わが家にあった予算・ローン[3] 教育重視! 子育て世帯にあった住宅ローンの組み方・返し方は?

子どもの教育費は住宅ローンと並ぶ、子育て世帯の大きな支出項目です。私立と公立で学費は大きく変わってきますし、塾やそのほかの習い事で多額の費用がかかることもあります。そこで教育熱心な家庭はどんな住宅ローンを利用すべきなのか、住宅ローンをどのように組むべきかについて「ホームローンドクター」の淡河範明(おごう・のりあき)先生にうかがいます。

今回のご相談者はKさん夫婦。夫のTさん、妻のAさんともに35歳の会社員です。
5歳の子どもがおり、現在は東京都文京区に家賃20万円のマンションを借りて住んでいますが、子ども部屋の必要性などを考え、同じ文京区内で新築マンションの購入を検討しています。
子どもの教育費を捻出しながら住宅ローンを返済していくには、家計も含めて、どのように設計すべきなのでしょうか?

【連載】教えて、ローンドクター! わが家にあった予算と、借り方・返し方
住宅購入に悩みはつきませんが、「予算」は最も大切なポイント。年収の何倍までとか、頭金はこれくらい必要などいろいろな情報があふれていますが、人によって、物件によって、タイミングによって変わるため、実際にはみんなに通用するセオリーはありません。いったい「わたし」「わがや」にとってはいくらの物件を買えばいいのか? ローンはどう組めばいいのか? そんな疑問に「ホームローンドクター」である淡河範明(おごう・のりあき)先生がビシッとお答えいたします。

今回の登場人物と住宅購入予定
【Kさん夫婦の場合】

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

7000万円のマンションを文京区に購入したい夫婦の家計を分析!

淡河範明先生(以下、先生):今日は、文京区内にマンションを購入したいというご相談ですね。7000万円のマンションを購入されるご予定だとか。

夫:はい、子どもの教育を考えると、気になる小・中学校が多くある文京区に住み続けたいと思っていまして。

妻:ゆくゆくは子どもの留学や大学院への進学、また6年制の大学の入学も視野に入れて塾や習い事に通わせています。

先生:まず現在の家計の状況を教えていただけますか?

夫:収入は2人合わせた手取りが70万円ほどです。支出は家賃が20万円で、食費、水道光熱費等の生活費が17万円、小遣いが8万円、各種の保険が5万円など。子どもの教育費は幼稚園や習い事代で毎月10万円ほど掛かっています。毎月10万円程度とボーナスを住宅購入費用などの貯蓄に回しています。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

先生:現時点で教育費に毎月10万円が掛かっているんですね。仮にお子さんが小学校~大学まですべて私立に通うことになると、一般的に学費だけで2000万円ほど掛かると言われています。さらに習い事や塾、一人暮らしやホームステイ、大学院や6年制の大学に通わせるとなると別途2000万円くらいは用意しておく必要があるかもしれません。
つまり4000万円が必要と考えると、お子さんの教育費に毎月20万円は確保しておく必要があります。

夫:そうですよね……。さしあたり家を買ったら、現在、住宅購入費用として貯蓄している分を教育費に充てようと考えています。

先生:基本的には、お二人がずっと正社員として働いて現在の収入を維持できるのであれば問題はないと思います。あとは老後の備えについても考えておきたいですね。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

老後への備えも大切! どれくらいあれば余裕をもって老後を過ごせる?

先生:現在、毎月10万円を住宅購入費用として貯蓄されているとのことですが、住宅購入後にそれをお子さんの教育費に充てるとしたら、その他の用途に使える分は残らなくなってしまいますね。

お二人とも現在35歳ですから65歳に定年すると考えても、まだ30年間は働けます。第2回の記事で、老後資金の貯蓄額として3つのプランを挙げたのですが、お二人の現在の生活水準を考えると、65歳の定年退職時に3000万円は貯めておきたいところです。ボーナスを老後資金に充てるという方法もありますが、ボーナスは会社の業績や景気に左右されますから臨時収入と考え、突発的な出費に備えるお金、というくらいに考えておいたほうが良いでしょう。できれば他の生活費を見直すなどして、毎月8万円程度を貯蓄できるように検討してみてください。

妻:子どもの教育と家を買うことで頭がいっぱいで、老後のことはあまり考えていませんでした……。

先生:お子さんの将来を第一に考えるのであれば、定年退職後もお子さんに経済的に頼らずに済むように計画的に貯蓄しておきましょう。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

教育費を確保しながら、住宅ローンを返済していくにはどう組めばいい?

