を向けると、一段高くなった場所にダイニングキッチンが見える。昔ながらの商店を彷彿とさせるつくりの雑貨店「musubi」。約8年前、自分たちの仕事場と自宅を兼ねた場所として、夫の寺林さん自ら設計した。

間取り(画像提供/寺林省二さん)

間取り(画像提供/寺林省二さん)

器やクロス、掃除道具やかごなど、さまざまな日用雑貨が並ぶ店内。どれも坂本さん自ら選び、使って、確かめたものばかり。箒づくりや刺繍などのワークショップを行うこともある(写真撮影/嶋崎征弘)

器やクロス、掃除道具やかごなど、さまざまな日用雑貨が並ぶ店内。どれも坂本さん自ら選び、使って、確かめたものばかり。箒づくりや刺繍などのワークショップを行うこともある(写真撮影/嶋崎征弘)

「以前はここでお昼ご飯を食べているときにお客様がいらして、扉を開けっ放しにしていて丸見えだったっていうこともあります(笑)。でも、周りの商店街はどのお店も奥に暮らしの気配があるから、それはそれでいいかと思って」と坂本さんはこのつくりを気に入っている様子。「この場所には、もともとクリーニング店があったんです。リフォームして使いたいほど気に入っていたんですが、難しい状態だったので、結局、ほぼ同じ間取りで建て替えました。だから、昔ながらの商店の感じが残っているのかもしれません」

シンクとガス台だけ取り付けた状態で生活を始めたという。カゴやゴミ箱、ツールをかけたバーなどは、生活しながら必要なものを見極め、後から設置した(写真撮影/嶋崎征弘)

シンクとガス台だけ取り付けた状態で生活を始めたという。カゴやゴミ箱、ツールをかけたバーなどは、生活しながら必要なものを見極め、後から設置した(写真撮影/嶋崎征弘)

箱のような状態からスタートした家

「家具も収納もきちんと決めていなくて、ただの箱のような状態だったんです。住みながら少しずつつくってきた感じ」と坂本さんは振り返る。約14坪弱の敷地に建てた自宅は、家、事務所、店という3つの要素を一つの場所に共存させるために、見極めるべきことが多かった。だからこそ、最初に細部まで決めすぎず、住んでみてから自分たちに必要なことを見極めていったという。「暮らしているうちに、ここに棚板があったら便利だな、ここに収納をつくればいいな、と考えていきました」と寺林さんも続ける。

料理に使うバットを引き出し代わりに。カトラリーや箸置きなどの細かいものを収納している。子どもでも手の届く高さなので、吟ちゃんがお手伝いで並べることも(写真撮影/嶋崎征弘)

料理に使うバットを引き出し代わりに。カトラリーや箸置きなどの細かいものを収納している。子どもでも手の届く高さなので、吟ちゃんがお手伝いで並べることも(写真撮影/嶋崎征弘)

例えばキッチン。シンクやガス台の下には、食材を入れたカゴやカトラリーを入れたバット、ゴミ箱などがきちんと収まっている。「ここも最初は何もない空間だったんです。引越してきてからは、紙袋や空き箱をいろいろ使ってみて、どんな大きさの収納道具が必要か考えていきました」。食材はどんなものをどれくらいストックするか、必要なゴミ箱の大きさと数はどれくらいか、よく使う調理道具はどこに置けば便利か、全てを暮らしながら見極めていったのだ。そうして坂本さんが自らスケッチを描き、必要な棚やキャスター付きの箱などを寺林さんにお願いしたという。全てをしまい込まず、頻繁に手にする調理道具は、使う場所の壁面にバーを設置してつるすようにもしている。出し入れしやすいということは、つまりは片付けやすくすっきりした状態を保てるということにつながっているのだろう。

食器棚は大きめの鉢のサイズに合わせて奥行きを設定。店で扱う器や銅なべ、せいろなどもあり、使い込まれた様子を見せてもらうことができる(写真撮影/嶋崎征弘)

食器棚は大きめの鉢のサイズに合わせて奥行きを設定。店で扱う器や銅なべ、せいろなどもあり、使い込まれた様子を見せてもらうことができる(写真撮影/嶋崎征弘)

家具は最初にそろえず、暮らしながら必要なものだけをつくる

食器棚も本棚も、そこにしまう食器や雑誌、文庫本のサイズに合わせてあつらえている。決して広いとは言えない空間だからこそ、きちんとものが収まるように工夫されている。「最初は、クローゼットも布団を入れる場所もなくて。奥行きがどれくらい必要か、どの高さなら届きやすいか、どこにあったら便利か考えて、この形になったんです」と坂本さんは話す。自分たちの洋服の量をきちんと把握し、奥行きや幅を考えてクローゼットをつくった。布団も上げ下ろしがしやすい高さに棚板を設置して、使いやすい収納になっている。

夫婦のクローゼットは、この奥にある吟ちゃんの部屋との間仕切りの役目も担う。洋服と下のケースのサイズに合わせて奥行きを設定したそう。扉はつけず、カーテンで目隠し(写真撮影/嶋崎征弘)

夫婦のクローゼットは、この奥にある吟ちゃんの部屋との間仕切りの役目も担う。洋服と下のケースのサイズに合わせて奥行きを設定したそう。扉はつけず、カーテンで目隠し(写真撮影/嶋崎征弘)

また、随所に棚板を取り付けているのも、ものを収めるのにとても役立っている。キッチンでは食器棚の上、シンクの上にそれぞれ1枚あり、鍋やカゴなどの道具類が置かれている。シンク前の窓にはすのこ状の棚板があり、洗った器や道具などを置いて乾かすのに最適な場所になっている。さらに、トイレ兼洗面所にも奥行きの浅い棚板が1枚あり、洗面道具などの細かなものが並び、隣の洗濯機の上にはタオルがきちんと収まる棚板が2枚取り付けられている。「どれも、奥行きはそこに置くものにサイズを合わせて取り付けています」と寺林さん。使う場所の近くに収納場所を設置することで、出し入れがしやすいというメリットが生まれているのだ。

トイレ兼洗面所。奥行きの浅い棚が一枚あるだけで、歯ブラシやハンドクリームなどの洗面道具の定位置ができる。右にお風呂があるので、タオルは洗濯機の上に収納。手を伸ばせばすぐ使える状態(写真撮影/嶋崎征弘)

トイレ兼洗面所。奥行きの浅い棚が一枚あるだけで、歯ブラシやハンドクリームなどの洗面道具の定位置ができる。右にお風呂があるので、タオルは洗濯機の上に収納。手を伸ばせばすぐ使える状態(写真撮影/嶋崎征弘)

さらに、階段下も見逃さず、坂本さんの事務スペースとして活用している。「収納にするかどうしようか迷っていたんですが、ここに机を置いてみたらいいんじゃないかということでやってみたんです。最初はふさごうと思っていたので、階段の裏まできちんと仕上げができていないんですけど、これはこれでいいかなと思って」と寺林さんは教えてくれる。坂本さんにとっては、料理などの家事をしながら、事務仕事や店番もできて、とても便利なスペースになっている。

階段の下に天板を置き、坂本さんの事務スペースに。店からは目に入りにくい場所なので、多少ものが多くても気にならない。階段裏には吟ちゃんが描いた絵などを貼って楽しい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

階段の下に天板を置き、坂本さんの事務スペースに。店からは目に入りにくい場所なので、多少ものが多くても気にならない。階段裏には吟ちゃんが描いた絵などを貼って楽しい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

また、2階では、本棚やクローゼットが壁としての役割も果たしているのもこの家の特徴だ。もともとは、がらんとしたひとつながりの空間だった。そこに本棚とクローゼットを設置することで間仕切りになってスペースが生まれている。今は一人娘である吟ちゃんの部屋になっているが、ここはもと寺林さんの事務所だった場所だ。

2階の廊下。右の本棚が廊下と吟ちゃんの部屋の間仕切りとして機能している。そのほかはカーテンで仕切っているので、ほどよく気配が伝わる空間(写真撮影/嶋崎征弘)

2階の廊下。右の本棚が廊下と吟ちゃんの部屋の間仕切りとして機能している。そのほかはカーテンで仕切っているので、ほどよく気配が伝わる空間(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングは夫婦の寝室も兼ねている。大きな家具は置かず、臨機応変に使えるスペースになっている(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングは夫婦の寝室も兼ねている。大きな家具は置かず、臨機応変に使えるスペースになっている(写真撮影/嶋崎征弘)

さかのぼれば、建てた当初は、事務所は1階の雑貨店のスペースに併設していた。店で扱う品が増えてきたことから、2階の一角に事務所を移動。「1階で使っていた本棚を2階で間仕切りのように使うことで事務所スペースにしたんです」と寺林さん。吟ちゃんはというと、リビングの壁面に学習机と収納を設置して使っていた。成長とともに自分だけの空間が欲しいということになり、寺林さんは別の場所に事務所を借りて、吟ちゃんは無事に自分のお城を手に入れたというわけだ。

寺林さんの事務所スペースだった場所を吟ちゃんの部屋に。机とベッドを設置して、プライベートな空間をつくった。吟ちゃんは、好きな生地でカーテンをつくったり、壁に絵を貼ったりと、自分だけのスペースを楽しんでいる様子(写真撮影/嶋崎征弘)

寺林さんの事務所スペースだった場所を吟ちゃんの部屋に。机とベッドを設置して、プライベートな空間をつくった。吟ちゃんは、好きな生地でカーテンをつくったり、壁に絵を貼ったりと、自分だけのスペースを楽しんでいる様子(写真撮影/嶋崎征弘)

好きなものは我慢せず、でも、分量は決めて管理する

ものに合わせた収納だからこそ、きちんと収まってはいるものの、やはりどうしても好きな食器や本は増えてしまうという。「狭いからこそ、棚に収まる分だけと決めています。ここからあふれそうになったら、家族みんなで『ガサ入れ』して、不要なものがないか探すんです。使わないものは誰かに譲ったり、売ったりしています」と坂本さん。一人娘の吟ちゃんもその習慣がしっかり身についていて、読まなくなった絵本や使わなくなったおもちゃなどをダンボールにまとめて『ご自由にどうぞ』と自ら書き、お店がお休みの日に家の前に置いていることもあるのだという。

坂本さんの収納術を日常的に目にしているせいか、吟ちゃんが自分で管理する引き出しの中は見事にすっきり。引き出しごとに分類し、きれいに収めている様子はさすが。ここはマスキングテープなどの文具の段(写真撮影/嶋崎征弘)

坂本さんの収納術を日常的に目にしているせいか、吟ちゃんが自分で管理する引き出しの中は見事にすっきり。引き出しごとに分類し、きれいに収めている様子はさすが。ここはマスキングテープなどの文具の段(写真撮影/嶋崎征弘)

商品の使い心地を、自身のキッチンから伝える

「musubi」では、扱っている商品のほとんどを坂本さんが自身で使っている。「使い込んだらどんな状態に変化するか、知りたいお客様も多いんです。そういうときは、ダイニングキッチンから持ってくることもあるし、実際に使い心地を試してもらうこともあります」と坂本さん。また、寺林さん自身の作品として自宅をオープンハウスにすることもある。どこにどんな家具や収納が欲しいか、この家を見ながら打ち合わせることもできるというわけだ。

テーブルの下やクローゼットの中にトト専用のかごがあり、さりげなくしっかりと居場所をキープしている(写真撮影/嶋崎征弘)

テーブルの下やクローゼットの中にトト専用のかごがあり、さりげなくしっかりと居場所をキープしている(写真撮影/嶋崎征弘)

最初に決めず、生活とともに家をつくればいい

坂本さんも寺林さんも、自分たちの暮らしをよく観察し、それに合わせた家をつくり続けてきた。最初から家具を一式そろえたり、システムキッチンを組み込んだりという考えはなかったという。「小さい家だから、どこに何が必要かしっかり見極めたかったんです」と二人は話す。結果、店の形態の変化とともに、事務所が移動し、娘の成長に合わせて子ども部屋が生まれることになった。
最初から決めつけなくてもいいのだ。暮らし方も好みも変わっていくものだから、家も一緒に変化していけばいい。少しずつ、自由に、生活に合わせてしつらえていけばいい。
寺林家は、これからもきっとどこか変わっていくのだろう。「子ども部屋の棚も新しくしたいし、リビングに合うソファもつくろうかと思っているんです」。寺林さんはそう楽しそうに教えてくれた。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

●店舗情報
musubi
東京都国立市富士見台1-8-37
12:00~18:00
日、月曜定休
>HP●設計事務所
>テラバヤシセッケイジムショ●取材協力
坂本眞紀
1974年岩手県生まれ。商社、インテリアショップのバイヤーとして勤務後、東京・国立市に自身の店をオープン。使い心地がよく、実用性の高い道具を選ぶ目に定評がある。建築家である夫の寺林省二さんと娘、猫の3人と1匹暮らし。

若者のライフスタイル、インドア派が約7割

カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)は、18~24歳の男女を対象に「若者のライフスタイルに関するアンケート調査」を行った。調査は2018年12月21日(金)~12月26日(水)にインターネットで実施。1,502名から回答を得た。それによると、若者がいま悩んでいること(複数選択)は、1位が「お金のこと」で49.0%と約半数。2位に「仕事・就職のこと」(46.1%)、3位に「今後の未来のこと」(43.7%)と続く。回答者を20歳に絞って3年前から比較すると、2016年~2018年の1位は3年連続で「今後の未来のこと」だった。しかし今年の20歳の回答は、1位は「お金のこと」(45.0%)となっており、未来に対する不安以上に日々の生活に重要な「お金」に対する意識が高まっている。

10月に実施される消費税増税については、「増税に反対である」は48.3%、「増税に賛成である」は21.8%、「どちらでもない」は29.9%。半数近くが消費税増税に反対であると回答している。増税反対派の理由は「使われ方が不透明」「出費が増えて苦しい」「景気が悪化する」といった回答が多く、賛成派は「仕方がない」「やむを得ない」との回答が多かった。

買い物に対する意識をみると、「流行の商品でも自分の趣味に合わなければ買わない」という意識をもっている若者が88.5%と多かった。また、「買物にはコストパフォーマンスを求める」(80.2%)、「自分に必要な物だけを買う」(75.7%)という意識も高い。さらに、「外でお金をかけて遊ぶよりも、家でくつろぐ方が好き」(68.9%)という意識も高く、いまの若者は無駄遣いせず賢く消費をする傾向が高い一方、ライフスタイルとしてインドア派が7割近くいるようだ。

生まれ育った地元での暮らしについては、「現在地元で暮らしていて、今後も地元で暮らし続けたい」との回答は41.7%。「すでに地元を離れているが、今後は戻りたい」は15.1%となり、最終的には地元での生活を選択する若者が半数以上いるようだ。

ニュース情報元:カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)

シニアの約8割、「ハッピーライフ」を実感

(株)大和ネクスト銀行(東京都千代田区)は、今年で5回目となる「シニアライフに関する調査」をインターネットで行った。調査は2018年11月23日~11月27日の5日間、全国のシニア予備軍(50~59歳)とシニア(60~79歳)の男女を対象に実施。1,000名の有効サンプルを集計した。
シニア予備軍(336名)を対象に、シニアライフ(60歳以降の生活)はどのような生活になると思うか聞いたアンケートでは、「ハッピーライフ」は53.9%。「ミゼラブルライフ」は46.1%。幸せなシニアライフを予想しているシニア予備軍が多数派のようだ。男女別にみると、「ハッピーライフ」になると予想しているのは男性より女性に多く、男性では48.8%と半数を下回ったが、女性では58.9%と約6割だった。

一方、シニア(664名)を対象に、シニアライフはどのような生活か実感を聞くと、約8割となる78.9%が「ハッピーライフ」を実感。「ミゼラブルライフ」は21.1%で、多くのシニアが幸せなシニアライフを送っていることがわかった。

資産形成の取り組み状況別にシニアライフの予想・実感をみると、資産形成に取り組んでいる(または取り組んでいた)シニア予備軍では「ハッピーライフ」を予想する人は62.9%と、取り組んでいないシニア予備軍(36.5%)より26.4ポイント高かった。また、資産形成に取り組んでいる(または取り組んでいた)シニアでは「ハッピーライフ」を実感している人は82.9%で、取り組んでいないシニア(66.9%)より16.0ポイント高かった。

シニアライフに向けた資産形成では、「円預金」が最も多く87.5%。次いで「株式投資(国内・海外)」が38.5%、「貯蓄性のある保険(年金保険、養老保険・一時払終身保険など)」が26.0%、「投資信託(J-REIT含む)」が24.2%、「外貨預金」が14.0%。「不動産投資」は4.6%だった。

