7畳のタイニーハウス暮らし夫婦、2棟目カワウソ号は宿に。宿泊で住まい観が一変!? ライター体験記「私はどう生きるか」 三浦半島

わずか7畳のタイニーハウス「もぐら号」は、神奈川県・三浦半島にある、現在進行形で「人が暮らしているタイニーハウス」です。電気・ガス・水道完備、シャワー・トイレ付きと、一般的な住まいと変わらず、快適な暮らしが送れているといいます。そのもぐら号に、今年、きょうだいの「カワウソ号」が仲間入りしたそう。しかもこちらは宿泊・体験できるとか。さっそく編集部とライターで宿泊してきました。

「カワウソ号」は約8畳(室内11平米+ロフト4平米)。タイニーハウスを知り・体験できる場所に

神奈川県三浦半島にある、まるで絵本に出てくるようなタイニーハウスの「もぐら号」は、相馬由季さんと夫の哲平さんの住まいです。もぐら号は約2年かけて相馬さんが設計から施工、2020年に完成。ほぼ自作したタイニーハウスに現在も夫妻で暮らしていらっしゃいます。そんな「もぐら」のきょうだいが「カワウソ号」です。もぐら号よりもやや小ぶりで、名前も愛らしい「カワウソ号」ですが、なぜもう1棟、タイニーハウスをつくったのでしょうか。

相馬由季さん。タイニーハウスに暮らしているほか、今年は海外のタイニーハウスをめぐる旅もした(写真撮影/桑田瑞穂)

相馬由季さん。タイニーハウスに暮らしているほか、今年は海外のタイニーハウスをめぐる旅もした(写真撮影/桑田瑞穂)

「もぐら号の話をすると、ほとんどの人に『遊びに行きたい』『泊まりたい』と言われるんです。みんなタイニーハウスに興味津々なんですね。もぐら号にも宿泊していただけるんですが、私たちも毎日、暮らしているので、そうそう泊めるわけにもいかない。じゃあ、もう1棟をということで、『カワウソ号』を計画したんです」と相馬さん。

「カワウソ号」。玄関扉のオフホワイト、緑のアーチ屋根が最高か!(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」。玄関扉のオフホワイト、緑のアーチ屋根が最高か!(写真撮影/桑田瑞穂)

主眼を置いたのは、単なるホテルではなく、「タイニーハウスを体験できる場所」であること。
「タイニーハウスに宿泊できる施設はありますが、まだ少数です。ここではホテルのような滞在ではなく、料理をしたり思い思いに過ごしたりと、あくまでも『暮らし』を体験する場所として考えているんです」と話します。

「基本設計や建材、建具のチョイスなどはすべて自分で行い、実施設計と施工を大工さんにお願いしました。ただ、制作途中も足を運び、吟味、調整をしてもらいました。タイニーハウスはとにかく余分なスペースがないので、数センチで使い勝手が変わるんです。だから、何度も何度も測って、思い入れを込めてつくったのは、カワウソ号も同じですね。『もぐら号』で自作した経験が生きています」

「カワウソ号」の内部。「もぐら号」と同様に、「暮らす」を主眼に設計されている(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」の内部。「もぐら号」と同様に、「暮らす」を主眼に設計されている(写真撮影/桑田瑞穂)

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「もぐら号」と「カワウソ号」の共通点でいうと、大きめのキッチン&シンク、電気ガス水道といったインフラ、窓や外壁などには断熱性・遮熱性などの性能を高めた「快適な暮らし」が送れる点です。一方で間取りは異なり、「カワウソ号」はロフト付きで、玄関が横付きになっています。また、大きなフィックス窓、横にスリット窓が入っています。スリット窓からチラリとのぞく緑がキレイです。

左が「もぐら号」、右が「カワウソ号」(写真撮影/桑田瑞穂)

左が「もぐら号」、右が「カワウソ号」(写真撮影/桑田瑞穂)

キッチンにこだわったのは「もぐら」「カワウソ」共通です。シンクは大きく、電気ケトル、IHクッキングヒーターなどの調理器具もあるのです。まさに“暮らし”!(写真撮影/桑田瑞穂)