先生:では、住宅ローンの組み方や返し方について考えていきましょう。Kさん夫婦の収入であれば、7000万円のマンションを買うことは可能です。頭金のご用意や返済計画についてはどのように考えていますか?

夫:頭金は親からの援助も受けて1000万円ほど用意できます。できるだけ早めに、遅くとも定年退職時にはローンを完済していたいので、6000万円の融資を30年で返していこうと思っています。

先生:では6000万円を借り入れ、返済期間はご希望の30年で住宅ローンを組んだ場合のシミュレーションを見てみましょう。お二人とも会社員で安定収入があるためペアローンを組むこともできますが、今回は返済期間による比較がしやすいよう夫のTさんが単独で住宅ローンを組んだ場合の試算をしました。下表を見てください。

※元利均等返済。ボーナス時加算なしで試算。金利は2018年10月1日現在のもの。金利やキャンペーン内容は金融機関や時期によって異なります

※元利均等返済。ボーナス時加算なしで試算。金利は2018年10月1日現在のもの。金利やキャンペーン内容は金融機関や時期によって異なります

今回はA信託銀行の【フラット35】Sを利用した場合と、金利キャンペーンを利用した場合を比較する形で試算しています。【フラット35】には、省エネやバリアフリーなど、一定の住宅性能を満たす場合に10年間、金利の優遇を受けられる【フラット35】Sがあります。そのため、当初10年間はA信託銀行のキャンペーン金利より、金利が低く抑えられます。購入を検討しているマンションが対象になるか、確認しておくといいでしょう。

11年目以降はA信託銀行のキャンペーン金利のほうが低くなりますので、総返済額としてはA信託銀行のキャンペーンのほうが50万円強、低くなります。今回比較している金利キャンペーンのように期間限定で展開しているもののほか、各金融機関ではさまざまな商品・プランを用意しています。それぞれで総返済額がどのように変わるかを試算して、比較検討することをおすすめします。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

固定金利と変動金利、どちらで融資を受けるのが良い?

先生:現在の家賃は20万円とのことですが、住宅を購入すると固定資産税や管理費・修繕積立金などが発生するので、住宅ローン返済額とは別に通常、月に3万~4万円ほどかかります。先程のプランを見ると、30年での返済だと住宅費が重くなってしまいますね。先に話したように、教育費や老後資金の貯蓄のためにも、月々の支出は抑えたいところです。

そこで私からの提案ですが、次の表、返済期間を35年にしてはどうでしょう? そうすれば、毎月の住居費は管理費・修繕積立金を合わせても約20万~22万円となり、現在の家賃に数千円~2万円ほどを追加する形で済みます。

※A信託銀行の金利は、金利引き下げキャンペーン適用が終了する31年目以降、その時点の金利を適用した固定金利または変動金利が選べます。現時点で31年目時点の金利は予測できないため、表内の試算は2018年10月1日現在の金利で行っています。将来の金利については変動する可能性があります

※A信託銀行の金利は、金利引き下げキャンペーン適用が終了する31年目以降、その時点の金利を適用した固定金利または変動金利が選べます。現時点で31年目時点の金利は予測できないため、表内の試算は2018年10月1日現在の金利で行っています。将来の金利については変動する可能性があります

定年退職時に約1000万円の残債があることになりますが、今は低金利。ローンの残債よりも手元にある現金の額が多くなるようにしっかり残しておいて、定年退職後一括して返済するか、またはゆっくりローンを返済していけばいいのです。どうしても定年退職時までに返済したいということであれば、当初20年間、お子さんの教育費として捻出していた分や以降のボーナスを返済期間の残りの15年間で繰り上げ返済に回せば、定年退職時までかからずに完済できるでしょう。

夫:このシミュレーションは固定金利ですよね? 変動金利のほうが当面の金利が低いので、そちらも検討してみようと思っていたのですが、固定金利が良い理由はありますか?