全回答者(1,000名)に、今年(2018年)楽しんだことを聞いたところ、1位「旅行」(59.0%)、2位「嗜好品」(40.8%)、3位「読書」(30.4%)、4位「映画鑑賞」(29.0%)、5位「ドラマ鑑賞」(28.3%)の順。「旅行」は4年連続で1位となった。

今年1年で費やした金額は、平均金額は「旅行」で25.6万円、「趣味」は12.8万円、「アンチエイジング」は5.6万円、「デート」は11.0万円、「ネット通販」は11.1万円。昨年の調査結果と平均金額を比較すると、「旅行」では昨年21.1万円→今年25.6万円と4.5万円増加しており、「デート」では昨年7.1万円→今年11.0万円と3.9万円増加している。今年は昨年より旅行やデートに多くのお金を費やしたようだ。

また、お手本にしたいシニア有名人(60代・70代)は、1位「吉永小百合さん」(15.8%)、2位「タモリさん」(8.2%)、3位「宮崎美子さん」(5.8%)、4位「西田敏行さん」(5.0%)、5位「役所広司さん」(4.9%)の順。「吉永小百合さん」の1位は5年連続で、シニアやシニア予備軍からの人気は衰えることがないようだ。

ニュース情報元:(株)大和ネクスト銀行

シニアの約8割、「ハッピーライフ」を実感

(株)大和ネクスト銀行(東京都千代田区)は、今年で5回目となる「シニアライフに関する調査」をインターネットで行った。調査は2018年11月23日~11月27日の5日間、全国のシニア予備軍(50~59歳)とシニア(60~79歳)の男女を対象に実施。1,000名の有効サンプルを集計した。
シニア予備軍(336名)を対象に、シニアライフ(60歳以降の生活)はどのような生活になると思うか聞いたアンケートでは、「ハッピーライフ」は53.9%。「ミゼラブルライフ」は46.1%。幸せなシニアライフを予想しているシニア予備軍が多数派のようだ。男女別にみると、「ハッピーライフ」になると予想しているのは男性より女性に多く、男性では48.8%と半数を下回ったが、女性では58.9%と約6割だった。

一方、シニア(664名)を対象に、シニアライフはどのような生活か実感を聞くと、約8割となる78.9%が「ハッピーライフ」を実感。「ミゼラブルライフ」は21.1%で、多くのシニアが幸せなシニアライフを送っていることがわかった。

資産形成の取り組み状況別にシニアライフの予想・実感をみると、資産形成に取り組んでいる(または取り組んでいた)シニア予備軍では「ハッピーライフ」を予想する人は62.9%と、取り組んでいないシニア予備軍(36.5%)より26.4ポイント高かった。また、資産形成に取り組んでいる(または取り組んでいた)シニアでは「ハッピーライフ」を実感している人は82.9%で、取り組んでいないシニア(66.9%)より16.0ポイント高かった。

シニアライフに向けた資産形成では、「円預金」が最も多く87.5%。次いで「株式投資(国内・海外)」が38.5%、「貯蓄性のある保険(年金保険、養老保険・一時払終身保険など)」が26.0%、「投資信託(J-REIT含む)」が24.2%、「外貨預金」が14.0%。「不動産投資」は4.6%だった。

全回答者(1,000名)に、今年(2018年)楽しんだことを聞いたところ、1位「旅行」(59.0%)、2位「嗜好品」(40.8%)、3位「読書」(30.4%)、4位「映画鑑賞」(29.0%)、5位「ドラマ鑑賞」(28.3%)の順。「旅行」は4年連続で1位となった。

今年1年で費やした金額は、平均金額は「旅行」で25.6万円、「趣味」は12.8万円、「アンチエイジング」は5.6万円、「デート」は11.0万円、「ネット通販」は11.1万円。昨年の調査結果と平均金額を比較すると、「旅行」では昨年21.1万円→今年25.6万円と4.5万円増加しており、「デート」では昨年7.1万円→今年11.0万円と3.9万円増加している。今年は昨年より旅行やデートに多くのお金を費やしたようだ。

また、お手本にしたいシニア有名人(60代・70代)は、1位「吉永小百合さん」(15.8%)、2位「タモリさん」(8.2%)、3位「宮崎美子さん」(5.8%)、4位「西田敏行さん」(5.0%)、5位「役所広司さん」(4.9%)の順。「吉永小百合さん」の1位は5年連続で、シニアやシニア予備軍からの人気は衰えることがないようだ。

ニュース情報元:(株)大和ネクスト銀行

挿花家・雨宮ゆかさんの自然が身近にある暮らし その道のプロ、こだわりの住まい[3]

一面に広がる田んぼを通り過ぎ、坂道を登ると、庭先に薪を積んだ一軒家にたどり着く。ここは、挿花家の雨宮ゆかさんが夫で写真家の雨宮秀也さんと暮らす自宅。ゆかさんは日常の花を生ける教室「日々花」を主宰しながら、各地でワークショップや生け込みなども行っている。教室とはまた別の空間である自宅でどんな風に花を楽しみながら暮らしているのか、話を伺った。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。

庭にもエントランスにも季節の草花がある。軒先には積まれた薪、日曜大工の道具、玄関の先にある土間には花材が置かれている。リビングに入れば、広い窓からまぶしいほどの光が差し込み、まるで山小屋に来たかのよう。玄関に入る前から気持ちがいい空間だということが伝わってくる。

「ここは小屋みたいな家なんです。家を建てるときに伝えたのは、自分たちの暮らし方。それをもとに中村さんが考えてくださった形がこの家なんです」とゆかさんは話す。中村さんとは建築家の中村好文氏。住宅を多く手がけているだけあり、暮らしやすい家をつくるスペシャリストである。

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

暮らし方を伝えてできた、五右衛門風呂のある一軒家

家を建てるに当たり、当時住んでいたアパートでの暮らしを要望書にまとめたという。見せてもらうとイラストとともに二人の一日がよく伝わってくる内容になっている。朝から電灯をつけなければいけないのが悲しい、本が入りきらない、夫の秀也さんが自宅で撮影するときのスペースが足りないといった不便さや、お昼ご飯は庭で食べることもある、一日の締めくくりはつくりながら飲みながらの晩御飯、など、食の時間を大切にしていることなどが書かれている。

「これ以外の要望は特に伝えなかったと思います。あ、夫と中村さんが二人で盛り上がって五右衛門風呂にしようというのはありました」とゆかさんは当時を振り返る。玄関前にあった薪(まき)は五右衛門風呂のためのものだったのだ。

建築家の中村好文さんに提出したという要望書。ゆかさんがイラストと文章でそれまでの自分たちの暮らしを表現している。不満や不便なこと、何を大切にしているかがよくわかる一枚(画像提供/雨宮ゆかさん)

建築家の中村好文さんに提出したという要望書。ゆかさんがイラストと文章でそれまでの自分たちの暮らしを表現している。不満や不便なこと、何を大切にしているかがよく分かる一枚(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取りもゆかさんが描いた(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取りもゆかさんが描いた(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取り。神奈川県川崎市に建てた。1階はリビングダイニングキッチン兼スタジオに、夫の仕事部屋、お風呂とトイレ。東西に土間が通っている。2階はもともと納戸にしようとしていたスペースをゆかさんの仕事スペースに変更した(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取り。神奈川県川崎市に建てた。1階はリビングダイニングキッチン兼スタジオに、夫の仕事部屋、お風呂とトイレ。東西に土間が通っている。2階はもともと納戸にしようとしていたスペースをゆかさんの仕事スペースに変更した(画像提供/雨宮ゆかさん)

土間も五右衛門風呂もあるという一軒家。そこでの暮らしは、仕事をしながら薪割りをしたり、庭の手入れをしたりと、やることはたくさんある。
「最近、地主さんから裏の土地を貸してもらえたので、畑を始めたんです。本当は山野草を植えたかったんですけど、ひとまず野菜を始めたら楽しくて」と言う。

五右衛門風呂用の釜にダッチオーブンを入れて料理をしたり、庭に出てコーヒーを飲んだり、教室の生徒が来てわら仕事をしたり、この家だからこそできる生活を楽しんでいる様子が伝わってくる。

1階は玄関から五右衛門風呂まで土間に。花材はもちろん、食材のストックなどの一時置き場としても活躍している。「買い物や仕事帰りにとりあえず荷物を置いておけるのでとても便利です」(写真撮影/雨宮秀也)

1階は玄関から五右衛門風呂まで土間に。花材はもちろん、食材のストックなどの一時置き場としても活躍している。「買い物や仕事帰りにとりあえず荷物を置いておけるのでとても便利です」(写真撮影/雨宮秀也)

秀也さんの希望で作った五右衛門風呂。「薪割りの大変さとかを差し引いても、つくってよかったと思っています。お湯の温まり方が違う。夏は夜のお湯が朝まであたたかいこともあるほど」(写真撮影/雨宮秀也)

秀也さんの希望でつくった五右衛門風呂。「薪割りの大変さとかを差し引いても、作ってよかったと思っています。お湯の温まり方が違う。夏は夜のお湯が朝まで温かいこともあるほど」(写真撮影/雨宮秀也)

無垢材の良さが感じられるから、スリッパは捨てた

新しい家での暮らしを始めてすぐにゆかさんが気がついたのは、スリッパが要らないということ。
「無垢(むく)の床材を使っているのですが、特に仕上げ材などを塗ったりしていないんです。木の質感をダイレクトに感じられるからとても気持ちよくて、スリッパは捨てました」。

また自然と物を片付けるようになったということも、二人にとってのメリットだったとか。
「それまでは仕事道具を持って帰ってきて、リビングやダイニングに置きっ放しということが多かったんです。でも、この家ではそれぞれの仕事部屋をきちんと確保できているし、何よりリビングに物を出ていると気持ちが悪いなと感じるようになった。この白い壁をきちんと見える状態にしておきたいという気持ちがあるから、お互いに何も言わずとも片付けるようになっているんだと思います」と、壁に目を向ける。そこは夫の撮影スタジオとしても使う空間。

左官で白く仕上げた壁の前には、ゆかさんが生けた花が置かれているほかには物はない。余白があることですっきりと感じられ、花も引き立って見える。余白を生むためには、ものを減らすことにも気を配った。
「本はたくさんあるんですが、それでも厳選しました。それに洋服もかなり減らしたと思います。食器も水屋に入るぶんだけにしていますし」と話す。自分たちに必要なものを見極めた暮らしだということがよく分かる。

広く白い壁は、ご主人のスタジオになったり、ゆかさんの花を楽しむスペースになったり、臨機応変に使っている。ものを出しっぱなしにしなくなったというのもよく分かる気持ちのいい空間(写真撮影/雨宮秀也)

広く白い壁は、夫のスタジオになったり、ゆかさんの花を楽しむスペースになったり、臨機応変に使っている。ものを出しっぱなしにしなくなったというのもよく分かる気持ちのいい空間(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

また、「何よりも、朝起きてパチンと電気をつけなくて済むようになったことがすごくうれしくて。天気が悪くても1階はいつも明るいんです」とゆかさん。リビングダイニング、キッチンが一続きになっているので、どこにいても窓の外を眺めることができる。庭にはゆかさんが選んで植えたという草花が生い茂り、その奥には丘の緑が見える。

「ここに住んで気がついたのは、季節は春夏秋冬4つじゃないということ。もっと細かくて、10日単位で季節が変わっていくんじゃないかと思うくらい。例えば、山を見ていると芽吹き始めたころの緑と、葉が開ききった緑とは違うんです」とうれしそうに教えてくれる。広い窓があることで、外と距離が近くなり、自然の移り変わりを身近に感じることができる。「家で仕事をしていても、ご飯を食べたり、お茶を飲んだりしながらふっと窓の外を見れば気分転換になるし、外とのつながりって大切なんだと感じています」

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

草花を飾る前に、まずスペースをきちんと確保する

そうして感じる季節の移り変わりや外の空気は、花を生けるということで室内にも取り入れている。仕事柄、花は常に身近にあるが、自宅でもそれは変わらない。くだんの白い壁の前以外にも、玄関や食器棚にしている水屋箪笥(だんす)の中には、いつも草花がある。

「水屋の中に花を飾るというのは、アパートに住んでいたころに思いついたことなんです。狭くて飾るスペースがないなかでの苦肉の策です」。一段の半分は何も置かないようにして、花のスペースと決めているのだそう。ガラス戸を閉めるとギャラリーのようにも感じられる一角だ。この方法は、動物と一緒に暮らしている人や小さなお子さんがいる人にとっても、草花にいたずらをされずに済むのでオススメだという。

「花を飾るのが難しいという悩みを聞くことが多いんですが、まずは置くスペースを確保することが大切なんです」。ものが多く飾られていたり、収納されている中に草花を飾っても紛れてしまって引き立たない。食器棚の一段の半分だけでもいいから、スペースを空ける。余白をつくることで、飾った花が生き生きとした姿に見えてくるのだ。

以前住んでいた家から持ってきた食器棚代わりの水屋箪笥。これを使いたいと中村さんに伝え、スペースを階段下に確保してもらった。上段の右下を花のスペースと決めて食器は入れないようにしている(写真撮影/雨宮秀也)

以前住んでいた家から持ってきた食器棚代わりの水屋箪笥。これを使いたいと中村さんに伝え、スペースを階段下に確保してもらった。上段の右下を花のスペースと決めて食器は入れないようにしている(写真撮影/雨宮秀也)

背景にものを置かずにスペースを確保するだけで、ぐんと草花が引き立って見える。使っている花器はカップ。専用の花器を使うこともあれば、食器を転用することもあるそう(写真撮影/雨宮秀也)

背景にものを置かずにスペースを確保するだけで、ぐんと草花が引き立って見える。使っている花器はカップ。専用の花器を使うこともあれば、食器を転用することもあるそう(写真撮影/雨宮秀也)

季節を感じられる花や緑を選んで楽しむ

飾る空間をつくったら、実際にどのような花材を選んだらいいのだろう?
「みなさんお花屋さんで購入することが多いと思うんです。そのときに花として選ぶものは1種類でいい。そこにグリーンを加えるようにするのがオススメです。アイビーでもいいし、ハーブでもいい。枝ものを購入できるなら、紅葉している、実がついている、新緑など、季節感を感じられるものを」。

そう言われて玄関の壁を見てみると、花にプラスされているのは小さな柿がなった枝で、なるほどと思う。もしもベランダで鉢植えをしたり、庭で育てることができる人なら、寄せ植えするのもいい、とも。

「寄せ植えだとそれぞれ競い合うのか、かえって丈夫に育つ気がします。それにお互いの植物が虫除けになったりすることもあるから安心。組み合わせるときは、紅葉するものや線の細いもの、まだら入りの葉のものや花のものなど、それぞれ葉に特徴がある緑を選ぶようにすると、生けるときに重宝します」。例えば、もみじ、ススキ、どくだみを組み合わせると、もみじが紅葉し、ススキの細長い線が動きを出してくれ、どくだみでは花も緑も楽しめる。

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

小さな柿がなった枝をあしらった玄関。花に枝ものや葉ものを組み合わせるだけでいいと考えると、気楽に草花を楽しむことができる (写真撮影/雨宮秀也)

小さな柿がなった枝をあしらった玄関。花に枝ものや葉ものを組み合わせるだけでいいと考えると、気楽に草花を楽しむことができる(写真撮影/雨宮秀也)

花を生けるにも、暮らすにも、無理せずに。ゆかさんたちは、それまでの暮らしを考え、自分たちに何が必要かをきちんと見極めて生活している。五右衛門風呂はあるが、広いスペースは必要ない。花を飾る空間は大切だが、たくさんの洋服はいらない。小屋のような一軒家で自然とともに過ごす毎日は、これからもとても健やかに過ぎていくに違いない。

リビングダイニングとキッチンはひとつながりのスペース。「壁などで仕切らないことで開放感もあるし、動線もスムーズ。何よりどこにいても窓の外が目に入るのがうれしい」とゆかさん(写真撮影/雨宮秀也)

リビングダイニングとキッチンはひとつながりのスペース。「壁などで仕切らないことで開放感もあるし、動線もスムーズ。何よりどこにいても窓の外が目に入るのがうれしい」とゆかさん(写真撮影/雨宮秀也)

●プロフィール
雨宮ゆか
日常の花を生ける教室「日々花」主宰。展覧会やワークショップなども開催。身近な植物をさりげなく美しく生活に取り入れる姿にファンが多く、雑誌や書籍などで活躍中。
>HP

「人間は自然の一部」。八ヶ岳で体験型教育を推進する古川和女史のデュアルライフ あの人のお宅拝見[11]

私が知り合ったころの古川和(カズ)さんは、主婦から起業して体験型科学教育『リアルサイエンス』を、科学者の秋山仁氏らと子ども向けに行っていました。最近は「大人向けに、企業のチームビルディングなんかもやってるのよ!」と、相変わらずアクティブな姉御の行動力に驚くばかり。東京とのデュアルライフを楽しむ、八ヶ岳麓のお宅へ伺って話を聞くことにしました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「アメリカで衝動買いした家具を置くために建てたような家」!?