キッチンにこだわったのは「もぐら」「カワウソ」共通です。シンクは大きく、電気ケトル、IHクッキングヒーターなどの調理器具もあるのです。まさに“暮らし”!(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワーと洗面、トイレが一列になっていて、使いやすい動線(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワーと洗面、トイレが一列になっていて、使いやすい動線(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面とトイレ。シャワー付き。コンパクトですが、何度も設計しなおしたというだけあり、狭さは感じません。トイレは着脱式なノズル下水道につなげていて、一般的な水洗トイレです(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面とトイレ。シャワー付き。コンパクトですが、何度も設計しなおしたというだけあり、狭さは感じません。トイレは着脱式なノズル下水道につなげていて、一般的な水洗トイレです(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」のロフト。大きなフィックス窓からは緑がいっぱいに。人工物が目に入ってきません。心が満たされていく……(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」のロフト。大きなフィックス窓からは緑がいっぱいに。人工物が目に入ってきません。心が満たされていく……(写真撮影/桑田瑞穂)

電気と上下水道や既存のインフラを利用し、着脱式で接続。ガスはプロパン(写真撮影/桑田瑞穂)

電気と上下水道や既存のインフラを利用し、着脱式で接続。ガスはプロパン(写真撮影/桑田瑞穂)

昨年の暮れに施工場所から今の土地に移動させ、塗装など内部の仕上げや棚の設置、家具やインテリアの選定を行い、今年3月末より宿泊の受け入れを開始しました。では、その反響は?

「開始して2カ月ほどですが、平日、休日問わず多くの予約が入っています。メディアを介して知ってもらったり、SNSで知ってくださったり。いろいろです。若い世代はここだけしかできない体験ということで、カップルや友人同士で来てくださいます。ほかはご家族ですね。最大3人まで宿泊できます。」(相馬さん)

とはいえ、一人で滞在する40代~50代の人もいるのだとか。
「自分を見つめ直したい、という方でしょうか。タイニーハウスに籠もって、暮らしや人生に向き合う場所が欲しいという人が滞在されていきます。何かするのではなく、ゆっくりと過ごしていらっしゃいます」といい、今までの暮らしのあり方、人生のあり方を問い直す場所になっているのだそう。

ロフトではタイニーハウスに関する本をセレクト、ギターやプロジェクターなど、滞在を楽しくするアイテムも(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフトではタイニーハウスに関する本をセレクト、ギターやプロジェクターなど、滞在を楽しくするアイテムも(写真撮影/桑田瑞穂)

開閉式の机。空間を有効活用できるよう、考え抜かれている(写真撮影/桑田瑞穂)

開閉式の机。空間を有効活用できるよう、考え抜かれている(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで住まい感が変わる。自分に必要なモノ・コトが見えてくる

では、実際に滞在するのはどのような感じなのでしょうか。

筆者と編集部担当の2人は午後にチェックインし、翌日朝まで滞在。合間に仕事をしたり、ランニングをしたり、周囲のスーパーで食材を買い込み、暮らすように「プチ日常」を味わってみました。

シャワーの水量や温度、トイレの水量などもストレスフリー。また、はじめはタイニーハウスのセキュリティってどうなのだろうと少し不安があったのですが、駅近くの立地でほどよく人目があり、おまわりさんのパトロールエリアとのことで、ひと安心。とにかく快適な滞在となりました。

夜は近所でマグロのお刺身などを購入してきて晩酌。三浦半島ならではですね(写真撮影/嘉屋恭子)

夜は近所でマグロのお刺身などを購入してきて晩酌。三浦半島ならではですね(写真撮影/嘉屋恭子)

ロフトからキッチンと洗面を見下ろしたところ。目に入るものすべてが愛らしい(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフトからキッチンと洗面を見下ろしたところ。目に入るものすべてが愛らしい(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフト下部の寝室。寝具メーカーのベッドで寝心地もいい。編集もライターも、朝までぐっすりコースでした(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフト下部の寝室。寝具メーカーのベッドで寝心地もいい。編集もライターも、朝までぐっすりコースでした(写真撮影/桑田瑞穂)

そして、ひと晩過ごした結論をひと言でいうと、「これは……住まい感が変わるな」に尽きます。

筆者は、今まで不動産会社やさまざまな建物、建築家の先生方を取材し、天井高は2m40cmではちょっと低いのではとか、広さは一人あたりの面積25平米は確保したいなどと原稿を書いてきましたし、正直なところ「家の広さは気持ちのゆとりにつながる」、なんなら「天井高は正義」「収納は命」だと思ってきました。