先生:現在は低金利時代ですから、確かに変動金利を魅力的に感じる人も多いでしょう。ただ、固定金利は30年、35年間の出費を確定できるメリットがあります。借入金額の多い方はわずかな金利アップでも、毎月の返済額が一気に数万円単位で増える可能性もあります。繰り返しになりますが、教育費や老後資金を確保するためには、リスクよりも安心を取ることができる固定金利をおすすめします。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

子どもの教育費を十分捻出しながらも、6000万円の融資を受けて返済したいというKさん夫妻。教育費は進路によっても変わってくるので、確実に貯蓄をするのであれば他の出費額を固定し、計画的に貯められるようにするのがいいようです。住宅費を計算するときは、修繕費や税金のことも含めて出費を把握する必要があります。

また、将来子どもに負担をかけないためには、同時に老後の生活費も準備しておかなければいけません。しっかりと毎月の家計項目と出費を把握し、定年退職時までに住宅ローンを完済するのか、毎月余裕をもって返済し、繰り上げ返済を随時行うことで完済を目指すのかも、夫婦で相談して決めていきましょう。

s-淡河 範明淡河 範明 ホームローンドクター
日本興業銀行、エル・ピー・エル日本証券を経て、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立。利用者の立場にたち、住宅購入時の資金計画、住宅ローンの選び方を新しい方法で提案している。著書に『住宅ローンを賢く借りて無理なく返す32の方法』『住宅ローン借り換えマジック』などがある。

わが家に合った予算・ローン[2] 共働き夫婦、住宅ローンは夫のみ? 夫婦でペアローン?

女性の社会参画が進み、共働き世帯が6割を超える昨今。住宅ローンを組むときにも、夫だけではなく妻も融資を受け、住宅ローンの金額を増やしたい、と考える方もいるでしょう。
そこで今回は、夫婦でペアローンを組むことにどのようなメリットがあり、どのようなリスクがあるのかを「ホームローンドクター」の淡河範明(おごう・のりあき)先生に教えていただきます。

ご相談者はSさん夫婦。33歳の夫と31歳の妻の2人暮らしです。
埼玉県のさいたま市内にマンションを購入したいと検討しており、住宅ローンの融資を夫のみで受けるのか、それとも妻も融資を受けるのかで迷っています。夫婦ともに収入がある場合は、夫婦ペアローンを利用したほうがいいのでしょうか?【連載】教えて、ローンドクター! わが家に合った予算と、借り方・返し方
住宅購入に悩みはつきませんが、「予算」は最も大切なポイント。年収の何倍までとか、頭金はこれくらい必要などいろいろな情報があふれていますが、人によって、物件によって、タイミングによって変わるため、実際にはみんなに通用するセオリーはありません。いったい「わたし」「わが家」にとってはいくらの物件を買えばいいのか? ローンはどう組めばいいのか? そんな疑問に「ホームローンドクター」である淡河範明(おごう・のりあき)先生がビシッとお答えいたします。(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

夫婦のペアローンは融資額を増やし、節税効果も発揮してくれる!

淡河範明先生(以下、先生):今日は住宅ローンの融資を受けるに当たり、ペアローンを利用するべきかどうかというご質問ですね。

夫:はい、私の年収が530万円なのですが、今購入を検討しているマンションを買おうと思ったら、4000万円必要で。なんとか融資は受けられそうなのですが、私の年収から考えるとかなりギリギリの金額かなと……。

妻:私も派遣で一定の収入があるので、住宅ローンの一部を負担できないかと思っています。

夫:もう一つ、できれば早めに完済して、老後は住宅ローンの心配をせずにのんびり暮らしたいんです。20年くらいで住宅ローンを組みたいんですが、私と妻の年収でも完済できますか?