和(カズ)さんの本宅は東京で、八ヶ岳の麓・大泉町に別荘を建てられたのは約20年前。子ども2人の子育て時代から山登りが好きで、野外活動教育の仲間もいるこの辺りが気に入っていたそうです。
今回も東京で午前中の仕事を終えてから車を走らせ、15時過ぎにこの取材。日常的に行ったり来たりとデュアルライフ(二地域居住)を楽しむアクティブな61歳は、私の憧れです。

クリームイエローに赤のトリムが映える大屋根の外観。取材日は曇りで冴えなかったので、青空の写真を送ってもらいました!(写真撮影/古川和さん)

クリームイエローに赤のトリムが映える大屋根の外観。取材日は曇りで冴えなかったので、青空の写真を送ってもらいました!(写真撮影/古川和さん)

八ヶ岳の家はフィンランドメーカー『ホンカ・ジャパン』のログハウス。山小屋のような丸太組みのログと違って、角型ログで、モダンな雰囲気。断熱性は北欧仕様なので秋冬は冷え込む八ヶ岳でも問題なし。

大きな家の小さな玄関、個性的なデザインは童話の世界のよう(写真撮影/片山貴博)

大きな家の小さな玄関、個性的なデザインは童話の世界のよう(写真撮影/片山貴博)

玄関を入った先に広がる、吹抜けの大空間リビングでお話を伺うことにしました。

ログの構造壁にタイルの床、赤い薪ストーブのある吹抜けのリビング(写真撮影/片山貴博)

ログの構造壁にタイルの床、赤い薪ストーブのある吹抜けのリビング(写真撮影/片山貴博)

私の隣にはアインシュタインの人形が鎮座。アメリカの友人からプレゼントされたそう(写真撮影/片山貴博)

私の隣にはアインシュタインの人形が鎮座。アメリカの友人からプレゼントされたそう(写真撮影/片山貴博)

「やっぱりログだから、内装の木肌が柔らかいし香りも良いのよね。20年たったけど」

お子様も独立され、ますます活動的な和さん。私はテニスでもご一緒し、パワフルなプレーに圧倒されています!(写真撮影/片山貴博)

お子様も独立され、ますます活動的な和さん。私はテニスでもご一緒し、パワフルなプレーに圧倒されています!(写真撮影/片山貴博)

20年前と言えば2人のお子様もまだ10代のころ、40歳そこそこで別荘を持つ余裕に驚き……。
「そういうことでも無いのよ!子どもにも良い場所とは思っていたけれど。実はアメリカの友達が家を売るときに、家具を処分するって言うから『私が買う!』って言っちゃって(笑)。しばらく、置く場所もなくアメリカの倉庫で保管してて、やっとここに置ける家が建てられたの」

イエローがアクセントカラー。壁には絵画より、窓の景色

旦那さまの赴任地だった米国バークレーの友人から買った、お気に入りの家具が10点以上。
「特にこのイタリア製テーブルのデザインが斬新で気に入ったの。このイエローが、インテリアのテーマカラーになりました」

イタリアンモダンのテーブルに合わせたイエローの椅子、右奥にはイエローの冷蔵庫をあえてキッチンの外、斜めに置いてフォーカルポイントに(写真撮影/片山貴博)

イタリアンモダンのテーブルに合わせたイエローの椅子、右奥にはイエローの冷蔵庫をあえてキッチンの外、斜めに置いてフォーカルポイントに(写真撮影/片山貴博)

ほかには、アメリカンBIGサイズのベッドが2階の寝室にありました。窓もベッドに合わせたデザインです。

私もここに泊めていただきましたが、おばさんでもお姫様気分(写真撮影/片山貴博)

私もここに泊めていただきましたが、おばさんでもお姫様気分(写真撮影/片山貴博)

「絵画も好きだけど、この家は壁に絵を掛けていないの。窓にカーテンをせず、窓枠を額縁にした外の景色が絵の代わり」
朝から夜、春夏秋冬。刻々と変化する景色を眺め、過ごす豊かさがここにはあるようです。

和さんが撮った、窓からの富士山や紅葉。一時として同じ景色は無い、自然の醍醐味(だいごみ)(写真撮影/古川和さん)

和さんが撮った、窓からの富士山や紅葉。一時として同じ景色は無い、自然の醍醐味(だいごみ)(写真撮影/古川和さん)

八ヶ岳界隈に住まう、クラフト&アクティブな人々も魅力

子育て主婦だった和さんは、35歳のときにNPO法人『Teaching Kids to Love the Earth』を立ち上げ、体験型学習を実践してこられました。
「アメリカ在住のころはヨセミテへキャンプに行ったり、東京では多摩川で網を投げて魚を獲ったり。子どもと遊ぶのも本格的、自然の中で育つと人への優しさが備わるものよ」
人間も自然の一部だと理解できるようになると、子どもも大人も物の見方が変わるということです。

赤い薪ストーブがリビングのアイコン。床暖房もあるが、薪を焚くと朝までホンワカと暖かい(写真撮影/片山貴博)

赤い薪ストーブがリビングのアイコン。床暖房もあるが、薪を焚くと朝までホンワカと暖かい(写真撮影/片山貴博)

「八ヶ岳界隈はすてきなお店や、面白い人が多くてね。とてもすてきなご夫婦が営まれているインテリアのお店があるの!」と、和さんお気に入りの北欧ヴィンテージ家具ショップが『SKOGEN』。
そのワークショップに参加してつくったペーパーコード編みの椅子が、暖炉の前に2脚(旦那さまと1脚ずつ作製)。

「薪をくべるときに座るとちょうどいい高さなの」。トレーを置くと、サイドテーブルとしても使える優れもの!(写真撮影/片山貴博)

「薪をくべるときに座るとちょうどいい高さなの」。トレーを置くと、サイドテーブルとしても使える優れもの!(写真撮影/片山貴博)

インテリアや手づくりが大好きな和さん。この家を建てるときも、自分で建材・設備を選びにショールームへかなり足を運んだそう。

2階のトイレには、和さんが探して来たパステル色のタイルが貼られていた(写真撮影/片山貴博)

2階のトイレには、和さんが探して来たパステル色のタイルが貼られていた(写真撮影/片山貴博)

「ほかにも東京から移住されたご夫婦で、きれいな畑をやっているお友達がいてね。今日も来る前に寄ったら、いろいろと採れたての野菜を下さったの」

早速、頂いた野菜をダイニングテーブルで並べ始め……(写真撮影/片山貴博)

早速、頂いた野菜をダイニングテーブルで並べ始め……(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳らしいグリーン・アレンジメント完成! 器は人気のプリンセス社(オランダ)ホットプレート(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳らしいグリーン・アレンジメント完成! 器は人気のプリンセス社(オランダ)ホットプレート(写真撮影/片山貴博)

ダイニングルームには、大人数が座れる大きなテーブル。「ここで企業研修をすることもあるの。自炊もチームビルディングの一環」

10人くらいはゆったり座れるテーブル。ここからも、外の緑が目に入る開放的なダイニング(写真撮影/片山貴博)

10人くらいはゆったり座れるテーブル。ここからも、外の緑が目に入る開放的なダイニング(写真撮影/片山貴博)

そしてダイニングの奥には、コンサバトリー(サンルーム)もあります。

「ここは朝、気持ちいいのよー」。朝日が入る、東側にあるコンサバトリー(写真撮影/片山貴博)

「ここは朝、気持ちいいのよー」。朝日が入る、東側にあるコンサバトリー(写真撮影/片山貴博)

食器も好きな和さんコレクションで、朝食風にセットしてもらった(写真撮影/片山貴博)

食器も好きな和さんコレクションで、朝食風にセットしてもらった(写真撮影/片山貴博)

和さん自身がそうであるように、八ヶ岳界隈にはアクティブに何かをするために住まう人が多いよう。そんな活力のあるコミュニティーが、この避暑地ならではだなぁ……と感じました。

老若男女、グローバルな出会いの場になればという想い

海外の子どもたちが環境体験学習を行うのに、ここを拠点にすることもあるようで、こんな色紙を発見。

このお宅のデッキにあふれる子どもたち。つづられた感謝の言葉が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

このお宅のデッキにあふれる子どもたち。つづられた感謝の言葉が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

色紙の写真は、このデッキ。ハンモックも気持ち良さそう(写真撮影/片山貴博)

色紙の写真は、このデッキ。ハンモックも気持ち良さそう(写真撮影/片山貴博)

「外国人をお招きすることもあるので、一応和室もね」、2階の和室には野点(のだて)の茶道具も収められています。

琉球畳に和紙のランプでモダンな和室。洋風窓も意外と調和(写真撮影/片山貴博)

琉球畳に和紙のランプでモダンな和室。洋風窓も意外と調和(写真撮影/片山貴博)

今回敷地内に、以前来たときには無かった物体や小屋が増築されていました(!?)。

高さ3mの壁、これを道具無しにチームで協力して全員登り切るという課題用

高さ3mの壁、これを道具無しにチームで協力して全員登り切るという課題用

シーソー、複数人が乗ってバランスを取るもの(写真撮影/片山貴博)

シーソー、複数人が乗ってバランスを取るもの(写真撮影/片山貴博)

「これも体験学習のひとつ。大人も子どもも自然のなかで身も心も鎧を脱ぎ捨てて、ひとりではできないことを助け合いながら達成する。人それぞれ得意不得意があって当然、お互いの理解が深まっていくのがチームビルディング」
子どもたちも、そんな体験から“多様性”を肌で実感することになるのだそう。

「今日は曇っていて残念ね」と空を眺めながら、「今度はここでテニス合宿するから、いらっしゃいよ!」と誘ってくれた(写真撮影/片山貴博)

「今日は曇っていて残念ね」と空を眺めながら、「今度はここでテニス合宿するから、いらっしゃいよ!」と誘ってくれた(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳のお住まいも拡張するなか、「今度は東京の家を建て替える計画をしたいの! いつか娘が子育てするのなら二世帯住宅にしたいと思って。子どもも大人も一緒に勉強できるような書斎をつくりたい、天井まで書棚があってハシゴに登って本を取るような……」と、目を輝かせる和さん。その夢は、いくつになっても尽きることが無さそうです。

古川 和
八ヶ岳エナジェティック倶楽部代表
1957年大阪府生まれ。東京都在住、結婚・子育てを経て1992年子どもの環境教育、科学教育の会Teaching Kids to Love the Earthを起業。2000年一橋大学大学院國際企業戦略研究科(非常勤講師)。後に、アクションラーニング研究所を立ち上げ、企業のチームビルディング研修を実施。カリフォルニア大学バークレー校の体験型の科学教育の手法を日本に普及し、NPO法人体験型科学教育研修所を立ち上げ2016年まで活動。2017年より株式会社EHRのエグゼクティブコンサルタント。(文部科学省政策評価有識者会議メンバー、東京学芸大学監事(非常勤)など)。
趣味はテニス、俳句、茶道、美術鑑賞と幅広く、多彩な人脈を持つ。座右の銘:格物致知
株式会社EHR
北欧家具「SKOGEN」

“保存食の達人”料理家・黒田民子さん、亡き夫に導かれたキャリアと手づくりの豊かな日常 あの人のお宅拝見[10]

家庭料理の専門家として生活情報サイト「All About (オールアバウト)」ホームメイドクッキングのガイドをする黒田民子さん。保存食や薫製を、家庭で簡単につくれるレシピを紹介した本は翻訳され海外でも好評。私は黒田さんの夫、キッチンデザイン研究家の黒田秀雄さんと懇意にしていただいていたが、4年前にご病気で他界。その遺志を継ぐように、民子さんはお料理のお仕事のほかにも精力的に活動されています。東京都調布市のご自宅に伺って、いろんなお話を聞かせていただきました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。38年前にスケルトン・インフィルで購入したマンション

タイル張りの重厚なマンション、築年はたっているものの管理が行き届いた建物の1階が黒田邸。中へご案内いただき廊下を抜けてドアを開けると、手前にキッチン&ダイニング、奥にリビングが広がっていました。

料理研究家のご自宅らしく、キッチンと大きなテーブルのあるダイニングが中心の住まい(写真撮影/片山貴博)

料理研究家のご自宅らしく、キッチンと大きなテーブルのあるダイニングが中心の住まい(写真撮影/片山貴博)

そのダイニングテーブルで、黒田秀雄さんと出会ったころのお話を。
黒田ご夫妻は、関西出身。民子さんが松下電器産業(現在のパナソニック)にお勤めだったときに、同社で住宅設備のデザインをしていた黒田秀雄さんと出会い、ご結婚。
「24歳で結婚後、仕事を辞めて、2人の息子を育てる普通の主婦でした。54歳で『All About』のガイドを始めるまでは……」

背が高くて奇麗な民子さん、麗しの71歳!(若いころは、さぞかしモテたに違いない…)(写真撮影/片山貴博)

背が高くて奇麗な民子さん、麗しの71歳!(若いころは、さぞかしモテたに違いない…)(写真撮影/片山貴博)

秀雄さんが独立し、東京で起業した1975年ごろは杉並にお住まいでしたが、
「秀雄さんが仕事で、このマンション開発にかかわっていたので、スケルトンで購入し、内装を一から彼が設計したの」
マンションの自由設計であるスケルトン・インフィル形式を、何と38年前に実践していた黒田邸! 特に、キッチンデザイナーとしても草分け的な存在であった秀雄さん、こだわりのキッチンは今も健在です。

「色を多く使いたくなかった」ので、白黒モノトーンのキッチンに。赤いエスプレッソマシーンがアクセントカラーになっている(写真撮影/片山貴博)

「色を多く使いたくなかった」ので、白黒モノトーンのキッチンに。赤いエスプレッソマシーンがアクセントカラーになっている(写真撮影/片山貴博)

家電類は、デザインの良いものが最小限置かれているだけ。モノトーンのキッチンにあつらえたような『バーミキュラ』のライスポットと『クイジナート』のミキサー。

オール電化住宅なのでコンロはIHクッキングヒーター。鉄瓶でお湯を沸かすところが、流石!黒のタイルは清掃性もデザイン性もある賢明なデザイン(写真撮影/片山貴博)

オール電化住宅なのでコンロはIHクッキングヒーター。鉄瓶でお湯を沸かすところが、流石!黒のタイルは清掃性もデザイン性もある賢明なデザイン(写真撮影/片山貴博)

「『バーミキュラ』のライスポットは、ポットヒーター(IH調理器)の中に鋳物ホーロー鍋が入っていて、ご飯がしっかり炊けておいしいのよ」
ご自身で使いこなされた『バーミキュラ』鍋のレシピ本も出されています。

キッチンはオーダーキッチンで人気の『クッチーナ』による、初期のシステムキッチンだそう。
「このシンクは、秀雄さんが開発にかかわっていた伊奈製陶(現在のINAX)時代のものです」

グースネックの水栓(左から『BRITA(ブリタ)』『TOTO』『GROHE(グローエ)』製)などは新しくなっているが、陶器のシンクは38年前のまま。大切に使われてきたのが分かる(写真撮影/片山貴博)

グースネックの水栓(左から『BRITA(ブリタ)』『TOTO』『GROHE(グローエ)』製)などは新しくなっているが、陶器のシンクは38年前のまま。大切に使われてきたのが分かる(写真撮影/片山貴博)

コミュニケーションを生むキッチン、子育て時代から今も実践

黒田秀雄さんはJIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)主催「エコデザイン展」に、2003年から「エコキッチン」を作品出展されてきました。

2003年に環境負荷を抑えたゼロエネルギー・キッチンや、自己完結型フリースタンディング方式のキッチンなど先駆的なデザインを発表して注目を集めた(写真撮影/片山貴博)

2003年に環境負荷を抑えたゼロエネルギー・キッチンや、自己完結型フリースタンディング方式のキッチンなど先駆的なデザインを発表して注目を集めた(写真撮影/片山貴博)

2004に発表されたエコキッチン「LOHAS KITCHEN」(上記写真の資料右側)は、「今も“山の家”に置いてあります」
“山の家”とは、長野県にある黒田ファミリーの別荘のこと。
「息子たちが小学校のころ、もう35年くらい前に買った“山の家”ですが、秀雄さんが火の起こし方から厳しく仕込むので子どもは行くのを嫌がっていたことも(笑)。今となっては自然志向の息子たち、父親に感謝していると思いますよ」

秀雄さんは調布の自宅でも息子さんたちに、後片付けを手伝うようしつけられていたそう。
「30年以上前ですから、食洗機は普及していませんでしたしね。今は、共働きや子育て中に食洗機は必需品ですよ!」と、力説する民子さん。