ですが、実際に過ごしてみると11平米でも狭さは感じないのです。女性2人がほぼ1日、同じ空間にいてもストレスを感じない。これはすごいことだなと思いました。おそらくですが、備え付けの食器や寝具など、目に入るものすべてが吟味されていること(当たり前ですが子どものおもちゃやごちゃごちゃした生活のものはありませんし)、人間同士の目線が必要以上に重ならないこと、余計な音が入ってこないこと、室温が快適であること、暮らしに必要なものがきちんとそろっているからこそ、「コンパクトでも快適」は叶えられるのですね。

おそらくですが、窓からの緑や地面との近さ、自然な雨音、小鳥のさえずり、室内に漂う木々の香りなど五感に訴えるものがあり、タイニーハウスでしか感じたことのない、貴重な感覚が残りました。

もう一方で、自分に必要なものも浮かびあがってきたのです。筆者の場合は、カワウソ号になかった三面鏡、浴槽です。われながらお風呂という、わかりやすい欲が反映されていてびっくりしました。人生初の感覚です。本当に不思議。

宿泊していった人が残した記録。みなさん、「内省」していらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

宿泊していった人が残した記録。みなさん、「内省」していらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

こうした、気づきや発見があるのは筆者だけではないようで、「カワウソ号」の宿泊ノートには、さまざまな思いが記録されています。貴重ですね……。

相馬さんも、普段は会社勤務しながら、タイニーハウスづくりを行ってきたため、週末は何かしら「タイニーハウスづくりの予定」が入っていたそう。現在、「カワウソ号」が完成してやっとひと段落ではありますが、けしてラクではないタイニーハウスづくりに取り組み、宿泊運営者になった今、得るものはあるのでしょうか。

「やっぱり、タイニーハウスの暮らしを体験してもらって、その人の価値観が変わるとか、なにか湧き上がるものがある瞬間を見られるのがすごく好きですね。当たり前を疑うというか、その瞬間に立ち会えるというか……。タイニーハウスを通しての出会いもとても貴重ですし。その中で自分自身も、その先に湧き上がってくる次の挑戦の兆しを待っています。」(相馬さん)

(写真撮影/桑田瑞穂)

(写真撮影/桑田瑞穂)

筆者個人としては、「タイニーハウスでの宿泊」は、家を借りたい人、家を買いたい人、注文住宅で家をたてようと考えている人、リフォームしたいと思っている人など、今、住まい・暮らしについて考えているすべての人におすすめしたい体験だなと思いました。自分にとって家とはなにか、家に必要なものはなにか、自分が大事にしたいものはなにかが明確になるからです。タイニーハウスの宿泊費は1泊あたり1万3000円~2万円程(人数、時期によって変動)。得るものは小さくなく、大きなものとなるはずでしょう。

●取材協力
相馬由季さん・哲平さん
由季さんのInstagram
ブログ
カワウソ号宿泊予約

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わずか7畳のタイニーハウスに夫婦二人暮らし。三浦半島の森の「もぐら号」は電気もガスもある快適空間だった!

「タイニーハウス(小屋)」や「キャンピングカー」「バンライフ」のような、小さな空間での暮らしが関心を集めています。旅行のように数日ではなく、日常生活を送るのは不便ではないのでしょうか? 費用やその方法は? 夫妻でタイニーハウス暮らしをしている相馬由季さんと夫の哲平さんのお二人に、その等身大の暮らしを教えてもらいました。

広さ12平米、ロフト5平米の自作タイニーハウスで夫妻ふたり暮らし

米国では2008年のリーマンショック以降、西海岸を中心に、暮らしの選択肢としてタイニーハウスを選ぶ人たちが増えているといいます。このムーブメントは日本にも押し寄せ、タイニーハウスの認知度もじょじょに高まってきていますが、実際に「住まい」として暮らしはじめた人がいると聞き、取材に行ってきました。

場所は、三浦半島のとある私鉄の駅から徒歩数分、森のなかに、まるで童話のなかに出てくるような車輪付きの「小屋」がぽつんと佇んでいます。あまりのかわいさに「映画やドラマのセット?」にも思えてきますが、これは立派な住まいです。

駅から徒歩数分、海も山も近い場所にできたタイニーハウス(写真撮影/桑田瑞穂)

駅から徒歩数分、海も山も近い場所にできたタイニーハウス(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで暮らしている夫妻。セットのようですが、本物の家です(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで暮らしている夫妻。セットのようですが、本物の家です(写真撮影/桑田瑞穂)