先生:お一人だと借りられる金融機関が限定されますが、夫婦でペアローンを組めば、借りられる金融機関を増やすことができるだけでなく、コスト面でもメリットが出せます。ペアローンのメリットは、互いが住宅ローン控除を利用できることですから、単独でローンを組むよりも手元に残るお金は多くなるでしょう。
一方、20年で完済するという考えは危険かもしれません。

夫:なぜですか? 金利という無駄な出費が減ると思うのですが。

先生:4000万円を20年で完済しようとすると、金利1.5%で融資を受けても毎月20万円弱を返済しなくてはいけません。手取りの月収は夫婦合わせてどれくらいでしょうか?

妻:えーっと……ボーナスを別に考えると夫婦で45万円ぐらいですね。

先生:つまり45万円の収入のうち、20万円も住宅費に充てなくてはいけない。これでは手元にお金が残らないギリギリの生活になってしまいますし、もし将来お子さんを欲しいと考えているのであれば、教育費などの貯金もままならないでしょう。
また、マンションは管理費や修繕費もあります。
今は低金利ですから、できるだけ多くのお金を借りて手元に残せるお金を増やすほうが得策です。

夫:そうなのでしょうか……? 住宅ローンが退職後にも残ると不安になってしまいます。

先生:夫のKさんは65歳の定年退職まで32年もあります。それに妻のYさんがお子さんを出産し、産休等で働けなくなると、Yさんのローンは育児休業給付金と貯金から返済することになりますから、毎月の返済分は抑えて余裕分は貯蓄に回しておくべきです。

妻:たしかに! 子どもも欲しいですし。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

先生:そこで20年間の固定当初金利優遇ローンを利用しましょう。三井住友信託銀行でしたら当初20年間の金利が1.15%、21年目以降は変動金利となり全期間1.075%になった前提です(2018年7月31日時点)。住宅ローンの融資を単独で受けた場合と、ペアローンで融資を受けたときの夫婦の負担比率を変えて数パターン、シミュレーションをしました。

ホームローンドクター淡河先生が作成したSさん夫婦の住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの夫婦の住宅ローン負担比率に対し、実質負担額がどう変化するかを試算

ホームローンドクター淡河先生が作成したSさん夫婦の住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの夫婦の住宅ローン負担比率に対し、実質負担額がどう変化するかを試算

Sさん夫婦:わぁ! 総支払額が数十万単位で変わってくるんですね!

先生:そうなんです。単独で融資を受けるより、ペアローンを利用すれば、諸費用は多少かかりますが、それを補って余りある住宅ローン控除が受けられます。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

ペアローンを組むときは、持分設定と離婚リスクに要注意!

先生:ただ、ペアローンで注意点がないわけではありません。上の表でも「住宅ローン負担比率」という数字がありますが、夫婦それぞれが住宅の購入に支払う金額(住宅ローン負担比率)と、登記上の持分設定を実状に沿ったものにしておかないと、贈与税が発生する可能性があります。

妻:住宅ローンの負担比率にかかわらず、夫婦で一緒に購入するから所有権は半々にする、という形ではダメですか?

先生:離婚時の財産分与は別ですが、所有権は費用を負担している割合と同等にしてください。例えば4000万円の住宅購入に際し、妻が800万円の支払いだと夫と妻の負担は3200万と800万で4:1です。
ところが、登記時に所有権の持分設定を1:1にしてしまうと、2000万円ずつを負担して住宅を買ったことになります。この差額の1200万円を夫から妻に贈与した、と見なされるリスクがあるのです。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

夫:それは問題ですね。

先生:まずは、支払っている税額と借入金額の関係を確認しましょう。もし、借入金額の1%以上の税金を払っているなら、所有権の持ち分比率をできる限り費用負担と同等の設定にすることで、控除の額が少なくなるのを避けられます。ただし、持ち分以上のローンがあっても、超過分の借入金については住宅ローン減税は受けられないので注意が必要です。

また、ペアローンの最も大きなリスクは「離婚」だということも覚えておきましょう。住宅を購入するときは夫婦ともに仲が良く、離婚など考えていない方が多いです。だからこそ、万一離婚したときにその後の所有や住宅ローンの返済をどうするか、先に決めておいてほしいのです。

Sさん夫婦:分かりました。あとで2人で話し合ってみます。

「退職時にいくらの資産を用意できるか」を考えて人生設計をしよう

先生:あとは無理のない返済で、手元にフリーキャッシュフローを残すことを意識してください。末永く、毎日の生活を楽しみながら暮らしていくには「何歳までに」「純資産(※)をどの程度つくれるか」を決めて行動することが重要です。

定年退職時の年齢が65歳、平均寿命の85歳くらいまで生きるとして、その間の20年間「年金と手持ちの資産で不自由のない生活を送れること」を目標としましょう。65歳時点で貯蓄がいくらあったら、安心して老後を送れると思いますか?