のちに導入された食洗機はスウェーデンの『ASKO(アスコ)』製、「60cm幅の大型で、お鍋も入るところが助かるんです」(写真撮影/片山貴博)

のちに導入された食洗機はスウェーデンの『ASKO(アスコ)』製、「60cm幅の大型で、お鍋も入るところが助かるんです」(写真撮影/片山貴博)

「食洗機に洗い物を任せれば、子どもや家族とのコミュニケーションが増えるし、主婦がゆっくりくつろげる時間が持てると家族も幸せになるはず」とオススメ。

「私たち夫婦だけのときは、1日分をまとめて夜に洗っていました」
秀雄さんがご健在のころは、毎日の食器洗いの実態を写真付きでブログにアップされていました。(2011年から亡くなる前月の2014年11月まで、すごい実証実験!ジャーナリスト魂に敬服)

子育てしているころ、「息子たちはこのダイニングテーブルで宿題などをしていましたね。私は後ろを向いて、お料理しながらも『もう一度、朗読して!』と言ったりしてね」
キッチンをオープンにデザインしたことで、家族のコミュニケーションは自然に取れていたようです。

「息子の朗読のお話に、料理しながら泣けてきたりもしたわ!」って、とてもかわいいママ(写真撮影/片山貴博)

「息子の朗読のお話に、料理しながら泣けてきたりもしたわ!」って、とてもかわいいママ(写真撮影/片山貴博)

ご自宅にはご夫婦の仲間が20人ほど集まることもあって、「大きなダイニングテーブルと食洗機は大活躍でしたね」

幻のリフォーム計画?スケルトンならではの間仕切り収納家具

「秀雄さんはいろんなものを残してくれていましてね……。これは、【我が家のリフォーム計画】」

元々スケルトンでの購入なので構造梁以外、自由に間取り変更できる。秀雄さんらしい、精巧で分かりやすい図面(写真撮影/片山貴博)

元々スケルトンでの購入なので構造梁以外、自由に間取り変更できる。秀雄さんらしい、精巧で分かりやすい図面(写真撮影/片山貴博)

ダイニングキッチンの収納は、隣の部屋との仕切りを兼ねたもの。壁は無いので、動かしてレイアウト変更ができる可変性のある収納なのです。秀雄さんの計画では、この間仕切り収納を移動させ、キッチン空間をより広くするレイアウトになっていました。

天井高までの間仕切り収納に、ステンレス扉の冷蔵庫(『ASKO』製)もスッキリ納まっている(写真撮影/片山貴博)

天井高までの間仕切り収納に、ステンレス扉の冷蔵庫(『ASKO』製)もスッキリ納まっている(写真撮影/片山貴博)

【我が家のリフォーム計画】に描かれたリフォームは実施されませんでしたが
「私一人になりましたからね。でも、バス&サニタリーはリフォームしましたので見ていただいて結構ですよ」

ホテルライクなトイレ・洗面・バスがワンルームになった空間。背が高い民子さんが選んだのは、米国「KOHLER(コーラー)」のペデスタル型洗面(写真撮影/片山貴博)

ホテルライクなトイレ・洗面・バスがワンルームになった空間。背が高い民子さんが選んだのは、米国「KOHLER(コーラー」のペデスタル型洗面(写真撮影/片山貴博)

「できれば、ダイニングテーブルをむくの大きなものにしたいとは思ってるの」
【我が家のリフォーム計画 by 民子さん】も楽しみです。

「保存食をやればいい」夫が後押ししたテーマ

普通の主婦生活を送っていた民子さんを、「ALL About」のガイドに推薦したのは、キッチン専門家としてガイドをしていた秀雄さん。その後、さまざまな仕事が舞い込んでくるたびに、尻込みする民子さんを秀雄さんは「すっごく応援してくれたの!」。セミナー講師の仕事がきたときには「会場に来るって言って聞かないから、恥ずかしかったのよ」。

家庭料理研究家の民子さんではありますが
「おふくろの味や、お菓子・パンづくりなんかも、たくさん専門家がいらっしゃるでしょ。そんなときに、秀雄さんが『君の得意な保存食がいいんじゃないか?』とテーマを与えてくれました」
梅干しやみそづくり、果実酒や薫製も得意な民子さんを“保存食の達人”として世に送り出してくれたようです。

取材日にも、「ベーコンの薫製をつくったから、食べてみてちょうだい」と出してくださった。

生の豚バラ肉を香辛料などと共に冷蔵庫で1週間ほど脱水し、フライパンを使って40分~1時間ほど薫製したもの。冷蔵庫から出してスライス(写真撮影/片山貴博)

生の豚バラ肉を香辛料などと共に冷蔵庫で1週間ほど脱水し、フライパンを使って40分~1時間ほど薫製したもの。冷蔵庫から出してスライス(写真撮影/片山貴博)

少しいただいた途端、スモークされた芳醇な香りが口から鼻へと広がってビックリ!

今回は薫製用チップを使ったものでしたが「ほうじ茶の葉を使ってもおいしいですよ」と教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

今回は薫製用チップを使ったものでしたが「ほうじ茶の葉を使ってもおいしいですよ」と教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

「魚の干物やチーズなど薫製は楽しみ方もいろいろで、保存も1週間くらいはききますからチャレンジしてみて!」
薫製のほかに、果実酒づくりもご夫妻で楽しまれていたようで、すてきな瓶に保存された果実酒の数々を並べてくださった。

果物のほかにキンモクセイやコーヒー、山椒というのもある!?ラベルは秀雄さんが書いたもの。「いいでしょ!」。デザイナーの文字ってホントすてき(写真撮影/片山貴博)

果物のほかにキンモクセイやコーヒー、山椒というのもある!?ラベルは秀雄さんが書いたもの。「いいでしょ!」。デザイナーの文字ってホントすてき(写真撮影/片山貴博)

知人から頂いた青唐辛子を使って「薬味味噌」をつくったと、味見させてくださいました。

ご飯のお供に抜群! やっぱりビールかな?(写真撮影/片山貴博)

ご飯のお供に抜群! やっぱりビールかな?(写真撮影/片山貴博)

「家に人を呼ぶのが好きなので、保存食があれば重宝しますよ。薫製も簡単にできるので、つくり方の話がおしゃべりのキッカケにもなってね」
おいしいだけでなく、コミュニケーションを高めるネタにしてしまうところが“達人”たるゆえんです。

感謝と共に、日々前へ進む努力家

最近は料理以外にも、そのスタイルを活かし読者モデルもされている民子さん。
「体力維持に水泳は続けています、週に3日ほど。週に2km以上は泳ぐようにしているの」

マンション1階でお庭が広く、草木の手入れも日課。「ハーブやもみじは、良くお料理にも使います」(写真撮影/片山貴博)

マンション1階でお庭が広く、草木の手入れも日課。「ハーブやもみじは、良くお料理にも使います」(写真撮影/片山貴博)

ちょっと驚いたのは……お履きになっていたスリッパが、左右反対!?
「これ、ボケてる訳じゃないのよ(笑)。O脚を治すのに良いって聞いてやってるの」
いくら年を重ねても、向上心がある人は進化し続けるといういいお手本です。

他人にも自分にも関心をもち、新しいことにチャレンジする姿。これが憧れの70代!(写真撮影/片山貴博)

他人にも自分にも関心をもち、新しいことにチャレンジする姿。これが憧れの70代!(写真撮影/片山貴博)

リビングの棚には秀雄さんの思い出の品々と共に、まだお骨も。民子さんを見守っていた(写真撮影/片山貴博)

リビングの棚には秀雄さんの思い出の品々と共に、まだお骨も。民子さんを見守っていた(写真撮影/片山貴博)

「これは、私が50半ばのころかしら。友人のカメラマンが撮ってくださったの」

今の私と同じ年ごろ。私はこれからの20年、民子さんのように素敵に生きられるだろうか?(写真撮影/片山貴博)

今の私と同じ年ごろ。私はこれからの20年、民子さんのように素敵に生きられるだろうか?(写真撮影/片山貴博)

秀雄さんの最期のノートを拝見すると、民子さんへのメッセージに「どうかいっぱい生きてください」と書いてありました。
「ただただ、感謝しかありません」と、民子さんは少し涙ぐまれましたが、私には、今輝いている彼女の姿に「たみちゃん、やるねぇ!」と笑っている秀雄さんが見えました。
飾らずシンプルに、でも時間をかけた丁寧な、ご自宅での暮らしを垣間見ることができました。「あんな風に年をとりたいな」と、素直に思える取材でした。

黒田民子
家庭料理研究家。All About[ホームメイドクッキング]ガイド。1947年大阪府生まれ。子育てや主婦業の経験を活かし、旬の食材を使って簡単につくれるレシピを多数発表している。料理教室の講師や調理器具のアドバイザーとしても活躍。
著書『やさしい保存食と自家製レシピ』(主婦の友社)、『いちばん簡単な 手作り燻製レシピ』(河出書房新社)、『家族の命をつなぐ 安心!保存食マニュアル』(ブックマン社)、『自宅で手軽に♪燻製生活のススメ(監修)』(メディアファクトリー)、『バーミキュラだから野菜がおいしい簡単レシピ』(三才ブックス)など。
All About ホームメイドクッキング
いきいきライフ
日々の食器洗い機日記

蔦屋書店に聞く! 本棚のおしゃれなレイアウト&収納アイデア

賃貸(1K・一人暮らし)でも書店のような本棚をつくりたいならDIYがオススメ、と「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平(さんじょう・ようへい)さんは言う。三條さんの自宅を参考に、おしゃれな本棚のつくり方のポイントを、書店員としての経験をもとに解説してもらった。「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平さん

「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平さん

三條さんが勤める「代官山 蔦屋書店」は、各ジャンルに精通したコンシェルジュのカラーが売り場に反映されていて、自身の知識とクリエイティビティを広げてくれる思いがけない本と出合うことができるのが魅力だ。数万冊もの本が並び、ただ身を置くだけでワクワクする “書店のような空間を自宅でも再現できたら”と思う方は多いはず。オリジナリティがあり大容量の本棚の作り方と、美しくおしゃれに収納するためのポイントをおさえて、その願いを実現しよう。

おしゃれな本棚にしたいならDIYがおすすめ

三條さんが現在の住まいに引越してきたのは約4年前。いわゆる“普通の賃貸1K”だが、本・雑誌だけで段ボール30箱ほど、約1200冊が約7畳の洋室に収まっている。

三條さん宅の間取り。約7畳の洋室に、幅60×奥行き30×高さ230cmの本棚が4つ、以前の住まいから本棚として使用しているキューブボックス6つが並ぶ

三條さん宅の間取り。約7畳の洋室に、幅60×奥行き30×高さ230cmの本棚が4つ、以前の住まいから本棚として使用しているキューブボックス6つが並ぶ

「通勤アクセスを第一に、なじみのあった学芸大学~武蔵小山辺りで部屋を探しました。物件選びの際に、本の収納は意識していなかったです」と三條さんは物件探しを振り返る。それでもおしゃれな本棚を見ると、質問攻めしたくなる。まずは、本棚についてのこだわりを尋ねた。

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既製品ではサイズがさまざまな本に対して可変性がないのとコストの面から、おしゃれな本棚のための第一のポイントは「自分でつくる、これに限ります!」と教えてくれた。「三田修平さんが運転手兼店主を務める移動式書店『BOOK TRUCK(ブックトラック)』の前身で『BOOK APART』という小さな本屋さんが昔ありました。そこの本棚がDIYでつくられているのを見て、いいな、と思ったんです」と三條さん。
以前の住まいではキューブボックスを本棚として使っていたが、際限なく増やせてしまうため止めたという。

以前の家には、このキューブボックスがもっとたくさんあった

以前の家には、このキューブボックスがもっとたくさんあった

ディアウォールやピラーブラケット等、DIYツールを使った本棚のつくり方

本棚の図面は、大学で建築学を学んだ三條さん自らが引いた。「本棚をDIYすれば低コストですし、つくり直すこともできます。つくり方は意外と簡単。一人で組み立てましたが、1棚あたり30分ほどでつくることができました」

図面を引くにあたり、まずは三條さん所有の本のなかで一番背が高い本に合わせ、1段の高さは40cmに設定。出版されている本の背は高くても40cmが上限だそうで、どんな本を並べるか決まっていない場合や、どんな本でも収納できる本棚をつくりたいという場合は、高さを40cmに設定するのがいいのだそう。そして棚の奥行きも同様に、一番奥行きがある本に合わせて30cmとし、パーツを使って両サイドの木材に取り付けた。棚の幅は60cm、棚を支える両サイドの木材の高さは、天井高よりやや低い2m30cmに。上端にブラケットパーツを取り付け、床と天井を使って突っ張らせることにより木材を柱として固定した。

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ちなみに三條さん宅の本棚は、ホームセンターで図面に合わせてカットしてもらった2×4材(ツーバイフォー材)と、東京・恵比寿の「P.F.S PARTS CENTER(ピーエフエス パーツ センター)」で購入したブラケットパーツ「PILLAR BRACKET(ピラーブラケット)」と「SHELVING STAY」で制作。棚を支えるパーツやブラケットパーツは、ホームセンターなどでも購入可能だ。

美しく本を並べるポイントは奥行き・高さ・陳列方法

三條さんの本棚に並ぶ本は、建築・デザイン関連をメインに、文庫や漫画、ビジネス書など幅広い。そして装丁や判型もバラバラなのに、書店のように落ち着きがあり、まとまりを感じられるのはなぜだろうか。続いては、おしゃれに見せるための本の収納方法を伺っていこう。

まずは本棚の奥行きの活用方法について尋ねると「店頭では、すべての本の背表紙を本棚の手前端に合わせることで面をつくり、きれいに見せています」という答えが返ってきた。しかし三條さんの本棚はその逆で、奥の壁に本を付けて並べている。そして手前にできたスペースを飾り棚として活用し、収納している本に関連したポストカードや小物を置いて、インテリアのアクセントにしているのだ。

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また「展覧会の図録の場合は、チケットの半券やフライヤーも一緒に挟んで収納しています」と三條さん。物として残してあると展覧会の記憶を留めておけるのだそう。本棚が本だけでなく、思い出の収納場所としても活用されている。

続いては本の高さについて。「店頭では、より多くの本を手に取ってもらうため、関連する本を判型に関係なく並べますが、自宅の本棚をきれいに見せるには、判型の似たもの、背の高さや本のサイズが合っている本を集めて収納するとまとまって見えます」と三條さん。とはいえ、特に背の高さは合わせづらいもの。そこでおすすめなのが、棚1段の両端に背が高い本を置き、中央にかけて低くする並べ方。こうするとアーチ状になりきれいに見えるという。

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最後は、本の陳列方法について。大きく分けて、背表紙を見せる「背ざし」、表紙を見せる「面出し」、表紙を上にして重ねる「平積み」の3パターンがある。三條さんの場合、“見せる”よりも読書歴のインデックスとして本棚を機能させているため、「背ざし」での収納がほとんどだが、書店のようにおしゃれに見せたい場合は「面出し」「平積み」のテクニックを使うと有効的だ。

「個人的には、自宅の本棚は自分に向けてつくる方が良いと思います。たまに来客の際にアピールしたい本を『面出し』してカッコつけるくらいでいいのではないでしょうか(笑)」。そう三條さんが言って持ってきてくれたのが、「BIBLIOPHILIC(ビブリオフィリック)」のブックスタンド。本棚の空いたスペースにこちらを使って表紙がかっこいい本を「面出し」して見せてくれたが、雰囲気がぐっと増す。

ブックスタンドを使って、面出し

ブックスタンドを使って、面出し

また本を「平積み」してブックエンドの代わりにするのも、本棚にリズムが生まれるのでおすすめだ。三條さんの場合は、棚の積載量に耐えられなさそうな厚い本を床に「平積み」して、“見せる”と実用性の合わせ使いをしている。

左が平積み、右が背ざし

左が平積み、右が背ざし

そして三條さんが気をつけているのが本の保存方法。「本棚の位置に気をつけ、日中はカーテンをするなど、直射日光には当てないようにしています」と、本好きならではの心遣いだ。お陰でどの本も新書のような状態を保っていて、それが本棚全体の美しさにもつながっている。

また本好きにとって、本が増えてしまうのが悩みどころ。この問題に対し、三條さんはどのように対処しているのか伺うと「本棚からはみ出したり、本棚全体との違和感が出てきたりしたら、その都度手放すようにしています」と潔い答えが返ってきた。本棚の美しさを保つためには、本の中身を見極めて整理していくことが必要不可欠だ。

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中身重視の並べ方でも“自分の軸”でまとまりが生まれる

“ジャケ買い”のように装丁が目を引く本をインテリア用に買うことはあるのか尋ねると、「飾ろうと思って購入した本はなく、好きなものを買っています」と三條さん。それでも本棚全体がまとまって見えるのは、並ぶ本に“自分の軸”があるからかも、という。

「作家・写真家・デザイナー別やカバーの色別に並べている方もいらっしゃいますが、私の場合は本の中身を重視して並べています。例えば、新しく買った本と本棚に収納してあった昔の本の内容がリンクしたら隣に、というように」と三條さん。本棚は読書歴の整理の場であり、“記憶の外部装置”。インテリアとしてではなく、“個人図書館”としてつくってみるのもいいですよ、と話す。
取材を通して改めて自身の本棚を見渡し、「長年買い集めては取捨選択しているので、改めて全体を見渡すといい本があるなと自画自賛ですね」と笑う。収納テクニックを使って美しく見せながら、月日を掛けて本を入れ替えていく中で、自分らしさや感性が反映され、本棚が熟成していくのだろう。

部屋の壁にもさり気なくフリーペーパーが飾られていた

部屋の壁にもさり気なくフリーペーパーが飾られていた

●取材協力
「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュ 三條陽平さん
TSUTAYA TOKYO ROPPONGIで建築・デザインの担当をした後、2012年から「代官山 蔦屋書店」のコンシェルジュに。月に一度、建築物を見るために地方へ出かけることをライフワークとしている。最近最も感銘を受けた建築は「太田市美術館・図書館」。
代官山 蔦屋書店

逗子にたたずむ「和モダン」な住まい 季節を楽しむ演出とは?