扉をあけたところ。外観以上にセットのような愛らしさ(写真撮影/桑田瑞穂)

扉をあけたところ。外観以上にセットのような愛らしさ(写真撮影/桑田瑞穂)

「引越してきたばかりのころは、『人が暮らしているの?』とよく聞かれました(笑)」と話すのはタイニーハウスの主でもある、相馬由季さんと哲平さん夫妻。車輪付きのタイニーハウスを由季さんのニックネームにちなんで「もぐら号」と名付けました。広さはわずか12平米とロフト5平米、室内はキッチン、バス、トイレ付きです。ひとり暮らし向けの物件でも部屋の広さは15~20平米を確保していることが多いことを考えると、よりコンパクトな住まいであることがわかるかもしれせん。

シャワー・トイレの排水は、移動できるよう着脱式にして下水道につなげているので、従来の住まいと変わりありません(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワー・トイレの排水は、移動できるよう着脱式にして下水道につなげているので、従来の住まいと変わりありません(写真撮影/桑田瑞穂)

建物を横から見たところ。玄関の反対側はエアコン、給湯、プロパンガスなどのインフラチーム(写真撮影/桑田瑞穂)

建物を横から見たところ。玄関の反対側はエアコン、給湯、プロパンガスなどのインフラチーム(写真撮影/桑田瑞穂)

このタイニーハウスで驚くのは、由季さんによる水まわりなど以外は自分でつくる「セルフビルド」であるということ。今でこそ、タイニーハウスを販売している会社も増えていますが、こちらはそうした市販品を使うことなく、木材から建材、トイレなどの住宅設備機器まで、ネットやホームセンターで購入し、つくったといいます。

コンパクトな空間なので価値観のすり合わせが重要だったといいます。キッチンの大きさ、快適さなどの価値観をすり合わせながらつくりあげたので、ストレスなく生活できているそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

コンパクトな空間なので価値観のすり合わせが重要だったといいます。キッチンの大きさ、快適さなどの価値観をすり合わせながらつくりあげたので、ストレスなく生活できているそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

「DIYのワークショップに1度参加したくらいで、特別なスキルもなかったんですが、はじめてみないことには何も進まないと思い、材料が置けて作業できる場所を探し、都内の木材屋さんの倉庫を借りて実際につくりはじめたんです。
2年かけて必死になって、どうにかこうにかタイニーハウスが完成し、ここで住み始めたのは2020年の年末。それから1年半経過しましたが、狭さや不便さは感じません」(由季さん)

哲平さんは秘境・登山ガイドという仕事のため留守にすることもありますが、基本的には二人で自宅で過ごしているといいます。仕事はテレワーク中心ですが、必要に応じて近所のカフェを利用できるため、不便ではないそう。二人にとって「広さ」は、暮らしの快適さにおいてさほど問題ではないのです。

赤い三角屋根に、街灯、3つの窓に玄関。すべてがかわいい!(写真撮影/桑田瑞穂)

赤い三角屋根に、街灯、3つの窓に玄関。すべてがかわいい!(写真撮影/桑田瑞穂)

ひと月にかかる費用は光熱費1万円のみ!?

相馬由季さんがタイニーハウスを知ったのは2014年ごろ。移動ができる小さな住まいにひと目ぼれし、海外のタイニーハウスに住む人々を訪ね歩いたといいます。

由季さんがタイニーハウス暮らしを思い描いていたころ、夫の哲平さんに出会いました。つきあいはじめてすぐに、「タイニーハウスで暮らす夢」について話したといいます。

「もともとシェアハウスで暮らしていたこと、登山が好きということもあって、室内が狭いということにはまったく抵抗がありませんでした」という哲平さん。どのような暮らしを送りたいか価値観をすり合わせるようにし、つくる過程で少しずつ二人で暮らす仕様になっていったといいます。

駅からすぐ近くにあり、お友だちが遊びに来ることも多いそう(写真撮影/桑田瑞穂)

駅からすぐ近くにあり、お友だちが遊びに来ることも多いそう(写真撮影/桑田瑞穂)

「料理好きなのでキッチンは大きめにしたり、180cm 以上ある身長(夫)にあわせて、室内の高さを考えたり、少しずつ一緒に暮らす前提でつくっていきました」といい、いわばタイニーハウスは結婚する「二人らしさ」を形にした住まいなのです。結婚式を挙行するかわりにタイニーハウスづくり……、ありかもしれません。ただ、どの住宅もそうですが、夢と現実の条件面で折り合いを付ける必要があります。資金面や土地の事情の「リアル」「お金面」では、どのようになっているのでしょうか。