※純資産:会計用語で「会社の資産総額から負債総額を差し引いた金額」のこと。ここではそれを家計に当てはめ、保有している金融資産からローンなどの借金等を引いた自分の資産を指す

妻:えっと……1000万円とか2000万円とかでしょうか?

先生:ズバリ、私が65歳時点の参考貯蓄額として提唱するのは、以下の3つのプランです。

●1500万円:シンプル生活 →必要最小限の貯蓄で最低限必要な出費をまかなえるプラン
●3000万円:ピンピンコロリ →老後の生活を楽しみながら健康に過ごし、医療費があまりかからなかった場合のプラン
●6000万円:ゆうゆう生活 →海外旅行や趣味を楽しみながら、余裕のある老後を過ごすための金額

退職時にローンを完済していても、手持ちに現金がないのでは意味がありません。デフレの今は、繰上返済にこだわるより貯金を確保しておくほうが、ずっと生活が豊かになるのです。また、ゆっくりローンを返して、手元にある程度の現金を残しておくことは、急な出費が必要になったときのリスク対策にもなります。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

妻:私たちは30代だから、1年間で100万貯金できれば、ピンピンコロリプランには到達できそう、ってことですね。

先生:長い人生において、さまざまな経済的リスクを回避する一番の対策はまず「収入を増やすこと」、次に「手元にある程度の現金をしっかり残しておくこと」です。今回のプランでは現状の収入でも無理のない範囲で計画を立てていますが、収入を増やすための努力もぜひ忘れないようにしてください。

夫婦:はい!

夫婦ペアローンは融資額を増やすことにも役立ちますし、住宅ローン控除の効果でキャッシュフローが増えるというメリットがあります。生活の豊さを考えれば、無理に早く返済するだけではなく、手元にお金を残せるように返済していくことも大切だということが分かりました。

ただし、夫婦持分の数字にはよく注意しておかないと贈与税が発生しかねませんし、離婚というリスクが伴うことも。まずは夫婦でしっかり話し合い、何歳までにいくら貯めておきたいのか、どのように返済していくのかを決めておきたいものですね。

s-淡河 範明淡河 範明 ホームローンドクター
日本興業銀行、エル・ピー・エル日本証券を経て、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立。利用者の立場にたち、住宅購入時の資金計画、住宅ローンの選び方を新しい方法で提案している。著書に『住宅ローンを賢く借りて無理なく返す32の方法』『住宅ローン借り換えマジック』などがある。

わが家にあった予算・ローン[1] 両親と住む二世帯住宅を建てたいが、一度融資を断られ…

住宅の購入は多くの人にとって一生で最も高額な買い物になります。できるだけ借金はしたくないと思っても、住宅ローンを利用せずに購入できる人は、そう多くないでしょう。特に初めて住宅購入を検討している人は、自分たちで本当に何千万円も返済ができるのか、無理のない返済計画はどのように立てたら良いのか、不安になってしまうかもしれません。そこで、それぞれのご家庭の収入の状況を見ながら「身の丈に合った」借入金額や返済プラン、さらには金利を下げられる制度の活用などを「ホームローンドクター」の淡河範明(おごう・のりあき)先生に教えてもらいます。
淡河先生は銀行や証券会社などに勤務した後、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立しました。住宅ローンを検討中の人に対し、理想の住まい、そして住宅ローンの負担を減らすための提案を行っています。

今回のご相談は横浜市にお住まいの夫婦、そして妻の両親の4人です。
Aさんファミリーとご両親が住むための二世帯住宅を建てようと、夫のAさんが住宅ローンを申し込んだところ、一度審査に落ちてしまいました。お子さんも2人いるAさんたちは、果たして住宅ローンを借りられるのでしょうか? どんな考え方でローンを組めば、その後の生活を乗り切っていけるのでしょうか?