住宅取材を長年続けてきた筆者が、心底憧れる住まい。それはご近所にある、お庭も素晴らしい入母屋造りの家。愛犬と暮らすSさんの、日常を大切にするライフスタイルにも惹かれています。建物ハードと住まい方ソフトの両面で、和と洋が融合した情緒ある和モダンのお住まいを紹介します。
緑青の銅屋根が美しい、和紙とガラス工芸が彩る住まい

神奈川県逗子市の里山に囲まれた谷戸で、ひときわ目を引く白壁の門構え。
緑青屋根のグリーンと木の濃い茶色が、白壁とのコントラストで美しく映える外観です。

茶色はガレージの折戸、今は閉じて中をギャラリーにリモデル。植栽のドウダンツツジは秋に紅葉して右写真のように鮮やかになる(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

茶色はガレージの折戸、今は閉じて中をギャラリーにリモデル。植栽のドウダンツツジは秋に紅葉して右写真のように鮮やかになる(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

玄関門扉の素晴らしさが、この家への関心を高めます。
よく見る豪邸の威圧的な門でなく、板引戸の渋さが“わびさび”感すら醸し出し、里山の自然に囲まれた街並みに調和しています。

庭の桜を背景にたたずむ門扉。正面の飾りや手前の鉢植えは季節毎に替わり、道ゆく人を楽しませてくれる(写真撮影/片山貴博)

庭の桜を背景にたたずむ門扉。正面の飾りや手前の鉢植えは季節毎に替わり、道ゆく人を楽しませてくれる(写真撮影/片山貴博)

玄関灯は、Sさんが大好きなガラス工芸の蝉(写真撮影/片山貴博)

玄関灯は、Sさんが大好きなガラス工芸の蝉(写真撮影/片山貴博)

取材時は陶器の時計が飾られていたが、お正月飾り(右)やクリスマスリースだけでなく天使の羽などバリエーション豊富(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

取材時は陶器の時計が飾られていたが、お正月飾り(右)やクリスマスリースだけでなく天使の羽などバリエーション豊富(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

門をくぐり、庭石のアプローチを進むと玄関。
こちらも合理的でシンプルで美しい、和のたたずまいには必須、引戸の玄関。

庭の花を愛でながら、自然石のアプローチを進む。木の造作が施されたガラス引戸(写真撮影/片山貴博)

庭の花を愛でながら、自然石のアプローチを進む。木の造作が施されたガラス引戸(写真撮影/片山貴博)

「どうぞ、お上がりください」と、Sさん。廊下の両側は、はめ込みガラスで庭を眺めながら入っていくと
「この扉、素敵でしょ。奈良の古い知人宅を取り壊すときに、もったいないからいただいたのよ」

見事な鶴が描かれた板戸、かなりな年代物のよう。高さや取手をリメイクして、この家で生きのびた幸せな鶴(写真撮影/片山貴博)

見事な鶴が描かれた板戸、かなりな年代物のよう。高さや取手をリメイクして、この家で生きのびた幸せな鶴(写真撮影/片山貴博)

「この貝殻、逗子海岸に犬と散歩に行く度に拾っていたら、こんなたくさんになっちゃった(笑)」
ゴミ拾いのボランティアをしていた所、砂浜で貝が“拾って!”ってSさんに向かって光っているのだそう……。

自分がきれいだと思うものを、好きなガラスの器に飾る。好きなものに囲まれて生活する心地よさを教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

自分がきれいだと思うものを、好きなガラスの器に飾る。好きなものに囲まれて生活する心地よさを教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

今回、顔出しNGのSさんですが、知人が描いたパステル画肖像でご紹介。何と、50歳から始めたフラメンコを踊る姿。
「フラメンコを見たとき、それまでの私は“自分”を生きていなかったことに気づいたの」と、フラメンコダンサーがりりしい眼差しで見栄を切る姿に魅了され習い始めたそうです。

この肖像は筆者(50歳代)と同じ歳のころのSさん。「フラメンコのおかげで足腰が鍛えられました」実は、20歳上の大先輩!(写真撮影/片山貴博)

この肖像は筆者(50歳代)と同じ歳のころのSさん。「フラメンコのおかげで足腰が鍛えられました」実は、20歳上の大先輩!(写真撮影/片山貴博)

廊下から居間へ入ると、庭に面した広縁のある畳10畳の和室が広がっています。
古材を利用した表しの梁は、年季の入った焦茶色。同色の造り付け家具と共に、落ち着いた古民家のような大空間です。

漆喰の壁に、和紙の創作照明が柔らかな光を映す(写真撮影/片山貴博)

漆喰の壁に、和紙の創作照明が柔らかな光を映す(写真撮影/片山貴博)

畳敷にテーブル&チェア、こんな風に和洋折衷のライフスタイルでくつろぐアイデアが満載のお住まいです。

居間の引戸の引手は、「安土桃山時代の形に七宝焼きでつくっていただいたの」(写真撮影/片山貴博)

居間の引戸の引手は、「安土桃山時代の形に七宝焼きでつくっていただいたの」(写真撮影/片山貴博)

こんな細部に伝統工芸のアイデア、宝探しのように見つけるとうれしくなります。

日本的な曖昧さが豊かさをもたらす、広縁のある暮らし

Sさんのお住まいは、約25年前に建てた木造2階建て。

「建てるときに注文したのは、屋根。迎賓館などで見る緑青の銅板屋根にしたかったの。私、色もねグリーンが好きなのよ」

屋根にこだわるなんて、素人考えではなかなか出てこない。Sさんの感性には、いつも驚かされている筆者。
旅先や雑誌などで見たもの感動したことを、自分でやって見るのだそう。

2層になった入母屋屋根の下、すだれは日除けと共に外観デザインのアクセントにもなっている(写真撮影/片山貴博)

2層になった入母屋屋根の下、すだれは日除けと共に外観デザインのアクセントにもなっている(写真撮影/片山貴博)

すだれは外部からの視界を遮る役目も。ちょうど、お向かい2階からの視線を遮ることができます。高い塀を立てずに、緩やかにプライバシーを守る技に脱帽。

外側はガラスサッシ戸、和室側は障子によって囲われた板張りの広縁(ひろえん)。室内との緩衝エリアとなっている広縁は、季節ごとに寒さを遮ったり、涼を運んだり。

Sさんは、その広縁にお気に入りのものを飾っていました。

この日は、珍しいガラス細工が施されたアンティークの噴水(ムラーノ島ヴェネチアングラス)。百合が活けられている花瓶も、やっぱり好きな緑色(写真撮影/片山貴博)

この日は、珍しいガラス細工が施されたアンティークの噴水(ムラーノ島ヴェネチアングラス)。百合が活けられている花瓶も、やっぱり好きな緑色(写真撮影/片山貴博)

こちら側の広縁は、愛犬Doriちゃんの特等席です!

Doriちゃんは、Sさんが保護団体から譲り受けた2代目の愛犬。Sさん宅にもらわれた犬は皆、元気に生まれ変わる(写真撮影/片山貴博)

Doriちゃんは、Sさんが保護団体から譲り受けた2代目の愛犬。Sさん宅にもらわれた犬は皆、元気に生まれ変わる(写真撮影/片山貴博)

庭と居間の間にある広縁は、その面積以上に生活を豊かにしてくれるもののようです。

6月はインテリアも衣替え、季節を感じる住まい方

玄関と広縁からも出られるお庭は、あまりつくり込まずに自然な趣にされています。

奥のほうには近所の子どもが遊べるよう、ブランコと鉄棒も(写真撮影/片山貴博)

奥のほうには近所の子どもが遊べるよう、ブランコと鉄棒も(写真撮影/片山貴博)

取材時、桜やお花の時期とズレてしまったのでSさんの写真をお借りしました。

かれんな“立てば”芍薬、“座れば”牡丹。Sさんのよう! (写真撮影/Sさん)

かれんな“立てば”芍薬、“座れば”牡丹。Sさんのよう! (写真撮影/Sさん)

お庭の花を花器に飾って、二度楽しむ。枝垂れ桜が和の住まいと調和する(写真撮影/Sさん)

お庭の花を花器に飾って、二度楽しむ。枝垂れ桜が和の住まいと調和する(写真撮影/Sさん)

キッチンからは裏庭が望めるよう、大きなフィックス窓。キッチンキャビネットは、やはりグリーン!(写真撮影/片山貴博)

キッチンからは裏庭が望めるよう、大きなフィックス窓。キッチンキャビネットは、やはりグリーン!(写真撮影/片山貴博)

お庭の四季を楽しむと共に、日本住宅の季節感ある伝統的な機能も見せて下さいました。
秋から冬、6月までは内側に障子戸を入れて寒さを防ぎながら、和紙の柔らかい空間で過ごす居間。

「障子の桟(さん)を少なくしたデザインをお願いしたの」、桟の入れ方次第で障子の表情も大きく変わるものだ(写真撮影/片山貴博)

「障子の桟(さん)を少なくしたデザインをお願いしたの」、桟の入れ方次第で障子の表情も大きく変わるものだ(写真撮影/片山貴博)

そして6月になったら、夏障子とも呼ばれる簾戸(すど)に替えるのです(わざわざ替えていただきました!)

Sさん邸の簾戸には萩が使われている。夏は風通し良く、日差しを遮る日本の伝統建具(写真撮影/片山貴博)

Sさん邸の簾戸には萩が使われている。夏は風通し良く、日差しを遮る日本の伝統建具(写真撮影/片山貴博)

そしてもう一つ、すてきなアイデアを拝見。和紙でつくられた四枚仕立ての屏風ですが、両面異なるデザインになっており、季節によって使い分けることができるようになっています。

クローバーが描かれた、淡いブラウン系の片面(写真撮影/片山貴博)

クローバーが描かれた、淡いブラウン系の片面(写真撮影/片山貴博)

もう一面は、アイビーが描かれた水色の屏風。「季節やイベントに合わせて使い分けるの」とSさん(写真撮影/片山貴博)

もう一面は、アイビーが描かれた水色の屏風。「季節やイベントに合わせて使い分けるの」とSさん(写真撮影/片山貴博)

ほかにも、キッチンのドアを暖簾(のれん)に替えるなど、インテリア小物でも季節を楽しむ住まい方を教えてくれました。

“天使が舞い降りる” 好きなものに囲まれると、家がパワースポットに

2階のプライベートゾーンにもご案内いただきました。
「天使がたくさん、居るわよ」と、早速、階段に天女のような絵がお出迎え。

ご友人の画家が描かれた絵、天女はSさんのイメージと重なる(写真撮影/片山貴博)

ご友人の画家が描かれた絵、天女はSさんのイメージと重なる(写真撮影/片山貴博)

「なんだか、天使が集まってくるのよね(笑)」と寝室にも、羽の生えた天使たちの絵が……

折り上げ天井で、空間に豊かさが増す寝室(写真撮影/片山貴博)

折り上げ天井で、空間に豊かさが増す寝室(写真撮影/片山貴博)

その天井には、ヴェネチアンガラスのシャンデリア。やはり!緑色があしらわれたもの(写真撮影/片山貴博)

その天井には、ヴェネチアンガラスのシャンデリア。やはり!緑色があしらわれたもの(写真撮影/片山貴博)

Sさんお気に入りのスペース・デザインは、この暖炉の一角。
「昔、スペインのホテル リッツのロビーで見たとき“これはすてき!”と思ったの」、そのアイデアを取り入れたそう。

部屋の角、三角に暖炉を取り、その上に直角にミラーを天井まで貼ることで、万華鏡のように部屋が映りこみ、ズーと奥まで部屋が広がって見える(写真撮影/片山貴博)

部屋の角、三角に暖炉を取り、その上に直角にミラーを天井まで貼ることで、万華鏡のように部屋が映りこみ、ズーと奥まで部屋が広がって見える(写真撮影/片山貴博)

2階の寝室は、1階の古民家風とは打って変わって洋館の雰囲気になっています。
部屋のドアとバスルームへのドアも、木製の開き戸。

左がバスルームへのドア、右が部屋のドア。対の小窓にも、天使!(写真撮影/片山貴博)

左がバスルームへのドア、右が部屋のドア。対の小窓にも、天使!(写真撮影/片山貴博)

天使とガラスが大好きなSさんがオーダーした、趣のある色彩がすてきなエッチングガラス(写真撮影/片山貴博)

天使とガラスが大好きなSさんがオーダーした、趣のある色彩がすてきなエッチングガラス(写真撮影/片山貴博)

バスルームには、洗面との壁にはめ込まれた大きなエッチングガラス(彫刻ガラス)の作品が!

エッチングガラスのデザインも空飛ぶ天使。洗面室の壁には寝室のシャンデリアと同じヴェネチアンガラスの、ブラケット照明(写真撮影/片山貴博)

エッチングガラスのデザインも空飛ぶ天使。洗面室の壁には寝室のシャンデリアと同じヴェネチアンガラスの、ブラケット照明(写真撮影/片山貴博)

天使が舞う魅惑の寝室空間でお話を聞いていると、何だか時空が歪むような感覚になってしまいました。
「天使にほほ笑まれて、ついつい欲しくなってしまってね(笑)」、好きなものに囲まれたSさんにとってはパワースポットのような家。

ふと、窓から外を見下ろすと……

2階寝室の眼下には、入母屋造りの緑青屋根が重なり、マンサクのピンクの花が広がっていた(写真撮影/片山貴博)

2階寝室の眼下には、入母屋造りの緑青屋根が重なり、マンサクのピンクの花が広がっていた(写真撮影/片山貴博)

この居間で、よく、お友達やご近所さんを招いてホームパーティーをしてくださるSさん邸。
「ボケ防止に、ここでマージャンをしたりね!」と、住生活の楽しみはますます広がっている様子。

テーブルは囲炉裏(いろり)も備え付けられ、冬に使う鉄瓶をつるしてみてくださった(写真撮影/片山貴博)

テーブルは囲炉裏(いろり)も備え付けられ、冬に使う鉄瓶をつるしてみてくださった(写真撮影/片山貴博)

今回じっくりお話を伺って、今まで気づかなかった家の細部に改めて魅了されました。
Sさんの趣味や旅、人との出会いで築いてこられた感性が、この家に集約されていて、住まいは人の鏡なのだと実感する取材でした。

トーヨーキッチンスタイル会長のセカンド・リビングがここに!? あの人のお宅拝見[8]番外編

今回お訪ねしたのは、デザイン・コンシャスな人に人気のブランド、トーヨーキッチンスタイルの渡辺会長。名古屋のご自宅ではなく番外編、「THE HOUSE」と呼ばれる名古屋ショールームのプライベートゾーン「THE ROOM」をご案内いただくことになった。その独自の世界観に彩られた空間で、驚きの“私物”コレクションも拝見しながら、渡辺さんのキッチン・デザインへの想いを伺った。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「天空のショールーム THE HOUSE」にある秘密の扉

名古屋市名東区一社にあるトーヨーキッチンスタイルの本社ショールームは、2014年創立80周年に合わせて増築されたもので既にランドマーク的な建築となっている。

何と取材2日前に、社長交代&会長就任の発表を行った渡辺さん。前日も東京での発表会、お疲れにもかかわらずお出迎えいただいた。

右の白い建物が増築部分。空に突き出すキューブが印象的な建築デザインは、本連載で自邸を取材した橋本夕紀夫氏(写真撮影/糠澤武敏)