「タイニーハウスの土台となるシャーシが約120万円、設備や材料費、水まわり施工費が約250~300万円、完成したタイニーハウスの移設・設置費が約20万円ほどでした」と由季さん。およそ400万円で完成したといいます。

一方で難航したのが土地探しです。

緑があって、海も近い環境です。周囲の人もおおらかで、快くタイニーハウスの存在を受け入れてもらえたといいます(写真撮影/桑田瑞穂)

緑があって、海も近い環境です。周囲の人もおおらかで、快くタイニーハウスの存在を受け入れてもらえたといいます(写真撮影/桑田瑞穂)

「土地は2年くらいかけて探しました。以前は神奈川県横浜市のシェアハウスに暮らしていたのですが、理想の土地を求めて東京都内、千葉、神奈川などさまざま見学したものの、駅からの距離、土地の広さ、上下水道の引き込み、周辺環境など、気に入るものがなくて。今のこの場所は、駅を降りた瞬間から、駅からの距離、海への近さ、スーパーなど含めて気に入って、『ココだね』となったんです」(哲平さん)

庭で大葉などのハーブや野菜を育てています。想像以上に広いためか、手入れは大変だといいますが、どこかうれしそう(写真撮影/桑田瑞穂)

庭で大葉などのハーブや野菜を育てています。想像以上に広いためか、手入れは大変だといいますが、どこかうれしそう(写真撮影/桑田瑞穂)

土地の広さは1100平米で、価格は交渉。加えて、上下水道の引き込みなどで費用が100万円ほどかかりましたが、ローンは利用せずに思い切って一括で購入しました。
また、タイニーハウスは車輪がついているため、固定資産税がかかるのは土地のみです。自動車として扱うため自動車税と自動車重量税になり、現在かかっているひと月あたりの費用はこれらの税金と水道光熱費のみだそう。

「電気もガスも水道も少量ですむので、光熱費は毎月1万円程度でしょうか」(由季さん)といいます。生活するための住居費や光熱費を稼がなくては……というプレッシャーとは無縁で、より好きなことを仕事にできる感覚があります。

ほかにも「タイニーハウスづくり」を応援してくれた家具屋さんから、「新居祝いに」と庭のテーブルセットをもらったり、地元の植木屋さんから良い木を植えてもらったりと、人とのつながりに助けられている、と笑います。自然体の二人が楽しそうにタイニーハウス暮らしに挑戦しているからこそ、まわりも助けたくなるのかもしれません。

ソファを来客時はベッドになるようにDIY。2人までなら宿泊できるそう(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファを来客時はベッドになるようにDIY。2人までなら宿泊できるそう(写真撮影/桑田瑞穂)

通常の部屋の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

通常の部屋の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファをベッドにし、テーブルを収納するとこのように。コンパクトですが可変性があり、ここまでできるんだと関心してしまいます(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファをベッドにし、テーブルを収納するとこのように。コンパクトですが可変性があり、ここまでできるんだと関心してしまいます(写真撮影/桑田瑞穂)

現在の場所に移動してきてから後付けしたテーブル。折りたたみ式で収納可能です(写真撮影/桑田瑞穂)

現在の場所に移動してきてから後付けしたテーブル。折りたたみ式で収納可能です(写真撮影/桑田瑞穂)

小さくても断熱環境やキッチンのサイズ、「快適さ」はゆずらない

とはいえ、予算重視、予算ありきでタイニーハウスをつくったわけではありません。

「室内が小さいからこそ快適性はゆずりたくなくて、断熱材は厚めに入れましたし、窓は樹脂窓(フレームが樹脂製のため金属製に比べ断熱性の高い窓)にしました。キッチンは大きめにしましたし、トイレもバスも好きなものを選んでいます。また、赤い三角屋根のシルエットは、一貫してこだわった部分ですね」(由季さん)といいます。

赤い屋根と樹脂窓、ランプ……。すべてネット通販などで買えるそう。びっくり(写真撮影/桑田瑞穂)

赤い屋根と樹脂窓、ランプ……。すべてネット通販などで買えるそう。びっくり(写真撮影/桑田瑞穂)

一年を通して快適な断熱環境を目指して、樹脂窓を採用(写真撮影/桑田瑞穂)