【連載】教えて、ホームローンドクター! わが家にあった予算と、借り方・返し方
住宅購入に悩みはつきませんが、「予算」は最も大切なポイント。年収の何倍までとか、頭金はこれくらい必要などいろいろな情報があふれていますが、人によって、物件によって、タイミングによって変わるため、実際にはみんなに通用するセオリーはありません。いったい「わたし」「わが家」にとってはいくらの物件を買えばいいのか? ローンはどう組めばいいのか? そんな疑問に「ホームローンドクター」である淡河範明(おごう・のりあき)先生がビシッとお答えいたします。(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

二世帯住宅を建てたいがローン審査に落ちた! そのときの対策は

淡河範明先生(以下、先生):本日は二世帯住宅用のローンが組めなかったので、なんとかする方法はないかとのご相談ですね。ご両親の土地に二世帯住宅を建てるとか。

妻:はい、私の両親が横浜市内に土地を持っているので、せっかくだからそこに家を建てて親子で住もうという話になりまして。

夫:見積もりをとったら建築費が4000万円だといわれてびっくり! 私の収入だけではローンが組めなかったので、妻の両親が頭金として500万円を出してくれることになったのですが、それでも3500万円必要なんですよね……。

先生:ご両親からの贈与は一定金額まで非課税ですから、うれしいお話ですね。ただ、諸経費まで考えると家の建築費総額は、新築でも5%は余分に必要です。つまり住宅資金として4200万円は必要ですよ。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

夫:ええ、それを後から知ってショックでしたが、貯金からねん出するしかないなと。

父:そこまで彼と話し合って、二世代ローンを組めないかという話になりました。私も再雇用ですが定収入がありますし。

妻:父が退職するころには子どもも二人とも小学生になっているので、万一のときには私が働く時間を増やして父の分まで頑張るつもりです。

先生:いいですね。二世代ローンは資金提供の方法としても有効ですし、相続においても有利に働きますから。

先生:ではAさん夫婦の今の家賃、住居費はどの程度でしょうか?

夫:家賃は12.5万円ですね。

先生:駐車場などは借りていませんか?

妻:駐車場付きの物件なので、家賃に含まれています。

先生:後はなにかこれから先に大きな出費の予定はありませんか? 例えば教育費などはどうされていますか?

夫:できればなんですけど、子どもは中学から私立に行かせたいな……と。

先生:そうなると教育資金も貯めておかなければいけませんね。

妻:はい、そのために私の収入の大半は、子どもたちの将来の学費として貯めています。

先生:ではその点も考慮して検討していきましょう。

長期優良住宅を建てるつもりのAさんには【フラット35】

先生:まずどの住宅ローンにするかですが【フラット35】を借りましょう。【フラット35】は、信用情報よりも住宅の質が重視されます。Aさんは「長期優良住宅(※)」を建てるとのことなので金利の優遇も受けられますからね。

※長期優良住宅:長期にわたって良好な状態で使用するための方策が取られた優良な住宅のこと。建築や維持保全の計画を作成して所管行政庁に申請して認定を受けることで、税金の控除などが受けられる

【フラット35】は融資額が購入金額の90%を上回ってしまうと金利がアップするため、借入金額は4200万円の90%以内、つまり3780万円以内にしておきます。

【フラット35】取扱金融機関が提供する金利の範囲と最も多い金利

【フラット35】取扱金融機関が提供する金利の範囲と最も多い金利

先生:では次に毎月の返済額を見てみましょう。【フラット35】の金利ですが、2018年6月時点の金利が1.37%です。

父:金融機関の変動金利の住宅ローンだともっと金利が安いようなので、そちらのほうがいいのではないですか?

先生:変動金利には金利上昇リスクがあります。お子さんを私立の学校に入れるのであれば、安定して支出計画が立てられる方がいいでしょう。【フラット35】には一定期間金利が安くなる優遇があるので、これをできるだけ活用しましょう。

夫:どのくらい優遇されるんですか?