右の白い建物が増築部分。空に突き出すキューブが印象的な建築デザインは、本連載で自邸を取材した橋本夕紀夫氏(写真撮影/糠澤武敏)

「いらっしゃい、どうぞ」。お宅では無いものの、渡辺さんにとっては自邸のようなものだ(写真撮影/糠澤武敏)

「いらっしゃい、どうぞ」。お宅では無いものの、渡辺さんにとっては自邸のようなものだ(写真撮影/糠澤武敏)

ちなみに、私は社長交代に驚いたのだが……「70歳、区切りも良い。社内では前から話しているから」と、発表直後にもかかわらずサラっとしている。

元気なうちに確実に継承するという、創業家オーナーだからこその潔い決断。やはり、サラリーマン社長との違いを感じる。

ショールームに入ると、いきなり『FREDERIQUE MORREL(フレデリック・モレル/フランス)』の実物大お馬さんに驚かされ、背後にはパワーストーンのシャンデリア。「あのシャンデリアの下に行くと浄化されるらしいよ(笑)」(写真撮影/糠澤武敏)

ショールームに入ると、いきなり『FREDERIQUE MORREL(フレデリック・モレル/フランス)』の実物大お馬さんに驚かされ、背後にはパワーストーンのシャンデリア。「あのシャンデリアの下に行くと浄化されるらしいよ(笑)」(写真撮影/糠澤武敏)

そしてエレベーターで5階に上がり、『Moooi(モーイ/オランダ)』のファニチャー&照明が展示されてある奥の壁へ……。

壁かと思ったら、「開け、ゴマ」!? 大きな自動ドアがスライドし……渡辺さんがプライベートゾーンに案内してくれた(写真撮影/糠澤武敏)

壁かと思ったら、「開け、ゴマ」!? 大きな自動ドアがスライドし……渡辺さんがプライベートゾーンに案内してくれた(写真撮影/糠澤武敏)

暗い扉の向こうは、眩い白の空間へと一転。この演出に「うわー!」と声を上げてしまうほどハマった私。ここが、招待されたお客様だけが入れる特別な部屋「THE ROOM」。

壁床一面を『SICIS(シチス/イタリア)』のモザイクタイルで覆い、『edra(エドラ/イタリア)』のチェアもスワロフスキー・バージョンで光り輝く。後ろのサボテンは『Gufram(グフラム/イタリア)』のコートハンガー(写真撮影/糠澤武敏)

壁床一面を『SICIS(シチス/イタリア)』のモザイクタイルで覆い、『edra(エドラ/イタリア)』のチェアもスワロフスキー・バージョンで光り輝く。後ろのサボテンは『Gufram(グフラム/イタリア)』のコートハンガー(写真撮影/糠澤武敏)

外観から見えた突き出したキューブに、お気に入りのコレクションが飾られている(写真撮影/糠澤武敏)

外観から見えた突き出したキューブに、お気に入りのコレクションが飾られている(写真撮影/糠澤武敏)

「THE ROOM」の中心に置かれた、大きなガラステーブルでお話を伺うことにした。

ガラステーブルと後ろにあるキッチンカウンター、壁のミラーと共に楕円の有機的なデザインが、未来的な空間に柔らかさを添える(写真撮影/糠澤武敏)

ガラステーブルと後ろにあるキッチンカウンター、壁のミラーと共に楕円の有機的なデザインが、未来的な空間に柔らかさを添える(写真撮影/糠澤武敏)

「キッチンに住む」から「『住む』をエンターテインメント」へ、時代を読む感性

「ここをつくるときも、皆をビックリさせたかった。昔から、あんまり常識的なことはしたく無いんだ」と、先代のお父様から27年前に会社を継がれ、ドラスティックに新事業を推進して来られた渡辺さんの集大成のような場所。

こちらが先代の渡辺三郎社長、「銅像にするより、モザイクタイル画のほうがオシャレでしょ」。SICISのモザイクタイルで写真から製作する商品@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

こちらが先代の渡辺三郎社長、「銅像にするより、モザイクタイル画のほうがオシャレでしょ」。SICISのモザイクタイルで写真から製作する商品@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

「30年前の日本では、キッチンなんてどこも同じようなものしか無かった。建材・設備は問屋などの流通ありきのビジネスで、エンドユーザーから遠かったからね」

後に青山というオシャレ感度の高いファッションの街にショールームを出した、初のキッチン・インテリア会社となる。エンドユーザーに直接評価されたいという想いからだ。

「20代で会社に入ったころ、まだ先先代からの番頭さんたちも居て自分の居場所は無かった」と、当時を振り返る(写真撮影/糠澤武敏)

「20代で会社に入ったころ、まだ先先代からの番頭さんたちも居て自分の居場所は無かった」と、当時を振り返る(写真撮影/糠澤武敏)

「それを良いことに、ヨーロッパをプラプラ放浪していたんだけど、北欧からフランス、イタリアとキッチンや暮らしを見て回った経験が今につながってる」

特に、イタリアで見たキッチン・デザインや、家族が一緒に料理をして楽しんでいるそのライフスタイルに共感を覚えたそう。ミラノ事務所をつくって、イタリアキッチンや暮らしの研究が始まった。

10年以上前に打ち出された「キッチンに住む」というコンセプトも、家族の暮らしの中心がキッチンであるべきというライフスタイルの提案。それを実現するのが、日本で初の”アイランドキッチン”という形だった。

アイランドキッチンの挑戦。2004年にはイタリアの展示会アビターレ・イル・テンポで、オールハンドメイドによるステンレスキッチン「ISOLA.S」(伊藤節氏・伊藤志信氏デザイン)を発表@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

アイランドキッチンの挑戦。2004年にはイタリアの展示会アビターレ・イル・テンポで、オールハンドメイドによるステンレスキッチン「ISOLA.S」(伊藤節氏・伊藤志信氏デザイン)を発表@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

このキッチン「ISOLA.S」が世界の注目を浴びたことによって、ドイツの世界的デザイン賞iFデザイン賞の審査員を務めることにもなったのだそう!

キッチン・デザインをリードしてきた創立80周年の2014年には、「『住む』をエンターテインメント」という新たなコンセプトを打ち出した。

料理という作業を友達や家族と一緒に楽しみながら行い、食事や生活を愉しむというライフスタイル。「住空間、暮らし自体をエンターテインメントにしたい」――昔渡辺さんが見た、イタリアの豊かな生活が日本にも広がりつつあるようだ。

提案をキッチンからリビング、バス・サニタリーまで空間を広げ、『Kartell(カルテル/イタリア)』『moooi(モーイ/オランダ)』という有名家具ブランドの日本代理店として家具を本格的に販売。トータルコーディネートできる体制を整えた。
トーヨーキッチンスタイルと、社名に”スタイル”を入れた想いが社員やお客さんにも伝わってゆく。

「THE ROOM」の椅子、よく見るとトーヨーキッチンスタイルの会社ロゴがモチーフになっている!(写真撮影/糠澤武敏)

「THE ROOM」の椅子、よく見るとトーヨーキッチンスタイルの会社ロゴがモチーフになっている!(写真撮影/糠澤武敏)

お宝が続々! 世界を回って集めたインテリア・コレクション拝見

この「THE ROOM」には、渡辺さんお気に入りのコレクションの数々が収蔵、キューブのショーケースに飾られている。
残念ながら、著作権に触れそうなキャラクターの写真はお見せできませんが……。

1階の馬と同じブランド『FREDERIQUE MORREL』の希少な特注アームチェアが、特等席に鎮座。

ニードルポイント刺繍のフランス人アーティスト、フレデリックさんが家具はつくらないと言うところを「頼み込んでやっとつくってもらったんだ、彼女の家にも行ったよ」ファンが聞いたら卒倒しそうな話(写真撮影/糠澤武敏)

ニードルポイント刺繍のフランス人アーティスト、フレデリックさんが家具はつくらないと言うところを「頼み込んでやっとつくってもらったんだ、彼女の家にも行ったよ」ファンが聞いたら卒倒しそうな話(写真撮影/糠澤武敏)

こちらは、オランダのStudio Job(スタジオ・ヨブ)がデザインしたキャビネット(moooi社)。

『GLOBE』(世界限定50台)という作品名のとおり、真ん中は地球儀(写真は太平洋しか写って無いけど)。“世界を旅する人がお土産を収納するために”とデザインされた作品。渡辺さんにピッタリ(写真撮影/糠澤武敏)

『GLOBE』(世界限定50台)という作品名のとおり、真ん中は地球儀(写真は太平洋しか写って無いけど)。“世界を旅する人がお土産を収納するために”とデザインされた作品。渡辺さんにピッタリ(写真撮影/糠澤武敏)

そして驚かされたのは、その中に入っていたお品……。
世界的建築家フランク・ゲーリーがデザインしたルイ・ヴィトンのバッグが出てきた!

パリのルイ・ヴィトン財団美術館を設計したフランク・ゲーリー、バッグまでデザインしたんだ!? 超驚き。「使わないけど、面白くって欲しくなるんだよね」建築つながりなので、その気持ち分かります(写真撮影/糠澤武敏)

パリのルイ・ヴィトン財団美術館を設計したフランク・ゲーリー、バッグまでデザインしたんだ!? 超驚き。「使わないけど、面白くって欲しくなるんだよね」建築つながりなので、その気持ち分かります(写真撮影/糠澤武敏)

そして圧巻は、チェコのボヘミアンクリスタルブランド『BOREK SIPEK(ボジェック・シーペック)』のベンチ。日本の天皇陛下にも作品が献上された、チェコを代表する工芸品。

「座ってみてよ」と、渡辺さんに勧められ……

ボヘミアンクリスタルガラスの椅子、これも当然一点物。価値の分からない私ですが、なんだかお尻が緊張!(写真撮影/糠澤武敏)

ボヘミアンクリスタルガラスの椅子、これも当然一点物。価値の分からない私ですが、なんだかお尻が緊張!(写真撮影/糠澤武敏)

このほか、誰でも入れるショールームのギャラリーにも必見のコレクションが並ぶ。

『MEMPHIS (メンフィス)』エットーレ・ソットサス作品のオリジナル@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

『MEMPHIS (メンフィス)』エットーレ・ソットサス作品のオリジナル@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

芸術家たちがデザインした椅子も。サルバドール・ダリ(左)とアントニ・ガウディ(右)の椅子@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

芸術家たちがデザインした椅子も。サルバドール・ダリ(左)とアントニ・ガウディ(右)の椅子@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

アートとプロダクトの間に存在するものが集められ、次の100年に向けた渡辺会長の構想が詰まったショールームになっています。

天空に、秘密の花園が出現?

渡辺さんの秘蔵コレクションに圧倒されたところで
「じゃ、ちょっと上にも行ってみようよ」と、エレベーターで「THE HOUSE」の最上階へ。
降りた床にモザイクタイルで書かれた「JARDIN SECRET(ジャルダン・スクレ)」、フランス語で“秘密の花園”。

「JARDIN SECRET(ジャルダン・スクレ)」命名したのは、フランス語も堪能な渡辺会長のお嬢様(トーヨーキッチンスタイル取締役)(写真撮影/糠澤武敏)

「JARDIN SECRET(ジャルダン・スクレ)」命名したのは、フランス語も堪能な渡辺会長のお嬢様(トーヨーキッチンスタイル取締役)(写真撮影/糠澤武敏)

そこは、屋上庭園。ガラスウォールで囲まれた気持ちの良いアウトドア空間になっていた。

床はSICIS社の大理石のモザイクが敷きつめられ、冬場暖をとるヒーターも完備。BBQをして愉しんだりもするそう(写真撮影/糠澤武敏)

床はSICIS社の大理石のモザイクが敷きつめられ、冬場暖をとるヒーターも完備。BBQをして愉しんだりもするそう(写真撮影/糠澤武敏)

庭の中央には井戸。植栽や鉢の選定は渡辺夫人がご担当。フルーツ系・ハーブ系のゾーンに分かれている(写真撮影/糠澤武敏)

庭の中央には井戸。植栽や鉢の選定は渡辺夫人がご担当。フルーツ系・ハーブ系のゾーンに分かれている(写真撮影/糠澤武敏)

「この木は花の一つひとつがLED照明になっていて、夜に光の花がたくさん咲くよ」、『花鳥風月』という名のトーヨーキッチンスタイルの照明商品(写真撮影/糠澤武敏)

「この木は花の一つひとつがLED照明になっていて、夜に光の花がたくさん咲くよ」、『花鳥風月』という名のトーヨーキッチンスタイルの照明商品(写真撮影/糠澤武敏)

ここでも、驚きの渡辺コレクション発見!

イタリアデザイン界の巨匠、Gio Ponti(ジオ・ポンティ)作の噴水。顔が描かれ、青い部分が口で噴水になっている(写真撮影/糠澤武敏)

イタリアデザイン界の巨匠、Gio Ponti(ジオ・ポンティ)作の噴水。顔が描かれ、青い部分が口で噴水になっている(写真撮影/糠澤武敏)

「とにかく、たくさん見ること」経験がセンスを研ぎ澄ます

渡辺さんのデザイン・センスや本物を見つける目利きには、いつも驚かされる。その極意は?

「若いうちから、インテリアなら家具のショールームや住宅のモデルハウス、知人宅なんかもたくさん見ることだね。すると『何でこうなっているんだろう?』とか疑問をもつようにもなるし、自分でもやってみようという感性が育つと思うよ」

ご自身も大学時代、アメリカ留学をしたころに見た成功者たちの豪邸が、記憶に強く刻まれていると。「テレビドラマの『サンセット77』を見て、アメリカのライフスタイルに憧れたりもしたね」(写真撮影/糠澤武敏)

ご自身も大学時代、アメリカ留学をしたころに見た成功者たちの豪邸が、記憶に強く刻まれていると。「テレビドラマの『サンセット77』を見て、アメリカのライフスタイルに憧れたりもしたね」(写真撮影/糠澤武敏)

ところで、ご自宅は10数年前に建築されたが「趣味は引越し」というくらい、お住まいは結構変わってきたのだそう。

「元々、放浪癖があるんだよ。実は、3歳の時に一人で三輪車こいでいなくなったらしい(笑)。それ以来だね」

“おいしい”と噂を聞けば、世界中を駆け回る渡辺さん。

「でも食は日本が一番、味覚の感性が違うよ」だからこそ、キッチンへのこだわりも、日本人が世界一であるべきと感じておられる。

「THE ROOM」のキッチン背面には壁一面のワインセラー。ワイン350本は収容できる、まるでお店のよう。

「ワイン収集を始めたのはここ10年、後発なので皆があまりそろえていないアメリカものを集めたりしてる」(写真撮影/糠澤武敏)

「ワイン収集を始めたのはここ10年、後発なので皆があまりそろえていないアメリカものを集めたりしてる」(写真撮影/糠澤武敏)

と言いながら、私が好きなシャンパンを仕事終わりに開けてくださった。

70歳とは思えないスタイリッシュないでたちで、知識欲と活動はとどまるところを知らず(写真撮影/糠澤武敏)

70歳とは思えないスタイリッシュないでたちで、知識欲と活動はとどまるところを知らず(写真撮影/糠澤武敏)

今年のミラノ・サローネは何に注目しているかと尋ねたら、
「インテリアとトップファッションのコラボレーションに注目しています。今年はカルテルがJJマーティンとコラボをするようなので楽しみですね」
とのこと(取材はミラノサローネ開催前)。

会長となって今後は自由な時間もできるとすれば、まだ見ぬ世界への探究心は衰えるどころか、放浪癖がまた出てきそうなお話ぶりだった。

●取材協力
渡辺 孝雄
株式会社トーヨーキッチンスタイル代表取締役会長。1948年生まれ、米ウィッテンバーグ大学卒業。祖父が1934年岐阜県関市に金属洋食器メーカーを創業、トーヨー工業2代目の父に継ぐ3代目として1991年トーヨーキッチン(現トーヨーキッチンスタイル)社長に就任。「キッチンに住む」を提唱するなどキッチンの概念を変えるプロダクトを発表し続け、インテリアやファッションにも事業を拡大。世界のアート&グルメに精通、独自の美的センスでライフスタイルを提案する目利き。今年2018年3月、会長に就任。
・トーヨーキッチンスタイル ホームページ

あの人のお宅拝見[7] ガーデ二ング誌の編集者が家族と造り上げた、庭を愉しむ住まい

住宅業界のプレス発表会には、いつもすてきないでたちでいらした大先輩・横山禎子(ていこ)さん。昨年、71歳でガーデニング誌『BEISE(ビズ)』編集者としての現役を引退されたと聞き、念願のご自宅への訪問がかなった筆者。子育てと仕事を⻑年両立してきた、横山さんの興味深い半生記もお伺いすることができました。連載【あの人のお宅拝見】
『月刊 HOUSING』元編集⻑など住宅業界にかかわって四半世紀以上のジャーナリストVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。庭を愛する人は、家のクオリティにも妥協がない

横山さんのお住まいがあるのは東京都下町田市の緑が残る山の手住宅地。門扉からも階段が続く高台立地。

【画像1】取材当日は秋景色。花が終わっていたので、後日送っていただいた夏の写真が右。アガパンサスの⻘い花が両脇に(写真撮影/(左)片山貴博・(右)横山さん)

【画像1】取材当日は秋景色。花が終わっていたので、後日送っていただいた夏の写真が右。アガパンサスの⻘い花が両脇に(写真撮影/(左)片山貴博・(右)横山さん)

【画像2】タイル張り外壁に上げ下げ窓(米国マービン社製)、瀟洒(しょうしゃ)な外灯、趣のあるテラコッタ製ベンチ……と、期待値が上がるエントランス(写真撮影/片山貴博)

【画像2】タイル張り外壁に上げ下げ窓(米国マービン社製)、瀟洒(しょうしゃ)な外灯、趣のあるテラコッタ製ベンチ……と、期待値が上がるエントランス(写真撮影/片山貴博)

そして、迎えられた玄関の迫力に圧倒された!