一年を通して快適な断熱環境を目指して、樹脂窓を採用(写真撮影/桑田瑞穂)

哲平さんが料理好きということもあり、大きめのキッチン。シンクも広々、3口コンロです(写真撮影/桑田瑞穂)

哲平さんが料理好きということもあり、大きめのキッチン。シンクも広々、3口コンロです(写真撮影/桑田瑞穂)

DIYで棚をつくったり、微調整しながら暮らせるのが良いそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

DIYで棚をつくったり、微調整しながら暮らせるのが良いそうです(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスは、基本的にひと部屋。採用できる建具や設備が限られているからこそ、一つひとつのパーツ、こだわり、自分の好きなものをぎゅっと選べます。だからこそ、扉を開けたときに、つくり手の価値観が一目で表現できるのがおもしろさでもあります。相馬さん夫妻のタイニーハウスは断熱材や窓、開口部にこだわったこともあり、今年2022年の夏のような猛暑でもすぐに涼しくなり、冬は寒さを感じずに快適だそう。

「完成した『もぐら号』にはたくさんの人が遊びに来てくれましたが、『意外と広い!』『快適なんだ』と言われることが多いですね。プロジェクターを設置したり、折りたたみのテーブルをつけたり、快適に暮らせる微調整は日々、続けています。だからこそ外から見ている以上に空間に広がりがあり、自分の好きに囲まれて暮らせていて、本当に心地いいんです」と話します。季節の衣類や登山用具は、庭のガレージに保管しているため、過度に捨てたり処分したりの必要はないといいます。

プロジェクターを設置しているので、大画面で映画も楽しめます。すごいなー(写真撮影/桑田瑞穂)

プロジェクターを設置しているので、大画面で映画も楽しめます。すごいなー(写真撮影/桑田瑞穂)

映画をベッドに寝転がって鑑賞。夫妻でキャンプのようで楽しい!(写真撮影/桑田瑞穂)

映画をベッドに寝転がって鑑賞。夫妻でキャンプのようで楽しい!(写真撮影/桑田瑞穂)

「趣味のカメラでも、登山用品でも、一つ買ったら一つ売るを徹底しているので、すっきり暮らせているのも心地いいですね」と哲平さんは笑います。ちなみにもぐら号を見た哲平さんのお父さんは、「俺もほしい」と話していたそう。その気持ち、わかります。

タイニーハウスは人生を考える「きっかけ」。暮らしはもっと軽やかでいい笑顔がすてきな夫妻。大きさや持つことにとらわれない、等身大の幸せがあります(写真撮影/桑田瑞穂)

笑顔がすてきな夫妻。大きさや持つことにとらわれない、等身大の幸せがあります(写真撮影/桑田瑞穂)

周囲の人からも大好評の「もぐら号」ですが、泊まってみたいという要望も多いことから、夫妻は今、第2棟となる「カワウソ号」を作成しています。今度は自作ではなくデザインと仕上げの内装は自分で行い、施工はプロに依頼しています。

「タイニーハウスで暮らしてみて改めて思ったのは、住まいを考えるということは、人生を考えるきっかけになるということです。住まいって、暮らし方、働き方、誰とどんな場所で生きていきたいのか、考えるきっかけになりますよね。特にタイニーハウスは小さいからこそ、暮らしや自身の価値観と向き合わないとできないんです」と話します。

2棟目のタイニーハウス「カワウソ号」は9月中には「もぐら号」の隣に移設予定とのこと(写真提供/相馬さん)

2棟目のタイニーハウス「カワウソ号」は9月中には「もぐら号」の隣に移設予定とのこと(写真提供/相馬さん)

やはり小さく、制限があるからこそ、本当に大切にしたいものは何かをよく考え、厳選するようになるのかもしれません。特にコロナでさまざまな価値観が変わった今こそ、「やりたいことをベースにする」に、イチから住まい方を考え直したい、そう思う人が多いからこそ、相馬さんのタイニーハウスづくりを応援したい、興味をもっているという人が増えているのでしょう。

「日本で誰もやったことがない」ことから、「自分がやりたいからやってみる」とタイニーハウスづくりをはじめた相馬さん。「住居費のためではなくて、自分の人生を生きたい」と考えるなら、まずは今までの住まいのあり方を疑ってみるのも、ひとつの方法かもしれません。

●取材協力
相馬由季さん・哲平さん
由季さんのInstagram
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