先生:【フラット35】では省エネ住宅(太陽光発電が可能など、エネルギー消費が少ない住宅)やバリアフリー対応住宅、長期優良住宅を建てる人のために【フラット35】Sという制度があります。これを利用すれば10年間金利が-0.25%になります。

妻:わー! お得ですね。

先生:まだ終わりではありません。さらに横浜市は「【フラット35】 子育て支援型・地域活性化型」制度(※)を利用できるので、ローン返済の当初5年間は金利がさらに-0.25%され、-0.5%の0.87%になります。(2018年6月30日時点で住宅が完成している場合の金利)

※【フラット35】 子育て支援型・地域活性化型:子育て支援や地域活性化について積極的な取り組みを行う地方公共団体と住宅金融支援機構が連携し、【フラット35】の借入金利を一定期間引き下げる制度

【フラット35】Sと自治体の優遇制度を利用した場合の金利

【フラット35】Sと自治体の優遇制度を利用した場合の金利

夫:お~! そんなに変わるんですね。

先生:住宅ローンの金利は残高に比例するので、残高が多い時期の金利が低ければ負担も減ります。11年目から金利がアップしますが、そのころには子育ての負担が減ってより働けるようになっているのでは? そうすると収入も今よりも上がっているかもしれません。

毎月の返済額は以下のようになりますね。

※元利均等方式とは、毎回の返済額が返済中一定額から変動しない方式のこと Aさんファミリーの返済額月額試算

※元利均等方式とは、毎回の返済額が返済中一定額から変動しない方式のこと
Aさんファミリーの返済額月額試算

妻:今の家賃よりも全然安い! これなら貯金ももっとできるし、家計も楽になるかも。

先生:住宅を購入してしまえば、実は家計における住宅費の支出は下げられます。ただ、私の提案はこれで終わりではないのです。

4人:えっ?

住宅ローン控除を最大限活用するなら、自己資金はとっておく!

先生:住宅ローン控除を利用します。住宅ローン控除は10年間、住宅ローンの残高の1%が所得税から還元される制度で、最大で10年間、毎年40万円が所得税から還ってくるのです。さらに長期優良住宅なら10年間で最大500万円まで控除が受けられます。住宅ローン控除をフルに活用するなら、住宅ローンはギリギリまで借りてもいいのです。もちろんそもそも所得税を40万円以上払っていないと戻るものもないですけど。

夫:いやあ、そうは言っても借りるお金は少ないほうがいいでしょう?

先生:住宅ローン控除は住宅ローンの残高で還元額が決まります。住宅ローンで3500万円の融資を受ければ35万円が還ってきますが、3700万円の融資なら、37万円が還ってくるんですよ。これが10年間積み重なれば20万円近い差になります。

夫:でもその分融資の金額が多くなるので、毎月の返済やそれに伴う金利も増えますよね?

先生:確かにその考え方も間違いではありません。しかし3700万円の融資を受ければ、頭金の200万円は手元には残るはずです。その200万円を繰り上げ返済で有効活用するのです。

妻:どういうことですか?

先生:はい、今回のプランだと11年目から金利が1.37%になり、住宅ローン控除が受けられなくなるので、大幅に住居費の負担が増えます。そこで11年目に入る前に貯めていた200万円を使って繰り上げ返済を行えば、11年目からの負担を軽減できます。

借り入れた金額を示したシミュレーション表をご覧ください。

ホームローンドクター淡河先生が作成したAさんファミリーの住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの借入金ごとに、金利総支払額がどう変化するかを試算

ホームローンドクター淡河先生が作成したAさんファミリーの住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの借入金ごとに、金利総支払額がどう変化するかを試算

夫:えっ?3700万円を借りたほうが金利の支払額は少なくなるんですか?

先生:はい、頭金を多く用意するよりも、借入金を増やして住宅ローン減税を活用するほうが、最終的な支払い額は少なくなるという逆転現象がここでは発生しています。借入金を増やすことをリスクと考える方は多いのですが、実は逆に頭金を多く支払うほうが出費が増えることもあるのです。
今回のシミュレーションでは、金利支払額にそれほど大きな差は出ていませんが、住宅ローン減税の効果は所得によっても異なります。そのため、いくら借りればいいのかを検討するうえでは、数パターンのシミュレーションを行って、具体的な金額を出してみることが大切です。

妻父:なるほど。ただ、それまで200万円に手を付けないでおくのが大変そうだ。できるか? 二人とも。

夫:そこはもう信じてください! やります!