昨今、一戸建て住宅なのにマンションのようなシングルドアの玄関が多いことを残念に思う筆者としては、この両開きの扉を見て「流石、横山さん!」と感激。家に想いがある人かどうかは、玄関に表れるもの。

【画像3】オークむく材、両開きのフレンチドアは米国製。開閉時の音に重厚感があるのは高級車と同じ感覚(写真撮影/片山貴博)

【画像3】オークむく材、両開きのフレンチドアは米国製。開閉時の音に重厚感があるのは高級車と同じ感覚(写真撮影/片山貴博)

玄関を入ると、2階への吹抜け階段とステンドグラスのリビングドアから陽が入り、明るいホールになっていました。

【画像4】亡き夫、版画家・横山皓一氏の作品がエントランスホールでお出迎え(写真撮影/片山貴博)

【画像4】亡き夫、版画家・横山皓一氏の作品がエントランスホールでお出迎え(写真撮影/片山貴博)

リビングドアの先に広がっていたのは、構造梁(はり)を見せた木質感たっぷりのリビング&ダイニング。大きな植物が豊かなインドア・ガーデンと、大きな出窓の向こうにはお庭の緑も見えます。

【画像5】ケヤキの大黒柱が中央に。煖炉も備え付けられ、ノスタルジックなインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像5】ケヤキの大黒柱が中央に。煖炉も備え付けられ、ノスタルジックなインテリア(写真撮影/片山貴博)

横山さんのお気に入り、窓辺の庭が眺められる特等席でお話を伺いました。

版画家のご主人がアトリエを拡張したい時期でもあった二十数年前、この家の建築を計画されたそう。「夫は建築が好きだったし、建材・設備選びは洋書などからアイデアを集めてね。庭もほとんど自分たちの手で造り上げたの」

【画像6】「この家は21年前、50歳のころに建てたの。実は29歳のときに最初の家を建ててうまく売れて(笑) 、2度目の家づくりだから、夫と2人で相当こだわりましたよ」(写真撮影/片山貴博)

【画像6】「この家は21年前、50歳のころに建てたの。実は29歳のときに最初の家を建ててうまく売れて(笑) 、2度目の家づくりだから、夫と2人で相当こだわりましたよ」(写真撮影/片山貴博)

【画像7】「大きな植物を育てるために、吹抜けをつくったの」と横山さん。インドア・ガーデンで、ケンチャヤシがすくすくと3m以上に育っている(写真撮影/片山貴博)

【画像7】「大きな植物を育てるために、吹抜けをつくったの」と横山さん。インドア・ガーデンで、ケンチャヤシがすくすくと3m以上に育っている(写真撮影/片山貴博)

植物のために設計するなんて、ガーデニング誌の編集者らしいと思いきや、「ここは『BISES』の編集部に入る前なの。元々、私はファッション誌の編集から始まってね……」と、私の知らなかった横山さんのキャリア話。

50 年近く前、女性の就職先など選べる時代では無かったころ。「私は最初から雑誌の編集がやりたくて、やっとの思いで就職できたのが『服装』というファッション誌の編集部。当時の出版社は徹夜なんて当たり前で、結婚するか仕事するかの選択だったわね」

そんな時代に、「人生、何事も楽しみたいと思って」結婚・出産と仕事を両立してきた横山さん。「でもさすがに、徹夜仕事と子育ては無理なので退職しました」

その子育て中、子どもとの庭いじりで精神的安らぎを得られた経験も次のキャリアにつながったのだそう。「子育てママ向けの『sesame(セサミ)』という雑誌が創刊され、ママの居ない編集部からお声がかかって」5時までの実質契約社員として出版社に復帰、ママとしての読者視点で企画を実現していったそうです。

子育て後にはがんも経験し、ガーデニングの世界へ没頭

お話しの続きは、お庭に出て伺うことにした。

【画像8】花は少ないなか、紅葉が進み始めたお庭。⻩色のオーニング(可動式の日よけ)はオランダ製、夏にはテラス全体を日陰にすることもできる(写真撮影/片山貴博)

【画像8】花は少ないなか、紅葉が進み始めたお庭。⻩色のオーニング(可動式の日よけ)はオランダ製、夏にはテラス全体を日陰にすることもできる(写真撮影/片山貴博)

「この家を建てた50歳のころ、がんが発覚して手術入院したのね。だけど、病院からFAXで原稿のやり取りをしていたわ(笑) 凄いわよね!」とさらりと話され、面食らった筆者……既に20年経過し、完治したそうで何より。

ちょうど、同じ出版社から創刊されて注目していたガーデニング誌『BISSE』。「今だからこそやりたいのは、これだ!」と、横山さんは編集⻑に手紙を書き、以来20年間、編集⻑の片腕として日本のガーデニング文化を担われてきました。

【画像9】ガーデン・ファニチャーを置いてくつろげるお庭は、正にアウトドア・リビング(写真撮影/片山貴博)

【画像9】ガーデン・ファニチャーを置いてくつろげるお庭は、正にアウトドア・リビング(写真撮影/片山貴博)

「雑誌をつくるときは、自分なら何を見たいか?って考えると、次々にやりたいテーマが出てきてね。またそれを家で実践して楽しんでたの」。自分が好きな事だから良い仕事ができて、結果、⻑く続けられるという好例ですね。

「この石畳(【画像10】)も、基礎の砂利から自分たちでやったのよ。夫が指示するように、私と息子が動いてね」

【画像10】素人仕事には見えない石畳。自然に生えたコケが雰囲気ある小径(こみち)、庭の奥へと続く(写真撮影/片山貴博)。右写真は夏、アジサイの一種ノリウツギが咲いている写真(横山さん撮影)

【画像10】素人仕事には見えない石畳。自然に生えたコケが雰囲気ある小径(こみち)、庭の奥へと続く(写真撮影/片山貴博)。右写真は夏、アジサイの一種ノリウツギが咲いている写真(横山さん撮影)

ガーデ二ング取材の経験は、自邸で随所に活かされていて見どころが満載。

【画像11】「庭は外の街並みとの調和も大切なので、できるだけ日本の樹木を植えています」(写真撮影/片山貴博)

【画像11】「庭は外の街並みとの調和も大切なので、できるだけ日本の樹木を植えています」(写真撮影/片山貴博)

【画像12】英国っぽい小物やバードバス、ガーデン愛好家なら「いいね!」したくなるさり気なさ(写真撮影/片山貴博)

【画像12】英国っぽい小物やバードバス、ガーデン愛好家なら「いいね!」したくなるさり気なさ(写真撮影/片山貴博)

【画像13】「夫はお昼から、ここでビールを愉しんだりして……創作活動は室内にこもるから、庭で季節を感じ ることは彼にとって大切だったのね」と、思い出を語ってくれた(写真撮影/片山貴博)

【画像13】「夫はお昼から、ここでビールを愉しんだりして……創作活動は室内にこもるから、庭で季節を感じ ることは彼にとって大切だったのね」と、思い出を語ってくれた(写真撮影/片山貴博)

「田舎風が好きなの」 こだわりのキッチンはフレンチ・カントリー

お庭を見て回り、お部屋に戻ると「こちらで休憩してちょうだい」と、庭に面したダイニングへ案内してくださった。

【画像14】木製家具の温かみあるダイニング&キッチン(写真撮影/片山貴博)

【画像14】木製家具の温かみあるダイニング&キッチン(写真撮影/片山貴博)

カウンターの向こうに見えるのは、コの字型の広いキッチン。「キッチンはタイル張りにしたかったの。大好きなアルハンブラ宮殿からインスピレーションを受けた“ブルー&イエロー”がテーマカラーです」

【画像15】タイル(フランス製)と調理器具や小物も“ブルー&イエロー”でそろえられてすてき!(写真撮影/片山貴博)

【画像15】タイル(フランス製)と調理器具や小物も“ブルー&イエロー”でそろえられてすてき!(写真撮影/片山貴博)

【画像16】水栓はオリュス社(フランス)のクラッシックデザイン。珍しいカラーシンクと共にフレンチ・カントリーなテイスト(写真撮影/片山貴博)

【画像16】水栓はオリュス社(フランス)のクラッシックデザイン。珍しいカラーシンクと共にフレンチ・カントリーなテイスト(写真撮影/片山貴博)

【画像17】洗面サニタリーでは、キッチンと同じタイルを大判のタイルと組み合わせたデザインに(写真撮影/片山貴博)

【画像17】洗面サニタリーでは、キッチンと同じタイルを大判のタイルと組み合わせたデザインに(写真撮影/片山貴博)

子育てと忙しい編集の仕事をもちながら「原稿を家に持ち帰ってでも、夕食は家族と共にしていました」と横山さん。このキッチンを見れば、庭づくりだけでなくお料理も相当お上手なのが分かります。

【画像18】キッチンでコーヒーを入れながら、こだわって選んだキッチンの建材についても興味深いお話が(写真撮影/片山貴博)

【画像18】キッチンでコーヒーを入れながら、こだわって選んだキッチンの建材についても興味深いお話が(写真撮影/片山貴博)

キッチン天板は御影石。「天然石なので食器を落としたら割れるのよ。だから優しく扱わないといけないの、粗雑な私が治っていいのよね」。そういう考え方、筆者は共感するところ! 余りにも簡単で便利で安くなり過ぎると、物の扱いが雑になるんですよね。

しばらく話していると、「私はおやつに甘いケーキより、こんなキッシュのほうが好きなの」と、オリーブを添えて運んでくださった。

【画像19】気候が良いときは、お庭のテーブルで休憩されるそう。お茶でなく、「ホットワインが好きでね」と横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像19】気候が良いときは、お庭のテーブルで休憩されるそう。お茶でなく、「ホットワインが好きでね」と横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像20】温かいホットワインをキッシュと共にいただき、身も心も温まって幸せ満開の筆者!(写真撮影/片山貴博)

【画像20】温かいホットワインをキッシュと共にいただき、身も心も温まって幸せ満開の筆者!(写真撮影/片山貴博)

落ち着いたインテリアの中、バイオリンのクラシック音楽と共に聞こえていたのは、水槽の優しく心地良い水の音。

【画像21】ご家族写真の下にある水槽。「夫が家での時間が⻑いから、何か生き物が居ると良いと思って飼った熱帯魚なの」(写真撮影/片山貴博)

【画像21】ご家族写真の下にある水槽。「夫が家での時間が⻑いから、何か生き物が居ると良いと思って飼った熱帯魚なの」(写真撮影/片山貴博)

お話の随所で亡きご主人との思い出話が出てきて、まだその存在も感じられるお住まいでした。お二人で丹精こめて造り上げた家と庭、文字通り素晴らしい“家庭”を築かれた横山さんのお話に感動しきり。

【画像22】Quality of Life、豊かな住生活を営むお手本の横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像22】Quality of Life、豊かな住生活を営むお手本の横山さん(写真撮影/片山貴博)

20代から50代の好奇心と行動力で走り切った半生と、今70代で新たなステージを歩み始めた横山さんのこれからを、ロールモデルとして私は追いかけて行きたいと思いました。

横山禎子
1946年愛媛生まれ。婦人生活社で『服装』『sesame』など雜誌編集者として第一線で活躍。23歳で結婚。『sesame』では子育てママの実体験を通じた読者視点の企画が好評を博す。50歳でガーデニング誌『BISES』(2017年1月発行号にて休刊)の編集に加わり20年間、庭のあるライフスタイルの魅力を提案し日本のガーデニング市場を牽引してきた。現在は地元で里山の保全やフットパスのNPO活動、山歩きなどを楽しむ。

あの人のお宅拝見[6] 料理研究家・有元葉子邸、建築家の娘がリノベーションで実現したキッチン・オリエンテッドな住まい

お料理だけでなく、その洗練されたライフスタイルに多くの女性ファンを持つ、料理研究家の有元葉子さん。筆者もその一人だが、実は有元さんの長女・このみさんとは10年前に地元の活動で知り合っていた。当初は有元さんの娘さんとは知らず、建築家・八木このみさんの柔らかな物腰に惹かれ親しくなった。

今回、取材の依頼を快く受けてくださったこのみさん。母上の料理研究家・有元葉子さんはイタリアの家に滞在中でご不在だったが、自身が手掛けられた母上宅のリノベーションを案内いただきながら、ゆっくりお話を伺うことができた。

連載【あの人のお宅拝見】
住宅業界にかかわり四半世紀以上のジャーナリストVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。築30年のマンションをフルリノベーション

5年ほど前に、自分らしい住まいにしたいと新たな家探しを始めた有元葉子さん。建築家である娘のこのみさんと共に選んだのが、こちらのマンション。築30年ほどですが、全室に窓があり、その窓から豊かな緑が臨める環境が決め手だったそう。

玄関ドアを開けると、正面に大きな出窓のあるホールに圧倒された。マンションでここまで広く、明るい玄関ホールは初めて!

【画像1】玄関の床壁、廊下をモルタル仕上げで一体化したシンプルで都会的なデザイン。窓の日差しがあるので、冷たく感じない(写真撮影/片山貴博)

【画像1】玄関の床壁、廊下をモルタル仕上げで一体化したシンプルで都会的なデザイン。窓の日差しがあるので、冷たく感じない(写真撮影/片山貴博)

【画像2】玄関で左右に居室が分かれる間取り、入って右手(写真奥)が寝室などプライベートゾーン。木製フローリングで、扉が無くても視覚的に境界だと分かる。3LDKから1LDK+Nへのリノベーション(写真撮影/片山貴博)

【画像2】玄関で左右に居室が分かれる間取り、入って右手(写真奥)が寝室などプライベートゾーン。木製フローリングで、扉が無くても視覚的に境界だと分かる。3LDKから1LDK+Nへのリノベーション(写真撮影/片山貴博)

【画像3】玄関を入って左手、キッチン・リビングなどのパブリックゾーンに続く床は、玄関と同じモルタル仕上げでシームレスに。鏡を天井高まで貼り奥行きを演出(写真撮影/片山貴博)

【画像3】玄関を入って左手、キッチン・リビングなどのパブリックゾーンに続く床は、玄関と同じモルタル仕上げでシームレスに。鏡を天井高まで貼り奥行きを演出(写真撮影/片山貴博)

このみさんに、施主である母上の要望や住まいへの想いを聞いてみた。

「実は私が母の家を設計するのは、ここが2軒目なの。最初は長野県の別荘、その時は『白黒、モノトーンの家にしたい』という要望でした」

【画像4】15年前に長野県野尻湖の母上の別荘を設計、斬新な形状で海外の本にも紹介。その写真を見せてくれた、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像4】15年前に長野県野尻湖の母上の別荘を設計、斬新な形状で海外の本にも紹介。その写真を見せてくれた、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像5】傾斜地の等高線に沿って建物を設計。外観が山並みに調和すると共に、室内にも木々が自然と入り込む。母・葉子さんの要望通り、モノトーンのシャープな空間(写真撮影/繁田 論)

【画像5】傾斜地の等高線に沿って建物を設計。外観が山並みに調和すると共に、室内にも木々が自然と入り込む。母・葉子さんの要望通り、モノトーンのシャープな空間(写真撮影/繁田 論)

「今回は、日本の素材をできるだけ使ってほしいと言われました。デザイン的には別荘とは違って、自宅として心地よいものに。母は私と違って“甘いモノ”が好きなんですよ」と、“甘い”とはデザイン・テイストのことで、レースなど乙女チックなかわいい系らしい。私も年々、“甘いモノ”好きになってるんだなぁ……。

「心底好きだった」実家の住空間が原風景

有元さんは、娘3姉妹が成長してから料理研究家としてメディアでも有名になった方。子育て中はどんなお母様だったのでしょう?