先生:この返済方針のポイントは繰り上げ返済ですから、いかに貯蓄しておくかがポイントです。もし使ってしまう可能性があるなら、定期預金などにして簡単に引き出せない形にしておくのもいいでしょう。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

「自由に使えるお金(フリーキャッシュフロー)」を収入の5%確保しよう

夫:これでなんとか家も建てられそうです。ありがとうございました!

先生:いえ、実はまだ重要なことが残っています。そもそも、今回の借入額で、月々の返済額で大丈夫なのか? それを考えるうえで「フリーキャッシュフロー」が大事になってくるので、最後にお伝えします。

妻:フリーキャッシュフローって、なんですか?

先生:生活の質を高めるために自由に使えるお金のことです。現在の家計の中の「自由に使えるお金」は、いくらぐらいでしょうか?

妻:月によって多少変わりますけど、だいたい3万円ぐらいですかね……。

先生:フリーキャッシュフローは最低でも年収の5%は欲しいです。Aさん夫妻の場合は年収620万円だから、5%は31万円、1カ月当たり2.58万円。現在の3万円はそれを上回っているのでOKですね。教育費はどの程度貯まっていますか?

妻:子ども2人、それぞれに300万円ずつ貯めています。

先生:それは素晴らしいですね。でも中学から私立に行くつもりがあるなら、引き続き頑張らないといけませんね。
それでは、今の情報をもとに家を購入した後のフリーキャッシュフローの計算をしてみましょう。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

先生:毎月の余剰資金の3万円と家賃の12.5万円、そして積み立てている教育費から住宅ローンの返済額と固定資産税、家の修繕費、さらに今後の教育積立金を引いてください。

夫:えっと……固定資産税や修繕費ってどれくらいになるんですかね?

先生:固定資産税は横浜市に新築を建てるのであれば毎月1万円ほど、積立修繕費も後々の外壁や屋根の塗装、その他設備の交換を考えれば1万5000円ほど必要ですね。

夫:え!けっこう必要なんですね。家賃よりローンの返済額の方が安くなると思っていましたが、あまり余裕ないな……。教育費としては毎月3万円貯めていますね。今後も同じペースです。

先生:
3万円(余剰資金)+12.5万円(家賃)+3万円(教育費)-10万円(住宅ローン)-1万円(固定資産税)-1.5万円(積立修繕費)-3万円(教育費)=3万円ですね。

フリーキャッシュフロー
3万円×12カ月=36万円÷年収620万円×100=約5.8%。

年収の5%以上をフリーキャッシュフローとして貯蓄できているのであれば、最低限必要な貯蓄額には達していると思います。

夫:よかったー!

先生:将来的には10%以上の額になるようにしていただければと思います。フリーキャッシュフローは生活の余裕として充てられるお金でもありますし、また老後の生活資金としての備えにもなります。

夫・妻:はい、なんとかローンが借りられて、将来の見通しも立ちそうです。今日はありがとうございました!

夫1人で融資がおりなければ、妻の父と二世代でローンを組む、【フラット35】の優遇制度を最大限活用する、そして住宅ローン控除を活用するために、あえて融資額を増やすことで総合的な返済が減るということなど、知っているのと知らないのでは大きな出費の違いになります。また、そもそも自分たちが組む予算はこれでいいのか? 借りた後余裕がなくなって生活に困るということにならないのか? そんなことをチェックするためにも、「月々の自由に使えるお金」を確保したうえで、住宅ローンを組むことが大切になってきます。

s-淡河 範明淡河 範明 ホームローンドクター
日本興業銀行、エル・ピー・エル日本証券を経て、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立。利用者の立場にたち、住宅購入時の資金計画、住宅ローンの選び方を新しい方法で提案している。著書に『住宅ローンを賢く借りて無理なく返す32の方法』『住宅ローン借り換えマジック』などがある。