「小さいころから母は人を家に招いて、お料理を振る舞うのが好きでした。私たち娘には『料理は、しっかり食べて舌で覚えれば良い』という教えで、結婚して必要に迫られるまで母は特に教えようとしたり、手伝わせることもなかったんですよ」

このみさんの学生時代、母上がつくるお弁当は友達から注目の的で、わざわざ教室まで見に来る人たちがいたようです。既に料理研究家の片鱗がうかがえるお話。

「キッチンであれこれ試しながら研究している母の姿は楽しそうで、私たち姉妹も自然と料理好きにはなりました」

【画像6】「食べることは全ての基本。しっかり食べないと、体だけでなく心も育たないですよね」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

【画像6】「食べることは全ての基本。しっかり食べないと、体だけでなく心も育たないですよね」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

そのかわり、厳しく言われていたのは「片付け」だそう。「母は新聞の朝刊を読んだら、すぐに古紙置場へ片付けるような人。物は増やさない、ためないがポリシーです」。なるほど、こちらのお宅はショールームのように片付いていたのですが、それが有元家の日常のようです。

そんな、食べることを大切にして育ったこのみさんが設計する家は、キッチンが中心にあるキッチン・オリエンテッドな家。

「その家の一番良い場所を、キッチンにするプランニングを提案しています」

【画像7】大きな窓に面した明るいキッチン、タイル張りのL字型&木製のアイランド。天井板を取って配管を出した形で天井を高くした(写真撮影/片山貴博)

【画像7】大きな窓に面した明るいキッチン、タイル張りのL字型&木製のアイランド。天井板を取って配管を出した形で天井を高くした(写真撮影/片山貴博)

カスタムメイドのアイランドキッチン(オーク材)は、キャスター付きの可動式。これは、母上の料理教室スタジオで採用し好評だったので同じ機能にしたもの。人が集まるときにはレイアウトを変えられる、便利なモバイルキッチン。

「キッチンのキャビネット収納は、引出し型でなく[扉+内引出し]を私は提案しています」。引出し型より、取り出しやすく収納力もあるからだそう。内引出しはドイツ製の頑丈なステンレス製レール。

【画像8】扉の中はスライド式の可動棚。『ラバーゼ』ブランドで料理道具をデザイン監修している有元さんのキッチンには、当然ボウルから水切りかごまで『ラバーゼ』が勢ぞろい!(写真撮影/片山貴博)

【画像8】扉の中はスライド式の可動棚。『ラバーゼ』ブランドで料理道具をデザイン監修している有元さんのキッチンには、当然ボウルから水切りかごまで『ラバーゼ』が勢ぞろい!(写真撮影/片山貴博)

【画像9】「日本は料理道具が多いので、きっちり片付けられるようプランニングします」(写真撮影/片山貴博)

【画像9】「日本は料理道具が多いので、きっちり片付けられるようプランニングします」(写真撮影/片山貴博)

ドイツの老舗GAGGENAU社のガスコンロ。アイランドにはIHコンロと鉄板焼プレートもビルトイン。

【画像10】プロ仕様のコンロをタイルのカウンタートップに収め、ノスタルジックで懐かしいデザインに仕上げたキッチン。このみさんの言う“甘い”テイスト、私は大好き!(写真撮影/片山貴博)

【画像10】プロ仕様のコンロをタイルのカウンタートップに収め、ノスタルジックで懐かしいデザインに仕上げたキッチン。このみさんの言う“甘い”テイスト、私は大好き!(写真撮影/片山貴博)

「タイル張りのカウンタートップは雰囲気が良いだけでなく、意外と使いやすいですよ。最近のタイル目地は進化していて防汚機能も高くなっています」。有元邸では、L字で窓辺のカウンターまでタイルを張り、一体で質感のあるインテリア空間に仕上げている。

飾るものでなく、実用的なものが好きな母

キッチン上部はオープンシェルフ、籠(かご)のコレクションが印象的。

【画像11】「籠は、その土地ごとの素材でつくられたものが必ずどこにでもあるので、集めるのが好きみたいです」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

【画像11】「籠は、その土地ごとの素材でつくられたものが必ずどこにでもあるので、集めるのが好きみたいです」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

「でもね、これ飾りじゃなくて日常使っているもので。こんな使い方もしていて……」と言って、取り出してくれた籠の中には……「ゴム手袋が入っているの(笑)」

【画像12】布巾とかスポンジなどが籠に収納されている。単なる紐も、こんな風にするとインテリア小物のよう(写真撮影/片山貴博)

【画像12】布巾とかスポンジなどが籠に収納されている。単なる紐も、こんな風にするとインテリア小物のよう(写真撮影/片山貴博)

籠コレクションかと思いきや、片付けの達人らしいなんとも実用的なデコレーション。ぜひ、マネしたいアイデアです。

【画像13】籠は国内も地方によって特徴があるし、海外からでも軽いから持ち帰りやすいお土産。これぞ、暮らしの達人!(写真撮影/片山貴博)

【画像13】籠は国内も地方によって特徴があるし、海外からでも軽いから持ち帰りやすいお土産。これぞ、暮らしの達人!(写真撮影/片山貴博)

キッチンからワンルームでつながるオープンな空間は、ダイニング・リビング的な場所。中央には「母が、いつか欲しいと思っていた」著名な木工作家ジョージ・ナカシマ(米国)のラウンドテーブル。日本では香川県の桜製作所でつくられているもの。

【画像14】モルタル床に分厚いブラックウォールナット製テーブル、藤を編んだような紙パルプ製チェアにガラスのペンダント照明と、マテリアル・ミックスをこなした大人のインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像14】モルタル床に分厚いブラックウォールナット製テーブル、藤を編んだような紙パルプ製チェアにガラスのペンダント照明と、マテリアル・ミックスをこなした大人のインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像15】「この迫力あるテーブルに、パステルカラーのチェアを合わせるところが“甘いモノ”好きな母っぽい。私にはこの組み合わせは思いつきませんね(笑)」と、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像15】「この迫力あるテーブルに、パステルカラーのチェアを合わせるところが“甘いモノ”好きな母っぽい。私にはこの組み合わせは思いつきませんね(笑)」と、このみさん(写真撮影/片山貴博)

クールなデザインが好きなこのみさんに対し、私を含めた有元ファンは「この女性らしいヌケ感」に惹かれるのであります。

有元家のルール「おせちづくりは、全員集合!」

二児の母でもあるこのみさんは、夫と主宰する建築事務所の建築家であり経営者。自分のことだけで一杯一杯な筆者から見ると、さぞや忙しそうで、寝込んだりしないのかと心配しますが「母こそ今だに、国内外を飛びまわって大丈夫かしらと(笑)私も好きな仕事に没頭するのは、母譲りなんでしょうね」と笑います。

【画像16】「子どものころから母は、『仕事は一生続けなさい』と言っていたの」その言葉通りこのみさんは、子育てをしながら建築の仕事を続けてきた(写真撮影/片山貴博)

【画像16】「子どものころから母は、『仕事は一生続けなさい』と言っていたの」その言葉通りこのみさんは、子育てをしながら建築の仕事を続けてきた(写真撮影/片山貴博)

「母が仕事を始めたころは、どんな仕事も断らず引き受けて頑張っている姿を見てきました。子どものために必死だったと思います。今、自分も子どもを持ち『母は立派だったなぁ』と改めて実感します」

まだまだ現役でご活躍の母・葉子さんは、独立した娘達ファミリーと顔を合わす機会も少なくなりがち。「ここ10年くらい年末のおせちづくりは家族全員、絶対参加という暗黙の厳しいルールがあるんです(笑)」

年末の数日間、家族総出でキッチンに立ち手間暇をかけてつくるおせち料理。

【画像17】出来上がった25品目にも及ぶおせち料理!八木家では、浅めの漆塗りのお重に詰める(写真提供/八木このみさん)

【画像17】出来上がった25品目にも及ぶおせち料理!八木家では、浅めの漆塗りのお重に詰める(写真提供/八木このみさん)

その充実したおせち料理は『有元家のおせち作り』という本にも収められていますが、『おせちづくりには日本料理の基本が全て入っているから、年に一度、皆でつくるのは大事なこと』という母上の想いがあるという。それだけでなく、作業の合間に出されるまかない料理が充実していて、男子の孫たちもそれを楽しみに参加するそう。流石、料理研究家。孫の代まで胃袋つかんでマス。

今回の有元邸を訪問しこのみさんのお話を伺って、母・有元葉子さんが娘たちに伝えたいことが、このおせちづくりの“時と場”に集約されているように思えました。

食を通じて人をつくる素晴らしさを伝える母、それを実現するキッチンを設計するのが娘なんて、出来過ぎなストーリーですね。私も年始をおせちで祝えるよう、年末のラストスパート頑張りたいと思います!

建築家 八木このみ(娘)
1968年東京都生まれ。1993年芝浦工業大学工学部建築工学科卒業、1995年芝浦工業大学大学院修士課程修了。2000~2001年荻津郁夫建築設計事務所勤務を経て、2001年~ 夫・八木正嗣氏と八木建築研究所を主宰。2010年~ 芝浦工業大学非常勤講師。
ホームページ【八木建築研究所】
料理研究家 有元葉子(母)
料理教室やショップ経営の他著書も多数、料理関連以外にも『有元葉子・このみ・くるみ・めぐみ 母から娘へ伝える暮らしの流儀』など、新刊は『有元葉子の料理教室 春夏秋冬レシピ』。
ホームページ【@ da arimoto yoko】

「移動できる家」のレンタルプランで、夢の暮らしもかなっちゃう?

エコロジー建築にこだわる北海道の住宅メーカー・アーキビジョン21が2016年に発表した「スマートモデューロ」。木造建築の“ 粋 ”をコンテナサイズにぎゅっと詰め込み、従来のトレーラーハウスとはひと味違った新しい住まいの形として注目を集めています。このほど、購入という方法以外に、レンタルプランが本格化。この今までにない「移動できる家」×「レンタル」というスタイルには、一体どんな可能性があるのでしょうか。
夏は北海道、冬は沖縄……なんてことも可能に!?

簡単に移動可能なトレーラーハウスがレンタルできるとなれば、暮らし方の可能性は無限に広がりそうです。でもトレーラーハウスのレンタルなんて、なかなか想像がつきませんよね。「スマートモデューロ」がどんな住まいで、どんな使い方ができるのか、最初にちょっとシミュレーションをしてみましょう。アーキビジョン21の担当者に、詳しいお話を伺いました。

――まずはスマートモデューロとはなにか、基本的な説明をお願いします。

「長さ12m、幅2.5mのコンテナサイズにあわせた、世界中どこにでも移動可能なミニマムムービングハウスです。設置、撤去、移動が容易にできるのが特徴です。移動可能といってもプレハブのような簡易的な住宅ではありません。外断熱工法による、断熱性、気密性の高い木造建築で、フレーム部分は100年の耐久年数を誇ります」

【画像1】北海道の寒さが鍛えた、温かさと温もりある木造建築(写真提供/アーキビジョン21)

【画像1】北海道の寒さが鍛えた、温かさと温もりある木造建築(写真提供/アーキビジョン21)

【画像2】キッチンやトイレ、洗面化粧台、シャワー室も完備。写真右は寝室(写真提供/アーキビジョン21)

【画像2】キッチンやトイレ、洗面化粧台、シャワー室も完備。写真右は寝室(写真提供/アーキビジョン21)

【画像3】1~2人での生活を想定した間取図の例。延べ床面積は28.80m2(8.88坪)(写真提供/アーキビジョン21)

【画像3】1~2人での生活を想定した間取図の例。延べ床面積は28.80m2(8.88坪)(写真提供/アーキビジョン21)

【画像4】室内のレイアウトは自由自在。写真のようにオフィスとしての使用も可能(写真提供/アーキビジョン21)

【画像4】室内のレイアウトは自由自在。写真のようにオフィスとしての使用も可能(写真提供/アーキビジョン21)

――早速ですが、スマートモデューロのレンタルプランを利用して、転勤の多い会社員が、土地だけ引越しながら暮らすというのは可能ですか?

【画像5】イラスト/伊藤美樹

【画像5】イラスト/伊藤美樹

「はい。可能です。家ごと引越しをするため、新しい家に荷物を移しかえる手間が不要で、転居作業もスムーズだと思いますよ。レンタルなので、もし家族が増えて家をかえる必要が出た場合は、返却いただければ大丈夫です」

「土地を移ることになりますので、スマートモデューロが搬入・設置できる土地を探す必要はあります。ちなみに、引越す先での土地探しもお手伝いしています」

――ということは、北海道と沖縄に土地を持ち、春夏は北海道、秋冬は沖縄という二拠点生活もできちゃったりします?

【画像6】イラスト/伊藤美樹

【画像6】イラスト/伊藤美樹

「笑。おもしろいですね。世界統一規格のコンテナサイズなので、原理的には可能です。一応、離島にも輸送対応はできます。ただ、もし実際に北海道・沖縄生活をやろうとすると、陸送に加えて船便での輸送となり、船の輸送費がかかります。あと、輸送中はスマートモデューロの中に住むことはできないので、ほかの住まいを確保する必要がありますね」

間取り変更や棚の取りつけなど、自由にDIYしてOK!

アーキビジョン21さんと話していて、建物の内部を自由に変更できるスマートモデューロは、DIY好きの人にとっても魅力的な物件であるということが分かりました。

「建物の中に柱や壁はなく、ビスで止めるタイプのボードで仕切っているので、DIYで間取りの変更も可能です。腕に覚えがあれば、フレームだけの状態でレンタルいただき、ご自身で内装を全部やるというのも楽しいでしょうね。間取り変更ほどの大掛かりなDIYではなくとも、どんどんいじって暮らしを楽しんでほしいですね。レンタルの場合でも、退去時にこちらで戻すことが容易なので、どんどんやっていただいて大丈夫です」

【画像7】スマートモデューロを利用したDIY教室も開催しているそう(写真提供/アーキビジョン21)

【画像7】スマートモデューロを利用したDIY教室も開催しているそう(写真提供/アーキビジョン21)

――自宅の横に子ども部屋としてレンタルし、子どもと一緒にDIYをするのも楽しそうですね。子どもが成長したらスマートモデューロを返却するというのはアリですか?

「アリです、アリです! お子さまが独立して不要になれば返却できますし、間取りを変えて別の用途で利用いただいたり、別の場所に移動させてご利用いただいたりすることも可能です」

レンタルなら月額7.5万円~設置可能!

家ごと住む土地を移動するという暮らし方や、好きなだけDIYも楽しめるスマートモデューロ。購入より気軽なレンタルの仕組みを活用すれば、アイデア次第で実験的な暮らし方も楽しめそうです。ところで気になるお値段は?

――標準的な価格を教えてください。

「購入される場合は、本体価格750万円(税別)に加えて、運搬費、設置工事等の付帯工事が約150万円になります。同じものをレンタルする場合、月々の支払いは本体価格の100分の1で7.5万円。レンタル期間は3年~10年で、10年後に買い取ることも可能です。レンタルの場合は、最初に保証金として本体価格の2割の150万円が必要となります」

――スマートモデューロを運ぶ場合のコストと時間はどれくらいですか?

「スマートモデューロを専用の移送車に乗せて移動させるのですが、例えば北海道内で、札幌からニセコまでの約100kmなど、インフラの整った場所への引越しであれば、費用は50万~100万円程度です。期間は1週間もかかりません。海を渡ると運賃がプラスされますが、本州はもちろん、離島への移動もできます。国際的なコンテナサイズなので、船で海外へと運ぶことも可能です。さすがにまだ実績はありませんが(笑)」

――スマートモデューロはコンテナ1個分の広さとのことですが、長期間住むには狭くないですか?

「縦長という寝台列車のようなスペースなので、住むにはどうなのかなという不安がある方も多いですね。でも実際に暮らしてみたら、意外と使い勝手がいいと評判です。もちろん広さに制約があるので、トイレやシャワールームが狭かったり、収納スペースが限られたりというのはありますが、暮らし方に合わせ約40種類以上もの間取りプランを用意しています」

「また2つ、3つと連結して使用することも可能なので、ご家族で住んだり、職場として利用したりすることもできます。ただし、山奥で道が狭かったり、逆に住宅密集地だったり、トレーラーが入れない場所には設置ができません。その場合は、長さを自由に短くできる “ モデューロ ” というユニットをご紹介させていただいています。長さを短くできるので移動の制約が少なく、設置可能なエリアが広がります」

最初は利用シーンがイメージできなかったスマートモデューロですが、アーキビジョン21さんの話を聞いているうちに、もし自分の生活スタイルに合うのであれば、こんなにドキドキできる物件はなかなかないのではという気がしてきました。縦長の、独特の狭さは、物をなるべくもたないミニマリストにとっても、堪らない物件かもしれません。

●取材協力
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